屍王の洞窟
序、小さな歯車
機械は細かい部品が無数に重なりあって出来ている。
この世界にヒト族が機械を持ち込んだらしい事は確からしいのだが。発展しているとは言い難い。その誰にでも使えるという利便性は、性能差でどうしても押し切られてしまうのが実情だ。魔術というライバルがあり。更に錬金術と言うかなわぬ存在がある以上。
複雑で、質の良い材料と、専門の器具がないと作れない機械類は、どうしても隅に追いやられやすい。
大きな街などだと、相応に活躍もしているが。
それでも、相応に過ぎないのは。
この世界において、そもそも人間という種族が、抗えないドラゴンや邪神に追われている立場であり。
世界の大半を支配しているのは荒野で。
其処には専門の訓練を受けた人間でないと太刀打ちできない猛獣やネームドが多数住み着き。
街を離れた人間は匪賊として人間の敵と化し。
更に言うならば、例え大きな街であっても、ドラゴンや邪神に襲われると、潰される可能性があるから、なのだろう。
一度作れば誰にでも使えるが。
作るまでに多くの技術がいるものは。
どうしても継承が難しい。
そして個人の知識で継承が出来る魔術や錬金術に比べて。
どうしても機械技術は、道具という非常に難しいものが必要になる。
ドラゴンや邪神に蹂躙され。
結果失われてしまった偉大な機械技術も多数あったに違いない。
口述でどうにかなってしまう魔術や錬金術とは。
その辺りが決定的に違う。
ましてや機械技術では。
どれだけ頑張っても、ドラゴンや邪神を倒すのは厳しすぎる。
あたしは、それらを再確認しながら。
コルちゃんの大事な箱の。
歯車を、レンズを使って見ていた。
歯車の造りはそれほど難しくない。
文字通りの、でこぼこに「歯」状の構造物がついた円形のものだ。大きさは小指の爪の半分ほどしかない。
だが、コルちゃんの大事な箱は。
この歯車が壊れたので、動かなくなった。
それだけで動かなくなってしまうデリケートな機械。
何をするものなのだろう。
色々な本を読んで、レシピを考える。
形状を再現するのが。
まず難しい。
ハンマーだと叩いても此処まで精密なものは作れない。
しばし悩んでいたが。
プラフタが、アドバイスをくれる。
「話は聞きました。 それはコルネリアの箱に使う歯車なのですね」
「うん。 金属で作ればいいとは思うのだけれどね。 さて、此処まで細かい細工をどうしたものか」
「基本的にこういった機械は専門の器具で作ります。 此処まで小さい歯車だと、或いはかなりの特注品かも知れませんね」
特注品か。
それだと、下手をするとロストテクノロジーかも知れない。
大きな街などに行けば、替えの部品があったり。
或いは作ったり出来るかもしれないが。
それさえ不可能かも知れない、という事だ。
「それでプラフタ。 錬金術でこれを修理する方法について何だけれども」
「アドバイスとしては、「修復」と考えない事ですね」
「ふむ……?」
なるほど。
修復と考えない事、か。
見ると、歯車は欠けているが。
これを補う仕組みにすればいいわけか。
少し思いついた事がある。
まず、レシピを練る。
プラフタに見せると、やはり駄目出しが来る。昔は十回以上駄目出しされる事もあったけれど。
プラフタは基本的に、駄目出しの度に怒ることがない。
非常に教え方が丁寧だ。
一方で、自分が侮辱されている、などと感じたりすると、沸点は非常に低い様子なので。この辺りは恐らくだけれども。
本来の性格が、この丁寧な方なのだろう。
対人関係の気の短さは、やはりあたしが推察したとおり、自分と相棒だった誰かの失敗に起因している。
そう、状況証拠が幾らでも出てくるのだ。
やがて、あたしが考えたレシピを、プラフタが良しとしてくれたので。
早速取りかかる。
まず用意するのは、型である。
とはいっても、ちょっとばかり特殊な使い方をする。
まず錬金術によって、インゴットを変質させるのだが。
此処で、極限まで柔らかくするのだ。
中和剤も比較的品質が低いものをつかう。
そして柔らかくした金属に。
破損したままの歯車を埋め込み。
型を取る。
その後、型から歯車を外し。綺麗に「無事な方の」型が取れている事を確認。その内右半分を切りおとす。
また別の作業で使うので、切りおとしてしまって構わない。
そして中和剤と変質によって、今度は非常に強い熱耐性を持たせ。
型に、歯車をセットする。
そう。
左右対称である事を利用して。
壊れていない部分の歯を、コレで再現できるのだ。
後は、適当な金属をほんのちょっと流し込むだけ。この作業は相応に気を遣うが。それでも今までの錬金術に比べれば簡単である。
流し込んだ後冷やし、固定化して。
型から外して、完全な形になった歯車、完成である。
この歯車に使っていた金属は、元々それほど質が良いインゴットではなかった。
少し考え込んでから。
型を完成品で作り直す。
型に使う金属は、さっき型にしたものを再変質させ。
再利用した。
新しい型には、元になった歯車もセットしてみて。欠けている場所だけがおかしくなっていた事も確認。つまりぴったりはまった。
レンズを使って、精度はきっちり確認したので、これで大丈夫な筈だ。
後は金属を流し込む。
せっかくなので、比較的品質の高い、錆びることのないように変質させたインゴットを流し込み。
強度も極限まで上げる。
ちょっと蛇足かなと思ったけれども。
少なくともこれでノウハウは確保できた。
コルちゃんが、違う歯車が壊れたと言ってきても。
すぐに直す事が出来るだろう。
ハロルさんの所に持ち込む。
ハロルさんは、出来が違う二つの歯車を見て。一つは修復したもの。もう一つは新しく作ったものと、すぐに理解したようだった。
「なるほどな。 型か何かを使ったか?」
「分かります?」
「ああ。 精度も悪くない」
コルちゃんの箱に、歯車を組み込み。
ぴったりとはまった。
時にコレは。
一体何をする道具なのか。
聞いてみると、ハロルさんは、試運転も兼ねて動かしてくれた。
箱の横にねじ巻きがあり。それを巻くことによって、勝手に動き出すようになるのである。
しばし聞いていると。
音が流れ始めた。
箱の上部にある、金属の串状の構造が。
持ち上げられては、叩き付けられて。
音を奏でているのだ。
何だか優しい曲だ。
「これはオルゴールと言ってな。 機械の技術によって、音を奏でる道具だ。 ねじを巻くだけで使える事と、何よりとても音が優しい事もあって、ロストテクノロジーにならず、大きな都市ではまだ細々と生産が続いているそうだ」
「大事なもの……」
「ああ、何かの思い出や、プレゼントの品になるかも知れないな」
ハロルさんは、箱を手渡してくれる。
あたしは貰った料金の半分をハロルさんに手渡す。
少し困ったように眉をひそめたハロルさんだが。
しかしながら、あたしだけではどうにもならないのを、手を貸してくれたのは事実だ。
渋々という風情で、その八割だけを受け取ってくれた。
「俺は構造を知っているだけで、直す方法は知らなかった。 直したのはお前だ、ソフィー。 でも、お前の言いたいことも分かるから、アドバイス料は受け取る」
「有難うございます」
「なあ、ソフィー。 もう死んだ奴のことは、いい加減忘れてやれないか」
「それは無理です」
ハロルさんの言葉でも。
それだけは許せない。
あたしの性格は知っているのだろう。アンニュイそうな様子で、ハロルさんは嘆息すると、今日はもう店じまいだと言った。
店を出る。
多少感情を殺すのに苦労したが。
それでもどうにか押さえ込む事が出来た。
呼吸を整える。
多少ふらつきながらも、通りを歩く。
コルちゃんの店はすぐ近くなのだが。
何だか知らないけれども、妙に距離があるように感じてしまう。周囲の光景が歪んでいる気さえした。
まだだ。
あたしは、これから。
準備を整えて。
ノーライフキングの巣穴を叩かなければならない。
邪悪の権化であり。
この近辺における最大の人間の脅威。
邪神が現れるかも知れない、というこの状況下で。
奴を生かしておく訳にはいかないのだ。
いつのまにか。
コルちゃんの店に来ていた。
この間からお店で働いているガンマ22ちゃんは、見当たらない。お使いにでも出しているのか。
コルちゃんは。
完全に表情が消えているあたしを見て。
露骨に分かるくらい震えあがった。
無言であたしは、コルちゃんに箱を差し出す。
「直ったよ」
「あ、ありがとうございます、なのです」
震える小さな手が。
オルゴールを受け取る。
あたしはまだ煮えくりかえる怒りを抑えるので精一杯だ。分かってはいても、こればかりはどうにもならないのだ。
しばし呼吸を整えた後。
視線を向ける。
あたしのアトリエの側。
少し小高い所だ。
教会や。この通りを見下ろすことが出来る。
其処で話そう、という意味である。
コルちゃんは、夕方までは仕事をしているので、その後になるが。
意思は通じた。
あたしはアトリエに戻ると、次の戦いで必要になるだろう道具類を、あらかた準備していく。
そうすれば、夕方なんてあっという間だ。
しばし準備を続けていると。
コルちゃんが来た。
気配で分かる。
あたしも歴戦を積み重ねて、更に常時拡張肉体を飛ばしている状態だ。
現在は拡張肉体を六冊まで増やしている。
そのせいもあって。
もはや近くに何かが近づいたら。
