勇気の欠片

 

序、大穴

 

パルデア地方の中心には、街を幾つも飲み込むような大穴がある。既にそこの最深部に到達している筈なのに。

今、その入口である観測センターは無人。

私アオイは、トップの許可を得て此処に様子を見に来た。

警備は厳重。

だけれども、観測センターはカラ。

ここで何かあったのだと、言っているようなものである。

チャンプになって色々あって。

早速、パルデアのために貢献してほしいと、トップに色々仕事を割り振られている。各地のジムの視察に始まり。

一度解散して、その後各地のトレーナー育成プログラムとして再出発したスター団アジトの視察。

各地で暴れている凶暴なポケモンの鎮圧。

それらをこなした後。

連絡が来たのだ。

ミライドンと出会った直後。

連絡を寄越した、フトゥー博士から。

その人は、ペパーさんのお父さん。

ペパーさんからは良い話は一つも聞いていない。

子供を放置して、研究に全てを傾けている人。今も殆ど会っていない。というか、親なのに何年もあっていない。

同じくお母さんであるオーリム博士は、既になくなっているそうだ。

此方も同じように、研究を優先する人だったらしく。

そんな二人がどうして子供を作ったのか。

作った後、どうして放置したのかは、ペパーさんには分からないと何度も愚痴を聞かされた。

私には、分かる。

親の全てが、子供に愛情を持つなんて大嘘だ。

もしそうだったら、私の母親はクスリほしさに私をフレア団に売り飛ばすようなことはなかっただろうし。

父親は行きずりで立ちんぼだった母を孕ませた挙げ句、責任も取らずに逃げる事もなかっただろう。

母はとっくに墓の下。

父も今どこにいるのやら。というか、どこの誰かすらも知らない。

今のお父さんとお母さんは、どっちも私をとても大事にしてくれている。だから大好きである。

人間の愛なんてものは血統では決まらない。血縁者が殺し合いをする事なんて、歴史的に見れば日常茶飯事だ。

それを良く知っているから、私はペパーさんの悩みが子供っぽく思えたし。

そして、そんな風に思う自分に、時々嫌悪感を覚えた。

スマホロトムは少し前に、オモダカさんに強力なものを渡された。チャンプ専用のものである。

これは揉めるかなと思ったのだけれども。

オモダカさんは何も言ってこない。

ユウリお姉ちゃんにも連絡したけれども、それについて何か言ってくる事は一度もなかった。

要するに、裏で二人はとっくに連携していると見て良い。

自分が怖い場所にいることは分かっている。

このスマホロトムにも、何が仕込まれているか知れたものではない。

とにかく、視察を終えると、連絡をする。

「此方アオイ」

「チリちゃんやでー」

「観測センターの視察、終わりました。 話通り誰もいませんね。 争った形跡なんかもありません」

「ワープポータルは?」

動いていない。

そう連絡する。

ワープポータルは、各地にまれにみられる最新技術。文字通り、人間などを別の場所に転送する装置だ。

パルデアでは国家事業で大穴に予算をつぎ込んでいた時期があり。

この最新技術も投入されていた。

軌道エレベーターが既にあるのだ。

これくらいのSFな産物も、あっても不思議ではないだろう。

「そうなると、内部に直接いくしかなさそうやな」

「今から行ってきましょうか?」

「いや、そこは色々国家機密の場所や。 トップと相談するから、連絡が来るまで自分待機や。 分かったな」

「分かりました」

通信を切る。

チリさんは、一緒に仕事をするようになってきてから分かったが。多分元々カタギではない。

スター団なんて問題にもならない悪辣組織の構成員だった可能性が高い。

というのも、妙に上下関係に厳しかったり。

飄々としていて素の姿を見せなかったり。

外見の重要性を異様に理解していたり。

ついでに、こういうタイプの相手にくらっと来る女性の心を鷲づかみにしていたりと。

その手の要素が揃いすぎているのだ。

古い言葉だと、麻雀というゲームにちなんで役満とかいうのか。

そのゲームを遊んだことはないので、私にはちょっと何とも言えない。

良くしたもので、アカデミーにも何人か明らかに元カタギでは無い先生がいる。レホール先生が良い例だろう。

クラベル校長がしっかり統率しているから良いけれども。

そうでなければ、誰がアカデミーの校長をやれば統率できるのか。

ちょっとその辺りは不安だった。

一度、アカデミーに戻る。

期末試験を幾つかの科目で受け始めている。今の時点では、かなり余裕をもったスケジュールで、一年度を終われそうだ。

ネモさんはとっくに二年になっている。

このアカデミーでも、各自の状態にあわせて進級を柔軟にやってくれるので、それはとても有り難い。

此処での経験を積んだら、すぐにでも起業に取りかかれるからだ。

アカデミーに戻ると、丁度連絡が来る。

トップ、オモダカさんからだった。

軽く挨拶を交わしてから、すぐオモダカさんは本題に入る。

「チャンピオンアオイ。 大穴について、少し話しておきましょう」

「はい」

「丁度アカデミーで教員の総辞職があった頃、大穴でトラブルが起きています。 研究者や護衛は大急ぎで脱出してきましたが、聴取の結果要領が得られていません。 記憶を失っているものもいたようです」

更に。大事な事実が告げられる。

研究施設は大穴の深部に向かうにつれて、複数が設置されていた。

浅い部分の施設からは、殆ど全員が無事に脱出している。だが、最深部は。

実は、事件が起きる前から、誰も立ち入り出来ない状態だったというのだ。

「以前はこの大穴の研究は、クラベル校長がしていました。 研究者時代のチームリーダーとしてね。 しかしながら、それも数年前にリーダーを離れ、別の仕事に移って貰っていました」

「クラベル校長ほどの人を、どうして外したんですか?」

「……その頃既に私はチャンプでしたが。 残念ながら、まだパルデアの政治経済を主導的に動かしてはいませんでした。 故に機密情報については、後からアクセスせざるをえず。 今でも分かっていません」

「……」

腕組みして考える。

パルデアにも闇はある。

例えばこの大穴だが、そもそも古い時代に存在していた「帝国」の時代から、採掘が進められ。

膨大なお金と軍事力をつぎ込んだにもかかわらず、当時は攻略できなかった。

挙げ句「帝国」はそれで国力を消耗し。

やがて滅亡してしまったほどだ。

他にもパルデアの各地には、災厄の権化と言われる危険極まりないポケモンが封じられていると聞く。

上位のポケモンの実力は、文字通り神に匹敵するものであり。

これは比喩でもなんでもない。

伝説級、幻級と言われるものによっては時間や空間を自由自在に操作するし。

比較的力が落ちる、ユウリお姉ちゃんの手元にいた伝説級ですら。ガラル地方のエネルギーを千年単位で賄う程だった。

この大穴の地下には。

とんでもない伝説級のポケモンが眠っていても、おかしくは無いのだ。

パルデアの大穴。その最深部に人間が辿りついたのは、歴史的に見るとつい最近の話であり。

それ以降。私も戦闘で使う事があるテラスタルエネルギーが実験的に活用されるようになってきている。

話によると、それが海外に輸出され、研究されているとかいう話もあるとか。

また、一部の地方では、とんでもない遠隔でテラスタルエネルギーが発見されている場所もあり。

その理由はよく分からないそうである。

何より、この大穴の事は、私も無関係ではない。

ペパーさんと一緒に「宝」を探しているときに遭遇した強大な「主」。

そいつの一体は、この大穴より抜け出してきた外来種である。

非常に危険極まりない獰猛な奴で。

野放しにしておけば、生態系が壊される可能性すらあった。

既にチャンプになった私は、対処できる力を手にしている。

だから、それを無視する訳にもいかないのだった。

今、私は。

パルデアに根を下ろして。此処で夢を叶えたいと思っている。

ならばなおさらである。

「これ以上の調査は、単身では不可能です」

「そうでしょうね。 精鋭を募って行ってください。 人選はお任せします」

「分かりました」

通信を切る。

この観測所……大穴の縁にあるものは、その気になればすぐに来られる。まあ許可がいるのだが。

それでもゲートで封じられていて。そこに警備員がいるくらいで、地続きだ。

問題はここから先で。

もともとライドポケモンに乗って、大穴を降りていたという。大穴から出る時もそれは同じだ。

もっと古くには、なんとロッククライミングで大穴を降りていたという。

この大穴。一番浅い拠点までも千m以上降りる必要がある峻険極まりない危険な場所である。

そんなものを生身で降りるなんて。

まあできる人間は当然いるけれども。

特に研究を生業にしていたような人になると、相当に厳しかっただろう。

私は黙々と、一度アカデミーに戻る事にする。

人選としては、ネモさんは確定だ。

強い相手と戦うのは、大喜びだろう。

後の二人だが。

そうだな。

元々大穴に親がいて、関係者であるペパーさんと。

それと、ボタンさんに声を掛けてみるか。

ボタンさん。

登校初日に、アカデミーの入口でスター団に絡まれているのを助けた気弱そうな子。人見知りする上に、舌剣人を刺すという面倒なタイプだが。超有能なハッカーである。

何を隠そう、彼女こそスター団壊滅を依頼してきたカシオペア。

そして、スター団の真のボスだったのだ。

元々ボタンさんとスター団の皆は、虐め被害者という点で共通しており。

ボタンさんは皆をまとめ上げた挙げ句に。虐めを行っていた半ギャング化していた生徒達をまとめて学校からたたき出し。

そして責任を全てとって、一度アカデミーを離れたのだ。

これらの真の事情は、前任者の教師達がもみ消してしまっていたため、ボタンさんしか知らなかった。

全てが明らかになったのは、スター団の問題をクラベル校長と一緒に解決してから。

その時から、ボタンさんとは友達だ。

彼女はポケモンバトルの力量はネモさんやペパーさんから見るとかなり落ちるが、それでもジムリーダークラスくらいはある。

四天王やジムリーダーに動いて貰うと、今回の任務は大事になる可能性が大きい。

私と、身近な手練れだけで威力偵察をして。

それが上手く行くようだったら、大穴に対しての本格的な調査を行うべきだろうと思うのだが。

いずれにしても、まずはアカデミーに戻る。

書類を仕上げつつ、勉強をしておかなければならない。

チャンプになってから、色々と仕事ができた。

お給金もそれで振り込まれるようになった。

学費を自分でまかなえるようになったのはとてもありがたい話であるのだけれども。

それはそれとして。

命も、両肩に乗るようになった。

書類を書き終えて、独自のVPNを使ってオモダカさんに転送。

後は、メールを送って皆に話をしてみる。

ペパーさんが、メールを送ると、電話を即座にしてきた。

もう夜なんだけどなあ。

そう思って、電話に出ると。ペパーさんは、開口一番に言うのだった。

「夜分すまんな。 大穴に行くって話だが、彼処がどれだけの危険な場所だか分かってるだろうな」

「分かっています。 だから手練れをつれて行くつもりです」

「俺も手練れの一人か。 そう考えてくれるのは嬉しいんだが。 いずれにしても、俺が知っている情報は出す。 だから、その精鋭で一度集まるべきだろうな」

まあ、それもそうか。

現地集合だと、問題も多い。

ただでさえ、ボタンさんは知らない人とは口を利かないようなタイプだ。だから余計にスター団の時は、問題がこじれた。

ペパーさんの提案は、いずれにしても年長者らしいもっともなものだった。

この辺り、私はまだ経験が全然足りていない。

礼を言うと、スケジュールの調整を行う。

ネモさんは、メールを凄い勢いで返してきていた。大穴のポケモンは、是非戦いたいしほしい。

そういうのである。

まあ、ネモさんはそうだろうな。

ボタンさんは面倒そうだったけれども。ただ、最新の技術には興味深々のようだった。

そもそもボタンさんは、カシオペアとして私に仕事を依頼してきていた時。ハッカーとしてパルデアの中枢システムに侵入。電子マネーを勝手に発行するという、本気で洒落にならない犯罪をやっていた。

