正しい道をいく

 

序、宇宙空間は意外に不自由

 

また警備艇の仕事か。

私はそれを知ってげんなりしたが、更にその後内容を悟ってもっとげんなりした。

今回は仕事が犯罪者の摘発ですらない。

もっとも警察の中でも暇な仕事。

交通整理だ。

宇宙空間だと、全く需要が無さそうに思える仕事なのだが。実はそんな事はまったくない。

古い時代の航空図とか見ると、飛行機の接触事故を避けるために非常に苦労をしていた事が分かるが。

今の時代でもそれは同じ。

例えば輸送船同士がぶつかった場合、輸送船は耐えられるかもしれないが、内部にダメージが行く可能性がある。

輸送船は何かしらの攻撃を想定して、それなりの装甲をAIが自動で補強するようになっているのだけれど。

あくまで輸送船。

警備艇くらいまで行くと、質量兵器が突っ込んだくらいでは全くへいき。光速で小惑星でも突っ込んで来ない限りは大丈夫なのだが。

それでも死者が出る可能性がある。

この銀河連邦では、人間の足となっている輸送船が彼方此方を飛び交っていて。

それの運行には、AIが制御が行っていてもどうしてもイレギュラーが出る。

そのため警備艇が要所に出て。

接触事故を防がなければならないのだ。

これが兎に角暇だ。

AIが徹底的に管理しているので。

そもそも事故りようがない。

無理に作られたことが確定の仕事であり。

今まで六度、この目的で出た警備艇にて宇宙に出たことがあるが。

一度も何も犯罪絡みの事件は起きたことがない。

警官の使うSNSで情報収集したことがあるが。

たまーに無関係の案件の犯罪者を捕まえたことがあるとかいう話が出て来たくらいであり。

それ以外に問題は一切起きていない。

要するに。

それくらい、暇なお仕事と言う事だ。

げんなりしながら、私は管制室でポップキャンディを咥えて。コンソールを叩く。渋面が目に余ると判断したのか。

AIが文句を言う。

「少しは集中しましょう」

「だって出来ること無いもん」

「ではレポートを」

「……」

まあ、そうくるよな。

警察でも作らなければならないレポートはわんさかある。

今回の案件だって、警備艇を出した後に、色々とレポートを書かなければならない。

それを後で全部まとめてやると大変だから。

出来る所は早めにやっておく。

合理的な判断だ。

頭に来るほどに。

というわけで、その頭に来る合理的判断に沿ってお仕事をする。そうこうする内に、AIが説明をしてくる。

「この航路はこれから24時間以内に2隻の船が通過します」

「そっか、過密ダイヤルだね」

「何かあった場合、牽引などで事故を避ける必要があります。 航路から少し離れて見張ります」

「へい」

冗談も勿論通用しない。

げんなりしている私を完全無視して、AIは続ける。

「もしも事故があった場合、犠牲者の数は計り知れません」

「……」

そうだよな。

年に数件殺人事件が起きるか起きないか、という今の時代である。銀河文明全体でそれなのだ。

それが宇宙船の事故なんか起きて、何百人と死んだりしたら。

それはもう、批難の大合唱が起きるだろう。

勿論、それぞれの人間が母星にいた頃。毎年交通事故で何人死んでいたかなんてガン無視で、である。

人間なんてそんなものだ。

そういう無駄な暴動を起こさせないためにも。

仕事そのものが大事なのは分かっている。

分かってはいるが、そもそも無理矢理作られた仕事で。

AIだけでどうにでもなるところに、人間を無理に引っ張って来て。

仕事の片棒を担がせるのは、流石に横暴だと私は思う。

だけれども、こればっかりは仕方が無い。

苦虫を噛み潰して正論を聞く。

そして、レポートを書く。

ポップキャンディが終わったので、次。

側のゴミ箱に捨てられるポップキャンディの棒が増えていく。

ため息をつくと。

次の仕事を回された。

「船内のレーダーを確認に行きましょう。 レーダー用の管制室へ案内します」

「ういー」

言われるまま、猫背で歩く。

やる気が出なさすぎて我ながら凄い。

ともかくレーダーの管制室に移動後、其所を徹底的にメンテナンスする。警備ロボットも手伝ってくれるが。

しかし何という煩わしい仕事だ。

ただ、その直後。

すぐ近くに、輸送船が空間転移してきた。

AIがやりとりしている。

「予定通りの航行確認しました。 次に向かってください」

「ラジャ」

反応していた相手は随分若い声に聞こえた。

幼い姿のまま体を固定している者もいる。

そういう者かも知れない。

それに、社会人になる年齢はだいたい10歳くらいからだが、中にはもっと早くから教育を終える者もいる。

そういった連中は、科学者になったり、適性を生かすための仕事に就くのだけれども。

結局早熟なだけで、やる仕事は大人と変わらなかったり、という事もある。

色々なケースが想定できるので。

何ともこちらからは判断出来ないのが実情だ。

輸送船が、また空間転移する。

その際には、特にやりとりはなかった。そのまましばらく待ちである。待ちと言っても、色々しなければならないのだが。

それでも、待ちの時間である事は事実だ。

宇宙海賊なんかいない。

他の銀河から進行してきた謎の生物なんて存在しない。

勿論油断は禁物ではあるのだろうが。

もしもそんなのがいたら、絶対に外縁部を警備している部隊から情報が来るし。

警戒が三段階くらい挙がる。

今私がいるのは、銀河系の中でもけっこう真ん中の方なので。

そういうのが出る可能性は著しく低いのである。

勿論外縁警備をしている軍だったら、ある程度はアンノウンに対して警戒しなければならないだろうが。

私は元軍人でも。

現在は軍人ではないのである。

死亡フラグにも思えるが、そもそも死亡事故が起きないこの世界。

これくらい旗を立てて回っても、起きないものはおきない。

内心では宇宙人でも攻めてこないかなーとでも思うのだが。

あいにくだが、宇宙人なんて攻めてこない。

強いていうなら、銀河連邦に地球が接収されたときがそうだったのかも知れないけれど。

それは二万年も前の話。

しかも混乱も数十年で収まってしまって。地球に残っている人間の一部に拗らせたのがいるらしいけれども。

それも別に何か大きな事が出来るわけでも無い。

時々摘発が入るらしいが。

それで恐ろしい実態が明らかに、というようなこともない。

地球の方も。

実際には隅々まで、監視が行き届いている。

たまに出てくる不具合は、明らかにAIが意図的に手を抜いているのではないかと私は疑っているが。

どうにもそれは、最近確信に変わりつつある。

勿論それを口にすることはないが。

「航路図のチェックを行います。 レーダー管制室のコンソールに来てください」

「はいはい」

腰を上げると、別室に移動する。

レーダーの管制室。とはいっても、地球時代の人間が使っていたものとは根本的に違うものだが。

その様子を見に行く。

立体的な図が表示されている部屋で。

コンソールで、その一部を拡大表示しながら、今どんな船が何処にいるのかを見る事が出来る。

恐ろしく巨大な図だが。

これでも銀河の一部も一部。

ほんの隅っこの様子だというのだから。

2000億を超える星系が存在する銀河系の大きさが、嫌と言うほど分かってしまうと言うものである。

なお、私が今いる航路の近くは、点みたいな感じで表示されている。

周囲は馬鹿みたいに広く思えるけれど。

宇宙の縮尺から見れば、砂粒も同じと言う事だ。

人間が地球時代に書いていたSFでは、それこそ頻繁に宇宙海賊が悪さをしたり。艦隊戦が起きていたりしたけれども。

こんなに広いと、そもそも争うのが馬鹿馬鹿しいのでは無いかと思ってしまう。

別に土地なんか取り合わなくてもいくらでもあるし。

そもそも殺しあいまでして奪う資源なんてない。

資源もそれこそいくらでもある。

使い捨てとかしない限りは、どれだけ使っても使い切れるものではないのだ。

実際問題、特に人口がコントロール下に置かれている今の銀河系で、資源が問題になったことは一度もないとか。

億年単位続いているこの文明で、である。

そういうものだ。

私は指定された地点の状況を確認。

船すらとんでいない。

もっと拡大すると、数隻の船が移動を続けているが。それも空間転移でぽんと消えるので。追っているのが馬鹿馬鹿しくなる。

これをリアルタイムで見る事が出来るのは。

いわゆる超光速観測技術が発展しているからで。

上位次元からの観測をしているらしいから、らしいのだけれども。

その辺の仕組みは私には難しすぎて分からない。

学者だったら大喜びで理論に飛びついて調べるのだろうけれど。

残念ながらそういう人種と私はあんまり相容れない。

正規のルートが表示されていて、その通り船が移動しているかどうか確認しろという話だったので。

色々な支援ツールを使って確認を行う。

問題ないように思えるが。

支援ツールが警告をしてきた。

「どうも此方の船にトラブルが起きているようです」

「ハイジャック?」

「そんな訳はありません。 距離は220光年ほど先ですね。 空間転移を続けて、見に行きましょう」

「なんだろ」

私はそのまま部屋を移動して、一応念のために武装する。

警察ロボットは既に物資搬入口に。

問題が起きているのは輸送船だが。

内部でトラブルが起きているとしたら何だ。

空間転移が行われるが、別に揺れるわけでも無い。いつのまにか、50光年くらい。つまり光が五十年掛けて進む距離移動しているだけである。

これも考えてみれば驚異的な話だが。

それでも当たり前のように今の時代では行われる事なので。

別にもう驚くことはない。

5回空間転移を繰り返した後。

問題が起きている船の側に出る。

通信をするが。

相手側の通信も生きていた。なんだ、ハイジャックじゃないのか。口を尖らせてしまう。どうせなら派手な銃撃戦とかしたかったのに。

そういう楽しい空想は遮られてしまった。

「何か問題が起きているようですが」

「燃料の純度に問題があり、速度がほんのわずかだけ落ちています」

「航行に支障は」

「いいえ。 問題の速度低下は想定の0.02%です。 調査については後で警察でお願いいたします」

速度が0.02%落ちただけで支援ツールは異常を見抜いたのか。

すごいなあ。

私は半ば呆れてしまったが。

もの凄い速度で宇宙空間を移動している場合、それでも問題になるのかも知れない。

とはいっても、燃料と言っても確か核融合より更に進んだ技術を用いている筈で。殆ど使用しないはず。

燃料切れで宇宙船が立ち往生したなんて話は、個人作成の宇宙船で宇宙に出るようなアホを除くと存在していないし。そういう個人作成の宇宙船でも、ずっと燃料をふかしているタイプは希なはずだ。殆どは恒星からの太陽風を利用したり、星間物質を使って加速していくタイプのエンジンを利用しているはずだが。