特にそれが人間サイズの場合は。
即応できるようになっていた。
爆弾。
シュタルレヘルンと名付けた、更に強力な冷気爆弾を作り上げると。
プラフタに見せて。
62点を貰う。
まあこんなものか。
難儀なことに、人形になってもプラフタは錬金術を使えない。本当にヒト族の、才能を持った者にしか使えないのだ。
人形の肉体を持っている時点で使えなくなる、という極めて不便なものが錬金術なのである。
こんな面倒なものを、本当に誰が作ってしまったのか。
ともあれ、作業は一段落したので、外に出る。
丘に、コルちゃんは待っていた。
もう腹の虫は収まっていたし。
あたしは、コルちゃんの隣に座る。
「ソフィーさん。 有難うございました。 これは、ソフィーさんにはあまり聞きたくない話だとは思うのですけれど。 お父さんとの思い出なのです」
「……」
その単語は聞くだけで殺意がわき上がってくるが。
コルちゃんはオルゴールを鳴らす。
優しい音楽だ。
子守歌かも知れない。
コレ一つが、芸術品と言って過言ではない品なのだろう。コルちゃんは商人だが、この街に来た時点ではさほど裕福にも思えなかった。
それに、彼女は言っていた。
ホムの大商人は、条件が揃うとたくさんの子供を作ると。
つまり、子供にいちいち名前を付けていたコルちゃんの親は。
恐らくそれほど裕福なホムではなかったのだろう。
音楽が終わる。
ねじを巻き続けないと、音楽が止まってしまう。
不完全な品だ。
魔術で補強するなり。
錬金術を使うなりすれば。
ずっと音楽を奏でるようにする事も出来るだろう。
だが、この金属が作り出す独特の優しい音色は。
確かに代え難い価値を感じる。
職人が魂を込めて作り上げた品なのだと、あたしにも一発で分かるほどに、である。
ぎゅっとオルゴールを抱きしめたコルちゃんは、涙を拭う。
「お父さんとは離ればなれになってしまったのです。 何年か前。 旅先で、匪賊の襲撃を受けたのです。 用心棒が匪賊から守ってくれました。 でも、匪賊の規模が大きくて、皆が散り散りになってしまったのです」
よくある悲劇だ。
特にホムの商人は匪賊に襲われやすいのである。
コルちゃんの家が、不幸だった訳では無いだろう。
「深手を負ったお母さんは間もなくなくなりました。 お父さんは、討伐部隊が匪賊の住処を襲撃したときには、姿が見えませんでした。 恐らくは、逃げのびたのは良いけれど、方角が分からなくなってしまったのか、或いは恐怖で記憶を無くしてしまったのか、どちらかなのではないだろうかという話でした」
そうだろうか。
コルちゃんの一族は、錬金術を使えるのか確認。
あたしからはその単語は使いたくない。
聞くだけなら我慢できるが。
自分から口にしたら、多分殺戮の権化とかして暴れ出すだろう。
コルちゃんは、頷く。少なくともコルちゃんの父親は使えたという。
「ホムの錬金術は体積を犠牲にするんでしょう? ひょっとして、とても小さくなることで、匪賊から逃れたのではないのかな」
「!」
「他に匪賊に捕まった人は?」
「何人かいましたが、いずれも殺されて食べられてしまったのです」
ならば、その可能性は余計に高い。
勿論他の人を見捨てるのはあまり褒められた行動では無いが。
だがしかしながら、荒野ではそうやって生き延びなければいけない事もある。コルちゃんの事を思って、そうしたのかも知れない。
反吐が出る。
コルちゃんのはそんなに良い存在だったのに。
あたしのは。
大きく嘆息。
呼吸を整える。
いずれにしても、涙ぐみながら、希望が見えたとオルゴールを抱きしめているコルちゃんの側で、暴発するわけにもいかない。
あたしは立ち上がると。
何度もねじを巻いて。
オルゴールを鳴らしているコルちゃんを残して。
その場を後にしていた。
1、死の洞窟へ
充分に準備を整えた後、まずは東の街へ向かう。
旅人の靴を全員が装備しているほか、今回は荷車を三連編成だ。これは、洞窟の攻略に相応の物資を必要とすると判断したからである。いざという時のための食糧も多めに積んで来ている。
東の街には、急がず慌てず一日で到着。
途中、巡回の自警団と何度かすれ違って、話を聞く。
最近は猛獣もかなり数を減らしているという。
これは猛獣の絶対数が減ったのでは無く。
近づくと殺されると学習して、キルヘン=ベルから離れたのだろう、という事だ。
更に、ホルストさんも珍しく外に出ていた。
キルヘン=ベル近郊を見回って、緑化できる土地がないか、見当を付けるためだろう。旅人の靴を履き、あたしが作った錬金術の道具でフル装備しているホルストさんは。腰に剣を帯びていて。
現役時代の、凄腕の剣士だった時代を、取り戻したようだった。
仕事を邪魔するわけにもいかないので、そのまま一礼だけして通り過ぎる。
街道の途中から、もう黄金の稲穂が見えていた。
二毛作で麦を作っている東の街だ。
森を拡げたことで保水力が上がり。
あたしの土地活性剤で、畑も強烈に収穫力が上がっている。
一方で、全部の土地でいきなり麦を育てるのでは無くて、計画的に収穫もしている様子で。
畑と、そうではない場所が。
かなり分かり易く区切られていた。
働いている農民と自警団が、あたしたちに気付くと敬礼してくる。
この街を救ったのはそれほど前の事では無いが。
それでも、感謝をしてくれているのは嬉しい。
街に入ると、以前は露骨だった貧困の臭いが、かなり緩和されている。
家などは補修ラッシュが起きていて。
防御壁もしっかり作り直されていた。
ミゲルさんが来る。
事前に伝令は言っていたし。
作戦の開始を喜んでいるのは、恐らくはミゲルさんだろう。
ミゲルさん自身も、多少格好がこぎれいになったかも知れない。
前は寝る間もないような状態で働いていたようだから。
これだけ街が改善したのなら。
休む余裕も出来ているだろう。
「ソフィー殿。 よう来てくれた」
「かなり街の状況は改善したようですね」
「おかげさまで助かっている。 嬉しい事に住民も少しずつ増え始めている」
街で傭兵を少し雇ったという。
それと同時に、錬金術による復興が行われたと聞いて。他の街に離れた住民が、少しずつ戻ってきているそうだ。
いずれキルヘン=ベルの規模が拡大したら。
合併してしまうのも有りかも知れない。
街道に沿って街を拡げて。
大きな一つの街にしてしまうのだ。
川が途中幾つか流れているから。
それを達成出来れば。万単位の人間を養える街が、また一つ新しく誕生する事になるだろう。
万を超える住民がいる街は、十を超えない。
十万を超える街に至っては、両大国の首都だけだ。
そんなこの世界である。
人口が万を超えるのが、如何なる意味を持つかなど、言う間でも無いだろう。
ただ、そのためには、やはりドラゴンが攻め寄せたとき。
撃退出来る程度の戦力はどうしても必要になってくる。
邪神の襲来も考慮に入れなければならない。
一旦街で休憩した後。
ミゲルさんの家に案内して貰う。
恐らく、どの住民も、一番苦しかったとき。ミゲルさんが一番身を粉にしていたことを覚えているのだろう。
家の中は質素ながら。
かなり綺麗になっていたし。
ものも増えていた。
格好良い剣も飾られている。
小さな鍛冶屋があったが。
其処で作ったもので。この街のシンボルになれば良いと、ミゲルさんの家に献上されたものであるそうだ。
「これを持って私もノーライフキングの巣穴に攻めこみたい所だが、残念ながら私はそれほどの武力を持たないし、この街の管理もしなければならない。 ソフィー殿。 補給と支援は任せて欲しい。 周辺の民の悲願である、巨悪の討伐をお願いしたく」
「分かっています」
ミゲルさんに頭を下げられてしまうと。
此方としても、はいとしか言えない。
この人は誠実で。
最前線で必ずしも有能に働けるわけではないが。
やるべき事を確実にこなして行く事で。
堅実に全てを解消していく事が出来る。
そんな得がたい人材だ。
奥さんの血色も少し良くなっているようで。
もう少し体調が回復したら、また子供を作ることを考えてもいいのではないかと、あたしは思ったが。
いちいちそういう事は口にしない。
一晩軽く休んで。
翌朝、東の街の自警団員数名に旅人の靴を提供。
共に街を出て、北上する。
此処からは川沿いに進み。
途中に現れる猛獣を或いは威嚇して追い払い。
或いは蹴散らして。
程なく、山裾に出る。
この山を越え。
複雑に入り組んでいる山の中腹にある洞窟が、ノーライフキングの巣穴だ。おばあちゃんが封印してもなお、外に手下を繰り出してくる鬼畜外道。根絶の力を己に使った世界の悪そのもの。
山の周辺には。崩れた杭が打ち込まれた痕がある。
これ以上進むな。
そういう意味だ。
だが今回は進む。
自警団の戦士達には。此処にキャンプを作ってもらう。
周辺にはネームドはいないし。
彼らもこの荒野で暮らしている戦士だ。
あたしも準備はしてきている。
幾つか、道具を持ってきた。
周辺に自動回復を展開する魔術を展開する宝玉。これは深核を変質させたもので。深核の強烈な力を利用して作ったものだ。
おいておくだけで、体力は一気に回復するし。
傷も徐々に治っていく。
ただまだ試作段階で、戦闘時に使えるほどでは無いので。
今回キャンプの中心に置いておくくらいには良いだろうと言う事で、持ってきた品である。
山を越えるのに一刻。
