お届け物です

 

序、躓いたもの

 

配達にドローンを用いるという発想は古くからあった。21世紀の頃には、いわゆる出前が色々限界を迎えていたこともある。それに反比例するようにして、ドローンの技術が進歩していった。

しかし、ドローンがあらゆる配達をするようになるほど技術が成熟する寸前。

世界各国で戦争が起きた。

ドローンは戦争に極めて有効だった。

配達用に使われるドローンは、物資や食糧では無く、相手にミサイルを届ける死の狩人と化した。

テロにも積極的に用いられ。

現在、テロリストが世界からいなくなって。

ようやく、ドローンというものは安全に用いられるようになったとも言える。

それまでの代償が大きすぎたが。

現在、ロボコンでは。

ドローン系統のロボットを扱うものが増えてきている。

発達しかけ、しかし頓挫してしまったテクノロジー。

空輸ドローン。

その復興を行うためだ。

高校の大会でも、普通に行われている。

今。その大会に向けて。

暁高校でも、ミーティングをしている所だった。

「ドローン嫌い」

卜部がスパンと言う。

実は、同じように言う人は多い。

戦争中、いわゆる便衣兵。戦争では禁じ手中の禁じ手とされる連中が、各国で様々な破壊活動を行った。

日本でも例外ではなく。

彼らはドローンを駆使して、あらゆる破壊活動を行い。

勿論民間人もたくさん殺した。

現在、もっとも世界で便衣兵戦術を用いていた中華は、世界からその存在ごと消えてしまったが。

便衣兵が用いるドローンに対して、恐怖を覚える若者はまだ多い。

実は土方もその一人。

ドローンが出た。

そうなると、即座にネットや小型のライフルを持ち出して来て、叩き落としに掛かる。うろ覚えだが。

幼い頃、まだ戦争をやっていた頃は。

そんな光景を何度か見たことがある。

もたついていたら、小型のミサイルや、投下式の爆弾で、容赦の無い殺戮が行われる事になり。

結果として大勢が死ぬ。

爆発。

大泣きする子供達。

狂ったように吠える犬。

地獄絵図だった。

幸い、あまりクリアには覚えていないけれど。

便衣兵戦術の非道さと。

セットで用いられていたドローンの恐怖は、確かに土方の中にもあるのは事実だ。

だが、それはあくまで過去の事。

戦争は既に終わり。

現在では小規模紛争さえない。

奇跡的に戦争を終わらせることが出来たのだ。

だからこれからは、技術を未来のために使わなければならない。

「好き嫌いで判断して良い事じゃないよ。 だから、今回の大会に関して、前向きな話題を出してね」

「はーい……」

卜部はどうも色々と問題があるが。

まあともかく、言う事は聞いてはくれるか。

武田が手を上げる。

「今回の大会、何か一新してるみたいだけれど」

「一月前にHP確認したときには、配達用ドローンコンテストとしかなかったんだけれども」

「HP見て」

「……!」

本当だ。

最初は確かに配達用ドローンのロボコンという情報しかなかった。

だが後出しで、色々情報を出してきた、と言う事か。

今回の試合形式は、倉庫の中から任意の荷物を取りだし、隣の倉庫にまで輸送する。

その最中、上空からドローンを狙う猛禽(を模したドローン)の攻撃を防ぐ。

地面に低すぎる地点には、荷物を狙う泥棒や犬(を模したドローン)もいる。

倉庫の間の距離は四q。

これらの話を聞くだけで、色々とくらっと来た。

これはまずい。

事前情報と、かなり違っている。

まず現状のドローンを確認する。ドローン暁という機体だ。

この機体は、ドローン関連のロボコン用に調整しているもので。翼長は87センチ。四つのローターで飛ぶ。

燃料による飛行能力は五qちょっと。

だが、細かい機動することなどを考えると、心許ない。

「増槽だねこれは……」

「荷物に何もたされるか分からないよ。 出来れば空輸能力も強化したいところだけれども……」

増槽。要するに追加の燃料タンクだ。

戦闘機などではよく見られるのだけれども。

ドローンの場合は、そもそも極めて軽量。あまり増槽をすることは無い。

そもそも鳥などを見ていても分かるように、空を飛ぶという行為は、重量が増えると加速度的に難しくなっていく。

ドローンもそれは同じであり。

ある程度以上の重量を運ぶとなってくると。

別物レベルでの改造が必要になってくる。

そして残念な事に。

今回、時間はない。

「これ見てください……」

梶原が言う。内容を確認すると、HPの更新日時。二日前。

要するにいきなりで何処のチームにも高難易度の課題をぶつける、と言う事だ。

技術の研磨のために。

敢えて抜き打ちテストのような形で、難しい試験をぶつけてきたと言う事か。

確かにこれならば、対応力を見る事が出来るし。

そもそも大会HPの更新をきちんとチェックしていないような学校は、そこで弾くことも出来る。

ハードルは上がるが。

そもそも大会での好成績を上げるだけで、それだけ内申が良くなるし。

工業高校の場合、そのまま良い会社への就職にもつながる。

就職して技術者になれれば。

錬磨を怠らずに一線で働けば、相応の給料を貰って相応の生活をしていく事が出来るのだ。

昔は、特に21世紀前半は、こういった努力は悉く無駄。

それこそ重役に体でも売った方が余程稼ぐことが出来た。

一時期は援助交際とかパパ活とかいった行為だ。

だがそんな事をしていても、どうせ年を取れば見向きもされなくなる。

だったら、スキルさえ身につければやっていける今の時代の方が遙かにマシである。

世界には終わりが見えてきているが。

それでも、努力が報われる分。

土方にとっては、今の世界の方が良い。

ましてやその努力によって人類が滅びを免れたら。

多分、人類そのものが認識を改めなければならなくなるだろう。

それでいいのだと思う。

ともかく、皆で話し合って、増槽についてどうするか調べる。

すぐに手に入れられそうな増槽をチェック。

更には、設計に手を入れる。

動かすのも当然必須だ。増槽と言っても、そもそも様々な任務に対応した戦闘機でもあるまいし。ぽんとつけられるわけでは無いのである。

最悪の場合。

出られないと判断したら。

今回の大会は見送るのも手だ。

大会に出ても、そもそも動かないという状態になったら、せっかく色々実績が増え始めている状況に、冷や水をぶっかけることになる。

それは今までの努力を無に帰す行為だ。

勿論一度や二度の失敗で今までの努力が全て駄目になるような事はないけれども。

せっかく勢いがついてきているのである。

ここで、失速するのは避けたい。

土方と武田が引退する頃には。

上杉にバトンを渡して。

一年二人、梶原と卜部も、一人前にしておきたいのである。

それが先輩としての義務だ。

「設計の調整は上杉さん、二日後までに出してきて」

「えっ……はい……」

真っ青になって悲しそうに涙ぐむ上杉。

彼女は基本ハード屋なのだから、多少の無理はきいて貰わないとまずい。だから、敢えて今回は無茶を受けて貰う。

増槽の手配は卜部に頼む。

なお、カタログなどを確認は既にした。

どの増槽を仕入れるか、此方も二日後までに決めてくれと頼むと。卜部は相変わらず無駄に色っぽく了承した。

さて、次だ。

武田と個別にチャットを開く。

「プログラム、梶原さんに任せて大丈夫?」

「私が手を入れるけれど、あの子のプログラム、すっごい独特なんだよ。 出来れば時間がほしいけれど……」

「……」

腕組みしてしまう。

梶原のプログラムの腕が駄目、と言う事は無い。というか、そもそも梶原はプログラムのコース授業も受けている。四つくらいの言語を使いこなす事が出来る筈で、そこそこに実力はある。

だが、武田も見た事がある。

梶原のプログラミングは本当に独特で。

授業でも、周囲と合わせろという教師と何度か衝突したことがあるらしい。

昔は、それこそコメント欄などの書き方とか、プログラムの動作に関係しない部分について他人に干渉する者がいたらしいけれど。

流石に今はそのようなものはなくなっている。

そもそもプログラムというのはどうしても個性が出るもので。

其所に無理矢理どうでも良いことでの「決まり」を埋め込むと碌な事にならない。

勿論必要な部分での「決まり」は守る必要があるが。

その一方でプログラムを組むとそれぞれ個性が出るように。其所ですら、色々とやり方があったりする。

だから、現在では。コメント行やらの別にプログラムの動作に関係しない部分に、自己流を押しつける教師は減ってきているが。

その代わり、プログラムのチェックに関しては、専門の教師が雇われることすらあるらしく。

今後、武田はそういったチェッカー、デバッガーとしての技術者としても、会社からは声が掛かっているらしい。

本人としてはあくまでもプログラマーとしての最前線に立ちたいらしいので。

その辺りはかなり今でも企業と交渉の火花を散らしているらしいが。

「ともかく、これも二日くらいで修正を入れて貰って、その後チェックを」

「無茶だよもう……」

「分かってる」

「ああもう」

武田が突っ伏す。

一応テレビ会議には武田の挙動も映っているので、皆がじっと見たが。まあ個別チャットでのやりとりだろうと考えたのか。

誰もその様子には突っ込みは入れなかった。

さて次である。

「大会まで時間がない。 他の学校の偵察とかしている余裕は無いから、とにかく一発勝負を意識してやっていくよ。 今回はかなり厳しい状態になると思うけれど、それは地力が試されるという事でもある」

