たまには規格外も通常勤務

 

序、死刑宣告

 

私はそれを告げられて絶句した。

これからしばらく、開拓惑星での任務がないというのだ。

私に取って、犯罪者刈り取り放題の開拓惑星任務は本当に癒やしだったのに。何故なのか。

食ってかかると。

AIは、私に言うのだった。

「あまりにも悪評が広まりすぎたのです」

「はい?」

「今や開拓惑星では、開拓時には必ず狂人警官が来ると噂になっています。 このため、ガス抜きのための機能が発揮できなくなりつつあります」

そうか、要するに暴れすぎたのか。

釣り堀で魚を釣りすぎたようなもので。

AIが敢えて意図的にガス抜きの場として用意している開拓惑星が、そうではなくなってしまっていると。

と言う事は、私はまた特殊犯を捕まえに行くのか。

いつも面倒くさいのだが。

そう思うと、追撃が入る。

「篠田警視正は、はっきりいって充分過ぎる成果を上げています。 というわけで、しばらくはデスクワークに徹して貰おうと思います」

「ちょっと待った!」

「何でしょう」

「そりゃ魚を陸に揚げて放置するようなものだよ! 私に取ってデスクワークは退屈すぎて仕方が無いんだが!?」

結構死活問題なので。

私としても本気で抗議したのだが。

AIは涼しい様子である。

「篠田警視正は充分過ぎるスピードで出世していますし、他の警官の比では無い出張率で仕事もしています。 この辺りで、デスクワークに専念していただきたく」

「……」

「その代わり、このデスクワーク期間が終わったら、その時には階級を一つ挙げましょう」

そういえば、階級の話もあったな。

階級なんてぶっちゃけどうでもいいんだが。

それでも、一段落として、デスクワークに徹してくれと言うのは分かる。

しばらく頭を抱えたくなったが。

何とか精神を立て直す。

そして大きく深呼吸して。

何とか平静を取り戻していた。

「分かった、何とか頑張るよ。 その代わり定時で上がらせてよ?」

「それは勿論。 というよりも、今時デスクワークで残業なんてしている人間はいませんよ」

「そういえばそうだったか」

「ですから安心してください」

安心か。

そんなもの、微塵も出来ないが。

とりあえず、幾つか妥協案は引きだしておく。

まず犯罪者を銃で撃てないと、ちょっと私はどうなるか分からないので。そこはどうにかしたい。

というわけで、まずは演習への参加については許可を貰う。

警官が鈍っていることは事実としてAIも認めているので。

それについては許可を貰った。

デスクワークについても。

いつものレポートだと飽きるから、なんか違うのやりたいと提案。

だが、これについては却下された。

「例外事項が多いデスクワークに関しては、人間が関与すると面倒な事になることが多いのです。 故に私が処理するようにしています」

「あー、そういう……」

「というわけです。 ですから、いつもの退屈なレポートかも知れませんが、対応をお願いいたします」

もう一つ譲歩がほしい。

というわけで、提案する。

「何か退屈を紛らわすものがほしいなあ」

「……そうですね。 でしたら、今度公開されるワールドシミュレーターのベータテスターとして参加して貰いましょう」

「ふむ……」

「AIによらず人間が銀河系を支配している宇宙のワールドシミュレーターです。 ワールドシミュレーターとしてのレベルは非常に高く、内部で生活している人間種族は基本的に自分達を人間だと本気で思っています」

なるほどね。

それならば、そこで犯罪組織を刈り取り放題しても良いかと聞くと。

許可も出た。

ならいいだろう。

勿論本物を撃つのが一番良いのだが。

ワールドシミュレーターなら、それはそれで充分である。

とりあえず譲歩を二つ引き出せたので、これで可としよう。

後は順番に、色々とこなして行くだけである。

とりあえず、しばらくは署で全てか。

出張無しか。

退屈だが、これで決めたのだから。可としなければならない。

無言で、さっそくデスクワークをする事にする。

AIは当然、すぐに用意してきたので。

処理を始めた。

誰が処理したのかも分からない事件のレポートだ。

さっさと片付ける。

黙々と、次から次へとやっていく。

基本的にAIの長所は、嘘をつかない事である。

これに関しては、どんな人間よりも確定で勝っている。地球人類なんて、嘘の塊のような種族である。

だがAIは、隠している事はあっても嘘は言わない。

有言は実行する。

そこが人間とは違っているところで。私が妥協できる存在だと、思っている理由の一つでもある。

さて、十個ほどレポートを書き上げたところで。

訓練を提案。

だが、最低でも二百はこなせと言われたので。仕方が無いと、作業を続ける。

今回は耐久レースだな。

それを私は理解。

だから、黙々と耐久レースをこなすことにする。

三十ほどこなした所で、昼になった。

三日は掛かるだろうなと判断。

まずは、ノルマからこなして行く事にする。

昼のご飯は、別にどう食べようと自由だ。

今回は私に取ってある意味とんでもなくストレスフルだという事もある。家に戻って、スイの作るご飯にでもすることにした。

家に戻ると。スイがぺこりとお出迎えしてくれる。

帰ることは知っていたのだろう。

すぐに食事を温めてくれる。

美味しすぎないように。

そうちゃんと気を付けて。食事を作ってくれる。

それでいい。

何もかもがほどほどが一番だ。

私も分かっているのだ。

何もかも最高の状態にすると、恐らく間違いなく人間は堕落する。古い言葉で言うとスポイルされるという奴だろう。

何かの地球時代の映画で、人間を楽園に招待したら瞬く間に滅びてしまった、というものがあったっけ。

それと同じである。

人間は最高の環境にいると堕落する。

既得権益層の人間が無能だらけなのも、それが理由だ。

スペックは高いのかも知れない。

しかしながら、いつも国を滅ぼすのは無能な既得権益層である。

それは地球時代では、不変の事実だった。

他の星でも同じだろう。

特に血統主義がまかり通り始めるとあぶない。

その事実を知っているから。

私は美味しすぎない食事を、今日も食べる。そこそこに美味しいのだから、それで充分である。

食事を終えると、スイにジムによってから帰ると告げる。

この耐久レースが始まったときに、既に無人ジムは予約はして貰っている。

歩いて戻る途中、軽くAIと話した。

「やばめの犯罪者はいない? 大丈夫?」

「問題ありません。 篠田警視正。 貴方はエース級の警官ですが、今の文明は貴方がいなくても問題を解決する事が出来ます」

「そういやそうだったね」

「勿論貴方にはいて欲しいですが」

「ありがとさんよ」

この言葉は本当だろう。

AIはあらゆる人間の自主性を尊重している。

私みたいな危険分子が生きているのもそれが故だ。

処分というのも聞くが。

それも文明の渡河期。

銀河連邦に文明が加入するときに、既得権益層や野放し状態の犯罪者を処置するのに行うらしいと言うのも、私には見当がついている。

だから別にそれについては。

もうどうとも思ってはいなかった。

署につく。

デスクにつくと、レポートを処理する。

途中から効率が上がる。

作業は慣れると効率が上がるのは、どんな世界でも同じ事であるらしい。

私は淡々とレポートを処理していき。

全てを片付けていく。

今日の目標は七十。

午後分の仕事で片付けてしまいたい。

途中、ポップキャンディを咥えながら作業を行う。

どんどん側のゴミ箱に。

ポップキャンディの包み紙が増えていった。

こういう風に仕事ができるのも。

AIはきちんと私に仕事を寄越すことを知っているからだ。この苦行も、後で撃ちたい放題ツアーが組まれると知っているから出来ることである。そうで無ければ、こんな事やっていられるか。

淡々と作業を実施していく。

そして気付いたときには、定時になっていた。

周囲の警官は各々のタイミングで帰宅していく。

誰が誰かも分からない。

ここの署の人間かどうかすら知らない。

隣に誰が座っていて。

どんな仕事をしているか。

それも分からないのが、今の時代である。そういうものなので、別に誰も気にすることはない。

私も予定より少し多め、74つめのレポートが終わった所だったので、今日は此処までにして引き上げる事とする。

帰りには無人ジムの予約が為されていたので、寄っていく。

最高負荷で走り。

更にその後には泳ぐか。

私自身のパワーも上がっている様子で。

最高負荷で走るのが、以前ほど苦にはならなくなってきている。

やはり最盛期の肉体を維持するというのは非常に大きい意味を持っていると見て良さそうだ。

今後も、十六の肉体年齢を維持していこう。

思う存分無人ジムで泳いだ後、そう思った。

さて、家に戻る。

夕飯を食べて、風呂に入った後。

横になって、推しのデジタルアイドルの配信を見る。

万年単位で続けているのに、次々新しい配信を思いつくのは流石AIというところだろうか。

今日はどっかの星で、史上最悪のクソゲーと言われたゲームを遊んでいる。

しかもわりかし楽しそうだ。

勿論事前調査をした上で、良い所だけ抜き出しているのだろうけれども。

それでも見ていて楽しいし。

このゲームプレイのスタイルについては尊敬できる。

大した物だなと思いつつ。

私は適当な所で切りあげ、寝る事にした。

 

