最大の敵は退屈

 

序、戦いが始まる

 

警備艇に乗り込む。私が乗り込んだ警備艇はごく標準的なもので、警官は私しか中にいない。

警備艇は基本的に車感覚で乗り回すものではない。個人で扱うようなものではない。

搭載している火力にしても、はっきりいって人間一人がどうこうして良いものではないからだ。

流石にこれほど強大な存在になってくると、人間一人が扱っていいものではないし。利用にも責任が伴う。

暴悪の権化と言われる私でも。

それくらいは知っているし。

勿論把握はしている。

警備艇の一角に、自分用の部屋を確保。今回は超長期任務だ。仕事の殆どはレポートになるだろう。

私は狂人警官呼ばれて一定の抑止力になっているが。

別に私がいなくてもどこでも回る。

そういう仕組みになっている今の時代だ。

別に気にすることもない。

管制室に移動。

いわゆる艦橋に近い機能があるが。

剥き出しにはなっていない。

まあ被弾したらひとたまりもないから、というのが理由である。

実際問題、シールドの性能が高いので。別にむき出しにしていても大丈夫だろうとは思うのだけれども。

それでも念のためという奴である。

コンソールの前に座ると。

さっと機能が展開される。

しばらくは、私はこの機能とにらめっこしながら、レポートを書くことになる。退屈だなあ。そう思う。

退屈な仕事だ。

それは告げられていたけれど。

もう退屈である。

今回の任務では、トラブルが起きる可能性が絶無である。

何しろ人間が関わらないのだから。私以外は。

そして今回の任務中は。

AIも出来るだけ話しかけては来ない、と言う事になっている。

今の時代の人間は、生き死にを自分で決められる。

既にあらゆる病気は克服されてしまっているから、である。

不老処置も簡単で。肉体年齢も好き勝手にいじる事も出来る。

人間が死ぬのは、特例中の特例である殺人事件や、ほぼ起きる事がない事故。

後は、一つだけ。

人生に飽きた人が選ぶ、安楽死だけだ。

この退屈に耐える仕事をやっておくと。その安楽死を選びにくくなるらしい。

そういう統計があるそうだ。

億単位でデータを取っている統計なので、まあ信頼していいだろう。

椅子を前後に揺らしながら。

私は警備艇が宇宙港から出発したのを確認した。

とりあえず、まずは第一段階終わり。

次だ。

この警備艇は、これからある大型輸送船の護衛につく。

輸送船の方が当然警備艇より大きい。ましてや大型輸送船である。

特殊用途の大型輸送船は、軍用の戦艦の武装を外しただけ、なんてケースもあるし。防御機能は健在。

更には、警備艇の時点で。地球の古い時代のSFに出て来たような宇宙戦艦を凌ぐ戦闘力を持っている。

てだしを出来る奴などいない。

例えば、アンドロメダなどの別文明から来た奴が襲ってくるとかそういう可能性はあるが。

そもそも別文明からの侵入なんて、起きた試しがないらしいし。

アンドロメダとは何やら同盟関係にあるらしい。

いずれにしても、問題はない。

それでも万が一に備えて。

私は輸送艇の警備に当たるわけだ。

輸送艇が見えてきた。

全長30000メートルと、通常の十倍くらいある大型のものだ。このサイズだと、元は多分戦艦だろう。

特殊用途の輸送船で、搭載しているものが何かは分からない。

惑星開拓用の物資かも知れないし。

或いは戦艦などの材料かも知れない。

どっちにしてもはっきりしているのは、知る術は無いし。知る必要もないと言うことである。

私は守れば良い。

それだけだ。

そのまま私は、コンソールの前で、さまざまなやりとりが為されるのを見る。

AIがそれぞれの船を見守り。

それぞれの船に搭載されている個別のAIどうしで認識や、航行についての情報をやりとりしている。

いずれにしても、動力炉の燃料とかは気にしなくてもいい。

私はただ、此処で見張るだけである。

輸送船と合流してから、周囲に何隻か集まって来た。

いずれも無人の警備艇。

人が乗っているのは私の奴だけらしい。

二十隻ほどの輸送船が、警備艇を囲むようにして、輪っかのような陣形を取る。

私は輸送船の真上である。

とはいっても宇宙空間での話だから。

単に輸送船の背中側、というのが正しいか。

前面や後方に展開する艦はいない。

いざとなればそちらに展開し、シールドを厚くしたりする。それだけである。

「さて、平和は乱されそうにないな。 乱されてほしいけど」

呟くが。

今日はAIは答えない。

これから、私は最悪の退屈と戦う事になる。

それは分かっているが。

それはそれとして、ぼやきたいのである。

今の時代、人生には時間の上限がない。

地球人類の場合、千年くらいで人生に飽きてしまうと言うのがデータとしてあるらしく。これは他の宇宙人と比べるとかなり短いらしい。

それをどうにかしたい。それがAIの考えだそうだ。

私は、どうなのだろうか。

三十年程度しか生きていないが、それなりに波瀾万丈の人生を送ってきている。

それは決して楽な道のりではなかったし。

私なりに苦労をしてきた。

人生に飽きるには、まだ早いような気がする。

まあ現時点では、少なくとも死のうと思った事は無い。

犯罪者を撃つのは楽しいし。

今の仕事は天職だと思っているからである。

実際問題、お預けを食らう事は結構あるけれども。

それでもそこまでの不満にはなっていない。

また私の行くところには相応数の犯罪者が出るけれど。

実際問題の犯罪者の母数は極めて少ないのが現実なので。

AIとしても、犯罪が起きるところに、警官を集中配備していると言うだけなのである。

輸送船が悠然と行く。

地球には鯨という大型生物がいるが。

それを思わせる。

ほどなくして、空間転移に入る事がアナウンスされる。

いつものAIのアナウンスは発音とかに人間味があるが。

完全に機械的なアナウンスである。

ぼんやりしているうちに、空間転移は終わる。50光年ずつ空間転移を繰り返して、それを淡々と続けていくらしい。

今回、AIは基本的にナビはしてくれるが、話には応じてくれない。

それは事前に告知されているので、ぼやく気にもなれない。

一応コンソールから確認して、50光年移動したことは自分でも理解した。光の速さで五十年掛かる距離だが。

空間転移の技術の前には、まあこの通りである。

しばらく周囲を警戒。

とはいっても、全自動で、だが。

古い時代のSFでは、ポンコツAIが人間に足を掬われたり、裏を掻かれたりして負けるものだが。

実際には成熟しきったAIは、人間につけいる隙など与えない。

ましてや今の時代、個人所有の装備で、この艦隊を倒すどころか。傷をつけることすら不可能だ。

それでも徹底的に警戒をしているのだから。

AIのやり口の徹底ぶりと、油断のなさには驚かされる。

マンパワーの必要ない世界。

それがこの銀河連邦だ。

だが、人間があくまで主役で。

AIは人間が快適に生きられるように。人間が動かしていては、社会に不具合をきたすシステムを全て担当する。

それだけの話である。

あくびをしながら、淡々とレポートをこなす。

今回の仕事では、コンソールに向かってたまに状況を確認しながら。ひたすら退屈に選りすぐられた仕事をやっていく事になるだろう。

その経験が。

人間として、いきられる時間を伸ばすなら。

私はやっておきたい。

それだけの話である。

「……また空間転移か」

ぼやく。

艦隊が整列し始め。そして空間転移をした。

ほんの一瞬の事だ。

動力などに私が触れる事は無い。元々私はエンジニアではない。警官だからである。

航行の内容もしかり。

私はこの警備艇の艦長では無い。ただの警官なのだから。

休憩を貰ったので、自室に移動。

自室では、インターネットへの回線を意図的に重くしてある状態で、携帯端末が固定されている。

嫌がらせのような不便な状況だが。

こうしないと、自室に閉じこもって仕事をしなくなるケースがあるらしい。

まあAIの奴の言う事だから、それこそ数え切れないデータを見て来て、それで改良をし続けているのだろう。

ある意味私はモルモットだが。

それはそれとして、まあこの仕事の意図は分かるので。

そのまま続行につきあう。

休憩時間は、SNSを軽く見た後。重くて見ていられないと判断。

風呂に入ってリラックスした後。寝る。

寝る時には、きちんと環境を整えてくれるのは有り難い話だ。

AIとしての、最後の優しさという奴か。

食事に関しても、ほぼ完璧なものが出てくる。

それもまた有り難い話だ。

しかも私の好みに合わせてくる。

衣食住に関しては、完璧を保ちつつ。

それ以外は退屈極まりない生殺し状態を維持してくる、という感じである。

まあそれもまあ仕方が無いだろう。

この仕事の主旨から考えれば、である。

起きだしてから、機械的なアナウンスに従って、管制室のコンソールに。基本的にノルマなんてものはない。

本人の能力にあわせ。

完璧にテンプレートが用意されているレポートを。そのまま作っていくだけである。

AIがやっている仕事の一部を担当するのは、此処でも変わりが無い。

ただ今回やっているのは、どこの交通状態がどうのこうのだの。この惑星での犯罪者の推移だの。

私に取っては拷問レベルで退屈なレポートであり。

犯罪には実際にはなんの関係もなく。

私としては、犯罪者を撃つ妄想の手助けにもならないという、悪夢のような代物だったが。

とりあえず黙々と無言で作業を進める。

私としても繰り言を呟く気にもなれなかったし。

淡々と作業を進めて、今後に慣れておこうと思ったからである。

