最悪を脱出せよ

 

序、見舞い

 

九州での邪神四体による攻勢をどうにか退けた後。悪役令嬢は野戦病院を訪れていた。

腕を食い千切られたルーキーは意識不明。再生医療には当面掛かる。

負傷しているルーキー達。

皆、すぐには復帰できない。

そして絶対正義同盟NO4および5と戦う際にいっしょにいた「喫茶メイド」。

激しく戦い。どうにか虫の息で生き残った彼女は。

集中治療室で、面会謝絶状態だった。

医療システムは、優先的に回されている。

酷い話だが、狩り手をどう復帰させるかが大事だからだ。

「喫茶メイド」は、もう少しで一人前になれる実力者だった。それがこの状況。

医師に、いつ復帰出来るかなんて、口が裂けても聞けなかった。

無言のまま、その場を離れる。

「喫茶メイド」と同期の「医大浪人生」も、激しく負傷して今は面会謝絶状態。

「デブオタ」、「ガリオタ」の二人に会いに行く。

二人とも、戦闘時の様子が嘘のように。

窶れてしまっていた。

年相応の姿になると、こうなるのだろう。

「「悪役令嬢」。 僕達が不甲斐ないから起きた事だ。 すまない」

開口一番、そう言われる。

「デブオタ」は、寂しそうに笑った。

もう年齢的に限界だった。

それを早く認めるべきだったのだ、と。

「新人を逃がすだけで精一杯だった。 もう僕は引退するつもりだ」

「……」

「勿論教官側には回る。 だけれども、もう前線に立つのは不可能だ。 この間の邪神二体だって、ここまで体が衰えていなければ……」

俯く「デブオタ」。

最初期の狩り手の一人であり。SNSクライシスを経験したものであり。NO11を「ガリオタ」と共に倒した古豪。

そんな人物がここまで折れているのだ。

どれだけ精神にダメージを受けているのか、よく分かった。

「すまない。 後は頼む」

「分かりましたわ。 必ず、邪神共はわたくし達が殲滅いたしますわ」

「……本当にすまない」

既に、半人前の「女騎士」と「コスプレ少女」は此方に呼んでいる。

強化フォロワーによる猛攻はどうにか片付いたが。今後は邪神が複数で一気に攻めこんでくる可能性がある。

絶対正義同盟の二桁NO程度の実力の邪神なら、単独でいなせる「悪役令嬢」が九州に常駐するのは必須となった。

ならば激戦区である九州中部で、新人を「悪役令嬢」が鍛えるしかない。

各地での遊撃戦は「陰キャ」に任せる。

彼奴はもう充分に一人前。

ハイドミッションは「悪役令嬢」よりも明らかにうまい。

本当に、良い時期に良い新人が来てくれたが。

その代償が大きすぎたと思う。

「悪役令嬢」は以前聞いた事がある。

運気というのは、上がるとその分下がるという。

要するに、「陰キャ」という弩級の新人が入る分。

その代わりとして、他が駄目だった、と言う事なのだろう。

病院を出ると、一人だけ無事だったルーキーと顔を合わせる。

男性ルーキーの育成は初めてだが、やらなければならないだろう。

エプロンを着けていて、卑屈な笑みを浮かべているが。

それも含めて、全てを「作って」いるのだろう。

「「コンビニバイト」です。 よろしくお願いします」

「よろしくお願いいたしますわ「コンビニバイト」さん。 これからしばらくは、「女騎士」さんと「コスプレ少女」さんといっしょに、わたくしといっしょに九州で転戦して貰いますわよ」

「分かっています。 俺がもう少し強ければ……」

逃げるしかできなかった。

それが相当悔しいらしい。

だが仕方が無い事だ。

邪神四体。

少し前まで、二桁ナンバーの邪神ですら、どうにもならなかったのだ。それを「悪役令嬢」がちまちま削り。「陰キャ」の登場によって攻勢に出ることが出来た。

今は、少し前に戻っただけ。

そう思って、我慢することにする。

ともかく、いつになるか分からないが。「喫茶メイド」が戻ってくれば、かなり戦況はマシになると思う。

「デブオタ」と「ガリオタ」のコンビは多分もう無理だ。

二人の心は折れてしまっている。

分かっている。

二人は充分に頑張ってくれた。

三十年間、必死に戦い抜いてくれた。

だから、もう良いのだ。

ただ、ルーキーを鍛えないと、今後は多分戦闘が成立しないとみて良いだろう。

他の軽症のルーキーも、回復し次第前線に出て貰う事になる。少なくとも強化フォロワーをどうにかできる程度の実力はほしい所だ。

今、どうにか安全を回復した第二東海道を通って、「女騎士」と「コスプレ少女」が此方に向かっているが。

彼女らを待っている暇など無い。

実力を見せてもらうがてらに、前線でフォロワーを削る。

九州のフォロワーは、全部北上する勢いであるという。

つまり前線をかち割れば、九州全域を安全地帯にできる可能性がある。

離島から海を渡ってくるフォロワーもいるらしいが。

流石に沖縄から九州に来る奴はいないだろう。

沖縄はまだ自衛隊もドローンしか飛ばしていないそうだ。

生存者がいる可能性は、極めて低いそうである。

「おでましですわね……」

敢えて口にしたのは、ルーキーに注意を促すためだ。

そのまま鉄扇を開く。多数のフォロワーが、呻きながら此方に来る。数は二百五十と言う所か。

既にベテラン二人に基礎は教わっていると思うから、まずは実力を見せてもらうとする。

突貫。

取りこぼしを敢えて数匹回して、どう倒すのかを見る。

いつもやっているのと同じ方法である。

東京にいた時点で、「女騎士」と「コスプレ少女」は、かなり手慣れてきた。

この二人も、今がどれだけ危機的状況かは分かっているのだろう。

とりあえず二人が来るまでは、「悪役令嬢」は肩慣らしのつもりで戦う。

まずは「コンビニバイト」に数体のフォロワーと戦って貰う。

コンビニバイトか。

古くには、あらゆる機能が集積され。

納税なども出来たと言う万能店舗コンビニ。

その万能性が故に、多数の小さな個人経営店を駆逐していったという歴史もあるそうだが。

同時に働く人間に求められる専門性は尋常では無く。

また名ばかり店長と呼ばれる管理職の負担も尋常ではなかったそうだ。

悪辣極まりない商売を重ねながら、無理難題を押しつけられたバイトの苦労はとんでもない代物で。

こんな安月給でこんな仕事をと、嘆かせるような内容であったらしい。

それでもどうにかこなしていた人達を。

最底辺の労働者だと、周囲では笑う風潮すらあったそうだ。

故にコンビニバイト。

他にもバイトと呼ばれる非正規労働員は特に酷い扱いを受けていたらしく。

一目でそうだと分かるエプロン姿は、邪神相手にミームとして通用する事が判明している。

あらゆる意味でSNSクライシス前の世界が病んでいた事がよく分かる話だが。

今はそれを考えるよりも。

戦士としてどれだけやれるか、という方が重要だ。

見ると「コンビニバイト」は、多種多様な装備で戦うタイプの様子だ。

売り物らしいもの。

とにかく何でもあるが。

それを使って。

或いは脳天にそれを突き刺し。

投擲して貫き。

かなり器用に戦っている。

これは、意外と出来るかも知れないと思ったが。

しかしながら、器用というのは大成するのに時間が掛かることも意味している。

数回の戦闘で、被弾の可能性はほぼ無かった。

東京で戦っていたときの「女騎士」の方が、危ない場面があったくらいだ。

九州の戦線で実地訓練を兼ねて戦闘をしなければならないのは色々と問題だ。邪神がいつ姿を見せるか分からない。

恐らくだが、邪神達は無人工場を必死に此方が守っている事を理解出来ていないのだろうけれども。

それでも、九州を必死に守っている事は理解している筈。

故に、敵は此処にちょっかいを出せば。損害を増やし放題と言う事だ。

何とかこの事態を打開しなければならないが。

各地の基地が受けた戦慄すべき被害を考えると。

今は自衛隊を再建するだけで手一杯。

各地で少しずつ拡大していた、生き残りの収容任務も。

とてもできる状態ではなくなっていた。

ついでにいうと、強化フォロワーはまだどこにどれだけ潜んでいるかすらも分からない。

NO4の置き土産は。

NO4自身の戦闘力が体感でNO5以下だったのと裏腹に。

より大きな存在感を示し。

此方を蝕んでいると言えた。

また数百規模の群れが来る。

インカムに連絡を入れる。

「九州南部に展開しているドローンから、残っているフォロワーの数を分析出来ますの?」

返事が来ない。

司令部が相当に混乱しているのは確実だ。

しばしして、不慣れそうな若いオペレータが来た。

「「悪役令嬢」様ですね」

「様など必要ありませんわ」

「わ、わかりました。 「悪役令嬢」さん。 現在、司令部は殆ど不眠不休の状態で、各地の基地の復旧と、予備役だった自衛官の再訓練、更には新人の徴募、各地への兵器の配分で忙しく……」

「分かりましたわ。 前線は勝手に支えてくれと」

無言になる相手。

まあもういい。

ならば勝手にやらせて貰うだけだ。

あまり南に進みすぎると、邪神が現れた時に半人前三人(今は一人だが)を守りながら戦う事になるだろう。

「陰キャ」は各地で転戦を続けていて、こっちに来るどころじゃない。

絶対正義同盟で言えば二桁ナンバー相当の実力の邪神ならば、「悪役令嬢」単騎で蹂躙してやる自信はあるが。

それすら前提が変わっている。

この間、狩り手の前から邪神が撤退するというとんでもない状況を目にした。

恐らくだが。高位邪神が下位邪神を、ダメージ前提で動かしている。

本来邪神は独立行動を行い。

戦闘では、「人間以下」とみなしているミームの権化であるフォロワーからは、本能的に逃げると言うことを許されない。

このために非常に戦いやすかったのだが。

今後はそれができなくなる可能性もある。

それだけじゃあない。

まだ最も厄介な絶対正義同盟のNO2および3が健在だ。

此奴らの戦闘記録はわずかしか残っていないが。

いずれも4以下とは桁外れの実力を持つ事が確定である。

「悪役令嬢」と「陰キャ」が連携しても勝てるかは分からない。一度では恐らく無理で、手の内をしっかりみないとどうにもならないだろう。

更に言うと、手の内が分かっても倒せるかすらも分からない。

もう一人、同格の狩り手がほしいが。

有望だった「喫茶メイド」はまだ集中治療室。

ベテラン二人は再起不能。

此処にいないルーキー達はまだしばらく戻ってこられない。

そもそも「陰キャ」が火消しで飛び回っていて、いつこられるかすらも分からない。

そんな状況で、高位邪神を倒すどころでは無いことは。

「悪役令嬢」が、一番よく分かっていた。

更に言うと、大陸から来たと思われる邪神達は十一体だが。

残りどれくらいがいるのかすらもよく分からない。

同規模の増援がまた来るかも知れない。

そういう最悪の予想もしておかなければならない。

少しばかり調子に乗っていたのかも知れない。

大阪や都心でフォロワーをゴリゴリ削りとって、復興の足がかりとしようと思っていたのに。

結果はこの有様だ。

勿論新人の教育を怠った覚えなどないが。

それにしても、ここまで何もかもが上手く行かないと、自分への苛立ちで胃が焼き付きそうだった。

夕方過ぎまで戦闘を行い。

近くの駐屯地に戻る。

傘はまだ届いていない。

此処を使う事を通知してあるので、できたら届くだろう。

新しい戦術を練ろうと思っていたのだが、それどころではない。

これでは、技を磨き上げることはできても。

「悪役令嬢」が更に上の段階にパワーアップするのは不可能だ。

そして、やっと「女騎士」と「コスプレ少女」が到着。来た所で、別に戦力が飛躍的に増えるわけでも何でも無い。

ルーキー達は休ませる。

生真面目そうな「女騎士」が話を聞きに来る。

「どうしても被弾を減らす事ができません。 何度も助けて貰って、本当にすみません」

「分かっていますわ。 しかしながら、その重い鎧を着込んで戦う性質状、相性がフォロワーと悪いのは仕方が無い。 それは訓練の間に分かっていたのではありませんの?」

「それは……」

「ならば、立ち回りを工夫していくしかありませんわね。 ビキニアーマーなどの軽い鎧に切り替える手はありますけれども。 ビキニアーマーを着込んでいた先達が皆悲惨な死に方をしているのをわたくしはみていますし、あまりお勧めはできませんわ」