今回の大会。

地力を試されるという事は。

要するに、もしも好成績を上げれば、相当内申などでもプラスに響くと言う事だ。

特に今回の大会では、梶原と卜部の一年コンビに、色々と中心的な仕事をやって貰うつもりでもある。

二人が頑張れれば。

それこそ、一年の段階から、相当に内申がおいしくなる。

実力を積み重ねていけば。

三年になった頃には、相当に内申が充実していて。

良い企業への就職が、楽になるだろう。

土方や武田の時も、頼りになる先輩がいればよかったのだけれども。流石にこの業界、そうはいかないのも事実だ。

とにかくロボコンは実力がものをいってくる。

先輩達も遊んでいたわけでは無いのだろうが、ともかく力が足りなかった。

力が足りないものは死ね、というような世界ではないけれども。

それでも、やはり良い仕事にはつけない。

しわ寄せが土方と武田の所に来ている訳で。

それを考えると、感謝は出来なかった。

先輩達は良い人ではあったのだが。

ともかく、一旦部活を解散。土方はスケジュールを組み直す。本当は最終調整に入るところだったのだが。

それどころではなくなった。

当然授業も受けなければならないし。部活に割ける時間だって限られている。

昔と違って部活のための授業を潰す事なんて許されないし。

部活を日付が変わるような時間までやることだって許されていない。

嘆息すると、皆の負担を減らすために、色々と処置をする。

眠る前に、これはやっておかなければならないだろう。

皆にそれぞれ追加で指示をメールで出した後。

疲れ切った頭を多少和らげるように、チョコを囓って。風呂に入る。

かなり頭を酷使したので。

チョコを囓らないと、とてもではないけれど、頭が働いてくれなかった。

風呂から上がったら、ぼんやりしていることを両親に咎められる。

部活の事かと言われたので、億劫に頷く。

昔は別の意味で部活には苦しめられたが。

今は部長として苦しんでいるわけで。

それを考えると、両親もああだこうだと言う訳にはいかないのだろう。

翌日。

授業をテレワークで受けながら、同時並行で書類の処理などを進めていく。

チャットツールを開いて、同時に部員達ともやりとり。

色々同時並行でやっていく。

授業の復習も忘れてはならない。

溜息が出るほど忙しい。

大会が始まるまでもう時間がない。

今頃、この大会に出る事を決めた学校は、どこも大わらわか。

或いは、大手の学校になると。

敢えて余裕がある性能のロボットを組んでいて。

今頃他の学校のてんやわんやを高みの見物しているかも知れない。

それはそれで腹立たしいが。

まあ何とかするしかない。

地力を試されているので。

抜き打ちテストと同じなのだから。

地力があれば突破出来る。

そういう、多少いじわるなやり方だと言う事である。

時間が過ぎるのが早い。

疲労の蓄積も。

二日で、しっかり梶原と卜部が、指定の仕事を終えてきた。上杉と武田に引き継ぎ。仕事内容を確認しながら、土方は書類の作成を行い、学校に提出。

学校側から質問が来る。

なんで大会前に急に変更が、というものだ。

基本的にロボコンでもなんでもそうだが、大会になると事前に相応の準備をしているのが当たり前であって。

こういう直前にいきなり大慌てで書類を作り直すというのは異例だ。

小学生の夏休みの宿題じゃあるまいし。

高校生が、余裕を持って行動しない事は許されない。

ましてや今の時代、高校を出て就職することも視野に入れるのが普通になっている。

そういう意味では、なおさら大人に近い行動を求められるのだ。

大会のHPを見せて、学校側に納得させる。

更に、急に変更が来た事に対して、ベストを尽くしている実績も見せる。

こういうプレゼンは部長の仕事。

学校側を納得させ。

場合によっては予算も出して貰わなければならないのだ。

一時間ほど激しくやり合って。

どうにか納得はしてもらった。

だが、昔はこういう事をすると、逆恨みする輩がいたという話も聞いている。

面倒くさいが、丁寧に言質を取らなければならない。

今でもそういうのがいないとも限らないからだ。

しっかり言質を取るまで更に30分。

兎に角疲れたが。

部長としての仕事は、一段落終わったか。

それから大会までの間に、増槽関連の追加プログラムに関してデバッグ。単体テスト。結合テストを済ませなければならないし。

それが終わった後は、実機が動くかどうかを確認しなければならない。

溜息が零れるが仕方が無い。

それに、民間用の空輸ドローンは、今後重要な産業になる。

ロボコンで実績を上げれば、大きなプラスになるはずである。

時間がすっ飛んでいく。

結合試験で案の定躓くが、武田がアドバイスをして、手を入れて。梶原に何とか修正を間に合わせる。

実機でもトラブルが起きたが。

どうにか乗り切った。

最終工程が完了したのは、大会の前日。

冷や汗が流れたが。

梱包業者に後は任せて、大会に出して貰う。

今回も操縦は上杉に任せる。そして本当は今回から、補助は梶原に行って貰おうと思っていたのだけれど。

今回は武田に出て貰う。

流石に今回は状況が状況だから仕方が無い。

しかしながら、梶原には自宅から、リモートで最大限の補助をして貰うことにもする。

さて、翌日の本番。

何処まで出来るか。

何か忘れているものはないか。丁寧にチェックして、無い事を確認。

ため息をつくとPCを落とし。そしてベッドに土方は倒れ込んで。後は睡眠をひたすら貪った。

 

1、ラジコンの子孫

 