娯楽も殆ど排除されてしまっているから。

休日のように過ごすわけにも行かない。

こういうストレス耐久テストは、個人事に相当耐性が違ってくると言う話もあるのだけれども。

少なくとも、私は。

いつも不満ばかり口にしている割りには、結構平気だったようだった。

よく分からない話である。

普段物静かにしている奴が、こういうストレステストではかなり一瞬で参ってしまうケースもあるそうで。

また、屈強でどんな仕事にも音を上げない奴が。

この手のストレステストでは、そうそうに脱落してしまう事もあるそうだ。

その辺りの仕組みは分からない。

いずれにしても、まだ私にはストップが掛かっていない。

ということは、当面続行をするのだろう。

小さくあくびをすると、レポートをガンガン書く。

時々コンソールから現在の状態を確認するが。小規模な空間転移を繰り返す以外の事はしていない。

ただ、このまま行くと、私が生まれて育ったダイソン球から。

それこそ今まで産まれて初めて、というレベルまで離れるかも知れないが。

私は基本的にルーチンワークを持っていないし。

離れた所で、別にそれは苦にならないのでどうでもいい。

しばし、静かな状態が続く。

人によっては、これもストレスになるのかなと。

レポートを書きながら思う。

私は別にストレスにならないけれども。

そういえば何処かで聞いたな。

寂しいのが大の苦手な人がいるとか。

私にはよく分からない。

私は基本的に、ずっと自分だけのような気がする。

AIはあくまで相棒。サポート要員として割りきっているし。

自分自身が天下にあり。自分だけが天下の構成員、という傲慢不遜な思考を何処かで抱いている節がある。

それでいながら、この環境に適応する事が問題ないのだから。

よく分からない。

まあ自分の深層に潜りすぎると。

それこそ深淵に覗き返される事になる。

これを口にした地球人も。晩年は案の定深淵に覗き返されて発狂されてしまったという話だし。

考えすぎない方が良いだろう。

黙々と作業を続けて。淡々と進めて行く。

レポートをどれだけ書いただろうか。

いつの間にか、休憩の指示が来ていた。

あくびをしながら自室に戻り。休憩に入る。

二日目。

風呂に入った後、軽く今までの記録について見たが。

耐えられない人間は、半日でギブアップするそうである。もっと早いケースもあるそうだ。

今までの仕事とたいして変わらない、と思ったのだけれども。それでも、やはり耐えられない人は駄目なのだろう。

まあ人は人。

私は私だ。

寝る。

そして起きだした時には、またかなり距離を移動していた。

コンソールにつく。

距離などを確認して、移動距離そのものを知る。

また随分と移動しているものだなあ。そう思った。

まだまだ、このストレス試験は始まったばかりである。

今三日目が始まった所だが。

ひょっとしたら、何十日もやらされるのだろうか。

そう思うとちょっとげんなりしたが。

まあその後、好き勝手に撃ち放題ツアーとかがあるだろう。

AIはあれはあれで、ご機嫌取りは結構出来る方だ。

ストレスも容赦なく掛けてはくるが。

その一方でちゃんとご褒美もくれるのである。

その辺りは、私としても信頼している。

飴と鞭を使い分けられる奴でないと、ここまで安定した文明を維持管理なんて出来る訳がないので。

まあ話としては、当然だろう。

レポートを後は無心に書く。

その日は、結局膨大なレポートを書き続けるだけで仕事は終わった。

三日目が終わって。

四日目に入った頃。

私は、この耐久ストレス試験の恐ろしさを、徐々に理解し始める事となった。

 

1、兎に角退屈だよ護送任務

 

私がぼんやり見ている先で、一切介入できないまま。全自動で荷物の積み替えが行われている。

大型輸送船に対して横付けした小型の輸送船が。物資を色々受け取っているのである。

その間、警備艇は文字通りぴくりともしない。

私は一方。一切音がしないまま物資のやりとりをしている輸送船同士を、見ていなければならない。

警戒網は自動で働いているとは言え。

何かあるかも知れないからだ。

護送任務といっても、そもそもこの艦隊に仕掛けられる存在なんていないし。いたところで自動迎撃システムで秒で返り討ちである。

だから本来はやる事は無いのかも知れないが。

私は警官だし。

護送している輸送船が運んでいる物資については把握し。更に引き渡しも監視しなければならない。

小さい方の輸送船にも警備艇がついている。

ひょっとするとだが、あの警備艇には人が乗っているのかも知れない。

私には関係がない話だが。

相手側に人が乗っていたとしても。

挨拶すら、仕事の関係上出来ないのだから。

普段の仕事が、如何にストレスがないのかよく分かってきた。私も五日目に突入した今では。

流石にイライラが募るようになって来始めていたほどだ。

それでも、まだまだ大丈夫。

ストレスが危険ゾーンに入ると、AIが介入に来るらしいが。

まだいつもと大して変わっていないらしい。

特殊な訓練という事もあるのだろうが。

それでもまだ私は壊れるには程遠いところにある、と言う事なのだろう。

本当にそうなのだろうか。

何だか甚だ疑わしいが。

いずれにしても、むすっとしながら輸送船同士のやりとりを見送った。

しばらく停泊している。

移動さえしない。

今度は別の輸送船が来て、積み込みを開始した。

この辺りでなんで物資を入れ替えるのかはよく分からないが。いずれにしても、護衛がついている大型輸送船だ。

私はあくまでメイン任務のついでとしてここに来ているだけ。

私のストレス耐久試験はあくまでおまけであり。

輸送船の物資を護送するのが、これだけの宇宙艦艇が動いている本当の理由だ。

それくらいは私にも分かっているから。

文句を言うつもりはない。

いずれにしても、もう輸送船同士のやりとりは眠気をかみ殺しながら見ているだけである。

相手側の警備艇に警官が乗っていたとしても。

厳重な警備だなと思うのか。

それとも小さな警備艇ばかり警備につけているなあと思うのか。

それすらも分からないし。

分かろうとしても手段が無い。

やがて、退屈極まりない物資の無駄のないやりとりが終わり。輸送船は離れていった。

この様子だと、仮に何処かに停泊したとしても。私の退屈が紛れることはないだろうな。そういう確信さえ湧いてくる。

やっと大型輸送船が動き出した。

寝たい。

そう思うが、生憎AIから許可は出ていない。

なお、時間も表示されない。

これもストレス増加の一要因となっている。

別にそういう主旨の仕事なのだからかまわないのだけれども。

まあ、いいか。

半ば投げ槍に、監視任務を終えると。レポートに戻る。レポートの内容も、今回の仕事に関係していればまだ退屈も紛れるし。仕事に対する興味だって湧くだろうに。

まあ、だからこその耐久試験なのだろう。

寿命を延ばすため、か。

本当だろうか。

いつも私に酷い目にあわされて苦労しているAIが、ささやかな仕返しをしているのではないのだろうか。

いや、それはないな。

あいつは基本的に余程の事がない限り人間は殺さない。

三億年くらい前にそういう殺す必要がある改革は終わったから、なのだろう。

宇宙海賊をことごとく始末したように。

腐敗官吏や腐敗軍人も、全部整理整頓したように。

それに、彼奴がその気になれば。

私なんて一瞬で蒸発なり即死なりさせられるはずである。

苦しむのを見て楽しむのは、私のような人間。

明らかに自我を持っているAIだが。

人間とはだいぶ思考回路が違っている。

故に、わざわざ苦しんでいる様子を見て楽しむような事をするのはないだろう。

レポートを淡々と、雑念混じりに仕上げる。

仮に誤字脱字があっても、二次チェックの段階でAIが修正してしまうので、やり直しと突っ返される事は無い。

「退屈だな……」

思わず口に出る。

誰に聞かせるつもりも無い。

単なる繰り言だ。

レポートに手をつける。ガンガンレポートを処理する。

まあ、これは私の精神力と言うよりも、むしろ適正の問題だろう。

ストレスを掛けるにしても、運動負荷とかは掛けすぎると普通に死んでしまう。

この精神負荷を掛ける奴にしても。人によっては半日も耐えられない。

私は、ストレスに強い、ということだ。

あまり自覚はしたことがなかったが。

最短記録だと二時間とかでギブアップするようだし。

そういうことなのだろう。

五日目が終わる。

風呂に入った後、爪を切ったり磨いたりする。

とにかく意図的に携帯端末を使いにくいようにロックされているので。最低限の情報しか手に入らない。

ざっと見た感じでは、面白いニュースは特にない。

SNSなどでは、宇宙海賊がらみの話題が一時期大荒れしていたのだけれども。それも今はもうない。

というか、幾つか話題になっている事はあるが。

どれもこれも私には興味が無いないようだ。

私の推しのデジタルアイドルも、特に活動をしている様子は無い。

まあいつものような細かい配信はしているが。

それくらいだ。

いずれにしても、回線は重いし見るのは大変だしで、そろそろもう限界になって来たけれども。

此処までストレスフルな環境だと、これですら癒やしになってしまうのだから草も生えないとはこのことだ。

昔からあるフレーズらしいが。

なんで草なのだろう。

それはよく分からない。

いずれにしても、寝る事を告げる。

こうして、次の日になる。

次の日が来てしまう、とも言える。

私はおかしくなってきていないだろうか。

ちょっと不安になってきていた。

 