俯く「女騎士」。

立ち回りを工夫する方法について説明する。

フォロワーは力は強いが知能が低いので、どうしても連携して襲ってくる事は少ない。

幸い「女騎士」は体力にはある程度自信があるようなので。

自分に到達する敵を、一度に少しずつにするように足運びをして。

確実に一体ずつ仕留めていく。

それで行って欲しい。

そう説明すると、「女騎士」も訓練中に同じ事を言われたという。

ならばできていないので、練習を実戦で重ねるしか無いと説明。

悔しそうに、俯くのだった。

ただ、努力しろと突き放すのだけでは意味がない。

ざっと見た感じ、何ができていないのかを順番に説明していく。

「女騎士」の場合、周囲の把握が少し遅い気がする。

周囲にいるフォロワーの数がどれくらいで、どいつがどのくらいの速度で到達するかを、計算する。

これは殆ど勘のレベルでできるようにならないと、ほぼ無理とも言えるのだけれども。

それでも何とかやってもらうしかない。

「悪役令嬢」だって、フォロワーに食いつかれたり掴まれたらおしまいなのはルーキーと同じなのである。

手数が多いから、そうされる前にフォロワーを駆除しているだけ。

その違いしかない。

そう説明すると、頷いて。

その後は、軽く外でいっしょに訓練をした。

訓練を終えて眠りに入った「女騎士」を見送ると。

「悪役令嬢」は、もう少し外で、フォロワーを狩る。

夜闇の中で、勘頼りにフォロワーを狩っていけば。それはそれで充分な戦果を上げることができる。

何よりも、自身の感覚を研ぐことができる。

それはそれで、実力の向上につながるのである。

幾つかの群れを潰してきた後、駐屯地に戻る。

そこで、やっと山革陸将から連絡が入った。

声が疲れきっているのが分かった。

「「悪役令嬢」。 日中はすまなかったな。 不慣れなオペレーターが対応したようだ」

「其方の状況が状況なのだから、仕方がありませんわ。 それで、九州南部のフォロワーの数はどれくらいですの?」

「少し調べさせたが、熊本などの街には、もはや古くて殆ど動けないフォロワーしか残っていない様子だ。 その代わり再編成でもしたのか、三十万を越えるフォロワーが一団となって、北上を開始している。 恐らくこれを駆逐すれば、九州にいるフォロワーは殲滅できると思う」

三十万か。

都心でも、毎日の駆除カウントは一万程度だった。

「陰キャ」は体力面の問題もあって、その半数程度。

都心より分散して北上してくるのは確実だから、そんな数は倒せないだろうし。仮に「悪役令嬢」のみで全滅させるとなると、一月がかりの仕事になる。

そして現状だ。

九州にいた自衛隊の精鋭部隊は、大攻勢で相当なダメージを受けていて、再編成の途中である。

支援火力は、あまり期待はできないだろう。

「分かりましたわ。 これは罠である事を承知の上で、わたくしたちが遅滞戦術を行います」

「……すまない。 本当にすまない」

「「陰キャ」さんは」

「現在都心にいる。 現在、旧地下鉄にてフォロワーが大活性している。 国の中枢機能を探そうとしているようだ。 それらを各個撃破して貰っている」

北海道に、という話があったのだが。立ち消えか。

それはそれで悲しい話である。

北海道で孤立無援状態で苦戦している部隊は、しばらくそのままなのだろうから。

「今の時点で強化フォロワーによる攻撃を受けている陣は無いのですわね?」

「幸いにも」

「ならば、対強化フォロワーの装備開発を急いでくださいまし。 その辺りは専門家に任せますわ」

仮に強化フォロワーをどうにかするのだったら、アパッチに積むような重機関砲とか、自衛隊では護衛艦と呼んでいた戦闘艦に積んでいた速射砲とか、そういうレベルの装備が必要になるだろう。

どっちも高コストだが。

今後基地には必須の装備になる筈だ。

いずれにしても、工場では今、医療品の生産でラインが焼き付きかけているはず。

それらの装備が行き渡るのは、いつになることか。

駐屯地に戻る。

明日からは、三十万を越えるフォロワーとの遅滞戦術開始だ。

それと同時に新人も鍛えなければならず。

同時に邪神の襲撃も警戒しなければならない。

風呂に入りながら、「悪役令嬢」は何度も悪態をつきそうになった。

どんどん精神に余裕が無くなっているのが、目に見えて分かり始めていた。

 

1、大軍

 

三十万か。

関東圏でも、辺境に行くと。その程度の人数しかいない市町村はいくらでもあったときく。

中には県などの規模でも、その程度の人数しかいない場所もあったそうだ。

それがまるまるフォロワーとなり。

北上を続けている。

新人達三人の内、あからさまに「コンビニバイト」が尻込みしているのが分かるけれども。

それについては、諦めてもらうしかない。

九州は、古くから多くの戦国大名がしのぎを削った場所だ。

島津ばかりが有名だが。

実際には島津が勢力を伸ばしたのは、より強大だった大友や龍造寺の自滅が要因として大きく。

いずれにしても、九州には戦闘を行うのに相応しい場所が山ほどある。

ともかく接敵して。少しずつ敵を削りながら、確実に下がる。

その過程で、疲れきっているタイミングを狙って邪神が仕掛けてくる可能性が高い。

それもNO3やNO2が出て来てもおかしくない。

それは既に、ルーキー達には言い聞かせてある。

「陰キャ」の支援が全く期待出来ない事からも。

邪神が出たら即時撤退は指示してある。

逆に言うと、ある程度余力を常に残しながら戦わなければならない事を意味し。

その難易度は決して低くは無かった。

「凄い大軍だ……」

ぼやいたのは「女騎士」だ。

多数を同時に相手にするのに向いていないというのを理解しているからだろう。

立ち回りなどを説明したが、それについてはもうどうしようもない。

ともかく「悪役令嬢」が敵中に突貫して数を減らす。

その後は、少しずつ取りこぼしをルーキー達に処理して貰うしかない。

無心で突貫。

昨晩少し雨が降ったから、平原の地面はぬかるんでいる。

これから更にフォロワーの血でぬかるむ。

数日は乾かない程に。

鴉が空を舞っている。

何となく理解しているのだろう。

これからこの辺りが、血みどろになる事を。

だがフォロワーは撃破すると、文字通り粉々になって散ってしまう。

鴉の餌は残らない。

そういえば、鴉の数はかなり減っているのだそうだ。

まあそれはそうだろうなと思いながら、接敵していた。

押し包もうとしてくるフォロワーをなぎ倒しながら、どんどん前進する。包囲しようとしてくるフォロワーを、全周囲薙ぎ払いながら、更に此方に敵を集めていく。

時々フォロワーを蹴って跳躍して、とんぼを切り。

上空から戦況を見て、少し後方に配置しているルーキー達にフォロワーが行くように仕向ける。

いずれにしても、「悪役令嬢」が凄まじい勢いで敵を削って行くのに。フォロワーも反応するのだろう。

凄まじい勢いで圧殺を狙って来るが。

一匹だって触らせ等はしない。

「オーッホッホッホッホ! おさわりはお断りですわ!」

文字通りの血の雨を降らせながら、大暴れする。

最近ストレスも溜まっていたので、全てまとめてフォロワーにぶつける。

恐れを知らないから、フォロワーは突貫してくる。

ひたすらに、北上していたフォロワー達が。

ただ押し潰そうと向かってくる。

数体程度なら、どうにでもなっているルーキー達だが。

それでも戦闘が長引くと、どんどん相手にする数が増えていく。

他のルーキーがやられそうになったら支援しろ。

そう事前に指示は与えてあるが、無理な場合は無理。

インカム通じて指示。

少し下がるように、と。

同時に「悪役令嬢」も瞬歩を駆使して、一気に下がる。体力の消耗が激しいが、どうにかするしかない。

これだけ密集している相手だ。

本来は空爆が重要なのだが。

特に空軍が出られるような基地は、あらかたがこの間の襲撃で大ダメージを受けてしまって、再建の途中だ。

一旦敵の群れから抜け出して、また仕切り直し。

体力の上限は。

この年でも、増えるらしい。

体の動きも。

前よりも、少しは鋭くなっているようだ。

だが、それも微増である。

やはり十代の頃のようには伸びない。

無言で敵を斬り伏せ、吹き飛ばす。

体力をその度に消耗する。

瞬歩などの高等技術を使うと、更に消耗は早くなる。

またたまに後方に「萌え絵」の札などを投擲して、ルーキーを助けることも忘れない。

もしも押し包まれたら、みんなまだまだ一瞬でやられてしまう程度の実力にすぎないのだから。

二時間ほど戦っただろうか。

予想通り、なんだかの古戦場である場所は、血の泥濘に包まれていた。とにかく敵の数が多すぎる。

そして恣意的である。

これは「悪役令嬢」がどれだけのフォロワーと戦えるのか、観察しているかのように思える。

そのためには、元人間であるフォロワーなどどんだけ消耗してもかまわない、というのだろう。

ユーラシアでは、生きた人間が殆どおらず。

億をゆうに越えるフォロワーが蠢いていると聞いている。

それならば、そういう考えもありなのかも知れないが。

いずれにしても鬼畜外道の思考だ。

とてもではないが、許せるものではない。

さて、そろそろかな。

インカム通じて、撤退の指示を出す。新人達は這々の体でロボットに逃げ込み、一気に距離を取る。

「悪役令嬢」はかなり目減りした敵をそれでも派手に削りとりながら下がり、ロボットに乗り込むと。撤退。

十qほど下がると、休憩に入った。

「キルカウントは?」

インカムに確認するが、返答はない。

舌打ちしそうになるが。

しばしして、また不慣れそうなオペレーターが出る。

いいわけを始めたので、もういいと判断。

忙しいのなら、後で応えてくれればいいとだけ話。駐屯地で休憩をする。この駐屯地もトラックの荷台に作られているだけの雑なもので。トイレと休憩用のスペースくらいしかない。

