舞う手
序、疑念
新しい釜の性能は上々だ。流石に最高級には及ばないにしても、できる限りの事をして作ったのだから当たり前である。あたしは黙々と調合にいそしみ。相応の成果を上げていった。
カフェに出向き。
お薬と爆弾類を納品する。
このうち幾らかが蓄えられて。
幾らかが売りに出される。
見ると、今日も商人が来ている。魔族の護衛を連れている所から言っても、相当な金持ちだろう。護衛は全部で八人いて、大型の馬車も持っていた。
「これは凄い。 公認錬金術師でもないのにこの品質か。 噂には聞いていたが、買いに来た甲斐はあったな」
「在庫は限られていますので、お気を付けくださいなのです」
「分かっている。 在庫分全部くれ」
対応しているのはコルちゃんだ。
あたしが顔を出すと色々面倒なので顔は出さない。
それにしてもヒト族の商人の強欲そうな顔。
あれは、都会に持ち込めば、相当な利益が上がるのだろう。それこそ、護衛八人を雇っても、お釣りがつきすぎるほどに。
薬と爆弾を根こそぎ持って行く商人。
ホクホク顔でキルヘン=ベルを出ていく。
ちなみに西に向かったという事は。
アダレットに売りに行くのだろう。
まあ考えとしては間違っていない。
錬金術国家とも言われるラスティンに対し、あくまで武力で知られるアダレットである。交流はあるし、公認錬金術師も訪れていると言うが、やはり数はどうしても限られてきてしまう。
あの薬は、恐らく相当な高値で売られ。
そして金持ちだけが使うのだろう。
その過程で色々な経済活動が発生はするが。
錬金術が誰もを幸せに出来るわけではない。
この街が。
キルヘン=ベルが例外なのだ。
他の街でも、公認錬金術師が、薬を気前よく街の人々に分け与えているかどうかは、微妙な所だろう。
何しろ、やっと一人前のあたしでさえ。
これだけの影響力を持てるのだ。
タチが悪い奴が錬金術師になったら。
下手なネームドの猛獣よりも、猛威を振るうのではあるまいか。
顔を出すと。
コルちゃんが口元を抑える。
「仲介料だけで儲かって仕方が無いのです。 勿論差額の物資とお金はキルヘン=ベルに還元するので大丈夫なのですよ」
「その辺りは信頼しているよ。 ヒト族の商人だったら怪しいけれど」
「うふふ」
欲がヒト族と比較して少ないとは言え。
ホムにだって欲はある。
コルちゃんは単純にお金を貯めるのが好きなようで。金の臭いがすると目を細めて口を押さえる癖がある。
着ている服が独特なので、その動作が妙に可愛い。
もっとも、以前コルちゃんに聞かされたとおり、彼女の目的は家族捜しらしいし。
金はいくらあっても足りないのだろうけれど。
「そういえば、荷車は売らなかったの?」
「あれは戦略物資なのです」
「ああ、なるほど」
要するに、今後関係を強化していく街などに、特別に譲る、という扱いをするわけだ。
恐らくは友愛のペルソナやマイスターミトンもそうなのだろう。確かに装備しているだけで防具の性能が一桁上がる代物だ。格上の相手にも互角以上の戦闘が挑める。
実は時々依頼されて納品しているのだけれど。既に自警団用の装備としては行き渡っている。
そうなると、販売先は隣街か。
「時に、何故隠れていたのです?」
「ああ、それはね。 ああいう褒め言葉を直接聞くと、あまり嬉しくないから」
「妙ですね。 客観的にも正しい評価だと思います」
「そう」
あたしが目を細めたのを見て。
コルちゃんが慌てて咳払いして視線を背ける。
気付いたのだろう。
あたしの逆鱗に触り掛けた事に。
コルちゃんも、恐らくモニカとかに聞かされているはずだが。
それ以降、時々暴発するあたしを見ている事で。
如何にヤバイかは分かっている筈だ。
あたしだって、自分で良いとは想っていないが。
それでも制御出来たら苦労しない。
此方も、致命的なワードまでは出なかったので、どうにか押さえ込めたし。笑顔で適当に大丈夫だよ、と告げる。
コルちゃんは震えて青ざめていたが。それでも頷いた。
後は、軽く話を流して戻る。
今日は、別にやる事がある。
アトリエに戻ると。
既に、プラフタがモニカと話していた。オスカーもいる。
「ソフィー。 栄養剤作るんだって?」
「うん。 この間の「提督」から、良い素材が取れたからね」
「あいつ手強かったなあ」
オスカーも手酷く傷を受けた戦いだった。モニカも派手に吹っ飛ばされて、岩に叩き付けられて。
友愛のペルソナの自動防御が無ければ、多分死んでいただろう。
モニカには、調合前に掃除をお願いする。
あたしは単純に下手だから。埃とかが舞うので。
オスカーに来て貰ったのは。
森をどう拡大するか、相談するためだ。
相談した後、カフェでホルストさんに話して、具体的な森の拡大について決める。
キルヘン=ベルの背後に茂っている森は、いざという時の食糧源にもなる。土地の保水力も高める。更におばあちゃんが色々工夫した結果、霊の類も出ない。
森は、荒れ狂う猛獣でさえ心を静め、無為に傷つけない。
世界の宝なのだ。
錬金術師以外にも、魔術師や機械の技術者が、緑化には散々挑戦しているらしいが。
残念ながら、成果は上がっていない。
錬金術だけが。
この乾いた荒野に、緑を人為的に増やす事が出来るのである。
故に、植物のスペシャリストであるオスカーとは。
何処に森をどう拡げるか、話をしておく必要がある。
栄養剤を作る前に、だ。
「畑はこのまま川に沿って南下させるとして、どうすれば良いと思う?」
「植物たちは、今の時点で森には満足しているぜ。 そうなると、川から離れ過ぎない場所に、こんな感じで、だな」
「なるほど」
「街のことを考えると、畑の拡大は必須だしな。 でも、森がどれくらい拡がるかにもよるかなあ。 防御用の壁、拡げないと行けなくなるだろ」
頷く。
そして地図を拡げながら、大体の使用地点を決めた。
森さえ拡がれば。
その周辺に畑を作れる。
本来は草原を拡げるべきなのだろうが。
それは、畑を休作させる時に、雑草に解放するような形で草原にすれば良いだろう。いずれにしても、食べていくだけの食糧を得るためには、畑は拡げる必要があるし。何より大地に潤いをもたらすためには森がいる。
後は、予定地点で何回か実験を行うことが前提だ。
栄養剤の効き次第では、とんでもない効果が出ることも想定しなければならない。
桁外れの力を持つネームドを素材にするのである。
それこそ、既存の森が栄養過多で更にふくれあがるような事態さえ、最悪の場合には想定しなければならなかった。
とりあえず、予定地点は決めた。
続けて、調合開始である。
釜の状態はばっちりに保ったので。
此処から調合に入る。
普通の栄養剤と違うのは。
ネームドの心臓部分ともなるものを中核にして。
本来土地に吸収されるべきだったマナを。
土地に循環させるようにする、という薬剤にすると言うことだ。
普通の栄養剤なら、そのまま栄養を入れればいいだけの事で。出来上がっている畑などには、これで充分。
木々などを元気にするにも、これでいいだろう。
プラフタと相談して。
森の土と。
それ以外の土を調べて見た。
魔術を使う人間にはやはり一目瞭然。
荒野に拡がっている土には。
大気中に無尽蔵に満ちている魔力の元、マナが。まったくという程通っていないのである。
汚染されているケースもあるのだけれど。
それ以上に、土が死んでいるケースが大きい。
こういった乾ききった荒野の土は。
それこそミミズの一匹も住んでいない。
不思議な事に。
川のすぐ側でも。
こういう土になっている場所もある。
川の側は、草原になっていたり、森になっていたりもするのだけれど。
それも様々で。
どんなに大きな川の側でも。
荒野は荒野なのだ。
其処で、土地にマナが循環するように調整するのが。この栄養剤である。
恐らくは、それほど珍しくない薬剤の筈だ。何しろ、おばあちゃんが残したレシピの中にもあったほどだ。
問題は、現実的にコレを作れるかどうか。
公認錬金術師だって、傭兵を雇って、或いは軍の協力を要請して、ネームドや。或いはドラゴンと戦い。
そして素材を手に入れて。
栄養剤を作るのだろう。
公認錬金術師といっても、アトリエに引きこもって研究だけしていれば良いわけでは無い。
情報はあまりないのだけれど。
ひょっとすると、試験か何かを受けるときに。
戦闘力を試されるのかも知れない。
それに関しては望むところだが。
いずれにしても、簡単に試験を突破は出来そうに無いなと、あたしは苦笑する。
ともかく、だ。
コンテナから取り出すのは。
この間仕留めた、あどみらぷにから取り出した、黄金のぷにぷに玉。
本来の用途は脱水剤で。
これほどの巨大なものであれば、相当に強力な脱水剤として機能するのだろうけれども。今回は残念ながら違う使い方をする。
プラフタも、見て頷く。
「これならば問題ありませんね。 広範囲を緑化してくれるはずです」
「それにしても、どうして土にこうもマナが定着しないんだろう。 そればかりか、ネームドの猛獣にばかり定着している様子だし、場合によってはドラゴンや邪神にも」
「諸説ありますが……」
「いずれにしても、創造神が原因かな」
プラフタは無言。
その通り、という事なのだろう。
此処からは調合に気合いを入れる。
何しろキルヘン=ベルの未来が掛かっている調合なのである。当たり前の話である。
モニカとオスカーには帰ってもらう。