夢を見る。

いつもの殺伐とした夢ではない。私はなんかどこかの孤児院か何かにいるようだった。育てる側として、である。

孤児院の子供達は基本的に荒んでいる事が多い。

当たり前の話だ。

今の時代なら兎も角、地球時代孤児院に来るような子は、色々な問題の結果来ているのである。

親を失ったのは少なくとも確実。

幼い一番大事な時期に。精神の形成を失敗したのである。

それは歪む。

だからとても大変だったという話は聞いていた。

一部の孤児院では児童虐待も当たり前のように行われていたと聞いているが。此処ではそれも無い様子で。

良心的な心優しい孤児院長の下で。

私は苦虫を噛み潰しながら、淡々と働いていた。

子供に遊んで遊んでとせがまれる。

分かった分かったと答えつつ、適当に遊んでやる。

子供との遊びは大変で。

手加減すれば接待プレイだとすぐに見抜かれるし。

本気で叩きのめせば泣かれる。

ゲームである程度わいわい盛り上がったあと。

私は子供らが寝るのを確認してから、孤児院長に話をしに行く。

孤児院長は正真正銘の善人であり。

私が見て来た人間とは根本的に違う別種の存在だった。

子供達の無事と未来を心の底から案じており。

どんなに悪辣な性格を持ってここに来た子供でも。一月としないうちに、孤児院長の言う事は聞くようになるのだった。

「今日も大変でしたよボス」

「××さん。 ボスはやめなさい。 子供達はただでさえ悪い心の影響を受けやすいのですから」

「へい。 それで一通り終わりましたけれど、後は寝て良いですか?」

「貴方は良くやってくれています。 しかし子供達の事はあまり好きではないようですね」

その通りだ。

子供なんぞ大嫌いである。

ただしメシの種である以上、きちんと働く。それだけだ。そうしっかり伝える。

孤児院長は顔色も変えないし、怒る事も無い。

別にそれでいいというのだった。

「貴方は子供達を嫌っていても、きちんとすることはしています。 それはなかなか出来る事ではありません。 幾つか直してくれれば、それだけで充分です」

「はー。 しかしボ……院長もよくもまあ、私みたいな悪党に接していてそんな綺麗な心のままでいられますね」

「人にはそれぞれの心があります。 私はそれを受け入れているだけです」

「……」

それが難しいんだよ。

内心で呟きながら、退出する。

他にも働いている職員はいるが、私よりもさぼっている奴もいるし。子供は好きだが仕事ができない奴もいる。

そいつらに混じって寝る。

そして、目が覚めると。

私は私に戻っていた。

なんだろう。

随分とまあ、私らしくもない夢を見たような気がするが。

まあそれはそれでどうでもいいか。

伸びをして、それから着替えをする。夢の内容をこうも覚えていないと、時々不安になるのだが。

AIによると体質の一種らしいので。

まあ気にしなくてもいいだろう。

管制室に出向いて、仕事を開始。

淡々と仕事。

というか、レポートをこなして行く。

ふと気付くと、既にダイソン球を出てから、3000光年を移動していた。

大型輸送船の能力に合わせれば、もっと凄いスピードで移動する事も可能なのだろうが。警備艇の能力にあわせて、敢えてゆっくり艦隊行動を取っているのだろう。

さて、私はまだストレスには屈しなさそうだな。

そう薄く笑うと。

コンソールで、レポートの作成に入る。

淡々とレポートをこなして行くと。不意に別の仕事が割り込んできた。

「前方に艦影があります。 艦種識別を開始……」

アナウンスをするのは珍しいなあ。

そう思いながら、手を止めて顔を上げる。

見た感じ、普通の輸送船だ。

やがて、警備艇と輸送船のAI同士がやりとりを開始していた。

「なるほど、乗員のトラブルによって、予定よりも移動が遅れていて、コースに問題が出ていると」

「そうなります。 これより空間転移を繰り返して、遅れを取り戻す予定です」

「良い旅を」

「ありがとうございます」

通信もそれだけ。

私には介入の余地もない。これも救済イベントの一つかな、とは思ったけれども。あのAIが、そんなに優しいとも思えなかった。

ニアミスした輸送船が空間転移するまで一度停止する。

この物資の護送は、多少遅れても問題ないのか。それともモノよりも輸送船が乗せている人間の方が大事なのか。

AIの性質的に後者か。

そういえば。何となくちょっと引っ掛かる事がある。

何か夢の内容と被るような。

まあいいか。

まずは書きかけだったレポートの再開だ。そのままレポートを書き上げて、提出をしてしまう。

これですっきりした。

まあ引っ掛かるところもあるが。一つずつ解決していくだけだ。

しばしして、空間転移をしたらしい。もう何度目なのやら。特に問題が起きないのなら、それでいい。

黙々とレポートを書く。

それにしても。

退屈なレポートだな。

本当に全くという程興味を感じない内容のレポートばかりで。意図的にやっているのだろうけれど。

ある意味、人によっては本格的な殺意を感じて、逃げだそうとするかも知れない。

私は特に平気なので、何も気にしないが。

もう一つあくび。

「今日は長くなりそうだな……」

また繰り言だ。

最初に色々あったこともある。どうせこの後は、何も起きないだろう。

今のニアミスだって、AIが何かを仕込んだ可能性もある。あいつならそれくらいは余裕で出来る。

そしてその予想を裏付けるようにして。

実際、その日は以降淡々と空間転移を繰り返すだけで。

何も起こらずに終了した。

再び自室に戻る。

流石に私も少しばかり参ってきたかも知れない。

苦虫を噛み潰すというのはこのことだ。

流石に、意図的に見づらいところにくっつけられている携帯端末を触る気にもなれない。此処まで退屈だと、精神にダメージが出始めるかも知れない。

いや、そんなでもないか。

実際問題、駄目な人は二時間くらいでアウトだという話だ。

そういう人が弱いのでは無く、単に適正の問題である。

まだまだ私は平気だ。

風呂に入って、一旦リフレッシュする。

ルーチンワークを持っている人だったら、それで多少はストレスを解消できるのかも知れないが。

私の場合は別にそれもない。

ただ、犯罪者を撃てないのは苦しい。

ため息をつくと。

私は犯罪者を撃ちたいとぼやいて。それを何回か繰り返した後。もう諦めて、寝る事にした。

 

また私は夢を見る。

どうせ覚えていないんだろうなと思いながら、黙々と私は夢の中で手を動かす。

私がやっているのは庭木の手入れである。

盲目のまだ幼い主君が、この庭が好きだった。

もうこの世にはいないが。

その主君も不幸な人で。

目が見えている時代は庭が大好きで。

私の事も随分と慕っていたっけ。

私が極悪人である事は分かっているらしいのに。それでも私にかまっていたと言う事は、多分寂しかったのだろう。

此処はもう終わってしまった世界。

私はその主君の遠縁で。

唸るほど金を持っている主君の一族の末端。

庭いじりにしか興味が無いと知られていて。だから此処を任されている。

まあそう思わせたのだけれど。

淡々と庭を弄る。

庭木が終わったので、薔薇園の手入れだ。

結構な力仕事だが。

私には特に問題にならない。

いつでも、ふと思い出してしまう。

主君がまだ生きていた頃の事を。

あどけない笑みを浮かべて、この薔薇園を天国のようだといっていた事を。

私はその頃は庭木の手入れなんて面倒で仕方が無くて。マニュアルを見ながら黙々と手入れをしていたのだけれども。

あんなに大絶賛されると、やる気もでるし。

なにより既得権益層の腐りきった連中の有様を見るのは反吐が出るようだったので。此処での仕事は嫌いでは無かった。

だが、それも終わりが不意に来る。

近所のストリートギャング共が。勝手に幽霊屋敷と呼んでいる此処に押し入ってきて、スプレーをぶちまけたり、暴れたりし始めたのである。

其奴らは、多分私を無力な庭師だと思っていたのだろう。

暴れ出して、すぐに静かになった。

全員私が殺したからだ。

全部殺して、肥料にした。

その後、ストリートギャングの親玉を含めた連中が乗り込んできたが。銃器で武装していた其奴らも、此処を知り尽くしている私にはかなわなかった。

皆殺しにして綺麗にした。

その後は、街のギャング共が来た。

ちなみに実家は状況をガン無視。

私をこの機に始末できればいいと思っていたのだろう。

まあギャングだろうが何だろうが関係無い。

皆殺しである。

やがて、何故か警察が来た。

ギャングが大量に失踪した。この庭園に殺人鬼が潜んでいるという話だと。

ギャングなんか死んでもどうでもいいだろうよ。

私がそう返すと、警官は露骨に顔色を変えて。何か調べ始めた。

やがて私は何故か刑務所に放り込まれる事になったが。勿論そんな判決を受け入れるつもりはなかった。

法廷にいた人間を皆殺しにすると、庭園に戻った。

其所は、既に整地され。

駐車場になっていた。

呆然としている私を、軍隊が囲んでいた。

目が覚める。

何だ今の夢。

庭園で庭師をしていたような気がするが。何かよくわからん。

内容を殆ど思い出せないのだが。

いつものようにバイオレンスで楽しい夢だったような気がしない。バイオレンスだったような気はするが。

それ以上が、どうも違和感でごっちゃごちゃなのである。

本当に意味が分からない。

夢の内容そのものは覚えていないから、どうしようもない、というのも事実であるのだし。

何よりも、この気色が悪い違和感は何だ。

此処では。寝ていてもストレスになるのか。

溜息が何度も零れた。

そして、壁をガンと殴りつける。私の手は頑丈なので、別にどうともない……とはいかず、普通に痛い。

手を振って痛みを我慢しながら、とりあえず着替えることにする。

ひょっとして、夢についてもAIの奴がなんか細工をしているのだろうか。

今回は一切合切会話をしないという事で、普段とは違う仕事である事は分かっているのだけれども。

もしも夢にまで介入しているのだとすれば。

それはなんというか、あんまり気分が良い事では無い。

なんだか大量に殺戮しまくったような気がするのだが。

それにしては気分が良くないのはなんでだ。

悪党を大量に殺しまくるのは、私としては楽しくて仕方が無い事なのだが。

いずれにしても食事を終え、着替えも済ませて、そのまま管制室に出向く。

8日目か。

そういえば、記録はあるのだろうか。この手の仕事に。

ストレス耐性を試すと言う事で、色々条件は違うのだろうが。

軽くコンソールで調べて見る。

そうすると、中々驚くべき結果が出た。

ストレス耐性試験は、基本的にその人間にあわせて調整する。このため、記録はどんどん伸びてきているらしいのだが。

それでも、最大記録は三十日ほどだそうである。

それも、地球人とは比較にならない程ストレスに強い種族で三十日ほどと言う事だから。

今、私は結構な記録を打ち立てているのかも知れない。

凄惨な笑みが浮かんできた。

これなら、いっそのこと。

今までの雑魚共を蹴散らして、面白い記録を作ってやろうではないか。

そう考えると、俄然楽しくなってくる。

私はコンソールで、キーボードに指を叩き付け始める。

レポートを書くのに、モチベーションが上がるのは始めてである。

薄笑いで、レポートをやるのははじめてだった。

 

2、退屈の恐怖はまだまだ

 

