大帝の未来
序、孤独に
虚無の世界に新人が来なくなって一年ほど。
古株達も次々に上がって行き、とうとう長老一人だけになった。
虚無の世界にただ一人。
家を修復し。
そしてぼんやりと膝を抱えて、天井を見上げる。
ついに、一人になったか。
家も一つしか必要がない。
これ以上新人が来ないのだから、当たり前だろう。
とうとう来たのだ。
長老が上がるべき時が。
長老が上がる時。
この世界も終わりを迎えるのだろう。それは、これまでの流れから、別に誰に言われるまでもなく分かった。
一旦この世界は無人になるのか。
それとも、完全に世界ごと無くなるのか。
それは分からない。
はっきりしているのは、もう新人は来ない、と言う事だ。
時間切れ。
そう通告されたに等しい。
元々、千年間宇宙を一人で彷徨っていたに等しい。だから、孤独には慣れている。それ自体は問題が無い。
ただ、はっきりこの世界の仕組みが分かった事。
上がれと促されている事。
その二つは、心に少しずつ、しこりを作った。
上がって良いのか。
そもそも最大の罪人が。
此処を離れても良いのか。
そう、自問自答する。
長老は、立ち上がると、外に。ぼんやりと、荒野の世界を歩き続ける。ただずっと。勿論何も無いし、すぐに集落に戻ってきてしまう。
それでも、ただ黙々と。
歩き続けた。
黒服は喪服。
殺してきた者達に対する哀悼の意。
ここに来る者は、姿は生前と全く違う事が多かった。
長老もそれは同じ。
だが長老の場合。
非力な小娘の姿で。
黒服という喪服に等しい格好。
これは作為的だと思うのだ。
自分の罪悪感がこの格好をさせているのだろうか。自分には、どうしてもそうだとは思えないのだが。
しばし考え込んだ後。
また歩き始める。
上がっても良い。
神がそう告げているのなら。
別にそれはかまわないのではないのだろうか。
だが、そもそもだ。
この程度で、贖罪になったのか。
結局長老自身が救えた人間は、十万をこえなかった。
その中には、本来は救いようが無い者だって、たくさんいた。歴史を変えるレベルの者もいた。
だがそもそもとして。
長老の存在自体が、歴史を大きく悪い方向へと動かした。
誰も得をしない。
誰もが傷つく。
そんな歴史を作った。
世界に戦乱ばかり呼んで、それを笑って眺めながら金に換えている邪神と何処が違うのだろうか。
贖罪になったというのなら。
あれだけの無茶をして。
この程度で、解放されるとでもいうのだろうか。
それは神の視点が間違っているのではないのか。
色々と疑念が湧いてくる。
或いは、此処より更に苛烈な地獄にこれから行く、と言う可能性もあるが。それはそれだ。
別に気にする必要もない。
地獄に落ちるのは当然だし。
覚悟だって決めている。
今更怖れるものなど何一つ無い。
ただ、此処を抜けても良いのか。
それだけが疑念なのだ。
もう一人しかいない。
威圧を与える事もない。
だったら、もはやしゃべり方を柔らかくする必要もないか。自分自身の思考回路も、切り替えるとする。
自宅に戻ると、どっかと座る。
今までは丁寧に女子座りをしていたのだが、あれは色々と窮屈だったのだ。やはり胡座が一番である。
そして頬杖をついて考え込む。
昔は、こうやって考える事が多かった。
体は女になっているが。
そもそも生物としての本能などは消えてしまっている。
今更、特に気にする必要もない。
上がる事そのものは。
許される、というのなら別に良い。ただ、心配ではあるが。
この先に何をしたいという明確なビジョンもある。だがそれは、地獄で責め苦を受けた後かも知れない。
いずれにしても、もはや同じ失敗はしない。
白色彗星帝国の大帝として。
千年間宇宙を彷徨った者として。
死の瞬間、己の愚かさを悟った者として。
同じ失敗は、してはならないのだ。
目を開ける。
そして、座ったまま。神に問いかける。
「神よ。 以前話しかけてきたのだ。 聞いているのであろう。 もはやこの世界には余しかおらぬ。 答えよ」
返事はない。
この答えを出すのも、長老に課せられた責務か。
だが、敢えてなおも問う。
「余は己がどれほど罪深いか自覚しておる。 余が救った人数など、余が蹂躙し鏖殺した人数に比べる事すら出来ぬ。 何故に、此処で余を一人にした。 孤独を罰というのではあるまい?」
やはり返事は返って来ない。
しばし待つ。
そして、大きなため息をついた。
いずれにしても、もはやこの世界は、役割を終えたと言う事なのだろう。
それならば、それで。
別にかまうことはないか。
しばし背伸びして、体を動かす。
他者に暴力を振るうことは出来なかったが。
しかしこの世界でも、戦闘関連のスキルを除けば。体を動かすこと自体は出来た。
他者に加害できなかった、というだけだ。
細くなった腕を見る。
とはいっても、動かし方は分かっているから、生前と戦闘力は大して変わらないだろう。千年分の経験蓄積とは、そういう事だ。
また、別の世界に生まれ変わったりしたら。
この腕が、加虐の暴風を振るう。
そう思うと、怖いのかも知れない。
いや、怖くは無いか。
嘆かわしいのだろう。
口をつぐんで、沈黙の時間を過ごす。
食事の時以外は、身動きせず。
静かに、思索を続ける。
思索をしながら思い出す。
此処を訪れた者を。
政治家である事に誇りを持っていたもの。
教師である事に己の全てを賭けていたもの。
誇り高い者達だった。
あんな者達を、生前はたくさん手に掛けてしまったのだろう。
己の愛のために奔走したもの。
愚かなものだった。
だけれども、その愚かさ故に奮起し。そして二度と間違わないことを誓って、この世界を上がって行った。
最低最悪の命を弄ぶもの。
だが、その者が暮らした世界が悪かった。最後は、生まれた世界を呪いながら、完全に憑き物が落ちてこの世界を去って行った。
異能が蔓延る世界で、忍びだったもの。
最初は、決して邪悪ではなかったのに。
親にさえなる事が出来なかったその者は。
己のオリジンを思い出すと。
むしろ晴れやかな顔で、此処を上がって行った。
あらゆる全ての運命に呪われた者。
自分に責任など無い事を理解するまで。
随分と苦労していたな。
雪の中で凍死していった孤独な少年。
あの者が描いてくれた絵で。
長老がしたいことを、明確にする事が出来た。そういう意味では、絵描きであったあの少年には、感謝してもしきれない。
人間という生物が、最悪の未来に到達した場所から来た者。
人の姿さえ奪われたその者は。
未来の世界を変えることを胸に誓って、この世界を去って行った。
人という生物の生きる世界を壊すために作られた尖兵。
そのものには責任はなく。
本能の呪縛から解放された後は。
ただ静かに、この世界から上がって行った。
ただ盗むという事しか知らなかったもの。
世界のルールが狂っていたから、どうしようもなかった。
狂った世界のルールを書き換えることから、始めなければならなかった。
そして酷薄すぎる生を過ごしたもの。
己の生に納得するまで。
随分と苦労していたな。
他にも印象深い者はたくさんいた。
ここに来てから、己の無能さを認めるまで千年もかかった司馬炎。
長老の右腕として、最後まで支えてくれた大海賊黒髭。
幾多の国の王。役職者。賢者達。
いずれもが、皆長老に色々な事を教えてくれた。
全ての者が満足して上がって行った今。
此処の役割は終わったのだろうか。
長老は家を出ると、食事にする。
随分小さくなった木から、自分用のうまくもない木の実だけをもぐと、黙々と食べる。
神は応える気が無い様子だから。
自分で結論を出していかなければならない。
古代文明の人間は。
神という存在を設定することで、ようやく道徳を作り出す事が出来た。
それくらい、人間という生物は愚かしく。
神という絶対者がいるという前提でなければ。
道徳を守る事さえ出来なかった、と言う事だ。
自分はどうか。
神を名乗ったことはない。
だが、宇宙の全てを愛で満たそうと考えた。
その愛が致命的に狂っていたから。
いうならば破壊の神として動き続けたのかも知れない。
故に本物の神に撃ち倒された。
此処を去った者達は。
長老が罪深き事を知っている。
だが、皆。
長老の事を、侮蔑することはなかった。
感謝しながら、此処を去って行った。
彼らの事は救えた。
あまりにも、救えた人数が少なすぎるのも事実だが。
救えた事は救えたのである。
大きくため息をつくと、周囲を歩いて回る。
多くの思い出が脳裏をよぎる。
最初ここに来たとき。
己の体の変わりように驚き。
周囲の怠惰さに情けなさを感じた。
主導して周囲に規則と規律を教えたたき込み。
家を作り最低限度の文化的生活を始めて。
人心地ついた頃に、破滅が起きた。
一人上がると一人来て。そして破滅が全てを更地にする。
そのルールを知ったときは、唖然として。そしてしばらく馬鹿笑いしていたっけ。生前のように、大きく口を開けて。周囲はぽかんと、その様子を見ていたな。
それから、これが罰なのだろうと納得して。
何度でも集落を立て直し。
話を聞き、相談に乗り。
一人ずつ、この虚無の世界から上がらせていった。
誰かが上がる事で、此処が更地になることは、十回目くらいからはもはや何も気にならなくなり。
むしろどんな破滅が来るのか楽しみにさえなった。
ふと、気付く。
ずっと歩いていて、今までにないものに気付いた。
