自称芸術
序、勘違いの極地
古くから、それをやる奴はこう自称する事が多かったという。
自分のやっている事は職人芸であると。
或いは芸術であると。
馬鹿馬鹿しい話だ。
それはスリの話。
場合によってはぶつかった後に、相手が気を取られた瞬間財布を奪う。
更には通り抜け様に一瞬で盗む。
それらの行為は、慣れれば慣れるほど鮮やかになるから、らしいが。
勿論勘違いも良い所である。
そしてスリを美化する奴がいるように。
今でも、犯罪としてのスリをしたがる奴はいるのだった。
一種の病気であるが。
どうしようもないのだろう。
私はその犯人をつけて歩いて行く。距離はある程度とっているが。それはそれ。目の近くに立体映像でスコープが作られ、犯人の一挙一動が記録されている。
此奴は自称芸術家。
ギンジだとかいう輩だ。
本名ではないらしい。
最初につけた名前から。
スリに目覚めて変な扉を開けた後。敢えて名前を変えたらしい。
理由はよく分からない。
分からないが、スリに目覚めた後は、何やらそういうのが楽しくて仕方が無くなったのだろう。
いずれにしても迷惑なので。
さっさと黙らせる。
それだけの話だ。
さて、着いてきている私に気付いてもいないだろう犯人は、やがて電車に乗る。私は遅れて電車に乗り。
別の車両で、相手の監視を続けた。
そのまま監視を続ける。
現在は、昔と違って電車が混む、なんて事はない。
どれだけ人間がいる星でもそれは同じ事だ。
大半の人間がリモートで作業をしているし。
秘匿性が高い仕事に関しては、それはそれできちんと通勤などで工夫がされるようになっている。
そもそもAIがインフラを全管理しているので。
その辺り人間が苦労する要素がない、というのが実情なのだが。
犯人はしばらく周囲を見ていて。
やがて、目星をつけた様子だ。
寝こけている老人がいる。
老人だが、敢えて老人にしているのだろうか。
この不老の時代に、である。
摂理のままに年を取りたいとか。
或いは人生に飽きて不老処置を止めたとか。
そういう理由で年を取る人間はいる。
そういう変わり種かも知れない。
いずれにしても、その老人の前を、犯人が通り過ぎる。そして、すった。
瞬間、ショックカノンで撃つ。
私がショックカノンの先端を吹くのと。
財布をすってポケットに入れようとした犯人が倒れるのはほぼ同時。
まあ今の時代、スリなんて出来ないのだけれども。
一種の病気なのだ。
何度捕まってもスリを試みる。
未開惑星でも、こういう居住惑星でも。
現在までに前科17犯。
全てで捕まって。
最近では毎回実刑を受けていた。
電車が止まると同時に、警備ロボットが来て、犯人を連れて行く。老人には、警備ロボットから財布を返していた。
老人は憮然としていた様子だったが。
凍るような目をしている私がいるからか。ロボットに対して苦情を述べることも出来ずに。
そのまま、黙りこくっていた。
私としても、別に安楽死を選ぶとかは別にいいが。
なんでわざわざ老人になって隙を晒すのかが分からない。
不老処置がある時代だ。
肉体の最盛期を保てるのだから、そうしていればいい。
飽きたなら死ぬというのは分からないでもないが。何も老人に無意味になる必要もあるまい。
まああくまで個人の自由だから、それを直接言うつもりはない。
犯人は、途中で目を覚ました。
そして、私を見て、愕然としたのだった。
「あ、あんたは……」
「なんだ、もう起きたのか。 もう一発いっとくか?」
「ひうっ! て、抵抗はしない! 許してくれ!」
無言で私はショックカノンを叩き込んで、もう一度黙らせる。
署に運び込んだ後、聴取が行われるが。
反省の色なんてある訳がない。
実刑がすぐに決まって。
そのまま連れて行かれた。
聴取の様子を、デスクで見ていたが。AIは呆れている私に、何か形容しがたい口調で言うのだった。
「何だか不機嫌そうですね」
「ここんところ仕事がつまらん」
「この間スタジアムを制圧して恐怖を摂取したじゃないですか。 二千人分」
「確かにそうだけどさ。 食糧は消化するんだよ」
もっと恐怖させたい。
もっともっと。
だが、それは流石に私も出来ない事は分かっている。
出来ない事が分かっているからこそ、不満も蓄積して行くのだ。どうしようもないサガなのである。
「それにしても、なあにが芸術だよ」
「勘違いした発言をする犯罪者は多いです。 誰よりも貴方が知っているでしょう、篠田警視正」
「……うん」
「それならば、そういう存在を相手にしていると考えて、我慢をしてください」
仕方が無い、か。
そもそも今の時代、犯罪に手をつけるのは。
余程どうしようもない理由でもあるのか。いや、その場合は本当に少数例中の少数。
殆どの場合犯人がどうしようもない場合ばかりだ。
私もお巡りをして長いが。
勘違いした発言。
拗らせた行動。
いずれも、全く割に合わない行動が。犯罪を起こしてしまっている原動力となっている。つまり感情に挽き潰されているとも言える。
勿論犯人もそんな不幸な存在なのかも知れないが。
更に不幸なのは巻き込まれる人間である。
AIによる徹底的な管理から、敢えて意図的に取りこぼされている犯人どもは。
社会に緊張感を与えるため。
敢えて放任され。
そしてある程度被害が出たところで、私みたいなのに捕まる。
いずれにしても、哀れな道化だ。
完全に勘違いしている事に関しては、私も同意しかできない。
おまえらは、掌の上で踊っているだけなんだ。
そう告げてやりたいが。
証拠は無い。
まあほぼ黒だけれども。
AIが、人間は放置しておくと際限なく堕落すると判断するのも分かるのである。
「それにしても、今時スリねえ。 金持ち貧乏なんて概念自体が消滅している時代だというのにさ」
「拗らせているからですよ」
「……」
拗らせないように教育してくれよ。
そう言いたいが。
しかしながら、人間に対しては可能な限り自主性を尊重するようにAIは教育をしている。
実際問題、昔のSFなんかに出てくる冷徹なAIだったら。
私みたいな危険分子は産まれてすぐに排除されていただろう。
私みたいなのが生きている時点で。
AIも苦労はしているのもよく分かる。
いくら私が呂布くらいの実力はあると自認していて。それが客観的に間違っていなくても。
もしAIがその気になれば、秒で殺せるのだから。
秒も掛からないか。
いずれにしても退屈極まりない聴取が終わったので、私はデスクを離れると、帰路につく。
今回もこのギンジだかなんだかいうスリのために、わざわざ200光年出向いてきたのである。
とっとと帰ってスイと双六でもしていた方がマシだ。
その前に無人ジムで泳ぐか。
輸送船で自室についた後、AIが空気でも読んだかのように提案してくる。
「無人ジムの予約を取りましょうか?」
「今から取れるんならよろしく」
「それでは。 丁度ダイソン球についた頃には泳げるようになっています」
「んー、それは嬉しいねえ」
ポップキャンディの消費量が増えているので。
運動量を増やしたいと思っていた所だ。
そのまま、帰路はぼんやりと過ごす。
SNSを見ていると。今回のスリについては、殆ど話題にもなっていないようだった。
スラムも存在しないし。
ホームレスもいない。
貧しい人間が存在しない世界だ。
スリなんて、そもそも時代の遺物。
やる奴は一種の病気。
そういう認識になっている。
だから話題にもならない。
仕方が無いので、推しのデジタルアイドルの配信を見る。
今日は歌配信だから、別に興味が無い。
歌はあんまり好きじゃ無い。
「あれ。 貴方がいつも見ているデジタルアイドルなのに」
「私は歌あんまり好きじゃ無いんだよ」
「そういえば歌を殆ど聞きませんね」
「デジタルアイドルの良い所は、好みの配信をアーカイブでいつでも見られる所だけれども。 もうダイソン球につくし、それは後にする」
そういえば。ドンキホーテだったか。
護送されていく囚人達とドンキホーテが愉快な会話をするシーンがあるのだが。
自白した囚人が、詩人と犯罪仲間から揶揄されるシーンがあったっけ。
この件にはあんまり関係無いが。
いずれにしても、私は歌というものにあまり魅力を見いだせない。
ただ、それだけだ。
程なくダイソン球に着く。
無言でジムに向かい。
荷物を降ろすと、後は思う存分最大負荷で泳いだ。
ポップキャンディの消費量が多くなっていることもあって、いつもより多めに泳いでおこうかと思ったが。
そもそもそんなポップキャンディのカロリーなんて誤差で消し飛ぶ。
それくらい激しく運動しているので。
特に問題はない。
しばらく無心に泳いだ後、後は家に帰る。
スイは私が不機嫌なのをすぐに察したか。
ぺこりと礼だけすると。後は静かにしていた。
こう言うときに、何か話しかけられる方が苛つくことを、多分何となく理解しているのだろう。
独立型のAIでもセクサロイドだ。
それはこういう人間心理には非常に理解が深いのも当然とは言える。
しばらくして腹の虫も収まってきたので、夕食を頼み。
後は寝ることにした。
ルーチンに近い状態になっている逮捕劇。
たまには刺激的な仕事もしたいなと、私は思うのだが。
中々。現実はそうはいかない。
鮮明な夢を見る。
私は地球時代の私服警官だ。
多分日本だろう。
酷い混雑した電車の中で。スリを追っていた。
既に報告例が十三件あるスリで。地道な調査の末に突き止めた相手である。
なお見た目だけはまともそうな、中年に片足突っ込んだ女性である。
というわけで、私が直接取り押さえる役は承った訳だ。
既にこの車両には六人警官が乗り込んでおり。
