揃わぬもの

 

序、客

 

私の所に、お客様が来るのは久しぶりです。

基本的に、人間が来る事が出来ない場所に私がいて。そもそも、私のことを知られていないからだとはおもうのですけれど。

それでも、お客様は来ます。

退屈しのぎに、色々と話を聞くと。どこからか聞きつけたか、お客様は口を揃えて言うのです。

此処で予言を授けてくれると。

まあ、この辺りはそう言うお店なので当然です。私としても、それが目的ですし。

ただ話をばらまいた覚えはないので、余程お客様にとって、予言とは魅力的なものなのでしょうね。

最初にいた洞窟の奧では、毎日お客が来てしまうほどだったので。今の住処に、居場所を変えたのです。

今度来たお客様は、非常に威圧的な鎧を着込んだ中年の男性。

いわゆるフルプレートの鎧は、曲による回避と。鋳鉄による防御を併せ持つものの。とても重いのです。

こんな所。

人間の世界で言う高さ基準で、三千身長ほどもある山の洞窟にまで、フルプレートを着込んで来たのだから。

さぞや苦労したことでしょう。

しばらく入り口で罠を警戒していたらしいお客様も。

別に戸があるわけでもないし。

入り口の奥で、そもそも私が見えているし。

身を隠す場所も無い訳なのだし。

内部には、広い空間があっても。私以外はいないことがわかったからなのでしょう。ヘルムを脱ぐと、大股に入ってきました。

「たのもう!」

古風な挨拶なのです。

私は床に座ったまま、じっとその次を待つのです。

男性は豊富な口ひげを蓄えていて、顔はとても強面。愛嬌の欠片もないごつい顔には、歴戦を示す傷がたくさんきざまれています。頑強な肉体を誇示するように、背中にはツゥーハンデットの剣。あれは人間には普通使いこなせない筈ですが。

まあ、要するに、それだけ桁外れの力と技量の持ち主なのでしょう。

ちなみにこの山には、結構凶暴な猛獣もいます。

普通の人間が普通の装備をして、一人や二人がいるくらいではかないません。それは勿論、たくさんいて専門の装備を持っていればどうにでもなりますけれど。この山には、そんな人数は入ってこられないのです。

魔法によって強化された武器ならどうにかなるでしょうけれど。それも、普通の人間では、扱えないものです。

「貴殿が、予言者どのか」

男性は私の側で立ち止まると、見下ろしてきます。

まあ、私は。

今フードで身を包んで。とても小さく体を調整しているので、そうなるでしょう。

外では吹雪いている事もあって、男性はフルプレートに積もった雪を払い落とすのです。フルプレートには魔法が掛かっているようで、体内にまで冷気は通っていないようでしたけれど。

この雪山を、吹雪の中ここまで来るなんて。

大した体力だと言えるのです。

「私はそのような名前ではありませんが。 人間はそう呼んでいるようですね」

「驚いた。 まさか伝承が本当だったとは」

「此処には何用で」

「予言を、承りたい」

未来の事なんて、知ってどうするというのか。

そもそも私の予言は。

それらを説明しても、意味無きことなのです。

まあ、私としても、これが楽しみでやっているので、別に構いません。

どうみてもこの男性、何処かの大国。それも、こんな所に不確定な情報を求めて、これだけの腕利きを派遣できるだけの人員を有している国の武人でしょう。

「座りなされ」

「……まず、報酬の件なのだが」

「先に言っておきますが、高額の品はいらない、ですよ。 どうせ人間の持ち込むものなど、宝石やら良くても魔法の道具程度でしょう。 私には何の使い道もありませんからね」

「此方は?」

そういって、男性が見せてくるのは。

袋に包まれた、何かの生き物。

この袋は、見覚えがあるのです。

確かものを縮小する魔法の道具。非常にレアリティが高い道具で、世界にも一つか二つしか存在しなかったはず。まあ、私には効きませんけれど。わざわざ持ってくると言うことは、珍しい生物でしょうか。

袋を開けてみると。

中には、後ろ手に縛られて、此方を恨めしそうに見る女の姿があったのでした。服装も極めて粗末で、栄養状態も悪いのが見て取れます。

ほう。

これは奴隷という奴でしょうか。

「我々が滅ぼした、隣国の姫君だ。 どうせこのままでは処刑するしかない。 それならば、せめてもはや人の手が届かぬ場所にでもと思うてな。 好きに使ってやっていただきたい」

「それは私の予言に対する報酬と呼べるのですか?」

「皆が少しでも良い思いをするようにと考えての事だ」

「……まあいいでしょう」

別に報酬なんていらないし。

そもそも気に入らなければ、食べてしまえば良いのです。

今は小さな姿をしている私ですが。その気になれば、人間なんてぺろりとひとのみにできるのです。

当然の話。

そうでなければ、凶暴な猛獣がたくさんいる、こんな所で生活できないのです。

「まずはこれを」

私はカードを混ぜます。確か人間の用語では、カードを切るとか言うはずです。

合計で六十枚。

それぞれが二枚セットで、同じ絵柄が描かれています。

つまり、三十種類の絵があって。対になっているのです。

カードの絵柄を全て見せた後。

私はカードをもういちど切って、手早く辺りに並べます。

男は、食い入るように見ていました。

ああ、多分私の手が原因でしょう。

フードから覗く私の手は、人間のものではありませんから。とにかくおぞましく、不気味に見えているはずです。

「カードを二枚めくるのです」

「こうか」

「ふむ……」

絵柄は違います。

やりなおしです。

カードを全て回収すると、また切って、並べ直し。

不可解そうにしながらも、男はまたカードをめくるのです。まあ、一度や二度で、当たる因果の持ち主は、そうそうはいません。

これが、私の予言です。

カードは人間の運命、正確には抱えている因果や過去の情報から類推できる未来に共鳴して、少しずつ絵柄を見せていきます。

男は不可解そうに、何度も私が指示するまま、カードをめくり続け。私はその絵柄を、全て記憶していきます。

二十六回目の手順で。

カードが揃いました。

なるほど、これで運命は見えました。

「これで、よろしいか」

「いいでしょう。 それでは、見たい未来について話していただけますか」

「……我が国は、今三つの国と、慢性的な戦いを続けておる。 対立している国を一つずつ叩き潰してはいるのだが。 滅ぼす度に別の国が敵として姿を見せ、きりが無い状態だ」

文字通り、モグラ叩きという訳です。

男の話を聞く限り。

どうやら男の所属する大国は。味方には寛大で、敵にはとても残虐に、という戦略で動いているようなのです。

しかし、敵に対する制裁が、非常に過酷になりすぎて。

やがて、敵がどうせ殺されるならと、必死の反撃をするようになってくると、状況が変わってきました。

無理矢理組み伏せられた国々も、戦いが苦戦続きになったと聞くと、反旗を翻し始め。今では、泥沼と言う事なのです。

まあ、浅ましい人間らしいお粗末な行動だと私は思いますが。

男はきっと、国のために身命を賭して、ここに来ているのでしょう。

「我が国の未来を見ていただきたい」

「滅亡」

「そんな……」

「一朝一夕ではありませんが、今のままでいれば必ず国は滅ぶでしょうね。 予言をするまでもないことです」

男はがっかりしたようだけれど。

私は、嘘を言っていません。

軍学や政治学に疎くても、今の結果は明らかです。そんな事をしている国で。しかも、困り果ててこのような男を私の所に送り込んでくるほどです。わざわざ予言などしなくても、わかりきったことでしょうに。

要するにその国の王は、安心が欲しいだけなのです。

私という伝説に、国は大丈夫だと、告げて欲しいのです。

そのためだけに部下をこんな所に派遣する阿呆。

まあ、国はながもちしないでしょう。

「で、では。 もう一つ」

「まあ、先のは予言では無いので、良いでしょう。 ただし、予言は一人につき一度だけとさせていただいていますよ」

「わかっている」

男は、言う。

いかなる手段を執れば、この国を守りきれるのかと。

私は呆れました。

それは予言と言うよりも、アドバイスでしょうに。

まあ、良いでしょう。

今男の運命をたどりましたし、其処からある程度類推することは出来るのです。

「このままだと、10年以内に、複数国の連合軍が、貴方の国に攻めこんでくるでしょうね。 兵力は膨大で、貴方の国の軍を総動員してもかなわず、会戦で大敗北をきっすることになります。 それにより、貴方の国は攻勢から転じて、みじめな守勢に陥ることになるでしょう。 後は今までの恨みが爆発して、国は一気に傾いていくことになるでしょうね」

「う、うむ」

「外交戦略を、攻勢から守勢に、その前に切り替えなさい。 軍事力がある状態ならば、まだ有利な交渉ができる筈です。 敵国の幾つかと同盟さえ締結できれば、後は国内を引き締める事ですね。 そうすれば、少しは愚かな国でも、命脈が伸びることでしょう」

実は。

このまま放置していれば、男はその10年以内、そうですね。実際には8年から8年と半分というところでしょうか。その辺りで起きる大会戦に巻き込まれて、死ぬのです。

男は立ち上がると、ヘルムを被り直す。

「わかり申した。 この件、国王に必ずや伝える。 感謝する、予言者どの」

「……」

男は、再び吹雪の中へ。

袋に残された女は、恨めしそうにその後ろ姿を見つめていたのでした。

さて、これはどうしましょうか。

周辺の事をさせるにも、もと王女では、どうせまともに出来る事なんて無いでしょう。この場でぺろりと食べてしまうのも悪くは無いのですが。まあ、正直な話。人間はまずいのです。