トラックも遠隔操縦できるロボットである。

要するに、もはや人を回す余裕が無いという事だ。

「あ、あんな数と連日戦うんですか!?」

「……」

「コンビニバイト」を、「コスプレ少女」が冷めた目で見た。

都心で凄まじい数のフォロワーと連日戦っていたから、ある程度慣れているのだろう。

「女騎士」は気持ちは分かるという雰囲気の顔で「コンビニバイト」を見ていたが。休憩で手一杯の様子。

それにしても、九州は激戦地と聞いていたが。

自衛隊が頑張って、狩り手の負担を減らしていたんだなと思い知らされる。

今はそれも期待出来ない。

ともかく、三十万をこの四人で捌かなければならない。

二時ほど食事なども含め休憩を済ませた後。

すぐにまた前線に出る。

当然の事ながら、集結したフォロワーの群れは更に前線を押し上げてきていた。これが九州北部に到達したら何もかもが終わりだ。

突貫して、片っ端から蹴散らす。

空輸して貰って敵の背後に出るとか、そういうのは意味がない。

此奴らには補給も何も関係が無いのである。

人間相手の戦闘とは、まったく勝手が違うのだから。

無言で敵を蹴散らし続ける。

返り血は浴びない。

フォロワーの一匹が、縦ロールまみれの髪の毛を掴もうとしてきたので。腕を切りおとし、ついで首を飛ばす。

「令嬢の髪に触るのは、最大限の侮辱でしてよ。 頭なでなでしたら惚れるとか、本気で思っていませんでしょうね?」

うめき声を上げて群がってくるフォロワーをひたすらに切り続ける。

前線は下がったが、その分の数は処理したと思いたい。

しばらく無心に戦う。二度「女騎士」が、一度「コンビニバイト」が被弾しかけたが。どちらも「萌え絵」の投擲で即座に防ぐ。

文字通り背中にも目をつけ。

更に邪神がいつ現れるかも分からない状態での戦闘だ。

本当に疲労が早い。

だが、半人前以下を、一刻も早く半人前に。できれば一人前に鍛えなければならないのである。

こんな無茶でも。

やらなければならない。

無心のまま日が落ちるまで戦い、それで一旦撤退。ルーキー達が下がるのを見届けてから、群がっていた集団を蹴散らして、自身も下がる。

流石に敵の数が数だ。

初日から、かなり消耗させられた。

駐屯地に戻る。

大型トラックの荷台だから、もはや駐屯地どころではないかもしれないが。これを駐屯地と言い張らなければならないほどに戦況は逼迫している。

ルーキー達を先に休ませて。

インカムで通信を入れる。

山革陸将が出たので、少しだけ安心した。

「九州でも流石の暴れぶりだ「悪役令嬢」。 きみのおかげでどれだけ弾薬が節約できているか分からない程だ」

「それは良いとして、全体の戦況を教えていただきたいですわ」

実の所、連日の状況もある。

流石に「悪役令嬢」も疲れが溜まっているし。

それによって気も短くなっている。

こればかりは仕方が無いと半ば諦めているが。諦めてはいけないとも思っている自分もいる。

怒りはフォロワーや邪神にぶつけるべきだ。

今は、ただ怒りを抑え込む。

「分かった。 まず「陰キャ」くんだが、今日は撃破レコードを更新した。 レンジャーの精鋭と行動はしていたが、六千を超えるフォロワーを駆除。 地下鉄の幾つかの拠点を制圧する事に成功し、総理などがいるシェルターへの危険を遠のかせた」

「その掃討作業はあとどれくらい続ける必要がありそうですの?」

「このレコードを維持したとしても、最低でも三日……」

「分かりましたわ。 続けてくださいまし」

苛立ちはできるだけ押さえ込む。

三日か。

実際にはそんな程度では済まないだろうなと思う。

邪神共はにやにやして、再編成もままならない此方の様子をみているだろう。

そう思って、怒りの矛先を邪神共に向ける。

そうすることで、山革陸将は無能であると言う現実から目を背ける。

山革陸将は実際にはかなりできる将軍だが。それでも、この事態に対応するのに能力が足りないのは事実だ。

歴史上の名将でも連れてこないと対応は無理だろう。

だから、無能では無いと自分に言い聞かせる。

「各地の基地は、再建を進めている。 小集落との連絡回線は復旧を進めている段階だ」

「それらが終わるのはいつになりますの?」

「最低でも一週間後だ」

「……」

つまり、その間は生存者の捜索とか救出どころではないということだ。

SNSクライシス発生から三十年経過した今でも。彼方此方で独自に生き延びている人々はいる。

そういう人達は、フォロワーに襲われると文字通りひとたまりもない。

今の状況では、「悪役令嬢」のようなエース級どころか、ルーキーすら派遣できない。

発見できても、どうにもならないだろう。

文字通りの最悪の状況だ。

「強化フォロワー対策はどうなっていますの?」

「現在停泊していた護衛艦から、速射砲を外して各地の基地に運ぶ準備を進めている所だ」

「……」

「それと並行して、おそらくは強化フォロワーにも対抗できるAH64アパッチロングボウの生産を急がせている。 ただ相当に高級な戦闘ヘリだ。 米軍とSNSクライシス後に再締結した条約で生産はできるが、各地の基地に配備するには時間が掛かる」

後手後手だな。

ぼやきたくなるが、仕方が無い。

確か現存しているアパッチは、各地の自衛隊基地合計で七機ほど。これで各地の駐屯地を守りきるのは無理がある。

速射砲を各地に据え付け、更にはレーダーシステムなどとのリンクを行う事で、素早く動き回る強化フォロワーにも対応できるようにし。

更にはアパッチを増やす事で、戦車をも貫く重機関砲の圧倒的連射によって強化フォロワーを押さえ込むしかないが。

それでもやはり厳しい所だろう。

護衛艦などの、動かすのに数百人の人員を必要とする大形兵器は、今の時代無用の長物と化している。

当然の話で、邪神が直に狙って来るからだ。

各地の駐屯地が大きな損害を受けたのも同じ理由で。

どうしても一つの基地に入れる人数は限られてくる。

SNSクライシス後の惨状で、人類はその辺りの事を学んだ。

今では小規模部隊で行動するのが、あらゆる意味での鉄則になっている。

総理大臣ですら、十数人程度のチームで動いているという話だ。

そうしないと、邪神に察知される可能性が跳ね上がってしまうから、である。

野戦病院すら、病棟を散らして対応する事になっている程なのである。それも地下に作っている。

人類はまとまってはいけないのだ。

今の時代は。

「最後に君達だが、今日の戦いで一万二千ほどのフォロワーを屠ったようだ。 凄まじいキルカウントだな。 恐らく記録更新だと思う」

「まだ二十九万……ですわね」

「自衛隊の体勢を整えるべく此方も準備している。 明日も、敵に対する遅滞戦術を行ってほしい」

通信がきれる。

この様子だと、山革陸将も悲惨な労働状況の中にいるのだろう。

責める事は出来ない。

通信後、食事とトイレや風呂などを済ませ。

その後食後の運動に、軽くフォロワーを狩ってくる。

夜闇の中で蠢いているフォロワーは、まるでいにしえの妖怪だ。古代の人がみたら、確実にそういう風に判断するだろう。

片っ端から駆除し、少しでも明日からの負担を減らす。

傘は、まだ来ない。

 

