路地裏の謎

 

プロローグ、謎は其処にある

 

秘密基地と言えば、私の年代なら誰でも作るものだ。物理的に作れない都会ならともかく。

私が住んでいるこの街は、どちらかといえば田舎。

土地はいくらでもある。

まだ住んでいる人は基本的にみんな地主で。

山やら森やらを二つや三つ、持っているのが当たり前。

私の家もそれは同じで。

私も、自分の家の裏の山を所有していて。

其処に秘密基地を作っていた。

秘密基地には、親には言えないものをたくさん持ち込む。

珍しいもの。

分からないもの。

子供ってのは、大人が思っている以上に悪さをするものだ。

今は田舎でもテレビがあるけれど。

テレビで流されている子供向けアニメ。

あれは明確にそれぞれ年齢層を意識して流している。

大体の大人は気付いていない。

子供は、どんどん悪い事に興味を持つ。

最初は良い事しかしない良い子だけしかいない作品を好むけれど。

どんどんお行儀が悪い子が出てくるアニメを好むようになる。

自分たちが子供の頃。

純粋だったとでも思っているのならお笑いぐさだ。

私は子供だが。

自分が純粋だなんて思わないし。

いわゆる温室栽培なんてされるのはまっぴらごめんだ。

むしろ温室栽培なんてされた方が。

犯罪者だとかサイコ野郎だとかに育つだろう。

あくびをする。

何人かがかりで、この放棄された掘っ立て小屋に引っ張り込んだ。どっかの業者が捨てていったベッド。

それも、部品を分解して、四苦八苦して組み立て直したベッドの上で。

私だけじゃなくて、何人かがこの秘密基地を利用しているけれど。

今日は私だけだ。

他のは塾だのなんだのでいない。

子供の頃から塾に行く子は。

だいたいの場合、学校の勉強についていけていないケースが殆どなのだけれど。

案の定というか、此処にいない子は。

みんなそのケースだ。

もう一つあくび。

この間、遊んでいたゲームをクリアしてしまってから、すっかりやる気が失せた。

漫画もみんな持っているのは読み切ってしまった。

此処に隠している本は、親が見たら速攻でブチ切れそうなものもあるけれど。それらはどっかの誰かが捨てていったもの。

土だらけになったり、しわしわになったりしていた奴を。

私が拾ってきたものだ。

中を見るけれど、何となく内容が分かるものの、多分親が怒りそうだなと言う事くらいしか分からない。

ただ、面白いので残してある。

それだけだ。

学校ではスマホ禁止なので。

此処にも持ち込んでいない。

幸い人を襲うような猛獣が出る山でも無い。

熊だの猪だのはこの辺の山にはいないし。

危ないのにしても、スズメバチとか。

そういうのも、親が業者を呼んで、毎年綺麗に駆除してしまうし。見つけた場合の対処法も知っている。

とにかくやる事がなくて。

私はぼんやりしていた。

「シロ−!」

誰かに呼ばれて、顔を上げる。

私の名前は安城白音(シロネ)と言うのだけれど。

渾名はシロ。

単純に短縮しただけではなくて。

こう呼ばれているのには理由があるのだけれど。

それはまあ、今はどうでもいい。

身を起こすと、見えてくる。

此処を利用している子供らの一人。

私の同級生である姫島那智だ。

ぐちゃぐちゃの寝癖だらけの頭で男の子みたいに見えるけれど。将来は多分美人になるだろうと踏んでいる。

「何だ」

「仕事」

「あー」

それで来たか。遊びに来たのだったらそれはそれで何をして良いか分からなかったし、助かる。

ベッドから起きて、靴をはき直す。

何かあると私は呼ばれる。

基本的に、その何かは、子供の他愛ない疑問から生じるのだけれど。

大人に頼りたくない場合。それとも、何かしらの理由で子供の間だけで解決したい場合。

私に声が掛かる。

此奴はその仲介役。

此奴が来たと言うことは。

何かが起きた、という事だ。

ちなみに私も報酬はきちんと受け取っている。

それについてはまあ後回しにするとして。私は一応、この街の小学生の間では、知られている、らしい。

何でも解決してくれるから、というのが理由だそうで。

まだ小四の私に、小六の子が依頼をしに来たこともある。

この年代の子供は、基本的に年下の相手には絶対に頭を下げることはないのに、である。

靴をはき直すと。

帽子を被る。

これも捨てられていた奴なのだけれど。繕って、自分好みに着色して。売り物になるくらいの見た目に仕上げた。

着込んでいるのは黄色のパーカー。

これは親に買って貰った奴なのだけれど。

どうしてか気に入っている。

パーカーの下は半ズボン。

その内スカートとかはくようになるのだろうけれど。

私は今はこれでいい。

靴は山登りも出来る革製の頑丈な奴。

靴下は膝下まであるが。

結構頑丈なのだ。

理由は簡単。

ヤマビル対策である。

私はいつもライターを持ち歩いているけれど、それは煙草なんか吸うためじゃない。ヤマビルが食いついてきたときに、焼き落とすため。

この辺の田舎では。

猛獣みたいな致命的な奴ではないにしても、それなりに危険な生物がいるのだ。スズメバチが筆頭だけれど、山で遊ぶならどの生物に対しても対策は知っておくのが基本だ。

「シロ、今日もその格好?」

「髪とか整えるのめんどいしね」

「長くて綺麗なのに」

「うっさい」

姫島は田舎の子供にしては服装とかが垢抜けているが、それも当然。此奴は元々都会から越してきたのだ。

田舎と都会では違う事がかなり多い。

姫島は私の友人だから虐められないでいるけれど。

それも私がいなかったら、どうなっていたか。

そういう怖い場所なのだ。

子供のグループというものは。

子供は純粋なんて大嘘。

子供である私が言うのだから間違いない。

虐めとか悪い事とか、子供は大好きだし。

大人を完全に馬鹿にして掛かっている子供だって珍しくない。

テレビのニュースなんて、今では小学生だって馬鹿にしている程だ。頭が古い大人が使いこなせないようなツールだって、使いこなしている子供は結構いる。

そういうものだ。

アジトから出て、少し行くと獣道に。

この獣道でヤブ蚊やアブに刺されやすいので、姫島には対策を教えてある。というか、最初に来た時に教えた。

秘密基地なんて、都会では考えられなかったと姫島は感動していたが。

別にそんないいものでもない。

実のところ、このバラックそのものが、昔の私の先祖が作ったものじゃないか、と疑っている。

勿論目的は私と同じで、だ。

バラックがある意味が分からないし。

そもそも、この辺りに何だか人間が手を入れていた、それも長期的に、な形跡があるからだ。

獣道を抜けると、道路に出て。そっから坂を下っていくと、寂れた街に出る。

いわゆる限界集落と言うほど酷くはないけれど。

それでもあまり多くの人は住んでいないし。

アーケードはもうシャッターだらけ。

そういう街だ。

別にコンビニに顧客を取られたわけでも無い。

大手の複合型スーパーが進出してきたわけでもない。

単に人間に活気がないのだ。

湿った感触が似合うというか。後十何年かすると、子供の姿が完全に消えるかも知れない。

ほどなく。

指定された場所に出る。

三十分持つ飴を口に咥えると。

その、依頼主らしい奴を目視。

十歩ほどの距離を保って止まった。

気弱そうな、小柄な女子生徒だ。

何というか、芋っぽいと言うか。

垢抜けた姫島とは正反対の、とても素朴な雰囲気の子供である。髪型も今時おかっぱだ。

「シロ……さん?」

「そう呼ばれてる。 貴方は?」

「堀江夏菜海、です」

名前はまともか。

つまり親はDQNネームをつけるような輩では無い、ということだ。

子供でも知っているが。

DQNネームをキラキラネームとか呼んだあげく子供につけたりする連中は、早い話が子供を自分のアクセサリかペットくらいにしか考えていない。あげく子供の髪を染めたりさえする。

