異国よりの邪悪

 

序、増援来たれり

 

絶対正義同盟本拠。

絶対正義同盟NO1「神」は。満足げに結果を見ていた。

NO6「反ワクチン」を失ってしまったが。

代わりにNO3「フェミ議員」が、大陸の邪神組織「解放」から、二体の邪神を連れてくる事に成功したのである。

どちらも凶悪極まりない面構えで。

実に頼りがいがあった。

一体は失ったが、二体を得た。

それならば、差し引きで充分だろう。

それにはっきりいって、「反ワクチン」程度の実力なら失った程度で別にいたくもかゆくもない。

代わりは幾らでもいる。

それならば、代わりを調達する。

それが「神」の考えだった。

流石にNO2やNO3を簡単に失う訳にはいかないが。

「見事であったな「フェミ議員」」

「有り難き幸せにございます」

「NO2「魔王」」

「はい、なんでしょう」

軽薄そうで、何もかもを馬鹿にした目をしたNO2が立ち上がる。

この者こそ、ネットのアンダーグラウンドクリエイター。文字通り闇の深淵を作りあげた者。

だから、魔王と呼ぶのが相応しい。

神と魔王の所属している組織というのも面白いが。

まあそれはそれだ。

此奴自身は犯罪者としてはそれほど大きなものではないが。巨大なスラムであるアンダーグラウンドの創設者としての存在感はあまりにも大きく。

SNSクライシスの前には、したり顔をしてコメンテーターをしていたりと、犯罪者でありながらあまりにも堂々と振る舞っていた。

要するに巨大犯罪に関わらなかったというだけで。

小規模な犯罪は山のように関わっていたし。

社会をばかにしきっていて。

その気になれば様々な犯罪を思うままに行えた……というだけの事である。

故に「魔王」。

その名にふさわしい実力を、SNSクライシスの後である今は持っている。

「君は欧州に向かい、「人権保全連合」からの援軍を頼んでくれるかな」

「ぼくでよろしいので?」

「ああ、君は欧州にも顔が利くだろう?」

「ええ、まあ。 確かに色々悪さをするのに、国境を跨ぐのはテクニックとして重要でしたからね」

此奴の元になった人間は、実の所SNSクライシスが起きたときには日本にはいなかった。

しかしながらこうして日本の邪神となっているのは。

理由は一つ。

日本で与えた悪影響が、尋常では無かったからである。

それだけ此奴の作ったスラムは、巨大な影響力を持っていたのだ。

黎明のスラムは、混沌そのもの。

ローカルルールが乱立し。

その中で産まれた文化もあったが。それ以上に巨大な悪影響を周囲に与えた。

此処で事実上人生を破滅させられた者だって多かったし。

一度此処でパーソナルデータを曝されると、もはや手の打ちようも無かった。

そういうスラムの創設者は、法に対して極めて敏感だった。

或いは悪い意味で小賢しかったから。

法に対する専門家を、早いうちから取り込んでいたのかも知れない。

いずれにしても類を見ない詐欺師としての適性の持ち主であったし。

日本の邪神として大きな存在感を示したのも、まあ当然ではあったのだろう。

「では行って来て欲しい。 いいね?」

「分かりました。 米国の狩り手どもは北米の邪神を滅ぼしそうな勢いですが、欧州の戦力を削ってもかまわないんですね?」

「かまわないよ。 何しろ三十二体だ。 正直数体いなくなっても、すぐ簡単に倒される戦力ではないさ」

そういうと。

「魔王」はそのまま、姿を消した。

こいつは「フェミ議員」ほどの快足ではないが。

それでも欧州までいって交渉し、帰還するまでさほど時間も掛からないだろう。

さて、此処からである。

「「フェミ弁護士」くん」

「はい」

立ち上がる「フェミ弁護士」。

NO5の実力者であり、「フェミ医師」とは文字通り格が違う戦闘力の持ち主である。

NO3以上は次元違いだが。

NO5以上も一ランク格が上がる。

この間、「悪役令嬢」とかいう狩り手が「反ワクチン」を単騎で潰して調子に乗っているようだが。

その鼻っ柱を叩き潰してくれる。

「君はまず九州で、残ったフォロワーを一斉に活性化させて、増援が来ないようにしたまえ」

「分かりました。 それだけでよろしいでしょうか」

「いいや。 君の能力はかっているから、まだまだやってほしいことがある」

「なんなりと」

「フェミ弁護士」は忠実だ。

元々SNSクライシス前の司法制度には、大きな欠陥があった。

司法試験に必要な勉強時間。

およそ5000時間。

5000時間勉強して、やっと土俵に立てる。

それが、司法試験というものだった。

1年が8800時間弱である事を考えると、これが如何に無茶苦茶なものかよく分かるというものだ。

案の定これの弊害を示すように、司法関係者はSNSクライシス前には腐敗しきっており。

様々な問題を引き起こしていたし。あっさりカルトにはまるものだって多かった。

また警察が気にくわないというだけで極悪人をあっさり無罪にしたり。

あからさまに無罪である人間を有罪に無理に仕立てるケースも珍しく無かった。

呆れた話で、法曹の牙城である最高裁でもそのようなケースがあり。

しかもそれらは「判例」として、後の人間も大いに苦しめたのである。

「たくさん努力して弁護士になった」人は確かにそれだけで価値があるだろう。

だがその努力をした人間が善人と言う事は必ずしもないし。

それどころか、むしろカルトにも簡単に落ちるし。

悪事に積極的に荷担する輩も珍しくはなかった。

この「フェミ弁護士」もそんな連中の一人であり。

当時過激を極めたカルト化した「フェミニズム」に脳をやられた弁護士の一人を核とした者である。

これでいて、半端に頭が回るのだからタチが悪い。

カルトにやられる知識人は、第一歩を何かしらの形ではき違えるケースが多いのだけれども。

まあこれはそもそも人間に共通している事なので。

どうしようもないのだろう。

だからこのような事に世界はなっているのだともいえる。

「五月蠅い蠅がいるのは聞いているだろう?」

「ああ、「狩り手」とかいう」

「そうそう。 滑稽な蠅どもだ。 大した数はいないし、今はまだ例の場所を中心に動いている。 「解放」から派遣されて来た二体のαユーザーをけしかけて、結果を採って貰えるか?」

「よろしいので?」

ちらりと、「フェミ弁護士」が「フェミ議員」を見る。

仮にも上位の邪神が連れてきた存在だ。

自分が勝手に手駒にして良いのか、という判断を仰いできているのである。

咳払いすると、「神」は指示を出す。

「今回の戦いでは幾つかの利がある。 「解放」のαユーザーの実力を見る。 そして「解放」側でも「狩り手」の実力を知る事が出来る。 それに狩り手を削り取れれば、それで言う事は無い」

「私は戦闘に参加しなくてもよろしいので」

「君は観察をしなさい。 そうすることで、情報を皆で共有しようではないか。 勿論狩り手を殺せるようなら殺しておきなさい」

「……分かりました」

あくまで手駒は減らさず。

情報収集に徹する。

今回、暴れ回っている「悪役令嬢」とやらによる被害が無視出来ないものになってきた、ということもある。

これが最善の策だと「神」は判断した。

そして「神」の判断は常に正しい。

もしも何か不具合があった場合。

それは現場の者が悪いのである。

これはずっと昔から共通している話。

「神」が人間だった頃から、そうさせていたし。

それによって何人人間が死のうが壊れようが、社会そのものが「神」の思想と同調していこうが。

まるで変わらない内容だった。

「では「フェミ議員」。 君は「解放」のαユーザーに引き継ぎはしっかり行っておくように」

「は……」

「もしも上手く「解放」のαユーザーが動かなかったら、それは君の責任となるから、理解はしてください」

「……分かりました」

恐怖に震える目。

天上天下唯我独尊とでも言うべき雰囲気の「フェミ議員」が、あからさまに「神」には怯えている。

この恐怖の顔。

これが見たいのである。

人間の根源的な欲求の一つでもある。

「神」に文字通りなった今でもそれは同じ。

部下の恐怖と苦痛の顔は、「神」にとっては甘露と同じだった。

「それでは、解散」

さっと邪神達が散る。

さて、此処からどうするか。

中華から連れてきた邪神二体は、多分勝てないだろう。

ざっと見た所、「兄」と「知事」と比べて、勝っているとも思えない。

だが類を見ない凶暴性を持っているようだったし、或いは「悪役令嬢」に対して思わぬ勝利を収める可能性もある。

それはそれで面白い。

いずれにしても、「神」は全く傷つかない。

だから、それでいいのである。

自身は一切傷つかず、後方で他全てが死に絶えるのを見ていれば良い。

古くは卑劣だ何だと批判されていたが。

SNSクライシスの頃には、むしろ再評価されていた価値観だ。

そして、周囲には「神」と似たように考える輩が大勢いた。

要するに。

それが人間として、好ましい考えだと皆が認識していたという事である。

くつくつと笑う。

それにしてもSNSクライシス後の世界は本当に過ごしやすい。

後は狩り手とか言う連中が絶えれば、更に良いのだが。

日本の狩り手が全滅した後には、米国の連中を片付けなければならないし。それだけが面倒である。

まあいい。

どうせ戦う事になったら、勝ちは絶対に揺るがない。

何しろ、SNSクライシス前で社会に与えた影響が強いほど力のある邪神になる。

「神」はその点で。

まさに頂点に位置する存在なのだから。

 

最後のコンボイが基地から引き揚げて行く。

全ての機材、全ての物資。全ての資料。これらを分割して持ち去っていった。これで、どうにか狩り手の再訓練ができる。

ただ、次の狩り手達は大変だろうと「悪役令嬢」は思う。

まずはフォロワー狩りから実戦を経験してもらい。

以降は順次、何人かで「悪役令嬢」と組みながら、邪神と戦う事になるだろう。

とはいっても、NO5以上の邪神が、今まで倒して来た連中よりも弱いとはとても思えない。

そういう意味でも、厳しい戦いになるのは確実だろう。

普段は、「陰キャ」は基地の隅っこで、膝を抱えて静かにしている。

そもそも人間と関わる事に興味が無い様子なので。

此方からあんまり声を掛けるつもりはない。

向こうも、あまり「悪役令嬢」と話したいわけでは無い様子だ。

それに、である。

この間の戦いを見る限り、「陰キャ」は自分でどんどん実力を上げていくことができるタイプだ。

師匠いらずと言っても良い。

経験を積んでほしいと思っているし。今後もそう促そうかなとは思っているけれども。

それ以上の指示はいらないだろう。

事実地上で自衛隊と共同作戦をした時は、見事な戦いぶりを見せていたという。

地下に送り込んだらどうなったか分からないけれど。

いずれにしても、自衛隊員の命も、避難民の命も守り抜いて。

前線に押し寄せたフォロワーを誰一人寄せ付けず倒し続けたのは事実。

もうルーキーと呼ぶのはやめだろう。

そろそろ立派な一人前の狩り手だ。

通信が入る。

「「悪役令嬢」くん、いいかね」

「どうしました山革陸将」

「今撤退中のコンボイに搭載している物資は今までの物資に比べると価値が低いが、フォロワーを綺麗に撃退した事もあってむしろ邪神が狙って来るかも知れない。 最悪の事態に備えて、「陰キャ」くんを護衛につかせたいが、かまわないかね」

