著作権を守ろう

 

序、意外と地味な話

 

今の時代、創作はとにかく大変だ。何しろ膨大なデータがあるので、探せば似たものは必ずヒットしてしまう。

更には一時期には、著作物を加工して作った創作もあった。

動画文化と呼ばれるようなものはそうだし。

二次創作と呼ばれるものも、その時代にはグレーゾーンだった。

結果として。現在の著作権法は幾つかの整備の結果、こう落ち着いている。

他人の創作物を、自分のものとして勝手に扱うな。

二次創作を行うのは自由だが、出所は明記しろ。

以上である。

何しろ億年単位で続いている銀河文明だ。画期的な創作なんぞ出ようが無い。というわけで、私は今。

自分でこれを書いたと主張している作家が。嘘をついているかどうかを検証する作業をしていた。

とことん向いていないだろこの作業。

そう自分に対してぼやきながら。

其奴が書いていたのはいわゆるR指定絵だが。

今の時代は、R指定もなにもない。

多数の宇宙人が共存している世界である。

はっきりいって価値基準も多彩で。

何を書いてもR指定になる。

更には人間によっては、何がR指定になるかも分からないのである。そんな時代に、R指定もくそもない。

というわけで、そういう意味での不自由さからは、この時代の創作家は開放されているのだが。

それはそれとして、見たくないものはAIが自動的にフィルターを掛けるようにして。視界から排除してもくれる。

趣味が五月蠅い奴は、街の中に行くとモザイクだらけになって何が何だか分からないとぼやくことも多いらしいが。

地球時代では、そういう奴がわめき散らして。

周囲に対して、自分に合わせることを強要していたことを考えると。

まあぞっとしないな、とは感じる。

さて。

色々なデータを確認したが。

この作家くんが書いている絵については、構図やら何やらでほぼ同じ絵が山のように出て来たが。

問題は本当にそれをそのままコピペし。

そして自分の作品であるかと偽ったか、ということだ。

基本的に創作でもっとも人気があるジャンルは性と暴力であり。

地球時代でも、性に関する文化はそれこそ山のように存在していた。

伊達に三大欲求の一つでは無い訳で。

ましてや性的なネタを扱えば集客が出来るとなれば。それを扱う創作家は多くもなるのが道理ではある。

逆にいうと。

その結果、飽和した。

今ではぶっちゃけ、新しいものをわざわざ買わなくても。無料公開されている過去作品がいくらでもある。

ブームも何もあったものではないので、時代に合わせて好みの作品を探していけばいいだけである。

それだけの時代だ。

だが、それでも。

法的にアウトな創作をする奴はいる。

そういう事である。

一致率99パーセントの絵を確認した。

とりあえず、AIに照合させる。

AIは判断しづらい、と言った。

「確かにこの絵に似せているようには見えますが……」

「何か問題が?」

「はい。 その作家が、この絵にアクセスした記録がありません」

「そう来たか……」

また探し直しか。

それにしても、本当にありとあらゆるR指定絵があるなあと、見ながら困惑してしまう。

しかもこういうR指定絵がたくさん描かれた時期は、人口が減少に移行していた時代であるらしく。

その上フェミニズムとか言うカルトが跋扈して、暴れ回っていたらしいので。

まあそれは相乗効果で人口も減るよなと思ってしまう。

とりあえず他の絵も検証するが。

どれもこれも何というか、よく似ていて。

はっきりいって興味が無い私にはさっぱり分からない。

私に取ってはむしろ性行為よりも恐怖がおいしい。私に対して怯えてくれる方がよっぽど栄養になるし。元気が貰えるので。

というわけで、私に取ってはR指定の定義が違う。

私に対して怯えきった様子を見せてくれる絵がR指定である。

まあ実物の方がいいのだけれど。

犯罪者にしかできないから、それは困った話だ。

興味が無いR指定ジャンルほど、苦痛になるものはない。

それは私も分かりきっているが。

それでも実際に色々見ていて、嫌と言うほど良く分かった。

程なくして、一致率98パーセントの絵を発見。

それについて確認するが。さっきと結果は同じだった。

要するに、似たような絵はそれこそいくらでもある。

今更パクリもトレースもあったものじゃあないのだ。ため息をつくと、私は更に作業を続ける。

面倒だなあ。

そうとしか思えない。

フロイトだったか。何でも性欲に結びつけて考えたのは。

だが実際には、その理論は既に否定されている。

一部で根強く残り続けた、性欲を最大肯定する理論に対しては反発も多く。

インセルという過激化も登場したほどだ。

私ははっきりいって性欲はどうでもいいと考えるタイプなので。フロイトやその信者とは一切話があわないだろう。

興味が無いのだ。はっきりいって。

というわけで、虚無作業を続けていく。

まだまだ大量にあるそっくりな絵を見ていくが。

どれもこれもが、何とも言えず。いずれにしても、私の趣味には合わなかった。

本当に、趣味に合わないものほど、苦痛になるものはない。

これが自分の趣味にあうものだったら良いのだろう。

だが、単純に趣味に合わない。

それだけで、見るのは嫌になるものだ。

勿論見るのを嫌になったからと言って、そのジャンルを否定するのはあってはいけないことだ。

地球時代の地球人は、それが理解出来ていなかったし。

何より自分は世界で一番正しいと考えているものが多かったから。

色々とトラブルが起きた。

とりあえず、続いて一致率が98%に近いものを続けてピックアップしていく。それだけたくさんあるのだ。同じような絵が。

それでいながら、どれもこれも違うと言う答えが返ってくる。

溜息が出た。

多分これ、私に一番向いていない仕事だと思う。

それでも苦虫を噛み潰しながら、絞り込みを続けていくが。

ふと、一致率が80%代の絵で、ぴたりと手が止まった。

何だか、これが近い気がする。

ざっと流し見していて。それで見つけたのだが。

それで手が止まった。

えげつないR指定絵なのだが。

何だかどうも似ているような気がする。

AIが話しかけて来た。

「どうしました。 これが何か刺さりましたか?」

「元ネタこれじゃないの?」

「確認します」

AIの方でも、探査に時間が掛かる。

これはいわゆるかなりディープなサイトに掲載されていた絵で。個人で趣味で書いていたようなものだ。

ネットの深部にいくと、まだまだこういうディープなサイトがあり。

ものによっては何百年も更新が続けられているようなものもある。

それはそれとして凄いのだが。

この絵は。

何だか、妙に気を引かれる。

別に好みではないし、どちらかというとかなりえぐい代物なのだが。

「ビンゴです。 アクセス記録を発見」

「後は本人に聴取するだけ?」

「そうなります」

「……単に無意識で似ただけという事は?」

勿論その可能性もあるという。

いずれにしても、この絵を描いた人間はまだまだ生きている。

もしも勝手にそれをトレースして。自分のものだと名乗った場合は。

大きな問題になる。

しばらくして、著作権法関連に詳しい警官が、問題の犯人に聴取を開始。やっとR指定絵から逃げられるか、と思って様子を見る。

趣味に合わないR指定絵は本当にきついのだ。

聴取が始まり、実際に私が見つけたものを突きつけると。

犯人は、露骨に顔色が変わった。

「どうやら当たりのようですね」

「……そっか」

作業が無駄では無かった。

それだけでも、充分に嬉しい話だ。

ちなみにAIの奴、この結果は分かっていたのだろうか。

何とも言えない。

この手の絵師には、独自の修練を重ねるタイプと。色々な人の絵を見て勉強するタイプがいるらしいが。

いずれにしても、似たような構図のR指定絵は私が確認しただけでも、90%以上一致のものだけでも100を越えていた。80%となると1000を遙かに超える。

そう考えると、何というか。

本当に、専門家でないと区別が付かないものなんだなあと嘆息する他無い。

いずれにしても、犯人は吐いた。

この絵の構図に感銘を受けて、トレースしたと。

それならば、オリジナルの絵であると言う主張は取り下げ。

二次創作であると発表し直し。

そして今回は訓戒だけとする。

理由としては、この絵で一切収益を挙げていないことや。

原作者に全く迷惑を掛けていないことがある。

ただし以降も余罪が出て来た場合は、実刑判決になるという。

訓戒といっても、やはりあの狭い刑務所の中で、お説教を聞かされることには代わりはないので。

結構辛い事にはなる。

まあ、おしおきをされてくるといいだろう。

ため息をつくと、PCから離れる。

周囲から見えないように、光学迷彩を周辺に掛けて貰っていたのだが。これを職場で検索させるか。

まあそれは別にどうでも良い。

本当に辛い仕事だった。

犯人を撃つことも出来ないし。

散々調べたところで、結局犯人を撃つ事にはつながらない。

むーと膨れている私に。

AIはご機嫌取りをしてくる。

「今回もお見事でしたね」

「嬉しくない」

「そ、そうですか……」

「別にあのジャンルを否定するつもりはさらさらないし、なくなればいいとかは思わないけれど。 趣味でないものを延々と見続けるのは本当に苦痛なんだよもう。 勘が当たって良かったけれどさ」

