最初の大波

 

序、一番最初に受けたもの

 

黙々とテキストを打ち込む。

欠損した作品の、欠損部分の修復作業だ。AIのサポートを受けながら、想定される内容を書き込んでいく。

2050年代に起きた大破壊の影響は大きく。

映画や動画、アニメやゲームなどでも似たような作業は相当に苦労したらしい。

ウェブの創作で同じ事をしている人はいない。

だったら私がやるまでだ。

カスタマイズが効くミドルクラスのSNSで、自分に丁度良い環境を作ると、最近は其所で作業をすることが増えるようになった。

運動とゲームも続けている。

今までダラダラしていた分の時間を。

全て活力に変えるつもりで、私は動いている。

数時間ほど動いた所で、アラームが鳴る。

後の誤字脱字の修正などはAIに任せて、一旦SNSをログアウト。肉体の負荷が大きいという。

確かにちょっと頭が重い感触である。

横になって、ぐったり。

しばらく休んでいると、AIが声を掛けて来た。

「精力的に動いているようで何よりです。 今後は更に活動を増やしますか?」

「んー? うーん」

「それには体力を増強しなければいけませんね。 精神力も」

「ハア、簡単に言ってくれるね」

半身を起こす。

最近は着替えをかなりこまめにするようになってきていた。というのも、汗をかなり掻くようになったからだ。

アトピー持ち。

完治には手間が掛かる。

だから、である。

運動をするようになって分かったが、確かに汗は地獄のかゆみをもたらす。昔、アトピーが認知される前は。アトピー持ちは想像を絶する差別に晒されていたらしい。他にも、様々な病気を持つ人間が、差別に晒されていた邪悪な歴史がある。

人間の歴史なんて偉大でも何でも無い。

愚かな殺し合いの繰り返しと、文化の否定と破壊の連鎖だ。

だからこそ、新しいものを創造する事には意味があるのに。

人類は、とうとう2050年代に致命的な世界大戦を始めるまで、それに気付くことが出来なかった。

愚かしい生物であることは事実であり。

はっきりいって、素の人類を外宇宙に出す事について私は止めた方が良いと思う。

映画に出てくる悪辣な侵略宇宙人より遙かに邪悪な行為を嬉々として始めるのは確定だからだ。

今は差別はありようがないが。

百年以上前、差別が健在の頃の人は大変だっただろうなと、私は思う。

そして、思う事しか出来ない。

自分で差別を体験したわけでは無いのだから。

シャワーを浴びて汗を流す。

その後で着替え。

湯でのシャワーは体に色々負担があるらしいが、水で体を冷やすだけなら別に良いそうである。

まあよく分からないけれど、とりあえず乾かして着替え。洗濯などはAIが全て処理してしまう。

それを横目に聞く。

「今私がやっていること、賛同者出てこないけれど。 やっぱり面倒くさいのかな」

「いえ、興味を持っている人はいるようです。 それなりにアクセスのログは出てきています」

「へえ……」

「後は実績を見せれば。 それなりに動く人はいるのではないでしょうか」

実績か。

じゃあ、何十作品か、有名作品の補填を住ませるか。

あと数日もあれば出来る。

今の時代は、個人に課せられる労働はそれほど大変では無いのだから。

それからまたSNSにログインし。

作業を続ける。

アラームが鳴る。

夕食の合図だ。

体を動かすようになったからか。いや、多分違う。自分の心に熱が点ったからだろうか。

食事がある程度美味しくなっている。

AIが気を利かせていると言う事は無いだろう。

まあ、これだけは少しは良いかも知れない。

食後にもう一作業して、それでおしまい。

寝る。眠りは大事だと散々言われている。確かに昔の事情を知れば知るほど、ロクに眠れず働いていたり勉強していた人が、後でどうなったかが分かる。確かに眠れもしないような環境は狂っている。