「かまいませんわ。 それと彼女はもうルーキーではありませんわよ。 現地では好きに暴れて貰ったり、どうしていいか判断を促してもよろしいかと」

山革陸将も、それについては判断しているようだった。

初陣を越せない狩り手は多い。

初陣を生き残れる確率は四割を切るのである。

そういう意味では、初陣を生き残った後もめざましい戦果を上げ続けている「陰キャ」はもう一人前。

他の三人に実力は及ばないにしても。

そろそろ「デブオタ」「ガリオタ」の二人が高齢で引退間際と言う事もある。

新人の育成は急がなければならないが。

少なくとも「陰キャ」に関しては、それは成功していると言える。

「うむ、そうだな。 流石に邪神を単騎で倒すのはまだまだ厳しそうだが……」

「NO15以下程度の邪神だったら多分倒せると思いますわよ」

「君が其処まで言う程かね」

「まあそんな弱い邪神はもういないのですけれども」

NO2から5に関しても、一応討伐失敗の際にある程度データは採っているが、

此奴らの戦闘力は、はっきりいって「悪役令嬢」単騎での突破は無理だ。

この間「反ワクチン」を単騎で蹂躙した「悪役令嬢」は、自身の力がまだ上がる事は理解しているが、

その上昇分を加味しても、NO5以上の相手は厳しいかも知れないと考えている。

此奴らを相手にするのは、今存在している狩り手を全員集めて共同戦線を張り、更に相手を分散させる必要もあるだろう。

つまり新人の育成が急務と言う事だ。

いずれにしても、「陰キャ」はすぐに自衛隊のロボット、自走式の車両で移動していった。

一応挨拶はしていったけれども。

特に悪意のない挨拶だったので。

別にそれでかまわないと個人的には思う。

大きな声で挨拶ができない。

それだけで迫害されるような時代が、SNSクライシスの前にはあったらしいけれども。そんな時代はどうでもいい。

社会は豊かだったかも知れないが。

人間の心は荒れ果てていた。

だからSNSクライシスなんて代物が起きたのだ。

護衛任務に出る「陰キャ」を見送ると。

「悪役令嬢」は少し休憩するかと思い。目を細めていた。

嫌な予感がする。

この予感は当たる。

すぐに、山革陸将から再度の連絡があった。

「「悪役令嬢」。 九州でまたフォロワーが活性化している。 現地の自衛隊では対処が厳しく、二人の狩り手はかかりっきりになるだろう」

「……嫌な予感がいたしますわね」

「その基地に今の時点でほぼ戦略的価値はないと言っていい。 君も「陰キャ」くんの支援に回ってほしいのだが」

「いや、どうやら全て周到に仕組まれた策の一部だったようですわよ」

すっと鉄扇を取りだす。

接近して来る邪神の気配。

それも二体。

今の状態で、絶対正義同盟が更に二体を出してくるとは考えにくい。

そうなると、考えられるのは。

「「陰キャ」さんは」

「今、護衛の任務に向かっている所だが……」

「コンボイの支援には、自衛隊で。 輸送を急いでくださいまし。 彼女をすぐに戻して貰えます? どうやら二体、邪神が接近してきているようですわ」

「分かった。 そうしよう」

山革陸将はとにかくこう言うときは判断が速い。

三十年間自衛隊は悲惨な戦いを続けているからだろう。

既に初老に分類される年齢だそうだが。SNSクライシスの惨禍を幼い頃に経験している世代であるそうで。

それ故に邪神への怒りも強いそうだ。

近付いてくる気配が荒々しいな。

なんだかこれは、ひょっとするとだが。

どんと、激しい音を立て基地内に何かが降り立っていた。

それはさながら獣のよう。

強いていうなら虎が近いか。唸りながら、「悪役令嬢」をねめつけ。そして人間の言葉で喋る。

「これが噂の狩り手か……確かに滑稽極まりない格好だ。 我が国に入り込んで来ていた愚かしい日本文化そのものを思わせる」

「確かにこれは「同志」にする価値も無いな」

すっと現れるのは、嫌みな程のイケメンである。

ただ、どっちも全長十数メートルはある肉の塊であり。

それぞれ獣と人ににているが。全てが肉塊で構成されていたが。

こんな奴らは見た事がない。

それに、喋っている言葉から分かった。

「中華の邪神ですわね……」

ふっと、二体が笑う。

どうやら当たりか。

絶対正義同盟は、ついに中華から援軍を呼び込んだらしい。

だが、結構。中華の邪神の実力、確かめさせて貰うとしよう。

「悪役令嬢」は名乗る。相手は半笑いで返してきた。中華の言葉で、だが。

「俺は抑圧弁護士」

そう名乗ったのは虎の方。そしてイケメンの方はこう名乗った。

「僕は体制側配信者。 さて狩らせて貰おうか、「悪役令嬢」とかいう輩!」

躍りかかってくる二体の邪神。

さて、今度は「悪役令嬢」が救援を待つ側か。

まあいい。

倒してしまっても、別にかまわないだろうし。

 

1、猛攻

 