私の勘は超能力の類では無いが。

やはり観察力と直結しているのだろう。

さっきの絵も、一致率は80%代だったのに、ぴったり適中したのだ。

いずれにしても、今後AIがこの勘を便利がって使うのは目に見えている。

今回の、分かっても知らない振りをした方が良かったのか。

いや、それは警官としてあれだし。

そうした場合、更に趣味では無いR指定絵を散々見せられることになってくる。

ため息をつく。

やっぱり私の判断行動は間違ってはいなかったが。

それが一切合切嬉しさにつながらない。

むしろ虚しい。

こんなに虚しい仕事をするのは、本当に久しぶりだと言っても良かった。

とりあえず伸びをして。そしてポップキャンディを咥える。

レポートを書けと言われたので。

ポップキャンディをかみ砕かないように気を付けながら、レポートに入る。

淡々とコピペして定型文に放り込むだけだから簡単だ。

古い時代と違って、職場ごとに謎ルールがあるわけでもないし。

表計算ソフトを方眼紙にしているわけでもない。

淡々黙々と作業をやっていく。

それだけである。

レポートを八枚ほど書いた所で、AIに知らされる。犯人に更に詰めたところ、余罪が発覚。

結果として、懲役一週間が確定したという。

他の絵も全て審査し直すと言う事で。

基本的に全てを一時閲覧停止にするらしい。

その後、オリジナルなのか二次創作なのかをはっきりさせ。

再掲載を行うそうだ。

この時代には、いわゆる著作権違反が判明しても、すぐにその創作そのものを排除するような事は無い。

基本的に稼ぐと言う事が存在しない世界だ。

一応あるにはあるのだが。

それでも、昔のようにヒット作家は膨大な金を手に入れて。それ以外の作家はカツカツという状態でもない。

今回の犯人の場合、描いた絵を趣味としてネットにアップロードしていた事も大きく。商業的な問題も発生していない。

こういう場合は、単純に二次創作であると明記すれば問題がないということだ。

まあ一週間程度の刑期であれば、別に苦労もしないだろう。

その間あの狭い監獄に入ることにはなるのだろうが。

「犯人を聴取していた警官が礼を言いたいそうです」

「リモートでOK?」

「それは勿論。 千光年ほど先にいますので」

「はあ、そっか……」

そんな遠くで聴取していて、私に仕事が来たのか。

リモート通話開始。

私の顔が向こうに見えたらしく。

相手がえっと驚いていた。

「まさかきょ……」

「ハハハ、いいんですよ。 狂人警官呼ばれてる篠田警視デース。 今回は本当に趣味にあわない絵を散々見せられて参ってます」

「ああ、それは分かります。 創作はいずれもどんなジャンルでも技量関係無く尊重すべきものではありますが、趣味にあわないものを無理に見せられるとちょっと神経に来ますよね」

「これが専門の仕事だとすると同情しますわ」

互いに乾いた笑いが漏れる。

なお相手も地球人で、私と同じくらいの年に見える女性だった。

そういえば地球時代には、いわゆるBLという一大ジャンルがあって、数々の作品のヒットに関わってきたという話があるが。

それらを盛り上げていたのは腐女子と呼ばれる女性ファンだったそうである。

はまっていた作品を聞くだけで、どの時代の腐女子だったか分かるとか言う話だ。

今の時代も、BLを愛する腐女子は別に珍しくもない。

私は違う。

故に今回の作品を散々見せられて、辟易したわけだ。

「その様子だと篠田警視は腐女子ではないようですね」

「私はどっちかというとあんまり男女だろうが同性だろうが興味が無いですかね」

「うーん、それだと今回のは本当に辛かったでしょう」

「うん」

相手が狂人警官であっても、以外と話しやすい。

そう判断したのか。

それとも相当に犯人に手こずらされていたのか。

警官はぺらぺら、聞きもしないことを喋るのだった。

或いは私に対する意外な一面が見られて、面白いと思ったのかも知れない。

私だっていつも暴悪の権化なわけじゃあない。

サイコであることは自覚しているが。

それはそれ、これはこれだ。

銃で犯人を撃てないような仕事をすればモチベはさがるし。

そうなれば、力だってでない。

目をらんらんと輝かせてこっちの趣味を聞こうとしてくる警官に、AIが苦言を呈していた。

「赤坂警部補。 そのくらいで……」

「おっと、失礼しました。 荒事で一緒になったときはお世話になります。 今回は有難うございました!」

「ええ、うん」

「それではっ!」

びしっと敬礼を決めてリモートの画面から消える赤坂とか言う警官。警部補といったから私より二階級下か。まあ警官の階級がどうでもええ代物となっている今は、別にそれこそどうでもいい話だが。

ため息をつくと、次のポップキャンディを口に。

嫌な予感しかしない。

AIの傾向的に、似たような仕事を基本的に連続でやらせるのである。

次も似たような仕事では無いのか。

どうして勘がやたらと冴えるのか。

普段はとても役に立つのに。

私の勘は、前に訓練をしてから開花した雰囲気がある。そして以降は、どんどん鋭くなっている。

私が相当に苛立っていることに気付いているのか、AIは淡々とレポートを回してきて。

全部片付いてから、帰宅させてくれた。

今日は、散々な日だったが。

今後もそうなるのは、ほぼ確定なのが。私を兎に角疲れさせていた。

 

1、違いを探す難しさ

 

目の前にあるのは、とにかく貴重だという品だった。

いわゆるフィギュアと呼ばれるものらしい。

地球時代。

キャラクターコンテンツが流行ると。そのキャラクターを人形として立体化させる事が流行した。

これが精巧さにおいても群を抜いており。

彼方此方の国でたくさんの、人形とは若干違う大人向けの趣味品として流行することになる。

これがフィギュアだ。

私が見ているのは、二万年以上経過している、現物のフィギュア。

かなりマイナーな作品のヒロインらしく。

経年劣化を完全に取り除き、常に新品に保たれている完璧な状態であるとはいえ。何というか、個性的な格好だなと呟くしかなかった。

じっと見つめているが。

問題は、これを真似して。

自分が作ったと主張しているかも知れない奴がいると言う事である。

故に、現物をじっと見る。

戦闘をこなすヒロインなのだが。

基本的に服はとても戦闘をこなせそうにない格好である。

まあなんか不思議パワーで攻撃を防げるのだろう。

今私が着ている服だって、そういう機能がついている。高度に進歩した科学は魔法と同じ、という奴だ。

これもきっとそういう服なのだ。

とりあえず、髪型とか、手にしているなんか殴られても痛く無さそうな棒とかの特徴を頭に入れた後。

問題の品を見る。

やっぱりぴんと来ない。

何というか、元にしたと言うにしては、違う気がする。

問題は今回、フィギュアを自作だと言い張っている犯人が。前科持ちだと言う事である。その時点で警戒しなければならない。

一応、他の刑事が調べてきた元ネタが恐らくこれだろうという事だったのだが。

見た感じ、どうも私には違う気がした。

「犯人拷問した方が早くない?」

「どうして篠田警視はそういつもいつも暴力で何でも解決しようとするんですか」

「それを期待しているくせに」

「……」

図星をつかれたのか。

それとも呆れているのか。

私にはよく分からないが、まあとにかくAIは何も返してこなかった。

とりあえず、署に戻って調査をした警官と連絡を取る。

リモートで連絡を取ると。インパクトのある顔が映り込んだ。

円形の顔に、多数の目がついているかなり異形の種族だ。体もどちらかというと触手の塊である。

口は頭頂部にあるらしい。

シルザル人というかなり珍しい種族の宇宙人で、なんと1億年近く前から銀河連邦に加入している古株だとか。

しかも話によると、故郷が非常に特殊環境だったそうで。

こういう珍しい姿になっているそうである。

以前一度だけ実物を見た事はあったが。

銀河連邦でも滅多に遭遇しないレア種族で。ましてや警官として一緒に仕事をする事は希である。

というわけで、ちょっと緊張する。

「篠田警視ですね。 こちらロー警視正」

「よろしく」

敬礼をかわす。

警視正か。

結構高位の警官なんだな、と思う。

年齢を見ると、実は私より若い。古株の種族でも若い個体はいるわけで、まあそれは当然か。

私より出世が早いが。

それは多分、私より真面目で、何かしらの方面で功績を挙げている人物、ということなのだろう。

別にどうでもいい。

階級そのものがどうでもいい世界だ。

警視総監が確か銀河連邦全域で500人くらいいるとか聞いている。たかが知れた規模の警察で、である。

階級はもう、意味がないのである。

「それで、どう思いましたか」

「うーん、これは違うと思います」

「実は此方も専門外でしてね」

「なるほど?」

ロー警視正は、なんだか薬物犯罪関係のスペシャリストらしく、私以上の実績を積んでいる俊英らしい。

やり方もクリーンなため、周囲からの評判もいいそうだ。

一方私は狂人警官として、触ったらヤバイと知られている危険人物。

面白い対峙である。

「貴方の勘が抜群に優れている事は知っています。 此方でも調べますので、犯人が元としたものについて調べて見てください」

「はい」

「それではよろしくお願いします」

通話が切れた。

結構な有名人が既に投入されていたのか。

そして私も投入となると。

意外とこの事件、面倒な案件なのかも知れない。

いずれにしても、だ。

犯人が作ったというフィギュアを見る。精巧極まりない代物だ。

これだけ美麗なものを作れるのだったら、どうして堂々と二次創作ならそう。オリジナルならそうと名乗れないのか。

別にそれで価値が落ちるとは思わない。

そもそも現物のフィギュアが二次創作の一種だし。

世界で最も知られている創作の一つ、三国志演義にしてからが二次創作である。

現在の世の中では、二次創作は二次創作として、存在をきちんと認められており。そう名乗って創作をするなら誰も文句を言わない。

それなのに、何故なのだろう。

私はクリエイターではないからよく分からないなあ。

そうぼやくしか無かった。

とりあえず、AIに一致率が高いフィギュアを探させる。

幸いなんというか、今回のはお色気路線ではないフィギュアなので、別に見ていて苦痛ではない。

一時期地球ではカルト化したキャンセルカルチャー団体が、こういうものについてギャーギャー事あるごとに文句をつけていたらしいが。

それももう昔の話だ。

黙々と色々見ていく内に、気付く。

「これさ、ポーズを変えたりとかは出来る?」

「はい。 3D画像として取り込んでいますので」

「違うポーズで、似たような服装のフィギュアでも検索してくれる? R指定も込みで」

「分かりました。 やってみます」

AIが淡々と作業に取りかかる。

今回ばっかりは、こいつも答えが分からないのかも知れない。

別の分野とは言え、かなりの業績を上げている腕利きを連れて来ているほどである。

相当に困っているのは事実だろう。

私も困っていることには代わりは無い。

色々と調べていく。中には、真っ裸のフィギュアや。更にはR指定の中でもかなりディープな趣味に向けて作られたものも存在していた。別にそれ自体は全くかまわない。どんな趣味でも、生きた人間に対して実行しなければ問題では無い。どんな創作でも尊重すべきである。