なに、枯れ果てた禿げ山だ。
迷う恐れなどない。
オスカーに聞いてみるが、植物の声さえしないという。
川の水源はもう少し北の山で。
その辺りには、深い森が拡がっているらしいのだが。
其処まで行かないと、基本的に大地は荒れ果て。
猛獣はいても。
緑はほぼないのだ。
山を降り。
そして、ノーライフキングの巣穴を確認。
周囲にネームドや猛獣が大挙して集まっていた事もあったらしいが。
今は静かだ。
入り口にはおばあちゃんが張った結界がまだ残っている。
淡く輝くそれは。
虹色の光を、周囲に放ち続けていた。
フリッツさんが頷く。
内部はかなり広いが。
何処にどんな罠があり。
何がどこから出てくるかまったく分からない危険地帯だ。
精神を操作された匪賊や。
動く屍も、相応の数が迎撃してくることが簡単に推察できる。
となれば、油断すれば即座の死が待っていると見て良いだろう。
入り口の側につく。
自然洞窟の場合、蝙蝠が住み着いたりすると。
入り口付近は分厚く糞が堆積し。
大量の虫が湧いていたりするのだけれども。
この洞窟にそれはない。
むしろ、気付かず入り込んでしまった可哀想な蝙蝠が。
干涸らびて死んでいる姿さえ見受けられた。
つまり入り口でさえ。
入ってきた相手を逃がさないし、許しもしないと言う訳だ。
そして、プラフタが、口元を抑えた。
「これは。 やはり根絶の力は、まだ残っています」
「あの谷と同じくらい?」
「いえ、この強力な結界でかなり弱まっているようです。 ただ、この様子では……中に尋常な生物はいないでしょう」
「そう」
あたしは無造作に。
干涸らびて死んでいたはずの蝙蝠が、飛びかかってきたのを。見もせず、指を鳴らし。拡張肉体が展開した魔術で焼き払った。
同時に、大量の気配が生じる。
うめき声と同時に。
洞窟の中からも。
外からも。
土が崩れ。
大量の白骨死体が、立ち上がってくる。
まだこんなにいたか。
いや、恐らくこれは、ノーライフキングの支配範囲に入っているからだろう。前に東の街の近辺で襲ってきた連中は、ノーライフキングが作り上げた軍団の内、比較的強力で、遠隔操作が可能だった奴ら。
此奴らはそれよりも弱く。
近くでしか動かせない者達だ。
「下がりつつ迎撃!」
フリッツさんの指示通り。
荷車を引きながら、後退。追いすがって来る死体どもを薙ぎ払いながら距離を取る。
拡張肉体が片っ端から魔術を展開して焼き払う中。
あたしも杖を振るって、掴みかかってきた白骨死体を吹っ飛ばし、木っ端微塵子にした。グナーデリングでパワーが上がっているのだ。
ただの白骨死体などこの通りである。
包囲網をすぐに抜けると。
モニカが詠唱を完了させる。
そして、剣を鞘に収めた。
ああ、アレをやる気か。
あたしは耳を塞ぐ。
怪訝そうにするジュリオさん。
モニカは、手を広げながら。聖歌を歌い始める。同時に、周囲がミルク色の光に満たされる。
いわゆるターンアンデッド。
この世に留まっている不死者に、致命傷を与える魔術だ。
モニカの使う奴は、周囲全域にそれを放つのでは無く。
指向性を持たせて、意図した方向に展開することが出来る。
言うまでも無く極めて強力な魔術であり。
単純な火力は兎も角。
アンデッドに対する攻撃性能という点では、文字通り一撃必殺と言える。
プラフタが慌ててあたしの後ろに下がったのも無理は無い。
あれを浴びてしまえば、どうなるか自信が無かったのだろう。
左右から迫ってくるアンデッドどもは、フリッツさんとジュリオさんが寄せ付けないし。たまに更に後ろに回り込んでくる奴も、オスカーとレオンさんが蹴散らす。
ハロルさんは周囲に目を光らせ、奇襲を狙って来る奴を周囲に警告。
自身も長身銃で、次々アンデッドどもを撃ち抜いていた。
そして正面から来る奴は、モニカが展開している聖歌でまとめて蒸発。
文字通り、骨が溶け砕けているのは、見ていて良い気持ちはしない。
モニカの側にはコルちゃんがついて、溶けながらも接近する奴を押し返しているが。
これはもう、あたしが手を出すまでも無いだろう。
激しくも短い戦いは、間もなく終わった。
ノーライフキングの住処の周辺と。
入り口付近にいた敵については、掃討完了とみて良いだろう。
モニカは流石に疲れたようで、あたしが栄養剤を渡すと、一気に飲み干す。
一度キャンプにまで戻る。
大量の骨は。
今までノーライフキングに殺された人々や、動物たちだ。
カタキはとってやらなければなるまい。
キャンプで休養。
今度は、見張りを東の街の自警団に任せ。
それぞれ武器の整備。
弾薬の補充。
休憩に当てる。
そして、あたしは。
荷車から、次の道具を取り出していた。
今回の洞窟を攻略するために。
作って置いたものだ。
とはいっても、そんなに大した造りの品ではないが。
形としてはじょうごのようなもので。
口元に当てることで、音に指向性を持たせ、遠くに届かせることが出来る。
仕組みとしては、このじょうご部分をインゴットを薄くする事で加工しているのだけれども。
非常に薄くする事で。
振動しやすくしている。
そうすることによって。
音が何倍にも増幅され。
そして遠くへ届く仕組みになっているのである。
更に魔術も自動展開するようにしてあり。
コレを使う事で。
洞窟の深部へ、モニカの使う聖歌を増幅して、直接叩き込む事が可能となるのである。
どうせ入り口付近で奇襲してくるのは目に見えていたし。
内部にも戦力が待ち構えているのは分かりきっている。
それだったら、まずは実働戦力をこれによって潰してしまう。
先ほどの小手調べで、敵の戦力が想定通りか、それの五割増しは超えないことは大体見当がついた。
なお、キャンプには。
既に、一瞬でアトリエに戻るための扉。旅人の道しるべが設置してある。
自警団の戦士達は、物珍しそうに見ていたが。
もう少し休憩したい。
周囲に柵を作り。
防御の魔術は展開し。
見張りもいる状態だ。
少しくらい遊ぶのも良いだろう。
交代で何人かずつ、旅人の道しるべを使って、異世界アトリエの中を見せる。
本当に異世界に通じている事。
キルヘン=ベルに出られる事を知ると。
彼らも驚いていた。
「コレは凄い」
「我々の街にこれをおいてくれないか。 すぐにキルヘン=ベルに助けを求める事が出来るし、商人を護衛する手間がなくなる」
「流石にそんなにたくさん簡単には作れないんですよ」
「そ、そうか。 それもそうだな……」
ちなみに、もう一つ作って納品した頃には、コルちゃんは痩せこけてダウン寸前になっていた事もあり。
当面は新しく作らない、とホルストさんには言われている。
まあそれもそうだ。
コルちゃんがいなくなると、非常にキルヘン=ベルにとって困ったことになるし。倒れられたら街全体が風邪を引くようなものだ。
ただ、それを加味しても。
この旅人の道しるべには価値がある。
更に。やりようによっては、機能を解除することも出来る事。
そうすることで敵の追撃を防げることも説明すると。
彼らは大喜びしていた。
「頼もしい」
「大きな街にいる錬金術師も、驚天の奇蹟を起こすと言うが、この道具はそれらにも劣らぬはずだ」
「今後もキルヘン=ベルと我等が街の発展は正に疑いない」
「洞窟に動きが!」
一瞬で、皆の熱狂が醒め。
全員が戦闘態勢になる。
キャンプに飛び込んできたまだ若い女性戦士は、最近東の街に来た傭兵らしい。というか、十代前半だろう。しかも、相当に一桁の数字が低い事は間違いない。
一丁前に剣をぶら下げているし。
話を聞く限り、現時点で既に普通の剣士くらいの腕前はあるらしいので。
足手まといにはならないだろうが。
それでも、幼すぎて少し心配になる。
しかもこの年で各地を旅しているらしく。
親がいないのか。
いるとしたら、それこそ伝承にあるような、猛獣は自分の子供を谷に蹴落として這い上がってきた者だけを育てるとか、お馬鹿な迷信を信じているのか。
そういう親なのか。
見かけも男の子みたいな髪型で、とてもではないが外に出して武者修行させるような姿では無い。
モニカも露骨に眉をひそめていた。
フリッツさんは、意外と平然としていたが。
或いはこのティアナという女の子の力量や将来性を評価しているのかも知れない。
「増援か」
「いえ、壁を展開しているようです」
「壁?」
「はい」
フリッツさんが腰を上げて、コルちゃんとティアナを連れて見に行く。
しばしして。
戻ってきたフリッツさんは。なるほどと呟いていた。
「敵も面白い事を考えよる」
「どうしたんですか」
「入り口を崩壊させた様子だ。 つまり、内部に入らせないようにした、という事だ」
「それは確かに考えましたね」
相手は死者の軍勢。
つまり空気など必要ない。
地盤を不安定にすることで、此方が入り込むのを防いだ、という事だ。
根絶の力を封じる結界は壊れないにしても、此方が踏み込めないようにするというのは手の一つとしてはある。
先ほどの戦闘で。
入り込まれたら負ける、と判断した可能性も高い。
相手は根絶の力を使い、人外と化した存在と言っても。
元は人間。
人間が使う戦術は知り尽くしている。
だが、あたしとしては。
むしろ好都合だ。
「ならばプランBに移りますか」
「そうだな。 それが良かろう」
皆頷く。
プランAは、そのまま敵地に乗り込み、敵の軍勢とトラップを打ち破りながら、ノーライフキングの元まで辿り着き、撃破する案。