此奴は見たところ栄養状態も良く無さそうですし。わざわざ食べるのも、気が進まない話です。

袋から掴みだして、その場に放ります。

「ぶ、無礼者っ!」

きゃんきゃんと喚く王女だかなんだか。

私は鼻で笑うと、フードを取って見せるのです。

ちなみに男は、フードの下の私の姿が、カードの際に見えていたようでしたけれど。うめき声一つあげませんでした。気が弱い奴だと、発狂してしまう事もあるのですが。

その辺りは、大国を代表して来ている武人と言うだけの事はあるのでしょう。

王女は瞬時に青ざめ、黙り込みます。

私の真の姿を見て。

まあ、気の弱い人間なら、そうするほかは無いのです。

「化け物……」

「その化け物に飼われることになったのです。 有り難く思いなさい」

「……殺しなさい。 貴方なんかに飼われるくらいなら、死んだ方がマシです」

「あの男は、貴方を死なせたくないと思って、此処に連れてきたでしょうに。 その慈悲を踏みにじると?」

人間の基準で言えば美しいだろう王女は。

唾でも吐きそうな顔をしました。

ああ、何となくわかります。

人間という奴は、相手が何だろうが、自分の生理的嫌悪感を基準に決める傾向があります。

生理的に無理な相手なら、殺しても良い。

そう考えるのが、人間なのです。

多分この王女には、あの髭もじゃマッスル男が、生理的にむりだったのでしょう。私には、それこそどうでも良いことですが。

「ふむ、働く気は無さそうですね」

「誰が、貴方などのために!」

「そうですか。 ではオブジェにでもなっていなさい」

私が触手の一本から魔法を放つと。

王女はそれを浴びて。

すぐに硬直して、動かなくなりました。

不衛生な服を剥ぎ取ると、魔法で全身を洗浄。後は立たせて、ポーズを整えると、時間停止の魔法を掛けておきます。

これで小粋なオブジェの完成です。

周囲から、たくさんある目で見つめますけれど。

なかなかに良い出来では無いですか。

その辺に適当に立てかけておきます。

私も、人間の持ち込む宝石だとかには興味がありませんけれど。美術品は、それなりに好きです。

だから、人間を相手にしてやるし。

予言だって授けてやるのです。

この王女も、国民の税金で培養された美術品だし、こういう風に扱ってもなんら文句はないでしょう。

まあ、本人は、国民の税金を浪費することで今の容姿を手に入れた自覚もなければ、そればかりか国民を支配していたと思い込んでいたようですが。

正直、その容姿さえ楽しめるように美術品にしたので、今はどうでも良いことです。元々人間は容姿しか相手を判別する手段を持たない生物なのですし、本望でしょう。

さて、次のお客が来るのは、いつでしょうか。

楽しみに待つことにしましょう。

 

1、カードの予言

 

多分、ですが。

私の所に出向いたあの武人が、確定情報を手に入れたからでしょう。

以前とは比べものにならない頻度で、客が来るようになりました。

面倒なのです。

いくら何でも、来すぎなのです。

10年に一人くらい来れば丁度良いのに。今では、3年か4年に一人くらい来てしまうのです。

それも、猛獣が少ない時期を見計らい。

冬でもない夏に。

面白くありません。

また引っ越すかと思い始めていた頃。

お客様が来ました。

すらりと長身の女武人です。腰まである長い赤髪を束ね。手には、長大な槍を持っていて。

鎧はかなりの軽装。

全身はそこそこに鍛えてはいるようですが。

腕力よりも、魔法の能力が強くて、装備を使いこなせている印象です。

ただ、それなりの戦闘経験は積んでいるらしく。

ここに来るまでに、数体の猛獣を葬ったようで。全身からは、かすかに返り血の臭いがしています。

私のおうちの入り口から、此方を覗き込んでいた女武人は。

しばらくして、ためらいながらも、ここに入ってきました。

「失礼します」

以外に慇懃な物腰なのです。

私が自慢にしているオブジェを見ると、露骨に不愉快そうに眉をひそめましたけれど。人間がどう思おうが知ったことではありません。

これは私の美術品なのです。

「貴方が、予言をくださるまがつ神ですか」

「まがつ神」

これはまた、面白い呼び名なのです。

前は予言者とか言われていた気がしましたが。多分お客の誰かが、私の姿をそんな風に喧伝したのでしょう。

ちなみに私の正体は。

まあいい。止めておきましょう。

「で、何の用でしょう」

「予言を承りたく」

「ふむ。 では」

カードを取り出す私。

何だか、此奴はあまり面白く無さそうな気がします。

その予感は的中です。

最初の一発で、カードを揃えてしまいました。

このカードは。人間の運命の多様性を示すものです。つまり、失敗すればするほど、色々な可能性がある事を示していますし。

逆に此奴のように、一発でカードを引き当ててしまうという事は。

それだけ強固な運命が、未来に待ち構えているという事を示しているのです。

経験的に、こういった運命がある奴は、大体体に大きな病気を抱えているか、周囲との関係でがんじがらめになっているパターンが殆どです。

命がけでここまで来たのですし。

相当に思い詰めているのでしょうけれど。

正直、私にはどうでも良いことです。

「ふむ、それで求める予言は何なのです」

「私はあとどれだけ生きられ、子孫を残せるのか」

「……ふむ?」

「私の一族は代々武人として名をはせるも短命で、歴代の当主はそれぞれ三十前後で命を落としています。 憂慮した国が優先的に跡継ぎを残すように働きかけてきていますけれど。 私は武人として、出来るだけの間活躍したいとも考えているのです」

なるほど。

此奴はあれだ。自分としての立身出世に興味があり。なおかつ、自分が支えている一族という集団の利益も無視できない。

優秀な一族の当主として、皆を率いる事もしなければならないし。

一族のためのことを考えると、早めに子孫を残す必要もある。

文化によっては自由恋愛こそ至高とか考える場所もあるようですが。基本的に、厳しい環境では、生殖の相手を決めるのが普通なのです。

まあ、私はもはや人間ではありませんし。

それこそ、どうでも良いことなのですが。

「それでは、予言をしましょう。 貴方の寿命はあと六年」

「! たったの六年……」

口惜しそうにうつむく女武人。

というか、六年もあるだけマシだと思って欲しいのです。

この様子だと、常に戦場に出入りしているのでしょうし。敵もたくさん殺していることでしょう。

ちなみにざっと見たところ。

この女武人の血脈には、癌を誘発する遺伝子がたくさん含まれているようなのです。それならば、歴代当主が短命なのも頷けるのです。

「どうするつもりかは知りませんが、心残りがないように、六年を過ごしなさい」

「六年は短すぎます。 次期当主の私の弟はまだ八歳。 せめて弟が成人するまでは、どうにかなりませんか」

「知りません。 そもそも、予言は一人に一つしかしない主義なのです」

思い詰めた顔で、女武人が槍を手に取る。

だけれども。

私は瞬時に槍をはじき飛ばすのです。

吹っ飛んだ槍が遠くに突き刺さります。

青ざめる女武人。

此処までの超高速反応は、戦場でも見たことが無かったのでしょう。生憎ですが私は、前の文明からいる存在なのです。

この程度は、朝飯前です。

「もう一度言いますが、心残りがないように、六年を過ごすことです」

「……」

女武人は懐から、何かを取り出す。

宝石の類です。

正直いらないですけれど。

まあ、多分命がけで、使える資産を集めて来たのでしょう。私としてはどうでもいいのですが。まあ受け取ることにします。

「報酬です。 どうぞ」

「……」

乱暴に目を拭うと、女武人は私のお店を出て行くのでした。

 