ともかく、問題は無いらしいので臨検終わり。

元の位置に戻る。

何もする事がなかった。

警官ロボット達も、もとの位置に移動していく。

今私がやっているのは事実上の交通整理だが。

それはもう、昔から暇だったらしい。

それどころか、ねずみ取りなんて言われて非常に忌み嫌われたらしいのだけれども。

別に違反切符を切る必要もない。

そもそも今の時代、目的地に指定の時間にたどり着けない、と言う事がない。

AIの支援でその辺りはがっつりしているし。

船のトラブルが起きたとしても、さっきのようなもうよく見ても分からないくらいの性能低下しか起きないのである。

本当に。

暇だ。

ねずみ取りをやっていた警官達は、「違反切符の切り方しか教育されていない」とか揶揄されていたらしいが。

違反切符すら切る事が出来ない私の苦境を考えてほしい。

なんと悲劇的なことか。

とりあえずレーダーの管制室に戻って、また馬鹿みたいにデカイ立体図を確認。

或いは銀河系の反対側では問題が起きているのかも知れないが。

少なくともこの警備艇がリンクしている範囲内では、問題は起きていない。

何カ所か、指定の位置を飛行している船を確認するように指示をされるが。支援ツールを使っても、問題が起きている形跡は無い。

さっき0.02%速度が違うとか見抜いた支援ツールが問題を発見できないなら。

私の肉眼如きで、問題は発見なんぞできないだろう。

あくびを何回かかみ殺すが。

最終的に、次の仕事をするように指示を受けた。

今度は、資料室に移動。

勿論紙媒体の資料なんて存在しない。

端末の一つの前に座ると、ゴーグルをつける。

いわゆる仮想現実。バーチャルリアリティだ。

これで、艦種を確認する。

輸送船はどれもこれも殆ど同じ形だが。用途に応じて大きさが違っている。

船艦は確か30000メートル級のものが主体だったが。

惑星開拓用に使う物資輸送用のものなどになってくると、輸送船は凄いのが存在していて。

最大級のものになると、150000メートルに達するものが存在していると言う。

文字通り移動する星だが。

これでもまだ実際には物資をちまちま運ぶということで。

更にはこういう等級の輸送船が、艦隊を組んで移動する事もあるのだとか。

ついていけない世界だが。

まあそういうものなのだと諦めるしかない。

他にも、人間を乗せて移動する輸送船や。

物資を工場に輸送するもの。

工場から各地に物資を輸送するものや。

それらのハイブリッドなど。

輸送船のタイプを順番にお勉強する。

退屈極まりないが。

お巡りとしては、今確認するべきは主に輸送船なので。こういうお勉強は必要になってくる。

ただ、退屈なのは事実だ。

それにこんなアホみたいな規模の輸送船でも、当然防衛用の装備は積んでいるし。

ハイジャックされたとか、宇宙海賊に襲撃された何て話は聞いたことすらもない。

勉強の時間が終わると。

ぐったりしたまま、私はそのまま休憩に行くように指示される。

今回の主任務は交通整理。

それは分かっているが。

年に何度か来るこの仕事が。

私には苦痛でならなかった。

他の警官にも苦痛なのでは無いだろうか。だが、他人の心は分からない。だから、想像するに留めるしかなかった。

 

1、鼠はそもそも存在しない

 

艦隊だ。

四隻の大型輸送船が移動している。四隻とも、最大級のものではなく。どうも人間を乗せて移動するタイプのようだ。

近くに移動したのは、航路について警告をするためである。

勿論指定の航路を移動しているのだろうが。

それでもここから先は難所が続くので、外部からもチェックをした方が良い、と言う事らしい。

難所といっても、20光年も先にブラックホールがあったり。未開拓の惑星があったりするようなだけの話であって。

ただ何も無い、星間物質がメートル辺り4つ浮かんでいるだけとかいう、寂しすぎる場所を通るだけだ。

ブラックホールの影響なんて受けないし。

仮に受けた所で、今の時代の輸送船は地力で振り切る事が出来る。

ましてや20光年も先にあるブラックホールに突っ込む可能性など皆無だし。

私としては、難所であるので護衛する、というのが茶番にそもそも思えてしまっていた。

だが艦隊を組んでいる理由は気になる。

多分接触してもダメージにはならないとしても。

それでも輸送船が四隻も組んでいどうしているのは、少し気になる。

ちなみに陣形は昔で言う単縦陣である。

管制室に言われたまま出向くと、既に話をしているようだった。

「それでは、予定通りの警護をお願いいたします」

「ご心配なく」

通信が丁度きれた。

相手は感じの良い中年男性だった。何があったの、と聞くと。

AIはきちんと答えてくれる。

「珍しい大規模引っ越しでしてね」

「この数の輸送船が動くって、万人単位で移動してない?」

「そうです。 内部に乗っている人数は12万人ほどです」

「そんなに一辺にどこに行くの?」

宇宙ものの作品では、一度の会戦でゴミのように殺される程度の人数だが。現実には、人間の移動が安定している今の宇宙では。この人数が一気に移動する事はまずない。

何か面白い事が起きているのかと思ったが。

そんなこともないようだった。

「彼らは全員調査団です。 銀河系でも七つしかない珍しいタイプの恒星系を調査していたメンバーで、これから帰還して調査結果を基にそれぞれの家で研究を行う所です」

「珍しいタイプの恒星系?」

「十二連星です」

「……十二」

それは、色んな意味で凄いなと思った。

恒星系には二連星や三連星が珍しく無い。

地球時代には、こういった星系は複雑極まりない軌道を描くため、惑星は存在し得ないのでは無いのかという研究もあったそうだが。実際にはそんな事もなく。多少不安定ではあるものの、普通に惑星は存在するという。

生物が発生するケースも珍しくはない。

ただ、それも数が多くなってくると話は別で。

十二連星ともなってくると、2000億に達する恒星系が存在する銀河系でも、七つしかない、ということだ。

「そのうち三つが近いうちに合体し、星の衝突によってガンマ線バーストが発生することが分かっています。 危険ですので、退避しているところです」

「そうなると、後は軍の仕事って事?」

「そうなります」

「えー」

そっか。軍の仕事か。

軍を離れてしまった私だから、もう関わる事は出来ないなあ。

そう思うと、残念極まりない。

ガンマ線バーストくらい、戦艦だったら余裕で中和できる。むしろエネルギー源として回収して、そのまま別の星の発展に生かすくらいである。勿論無害な方向に飛んで行くのなら、それはそれ。

放置しておく状況だろう。

宇宙の広さから考えると、ガンマ線バーストが飛んで行って直撃、というケースの方が珍しいくらいであり。

ましてや生物がいる星をガンマ線バーストが直撃するケースなんて、レア中のレアである。

それさえも、今のこの文明では防御することが出来る。

それにガンマ線バーストも所詮は天体現象。

光速を越えて飛ぶわけでは無いので。

発生した後も、悠々と戦艦が駆けつけて。

それで防いでしまうことが可能だ。

地球時代の科学者が、光は遅すぎると嘆いたことがあると聞いた事があるのだが。

50光年くらい警備艇でもぽんと飛び越せる今の時代。

その距離を50年以上掛けて飛んでくるものなんて、何一つ脅威にすらならない。

そういうことだ。

仮に人間の居住区にガンマ線バーストが直撃する事態になったら大惨事だから、多分この輸送船は急いで研究者を回収しただけで。

それもそもそも起きえないことだったのだろう。

ほんとうに、保護が手篤いなあ。

私は感心したが。

感心しただけである。

単縦陣で行く四隻を見送ると。戻ると言われて、少し反発したくなった。

その十二連星とかいうのを見たいと思ったのだが。

駄目と言われた。

口にもしていないのに。

「既に管轄が違っています。 現在戦艦が4、巡洋艦が11、駆逐艦が20隻それぞれ出て、周辺に展開しています」

「結構大規模だね」

「一つの星系で起きるガンマ線バーストに対して対応するには大げさな規模ですが、この近くの星系に人が住んでいる、と言う事もあります。 これらの艦隊で、ガンマ線バーストは全て中和してしまいます」