なんか色々楽しくなってきたところで、十日を超えた。

この耐久試験。

最初から退屈との戦いだと知らされている。

それよりも、私がそもそも記録的な長期間耐えていると言う事が分かって、それで何か面白くなってきたのはある。

変にスイッチが入った私は。

レポートをガンガン書き上げ。

いつもの数倍の効率で、どんどん仕上げていた。

AIがこれなら嫌みを言いそうだが。

今回、彼奴は介入してこない。して来ているのかも知れないが、いずれにしても私には分からない。

勘がまるで働かないので、介入は実際にはされていないのかも知れない。

なんともいえないが。

はっきりしているのは、今私は楽しい、という事である。

ダン、とキーを音を立てて叩き。

そしてレポートを提出。

ずっと笑いが止まらない状態である。

何かおかしくなってきているのだろうか。

それはそれで、私は別にかまわないけれど。

まあそれでも、得に問題はない。

レポートを半笑いで仕上げていても、それに対して文句を言う奴は存在していない。

ならば、淡々とやっていくだけ。

そしてどんどん楽しさはヒートアップしていくようだが。

あまり飛ばしすぎると多分自分がどうにかなると思うので。そこそこで引き締めておくとする。

或いはもうおかしくなりはじめているのかも知れない。

そうだとしたら、後遺症が出る前にAIが中止を掛けるだろう。

その辺りは、彼奴はしっかりしている。

信頼は確かにある。

だからこそ、無茶をぶっ込めるわけだ。

ワハハハハ。

レポートをまた仕上げながら、そう笑う。

さて、これで何枚目のレポートか。通常勤務に復帰しても、これはレポートなんか当分書かなくても良いだろう。

どうせ私が撃った犯人の関係書類だって、大半はAIが作っているし。

そうでなくても別の奴が書いているのだから。

古い時代はハンコが必須で。

書類の作り方には職場ごとのローカルルールが存在して。

とにかく面倒くさい時代もあったと聞いているが。今は違う。

だから、気にせず淡々とやればいいだけで。そしてそれだけで馬鹿共と差をつけられる。実に面白いではないか。

さて、レポートを幾らか書き上げたところで、軽くデータを見る。

意外な事に、私が生活しているダイソン球からはそれほど離れていなかった。むしろ前に見たときより近いくらいだ。

これはひょっとしてだが。

直線的に何処かにものを運んでいるのではなく。

他の小型輸送船と連動しながら、重要な物資を輸送しているのだろうか。

可能性はある。

既に折り返しに来ているのであるとすると。

私の家の近くを、ぐるぐる回ることになるのかも知れない。

まあ確かに、それはそれで分かる気がする。

そもそもこれは耐久試験。

退屈に耐える仕事だ。

耐えられない奴はすぐに駄目になると言う話も聞いているし。

あまり家から遠い地点には行かせられないのだろう。

宇宙港にも寄る様子がない。

万が一を備えて、脱走を防ぐためだろうが。

何というか、細かい部分では配慮が出来るんだなと、ちょっと呆れてしまった。普段はもうちょっと機械的で杓子定規なのに。

いや、逆か。

私にはその方が良いと判断して接しているのだろう、彼奴の事だから。

更に言えば。

今回も、敢えてこういう航路をとる輸送船を。退屈に耐える仕事に抜擢したのかも知れない。

顔を上げる。

管制室のモニタがたくさんあるが、殆どは自動処理プログラムで動いている。

たまにロボットがアクセスに来るが。

それも一瞬で終わり。

無線で瞬時にデータを交換して終了である。

その気になれば、それさえも必要ないのだろう。

超光速通信や、AIがいつも話しかけているように。何か人間には見えないネットワークを使っているのだろうから。

モニタはいずれにしても、人間を遠ざけるように、膨大なデータをずっと流し続けている。

その様子を見ても、特に心が動くことは無い。

いわゆるサイバーパンクという創作ジャンルが古くには存在していたらしいが。

今はとっくに現実がそれを追い越してしまっているため。

特にこう、心が躍ると言う事がないのである。

まあ創作マニアの中には。

昔はこんな風な未来が予想されていた、と楽しむ人間もいるらしいけれども。

それは私とは趣味が違う。

趣味が違うと言うだけで、別にサイバーパンクそのものを否定しているわけではない。

いずれにしても、熱気が収まってくると。

また少し退屈になって来た。

それにダイソン球から遠ざかるのが止まった様子からして。或いは退屈に耐える仕事、時間上限があるのかも知れない。

考えてみれば、そもそもとしてこんな巨大な特別製の輸送船や、更には警備艇の艦隊を、一人のために動かすだろうか。

……いや、彼奴の事だから動かしかねないか。

いずれにしても、ちょっと過剰な気もするし。

多分だけれども、何かしらの制限があって。

それで、今までの記録はその制限の上限まで頑張った可能性もある。

そう考えると、更に熱気は冷めた。

いずれにしても、全て仮説。

それらを裏付ける根拠が乏しいので、何とも言えないが。

私は、急激に醒めてきたやる気を感じ。

げんなりしていた。

レポートを終えると、風呂に入って眠る事にする。

静かなのは好きだ。

プライバシーが侵されないのは嬉しい。

シミュレーションで泳ごうとか思っても、残念ながらそれはさせてくれないので。

仕方が無いから、敢えて触りづらい位置にある携帯端末に触って。重い回線に我慢しながらニュースを確認する。

公式発表のニュースだけ見ていくが。

最近はこれといって大きな事件は起きていない。

二年間ずっと逃げ続けていた殺人犯が捕まった、と言う事でニュースになってはいたけれども。

其奴は多分泳がされていただけだろうと思っているので。

別に悔しいとは思わなかった。

他にはめぼしいニュースも特にない。

ある開拓惑星で、大規模なシミュレーションを利用したテーマパークを作る計画が持ち上がっているらしいが。

基本的にAIが全管理しているので。

誰かがそれで儲かるとか、逆にすってんてんになるとか、そういう事も無い。

可変性が大きいシミュレーション内の仮想空間では、色々な事が出来る。

自宅に設置されている設備ですら、相当に色々出来るのだから。

そのテーマパークとやらでは、さぞや凄い事が出来るのだろう。

感心はしたが。

それだけである。

小さくあくびをすると、寝る。

また、夢を見ていた。

 

私は貧民窟にいた。

古い時代は最悪の場所だった地域。

多くの貧しい人が追いやられた結果辿りつく地獄の一丁目。

そこで、私はコートに身を包んだまま歩いている。

周囲には物乞いや、服も持っていないような子供。そして事切れてしまったホームレスの遺骸。

誰もそれを片付けようともしない。

誰かが死んでいるのは当たり前。

そんな場所なのだ。

私が周囲に睨みを利かせるけれども。誰もそれに対抗しようどころか、そもそも何にも興味が無い様子だ。

ここに来た時点で、もう終わっている。

そう、全ての住民が悟っているのだ。

犯罪なんてやる奴すらいない。

そんな体力が残っていないのである。

食事の炊き出しの時には、かろうじて動き出す人間もいるけれど。それも幽鬼か何かのようだった。

本物の地獄だな。

私はそう思う。

むしろ、地獄の方が。拷問をされ続けるために、気力が与えられるのでは無いのだろうか。

そうとさえ思う。

一部の既得権益層が富を独占した結果がこれだ。

そいつらは好き勝手をほざきながら、自分達は優秀だとか。血統が人間の能力を決めるとか。

こんな貧民窟を作った分際でほざき散らしている。

私は貧民窟を出ると、報告をするが。

警察署の人間は誰もどうでもいい、という感じだった。

たまにギャングが貧民窟で子供を漁っている様子だが。人身売買するのも無理、と言うほど弱っているようで。

実際に連れて行く事もないようだ。弱りすぎていて売り物にもならないのである。

家に帰る途中に、周囲を囲まれる。

ギャング共だ。

貧民窟に追いやられるような人間達から、最後の一滴まで金を搾り上げていく輩。

この間組を一つ潰してやった事が余程頭に来たのか。

それなりに頭数を揃えて、此方を囲んできている。

何かわめき散らしているが。

知能が基本的に低すぎるらしくて、言葉になっていなかった。

ざっと見回して、リーダー格を確認した後。

コートから取りだしたマシンガンで。

周囲を文字通り薙ぎ払った。

ナイフを構えて突っ込んでくる奴も、全て眉間を撃ち抜いてやる。

足を撃つなんて余裕はない。

この状況では、充分にその言い訳ができる。

瞬く間に、最低のカス共の死体の山と。

一匹だけ残してやったゴミクズになった。

大股で近付いていくと、ゴミクズは失禁しながら悲鳴を上げるが。首を掴んでつり上げる。

私の力は、頭一つ大きい此奴をつり上げるに充分だ。

真っ赤になった顔の其奴を、更に地面に叩き付け。

その後は引きずっていって。

コートから取りだした拷問道具を使って、全て聞き出す。

襲撃を命令したのが誰か。

しばらく拷問した結果。

喋った相手は。

ギャングと癒着している、市長だった。

普通だったら呆れて市を出ていくところだが。私はそうしない。まずは此奴を雇ったマフィアの組を潰しにいく。その前に眉間を撃ち抜いて、手足を既に拷問で失っているゴミを処分。

その後は、ギャングの組。

この辺りの総元締めをしているギャングの本拠地を襲撃して、皆殺しにした。

ボスは何か聞き苦しい言葉を喚いていたが。

手下を皆殺しにした後は、金を払うから許してほしいとか喚きだした。

どうでもいい。

同じように拷問して、市長が黒幕だと言う事を聞き出すと。

首を切りおとして。

そのまま、市長宅に放り込んでおいた。

次はお前だ。

そう生首には、書いた手紙を咥えさせておいた。

民主主義で選ばれた市長がこの為体。

勿論貧民窟はこの市長が出る前からずっとあったけれども。

それでもあまりにも酷い話である。

あの貧民窟はもう死ぬのを待つだけの人々だけで構成されている場所だ。

もはやあの場所に。

光が差すことは、未来永劫ない。

 