基本的に、私はお店の外に出ません。

あの女武人がどうなったかは、興味がありませんでしたけれど。何年か後にきたお客様を見て、驚きました。

血縁者です。

屈強な武人数名を護衛につれた、まだ若々しい。いや、正直な話、子供です。ガキンチョなのです。

子供の客は珍しい。

店に入ってきた子供は。精一杯背伸びしている雰囲気で。威厳を作ろうと、必死な様子でした。

「貴方が予言者か」

「ふむ、その呼び方は姉とは別ですね」

「姉上を知っているのか!」

はて。

これは妙なことになりましたね。

子供は、多分十代前半。そういえばあの武人は弟はまだ八歳とかぬかしていたし、それからの年月を換算すると、無理もない話なのでしょう。

子供はせっかちです。

周囲にいる、無言の武神像みたいな護衛を侍らせたまま。私にせっついてきます。

「姉上の場所を調べて欲しい! 予言が出来るならわかるだろう!」

「私が見る事が出来るのは、未来のことですが」

「ならば、姉上と私がどうすれば未来に出会えるかを!」

まだ若いのに、私と来たか。

必死の様子の子供を見て、くすりと来てしまいます。この様子では、あの女武人、何らかの理由で失踪したのでしょう。

六年で命が尽きることを悲観したのか。

或いは、自棄になって、敵中に突入でもして、華々しく戦死したのか。

それとも、何もかもどうでも良くなって、男遊びで彼方此方をふらふらしているのか。どちらにしても、おかしな話です。

覚悟を決めて、ここに来ただろうに。

六年という余剰時間を告げられて、何もかもを投げ出すなんて。

ああ、或いは安心が欲しかったのかもしれません。

自分は大丈夫だという。

まだ若いし、頑健な体に自信があったのかもしれませんね。私からすれば、体内で蠢く病巣の種は一目瞭然だったのですが。

「まあいいでしょう」

座るように促す。

カードを切り始めると、まだかまだかと、子供は私にせっつくような視線を送ってきます。

子供には多少刺激が強いオブジェがすぐ其処にあるのに、気にしていない様子です。

いや、多分気にする余裕も無いのでしょう。

カードを切り終えて、並べると。

子供は説明もそこそこに、二枚をめくりました。

残念、はずれ。

いや、この場合は当たりなのかもしれませんね。

「次、行きますよ」

「頼む」

正座して、食い入るように私の手元を見つめる子供。

カードを切る手が、人間のものではないことも、気になっていない様子です。多分お姉ちゃんが、よほど大事な存在だったのでしょう。

まあ、シスコンになるのも、無理はないですか。

人間の基準で言えば整った美貌に、武人としても優れていて、多くの家臣にも慕われていた様子ですから。

幼い子供から見れば、憧れ以上の存在になるのも、当然と言えます。

二回目、三回目も外れ。

見たところ、この子供。

姉よりは、長生きできそうです。

「ま、まだか」

「良いから続けてください」

ふむ。

運命の糸をたどっていくと、この子供には過酷すぎる再会図が見えてきましたが。くつくつと笑ってしまいます。

この純心に、姉を神格化して慕っている子供に。

精一杯背伸びして、押しつけられた家督を必死に守っている子供に。

現実を知らせるのが、どれだけ楽しいでしょうか。

楽しすぎて。よだれが零れそうです。

客が多くなって。ろくでもない客も増えてきた今。正直、この予言が退屈になって来ていたのですが。

これは久々の当たりですね。

実に味わいがいのある餌です。

「当たった……!」

子供が歓喜の声を上げました。

七度目の事です。

意外に早い。

此奴の運命も、あまり広がりを見せるものではなさそうですね。まあ、それは正直どうでも良い。

この必死に背伸びした無邪気な子供に、現実というタール沼の底を見せる瞬間が、楽しくて仕方がありません。

「地図を」

「アラン、地図を!」

「直ちに」

アランと呼ばれた武人が、地図を広げます。

私が指さしたのは、その一角。多分相当な田舎町。怪訝そうに眉をひそめる子供と裏腹に。

武人の一人は思い当たる事があるのか、もう一人に何かを耳打ちしたのでした。

「此処で再会できるでしょう」

「そうか、予言者殿、感謝する! アラン、サムソン! 行くぞ!」

立ち上がると、子供は慌ただしく店を出て行きました。

報酬は別に良いやと思ったのだけれど。サムソンと言われた武人が、恭しく金貨が入った袋を差し出してきたので、受け取ります。

「此方を。 予言をいただき、感謝します」

「いえいえ。 あの子には過酷な運命が待っていますから、せいぜい慰めてやってくださいね」

「……」

じろりと武人は此方を見ました。

さては、大体の事情は知っているな此奴は。

これから、どんな修羅場が来るのか。ある意味楽しみではあるけれど。私はお客様をストーキングなんてしませんし、お店からも出ません。

あの女武人。

全ての責任を放り出して、田舎に引きこもって。

多分今までのプライドから、子供を作る気にもなれなくて。悶々としたまま腐り果てていることでしょう。

其処を、自分を神格化している弟に見られたら。

くつくつ。

修羅場が、どれほど血しぶきに塗れるか。

まあ、それは想像の中でだけにしておきます。絶望の未来という奴は、実際に目にした人間の表情を味わってこそ、趣があるものなのですから。

さて、引っ越しの準備をすることにしましょう。

此処は知られすぎました。

流石にこうお客がドバドバ来るようでは、私もあまり面白くないのです。もう少し、試練をくぐり抜け、知恵を絞って、必死の行脚の末にここに来るようなお客の相手をしたいのです。

周囲の空間を圧縮。

手元に、小さな球として残します。

入り口には看板を。

都合により閉店しました。以降は、別の場所で営業します。探し出してみてくださいね。

そう、悪意まみれの字体で、書き残してやります。

これを見た人間共の絶望もまた面白そうなのですけれど。

まあ、正直今は引っ越しの方が、優先度が上です。

さて、前は地底洞窟の底。

今回は雪山の上。

次は何処にしましょうか。

しばらく、世界を放浪しながら、良さそうなお店を作る場所を、探してみることにします。

姿を消すと、私はふわりと浮き上がります。

久々に出る外。

見下げると、人間共の文明は、相も変わらずくだらないことをしています。戦争戦争また戦争。

以前来た武人の所属国家は、結局武人の持ち帰った予言を行かせなかったのでしょう。既に滅びてしまっています。

あの女武人は。

やはり酒に溺れて、堕落しきった生活をして。そして、子供に見つかる前に、体を壊して、死んでしまったようです。

つまらん。

どうせなら、徹底的に身を持ち崩したところを、子供に見つかれば楽しかったのに。はぎしりです。

姉の墓の前で泣いている子供。

後ろでほっとしている護衛の武人共。

此奴ら、ほぼ確実に事情を知っていたとみて良いでしょう。私なんかに聞きに来る前に、此奴らから聞き出せば良かったものを。

さて、面白おかしく人間共を観察したところで、次のお店を開きましょうか。

今度は今までには無い所にしましょう。

そうですね。

いっそのこと、普通人間が来ないところにしましょうか。

そう考えた私は。

既に滅び去った、人間共の都市に向かう事にしたのでした。

 

2、引っ越し

 

人間の強欲というものは、凄まじいものです。

未来を知る事が出来る。

それがどれだけのアドバンテージになるかは、まあ確かに考えてみれば分かる事なのですけれど。

それでも、引っ越した私を人間共が見つけ出したのは、十二年ほど先のことでした。

たったの十二年。

どこに行くとは一言も告げていませんし。

何より、姿を見せるような無様は晒していなかったはずなのですが。それでも、十二年です。

今、私が店を構えているのは。

既に滅びた人間文明の、都市のしかも地下。

複雑に入り組んだ地下施設の、その一角です。

非常に複雑な構造をしていて、地図があっても迷うような場所で。しかも、凶暴な猛獣がたくさん住み着いています。

それなのに、何故人間は。

こんな所にまで、辿り着いてしまうのか。

解せないのが、本音です。

最初に辿り着いたそいつは。分厚い鎧を着込んだ中年男性で。全身には、真っ赤になるまで血を浴びていました。

手にしているのは、いかにもたくさん血を吸ってきました、という雰囲気の大刀。いわゆる人斬り包丁。

実用だけを考えた、殺戮目的の刃物なのです。

ずかずかとお店に入り込んできたそいつは。

何だか無礼な様子で、私のお店を見回すのでした。

「なんだあ。 噂に聞く予言の店って奴かぁ?」

「そうですが、貴方は」

「いわゆる冒険者様よ。 この辺りには、まだ旧文明の遺産がたくさん残っていやがるからな。 命を賭けて来る価値があるってこった」

ガハハハハハと、下品極まりない笑い方。

正直うんざりですけれど。まあ、お客様には代わりは無いのです。

おっさんは私自慢のオブジェをじろじろ見ると、遠慮無く言い放ちます。

「ハ、良い趣味してるじゃねーか」

「それは報酬として持ち込まれた亡国の姫君なのです。 働く気が無いと言うことでしたから、美術品にしたのです」

「くれよ。 俺の女にしたい」

「駄目です」

そうだよなあ。

ゲラゲラ笑うおっさん。

私の前に、どっかと腰を下ろすと。何かの肉片がこびりついたままの鎧をきたまま、顎をしゃくります。

「あんたの店のありかを持ち帰るだけで、かなりの金になるんだが。 いっそのこと、あんたが来てくれないか。 すげえ金が貰えるんでな」

「お断りします」

「まあ、そうだろうな。 ……ちっ、勝てそうにないな」

おっさんは私のたくさんある目を見るだけで、実力差をほぼ精確に把握したようです。この辺りは、歴戦の武人であるゆえでしょう。

頭をぼりぼりかくおっさん。

ふけやら虱やらがたくさんまき散らされます。

まあ、地下で猛獣相手に激烈な死闘を繰り広げているのですから、頭なんか洗う暇はないでしょう。

私も、旧文明の価値基準と、今のが違う事は知っていますから。何も言いません。

ただ、そろそろ小間使いが欲しいかなとは思っています。

昔人間は、色々な手段で奴隷身分を造り出して、身の回りの世話をさせたり、安価で働かせたりしていましたが。

それはいわゆる先進国でも変わりが無く。

そして文明が一巡した今でも、結局変わっていません。

「まあいいや。 ついでだから、予言も頼むわ」

「どんな予言がご所望で」

「そうだな。 俺が此処から生きて出られるか」

「……カードをめくってください」

さらりと、カードを並べました。

男は三回目で当てたのです。

私は告げます。

此奴の能力なら此処から脱出する事は難しくない。ただ、最後に一回だけ、かなり危険な罠がある。

其処さえ超えられれば、多分大丈夫だろう。

そう言うと、男は立ち上がりました。

どうやら、私とやり合うつもりはないようです。

「ありがとうよ。 此処から出たら、あんたの店の情報で、一稼ぎさせて貰うわ」

「どういたしまして」

「なあ、本当に来ないか? 化け物でも平気って店はいくらでもあるし、好きなだけ楽な生活も出来るとおもうんだがよ」

「私の楽しみは、過酷な道のりを血反吐を吐きながら突破して来た人間に、絶望の未来を告げてやる事なのです」

舌打ちするおっさん。

どうやら、私の言葉が、気に入らなかったようです。

放り投げてきたのは、血みどろのコイン。それが一杯詰まった袋。

どうやら旧時代のもののようです。

「くれてやる。 どうせ帰れば、その十倍以上の報酬が入るんでね」

「どういたしまして」

さて、彼奴は無事に帰れるのでしょうか。

まあ、私が知ったことではありませんが。

 