世界の果てだ。
黒いもやのようなものが拡がっている。
一瞬、この虚無の世界に、新しい生物でも来たのかと思ったが。
生物としての特色を持っていない。
それに、今更死ぬ事など怖くもない。
躊躇無く近付く。
もやに触ると、最初は電撃が走った。
本来だったら、とても痛かったのかも知れないが。
痛みなど今更である。
鼻で笑うと、もう一度手を伸ばす。電撃を無視して、そのまま奥へと手を伸ばしていく。体が丸ごと入る程の空間になっているようだ。面白い。そのまま、もやの中へと突き進んでいく。
電撃はやがて走らなくなり。
声が聞こえるようになった。
明るい声ばかりだ。
人々が静かに暮らしている社会。
戦争をしなくなった社会。
それでいながら、進歩を捨てていない社会。
人間の中には、戦争をしなければ進歩もないとか考えている輩もいるようだが。それは大嘘だ。
戦争など。
しても腹が減るだけだ。
戦闘種族として作られたからこそ分かる。
戦争など意味なきこと。
無能な為政者が選ぶ最悪の政策の一つ。
単なる利権争いに、膨大な人命を無駄にする最悪の手。
それすらも。
戦闘民族だった頃は。
分からなかったのだ。
愚かしいなと笑いながら、もやの中を進んでいく。
ほどなく。もやを抜けて。何も無い、光の中に出ていた。
此処は荒野の世界ではないな。
そう感じ、周囲を見る。
光に満ちていて。
重力すらもなく、体はふわりふわりと浮いていた。
宇宙空間で作業をしているようだなと思う。
恐らくは、あの世界を上がったのだろうと、何となく思ったが。
どうやらその考えはともかく。また神の前に出たらしい。
前に一度だけ聞いた声が。
静かに語りかけてきた。
「白色彗星帝国、ガトランティスの大帝ズォーダー」
「いかにも。 余こそズォーダーである。 正確にはタイプズォーダー。 大帝と名乗るようになった者ではあるがな」
「貴方は、今ようやく虚無の世界を抜けようとしています」
「抜けてしまって良いのか」
何度も問いかけた言葉。
答えはなかった。
今でもそれは同じ。
そして、地獄に落ちろと言われれば。それは粛々と受け入れるつもりでもある。それだけの事をしたのだから。
「貴方は多くの命を奪いました。 そして虚無の世界で多くの命を救いました」
「奪った命が、救った命に比べて多すぎる」
「……一つ、気付いた事がありませんか?」
「何の話だ」
分からない。
神が実在している事。この光が神、それも恐らく最上位層に位置する神であることは理解している。
長老が大帝だった頃。人間だった、いや人間となった長老を殺した神テレサよりも、更に高次元に存在する神だと言う事も。
だからこそに、こう回りくどい事を言うのでは無く。はっきりと、正面から伝えてほしいのである。
「貴方は恐らくそのままでは気付けなかったでしょう。 だから、此処に呼んだのです」
「そうだな。 余は気付くことが出来なかっただろう」
「貴方は合理主義者でした。 だからこそに、わからなかったのでしょうね」
「……それで、余は何を気付けなかったのだ」
光そのものは言う。
「人を救うと言う事は、人を殺すよりもずっと難しいと言う事です。 ただ一人の人を救うために、下手をすると人生を費やす必要さえ生じてきます。 それに対して、人を殺すことがなんと簡単な事か」
「……っ!」
「もう、これ以上は必要ないでしょう」
そうか。
ようやく理解出来た。乾いた笑いが漏れてくる。
そして、気付くと。長老はまた、孤独の世界に一人、佇んでいた。
どっかと腰を下ろす。
目を閉じて、ため息をつく。全ては、ようやく理解出来た。
いずれにしても、此処を上がるのは自力でやらなければならないか。しかし、その障害は、もうなくなった。
1、虚無の崩壊
人を救う。
それがどれだけ大変か。この虚無の世界で、長老はよくよく理解した。考えてみれば、生に満足できずに此処に来た者ばかり。
それらを満足させるには。
救う事が第一だった。
救済が、如何に大変か。
実際に、蜥蜴頭の男と一緒に取り組んで、苦労しながら理解していったつもりだったのに。
ずっと、数が頭にあった。
殺した人数。
それが、救済した人数よりずっと多い。
恐らくあの光。
最高位の神か、それに近しきものは。
それを長老に理解させたかったのだろう。
皆、考えてみれば、満足げにこの虚無の世界を去って行った。
どんなに業が深いものでもだ。
つまり、それは救われたと言う事。
或いは業から。
或いは哀しみから。
それは、一人一人に、全力で向き合い。
互いに理解し合わなければ、出来ない事だった。
そして愚かしくも。
長老は、自身に対する理解には自信があった。
それこそが、全ての足を引っ張っていたのだ。
そうだ。
最後の関門こそ。
人を救うことが如何に大変かと言う事を、理解するかという自覚。自分が救われて良いのか、ではない。
自分は、如何に多くの人を殺したか。
傷ついた人を救うのに、どれだけの労力が掛かるのか。
この二つの理解こそが。
此処からの脱却に、必要な事だったのだ。
何も悟りなど必要では無かった。
ようやく、納得出来た。
大きな。
多分この虚無の世界に来てから、一番大きな溜息が出たと思う。
自分の馬鹿さ加減に、だろうか。
いや違う。
人間の業の深さにだ。
ゼムリアという民が、戦闘用生物兵器として、ズォーダー達ガトランティスを作り上げた。
あくまで戦争で勝つためだった。
そのためのコアとしての存在が長老。すなわちズォーダー。
いわゆる管理個体である。
自我を持ったズォーダーは、己の妻子を殺した悪逆なる支配者ゼムリアに反旗を翻したが。
その時に気付くべきだったのだ。
自身の砕かれた心が、歪んだ愛を形成し、宇宙に千年もの間災厄をもたらし続けたのである。
心というものを。
救う事が、如何に大変であるかなど。
身を以て、分かっていた筈なのに。
納得してしまうと、後は簡単だった。
ぼんやりと天井を見上げる。
座を崩して転がり。
横になって家の天井を見る。
もう、上がるな。
それを理解出来たから。
くつくつと、笑いが漏れてきた。
どうしてこう。片輪が欠けてしまうのか。皆そうだったでは無いか。
ここに来た者で、本当に愚かな者はむしろ少なかった。
愚かなら、恐らく悩むこともないし。
人生に納得出来ないこともないのだろう。
其所までそもそも思考が行き着かないのだ。
だからこそ、人生に納得出来なかった者は、むしろ賢明なものが多かった。そんな者達は、皆。
何処かで、思考の片輪が外れていたり。
ボタンを掛け違えていた。
ボタンの掛け違えについては、ここに来てから覚えた言葉だが。
いずれにしても間違った使い方はしていない。
長老も。
その例外ではなかったのである。
神は二度も手をさしのべてくれた。
それでやっと気付くことが出来た。
この後どうなるかはどうでもいい。
やりたいことは決まっている。
地獄に落ちた後やりたいことをやるのでも。すぐに何処かに転生して、殺した以上に救うのでもかまわない。
いずれにしても、次の生は。
殺した以上に救う。
ただそれだけだ。
ほどなく、この空間そのものが揺れ始めたのが分かった。
地震などでは無い。
宇宙を千年も旅してきたのだ。
空間が揺れていることくらいはすぐに判別がつく。
空間相転移ですら壊れなかったこの世界が、壊れようとしている。それは、この世界が終わることを意味する。
役割を終えたから、消えるのだ。
ありがとう。
ずっと住まいになってくれた家に感謝する。
ありがとう。
ずっとおいしくもないが、栄養となってくれた木の実を提供してくれた木に感謝する。
本当にありがとう。
一緒に、この世界で納得というものを学ばせてくれた。多くの者達に感謝する。
数万人を救うのに、数万年掛かった。
それに対して、数千兆を殺すには、千年しかかからなかった。
これだけでも、如何に殺すのが簡単か、明らかだ。
次は、誰もが無為に死なず。
少なくとも、見ている範囲では、誰も死なせない国を作る。
無駄な人材などいるものか。
ここに来た者は、誰もが何かをできた。
マンパワーというものは、本当に貴重なものなのだ。
それが理解出来ていない存在に、指導者を語る資格無し。
そう。
昔、大帝だった頃の長老が、正にそれである。
やがて、押し潰されるように空間が壊れ。
長老は、静かに目を閉じ。
この世界の終わりを、体で感じていた。
光に包まれる。
まだ、黒服を着た女の姿のままだ。いや、もはやこの姿でいる方が長い。別に、姿など、もはやどうでも良かった。
光に浮かび。そして周囲に感じる。
神の気配を。
「ようやく納得出来ましたね」
「ああ。 愚か者故、漸くここまで来て納得する事が出来た」
「貴方の哀しみと苦しみは、良く伝わってきました」
「余などは良い。 余のせいで、どれほどの命が無駄に失われたか」
それを告げると。
光は静かに答える。
「そもあの虚無の世界は、実験的に作り出したものです。 以前から神々の間では、幾つもの仮説が存在していました。 それは地獄と言う場所で責め苦を与えるだけでは、魂の浄化は出来ないのでは無いか、というものです。 天国という場所は、むしろ魂を堕落させる場所なのでは無いかと言う説も同時に浮上しました」
「……そうだな。 地獄や天国の概念はあの虚無の世界で理解した。 死後の世界があるとして、そんな場所に行った所で……人に良い影響は無いだろう」