周囲のあらゆる方向から犯人を監視している。
そして、犯人が電車が揺れた瞬間、手を動かして。
私はそれを掴んでいた。
指先には財布。
稲妻のような早業だった。
「はいスリの現行犯逮捕」
さてどうでる。
痴漢だの何だの騒ぎ出すか。
それとも暴れるか。
今まで、どこにでもいそうなくたびれかけの女性を装っていた犯人が、豹変したのは次の瞬間だった。
調査の過程で崩壊家庭の出身であり。
現在はホスト狂いであることは知っていたけれども。
それでも、凄まじい豹変だった。
何を言っているのか分からない凄まじい雄叫びを上げて、車両の中がいきなり地獄絵図とかした。
ナイフを取りだして暴れようとする瞬間。
私は腕をへし折りながら、床にたたきつける。
折りたたみ式のナイフが飛んで、側にいた女子高生の鼻先を掠めて、床を転がる。
誰かが緊急停止スイッチを押したらしい。
電車が急停車。
それにともない、私は完全にへし折った腕を更にねじり上げて、わめき声を上げる女を更に徹底的に押さえ込んだ。
女は相変わらず何を喚いているのかさえ分からない。
日本語だかも判別できないような凄まじいわめき声だ。
もはや獣の咆哮である。
他にいた警官達が手帳を出して、スリの逮捕であると説明。
それを聞いて、乗客が一斉に離れる。
車掌に対しても、警官が説明。
聞こえている凄まじい罵詈雑言で察したのか。車掌もすぐに電車を進め始めていた。
腕を折られ、更に関節も極められて押さえ込まれているのに、それでも暴れようとする犯人の豹変ぶりの凄まじさよ。
ナイフを取りだした判断も速かった。
そして恐らくだが。
マスコミがギャーギャー騒ぐんだろうなとも思ってげんなりする。
程なくして駅に着く。ナイフは既に別の警官が回収していた。
暴れる吠えるの犯人に、他の警官が手際よく猿ぐつわを噛ませ、押さえ込んで数人掛かりで連れて行く。
とんでもない怪物が同じ車両に乗り込んでいたのだと今更ながらに察した乗客達はみんな真っ青になっていた。
もう何を吠えているのかも分からない。
パトカーに押し込むのも一苦労。
パトカーに押し込んでからも、暴れ方が凄まじく。
警官は皆辟易していた。
やがて聴取を開始するが。
早速薬物反応が出る。
持っていたスマホからは、薬物の売人の連絡先も出た。
乾いた笑いが漏れた。
もうこれは、どうしようもないな。
そういう結論しか出なかった。
目が覚める。
何だか、スリに対するすったもんだの夢を見た気がする。
スイが目を覚ます。
私が無言で頭を振っているのを見て、もう大丈夫だと判断したのだろう。
「朝食を作りましょうか」
「んー、適当に頼む」
「分かりました」
昔だったら無理だっただろうが。
今の時代の自律型AIは、これくらいファジーな命令でも的確に動いてくれる。
すぐに食事を作り始めたスイを横目に。
私は何だか当分はロクな仕事が来そうに無いなと思って。
今からげんなりするのだった。
1、巧妙な手口
案の定というか。
予想はしていたが。やはり次の犯人もスリらしい。
スリなんてもう絶滅しているのではないかと思うのだが。
逮捕しにいかなければならない、ということはいるのだろう。
なお、財布なんてものはないし。
今の時代は金も全部個人とひも付いていて、AIが管理している。
つまり金なんて奪ったところで使いようが無いのである。
開拓惑星などでカツアゲがたまに行われるらしいが。カツアゲなんかしたところで、即座に逮捕される。
政治も経済も人間の手を離れているが。
それはこういう状況を生み出す。
だから犯罪組織なんてやっていけないのである。
裏経済を作ろうとした奴はたまにいたが。
それもいずれも上手く行っていない。
何しろ99%どころか、多分その後に小数点で9が何個もつくような確率で。誰も今の社会に不満を持っていないからだ。
人間が経済を回していた時代は。
富の不公正で、大半の人間が苦しんでいた。
今の時代はそれがなくなった。
だから今の方が良い。
単純な理屈だ。
人間の自由がどうのこうのといっても虚しいだけである。今の時代ほど、個々の自由が尊重され。
それぞれ好きな仕事ができる時代など存在しないのだから。
地球だろうが他の種族だろうが。
これについては全く同じである。
ともかくだ。
うんざりしながら、現地に向かう。
今回は、名人芸でスリをする奴を、現場逮捕するような華麗な仕事では無い。
地味な仕事である。
まずは輸送船内で、犯人などの情報をAIから聞かされて、把握する。
なるほど。
今回の犯人は、かなり若い人物なのだな。
若いのにスリなんて拗らせた事をやるようになってしまって。
まあ肉体年齢は好きなように操作できるし。
好きに人生を送れる時代だ。
バカやって逮捕されるのもまた、仕方が無いのかも知れないが。
いずれにしても、法の裁きは受けて貰う。
現地に到着。
私が住んでいるダイソン球から、300光年ほど離れた居住惑星だ。
署に出向くが。
この居住惑星はちょっと変わっていて、基本的に何もかもが地下にある。
理由は非常に海の比率が高いこと。
地球の比では無い。
海の比率が陸に比べて97である。陸は3しかない。
このため、海の生物の保護区惑星として機能していると同時に。
海底都市のモデルケースとして、シールドで隔離された区画に、居住地区がある。
わずかに存在している島の一部から、地下へ移動を行い。
そして其処から、電車や空間転移を用いて各地の海底都市や地底都市に出向く。
基本的に人が住むのは海底都市。
コントロールが行われるのは地底都市という風になっている。
そういう変わった星だ。
変わっているから観光客も多いので。
それを狙ったスリが出ていた、という事である。
何の意味もないのに。
署も当然地下にあるので、黙々と移動する。
地底の中に、泡のように浮かんでいる居住空間の一つに。まるで土壁に貼り付くようにして、建物がある。
それが今回仕事をする署だ。
内部に入ると、後はいつもと同じだが。
誰も他人を気にせず。
連携して動く事もない。
私がデスクについても、誰も気にもしない。
今はそういう時代だ。
黙々と具体的なデータを見ていく。
スリの瞬間などの情報は、既に揃っているようだった。
後は逮捕をしにいくだけか。
ただ、問題が一つあるそうだ。
「この犯人ですが、人間でいう心臓に当たる臓器に持病がありまして」
「ああ、ショックカノンが使えないって奴?」
「いえ、そういうものではなく。 基本的に乱暴してはいけません」
「ふーん……」
じゃあ眠らせるか。
いわゆる延髄にすとんと手刀を打ち込む奴。
あれ、気絶に持って行くのはかなりの技術がいるのだけれども。
私は普通に出来る。
AIは少しだけ困惑したが。
出来るのならと、許可してくれた。
いいねえ。
あれ、実際にはやる機会があんまりなく。
やれるのは今回結構嬉しい。
後ろをとるのは簡単極まりない。
犯人は手癖こそ悪いが、身体能力はゴミだからだ。
それにしても、である。
遺伝病ですら治る今の時代なのに。どうして心臓に問題なんかあるのか。
それについて確認すると。
AIが苦い話だと返してきた。
「地球人類も、構造には欠陥があることを聞いた事があるかと思います」
「ああ、そういえば子供を産む関係の構造周りが欠陥だらけだとか聞くね」
「そういうことです。 今回のスリの犯人の種族も同じなのです」
直立二足歩行をする人間は、かなりの種類が存在している。
手で道具を扱えるというのは大変便利だからである。齧歯類の一部もそれが出来るのだけれども。
いずれにしても、人間ほど本格的に直立二足歩行をして、手を使って道具を扱う生物はあまりいない。
ともかくだ。
その過程で生物的に無理が出た種族は、地球人類他にも色々いる。
例えば今回の犯人の種族もそうだ。
「元々犯人の種族のラルテリア人は、非常に小型の生物でした。 それがある時遺伝子的な突然変異で大型化。 以降は収斂進化で人間に近い種族になったのですが。 同時に急激な大型化の結果、内臓関係にリスクを背負うことになりました」
「心臓に当たる臓器が問題だと」
「そういうことです」
「なるほどね……」
無理矢理何とか動かしている心臓だが。
それでもやはり、無理な運動は出来ないという。
このためラルテリア人は、戦争とは殆ど無縁に生きてきた珍しい知的生命体だという。
ただ別に性格が温厚でもなんでもないと言う話ではあるが。
「身体構造は把握したし、首トンで眠らせればそれでいいでしょ」
「良いですけれど、とにかく心臓に問題がありますので……」
「わかったわかった。 怖がらせないようにしろと」
「……」
分かっているのか不安だ。
そういうのが伝わってくるが。
まあどうでもいい。
とりあえず犯人の所に出向く。
電車を乗り継いで別のコロニーに出向くのだが。
途中はあまりにも退屈だ。
退屈すぎるので、客の大半は携帯端末を手に、遮音フィールドを張って過ごしている。まあ気持ちは分かる。
そういう所を狙われたのだ。
しかし電車がトンネルを抜けると。
其処は壮大な海底都市である。
ドーム状にシールドが張られて、生物を一切通さない仕組みが作られており。
更には膨大な海洋生物が頭上を泳いでいる様子が見える。
人間が接触することは許されないが。
見ているだけで凄い迫力である。
兎に角海洋の規模が違う星だと言う事もあり。
とんでもなく巨大な海洋生物の姿も少なからず確認できる。
地球にも大型の海洋生物は存在しているが。
そんなものの比では無いレベルだ。
ただ、どれも地球の海洋生物には似ていない。
そういえばカンブリア紀の生物は、現在の生物のどれにも似ていないことを考えると。