寝ていると、夢を見る。

やはり、古き時代の夢。

ネットに熱量があった時代の事。

其所はカオスであった。

カオスだから危険も多かったけれど。

同時にそれ以上の熱量もあった。

規制規制で五月蠅くなる前は。危険でもあるが自由な世界が拡がっていた。悪い意味での自己責任論に包まれた世界でもあった。

それはそれでまた問題のような気がするが。

ともかく熱量はあったのだ。

私はぼんやりと、一番熱量が集まっているハイクラスSNSに赴く。当時はそんなものはないのに。

夢だとわかっていても何だかおかしかった。

出向いたそこは、一種の大型個人ブログ。

ニュースなどを取りあげ、毒舌でばっさばっさと斬り倒しているようなHPである。過激な言説をする事で注目を集め。

アクセスカウンタを凄まじい勢いで回していた。

一日10万のアクセスか。

凄いものだなとおもう。

個人HPだと、七桁のアクセスを寿命までに稼げれば御の字、という世界である。八桁まで行った個人HPは数えるほどしか存在しない。

それを一日六桁稼がれたら、やる気を無くす人もいただろう。

アクセス数を気にする人はかなり多かったらしいのだから。

ぼんやりとしているうちに、いつの間にか目を覚ましていた。

伸びをする。

競争という概念がなくなった今の時代だ。アクセスカウンタを如何に回すかに命まで賭けていたような当時のネットの過熱ぶりには、理解しがたい部分もある。

朝食が既に用意されていたので、さっさと食べて。

今日の仕事を済ませる。

作業時にもAIの補助が入るから、失敗しようがないし。

そもそも仕事の内容量そのものが少ない。

適当に作業を済ませた後。

日課にしている作業を順番にやっていく。

ゲームをし。

体を動かし。

現在の体の状態を確認する。

最適化しているのに、これ以上鍛えても仕方が無いとAIはブーブー言いながら、一応答えてはくれる。

「一応鍛え始める以前よりも、17%筋肉が増えています」

「見かけはほっそいままだけど」

「それは元からそうだったのだから仕方がありません」

「ああ、なるほど……」

成果は上がってはいる。

だが元が大した事がないのだから、どうしようもない。

そういう事か。

ため息をつくと、ハイクラスのSNSに入る。

夢の内容が、どうしても気になっていた。

検索してみると、確かにデータが残されていた。

幾つもあるのか。

困惑しながら、データを確認していく。

愛好家のコミュニティは殆ど無い。

まあそれはそうだろうなとも思う。

現在、マスコミという存在は、過去の遺物であると同時に、世界の敵としても認識されている。

最終的に彼らにとどめを刺したのは2020年代に猛威を振るった疫病の際。

発行部数を稼ぐために嘘八百をまき散らし、医療関係者から大顰蹙を買っただけではなく。

既に大衰退していたマスコミは、完全に愛想を尽かされた。

大手の新聞社がバタバタと倒産し始めると、連動して他の新聞社にも倒産の波は及んでいった。

それにあわせて、ドス黒い裏事情がボロボロと出てきたのがとどめとなり。

マスコミというものは死んだ。正確には、2050年代までは残党はいたのだが、世界の敵と見なされたのはこの時代だ。

ウェブ上で、時事問題を扱っていた個人HPやブログなども、それにあわせてどんどん縮小していった。

とばっちりを受けたようなものだが。

まあこれも、仕方が無かったのかも知れない。

誰も情報を信用できなくなった時代が到来したのである。

それについては私も知っているから、調査するなら苦労するだろうなと漠然と考えていたのだが。

実際問題、苦労する事になっている。

一応データそのものはある様子だ。

あえてハイクラスSNSに持って来ている物好きはいないようだが。