「……

そうなると、警備艇で物見遊山とはいかないか。

それに、いくら何でも12連星ともなってくると、複雑怪奇極まりない軌道で動いているはずで。

それが三つも合体するとなると、その後に何が起きても対応出来るように、相応の手は打つ必要があるのだろう。

まあそれで納得する。

AIの奴だから、数兆通りくらいの対応策は考えていても不思議では無い。

また戦艦に乗っている人間も最小限だろう。ひょっとすると全部無人艦の可能性もある。

元の位置に移動。

しばらく此処に陣取って交通整理だ。

なんだ、せっかく大規模な天体ショーが見られると思っていたのに。

そういつまでもブーたれてもいられない。

とりあえず、指示通りに作業に移る。

今の輸送船とのやりとりや、データなどがまとめられているので。これをレポートに起こす。

面倒だが、まあレポートは定型文に突っ込むだけだ。

淡々と作業をするだけなので、それでいい。

作業が終わると、私は休憩を指示されたので、休む。

部屋に入ると、さっきの十二連星について調べた。

SNSでは多少騒ぎになっていた。

「銀河系でも珍しい十二連星が崩壊するってよ。 みっつが立て続けに衝突して、その他のも近いうちに崩壊に巻き込まれるらしい」

「既に軍は動いているらしくて、最新鋭戦艦も含めて三十隻を越える艦隊が出ているらしいぜ」

「そうなるとガンマ線バーストがあっちこっちに飛んでも全然余裕で対応出来そうだな」

「宇宙のパンジャンドラムってか」

パンジャンドラム。

なんだそれ。

調べて見ると、地球時代の大失敗兵器らしい。

そうなると、今SNSで発言した奴は地球人かもしれないなと思って、私はくすりとしていた。

「かなり若い星だろうに、もうおわっちまうと思うと寂しいな」

「それは言えてる。 それに十二連星なんて珍しいだろうに、なくなるのも色々もったいないなあ」

「とはいっても現地の学者がみんな避難したって聞くぜ」

「ああ、それじゃあしょうがないか。 それにまだ十二連星は六つあるらしいし……」

なんかへんな結論だが。

それで納得しているのなら、それでいいのだろう。

また警備艇が空間転移したらしい。何かあったなと思うが、休憩は解除されていない。私抜きでなんかやってると思ったが、まあそれでも今は寝ていた方が良いだろう。

風呂に入って、それから寝る。

夢は、あまり見なかった。

というか。なんか混沌とした夢で。

内容は殆ど覚えていない。

いつも夢の内容は覚えていないが、どんな夢だったかくらいはぼんやりと記憶の片隅にあるのだが。

それすら今回は珍しくなかった。

頭を振って、眠気を飛ばし。

歯磨きとかして、着替えもして。職場に出る。

指示通りの場所に向かう。

砲座だ。

コンソールにつくと、AIが話を先にしてくる。

「先ほど、くだんの十二連星に向かう駆逐艦二隻と接触し、軽く情報交換をしておきました」

「更に増員を掛けたの?」

「いえ、集結中の艦隊です。 動員戦力に変更はありません」

「まあ、確かにそんなに急ぐ話でもないか」

既にその星系がからというのなら。

最悪途中でガンマ線バーストを防げばいいだけの事である。

また強烈な衝撃波などが生じた場合も、全てまとめて相殺することが可能なので、特に心配する必要はないだろう。

問題なのは、至近で観察を続けていた学者達だが。

それも念のための避難。

至近での観察設備となると、恐らく12連星が一斉に超新星爆発でもしない限り耐えられるはずで。

しかも今向かって現地で集結している艦隊は、それを喰らってさえも無事だろう。

軍にいたのでそれくらいの事は私にも分かる。

それに、駆逐艦なんて見飽きている。

急速に私が興味を失うのを、AIは確認したらしく。

後は何も言わなかった。

さて、次だ。

砲座に座らされたは良いが、宇宙海賊が攻めてくるようなことも無い。ぼんやりと何も無い空間を見つめる。

それは遠くにたくさんの星々の光は見えるが。

近くには何も無い虚無の空間だ。

小石すら飛んでいない。

だから、本当に孤独そのものの空間である。

私は何度かあくびをすると。

砲座にシステムチェックを走らせる。今のうちに問題があるなら解決しておいた方が良いだろう。

その行動に対して。

AIは特に文句を言うことは無く。私の好きなようにさせていた。

 

それから12時間ほどは何も無く。

また休憩に入って、私はSNSを見ていた。

十二連星の情報が、更に詳しく記載されている。多分天文マニアが、今まで公開されている情報等から割り出したのだろう。

「この3番、7番、8番の星が、順番に衝突する」

「恒星としては小さめだな。 それに熱量が高い」

「恒星としてはバランスが悪い星だから、どの道寿命はあまり長くは無かったと思う」

「確か質量次第で、すぐに駄目になるんだよな恒星って」

その話は私も前に聞いたことがある。

地球の太陽のようにバランスが取れた質量の星は寿命が長くなるが。駄目な星は本当にすぐに燃え尽きてしまうと言う。

この十二連星は、余程不安定な状況で誕生したのだろう。

いずれにしても、それぞれが無茶苦茶に動いていたのだろうし。

或いは、それともだが。

これから合体して一つの恒星になり。

安定した星系になるまで、時間が掛かるのかも知れない。

専門家ではない私には分からない。

分からないからこそ、ぼんやりと、SNSのやりとりを見ている。

「実際の衝突時間は5日後くらいになるな」

「現地に見に行きたいけど、軍が出てるんだろ。 当然警察も警備艇だしてるだろうし、無理だろうな」

「AIの事だから、気を利かせて現地の映像くらいは公開してくれるだろ」

「まあそれで我慢するしかないか。 軍艦が有人だとすると、最高の環境で見られるのかな……」

それは私も思ったが。

軍艦も警備艇も、基本的に無人の事もあれば有人の事もある。

そもそもの大問題として、AIは本当に危険な場所には人間を近付かせないという不文律を持っている節がある。

開拓惑星などである程度意図的に羽目を外させてガス抜きをしている雰囲気はあるのだけれども。

超新星爆発の至近とか、今回みたいな恒星同士が激突してガンマ線バーストを放射とか。

そういう宇宙規模の危険な場所には、人間を近寄らせない。

そういう謎の信頼がある。

実際問題その考えは間違っていないだろう。

だから、私は見ているだけで良い状況だ。

軍の連中も。

「科学者達がまとめて少し離れた大型の星に降りて来たらしいぜ。 何か資料を整理して研究するんだとか」

「どうせ情報はすぐには公開されないだろうな」

「まあそうだろうな」

「あーあー。 後でアーカイブでみるしかないのかな」

天文マニア達の嘆きももっともだが。

近くで生殺し状態の私の方がよっぽど大変だと言う事に気付いてほしい。

うんざりしてSNSの視聴を辞めると。

寝る。

起きだした頃には。

また、仕事が新しく出来ていた。

また軍艦が移動している。

今度は巡洋艦か。

全長8000メートルほどある艦で、駆逐艦より更に強力な防御能力と火力を持っている反面。若干小回りがきかない。

小型の宇宙戦闘ロボットを多数搭載しているタイプが存在していて、多分今いるのはその巡洋艦だろう。

集結している艦隊にしては、此処を通るのが遅い。

私は管制室に呼ばれたので、其所でやりとりを聞く。

「近くの星に人間が集まっている。 恐らくだが、今回の天体ショーを目撃しようという者達だろう。 接近を許可されているギリギリの地点まで来ようという考えらしい」

「実際には一番接近を許可している星系と問題の星系は六光年離れています。 実物が見られるのは六年先なのですが、変な話ですね」

「……いずれにしても、問題が発生する前に対応する必要がある。 この艦は念のため、その星系に追加で合流。 防御に当たる」

「よろしくお願いします」

巡洋艦が空間転移して飛んで行った。

この様子だと、現地の警察は今頃大忙しだろうな。

そう思って、ちょっとにやけてしまった。

「篠田警部。 勿論今貴方が行っても意味はありませんよ」

「わかってるってば。 どうせ現地の警察がどうにかするんでしょ」

「いえ、この事態を想定して、200隻ほど警備艇が既に現地にいます。 今からこの艦が加わる意味がありません」

「ああ、そういう……」

それだけ警備艇がいて、更に巡洋艦まで出向くのか。

随分と馬鹿のために過保護だな。

そう思ったけれど、それは黙っておく。

私もこの馬鹿騒ぎに便乗して楽しんでいる一人だからだ。他の奴をどうこういう資格はないだろう。

また、空虚な闇だけの空間になった。

多分だが、集結している艦などは全て落ち着いたのだろう。

後はたまに此処を通る輸送船などを気にするか。

或いは近くで起きたトラブルなどに対応すれば良い。

何か問題でも起きないかなと不謹慎なことを考える。警察や軍は暇なのが一番良いことなのに、だ。

私自身がこう言う奴なのは分かっているので。

業が深いなと、自分で思う。

ほどなくして、一隻の輸送船が通ったが。特に問題もない。ただ、私に話は任された。

「特に此方で問題は起きていません」

「了解しました。 ご安全に航海を」

ぽんと空間転移して消える輸送船。

また、暇になった。

しばらくは何も無いだろうと思う。

そして警備艇で交通整理の仕事にかり出されたと言う事は。

数日は、こうやって暇を持て余すことになるのだ。

帰りは数時間で帰れてしまうし、その間も仕事をすることにはなるが。それらの仕事はいずれもダイナミックでもバイオレンスでもないデスクワークである。

はあ、と。大きな溜息が漏れた。

頬杖をついて。

支援ツールの助けを借りながら、レポートを書く。

昔だったら勤務態度がどうのこうのとぎゃんぎゃん吠える上司とかがいたのかも知れないが。

今の時代はそれもない。

「次に輸送船がくるのはいつくらいだろう」

「予定では三日後です」

「はあ……」

「ただ、監視担当空域を通る輸送船の数は三百を超えます。 他の警備艇よりも早くたどり着ける場合は、トラブルがあった場合は移動します」

三百か。

例の十二連星騒ぎはもう落ち着き始めているようだし、AIは手を打つのがおっそろしく早い。

まあ銀河全てを把握してるのだろうから、それも当然なのだろう。

いずれにしても、私が此奴を出し抜くのは無理だ。

どっちでもいいが。

待つしかない事に代わりは無い。

それはまた、それで仕方が無いのかも知れなかった。

 

2、イレギュラーは起こりにくい

 