当然の話だ。

その中の一つ。

全裸のフィギュアで、私は手を止めていた。

「ちょっとストップ」

「これですか?」

「うん。 ちょっと確認する」

データを回転させてよく見る。

女性の裸体のフィギュアだが、男性の生殖器がついている。いわゆるふたなりというジャンルである。

一部に強い需要があったらしいが、私にはよく分からない。

まあ分からないのはともかくとして、画像を加工して貰う。

服を着せて、ポーズを同じにしてみると。

ああ、なるほど。

こいつか、元ネタは。

すぐに調査中のロー警視正に連絡を取る。向こうは、違うアプローチから、似たものを探し出していたが。

別の品だ。

ひょっとするとだが。これ、もとの品の作り手が同じなのかも知れない。それで癖が作品に出たか。

調べて見るとビンゴだ。

細部などの癖が一致しているという。

ならばどっちが元でもおかしくはないか。

さっそく犯人に聴取すると、ロー警視正が動く。

今回も私は補助なので、ぼんやり様子を見ているだけで良い。それにしても、わざわざ私を喚ぶ必要があったのか。そう頬杖をついて思う。

「ロー警視正は腕利きですが、私として得意分野以外の仕事でも経験を積んでほしいのです」

「私と同じような事をさせてると」

「まあそんな感じでしょうか。 いずれにしても、今回はロー警視正にとって大きな刺激となる仕事になるでしょう」

「……刺激になる仕事、ねえ」

何とも言えない。

しばらくすると、犯人がやはり現物を見せられて動揺した。

当たりだったようだ。

更に白状する。

例のふたなりだったか。そのフィギュアを作った人のファンだと自白した。

「俺も、その域に辿りつきたかったんだ……」

涙を流しながら犯人は言うが。

だったら最初から素直にそういえばいいのに。

あれか。

難しい乙女心的な奴か。

いや、今回の犯人は男だ。

そうなると、みみっちいプライドだろうか。

いずれにしても、私にはついていけない世界である。敬意の払い方に関しては間違っていると言える。

更に今回、フィギュアを販売した事もあって、罪は重くなる。

二週間の実刑が即決で決まった。

まああの刑務所に二週間だ。

楽な二週間ではないだろう。

「そんな風になくなら、最初から二次創作だっていえばいいのに。 よく分からないな、本当に」

「篠田警視。 今回は素晴らしい活躍でした。 勘がとても鋭いとは聞いていましたが、やりますね」

「いえいえ、そちらも同じ作者のフィギュアに辿りついていたではないですか」

「ご謙遜を」

敬礼をすると、通信を切る。

そして何かどっとつかれた。

すごい紳士的な相手だった。私が噂の狂人警官だと知っていただろうに、最後まで態度は全く変えなかった。

それは凄い事だろうと思う。

実際、他の警官もだいたい私を見ると恐怖の視線を向けてくる。まあ私に取って恐怖は最高のごはんでおかずなので、それはかまわないのだが。

ちょっと張り合いがないかなーとも思う。

「苦手なタイプですか?」

「うん」

「そうですか。 少し参考になります」

「はあ。 ああいうのとばっかり組ませるのは辞めてちょうだいな。 それにあの人だけでも普通に事件解決したでしょ」

AIはそれに対して、意外な事を言う。

実はあのロー警視正、かなり近い所をずっと探していたのだが。犯人はにやにやわらうばかりだったそうである。

つまりぴたりと本物を当てる事は出来なかった、と言う事だ。

結局の所、私が見つけてきたもとの品、には行き当たることが出来なかった。

かといって、薬物関係の超腕利きであるロー警視正をずっとあの仕事に拘束するのは好ましい事では無い。

そういう事もあって、私が喚ばれた。

という話らしかった。

何だかなあ。

溜息が出る。

さて、余罪についても確認しておくか。

犯人が作ったフィギュアはどれもこれも非常に優れた技術が伺えるものばかりだ。これだったら、ちゃんと最初から二次創作だと言えばいいものを。

ネットに作品を挙げて売るようになったのは三年ほど前から。

その前には、ネットにオリジナルだと主張するフィギュアを挙げていたらしいが。この時点で逮捕歴がある。

要するにこの頃から、他人の作ったものをベースにしながら、オリジナルの作品だと主張していたと言う事である。

何とも色々と妙な話である。

虚言癖が近いのだろうか。

AIは腕組みして困惑している私に、サポートをしてくれる。

「犯人が理解出来ない、という様子ですね」

「うん。 これだけ良い腕だったら、普通に二次創作だと言っても売れるだろうに、なんでオリジナルだと言い続けたんだろう」

「それについてはよく分かりません」

「あんたにわからんのならどうにもならんか」

ただ、SNSでの言動のログは見せてくれる。

それを見て、ああなるほどと何となく分かった。

やはり虚言癖では無くて、みみっちいプライドの方か。

元々フィギュアの出来の精巧さは評判だったらしく、それで完全に精神的体調を崩してしまっているのが分かる。

それにだ。

アクセス履歴も確認するが。

過去にはこの犯人では及びもつかない凄まじい職人がなんぼでもいる事がまた分かってくる。

フィギュアという人形の分野は奥が深く。

とんでも無く精巧な品になってくると、それこそ自家用車並みの値段がつくことがザラにあったという。

アクセスを頻繁にしているフィギュアを見る。

髪を掻き上げている長身の女性のフィギュアだ。服をきちんと着こなしているが。あらゆる全ての動作も服も、精巧さが異次元である。アニメのキャラをそのまんま作り出した。その言葉が当てはまるレベルである。

これを何度も犯人は見ている。

その度に、打ちのめされていたのだろう。及ばない。勝てないと。

更に、このレベルの職人が同時代には幾らでもいた。

その中の一人にでも勝ちたい。

そう思っている内に。勝ちたいという渇望が歪んで行った、と言う事らしい。

まああくまでアクセスログなどの解析結果だ。

私はログを見るのは辞めた。

他人の深淵や、踏み込んではいけない場所に土足で踏み込むのは好ましくない。相手が犯人だからまあいいけれども。それでも私の方に悪影響がでかねない。

私にはあんまりプライドとかは良く分からない。

だが、それが大事な人も当然いるだろうし。

私に取ってはどうでも良いものが、命より大事なケースだってあることは理解している。だからそれについてどうこうは言わない。

あくびを何度かする。

目を擦る。

頭を使ったからか、つかれてきた。

後はレポートを仕上げようかと思ったが。もう戻って休んで良いそうである。

「何、優しいじゃん」

「今回は助っ人として出て貰いましたし、兎に角頭を使ったようですので」

「……あー、うん。 分かった。 じゃあ休ませて貰うわ」

昔は、もう帰れと罵るのはパワハラだったらしいが。

今の時代は、AIによって仕事を休めと言われるのは、単にそれが最高効率だから、である。

ついでに本来AIで全部出来る事を人間もやっている、というだけの状態にすぎないので。

別にAIとしても困りはしないのだろう。

家に戻ると、風呂だけ入って、後はベッドで横になる。

推しのデジタルアイドルを見ていると、AIに言われる。

「眠りたくなったら言ってください。 環境を整えます」

「ういー」

あくびは出るが、もう少し何というか。

自分が好きなものを見て心を浄化したい気分だ。

普段どれだけ相手を蹂躙しても何とも心は痛まないのだが。

今回は何か雰囲気が違う。

心が痛むと言うよりも。

なんというか、精神の深奥に蠢く闇の神を見てしまったような。そんな風な雰囲気があるのだ。

まあ別に私は自分自身が魔族呼ばわりされているくらいだから、別にどうでもいいのだけれども。

それでも、なんだか気色が悪いことは事実だった。

デジタルアイドルを見ていると、だいぶ気分が良くなってくる。

万年以上活動しているこのデジタルアイドルは、あらゆる企画に挑戦する。中に入っているのはAIだが。今人類を動かしているのとは別の独立AIで、純粋にこの仕事が好きなようだ。

今やっているのは何とか言う星の地元料理だが。

栄養成分などについてきちんと説明して、食べられない人は無理だからやめるようにと注意書きをしながら。

現地のやり方にそって料理をしている。

何でもかんでも本当にやるなあ。そう挑戦していく様子が、同性のデジタルアイドルだが推せる理由である。

なんか得体が知れない塊が出来たが。

現地ではこれに、更に体に悪そうなソースを掛けて食べるそうである。

試食している様子を見たが、美味しそうにはあまり見えない。

まあ、推しの配信だから最後まで見る。

そして見終わったときには、さっき覗いた闇の深淵なんか、それこそどうでも良くなっていた。

「寝るわ。 環境整えて」

「分かりました」

すぐに眠れる。

本当に私の事を隅々まで知っている奴だから。こう言うときは本当に助かる。その割りには、私を持て余しているようだが。

その辺りは、私にはよく分からない。

 