そんな親は例外なくろくでなしのクズだ。

逆に言えば、普通の名前がついている時点で、今は最低限のラインは越えている、という事になる。

小学三年生だという。

この小さな街だ。

小学校は二つだけ。それも、再来年には統合の話が出ている。

同学年の子供はあまり多くもないし、そもそも私は同じ学校の生徒全員を把握しているけれど。

此奴は知らない。

つまり、もう一つの学校の方にいる生徒、ということだ。

「で、ななみさん。 依頼内容は?」

「……」

周囲を見回して。不安そうにした後。

姫島が、によによしながら見守っている中。

夏菜海は言う。

「実は、わたしの部屋から、変な物音がして……」

「変な物音? 具体的には?」

「その……かちっ、かちって」

「ふむ」

これが夜中にどすんばたんとかだったら大体見当はつくのだけれど。そのかちっかちって音はちょっとよく分からない。

パーカーの内側にはポケットが一杯ついている。

その中には、私の仕事道具も入っている。

その一つを取り出す。

ボイスレコーダーだ。

2時間ほど記録することが出来る。

なお、どっかの業者が捨てていったモノを拾って。

直したものである。

勝手にうちの山に捨てていったものだ。

拾って直そうが、私の勝手。

もしもそれが犯罪になるのなら。

明らかに法の方が間違っている。

「その変な音がする時間帯にこれを仕掛けて、そこの姫島に届けてくれる?」

「それだけでいいの?」

「いんや、報酬は後で別に貰う。 解決したときには、自分が持っていて、他の誰も持っていない、白いものをちょうだい」

「白いもの?」

不可思議そうにするが。

これが私がシロと呼ばれる理由。

ぶっちゃけた話、それが何でもいいのである。

ただ、消しゴムとか、店売りの品は駄目だ。

折り紙で作ったものとか、そういうのでもかまわない。

白ければそれでいい。

創意工夫が凝らされた、世界に一つだけある白いなにか。

それが私が求めるものだ。

「ないならつくって」

「う、うん……分かった」

「じゃ、姫島、受け取っておいて」

「ほいほい」

手を振って、その場を離れる。

夕方になってきたから。

影が伸びる。

あくびをしながら自宅へ戻る私だけれど。

今度はどういう白いモノが手に入るのか。

というよりも、だ。

そもそも私に依頼をしてくる時点で、何かしらの秘密を抱えているのは確実で。それが面倒な結果につながっているのも確実だ。

だけれど、大人にも話せない。

だから私の所に話が来る。

それで解決するなら。

それでいいではないか。

残念ながら、大人に話して解決する問題ばかりでは無い。

少し前も、私は学校で起きていた凄惨な虐めを解決したのだけれど。

それは学校も親も完全放置。

下手をすると、その子はもう立ち直れなくなる所だった。

図体ばかりでかくて、虐めが大好きなクズ野郎の六年生を徹底的にとっちめて、二度と立ち直れないようにしてやったけれど。

それに対しては何ら後悔していない。

あのゲスが、今後も恐怖に怯えながら生きていくと思うと、痛快でさえある。

当然の話だ。

子供だろうが、罪には罰を受けなければならないし。

法がそれを裁かないのなら。

誰かが裁かなければならないのだから。

あくびを一つする。

私は空手の類は出来ないけれど。

山育ち。

相応のステゴロは出来る。

ただ漫画のキャラほどのステゴロは出来ない。

中学生以上の格闘技経験ありの男子に襲われたら、それこそ手段を選ばず逃げるくらいしかできないが。

小学校の男子だったら。

基本的にまず負けない。

その程度の、自衛能力しかない。

それに、出来る事も限られる。

だけれども、どうしてか。

私を頼りにして。話を持ち込んでくる生徒は後を絶たない。

中には単なる喧嘩の仲裁なんかもあって呆れることも多いけれど。

それでも、色々な謎に触れられることも多いし。

コレクションが増えるのは気持ちが良い。

家に着く。

家族はいない。

仕事に出ているのだから当然だ。

両親は電車を乗り継いで、それぞれがちょっとした都会にある会社に出ている。祖父母はもう二人とも亡くなった。

仏壇に線香をあげると。

自室で、横になる。

大まじめに体を鍛えていた時期もあったけれど。

今は色々面倒だから。

それも最低限だった。

シロ。

それがもう一つの私の名前。

そして、シロでいない時は。

とことん怠けていようと、私はいつも考えていた。

 

1、音の秘密

 

姫島が、翌日の朝。

ボイスレコーダーを持ってきた。

昨晩も変な音がしたという。

例の女の子。ななみだったか。あの子がどうしてわざわざ学校も別の私に話を持ち込んだのか。

それは、親に相手にされなかったから、だそうだ。

姫島は私の前の席だが。

行儀悪く椅子に逆さに座って。

私の席で話をしている。

まだホームルーム前だけれど。

他の生徒は、あまり此方に視線を向けてこない。

私が有名になりはじめてきた頃、ちょっかいを掛けて来た生徒をチョークスリーパーホールドで半殺しにしてから。

私を虐めようだとか。

手を出そうだとか。

そう考える奴は出なくなった。

狂犬。

それがもう一つの、私の呼び名だ。

おかげで舐められなくて済むので、個人的には心地が良い。

はっきり言うが。

子供は、一旦舐めた相手は、人間とは認識しなくなる。

以降は何でもやりたい放題。

相手を死に追い込んでも何とも思わない。

そういう生物だ。

だから舐められるのは死と同じ。

故に私は。

狂犬という渾名が広まるのを、むしろ歓迎さえしていた。

それで良いからだ。

「で、どう。 分かりそう?」

「これだけだとなんともね。 まずは調べて見るけれど」

「よろしく」

教師が来る。

やる気のない、くたびれたおっさんだ。

もう十何年もこのひなびた学校にいて。別の学校に移る気配もない。暇そうにいつもいつも何かやっているが。

それが楽しそうでもなく。

やりがいを感じているわけでもなさそうだ。

だけれど、給金を貰えるし。

部活で時間を取られるわけでも無い。

それを考えると。

まだマシなのだろう。

昔は子供が好きだったのかも知れないが。

子供の現実に触れるにつれて、興味を失っていった。

そんなところだろうか。

子供が好き、か。

子供が純粋だったら、そんな風に思う大人もいるだろう。

だが実際には、子供なんて純粋とはほど遠い。

大人だったら、昔の事を思い出してみれば良い。

自分は純粋だったか。

すぐに真っ青になる筈だ。

純粋だったわけが無い。

もしも、純粋だったと胸を張って言う奴がいるなら。

そいつは単に昔の事を綺麗さっぱり忘れ去っているか。

嘘つきか。

もしくは狂人だ。

面白くもない授業を淡々と受ける。

そして、学校は、何のおもしろみもなく終わる。

実は、この辺りの勉強は、予習してとっくに内容を知っているので、何ら苦も無い。テストもケアレスミス以外では点数を落としていない。

ケアレスミスはもうどうしようもないので。

コレばっかりは仕方が無いが。

テストで毎回100点を取れるほど、私は性格が緻密では無いのだ。残念ながら。

姫島は今日は用事があるとかで、さっさと帰る。

他にもつるんでいる奴は何人かいるのだけれど。

そいつらも、用事があるようだった。

特にその中の一人は、塾がかなり忙しい様子で、最近はあんまり秘密基地にもこない。まあそれはそれで別にどうでもいいが。

黙々と、秘密基地に向かう。

前、私に因縁をつけてきていた六年の男子は、これを尾行しようとして。

途中で撒かれて。

山の中。それもうちの私有地の中で迷子になって。

泣いているところを、見かねて私が救助してやった事がある。

それでいながら、逆恨みするのだから。

どうしようもないカスだと判断。

シメた訳だ。

いずれにしても、獣道を通って秘密基地に。

初見では、絶対たどり着けない場所だからこそ。

秘密基地の意味がある。

ベッドの埃を払って、横になると。

小さくあくびをした。

取り出したのは、ボイスレコーダー。

起動して、音を聞く。

確かにカチッ、カチッという音がするが。

はてさて、何だろう。

捨てられていたPCを起動する。

雨に濡れていたが、それでも起動した。ちなみにOSはなんとWindous98SEである。私が生まれる前のOSだ。

一応インターネットにはつながるけれど。

これも捨てられていた装置類を使った。

私の友人に、この手のに強いのがいて。

どうにかしてくれたのだ。

なおOSについては、初期設定されてもおらず。前の人のデータが丸ごと残っている有様だったが。

まあそれについては私も優しいので。

みなかったフリをして。

フォルダに全部放り込んである。

さて、起動したPCでブラウザを立ち上げる。

きつねくんである。

きつねくんでインターネットにアクセスして、重いのを我慢しながら軽く検索する。ただし、重いといっても、スマホで検索するよりも、こっちの方が断然早い。

私はSNSの類はやっていないけれど。

検索して面白いと思わないし。

他の人の話を見ていても面白いとは感じないので。

やらなくて正解かも知れない。

いずれにしても、音に関して検索してみるけれど。

有力な情報はない。

そうなると、現地を見に行くしか無いか。

親が相手にしなかったという事は。

本人しか気にしていないと言うこと。

だけれど、ノイローゼになりかけている様子だし。

私に頼んでくるくらいだから。

本人にとっては切実な問題なのだ。

親からして見れば、変な音がする、なんてのは。大した問題ではないのだろうし。そんな事くらい我慢しろ、といいたいのだろう。

だけれども。

案外こういう事はバカに出来ない。

実際、私が調べたところ。

ガスが漏れていた、何て事件もあった。

あの時は騒ぎにならないように、処置をした後。その子の親に状況を見せて、修理業者を呼ばせたけれど。

子供が心配していることを無視したり。

逆に過剰に心配したりするのは。

色々と問題を引き起こすのだ。

さて、と。

調べられる範囲でのネット検索は終了。

此処からは実地調査だ。

どうせ今日は誰も来ないし、秘密基地で寝転んでいても退屈なだけ。

それなら、ななみとやらの家に行くか。

ひょいとベットから起きると。

パーカーを着込む。

これが、私の。

仕事着なのだ。

 

