魂の形

 

序、紡ぐ糸

 

本は貴重品だ。

この街キルヘン=ベルは、たまたまおばあちゃんが発展させたから本がある。だがそも、紙そのものが稀少なのである。辺境の街で、これほど本がある街は。あまり多くないどころか、例外中の例外だろう。

あたしはエリーゼさんの所を訪れると。

在庫の中に、魂を扱っているものが無いか確認した。

魔術師の間でも、魂については意見が分かれているのである。

いわゆる霊と魂を別と考える説。

魂にも位階があって、それぞれ違っているとする説。

そも死んだ後魂はどうなるのか。

神の下に行くのか。

転生するのか。

その仕組みはどうなっているのか。

いずれもが、諸説あって、結局分かっていない。それが実情なのである。

故に、今回。

プラフタの魂を移動させる、という作業に関して。

あたしは参考資料を必要とした。

だからエリーゼさんの所に、魂を扱っている本を見に来たのだけれども。

彼女が出してきたのは、数冊の本だけだった。

それも決して分厚いとは言えない。

「これだけですか?」

「プラフタさんの事を疑うつもりはないのだけれど、そもそも魂というのは諸説あるのは貴方も知っているわよね、ソフィー」

「はあ、まあ」

「分かっていない学問なの。 要するに」

ああ、そういう事か。

エリーゼさんの言いたいことは分かった。

要するに彼女は、これは言った者勝ちの世界である、と突き放しているのだ。

確かに、神学もそうだが。

世界に満ちている邪神がどういう存在なのかは、厳密に言うと分かっていない。世界の要素を構成する存在だという説が主流だし、あたしもそうだろうとは思っている。

だとすると、どうして奴らは。

邪神なのか。

創造神についてもそうだ。

創造神が昼寝しているところを見た、という話を聞いたことがある。フリッツさん経由の情報だが。

実はあれから色々調べて見たのだが。

他にも目撃例が各地にあるらしいのだ。

創造神が複数いるとは思えないし。

或いは端末か何かなのかも知れないが。

いずれにしても、はっきりしているのは。

「分からない」という事だ。

ざっと本に目を通してみるが。

案の定である。

エリーゼさんが、見るなら自己責任にしろという目をしていたが。正にその通りであった。

どれもこれもが、マイ理論を好き勝手に展開している本で。

頭がくらくらしてくる。

全てを返却すると。

エリーゼさんは、嘆息した。

「本を愛している私でも、全てを肯定することは出来ないわ。 この手の本は、特にそう」

「こうも論理に欠けていると、確かに」

「いや、それだけではないの。 悪意に満ちているから」

「?」

エリーゼさんは言う。

今でこそほぼ存在しないが。

昔は教会の求心力を利用して、街などで好き勝手する腐れ坊主があふれかえっていたという。

神の名の下に幼児に暴虐を働き。

或いは子供を売り買いし。

酷い場合には解体して喰らっていた。

今でこそ、各地の教会は、ある程度自浄作用が働いているが。

それも理由はよく分かっていなくて。

各地の腐れ坊主を片っ端から何者かが粛正したからではないか、という説まであるとか。

「これらの本は、ジャンクよ。 貴方の助けになるとは思えない」

「そのようですね。 お手数お掛けしました」

「……」

無駄な言葉を発する気は無いのか。

エリーゼさんは座り直すと、あたしを無言で見送った。

さて、本はだめか。

実のところ、プラフタに聞いてみても。

魂というものは、「存在している」事が分かっているだけで。

それ以上については、良く分からないと言う、頼りない答えが返ってきている。

そこでもう少し詳しく、と思ったのだが。

それぞれ好き勝手なことを妄想に基づいて書いているような本なんて、それこそ娯楽として笑い飛ばす位にしか役に立たない。

仕方が無い。

一度戻るとしよう。

東の街の緑化計画は完全に予定を完遂。もうオスカーも戻ってきている。更に東の街は自給体制が回復し、援助は必要ない状態になった。畑の収穫はまだ先だが、それも結果だけ見に行けば良い。

これであたしの方も、色々と自分の作業に専念できると思ったのだが。

プラフタの記憶回復と。

肉体回復のうち。

後者がいきなり躓いた形になる。

魂について詳しく分からない限り。

それを定着させる、という事は当然ながら不可能に近い。

アトリエの本も調べて見たのだけれど。

魂については直接扱う道具もなく。

何となく、魂に干渉して操作しているらしい、という道具は幾つかあったが。

それでは頼りなさ過ぎる。

何しろこれは、文字通り命に関わる問題だ。

プラフタという貴重な存在を失うと。

今あたしは、錬金術師として頓挫してしまう。

アトリエに戻ると。

モニカが掃除をしていた。

窓は開けている。

プラフタもいるので、許可を取っての事だろう。

アトリエのものの場所を全て把握しているモニカだ。勝手な事をする可能性はないので、好きにさせておく。

「肥料の臭いがまだ取れないわね」

「仕方が無いよ。 でも、おかげで畑はとても豊かになった」

「確かに、ね」

あの肥料は、キルヘン=ベルの畑にも使っている。みるみる作物が育つというので評判だ。

オスカーも、植物たちがみな喜んでいる、と言っていたし。

それだけ植物にとっての良い栄養に満ちているのだろう。

人間と植物で、必要になる栄養が同じかと言えば、それは否だ。

魔族とヒト族で好む食物が違うように。

動物と植物では。

好む食物が違うのは当然である。

「プラフタ、良い資料無かったよ」

「そうでしょうね。 大きめの図書館なら一冊くらいはまともな本があるかも知れませんが……」

「大きめの図書館と言えば、ラスティンの首都近郊の山中に、大きいのがあるらしいわね」

「山中?」

プラフタがモニカに聞き返しているという事は。

少なくとも、彼女が存命の時代には、なかったという事なのだろう。

あたしも初耳だ。

「何でも、極めて峻険な山奥にある図書館らしくて。 ラスティンの知識の全てがある、と言われるほど巨大な図書館らしいわ」

「なんでそんなものを山奥に!?」

「恐らくですが、何かの遺跡を利用したのだと思います。 もしくは錬金術師の誰かが、物好きにも山奥に本を集めたか……」

「それじゃあ誰もが読めないよ」

呆れ果てたあたしが苦笑い。

いずれにしても、モニカの掃除はまだ時間が掛かる。

一旦外に出ると。

プラフタは、何か思い出せるかも知れないと言って、街の側の森に。

彼処は獣も出ないし、霊も出ない。

危険は無いだろう。

あたしは切り口を変えて。

他の人に話を聞いて回ることにする。

まず話を聞きに行ったのは。

以前、モニカの設計図を作る時に、協力して貰ったレオンさんだ。

彼女は今日もちまちまと服を作っていた。

豪華そうな服も売っている様子だが。

基本は、逃れてきた難民達用のもので。

質素ながら、実用的で。

肌触りも良く。

皆満足している様子だ。

此処に逃げるのを助けたのはあたしだから。難民達は皆あたしをみると、頭を下げて行く。

此方も返礼して見送る。

レオンさんは、ため息をついた。

「昔はシルクなんかの高級生地を使って、完全に趣味の世界の服を作って悦に入っていたものなのだけれど。 昔のあたしが、今の実用一辺倒の服を作っている様子を見たら、なんというかしらね」

「昔の自分と今の自分で対立しても、それはそれで面白いのでは?」

「そうかも知れないわね」

シルクか。

この辺には殆ど出回らない生地だ。

話によると、相当な高値がつくらしい。

レオンさんは、前々から思っていたが。

やはり良家の子女なのだろう。

一万以上の人間が暮らす街は、夜も灯りが絶えないと聞いている。

魔族がそれなりの数生活しているというのもあるのだろうが。

夜も働いている人間が多い、と言う単純な事実もある。

人間が増えると、夜にも働く必要が生じてくる。

軍などの警備関係者もそうだし。

体を売る人もいる。

夜にも仕事をして、商売をする者もいるそうで。

キルヘン=ベルのような辺境とは、何から何までもが違う、という事だ。

「何か参考になること知りませんか? 魂について」

「流石に本職の錬金術師でも分からない事は、私にも分からないわ」

「うーん、そうですよねえ」

「ただ、参考になるかは分からないけれど。 私達の業界では、とても良く出来た服には魂が宿る、という事をいうのよ。 これは何も、服だけに限った話ではないのだけれども」