夢を見ていた。

また夢だ。

どうせ起きたら忘れてしまう一期一会の夢。

私は平和な時代にいた。

いや、違う。

いつもと今日の夢は雰囲気が違っている。

花畑の中で起きた私は、周囲を見回す。むせかえるような緑の臭い。本物の植物である。夢としてもちょっと悪趣味だな。そう思いながら立ち上がる。

状態を確認しながら、周囲を見て回るが、何処までも花畑が続いている。

メシでも食べたいなと思うと、ぽんと目の前に椅子とテーブルが。

そして、食事が出て来た。

私がそこそこ好きな奴だ。

鼻白む。

これは、何も必要では無さそうだな。

そう思う。

食事を何の疑問もなく口にする。

とても美味しすぎて、それ以上の言葉が出てこない。

そして、食べ終わった後。

この状態はまずいな、と思った。

風呂に入りたいと思えば目の前に風呂が。

眠りたいと思えばベッドが出てくる。

そういえば、この周囲に満ちている花畑も、恐らくはリラクゼーション効果だの何だのを想定しているものなのだろう。

或いはVRMMOゲームの内部か何かの夢だろうか。

確か、完璧な楽園を作って、そこで楽しんでもらうと言うVRMMOが存在していた筈である。

だけれども、それに潜った私は。

速攻で飽きて、以降二度とやらなかった気がする。

それはそうだろう。

私はどんどん不愉快になりながら、花畑を歩く。

こういう何というか。ステレオタイプというか、型にはまったというか。

何というか、決められたパターンの楽園というものは。

押しつけられてもはっきり言って迷惑千万である。

私に取っての楽園は。

ショックカノンで犯罪者を撃てる職場だ。

実際には何でも撃ち放題で。撃った相手はバラバラに出来るとなお良いのだけれども。それは自制心で押さえ込んでいる。

私に取っての楽園と、他の人間の楽園は違う。

その程度の分別くらいは当然ついている。

当たり前の話である。

だから、こういう楽園は気にくわない。

そして、こんな場所なら、人間が速攻で滅ぶのも道理だなとも思った。

この様子だと性が好きな人間には、すぐに都合が良いパートナーが出現する事だろう。はっきりいってどうでもいい。

私は、ぼそりと呟いていた。

さっさと出せこんな場所。

それで、目が覚めていた。

夢の内容は、その瞬間に忘れていた。

頭を振る。

とんでもなく不愉快な夢だった記憶があるけれど、それ以上は分からない。

コレは何かの拷問か。

AIに早速聞いてみるとする。

「あのさ。 聞いて見て良い?」

「はい何でしょう」

「私の夢、あんた干渉していないよね」

「夢に干渉ですか? 篠田警視正の夢の内容そのものは把握していますが、それ以外の事は何もしていません。 データとしては保存していますが、最高機密に属すると思いますので、篠田警視正にも見せる事は出来ません」

まあ、そうだろうな。

此奴ならそういう答えを返すと思ったよ。

とりあえず、私は歯磨きし、顔を洗うと。

大きなため息をついた。

何だろう、この腹の底からわき上がってくるような不快感は。

スイがタオルを差し出してくれたので、少し乱暴に受け取って顔を拭く。

私の機嫌が悪いことに気付いたようで、スイは礼をすると、すっと下がった。ちょっと罪悪感が湧いた。

ロボット相手とは言え。

あまり好ましい事ではないと思った。

スイにわびると、向こうの方が小首をかしげる。

「マスター。 私はロボットです」

「そうだけれども、私が謝りたくてね」

「分かりました。 ありがとうございます」

「……」

さて、仕事だ。

ろくでもない夢を見たのも、ろくでもない仕事をしているからだろう。

三日掛かる仕事だと判断した。

流石にどんなに頑張っても二日で終わらせるのは不可能だ。

だから、三日掛けて、さっさと終わらせて次に行く。

だけれども、AIの事だから、似たような仕事をしばらくは回してくる筈である。

それは分かっている。

だからこそ、私は余計げんなりしていたのかもしれない。

 

1、兎に角地味

 

地獄のレポート二百連戦が終わった後、次に命じられたのはパトロールだった。

いやっほいと大喜びしたが。

私服でのパトロールで。ショックカノンは持ってはいるが、その代わり見回る場所は私が住んでいるダイソン球の内部である。

当然ながら恒星の周囲を覆う構造物であり。

更に言えば、複層構造になっている。

私の家の近所とか、重要拠点は足を運んだことはあるが。

それ以外の場所はまったく分からない。

というわけで、今日は電車などを使って、あてもなく。いや、AIの指示通り、淡々と歩かされていた。

勿論ベルトウェイなども使うし。

電車も用いるが。

それでも知らない場所だらけだなあと思う。

ただし見ている光景は代わり映えが全くという程しない。

そして私が見る限り。

犯罪者と出くわすこともなかった。

私は二百連戦レポートという地獄の苦難を乗り越えたので。

何というか、今感覚がとんでも無く研ぎ澄まされている。

獲物を狙う肉食獣状態だ。

それなのに、何も勘が反応しないと言う事は。つまりそういう事なのだろう。何というか、残念極まりない。

電車に乗ったので、軽くSNSを見る。

どうやらレマ警部も今は休みを取っているらしい。

かといって、ヒャッハーが大暴れなんて事も当然なく。

エース級の警官なんていなくても、その気になればAIが犯罪をすぐにでも検挙できる事が分かる。

あくまで仕事の一部を人間がやっているだけ。

それを知っているには知っているが。

こういう現実を見ると。あまり良い気分はしなかった。

「三つ先の駅で降ります。 準備はしてください」

「んー」

適当に答えながら、携帯端末をしまった。

周囲に点々といる人達は、仕事の途中で移動中、が殆どだろう。

そうでなければ単にフラフラしているだけか。

世の中には各停マニアという人達がいるらしく。電車の全ての駅を網羅するのが楽しいらしい。

そういう趣味もある。

私はそれを否定するつもりは無い。

ただ、私には分からない世界だと思うだけだ。

そういう各停マニアでも、そもそもダイソン球を網の目のように行き来しているこの電車の全ての駅を網羅することは……。

今は時間が幾らでもある時代だ。

可能なのかも知れなかった。

三駅目。降りる。

ここからはしばらく歩きだ。

歓楽街に出たが、人出はまばらである。

私の勘も働かない。犯罪者はいない、という事である。

露骨過ぎるレベルで舌打ちが出たが、まあいい。無言でそのまま歩き続ける。まあたまには知らない場所を見るのも良いだろう。

それに私は記憶力が良い方らしくて。

一度行った場所は忘れないとまではいかないが。

まあそこそこ覚えている方だ。

なお犯罪者の方は、一度撃った相手は、もう一度会えばすぐに思い出すくらいには忘れない。

名前を全部言えと言われても無理だけれども。

「この先の裏路地に入ってください」

「おーけー。 それで?」

「そのまましばらく直進です」

「へいへい。 出発進行」

黙々と指示に従って歩いて行く。

この先には何があるのか。

言う間でもなく、単に大通りに出るだけである。

裏路地が危険だった時代なんてとっくに終わってしまっている。AIは裏路地でも容赦なく監視しているからだ。

淡々黙々と歩き続け。

そのまま、私は裏路地を抜けた。

大通りに出る。

とはいっても、人はまばら。

色々なお店が並んでいるけれども。

別に人が入ろうが入るまいが潰れることは無い。客商売というものを、それほど考えなくても良い時代だ。

接客が苦手な人は、AIに任せてしまう手もある。

経済がAIによって管理されている時代である。

食いっぱぐれたりする人はいないし。

餓死する人だっていない。

店なんて、気分次第で出したり閉めたりである。

そういう世界だ。

私には、あまり興味が無い事ではあるが。そういう事は、基礎的知識として。まだ幼い内に叩き込まれるのである。

だから、どこからともなくAIの声が聞こえてきている今の状態も違和感は無い。

彼方此方に仕込まれているマイクロスピーカで、音に指向性を持たせて私に声を届けているというのは結構育ってから聞いたし。原理も理解したが。

「この大通りを進んで、電車の駅に出てください」

「結構歩いたね」

「そろそろ食事をとってもかまいません」

「いや、次の電車の後でいいや」

そのまま歩く。

確かに歩いていると、電車の駅に出る。ベルトウェイを使っているから、かなりの速度だが。

普通の道を走った方が早いかも知れない。

ただし、今回のパトロールでは、時短をしても意味がない。

既に確信しているが。

今回AIは、私と犯人を鉢合わせさせる気が無い。

恐らくだが、都度ルートを決めていると見て良いだろう。

要するに今回は強制ウォーキングと言う事だ。

まあ離岸流に逆らって泳ぐのも余裕なくらい鍛えている私である。ウォーキングなんて何の苦にもならないけれど。

黙々と電車に乗り。

代わり映えのしないダイソン球の光景を見る。

不意に電車が潜りはじめる。

下の階層に行く、ということだ。

あんまり深い階層になると、専門の技術者しか入れない。

恒星による影響は遮断しているとは言え。

事故があった場合に、色々と大変だからだ。

駅から降りると。

警備ロボットの密度が上がっていた。

いざという時に備えている、と言う事なのだろう。この辺り、AIは全く抜かりがないと言える。

さて、そろそろ言われた通り食事にでもするか。

AIにナビして貰い。

適当に、食事を取れる店に、私は入っていた。

なお、無人店だった。

 

ダイソン球の内部を歩きに歩き倒して。

定時の頃には、家の至近に戻って来ていた。

疲労感は殆ど無い。

むしろ犯人に振り回されたり。

勘が働かなかった時とかの方が疲れる。

AIが呆れていた。

「今日だけで八十qほど歩いたのですが、疲労の色が全く見えませんね」

「疲れる要素がないかな」

「……さいですか」

「今回、パトロールとは名ばかりで、私に犯罪者を撃たせる気はないんでしょ? いっそもっと距離を伸ばしてみる?」

たまにはいじわるに図星をついてみるが。

それでもAIは特に話を濁すようなこともない。

「流石にそこまでは考えていませんが、ただ犯罪者と遭遇する可能性が低い道を選んでいたのは事実です。 それと、貴方が彼方此方を歩いていると言う事そのものに意味がありますので」