翌日も苛烈な戦いが続く。

その中で、「コスプレ少女」の活躍は一枚抜けていた。兎に角動きが的確で、被弾しそうな状態も一度も経験していない。

肝が据わっているというのか。

何というか、他の二人よりも動きそのものがかなりいい。

一方、「女騎士」は何とか立ち回りのコツをつかみかけている様子で。敵をかなり引きつけながらも、被弾の可能性はかなり減ってきていた。

勿論成長は早い方では無いが。

それでも、頑張っている方だとは言える。

「コンビニバイト」は相応だ。

そもそも、トラウマになるような戦闘を間近で何度も経験しているのだ。

苦労するのも仕方が無い。

ともかく、今日も昨日以上にフォロワーを削る。そういう考えで、徹底的に敵を削りとる。

数時間で、一度後退。

かなり「コンビニバイト」の息が上がっているのが分かった。筋肉痛も出ている様子である。

その辺り、「女騎士」はけろっとしている。

「休憩を。 少し休んだら、また出ますわよ」

青ざめて顔を上げる「コンビニバイト」。

新人により多くの休憩時間を振り分け。

その間にも、軽く「悪役令嬢」はフォロワーを狩っておく。

駐屯地に近付いているフォロワーの小規模な群れは幾つかあるので、それを全部駆除しておく。

敵が北上を続けているのは確実なのである。

それを全部片付ければ。

九州の戦況は。邪神以外は危険を考慮しなくても良くなる。

勿論各地には小規模のフォロワーの群れが点在している状況は変わらないだろうが。それでもフォロワーの大軍が移動し続けて、迎撃に手間を取られるよりはマシだ。

自身も軽く休憩したあと。

戦場にまた戻る。

ひたすら狩り続け、地面を赤い泥濘に変える。

戦闘がひたすら続くが。血の臭いばかり強くなって、食える肉片が全く見当たらない事に。

鴉たちも苛立っているようだった。

一方で腐敗した血だけで充分な様子で。

蠅は大発生しているようである。

駆除どころでは無いので、放置するしかない。それに、大発生するのも、一時的なものだろう。

二日、そうやってひたすら戦いを更に続けた。

終わる気配もない戦いだが。

四日間の戦闘で、五万のフォロワーを削りとった。

だが、二十五万がまだ健在で、北上を続けている。

毎日九州を東西と移動しつつ。ある時は山の中で。ある時は平原で。ひたすら、フォロワーの群れを迎撃する。

それで少しでも敵の侵攻を遅らせる。

恐怖も知らず補給も必要ないフォロワーには、そうして対応するしかない。

五日目に入ると、「コンビニバイト」の目が死に始めた。

流石にPTSDになりつつあるか。

立て続けに同期がやられ、連日の過酷すぎる戦闘。

やむを得ない。

「悪役令嬢」は、五日目の戦闘が終わると。山革陸将に連絡を取った。毎日連絡を入れているのだが。それとはまた別の要件である。

なお、「陰キャ」の地下鉄掃除作業だけは順調な様子だ。

これはそれまでに、「悪役令嬢」が都心のフォロワーを散々狩り倒していたことや。何よりも都心や千葉のフォロワーを大量にNO4が消耗したのが大きいのだろうとは思う。

「なるほど。 「コンビニバイト」くんは既に限界か」

「一度下がらせて休養を。 それと、負傷していた他のルーキーの方は」

「まだ前線に出せそうな者はいない……。 「喫茶メイド」くんはようやく意識が戻ったが、復帰までは二ヶ月と言う事だ」

そうか。二ヶ月か。

一番早く復帰出来そうなルーキーが一月後という事である。

そうなると、しばらくは厳しい戦いが続くだろう。

東京地下に移した訓練生のための設備なども、フル稼働には程遠い状況と言う事で。

早くても来るのが半年後という次のルーキーは。

更に到着が遅れるという、感動ものの話も来ていた。

仕方が無い。

前線でどうにかするしかない。

「今日も含めると、六万を越えるフォロワーを既に削っている君達の戦果は驚異的だし、それについて誰も文句を言ってはいない。 言ったとしても私が許しはしない」

「それはありがたいのですが、わたくしの新しい傘などの装備は?」

「すまない。 傘はやっと生産に取りかかった、と言う事だ」

「……急いで寄越すようにお願いいたしますわ」

インカムを引きちぎりたくなったが、我慢だ。

すぐにロボットで、「コンビニバイト」を後送する。明日から、更に「女騎士」と「コスプレ少女」の負担が増えることを告げるが。

二人は頷いた。

「もう少し廻してください。 何とかします」

そういうのは「女騎士」だが。ここ数日被弾しそうにはなっていないとはいえ、少し不安だ。

何も「コスプレ少女」が喋らないのは前と同じ。

本当に必要な事しか喋らないなこの子は、とも思う。

まあ、喋る事は必須では無いし。

成長は早いので文句は無い。

「いずれにしても、しばらくは最悪の戦況が続きます。 人は一朝一夕に強くなれませんし、二人とも覚悟は決めておいてくださいまし」

例外はいる。

だけれども、「悪役令嬢」含めてそんな例外は此処にはいない。

邪神がいつ来るかだって分からない。

それも含めて。

「悪役令嬢」は。もはや何が起きてもおかしくないなと、半ば諦めかけていた。

 

2、ほの暗い闇の底

 

古い時代は、五分おきに電車が通っていたらしい場所を、「陰キャ」は歩く。

今は人間だったものが徘徊する地獄。

一部の安全は確保されているが。

本当に一部に過ぎない。

幸い、「悪役令嬢」が都心で暴れていてくれたから。地下にいたフォロワーは相当数が地上に引っ張り出されていたらしいのだが。

それでも一部。

まだまだ数万、いやその桁より上は、地下に軽くいる。

それも、確認できている範囲内で、である。

地下だとドローンは小型のものしか使えない。それも性能がかなり限られてくる。

そういう事もあって、「陰キャ」が拠点となる場所をレンジャーと回って、駆逐していかなければならない。

潜って既に六日。

九州に行ったらしい「悪役令嬢」は、三十万に達するフォロワーと交戦しているという話だから。

まだ此処はマシだと判断するべきなのかも知れない。

周囲を見て回り、フォロワーの完全駆除を確認。

喋るのが苦手な「陰キャ」用に、自衛隊は文字だけうつ装備を用意してくれた。

SNSクライシス前には「ガラケー」と呼ばれていたデバイスらしい。

いずれにしても、片手で扱えるので。

「陰キャ」はすぐに使いこなせるようになった。

すぐにレンジャーが来て、周囲で色々始める。敬礼を受けたので、敬礼を返す。眼鏡ごしだから、視線を合わせなくていい。近くだと、相手が怖くてしかたが無いのだ。

なお男性恐怖症とかそういうのはない。

生の人間は等しく怖い。

実は山革陸将から、新人を育成してくれないかという提案があったのだけれども。それも断った。

適性が最悪だから。

勿論山革陸将も、それを察してくれた。

嬉しい話だ。

ただ、最初期に幾つか「悪役令嬢」から受けたリスペクトや、見せてもらって覚えた技など、感謝していることはある。「悪役令嬢」の大きな声とかは苦手だが、本人にはとても感謝している。

だけれども、そう面と向かって言う事は出来ないだろう。

SNSクライシスの前だったら、余程の事がなかったら、きっと差別と偏見に曝されて、死んでいっただけ。

そういう運命だっただろう事は、「陰キャ」も理解していた。

すぐにロボットが来た。乗って、次の戦場に。ロボットに乗って移動中に、食事は済ませる。

トイレは今朝出てくる前に済ませてあるし、しばらくは大丈夫だ。

車が止まる。前方から、フォロワーが来る。すぐに車を降りて、刀を抜く。

突貫。

無言で斬り伏せていく。何しろ閉所だ。刀は最高効率での殺傷率をたたき出す。長モノの方が良いのは分かりきっているのだけれども。

「陰キャ」には、もうこの愛刀以外の武器は考えられない。

更に強化フォロワーでもない限りは、基本的にフォロワー戦での刀の消耗は気にしなくてもいい。

そうでなくても、「陰キャ」の刀は驚くほど消耗しないと絶賛されている。

もっと上手になりたいとは思う。

何しろ、基礎体力が足りていないのだから。

一団を殲滅するまで五分。

また、移動を開始する。

インカム通じて戦闘を見ていた様子で、すぐにガラケーが振動。

内容を確認すると、もう少し先に駅があって、其処を制圧したら一旦休んでほしいと言う事だった。

少し遅れてレンジャーが進んでいると言う。

勿論どこからフォロワーが奇襲を仕掛けてくるか分からないし。下手をすると邪神が出るかも知れないから。

そういうときに備えて、いつでもある程度の体力は温存しないといけない。

またロボットにのって、ぽくぽくといく。

幾つかの駅には、無惨な姿になった地下鉄の残骸が停止しているという。

SNSクライシスの時に、邪神が現れて。

運転する人も乗っている人もまるまるフォロワーにされてしまって。

制御不能のまま、何処かに突っ込んで。

大破してしまったものらしい。

この国の電車は、時刻表通りしっかり来る事で有名だったらしいのだけれども。

それでも、マンパワーの酷使があまりにも常軌を逸していて。

それによる事故も希にあったのだとか。

更に言えば、SNSクライシスの当日にも地下鉄は動いていて。

被害は様々な方向で拡大した。

次の駅には、そういった電車が止まっている事は無かったが。

それでも、確かに相当数のフォロワーが蠢いていることが分かる。

ガラケーを素早く打つ。

取りこぼしが出るかも知れないから、レンジャー部隊は距離を取ってほしい、と。

すぐに了解と連絡が来たので。ロボットから降りる。

フォロワーが集まってくる。

かなり新しいものが多い。

三十年経過しているとは言え、地下にいたのだ。

風雨にさらされなかった。

それだけで、かなり肉体は保全できていたのだろう。

何より此処はとても涼しい。

それも理由の一つかも知れない。

「名誉オス!」

「コロス!」

聞いたような単語を口から発しているフォロワーもいる。

SNSで暴れていた女尊男卑思想の人間が邪神になり。その邪神のフォロワーになってしまったケース。

言動が微妙に違うので、フォロワーから邪神の正体を割り出すことも可能らしいが。

既に討伐してしまった邪神のケースもあるし。

今はもう関係が無い。

軽く下がりながら、群がってくるフォロワーを撃退する。

最小限の力で、最大の効果を上げる。

駅の、トンネルから出た入り口付近で戦闘することで。

フォロワーは押し合いへし合いになるのに対して。

此方は一振りで数体のフォロワーを蹴散らしつつ、それこそ殆ど立ち位置を変えずに立ち回れる。

ばっさばっさと切り倒し続け。

時々リズムを取る。

リズムを取るのは、基礎に立ち返る事を忘れないようにするため。

3,2,1,0。

そう呟きながら、攻撃に緩急をつける。

被弾など絶対に許されない。

ベテランのおじさん達が、既に再起不能になってしまったという話は聞いている。

「悪役令嬢」への負担が、尋常では無いほど高まっていることも。

この上、この国が抵抗するための中枢部がやられてしまったらもう元も子も無い。

基地を守るのを、それでもこの国は最優先した。

基地が無ければ、フォロワーから民を守れないから。

規模が百分の一になったかも知れないが。

SNSクライシスの前は、どこの国も無能で魑魅魍魎が跋扈していたらしいという話を聞くと。

戦う意味をきちんと見せてくれる今のこの国は。

或いは、昔よりはマシなのかも知れないと思う。

当時だったら、「陰キャ」なんて社会不適合者の烙印を押されて、自殺に追い込まれるか一生引きこもりだっただろう。

今、「陰キャ」は。

目的も尊敬すべき存在も見つけて。

戦っていられるのだ。

凄まじい効率で、入り口で押し合いへし合いしていたフォロワーを片付けきる。

辺りはもの凄い血の海だけれども、残ったフォロワーを全部片付けると、多少は静かになった。

ロボットに乗り直すと、入り口から駅の真ん中辺りまで移動し。

一旦引き返す。

こうすることで、隠れていたフォロワーがまだ出てくる可能性がある。

案の定出て来たが。

それも大した規模では無かった。

すぐに片付けてしまう。

一通り片付けて、ガラケーを取りだす。

今の状況なら、襲いかかってきても対応できると判断した。

周囲が全て見渡せる場所に立つ。

昔だったら、駅のホームと呼ばれていたような所だ。

今ではもはや、死人が闊歩していた跡しか残っていない。

「ドローンを廻してください」

「了解した。 探索用ドローンを飛ばす」

ガラケーでなら、普段みたいにぼそぼそとでなく喋れる。文字で喋るからだ。本当に有り難い。

無言でロボットに戻ると、しばらくは休む。

ドローンが来て、駅の調査を開始。まだどうせフォロワーは残っている。それも結構いる可能性が高い。

こういう地下鉄の駅を幾つも制圧してきたが、地上とつながっている事も多いし。

何より迷路みたいになっている場合も多い。

だからそういう迷路にフォロワーがすし詰めになっていたりして。

右往左往しているケースは珍しく無いのだ。

それも何かの切っ掛けで、大量にあふれ出てくるかも知れない。

ロボットにはコンソールがつけられている。

装甲車や戦車ほどではないけれど、これもそこそこに高価な軍用装備なのだ。

SNSクライシスの前には普及していなかったらしい。

コンソールに、見る間に赤点が増えていく。

フォロワーがまだまだいる。

クッキーを口に入れる。

本当にまずいなと思う。

みんな我慢しているけれど。

とれる砂糖もロクな品質じゃないし。

小麦だってそう。

お茶だって、本当においしくない。

普通の水の方が何十倍もマシと思うくらいだ。

フォロワーそのものは感染力を持たないのが救いだろうか。

昔のゾンビ映画とかだと、ゾンビに噛まれるとそれでおしまい、というのが定番だったようだし。

まあフォロワーに噛まれても、おしまいなのは別の意味で共通しているが。

「残存数、およそ400」

コンソールから声がした。

400か。ただ、彼方此方に散っているから、片付けるのは結構大変だ。

腰を上げかけると、ガラケーで連絡が来る。

「この駅は迷宮状で複雑な構造だ。 駅の構内のフォロワーを掃討後は、地上への入り口を速乾コンクリートで封鎖するための作戦を行う。 「陰キャ」さんはそのための支援をお願いしたい」

