円筒形は怖くない

 

序、威圧感を与えないように

 

土方が三年になって二回目のロボコンが迫っている。二回目のロボコンは、円筒形のロボットを扱うものだ。

円筒形。

悪路に対する走破性はないものの。

現在、恐らく公共の場で、もっとも使われているロボットだろう。

AIを搭載されているものも多く。

困った人間をガイドしたり。

犯罪を防いだりする。

円筒形という形状は、嫌がる人間も多いムカデ型などの多脚型と違って、安心感を与える。

このため侮られることも多いのだが。

基本的に、相手を怖がらせないし。

嫌がらせることもない。

現在、様々な場所で円筒形のロボットは活躍しており。

公共の場で最も見かけるロボットだと判断してもかまわないだろう。

ロボコンでも、この円筒形を用いたものは多く。

今回の大会では、以下の要項が求められている。

「認知症の老人を老人ホームに帰還させる」。

以上である。

昔、AIは例えば。ファーストフードに行ってセットのメニューを買ってこい、というようなファジーな命令をこなせなかった。

決まったルール下でしか、その力を発揮できなかった。

現在AIはかなり進歩しているが。

しかしながら、軍事用AIが進歩している一方で。

ロボットを操作する事に関しては、一時期でロストテクノロジー化したものも多く。

21世紀前半の、勘違いした弱肉強食思想の蔓延により、場合によっては積極的に排除まで行われた。

現在は、復興作業が行われており。

今回参加するのも。

そんな介護用のテクノロジーの復興作業の一環である。

円筒形ロボットは何しろ基本的なので。

ロボコン部には、これに絞って大会出場してくるものさえある。

今回は激戦になる筈だ。

気をつけて行かなければならないだろう。

最後のミーティングを行う。

リモートで部活を招集。

試合内容の最終確認を行う。

梶原が、相変わらず怨霊のような様子で言う。

「やはり、人は最後は認知症に……」

「今はそういう話では無いでしょ」

「……はい。 でも、諸行無常を感じます」

「……」

困ったものだ。

梶原はなんというか、非常に後ろ向きというか。

技術者としては悪くないのだが。

良くも悪くも、非常に前向きで快楽主義丸出しの卜部と正反対の所がある。

昔だったら、「内向的」というだけで人権が無かった時代が存在し。

梶原は腕の良し悪しに関係無く、仕事が得られなかっただろう。

今は違う。

だが、いずれにしても。

前向きに話を進めて行きたいところである。

「しょぎょうむっじょは良いとして、問題はAIだね。 既存のものに何処まで改良を加えるか……」

「今更機能を追加するんですか?」

武田に、卜部が聞くが。

武田は首を横に振る。

「いや、もうデバッグ間に合わないし、現時点までで準備したものでいくけれど。 他のチームが気になってさ」

「この間の可愛い子、徳川ちゃん。 あの子は出てこないんでしょう? なら大丈夫でしょ」

「甘い……」

上杉がげんなりした様子で言う。

残念ながら。

土方も同意見だ。

はっきりいって甘い考えにも程がある。

そもそも円筒形ロボットは、現在もっとも需要が見込まれている。老人ホームなどでは一線級で活躍している状態だ。

昔は円形にデフォルメした多脚型が活躍していたのだが。どれだけデフォルメしても、足が一杯あると嫌だという老人がどうしても出た。

機能が上であっても、円筒形がいいという老人は少なくなかった。

老人ホームで重要なのは、如何にストレスを与えないか、である。

元々老人は痴呆で暴れる事もあり。そういうときに、如何に柔らかく暴力を受け止めるかという課題もある。

介護系の仕事が、この世の終わりのごとく語られた時期があったが。

それは老人介護が、人間が行うにはきつすぎるという現実が存在しているから、なのである。

古い時代には、老人介護で人生を棒に振ってしまう人もいたという現実もある。

そこで現在は円筒形ロボットがほぼ変わってくれていて。

人的リソースの無駄な消費は回避されるようになった。

そもそもあらゆる場面で人手が足りないこの状況。

負荷が大きい仕事をロボットに回すのは当たり前の話である。

事故も起きなくはなってきているが。

それでも、性能を更に上げるのは重要な事だ。

故にロボコンも力を入れられているし。

企業でも開発に熱を入れている。

現在有名どころでも、円筒形ロボットは二十以上が知られていて、ブランドにさえなっている。

富豪の自宅療養などに使われる最高級品になると、高級車を買えるような値段のものも存在する。

なおうちの国から輸出されるものも多く。

各地の戦傷病院や老人ホームなどで、一線級にて活躍をしているそうだ。

そんな大事なテクノロジーである。

高校時代からテクノロジーに触れている人材の需要は高い。

故に専門に狙って来るロボコン部も多く。

そしてだからこそ、強敵もいる。

いや、たくさんいる。

強豪は集まる、というべきか。

もっとも将来があり稼げる可能性が高い分野だからである。

「卜部さんのとこのは中学の時、殆どロボット動けなかったんでしょ? だとすると、相手の強さも母集団の強力さも分からなかったでしょ」

「はあ、まあ」

「円筒形は他とレベルも違うし住んでいる場所も違うと思って。 人型は更に難しいけれど」

「そんなにですかぁ?」

聞き返してくる声にまで艶があるが。まあそれについては別にどうでも良い。

そもそもだ。

最初に土方が円筒形のロボットのロボコンを選ばなかったのも。

強敵が目白押しであり。いきなりやりあうのは厳しいと判断したからである。

一年のうち、卜部は経験があるにはあるが、豊富とは言い難い状態だし。梶原だって其所まで有能なわけじゃない。また、上杉は一年間部活をやっているわけだから、円筒形ロボットのジャンルが如何に厳しいかは分かっているとしても。