残像を作りながら、虎の方が躍りかかってくる。

何しろ十数メートル以上はある巨体だ。その迫力は凄まじい。だが、「悪役令嬢」が鉄扇をとりだしたのを見て笑い。

それで派手に前足を吹き飛ばされたので、困惑して飛び下がった。

すぐに再生していくが。

その隙に、もう一体の巨大イケメンが仕掛けてくる。

放ってくるのは札のようだが。

道術か何かの札か。

いや、違うなこれは。

中華の何かの書類だ。

「!」

書類が爆発する。

全てが爆発物という訳か。

山革陸将に軽く説明を入れつつも、戦闘を続行。

最悪の場合撤退も視野に入れなければならない。

煙を斬り裂き抜けると、其処には完璧なタイミングで虎の方が待っていた。全力で巨大な前足を振るって来る。

そういえば。

虎と言えば、ライオンが持ち上げられるのに対して。やたらと貶められる雰囲気があったのだっけ。

まあアジア圏で大量の被害を出し続けたのが理由ではあるのだろう。

猛獣の権化のように各地で描写される事も多く。

近世に入ってからは急速に姿を消していったという話である。

害獣として狩られたと言う事だ。

まあどうでもいい。

踏み込みながら、鉄扇を振るって前足を吹き飛ばす。続けて噛みついて来るが。これも吹っ飛ばした。

飛び下がる。

機動力が凄まじいな。

空間転移しているかのようだ。

かなり派手に体を欠損させてやったのに、一瞬で間合いの外まで逃げた。

追撃できないこともないが、まだまだ手の内は殆ど分からない。

最悪の場合に備え。

幾らでも情報は採っておかなければならない。

空中。

あのイケメンが、無数の書類を展開していた。

それだけじゃない。

膨大なカメラがある。

即座に動く。

同時にカメラが光を放ち。周囲が連続して爆裂する。書類が追尾してくるが。爆発前に悉く叩き落とした。

地面に降り立ってくるイケメンの方。

体をとっくに再生している虎が、舌打ちして戻ってくる。

邪神は追い詰められるとしゃべり出す。

だが、此奴らにその様子は無い。

まだ余裕があるという事だ。

まあ、それは「悪役令嬢」も同じだが。

虎が突貫してくる。

不意に途中で右90°に曲がり。文字通り一瞬で背後を取って来た。

そして虎の背中に隠れていたイケメンが、その隙に膨大な数の爆発する書類を投擲してくる。

「悪役令嬢」は、有無を言わさず突貫。

前から飛んでくる爆発書類全部を吹き飛ばし。更に跳躍してとんぼを切る。

後ろから、「悪役令嬢」の背中を狙って来ていた虎の両腕と顔面を瞬時に鉄扇で吹き飛ばし。

不可解な動きでバックステップする虎を深追いせず。

更に加速して、イケメンの方に迫る。

上空に展開したカメラはそのまま。

上空と前から立体的な攻撃が飛んでくるが。

それらの全てを弾き返しながら前に進み。

イケメンの至近に。

だが、その時。

不意に壁ができていた。

金色の壁だ。

なんだこれは。いずれにしても、吹き飛ばす。

邪神が作り出したものは、基本的に狩り手の攻撃で大きなダメージを受ける。

だが、金色の壁を吹き飛ばした後。

その場には、イケメンがおらず。

既に上空に逃れていた。

なるほど、遠距離攻撃特化型と、近距離特化型のタッグか。

ざっと戦った時点では、どちらも絶対正義同盟の二桁ナンバーと実力的には大して変わらないように思えた。

まあいい。しゃべり出してから、それについては聞けば良いか。

間髪入れず、虎が迫ってくる。

どれだけやられても気にする様子も無いし。虎型も崩さない。

何かの拘りがあるのか。

「抑圧弁護士」と言っていたな。

確か中華は、SNSクライシスの前には凄まじいキャンセルカルチャーの嵐が吹き荒れていたと聞く。

理不尽な裁判で投獄された人は多数に登り。

それらの人々は劣悪な裁判とも言えない金だけがものをいう代物で、既に決まった判決を下されるだけだったという。

金がものをいう裁判だったから、金持ちは文字通り何をやっても許される場所でもあり。

七人も故意に使用人を轢き殺した金持ちが。自動車の事故という理由で無罪にされたケースまであるらしい。

そういった抑圧裁判の弁護士の一人が原型になっているのだろう。

もう一人のイケメンの方は。

恐らくだが。見た感じ、中華政府がプロパガンダに使っていた動画配信者だったのだろう。

中華では外界からの文化をストップし、国内でもキャンセルカルチャーを行っていたが。

それを正当化するため、動画文化を悪用していた。

あれは恐らくだが、そういう政府に雇われたクズだったのだろう。

いずれにしても、SNSで猛威を振るった連中としては小物に分類される輩、ということなのだろう。

良くは分からないが。

飛びかかってきた虎。

ワンパターンな攻撃を続けてくるはずがない。

不意に口から、重機関銃らしきものが出てくると。凄まじい勢いで乱射してくる。

だが、近距離戦主体と見せかけて。いきなりこういう攻撃をしてくる輩は今まで幾らでも見た。

瞬歩。

強烈に踏み込んで、一気に距離を詰める技だ。

重機関銃をぶっ放している口の真上に出ると、虎の全身を斬り裂きながら後方へと抜ける。

虎は全身を再生しながら、体中から銃火器を生やしてくる。

ああなるほど。

此奴は政府の飼い犬。

故に虎の格好をして、自分を大きく見せているわけだ。

そして政府の犬だから。

政府の武力も味方についている、ということか。

それでこう言う能力。

鼻で笑ったのを見て、かちんと来たのだろう。いいだろう、どんどんかちんと来い。

そろそろ、良いあんばいだ。

上空から、一斉攻撃に出ようとしていたイケメンの方が、突如として横殴りの砲撃を受けて爆炎に包まれる。

自衛隊による長距離巡航ミサイルか。

一瞬動きを止めた虎。

その虎を、瞬時に切り裂いていたのは。

戻って来た「陰キャ」だった。

「お、またせ、し、ました」

「何、このレベルの相手だったらなんとでもなりましたわ。 さて、一気に攻勢に出ますわよ!」

鉄扇を構え直す。

無言のまま、「陰キャ」は虎に貼り付き、攻撃を続けるが。

インカムで指示を入れると、無言で小さくはいと応えた。

派手に煙だけ出して、一瞬だけ気を反らされた瞬間に、事態が変わりすぎている。

困惑したイケメン野郎の側に。

既に「悪役令嬢」が貼り付いていた。

「はあい」

「!」

またさっきの金色の壁を展開して来る。

だが、それについては想定済だ。

一瞬で切り裂く。

壁を犠牲に距離を取ったイケメン野郎だが。即座に反応。

傘を投擲。

ぎゃっと大げさな声を上げて、半身を爆破されたイケメン野郎が地面に落ちる。虎がイケメン野郎の名前。なんだっけかを呼んで、そっちに行こうとするが。

着地した悪役令嬢が、にいと笑ってその前に立ちふさがって見せる。

相性としては、此奴の方がいい。

あのイケメンは、あまり動かないでその場での回避戦を行い火力を出す「陰キャ」の方が向いている。

虎は単独になれば、ぶっちゃけどうと言うこともない。

吠え猛りながら、全身から生やした武器で一斉射撃をしてくる虎。

無言で鉄扇で射撃を吹き飛ばしながら、前に出る。

本来銃弾相手に出来ることでは無いが。

相手が邪神。

精神生命体であり。

「人間以下の存在」と見なした相手には本気を出せない存在だからこそ、こういう無茶はできる。

無言のまま前進し、虎が下がろうとした瞬間、一気に前に出る。

顔面を石榴のように切り裂いて、動きが止まった所で、一気に詰める。

不意に全身が破裂する虎。

その欠片を、片っ端から切り裂く。

破片が遠くに飛び散ると。それが集まってまた再生を開始する。

あくまでタフネスに特化している訳か。

それに、まだしゃべり出さないのも気になる。

無言で再生している肉塊を片っ端から粉砕し。

ついでにさっき投擲した傘を拾っておく。

再生が途上の肉塊を順番に周りながらつぶし、残りが無いかみていくが。

不意に、最大級にいやな気配がした。

インカム関係無く叫ぶ。

「避けなさい!」

文字通り、イケメン野郎を滅多切りにしていた「陰キャ」が即応。

飛び退いた場所に、何かが着弾していた。

見覚えがある。

絶対正義同盟NO5。

「フェミ弁護士」だ。

炸裂するような凄まじい殺気。なるほど、NO6以下とは格が違うという話は聞いていたが。

間違いない。

此奴の実力は、確かに今までのデータでも見ていたが。

桁外れの領域に入っているとみて良いだろう。

無言のまま虎の方に突貫し、最後に残っていた肉塊を消し飛ばす。

だが、流石にまだしゃべり出してもいなかった所だ。

どこかで再生していたらしい肉塊が、這々の体で距離を取り。「フェミ弁護士」の背後に降り立っていた。

「実力はうちの元NO15程度のようね」

「……巫山戯やがって」

「我等は簡単に狩りが出来ると言うから来たのだぞ! 話が違うではないか!」

「ハッ。 狩り手もいない場所で好き勝手を30年もやっていたら、鈍るのも仕方が無いと言えるか」

ビリビリ来る強烈な気配。

飛び退いた「陰キャ」はダメージを受けずに済んだが。

もし警告が遅れていたら、一発アウトだっただろう。

「陰キャ」の側に行くと、頷く。

この基地はもう空っぽで守る価値は無い。

一度引いて体勢を立て直す。

あの二体だけなら、多分倒せる。

だが、「フェミ弁護士」を相手にするには手札不足だ。最低でも九州にいる二人を呼んでこないと厳しい。

「陰キャ」がちらりと視線を向ける。

なるほど、彼処か。

後は、どう時間を稼ぐか、だが。

自衛隊の巡航ミサイルも、それほど数があるわけではないだろう。

だったら、手は一つである。

スカートにたくさんあるポケットから、大量の絵札を展開する。

それを見て、呻く「フェミ弁護士」。

此奴は「フェミ医師」と違って、姿が肉塊で構成されていても、スーツを着たきつめの女という雰囲気でだいぶ弁護士らしくしっかりしている。まあそれはそうだろう。

本物の弁護士だったらしいのだから。

医者と名乗っていた「フェミ医師」とは根本的に違うし。

医者であってもSNSクライシス前には耄碌爺だった「反ワクチン」ともまるで別物。

人権屋の最前線として、邪悪の限りを尽くしていた輩だったのだ。

「悪役令嬢」がとりだした膨大な札は。

それ全てが、「デブオタ」から譲り受けた「萌え絵」である。

SNSクライシスの前。

発狂するように過激な女尊男卑主義者が叩くのに熱中していたものだ。

完璧なタイミングで投擲。

爆裂。

凄まじい悲鳴を上げる三体の邪神を余所に。

「陰キャ」が此処へ来るのに使ったロボットを使って。「悪役令嬢」は「陰キャ」と共に、基地を脱出していた。

 