水中での浮力という強力なアドバンテージがある世界では。
どんな風な姿になるのか。
これといった正解はないのかも知れない。
海底都市を満喫しながら歩く。空ばっかり見ている観光客も多い。
そのまま、無言で犯人の家に。
私も、たまに突っ立ってぼんやり空を見て、感動に浸っている奴を見た。隙だらけなのは確かだ。
服による防護も、攻撃関係でなければ反応しないこともある。
現金を盗んでも仕方が無い。
だが、持ち物をすられても、気付けない奴はいてもおかしくはないな。
これについては改善点が多い。
そう私は思った。
黙々と、犯人の家の前につく。
チャイムを鳴らすと。
地球人に収斂進化で似たらしい、だがやはり内臓に問題があるというのが最大のネックになっているのか。
ひょろひょろの男性的な容姿の奴が出てきた。
間違いない。
犯人だ。
ふつうだったらお巡りだと告げて、そのままショックカノンでズドンなのだけれども。
今回それをやると死ぬらしいので。
まずは手帳を見せる。
それを見て青ざめる犯人。
更に言えば、私の顔も知っていたのかも知れない。
「ひっ……!」
恐怖の声を上げるが。
もう色々とおそい。
私はどんと地面を踏むと、いわゆる瞬歩で犯人の後ろに回り込む。
ショックカノンで撃てればこんな面倒は必要ないのだけれども。
今回は色々とくっそ面倒くさい手順を踏まなければならない。そもそもこんな体質で犯罪なんかに手を染めるなよと、小一時間説教したい気分である。
ともかくだ。
後ろをとった後は、延髄を手刀でストン。
それで気絶した。
まあこれについては、体の構造を理解していればすぐに出来る事だ。
別に私は何たら真拳とかの心得がある訳でもない。
それでも、気絶した犯人を抱えた私に。AIは形容しがたい口調で言ったが。
「相変わらず地球人とは思えない身のこなしですね」
「地球人の範疇内だよ。 せいぜい呂布くらいかな」
「何故呂布が出てくるのかは分かりませんが……それはどちらかというと史実の呂布ではなく、ゲームか何かに出てくる呂布では」
「ともかく地球人の範囲内だよ」
警備ロボットが来るので、犯人を引き渡す。
さて、此処からだ。
そもそも心臓に問題があるとかいう話である。
私が脅かして全てはかせるというわけにもいかないだろう。
頭の中を全部覗くのは簡単にできるが。
問題は聴取の最中。
心臓とか止まられると困るんだよなあ。
ともかくひ弱な犯人を警備ロボットが連行していき。後は私は、それをぼんやり見送った。
さて、此処からだ。
黙々と歩いて、署に戻る。魅力的な海底都市で、とんでもなくつまらない捕り物をしたなあ。
そうとしか思えなかった。
署での取り調べが始まるが。
案の定。色々面倒事だらけで、うんざりだった。
私としてもぼんやり見ているだけにしたかったが。とにかくあらゆる全てがままならない。
色々な種族が一緒に生活している世界なのだ。
だから、とびきり虚弱体質な種族もいる。
今回の犯人は、病気というわけではなく。一族の中でも兎に角虚弱なだけらしいが。それにしても、ちょっと警官も持て余しているようだった。
「乱暴をするとすぐに体が破損するので、気をつけてください」
「乱暴なんかするつもりはないけれどなあ……」
警官が真っ青になって震えている犯人を見やり、困り果てた顔をしている。
ただでさえ、狂人警官が。何をされたのかも分からないとぼそぼそ呟いた後は、こうやって震え上がっている状態である。
警官としても、これ以上どう聴取したらいいのか分からないのだろう。
しかも今回は。
私が出ようものなら、それこそ犯人の心臓がその場で止まりかねない。
「と、とにかくだ。 君はスリとして、四回人の持ち物を盗んでいるね」
「……」
「こ……」
声が途切れる。
大声を出そうとしたのを、AIが遮音フィールドで遮ったのだ。
なんだ、問い詰めるのも駄目なのか。
どんだけ心臓が貧弱なんだよ。
私はむしろ警官に同情しながら。聴取の様子を見る。
警官はAIにアドバイスを受けたのだろう。
何度か深呼吸してから、務めて静かな声で言った。
「こたえなさい。 君がすった証拠は出ている。 答えないと言う事は、それだけ刑期に影響も出る」
「……」
「そうか、ならば刑務所にいる時間が長くなるだけだな。 刑務所内では医療設備も完備されていて、死にたくても死ねない。 その点は安心しても良いと思う」
「……」
恨みがましい目で警官を見る犯人。
何というか、本当に幽鬼のようだ。
警官はどうしたらいいんだよこれという顔をしていたが。
やがて。警備ロボットが来て。
犯人を連れて行った。
さて、此処からだ問題は。
「で、彼奴は刑期どれくらい?」
「スリをしたものが大したものではないということもあります」
「?」
「いや、すったものは殆どがその場で買った嗜好品の類です」
そうなると、本格的に病気か。
別に必要でもないだろうにスる。
そういう精神の問題があると聞いている。
治療が必要だろう。
「じゃあ刑務所で治療するんだね」
「……そうもいきません」
「今度は何だよもう」
「体が弱いので、長期間の学習はそう簡単にはいかないのです。 ゆっくり時間を掛けて治療をしなければなりません」
知るかと叫びたくなったが。
もうともかく、そういうものだとして諦める。
いずれにしても刑期は二週間ほど。
さっきの聴取の態度も含めての二週間である。
更にうんざりする話も聞く。
「実は既に治療は開始しているのです。 既に二十年ほどかけて、じっくりやっています」
「へえ……」
「まだ完治には更に二十年ほど……」
「遺伝病ですら治るのに」
嫌みを言った私だが。
AIはそうなのだと、悔しそうに言う。
「今回のようなケースですと、心療の類は非常に難しくなりますので」
「癌とかになった場合はどうするの?」
「その場合は長期間のコールドスリープを行いながら治療します」
「そっか……」
いずれにしても、どんな病気でも簡単ポンに治る時代なのに。こういう人もいるんだな。
そういう結論しか出なかった。
いずれにしても、私の仕事は終わりだ。
本来だったら観光していきたい気分だが。流石にさっきの現実を見ると、ちょっといやだ。
とりあえずその辺りでスイへの土産でも買うことにして。
適当にぶらつく。
土産屋はあったが。
どれもこれもしようもないものばかりだった。
まあだからいいのだろう。
しようのないものを集めて、適当に散財する。
AIの許可範囲内だ。
後は、自宅へと戻る。
300光年くらいだったら、基本となっている輸送船の空間転移50光年で六回。まあそう時間は掛からない。
輸送船の待ち時間が少し掛かるが。
それも許容範囲内だ。
黙々と移動して、輸送船に乗り込む。
自室に入ると、AIに色々と話をされた。
「今回、ショックカノン無しの仕事を、良くやってくれましたね」
「後で人間を撃たせてよ?」
「善処しましょう。 実際問題、今回の犯人はどう扱うか、かなり難しいと判断していたのです」
「そりゃそうだろうよ」
普通の手慣れていない警官だったら、多分恐怖で相手が心臓麻痺を起こしただろうし。
更に警備ロボットで連れて行くにしても、そう簡単にいくかどうか。
自宅には治療設備が整っているだろうが。
変に暴れて興奮したりしたら、それでバタンと倒れて更にあの世行きかも知れない。
いずれにしても面倒極まりない犯人だった。
私だから対応出来た。
AIはそう褒めてくれるが。
全然嬉しくない。
警官はそもそも鍛え方が足りないのである。私と同レベルで鍛えろとは言わない。どうしても鍛えるのには限界があるからだ。だが、もうちょっとは鍛えてほしい。それが出来る時代なんだから。
今の時代はキャリアでないと出世出来ないとか、昇進試験にうつつを抜かしてだとか。学閥がどうだの、そういうくだらない制限は一切無い。更には警官内での階級にさえ意味がない。
無意味な「コミュニケーション能力」と称する上司に媚を売る力も求められないし。
得意分野があるなら、それを生かしての仕事をAIが回してくれる。
だったら警官としての職務にのみ集中して、自分の得意分野を鍛えれば良い。
それなのに、どいつもこいつも貧弱すぎるだけである。
だから嬉しくない。
しばらくぼんやりしていたら。
丁度三国志時代のゲームを推しのデジタルアイドルがやっていた。いわゆるオンラインで行うVRMMORPGの一種で、当時の誰か一人になって、大会戦に参加したりする内容である。
流石に自律型AIだけあって、ゴミクズのように一般プレイヤーを蹴散らしていたが。
それでも限界があり、何度も戦死していた。
私がやっても結果は大して変わらないだろう。
こう言う時代では、武芸がどんだけ卓越していても。下手に目立つと即殺である。どんな達人でも複数方向から致命的な攻撃が飛んできたら耐えられない。鎧での防御も限度がある。
ましてやこの時代の原始的な鎧では。
何回かの会戦に参加した後、スコアがそこそこ出たのを見て、まあこんなもんだろうなと個人的には納得。
推しのデジタルアイドルが色々コメントをしているのを、リスナーは反応していた。
地球の歴史の一部を題材にしたゲームを推しがやってくれるだけで、私はそれなりに満足だ。
多少は腹の虫の居所も収まった。
それにしても、あのスリの犯人の恐怖。
まずいことこの上なかった。
次は上質な恐怖が食いたい。
ため息をつくと、家路に急ぐ輸送船の中で。私は一眠りすることにしていた。
多分睡眠が浅かったからだろう。
夢を見たことはみたが、内容は殆ど覚えていない。