遙か昔の話。

ラジコンというドローンの先祖が存在していた。

ディープな趣味として知られていて。

マニアが技術を磨き上げていた。

やがてそれに目をつけた連中がいた。

勿論使い路は。

軍事。

かくして趣味として市民権を得ていたラジコンは、人殺しの道具にされて、戦場に送り込まれるようになった。

それがドローンだ。

高い技術力は、高い殺傷力につながり。

戦闘機や戦闘ヘリに比べて極めて安価である事。

電波で遠隔操作が可能であり、ミサイルや爆弾などのキャリアとして極めて優秀である事などから。

各地でテロリストに愛用され。

多くの人々が、ドローンによって命を落とす事になった。

いわゆる便衣兵も破壊活動でドローンを用いるようになり。

更にドローンという存在への世間の目は冷たくなっていった。

やがて、戦争が終わった。

多くのものを失った戦争だった。

一部で平和利用されていたドローンの技術も、その時には殆どロストテクノロジー化していた。

故に今。

空を舞うラジコンの子孫達として。

血に塗れた使い方を強要されたドローン達は。

各国で技術復興されている。

もう戦争などやっている余裕は無い。

内戦や紛争すらもはや無くなった時代だ。テロリストという存在は過去の遺物と化した。幸いにも。

そうして、今。

ドローンはロボットの一種として。

生まれ変わろうとしている。

軍事兵器から。

人類の生活にとって、必須の存在として、だ。

大会に出た上杉の様子を見て、土方はポテチをはむはむしながら、まだ緊張が抜けないなあとぼやく。

時々技術指導はしているのだけれども。

どうしても肝が据わらない。

小手先の知恵ばっかり働く人間と、腰を据えて物事に取りかかれる人間では。どうしても後者の方がしっかりとした実績を上げやすい。

上杉には後者になってほしいが。

それでも、個人の性格矯正は難しいし、好ましくない。

上杉らしいやり方での必勝パターンを組んでほしいものである。

そのための手助けやアドバイスは、幾らでもしたいものだが。

梶原は今、全力でリモートで現地につないで、武田の補助をしている。実際には逆なのだが。まあ大会側もそのくらいは大目に見てくれるだろう。

今年に入ってから、三つ目の大会。

前回は、強豪校が二つも出る中、ベスト4にまで食い込むことが出来た。しかも全国クラスの強豪東山工業高校を破ってのベスト4だ。

このまま実績を積み重ね。

更に上に征きたい。

上杉には現場での実績を積んでほしいし。

一年にはまずは補助で力をつけて貰って。

今後は前線に出ることを考えて貰いたい。

特に武田は、多くの企業から既に粉が掛けられている状態なので。

大会に割ける力は今後減っていくことだろう。

それを考えると、一年の成長は、今後の暁高校にとって必須だとも言えた。

武田が連絡を入れてくる。

「今回の出場校は30。 だけれどこれ、厳しいよ色々……」

「だろうね」

分かっている。

普通、高校のロボコンだと、動くロボットは五割が相場とされている。そんなものである。

ハードの組み立て、プログラムの組み込み、更には単体試験、結合試験。

いずれもが難しい。

ロボットは適当に組んで動いてくれるほど人間に優しくない。

基幹技術がしっかりしていなければ、その動きはどうしても雑になる。

それが現実だ。

今後、ロボットの技術は、人間が出来ない事、人間には負荷が大きすぎる仕事にて、更に存在感を増していく。

ロボットに厳しい仕事を任せ。

人間は負荷が小さい仕事をしながら、宇宙進出を目指す。

それが現在進行形で進んでいる、滅亡脱却のための戦略であり。

成功させなければ未来などない。

土方ですらそれくらいは分かっている。

だから、ロボコンには。

人類の未来の一端が掛かっている。

他にも、高校生が参加できる大会には、農業のコンテストをはじめとする、基幹産業についてのものも多い。

中には即座に一線級で利用できる技術をものにしたチームも存在していて。

そういったチームの所属者は、企業に最高待遇で迎えられるのが常だった。

続報が武田から来る。

今回はやはり厳しい。

脱落校、実に18。

普段は五割の脱落率が、今回は一割上がっている。

うちはかろうじて大会に参加は出来るが。

武田が珍しく、冷や汗を拭っているのが見えた。

「ぞっとしたわ。 強豪校として知られてる京都西が……」

「えっ、マジ」

「うん。 どうも結合試験が足らなかったみたいだね」

「あー……」

京都西工業高校。

ロボコンでは強豪として知られる学校の一つだ。

ドローン関連を得意とするロボコン部だったのだが。

恐らく次世代の育成を行うために今回の大会を任せ。急な内容の凶悪化に対応出来なかったのだろう。

他にも強豪は幾つかあるが。

前回と違い、国際や東山は出ていない。

恐らくだが、同時期に行われる別のロボコンに出ているのだろう。

毎月色々なロボコンが行われる。

これは同じ学校ばかりが好成績を稼がないようにすること。

弱小高にも好機が与えられるようにすること。

それに何より、色々なテーマで技術の研磨をすること。

それらが理由となっている。

「残った十二校の面子は?」

「どこも中堅ばかりかな。 いや、聞いた事がない学校が一つある」

「え? 与野が聞いた事がない?」

「うん。 ええと……殆ど参加実績がない弱小高だね。 今回、一年ばかりで部活を再建して、始めて大会で動くロボットを出してきたみたい」

何だか嫌な予感がする。

ノウハウがないのに、一年だけで集まって五人の部活を設立。

三ヶ月でロボットを出してきた。

しかも今回は地力を要求される抜き打ちテスト状態の大会。

そんな状況で、普通に動くものを出してきた、というのか。

「要注意で」

「……分かった。 上杉には注意を促しておくよ」

「じゃあ、現地は任せるよ」

「うん」

通信を切る。

さて、試合を見るか。

今回はトーナメント式だが、優勝候補である京都西がいきなり脱落するというハプニングが起きている。

と言う事は、何処が何と当たるか分からない、と言う事だ。

基本的にうち、暁高校と大差ないレベルの学校ばかりだが。

逆に言うと、他の学校も同じレベルの準備しか出来ていないはずで。

増槽をむりやり追加して参加したうちと、条件は大して変わらない筈である。

ならば、優勝を狙うことが出来るかもしれない。

暁高校にとって、ロボコンでの優勝は悲願だ。

今まで一度もやったことがない。

今回は好機。

凝ったプログラムを、武田も仕込んでいる余裕は無かった。

つまり、地力だけで勝負していくしかない。

軽くスピーチが行われて。

大会が開始される。

暁高校は三戦目。

相手は鹿児島の鹿児島工業実業高校。別名鹿児島工実。

そこそこの有名校で、過去に何度か対戦したことがある。勝率は五分五分くらいだろう。

ただ名物の三年生が抜けたことで、今回はこっちが有利とみた。

第一戦で勝って、弾みをつけたいものだ。

試合開始。

第一試合、第二試合が同時開始される。

かなり広い倉庫に、点々と色々なオブジェクトが置かれていて。

それを回収する所から始まる。

ドローンが飛び回り、センサで一致するオブジェクトを探し出すところからだ。

予想通り、最初の性能では燃料が枯渇していただろう。

一致するオブジェクトを発見。

1機目が、工場の側面に開いている穴から出る。ちなみにこの穴もドアになっていて、開閉の仕組みを、ドローンで突破しなければならない。

認証の仕組みなどを組み込む必要があり。

ただ幸い、この認証については、事前に情報があったので、手を入れなくても済んだ。

つづいて、倉庫間の飛行だ。

この倉庫の間には、地上、上空、両方にハンターが放たれている。

上空には猛禽をトレースした動きが出来るドローン。

地上には、低空過ぎるドローンを捕獲する泥棒を模したドローンだ。

残念な話だが。

世界がこんな状況になり、戦争は終わっても。

泥棒というものは、世界から根絶されていないのが現実である。

故に輸送用ドローンは、人間の泥棒というものを、警戒しなければならないのである。

さっそく、上空からハンタードローンが来た。

本物の猛禽を使うわけにはいかない事もあり(殆どが現在では絶滅危惧種である)。実際には上空からの脅威は大きくないのだが。

やはり犯罪組織が上空から泥棒を狙うケースはあり。

対抗策は必要になってくる。

四機のドローンのうち、一機が捕獲され、撃墜される。

勿論その時点で失格だ。

問題はこの大会、ダブルノックアウトがある事で。

相手チームが負けても、此方が勝ちになる訳では無い。

つまり、足の引っ張り合いは。いわゆる漁夫の利につながる可能性が出てくるという事である。

とはいっても、相手に好き勝手に先に行かせるわけにもいかない。

本当に厄介な大会だ。

地上から、かなり高くまで跳躍して来るハンタードローン。

高度を適切に保ちつつ、攻撃を避けて飛んで行かなければならない。

冷や汗を掻いている操縦者の様子が分かる。

一方で、ハンターを操縦している大会役員はノリノリである。薄ら笑いすら浮かべている様子も映ったので、げんなりする。

まあ楽しいだろう。

人間は相手を一方的にたたきのめせるとき、それは嬉しそうに笑うのだから。

倉庫に二機が到着。

一機は途中で攻撃を受け、何とかかわしたものの燃料が尽きた。

二機が倉庫内で、手を振っている客を確認。

それぞれオブジェクトに顧客が紐づけられていて。

その客にちゃんと物資を渡せないと失格である。

此処は、二機ともクリア出来た。

だが。減点や加点などが、容赦なく加えられる。

ほどなくして、結果が出た。

生き残った二機は、それぞれ勝利。

次は、うちの番だ。

うちのは、ドローン暁。

増槽がちょっと不安だが、試合に臨むしかない。

武田がプログラムを見て、口を押さえている。時々チャットツールを使って、梶原に連絡を入れているようだった。

さて、上手く行くか。

試合会場に出向いて、上杉がドローンを放す。

此処からは、殆ど全自動。

上杉が操作する場面もあるが、それは危険時。

つまり外で、ハンターにロックされた時などに。

回避行動を取るときのみ、操作するだけである。

今回はAIの性能を見る大会であるという要素が大きいため。

上杉は操縦手としては活躍の場面があまり大きくなく。

見ているだけ、という時間が多い。

逆に言うと、駄目であっても手を出しようが無く。

悔しい思いをさせるかも知れない。

だがそれも経験。

出来れば後輩の負担も減らしたいが。

負けられるときに負けを経験させるのも、先輩の重要な仕事だ。

さて、どうなる。

見ていると、一応ドローン暁は、思ったよりスムーズに浮かぶ。飛び方にかなり癖があるなと、見ていて思った。

梶原が組んだプログラムが、やはり変な風に作用している。

大会の役員が採点しているのが見える。

多分減点だろうなと思う。

程なくオブジェクトを発見。

ロボットアームで、がっしりと抱え込む。その後は、倉庫の外に出る作業だが、此処でトラブルが生じた。

同時に試合をしている別チーム、対戦相手では無いドローンが。

真下から、接触してきたのである。

危うく荷物へのダメージは回避したが、ロボットアームがローターにぶつかり、ダメージを受ける。

武田からのエラーメールを確認。

ちょっとまずいかも知れない。

この試合はもつと思うが。

トーナメントで勝ち抜くまで、もつかどうか。

即時に反則負けを喰らった別チームはどうでもいい。接触事故回避のプログラムがいい加減だったのだろう。

それよりも、反則負けはどうでもいいが。

ともかく進めなければならない。

この大会、ダブルノックアウトもありなのだ。

もたついている余裕は無い。

倉庫を脱出。

ここからが本番だ。

上杉が操縦に全力で取りかかる。同時に行われた第一、第二試合でのハンターの容赦なさを、誰もが見ている。

更に言えば、次の試合での負担を減らさなければならないのである。

三機のドローンが行く中。

最初の襲撃が来る。

少し先を行っていた鹿児島工実のドローンが、中空からのハンターの襲撃に見舞われる。回避。だが、プロペラの一角が、鋭いブレードに接触して、体勢を崩した。

ここぞとばかりに、地面から跳び上がってくるもう一機のハンター。

息を合わせた連係攻撃だ。

思いっきりぶつけられた鹿児島工実のドローンが、思い切り荷物にぶつけられた。

見ていると、大きく減点が入れられている。

まあ当然か。

輸送用のドローンの目的は輸送。

ドローンはどうなってもいい。

輸送する物資を、何があっても無事に届ける。

それが任務なのだ。

フラフラになった鹿児島工実はもういいと判断したのだろう。

一度上空に舞い上がったハンターが、今度は太陽の中から、うちのドローン暁を襲撃に来る。

この剽悍な動き。

戦時中、或いは飛行機乗りだったのか。

いや、なんか嫌な予感がする。

ともかく、回避。かろうじて、上空からの鋭い一撃を回避。更に回避先に置き石で攻撃を入れて来た、地上からのハンターも回避に成功する。

これを見て、後方にいたもう一機のドローンが速度を落とす。

まあ正直、どうでもいい。

あのチームは、もうクリアさえすれば勝ちが決まっている。

今の攻撃でふらついている鹿児島工実のドローンや。

アームにダメージを受けているドローン暁を見て、リスクを避けた方が良いと判断したのだろう。

Wノックアウトにでもなってくれれば儲けものだからだ。

倉庫に到着。

攻撃がそこまで執拗でなくて良かった。

後は、識別した相手に荷物を渡して終了。

すぐにドローンの所に移動用の小型車で駆けつけた上杉と武田が、アームのチェックに入る。

武田が眉をひそめて、上杉をうながす。

土方への報告をしろ、というわけだ。

今回は、操縦手として上杉が来ている。

今後は上杉が部長にもなる。

経験を少しでも積ませなければならないのである。

「アームのダメージ、あまりよろしくありません。 出来れば取り替えたいです」

「出来そう?」

「今回は一試合ごとに時間が空くから、出来ると思います」

「よし、じゃあよろしく」

アームの換えは幸いある。

すぐに取り替え作業に入って貰う。なお結果は、総合点でうちが上だ。鹿児島工実は、速度ではうちのドローン暁よりも上だったが、荷物を傷つけられたのが痛かった。命を賭けても荷物を守らなければならない。