家があるダイソン球に帰還。

また微妙に家から遠い宇宙港に警備艇がついたので、仕方が無く電車とベルトウェイを経由して家に戻る。

家に着くと、五日もらった休日をだらだら過ごすことになる。

そういえば、そろそろ星が合体する様子が公開される時期だ。

あくび混じりに様子を見る。

正面衝突する十二連星の二つ。凄まじい光と熱が迸って、ガンマ線も強烈に放出されている。

すごいなあと思っているが。

周囲で影響を最小限に押さえ込んでいる軍艦は冷や冷やものだろう。勿論余裕で押さえ込めるとしてもだ。

とはいっても、人が乗っているなら、だが。

更に其所にもう一つ星が突っ込むが。

これはかなりフラフラしながら合体して爆発を繰り返している星によって軌道がねじ曲げられ。

高速で戻って来た所に、擦るようにして半分くらいの質量がもぎ取られ。

更にそのまま大質量からくる引力に捕まり。

両方が互いの後ろを追いかけるようにして、ゆっくり合体していく。

この合体そのものに、何十日だかかかるらしい。

ただ、いずれにしてもダイナミック極まりない画像で。

解説も色々な方向からされていた。

AIによる解説が一番適切だが。

それぞれが趣味で動画を作って解説動画を上げたりもしている。ただ解説に誤りがあると、すぐに突っ込みが入る。

まあそう熱くなりなさんな。

そう思いながらぼんやりとみていたが。

まあいずれにしても、大規模天体異変は終わったし。

そもそも周囲に被害も出なかった。

分厚すぎる準備が功を奏したのだけれども。

それはそうとして。

私も祭に加わりたかったなあとはおもってしまう。

まあ仕方が無い。

次の機会を待つ事にする。

休日はあっと言う間に終わって、今度は何の仕事かなと思って出勤する。職場のデスクにつくと。

すぐに仕事が来た。

内容を聞いてうんざりする。

交通整理。

ただしダイソン球内のものだからだ。

まあそもそも私は此処の所属警官である。

ダイソン球の治安を守るのも主任務の一つ。だけれども、こんな所で交通整理なんてものがあるかというと、それはあるのだ。

ただ、昔のように十時間くらい立ちんぼとか、そういうことはない。

無言で、指示通りの場所に移動する。

管制室である。

其所では、それこそ数千万に達するベルトウェイや、多数走っている電車の全てのダイヤグラムが表示されている。

これらを管理しているのはロボット達だが。

私もそれに加わる。

それだけだ。

私一人でやるわけではない。

とはいっても、今の時代。

人間一人が、何かしらのシステムを丸々任されると言う事はまずないのだが。

マニュアルは必要ない。

支援を受けながら、その場でどうすればいいのか分かる。

問題が起きていそうな場所は即座にピックアップされる。

その中で、対応が必要な場所に。

私が対応するべきなら出向く。

それだけの、とても簡単なお仕事である。

椅子に座ったまま、幾つかの作業をこなしていると。ベルトウェイの工事があると言う情報が出て来た。

まあ歩けばいいだけなのだが。ベルトウェイを停止させる事や、それにともなう影響などは周囲に伝える必要がある。

インフラとしてベルトウェイは別にそれほど重要では無い。

まあ歩くより三倍くらい早く移動は出来るが。

逆に言えばたったそれだけなので。

大した問題ではないのである。

私は現地に警備ロボットとともにでむく。今回は警察ロボットは出無くてもいいだろう。

警備ロボットに比べて警察ロボットはより重武装だが。

そもそも武装が必要な案件ではないからだ。

現地に到着。既に警備ロボットが来ていて、ベルトウェイを閉鎖。

黙々とメンテナンス作業を開始していた。

AIが此処を利用しようとしていた人を、別の通路に案内している。私は威圧的に立って、無理に通過しようとしたりする人間が出無いように見張ればいい。

どうせ二時間もあれば終わる。

このベルトウェイは二qほど続いているが、そのうちの幾つかのパーツが経年劣化したのである。

壊れるまで動かすようなことはせず。

古くなってきていて、何か起きる前に換える。

劣化したとは言え、それも再利用が現在の文明では可能。

またぴかぴかの新品に戻して、別のベルトウェイで使われるのだ。

或いは、何か違う機械のパーツにするのかも知れない。

いずれにしてもその間ベルトウェイが使えないのは事実。

交通整理をしなければならない。

私は警備ロボットの中に混じって、交通整理をする。

かなり入り組んだ通路もある。

基本的に、AIが支援するため。迷子と言う事はほぼない時代だ。それもあって、文字通り血管のように道は入り組んでいる。

当然宇宙港などは最外縁。

内縁にはプラントや工場。

更にはダイソン球から吸収したエネルギーを加工するシステムなどもあるので。

このダイソン球の層は分厚く。それでただでさえ恒星の表面を覆っていることで広いのに。

その広さが何倍にもなるのである。

一番恒星側の層は耐熱や耐放射線が最重視されていて、人間が入る事は滅多に亡いのだけれど。

そこですらたまに私達は入る事がある。

逆に言うと、そういった場所に人間を入れられるようなテクノロジーが、この文明には存在しているのだ。

黙々と人を捌く。

人以外も。

機械が輸送作業に従事している事もあるので。それに指示を出して、行く方向を変えるように促す。

工事中のロボット達は、淡々と作業を最高効率でやっている。

どの時代でもインフラの構築や修理は最優先。

これが出来なくなってくると。

文明は滅ぶ。

勿論この文明は当面滅びそうも無いので。

インフラの修復については、スマートに終わっていく。

ほどなくして、完了の報告が入り。ベルトウェイ修理の看板が外され。ベルトウェイも動き出すのが見えた。

私もそのまま、機材などが撤収されるのを見届けてから、場所を変える。

今日、数カ所のベルトウェイを一斉に修復するらしく。

そういうアナウンスが出ている。

これらのベルトウェイは基本的に耐用年数が千年単位であるらしいのだが、それでも文明の継続年数が年数だ。

たまにこうやってまとめてメンテナンスをする。

更に太陽を覆っている巨大構造物という事もある。

やっぱりメンテナンス作業はどうしても必要になる。

年がら年中どこかのベルトウェイや電車が使えない、となると話にならないので。

こうしてまとめてやってしまう。

そういう事らしい。

一応、通行人もそれは理解しているらしく。交通整理をすると食ってかかってくる者はいない。

昔この手の交通整理は正規労働者ではなく、安く雇われた人間がやっていたという話があるのだけれども。

今の時代は私がやっているように。

一部の正規労働者と。

大量のロボットが動員される。

いずれにしても食いっぱぐれる人がいない今の時代は。

私としても、別に文句は無い。

文句があるとしたら仕事内容が退屈で。

ショックカノンを撃てないことだが。

しばらくは交通整理関係の仕事がメインだと聞いているので、諦めるしかない。

ただでさえこの間開拓惑星で楽しくショックカノンを撃ってきたのである。

だから、その分はこういう仕事もしなければならないだろう。

そう思って諦める。

てきぱきと作業をやっていくロボット。

確認をすると、まだまだ何カ所かで修理作業がある。

毎日激しく動いているベルトウェイだが、それでも耐用年数が千年単位というのだから、地球時代の文明とは次元違いの性能だ。

もっと速度も上げられるらしいが。

乗る人間の性能が高くないから、上げる必要はないと判断しているらしい。

それにダイソン球の反対側に行くような場合は空間転送を使うので。

まあ、これで十分という事もあるのだろう。

黙々と時々休憩を挟みながら、作業を続ける。

ポップキャンディを咥えたまま、作業をしていると。

時々不満そうに此方を見てから、道を変える奴もいるが。

別に喧嘩を売ってくるわけでもない。

ましてや今の時代、職業の貴賎は存在していないので。

私に食ってかかってくるアホはいなかった。

まあいても、警備ロボットのショックカノンで一撃ダウンなので、気にする必要もないのだが。

「そろそろ次の作業場所に移動します」

「んー」

あくびをしていたのを咎めるようにAIが言うので。

私も分かった、と応じる。

大体の肉体作業は警備ロボットがやってしまうので。

私は単に威圧しながら立っているだけでいい。

生身の警官がいる。

それだけで、どうしてか人間はある程度きちんと言う事を聞くらしい。

地球時代の文明は、警官と言うだけで殺して誇るような人間もいたらしいけれど。

今の時代にそれはない。

まあアウトローとかが格好いいと思われていた時代はそうだったのだろう。

よく分からないが。

当時の美学によって作られた映画とかは私も見たことがあるが。

まあなんというか。

よく分からない世界だった。

ただ、殺戮と暴力に酔うことだけは分かる。

AIが上手にそんな私に手綱をつけていることも、だ。

移動開始。

今度はちょっと距離が離れているので、電車を使って現地に移動する。かなりの距離を乗り継いだが。

まあそれはそもそもダイソン球だ。

惑星表面とは桁外れの大きさがある。

ダイソン球に使っている恒星が桁外れに大きいと言う事もあって。

移動はそれなりに大変である。

現地に到着。

すわって一休みしたい所だが、すぐに作業に取りかかってほしいという事だった。まあ電車では座れたからいいか。

そのまま作業開始。

警備ロボットがてきぱきと作業をしていく中。

周囲に目を光らせているだけでいい。

体格とかが足りていない警官とかは、こう言う作業に回されないという噂があるが。

実はこれは嘘である。

私よりだいぶ背が低い子が、以前こう言う場所で警備をさせられているのを、オフの時に見たことがある。

要するにそういう噂はあくまで噂。

AIは適性を見て仕事を割り振るので。

今のロボットが人間を手篤く補助している時代、素の身体能力なんぞそれこそどうでもいいと考えているのだろう。

淡々と警備をやっていると。

妙な動きをする奴を見つける。

もたもたと、別の通路に行こうとしているが。

どうも動きが鈍い。

AIの補助を切っているのだろうか。

私にはよく分からない話だ。

すぐに警備ロボットに支援に行かせるが。どうも様子がおかしいと、AIも判断したらしかった。

「支援AIをどうしてこういう所で切っているんですか?」

「そ、それは……」

「身体検査をさせていただきます」

「や、やめろっ!」

突然大声を出すのを見て、私は確信。

すぐに警備ロボットを複数展開して、周囲から人を遠ざけさせた。まああんまり人はいないけれど。

ショックカノンは持ち出して来ていない。

それは交通整理だ。

持ち出せない。

大股で歩いて近寄る。近付いて見ると、私より年上くらいに見える男性だ。種族は地球人に似ているが、頭に三本ほど角が生えている。