聞いていたとおりの住所に家はあったが。最近リフォームでもしたのか、そこそこ綺麗な家だ。

田舎と言っても、皆が貧乏暮らしをしているわけでもない。

こういう風に、かなり綺麗にまとまっている家もある。

庭もそこそこに広い。

チャイムを鳴らすと。

知らないおばさんの声が出たので。ななみがいるかどうか聞いて。本人に出て貰った。

「シロさん?」

「ん。 様子見に来た」

「……今、ドア開けるね」

ドアを開けたななみは、憔悴しているように見えた。

まあ親に相手にもして貰えず。

最後の手段で私を頼ったのだろうから。

当然と言えば当然か。

手持ちの菓子を渡して、家に入る。

ななみの親は。

私をうさんくさそうに見ていた。

そういえば、そうだった。

くっだらない親同士の諍いがあるのだ。

この街は南北で溝がある。

私は南側に住んでいるのだが、北側の住民は此方を敵視している。

南側は地主などの土地や金を持っている人間が多いのに対し。

北側は後から。まあ具体的に言うと戦後くらいから移り住んできた人間が多い。そういうこともあって、昔は血を見るほどの争いになった事もあったそうだ。学校でも対立が絶えなかったらしい。

子供の間でも、この争いは健在で。

ななみが私に依頼をしてきたのは。

それこそ例外的なケースというか。

本人にとっても、勇気がいる行動だったのだろう。

そこそこ綺麗な部屋に通されて。

ジュースを持ってくるななみ。

私は部屋を見回すと、順番に話を聞いていく。

「面倒だから単刀直入に言うけれど、音が聞こえるのは何時くらい?」

「寝る前、9時くらいからずっと……」

「朝は?」

「聞こえないよ」

ふむ。

そうなると、夜中には鳴っているが。

朝には鳴っていない、という事か。

「いつくらいから聞こえるようになった?」

「今年の二月」

「……」

目を細める。

何となく分かってきた気がする。

外に連れ出す。

其処には、小さな公園があった。

公園の灰皿には、汚い煙草の吸い殻が山盛り。

そして、看板が掛けられていた。

「何々、サッカーなどの球技は禁止、騒ぐの禁止、走ったり叫んだりするの禁止……」

「何、どういうこと?」

「……」

腕組みして、見上げた先には。

スピーカーがあった。

「この公園、少し前まで、不良学生が出入りしてなかった?」

「うん。 夜中まで騒いでたよ」

「なるほど、そういうことね」

大体分かった。

ただし、これは解決が少しばかり面倒かも知れない。

ちょっと相談する必要があるだろう。

だけれども。

依頼をされたからには、きちんと解決するのが筋というものだ。

「ちなみにこの音について、貴方のお母さん、文句を言っていないでしょ」

「うん。 レコーダーの元も聞かせたんだけれど、何も聞こえないって」

「そうだろうね」

「何か知ってるの?」

不安そうにしているななみに。

私は答えを言う。

「これはね、悪ガキを追っ払うための音」

「えっ」

「公園なんかで屯して悪さする高校生とかのアホがいるでしょ。 彼奴らを追っ払うために流してる音が、家の中で変な風に変わった感じ。 本来はもっと違う音なんだけれど、家に入り込んだときに変な風に作用したんだよ。 普段から音は流してて、悪ガキ達が暴れる九時くらいから音を大きくしているんだわ」

「どういうこと」

最近導入され始めたのだが。

子供には聞こえて、大人には聞こえない音域の音がある。

しかも、子供には不愉快な音になる。

それを利用して。

夜遊びをする子供達が屯する公園などで、追い払うための音が流されるようになった。

ずっと気分が悪い音を聞かされて、集まるはずもなく。

カラスを追い払うのと同じ感覚で。

公園からは悪ガキがいなくなった。

だけれども。

そう考えてみると。

公園とは何のためにあるのだろう。

この看板を見ると反吐が出る。

そもそも、遊ぶためにある場所で。

どうして遊んではいけないのか。

老人のたまり場として確保するために。

子供を追い出したい。

そういう意図が見え見えだ。

この街にも、どうしようもない性根が腐った老人はたくさんいる。私の知り合いにも、何人かどうしようもないのがいる。

そういうのに限って。

役所とかで、ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てて。

大声でがなり立てることで。

自分の無茶な要求を、無理矢理通していく。

そんな感じで。

この公園でも、クレームがあったのだろう。

ボールが飛んできて危ないとか。

今では、公園からは遊具さえほとんど撤去されてしまっている。これでは、公園は何のためにあるのか分からない。

私としても、たまたま親が秘密基地を容認しているが。

実のところ、祖母が生きている間は、それも秘密にしていた。

祖母は脳みそを50年前に置き忘れてきてしまったような人間で。

私が秘密基地に入り浸っている何て知ったら。

それこそ工事業者を呼び出して、バラックを取り壊しかねないような輩だった。下手をすると、座敷牢に監禁したかも知れない。そして自分が「正しい」と考えている事を、徹底的に洗脳するように頭にねじ込んできただろう。

反吐が出る。

子供をあまり舐めないでもらいたい。

こんな事をしているから、世代間の対立が生まれる。

私はまだ小学生だが。

その程度の事は、今時小学生でも分かる。

結局の所、駄目な大人ほど声が大きくて。

常識があるとされているのが今の時代。

そんな奴らが好きかってしているから。

こんな状況になっているのではないか。

虫酸が走ると思いながら、じっと看板を見る。蹴倒してやろうかと思ったけれど、我慢する。

「とりあえず、これから私は家に戻って対応を考える。 申し訳ないけれど、しばらくは我慢して」

「原因が分かったのに、どうにもならないの?」

「これは馬鹿な大人がギャーギャーがなり立てて、それがクレームになって市役所がやった事だからね。 もしもこの音を止めるとしたら、市役所をどうにかしなきゃいけないわけ」

「市役所?」

頭の鈍い奴だな。

要するに、この街ぐるみでこれをやっているという事だ。

もっとも、解決方法が思いつかなかったから、私に話を振ってきたのだろうし。

誰もがこういうのを見てすぐに解決方法を思いつくわけでもない。

今だって、私も解決方法が思いつかない。

何人か伝手は当たってみるけれど。

市役所に子供がクレームを入れても、話なんて聞くわけが無い。

彼らにとって大事なのは。

ジジババのクレームを如何に遠ざけるか、なのだから。

現状としては。

この音を止めることは不可能だ。

何しろ公園がそもそもクレーマー老人達に占拠されている。

そもそもどうして公園から遊具が撤去され、ボール遊びも禁止され、子供が遊ぶのさえ禁止されなければいけないのか。

子供はどこに行けば良い。

こういうことをしておきながら。

今の子供はゲームばかりしているとかいうのだから。

呆れてものも言えない。

「とにかく任せて。 ただしばらくは掛かると思う」

「うん、その……。 よく分からないけれど」

「何」

「シロさん、怖いね」

怖い。

なんでかよく分からないが。

時々そう言われる。

だが、正直な話。

だからなんだとしか思えないが。

「後報酬ね。 片付けるから、きちんと用意しておいて」

「……分かった」

ななみは頷く。

でも、正直な話。

今は、報酬よりも。

この面倒な問題をどう片付けるか、それが問題のように思えてきていた。

 

2、子供のいない公園

 