一年生に、その厳しさを教えるのは難しいだろう。

高校になると、中学に比べて部活のレベルが跳ね上がるのは、昔と同じだ。

昔は体育会系の部活などで、殺人スレスレ、或いは生徒を自殺に追い込むような指導を平然とし。

学問に部活を優先させ。

挙げ句貴重な三年間を棒に振らせる、というケースが多発していたらしいが。

幸い今はそんな事もなくなっている。

その代わり、レベルが上がることそのものは事実で。

何しろ企業からのスカウトもかなり真剣に見に来るので。皆も必死。

更に、誰もが知っているのだ。

このままだと、地球に未来がないことを。

人材育成に国が全力投球しているのもそれが故で。

昔いた異常な金持ちが存在しなくなっている今。

誰もが、人類のテクノロジーを引き上げなければならないのだ。

「先進国」はもう、人類の自然繁殖を諦めているし。

いわゆる後進国だった国の多くでは、そもそも人間が消滅さえしている。

あまりもたついている暇は無い。

昔の人間は、自分が生きている間くらいは、人類はもつだろうと楽観的に考えていたようだが。

今の人間は。

間近に滅亡を見せられて。

真綿で喉を絞められているのである。

競争が自然に激化するのも当然で。

競争に敗れたからと言って排除していたら、人材が足りなくなるのも昔とは事情が違うとも言える。

上杉が無言で、今回の参加校を出してくる。

今回は参加校51。

土方が知っている強豪校も幾つかある。

中には優勝常連の所もある。

東京の工業高校。

国際工業高校だ。

海外から留学生も来る、テクノロジーの総本山と言われる工業高校であり、実力は間違いなく日本でトップ。

大会に出れば優勝をかっさらうのがザラ。最悪でも四位圏内につけて来るという、出てくるだけでプレッシャーになる相手である。

当然ながら此処のロボコン部は複数存在しているが。

見た感じ、その中の一つ。

円筒形ロボットに特化した所。

早い話が一番手強い所が出てくるようだった。

優勝は無理かな。

土方は軽く諦めかけるが。

それは負け犬根性というものだ。

まずやってみなければわからない。

やってみてどうしようもないなら仕方が無いけれども。

そもそも、半数は動かない、というのがロボコンである。高校の段階でそうだ。

流石に国際工業高校のロボットが動かない、というのはあり得ないだろうが。

それでも、うちのは動かせる自信がある。

「あー、東山が来てるよ……」

「東山?」

武田がぼやく。

梶原がぼんやりした様子で聞いてくるが。

武田が教えてやる。

「東山工業高校。 去年にすごいのが入って、ロボコンが一気に強くなった学校」

「去年から」

「それまではボンクラだったんだけれどね。 円筒形については、あの国際工業高校を一度だけだけど破ってる」

「うえっ……」

ちなみに去年入ったのは生徒じゃない。

戦争の時に軍にいた技術者で。

技術継承の一環として、部活の顧問を頼まれたのである。

軍の技術は機密扱いされる事も多いが、一方でロストテクノロジー化してしまう事も珍しく無い。

そこで基幹技術を引き抜いた後。

それ以外の技術は民間に継承し、錬磨して更に向上させるという手を採ることが多く。

そういった技術者が、学校の顧問として赴任してくる事があるのだ。

東山のロボコン部顧問はそういう老技術者で。

戦争中はドローンに関する権威だったらしい。

あまりにあまった技術を惜しみなく後続の子供達に流し込んでいるわけで。

それはロボコン部も強くなる。

ちなみに土方達暁高校の場合、顧問はいるだけである。

実は、それはそれでありがたい。

顧問がいるだけの場合、手続きとかは全部自分でやらなければならないが。

その手続きの履歴とかは全て大会側が保存している。

要するに作業履歴を見て、企業側も判断してくれるわけで。

就職にも有利になる、というわけだ。

現在、無意味なビジネスマナーだとか体育会系上下関係とかは何の役にも立たない。技術を持っていて、それを生かせるかだけが重要だ。

何の役にも立たない職場ごとのローカルルールだの大量に氾濫していたビジネス書に書かれていた謎マナーだのは既に過去の遺物。

下手すると、会社には一度も顔を出さないことも珍しく無くなった今。

テクノロジーを如何に錬磨するか、

それだけが、部活に求められている。

運動部の衰退もそれが理由で。

逆に言うと、土方には色々有利であるとも言えるのだ。

武田が咳払い。

「部長。 今回、操作役は上杉に任せようよ」

公式の場だから部長呼ばわりだ。

まあ、それは考えていた。

現時点で三年。

いつまでも土方が最前線に出るのも何だろう。

武田はまだプログラムをメインにしているから、大会にはいかなければならないだろうが。

次期部長の上杉に関しては、もう経験をガリガリ積んでいく段階である。

「分かった、それならそう手続きする。 大丈夫?」

「……はい。 頑張ってみます」

泣きそうな顔をしている上杉。

ちょっとプレッシャーが大きいか。

武田に目配せ。

相性最悪の二人だが。

上杉が一方的に武田を怖がっているだけで。

別に武田は上杉を嫌っていない。

それに昔と違って、部室で顔をつきあわせているわけでは無い。今だってリモートで話をしているのだ。

今回の大会は、規模的に二日に別れるかも知れないが。

二日くらいなら、別にかまわないだろう。

それに規模的に確実にトーナメントになる。国際や東山に当たったら、一日目でリタイアの可能性もある。

敗者復活戦も、大きめの大会になると、一日目から始める。

つまりは、そういうことだ。

しかも有望な高校同士をいきなりぶつけるようなトーナメントは、最近の大会ではまず組まれない。

トーナメントの左右に国際と東山が別れるのはほぼ確定で。

それだけどちらかに当たる可能性も高くなる。

勿論、他の高校もレベルが高いのだ。

まずは緒戦突破が勝負になるだろう。

「では武田さん。 ギリギリまで調整をよろしく」

「らじゃ」

公式の場だから、敢えてさんづけ。

武田も応じると、通信を切る。早速作業に取りかかる、というわけだ。

プログラムを直前まで、極限までデバッグする。

そういう事である。

土方も手元にある円筒形のロボットを、上杉の家に郵送してしまうつもりだ。

直前まで動かして貰って。

それで慣れて貰う。

今回の大会は、二度目にして、かなり厳しい状況になるが。

まあそれも仕方があるまい。

今後は他の学校も慣れてくる。

もっともっと厳しい相手だって出てくる。

だから、早い目に厳しい相手とやり合っておいた方が良い。

更に社会に出れば、もっと技術を上げていかなければならないのだ。

今の時代、技術者が見捨てられることはないけれど。

もたついていると、どんどん後続に置いて行かれることになる。

昔と違って労働基準法がガチガチに整備され。

金持ちもそれほど金持ちでは無い現実。

技術が伸びないと言う事は、捨てられもしないが、後ろの世代の人間に並ばれることを意味する。

それはストレスにもなる。

嫌な思いをしないためにも。

今は色々と、苦労をしておいた方が良いのだ。

そして昔と違って、苦労は理不尽では無いし。

報われもする。

それならば、苦労をする価値はある。

部活を終えると、郵送業者を呼ぶ。

今では、郵送もロボットが全自動でやってくれる。即座に上杉の家に、今動かしている円筒形のロボットを送ってしまう。

此奴もアップデートを繰り返して、何回も大会に出てきたが。

まだ優勝は一度も出来ていない。

今度も厳しそうだが。

それでも、何とかやってやりたい。

気が弱い上杉が何処までやれるかだが。

其所を見守るのも。

部長の仕事、というやつだった。

 

1、強豪集まる

 

最近はずっと大会と言えば自分が出ていたからか、モニタで大会を見るのはしばらくぶりである。

一年の末くらいからだろうか。

別にエースだったわけでもなんでもない。

単に先輩達が、そこまで実力がなかったし、やる気もなかっただけ。中にはロボコン部での事務作業実績で、別業種に就職していった先輩もいた。

まあ事務作業に関してはきちんとやってくれていたし。

当時から武田とのコンビで頑張って来たので。

今はあうんの呼吸で動ける。

それはそれで、良いことなのかも知れない。

さて、大会の様子を見る。

国際の方は、操縦手にやたらタッパが大きいのが来ている。データを見ると、フィンランドからの留学生だ。

一時期福祉国家と言われたフィンランドだが。

実態は老人介護どころか老人放置というのが知られてから、その言葉で呼ばれる事はなくなった。

戦後になってから、汚名を払拭すべしと介護事業に力を入れ。

今では介護用ロボットでは、日本ほどのシェアはないにしても、かなりの上位に食い込む国になっている。

日本からフィンランドに交換留学生も行っている筈で。

多分そういう精鋭だろう。

日本にフィンランドから送り込んできているのだ。

向こうでも好成績を上げている子に違いない。

なおプログラム関係は、地味目の普通の子だが。

何しろ強豪校。

実力は武田でも油断できない筈である。

東山は。

何だか中性的な女の子だ。

髪はベリーショートで、昔だったら陸上部に出ていそうなくらいに肌も焼いている。

ロボコンにあんな子が出てくるのかと、ちょっと感心した。

プログラマーは男子で。

眼鏡をくいくいしそうなクールな長身の男子である。

まあ、ツラに興味は無い。

実力に興味がある。

今までの大会、国際も東山も生徒は何人か見て来た。挨拶もした。

だがあの四人、見た事がない。

多分今年に入ってから、部員の世代交代をしてきた、と言う事なのだろう。

大会にはだいたい二人くらいしか出てこないのが普通であり。大会の種類によっては二人と規定が決まっている所もある。

部活の人数が五人までと決められていることを考えると。

まあ、二月の今。

大会で血の入れ替えを計るのも、無理はないのかも知れなかった。

さて、ポテチを片手に、自分の所の様子を見る。

何度かバージョンアップした円筒形のロボ。円筒暁。

今暁高校の所有するロボコン用ロボットの一機。

その中のエースだ。

もう一機くらい円筒形を組みたいのだが、流石にそう簡単にポンポンキットを買う予算はおりない。

円筒形のがあるならそれをどうにかしてカスタマイズしろ。

そういう厳しい声も掛かるのだ。

資源の枯渇が見えてきている今。

それもまた、仕方が無い事なのだろう。

さて、もう一度大会の内容を確認する。

今回の大会でロボットに求められるのは。

認知症の老人を老人ホームに帰還させる。

以上である。

ロールプレイ用に、試合ごとに決まった言動を取る大会の役員が出るようになっている。認知症になった演技をしなければならないので、役員も大変だが。

それに対応するロボットも大変だ。

実際問題、今まで円筒形ロボットは、耐久性を要求されることが多かった。

円筒形ロボットは安心感を与えると同時に相手に侮られる。

警備用などを円筒形にすると、攻撃を不審者や犯罪者、気が大きくなった者などから加えられる事が多く。

いずれにしても、頑強さは必須なのである。

円筒暁も、何度かの試合で蹴られ殴られして来た。

対策はしてあるが。

いずれにしても円筒形は、殴られたり蹴られたりした程度で、びくともしてはならないのである。

可哀想だが。

さて、選手が入場した後に。

それぞれのロボットが、動くかどうか、判定が為される。

此処が一番緊張する。

高校の大会では、大体稼働率五割。

それについては、強豪校が出る円筒形ロボコンの大会でも変わらない。

なぜなら、出るのは強豪校だけでは無いからだ。

不合格校が読み上げられていく。

聞いた事もない高校も多かったが。

中には、何度か対戦した高校もあった。

ああ。今回やらかしたか。

そう思いながら、聞く。

二年前までは、暁高校も。ああやって呼ばれる常連だったのである。

土方と武田が必死に立て直して。

今では試合に参加できる常連になったが。

半分のロボットは、ロボコンでそもそも動く事が出来ない。

中学の頃はもっと動けない比率が高い。

それが厳しい現実だ。

そういう動けないロボットを出したロボコン部の人間は、当然内申も下がることになるのである。

昔のようにのたれ死にすることはないにしても。

厳しいのは、事実だった。

「……以上の高校は、不合格とする。 技術を磨いて、次の大会には参加できるように頑張りなさい」

今回の大会の幹事が声を掛けると、項垂れる生徒も多い。

七割ほどは其所で帰ることを選択するが。

残りは控え室で、大会を観戦していく。

これは強豪校の試合を見て、参考にするためだ。

勿論ヤジの類は飛ばす事が出来ない。

試合は静かに。

それが、現在の大会の鉄則である。

応援団など存在していない。

ヤジも飛ばないし、もっとも静かな精神状態で試合に臨むことが出来る。

ベストな状態で試合に出られる。

それこそが。

現在、技術錬磨が最重要課題になっている世界での。鉄則となっていた。

「それではトーナメント表を発表します」

さて、来た。

モニタにかぶりつく。

ここからが本番である。

今回、脱落したのは24校。残り27校のうち、好成績を上げている高校が離れた位置に配置された後、残りがランダムにシャッフルされる。

これが本戦の基本。

敗者復活戦は、強豪だろうが何だろうが関係無く、トーナメントに組み込まれ。

また三位四位の決定戦もまた、別個に行われる。

まずは国際と東山の配置。AブロックBブロックのそれぞれ隅だ。

最大五試合を勝ち抜けば決勝までいけるが。

逆に言うと、途中で国際と東山のどちらかにぶつかる事になる。

それにしても、一年で半ばシード校の地位を確立するというのは。

東山も、中々に恐るべきである。

さて、うちは。

思わずうげっと呻く。

二回戦で東山とぶつかる事になる。

ああ、今回は二回戦落ちか。

いや、敗者復活戦の可能性もあるし。

それにまだ負けた訳では無い。

今回は武田が気合いを入れてプログラムを最適化しているし。円筒暁だって、最大限まで調整をしている。

負けるものか。

気合いを入れて。

第一試合の様子を見守った。

 