「狂人警官が歩いている、と」

「そうです。 SNS等では、貴方の健在をアピールしておく必要がありますので」

「ハ……」

とりあえずジムに行く。

無人ジムに行くようになってから、自分好みの負荷で好き勝手に運動できるようになったので。

それはとても嬉しい事である。

まずは全速力で走る。最高負荷を既に更新したようだ。更にスピードを上げて貰うが。それでも体力を使い切るには程遠い。

その後は泳ぎに泳ぐ。

勿論これも同じだ。

はっきりいってぬるい。

ぬるいにも程がある。

更に負荷を上げて貰う。驚異的だとAIがいうが。別に自分ではそうは思わない。史上最強の地球人だったら、もっと凄いだろう。そういう確信がある。

そのままジムを切り上げて、自宅に。

いつもと同じくらいの時間だ。

別にいつもに比べて消耗しているわけでもない。

これもいつも通りである。

スイに食事を温めて貰って。食事をして、風呂に入って。

後は寝るまでの間、スイと遊ぶ事にする。

運が絡まない対戦型ゲームだと、どうしても自律式AIには手加減をさせることになるので。

そういう遊びは選ばない。

今日は麻雀をやることにした。勿論物理的に卓を囲むのでは無く立体映像だ。

これに関してはAIが監視しているので不正なんてしようがない。

なおルールが複雑すぎて覚えるのに大変苦労したが。今ではそこそこにできるようになっていた。

まあルールさえ覚えてしまえば。

後は運がものをいうゲームだ。

強いプレイヤーはいるにはいるけれど。そういう強いプレイヤーでも、どうしようもない局面は出てくる。

勿論思考精度が高い方が有利ではあるけれど。

AIの思考精度でも、普通に勝てない状況は出てくるので。

私も何回か勝って、それで充分に満足した。

「よーし、ここまででいいかな。 対戦有難うございました」

「はいありがとうございます」

「しっかし複雑なルールだなあ」

「このゲームについて遊んでいる最中に調べましたが、様々なルールが存在していて、一つのゲームとして考えるのはかなり厳しいそうです」

文化圏によって複数のルールが存在し。

更には時代によってもルールが変わってくるそうである。

更に言えば元々はこれはゲームと言うよりも占いの一種だったそうだ。

それが時代が降るにつれて遊戯になり。

ルールも整備されていった歴史があるのだとか。

そういう事を淡々というスイ。

感心する。

流石自律思考式のAIを積んでいるだけのことはある。

私と対戦しながら、マルチタスクでそんな事を調べていたのか。

まあこれくらい差がある相手に勝てたのだから、可とするべきだろう。

それだけで充分である。

寝る事を告げると、スイも礼をして休みに入る。

さて、明日も散々歩くことになるだろうな。

そう思うと憂鬱だが。

多少はスイと遊ぶ事が出来て、それで満足だった。

 

また夢を見た。

どうもここのところ変な夢を見るな。

私は面白おかしく犯罪者を殺戮する夢が見たいのに。どうもそうはいかない夢ばかりを見る。

今私が見ているのは、どっかの孤島にいる夢である。

面白くも何ともない。

無人島で全裸生活とかだったら、それはそれで面白かったりするのだが。

そんなこともなく、生活設備もきっちりある。

つまり、私は富豪で。

働く必要もないくらい、豊かという設定だと言う事だ。

今の時代はそれくらいは当たり前だが。

今の時代では無いことは、住宅設備を見れば一目で分かる。

そういうものだ。

私は何つう退屈な場所だと思いながら、周囲を見て回る。特に危険そうな生物はいないし、果実もない。

水は普通に家屋に飲料水があるし。

食糧も定期的に自動で届けられるようだ。

静かなのはいい。

それについては私好みではある。

私は、他人と関わる気が無い。

余程気に入った相手に一方的な愛情をぶつける気はあるが、それ以外は一切ない。

故に私に取ってスイはとても都合が良い相手だ。

またこういう考え方は嫌われるのも知っているから。

レマ警部に嫌われるのも、まあ当然だろうと思って受け入れている。

だが、これはなんというかいただけない。

こういう個だけの豊かな生活を支えるには、恐らく相当な犠牲が出ている筈である。

夢の中の私は、どういう経緯で金を蓄えたのだろう。

真面目に働いて金持ちになれる時代なんて、ほんのひとときだけだったと聞いている。

ここはどう見ても地球だし。

そうなると、私は。

ろくでなしの一人になっている夢を見ている、ということだろう。

不愉快極まりないな。

ショットガンを家の中で見つけたので、砂浜に向けて撃ってみる。

衝撃は来るが。

ぶっちゃけ私の体だったら、殆ど無い程度のものである。

無言でそのままショットガンを撃ち続ける。

砂浜に弾痕が残り続けるが。それだけだ。

舌打ち。

弾も無限じゃない。すぐに打ち切ってしまう。

ショックカノンがどれだけ優秀な武器だか分かる。ゲームじゃあるまいし、銃弾なんて補給しないとすぐ尽きるのだ。

苛立ちながら家に戻る。

これも楽園の一つの形か。

AIが私の夢に干渉していないとか言っていたっけ。

あいつは隠し事はするが、嘘はつかない。

ということは。干渉していないとみて間違いない。

そうなってくると、私は今何を見ている。

この夢は、記憶の整理だとは思えない。

何か私の中でこの夢を見るような要因が存在していて。それで夢を見ているとしか思えない。

無言でショットガンの銃口を上げて、ぼんやりと海を見る。

どこまでも拡がる青い海。

どうでもいい。

そう、私は思っていた。

目が覚める。

案の定、あっさり夢の内容は忘れていた。

不愉快な楽園の夢を見た気がする。

銀河連邦に暮らしている人間は、皆最高レベルの生活を保障されている。好きな仕事に就くことも出来る。働き方も自由である。

それでも、ある程度の負荷は掛かるように設定されている。

そうしないと人間は堕落する。

一部は私の推測だが。

この推測は外れていないはずだ。

だが、それを加味しても。

今の人間達は、楽園にもっとも近い場所にいるはず。

頭を振る。

楽園とは一体何だ。

古い時代に存在した宗教で、道徳の規範とするべく、真面目に生きるように促す必要があった。

だから天国というものが設定された。

善行を続ければ天国にいく事が出来る。

そういって、社会におけるモラルの致命的な低下を防ごうと、誰もが苦労を続けたのである。

もっとも、悪党はそんなことは気にもしなかったし。

坊主共はそんなものが無い事を知っていたから、悪逆非道の限りを尽くした訳だが。

大きな溜息が出た。

少なくとも私は楽園というものに、決定的にあっていないらしい。

私は激しく暴力的にクズ共をぶちのめしたい。

この思考が危険極まりない事なんて分かりきっているが。

いずれにしても私の楽園は、バイオレンスが溢れる余人には悪夢のような世界であって。例えば仏教で言う修羅道などは。私に取っての楽園になる事はほぼ間違いないと見て良いだろう。