一旦、基地から距離を取る。

邪神の方から逃げる事はないから、こうするしかなかった。

あの二体が相手だったら、正直そのまま押し勝てていたが。流石に「フェミ弁護士」が出てくると話が別だ。

彼奴との戦闘データを見たが。

はっきりいって、見事な成長を見せている「陰キャ」の支援があっても、勝てるかはかなり厳しく。

確実に倒すなら、「デブオタ」「ガリオタ」の支援がほしい所だ。

しかも余計なのが二匹ついている。

どうにかして、各個撃破する算段をしなければならないだろう。

放置も出来ない。

中華から来た様子だった。

あの二体、恐らく自重せずにフォロワーを増やそうと暴れ狂うだろう。

それを許すわけにはいかない。

もっとも、「フェミ弁護士」にしたところで。

その辺りは同じだ。

「て、ったいを、えらぶんですね」

「わたくしは勝つべくして勝つのですわ。 「悪役令嬢」ですし」

「それで……どう、しま、す?」

「……まずはどうにかして、敵を分断しないといけませんわね」

厄介なのは「フェミ弁護士」だ。

奴が前線に出て来ていると言う事は、恐らくあの中華の邪神二体を使って、今回は本気の攻勢に出て来ている。

ただ、中華の邪神の実力を見たいと言うのもあったのかも知れない。

何よりだ。

あいつらを中華に返したら、「狩り手」の戦力が筒抜けになる可能性がある。

それはそれで厄介だ。

いずれにしても、絶対正義同盟が中華から援軍を得たのも事実。

そこが、最大の危険な点だが。

「此方山革陸将」

「どうかなさいました?」

「先ほどは邪神の接近を知らせる事が出来ずすまなかった。 まさか三体同時に来るとは……」

「あの中華からの援軍らしいのの試運転だったのでしょうね」

援軍なんて呼んでいる時点で、絶対正義同盟の戦力が不足し始めているのは事実である。

現状での狩り手四人体勢が改善したら、一気に攻勢に出たいところだが。

今の時点で、コンボイは既に地下に移動したようだから良いとしても。

新しい狩り手がいつ出るのか。

何人出るのか。

そういうのは、まったく「悪役令嬢」の所にも話が来ていない。

そういう意味では、暗中模索と言えるし。

はっきりいって状況は何一つ改善していないとも言える。

いずれにしても、まずは距離を取りつつ、生きている衛星で敵の分析だ。

誰もが知っている。

「邪神」を狩るためには知識が必要だということを。

今回、中華からの援軍として来た邪神は、全く事前知識がない相手だ。

一度撤退しても、次で勝てばいい。

ましてや乱入者があったのだとすれば当然である。

更に、良くない予感もある。

「中華だけでは無いかも知れませんわね」

「!」

「欧州の邪神の組織からも、援軍が来るかも知れませんわ」

「……現在、米軍がドローンを欧州に飛ばしているらしい。 狩り手と軍が総出で北米内のフォロワーを駆除しながら、最大派閥の欧州の邪神の偵察を狙っているようでな……」

それが牽制になるといいのだがと山革陸将はいうが。

まあ牽制にはならないだろうなと思う。

連中は文字通り、軍の事なんか歯牙にも掛けていない。

それにどいつもこいつも身勝手の塊のような連中だ。

もしも米国の人間が増加に転じたら、米国に勝手に攻めこみ出すのでは無いのかとさえ思う。

ともかく、時間がない。

中華から来た援軍を速攻で撃破しておかないと。

調子づいて、更に来る可能性もある。

「あの……」

「陰キャ」がおそるおそる手を上げた。

咳払いすると、「悪役令嬢」は応じる。

「何かありました?」

「その……あたしが……あの強そうな邪神を少しだけ引きつけましょうか」

無言になる。

それは流石に、負担が大きすぎる。

だが、「陰キャ」は以前、「知事」と「兄」による猛攻を捌ききった実績がある。

しかしながら、次代を託せるのは「陰キャ」しかいないと「悪役令嬢」は思っている。

「悪役令嬢」も二十代であり。もうじき衰えが始まる年齢である。

まだ伸びしろがある「陰キャ」こそが。

いや、しかし。

此処は賭に出るしか無いか。

装備を補給する。

更に、相手を二体、瞬殺する。

できるか。

それができれば、後は「陰キャ」を支援しながら、あの基地を再度撤退するだけだが。それもかなり厳しい。

邪神は進歩しない。

「フェミ弁護士」もそれは同じだ。

SNSクライシスの後、邪神が行動を変化させたという話は聞いたことが無い。

ある程度の判断力はあるだろうが。

いずれにしても、だ。

無言で少し考え込む。

瞬殺か。

ちょっと厳しいかも知れない。しかも、もしも、だ。

仮に「フェミ弁護士」を此処で倒せれば。

欧州からの援軍を、阻止できる可能性もある。

いや、それは欲を掻き過ぎというものだ。

流石に判断は改めた方が良いだろう。

だが、いずれにしても、だ。

中華からの援軍は即座に潰すのが吉だ。

そうしなければ、草刈り場と勘違いして、膨大な邪神が一気に日本に来る可能性もある。

少なくとも、瞬殺されるくらいの恐怖を味あわせ。

更には絶対正義同盟への不信感を募らせるくらいでないと。

とてもではないが、この状況は打開できないだろう。

「山革陸将」

「何かね」

「先ほどの巡航ミサイル、もう一発用意できますかしら」

「……かなり厳しいが、何とかやってみよう」

巡航ミサイルと言えば高級兵器の見本だ。

その上SNSクライシス直後に、邪神に近付くことさえできない事が判明したときに各国が大量に使い。

結果として、殆ど役に立たず全てが無駄になってしまった。

なお、巡航ミサイルに萌え絵を詰め込んでばらまくとかは何の意味もない。

あれは狩り手が投擲して、初めて意味を成してくる。

他の武器なども全て同じである。

「「陰キャ」さん。 貴方の策を採用しますわ。 絶対に……生き延びるのですわよ」

こくりと「陰キャ」は頷く。

危険は承知。

だが、此処で来たばかりの援軍を潰す意味は大きい。

二体の邪神を潰した上で、難敵から一旦逃げる。

さっきの気配を感じたが、彼奴を倒すには準備をしないと無理だ。

やむを得ないが、今回はとにかく増えた分の敵を削るしかない。

そう考えると、色々な意味で悔しいが。

それでも、被害が増え続けるよりはマシである。

補給部隊が来たので、装備を補給する。

「陰キャ」の方は、装備を失っていない様子だ。

用を足して、軽く食事をした後。

自衛隊を退避させて、再び基地に戻る。

連中はまだ基地の周囲を探し廻っている事が分かっている。そういう所はアナログそのものだ。

まあ連中がデジタルを使いこなしていたら。

それこそもうとっくに人類は全滅していただろうが。

「最新の衛星写真が来た。 奴らは二手に分かれている。 「フェミ弁護士」は基地に、残り二体は一緒に行動している様子だ」

「好機ですわね……」

さっきの戦いで、凶暴そうな虎よりも、あのイケメンのが優先撃破対象なのは確認済み。

とはいっても、指呼の距離にいるということは。

確定で罠だ。

初撃くらいは「陰キャ」も加われるかも知れないが。

どっちにしても、NO5「フェミ弁護士」は引き受けて貰う事になる。

撤退戦も厳しいだろう。

いずれにしても、本当に物資の回収が間に合って良かったとしか言えない。

もしもこれで物資の回収が終わっていなかったら、どうなっていたことか。

軽く打ち合わせをした後、動く。

既にこの辺りは、普通の人間ならフォロワーになってしまう領域に入っている。

支援のヘリもかなり遠い所に待機している状態だ。

いずれにしても、撤退時はあのロボットを使うしか無い。邪神にちまちました人間の索敵能力が備わっていないことだけが救いだろうか。

この基地ともお別れだな。

そう思う。

そのまま、突貫。

奇襲してくることを分かっている敵に対しての奇襲だ。

しかも絶対正義同盟であれば二桁ナンバー相当の実力としても二体同時。それを短時間撃破。

楽なミッションでは無かった。

 

2、タイムアタック

 

恐らく初撃だけだろう入れられるのは。だから、それについては全力で入れてほしい。

そう「陰キャ」は言われた。

勿論相手が待ち伏せしているのも分かった上。

中華から追加された二体の邪神を、速攻で倒す事に戦略的な意味が云々も聞かされたけれども。

本当にそれが正しいのかは、何ともいえなかった。

はっきりしているのは、そのまま突撃して敵を葬る。

それだけである。

その後は、格上の邪神を相手に粘る。

自分で言い出した事だ。

少なくとも、これが一番勝算が高い。

実際あの「フェミ弁護士」が現れるまでは、そのまま押し切れるムードだったのである。

だったら、これでいくしかない。

邪神に進歩の言葉は無い。

これは彼らが、SNSクライシスによって生じた存在だから、というのが大きいらしくて。

強大な力を得る代わりに、失ったものもたくさんあり。

その一つが進歩、らしかった。

いずれにしても確定で迎撃がある状態での奇襲。

気は進まないけれど。

確かにこの状況で、中華からわんさか増援が来たりしたら、もうどうしようもなくなる。しばらくはフォロワーを駆除するとか、人々を守るとかどころではなくなり。

地下に籠もって、隙を突いて敵を削りながら。

訓練生が仕上がって狩り手になるのを待つしかない。

その狩り手だって、有望な人がいるという話は聞いていない。

そういう意味では「陰キャ」だってそれは同じだろうけれども。

次からは、「陰キャ」だって後輩のために身を張らなければならなくなる。

それを考えるだけで。

胃がきりきり痛むのだった。

無言で突貫する。

体力は最大限まで残さないと危ない。

それに、だ。

文字通り背中にも目をつける勢いで周囲を警戒しつつ移動しないと危ないだろう。

邪神は侮りきっている相手には、文字通り必殺の攻撃は出来ないらしいが。

予兆をつければ対応できなければ死ぬような攻撃は撃てるらしいので。

予兆が無いか、神経を研がなければならない。

基礎体力がどうしても足りない「陰キャ」だ。

だから、こういう状況はつらい。

森の中。見える。

虎と、道服風の衣装を着込んだ無駄にイケメンな奴。

どっちもろくでもない事を中華でしていた事は確定だ。

そして、あのイケメン風の奴から倒す。

それについては、既に確認を取れている。

まずは、「陰キャ」が突貫する。

同時に、虎がかき消えていた。

なるほど、やっぱりそうか。

不意打ちを知っていたから、手を打っていたという事だ。

さっき見せた分裂能力からして、恐らく間違いないだろうが。

やはり来た。

周囲が暗くなる。

それほどの数の分裂体が、全方位から一斉に飛来したのだ。

いわゆる飽和攻撃である。

足を止める。

突貫する「悪役令嬢」。

それでいい。

むしろこの飽和攻撃。

身を隠すのに最適。至近まで接近できるだろう。

ふうと一呼吸すると。

体勢を低くしたまま、納刀して前に出る。

着弾点が自身を中心にしていることは分かったから。

着弾に時間差を生じさせるようにするよう、敢えて位置をずらしたのである。

そのまま居合いの体勢のまま待つ。

前方から、最初の一撃が来た。

全てが錐のように尖っている。

直撃を受けたらおしまいだろうが。

そうはさせない。

無言で踏み込み。

抜刀。

前方から飛んでくる錐の群れを薙ぎ払う。そのまま突貫しつつ、微妙にホーミングして直撃を狙って来る錐の群れを、薙ぎ払いながら進み。上から来る分も切り裂きつつ、包囲を抜けて飛び出す。