介護のシミュレーションと言う事もあり、それぞれの試合は防音の別室で行われる。まずは徘徊老人を見つけるところからである。

立体映像の中に、右往左往している老人がいる。立体映像といっても、一定行動をするように仕込まれたロボットが内部にいるので、半立体映像と言うべきか。いずれにしても、中身がある。それも人間と誤認するように仕組まれた結構高いロボットが入っている。

当然ロボットも中身を認識するので、此処が最初の関門だ。

第一試合は国際と、北海道の工業高校。

北海道の工業高校が最初に動く。

殆ど数秒の差で、国際も動いた。

多数行き交う人々の中。

徘徊している老人に辿りつくと、声を掛ける。最初に声を掛けたのは、北海道の札幌工業高校。

なお札幌は四十年前に大陸から飛んできた大陸間誘導弾で木っ端みじんになったため、この高校は一度再建された歴史がある。

徘徊地方老人役の役員に話しかけつつ、パーソナルデータを取得。

今回の試合のために、およそ50000名の老人のデータが擬似的に作られている。

データベースから、適合者を発見し。

更には、症状などもデータベースから割り出す。

これらをセンサと言動、それに暴れたり喚いたりする徘徊老人から、割り出さなければならない。

必ずしも大人しい徘徊老人ばかりでは無い。

これが現実である。

先に特定をしたのは、以外にも札幌工業高校。

するすると車いすを展開すると、暴れる相手を座らせ、優しく声を掛けながら、人混みから運び出す。

同時に救急車に通報。

引き渡しまでを完了した。

此処までが試合内容である。

厳しい採点が行われている。

なお別室で、第二試合も既に開始されている。

国際が出遅れたなと思いながら、第二試合の様子も確認。

こちらはやはりというべきか。

第一試合よりかなりレベルが低い。

円筒形のロボットが、なだめながら連れていこうとしたりして。其所でかなり厳しい減点を喰らったりしていた。

徘徊老人を無理に連れていこうとすると、更に暴れたりするものなのである。

此処は車いすに座らせたり、或いはその場に救急車を呼んだりといった手段が必要になる。

研究が足りていないなと、はむはむポテチを食べる。

そうこうするうちに、試合結果が出た。

第一試合は国際の勝ちだ。

だが、札幌工業高校も僅差。

かなりの高得点を出している。

敗者復活戦で当たったら厳しい事になりそうだし。

何よりあの国際相手に、かなり善戦していた。

点数の内訳は最後に発表されるので何とも言えないが。試合内容を巻き戻しする限り、とにかく国際側は対応が柔らかい。

老人が暴れないように丁寧に声を掛けながら救急車を呼び。駆けつけた救急隊員にスムーズに引き継ぎを行っている。

大した物だ。

この辺りは、流石に強豪校。

ノウハウの蓄積が違うのだろう。

部活が複数あっても、データの共有は許されているし。

何より円筒形ロボット専門の部があって、顧問もベテランだとしたら。相当な経験を蓄積しているはず。

出来れば当たりたくないなあと思った。

第三試合が開始される。

ほどなく、第四試合も。

こういう試合では、両者失格の、いわゆるダブルノックアウトもある。

押し相撲がメインだった頃のロボコンでも存在していたけれど。

現在でも、動くには動いたけれど、要件を満たせなかったロボットが両方だった場合には、容赦の無いダブルノックアウトの判定が取られる。

試合が淡々と進められていく中。

第五試合が、そんなダブルノックアウトになる。

そしてうちの試合が、順番で廻って来た。

上杉は見た感じ、かなり落ち着いている。

円筒暁を動かして、スムーズに人混みの中に移動させていく。人混みで行き交うロボットを苦にもせず、するすると避けているのは流石だ。

勿論回避プログラムを組んだのは武田だが。

操作を基本的にしているのは上杉だ。

これは、武田のプログラムを、梶原と卜部に受け継げれば。

或いは、先が見えるかも知れない。

技術を継承すること。

錬磨すること。

人類が生き残るにはそれしかない。

今、誰もが無駄な人材などでは無い。

テクノロジーが人類の宝である事を漸く認識出来たのだ。今の時代の人間は。

それは誰もが学校で習う。

だからこそ、テクノロジーを錬磨する。

テクノロジーを研磨する。

そうすることで、やっと人類は。

滅亡の未来から逃れられる。

「目標に到達」

「……」

武田はプログラムの様子を見ている。

此処からだ。

上杉の言葉も、独り言に近い。

実際、そのような報告、する必要などないのだから。

老人役の役員のバイタルを確認。話しかけながら、同時に救急車を呼ぶ。

喚きながら、酒瓶を振り回す老人役。

かなり気合いが入った痴呆の再現だ。

勘違いされやすいが、元が温厚だった人物も、年老いると獰猛になるケースが散見されるのである。

近年色々研究が進んできて。

それらの緩和策も分かるようにはなってきているのだが。

それでも限界がある。

相手をなだめ。更に酒瓶を表面で受け止めつつ、きゅっとロボットアームで抑えて柔らかく制圧。

喚く暴れるのを防ぎつつ、救急車の到着を待つ。

対するのは、埼玉の工業高校だが。

こっちは駄目だな。

痴呆老人に対して、押し問答を繰り返して、相手を怒らせそうになっている。

慌ててプログラムを見直している相手側のプログラマーの困惑ぶりも、かなりの減点対象になっている。

第一試合は貰った。

土方は、ポテチの袋に手を突っ込み。

空になっているのに気付いて、あーと声を上げていた。

ほどなく、救急車が到着。

これもロボットに立体映像を貼り付けたものなのだけれど。

かなり本格的だ。

ロボコンとはいえ、実践を重視しているだけのことはある。

本当に、未来の人材を育成するための大会なのだ。

参加できているだけ、良かったと想わなければならないなと、つくづく感じた。

救急車に、制圧した老人を引き渡しておしまい。

満点とは言わないが。

怪我もさせていないし。

老人に優しい言葉を掛けながら、暴れないようにも押さえ込んでいたので。

それほど酷い減点はされていないはずだ。

続けて、次の試合を見る。

東山はかなり独特な形状の円筒形を持ち込んでいる。

なんだあれ。

今までの試合でも、あんなのは見た事がない。

さっと大会の参加要項を確認するが、一応ギリギリセーフの範囲内か。

なんというか。円筒形ではあるのだが。外側に柔らかいリングが着いていて。その中に円筒形のロボットが入っている。

二重の構造である。

そして、ここからが凄かった。

老人を見つけると、遠くからバイタルなどを確認。当人と特定すると、近付く前から救急車を要請。

移動する前に音も無く近付くと。

リングを反転させ、老人を捕獲したのである。

リングは円形で柔らかく、相手を傷つける事もない。

勿論老人はぎゃーぎゃーわめくが。

なんと音声中和磁場を展開。

声が出ないと思ったのか、老人役の役員は、黙り込んでしまった。

驚いた。

音声中和磁場が実用化していることは分かっていた。更には、騒ぐ相手にはこれが効果的な事も立証されていると知っていた。

実際、わめき散らす人間は、自分の声で更に興奮するものなのだが。

それが消えてしまうと、確かに出鼻は挫かれる。

そうこうするうちに救急車が来て、患者が引き渡される。

恐ろしい程に、鮮やかだった。

これは勝ち目がないぞ。

思わずぼやいてしまう。

相手は最先端テクノロジーを使って来ている。勿論今後はこっちだって導入したいけれども。

あれはうちの実績では、予算的に購入を許して貰えないだろう。

大会の役員も騒いでいる様子だ。

まさかあんなものを繰り出してくるとは、予想していなかったのか。

まあ、それぞれの学校にどんな備品が卸されているかまで、ロボコンの役員は把握していないだろうが。

それにしてもアレは反則だ。

うちは、先の試合に勝利。その結果は出たが。

次の試合は東山だ。

あからさまに動揺するだろう上杉が心配である。

二人の様子を確認。

一応、大丈夫そうだけれども。

上杉はやっぱり、露骨に青ざめていた。

此方がラジコンを使っていたら。

相手が軍事用ドローンを繰り出してきた。

それくらいの力の差が目の前にあるのだ。

もし勝ち目があるとしたら。

武田。

武田の方を見ると、口を押さえて考え込んでいる。あれは負け犬の目じゃない。武田を信じて、任せるか。

ほどなくして、武田が上杉に耳打ち。

背がかなり違うから、精一杯背伸びしての耳打ちだったけれど。

上杉は、きちんと聞いた。

それで、頷く。

納得出来たかはわからないけれど。

絶望はしなかったはずだ。

ならば、恐らく勝ち目はある。

国際は。

あれはちょっと勝てないと思う。円筒形ロボットのロボコンは、ムカデ型以上に消耗が激しい。

瓦礫の中を通るのでは無い。

暴れる人間を相手にするのだ。

あの東山の円筒形。

恐らく、消耗を最小限に抑えること。

ダメージを抑えつつ、最高効率の得点を稼ぐことを想定している。

それは、国際のロボットが消耗することを前提にした戦略だ。

それに対して、国際は消耗を大前提に、頑強極まりないものを作ってきているはず。

だから、初手から飛ばさない。

堅牢な要塞だからである。

しばし黙り込む。

現場に出ていないから、こういう話は直接上杉にはできない。でも、武田は話してくれるはず。

東山は長期戦を想定して、敢えて最高点を狙ってきていない。

其所につけいる隙が生じてくるはずだ。

 