起きだして、歯を磨いて顔を洗う。

メシを食べると、黙々と着替えて出勤の準備をする。

AIが不安になったのか聞いてくる。

「大丈夫ですか篠田警視正」

「あー、問題ないよ。 今日はどんな感じで歩く?」

「昨日とは別の場所をパトロールしてもらうつもりです。 空間転送を用いて、ダイソン球の今までいっていない場所にまで足を運んで貰おうと思っています」

「そう……」

私に覇気がないことを見て取ったのだろう。

スイが意見してくる。

「マスター、お疲れのようですが」

「いんや、疲労はほとんどない」

「そうですか。 でもマスターが何か本調子ではないのは私にも分かります」

「本調子ではないね。 すげー不愉快な夢みたし」

だけれど、そんなものは夢だ。

そう告げると。

私は淡々と外に出る。

AIにルートを指示させる。署の方に行って、それからいつもは行かない方へと進む事になる。

宇宙港に行くルートは幾つも使った事があるから、途中まではそれらと同じだが。

途中でエレベーターに乗り、下の階層へ行く。

其処から電車に乗る辺りから、知らないルートだった。

家からそれほど離れていない場所でも、こんなに知らないんだな。

私はそれについてはちょっと感動する。

まあ流石に恒星を覆うダイソン球だ。

あくまでこの言葉は地球風に翻訳して貰っているものだが。地球人には会話の時にダイソン球と翻訳で聞かされるようになっている。それぞれの地球の言語で、だ。

私の場合は日本語を使っているのだが、それでもダイソン球にそれ以上相応しい言葉がなかったのだろう。

電車を降りると、ちょっと見た事がないエリアだった。

シールドで区切られた向こうに、濃厚な緑のエリアがある。

食糧生産プラントだ。

最高効率の光を浴びせて植物をガンガン育てて、栄養素を取っている。

また別の場所では、クローン技術を使って食肉を作っている様子だ。

これは細菌などの問題からである。

地球人には平気でも、他の人間には致命的な細菌なんてそれこそいっくらでもある。

AIはその辺りを全て考えて、きちんと全てを回している。

見て回るが、すごいなあという言葉しか出てこない。

とにかく規模がとんでもない。

ダイソン球の一部が、まるごとこの生産プラントになっていると見て良いだろう。ここは私も初めて見た。

ぶつぶつ何かを呟きながら歩いて来る人間とすれ違う。手元には立体映像のコンソールがあって。

要するにこのプラントの管理の仕事をしている人間のようだ。

ずっと緻密な計算をしながら歩いているようで。

私には目もくれなかった。

「あれはここで働いている人?」

「厳密に言うとここでの仕事の一部を担当している人です。 仕事の具体的内容は言えません」

「まじめそうだね」

「真面目も何も、ここ数千年で最高の逸材ですよ。 仕事の適性でいうと、他の追随を許しませんね」

おお、掛け値無しの大絶賛だ。

見た所かなり小柄な種族で、地球人で言うと子供くらいの背丈しかないが。

スペックはかなり高いのだろう。

いずれにしてもAIが其処まで絶賛するほどの人材だが。

あの様子だと、地球時代では恐らく相当に周囲から嫌われただろう。

地球人は見かけで相手の九割を決める。

仕事に全部を割り振って、ああいう風にブツブツ仕事の事だけ考えながら歩いているような人間は。

それはもう、どれだけ仕事ができても周囲からは絶対に嫌われたはずだ。

それどころか、「コミュ力も仕事が出来る内」だっけか。或いは「コミュ力が全て」だったっけか。

そんな理由で、AIが最高の逸材と呼ぶ程の人材は取りこぼされていただろう。

まあどの星でも地球ほど酷くは無いにしても、大なり小なり似たような悲劇はあったらしいし。

今それを言っても意味がないことだ。

私はそのまま移動を続ける。

プラントは兎に角巨大で、シールドで区切られていないと恐らくとんでもない緑の臭いで息が詰まっただろう。

後は血の臭い、とかだろうか。

食肉加工の場に出て来た。

クローン技術でどんどこ作られている食肉だ。

中には全く見た事がない生物の部位らしいものもあった。

合成肉ではなく本物であることは間違いない。

ただ地球時代だったら、倫理がどうのでこの光景は受け入れられない者もいたかも知れない。

地球時代末期の地獄ぶりを見る限り。

そんなものは何の役にも立たない議論だったわけだが。

数時間歩いて、やっとプラントを抜けた。

其処で食事を取って、空間転移装置で別の所に出向く。

住宅街になっていて、むしろちょっとだけ安心した。

私の家のすぐ近くに、あんなに巨大なプラントがあった事すら知らなかった。

私もまだ色々知らない。

だったら知りたい。

そういう欲求は確かにある。

それは健全な欲求だと思いたかった。

 

2、退屈極まりない訓練

 