そのまま最小限の動きでターンし。

追いすがってきた無数の錐を、3,2,1、0と呟きながら。順番にまとめて斬り払って行く。

最後の一つを斬り払うと。

虎は流石に唖然としつつ、対応が遅れた。

此処で虎に斬りかかるのは判断ミスだ。

無言で飛び下がると、爆撃のような一撃を斬り払って弾く。

すごく重い手応えだ。

何とか弾き返したが、確かにこれを相手にするのはきつい。この間「知事」と「兄」を同時相手に短時間耐え抜いたけれど。

奴ら二体同時よりも厳しいかも知れなかった。

「フェミ弁護士」。

絶対正義同盟NO5の位置にある邪神。

見た目は、しっかりスーツを着込んだいかにもできそうな雰囲気の(ただし巨大な肉塊である)女性だ。

以前見た「フェミ医師」と同じように寸胴体型なのは。古くにSNSで暴れていた女尊男卑思想の過激な人達が、巨乳を極端に嫌っていたというのが理由なのだろう。

元々はどうだったか何てどうでもいい。

いずれにしても、この怪物をどうにかしなければならない。

「抑圧弁護士! 助けてくれ!」

イケメンの邪神に「悪役令嬢」が怒濤の猛攻を仕掛けている。

舌打ちすると、虎はそっちに飛んで行った。だけれども、あっちはどうにかなりそうだ。

問題は此方である。

「フェミ弁護士」は、それこそ凄まじい侮蔑の目を「陰キャ」に向けてきている。

「男に媚を売るその弱々しい身なり……我々が権利をもぎ取ってやっているというのに、なんという醜悪さか!」

なんか勘違いしている。

「陰キャ」は別に男の人にもてたくてこういう格好をしているわけじゃ無い。

視線が怖いし。

会話するのもできるだけしたくないから。

こう言う格好をしているだけである。

それなのに、勝手に考えてもいない事を決めつけてくるのは、流石に嫌だなと思った。

そういえば。

SNSクライシスの前にも、相手が考えている事を勝手に決めつけて。それを前提に話をする人が結構いたのだったっけ。

法曹関係者だとすると、この邪神の元になった人間は。すごく勉強をして、その結果弁護士になったのだろう。

だけれども、それで人の心が読めるわけではない。

実際「陰キャ」の心なんてこれっぽっちだって読めていないのだから。

人間なんて、そんな程度のものだったんだな。

そう「陰キャ」は思う。

この邪神の元になった人は、人間の中でも上位1%には入る程度の知力は当然あったはずだ。

それでこの程度なのである。

勿論勉強をさせたらこの人に勝てっこないだろう。

だけれども、だからといって。

この人はカルト落ちしたわけだし。

それに人の事を勝手に決めつけて掛かっている。

「陰キャ」が呆れているのに気付いたのか。

無言で、「フェミ弁護士」が両手に何かを生じさせていた。

それは多分、近代兵器か何かに見えたが。一瞬で、それが違うものだということが分かった。

降り下ろされてきた右手の分。

かろうじて弾き返すが。

今までの邪神とは桁外れの速さ、重さだ。

続けて左手の分。

こっちも同じく。

びりびりと来る。

かあと口を開くと、スーツを着込んだ女の格好をした邪神「フェミ弁護士」は。なんだか良く分からない鈍器を振り回しながら、猛攻を掛けてくる。

このパワー、それにさっきの移動速度。

完全にパワーで押し潰すタイプの邪神だ。

それも尋常じゃ無いパワー。

古くに弁護士として悪の限りを尽くした頃の悪知恵は失ったかも知れないが。

その代わり暴力の権化と化したのか。

凄まじい猛攻が続く中、冷静に相手を見切る。

今回は倒せないかも知れない。

しかし、少しでもいい。

情報を得なければならないし。

生きて撤退しなければならない。

ましてや、この怪物の攻撃が「悪役令嬢」に向くのは論外だ。

足止めをしなければならない。

巨体から降り下ろされる一撃を弾き返すと、そのまま次の攻撃にあわせて。相手のよく分からない鈍器を、わずかに横からの力を掛けて切り返す。

傷がちょっとでも突けば爆散する。

それで、知った。

それは鈍器なんかじゃない。

凄まじい呪詛があふれ出ている。

単にこれは、近代兵器っぽい形にまとめただけであった。その正体は、間近で見て分かった。

如何にして気にくわない相手を貶めるか。

スポンサーから金を引き出すか。

馬鹿な信者を作って、如何に金を巻き上げるか。

そういった膨大な計算が書かれたノートだ。

それを。人間だった頃、最大の財産だっただろうそれを。全部固めて鈍器としているというわけだ。

ということは、ひょっとすると。コアはこの両手に生じた鈍器そのものか。

ぞくりとした。

これを壊しきらないと、この邪神は倒せない。

それどころか、コアをそもそも露出して来ると言うことは。それだけこの邪神が、生前から圧倒的な邪悪だった事。

その邪悪の強度が度を超していることを示している。

そうでなければ、こんな自殺行為同然の武器を使ってこない。

確かに、準備を整えないと倒せる相手じゃない。

納得しつつ、凄まじい猛攻を続けて加えてくる「フェミ弁護士」に、「陰キャ」は対応し続けた。

 

奇襲をあっさりいなした後、「フェミ弁護士」との戦闘に「陰キャ」が入ったのを横目で「悪役令嬢」は確認。

既に上空から叩き落として、地面に這いつくばらせた「体制側配信者」に対して、無言で追撃に入る。

此奴は高速で移動しながら、大量の飛び道具を投擲してくるスタイルだが。それを初手で潰した。

後は逃がさないように潰しきるだけだ。

虎が飛んでくるが、体の再構築が間に合っていないらしく。

鉄扇で弾いて弾き飛ばす。

それを見て、ひっとうめき声を上げる「体制側配信者」。元々嫌みなまでのイケメンだったが。

それが崩れると、余計に哀れだった。

「ま、まて! 俺は凄い金持ちだ! 配信して稼いでいるし、スポンサーだって……」

「それは貴方が人間の頃の話でしょう。 その配信にしても、プロパガンダでしょうが」

顔面を吹き飛ばす。

悲鳴を上げながら逃げようとするイケメン野郎を、滅多切りにしていく。

はっきりいって此奴に時間を掛けている余裕は無い。

虎はまだ良く正体が分からないし。

何よりも、「フェミ弁護士」の猛攻はチラ見するだけでも凄まじい。彼奴を倒すには準備がいる。

そのための威力偵察で、命を落としては意味がないのだ。

「畜生、調子に乗るんじゃねえっ!」

本性を現したイケメン野郎が、周囲全域に一斉に何かをぶっ放す。

多分これは配信内容かなにかか。

ぶつ切りになった映像と音声が飛んでくる。それも微妙な形になっているから、触れると良くない事になりそうだ。

いずれにしてもろくでもないプロパガンダだ。

勿論本来はプロパガンダだろうが、いうだけなら自由だ。

此奴の場合は、名乗っているとおり。

体制側に与して、押しつけるために文化を用いていた。

そんな輩を許すわけにはいかない。

全て鉄扇で叩き伏せながら、更に相手への攻撃を続けていく。

今の全ブッパで逃れられると思ったのか、悲鳴を上げて這いずろうとする「体制側配信者」だが。

させるか。

瞬歩で前に回り込むと、再生していた頭も腕も消し飛ばす。

膨れあがり始める「体制側配信者」。

恐らく、虎による援護を期待しての、防御行動に入ったのだろう。

さっきブッパしたプロパガンダ配信で全身を固め。

それを醜い肉塊としてどんどん肥大化させていく。

虎がだいぶ体を回復させてから突貫してくるが。

此奴も同時に見極める必要があるか。

真正面から、虎を鉄扇で叩き伏せ、地面にねじ伏せる。

それを見て、肥大化した塊は後ろに逃げようとするが。

投擲した傘がモロに突き刺さり。風船が破裂するようにして炸裂した。

傘をとりながら。

「悪役令嬢」は大股に「体制側配信者」に向けて歩く。

そのまま見えてきたコアに向けて。

此奴のコアは、わかり易すぎる。

金とコネだ。

その象徴である、金塊である。

わかり易い代物だが。

こういう性根が腐りきった輩には、これで充分だったのだろう。

いずれにしても、死ね。

必死に壁を再構築しようとする、元イケメンのただの肉塊。虎が再び飽和攻撃に入ろうとするが、それまでの時間は与えない。

金色の壁をまた展開する「体制側配信者」だが。これはもう見飽きた。

瞬歩を二回使って、壁そのものを避け。

奴の背後に回り込む。

既に数歩距離をおいていた邪神「体制側配信者」だが。

それを見て、壁をまた展開しようとするが、遅い。

両腕を力任せに消し飛ばし、真正面から蒲焼きにするように切り裂く。

虎が全身を分割して、飽和攻撃に入ったが。

無視。

そのまま、金塊を粉々に消し飛ばしていた。

絶叫しながら、消えていく一体目「体制側配信者」。

金色の壁は、そのまま崩壊。

見ると、無数の人間の指になりながら溶け崩れていった。

悪辣だな。

そう思いつつ、虎の飽和攻撃を真正面から叩き返す。

「よくも朋友を! このコスプレ女がああ!」

邪神が喋り始めるのは、追い詰められた証拠。

此奴もさっきの腐れ配信者だったか体制側配信者だったかも。初戦で「悪役令嬢」に勝てない事は分かりきっていた。恐らく「フェミ弁護士」もそれを理解していたはずだ。

囮として短時間引きつけてくれればそれでいい。

そう「フェミ弁護士」に言われたのだろう。

此奴とさっきの腐れイケメンには友情関係があったのかも知れない。

どうでもいい。

此奴らが弱き者を泣かせ続け。

多くの人間から搾取し。

思想を強制していたことは事実。

そんな連中が、友情を持っていようがどうでもいいし。そんな友情は邪悪の中の一つに過ぎない。

それがあるから許されるなんて事はない。

せめて罪を償って貰う。

「散々弱者を虐げておいて……」

全ての肉塊を弾き返し、また再生しようとする虎を見つける。

なるほど、そういう事か。

先にも見当はついていたが。

やはり間違いない。

全身を分割した場合、一気にコアが露出するリスクが高くなる。

だが、虎による高速高火力攻撃と。

更にはこの飽和攻撃を併用するには、ある程度質量が必要になってくる筈だ。それを両立する方法はただ一つ。

幸い、此処は枯れ果てた森だ。

その違和感は、明らかだった。

拾ったばかりの傘だが、そのまま全力で投擲する。

踏み込んだときに、バンと凄い音がした。

我ながら鍛えすぎている。

ドレスを着ていなければ、筋肉が。マッスルが色々と見えてしまってちょっとまずいかも知れない。

これは「悪役令嬢」というキャラクターが崩れるからで。

「狩り手」としての優位がなくなるからである。

轟音と共に飛んだ傘が、木の一箇所にあった不自然なこぶを直撃。

吹き飛ばしていた。

絶叫が上がる。

今ので、擬態していた肉が全て消し飛んで、何か輝くものが落ちてきた。

必死に大量の肉塊が集まってその輝くもの。コアを守ろうとするが。

そうはさせない。

突貫すると、肉塊を片っ端から切り裂く。

そして、落ちてきたものを確認。

弁護士の登録票か何かと思ったが、違う。

小石だ。

なんで小石だかは分からないが。

ともかくこれが、この虎に似せた姿の邪神のコアである事は間違いない。

「やめろ! それは俺の最初の……!」

「お死になさい」

一刀両断。

コアを消し飛ばす。

同時に、二人の過去が周囲に流れ始めた。

たまに、邪神を倒すと見える光景だ。

「抑圧弁護士」は、地方の名家に産まれた存在だった。手のつけられないクズで、立場が弱い貧農の子供を痛めつけて連日遊んでいたが。ある日やり過ぎて、さっきの小石を使って何度も頭を殴りつけているうちに殺してしまったのだ。