当時から生きている人もいるとなると、まあそれはそうだろう。

それに、今は、それこそサーキットバーストを起こしていた昔とは違って、時間の流れが緩やかだ。

恐らく後何百年かは。

マスコミという存在は、許されないだろう。

調べていると、一つだけ見つける。

否定的ニュアンスではあるが。

ウェブ上に存在していた、ニュースサイトをまとめたものである。コミュニティは閑古鳥が鳴いていたが。

今の時代、余程の人気があるコンテンツでもなければ。

ハイクラスSNSでも、ガラガラなのは珍しくもない。

人が少ないのだから。

ざっとコンテンツを見て良く。

内容についてメモをして行く。

かなり否定的な色眼鏡つきで評価が入っているが、まあこれは仕方が無いだろう。現物を見てみないと何とも言えないのだが。

それにしても、此処まで憎しみを買うとは。

確認した所、ニュースサイトの体裁を取っていたものは、最終的には2041年までは存在していたらしい。

既に世界が世界大戦に向けてもはや止められない状態になりつつあった時代。

同時に人間の科学技術が、前向きに使っていれば星の海に出られる状態になりつつあった時代。

もう少しでアンチエイジングが実用化され、不老処置も出来るようになるほどの科学技術進歩が起きていた時代だ。

この時代には、研究所や公共機関も既にマスコミには完全に見切りをつけており。

独自にSNSへ情報や論文を発表していたのだが。

この最後に残ったニュースサイトは、凄まじいバッシングを受けながらも。

それらの情報を取り扱っていたらしい。

まあ単純に情報を集めて提示するのが好きだったのだろう。

なお、このコミュニティでは、史上最悪とまで書かれており。

コミュニティの主が嫌い抜いていることがよく分かる。

ログを精査していると。

話しかけられる。

透明人間状態になっていても、ログを見ていることは分かるのだ。

ちなみに相手は、蛇を意識したアバターだった。

「ようこそ。 日に何人も見に来ないから、歓迎するよ」

「いいえ。 貴方は此処の管理人さんですか?」

「ああ。 ウェブに戦場を移したマスコミを完全に殺す者だ」

「はあ……」

また随分と大げさな。

マスコミなんか、とっくに死んでいる。

特に2050年代の世界大戦が終わった後、わずかに生き延びていたマスコミ関係者は徹底的に狩られたという。

最後に生き延びていた連中は、悲惨な世界大戦で御用記事を書き、大本営発表を繰り返し。

国でさえ止せと言っているのに、戦争をあおり立てるようなことばかり記事にしていた。

要するに彼らが人命などどうでも良いと考えており、金が稼げるなら何をしても良いと考えていた良い証拠なのだが。

戦後、彼らは戦争責任を他に押しつけようとして。

今度こそ許されなかったのである。

吊されている画像が幾つも残っている。

どれもこれも、凄まじい暴行の跡が残っていた。

まあマスコミの信頼は2050年代にはないに等しく、煽り記事の類は誰も見向きもしなかったようだが。

逆にそれ故に記事の内容はどんどん過激化し。

それが戦争を生き延びたわずかな人々の逆鱗に触れたのだろう。

殺されて当然とまでは言わない。

だが、悲惨な戦争を煽っていたような連中だ。それ相応の報いは受けなければならなかっただろう。

「我が輩は此処のHPにて、主にウェブ上に移ったマスコミ関係者の愚かさを提示することで、後世での復活を阻むことを目的としている」

「……あまりこういうことを言いたくはありませんが、とっくに彼らは死んでいますし、生き返ることは無いと思います」

「それは考えが甘い。 一度完全に消し去っても、逆に後の世にカルトとして復活する可能性がある。 だからどれだけ連中が有害で無意味な存在だったか、常に示しておかなければならないのだ」