この調合だけは。
絶対に失敗させられないのだ。
まず、巨大なぷにぷに玉に鉈を振るって、分解していく。どずり、どずりと、重い音がする。
それだけ質量があり。
どっしりしている、ということだ。
鉈で切り分けた後は。それぞれを分解して、更に細かくしていく。
同時に、砂を使って中和剤を作成。
これは、ぷにぷに玉に脱水作用があるためで。
水を使った中和剤だと。
反発し合って。
効果がなくなるからである。
作業を進めながら。
額の汗を拭う。
さて、此処からだ。
完全にミンチにした黄金のぷにぷに玉と中和剤を混ぜ。
此処に、魔力を定着させるための措置をするのだが。
レシピを見ると。
どうもこれが、ものに意思を与えるときのものと同じだ。
あの全自動荷車を作る時のように。
強大な魔力を秘めているぷにぷに玉そのものに。
意思を宿らせる。
悪霊などが宿らないように注意しなければならないが。
いずれにしても、しばらく中和剤と一緒に寝かせ。
その後は乾燥させ。
そして、何種類かの薬剤を、順番に加えていく。
最初は黄金だったぷにぷに玉も。
時間が経つと同時に、色がくすんでいく。
この黄金は。
魔力そのものだったのだと分かる。
その魔力が。
周囲の魔力を呼び集め。
更に循環を促すようにする。
本来は、それが当たり前の筈なのだが。
当たり前では無くなっているから。
荒野に処置をしなければならないのである。
面倒な話だ。
今後、世界を更に緑で満たして行くには。相当な数のネームドやドラゴン、邪神を殺して行かなければならないだろう。
土地の保水力を上げ。
土地の潜在力を引き出し。
何より獣が大人しくなり。
食糧をある程度自由に得られるようになる。
そうなれば、匪賊化する人間だって減るし。
人間の活動範囲だって拡がる。
何もかもが上手く行くとは、あたしも流石に思わない。今問題になっていない事があるだけかも知れない。
それらが顕在化した場合には。
また手を打たなければならないだろう。
だがそれ以前に。
今はあまりにも、世界に活力が足りなさすぎるのだ。
あまりにも力がなさ過ぎる世界を少しでもどうにかするためには。錬金術を使って行くしかないのである。
ある程度時間が経つと。
くすんだ茶色から、黒に変わった、ペースト状のものがかなりの量出来た。これら一つずつが、強力な魔力循環機能を有している。
其処で成形し。
コーティングし。
風雨にさらされても、平気なようにする。
コーティングにはゼラチンを加工したものを使う。
本来だと虫などに喰われてしまうのだけれども。
コレは非常に堅くしている上。
有毒成分が入っているので、虫も噛まない。
更に言うと、この有毒成分が流出しないように、その外側を更に砂利でコーティングし、接着剤で固める。
こうして、キューブ状の栄養剤。
正確には土地活性剤が完成だ。
ふうと一息。
これを何個か、様子を見ながら土地に埋めていき。周囲に水を撒いて、様子を見なければならない。
ものに変化を促す力。
それを周囲にも広める力。
ある意味錬金術の究極だが。
究極の初歩の初歩。
さっそく、カフェに。荷車に乗せて持ってきたそれを見て、ホルストさんは大喜びした。
「おお、懐かしい。 貴方の祖母も、それを作ってきたのですよ、ソフィー」
「ありがとうございます。 それでは、早速埋める場所を決めないと」
「では、重役を招集します。 貴方は其処の席に。 テス、茶を人数分用意してください」
「分かりました」
テスさんはすぐに厨房へ。
そして古参の重役達は。
あたしが持ち込んだ土地活性剤を見て、大いに喜んでくれた。
「また此奴を見る事が出来るとはな。 長生きをするものだ」
獣人族のベテラン戦士が嬉しそうに言う。
ハイベルグさんも珍しく目を細めて喜んでいた。
重役が集まったところで、あたしがキルヘン=ベルの地図を拡げ。オスカーと話し合った事を説明する。
川沿いは畑にするとして。
その外側。
今の森を延長して南下させるような形で、森を拡げる。
それで構わないだろうか。
そう提案すると。
難色を示したのは、ヴァルガードさんだった。
「少し街が南に長くなりすぎるな」
「防御が難しくなる、という事ですか?」
「ああ。 防御壁や物見櫓を作り替えたり作ったりすることは全然かまわん。 仕事が発生して、賃金が流れるからな。 それに街もそろそろもう少し大きくなっていた所だし、居住区も拡げたかった」
ヴァルガードさんが。
人間の倍もある背丈で。
上から指を伸ばす。
地図の一点を、丸くなぞった。
「この周囲は、緑化しない方向で行けるか」
「多分。 しかしどうして?」
「この辺りに居住区を新しく作る。 実は、また東の街から、人間の受け入れの話が出ていてな。 そろそろ全盛期の頃の人口が回復するのと同時に、問題が発生する。 これ以上人間を受け入れると、土地が足りなくなる」
貧しい街や村になると。
家を持たず、地べたで生活している人も珍しくないと聞いている。東の街で、あたしも似たような光景を見た。
なるほど、それなら仕方が無いだろう。
「分かりました。 あたしは異存ありません」
「では、そいつの効果実験からだな」
ヴァルガードさんがホルストさんに頷く。
どうやら。
話は、綺麗にまとまりそうだった。
1、乾ききった土地に血を
土地活性剤を埋める。
埋める範囲は、プラフタによる得点判定と。おばあちゃんの作った土地活性剤との比較。それにどれくらいの土地を緑化するにしても、まずは一番安牌となる場所。というわけで、森から少し南に埋めた。
勿論こればかりは、一日やそこらで効果が出るものじゃあない。
埋めた後、周囲に柵を作り、立ち入り禁止の札を立てる。
子供などが悪戯をしないように、である。
そして、慎重に。
オスカーが、土ごと比較的乾燥に強い植物を、幾つか植えた。いずれも新芽が出たばかりである。
「ソフィー、頼むぜ。 みんな、不安がってるからな」
「大丈夫だとは思う。 ただ、植物の世話は頼める?」
「それは任せてくれ」
オスカーも、不安そうだったが。
まあ植物を誰よりも愛しているオスカーだ。その辺りは、仕方が無い処もあるのだろう。
キルヘン=ベルに戻る。
最近街に加わった子供も。
教会の周囲で遊んでいる姿が目立つ。
街道で死にかけていたころから見ると、すっかり回復しているようだが。
それでも、あれほどの恐怖を味わったのだ。
急に泣き出して。
パメラさんがなだめている様子が見られた。
老人の一人に呼び止められて、感謝を伝えられる。
「あんたが作ってくれた荷車のおかげで、随分と仕事が楽だ。 顔が怖いのが難点だが、その、助かっているよ」
「顔は怖くないですけれど、助かっているのなら何よりです」
「そ、そうかね」
そのまま、アトリエに直帰。
まだ幾つかある土地活性剤は、効果を見ながら使う。その間には時間が空くわけで、やっておくことは幾つかある。
まずは、錬金術による装備品の作成だ。
作るのは、グナーデリング。
リングといっても、腕に嵌めるタイプで。
いわゆるブレスレットである。
それも、完全な金属製ではなく。
腕に合わせて調整できるように、伸縮性のある皮と組み合わせ、一部をベルト状に穴を開けてある。これでベルトと同じように、調整するのだ。
更に吸着機能もあるので。
外そうと思わない限り、外れる事は無い。
このグナーデリングは、今までの防御機能を備えた装備と違い。
攻撃に重点を置いた装備である。
具体的には、身体能力を極限まで引き出す。
これは体そのものに、変化を促すもので。
一時的、具体的には装着している間とは言え。本来の身体能力を、最大で200%くらいまで引き上げることが可能な様子だ。
錬金術の装備としては一般的なもので。
おばあちゃんは何か気に入らないのか作らなかったようだけれど。
錬金術師がまずコレを造り、周囲に配るというのは恒例行事のようになっているらしい。
まあそれもそうだ。
体を鍛えたところで、急に強くなったりはしない。
技を磨いたところで、いきなり敵に通じる訳では無い。
地道な努力を続けていかないと、どうあったって強くはならない。それは天才と呼ばれる人種だって同じ事。
あたしがそれかどうかはどうでもいい。
ともかく、現時点で持っている力を引き出せるようになるのであれば。
それは圧倒的なアドバンテージだ。
なお、グナーデリングのレシピを見て、構造は理解した。
故にアレンジとして、誰でも身につけられるようにベルト状の構造を作ったのだけれども。
プラフタは、これについては良い工夫だと褒めてくれた。
「ただ強度に問題が出ます。 それと、グナーデリングは本来指輪にするものです。 コストも掛かりますよ」
「戦略物資だし仕方が無いよ。 それに、お金は出来るだけ流通させるべき、でしょ」
「そうですね。 分かりました。 まずは試してみましょう」
頷くと、コルちゃんの処から引き取ってきたインゴットを使う。
炉によって温めて伸ばし。
中和剤を準備。
更に今回は。
変化を促す媒体として。
宝石を用いる。
宝石と言っても、実用品だ。
アクセサリとして使うものではない。宝石は基本的に強力な魔術をため込む事が出来るのだけれど。
その能力を利用して。
身につけている間身体能力を引き出すグナーデリングの性能を、極限までサポートさせる。
具体的には、その機能を発生させるときに。