普通だったら許されない事で、裁判沙汰なのだが。

オモダカさんがもみ消したのだ。

その代わり、ボタンさんはシステムの脆弱性の修復と、以降技術者としてパルデアの電子システムに関わる事が決まっている。

「囲われた」とでもいうべきだろう。

それに、これがトップからの依頼だと聞くと、逆らえないと判断したらしい。

しぶしぶながら、話を受けてくれた。

三日後に、皆で集まることにする。

それまでに、私は一通り期末試験を受けてしまうつもりだ。

それで、一年度の勉強は終わりになる。少しくらいは、自由時間を過ごしても大丈夫になるし。

それも飽きたら、前倒しで二年になってもいい。

この辺りの自由さが、アカデミーの良い所だ。実際、私より頭一つ背が低いような幼い子が、もう三年になっているのも見かける。

私も負けていられないな。

そう思うと、全ての今日のタスクが終わったのを確認して。

私は自室で伸びをするのだった。

シャワーを浴びて、風呂に入る。

頭の傷は、消える気配もない。

大人になるまでにこれは、消えてくれるだろうか。

ただ、傷が痛む事も減り始めているような気もする。体に着いた傷も、少しずつ消えているのが分かる。

心につけられた深い深い傷が、少しずつ癒えていくのと同時に。

体の傷も、同じように消えて行っているのかも知れない。

だとすれば、私の手足が伸びきる頃には。

今のように、特別なシャンプーを使う事もなくなり。

或いは、多少のお洒落をしても良くなるのかも知れなかった。

風呂を上がって、ベッドで横になる。

チャンプ二人が出向く程の調査だ。

余程の事がない限り、これでどうにか問題は解決しなければならない。

今回の調査は。

大穴で何があったかの調査。

フトゥー博士はずっと行方不明だった。

それがどうして、今になって大穴の最深部から連絡を入れてきたのか。それを調べる事。

ペパーさんは、多分怒るはずだ。

それも視野に入れて話をしないといけないだろう。

色々大変だが。

それでも、まとめるのが必要になる。

たった四人をまとめられないで、会社を起業なんてできるものか。

そう、私は思った。

寝返りをうつ。

考え事をしていると、どうしても眠れない日が出てくる。そう考えると、私は色々と、未熟なのだと思い知らされる。

それでも無理に眠る。

どうせ悪夢で散々苦しめられるのだ。

だったら、眠れるときくらいは、無理にでも眠らなければならないのだ。

 

1、くせ者四人衆

 

学校の食堂。

私達四人は、奧の席で固まっていた。

時々視線が向けられるが、大半が興味か。それか畏怖だ。

瞬く間にチャンプになった一年。

そういうことで、私も注目されるようになってきている。

結果として、ますます同年代の友達はできなくなった。

それはもう、仕方が無いと諦めている。

それに、である。

ネモさんから話を聞いたのだが、実際に社会人になってから「友達」としてつきあえている相手を持っている人間は、殆どいないそうである。

殆どは疎遠になってしまうし。

何より「友達がたくさんいる」と自称しているような人間は、主観で友達だと見なしている相手がいるだけ。

その手の人間は、客観的に自分を見る事も出来ないばかりか。他人に対して「友達がいない」と勝手に決めつけたり。

いるという事実を知っても、それは友達では無いと勝手に決めつけたりもするそうだ。

社会人になって、ネモさんはその辺りを嫌になる程見てきたという。

パルデアでもかなりの大手企業の令嬢だから、逆に色々と闇を見る事になったのだろう。

パルデアは牧歌的な地方だが。

それでも、闇はきちんとあるということだ。

ペパーさんと、ボタンさんはずっと言葉を交わさない。

ボタンさんはとにかく知らない人とは話さない。

それに対して、ネモさんはぐいぐいといく。

「貴方がボタンさんだね。 上の学年だったっけ?」

「いや、一年だし。 留年してっから」

「へえ。 でも、すごい技量の持ち主だって聞いたよ」

「そんな、もっと凄い人、世の中に幾らでもいる」

ボタンさんは二年間留年している事を、以前話してくれた。年そのものは私と変わらないらしいから。他にたまにみるいわゆる天才児で。スクールを早くに出て、アカデミーに入ったタイプだろう。

何でも親が元ジムリーダーらしく、相当にポケモンバトルが強いらしい。

ただ、ボタンさん自身は、親をすごく嫌っているそうだが。

「どう、ポケモンバトルは。 是非今から戦ろう!」

「えっ。 で、でも、チャンプが満足出来るほどの腕はうちにはないし。 アオイにもぼっこぼこにされたし……」

「そう? でもやってみたいなあ。 じゅるり」

「……」

青ざめて縮こまるボタンさん。

ちょっと肉食でぐいぐいくるネモさんは、苦手な相手だろうなというのはどうしても分かる。

ペパーさんは呆れてやりとりを見ていたが。

私が視線を向けると、咳払いする。

「それで、この面子で大穴に入るんだよな」

「フトゥー博士から連絡が来たんです。 それで、トップに相談したら、丁度良いから調査をしてほしいと言う話になって。 精鋭を募ってくれとも」

「まあ、俺らは一応スクールを終えてるから、法律上は大人だしな。 それにしてもあのクソ親父、今更。 それも俺じゃなくて、アオイに連絡かよ」

「……何か事情があるのかもしれないですよ」

実は私は、フトゥー博士について疑っている事がある。

何回か、ペパーさんにつきあっての「宝探し」の時に連絡を貰ったのだが。

どうにも生気を感じないというか。

機械的な印象を受けたのだ。

それに、誰もが撤退した大穴の深部施設で、一人居残っているというのも不自然である。非常に危険な場所だというのに。

ペパーさんに、フトゥー博士はあまり印象が残っていないという話を聞いている。他にも色々な知人から話を聞いてみるが、もの凄く物静かな人だったそうだ。それでいながら、学者としては非常に野心的で。

いわゆるマッドサイエンティストそのものだったという。

ペパーさんは、実は大穴経験者だ。

大穴で、非常に強力なポケモンと戦い。

自分の相棒であり。ずっと一緒にいたポケモンである大型の闘犬に似た姿をしているマフィティフを傷つけられ。

普通の医療では治療できなくなり。

それで私と一緒に、大穴由来の植物であり、あらゆる生態活性化効果がある「秘伝スパイス」を探していたのだ。

結果として、全てを食べさせたマフィティフは無事に元に戻り。

今ではポケモンバトルが出来る程に回復している。

逆に言うと。

それだけの危険なポケモンが徘徊する地域である。

そんなところで、どうして一人でいられるのか。

本当に生きているのか。

ここでそうとずばりは言えないが。私としては、最悪の可能性を想定するしかできないのだった。

「いずれにしても、大穴の最深部で何があったのかは調べないといけないです。 トップも……オモダカさんも、現在のようにリーダーシップを発揮する前に色々とあったらしくて、全ては把握できていないそうです。 此処で問題を把握しておかないと、今後どんな問題が起きるか」

「確かに生態系が滅茶苦茶になったらコトだ」

「ウチにはよく分からないし。 ただ、ちょっと……最新のテクノロジーなら見てみたい」

「強そうなポケモン、戦いたいなあ」

みんなバラバラだが。

それなりに、意欲はあるか。

咳払いすると、一応最年長のペパーさんがいう。

「今回トップに指示を受けたのはお前だろ、アオイ」

「はい、そうなります」

「だったら指揮はお前が取れ。 俺は年長者だから立場は微妙だが、先に指揮権はいらないと言っとく」

「あ、私もパス。 みんなを統率するとか、そういうのあんまり好きじゃ無いし」

私より年上の二人が即座にパスか。

ボタンさんを見ると、すぐに首を横に振る。

スター団の時で、もうこりごりというところか。

実際にはこの人、リーダーとしての適性はとても大きいと思うのだけれども。まあそれなら仕方が無い。

私は頷くと、立ち上がる。

「では、みなさん。 私に力を貸してください」

それから、まずどうやって大穴に降りるか。

そこから順番に、話を詰めていく。

二時間ほど話をして、それで終わった。大丈夫、時間はしっかりとってある。

後は、皆で大穴に行くためのスケジュールを調整して、それで解散となった。

たった四人でも、スケジュールの調整はそれなりに大変だ。

私は、それを今から思い知らされる。

会社を作るとなれば、もっとそれは大変になるだろう。

今のうちに、これくらいの苦労は経験しておかなければならないし。その覚悟も、既に私にはできていた。

 

四日後。

私は全ての期末試験を突破。

アカデミーの試験は、その場で結果を教えてくれる。全てで一発合格を取れたので、良かった。

実は美術はかなりひやひやした。美術の試験は極めてアバウトな内容で、授業と同じく内容がふわっとしている。

対策のしようがなかったのだ。

試験勉強の時点で困り果てていたし、不合格や再試験も想定していたのだが。

いちおうギリギリのラインで合格は貰えた。

美術の授業だからといって、美術の技量が求められる訳でもない。美術というのは才能に無茶苦茶依存するもので、教養としての分野であればある程度採点は甘くせざるを得ない。

そう、四天王でもあるハッサク先生は考えているのかも知れなかった。

ともかくしっかり期末試験を終えて、それなりの猶予期間はできた。

一応これでも成績優秀者になるからだろうか。

それに、或いはトップから話が行っているから、かも知れない。

クラベル校長に呼ばれた。

校長室は落ち着いた雰囲気の部屋で、一方威圧的な要素は一つも無い。クラベル校長は、相変わらず穏やかで。

こんな大人になれれば言う事はないなあと、私はいつも思わされる。

軽く挨拶をしてから、すぐに校長は切り出す。

「大穴に出向くそうですね」

「はい。 来て欲しいと言う連絡があって。 それでトップからも許可を得ました」

「わかりました。 気をつけて行ってきてください。 私がいた頃も、危険で凶暴なポケモンが多く、重機などを持ち込んでもひっくり返されたり、労働者を襲おうとするポケモンが後を絶ちませんでした」