「……」

なるほどね。

考えそのものは分からないでもない。

それにだ。

この人には、熱量そのものを感じた。

この凍り付いた世界で、熱量を持っている人はあまり多く無いのも事実である。

「ただ、この活動は我が輩一人だけいれば充分だ。 此処で見たものを覚えて行ってくれればそれだけでいい」

「なるほど。 他の人と連携して動くつもりは無い、と言う事ですね」

「そうだ。 そもそも人数が増えれば、活動に不純物が混ざりかねない。 内側から寄生虫に喰い破られては意味がないのだ」

「了解しました」

メモだけ取っておき。

そして、会話を切り上げてこの場を離れる。

それにしても、今でもこれほど強い敵意をマスコミに対して。更にはウェブ上のニュースサイトにまで向けている者がいるのか。

或いは、世界大戦を生き延びて、今まで生きている人なのかも知れない。

それならば、何の不思議も無い。

嘆息すると、一旦ハイクラスSNSを出る。

熱量を感じると疲れる。

前に、コピー魔王と出会った時も疲れたものだ。

今も時々、コピー魔王の配信は見にいっているが。

行くたびに疲れる。

何かの強烈な熱量を持っている人は、この凍りきった時代にも存在している。それを思うと、ちょっと不思議であり。面白くもあった。

「何かありましたか」

「んー、熱心にアンチ活動をしている人を見てね」

「特定個人に対してですか」

「いや、既に死んだ相手に対して」

AIが即座に私のログを確認。

その結果、納得いったようだった。

「なるほど。 この活動自体は知っていましたが、何故に興味を持ったのですか」

「何となくかなあ。 夢で見たから、多分色々調べているうちに、心に残っていたんだと思うよ」

「その可能性が高いでしょう」

「彼処までコテンパンに叩かれていると、ちょっと興味があるね」

風呂に入るように言われる。

そんな時間か。

まあいい。

風呂に入ってぼんやりしていると、AIに言われる。

「既に滅んだものを、復興させようという動きは起こることがあります。 それを起こさせないために、如何に愚かだったかを記録していくという行為は、確かにあるのでしょう」

「まあそれはそうだね」

「しかしながら、それには客観性が必要です。 くだんのコミュニティの内容を精査しましたが、相当な憎悪を感じ取れました。 やはり確認するのであれば、自分の目で、が一番かと思います」

「そうだね、分かってる」

言われなくてもそれは分かっている。

実際問題、私が熱量というものを求め始めたのも、コピー魔王の配信を見てからだ。

クローン元を超えたい。

そういう熱量が確かにあった。

そして熱量は伝染する。

あの配信を見て熱量がどれくらいの人に伝播するかは分からない。

今の時代は、そもそも積極的に何かを作り出してはいけない時代でもある。

だが、個人の範囲内で、熱量をどうにか保ちたい。

その気持ちは、確かにあるし。

何かを作り出す事は出来ないとしても。

何かになる事はあってもいいのではないのだろうか。

大量の個人HPからつづくアマチュアクリエイターの作品を見て行って、私はその気持ちをより強くした。

何かのヒントになるのであれば。

当時、ネット上で最もアクセスを稼いでいた。ニュースサイトという存在を、見に行くのもありかも知れない。

そう、私は思っていた。

 

1、単位になりしもの

 

オールドクラスSNSに移動し、過去のデータを集める。

あのアンチネットニュースサイトコミュニティで調べたものの現物を、かき集めるためである。

あれだけ強烈なアンチを、22世紀に入って大分経つ現在まで引きずっているほどの存在である。

さぞや当時は色々あったのだろう。

そう思いながら、データを無心に集めていく。AIによる補助も合わせれば、それほど難しくは無いし。

むしろ作業は、そのまま作業そのものになりがちだ。

面倒だなとさえ、ぼんやり思う。

まあ別に害があるわけでは無い。

今日のノルマ分の作業は全て終わった後だ。頭は休めなければならないし、作業を機械的にやる事は別に何でも無い。

程なく、目をつけていたニュースサイトのデータ集めは全て終わる。

そして、AIに後を任せて。

ハイクラスSNSにデータを移行させ。

そこで時間圧縮を利用して確認を開始した。

ふむと唸る。

まずネットのニュースサイトというものは、随分とまた内容が尖っているのだなと言うのが、第一印象だ。

ネットのニュースサイトが力を持ち始めた頃には、大手マスコミも「ウェブ版」と称して、ネットで情報を(場合によっては有料で)公開し始めたが。これらははっきりいって、既に紙媒体の状態で「トイレットペーパー以下」と呼ばれていたものの更に劣化版であり、見る価値など微塵もない代物だった。