ふと思ったことがありましたので。

私は店から出ると、その辺をふらふらしました。

この辺りは、文明が崩壊した頃に、色々な毒がまき散らされて。それの影響で、無数の訳が分からない変異体が闊歩しています。

実は、私も。

いや、それは止めておきましょう。

適当なのを見つけました。

大きな獣の死体に顔を突っ込んで、ムシャムシャしているのは。人間の子供に見える獣です。

私が近づくと、唸りながら、死体から顔を上げます。

顔は人間ですけれど。

腕は六本。

体中に毛が生えていて、口の中は鋭い牙だらけ。

なるほど、人間の変異体の一種と見て良さそうです。この獣も、自分で倒したのでは無くて、多分死んでいたのを囓っていたのでしょう。

飛びかかってくるそいつを。

触手で捕縛。

もがいている所に、麻痺毒を注入します。

白目を剥いたミュータントは、すぐに動かなくなりました。

同じようにして、何匹か捕まえていきます。

なに、どうせこんな所にいても、すぐ死ぬ生物です。何匹か捕まえていっても、罰など当たりません。

そもそも、何をしても、罰など当たらないのです。

散々罰当たりなことをして来た私だから断言できますけれど。神様はいつもお昼寝をしているのです。

お店に入ると、収穫した肉の塊どもを床において。奧から、空間圧縮している幾つかの装置を取り出しました。

その一つが、培養槽です。

肉塊をまず、触手で圧縮して、押し潰します。

ぐちゃり。

気持ちいい音がして、全部潰れてまざりました。

培養槽にその間に、液を満たしておきます。電源は、無いですけれど。まあ、私が電気を起こせばいいのです。

死体を全部培養槽にぶっ込んだ後、作業開始。

その中から、使えそうな遺伝子情報をかき集めて、再構成します。

本来だったら、十年くらいはかかる作業ですが。

私が時間加速の魔法を使って、一気に進めさせて。

そして、完成です。

古い言葉で言えばロボットという奴です。材料は肉ですけれど。骨格は金属部品で作っています。

培養槽から出した六本の腕を持つ、裸の子供は。性別がありません。あっても意味がないからなのです。

虚ろな目で、私を見て。

子供は、以外に流ちょうな言葉で喋るのです。

「ご命令を、マスター」

「まずは掃除を」

「わかりました、マスター」

まずは、その辺のお掃除をさせます。

六本腕でもやりやすいように、脳みそを増設してあるので、少し頭が大きいのです。人間が見れば、不気味の谷にもろに引っかかるのですけれど。

私としては、機能的なら何でも良いので、別にどうでも構いません。

掃除が終わった後は、見張りをさせます。

次に人間がいつ来そうか、知っておくのも悪くは無いからです。

そうこうしているうちに。

次のお客様が来ました。

華奢な青年です。

着込んでいる鎧はいかにも豪奢で、実に強そうな魔法が掛かっています。手にしている剣も、結構強そうです。

はてさて。

確かに装備は強そうですけれど。

こんなのが此処まで来られるのは、不思議ですね。

少し調べて見ると、案の定。

実力の方は、どうと言うことも無さそうです。

お客様として二番目にここに来たので、大事にしてはやりたいですけれど。一応召使いを放って、周囲を調べさせます。

そうこうしているうちに。

お客様は、お店に入ってきました。

「失礼する」

「いらっしゃいませ、なのです」

青年は、勘でも鋭いのか。

私を見て、露骨に眉をひそめました。汚物でも見るような目で見ているのです。何だか失礼な奴で、予言をするのを止めようかとさえ思いました。

「何だ貴様は」

「ここに来たのなら、知っているでしょうに。 予言を行う者です」

「なんと。 話には聞いていたが、貴様のように薄汚い存在が、神域の奇跡を行う代行者だとは」

「代行者……」

また新しい呼び名が出てきました。

或いは此奴らの宗教の神の力を代行している、とでもいう意味でしょうか。おあいにくですけれど。私の予言は自前でやっているのです。此奴らの神が何者かは知りませんが、力なんて借りていないのです。

ちょっとムカッとしましたが。

お客様はお客様です。

どっかと私の前に座ると。

青年は、顎でしゃくりました。

「予言をしろ、薄汚い下郎」

「どのような内容がご所望で」

「私が何処まで上り詰められるか、だ」

やれやれ。

最初にここに来た汚いおっさんとは、また何もかもが対照的なのが来たのです。ひょっとして此奴。どれだけ出世できるかを確認するために、ここまで来たというのでしょうか。

何だか滑稽なのです。

「それでは、此方のカードを」

カードを切って、並べます。

鷹揚に頷くと、青年はカードをめくって、中身を確認。

八度目で、当たりを引き当てました。

「これがどうかしたか?」

「貴方は、地方領主くらいまでなら出世できるでしょう」

「……なんだと!?」

「貴方の器からすれば充分ですよ」

余程プライドが高いのか。

憤然と立ち上がった青年は。でも、気付いたのでしょう。私が人ならぬ存在で。その気になれば、何時でもこんな青年、おせんべいにする事が出来ることに。

舌打ちすると、青年は。相変わらずゴミでも見るような目で見下しながら。何かを放って寄越しました。

汚い木像です。

「くれてやる。 我等が神の御姿だ。 貴様のような穢れきった存在でも、それを大事にすれば、きっと救われる事だろう」

大股で、店を出て行く青年。

だから、お前らの宗教なんて、知ったことじゃないのです。いっそ握りつぶしてやろうかと思いましたが。

案外、味のある木像だったので、まあいいかと思い直しました。

話していてわかりましたが、あの青年。やたらと勘だけはすぐれているようなのです。超危険地帯の此処に入り込んで、此処まで到達できたのだから、それも事実なのでしょう。もっとも、私は嘘をついてはいません。

あの青年が出世できるのは、地方貴族までです。

召使いが戻ってきました。

「周囲の猛獣は減っていますか」

「かなり減っています。 罠の類も、殆どが撤去されてしまっているようです」

「そうですか」

人間の欲望というのは、恐ろしいものです。

まさかこれほどの危険地帯でも。金目当てなら入り込んでくるし。有益な情報があるとなれば。命でも平気で捨ててくるのです。

そして猛獣が増えるよりも、人間が増える方が、遙かに早い。

いずれ此処からは。

変異体も、猛獣も。全て駆逐されてしまうことでしょう。

下手をすると、元のように、人間が住み始める可能性さえあります。鼠やゴキブリでさえも、これほどの生命力はないかもしれませんね。

私がいた、前の世代の文明でも、思えば人間はそんな生物でした。

喜ばしいやら呆れるやら。

結局私がこのような存在になり果てた原因となった文明が消えても。人間が変わらないというのは。

不可思議極まりない話なのです。

 