「最大限の注意を払います」

その後、校長に指示される。

元スター団の幹部五人。

彼等のうち、三人の勉強が遅れている。まあ一年以上不登校で授業を受けていなかったのだから、仕方が無い。

五人のうち二人は、元々成績優秀者だったらしく。学業に復帰した後は猛勉強をして、すぐに現状に追いついたそうだが。

残り三人はどうにも勉強そのものがあまり得意ではないらしい。

それもあって、私に勉強を見て欲しいということだった。

これは、なるほど。

生きて帰って、クラベル校長との約束を果たせと言う事か。

苦笑いしてしまう。

私をこんなに高く買ってくれる。それはとても有り難い事で、喜ぶべき事なのだろうとも分かる。

だけれども、確実にその約束を果たせるかは分からない。

だから私は、努力するとしか応えられなかった。

ただ、これがモチベになったのも事実だ。

スター団のメンバーは、色々あって厳しい状況だった事も知っている。今後は友達になりたい。

だから、勉強が遅れているなら、手伝いたい。

一応私は成績優秀者なので、手伝いだったら出来る筈だ。

ボタンさんも頭が無茶苦茶いいので、同じような事が出来るはずだが。ボタンさんは対人業務が無茶苦茶苦手だ。

こればかりは、如何に気が知れた仲間が相手でも、厳しいのだろう。

まあ人には向き不向きがある。

何もかもできる人材なんていないし。

それでいいのだと私は思う。

校長室を出ると、私はアカデミーを出て。ミライドンに乗る。ミライドンは秘伝スパイスのお裾分けを受けた事で、傷を癒やし。今では走るだけではなく、壁を登ったり、滑空することも、泳ぐ事も出来るようになっている。

複数のライドポケモンに跨がって穴の下に下りる事も考えたのだが。

今回はミライドンだけで充分だろう。

それに、だ。

ミライドンには、そろそろ心の傷も克服してほしいのだ。

ミライドンが大穴のポケモンである事は、既にペパーさんから聞いている。だったら、初日にミライドンとであったのは。何かあって、大穴から逃げてきて。その果てで、運命の巡り合わせにであったということだ。