だけれども、何となく覚えていることはある。
なんか私は三国時代の呂布だった。
相手をしているのは黒山賊だろう。
三国時代の河北に存在した大規模な賊の集団で、袁紹の時代から彼方此方を脅かし。最終的にその首領の張燕が曹操に降伏している。その時十万???の軍を率いて降伏したとか記述があるが。
まあこの数字は宛てにしない方が良いだろう。
呂布は政争に負けて彼方此方を彷徨ったことで知られるが。河北の大軍閥袁紹の配下にいたことがあり。
その時少数でこの黒山賊を大破した記録が残っている。
この時代は騎馬隊がそもそも貴重な存在で。馬を自在に乗りこなせる上に優れた武芸を持っていた呂布は、それだけで高いアドバンテージを有していたのだ。
呂布として黒山賊を討伐した夢。
ぼんやりとしか覚えていないが。
まあつまらなくは無かったか。
伸びをした後、まだ輸送船の中にいることに気付いて。AIに言う。
「さっき推しのデジタルアイドルがプレイしていたゲーム、やれるかな」
「ゲーム自体の出来が良くなく、現在は過疎化が進んでいますのであまりお勧めは出来ませんが……」
「ああ、そういう」
推しのデジタルアイドルは、そういうゲームを好んでプレイする傾向があったなそういえば。
多分さっきの配信にしても。
いいとこどりだけをしたものだったのだろう。
ならいいか。
別に歴史ゲームだったら他にいくらでもあるのだから。
とりあえずそろそろ自宅だ。
私は体を動かす方があっている。
ただ今回は、無人ジムの予約は取れなかったらしい。誰かが使っているのだろう。
ならば家でシミュレーションで泳ぐだけだ。
まあそれでもいい。
今回もろくでもない事件だったが。
解決したのは事実だったのだから。
2、退屈に負けたもの
逃げ惑うアホ共を撃つ。
片っ端から。
開拓惑星で、リンチをしていた馬鹿共がいたので、私が出向いたのである。
久々の開拓惑星の仕事だ。
ここのところ、私がストレスを溜めているのにAIが気付いたのだろう。
そうだよ。
こういうのでいいんだよ。
私はそう言いながら、狂人警官だと言って逃げ回るバカ共を片っ端からショックカノンで撃つ。
リンチされていた側も白目を剥いて気絶している有様で。
警備ロボットが来て。
バカ共を次々に連行していくのだった。
とりあえずなんでリンチが起きたのかはよく分からない。犯人共を聴取して、それで終わりだ。
とりあえずいつの間にか周囲には誰もいなくなっている。
あの狂人警官が来た。
それだけで、開拓惑星にバカをしに来る連中には致命的だし。
関わり合いにもなりたくないのだろう。
それで結構。もっと怖れろ。
私としてもこれで甘露を味わえる。
ここのところ胸くその悪い仕事ばかりだったし。違う場合も恐怖が全然美味しくなかったりで。
はっきりいって不愉快だった。
まあこういうバカンスもたまにはいいだろう。
殺さないで。
そう叫んで必死に後ずさる、腰を抜かしているバカの一人を容赦なく撃つ。
背後から突貫してくる奴が一人。
ナイフを腰だめにしているが。
まあそのままでも大丈夫なんだが、振り向き様にショックカノンを叩き込む。殺人の意思を持って突貫してきたから、一番罪は重いだろう。
さて、これで終わりか。
周囲のセンサを確認。
熱源センサを見る限り、特に問題はないか。
軍用装備だと熱源を誤魔化すいわゆる熱学ステルス装備も存在しているが、それは横流しが億年単位で起きていない。
更に起きていたところで、今AIが立体映像を駆使して作り上げた熱源センサなら簡単に貫通して見破る事が出来る。
それでも過信は禁物なので。
服での防備はがっちり固めている。
技術が漏洩し放題の国とかでは、これでも安心できないだろうが。
残念ながら今の銀河連邦でそれはない。
さて、バカ共をあらかた制圧し、警備ロボットが全部引っ張って行くのを確認してから。
その場を移動する。
恐怖に隠れている連中はもうどうでもいい。
そのままで垂れ流しに恐怖をくれるからである。
問題は、隠れて何かをしようとする輩だが。
AIに警告された。
「隠れている中に、この隙に火事場泥棒を考えている者がいます」
「OK。 誘導して」
すぐに誘導が開始される。
私は体勢を低くすると、全力で走る。
どんと風が当たってきて気持ちがいい。
舌なめずりしながらターゲットに突貫。
身を潜めている連中の中に、飛び込むと。
そいつを。
他の隠れている奴の財布を盗もうとしていた奴を、ピンポイントでショックカノンで制圧していた。
文字通り、一瞬の早業だが。
いつも鍛えている私には特に難しい事でも何でも無い。
ひいっと悲鳴を上げて逃げ散るか、腰を抜かす他の連中。
漏らしている奴もいた。
私より二回りも大きいのに、完全に怯えきっている奴もいる。
何とも情けない話だ。
そのままその気絶しているスリの襟首を掴むと、引っ張って行く。
同じくらいの体格の相手だったら、別に難しくも無い。
警備ロボットが来たので引き渡す。
財布は警備ロボットが預かっていった。
金なんて盗んだところで使えないのに。
全くもって、不可解な輩である。
「見事な早業でしたね」
「別にそんなでもないよ。 いつも鍛えているから、それだけ」
「それでも充分過ぎるレベルです」
「よせやい」
褒められたって何も出ないし。
出たところでAIはそれで評価を変えたりはしないだろう。私をある程度持て余している事は分かっている。
今後も扱いをどうしようか悩んでいるはずだ。
それでいながら抑止力として積極的に利用してもいる。
何とも人間くさいAIである。
まあずっと人間を見続けてきたのだ。
そうなるのも、自明の理なのかもしれないが。
いずれにしても、私はもう少し周囲を歩いて廻る。
立体映像で、この開拓惑星の情報がどうSNSで流れているか表示して貰う。携帯端末で見ても良いのだが。
任務中は、こうやってレーダーやら情報やらを立体映像で周囲に投影することが可能である。
見た感じ、既に狂人警官が来ていて。
更にいつもよりも苛烈に暴れている、という情報は。
とっくに流れているようだった。
まあ私としては、それで怖れる奴が出るのは良い事である。
私に近付いてくるものはいないので、そのままパトロールをして回る。
その内、私の情報は行き渡ったらしく。
辺りは働いているロボットだけになった。
身を潜めて怯えきっていると言う事だ。
まあ此処にバカをしに来る奴は、後ろめたい事を理解している。だから、弱者には高圧的に出るし。自分が勝てない相手には絶対に逆らわない。話が通じない相手だったら逃げる。
そういうものだ。
「面白くないなあ」
「こんな状況で、篠田警視正の前に出ようとする者なんていませんよ」
「別にそれならそれでいいけどさ。 肩先で風切って歩いてるつもりなんだろうから、それなりの根性だの気合いだの見せろっての」
「その手の輩の実態を、貴方は知っている筈です」
まあ、それもそうだ。
ピカレスクロマンで美化されるならず者なんて、実態はただのクズの集まりである。
ならず者を如何に格好良く美化するかがピカレスクロマンであり。
故にそういった作品では、実態と著しく乖離したならず者が書かれる。
だから嫌いなのだ。
私は保存されている実際のならず者のデータを見ている。
だからこそに、許しがたい。
まあピカレスクロマンが好きなら勝手にすればいいが。
それは真実とは違う。
それだけである。
「とりあえずもういないかな。 戻るよ」
「そうですね。 今日は切り上げましょう」
「んー」
この開拓惑星は。
基本的にガス抜きの目的もあって、ある程度バカを許している側面もある。
私がずっと目を光らせていては、其方の目的が達成出来なくなる。
そういう判断なのだろう。
私としてはそれこそどうでもいい。
政治は今はAIが握っているのだ。
私が知った事では無い。
署に戻る。
別に残業をするまでもない。適当にレポートを書いて、残りの時間を消化する。
聴取は、見るまでも無いか。
そう思ったが、スリだけはちょっと興味があった。
金が個人と明確に結びつき。
そもそもそれすらもAIで管理されている時代に、スリなんてする意味がないのである。
それなのにスリなんてする神経はどこから来ているのか。
聴取を見る。
既に終わっているようなので録画だが。
其奴は私を前にしたときと違い。
聴取をしている警官に対して、大変にふてぶてしかった。
「狂人警官だったらともかく、てめーなんかこわくねえんだよ!」
「そうですか。 で、なんでスリをしたのですか?」
「してないね」
「ではこの映像の行為は?」
ただの「フリ」だよ。
そう言って、犯人はけらけら笑った。
これほど明確な証拠が出ているのに。
まあ大した度胸だ。
私を見た瞬間、顔を恐怖に歪めていたのに。ならず者というのはこう言う連中なので、基本的に私は此奴らを撃つ事を何とも思わない。
「では罪状も否認と。 そうなってくると実刑判決は避けられないでしょうね」
「うっせえなあ。 好きにしろって言ってんだろ!」
「そうですか。 ……判決が出ました。 実刑判決、三ヶ月」
「!」
この様子だと此奴、前科があるな。
軽く調べて見ると、前は一週間ほどの刑務所に叩き込まれていたらしい。
それで更正しなかったわけだ。
更に言うと、一週間の刑務所暮らしでも、相当に窶れたようである。
まあ何となくは分かる。
耐えられない奴には、無理だろう。
絶対に脱走は出来ない。
他の奴と会話も出来ない。
孤独が大丈夫な人間には何でも無いだろうが。
孤独が苦手な人間は、それこそ地獄では無いのだろうか。
「さ、三ヶ月だって!?」
「そうです」