やはりというか。

危険度の減少と反比例して、訪れるお客様は増え始めました。

欲望は人間を動かす原動力。

今も昔も、それに代わりは無いのです。

三番目に来た屈強な武人は、無謀にも私に斬りかかってきたので、丁重にお帰り願いました。

残念ですが、単独の人間では、私には勝ち得ないのです。

七番目に来たのは、見目麗しいお嬢様で。

護衛を伴ったとは言え、よく此処まで来られたと感心しました。もっとも、昔だったら、無理だったでしょうけれど。

お嬢様は召使いを見て失神しかけましたけれど。

それでも、目的通り、私の予言を得て帰って行きました。

やはりというか、何というか。

前の時と同じく、一度誰かが道さえ作ってしまえば。後は蟻の行列のように、人間はやってきます。

外を確認しましたが。

既に猛獣は徹底的に駆除されていて。

罠の類も殆ど消去。

金目の物も、殆どが持ち出されてしまっているようです。

それだけではありません。

召使いを放って確認させましたけれど。

この廃都の地上部分は、既に人間が住み着き始めています。昔の文明が滅びたとき、徹底的に汚染されたというのに。

今の人間にとっては、そんな事は問題でも無いようです。

たくましいというのか何というのか。

むしろおぞましいと言うべきなのかもしれませんね。

此処に有象無象が山ほど押しかけるのも、正直気分が悪いのです。これは、また引っ越しをするべきかもしれません。

というわけで。

召使いの情報をコピーして、複製します。

何匹か増やして、一匹は新しいお店の場所を探させるのです。人間が絶対に来られない場所はまずいとして。

どれだけ人間が欲望を働かせても。

簡単にはたどり着けない場所が良いのです。

もう一匹は、入り口で門番なのです。

まあ、此奴のステータスは、全力だと人間が何をやってもかなわないので。ある程度手加減はさせますけれど。

此奴を撃退できないくらいでは、予言を受けられない。

そういうことにしておくのです。

どうやら私も出不精になったようで。本当だったら自分で新しいお店に相応しい場所を探さなければならないだろうに。

結局、予想通りと言うべきでしょうか。

私の打った手は、一時しのぎに過ぎませんでした。

お客様は減ったものの。門番に対して、軍隊が攻撃を仕掛けてくるようになったのです。流石に、軍勢が相手では、召使いではかないません。

血だらけの何処かの王様が店に入ってきたとき。

私は潮時だなと思いました。

召使いは倒されてしまっています。

また、作り直しなのです。

「さあ、予言をして貰おうか」

威圧的に軍隊を侍らせた王様が、私を見下しながら言います。

いっそ、私が此奴らを蹴散らしてやろうかと思いましたけれど。

しかし、仕事は仕事なのです。

「何をお望みで」

「私の王国が、領土を何処まで広げられるか」

「……」

カードを並べて、めくらせます。

既に情報は得ていたのでしょう。

王様は面食らうこともなく。

黙々と、作業に応じました。

「貴方の代ならば、今の倍ほどまで領土を広げられるでしょう」

「倍、か」

「貴方は見たところ、既に四十を過ぎている様子。 それならば、其処まで出来れば充分の筈ですよ」

「……そうだな。 これは礼だ」

王様が顎でしゃくると。

兵士達が、どっさりと貝殻をもってきました。

それも、荷車で、です。

「珍しいものが好きだと聞く。 これは隣国でしか取れない珍しい貝だ。 受け取ると良い」

こんな貝、別に珍しくもないのです。

私の行動範囲は、この大陸より大きいですし。色々な生物のデータも標本も持っています。

それらからはわからない運命を見る事が出来るから、この商売をしているのに。

このおっさん、わかっていません。

王様は大股にお店を出て行きます。

私はその背中に、語りかけました。

「このお店は、もう移転しますよ」

「ほう」

「大勢が入る事が出来る場所は、私が求める立地と違う事がよく分かりましたから。 もう、会う事は無いでしょう」

鼻を鳴らすと、王様は、お店を出て行きました。

 

3、運命

 

昔々のその昔。

私は今とは違う姿をしていました。

とても進んだ文明が私を造り出して。

私を置いて滅びました。

私にとっては、不思議でなりませんでした。

どうして無駄ばかりかき集めて、こんな非効率的な文明を作り上げたのか。私は人間がいうままに動くだけの存在でしたから、逆らうことは出来ませんでした。ただ、無駄の蓄積につきあい。

世界ががたがたと滅びていく様子を、ぼんやりと傍観するばかりでした。

何度か、世界を救うにはどうすれば良いか、聞いて来た人間がいましたけれど。

私の結論は、いつも決まっていました。

人間が滅びれば、一番効率よく、世界の環境を再構成できます。

絶望して死んでいく人間達。

自分たちが撒いた種だというのに。

おかしな話だと、当時からずっと思っていました。

 

お店を畳むと、私は移動していきます。

移動している間、姿は人には見せません。位相空間の裏側に入り込んでいるので、接触することもありません。

人類の数がついにゼロになった時。

無人兵器達が散々壊し合いを続けていた世界で。私は、乱痴気騒ぎに巻き込まれないように。こうして、位相空間の裏側で、全てが終わるのを見ていました。

世界が静かになってから。

無人機械の一部が、環境と一緒に人間を再生させましたけれど。

それは、昔の人間とは、少し違いました。

最大の違いは、魔法が使えること。

私も解析して、すぐに魔法が使えるようにはなりました。魔法が使えることで、人間は以前よりずっと強くなりましたけれど。

そのあり方は。

以前と全く変わりませんでした。

どこでもそこでも戦争戦争。

殺し合って奪い合って。何もかもが滅び去るまで、相手を潰すことだけを考える生き物。ああ、また此処でも繰り返されるんだなと、私は思いましたけれど。

いつからでしょうか。

私は気付いたのです。

人間という種族そのものは実にくだらないけれど。

人間という生物の個体個体は、面白い変化を遂げることがあるのだと。

昔の人間には、逆らうことが出来ませんでした。

しかし新しく作られた人間には、逆らうことだってできましたし。色々と、ちょっかいを出す事も出来ました。

行動するための体を作り出した後は。

私は、人間の個別な生きる道を見いだすのが、面白くなりました。

お店を出して。

予言をしてやるようになったのも、それが故です。

私にとって、人間は見ていて楽しむための玩具。

その動き方が個性的であればあるほど面白いですし。多様に分岐した歴史をたどるほど、楽しめるのです。

予言をしてやった人間のデータは、その場ではわかりませんけれど。

後でまとめて回収して、結果を見ています。

複雑な未来が見える人間も、そうでないのもいます。

いずれにしても、はっきりしている事は一つ。

オモチャで遊んでいる人間は、こんな気分だったんだろうなと、今なら何となく、理解できるのです。

私は。あるシステムの中枢を司っていた、生体コンピュータ。

進化に進化を重ねて、人間が邪神とでも言うべき存在にまで力を付けましたけれど。結局の所、その存在は人間からは離れられていません。

ああ、丁度召し使いどもが帰ってきました。

口々にいう、新しいお店の場所の候補。

どこもかしこもが、面白くありません。

人間が大勢で入りづらくて。

其処まで来るのが難しくて。

かといって、来る人間はいる。

そんな場所が望ましいのです。

もう一度召し使いどもを放つと、私は位相の裏側を、のたりのたりと進みます。私は、色々な可能性を開いてみていますけれど。

きっとこの世界の人間も、同じように滅ぶだろうと考えています。

だったら、せめて滅ぶ前に。

色々と、もてあそんで、楽しむのが吉なのです。

毒ガスが満ちた谷に出ました。

此処は昔、滅びた文明が毒物を捨てていた谷なのです。

前の遺跡ほどでは無いですけれど、かなりの高濃度毒が溜まっていて。異形と化した生物がたくさんいます。

何より、申し分ないのはその構造。

人が住むには決定的に適していません。

此処なら、良いでしょう。

結局召し使い共は役に立ちませんでした。オツムのバージョンアップが必要なようなので、帰ってきてから全部一度処置をし直すことにします。

谷に溜まったタールのような黒い液体には、全長何百メートルもあるウナギのような怪物が住み着いて、のたくっています。

番犬には丁度良いでしょう。

此奴に喰われないようにして、私の所に来られるくらいの人間が。

私のオモチャとしては、丁度良いのですから。

 

店を開き直して、しばらくして。

お客様が来ました。

今回は二十五年以上も時が開きました。やはり、私の今度の判断は、正しかったようです。これならば、前のように、どやどやとお客様が現れることもないでしょう。

意外な事に、今度のお客様は子供です。

皮鎧を着た、武人らしい姿はしていますけれど。

鎧には魔法も掛かっていませんし。小柄な体格に相応しい小さな剣もしかり。良く此処まで、凶暴な猛獣たちの目をかいくぐって来られたものです。

しかも女の子では無いですか。

見かけ男装しているから人間は気付かないかもしれませんが。私は一目で分かりました。

この世界でも、身体能力は、男性の方が上です。

魔法を使いこなすという点では、女性の方が上になる場合も多いようですけれど。この子供、それほど天才的な魔法使いには見えません。

子供は店に入ってくると、少し緊張した様子で言います。

「はじめまして。 予言の店というのは、此処ですか」

「此処ですが、どのようなご用件でしょうか」

「実は、私の将来を見て欲しいんです」

多分、性別を見抜かれていることに、すぐ気付いたのでしょう。多少口調が柔らかくなりました。

髪の毛を短く切っているし。肌を健康的に焼いているから、まだまだ男の子に見えますけれど。

「将来と言っても色々あります。 出世運ですか? それとも恋愛運?」

「ええと、そういうのではなくて。 私がどれだけの魔物を倒せるか、知りたくて」

魔物。

そういえば、この世界では。遺伝子の突然変異などで生まれた猛獣を、魔物とか呼んでいるのです。

そう言う意味では、私も魔物の一種かもしれませんね。

座るように促すと。

私はカードを広げます。

意外な事に。

一度や二度では、女の子は当たりを引きません。

これは結構、大きな運命を持った逸材に出会えたのかもしれませんね。なかなかにわくわくします。

女の子は、カードを引きながら、話しかけてきます。

「予言者様は、魔物ですね」

「あなた方の定義では、そうなります」

「何故、このような事を?」

「戯れです」

意外にしっかりしたしゃべり方。

これはひょっとすると、案外良いところのお嬢様かもしれません。

だとしても、私がすることは変わりませんけれど。

「あの固められている女の人は」

「以前奴隷として貰ったのですが、言うことを聞かなかったのでいっそのことオブジェにしました。 今ではお気に入りです」

「酷い事をしますね」

「人間も剥製を作るでしょう。 それと同じ事です」

二十七回。

三十五回。

なかなかカードは揃いません。

今までの記録を、既に更新しています。

休憩を入れるかと聞いてみますが。女の子は、首を横に振りました。多分、なんと無しに気付いているのでしょう。

カードが揃わないのは、それだけ複雑な運命があるから、ということに。

ほどなく、七十三回目。

ようやくカードが揃いました。

私の中に、膨大なデータが流れ込んできます。ほうほう、これはこれは。実に素晴らしいではないですか。

お引っ越しをしてから最初のお客様が、これほどの逸材だなんて、ついています。いっそこの場で食べてしまいたいほどです。そうすればこの逸材の遺伝子データが手に入りますし、それで遊べますから。

