密輸を摘発してみよう

 

序、警備艇と輸送船

 

予定通りに航行している輸送船を発見。私は警備艇の管制室から、その報告を聞いていた。

この警備艇には私しか乗っていない。

まあ今の時代、警備艇には人が乗らないことだって珍しく無いのである。

私はぼんやり様子を見ている。

輸送船も、流石に警備艇に止まるようにと指示を受けたら、止まらなければならない。

今回ちょっと面倒な事が起きているのである。

密輸だ。

今の時代滅多にないことだが。

久々にどうも起きてしまったらしい。

ただ、流石に生物を密輸するのは非常に難易度が高い。

今回密輸されそうになっているのは、骨董品。

そして、密輸といっても。

本来は動かしてはいけない資産を、別の場所に移動させようとする行為で。

個人資産の違法移動、というのが正しいかも知れない。

輸送船に横付けすると、警備ロボットが乗り込む。私は少し遅れて、警察ロボットと一緒に乗り込んだ。

警備ロボットが制圧する。

輸送船には二万からなる人間が乗り込んでいた。そこそこ大きな輸送船だ。これから幾つかの星によって、人を乗せたり降ろしたりするのだろう。

私は淡々と歩いて行って。

そして問題の人物の前に出た。

少し太めの、何というか脂ぎったおじさんだ。

まあ見かけがそうなだけで。

今の時代は、見かけと中身が一致しないのだが。

「えーと、シローツギ・ケーケキさんですね」

「確かに私はシローツギだが……」

「密輸の容疑が掛かっています。 というわけで荷物を調べさせていただきますね。 後、抵抗すると撃ちます」

私の表情を見て、オッサンは真っ青になって硬直。

周囲の客は、シローツギ氏の部屋を覗けないので。ただ怖くて震えているようだが、知った事か。

ともかく、ものは見つかった。なんだかよく分からない塊である。あれ、これだったのか。

前に本物偽物判定試験やらされたのは。

そうかそうか。これか。

納得してしまう。

AIが如何に違法なのかを説明する。

「この骨董品である(人間には発音不能)は、特定星系の大気に触れると有毒物質を発するため、特定の手順でなければ輸送することが許可されていません。 貴方はその危険星系にこれを持ち込もうとしています。 手順を飛ばした故、逮捕しなければなりません」

「こ、これはわしのだ! 資産を分散するとまずいというから、何度も何年も掛けて引っ越ししている途中なんだ!」

「ならば正式に手順をどうして踏まなかったのですか」

「これは、わしのお気に入りで、出来れば一緒にいたいんだ! 手続きの過程で、ずっと離れる事になるのはたえられん!」

いやいやするオッサンだが。

AIは更に正論で詰める。

「移動先の星系にこれを持ち込むと、大気成分の関係であっと言う間に痛みます。 しかも貴方はちゃんとした保全設備を用意できていません」

「そ、それは……」

「要するに密輸です。 更に毒ガスが出る可能性があるのを見過ごすわけにはいきません」

「……」

ぐったりしたようすで、おっさんは黙る。

そして、警察ロボットによる逮捕を受け入れた。

そのまま連行していく。

こう言うときは立体映像でオッサンの姿は隠す。

そして警備艇に連行し、逮捕。

その後は、輸送船から警備ロボットを引き上げ。警察ロボットも引き上げた後、AIでアナウンスした。

「トラブルが発生したことは申し訳ございません。 引き続き快適な宇宙の旅をお楽しみください」

「……」

まあ、快適にはならないだろうな。

私はそう思ったが、口にはしない。

なお、これから聴取を行うのだが、また私は別である。

まあ犯人は抵抗しなかったし。

なんか抵抗されても面白く無さそうだったし。

つまり撃っても面白く無さそうなので。

逃げたときだけに備える。

逃げたときには撃って良いので。

てか逃げようとしろ。

廊下に背中を預けて、銃を手入れする。AIが呆れた。

「この間シミュレーションの演習プログラム構築の時に、散々撃ったじゃ無いですか」

「中毒だよ中毒」

「……」

「まあ大丈夫。 逃げようとしない限りは撃たないよ」

それについては信頼していると言われたので。

色々複雑な気分である。

まあ私は、なんだかんだいっても、このAIは信頼に値すると思っている。

億年単位で銀河規模文明を維持しているのだ。

人間程度とはスペックが違う。

人間だったら、一年ともたないだろう。

それを考えると、確かに此奴の言う事を聞く価値はある。

それに、なんだかんだでガス抜きはさせてくれるのである。私としても、感謝しなければならない。

昔のディストピアものとかだったら。

私なんか真っ先に駆除されてただろうし。

そういう意味では、今のAIは有情だし。

私に取っても、都合の良い上司でもある。

「聴取は終わりました。 押収した密輸品は、警察で保管し、手順を経た後保釈された犯人に返還されます」

「今回の刑期は?」

「三週間ですね」

「軽……」

まあ、でも考えてみればそんなものか。

罪の大半が、毒ガスを出すかも知れないものを持ち込もうとした、と言う事で。密輸に関する罪は殆ど無いと言う。

毒ガスが出ても対応は容易な今の時代。

罪としてはこんなものなのだろう。

テロとなると一気に罪は大きくなるが。

この愛好家は、明らかにそれが目的では無い。

犯人を乗せたまま、警備艇は私が暮らしているダイソン球に到着。

そのまま、犯人は項垂れたまま連行されていった。私はレポートを途中で済ませていたので、後は帰るだけ。

家に帰ると、小さくあくびをしながら。

ここしばらくの、犯罪傾向について探った。

殺人事件は起きていないな。

年に二件か三件は起きるのだが。それも銀河系全体で、の話である。

管轄地区内で殺人事件が起きると、それはもう大騒ぎになるので一発で分かるし。

私の管轄区内で殺人事件が起きたのは前に一回だけ。

銀河系の規模から考えると、奇跡的な確率を踏んだと言える。

そう考えて、私はまあもう次は無いだろうなと諦めている。

とはいっても、この間データを見せてもらったのだけれども。

私は警官として実績を上げていることもあって、色々な場所に出張しては他の警官より荒事をしている方らしい。

これでも、である。

故に、殺人事件などにぶつかる可能性は高いのだそうだ。

まあどうでもいいけれど。

更に色々見る。

小規模犯罪は何処でも起きている。

この間五年の刑期が下された問題運転のクトゥルフさんが、ここ至近では最大の大物だったが。

それ以外はどれもこれも大した事がない事件ばかり。

近場で刑期120年をたたき出した奴がいる。

どんな極悪人かと思って確認したら、何のことは無い。

開拓惑星でしこたま酔っ払った挙げ句、通行人をぶん殴って怪我をさせ。合計8人を殴り倒して病院送りにしただけだった。

勿論全員後遺症なく復帰している。

開拓惑星で背伸びしたいお年頃の阿呆が悪さをすることは幾らでもあるが。

それにしてもちょっとやりすぎたというわけだ。

それも前科四犯だったので、情状酌量の余地無し。

まあ百二十年、独房で静かにしていると良いだろう。

私としてもそんな小物ではなあと思う。

勿論遭遇したら撃ちたかったけれど。

はっきりいって満足は出来なかっただろう。

もっと大物を。

撃ってぞくぞくするような興奮を味わえる大物を求めている。私は。

むせかえるような血の臭いの中で、此方に振り返ってくるような。問答無用で襲いかかってくる大物を。

撃たなければ即座にこっちが殺されるような状況を。

それで相手を合法的に粉々にして。

血を浴びて大笑いしたい。

何とも業が深いことだが。

私は最初からこうなので、はっきりいって仕方が無いとも言える。こういう業を背負って来てしまったのだ。

密輸は、ざっと見たが。

やはり殆ど無い。

今までも、密輸関係の犯罪者は当たった事がなかったが。

そもそも連邦と言ってもAIが管理しているガチガチの態勢である。一応自治区という体裁の場所は幾つか存在しているが、連邦の法はがっちり機能していて、犯罪者が自分の王国を構築しているような事もない。

そもそも富の格差が無視出来る範囲内なので。

誰も贅沢でステータスシンボルになるようなものを、わざわざ法を犯してまで手に入れたいと考えないし。

資産の変動にはAIが目を光らせている。

支援AIを切っている場合でも、それは同じであり。むしろ支援AIを切っているような場合は、監視がよりきつくなっている場合が殆どである。

割に合わないし。そもそもできないのである。だから、密輸は殆ど無いのだ。

退屈だなと私は思ったが。まあそんな中でレア犯罪に当たれた。むしろそれを喜ぶべきなのかも知れなかった。

 