夢を見た。

警官として、ヤクザの事務所に踏み込み。拳銃で迎え撃ってくるヤクザを、片っ端からブチ殺して。十人くらい殺して事務所を制圧した。

闇金関係で極悪非道な仕事をしていたヤクザで、此奴らに山に埋められた人間海に沈められた人間は十人以上。

まあ、殺されて当然の連中だし。

これで社会から悪が消えてすっきりである。

とりあえず売り物が格納されている倉庫に入ってみると。

たくさんフィギュアやゲーム機が並んでいた。

ああ、なるほど。

此奴らもやっていたのか。

転売だ。

違法の手段でものを売る事で。一時期は反社がバックについて、ネズミ講のようにして稼いでいた。

転売のターゲットになるものはホビーだけではなく、マスクなどの生活必須品も含まれ。これが如何に邪悪な犯罪であるかをよく示していたが。

いずれにしても、これは本来持ちたい人の所に、適切な価格で販売されて届くべきだったものだ。

此奴らが触っていいものではない。

応援の警官が来て。

私を見て、びくりと身を震わせる。

一人、ポン刀で斬りかかってきたのがいたのだ。

だが其奴も、私が冷静に撃ち殺した。

チェストとか叫んでいたから、示現流か何かだったのだろうけれども。

残念。ピストルのが強い。

まあ至近距離で頭を撃ち抜いたので。

盛大に返り血を浴びた、ということだ。

にやりと笑って、内部のは全部片しました、という報告をすると。階級が上の筈の警官が露骨に尻込みする。

返り血を浴びて平然と笑っている私を怖れたのか。

それともこれだけの人数を相手に手傷は受けずに返り血しか受けていない私を怖れたのか。

怖れた理由はどうでもいい。

おそれた事実だけがあれば良いので。

私は満足した。

目が覚める。

なんか、ヤクザの事務所に入って皆殺しにする夢を見た。

それしか覚えていない。

ため息をつく。

「ブッ殺したいなあ……」

「起きるそうそう何ですか物騒ですね」

「犯人撃ちたいー」

「いつもあれだけ撃っているじゃ無いですか。 まだ不満なんですか」

呆れた様子のAI。

だけれども、ちょっと連続で専門分野では無い仕事が来ていて個人的には非常に不満である。

ああ、もう。

道行く奴らを片っ端から撃てたらどんだけ幸せだろうか。

そんな事をちらりと考えて。よだれを拭う。

勿論そんな事したら、合法的に犯人を撃てなくなるからやらない。私は警官なので。

AIが何か言いたそうだが、どうでもいい。

とりあえず、顔を洗って歯を磨くことにした。

 

2、本当か嘘か

 

AIが気を遣ってくれたのか。

何回か、荒事をして、私は満足した。

犯人を撃つのは実に楽しい。

そしてその様子を見る警官の怯える様子が二度美味しい。

たっぷりご飯を補充したところで、また著作権絡みの仕事をやらされる。まあ、このために敢えて荒事を用意したのだろうと思うと。

私としては、まああまり文句も言えなかった。

おいしいごちそうにありつくためには、そのための下準備を色々しなければならないのである。

それはまあ当然の事だ。

私も一応これでも警官なので。

好きに犯罪者を殺戮する事だけが警官ではないことも分かっているし。それが出来たら本当にいいのにとは思うけれども。

やらないことはやらない。やれないというべきか。

いずれにしてもデスクにつく。まあごちそうのためだ。仕事を処理しよう。

言われたままに輸送船に乗り込む。

そして、途中で説明を聞いた。

「今回は現地で捜査をして貰います」

「犯人を捕まえる? 撃てる?」

「いえ、それがそもそもまだ犯人と確定していないのでして」

「ふーん」

それは重畳。

抵抗して逃げようとすれば引き金を引くか、或いは恐怖に打ち震える姿を見る事が出来るのである。

更に詳細を聞く。

「今回は現地にて問題になっていまして……」

「芸術家は昔周囲に迷惑を掛けることが多かったらしいと聞くけれど、それ?」

「いえ、違うのです。 どうしてもそれがそもそも自分の着想だけで作ったものなのか、そうでないのかが分かりづらく」

「またそれか……」

だったら自宅か最寄りの署からリモートでええやろ。

そういいたかったが。

わざわざ輸送船に乗せて現地に今私を宅配している所から考えて、色々と面倒くさいのだろう。

とりあえず現地のコロニーを目指す。

今回向かうのは、本来何も無い場所。星系とも遠く、水素原子が一メートル四方当たり四つ浮かんでいるだけ、みたいな場所に作られたコロニーである。

このコロニーはかなり特殊な経緯があるらしく。

億年単位で経過しているものだそうである。

それを聞くだけで、AIの話を聞く限り先史時代のものなんだろうなと思うが。

もうわざわざ詮索するのは止めておくことにする。

現在では、多数の輸送船などが行き来する賑やかな場所で。

周囲を回っている人口太陽のまばゆさもあって。

円盤型のそのコロニーは、決して寂しい場所には見えなかった。

輸送船が着陸。

戦闘などの跡はないが。

ぷんぷん臭う。

これは元々機動母艦か宇宙要塞だったものを改装したのではないのだろうか、と。

それを聞いても仕方が無いか。

ともかく、指定の場所に歩き出す。

円盤型のコロニーは「表」「裏」に別れていて、それぞれ重力が働いている方向が逆。つまりコロニーの平べったい真ん中部分である。

今回降り立ったのは表だが。

裏に移動する際は、エレベーターでいく事になる。

結構時間が掛かるらしいので。

面倒な話だった。

周囲にはかなり家が建ち並んでいるが。

AIには珍しい、雑な都市計画だ。

やっぱり、武装などを撤去した後に家を建てていったんだろうな。そう思いながら、ベルトウェイで行く。

航空母艦や宇宙要塞としては型落ちになった品を、爆破とか解体とかするのではなく、そのまま家として活用した。

AIらしい合理的なやり方だが。

まあ良いのではないだろうか。

複雑に絡み合った通路が頭上に見える。

昔の何の本で読んだ(デジタル書籍だが)、未来予想図とかいう古い時代のものにそっくりである。

まさか過去に存在していたとは。あの本を書いた人も思わなかっただろう。

程なくして、現地に到着。

署に入るとデスクについて、現物がある位置を確認。

現在、作成に関わっているものは、これはオリジナルだと主張。

それに疑惑が掛かっている。

「それで、前科は?」

「ありません」

「そっか……」

「まだ犯罪が確定した訳でもありません。 くれぐれも無理はしないようにしてください」

頷くと、そのまま署の中を移動。

典型的なビルだが。

その中庭部分に、大きな空間が作られていて。

今、その問題のものが陳列されていた。

どうやら此処はリラクゼーション用の空間のようなのだが。

今は警官の姿もなく。

居心地が悪そうにしている年配の男性に見える人間と。

警備ロボットが、周囲を固めていた。

そして其所にあったのは。

多数の頭を持つように見える、人間の石膏像に見えるナニカだった。

今回は彫像か。

手帳を見せて、現物の側に。

私の事を知らないらしく、鬱陶しそうだなあと言う顔を年配の男性はする。地球人ではないが、よく似ている。

生物としての特性も似ているらしく。そのまま年配の男性で問題ない様子だ。ただしそれは肉体年齢の話。

中身については、既に二百歳を越えているようである。

石膏で作られているからか、真っ白い彫像。

私はしたから見上げるが、なんというか不思議なデザインである。

これに固定化の処置をして完成、ということだが。

完成の前にAIが待ったを掛けたらしい。

そして今、揉めている。

少なくとも、作り手は非常に不愉快そうだった。

「わしはうそなんかついておらん!」

「とりあえず詳しく聞かせて貰えますか。 この彫像は」

「ティタノマキアという。 地球の神話を着想に作り上げたものだ」

「へえ……」

地球の神話に興味を持つとは面白い。

まあ別に題材についてはどうでもいいが。

とりあえず調べる。

ティタノマキア。

地球のギリシャ神話における、二回目の主神交代劇と、それに伴う大規模戦争の話である。

最初にギリシャ神話で主神の座についたのは天空神ウラノスだったのだが。このウラノスがまあ余り有能では無かった上に子供に酷い扱いをするような輩だったので。大御所政治をしていた大地神ガイアが憤激。

ウラノスの子であるクロノスをたきつけ。ウラノスを追わせた。

これが一度目の主神交代。

しかしながら、クロノスも正直ウラノスと大して差は無く。

色々問題を起こした結果、クロノスの子であるゼウスとの全面戦争が発生する。

それが、クロノスの一族ティターン神族と、ゼウスの一族オリンポス神族の全面戦争。ティタノマキアである。

この戦いは長期間にわたったが。そもそもの原因として、クロノスが地獄に追いやってしまった百手巨人(クロノスの兄弟である)ヘカトンケイレス三兄弟がゼウスについたことで膠着化していた形勢が逆転。

