暗黒第三部隊・始動!

 

序、暗闇の惨劇

 

昼なお暗い森の中では、今正に血の惨劇が繰り広げられていた

分厚い雨雲から降り注ぐ驟雨は、地面に飛び散った血を洗い流し、雷が悲鳴をかき消す

闇の中に、鈍い光が見えた。 刀が、僅かな光を反射したのである

その持ち主は、全身がずぶぬれになるのも厭わず、鮮血に染まった服を気にもとめず

眼前にいる、自分を騙した哀れな存在を見ていた。 視線のナイフで身を抉っていた

それは、右腕を叩き落とされた若い男だった。

血が噴き出す傷口を必死に押さえ、腰を抜かして涙と鼻水を垂れ流している

「ひいいいっ! 俺が悪かった! 二度とやらないし、金は全部返す! だから、だから・・・」

「死ね」

身勝手な懇願は、一言で断ち割られた。 二人の至近距離に、雷が落ちた

 

短い叫び声と共に、レヴォルド=フリアイが目を覚ました。

もっとも嫌な思いでを見た為、全身に汗をかいている。 夢の内容は、全て覚えていた

髪を掻き上げ、向こうを見ると、数日前に召喚されたサポート用の魔法生物、ヘキサが

まだソファーの上で、気持ちよさそうにいびきをかいていた。 まだ当分起きることはないだろう

「・・・そういえば、今日がそうだったな。 皮肉な物だ」

ヘキサのずり落ちてしまった毛布をかけ直してやると、レヴォルドは台所に向かった

いつもより一時間ほど早い朝食であるが、今日は早く自警団員寮を出る必要があったのだ

程なく、部屋にいい匂いが充満し、ヘキサが起き出してきた

 

1,運命の朝

 

エンフィールドにおける、自警任務をする組織<自警団>は、このところ危機的状況にある

財政危機、団員の離団、そして住民による評判の悪化、士気低下・・・

当然の事ながら、こんな事態に陥るには原因がある。 しかもそれは複数であり

最大の物は大口スポンサーであるショート財団との仲が上手く行っていない事であろうが

加えて、無視できないほど大きいのは、ライバル組織である公安維持局の誕生であろう

特に公安の開設で、一番大きなあおりを食ったのが、五つに別れている自警団の部隊の中でも

住民からの苦情処理を主任務にする、第三部隊である

この部隊は、小はゴミ拾いから大は町の近くに現れた魔物の退治等、町の住民の苦情を処理することが

主任務である、いわば何でも屋さんなのであるが、このところ不幸が連続した為、全く振るわない

昔はそういった任務の傍ら、町の警備を担当する他の部隊の手伝いなどもしていたのだが

残念ながらもう今は、そんな余力を残してはいない

そもそも、部隊にとって最大の不幸だったのは、名隊長と言われたノイマンの死であった

他の部隊の隊長を歴任もしていたこの老英雄の人望は大きく

この隊長がいる故に、自警団は市民から信頼されていた程で

ノイマンを慕って、自警団に入った者も多い。 そういった者達にとっては大きな精神的打撃であった

その他にも財政悪化のため、今まで無料だった苦情処理任務を有料化し、結果仕事が激減し

それによって団員の士気が、他の部隊にもまして致命的に低下し

殆どの団員が別の部隊に希望転属したり、そもそも自警団を辞めてしまった

更にそこに追い打ちを掛けたのが、苦情処理任務を無料で行う公安維持局の存在であった

かくして、瞬く間に第三部隊は解体し、縮小し、萎縮し

隊長無き第三部隊の現在団員は残り一名。 変わり者と周囲に呼ばれるレヴォルドである

各部隊の部隊長による協議が行われ、そしてある結論が出た。

それを伝えられる日が今日のため、レヴォルドは早起きし、せかせかと準備していたのであった

 

変わり者と呼ばれるには、当然の事ながら理由がある。

レヴォルドは一応<一人前>と呼ばれる実力を持つ剣士で、素早い剣さばきを得意としているが

あくまでそれは常識的なレベルでの話であって、ドラゴンだの魔族だのと戦えば

それこそ一太刀浴びせるどころか、二秒で消し炭にされる事は疑いない程度の実力でしかない。

自警団の中では、それでも一応かなりの使い手であり

剛腕を誇る猛者である第一部隊のアルベルトも、一目置いている

で、これについては常識的なのだが、問題は彼女の性格である

レヴォルドをどういう人物かと彼女の友人に聞けば、十中八九同じ答えが返って来るであろう

即ち、何を考えているかさっぱり分からない。

それを肌で体感した者が、現在同居している魔法生物のヘキサである

この魔法生物は、大変な立場であるレヴォルドのことを考慮して、この町の英雄でもある

第一部隊のリカルド隊長が、召喚してくれた者なのだが、まず同居する部屋を見て絶句した

当然であろう、そこは一人暮らしの怠け者な学生部屋のように、ゴミの山と化していたのである

もともと口が悪いヘキサは、頬を膨らませて文句を言おうとしたが

レヴォルドは大きな砂時計を何処からともなく取り出すと、ヘキサの目の前に置き

それが落ちきるまで待てと言い残して、部屋に消えた

砂が落ちきって後、ヘキサが見たのは、塵一つなく整理された部屋であった。

本は戸棚に完璧に整理され、床にはゴミ一つ落ちておらず

無数の汚れた皿が並んでいた台所は、輝きを放たんばかりに綺麗になっている

あらゆる意味で呆然とするヘキサに向かって、レヴォルドはソファを勧め、感想を聞いたとか。

他の者達も、レヴォルドに関しては妙な噂ばかり聞いている

曰く、酒を飲むと戦闘力が25倍になるとか、犬と会話が出来るけど猫とは会話できないとか

醤油を一気のみ出来るとか、好物は生の大根だとか、焼いた人参は食べられるが煮た人参は駄目だとか

しかも本人がそれら奇怪な噂をを否定も肯定もしないため

噂は更に尾鰭と背鰭と胸鰭を追加し、得体が知れない方向にエスカレートするばかりなのであった

そんなレヴォルドではあるが、対人コミュニケーションが決して苦手というわけでもなく

友人達は実直な彼女の性格を知っているため、接触を嫌がることはない

何よりも、性根は<良い人間>であったから、結構友人には恵まれているのである。

だから、後の事態にも対処が用意だったのかも知れない

 

ヘキサの前には、何種類かの朝食が並んでいた。 この魔法生物、身長30cmほどしかないくせに

食事は普通の人間並みに摂取し、それでいて子供ほどの力も無いという燃費が悪い構造をしている

頭脳は一応普通の人間の子供並みに働くし、すばしっこいし、空を飛ぶ事もできるので

役に立たないわけではないのだが、魔法生物のくせに魔法が使えないと言う変な輩である

(魔力を感じる事も出来るし、一時的に姿を消すこともできるのだが、これは魔法とは言わないだろう)