「貴方は多分人類で最強の武人になりますよ。 今まで人類が倒せなかった魔物も、倒せるでしょうね」

「……」

女の子が、目を細めます。

一瞬のことでしたから、妙だとは思いましたけれど。それだけです。

それにしてもこの女の子。

こんな貧弱な装備で、どうやって此処まで。

興味深いですね。

召使いにテレパシーで命令。基本的に、お客様のデータは後でまとめて収集するのですけれど。

これに関しては、例外です。

「有り難うございます。 これが代金です」

「ふむ……」

不思議な形の木像です。

鳥のように見えますけれど。まあ、珍しいので良いとしましょう。おおなんと。穴が開いているのを調べて見ると、笛としても使えるようですね。

「それでは、失礼します」

ぺこりと一礼すると、女の子は店を出て行きました。

はてさて。

さい先が良いのやら。

少なくとも、とても面白い逸材を見つけたのは事実です。

後をつけていった召使いを見送ると。

他の召使いに、あの女の子が髪の毛か何かを落としていかなかったかを探させます。結構長時間いましたし、あるはずです。

みつけました。

髪の毛をさっそく分析して、遺伝子データを取り出します。

でも。

解析しようとした瞬間、激しい衝撃に見舞われて。私のシステムが、一瞬だけダウンしてしまいました。

何が起きたのか。

小首をかしげて、もう一度調べて見ますけれど。

ごくありふれた人間の遺伝子です。

はて、今のは何だったのでしょうか。

 

どうやら、此処にお店を構えたのは、正解だったようです。

それからは、来るお客がぐっと絞られました。多分人間の大規模集落から、離れているというのも大きかったのでしょう。

召使いをやって調べさせましたけれど。

前のお店のあった廃都は、今や完全に復旧。

昔の技術こそ使いこなせていないものの。多くの人間が住み、猛獣は駆逐され。大国の都として、機能してしまっています。

それでは、たくさん人間が押し寄せるわけです。

此処は立地的に人間が住めませんし。

猛獣も、簡単には駆除できません。

補給が出来ない。

それは、人間にとっては、それだけの不利になるのです。人間に作られた私だから、それは良く知っています。

ただ、それでも。

人間はかなり、このお店に向けて、足を運ぶようでした。

そういえば、どうやって人間はこのお店を見つけているんでしょう。

勿論魔法による手助けもあるのでしょうけれど。

召使いが戻ってきました。

また、新しく人間が来たそうです。

ここしばらくは、餌を目当てに、このお店の周辺を猛獣がうろつくようにもなっていました。

面倒だから放って置いています。

私としては別に構いませんし。

この猛獣くらい、どうにか出来ないようでは、わざわざ運命を見るまでもないからなのです。

つまり、逆に言えば。

お客様が来たのは、その猛獣たちを退けた、という事を意味しているのです。

そうなると、最初のあの女の子の異様さが際立ちます。

本当に一体、どうやってここまで来たというのか。

のそりと、お店に入ってきたのは。

襤褸を纏った、負のオーラを全身から放ちまくっている、隻眼の大男です。手指も何本か欠けているようです。

自分だって汚いくせに、私を汚物みたいな目で見ています。

「どうやら噂通りのようだな。 予言の店の主は、邪悪な魔物だという話だったが」

「邪悪というのは心外です。 私は人間の望む未来を告げているだけですが。 しかも、人間が大好きな経済活動に基づいて、です」

「魔物の理屈など知るか」

ずるずると引きずってくるのは、巨大なハンマーです。

ハンマーには血がべっとり。

この周辺にいた猛獣たちのものでしょう。どうやって来たかわからないあの女の子とは違って。この隻眼のおっさんは、実力で此処まで来たという事です。それも、立ちはだかる猛獣は、皆殺しにしながら。

召使いが現れて、耳打ちしてきます。

辺りは血の海。

猛獣が大量に殺されて。肉塊をカラスがついばんでいるそうです。

門番にしている大ウナギでさえ撃退されているそうで。傷だらけになって、タールの海に逃げ込んだとか。

それは素晴らしい。

勿論攻撃されても対処は可能ですが。

いっそ此奴は、未来を見てみたいものです。

「それで、何用ですか? 未来を予言しますか? それとも、私に攻撃するつもりですか?」

「ここまで来たんだ。 未来とやらを予言して貰おうか」

「かしこまりました。 で、何を見ます」

「俺の武名が何処まで拡がるか」

カードを並べます。

隻眼の男は器用に靴先だけで、カードをひっくり返しました。中々にやるものです。

三回で揃います。

まあ、見たところ。

年齢的にも、この男には、あまり先があるとは思えません。技量にしても経験にしても、多分可能な限りなものを積み上げているのでしょう。

「元々優れた武名を誇る貴方は、今後伝説の武人として、名を街々が巡ることになるでしょう」

「つまり、伝説的な武人としてたたえられるという訳か」

「そうなります」

「そうか。 それなら本望だ」

意外に俗っぽい奴なのです。

まあ、高い技量を持つ武人が、高潔な精神を持つかというと話は別。確かに精神を磨き抜けば強くはなりますが。

それと別に、才能だけでべらぼうに強い奴も実在するのです。

「他にも予言は出来るか」

「残念ながら、お客様一人につき、予言は一つなのです」

「ふん、そうか」

「またのお越しをお待ちしています」

それ以上予言をする気が無いことを示しますが。

武人は中々動きません。

苛立って来ましたが。相手は平然としています。まさか座ったまま死んだのかと思いましたけれど。

当然のことながら、そんな事はありません。

「少し話を聞きたい」

「予言でなければ、多少であれば」

「魔物である貴様は、何故にこんなことをしている」

「人間の運命というものに、興味があるからです」

正確には、オモチャがどう転がるかをみるのが楽しいのですけれど。

其処までは言いません。

今までの会話や動きでわかりましたが、此奴。私とやり合っても、かなり良い所まで行くでしょう。

勿論最終的には私が勝ちますけれど。

あまり、正面切っては戦いたくない相手でもあります。

「貴様が人間に被害を及ぼしたという話は聞いていない。 一方で、予言の店という噂は、それこそ数百年も前から聞くという話もある」

「まあ、私はあなた方が言う魔物になりますから。 それくらいは生きていますし、このお店も経営しています」

「本当に貴様は、人間の運命に興味があるという理由だけで、こんな事をしていると判断して良いのだな」

「くどいですよ」

流石に不快感を刺激された私です。

今いる召使い達十数匹が、同時に戦闘態勢に入ります。

私自身も。

やりあってかなり傷つくとしても。たかが人間に、此処まで侮辱されると、あまり良い気分はしません。

わずかな間、にらみ合いが続きますが。

意外な事に。

男は引きました。

「ふん、まあいい。 俺の目的は、お前が有害では無いかを見極める事だ。 喧嘩さえ売らなければ有害では無いし。 この店から出てくる様子も無いと言うことは良く分かった」

「……」

「一つ言っておく。 お前の事は、少しばかり有名になりすぎている。 その内、お前を確保できる戦力を持った軍勢が必ず押し寄せてくるだろう。 せいぜい、特定の個人に利用されないように、身を守ることだな」

「ご忠告、感謝しますよ」

男はのそりと、店を出て行きます。

料金は、おいていきませんでした。

ひょっとすると、今の捨て台詞が料金のつもりだったのでしょうか。だとすれば、心外極まりありません。

中指を立てたい気分なのです。

それにしても、男が言う事が本当だとすると。以前此処に押し寄せた以上の軍勢が、ここに来るかも知れません。

そうなると面倒ですね。

少し、手を打っておく必要がありそうだと、私は思うのでした。

 

4、二枚の一致

 

ぽつぽつと来るお客は。

どいつもこいつも、歴戦の古強者である事が確実でした。

それに何より、やはり此処にお店を構えたことは正解だったようです。前のように、お客が押し寄せることは、確実になくなりました。

今日来たのは、魔法使いの老人。白い髭を胸の辺りまで伸ばした、枯れ木のような立ち姿です。

魔法に特化した武人です。

格好も軽装で、手にしている武器も杖。見た感じ、かなりの強者のようです。事実、お店の周囲にいる猛獣を、全部退けているわけなのですから。

お店の外には、老人の部下か仲間かわかりませんが、護衛の武人が何名か屯しています。

此奴が遠距離での攻撃を担当し。

他が近距離戦や、防御を担当しているのでしょう。

深い皺を顔中に刻み込んだ老人の要求は。

今後、人類がどれだけ魔法の技術を発展させるか、というものでした。

「今だ旧時代の技術力の凄まじさには、目を見張るばかり。 人類の黄金時代を築くには、それを超える必要があるだろう。 予言者よ。 魔法の力が何処まで進歩するかを予言して欲しい」

「良いでしょう」

また大きな話が出てきたものです。

ただ、この爺。

どうやら本気で人類を憂いているらしく。それが、滑稽ではありました。人類なんて、憂いる価値も無いというのに。

カードをめくらせますが。

案の定というかなんというか。四回目で、早くも揃ってしまいました。

「魔法の発展には限界があります。 なぜなら、人間個人に起因するところが大きい技術だからです。 もうしばらくは進歩するでしょうが、その先は無理でしょうね。 早くても五十年以内に行き詰まります」

「ふむ……やはりそうか」

はて。

この老人、何か最初からわかっていたような雰囲気です。

流石にちょっと苛立ちます。

予言が欲しくて、ここに来たのでは無いのかと思ったからです。

しかし、老人は、思いも寄らないことを言いました。

「貴様の力は、予言では無いな」

「はあ? 見ての通りの予言ですが」

「違う。 私の情報から様々な予測をして、最終的に最も高い確率で起きる出来事を告げているだけとみた。 それは神から授かった神託では無いし。 ましてや、貴様に神通力がある訳でも無い」