「分かりました」

「ありがとう。 貴方のおかげで、戦友がこれ以上死なずに済む。 本当に感謝している」

こくりと頷くと、そのままロボットを出て、ドローンについていく。

何だか商店街だったような場所だ。

地下にもこんなのがあるんだな、と思う。

無心に、群がってくるフォロワーを斬り捨てる。

周囲はもう腐るとかを通り越して、元が食品だったらしいとしか分からない残骸しか存在していないし。

硝子などは割れてしまっていて、散乱している。

幸いこの特別製の軍用靴なら、ちょっとやそっとの硝子を踏んでも貫通はしない。

そのまま群がってくるフォロワーを片付ける。

400程度ならすぐ終わる。

それも分散しているのだから。

一通り片付けると、レンジャー部隊が来た。

何か大がかりな装備を手にしている。

ドローンを見ながら、何か話をしているが。作戦会議に参加するつもりは無い。

「陰キャ」は言われた通りに、敵を斬るだけだ。

やがて、指示を受ける。

「「陰キャ」さん。 ドローンの偵察によると、三箇所ほど地上と直通している出口がそのままになっていて、フォロワーが入り込んでくる可能性があるようです。 それを一旦速乾コンクリートで塞ぎます。 貴方は作戦中、フォロワーが来る場合は排除をお願いします」

「分かりました」

ガラケーで打って返す。

指示通りの場所に移動する。

外は大雨だったらしく、かなり激しい雷の音がする。水も流れ込んでいる。

レンジャー部隊が来るまで、此処を死守すれば良いのかなと思ったが。そう簡単でもないようだ。

ガラケーが振動して、指示が来る。

此処から出て、外にいるフォロワーをしばらく倒して回ってほしいと。

その間に、今「陰キャ」が出た出口を速乾コンクリートで封鎖するらしい。

それが終わったら指示するので、ドローンの指示通りに移動して、地下鉄の駅に戻ってほしい、ということだ。

何だか無茶苦茶を言われている気がするが。

駅の構内と、東京都心とで、別にフォロワーの密度は大して変わらない。

早速わらわらと現れるが。

思ったほど密度は高くない。

「悪役令嬢」が掃討作戦をかなり派手にやっていたようだから、それが理由だろう。

群れが分散して、彼方此方で各個撃破されたし。何より都心に押し寄せた分、各地はスカスカになっているのだ。

全方位から来るから、すぐに周囲を見回して。包囲が薄い場所を確認。

其処を突破すると、後は少しずつ下がりながら順番に処理していく。外に出た途端大雨の中百体くらいと戦う事になったが。

大雨そのものは、いつも被っているコートとキャップ。それに眼鏡とマスクもある。別にどうということもない。

ただ視界が妨げられるし。

何より音が邪魔で、フォロワーの接近に気付きにくい。

感覚をその分研ぐ必要がある。

要するに、それだけ体力を使うと言うことだ。

第二波が来た。

戦っている内に、連絡が来る。

ガラケーを見ている余裕が無いので、フォロワーとの戦闘に専念。百体ほどの第二波を蹴散らした後、急いでガラケーを見る。

コンクリの打設工事終わり。

このルートで、地下に向かってほしい。

ドローンが先導する。

そういう話らしい。

今の戦いをしている間に、二つ目の入り口も塞いだそうだ。

そして最後の入り口に「陰キャ」が逃げ込んだ後。追撃してきたフォロワーを片付けて。コンクリの打設を行うとか。

そういう説明もあったが。

流し見して、そのままドローンの指示通りに動くが。

角を曲がった途端に、それこそとんでもない数のフォロワーに遭遇していた。

これを正面突破か。

それに突破した後も、狭い所で此方有利とはいえ、迎え撃たなければならないという事でもあるわけだ。

無言で突貫。

雨の中、感覚が鈍るのはフォロワーも同じらしい。

何よりも、外を彷徨いているフォロワーは相当に古くなっている。

斬り伏せながら、そのまま突進し。

片っ端から倒しつつ、指示のあった場所へ急ぐ。

瓦礫で半ば埋まっている其処に飛び込む。

小柄な「陰キャ」だからできる芸当だ。内部も瓦礫だらけで、下手すると怪我しそうだけれども。

それでも勘をフルに生かして。

内部に飛び込んで、ジグザグに跳躍しながら地下深くを目指す。

レンジャー部隊が待っていた。

そのまま、速乾コンクリートをぶちまける。

もう少し、この入り口はこうなっているとか、話をしてほしかったけれど。

それはもう仕方が無い。

とにかく速乾コンクリートの効果は絶大で、更に瓦礫まみれの地形もある。追撃してきたフォロワーは少数で。更に無理に追撃してきたものも、コンクリに埋まってそのまま動かなくなったようだった。

ゴリラ並みのパワーがあっても、どうにもならないものなんだな。

そう思って、放出される速乾コンクリートを見やる。

呼吸を整えているのは、流石に消耗が大きかったからだ。

帽子とかは取る気にならない。

人が見ている前で、そういう事は出来るだけしないようにしていた。

「速乾コンクリート打設完了!」

「状況終了! 撤退を開始する!」

レンジャー部隊が敬礼すると、撤退を開始。勿論まだ取りこぼしがいるかも知れないから、油断はできない。

警戒しながらロボットの所にまで戻る。

見ると、更に奧の駅に行く通路も、速乾コンクリートで塞がれていた。

それだけではなく、別の部隊が来ていて。

迎撃用の自動火器などを設置しているようだった。

ガラケーに連絡が来る。山革陸将からだった。

「「陰キャ」くん、見事な働きだった。 これで恐らくだが、当面首脳部がフォロワーの攻撃にさらされる事もないし、自衛隊が各地の駅を巡回する必要もなくなる。 安全圏は確保されたとみて良い」

「後は首都圏のフォロワーの掃討ですか?」

「いや、各地の都市をドローンが回って調査している所だが、やはり地下などに何カ所かで強化フォロワーが見つかっている。 それらを駆除して貰いたい」

やはりいるのか。

焼け石に水だとは思うが、駆除しないよりは良い筈だ。

それに各地を回る過程でフォロワーを片付ければ、近隣に生存者がいる場合それだけで生存率が上がる。

「悪役令嬢」が心配だが。

今は、とにかく順番にやれることからやっていくしかない。

それは「陰キャ」にも分かっていた。

ロボットが動き出す。

一旦近くにある、安全を確保している駅に向かい。其処から外に出る。

外にある無人駐屯地で、しばらく休む。

休む間に、刀の様子を確認して貰う。体力がただでさえない「陰キャ」には、さっきの走り回るミッションはきつかった。

無心に睡眠を貪った後。

起きだして、風呂に入り。

食事も済ませて。

後は無言で刀のチェックをする。

モリブデンとチタンの合金である、いにしえのどんな刀よりも凄い近代技術を結集してわざわざ作った業物。

刀に異常は生じていない。

頷くと、納刀。

後は、指示を受けたスケジュール通りに動く。

今も「悪役令嬢」は、絶望的な数の邪神と交戦を続けているはず。

何がどう変化するか、分かったものではない。

不意に連絡が入る。

「邪神が出現した」

無言で頷く。

優先順位が上がったと言う事だ。

「数は二体。 どちらも今まで見たことが無い邪神だ。 いずれも此処からほど近い場所、フォロワーの駆逐が完了した地点に現れている。 それに伴って、フォロワーが集まりつつあるようだ」