流石に慌てたが。

それでも、彼の家は金持ちだった。

更に彼の時代。

彼の国では、警察は金を払わないと動かなかった。

死体は稚拙な隠し方もあってすぐに発見されたが。警察に袖の下を渡したことで、即座に犯罪としての立件はなくなった。

子供を殺された貧農の一家は逆に追い出され。どこに行ったかも知れなかった。

これが、金の力だ。

そう思った「抑圧弁護士」は、信じられない力に興奮し。

小石を宝にした。

以降は、自分がこの金の力に関わりたいと考えて。

大学を出て。

時には袖の下も使って。

弁護士になり。

ひたすら、弱者を虐げる裁判に参加した。

面白かったからだ。

弱者を虐げる事が、幼い頃に人間を殺しても一切罪に問われなかった成功体験から。これ以上もない遊びになっていた。

だから、虎になったのだ。

人間を止めた後に。

虎に対する名誉毀損だなと、「悪役令嬢」は思った。人間時代下衆だった奴は幾らでも見て来たが。

此奴に関しては、それこそどれだけ悲惨に殺されても文句を言う資格はなかったと思う。

もっと苦しめて殺してやれば良かったか。

「体制側配信者」の過去も似たようなものだった。

体制側にプロパガンダの訓練を受けた後。

動画文化を利用して、プロパガンダをするように指示を受け。

以降は顔をイケメンに整形した後、ひたすら金の力を使ってやりたい放題を行った。

あのクズ弁護士野郎と知り合ったのも、そういった遊び暮らしていた時らしい。

場合によってはドラッグパーティーにも参加し。

適当に見繕った女を強姦した後殺したり。

それでいながら自身は博愛主義者だなどとほざいたりもした。

一時期は海外にまで進出したが。

それも彼の国が鎖国を始めた事で、ならなくなった。

それでも残念ではなかった。

何しろ、文字通り。

権力がバックにいて。

金があって。

つまりやりたい放題が許されていたからだ。

手を払って、おぞましい妄想と身勝手すぎる思想で作りあげられた邪悪な心を消し飛ばす。

人間がどうしようもない生物だと言う事は分かりきっていたが。

それにしても、あまりにも酷いと言わざるを得ない。

気を切り替える。

ここからが本番だ。

今の二体は大した相手では無かったが、今「陰キャ」に猛攻を仕掛けている「フェミ弁護士」は違う。

元々のSNSにおける影響力。それも悪い影響力が邪神の強さに直結する。

あいつは桁外れの悪影響を周囲にもたらしていたことが一目で分かる。

ともかく、もう一度撤退だ。

戦略的目標は達成した。

此奴は次の戦いで、全戦力を集めて叩き伏せる。

今回は、可能な限り情報を仕入れられればそれでいい。

踏み込んで、加速。

突貫しながら、鉄扇を背中に叩き込むが。

出現した翼のような鈍器のような変なものが、一撃を防ぎ切った。勿論傷がついたところから爆裂するが。本体まで届かない。

硬い。

そして傷がついたところから見える、呪詛の塊。

なるほど、SNSに溢れた呪詛そのものを自身の強みにしているのか。

多分人間をフォロワー化するのに使っている能力を、超高圧縮しているとみて良い。

ひょっとしたら此奴は。

フォロワーを思うまま。他の邪神のフォロワーまで関係無く、好き勝手に操れるのではあるまいか。

「撤退しますわよ!」

こくりと「陰キャ」が頷くと。飛び退く。

今度は両手に持っていた鈍器を、「悪役令嬢」に向けてくる「フェミ弁護士」。

「陰キャ」は気付いただろうか。

これは銃に似せているが、恐らく新聞を意識したものだ。

武器とした新聞。

要するに、自分達が反論を受けて叩きのめされる事が少なく。

既に歴史の表舞台ではパブリックエネミー扱いされていたマスコミの広告ビラである新聞。

それを固めて、銃のようにしているというわけだ。

文字通り、ペンは銃より強しというわけか。

この言葉も、もとの意味からはかなり逸脱しているらしいが。はっきりいって、どうでもいい。

また、新聞の中身も、どうやら自分で作ったノートのようだが。そもそもSNSクライシス前の新聞も妄想作文以下だったようだから、どうでもいい。

激しい攻防をしながら、撤退位置まで「陰キャ」が引くのを視認。

そのまま、一撃を受け止め、二撃を弾き返し。

隠し札に放ってきた背中の翼の二撃を連続で叩くと。

顔面に萌え絵の絵札を叩き込んでやる。

爆裂する奴の顔面だが。

即座に体中に目を作って、周囲への警戒をする。

能力を使いこなしてるなあ。

だけれども、能力を使えば使うほど。

次の戦いでは有利になる。

邪神は進歩出来ない。

SNSクライシスという強大な何かの事件で発生した此奴らは。その時に人間どころか生物を遙かに超越したが。

その結果として、進歩出来るという強みを失った。

だから、戦いが長引き。戦闘を視認した人間が増えれば増えるほど有利になる。

「悪役令嬢」は立て続けに今度はインカムで指示。

同時に、萌え絵の絵札を立て続けに投擲。

「フェミ弁護士」の全身を爆破。

その爆破のダメージが一番酷いのが、巨乳の萌え絵である事を確認。

なるほど、それで充分だ。

此奴らは進歩出来ない。

ダメージ特攻が文字通り期待出来る。

倒し切れる相手なら此処で倒しきってしまうが、此奴はまだベラベラ喋り初めてもいない。

要するにまだまだ余裕があるという事で。

はっきりいって此処で勝負を付けることは得策では無い。

うめき声を。非常に不愉快そうにうめき声を上げながら、両手の鈍器と、背中の武器を無茶苦茶に振り回し、周囲を破壊しまくる「フェミ弁護士」。

理性も知性もまるで感じられない姿だが。

記録に残る、女尊男卑主義者達のSNSでの言動はまさにこれだ。

絶対正義同盟の言葉の通り自身を信じて疑わず。

正義だから何をしても良いと考えて、暴力を周囲に振るい散らかす。

そのやり口は知識人だろうが、大学教授だろうが、関係無い。

まさに残虐なる邪悪の権化だ。

既にかなりの距離を取った。

まだ視界に入っていることに気付いて、追撃を掛けようとする「フェミ弁護士」だが。

そこにトマホーク巡行ミサイルが直撃する。

勿論通常兵器なんて邪神にはききっこないが。

煙幕なら話は別だ。

視界を遮る膨大な煙幕が周囲に吹き荒れ、「フェミ弁護士」の視界を完全に防ぎ切る。

その間に、「悪役令嬢」は既に待っていた「陰キャ」と共に。

自走式のロボットに乗って、その場を後にしていた。

「逃げ切りましたわ」

「流石だ……」

山革陸将の感嘆の声が聞こえる。

無言で、そのまま車が行くのを待つ。

溜息をつきたかったが。

今、側に居心地が悪そうに「陰キャ」がいる。

そういうわけにはいかないだろう。

「近くに駐屯地がある。 そのロボット車は其方に向かっている。 物資などは其方に準備してある」

「分かりましたわ。 それと邪神「フェミ弁護士」については幾つか分かってきた事があります」

「戻り次第聞こう。 過酷なミッションのクリア、本当に大変だったな。 一自衛官として、邪神の跋扈を食い止めてくれたこと、感謝する」

通信を切る。

疲れきっているだろう「陰キャ」には何も言わない。

ただ。まずいクッキーを出して頬張る。

隣でクッキーをバリバリ食べているのを見て。「陰キャ」もやっと補給したいと思ったのか。

自身も、クッキーを口に入れ始めた。

「もうルーキーとは言えませんわね「陰キャ」さん。 既に貴方は、何処に出しても恥ずかしくない立派な狩り手ですわ」

「はい……そ、の。 ありがと、う、ござい、ます」

「いいえ、当然の評価ですわ。 ……基地に戻ったら、先にお休みなさい。 わたくしはまだ余裕がありますので」

余裕はあるが。

「フェミ弁護士」を倒せる程の余力は無かった。

せめて同格の狩り手がもう一人いたら。

九州にて苦闘中の二人をよびだせたら良いのだが。各地でまだフォロワーの脅威は去っていない。

それを考えると、とてもではないが。安易にそう言ったことを口にはできないだろう。

ただ、今回の件で。「陰キャ」「悪役令嬢」二人の目から。「フェミ弁護士」については観察した。

後でミーティングを行い、対策を考えつくかも知れない。

いずれにしても、以前までの戦闘データとあわせれば。これで攻略の糸口が見つかるかも知れない。

それはあまりにも、大きい事だった。

 

3、弱点を探せ

 

邪神「フェミ弁護士」に関する戦闘データが、分析に掛けられる。

「悪役令嬢」の証言。更には「陰キャ」と「悪役令嬢」の戦闘データを、自衛隊の地下にある大型スパコンに掛けて分析し。今、弱点や素性などの割り出しを行っている所である。

「悪役令嬢」は丁度、自室で休憩しつつ。

渡されている携帯端末で、その様子を見ていた。

絶対正義同盟の一桁ナンバー邪神は、今まで討伐にいずれも一度以上失敗し。大きな被害を出している。今まで旧NO6以下を「悪役令嬢」が連携したりしつつもスムーズに倒せたのは、そのデータがあるからだ。

NO1は戦闘データすらも残っていないが。NO2以降は出現した時などもあって。様々なデータが残っており。総力を挙げての分析が日夜行われている状況だ。

結論からいうと、NO5以上の邪神はいずれもがあまりにも圧倒的であるが故に、戦闘して生還した狩り手が存在していない。

そのため、今回は初の生還ケースとなる。

今までの戦闘データでは、NO5以上はどれも大差がないように思われていたようなのだが。

今回分かった。

NO5とNO3では段違いの実力差がある。

もしも今回来ていたのがNO3だったら、多分「悪役令嬢」と「陰キャ」のどちらかは捨て石にならなければいけなかっただろう。

ベッドで横になりながら、続きを見る。

「絶対正義同盟NO5、「フェミ弁護士」の特性はその堅牢さにあります。 他の邪神と違って非常にあらゆる箇所が堅牢極まりなく、多少の攻撃では殆ど通用しません。 一部「萌え絵」によるダメージが期待出来ますが、それも絶対とは言えないでしょう」