目が覚める。

なんか胸くその悪い夢を見た気がする。

頭を振って、起きだす。

今日も退屈な仕事をこなさなければならないのだから。

ため息をつくと、着替えや歯磨き、朝食などをてきぱきと済ませて。そのまま管制室に出向く。

一気に高揚した分。

逆に醒めた今は、却って消耗が大きいようだった。

大きく嘆息すると。

私は黙々とレポートを書く。

その日はそれから一切変化が起きることもなく。

ただレポートを書き続けるだけになった。

少しずつ、消耗が確実に大きくなっていく。

それからしばらくは、ただレポートだけの日が続き。輸送船が物資をやりとりする事さえなかった。

十五日目を過ぎた頃には。

流石にきついかなと、自分でも自覚し始めていたが。

それでも、まだ頑張ってみようと思う。

二十日は少なくとも頑張ってみたい。

なんか意地を張っているけれども。

しかしながら、退屈に耐えるというのはこういうことなのだろうとも思う。

私が警官を続けていけば。

狂人警官の名前を聞いて、恐れて何もしなくなる奴は出てくるだろう。それはとても良い事だと思う。

だけれども、私は退屈になる。

銀河系は広い。

流石に私の仕事が一切無くなるという事はないだろうが。

他にも警官はいる。

今の時代は、AIが適正に応じて仕事を割り振る。警官が常に一定数必要というわけでもない。

宇宙海賊をあっさり滅ぼしたように。

AIにとってしてみれば、犯罪の完全撲滅も可能なはずだ。

ある程度残していると見て良い。

人間社会に、危機感をもたらすため、だろう。

あくまで仮説だが。

これは高確率で当たっているはずだ。

私はそんな中でも。

いずれ、退屈に直面するかも知れない。

その時、退屈を知らなかったら、耐えられないかも知れない。

だから、此処でぼんやりしながら。それでも手を動かして、レポートを作っていく。それが退屈に耐えると言う事だから、である。

黙々と作業を進めていくうちに。

久々に輸送船がきた。

しかも四隻。三千メートル級のものばかりだが。それでも、それぞれが警備艇を護衛につれていると言う事は。客を乗せて移動するタイプでは無いと言う事だ。

物資の引き渡しが行われているが。

私は、何の物資を引き渡されているのか、知る事さえもできない。

見ているだけである。

それでも、何となく心がすり減るような退屈を、ある程度緩和することは出来てしまうのがなんというか。

普段は犯罪者を撃ちたくてうずうずしているのに。

退屈に全てを包まれると、こんな風にもなるのだなと。驚くばかりである。

一隻目が終わり。二隻目も終わる。

それぞれ別方向に去って行くのを見ると、此処でまとめて作業を行っているだけであって。別に本来は同じ場所から来た輸送船ではないのだろう。

一体この、私が乗っている大型輸送船そのものが、何を積んでいるのか。

色々考えてみたが、それもよく分からない。

何も運んでいない可能性もあるが。

警備艇がこれだけ出ているのだ。流石にカラのコンテナを運んでいる、ということはないだろう。

「四隻目も行っちゃったか……」

せめてもの退屈しのぎがいなくなった。

それはそれで寂しいとも思うが。

いなくなってしまうと、また無に包まれた。

恐らくだが、これが退屈が精神に侵食してくると言う事なのだろう。私は薄く嗤う。ちょっと流石にきつくなってきたかも知れない。

今のを色々考察する事で数時間は潰す事が出来たが、それでも流石にそれ以降は考える事も無い。

黙々と、何の意味もないレポートを書いていく作業だけ。

勿論レポートそのものには意味があるが。私が作る意味はない。

AIがやっている仕事の一部だからだ。

十七日目がすぎ。

十八日目が過ぎた時。

風呂に入って、鏡を見ると。

明確に私は窶れていた。

確か退屈耐久の前に、AIに説明は受けた。寝ている間に筋肉に何かの電波だかを飛ばして、運動不足にはならないようにするという話だった。

それはそれでありがたいのではあるけれども。

私はそれはそれで、窶れている。

ああ、どうやら消耗が来ているらしいな。

そう思って、私は苦笑いをしたが。

それがすぐに錯乱につながりかねない事に気付いて、ぐっと何もかも飲み込んだ。

呼吸を丁寧に整える。

ちょっとばかり、本気でまずいかも知れないな、と思うけれども。

まあ、まだだ。

人間は千年程度しか生きないらしい。

不老を貰っても、どうしても飽きてしまうと言うのが原因だと言う事だ。

つまり、退屈に兎に角弱い。

ルーチンワークを続ける事も出来ない。

それは早い話が。

このままでは私という存在が、やはり千年程度しかもたないという事を示しているのではないのか。

もっと長い間、犯罪者をブチ転がして回りたいのだけれども。

そんなささやかな願いも叶わないというのか。

それは、嫌だ。

深呼吸する。

叫ぶとストレス発散になるかと思ったが、そんな事もあるまい。

寝る。

その日は、夢も見なかった。ただ退屈な虚無の中に、落ちていくようだった。何というか、精神が疲弊しすぎて。

夢を見る余裕も無かった、というのが正しいかも知れない。

 

二十日目が来た。

一応節目になる日だが、特に何かがあるというわけでもない。

激しい夢を見たとしても、覚えていない。

だから、とてつもなく虚しい。

それだけである。

私は淡々と作業をしていく。しばらくは、輸送船は来ないだろう。物資のやりとりに加わる事はあるまい。

レポートを書いていると、気付く。

此処は、実家のすぐ近くでは無いか。

100光年ほどしか離れていない。

宇宙で仕事をしていると、これはほぼ指呼の距離と言って良い。

何度か深呼吸をして、体調を整える。

明らかに精神の方が動揺しているのが分かったからである。これから放置しておくと、家からどんどん離れていくのは確定だ。なんかゆっくり周回するようにこの大型輸送船は動いているようなのだから。

頭を抱える。

流石の私も、ちょっときつくなってきていた。

何度か深呼吸をしながら、今の状況をもう一度確認する。いつの間にか空間転移したらしく、150光年に離れている。

なんか凄く不安で胸が締め付けられるようだ。

ここのところ、あからさまに夢を見ていないこともある。

なんだか、こんなに私は実家が好きだったのか、と思ってしまって憮然とする。やはり自分にとっての家が大事なものはいて。

私はその実家を大事にするタイプだった、と言う事なのだろう。

何度かため息をついた後。

どんどん実家のあるダイソン球から離れていく様子からは目をそらした。

精神衛生上良くない。

そう判断したからである。

しばらくしてから、レポートを再開する。というか、その間手が動いていなかったのである。

自分でも気付いた。

古い時代の企業だったら叱責されていたかも知れないが。

今の時代は、そんな事も無い。

そもそもAIがその気になれば何でも全部やれるところを、人間にも仕事を回しているのである。

私が全部さぼったところで。

何も困る人はいないのである。

だからこそに、不愉快だ。

何もかも必要ないと言う事を見せられているようで。だからレポートをむきになって書き上げる。

何とか、それで精神の安定を取り戻していた。

それからは、実家からどれだけ離れているかは、見ないようにすることにした。

何とか二十日目を終えて。私は自室に戻る。

ニュースを確認。

どこかの未開拓惑星で、観測史上最大の台風が発生したそうである。星全域を覆う規模だそうだ。

しかもこの未開拓惑星、いわゆるガス惑星の一種なので。

その台風の規模も凄まじい。

地球で換算すると、数十個が粉砕される規模だそうである。

かなり巨大なガス惑星で、もう少し大きければ恒星になっていたような星であるということもあって。

中々にすごい。

ダイナミックな天体現象だ。

回線が重すぎて、あまりニュースを詳細に見る事は出来なかったが。

いつの間にか、犯罪とはまるで関係がないニュースを見て喜び始めている自分に気付いて愕然とする。

これは、いけない。

頬を叩いて自分に言い聞かせる。

どうした、牙を抜かれるな。

私は犯罪者を撃つために存在している殺戮マシーンだぞ。

犯罪者を撃つことが何よりも楽しいのだ。

こんな台風のニュースを見て喜んでいるようでどうする。

地団駄を踏みたくなるが。

大人げないのでやめておく。

そのまま、何度か深呼吸してから、風呂に入った。

疲労が凄まじくて、そのまま落ちそうである。なんで体力に自信がある私が、こんなに疲労しているのかがよく分からないが。

ともかく疲労していることには代わりは無い。

風呂で寝たりすると、下手をすると命に関わる。

ずっしり重く感じる体を、何とか湯船から引き上げて。体をきちんと拭いて。それから寝間着に着替えて、それで寝る。

一連の作業が、本当に大変だった。

退屈に打ち克ってやる。

そう考えていたのが、嘘のようである。

私は今。

退屈に負けつつある。

それを自覚していた。

 

3、最後の抗い

 