私はわくわくしながら訓練に出て。

十五分もしない内に渋面になっていた。

それはそうだろう。

今回の私は、自分が手を出す事を一切禁止された。

他の警官が、訓練をする様子に手出しも禁止。

とりあえず、見えていないところで駄目出しをする。

それだけの仕事である。

つまり、撃つ事が出来ない。

訓練なのに、である。

撃ちたい。

イライラする私の前で、犯人役と警官役に別れた二チームが対戦をしている。

警官は原始的な火器しか用意できなかった状況。

一方犯人もそれと同等の火器を持っている状態で。

服による防御無しという、地球時代の戦闘を思わせる状況での訓練だ。

今回は銀行強盗を想定しており。

犯人は人質を取って立てこもっており。

逃走用の車を用意しろと言っている。

人質は六人。

狙撃を防ぐために窓にはカーテンが掛けられており。

犯人チームの人数も分からない状態にされていた。

訓練とは言え、場慣れしていない警官達には厳しい状況だなと思う。

一方犯人側も、こんな犯罪は既に見た事がない世代ばかりのようだ。

ゲームなどではこういうものはある。

だが、まさか実戦訓練としてこれをやらされるとは、思っていなかったのだろう。

どちらも四苦八苦しながら、交渉も上手く出来ていない。

私は呆れていた。

「いや、今突入のチャンス……犯人側の人数は四人で確定でしょこれ……」

「ちなみにどうして分かりました?」

「カーテン越しに分かる」

「え……」

AIが絶句するが。

そんなもん、気配だの何だので分かる。

私は近くのビル上。警官隊と同じくらいの距離から見ているのだが。

犯人達はカーテン越しとは言えあまり慣れていないのが一目で分かる。さっきから動いている人間の特徴。

更に交渉しているときの会話は私にも聞こえているが。

それらの要素から、犯人は四人と断定して良かった。

警官側は十二人。

人質に被害を出しても仕方が無いから、突入するべきだと私は思うし。

何なら私なら、犯人が動く前に全員仕留めてやるのだけれども。

少なくとも、訓練に参加している警官達は。

そんな度胸も技量も無い様子で。

私としては、ため息をつかざるを得ない。

私以上の警官暦がある者も少なくないのに。

どっちも確かに平和呆けしすぎているとしか言いようがない。

AIが私を重宝して使う理由が改めて良く分かった。

確かに本当に腑抜けてしまっているのだ。

前々から、聴取などでは出来る警官も見て来ている。

地道に足を使い、論理的思考で事件を解決していくレマ警部のような優れた人材も存在している。

だけれども、荒事担当はいない。

私より腕が立つ警官は。

ひょっとして今現在、存在していないのではあるまいか。

ちょっとそれが不安になった。

とりあえずグダグダのやりとりを見ていく。

また突入のチャンスを見逃したよ。

呆れながら内心で呟く。

まあもう仕方が無い。

後で容赦なく減点して、それを指摘するだけである。

ちなみに私は更に警官が少ない訓練で、開始二分で更に多い犯人を全滅させ、人質の被害をゼロに抑えたことがある。

小賢しくも人質に扮装していた犯人もいたが。

其奴も即座に撃ち殺した。

まあ仮想空間での話だ。

撃ち殺しても問題は無い。

ただ、他の警官はその時にもなんら役には立っていなかった。

いずれにしても、ネゴ役の警官も手際が悪いし。

私のイライラは限界に達しようとしていた。

何より苛立ちを募らせるのは。

警官側が、犯人の人数をまだ把握も出来ないという事である。

一度一から鍛え直した方が良いんじゃないのだろうか。

そう思う。

ただ、今の時代こういう限定的な事件が発生することはまずない。

というのも、もしも人質を取って立てこもるような事が起きたら、ショックカノンで建物ごと気絶させ。

後は悠々と逮捕というのが一連の流れになるからである。

AIによる防御性能も凄まじく、そもそもこんな軽火器では密着して撃っても服の防御を貫通できず。

逆に反動が全部銃と手に来て、酷い事になる。

また、そもそも銀行が存在しないし。

それ以上に、武装集団が押し入ると言う事があり得ない。

とはいっても、だからといって警官が腑抜けていて良いわけがない。

どれだけ安全な社会になったからとはいえ。

お前達が民の盾になる事には変わらないだろうが。

そう今右往左往している訓練中の警官達に。

私は面罵してやりたかった。

だが、私がそんな事をしたら、PTSDを発症する奴もいるかも知れない。

いずれにしても抑えろ我慢しろ。

そう自分に言い聞かせながら、私は様子を見守っていた。逐一双方に減点しながら、である。

やがて犯人側の要求を警官側が呑んだ。

呆れた話だ。

人質の安全を確保するため、だそうである。

犯人側のために車を用意し。

なれない様子で、犯人側が全員出てくる。人質役もいるが。これは警官では無く、仮想空間で作ったモブである。

そのモブを連れて、犯人達が全員車に乗り込んだ。

その瞬間に、警官側が一斉に発砲。

犯人達を制圧したが。モブも死亡。

更に銀行に突入。

次の瞬間、銀行が爆発していた。

犯人側が、自分達が死んだ場合に爆発するようにセットして、爆弾を仕掛けて置いたのである。

当然人質も全滅。

警官隊も八人死亡した。

こりゃ、両方0点だな。

訓練が終わって、どちらも疲れきった様子で出てくる。

私の無になっている表情を見て、警官達は全員がひっと小さな悲鳴を上げていた。

AIは特に声を荒げたりしていないが。

これは流石に擁護できないと思っているのだろう。

それくらいは、長い……まあ三十年程度だが。それなりのつきあいだから何となく分かる。

「双方0点」

「……」

困惑した様子で、犯人側も警官側も互いを見合わせる。

そもそも訓練で犯人と警官に別れたものの。

どっちも一応現役で警官をしている人間達で。

階級では私を上回っている者さえいる。

聴取などでは成果を上げているのだろうし。

軽犯罪の対応などは出来ているのだろうが。

それにしても、どいつもこいつも線が細すぎるのだ。

それに犯罪者だけでは無く、他の民間人にも狂人警官の名が知れ渡っているように。警官達も私の事は知っているはずだ。

全員が、声も無いほど青ざめているのが分かった。

此処は仮想空間だが。

それでも、体験は現実に持ち越される。

死んだ瞬間は即座に感覚などがきれるとは言え。それでPTSDになる奴すらいるらしい。

PTSDはそれはそれで仕方が無いとはいえ。

今回の醜態は、とにかく許せるものではなかった、と言える。

「何から言ったらいいか分からないけれど、ともかくどっちもあらゆる点が駄目すぎるので、これから言う事をきちんと聞くように」

それから、私の視点での映像から、順番に説明していく。

犯人側は四人とそうそうに私が断言していたことに、驚愕の声を上げていた。

一人は常に奧に隠れていたらしいが。

ネゴの時の声でバレバレである。

その辺りも告げると、以降は何も言えなくなった。

「警官側は隙を見逃しすぎ。 もたついているから、爆弾を仕掛ける時間を与える事になった。 だいたい犯人を撃つとき、モブとはいえ人質に当てたのは良くなさすぎる」

「し、しかし」

「しかしも案山子もねーから」

だんだん私も口調が荒くなってきた。

AIが流石に私をたしなめたので。

咳払い。

既に半泣きになっている警官もいるのである。

警備ロボットの支援もなく。

原始的で使い慣れてもいない銃火器。

更にAI無しでの犯人とのネゴ。

あらゆる点で、普段全く経験がない事だろうし。何よりも普通だったら絶対経験しない事ばかりだ。

訓練では、こういう劣悪な環境下での戦闘をたまに経験して貰うのだけれども。

それでもちょっとばかり此奴らには厳しすぎたかも知れない。

私としては、二度咳払いしてから。

とにかく心を落ち着けるしかなかった。

そして、順番に駄目だった場所を説明していく。

警官達は、やっと話を聞く体勢になったようだった。

それで、私がやった訓練の様子を見せる。

開始二分で突入し、犯人グループを全て射殺。

人質も全員救出。

電撃的な作戦に、警官達は困惑していたが。

これも無謀にやったわけではない。

銀行強盗が発生してすぐに現場に着いたこと。

私が即座に犯人の数を見破ったこと。

入り口にはバリケードがあったが、窓の一つにバリケードがないこと。

気配などから、人質の位置が分かった事。

爆弾はしかけようとしていたようだが、それに犯人側が手間取っていたこと。

これらを一分で把握し。

四十五秒で説明。

そして突入しないと、爆弾にどんな細工が分からないと隊長を説得し。

突入したのだ。

後は私が犯人を全部ブッ殺すだけ。

一連の流れを見ていて、警官達は青ざめるばかり。

駄目だ。

線が細すぎる。

見本を見せてやっただけである。

どうして、見本を見て青ざめるのか。

自分でもこれを出来るようになりたいと思ってほしいものなのだけれども。そうはいかないというのか。

いずれにしても私の苛立ちが限界に近くなるが。

とりあえず我慢して、警官達には小休止を入れさせる。

これはAIの提案である。

そもそも私ならともかく、現在の警察業務をしている警官に。ああいう訓練は負担が大きく。

判断力なども、常に実戦に近い状態においている私とは比べるのが無理だという。

まあそういうなら、仕方が無い。

ただ、いずれにしても、それらを補うための訓練だとは思うし。

そう告げると、AIも流石に同意していた。

「私がいたら即座に解決していたぞ……」

「いや、それはその通りなのですが、訓練になりませんので」

「認めるんだその通りだって」

「はあ、まあ」

なんだか歯切れが悪いな。

むしろ失敗の可能性を指摘してくるかとも思ったのだが。

AIは、特にそういう事は思っていない様子だ。

「私が返り討ちにあって大失敗するとか思わないの?」

「今までデータを取って来ましたが、篠田警視正の判断速度や反射速度は、通常の地球人の比ではありません。 筋力や持久力も同じです。 特に英雄などの遺伝子を掛け合わせて産まれた訳ではありませんが、いずれにしても歴史上に存在するどの地球人とも互角以上に戦えます。 女性の戦闘力が男性に劣る地球人でこれは異例の事です」

「ふーん……」

「不慣れな犯人達が、何が起きたか分からない内に篠田警視正は何の迷いもなく相手を皆殺しにしているでしょう。 ネゴを始めた瞬間に突入していたのではありませんか?」

まあ、その通りだ。

だが、いずれにしても大きな溜息をつかざるを得ない。

此処まで腑抜けているのなら。

しっかりと再教育と再訓練が必要だろう。

私よりも階級が上の警官だっていたのである。それなのにこの為体はどうしようもない。階級なんて意味がないとしてもだ。それなりに警官としての経験は積んでいるのだろうから。

とりあえず、休憩を入れた後。

また仮想空間での訓練を始める。

今度は麻薬密売グループが立てこもり、銃撃戦で応戦してきているという設定である。

そもそもこれ自体があり得ない状況なのだが。

警官隊はハンドガンという貧弱な武装で、強力な軍用アサルトライフルで武装した麻薬組織の、頭が狂っている連中とやり合わなければならない。

案の定車をバリケードにして銃撃戦を開始するが。

麻薬密売グループ側は、警官がやるのは流石に無理があるとAIが判断したか、モブを使用。

完全に麻薬で頭が逝っている状態の連中が、凄まじい火器で応戦してくるのを見て。警官隊は逃げ散る有様だ。

更に車の燃料タンクがぶち抜かれて大爆発。

何をやっているんだ。

私は流石に参戦させろと言ったが。

AIは許可してくれなかった。

なんだよ。

人間を撃たせろと言ってるわけじゃないんだぞこん畜生。

イライラが更に爆発しそうになっているのを見て、AIは思うところがあったのだろう。

警官隊がバリケードから後退し、甚大な被害を出しつつ。路地裏に隠れて、アサルトライフルの凄まじい弾幕に怯えている様子を見て。

一旦訓練を中止していた。

警官側のリーダーをしている警視監(階級的には私の二つ上である)は、顔どころか唇まで真っ青になっていた。

「いくら何でも条件が悪すぎる!」

「篠田警視正。 貴方一人で、ハンドガン1丁で相手を制圧出来ますか?」

「いいよ」

私の冷え切った声を聞いて、さっきから継続して訓練を続けている十六人(さっきの犯人グループに扮していた警官達も合流したための人数)が完全に硬直する。

そして、先の条件が完全再現された。

撃たせないという話だったので。むしろ私はうきうきである。同時にわりと本気で頭にも来ていたが。

私は車なんか必要ないので、そのまま歩いて行く。

それをみて、奇声を上げながらアサルトライフルをぶっ放そうとした犯人グループの一人をヘッドショット。

更に続けて、手当たり次第に射殺していく。

四人が死んだところで、相手側も反撃を開始したが。

私は瞬歩を使ってジグザグに移動しつつ、移動しながら射撃。

次々に犯人を撃ち殺した。

ハンドガンのリロードを行いながら前進。

犯人グループは麻薬で頭が逝っているので、それでも奇声を上げながら応戦してくるが。

距離が縮まった分動きも読みやすいし。

何より当てるのも滅茶苦茶簡単である。

最後の一人を制圧するまでに一分と掛からない。

全員違う種族だったが。

それぞれ急所を撃ち抜かれて死んでいる。一人生き残っているのがいたが、至近距離から急所を撃ち抜いてブッ殺した。

訓練終了。

味方被害無し。

アサルトライフルもショットガンも、相手の銃口をよく見ていればこんなもんである。

私が戻ってくると、十六人の腑抜けどもは全員が無言になっていた。

「出来るでしょ?」

「……」

「というわけでもう一回同じ条件で訓練行ってらっしゃい。 今日はこれが終わるまで訓練は続くので」

一人が白目を剥きかける。

私は大きく。

怒りを込めてため息をついていた。

「じゃあ何か。 素手でやって見せたら満足かい?」

「い、いや、そういう訳では……」

「いいよ素手でやってやるよ。 素手で開始して彼奴ら全滅させたら、以降は文句を言わずに訓練するよね?」

「篠田警視正、落ち着いてください」

AIが流石に割って入る。

私は止めるなと怒鳴りたくなったが。

大きく深呼吸して。

己の中で荒れ狂う怒りを何とか静めたのだが。それだけだ。別に怒りがなくなった訳ではない。

別に私くらい鍛えろというつもりはない。

精神論を口にするつもりもない。

ただ、やりようはある筈だ。

警官暦が私より長い奴もいる。

それが十六人もいて、このでくの坊ぶりである。いくら何でも情けないにも程があるのではないのだろうか。

確かにああいう状況は、現在では起こりえない。

AIにハッキングを仕掛けようとするアホはたまにいるが、それもファイヤーウォールに到達した奴が前にいたのが億年以上前である。

確かに現在だと、この秩序が失われる可能性はないが。

それにしても腑抜け過ぎなのである。

「篠田警視正の言う事についても一利ある事はおわかりかと思います。 此処からは、それぞれに訓練メニューを課します」

「……分かりました」

一番若い警官がそう反応。

やはり、線が細すぎる事については思うところがあったらしい。

以降は、銃火器の扱いについての訓練に移行。

私は、口出しを許されなくなった。

それにしても、シミュレーション上のモブを撃っても味気ない事よ。

ある程度の代替にはなるけれど。

やっぱり人間を生で撃つのが一番だ。

私はいち早く仮想空間からログアウトする。

もう私の役割は、今回は終わりと言うことなのだろう。

何度かため息をついて、ポップキャンディを手にした私に。AIは丁寧に言い聞かせてくるのだった。

「今回の訓練に参加して貰ったのは、有望な可能性を持つ若手数名。 更には、聴取や地道な捜査で実績を積んできたベテラン達です。 いずれも可能性や専門分野に関しては、篠田警視正を上回っている要素がある人ばかりです」

「そらそうだ。 私だって別に完璧じゃないし、被弾したら死ぬ」

「拗ねずに話を聞いてください。 私も一度荒療治が必要だと判断しましたので」

「……それは賢明な判断だね」

これは掛け値なしの本音である。

今回の為体、とてもではないが許容できるものではない。

私が苛ついたのは当然のことだと思うし。

AIだって。警官達を統率している以上、危機感を抱いて貰わないと困るのである。

此奴が心底から人間の事を思い。

社会の維持に心血を注いでいることだけは、私も疑っていない。

誰でも望む仕事をする事が出来。

安全な中で生活する事が出来。

犯罪は余程の変わり者で無い限り行わない。

古い時代のSFでディストピアと呼ばれるような世界に近いかも知れないこの銀河連邦だが。

成功したディストピアであり。

どんな人間がやっても、これ以上には絶対上手く行かないとも断言できる場所である。それについては誰でも認めるだろう。一部の変人か、余程客観性に欠けている阿呆以外は、だ。