「その通りです。 故に、生前の未練を解消するための場所を実験的に作り上げ、その核として宇宙でももっとも罪深き魂を据えました」
「それが余か」
それ自体は妥当だ。
神は頷くと。
同じような罪を犯した無数の魂が、多数の似たような虚無の世界で、今頑張っているという。
どんな凄まじい力……宇宙を破壊するような力を持っている悪逆であっても。そもそもこの世界は平行世界全てを束ねたよりも更に幾つも上位の世界。この世界の者にとっては、塵芥に等しい。
だからどんな戦闘スキルも無意味だった。
本来だったら、宇宙が破滅するような破綻が訪れても、あの虚無の世界はびくともしなかった。
そういうこと、だったのだ。
恐らく、いかなる理論を持ってしても、人間ではこの神には勝てないし。そもそも宇宙に存在するものも。その外側に存在し宇宙を内包する者も。この神には勝つことができないだろう。
それほど高位の存在、と言う訳だ。
「貴方は多くの罪人の中で、最も早く「上がる」事が出来ました。 助けは必要ではありましたが」
「余があの虚無の世界で学んだのは、完全な人間などおらず、誰もが助けなくしては脆弱な獣に過ぎぬと言う事だ。 当然余も例外ではない。 どれほど力を増した人間がいようとも、それに変わりは無いだろう」
「其所まで理解が及んでいる貴方が、どうして最後のひとかけらに気付けなかったのか……」
「それが余にも不思議だな」
苦笑。
光も、苦笑していたかも知れない。
そして、話は進められる。
「これから貴方は、犯した罪以上の建設的な行為を、宇宙に対してしてもらいます」
「もちろんだ。 余は最初からそのつもりだ。 だが、本当に地獄に落ちずとも良かったのか」
「あの虚無の世界で、訪れていた破滅。 あれは何だと思うのですか」
「……まさか」
そう。
あの無数の破滅こそ。
大帝が宇宙中にまき散らしてきた、破壊そのもの。
あの虚無の世界では。
納得出来ず苦しんでいる者達の哀しみと苦しみを押し流すために。破壊そのもの。要するに「業」を活用していたというのだ。
なるほど、あの破壊力。
生きていた頃の大帝の業だとすれば納得も行く。
なるほど、彼処が地獄である所以だ。
罰は、常に受け続けていた、と言う訳か。
むしろ、業を彼処に流し込むことで、排水処理のような形で浄化していたのかも知れない。
そんな気さえする。
まあ、その辺りを聞くつもりは無い。
聞いても仕方が無いからである。
「ふっ、なるほどな。 分かった。 では余は、殺した以上に救おう。 だが、人の身で出来るのか、そのような事が」
「貴方はもはや、あの世界の力を一身に受けたもの。 既に人と呼ぶには、無理のある存在と化しています。 魂のレベルからです」
「では神となり人を救えと」
「いいえ。 貴方は宇宙の一つとなり、その内部の者達を慈しむのです」
宇宙の形は、人格に依存するという。
なるほど。
宇宙には、法則が違う別の宇宙が多数存在している、という話は聞いた事がある。
多数の可能性世界からなる平行世界ではない、全く別のルールで動く宇宙、と言う訳だ。それになれと神は言っていると言うわけだ。
良いだろう。望むところである。
正直な話、人として、どうやってあの少年が描いた絵を実現するか、ずっと悩んでいたのである。
結局暴は必要になっただろう。
わかり合えない文明とも衝突する事になっただろう。
教導だけを都合良くすることはできない。
それも何処かで分かっていた。
理想を通そうとも思っていたが。
それは人の身では厳しい事だった。
だが、それもこれで可能となる。
「良かろう。 それが如何なる苦しみを伴うものだとしても、余はかまわぬ」
「分かりました。 それでは、これよりビッグバンを迎えようとしているあの宇宙……あの宇宙にて、貴方は多くの生命を慈しむ存在となってください」
「任せよ。 宇宙の終わりに至るまで、暴虐を罰し、正義を推奨する光の神とならん」
「今まで見てきたことを忘れずに……」
光が離れていく。
意識が、今、生まれようとしている宇宙へと吸い込まれていく。
宇宙と意識が一体化していく。
目を閉じる。
いや、もう目などは存在していない。
自分自身が宇宙だ。
ほどなく、究極まで圧縮された宇宙が、ビッグバンを引き起こす。
虚無の空間を喰い破りながら、爆発的に膨張していく。
最初は想像を絶する超高熱だったものが。
一瞬にして巨大に拡がっていく故、熱は収まっていく。
その過程で素粒子が出来。
分子が出来。
やがて、物理法則が、大帝がいた宇宙とは違う宇宙が、出来上がっていく。調べて見ると、重力加速度がかなり違っている様子だ。他にも、色々と違っているものがあるらしい。光の速度は遅すぎる。
そう、虚無の世界に来た賢者の一人がぼやいていたっけ。
その光の速度も、少し違っているようだった。
面白い。
多数の賢者達と語らった知識が、宇宙に対する理解をよりクリアにして行く。
そのクリアになった知識で、膨張していく宇宙で、何が起きているのかを、正確に把握することが出来る。
おお。
ガスが集まり始めた。
やがて集まったガスは密度を増し。星になっていく。
更に巨大な規模で集まった星々が、銀河を作り上げていく。
最初はごく小さな規模の銀河だが。
やがて宇宙の彼方此方で、似たような銀河が作り出されていく。
恒星が生じると。
その余りで、惑星が生じていく。二重星や三重星であっても、案外図太く惑星は回り続けるし。
地球人がハビタブルゾーンと呼ぶ状況以外でも。
案外生物は、しぶとく、図太く発生していくのだ。
おお。
これが宇宙か。
やがて、無数に誕生した星の一部で生命が育っていき。やがて知的生命体へと成長して行く。
魂が集まっていくのが分かる。
その魂は様々。
最初は透明だが。
最初から邪悪なものも存在している。
だから大帝は。
生命が活動を開始すると同時に。
必ず監視をつけるようにした。
知的生命体に成長するなら、文明を建設的に作り上げられるように。少なくとも、ガトランティスや、幾つかの地球文明のような、破壊的文明であってはならない。その星は、知的生命体だけのものではない。
ましてや複数の知的生命体がぶつかった場合。
それぞれに優劣など存在してはならないのだ。
注意深い監視を行いながら。
自分が犯したようなミスをする文明が出ないように注意する。
宇宙に進出出来る文明は滅多に存在しない。
殆どの文明は、その星で寿命を終える。
最初に宇宙に出た文明が出たのは。
監視を開始してから。
三十二億年後の事だった。
2、贖罪の神
虚無の世界にいたとき。
出来るだけ柔らかい口調を取っていた。
そもそもだ。
最初に作られたとき。
ズォーダーという名前であった時も。
別に人格が生じた後も、大帝のキャラは「作って」いた部分が大きかった。これは指導者としては、厳格で剛直とした人物が相応しいと感じたからだ。
故に、虚無の世界で。
むしろひ弱そうな娘の姿になったときには。
周囲に威圧を与えないように。
言葉遣いも、居住まいも変えた。
自分の「本当」は、恐らく存在しない。
そもそも存在するとしたら。
それは「憎悪」と「怒り」だっただろう。
それが雲散霧消した今。
もはやズォーダーだったものには。怒りも憎悪もなく。ただ、救済と、見守るという機能だけが存在するのみだった。
無数に作り出した監視装置。
いずれもが、彗星の姿をしている。
己の居城だった滅びの方舟。白色彗星帝国の名前を周囲に轟かせた宇宙を征く定座。それを模したものである。本来の滅びの方舟はズォーダーが作ったものではないのだが。今の状態なら、その全てを理解し、再現する事が可能である。
ただし、見るだけで恐怖を抱かせるようにしていた白色彗星とは違う。
その彗星は、優しい光に満ち。
見る者を怖れさせず、穏やかにさせるように工夫はしていたが。
同時に悪しきものには容赦ない恐怖を感じさせるようにも、工夫は凝らしていた。
宇宙そのものとなり。
監視を続ける。
見る。
今、一つの文明が宇宙に大々的な進出を始めたが。エゴをぶつけ合って、激しい内戦に発展しようとしている。
それを緩和しているのだが。
どうしても、内戦をしたい勢力が存在している。
その凶暴な思考に昔の自分達を思い出し。哀しみを感じる。
強硬的な干渉に出るか。
いや、それでは駄目だ。
昔、愛の名の下に。
何もかもを蹂躙し、鏖殺していたのと何ら変わりは無い。
だったら説得するか。
いや、それは否だろう。
説得で納得させるには、大変な労力がいる。言葉が通じる事など、本当に希なのである。それは、虚無の世界で学習した。
ならば如何するか。
ふと、脳裏に蜥蜴頭の男がよぎる。
ふっと鼻を鳴らす。
勿論宇宙そのものになった今、そんな事は出来ないが。
多くの賢者達に知恵を借りる。
記憶は全て持ち込んでいるのだから。
あらゆる問題を超高速で解きほぐし。
最適解を、投げ込んでいく。
或いは偶然を装い。
或いは思いつかせることによって。
彼らが気付かないうちに、破滅的な結末へと行かないように、静かに誘導していく。
どうしようもない悪逆はどうしてもでる。
そういったものは、魂の輪廻を一旦中断し、地獄へと送る。
ただし、地獄に対する考えも、光そのものに聞いて少し改めた。あの虚無の世界を小さいながらも再現し。其所で考えさせる方が良いだろう。