だったら、その運命を克服するために。

ミライドンには、この大穴での探索に、参加してほしいものだ。

大穴のゲートに出向いて。

そこでペパーさん、ボタンさんと合流。

ネモさんは、少し遅れてきた。

凄く楽しそうに走ってきたが、この様子だと途中で昂奮を押さえられずに、野良のトレーナーを片っ端から伸してきたのだろう。

何しろ、未知の強いポケモンがわんさかいる場所なのだ。

それは戦闘大好きなネモさんならば、喜ぶだろう事は想像に難くない。

「おまたせー! 私が一番後だね!」

「生徒会長、なんだか元気……」

「いつもこうだぜあの生徒会長は」

「……一緒にやっていけるかなあ。 ウチにはまぶしすぎるし」

ボタンさんは陰のものだと自称している。陽の権化であるネモさんは、それは色々と目にするのは辛いのだろう。

まずは、私がリーダーシップを取らないといけない。

アクが強い面子ばかりだからだ。

手を叩いて、注目を集める。

ペパーさんが最初から指揮権を譲るといってくれている。

更には、今後起業の際にはこの経験が大事にもなる筈だ。

起業をするときには、対等の人間の手助けなんて得られない。

資金提供をトップがしてくれるかも知れないが。大筋では自分でやって、利益が出る所まで頑張らなければならないし。

その後は、トップに投資分の働きをして返さないといけないのである。

それが分かっているから、私は大まじめだ。

「ええと、まずはボタンさん」

「お、おう。 ウチはどうすればいいし」

「今、観測所の機能は停止しています。 その状況を確認して貰えますか? 違法にならない範囲で」

「おっ。 本職の本領発揮だな」

ペパーさんが言うと。

ボタンさんはむっと黙り込んで。視線を逸らす。

煽られたと思ったのか、それとも。

ともかく、観測所の中に入る。

最低限の灯り以外は、何も動いている様子がない。電気は来ている様子だけれども。コンソールなんかは殆ど停止しているようだった。

ボタンさんは一目で、ある程度の状況を理解したようだった。

「これ、電気そのものは問題なくきてるし。 だとすると、多分誰かが管理者権限で動きを止めてると見て良い。 周囲に資料とかない?」

「これかな」

「え……早……」

ネモさんが、殆どノータイムで見つけてくる。

いわゆるキングファイルに入った資料だ。ボタンさんが。凄い勢いで目を通していく。この様子だと、瞬間記憶能力でも持っているのかも知れないと思ったが。違うらしい。

ボタンさんが、目を通しながら言う。

「これ、アカデミーの書類と書き方同じ。 だからそのルールに従って、マニュアルを確認するだけ」

「アカデミーの書類、何処で見たんだ」

「ええと、この間トップに見せてもらった感じ。 ウチの仕事で必要だからって。 それで、脆弱性を無くすために色々」

「ふーん。 聞かない方が良さそうだね」

ネモさんが心底楽しそうに言うので、ボタンさんがびくりとふるえた。

ネモさんはにこにこしている。

或いは、自分のいる会社のセキュリティも見て欲しいのかも知れない。

ただ、私も聞いているのだけれども。

ITの技術者は、余程の凄腕でもない限り、かなりの激務だという話を聞いている。ボタンさんはその凄腕だろうけれども。

ただ流石に、幾つものシステムや企業の面倒を見る余裕は無いだろう。

私は苦笑いしながら、様子を確認。

程なくして、ボタンさんはコンソールを起動に成功。

淡々と、最低限だった電気をつけていく。

「パスワードに関しては、必要のないシステムを作ってる。 殆どが生体認証で動くっぽい」

「ああ、そうだろうな。 父さんも手をかざすだけで色々動かしてた」

「データベースから、ある程度の重要人物を選択して、記録してあるデータから認証を可能としているシステムっぽいね。 アオイかネモさん、お願い」

「分かった。 どうすればいい?」

ネモさんが乗り気だ。

ボタンさんは、幾つかのコンソールを立体映像で動かしながら。最終的にぽんと手形を出す。

ネモさんはその手形に、躊躇無く手を突っ込むと。

数秒の認証の末に、声が響いていた。機械音声だ。

「外部センター、機能回復」

「お……」

「シャッターを解放します」

奥にあるシャッターが開く。私は頷くと、奧を確認。確かに、シャッターが開いて、風が吹き込んでいる。

ここからヘリとかライドポケモンで降りていたのだろう。

確かクラベル校長の時は、ヘリを使っていたらしいが。

総撤退になったときには、大混乱で。色々と怪我人など出たらしい。

気を付けないといけないので、私は注意を促しておく。ペパーさんも、それに同意した。

「俺は見た事がないが、準伝級の奴もいるらしい。 それに普通にいるポケモンも攻撃性が高く、人も平気で殺しに来る。 とにかく気を付けてくれ」

「人を平気で殺しに来るポケモンは、この地方だと珍しいね。 大穴の固有種がたくさんいるらしいけれど、それかな?」

「そうらしい。 何しろ他地方からも、学者が視察にくるくらいの場所だからな」

「おっかな……」

ボタンさんがぼやく。

私は、シャッターの側でミライドンを出す。

ミライドンは、やっぱり嫌そうにアギャスと鳴いた。

「ボタンさん、ワープポータルは?」

「それは駄目。 今調べたけど、どうも権限が足りない。 権限が一つずつ、深くにある観測センターに分散されていて、一つずつ手動で開放しないと動かない」

「なんでそんな面倒な作りにしたんだ……」

「この大穴の事、授業で受けたでしょ。 私は納得かな」

戦闘のことしか考えていなさそうなネモさんの言葉に、みな黙り込む。

そう。

この大穴は、この地方にあった国を幾つも破綻に追い込んだ、黄金に目を眩ませる魔性の場所。

現在でも、その一端がテラスタルエネルギーとして研究されていて。

もしもこれが更に実用化が進んだ場合、パルデア全域の電力問題が一気に解決する可能性もある。

それこそガラルを豊かにしているダイマックスエネルギーのようにだ。

此処は悪用したら、それこそ巨万の富を独占できる可能性がある。

古い時代は、石油というエネルギーがそれに該当していて。

これが出る地域を持っている人間は、どれだけモラルが腐っていようが。どれだけ極悪人だろうが。

関係無く巨大な権力を持ち。やりたい放題が出来たという話がある。

その繰り返しをさせてはならない。

「他の観測センターの場所は分かりそう?」

「ええと、それぞれのスマホロトムに送る。 それでいい?」

「問題ないぜ?」

「お願いします」

ボタンさんは、淡々と作業をしていく。本当に手慣れていて、同年代とは信じがたい程である。

私は関心しながらデータを受け取って。そして目を通す。大穴の内部には四つの観測センターがあり。

最後のは、最深部にあるようだ。

その更に奧に研究所がある。フトゥー博士がいるなら、そこだろう。

しかしとんでもない深さである。

これはざっと見た所、この大穴の入口にある観測センターから見ても、四千mくらいは地下にある。

これくらい深いとマントル層とかに行き当たりそうだが。

今、ここの標高が相応に高い事もあるし。

ポケモンが世界に溢れるようになってから、そういった古い時代の常識はあまりあてにならなくなったという話もある。

或いは、神そのものの力を持つ最強のポケモンアルセウスによって、何かしらの変更が世界にもたらされたのかも知れない。

いずれにしても、此処からは未知の世界だ。

ミライドンに頼む。

嫌がっていたが、やがて観念したのか、ミライドンは翼を拡げる。

「みんな、乗ってください」

「大丈夫か、その憶病なので」

「大丈夫。 ミライドンの強さ、多分最低でも準伝級です。 途中で撃墜されることはないと思います」

「撃墜て。 おっかない……」

ボタンさんが逃げ腰になるが。その手をがっとネモさんが掴んで、無理矢理ミライドンに載せてしまう。

そして、その前に自分が座る。

「ひゃ、いい乗り心地! 同種がいたら見つけたいなあ」

「アギャス」

「ミライドン、ちょっと重いけどみんな載せて飛べる?」

「ギャス……」

やっぱり乗り気じゃないか。

ペパーさんも乗って、皆でミライドンに跨がると。そのまま、私は飛ぶように指示。

少しだけ躊躇った後。

空中に、ミライドンは躍り出ていた。

トビトカゲと言われるトカゲが実在している。

おなかの横を広げる事が出来て、それを使って滑空する樹上生のトカゲだ。似たような生き物に、滑空をする事が出来るパラダイススネークという蛇がいる。

ミライドンはそれらの生物よりも、更に力強く滑空する。或いはだけれども。全部の力を取り戻したら、自由に飛ぶ事が出来るのかも知れない。

風を切って、空を舞うミライドン。

帽子を押さえながら、私は位置を指定。

ミライドンは耳が良くて。逆風がバタバタ吹き付けてくる状態でも、ちゃんと聞いて従ってくれる。

ゆっくり旋回しながら降りて行くが。

それでも、大穴の下の方は、真っ暗で。

其処に近付いて行くと思うと、ちょっとぞっとしなかった。

「ひえ。 落ちたら絶対助からないし」

「帝国の時代は、この穴を降りるだけで何千と兵士が死んだって話もあるらしいが、まあ話半分だな」

「それ、かなり誇張されている話みたいだよ。 もしそんなだったら、ゴーストポケモンがわんさかいる筈だし」

「確かにそうかもな。 大穴にいるのはどちらかというと、もっと生物的な、野性的な奴らだ」

大穴の事を知っているペパーさんが、そんな事を言う。

いずれにしても、結構恐がりらしいボタンさんは、ネモさんにぎゅっとしがみつくばかり。

程なく、地面が近づいて来た。

観測センターではないらしい。かなりたくさん、プレハブが建っている。

その真ん中に降り立つ。

だが、プレハブは一目で古くなっていると分かる程だ。

「内部、確認してから進みましょう」

「気を付けろよアオイ。 この辺りももう撤退済の筈だ。 中から何が飛び出してきても不思議じゃねえ」

「ちょ、脅かすなし」

「じゃあ、念の為にそれぞれ手持ちを展開してください」

まあ、出会い頭でも普通の兵隊やポケモンくらいだったら、私でもどうにでもなる。

流石にユウリお姉ちゃんみたいに至近背後から対物ライフルで撃たれても対応できるという程でもないが。

至近で顔を合わせた相手がショットガンを撃ってきても、対応できるくらいの力ならもうある。

これでも、必死に鍛えているのだ。

アカデミーに入ってから、半年少し。

入る前より、単純な身体能力は倍以上に上昇している。

まだまだ全然足りないが。普通のポケモン単騎なら、準伝以上の実力でもない限り、生身で対応できる。

だが、それでも念には念だ。

私は相棒であるラウドボーンを展開。皆、それぞれ相棒を展開した。

ネモさんはルガルガンか。

ネモさんは育ちきった手持ちが幾らでもいるらしく、こう言う場所では速攻が得意な子を出しているらしい。

まあ、それが正しいと思う。

不意打ちを仕掛けられた場合、速攻が得意な方が勝負を付けやすいし、勝ちやすい。

準備を終えてから、プレハブをそれぞれ見て回る。

電子機器類は生きているようだが、ほとんど生活用の機器しかない。トイレなどもあるし、動いてはいるようだ。

冷蔵庫を確認。

内部にドロドロのなんか分からないもの、というものも覚悟したが。どれもカラだ。

代わりに、大量の缶詰とか保存食が見つかる。これらは、食べても大丈夫な品だろう。

プレハブに潜んでいるポケモンもいない。また、傷つけられたり、壊されたりしているプレハブもなかった。

人の入った気配もない。足跡とかの見分け方は、私も教わっている。

この様子だと、盗掘者とかが入った事もないようだ。それだけ厳重に、オモダカさんが封鎖していると言う事なのだろう。

なるほど、入口の様子からして、とりあえず人間が悪さをしている様子はなさそうだ。そう結論出来る。

少なくとも、この辺りでは。

まず、トップに連絡を入れる。

「此方アオイです。 事前に申告したメンバーで、大穴入口付近に到達。 人の気配はなく、最近入った気配もありません」

「了解です。 奧へ進んで、安全を確保しながら状況を確認してください」

「ラージャ」

無線を切る。皆の様子を見るが、予想よりずっと手練れているボタンさんを含め、とりあえず隙を突かれる事も無さそうだ。

地図を確認する。

大穴は、螺旋状に下へ下へと降っている。次の拠点が使えるとしても、八qくらい歩かないとたどり着けない。

これでも、最短距離に近いのだ。

本当に、昔この地方にあった帝国がこれに関わったばかりに衰退し。今でもこの地方が辺縁になってしまった理由が、これだけで分かる気がする。

「次の拠点は八qくらい先です。 トイレとか水の補給とか、先に済ませてしまってください」

「分かった、じゃあ悪いけれど俺行ってくるわ」

「ウチも」

「八qか。 ちょっと遠いし、ライドポケモン使ってもいい?」

ネモさんが苦笑い。

体力がないのだネモさんは。筋力はあるのだけれど。

何がどこでいつ襲ってくるか分からない大穴である。ライドポケモンを使って、体力を温存するのは。

当然の判断だと言えた。

 

2、未確認存在

 

歩きながら、ゆっくり坂を下っていく。この坂も、かなり不安定な地形だ。

とてつもなく巨大な蟻地獄の巣を降っていくかのようである。

ぞっとしない話だ。

ポケモンの中で巨大なものは、全長100mを越えるという。ダイマックス時、ではあるのだが。

未発見のものには、それくらい大きいのがいても不思議ではないし。

大きさはともかく、この面子を全滅させかねないのがいても、不思議ではない。

ただ、今の時点では既存のポケモンが多数だ。

空を舞っているのはアーマーガアやウォーグル。

どちらも優れた鳥ポケモンで、戦闘力が非常に高い。地面にも、色々な種類のポケモンがいて。

草木も大穴の外にあるものと、それほど変わらない様に見える。

一応、撮影しながら降りる。変なものがあるかも知れないし。こういう資料は重要だからだ。

「今の時点では、それほど手強そうなのはいないね」

「この辺りは、探検隊が来る度に掃除していたからな。 人を襲うようなのは、あらかた片付いている筈だぜ」

「重機とか運び込むなら、それは必須だし……」

「……」

そういった重機が通ったような跡とかは、殆ど見かけない。

或いはパーツに分けて投下して、それを現場でくみ上げたのだろうか。

いや。そもそも物資の投下というのは風にも影響を受けるし、そう簡単ではないとも聞いている。

この辺りの植物はやたらと元気そうだが。

それも影響しているのかも知れない。

フラエッテというフェアリーポケモンが団体で周囲にいる。花をとても大事にするポケモンだ。

フラエッテに世話をされているのだろう。美しい花畑が、峻険な地形の彼方此方に見られる。

この大穴は。

自然の力がとても濃い。

だとすると、主のような強大なポケモンがいてもおかしくない。というか。足を止めて、見やる。

巨大な水晶柱だ。

崖側に、なんの脈絡もなく生えている。テラスタルを制御するバンドで計測してみるが、これ一つでテラスタルを行うクリスタルを幾つ取り出せるか知れたものではないほどである。

「計測してみたら、出てるエネルギーが次元違いだし。 これ、何を呼び出してもおかしくないんじゃ」

「地下はこんなのだらけだぞ」

「……そういうものいい、マウントみたいでむかつく」

「そうか、それは済まなかったな。 ただ、今のうちになれておいたほうがいいぞ」

どうもボタンさんとペパーさんは相性が悪そうだ。

ただ、ボタンさんは元々舌剣人を刺すタイプだから、誰に対してもこうなのかも知れない。

ネモさんは陽の存在だからそういうのは気にしないのだろうが。

ペパーさんはどうもそういうわけではなさそうだ。

たまに向かってくるポケモンがいるが、いずれも既存の種類のものばかり。軽く蹴散らし手進む。

ただかなり育った個体が多い。

この大穴は閉鎖的な環境で、それほど生存競争が激しそうには見えない。

これだけポケモンが育っているのは、水晶柱の影響だろうか。

降りると、確かにどんどん水晶柱が増えてくる。

自分が映るくらい磨き抜かれているというか。

なんというか、禍々しいまでに美しい輝きだ。

「父さんが残した本によると、別の地方にもこれほど巨大ではないにしても、たまにこういうのがあるらしい」

「バイオレットブックだっけ? 大事にしてる奴」

「そうだ。 もうボロボロだけどな。 気にくわないが、父さんが俺に残した本で、注釈も含めて記載されている事はどれも面白い」

「……ウチの父さん、とにかく五月蠅くて嫌い」

ボタンさんが、ぼそりと言う。

ボタンさん曰く、話は聞かないし五月蠅いし勢いが凄いしで、相性が最悪だと言う。まあ、親子でも相性が悪い人間は普通にいる。それが分かっているから、私も何もそれについては言わない。

ボタンさんは更にブツブツ文句を言っていたが。

ネモさんが肩を掴んで、引き戻す。

びっくりした様子のボタンさんだが、ネモさんは即座にライドポケモンにしていたモトトカゲを飛び降りる。

その時には、私もラウドボーンを連れて、前に出ていた。

「な、なんなん!」

「きたきた!」

「ネモさん、楽しそうですね」

「そりゃあそうだよ! 知らないポケモンと遭遇するのって、こう言う冒険の醍醐味みたいなものだし!」

それは、以前トップが使っていた。

自爆同然に毒をまき散らして、他のポケモンに有利な場を整える奴だ。

此処には、たくさん生息しているのか。

複数が姿を見せると、明らかに此方に敵意を見せている。

ペパーさんが躊躇う。

此処でポケモンを。

相棒だったマフィティフを失いそうになった事を思い出しているのか。いずれにしても、即座に対応に入る。

ラウドボーンが、歌うようにして炎の波を叩き込む。

ネモさんも、即座にルガルガンに指示。ルガルガンはドリルのような形態に姿を変えると、激しく敵を貫く。

数体のポケモンが蹴散らされ。

大量に毒がまき散らされた。

「毒です! 注意して!」

「あんなポケモン、みたことないし!」

「くそっ! やむを得ないか!」

ペパーさんの背後から、新手。

鈍色に輝く、機械で出来たポケモンだ。ミライドンのように。

叫んで、注意を促す。

ペパーさんも頷くと、即座にポケモンを展開。大きなリスの姿をした、ヨクバリスだ。

とにかくタフなポケモンで、いわゆる壁役としてかなり有能な存在である。

ヨクバリスが、機械で出来た鳥のような、目に全く感情が見られないポケモンにタックルを仕掛ける。

あれ。なんだかあいつ、他者を助けることで知られるデリバードに似ているような。

でもデリバードは極めて温厚なポケモンで、躊躇無く殺しに来た今の姿とはあまりにも違う。

ペパーさんのヨクバリスが、デリバードっぽいポケモンに対応している間に。

私は目の前に展開していた多数の、他の生物にはまったく似ていないポケモンを蹴散らしていく。

一体ずつははっきりいって大した力はない。

だけれども、倒すと毒をまき散らすのだ。口を押さえながら、とにかく数を減らしていく。

よく見ると、細くしたイソギンチャクを横にしたような姿をしている。

海棲生物の特徴を持っているが。

平然と空を飛ぶ。

まあ、この辺りのちぐはぐさは、ポケモンだ。それにトップは手持ちとして使いこなしていた。

恐らく手なづけることも出来る筈だ。

ラウドボーンの火力が上がっていく。

吠えるように炎を吐き出す度に、ラウドボーンは火力を上げる事が出来る。体に纏っている炎が、鳥のように見えるが。

これがラウドボーンが纏う幽霊の鳥の力。

ラウドボーンはゴーストタイプも持ち合わせていて。この鳥が、どうもそれに当たるらしい。

全身の霊的な力を振動させて、炎を吐き出すとどんどん全身の力を高めていくようである。

最大級に火力が上がると、四倍近い火力になる。

ネモさんは、満面の笑みのまま、毒に強いポケモンを数体展開して、まとめて相手を薙ぎ払っている。

程なくして、残りは数体になる。

ネモさんは躊躇無くモンスターボールを投擲して、逃げようとした毒を撒くポケモンを捕獲。

私はペパーさんの援護に廻ろうと思ったが。

その時には、ボタンさんが手持ちを出して、ペパーさんと二人で機械の鳥みたいなポケモンを捕獲していた。

「やるよ。 機械は得意だろ」

「いいの、ウチにくれて」

「この大穴には良い思い出がないからな」

「……分かった。 貰っとく」

ペパーさんは、視線を背ける。

図鑑にやっとデータが出ていた。

イソギンチャクっぽいポケモンは、キラフロルと言うらしい。これはトップが手持ちにしているから、図鑑に記載されているのだろう。

鉄でできた鳥ポケモンは、テツノツツミと記載されているが。

これは仮と表示されている。

図鑑にも、殆ど詳細がない。

もしもこれがあの温厚なデリバードの亜種か何かなのだとしたら。どうしてこんなに攻撃的に。

機械で出来た姿も、ミライドンに性質が酷似している。なんだか、とても嫌な予感がするのをとめられなかった。

辺りの毒を、とにかく焼き払う。

地面が猛毒で変色しているほどで、触れたりしたらどうなるか分かったものじゃない。急いで処置をしておかないと、どんな影響が環境に出るか。

一応、進捗として連絡を入れておく。

今度は、チリさんが電話に出た。

「トップのポケモンが、多数襲ってきたやと!?」

「それだけじゃありません。 今データを送りましたが、未知のポケモンも」

「どうやら想像以上に危険みたいやな」

「こんな状態で、最深部から連絡をしてきているフトゥー博士の事も気になります。 急いで地下に潜ります」

連絡を終えると、観測センターが見えているので、皆を促して中に。

入口にはセキュリティがあったけれども、私が手をかざすと普通に開いた。これは多分、穴の縁にあった観測センターと同じセキュリティをデータベースで管理していると見て良いだろう。