「ふむ、それは厳しいな……」

「此方の攻撃を見てください」

スローモーションでの戦闘が、分析されている。

「陰キャ」による剣撃で、「フェミ弁護士」の武器が斬り払われているのだが。

傷がついたにもかかわらず、ダメージは極小だ。

また、「萌え絵」による爆破でダメージは与えているが。

それも其処まで大きくえぐれていない。

全身に目を生じさせる事も出来る様子だし。

小細工を使ってくるようなタイプよりも、単純に硬くて強いと言うだけで、非常に厄介だ。

「巨乳の萌え絵が特に効果があるようですが、これはどういう理由なのだろう」

「さあ。 いずれにしてもSNSクライシス前で、女尊男卑思想の者達が、異常なバッシングをしていたのは事実だ」

「……」

「ああ、いいかね」

自衛隊の有識者が話をしている中。

山革陸将が挙手する。

皆が注目する中、山革陸将は周囲を見回していた。

「狩り手の人数が足りない。 育成のための物資や施設は既に移設が完了した。 次の狩り手を戦場に出せるのはいつになるか知りたいのだが」

「しかし、強力な邪神といきなり戦わせる訳には……」

「フォロワーの群れを相手にまずは経験を積んで貰う。 それに……今はベテランすらも、フォロワー対策で九州に行かなければならない状況だ」

「確かにそれはありますが」

教育を担当している、元狩り手の自衛官が立ち上がる。

片腕を失って、再生医療を使ってももう戦えないと判断したほどに体にダメージを受けた人物だ。

昔は派手なキャラだったのだが。

今は寡黙で実直な人物になっている。

まあ、みためだけで相手を判断してくる邪神だ。

実際の人となりなんて、関係無いのでこれでいいのだろう。

「現在二人ほど、二週間ほどでどうにか前線に立たせられそうな所まで来ていますが……流石にあの「フェミ弁護士」と戦わせるのは無謀でしょう」

「ならば、最初はフォロワー狩りからだな。 九州に送って、ベテラン二人と共に基礎的な戦闘経験を積んで貰おう」

「それが無難かと思います」

ルーキーの初陣における生還率は四割弱。

フォロワー相手でもそれは同じだ。

「陰キャ」のような超一級の素質持ちが例外なのであって。

無数に迫ってくる強大なフォロワーの相手を、最初から上手にこなせる方が希なのである。

ただ、九州の激戦地に送るのは賛成だ。

彼処にはベテラン二人が現在常駐している。

もしも二人の技術を貪欲に吸収してくれれば。

それで、九州の戦線を任せられるかも知れない。ただ、正直な話、ルーキー二人程度では、話にもならない。

「その後はどうかね……」

「今、五人を追加で教育中ですが、何しろ色々教育のスケジュールが乱れましたので……」

「最短でどれくらい掛かりそうかね」

「急いで戦場に出しても無意味に死なせるだけです。 充分な教育をするには、その五人には後二ヶ月以上が必要です」

大きな溜息が出た。

その後は、ルーキーの紹介に移る。

一人はメイドだ。

メイドスタイルの狩り手は今までにも何人かいたが、全て戦死してしまっている。

確か最初期のメンバーにもいた。

どうしてメイドなのか。

これはメイド喫茶という、メイドの格好をした人間が接客をする喫茶店が流行したことがあるからだ。

それ以前にメイド人気はあったのだが。

何処かの店が流行らせたらしく(記録は詳しくはSNSクライシスの混乱の結果残っていないらしい)、どこでも似たような店が乱立することになった時期もある。

メイドは元々下働きだった存在だが、一時期は可愛らしいエプロンドレスなどを着せた一種の記号として扱われていた。

しかしながらメイド喫茶の出現により、蔑視する人間が出るようになった。かなりの狼藉を働く客もいたらしい。

背後にスジ者がいるような店ではそういう客はでなかったようだが。

またスジ者が背後にいるような店の場合、メイドに悪辣な客引きをさせて、高額商品を客に売りつけさせるような真似もしていたようだ。

そういう事もあって、メイドというものは色々な複合効果でミームの一種として定着し。

実際にSNSクライシスの後は邪神との戦いで、効果があると判断された。

要するに近付いてもフォロワーにされないのである。

実際のメイドの悲惨な実態とか。差別を受けていた経緯とか。そんなものはSNSクライシスで生じた邪神達にはどうでも良かったわけで。

ある意味、邪神どもが如何に傲慢で邪悪かを更に印象づけることにもなった。

ともかく、メイドスタイルの狩り手はあまりジンクスとして良くないと言われているのだけれども。

しかしながら、そもそも生き延びている狩り手が四人しかいない状況だ。

生存率が低いのは他のスタイルの狩り手だって同じである。

もう一人は浪人生スタイルだそうだ。

浪人生。

何年も大学に入るために苦学を続けた人達。

どうしても身の丈に合わない学校や。本人が望まない学校に親に強制されて受験したりした場合。

大学に、場合によっては高校ですらも浪人する事になる人はいたそうである。

それでも何とか入れた場合は良いかも知れない。

医学を学ぶ事が出来たり。

或いは六大学などと呼ばれる良い大学の法学部などに入れば、ある程度の出世の道はあっただろう。

だが、7年も8年も浪人をしているとなると違ってくる。

生徒からは教師と間違われることもあり。

家では腫れ物扱いされ。

挙げ句の果てに大学でも周りは全員年下の先輩という事になる。

歪むのは、色々仕方が無いのかも知れない。

いずれにしても、学生である事をイメージしつつ。

明らかに老けた扮装をすることで対応するそうだ。

これも既に効果があることが実証されている。

ミームとして「社会的弱者」として認識される存在は実戦に何度も投入されたが。中には効果が全く無いものもあった。

効果があるなしはすぐに分かる。

効果が無い場合は、フォロワー化してしまうのだから。

初期の頃の狩り手には、フォロワー化してしまった人もいて。

そういう人に限って、スペックは優れていたりした。

それこそ、今の「悪役令嬢」以上に、である。

そう言ったことを思うと。

「優秀」というのは何なのか、色々考えてしまう。

「なるほど。 それで教官から見たルーキー二人の実力は」

「実戦と訓練とではまるで違う、と言っておきます。 事実「陰キャ」が戦場に出たときには、私は初陣を乗り切れないと思っていました」

「……」

「人間はデータだけではかることは出来ません。 特に基礎体力に欠ける「陰キャ」が驚くべきキルスコアをたたき出していることからも考えて、この二人がまず戦場に出て、経験を積んでから話をしたいところです。 もしも狩り手としての素質がないのなら、自衛官になってもらいます」

教官は厳しいな。

いずれにしても、二人が近いうちに追加される。

まずは九州の対フォロワー戦に出て貰い。

実力を軽く見て、それから経験を積んで貰いながら、邪神戦に備えて貰う。

もしもフォロワー戦だけなら問題ないようだったら、ベテラン二人に来て貰って、「フェミ弁護士」討伐のために作戦案を組む事になるだろう。

彼奴を無事に倒せる保証は、正直現時点ではない。

放置しておくと危険なのも事実だが。

今「悪役令嬢」はともかくとして。

次代の英雄たり得る「陰キャ」を失う訳にはいかないのだ。

「敵邪神、「フェミ弁護士」の攻略についてだが。 どうするべきか、戦術などは……」

話を山革陸将が戻す。

それからしばらく、AIが分析した内容も含め。

ああだこうだと色々分析が行われたが。

それでも何ともならない。

いずれにしても、現時点で五体まで減った絶対正義同盟の邪神である。

これらを削りきれば、ある程度日本は安全になる。

五体が四体になるだけでもまるで違うだろう。

結論としては、時間を掛けて分析するので、現時点での交戦は避けろ、ということになった。

リモートでの通話を切る。

「悪役令嬢」は身を起こすと、伸びをして。

それから食事にすることにした。

既に「陰キャ」に教える事はないと思う。

本人が何か聞いてくるならばアドバイスをするが、それ以外は必要ない。戦い方なども自分で構築できる。

色々と噛み合っていないのが気の毒だ。

もっと体力があったなら、これ以上もない人材として、大暴れする事が出来ただろうに。

世の中というものは残酷で。

やる気がどれだけあっても出来ない人は何もできない。

運だけしか無い奴が、好き勝手をする事も逆にあったりする。

これはSNSクライシスの前から同じだ。

「悪役令嬢」の場合はどうなのだろう。

実力については、一応相応に自信はあるが。それでも過信になったら即座に死につながると考えている。

今までソロで討伐してきた邪神だって、一歩間違えば死ぬような攻撃を何度も擦らせてきたし。

それでできた傷を、戦闘終了後に再生医療で治したことだって何度もある。

それくらい酷い傷を受けてきたというわけだ。

今までのキルカウントは別として。

相応に「悪役令嬢」だって苦労しているのである。

自衛官達と同じまずい食事を終えると、外に出て軽く体を動かす。

ともかく、重い攻撃。

硬い肉体。

今までの邪神とは一線を画する相手だ。

そういう場合は、更に実用性が無さそうに見える武器の方が良いだろうか。

それとも、萌え絵による飽和攻撃で敵の足を止める方がいいか。

いや、両方とも対策はした方が良いだろう。

自分が武技の頂点を極めた等というつもりはない。

だから、無言でひたすらに技を磨く。

体の動かし方一つにしても、精度を上げればそれだけ邪神に対する大きな有効打につながる。

パワーも必要だ。

鋭さも。

呼吸と技のタイミングを合わせることによって。

それぞれを高めることができる。

一通り体を動かして、訓練を終える。

連絡が来た。

「「悪役令嬢」、いいかね」

「はい。 いかがなさいまして?」

「「フェミ弁護士」は追跡を諦めた様子だ。 ただし、腹いせに、今まで君達が拠点にしていた基地を徹底的に破壊していったが」

「がらんどうの場所ですわ。 本当に腹いせのようですわね」

何となく、分かる。

二体の邪神を失い。

狩り手を倒さず逃がしてしまった。

更に手の内も知られた。

絶対正義同盟がどういう会議をしているかは分からない。邪神には人間時代の自我も限定的にしか残っていないし、どのように接しているかもよく分からない。

ただ幾つか珍しい会話している様子の記録によると、どうも上位者が喋ってから下位者が喋るのは基本のようで。

SNSクライシス前のブラック企業の、悪い所を煮詰めたような場所では無いかと言う仮説が出ている。

もしもそれが本当だったとすると。

作戦に失敗した「フェミ弁護士」は、阿修羅のように荒れ狂って次の戦いに出てくる事だろう。

むしろ好都合だ。

邪神になるとただでさえ色々と制約がついて動きづらくなる。

息をするように大量の人間を殺すが。

人間が分散して暮らしている今は、それをしらみつぶしにする事も無く。ある程度人間が集まるまで動こうとしない。

30年で練られた対策は。

かなり被害を減らすことにも成功しているのだ。

それでもたまに数千人規模の集落が一瞬で壊滅させられることもあるが。

「……次の作戦は、「フェミ弁護士」がまた現れてからですわね」

「分かった。 此方でも対策をしておこう」

「それまでに、新人の教育を済ませておいてくださいまし。 わたくしは一旦東京に出向いて、フォロワーを削りとっておきますわ」

「では、「陰キャ」くんには大阪に出向いて貰う。 彼方もフォロワーの一大巣窟だ」

頷くと、通信を切った。

いずれにしても、これからはしばらく、敵の出方を待たなければならない。

自衛隊の地下工場などでも物資の生産はしているが。

それでもまるで足りない状況だ。

人間をたくさん集めて工場で物資を生産と言う事が、そもそも出来ない時代になってしまった。

米国などもその辺りは初期にやられてしまい、頭を抱えたそうである。お得意の膨大な物資を用いての作戦が上手く行かなくなった、と言う事なのだから。

しばしして、すぐに迎えの車が来る。

ロボットの車ではなく、普通のハンヴィーだった。多数に取りつかれてしまうとフォロワーには無力だが。軽武装の機動車両としては一応価値があるし。何よりも、「悪役令嬢」が東京で威力偵察を行うなら、戦車を持ち込むよりも足が軽いハンヴィーの方が良いだろうと判断したのだと思う。

通信を入れておく。

「陰キャ」相手に、だ。

「しばらくは別行動になりますわ。 わたくしは東京にいきます。 「陰キャ」さんは大阪だそうですわよ」

「は、い」

「貴方は既に立派な狩り手。 次の戦いでも、背中を任せますわ」

「……ありがと、う、ござい、ます」

人間と喋るのは苦手だろうに。

それでも必死に返してくれている。

それだけで充分だ。

古い時代、対人会話能力に問題がある人間は、人間としてみなされなかった。

これはSNS時代だけでは無い。

古い古い記録になるが、韓非子などもそうだ。

韓非子は偉大な哲学者だが、いわゆるどもりがあった。このために不興を買って殺されてしまっている。

紀元前の話だ。

紀元前でそれだったのだ。

SNSクライシスの前はどうだったかというと。SNS中心に世界が移行した結果。更に醜悪な人間の本性が露出し。

結果として、多くの人間が社会的に殺され。

場合によっては自殺にも追い込まれた。

それでSNSクライシスが起きた。

今の時代は、何というか終末の世だが。

それは、ずっと精神の進歩を拒んで、人間は素晴らしいとありもしない言葉を並べ立て。生物レベルでのナルシズムに酔っていた人間が起こすべくして起こした災害なのかも知れない。