これについては、確実に敵の滅びを確認できると言う最大のメリットがある。
その代わり、数々のトラップや、生きている事を考慮しなくて良い敵による奇襲などの、リスクが伴う上。
それらによる消耗を経た果てに、ノーライフキングと戦わなければならないという最大のリスクがある。
そこでプランBだ。
この間のドラゴン戦で、あたしが今全力で砲撃すればどうなるかはよく分かった。そしてこの辺りの地形についても、既に調べはついている。
そして今日の調査で、地図は補強。
どうすれば良いのかも、大体分かっている。
一応念のため、周辺に奴が脱出するための出口がないかを調べてからの作業になるけれども。
それを含めても、二日と掛からないだろう。
もう夕方だ。
今日はキャンプで警戒しながら休む。
警戒は自警団に任せる。
本番は。
明日だ。
2、屍の王の最期
三組に分かれて、探索開始。
周辺の地図を徹底的に埋める。
あたしはプラフタとモニカ。
フリッツさんはコルちゃんとオスカー。
ジュリオさんはハロルさんとレオンさん。
この三組に分かれ、周辺を徹底的に確認。近くを流れている川についても、おかしな流れがないかをチェック。
実は、ノーライフキング討伐作戦発動の前に。
ホルストさんに聞いている。
ノーライフキングを封印したとき。
奴を封印する前に。
少しだけ巣穴に踏み込んだらしい。
すぐに出て戻ったらしいのだが。
その時、奴の住処が地底湖になっているのを見たらしいのだ。
という事は。周辺の川から考えて、かなり深い位置に奴は巣くっている、と見て良いだろう。
そうなると、川の水位などから計算して。
山のかなり奥の方に、奴は住み着いている。
そう判断して良さそうだ。
周辺を調べていく。
途中で猛獣にも遭遇するが。
この辺りは、元々ノーライフキングの庭。
猛獣の方でも、根絶の力を感じ取って、近寄ろうとしないのだろう。経験が浅い個体はともかく、である。
というわけで、周囲を回っても。
強力な猛獣と遭遇する事は無かった。
ただし、別の出入り口も見つからない。
ノーライフキングが、根絶の力を弱める結界のせいで、身動きできないことは分かっている。
もしそうでないのなら、今頃キルヘン=ベルは何度も直接襲撃を受けている筈だ。
此処で重要なのは、横やりを入れられる可能性を徹底的に潰すことで。
ノーライフキングそのものに対しては、倒せる自信がある。
ただし、全員が生きて戻るのが最大の重要点なので。
其処をはき違えないようにも。
徹底的に調査はしなければならないのだ。
もう一日掛けて。
周辺の調査を徹底的に実施。
結論としては。抜け道は無い、という事になった。
肉眼だけで調べたのでは無い。
此方は魔術が使えるのだ。
風の流れなどを確認し。
不自然な穴がないかを徹底的にチェック。
川なども確認し。
水が何処かに不自然に大量に流れ込んでいないかもチェック。
いずれもない、と結論出来た。
勿論魔術で誤魔化している可能性もあるが。
魔術は魔術で探知出来る。
おばあちゃんが張った結界以外に、不自然な魔力は無い。
ならば可能性は一つしかない。
ノーライフキングは穴熊どころか。
モグラを決め込んだ、という事だ。
根絶の力が弱まっているとは言え、文字通り死者を統べる王なのである。いずれ結界の力が切れるのを気長に待ち。
そしてまた根絶の力を使ってパワーアップして。
地上に這い出してくるつもりなのだろう。
小賢しい。
そうは行くか。
こういった時、相手の土俵に乗ってやるほど愚かな事は無い。どんな弱い獣でも、自分の領域でならばある程度立ち回れるものなのである。
ましてや、ノーライフキングは今や弱体化して怖れるに足りないとしても。
油断して掛かれば、手酷いダメージを受ける事になるだろう。
ならば、手は一つだ。
相手が想定していない事をやれば良いのである。
順番に、仕掛けていく。
更に巨大な魔法陣を、奴が潜んでいる山の周囲に描いていく。
あたし自身は、山の頂上まで上がる。
何、大した大きさでもない山だ。
登るのにさほどの苦労はいらない。
準備が整った所で。
あたしは、全員を、山から遠ざけさせる。
側にはプラフタだけ。
彼女は飛ぶ事が出来るからである。
勿論あたしも拡張肉体を展開しているが。
それはそれだ。
もしもの時に備えて。
失敗をリカバーできる要員が必要になる。
フリッツさんに相談して。
この作戦も許可を得ている。
というか、正直な所。
作戦ですらないが。
あたしが片手を上げたのを見て。
コルちゃんが、手を麓でぱたぱた振っているのが見えた。
さて。仕掛けるぞ。
起爆。
魔法陣によって火力を極限まで増幅されたオリフラム二十個が、同時に爆裂。山の中枢部分を打ち砕いた。
更に、それによって山が崩落した瞬間。
あたしが、三刻がかりで詠唱した大火力砲撃を。
山の上から。
脳天をたたき割るようにしてぶち込む。
六つの拡張肉体による補助があるため、七倍の火力による砲撃だ。
それは文字通り。
光が山を溶かし尽くすような光景だった。
衝撃波が複数、山を蹂躙し。
瞬時に赤熱したはげ山が、根こそぎ崩落しながら、溶岩になって地底湖に流れ込んでいく。
どれだけの下僕を隠していようが。
罠を作っていようが。
関係無い。
粉々に消し飛んだだろうそれらと一緒に。
膨大な土砂がノーライフキングのいる場所を埋め尽くす。
何、死によって支配された湖だ。
貴重な生態系もなければ。
植物だって存在し得ない。
根絶の力に覆われた場所がどうなるかは、以前北の谷を見て良く知っている。植物の声さえしないとオスカーが嘆いていたが。
それどころか、他の雑音も一切無かった。
本当に、世界を食い尽くしてしまう力なのだ。根絶というものは。
それを自分のためだけに使い。
強欲のまま何もかもを蹂躙する。
まさにこの世の悪の権化だろう。
おばあちゃんが閉じ込めても、反省する気配さえなかったのは、この間の東の街の難民襲撃でもよく分かっている。
ならばこれが最適の処置だろう。
周囲の地盤が激しい勢いで崩落していく。
埃が舞い上がり。
轟音と共に地底湖が地底湖だったものへと化していく。見えなくても、それくらいは分かる。
爆音と殺戮が収まると。
其処には、赤熱した大地と。
クレーターだけが残っていた。
山が丸ごと岩盤ごと打ち抜かれたのである。
周囲の川も、流れが変わり。
水が激しい勢いで、赤熱した山の残骸とぶつかり合い、水蒸気爆発を何度となく引き起こしていた。
さて、どうなった。
仮にも古豪。
これで死んだのならいいのだけれど。
反撃くらいはしてくるか。
手をかざして見るが、根絶の力を封じる結界は消えていない。
物理的なものではなく。
魔術オンリーでくみ上げたらしい。
なるほど、おばあちゃんのことだ。
山を掘り進められて、別の入り口から脱出される、とかの可能性を考え。
その全てが出来ないように、根絶の力を徹底的に押さえ込んだ、と言う訳だ。
流石である。
しばし無言が続くが。
程なく、赤熱していた溶岩も固まり始め。
熱も収まり始めた。
プラフタが動いたのは、その時だった。
あたしを無言のまま、拡張肉体で突き飛ばす。
同時に、真下から魔術砲撃。
プラフタの拡張肉体、屈強な一双の腕が、半ばから吹き飛ぶ。
溶岩を吹き飛ばしながら、姿を見せたのは。
それはもはや、元が人間とは思えない存在だった。
全身は黄色いローブに覆われていて。
一見すると、背中が曲がった老人に見えるが。
しかしながら、その姿は、無数の肉が寄り集まり。
大量の触手によって構成されている。
雄叫びが上がる。
ふうと、あたしは嘆息。
やはりこれだけでは死んでくれないか。
彼奴が、ノーライフキング。
おばあちゃんでも滅ぼしきれなかったのだ。
今の砲撃も、直撃を受けていれば少し危なかった。
「ソフィー!」
「プラフタ、まだやれる?」
「本を媒介にした簡易魔術と道具での支援限定なら」
「ならば第二段階!」
ハンドサインを出す。
同時に、周囲から放り込まれるのは、ドナークリスタル。
既に溶岩の熱は収まり、周囲の川から水が流れ込んできている。その中に立っているノーライフキングに。
極限の雷撃が炸裂した。
流石に、魔術で大威力砲撃を撃った後。
しかも根絶の力を封じられている状態。
絶叫するノーライフキング。
更に放り込まれるレヘルン。
一気に、川が凍り付いた。
悲鳴を上げているノーライフキングが、氷に半ば埋もれるようにして、動きを封じられる。
その時には、あたしもプラフタも、近くの山肌に着地。
他の面子も、大きく奴を包囲するようにして、展開を終えていた。
「おのれ……! 錬金術師め……!」
今のでも死ななかったか。
全身から煙を上げ。
下半身を完全破壊されたにもかかわらず、ノーライフキングは呪詛の声を上げる余裕がある。
無数の触手が、体を覆っていく様子は。
終末的でさえあった。
根絶の力を封じられても。
まだこれだけの力を残していたか。
だが、想定の範囲内だ。
凍らせたのも。
此処を戦闘できる状態にするため。
雄叫びを上げるノーライフキングに。
全員が一斉に襲いかかった。
まるで大蛇のような巨大な触手が振り回され。
横殴りに叩き付けられてくる。
ジュリオさんが一刀両断にしようとするが。
なんと剣を受け止め、押し返す。