内部に入ると、ひんやりしていた。

休憩用の設備もある。冷蔵庫は空っぽ。というよりも、人が働いていた形跡が殆どない。

足下を走り回っているもの。

いわゆるロボット掃除機というやつだ。随分古くからあるもので、別に珍しくもなんともない。

三千年前だかに人間の歴史は大きな転機を迎えたらしいけれど。その頃にはもうあったとかなんだとか。

そういう話をレホール先生から聞いている。

ロボット掃除機は、見た所最近主流の、ロトムを憑依させたタイプじゃない。ただ、ボタンさんが手元のスマホを操作して、即座に色々調べている。

「これ、今時珍しい完全自律型のタイプだ」

「完全自律型?」

「今時のは普通、データベースと接続していて、ロトムと連携して色々な情報を得ながら仕事するんよ。 これは内部にちいさなPCが入っていて、これの、機械の力だけで掃除してる

「へえ……骨董品みたいなもんか」

ペパーさんが感心する。

この人、興味が無い事はとことん興味を示さない。だからいわゆるお洒落にも殆ど気を遣っていない。

そういう意味ではボタンさんともかなり似ているが。

ボタンさんは愛玩ポケモンとして良く知られているイーブイのグッズで身を固めていたりするので。

まだペパーさんよりは、その辺りはマシだろう。

「それでボタンさん、状況はわかる?」

「ちょっと待って。 ええと……」

ネモさんに促されて、コンソールの操作を始めるボタンさん。

私は今のうちに、手持ちのコンディションを確認しておく。

ラウドボーンは戦闘時、どんどんボルテージを上げていく分。戦闘が終わった後に、放熱が必要だ。

ワニの姿をしていたまだ幼体の頃の性質もあるのだろう。

熱が上がりきると、オーバーヒートするような形で熱を放出しないと、体を壊してしまうのだ。

外に出ると、放熱をさせる。

まだ周囲には少し毒が残っているので、注意が必要だが。

かなり潜ってきたが、まだまだだ。

次の観測センターまで、また同じくらいの距離を歩かないといけない。

この辺りには、重機が残っている。

そのまま放置したのだろう。

その中の一つが、手酷く破壊されている。中に乗っていた人は、無事だっただろうか。ロトムを憑依させて操作しているものだったら良かっただろうが。

呼ばれたので、観測センターに戻る。

どうやら、ワープポータルが起動したらしい。ただし。大穴の外に戻る機能だけであるが。

「前の観測センターに戻る機能は、どうにか復旧出来たし。 でもこれ以上は、もっと下の管理者権限を獲得しないと無理。 ハッキングするにしても、多分何日かかかる」

「んー、電子戦の専門家がいうなら、そうなんだろうね」

「叩いてどうかならないのか?」

「それ、いつの時代の話」

ボタンさんが、脳筋な解決法を提案するペパーさんに呆れて返す。

まあ、それについては気持ちはわかる。

ともかく、手を叩いて皆の注目を集める。休むようにと促して。みんなに休んで貰う。

トイレも動いているし、ロボット掃除機が孤独に動いたこともある。埃は殆ど舞っていなかった。

見るとサーバとかも動いているし、埃を舞わせるのはまずかったのだろう。

こういった精密機器は、性能が上がるほどデリケートになると聞いている。

ネモさんとペパーさんが、それぞれ休みに行くと。ボタンさんがそれを見送った後、私を呼び止める。

「アオイ、いい?」

「どうしたんですか?」

「これ、見て欲しい」

案内された観測センターの奧に。電源ユニットがある。

それを見て、私はえっと呟いていた。

電源が、明らかに破損している。というか、これは。

あの輝くクリスタルだ。床を突き抜いて、露出している。私の驚いた顔が、鏡面みたいに反射していて。いや、万華鏡というべきか。クリスタルは多面体になっていて、多数色々なものが映り込んでいた。

その輝きは、美しいというよりも。どこか狂気的だ。

「この施設、本来は動力とっくに死んでる。 でも、このクリスタルからエネルギーを得て、本来より何倍も多くの動力が出てる」

「これ、テラスタルにつかう……」

「うん。 多分これ、結構やばい案件。 悪い大人が知ったら、絶対碌な事に使わないと思う」

ボタンさんが言うと説得力があるな。

スター団とともに、本来だったらどうしようもできないギャング同然の不良達を学校からたたき出し。

その後は全て自分の思うとおりにことを進めた策士だ。

明確な悪人ではないけれど、ボタンさんはその気になれば悪の組織の総帥にでもなれるだろう。

そういう人が言うのだ。言葉には説得力がある。

「信頼出来る精鋭をトップが集めろいったのは多分これも理由の一つ。 ここでの事、誰にも話さない方が良い。 割と本気で、命が危ない」

「……分かりました。 すみません。 ちょっと想像よりもずっと危ない場所だったみたいです」

「いい。 ウチ、アオイにすごく大きい恩ある。 ウチが役立てるなら、今度は役に立つ番」

そう真面目に言うと。

恥ずかしかったのか、ボタンさんは視線を背けた。

この辺りは、可愛いところがあるな。

そう思って、私は苦笑いしていた。

休憩を挟んで、すぐに観測ユニットを出て。次に向かう。丁度良い感じで、毒も晴れていた。

どんどん地下へ降りて行く。地下に降りて行くと、徐々に金属のポケモンが増えていく。

これは、ハリテヤマか。

カントーやジョウトにいる相撲取りという職業の人間に似ているポケモンで、三角形の屈強な体格を生かした肉弾戦を得意とする。それが機械となったのなら、危険度は何倍も増しているだろう。

今度はペパーさんが、率先してマフィティフを出す。私もそれにあわせて、手持ちのサーナイトを出す。

ドレスを着込んだ凛とした女性を思わせるポケモンだが、人間からは見た目に区別が付かないだけでどちらの性別もいる。たまたま私が使っている手持ちのサーナイトはメスなだけである。

サーナイトは超能力だけでなくフェアリータイプの技も得意としている。まずはサイコキネシスで、巨大な鉄製ハリテヤマを押し返す。問答無用で襲いかかってきた鉄ハリテヤマを、それで防ぐ。

巨大な質量と破壊力だ。まともに力で対抗するのは悪手だろう。

宝探しの頃は、目も見えず歩けもしなかったマフィティフ。ペパーさんの相棒。

それが、左右に鋭くステップしながら動きが止まっている鉄製ハリテヤマに突貫すると、巨大な口で食らいつく。

相手が鉄製……まあ鉄とは限らないが、それでも関係無い。猛烈なタックルを浴びせると。抑え込む。

「さがって!」

「よし、マフィティフ、離れろ!」

マフィティフが飛び退くと同時に、サーナイトが今度はフェアリー技であるムーンフォースを叩き込む。

月の光を神秘的な力で増幅して、相手に叩き込む大技である。

立ち上がろうとした巨大ハリテヤマが、今度は前のめりに押し潰される。しばしもがいていたが。

やがて動きを止めていた。

ペパーさんがボールを放って捕獲する。

マフィティフは、それを尻尾を振りながら見ていて。戦闘が終わると、自分からボールに戻っていった。

「此奴じゃない」

「マフィティフを傷つけたポケモン、どんな感じだったんですか?」

「一瞬で、殆ど分からなかった。 分かったのはポケモンだってことだけだ。 目がらんらんと輝いていて、俺でも背筋が凍るくらいすげえ殺気を放っていやがった」

「うーん、だとするとこの辺りにはいないんじゃないのかな」

ネモさんに私も同意だ。

殺気というのは五感が察知する危険信号みたいなもので、「殺気」というものを誰かが放っているわけでは実はない。危険を感じた体の反応みたいなものなのである。

それを私が説明すると、ペパーさんはそうかとだけ呟く。

何度か私が肉弾戦をするのを見ているからだろう。気を使うのも。

ネモさんや、ボタンさんもそれは見た事がある。ネモさんは、私以上の使い手でもある。

だから、言葉には説得力があると思ったのかもしれない。

「戻る事はもうできるし、急いで行く方がいいと思う」

「んー、それに多分今日は次の観測センターでお泊まりじゃないかな」

ネモさんが、苦笑いしながら空を示す。

もう、日が落ち始めていた。

単位は大丈夫と無粋なことを私は聞いてしまう。ペパーさんが、視線を背ける。ボタンさんは、平気だと言った。

ネモさんは、今二年に入ったばかりで。それもバンバン単位を取っているらしく、余裕もあるそうだ。

だったら大丈夫だろう。

元々、火山の火口みたいな地形になっている場所を潜っているのだ。陽が落ち始めると、暗くなる速度も尋常じゃなかった。

こんな場所で、夜間に活動するのは自殺行為だ。

何体か、灯りになるポケモンを即座に出す。ネモさんも、周囲を警戒できるように、同じようにしてくれた。

すり鉢状に降りながら、地下へ急ぐ。

どんどん水晶の結晶が増えていく。それに取り憑いているキラフロルも。

水晶にくっついているキラフロルは、此方に見向きもしない。多分水晶から直接栄養を吸収して生きているタイプだ。

キラフロルは、あのイソギンチャクみたいな触手を展開して、水晶に貼り付いている。あれはやっぱり食事のための器官なのだろう。

下手に触ると毒をばらまかれる。

相手にしないように。

そう、皆に小声で伝えると、地下に降りて行く。

次の観測センターに到達。

そこは、地獄絵図だった。

辺りが滅茶苦茶に破壊されている。これは、何かあったとみていい。うっと、ペパーさんが口を押さえる。

完全にひっくり返った重機。これは、電気か何かの跡か。

ここで、激しい戦いがあったんだ。

調査チームが、護衛を連れていなかったとはとても思えない。此処で護衛のチームが戦ったのだろう。

それで、何とか必死に逃げた。

辺りの戦闘跡を調査する。

これは、地下から何かが上がって来て。それで、追いつかれて戦ったと見ていい。

それに恐怖した調査班が、入口に到達する頃には何も分からない状態になっていた、という所か。

私は無言でボタンさんに飛びつくと、地面に伏せる。

伏せて。

全員に叫んだ。

巨大な象のような。それも鉄でできたポケモン。鉄かどうかは分からないが、少なくとも金属だ。

それだけじゃない。

他にも金属製のポケモンが、何体もいる。

強力なドラゴンタイプのポケモンであるサザンドラっぽい奴や。格闘戦を得意とする珍しいフェアリータイプであるエルレイドに似たものもいる。エルレイドっぽいものは。同じ進化元を持つサーナイトにも似ていて、特撮ドラマに出てくるような格好良さも兼ね備えていた。