危険だから。

遊具を撤去する。

危険だから。

ボール遊びを禁止する。

子供にとって、唯一遊べる場所だった公園。昔多かった空き地がどんどん減っていって。そして子供が集まるようになった公園からは。

いつの間にか子供が閉め出されるようになった。

大人が言うほど、子供はゲームばかりに興味を示している訳では無い。

それは子供である私が証言しても良い。

実際問題、体を動かすことに興味を持っている子供も多いし。

今でも学校のヒエラルキー上位に食い込んでくるのは、どこの国でもまずは運動が出来る奴だ。

海を隔てた国ではスクールカーストなんて悪しきものが猛威を振るっているらしいけれど。

ウチの国でも似たようなものはある。

私だって、喧嘩が強いという要素がなければ。

学校で虐めを受けていた可能性が高い。

結局子供にとっては。

頭が良いことよりも、まずは腕力が強いことが大事なのだ。

そういうわけで、子供にとっては需要があるのが公園だったのだけれど。

その公園から、いつの間にか子供が閉め出された。

そして公園は静寂に包まれている。

今、誰のために公園があるのか。

それがまったく分からない。

さっき見た公園のように。

子供の立ち入りを禁止している公園は、彼方此方にある。

家に帰ってから、ちょっと調べて見たけれど。

街の中にある14の公園は。

いずれも市役所によって。

例のスピーカーが取り付けられたあげく。

遊具もどんどん撤去され。

あげく、例の看板がつけられているらしかった。

この街は、まだ山とかがあるから良いが。

親によっては、その山とかにも近寄るなとか、子供に言い聞かせているケースがあるそうだ。

バカじゃねえの。

そうとしか言えない。

子供からどんどん選択肢を奪って、自分が「高尚」だと思うものを押しつける。

自分が子供の頃はどうだったかすっかり忘れ。

いわゆる温室栽培を押しつけて悦に入る。

子供をペットか何かとしか考えていない。

子供の将来を考えているのでは無く。

こんな凄い子供を育てた自分を自慢したいだけ。

親が子供を愛しているなんて言うのは幻想だ。

勿論そういう親もいるだろう。

だが、全ての親がそうじゃあない。

少なくとも子供にDQNネームつけるような親は違う。

私はそれを知っている。

市役所の窓口や、それへのアクセス方法は、ホームページなどに乗っていた。PCをカタカタ叩いていると。

やがて親が夕食だと呼んでくる。

無言のまま一階に降りると。

前から気味が悪いと私の事を言っている母が、料理を作るだけは作って出した。なお、味の方はお察しである。

私は幸い、親のことを嫌えない年代をもう抜け出したけれど。

その前は、どうして気味悪がられるのか。

どうして嫌な目で見られるのか。

それが悲しくてならなかった。

今は、此奴は私の事なんて愛していなくて。

価値観が違う人間を認めることも出来ない寂しい奴だとみているので。

何とも思わない。

ちなみに家事の類も自分で覚え始めているが。

それは此奴に頼って生きるのが嫌だからだ。

いっそのこと、秘密基地で暮らすのも有りかも知れない。

父親は父親で。

いつも私の不満を口にしている母に対して、何も言わない。

正直な話、こっちもどうでもいい。

親を嫌えない年代を抜けると。

子供はこうなる。

そういうものだ。

いつまでも子供は子供では無いし。

ましてや親のアクセサリでも経歴を引き立てるための存在でも無い。

それが理解出来ない親が一定層いて。

悲劇を作り出している。

私はそれを身内で知っているから。

今更、何とも思わない。

正直スーパーの油ぎとぎとな総菜でも食べた方がマシな夕飯を終えると、さっさと自室に引っ込む。伝手に対してメールを送って反応を待つが。幾つか返事が来た。

私は、伝手を幾つか作っている。

実際、現在寂しい生活をしている老人はかなりいて。子供に構われると、結構口を滑らせるものなのだ。

公園で老人に混じってゲートボールをたまにしているが。

それはコネ作りのため。

そもそも、公園から子供を閉め出した連中だと老人を判断して。それを良く想わない子供もいるようだけれど。

私は丁寧に説明する。

老人と仲良くなっておけ。

実際に街を動かしているのは老人だ。

困ったときには、そういった老人にコネを作っておくと便利だぞ。

更に言うと。

老人は子供の遊びについて行けるほど素早く動けない。

つまり子供としては、格好のカモである。

孫に相手にされない老人も多いし。

今では孫そのものがいないケースも珍しくない。

私はそういう話を周囲にして、廻りが青ざめていたけれど。

正直どうしてかは分からない。

こういう田舎では、政治は非常に身近だ。

だからこそ。

子供の頃から、しっかり地固めをしておくのが重要なのだ。

ましてや、うちの親はこんなである。

私の将来はあまり明るいとはいえない。

老人達を味方につけておくと。

色々便利なのだ。

さて、メールを見る。

これらのメールの送り主の中には、私が教えるまでパソコンがまったく分からなかったり。スマホをただの板として携帯している状態の老人もいた。

私はスマホを学校に持っていったりと自由に出来ないけれど。一応家には最低限の機能を備えたものがある。

今の年代の覚えの早さは、老人にはとても追いつけない。

すぐに使いこなせるようになったし。

教えて感謝もされた。

実は、パソコン教室(と言う名のぼったくり店)で習ったのだけれど、さっぱり分からなかったと恥ずかしそうに言う老人もいて。そういう老人は、私のメールにすぐ応えてくれる。

話を聞いているだけで。

随分感謝してくれる老人もいる。

そういうものだ。

勿論変態爺も中にはいるから。

きっちり自衛策は講じておかないとならないけれど。

残念ながら、余程の手だれたサイコパスでもない限り。

私があっさり捕まることは無い。

メールの内容をパソコンで確認。

家のPCは一応父のものだが。

殆ど使われていないので、私がほぼ専用で使っているようなものだ。

秘密基地においてある奴は、稼働に不安が残るのと。これとは別ルートの情報網構築に使っているので。

そっちからメールは送らない。

ちなみに父は、職場でPCを散々弄っていることもあって、家では触るのも嫌なようだし。

私が自分より明らかにスキルがあるのを見て。

以降は閉口。

実質、PCは私のものになっていた。

さて、メールだが。

内容に目を通していくと。なるほど。

少しずつ見えてきた。

後は、ちょっと状況を動かしてやれば良い。子供の手でも、出来る事は幾つもある。

今も、一つ手を思いついた。

実施は、しておくべきだろう。

メールを返信。

さて、これで。

状況が動くはずだ。

 