まあ何人かはどうでもいい。

いずれにしても即座に警備ロボットが取り押さえて、身体検査を開始。

どうやら長時間、支援AIを切っているようだった。

勿論こう言う人物も、あくまで支援AIを切ってはいても。命の危険などがある場合は強制機動して対応する。

そして私の経験上。

こういう面倒なところで支援AIを切っている輩は、ほぼ確定で碌な事をやっていない。

私が真顔でじっと顔を覗き込むと。

三本角の男は、呻いていた。

ふんと鼻を鳴らすと。

私は顎をしゃくる。

もう、分かっていた。

「自宅を調べた方がいいかな。 多分なんか変な事をしてる」

「身元確認。 自宅の支援AI起動」

「やめろっ! 強権発動反対!」

「確認しました。 自宅で違法な植物栽培をしています」

どうも基本的にやってはいけない無免許での植物栽培をしているらしい。

なるほど、それは確かに不審な行動を取るわけだ。

やましいことをしている人間は、警官に対して過剰な警戒をするらしく。

それで敢えて警官と分かる服装をする。

そういう人間をあぶり出すのに丁度良いから、である。

というわけで、すぐにそいつは捕まり。

警察に連れて行かれた。

警備ロボットから、途中で警察ロボットに引き渡されるのだが。

私が介さなくても、AIが勝手に全てをやってくれるので、何もしなくていいだろう。

レポートもこれでは必要あるまい。

三本角の男が連れて行かれるのを見て、私はため息をつく。

「どうしました、仕事外でお手柄だったではないですか」

「ショックカノン撃ちたかったなあ」

「……」

「何だよ黙って」

AIは敢えて黙っているらしい。

呆れているのを表現しているのか。

だとしたら大根役者だな、と私は思ったが。それについては、別にああだこうだ言うつもりもなかった。

 

そのまま淡々と作業を続けていき。

更に二箇所で、ベルトウェイ工事に立ち会い。

ついでに交通整理をした。

まあお巡りさんの仕事としては普通にやるものなので、今更である。

きちんと適宜休憩は貰ったし。

家に帰るときも、別に疲れてはいなかった。

いわゆるパトカーに相当するものは使わない。

まあこの辺りは。

地球時代も同じだったらしいが。

家につくと、風呂に入ってまずはゆったりしたあと、晩飯にする。

まあ実にうまいが。

人間は舌が際限なく肥えるので、おいしいものばかりを食べている人間の中には。開拓惑星にいって、違法店で健康に悪いものを食べたりする奴が出るわけだ。

食事を終えると、そのままぼんやりする。

何か色々疲れたので。

そのまま寝ようかと思ったが、今日に限って目が冴えている。

寝付きは良い方なのになとぼやきながら起きると。

作業を黙々とやる事にした。

SNSを見る。

これは娯楽もあるが。次に仕事があるかも知れないから、ざっと見ておくのである。社会情勢くらいは知っておいた方が良い。

とはいっても重要なニュースがあった場合は、AIが自動で知らせてくれる。

つまり重要では無い流行りなどを自分で掴んでおいて。

いざという時に対応出来るようにするためである。

ある星で、エレベーター事故が発生していた。

エレベーターが落ちて中の人間が全員死亡とかそういう凄惨な代物ではなく。反重力エレベーターが不具合を起こし、七秒ほど停止した、というものだった。

昔だったら何の問題にもならなかっただろうが。今は違う。

すぐに調査が開始されており。

独立系統の電源には異常が無かったこと。

テロリストなどが犯行声明は出していないこと。

細工などがされていないこと。

経年劣化も起きていない事。

等々が、既に確認済みである。

流石にお仕事が早い。

二つほど離れた星系での出来事なので、ちょっと興味がある。とっくに開拓が終わってコロニーになっている星であり。

この反重力エレベーターは、何層かあるコロニーを貫くようにして複数が存在しているのだが。

そのうちの一つだけで異常が出たと言う事で。

今、調査が更に進んでいた。

SNSも騒ぎになっている。

「今時原因不明のエレベーター停止なんてめずらしいな」

「とはいっても七秒だろ? 誰も問題なんか感じてないだろうに、ちょっと神経質になりすぎなんじゃないのかな」

だれかが正論をズバンというが。

こういう重要インフラはAIが制御している。

逆にだからこそ、不審がるのかも知れない。

嫌っている奴でも。

AIの性能を侮っている奴は流石にいない。それくらい、凄まじい性能を持っているのだから。

「避難訓練とか?」

「いや、それだったらこんなに調査はしないでしょ」

「確かにそれもそうか」

「なんかあやしいなー」

まあ私もおかしいとは思うので。

本人に聞いてみる。

「で、真相は?」

「今調査中です。 余りにも多数、同じ質問を受けましたので、そうとしか答えられません」

「まあみんな気になるよねえ」

「現時点では、エレベーターそのものに問題が無いことは分かっています。 もしも問題があるとしたら、中枢管理システムか、その途中にある何かのシステムか、でしょう」

一応そこまでは分かっているのか。

まあ、真相が分かったらAIがしっかり発表してくれる。

その間にも、ネットではまとめ記事などが出来ていた。

こういうまとめ記事も、今では爆速で出来る。余程暇、ということだろう。

わざわざ見る価値も無いものが大半だが。

軽く見て、面白そうなものをピックアップする。

一応インフラの専門家が書いているものもあったので。

そういうのを確認するが。まあ、AIと見解はおなじのようだった。

十数分後に原因が判明。

あるAI制御を断っていた人間が、禁止されている強烈な電波を出す作業をそのタイミングでやっていた。

家の外に電波は漏れていないはずだったのだが。ピンポイントで、下に漏れていた。

その結果、地下に埋まっているケーブルにモロにその電波が直撃。

一度や二度なら良かったのだろうが。

流石にケーブルにまで警報装置はついていない。

やがて、今回の事故に至ったと言う事だった。

逮捕者が出たが。

流石に初犯。

流石にエレベーターを七秒止めただけ。

というわけで、支援AIを止めてやっていた、何かの機械を作る作業を禁止され。

ついでに懲役一週間で終わっていた。

事件解決。

解散。

真相が分かってしまうと、後はさっと人が散る。

爆速で事件が解決してしまった事もあって。

気恥ずかしくなったのか。事件のまとめを作った人達も、殆どがそれを閉じてしまっていた。

まあ憶測で好きかって書いたのが分かってしまったからだろう。

そしてAIが嘘をつかないことも誰もが知っている。

それにケーブルそのものも、取り替えは必要だが。致命的なダメージを受けた訳では無い。

むしろ、ちゃんと支援AIを使わずに、好きかってしているとこうなる。

そういう苦い教訓が残されただけだった。

私には退屈な話だ。

というか、これ敢えてわざと放置していたのではないかとやっぱり邪推してしまう。勿論口には出さないし。

何よりわざとやっていて。

私のような連中に、現実を見せて。

更には被害を最小限に食い止めているのだとしたら。

それはそれで、AIの手腕が空恐ろしい、というのを再確認するだけだからである。

「そろそろ休んだ方が良いかと思われます」

「分かった、寝るわ」

「では、室内などを調整します」

証明とか気温とかを調整し始めるAI。

私はもう今度こそ、寝る事にした。

爆速で解決してしまった事件を思うと。

まあ、寝るくらいしか。

憂さ晴らしが出来る方法が思いつかなかったからだ。

夢を見る。

大規模なエレベーター事故だ。

小さいビルとはいえ、五人くらいのったエレベータが落ちて、最下層で地面に直撃。中に乗っていた全員が死亡した。

死体は悲惨な有様で。

目を覆う状況だった。

それなのに、エレベーターの会社は独占企業であることを良い事に、自分達に責任はないと放言。

遺族への慰謝料の支払いまで拒否した。

更には裁判になるのなら、エレベーターのメンテナンスを拒否すると、脅迫まがいの事まで言い出した。

これに対して、流石にこの会社からリベートを受け取っている政治家達が多数いる状況であっても、流石に政府も黙ってはいられなくなり。

エレベーターの会社に立ち入りでついに捜査が入った。

その結果、過去に十二件の死者が出る事件を隠蔽していたことが分かり。

会社は解体。

その結果、エレベーターが全国的に調査され。

壊れる寸前で運用されていたエレベーターが、1800機も見つかるという大惨事になった。

結局殺人で会長及び代表取締役社長は逮捕。そのまま死刑。

会社は株が紙屑になり。

わずか一週間で倒産することになった。

地球時代の、ある国での話である。

その後は更に大変で。

エレベーターの取り替えで、国を挙げての大事業に成り。

国に住んでいる人間は、当面足で階段を上がらなければならなくなり。

更には独占禁止法の見直しがなされたのだった。

目が覚める。

いつものことだが。

私は濃い夢を見るのに。起きると夢の内容を殆ど忘れてしまう。

伸びをして。目を擦りながら思うのだ。

なんでエレベーターしか覚えていない。

このあいだエレベーター事故(というほどのものでもないが)関係のニュースをみたからか。

それにしては凄惨な事故の夢だった気がする。

社会への影響も激甚だった。

いずれにしても、独占禁止法というのが昔あったくらい、一社が寡占すると色々な弊害が起きたらしい。

今の時代は超高性能AIのおかげで、ほぼ同じ寡占状態が続いているのに、問題は起きていないが。

それはそれ、これはこれなのだろう。

歯磨きうがいをした後、もそもそと朝食にする。

眠いけれど、体調を整えなければならない。

それにしても濃い夢だったからか、今日はなかなか眠気が取れない。

大あくびをする。

まあ私は、眠くなりやすい体質で。

退屈な仕事をさせられると、頻繁にあくびをする傾向があるが。

だいたい目が覚めたので、出勤の準備をする。

その途中で、AIに言われた。

「残念な知らせがあります」

「なに。 ショックカノンをしばらく撃てないとか?」

「相変わらずですね。 交通整理の仕事はまだしばらくやってもらうことになります」

「そういえばまだ期間終わってなかったっけ」

そういうことだとAIはいう。

別にスケジュール通りの話だ。

ただ、私が残念がるだろうから。残念な話、と敢えて前振りをしたのだろう。

まあそれだけの話だというのなら、私は別にそれこそどうでもいいが。

別に何も変わらないのだから。

その逆で、良い話というのもなかっただろう。

交通整理を切り上げて、なんか悪い奴をバンバンショックカノンで撃ち殺して良いとか。

それも分かっているから。

別に私は、がっかりもしなければ。

気分が高揚することもなかった。

 