ネモさんが即時でポケモンを展開。ペパーさんも、遅れて同じようにポケモンを出す。

ボタンさんが、ふるえている。

「大丈夫。 あれは前、戦った事があります。 倒せます」

「わ、分かった!」

ボタンさんがあわてながらも、ポケモンを出す。

イーブイというポケモンは、多数の進化先を持つポケモンなのだが。その一つ。悪タイプである、真っ黒いブラッキー。とにかくタフな事でしられるポケモンだ。

私はもう。ポケモンを出すのもまどろっこしい。

突貫して、巨大な象っぽい奴の足下に潜り込む。

振るわれる鼻。通常の象の鼻も、筋肉の塊で、極めて危険な武器だが。これも同じ。

前に戦った時も、殺すつもりで突貫してきた。

前は火力で正面から制圧したが。やっぱりだ。

機械という事もあって、個体差が極めて小さい。動きは以前見せてもらった。どうにでもできる。

足で踏みつけに来るが、それもバックステップして避ける。

ブラッキーが、何かの攻撃を繰り出して。それが直撃。横っ腹に打撃を受けた、象のポケモンが揺らぐ。

私はその隙にクリスタルの結晶を蹴って跳ぶと。

上空から、象のポケモンに踵落としを叩き込んでいた。

私の質量だと大した打撃力は生じないが、これには当然気も乗せている。気がこの機械で出来たポケモンに通るのは、以前確認済みだ。

悲鳴を上げて、竿立ちになる象のポケモン。

私を踏みつぶそうと言う訳だが。

私は懐に入り込むと、発勁を叩き込む。

足に発勁を叩き込んだ事で、竿立ちになっていた象のポケモンは体勢を崩し、そのまま横倒しに。

ネモさんのポケモンの攻撃から逃れていた一匹を巻き込んで、横倒しになる。

思い切り地面が砕けるほどの重量だ。

流石に目を回す象のポケモンを、ボタンさんがモンスターボールで捕獲。そのまま、掃討戦に入る。

全て片付けた頃には、すっかり周囲は暗闇になっていた。

私は気を練って、自己再生をかける。深呼吸して、残心。

それで、やっと一息ついていた。

「何度見てもすげえなそれ……」

「自己再生だね。 人間にも出来る人はいるって聞いていたけど、実際に見るとすごいなあ」

ペパーさんは呆れるが、ネモさんは興味深々。ボタンさんは腰が抜けてしまっていたので、立つのに手を貸す。

辺りの悲惨な様子を撮影してから、観測センターに。

ドアは歪んでしまっていて、内部も滅茶苦茶だ。中に日誌みたいなものがある。目を通させて貰った。

フトゥー博士のものだ。

それに気付いたか、ペパーさんがくる。

「これは……父さんのか」

「ちょっと、だとするとまずいし。 地方の機密に関わるかも知れないし」

「知るかっ!」

「いや、まってペパーさん。 本当に危ないよ。 地方単位になってくると、機密に下手に踏み込むと命が危ないんだよ」

私の冷えた声に、ペパーさんが手をとめる。

私は、知っている。

地方の特大スキャンダルの当事者だからだ。咳払いすると、先に目を通させて貰う。

今回、ペパーさんは関係者だけれども、この仕事をトップに依頼されたわけじゃない。

だから、私から先に目を通して。やばそうだったらもうトップに丸投げしてしまうべきだと判断した。

そうしないと、本当に危ないのだ。

此処にあるクリスタルの力は、生半可じゃない。サーバの動力が如何にたくさんいるかなんて、私でも知っている。

それにあのワープポータル。簡単に作れるものでもない。そうなると、地方の威信とか掛けてのプロジェクトである可能性が高い。

そんなものに迂闊に踏み込んだら、本当に不審死に追い込まれても仕方が無いのである。

勿論、闇を放置しておいていいわけがない。

闇に踏み込むなら。

それに対策してから、というだけの事だ。

「……どうだ」

「ここの研究についての話だね。 専門的な話については、後から来る調査チームに引き継ぐしかないと思う。 この辺りは……見ても大丈夫だと思う」

開いて、机の上に。

ペパーさんが読み始める。

日記の中には、フトゥー博士の苦悩が記されていた。

子供ができた。でも、会いに行くこともできない。妻も私と同じような性格だ。子供を作るだけ作ったし。盛り上がって結婚もしたが、それだけ。親らしいことは何一つできていない。

何回か顔を出したりしたが、遊んでやることもロクにできなかった。一度だけ、安全なはずの大穴の浅い場所に連れてきたのに。そこで息子につけていたマフィティフが未知のポケモンに襲われて、大けがをしてしまった。未知のポケモンによる未知の傷。私にはどうしようもない。

それよりも、此処の調査にどうしても心が奪われてしまう。息子の事が、どんどんどうでもよくなっていく。

それを見て、ペパーさんは馬鹿野郎とだけ呟いていた。

これは、知らない方が良いだろう。

その先には、こうあったのだ。

このままじゃ、研究が間に合わない。更に未知のポケモンが凶暴化している。地方を上げてのプロジェクトで作りあげた例のシステムによるものだ。

研究の凍結の話が出ている。新しくチャンプに就任したオモダカによるものだ。危険すぎるというからだ。

危険を冒さずしてなんの研究か。

研究が凍結されるまえに、私は研究を完成させなければならない。

幸い、この例のシステムの仮稼働で得られたもので、私はついにあるものを作りあげた。

これを使えば。

これを。

明らかに、文字が歓喜に躍っている。

フトゥー博士は。この手記を書いていた時点で狂気に染まり始めている。息子の、ペパーさんの事なんか。どうでも良くなった辺りが決定的だったのだろう。今では、どうなっている事か。

ボタンさんが、黙々とシステムを復旧。

サーバが水晶に喰い破られていて。それでも、動く。撤退は、今の状況ならできるだろう。

ネモさんが提案した。

「一つ前の観測センターに戻るか、もう一つ前のに戻って、其処で休もう。 此処で寝るのは、私もぞっとしない」

「……賛成」

ボタンさんもそれに賛成する。私も、それには賛成だ。

ペパーさんは口惜しそうだったが、賛成は結局してくれた。先に三人が、ワープポータルに消える。

そういうのがあるとは聞いていたが、本当に消えた。ちょっと、驚かされた。

私も戻るかと思ったけれど。不意に、通信が入る。

フトゥー博士だった。

声に雑音が酷い。というか、これは。

「私だ。 フトゥーだ。 近くまで来てくれたようだな」

「フトゥー博士……息子さんもいます」

「分かって、わ、分かって……わ、わわ、かって……いる」

「貴方はフトゥー博士ではないですね」

ずばり、真相を告げる。手記にはこうあったのだ。

機密のシステム、試作型のタイムマシン。パルデアのお偉いさんたちは、それを使って未来のテクノロジーや過去の生物を獲て。その技術や強さを独占するつもりだったのだと。

未来をフトゥー博士が。過去を妻のオーリム博士が担当していたと。

そして、その過程で、未来より超高度AIを入手。

それを用いて、自分の似姿を作ったのだと。

その直後、事故が起きた。

その事故で。

「……最深部まで来て欲しい。 そこで、頼みたい事があるのだ」

「分かりました」

私は、大きなため息をつく。

今話しているのは。未来の超高度AIを積み込んだ、フトゥー博士の似姿。超高度AI搭載ロボット。

そして恐らくだが。本物のフトゥー博士は、実験の最中に出現した何かによって殺されてしまったのだ。

その正体も、概ね見当がついている。

だが、今は。

それを皆に話す前に。何もかもが手遅れになる前に。全ての決着を付けなければならなかった。

 

3、一筋の勇気

 