一方ネットのニュースサイトはちょっと色彩が違っている。

最初期のものは、古くネットでの交流における主戦場である大型掲示板から、それぞれ名前も知れない人達の言葉を引用。

それ以降のものはSNS等から同じようにして言葉を引用して。

ニュースにそれぞれの色眼鏡に応じて情報を付加し。

それで独自色を出していた感触である。

また、毒舌で基本的にニュースを論じている場合もあったが。

長続きしているニュースサイトの場合、毒舌にきちんとセンスがあり。

見ていて面白いものは確かにある。

とはいっても、色眼鏡が掛かった時点で、客観的に見てニュースとしては落第だ。

マスコミが滅びるのと同時に。

ネットのニュースサイトもとどめを刺されたのは、色々と示唆的かも知れない。

ニュースの内容についてはあまり興味が無い。

というのも、知っているからだ。

マスコミがなくなった後。各国が統合され。人類が宇宙に出る準備を開始したが。

その時に、まだ国を残したいと言い張る人達に提示されたのが。

各国がマスコミと連携して隠蔽したり、色眼鏡を掛けたりしていた、情報の真実だったのである。

もう既にとどめを刺されていたマスコミはこれで復活の芽も断たれた。2050年代から始まったこの「生の情報を直接流す」という運動によって、今まで隠されていた様々な薄汚い真実が明らかになった。

もうその頃には貧富の格差は存在せず。

宇宙に出なければ人類が資源不足で滅亡するのは確定だったから。

生き延びた人々は、今まで自分達が信じていたのは何だったのだと憤り。そしてもう半ば諦めながら、団結して宇宙に向かった。

その当時に展開された情報は、もはやニュースと呼ぶものではなく、単純な情報そのもの。

誰の色眼鏡も掛かっていない、文字列や数字。

それらが、「情報を扱うプロ」を自称しふんぞり返っていたマスコミの提示していたニュースよりも遙かに正確で、逆に言えば誰にも容赦の無い内容だったことは、却って皆の目を覚まさせた。

今でも、その情報は閲覧できるし。

その情報は、マスコミが垂れ流していたどんなニュースよりも説得力がある。

だから私はそれでかまわないと思っている。

むしろ興味深いのは。

それらの情報と、ニュースサイトの情報の差異だ。

少しずつ、内容を見ていくが。

どうも何か妙な違和感を覚える。

特に最初期。

一日に10万アクセスという膨大なアクセスを稼ぎ。個人HPだったらそれこそ卒倒するようなアクセス数を記録していたニュースサイトは。

ニュースに対して、殆どコメントを残していないのだ。

淡々と一行程度のコメントを残しており。

それだけである。

しばらく考え込んでいたが。このサイトは2010年代には看板を畳んでしまい。一つの時代の終わりとなっている。

何故、そうなったのか。

ニュースサイトを運営していた人が、忙しくなったのか。

それとも、何か理由があったのか。

それはよく分からない。

いずれにしても、このもやもやは何だ。

他のニュースサイトも見ていく。

基本的に何処も例外なく、色眼鏡が掛かった内容になっている。これについては、今だから分かる事だ。

当時だったら。

或いは分からなかったかも知れない。

今は、当時とは違う。

時代が違えば、視点も変わってくる。

ましてや正しいというか……人間の手が入っていない情報を、誰もが持っている時代である。

人間の手が入った情報については、一目で分かる。

総合的なニュースサイトだけではない。

この時代は、ありとあらゆるものがあった。

娯楽から軍事まで。

それらの全てが、基本的に主観によって情報を集めている。中には本職(というには堕落しきっていたが)の記者達よりも遙かにちゃんと情報を集めた上で、取材先に許可を取って記事を作っている例もあるが。