3、宇宙時代にはこういう交通整理もある

 

大量に用意されているポップキャンディを見る。

まあ分かる。

しばらくは此処に磔だ。

だからポップキャンディを大量に用意してくれた。

とても気が利くお話で。

私などは感涙で目の前が見えなくなってしまう。勿論嫌みだ。嫌みだから口に出すまでもない。

此処は管制室。

警備艇ですらない。

今、足を運んだのはダイソン球にある宇宙港である。

此処から、遠隔での管制を行う事になる。具体的には此処で、宇宙船の動向をチェックする事になる。

古い時代、地球時代の空輸がメインになっていた時代は、空港の管制室の責任はとても重かったらしい。

まあ大体理由は分かる。

そして私も、今こうやってその責任が重い管制室に来ているが。

これからやるのは、宇宙時代の船の基礎。

空間転移のコントロールである。

私はAIと連携して、ダイソン球から半径100光年以内にいる宇宙船を監視。

空間転移の際に、座標が重ならないように念入りにチェックする。

勿論これについては、対策や、座標が重なった場合の事故についても何が起きるか事前に説明を受けている。

空間転移で、同時に二隻の艦が同じ場所に空間転移した場合。

それぞれの艦は、「同じ場所に存在した」と言う事で、その空間における「確率」を著しく乱し。

強烈なエネルギーの反発を受けて。爆散する。

少なくとも、現在の強力な防御に守られていない船ならそうだ。

ちなみに今銀河連邦で運用されている公用艦。警備艇から輸送船、戦艦にいたるまで、だが。

いずれも、装甲によってこの衝撃には耐えられるらしい。

ただ強烈な反発を受ける事実には代わりは無く。

中の人間が大けがくらいはする事は避けられないそうだ。

続いて、何かがある場所に空間転移をした場合。

これは、例えば星間物質とかの場合は、それらを全て強制的に押しのけて空間転移することになるが。

元々何か高密度のもの。

例えば戦艦とかがいた場合には、これもまた大事故になる。

規模は同じ場所に空間転移が起きたのとだいたい変わらないくらい。

公用艦は耐えられるが。

やはり乗っている人間への致命的ダメージは避けられないという。

また、突っ込んだ先がブラックホールやら恒星やら、ましてや惑星の大気圏内とかだった場合は、流石に助からないという。

これはまあ、仕方が無いか。

そういう場合はとんでもない被害が出る。

テロリストとかが最悪のテロとして実施しかねないことから。

AIは全ての空間転移を自分でコントロールしており。

私はそのコントロールの片棒を、こうして今担いでいる訳だ。

責任重大どころか。

この間のベルトウェイの交通整理どころではない。あれの1兆倍くらいは、重要な仕事である。

さて、作業開始。

様々なデータを見るが。航路ではやはり、近距離での空間転移がかなり頻繁に起きている。

勿論AIがガチガチに超光速通信で連携して作業をしている訳だけれども。

問題は艦隊などが動いている場合である。

数隻だったらいいけれど。

時々演習とかで、数百隻単位が同時に動いたりする。

そういう場合の空間転移については、極めて緻密で念入りな計算が必要になってくるため。

まあ気軽に艦隊を組んで、ほいほい出かけていくというわけにはいかないのである。

いずれにしても航路で密度がスッカスカの状態で宇宙船が飛んでいる理由というのも、これで何となく分かる。

現状の最新鋭宇宙船の性能でも、中の人間が耐えられないほどのダメージを受けるというのであれば。

まあそれは、仕方が無いと言えるだろう。

ともかく管制室で責任が重い仕事を始める。

とはいっても、この仕事は責任が重すぎるからか、AIが殆どをやっていて。私はちょっとだけ手伝うだけだ。

まあ殆どの仕事がそうなのだが。

この仕事では私の「ちょい役」ぶりが特に激しい。

内容が内容だからやむを得ない。

流石にこれで事故が起きたら、色々洒落にならないし。今ではほぼ起きえないらしい、業務上過失致死とかも適応されるかも知れない。

ともかく、任された仕事をチェック。

数十隻ほどの航路予定を確認し。

ちょっとやそっとずれたくらいでは、事故が起きないことを確認していく。

一日に目の前を二隻だけが通過していく、とかいう状況だったことを今更ながらに思い出す。

まああれはむしろまともな運用だったのだなと。

こういう場所で、管制をしてみてよく分かった。

様々なデータをチェック。

それを見る限り、かなり急いでいる艦艇もあるが。

それもAIがしっかり手綱を握っている。

これがもし、他の星系との戦争とかになったら。機動部隊を編成して動かす事になるのだろうが。

やはりその時は億隻単位の艦艇が出る事になるのだろう。

それに銀河系全域で考えると。

現時点でも、億隻単位の艦艇が常時動いているはずで。

この百光年四方なんてのは、それこそ銀河規模でいうならば隅っこも隅っこの話にすぎない。

如何に大変な仕事をAIが常時やっているのかは。

これだけでも分かる。

チェックをしている内に、ポップキャンディをバンバン消費する。

頭を久々にフル回転させているからだ。

ショックカノンを撃ちたいという願望を持っている私でも。流石に大量虐殺をしたいとまでは思わない。

流石に其所まで落ちてはいないつもりである。

というわけでさっさと作業をして。

ある程度やったところで、休憩を指示された。

かなりの数のポップキャンディを消耗していた。

「これ、後で運動が必要かな」

「いえ、それだけ脳を酷使したので大丈夫です。 それよりも、一刻も早く休憩してください」

「そうするわ」

今回ばかりは私も素直に言う事にしたがう。

まあいつも素直に言う事は聞いているが。不平不満を持つかどうかは別として。

風呂に入っている内に落ちそうになったので、慌てて風呂から上がる。

てか、帰路をどうやって移動したのかあまり覚えていない。

ベッドで眠るが。

いつも以上に夢の内容を覚えていなかった。

起きだした後も、頭がガンガンする。

そのまま歯磨きをして朝食をとり。

その間にAIが健康診断もしてくれる。

何か問題があったらしく、横になるように指示を受けた。注射とかされるが、古い時代は名人芸で、しかも針をブッ刺していたらしい注射も。今ではそのままちくっとして即座に終わりである。

「何か問題があった?」

「がん細胞が少し増えていました」

「マジで……」

「いえ、基本的に誰の体の中でもいつもがん細胞は発生しています。 体の免疫が基本的に殺して回っているのですが、それが対応仕切れなくなった場合に、癌となるのです」

まあその理屈は分かっているが。

AIによる毎日検査によって、いずれにしてもがん細胞が規定値よりちょっと多いくらいの状況が確認されたので。

今、処置してしまったというわけだ。

対応が終わり、規定値を下回ったらしい。

免疫細胞なども問題なし。

そのまま職場に出て良い、と言う事だった。

黙々と職場に出向き。管制室に行く。

席に着いて、またチェックを開始。百隻規模の警備艇が動いているのが分かった。

演習でもあるのかなと思ったが、どうも違うらしい。

新しく造船所で作られた警備艇が、彼方此方に配備されるために移動しているという状況らしかった。

百隻も追加で作ったのか。

まあ銀河系では数十万年単位を掛けて開発したりとか、ザラにやっている。

そういう意味で、新たに安全圏になった場所には、人が住んだりするし。

人が住むためには色々なものを配備して整理も必要になる。

だから警備艇を大量生産したのだろう。

いずれにしても、此奴らが具体的にどこに行くかは分からないが。

私はそのうちの五隻が、空間転移する際に事故らないよう、チェックする事を任された。

まあ百光年四方だから。五十光年くらいを空間転移する警備艇が横切る間に、最大で四回くらい空間転移するのを、それぞれ追っていけば良い。

内容を確認するが。

いずれにしても、それぞれの艦は適切な距離を取っている。

この様子では。得に問題は無さそうだ。

宇宙空間では、艦隊運用もダイナミックだなと思う。

これらの艦は、もともと警備艇。

一隻で動くのが基本で。

以前つきあわされたような演習の方が例外のようだから、まあこれでいいのだろうけれども。

まあそれはそれ。

これはこれだ。

チェックが終わったので、AIに仕事を回す。

その後は、何隻かの航路を確認し。

変なところに突っ込んでいないかなどをしっかり確認。

地球時代は、航空の様子がそれこそえらいことになっていて。管制官の苦労は甚大だったらしいが。

今の時代もその辺りは、同じ。

これに関しては、規模的な意味で、人間に回せる状態ではないだろう。

AIとしても、いる人間には適切な仕事を割り振っているはずで。

人手というものは基本的に気にしなくても良い立場だという事もある。

だから余裕で構えている。

私は冷や汗ものだ。

怪物の目と鼻の先に来た気分である。

こんな仕事を毎日、これとは比較にならない規模でやっている奴。

そんなのの下に、人間は横並びで生きている。

それがこの文明。

銀河規模の文明だ。

仕事が一段落したので、また休むように言われた。ポップキャンディの消耗がえげつないし、それに気が抜けた瞬間くらっとくる。

色々強烈だが。

まあそれはそれでいい。

ため息をつくと、私は休む事にする。

ひょっとしてだが。

AIは私に回す仕事のグレードを上げるつもりになったのかも知れない。評価したからか。

いや、それはないな。

風呂に入りながら、そんな事を考える。

私を警官に引き抜いたのは、適性があったからだとして。

評価していたのなら。もう少し違う仕事を回しそうだ。

そもそも皆が横並びのこの時代。

評価も何もあるのかよく分からない。

私にハードワークをいきなり回した理由は、私の能力限界をみるため、だろうか。それも腑に落ちない。

そんなもの、AIがはっきり把握しているから、である。

寝る。

疲れたので、眠りを貪ってひたすら休む。起きてからも、疲労感が抜けていないのは事実だった。

そのまましばらく眠って。

そして、何だか。

初めて、次の仕事に備えて、体の調整をした気がした。

 