宇宙そのもの。
その巨大な演算能力だからこそ出来る。
そういう事だ。
やがて、破滅的な内戦を回避したその文明は、平穏な時を取り戻し。建設的に文明を再構築し始める。
外宇宙への進出も開始した。
これで、四つ目か。
まだまだ出来たばかりの宇宙だが。
宇宙に進出出来た文明も出始めており。
その幾つかは、「神の存在」を認識しているようである。
彗星をそのまま神として崇める文明も存在するようだが。
彗星に頼りすぎるようではいけない。
あくまで、そっと後ろから助けてやる。
その程度で良いのだ。
暴力なき世界で。多くの悩める者を救っていった。その経験を生かして、宇宙となったズォーダーは動く。
やがて、更に十億年が過ぎ。
二つの星間文明が接触した。
星間文明は簡単には誕生しない。一つの銀河に一つ出来れば良い方だ。互いに存在を認識する事も難しい。
ズォーダーの故郷の宇宙では、特殊な事情から宇宙に生命のタネが撒かれていた。このため、頻繁に星間文明の紛争が起きていた。生命のタネにより、宇宙人の混血も珍しくはなかった。
だが、普通は違う。
今ズォーダーそのものであるこの宇宙ではそのような事はさせていない。
見守るだけ。
余計な干渉はしない。
そう決めているからである。
それでも、文明は接触した。
超光速での移動技術。いわゆる空間跳躍を手に入れ。
そして宇宙空間での戦闘能力を手に入れ。
二つの文明がかちあった。
来るべき時は来た。
宇宙は広がり、多くの銀河が出来ては消える。その過程で、無数の星々が生まれては消えていく。
多少物理法則が元いた宇宙と違う此処でも、それは同じ。
さあ、此処からだ。
元いた宇宙では、殆どの場合これが不幸しか呼ばなかった。事実、かなり緊張した状況で、両文明は宇宙艦隊を展開。
一触即発の事態に至る。
修練進化と言う奴なのだろう。
どちらの文明も宇宙艦隊の形状は似ていて。
組んでいる陣形も、よく似ていた。
合理的な形状を追究して行くと、形が似ていくのは仕方が無い事なのだとは思う。
ただ、ズォーダーのいた宇宙とはだいぶ違う。
これもまた、多少の物理法則の違いが招いている事なのだろう。
両陣営はにらみ合いの末、徐々に距離を縮めていく。
交戦するつもりだ。
どちらが決断したのかは分からない。
いや、そもそも決断していないのかも知れない。
いずれにしても、このままだとなし崩しに戦いが始まる。
二つの文明は、それぞれが銀河規模の文明だ。もしも戦いになれば、数万年は不毛極まりない戦いが続く事になるだろう。それこそ、資源を使い果たすまで、である。
そのような戦いは、するだけ無駄。
また、戦いは長引けば長引くほど互いの心にしこりを作る。
互いが仇になる。
許しがたい敵になる。
だから、戦いそのものをさせてはならないのである。
どうしても、世界に競争は生じる。
だが文明間の戦争は、競争とは更に別のものだ。
色々観察したが、結局の所文明というものは、法と経済によって成り立つ。その仕組みの洗練度は文明によって異なるが。
いずれにしても、この二つの争いを開始しようとしている文明は。
どちらも、まだまだ上に行ける余地を残している。
銀河規模の文明が。
国力を食い尽くすまで殺し合うのを、静観するわけには行かなかった。
両陣営の艦隊が、交戦距離にまで接近。
主砲、ミサイルが稼働するのを確認した。
其所へ彗星を割り込ませる。
彗星については、どちらの文明も強大さを理解している。
いずれも、文明の勃興期から存在を認知し。
そして抗えぬ圧倒的巨大な存在として畏怖している。
銀河規模の文明となった今でも、である。
すぐに後退を監視する両陣営の艦隊。多少慌てて陣形は崩れたが、昔と違って踏みつぶさせるような真似はしない。
一旦距離を取る艦隊を、静かに見守る。
彗星が超越的存在であり。それが監視者であることを。
どちらも理解はできているようだった。
並行して、両方の勢力分析から、最適解を導き出す。
どちらも領土関係の利権が問題になって、今回の衝突につながろうとしている。
だが、衝突がどちらの利にも一切ならない事を影から知らせ。
少しずつ、やり過ぎない程度に干渉する。
気付かせたり、偶然分かるようにしたり。
干渉はその程度で良いのだ。
十年ほどの時間が掛かったが。二つの文明は戦争の道を回避。中立地帯を構築し、互いに距離を取ることに成功した。
そもそも、互いに銀河文明。
お互いの銀河を領土とし。
分相応の文明を築き。
其所で満足していればいいのである。
分不相応の欲は身を滅ぼす。
だから、今は静かにしていて。
互いに交流を少しずつ行い。
理解し合っていけばいい。
ズォーダーがいた宇宙では。この理解の過程で、散々血が流れた。宇宙に撒かれた生命のタネが愚かだったのだろう。
ゼムリアも地球人も同じようなものだった。
今いる宇宙でも、ちょっと油断すると先のようなとんでも無い規模の紛争が開始されようとする。
要するに、油断はしてはならないという事だ。
しばし、黙然とする。
罪を償うためにも。
宇宙の管理を請け負うことになった。
今は、まだ宇宙は円熟期どころか、始まったばかり。
それでも、これほどの戦いが起こる可能性が生じている。
最終的には、どれほどの規模の戦いが起きるのか。
正直見当もつかない。
黙り込むズォーダーは。今後のために手を打つこと。より効率よく救うための方法を。考えなければならなかった。
ズォーダーが管理する宇宙が誕生して五十二億年が経過すると、その分だけ宇宙は光の速さで拡がり。
星間文明も、目立って増え始めていた。
初期に勃興した文明も、いつまでも続く訳では無く。
遺跡を残して滅ぶもの。
或いは、文明として分裂して、各地に離散していくもの。
様々だった。
生物としての寿命を使い切った存在、というものはいない。
生物というものは、基本的に適者生存するものであって。
環境に合わせていくらでも変わるし。
逆に必要がなければ幾らでも変わらない。
例えば地球で言えば、数億年規模で無酸素状態に適応した古細菌が繁栄したように。別に環境が変わらなければ、永遠に同じ生物が繁栄を続けるのである。
遺伝子という仕組みが存在し、それに乗ることで多様性を形成する場合もあるが。
その場合でも、結局生き延びるのは戦闘力が高い生物ではない。
環境に適応した生物だ。
宇宙に住まう人間も同じ。
宇宙に出た文明でも。
環境が安定した銀河なら、平穏に暮らし続ける場合もあるし。
銀河が接触したり、主星が超新星爆発に巻き込まれたりしたら、ひとたまりもなく滅びてしまったりもする。
そういう場合、何となく警告は出す。
幸福度は高めてやりたいとは思う。
故に、少しずつ。
小さな手助けだけはしていた。
深淵の玉座にて、今日も宇宙を見守る。
やっと宇宙に出たばかりの文明に危機が迫っているのを確認。典型的な超新星爆発によるガンマ線バーストが、その文明の主星を直撃しようとしていた。
超新星に少し手を加えて。
ガンマ線バーストの方向をそらす。
生物が何もいない方向へ、である。
文明だろうが何だろうが。
生物の存在そのものに大きな価値がある。
宇宙に出られた貴重な文明を滅ぼすわけにはいかないし。
同じように、様々な星に生じた貴重な命を無駄に浪費するわけにもいかない。
ほどなく、赤色巨星が超新星爆発。
この間に数千年の時があったが。
今のズォーダーにとっては瞬くような間の事だ。
ガンマ線バーストは、未熟な星間文明の主星を直撃せず、それた。
良かった、と思う。
昔は文明を蹂躙し、人を滅ぼす事をむしろ愛だなどと勘違いしていたのに。
今では、慈しみ、守る事を愛と認識している。
勿論甘くする事だけが愛でもなかろう。
甘やかしすぎないよう。
厳しく見守る事も、時に必要な事も分かっていた。
また、ある星間文明が。別の星間文明と衝突しようとしている。
一つの銀河に、二つの文明が生じたケースだ。
宇宙が成熟し始めたからか、このようなケースも生じるようになりはじめている。
どちらも資源が足りていない。
ならば、邪魔者がいない方に勢力を広げればいいものを。
資源がある方向へ、近視眼的に勢力を広げたいと考えてしまうものらしい。
これは、文明の欠点。
或いは性というものか。
苦笑しながら、そもそも少しずつ文明の首脳陣に気付かせ。戦いを回避する方向へ持っていかせる。
互いの交流の過程で小競り合いは生じるが。
其所まで五月蠅く介入はしない。
ただし小競り合いがあまりにも酷くなっていくようならば、介入も辞さない。
人間の自主性は出来るだけ尊重したいが。
自主性を野放図に放置すればどうなるかは、ズォーダー自身が一番良く知っている。
ゼムリアのように人間の形をした生物兵器を作りだし。
殺し合いのためだけの道具に仕立て上げる。
自分達のように他の生物を奴隷化し。
使い捨ての駒として消費していく。
そのような事は、させない。
彗星の到来を察知した二つの文明は、小競り合いを避けてすぐにその場を離れる。彗星については、恐ろしい逸話を増やした方が良いというのが、既にズォーダーの中では結論となっている。
手を出さなければなにもしない。
だが手を出した場合は、何もかもをひとたまりもなく滅ぼしていく。
銀河規模まで発展した文明には、その恐怖を信仰や哲学と同時に植え込んでおく。
そうすることで、原初的な恐怖を喚起し。