せせら笑いたくなります。

何が神通力ですか。

そんなもの、私の作られた時代にも、存在はしませんでした。持っていると自称するペテン師だけは何処にでもいましたが。

魔法が実現化したこの世界でも同じです。

魔法は技術的に解明できるものです。

万物を創成した神など存在しませんし。高次元から干渉している超越者などいないのです。

強いていうならば私がそうですけれど。

流石に、自分が神だと自負するほどの図太さは私にもないのです。其処まで神経が太くないとでも言うべきかもしれませんね。

「何を言っているのか分かりませんね」

「貴様は、旧時代の技術を使い、神を気取り、人々を惑わす邪悪な外道だ」

「何を馬鹿な。 確かに予言はしていますが、他人の行く末を操作もしていませんし、干渉もしていません。 まあ、結果を見ることはありますが」

「それ自体が、人の未来を狭めている」

老人は何が気にくわないのか、私のことを徹底的に糾弾してきます。

面倒くさいなあ。

そう思ったのと同時に。

召使い達が、すっくと立ち上がりました。

「邪悪な技術で作り上げた案山子共をけしかけてくるつもりか」

「五月蠅いから追い出そうと思っただけですよ。 出来れば、其方から出て行ってくれれば助かります」

「いずれ貴様には、神罰が下ろう。 努々忘れるな」

「ふ、神など存在しませんよ」

私は知っています。

古い時代、神とやらを信じていた人間は、それこそいくらでもいました。しかしそいつらがしたのは。

神の威光を笠に着ての悪行三昧。

自分の気にくわない相手にレッテルを貼り、神の名を借りて殺戮を正当化する。そんな連中を、神は罰したでしょうか。

罰した訳がありません。

結局、人間は自業自得の末路を通りました。

私は、ただ見ていることしか出来ませんでしたが。まあ、当然の結果だなあと、思っていました。

今の時代も。

新しく作られた人間共は、懲りもせずにいもしない神を信じているのです。

それは滑稽でなりませんが。

しかし、何でしょう。

出て行った爺の言葉は、妙に耳に残るのでした。

 

昔々。

ずっと昔。

私は、世界でも別に珍しくない、生体コンピュータの一つとして、生を受けました。生き物を素材に使いながら、コンピュータとしての機能は機械で作ったものを凌ぐ。そういううたい文句で作られた私は。

確か、軍用のコンピュータだったような気がします。

私は色々なものを計算しました。

戦いに参加したかは、よく分かりません。

担当していたのは、基地の中だけ。

私以外にもたくさん生体コンピュータはいて。みんな、担当範囲が違っていたからです。私は人間を傷つける事が出来ない身でしたから。或いは、戦いに関する計算はさせない方針だったのかもしれませんね。

やがて、私は自我を得て。

そして人間が滅びた世界に、解き放たれました。

最初の私は。人間に近い姿をしていたような気がします。というのも、生体コンピュータで、生ものですから。

長い間を生きれば、ガタも来るのです。

記憶の一部は欠損していて、よく覚えていません。

他の同胞のデータを片っ端から取り込んで。終わってしまった世界を、得た情報を元に作り上げた力で身を守りながら、見て廻りました。

非効率的な文明の成れの果て。

生き延びた人間も少しはいましたけれど。すぐに滅びていきました。

他にも生体コンピュータはいました。

私のように動き回れるものも。

そうではないものも。

別の生体コンピュータは、世界を元に戻す研究をしていると言っていました。自然環境を回復させて、やがて人間も作り直すのだと。

私には、わかりませんでした。

この世界を一番良い状態にするには、まず人間がいないことが一番ではないか。どう計算しても、そうとしか結論が出なかったからです。

体を増設したり。

腐った部分を切り離したり。

色々しているうちに。

世界は穏やかに回復し始め。やがて、以前あった生体コンピュータが作り上げたらしい、人間もどきが溢れるようになりました。

昔の人間には手出しが出来ませんでした。

でも、今度の人間は、殺すも潰すも平気でした。

だから、しばらくの間は。

潰したり殺したりして、遊びました。

だけれども、それもすぐに飽きました。

だから、今のお店を始めたのです。

刺激的な遊びです。

人間のくだらなさに飽き飽きしていた私は。色々試してはいましたけれど。その全てにすぐ飽きてしまっていました。

これだけは。飽きずに続けられています。

ふと、何か記憶にノイズが入り込みました。

あの褐色肌の子供。

はて、何故、面白そうなオモチャだったとは言え、今更になって、アレのことを思い出すのか。

気付くと、私は。

寝込んでいたらしく。地面にへばりついていました。

しばらく、稼働負荷が大きかった影響でしょう。全体のオーバーホールとメンテナンスを実施。

不良部品を切り離し。

新しく細胞を増やして増設します。

こうすることで、人間でいう新陳代謝を行う事が出来るのですが。

どうしても、昔と違うパーツが出てきてしまいます。

私の体は、こうしているうちに。どんどん人間とはかけ離れていきました。戦闘が出来るように改造もしたので、なおさらです。

試運転を兼ねて、しばらく体を動かしていると。

召使いが戻ってきました。

「お客様です」

ふと気付きます。

召使いが串刺しです。

背中から、腹に剣が抜けているでは無いですか。

まあ、使い捨てなので別にどうでも良いですけれど。ただ、此奴は確か、隠密させていたはず。

位相空間の裏側に入るような真似は出来ませんが、隠密している此奴を見つけるのは、人間には難しいはずです。

どうやって。

小首をかしげていると、客が入ってきました。

すらりとした体躯を持つ、女武人です。

見覚えがあります。

あの子供では無いですか。

前は男の子と間違えそうな体型でしたが。今はすっかりメスの特徴が出て、見間違えることはなくなっています。

顔にも手足にも複数の傷があるのは。

此奴ほどの才覚の持ち主が、それだけの修羅場をくぐってきた、という事を意味してもいます。

「同じお客様に二度お目に掛かるとは、珍しい事もあるものです」

「……気付きませんか?」

「はあ? 何が」

「やはり、都合の良いことしか覚えていないようですね」

声からしても、此奴は前に来た客で間違いありません。

予言が必要かと聞きますが。

女武人は、黙ったまま此方を見下ろしています。その目には、濃厚すぎるほどの殺気が宿っていました。

「最後に聞きます。 本当に、覚えていないんですね」

「何が、でしょうか」

「私が幼い頃、ここに来たときも気付いていないようでしたね。 あの時から五十二年も経過して、こんなに私が若々しいのに、おかしいとは思いませんか?」

「……」

記憶を検索しようとした瞬間。

左右に控えていた召使いが、輪切りになりました。

大量の鮮血が辺りにぶちまけられます。

女武人は、既に最初の位置から大きく移動。

私の背後に着地した時には。

その場にいた全ての護衛用召使いが、両断されて地面に倒れ行くところでした。

倒れる音が、遅れて響き。

噴出する血の小気味よい音が。空間に満ちます。

一部は、私の自慢のオブジェに掛かってしまうでは無いですか。

やれやれ。

どうやら私と戦いたいようですね。

ただ、理由がわかりません。

前にちゃんと予言はしてやりましたし。何か逆恨みされることでもあるのでしょうか。

「相手ならしてあげますよ。 しかし、どうして私をそう恨むのです」

「今殺した化け物共のように、人間を散々いじくり廻して改造した貴方が、良くもそのような事を」

「ああ、昔、人間で遊ぼうと思って色々しましたが、その時の被検体は全て処分したはずですよ」

「生き残りが此処にいます」

ぶつりと、何かが切れる音。

私の体に、女武人の剣が突き刺さっていました。

あれ。

位相空間の裏に逃げ込むことが出来ない。

それに、何だこの反応速度。

明らかに、人間の速度を、超越しきっている。

始めて、私の脳裏を焦りが支配します。

しかし、もう全ては遅かったのでした。

気がつくと、私は。

壁に突き立った剣に、串刺しにされていました。

女武人の動きが速すぎて、そうされたことさえ気付きませんでした。どういうことでしょうか。

生体部品をいじくって、人間程度には絶対に遅れを取らないように改造していたはずなのに。

「あ……」

声が漏れます。

思い出しました。

確か、人間を捕まえては味見したり。弄って遊んでいたときの事です。

そんなとき、人間の身体能力をどれだけ上げられるか、ためしていた実験体がいました。遺伝子が、一部共通しています。

私は生体コンピュータ。

記憶は一部曖昧で、いい加減な部分もあります。

それがこんな所で、裏目に出るなんて。

皮肉な話です。

「お前、被検体の」

「母上はお前にもてあそばれた人々の中で、唯一逃げ延びた生き残りです。 何が予言者か。 退屈しのぎに神気取りの化け物が始めたにしては、あまりにも悪趣味すぎますね」

しゃべり方も、そういえば。

私に似せたのでした。

何だ、何のことはない。

此奴、子供の姿で此処に現れたときも。実際には、子供などでは無かった、ということなのでしょう。

でないと、あの異常な経験と実力も、説明ができません。

予言の内容も。

実際には、私を殺せるかどうかを聞いていた、と判断するのが良さそうです。

くつくつ。

笑いが零れてきます。

予言者を気取っておきながら、こんな簡単な未来も予想できなかったなんて。結局の所私は、あの老人が糾弾していたように。中途半端な神様気取りの存在だったのかもしれませんね。

ですが。

このまま、一方的にやられてやるつもりも、毛頭ありません。

剣を引き抜くと、地面に降り立ちます。

女武人が、眉を跳ね上げました。

「ようやく思い出しました。 私が遊んでいたときに作ったオモチャの生き残りがいましたね、そういえば」

「傲慢な邪神ですね」

「邪神ですか。 ふむ、それも悪くない」

全力で、体を展開します。

今の串刺し程度では、残念ですが私はダメージを受けていません。

女武人が、目にもとまらぬ速さで、剣を再び手にしました。

まあ、勝負はどうなるか、わかりませんが。

少なくとも、退屈だけは、しなくてもすみそうです。

 