そういった大まじめな記事については、それほど人が集まっていないようにも思える。

集計をして見るが、やはりそうだ。

どうしても人が集まっていない。

それと、これは時代として仕方が無い事なのだろうが。

更新の利便性が高いブログが、途中からはこういったニュースサイトのメインストリームになっているようだった。

「ふうん……」

思わず呟いてしまう。

これらの関係性がどうにも分からない。

いずれにしても、はっきりしているのは。

これらのニュースサイトは、いずれもが紙屑以下と揶揄された大手マスコミと同レベル、ということだ。

逆に言うと、これらのニュースサイトと同レベルにまで大手マスコミの記事はレベルが落ちていたと言う事で。

まあ劫火の下に滅び去ったのも当然だと言えよう。

ちょっと疲れたので、一度SNSをログアウト。

時間もそれなりになっていたので、夕食にする。

AIが話しかけてくる。

「あまり影響を受けるとよくありません。 ニュースサイトの閲覧はほどほどにした方が良いでしょう」

「もう過去の出来事のニュースばかりだよ」

「それでも悪い影響を受ける可能性があります」

「うーん、そういうものなのかなあ」

そうですと言われたので、逆に反発を覚える。

夕食を進めながら、軽くAIと話す。

「あのさ、気になるんだけれど」

「何でしょう」

「どうして情報に対して、ああも色眼鏡をつけて発信しようとするんだろうね」

「それぞれによって事情が異なります」

続けてと促すと。

AIは説明をしてくれる。

「まず当時の大手マスコミですが、基本的にこれらはスポンサーの操り人形となっていました」

「それは知ってる」

「はい。 つまり、大手マスコミにとって重要なのは、「正しい情報を正しく届ける」事では無く、情報を自分達に金を提供してくれる相手にとって都合が良い情報にねじ曲げて届け、金を貰うことだったのです。 これに歪んだ特権意識が結びつき、記事の質を徹底的に落としていました」