無駄な争いを避けるように、誘導するためだ。
彗星が複数、両文明の間に横たわり、互いを牽制する姿勢に入ると。
どちらの文明も、小競り合いを諦め。
更には交流も諦め。
互いに、別方向への進出を目指し始めた。
互いの文明を略奪するよりも、短期的な旨みは小さいかも知れない。
だが、長期的にはその方が、遙かに旨みは大きい。
それに気付いてくれれば。
此方としては、もう言う事は無い。
静かに二つの文明が、戦いを止め。
それぞれの方向で、発展していくのを見守っていく。
殺し合いだけが文明では無い。
覇王であったからこそ、そうだと言える。
覇王であったこそ、戦いのむなしさは、一番良く知っている。
数万年の虚無の世界の経験で。
殺す事が如何に簡単で。
救う事が如何に難しいかも。
身を以て思い知っている。
だから。
もう二度と同じ失敗はしないのだ。
静かに宇宙を見守る。
彗星に対して、調査をしようとする無人宇宙船は全て破壊する。近付こうとする有人宇宙船は、恐怖を感じさせて追い払う。逃げるのを追撃はしない。逃がしてやる。恐怖を覚えさせなければならないからだ。
たまに、興味から近寄ってくる者もいる。
虚無の世界で遭遇した、筋金入りの科学者のような変わり者達だろう。
そういう者達には危険を喚起し。
彗星が強烈な重力操作をしていることだけは教えてやる。
彗星の内部には、最後のズォーダーの定座となった滅びの方舟のコピーが鎮座しているのだが。
それを見せてやることはない。
滅びの方舟は。
故郷では、文字通り究極の破壊兵器だった。
だが今では、滅びの方舟は文明の滅びを回避するために用いるものなのだ。
そしてその存在は。
知らない方がいい。
人間には、知らない方が良いものがあるし。
触れてはいけない領域もある。
あまりにも分不相応な事を知ってしまった人間は際限なく増長し、傲慢になる。
そうなれば、悲劇も起こりやすくなる。
空中分解寸前まで行った調査船が、渋々という形で、彗星から離れていく。
それでいい。
むしろ安堵すらしながら、その様子を見守る。
後は。
いずれ、この彗星を起点にして。
宇宙に平穏を作るための共同体を、各文明が作り上げる事が出来れば。
もうズォーダーは、眠って過ごすことが出来るかもしれない。
あの雪の中で死んで行った少年が描いた絵のような光景が。
実現するかも知れない。
だが、それが実現するには。
まだまだこの世界の人類は未熟すぎる。
当面は、静かに見守っていくしかないだろう。
また、新しい文明が誕生する。
宇宙の中心からかなり外れた、辺境の小さな銀河だ。恒星の数も百万ほどと、銀河としてはかなり小規模である。
そんな中で生じる文明か。
内容を確認する。
地球の文明によく似ているが。
調べて見ると、環境が酷似している。
まあ広い宇宙だ。
こういうこともあるだろう。
後は、地球の文明が辿ったような、独善化、万物の霊長などと自称する愚かな増長を避けてやれば良い。
今は過剰な干渉を避ける。
破滅的な未来に行こうとしている者だけを引き戻し。
そして静かに見守る。
そう決めていた。
だから、静かに見守る。
覇王だった者の意思は。
あらゆる全ての物質よりも、今は堅い。
3、滅びの名は消え
幅二十五億光年に達する巨大な銀河団に属する二つの銀河。それぞれ一千億ほどの恒星を有する大型の銀河だが。
それぞれに文明が存在し。
互いに監視を続けていた。
銀河全域に文明を広げ、更に複数の銀河に部分的に領土を広げている巨大文明が二つである。
一時期は戦いにもなりかけた。
だが、あの彗星が出現し。
互いを牽制するように艦隊を遮ったため。
戦いは起こらなかった。
彗星が超新星を容易く砕く所は。
文明の黎明期から観察されている。
彗星の中に何か意識体のようなものがいるのではないか、という噂も文明の内部では存在していた。
いずれにしてもはっきりしているのは。
彗星は戦いを好まない。
攻撃に対してもびくともしない。
ブラックホールを利用した技術による攻撃でさえびくともせず。
超新星を微塵に消し去るほどの破壊力を有しており。
空間転移をして、宇宙を自在に飛び回る、超巨大構造体。それはもはや、移動する上に高い知能を持つ恒星系と言っても過言ではない。
宇宙探査船ノアの艦長フルグニルは、既に円熟した歴戦の勇士であるが。
宇宙での戦闘を想定した艦の長でも、大規模な戦いに参加したことはない。
小競り合いはどうしてもある。
小競り合いの中で、今まで戦歴を重ねてきたフルグニルは、現在最新鋭の艦であるノアを任されていたが。
その理由は、銀河団におきている異変調査のため。
これから進出しようとしている別の銀河の方で、何か巨大な重力が発生していて。銀河の構造が崩れ始めている。
勿論住んでいる銀河にまで影響が及ぶのには数万年は掛かるが。
その数万年を無為に過ごすわけにはいかないし。
問題があるのであれば。解決したい。
そこで、ノアのような探査船が十万隻ほど派遣され。
各地に散って調査をしている。
流線型のノアには五百名ほどの「人」が乗っていて。
それぞれが役割を果たしながら。移動する小規模都市とも言えるこの巨船を回していた。
小型の探査船は十隻一組で。
ノアのような大型戦は単独で。
それぞれ調査を続けているが。
現在ノアが所属している「赤色銀河連邦」と対立する「強固王国」(言葉を訳した所そういう意味らしい)も、同じように探査船を多数超重力に向けて発進させており。
これらが、互いの存在を認識し。
小競り合いになったり。
時には情報交換をする事も珍しく無い。
流線型である赤色銀河連邦の艦船に対して。
強固王国の艦船はどちらかというと非常に鋭角的で。
一目でそれと分かる。
相手に威圧を与えるのが目的らしいのだが。
文明が色々違いすぎるので。
恐怖の対象ですらあった。
今、丁度新しい領域にノアが入る所だ。フルグニルは指揮シートに座ったまま、周囲の探索を続けさせる。
安定した恒星系がこの辺りでは観察されていた筈だが。
どうにもおかしい。
恒星が、異様な形に歪んでいるのだ。
「通信が入りました」
監視盤に貼り付いている部下が報告を挙げてくる。
どうも王国の船かららしい。
探査船はどちらも多数派遣してきている。
通信が入るのは珍しい事では無い。
「通信は新しいものか」
「はい。 発せられたばかりです」
「通信を開け」
「よろしいのですか」
頷く。
こう言うときの判断は、艦長に一任されている。
フルグニルは多数の戦歴を重ねてきた艦長だ。勿論後で報告書は書かなければならないが。そんなものは人命には変えられない。
通信の内容次第では人命が。
この場合、ノアに乗っている五百の人命。更には、相手の船の規模は分からないが、其方の人命も消し飛んでしまう。
それは、避けなければならない。
人材は宝だ。
それが、長年宇宙船に乗り。
小競り合いも多数経験し。
数多の戦いを生き残ってきたフルグニルの結論だった。
ほどなく、フルグニルの座る指揮シート。
その上部にあるメインスクリーンに映像が入る。
王国式の敬礼をするのは。連邦の人間に比べてすらっと背が高く、しかしながら細身である王国の軍人だ。
疲れ切っている様子が伺えた。
「名高い探査船ノアの艦長と見受ける。 貴重な情報を得たので共有したい」
「共有、だと」
「そうだ。 これは二つの文明の存続に関わる情報だ」
周囲がざわつく。
フルグニルはまず名乗ると、続けるように相手に促す。
相手はメギギョルズと名乗ると。大型探査船の姿を見せる。敵意がないことを示すためだろう。
宇宙での戦闘では、相手に居場所が分かると言う事は致命的だ。
艦隊戦になると、互いの戦力を並べての殴り合いという事も想定はされているのだが。今まで歴史上、大規模な艦隊戦は起きていない。
小規模の艦隊、或いは単艦同士の諍いとなると、やはり最初にものをいうのは相手の居場所の把握で。
小競り合いというものは、基本相手の姿を先に見つけ。
威嚇して追い払うか。
ある程度の打撃を与えて、戦意を奪うかだ。
多数の小競り合いが毎年発生しているが。
被害者は想像より少ないのも。
大規模戦闘を回避する思想が、どこの文明でも文化として根付いているからだと、フルグニルは聞いている。
他にも幾つかの文明と遠距離で通信だけはしている連邦だが。
様々な言語はあれど。
分析してみると、この辺りは同じであるらしい。
二つの船の大きさは同じくらい。
一定の距離を取ると、また通信を再開する。
「それでメギギョルズ艦長。 其方が掴んだ重要情報とは何か」
「銀河規模での破滅的融合が始まり始めている。 銀河中心のブラックホールが衝突したようなのだ」
「何だと」
銀河どうしの融合は宇宙規模ではよくある事だが、当然の事ながらその影響は凄まじい。
基本的に銀河はその中心部に超巨大ブラックホールを有しており、その周囲を恒星系が回っている。
一回転するのに小規模な銀河でも数十万年と掛かるため、人間がそれを気にする必要は普通はないのだが。
銀河規模まで拡大した文明となると話は別だ。
ましてや今いるのは、銀河団の中枢部分。
星が多すぎて、中々観測が難しい地域なのである。
重力の影響も凄まじく、どうしても探査船を派遣しないと、今何が起きているのか分からない。
ノアのような最新鋭にて歴戦の艦長が乗った船が派遣されているのも。
それが故だ。