螺旋状に降る坂は、ある地点から明確な「地下」になった。

そのすぐ近くに観測センターがあり。その中は、もう完全に破壊されているのにまだ動いていた。

下からは、ごうごうと音がしていて。

もうマントル層に近い辺りまで潜っている筈なのに、全く暑くはなく。むしろ冷え込んでいるほどである。

これは、まずいな。

私は、周囲を見て思う。

辺りにはクリスタルの結晶だらけ。というか、もう地面すらも、そういった結晶だらけである。

大きな奴はいないが、機械のポケモンは多数見かける。

どれもこれも面倒な奴ばかり。戦いながら進んでいく。ネモさんは楽しそうだが、私はそうはいかなかった。

一度私は、外の観測センターにチリさんに来て貰って、手記を渡したのだ。今朝の事である。

これは非常にまずい。

トップに確実に届けてほしい。そう告げて。

私の言葉に、チリさんも状況を理解したのだろう。状況次第では増援を送ると約束もしてくれた。

激しい戦いの後、どうにか道を切り開く。

流石に手持ちも疲弊が溜まってきた。ネモさんも、かなり参っているようだ。

体力はないのだネモさんは。

私はまだ大丈夫だけれども。私は自身でも戦っているので、大きいのを貰うと危ないかも知れない。

ただでさえこの辺りは足下がかなり怪しいのだ。下は全く見えない。落ちたら、流石にスマホロトムの復帰機能でも、助からないかも知れなかった。

ボタンさんが、音を上げる。

「ひ、引きこもりにはきついし!」

「背負ってやろうか?」

「そういう自分も、息上がってるじゃん」

「五月蠅いな。 まだ俺には余裕がある。 ほら、無理なら背負ってやるよ」

ボタンさんはむっとむくれると。

ついと視線を背けて、地力で立ち上がった。ただ、足がぷるぷる震えているし、かなり無理をしているのが一目で分かる。

これは、次の観測センターに辿りついたら、一度休憩をするべきか。

地下に行っても、暗くはならないというか。

クリスタルが発光している事もあって、薄暗い中に不思議な光が満ちている。この光、どうみても目に優しいものではない。

サングラスがいるかな。そう私は思った。

「ちょっと、これ……」

ネモさんの言葉に、私は無言になる。側にあるクリスタルの結晶に閉じ込められているのは、重機だ。

破損していて、それを完全にクリスタルが取り込んでいる。

想像以上に、テラスタルのエネルギーというのはまずい代物なのではないのか。そう思えて来る。

それだけじゃあない。

多分縄張り争いで敗れたりしたのだろう。

死んだポケモンが、クリスタルに閉じ込められている。これはどういうことかというと。恐らくクリスタルが恐ろしい速度で成長していると言う事だ。

エネルギーに引き寄せられるのか。

或いは別の理屈なのかは、よく分からない。

いずれにしても、このテラスタルの力は、ちょっと尋常ではなく危険だとみるべきだろう。

そういえば使う時に、大人でも両手で支えるくらいの風圧が来る。

私は片手で平気だったのだけれど、それを見て周りがみんな驚くくらいだ。ちょっと色々、疑問に思うべきだった。

ばきばきと音がする。

これ、クリスタルが多分成長している音だ。

ひょっとして、もっと急ぐべきだったのか。ともかく、急ぐしかない。

また、機械のポケモンが来る。かなりの数倒したが、どいつもこいつも生半可な在来主より強い。

これが外に溢れたら、環境汚染どころじゃない。

此奴らは、人に対して危害を加えることを何とも思っていない。

古い時代。ポケモンと人とは一緒に暮らすことを覚えるまで、随分と大きな被害を出したという。

それも、かなりの長い間の話だ。

此処百何十年でやっと人間とポケモンは適切な距離が取れるようになって来たという話で。

それ以前は、各地でポケモンに殺される人も多く。

地方そのものが壊滅させられることもあったらしい。

過去は、そんな世界だった。

もし、これがタイムマシンによって未来から呼び出されたポケモンだとすると。

未来もまた、地獄になっているのかも知れなかった。

四つ目の観測センターが見えてきたが。一瞬そうだとは分からなかった。もう、観測センターそのものがクリスタルに覆われている。

ドアは開いた。

ボタンさんが、どうして動いているのか分からないとぼやくが。私も、それは同じ意見だ。

内部も滅茶苦茶。

機械は動いているが、電源が外れてしまっているものも見受けられる。それなのに動いている。

如何にこのクリスタルが無茶苦茶な代物なのかは、一発で分かる程だった。

「ここで休むのは、ちょっとぞっとしないよね……」

「ワープポータルで戻りましょう。 できればポケモン達も回復させたいです」

「ボタン、機械類は大丈夫か?」

「問題ないよ。 ……でも、これがなんで動いているんだろう。 ちょっと不安になるかも」

一度戻る。

それについては、異論はない。

だが、此処にも手記が落ちていた。これは、フトゥー博士のものではないな。軽く目を通させて貰う。

もう、機密について隠す様子もない。

これは、別の博士による研究成果だろう。

タイムマシンから、過去のポケモンを呼び出す実験は失敗したらしい。そのかわり、未来のポケモンを呼び出すことには成功したそうだ。

未来のポケモンはどれも強靭で、人間に対して一切の容赦をしない。一体を捕まえるだけでも、相当な被害がポケモンに出る。

それだけじゃない。

タイムマシンを動かす度に、クリスタルが成長して行くのが分かる。

危険だと判断して、上に掛けあう。

確かにテラスタルは強力な未来を作るエネルギーだが。これは今の人類に制御出来る代物じゃない。

そう相談している最中に、あれが呼び出された。

二体。

最初の一体は大人しくて、フトゥー博士が面倒を見始めた。モトトカゲに似ているが、その潜在能力は準伝や伝説と呼ばれるポケモンに遜色がない。未来ではこれくらいの力を持つポケモンが、ウヨウヨいるのだろう。

問題は、二体目だ。

非常に獰猛で、大暴れした。暴れる過程で死者まで出した。

それだけじゃあない。

タイムマシンから実験的に呼び出されていたポケモンまで、それに呼応して暴れ始めた。

もうつきあっていられない。

私は逃げる。

そう、手記はまとめられていた。

逃げる、か。

命の危険があるならそれも手だろう。だが、タイムマシンという超危険な代物を放置して逃げるとは、どういうことか。

それでも責任のある大人か。

この研究をしているという事は、それだけの責任を背負っている、と言う事だろうに。それを放置して逃げたのか。

どうしようもない。

私は天を仰ぐ。

私で人体実験していた連中も、こんな感じの言い訳をユウリお姉ちゃんにしたんだろうなと思う。

しかもこのクリスタルの成長ぶり。暴走ぶり。

放置していたら、いずれ取り返しがつかない事になるのは確定だ。フトゥー博士の似姿は、ひょっとして。

一度、ワープポータルで戻る。その時に、一通り連絡をする。

一時間ほど横になって、休憩をしていると。

やがてヘリが来た。

ヘリに乗っていたのは、トップと四天王だ。最強の手練れを連れて来たと言う事か。助かる。

驚いているペパーさんとボタンさん。

私は、ヘリが飛んでいくのを見送ると、声を潜めた。

「どれくらい、知っていたんですか」

「前任者が隠していたことですか? 半分というところでしょうね。 タイムマシンについては始めて知りました。 それとクリスタルの異常成長は既に観測していまして、近いうちに私自身が調査に出る予定でした」

「そうですか……」

「急ぎましょう。 この様子だと、恐らくあまり残された時間はないかと思います」

頷く。

いずれにしても、これは文字通り最強の援軍だ。というよりも、トップが来ているということは。

それだけパルデアが、本腰を入れて地方としてこの問題を解決に来ているということを意味している。

一緒に来ていたスタッフが、補給所を設置し始める。

それを横目に、私は戦闘がいつ起きてもおかしくないこと、非常に強力なポケモンが多い事を告げて。

四天王の皆に、注意を促した。

恐らくこれで、最深部までいけるはずだ。

だが、準伝以上のポケモンになると、生物の枠組みを超えて、神と呼ばれる領域に踏み込んでいる事が多い。

もしもそうなると、チャンプ三人、四天王四人の力でも、対処できないかもしれない。

ペパーさんが無言になっている。

何となく、理解出来ているのかも知れない。

とんでもない事になっていると。

やがてその懸念は、当たる事となる。

 

最深部。

外で、激しい戦闘音が続いている。トップと四天王が、最深部で大量に蠢いていた外来種を引き受けてくれているのだ。

そして、最後の観測センターの奧。

其処で待っていたのは、やはりロボットだった。

手酷く傷ついていて、フトゥー博士の形を真似たことくらいしか分からない。白衣もズタズタ。

もう動いているだけ、という姿だった。

ペパーさんが絶句する。そこで、全てを話したのだフトゥー博士は。

それを聞いて、ボタンさんが口を押さえる。ネモさんだけは、無表情だった。

「アオイくん。 君に頼みたい事がある。 ペパーとともに拡散してしまった外来種を打ち破った強さ。 マフィティフを救う事を、なんら厭わなかった優しさ。 その二つを持っている君にだけ頼めることだ。 君の友達にも」

「……なんでしょうか」

無言で、エレベーターから出る。

そこはおぞましいまでに輝く空間。中央にあるのは、これが。

これが、恐らくはタイムマシンだ。

此処を開く時に、中からわっと未来のポケモンらしい外来種が出て来た。そうなると、タイムマシンは制御不能になっていると言う事で確定だろう。だが、分からない事がある。

もしも、この地を未来の力で染めるつもりなら。

私をよぶ必要なんてなかったはずだ。

むしろ、放置しておくべきだっただろう。どうして私を此処に呼んだのか。

「父さん、これは……」

「タイムマシン、通称楽園。 今の私には、これを制御する……それも無作為に未来からタイムマシンを動かして、力をこの世界に呼び込むことしかできない。 そう、プログラムされたのさ。 私を作った私に」

「!」

「人格などを完璧にコピーしたAIに、「私」はそもそも何も期待していなかったようでね。 私を自分のサブパーツとしか考えていなかった。 だから、こんな呪いを仕込んだと言う事だ。 「私」はペパー……君の事もなんとも思っていなかった。 思っていたかも知れないが、研究で狂い果てたんだ」

ネモさんが、舌打ちするのが分かった。

私も同じ気分だ。

多分、ぞっとするほど暗い目をしていると思う。

ネモさんは、親かは分からないけれど。多分こういう軽蔑すべき大人を見て来たのだと思う。私の場合は、軽蔑すべき大人の方が周りに多かった。

フトゥー博士を摸したロボットが、タイムマシンの中央に立つ。それは一見すると台座にしか見えなかった。

「私を、破壊してくれ。 それで全てが終わる。 この世界に未来の力はまだ早すぎる」

「自壊はできない?」

「できないようにプログラムされている」

「クソッタレぇ!」

ペパーさんが絶叫する。ボタンさんも、同情するようにそっちを見た。

言動から見て、皮肉極まりない。

このフトゥーさんを摸したロボットの方が。よっぽど本人よりも人間らしい。

誰も簡単に狂う。

私は、それを今目にしていた。

「セキュリティが働いた。 「私」はポケモンバトルについては素人だが、それでも世界中のデータをかき集めて、自衛するためのプログラムは組んでいる。 私の中枢になっているのは、その真ん中のパーツだ。 それを破壊してしまってくれ」

「了解……!」

動くのは、同時。

ロボットが操作する機械から、多数のモンスターボールが出現する。

同時に、私とネモさんが、手持ちを展開。少しだけ遅れてボタンさんも。雄叫びを上げながら、ペパーさんも手持ちを展開する。

輝く広場で、血みどろの戦いが始まる。

用意されていたポケモンは、どれも機械で出来た未来のものばかり。

殆ど情報がないが、見た事がある奴は対処できる。

私のラウドボーンと、ネモさんのマスカーニャを主軸に、周囲の敵をねじ伏せていく。ボタンさんのブラッキーは防御を担当。ペパーさんのマフィティフは、勇敢に飛びかかって。怖いだろうに、自分を傷つけた奴がいるかも知れない相手にも、果敢に向かって行く。

かなり手慣れた相手だと感じるが。動きや判断が鈍い。

多分だけれども、フトゥーさんは真面目にこの戦闘プログラムを組んでいるはずだが。

ロボットの方が、必死に抗っている。

だから、ポケモン達も動きが鈍い。

私は突貫すると、装置を直に狙う。私に襲いかかってくるハリテヤマの機械版。だけれども、マフィティフが横から食いついて、押し返す。

そのまま突撃。

そして、私は気を乗せたフルパワーで、捨て身のタックルを叩き込んでいた。

コンソールらしい機械が破損する。吹っ飛んで、粉々に千切れる。だけれども、すぐにクリスタルに覆われていく。

この技、反動が酷い。流石に定点目標には外さないが、それでも全身が砕けるようである。

歯を食いしばる。まだ舞える。私は無言で跳躍すると。踵落としを続けて叩き込む。

クリスタルが補助していようと、これだけ破壊すれば。

地面に、ひびが入る程の一撃を入れる。

周囲を見ると、既に決着はついていた。傷ついたマフィティフを、ペパーさんが戻している。

ボタンさんは、ブラッキーを戻し。肩で息をついている。

大丈夫。ネモさんのマスカーニャも私もラウドボーンもまだいける。呼吸を整え、私が自己再生をしようとした瞬間だった。

ぞくりと、全身に悪寒が走る。

ペパーさんが突っ込んできて、私を突き飛ばす。どんと、私がいた場所を何かが踏み砕いていた。

それは、ミライドン。

いや違う。一回り大きい。そして、明らかに雰囲気が違う。獰猛で、残虐で。

間違いない。こいつが、別の博士が書いていた手記の。ミライドンの二体目。そして、私の手持ちのミライドンを、徹底的に傷つけ、そして追った奴だ。

「モンスターボール、強制ロック。 タイムマシン、最大出力で稼働するべく調整中」

フトゥー博士ロボットが呟く。

もう、制御装置は壊れているはずなのに。明らかに、抵抗しようとしている様子が痛々しい。

フトゥー博士という人は、人間なのに本気で壊れてしまったのだ。

そして、その呟きは。

絵空事ではなかった。

ボタンさんが、悲鳴を上げる。必死に手持ちのノートパソコンのキーボードを叩いているが、効果はないようだ。

「だめだ、ボールがロックされてる! ハッキングだ、それも多分未来技術の!」

「アオイ! ペパーさん!」

「俺はいい……アオイは……」

「くっ……! なんとか……やれます!」

立ち上がる私。どうやらマスカーニャもラウドボーンも、ボールに封じられてしまったらしい。

モンスターボールにポケモンは紐づけられている。未来の技術があれば、こんな芸当もできるのか。

しかもこの今目の前にいるミライドン。

こいつ、多分伝説級の実力だ。ユウリお姉ちゃんだったら、生身で制圧出来るだろうけれども。私じゃあ。

それでも、顔を上げる。ユウリお姉ちゃんだったらそうする。そう思ったからだ。

「かあっ!」

裂帛の咆哮。

ネモさんだ。いわゆる気合い溜めである。

やっぱり、格闘戦できるのだ。ただ、恐らく、一発でも貰ったらもう後がないと思う。ネモさんは体力がない。それを申告しているし、私も見てきている。

迷っている暇はない。私も、即座に舞い始める。

伝説級を相手に、そのままの打撃が通るとは思えないからだ。

「まだ抵抗するか。 だが無駄だ。 そのミライドンの戦力は、未来から呼び出したポケモンの中でも最強。 他のポケモンが束になってもかなわなかったほどの代物だ」

博士ロボットのAIは、完全に悪意に乗っ取られている。

タイムマシンの破壊を決意したAIとはとても思えない。これを作った人は、本当に最後には狂気に落ちていたんだと分かる。

ミライドンが、明らかに侮った目で、突貫するネモさんを見やる。

尻尾を振るって迎撃しようとした瞬間、ネモさんがかき消えて、懐に入り込み。

踏み込むと同時に、拳のラッシュを叩き込んでいた。

いわゆるインファイトだ。

それも、明らかに装甲を貫いた。

金属が拉げる音がして、ミライドンが思わず体勢を崩す。私は、その間に、必死にもう一度舞う。

インファイトは火力が絶大であると同時に、反動が強烈な技だ。

どうしても放った後に、大きな隙が出来る。

飛び出すペパーさん。

動き出すのは、どうしても体格が大きいミライドンが先。それを理解している上で、ネモさんは突貫した。皆を少しでも長く生かすために。だからそのネモさんを救うために、ペパーさんも動く。