少し休憩して、体力は戻った。

基礎体力が無い分、体力の回復そのものは早い。

それはそうだ。

元々体力がしょっぱいんだから。上限まで回復する時間は、それほど掛からない。

「撃破までは望まない。 威力偵察をしてほしい」

「分かりました」

ガラケーに即座に打って返す。

ドローンからの画像を見る限り。一体は大きな百足に似ているけれど、顔は人間だ。

もう一体はこれは何だろう。

ちょっと形容できない。しいていうならば、無理矢理にくっつけたブロックだろうか。

小首を傾げたが、ともかく移動はロボットに任せる。ヘリで行くには近いし、ロボットで充分だろう。

雨脚は少しずつ収まりつつある。

「「悪役令嬢」は無事ですか?」

「……新人の一人がPTSDを発症してしまったが、それでも奮戦してくれている。 毎日一万以上のペースでフォロワーを削ってくれている」

すごいな、と思う。

でも、それだと邪神が疲弊しきった所を襲ってきたら、対応できないのではあるまいか。

それに九州の峻険な地形があるといっても。

北部の無人工場地帯にフォロワーが到達するまでに、駆除できるのだろうか。

九州で戦っていた自衛隊の部隊も、この間の強化フォロワーによる全面攻勢で、大きなダメージを受けて再編成中だと聞いている。

何か、手を打たないと。

此方はじり貧になるばかりだ。

大陸から来た十一体の邪神。

それも、十一体で本当に打ち止めなのか分からない。更に同規模の増援が来るかも知れない。

そうなったら、もう終わりだ。

発狂してしまう自衛隊員もいるかも知れないし。

それを責める事も出来ない。

ともかく、威力偵察だ。

今の「陰キャ」は、光栄なことに。恥ずかしい事に。「悪役令嬢」の次くらいに信頼されている様子だ。

信頼に応えたいとは思わない。

だけれども、目の前で両親を食い殺したフォロワーを無節操に産みだし。

とてもではないけれど許せない発言を繰り返し。

心の底から他人を貶めて、好き勝手に殺戮する邪神は許せない。

実際に邪神と戦って見て分かったが。

あれらはSNSクライシス前に跋扈していた悪い人間の悪い所を全部集めたような怪物達だ。

倒せるなら、二体とも倒してしまいたい。

ロボットが止まる。

邪神のテリトリに入った事が肌で分かる。

大陸の邪神はどういう仕組みか、なんと狩り手から逃げる事が出来るという。

この間の交戦で確認されたらしいが。「悪役令嬢」の猛攻を見るや、素直に撤退したのだそうだ。

人間以下と見なしている狩り手から逃げ出すなんて、精神生命体がどうやっているのか気になるけれども。

それでも逃がさない。

最初に此方に気付いたのは、百足の方だった。

近くに寄ってきたフォロワーをバリバリと喰らっていたが、顔を上げる。

雨に濡れているその顔は、異様に整っていて。

百足の形とは非常に違和感が強烈だった。

「何だァ、根暗そうな女だなあ。 ひんむいたら少しは面白いかも知れないな。 悲鳴聞かせろよォ」

邪神から無礼な言葉を浴びせられるのには慣れている。

鯉口を無言で切ると、接近。

邪神は体をくねらせると、そのまま多数の壁をいきなり出現させる。

これは、以前二体の邪神を「フェミ弁護士」が連れてきたときに見た事がある。

金色の壁だ。

しかも複数同時展開か。

瞬歩で回避しようと思ったが、後方に殺気。

真横にころがって飛び起きる。

地面に突き刺さったのは、さっきのもう一体の邪神そのもの。

そいつは打って変わって無口というか、寡黙な雰囲気だったが。

失礼さ加減は大して変わらなかった。

「陰気な女だ。 悲鳴を上げて命乞いするのも期待出来そうに無いな」

「多分此奴が「悪役令嬢」とかいうのの次に強いらしい「陰キャ」とかいう奴だろ。 油断はするなよ、「チーター」ァ」

「其方こそ油断するな「封鎖」」

ブロックみたいなのは「チーター」。

百足男は「封鎖」というのか。

そうなると、なるほど。何となく分かってきた。

あの金色の壁は、大陸がネットを外から遮断するのに使っていた、悪名高い「金盾」なのだろう。

向こうでは、弾圧と金盾はきっても切れない関係であったらしい。

勿論AIも利用していたのだろうが。

殆どの場合は、人海戦術で対応を行っていたのだそうだ。

名前からして、「封鎖」はその金盾の管理者。

「チーター」というのは何だろう。

発音からして、あの足が速い動物では無さそうだ。いずれにしても、能力は見せてもらう。

そして戦力差があると判断したら即座に撤退。

逆に勝てると判断したら、倒す。

無言で突貫。

大量の壁を展開する「封鎖」。更に、体をうねらせながら、大量に錐を飛ばしてくる「チーター」。

攻撃と防御を担当する二人一組か。

別に珍しい相手でもない。

そのまま瞬歩を連続して使うと、壁の内側に潜り込み。

ダンと泥水を跳ね上げながら踏み込んで加速。

百足の嫌みなまでのイケメン面を、顎から脳天まで真っ二つに斬り割き、更に背中を滅茶苦茶に切りつけながら尾まで抜けた。

絶叫する百足だが、フリだな。

そう思って、即座に飛び退く。

激しく損傷した百足の体から、大量の触手が飛び出してくる。それの先端は指のようだった。

そういえばあの金盾も、指の塊のようだったっけ。

瞬歩で下がり、残像を触手が抉るのを見る。

また膨大な金盾を出現させてくる「封鎖」。更に上空に移動し、爆撃の体勢に入ろうとする「チーター」。

分かりやすい動きだ。多分だが、あれもフリだな。

ステップを踏みながら、敢えて次の攻撃をさせる。

高速で体を再構築しながら、大量の触手を放ってくる「封鎖」。

無心でそれを全て回避しつつ、力がこもっている一点を斬る。触手が全て吹っ飛ぶ。

顔を歪めた「封鎖」。「チーター」が動くと同時に、地面から膨大な錐が出現して、「陰キャ」がいた地点を滅茶苦茶に切り裂いていた。

だが、その時には。

その錐の動きを利用して跳躍した「陰キャ」が、「チーター」の上を取っていた。

そのまま、一刀両断に斬り伏せる。

絶叫する「チーター」。内部には、何か椅子に座った男性の姿が見えるが、返す刀でそれも切り伏せた。

地面に叩き付けられる「チーター」を見て、「封鎖」が叫ぶ。

「まずい、撤退だ!」

逃がすか。

無言のまま、捨て石に飛ばされて来る触手を全て斬り伏せつつ突貫。金盾も大量に展開して来るが、全部瞬歩で無視してかわす。

まだ立ち上がれない様子を装っている「チーター」は無視。此奴はまだ第二形態にもなっていない。

むしろ感情を露わにしているのは「封鎖」の方だ。

百足の体に飛び乗ると、胴体を輪切りにする。悲鳴を上げながら、形を変えていく「封鎖」。

大量の指でくみ上げられたような形だ。

同時に、周囲の空間に穴が開き、膨大な数の錐が飛んでくるが。

その全てを回避するのは、あまり難しくなかった。

なんというか、見える。

雨が降っている今なら、なおさらだ。

「おのれこの地味女ァ! 俺は権力も金も持っていて、管理体制を任されている一人なんだぞ! 女なんか食いたい放題の俺に、お前みたいなド底辺が……」

「悪役令嬢」が時々猛烈な口撃を邪神に浴びせるが。

その気持ちが分かった気がする。

百足野郎、「封鎖」の首を刎ね飛ばし。更に文字通り蒲焼きにする勢いで指だらけの巨大な肉塊を真っ二つにする。

その奥にあったのは間違いなくコアだ。

多数の指で厳重にガードし。更に鎖で封鎖しているような球体。

背中から、串刺しにしようと飛んできた「チーター」の一撃を、残像を抉らせてかわす。

そして、無心のまま。

「封鎖」のコアを刺し貫いていた。

聞き苦しい絶叫とともに、「封鎖」は消えていく。単独での邪神撃破は初めてだが。正直これは、今まで交戦したどの邪神よりも弱かった。

多分敵も威力偵察のつもりだったのだろう。手を払って、流れてくる身勝手極まりない回想は押しのける。

嫌い、というのですら嫌だった。

「「封鎖」!」 お、おのれええええっ!」

もう一体、「チーター」がわめき散らす。

形態を変えようとするが、済んでのところで思いとどまったようだった。

次はお前だ。

そう顔を上げて見やった「陰キャ」を見て、即座に黙り込んだのも理由かも知れない。

姿を消す「チーター」。

周囲からは、邪神の気配が消えていた。

ガラケーが鳴る。

「ま、まさか単独で邪神を倒すとは……」

「今までで一番手応えのない相手でした。 もう一体も、次に現れたら倒して見せます」

「……重ね重ね感謝しかない。 戻って休憩をしてくれ」

頷く。

多分今の「封鎖」は、大陸から来た十一体の邪神の中で最弱だったのだと思う。

この間四体の邪神を、「悪役令嬢」は単騎で追い返したらしいが。それらより更に弱かったのかも知れない。

恐らくだが、フォロワーの削られ具合からして、「陰キャ」がいることを察し。実力を正確に把握しようと威力偵察に出してきたのだろうけれども。

威力偵察のつもりが、そのまま命を落とす事になった。

勿論「陰キャ」がああなっていた可能性だってあった。

嘆息する。

雨が更に激しくなってきている。駐屯地で休もう。そう「陰キャ」は思った。

色々考えたい事はあったが。

それよりも、疲労と怒りが勝っていた。

 

3、泥濘血河

 

山から見下ろした先には、凄まじい数のフォロワー。だが、怖れる訳にはいかない。

自衛隊も再編成した部隊を駆使して、最大限の支援を(九州以外で)してくれている。十日ほど連戦を続け。

かなり疲労は溜まっているが。

その間におよそ十二万ほどのフォロワーを撃破。

残りは六割だ。

体力自慢の「女騎士」も流石に青ざめてきている。無言のままだけれども、「コスプレ少女」もあまり調子は良く無さそうだ。

眼下にいるフォロワーは二万程度はくだらないだろう。

あれを撃破しきれば、かなり残りの駆逐が楽になる。

朗報もある。

東京で、首脳部の安全確保に動いていた「陰キャ」が、強襲してきた邪神二体と交戦。その内一体を仕留めたという。

流石だ。

才覚では「悪役令嬢」を超える逸材だと思っているが。

近いうちに、実力でも超えてくれるかも知れない。

もう年齢は二十代半ばを過ぎている「悪役令嬢」。

これ以上の飛躍的な伸びは期待出来ない。

基礎体力がないという弱点はあるものの。

やはり次代は「陰キャ」に任せるべきだろうと思っていた。

まあ、その前に。

まずはあの不埒なフォロワーの大軍勢を蹴散らさなければならないが。

山革陸将に連絡を入れる。

各地の再編成が一段落したようだが、いつまた強化フォロワーが出るか分からない。

そのため、ヘリなどの再配置をしている様子で。まだ連絡には出てこない事が多いけれども。

それでも今回はつながった。

「わたくしですわ。 見ての通りの敵の数。 MLRSなどによる支援はできませんの?」

「すまない。 現時点では、九州で動かせるMLRSは……。 自走砲、ヘリ、榴弾砲、いずれもが全て部隊を再編成の途上だ。 攻撃機は燃料が不足していて……」

「分かりましたわ。 全てわたくしで片付けておきます」

「今君を失う訳にはいかない。 無理だけはしてくれるな」

そう思うなら。

少しでも支援をしろ。

そもそも、「悪役令嬢」ならどうにかできると思って、フォロワーにぶつける自衛隊の部隊を削り、他に回しているのだろうが。

そう毒を叩き付けたくなったが。

我慢する。

悪いのは邪神どもだ。そして自衛隊の消耗が激しいのもまた事実なのだから。

それに、後輩である「陰キャ」が大金星を挙げてくれたことで、多少溜飲も下がっている。だから許してやる。

「「悪役令嬢」先輩。 このままのペースでフォロワーの駆除ができれば、あと十五日で全滅できる計算ですが……」

「そんな計算通りに運ぶ訳がないでしょうに」

「あ、すみません……」

「女騎士」が恐縮する。

いくらポンコツ女騎士のネットミームのままの格好をしているからといって、オツムまで本当にポンコツ女騎士になってどうするのか。

頭が痛い問題だが。

ともかく、やるしかない。

戦略に関しては専門外なのだが、どうせ邪神が横やりを入れてくるに決まっている。

それもそろそろだろう。

かなり「悪役令嬢」の疲労が溜まっている状況を見計らって、仕掛けてくる筈だ。

そして、「悪役令嬢」の疲労が溜まるように、九州にいるフォロワー全部を北上させるという暴挙に敵は出ている。

九州北部に何があるか、奴らは知らないし、知ろうともしていないだろう。

これについては分かる。

狩り手を潰すつもりはあっても。

自衛隊なんて、敵だとすら邪神は思っていないからだ。

これは米軍に対しても同じらしい。

邪神は進歩出来ない存在だ。

だから、軍隊などゴミカスという発想から、ずっと抜けられないのだろう。

「可能な限り削りますわ。 取りこぼしを処理するように」

「分かりました。 ご武運を」

「……」

この二人も、短期間で腕が上がってきているが。

それでもまだまだ半人前である。

人間、そんなに短時間で力量は上がらない。例外はいるが、それはあくまで例外なのである。

突貫。

群れている膨大なフォロワーの群れに突入する。

そして暴れまくる。

二万はいるのだ。

押し包もうとして来る相手を、片っ端から蹴散らし続けるだけで相当な苦労だが。それでも、相手が密集しすぎている状況はむしろ優位になる。

狩り手という存在が、フォロワー単独にはほぼ最高の相性である事もある。

片っ端から敵を赤い霧に変えていくが。

数が数だ。

下がりながら、少しずつ後方にいる二人にも調節して敵を少しずつ回す。少しでも経験を積ませなければならない。

それに、そろそろ邪神が仕掛けてくるなら頃合いだ。

そう考えさせて、消耗させるつもりの可能性もあるが。

少なくとも、フォロワーが九州北部に到達しようとする寸前までには仕掛けてくるとみて良いだろう。

無言のまま暴れ狂い。

ある程度削ったところで撤退する。

今の時点で、もう仕方が無いので「女騎士」と「コスプレ少女」は相互補完するように戦わせているが。

そんなに一日二日で進歩するほど人間は出来ていない。

それに関しては「悪役令嬢」だって同じだ。

あまり知られてはいないが。最初にソロで邪神を倒した時には、随分と苦戦をしたものなのである。

押し潰すように迫ってくるフォロワー。

実際、あまりにも密度が多いので。味方に踏みつぶされるフォロワーもいるようだが。

それらも、起き上がってまた向かってくる。

片っ端から赤い霧に変えつつ、一旦撤退すべく戦場を離脱。ルーキー二人も支援して、一度山の上まで逃れ。追ってくるフォロワーに二度逆撃をかけて削ってから、ロボットに乗って少し下がった。