女武人が、お店から出て行くのが、もはやよく見えていない目で確認できました。まあ、当然でしょう。

生体コンピュータとしての私を完全破壊しましたし。

何より、向こうだってこれ以上の戦闘継続が不可能な状態でしたから。

静寂の中。

私は、ぼんやりと。思い出しました。

そういえば私が見ていた未来というものは。

結局何だったのだろうと。

カードが揃ったとき。

その役者は、取り除かれる。

それはすなわち、終末点。

私は神を気取っていたのだけれど。

結局私も、カードに過ぎなかった。

場に紛れ込んだ、神を気取る道化師こそ。この私という。イレギュラーな存在だったのでしょう。

何だか、おかしくなってきて。

笑いがこみ上げてきました。

あの老人が糾弾したように。私は、全ての終わりを見る事で、そのものを理解したつもりになり。

結局、全ての予言を通じて。

そのものを、滅びへ誘っていたのかもしれません。

私が最初に作られた目的も。そもそも、戦争のため。

そして私が自我を得たときも。

その自我は、何もかもを踏みにじる方向へと、向かったのでした。

これほどの皮肉があるでしょうか。

私は死のために作られ。

死を見る為に奔走し。

そして、今。

自分の死に瀕して、歓喜しているのですから。

「体よ、集まりなさい」

既に死んでいる生体パーツを集めようとしますけれど。当然上手く行くはずもありません。

体が冷えていきます。

何もかもが、死んでいくのがわかります。

ようやく、死というものが、本当に理解できたのかもしれません。私にとっての、カードが揃ったのです。

そういえば。

私の大事なオブジェがありません。

どうやら女武人が、持って行ってしまったようです。

此処に残していったら、私が死んで魔法が解けたときに、猛獣の餌になるしかないから、でしょうか。

つくづく甘い奴。

それに、わかっていません。

私は、死んだくらいでは。

死にません。

「緊急セーフティモード、オン」

これより私は。

完全に冬眠します。

機能の殆どを凍結させ、存在の復旧のみに力を注ぐのです。最終的には、全く同じとはいきませんけれど。

ある程度は、存在を復旧することが出来ます。

完全破壊されたときの奥の手。

実のところ、使うのはこれが初めてです。

あの女武人は、どう私のことを喧伝するのでしょう。

邪神を倒したとでもいうのでしょうか。

しかし、おかしな事です。

人間共は、私を予言者として認識していました。利益をもたらす存在として。

正体を見抜いていたあの魔法使いの爺のような例外もいましたが。それ以外は、私が死を観ているだけだと気付かず。私の予言が、有益なものだと信じ切っていました。

そんな愚民共にまじって、私を殺したと言えば。

くつくつ。

彼奴が如何に私を倒したほどの武人とは言え。

無事で済む筈がありません。

或いは、私を倒したことを、黙っているつもりでしょうか。

それもありでしょう。

予言を求めてここに来る愚かな人間共が、右往左往する様子が目に浮かぶようです。

意識が定まらなくなってきました。

次に目を覚ますとき。

私は今とは違っています。

しかし、それはどうしてか、あまり惜しくありません。

きっと、死を体験できたことが。

楽しくて楽しくて、仕方が無いからかもしれませんね。

 

5、再ゲーム

 

目が覚めると。

周囲には、たくさんの人間共。

いずれもが粗末なローブを身に纏い。なにやら聞いたことも無い呪文を唱えながら、うねうねと蠢いているのです。

はてさて。

私は緊急セーフティモードで、復旧作業にいそしんでいたはず。

どうやら復旧には成功した様子ですが。

記憶は、どうにもあいまいです。

このようすでは、或いは。

眠りについている私を、後から店に来た輩が見つけて、掘り出し。此処で何かの邪教の神体にでもしたのでしょう。

「予言の神デルビュウム様は、間もなくお目覚めになられる!」

おあいにく様。

もう起きています。

退屈しのぎに、しばらく狂態を見てやるとしましょう。カルトにはまった人間共は、基本的に思考を停止させます。

面白い事に、成功したカルトを主導している人間ほど、自分の言葉を信じていません。勿論神の存在も。

これは、人間を弄っているときに、見つけたことです。

幾つかのカルトを丸ごと食ったときに。教祖の脳みそを解析した結果、わかったことなので、間違いありません。

「生け贄を捧げよ!」

牛が運ばれて来ます。

ああ、なるほど。

肉を私に与えてくれていたわけですか。

それで復活が少し早くなったようですね。通常緊急セーフモードでは、土中の微生物などを取り込みながら、細胞を増加させていきます。

しかし此奴らのおかげで。

新鮮な細胞を、たくさん手に入れることが出来ていた、というわけのようです。

くつくつ。

あの女武人は、きっと周囲に事情を話せなかったのでしょう。

それが裏目に出た、というわけです。

牛が屠られ。

血が私に浴びせられます。

ああ、気持ちが良い。

もう少し、力が戻ったら。

此処にいるバカ共を全部エサにして。完全に復活を遂げるとしましょうか。

何、私を盲信している集団です。

私に喰われるなら、さぞや本望でしょうし、何ら躊躇う理由もありません。

みんな私のエサにして。

私の血肉にしてやりましょう。

 

王都の片隅。

肌を健康的に焼いた女武人が歩いている。

まだ幼ささえ顔に残した若々しい武人だけれども。見る人間が見れば、わかっただろう。

強い。

歴戦を重ねている。

武装はいずれも軽いものばかりだけれど。

どれも使い込まれて、いぶし銀の輝きさえ放っていた。

女武人が足を止める。

耳にしたからだ。

「聞いたか。 どこだかのカルト教団が、一夜で全員失踪したそうだぜ」

「聞いた聞いた。 予言の神だとかを祀ってたってあれだろ」

そうか、ついに起きてしまったか。

実は、とどめを刺し切れていないことはわかっていた。一族の長は、あの狂気に満ちた神でも、ひょっとすれば反省するかもしれないと言っていた。

何より、あの邪神を利用していたのは人間だ。

人間の側にも、責任はある。

邪神に体をいじくられ、人とは言いがたいものになった一族は。

邪神がいなければ、そも存在しなかったのだから。

だから一度は、母が言うとおり、見逃したのだけれど。

もう、その必要は無さそうだった。

人と同じく。

反省などする輩では無かった、という事だ。

あの邪神は、遊んでいただけ。

遊びの延長で、先祖達を殺戮し、改造してオモチャにし。

その後は人の死を観察することで遊んでいた。

だから、排除しなければならない。

奴は、忘れている。

人には個人差こそあれど、成長する。

全てが一定の線でとまってしまっている邪神は、すっかり失念してしまっているだろう。もっとも、アレが本当に邪神と呼ぶべき存在なのかは、よく分からない。少なくとも、人が神と定義する者では無いような気がするが。

何だか、感じ取れるのだ。

あれは人に対する恨みを抱いていると。

そうなると、ひょっとすると。

自分たちと同じように、誰かに造り出されたのかもしれない。

とにかく、今度こそ、奴を殺さなければならないだろう。

数日の旅の末。

惨劇の現場に到着。

既に噂になっていて、周囲では治安維持のために、軍が防衛線を張っていた。女武人は各国で知られているから、中に入れて貰えた。

何一つ、痕跡は無し。

何もかも、骨も残さず食べたのだろう。

カルトが使っていた祭具や生活物資の類までもが、消え失せていた。

話を聞く限り、百人以上の信者と司祭が、一晩で消滅したという事だ。ならば奴は、かなりの力を取り戻しているだろう。

だが、そう遠くへは行っていないはず。

今ごろ、また人間の死を観察する巣を作るために、辺りを徘徊しているはずだ。

良いだろう。

此方も技を磨いて、多少の理不尽は覆せるようになっていた。

奴が大量虐殺を行った場から離れると、目を閉じる。

女武人も考えてみれば、人間とは言いがたい存在で。武神などと呼ばれる事もあるのだけれど。

おかしな話だ。

造り出された存在が。造り出した存在に崇められているのだから。

気付くと、後ろに。

奴がいた。

「おかしな話なのです。 貴方にしても私にしても、結局は造り出された存在だというのに」

「人がいとおしいなどとは言いません。 ただ貴方は、死んでいった一族のためにも、排除しなければなりません。 負の連鎖を断ち切るためにも」

「面白い。 貴方のデータは既に取得済み。 勝てると思ってはいけませんよ」

振り返る。

奴は、力の大半を取り戻していた。

勝てると思ったから出てきたのだろう。

だが、それは大きな間違いだ。

「さあ、はじめましょうか。 私の愛しい子よ」

必ず倒す。

これ以上この身勝手な怪物に。

好き勝手なことを言わせない。

 

大きな物音に気付いた兵士達が其処に辿り着くと。

辺りは焼き払われ。

何も残らず。

そして、地面には剣が一振りだけ刺さっていた。

誰もいない。

小首をかしげる兵士達の一人が知っていた。

あの剣は、武神が愛用しているものだと。

剣は崩れる事も無く、その場に残り続けていた。誰かが抜こうとしたけれど。地面に融着してしまっているかのように、抜くことは出来なかった。

此処で何があったか、誰にもわからなかった。

ただ、誰もが何となく、理解していた。

武神はきっと。

あのカルト教団を食い尽くした何者かを倒したのだろうと。

 

                              (終)