ふむ。

確かにそういう話は聞く。

というよりも、そもそも全自動で動く道具類に関しては。

最初から、そういった事を想定している。

ある意味擬似的な魂を与えているとも言える道具類は。

ものの意思を操作して。

ある程度の自主判断力を持たせているからだ。

それは、「とても良く出来た」ものと。

根本的には同じなのではあるまいか。

レオンさんに礼を言って。

その場を離れる。

今度はハロルさんの所に行く。

ハロルさんは、ずっと遠征続きだからという理由で、ここ数日店を閉じていたが。渋々という感じで店を開けていた。

お客さんはいない。

というか、今丁度、ロジーさんとすれ違った。

「何だ、せっかくダラダラ出来ると思ったのに」

「ロジーさんと何を話していたの?」

「大した事じゃあない。 ハイベルクの旦那が、自分の剣に銘を彫って欲しい、とか言っているらしくてな」

「銘、ねえ」

剣に銘。

余程裕福な人でもない限り、そういう事はあまり考えない。

というのも、剣は消耗品だからである。

どんなに上手に使っても、刃こぼれする。

そしていずれは折れる。

長く戦いを続けた人ほど、剣を消耗品扱いする傾向が強い。

剣の達人になると、多少は剣をもたせる事も出来るけれど。

それもあくまで多少だ。

この世界では。

剣を飾っておくような余裕など、ありはしないのである。

故に剣に銘など彫っても、折れてしまえばそれまで。

そして剣は。

複雑に鉱物を折り返してハンマーで叩き。

幾重にも重なった層が、強さを引き出す。

要するに、折れてしまった剣は、そのままつなげたりすることは出来ない。一度全部溶かして、作り直すしかない。

剣とは。

そういうものなのだ。

「街の裕福さの象徴として、もう折れそうな剣に銘を彫り、残しておきたいのだそうだ」

「それって」

「要するに、もう引退するつもりなんだろう。 あの旦那には確か子供が三人くらいいたよな」

「いるけれど、戦士としては皆あまり出来が良くないよ」

それでだろうと、ハロルさんは紋章の一覧らしいのをしまいながらぼやく。

ああ、なるほど。

つまり、自分が死んだ後。

あまり出来が良くない子孫達が、金に困ったとき。

多少なりと値段がつくように。

自分と一緒に戦場を駆けた剣に。

銘を彫っておこう、というわけだ。

銘がつけば、或いは物好きがそれなりに高く買ってくれるかも知れない、というのだろう。

とはいっても、この荒野の世界。

剣は実用性を重視される。

そんな物好きがいるとしたら。

レオンさんが臭わせていたような。

大都市の金持ち一家とか。

そんな存在くらいだろうが。

「馬鹿馬鹿しい話だと思ってな」

相当に不機嫌そうなハロルさんだが。

あたしは苦笑い。

まあコレばっかりは仕方が無い。

「それでロジーさんは?」

「彼奴は仕事なら何でもやるって奴だからな。 ある意味柔軟で羨ましい考え方の持ち主だ」

「あれでいろんな街を回って仕事をしてきたみたいだからね」

「色男で仕事も出来るか。 嫌な話だ」

ハロルさんは不健康そうな事もあって。

あまり女子にもてるとは言い難い。

こういった時代。

まずもてるのは頑健か、優秀か。そのどちらかだ。

ハロルさんは、どうにも自分に強烈なコンプレックスを持っているらしくて。それはあたしの地雷と同じ。

機械技術者として、非常に優秀だった父親に比べて。

自分が無能だと思い込んでいるのが原因らしいが。

あたしからして見れば。

あれだけ銃をカスタマイズして、戦闘では的確な狙撃で確実に敵の隙を作ってくれる。それだけで充分だ。

「それで何だ。 俺の愚痴を聞きに来たわけでもないだろう」

「ああ、そうそう。 参考に聞きたいんだけれど、良く出来たものには魂が宿ると思う?」

「……また随分と抽象的な話だな」

「どう思う?」

ハロルさんは少し考え込んだ後に。

視線で時計を指す。

そもそもこんな小さな街だ。

時計なんてあまり売れない。

おばあちゃんが現役だった時代。仕事の時間を計るために、時計は売れていたらしいけれど。

あたしがやっと街を復興している今。

昔の時計を手直しするくらいしか、ハロルさんには仕事がないと聞いている。

「宿るだろうな」

「お、断言」

「錬金術でどう魂を扱っているかはわからないが、ホンモノの銘品には何というか、気品というかオーラというか、そういうものがある」

俺が作るものには。

それがどうしても出せない。

そう吐き捨てると。

ハロルさんは気まずそうに視線をそらした。

こうなると、ハロルさんは自分の世界に閉じこもってしまう。兄貴分として、あたしとモニカとオスカーを引き連れていた頃には。もう少し明るかったような気もするのだけれども。

このお店を継いでから。

色々と気むずかしくなってしまった。

でも、参考にはなった。

礼を言うと、今度はロジーさんの店に。

まともな本が手元にない以上。

できる限り。

本職の話は聞いておいた方が良い。

それだけだ。

 

1、名持つもの

 

ノーライフキングの住まう洞窟付近に、多くのネームドと猛獣が集まっている。その報告を受けてからしばしして。

アトミナとメクレットは。

護衛を連れて、その場に赴いていた。

ノーライフキングを潰すつもりはない。

あれはソフィーのエサにする予定だからだ。

問題なのは、確認しておくべきことが出来たからだ。

キルヘン=ベルの方にネームドを以前何体か追いやった。

それらは全てソフィーのエサになったが。

それ以降も。

実は此方で手を出さなくても、どうやらキルヘン=ベルに向けて、ネームドが移動しているようなのである。

その様子を確認したいと考えていたのだが。

どうやら当たりらしい。

あれほど集まっていた猛獣とネームドは。

殆どが姿を消していた。

一部はノーライフキングの住処に入り込んだようだが。

それ以外は、縄張りを移したようである。

それだけではない。

此処から遙か東に存在を確認されている巨大陸魚、イサナシウスが移動を開始したという報告が入っている。

まっすぐ西に向かっている。

つまり、此方を目指している、という事だ。

イサナシウスが暴れていた近辺では、公認錬金術師が何度も討伐隊を編成して攻撃を行っていたが。

桁外れの防御力と巨体の前に討伐どころか身を守るのが手一杯で。

かといってライゼンベルグに救援を求めても、そんな戦力は無いから自力で何とかしろと突き放され。

右往左往している様子が、現地にいる深淵の者から二人に情報としてもたらされていた。

情けない話だが。

公認錬金術師は優秀でも。

万能では無い。

流石に弱めのドラゴン並みの実力を持つネームドになってくると。

その戦闘力は非常に高く。

倒せる人員は限られてくる。

アダレットでもネームドの討伐部隊が毎回大きな被害を出しているが。

ラスティンでもそれは同じで。

時には、首都を防衛するために、公認錬金術師複数を含む部隊が、多大な被害を出したりもしているのだ。

ましてやラスティンはどちらかと言えば文治国家の性質が強く。

アダレットのように、戦士の育成に力を入れていない。

その分錬金術師は精鋭だが。

錬金術師は数が少なすぎる。

更に言えば、ネームドの中には、実力が高い場合錬金術師を返り討ちにするような奴もいる。

少し前にソフィーが倒したデビルホーンや。

今話題になっているイサナシウスがそれで。

此奴らを本気で倒すつもりなら。

それこそ、ドラゴンスレイヤーとしての実績がある、一握りの精鋭錬金術師を動かさなければならない。

人間の戦力とは。

その程度のものなのだ。

それに、である。

邪神を散々倒して処理したせいか。

その力がネームドに拡散し。

ネームドがパワーアップしている節が見られる。

イフリータなどに話を聞くと。

明らかに500年前よりネームドが強いと言う。

昔は良かった、という類の言葉はあまり信用できないが。

逆に今の方が状況が厳しい、と言う言葉については、信頼しても良い。

ましてや直言で知られるイフリータがそう言うのである。

或いは、だが。

何かしらの作用が働いていて。

本来邪神が担当する人間への攻撃を。

ネームドが肩代わりしているのかも知れない。

ドラゴンは数も質も相変わらずなので。

この辺りは想像するしか無いが。

現場の視察は終わる。

護衛を連れたヒュペリオンと合流。

幾つかの話を聞いた後。

最近創造神が姿を見せたという場所に向かう。

その場所は、此処から遙かに東。通称、「世界樹」と呼ばれる木の麓だ。

世界樹は、その存在自体がよく分からない巨大樹木で。

この枯れ果てた世界において、珍しいというか。明らかに不自然すぎる巨大さを持つ植物である。

周辺は危険な猛獣の巣窟で。

その分強力な素材も入手できるが。

彷徨いている猛獣でさえ、生半可なネームド並の実力があり。

更には、この周辺には匪賊の一種がコロニーを作っている。

獣人族を中心とした集団で。

自然との生活を営むことを選んだ者達であり。

極めて排他的かつ攻撃的な性質を持つため。

ラスティンが裏側から接触し。

一部を傭兵として取り込んで。

戦闘で役立てている、という噂がある。

ラスティンの重役として潜り込ませている深淵の者でさえ真実だと断言できない事からして。

これは都市伝説にすぎないという説と。

最高機密だという説があるが。

いずれにしても調査が待たれる。

幾つかの、空間転移装置を通って。

世界樹の麓に。

此処は、非常に貴重な素材が大量に取れるため。

アトミナとメクレットにとっても、重要な場所なのである。

何より世界一緑が豊かとも言われていて。

世界の彼方此方にある、錬金術師が緑化した土地とは根本的に緑の濃さが違う。

地面も複雑でふしくれた巨大な根が、苔むして縦横無尽に走っていて。

彼方此方に、巨大な猛獣の姿が見て取れた。

護衛達が気を引き締めるのを横目に。

まっすぐ進む。

多少の悪路だが。

これくらいはどうと言うことも無い。

此処には、ごくごくたまにだが。

創造神が姿を見せることが知られている。

他にも世界の何カ所かに、創造神がたまに姿を見せる場所がある。これらは確認されているのだが。

今、都合が良い事に。

その「たまに」の時期である。

途中、何度か猛獣が威嚇してきたが。

連れてきているのは、深淵の者を支える精鋭中の精鋭達である。

彼らがひと睨みするだけで逃げていく。

「今回の目的は、やはり創造神の討伐ですか」

「いや、違うわよ」

「確認することがあるんだ」

小首をかしげるヒュペリオンに。

軽く説明をする。

簡単に言うと。

今回するのは、創造神が「本体かどうか」調べる事だ。

もしも本体だったら、それはそれで構わない。

今回揃えてきた戦力でぶちのめし。

捕縛して、連れていくだけだ。

今回は、それが可能な戦力を連れてきている。

更にその気になれば、相手を弱体化させる空間転移を実施して、周囲の空間を書き換えた上で。

魔王をぶつける事も出来る。

以前雷神ファルギオルを滅ぼしたときに使った手だが。

当然創造神にも使える筈だ。

まあ無理なら逃げるだけだが。

それに、前にイフリータが、此処にいる創造神に挑んで負けたが、相手は退屈だと言って姿を消したと聞いている。

つまり、創造神は本当に遊んでいるだけで。

何ら悪意がない、という事を意味している。

ドラゴンが飛んでいる。

金の体を持つ上位ドラゴンだ。

戦闘力は非常に高く、下位の邪神ほどもある。ただあれは、世界樹を縄張りにしていて、巡回しているだけ。

その縄張りも調査済みで。

入らなければなんら害は無い。

「見えました」

ヒュペリオンが注意を促してくる。

頷くと、アトミナとメクレットは、苔むした世界樹の根を踏みながら、前に出る。

丘を越えるようにして、根を乗り越えると。

そいつがいた。

姿は子供としか言いようが無い。四色の丸っこい翼。いわゆる四元素を表しているのだろう。それぞれ色が違う翼を展開し。その中央で、船を漕いでいる。要するに惰眠を貪っている。