この辺りは山の中だ。

大軍を相手するのには向いている。

さっきの戦いよりは楽になるだろうが。

同時に、奇襲も警戒しなければならない。

周囲はあまり森の状態が良くない。

なんでもこの辺りは太陽光発電だとかの業者が山を荒らしまくったせいで、今でもその爪痕が残っているのだとか。

利権関係が絡んでいたらしく、貴重な動植物などがいる土地も容赦なくその手の悪徳業者に蹂躙されていたそうである。

救いがたい話だが。今はそれをぼやいている暇は無い。

ドローンによって送られてきた敵の情報を確認。

幾つかの地点で、フォロワーの進軍が予想以上に早い。

駆除のペースを上げないと、十五日後には手前で食い止めるどころではなく。文字通り無人工場に突入される。

しかしこれ以上駆除のペースを上げると、恐らくだが体力が尽きるし。

そうなったら邪神に襲撃を受ける事になる。

もしも邪神に「悪役令嬢」が倒されることになったら。

その時は、「陰キャ」に全てを背負わせることになる。

ルーキーにはこれといった人材がいない。

かろうじて仕上がりかけていた「喫茶メイド」も、まだ戦場に復帰させるのは早いだろう。

休憩しているルーキー二人を見ながら、山革陸将に連絡しようとしたが。

また不慣れなオペレーターが出た。

忙しいのは分かるが、こっちは最前線だ。

少し前までの風通しの良さはどうなった。

苛立って、携帯端末をへし折りたくなるが。

そこはぐっと我慢する。

いずれにしても、どれだけ早くフォロワーが北上しても、まだ時間はあるのだ。

深呼吸すると、自身もクッキーをばりばりとむさぼりくって、糖分を補給する。少し頭を休めないといけない。

気付くと、「女騎士」が青ざめていた。

元々悪役令嬢は、ど派手な衣装にど派手な化粧をすることで、悪役っぽく自身を飾り立てている。

綺麗に化粧すれば或いは綺麗になるのかも知れないが。

敢えて悪役っぽくしているのである。

それも、チープな。

だから、それほど恐怖感を煽るとは思わない。

そもそも化粧を落としてしまえば、それほど美人でもないのだ。

本当に恐怖感を煽る顔というのは、整った奴がキレた場合になりやすいものなのだが。

「どういたしました?」

「い、いえ」

「わたくしが今機嫌が悪かったのは事実ですけれども、それで萎縮する必要はありませんわよ」

「は、はい……」

きっちり釘は刺しておく。

「悪役令嬢」だって、今後は成長して邪神とも戦う事になるルーキーに当たり散らすほど落ちていない。

古い時代にはカーストを必死になって作った連中がいた。そいつらは自分より下のカーストの人間を虐げるのは当たり前の権利だとか。虐めくらいできないと社会でやっていけないとか、とんでもない暴言を吐くことが日常茶飯事だったらしいけれど。