2、番狂わせ

 

東山高校のロボコン部は三つあるが、その全ての顧問をしているのは大文字佐田。現在71歳のロボット技術者である。

71歳と言うと老人ホームに入っていてもおかしくない年だが。

長年続き、日本も散々巻き込まれた紛争に。日本軍が自衛隊と呼ばれていた頃から所属し続け。

ロボット関係のテクノロジー向上に多大な功績を残し。

日本という国を守りぬいた立役者の一人である。

軍にクリティカルなテクノロジーは引き渡し。

現在は未来の技術者を育てるため、部活の顧問をしているが。

今回、敢えて抜け道を通るような策を部員達に授けたのは。

こういう逆転の発想こそ。

道を開く事があると、教えたかったからだ。

現在主力である円筒形ロボットを扱うロボコン部。一線級の実力を持つのは此処だけだが、現時点での成績は凄まじい。

別に優秀な子がいたわけでは無い。

優秀に育てたのだ。

育てる。

その発想が、大文字が幼い頃には。

社会から失われていた。

何処の企業も、「完璧な奴隷」を要求し、人材の育成などには一切の興味をなくしていた。

教育に金など掛けたくない。

完璧に働いて、給料が上がらない完璧なタイミングで死んでくれる奴隷。

それが金持ち達の要求だった。

そんな事をしている金持ち達の能力は推して知るべし。

やがて世界中が滅茶苦茶になり。

大戦が始まった。

人材育成を怠った各国の軍は醜態をさらし続け。

ヒステリックに喚くだけの金持ちは、何一つ出来なかった。

やがて金持ち達は、戦場に引きずり出された。

優秀だというならお前達が何とかしてみろ。

結果は、言う間でも無いだろう。

かくして格差はなくなった。

大文字は地獄を見てきた人間だ。

人間の愚劣さも。

だからこそ、後続には苦労させたくない。

馬鹿みたいに二時間も三時間も掛けて通勤し、体をめちゃくちゃに壊しながら働いて。得られるのは雀の涙の給料。勿論子孫も残せない。結婚という行為にリスクが高すぎたし、男女の間に意図的に煽られて作られた壁が大きすぎたからだ。

そんな社会が、大文字の若い頃は当たり前だった。

拗らせた馬鹿が彼方此方で暴れ回り。

何もかもを滅茶苦茶にしていた。

そんな轍を踏ませないためにも。

大文字はテクノロジーを。

人間が唯一誇れる英知を。

後続に伝えたかったのである。

第一試合は満足できる内容だった。まあ相手がろくでもないロボットだったのだから、当然だろう。それに、そもそも試合内容にもよるのだが。今回は、相手側の動きが見えない試合だった。

顧問の立場からは試合の観戦を同時に出来たが。

選手達はそれぞれが一人ずつ頑張るしかない状態だ。

だから、力を十全に発揮できたとも言える。

痴呆老人についての資料を先に見せておいて。

どんな風に行動するか、慣れさせておいたこともある。

生徒達は、スムーズに緒戦に勝った。

さて、次の試合。

ふむと、鼻を鳴らす。

スタンダードなロボットだが、プログラムが非常に綺麗だ。それに小さい方の生徒、何度か見たことがある。

思い出す。

暁高校の。確かプログラム担当だ。

あれは手強いな。そう判断した大文字は、部員に連絡を入れる。

暁高校は、去年くらいから成績が良くなって来た学校だ。強豪とは言えないが、それでもそこそこやるようになってきた。

しかも大会に出る度に成績が上がってきている。

油断できる相手では無い。

「次の試合も手強い相手だ。 気を付けろ」

「上がって来たのは中堅所の暁高校ですよね。 そこまで注意すべき相手ですか?」

「油断して格下の相手に負ける事はいくらでもある。 今のお前達がそうなりかけている」

「……失礼しました」

敢えて格下、という言葉を使ったが。

相手は円筒形のロボットを改良しながら錬磨してきているのだろう。

あれは手強い。

格下だが油断するな。

そういう言葉を敢えて使うことによって、不安感を払拭する意味もあった。

さて、どうなるか。

国際の第二試合は圧勝。

流石に強い。

32校に満たないから、彼方此方で試合がスキップされたり。両者共に失格する試合も出てはいるが。

敗者復活戦もあるので、黙々淡々と試合は重ねられている。

スタッフに来ている痴呆老人役も、皆ノリノリで演技をしてくれているし。

事故が起きないように、万全に対策もされている。

戦争前に比べて。

今は確実にいい。

21世紀前半だったら、こういった試合は実現できなかっただろうし。

何よりも、貧富の格差があのままだったら。

もう地球は、滅亡に片足を突っ込んでいたか。それとも、文明は崩壊してしまっていただろう。

東山高校。

呼び出しが上がる。

この手のトーナメントは、試合のスパンがどんどん短くなる。

今はまだ休憩の余裕があるが、その内それもなくなる。

ロボットの耐久テストも兼ねているからだ。

総当たり戦だと、満遍なく試合が組まれるのだが。

トーナメントの場合はそうもいかない。

万全の状態で出ていったチームメイト達を見て。

大文字は不安をどうしても隠せなかった。

そしてまもなく、その不安は適中する。

試合が開始されると同時に。

暁高校は、いきなり不自然なほどの猛ダッシュを掛けたのである。

円筒形ロボットが、加速して、人混みをするりと気持ち悪いくらい滑らかに抜けたのだった。

相当に洗練された操縦技術。

三年の部長か。

いや、違う。

去年暴れていたのとは違う奴だ。

だがあの操縦技術、相当に気合いが入っている。この試合に全力を投入している感触だ。

それに対して、東山の生徒は、マイペースに黙々とこなしている。

少し悩んだが、そのまま見守る。

敵は、ロボットの負担を無視して、短期決戦に出た。

此方は勝つつもりで、ロボットの負担を小さくするつもりで動いている。

暁高校の円筒形ロボットが、接触事故も起こさず、速攻で痴呆老人役に接触。特定作業も開始。

カタカタとトラブル対応の補助がキーボードを叩いているが。

その場でプログラムを書き換えている、と言う事はあるまい。

何をしているかはよく分からないが。

いずれにしても、あまりされて面白くない事をされていることは確実だと見て良いだろう。

相手側、特定完了。

早い。

救急車を呼ぶまで、丁寧に相手の話を聞き流している。

その会話術も大したものである。

今回のロボコンは、痴呆老人への対応そのものは、オートで行う事が要求されている。その技術がメインだからである。

操作はあくまで人混みなどの回避など。

一種のドローンに近い。

東山高校の方は、丁寧丁寧に作業をしていて、ロボットの負担を減らしつつ、失点を下げているのだが。

逆に言うと、最高点は狙っていない。

相手は違う。

今回の試合で、最高点を出すつもりだ。

相手の方が、救急車も速い。

すっと痴呆老人を寝かせて、救急車に乗る手助けをする。

作業は大変滑らかだったが。

アレはロボットに、相当に無理な負担を掛けているとみた。

舌打ちする。

なるほど、此処で勝てば決勝までいける、という判断か。その分のロボットの負担はもう度外視。

東山と国際以外のチームは眼中に無しと。

面白いじゃないか。

大文字は舌なめずりする。

これくらい出来る相手が出てこないと、面白くない。

ほどなく、東山側のロボットも、一連の作業を終える。

此方は失点は無いが。

明確に遅い。

さて、どうなるか。

勝敗が告げられる。

イーブン、であった。

愕然とする東山の生徒達。

忠告してやったのに。それなのに、気を付けていないからそうなる。まさか、国際以外でまともにやりあってくるチームがいるとは思っていなかったのだろう。

さっき忠告したのに。

まんま、その通りの展開になってしまった。

ため息をつくと、すっかり年老いた体に鞭打って、選手の控え室に出向く。

イーブンになった場合、外部から有識者を呼んで、調査の結果試合の結果を出す事になる。

ダブルノックアウトのようなイーブンなら論外なのだが。

今回は、どっちも高レベルという事で。

テクノロジー振興を目的に大会が行われている以上。

良いスキルを持った技術者には、粉を掛けたいからである。

さっそくテレビ会議で、有識者のやりとりが行われているようだ。

これはまずい。

気合いの入り方が、暁高校の方が違ったからだ。

ロボットを潰してでも、試合に勝とうという気迫が出ていて。

その分、全力での救護活動を行ってもいた。

と言う事は。

結論も見えていた。

「協議の結果、暁高校の勝ち上がりとします」

番狂わせ発生。

わっと喚声が上がったので、生徒達に敗者復活戦に備えろと告げる。

呆然としている生徒達。

今年のデビュー戦での、いきなりのアクシデント。

困惑して、泣き出す者もいたが。

すぐに丁寧に言い聞かせる。

「相手はこの試合に全力を投入してきた。 最初から優勝するつもりはないと判断して良いだろう。 此方は淡々とやっていく。 五位の座は貰うぞ」

「……はい」

「整備を行っておけ。 敗者復活戦に出てくるチームは何処も敵じゃない。 文字通り蹴散らしてやれ」

それくらい荒々しく告げてやった方が良い。

東山は強豪だ。

だが、それは不敗を意味するわけでは無い。

一度くらい、負けておいた方が良い。

そしてその負けは。

できるだけ早いうちに。

可能な限り屈辱的に、味わった方が良いのは自明の理だ。

完勝ばかり重ねても、どうせろくなことにならない。

負けてもいいうちに、しっかり負けておくのも立派な経験になる。

暁高校は、あの様子だと多分四位か三位という所だろう。準決勝まではもつと見た。

まあいい。

実力内で、最大限の所まで行くのを選ぶなら、それはそれでかまわない。

こっちは優勝を潰されたが。

その分更に強くなって、次の大会では他の学校同様に蹴散らしてくれる。

それにしても、この年になって、血が騒ぐというのもまた面白い。

別の試合で。

また対戦したいものだと、大文字は思った。

 