「ふ、不当だ! AIと話をさせろ!」
「今までの聴取で私の問いかけに不真面目に応答し、更には自分の罪を否認までしたのですから、反省の余地無しとして厳しい実刑判決が出るのは当然でしょう。 今後犯罪を犯せば、更にどんどん罪は重くなるでしょうね」
完全に蒼白になる犯人。
まあそこそこ美味しいかなこの恐怖は。
「ふ、ふざけ……」
「連れて行きなさい」
「ま、待ってくれ! 待ってくれよ!」
警備ロボットが犯人の腕を掴むと。
スリ野郎は見苦しく喚いたが。
元々パワーが桁三つも四つも違っている。それも手加減している状態で、である。
警備ロボットは警察ロボットより性能がデチューンされているが、それでも群衆を制圧するくらいは何でも無い。
ましてやただ一人を連行するなんて。
しかも二機がかりで連行しているのである。
抵抗する事も、逃げる事も不可能だった。
鼻を鳴らすと、聴取の様子を見終える。
まあ面白かったかな。
相手側の警官の冷静な対応もそこそこに良かった。まあ普段線が細い警官ばかりみているから、それなりだろうと思った。
伸びをして、今の良い気分を満喫し。
その後は、レポートを無心に片付けた。
翌日はパトロールに出たが、私の姿を見るとさっと逃げ散る奴ばかりで。面白くも何ともなかった。
既に情報はこの開拓惑星全土に拡がっているらしく。
私が歩いているのは、昨日と違う街の建設予定地にもかかわらず。
結果は同じだった。
なんだつまらん。
ピカレスクロマンよろしく、警官とみるや殺しに来るようなヒャッハーは出てこないのか。
出て来たら面白いのに。
そう思いながら歩いていると。
AIが警告してくる。
「どうやらまたスリですね」
「おう、そりゃ珍しいね」
割と棒読みで答える。
スリなんて絶滅危惧レベルの犯罪である。
こう立て続けに起きると言う事は。
私が送り込まれたこの開拓惑星に、常習犯が来ているという事に他ならないのである。
都合良く常習犯が来ていたから、AIが私に息抜きも兼ねて。ついでにスリ対策もさせようとした。
そういう事なのだろう。
まあ私としては。
今回の仕事は楽しいから可とする。
で、場所だが。
星のほぼ反対側の地点だ。
舌打ちする。そうなると、空間転移を使って行くことになるだろう。
空間転移装置まで距離がそれなりにあるし。
まだ此処は開拓の途中で、ベルトウェイもないし。電車だって通ってはいない。急いで装置まで向かう。
全力疾走を二十分ほど続けて、装置に到着。
とりあえず呼吸を整えると。すぐに呼吸は戻る。普段伊達に全力負荷で泳いでいない。
空間転移をAIに座標設定して貰い、現地に飛んだ。
そのまま、現地に到着。
街の形は結構出来て来ている場所だ。今、上下水などの基幹インフラを作りつつ。
誰が住むかもまだ決まっていないのか、或いは既に決まっているのか分からない家を作っている。
いずれにしても工事の手順はAIが全管理して、その下でロボットが基本的に動き。人間は指示通りにそれぞれ好き勝手な仕事をしている。
そういう状況なので、カオス極まりない。
別に人間がいなくても回る文明なので。
こういうカオスは必然として起きるのだ。
私が姿を見せた事で、バカをしに来ていただろう連中は、悲鳴を上げて逃げ散る。働いていた連中も、ぎょっとした様子で私を見て。何も見ていないフリをして、仕事に戻っていた。
どうでもいいので、ナビをさせて現地に急ぐ。
数人の悪ガキが、連んで笑いながら歩いているのが見えた。
「全員で連携してスリをした映像が残っています」
「そっか。 じゃあこうすっか」
まず背後から、リーダー格らしいのを撃つ。
なんか誰かをどう殴ったとか偉そうにほざいていた其奴は、文字通り吹っ飛んで壁に叩き付けられ、ずり落ちていた。
振り返った二人がナイフをそれぞれ取りだすが。
私の顔を見て、一人はナイフを取り落とし。
もう一人はその場にへたり込んでいた。
「どうした、威勢がいいならず者話はもう終わりか? 是非とも刑務所にぶち込むときに参考にしたいから聞かせろ」
「ひ、ひいっ!」
逃げようとしたナイフを取り落とした方を撃つ。
吹っ飛んだ其奴は、一回転して、顔面から地面に落ちて動かなくなる。まあAIが気を利かせて、首が折れるのは防いだだろう。
最後の一人は漏らして泣き出した。
会話の記録を見る限り、一番派手に悪事を自慢していた奴なのだが。
そのままショックカノンを叩き込む。
周囲はもはや、言葉も無い様子で私の行動を見ていた。
警備ロボットが来て、バカ三人を連れて行く。
なお、財布も当然回収。
スリなんて何の楽しみがあってするのか。
それをむしろ問い詰めたかったのだが。
まあいいか。
恐怖もそこそこ美味しかったし。
後は、歩いて周囲をパトロールする。屯しているならず者がいたが、そいつらも私を見るとさっと消えていった。
街を一通りみて回るが。
以降、獲物は見つからなかった。
がっかりして、空間転送装置に戻り。
其処を経由して、署に帰る。
署では、もう取り調べが始まっていたが。
私の記憶には無いが、その内一人はどうやら以前私をどっかで見た事があったらしい。それで尋常で無く怯えていた、ということか。
まあどうでもいい。
頬杖をついて、聴取を見る。
リーダー格のスリは、ギャンギャンなんか吠えていたが。
聴取に当たる警官は冷静だった。
「ではスリをしたことは認めると言う事でよろしいですね?」
「lkhashlklasdfhoqef;howhf!」
「返答は意味不明と。 なお、きちんと答えないと、反省の余地無しとして罪がそれだけ重くなります」
「うるせえっ! 殺すなら殺せ!」
また大きく出たものだなあ。
そう思って、静かに笑う。
いずれにしても、実刑判決が出て。それで連れて行かれた。
あの様子だとまだ刑務所の世話になった事は無い様子だ。まあ精々、恐怖を味わってくるといい。
もう一人も意味不明の言葉をギャンギャン喚くだけでさっぱり面白くはなかったのだけれども。
最後の一人。
どうやら私の事を知っているらしい一人は反応が違った。
「ぜ、全部話す! 全部知ってること話すから、頼むから! あいつを近づけることだけは止めてくれ! 頼む!」
「……では全て子細にお願いします」
「あいつらとは、現地で意気投合したんだ。 それで……」
リーダー格の、最初に私が撃った奴。
其奴がスリをやってみようと言い出したらしい。
スリなんて何の意味もないだろともう一人が言ったが。だから面白いんだよとか言いだしたとか。
それでみんなその気になったそうだ。
その気になるなよとか思いながら、続きを聞く。
「と、とにかく気が大きくなっていたんだ。 それで」
「スリをしても、盗んだ財布の中身は使えませんし、何よりも確定で捕まることは知らなかったんですか?」
「金を使えないことは知ってた……」
「そうですか。 つまり娯楽のためだけにスリをしたという事ですね」
蒼白なまま、犯人グループの最後の一人は頷く。
そして、狂人警官が来たと言う情報を聞いて、逃げ腰になったのだと主張した。
「あいつはヤバイから逃げようって俺は提案したんだ。 だが……」
「リーダー格のあの子が、星の裏側にいる奴なんてなんでもないと言ったと」
「……そうだ。 それで、逃げ回っている奴の一人から財布を取った。 で、でも、落とした財布を取って、それで懐にいれただけで……」
「その場合も同罪ですよ」
まあ、当たり前の話だ。
私はによによしながら様子を見るが。
AIにたしなめられる。
「流石に悪趣味では」
「そもそも心のブレーキが効いていない時点で、ああいう事になるのが正しい社会のあり方って奴じゃないの?」
「確かにそれは正論ではありますが」
「私だって手当たり次第に人間を撃って恐怖を摂取したいのに、どれだけ我慢しているか分かるかなあ。 私にさえ心にはブレーキがあるのに、彼奴らはそれ以下って事だろうよ」
言葉も無いらしく。
AIは黙った。
そう。私だってすごくすごーく我慢しているのである。
手当たり次第にショックカノンで犯罪者を制圧したいし。
手当たり次第に拷問して恐怖を摂取したいが。
それができない。
だから次善の策として、AIの指示通り犯人を撃ちに行き。
確定で犯人を捕まえ。
恐怖の権化として君臨することで、効率よく食事をする。
そうしなければ、とてもやっていけない。
私は我慢しているのである。
心のブレーキはいつもエンジンオイルが切れそうなくらいなのだ。エンジンオイルというのが何だかよく分からないが。
それでも我慢しているのに。
我慢が利かないあの手の犯罪者を見ていると、やっぱりショックカノンでバラバラにしたくなる。
それを気絶で済ませてやっているのだ。
どれだけ私が優しいか分かるだろうか。
聴取を見る。
私への恐怖で泣き出した犯人に、刑期が告げられる。
前の二人と違って前科もあるので、より時間は長いが。
私が出てくるよりはマシだと判断したのか。スリグループのバカガキは、連れて行かれるのだった。
さて、まだ時間はあるか。
デスクから立ち上がる。
せっかくだから、パトロールをしておこう。
「それじゃ、別の地区を見回りするかな。 今一番治安が悪い場所にナビしてくれる?」
「分かりました。 ただ、無意味に事を荒立てないようにお願いします」
「分かってる分かってる」
そのまま、指定された地区に向かう。
私を見た瞬間、悲鳴を上げて逃げ散るヒャッハーども。
恐怖は良いが。
もうこの星では楽しくハンティングは出来ないかも知れないな。
舌なめずりして恐怖を味わいながら。
それは残念だと、私はちょっとだけ思った。