近場の駅。

見に行くと、いわゆるDQNが大騒ぎしていた。

この田舎でも、通っている電車はあるし。その電車の駅には、それなりに人が集まる。というよりも、昔はヤンキーなんて呼ばれていたDQNが、屯している事が珍しくもない。

人が行き交っているのに平気で野球のボールを投げ合ったり。

警官が来るときゃっきゃっと騒ぎながら逃げたり。

髪の毛は真っ茶色に染めていたり、金髪にしていたり。

で、先輩格の連中から、格安で貰った中古車や、下手をすると盗難車を、免許も無しに乗り回したり。

或いは家の人間の車で、同じような事をしたり。

まあ、小学生の私から見ても。

クズだ。

同級生達は、こういうのを見て格好良いとか思うらしいが。

こういうのは猿とあまり知能も差が無いし。

色々な意味で人生も詰んでいる。

何を真似するべきなのか。

そもそも近づくべきではないだろうに。

勿論私も近づかない。

近場の木に登って、其処から双眼鏡で状態を確認。

シンナーでもやっているのか。

やたらにハイテンションで騒ぎながら、今日も人が行き交っているのにも関わらず、ボールを投げ合っているようだった。

笑い声が此処まで聞こえてくる。

公園に子供が入れなくなった元凶は。

此奴らだ。

調べて見て分かった。

警官関係者の老人から、複数同じ情報が寄せられている。

近場の公園で、此奴らが大暴れし。

煙草をその辺の芝生に捨て散らかし。

バイクで滅茶苦茶に轍を造り。

砂場に塵を捨て。

真夜中まで酒を飲んで大騒ぎしていたという。

酒「だけ」かどうかは正直分からないが。

とにかく、近場の公園で大騒ぎをした結果。

地元の有力者の一人がキレた。

そしてあのスピーカーと看板が立てられた。

バカじゃねえの。

そう思う。

そうだったら、まずはあのDQNを逮捕しろよ、と思う。

ところがそうも行かない。

あのDQNどものリーダー格が。

この地元での有力者の馬鹿息子なのである。

警察も、逮捕に踏み切れないらしく。

それで、公園から追い出したそうだ。

結局の所、公園から追い出すのには成功した。

だが結局、駅で散々迷惑を掛けているわけで。

それを考えると、とてもではないが、このクズ共が何処かよそへ行ったとか、そういうわけではない。

オラつきたいなら別の街にでも行けば良いものを。

だが、このDQNどもにそんな勇気は無いだろう。

そういうところでは、もっとヤバイ半グレだのが仕切っているので。

連中に居場所などない。

つまり自分たちの「支配」している地域でしか好き勝手が出来ないゴミというわけで。

何というか、もっともなってはいけない未来像だろう。

いずれにしても、だ。

此奴らの蛮行は、しっかりとカメラに収めた。

後は目の部分だけ加工し。

ネットに流すだけである。

目の部分を加工しないと、此方が逮捕される可能性があるので。

色々面倒くさいが、やっておかなければならない。

秘密基地に戻る。

古いOSでかろうじて動いている老人PCを立ち上げると。

フリーツールの動画作成ツールを起動。

とはいっても、大したことはやらない。

何処で、いつも行われている事、と題をつけ。

そして、駅の名前がはっきり分かるようにした上で。

此奴らのリーダーは地元の有力者の息子で。

警察は何もしない。

そして、シンナー吸い放題、と。

色々書いた上で。

捨て垢を作って。

投稿した。

さて、ここからが見物だ。

幾つかの有名動画投稿者に、ため込んでおいた宣伝ポイントを使って、アピールしておく。

そして、そいつらがこの動画を見た瞬間。

パンデミック開始である。

早速動画視聴数が伸び始めた。

無断転載もされ始めるが。

それも大いに結構。

SNS等で、爆発的に広まり始まるまで、三時間と掛からない。

此方の目的は。

このクズ共の排除。

それだけなのだから。

動画には、猿の鳴き声も合成している。

我ながら面白い合成である。

まあ正直な話。

此奴らと一緒にされたら、猿が可哀想だとは思うが。

ともあれ、インパクトは抜群だ。

それに目は隠したが。

それ以外は隠していない。

あくびをしながら、後は見守るだけで良い。

早速。

ニュースサイトが取りあげた。

蛮行を行うDQN。

そうなると、もはや爆発的感染は止まらない。

市警には電話での抗議が殺到し始めたらしいと、メールが届く。良い調子だ。このまま行けば。

すぐに市警は動かざるを得なくなる。

そして、此処でタイミングを合わせて。

此奴らについての追加動画をアップ。

公園での蛮行。

此奴らが公園で、未成年にも関わらず酒を飲み散らかし。シンナーまでやっていた事の証拠映像。

これは入手にちょっと手間取ったが。

老人の一人が抑えてくれていた。

今の都会では。

もう中学くらいから、ヤバイ薬をやる子供もいるらしいが。

流石にこういった田舎では。

今でもヤバイ薬と言えばシンナーである。

安く合法的に手に入れられるのが大きい。

その気になれば。

私だって手に入れる事が出来るだろう。

さて、少し調べておく。

奴らの中には、気取ってSNSを開設している者もいるはずだが。

驚いたことに。

リーダー格が、実名でSNSを開設していた。

しかも鍵もつけていない。

バカ丸出しである。

案の定大炎上していた。

猿みたいに喚き散らしているリーダー格には、凄まじい数のメッセージや何やらが飛ばされているようで。

半狂乱になっている様子だ。

しかも、その半狂乱になっている様子が。

まとめにされている。

田舎DQN、駅での凶行。

酒どころかシンナーも未成年で。

完全に役満。

とうとう県警にまで飛び火。

地元の有力者が必死に庇っても。

此処まで大炎上してしまっては、どうにもならないだろう。

翌日。

駅に様子を見に行くが。

ついに、DQNどもは、いなくなっていた。

これで第一段階は終了。

一応確認するが。

全員逮捕されて。

今、事情聴取を受けているそうだ。

当然余罪もあるとかで。

親も庇いきれないらしい。

数年は少年院暮らし。

それも、少年院を出ても。

この街には戻ってこられないだろうという話だった。

まあそうだろう。

それでいい。

というか、いっそのたれ死んで欲しいが。

世の中には、こういうDQNが更正した話をありがたがる風潮が未だにあるが。

此奴らが散々迷惑を掛けてきた、真面目に頑張って来た人達の方が、万倍も偉い。

それを理解せず。

好き勝手なことをしている連中がたまに良いことをすると褒める。

そんな風潮があるから。

駄目なのだろう。

色々と。

いずれにしても、私の計画の第一段階はこれで終了。私が影で動いていたこと何て、分かるはずもない。

なお、リーダー格から、芋づるでDQNどもが逮捕されていくと。

ネットでの炎上は

すぐに収まった。

なお、DQNのリーダー格には彼女がいたが。

その彼女が、ズッ友だよとかSNSで呟いて。

それでまた大炎上。

二次被害で、その彼女も晒し上げられていたが。

害悪猿の凶行を止めずに、彼女なんかやっていた時点で同類だ。

一緒に捕まれ。

そうとしか思えなかった。

いずれにしても、しばらく大炎上については静観。

駅もしばらく、おもしろがって見に来る奴が出たけれど。

それも一週間もしないうちに沈静化していった。

みんな飽きやすいというよりも。

他にも今の時代は娯楽がいくらでもある。

つまり、である。

クズは娯楽にしてしまうのが一番良い。

そうして消費させるのだ。

今までクズが散々迷惑を掛けてきた人達のように。

あのDQNどもは、飽きて行かなくなるまでは学校でもやりたい放題。本能のまま弱者に暴力を振るい、自分の醜悪な欲求のために「消費」してきた。

今度は自分たちが娯楽として消費される番だ。

ネットの向こうにいる相手には。暴力が振るえない。

つまり今まで間近な弱い奴にやってきたような手は使えないのだ。

一つあくび。

次の手だが。

炎上が収まってから、仕掛けるとしよう。

いずれにしても。

この街から、がん細胞は。

一つ残らず、排除しなければならない。

そうしないと、暮らしづらくて仕方が無いのだから。

 

一週間待つ。

ななみの様子は見に行くが。

相変わらず例の変な音には苦しめられているようだった。

それはそうだ。

ずっと垂れ流しにされているのだから。

かなりのストレスになっているらしく。

ななみは目の下に隈を作っていた。

「大丈夫?」

首を横に振るななみ。

咳払いすると。

私は、周囲を見回してから言う。

「もう、原因は取り除いた」

「原因?」

「あのスピーカーを立てる事になった原因」

「!」

ななみが青ざめる。

この街の人間なら、知っているのだろう。

あの動画。

何しろ、この街を舞台に、これだけ大騒ぎになった動画なんて、そうそうはないのだから。

「あれ、まさか貴方が?」

「まさか。 小学生にあんな動画作れると思う?」

「ううん……無理だと思う」

「私はね、ちょっとスパイスを利かせてやっただけ」

DQNグループは芋づるで壊滅。

これがもう少し都会だったら、舎弟とかが復讐に来る可能性もあったけれど。残念ながらそれはない。

此処は人間が少ないのだ。

DQNグループがいた高校も調べて見たが。

あのグループは、典型的な地元有力者のクズ息子とその取り巻き集団で。

後釜になるような連中もおらず。

そもそも高校にも殆ど出てきていなかったようで。

高校生活には、ほぼ何も影響がでていないそうである。

つまり、ゴミが適切に処理されただけなので。

誰も困る事はない。

なお、市議をしていたDQNのリーダーの親は、今完全に進退を極まっているそうで。次の市議会選挙では落選がほぼ確実だとか。

まあそれで良いとしか言いようが無い。

「後は音を止めるだけだけれど、もう少し時間掛かるから」

「うん……そのなんか、シロさん、怖いね」

「怖い?」

「私、どうしていいかも分からなかったのに」

それが平均だ。

私は小賢しく生まれついただけ。

平均に生まれたのなら。それはそれで別に構わない。

むしろ漫画じゃあるまいし。

平均に生まれる人間の方が普通なのだから。

気にすることなど。

何一つない。

さて、ここからが本番だ。

ななみの家から出ると、秘密基地の方へ向かう。

つけてきている奴はいない。

というか、私しか分からないような、地元のものすごく複雑なルートを通って行く。途中、凄く狭い道もある。

もしつけてきているやつがいるとしても。

どうにもならない。

場合によっては、用水路の脇を通ったりさえするのだ。

もしつけてきている奴がいたら。

その時点で目立つ。

かなり角も曲がったり、横道にそれたりもする。

それを考えれば。

ついてこられたら、それは私以上にこの複雑な経路を知っている、という事になる。

地元民か。

それとも、ずば抜けて頭が良いか。

どっちかだろう。

途中、知り合いの老人の家を通るので、軽く世間話をしていく。

それで、困っていることがあると言うので。手伝っておく。

勿論手間賃だ。

リターンが大きいから実施するのである。

別に本当に老人が好きなわけでもなんでもない。

こうすることで利益があるからやる。

勿論向こうも、ある程度私が腹黒い事くらいは理解しているだろう。

だが、寂しさには勝てない。

結局の所、ギブアンドテイクが、そうして成立するのである。

軽く遊んでから、また複雑なルートを通って、家に。

その途中、見慣れない奴を結構見た。

多分この間の動画を見て、おもしろがって来た連中だろう。若干ガラが悪い。駅からいなくなった後は、街そのものをみて回っている、と言うわけだ。

だが。こんな田舎でも、ブザーはもう完備されているのが普通だ。

子供には、近づかない。

それが今の大人の鉄則になっている。

私はそれを有効活用する。

この炎上動画を見てわざわざ足を運んでくる酔狂な連中が引っ込んでからが、第二段階開始だ。

どうせみるものもない街である。

カネになるようなものもない。

街のスーパーとかは、少し売り上げが上がっていたようだけれど。

そんなものは。

文字通り、どうでもいい。

数日もしないうちに。

潮が引くようにして、炎上動画に引き寄せられた蛾どもはいなくなる。駅からだけではなく、街からも。

さて、動くか。

私は、また。

秘密基地に出向いて、次の具体的な作戦を考え始めた。

 