それがドローンの苦しい立場だ。

感情移入している時間はない。

とにかく急ぐ。

次の試合が行われている。試合が終わるまでに、テストまでは済ませたいのだが。

トーナメントといっても、今回は12校参加。

要するに、試合数は4回。

うちはシード扱いはされなかったので、4回勝ち抜かないといけない。何処かが棄権とか、ダブルノックアウトでもすれば話は別だが。

黙々と調整をしているうちに、何とか応急処置は完成。

最悪の場合テープか何かでの補修をしなければならないが。

今回は部品の取り替えが出来たのが嬉しい。

また、アームを傷つけられても、荷物を守ったのが加点されたのも嬉しい所で。

次も、何があっても荷物は守り抜かなければならない。

大きく深呼吸すると。

すぐに次の試合だと、上杉に現実を告げる。

そして、武田に個別チャットを送った。

「どう、いける?」

「なんとか」

「……いざという時は梶原さんと連携して頼むよ」

「分かってる」

上杉は完全に青ざめている。

変なミスをしなければ良いのだけれども。

さて、次の試合だ。

次の相手は、相模原女子工業高校。

神奈川にある工業高校で、ロボコン部としてはあまり有名ではない。今回シャッフルでシード枠に入り、無傷での二回戦となる。

すぐに試合開始。

そういえば、残りの二校の一校が、例の初出場の高校だ。

嫌な予感がする。

同時試合だし、偵察は出来る。

邪魔をしてくるかも知れない。

武田は分かっている筈だから、しっかりデータを取ってくれるはず。いずれにしても、まだ二回戦。

格上がいない状態だ。

勝たなければならない。

 

2、若き鷹

 

試合開始と同時に、どよめきが上がった。今回、初の動くロボットを出してきた弱小校。西園寺工業高校のロボコン部が操るドローンが、ぐんと加速したのである。ホバリングの鋭さも、さながらトンボのようだ。

まっすぐ倉庫の最上層に辿りつくと、周囲を睥睨。

また一気に、鷹のように鋭い動きで荷物を特定、掴む。

此処まで減点無し。

当然、最速で倉庫を通過していった。

今回、試合を見ていた国際工業高校のロボコン部所属、グエン=フィアーナは、思わずわおと声を上げていた。

グエンは自宅で、あぐらをかいて試合を見ていたが。

この間対戦した暁高校が、また番狂わせをしてくれると思っていたのだ。

だが、その暁高校を越えるダークホースが出てきた。

ロボコンは面白いな。

そう思って、画面に顔を近づける。

幼い頃は地獄だった。

故国はどちらも戦禍に包まれ。

そして殆どの財産はなく。

国からしみったれた補助金を渡されて、最底辺の生活をしていた。ホームレスという存在はいない時代だが。それでも生活はお世辞にも良いとは言えず。そして働くために、色々な事を国から支援された。

この支援が辛かった。

スキルを様々に勉強させられ。適正がある場合は即座に其所に割り振られた。

好きな仕事よりも出来る仕事。

世界にもう終わりが見えている事は誰にも分かっていたから、それを嫌だという事など出来なかった。

自由が欲しいと言うのは勝手だが。

その自由を人類は、身勝手な理由で潰してしまったのだ。

それでも、一世代前の、いつ死んでもおかしくない時代に比べれば全然マシ。だから、文句をいう事は出来なかった。

少なくとも今の世代は犯罪も少なく、生活も出来、裁判もきちんと回っていて。そして何より、政治家が好きかってしていなかった。富の分配も、比較的公平だった。

自由がないのは、自業自得。

これ以上我が儘をいうようでは、前世代の、世界を滅茶苦茶にした人間達と同じ。

そういう事情があり。誰もがそれを知っている以上。

我が儘を言う事は許されなかった。

誰かが好き勝手を言い出したり、富を独占しだしたら。

あっというまに人類の命脈は尽きる。

そんな状態が。

偉大な先人の遺産だった。

そんな遺産を押しつけられた世代としては、不満はあるけれども。それでもどうにかしなければならなかった。

まだグエンの一家はマシな方だった。グエンという希望があったからである。

IQ試験で高い成績をたたき出し。

両親の祈るような気持ちとともに留学してきて。

周囲はバケモノだらけの状況の中。

必死に実力を磨いて、故郷にたくさんお金を送れるように頑張って来たつもりだ。そして今後も頑張るつもりだ。

注目している中、鋭い洗練された動きで加速する西園寺。

ハンターが目立っている所に襲いかかるが、それこそ残像を残して回避して見せる。あの剽悍な動き、素晴らしい。

本当に、始めて動くロボットを出せたチームなのか。

すぐに監督に連絡。

動画についても送る。

監督から返事が来た。

「これは。 注目していない大会だったのだが、あの勢いがある暁高校に大差をつけているとは」

「今は対戦中ではないですが、次の試合でぶつかると思います」

「……以降、このチームは要チェックだ」

猛烈な勢いで暁高校も追ってきているが、アームに前試合でのダメージを抱えている上に、何よりも機体性能が基本的に違う。

どうやらこのドローン、キットを使っているものではなくて。一から作っているタイプだなと見抜く。

そして、この業界上には上が幾らでもいる。

それを思い知らされる。

ほどなく、ハンターが再び仕掛ける。

此処で、暁高校に幸運が生じる。

幸運と言うべきなのだろうか。

先を行っていた西園寺が、急降下での一撃を回避した瞬間。大きく機動をそらし。

そして西園寺のドローンに、暁高校がモロに激突したのである。

ダブルノックアウトを狙ってハンターが下からしかけるが。

そこに、更に後ろから二機が、一気に突貫してきた。

混戦の中。

荷物を守り抜いた暁高校が今度は先頭に。だがボロボロだ。

そして、快進撃を続けていた西園寺は。

今の激突にもけろっとした顔をしていて。

平然と体勢を立て直すと、追撃してきた二機を引き離して、一気に暁高校へと迫る。

ロボコンでは耐久性を試されるのが基本だ。

だからこそに、この屈強さは素晴らしい。

ハンターはもう仕掛けない。

充分に回避力と耐久性、トラブル対応能力は見たから、なのだろう。

胡座を掻いたまま、グエンはじっと試合展開を見る。

ぐっと加速すると、倉庫に飛びこむ暁高校。

これは、さっきのトラブルを含めても僅差かな。

自分だったら。

多分ハンターの攻撃は回避できたかと思うけれど。

その時に冷静さを失ったかも知れない。

ハンターがドローンを叩き落としに来る猛禽だったり。

ドローンの空輸している物資を狙って来る泥棒だったり。

そういったものを模している事は分かっている。

だから当然、攻撃についても苛烈になる事も。

だが、なんというか。

人間が後ろで動かしているからか、陰湿だ。

さっきの試合でも、耐久性を徹底的に調べるようにして、西園寺を攻撃していた。

なんというか。色々と見ていて気分の悪い試合だった。

ほどなく、結果が出る。

西園寺、勝ち抜き。

まあ妥当だろう。

そこで勘違いしていたことに気付く。さっきまで覚えていたのに、熱戦だったからか、西園寺と暁高校が戦っているといつのまにか思い込んでいた。

西園寺との対戦カードを組んでいたのは暁高校では無い。暁高校との試合は、次になる。

なんだか、ほっとした。

ひょっとしてだが。

暁高校は、この試合で西園寺のドローンの性能を見ていたのか。

可能性は低くない。

激突の衝撃によるダメージは、暁高校のドローンには露骨な程に出ているが。西園寺の方は、チームで修復に当たっていて。しかも、すぐに終わっていた。タフさにしてもものが違うと言う事か。

次がベスト4。

ABに別れたブロックで、準決勝がそれぞれ行われる。

暁高校は、ベスト4確定。

前回のロボコンより規模が小さいとは言え、それでも連続ベスト4は好成績だと言える。

ただ、これには、本来の優勝候補がいなかったという幸運もあるのだろう。

メモを取りながら、試合を分析。

野性的な勘と戦闘センスで、操縦手としては自信があったのだが。

それについては、この間のエキシビジョンマッチで、良い意味で打ち砕かれた。

今は貪欲だ。

自分より出来る奴は幾らでもいる。

そう思えるようになっていた。

準決勝は、同時に行われる。

暁と、西園寺。後二校。

西園寺だけドローンがかなり元気だが。後の三校は、連戦でかなりのダメージを受けているのが一目で分かった。

試合開始。

後は、一方的な試合になった。

 