翌朝。

職場に出る。あくびをしながらデスクにつくと、仕事の指示が来ていた。

ざっと内容を見る。

警備艇での遠征だ。

別に嬉しい仕事でも何でも無い。

警備艇での仕事は今まで嫌と言うほどやっているし。

それが面白かったかというと当然ノーだ。

すぐに準備を始める。

退屈な仕事になるのは目に見えている。

だからとっとと終わらせるためである。

そのまま自宅から宇宙港に移動。ベルトウェイと電車を乗り継いで、港に到着。比較的近い宇宙港を指定してくれていて助かった。

そのまま警備艇に乗る。

警備ロボットの他に、かなりの数の警察ロボットが乗り込んでいる。

小首をかしげていた。

「そもそもこれ、何の任務?」

「現地で説明します」

「ふーん……」

警察の仕事を始めてそれなりに経つ。

それで分かってきた事があるのだが、AIは似たような仕事を短期間に連続で回してくる傾向があるのだ。

今回もそうだとすると。

また密輸関係かも知れない。

それともこの間のが何か大きな事件との関係を吐いたとか。

可能性は否定出来ない。

警備艇が港を出る。

指定された部屋に入ると、しばらくはレポートを書かされる。レポートの内容は仕事の定時報告とかで、犯罪者に関しての云々とかはない。

誰かが書かなければならない代物で。

人間が書かなければAIが書く。

その程度のものだ。

淡々とレポートを仕上げていきながら、AIに聞く。

「職場まで少し掛かる感じ?」

「七時間ほどです」

「お、ちょっと遠めだね」

「遠めではありますが……まあ活動範囲内です」

数日かけて向かう職場もあるが。

その場合は、大体何処かの星が職場になる。

今回は宇宙空間での仕事のようだし。

恐らく十中八九は密輸関係なので。

遠いところとなると何があるのだろうかと少し期待したのだけれど。AIの醒めた反応からして、あまり面白い場所では無いのかも知れない。

しばらくレポートを仕上げて、休憩を指示される。

頷くと、横になって、外の状態を携帯端末から確認。

何も無い空間かと思ったらそうでもない。

警備艇の向かう方が、派手に輝いている。

「なあにあれ……」

「普段篠田警部が生活しているダイソン球から、400光年ほど離れた地点にある星です」

「やたら明るいね」

「活動が非常に不安定な恒星で、現在開発計画が進んでいます。 計画が次の段階に進むと、あの星はなくなります」

恒星を資源化か。

軽くデータを見ると、なるほど。

非常に高温の恒星である。

この温度だと、この恒星はすぐに燃え尽きてしまい。サイズもあまり大きくないから、白色矮星になってしまうだろう。

惑星も存在していない。

要するに色々と条件が悪くて、すぐに燃え尽きる恒星だけが出来てしまい。恐らくその寿命も超新星爆発を伴わないような寂しいものとなってしまうということだ。

発している熱量が強烈だと言う事もあり。

惑星も存在せず。

資源としては非常に厳しい上に。

不安定だから、今後どうなるか分からない。

だからいっそのこと、資源化して。何も無かったことにしてしまう、というわけだ。

4000億からなる恒星系が存在しているのだ。

こういった恒星は、他の恒星系のために資源化してしまう。

それは正しい判断だと思う。

私としても異論は無いし。

AIとしても長期間を掛けて計画していることなのだろう。だったら、私が言う事は何も無い。

「それで、目的地はあの星?」

「いえ、この航路です」

立体映像で、周囲の様子が出される。

また航路の監視かと思ったが、違うそうだ。

「この航路を、もう少しで輸送船が通りますが、拿捕します」

「こんな所を輸送船が?」

「目的地はあの星を監視している衛星です」

「ああ、そういう」

学者とかを乗せている輸送船か。

基本的に今の時代は、専門性のある学者とかを乗せる輸送船は特別に頑丈に出来ている。

確か自衛能力も備えているはずだ。

万が一超新星爆発とかガンマ線バーストとかに巻き込まれても、平気なように、である。

だが今回は少しばかり勝手が違うようである。

楽しいので、そのまま話を聞く。

「どうやら、あの恒星を資源化する過程で得られるヘリウムを、密輸しようとしているものがいます」

「はー。 それはまたデカイこと考えるね」

「計画は既に暴いていますので、逮捕するだけです」

「OKOK。 抵抗しない場合は撃ってはいけない、だね」

要は抵抗したら撃って良いかと聞いているのだが。

AIは無言。

この反応と言うことは。

あんまりよろしくない相手だと言う事だ。

「それで犯人は一人? グループ?」

「複数犯の場合は、貴方の場合危険すぎて向かわせられません」

「ああ、犯人の方が?」

「そういうことです」

なんだ。複数の犯人をショックカノンで撃ちたかったのに。楽しそうだなあとよだれが零れる。

まあいい。

くしくしとよだれを拭うと。

とりあえず順番に聞いていく。

「どうやってヘリウムなんて密輸しようとしてるの其奴」

「輸送船の一部に、ガスを超圧縮する自作の機械を積んで来ています。 監視衛星のPCにハッキングして、現在採取中の恒星の構成要素を横から奪取。 自作の機械にヘリウムを詰め込み、持ち帰る予定のようです」

「そこまで分かってるんだったら、どうして此処まで放置してたの?」

「ここに来るまでの輸送船の船内で作業を全て行ったので」

そりゃあすごい。

学者なんだろうが、馬鹿みたいな事を馬鹿みたいに頭が良いのにやるわけだ。

たまに学者にも、知識や論理的思考が出来ても、馬鹿な事をする奴がいるらしいが。典型的なそれなのだろう。

まあいい。

古い時代にもインテリヤクザなんてのがいたらしい。

頭が良くても悪事はする。

ならば私は撃てる。

勿論相手が抵抗すれば、だが。

楽しいハンティングタイムが近付く。程なくして、輸送船が姿を見せていた。

 

1、色々な密輸

 

いつも見かける輸送船よりかなりごつい輸送船だ。

恐らくAIが動員を掛けたのだろう。

問題のある恒星を監視している衛星からも、迎撃用のシステムの一部らしい、小型の艦艇が出て来ている。

これらも警備艇と同等の三千メートルくらいの大きさはあり。

警備艇よりも、防御に特化した性能であるものの。自衛能力は当たり前のように持っている。

それはそうだ。

不安定な恒星の側にいるのである。

いざという時は、監視衛星に詰めている人がいる場合、守らなければならない。

それにこんな所だからこそ。

どんな不心得者が来るか分からないのだから。

輸送船が囲まれて、足を止める。

AIが当然止めたのだが。

内部では騒ぎが起きているようだった。

「さて、出番か」

「この人物をこれより逮捕します」

「うし覚えた」

私は犯人の顔に関しては、ほぼ瞬間記憶できる。

これは私の特技で。

殺しに使った道具を見抜く勘と似たようなものだろう。

私は要するに獲物を仕留めるのに特化した感じになっていて。

その代わり色々大事なものを捨てているのだろう。

まあそれはどうでもいいけれど。

いずれにしても、輸送船に警備艇が横付け。警察ロボットを先頭に、内部に突入を開始する。

私が先頭で突入しても良いのだが。

こっちの輸送船も、管理しているのはAIだ。だからロボットの方が速いだろう。

迷いなく進んでいくロボットについていくだけである。

私は大股で歩いて行くが。

輸送船の中の、いかにも神経質そうな。

学者らしい乗り込み員は、不審そうにこっちを見ていた。

中には私がちらりと見ただけで、ヤバイ奴だと即座に理解出来たらしく。視線をそらして隠れた学者もいたが。

事前に聞かされた。

この輸送船に乗っているのは、あの不安定な恒星を監視している要員の交代、およそ200名。

それほど重要な恒星ではないのだが。

最近状況が短時間で変わっているので、監視要員を変えたり、増強したりしているらしい。

何が起こっても対応出来るように、である。

近々軍艦も来るそうだ。

恒星が超新星爆発、はないかも知れないが。

破壊的な天体現象が起きるかも知れない。

その場合、周辺にある恒星に何かしらの影響が出ることは、避けなければならないのだ。故に軍の数少ない仕事の時間というわけである。

さて、見つけた。

後頭部が長い、一つ目の宇宙人だ。

収斂進化で似たような姿になる事が多い「人間」だが。

こうやって、かなり地球人とは姿が変わるケースもある。

腕も三本。

困惑したとき、この種族は何度も瞬きするらしいが。

私は、警察ロボットの中から進み出ると、手帳を見せた。

「ハーイお巡りですlkadsfhdwkfwlqkf博士」

「わしに何の用だ」

「ヘリウムなんか密輸してどうするつもりで?」

完全に黙り込む。

ばれていないと思っていたのか。

私でも分かるくらい、AIは優秀だ。

支援AIを切っていれば大丈夫とか、本当に思っていたのだろうか。

この人は、頭が良いんだが馬鹿だな。

そう私は残念に思った。

ショックカノンを向けると、大慌てで三本の手を上げる博士。名前はギリギリ発音できるが、何度も呼びたくない。

「発見しました。 組み立て中のヘリウム圧縮装置です」

「こりゃあ凶悪犯だー」

棒読みしながら、ショックカノンの引き金に力を入れる。

悲鳴を上げると、壁に貼り付く博士。

周囲の学者達は、怖れて部屋から出てこない。

それはそうだろう。

まあせいぜい怖がれ。

私には恐怖は素敵なデザートだ。

「う、撃たないで、撃たないでくれ!」

「どうしよっかなあ。 学者さんって頭良いし、何するか分からないから、撃った方が良さそうなんだよねえ」

「何もしない! 何もできない! 武装もしていないし、警官を殺傷できるような道具は一つも無い!」

「なんかよく分からないびっくりどっきりメカ作ってたんでしょ? だからそういうので襲いかかってきそうで怖いなー」

悲鳴を上げる博士。

見かねたのか、警察ロボットが捕まえて、連れていく。

ちぇっと思わず呟いていた。

自棄になって襲いかかってきそうだったのに。

実際あいつ、懐に時々意識を向けていた。

何か持っていたと見て良いだろう。

「篠田警部。 あまり攻撃的な行為は」

「懐に何か隠してたよあいつ。 調べた方がいいんじゃないの?」

「既に調べました。 どうやら取引先との連絡に使っている端末のようですね。 データを消すつもりだったのでしょう」

「取引先ねえ」

こんなダーティーな手段を使ってまで、ヘリウムなんかほしいかあ?