で、ヘキサは目の前に並ぶ料理を眺めていた。

食いしん坊な彼が、見た瞬間に手を出さなかったのは理由がある

当たり外れが大きすぎるのだ。 レヴォルドの作る料理は、美味しいか死ぬほどまずいか両極端で

しかも同じ料理でも日によってそれが変化するという、訳が分からない代物なのである

それで、毒味役を作った当人に任せようと、料理が完成するまで待っていたのだ

「どうしたヘキサ、冷めるぞ」

「お、おう。 じゃ、オレも喰うぞ」

レヴォルドが肉を口に運ぶのを見て、ヘキサが安心し、ようやくその料理に手を出す

今日は幸い当たりの日で、まずい料理はないようだった。 しばらくは、二人とも無言が続く

程なくして、後から食べ始めたくせに、先に食べ終わったヘキサが、幸せそうに小さくげっぷをした

「おー、うまかったぜ! いつもこうだといいんだけどよ」

「・・・。 そうはいかないだろう。 今日は今まで作った中で良かったパターンだけを試したが

今後、余裕があるときは色々なパターンを実験したいからな」

言葉の意味が理解できず、呆然とするヘキサに、悠然とレタスを口に運びながらレヴォルドは続ける

「色んな調味料の配分を変えるだけで、料理の出来は大きく変わる

これからも良い実験台になってくれよ、ヘキサ」

「ちょっとまてえええええ! オレは、オレは、オレは実験動物かああああ!」

手を振り回しながら抗議するヘキサであったが、相手が悪い。

肝も据わっている上に頭も悪くないレヴォルドにとって、子供同然のヘキサをあしらうなど何でもない

「嫌なら私がやるまでだ。 だが、となるとお前の取り分は毎回少なくなるだけだが?」

「うーっ! 足下みやがってえ!

・・・そういえば? 今日はどうしてこんなに早起きなんだ? レヴォルド」

「自警団団長に呼ばれてる。 理由は大体分かるがな・・・」

応えながら、レヴォルドは愛用のレザーアーマーを付け、刀を引っぱり出した

食器を手早く片づけ、振り返りもせずにそのまま言う

「出かけるぞ。 準備しろ、ヘキサ」

 

2,道行く者

 

外は春の朝特有の心地よい空気に満たされ、朝早くから鳥が鳴き声を競い

周囲には人がまばらで、実に心地が良い。 隣の寮に住んでいるアルベルトを誘って一緒に行こうかと

レヴォルドは考えていたが、既に仕事熱心なアルベルトは出かけており、空振りに終わった

自警団第一部隊に所属し、リカルド隊長の右腕を務めているこの青年は、身長199cmという巨漢で

長槍を得意とし、少々頭は足り無いながらも、自警団内での武勇に関してはリカルドに次ぐ

自警団内ではレヴォルドと同期であり、現在総合的な経歴、地位、能力はほぼ同等で

それ故に何かとアルベルトがライバル視してくる事もあったが、友人としてもつきあいは長い

「・・・オメー、肝すわってんよな。 あらゆる意味で」

「? 何の事だ?」

ふとヘキサが、意味不明なことを言い、不可思議そうにレヴォルドが応えるが

別にもう驚かないと視線で言いながら、ヘキサは肩をすくめる

レヴォルドはそれをみて首を傾げたものの、すぐに話題を移し、歩き出す

「そうそう、今日は少し重要な考え事をするから、いつものように頼む」

「へいへい。 例の<メモリー不足>だな。 分かってるよ」

「そういうことだ。」

メモリー不足というのは、この人物特有の突発的な忘却のことをさすが

もうそれには触れず、朝の空気の中をレヴォルドは歩いていた

足取りは速くも遅くもなく、ヘキサが充分についてこれる

数分ほど歩き、街路にさしかかった頃、ヘキサが暇つぶしの相手を見つけて歓声を上げた

「おー! リオじゃねーか! 不愛想女もいるぞ!」

 