四日ほど開拓惑星にてパトロールをして。
それから戻る事にした。
戻る時は、迷彩を使う。
私が戻ったと知れば、またヒャッハー達が暴れ始めるのは目に見えているからである。
とりあえず輸送船の自室に向かう。
宇宙港には随分人が多いように見えた。
どいつもこいつも、羽目を外しに来て。それでいながら私が来てしまったので、慌てて逃げようとしているわけだ。
色々な見た目の奴がいる。
どれもこれも犯罪者予備軍だと思うと、その場で全部撃ちたくなったが。
AIに先に釘を刺されたので。
諦めることにした。
とりあえずSNSを確認する。
あの悪ガキ三人組、SNSでは相当に悪目立ちしていたらしい。特に最初に私が撃った奴は、威勢の良い発言でいわゆるアルファユーザーになっていたようだ。
どうでもいい。
いずれにしても逮捕された事はアナウンスされ。
SNSは軽く祭になっていた。
「狂人警官おっそろしいなあ。 あんだけ犯罪に躊躇無さそうな奴が相手でも瞬殺だったのか」
「前に彼奴の事見たことあるんだけど、なんか残像作って動いていたし、中身ロボットじゃねえ?」
「残像って、漫画かよ」
「いや、プールで阿修羅みたいに泳いでるの見た事がある奴もいるらしい。 身体能力が異次元なのは間違いないと思う」
怖れろ怖れろ。
そう呟きながら、携帯端末でSNSの流れを追っていくと。
意外と冷静なコメントを見つけた。
「いずれにしても、今の時代は犯罪なんて割に合わないってまた証明されたな。 どんなに粋がって見せても、それは同じなんだろう」
「まあ、確かにスリなんてやっても自己満足だし、それで刑務所行きってのもなあ……」
「刑務所なんて怖くねえなんて言ってた奴が、入って以降は同じ事を絶対に言わなくなるもんな」
「古い時代は犯罪組織とかが内部を乗っ取るケースもあったらしいけどな。 AIが相手で、しかも全員個室で互いに接触もできないとなるとな……」
一気に皆血の色の夢から醒めていく。
そして、驚くほどあっさり、祭は終わっていた。
それと同時に、AIが主犯格だったスリグループのアカウントを一旦凍結。
AIが全てを把握している。
それを悟って、皆すぐに黙り込んでいた。
まあそうだろうな。
私はあくびをしながら、軽くAIと話す。
「あのスリをした合計四人。 最終的にどうするの?」
「どうするもなにも、再教育ですね」
「再教育でどうにかなるの?」
「どうにかなるまで再教育です」
自主性を尊重するAIは、こういう所があまいな。
とは言っても、死ぬよりも更に重いとAIが言った「処分」には、流石に当たらないだろう。
たかがスリである。
私は色々ままならんものだなと思うと。
後は自宅まで、無言で推しのデジタルアイドルの配信を見続けた。
帰ったら思う存分泳ごう。
そう思った。
3、孤独の果てに
私がつけている老人は。
どうみても、それほど貧しいようには見えなかった。
まあそれも当然。
貧富の格差が、今の時代には存在しないのだから。
貧しいものもいないし。
富めるものもいない。
皆、生活には困っていないし。
誰もが家に住むことが出来ている。
そういう時代だ。
だから、普通の老人が歩いているのを見ると。複雑な気分になる。
老化防止をなんでしていないのか。
どうして弱々しい格好を装うのか。
自然のまま年老いて死にたい。
そういう理念ならまだ別に良いだろう。
分からないでもないからだ。
自分の意思で、その生き方を貫くのはそれはそれでありなのだろう。
だが、私が今つけている相手は、そうではないのだ。
今の時代。
老人の姿をしているのは、何かの理由があるか。特別な生き方を選んでいるか。そのどちらかである。
一旦老化を経験してみるとよく分かるのだが。
基本的に体も、それ以上に頭が働かなくなる。
老獪なんてのは都市伝説だ。
余程の経験でも積んだ人間でもない限り、経験の蓄積よりも頭の劣化の方がどうしても上回る。
そういうものなのである。
駅に入った老人。
AIから、ナビを受ける。
「このまま三つ先の駅で老人は降ります」
「住宅惑星を、どうしてこう徘徊し続けるのかな」
「本人曰く健康のため、なのですが」
「……」
あの老人に見える奴は、実際には前科二十六犯の犯罪者だ。
犯罪の内容はいずれも軽犯罪ばかりだが。二十回目くらいから実刑もかなり重くなってきて。
前回は五年、刑務所に入っている。
老人の姿も、それで固定しているものであって。
実年齢は二百年ほどと、自然に生きていたらとっくに死んでいる。
老人の身体能力に落とし込んでまで、どうしてこんな事をしているのか。
なんども警官に聞かれたが。
いずれも同じ事を答えている。
楽しいから。
世界が窮屈だから、少しでも乱してやるのが面白い。
個人に出来る事は限られているけれども。
それでもやれるだけはやってやる。
捕まるのは前提だ。
だが、捕まるとしても、その前に犯罪はやりとげてやる。
老人だから、ショックカノンの出力を上げると死ぬぞ。精々工夫して捕まえてみるんだな。
そう、青ざめる警官の前で。
老人になっている犯人はいうのだった。
見た感じ、地球人と見た目はまったく変わらない。肌の色も同じく。
そういう種族だ。
私も犯人を追って電車に乗る。
今の時点では追跡には気付いていない様子だが。
相手は犯罪そのものを趣味にし。
敢えて軽犯罪ばかり色々と行い。
そして退屈だからと言う理由で世の中を乱している、筋金入りの犯罪者だ。
他人を傷つけないことをモットーにしているらしいが。
そんなものは自分ルールに過ぎない。
よくあるピカレスクロマンに出てくる怪盗的な動機だが。
実際に迷惑を受けるのは、赤の他人だ。
そしてそもそも、今の時代には、法の隙間を突いて好き勝手をしている悪党なんて存在しない。
人類の手から政治も経済も離れてから。
そういうのは絶滅したからだ。
要するにあの老人はあらゆる意味でずれていて。
結局自分が楽しんでやっている事に。それっぽい大義名分をつけているだけの存在である。
さて。
電車を降りた後を追う。
相手は気付いたな。
私はそれを勘で察知するが。別にどうでも良い。
追ってきているのが狂人警官だと相手が気付いていても。
相手が「信念」に従って犯罪を止めないことを、私は知っているからである。だから、追う。
そのまましばらくついていく。
今の時代、雑踏なんてものは限られた場所にしか存在しない。
この居住惑星は、基本的にリモートで仕事をする人間が住んでいる住宅だけがある状況だ。
観光地もあるにはあるのだが。
そう言った場所は逆にセキュリティがきつい。
路地裏にぐんぐん入り込んでいく老人。
古い時代は、こういう路地裏に入ると生きては帰れないというのが相場だったらしいのだが。
今は当然そんなこともない。
犯罪組織そのものが存在しないのだから。
ある意味当然とも言えるか。
「こんな所に入って何をするつもりなんだか」
「篠田警視正、気付かれますよ」
「いや、とっくに気付かれてる」
「……貴方の勘は信頼出来ます。 貴方がそういうならそうなのでしょう」
頷くと、相手の動きを表示して貰いながら、一旦距離を取る。
犯人はそれっぽいゆっくりさで移動しているが。
路地裏をなんかくるくるしているだけで、何をしたいのか良く分からない。
ああいう場所にもしっかり監視カメラはあるんだが。
それでも何か盗めるものでもあるのだろうか。
やがて老人が動き出す。
私は舌打ちする。
基本的に面倒くさい相手だという事は分かっている。現場を押さえても、そもそも相手は何度捕まっても気にする事がないタイプだ。
この世界がつまらないというだけで犯罪に手を染め。
それで捕まるリスクも。
刑務所で受けるダメージも。
一切考える事はない。
そういう奴なので、ある意味無敵とも言える。
さて、相手が大通りに抜けた。
単に此方を苛つかせるための策かだろうか。どうも違うように思える。
警備ロボットを、さっき路地裏で老人がいた辺りに派遣。調査させる。
私自身は老人を追って大通りに。
さて、殆ど誰もいない大通りを行く老人だが。
びりびり嫌な予感がする。
もう、目的は遂げたのではあるまいか。
私が動く。
老人の前に出ると。老人は、動きを止めていた。
「ほう。 狂人警官さんか。 アンタが出てくるとは、わしも有名になったもんだ」
「……既に目的は遂げたね?」
「ふふん、どうだろうね。 だとしたらどうする?」
「こうする」
ショックカノンで躊躇なく撃つ。
今回は、以前ショックカノンで撃つと面倒な相手というのに遭遇してから。色々工夫して、カスタマイズをしたのだ。
老人はびくりとすると、気絶して倒れる。
そのまま、警備ロボットが連れて行った。
AIが苦言を呈する。
「いきなり撃つのは流石に」
「いや、引き金を引けたというのはそういうことだろ」
「私を試しましたか。 まあ知ってはいましたが」
「ふん……で、見つかった?」
見つかったそうだ。
現場に行く。
裏路地にて何をすったのかと思ったのだが。答えは明確だった。
地面の一部が抉られている。
この辺りは地下に下水道もない。
更には土そのものには何の価値も無い。
更に言うと、土を掘りすぎるとシールドが展開されるが。別にそんなことが行われてもいない。
ただし土そのものは、この居住惑星の土地の一部。
いわゆる公共財産の一部であって、立派な窃盗である。
ある意味スリと言えるかも知れない。
スケールが大きすぎるのか小さすぎるのかよく分からないけれども。
事実、老人のポケットには。
土が入っていた。
ショックカノンで黙らせた老人が、既に署で尋問を受けていた。