上杉が呆然としている。

武田は、ため息をつくと、次の試合に備えるように促す。

まだ三位四位決定戦が残っている。

それに、この様子だと今回の大会は、西園寺の優勝だ。あのドローンは、頭一つ抜けた性能だった。

正直、口惜しい。

元から、かなりのオーバースペックで。

幾つもの大会を勝ち抜けるものを作ってきたとしか思えない。

見た感じ、操縦をしている連中は、其所まで出来るようには思えない。

と言う事は、だ。

部活の顧問に、凄腕が入ったという事か。

ただ、操縦に関してはみるべきものがあった。

機体性能でごり押ししているわけではなく、ハンターの攻撃にも冷静に対応していたからである。

いずれにしても、次回以降の大会で。

最大級の警戒を払わなければならないだろう。

優勝は消えた。

これについては、残念だけれども。

まあ、連続でベスト4に残れれば良しとするべきか。

先に敗者復活戦が二試合、二回連続で行われる。

決勝戦と三位四位決定戦は、それぞれ一試合だけを行う形式にするためか。

多少時間が出来たのは事実。

慌てることなく、ドローン暁の調整をする。

上杉も促されると、しばらくの虚脱から立ち直る。

チャットで梶原に連絡。

プログラムの状態を確認もさせた。

前はこの辺りは、土方がやってくれていた。

来年度の部長には土方以外にはいないなと、二年の頃から武田は思っていた。

そして実際に土方がどれだけ色々大変だったか。

こうやって、二年の補助をやってみると、武田には思い知らされることばかりだった。

上杉が頬を叩いて気合いを入れ直すと、動作試験を行う。

大会は敗者復活戦で容赦なく順位が決まっているが。

やはり先の試合でドローンが撃墜されたような学校は動きが鈍く。

ハンターに叩き落とされてその場で失格となったり。

或いは倉庫の中で力尽きてしまったりしていた。

本来はもっとレベルが高い大会なのだが。

今回は、抜き打ちテストのような形で、いきなり仕様のハードルが上がったという経緯がある。

それを考えると。

この惨状も、仕方が無いのかも知れなかった。

「応急処置終わりました」

「さて、相手は……」

相手側もかなり傷ついているが、これは正直どうなるか分からない。

前回の試合。

東山を破ってそれで力尽き。

以降はなし崩しで、一気に四位にまで落とされた。

それを考えると。

今回の試合では、此処から踏ん張っていきたい所である。

更に言えば、

上杉を一瞥。

そろそろ、上杉にはエースとして、自分一人で此処を廻せる力が必要になってくると思う。

武田が見る感じ、まだエースとして、三年が操縦や補助で出張っている学校は多い。両方とも三年というケースもある。

暁高校も、武田が三年として会場に来ているのだからあまり人の事は言えないのだけれども。

しかしながら、次の大会くらいからは、上杉と、梶原、それに卜部の体勢で進めていきたい所である。

先に三位四位決定戦が行われる。

決勝戦は最後だ。

なお五位決定戦はさっき行われた。

順当な結果で。

特に此方としては言う事は無い。

今回は西園寺が図抜けて凄まじく、他はある程度横並びである。ドローン暁は期限ぎりぎりまでけっこう頑張ったと思うのだが。

流石に西園寺のあの性能を前にしてしまうと、口をつぐんでしまう。

しかも一年生が操縦手だ。

なんというか、これ以上は分析を後でするしかない。

土方からチャットが飛んでくる。

データを出来るだけ収拾して欲しいと言うものだった。

まあ、土方も敵認定するよなあと、武田は頭を掻く。

ツインテールに結ってる髪がびよんびよん揺れるが。

まあそれは髪質が堅いからだ。

上杉を促して、試合開始。

今回は、三位四位決定戦で勝つ。

優勝が狙えると思ったのだけれども。西園寺という恐るべきダークホースの登場で、いきなりそれが無に帰した。

だったら、せめて。

この間の雪辱だけでも、晴らしていかなければならないだろう。

試合開始。

ダメージはあるが、ドローン暁は対戦校よりは動けている。

後は、ハンターに気をつけて行けば良い。

倉庫を出る。

早速、ハンターが襲撃を仕掛けてくるが。

上杉は思ったよりも冷静に、攻撃を回避する。それよりもむしろ、後ろにいた対戦校のドローンが、叩き落とされるのが見えた。

はあ。

楽になった、とはいえない。

以降は攻撃が此方に集中するからだ。

上杉は集中し、攻撃を二度、三度とかわしていくが。四度目の上空からの攻撃で、ローターを吹っ飛ばされた。

ロボコンではこういった破損は当たり前に起こる。

そして四つあるローターの一つを潰されただけなら。

まだ今の時代のドローンは飛べる。

かなりスピードと安定性は落ちるが。

それでもふらつきつつ、倉庫に到着。

多分土方の方からは、採点が見えているはず。

この状況下で現地に辿りついたのだ。

加点されるはず。

いや、攻撃を貰った減点の方が痛いか。

いずれにしても、最後に。

荷物を無事なまま、顧客に渡さなければならない。

工場に入り、顧客をスキャン。

相手を特定し、荷物を渡す。

同時にドローン暁は力尽きて、ふらふらと飛んで行って、壁に激突。其所でずり落ちていった。

頭を掻く。

これは多分、今のも減点になるな。

プログラムを確認。

そうすると、敢えて危険時の自壊プログラムとして組まれていることが分かった。

それならば、まあいいか。

採点は相当に細かく行われる。

プログラムも当然、目を通される。

後で不正があって、優勝が取り消されたりする学校もあったりするほどだ。

ともかくこれで、三位は確定か。

相手チームは途中で撃墜されていたので、今回に関しては、此処から負けになる事は想定しなくても良いだろう。

さて、決勝戦を見るか。

上杉を促して、データの取得に入る。

動きの癖。

ドローンの性能。

更に相手選手の経歴。

全ての収拾を開始。

梶原と卜部にも声を掛けて、同じようにデータ集めを行わせる。西園寺については、去年までは少なくとも、大会に出てもロボットが動かない学校の代表だった。

そうなると、会場には来ていないが。

やはり監督がいると見て良い。

卜部が連絡を入れてくる。

「西園寺の事知ってる友達見つけたー」

「詳しくお願い」

「ええとねえ……去年の末くらいに、監督が来たって。 でもあんまり頼りに無さそうにないひょろっとした感じの人らしくて、ロボコン部が元気になったとか、そういう話は西園寺の生徒でも聞いていないみたい」

「ふむ……?」

どういうことだ。

いずれにしても、決勝は西園寺の圧勝に終わった。

ため息をつくと、大会終了を見届けて、帰路につく事にする。

上杉は土気色の顔をしていたが。

そもそも土方と武田のコンビだって、優勝なんて出来た試しが無いのだ。これだけやれれば充分である。

そう慰めると帰宅。

ハブ駅で上杉と別れると、土方に連絡を入れた。

「どうも妙だね。 不正行為を疑っちゃうよ」

「でも操縦手の腕前は本物だったよ」

「そうなんだよねえ……」

ドローンが、鷹のように剽悍なハンターの攻撃を避ける際の動き。

あれは相当になれた操縦手のものだった。

はっきりいうと、土方と同レベル。

いや、それ以上かも知れない。

今の上杉だとちょっと勝ち目がない。

今後、技術向上のために色々と課題が必要だろう。

「卜部の話はそっちにも行ってる?」

「うん。 西園寺の方でもいきなりの優勝に驚くんじゃないのかな」

「……だといいけれど」

生徒にまで箝口令を敷いていた、と言う可能性もある。

いずれにしても、今回もロボットの破損が酷い。

ドローン暁は、ローターが一個ブッ飛び。アームも壊れてしまった。

ロボコンでの修理費用は大会が負担してくれるとは言え。

修理するための工数に関しては。

此方で捻出しなければならないのだ。

さて、戻って来たドローン暁を見て、まだメインでハード屋をやっている土方は悲しむだろう。

それを考えると、親友として武田も少し心が痛い。

ともかく、今日は家に帰る。

武田はもう、幾つかの企業からスカウトを受けているが。それらのスカウトに関しても、今回の実績が更にプラスになるだろう。

ただし、就職してからの負担だって決して小さくは無い。

大学のロボコン部の生徒だった連中はどいつも強敵だし。

もしも相応の高給を維持していくなら、プログラマーとしての腕を更に磨いていかなければならない。

昔と違って、大学は遊ぶために行く場所では無くなっている。

今大学に行く者は。

相応の覚悟をして行く者ばかりだ。

大学院や博士課程にもなると、殆どの場合企業の重役や政府の官僚になることが確定している。

昔は就職の際に、トップクラスの大学を出ても何の役にも立たない事があったらしいのだが。

今は違う。

人材を遊ばせている余裕は無く。

そして人材を進歩させずに足踏みさせる余裕も無いのだ。

自宅に着く。

冷たい家。

土方の家は両親が揃っているらしいけれど。

武田の家は違う。

父親は前の大戦で死んだ。

大戦末期。

最後の戦いで、大勝利だったらしいけれど。それでも戦死者が出るのが戦争というものである。

いずれにしても、平和を確定させた戦いで。

武田の父は命を落とした。

母は子育てに徹底的に向いていない人間で。

シングルマザーになると、男を作ってさっさと失踪した。

今ではどこで何をやっているやら分からないが。

十五になった時に市役所で手続きをして。

さっさと縁を切った。

それまでは祖父母の家に暮らしていたが。

十五になると、今の時代は大人と見なされる。

父が残したこの家で。

今は静かに暮らしている。

メールを確認。

たくさん届いていた。

いずれもが、今回の大会についてのものだった。三位という実績。そしてプログラムに関する補佐。

どちらもが、今後の就職に有利になる。

メールの内容を見る限り、かなり評価は高いようだが。

武田自身は満足していない。

今回の大会は負けだった。

それが全てだ。

土方と出ていたら勝てただろうか。いや、それもかなり怪しい。いきなり大会の要項が変わった時点で。

今回の結果は、確定していたのかも知れない。

もしそうだとすると、色々な意味で示唆的だったとも言える。

実力不足。

まだ高校生だ。

出来る事には限度がある。

大人と見なされるといっても、所詮は高校生。

その程度の実力と言う事だ。

世界レベルのプログラマーになると、十代前半で色々伝説を残していたりするらしいけれども。

武田はある程度好成績を残しているといっても、所詮ボンクラ。

伝説を作るような連中と比べると、どうしようもない。

預金などを確認して、生活費が問題ない事を確認してから。

家事を一任している家事補佐用のAIに指示して、夕食を作らせ。その間にさっさと風呂に入る。

疲れがどっと押し寄せてきた。

フロで寝ると死ぬ。

以前死にかけた事があって、それ以降監視用のAIをつけている。今も、ブーブー五月蠅くアラームが鳴っている。

ため息をつくと風呂から出て、おいしくもまずくもない夕食を胃に突っ込み。

後は歯を磨いて寝る。

何だか、充実とはほど遠い。

一度、気持ちよく勝ってみたかったけれど。

武田の代ではそれも成し遂げられなかった。

もしも暁高校ロボコン部がどこかの大会で優勝できるとしたら、小さめの大会か。それとも上杉が三年になった頃か。

どっちにしても、武田の代では無理だろう。

布団を被って、ぼんやりと天井を見上げる。

昔は祖父母との暮らしが苦痛でならなくて。

今では一人暮らしが煩わしくてならない。

いずれにしても武田は。

充実した生活とは、縁遠い人生を送っていた。

 