だらだらに冷や汗を掻いている上杉。

黙々とパソコンを叩いている武田。

モニタ越しにそれを見ていて、大きく土方は息をついていた。

武田は想定通りに動いてくれた。

今回、東山と国際がでている以上、優勝は無理。

だったら、どっちかには勝つ。

多少せこい戦略ではあるが。

それでもこっちは就職が掛かっている。

更に、強豪校である東山を下したとなれば。

今後、予算の増強にも弾みがつく、というものだ。

「あれー、土方先輩」

同じように試合を見ていた卜部が声を掛けて来る。

何と応えると。

相変わらず無駄に色気を振りまきながら、卜部は言う。

「なんかうち無理矢理勝ちませんでした? ロボットちゃん、ええと円筒暁でしたっけ、もちそうにないんですけどお」

「もたないでしょうね」

「ええー」

「東山に勝つために全力投球した。 東山は、決勝まで満遍なく勝つために、基本的に全ての試合で80パーセントの力を出せるように試合をしていた。 その隙を突く事でしか、勝ち目は無かったからね」

武田もそれは理解していたはずだ。

だから、多分だが。

プログラムを叩き込んで、リミッター解除した。

ただしリミッターというのは、機械が壊れないように出力を抑えるためにつけているのである。

それを外すと言う事は、試合中の消耗が激しくなる、という事を意味もしている。

「優勝を狙わないんですかあ」

「……無理でしょ」

ぼそりと梶原がぼやく。

実際問題その通りだ。

東山と国際を下して優勝するには、うちのようなロボコン部ではノウハウもテクノロジーも足りない。

次の試合。

案の定、露骨に動きが鈍くなる。

これは準決勝まではもつかな。

そうぼやきたくなったが。相手が大した事がないチームだったこともあって、何とか勝つことはできた。

だが、今回のロボコンは。

そもそも生きた人間を直接相手にする形式である。

その分ロボットの消耗は激しい。

実際さっきも、暴れる痴呆老人を抑えるために、円筒暁は、何度も殴られていた。あれで内部の機構にダメージが行っているはず。

円筒形ロボットは、内部へのダメージを緩和するためのシステムをたくさん組み込んではいるけれど。

それでも限界がある。

しかも円筒形は、親しみを覚えさせる反面、相手に舐められやすいという欠点もある。

老人ホームなどでも、蹴倒されることがしょっちゅうあると言う話は聞いていて。

その結果、消耗品として考えられる事が珍しく無いという。

そしてである。

そういった扱いがされることを前提として試合も組まれるので。

痴呆老人役も、容赦なくロボットを殴るようにしている。

こればかりは、現実でもこうなるのだから、仕方が無いと言えるだろう。

準決勝。

相手は国際ほどの強豪校ではないが、それでも消耗していて勝てる相手では無かった。東山を下した此方に対して、油断もしていなかった。

後の結果は見えていた。

準決勝。

更に三位四位決定戦。

いずれにも敗退し。

四位にて、円筒形ロボットの大会は終了した。

 

五十一チーム参加の試合にて四位。三位までには入れなかったから、トロフィーは取れなかったが。

しかしながら、全国でも屈指の強豪校が二つでている中、番狂わせで一つを潰しての勝利である。

なお当然のように東山は敗者復活戦で優勝しており。

一応形的には五位という事になった。

各チームのハイライトが流されていたが。

暁高校は、やはり対東山戦。

リミッター解除の状況が、映像としてまとめられていた。

動画サイトなどでも既にアップロードが行われ。

かなりのコメントがついている。

「これ、ひょっとして限界まで性能を一瞬だけ上げた?」

「リミッター解除だな。 長期戦になる試合だとまずやらないんだが……」

「何か東山に恨みでもあるのか? 敗者復活戦で優勝できるスペックだろこの円筒形」

「……多分だけれども、強豪校に勝ったって実績がほしかったんじゃないのかな」

まあ大体そんなところだ。

今回はそこそこ大きな大会と言う事もあって、それなりにまともな識者もみているようである。

試合自体がイーブンになり、判定で暁高校が勝った事も話題になった。

確かに全力投球と、後を考えての試合では。全力投球に分が上がるのも事実である。やり方がせこいという者もいたが。

しかしながら、これしか此方には勝つ目がなかった。

それに、である。

現実の介護の現場では。

ロボットを犠牲にしても、要介護者を救わなければならない場面がある。

そういうときのためにも。

いざという時には、愛着のあるロボットでも捨てなければならない時が出てくるのである。

それを理解しているからこそ。

武田は愛機に無理をさせた。

ぎりぎり14時までに試合は終わる。

別に負けたことにしんみりすることもなく、むしろ満足げに上杉は片付けをしていた。四位である。しかも東山と国際という、円筒形ロボットでは東西の最強校が出ている中での成績だ。

上杉の大会での初陣としては充分過ぎる内容で。

武田がリミッター解除をしてまで、全力でのサポートをしてくれた事にも、感謝はしているのだろう。

それはそうとして。

今日もまた、武田に殺される夢でも見るのだろうが。

試合が終了して、荷物は専門の業者が送ってくれる。手ぶらで帰る二人に連絡を入れると、武田が通話を受けた。

「負けちゃった。 四位だったよ」

「いや、想定内で最高の成績だったから、それで充分」

「うん……」

あれ。

これはひょっとして、上杉より武田の方が精神的なダメージが大きい。

でも、武田には通じていると思ったのだが。

話を軽くする。

武田は分かっていた、と応えた。

だが、それでもなお。

三位にはなれると思ったと、応えてきた。

そうか、この辺りはソフト屋の考えか。

どちらかと言えばハード屋の土方としては、あれだけの動かし方をしたらもたないのはわかっていた。

それにハードは使い捨ての部分がどうしてもある。

今回の試合は、使い捨ての部分を全力で使い捨て。

それで勝った。

だから充分だと感じていた。

それに全部が壊れたわけでは無い。

また使える部分は修繕して、次の試合では更にパワーアップして出すのである。

円筒暁はまだまだ現役でいける。

更にはこの円筒暁で蓄積したノウハウを、後継機に生かす。

テクノロジーというものは。

そうやって進歩していくのだ。

だが、プログラムは基本的に使い捨てという事をしない。

出来たものをより洗練していくのだ。

「リミッター解除にしても、もう少しハードへの負担が抑えられればなあ」

「良いんだよ。 今回はあくまで模擬戦だったけれど、いざというときに身を捨ててでも老人ホームで人を救えるスペックを出す事に成功した。 それ以上でも以下でもない結果なんだから。 満足しよう?」

「……うん」

上杉は困惑していた。

此奴は土方と同じハード屋だし。

何よりも、勝てて充分に満足したからだろう。

とりあえず反省会は帰って明日からだ。

今日はもうゆっくり休むように全員に告げて、通信を切る。

いつもは武田と電車の中で反省会をするのだけれど。

今回はそれもできない。

ちょっと色々と、複雑な気分だった。

試合の結果を、幾つか見ておく。

国際は、それこそ圧倒的だった。

東山だけだっただろう。勝つ可能性があったのは。

もしも、東山の代わりに国際とぶつかっていたら。

うちは勝てただろうか。

パワーをセーブして、毎回80パーセントの力を出せるように完璧な調整をしていた東山は、どちらかといえばスロースターターだった。

それに対して国際は、ロボットが壊れる前に、全速力で決めるタイプの調整をしていたように思う。

ふとメールが入る。

国際からだった。

「面白い試合でした。 エキシビジョンマッチをいずれ組みたいです」

「!?」

何故。

東山からではなく、国際から来る。

そもそも今回、試合を見ている余裕なんかあったのか彼奴ら。

確か国際も、ロボコン部を複数抱えている筈で。その中の円筒専門のチームが出てきていたはず。

顧問もいる筈だ。

顧問が此方に興味を持ったのだろうか。

とりあえず。回答は明日に保留させてほしいと返答。

それに、いずれエキシビジョンマッチをしたいという書き方だ。

と言う事は、別に期日は指定していない。

相手がどこまで本気なのかも分からない。今の時点では、明日話を聞くだけで良いと考えておけば良いだろう。

それにしても。

国際に目をつけられるとは。

前は、あの徳川というデザイナーズチルドレンの子に目をつけられた。

うちはせいぜい中堅校程度の実力しかない。

武田と一緒に組むようになってから、成績は上がってきた。

一年上の先輩達が頼りにならなかったこともあり。上杉が気弱だったこともあって。二人で頑張らなければならなかったからだ。

だが、それでも。

今年に入るまで、番狂わせの類は一度も起こせなかった。

今回が初だ。番狂わせが起きたのは。

もしも土方が出ていたら、優勝できたか。

それはノーである。

そもそも土方自身、全力で東山に勝ちに行った後。残り全て勝つ自信はない。せいぜい三位だっただろう。

上杉との経験差はまだある。

今なら操作技術で、上杉を上回っている自信はあるが。

それでも、三位四位決定戦で勝つのが精一杯だったはず。

試合に出てきているチームは、どこも甘くは無い。

暁高校レベルの技術を持っている工業高校は、幾つもあるし。

工業高校でなくても、ロボコンに出てくるロボコン部は存在しているのだから。

さて、風呂に入ってから、残りは明日考える事にする。

いずれにしても、両親はリモートの仕事を終えて、もう休んでいるので。起きているのは土方だけだ。

メールが来る。

武田からだった。

家に着いた、ということだ。

お疲れ様とメールを送る。

そうすると、返信があった。

次からは、梶原か卜部のどちらかを代理で出すか、と。

それは流石に気が早い。

だから、応えておく。

補助として、どちらかを連れていくようにしようと。

それでメールのやりとりは終わり。

いずれにしても、今日は見ているこっちもはらはらしたし、とにかく疲れた。

そして、場合によっては。

明日も疲れることが起きそうだった。

 