恐らく相手側も同じ事情なのだろう。
「通常、銀河どうしでの衝突は、ブラックホールが融合し、更には周辺の星々の起動が多少ずれる程度でそこまで強烈な影響をもたらすものではない。 だが、今回は少しばかり状況が違うようだ。 この銀河は、元々二つの銀河がぶつかりあう最終段階で、中心部分には想定を遙かに超える数の恒星系が密集していたことが分かった」
「此方も相当数の恒星があることは分かっていたが、それほどか」
相手が告げてきた数は。
此方の想像の十倍を越えていた。
思わず口をつぐむ。
それらの恒星が、同時に多数融合を起こし。
更に、ブラックホールに大量のガスが同時に流れ込んだ結果。
膠着円盤が、恐ろしい巨大さに膨れあがり。
融合したばかりのブラックホールが悍馬に振り回されるように、凄まじい勢いで超高温のガス流を、まるで狂ったエネルギー砲のように振り回しているというのだ。
「既に数十の恒星が、この超高熱ガスエネルギーの直撃を受けて粉砕されているのを確認した。 この銀河は間もなく崩壊する。 即座に探査船を引き上げさせ、更には調査に来ている者達もコロニーから撤退させないと危険だ」
「なんということだ……」
「フルグニル艦長、罠の可能性は」
部下が進言してくるが。
相手側が、撮影した映像を出してくる。
必死の覚悟で撮影したものだったのだろう。
撮影の過程で死者を出しているかも知れない。
確かに、フェイク画像ではない。
凄まじい巨大な膠着円盤。こんなもの、宇宙を彼方此方渡って来たフルグニルさえ見た事がない。
巻き込まれたら、あの彗星に真っ正面から突撃するような結果に終わるだろう。一瞬で溶けてバラバラである。
生唾を飲み込んでしまう。
「分かった、情報の共有に協力しよう。 貴官はどうする」
「此方もこれより味方に情報を拡散し、即座に撤退に取りかかる。 混乱が生じるとまずい。 ともかく、今は想像を絶する出力のガス流が、いつ何処に飛んできてもおかしくない状況だ。 しかもブラックホールの出力が強烈すぎて、どうやら時空の歪みまで生じさせているらしい」
「つまり、観測するより先に超高熱のガス帯が飛んでくる可能性があるという事か」
「そういう事だ。 事は一刻を争う」
即座にフルグニルは、近くにいる探査船を調査させる。数隻がいる。これなら、すぐに連絡が可能だ。
相手に敬礼し、礼を言う。
メギギョルズも、同じく敬礼を返してきた。
敬礼のやり方は違うが。
互いに対する敬意は伝わった。
二手に分かれる。
この崩壊する銀河から。
一秒でも早く離れなければならない。
ノアを駆って、即座に連絡を開始。探査船に状況を伝え、映像も流す。また、調査のためにこの銀河に来ている二億人ほどのスタッフにも、全員退避を促さなければならない。
現在四つの銀河に拡がっている赤色銀河連邦だが、五つ目の領土銀河として、此処は注目されていた。
勿論いわゆるグレートウォールと呼ばれる巨大銀河団の中枢部分にある銀河だ。
内部が不安定な事も想定はされていたが。
まさかこんな状況であったとは。
即座に司令部にも映像を入れる。
司令部の中には、難色を示す者もいたが。
あまりにも巨大すぎる吸着円盤と。
メギギョルズが撮影させた、星を砕く超高熱高圧ガスの恐ろしい破壊力を目にして、流石に黙らざるを得なかったらしい。
撤退を決め、開始させる。
事実、ガスの火力を考えるに、この銀河……正確には融合中の二つの銀河だろう。破壊は全域に及ぶ可能性が高い。
銀河そのものが。超高熱ガスによってズタズタになり。
崩壊するのだ。
即座の撤退計画が開始される。
多数の艦が集まって来た。
二億人の技術者、その家族などが乗っている調査船も集まってくる。まずは一旦集結してから、撤退する。
これは一隻一隻では、ガス帯が直撃したとき、シールドで防ぎきれない可能性が高いからである。
というか、よく今までガス帯による被害が出ていなかったものだ。
宇宙は極めて広大とは言え。
本当に奇跡的な話である。
銀河が崩壊する。
恐ろしい話だが。宇宙ではよくあることなのかも知れない。
「艦影多数!」
二ヶ月ほどかかって、どうにか味方を集結させた直後。
ノアの所に通信が来る。
見ると、王国側の艦艇が、同じような考えの元集結し、撤退を開始しているところに遭遇したらしい。
宇宙で航路として使われる場所は限られている。
だから、こういうことも起こる。
即座に通信を入れる。
通信を入れておかないと、事故につながりかねない。
ましてや下手に接近すると。
艦隊戦でも始まりかねないし。
そんな事になったら、二億人に達する非戦闘員を危険にさらすことになる。
よくしたもので、王国の方も規模は同じくらい。
もし艦隊戦にでもなったら、計り知れない被害が出ることになるだろう。
通信が入る。
メギギョルズだった。
向こうも同じくらいの階級の軍人だった、と言う事か。
「フルグニル艦長か。 今は戦うべき時ではない」
「同感だ。 撤退するべき時だろう」
「うむ。 提案だが、ガス帯の出現を想定し、双方で艦隊を連携して組むべきだと考えるが」
「……」
流石に艦橋にざわめきが走るが。
フルグニルは考え込むと、頷いていた。
「良いだろう。 特例措置だ。 あの巨大吸着円盤、どれだけの出力のガスが飛んでくるかも分からない。 探査船は多ければ多いほどいい」
「話が早くて助かる。 我等は調査船艦隊先頭から見て左側下側を守る。 右側上側の担当を頼めるか」
「うむ」
即座に、不満を持っている者もいるようだが。
二千隻に達する艦艇が展開を開始。
調査船を守りながら、対超高熱ガスに対するシールドを展開する陣形を作り始める。
丁度カプセルで調査対象を守るように。
無数の形が違う船が陣形を整える様子は圧巻だった。
調査船は巨大だが、戦闘能力は有していない。
王国側の調査船も、それは同じのようで。
巨大で形状は違うものの。
それぞれ、特徴的で。
間近で見ると、非常に巨大で興味深かった。
二つの巨大星間国家は、今まで小競り合いと限定的な交流以外は、互いに距離を取ってきた歴史がある。
彗星によって大規模会戦が阻まれ。
それ以降は戦いを両者共に避けるようになった。
空間転移技術によって銀河全域まで拡がっても、ブラックホールや超新星爆発は流石にどうにも出来ないのが現実で。
超新星を紙くずの様に引き裂く彗星の恐怖は、現在でもどちらの国の首脳部にも焼き付いている。
即座に進行を開始する両国の連合艦隊。
かなりちぐはぐな動きはするものの。
それでも一定の秩序は保ちながら進み始める。
艦隊の運用ドクトリンが違うのは仕方が無い。
連絡を入れつつ、調整を入れながら進んでいく。
調査船の長が連絡を入れてくる。
王国の調査船が邪魔だと。
舌打ちしたフルグニルは言っておく。
「貴殿も調査に来ている技術者なら、あの膠着円盤の巨大さと危険性には気付けているだろう。 今はそのような事を言っている場合では無い」
「我等だけなら即座にでも逃げられるのでは」
「そうしたいなら勝手にせよ。 此方は貴殿だけ守るつもりはない」
通信を切る。
全く、どこの国にも。どんな社会的地位にいても。
どうしようもない輩はいるものだ。
そして、それは。
唐突に来た。
「後方に重力の乱れ!」
「シールドを展開する準備をせよ!」
「各艦展開! シールド展開準備!」
殆ど一瞬だった。
超高熱のガスが、いきなり空間を突き破るように現れて、凄まじい勢いで艦隊に襲いかかったのである。
熱の温度は二十万度に達しており。
その速度は、音速の三万倍に達していた。
ここまで来ると、ガスの運動エネルギーだけでも凄まじい脅威となる。
熱エネルギーを防ぐシールドを全力で展開するが。それでも、各艦が悲鳴にも聞こえる軋みを挙げる。
ガスは六秒ほど投射されていたが。
それでも、被害は甚大である。
即座に連絡を取り合う。
被害状況を報告せよ。
そう指示しながら、指揮シートに這い上がる。
あまりにも破壊力が凄まじかったので。
フルグニルは、指揮シートから転倒していたのだ。
「中破79、小破225! 大破以上の艦艇はありませんが、シールドに不調をきたした艦艇多数!」
「王国側の被害は」
「ほぼ同数が被害を受けているようです!」
「……次は耐えられるか分からんな。 急げ! 撤退を急ぐんだ!」
もたついている調査船を叱咤。
今のを見て、如何に此処が危険な状況か漸く理解したらしい調査船が、必死の撤退を開始する。
勿論、今のような熱ガス帯が、超巨大ブラックホールの影響で、いきなり至近に現れる可能性は決して大きくない。
だが、この銀河は極めて不安定になっている。
恐らく空間そのものもズタズタになっているのだろう。
と言う事は。
水が亀裂から噴き出すようにして。
またいつ、今のようなのが来ても不思議では無い。
急げ。
叫び、撤退を急がせる。艦隊はどうしてものろのろと進み、短距離空間転移しか出来ない。
足並みを揃えるためだ。
双方が必死に努力はしているが。
いきなり連携して動くのは厳しい。
更に言えば。
今の被害で、速度を落としている探査船もいる。
そうなってくると、どうしようもない。
勿論移動しながら被害は修復させているが。
それもいつまで続くか。
「後方に重力の乱れ! 前回と同規模かそれ以上の模様!」
「シールド、全力で展開!」