其処にいたのは、バクスター家という資産家の一人息子、リオと

図書館で仕事をしている、イヴという名の女性であった

旧王立図書館に行く途中らしく、山ほど本を抱えている。

リオの表情には、滅多に見られない笑みが浮かんでいた

人見知りが激しく、女の子以上に線が細い少年であるリオは、どうもべたべたくっついてくる人物より

一定距離を置いて接してくる人間、イヴやレヴォルド、それにルーという青年と相性がいいらしく

特にイヴとは本好きの仲間と言う事もあり、一緒にいるのを良く見かける

しかし当人は特に孤独が好きなわけでもなく、どうも他者の安全を考慮して

自分から一人になっているような風潮があり、一度その理由を聞いてみようとレヴォルドは考えていた

イヴは機械的な女性で、とかく無機的な上に完全主義者、しかも不愛想で不必要な事は一切しない為

交友関係は決して広くはないが、特に冷酷と言うこともないため、嫌われているわけでもない

図書館の司書としては右に出る者がないほどの有能さを誇り、図書館内の本の内容を

殆ど全て把握していると言われ、しかもそれには殆ど誇張がない

二人はすぐに、レヴォルドとヘキサに気付き、簡単な挨拶を交わすと、リオが切り出した

「どうしたの、お姉ちゃん。 こんな朝早くから、難しい顔をして」

「ん? ああ。 今日は団長に呼ばれていてな。 絶対に遅刻できないのだ

それで、少し考え事をしながら歩いていたところだ。 一応、町のパトロールも兼ねている」

「レヴォルドさん、気持ちは分かるけれど、同時に幾つかの事をするのは良くないと思うわ

一つ一つは散漫になるし、注意力は落ちるし、良い事はないと思うのだけど」

立て板に水を流す如く、イヴが言う。 理路整然としていて、言葉は何時も通り非人間的に正確である

リオが二人を見上げる中、レヴォルドはイヴの言い分を全面的に肯定し、そして付け加えた

「全くその通りだ。 だからヘキサを連れている」

「けーっ! オレはオマケかよ!」

不機嫌そうにヘキサが頬を膨らませたが、それに構う様子も見せず、レヴォルドは続けた

「悪いがそういう事情なので、失礼させて貰う。 また会おう」

「・・・そう。 ではリオさん、行きましょう」

「え? う、うん。 じゃあヘキサ君、お姉ちゃん、さよなら」

慌てて二人を見上げ直すと、リオはイヴを追って、足早に走り出した

二人が去って、またレヴォルドは歩き出したが、ふと立ち止まってヘキサに問う

「ヘキサ、私は今何をしていたっけ?」

「来たな、メモリー不足! ・・・自警団事務所に行く途中だろ」

「そうだったそうだった。 すまなかったな」

何事もなかったように、表情すら変えずに言うと、レヴォルドはまた歩き出した

これが「メモリー不足」である。 元々、レヴォルドは決して頭が悪くなく、回転も速いのだが

STM(ショートタイムメモリー。 記憶の表層に一時的にとっておかれる記憶であり

一部は長期的な記憶に変化し、残りは忘却される)が常人に比べて著しく少なく、考え事をしていると

とんでもなく簡単なことや、ほんの数分前のことも忘れてしまうのである

これはその考え事が難しくなったり、本人が真剣になるほど顕著になり

特にそれが有名になったのは、前に自警団が訓練がてらに、傭兵と組んだ剣術試合である

この試合で、レヴォルドはプロの傭兵相手に一歩も引かず、名勝負と言っていい激戦を繰り広げ

そして見事相手に勝利し、自分を褒め握手を求める傭兵に対し、真顔で言ったのだ

「ところで、貴方はだれだっけ」

傭兵は石化し、その台詞は後々まで語り草になったとか言うが、本人にはどうでもいいことだった

「あー、やっほー! レヴォルドちゃん!」

唐突に後方から声がし、ヘキサが呟く。

声の主は分かり切っていたので、レヴォルドは振り向きもしなかった

「出たな・・・万年酔っぱらい女!」

「由羅か。 こんな朝早くから珍しいな」

後ろから小走りに駆け寄ってきたのは、薄着で長身の女性であった

彼女は狐の耳と尻尾を持つライシアンと呼ばれる種族で、名は橘由羅という。

ヘキサが呟いたとおり、酒豪で万年酔っぱらいで、美少年をこよなく愛する退廃的な美女である

しかも、これでも保護者が出来て大分大人しくなったというのだから、正直恐れ入るのが実状であろう

案の定、朝だというのにもう酒が入っているようで、既に顔は少し紅い

現在、由羅はリオの他に、クリスという名のおっとりした少年をターゲットにしているはずである

今日もどちらかを追いかけ回しているのだろうとレヴォルドは洞察し、それは当たっていた

ただ、二人とも由羅を好いてはいない。 嫌がっているのではなく、むしろ怖がっている

「今日はリオか? クリスか?」

「両方よ、両方・・・うふふ、どっちか見かけなかった?」

「うっわ、酒くせー!」

ヘキサが顔をしかめたが、気にする様子もなく、由羅はレヴォルドの前に回り込んだ

何か情報をよこせと言っている態度を察し、レヴォルドは頭をかくと、目を瞑り、静かに口を開く

「クリスの方は分からんが、リオに好かれる方法なら分かるぞ」

「えー!? 何、何! 由羅ちゃんに教えて!」

子供のように目を輝かせる由羅。 眉をしかめ、天真爛漫さと退廃が無秩序に混ざった眼前の美女を見

やがて、呆れ返ったようにレヴォルドは応える。 由羅の金色の尻尾は、楽しそうに揺れていた

「・・・まず1。 会う時は酒を飲まないこと。 その酒臭さは子供にはたえられん」

「ふんふん・・・ええええっ! なんですってえ!」

酒をこよなく愛する由羅には辛い宣告だったろう。 そのまま、レヴォルドは続ける

「続いて2、一定距離を置いて大人として接すること。

あの年頃の子供が一番嫌うのは、自分が認められないことだ。 べたべたくっつかずに接して見ろ」

「ええええ! そんなあ・・・あんなカワイイ子を前に距離を置くなんて・・・理性がもたないワ」

「犯罪者・・・」

ヘキサが小声で横やりを入れるが、由羅は意図的に無視したようだった

「最後に、本を読むことだ。 共通の話題を持てば、少しは心を開いてくれるだろう」

「・・・分かったワ! 努力してみる。 サンキュ、レヴォルドちゃん!」

投げキッスをすると、小走りで由羅は駆けていった。 ヘキサが呆れたように言う

「何であんな奴に、真面目に意見してやるんだ?」

「リオのためでも、由羅のためでもある。 これ以上あの調子で接しられたら、リオが持たないだろう

それに、このまま接していたら、由羅も本気で嫌われる。 悪気はないのに、それは少し可哀想だ」

実際問題、由羅は児童に犯罪行為を行うような女性ではない。 半分以上はからかいが入っているのだ

それに、昔はともかく今は由羅の元にも大事な保護者がいる。 余りにも無体なことはしないだろう

ただ、子供にそれが理解できるかは大いに疑問であるし、由羅もその辺が分かっていないようなので

今回はわざわざ、時間を割いてまで意見したのだ

かなり早めに出たため、時間はまだたっぷりある。 余裕を持って、レヴォルドは歩いていた

 