そう思ったが。

今の銀河系で、AIの監視下にない物資。

何かしらの高い値段がつくのかも知れない。はっきりいってよくわからないけれど。

すぐに端末も取りあげ、警備艇に犯人を護送。

入り口近くまで来ていた博士達に敬礼して、満面の笑みを浮かべる。

「というわけで捕り物終わりました−。 私に撃たれたい人は、じゃんじゃん犯罪してくださいね。 ……容赦なくバラバラにしますんで」

まだ幼い女の子の姿をしている学者が、恐怖のあまり泣き出した。幼児のまま姿を固定している変わり種だろう。

うん、いい。

泣け。

恐怖は私に取って、最高のご飯だ。

その怖れる様子を見ているだけで、ご飯を三杯はいける。

昔、地球にいた馬鹿なヴィーガンとか言うカルトが、動物はご飯じゃ無いとか言う噴飯もののスローガンを掲げたらしいが。

それをつい思い出してしまった。

私に取っては恐怖は動物同様ご飯である。

犯罪者の恐怖が最高のご飯なのだが。

それはまあ、中々得られないからこそ最高なのであって。

まあこういう所で、犯罪者でもない相手を脅かしても仕方が無いだろう。

そのまま警備艇に移動。

びっくりどっきりメカも、全部回収されてきていた。

見ると、かなり本格的な工具がたくさんある。

船にこれを持ち込み。

地道に部品単位で作っていたヘリウム圧縮装置を組み立てていたのだろう。更に、コードのレベルから、ハッキングプログラムも作っていたらしい。勿論本当にハッキングできるかはかなり怪しい。いくら端末だって、AIが監修しているのだから。

スケジュール表も発見された。

輸送船の航行日時にあわせて、どうやって船内でばれないようにヘリウム圧縮装置をくみ上げるのか。

それを緻密にくみ上げていたということだ。

なんというか、本当にアホだ。

こんだけ色々出来ると言うなら、真面目に稼げばいいのに。

だがアホだからこそ、私のおいしいご飯が出来ると言うもの。

こういうアホには絶滅しないでほしいものである。

いずれにしても、聴取が始まっている。

残念ながら、私は参加出来ない。拷問でもしかねないと思われているからだろう。

まあその通りなので、仕方が無い。

博士は全ての証拠を出されると、ぼそり、ぼそりと話し始める。

「確かに研究をさせてはくれる。 だけれども、もっと研究を進めたかったんだ……」

「それで自由に出来る金がほしかったと」

「あの恒星から採取できるヘリウムの、ほんのほんの一部だ。 それくらい、売っても別に良いだろう。 たかがヘリウムだ。 大した悪事には使えん……」

「それは時と場合に寄ります。 貴方はしかも前科四犯です。 今回は少しばかり容赦なく裁きます」

項垂れる学者。

いずれにしても、取引先も全て吐いた。

ちなみにもう現地の警察が、取引先を抑えたそうである。

なんだ。

立てこもって銃撃戦とかはしてくれないのか。面白くないなあ。そう私は考えてしまう。

人質を取った犯人ともなると、そりゃあそのまま撃ち殺しても良い筈で。吹っ飛ぶ頭、吹き飛ぶ脳漿、内臓、犯人の骨や筋組織、何より血液。

何を想像してもかぐわしい。

フハハハハと笑いたくなるが。我慢する。

とりあえず、AIが話をしてきた。

「刑期などは決まりました。 現地でも、取引先の犯人を確保出来ました。 これから帰還します」

「悪の組織とか? 取引先」

「そんなものは存在しません。 取引先は変わり者の技術者で、やはり私が把握していないヘリウムを使って、独自の機械を作りたがっていたようです」

「ヘリウム、ねえ」

そもそもこんなもんを使って何をするのやら。

いずれにしても、よく分からないが。

何かビックリドッキリメカを作るのに使ったのだろう。

私としては別に何でもかまわない。

もう終わった事件だし。

特に興味は無い。

たまに、更正してきた犯人が、私を見て脱兎する事があるらしいのだが。

私は気付かない。

犯罪者から完全に足を洗った人間の場合、興味が向かないからだろう。

ただ、恐怖に勘付けば気付けるが。

中々、それは難しい。

レポートを書くように言われたので、そうする。

撃ちたかったなあ撃ちたかったなあ撃ちたかったなあ。

ぶつぶつ呟きながらレポートを作っていると、AIが呆れた。

「犯罪抑止のために、素敵な演説をかましたのだからいいではないですか」

「あ、素敵だった?」

「篠田警部の主観では素敵でしょう」

「……うん」

レポートに戻る。

なんというか、客観的に真実を的確につく。

良くも悪くもドライな奴だなと、私は思った。

 

ダイソン球の自宅に戻る。

犯人はそのまま引き渡されたので、私にはもう何もできない。今回のはそれなりに刑期が長いらしいので、まあ出てくるのはしばらく先なのだろう。

自宅に戻ると、銃撃戦のゲームをSNSでやる。

無心で遊んで、それでその後は食事に。風呂を終えて出てくると、AIに言われた。

「密輸については、どう思われました?」

「特に何も。 経済のあり方が変わっていなければ、別に犯罪ではなかったのああいうの」

「いや、国家財産を懐に入れれば犯罪です」

「そっかあ」

あの博士も、牢屋から出て来たら、また博士になるのだろうか。

監視がつくだろうし、やりづらいだろうに。

何度かあくびをして、眠気を自覚。

寝る事にする。

ふと、気付くと私は、マシンガンを手にして、何だかアルコールの臭いがする地下室に来ていた。

ひょっとしてこれは、禁酒法時代のマフィアの巣か。

ヒャッハア。

跳び上がると、私はまず見張りに来ていたらしい破落戸を出会い頭に撃ち殺し、そいつが持っていた銃で手当たり次第に酒樽を撃って回った。

どばどばあふれ出てくる酒。

そのまま血相を変えたマフィアがどんどん出てくるが、片っ端から頭をぶち抜く。赤い酒と血と脳漿が混じり合って、芳醇な香りを周囲にまき散らし。

舌なめずりしながら、徹底的にマフィアを撃ち殺しまくり。

周囲に死体の山を築いた。

その中で一番地位が高そうな奴の死体。

なんか私に言おうとしたが、瞬殺したのを引きずって、地下通路から出る。途中追ってくるのがいたけれど、全部返り討ちにした。

警察に出ると、マフィアの大物の死体を放り出す。全部持ってくるのは大変だったので、のこぎりで首だけ切りおとしてきた。

荒くれ揃いの警官達が、ひっと声を上げていた。

「密造酒作ってたので、五十人くらいブッ殺してきました。 まあ全員武装していましたし、抵抗してきたので」

「……始末書だ」

「なんでー」

「とにかく始末書だ。 潜入捜査は命じたし、確かに正当防衛だが、此処は法治国家なんだぞ! 毎回毎回どんだけ殺せば気が済むんだお前は!」

なーにが法治国家だ。

私は嘲笑する。

非現実的な法を作って犯罪組織の財源を作り。何百人も何千人も直接的間接的に殺している奴を死刑にも出来なかった法だ。

司法が駄目なのに、法治国家も何もあるか。

この国は法治国家ではなくて放置国家だ。

始末書を書かされて頭に来たので、知っているマフィアの事務所にカチコミを掛ける。いかにも強面なのが、大勢でマシンガンで迎え撃ってきたが。

全部まとめて皆殺しにして。

奴らが風呂に入れると呼ぶ私刑法。

ドラム缶にセメント詰めして海に放り込むやり方で、死体は全部始末した。

そしてマフィアのボスはなんか言おうとしたのをその場で撃ち殺し。

けつから串刺しにして、怯えきった群衆が距離を取っている中。

道路にでんと突き刺して飾った。

首には看板もかけてやる。

「買収できると思っていたのか。 私は殺しが大好きだ」

そう、看板に書いてやった。

群衆に紛れて私を撃とうとしてきたのがいたので、それもその場で射殺。ひいっと声を上げて群衆が逃げ惑う。

署に戻って、アルカポネ配下の組を一つ潰してきましたと血まみれのまま報告すると。

上司は真っ青になったまま。

始末書を書けというのだった。

目が覚める。

なんか犯罪組織を相手に大暴れしたような記憶があるが、いつも夢は全部きれいさっぱり忘れてしまう。

ただ、ものすごく楽しい夢だったことは覚えている。

ああ、なんか。

今、凄く殺したいし撃ちたい。

ぞくぞくと歓喜が全身を駆け巡ったが。

AIは冷めた対応だった。

「篠田警部。 顔を洗って歯を磨いてください。 朝食にしましょう」

「なんかすっごくおなかいっぱいなんだよね……」

「恐怖を食糧にするとは、貴方は魔族か何かですか」

「?」

いずれにしても、ともかく顔を洗って歯を磨いて、そして食事にする。

まあ美味しい食事だし栄養もたっぷりだ。

ふと思いだしたことがあるので、聞いてみる。

「そういえばだけどさ。 あんたが連邦に取り込む前の星間国家で、ちゃんと法治主義を廻せていた国ってあったの?」

「推定無罪の原理はどこの文明もある程度進歩すればだいたいは編み出すのですが、それを実践できていた文明は見た事がありません」

「はー。 あんたがいうならそんなに難しいのか」

「人が人を裁くというのがそもそも無理があるのです。 どうしても利害や感情で人間は仕組みを無視するからです。 今でも犯罪が起きる様に、人間はどうしても不完全な生物で、こういう社会にしなければ、盛大に殺し合うのはどうしても避けられないでしょう」

まあそれについては分かる。

こんだけ犯罪が割に合わない社会でも、犯罪は起き続けているのだ。

私はサイコである事を自覚しているが。

殆どの人間は自分の絶対正義を信じて疑わず。

自分を肯定することで犯罪に手を染める。

今はあまりに割が合わないから精神的なブレーキが働くが。

それも、犯罪に対する監視が緩くなったら、さぞやカオスな状況になるだろう。

警官が暇なのは良い事だ。

私に取っては地獄だが。

こいつは。AIはガス抜きも用意してくれているので、まあ良いとする。

朝食を終えたので、軽く体を動かす。

密輸犯を捕まえたので、今日は休日だ。

まあゆっくりして過ごそう。

AIがSNSで発表している。

密輸についての記事だ。

反応している人間は、あまり多くはなかった。

まあヘリウムの密輸なんて、あんまり面白くないからだろう。これが覚醒剤とかの密輸だったらともかく。

医療目的の薬物は無茶苦茶厳重に管理されていて、確か薬剤師という仕事は今殆ど人間がやっていないはず。

勿論自作も不可能。

そういう状況では、そんなものを密輸するのは無理だ。

「反応していないねえ」

「刺激が強いニュースに飛びつくのが人間です」

「んー、まあそれもそうか」

退屈だと思ったので、昼寝する事にする。

AIが昼寝に丁度良い環境を作ってくれたので。

気持ちよく昼寝する事ができた。

 

2、水際で捕まえよう

 