魔術で発破を掛けるのだが。
その発破に使う魔術分の魔力を、この宝石に蓄える。
そうすることで、着けた瞬間、瞬時に身体能力が強化されることになる。
当然のことだが。
身体能力がいきなり数倍になれば、それは怪我の元にもなる。
まずは自分で身につけて実験し。
それからお披露目会に持っていくべきだろう。
不意に、ドアがノックされる。
丁度インゴットを炉に入れたところだ。
まあ良いだろう。
ドアを開けると。
目を細める。
以前ここに来た双子。アトミナとメクレットと言ったか。
虫を思わせるかぶり物をした子供達だった。
「やあ、またあったね」
「うん。 それで今日はどうしたの?」
「お薬を分けて欲しいのだけれど」
アトミナが見せるのは。
手酷くえぐれた左手の傷だ。
これは獣か何かにやられたか。
本来はコルちゃんを通して貰うべきなのだが、これはそうも言っていられないか。ただ、やはりというか何というか。
此奴ら、様子がおかしい。
ざっくりえぐれている傷からは、今も鮮血がしたたり落ちているのに。
まるで怯えたり痛がったりしている様子も無いし。
もの凄く冷静で、何があっても問題は無い、という余裕さえ感じるほどだ。
「一体何をしたのです」
「運悪く獣に出くわしてしまったんだよ」
奥から出てきたプラフタが。
二人にたしなめるように言うと。
二人の表情が。
一瞬虚無になった。
プラフタは気付いただろうか。
おぞましいほど冷たい何かが、其処に一瞬宿ったことを。だが、それは冷厳さとか、殺意とかとは違うようにも思えた。
薬を持ってきて。
まずは消毒。
それから傷薬を塗りこむ。
結構痛いはずだが。
平然としている辺り、この子らは普通の子供では無いと判断して良さそうだ。しばらくは茶番につきあってやるが。
「有難う。 噂通りの腕前だね」
「大したものだわ。 公認錬金術師の試験会場にわらわら出てくる三流錬金術師達とは比較にならないわね」
「ふうん、褒めてくれて嬉しいよ。 それで、今日の用事はそれだけ?」
「うん。 それではね」
子供達は去って行く。
プラフタは、待ちなさいとか、ぶちぶち言っていたけれど。
あたしがすっと手で制止する。
「? どうしたのです、ソフィー」
「気付かなかった?」
「どういうことです」
「あの二人、おかしいよ色々。 それに、多分この街に寄ってる商人の子供じゃあないね」
「……」
指摘されて。
今更気付いたか。
落ち着き払った子供とは思えない態度。図々しいというか、ふてぶてしいまでの行動。それらを何らためらいも無くやってのける。
あれは子供じゃ無い。
だとすると何だ。
いずれにしても、プラフタには言わないが。彼奴らの視線は、この間。あどみらぷにを退治したときにも感じた。
ひょっとすると、深淵の者。
或いはその関係者かも知れない。
ただ、まだ結論するのは早計だ。
炉に戻り、インゴットを取り出す。
ペンチで赤熱しているインゴットを、中和剤に漬ける。じゅっと、凄まじい音がして、見る間にインゴットが熱を失っていく。
金床に乗せると。
叩いて伸ばす。
少しずつ成形していく。
なお、札状に分割して。
それぞれをつなげる方式も採る。
こうすることによって。
よりフレキシブルに使う事が可能だ。
ヒト族もホムも獣人族も魔族も。
流石に噂に聞く、魔族の中での特にレアな種族である巨人族は使えないだろうが、それは仕方が無い。
勿論加工の手間は掛かるが。
そればかりは仕方が無い。
利便性の前には。
色々と犠牲があるものなのだ。
汗を拭う。
汗を落としたら台無しだ。
成形しながらも、インゴットに変質を促している。
そして、分割が終わった所で。
また炉に入れる。
しばし熱を通した後。
また一気に中和剤で冷やす。こうすることで、更に変質を加速させるのだ。
四度、同じ事を繰り返し。
そして炉の中で今度は逆に急速冷凍する。
冷えたところで取りだし。
中枢になる部分に、小さなルビーを取り付ける。
たまたま原石を見つけていたので。
磨いて作ったものだ。
あまり品質は良くないが。
グナーデリングの起爆剤としての魔力くらいなら、蓄えられるだろう。
後は順番に、塗料で模様を書き込んでいくだけ。そして最後に。宝石を囲むようにして、かっこよく顔を描く。
戦いのための道具だ。
当然顔は迫力あるものにしなければならない。
書き上がると。後は乾燥させる。
そして、塗料の上からニスを塗り。完全に固定させて完成だ。
グナーデリングはそれそのものが意思を持ち。
装着した人間の潜在能力を引き出す道具。
防御力も上げるが。それ以上に身体能力を引き出す。魔力も増幅してくれる。
つまり、今までの盾代わりの道具よりも、剣に近いものだ。
完成品を見て、プラフタが格好いい顔についてはノーコメントを貫いたが。点数そのものは47点と、最初にしてはかなり良いものをくれた。
外に出ると、既に真っ暗だ。
家の周囲に生えている薬草が発光している。
そうか、こんな時期か。
時期によっては、魔力を蓄えて発光する薬草があるのだ。おばあちゃんがどこかで見つけて、持ち帰り、此処に植え替えたらしい。
おばあちゃんも強い魔力を持っていたし。
何より土地活性剤で、この辺りの土はとても植物にとって心地が良かったようで。この時期になると光るのだ。
「これは珍しい。 少数ですが、人里でこの薬草を目にするとは」
「プラフタもあまり見たこと無いの?」
「そうですね。 採集に行った時、見つけたときにはとても嬉しかったことを覚えていますよ」
「……」
そっか。
五百年前にもこの草はあって。
当時から貴重品だった、という事か。
いずれにしても、この時間だと実験は止めておくべきか。いや、軽い実験なら大丈夫だろう。
装着。
ぴったりと右手首に貼り付く。
ワードを唱えることで、貼り付きと取り外し、起動と停止をそれぞれ切り替えることが出来る。
軽く、杖を振るってみる。
良い感触だ。
普段よりもかなり力強く振るう事が出来ている。
拳も軽く繰り出してみるが。
こっちも悪くない。
踏み込んでから、杖で抉りあげるように一撃。
地面を吹っ飛ばす音が、ちょっと大きくて。
ああこれは迷惑になるかなと、あたしは苦笑。
そのまま、停止機能を作動。
グナーデリングも外した。
二段階を踏まないと、まともに使う事が出来ない。これは奪われた場合の対策だ。なお、起動ワードと貼り付きワードは別。
ワードさえ知っていれば使えるが。
それ以外では使えない。
セキュリティを考えると。
戦略物資としては、当然重要な措置である。
「大体想定通りの出来ですね」
「これも自警団の人数分作る事になりそうだね」
「……そうですね」
アトリエに戻る。
すっかり夜半を過ぎていた。実験が楽しくて、更に今の時期の心地よい夜の涼しさもあって。
ついヒートアップしてしまった。
軽く風呂に入ってから。
早々に寝ることにする。
これを量産し。
キルヘン=ベルの戦士達が身につけたら。
更に戦闘力の向上が見込める。
多少の危険な任務くらいなら、対応可能になるだろう。
少しずつ、確実に。
キルヘン=ベルの周囲を安全にする必要があるが。
そのためには、こうやって、一人一人の安全を守れるように、対応を考えて行く必要があるのだ。
ぼんやりしていると。
夢をいつの間にか見ていた。
キルヘンベルの人口が一万を越えて。
あたしは公認錬金術師になっていた。
だが。空虚で。
街の人々はあたしに感謝していたが。人間になった(どうしてか顔や表情は見えなかった)プラフタは、側にいるだけで何も言わず。
玉座について、頬杖をついていると。
子供が来た。
子供らしく元気に頭を下げると。
悪竜を退治してくれて、有難うございました、と言う。
そうか、悪竜を。
そうだった。
殺したんだった。
不意に光景が切り替わる。
各種の爆弾でズタズタになるまで痛めつけて殺した悪竜を。連れてきた専門業者が解体して、パーツを持っていく。
世界でも第三位の都市にまで発展したキルヘン=ベルだ。
こういった業者までも登場し。
あたしの手間を減らしている。
正確には、あたしがやってしまうと発生しない賃金を。
彼らが得ている、と言うべきか。
いずれにしても、あたしはコルちゃんほど蓄財に興味は無い。私財は錬金術を行う分だけあれば充分。
回収が終わったと声を掛けられて。
頷いて戻る。
だが、その途中。
ドラゴンが、不意に口を開いて。語りかけてくる。
人間よ。
どうして我々を殺す。
我々は世界を抑止するもの。
世界のバランスを壊しているのは我々では無い。お前達だ。お前達こそ、駆除されなければならない。
無視。
そもそもドラゴンに知能など無い。
だからこれは。
夢だ。
目が覚める。
酷く汗を掻いていた。
怖い夢では無かったはずだ。それなのに、どうして汗を掻く要素があったのだろう。それが分からない。
いずれにしても、ベッドから起きだす。
プラフタはまだ眠っていて。
あたしは起こさないように外に出ると。朝の新鮮な空気を吸い。そして、呟いていた。
「五月蠅い……」
声が聞こえる。
以前よりもずっと強く。
あたしの錬金術師としての力が強くなってきているからだ、というのは分かりきっている。
だが、本当にそれだけが原因か。
雑音にしか聞こえなかった声だが。
それも少しずつ、そうとは思えなくなりつつある。
拳を叩きこみたくなったのは。
家の前の木。