3、嵐の後

 

ロボコンは現在、一定の人気がある競技として認識されている。勿論産業振興策として行われているのは誰もが分かっているのだが。

それはそれとして。

体育会系の部活が一掃され。

無意味な精神論根性論が部活の場から全て消し去られた今。

創意工夫で勝ち残るロボコンは、色々な意味で注目を浴びている。

特にテクノロジーが比較的残った日本のロボコンは海外からも相応に注目されているらしい。

とはいっても、流石に高校生大会になると、国内のマニアくらいしか注目はしていない。国際や東山、後幾つかの強豪校。人型ロボットに特化した専門校などが存在しているのだが。

そういった超有名どころを除くと。

あまり高校生の試合に注目している者はいない、というのが現実だ。

授業を受けた後。

部活を招集。

昔は、真夜中まで部活をやるような部活も存在し。

部活のために学業を圧迫するような本末転倒な行為も平然と行われていたようだが。

勿論今はそんな事は許されない。

工業高校などの場合、就職のために部活をやっているケースがあるが。

それにしたって、部活で時間を取る場合は申請書などが必要になるし。

その申請書があっても、作業をして良い時間は決まっている。

そういうものだ。

今が堅苦しいのでは無い。

ブラック企業が国中で好き勝手をしていて。学校がスクールカーストでがんじがらめになっていて。

変わり者に人権がなく。

周囲と違っている事をしている相手には何をしても良い。

そんな風潮があった昔の学校の方がおかしかったのである。

それに気付くのに、戦争というとてつもなく巨大な代償が必要となったが。

ともかく今、土方達はもっともまともな学校に通えているとは言える。

通っているのかは、正直リモート中心の授業では、なんとも言い難いのだが。

ともかく部活で、昨日来たメールを披露。

武田がさっと確認し。

スパムや悪戯の類では無い事を証明してくれた。

「今度は徳川ちゃんじゃなくて国際工業高校か……」

卜部が気だるげにいう。

無意味に色っぽい。

上杉が冷や汗を掻きながら、此方に話を振ってくる。

「それで、土方先輩、どうするんですか?」

「うちの円筒暁、修理までどれくらい掛かる? 上杉さん」

「はい? ええと……予備のキットとかはあるので……一週間くらい……」

「それはハードの組み立ての話でしょ。 ソフトのエラーとかがないことを確認しないといけないから、十日って所かな」

今年も、毎月一度は試合に出る。

次のロボコンに対する準備はもう進めていかなければならない。

当たり前だが厳しい日程だ。

現状、基本的に減点法は用いられない。

しかしながら、逆に言うと成果を上げないと加点も行われない。

円筒形ロボットの大会で、強豪東山を破ったことで、操縦者の上杉、プログラマーの武田、総指揮の部長土方にはかなりの加点が入る。

就職が有利になる。

しかしながら。他の試合でも加点を重ねていかなければ。

尻に火がついたような競争をしている中で。

より有利な条件での就職を狙っている他校の生徒に色々持って行かれる事になるだろう。

だから、十日後。

しかも余裕がある状態でないと。

試合なんて受けられない。

また、試合を受けるのなら。以前の徳川との試合のような、エキシビジョンマッチにするのが好ましい。

此方だって貴重な時間を割いているのである。

前は徳川の名声があって、単純に大会の役員が来てくれたけれども。

今回は、国際の名声があって役員を呼べるかも知れない、と言う状況。

まだまだ、快進撃している暁高校の名声で、ではない。

其所を勘違いすると。

とても痛い目に会う事になるだろう。

今まで黙り込んでいた梶原がぼそりという。

「それで、国際の戦力は。 勝てそうですか」

「厳しいね」

武田がずばりと断言。

こちらは土方が出たい所だが、正直な話上杉にはもう少し成功体験を積んで貰いたいのである。

負けたら終わり。

そんな事をやっていたら、人材なんていなくなる。

失敗したら死。

首。

そんな事をやっていた会社が、どこも「幾らでも代わりはいる」とヘラヘラしているうちに。

日本どころか、世界中から人材というものは姿を消した。

慌てた連中は、何でも出来る奴隷を求めたが。

そんなものは何処にもいるわけが無かった。

世界中のテクノロジーが急速に低下していった。

21世紀前半にあった現実である。

その現実を繰り返すわけにはいかない。

部の内部でも。

後輩を育成することは考えなければならないし。

ましてや、競争の美名の基に、他の生徒の可能性を奪うなんて事があってはならないのである。

「とりあえずメールのやりとりはして様子は見るけれど、上杉さん。 次も操縦を頼むかな」

「あ、はいっ」

「梶原さん」

「……はい」

次は梶原に、武田の補助を頼む。

勿論、エキシビジョンマッチが決まった場合の話である。

卜部には、ハードの修復作業を手伝って貰う。これについては、個別の部品をそれぞれの家で、部活の時間帯に修理することになる。

その次の試合に向けての準備も進めているが。

次の試合もまた面倒なので。

少し負担が大きい。

ただ、昔の部活に比べると、これでもまだまだ全然マシなのが現実なので。

文句をぶちぶちいう暇があったら。

さっさとやっていくしかない。

作業の割り振りを決めた後。

メールを返信する。

すぐにメールの返信が戻って来た。

まず東山との戦いの動画が流れてきた。

どうやらあの後、すぐに東山とエキシビジョンマッチを組んだらしい。なお非公式試合として行ったそうだ。

そういえばそんな試合があったら動画が流れてくるはずだが。

きていない事を考えると、まあそういう事なのだろう。

なお結果は国際の惜敗。

だが、国際の選手は、楽しそうだった。

楽しそうに試合をする。

一番手強い手合いだ。

勿論、どうやっても向き不向きはある。楽しくても好きでも、下手なものは一生上達しないケースもある。

だけれども、元々才能がある奴が「好き」な場合は手に負えなくなるケースが散見されることを、土方は知っている。

これでも二年とちょっと、ロボコンで色々な試合を見てきているのだ。

その手のバケモノは、何度か目にしている。

徳川はちょっと違うか。

アレはスペックは高いけれど、どこか楽しそうでは無かった。

今度のは、ナチュラルボーンに楽しんでいるタイプ。

ちょっとまずったかなと思った。

上杉だと少し荷が重いかも知れない。

「出来れば土方さんと戦いたいですけれど、上杉さんも上手ですね。 其方の判断にお任せします」

「……話し合って返信します」

さて、これはまずい。

上杉に成功体験を積ませるどころでは無くなったかも知れない。

見た感じ、この操縦者。国際の二年生とみた。

留学生だろう。

ロボコンが好きで好きで仕方が無い、という顔をしている。

なんというか、野心的な表情に満ちた子だ。自信満々という感じでは無く、積極的に何でもかんでも吸収して、力にしたいというぎらついた目をしている。これは国際の試合に、次くらいから出てくる相手とみた。

少し考え込んでから。

とりあえず皆に動画を送る。

東山が接戦の末に勝っているのを見て、安堵する上杉を見て咳払い。

東山の操縦者は三年のベテラン。

それに対して、国際の操縦者は二年。それも恐らくは、日本に来たばかりだろう。

何人かはちょっと分からないが、無人地帯化しているアフリカかも知れない。

21世紀の半ば、色々不幸な事件が重なって、中東の大半とアフリカの南半分からは人間が消滅した。

中性子爆弾と言うのが使われたと聞いている。

それにより中東では人口の97%、アフリカでは85%が消失。

民族だ資源だ信仰だで揉めに揉めていたが。

それどころではなくなった。

今では必死の立て直しをしているが。

いずれにしても、世界的に宗教の撤廃をしようという運動が過熱化している中。

テロどころではなくなった者達が、必死にテクノロジーを学び直しており。

現在そういった真面目な留学生が、日本にも来ている。

その手の、貪欲にテクノロジーを欲しがっている学生だとすると。

ハングリー精神が桁外れだろう。

悲しい話だが、こんな状態でも、21世紀半ばのアフリカ、中東に比べると、ぐっとマシだという。

色々言葉も出ないが。

上杉には、頑張ってもらうしかない。

「やれる?」

説明をした上で。

出来るか聞く。

しばし気弱な上杉は、眼鏡を曇らせておろおろしていたが。

やがて顔を上げた。

「やります」

「良くいったっ!」

武田がばんと机を叩いて立ち上がったので、上杉がひいっと小さな悲鳴を上げる。

まあ、これも良い経験か。

相手は人型の猛獣。

それくらいの気迫を持った相手だ。

それに対して、本気で命がけでは無い戦いが出来る機会はそうそうない。

それに同じ二年同士。

どこまで食いついていけるか。

メールを送り直す。

試合の形式を決めたい、と。

相手はすぐに、具体的な内容を送ってきた。此方のロボットの損傷についても把握しているようで。十日後を指定してきたのには苦笑いしかない。

ともかく、日程も決まる。

後は、それを皆に展開。

次の大会の準備をしてもらいながら。

このエキシビジョンマッチに、備えて貰う事にした。

 