根絶を封じられたとしても。
世界のルールに反逆した魔術師だ。
魔術師の領域を超えている、というわけか。
それに多数の生命を、体内に取り込んだのだろう。その力が、全身から溢れ出しているようである。
ノーライフキングであるくせに。
多数のライフを奪い。
自分のものとして、活用している。
その矛盾したあり方に。
何か疑問を感じることは無いのだろうか。
多数の触手を振り回しながら、ノーライフキングが高速で詠唱を開始。
部下も罠も全て失い。
後がないのだ。
この攻撃部隊を撃退しても、もはや身を隠す場所も無ければ。
ダメージを回復する術も無いだろう。
ならば、狂的に反撃してくるのもよく分かる。
触手を振り回して、フリッツさんさえ押し返しながら。
奴は詠唱を完了。
上空に多数の火球が出現。
降り注いでくる。
広範囲を薙ぎ払う、いわゆるメテオと呼ばれる術式だ。
フリッツさんが、下がれと叫ぶ。
爆裂が連鎖するが。
どうにか誰も巻き込まれずに済む。
ノーライフキングは、本体へ誰も近づかせないように、周囲に制圧攻撃を続けているが。理由は何だ。
あたしは距離を取ったまま、時々軽めの砲撃を叩き込みつつ、常時移動し様子を見る。
触手のリーチは百歩四方。
メテオで薙ぎ払ったのも同じくらいだろう。
つまりその中に入り込まれるのが、何かしらまずいという事だ。
また詠唱を開始するノーライフキング。
プラフタが半壊している拡張肉体を使って、剛速球でフラムを投げつけるが、触手がそれを跳ね返そうとする。
だが、その瞬間に起爆。
触手が吹っ飛ぶ。
しかし、触手は即時再生。
プラフタは、以前自分だった本を手にしているが。
それを媒介に魔術を発動。
無数の光が、矢となってノーライフキングに襲いかかる。
複数の触手を盾にするノーライフキング。
その隙に、フリッツさんが懐に潜り込み、一太刀を浴びせた。
だが、それがノーライフキングが狙っていた瞬間だったらしい。
地面から、無数の錐状の触手が突きだしてくる。
間一髪かわしたフリッツさんだが。
触手の一本が、横殴りに追撃。
ジュリオさんが斬り伏せに掛かるが、二人まとめて吹っ飛ばされた。
モニカは距離を取って聖歌でターンアンデットをかけ続けているが。
多分もはや死者という概念から外れてしまっているのだろう。
まるで効く様子が無い。
というよりも。
これは常時再生していると見て良い。
早い話が、体内に取り込んだ生命体を消耗しつつ、自分の体に変えている、という事なのだろう。
ノーライフキングのくせに。
生を消耗しながら、自分の力にしている、というわけだ。
ゲスが。
ただ、気になる事もある。
またあたしを狙って砲撃してきたので、拡張肉体と協力して防御魔術を展開し、防ぎきる。
その隙を狙おうとレオンさんとオスカーが別方向から迫るが。
いずれも、触手が一薙ぎして、近づけない。
モニカもターンアンデットは効果無しと判断したのか。
剣を抜くと、突進して、触手と渡り合い始めた。
また詠唱を始めるノーライフキング。
きりが無い。
奴は超長時間、洞窟に引きこもり。
配下の不死者を使って多くの命を奪い。
喰らって力にしてきた。
という事は、それが尽きるまでは、永遠に攻撃を出来る、と言う分けだ。
爆発的な力こそ無いが。
兎に角いやらしい戦法を採る奴だ。
おばあちゃんが封じるわけである。
おばあちゃんの性格だったら、こんな奴、しばき倒して消し炭にしていただろうに。それをしないと言う事は、リスクが大きすぎたから。
この再生能力は。
おばあちゃんが全盛期の時、つまり数十年前から健在だったのだろう。
ならば。
「プラフタ!」
「分かっています!」
作戦第三段階開始。
いずれにしても、此奴を生かしておく訳にはいかない。
ソフィーのハンドサインを見て、モニカは冷や汗を拭った。
聖歌が通じない。
不死者に対しては圧倒的なアドバンテージを持つターンアンデット。それが通じないと言うことは、可能性は二つ。
ターンアンデットでは倒し切れないほどの不死者か。
そもそも不死者では無いか。
恐らく後者と見て良いだろう。
本体なら兎も角。
触手にさえ効かないのだ。
戦いの開始前。
山を吹き飛ばした後の展開については、幾つか作戦を練ってあった。
フリッツさんが判断のタイミングはソフィーに任せると言ったが。
それは恐らく。
ソフィーが一番、戦術眼に優れていると判断しているからだろう。
全員が、無数の触手と渡り合い。
激しく攻防を繰り広げているが。
触手は太くしなやかで。
更に非常にパワーがあり。
容易に近づかせてくれない。
横殴りの一撃を、どうにか剣撃で相殺。
しかし太い触手は、どれだけ傷つけても、即座に再生してしまう。これは本当に、もと人間か。
ジュリオさんとフリッツさんは、少しずつ敵を押し込んでいるが。
それも少しずつ。
相手の体力が無尽蔵である以上。
いずれ押し切られてしまう。
更にノーライフキングは、先からソフィーを完全にマークしていて。
詠唱をさせないように、時々砲撃を浴びせて牽制している。
あの黄色いローブに隠れた顔は。
この距離では見えない。
兎に角今は。
作戦実施のタイミングを計って。
触手を少しでも切り続けるだけだ。
気合いと共に。
上から降り下ろされた触手をかわし。一刀に斬り飛ばす。
呼吸を整えながら、再生していく触手にクラフトを放り、距離を取る。
爆裂したが。
それでも再生を始める。
タチが悪すぎる。
だが、再生している間に、徹底的に切り刻み続ける。
此方に複数の触手が伸び。
また、地面からいきなり生えてくる。
小賢しいと言われている気がして。
頭に来た。
詠唱。
そして、触手が殺到すると同時に、壁を展開。
まとめて壁にぶつかった触手を、今度は壁を軟体化させる事で拘束。一瞬だが、複数の触手が、動きを止める。
その隙を見逃すソフィーではなかった。
ソフィー自身が、プラフタと一緒に突撃開始。
ノーライフキングが、流石に驚いたのか、多数の触手を向けようとし。
却ってフリッツさんの接近を許してしまう。
慌てて触手で壁を作ってフリッツさんを足止め。
更に死角から衝撃波を飛ばしてきたジュリオさんの一撃を、触手の壁で防ぐ。
その隙間を縫うようにして、レオンさんが槍を投擲。
これも、地面から生えてきた触手が、身を以て防ぎきる。
上空。
オスカーが、スコップを降り下ろすが。
ノーライフキング本体から直接生えた巨大な触手が、オスカーをはじき返した。
ハロルさんが狙撃。
本体に直撃。
特別製の弾丸。
恐らくはソフィーが作ったインゴットによるものだろう。
ノーライフキングの魔術防御を貫通。
確実に通った。
さっきのフリッツさんの一太刀に続けて二撃目。
そして、必死にソフィーの突撃を阻害しようとしているノーライフキングの頭に。
今まで姿を徹底的に隠していたコルネリアちゃんが。
横からドロップキックを叩き込んでいた。
幾ら軽いと言っても、体重は相応にある。
それが弾丸同様に飛んできたら、流石に揺らぐ。
更に大量の爆弾を至近にばらまくと、残像を作って消えるコルネリアちゃん。
慌てたノーライフキングが、触手を纏うようにして壁を造り。
爆裂から身を守る。
そして、それは。
視界を奪われる事を意味してもいた。
各自が触手に猛攻を加える。
ノーライフキングが混乱している今が最大の隙だ。
奴が触手を内側から弾き、ソフィーが突進してきていた方向を見る。
いない。
その間にソフィーはプラフタの魔術を背中に受けて加速。
傷だらけになりながらも。
奴の左下に潜り込んでいた。
そしてその手には。
殲滅の光が、既に宿っていた。
三刻がかりの詠唱を行った、先ほどの山を消し飛ばした砲撃ほどの威力ではないにしても。
拡張肉体による詠唱サポート。
更に至近距離。
ノーライフキングが。
絶望の悲鳴を上げるのが、モニカにも聞こえた。
ソフィーはそれに対して。
冷静過ぎるほどに。
相手への死刑宣告を発していた。
「死ね」
ノーライフキングが、それでも必死に防御壁を展開しようとするが。ソフィーの容赦ない砲撃の方が遙かに早い。
灼熱の光が、ノーライフキングを包む。
粉々に消し飛んでいく黄色いローブ。
剥ぎ取られ、消し飛んでいく触手。
その更に下には、やせ衰えた、無惨すぎる老人の体があったが。
それも一瞬で、光の中に溶け消えていく。
光が収まったとき。
呼吸を整える血だらけのソフィーが立ち尽くし。
周囲には。
腐臭を放ちながら、溶け崩れていく、ノーライフキングの残骸である触手の成れの果てが散らばっていた。
3、後始末
地図が変わってしまった。
あたしは、血だらけの体で周囲を確認しながら、そう思った。
ノーライフキングが潜んでいた山と洞窟は、それそのものがまとめて消し飛んでしまったし。
川の流れも変わった。
今後はここに地底湖では無く。
「地上湖」が出来上がることだろう。
事実、川の水の一部が流れ込んでいる。
元々川というのは、地上に出ているのはごく一部だとか言う話を聞いたので。下流が極端に変わる事は無いだろうが。
それでも、この戦いの余波は小さくないはずだ。
いずれにしても、このおばあちゃんの結界は。
残ってはいるが。無用の長物になってしまった。
ノーライフキングは死んだのだ。
キャンプに戻ると、手当を始める。