「……空間の歪みが拡がっていきます! 先よりも規模が五割大きいようです!」
やはり、空間が滅茶苦茶になっているのか。
必死に撤退する艦隊の後方から、第二波が来る。
直撃する超高熱ガス。しかも火力は先の五割増し。
爆発四散する艦艇さえいなかったが、それでも被害は甚大。大破する艦も出始めていた。
「航行不能になった艦は!」
「現在三十五!」
「本国に増援の打診を急げ! 調査船は……」
ようやく、調査船は互いの連携を取れるようになったらしい。
さながら魚の群れが綺麗に泳ぐように。
何とか秩序を作り出し、撤退を続けている。
良かった。
安心するが。それもほんの一瞬だけ。
その暇もない。すぐに部下が警告を放ってくる。
またしても重力の乱れ。それも尋常では無い規模である。先までのが、冗談に思える規模の重力の乱れだ。どれほどの規模の熱ガスが来るのか、想像もできない。
悲鳴を上げる部下もいた。
だが、その前に。
後方に、現れたものがいる。
重力の乱れが、消し飛ぶ。
空間そのものが、押しのけられたような感触だった。
そう、その巨大なる白い影は。恐怖の象徴として。あらゆる文明で語り継がれた、白い彗星だった。
一瞬遅れて、先の十倍以上の熱ガスが投射されてくる。
重力の乱れの規模からして、当然の火力だろう。
だが、そのガスを、余裕を持って弾き返す白色彗星。
すげえ。誰かが声を上げていた。あんなこと、主星を守るための特大防御システムでも不可能だ。
流石は伝承に残る彗星。
正に人知を越える凄まじい存在だった。
彗星はゆっくりと向きを変えると、艦隊に追従するようについてくる。その周囲に放たれている白い光は何だろう。
未知のガスも放出されている。このガスと光は関係しているようだが。それも、計器類を見る限りでは、仮説の域を出ない。
それにしても、これは。
彗星と言われているが。
いわゆる楕円軌道を描き、恒星系にて不安定な動きをしている彗星とは根本的に別物。そう悟る他ない。
あらゆる文明が、存在について語っている脅威。
これが人を守る日が来るなんて。
科学班が興奮して分析しているが。
データを殆ど見せてくれない。
ガスを採取したいとほざく科学者に一喝すると、即座に離れるように指示。しゅんとする科学者達。
また、後方に熱ガス。
余程、この銀河は危険な状態になっていたらしい。観測できる範囲でも、次々と恒星が消滅し。恒星系が吹き飛んでいる様子だ。冗談抜きに、銀河そのものが崩壊していく光景に立ち会っているのだ。
そんな中でも。
ゆうゆうと浮かび続ける白色彗星は。
正に鉄壁としか、言いようが無かった。
ほどなく、安全圏にまで離脱する。
不安定なブラックホールによる無差別な破壊の渦から、どうにか艦隊は脱出。負傷者は多数出たが、死者はどうにか押さえ込む事が出来た。航行不能になっていた艦も、曳航して脱出する余裕がどうにかできた。
安全圏までに、十八回。ガス帯の直撃から、彗星は艦隊を守ってくれた。
そして、安全圏に来て、両国の艦隊が迎えに来た時。
彗星は向きを変え、何処かへと消えていく。
もはや安全であろう。
ならばそれぞれの国に帰るが良い。
そう告げているかのようだった。
思わずフルグニルは礼をする。
部下達もそれにならった。
メギギョルズから通信が入る。
「凄まじいものを見た。 貴殿らも被害はないか」
「此方はない。 損傷艦の曳航、感謝する」
「此方もだ」
互いに動力を損傷した艦は出た。
大型の探査船を使って曳航し。そして無事に脱出する事が出来た。
勿論本来だったら。
あの彗星が来なかったら、絶対に全滅していただろう。
散り散りに逃げても、あれだけ無茶苦茶になった空間で、ガス帯が放出されまくっていた状況だ。
一隻だって助かりはしなかったはずである。
出来れば直接相手に礼は言いたかったが。
技術と言い存在といい。
まだまだ、触れる事が出来る存在だとは思えなかった。
あれを軍事利用とかすれば、恐ろしい事になるだろう。
多分銀河そのものを消し飛ばす事だって容易なはずだ。
勿論そんなもの。
人が使って良い技術では無い。
どこの人でも同じ事だ。
調査船がそれぞれの陣営に分かれ、護衛の艦に連れられて引き上げ始める。
それを横目に、フルグニルはメギギョルズに言う。
「我々はこれにて引き上げる。 今回の件が、両国の友好関係につながると良いのだが」
「うむ。 被害が出なかったのはまずあの彗星の存在が大きいが、貴殿が即応してくれたおかげでもある」
「なんの。 そちらこそ、利害を超えて通信してくれたではないか」
からからと笑う。
向こうも少しだけ笑ったようだった。
礼をかわすと、それぞれの艦隊は離れ。護衛の艦隊へと向かう。
距離を取っていつ起きてもおかしくない戦いに最初は備えていた艦隊だが。既に調査船から報告が行っているらしい。
最後尾のノアが艦隊に到達すると。
艦隊司令官から通信が来た。
「報告は既に受けている。 我々も見たが、あの彗星に助けられたようだな……」
「神話の顕現を間近で見たような気分です」
「恐らく本国には、あれを鹵獲したいとか、軍事利用したいとか、そうほざく馬鹿共も現れるだろう。 しばらくはそやつらを掣肘するために、君には彼方此方で無理だと言う事を証言して貰う必要がありそうだ」
「よろこんで。 今までも超新星爆発を消し飛ばしたりと凄まじい力を見せていましたが、今回の件にいたって、人間が触ってよい存在では無い事がよく分かりました。 喜んで証言させていただきましょう」
一度だけ、彗星が消えていった方を見る。
或いは、不安定になったブラックホールをこれから消し飛ばすつもりなのかも知れない。あの彗星ならそれくらいは出来そうだ。
神がいるのなら。
ああいう厳しくも、人知を越えた災厄からは救ってくれる存在なのかも知れない。
そう、フルグニルは思った。
本国に戻った後、フルグニルは予想通り彼方此方をたらい回しにされ、あの彗星について散々調査に協力させられた。
人間の手に負える存在では無い。
捕獲は不可能。
触るべきでもない。
そう証言すると。
どの科学者もがっかりした様子でフルグニルを見るのだが。
それが事実なのだから。
何も言うことは無かった。
ノアの修復が終わる。
あのガス帯による攻撃で、少なからず被害は出ていたのだ。今回は武装を強化して、崩壊銀河の中枢をもう一度調査し。
ブラックホールがどのようになったのか、確認しなければならない。
護衛の数艦とともに、崩壊銀河の中枢へと出向く。
空間転移を繰り返しながら、破壊され尽くした銀河に赴くが。
酷い有様だった。
どうしても光の速度での観測だと、数万年掛かってしまう現実の認識が。至近距離ならすぐに出来る。
やはりあの凶悪な膠着円盤の巨大さ。
まき散らされた超高圧ガス。
空間を無視して吹き散らされていたガスの火力。
いずれもが、崩壊銀河に存在していたありとあらゆる物質を薙ぎ払い。破壊し尽くしてしまったようだった。
合体した二つの銀河に文明は存在せず、生命体もいない事は調査で分かっていたが。
これが宇宙の恐ろしさかと、生唾を飲み込むばかりである。
超新星爆発ですら、此処までの火力は出ない。
文字通り、銀河が塵になったのと同じだ。
更に、銀河中枢へ何度か空間転移をしながら出向く。
各所で空間が不安定になっていて。
高熱のガスが、彼方此方で亡霊のように漂っているのが確認された。
いずれもが星の残骸や。
あの巨大膠着円盤から放たれた高熱ガスの名残だろう。
恐ろしいな。
観測データを蓄えながら、更に銀河の最深部に。
其所には。
想像を絶する巨大ブラックホールも。その周囲に存在していた膠着円盤もなくなっており。
ブラックホールに振り回されていた恒星系もなく。
ただのガス帯が拡がっていた。
ブラックホールは、時間を掛けてゆっくりと蒸発、小型化していくのだが。
銀河中枢にあるようなブラックホールは、吸収する物質の量が多く、大きくなる方が基本的に早い。
崩壊銀河は死んだ。
だが、このガスの群れは。
恐らくは、恒星系がこれから作られる、星のゆりかご。
完全に破壊された銀河は。
これから新しく生まれ変わろうとしている。
やがて重力に引かれてガスが集まっていき。それらが恒星になり。恒星にならなかったものは惑星になり。
それらが互いに影響を及ぼしながら。
やがてブラックホールを中心に銀河となり。
最終的には、此処に新しい文明が誕生するのかも知れない。
それは何十億年も後の話になるだろう。
その時には連邦も王国も存在していないに違いない。
気が長い話だと、フルグニルは思ったが。
其所に、通信が入る。
比較的近くに、メギギョルズの探査船が空間転移して来ていた。
「久しいな、連邦の勇者よ」
「其方も久しいな、王国の知将。 貴殿も調査か」
「此方は調査拠点の残骸を調べていて、此方にまで足を運んだ。 どの調査拠点も、綺麗さっぱり消し飛んでいた。 早めに避難勧告を出さなければ、どれだけの被害が出ていたことか……」
「銀河そのものが死に、新しく生まれようとしている。 どうやらあの彗星は、ブラックホールさえ消し飛ばすらしい」
ブラックホールと膠着円盤がなくなっていることは、メギギョルズも気付いているだろう。
うむ、と感心するような声が上がっていた。
「いずれにしても、この崩壊銀河の跡地は、当面近付いても仕方が無い場所となるだろうし、両国の紛争は起こらなそうだ」