町の東にある大きな教会、セント=ウィンザー教会は、孤児院も兼ねており

レヴォルドは何時も、朝の通行ルートにしている。 子供が嫌いなわけではないのだ

由羅が走り去ってから、10分程経過しており

退屈そうにしていたヘキサが、また暇つぶしの相手を見つけて歓声を上げた

「おー! 見ろよ見ろよ! ガキンチョにドジッ娘に、天然ボケ女もいるぞ!」

「それはローラとディアーナとセリーヌのことか?」

教会を見ながら、事実を確認するレヴォルドの上を、答えを待たずにヘキサが飛んでいった

程なく向こうも此方に気付き、大きく手を振って挨拶してきたので

レヴォルドも時間を割く覚悟を決め、小さく手を振ってそれに応えた

ローラはこの孤児院に世話になっている子で、年より遙かに幼く見える少女である

とにかく恋愛に命を懸けるタイプの女の子で、それでいて恋愛経験は皆無なのであった

理由は明確である。 顔立ちは整っているし、根はいい子なのだが、とにかく我が儘で気まぐれで

尚かつ自分勝手であるため、男の子の方に避けられてしまうのだ

ディアーナは医療学校に通いながら、トーヤという名の現役の青年医師に師事している女性で

手先は器用で頭は決して悪くないのだが、それを補ってあまりあるほどにどじであり

いつもトーヤに怒られているが、それでも決してめげずに努力している前向きな所を持っている

そしてセリーヌであるが、このセント=ウィンザー教会で働いている、物静かな女性である

極端に方向音痴で、しかも天然ボケが入っているが、料理の腕は確かで、子供の生態にも詳しく

仕事に関しては有能である。 子供達も、良く彼女を慕っていた

三人は年齢が2才ずつ離れているが、それに関係なく良く気の合う親友であり

今日も朝から集まって、楽しく話し込んでいたのだろう

簡単に彼女らと挨拶を交わすと、ローラが顔を赤らめ、もじもじしながら言った

「ねえねえお姉ちゃん、今日のあたしどっか違わない?」

目を細め、レヴォルドは相手を観察し、そして結論を出した。 リボンの色が違う。

注視して確認すると、どうも新品らしい。 大体相手の言いたいことと求めている答えを察し

頭をかきながら、レヴォルドは言った

「・・・いつもにまして可愛らしいな。 新品か? そのリボン」

「きゃー! やだー! 分かる? これね、これね!」

自慢したくてしょうがないらしいローラの説明を聞き流しながら、肩をすくめるレヴォルド

本人が求めていたであろう答え、<大人っぽい>とは一言も言ってないのに

こんな単純な褒め言葉で、簡単に騙されるようでは

まだまだ楽にあしらえる子供である・・・そう、かっての自分のように

ヘキサはその説明が退屈らしく、思わず欠伸をしたところをローラに発見され

大喧嘩の末に消えてしまった。 ヘキサが消えてすぐ、ディアーナがふと気付いて首を傾げる

「そういえばレヴォルドさん、今日はどうしてこんなに早いんですか?」

「忘れた」

ローラとディアーナが同時に吹き出した。

案の定、レヴォルドはまたしても<メモリー不足>に陥ったのだ

二人ともこの妙な特徴のことは知っていて、目に見えて狼狽する

「どうしよう、ヘキサ君へそまげて消えちゃったし! こう言うときは、えーと、えーと!」

「あたしのせいじゃないもん! ヘキサがわるいんだもん!」

自分のことのように狼狽するディアーナと、責任逃れをしようとそっぽを向くローラ

気まずい時間が三十秒程経過し、唐突にレヴォルドは遠くに見える自警団事務所を見て思い出した

「そうだった。 今日は重要な用事があって、早めに寮を出たんだった」

「大丈夫ですか? 時間は! 時間は?」

混乱の極にあるディアーナに向けて、冗談のつもりだったのだろう、レヴォルドは真顔で言い放つ

「心配無用だ、何故なら、忘れたフリをしていただけだ。

これぞフリアイ流暗黒武神剣術奥義! 偽装忘却!」

あまりな言葉に、空間が凍結した。 思考停止しながらも、それでもディアーナが口を開いた

「は、はあ・・・そうですか」

「まあ、素敵な<おうぎ>ですね」

その時、いままで黙って事態を静観していたセリーヌが、レヴォルド同様真顔で発言した

そして、硬直するディアーナとローラを前に、更に真顔で言い放つ

「他には、どういった<おうぎ>をお持ちなんですか? レヴォルドさん」

「ふっふっふ・・・わはははははははは! 様々に持っているぞ。 いずれ見せてやろう

ふむ、そろそろいかねばいかんな。 では失礼する」

「も、物凄く疲れた・・・」

レヴォルドが去った後、ディアーナが大きく肩で息をついたが、恐怖はこれからだった

後ろを見ると、セリーヌが無邪気に笑っていて、それでまたしても言ったのだ

「ところでディアーナさん・・・レヴォルドさんのおうぎって、目に見えないおうぎなんですか?

私には、さっぱりみえなかったのですけれど」

どうも、セリーヌは奥義と扇を勘違いしたらしい。 どう応えた物か、ディアーナに試練の時が訪れた

隣を見れば、ローラは冷や汗を全身にかきながら、遠くを見て口笛を吹いている

純真なセリーヌを傷つけるのも酷だし、マトモに応えれば非常に疲れる

硬直する彼女の遙か向こうで、レヴォルドはまたしても時間のロスを強いられていたのだった

 

道の真ん中で、長身の男と長身の女性が大喧嘩をしていた

一人は自警団のアルベルト、いま一人は公安に務めるヴァネッサである

ヴァネッサは有能なキャリアウーマンで、それでいながら意外に古風な男女観を持っており

なかなか面白い奴だとレヴォルドが察し、公安の一員ながら仲良くしている女性である

二人はレヴォルドの親友であるが、残念ながら文字通り犬猿の仲で、顔を会わせれば常に喧嘩していた

「おーっす! アルベルト、ヴァネッサ! 相変わらず仲が悪いな」

教会から離れたため、実体に戻ったヘキサが、手を挙げて言うと

何事だとばかりにアルベルトが振り向き、レヴォルドを見て吹き出した

「何だ、ヘキサ・・・ぶっ! レ、レヴォルド!」

「なんだアルベルト、こんなに早く出たのは、ヴァネッサと喧嘩するためか?」

「冗談じゃないわ! 喧嘩をふっかけてきたのはこの大男よ!」

アルベルトはレヴォルドを見て、目に見えて狼狽したが、本人にはその理由が分からなかった

これもまた、メモリー不足の結果である。 アルベルトは咳払いをし、そして言う

「お前な! 昨日クレアの誤解を解くのがどれだけ大変だったと思ってるんだ!」

「・・・思い出した。 そういえば、そんな事があったな」

「どうしてあんな事すぐ忘れるんだよ・・・」

「一体何の話?」

訳ありげの会話に、ヴァネッサが好奇心から首を突っ込む。 レヴォルドは顔色も変えずに応えた

「夕べ、アルベルトが私の下着姿を見た。 それだけだ」

真っ青になったヴァネッサ、周囲で聞いていた野次馬達の内、若い女の子が顔を覆って悲鳴を上げた

アルベルトに女っ気がないことも、レヴォルドの男性関係が極めて希薄であることも知られている

と言うことは・・・ヴァネッサは当然の思考を組み立て、肩を振るわせて言った

「さ、最低! 化粧マニアのヘンタイの上に、覗き魔でもあったわけ!?」

アルベルトが化粧マニアというのは本当である。 ただ、本人はそれが悪いことだと思っていない

しかも犬猿の仲のヴァネッサの、しかも不当な言葉に黙っているはずもない

売り言葉に買い言葉が重なり、やがて事態は泥沼化し、収拾がつかなく成りつつあった

「・・・オレから説明しようか?」

あまりの事態に呆れたヘキサがいい、ヴァネッサが目で言うように促し、アルベルトが縋るように促す

夕べの出来事というのは、要するに例の如くメモリー不足に陥ったレヴォルドが

自分の今の格好をすっかり忘れ、下着姿で寮の廊下に出てしまい、それに正面からアルベルトが遭遇

驚いた彼は、風呂帰りで持っていた着替を放り投げて頭から被ってしまい、しかもその場で転倒

そこを育ちが良い、誰よりも大事に思っている妹のクレアに見られてしまったのである

クレアは一瞬事態を理解できないようだが、すぐに間違えた解釈をし、涙を浮かべながら叫んだ

「お、お兄さま! 妻でもない女性を、こんな廊下で、服をむしって、お、押し倒そうとするなんて!

不潔ですわ! 不潔ですわー!」

涙を流しながら走り去るクレア。 部屋のドアが虚しく閉じる

「ま、まてクレア! 誤解だああああああああああ!」

絶叫するアルベルトであったが、時既に遅かった・・・という様な話である

アルベルトの言葉からして、その後何とかクレアの誤解は解けたようではあるが

精神的にも、物理的にも、相当な苦労をしたのは疑いない

「め・・・目眩がしてきたわ」

喧嘩する気も喪失し、公安へ向かうヴァネッサ。 アルベルトも不機嫌そうに、その場を離れていった

周囲の野次馬達も、事態に納得し、時間にも気付き、そそくさと去って行く

「何を些細なことで・・・」

「些細じゃないっ!」

レヴォルドが呟くと、二人は同時に振り返って叫んだ

息があっている事だと、「肝が据わった」剣士は肩をすくめた

 