レポートを打つ指が、明らかに遅くなっている。

効率が兎に角落ちる一方だ。

私は椅子から落ちそうになっている事に気付いて、愕然とする。なんでだ。寝てもさっぱり疲れが取れない。

何日目か、カウントするのはもう辞めた。

精神が麻痺するかのようだ。

とっくに限界が来ている可能性は否定出来ない。

それでも、私は何とか意地で体をもたせていたが。我慢比べに対して、体は正直なようだった。

深呼吸しても。

効果がどんどん薄くなってきている。

大きく何度も深呼吸するが。

それでも、まるで心が晴れることはない。

周囲にあるモニタには何も映らない……正確には違う。文字がドバドバ流れているが。そもそも私に読める言語ではない。

それに、周囲の宇宙の様子も見られない。

明らかに嫌がらせか。

多少は星空の様子が見られたら、この疲労もマシになるとは思うのだが。

そうはいかないというわけだ。

無言のまま、レポートを書く。

どっかの星のベルトウェイについての消耗具合のレポートである。文字通りすこぶるどうでもいい。

勿論ベルトウェイが故障して、怪我人とか出れば話は別だが。

今見た感じだと、まだ経年劣化に関しても相当先だという結論なので。

いずれにしても大丈夫だろう。

ため息をつきながら、レポートを仕上げて、次に。

まずいほど元気が出ない。

なんというか。ずっと恐怖を喰らっていないというのも大きいと思う。

私はなんだかんだで、栄養として恐怖を摂取している。

この疲労が証拠だ。

こんなに普段は疲れない。

本当に怖れている人間の様子を見ることが、私の元気になる。私に対して怖れていれば、なおいい。

勿論関係無い人間を襲うわけにはいかないから。

犯罪者に対してそうするしかないわけで。

私はある意味、とても偏食な一部の動物にそっくりなのかも知れない。

恐怖がほしい。

恐怖が食べたい。

消耗してくると、欲求が忠実に出てくる。

この辺り、欲求によって色々変わってくるのだろう。

私の場合は、恐怖が食べたいになるが。

他の人は、それぞれ別になってくるのは容易に想像ができる。

私の場合、食や性に対する頓着が薄いので。殆どその方面での不満とかは感じない。恐怖だけほしい。

恐怖させたい。

ああでも、一般人を無意味に恐怖させたら犯罪になってしまう。

困った困った。

かといって、仕事を放棄して、あのわざと使いづらい場所に配置してある携帯端末で。ホラーゲームをやっている人の動画とかを見るのもまた厳しい所だ。新鮮な恐怖ではないし。何よりも私に向けられた恐怖でもないのだから。

私は、あくまで自分に向いている恐怖をおいしくいただくのである。

頭を抱えたくなる。

駄目だ、思考が恐怖への欲求で塗りつぶされていく。

そういえば、三週間以上恐怖を食べていない事になる。

たまに十日くらい、休暇とかを交えて恐怖を食べない事はあったけれども。それとは比較にならないダメージである。

深呼吸。

駄目だ。もう殆ど効果がない。

ダメージが深刻だ。

このままだと、精神がやられてしまうかも知れない。

いや、まだだ。

私はこんな程度でやられる訳にはいかない。

夢を思い出せ。

タイムスリップして、アルカポネをこれ以上もないほど苦しめながら殺す事だ。出来ればその一族もまとめて殺したい。遺伝子のひとかけらも後世に残したくない。奴の組の関係者も同じだ。

徹底的に殺し尽くして、一人残らず歴史から葬りたい。

勿論出来る事ではないが。

しかしながら、夢を見ることくらいはかまわないだろう。

大きな溜息が漏れた。

私は、一体何の意地を張っているのだろう。

思い出せ。

そうだ。

人間は。地球人は、千年程度しか生きられない。不老を得ても、どうしてもそれくらいで精神が摩耗してしまうからだ。

それをどうにかするための行動だ。

何もかも、自分のためだ。

錯乱しかけていた精神が、どうにか少し立て直される。

それでも、いくら何でもかなり状態は良くないとしかいえない。

何度も深呼吸している様子は、陸に打ち上げられた魚のような無惨さだ。いや、魚は確か泳ぐ事で呼吸するのだったか。ちょっともうよく分からない。今の時代は、生物とは直接関わらない。だから、詳しい分野と詳しくない分野が滅茶苦茶に乖離する。

何度か深呼吸をした後、レポートを書く。

だが、とにかく。

とにかく重い。

作業が非常に重く感じる。

自分のためだ。

退屈に打ち克て。

そう言い聞かせても、所詮は精神論だ。精神論で、物理的な問題をこえる事はできないのである。

しかしながら、これはそもそも精神の問題だ。

だったらそれをどうにかするのは精神論なのか。

椅子から落ちそうになったので、必死にコンソールに付属しているデスクにしがみついて。

そして何度か頭を振った。

レポートどころじゃないな、これは。

そう思ったが、多分このままだとドクターストップが掛かる。

あのAIの事だ。

私を今見ていないと言う事はないだろうし。まだいけると判断しているのだろう。

ならば、いってやるだけだ。

レポートをどうにか仕上げる。

だが、ここしばらくのペースとは比べものにならないほど時間が掛かった。呼吸が露骨に荒くなっている。

まさか、とは思うが。

この部屋の酸素を薄くしたりはしていないだろうな。

退屈に更にダメージを増やすために。

酸素を薄くする、というのはあり得る事だ。

いずれにしても、何とか体制を立て直さないと。

まだ二十一日、いや、二十二日目だったか。

とにかくこうなったら。

意地でも記録を更新してやる。

もしも精神的な負荷が極限を超えたら、AIの方がどうにか判断するだろう。そこについては信頼がある。

無限にも思える時間を越えて、やっと今日終了。

自室に辿りつくだけでも、膨大な苦労が必要だった。

疲れ果てているのに。

なんかいつもの疲れるとは違う。

例えば、25メートルプールを散々泳ぎ倒して、夜遅くになっていたときでも。こんな風ではなかった。

疲れ果てている私は、今までに無い感覚を味わっていたのかも知れない。

これもまた一興。

経験のない疲労は、私に取っても面白い事では無いのか。

そう言い聞かせようとするが、その理屈がすんなり頭に入ってこない。

正論は正しいから正論というのであって。それを聞けないようでは色々失格だ。いつもそう自分に言っているはずなのに。

それがどうしても体に入ってこない。

どうやら、結構症状が重いらしい。

風呂に入るのも一苦労。

私は弱り切った老人か。自分をそう叱責して、どうにか風呂を済ませる。

着替えにはいつもの三倍も時間が掛かって。

疲労がひどすぎて、携帯端末でニュースを見る余裕も無かった。

もうなりふり構わずホラゲーをやっている他人の動画でも見ようかと思ったが、その気力すらない。

恐怖ー。

くいたいー。

そんな情けない言葉を発する事しかできない。

これでは腹ぺこの子供だ。

壁に背中を預ける。それだけで落ちそうになる。こんな状態で寝たら、多分更に疲労が溜まること確定だ。

ベッドで横になる。

枕とか全部綺麗に清掃されているけれども。

別にそれが心地よいとかは一切思わない。

目をつぶると、もう抵抗できずに落ちた。

そして、気付く。

闇の中を転落し続けている。

これは恐らくだが、そういう精神状態だから見ている夢なのだろう。

そういえば仏教に限らず、地獄は地底の深い深いところにあると言う話が、世界中の神話にあるとか。

今、私は。

地獄に落ちているのだろうか。

地獄なんてものはないが。

もしあったとしたら、私は地獄行き確定なので。別にそれは不自然な話ではないだろう。

そういえば仏教の地獄の場合、落ちるのに訳が分からない時間が掛かるほど深い場所にあるとかないとか。

だとすると、ちょっとやそっとの時間落ちたくらいで、地獄にはたどり着けないかも知れないな。

風が吹いていないと言う事はタルタロスでは無いか。

そう、ギリシャ神話の地獄の事を私は思う。

やがて、何故かあっさりその底についていた。

落ちたときに痛いとも思わなかった。

夢なのだから、別に不思議な事でも何でも無い。

身を起こすと、なんかでっかい人がいる。

地獄と言うのは、罪人に罰を与える場所であって。

そこにいるのは、本来裁判官と看守だという話は聞いている。

ということは、此奴は裁判官だろうか。

私が埃を払って立ち上がると。その裁判官らしいのは言うのだった。

「そなたは悪戯に暴力を振るい、その優れた身体能力を建設的な方向に生かさず、ただ人の恐怖を窃取したいなどと言う薄汚れた欲望を費やすために使った。 その行動は、地獄行きに相応しい!」

「そっすか。 それでどんな地獄に?」

「全く反省の色はないのか!」

「私これでも、犯罪者はたくさん捕まえましたし、其奴らをブッ殺してもいませんので」

その答えを聞くと、怒り狂っていた裁判官の顔から表情が消えた。

なんかよく分からないが、或いは何言っても無駄だと思ったのかも知れない。

「……そうか。 連れていけ」

なんか大きい鬼らしいのが私の腕を掴もうとしたが。別に抵抗しないと言って自分から行く。

行った先には、なんか溶岩の池みたいなのがあったので。ひゃっほうと大喜びして自分から飛び込む。

なんかもの凄く痛いが。

むしろ面白い。

呆れている大きい奴ら。

思い出した。

確か此奴ら、地獄の獄卒で、鬼だ。そうなると、さっきのは地獄の十王とか言う裁判官だろう。

ということは、ここは仏教系の地獄か。

私は仏教なんぞ信仰したことは無いのだが。

「い、いたくないのかお前」

「痛いが面白い! 他にないの!?」

「……ちょっと上司に相談してくる」

呆れた様子の鬼が、さっきの十王だかに相談しに行ってくる。

その間も私は溶岩の池か何かにダイブを続けて。それで元に戻ってはまたダイブして。痛みを楽しんでいた。

何より快感なのは、周囲の亡者が恐怖の声を常に挙げていることである。

これだけの恐怖に包まれているというのは。私にはむしろ天国に近い。

何よりこの地獄のアトラクションがとても楽しい。

何度も飛び込んでいると。

やがて鬼が戻って来た。

「もう好きに遊んでろ。 もっと重い罪だとお前が嫌がりそうな場所もあるんだが、確かにお前は不必要な殺生をしていないから、これくらいの地獄にしか落とせないんだそうだ」