私はしばらく無言で黙り込んでいたが。

やがて、AIに告げる。

「別チームの訓練をしたら。 私が監督するよ」

「さっきみたいに怒り出したら止めますよ?」

「いや、それも想定済で私に監督させたんだろ」

「はあ……」

気の抜けた返事をしやがってからに。

私としても若干イラッと来たが、まあ我慢する。AIとしても、腑抜けた警官達を鍛え直す必要があると感じたのだろう。

「いずれにしても、戦闘メニューはきちんと組んだら?」

「ある程度真面目に戦闘メニューをこなしている警官もいます。 篠田警視正ほどの腕ではありませんが、かなり強い人物も何名か挙げられます」

「戦って見たいなあ」

「自信を無くさせるので駄目です」

そういうものか。

いずれにしても、これはどっちにしても見ていられないだろう。

時間を確認する。

午前が終わったばかりだ。

「午後、別チームの訓練を見るよ」

「開始前は嫌々の様子でしたが……」

「気が変わった。 どっちにしても、同僚がこんなんじゃあ、いざという時に背中を守る奴もいないでしょ」

レマ警部とか武田殿とか、優秀な警官がいつも側にいる訳じゃあない。

優秀な警官が多い方がいいに決まっている。

そして、そんな警官が殆どいないことはよーくよーく分かった。

だったら、私も協力しようじゃないか。

確かに犯罪者を撃ちたいという欲求は誰よりも強い。今だって撃ちたくて仕方が無いのである。

だけれども、今の世界が気にくわないかというとそうでもない。

今の世界については気に入っている。

それもまた、間違いの無い事実なのである。

「分かりました篠田警視正。 昼食が終わったら、次の訓練を組みます。 少し訓練不足の警官達がいますので」

「次も厳しく行くよ?」

「そこはほどほどにお願いします」

「ただでさえ犯罪者撃てなくてストレスたまってるんだ。 言動が多少荒くなるのは勘弁してほしいね」

AIは困惑しているようだが。

まあそれでも仕方が無いと判断したのだろう。

それで許可を出した。

私は家に戻ると、スイの作った昼食を口にする。

そして、午後からは、AIが手配した腑抜けているチームの訓練を見ることにしたのだった。

 

3、座学はもういやだ

 

現在、基本的な訓練というのは種族にもよるが、地球人で言う七歳くらいまでに全て終わっている。

銀河連邦の公用語に加えて、好みの語学。

数学、科学などの基本的な知識。

更には銀河連邦の仕組みなどについて学び。

その頃には自分に自分で名前をつけて。

そしてそれぞれやりたい仕事をしていくことになる。

だが、それで終わりでは無い。

警察で訓練をするように。

仕事の合間に座学をすることもある。

私も軍時代には若干の座学をした事がある。

憲兵時代は確かなかった気がする。

警官になってからは、その勘と圧倒的な事件解決率もあって。現場にかり出される事の方が多くなったが。

それでも座学は時々した。

そして私は今、仮想空間で数十名ほどの警官に対して、座学をするはめになっていた。

実戦訓練だったらまだ良いのだけれども。

どうして座学をしなければならないのか。

座学なんて、やる意味があるのだろうか。

苛立ちを感じつつも、黙々と座学をこなして行く。

とりあえず今回は、犯人の心理について、である。

AIが頭を覗くことが出来る時代。

私は後から、犯人が具体的には何を考えていたのか。必要があれば、知らされることがある。

必要がなければ知らされない。

最大限のプライバシーに関する事だからだ。

今回は、犯罪を行っている時の犯人の心理について、座学を行う事になったのだけれども。

どうして私なのかがよく分からん。

とりあえず現場での経験は相応に積んでいるから、まずは事件について座学中の警官達に見てもらい。

それから対応について説明していく。

私でも文句がつけようがない対応をしている警官が多く。

とりあえず、私としては口出しのしようがない。

私でも同じように対応しただろうな。

そういう事件ばかりだった。

今から千七百年ほど前に、私に匹敵するほどの超武闘派警官がいたらしい。残念ながら既に鬼籍に入っているが。それでも私でも確かに活躍を見るとその武名に納得出来る。地球人ではないのだが。地球人よりも身体能力が劣る種族にもかかわらず。私と同格くらいの実力はある。

私が楽しみながら体を動かしているのに対して。

意図的に努力しながら体を動かしているようで。

その辺りの差なのかも知れなかった。

いずれにしても人生に飽きて安楽死を選んだそうで。

そういう意味では、もったいない話である。

クローンはいつでも作れるそうだが。

本人の意向で作っていないそうだ。

で、何故そんな事が分かるかというと。その警官の事件解決の様子を流しながら、私が解説しているからである。

凄まじいバイオレンスな光景に、時々おののきの声が上がるが。

ぶっちゃけどうでもいい。

流石に仮想空間だと、恐怖も若干薄味だ。

もっと濃い恐怖を食べたいなあ。

そう思いながら、座学を淡々と進めて行く。

私の事を知っている参加者も多いようで、怖がってなかなか質問をしてこない。その分私は進めやすかったが。

ただ、私の授業できちんと話が通じているのかは分からない。

「次の事件についてですが」

ぽんぽんと棒を叩きながら、次の事件に移行する。

これはレマ警部の解決した事件か。

流石に丁寧な対応をしているなあ。

そう思いながら、順番に解説をしていく。私とはやり方が違うが、レマ警部も相応の武闘派だ。

私と戦闘でやり合ったら勝てないとは思うが。

多分警官としては総合力で互角くらいだと思う。

そういう意味で、興味深いのである。

「此処で警官は此方に動いています。 これは犯人の視界を切るための行動で……」

解説をしていく。

なんで分かるかというと、レマ警部は文字通りマニュアルを完璧に守って動いているからである。

勿論マニュアルだけでは駄目だが。

レマ警部はきちんと臨機応変に対応が出来ている。

犯人は機械じゃない。

古い時代の、決まった動きしか出来ないロボットだったら、マニュアル通りの行動で対応出来るかも知れないが。

今犯罪なんかやるのは、一部の特殊な事情がある人間か。余程の変人だけである。

だからマニュアルは常時更新される。

ただ、そんな中でも更新されない、きちんと守る価値があるマニュアルは存在していて。レマ警部はそれを完璧に履修している印象だ。

そういうマニュアルなら、私も守って動いている。

というか知っていると、本当に犯人を狩りやすくなるのである。

これについては嘘では無い。

「ここで警官は犯人を取り押さえるべく動いた。 理由は……」

そのまま映像を流しつつ。

ショックカノンで犯人を制圧するレマ警部を移す。

そして犯人にズームアップ。

犯人が丁度犯罪を行う瞬間だった。更にレマ警部は完全に犯人の視界の外にいた。故に、である。

私は淡々と作業をしていく。

別に困る事は何も無いのだし。

レマ警部も、自分が教材になっていると思えば。苦笑い以上の事は……彼奴が笑うところをそういえば見た事がないや。

今度笑わせてみたいなあ。

くすぐれば笑うだろうか。

そんな風に雑念が入り込んでいた中。

不意に質問が上がった。

「質問です」

「はいはい、何か」

「此処の部分なのですが……」

一段落するのを待っていたのか。そいつは私の解説の一部を切り取って、説明を求めてきた。

良い質問だ。

そのまま、丁寧に応じると。

納得したようで、質問してきた警官は黙り込んだ。

ただ、私は退屈だ。

せっかくだから、食いついてくる位の方が面白いのだけれども。私がどういう存在か知っているから。怖くて出来ないのかも知れない。

まあいい。

そのまま、次の授業を始める。

仮想空間では時間の流れを変更できたりもするが。今回はそういう事はしていないらしい。

脳に対して負担が大きいから、というのが理由だそうである。

まあ確かにそれもそうだろう。

いずれにしても、授業を淡々とやっていく。

六コマほど授業をやった後、小休止を入れた。

私は一旦仮想空間から出ると、食事に出向く。今日は出来合いを食べに行く気分だ。この間の平和なパトロールの時に見つけた店にナビして貰う。適当にまずすぎないメシを食べていると。