3、荒鷲の素顔

 

小さくあくびをしてから、土方はリモートでの授業に出る。工業高校の授業は、昔は底辺高相応だったらしいが。

今では他の高校と変わらないレベルのものをやっている。

義務教育が中学で終わる現在。

昔の大学的なポジションであるのだから、仕方が無いのかも知れない。

授業が終わるのは夕方。

部活に移行する。

まずは反省会。

上杉は負けたことを残念がっていたが、まずは土方が、西園寺が使っていたドローンについての分析を出す。

これは武田や梶原がやってくれた分析である。

性能が一レベル違う。

これは大学のロボコンに出てくるレベルのものだ。

そう武田が結論すると。

卜部が、小首をかしげる。

「なんでそんな凄いのが、高校の大会に出てきて、しかも部員は一年ばっかの弱小高で扱えたの?」

「西園寺について調べて見たんだけれどね」

土方がデータを展開。

皆が注目する中、分かってきた事を説明する。

今まで西園寺は、ロボット分野では無く、主に農業工学関連に力を入れてきた工業高校だったという。

農業高校と連携して、自動での野菜栽培のテクノロジー強化に力を入れ。

事実、卒業生は現在半無人地帯と化している東北地方において、かなりの実績を上げているそうである。

このように、他分野の学校と連携して成果を上げる高校は現在は珍しく無く。

海外の高校と共同で、確信的な技術を開発した高校も出てきているのが現実だ。

だが西園寺は得意分野では無いロボコンに、どうして今になって参入してきたのか。

そこで、ドローンが出てくる。

どうやら農作業用の警備ドローン、農薬散布用ドローンなどのテクノロジーを、ある程度自前でカバーできるようにしたいという話になったらしく。

ドローン関連の実績を上げている講師を招き。

今後、農業用ドローン開発の一端として、工業高校としてドローン研究を開始したのだとか。

ロボコン部に不意に力を入れているのもそれが理由で。

今回も、そういう一ランク上の講師を高額で雇い。

ドローンの作成から扱いまで、短時間で仕込んだ。

そういう事らしかった。

なお調査はSNSなども駆使して色々苦労した。

卜部の伝手を辿って調べ上げたのである。

まあ西園寺としては、元々農業高校と連携して業績を上げているわけだし。今後更に業績を上げるなら、ドローンの事業強化は必須という訳か。

まあ悔しいけれど、今回はプロが相手だったというわけで。

仕方が無い。

ノウハウが足りなかった。

そんな中、ある程度頑張れた。

更に言えば、地力がものをいう大会だった、というのも大きいだろう。

本来だったら、いきなり強豪が脱落するような大会ではなかったし。

いきなりの仕様変更で、慌ててドローンを駄目にしてしまった学校も少なくなかった筈である。

あらゆる意味で西園寺に有利だったというわけだ。

「それずるくない?」

「今回の大会について調べて見たけれど、たまたまだったみたいだね。 年に何回かあるんだよ、こういう抜き打ちテスト大会」

「えー」

卜部はまあ知らなくても仕方が無いか。

中学レベルのロボコンでは、まずは基礎技術をつけることを要求される。だからあまり厳しい条件は出てこない。

しかし高校レベルになると、応用が出てくる。

その応用も、町工場レベルだと、即座に通用するものである事が多いのである。

昔は、技術は競争と言ってもつぶし合いだった。

今は世界が協力して、新しい技術を磨き上げ。技術者のレベルを上げ。そして宇宙を目指さなければならない。

誰もが分かっている。

故に、高校以降は。

こういう厳しい大会が出てくるのである。

「強豪校でも、いつも確実に優勝できるわけでは無いのは、こういう事があるからなんだよ。 それにこういうサプライズがあるから、チャンスを得る学校だってある」

「むー。 でもそれって、運が絡みません?」

「うちは三位だよ。 運が絡んでも」

「……」

卜部が黙り込む。

そう、うちは運が絡む状況でも三位をもぎ取った。

今回は出てこなかったが、国際や東山が出てきても、好成績を取った可能性が高い。どちらもドローンでも相応の成績を残している学校なのである。

問題は今後だ。

西園寺の実力は、今回のロボコンで周囲に印象づけられた。

事実、既に動画が出回り始めている。

高校一年、しかも一学期の大会のロボットとは思えない。

そういう言葉が主だった。

まあそれも当然だろう。

咳払い。

「卜部さん」

「はい?」

「上杉さんと連携して、ドローン暁の根本的なバージョンアップをよろしく。 梶原さんは、プログラムの組み立てを」

「はい……」

幽鬼のような声。

梶原も、何を考えているか分からない所があるけれど。

今回の大会で、色々思うところがあったのかも知れない。

ならばそれでいい。

大会での優勝が全てでは無い。

昔の部活では無いのだ。

昔の部活では、全国大会だとかの優勝のために、生徒の三年間を棒に振るような暴挙が平然と行われていた事もあった。

だが今の部活は違う。

優勝しようがしまいが、相応の実績を上げている生徒には、きちんとスカウトが来るようになっている。

人材は育てるものであって。

勝手に生えてくるものではない。

ようやく企業が、その認識の元で動けるようになったのである。

そんな時代だ。

努力をする意味はある。

惜しむらくは、もっと早くにこの時代が来ていれば。人類はとっくに火星にコロニーを作っていただろうという話が上がっている事で。

それについては、土方も同意見である。

いずれにしても、次の試合では地力で勝る相手に負けない。

そのための努力はする。

ドローンの大会は珍しくもないのだ。

そして西園寺のドローンの専門は恐らく農業関係。

そっちの本格的なドローンが出てきたら、多分勝ち目は無い。業務でつかわれているレベルのものが出てくる筈で。

高校生の手作りドローンでは勝負にならない。

「では今日は解散……」

部活を切り上げる。

今日はチャットも必要ない。

武田と話す事もないだろう。

ソファで横になる。

三位、か。

今回こそは勝てると思ったのだけれど。やはり世の中上手く行かないものである、としか言えない。

もう少しだったような気もする。

だけれども、勝てなかったというのはれっきとした事実なのである。

そして、どう転んだところで。

現時点で、暁高校の持っているドローンでは、西園寺のドローンに対して勝ち目は無いだろう。

それは当たり前だ。

相手は本物の荒鷲だったのだから。

大きく嘆息する。

やっと、勝てるようになって来たのが三年。

去年までは、頼りにならない先輩達によって足を引っ張られ。結局、何もかもが駄目だった。

しかも今後は、後続に力を継承していかなければならない。

溜息が出る。

社会に出てからは、また当面もっと力のある先輩達の後塵を拝する事になる。

会社を立ち上げて事業を興した場合だって同じだろう。

企業からはスカウトも来ている。

就職そのものは心配ない。

だが、一線級で通じるようになるのはいつの事からか。

子供は考えなくても良い。

ほしくなったら、遺伝子操作で作った子供を政府から支給して貰えるし。

別に今の時代、一人で子育てすることは難しく無い。

大あくびをすると。

もう何もかも馬鹿馬鹿しくなってきたので、早々に寝ることにする。

今回は勝ちたかったな。

ぼんやりと、夢の中でそう思った。

 

翌日。

部活が終わったタイミングで、大会の映像が出てくる。武田が送ってきたものだ。

どうやら、立て続けに西園寺がドローンの大会に出たらしい。

あのドローンをそのまま使ったのかと思ったが。

違うドローンだ。

この様子だと、農業高校からお古を回して貰って、それを改造したな。

そういう経緯がすぐに分かった。

はあとため息をつくと。

一方的に蹂躙を続ける西園寺のドローンの様子を見る。

それは元々一線級で戦っているドローンだ。

高校のロボコン部のドローンで勝てる訳がない。

だが、武田はどうしてこんなもの送ってきた。

武田は、動画が終わった後。

他の部員を見回して、言う。

「読めた」

「うん? どうゆうこと?」

「プログラムの癖」

「!」

そういう事か。

相手はあくまで優秀であってもハード屋。ソフト屋としては、そこまで強いという訳では無い、ということか。

恐らく倉庫での選別作業などのAIは、農業高校から借りてきたもの。

そして三月まで試合に出てこなかったのは。

恐らくは、操縦手の訓練のため。

ソフト屋の方には穴がある。

そういう判断か。

今度はこっちからエキシビジョンマッチを仕掛けたい。そう武田が言うので、少し考えた後、上杉と卜部に話を振る。

「直るのいつになりそう?」

「ええと、ハード部分であれば四日後……」

「ソフトに関しては一週間かなあ」

卜部が行って梶原を見る。

梶原は無言のまま、幽霊のようにゆっくり頷いていた。

武田がそこに、ファイルをアップしてくる。

「このモジュール、突っ込んでみて」

「これは?」

「くしし。 相手の穴を突く」

武田が悪い顔で笑っている。

まあいいか。

何か勝算があるのだろう。

エキシビジョンマッチの申し込みを、西園寺にしてみる。西園寺はなんか不慣れな事務が出てきたのでちょっと不安になったけれど。

話してみると、噂の頼りない顧問が出てきた。

確かに見た目は頼りない。

だが此奴、多分農業高の技術を、工業高に持ち込む事を考えた切れ者だ。

油断できる相手じゃない。

「暁高校の。 うちのドローン相手にあれだけの戦いを見せたの、覚えていますよ。 エキシビジョンマッチですか?」

「見た所、ドローン関連のロボコンは少し次まで間がありますよね。 前ほど恵まれた条件での試合はできませんが、やってみませんか?」

「良いでしょう。 二回連続で大会優勝を取ったとはいえ、うちはまだまだ経験不足ですから。 大会の決勝と同じレベルの気合いを選手に入れさせますよ。 それに大会の理事に顔も売っておきたいですので」