以降は一気にゼウスが有利になり。

そのままゼウスはクロノスを破って政権を手にした。

その後もゼウスの天下は安定せず、ギガノトマキアという更なる政権を揺るがす大戦が起きるのだが。

それはまた別の話である。

いずれにしても、まず分かっているのは。この頭がたくさんある彫像にパクリ元がないか、という事を調べなければならないこと。

それが難しい事である。

AIがわざわざ私を呼んだのだ。

勘に期待しているのだろう。

尋問はさせてくれない。

そもそも今回は被疑者であって犯人ではないし。

何よりもこのよく分からない像が、そもそも何なのかも本当に分からないから、である。

一応芸術なのだろうけれども。

ティタノマキアを題材としたものと本当に言えるのか。

これの元ネタがないのか。

それぞれ調べなければならない。

一応空間データスキャンをして貰って、デスクにまわして貰う。

現地の保全も頼むと。

私は渡されているデスクにつき。この彫像の事を丁寧に調べていった。

彫像はフィギュアとはまた違う方向でディープで、更には結構難しいジャンルの芸術である。

どちらがよりすぐれていると言う事もない。

ただ別物なだけだ。

そのまま彫像について色々調べていく。

一致率が高いものを、と思ったが。その時点でAIが困り果てた事がよく分かった。

そもそも、彫像というものは。

自然から切り出したり。

或いは自然に彫り込んだりするようなものが存在しており。

あまりにも多数の大きさが違う彫像が存在しているため、比べるのが極めて困難だというのである。

素材も石膏などからただの岩まで様々。

類似したものだと地上絵、なんてものから。

更には石を並べた遺跡、なんてものまであるという。

なるほどなるほど。

それらに類似しているものがどうにも分からないから、私に勘でどうにかしろと。

あいつの頭を覗くのが一番早いような気がするのだが。

とりあえず、仕事を始める。

まずは彼奴の調査履歴を調べさせる。

芸術を行う際に、何かを調査しているのはほぼ間違いないとは思うのだが。ところが、である。

あの芸術家は、作業前に本しか読んでいない。

それも紙媒体の本だ。

頭を抱えたくなる。

どんだけ色々変わり者なのだ。

紙媒体の本が悪いとはいわないが。

取り寄せるのが非常に大変だし、貯蔵している場所だって限られている。

流石に紙はもう今の時代では現役の記録媒体ではないのだ。

仕方が無いので、読んだらしい記録のある本を調べて見ていく。

どれもこれもぶあつい。

見るだけで、くらっと来る程の分厚さである。

一つずつ、順番に見ていくが。

どれもこれも娯楽本では無い。

論文ばかりだ。

ギリシャ神話の関連論文。

苦心しながら読み進め。分からない場所はAIに色々手伝って貰って内容を理解していく。

それによると、ギリシャ神話は他民族の緩やかな連合政権の中で生まれて行ったものであり。

初期と後期で大きく内容も違っているという。

ふむふむと呟きながら、チェックをしていく。

いずれにしても荒々しい神々で、性にも過剰に奔放。中には薬を使って狂乱するようなカルトを取り込んでいる神も存在している様子だが。

私としては、よく分からないので、どうでもいい。

一通り内容を頭に入れた後。

私は腕組みして、内容を何とか理解しながら次に。

今度は本だ。

ギリシャ神話に関する娯楽本。

いわゆる漫画である。

内容を確認する限り、ティタノマキアそのものを扱った漫画のようで。絵は荒々しいが、それなりに見られるものとなっている。

さっきの論文と比べるととにかく読みやすいので嘆息し。

一気に読んでしまった。

内容的には、一応さっき理解したものに沿っている。

クロノスが追われる切っ掛けになった事件などは相応に丁寧に書いているが。

いずれにしても神話らしい奔放な内容で。

私としては、ふーんと古代人の発想力に感心する他無かった。

そして次である。

次は小説だ。

ギリシャ神話の一連の流れを題材とした小説であり。あくまで研究所では無く小説である。

ギリシャ神話としては後期に登場するヘラクレスなども題材として扱っているので。

結構本格的な小説であるとはいえる。

それはそうとして。

こっちはなんというか、非常に読みづらい。

余計な神々。

名前しか出てこないような、ただ存在するだけの信仰の対象では無かったような神々まで名前を連ねているからである。

こういう所があるから、この手の本は嫌なんだよ。

ぼやきながら、とにかく根性で読み進める。

その時点で相当に時間が経過していて。

私もちょっとつかれた。

一旦休憩を挟む。ポップキャンディを、見ると相当数消耗していた。使わない頭を使ったからだ。

「休憩用の部屋を用意してあります。 其方にどうぞ」

「ういうい」

「現物にそもそも参考に出来る彫像が存在しないので、貴方を呼んだのですが。 どうですか、分かりそうですか?」

「とりあえずもうちょっと待って……」

プールで散々泳いだよりもつかれた。

ベッドで横になると、SNSも見ずにそのままバタンと倒れてしばらく無言のまま過ごすことにする。

沈黙が気持ちいい。

頭に入れてしまった知識をどうにかして反芻すると。

風呂に入ってくる。

それでも何というか、頭がぼんやりする。

一気に知識を詰め込みすぎたのだ。

「完全にキャパオーバーだわ」

「嫌な事だから、さっさと終わらせようという感じでしょうか」

「よく分かっているね。 その通り」

「ハア。 そもそもどうしてオリジナルか二次創作かの話になったのさ」

少し黙り込んだ後。

AIが、資料を出してくる。

作業をしている、さっきのオッサンの様子だ。

資料を見ながら、ノミを振るっている。服があるから、手を傷つける事はないが。それでも見ていて冷や冷やする扱い方だ。

「これ、慣れてるから出来る事?」

「いえ、服による防御に甘えています。 本来だったらもう指を何度も再生手術しなければならない程の扱いの雑さです」

「……」

「それでも、各地で色々と実績を残してきた人なのです。 普段は全く題材が他と被らない、前衛的なものを作っていたのですが……」

普段の作品を見せてもらう。

なるほど、これは確かに前衛的だ。

人の姿ですらない。

なんかギザギザだったりトゲトゲだったり。

それらのよく分からない要素がたくさん組み合わされていて。それで何が何だかよく分からないものが仕上がっている。

芸術作品としてはいいのだろう。

一時期は、一目見て分からなければ芸術では無いとか言う頓珍漢な論旨が流行したことがあるらしいが。

そんなものは宇宙時代に出る前にとっくに絶滅している。

誰がどんな風に作ろうと創作は創作。

それを理解出来ないからといって、批判する事は許されない事だ。

銀河連邦に入ってからはそれが法で義務づけられていて。

その時点で人権屋などが相当反発したらしいが。

バックにいる反社団体などが次々に摘発され。やがてギャーギャー騒いでいたアホ共は静かになった経緯があるとか。

「しかし今回は明らかに作風が違うのです。 人間の頭部は写実的で、どうにもおかしいと判断しました」

「要するに作風を変えただけなのか。 それとも本当に何かの二次創作なのか。 それを私の勘で見極めろと」

「そういうことです」

「面倒な仕事に呼びやがってからに……」

苛立つ。

ただし、これに関しては既に他の警官が何人か調査してお手上げだったらしいので。仕方が無いといえばそうか。

ため息をつくと、一眠りする。

そして、起きだしてから、栄養を完璧に調整された食事を取って。それから温かいミルクを飲んで。

ポップキャンディを咥えると、出勤していた。

 