早く出てきたため、まだ時間はあった。 それ故に今までの邪魔は致命傷には成らなかった

自警団事務所はもうすぐ其処であった

だが幸か不幸か、目前にしてまたしても邪魔が入ったのである

今度の邪魔は、リカルドの一人娘であるトリーシャであった

彼女は素朴な父親からは信じられないほどに、整った顔立ちと底抜けな明るさを持つ少女である

流行を追うことに命を懸けるタイプの女の子で、流行のことなら何でも知っているが

同時に口は軽く、非常に飽きっぽい。 だが、一方で家事については一人前の腕前を持っており

しっかりした一面もある故、単純な流行追いかけ個性無し娘にはなっていない

噂にも造詣が深いが、余りにも個人の名誉を傷つけるような噂は流さない程度の分別は持っており

前にあまりにも失礼なレヴォルドの噂が流れたとき(本人は気にもしなかったが)、それを本気で怒って

噂の中心点を抑えて拡散をくい止め、それ以来レヴォルドとの交友関係が始まっている

どうも彼女は先程から、必死に何かを捜しているようで

しきりに表情を変え、ぶつぶつ呟きながら、服が汚れるのも厭わず、地べたをはい回っていた

レヴォルドはトラブルを察し、一瞬すぐにその場を離れようとも考えたが

リカルドには亡くなったノイマン同様、色々世話になっているし

何より困っている友人を、このまま放って置くわけにも行かないだろう

「あ、レヴォルドさん! おはよう!」

近づくと、トリーシャは声を掛ける前に気付き、手を振って挨拶してきた

ヘキサが、二人を交互に見ながら言う

「おい、時間の方は大丈夫なのかよ!」

「大丈夫。 まだまだしばらく余裕がある。 それに事務所はもう其処だ

で、トリーシャ、何をなくしたんだ?」

「カードだよ、トレーディングカードお!」

汚れてしまった服に構わず、トリーシャが手を振り回した。 続けるように促すと、頷いて続ける

「今はやりの<ファイターズカード>! それで、ボクがようやく手に入れた超レアなマスクマン様が

なくなっちゃったんだよぉ! もう、絶対多分手に入らないのに!」

トリーシャの言葉はもっともである。

実際問題、この娘に限らず、流行を追う女の子の探査能力というのは凄まじい物で

独自のネットワークを駆使し、いかなる物でも探し当ててしまう

しかも、トリーシャの探査能力は、その中でもずば抜けているのだ

どうせ飽きたら誰かにあげてしまうのだろうが、それまではダイヤモンドより価値があると考える

一応<元女の子>であるレヴォルドはそれをよく分かっており、頭をかいて言った

「で、無くしたときの状況は? 何故此処で捜している?」

「昨日此処で、走ってて人にぶつかっちゃたんだ!

で、もしかしてと思って捜したら、もうなくて・・・」

「ふーん。 買ったのはおそらく夜鳴鳥雑貨店・・・隣には・・・成る程」

その時、ヘキサが此方に近づいてくる青年に気付き、手を振った

「お、ルーじゃねえか! 彼奴にも手伝って貰おうぜ!」

 

ルーという名の青年は、名を呼ばれるとそれはそれは面倒くさそうに此方へ近づいてきた

この青年、イヴと同じように万人に対して無愛想だが、違うのは仕事に対してさえ無愛想な事で

しかもいわゆる天才のため、どんな事も簡単にこなしてしまい、凡人からの妬みを買う事はなだたしい

だが、その頭脳を認めない者は誰もいない為、トリーシャもおそるおそるルーに説明した

結果、青年は殆ど瞬間的にカードの在処が分かってしまったらしく、面倒そうにレヴォルドの方を見た

「・・・面倒くせーな

なあ、あんたはどう思う? 俺はさくら亭にあると思うが?」

「え、ええっ? どういうこと?」

当然の事ながらトリーシャが素っ頓狂な声を挙げ、ヘキサも面白そうに事態を傍観していた

言うのも面倒くさそうなルーに変わり、同様の結論を出していたレヴォルドが、疑問に応える

「そんな大事なカードを入れたのは間違いなく財布だな? ならば転んでも落とす可能性は少ない

おおかた、雑貨店で手に入れてから、一番身近な知り合い・・・さくら亭のパティにでも自慢しに行き

そこで財布を開け、落としたんだろう。 パティはまめだから、保管してくれていると思うぞ

・・・まあ、誰かがパティより先に気付いていたら、もうでてこないだろうがな」

「そっかあ! そういえば! ありがとう、レヴォルドさん、ルーさん!」

心から嬉しそうに言うと、トリーシャは早速さくら亭に駆け去っていった

面倒くさげにそれを見るルーと、対照的に目を細めてそれを見るレヴォルド。

数瞬の沈黙が流れ、やがてレヴォルドが口を開いた

「なあ、ルー」

「何だ。 用件なら早く言え」

「私は今、何をしていたんだっけ?」

「自警団の事務所に向かってたんだよ・・・今日一体何回目だ?」

唖然とするルーの前で、これを予期していたヘキサが言う。 咳払いをして、ルーは言った

「あんた・・・あれを簡単に洞察する頭脳があるのに、どうしてそんなに物忘れが激しいんだ?」

「知らん。 多分持病だろう」

こともなげに言い放つと、もう目の前にある事務所に、レヴォルドは歩いていった

流石にもう邪魔は入らず、レヴォルドは待合室で団長の呼び出しを待つことになった

時間は丁度呼び出しの30分前。 余裕がある、丁度良い量の時間であったろう

鏡の前で身だしなみをもう一度整え、刀を抜いて刃こぼれの有無等までも確認すると、丁度時間が来た

「じゃあ、行って来る。 ・・・まあ期待しないで待っていろ」

刀を置くと、レヴォルドは振り向いて言った。

ヘキサも、この会談の結果次第で自分が用済みに成りかねない事は聞いていたから、真剣な表情で頷く

ドアは乾いた音と共にしまった。 運命の日の始まりだった

 

3,選別作業

 