現金な台詞だが。

この言葉は、昔と意味が違う。

顔を売るというのは、コネを作ると言う意味では無い。

今の時代は、コネなんてカスの役にも立たない。

昔コネが全てを言っていた時代、スキルなんて持ったところで何の役にも立たず。全ての場所であらゆる技術が衰退するという惨事が起きたからだ。

此処で言っている顔を売るというのは。

高い技術力をアピールする、と言う事。

大会側でも、技術力を綿密にチェックしていて、それぞれ加点式とは言え採点しているのである。

顔を売るというのは。

今の時代は、技術を見せつける、と言う事だ。

試合の確約は取れた。

そのまま、書類のやりとりをする。向こうは若干なれていない様子だったが、恐らく完全な意味で技術者畑の人間なのだろう。

別に技術者が、書類仕事を出来る必要はないのである。これでいい。

上杉に成功体験を積ませておきたい。

それと、梶原の仕事ぶりを確認。

見た所、武田の指示をうけつつも。しっかりモジュールの組み込みを行って、切り札の追加をしている様だった。

ドローン暁は。

ローターが一個食われたことを逆利用し。

設計を変えている。

今回は、手を入れてより強固にする良い機会だ。

確かにローターはブッ飛んでしまったが。

しかしながら、だからこそ、根本的なバージョンアップを行い。

今後ドローンを用いるロボコンに出す場合。

基礎能力で、多校を圧倒できるようにしたい。

時間はぎりぎりか。

いずれにしても、相手は強豪校。

幾つも種を仕込んで、やっと勝ちが見えてくる相手だ。

そして、相手側にしても。

ロボコンで二連勝して、調子に乗っている事だろう。

出鼻を挫いておくことには、向こうにとっても損は無いはずである。まあ当たり前の話で、調子に乗っただけの操縦手なんて、いざ互角以上の相手が出てきたら簡単にへし折れる。

それは向こうのやり手教師も理解している筈。

今回は、マシンスペックで互角ならどうなるか、思い知らせてやる。

数日があっと言う間に過ぎる。

その間、土方はエキシビジョンマッチの準備と並行して、次の大会に関する準備を武田と一緒に進めた。

重要な部分では自分が出て、ハードの組み立て部分で上杉と卜部に助言はしたが。

それ以上の余計な手伝いはしなかった。

その間に、東山が、少し大きめのロボコンで優勝したというニュースを見る。自分達が参戦する大会ではなかったが。圧勝だったようだ。

同じく同時期に開催されていたロボコンで、国際が優勝している。

こっちも大差。

グエンというあの操縦手、一皮剥けたらしい。

元々優秀な操縦手だったが。

一皮剥けたことで、更に手強くなった、と言う事なのだろう。

参加しない大会のことは無視。

そのまま、これから戦う相手に備えての準備を淡々と続けていく。

とはいっても、動画などはチェックする。

いずれまた、別の大会で確実にぶつかるからだ。

強豪校というのは、色々な試合にスタンダードに出てきて、それらの大会で好成績を残しているからこそである。

昔は強豪校だった所もある。

逆に、これから戦おうとしている西園寺のような所は、まだ二回優勝した程度では、強豪としては足下が緩すぎる。

向こうとしても、中堅どころとしてそこそこの成績を残しているうちのような学校との対戦は、望むところなのだろう。

「こっちはOK」

武田から連絡が来る。

頷いた。

武田が組むプログラムはそこまで癖がある訳では無いが、それでも既に色々な企業から声が掛かっている凄腕。

モジュールにしても相当な出来。

うまく組み込めて。

それを武田が確認したと言う事は、充分な仕事を梶原がやってくれたという事なのだろう。

満足すべき展開だ。

更に、ハードの方も仕上がる。

エキシビジョンマッチの会場なども準備できた。

さて、後は。

試合をするだけだ。

 