夢を見る。

余裕が出てきたのかも知れない。

何だか私は、別の世界の宇宙艦隊で、中級指揮艦をしている様だった。敵艦隊は一万隻。

宇宙規模だとあまり多くは無いけれど。

数隻の管理をしただけでへとへとになったのを思い出して、げんなりした。

近付いて、砲撃戦が開始される。

なんというか、しょっぱい火力だなあと内心思う。

質量兵器だったり、レーザーだったりが飛んできているけれども。

火力がしょぼすぎる。

今私が良く乗る警備艇でも、昔は乗っていたことがある駆逐艦でも、こんな火力では論外だった。

そもそも余程高性能なAIを搭載しないと、相手の動きを先読みして置き石して攻撃しないと当たりそうにないし。

見た感じ星系内での戦闘のように見えるけれど。

亜光速は最低でもでないと、こう言う場所での戦闘は出来そうにもない。

警備艇一隻で、この攻撃全部受け止められそうだなとぼんやり思う。夢の中だというのに何というか身も蓋も無い。

そのまま敵艦隊を押していく。

味方が戦力で二割ほど上回っているので。

危なげなく進んでいくが。不意に横に敵の伏兵が出現していた。

空間転移で三千隻ほどが不意に出現するが。

敵の正面の主力をだいぶ削っていた後でもあるし。

何よりも宇宙空間での戦闘だ。

総指揮官は冷静に陣形を変えて。

奇襲をいなし。

更に正面の敵を蹂躙し尽くすと。側面から仕掛けて来た伏兵もまた、その余波を駆って狩りつくしたのだった。

目が覚める。

宇宙戦争をやったことだけは覚えている。

こういうゲームは、結構人気が昔はあったと聞いている。

地球時代は、宇宙に対して色んな夢があったから。

地球人類がこの世でもっとも優れているとか。

銀河系には地球人類しか知的生命体がいないとか。

そういう説がまことしやかに囁かれていたとか聞いた事はある。事実そういう記載がある資料も見た。

また地球平面説なんてものも唱えられていたらしく。

今宇宙で仕事をしている人間が見たら呆れて言葉を無くすような不思議な理論が、あふれかえっていた。

天動説なんてものもあったっけ。

宇宙の中心に地球が存在していて。

星は回っているだけ、と。

まあ地球人類らしい傲慢な思想だなと思う。しかもこの天動説を信じなかったと言う事で、血を見た事まであったとか。

頭を振る。

今になって、銀河規模文明の現実を見てみると。

そもそも地球なんか侵略する価値もないし。

地球人類なんか素晴らしくも何ともない。

自尊心を持っていない訳では無いが。

他の知的生命体に比べて別段優れてもいないし。何か特別なものを持っている訳でもない。

持っているとしたらやたらと高い攻撃性と、客観性に欠ける傲慢な思想くらいだろうか。

かといって、他の宇宙人だって色々犯罪者はいるし。

地球人類はカスだという命題は事実だとしても。

他の宇宙人にもカスはいる。

そういう結論に落ち着く。

ため息をつく。

ああいう宇宙戦争のゲームは、今ではすっかり下火だと聞いている。二万年もたったのだから、地球時代とゲームのあり方が違うのも当然だとは言えるが。

まあそれはそうだろう。

ただ、それでも銀河系が麻のように乱れている(といっても私は麻というのが何だかしらない)状況を想定したゲームなどは作られているらしいが。

あくまでマニアしか遊んでいないそうだ。

そういう実態もあるので。

私としては、あまりどうこう言うつもりは無い。

起きだすと、背伸び。

夢は見るのに、内容は殆ど覚えていない。

何かの病気だろうかと一時期悩んだこともあるが。ただの気のせいだと健康診断の時に言われて、それで納得した。

実際問題、夢を覚えていたから何だというのだというのもあるし。

夢なんか覚えていなくても、生活には何の影響だって出ない。

朝の作業。

朝食だの何だの全部済ませてから、職場に出る。

さて、しばらくは交通整理だと聞いているが。また宇宙船の交通整理をするのだろうか。昨日までは散々だったのだが。

そうしたら、職場に行く途中でAIに指示を受ける。

「昨日の職場にそのまま向かってください。 手続きなどは私がやっておきます」

「あいー」

それだけでげんなり。

途中からルートを変えて、管制室に向かう。

今日もどうやら、あの大量の宇宙船の航路を確認する作業らしい。

勿論誰かがやらなければならない仕事ではあるのだが。

AIが全部管理していればいいものを。

人間に仕事を与えるために、有り難くも私をわざわざそっちに呼んでいるという状況を考えると。

あまり良い気分はしない。

それに仕事をしたところで、二重チェックは当然AIの方でしているわけで。

意味がないような気もしてならないが。その辺りはもうAIも承知の上なのだろう。

現場について、コンソールに。

もうやり方は分かっているので、回されてきたデータの確認を黙々淡々と開始する。楽しい作業ではないが。もたもたやっていると事故になりかねないと、あり得もしないことを自分に言い聞かせて作業をする。

というのも。

そうでもしないと、とてもではないがやっていられないからである。

作業を進めていき。

それで知る。

今日は少し運行する艦船が少ないと。

輸送船がそれなりの数行き来はしているが。

昨日の仕事に比べると、露骨に総合的に数が少ない。これなら放って置いても事故りそうにないと思ったが。

流石にそれは慢心だ。

丁寧にチェックして、それぞれの航行ルートを確認していく。

空間転移のデータなども見るが。一応自分が渡された範囲内では、被っているものは存在しない。

まあ、それなら大丈夫か。

AIの方でも、特にトラブルはないようで。

黙々と作業を進めていた。

其所に通信が入る。

警備艇の一隻からだ。

何でも輸送船でトラブルが起きたらしく、航路を少し変えるという。

それの護衛に当たるらしいので。

航路を指定してくれ、というものだった。

AIが対応しているが。

これは柔軟な対応が必要だからだろう。人間がコレに対応するとしたら、相当に熟練した。

いわゆる名人芸が必要になってくる。

今の時代は、名人芸はあまり必要とされない。

一部の人間だけが出来る作業というのは、確かに凄い事かも知れないが。

経験とか才能とかが必要になってくるし。

何よりも、継承が出来るかどうか分からない。

誰にでも出来るように仕事を整備するというのが重要なのであって。

それが億年単位で文明を運営できている理由である事は、私にも分かっている。

「それでは、指定したとおりに輸送船を牽引してください」

「了解した。 すぐの対応感謝する」

「いいえ」

AIが答えると、通信を切る。

ぱたぱたとダイヤが書き換えられていくのを見て。私は仕事が無駄になったのを悟るが。まあこれは必要な無駄だ。

すぐに臨時で変更になった分、データを見直す。

一応今日はかなり運行されている船が少ないという事もあって、特にこう難しい事はないけれど。

少し疑問に思った。

「警備艇が引っ張らなければならないくらいの輸送船のトラブルって珍しいね。 何があったの?」

「実の所、あくまで念のための処置です。 輸送船のエンジン関係のうち、空間転移を行うシステムに小さいながら不具合が発見されました。 どうやらわずかに性能が落ちる状況になっていたらしく、0.02%ほどの確率で、空間転移の飛行距離が上手く行かない可能性が生じています」

「ふーん……」

「いえ、これでもかなり危険な状況です。 1光年でも空間転移がずれたら、大変な事になりますので」

まあそれは仰る通りだが。

いや、興味があって地球時代のこういうシステム運行を調べて見たのである。

そうしたら、無理をして動かしているシステムが山のように出て来て。

それで唖然としたものだ。

こんな小さなトラブル程度でAIが総力で対応し。

安全のために徹底的な対応を最後まで誠意を持って行っている。

まあこれは人間にはやらせられない。

もしも人間がこんな事をやっていたら。地球時代に存在したブラック企業とやらのように。

人材をすり潰していただろう。

「警備艇が輸送船をひっぱるとして、かなり大きさに差があるけれど、それは大丈夫なの?」

「それは問題ありません。 輸送船は性能を落として空間転移のシステムを運用し、その差異を警備艇が補います」

「ああ、そういうやり方するんだ」

「はい。 故に特に大きさが違う警備艇が牽引するとしても、問題は発生しません」

性能が落ちた分は、最初から性能を落として運営する、か。

柔軟なやり方だが。

まあこの辺りは、地球時代に考えられていたAIでは、とてもではないが思いつかないだろう。

まあいい。

大きめなトラブルがいきなりあったが。

特に気にすることもない。

実際、その輸送船は順調に新しいダイヤに沿って動き出していたし。

私がすることは何一つなくなった。

私はそのまま作業を続行。

淡々と、多数の船が行き交う事を保証するべく。回されてきた船の航行データを精査していく。

まもなく、時間が来た。

凄くつかれた。

今日もポップキャンディを大量に消耗した。

私以外人間がいない管制室から出て、家路につく。

途中でAIと話をする。

「ちなみにだけれど、私以外の警官もあの仕事してるの?」

「それは勿論」

「同情する」

「いえ、あの仕事を好んで、百年ほど専属でやっていた警官もいました」

それはまた、物好きの領域を越えている気がする。

AIに話を聞くと、色々な仕事を回していく私のような警官の方が多いらしいのだけれども。

何かしらの仕事に特化して、それだけをやる警官も希にいると言う。

その専属でやっていた警官は、地球人類よりもかなり平均的に知能が高い宇宙人だったらしいけれども。

どちらかというと同じ作業をルーティンで回す事に楽しみを見いだすタイプで。

適性もあったのだろうけれども。

私の十倍くらいの仕事を、淡々と回し続けていたらしい。

百年間ずっと、である。

それはまた、凄い話だなと感心する。

どちらかというと前線に出て、犯罪者を撃ちたいなあとか思っている私と違って。ずっと宇宙の航行の安全を守り続けていた立派な人だったのだろう。

私よりは確定で立派である。

実際問題、私としても皮肉抜きに凄いなと感心したくらいだから。

「それでその人は、もう寿命?」

「いえ、今は別の仕事を淡々と続けています。 勿論年齢固定処置はしているのですが、この時代でルーチンワークをするのが楽しいようですね。 仕事の精度も高いので、私の方でも安心して仕事を回す事が出来ます」