魔族達が、怒りを滾らせるが。

アトミナが視線で黙るように威圧。

メクレットは、その間に。

眠っている創造神の側に降り立っていた。

パルミラと名乗ることもあるらしい創造神は。

こうしていつも眠っていて。

力があるものが近づくと反応。

遊んでくれとせがむという。

その遊びというのは、純粋な闘争で。

相手を殺す事は無い代わり。

あまりの凄まじい強さに、今まで勝ったものはいないともいわれている。

アトミナがメクレットの隣に並ぶと。

創造神は、ゆっくり目を開けた。

「だれー?」

幼い女の子の声。

だが、関係無く。

アトミナとメクレットは、二手に分かれ、周囲に幾つかの装置を設置。数字を確認していった。

なるほど。

これではっきりした。

「遊んでくれるの?」

「いいや。 それはまた今度だ。 皆、引き上げるぞ」

「しかし、此奴は……!」

「此奴を今殴っても意味がない」

きょとんとしている「パルミラ」。

空間転移の装置を経由して、一度魔界にまで戻る。

魔王の膝元に座ると。

やれやれと、メクレットは自分の肩を揉み。

アトミナは大きく嘆息した。

怒りの声を上げたのは、連れていった戦士の一人である。この世界の理不尽によって、家族を失った一人だ。常に連れている護衛で、多分剣の腕に関しては世界最強だろう。

「倒せと命じていただければ!」

「いや、今回の情報収集ではっきり分かった。 あれは、創造神の影に過ぎない存在だ」

「影?」

「この世界に創造神は多大な影響を及ぼしているのよ。 今まで数多倒して来た邪神達でさえ、創造神に比べれば小指の先にも及ばないほどにね」

だが。

今確認してきたアレは。

明らかに違う。

確かに実力は圧倒的だが。

少なくともその力は。ファルギオルに比べて絶対的に高い、と言う訳でもなかった。

はっきりいって空間を切り替えて、奴の力を弱体化させ。

魔王をぶつければ、倒す事は可能だっただろう。

いや、魔王をぶつけなくても、捕縛できる程度の戦力だった。

だが先も説明したとおり、あれは所詮ただの影。

倒したところで「遊んでくれて有難う」と喜ぶだけだし。

粉々に消し飛ばしても、その内、いやすぐに復活する。

それでは意味がない。

「我々の目的は、あくまで創造神本体との接触だからね。 小指の先に接触しても意味がないんだよ」

「しかし、何かを聞き出せたのでは」

「無理だね」

断言するメクレットに、皆が言葉を失う。

咳払いすると。

メクレットは、丁寧に説明していった。

あれは、この世界に伸ばしている端末の一つに過ぎず。

出力は出来ても、入力は出来ない。

知識に関しても、恐らく限定的なものしか与えられておらず。役割はあったとしても世界の監視。

つまり話を聞いても。

分からないと答えられるか。

答えられないと言われるか。

そのどちらかだ。

しかも、その答えを引き出すには。

ファルギオルと同等かそれ以上の実力を持つ端末相手に、相当な物資を消耗する覚悟をした上で挑まなければならない。

そんな無駄なことに貴重な物資を使うわけにはいかないのだ。

深淵の者の中には。

家族が病気だったり。

一族の存亡を背負っている者もいる。

彼らにずっと手をさしのべて来たが。それには、多くの道具類が必要なのだ。

「そもそもパルミラという名前そのものが、創造神本体と一致しているかさえ分からないのが事実だ。 今回は皆、怒りを飲み込んで貰えないか」

「貴方方が、そう言われるのであれば……」

「何、あれが端末で。 端末が出現する位置が特定出来ただけで大きな意味がある。 好機はこれからも巡ってくるから、心配せずに待つと良いさ」

メクレットが静かに笑うと。

それ以上、不満を述べる者もいなかった。

一度、皆を休憩させる。

アトミナは、魔王の膝元で足をぶらつかせながら言う。

「あのクソガキ、ぶちのめしておけば良かったんじゃないの? 今回連れていった戦力だったら、可能だっただろうし」

「それは無意味だ」

「そうだけどさ」

「無意味なことに物資を使っている余裕は無いよ」

アトミナが嘆息。

視点を増やすために分裂したが。

やはり時間が経つと、性格も変わってくる。

この様子だと、一つに戻った時には。

精神が混乱するかも知れない。

だが、それはまたそれで構わない。

いずれにしても、今回は大きな成果を出す事が出来た。この世界に創造神が何をしたのかも。

本体にアクセス出来れば、明らかになるだろう。

ただ、どう考えても良い理由だとは思えない。

神話に埋もれていた歴史の真実と。

その後の変貌ぶり。

人類が全て洗脳されたとして。

その理由は何だ。

美しくないとか、気に入らないとか。そんな理由だとは思えない。空白の500年も気になる。

一体この世界に。

何があったのか。

そしてそもそも。

この世界に招かれたという神話は、本当だったのか。

だとしたら何故。

迫害されていたというのはどうしてか。

魔族ほど強靱な種族を迫害していたとなると。

そいつらは一体どんな奴らだったのか。

分からない事が多すぎる。

アルファが来た。

報告があると言う。

「キルヘン=ベルの東の街が整備されたことで、ラスティンとアダレットの間の通商ルートが物理的な意味でほぼ回復した様子です」

「ふむ。 今後の物流が活発化するとみて良いのかな」

「いえ。 イサナシウスが動き出したことが既に知られていて、商人達は動く事に二の足を踏んでいます」

考え込む。

イサナシウスがキルヘン=ベルに向かっているという話だし、ソフィーのエサにしようと思っていた。

いずれソフィーはドラゴンくらい一ひねりに出来るくらいには成長して貰わなければならないのだ。

下級のドラゴンとどっこい程度のイサナシウスだったら、倒せるくらいの実力がなければ話にならない。

だが、東の街は。

キルヘン=ベルにとっては、東への通商路確保の戦略重要拠点だ。

イサナシウスの動き次第では。

此方も動かないとまずいか。

「こっちで消す?」

「いや、動きをそらそう。 邪神狩り部隊を動かして、イサナシウスの進路をそらし、キルヘン=ベル近辺の街を脅かさないように追い立てさせろ」

「分かりました。 すぐに手配するのです」

「……」

アルファが去る。

敢えて醜く作っている義手で、不器用に礼をして。

さて、ここからが難しい。

ソフィーの側に来ているアダレットの騎士、ジュリオと言ったか。騎士団長候補にも挙がっている精鋭らしいが。

そのアダレット騎士団長が。

深淵の者に所属していると知ったら、どう思うだろうか。

ソフィーとはいずれにしても、その内接触しなければならない。

挫折については。

ソフィーは今まで、嫌と言うほど味わっている事を確認済みだ。

それならば。

此処からは、多少手を貸してやらなければなるまい。

だが、動き次第では全てが台無しになる。

慎重に駒を進めなければならない。

「メクレット」

「うん?」

「プラフタだけれど、ひょっとして記憶をもう取り戻してるんじゃないの?」

「何とも言えないな」

それも加味して、計画は進めていかなければならないか。

まだ、この世界の真相に辿り着くには。

先が長い。

 

2、驀進巨獣

 

ミゲルさんからの急使が来た。

イサナシウスが移動している、というのである。

あたしは昨日、丁度街の北近くに迫ってきていたネームドを潰したばかりである。少し疲れが溜まっているなと思いながら寝床で横になっているときに。飛び込んできたモニカに、その話をされた。

イサナシウスか。

話を聞く限り、とんでもない怪物だ。

ちょっとでも攻撃が擦ったら、それだけで死を覚悟しなければならないだろう。装備類も、少し整備しなければならないかも知れない。

爆弾も、である。

すぐにプラフタと一緒にカフェに。

街の重役は皆集まっていた。

不機嫌そうなヴァルガードさん。

今は早朝。

丁度寝たところを叩き起こされたのだろう。不機嫌なのは、仕方が無いとも言える。

「集まりましたね。 東の街からの急報は聞いているかと思います」

「イサナシウスと言えば、かなり東の方で、公認錬金術師が守る街を攻撃していたと聞いている。 どうしてこんな辺境に」

「それは分からないのですが、とにかく此方に向かっているのは事実のようです」

公認錬金術師がどうにか出来なかったのか。

そうぼやく声が聞こえるが。

あたしとしては、仕方が無いのかな、という気はする。

この間倒したデビルホーンも相当なタフネスを誇ったが。

イサナシウスは、城壁に背中が届いてしまうほどの巨体だ。まあ又聞きだが。公認錬金術師でも手間取っていたという相手である。文字通り、物理を超越したタフネスを誇るとみて良いだろう。