エキシビジョンマッチの会場は倉庫と、其所から隣接した草原である。倉庫と言っても、実際の倉庫では無い。

倉庫として使われている、元ビルだ。

前の戦争では多くのものが失われた。

ABC兵器こそ直撃しなかったものの、巡航ミサイルを受け。多くの被害を出し、放棄された地区も珍しく無い。

そんな地区の大半は放棄され、地ならしされて再建されたが。

一部の状態が良いビルなどは、例えば戦闘訓練用とか、或いはロボコン用などに残されている。

つまり意図的に残されている廃墟であり。

今回は、格安で使えるそんな廃墟を用いる。

内部は廃墟と言ってもしっかり手を入れられていて。

崩落などの恐れは無い。

要するにインフラが寸断されて放棄されたビルなので。

別に壊れているわけでは無いのだ。

内部に足を踏み入れて、事前にチェック。これは、相手側の顧問と、土方で行う事にする。

二人とも今回の試合には顔を出さないので。

不公平にはならないだろう。

それにしても、やはりというか。

頼りなさそうにヘラヘラ笑っていると思ったら。

実際には見る所はしっかり見ているし。

侮れる相手では無い。

所詮高校生くらいの観察眼なんてそんなものだということだ。卜部の友人は、まあ見る目がなかったという事なのだろう。

先に上がって、作戦会議をする。

今回のエキシビジョンマッチは、倉庫に見立てた廃ビルの中から物資を回収。

のっぱらを突っ切って、大会役員の所まで運ぶ、というものだ。

邪魔は入らないが、相手への邪魔は自由。

これは、前のような、猛禽のようなハンターがいない代わりに。

邪魔を主体にするか。

荷物を守って如何に素早く目的地に辿りつくかというような、駆け引きが生じてくることになる。

これは競合他社のドローンとの争いを想定しているもので。

実際にこういった形式で行われる、バトルロワイヤルに近い大会は存在する。

以前に土方も二回ほど出たことがある。

ただ、ドローン押し相撲になっては意味がなく。

あくまで必要なのは、相手に無事に荷物を届けること。

コレが出来ない場合。

相手を潰す事が出来ても。

結局はダブルノックアウトになってしまうケースもある。

ドローンを配置につかせる。

それにしても、良いドローンだ。

相手側は今回もかなり良いのを用意してきている。やはり専門校との連携は、こういう所では有利か。

今後或いは。

色々な業種を複合的に教える学校が、ロボコンでは存在感を強くしていくのかも知れない。

もしそうなると、結構厄介な話だ。

今までは技術振興のためもあって、基本的に工業高校は工業高校、農業高校は農業高校だった。

だが、連携した学校が有利になってくると。

色々複合した大規模学校が出現してくる可能性もあるし。

それが技術を独占して、却って技術の進歩を遅らせる可能性もある。

政治の話に首を突っ込めるほど余裕は無いが。

ともかく今の時代、政治闘争なんかで人類の残った時間を削っている余裕は無い。

あまりにも複合型の高校が有利になってくるようだと。

ロボコンの大会運営も、手を入れてくることだろう。

操縦手が、それぞれ指定の位置につく。

試合開始。

前回と違い、今回はうちのドローンが不意に前に出る。

相手側が驚いて、それに追従しようとするが。

瞬間、振り返ると同時に、ブレードと化したアームで、相手のドローンのローターを吹き飛ばしていた。

体勢を崩し、壁に叩き付けられる西園寺のドローン。

悠々と荷物を抱えると、大差をつけたうちのドローンが前に出る。

これぞ武田が仕込んだモジュールの仕組み。

アタッカーモードへの変更だ。

この手の試合では、相手の足を引っ張る事を想定することがあるが。

これは極端にその追及を行った形態で。

出鼻を挫く。

ローターが一個破損した程度で、現在のドローンは動けなくなる程ヤワでは無いが。

うちの改良したドローン暁は、特にローター周りを強化しており。この辺りが前回と違う。

燃料消耗も速い代わりに。

スピードも出る。

一気に荷物を抱えて、ビルを飛び出すドローン暁。

思ったよりかなり速く西園寺のドローンも来るが。

しかしながら、やはり不意に悪質タックルを喰らって機動力を削がれたことに関しては、相当なダメージがある様子で、前回のような動きのキレがない。

そのまま引き離しに掛かる。

必死に食いついてくるが、低空を飛行していくだけで、じりじりと差が広がっていく。

此処からは、余計な事をしなくても良い。

梶原がデータの分析をしながら、上杉にそう囁くようにして言う。怨霊が囁いているようにしか見えないが、まあそれでいい。

上杉は肝が据わってきている。

初撃での奇襲。

アレは、下手をすると仕掛けた方が動揺するものなのだけれども。

上杉は青ざめてこそいるものの。

別に今は動揺していることもなく。

淡々と試合を運んでいる。

それに対して、明らかに西園寺の一年生操縦手は焦っている。

ドローンの扱いには慣れている様子なのだが。

まさか彼処までのラフプレイをいきなり仕掛けられるとは思っていなかったのだろう。

ひょっとするとだが。

ドローンをいつも操作している、要するに農家などの出身者などかも知れない。

だとすれば余計に、である。

ラフプレイをいきなり食らうなんて経験初めてだろう。

農薬や肥料を撒いている農業用ドローンが、鳶に襲われたりすることはあるかも知れないけれど。

飛ばそうとしたドローンが、いきなり大鷲に襲撃されるような経験はないはずで。

ショックが大きいのが見て分かる。

それに、奇襲は想定していても。

荷物を手に入れてからの奇襲を、想定していたのだろう。

開始早々、出会い頭の奇襲は、流石に考えていなかった様子だ。

必死に色々なテクニックを使って追いつこうとしているのは、それでも流石と言わざるを得ない。

相当に訓練しているのだろう。

だが、経験差がある。

それを見せてやる。

上杉には余計な事はさせない。

淡々と最短経路を行かせる。じりじりと開いていく距離は、どうしても埋まる可能性がない。

如何に色々なテクニックを使っても。

そもそもの機体のスペックに、最初にバグが生じたのだから当然とも言える。

こういったラフプレイは、企業が使うドローンとしてはあり得ないだろう。

だが大会ではあり得る。

しかも、犯罪者が泥棒をしようとする可能性は否定出来ない。

だから、今回は相手の経験不足だった、と言う事だ。

背は低めの相手操縦手だが。

それでも武田よりは高い。

冷や汗を流しながら、必死に距離を詰めようとしているが。

こっちは最初のアドを手放さない。

程なくして、ゴール。荷物を相手に手渡す。

役員が荷物を受け取る。

笑顔は浮かべていない。

いきなりの強烈なラフプレイに、役員は少し驚いていたようだった。まあ別に驚かれてもいい。

「それでは、採点を発表する」

「……」

むっとした様子の西園寺。

わかりきっているだろうに、と言う顔だ。

だが、ここで採点を発表する事は。

とても重要である。

勿論勝負はうちの勝ちだった。

だが、僅差である。

減点の理由は、最初の苛烈なラフプレイ。

いきなりの強盗に等しい行為は、大きな減点になっていた。

とはいっても、ルール内ではあり。

そもそもラフプレイは、ドローンの大会では上等だ。

泥棒や猛禽の襲撃。

更にドローンを嫌うユーザー。

大戦の記憶で、ドローンに恐怖を覚えていて、拒否反応を示す人も多い。

だから、ドローンはタフでなければならない。

他のロボコン以上に強烈なラフプレイが飛び交う。

それがドローンを用いたロボコンというものなのだ。

今回、西園寺の操縦手には。

その洗礼を浴びて貰った事になる。

「こ、抗議しますっ!」

「却下」

西園寺の顧問と、土方、ついでに役員が三人揃って言ったので。流石に西園寺の操縦手は涙目になった。

顧問がゆっくり諭しながら、今回の負けについて丁寧に話をしていく。

顧問は、むしろこれが理想的な展開だと思っていたのかも知れない。

調子に乗っていた所を、足下を崩されると。

再起不能になる可能性がある。

自分に才能があるとか錯覚されると困る。

現時点で西園寺はマシンパワーで試合に勝っていた状態。

勿論操縦手の腕も悪くない。

いや優れているくらいだが。

しかしながら、挫折はしっかり味わっておくべきだっただろう。

片付けを土方が指示。

皆が片付けを開始する。

役員は動画を流す準備をして。

そして、土方に話をしに来た。

「ここのところ、エキシビジョンマッチでの成績が良いね。 もしもその気があるのなら、少数精鋭の大会に推薦しようか?」

「いえ、まだ経験を積む時期だと思いますので」

「そうか、分かった。 いずれにしても、暁高校は君達が思っている以上に、ロボコンの大会運営に評価されている。 それを理解しておいてほしい」

「……分かりました」

礼をして、皆を促してその場を離れる。

西園寺に対する雪辱は果たした。

後は、大会で一回くらい優勝したいが。

他の高校も、皆努力をして、毎日自分の所のロボットをパワーアップさせている。

当然得意分野も違う。

毎回勝っていくのは、かなり厳しいと言わざるを得ない。

だからこそ、国際や東山のような強豪は、凄いと周囲から褒められる訳で。

今後は、更に調子を上げていく強豪校とも競り合っていかなければならない。

他ならぬ人類のためにも。

何より、自身がもう少し楽に暮らすためにも。

振り返る。

西園寺の方は、まだ納得がいっていないようだったが。

恨まれるのは別にかまわない。

殺意全開で試合に来るくらいで良い。勿論反則を仕掛けてくるようならそれはそれでアウトだが。

ラフプレイは別にかまわない。

ロボットはラフプレイ上等なものだ。

理由は簡単。

人間が出来ない仕事。

人間には過酷で消耗が激しい仕事。

それがロボットの担当分野だからだ。

だから消耗も激しくなって良いし。

衝撃を受けることも、ダメージを受けることも、それぞれ想定しなければならないのである。

帰り道、上杉が言う。

「なんというか、随分今回は乱暴な方法を採りましたね……」

「あれは明らかになれていなかったからね。 技術は高かったけれど、経験が足りない相手を崩すには、ああいう想定しない一撃が一番なんだよ」

「武田先輩、相変わらず怖いです」

「……」

武田が呆れて口を△にするが。

上杉はいつもこうなので、別に驚かない。

電車に乗って、ハブ駅までは一緒に行く。

上杉が、昨晩の夢についてブツブツ言うので、聞き流す。

何でも武田がチェーンソーを持って部屋に押し入ってきて、逃げようとする上杉の背中を踏みつけて、チェーンソーで惨殺したそうだ。

武田がますます口を半開きに呆れている中。

怖かったと、顔を押さえる上杉。

此方としては何とも言えない。

「ホッケーマスクを被っていたら完璧でしたね……」

梶原が乗ったので。

更に土方は呆れた。

「夢だったら、男の子とデートでもしたらいいのに」

更に更に無意味な事を卜部が言ったので、極限まで土方は呆れた。

 

4、強豪の悩み

 

東山工業高校のロボコン部の全てを顧問している部活専門の教師、大文字は。東山高校の教員会議に出ていた。

勿論リモートで行われ。

最小限の時間で終わる。

今の時代、リモートでの授業は当たり前。

ノートの取り忘れなども防げるし。

議事録も簡単に残せる。

議事録については、リモートで会議を流しているだけで、勝手に取得されるソフトが存在していて。

昔は大変な苦痛だった議事録の作成も。

今ではほぼ全自動である。

東山では、大会の成績について語るが。

強豪校と呼ばれるに相応しい成績は、複数のロボコン部が全て上げている。

ああだこうだ言われる筋合いは無い。

一応大文字の所にも話が振られるが。

順調です。

それだけで終わりだ。

年長者と言うだけではなく。

何よりもあの戦争で、ずっと技術開発の最前線にいたという事もあって。

他の教師達も、大文字に対してああだこうだと文句を言うことは出来ない空気がある。

ただ、大文字はそれを利用するつもりは無い。

あくまで後継を育てたい。

企業レベルや、軍の技術者には、既に後継者がいる。

全てを授けた。

だからそっちはいい。

今はもっと若い世代に、技術そのものを継承して、更に研磨を速くしていきたいのである。

今の人類に如何に時間がないかは、大文字が一番分かっている。

戦争の中にいたからだ。

今の医療技術でも、大文字はもうそれほど長い時間現役に留まっていることは出来ないだろう。

だからこそに。

出来る間に、可能な限りの技術を残しておきたかった。

教員会議が終わったので。

部活の会議に移る。

リモート画面を切り替え、軽く部長達と話す。どうもドローン関連のロボコン部の成績が振るわないが、西園寺が猛威を振るっているからだ。

その西園寺が。

エキシビジョンマッチで、暁高校に負けた。

その話を部員達にすると。

驚きの声が上がっていた。

「また暁高校ですか」

「操縦手をメインにやってるあの二年生、そこまで優秀には思えないんですが……」

「むしろ指導に回ってる三年が手強いって聞くけど」

わいわい話している中、咳払い。

これでも実戦経験者だ。

ひな鳥たちを即座に黙らせるくらいは容易い。

「エキシビジョンマッチは何よりも地力が出る。 運も絡んでくるが、それ以上に地力がものをいう試合だ。 今、勢いがある西園寺を暁が撃墜した。 恐らく西園寺は立て直しに時間が掛かる」

ドローンを専門にしているロボコン部の部長を呼ぶ。

はいっと、威勢の良い声が帰ってきた。

「次の試合、優勝をもぎ取ってこい。 全力で機体の整備に当たれ。 それと、エキシビジョンマッチの動画も入手してきたが、これは参考にするな」

「えっと、何故ですか」

「見れば分かるが、暁は西園寺の足下を掬って勝っている。 同じ勝ち方は多分だが二度と通用しない。 もしもやるなら、足下を救いに来る事を警戒する西園寺の、更に裏を掻け」

「はい。 難しいですが、やってみます」

いずれにしてもドローンの性能を上げろ。

そう告げると、もう一度はいと威勢の良い返事。

それでよろしい。

会議を終えると。

後は自宅用の介護ロボットに肩を揉ませながら、大文字は思う。

暁高校は、ひょっとしてだが。

むしろ技術としてのロボコンよりも。

戦争の延長線上としてのロボコンにより強い適正があるのかも知れない。

戦争は才能がものをいう分野で。

無学なものが、博識なものを破る事など珍しくもない。

ため息をつくと、頭を振る。

戦争なんて、当面人類はやっている暇が無い。

だとしたら、暁高校の部員達は。

卒業後、色々苦労するのではあるまいか。

戦争で大文字は全てを失った。

酒を飲もうかと思ったが、医師に止められていることを思い出す。

ため息をつく。

次代は明るいとは、とても言えない。

 

(続