「開拓惑星に行くと散々今の仕事が気にくわないって奴に出くわすのに……」

「それは本当に一部も一部ですよ」

まあ、そうなんだろうな。

SNSなどを見ていると不満の声は多いが。

ただああいう場所では、声が大きい輩が目立つという話も聞く。

いや、SNSだけではあるまい。

SNSは基本的に人間が回しているので。

要するに、現実でもある。

だからSNSで暴れている奴は、現実で聖人のように行動しているかはまた話が別になってくる。

なおAIはSNSで致命的なトラブルにでもならない限り、干渉する気は無い様子だ。

恐喝などの犯罪を行った場合は、問答無用で実刑を下しているようだが。

あくまでそれはそれ。

「それにしても、この仕事きっついわ。 いつまで続ける感じ?」

「まだしばらくはやってもらいます」

「はー」

「さっき話題に上げた人が抜けて、適性持ちが見つかっていません。 篠田警部を含めて、複数の人員で試験運用をしています。 最悪適性持ちがいない場合は私だけが動かす事になるでしょう」

ただそれは好ましくないとAIは言う。

AIによると、色々な不具合を最初から抱えている人間が見る事で、AIにはない観点からの不具合を発見できる事があるという。

希に、だが。

今の時代、人間に出来る事はAIは基本的に何でも出来るので。

そういう事例は滅多にないが。

あるにはある。

そして、事故が絶対に許されない分野であるからこそ。

そういった別の視点は重要だ、ということだった。

家に着いたので、後は黙る。

私は独り言はいわないタイプで、家ではAIとも必要がなければ話さない。

風呂に入って食事を終えて。

後は軽くぽちぽちと無心でSNSを見る。

あの輸送船の事故については、殆ど誰も触れていなかった。事件になる程の事でもなかったのかも知れない。

むしろ別の星での事件がニュースになっていた。

カルト団体を設立しようとした男が逮捕されていた。

何でもAIからの脱却をうそぶき。

AI制御の機械を全て破壊して、知的生命体の手に全てを取り戻そうという思想で、仲間を募っていて。

そしてその最初の目的として。

大量殺人を考えていたらしい。

何故そうなるのかはよく分からないが。AIに保護されている奴は皆敵だという事で。AIによる支援を受けている人間は最終的に皆殺しにする計画であったそうだ。

聞いているだけで頭が痛くなってくるが。

いずれにしてもそうそうに警察に踏み込まれて、そいつは逮捕。

地球人だったので、更にげんなりする。

そういえば地球本星にもまだ監視下にはあるがカルトが存在していると聞いているから。まあこう言う思想の持ち主はいるのだろう。

苦虫を噛み潰しながら、公開されたデータを見るが。

SNSでAIに管理された文明に文句を言っている奴を誘っては、組織に勧誘しようとしていて。

最初は勧誘された連中も面白がっていたものの。

ガチで皆殺しを計画していると知るや流石に距離を取るようになり。

それに対して激高した男が殺人予告をし。

その事が切っ掛けになって、逮捕、一網打尽という流れになったとか。

なお、男の家からは、大量殺戮のためのロードマップが発見されていたが。私がちらっと見ただけでまるで現実的な計画では無い。

もしも何かの間違いでこれが実行されていたとしたら。

多分、誰も死ななかっただろう。

男は自殺を選んだかも知れないが。

それで終わりである。

何というか、もの凄く疲れている所に。更に疲れるアホらしい記事を見てしまったのでげんなりである。

しかも男は神を名乗っていたらしく。

それだけで、何というか更に疲労が溜まる。

私はこれからまだまだあの交通整理をやらなければならないと思うと、追加でげんなり、大疲労。

何もかも嫌になったので。

今日はもう寝る事にした。

かなり早いが、もうどうでもいい。

今のを見ただけで、もう今日は何もしたくなくなった。

AIもその辺りは察してくれたらしく、寝るために最適の環境を作ってくれる。

私はそうそうに眠る。

AIがいてくれて良かったなあと想いながら。

現状に不満は山のようにあるけれど。このAIが優秀な事だけは、私も認めざるをえないところだった。

 

4、やっと終わるオーバーワーク

 

宇宙船の交通整理がやっと終わった。

今日で終わりとAIに告げられたとき、一気に力が抜けた気さえする。

数年分の労働をした気がするほどだ。

色々ボーナスとかは弾んでくれたが、さっさと使ってしまう事にする。

家に戻ると、色々買う。

そして、早速届いたものを使って、色々遊ぶ事にする。

今の時代も、破壊的なゲームは好まれるらしく。

開拓惑星に行って悪さをするゲームを私は敢えて買ってきた。

ゲームは現実と違って緩く作られているので。

開拓惑星で悪さをしてもまず捕まらないのだ。

私はしかも警官で、手口も知っている。

だから悪さはし放題だった。

AIはこう言うときに何も言わない。好きなように娯楽をするのを、一切止めはしない。

私が警官で。

実際にこういう犯罪を食い止めている立場であり。

それにはガス抜きも必要だと考えているから、だろうか。

前に話を聞いたのだが。

私は何でも、警官としての適性はそこそこ高めだそうで。犯罪者を捕まえる実績に関しても相応にあるらしい。

だから、余計にガス抜きしている私に対して。どうこういうつもりはないのだろう。

貰った休日を、色々買ったものでガス抜きして遊ぶ。

そして疲れも溜まっているので。

いつもより多めに寝て。疲れが取れたかなと思ったタイミングで、今度は体を軽く動かして。

それで体力を戻した。

残りの休日も減ってきたところで、AIに聞く。

「あの交通整理、私の後任は誰かやるの?」

「それはもちろん。 このダイソン球だけでも、警官は相応の数存在していますので」

「そっか。 その人も大変そうだな……」

「必ずしもそうとは限りませんよ」

人によっては苦痛でしかない仕事が、別の人には天国でしかない場合もあると言う。

特にルーチンワークの類はその傾向が強く。

もう二度とやりたくないとぼやくケースがある一方で。

何百年でも平然と続ける人もいるそうだ。

何百年でも、か。

私には理解が及ばない世界であるが。

億年単位で銀河系を守ってきた此奴がいうのだから。

それはそれで。

事実として存在している事なのだろう。

休日が終わる。

出勤の時間だ。

私は言われるまでもなく起きだすと、準備をする。そして、職場に出る。

最近はずっと管制室に出ていたから、久しぶりの職場だ。まあ出張も良くするから、あまり関係はないか。

職場に出ると、デスクにつく。

レポートをこれこれ仕上げるようにと言われたので、淡々と仕上げていく。

勿論記憶はかなり怪しい所があるので、その辺はAIがデータを出してくれるので。それにそってレポートを作る。

作らされている感じではあるが。

まあそれはいいだろう。

昔は職場事にローカルルールがあって、レポートは上司が気分次第で○×をつけていたらしいし。

私としてはそんな職場に行くのはまっぴら御免だ。

それに隣のデスクについている奴の名前も顔も知らないし、話した事もない。話そうとも思わない。

これくらいの距離が保たれている方が良い。

過密飼育をすれば虐めが起きるというのが真なのだから。

この程度の距離をとって仕事をするのが一番良いのだろう。

ましてや今の時代は、AIから人間へのトップダウンが普通になっているのだ。人間を密集させる意味がない。

また、別に私は人間と話すのが嫌なわけではない。

実際問題、犯罪者と話すのは好きだ。

会話は一方的になりがちだが。

そんなもの、人間の会話なんて基本的に一方的なことも多いので。私に限ったことではないだろう。

「今日はレポートが終わったら切り上げてください」

「うい」

AIが有り難い事を言ってくれたが、レポートはたんまりある。

黙々と一つずつ片付けていき。

適当なタイミングで昼食に。

職場の観察は殆どしないが。それぞれが好き勝手なタイミングで休憩や食事に出向いている。

色んな宇宙人がいるので、そもそもそれぞれ好き勝手にやるのは当たり前。

こんな所に無理矢理「皆で食事に行く」だの、「食事に行く時は同じメニューを頼む」だの、訳が分からない同調圧力を持ち込んでも何の意味もない。

ここでは、この方式がベストだと断言できる。

レポートがやっと終わる。

肩を揉みながら、離席。

端末は自動で落ちた。

「お疲れ様です。 明日からは別の仕事を用意します」

「うーいー」

そのまま帰路につく。

別の仕事、か。

私は警官としてそれなりに出来るらしい。だけれども、一つの仕事をずっと続けるのには向いてはいないらしい。

地球人は千年も生きると飽きるとか言う話もある。

私はまだ三十年。

飽きるには早いのかも知れない。

だが、一つ一つでは確実に飽きを感じている。

それは死に近付いていると言う事だろうか。

無言でその事実に気付いて。

私は、帰路で黙り込んでいた。

じっと手を見る。

飽きた場合は、幾つかの手続きを経て安楽死を選べる。

その後は、遺伝子データから抽出された誰かが穴を埋める事になる。

この文明は。

そういうものだ。

 

(続)