「そっか! ありがとう! じゃあ思う存分遊ぶわ!」

「……」

形容しがたい顔の鬼達にしゅばっと片手を挙げると。

私はひゃっほいと溶岩の池に飛び込み。

そして恐怖に満ちる楽園のような土地で、しばし面白アトラクションを楽しむのだった。

目が覚める。

なんか、凄く力が回復している気がする。

凄く素敵な夢を見たような気がするのだが。

気のせいだろうか。

いや、この恐怖を摂取した後の充足感、間違いない。何か、とても素敵な相手に恐怖を与えるか、そういう類の夢を見たのだろう。

体も軽い。

どうやら私はやはり恐怖を糧としている。

そして夢の中とは言え、上質な恐怖を何処かから摂取できた。

それで回復したのだろう。

魔族かとAIに言われた事があるが、案外そうかも知れない。いや、勿論人間だけれども。

メンタリティとか。

完全に恐怖が栄養になっている所とか。

その辺りは魔族とやらに近いのかも知れない。

それはそうとして。

この夢、ひょっとしてだが。

かなりまずい状態になっている体が、或いは防衛本能として発生させたのかも知れない。だとすると、そろそろ限界かも知れないなと判断した。

私も、無闇に意地を張って、体を壊すべきでは無いと思う。

それにだ。

そもそも意地を張るにも、意味がないのである。

確かにストレス負荷に耐えることで、寿命が延びるというのなら良い事だけれども。

今の私は、寿命が縮みかねない感じでストレス負荷をやっている。

この急に軽くなった体にしても。

心の方がまずいと判断して、軽くした可能性が極めて高いのである。

だったら、もうやめておくのが吉と言うべきだろう。

一気に気分が楽になった所で、私は着替えを済ませ、そしてAIに呼びかけた。

「降参。 此処までにしておくよ」

「……了解しました。 では、退屈との戦いは此処までと判断します」

「いやー、きつかったきつかった。 本当に最後の方は、吐きそうだったよ」

「今朝に起きた事がよく分かりません。 何故急に回復したのですか?」

さあと、肩をすくめる。

ベッドに腰掛けて軽く話を聞くと。

何でも、AIの方でもそろそろ限界だと判断して。そのまま連れ出すつもりだったという。

それがいきなり回復したので、困惑していたそうだ。

「多分だけれども、夢の中で上質な恐怖を大量に摂取したんだろうね。 何の夢見たんだか分からないけれど」

「はあ……」

「なんだよ。 前例ないの?」

「クリエイターには強烈な妄想をする能力でいわゆる自家発電が可能な人もいます。 実は以前、長期間記録を打ち立てたのはそういう人でした。 得てして孤独に対しての強い耐性を持っていて、基本的に多人数での行動を好まず、一人で静かにいる事を好む傾向にあります」

それは確か聞いた事があるな。

二万年ほど前、ろくでもないスクールカーストとかいうクソみたいなシステムが教育機関内で存在していて。スクールカーストの下位にいる人間には合法的に暴力や犯罪が許されていたとかいう時代だ。

そういう時代の人間が一番ヒューマニズムとか差別反対とか口にしていたらしいので、今からして見れば草も生えないし。AIに管理された未来を想定してはディストピア呼ばわりしていたらしいから、文字通り鏡見ろとしか言えないが。

ともかく、そんな時代で「陰キャ」とかいう烙印があって。

それを押されたら最後。

人権の全てが消滅する、という状態だったらしい。

要するに孤独を好むタイプをそう呼んだそうである。

もっとも、その差別は色々に変遷していって。最終的には別に陰キャであっても人権がないとかいう状態ではなくなったらしいが。

勿論現在では、陰キャだろうが、その対になってあらゆる暴虐を振るったらしい陽キャだろうが、自由に認められている。というかどっちの言葉も死語である。私がたまたま昔の地球を調べて、知っただけの言葉である。

ただ私は、どっちかというと陰キャだの陽キャだの、どっちでも無い気がするが。

「篠田警視はとにかくあらゆる全てが特殊ですね。 これからもデータを取って、分析をしなければならないでしょう。 今後どのような人間が現れるか分かりません。 その時に対応を柔軟にするためには、むしろイレギュラーの方が必要なのです」

「褒められてるのか貶されてるのかわからんね」

「勿論大絶賛しています」

「そう……」

まあ大絶賛されているなら、素直に受けておくとして。

とりあえず、これからどうするのか聞く。

話し相手が湧いてきたことで、随分とまた楽になった。それと、携帯端末も手元に返してくれた。

「これより帰還します」

「この物資の護送任務はいいの?」

「勿論続行しますが、それは別の人にやってもらいます。 この退屈耐久は順番に警官を指名して実施しているんですよ。 篠田警視はむしろあまりにも長もちしたので、スケジュールが混雑して大変でした」

すぐに帰還用のシャトルを出してくれるという。

まあ正直うんざりだったので、自動移動用のシャトルを使ってさっさと最寄りの宇宙港に。

其所から、予約をいれてくれていた輸送船に乗り換え。

自宅に向かう。

自宅まで、850光年ほどだから、二日もかからずたどり着けるだろう。

輸送船で予約している部屋に入ると、何だか環境が全く違うので安心した。

そしてこれから、別の警官があの地獄ループを味わうのか。

そう思うと。寿命を延ばすためとは言え、大変だなと思う。

「時に聞いて良い?」

「はい」

「私の記録は地球人の記録更新した?」

「そうですね。 更新です。 ただ篠田警視の場合は、ちょっとかなり特殊な例となりますので、要精査ですね」

何だよそれ。

口をとがらす私だが。

AIは更に付け加えた。

「今後、もし退屈を思い出したときは。 今回の仕事のことを思い出してください。 随分と気持ちが楽になるはずです」

「まさか、もう一回とか二回とかやらせないよねえ」

「やらせません」

「はあ。 それは良かった」

最終日に、不意に気分が良くなったけれど。

あのままだったら、多分廃人同然の状態で、輸送船から強制送還されていたのだと思う。そうなれば、リハビリに年単位で掛かったのではあるまいか。

ため息をつくと、私はそのままSNSで情報を見る。

解放された精神的余裕からか。

今まで見る気にもなれなかったニュースなどが目に入ってきた。

「まーたハッキングを試みたアホがいたのか……」

「すでに捕まえています」

「撃ちたかったなあ」

私の言葉にAIは答えない。

とりあえず、AIの事だ。

これからしばらくは、犯人を撃てる仕事を用意してくれる筈である。後、少しばかり体を動かしたい。

25メートルプールで、阿修羅のように泳ぎまくるとしよう。

自宅に着くまでの間、特に退屈は感じなかった。

娯楽があるだけで、こうも人生は変わるのだと、それで色々と思い知らされていた。

途中に山ほどレポートを書いたし、当面レポートは書きたくないが。

それでも、ポップキャンディを口に入れて。色々な動画を見ているだけでも、随分と気分が楽になる。

自宅に着いた後は、休日期間について聞いた後。速攻でジムへ。

後はひたすらに、体力が尽きるまで泳ごうと思ったが。

私が姿を見せた瞬間に客がプールから消え。

私はその恐怖を摂取して、実に気分が良くなった。

そのまま、時間ギリギリまで泳ぎ続けて。

営業時間終了まで泳いでも。結局疲れなかった。

翌日もそんな調子で泳いだ。

今の時代は基本的に経済の仕組みが昔とは違っているとは言え、ジムの店員が死んだ目で私を見ていたが。

まあ気にはしない。

別に客が入らなくても、ジムは潰れたりはしないのだから。

二日間、思う存分泳いだので、今度は負荷を最高にしてランニングマシンでひたすら走る事にする。

こっちは流石にきついかなと思ったが、意外と何とかなるものである。

人間の持久力は個人差があって。

体力が無い人は、数分でばてるケースもあるし。

専門の訓練を受けると、それこそ一日中でも走っていられる場合がある。

私の場合は体質的な問題で、幾らでも走れるというだけの事である。

今度はランニングマシンの周囲から人が消えたが。

別に気にしなくても良いだろう。

私は今、解放されたのだ。

少しばかり羽目を外させて貰おう。

別に撃たせろと言っているわけではないのだから、そのくらいは我慢してほしいものである。

たっぷり八時間ほど、途中で小休止を入れながら最高負荷でランニングマシンをこなし。それなりに気持ちよかった。

まだまだ走れるが。

ジムの営業時間が終わってしまうので、此処までである。

すっきりして自宅に着くと、AIが呆れて話しかけて来た。

「体力底なしですね」

「無駄に有り余ってるからね、体力」

「貴方が性に興味が無くて良かったというのが本音です。 今でも希に結婚する人間はいますが、もしも貴方と結婚したらそれこそ数日で干涸らびていたでしょう」

「ハハハ、まあそうだろうね」

フロイトだかいう頭まっピンクのおっさんの妄想から始まって、何でも性欲に結びつける説は地球の一部で流行した時代があるらしい。

まあ現実はこんなもんだ。

さて、明日からは久々の職場だ。

耐久試験を乗り越えた今。

もはや私に。

怖いモノなどいない。

 

4、試練を乗り越えて

 

悲鳴を上げて逃げ走る犯人。地球人類よりも三割ほど身体能力が優れているアース人と呼ばれる種族だ。

足が長い事で知られていて。地球人より若干体型がアンバランスだが。良くいる収斂進化で似た姿になった宇宙人である。

当然普通の警官なら走って追いつけないのだが。

私は違う。

満面の笑みで追いかけて。そして併走しながら、ぽんと肩を叩く。

ぎゃっと声を上げて、足をもつれさせる犯人に。

そのまま、ショックカノンをぶち込んでいた。

走りながら止まることも出来ず気絶してブッ飛ぶ犯人。

AIの方が気を利かせて、服の防御機能を生かし。そのまま足がやたら長いアース人の犯罪者はお縄となった。

全く息を切らせていない私と。

なんか漫画に出て来そうなやたら足が長い宇宙人。

面白い対比である。

警備ロボットが来て、アース人を捕まえて連れていく。

「尋問したいなー」

「貴方の場合は拷問でしょう」

「大してかわらんやん」

「大違いです」

AIが抗議するので、仕方が無い諦める。まあ、さっき併走されたときに挙げた悲鳴。そして見せてくれた恐怖。

私のおなかを充分一杯にしてくれた。

これから更に拷問できたらより私はおなかいっぱいになっただろうけれど。

まあそこは腹八分目、と言う奴だ。

今回は、いわゆる知能犯で。

あのアース人は、偽物の工芸品を3Dプリンタで売っていた。それも丁度開拓惑星の、まだ治安が完全ではない状態で、である。

要は確信犯であり。

はっきりいって情状酌量の余地はないだろう。

いずれにしても、この開拓惑星に私を送り込んでくれたのは有り難い。

バンバン背伸びしたいお年頃のオバカちゃんを撃ってしまおう。

ただ、既に狂人警官が姿を見せたという噂は流れているらしく。少なくとも日中に犯罪者は姿を見せない。

AIが管理している仕事にまじって、夜行性の種族が夜勤をしているが。

そういう所に不自然に現れる犯人が。

色々悪さをしていく。

AIが察知したり。私が勘で見つけたりと様々だけれども。

いずれにしても、既に四人の犯人を撃って私は満足していた。

ただ、この開拓惑星はそろそろ開拓の段階が上がる。

そうなると、さっと犯罪者どもは引き揚げて行くことになる。

それまでに、もう何人か捕まえておきたい所である。

巡回していると、小柄な人影にじっと見上げられた。

どうしたのかなと声を掛けようとして気付く。

人間じゃないな、この子供。

ロボットだ。

地球人の子供によく似ている。服装はボロボロで素足と酷い有様だが。妙に体の方は清潔である。ショートヘアと言う事もあって顔立ちは中性的で、子供が別の意味で好きな人にはそれこそよだれモノの容姿だろうのかなと思う。一応性別は女性のようだが、子供だからそもそもである。