モニカが徹底的に後始末をすると言って、現地に残った。聖歌によって、相手がもし残っていたとしても、痕跡も残さず消し去るつもりらしい。
まあ好きにすれば良い。
ジュリオさんも残るらしいので、隙を突かれることもないだろう。
キャンプに戻ると、手当を始める。
薬はたっぷり持ってきている。
手傷は回復させることが出来るし。
最近は体力を回復させる薬も、出来が良くなってきている。
ただし、無理矢理ドーピングしていれば、無理も出てくる。
ある程度回復させたら。
後は少し眠って、体の回復機能に任せる。
傷については、入念にチェック。
呪いやら毒やらが入り込んでいないか調べる。
幸いにも、誰も魔術による呪いの類は受けていなかった。
「後は我々で見張ります。 ゆっくり休んでください」
「すまないな。 何かあったらすぐに起こしてくれ」
「はい」
フリッツさんに敬礼している自警団の戦士。
今回の戦いでも、あたし一人で策を練ったのでは無い。
フリッツさんと、手持ちの札で作戦を練り。
順番に実行しただけだ。
キャンプに作ってある天幕に潜り込むと、しばし休む事にする。流石にあれだけの大火力砲撃を連続でやった上に。
プラフタの魔術砲撃までくらったのだ。
疲れた。
しばし休んでから、目を覚ます。
プラフタは、黙々と拡張肉体を直していた。
「休まなくて良いの?」
「私はそれほど消耗しませんでしたから」
「そっか」
拡張肉体は応急処置も済んでいて、既に使えるようだった。
錬金術は使えなくても。
その知識はある。
つまり、メンテナンスの類は出来る、という事だ。
「根絶の力の恐ろしさを再確認しましたか?」
「自分で使おうとは思わないかな」
「貴方らしい返答ですね」
「そうだね。 いずれにしても、何もかも奪い去る力だって事は良く分かったよ」
プラフタは黙り込んでいる。
恐らく、あたしの勘だが。
プラフタはもう記憶の全てを取り戻しているとみた。
アトリエに戻ってから、その辺りは聞けば良い。
傷も良くなったし、戦闘が行われた場所を見に行く。
モニカが徹底的に処置したからか。
もはや、ノーライフキングの気配すら残っていなかった。
「ソフィー、まだ休んでいなくて良いの?」
「モニカこそ」
「私は平気よ。 街に戻ってからゆっくり休むわ」
それよりも、と。
モニカは話を変える。
「どうしてノーライフキングには、ターンアンデットが効かなかったのかしら」
「ああそれはね。 彼奴が肉を纏っていたから」
「どういうこと」
「彼奴は手下にした死者に、生物をさらわせて、それを喰らっていたんだよ。 その生命そのものを自分で纏うことによって、不死者が苦手とするような攻撃を全て遮断していたんだと思う」
要するに、コートを被るようにして。
苦手を克服していた、と言う訳だ。
モニカがみるみる顔を険しくしていくが。
怒ったところでもう仕方が無い。
ノーライフキングは死んだ。
それに奴は、封じ込まれてからは大した力も出せないようになっていた。
恐らく喰われたのは、奴が封じ込まれるまでに襲われた生物だろう。
それも全て消し飛んだ。
魂ならば全部解放されただろうし。
ノーライフキングの魂は、どうせ何処にも行く場所なんてありはしないだろう。あって噂に聞く地獄くらいか。
そういう意味では。
あたしも死んだ後、あいつに再会するかも知れない。
もっとも、本当に地獄があれば、だが。
プラフタが提案してくる。
理にかなうと思ったので、やっておく。
持ってきてある爆弾を溶岩に差し込んで、起爆。
徹底的に、結界の範囲内は破壊し尽くしておく。
これでもしも、ノーライフキングが地面に潜っていても、即死である。
やがて、爆発も終わり。
其処には湖が残った。
根絶の力も感じない。
根こそぎ消し飛ばしてしまったのだから、まあそれも当然か。
これでいいだろう。
後は時々、斥候を此処に寄越せばそれで良いはず。
もしもまたノーライフキングが姿を見せるようならば。
今度は更に充実した戦力で粉みじんにするだけである。
キャンプを畳んで、荷車を引いて東の街に。
ミゲルさんに討伐が終わったことを告げる。
喜ぶミゲルさんだが、釘を刺しておく。
「現時点では、この周辺地域は安全になりましたが。 それもあくまで現時点では、です」
「何か危険の心当たりがあるのかね」
「はい。 発展する街を、ドラゴンが狙うケースがあります。 今後は連携して、ドラゴンに警戒する必要があるでしょう」
「なるほど、留意しておこう。 それはそれとして、今回の件は助かったぞ、ソフィー殿」
いや、此方も。ノーライフキングの戦闘力は、あたしの予想以上だった。
恐るるに足らずと思っていたし。
実際にぎりぎりの戦いにまではならなかったが。
少なくとも、想定の範囲の最強だったことは事実だ。
想定の範囲を超えていたら。
死者を出していたかも知れない。
いずれにしても、今後も油断だけはしないようにしていかなければならない。
「それに、イサナシウスの例もあります。 今後も、警戒は欠かさずお願いします」
「分かっている。 相互に協力していこう」
握手。
後は宴になったので、軽く参加していく。
モニカはずっと聖歌によるターンアンデットを続けて疲れ果てたのか、早々に宿に。旅人の道しるべを使えばすぐにキルヘン=ベルに帰れるのだが。一応最後まで、任務につきあうつもりらしい。
フリッツさんは頼まれて、自警団の戦士達に稽古を付けていた。
大した体力である。まあキャンプで休んで、少し余裕も出来たのだろう。
特にあのちんまい子。ティアナという子は熱心に剣を習っていた。
宴だから、酒も入るし、盛り上がる。
フリッツさんの剣技は、兎に角舞うようで、非常に美しいが。その反面、凄まじい切れ味と破壊力を持つ。
ジュリオさんの一撃必殺型と違って手数で攻めるのだが。一撃一撃が鋭い上に、手数が尋常では無いのだ。
わいわいと稽古が続いているのを横目に肉を頬張っていると。
ジュリオさんが来た。
「君に話しておきたいことがある」
「話ですか?」
「少し前になるが。 あのノーライフキングほどでは無いが、強力な外法を使って怪物になった魔術師がいた。 根絶の力を使ったのかは分からないが、兎に角非常に強力な存在で、生半可なリッチを遙か凌駕する魔力を持っていた。 そいつは力に溺れ、多くの人を殺したため、騎士団で討伐した」
続きを促す。
あたしは肉を食べながら、話を聞く。
「その怪物はどうにか倒す事が出来たが、しかし奴を倒した時、僕の先輩が一人、呪いを受けてしまった」
「……」
「その先輩は、呪いで怪物化していく事に悲観して、姿をくらませてしまった。 立派な騎士だったのだが、それ故に耐えられなかったのだろう」
「見つかったんですか?」
首を横に振るジュリオさん。
そうか。
しかし、話をしたと言うことは。
恐らくは何かしらのヒントが手に入った、という事なのだろう。
「これからまた数日、キルヘン=ベルを離れる。 旅人の靴は借りるが、構わないだろうか」
「良いですよ。 キルヘン=ベルのために命を賭けて戦ってくれているジュリオさんに、貸さない道具はありませんよ」
「有難う。 君は危険な所もあるが、その義理堅さは間違いなく美点だ」
「褒めても何も出ませんよ」
ジュリオさんはそれだけいうと。
宴に戻っていった。
酒も飲んでいないようだが。
色々思うところがあるのだろう。
今度はティアナに、ジュリオさんが稽古を付けるつもりになったらしい。
フリッツさんとはまるで違うタイプの剣技を見て、大喜びしたティアナは、嬉々として稽古を受けていた。
あたしも適当な所で切り上げる。
ほぼ安全が確保されているとは言え。
キルヘン=ベルへの帰路で猛獣に襲われて死ぬとか、そんな情けない末路はたどりたくないから、である。
宿も前とは段違いに整備されているが。
これは商人が来るようになったから、だろう。
一晩休むと。
綺麗に疲れも取れていた。
そのまま、朝一で東の街を出る。
キルヘン=ベルまで一日。
アトリエに戻ると。
ようやく一段落した。
話通り、ジュリオさんはすぐにキルヘン=ベルを出る。情報収集と言う事だし、彼ほどの騎士なら、無茶をする事も無いだろう。
あたしは顔役達と一緒に、重役会議に出て。
フリッツさんが、今回の戦果と戦闘の経緯を説明するのを、ぼんやり眺めていたが。
妙に嫌な予感がする。
ドラゴンが攻めてくる、とかいうのとは違う。
何か起きるような気がするのだ。
「ソフィー。 ノーライフキングの撃破、ありがとうございました。 これで安全圏が増え、活動範囲が更に広くなります」
「はい。 それで、次ですが……」
「どうしましたか」
「ノーライフキングを撃破したことで、今まで足を踏み入れる事が出来なかった地域に行ってみたいです」
ふむと、腕組みしたヴァルガードさん。
あたしが言っているのが水源だと、すぐに理解したのだろう。
ノーライフキングの阿呆のせいで、立ち入り禁止にされていた場所が幾つかある。
その一つが水源だ。
この世界には、森が殆ど無い。
森がある場合は、だいたい錬金術師が緑化したケースで。
そうで無い、天然の森は余程の条件が揃わないと存在しないのだ。
例えば、人間に害を為さない神がいるとか。
或いは何かしらの強力無比な魔力源があるとか。
もしくは、余程に水や光の条件が良いとか。
そういった幾つかの例外を除くと。