そんなだからSNSクライシスが起きたのだと思っているし。

「悪役令嬢」はそんな連中といっしょになるつもりは無い。

先輩と後輩という差はあるし。力の差もあるけれど。

いずれ衰えいく「悪役令嬢」と。

これからのルーキーである。

そういう意味もあって。

後輩を虐げたり、威圧するつもりなどこれっぽっちもなかった。

「ともかく、リラックスはしておくのです。 すぐにまた戦闘になりますわよ」

「わ、わかりました……」

何というか、悪い意味でポンコツ女騎士になりつつあるな。

そう思って、少しがっかりした。

一方「コスプレ少女」はまるで手が掛からない。

「陰キャ」ほど成長が早くは無いが、もう少し戦わせる敵を増やしてみるか。何かの切っ掛けがあれば伸びるかも知れない。

また、ちょっと資料を漁って「コスプレ少女」が何のコスプレをしているのかも調べて見た。

いわゆる「魔法少女」なのだが。

このジャンルは、一時期から「夢と希望を与える」ものから、非常にグロテスクで残忍な作風のものへブームが変転したらしく。

そのどちらかというと、残酷魔法少女作品の金字塔となった作品の、主人公のコスプレであるらしい。

まあ、その方が戦士としては相応しいか。

いずれにしても、SNSクライシス前の話だし。

資料も断片的にしか残っていないので分からないが。

そういうものなのだと思って納得しておく。

そろそろ良いだろう。

茶を飲み干して、排泄欲がない事を確認してから、二人に出る事を告げる。

PTSDが治った「コンビニバイト」が参戦してくれれば、多少はマシになるのだが。

ともかく今は、一秒でも早く、半人前を鍛え上げなければならない。

焦りはあるが。

焦れば多分感覚だって鈍る。

そうなればフォロワーにすら、遅れを取るかも知れない。

とにかく感覚を研げ。

自分に言い聞かせる。

むしろこれは、自分の力を更に増すための試練だと思え。

そう都合良く、自己暗示を掛ける。

そして、再び前線に出た。

敵は山に群がり、昇り始めている。

逆落としを掛ける。

猛烈な戦闘を継続する。ルーキー二人にも、今までよりも激しく戦って貰った。

同時にいつ邪神が出現してもおかしくないから、気を張り続けなければならない。

そこもまた、厳しい所だった。

わっと、フォロワーが不意に動きを止める。

一団になって、一斉に飛びかかってくる。

まるで古い時代の怪盗アニメの主人公のようにである。

瞬歩で下がって、ぼとぼとと落ちるフォロワー達の間から抜けると。

そのまま突貫して、立ち上がれずにいるフォロワー共をまとめて殲滅する。

問題はルーキー達だ。

「今の攻撃、対策をできるように立ち回ってくださいまし!」

「分かりました!」

「……」

こくりと「コスプレ少女」が頷く。「女騎士」からの返事は元気だけはいい。

猛烈な戦闘を続けた結果、夕方をすぎ。

更に少し無理をして戦闘継続した。

二万のフォロワーが、消滅したのは、夜になってから。

驚くべき戦果だった。

大地は血に染まっており。

もはや文字通りの血の川ができていたが。

それでも、ルーキー二人と共に。

二万からなるフォロワーの二個師団規模の戦力を、殲滅するのに成功したのである。

今までで最大のキルカウントだ。

呼吸を整える。

少し無理をしすぎたか。

今邪神に襲われるとまずいが。幸いにも、邪神が出てくる気配はない。

駐屯地に引き上げる。

そこでドローンで情報を確認。

フォロワーの大きな群れが幾つかあるが。その内の二つが突出している。これを叩かないと、九州北部の無人地帯が脅かされるのが早くなる。

自衛隊の再編成が必死に行われているのは分かるが。

それでもどうにかならないのか。

通信を入れる。

山革陸将は出てくれたが。

声が死んでいた。

激務によるものだろう。

「「悪役令嬢」、日中は君の通信に出られなくて済まなかった。 二万のフォロワーを撃滅するという史上空前の戦果、感謝しかない」

「しかしながらかなり無理をしましたわ。 ともかく、MLRSかヘリでの敵の効率的な殲滅を」

「各地の基地などに配備している分を、生産して送り出すので手一杯なのだ。 北九州に、当分支援は……」

「此処は最前線ですのよ!?」

流石に声を荒げそうになるが。

何とか自分を落ち着かせる。

わかっている。

各地の基地を再建し、必要になる戦力を送り込まないと。次に強化フォロワーの一斉攻撃を受けた時、文字通り詰む。

各地の基地の周辺には、限界集落だった場所がたくさんあり。

そこには避難民が大勢暮らしている。

この避難民こそが、今の日本に生きている人間達そのものであり。

この中から、自衛官や。

未来の狩り手が出てくるのである。

古い時代は愚民なんて言葉を使ったようだが、とんだお笑いぐさだ。

歴史を少しでも調べれば分かるが。

王侯貴族が優秀で美しいなどと言うのは幻想である。

優秀な血統から優秀な子供が生まれるというのもまた幻想だ。

三代も名君が連続して出る事は滅多にないという現実がそれを裏付けている。

つまるところ、豊富な遺伝子プールを確保しなければそもそも話にならないのである。

それには、できるだけ多くの人を生き残らせなければならないのだ。

だから、自衛隊が必死に人を保護して回るのには意味がある。

今は、それすらできない状況が続いている。

打破するためにも、北九州にいた部隊を全部振り分けるくらいの無茶は必要なのだ。

それくらいは分かっている。

分かっていても。

それでも、生命線になる無人工場を潰されたら、全てが終わりなのだ。

「耳が痛い話ではある。 だが、どうにか耐え抜いてほしい」

「……「陰キャ」さんはどうしていますの? 首脳部への危機は去ったと聞いていますけれども」

「基地周辺にある、フォロワーが多めの都市を回って貰っている。 強化フォロワーを事前に発見して、潰して貰うのが目的だ」

それに、邪神が出たときの即応をするため、か。

溜息が漏れそうになるが。

ぐっと我慢する。

別に敢えて大きな溜息を聞かせてやっても良かったのだが。

山革陸将の疲弊ぶりからして、各地の基地はもう絶望に包まれてしまっていることだって分かるのだ。

自衛官の数だって足りないだろう。

この間の強化フォロワーによる襲撃で、各地の基地がどれだけの被害を受けたのかは、「悪役令嬢」だって自身の目で見た。

これから、各地の避難民に希望者を募り。

自衛隊の戦力補給だってしなければならない。

狩り手同様に、すぐにものになるわけではない。

しかもだ。

人間相手の武器。例えばSNSクライシス前に猛威を振るったアサルトライフルなどは子供でも訓練を受けて使えたらしいが。

今の時代、フォロワー相手に使う武器。最低でも対戦車ライフルなどは、とても子供には使えない。

SNSクライシス前の発展途上国では、子供を売り飛ばして兵隊に仕立てさせる親がいたらしいが。

今の時代は最低でもしっかり体ができないと、とても兵隊にはなれない。

狩り手にはなれるケースがあるが。

こっちは更に残酷な話で、適性がないと門前払いである。

「負傷者達の様子は」

「今病院で手当をしているが、まだとても前線復帰は……」

「分かりましたわ。 ともかく、まだ残り十六万ほどいるフォロワーを、邪神の襲撃を警戒しつつ三人だけでどうにかしなくてはならないということですわね」

「本当に、本当に済まない」

山革陸将も、心の底から謝っているのが分かる。

胃に穴が開きそうになっている事だろう。

この人も軍人だ。

一方面の、全く何をしても怯む事も無く、補給も必要としない敵軍を相手に。わずか三人で殲滅をしろと言うことが。どれだけ無茶苦茶な話かは分かっている筈だ。

しかも敵は増援を期待出来。

いつ奇襲を仕掛けてくるかもわからないのである。

恐らくだが。

自衛隊の内部では、四体の邪神が不意に出現したことで。危険すぎて自衛官を出せない、と考えている者がいるのではないのか。

バカを言うなとしか言えない。

邪神はその気になれば何処にだって現れるのだ。

箱根の時だって、誰も油断なんてしていなかった。

それなのに、二万を越える人々が犠牲になった。

そういうものなのである。

いずれにしても、怒りの行き所がない。二人には先に休むように指示して、「悪役令嬢」は先に戦況図を見ておく。

トラックの荷台に載っている「駐屯地」(もはや情けなくて声も出ないが)だから、移動は容易。

このトラックも軍用のものだから、多少の悪路くらい問題にもならない。

先に移動させておく。

次に叩く集団の前方に、である。

風呂から上がってきた「女騎士」に、先に言っておく。

「明日は早朝から戦って、キルカウントを稼ぎますわ」

「そ、早朝からですか」

「……筋肉痛が心配ですの?」

「い、いえ。 むしろ「悪役令嬢」先輩の方が」

そんな柔じゃ無いと言いたいところだが。

神経がゴリゴリ削られているのは事実だ。

九州のフォロワーを全て片付けてしまうつもりで動いている程だが。

あまりにも連日の戦闘でのキルカウントが凄まじすぎて、自身の神経を痛めつけているのもよく分かる。

ともかく、突出して前進しているフォロワーの群れが二つあり。

それらを優先して排除しないと、北九州の工場地帯に敵が到達するのが早くなると説明すると。

「女騎士」も黙らざるを得ないようだった。

「せめてもう二人はほしい……」

不意に「コスプレ少女」が喋ったので、「女騎士」がむしろ驚いたようだが。

「悪役令嬢」は頷いていた。

「既に申請はしていますが、ヘリ一機、MLRS一両も回す余裕はないという事ですわよ」

「……」

「負傷している皆は、戻ってくるまで時間が掛かりますよね……」

「それも確認しましたけれど、当面無理だそうですわ」

「女騎士」が頭を振る。

もう少し、成長速度が速ければ良いのだけれども。

流石にそうも言っていられないか。

もう二人とも休ませる。

「悪役令嬢」は二人が休んだ後、夜の九州に出て。敵の先鋒に仕掛けて軽く削りとっておく。

怒りの矛先が見つからない状態だ。

怒りはフォロワーや邪神に向ける。

そう決めているから。

徹底的に容赦しない。

敵は疲れも知らないし補給も必要としないが、強化フォロワーではないから、車ほど速く動くわけでは無い。

数百の先鋒部隊を消滅させると、駐屯地に戻る。

そして、自身の装備をチェック。

鉄扇が痛んできている。

予備がそろそろ厳しい状態だ。

傘はまだ届くまで時間があるらしい。

「萌え絵」のストックも減ってきていた。

しばらく考え込んだ後、残り十六万のフォロワーをこれで削りきれるか計算する。その後邪神が現れる事も当然想定する。

そうすると、足りないという答えが出る。

ならば。少し装備を足すしかない。

注文を出しておく。

研ぎに出してある鉄扇を急いで戻すように、と。

後は火炎瓶。

それに「萌え絵」。

全てが必要だと。

十六万のフォロワーを削りきるには、それらが必須だと。

今あるもので何とかするように、などと返事が来たら今度こそ切れるが。流石にそれは断らないだろう。

傘は特注品だからどうしようもないとはいえ。

鉄扇の研ぎくらいは何とかするはずだ。

注文を終えた後は、休む事にする。

眠っている間に、夢を見た。

邪神十体が、同時に襲いかかってくる夢だ。ルーキー二人を逃がした後、必死に戦い続けて、相討ちになる。

目が覚めた。

それしか夢を見なかったということだ。

頭を振るって、こんな夢はクソくらえだとぼやく。

こんな風にならないためにも。

ともかく、今は北上を続けるフォロワーの大軍を、どうにか駆除し続けなければならなかった。

 

4、苦闘の裏で

 

疲弊しきっている山革陸将は、周囲の混乱ぶりに頭を痛めていた。

ここ数日。

敵が電子戦を仕掛けて来ているのだ。

とにかく得体が知れない情報が次々飛び込んできている。対策をするために、暗号などを制定しているが。

此方の無線を傍受され。

偽の無線を流されているとしか思えない。

勿論、昔だったら、鼻で笑う程度の話だっただろう。

いや、そうだろうか。

確かハッカー集団が、国の機密を盗み出して、全世界に公開したようなケースがあったはずである。

そう考えると、これは或いは。

そういう能力持ちの邪神を、敵に回しているのかも知れない。

恐らくは絶対正義同盟NO2「魔王」の仕業だろう。

「魔王」については、元がどんな人物だったのかも分かっている。こういうことは、できても不思議では無かった。

それ故に、今自衛隊では、無線を使うのをできるだけ控え。更に暗号化を複雑化している。

すぐに相手に解読されなければいい。

「悪役令嬢」に渡している無線も、暗号を毎日変えている程だ。

そして、その解読に手間が掛かって仕方が無いので。

すぐに通信を受ける事が出来なかった。

電子戦には人数が必要なのだが。

今の自衛隊では、それも確保出来ない。

敵は九州でフォロワーの大軍をだし。

更にはなんと狩り手から撤退できるという三十年間一度も報告が無かった邪神を繰り出してきていて。

ついでに電子戦まで仕掛けて来ている。

文字通りの多面作戦である。

下手に動けないというのが真実であって。

「悪役令嬢」に対しては、文字通り平謝りしかできないのが真相だった。

胃薬を口にする。

これだって本当は非常に貴重な物資なのだが。

ここで山革が倒れるわけにはいかないのである。

溜息が何度も漏れる。

自衛隊の部隊には、北九州の戦線で苦労をしている「狩り手」を支援したいと申し出ているものが幾つもある。

だが、強化フォロワーへの対抗戦術がまだ未熟で。

更に各基地への配備も不十分な状況。

大火力の面制圧を可能とする部隊は、何処の基地にでもすぐに飛んでいけるようにし。更に弾薬も一定量確保しておかなければならない。燃料もだ。

北九州の工場はラインが焼け付く寸前まで頑張っているが。

それらを全て並立するのは不可能。

涙を呑んで、我慢してもらうしかなかった。

敵を侮っていた。

どこかで、それがあったのだろう。

十一体の邪神が追加されただけでは無い。

敵は戦略を本格的に導入してきた。

それは今までに無いダメージを人間に与えてきている。

北米とこの間久しぶりに連絡を取ったが。

北米に押し寄せた邪神の群れは、カナダに一旦移動したそうである。この結果、どうにか北米の状況は一段落したが。

各地で米軍が受けた被害は甚大。

フォロワーの駆除も、一からやり直し。

何より、伝説の狩り手「ナード」だけは無事なものの。ベテランの狩り手多くを失い、ルーキーの育成が上手く行っていないなど。

此方と状況は似通った感じであるらしい。

空軍などの再建も上手く行っていないそうで。

日本を支援するどころではないそうだ。

そもそも現在、海上を移動する輸送用の大型船舶は、邪神の格好の的だ。

しかしながら、輸送機では輸送できる物資に限界がありすぎる。

日本の戦況は米国も危惧しているそうだ。

それはそうだろう。

日本がやられれば、中華と日本の邪神が全部北米に来るのである。恐らくは、欧州にいる残りの邪神全部も、だ。

そうなってしまったら、もはや人類は滅亡しかない。

それなのに、救援すら廻せない。

耐え抜いてくれ。

そう総理は言われたそうである。

どう「狩り手」達に説明すれば良い。

情けなくて涙が出そうだ。

ともかく、「悪役令嬢」に依頼された武装の補充だけは何とか急がせる。確かに基礎的な武装がなければ、如何にあの豪傑「悪役令嬢」でも、長くは戦えない。

それに「狩り手」が如何に凄まじい戦いぶりでフォロワーを倒すかは、自衛官も民間人もみんな知っている。

だから、其方に装備を優先する事は、少なくとも文句を言う人間がそれほど多くは無い。

更に保護に成功した民間人が増えて、安全が確保されれば話は変わってくるかも知れないけれども。

今は幸い、そういう事にはなっていなかった。

東京方面から、暗号通信が入る。

解読まで少し時間が掛かった。

今広島の地下基地で活動している山革陸将は、その内容を見て目を剥いていた。

絶対正義同盟NO3、邪神「フェミ議員」が出現。

ただし、都市部では無く、山間部で何かをしている様子だったという。

遠隔でドローンが存在を確認したが。

奥多摩の辺りで、活動をしていただけで。

都心には近付いてこなかったようだ。

いずれにしても、NO3以上の邪神が姿を見せるのは随分と久しぶりだ。

最大級の警戒をしなければならないだろう。

すぐに次の通信が来る。

今、神戸で強化フォロワーを探索しつつフォロワーを削っている「陰キャ」を東京に戻してほしいと言うものだった。

NO3が目撃された以上、何が起きるか分からない。

司令部が危ない。首脳部がそう判断したのだろう。

やむを得ない。

その「陰キャ」からは、強化フォロワーが数体神戸に隠されていて。それを全て撃破したという報告が上がっている。

東京にも強化フォロワーが隠されていてもおかしくない。

地下鉄の複雑な路線を利用して、要塞化している司令部近辺だが。それでも、強化フォロワーが現れた場合、対応できるかは分からない。

首脳部の判断は間違っていなかった。

「分かった。 「陰キャ」くんをすぐに東京に戻すように」

指示だけ出すと、鏡を見る山革陸将。

10歳は老けたように見える。

顔色は死人のようだ。

自嘲の笑みを浮かべると。

何度も、心の中で「悪役令嬢」に謝っていた。

 

(続)