たっぷり三時間ほどが経過して、ようやくレヴォルドは団長室から出てきた

表情は相変わらずであったが、多少の疲労が見て取れたのは

やはりレヴォルドがいくら変わっていても、血肉通った普通の人間である良い証拠であろう

「おい、どうだった?」

「聞いていたのだろう? ドアのすぐ外で、何かの擦過音が時々響いていた」

ヘキサの問いに、レヴォルドは即答した。 実際、好奇心旺盛な魔法生物は立ち聞きをしていたのだが

話の全てを聞きとれたわけではなく、聞けなかった部分は本人から聞こうと思ったのだ

渋い顔のヘキサを数秒見つめると、レヴォルドは相手の意志を察し、目を瞑って話し始めた

「要するに、一年間は第三部隊の存続が決まった」

「それは聞いた! なんか、大変なことになってなかったか?」

「うむ。 一年間、私の才覚で第三部隊を切り盛りし、尚かつ人員は自分で見つけ

自警団にも収益の三割を納めなければならない

それで一年後、町の住民の支持をある程度受けていれば・・・部隊の存続が正式に決まる」

「げっ・・・・! できんのかよ!」

レヴォルドは首を傾げ、そして頭を数回自分の拳骨でこづいた

此処数日、こんなにも、何時も以上に、頻繁にレヴォルドがメモリー不足に陥っていたのは

第三部隊を廃絶しようと考えている団長を説得し、存続を認めさせる台詞を考えていたからで

今日の朝は相手の対応、それに予測できる事態の全てに、対応すべき言葉を考え、練り込んでいたのだ

選び尽くした言葉と、誠意を尽くした態度でレヴォルドが接してきたため

部隊長会議で正式に廃絶を決定しようと考えていた団長は心動き

そして自分にとって、一石二鳥の提案をする事になった。

流石に其処までは、レヴォルドも予測していなかった為、今動揺しているのだ

とりあえず、団長を説得する台詞はもう必要ない。

これから、別の考え事をするため、頭をあけておかねばならないだろう

自分一人しか残っていない第三部隊の詰め所に歩きながら、レヴォルドは言う

「ヘキサ、手伝え。 これから人員を選抜する」

「おう。 どんな感じで選ぶんだ? 他の部隊から引き抜くのか?」

「いや、在野の人材を発掘する・・・時間はない。 友人達の内から、協力してくれそうな者を捜す

とりあえず、どんな任務にも対応できるよう、人材は偏らないようにせねばならんな」

ドアを開けると、そこは整理された部屋で、机の上は昨日帰ったときのままであった

部屋に入る瞬間、向こうにいたリカルドが此方を見たようだが、挨拶する距離ではなかった

「なあなあ、強そうな奴集めたらどうだ? 住民が頼もしく思うぜ〜

そんでよ、依頼がざっくざく・・・」

「阿呆。 うちの任務は、苦情処理が主だと言っただろう

悪霊の除霊だとか、マジックアイテムの製造助手だとか、力馬鹿には到底出来ぬ仕事も多い

しかも、仕事をえり好みする余裕はない。 偏った人員配置は失敗を招くだけだ」

「・・・・・。」

黙り込んだヘキサを前に、レヴォルドは紙とインクを取りだした。

しばらく考え込み、やがて紙に何人かの名前を書きだしていく

それは、奇しくも今日の朝会った十人であった

「何々、ディアーナにトリーシャ、ローラにイヴ、由羅にリオ・・・・アルベルト、ヴァネッサ

それにルーにセリーヌ?」

「何かしらの特技を持ち、なお私と一定以上の交友がある者達だ

ディアーナは本人の技術はともかく、医療に知識があり、器用だ

ローラとリオは優れた魔法の素質があり、アルベルトはリカルド隊長も認める剛腕の持ち主

由羅の情報は信頼できるし、イヴとルーの頭脳は是非欲しい

セリーヌは家事の達人で、しかも子供の世話が上手い。 ヴァネッサは事務仕事を任せられる

トリーシャは学園の四回生だ。 簡単な魔法なら縦横に使いこなせ、しかもそれで充分だ

全員雇えれば話は早いが、給料と収益をどう好意的に計算しても、せいぜい三人しか雇えないな」

「なあなあ、アルベルトは第一部隊だし、ヴァネッサは公安だろ?

それにガキンチョなんて、雇えるのかよ」

当然の質問をヘキサが発する。 この質問は、レヴォルドにとって思考の整理のためにも丁度いい

だから、いちいち疑問を発してくれることは、却ってプラスなのである。

明確に、そのままレヴォルドは返答した

「アルベルトに関しては、少し心当たりがある。

子供を雇うことに関しては、本人の同意と保護者の了承を得れば問題ない

実際に、十歳にも満たない子供が、魔法の才能を見込まれて第一部隊に雇われたこともある

ヴァネッサは、そろそろ公安を休職するはずだ」

「何でそんなこと分かるんだよ」

「由羅だ。 彼奴の情報網は特殊で、しかも信頼できる。

ヴァネッサをもし雇うとしても、ほぼ問題はない」

少し考え込むと、レヴォルドは目を瞑り、まず二つ、名前の上に線を引いた

「ディアーナは駄目だな。 医療学校に行きながらドクター・トーヤの所でも手伝いをしている

無理をすれば自警団でも働けるだろうが、今ディアーナは夢を叶える一番大事な時期だ

セリーヌも駄目だな。 教会の子供には、彼女を慕っている者も多い

・・・仕事次第では、数日帰れないこともあるはずだ。 子供達が気の毒だ」

「だったら、トリーシャもじゃねえか? あいつ家事もやってるんだろ?」

「トリーシャも・・・そうだな。 バイトがてらに仕事をして貰うにしても、仕事は時間限定か

保留しておこう。 ・・・イヴは駄目だ。 図書館の仕事に生き甲斐を感じている

あの性格で、掛け持ちを容認するはずがない。 残念だが・・・」

三人目の名前に横線を引くと、レヴォルドは少し筆を休め、ヘキサの方に振り返った

「お前はどう思う? この中で、これはと言う人物はいるか?」

「良くわかんねえけど、アルベルトはどうだ? 頼りになるぜ」

「そうか。 保留しておこう。 次に魔法系だが・・・」

 

しばらくの思案の末、レヴォルドはローラと由羅に相次いで横線を引いた

そして、リオに丸を付け、小さく息を吐き出した。 ヘキサが心配げに、淡々と言う

「あんなガキで大丈夫か? 魔力はあるってのはわかったけどよ」

「・・・彼奴はかなり責任感が強い。 前に、一度見たことがあるんだがな

それに、あれだけ真面目なら鍛え方次第で、戦闘用でも充分に役立つ魔法を短期間で覚えられるはずだ。

ローラにも同じ事が言えるが、彼奴の方が精神的により幼い。 移り気だし、リオの方が適任だ

由羅は残念だが、四六時中一緒にいたらリオの身が持たないだろう

後で、リオに由羅の良さを教えてやるとしよう」

「確かにな・・・これで残りは四人か」

「魔法関係の任務ってのは、魔力があれば、あとはやる気次第でどうにでもなる物が多い

そもそも複雑で専門知識を要する物は、こんな所に仕事が回ってこないのでな

次は力仕事だな。 ・・・ルーかアルベルトか」

腕組みをし、言うレヴォルドの前で、ヘキサは驚きに口を開けた

「ルーが力仕事お?」

「彼奴はあれで結構力がある。 この間町で行われた腕相撲大会でも、結構良い所まで行っていた」

「へー・・・彼奴、本当に何でも出来るんだな」

感心してヘキサが口笛を吹く。 だが、その後のレヴォルドの台詞を聞いて吹き出した

「準々決勝でセリーヌに負けたがな」

「あの天然ボケ女、そんなに力があったのか・・・」

驚きも無理はない。 あのおっとりしたセリーヌが、アルベルトには劣るものの

波の男では到底敵わないほどの強力な腕力を持っているなど、誰が想像できようか

「決勝で、アルベルトが本気になってようやく勝った位だ

・・・ピート辺りが参加していれば話は分からなかったがな。 ふむ、話がそれた。 戻そう

ルーは駄目だ。 彼奴の性格だと、仕事を成功させても依頼主と喧嘩になる可能性が高い

しかも、自分の好き嫌いで仕事を選びかねん。 それでは困る」

「ギャハハハハハ! 言えてる言えてる! じゃ、アルベルトか?」

目を瞑り、レヴォルドは頷いた。 残りは二人、ヴァネッサとトリーシャである

二人には、どちらかというと雑用や、事務系の仕事を担当して貰いたいところである

となると、甲乙は付けがたい。 ヴァネッサか、それともトリーシャか

しばらくの思案の末、レヴォルドは結論した

「補助用員として、トリーシャに手伝って貰おう

彼奴なら、魔法任務担当のリオの補助もできるし、ムードメーカーにもなって貰える

ヴァネッサは、残念だが主力になれても補助用員にはなれんだろう

しかし、頭脳労働担当がいないのは痛いな・・・」

「何いってんだよ、俺様がいるじゃねーか」

「・・・・仕方がない。 私が頭脳労働を担当しよう。 ・・・少しは楽をしたかったのだが

トリーシャは時間が限られるから、雑用系の任務も私がいくらかは担当せねばならぬし」

「俺の話を聞け! 俺が頭脳労働を・・・・!」

レヴォルドが立ち上がり、大きく伸びをした。 抗議するヘキサに、帽子を被せ、そして言う

「では、決定人員を早速説得に行くぞ。 それに、決定以外の者達にも一応声は掛けておこう

いざというときは手伝って貰えるように、な。 行くぞヘキサ」

「うーっ! 後でなんかいい物喰わせろよなっ!」

 