だが逆に。

其処まで力を蓄えたネームドなら。

相当に強力な魔力を蓄積した素材をはぎ取れる。

肉だって、たくさんとれる。

皆力がつく。

そして皮などを加工すれば。

強力な防具などに変えることが出来るだろう。

ホルストさんが地図を拡げる。

二枚である。

一枚はキルヘンベルの地図。

現在キルヘンベルは、城壁の移設工事と、畑の拡大工事を完了。森も順調に育っており。既に自給自足が可能な体制が出来ている。

そしてもう一枚の地図は。

この辺りの広域地図。

まず当然のことだが。

街に最低限の守備隊だけを残し。総力戦を街の外で挑む。

もしもそれで撃退出来ない場合は。

キルヘン=ベルは蹂躙されるだけだ。

森まで傷つけるとは思えないが。

城壁はぶっ壊されるだろうし。

何より家屋も畑も蹂躙されてしまうだろう。

イサナシウスはそこまで凶暴なネームドだとは聞いていないが、連中は共通して人間に敵意を持つ。

子供も老人も。

根こそぎエサにされてしまうのは目に見えている。

住民は早めに避難させる必要がある。

何処に避難させるかも。

事前に決めておかなければならない。

奴が直前まで迫った状態で、何処に逃げるか決めていたら、遅すぎるからだ。

「避難先は東の街だな」

フリッツさんが言う。

まあコレは当然か。

西にある隣街は、そもそもアダレットの領土だ。あまり領土だの境界線だのは五月蠅くないとはいっても。難民が大挙して押しかけて、良い対応をしてくれるとは思えない。

これに対して東の街の場合、そのまま東に行き続ければ、やがて公認錬金術師のいる街に辿り着く。

これならば。

難民もある程度は、まともな対応も出来るだろう。

続けて、敵の迎撃作戦の詳細に移る。

この世界の共通したルールとして。

基本的に森は貴重なものだと誰もが考える。

これは人間だけではなく。

邪神でさえ、だ。

森では猛獣でさえ凶暴さが押さえ込まれることからも分かるように。イサナシウスでさえ、それは例外ではないだろう。

それならば、敵の進軍ルートはある程度絞り込める。

迎撃地点は二箇所に設定。

どちらかに来る、という判断だが。

どうしてか東の街を避けているようなので。

街道の途中にある谷と。

その谷の北にある平原の内。

平原の方が可能性が高いと、フリッツさんは判断。

あたしもそう思ったが。

念には念を入れる必要がある。

「イサナシウスは動きが遅いようなので、偵察要員を出しておくべきでしょう」

「それなら私が行きます」

申し出てくれたのはタレントさんである。

だが、ホルストさんが、意外な提案をしてくれる。

「実は、東の街の自警団員が、ギリギリまで近くで監視をしてくれる事になっています」

「!」

「今回のようなときこそ、恩を返す番だとミゲル執政官が申し出てくれました。 我々は、此処に布陣して、敵を迎え撃つ状況に応じて対応し直しましょう」

ホルストさんが、谷のこちら側を指す。

此処ならば、谷を無理矢理イサナシウスが抜けてきた場合も。

その北から現れた場合も対応出来る。

後は具体的な対応の方法だが。

まずは足を止めなければならないだろう。

「ソフィー。 ギリギリまで爆弾の製造をお願いします。 薬に関しては、現状の蓄積分でどうにかしましょう」

「分かりました」

あたしは席を立つ。

細かい作戦はもう任せてしまって良いだろう。

イサナシウスは巨体が故に移動速度が遅い。まだ此処に到着するまで時間がある。

薬を後回しにするのは。

あまりにも非常識な巨体を誇る相手だからだ。

相手を殺しきれなければ。

一瞬で殺される。

今まで作ってきた装備類。

マイスターミトンや友愛のペルソナ。グナーデリング。

これらによる強化も。

暴力的なまでの大きさの前には。

もはや手の出しようが無い、というのが実情だ。

攻撃を受けたら即死する。

そう考えて。

相手が此方に攻撃をする前に。

叩き潰す。

そういう判断で、動くほかない。

カフェを後にするとき。

後ろでされている会話の内容が聞こえた。

「それにしても、公認錬金術師を放置して、どうして急に此方に鞍替えしたのか……」

「キルヘン=ベルにエサがたくさんいる事に気付いたのかも知れないな」

或いはそうかも知れないが。

だがそれならば、どちらかと言えば更に東。

ラスティンの首都であるライゼンベルグに向かうのが正しいような気もする。

いずれにしても、此方に向かっているというのであれば。

叩き潰す。

それだけだ。

アトリエに入ると、すぐに爆弾の製造に入る。

狙うは巨体の一点。其処をぶち抜いたら、穴に爆弾をどんどん投擲して、体内から敵を爆破する。

巨大な体だし。

何しろ公認錬金術師が攻めあぐねた相手だ。

さぞや外皮は硬いか。

それとも、凄まじい魔術による防御を展開していることだろう。

だが、魔術では防げないと、専門家であるヴァルガードさんが太鼓判を押してくれている道具も幾つかある。

それらを、より高品質に作っていく。

残念ながら、最近はプラフタから最高得点更新の墨付きを貰っていないのだが。

それでも、出来るだけ品質を上げていく必要はあるだろう。

ほぼ一日まるごと使って。

可能な限りの爆弾を仕上げる。

荷車に積み込み。

更にもう少し、出来るだけと思っている内に。

モニカが迎えに来た。

「ソフィー。 時間よ」

「もう来た!?」

「仕方が無いわ。 東の街の自警団が気付いて知らせてきたのだから」

それもそうか。

寝ていないが、仕方が無い。

荷車を出す。

全自動荷車のマスターにはモニカになって貰う。

あたしは手押しで使っていた荷車を出すと。

それにコンテナにあった残りの爆弾を全部詰め込む。

そして、種類ごとに束ねた。

今回は文字通り。

キルヘン=ベルを挙げての総力戦だ。

だが、近いうちに総力戦があるだろう事は、予想していた。

勿論相手はノーライフキングだが。

しかしながら、予想とは違う相手とは言え。

総力戦をやっておくことに損は無い。

あたしとしても。

現状の戦力の不足には不満を感じていたし。

キルヘン=ベルの機動部隊であるあたしとサポートの面々と。

守備隊との連携戦闘を、もう少しやっておきたいと思っていたからである。

今までは結局の所、戦略面での連携はやってきたが。

戦術面での連携はどうしても取れていない事が多かった。

今回は、戦略面だけでは無く、戦術面でも連携を取ることになるだろう。

今回の戦いは。

ノーライフキング戦での試金石になる筈だ。

キルヘン=ベルを出る。

何人か一組になりながら、目的地を目指し。

既に避難誘導も開始されていた。

前線が突破された場合。

即座にイサナシウスを南側に迂回しながら東に向かう予定だ。

もしもイサナシウスが南寄りの進路を通った場合と。

東寄りの進路を通った場合で。

避難する向きが多少変わってくるが。

いずれにしても、人間に追いつけるほど早くは無いので。

時間的余裕はある。

前線に到着。

イサナシウスはまだ見えないが。

前に、ミゲルさんの所で見た、獣人族の戦士が、此方に馬で来るのが見えた。

東の街には、馬が数頭飼われていたが。

その一頭らしい。

前に比べて、かなりつやつやしているのは。

エサが良くなったから、だろう。

「伝令っ!」

「聞きましょう」

今回は総力戦という事で、ホルストさんが前線に出てきている。

街の方は、ヴァルガードさんが守りについているが。彼方は引退間近のベテランばかりが残っている状態だ。

新人は全部前線に出てきている。

というのも、避難誘導に新人は役立たないから、である。

「イサナシウスは、予定通りの進路で此方に向かっています」

「今どこにいますか」

「此方です」

地図を拡げて確認。

どうやら谷の北を抜けるつもりらしい。

相手がこの辺の地図を知っているとは思えないから、恐らく単に奴の気分だろうと思ったのだが。

妙な話が聞こえてきた。

「何か気付いたことはありますか」

「そういえば、イサナシウスがかなり殺気立っているようです。 それに傷ついてもいるようでした」

「傷ついている?」

「はい。 恐らく錬金術の道具によるダメージかと思うのですが、体の左側にかなり多くの傷が見受けられました。 公認錬金術師による攻撃だと思われるのですが……」

まて。

そんなダメージを与えられる相手なら。

今頃とっくに倒せているはずだ。

となると、誰かしらが。

何かしらの方法で、干渉した可能性が高い。

あたしと同じ考えに至ったのだろう。

フリッツさんが聞く。

「東の街で、戦闘音は聞いていないか」

「いえ、特には」

「……分かった」

ホルストさんが礼を言い。

伝令が戻っていく。

東の街にしても、イサナシウスがいきなり方向転換して、迫ってきた場合の事を考えなければならないのだ。

流石にないとは思うが。

それでも、備えはしなければならない。

貴重な馬まで出して伝令を送ってくれているのである。

情報が多少足りなくても。

それでも感謝はしなければならない。

「布陣を変えます。 全員、移動開始」

「予定地点北に展開する! 各自急げ!」

「ソフィー、その様子だと、ギリギリまで爆弾を作っていましたね。 少し休んでいなさい」

「分かりました。 お言葉に甘えて」

荷車は、皆に任せ。

布陣する地点に到着すると、荷車の中で丸まって眠る。

爆弾は全て出した後だし。

下地がある分、荷車の方が地面で眠るよりもかなり寝心地が良い。

疲れが溜まっていたし。

すぐに眠りに落ちる事が出来る。

だが、妙だ。

やはり、何かと交戦していたとみるべきだろう。

イサナシウスは何と戦った。

そして戦った奴は。

間違いなく公認錬金術師以上の実力者と見て良い。

だとすると、考えられるのは邪神か、それともドラゴンか。或いは深淵の者か。

邪神がネームドを傷つけるなど、聞いた事も無いし。

そもそもプラフタが言うように、倒された邪神の力を取り込んだ存在が、ネームドである可能性が高い。

ドラゴンはそもそも、動物を襲うことはあっても。

執拗にネームドに攻撃など加えるだろうか。

ドラゴンが狙って来るのは今も昔も人間だ。

勿論おやつ感覚で動物を食べる事もあるだろうが。

ネームドに仕掛ける事は考えにくい。

そうなると深淵の者か。

今までも動きがおかしいネームドはいたが。

今回は明確に深淵の者に追い立てられたと見て良い。

それも、である。

今までは消耗していたネームドはいなかったのに。

イサナシウスは違っている。

色々考えている内に疲れが出て。

少し眠ってしまった。

そして起きだした頃には。

既に周囲は、戦闘態勢を整えていた。

あたしは体を軽く動かし。

更に用意されている井戸水で顔を洗って、気分を切り替える。

皆の所に行くが。

その時には、既に。

イサナシウスが見えていた。

文字通り、動く山だ。

背中は確かに、東の街の防護壁に届くほどだろう。元々横に長い生物なのに、である。

陸魚の特徴を備えていて。魚と蜥蜴の中間のような姿をしているが。

陸上を歩くことを苦にしているようには見えない。

陸魚の中には、長大な角を備えているものがいるが。

あのイサナシウスは、少なくとも持ってはいないようだった。というか、鼻に当たる部分を見る限り、折れてしまったのだろう。

何かの戦いの結果かは分からないが。

いずれにしても、とんでも無い巨体だ。

その分動きは鈍いものの。

既に此方を捕捉し。

エサにしようと、まっすぐ向かってきている。

手をかざして見る。

身を守るように、凄まじい魔力が迸っているが。それ以上に、体の左側に、多くの傷が見て取れた。

それも一部は、ひれを抉るような規模のダメージである。

長年公認錬金術師が守る街と戦っていたと聞くし。

それによるダメージかとも思ったが。

違うと判断。

遠目に見ても、明らかに最近受けた傷だ。

そうなると、追い立てられたのだ。それも、傷跡からして、恐らくは錬金術による生成物。

爆弾などによるものと見て良いだろう。

物好きな流れの錬金術師が攻撃を仕掛けた、とかなら兎も角。

そんな話は考えにくい。

となると、今回の此奴は。

あからさまなほどに。

深淵の者に追い立てられたとみて良い。

だが、どうして左側だけについている。

「そろそろ交戦距離に入ります。 総員、戦闘準備!」

まあいい。

せっかくのダメージだ。

戦闘では有効活用させて貰うのが一番だろう。

あたしは、ホルストさんに事前に許可を貰っているので、いつものメンバーで動く。そして仕掛けるタイミングは。

イサナシウスが、陣地の至近に近づいた時だ。

移動開始。

奴の左側に回り込む。

獣人族の戦士であるベンさんが、角笛を鳴らしている。

周辺に知らせているのだ。

此処で。

これから、近づくと即死必須の、苛烈な戦闘が行われるのだと。

 

3、燃える燎原

 