3、公園を取り戻せ

 

さて、第二段階。

まあ具体的には最終段階だけれど。

やる事は一つ。

あのスピーカーから出る音を止めれば良い。

それだけだ。

スピーカーを壊してしまう手もあるけれど。

そうすると、ちょっと後が面倒くさい事になる。

私はただでさえ、色々目をつけられている。

ちなみに私は地元を離れるつもりもない。

両親がいなくなったら、家と土地がそのまま手に入るし。

通勤の利便性と自宅があると言う便利さを天秤に掛ければ。

自宅があると言う事が、非常に大きく作用する。

わざわざ月に何万も払って。

狭苦しいアパートだの何だのにどうして暮らさなければならないのか。

そういう意味で考えると。

結局の所、自立なんて言葉は無意味だし。

一人暮らしするとしっかりするなんて大嘘に騙されるのも、馬鹿馬鹿しい。

実際子供を持ってもうちの親はあんなだ。

他だって、大差はないだろう。

まず、スピーカーを止めるにはどうしたらいいか。

老人達に貸しを作るのはもう面倒くさい。

それならば、もう一つ手がある。

そして、その手のために。

あのDQNどもを排除したのだ。

駅に様子を見に行く。

あの炎上動画を見た連中は。

もういない。

飽きて帰ったのだ。

まあそれもそうだろう。

この何も無い小さな街だ。

来ても面白い事はないし。

何よりも炎上して面倒くさい事になったから、警察も県警からしてかなりの人数が来ている。

なお動画の投稿者を探してはいるようだが。

私は中華とロシアの串を経由してアップしているので。

多分見つけるのは無理だ。

このくらいの知恵は働く。

中学生でもやってのける奴がいるくらいだ。

私にだって出来る。

まあ見つかったときはその時。

警察が一切動かなかったので。

此方で動画をアップし。

悪行を告発した。

そう素直に言うだけだ。

いずれにしても、まだ私は罪に問われる年では無いし。

気にする事もない。

警察がそもそも彼奴らをきっちりシメていればこんな事にはならなかった。

ただそれだけである。

市役所に、投書コーナーがある。

此処に、プリンタから出力した文書を放り込んでおく。

まずこれが第一手。

内容は極めてシンプル。

公園で悪さをしていた連中がいなくなった。

現時点でスピーカーを稼働させておくのは予算の無駄。

電気代節約のためにも。

しばらくスピーカーを停止して。

様子を見るべきだ。

電気代もただではない。

しかも税金で出しているのである。

ただでさえ、地方公共団体の予算が寂しくなってきている今。

無駄な金を掛ける余裕は無い。

スピーカーにしても、DQNは気付いていなかったかも知れないが。今時アレがどういうものか、ちょっと調べればすぐに分かる。シンナーで脳が腐っているDQNだから何となく公園が嫌になって離れただけで。

ちょっと賢ければ。

スピーカーを壊そうと考える奴も出てくる筈だ。

問題が起きるまでは。

スピーカーを停止し。無駄な電気代を節約するべき。

そう書いて。

投書した。

勿論これだけで状況が動くとは思えない。

続けて、幾つか手を打つ。

公園に足を運ぶ。

確かに不愉快な音がする。

ゲートボールを老人達と一緒にやっているとき。

この音が色々鬱陶しい。

だけれども、耐えきれないほどではない。

公園で禁止されている球技とかをやらなければ、子供が公園に入っても良い事に鳴っている。

走り回ったりするのも禁止らしいが。

私はそんな事はしていない。

パーカーを被ったまま。

ベンチに腰掛けて、足をぶらぶらさせている。

通りがかった何人かが、私をちらっと見たが。

なんで公園に子供がいると、不審そうにしていた。

それでいい。

要は、「子供を追い払う効果がない」と認識させればいいのである。

実際には効果があるのだけれど。

私が我慢する。

どうせスピーカーを仕掛けた連中は我慢していることに気づきなどしないので。

その内、これも噂になる。

公園に平気で子供が出入りしている、と。

此処で公園で禁止されている遊びをすると、波風を立てるので。

穏便に、スピーカーの効果がない、と認識させる。

更に、である。

あの投書をコピーしてある。

複数の筆跡で、だ。

まあ要するにフォントを弄っただけだが。

これを伝手の人間に渡す。

此処で言う伝手は、老人達では無い。

今まで貸しを作った人間だ。

私の同級生や下級生。

もう中学になっている、以前の客。

他にも色々。

そいつらに、手紙を市役所の投書コーナーに入れてくるように頼む。まあ実際には、頼むなんて穏便な内容では無くて。

指示に近いが。

こうやって、市役所側に、二方向から圧力を掛ける。

そして、私も。

市役所の関係者が見る公園で、わざとベンチに腰掛けて、ぼんやりと過ごして見せた。まあかなり五月蠅いのだけれど。

それは我慢する。

我慢できるのだから、どうにかなる。

こうして、外堀を埋めていく。

十日ほど掛けて、二つの手を試した後。

どうやら。

市役所の方も、動きを見せた。

試験的に、スピーカーを停止したようである。

少なくとも、公園の幾つかでは。

あの音が、聞こえなくなった。

 

学校に出る。

私の周囲には、あまり人間は多く無い。

姫島や、他にも面白いから呼び込んで一緒に秘密基地を使っている仲間が何人かいるくらいで。その他は、私から距離を置いている。

怖いからだ。

私が得体が知れない存在だと、どいつもこいつも考えているようで。

私としても、別にそれで構わないと思っている。

怖れられるのは力がある証拠。

侮られるより遙かに良い。

更に、私は別に孤独でも平気なタチだ。

別に周囲にベタベタ群れてくる奴がいなくても大丈夫である。

「シロ!」

姫島が来る。

笑みを浮かべているという事は、何か良いことがあったのか。

「どうしたの」

「昨日ね、アップルポップルでハイスコア出したの! 全国2000位だよ!」

「それは良かった」

アップルポップルというのは、いわゆるスマホで出来るゲームで。オンライン対戦要素は無いが、ハイスコアの競争要素はある。

ゲームの内容は落ちゲーで、慣れれば高得点を手軽にたたき出せるが。

ハイスコアを出している人間に関しては、それこそ異常な練度が要求される。プレイ人数は300万を越えていて、全国2000位のスコアとなると、余程の熟練があるか、もしくは廃人レベルでのやり込みが必要になる。