昔のスラムの画像とか見た事があるから知っている。

ああいう所に住んでいる子供は、風呂なんか入った経験すらないような状態で。見ていられないほど酷い格好をしていて。体をそもそも綺麗にするという発想さえないのだが。この子供は違った。

「お客さん、どうです。 今時珍しいセクサロイドですよ。 型番は骨董品ですが、こいつは本物のデータからの復元品でして」

後ろから、揉み手をして出てくるオッサン。ナマズ髭で、太っていて、いかにもな見かけである。しかも地球人だ。

本当にどうしようもねえ。

そして、私が手帳を突きつけると、ひいっと声を上げて両手を挙げた。

「ちょっとまってねー。 これが犯罪に当たるかどうか、今調べるから」

「きょ、狂人警官!」

「うん、そういう渾名らしいね。 私としてはコードネームとか使わなくて良いから楽だけど」

「こ、ころさないで、ころさないで!」

大泣きする犯人。いや、まだ犯人と確定してはいないのか。

セクサロイドは困惑したように。私と主人を交互に見ていた。

「で、このロボットで売春ごっこしてたのあんた? 記録はすぐに出るから、包み隠さず言った方が良いよ?」

「い、いえ違います! 骨董品のセクサロイドのデータが出回ってきたので、3Dプリンタで作りました! 許可を得て土産品として売っています! 嘘じゃないです! 撃たないで!」

「どうやら本当のようです。 店内に在庫は他になく、好事家が買って行っているようです」

「で、それって犯罪になるの?」

いいえと、AIが答える。

そもそもセクサロイドの販売にも買い取りにも色々と免許だの何だのが必要になるらしいのだが。此奴はちゃんと販売の免許を持っている。買い取りの免許については購入後に取るのも容易で。なんならこの星で取得が出来るらしい。

そもそもロボットである。

個人でロボットを所有する人間は珍しく無いし。

そういったロボットには性能や強度に制限が掛けられている。また武器の使用などを教える事も許されていない。

この性能のリミッターを外そうとしたりすると即座に犯罪になるのだが。このセクサロイドは今AIがスキャンした所、特にリミッターとかが弄られているような事はないようである。変な事も教えられていないようだと、AIがメモリやHDDをスキャンした結果断言していた。

いずれにしても物好きだなあと思った。

まあいいか。

AIがロボットアームで何でもかんでも作業するのを見ているのも丁度飽きてきていた所だ。

「じゃ、買うわ。 金使うようにAIに言われてた所だし」

「は、はい……毎度有難うございます……」

カードで決済を済ませると、一旦セクサロイドに座標を指定して其所に向かうように指示。無言で頷くと、てってってと歩いて行った。

あの服は何とかならなかったのか。

全裸で立たせてると多分なんか法に引っ掛かるというのはあるのだろうが。それにしても、もうちょいマシな服を着せてやればいいものを。

そう思っていると、AIに突っ込みを入れられた。

「休日はジャージかパジャマじゃないですか篠田警視」

「うっせえ。 どうせジムにしかいかないからジャージでいいんだよ」

「それであのセクサロイドどうするつもりですか?」

「丁度メイドがほしかったからメイドにする」

メイド。

絶句するAI。

まあ私は性欲が少ない方というかそもそもほぼ皆無なので、セクサロイドなんかいらん。

逆にメイドロボはほしいかなと思っていたし。さっきデータをちらっと見た所、実際問題メイドロボにする目的とか、或いは子供がほしいと思って買っていく客もいるようだった。

ふと疑問に思って聞いてみる。

「タイミングが良すぎるけど、まさかあの腐れ海賊の?」

「はい。 特に問題がありませんので、データを公開しました」

「おいおい……ロボットとは言えあんな子供に壊れるまで暴力振るっては作り直して、また暴力振るいまくってたのか大宇宙海賊だとかいう輩は……」

「あのセクサロイドを手に入れるまでは、人間を殺して鬱憤晴らしをしていた連中ですから。 特に抵抗もなかったのでしょう」

はあ。

また宇宙海賊に対する失望の念が強くなった。

まあどうでもいいか。

もはや滅び去ったカス共だ。

それにしても、タイミングが良いと思ったら、さっそく再販されていて。

しかもこんな開拓惑星で売られていたとは。

何というか、複雑すぎる気分である。

「何か、そうすっとセクサロイドブームとか来てる感じ?」

「一部では来ているようですね。 基本的に絶版という事がありませんので、古い時代の大人型のセクサロイドも販売されている様子です。 ただどうしても利便性が仮想現実の方が高いと言う事もあって、ホビーの域を超えていません」

「それは前と同じか……」

「今の時代でも、ごくわずかなマニアが購入はしていましたが。 変な形で再ブームが来た事になりますね」

頭が痛くなる話だ。

とりあえず、言われた通りに署に出向いた後は、資格の取得をする。

軽く勉強して、試験を受けて終わりだ。

記憶は外部記録に残しておいて。

セクサロイドと接する時に表示される。

勉強を軽く行う。

基本的に禁止されているのは改造である。

特にリミッターを外したり、販売時に導入されていた機能以外のものをつけると犯罪になる。

これは当然、犯罪目的で使う奴がいたからで。

リミッターを外せば徒手空拳で人間を殺すことだって出来るし。

武器の使い方を覚えさせれば、人間の反応速度を遙かに超えた動きで襲いかかってくる事になる。

あっと言う間に殺人ロボットの完成だ。

現時点では人間の肌と同じ程度の強度しか無い特殊樹脂で外皮も作っているけれども。

この辺りも金属とかに交換したり、皮膚下に仕込めば即座に犯罪になる。

それらを学んで、なる程と理解した。

その後試験を幾つか受けて。

全て合格。

後は、宇宙港で受け取るだけだ。

まあ着せ替えして、そしてメイドとして使うくらいなら別にかまわないだろう。

購入したセクサロイドは倉庫で待機しているので、その間に警官としての仕事を更に進める。

とはいっても、やはり開拓惑星は。開拓のレベルが進むとどんどん犯罪者がいなくなっていく。

そうなると宇宙港で逃げ出そうとする犯罪者を捕まえる仕事に移行する事になる。

数日働いて、計十二人を捕まえ。その内八人を撃つ事が出来たが。

最終日は一人だけしか捕まらなかったし、まあ切りあげ時だろう。

引き上げる事にする。

仕事の合間に通販で買っておいた服を持って倉庫に。

倉庫の指定スペースで、膝を抱えて待っていたセクサロイドに服を渡して着るように指示。

無言で頷くと、着替えを行い始める。

にしてもなんでこんな粗末な襤褸切れ。

小首を捻っていると、AIが教えてくれる。

「その服はデフォルトの品ですね。 宇宙海賊が、それを着せて面白がっていたようです」

「なんで?」

「よく分かりませんが、そういう服装の子供が彼らにとってはリアルだったのだと言う事ではないでしょうか」

「……リアルな子供に見立てて殺戮して楽しんでた訳か。 まあ犯罪者だったら私も撃つけどさ。 ちょっと度を超してるな。 ピカレスクロマンがどれだけ美化されてるとは言え……」

海賊が余計に嫌いになったが。

まあそれはもういい。

着替えを済ませてこぎれいになったセクサロイドを見て、充分に満足した。

最近の子供向けファッション誌を柄にもないのに見て、それで揃えた服だ。多分変ではないだろう。

古い方の服はゴミ箱に放り捨てると、ついてくるように指示。

そういえば名前はまだ付けてなかったな。

まあいいか。

とりあえず、充分に警官として仕事をして、今は満足だ。

それで可としよう。

帰り道、自分をどうするつもりなのだろうと。或いは何の仕事を命じてくるのだろうと、こっちを見ているセクサロイドは放って置いて。寝ながら帰る。

まあ充分撃ったし、この間の仕事で退屈耐久したストレスは綺麗に消えたと思う。

次はまた変な仕事をさせられるのだろうが。

それはそれでかまわない。

後は、家に着いた後。

このロボットの名前を決めて。

それで家事をさせよう。

子供は正直大がつくほど嫌いだが。別にロボットだと思えば、メイドとして働かせるのは悪くはない。

それにこれで子供嫌いも多少改善できるかも知れない。

私の遺伝子も当然データとして登録されているはずで。更に言えば私は色々と業績を上げているから、どっかに私の子供が知らないうちにいてもおかしくない。

無作為に遺伝子データを掛け合わせた結果人間が産まれてくるのが今の時代だ。

だから私も、いつの間にか何人も子供がいても不思議では無いのだ。

そんな子供が私を訪ねてくるかも知れない。

そんなときのためにも、慣れておくのが良いだろう。

宇宙海賊は皆殺しにするべき存在であり、既に復活する事もないだろうからどうでもいいが。

子供嫌いは今後解消した方が良いかも知れない。

そんな事を考えているうちに眠くなってきた。

私は大あくびをすると。最寄り港まで起こすなと言って、そのまま眠りについていた。

 

(続)