日本も、戦争では無事ではいられなかった。

いわゆるABC兵器は世界中で用いられたが。日本も他の主要国ほどでは無いが被害を受けた。

電車で時々、えぐれた山や、不自然な湖を見かけるが。

それはつまりそういうことである。

良く人類は滅ばなかったな。

そう思う。

良く電車はまだ動いているな。

それは、それだけインフラ関連の人達が、必死に立て直してくれた、という事である。

五人、それぞれ黙々と電車移動。移動中、殆どSNSでのやりとりはしなかった。

途中のハブ駅で合流して。

現地に到着した。

小さな文化会館だ。

戦禍を免れた、小さな建物。

それだけで貴重である。

今回は此処を貸しきりで、一回きりの試合を行う。なお、やはりロボコンの大会役員が来ている。

うち、別に強豪では無いのだけれど。

徳川に目をつけられてからと言うもの。

何だか立て続けにこういった事が起きている。

理由はよく分からない。

だが、就職に有利なら利用するだけである。

そもそも技術を生かすためには、フリーランスでは厳しいだろう。武田くらいのスキルがあれば、フリーランスもいけるかも知れないが。

土方のスキルでは無理だ。

部ごと独立して会社を興すという選択肢もあるが。

残念ながら、そこまでの競争力を持っているとは思えない。

まあ平均よりは総合力でマシだとは思ってはいる。

大会にどうにか出られるような弱小校よりは強いけれども。それでも、強豪校には及ばない。

文化会館に入ると。

このあいだメールを送ってきた、野性的な女の子がにこにこして待っていた。ショートパンツに浅黒く焼いた肌。日本人とはかなり離れた雰囲気。前の戦争で悲惨な被災を受けて、まだ立ち直れていない国は幾つもあるが。その一つなのだろう。

握手を求められたので応じる。

柔らかく何てない手。

滅茶苦茶苦労している手だと、触っただけで一発で分かった。

国際の監督は寡黙な職人肌の中年で、生徒達を促して、失礼がないようにと指導している。

他の生徒とも挨拶したが。

実は、二年の頃から国際とは何度か顔を合わせているのだが。

こうやってきっちり挨拶するのは初めてだ。

大会だと、殆どの場合、試合前に挨拶することは無い。

いちいちそんな事をして時間を浪費するなら、テクノロジー錬磨の成果を見せてくれ。そういう実利が、大会では求められている。

故に試合は淡々と行われ。

それが動画に流される。

みるべき技術が新しく使われていたら、会社が飛びついて特許を買いに行くこともあるし。

また新戦術が編み出された場合もしかり。

どのような業種のロボットでも、そもそも現場で行う作業を競技として取り入れているのである。

現場で行う作業だ。

試合で高得点になるのは、現場で役に立つ作業であり。

もしも既存のロボットが取り入れられていない戦術を使っているのなら。

それは真似もしたくなる。

まだまだ、人類が宇宙に出るには、技術が足りないのも事実である。

故に、もっともっと。

技術は錬磨しなければならないのだ。

バトルフィールドは、文化会館の少し広めの部屋。

土方と相手側の院卒をしている監督が、文化会館の管理人と話をする。しばらく話をした後。

今度は大会の役員が来た。

大会の役員は、まず国際の監督に話しかける。

「この間の東山戦、エキシビジョンマッチとしては最高でしたよ。 惜しくも敗れはしましたが……」

「あれは相手の監督大文字さんが優れているだけです。 私の方は、まだまだだと思い知らされました」

「大会で当たっていたら負けていましたか?」

「やってみないと何とも分かりませんが、負ける可能性は覚悟しなければならなかったでしょうね」

それはそうだ。

東山は長期戦に備えた構成でロボットを組んできていた。

これに対して、国際は全力でぶつかっていくロボットで大会に出てきていたのだ。

長期戦の結果、決勝でぶつかった場合。

どちらが有利になったかは、それはもう自明の理だっただろう。

そしてこの間のエキシビジョンマッチで勝ったという事は。

東山は、短期決戦でも色々出来るように、対策をしていたと言う事。

流石にベテラン校。

幾つも切り札を持っているものだ。

問題は相手が、うちのような負ければ後がないボンクラ校であったことで。

そもそもどうしてこの場にいるのか、土方の方が申し訳ない位なのである。

咳払いすると、今度は土方の方に話が来る。

「この間の大会、優勝候補の一角東山相手に、見事でした。 今回も同レベルの試合を期待します」

「分かりました。 何とかしてみます」

「それでは、会場に案内します」

随分とこっちは事務的だな。

まあ国際の監督は社会人。こちとらただの一生徒。

対応が塩になるのも無理はないか。

広めの部屋で、試合内容について説明される。

大会の時ほど、たくさんモブ役のロボットは使う事が出来ない。

そこで、一点豪華に行う。

まず老人役については、大会役員が行うのだが。

此処で意図的にアクシデントを起こす。

それに上手に対応出来るか、という話だそうである。

まあ、小さな文化会館だ。

出来る試合はそんなものだろう。

役員はもう一人いて、ホワイトボードに何が起きているかを書くと。それを遠隔で対応する手際を見る、と言う事だった。

とはいっても、ロボットのセンサなどは現実の要介護老人を想定して作られている。

大会のように、全力で演技してくれた方が嬉しいのだけれども。

また、救急連絡用の回線なども知らせられるので。

その場で武田が組み直し、調整する。同時に梶原にも教えて、幾つかの作業は代行させていた。

上杉が前に出て。

そして、例の海外の子と握手する。

操縦手どうしの握手だ。

他の子も、相手は中々に国際色豊か。

欧州系もアフリカ系もいる。

本当に、彼方此方の国から迎え入れているんだなと感心する。

昔。

一時期、この国の大学は、とにかく悪事の踏み台にされることが多かった。

学生はビザを取得するのが簡単だったので。

密入国の隠れ蓑にされるケースが多かった。

犯罪をするために、この国の学生になった者だっていたし。

事実そう言った者達が、国内で悪行の限りを尽くした。

今では、そんな事もなくなった。

国際工業高校は比較的新しい学校だけれども。

昔だったら、今とはまるで違って。

それこそチンピラや、犯罪組織や。魑魅魍魎の集まるろくでもない学校とかしていただろう。

今だからこそ、こうやってちゃんと色々な国の学生が一緒に最新技術を学べる学校になっている。

それもまた、事実なのだろう。

二手に分かれる。

まずは先攻後攻を決める。

ダイスを振るソフトを使って、ダイスを振り。うちは後攻になった。

さて、此処から勝負である。

まず、相手の操縦手の子が出る。

名前はグエン=フィアーナ。

昔存在していたベトナムという国と、フランス系の混合らしい。アフリカ系かという予想は外れた。

生まれ育ったのは旧ベトナムで、現在は東アジア共和国という国の一角になっている。

大戦中、中華ほどでは無いが大きな被害を受けた地域であり。

場所によっては島にまだ人が住めない、何て場所さえある。

そんな場所からも、技術の研磨のために人が来ている。

此方も、手は抜けない。

手を抜く事は失礼に当たるからだ。

グエンが機体を動かす。

円筒形の機体は驚くほどスムーズに動く。だが、介護用のロボットと言うよりも、何だか猛禽のようだ。

ベトナムは古くから中華と接していて。

ずっと戦争をしていて。

近年では米国とまで戦争をしたと聞いている。

戦争における先進国だった国だ。

今はもうなくなってしまっていたが。

獰猛な戦士の血が、グエンの中にも流れているのかも知れない。

ロボットがキュッと床を擦りながら移動して、要介護者の所にまで辿りつく。要求されているのは、譫妄の言動がある介護者の救助と、救急車の要請。まずパーソナルIDを確認。

問題はなし。

しかし、その次が問題だった。

「わしは昔戦車乗りでのう……」

「あそう」

「あそうとはなんじゃあっ!」

いきなりブチ切れる患者。

まあ、その塩対応はまずいだろう。

ロボットでしかも力尽くで制圧に掛かる。相手は要介護老人だと言う事を忘れていないだろうか。

ああ、なるほど。

大会に出てこなくて。

エキシビジョンマッチを組んだ理由が分かった。

この子、相当に有望なのだが。

その一方で、恐らく理解出来ていない。

ロボットというものを、である。

案の定、もりもり減点されている。

ほどなく救急車が来たが、それに対しても文句を言う。

「遅い。 戦場だったら死んでた」

「グエン」

監督が声を上げると。

流石にグエンも、困ったように視線を彷徨わせる。

確か東南アジア圏で、人前で相手を怒鳴ると言う事は、相手に殺されても仕方が無いという話を聞いたことがある。

監督はその辺りもあってか、静かに怒りを見せたという訳か。

となるとこの監督。

やはり相当慣れているのだろう。

ひょっとすると、東南アジア圏に出征の経験があるのかも知れない。大戦の末期には、(他の国に比べて)戦力を温存していた日本の軍隊は、彼方此方に兵を回したものだからだ。