まず、レヴォルドが訪れたのはリオの家であった

リオは家にいて、僅かながらレヴォルドの訪問に顔を輝かせたが、次に聞いた言葉に驚いた

「僕が自警団に? ・・・・本当?」

「ああ、お前の力が必要だ。 手を貸してくれないか、リオ」

自分の力が必要だ。 そういう言葉を聞くと思っても見なかったリオは、嬉しさと驚きで硬直した

そのままレヴォルドは彼の、紫色の髪に手を置き、静かに口を開く

「駄目か? リオ。」

「僕、まだ子供だし、何にも出来ないし、多分お姉ちゃんに迷惑掛けるよ・・・

でも、本当に本当? 僕が必要なの?」

首を縦に振ったレヴォルドを見て、リオは嬉しさに感情が沸騰するのを感じた

そして、慌てて感情を抑える。 それを、不可思議そうに見るヘキサ

リオはやがて、胸に手を当て、決意を目に輝かせて応えた

「僕、自警団に入る! 頑張るよ、お姉ちゃん!」

「そうか。 その意志を歓迎するぞ、リオ

父君と母君の元に案内して欲しい。 保護者の了承を得ねばな」

体内で踊る心を必死に押さえながら、リオは階段を一歩一歩上がり、奥にいた両親に話を通す

普段、両親とさえ積極的に話さない彼の、喜びに満ちた言葉に父母は喜び

そして、レヴォルドはヘキサと共に応接間に通された。 リオは、小走りに自分の部屋に戻っていった

リオは母親似のようだった。 長い紫の髪が美しい、若々しいながらも儚げなリオの母と

息子とは似てもにつかない、豊富な口ひげを蓄えた頑健そうなリオの父が

一体何の話だろうとレヴォルドを見つめた。 レヴォルドは、一瞬の沈黙の後、真顔で言い放つ

「では、単刀直入に言いましょう。 息子さんを私に下さい」

紅茶に口を付けていたリオの父が盛大に吹きだし、母は驚きすぎてテーブルに頭をぶつけた

意識朦朧とする妻を助け、バクスター氏は必死に感情を整え

唖然とするヘキサの前で、レヴォルドに応える

「い、いきなり何を言うんだね君は! 大体息子はまだ12だ!」

「年齢など、関係ないと思いますが? 要は本人の気持ち次第ではないのですか」

「なんという・・・・な、なんといっていいのか、あの、つまりだな!」

動揺して、ハンカチを何度も床に落とすバクスター氏の前で

壮絶にずれた言葉を発したことに気付かぬレヴォルドは、全く感情を乱さず言う

「・・・・? 何か勘違いをしていませんか」

「し、しかし息子が貴方との・・・その結婚を望んでいるのなら、私は息子の意思を尊重したい!」

「あなた! まだ、早すぎるわ。 いくらなんでも、あと六年、いいえ、五年は待って・・・」

ようやく立ち直ったバクスター夫人が、夫をたしなめるように、動揺を隠しきれぬ口調で言う

だが、何とか動揺を抑えたバクスター氏は、震える手でハンカチを掴み、額を拭いながら言葉を紡ぐ

「しかし、彼奴が望んでいることだ! しかも、あんなに嬉しそうにして・・・

何もほしがらないあいつが、こんな美人を連れてくるなんて・・・私は嬉しい!」

「永続的な話ではありません。 一年間ですが」

「なにっ! き、君はリオを期間限定で、つ、ツバメにして! 弄ぶつもりなのかっ!」

あらぬ方向に暴走し始めた会話に、流石にレヴォルドも気付いた。 いつもながら凄まじいずれぶりに

免疫があるはずのヘキサさえ硬直する中、元凶は咳払いした

「私は、息子さんを自警団に借り受けたい、といっているのですが」

「・・・・? 自警団?」

ようやく場に落ち着きが戻った。 レヴォルドの説明を聞くバクスター氏の顔に平静が戻り

やがて、それが終わった頃には、有能な経営者としての精悍な表情が戻っていた

「成る程・・・それは良いな。 分かった。 息子を頼みますぞ、レヴォルドさん

数日くらいは、無断外出をしても構いません。 どうか鍛えてやって欲しい」

「あなた! そんな、あの子にもしもの事があったら・・・」

「いいんだ。 それに、今のうちから鍛えておけば、後で必ずあの子のためになる」

さっきまでの無様な動揺ぶりは何処へやら、威厳を漂わせてバクスター氏は続けた

「少しくらい、傷を付けても構わん。 どうか、手加減しないで、壊れない程度に使ってやって下さい」

「ええ。 分かりました。 では手加減無しに、使わせて貰うとしましょう」

レヴォルドが凄絶な笑みを浮かべた。 それを見て、バクスター氏はほんの僅かだが後悔したという

こうして、リオは自警団第三部隊に入り、活躍することとなった

 

次にレヴォルドは、アルベルトを探しに行った。 トリーシャはこの時間帯、学校にいるはずである

仕事はあさってから始める予定だと、既にリオには伝えてある

アルベルトは町の東地区を、敬愛するリカルド隊長と共にパトロールに出ており

昼過ぎに戻ってくるはずだとレヴォルドは推察しており、そしてそれは当たっていた

とりあえずの任務を終え、昼食を取りにさくら亭をリカルドと共に訪れたアルベルトは

自分の名を呼ぶレヴォルドに気付き、さっきの文句の続きを言おうとしたが、場所を考えて止めた

早速注文を取りに来たパティに、好きな焼き魚定食を注文すると、臆することなくリカルドの前に座る

隣では、サンドイッチを頼んだヘキサが、じきに訪れるサンドイッチを想像してわくわくしていた

だが、騒ぐことはない。 この魔法生物は、召喚主であるリカルドが苦手だったのだ

二言三言会話を交わすと、やがてレヴォルドは、リカルドとアルベルトに切り出した

「ところで、アルベルト。 力を借りたいんだが」

「何!?」

驚くアルベルト、腕組みをするリカルド。 レヴォルドは矛先を変え、更に続ける

「リカルド隊長、アルベルトの意志があれば、第三部隊に一年貸していただけませんか?