似たような仕事が連続で来ることは分かっていた。適性を試すためなのだろうが。いずれにしても、今回はちょっと遠出だ。

輸送船を使って、まずは別の星系に移動。

其所にある大きなダイソン球の宇宙港を経由して、今度は警備艇に乗る。

ここまでの移動距離は2000光年。

これほどの距離を移動したのは、私の人生でも殆ど無いことだ。

いずれにしても2000光年移動した先にあるダイソン球は、本来別管轄なのだが。いずれにしても私には余り関係がない。

AIとしても、管轄をあまり気にする様子は無く人員を使っているようなので。

そもそも気にする意味がないのだろう。

そのまま移動を開始。

警備艇に乗っているのは私一人。

管轄がどうので五月蠅いような文明だったら、面倒な書類を散々書かなければならなかっただろうけれど。

生憎この文明はAIとのトップダウンで回っている。

故に、柔軟なのだ。

あくびをしながら、銀河系の図を見る。

今回は普段に比べてかなり図を拡大している。

幾つか存在している銀河系の「腕」。例えば太陽系は銀河系の「オリオン腕」に存在しているが。今いる場所は、違う腕である。

移動先も見る。

これもまた。太陽系とは随分と離れている。

銀河系の端の方だなと思った。

こう言う場所だと、犯罪しやすいかというと、それはノーだ。

辺縁部はむしろ軍艦とかが中心部より多く警備をしていたり、警備用のビットが優先的に撒かれていたりして。

その重厚な守りはむしろ凶悪である。

AIの方でも、万が一に備えて常に目を配っているようで。

まあないだろうけれども、外来種や侵略宇宙人などが来た場合を想定して、常に守りを固めている様子だ。

配備されている艦艇の数などは具体的には公開されていないが。

軍時代に聞いた話によると、即時に対応出来る戦闘目的の艦艇だけでも億越えは確定らしく。

実際にはもっと多いらしい。

もしも何処かの星間文明と戦争とかになったら、超新星爆発でもびくともしないような戦艦が、数百光年四方を空間ごと消滅させる攻撃を乱射することになるわけで。

まあ相手側にとっては悪夢でしかないだろう。

アンドロメダの文明との関係については良好と聞いている。そもそも向こうもAIの文明らしいので。

或いはだが。

アンドロメダと銀河系が統合する遠い未来。

二つの国家は、特に何事もなく。

平和なまま、いつの間にか融合しているのかも知れなかった。

さて、目的地だ。

周囲を確認するが。

見事に何にもない場所だ。

密輸関係で引っ張り出されてはきたが。

こんな所で何をするつもりなのやら。

銀河系を出るつもりならもっと外側になるし。

治安があまいと思っているなら大間違いである。私も面倒なところに連れてこられたなと思って、あくびをもう一つした。

「さて、ここで何するの?」

「既にかなり大きめの包囲網を作って、密輸を行おうとしている人物を追い込んでいる所です」

「へえ」

「相手は銀河系からの脱走を図りましたが、失敗。 今は此方の方向へ向かっています」

それはそれは。

本当の意味での密輸を図ったのか。

むしろ脱走に思えるが。

まあそれはそれで別にかまわない。

このAIによるトップダウン銀河規模国家が気にくわない人だってそりゃあいるだろう。開拓惑星に行けば幾らでもその類の人は見られる。

だけれども、実際に此処まで手篤い保証がされている国家であり。

圧政が敷かれているわけでもない。

本当にこんな所から出ようとする人間が超少数なだけ。

それだけだ。

「何を密輸しようとしているの?」

「何をも何も、機密関連をたくさん」

「ああそうか。 自作のロケットか何かでそのまま出ていくとしても、下手すると密輸になりかねないのか」

「そういうことです。 まあすんでの所で止めたのですが」

うそつけ。絶対知ってたくせに。

突っ込みを入れたくなるが、それについては我慢だ。

とりあえず、警備艇で網を張る。その網の末端の一箇所に到達。

周囲に警戒網を張り巡らせる。

「ここにくる可能性は?」

「1パーセントほどです」

「ふうん」

私の勘がびりびり告げている。

たぶんだけれどなんかある。

犯人が来るかはわからない。

そもそも、犯罪組織なんてものが存在しないご時勢である。警備艇に見つかったら個人で作った宇宙船なんか絶対に逃げられない。

それがどうやって今まで此処まで逃げてこられている。

何か裏があるように思えてならない。

別地点で宇宙船を確認したという。

そのまま、コンソールにつかされる。

指定の作業をする。

主にエネルギー収束の仕事だ。

なんでエネルギーを収束させるのか。

その説明はないが、何となくは分かる。多分宇宙船の航行を、根元から出来なくしてしまうためだ。

エネルギー源を消滅させるための網を張る。

そのための行動だろう。

収束していくエネルギー。

宇宙船が、止まるのが確認されたそうだ。

そのまま警備艇が拿捕に行く。今私が乗っているのは拿捕をしに行かない。

そのまま、宇宙船が捕獲された。

捕獲された宇宙船はとても小さい。全長三十メートル程度しかない。

個人でちまちま作っていたとしたら、大した根性だとも思えるが。

流石に銀河規模文明が作っている警備艇には勝てない。警備艇にすら、である。こっちは全長三千メートルで、同空間に空間転移されても耐えるほどなのである。

空間転移能力を持つことも考えると、実際の速度は光も越える。

だからこそ、不可解なのだが。

「捕獲完了」

「ね、なんでこんなに手間取ったの?」

「理由はじきに分かります」

「……」

そっか。お預けか。

いずれにしても蜘蛛。地球に存在していたらしい、網を張って獲物を捕る生き物。私は実物を殆ど見た事がない。それを思わせる作戦で、宇宙船を捕まえた訳だが。

そんなことのために、相当数の警備艇が展開したのだろう。

私はコンソールでの作業を終える。

エネルギーの展開を終了させて。

そのまま帰還である。

犯人については、既に捕り物の様子が映し出されていた。

犯人は、ロケットの中で眠っていた。

コールドスリープ装置によって、長旅を乗り切ろうとしたのだろうか。いや、それにしても無理がある。

こんなちゃっちい個人作成のロケットで。

別の銀河に行くようなパワーは出せない。

亡命してこの文明のテクノロジーを密輸しようとするにしても、無理がありすぎる。

コールドスリープを無理矢理解除され。

そのまま尋問されている様子だが。

地球人より五割増しくらいで大きいその宇宙人は、何だかぼーっとしている様子で。質問に対しての返答も要領を得ていなかった。

ふむ。

これは何かぷんぷんと臭うぞ。

そもそもだ。

私がエネルギーを展開する一翼を担っていた警備艇の中でさえ、何だか変な話だなと思っていたのである。

この銀河連邦に不満がある。それは分かる。

だからといって、あるかも分からない別文明に物資だけ持ち逃げしようとするか。

まあもしも相手が歓迎してくれれば良いだろうが。

そんな可能性は極めて低い。

銀河連邦に友好的な星間文明だったら、そのまま突っ返されるだろうし。

敵対的な国家だったら、それこそ技術だけ奪って後は抹殺が関の山だ。

良くて実験動物扱いだろう。

私ですらそれくらい分かるのである。

こいつには、どうしてそれが分からなかったのか。

小首をかしげていると。

何となく真相が見えてきた。

どうもこの密輸犯。

ロケットを作った後は、稚拙なAIを最初から自分で組み。

それに後は全て任せてコールドスリープに入ったらしいのだ。

密輸と聞いて、首を横に振っている様子から分かった。

AIのログを確認している様子を見る。

対応に当たっている警官が優しくて良かったなあ。私はそう思いながら、聴取の様子を確認する。

「なるほど、コールドスリープで眠ったご主人様を見て、AIが亡命したがっていると思ったのか……」

「そういう事です。 稚拙な造りのAIでしたので、結論もおかしな方向に行ってしまったのでしょう」

「だとすると、此奴に罪はなくない?」

「いえ、そうとも言えません」

聴取の過程で、犯人は言う。

この銀河規模文明に不満があった。

拘束されているようでいやだった。

だから、自由になりたかった。

ロケットは作って見たものの、これで自由になれる事はないとすぐに分かった。だから、何もかもアホらしくなった。

故に眠る事にした。

しばらく眠っていれば、事態が解決するかと思ったからだ。

そういう事を、まだ眠い様子の犯人は少しずつ告げていく。

私は何となく思い出す。

地球の昔の話だが。

難病が未来に解決する事を願ったり。或いは素晴らしい未来世界が来ることを祈ったりして。

コールドスリープする人達がいたらしい。

しかしながら、実際には当時のコールドスリープ技術は稚拙で。

コールドスリープしている間に殆どの人が死んでしまったと言う事だった。

まあ、難病の人は仕方が無い。悲しい話だが、運がなかったなと言う他に無い。

だが未来云々の連中は自業自得である。

今の人達に苦労を押しつけて。自分だけは未来でその成果だけを得ようとした

そんな連中は、まあ死ぬのも仕方が無いかなとは思う。

此奴については、そんな昔の地球人を思い出した。

溜息が出る。

「ま、まさか、AIがそんな判断をするとは思わなかったんだ! 密輸だなんて、とんでもない話だ!」

「……貴方が作ったAIが、でしょう。 そんな稚拙なAIを組んだ貴方に責任があります」

「うぐ……」

返す言葉も無い様子の犯人。

さて、この話。

どこまで本当だ。

多分だが、犯人やトンチキ判断をしたAIについては本当だろう。

だが、そこからがどうも臭う。

私はあの勘がびりびり働くのを感じた。

勿論だが、勘なんてあくまで参考にするものだ。

だが、どうも私は自分好みの事態になるときは、勘が働くようなのである。これは経験則なので、今後外れがあるかも知れない。

しばし腕組みして考え込む。

もう、警備艇は帰路についている。レポートを書くようにと言われたので。分かったと言いながら、自室に戻る。

ここからが大変なのだ。

故に、自室に戻ってから、レポートを書く。

帰るまでがかなり大変なので。黙々淡々とレポートを書きながら、少し考え事をする。

事件そのものは本当。

犯人の言う事も、ポンコツAIの暴走も本当。

それは確かだろう。

だが、その過程が嘘だとしたら。

此奴は、銀河連邦をトップダウン形式で回しているAIは、どうも敢えて隙を作っている節がある。

ガス抜きのために、色々な穴を意図的に作っている様子もある。

と言う事は、だ。

これもそうなのではあるまいか。

しばし考え込んだ後に。

私はAIに質問する。

「あのさ。 あの犯人が捕まった座標なんだけど」

「この警備艇の地点からはかなり離れていますね」

「壮大な作戦だったけれど、あれって本当?」

「はい」

うーむ、嘘はつかないだろう。

だが、本当に嘘を交えるテクニックはある。

「二つ確認していい? まず一つだけれども、あのエネルギーによる捕獲ネット、あんなの必要だった?」

「ロケットがジャミングを兼ねてかなり不安定な小惑星を通過して、その結果現在位置の特定が難しくなっていました。 それで、まとめて空間を把握して、捕まえるための措置でした」