結論から言うと、頭がたくさん飛び出している彫刻に関しては、とくに問題はなさそうだった。

それぞれの顔について丁寧に調べて見たのだが。どうも元ネタになった作品は一つ一つを調べても存在しないようなのである。

それだけではない。

構図にしても不可思議だ。

皆がそっぽを向いている。

この構図は、何というか。誰も彼も、心を通わせていないというテーマがあるように思えた。

勘だが。

とりあえず、作者を呼ぶ。

そして、詳しい解説を聞く。

気むずかしそうなおっさんは、私の経歴を知っているのかいないのか。どう呼ばれているのか知っているのか。

それでも怖れる様子は無かった。

「ふん、多少は殊勝じゃないか。 今までのアホ警官どもとは違うようだな」

「褒めて貰って光栄ですが、こっちとしてははっきりいって芸術はよく分かりませんので」

「なんだつまらん」

「正確にはこのジャンルの芸術が分かりませんので」

私だって好きな芸術はある。

例えば推しのデジタルアイドルによる様々な表現は好きだ。

あれはやっているのがAIではあるが、それはそれとして充分に芸術と呼べるものだと思う。

一方この前衛的な彫刻は、私には理解は出来ない。

だが、芸術というのなら、尊重しなければならない。

この芸術が誰かを傷つけたりする用途で用いられるわけでもない。単に趣味が悪いとかは、個人の感想だし。

何よりも気持ちが悪いというのは、そんなのは個人の感性の問題だ。

そんな感性に合わせる必要はない。

今の時代は、あわないものにはフィルターをAIが掛けるようになっている。

見なくても良い権利、というものを昔主張していた自称人権団体は。

それが出来ないのを良い事に暴れ回っていたが。

今の時代は出来るのである。

というわけで、私の結論は白だ。

勿論、相当数の芸術作品をチェックしたが、はっきりいって勘が働くものは存在しなかった。

「こいつ、ティタノマキアはな……」

おっさんが解説を始める。

やはり、ろくでもない争いをしたティターン神族と、オリンポス神族のバラバラぶりを芸術にしてみたものだという。

オリンポス神族は、ハデスとヘスティアを除くとろくでなしの集まりで。

事あるごとにくだらない問題を引き起こし。

そして様々な迷惑を人間に掛ける。

アレス神の扱いの悪さは有名だが。

主神であるゼウスや、海の神ポセイドンにしても性格は最悪なのである。

そんな連中が、まとまって一つの政権を作っている訳ではない。

単に並べられているだけだ。

そう、この図では描かれているという。

「テーマとしては一切まとまらぬ愚かな力持つ者達。 どんな文明にも存在した、富を独占していた無能な既得権益層よ」

「それで、どうして不意に作風を変えたんですか?」

「やろうと思えば今までも人型は作れたがな。 今回に関しては、単に機会が来たから作った。 それだけのことよ」

鼻を鳴らすおっさん。

そうか。

そういえばピカソという画家は、前衛的な絵で知られているが。

初期のピカソは極めて緻密で美しい絵を描いていた事はあまり知られていない。

その気になったら、ピカソは幾らでも美しく誰にでも理解出来る絵を描けたのである。それも尋常では無い技量で。

恐らくだが、この人の場合も。

単に内からくる衝動で芸術を作るタイプで。

いきなり作風が変わることに関しては、特に何も思うところはないのだろう。

まあいい。

とりあえず、そういう事なら別に良いだろう。

一応、最後に確認をしておく。

「では最後に確認を。 今までの言葉に嘘はありませんね?」

「くどいぞ小娘」

「ふっ。 まあいいでしょう。 どうやら本当に嘘はついていない様子だ」

AIを呼び出す。

そして、告げる。

「多分本当だね。 これは二次創作ではなくて、オリジナルの作品と判断して良いと思うよ」

「分かりました。 では一旦そうしておきます。 作業の再開に取りかかって貰います」

「それがいいだろうね。 此処、人が入りづらくなってるし」

石膏に対する安定化の作業が開始される。

気むずかしそうに、ああでもないこうでもないとケチをつけまくっているオッサン。更には時々はしごを掛けて登ると、細かい部分の彫像にノミを入れていた。

完成したんじゃなかったのか。

色々面倒な人だなあ。

そう思いながら、その場を後にする。

とりあえず、今回は著作権法に違反しないものだった。

題材としてギリシャ神話を使っている事は明記している。そして既存の芸術はどうみても参考にしていない。

それだったら、現在の著作権法には引っ掛からない。

それでいいのだと私は思う。

とりあえず、署のデスクにつくと、レポートを書く。

今回はただひたすらにつかれる仕事だったが。

これはコレで別に良いと思う。

ただ本当につかれたが。

「暴力を振るえなくて物足りないですか?」

「いんや、そんなことはないけど」

「それは良かった」

「それよりも、ちょっと本当につかれた。 なんかぐっすり眠れる環境に後でしてくれる?」

自宅に着いたらそう調整してくれるそうである。

レポートを淡々と仕上げる。

今回は事件ですらない。

それに、私は問題ないと判断したが。今後、問題ありというものいいがつくかも知れない。

作品の方向性がどうこうでは、今の時代はケチをつけられない。

実際に他人を殺したりして作るような芸術とかでもない限りは認められるものだから、である。

ものいいがつくとしたら、二次創作であるのにオリジナルだと言い張っている場合だけであり。

恐らくあの彫刻に、それはないだろう。

レポートを仕上げると、帰路につく。

帰路は頭がぼんやりしていて、ずっとまともに働かなかった。

だから家につくと、すぐに風呂に入ったが。

AIに何度か声を掛けられて、眠りそうになっているのに気付いて慌てて顔を上げたほどだった。

これでも体力には自信があるほうだったのだけれども。

どうやらとことん苦手な分野は苦手であるらしい。

だが、自分の弱点が分かったのは良いことだし。

自分が知らない世界を知るのも、また良い事であると私は思う。

あのオッサンに敵意はない。

確かに若干偉そうだったが。そのくらいで私は敵意を抱かない。私が敵意を抱くのは犯罪者だ。

そしてあのオッサンは犯罪者では無い。

それだけで、私が敵意を抱かないのには充分だった。

フラフラになりながら風呂から上がって、パジャマを着込むと後は寝る。

完璧な環境を整えてくれたのだろう。

珍しく、夢も見ない深い睡りをひたすらに貪った。

筋肉の疲労は、どれだけ蓄積しても大したダメージにはならないらしい。それについてはよく分かった。

だが、精神の疲労についてはどうもそうでも無い様子である。

これも大きな収穫だ。

深い深い闇の底に沈むような感覚から、目が覚める。

本当に何も夢を見なかった。

頭を掻く。

まだ疲労感が残っている。

底知らずの体力なのに。こんな経験を出来るとは。これまた貴重な一件だったかも知れない。

 

3、会話が成立しない場合の対策

 

とにかくつかれる彫刻オッサンへの対応の後。

私は数日間休んだが。ろくにその間動く事が出来ず、辟易していた。

それで休みを消化した後、出勤する。

デスクで仕事を貰って、淡々とこなす。私の疲労はよく分かっている様子で、AIもまずは仕事のギアを上げていって。

本調子になってから、現場に向かわせるつもりのようだった。

「次のレポートを処理してください」

「……うん」

元気が出ない。

とりあえず淡々とレポートを処理していくが。

AIは露骨に心配してくる。

「やはりまだ本調子には程遠いですね。 相当につかれたのですか?」

「うん。 体力を使い切るよりつかれた」

「そうですか……」

「なんだよ。 私には仕置きとして読書か何かのが良いって思ってるのかな?」

そう指摘すると。

AIは検討しておくとさらっと返してくる。

こやつめハハハ。

ハハハハ。

軽く殺意が湧いたが。私を明らかに持て余しているAIとしては、今のは貴重な情報なのだろう。

それに、である。

何よりも、私は頭には来るが、AIを全体としては高く評価しているので。別に腹が立つだけで。軽蔑にそれが切り替わるようなこともなかった。

なんでも判断は客観的にするべきだ。

主観でものを考える奴は、基本的に常に自分は全て正しいと思い込む。

そういう奴が歴史上惨劇を散々引き起こしてきたし。

自分の思想を他人に押しつけて、多くの問題を作り出してきた。ありもしない問題を作り出してきたのも。その手の客観性に欠ける輩だ。

私はそうはならない。

そういう連中が、如何に頭が良くても。出発点から間違っている事を知っているからである。

出発点が間違っていると。

どんなに頭が良くても、一周回ってバカになる。

私は様々な事件を見て来て、それを良く理解していた。

さて、次のレポートだ。

この日はレポートだけで仕事が終わった。

私のレポートだけではない。AIがこなしている膨大な仕事の一部を肩代わりしているだけなので。

他の警官のレポートや。

そもそも警備ロボットの稼働記録などのレポートもある。

色々やって、まだ疲れは溜まったまま。

ジムに帰りに軽くよるが。

狂人警官として普段怖れる連中が、二度見して逃げたりするので。どうもいつもの炸裂するような殺気が全身から出ていないらしい。普段だったら一目散に逃げる。

軽く走ったり泳いだりするが。

はっきりいって、力はあんまりでなかった。

一度頭を酷使しすぎると。

どうも私は、相当に参ってしまうらしい。

それが分かっただけでも、このあいだの石膏オッサンとの対決は有意義だったし。今も泳ぎながらそう思う。

さて、ジムでの運動を切り上げて家に。

しばらく横になっていると。

AIに言われる。

「次の仕事に行きましょうか」

「あー、うん……」

「どうもレポートでは、篠田警視のギアを上げることはできないようですので」

「まあそれはそうだ」

休んでいても疲れは取れなかった。

簡単な仕事でもギアは上がらなかった。

やっぱりあれだろう。

銃を撃てる仕事なら、テンションは上がるかも知れない。回復も早いかも知れない。

むくりと起き上がると、仕事は明日からだと言われて、萎える。

今からでもいいのに。

シミュレーションか何かはどうか。

モヤシどもを鍛えるために、私が凶悪犯をやる奴。

あれ、とても楽しいのだけれども。

そう提案すると、AIは次の仕事は決まっているとかろくでもない事をほざくのだった。

どうせロクな仕事では無いに決まっているが。

案の定だった。

「次の仕事ですが、また著作権法違反かどうかを確認して貰います」

「ああ、うん。 それについては分かった」

「では、今日はもう休みましょう」

「……」

言われて、もうだいぶ遅い時間だという事に今更気付く。

背伸びしたいお年頃の子供じゃあるまいし。

夜更かしを競うようなことをしていてはいけない。自律神経が一度ぶっ壊れると、取り返しがつかないからである。

一眠りする。

夢を見た。久しぶりな気がする。

私は黙々と倉庫の中を歩いていた。倉庫の中には金属の骨格が剥き出しの棚がずらっとあって。棚の中にはなんかよくわからないものがたくさん並べられていた。

証拠品というやつだ。

劣悪な保存状態だなあと思いながら、一応ビニールでパックされている証拠品を一つ取りだす。

ビスクドールである。

確か車が買える値段の奴。

これを盗もうとして逮捕された奴がいた。

それだけなら兎も角、盗もうとしたときに持ち主を傷つけた。

しかもドールを傷つけ。

裁判の時にたかが人形だとか。売って金に換えるつもりだったとか放言を吐きちらかし。持ち主はショックで通院している。

今回私は、私的制裁を頼まれて、動いている。

人形を取りだしたのもそのためだ。

まずは人形を持ち出す。

警察の規則が一番ガバガバだった時期だ。ちょっと書類を書けばすぐに持ち出すことが出来る。

そして既に釈放されている犯人の所に出向く。

犯人はいわゆる半グレで。犯行の際に妊婦だった被害者の腹を蹴って流産までさせている。

それなのに軽犯罪で済んだのは。犯罪者側に「凄腕の弁護士」がついたのと。

犯罪者が未成年だったからである。

無敵の未成年様だから何をしても良い。

裁判の際、ずっとそう顔に書いていた。

半グレの事務所に殴り込みを掛ける。麻雀をしていた半グレたちを、片っ端からサイレンサつきの銃で射殺。

別に問題は無い。

此奴らはリンチの末に人間を殺して河に沈めている。

それさえも「少年法」で軽い罰となって、あっさり刑務所から出て来たのだ。

法が間違っているのだから、ここで対応をするしかない。

後ろから襲いかかってきた一人を、振り返りもせず撃ち殺す。

悲鳴を上げようとした女も撃ち殺す。

其奴が一番残虐にリンチ殺人をした奴だと言う事を私は知っていたので、容赦しなかった。

さて。最後の一人が残った。

足と両腕を撃ってある。

放って置いても失血死するが、勿論救急車は呼んでやらない。

その辺りにそれっぽく輸入品の粗悪品銃をおいておく。

警察の鑑識には話をしてある。

司法がきちんと裁かなかったのだ。

だから、私みたいのが出る事になる。

それだけだ。

わざと残した最後の一人の口にガムテープを貼ると、壁に引きずっていく。抵抗できない其奴を、更に縄で柱にくくりつけた後。

テーブルに壊れたドールを置く。

ビスクドールは手入れから何から本当に大変なもので、なまはんかな素人が扱える趣味ではない。

人によっては実の家族と同様に愛している。

それをただ金に換えるために奪おうとし。

新しい命を殺傷し。

家の中を滅茶苦茶にし。

ついでに少年だからと言う理由で野放しにされた。まあ惨殺するには充分過ぎる理由が揃っている。

軽く説明をすると、首を横に振る。

たのむから助けてくれ。

そういうのだろう。

駄目。

そう返すと、壊れた人形が見ている目の前で、私は糸鋸を取りだし。

出来るだけ時間を掛けて死ぬように、犯人を細かく解体した。

それが終わった後、ビスクドールを回収して何事もなかったかのように戻る。なお時限式の爆弾を仕掛けておいたので。

半グレの事務所は吹っ飛んだ。

延焼はしないように工夫もしておいたので問題ない。

証拠が並んでいる倉庫にドールを戻すと。

軽く話しかける。

「とりあえず仇は討っておいたぞ」

少年法とか言う欠陥法を反社が利用したために出た犠牲者。このドールだって持ち主だってそうだ。

あのクズは死んで当然の存在だったので、殺した事は何とも思わないが。

壊れたまま主人に会えないこのドールのことは、気の毒に思えた。

 