乾ききった大地を。

巨大な陸魚、イサナシウスが驀進する。

巨体からは考えられないほどの速度だが。

それでも遅い。

ただし、動く山のような巨体である事に代わりは無いし。

その戦闘力も、公認錬金術師がもてあました程のものだ。

イサナシウスは、一瞬だけ此方を見たが。

人数が多い方に襲いかかって、先に空腹を満たそうと考えたのだろう。前進する速度を上げただけだった。

そろそろだな。

ホルストさんが右手を挙げ。

そして、降り下ろした。

起爆。

イサナシウスの頭から胸の辺りに掛けての地面が、一斉に爆発した。

フラムを仕込んでおいたのである。

大量のフラムが、逃げ場のない爆圧を、上にいるイサナシウスに叩き付けたのである。流石の巨体も、うめき声を上げる。

だが、煙を上げながら、イサナシウスは進み続ける。

陣地の方からは、攻撃魔術が敵に炸裂し続けているが。まるで効いている様子がない。まあ当然か。

「火炎系用意!」

ホルストさんが声を張り上げ。

エリーゼさんを一とする、火炎系を得意とする術者が前に出る。

その中には。

以前難民と共に奮戦し。

その後キルヘン=ベルに居着いたシェムハザさんの姿もあった。

「ファイエル!」

合図と同時に、噴き上がるような炎が、イサナシウスの身を包む。文字通り、全身を燃え上がらせるような凄まじい炎だが。

喚声は上がらず。

むしろ恐怖の声がそれに取って代わる。

イサナシウスが五月蠅いとばかりに身をよじったら。

その凄まじい魔力が、炎をはじき飛ばしてしまったからである。

雄叫びを上げるイサナシウス。

巨大に成長した陸魚の雄叫びは、文字通り爆風となって辺りを蹴散らす。

その凄まじい火力については聞いていたが。

右に回り込んでいるあたしも、思わず吹っ飛ばされそうになったほどだ。

当然、陣地は一瞬で吹っ飛ぶ。

だが、今度は愕然としたのは、イサナシウスの方だ。

陣地には、誰もいなかったのだから。

最初から、あの火炎術は。

目くらましだ。

体の左側についている傷に。

あたしがオリフラムをねじ込んだのは、その瞬間だった。

火炎術を振り払ったイサナシウスは、次の攻撃に備えて、前に魔力を集中していた。というか、防御よりも攻撃の意図もあったのだろう。

それが命取りだ。

起爆。

体内に直接獄炎をぶち込まれたイサナシウスが。

絶叫。

半身を起こして、地面に叩き付ける。

強烈な揺れが来る。

その時には、体の左側に。

ホルストさん率いる本体が回り込み、矢を射掛け、魔術を叩き混んでいた。さっきの目くらましと違い、本気での攻撃である。

更に左側に回り込んでいたあたし達も。

総攻撃を開始する。

「傷を集中的に狙え!」

フリッツさんが先陣を切り。

敵の左側を走りながら、滅茶苦茶に斬り付ける。更にそれに続いてジュリオさんとモニカが剣を振るう。

後ろに回り込んだレオンさんが槍で何度も傷口を抉り。

オスカーが跳躍して、傷ついているひれに上空からスコップで一撃を叩き混んだ。

ハロルさんは距離を取って淡々と長身銃での狙撃を加え続け。

あたしはその間に。

拡張肉体に指示。

上空に躍り上がる。

イサナシウスは、流石に耐えかねたのか、体を緩慢に左右に振るっているが。その度に味方は機敏に動き、攻撃の直撃を防いでいる。

奴が本気になったら、周囲全てを薙ぎ払うような攻撃をして来かねない。

その前に、一気に動きを止める。

レヘルンを投下。

イサナシウスは陸魚だ。

この陸魚という種族。

息をするための呼吸穴が、体の上部についている。

その位置を特定するために上に上がったのだが。

此奴も例外では無かった様子で。

もろに呼吸穴に、レヘルンを放り込むことに成功。

起爆した。

今までに無い、苦痛の悲鳴を上げるイサナシウス。

悲鳴を上げて、転がり周り始める。

離れろ。

ホルストさんが叫び。

皆が慌てて距離を取る。

コルちゃんが手を振っているのが見えた。此方だ、というのである。

奴は左側に転がってきているが。

それはオリフラムを叩きこんでやったのが、相当痛かったからだろう。

全員が走り。

コルちゃんが準備していた線を超える。

同時にあたしが。

多数埋めていたオリフラムを。

上をイサナシウスが通過したタイミングを見計らって。

起爆した。

文字通り、灼熱の槍に全身を貫かれたイサナシウスは、その場で跳び上がった。

巨体が跳び上がる様は凄まじかったが。

それ以上に、周囲に拡散した悲鳴がとんでも無かった。

流石に耳を押さえ、蹲る者達。

無差別に暴れまくりながら悲鳴を上げる。

それだけで、此処まで破壊的なダメージを周囲に与える事が出来るのか。

左側に回り込んでいたホルストさん達の方も駄目だ。

とても動ける状態じゃあない。

イサナシウスが此方を見る。

奴はなんと呼吸穴を無理矢理吹き飛ばした。

大量の鮮血を噴き上げながら、奴は身をよじる。凄まじい憎悪の目が、上空にいるあたしを貫く。ふんと、あたしは鼻を鳴らしていた。

幕引きと行くか。

イサナシウスが、大きく息を吸い込み始める。

なるほど、一点にあの音を収束し。

文字通り音の砲として、あたしを貫くつもりか。

直撃したら、魔術防御なんて文字通り紙も同然に貫かれるだろう。

あたしは、そのまま拡張肉体に指示。

急降下に移る。

それを挑戦と受け取ったのか。

イサナシウスが、更に更に息を吸い込んでいく。

だが、その時動く者がいる。

ジュリオさんだ。

奴の目に向けて、斬撃を放つ。

衝撃波を放つ技のようだが。

それでも、あたしに集中し。

全力投球の体勢に入っていたイサナシウスの注意を、一瞬でもそらすことには成功。

更にフリッツさんが出る。

体を持ち上げている奴の顎の下を通りながら、数発の斬撃を叩き混む。

鮮血がしぶいた。

それだけ凄まじい大きさの傷が出来ていて。

裂帛の一撃が。その傷を拡げたという事だ。

そして、その時には。

あたしは、奴の至近に。

砲撃の準備完了。

三つある拡張肉体も全て、である。

如何に強力な魔力で武装していても。

これだけ傷を受けた状態で。

しかも至近距離。

それも守りようがない目だったらどうだ。

目に魔術砲撃をゼロ距離射撃。

文字通り、目をぶち抜いて奴の体内に叩き混まれた灼熱の槍が。乱反射しながら、イサナシウスの全身を滅茶苦茶に内側から砕く。

更に止めとばかりに。

立ち上がったコルちゃんが、あたしの真似をして。

奴の呼吸穴に、レヘルンを放りこみ、起爆。

それでももがき、暴れるイサナシウスを。

見苦しいとばかりに。

立ち上がったモニカが、オスカーと息を合わせて、上空から稲妻のような一撃。まだ残っていたもう一つの目を、破裂させていた。

更にハロルさんが、大きな傷口に一発を入れ。

それに合わせて、完璧なタイミングでレオンさんが槍を叩きこむ。

あたしが着地した時。

動く山としか言いようが無い巨体は。

完全に停止していた。

あたしも呼吸を整える。

全力での砲撃だったのだ。

これで形態変化でもされたら、流石に手に負えない。

だが、それは幸いにも、杞憂に終わった。

「離れなさい!」

ホルストさんが叫ぶ。

皆が、慌てて距離を取る中。

モニカがあたしを抱えると、その場を急いで逃れる。

何となく理由は分かったけれど。

流石に全力での砲撃の直後。

更に、魔力を使い果たして、意識が混濁している状態だったので、身動きができなかった。

イサナシウスの体を覆っていた魔力が。

収束していくのが見えた。

なるほど、最期まではた迷惑な動物だ。

そう思うあたしの前で。

閃光が炸裂していた。

 

目が覚めると。

傷の手当てをしている所だった。