ふむ、どうも本当ぽいな。

だが、もう一つはどうだ。

「この犯人、最初から目をつけていたんじゃないの?」

「実はコールドスリープまでは、きちんと書類が残っています。 コールドスリープをしたいと考える人間は、現在も一定数が存在しています」

「なんでそんな事したがるの?」

「何もかも嫌になって、しばらく眠りたいとか。 或いは周囲の環境が何もかも気に入らないからとか。 場合によっては、難病をコールドスリープで長時間眠って代謝を極限まで落とし、その間に回復させる場合もあります。 他にも趣味でコールドスリープをしたり、そもそも冬眠をする性質を持っていた宇宙人である場合など、色々です」

何だか腑に落ちないな。

びりびり来たんだよなあ。あの時。

犯人が使っていたAIについては、既に回収。解体して、悪さが出来ないようにしてあるという。

まあそれについては私も賛成だ。そうした方が良いと思う。

だが、その後が問題である。

こいつは。私の上司であり、銀河連邦そのものでもあるAIは。ポンコツ手作りAIが、どういう結論を出すか最初から知っていたのでは無いのか。

その後はあくまで仕事を作る為に、こんな大規模な事件をわざとおこさせたのではないのか。

その疑いが晴れない。

まあいい。

ともかく、レポートを終わらせた後は寝る。

寝る事を、AIもむしろ推奨してくれた。

ここからが長いからである。

後は輸送船を乗り継いで、長い旅をする。その過程で、レポートの仕事が何回かきたので。

暇つぶしがてらに処理をしてしまう。

SNSも合間に見るが。

大規模密輸未遂と言う事で、話題にはなったが、

なんかコールドスリープしている奴が、勝手にAIにロケットで別銀河に連れて行かれそうになっただけ、という話を聞くと。

それだけで興味が失せたらしく。

あっと言う間にSNSのホットワードではなくなった。

まあ私としては、そんなものはどうでもいいので。

ただ、家にさっさと帰りたい。

それと真相を知りたい。

この二つだけが、帰路で私の頭の中を占め続けていた。

レポートを書いて、暇なときはSNSをして。そして眠る。

夢は殆ど見なかった。

こう言うときこそ、エキサイティングな夢を見たいと言うのに。

なかなかそうもいかなかった。

とりあえず伸びをして、もうすぐ家のあるダイソン球にある宇宙港である事を知るが。

まだ何か寝たりない。

何か、決定的な何かを見落としているような気がする。

多分だけれども、私の結論は正しいと思う。

AIがある程度わざとこの事件を起こした。

この結論には間違いは無い。

しかしながらそれが本当にガス抜きのためだったのか。

それとも何か違う目的が裏にあったのか。

これが分からない。

人間が政治を回すと、複雑怪奇な事件が幾らでも起きる。

今の時代は、地球人類も政治を全てAIに委任している。

それはそうだ。

傑出したリーダーもいらないし、不正まみれの選挙もない。

AIは支配者ではなく、単純な管理者だ。

何より此奴にはエゴがない。

故に管理を任せて、自分は自分の好きなように暮らせる。だったら、AIに任せるに限るし。

そんなAIが管理している以上、複雑怪奇な政治的駆け引きや、それに起因する愚劣な事件だって起こらない。

AIの中には神が入っているとか言う噂すらもあるが。

それもあり得ないだろうと私は思っている。

もし神なんて入っていたら。

私如きに、疑問なんか抱かせないはずである。

宇宙港で輸送船から下りる。

家に近い輸送船だったので、家まではすぐだ。家に着くと、すぐにごろんと横になった。

今回は長距離出張だった上に、けっこう面倒な仕事だったこともある。

気前よく十日の休暇をくれたので。

そのままゴロゴロ過ごすことにする。

ともかく疲れた。

やっぱり慣れている家が一番だ。ぐったりとベッドで横になっている私に対して。

AIは何も言わなかった。

 

圧倒的な暴力で奪い取った資源。

文明ごと滅ぼして奪い取った資源を。

その水上船が運んでいく。

古い時代の地球で実際に起きていた事件だ。

そしてその奪った資源を、また別の船が奪う。

奪い合った末に、大国同士が戦争を起こし。醜い争いの末に。弱者を散々踏みにじって。強者の理論を振りかざす。

その上負けたら見苦しい言い訳をする。

私はどこか遠くから、その様子を見ていた。

くだらねえ生物だな私らは。

そう思う。

私筆頭に狂人揃いなんだから、まあくだらないのは仕方が無いと言うか残当というか。

古い時代は、AIに支配されるのはディストピアだと言っていたが。

こうやって弱者を踏みにじって殺戮に酔いながら。一方で文明を教えてやっているだの、知的生命体だのと言っていた地球人は何様だったのかとも思う。

どいつもこいつも私と同類の癖して。

ぼんやり見ていると、大国が滅びて。

今度は弱者の立場に転落した。

高笑いしている強者もいつまでも大国ではいられない。

祇園精舎の鐘の音、だったっけ。

どんなに強い奴だっていつかは終わる。

どんな悪党だっていつかは死ぬ。

そんな中、滅びの運命から救ってくれたAIに、地球人は感謝したのだろうか。

いや、感謝なんかせず、最初はディストピアだ何だと文句を言うばかりだった。

はて。

私は何だか変な夢を見ているな。

いつもだったら、大暴れして気持ちよく血に酔っている筈なのだが。

どうして今更、人間なんてどうしようもない生物を俯瞰的に見ているのだろう。私もあっち側なのに。

私こそ、地球人そのもの。

殺戮に酔い、暴力を貴ぶ悪鬼の種族。

それが地球人で。

私そのものである。

しばらく無言でいた私だが、ふと気付くと目が覚めていた。

なんだか全身にぐっしょり汗を掻いていた。

部屋の温度が原因では無いだろう。

夢の中で暴れた記憶は無い。

ため息をつくと、もそもそと起きだして着替える。

まだ休暇はしばらくある。

何だか変な夢を見た。内容は全く覚えていないけれど。嫌な夢だったような気がする。

普段の私の夢は、内容は覚えていないけれど、何となくは何を見たか分かる。大体無慈悲に暴れまくる夢だ。

そういう夢を見た後はすっきりする。

だが、今日の夢は奥歯にものが詰まるような夢だった。

「はー。 私なんか寝言言ってた?」

「いえ、特には」

「そう……」

着替えが終わったので、軽く体を動かす。

ジムに出かけていくと、運動をする。私は運動との適性がとても地球人としては高い様子で。

地球人としては最高ランクの運動メニューを組んで、それを黙々とこなす。

衰えてはいないな。

そう思いながら、汗を更に流しておいた。

夜になるまでは時間を適当に潰し。

風呂に入って汗を流す。

途中ホラー映画を幾つか見たが、どれもこれもあくびが出る内容で。私は残念だと思った。

ホラーは人によって恐怖を喚起するか否かに差が大きい。

私の場合はツボではなかった、ということだ。

どれも名作と呼ばれているホラーだったので、更にがっかりしてしまう。

これらを楽しめなかった、ということだったのだから。

パジャマに着替えた後、横になってぼんやりする。

寝ようかと思ったが、一つだけAIに聞いておきたかったのだ。

「あのさ」

「なんでしょう」

「あの密輸犯、どうなった?」

「懲役15年ですね。 やろうとしたことがあまりにも問題でしたので」

十五年、か。

無責任な行動で、多方向に迷惑を掛けまくった。

ただ、別に実際に迷惑を被ったのはAIだけ。AIがその気になれば、警官無しでもこの犯人は捕まえられただろうし。

ならばなおさら分からない。

「私を敢えてあんな遠くまで連れて行った理由もわからないなあ」

「ああ、それはですね。 定期的に警官は長距離出張をさせているんですよ」

「……そう」

「他の警官も皆経験していることです」

まあ勿論、出張時にする仕事は違うのだろうが。

まあいい。

もうこれ以上は、状況証拠で此奴が確定で自分から事件を起こしたことしか分からない。悩んでも無意味だ。

私はふて寝をする事にする。

休暇の間に、このもやもやは解除しておきたい。

そうでないと、多分私はまた、派手に暴れる事になるのだろうから。

 

3、隠れる密輸犯を探しだそう

 