ちなみに私は手を出していない。

これに時間を掛けるくらいなら。

他にやった方が良いことがいくらでもあるからだ。

ゲームにしても、異常なやり込みを要求してくるゲームに関しては、避けるようにしている。

エンドコンテンツまでやると、数百時間は掛かるゲームも最近は多いので。

ゲームクリアまではやるが、エンドコンテンツは無視するケースも多い。

「それだけか」

「うん。 依頼の方はどんな感じ?」

「後一歩だな」

ただ、面倒な事に。

市役所は、まだななみの家の近くにある公園のスピーカーを止めていない。

様子見なのだろう。

効果がないと認識させ。

更に実際に迷惑を掛けていたDQNどもも追い出した。

それなのに何をもたついているのか。

面倒だなとしか思えない。

さて、何が原因なのか。

市議は顔役達で構成されているが。

此奴らに何か利益でもあるのか。

ああ、そうか。

ひょっとすると、スピーカーを納入した会社の利権が何かしら絡んでいるのか。それはあまり考えていなかった。

公共事業に関連している企業は、国と癒着しているケースが多いのだけれど。

此奴らが、何かしらの発言権を市政に持ち込んでいるのか。

可能性はある。

ならば、ちょっと其処も崩すしかないか。

退屈な授業を聞き流して。

時々指されるが。

問題については、全て綺麗に答える。

教師もぐうの音が出ない様子で。

私はそのまま思考に移る。

学校が終わった後は、近場の公園に移動。

スピーカーを調べる。

写真も何枚か撮っておく。

そして、家に着いてから。

PCを使って、調べて見た。

スピーカーをかなりの数見てみたが。

正解は一発では出てこない。

似たようなスピーカーが多いのだ。

ただ、公共事業と噛んでいる企業。

それも、この田舎の都市と噛んでいるモノとなると、限定できるはずだ。

三十分ほど検索を駆使して。

見つけた。

なるほど、そこそこ大きな会社だ。しかも、都会で同じような子供締め出しスピーカーを設置して。

それで儲けている会社らしい。

こういう会社が。

公園から子供を追い出したのか。

反吐が出るが。

多分この会社が、何かしらのコネを、市議の誰かと確保したのだろう。そうなると、その市議を潰すか。

コネを切るか。

どっちかになる。

どっちも簡単では無い。

市議なんて都会においては大した権力も持っていないけれど。田舎では、それでも結構危険な連中を動かしてくるケースがある。

暴力団とそのままつながっている場合もあるし。

その場合は、正直DQN何か相手にしているのとは危険度のレベルが二桁くらい違ってくる。

相手は文字通り暴力のプロ。

私が動いている事も、すぐに突き止めてくるだろう。勿論、子供だからといって容赦しない。

親がどうなろうが知った事では無いが。

実際問題として、私が生きて行くには、親の収入が必要だ。

慎重に動く必要がある。

そうなると、どうにかしてコネを切ることだが。

国と癒着しているような会社の場合。

これも面倒なやり方で、色々な事をしている場合が多い。

そうなると。

面倒だけれど、手は限られてくる。

地道に、ごくごく地道に今までの作戦を繰り返して、市議会でのスピーカー無駄論を大きくしていくか。

それとも、危険承知で市議かコネを潰すか。

コネを潰す場合は厄介だ。

億単位のカネが動いている場合があるし。

その場合、人間を殺すくらい平然とやってのける奴もいる。

カネは人を狂わせる。

たかが億なんて、人が一生暮らせばなくなる程度のカネに過ぎない。

それなのに、人を殺すには充分なカネだ。

反吐が出るけれど。

それでも、策をどう進めていくか、だろう。

家を出て、公園に向かう。

途中、知り合いの老人に会ったので、軽く世間話をする。

メールを使いこなせないので。

直接話さなければならないケースもあるのだ。

幸い、さほど苦にはならない。

世間でギャーギャー騒いでいるほど、いわゆるロリコンというのが多く無いのを私は知っている。

いたとしても、実際の子供には興味が無い事が殆どだ。

経験則として、私はそれを良く知っていた。

「あの公園のうるさい音、いつ止まるの?」

「ああ、シロはあれがあるとゲートボールが出来なくてこまるねえ」

「出来るには出来るけれど、ちょっと五月蠅い」

「そうかい。 困った話だ」

ゆっくりゆっくり歩きながら、話をする。

市議会で、誰が決めたのか。

あっさり名前が出てきた。

「市議の山下さんだよ。 あの人が市議で大騒ぎして、スピーカーの設置を決めたって話だねえ」

「そのスピーカー、効果無いよ」

「え」

「だって実際私入れてるでしょ。 ちょっと五月蠅いだけだし。 それに、一番公園を危ない使い方していた高校生達、いなくなったし。 音止めてもいいんじゃないの?」

唖然としていた老人だが。

確かに、と考え込む。

これでいい。

他の複数の老人にも、ちくりとこう吹き込んでいく。

多分、山下とか言う市議は「子供」が複数苦情を上げているとは認識しない。

「可愛い孫」が迷惑している老人が多数いると認識する。

実際には私は「可愛い孫」等では無いし。

しかも、意図的に「一人」ではなく「多数」と錯覚させるのだが。

この上で、今まで市役所にクレームの投書をしているのだ。

多分山下だけではかばえなくなる。

理由は簡単。

票田を確保できなくなるからだ。

今の田舎では、老人は重要な票田になる。彼らを怒らせることは、次の市議に当選できなくなることを意味する。

市議になるにも金が掛かる。

文字通り、死活問題だ。

スピーカーのメーカーに袖の下を握らされているのだろうけれど。

それでも赤字の方が大きくなるはずだ。

その上、である。

悪評が立ったら、もう最後。

今の時代、老人でもネットをやっている。

もう再選の見込みは無いだろう。

打つべき手はきちんと打った。

これで充分の筈だ。

少なくとも、私には出来る事が多くない。ステゴロなんて結局小学生にならほぼ勝てるというレベルでしかないし。

選挙にだって出られない。

私がそういう事を出来るようになるのは。

もう十年も先だ。

その頃には、このしみったれた田舎の街をどうにか出来る力も手に入るけれど。

それまでは、こういったこそこそした手を使っていくしか無い。

そして、同年代の人間に。

可能な限り恩を売っておく。

最終的には、私は。

この街の支配者になるのだ。

大人はもっと汚い暗闘をしているのである。

今更私が、どうして「可愛い」子供でいる必要があるだろう。

大人の価値観を押しつけられて。

好きなモノまで制限されて。

可愛い事を強要されるのは、うんざりである。

自宅へと急ぐ。

さて、確か市議会があるのは数日後。

私が後ろで糸を引いていることに、山下とやらは気付かない筈。

そして、もはや。

退路は断った。

後は、結果を見るだけだ。

 

4、暗がりの裏道

 

ななみが感謝の言葉を寄せて来た。

あの音が、聞こえなくなったという。

それは良かった。

「本当に助かりました!」

「いいえ」

「それにしても、どうやったんですか」

「秘密」

色々裏で暗躍したけれど。

オツムが年相応のこの子に、それを教えても意味がない。

悪い事は悪い奴がすればいい。

そして私は良い子じゃない。

親にも気味悪がられる子供で。

別にそれで構わないと思っている。

将来のために必要なのは、親の庇護じゃあない。

実際に力を持っている人間を見極めて。

それをどう有効活用していくかだ。

実際問題。この小さな田舎街では、それがやりようによっては可能だ。恐らくネットが発達した今、都会でもやりようによっては出来るだろう。

「じゃ、報酬」

「あ、はい。 これで」

「うん、まあいいかな」

私が要求する報酬は。

コレクションにするべき白いもの。

しかも、出来れば自分でつくったもの。

もしくは、他では手に入らないもの。

それがベストだ。

今回貰ったのは、いわゆる編みぐるみである。白いウサギのもので、結構手が込んでいた。

「結構上手に出来ている」

「本当? 苦労したんだよ。 大事にしてあげて」

「ああ」

これで恩は売った。

私は怖れられているけれど。

何か大人には話せないこと。

解決できないことが出来たら。

助けてくれる。

そういう存在で構わない。

報酬に白いモノを限定するのは、私の趣味だけれども。

勿論これにも戦略がある。

シロという渾名を定着させるため。

そして、私という存在の不可思議さを、子供達の間に定着させるためだ。

何かしらのキャラクターには、これといったアピールポイントがある。これは昔から変わっていない。

私の場合、恐怖の中に、ミステリアスを入れる事で。

そのキャラクターを確固たるものとする。

これが大事だ。

「シロ」

顔を上げると。

秘密基地を使っている一人。

同学年の、桐川市子がいた。

私以上に寡黙で、必要な事以外は殆ど喋らないのだけれども。

顔の造作は整っていて。

いわゆる姫カットもよく似合っている。

この年で細身ですらっとした体は。

将来はとても美人になる事を予見させる。

この子があの獣道を抜けて、秘密基地に遊びに来ていることを知っている同級生はほとんどいない。

私も周囲に話すつもりはないし。

親だって興味を持っていないだろう。

親の間では、私の評判は半々。

気味が悪いと私の親のように嫌う奴もいるが。

老人達の影響で、出来る子だ、良い子だと考えている親もいるらしい。

どっちにしても。

必要なのは、現時点で権力を持っている相手の心を掌握する事で。

今の時点で、反対派なんてどうでも良い。

なお、桐川の親は、私が懇意にしているゲートボール仲間の娘夫婦なので。私にはよくしてくれる方である。

ただ、桐川が私の秘密基地に出入りしていると聞いたら。

きっと眉をひそめるだろうが。

「どうした」

「市議会の話聞いた?」

「まだ」

「山下って市議が少し前までかなり力を持っていたらしいんだけれど、この間の市議会でつるし上げられて、こてんこてんだって。 すっかり肩身が狭くなって、体調を崩して入院しているらしいよ」