念のために持ち込んだ傷薬は完全に枯渇。

爆弾類も今回の戦いで使い切った。

しばらく補充のために引きこもりで錬金術をしなければならないだろう。

幸いにもと言うべきか。

少し遅れて到着した、東の街の自警団が。

周囲を警備してくれている。

これくらいはさせてくれ、というわけだ。

あたしは身を起こそうとして失敗。

モニカも頭に包帯を巻いているが。

それでも、あたしを無理矢理寝かせた。

「今は寝ていなさい」

「素材回収したいな……」

「回収はしたわ」

モニカが視線で指したのは。

前にデビルホーンから取れたもの。それに酷似した球体。いわゆる深核だ。

ただ色合いがずっと濃く。

更に大きい。

なるほど、自爆しても、これだけは残ったのか。まああの爆発では、肉も骨も残らなかっただろう。

ひょっとすると、だが。

既にイサナシウスは動物と言うには無理のある存在になってしまったが故に。全身に強烈な魔力が染み渡っており。

爆発したのは、それが故かも知れない。

生物としての生命が終わり。

行き場のなくなった魔力が、宿っていた肉を巻き添えにしながら、爆発した。

そういう事なのだろう。

ミゲルさんと。

手を吊っているホルストさんが話している。

「帰り道の護衛は任せていただきたい。 今まで散々世話になったのだ。 それくらいはさせて欲しい」

「分かりました。 物資も使い果たしてしまいましたし、お願いします」

敬礼をかわす二人。

ミゲルさんは此方に来ると。

あたしにも敬礼した。

「公認錬金術師でもどうにもできなかった化け物を倒すとは、流石です。 これからも貴方には可能な限り協力させていただきたく」

「いえ。 ……今回は、相手の疲弊にも助けられました」

「聞いています。 何でも、戦う前から傷ついていたとか」

「理由に心当たりはありませんか?」

移動開始の声が上がった。

重傷者は持ち込まれていた荷車などに乗せられる。

あたしも荷車に運び込まれ。

まだ意識が戻っていないコルちゃんが、隣に乗せられるのを見ながら、ミゲルさんと話す。

ミゲルさんによると、ついさっき、情報が届いたという。

東の街を訪れた商人によるもので。

少し前に、北東の方で戦いの音がしたそうである。

ただしそれはあまり大きな音ではなく。

殆ど一瞬だった、ということだ。

それも、イサナシウスの悲鳴も聞いていないという。

つまり、だ。

イサナシウスをあたしが戦う前に傷つけた奴は。

文字通り手加減状態で。

あの巨怪に、あれだけの傷を与えた、という事なのだろう。

文字通り今のあたしとは次元が違うというわけだ。

勿論イサナシウスは充分な継戦能力を持っていた訳だが、それはそれ。

奴に傷を付けた連中と戦ったら、キルヘン=ベルの総力など、それこそ赤子の手を捻るように蹴散らされてしまっただろう。

坂道にさしかかる。

だから見えた。

イサナシウスの爆発痕。

クレーターになっている。確かにアレに巻き込まれたら、ひとたまりもなかっただろう。負傷者だけで済んで良かった、としか言いようが無い。

今後も、奴と同レベルのネームドと戦う場合。

凄まじい爆発が発生することを、想定しなければならないのか。

厄介だなとぼやく。

ミゲルさんは、それには気付かなかった。

「イサナシウスが倒れたことで、この近辺での要注意ネームドはノーライフキングだけになりましたな」

「……いえ。 気を付けた方が良いかも知れません」

「ふむ、お聞かせください」

「イサナシウスは、ひょっとすると行きがけの駄賃に、東の街を蹂躙するつもりだったのかも知れない、という事です」

流石に絶句するミゲルさん。

恐らくは深淵の者だろうが、狙いが分からない。

奴の移動経路。

そして戦闘音が聞こえた場所。

何より奴の体の左にばかり傷がついていたこと。

それらを考えると。

西進していた奴は。

恐らく東の街も蹂躙し。そのまままっすぐ西に進んで、キルヘン=ベルを狙うつもりだった筈だ。

ロックがそうであったように。

ネームドはどうも、急激に発展した近隣の街を襲撃する性質があるようだから、である。

だがイサナシウスは、東の街を避けた。

あらゆる状況証拠が。

何者かの介入を告げているのだ。

「今後も備えは可能な限り強固に願います」

「分かりました。 ソフィー殿、今後もご武運を」

モニカが険しい目で見ていたこともあるのだろう。

ミゲルさんは会話を打ち切り。後は護衛任務に集中した。

キルヘン=ベルに戻ると。

本格的な治療を開始する。

残っていた薬も全放出。

そしてあたしも、傷を治すと。すぐに薬と爆弾の補充に取りかかった。

文字通りの総力戦だったが。

思った以上に、キルヘン=ベル自警団と、あたしの連携は上手く行った。

だが、それ以上に不安なのは。

深淵の者か何か分からないが。

今回の件に介入して、何の得があったのか、良く分からないと言うことだ。

薬がある程度出来たので、すぐにモニカに持っていって貰う。

小刻みに眠って休憩を取りながら。

薬を造り。

また眠る。

その過程で、嫌でも反復して同じ作業をする事になり。

熟練もする。

一週間ほどで状況は落ち着き。

ようやく、アトリエから出られるようになった。

その頃には遠征に出たメンバーも、錬金術の薬で皆動けるようになっており。キルヘン=ベルはようやく日常を取り戻してもいた。

だが、あたしは本当にそうなのか、疑問が残って仕方が無い。

今回の件も、イサナシウスを撃退出来たのは、最初にダメージがあったからだ。東の街が蹂躙されていたら、こうも撃退を喜ぶ事も出来なかっただろう。

何が起きている。

この世界の仕組みは、やはりおかしくはないのか。

ぼんやりと空を見つめていると。

プラフタが来る。

「ソフィー。 まだ無理は禁物ですよ」

「分かってる」

「ならば少し休みなさい」

「……そうだね」

言われるまま、アトリエに入る。

プラフタは、今回の件についてどう思っているのか、聞いてみる。彼女は、ネームドを撃退し、死者が出ず、街も無事に済んだ。それだけで良いではないかと、ありきたりな感想を述べる。

確かにそうかも知れないが。

あたしはもっと広い視野で周囲を見たい。

錬金術師としては超有能なプラフタだが。

どうもその辺りの。

戦略級の視野については、欠けているように思えてならないのだ。

ともあれ、短期的な視野については、プラフタが言う事が正しい。寝床に横になると、あたしは黙々とレシピを書き始めた。

「何ですか、それは」

「移動が楽になる靴だよ」

「移動の負担を軽減する道具であれば、幾つかありますが。 靴をどう工夫するつもりです」

「ただ靴を軽くするだけだと意味がないんだよねえ」

その通りですと、プラフタが言う。

実は、少し前から色々と試していたのだ。

この場合、ゆっくり歩くのではなく。

走るのだが。

走る場合の負担を減らすには、どうすれば良いか。

実際に走るときに、足のどの部分にダメージが行くのか、確認をしていた。

ただし、直接グラビ石のかけらなんか埋め込んだら、足の裏の皮にダイレクトなダメージが入ってしまう。

靴そのものにグラビ石を仕込もうものなら。

走っている間にすっころぶだろう。

つまり、走る速度を上げ。

なおかつ負担を減らすためには。

工夫がいるのである。

「それにしても、どうしてそんなものを」

「今回の戦いで、皆の展開に問題があると感じてね」

まずそもそもだ。

東の街からの伝令だって、馬を使っても一日以上掛かる距離だ。東の街をイサナシウスが直撃していたらひとたまりもなかっただろう。せっかく回復に向かっていたところが、完全に粉々にされていたはずだ。