勿論そんな事をするつもりは無い。此処まで成長した木が、どれだけ貴重かなど、言うまでも無い事だからだ。
溜息を零すと、アトリエに戻る。
今後、もっとこの雑音は大きく聞こえてくるようになるのだろう。
その時、あたしは耐えられるのか。
あたしは。
暴君にならないだろうか。
邪神やドラゴンさえねじ伏せ。圧倒的な力と。錬金術に起因する不老不死に起因する暴虐そのもので。
魔王とでも呼ぶしか無い存在になりかねないのではないのか。
匪賊なんぞどれだけ殺そうと、まったく気は咎めないが。
流石に無抵抗の子供や、街の人々を殺すのは気が進まない。
口を拭う。
いつの間にか唇を噛みしめて、血が出ていたらしい。
錬金術を続け。
戦いも続けた結果。
あたしの魔力は前よりずっと強くなっている。身体能力もしかり。
このままだとあたしは。
自分でも制御出来なくなるほど、強くなるかも知れない。
その時はその時だが。
しかし今は。
それがいらだたしくて、仕方が無かった。
この世の偏りは何よりも嫌いだ。
そしてあたしは。
その権化である自分が。
この世で一番嫌いだ。
2、萌芽
オスカーに呼ばれて、土地活性剤の様子を見に行く。そうすると、予想以上の光景が広がっていた。
勿論オスカーが、毎日植物と会話しながら水をやったり世話をしたりはしていたのだろうが。
それでもコレは凄い。
想定していた範囲が、うっすら緑になっている。
「森の方で、木に光をとられたり、場所が狭くて苦しんでる植物に声を掛けて、こっちに連れてきたんだよ。 土地そのものの栄養は、多少おいらがどうにかした」
「すごいね」
「だろう? みんな喜んでるよ。 後は水の確保だけれど、しばらくは雨が多めになるから、大丈夫だよ」
オスカーは雨のことも分かるのか。
そうしたら、植物に教えて貰ったと、先に言われる。
まあそうだろう。
そして植物が言うなら、降るのだろう。よく分からないけれど。
とにかく、街の重役を呼ぶ。
想定通りの成果に、皆満足。
ヴァルガードさんは、裏山に青々と茂っている森を見て、感慨深そうにした。
「あそこも昔ははげ山でな。 あいつが森にするって言い出したときは正気を疑ったが、今では此処まで緑が拡がることになるとはな」
「オスカー。 畑にする予定の地点には、あまり植物を植えないようにしてください」
「わかっています」
「ならば結構。 ソフィー、効果は確認できましたし、予定通りに緑化を始めてください」
「分かりました」
緑化作業を開始する。
まず最初に、オスカーが水を撒いたり肥料を入れたりした土地を確認。確かに草が茂るだけの条件を整えている。オスカーを信用していないわけではない。ただ、自分でも確認する必要があるだけだ。
見て確認した感触では。
土にはしっかりと魔力が通っている。
森に隣接している辺りは。
既に小虫や、ミミズなども繁殖を始めている様子だ。
オスカーと相談しながら、何を植えていけば良いのか、確認もしておく。森の木々の種などは、相応に保管してあるので。
それぞれ適切に植えていけば。
数年で、この辺りも森になるだろう。
成長が早い植物なら。
数ヶ月でそれなりの木にもなる。
既に準備してある土地活性剤を持ち出す。
同時にオスカーも、作業開始。
前は試験段階だったから、一人でやっていたが。
此処からは給金が発生する作業だ。
街の人達にも働いて貰う。
川から桶で水を汲み、全自動荷車に乗せ、運んでくる。
その後は、オスカーの指示で水を撒く。
植物を植え込むこと自体はオスカーがやるが。
あたしが活性剤を埋め込んだ周辺を耕すのは、人々にやってもらう。この辺りは、本職に任せるのが良いだろう。
同時に畑の方も拡大を開始。
オスカーがホルストさんと話して。防御壁の解体と。移動も同時に開始し始めていた。畑に関しては、今まで耕していた人達が、そのまま拡大作業を行う。既に土地に魔力は染み渡っているので。
肥料と水だけ入れれば、そのまま畑に出来るのが嬉しい。
一気に拡大しすぎると、街が大きくなりすぎる。
そのため、段階を踏んで街を大きくしていく。
今回緑化する地域の外側に、一度また居住区を造り。其処を第二市街地とする。今回の緑化計画で土地そのものが倍になる訳なので、かなりの食糧自給が可能になるため、出来る事だ。
しかしながら同時に、お金もたくさん掛かる。
まだまだあたしの錬金術は、「手頃なお金でそこそこに質が良い」程度のものでしかない。
街を拡大し。
住んでいる人が相応の幸福度を得るためには。
まだまだ。
もっと大きなお金を循環させなければならないし。
更に言うと。
ドロップアウトして、匪賊化するような人間を出さないように、しっかり見張らなければならない。
ラスティンから役人の派遣も要請した方が良いだろう。
公認錬金術師がいれば完璧だが。
残念ながらそうではない。
あたしもいずれ公認錬金術師の試験を受けに行くにしても。
まだ当面キルヘン=ベルを離れる訳にはいかない。
ましてやラスティン王都のライゼンブルグは、遙か東だ。
錬金術の力で空間を操作するような真似をするとしても。知らない場所には行けないと聞いている。
つまりキルヘン=ベルに時々戻りながら。
じっくり自分で進むしか無い。
街の周囲にさえ、安全圏を確保し切れていない現状だ。
とてもではないが、そんな余裕は無い。
しばし、忙しくなる。
オスカーは当面採集には同行して貰えないだろう。街の人口も増えているが、その人達全員がかなり忙しい状況だ。
こういう状態では。
当然子供も働いて貰う。
勿論力仕事はさせない。
細かい作業や。
全自動荷車などの誘導。
補助などが主な仕事になる。
それだけでも、充分な労働力としてカウントできる。
案の定アトリエに戻ると。
すぐにホルストさんが来た。
「ソフィー。 いますか」
「どうしました?」
「荷車を追加で10両、作成して貰えますか」
「分かりました。 「荷車そのもの」の方はお願いします」
此方は此方で、コンテナを確認。
ちょっとばかり塗料が足りないか。中和剤も膨大に必要になる。
中和剤はどうにでもなるとして。
塗料の材料になる鉱石などを回収してこなければならない。
まあ、これは近場でどうにでもなるだろう。
様子を見に行くと。
キルヘン=ベル全体が活性化していて。
皆忙しそうにしている。
モニカは何とか手助けしてくれそうだけれど、コルちゃんとハロルさんは駄目だろう。コルちゃんは物資の管理で大忙し。げっそりしている様子なのは、かなり無理をして錬金術を使っているから、と見た。彼女の使う錬金術は体に大きな負担を掛ける。それを知っている以上、採集を手伝えとは言えない。
ハロルさんはブツブツ文句を言いながら、早速荷車の車軸の調整などをしている。普段機械職人として仕事をしない以上。こういう仕事でお金を稼ぐしかないし。多分ホルストさんに言われて仕事をしているのだろう。それである以上、文句も言えないだろう。
レオンさんの様子を見に行くと、どうやら新しく自警団に加わったメンバーのための装備を作っている様子だ。
今まで十数人程度の規模だった自警団だが。
街の拡大に伴い、更に十人ほど増やすという。
それに伴い、予備の装備も必要になる。
頭を掻く。
これは恐らく、荷車だけでは無く、それ以外にも必要なものが出てくるな。
コルちゃんに増やして貰う分を加味するとしても。
あたしの方でも作らないとだめか。
それに、だ。
安全圏の拡大ももっと積極的にやらなければならない。
キルヘン=ベルの拡大については、既に周辺でも知られ始めているはず。当然、これを好機とみて動き出すよからぬ輩もいるだろう。
そういうのは即座に消毒するとしても。
消毒するのは、動き出す前にやらなければならない。
フリッツさんも忙しそうに動いている。これは手助けは厳しいかも知れない。
仕方が無い。
食客扱いのジュリオさんに頼むか。
モニカだって本来は忙しい状況だ。
ささっと採集に行って。
すぐに戻らないといけない。
色々と大変である。
二人に声を掛けると。自分用の全自動荷車だけを引いて外に出る。護衛用の爆弾と、最小限の食糧も当然持っていく。
ホルストさんには出る事を告げたけれど。
理由については、言う間でも無い。
全自動荷車用の素材。
新しく増やす自警団用の物資の素材。
全てが足りない。
出来れば自警団員を少し回してくれないかと聞いてみたが、無理だと言われてしまったので、仕方が無い。
三人だけだが。
それで出るしか無い。
当然のことながら、戦力は落ちる。そして面倒な事に。
高品質な素材になるほど。
人里から離れないと、入手できないものなのだ。
まず、ナーセリーに向かう。
その近くにある鉱石採集地を幾つか周り。
猛獣が住み着いていないかも確認する。
モニカとジュリオさんには、先行して作ったグナーデリングを渡してある。二人とも使い心地は上々と喜んでくれているが。
作るのに手間が兎に角掛かる事を考えると。
今後、時間を掛けて作っても、最終的にはエース級の面子にしか渡せないかも知れない。
いずれにしてもだ。
猛獣はなし。
邪神の目撃例があるので、注意は特に払うが。
今の時点では、その姿はない。
邪神はあたしもまだ見た事がない。
ジュリオさんはあるそうだが。
近づかなくても分かるほどの圧倒的な「圧」を放っているそうで。
下等なものでさえ、邪神が近くにいる場合は、獣が逃げ出すほどだという。