「小競り合いはあるかも知れないが、くだらん。 そんな諍いで、命を落とすのも馬鹿馬鹿しい話だな」
「軍人の台詞ではなかろう」
「事実では無いか。 王国の知将たる貴殿も、その辺りは頭が固いな」
周囲は冷や冷やしているようだが。
相手は苦笑いで済ませてくれた。
そのまま、情報を交換し合う。
別に隠すような情報もない。
それに、銀河中枢の巨大ブラックホールが勝手に消滅するはずもない。消し飛ばしたのは間違いなくあの彗星だ。
連邦と王国は、内偵も互いにしていたし。
大使館を通じて情報交換もしてきた。
小競り合いもしょっちゅう起こしていた。
互いの技術力については分かっている。
新兵器が存在するにしても。
いくら何でも、銀河中枢の超巨大ブラックホールを易々と消し飛ばすような超技術など、持っている筈が無い。
卓越した性能の新兵器は出現する可能性があるが。
あまりにもあり得ない技術による新兵器など、存在し得ないのだ。
やがて、互いにあの彗星については触れるべからずと本国に伝えるべきだと言う事で、結論が一致。
互いに礼をして、その場を離れる。
麾下の艦には警戒しているものもいたが。
戦う理由など一つも無い事を告げて、砲口を閉じさせる。
今後は、もうあうこともないだろうが。
それでも、ぶつかり合い、殺し合っての結果では無かった。
それがどれほど良い事なのだろう。
ずっと小競り合いを続け、艦単位での殺し合いを経験してきたフルグニルだからこそ分かるが。
戦争などと言う無意味な行為で。
貴重な人的資源を、消耗するべきでは無いのだ。
ふと、誰かに見られているように思って、振り向く。
勿論誰もいない。
指揮シートに戻ると。
フルグニルは麾下に指示を出す。
本国に帰還せよ、と。
当面、この崩壊銀河には、誰も行く必要がなくなるだろう。文字通り何も無い空間だからである。
ガスなんか別の場所で幾らでも採取できる。
無法者の類にしても、もうちょっとマシな場所で資源の盗掘くらいはするだろう。
いずれにしても、此処でもう紛争が起きないと思うと。
それだけで、肩の荷が下りた気分だった。
もし神がいるのなら。
あの彗星を駆って、助けてくれたのかも知れない。
だとすれば、感謝しなければならないな。
そうフルグニルは、思っていた。
宇宙の神は。
厳しくとも残忍な存在では無い、とも。
それは事実だろう。
宇宙は冷たい暗い世界だが。
確かに。
必死に生きようとする者に、手はさしのべられたのだから。
エピローグ、本物の神として
光そのものから声が掛かる。
ずっと宇宙の管理をしていたズォーダーが意識を向ける。もう肉体は存在しない。この可能性宇宙の一つがズォーダーであり。ズォーダーの体内そのものが宇宙だからである。
順番に、一つずつ聞かれていく。
そして答える。
「余としても、甘やかすことも、冷徹なことも、互いにあってはならないことであるとも思っている。 また戦というものが如何に虚しいものであるかも、ようやく俯瞰して理解出来た。 故に生命を見守り、無意味な戦いが起こり拡大せぬよう、理不尽に滅びぬよう、最小限に見守っている」
「それでいいのです。 また、この間は随分たくさんのものを救ったようですね」
「あれは……やむを得なかった」
崩壊する銀河から脱出する二つの国の船団を。
宇宙に再現した滅びの方舟。今はもう、滅びをもたらすためのものではないが。白色彗星にて救援した。
もともと二つの銀河規模国家は、いつぶつかり合ってもおかしくない状態になっていた。だから、良い機会だとは思ったのだ。
幸いどちらの国にも、ある程度まともな指揮官がいて。
二人の主導で、船団はまとまった。
後は空間ごと不安定になり、崩壊しつつある銀河から、艦隊を逃がすだけで良かった。
全出力を出した滅びの方舟であれば。
銀河中枢の巨大ブラックホールや、膠着円盤から放出される高出力ガスなど、屁でもない。
艦隊が撤退するのを見送った後。
崩壊銀河の混乱を早期に治めるため。
銀河中枢のブラックホールを滅びの方舟にて消し飛ばして処理。
後は、再び崩壊銀河の跡地に、数十億年がかりで新しい銀河が造り出されていくことだろう。
それは手を加えなくても良い。
見守っているだけで良い事だ。
もしも、その時二国が利権を巡って争うなら、その時はその時。
干渉も対応も、最小限にして無駄な殺し合いにならないようにする。
神としては。
それくらいの対応で良いのだろう。
そう訪ねると。
光はそうだ、と答えてくれた。
「既に貴方は、貴方が殺した以上の人数を救っています。 自覚は無いのかも知れませんが」
「それは、やっと罪滅ぼしが出来た、という程度の事であろう」
「罪滅ぼしが出来たのは事実です。 以降は、輪廻の輪に戻ることもできますし、ずっとこの宇宙を見守る事も出来ますが……」
「そうさな……」
罪滅ぼしは、出来た。
それならば、確かにそういう選択肢もあるだろう。
だが、この生き方が。
今は気に入っている。
もう人では無いが。
それはもうずっと前からだ。
むしろ人であった期間の方が短いし。
何よりも、夢であった事を。
この状態でなら、実現できたのだ。
完全に夢の通りとはいかなかったが。破壊のためだけに作られた兵器を、救いのために使う事が出来た。
それだけで、はっきり言って充分である。
ふうとため息をつく。
もう体はないけれど。
気分である。
「やはり余はこのままでいようと思う。 宇宙が終わった時には、どうなるのであろうか」
「宇宙は終わると、新しい宇宙になります。 宇宙そのものが意識体の場合は、新しい宇宙に意識体が引き継がれることになります」
「そうか、余自身が輪廻し続けると言う事か」
「そうなります」
ならばそれも良い。
宇宙を見守り続ける。
そうすれば、きっと。
前に犯した罪を、いつか帳消しにする事も出来るだろう。
そして真の意味で厳しくそして生命の守護者たる存在になる事も出来るはずだ。
そうなりたい。
「ならば余はこの宇宙とともにあろう」
「分かりました。 それでは、この宇宙にて暴君とならぬよう」
「ああ。 それだけは肝に銘じておく」
「……」
光の意思が離れる。
もう問題は無いと判断したのだろう。
実際問題、以降問題を起こすつもりはない。
以前も覇王だった。
故に統治の仕方は分かっている。
そして以前とは統治のやり方を変える。
それだけだ。
犯した罪を償う事は出来たらしい。
だが、それ以上に、今後は出来る事をやっていきたい。
今の力なら。
それが出来る筈だ。
ふと気がつく。
宇宙辺境の銀河にて、また有力そうな生物が出現している。確認すると、かなり不安定な恒星系に出現した様子である。
状態を確認してから。
多少恒星のパラメータを弄ってやる。
これで少しは生命が生きやすくなるだろう。
後はその生物次第だ。
彗星を到来させるのは、知的生命体まで環境適応してから。
それまでは、彗星の存在は見せる必要もない。
威圧のために使うのでは無い。
戒めのために用いるのだ。
そうすることで、やっと。
滅びの方舟だったものは。
そうではなくなる。
己の定座を模した破壊兵器は。
守護のための存在となるのだ。
見ていると、煮えたぎった生命のプールから、徐々に複雑な生命へとどんどん変わって行っている様子だ。
生命は環境に適応していくもの。
必要があれば複雑化するし。
必要があれば知性を得る。
この新しい生物たちは、宇宙に出られるだろうか。
出られるとしたら祝福するが。
宇宙に出た後、他の生物を害して回るようならば。
また手を加えなければならない。
過去の自分のような存在は、二度と出してはいけないのだ。ズォーダーにとっての戒めである。
いずれにしても、数十億年はまともな形を得るまでに掛かるだろう。
恒星は安定させたから、しばらくは大丈夫な筈だ。
これ以上は、生物たちの問題。
しばらくは放置で良いだろう。
直接出向いて殲滅するのは論外だが、過保護も必要ないのだから。
宇宙全体を確認。
文明同士が紛争を起こしていることはない。
巨大な宇宙規模での災害が起き。
文明が危機に瀕していることもない。
勿論、今がそうなだけ。
宇宙は広大で。
そしていつ何が起きても不思議では無い。
警告のための端末は現在、宇宙に億を超える数配置している。
勿論全てが白色彗星だ。
目を閉じる。
少し眠る事にしよう。
宇宙が出来てから、ずっと起きっぱなしだったのだ。
たまにはいいだろう。
勿論問題が起きた場合はすぐに起きる。
だが、これだけ安定しているのなら、少しくらいの居眠りは良い筈だ。
勿論問題が起きたらすぐに叩き起こすように、監視端末を設定。
後はしばしの眠りにつく。
たくさんの亡者に会ってきた。
たくさんの影響を受けてきた。
皆、人間としての生を必死に送り。
そして不幸な死を遂げていた。
自身の見る範囲では。
少しでも不幸を減らしていきたい。
それが、不幸というものにたくさん触れ。
あまりにも報われない生を送り続けたものに触れてきた、「長老」ズォーダーの結論。
厳しく甘くはないが、理不尽でもない。
そういう存在でありたいという願いは。
今かなえられ。
真の宇宙の守護者が。
此処に存在していた。
(虚無の世界の二次創作、クラフトオブヴォイド、完)
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