良くて草原止まりなのである。
そんな例外的な森がある。
しかもそういった場所には、プラフタの話では、非常に貴重な素材が眠っている、というのである。
今後より強力な錬金術をモノにするには。
足を運ぶのは必須だ。
「分かりました。 良いでしょう。 ただし、水源には何が出るか分かりません。 充分に準備を整えて行きなさい。 更に、森を傷つけるのも厳禁です」
「分かっています」
当然の話で、そんな貴重な森では猛獣だって暴れない。
ただし、当然のことだが。
ノーライフキングのせいで、ほぼ人跡未踏の地状態だ。
おかげで今まで斥候を出す事も出来なかった。
下手をすると。
未知のネームドと遭遇する事がある。
オスカーに聞いた事があるのだが、植物系のネームドはそれなりの数がいるらしい。
もしも森に対話不能なネームドが潜んでいた場合。
撃退するためには、骨が折れる事になるだろう。
貴重な森林資源を傷つけるわけにはいかないのだから。
いくらあたしでも。
森林資源をこの荒野だらけの世界で傷つける事が何を意味するか。
それがどれだけ重い罪かは。
よく分かっている。
故にホルストさんは、念を押したのだ。
咳払いすると。
ホルストさんは、話を変えた。
「それと、報告をしておきます。 東の街の安全がほぼ確保されたことで、ラスティン側からの流入民が増えています。 先月だけで二十七人増え、今二百人近くが此方に向かっているという報告もミゲル氏から受けています。 恐らく今年中にキルヘン=ベルの人口は千人を超えるでしょう」
「おお……」
「食糧は大丈夫なのだろうか」
「千人程度なら。 しかしこのままだと、更に増える事を想定しなければならないだろうな」
流入してくる民だけではない。
この土地で新たに生まれる子供だって出る。
今の時点では、充分すぎるほどの住民満足度を実現しているが。
人間が増えれば増えるほど。
それも難しくなっていく。
人間が管理できる数には限界がある。
統治を行う人間の能力によって、街はどうにでもなる。
今はホルストさんも頭がしっかりしているけれど。
それもいつまでもつか。
かといって、次の世代に有能な統治者が出るかというとかなり難しい。
自警団の中堅所が、今はホルストさんに仕事の一部を割り振られているようだけれども。どうにも上手く行っていないようだし。
或いは、ラスティンに話を通して、実績のある役人を回して貰うのも手かも知れない。
あたしは、街をよくするための道具を幾らでも作る。
だが、街の指導者層が腐った場合。
最悪その道具が匪賊に流れる可能性さえある。
そうなったら、起きる災禍は想像を絶するだろう。
あたしだって駆除に一苦労するはずだ。
更に言えば、街の住民達の幸福度が下がれば。
当然治安も悪くなる。
下手をすると内乱さえ起きるかも知れない。
そうなると、あたしの手には正直余るだろう。
街の拡大計画は、引き続き行う事をホルストさんが明言し。
具体的に何処に畑を拡げるか。
森を作るかを指定される。
東にどちらも伸ばすのは。
言う間でも無く、東の街との合体工作である。
周辺には現在大きな安全圏が出来ており。
出るのも精々猛獣程度。
この隙に、安全圏を拡げて、人口万単位の街を作ってしまう。
後は、その街さえ安定させれば。
ドラゴンさえ迂闊に手出しは出来ない。
同時に、北西にも森を伸ばし。
ナーセリーの復興を開始するとも、ホルストさんは明言。
確かにナーセリーまで都市部をつなげれば、鉱物資源の確保が更に容易になり、街にとっても大きな+になる。
問題は出現が噂される邪神で。
それを考慮した場合、まずは東に街を拡げて、東の街と合体工作を優先した方が良い、というのが戦略としては分かり易い。
あたしに土地活性剤の注文が来たので、頷く。
それについてはまったく問題は無い。
会議が終わったので、アトリエに戻り。
さっそく作業に取りかかる。
そうして数日が過ぎた。
ジュリオさんは何事もないように戻ってきたが。すぐに、情報交換の成果については、話してはくれなかった。
ふと、聞こえてきたのは。
あのオルゴールの音だった。
感情が薄いコルちゃんだが。
やっぱり寂しいのだろう。
外に出てみると。
アトリエから少し離れた坂の所。曲がりくねった、街を守るための仕組みになっている坂道で。
コルちゃんが壁に腰掛けて。
オルゴールを鳴らしていた。
綺麗な音だ。
実は、ハロルさんに相談して。
部品を全部一度分解し。
全て型を取ってある。
金属部品も、木製部品も、全て再現は可能な状態だ。
これらの型は、コンテナに入れてあるが。
このコンテナの技術も、そろそろあたしが制御できるようになりたい。
かなりの量をコンテナに入れられるとは言っても。
まだまだ広さは足りない。
異世界アトリエの方には、それこそ容量制限がないのだから。
いずれ其方に、城の倉庫もびっくりなサイズのコンテナを造り、保全の魔術を掛けて物資を安全に確保しておきたいのだ。
コルちゃんはあたしに気付いて。
此方を向く。
相変わらず表情は殆ど無いが。
それでも、とても大事そうにオルゴールを抱えていた。
「ごめんなさい。 五月蠅かったですか?」
「ううん、綺麗な音だし気にならないよ」
「ソフィーさんも気晴らしに音楽をやってみてはどうです?」
「音楽ねえ」
あまり良いイメージは無い。
ピアノだったらホルストさんの所にある。
たまに触ったりはしているが、それほど上達はしていないし。
何より上達したらしたで。
モニカに、教会でひけと言われかねない。
色々とモニカとは、親友ではあるがそれと同時に面倒くさい関係でもある。
あたしとしても関係をこれ以上こじらせたくないし。
あまり火種は作りたくないのだ。
「それで、そのオルゴール、どうするの?」
「今考えていたのです。 オルゴールだけでは、いくら何でも探す手がかりとしては無理があるのです」
「それはそうだろうね」
「そこでコルネリア商会を、キルヘン=ベルを中心に立ち上げるのです」
コルちゃんは流れの商人だ。
キルヘン=ベルは初めての拠点。
更にこの街は、伸びしろがいくらでもある。
途中でドラゴンに蹂躙でもされない限りは。
今後、人類が保有する貴重な大都市の一つとして、発展する可能性を秘めている。
コルちゃんはその中枢に最初から食い込んでいて。
今は肉屋になる予定のガンマ22ちゃんをはじめとして、幾つか下部組織を作り始めている。経済に大きく食い込んでいるのだ。
このまま上手にキルヘン=ベルと折り合いを付けていけば。
そのコルネリア商会というのも。
名前が拡がるかも知れない。
そうなれば、離ればなれになってしまった家族とも、また会えるかも知れない。
それは、あたしも名案だと思った。
「良いんじゃないのかな」
「……上手く行くと良いのです」
コルちゃんが眼の辺りを乱暴に拭う。
きっと、ずっと寂しい思いをしてきたからだろう。
あたしの場合は、なんだかんだで喧嘩友達も含めて友人がいたからまだマシだったけれど。
そもそも個体数があまり多く無い上に。
危険にさらされる確率が高いホムであるコルちゃんが。どれだけの危険を味わいながら、この荒野世界で生きてきたかは。
誰だって容易に想像が出来る。
いずれにしても、コルちゃんに目標が出来たのは良かった、という事だ。
あたしも協力は惜しまない。
此方としても、利害が一致するし。
何より、強力な経済力が背後にあれば、色々と動きやすくなるからである。
ふと、気付く。
アトリエの前で。
プラフタと。
以前何度か顔を合わせた、子供二人が向かい合っている。
嫌な予感がした。
コルちゃんは気付いていない。
あたしは適当に流すと。
アトリエに走った。
あの二人は、見かけ通りの子供では無い。
そんな事は分かりきっていた。
だからあたしは前から警戒していたのだが。
随分大胆な行動に出たものだ。
二人はあたしに気付くと。
「やあ」等と、旧知のように声を掛けてきた。あいにくだが、数回話した事しかないのだが。
「プラフタ、どうしたの?」
「ソフィー!」
反応だけで分かった。
何かしらの強烈な関係にあるとみて良い。
しかしながら、500年前から来たも同然のプラフタだ。
そうなると。
考えられる人間関係は限られてくる。
「まさか本から人形に体を写すとはね。 そして人形から人間に概念操作して戻るつもりかしら?」
「その体も生半可な人形じゃないね。 手に入れうる材料を上手に使っているじゃないか」
二人は口々に言っている。
プラフタは黙り。
だが、その星の瞳は。
燃え上がっているように見えた。
「貴方こそどういうつもりです。 増えたのは何故ですか」
「?」
今、プラフタは二人を単数で呼んだか。
ああ、なるほど。
そういう事か。
理解は出来たが、口は出さずにおく。
即時に拡張肉体は展開できるようにするが。
しかしながら、結構ヤバイ気配が周囲に幾つかある。
なるほど、線と線がつながった。
「視点を増やそうと思ったのよ」
「君とはわかり合えなかったからね。 本当はもっと増やしても良かったのだけれど」
「深淵の者を今でも維持しているのですね」
「この世界の裏側はほぼ支配しているよ」
プラフタは、感情を押し殺すのに必死なようだった。
だが、相手は余裕綽々。
それはそうだろう。
「中に入って貰ったら? 知り合いだったらお茶でも出してもてなすけれど?」