「見たところ、草食獣の類がいるし、邪神はいないと見て良さそうだよ。 いるとしても、周囲の縄張りをゆっくり回っているのかも知れない」
「いずれ此処を復興しようと思っているので、あまり好ましくないですね……」
「邪神と戦うつもりかい?」
「はい」
ジュリオさんは、少し真面目な表情を作る。
現時点の戦力では無理だと。
分かっていると答えると。
二人を促して、ナーセリーで鉱石を掘っていた地点に移動。荷車に鉱石を積み込んでいく。
どうせインゴット用の鉱石も足りなくなっていたし。
何より、前と違って雑音がよりクリアに聞こえるようになって来ている。
今は耳障りなだけだが。
プラフタの話によると、やがて意味のある言葉に聞こえるようになってくると言う。
それはそれで鬱陶しいことこの上ないが。
ともあれ、採集には役立つ。
そう割り切って、時にはマトックを振るって、鉱石を掘り出し。
荷車に積み込み終えた。
アトリエに直帰。
戦闘は数回あったが。
いずれも、害になり得る獣の駆除だけ。
それも全部解体して。
肉類は燻製に。
血なども回収。
骨も皮もそれぞれ持ち帰る。いずれも、物資として活用が可能だからである。
コンテナに荷物を格納すると。
別方向に採集に出かける。
今度は、以前沈黙の魔獣を仕留めた山師の水辺方面。
一応、護衛が可能か皆の様子を見てまわったが。
しばらくは全員がてんてこまいだろう。
とてもではないが、護衛など頼める状態には無さそうだ。
一日だけ休む。
どんな歴戦の戦士でも。
ちょっとの疲弊が、ミスにつながる可能性はあるし。
そのミスが死を招くことだってある。
今は友愛のペルソナとマイスターミトンの防御。更にグナーデリングの身体能力強化で、そこまで不覚を取る確率は上がってはいないが。
それでも油断だけは出来ない。
翌日には、アトリエの外に、「素の」荷車が二両納品されていた。
これは、次の採集が終わったら、当面アトリエに引きこもりだな。
苦笑しつつ、荷車をコンテナへ移す。
すぐに慌ただしく出ていくあたしに、プラフタが苦言を呈した。
「ソフィー。 荷車を仕上げてから出る、という選択肢もありますよ」
「ううん、今はちょっとね。 体を動かしたいから」
「そうですか」
プラフタも気付いたのかも知れない。
あたしが色々と、精神的にぐらついていると。
こういうときは。
何かを殴るか、或いは動き回るのが一番だ。
あたしがそれを経験則で知っている。
文句を言わせる事は無い。
あたしの体のことだ。
知った風な口を誰かに利かれるのは、最高に不愉快だし。
そんな事をする奴を許すつもりもない。
モニカとジュリオさんを誘って、すぐに採集に出る。
これが終わったら、当面アトリエに引きこもる。
それを告げると。
二人とも、苦笑いしたが。
モニカはその後、あたしの精神がぐらついているのに気付いて。表情を引き締めていた。暴発があるかも知れない。
そう悟ったのだろう。
長い仲だ。
あたしが本気でキレた場合どうなるか。誰よりもよく分かっているのは、モニカとオスカーで。
そしてあたし自身が、自分は理不尽だとも、思っている。
山師の水辺の辺りにまで急ぐ。
この辺りにいた沈黙の魔獣。更に少し離れているが、近場の森にいた「提督」。どちらも始末した後だ。
縄張りを狙って他のネームドが住み着く、という事も無く。
若干空気が和らいでいる。
早々に作業を開始。
「提督」が住処にしていた森にも入り、採集を行うが。周囲の猛獣がかなり多いため、あまり奥には踏み込めなかった。
此処で本格的に採集を行うなら。
出来ればフルメンバーを連れて来たい。
入り口辺りで採集を実施。
後は、目についた適当な獣を狩り。
敢えて余力を残したまま帰還。
これで必要な物資は揃ったはずだ。
アトリエに戻ると、二人に賃金を渡す。少人数での強行軍に、つきあわせてしまって済まなかった。そういう意味でも、割り増しで料金を渡しておく。
そして、アトリエの外には。
更に三両の荷車が。納品されていた。
これからもう五両来る。
それはそうだろう。
緑化作業。畑の整備。更には防御壁の再構築。多分だが、物資をつぎ込んで、見張りの櫓も二つくらい作るはずだ。
しかもその後は、第二市街地の作成。当然市街地を作った後は、防御壁も再構築が必要だろう。
全自動荷車は戦略物資として、何両でもいる。
モニカが、掃除をしてくれると言う話なので。頼む。ジュリオさんは、教会に顔を出しては、と言ってくれたが。
流石に断った。
善意だと言う事は分かっているが。
あたしには、今は休息がいる。
掃除と言っても、調合で使っていたわけでは無いから、埃の処理くらいで済む。モニカも、ジュリオさんも、早々に引き上げていった。
ベッドで横になる。
プラフタは、あまり良い気分はしないようだった。
「ソフィー。 とても良くない雰囲気を感じます」
「分かるんだね」
「分かります」
「それならば、少しばかり放っておいてくれないかな」
黙り込むプラフタ。
あたしだって、発散しきれたわけではない。
ようやく、今は。
押さえ込む事が、それなりに出来るようになった、くらいなのである。
呼吸を整えると。
寝ることにする。
プラフタは、それ以上。
何も言わなかった。
3、拡大の過程で
順番に荷車を納品し。
薬類や爆弾も納品していく。
やはり、土木作業をしていると、けが人も出る。危険作業を行う場合は、友愛のペルソナとマイスターミトンを身につけるように義務づけ。それでかなり怪我を減らすことも出来るのだが。
それでも完全に無くすことは不可能だ。
先手を打ってあたしが薬を納品すると。
ホルストさんは喜んでくれた。
「気が利きますね」
「あの仕事の様子を見ていると、どうしても気はつきますよ」
「続けて作業をお願いします」
「はい」
それと、グナーデリングについても近々お披露目会をしたい話をしておくが。グナーデリングのことは、ホルストさんは知っていた。
「モニカから報告は受けています。 一段落したら、すぐに性能試験をやりましょう」
「前にお披露目をしていた場所はもう畑ですね。 何処でやりますか?」
「そうですね。 森の裏手、今後開発の予定が無い窪地があります。 彼処でやりましょうか」
「分かりました」
彼処か。
森を突っ切らなければならない利便性の悪い場所で、それ故に放棄されている処だ。土地としても利用方法が無いし、何より水はけが悪い。キルヘン=ベルからは丸見えになる場所なので、匪賊などが潜むことも出来ない。
利用価値が無い土地なのだけれど。
まあこういう形でなら、利用できるか。
アトリエに戻る。
途中まで仕上げた荷車を、完成まで持って行くべく黙々と作業をする。
不意に、プラフタが言う。
「この荷車は便利ですが、ものの運び入れ、運び出しは結局人力ですね」
「そればっかりは仕方が無いよ……て錬金術でどうにかなるの?」
「なると思います」
図鑑を見せてくれる。
グラビ石と呼ばれる存在があると言う。
何でもものの重さを消滅させる存在で。
場合によっては、コレを使う事で、空を自在に舞うことも出来るとか。
「こんな便利なものがあったんだ」
「問題が幾つかあります。 加工が難しいという事。 それに、この辺りでは採集できる土地がありません」
「調べたの?」
「ホルストと時々話をして、貴方の祖母との冒険について聞いています。 ホルストは記憶力が良いので、どのような土地で何を採集していたかは覚えています。 少なくとも、貴方の祖母が足を運んだ場所には、存在していないようですね」
そうか。
それは厄介だ。
おばあちゃんは邪神を葬った事もあると言う話で、それが足を運んでいないとなると。キルヘン=ベルから相当な距離がある土地に行かなければならないか。
もしくは商人から買うか。
或いは、この辺でタブーになっている土地に赴くか。
いずれにしても、危険は冒さなければならない。
「プラフタは昔拡張肉体を使っていた、という話だったよね。 それにもグラビ石は使っていたの?」
「使っていました。 当時の私には、魔術の才能はありませんでしたから」
「欲しいな……」
一度こなした作業だ。
荷車の作成はそれほど苦労するものでもない。
ただし時間は掛かる。
意思が荷車に宿ったのを確認。
後は乾燥させて終わり。
だが、外は。
雨が降り出していた。
オスカーの言う通り、ここ数日は雨が多い。仕方が無いので、魔術で空気の流れを操作して。乾燥させる。
これが多少手間だが。
まあ仕方が無い。
魔術を展開後、地図を出す。
プラフタとも何度か見た地図だが。ありそうな場所に、見当はつかないか聞いてみる。しばし考え込んだプラフタが。
何カ所か候補を挙げた。
「まずは此処ですね」
「ここって、ノーライフキングの」
「はい。 地底湖だそうですが、恐らくノーライフキングが長年封じ込まれたことで、相当量の魔力が流入出を繰り返したはずです。 その結果、鉱石が変質して、グラビ石が出来ていても不思議ではありません」
本来グラビ石は、自然に出来るものではないそうだ。
邪神クラスなどの強力すぎる魔力の塊が住処にしていたり。
ドラゴンが巣を作っていたり。
そういう場所にできるらしい。
もう一つは、北にある谷。
大量の巨大な水晶の塊がある事で知られているのだが。
此処は知る人ぞ知るドラゴンの住処だ。