やがてAIにぼそりと言われた。

「どうですか、感触は」

「古い諺でいうならば、暖簾に腕押し糠に釘」

「手応えがないと」

「そゆこと」

さっさと食事を済ませる。

料理名はなんだったか忘れたが、固形物である。まあ暖かいしそれなりに美味しい。美味しすぎなければそれでいい。

食べ終えた後、歩きながらAIと話す。

「質問が少ないけれど、何私を怖れてるとか? そういう風には感じないけれど」

「先ほど生徒に質問を受けましたが、篠田警視正はもっと獰猛な人だと思っていたそうです」

「はあ」

「バイオレンスな授業をされると思ったら、とても丁寧で論理的に説明をしていくので、何の質問をする余地もなかったとか」

何だかそれは逆に苛つく。

普段のように怖れろ。

私が内心退屈だなあと思いながら、過去の先人やレマ警部の見本のような捜査を解説していたら。

私への恐れが薄れるというのか。

それはそれで腹立たしい。

かといって、雑な授業をするのはプライドが許さないし、これでやっていくしかないか。

なんだかイライラする中。

AIは帰路をナビしながら言う。

「午後も同じようにお願いします」

「わーったよ。 てかそもそも私座学の講師なんて向いてないんだけれども」

「いえ、適正は高いと思います」

「なんでだよ」

困惑した私に、AIは言う。

実際問題、私の授業に文句を言う生徒がいないから、だそうだ。

そうかそうか。

退屈で眠くなりそうな授業をしている訳ではないのか私は。

そうなのかとばかり思っていたが。

何だかげんなりした。

これで、私が講師に向いているとかAIが判断したら、現場から遠ざけられかねない。

それはいやだ。

そんな事になったら、人生の楽しみの九割が失われる。

撃たせろ人間を。

私の苛立ちを感じ取ったのか、AIはフォローを入れてくる。

「きちんと私は約束を守りますし、これらの平和な仕事が終わったら、また前線で活動して貰います」

「本当に頼むよ?」

「お任せください」

そうか、お任せくださいか。

もう何かどうでも良くなって来たのだけれども。

ともかく任せろと言うのだから、任せる事にするか。

黙々と署に戻り。

シミュレーション装置に入る。

仮想空間にログインすると、授業を受けに来ている警官はむしろ増えていた。

なんか有意義な授業だとか言う口コミがあったらしく。

希望者をAIが募ったそうだ。

何だか、凄く馬鹿にされている気がするのだが。

気のせいだろうか。

多分きのせいじゃない。

私の勘は当たるのだ。

それを先読みしたかのように、AIは言う。

「誰も篠田警視正を馬鹿にしてはいませんよ。 ただ狂人警官とまで呼ばれる篠田警視正が、意外な一面を見せているので、驚いているのだと思います」

「……そう」

「授業に取りかかってください」

「あーい」

もういいや。

多分今の私は、死んだ魚のような目をしていると思うが。それは実はいつも、かも知れない。

まあ相手の容姿で決めてかかるような古い時代の地球人のようなアホは此処にはいないと信じたい。

とりあえず授業を始める。

午後は駄目なパターンだ。

出て来たのは、私も知っている有名な刑事だが。晩年には色々な失敗をしたらしい。その失敗はAIが補って事なきを得たのだが。

本人がそれで引退を決めたそうである。

私は何故失敗したのか、実際の捕り物の様子を見ながら説明していく。

それを警官達は食い入るように見ている。

説明が丁寧で論理的か。

私はどちらかというと勘が優れているタイプだと自認していたのだが。

どうやら、その自認は間違っているようだった。

淡々と、どこで判断をミスしたのか説明していく。

私としても興味深い話だ。

この人は、年老いる事を選んだ。

肉体年齢を、晩年は上げていた。

若いまま活躍していた頃は、殆ど思考に衰えも無かった。

だがどこかで、今の人間は自然では無いと考え始めたらしい。

その結果、不老処置を捨てた。

古いSF作品だったら、大絶賛される行為だったのかも知れない。私にはそれはよく分からない。

いずれにしても、年老いる事で。

その結果は如実に出た。

「此処の反応は明らかに遅い。 この時この刑事の肉体年齢は地球人換算で47。 肉体年齢が20若ければ、この反応は0.2秒早く、それで対応出来ていただろう」

犯人に隙を突かれて。

そのまま逃げられそうになる。

幸いショックカノンは間に合ったが。

吹っ飛んだ犯人が、なんかの深い溝に落ちる。

あっと声が上がる中。

即座にロボットアームを伸ばした警備ロボットがミスをサポート。

犯人を引きずり挙げていた。

呆然としている警官の顔。

どういうことだ。

俺はこんなに衰えたのか。

そう顔に書いている。

それはまあ、当然の結果だと思う。

この人の全盛期は、私と同格くらいの実力はあったのだ。それが、こんな反応が遅くなるなんて。

生物のありのままに老いる。

それが本当に正しいのか、私は疑問になった。

或いは、地球人が千年程度で誰でも飽きてしまうように。

この人も疲れ果てたのだろうか。

犯罪者と向き合い。

その業を見続けるのが警察官だ。

だからせめて普通に老いよう。

そんな結論に到達してしまったのかも知れない。

だが、私から言わせれば。

そんな風な結論に到達した時点で、警官を引退する事を考えるべきだったのかも知れない。

事実、この事件が切っ掛けになり。

この警官は坂を転がり落ちるように凋落していくことになる。

思わず目を背けたくなるような失敗の映像がどんどん出てくる。

一度ケチがつき始めると。

衰えた肉体ではどうしようもなくなってくるのだ。

肉体年齢が若ければどうにでもなったチンピラが、一発で黙らなくなる。

勿論体を鍛えるのは継続しているようだが。

こんなにも加齢による衰えというのは残酷なのか。

私は、この有様を見て、少し戦慄していた。

「この判断が一番まずい。 犯人の挙動が読めない以上、此処で職質を掛けて動きを止めるべきだった」

そう説明して、授業の一コマを一旦閉じる。

生徒達がログアウトしていく中。

一人だけ、残っている者がいた。

その者が挙手する。

「すみません、次の授業で聞けば良いかも知れないと思ったのですが……」

相手は何かの動物、少なくとも地球産ではない何かのアバターを着込んで授業を受けている。

勿論それは当然許可されている。

今時制服を着て授業を受けなければならないなんてルールは存在していないし。

アバターは既に公認されたものとなっている。

だいたい色々な姿の種族がいるのに、容姿という観点で誰かの基準に合わせるというのが間違いである。

「手短に」

「ミスについての授業、参考になります。 しかし机上論ではなんとでも言えるのではと思いまして……」

「ならば此方でやってみせようか」

「……お願いします」

何だか、声に不満が感じられた。

或いはあの警官を個人的に尊敬している人物なのかも知れない。

まあそれはあり得るだろう。

伝説にまでなっている程の人物なのだから。

次の授業は予定を変更。

一コマ挿入する。

今失敗例として扱っている警官が扱った事件。

全く同じ条件を設定して、私が対応する。

そして後で、私と問題の警官の対応を見比べる。

その説明をした後、生徒達は軽くざわついていた。

即座に開始。

私としても、知らない事件も多いが。

別に自然体でやるだけだ。

犯人を本当に撃てる訳ではないのでモチベーションは上がらないが。モチベーションでどうこうなるほどヤワでは無い。

モチベーションは自身の能力を一割くらいは上げるが。

それ以上でも以下でもない。

淡々と犯人を撃って終わり。

次。

次、更に次。

順番に五つの事件を解決し、教室に戻る。

生徒達は戦慄している。

いずれにしても、私は淡々と授業に戻った。

「それでは映像を見比べてみよう」

案の定と言うべきか。

問題の警官は、衰えが如実に出ている。

撃つべき所で撃つ判断が遅れ。

出るべき所で出ていない。

これでどうして自然な衰えが、とかいう考えを止められなかったのか。AIにも警告されていただろうに。

実力を示した後。

駄目出しをする。

この後、実にスムーズに授業が進んでいった。

誰も文句を言わず。

更に真剣に聞き入るようになってくれたからである。

私もやりやすい。

最後の授業が終わると、そのままログアウトして今日の仕事は終了。

はー疲れた。

どんだけ泳いでも疲れないのに。

気疲れ、と言う奴だろうか。

私が知っている警官は出ていなかったが。レマ警部辺りだったら、全然違う授業をしたかも知れない。

「明日も似たような授業をするんだっけ?」

「あと三日です」

「……」

「我慢してください」

分かっている、と乱暴に返す。

勿論毎日、授業の形態は変えていくことになる。実戦形式を入れるのも良いかも知れない。

だが、それはそれである。

実際問題として、私が退屈で死にそうになっているのは全くの事実であり。

人を撃ちたくて撃ちたくて仕方が無いのである。

「今の階級の上って、警視長だったっけ?」

「そうなります」

「とはいっても、階級なんて上がっても意味ないよねえ……」

「篠田警視正の場合、実力に相応しい地位に就いていて貰いたいと思います。 知っての通り、地球人類はそういう人事を苦手としていましたので」

まあ、その通りだ。

どんな国でも会社でも、末期になると好きかってやるようになるのは基本的に佞臣の類だ。

此奴らは実務能力は皆無だが。

地球時代の末期にどんなものよりも大事とされた「コミュニケーション能力」には卓絶していた。

そういう輩を重用した結果。

一代で大帝国が滅びた事は一度や二度ではない。

それなのに、何度も何度も地球人類は同じ過ちを繰り返した。

挙げ句の果てには、「コミュニケーション能力」も実力のうちなんて言い出すものも増えていった。

違う事は歴史が証明しているのに。

いずれにしても馬鹿馬鹿しい話であるし。

それに反する意味で、私が高位に着くべきだという話は。

そこまで考えて、ふと醒めた。

いいように乗せられているだけでは無いのか。

私はどちらかというと、実力はあるが問題もある警官だ。

むしろ警官としては、怖れられるという点で、問題だらけかも知れない。

確か理想とされる警官は愛される警官だったか。

そう考えると、私のあり方はむしろ。

AIは私が考え込みはじめたのを見て、話題を変える。

「ジムの予約は取ってあります。 好きなだけ泳いでストレスは可能な限り発散してください」

「んー」

「篠田警視正を私が頼りにしているのは事実です。 篠田警視長になっても、それは同じでしょう」

「分かったよ」

それについては、分かった。

だが、AIは嫌な意味で鋭い奴だ。

私が不意に醒めた事に気付いているだろう。

さて、どうでるやら。

まあどう出られても、私には対応する術なんて無いのだけれども。

それでも、私は操り人形として生きるのか。

それとも何かしらの反骨を発揮するのか。

まあ、どうでもいいことだった。

 