味方の対応も同じ。

敵の進路を二つに絞ったものの。

それも途中から位置を変えたりで、かなりぐだついた。

フリッツさんとホルストさんが陣頭指揮を執っていなければ、間に合わなかったかも知れない。

今後は、少なくともあたしと一緒に動いてくれるメンバーは。

今の倍以上の速度で、移動も展開もこなしたい。

そういう話である。

それに、展開を早くするのには、もう一つ理由もある。

「イサナシウスは、途中で進路を変えられたとは言え、途中から結局キルヘン=ベルを明らかに目指していたよね」

「情報を聞く限り、そうでしょうね」

「だったら、来るんじゃないのかな」

「……!」

そう。

街が繁栄を極めていくと。

どうしても人間の前には姿を見せる奴らがいる。

ドラゴンである。

北の谷にいるドラゴンは、今のところは大人しい様子だが。それもいつまで静かにしていてくれるかはまったく分からない。

恐らくは、その内。

そう遠くない時期に、動き出すのでは無いかとみている。

イサナシウスは、あの巨体からして、小型のドラゴン並みの戦闘力があったとみて良いだろうが。

しかしながら巨体過ぎて鈍重で。

イサナシウスがドラゴンとやり合った場合、勝てたとはとても思えない。

ドラゴンはあれよりタフネスが劣るとしても。

火力と機動力は、それこそ比較にもならないはず。

このままでは、ほぼ間違いなく打つ手がない。

戦闘時の機動力を更に上げる事が出来れば。

それに、戦闘前にも。

有利な場所を先に抑えることが出来れば。

偵察も、より迅速に行えれば。

勝機はより大きくなる。

イサナシウス戦ではっきり分かったが。

ドラゴンがあれと同等かそれ以上だとすると。

今交戦すれば、大きな被害が出る。

公認錬金術師でも、手に負える人間はあまり多く無いというのも納得がいく。

昔のプラフタだったらともかく。

今のあたしには。

こうやって、下準備を丁寧にやる以外には。

対応策がないのだ。

「貴方は、随分と広い視野を持って動いているのですね」

「先の先を読んで動くのが基本だよ。 そうしないと死ぬ。 あたしはそれを子供の頃には思い知らされていたからね」

「……ソフィー。 私は」

「で、どうこのアイデア」

言葉を敢えて遮って、レシピを見せる。

プラフタは。

もう、これ以上は。

何も言えないと、判断したようだった。

 

4、疾風

 

まず最初に工夫したのは靴底だ。

靴は基本的に貧富の差がもろに出る品である。

革製の靴にしても、木靴にしても。

いずれにしても、足を守るのと引き替えに。

足に大きなダメージを与える。

其処で、靴の中に柔らかい緩衝材を入れる事を思いついた。

この緩衝材は、以前から作っている錬金術の糸から作った布で。レオンさんと相談して、出来るだけ柔らかく仕上げたものである。

綿というものもあると聞いているが。

残念ながら、この近辺では手に入らない。

商人も今まで持ち込んでいない。

それがあったら完璧だったのだが。

羊毛を使う手もあったが。

とりあえず錬金術で作った布にしたのは、魔術を掛けやすくなるからである。布地に、直接魔法陣を仕込めるからだ。

魔法陣は、回復魔術を仕込む。

これによって、常時足のダメージを回復する事が出来る。

全身を回復しても良いのだが。

それは他の道具類に任せれば良い。

今、レシピを見ながら。

常時体力が回復する道具を作成中だ。

靴そのものにも工夫を凝らす。

まず靴は長靴状にし。

その側面と上部に、グラビ石の破片を仕込む。

全体的にこの靴は、外側は皮で造り。

内側は布で柔らかく仕上げ。

更に回復。

体が軽くなるという二段構えの強力な効果をもたらす。

悪路を踏破するには兎も角。

街道を高速で駆け抜けるには、これで充分なはず。戦闘時の機動も、身体能力を倍にするグナーデリングと組み合わせれば、更に強力になる筈だ。

問題は、グラビ石を組み込むポイントで。

こればかりは、自分で何度も試して、外を走り回った。

ソフィーが凄まじい勢いでアトリエの周囲を走り回っている。

そういう噂が流れていたらしく。

何度もすっころんだりしながら、改良を加えていく内に。

やはり見物人が来ていた。

テスさんが直接来たのには驚いたが。

テスさんはCQCの達人という事もある。

この靴はサイズの調整も難しくないので、履いて貰って。試して貰う。

彼女は流石に戦闘モードになると、重心を落として非常に安定した姿勢を取る。此処から極めて的確な打撃を、手技中心にうち込んでくる。

これが非常に重いのだが。

少し手合わせをして。

テスさんにアドバイスを貰った。

「もう少し重心が低くなるようにしてくれると嬉しいかも」

「うーん、そうなると個々人ごとで調整する機能が欲しいかなあ」

「流石に其処までは分からないわ。 ごめんなさい」

「いえ、参考になりました」

次にモニカにも試して貰う。

モニカも履いたときに、少し違和感があると言っていたが。

テスさんとは感想が真逆だった。

重心が低すぎる、というのである。

なるほど。

そうなると、靴を履いたときに、体型に合わせてグラビ石が自動でセットされるようにする方が良いか。

それから、モニターを募って、何人かに履いて貰い。

データを取る。

その結果分かったのは。

それぞれが、皆戦いやすい姿勢を持っていると言うことで。

靴そのものはとても使いやすいと褒めてくれているという事。

後は重心がどうにか出来れば、という意見が決まって出てくる、という事だった。

偵察だけ。

移動だけ。

それらに使うのならば、今の完成度で問題ない。

走ってみた感触だと、グナーデリングを着けた状態で走ると、通常の四倍くらいのスピードが出る。

つまり馬なんぞより遙かに早く走れる。

しかし、それで体勢を崩すようでは意味がない。

そこで、幾つか工夫を仕込む。

まず外側の皮だが。

皮の内側にゼッテルを組み込み。これに水を弾く魔術を仕込む。

これで、靴そのものは、極めて頑強になる。

水浸しの悪路でも、靴の中に水が入らなくなるからだ。

更に足の甲側の皮を二重にして、糸で縫い合わせる。

この間に耐水の魔術を掛けたゼッテルと、更にグラビ石を仕込む事により。足に違和感無く。更に重さも感じずに走り回ることが出来る。

側面も同じだ。

また、靴底に関しては。

錬金術によって変質させ、非常に強靱にした皮を用いる。

皮そのものは、どれもその辺で仕留めてきた獣の皮だが。

こうやって加工することによって、多少石を踏んだくらいでは破れない程度には強くなる。

そして内部に固定されている柔らかい布が。

足そのもののダメージを緩和する。

そして此処からだ。

靴の上部につまみを付け。

これで重心を調整できるようにする。

それほど難しい仕組みでは無く。

ただグラビ石の位置を多少動かすだけだが。

これをつけた後、テスさんとモニカ、他の戦士にも試してもらった所。

皆が満足してくれた。

後はお披露目回である。

テスさんも使っていたことから。

既にあたしが作った「凄い靴」の話は、ホルストさんまで上がっていた。

お披露目回をするために、街の重役が集まる。

その中には、最近キルヘン=ベルに住み始めた人間も、何人か混じっていた。

プラフタが、それを見て不安そうにする。

何となく理由は分かるが。

今の時点で、ホルストさんが極めて上手に皆を統率してくれている。

街の自治や。

治安がおかしくなる事は無いし。

あたしに変なちょっかいが掛かる事も無い。

盗みなども報告されていない。

たまに他人のものを奪いたくなるような精神病を抱えている者もいるようだが。

実はこの病気、モニカが得意とする神聖魔術系統の回復術で緩和が可能で。しかもあまり数が多くないこともあり。今の時点では、この街で悪さをする人間が出る心配はないだろう。