幸い、縄張りに入らなければ人間を襲撃するような真似はしないが。此処には絶対近づかない、というのが地元民の暗黙のルールとなっている。良くしたもので、匪賊でさえ此処には近づかないという。
水晶の塊は、どうやらドラゴンが運んできたらしく。
コレを目当てに入り込むバカが最初はそれなりにいたらしいのだが。
その全員が生還できず。
結局、此処は人間がタブーとするに至ったようだ。
なおおばあちゃんだが。
別に人間を積極的に襲いに来るドラゴンでも無いし、放置で良いだろうという事で、此処には結局手を出さなかったそうだ。
まあお婆ちゃんらしいといえばらしい。
更に、何カ所かの、街からかなり離れた場所をプラフタは指定。
いずれもが。人跡未踏。
街道からも離れ。
どんなネームドがいるかもよく分からない危険な土地ばかりである。
そうなってくると、ノーライフキングの洞窟が一番近いか。
「ただ、貴方の祖母ほどの錬金術師なら、グラビ石を用いた調合は確実にしているでしょう。 商人から買っていたのか、或いはもっと遠くを旅しているときに、既に安全になった元危険地帯から入手したのかは分かりませんが……」
「うーん、そうなると、一人前から一流になるための壁か……」
「まだ貴方は一人前になったばかりです。 いきなり壁にぶつかっても、滑り落ちるだけですよ」
「分かってる」
コンテナを漁ってみる。
あたしもコンテナの全てを把握しているわけではない。ひょっとしたら、あるかも知れないと思ったのだが。
ない。
まあ当たり前か。
話に聞く限り、相当な貴重品だ。
ほいほい入手することは出来ないだろう。
だが、どうやらグラビ石は、おばあちゃんも入手していたらしい。
プラフタが、コンテナの一角で、じっと浮いていたからだ。
「この一角に、数は少ないですが、グラビ石を置いていたようですね。 力の残り香があります」
「欠片でも残っていないかな」
「……欠片なら」
促されて覗き込むと。
そのコンテナの棚の天井に。
小さな石片が、少しだけ貼り付いていた。
気を付けながら剥がしてみると、確かに浮き上がる。力そのものは、とても弱々しいが。
なるほど。
これがグラビ石。
確かに、こんなものが自然に出来るとは思えない。強力な魔力を流し続ければ、或いは出来るのかも知れないが。
同じような破片が幾つかあったので。
全部まとめて、袋に入れておく。
興味が湧いてきた。
プラフタに、グラビ石について聞いてみる。
「人工的に作り上げる事はできないの?」
「出来るには出来ます。 ……そうですね。 ソフィー、貴方の並外れた魔力であれば、むしろその方が現実的かも知れません」
「教えてくれる? 丁度時間もあるし、座学で」
「仕方がありませんね……」
プラフタは少し呆れたが。
しかし、座学だと頭に入りやすいのも確かだ。
それによると、である。
そもそも、多くの邪神やドラゴンは、本来の自然の法則に従って飛んでいるわけではないそうである。
これについては、霊や。
ある意味プラフタも同じだそうだ。
「一種の魔術を使っているという話は聞いているけれど」
「その通りです。 特にドラゴンや邪神は、本来巨体過ぎて、飛ぶ事が出来るはずも無いのです。 この世界には機械の技術もあり、それの頂点では空を飛ぶ事も可能だそうですが。 それでも、ドラゴンや邪神の巨体を浮かせることは本来ならできる筈もないのだとか」
「ふむふむ」
プラフタは機械にもある程度知識があるらしく。
更に説明は進む。
「ドラゴンはまだ謎が多いのですが、邪神は世界の構成要素そのものです。 その存在は、世界の「要素」の圧縮体で、膨大な魔力を常時周囲に放っています。 この魔力の内、「浮く」事に特化した部分が、グラビ石になるとか」
「実証実験はしていないの?」
「していますよ」
つまり、プラフタも試したことがあると。
邪神をじっと観察して、グラビ石が出来るところは流石に見た事がないらしいが。
生前のプラフタは、邪神を倒した事もある錬金術師だ。
当然その周囲に膨大なグラビ石や、もっと貴重な鉱石類が出来ているのは、直接目で見たそうである。
更に、環境を再現して。
グラビ石を作る事にも成功しているそうだ。
「中和剤をぐっと圧縮する感じですが、その圧縮の度合いが桁外れです。 そうですね、百倍、いや二百倍。 それも浮くことに特化した魔術をつぎ込まないと難しいでしょう」
「プラフタはそれをどうやってやったの?」
「魔術は使えなくても、ものの意思を操作して、魔術を使わせる事は出来ましたから」
「ああ、なるほどね」
それなら納得だ。
少し考える。
魔術だったら、あたしは錬金術よりも現時点では得意なくらいだ。
やってやれないことは無い。
荷車の乾燥が終わるまで、少し時間がある。
更に言うと、その後には、どうせグナーデリングを作成して、納品する作業が待っている。
その時間を使って。
グラビ石を自作し。
そして活用方法を考えて見るのも悪くは無いだろう。
外を見る。
雨がますます激しくなっている。
せっかくの全自動荷車も、綺麗なまま納品するのは難しいだろうな。あたしは、ぼんやりそう思っていた。
時間は掛かったが。荷車の納品は完了。
ただ魔術を展開し続けた事や。荷車のサイズがまちまちだった事もある。
思ったより、時間は掛かってしまった。
ホルストさんは、ねぎらいの言葉を掛けてくれたが。
グラビ石について聞いてみると、流石に在庫はない、という事だった。
コルちゃんにも聞いてみる。
そうすると、小首をかしげた後。
記憶から引っ張り出してくれた。
「今までに、此処で取引をした商人の中には、珍しい素材だとかを売りつけようとしてきた者はいましたのです。 しかしグラビ石という名前には聞き覚えが無いのです」
「浮く石なんだけれど」
「そのようなもの、ますます見た事がないのです」
そうか。ならば仕方が無い。
プラフタはヴァルガードさんとハイベルクさんの所に行って話を聞くが。
二人とも、見た事はあるが、今手元にはないし、ある場所も見当がつかないと素直に答えてくれた。
街の古老格といえば、後はパメラさんか。
だが教会で子供達と遊んでいた彼女も。
持ってはいないと言う。
「聞いた事はあるのだけれどねえ。 魔力が籠もった石ならあるわよ。 これとかどうかしらあ」
「見せていただけますか?」
見せてくれたのは、不思議な鋭角的な石。
ああ、これなら見た事がある。
ペンデロークだ。
霊などを滅ぼすと、たまに落とす石である。石とは言っても圧縮された魔力の結晶で。非常に強力な魔力を引っ張り出すことが出来る。
これは使えるかも知れない。
「どれくらい持っていますか? 品質が良いものに限ります」
「そうねえ。 勿論ただじゃないけれど、それでも良いかしら?」
「教会にはあまり顔を出していませんし、その代わりということで、寄付金という事で払いますよ。 子供達においしいものでも食べさせてあげてください」
「まあ。 感心ね」
パメラさんはおっとりした笑顔を浮かべるが。
実際問題、こういった場所では「やらない善よりやる偽善」である。
子供達においしいものを食べさせてあげるには、お金がいる。
お服だって同じ事だ。
パメラさんはこの街の最古老だが。それでも彼女が街のお金を好き勝手に出来る訳でもない。
最低限の食糧などは、善意で貰っているようだが。
それでも、この間の難民にしてもそうだが。此処で世話をして貰っている子供はいるし。そういう子の生活費は、空中から沸いてくるわけでも無い。
噂によると、悪辣な教会には、信者から金を巻き上げて、贅沢三昧をしている様な場所もあるらしいが。
不思議な話で、そういう事をしている連中は。基本的に数年と生きられないらしい。
理由は分からないが。
或いはその手の腐敗坊主を暗殺する組織でもあるのかも知れない。
パメラさんがくれたペンデロークは六つ。
いずれも品質は悪くない。
これだけあれば充分だ。
礼を言うと、アトリエに戻る。
なお、まだ忙しいという事で、グナーデリングのお披露目は先だ。話はしてあるので、その内やってくれと言われるだろうが。声を掛けられるまでは、グラビ石の作成に注力したい。
というのも、現時点では確実に入手する方法が他に無いから、である。
ノーライフキングはしばき倒しに行きたいが、それもホルストさん達の許可を得ないと駄目だし。
遠くの採集地は危険すぎるし。
何より今は、人員が集まらないだろう。
キルヘン=ベルとの協調態勢をとって錬金術をしている以上。
こういう場合もある。
仕方が無い。
だが、だからといって。
あたしが好きなことをしないというのもおかしな話で。
好きな事をある程度やらせて貰うのも、協調関係には大事なのだ。
アトリエに戻ると。
早速レシピを書く。
プラフタに見せると。
流石に驚かれた。
「これは、正気ですか」
「大まじめ」
「……そうですね。 確かに貴方の並外れた魔力と。 それにペンデローク6つ。 しかもこのペンデロークは、いずれも品質が優れています。 これならば、出来るかもしれませんね」
よし。
ではさっそく試してみるか。
まず、さっきまで展開していた乾燥のための魔術を消去。魔力を吸収。
呼吸を整えると。
床にゼッテルを拡げて、魔法陣を描く。
いわゆる六芒星だ。
それぞれの頂点にペンデロークを置き。
そして六芒星の真ん中に、ただの石を置く。サイズは、拳大。その辺から適当に拾ってきたものだ。