私としては、アルベルトの剛力は是非欲しいところなのですが」

「ふむ・・・そうだな。 どうする、アル」

唯一自分の名を短縮して呼ぶことを許している人物の言葉を受け、アルベルトは考え込んだ

変な奴ではあるが、レヴォルドは戦友であり、親友である。 その頼みを断るのは心苦しい

「のぞきの責任をとって、とっととうけちまえよ」

ヘキサがぼそりと言い、アルベルトが真っ赤になった。 リカルドが驚く中、アルベルトが絶叫した

「違うっ! 俺はのぞきなんかして・・・」

その口が閉じたのには理由がある。 パティが、重い料理の乗った大皿を頭に振り下ろしたからだ

男勝りのパティが、こわごわ彼女の顔を見上げるアルベルトに、不機嫌そうに言う

「はいはい、分かったから店内では静かにする。

さっきヴァネッサに聞いたわよ、それが誤解だって事は。

分かってるけど、でも、ここで必要以上に騒ぐようなら出ていって貰うわよ」

今日は災難続きのアルベルトであった。 やがて、皆が黙り込み、静かに食事を始める

料理は文句無しに美味しく、皆の口は自然と食事に集中し、誰も言葉を発しなかった

そして、それが終わると、アルベルトは言った

「・・・受けてやるよ。 俺には異存がない

と言うわけで、すみません隊長。 俺は暫く第一部隊を離れます」

「ふむ、そうか。 しっかりやれよ、アル」

「リカルド隊長、実はついでにもう一つ頼みがあるのですが」

そういって、レヴォルドは肩をすくめた。 今度の説得は、思っての他手こずる事になった

 

トリーシャは、すっかり陽が落ちた街道を急いでいた。 何時も笑顔を絶やさない彼女であるが

どうも最近、一人でいるときは、影のある表情をしていることが多い

今も、溜息をつき、道を急いでいる。 表情は陰鬱で、いつものトリーシャらしくなかった

突如、彼女は足を止め、後ろを向こうとした。 付けられていると感じたのだ

だが、振り向くことは出来なかった。 凄まじい速度で、強烈な殺気が追ってきたからである

風を切る音と共に、刀が振り下ろされる。 リカルドの娘であるトリーシャは、体術の心得があり

何とか鋭いその一撃をかわしたが、前にも勝る勢いで、次の一撃が迫ってきた

闇に覆われ、襲撃者の顔は見えない。 首筋を狙った一撃はかわしきれる物ではなく

トリーシャは体勢を崩し、地面に倒れ伏した。 頭上を、凄まじい勢いで刀が通り過ぎる

悲鳴を上げようにも、強烈な殺気に身がすくみ、口が動かない。

闇を背に仁王立ちした人影は、刀をゆっくり上段に構えた

もうかわす余力はない。 隣を見ると、後ろにあった背丈の高い草が散らばっており

視線を逸らして後ろをゆっくり見ると、草はレーザーで切ったかのように均一に斬られていた

喰らっていたら首が飛んでいただろう。 視線を戻したトリーシャは、相手が刀を振り下ろすのを見た

目を瞑ったトリーシャの脳裏に、今までの記憶が走馬燈のように巡り

思わず、彼女は口の中で父を呼んでいた。 両目から、一筋の涙が流れ落ちる

そして、凍結した時の中で観念した彼女は、意外な人物の声を聞いた

「トリーシャ、私だ」

「・・・・・? レヴォルドさん?」

「おーっす、俺もいるぞ。 だから止めようって言ったじゃないかよ。 本気で怖がってたぞ」

こわごわトリーシャが目を開けると、其処にはガス灯に照らされてレヴォルドが立っていた。

傍らには、複雑な表情のヘキサもいる

既に刀は鞘に収められている。 襲撃者の正体を悟り、呆然とするトリーシャに

レヴォルドは真顔で、正面から言い放った

「随分暗い顔で歩いていたな。 元気づけようと冗談で攻撃したのだが」

「ほ、本気で死ぬところだったよぉっ! 危なく首がなくなっちゃう所だったじゃないかっ!」

ようやく正気を取り戻したトリーシャが叫ぶ。 だが、その言葉にはいつもの元気がなかった

それを察してか、レヴォルドはまたしても真顔で<冗談>を言った

「案ずるな。 あれは、攻撃したフリをしただけだ。

これこそフリアイ流暗黒武神剣術奥義・嘘攻撃! わはははは!」

「あ、あはははは・・・あはは・・・」

事実、レヴォルドは冗談ですむ範囲で攻撃をしていたのだが、あれほどの恐怖の後ではそれも虚しい

思いきり疲れ果てた表情で、トリーシャは無理に汗を流しながら笑った

隣では、ヘキサも疲れ果てた表情で笑っている。

ひとしきり無理矢理笑わされると、トリーシャは立ち上がり、服の埃を払った

涙には気付かれなかったと感じ、安心すると、振り向いて笑顔を受かべる

「ごめんね、レヴォルドさん。 ボク、そんなに疲れた顔してた?」

「・・・・荷物持とう。 私の方が体力的に余裕がある。 驚かせてすまなかったな

面白がると思ったのだが・・・ふむ」

「あ、ごめん。 気使ってくれるんだね。 でも、大丈夫だって」

その後は、しばらく無言が続いた。 やがて、レヴォルドが切り出した

「そうそう、大事なことを忘れていた。 トリーシャ、大事な話がある」

「え、何? いきなり改まって」

「トリーシャ、お前が是非欲しい」

瞬間的に石化するトリーシャ。 隣では、ヘキサが唖然とし、口を開けっぱなしにしている

「レヴォルドさん? ボ、ボク、お、お、お、おんなのこ・・・だよ?」

「だからどうした。 性別など問題ではない」

完全に停止したトリーシャに、レヴォルドは相手が誤解していることも気付かず

更に、とどめとなる一言を言った

「実は、リカルド隊長の認可は既に得ている。 お前が必要だ、トリーシャ」

「ボ、ボ、ボク、父さんのお願いでも、許しがあっても、でも、でも、おんなのひとを

あ、あいするなんてできないよ。 あ、あ、あの、あの! その!」

快活なトリーシャが、壮絶に取り乱し、完全に目を回している。 滅多に見られない光景である

しかも、レヴォルドはその理由を気付かず、不思議そうに首を傾げた

「愛する? 何を勘違いしている?」

「おーい、ちょっといいか?」

ヘキサが手を挙げ、二人の視線がそちらに動く。 咳払いをすると、魔法生物は続けた

「最初から言えよな・・・自警団にお前を迎えたいってさ」

「え・・・・?」

「最初からそういっている。 自警団にお前の力が是非欲しい」

再び完膚無きまでに脱力し、トリーシャは地面にへたりこんで大きく息をついた

「も、もうっ! レヴォルドさん、誤解を招くような言い回しはやめてよっ!」

「悪いな。 で、どうなのだ。 私は本当にお前の力が欲しいのだが」

トリーシャは是と応えた。 これにて、新生自警団第三部隊の人員は決まった

 

4,暗黒・第三部隊始動!

 

二日後。 暫定的な第三部隊の隊長となったレヴォルドが、団員達

アルベルト、リオ、トリーシャ、それにリカルドを始めとする各部隊の隊長に挨拶した

一年と言う時は、長いようで短い。 真剣勝負であるし、辛い一年になるであろう

だが、その苦労を感じない力強さで、レヴォルドは皆に就任の挨拶をし

アルベルトや、就任式を見に来たクレアを感心させ、リオを勇気づけた

そして、最後に、例の如く無茶苦茶な冗談を真顔で言う

「もし一年後・・・成果が上がらなかったら、三人は私と無理心中して貰おう!」

リカルドを始めとする何人かが硬直し、他の者達が唖然とする。 僅かに笑ったのは団長だけだった

それを見回して確認すると、レヴォルドは手を振り、言い放つ

「勿論今のは冗談だ

これぞフリアイ流暗黒武神剣術奥義! 虚偽心中強制!」

「・・・・本当に一年大丈夫か。 それに、此奴が隊長で大丈夫か?」

ヘキサが呟く。 こうして、「暗黒第三部隊」の新しき一年が始まったのだった

                                   (続)