まあそうだろうな。

入院までするのは流石に予想外だったが。

ただ、勢力が弱まったとなると。

多分色々と不都合が出るだろう。

恐らく、そう遠くない内に。

スピーカーのメーカーに握らされた袖の下やらがばれるかも知れない。

そうなると、結構大きめのスキャンダルになる。

市議会の方でも、其処までのスキャンダルにするつもりはないだろうし。

山下は切り捨てられると見て良い。

山下の方でも、恐らく今後の事を考えて、当面は大人しくするだろうし。

スピーカーのメーカーの方も、これ以上面倒事になるのを避ける為に、手を引く可能性が高い。

あの音。

確かに五月蠅かった。

DQNどもを追い払うときだけに使えば良いのであって。

周囲にいる子供をみんな巻き込む迷惑なものだという現実が、どうして良い大学を出たエリート様には分からないのか、謎で仕方が無い。

ましてや、ななみの家に至っては、変な風に反響した結果、子供にだけ聞こえるラップ音もどきになってしまった有様である。

はっきりいって。

迷惑この上ない。

「山下って市議を潰したのって、シロ?」

「ノーコメント」

「まあいいけどね。 うちの親が、誰かが暗躍して、山下って市議を潰したんじゃないかって噂があるって言っててさ。 まあいくら何でも小学生のシロがそんな事をするわけもないって思ってはいるみたいだけれどね」

「ふーん」

どうでもいい。

ただ、今の時点で。

私が犯人だと特定されると、少しばかり面倒だ。

工作を幾つかしておくか。

「桐川」

「うん?」

「そういえば、例のもの、手に入ったよ」

「! 本当?」

桐川は寡黙だが、実のところ熱心なプラモデルのビルダーだ。

人気のあるシリーズでは無く、極めてマニアックなロボットアニメ専門で、この辺りちょっと業が深い。

自分で色々研究して、コンテストにまで出しているらしいのだけれども。

近くのプラモデル屋で、桐川が欲しがっていたものを見つけたのだ。

なんでも潰れた店から格安で流れてきたらしく。

店主が価値を理解していない様子だったが。

「今行けば売ってるよ」

「助かる」

多分、放課後に、ロケットダッシュですっ飛んでいくだろう。

寡黙だが行動力に欠けるわけではないのだ。

腰を浮かせて自分の席に戻り掛ける桐川に。

釘を刺す。

「今の情報代。 シロが私だって話は親にはしないようにね。 もしもしたら、今後掘り出し物の情報は教えてやらんよ」

「分かってるよ」

シロの正体が小学生。

狂犬と呼ばれる存在が、実はただの子供。

それは知られない方が良い。

世の中には、誰も知らない方が良いことがある。

そういうものだ。

 

秘密基地に出向くと。

滅多に来ない奴が来ていた。

黒田楓。

長身と美しい黒髪、中学生と見間違えかねないプロポーションを持つ、古式ゆかしい和式美人。すっと眉毛が通っているのがチャームポイントだ。

別の街から、わざわざこの秘密基地に足を運んでいる変わり種である。確か桐川とは一度も顔を合わせたことが無い筈だ。

ちなみに私より一学年上で。

だけれども、私とは対等に接してくれる。

前に面倒な事件を解決したことがあって。

その時に黒田の面白いスキルを知った私が。

仲間に勧誘したのだ。

今も、黒田は。

丁度その面白いスキル。

PCの組み立てをやっていた。

Windows98SEなんて化石みたいなOSで、PCがきちんと動いているのも。

黒田の力が大きい。

私はメモリの増設とかはできるけれど。

黒田は今のメーカーだけではなく、結構古いバルク品などの知識も持っていて。自分用の超凄いPCをいずれ組みたいと考えているようだ。

それはそれで、低スペックのPC。

つまり今動かしている秘密基地のおんぼろみたいなのを。

快適に動かすテクニックも知っている。

こんな低スペックPCで、動画の編集とか出来るのも。

黒田のおかげ、というのが大きい。

「おはよ」

「お久」

「どう、調子は。 ボクのPC、使ってくれてる?」

「この間の炎上動画」

ああ、と黒田はにんまり笑う。

それだけで会話が通じる。

黒田はどうしてか一人称がボクだが、これは六人兄妹の末妹で、他全員が男のため、口癖が移ったのが原因らしい。

昔は俺と言っていたらしいのだけれど。

流石にそれだときついというので。

ボクに改めたそうだ。

格好としても男装を好むようで。

スカートはヒラヒラするのでなんだか吐きづらいとぼやいている。

ルックスと中身がまったく一致しないタイプである。

正直どうでもいいけれど。

役に立ってくれれば、私としてはそれだけで充分である。

それに、黒田は頭が良い。

会話も、最低限だけすればきっちり理解してくれるので。私としても、ストレスが少なくて良かった。

「あの動画は大笑いだったわ。 ボクの学校でも再生数ガンガン伸びてて。 彼奴らの住所も何もかも特定されて、居場所もなくなったみたいだね」

「いい気味だ」

「本当にね。 ああいうのに限って誰にも迷惑を掛けてないとかいうんだから、コントかよって話だわ」

「ああ、昔はやったんだっけ、その寝言。 誰にも迷惑掛けないで生きてる人間なんて存在し得ないのに」

二人で失笑。

黒田が一旦PCの電源を落として、内部を丁寧に掃除し始める。

スプレーを使って埃を落とし。

汚れに関しても、分解して丁寧に処理していた。

このPCも、うち捨てられて、風雨にさらされていたものを。

黒田が此処まで直したのだ。

私も少しは手伝ったけれど。

そしてネットやらなにやらから、このPCでも動くツールを探してきて。それで快適に動くようにしてくれた。

黒田の周囲で起きていた問題を解決した例に。

このPC。

白い筐体のPCを、プレゼントしてくれた、というわけだ。

家のPCとは使い分けが出来るので。

これはこれで有り難い。

なお、電力に関しては、家の方から引いている。

このバラック小屋。

作ったのが誰かは分からないけれど。

いずれにしても、昔此処を作った奴は。

相当に此処に入れ込んでいたのだろう。

きっと、小学生どころか。

高校か、大学くらいになっても。

ここに来ては、一人の時間を楽しんでいたのは、疑いが無い所だ。

それにしても誰なのだろう。

両親は間違いなく違う。

多分祖父母のどちらかだとは思うけれど。

今では、話を聞くことも出来ないだろうし。

私に似ていたらしい祖父は。

多分聞いても。

それが真実であろうがなかろうが。

笑みを浮かべるだけで、答えてはくれなかっただろう。

いや、こう言ったか。

謎を。

解き明かして見せろ。

謎を解き明かした後は。

問題を解決して見せろ、と。

そういう人だった。

「そのパーカー、今も使ってるんだね」

「合羽にもなるし便利」

「顔が半分隠れるし、不審者感抜群」

「それでいい」

その方が、私としては好都合。

だからむしろ褒め言葉になる。

黒田はそれを理解して言っているし。私もその黒田の意図を理解した上で返している。だからそれで良いのだ。

「姫島と、後は桐川だっけ。 他に仲間を増やすつもりはないの?」

「もう一人、楓が知らない子がいる」

「ふーん。 会ってみたいな」

「もう少しここに来てくれれば、嫌でも顔を合わせるよ」

そっかというと。

メンテナンスを終えたPCを組み立て直し。

OSを起動する黒田。

かなりの高速でOSが起動して。

すぐにログイン画面になった。

パスワードは、12文字に記号と数字を混ぜたもの。

これについても、ツールを入れていて。

色々と細工をしている。

この子は将来ハッカーになれそうだという話を聞いているが。

実際には、もうハッカーになれるかも知れない。

国内大手のIT企業にこの間侵入できたという話をしていたので。多分、実力で言うと私なんかよりずっと上だ。

私としては、黒田がいなくなる前に、ある程度技は教えておいてもらいたかった。

黒田は色々と家庭事情が複雑で。

いつまでこの秘密基地に来られるか分からないのだ。

「よし、終わりと。 またああいうクールな動画を作ってくれると、ボクとしても嬉しいな」

「分かってる。 ただ、私は無為に物事を荒立てない」

「シロだもんね」

「そう。 シロだからだ」

やがて、この街に。

シロという謎の存在がいることを轟かせる。

そして表に出るときは。

この街を私が支配したときだ。

黒田が帰るのを見送ると。

ベットに横になる。

あくびをすると、ぼんやり。

頭を随分使ったし、少し休むのも良いだろう。

路地裏の狂犬も。

いつもいつも、働き回っているわけではないのだから。

 

(続)