続いて、上杉が操作を開始。

今回はリミッターオフは必要ないだろうが。

武田は腕組みして見ているだけ。

梶原が今回はサポートについているが。

それも必要ないかも知れない。

今回の試合。

逆の当て馬として、此方は用意されたのだと気付いた。

恐らく国際にとっては前回の試合に当たる、東山とのエキシビジョンマッチもそうだろう。

非公式試合だからこそ。

こういった事が出来る。

本編の大会で、後のエースや、これから大事な就職を控えている生徒達の芽を摘むなんてあってはならないことだ。

だからこそ、エキシビジョンマッチ。

国際工業高校の名前を落とさないための。

名前を最大限利用しての。

有望な新人を育成するための試合。

グエンが正座して見ている中。

前回よりよりスムーズに動いた円筒暁が、譫妄症状のある老人に対して、丁寧にあやしつつ。

救急車が来るまでの時間稼ぎをする。

多分東山ほど完璧では無いが。

そこそこ出来た筈である。

まもなく救急車が到着。

そして、患者を引き渡し(試合だとは言え、いきなり我に返る患者を見ると色々複雑な気分になる)。

試合は其所で終了した。

これは見なくても結果は分かるな。

そう呟きたくなったが、それでも何かの理由で負けるかも知れない。

ただ、それは顔には出さない。

堂々としている。

それが部長の役割だ。

よくしたもので。

相手側の部長もグエンにどうこういう訳でも無く。

静かに、様子を見守っているようだった。

なお相手側の部長。顔にもの凄い向かい傷がある。

あんまりどういう人生を送ってきたのか聞きたくない。

「それでは、試合の結果を発表します」

役員から声が掛かる。

結果は予想通り。

グエンは結果を聞いていて、特に悔しそうにはしなかったが。これから監督が、みっちりどうして駄目だったか話すという。

二回連続の負け。

しかも、国際の監督と言えば実績もあるロボコンの名手だ。

それが駄目出しをするとなると説得力だってある。

グエンもこれで、考えを改めてくれるといいのだけれども。

黙々と上杉が片付けを始める。武田が、グエンを横目で見ながら告げてくる。

「あの子手強いよ。 操作の様子がまるで猛禽。 今のやり方改めたら、多分企業からガンガンスカウト来ると思う」

「ある意味当て馬にされたっぽいね」

「一定の実力があるから当て馬として適切と思って貰えたのかもね」

「……うん」

そう思いたい。

梱包や片付けは業者がやってくれる。ロボコンの大会運営は、技術振興のためには金を惜しまないし。

そのために流れる金は業者を潤す。

我々が手を下すことは。

却ってその金の流れを阻害することになってしまう。

他の皆を上がらせて、監督に礼を言いに行こうとする。

監督は此方をじっと見ると。

土方も、ちょっとひやりとした。

「な、なんでしょうか」

「東山を破ったのはどちらかというと操縦手よりも、君と同期のプログラマーの判断だな」

「は、はあまあ。 ずっとコンビ組んでる仲ですから、此方の考えは伝わっていたと思います」

「長期戦特化機体に、短期決戦の構えでぶつかる。 面白い考えだが、そもそも機体のスペックを上げる事が出来れば、そんな捨て身の作戦は必要なくなる」

元軍人なんだろう。

そんな風な事を言われる。

まあ、それは分かっている。

だけれども、残念ながら。そんなノウハウはないのだ。だからこそ、結果としてはこうなった。

それでも、一点特化という戦術で、東山という強豪校に穴を開けられたのである。

限られた資産で、頑張ったのだと言う事は認めてくれたのだろうか。

「出来れば今後、可能な限りの大手の最前線で活躍してほしい。 君達のような人材が活躍する事で、この世界は多少は改善されるはずだ」

「……ありがとうございます」

礼をしてその場を離れる。

やっぱり結構重い話をされたな。

この人は殺す殺されるの場所で生きてきた訳で、下手をすると青春全部を其所で失った可能性もある。

だからこそ、後続に同じ苦労はさせたくないのだろう。

人間の心理としては、同じ苦労を味合わせてやりたいというものがあるらしいが。

近年では、非効率だから止めるようにと言う研究結果が出ていて。実際に効率的では無い事が色々な実験から分かっている。

この人も、或いは同じような苦労を若者にも味合わせたいと思っているのかも知れない。

だけれども。

それを押し殺して、こういう発言が出来るのなら立派だ。

皆と合流すると、家路につく事にする。

大会での実績もそこそこ上がっている。

まだ強豪校と言うにはたよりないけれども。

暁高校ロボコン部は。

前よりも、確実に強くなっているのは、事実だった。

 

4、明日の光

 

グエンはクールに構えていたが、負けたことを本当に悔しがっていた。予想通り、エキシビジョンマッチで実力の程を理解させたのは正解だった。

現在、どれだけ操縦技術があっても勝てない。

それを理解出来れば。

この子は伸びるのだ。

グエンに個室で蕩々とそれを解いた後。

解散。

試合会場を後にする。

メールが来た。

実は交流がある、東山の監督。大文字からである。

「試合終わったか」

「はい。 暁高校、先が楽しみな人材が揃っていますね」

「あの武田というプログラマーがかなり凄い。 本人は自覚していないが、土方という部長もかなり出来る」

同意だ。

土方という部長。没個性のように見えて、アクが強い集団を良くまとめているし。武田という比翼ともいえるプログラマーと良く意思疎通して、普段から連携して動けるようにしている。

また、エキシビジョンマッチとなるやいなや、経験が浅い部員を躊躇無く出してきた。

今回は日本を代表する強豪校とのエキシビジョン。

模擬試合といっても、垂涎の内容だっただろうに。

まるで躊躇わずに、である。

この辺り、後続を育成することに積極的である事や。

負けたところで別に惜しくもないと割切っていることが、すぐに分かる。

かなり出来る奴だ。

もしも状況次第なら、操縦手として相当な実力がある土方自身が出てきただろうに。敢えて操縦手も補佐も、それぞれまだ育成中の人員を出してきた。エキシビジョンマッチだからこそ、強豪と好き勝手に調整試合が出来る。

ある意味カミソリのようにドライな思考である。

舌なめずりする。

暁高校は、今まで中堅所だった。

特に去年までは、はっきりいって中堅の下くらいだった。去年の半ばくらいから徐々に強くなってきていて。

今年に入ってから、かなり侮れない実力を有するようになって来ている。

去年の時点でも、操縦手の土方とプログラマーの武田には、実の所注目はしていた。他の強豪でも、要注意選手として名前が挙がっていた。

現時点でも、たまに強豪を負かす、くらいの実力。

つまりまだ中堅の上位くらいの所だ。

だが、それでも。

今後土方と武田の行動次第で。後続が育って来たら。

或いは、状況は変わるかも知れない。

強豪校は多い方が良い。

現時点で強豪と言えば、国際工業高校、東山工業高校が二大筆頭で。更にこれに四校ほどが追随してくる。

いずれもが得意な分野を持っていて。

それぞれがしのぎを削っている状況だ。

今年初頭の大会。

何処の強豪も、全力を出し切れなかったとはいえ。

それでも、強豪に食い込んできた暁は。

今の停滞の状況を崩せるかも知れない。

テクノロジーの錬磨は、強いところがいくらでもあった方が良い。

最強豪同士が合併したりするのは最悪手で。

そんな事をすれば、後は堕落の一途を辿るだけである。

手強い相手がいればいるほど。

今後の錬磨には拍車がかかる。

そして人類の残り時間が明確に見え始めた今。

技術は、発火するほどの勢いで錬磨しなければならないのだ。

生徒達を帰らせた後。

自宅に戻る。

自宅と行っても、軍を退職した後に貰った家だ。

中には誰もいない。

戦争で家族は全員失った。

まだ幼かった弟は巡航ミサイルで吹き飛ばされ。

他の家族も皆死んだ。

今は、家で静かに一人暮らしているのがいい。

酒は数年前に止められたから。

家ではゲームでもして過ごす。

ほどなく、メールが来る。

グエンからだった。

「監督、今日はすみませんでした。 色々足りない事が分かりました」

「お前は次のうちのエースだ。 今年の後半から来年に掛けて色々な試合で優勝をもぎ取って貰いたい。 だから、今のうちに分かってほしかった」

「はい、ありがとうございます」

「では、休んでコンディションを調整しておくように」

メールはそれだけ。

戦争が終わって。

心にぽっかりと穴が開いた。

戦争なんて、何の意味も無い行為だったのだと、漸く分かった。

古くはブラック企業に使い潰された人が、こんな風になっていたのだという。

場合によっては自殺したり。

場合によっては心が壊れてしまったり。

体も壊れてしまったり。

実際問題、体は壊れてしまっているからも知れない。だけれども、だからこそに。後続を同じ目にあわせてはいけないのだ。

やっと人類は目を覚ますことが出来た。

ならば、ここからが反撃の時だ。

今も砂時計の砂は、凄まじい勢いで落ち続けている。

今までの人類の行動が全ての原因である。

砂の最後の一粒が落ちきる前に。

何もかもを、解決しなければならない。

そのためには、テクノロジーの更なる進歩が必要なのだ。

またメールが来た。

官公庁からだ。

内容を確認すると、暁高校について。

どうやら、強豪校だと官公庁は認識したらしい。ふんと鼻を鳴らすと、酒をもう飲めないことに気付いて。舌打ちしながらメールを開いていた。

 

(続)