新しく来た住民達は飢えていないし。

基本的に生活満足度は高い様子なので。

今の時点では、其処まで神経質に心配をしなくても良いかも知れない。

いずれにしても、皆が見ている前で。

あたしが作った「凄い靴」こと、「旅人の靴」のお披露目をする。

敢えて水をブチ撒いて悪路にした所を、通常の数倍のスピードで軽やかに走り抜けて見せた後。

他の人間にも実践して貰う。

使い方はごくごく簡単。

つまみで重心を自分好みに固定するだけ。

なおこのつまみには引っかけもついており。

簡単には外れないので、走っている途中に勝手にずれることもない。

何人かに走って貰い。

その快適さに、誰もが満足の声を上げてくれた。

なお魔族用に、大きなものも用意してある。

今のところキルヘン=ベルには、魔族は殆どいないが。

体のサイズが違いすぎるので。

こればかりは、靴の調製ではどうにも出来ないので、仕方が無い事だ。

「素晴らしい靴だな」

「足の裏に掛かる負担がとても小さい上に、本当に風を切るようにして走れる」

「ただあらゆる意味で非常に緻密で高価な品だ。 普通の靴とは素材にしても作る手間にしても比較にならない。 これは作るのにコストが掛かりそうだな……」

重役の何人かがぼやく。

実のところ、この間のイサナシウス迎撃戦の後。物資の補給をしたところ、ホルストさんが話を振ってきたのだ。

潤沢だった資金だが。

少し減りつつあると。

ここしばらく、物資の消耗が激しかったこと。

東の街の荒れ方も酷く、商人の到来が減って、外貨の獲得がならなかったこと。

更に、破損した武器防具などの修繕費用。

それらもあって、もう少し戦略物資を増やして欲しいと頼まれたのである。

流石に全自動荷車や、全自動荷物積み降ろし装置は、本当に信頼出来る相手にしか売らないにしても。

爆弾や薬に関しては。

もっとたくさん作って欲しい、というのだ。

それも商人に高く売れるものを、である。

この靴についても、現時点では、十足程度を納入して欲しいとホルストさんに言われたが。

これは少し少なすぎる。

偵察を主任務にする自警団員と。

後は、東の街などに急を知らせるメンバー用だとしても。

最小限の数値だ。

ちなみに、ヴァルガードさんは、あたしが念のために用意した一足だけで良いと言った。多分自分ではあまり使おうという気にならないのだろう。

魔族は空を飛ぶことも出来るし。

身体能力を上げるグナーデリングだけで、充分に満足していたようだから、である。

十足か。

それなりの値段は提示してくれたが。

ホルストさんは、こっちを見て頷く。

薬と爆弾など、外貨に替えられるものを作ってどんどん納入して欲しい。

そういう意図はすぐにくみ取れた。

嘆息すると、アトリエに戻る。

絶賛はされたけれど。

どうにも釈然としない。

これがあれば。隣街との連絡ももっと順調にこなせる。

だが、経済的な面では、やはりキルヘン=ベルを優先しなければならないし。

イサナシウスとの戦いでの総力戦の影響は大きい。

しばらくは、爆弾と薬の質を上げ。

街周辺をより安全にして良くしかないか。

では、納入依頼のあった十足と。

あたしと一緒に行動するメンバーの分を作るとして。

他に何かしら、戦略物資として活用できるものはないか。

少し考えていると。

プラフタが声を掛けてくる。

「ホルストとの話は聞いていました。 どうやらこの間の戦いでの経済的消耗が大きくなっているようですね」

「そうだよ。 あたしが思った以上に、ちょっと打撃が大きいみたいだね」

「それでも、まだ余裕はあるのでしょう?」

「今はね。 ホルストさんにも話したのだけれど、ドラゴンが今後攻めこんでくる可能性を考慮すると、もっと力を蓄えておきたいから」

プラフタは少し考え込む。

単身邪神を倒すほどの錬金術師だった彼女だ。

ドラゴン程度は、それこそどうでも良い相手だったのだろう。勿論上位のドラゴンは話を別にして、である。

だが、プラフタは。

想像していない切り口で話を始めた。

「経済はあくまで人が生きるための手段に過ぎません。 このまま行くと、目的と手段を取り違えることになります」

「プラフタ。 隣街の惨状を見たでしょ」

「勿論最低限の豊かさが必要なのは分かっています。 しかしお金があまりにも増えすぎると、良くないことが起きます」

「そんなことは言われなくても……」

さては、プラフタの所でそういう事があったのか。

確かに、豊かになり、発展していくと。

どうしても山師の類が姿を見せる。

実はホルストさんに聞いたのだが。

商人の中には、タチの悪い商売を持ちかけてくる輩が出始めている、というのだ。主にどこぞとも知れない鉱山だののスポンサーになって投資しないか、だの。どこぞで何やらが高値になっているので取引すれば儲かるだの。

そういった話は全て断っているようだが。

プラフタの危惧は分からないでもない。

彼女も街の重役だ。

だから、話はしておく。

そうすると、やはりと、プラフタは嘆息するのだった。

「ひょっとしてだけれど。 前にプラフタ、人間時代に街の顔役していたって話だったよね。 そういう連中、見境無く受け入れていた?」

「困っている人間を助けるのが使命と考えていました。 そうしたら、いつのまにか、街には多くの救いようのない輩が満ちあふれていた。 そんな苦々しい記憶があります」

「それは大丈夫だよ。 ホルストさんにしても、他の重役にしても。 おばあちゃんが生きていた時代から、その手の輩は嫌って程目にしていたしね。 ……何より、あのクズが、そういうのと結託して、何回か危ない事もあったらしいし」

あたしの言葉が。

絶対零度を帯びたのを、プラフタは気付いただろうか。

口に出すのも嫌だが。

今はプラフタとの関係を壊したくない。

だから説得力のあるやり方をとるしかなかった。

だがあたしも不愉快だ。

故に口にも出る。

プラフタは黙り込むと。

しばし、気まずい沈黙が続く。

あたしは、適当に空気を変えようと、調合することにした。どうせしなければならないのだ。

「お薬作る」

「残った近隣のネームドの処理についても考えておきましょう。 確か後三体……四体でしたか」

「後三体だね。 いずれもデビルホーンに比べるとかなりの小物だし、そこまで心配はしなくても大丈夫だろうけれど。 まあ容赦なく叩き潰さないとね」

歴戦の猛者が。

ちょっとした油断から。

格下の相手に負けた。

そんな話はいくらでもある。

人数が増えても同じ事。

歴戦の勇者達が、バカみたいなアクシデントから、普段は絶対に遅れを取らないような相手、それも単独に不覚を取った。

そんな話もあるが。

笑い話では無くて、実話なのだ。

自警団に混じって鍛えていたときに。

ハイベルクさんに何度も教えられた逸話だ。それも、天下のアダレット騎士団の話だそうである。

油断は戦闘力を何分の一にもする。

例え負ける要素がない相手でも。

絶対に手を抜くな。

徹底的に叩き潰し。

相手に反撃の隙さえ与えるな。

それがハイベルクさんの教えだ。

何でもおばあちゃん達でさえそういう危ない場面が若い頃にはあったらしく。それで、口を酸っぱくしてまで言っているそうである。

山師の薬が出来上がる。

プラフタは見ると、点数を結構厳しめに付けた。

「59点」

「おっと、少し下がったね」

「材料の質が良くないからです。 街の中の森に足を運んでみると良いでしょう。 みずみずしい魔力に満ちていますし、きっと良い薬草が採れます」

「そっかあ」

黙々と薬を造り。

適当な分量が出来たところで、納品に行く。

化膿止め、熱冷まし、何種類かのメジャーな病気の特効薬、栄養剤。一通りセットにして納品。

ホルストさんも頷いてくれたが。

品質はしっかりチェックされた。

やはり在庫だけで作っていると、これ以上の品質の薬を作るのは無理か。

だが、街の近くで牙を研いでいるネームドがまだ残っている以上、極端な遠出は出来ないのも事実。

プラフタに言われたとおり、モニカとオスカーと一緒に森に。

確かに、地面からわき上がるような魔力を感じる。

植物も、非常に生き生きとしていて。

青々と葉を拡げていた。

木によっては、既にかなりの高さまで成長している。

緑化の成功が、子供にも分かるほどだ。

「ソフィー。 こっちに良い薬草があるぜ。 少し葉っぱを分けてくれるってよ」

「ありがとう。 この辺?」

「そうそう、其処から」

言われたまま、葉を貰う。

モニカは相変わらず苦虫を噛み潰したような表情でやりとりを見ていたが。

しばらく薬草を採取している内に、すっかり成熟した木苺の実を発見。

嬉しそうにした。

「オスカー、これ貰っても良いかしら?」

「ちょっと待ってな。 ええと、この辺りは持っていって良いそうだぜ」

「はいはい、ありがとう」

オスカーが指した奴は、虫が食っていない。

モニカはそれに気付いているのかいないのか、てきぱきと収穫。

様子からして、タルトでも作るのだろう。

教会の子供達にはごちそうだ。ただ、あまり多くは用意できないだろうが。

あたしも教会に出るつもりは無いが。

彼処にしか居場所がない子供が不幸になる事など望みはしない。

森から出ると。

二人には話しておく。

「近いうちに、街の近くにいるネームドを全滅させるよ」

「おっ。 意外に早かったな」

「いいや、この後の本番に備えて、出来るだけ早めに仕込みは住ませた方が良いから」

「本番?」

ドラゴン戦。

あたしがそう口にすると。

流石に二人も押し黙った。

ほぼ間違いなく、ドラゴンが来ると見て良い。多分この辺りで一番近い北の谷の奴だろう。

昔は害が無かったが。

それもいつまでも害がないかと言われればノーだ。

ドラゴンと戦うための装備と道具を。

可能な限り早く揃えておきたい。

同時に、ノーライフキングも仕留めておきたいが。

いずれにしてもドラゴンの様子次第だ。

アトリエに戻る。

そして、薬草を見せると、プラフタは喜んだ。やはり、かなり品質が良いらしい。これならば、充分な品質の薬が作れると、太鼓判も押してくれた。

さて、此処からだ。

イサナシウスと同等以上の実力を持つ相手と、いつでも戦えるように。

準備を、入念に整えておかなければならない。

戦いは間違いなく苛烈になる。

だが、負けるわけにはいかない。

この世界の理不尽が形になって押し寄せてきている以上。

あたしは必ず。

勝って叩き潰してやる。

 

(続)