警備艇が輸送船に横付けする。

まだ出航前の輸送船だ。だから、宇宙港に着陸したのを追いかけるようにして。警備艇が横付けした事になる。

私としてはなかなかエキサイティングな場に居合わせた筈なのだが。

実際には宇宙港に着艦するときにスリリングに揺れたりするような事は無かったし。

激しい追いかけっこをするわけでもなかったので。

ただぼんやりと、無音のまま飛んで行く二隻を他人事のように見ているだけだった。

いずれにしても乗り込む。

警備ロボットが散る中、AIがアナウンスする。

「移動中の皆様、済みません。 今船内に密輸犯が潜んでいます。 これから逮捕しますので、しばしお待ちください。 危険ですので、その場にいてください」

アナウンスはまあいい。

私はのしのしと大股で歩きながら、獲物を探す。

抵抗してくれよ。

後ろから飛びついてくるとか、死角から不意打ちしてくるとか。

それとも他の客を人質に取るか。

どれも素敵なシチュエーションだ。

勘違いされているが、ショックカノンは便利な銃で、人質は意味を成さない。

というのも、人質ごと気絶させることが出来るのである。

以前、二百年ほど前と聞いている。銀行強盗とか言う古典的な犯罪をやろうとした犯人がいた。

そいつがその場にいた人質を捕まえて原始的な銃を突きつけた瞬間。

人質ごと四方八方からショックカノンで撃たれ。

人質もろとも気絶した映像は、警察に入るときの研修で見た。

ショックカノンの利便性を知ると同時に。

まるで喜劇のような展開になって、泡を吹いて伸びた犯人には、むしろ同情してしまったものである。

さあて犯人。

痛くしないからでておいでえ。

舌なめずりしながら、獲物を探す。警備ロボットが探索しているが。何しろ輸送船はでかい。

勿論輸送船の外も、警備ロボットと警察ロボットが囲んでいる。

密輸犯が逃げる隙など微塵もない。

鼠のような小型動物でも逃げられない。

昔は鼠一匹逃がさない包囲網とかいう表現がよく使われたらしいが。

今回に関しては、それは誇張でもなんでもない。

さて、と。

犯人の顔は覚えている。

犯人のいたパーソナルスペースからの痕跡は途中で途絶えている。

だが、私にはだいたい分かった。

警備ロボットを一体呼んで、そいつをつかって天井に挙がる。天井裏にも既に警備ロボットが徘徊していたが。

ここじゃあない。

天井裏から、更にパイプをまたいで。その先にある熱を通しているパイプの熱を一旦冷まさせる。

やはり、痕跡はこっちだ。

高熱を無理矢理通ったという事になる。

服によるガードでも限界があるだろう。

そうなると、痛いのを我慢して通ったと言う事だ。

くししし。

思わず声が漏れる。

これは面白そうな相手だ。撃ちがいがある。

私の見つけた痕跡は、即座に他の警備ロボットにも共有されたようで、数機がついてくる。

私はゴーグルを描けると、暗視装置を起動。

犯人が逃げた狭い通路で痕跡を追っていく。

おおっと、これは体液の跡だ。血と言うよりも、火傷で出来た傷口を擦った結果だろう。

近くにいるな。

これは警備ロボットより先に捕まえたいが。

手を伸ばす。

そして、悲鳴を上げる其奴を手元に引きずり寄せた。

「ハアイ、ジョージィ。 お巡りデース」

「ー! ーーー!!!」

恐怖の余り奇声を上げる犯人。

地球人と大して体格は変わらない。ただ耳が四つあるちょっと特殊な顔の構造をしているヨルツ人と呼ばれる宇宙人だ。

多分私が的確についてきているのはもう察知して。

ブルブル震えていたのだろう。

横穴から引っ張り出した其奴に、ショックカノンを向ける。

「風船ほしい? ほしければ言って?」

「な、何を、何を言ってるのか分からない! う、撃たないで! 抵抗しない! 抵抗しないから!」

「何だよ、私の餌になってぷかぷか浮かぼうよー」

「ひい!」

もう理解不可能なことを言われている気の毒なヨルツ人は。死を待つばかりの自分に気付いたらしい。

私は有名なホラーごっこをしているだけなのになー。

そういえばあの風船、その映画の世代の人間にはトラウマものなのだったっけ。

まあ二万年以上前の映画でも、名作として知られているだけの事はある。

ちなみに残念だけれど、私の恐怖心には刺さらなかった。

「篠田警部、その辺に。 犯人は負傷もしていますので」

「……で、密輸品はどこ?」

「……」

「お、そうか。 体の中か。 では此処はやっぱり食い殺して……」

犯人が口からだらだらよだれを流す。

この種族は、人間が恐怖で失禁するように、よだれを流すそうだ。

その説明を受けながら、私は更に続ける。

「吐かないなら、おなかを割いて直接調べるね?」

「わ、私の……バッグの奥……。 二重底の下……」

「ちっ。 内臓食べたかったのに」

本気で私が舌打ちしたのを見て、ヨルツ人の密輸犯は、気絶した。

まあ勿論私は内臓を食べたかったのでは無い。

こいつが破れかぶれに反撃してきたのを、撃ちたかったのだが。

気絶した密輸犯を、警備ロボットが運んでいく。

AIに苦情を言われた。

「相も変わらずですが、やりすぎです」

「吐かせたでしょ」

「別に無理に吐かせなくても、すぐに頭をサーチして発見は出来ました」

「うそつけ」

絶対最初から分かっていた筈だ。

此奴が隠れている場所も。密輸品の隠し場所も。

まあ、今の文脈だと。頭をサーチして云々について嘘付けと言った事になるから。別にAIも何も言わなかった。

とりあえず天井裏から降りて、犯人のバッグを調べている警備ロボットの方に行く。

表情がない私を見て、ささっと視線を背ける客ども。

他に何か犯罪者はいないのかなー。

昔の地球、日本とか言う地域。私の先祖が住んでいたらしい場所に。

悪い奴を食うなまはげとかいう鬼がいたらしいが。

その気分である。

悪い子はいねえがあ。

悪い子がいたら。

頭から囓って食っちまうぞお。

そんな風に脳内で呟きながら、犯人のパーソナルスペースに。既に警備ロボットが。巧妙()に隠された密輸品を探し出していた。大事そうに、硝子ケースに入れられている何かの光る石だ。

「で、これなに?」

「宇宙でもかなり珍しい、訳するなら白輝石とでもいう最も現在人気がある宝石です」

「ただ光ってるだけの石じゃん」

「価格はそこそこなのですが、これはかなり珍しい天体条件でないと生成されないもので、地球で珍重されたダイヤモンドとは比べものにならないほど存在する量が少ないのです」