尋問をしているのはレマ警部だ。
今回は合同任務である。
犯罪組織とかが存在しないから、こういうとにかく面倒くさい犯罪者を相手に警察のエース級が二人も出る事態になっている。
ある意味平和な時代らしいとも言えた。
「おや、お前さんは最近名前を売っているレマ警部だな。 私を躊躇なく撃った狂人警官氏とは真逆と評判の」
「……貴方はまたつまらない事をしましたね、ルプガンスルク」
「ふふん」
老人の名前では無い。
ルプガンスルクというのは、自称だ。
老人の本名は地球人には発音できない。ルプガンスルクというのは、老人が住んでいた星に存在した地名である。
影の土地とでもいうような意味だろうか。
実際にはこれすらも現地での発音とは違うらしいのだが。
老人はご丁寧にSNSにて。
色んな種族に発音できる、自分のコードネームを作って説明しているのだ。
本物の怪盗気取りなのである。
そして盗むものも、基本的に公権力。つまりAIに対する嫌がらせが中心。
他人の財布を盗んだりもするが。
それも何も気分次第。
現在のトリックスターと言えた。
地球で言うと、北欧神話のロキが有名であるが。
彼処まで邪悪ではないとしても。
究極の愉快犯という点では、同類なのかも知れない。
「たかが土を盗んだだけだ。 さあ今度は何年刑務所に入れてくれるのかな? しかもエース級の警官を二人も割いて捜査に当たる何て暇だねえ」
「はあ。 此方としてはむしろ楽なんですけれどね」
「ほう?」
「貴方は見本のような愉快犯だ。 だから嬉々として自分の罪を喋ってくれる。 今までもそうだった。 そして貴方は自分の信念に逆らえない。 今後もそれは同じでしょう」
ふっと、ルプガンスルクは笑う。
その通りだと認めている。
そして自分をも笑っている。
不自由なルールで自分を縛り付けていることを、だろう。
「ならばレマ警部。 あんたを困らせるために今度のムショ入りの間に色々考えておくことにしよう」
「篠田警視正の方は良いのですか?」
「あれはわしの同類だからなあ。 困る事はないだろうよ」
けらけら笑う自称怪盗。
私も当然聴取を見ている訳だが。
それを見越していると言う事だ。
流石に少しイラッと来たが。まあ別に其処まで不愉快ではない。まあ確かに言われた通りだからである。
私も犯人を撃つのが楽しくて仕事をしている。
楽しくて犯罪をしている此奴と、共通の要素はある。
まあ私は犯罪に手を染めない。
それが違うが。
「で、刑期は? 土を盗んだのは認めたが?」
「今回は今までの刑期での反省がないこと、今後も反省がないだろうこともあり、刑期は四年となるようですね」
「ほう、四年か! これはまた、次にやる仕事の構想をゆっくり練れそうだなあ」
「連れて行きなさい」
レマ警部が、笑っている自称怪盗を警備ロボットに連れて行かせる。
そしていなくなると。
大きく溜息をついていた。
平然としている自称怪盗。
ちょっと面白くないな。
「レマ警部もああいう規格外が相手だと流石に分が悪い?」
「そうですね。 ちょっと分が悪かったようですね。 篠田警視正、何か更正させる方法を思いついたんですか?」
「いんや。 たとえばさ、現実世界に出さないとかは?」
「仮想空間にずっとログインさせておくとかですか?」
そういうことだ。
現在、仮想空間で行うシミュレーションでは。現実と遜色ないことが色々出来る。
本人は全く動いていない状態でも、それは変わらない。
筋肉が衰えるどころか、実際に運動したのと同じ刺激を与えて、体に還元させる事だって出来るし。
はっきりいって、仮想空間であると言われなければ、そうだと分からないレベルにリアルなワールドシミュレーターもある。
現実世界が嫌になって、其処に引きこもっている奴もいる。
「彼処まで拗らせてると、更正の方法なんて存在しないよ。 手としては考えておくんだね」
「案としては計上しておきますが。 ただ、かの老人の勘の鋭さは篠田警視正に匹敵します。 すぐに気付かれるでしょうね」
「うーむ、そうなると他に案は……」
「篠田警視正、よろしいですか」
割って入ってくるレマ警部の声。
AIとの会話を切り上げると、そっちと話す事にする。
「どしたの?」
「聴取は見ていたかと思います。 犯人が今後反省することは一切あり得ないでしょう」
「それについては同感だけれど」
「ただそれでは後続への負担が掛かります。 案を出したく思います。 よろしければ、参加をお願いします」
少し悩んだが。
私は受ける事とした。
いずれにしても、あの老人がやりたい放題するのは何とか防がないといけない。そんな事は有識者云々関係無しに誰にでも分かる。
シミュレーションルームに移動する。
仮想空間で話し合う、と言う事だ。
これは署にいる二人だけでは無く、他にも意見を集めるという事なのだろう。
まあいい。私も意見としてはレマ警部と同じだし。話し合いくらいなら良いだろう。
装置内の席に着いて、仮想空間にログイン。
転送された先は、図書館のような場所だ。
ただし書架は空中に浮いていて。
まるで星系のように、円卓の周囲に浮かんでいる。
なるほど。
資料をあそこから取りだして、必要な時に皆で閲覧するイメージか。
勿論こんなのは雰囲気でしかないが。自分が浮いている事もあって、何というかファンタジックな雰囲気だ。
レマ警部がこれを作ったのだとすると、何というか面白い。
私が空中を無重力空間のように移動して席に着くと。
他の参加者も集まる。
有識者と言う事しか分からない。顔出しをしているのは私とレマ警部だけで。それ以外はアバターを使っていた。
八人ほどが席に着くと。
それぞれが名乗る。
私が名乗ると、おののきの声が上がる。
いいぞ怖れろ。
ただ、レマ警部はしらけた様子だったが、
また、レマ警部が名乗ると。
それはそれで、感嘆の声が上がる。
その感嘆に声に、レマ警部が喜んでいる様子は一切無かった。思った以上にストイックな性格である。
自己紹介した私達以外の六人は、いずれも実績を積んでいることで知られる犯罪学者ばかりである。
刑務所などのシステムに対しても、色々口出しをしたり。
犯罪者の更正プログラムなどについても考えたりしているメンバーだ。
AIに意見をして。
それで是とされれば、その意見が採用されることもあるらしい。
どこまで本当かは分からないが。
いずれにしても、錚々たる面子という事は事実だろう。
私だって名前を聞いたことがある連中ばかりなのだから。
軽く議題について話した後。
最初に説明をしたのはレマ警部である。
犯人は潜在的にテロリストになりかねないこと。
今はただ世の中を乱し、警察をおちょくるだけで我慢しているが。その根底には社会への強い不満と憎しみがあること。
それである以上、しょぼい悪戯がいつ大規模犯罪に変わってもおかしくないこと。
それらを淡々と告げる。
レマ警部が苦虫を噛み潰していたさっきの聴取の怒りをぶつけるような事もなく。むしろ頭を切り換えていて冷静極まりない。
というかこの面子が参加している様子からして。
恐らくだが、私が犯人確保したときには、既に会議のスケジュールが組まれていたのだろう。
犯罪学者の一人が言う。
「生まれついての犯罪者というのは確かにいる。 人間の殆どは変わることが出来ないからね」
その通りだ。
教育によってある程度変わる。
環境によってもある程度変わる。
だが根底部分はどうしても変わることはないのが人間だ。
地球人は特にその傾向が強い。
老人になっても閉鎖的な村社会を作って、その内部で陰湿な虐めを繰り返していたりするが。
それは人間という生物がどういう存在か。
教育をしてもどうしてもかわらない部分があるという事かを。
如実に示している。
大人になって変わるのは、性欲が追加されることくらい。
それ以外は人間なんか、幼児期から老人になるまで、根本的な部分では殆ど変わることがないのだ。
勿論変わる事が出来る人間はいるが。
それは例外なのである。
「例の老人は既に二十回以上の犯罪を行い、そして更正する余地もない。 今後も犯罪をする気満々で、何を怖れる事もない。 だとすると、行動制限を掛けるのが一番だと思う」
「家に閉じ込めて、外に出さないようにするとか?」
「実際問題、現在は家から出なくても何も困らない」
それは確かにその通りだ。
現在の人間一人一人に与えられている家屋は、自己修復機能、自動健康診断機能などを含め。あらゆる機能がセットになっている。
話に聞いたところ、家から一生出ない人間も二十%程度いるらしい。
外の世界だったら仮想空間を用いて出る事が出来る。
其処では、現実と全く遜色ない体験をする事が出来る。
それである以上、そもそも外に出る必要がないのである。
何かを入手することも同じ。
古い時代の地球では、転売屋とか言う恥知らずな連中が好き放題をしていたらしいが。
現在では経済も政治もAIが管理している。
そのような輩のつけいる隙は存在せず。
ほしいと思ったものは、適切であれば本人の所に確定で届く。
要するに。
外に出る必要も理由も、もはや存在しないのである。
私のような特殊な仕事の場合は出ざるを得ないのだが。それも好きでやっている事である。
本当に外に出たくない人間は、出無くてもいい仕事をするし。
そんな仕事はなんぼでもある。
それが現在の実情だ。
「あー、おほんおほん。 いいかね」
咳払いをしたのは、最年長の犯罪学者だ。
なんと290000年を生きているという人物で。この業界では最年長だという話である。
それだけではない。
なんと記憶の引き継ぎを行っているとかで。