「ソフィー、分かっているのでしょう。 この二人は……」
「おっと、そこまでだよプラフタ」
「今日はここまで。 それと、始原の釜だけれど。 既に回収済みだから」
青ざめているプラフタ。
そして、二人は、そのまま余裕綽々の様子で、その場を去っていった。
また何かあったら、姿を見せるつもりだろう。
二人がいなくなると。
周囲に満ちていた剣呑な殺気も消えた。
嘆息すると。
あたしはずばり言った。
「あれが、例のパートナー?」
「理解が早いですね。 その通りです。 今は二人に別れているようですが、恐らくは人体を生成したのでしょう」
「直接人体を!?」
「技術としてはさほど難しいものではありません。 ただし魂を入れるのが非常に難しいのです。 その事は、貴方自身が分かっている筈です」
まあ確かにそれもそうか。
アトリエに入る。
今の殺気、フリッツさんやジュリオさんは察知したはずだ。
それに幾つか気になる言葉も口にしていた。
ゆっくり話を聞きたい。
相手が直接接触してきたのだ。
これ以上。
記憶が戻っていないと、誤魔化されるのは色々と問題がある。
全て話して貰わないと行けないだろう。
茶を出す。
ソティーと名付けたオリジナルブランドだ。茶葉の精製の過程で、錬金術を用いてもいる。
プラフタは茶が飲めないので、あたしが飲むのだけれども。
「では、最初からどうぞ」
「……記憶が戻ったのは、ついこの間。 異世界への扉を開くレシピを書き込んだときです」
「なるほど。 それで、あの二人は」
「アトミナとメクレットと名乗っていましたが、間違いありません。 あの二人は、元々私のパートナーであり、竹馬の友で比翼でもあった存在です。 名前はルアード。 私と同格の、当時世界最高の錬金術師の一人でした」
話が始まる。
ドアがノックされたのは、その直後。
やはり気付いたらしいフリッツさんとジュリオさんだった。
4、深淵の宴
二人も交えて、プラフタの話を聞く。
如何にして、世界を良くしようとした錬金術師二人が失敗したのか、の話を。
重い病を生まれたときから患い。
奴隷として売り飛ばされる所を、家族を皆殺しにされ。さすらうようになったルアード。
出自もよく分からず。
物心ついたときには、既に荒野を彷徨っていたプラフタ。
二人が出会ったのは単純な偶然だったけれど。
たまたま一緒に彷徨うようになり。
周囲で多くの人間が命を落としていくのを見ながら。
いつの間にか本を手に入れていた。
その本は。
錬金術の基礎解説書。
器具らしい器具もない状態で、二人は錬金術を始め。
文字通り、滅びる寸前だった街を。
一気に今のキルヘン=ベルと同等の都市に発展させた。
二人はあたし以上の天才だったのだろう。
だが、二人の扱いは違っていた。
それこそ、対照的なほどに。
「私は色々な綺麗な二つ名を周囲からつけられていました。 それに対してルアードは、冒涜と侮蔑に満ちた二つ名で嘲られていました。 理由は容姿です。 私は自覚はありませんでしたが、周囲からは美しい、と見なされていたようです。 一方ルアードは、重い病気を煩っていたことから、周囲からは人間扱いされていませんでした。 私は側で見ていました。 だからルアードが如何に優れた錬金術師であるか知っていました。 それに、言いたい者には言わせておけば良いとも思っていました」
「それは失策だったな」
フリッツさんが即答。
ジュリオさんが咳払いしたが。
意見は同じようだった。
「……そう、失策でした。 いつの間にか私達が救った街には、化け物のようなエゴの怪物達が巣くい。 勝手に施政を回すようになっていました。 私の事を持ち上げて、ルアードを貶めて。 そして権力のエサにするようになっていました。 挙げ句の果てに、ルアードを暗殺しようとまでしたのです」
それ以降。
プラフタとルアードは。
街から離れた。
巨大なアトリエを人里離れた場所に造り。
二人で世界をよくするために動いた。
だが。決定的な溝がいつの間にか出来ていた。
「ルアードは言いました。 この世界には、現在さえもないと」
「ふむ」
一理ある。
いつドラゴンや邪神に街が蹂躙されるか分からないこの時代。
外に出れば容赦なく弱者は殺され。
生活できない人間は匪賊となって殺戮の限りを尽くし。
何より、才能の偏りにより。
何をやっても努力が無駄になる場合もあれば。
努力をロクにしなくても、ちやほやされる場合もある。
そんな不公正な世界には。
確かに現在もない。
「私は、それでも未来を奪うことはあってはならないと考えました。 やがてルアードは、根絶の力に手を出してしまったのです」
そうか。
それは辛かっただろう。
だが、根絶の力に手を出すというのがどういうことか。
あたしは実例を見てよく分かっている。
許されることでは無い。
何があったとしても。
やっては行けない事はあるのだ。
根絶の力は、ドラゴンや邪神ですらかなわない程の、究極クラスの災厄だ。
それによって得られるものもまた桁外れではあるのだろうが。
それでも手を出す事は許されない。
「戦いになりました。 相打ちになった事だけは覚えています」
「本にどうして宿ったの?」
「分かりません。 根絶の力を手にしたルアードを滅ぼすために、差し違える以外の選択肢はありませんでしたし、その時に肉体をどちらも失いました。 恐らくは、その時使った、対消滅を行う爆弾によって、魂の座標がずれたのだと思います。 私も、ルアードも、です」
「……」
そうか。
そして、あらゆる状況証拠が告げている。
恐らく世界に蠢く深淵の者の主は。
あの子供達だ。
プラフタとは違い。
ルアードは、恐らく即座に目覚めたのだろう。
そして深淵の者達を組織し。
力尽くで世界を改革していった。
数百年前と今とでは。
世界がまるで違っている。
今は二大国に勢力が統一され。
汚職管理も生臭坊主も、強欲で他者を苦しめ続ける商人も、自分のためだけに錬金術を振るう輩も。
悉くが消される。
匪賊も組織が大型化する前に潰されるし。
ドラゴンや邪神の被害も。
昔は今の比では無かったと聞いている。
それらは深淵の者達が、必死に「現在」を作ろうとしてやってきた事なのだろう。
それでも、だ。
世界は地獄。
闇に満ちている。
こんな世界に誰がしてしまったのか。
創造神か。
だとしたら、あたしは世界そのものを許さないし。
恐らくはだが。
深淵の者達も、同じように考えているのであるまいか。
「思えば、あの不自然な二人、ずっとプラフタを監視していたのだな」
「どうしてすぐに気付くことが出来なかったのか。 悔しくてなりません」
フリッツさんに、プラフタが口惜しそうに言う。
あたしが二人の分の茶も出す。
茶を口にしながら、ジュリオさんは言う。
「しかし妙だとは思う」
「何がです」
「実は根絶の力について調べて見たんだ。 アダレットにも錬金術師はいるし、根絶は禁忌の中の禁忌として知られていたよ。 だが、500年前から現在に至るまで、使われている形跡が無い」
「……!」
どういうことか。
あの二人、いやルアードは。
未来を奪ってでも、現在を作る事を目論んでいたのでは無いのか。
ひょっとして、だが。
ああなるほど。
そういうことか。
プラフタと、もう一度しっかり話をしておきたいと思っているのか。
プラフタは命を賭けてまで、未来を奪うことが如何に非道かを示した。
何しろ竹馬の友だった存在だ。
プラフタはルアードについて話している時、ずっと悲しそうな目をしていた。本当に世界で唯一の理解者だったのだろう。
ルアードも恐らく同じように思っていたのだろう事は想像に難くない。
ならば、プラフタが目覚めてから。
もう一度互いの考えに決着を付け。
そして、改めてどうするか決めよう、と考えたのではあるまいか。
だとすると気が長い話だ。
500年掛けて、自説を証明するために。
世界を改革していったのだから。
それでも未来がないと結論しているのだろう。
故に、深淵の者は、二大国の首脳部を操作する事はあっても。表から接触する事は無い。
或いは、人間を根本的に信用していないのかも知れない。
いずれにしても、もう少し話してみないと駄目だろう。
「いずれにしても、はっきりしたことがあるよプラフタ」
「何……ですか」
「ルアードといったっけ。 その人、多分すぐに何かをするつもりはないと思う。 むしろ狙いはあたしなんじゃないのかな」
「どういうことです」
少しむくれた様子のプラフタだが。
あたしにしてみれば。
どうしてプラフタが此処にいるかが、不自然でならないのだ。
「プラフタが未来を示したいなら、それを待っている。 そういう事じゃないの?」
「!」
面倒な事だと、フリッツさんは顔に書いた。
ジュリオさんは口をつぐんだ後、やれやれと頭を振る。
二人には、他言無用と告げた。
というのも、恐らくは深淵の者所属者がキルヘン=ベルにも複数いるからで。今事を荒立てるのは得策では無いからだ。
いずれにしても、少しばかり気合いを入れなければならないか。
プラフタの記憶が戻った以上。
出来る事は増えている。
ならば、あたしも。
此処からは、更に様々な事に手を伸ばせる。
そういう事なのだから。
(続)
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