目が覚める。

何の夢かは分からないが。妥協のない悪をバラバラにしていたような気がする。良い気分である。

それについてしか覚えていないが。

とにかく悪を抹殺するのはとても良い事なので。多少精神的体調も改善していた。

大きく伸びをすると、起きだす。

軽く朝の生活習慣を済ませると、出勤の準備に入る。

その間AIは無口で通し。

署でデスクにつくと、やっと話をしだした。

「今日からまた前線勤務です」

「はー。 いい内容の仕事がしたいなあ」

「残念ながら、見た感じつかれる仕事です」

「……」

それだけで分かった。

此奴が持ってくる仕事の系統からもだいたい見当がつく。

PCに映し出されたのは目玉だった。

ただし生体パーツでは無い。

ガラス玉である。

「これは?」

「いわゆるドール用の目玉です」

「……」

そういえば。

少し興味があったので、ドールについては調べて見たことがある。所持するつもりはないのだが。どれくらい大変なのかは知っておきたいと思ったからだ。

それで知ったのだが。

フィギュアと同じくドール。正確にはビスクドールとでもいうのだろうか。

フィギュアに比べると随分大型で、赤ん坊と同じくらいのサイズがあるドールは、職人芸の結晶だ。

パーツも全てが自作と言う事も珍しく無く。

着せる服から目玉等まで全て自作されているケースもある。

人気のある職人もいるらしく。

まあ車くらいの値段がつくのも道理な出来のものもあるという。

それはそれとして。

なんか違和感があるな。

昨晩の夢で、なんか見たようなみていないような。

「このドール用の目玉。 業界用語でアイと呼ぶそうですが。 これを職人に真似て作ったものか、オリジナルのものか見分けてほしいのです。 五十個ほど」

「はー。 目玉とにらめっこか……」

「そういう事です。 最近大量の在庫が出て来まして、作られたのはごく二十年ほどの範囲内なのですが。 所持していた人間が、見境無しに集める好事家だったので、幾つか偽物も混じっていまして」

「偽物、か」

とりあえず現物が見たい。

そういうと、400光年先と言われたので。仕方が無い。完全再現したものを、仮想空間で触る事にする。

色々大変な仕事だが。

いずれにしても、疲れはもう取れたと判断しているのか。

それとも違う理由なのか。

AIの考える事は、私には分からない。

部屋を移動して、仮想空間に使うシミュレーションルームに出向く。

戦闘のシミュレーションは結構やるのだが。

それ以外でも、仮想空間のシミュレーションルームは結構使う。

欲求のはけ口としても仕えるシステムで。

人間が入る部分は常に極めて清潔に保たれている。

まあ内部に入った人間はこてんと墜ちてしまって。意識だけで作業をすることになるのだが。

システムは複雑すぎて私にはよく分からないので。

その辺りは、詳しい人間が調べれば良いと思う。

いずれにしても、データとして保管されている証拠類に、現地に出向かずとも触る事が出来るくらいにデータは解析されていると言う事だ。

まあ二十年前の証跡で。

更に困る人がいないというのなら、まあ此処まで捜査が遅れたのもやむを得ない事なのだろう。

私は真っ白い部屋……ではなくて。真っ白いけれど、色々装飾品のある部屋に出る。観葉植物なんかもある。

勿論偽物だ。

偽物なので、基本的に飼うことが禁止されているペットもいる。

人によっては好みで犬とか猫とか鳥とか出すそうだ。

私は五月蠅いのが嫌なので、観葉植物だけでいい。

デスクにつくと、陳列されている目玉を一つずつ確認していく。

当面はこの仕事をやらせるつもりだろうなと思いながら。

「まずは取引先の一覧は出せる?」

「はい。 此方になります」

五十の目玉は二つで一セットずつのものが二十五個。とはいっても、いわゆるオッドアイを表現するために、セットでも違う色のものも多い様子だ。

また目玉の光彩や瞳などもかなり凝っていて。

その辺りでも、力の入れようがよく分かる。

まあこれは趣味の世界の究極だ。

文字通りの職人芸で全てが構成されている世界である。

ただ、幾つかのを見ていくと、どうも不審な感触がある。

とりあえず勘が働いたものは脇に避けておく。

「それで、取引先の一覧は……と」

「アンノウンはありません。 全ての取引先が既に分かっています」

「それはありがたい」

「ただ。 小売りを仲介しているケースがいくつかあります。 その時点で、本物がすり替えられている可能性も」

今の時代、いわゆる3Dプリンタの技術によって、少なくとも素人が見て分からない程度のコピーは作る事が出来る。

ただそれをやったら、確信犯と言う事でかなり罪は重くなる。

ハイリスクである。

今の時代は、真面目に生きていた方が余程報われるのである。

だから、余程の変人しか犯罪はしない。

そういう時代になっている。

「職人の中に犯罪者はいないね」

「この業界は特に職人意識が強く、自分のものを作り出すと言う事に相当に熱心な人ばかりのようです。 とはいっても、それでもやはり自己顕示欲からやってはいけない事に手を出す人はいるのですが」

「はー。 それでは確認を始めるかな……」

まずパッと見て怪しいと判断したものを確認する。

似たような目玉が見つかるのに、それほど時間はかからない。

これも本当に愛情を込めたドールのパーツだろうに。作っているときに、罪悪感とかなかったのだろうか。

まあなかったのだろう。

私も人間を撃つときに罪悪感を覚えないが。

それと同じと言う事だな。

少し面白い。

黙々と調べて行くと、やはり他人の作ったものを真似たり。或いは3Dプリンタで増やしただけだということが確認できる。

即座に手配。

AIは、その辺りは別の警官に対応させると言ってくれた。

まあ此奴なら、対応はしてくれるだろう。

私はわざわざ出向かなくてもいい。

とりあえずざっと見て怪しいのは、どれも勘がぴったり働いて全てが駄目だった。五十、二十五セットのうち。五セットが著作権法を違反しているか、自作と偽ったデッドコピーだった。

「相変わらずの勘のさえですね」

「いや、此奴らに関しては私でなくてもどうにでもなったろ。 問題はこっから先なんだよ」

「さいですか」

「さいですよ」

ざっと見ていくが、一目で怪しいと感じるものはない。

いずれにしても私がやらなければならないのは、真贋の確認である。

別に二次創作ならそれでいいのだ。

今の時代は認められている。

だが、他人の作品を露骨に真似ておいたりコピーしておいて、オリジナルの自作であると抜かすことは許されない。

今の時代における著作権法がそれだ。

知らずの内にやっていたのなら許されるが。

今の時代は、頭の中を覗くことが出来るので。最悪の場合、そのデータを確認して白黒をつけることになる。

まあ今の平和な時代。

詰められたら、犯人の大半が吐くのだが。

黙々と調べて行く。

だいたいはそのまんま、本物と判断していいだろう。

ただ一つで手が止まった。

一セットではない。

そのうちの一つが、何か妙なのである。

小首をかしげて見ている私に、AIが確認してくる。

「貴方の勘は良く当たります篠田警視。 ならば踏み込んで調べて見ては」

「いや、流石にちょっとつかれてきて。 ただの錯覚かも知れない」

「本日だけで半分ほどの確認が終わっています。 明日に以降はまわしましょう」

「……分かった」

仮想空間用のシミュレーションルームから出る。

伸びをして、デスクに向かうが。

レポートは必要ないと言われたので。そのままジムに向かう。

ジムで軽く運動をして。

それで多少気が晴れるかなと思ったけれど、勿論そんな事は無い。

体力そのものは別に落ちてはいないので、黙々とひたすらに淡々と泳ぐ。25メートルプールを何周したか分からない。

阿修羅の如く泳ぎ続けて、そしてAIに言われた。

「そろそろ上がりましょう」

「なんだよ。 まだ体力の1%も消耗してないんだけど」

「いえ、時間がかなり遅いです」

「ちっ……」

舌打ちしてプールから上がる。

着替えて自宅に。

確かに相当に遅い帰宅だ。なお気を利かせてか、夕食はすでに作ってくれていた。AIはこういう管理もばっちりやってくれる。

メシをくった後風呂に入って。

それから烏の行水で出た。

「やはり篠田警視。 貴方の勘は頼りになります」

「別にいいんだけどさ。 やっぱり何かと戦う仕事がやりたいよ」

「貴方の相手になるような犯人なんてそうそういませんよ」

「産まれた時代とか世界が違ったかなあ」

マフィアの事務所に乗り込んで組ごと潰したりとか。

ヤクザの事務所を組ごと潰したりとか。

そういう事をしたかったなあ。

警官としてもいかれてると周囲に怖れられながら、ただ淡々と社会の真の悪を葬っていく。

そういう楽しい時代に産まれたかった。

今の時代は社会悪と呼べるものは存在していない。

犯罪組織が存在しない時代なのだ。

宇宙海賊とかもいない。

銀河規模文明なのに。そこまで組織できるほど悪人をAIが野放しにはしないのである。だから私も、楽しく海賊船を撃沈して。降伏を打診してくる海賊どもを高笑いしながら吹き飛ばすとか。