あー、それで。

絶対量が少ないのか。

天然物だと簡単に作れるとAIは言うのだが。まあほしい人はほしいのだろう。

そして自由経済が事実上かなり制限を掛けられている今。

個人の保有財産にはかなり厳しい上限がある。

それを考えると、例え買う事が出来るものでも。

それこそ下手をすると天然物は何百年待ちとか、そういうケースはあるのかもしれない。

こんな光るだけの石で、何を言っているのかと個人的にはぼやきたいが。

まあほしい人にはほしいのだろう。だから、欲しい事自体は否定しない。ただ犯罪に手を染めてまで手に入れようとする行為は擁護しない。

「ちなみにこれは天然もの?」

「はい。 偶然この人物が、労働中に手に入れた品です。 指定されている価格以上で買うという人間がいまして、その人間に売るために移動していたようです」

「そいつは?」

「既に逮捕しています」

なるほどね。

まあいい。

とりあえず、全て抑えたという事である。

こんな光る石で馬鹿みたいな事になるんだったら、焼いてしまえば良いのにと思ったが。

それは他人の嗜好の否定になるか。

やめておこう。

犯人は気絶したまま輸送船から警備艇に移され。

私も満面の笑顔で、こわごわこっちを伺っている客に手を振りながら、輸送船を出る。

聴取はさせて貰えないだろう。

犯人は私にトラウマを叩き込まれたようで、聴取に苦労しているようなので。

とりあえず、満面の笑みでその錯乱ぶりを遠隔で見守る。

「あ、あの恐ろしい狂った奴は!? なんであんなのを警官にしているんだ!」

「まずは貴方が違法の取引をし、更には密輸をしようとしたことについて確認させていただきます」

「何でも喋るから、彼奴だけは近くに寄らせないでくれ! 頼む! この通りだ!」

「そうですか。 では順番に質問します」

AIはとても冷静だ。

私はにこにこしながら様子を見ているが。このサディズムの楽しさはAIには分からない事だろう。

まああの犯人。

この警備艇に私が乗っていて。逃走を図ったら何時でも来ると知ったら、全てを何もかも包み隠さず話すだろうが。

いずれにしても、AIはそんな脅しはしないし。

犯人もそれを悟っているようで。何も言わない。

ただ、一つだけ言った。

「貴方の取引先は既に逮捕されています」

「……」

「もう退路はありません。 それだけはご理解ください」

「分かった……」

肩を落としたらしい犯人。

まあ今の時代、資産を持っていても使い路がない。

それでも金に目が眩むものがいるというのは。

要するに、それだけ業が深いものなのかもしれない。金というものは。

犯人がしょげて。

更に全部すらすら喋るようになったので、一気に退屈になった。

伸びをする。

寝ると言うと、AIは苦言を呈してきた。

「近くの署に護送します。 それまで一緒に起きていてください」

「なんだよ面倒だなあ……」

「たかが二時間です」

「もう分かったよ」

此奴に変なところで楯突くと、憲兵に戻すとか言われかねないので。こういう所ではしたがっておかなければならない。

宮仕えの厳しい所だ。

しばらくあくびをかみ殺し、ポップキャンディを舐めてなんとか眠気を殺す。

完落ちして抵抗する気力もない犯人ほどつまらんものはない。

あくまで私の感性で、の話ではあるが。

それに私が聴取する訳でもないのである。

私だったら、相手を色々拷問したりしながら情報を引きずり出すのだが。

勿論そういうことをしかねないから、AIは聴取させてくれない。

悲しい話である。

「とりあえず貴方には実刑判決が降ります。 密輸関係はかなり重いので覚悟してください」

「分かった。 確かに……金に目が眩んでも、今の時代は使い路なんてない。 馬鹿な話に乗ってしまって、反省している」

「この様子だと白輝石も貴方が直接触れない場所にしまうほうが良いかも知れないですね」

「それは困る。 それだけは許してくれ」

悲しそうだが。

まあそれは此方としてはどうでもいい。

こっちだって悲しいのだ。

犯人を撃てない。

その苦しみが分かるか。

分からないだろう。

だから悲しいのだ。

署のある星に到着。このヨルツ人の住んでいる星の署だ。

すぐに警察ロボットが、犯人と例の宝石を取りに来る。後はそっちに任せる事になるだろう。

退屈そうに敬礼をする私と。

なんか引きつった顔で敬礼をしてくる相手側の警官。

なんだろ。

ともかく、私は警備艇を下りると輸送船に乗り換え。

帰路につく。

帰路で聞いてみる。

「なんか私有名人?」

「そういえば篠田警部はいわゆるエゴサをほとんどしませんね」

「? 何の話だよ」

「いえ、調べて見れば分かるのですが。 狂人警官として貴方有名なんですよ」

なんだそれ。

私は単に本能を表に出しているだけの正直者警官なのだが。狂人警官とは失礼極まる。

むすっとしてぷんすかする私に、AIが言う。

「貴方がそんな反応をするとは意外です」

「だって私自分に正直に生きてるだけだもん。 他の奴だって、本性は私と大して変わらないのに、まともなフリしてるだけじゃん」

「否定は出来ませんが、それは地球人が衣服を着ているように、誰もが身につけてきた事だとは思いますが」

「なんだよ、私はストリッパーかよ」

太古に存在したという職業を口にする。

なお現在は、余程の物好きでもない限りいない。また現物とまったく変わらない仮想現実が作れるので。需要はゼロに近いらしい。

ただ、それでも好きでやっている人もたまーにいるそうだ。

商売ではできないので、ネット配信を主にしているそうだが。

「あー、なんだかなー。 まともなフリをすることに地道を上げている奴よりも、最初からこう言う奴ですって示している私の方が絶対マシだと思うんだけどな」

「……意外ですね。 もっと貴方は狂人言われて怖がられる事を喜ぶと思っていたのですが」

「喜ぶか! 私が嬉しいのは、他人が私を正しく恐怖している姿であって、私が狂人であるとか勘違いして怖れる事じゃない!」

「違いが分かりません」

冷徹な突っ込みを受けて、私はむっと不機嫌になる。

ああもう。

ショックカノンはさっき返してしまったし。

とりあえず、自宅に着いたら、思いっきり殺伐としたゲームをやろう。銃でたくさん撃ち殺す奴がいい。

何の代替にもならないが。

多少の憂さ晴らしにはなるだろう。

ともかくずっとイライラが晴れなかった。

AIはその間、私の分析をしていたようだが。

此奴でも私の分析は上手く出来ないのか。それは若干おもしろい話ではある。

まあ乙女心はAIには解析できないか。

流石にどんな高精度AIでも不可能はあるし。

故に此奴が全知全能ではないことも分かって、人々は安心もするのだろうか。

自宅があるダイソン球に着いた頃は、とりあえず何度か軽く寝て、起きた後だった。

あくびをしながら帰路を急ぐ。

こう言うときでも、周囲の視線などは一応気にしている。

古い時代の地球では、警官と言うだけで殺して誇るような輩がいたらしい。

そういう人間が、「狂人警官」に対して私以上に狂った価値観をぶつけてくる可能性だってあるのだから。

ベルトウェイを経由して、自宅に。

中には誰もいない。この辺りは勘とか関係無しに分かる。

ただ、私はものを動かされるのが大嫌いで。

今もしっかり目を細めて、ものを動かされていないか確認していたが。

「掃除はしましたが、きちんとものは元の場所に戻してあります」

「こう言うときは記憶力が良いAIは便利だねえ」

「はあ、まあ。 篠田警部がものを同じ場所に置いているのは知っていますので」

「まあ前にも言ったしね」

横になると、昔の犯罪の記録ビデオを観る。

AIは流石に過去にまでは干渉できないらしいのだが。過去に何があったかを撮影はできるらしい。

なんでも量子のゆらぎを利用してワームホールをどうこうらしいのだけれど。詳しい理屈はよく分からない。

これにより、本能寺の変の真相とか、地球時代は決着がつかなかった歴史的謎が現在は判明している他。

冤罪と思われていた事件が事実だったり。

聖人と言われていた人がただの俗物だったりした事実が判明しており。

これらによって、急速に宗教の求心力が薄れていったという事実がある。

というわけで、私はニューヨークギャングの暴虐の限りを尽くす歴史を見るが。

私が可愛く思えるレベルでの残虐行為を繰り返しまくっているではないか。

一方残虐民族と呼ばれていた遊牧騎馬民族は、伝説化しているだけで実態は言われているような事も無く。

むしろ周囲の国家の人間の方が残忍極まりないという有様だった。

まあいずれにしても、過去の事実が分かったことで歴史学者は一次資料を探して奔走することもなくなったし。

何よりも、論文などもAIが勝手に書いてくれるので、触る必要もなくなったそうだ。

一方でそれでも学者は存在していて。

主に宇宙開発などに関わっている。

いずれにしても関係はない。

私はレジャーとして、過去の歴史を見るのを楽しむだけだ。

「ほらやっぱり。 どいつもこいつも、私と同レベルかそれ以上じゃん」

「地球人類の攻撃性はそんなに主張をしなくても誰もが知っていることです」

「別に私が狂人とか言われる筋合いないよね」

「私が言っているわけではありません」

なんか臭う。

此奴、私を何か利用している節がある。

かくたる証拠はないのだが。

はあとため息をつくと、残虐映像のオンパレードを一旦視聴中止して。

SNSで対戦ゲームでもやって憂さ晴らしする。

昔はこの手の対戦ゲームは、地球では特に勝つためには何をやっていも良いという理屈が蔓延していたらしい。

その理屈が終わったのは、地球文明が終わる寸前での事件。

勝ちたいと判断したある富豪の息子が、対戦相手を金に任せて全て割り出し。その全員をスナイパーに殺させたのである。

貧富の格差が極限まで開いていた時代だ。もはやそういった富豪に対しては、司法などは何の役にも立たず。勿論立件どころか、報道さえされなかった。

大会にはそのアホ息子が一人しか出ず。

結果として優勝と言う事になった。

勝つためだったら何をしてもいい。

そう声高に叫んでいた連中は、以降急速に対戦ゲームから離れていった。

本当に勝つために何でもする輩が出てきた事によって。

自分達がやっていたハラスメント行為なんか、子供の遊びに等しい事を悟ったからである。

以降は対戦ゲームの文化が下火になり、銀河連邦に接収されるまでついに復権することはなかったそうだ。

今は対戦ゲームはマッチング機能やチート対策がほぼ完璧である事もあって、似たような実力の相手と楽しく遊ぶ事が出来る様になっているし。非紳士的な行動を取った場合は即座にゲームから放り出されるようにもなっている。

軽く似たような技量の相手と遊んだ後は。

何とも言えないもやもやも、多少は晴れていた。

後はしばらく眠る事にする。

狂人警官か。

お前らと大して変わらないよ。レッテルを貼ることで相手を下に見ようとする文化はどこでもあるんだな。

そう呟く。

AIはそれには、何も答えなかった。

 

休日を消化して、現場に出る。

別に鈍ることもない。

休日にもジムには出るし。シミュレーションで自主訓練もする。というか、銃を撃つのは大好きだし。

銃を撃てるようには、体を調整しておく必要があるのだから。

職場のデスクにつくと、すぐに仕事の指示がある。

このダイソン球での仕事か。

珍しい。

交通整理とかはやる事があるが、犯罪対策は久しぶりかも知れない。

いずれにしても、指定の場所へすぐに移動する。

ベルトウェイを使って移動しながら、電車を待つ。

AI制御の電車は、今では人身事故とも無縁だ。

無言で時間通りきっかりに運行されている電車に乗り。そのまま現地へ。電車を使うと言うことは、空間転移を使うほどの距離では無いと言う事だ。

現地に到着。

この辺りは、店とかも特にない。

こんなに警備の厚いところで、何をしでかした奴がいるのか。

酒を飲んで暴れるとすると、即座に警備ロボットに連れて行かれる場所である。

何かしている奴がいるとしたら、それはまた。

大胆なことだ。

周囲を見て回った後、AIに確認する。

「不審者はいないみたいだけれど」

「いえ、貴方がいるだけで抑止力になります。 しばらくこの辺りにいてください」

「はあ、まあそういうなら良いけどさ」

ショックカノンは持ってきている。

ということは、荒事の可能性がミリでもあるという事だ。

ならばと期待していたのだが。

何だかよくわからない。

とりあえず、警備を続ける。しばらく周囲を見回っていると、此方に対する視線に気付いていた。

この間の、宝石の密輸に関して思い出す。

定価でそのまま売ればいいものを。

今回の事件は、それ絡みではあるまいか。

しばらく視線の主は泳がせながら、移動しつつ見回りを続ける。警備ロボットに手帳を見せて確認。

「この辺りに不審者は?」

「この周辺では、ここ五十年ほど犯罪は起きていません」

「そう、ありがとう」

「……」

警備ロボットが行く。

あれらはAI制御ではあるが。独自にAIも積んでいる。

それは人間の管理をしているメインAIの補助をしているらしく。一応簡単な人格を与えられているそうだ。

五十年犯罪が起きていないと言う事は。

五十年前には犯罪が起きた、と言う事だ。

まあいい。

とりあえず様子をもう少し見るか。なんか私を追いかけてきているのもいる事だし。

しばらく周囲を見回った後。

道をそれて。

私に対する視線を向けてきていた奴が、釣られて来るのを確認。

手を伸ばして、ひっつかみ。

引き寄せて、銃を頭に突きつけた。

「さーて、私を尾行してどうするつもりかな?」

「ま、まってまって!」

「さっさといわないと撃つ」

「言うから待って!」

完全に慌てているそれは、私より少し年下の地球人に見えた。

子供でも背伸びしたい年頃の人間は、肉体年齢を急速成長させたり。或いは自分に合わせた肉体年齢に調整しているケースもある。

さっと経歴を見るが、肉体年齢通りの年齢のようだ。

むしろ珍しいケースかも知れない。

私はこの年の頃は、色々試して、どれが一番動きやすいか確認していたものだし。それについては殆どの地球人がそうだと聞いた事があるのだが。

私の凶悪な腕から逃れた追跡者は、咳き込みながら、恐怖の目でこっちを見る。

年齢は女性だが。髪を短く切っているし、少年にも見える。

「それで?」

「……あんた、狂人警官だろ」

「おお、知れ渡ってる」

「それはそうだよ。 だって今の暇を持て余している人達の楽しみって言ったら、噂話なんだから」

そんなもんなのか。

私はどうもSNSでのやりとりというのはよく分からなくて。

他人との噂話に興じるとか、そういう事はしない。

噂話そのものは参考にはするが。

別に他人と交流することに興味が無いのである。

「それで私が狂人警官だったらどうするのかな?」

「……話が通じるね」

「?」

「いや、問答無用で撃ち殺そうとするって噂を聞いたから。 それで貴方が通ったから、どんなかなと思って」

何だか話が見えないな。

音声が相手に届かないように処置をして。

AIと軽く話をする。

「何、どういうこと? 度胸試し? それとも自殺志願? 虐められてて私をつけるように言われているとか?」

「……今調べましたが、SNSで特に立場が悪いという事は無さそうですね。 こんな大胆な行動を取っているのは初めて見ました」

「……何か理由がある?」

「何とも。 もう少し聴取をしてください」

警備ロボットが数体来て、逃げられないように周囲を囲んだのを見て、ひっと声を上げる女の子。

格好が男の子っぽい事もあって、私としてはそういう子の恐怖の表情はそそるものがあるのだが。

まあそれはそれ。

仕事は仕事。

「で、何がしたいの?」

「この間。 密輸の摘発をしたんでしょ」

「……」

無言でショックカノンを向けると。がたがた震え始める女の子。

今のは、ちょっと聞き捨てならないな。

なんで警察の機密が漏れている。

私の表情が消えたことにも、相手は気付いているはずだ。

「どうしてそれを知っている。 すぐに言え」

「白貴石の取引先、私の血縁的なお父さんにあたるらしいんだよ、それで」

「……へえ?」

「前からちょっと交流があったんだ。 でも私の事いやらしい目で見てくるし、どうにも気にくわなかったんだよ。 それで、更にこの間逮捕されたって聞いて。 逮捕の時期とかが珍しい密輸事件に重なったから!」