最後の授業が終わる。

とりあえず、いずれの授業も高評価で受け入れられたようだった。

それは私としては有り難い話である。

面倒くさいこの作業を、もうやらなくてすむし。

更に一度やった授業はアーカイブに記録され。

他の警官がいつでも見る事が出来る。

質問などが来た場合は、後からでも応える事が出来る。

そういうシステムが、今は組まれているからである。

「少し早く終わりましたが、今日はどうなさいますか?」

「レポート書けとは言わないんだ」

「流石に篠田警視正の負担が大きいと判断しています。 これからレポートを定時まで書くとかぞっとしないでしょう」

「……まあそれはその通り」

見透かされるのは頭に来るけれど。

その通りなので、返す言葉は無い。

少し考えた後、軽く話をする。

「で、連休をくれるの?」

「五連休を用意しています。 これから半日分あるので、それを考えると5.5連休となりますね」

「そろそろ開拓惑星で撃ち放題ツアーに行きたいなあ」

「問題がある犯人を何人かリストアップしています。 連休の後に、正式に警視長に昇進してから。 その犯人らを狩ってほしいと思っています」

こやつめ。ハハハ。

話をそらしおったか。

別にそれ自体はどうでもいい。

ただ、しばらくは開拓惑星に行かせるつもりはないらしい。

私としても、AIの指示に反して動くつもりは無い。

ある程度現場での行動権はあるとしても、それは大規模な戦略的な判断の上に乗っている。

私はそもそも警官としての立場を崩すつもりはないし。

従う他はない。

窮屈な話ではあるが。

その代わり撃ちたい放題ツアーは、またいずれいけるだろうし。

用意している問題のある犯人とやらも。

狩るのは楽しいだろうと、頭を切り換えることとした。

まずは自宅に帰る。

半日で戻って来た私に、スイは昼はどうすると聞いてくるので。好きに作ってくれと言って。

それから、後は昼寝をすることにした。

うますぎない昼メシを食べたあと。

久しぶりに、昼寝というものをする。

そのまま数日寝てしまっても良かったかも知れないが。

流石にそれは自堕落が過ぎるだろう。

適当に起きだすと、後はジムに行く。

それと、ゲームというかワールドシミュレーターのβテストの話も忘れていない。

ジムを適当に切り上げると、βテストに参加させて貰う。

ワールドシミュレーターを土台に使ったオープンワールドゲームだが。勿論地球もある。文明は20世紀くらいなので、ギャングを殺戮しまくるのもありである。

複数プレイヤーがいる状況だとPKになる場合もあるが。

そんなんはギャングをやっている方が悪い。

徹底的にギャングを殺しまくっていく。

ニューヨークからギャングを一掃。他の場所にも出向いて、片っ端から殺しまくっていく。

ある程度撃つ感覚がリアルなので、個人的には嬉しい。

二千人以上殺した辺りから、なりふり構わずギャングは反撃に出てくるようになったが、その全てを返り討ちにする。

死体を一万以上積み上げた頃には。

流石に警察も、私の所に来て苦情を口にするようになっていた。

確かに本来警察が捕まえるべき存在を逮捕できていなかったのは此方の落ち度だが。

毎日殺戮の限りを尽くして、死体を積み上げて燃やしていく様子を見て、誰もが恐怖している。

確かにギャングは主要都市からいなくなった。生き残った奴も怯えきって身を潜めている。

だけれども、司法が最優先されるべきであって。

個人による暴力が、ギャングを皆殺しにするのは流石に問題だ、と。

私は鼻で笑う。

駆け出しの頃のアルカポネに似ているギャングを捕獲して。考えつく限りの徹底的な拷問を加えて精神崩壊させた後殺した以外は、基本的に鉛玉一発でゆるしてやっているのである。

そもそもギャング一人きちんと裁くことが出来ず。

その邪悪の限りを尽くす姿を、傍観する事しかできなかった上。

最終的には法的措置をねじ曲げてまで、脱税でしか告発出来なかった警察が何を口にするか。

そういうわけで、私は思う存分ベータテスターとしてギャングを殺しまくり。

戻って来た。

内部での時間は、銃を奪っては撃ち、奪っては撃ちとやっている時間の方が長かった。

ある程度、ストレス解消にはなったが。

やっぱり生の人間を撃つのが一番だなと私は思う。

寝る時間が来ていた。

さて、連休はジムにでも行きながら。このゲームでギャングを殺しに殺しまくるとしよう。

自キャラがやられたら、それはそれ。

その遺志を継ぐという形で、また新しいキャラを作って、徹底的にギャングを殺して回るだけである。

あんな連中に生存している意味はない。

見かけ次第皆殺しにしてやる。

たかがゲームだが。

だからこそに出来る事である。

私も面白おかしく遊べるのだから、それでいいだろう。

連休が終わった後。

どうするか。

むしろ、その方が私としては気になっているところだった。

 

4、階級は上がれど

 

古い時代。

警官の階級は、特に日本では、キャリア組でないと出世は不可能だった。どれだけ地道に働いても、警部補が精々。

一方キャリア組は学閥だの何だのでくだらない虚しい争いを続け。

その結果、無能な者ばかりが残り。

現場の人間がどれだけ頑張っても、結局警察全体の評価を下げるばかりになったのである。

指揮官が駄目な組織は、どれだけ現場の人間が努力しても駄目。

それが分かっていない人間が、組織を回し続けた結果。

どれだけ現場の人間達が頑張っても、どうにもならなかった。

それが、歴史としての事実だった。

私はうんざりしながら、現地に向かう。

一階級上がって、警視長になった。

この様子だと、後数年で警視総監だろうな、とも思う。

同時に、レマ警部が、警視にという話が出始めているそうである。

まあそれはそうだろう。

あれだけ出来る奴だ。

警視にでも、なんなら警視正にでもしてやるべきだと思う。

輸送船の中でぼんやりと過ごしていると。

AIが警告してきた。

「今回も気を抜かないようにお願いします」

「問題なし」

「しかし篠田警視長。 何やらぼんやりしているようにお見受けしますが」

「別に仕事になれば気分を切り替えるから大丈夫だよ」

そうですか、と。

不安そうにAIは言った。

そうですよと。

少し疲れて私は答えた。

そのまま、輸送船で現地に到着。

AIの懸念は消えていた。

現地では、楽しい狩りの時間だからである。私の意識は、しっかり覚醒を果たし済である。

そのまま犯人の家に向かう。

今回の犯人は、各地で置き引きをしている人間で。

既に前科七犯である。

どうも人を観察するのが好きらしく。

その観察趣味を拗らせた結果。

落とし物を盗んでいく趣味につながってしまったらしい。

それはまた、不幸な結果だ。

観察趣味自体は別に悪くも何ともないだろうに。

変な風に目覚めてしまったのだから。

いずれにしても、今回もまた置き引きをして。今盗んできたものを物色しているらしい。

まあ、行って撃つだけだ。

犯人の家に到着。

チャイムを鳴らす。出て来たのは、いかにも軽薄そうな若い男だった。何だよ楽しみを邪魔しやがって。

そう顔に書いてあるが。

手帳を見せると、真っ青になった。

そして一歩引きかけた所で即座に撃つ。

犯人が吹っ飛んで、壁にめり込む。

AIが苦言を呈するまでが、一連の流れである。

「流石にやり過ぎです篠田警視長」

「逃げようとしたからねえ」

「……」

「はい、捜査はじめて」

ぽんぽんと手を叩いて、警備ロボットを家の中に入れる。

今までの七件でも全て犯人は逮捕されていたが。

今回もこれでしっかり逮捕された。

盗んだものが出て来たからである。

それにしても、AIがしっかり警告するだろうに。それでも置き引きなんて事が起きるんだな。

そう呆れていた。

後始末は他の者達に任せて、私は次の犯人を撃ちに行く。

また輸送船で移動する事になるが。

やはり人を撃つのは最高である。

故に、多少の苦労は苦にならない。

それに恐怖は最高の味である。

いつもながら、恐怖を味わうのは実に素晴らしい体験である。こうでなくっちゃあなあとも思う。

ふんふんふーんと鼻歌が漏れる。

ここのところ本当に自分的な意味でろくでもない仕事ばかりしていたから、なのだろうけれども。

こんなにショボい犯人だったのに、撃つのが楽しくて仕方が無い。

次の星でも犯人を早速見つけて確保。

既に私が来ることに気付いていたらしく、速攻で家から逃げ出したのだが。

向こうが全力疾走しているのを。

私は歩いてすぐに追いつき。

そして背中から撃った。

万歳をするような格好で、地面に叩き付けられた犯人だが。撃った時点で気絶していたし。

服の防御があるので、別に死なない。

次だ次。

今まで退屈な仕事をしていた分、全て取り返すぞ。

犯罪者共を全員、地獄の底に叩き落としてやる。

舌なめずりする私を見て、周囲から恐怖の声が上がる。

そうだ、これこそが私の活力。

称賛の声なんてどうでもいい。

私を怖れろ。

それだけが望みだ。

私に撃たせろ。

それだけが悦びだ。

犯人を警備ロボットが引きずっていく。

私はAIに次の仕事を要求。

AIも私がこうなることは予期していたのだろう。すぐに次に向かうべき場所を指定してきた。

さあ狩るぞ。

徹底的に狩って。

犯罪者に、狂人警官此処にありと教え込んでくれる。

そして二度と犯罪が出来ないように徹底的な恐怖を叩き込み。

私自身も恐怖を摂取するのだ。

それは社会にもいいし。

私の健康にもいいことなのである。

 

(続)