強者を気取った連中が好き勝手やった結果が今なのだとしても。

「悪役令嬢」は驚かない。

ハンヴィーの上に仁王立ちして、そのまま東京に向かう。

東京は今でも魔都のままである。

フォロワーはできたばかりの頃は、親元である邪神の影響を強く受けて人間の言葉らしいのを口にするのだが。

それも時間が経つと、どんどん自我が失せていく。

結果として残るのは、極めて危険な人間の敵。

そしてそれは、治療法もない。

今まで死ぬ思いで自衛隊が捕獲したフォロワーを調査したが。細胞レベルで変異してしまっていて、どうしようもない。

これを治すのなら、全身転移した末期癌を治すほうが遙かに簡単だとさえ、医師が悪い意味での太鼓判を押したそうだ。

ハンヴィーの上で右手を挙げ、横に。止まれという意味だ。

周囲にフォロワーの気配だ。

飛び降りる「悪役令嬢」。すぐに重機関銃の射手が、無線で自衛隊に連絡を入れていた。

わらわら現れるフォロワー。

東京は早いうちに放棄されたから、此処にいるフォロワーはもうかなり古い。服なども身につけていない事が多い。

うめき声を上げながら、向かってくる大量のフォロワー。

この間あれだけ駆除したというのに。

「貴方たちは下がりなさい。 わたくし一人で処置をしますわ」

「わ、分かりました! ご武運を!」」

ハンヴィーが下がる。

そのままずんずん前に出ていく「悪役令嬢」。

更に名乗りを上げる。

「オーッホッホッホッホ! 邪神を単身にて多数討伐した貴方方の敵、「悪役令嬢」推参ですわよ!」

一斉に飛びかかってくるフォロワーども。

後は、片っ端から、体力が続くまで処理を続ける。

数時間処理を続けて、数千体を葬っただろうか。

流石に疲れたので、後方に下がっていたハンヴィーの所まで戻り。近場の基地に移動して貰う。

食事とトイレを済ませると、少し横になって休む。

その間にドローンを飛ばして貰い、今戦場になった周辺や。

東京の各地を見てもらう。

「少しは減りまして?」

「いえ、また数百単位の群れが、戦闘のあった地点に幾つか集まっているようです」

「それで結構。 片付けておけば、東京で生き残っている人間がいるならそれだけ安全になりますわ」

いれば、の話だが。

実際に彼方此方の街でフォロワーを駆除していると、かなり生存者を見つけるのである。

こんな最果ての時代だ。

それでも、必死に生き延びている人はいるのである。

そういった人を、少しでも救うためにも。

フォロワーは、一匹でも駆除しなければならない。

 

4、ルーキーズ

 

九州にて、フォロワーの大軍と戦い終えて一息ついていた「デブオタ」こと柳田の所に連絡が入る。

近々絶対正義同盟NO5「フェミ弁護士」を討伐する任務を行う。

そのために、九州方面の激戦地で、ルーキーを鍛えて欲しいと言う内容だった。

無理を言ってくれる。

柳田はぼやく。

恐らく、今一線で活躍している四人を集めて、一気にNO5を倒すつもりなのだろう。作戦としては間違っていない。

ただ、NO5は「悪役令嬢」と「陰キャ」二人との戦闘を見たが。

単純に強い邪神だ。

その上ベラベラ喋り初めてもいなかったということは、更に切り札を有している可能性が高い。

形態も変化するかも知れないし。

はっきりいって、油断などとても出来る相手ではないと言える。

ため息をつくと、戻って来た「ガリオタ」と情報を共有する。

「およよよ。 ようやく後輩が間に合ったのでござるな」

「そのようですお。 ……とにかく死なせないように気張りどころですな」

「おう……」

分厚い眼鏡を掛けているガリオタの表情に影が差す。

それはそうだ。

最初期の狩り手の二人。

これ以降は殆ど全滅した。

第二期の狩り手など、確か全員が死亡しているはず。

他の期も散々で、生き残りも自衛隊や医療班に再編成されて各地で行動している状況である。

いずれも戦わせられる状態ではない。

「それで、ルーキーが来るのは」

「情報によると明日のようですな」

「拙者としては、此処では無く別の場所で……できれば「悪役令嬢」どのと一緒に戦って貰うべきだとおもうのでござるが」

「ぼくも賛成ですお。 しかしながら、「悪役令嬢」は東京のフォロワーをまとめて駆除に掛かっているようでしてな」

ため息をつく。

九州では、激戦が続いているが。

逆に言えば、それだけフォロワーは減らせている。

既に九州の北半分からはフォロワーは一掃できており、各地に無人工場が作られて自衛隊に物資を供給している。

破壊された車などは全て回収し、分解して再利用する。

大量に廃棄されたゴミなどもそう。

工場で作るのは戦争用の物資だけでは無い。

とにかく数と栄養だけは用意したレーションや。医薬品なども含む。

工場を作るときが一番危ないのだが。

人間が殆どいない場所に邪神は現れないという習性を利用して、北九州に拠点を作る。その作戦は上手く行きつつある。

ただし、南九州はまだまだフォロワーが多い。

以前邪神の誰か分からないが。

いずれにしても、そいつが九州全域を地獄にし。

特に念入りに鹿児島などは徹底的に殺戮したそうである。

故にフォロワーが凄まじい数蠢いており。

東京ほどでは無いにしても。

北上してくるフォロワーの数は尋常ではないのだった。

休憩が終わると同時に、前線から支援要請が来る。

腰を上げて、無言で二人で前線に向かう。

使う武器はずっと同じだ。「悪役令嬢」と共同戦線を張った時から。それ以前からも。

既に五十をすぎてかなり経つ。そろそろ後継に来て貰わないと困る。そう考えているのも同じだった。

二人揃って、自衛隊と連携しながらフォロワーを徹底的に片付ける。数時間戦って、二千ほど殺っただろうか。

一旦敵が引き始めたので、此方も引く。

ドローンの映像によると、まだ万を超える数が北上を続けている。

多分命令されたままに、ずっと動いているのだろう。

殺戮をするためだけに動く人間だったもの。

厄介な事極まりなかった。

無言で休んで、翌朝。

ルーキーが来た。

一人はやたらと仰々しく着飾ったメイド。メイドスタイルの狩り手には悪いジンクスがあると言う話で、少し心配になった。

もう一人は、老け込んだ学生だ。一目で分かる。浪人生か。学生服を着た二十代半ばに見える男性。

もしもSNSクライシス前だったら。

周囲から散々後ろ指を指されて、笑いものにされていただろう。

咳払いすると、それぞれ名乗る。

相手側も名乗った。

「「喫茶メイド」です。 よろしくお願いします」

ぴしっとした、随分しっかりした挨拶だ。

咳払いして、ちょっと言っておく。

「ああ、メイドどの。 邪神どもが馬鹿にしているのは、メイド喫茶で働いていた記号化されたメイドであることを敢えて忘れられるな。 もしもただのメイドだと思われると、フォロワー化の可能性もあるゆえな」

「あ、すみません。 ……もう少し、何というか萌え萌えきゅんな感じにします」

「そうしてくだされ。 命に関わりますお」

もう一人の方は、キャラ作りがしっかりできているようだ。

陰気な様子で、「医大浪人生」だと名乗った。

まあそれでいいだろう。

一目でそうだと分かる。

目指せ〇〇医大と巻いている鉢巻きが良い感じを出している。

ミームとしては一目で分かる「社会的弱者」であり。

ついでにいえば、邪神は見た目で相手を判断する。

これでいい。

「ガリオタ」が聞く。

「それぞれの得物について教えていただけるかな」

「私はこれを使います」

「喫茶メイド」が出してきたのはナイフとフォーク。

それに、さらさらとその場で萌え絵を描いてみせる。

なるほど、新鮮な萌え絵か。

今までは色々な萌え絵を、残っているデータベースから取り出し。それをコピーして邪神相手に使っていた。

この人は、絵をある程度描けると言うわけだ。

それも、SNSクライシス前に女尊男卑主義者がもっとも嫌っていたような絵を、である。

ならばそれは実に素晴らしい。

恐らく効きも良いはずだ。

「ふむ、なるほど。 遠距離戦闘特化型でござるな。 近距離に詰められた場合の対策は」

「体術を少々」

「ふむ、どれ」

軽く見せてもらう。「デブオタ」相手に軽く体術を振るって貰うが。かなりしっかりした中華拳法だ。

悪くないと思う。

また、敢えてスカートの中にドロワーズを履いていて。蹴り技の時にそれを見えるようにしているのもポイントが高い。

要するにそういうのを、邪神は一番侮蔑しているからだ。

侮蔑しているものほど効果が高い。

邪神に効くものはフォロワーにも効く。

「靴はメイド用のローファーに見せて、内部に色々ギミックを仕込んでいますので、殺傷力は充分です」

「ふむ、悪くないでござるな。 ただ、もう少し口調は崩した方がよいでござろう」

「分かりました。 工夫します」

「医大浪人生」の方も見る。

此方はバリバリの近接戦闘派だ。手にしている複数の鉛筆。更には机そのものを振り回して戦うようである。

コンセプトは分かった。

後は実戦で通じるかだ。

少し心配なのは「喫茶メイド」の方である。

何というか、しっかりしすぎている。

優等生すぎて奇襲などに対応できない場合、戦闘ではあまり役に立てないことがある。

基礎的な戦略がまともでないのは論外だが。

戦術レベルでは、文字通りの臨機応変ができないとまたこれは論外になる。

古い時代は、戦略で勝てばほぼ勝ちだったのだ。

だが今の時代はそうもいかない。

個の戦術でないと対抗できない邪神が現れてしまったからだ。

すぐに前線に出向いて、フォロワーの群れと戦う。

やはり二人とも、すぐにはものとならない。

勿論怒鳴りつけるようなことはしないが。かろうじて緒戦は生き残った、という感じだ。

二人にはまだ当面、フォロワー相手の戦闘が必要だろう。

特に「喫茶メイド」の方は、もとのスペックが高い分かなり実戦は苦労するかもしれない。

いずれにしても死なせない。

育て上げる。

そう誓って、次の戦いにも柳田は臨むことを決めていた。

 

(続)