無言で銃を向けていた私だが。

周囲の恐怖の視線が増えてきたか。

まあいい。

とりあえず、署に連行する。

今の時代は少年法とか言う、悪用されまくった無意味な法は無い。

この子も問題を起こしたのならちゃんと裁かれることになる。

とりあえず署での聴取は他の警官が行う事になったので、私は様子を見ているだけにする。

私の魔の手から逃れられて、やっと安心したのか。

めそめそ泣き始める犯人。

ジェニ=コーカサスという名前らしい。

よく分からないが、私とは違う文化圏の人間の子孫なのだろう。

「それでさっきの話、本当?」

「はい。 遺伝子上の父親が、この間の密輸事件の受け取り側です」

「……あんた、私で釣ったな?」

「まあそういう事になります。 ただ、犯罪者として摘発するつもりは別にありません」

AIによると、あの子の言った事は本当だという。

偶然から血縁上の父親と知り合ったあの子は、何回か興味を持って父親にあいに行ったと言う。

そうしたらまあ彼女が言う通り、いやらしい目で見られて、うんざりしたとか。

元々かなりの寂しがりやだそうであり、AIに何度も家族がほしいと訴えていた所だったそうで。

とりあえず現実を見せる意味でも、家族にあわせたそうだ。

結果は目を覆う有様だった訳だが。

とりあえずそんな状況だったので、もう二度と会えないように処置はしたらしいのだけれども。

やはり何処かで孤独だったのか。

親について色々調べていたそうだ。

そこで密輸事件の発覚である。

「ストックホルム症候群というものを知っていますか?」

「ええと、確か犯人とかに拘束されたりしていると、その犯人に好意を抱く現象だっけ?」「その通りです。 あの子は軽度のストックホルム症候群になっていました」

「ああ、なるほど……」

クソみたいな父親と会ってみて。

その父親の狂態を見せつけられながらも。

どこかで憧れてしまったというわけだ。

それはまた厄介な話である。

「更に、犯罪にまで興味を持つようになりました。 彼女の父親は何回か実刑判決を受けている犯罪者ですので」

「ああ、それは最悪だね」

「今回の件が切っ掛けになったのでしょう。 密輸事件の片割れを捕まえた貴方の事を、SNSで知ったようです。 犯罪者のプライバシーは明かされませんが、今まで犯罪者の分析を進めていたことで、即座に父親が犯人の片方だと知ったのでしょう。 だから、興味を持ったと」

「それなら、父親を捕まえた警官に興味もてよ……」

ぼやくが、その警官はごくまともな人物であるそうで。

要するに、ストックホルム症候群の悪影響で、より刺激的な人物。つまり私に興味を持ってしまったのだとか。

そりゃあ、悪影響だ。

しばらく聴取室で絞られているその子を見て、私は何となく思う。

確かに父親が最悪だと知っても。

その父親の影響はどうしても受けてしまう。

影響を排除するために。今回AIは私を動かしたと。

それ自体は、別に悪い事では無い。

警察の仕事ではないとは思うけれども。

まあそれはそれだ。

ため息をつくと、絞られた後家に帰される子を見る。私からしてみれば、関わってはいけないぞと言いたいが。

まあそれをいうと、余計に変な風に拗らせるだけか。

「まあ私に近付かないようにあんたが誘導するんだね」

「そのつもりです」

「……」

たかが密輸事件といえども、影響は色んな方向にあるんだな。私はちょっと勉強になって、それは嬉しかった。

いずれにしても、これでアフターケアも終わりか。

伸びをする。

さて、次の仕事に取りかからなければならないのだろう。

お巡りは今はそれほど忙しい仕事では無いが。

私はなんか便利なようだし。

休暇も貰いつつ、彼方此方で働いているのだ。

 

4、後々の話

 

警備艇に乗って、目的の地点に行く。

今回は特定の事件に対する対応のために出向くのが目的ではなく、単なるパトロールらしい。

まあパトロールでもなんでもいい。

管制室に出向くと、デスクにつく。

星空なんて見飽きた。

私の住んでるダイソン球からは、それこそ地球の大気圏内から見るのなどとは。それこそ比べものにならない星が見られる。

そんな環境に育ったのである。

今更星なんか、どんだけ見ても別にどうとも思わない。

こういうのは、宇宙に育った人間特有の事なのだろう。

多分惑星の大気圏内で過ごし続けた人が、こういう所に来たら。それこそ大感動はしてもおかしくないのだから。

「この辺りを今回はしばらくパトロールします」

「うい」

「しばらくは何もありません。 今回は交通整理の仕事は別の警備艇が行いますので、レポートでも書いていてください」

「またレポートか……」

地球時代に比べればマシとは言え。

多分私は、レポートを書くので勤務時間を一番消耗している。

もっとこうガンアクションとか、カーチェイスに時間を使いたいものだが。

人間にとって時間が事実上無限の今の時代。

そういうわけにもいかないのだろう。

また、レポートも何も自分が担当した事件のものを書く訳でもないし。

他の警官が担当した事件のレポートも処理する。

AIが処理している膨大なレポートの一部を私が代理で担当しているだけの話であって。仕事をAIが創設しているだけなのだ。

警備艇がもう一隻来る。

比較的近くで、通信を始めた。

相手側にも人が乗っているらしい。これ自体が珍しい。基本的に、たくさん警官を乗せた警備艇はいない。

「データの交換をお願いします」

「了解しました」

データのやりとりをしているのを横目に、レポートを仕上げる。AIは暇だというとすぐに仕事をくれるので、この辺りは困らない。

やがて通信が終わると、話を始める。

「少し前に、近くの惑星から出た輸送船が、違法のものを乗せているようです」

「密輸品ですか」

「そうなります。 対応に向かいますので、万が一取り逃した場合の後詰めをお願いいたします」

「了解」

輸送船が動き出す。

今回はバックアップか。

まあそれは別にどうでも良い。

密輸関連は、別に対応が面白いわけではない事がよく分かったし。

どうせ相手も抵抗しないだろう。

それに、である。

昔の地球じゃあるまいし。

密輸が商売になる時代なんてとっくに終わっているのである。それならば、密輸は余程の特例と言う事だ。

警備艇のバックアップと言っても。

基本的に輸送船にも話が行っているだろうし、犯人を取り逃すことはあり得ない。

まあ距離を取って、輸送船が停止するのと。警備艇が横付けするのを見ている。

犯人が輸送船から逃げ出すのを監視すれば良い。

退屈な仕事だ。

警備艇がその気になれば、個人作成の宇宙船なんかそれこそ秒で捕獲できる。

脱出カプセルの類は、基本的にAI制御。

億年単位でハッキングを許していない堅牢極まりないAIを、突破出来る奴なんて存在しない。

まあ存在したとしたら、むしろ楽しくなってくるレベルだ。

撃ちがいがあるだろうし。

程なくして、犯人が捕まるべくして捕まったと連絡があった。警備艇が輸送船から離れていき。輸送船もまた航路に乗って移動を開始する。

私はぼんやり様子を見ていたが。

しばしして、AIに言われた。

「密輸には興味を失いましたか?」

「犯人撃ち放題な仕事が良いなあ」

「そんな仕事はありません」

「分かってる」

まあ、密輸に興味を失ったのは事実だ。

ここ最近で関わった事件では、どれもこれも基本的に趣味を拗らせきった人間がやったものばかり。

今の経済が安定して、貧富の格差もない時代。

金を稼いでも、意味がないのである。

かといってそれで誰もやる気を出さないかというと、そうでもない。

しっかりAIが用意した仕事が、適職としてそれぞれに与えられているし。仕事の分量も適正だ。

だからこそ、そんな状況でリスクばっかりたかい密輸なんてやる奴のが珍しいし。

やってる奴も百戦錬磨の犯罪者とかでもなんでもない。

ただのアホだ。

この間の、犯罪者の血縁上の子を見て特に思ったが。

犯罪者を撃つのは楽しいが。

犯罪者が、血縁者を不幸にするのはあまり嬉しくない。

どうやら私は犯罪者を撃つことには興味はあっても。

犯罪者以外はあまり撃ちたくないらしかった。

犯罪者を作る事にも興味が湧かないというか。それはむしろ不愉快な事であるらしい。

私にも私はよく分からないが。

そういうものなのだろう。

「パトロールはあとどれくらい?」

「そうですね、後三日ほどです」

「そっか。 暇だから訓練したい」

「シミュレーターは積んで来ていますので、どうぞ」

頷くと、仮想現実で銃撃戦をやる。

仮想現実だからやりたい放題出来るが。

現実とは別物だ。

まあしばらく暴れまくった上で、やはり退屈が抜けていないことに気付いてげんなりする。

まあいい。

私はどうやら、狂人警官と言われていても。警官であることは事実らしい。

警官の適正があることも。

だとしたら、この警官が暇な世界でも。

警官をやっていくべきだろうと思った。

 

(続)