「ちょっと全力で魔力を叩きこむから、人払いよろしく」
「良いのですか。 負担も尋常ではありませんよ」
「何、一つ作れば、後はコルちゃんに増やして貰えば良いから」
「そういう問題では……」
プラフタが二の足を踏んでいるが。
理由は簡単。
生半可な魔術使いだったら。
ミイラになるような方法だからである。
だが、あたしは魔術にも魔力にも自信がある。
やってやれないことはないし。
これで駄目なら。
あたしもそれまでということだ。
そもそも才能だとかが偏っているこの世界がおかしい。コレで死ぬなら、あたしもそれで本望である。
飲み干すのは、この街特産のミルク。
結構美味しいし栄養もある。
さて、準備は充分か。
軽くストレッチをした後。
詠唱をして、魔力を極限まで高め。
魔法陣の端に手を置き。
起爆ワードを唱えた。
瞬時に、全身の魔力が吸い上げられる。
ペンデロークに蓄えられていた魔力が、凄まじい勢いで魔法陣を循環し始め。全てが石に集まっていく。
流石に強烈な倦怠感を覚えるが。しかし、まだまだ。
ペンデロークがひび割れ始める。
強烈すぎる魔力に耐えられなくなったのだ。
全身が焼けるように熱く。
そして痛い。
特に直接触れている手は、皮膚が内側から引きはがされていくような感触を味わっていたが。
どうでもいい。
ペンデロークが砕ける。
一つが砕けると、残りも立て続けに砕けていき。
超高密度の魔力が収束した先には。
確かに、浮かぶ石が出来上がっていた。
ペンデロークの破片が、それに吸い寄せられ。
溶けるように一体化していく。
呼吸を整えながら。
鮮血が垂れ落ちている手を、ゼッテルから「剥がす」。
丁度そんな風な感触がしたが。
見ると手はひび割れ状に傷が走っていて。
肉が見えるほど傷ついていた。
垂れ落ちる鮮血。
感覚がなくなっている。
無言で、自分用にとってある薬を使って、傷を回復させていくけれど。
流石に全身の魔力を吸い上げられたからか。
あまり力が入らなかった。
「ソフィー!」
珍しく、プラフタが動揺しきっている。
あたしはいつもより若干鈍い動きで手を洗う。くみ置きの水を、蒸留水にしてあるのだが。
手を洗うために、いつも一定量を用意してあるのだ。
その蒸留水が。
瞬時に真っ赤に染まった。
傷は治っているから、もう痛みは無いが。
虚脱感が強烈で。
その場に倒れそうである。
そうか。
頑健に育った。
あのクソ親父のせいで。以降は何が起きても生きられるようにと、意識して育っていった。
自分で計画的に。
強くなって行ったと言っても良いだろう。
だからか、危険な目にあっても。激しい戦闘を行っても。その戦闘で、死の臭いを間近で嗅いでも。
それでも、何処かで力をセーブしていた。
今回は、恐らく。
あたしの力を、フルパワーで。何の躊躇も無く。全てつぎ込むつもりで使った筈だ。自分でも試すのは初めてだったが、そうか。此処まで強烈な負荷が掛かるのか。
蒸留水を捨てる。
そして別の蒸留水を入れて洗い、煮沸消毒した。
調合の際に手を綺麗にするのは当たり前のことで。
ここずっと、蒸留水はため込んでいる。
こんな風に使ったのは。
実は初めてだったかも知れない。
爪は。剥がれていないか。
手を見るが。
どうにもぼんやりと見える。
あたしの目はこんなに悪かったか。眼鏡を貰わないといけないだろうか。
プラフタが、寝るようにと側でしつこく言っている。五月蠅い。とりあえず、完成したグラビ石をとる。天井に貼り付いていたので、脚立を持ち込んで、それでようやく掴めた。普段だったら、魔術で身体能力を強化して、跳躍して取ってしまうのだが。今はそれも出来そうに無かった。
触ってみると分かるが、凄まじい熱を含んでいる。魔力の凝縮体だ。それは浮かぶわけである。ペンデロークなどとは比較にならない凄まじい魔力が、これに籠もっているのが分かった。
後でコルちゃんに量産して貰うとして。
外に持ち出すときには、気を付けて扱わないといけない。
強い魔力を含んでいる沈黙の魔獣の毛皮で包んで、コンテナに入れる。おばあちゃんがグラビ石をおいていたらしい場所に置くと。其処でどうしてか、天井近くまで浮き上がらず、安定した。
何か仕掛けがしてあるのだろう。
気付くと、プラフタが呼びに行ったのか、血相を変えてモニカが飛び込んできた。
そして絶句する。
「ソフィー! どうしたの、その手……」
「洗ったよ?」
「服が血だらけよ! それにその血だらけの魔法陣、どうしたの!?」
「ああ、ちょっとした調合をしただけだよ。 魔力を強烈につぎ込んだから、手の皮膚とか爆ぜ割れただけ」
モニカはしばらく拳を固めて俯いていたが。
やがて、ベッドに押し倒して。フトンをかぶせて、寝るように言った。かなり強い口調で、である。
回復魔術も使い始める。
其処までしなくても、寝ていればどうにかなると思うのだが。
「プラフタ、大げさじゃない?」
「……」
プラフタは答えない。
沸点が低いくせに。
今日はどうしてか、怒っていないようだった。
目が覚めたのは翌日の昼。
一日以上眠ってしまった。
起きだす。
同時に、激痛が走った。
筋肉痛に近いが、それ以上のものだ。
多分魔力の過剰使用のフィードバックだろう。
似たような経験は前にもあったから、すぐに特定することが出来た。
外に出ると、軽く体を動かす。
痛いのはまあ仕方が無い。
今すぐ戦わなければならない、とかならばかなり厄介な状況だけれども。別に街を歩くくらいならどうでもいい。
井戸水で顔を洗い。
意識をはっきりさせる。
ちょっと栄養価が高い食事を口に入れたい。
そういえば、家でモニカが寝ていたが。あれはずっと治療でもしていたのだろうか。何か大げさではあるまいか。
家の戸の鍵を掛けると、カフェにふらふらと出向く。
ホルストさんは、あたしが来たのを見て、顔色を変えたが。注文した料理の量を聞いて、更に青ざめた。
「大丈夫ですか。 倒れたと聞きましたが」
「少しばかり魔力を使いすぎただけです」
「貴方ほどの魔術師が、魔力を極限まで使うとは、一体何をしたのです」
「錬金術の素材の作成ですよ」
そう、所詮は素材の作成だ。
アレを使って。
これから色々と凄いものを作る事が出来る。
ただ、手を離すと空に飛んでいってしまいかねないから。
気を付けて扱わないと行けない。
少し手元が怪しい。
テスさんが料理を運んできたが。
あたしの服が血まみれなのを見て、青ざめていた。
「ソフィーちゃん、獣を捌くときにも殆ど返り血を浴びないのに、一体どんな魔術を使ったの!?」
「全身の魔力を絞り出しただけです」
「どんな絞り出し方をしたの……!?」
完全に真っ青になっているテスさん。
何を大げさな。
料理が出てきたので、手当たり次第に口に入れる。
がっつくような食べ方はしないが。
それでも、一つずつ、徹底的に平らげていった。
手元が怪しいので、少し服が汚れる。
心配げに見ていたホルストさんだが。
注文を全て平らげ終えると。
苦言を呈した。
「ソフィー、あまり無理をしてはいけませんよ。 錬金術も魔術もです。 貴方の双肩に、この街の未来が掛かっている事を忘れてはなりません」
「分かっています」
「分かっているなら……」
「もう二皿お願いします」
更に注文して。
出てきた肉料理を無言で平らげる。
少し、回復してきたかも知れない。そのまま、オスカーの実家の八百屋に出向き。適当に野菜を買うと。
名物女将が見ている前で。
全てそのまま生で食べた。
ごちそうさまですと言うと、そのままアトリエに戻る。
モニカは今起きたようで。
あたしが外に出ていたのを知って、愕然としていた。
「ソフィー! 何処へ行っていたの!?」
「食事」
「食事って……」
「もう少し寝る」
もう何も言えないようで。
モニカは口をつぐんで、項垂れた。
さて、起きる頃には、多少回復もするだろう。頭の方も、働くようになってくる筈だ。そうしたら、試してみたい調合がある。
前はまだ無理だと言われていたが。
今なら。
できる筈だ。
4、舞えよ
コルちゃんの処にグラビ石を持ち込み、増やして貰う。コルちゃんは、手を離すと浮いて行ってしまうそれを見て、唖然としたが。それでも、複製には取りかかってくれた。ただ、提示された値段を聞いて、今度はこっちが唖然としたが。
青黒いグラビ石は。
常に強力な魔力を帯びている、沈黙の魔獣の毛皮に包んでおかなければならない。
その性質は鉱物と言うよりも、魔術で作った道具に近く。
インゴットよりも複製が難しい、というのだ。
「これを複製すると、私は多分、その日は他に何もできなくなってしまうのです。 ですので、お値段も高くなるのです」
「それじゃあ仕方が無いか。 お願いね」
コルちゃんは、ひょっとして。
あたしが相当な無理をしてグラビ石を作った事に、気付いているのかも知れない。
だが、それについて、何かを言うことは無かった。
グラビ石を増やす間に。
重役を集めて、グナーデリングのお披露目会をする。
この間から極端に無口になったプラフタも参加している。
驚いている者も多かった。グナーデリングは、相応に有名な錬金術の道具で。此処までのアレンジレシピは珍しいらしい。
「ベルト状になっているのだな。 腕に巻くことにより、調整が非情に容易になっていると」