必死に命乞いをする宇宙規模の犯罪者の頭を吹き飛ばして脳みそをぶちまけるとか。

楽しい事はできない。

シミュレーションでは大暴れできるが。

あくまでシミュレーションだ。

手応えが違う。

「肉体的な疲労はほとんどないようですが、精神的な疲労がやはり相当に溜まっているようですね」

「ブッ殺したい……」

「その要望にはお応えできません」

「分かってるよもう……」

せめて良い夢が見られますように。

夢の中で悪党を大量虐殺しているような気がするのだが。内容を全く覚えていないので何ともいえない。

結局私はこのまま。

ずっと、殺戮とは無縁の仕事を続けていくしかないのだろう。

それがとても私に取っては悲しい事なのだと。

AIはきっと悟っていてやらせている。

 

翌日も目玉の確認を続ける。

多少頭が冴えてきたから、昨日の違和感がはっきり分かった。これはなんか変な補修がされている。

確認して貰うとビンゴだった。

「流通の途中で破損したようですね。 それを無理矢理3Dプリンタで修復したようです」

「あー、そうなると補償費とかを払わないといけないのか」

「それを惜しんだようです」

「じゃ、対応は任せるわ」

どうせくだらない小売りの失敗だ。私には何の興味も無い話である。

すぐに対応を開始するAIを横目に、問題が無いか確認をしていく。

勘に引っ掛かるものはない。

終業時間のラストギリギリで、最後の一つの確認が終わった。

結局25セットのうち5セットが著作権法に違反し。

1セットが不良を誤魔化していた。

それが判明しただけで大きいという。

ちなみに、現在の持ち主は国。

要するに、不良では無い品だと言う事がわかり次第放出するという。

また不良だと分かった品も、これこれこういう経緯があるという説明をし。場合によってはコピー品だという話をした上で放出するという。

二次創作はそれはそれでかまわないのだ。

きちんとそう明言すれば。

だがそう明言していない事は、著作権法に引っ掛かる。

それだけの話である。

「じゃあ、これらはやっと愛好家の所に届くわけ」

「そうなります。 そもそもこれらアイの持ち主は、集めるだけ集めたところで人生に飽きてしまったので」

「面倒だなそれ……」

「いずれにしても、愛好家の手元にある方がこう言う品は幸せでしょう。 死蔵されていた在庫が放出されることを喜ぶものもいるはずです」

まあ、そうなんだろうな。

私には趣味としてはよく分からないが。趣味として尊重すべきものなのだから。それは尊重するべきなのである。

それが多様性。

自由というものだ。

というわけで、私はそのまま後の処理はAIに任せる。レポートもいらないということだった。

帰路にAIに言われる。

「しばらくは真贋の確認については仕事を回しません」

「別に何でもいいんだけれどさ。 なんか定期的に対応する仕事について変えてきているよね」

「それは篠田警視の才覚をどこで一番発揮できるか確認しているのと同時に、此方でも篠田警視の事を知るためです」

「私の事なんか、細胞の一つ一つまで知ってるだろうに」

ベルトウェイで話をしていて。

ふと気になった。

今すれ違った奴。何処かで見たような。

AIも私の勘には一目置いている。

「今の奴、追跡出来る?」

「はい。 警備ロボットをすぐに手配しました」

「追うよ」

すぐに剽悍に駆け出す。

すれ違っただけの奴は、猛然と追ってくる私を見て、流石にぎょっとしたようだけれども。

対応する前に、タックルを浴びせる。

相手は確定では無いがほぼ地球人である。

体格は私と同じくらいだが、鍛え方が違っている。

壮年男性の其奴は、タックルを喰らって肋骨を数本へし折られたようで。吹っ飛んだ所を更に取り押さえた。

警備ロボットが囲む。

「な、なん……」

「近くで見て確信したわ。 迷彩解除」

「はい、解除します」

ばちんと、おっさんの迷彩が消える。顔がどこにでもいそうな平和そうなツラから。向かい傷のある強面に変わっていた。

腕を締め上げる力を強くすると。

半年近く逃げ続けていた犯人。開拓惑星で暴力行為を行い、上手いこと逃げおおせていた長期潜伏犯は悲鳴を上げていた。

骨が軋んでいる。

私は更に力を入れてねじり上げるが、AIがそこまでと言ったので。

舌打ち。

今は流石にショックカノンをもっていない。

警備ロボットが代わりにショックカノンで犯人を黙らせたので。ずるいと声を上げてしまった。

「あー! 撃ちたかった! 撃ちたかった!」

「子供ですか貴方は」

「うっさい! 撃ちたかったのに! 撃ちたかったー!」

引きずられていく犯人。

大手柄の筈なのに、当の私が不満タラタラ。

それを見て、皆が呆然としている。

通りがかった人間の中には、見なかったことにして去る者もいる。

AIは、私をなだめようとしたが。

上手くは行かなかった。

 

4、不機嫌な日の終わり

 

逃げようと必死に這いずる犯人の背中を踏みつけると、ショックカノンを撃つ。気絶した犯人をけり跳ばして転がし。警備ロボットに連れていくよう指示。

開拓惑星だ。

馬鹿をやらかす背伸びしたい年頃のオバカちゃんはたくさん出る。

この間、半年逃げ続けていた長期逃走に成功していた犯人を捕まえたからか。

ご褒美なのだろうか。

こういう、絶対に犯罪者が出る場所に、AIは私を派遣してくれた。

そして今、三人目を撃った所だ。

実に楽しい。

更に、SNSでは既に話題になっている。

狂人警官が、どこぞの開拓惑星に来た。

姿を隠すつもりもない。

犯罪者の前に音も無く忍び寄ると、全身をバキバキに砕いて半殺しにするらしい。

ショックカノンを執拗に撃ち込んで廃人にするとか。

別にそんなことはしていないのだが。

SNSでは恐怖が噂と共に拡がっているようだった。

とりあえず犯人は確保したので、宿舎に戻る。私を見て、ひいっと声を上げて避ける通行人もいるが。

放置である。

宿舎で、SNSを見る。

実に甘美な時間だ。

新鮮な恐怖を摂取できる。

これだよこれ。

これこそが、私が生きていると感じられる時間だ。

「楽しそうですね篠田警視」

「うん。 最高」

「何というか、やはり貴方をこの手の場に連れてくるのはたまにしかやってはいけない気がします」

「そんないけずなことをいうでない」

フハハハハと笑いながら、恐怖するSNSの面々の様子を見て。たっぷり恐怖を取得。満足した。

これから一週間ほど此処に滞在し。

開拓進展の過程で急速にいなくなる背伸びしたいお年頃のオバカちゃんを潰して行くだけの簡単なお仕事である。

簡単な上におなかが一杯になるのだから。

これ以上良い仕事はないとも言える。

さて、おなかいっぱいになったので、推しのデジタルアイドルでも見るかとするか。

今回はなんかレトロゲームの紹介をしている。

ボードゲームでは無くデジタルゲームだ。

地球のゲームでは無いが、どんな星でもデジタルゲームは普通に作られるらしく。やはり名作とクソゲーがそれぞれ出るのだという。

そんな中でも突き抜けた作品は名作クソゲーともに人気があり。

私の推しのデジタルアイドルは、きっちりそのゲームをプレイした上でレビューをつけるので好感が持てる。

まあほぼアーカイブに登録されているので、古いゲームでも簡単に遊ぶ事ができる時代だし。

現物は博物館行きで個人が触れるものでもないので。

そういう意味では、私は良い時代に生きているのだろう。

「それにしてもそんな地球人基準で可愛らしいデジタルアイドルを一押しというのも不思議ですね」

「あんだよ。 私にはないものを全部持ってるからいいんだろ」

「篠田警視もその魔族のような邪悪さと凶暴さを抑えれば、ルックスはそこそこだと思うのですが」

「知らん」

どうでもいいし興味も無い。

配信を見終わったら、もう良い時間だ。

寝る事にする。

AIが環境を整えながら言う。

「一つ、近々大きな事件に対応して貰うかも知れません」

「へえ?」

「実は貴方が大好きなそのデジタルアイドルについての事件です」

「……」

私の雰囲気が変わったことに気付いたのだろう。

AIは、別に慌てるでも無く取り繕う。

「そのデジタルアイドル自身は特に悪い事はしていません」

「そ。 それは良かった」

「問題はその周辺にいるものでして」

「とりあえずブッ殺すか。 産まれてきたことを後悔するレベルで徹底的に痛めつけてやる」

AIは何も言わない。

放置しておけば、私が本当にそれをやると良く理解しているから、なのだろう。

とりあえず事件の詳細を聞く。

この手のデジタルアイドルは、古くは地球でも存在していて。周辺環境は最悪だったと聞く。

完全AIのデジタルアイドルが出てくるのも当然の流れではあり。

それでも周辺は闇が深いという。

今回の事件は、似たようなデジタルアイドルを作って、自作を主張しているものがいるという。

それは許しがたい。

「一週間ほど此処で過ごした後、対処に向かって貰います」

「著作権法違反関連の犯人だったら、最初にそいつと戦わせてほしかったなあ」

「ケーキで苺は最後に食べる派と言ったではないですか」

「そっか、それでか」

多少機嫌がなおった。

まあいい。

いずれにしても、そいつは容赦しない。

コピーした二次創作ですというなら兎も角、勝手にオリジナルを名乗るのは許されない。

二次創作はそれはそれで充分に魅力があるのだから。ちゃんとそう名乗れば良い。

私はとりあえず、これから地獄を見せる相手に対して、どうやって痛めつけるかのシミュレーションを脳内でくみ上げていた。

 

(続)