ネモさんに飛びついて、押しのけるペパーさん。ミライドンが拳を振り下ろし。地面を粉々に砕く。

直撃はしなかったが、一撃の余波を喰らって、ペパーさんが吹っ飛ぶ。更に、必死に立ち上がろうとしているネモさんに、ミライドンが尻尾を叩き付けて。吹っ飛んだネモさんは、受け身も取れずに、壁に叩き付けられて。ずり落ちていた。

ミライドンが、私を見る。

その時。私は。

剣の舞いと、龍の舞いをそれぞれ舞い終えて。全身の身体能力を、極限まで引き上げていた。

勝負は一瞬だ。

削り尽くす。

「ポケモンを封じてもまだ抵抗するか。 だったら粉々に砕けミライドン! 素晴らしい未来の力を得るためだ! 多少の犠牲など仕方が無い!」

「黙れ悪魔っ!」

突貫。もう、アレはフトゥー博士のロボットでも、それを作る時に気が狂ったフトゥー博士の悪霊ですらもない。

妄執に狂った、ただの木偶人形だ。

ミライドンが、尻尾を叩き付けてくる。それを残像を作って回避。そして私は、ゼロ距離から踏み込んで、正拳突きを叩き込んでいた。

ユウリお姉ちゃんは舞い無しで、蹴り一発で戦車を吹っ飛ばすが。私には、そこまでの火力は出せない。

だがそれでも、ミライドンの。さっきネモさんのインファイトがもろに入った装甲に、更に痛打と罅が入る。

ミライドンが悲鳴を上げてのけぞる。

まだだ。攻めきらなければ負ける。

私は血を吐き捨てながら、そのまま跳躍し、ミライドンの顎を蹴り上げる。

空中で体勢を立て直すと、ぐらついたミライドンに踵落としを叩き込む。

着地。

ミライドンは、二度連続で頭を痛打して、それで明らかに動きが揺らいでいる。そこに私は、更に気を変化させて、冷気を纏わせた拳を叩き込む。装甲を確実にブチ抜いて。明らかに内部まで冷気が通る。

機械で覆った装甲はあっても、やっぱり中身はナマモノだ。そういう手応えが、確かにあった。

血に塗れた拳を引き抜く。更に続いて、と思った瞬間。

ミライドンが、凄まじい勢いで、全身から雷撃を放っていた。

飛び離れるが、それでも直撃は避けられない。

地面に転がるのが分かる。全身が痛い。それはどうでもいい。でも、痛みは体からの警告だ。

動けない。ミライドンが、こっちに来るのが見える。凄まじいまでに殺気だっていて、それで此方を殺すつもりなのが分かった。

タイムマシンも、まだ動いている。多分博士のロボットを壊さないと止まらない。誰か、何か叫んでいる。

ボタンさんだ。

「アオイ! 今調べた! ボール一つ動く!」

「……」

見える。

私のミライドンが入ったボール。一匹目。戦いが怖くて、ライドポケモンとして活躍してきた子。そういえば、この子が入っているボールは。ペパーさんに貰った特別製。ハッキングで潰されていないのは、それが原因か。

駄目だ、トラウマを植え付けた相手と、戦えるとは思えない。だけれども、もうこの一匹目に賭けるしかない。

情けないな。自分の力で、此処を突破出来ないなんて。

でも、それをバネに、次に頑張れば良い。何より、私一人でできる事は限界があるから、社長を目指したんじゃないか。

跳ね起きる。ミライドン二匹目が、明らかに怯んだ。どうしてまだ動ける。どうしてまだ生きている。そう、顔に書いている。ポケモンも表情はしっかり豊かだ。だから、私はくすりと一つ笑えた。

そして、最後の力で、ミライドンのボールを放る。

ボールから飛び出したミライドンは、私を、それに因縁の相手を見て明らかに怯む。だけど、私は言う。

「お願いミライドン。 みんな、もう動けない」

「ア……」

「大丈夫。 みんなで弱らせた。 今なら……勝てる!」

「アギャス!」

ミライドンは、ボロボロの私を見て、それで奮起する。生意気な。二匹目が吠え猛る。だが、ミライドンは向き直ると、全力で組み付いていった。

体格差がある。本来だったら勝てる相手じゃない。

だけれども、私のミライドンは、気迫が完全に違った。この狭い土地の裸の王様に、体ごとぶつかっていく。

それだけじゃない。

私のミライドンの体が光っている。此処にあるテラスタルのエネルギーを吸収しているのだ。相手も同じように吸収しているが、どういうことか。明らかに、私のミライドンの方が、判断が速かった。

博士のロボット。動きが鈍くなっている。度重なる異常事態に困惑している。それを、本来のAIが必死に抵抗して、動きを鈍らせているのか。

最後に、少しだけ、

博士のロボットが、笑ったような気がした。

全テラスタルエネルギーを吸収した私のミライドンが、全力で二匹目にそれを叩き込む。

二匹目も、吸収したテラスタルエネルギーで応戦しようとするが、吸収したエネルギーの量が少ない。

私は、膝を突く。もう立っているのは多分無理だ。視界も薄れ始めている。

視界の中で、私を守ろうと立ちふさがった私のミライドンは。

フルパワーで、この土地に君臨した暴君を、吹き飛ばしていた。

完全に動けなくなって、地面に伸びた暴君。

それで、悪意のプログラムはフリーズしたのだろう。

フトゥー博士のロボットが、語りかけてくる。

「ありがとう……。 私の最後の力で、タイムマシンを止める。 余剰エネルギーを全て使って。 それで私ごと、管理システムを未来に飛ばしてしまう。 それで、全て終わりだ。 管理システムがなければ、このタイムマシンも動かない」

「父さん……」

「ペパー、大きくなったな。 できれば本人にこの言葉を言わせたかったが、妄執に狂ってしまったフトゥー博士はもう君の事など考えていなかった。 私は何度も諌めたが、どうでもいいとまで言われた。 だが、きっと狂う前のフトゥー博士なら、今の君達を見て、きっと誇りに思うはずだ」

光が、収束していく。

クリスタルの成長が止まるのが、分かった。

薄れ行く視界と意識の中で、博士のロボットが、手を上げて最期の挨拶をしているのが見えた。

「私も、未来を直接見てみたい。 そういう気持ちもある。 この辺りは、作り手に似たのだろう」

「一緒に戦ってくれて……嬉しかったです」

「ああ。 未来のパルデアを背負うもの。 さらばだ」

ぶつんと、其処にあった過剰すぎるテラスタルエネルギーの供給が途切れるのが肌で分かった。

同時に、私はボタンさんに抱き留められる。唯一動けるのがボタンさんだけだった。どうやら、もう起きている事すら出来なくなったようだった。

少し、笑ってしまう。よりにもよって、一番からだが弱いだろうボタンさんに。

人の気配。トップ達だろうか。

これなら、誰も死なずに済みそうだ。私は、もう何も見えない中。笑みを浮かべていた。

 

4、ひとときの平穏

 

病院は好きじゃ無い。

だけれども、目が覚めたら病院だったのは仕方が無いだろう。あんな強烈な雷撃をもろに喰らったのだ。

体が一瞬で消し炭にならなかっただけでも、頑張った方である。

意識が戻って、それで周囲を確認。

骨とかは折れていないけれど、看護師代わりのラッキーがいて。すぐにナースコールを押していた。

医師が来るまでは、横になってそのままでいる。自己再生でもしようと思ったけれども、あれは気を使う技だ。

下手に使うと、体調を更に悪化させかねなかった。

医師が来た。多分トップが雇っているしっかりした先生だろう。順番に、説明をしてくれる。

やはり電撃によるダメージが大きかったらしい。

体の彼方此方に酷いダメージがあって、手術をしたそうだ。

回復はそれなりにしていて、後はしばらく治療に専念すれば出られるとか。

私は、ゆっくり声を出して、聞いていく。

ネモさん。ペパーさん。それにボタンさん。

ネモさんは、大丈夫だ。私より先に退院したとか。あんな猛烈な尻尾の一撃をもろに食らったのに。

やっぱり足りないのは体力だけか。

ペパーさんは怪我はたいしたことはなくて、ただそれでも数日は喋る事が出来なかったらしい。

でも、もう退院して、今は私が戻ってくるのを待っていると言う事だ。

ボタンさんはかすり傷程度。見舞いにも来てくれたそうである。それは良かった。

あの戦いから、一週間程度が経過しているが。

こんなに長い間、眠ってしまっていたか。

身を起こして良いかと聞いて。許可を得たので、身を起こす。

数日リハビリをしたら、病院を出て良いと言う事だったので。頷いて、すぐにリハビリのメニューを聞く。

手を動かしてみて、大丈夫だと判断。

足も、ちゃんと動く。

欠損箇所もない。

これだったら、多分元通りになる筈だ。

皆にメールを入れる。

ネモさんが、最初に返事をくれた。大丈夫、もう全く問題なし。ポケモンバトル戦ろう。待ってるよ。

そう、ネモさんは一言だけメールをくれた。

ペパーさんは、ありがとうと一言だけ。

ボタンさんは、少し返事が遅れたけれど。無事で良かったと、なんかのキャラクターの顔文字ごと返事をくれた。

少しだけ、嬉しい。

一緒に死線をくぐった。

それだけで、私の本当の意味での仲間は、私とともにあったと言える。

リハビリで、病院の庭に出る。

ミライドンをボールから出すと、元気そうにしていて。私に顔を寄せ付けてくる。ありがとう。そう呟きながら、空を見る。

ミライドンにとっても、ペパーさんにとっても。ついに全てが克服できた。

私も、先に進むべき時が来たのかも知れない。

負けてはいられないな。

私は、リハビリに病院の庭を歩きながら。

そう思ったのだった。

 

(終)