「起動ワードを唱えると能力が発動します。 グナーデリングは身体能力を極限まで引き上げます。 おばあちゃんが作った物ほどではないですが、それでも倍くらいにはなりますよ」
「素晴らしい。 見せてくれるか」
頷くと、あたしは手頃な石材を引っ張り出してくる。
グナーデリング起動前だと、抱えて運ぶのがやっとだが。
起動後だと、簡単に持ち運びができる。
コレは便利だと、声が上がった。
取り外しについても、やってみせる。
固定をしなくても、吸着機能があるので、ちょっとやそっとでは外れない。
手を振り回してもまったく取れないのを見て。
重役達は喜んでいた。
「使わせてくれるか」
「どうぞ」
前に出たのは、ハイベルクさんだ。
重役である彼も見に来ていたのだが。
単純に身体能力を上げる道具と聞いて、興味を持ったのだろう。しかも機構的に、鎧と食い合わない。最悪の場合、鎧の上から巻けば良いのである。
装着をしてもらい。
そして剣を振るったハイベルクさんは、非常に満足そうだった。老いたとは言え、まだまだ現役の戦士なのだ。
「剣が羽のように軽い。 これは素晴らしい」
「普段から発動していると筋力が衰えるかも知れないので、戦闘時や大荷物を持つ時だけ使ってください」
「分かっている。 流石だ」
グナーデリングを返して貰う。
後はタレントさんやベンさんなどの自警団メンバーも使って見て、使い心地の良さに喜んでいるようだった。
今回は特に文句も出ない。
ホルストさんが聞いてくる。
「力の弱い人がこれを使って、本来出来ない力仕事をすることは可能ですか?」
「可能ですよ」
「そうですか。 ならば納入数を少し増やしたいですね……」
キルヘン=ベルは拡張の過程で、多くの力仕事を必要としている。
流れ込んでくる富も多いが。
それ以上に仕事も多く。
賃金はそれだけ発生し。
経済はしっかり回っている。
ならばあたしが作る道具はどれも有用だ。必要数を揃えていかなければならないだろう。
しかもこのグナーデリングは、効果が分かり易い上に、非常に使いやすい。外貨獲得の手段にもなるだろう。
30セットを、何回かに分けて納入して欲しい。
そう言われたので、頷く。
此方が受け取る金額も、労力に見合うものだし。
損にはならない。
お披露目会も終わったので、引き上げようとしたとき。
ヴァルガードさんに引き留められた。
「ソフィー。 かなり無茶な魔力の使い方をしたな」
「そうみたいですね。 自覚はありませんが」
「二度とするな。 死ぬぞ」
「そこまで危険なんですか」
ヴァルガードさんは沈黙で答えた。という事は、素直に忠告を聞いた方が良さそうだ。この人は、この街随一の魔術の使い手。あたしも魔術に関しては、この人に色々と教わったのだ。
其処で、相談もする。
そうすると、ヴァルガードさんは、少し考え込んだ後。
丁寧に答えてくれる。
「方法は間違っていない。 作る量が多すぎたのだ」
「なるほど」
「どうせしばらくはそのグラビ石を使っての道具作成にいそしむのだろう? その間は体力の回復に努めろ。 無茶さえしなければ、お前はまだ若いし、きっちり回復しきるだろう」
「分かりました。 有難うございます」
一礼すると。
その場を離れる。
アトリエに戻ると、モニカは掃除を済ませて帰ったようで、もう姿は無かった。
プラフタが、久しぶりに話しかけてきたのは。
あたしが、何も書かれていない本に、魔術を実行する呪文を書き始めてから、だった。
「少しばかり後悔しています」
「あたしに錬金術を教えたことを?」
「違います。 それは後悔していません。 貴方は金の卵も同じです。 それなのに、下手をすると台無しにしてしまう所だった」
プラフタは、普段と様子が違う。
ひょっとして。
泣いているのか。
「次からは、レシピをもっと精査しなければなりません。 貴方が自分の命を何とも思っていない事は分かってしまいました」
「そう」
「……」
沈黙が続く。
あたしがどうでもいいと思っているのは、自分の命ではない。正確には、少しばかり違う。
どうでもいいと思っているのは。
この世界に蔓延している。
どうしようもない不平等さだ。
その権化である自分も。
だから、厳密には少し違っているが。いずれにしても、この世界そのものをどうにかしたいというのは事実。
「それで、何をしているのですか」
「あたしの空飛ぶ第三の腕の作成」
「本を作っているように見えますが」
「見てて」
どうせしばらくは無理は出来ない。
魔術による浮遊。
マナの吸収。
そして、あたしと同じ、エーテルによる魔術砲。魔術による防御壁の展開。それらを出来るようにする。更に少し考えた後、実行魔術に優先順位を付ける。第一に浮遊。第二に防御。そして第三に砲撃。
指示を出すとその行動をするようにした方が良いか。
いずれにしても、普段はあたしの周囲を飛び回り。
命令を待つようにする。
そして、おばあちゃんのレシピを確認。
更に今までの知識を総動員して、レシピを作る。
思ったよりスムーズに。
レシピは書き上がった。
最初からイメージが出来ていたから、かも知れない。
後半は白紙にするが。
これは使いながら、魔術の優先順位とかを変える場合とか。或いは追加で魔術を突っ込んだりとか。
そういった拡張を想定しての事だ。
そして、本に命を吹き込む。
魔術による浮遊の負担を最小限にするために。
グラビ石を使うのだ。
「これは、まるで私のよう……ですね」
「プラフタを見て思いついたのは事実だよ。 でも最終的には、これを十冊くらい常時周囲に展開して、防御の時は連携して防壁を展開して、攻撃の時は集中して敵に火力投射する予定」
「十冊、同時ですか」
「同時」
流石にプラフタも唖然としたようだが。
しかしながら、自分で魔力を供給するわけでもない。プラフタにしても、巨大な腕を外付けで追加して、それで戦闘などを行っていたと聞いている。あたしは元が魔術師だから、それを生かした発想に基づいて、拡張肉体を作るだけだ。
プラフタは錬金術の話なら。
会話をしてくれる。
だが、今日はもう休めと言われた。
一段落したのだからと。
仕方が無い。
休むか。
だが、プラフタがどうして其処まで悲しんでいるのか、正直な所よく分からない。いずれにしても。あたしは。
この世界の不平等を。
こんなどうでもいい命に替えても。
打ち砕かなければならない。
レシピ通りに作成し。
コルちゃんのところから引き取ったグラビ石を用いて。
ついに拡張肉体が完成した。
とはいっても、本だが。
通常時は。あたしの周囲を浮いている。飛んでいる姿はプラフタそっくりだが、装丁は真っ赤。
これはエリーゼさんの処で、見繕ってもらった。
外で軽く実験をする。
まずは命令をしっかり聞くか。
立ち会いには、モニカに来て貰う。モニカは、あたしが面白いものを作ったと聞くと悲しそうにしたが。
体に負担が掛かるものではないと聞いて、安心したようだった。
ちょっと露骨すぎたが。
まあそれでもいいだろう。
順番に命令していく。
浮遊。
指示を出すと、大体あたしの想定通りに飛んでくれる。これはそう飛ぶように魔術を組んだし、何よりグラビ石を組み込んで、ものの性質を変質させている。浮くのが当たり前だし、飛ぶのはその機能の添え物のようなものだ。
防御。
指示を出した後、モニカに剣撃を頼む。
かなり加減してもらう。
防ぎきってみせる本。
中々だ。
少しずつ威力を上げて貰うが。いずれも本は防ぎきった。
適当な所で切り上げる。
本気でモニカが切るつもりだったらどうなるかは分からないが、いずれにしてもこれは複数を同時運用する想定で作っているのだ。
最後に攻撃。
魔術砲をぶっ放す。
こればかりは、あたしも少し魔力を供給する。大気中のマナだけでは足りないからだ。
迸った閃光が。
岩を粉々に吹き飛ばす。
まあこのくらいか。
砲撃の後には、クレーターが出来ていた。赤熱した岩が、じゅうじゅうと凄まじい音を立てている。
此奴を十個。
収束砲撃させれば。
充分な火力ソースとして期待出来るだろう。普通に爆弾を投擲しながら、これで補助攻撃し。
更にあたしが本気で砲撃を叩きこめば。
その連携さえ邪魔されなければ、ドラゴンにも手が届くかも知れない。
ふうと、あたしは興奮を覚えて、額を拭った。
これで完成だ。
後は増やすだけである。
「ソフィー。 この魔物のような本は……?」
「あたしの三本目の腕。 もう九冊、いや九本増やす予定」
「そう……」
モニカが、どうしてか悲しそうにする。
グラビ石を作ってから。
あたしが決定的におかしくなった。
そう顔に書いてある。
だが、あたしは最初からおかしかった。モニカと喧嘩が昔は絶えなかったのは。この世界を作った創造神を許せないから。
創造神に対して反旗を翻す時点で。
あたしは最初から狂っているのだ。
もっとも、そのオリジンは。
あの腐れ親父にあるだろうが。
「しばらくはアトリエに籠もりっきりになるかな」
この本を増やせば、防御力も攻撃力も、格段に増す。
本に対する知識が増えれば。
プラフタを、元の姿にしたり。知識を取り戻す手助けになるかも知れない。
そしてあたしが充分な力を得たときには。
この世界に。変革をもたらすのだ。
二人に、帰ろうと促す。
あたしは。
笑っていたかも知れない。
(続)
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