擬似的な輪廻転生をしながら、50万年くらいずつ、インターバルを開けて生きている人物らしい。
三億年前に銀河連邦をAIが完全掌握したくらいから転生を繰り返しているらしく。
実際に生きている年数は億年を超えるという、とんでもない人物だ。
人生に飽きた場合、コールドスリープやクローンへの記憶転写などを駆使して。こうやって擬似的な輪廻転生を選ぶ人は希にいる。
AIの方でも推奨しているそうなのだが。
今の時点では、地球人に同じ方法を選んだ者は出ていないらしい。
千年程度で本当にどうしようもなく人生に飽きるのが理由らしく。
その壁を越える者は殆どいないそうだ。
いずれにしても、私でも尊敬するべきだと思う程の相手である。
皆が注目する中。
長老と呼ばれる犯罪学者は言うのだった。
「私は銀河連邦のあらゆる犯罪者を見て来た。 AIによって政治経済が管理される前からのね。 度し難い者ばかり見てきたが、今回の犯人も反省も更正も一切可能性がないという点では同類だと思う。 その上、何処かで処分の存在に気付いている節がある」
「なるほど、軽犯罪ばかり意図的に選んでいるのはそういう……」
「そういうことだろうね。 このままだと恐らくだが、数百件でも数千件でも犯罪を繰り返すだろう。 そしてAIが痛みを伴う拷問などをしないことを知っているから、今後も自重する可能性は無い」
皆がため息をつく。
分かっている。
だが、まとめてくれたのは有り難い話だ。
こういう風に、まとめてくれると。
一気に話が進む。
長老は咳払いすると、更に続けた。
「それならば、やはり行動に制限をつけるのが一番だろう。 今回の刑期はさっさと
切り上げてしまい。 以降は本人に制限をつけて、それで暮らさせるのが一番だと思うね」
「具体案をお聞きしましょう」
長老が、淡々と述べた内容を聞いて。
私以外の全員が戦慄していた。
よく考えたものだなあ。
私はむしろそう感心したが。
いずれにしても、話はまとまり。AIもそれで納得した様子である。
「分かりました。 それで試してみましょう」
「うむ。 それでは引き上げさせて貰うよ」
皆、仮想空間からログアウトする。
さて、私はどうするか。
レマ警部にウザ絡みでもするかなと思ったが。本人はそれを察知したか、とっくに帰っていた。
素早い奴だ。
まあそれは別にどうでもいい。
とりあえず。これからあの怪盗気取りのクソ老人がどうなるか。見届けてやるとしよう。
自宅に戻る。
老人には、今頃釈放が告げられている筈だ。後は、老人が精神的に死ぬのを見届ければいい。
怪盗気取りには丁度良い仕置きだろう。
そして今後の、更正しようがない犯罪者に対する、最高の対策にもなりうる。
わくわくしながら家に戻る。
私が家についたころには。
多分老人は、あらゆる意味で後悔しているはずだ。
4、末路
自称怪盗の老人が逮捕され。一切更正の余地無しと言う事で釈放された。
それについては既にSNSでも出回っているが。
この自称怪盗。
驚くほど知名度が少なく。
ほとんどSNSでも話題になっていなかった。
一応犯罪者に興味を持っている人間は見にいったりしている様子だが。それくらいである。
さて、私はと言うと。
今家についたところだ。
しばらく休暇を貰っている。
まあ出張だったし。ここのところ連続での仕事だったので。休暇を貰ったのは当然と言える。
スイに夕食はいらないことを告げる。
帰路の輸送船内で食べてきたからだ。
それを聞くと、風呂に入るようにだけスイは促してきたので。
頷いて、風呂に入って。
後は寝る前に、結果を見ることにした。
さて、老獪以上の老獪。
ある意味妖怪的な犯罪学者の打った手は、どうなるか。
怪盗の様子をAIに聞く。
丁度、今何をしているのか、映像で見せてくれた。
怪盗は、家の中で、錯乱していた。
「巫山戯るな! 外に出せ!」
「家の中では何でも出来る時代です。 外に出る必要はありません」
「人権侵害だ!」
「貴方にそれを言う資格はありません」
その通り。
此奴は社会に不満があるからというだけで、犯罪を繰り返した。処分の存在も何処かで勘付いていたから、敢えて警察に嫌がらせをするような軽犯罪ばかりをしていたが。もしも警察がAIと連動できていなかったら。
もっと重い罪。
それこそ殺人を含めた犯罪を、大量に展開し。
社会を恐怖のどん底に追い込んでいただろう。
そんな老犯罪者は。
家から一切出る事が出来ないというしばりをAIに課せられていた。
そしてSNSも一切禁止。
他人と接触するタイプのゲームも一切禁止。
その結果、老人に訪れたのは。
一切の、未来永劫の孤独だったというわけだ。
勿論人権侵害には当たらない。
何しろ、この家では何もかもがまかなえるからだ。
AIが管理している社会への接点が断たれた。
老人へのペナルティはそれだけである。
老人は、いうならばレマ警部に対する私以上のたちの悪さで、社会にウザ絡みしていたようなものである。
それは要するに。
社会にかまってほしかったということなのだ。
それが、一切合切社会にかまわれなくなったらどうなるか。
まあこうなるだろうな。
最初からこうすれば良かったのに。
そう思って、私は錯乱する老人をによによしながら見つめるのだった。
「出せ! 出せ!」
わめき続ける老人だが、もはやAIすらも答えない。
ドアを壊そうと何度も体当たりする老人だが。
それすらも無駄。
シールドに跳ね返される。
ものは完全に固定されていて。持ち上げることも投げる事もできない。
錯乱した老人は、頭をかきむしって悲鳴を上げる。
いい気味だと思う。
本来だったら、この人物は最悪のテロリスト適正を持っていただろう。地球時代に産まれていたら。超高確率でシリアルキラーかスプリーキラーになっていたはずである。或いは面白半分にテロで大量虐殺をしていただろう。
それも、自己顕示欲のためにだ。
そんな輩に容赦なんていらない。
これは適切な処置だと言える。
意味を為さない絶叫を上げる老人が、壁にまたタックルしようとしたが。柔らかく受け止められる。
怪我さえさせて貰えない。
何もかも、自分が歪んだ形で愛していたものとの接点を取りあげられた老人は。
ひたすらに狂乱の限りを続け。
それは他の誰にも届かないのだった。
なるほど、これは良い罰だと思う。
もしもこれで反省するならよし。
反省しないようだったら、そのままでいいだろう。
老化処理はそのままにしておくそうである。
要するに年老いて死んだり、餓死したりする事さえない。
栄養に関しても、強制的に摂取させるそうである。
つまるところ、外に対する接点が奪われた以外は。そのまま人権も保障され、サービスも今まで通り受けられる。
ある意味もっとも軽い罰であり。
同時にもっとも重い罰だといえた。
まあいい気味だろう。
私は映像を切ると、小さくあくびをした。
これなら、正直罰としては充分の筈だ。
そもそも愉快犯のトリックスターに、まともな方法で対応しようとしたのが間違いだったのである。
あれなら人権を侵害することもなく。
サービスを奪うこともなく。
最大級の罰を与える事が出来る。まさに完璧な方法だ。それでいながら、これ以上もないほどに残酷でもある。
流石に億年以上生きている怪物だな。
私も苦笑いしていた。
さて、あの勘違い自称怪盗が当然の仕置きを受けたところで。
後は気持ちよく眠る事にする。
次は犯人を気持ちよく撃てる仕事が来ますように。
今回は犯人が最高の結末を迎えたから、それでいいとする。
寝ると、夢を見ていた。
夢だと分かる。
一期一会だ。
私は、どうしても逮捕できない犯罪者がいる時代にきていた。
逮捕しても金で裁判を買収して出て来てしまう。
刑務所に入れたところで、刑務所なんてまともに機能していない。
捕まえるだけ無駄。
そんな犯罪者がいた時代だ。
だから、私は殺した。
片っ端から、その手下も含めて。
犯罪者は麻薬組織のボスだったが。その手下含め千人以上を、十日掛けて全部殺して回った。
それが終わった後、すっきりした。
麻薬の原材料になる植物の畑も全部焼いて、塩も撒いておいた。
何もかも片付いた後。
当然私を逮捕するとか言う話が持ち上がった。
また巫山戯た話である。
私は法曹がやらなかったから、やるべき事をやっただけ。
というわけで、さっさと逃げる事とした。
腐敗しきった警察に、わざわざ捕まってやる理由など無い。とりあえずゴミ処理は終わったので。
ついでなので、私の逮捕を命じた今まで麻薬組織のボスの飼い犬をしていたクソ警官も全部まとめて処理して。
その国を出た。
そこで目が覚めた。
頭を振る。
何となくしか覚えていないが。
今の時代に産まれて良かったのだなと、私は思った。
今の時代は、きちんと犯罪に罰が降される。
そうではなかった。少なくとも地球時代は。
金があれば何をしても許された。
これは殺人も含まれた。
そんな時代に産まれていたら。私はきっと大量虐殺を行う事になっていただろう。カス共を皆殺しにしていた筈だ。
そして私も殺された。
そんな社会はクソくらえだ。
なんだかんだで、きっちり法が機能している今の時代は悪くは無いな。
たまにカチカチすぎて、私が楽しく犯罪者を撃てないけれども。
それでも、今の方が地球時代よりずっとマシだ。
伸びをすると、起きだす。
AIの事だ。
また私に無理難題をふっかけたり、死ぬほどつまらない仕事を向けてくるだろうが。
それでも私は。
警官としてやっていく。
それだけだ。
(続)
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