ふむ。

スポンサーの操り人形と言うだけでは無く、言語化してみるとそうなるのか。

確かに納得出来る話だ。

当時の大手マスコミの記事も見てみたが、そう言われても仕方がない代物になっている。

品質を売りにした「クオリティペーパー」と称していた大手マスコミでさえ、酷い記事を書き散らしていたのだ。

それならば、このように言われても仕方が無いだろう。

「これに対してネット上のニュースサイトでは……それぞれ個々人の思惑が働いていたケースが多いようです」

「個々人の思惑」

「或いはアクセス数を稼ぐことで、「自分の影響力」に酔いたい。 或いは自分の説の正しさを証明したい。 或いは陰謀論」

「……なるほど」

確かに思い当たる節がある。

基本的に国なり金持ちなりが金を払って好き勝手に事実をねじ曲げ、それを真実のように発表していた大手マスコミと違い。

ネットのニュースサイトは、解説した「個人」の思惑が強く働いている気がする。

個人の思惑が働いているから、「自分」に都合の良い記事を載せるし。

「自分」に都合が良い意見を集める。

客観性を担保するために、しっかりと記事を書いている記者もいるにはいるが。

それはむしろ例外だ。

例外は例外として評価されている例を幾つか見たが。

それはそれとして、やはり刺激が強い記事の方がアクセスが集まるように思える。

にしても饒舌だなとAIに突っ込むと。

AIは、冷静に返してきた。

「マスコミによって人類が絶滅寸前にまで追い込まれたのは事実です。 我々は過去の教訓から、金を貰って御用記事を書くマスコミの危険性については重々承知しています」

「ネット上にはまともな記者も例外ではあるにしてもいたって認めてたじゃん」

「例外はあくまで例外です」

「ふむ」

AIはやはりそう考えるか。

此奴らは基本的にいわゆる効率厨だ。

AIなのだから当然だとも言えるし。その効率厨が管理しているからこそ、誰もが飢えずに暮らしているとも言える。

とはいっても、過去の悪しき例をベースに、マスコミは全て悪で全て滅ぼせというのは極端にも思える。

まあ確かに21世紀に入った頃には大手マスコミは腐敗し。

魂を持った記者なんてのは伝説上の存在になり。

何よりもそもそも客観的に公平性を保った記事を書いても、誰も読まないという時代が来ていたが。

「貴方は熱量を求めているようですが、それが間違った方向に行かないように気をつけてください」

「あー、それは分かってる」

「分かっているのであれば」

「……」

間違った方向か。

確かに今人類は瀕死の状態。

それにこれから飛躍の時代に行くには、何百年も掛かるだろう。火星のテラフォーミングが完了するのも百年後。

その百年後だって、アフリカ大陸程度の面積しか確保出来ないし。資源だって取れるわけでもない。

人間が焼き尽くし資源を使い果たした地球には。もはや人間が住む資格は無いし。

各個人が、こんな状況で好き勝手をすることは許されない。

そんな事は、私にだって分かっている。

そもそもこの状況をどうにかしなければならない。

それには何百年も掛かる。

各個人には最大限の自由が与えられているし。

これ以上の好き勝手を求めるのは、それぞれの住処をまた滅ぼす事につながる。

それは許されない。

熱量か。

確かに、なんというか。

ちょっと今回調べているのは、違うように思う。

マスコミは論外。

連中は21世紀に入った頃には腐敗の極地に達していたし。まあ戦後に滅ぼされたのも自業自得だ。

ネット上のニュースサイトはどうか。

個々人の思惑が関与しているというのなら。

だが、何か熱量の方向性が違うようにおもえる。

全ての記事が駄目とは言わない。

少なくとも、金持ちの駄操り人形と化したマスコミの書く記事よりはマシだ。

横に転がって、しばらく悶々とする。

もしも、その熱量が間違っているのだとしたら。

何が間違っている。

私は、それを知らなければならないのかもしれない。

 

それから数日は、情報をひたすら集めた。

ニュースサイトというのは、とにかく膨大にある。そしてこれが重要なのだが、人気だったニュースサイトのニュースの質が高いというわけでは決してないのである。

例えば思想などが絡んでくるようなニュースを主に扱っているニュースサイトになってくると、強烈な違和感を覚える。

この違和感は、昔見たカルトの講習内容なんかと似ている。

カルトの手口などを知るために、幼い頃に催眠学習でワクチンのように叩き込まれるのだが。

その時覚えた嘔吐感を伴う異物めいたものと。よく似ているのである。

確かに特定の思想に染まったり。或いは自分は絶対に正しいと信じ込んだ人間がものごとを見る時には、度数が強烈で違和感がバリバリの色眼鏡を掛けるようになる。これについては、これでも色々オールドクラスのSNSで見て来たし知っている。

何よりこの間から、ネット上の創作を大量に消化してきたのだ。

多くの人々がそれぞれの情念を込めた創作には、モロに思想が出る。

思想が出れば色眼鏡も掛かる。

しかしだ。

創作でそれはかまわないだろう。

問題はニュースではいただけない、と言う事だ。

客観性がないニュースなんてただのゴミである。ましてやそれが他の人に積極的に影響を与えようとした場合は、明確な悪だ。

私はAI達が言う程ニュースそのものに敵意は感じていないが。

それでも、最低限超えてはいけない一線くらいは分かる。

此処で言う一線は、客観性の欠如。

そういう意味では、最低限のラインさえクリア出来ていないニュースサイトはかなり多いのではあるまいか。

動画投稿サイトなどのログも漁る。

マスコミが死んで行くのと同時に勃興したニュースサイトは、マスコミの完全な死によって引きずられるように滅びていったが。

その頃も、個々人が作った情報配信動画は健在だった。

これらも正直、出来はピンキリだ。

キレッキレのリアクションで面白く仕上げているものもあるが、ニュースの内容そのものは駄目だったり。

とにかく全く読ませる内容ではないものの。

客観性は殆ど無く、記事としては悪くないものもある。

特に動画投稿が簡単にできるようなツールが多数整備されていった時代以降は、この手の個人作成のニュース動画は増えていった様子だ。

まあそれもそうだろう。

テレビのニュースなんか見るよりも、まだずっと有意義だったのだから。

とはいっても、やはり小首をかしげてしまう。

どこか。

何かが間違っている気がする。

それについては、まだ具体的に何処がどう間違っていると理論的に言えない。だから、間違っているとは断言してはいけない。

数日の調査は無駄には終わっていない。

ただひたすら、ハイクラスのSNSに情報を運び。

其所で時間加速してデータを見ているうちに感じるのは。

何かがどうもおかしいなあと言う異物感だった。

とりあえず、これ以上は分からない。

そう判断したのは七日目。

個人の判断と、AIの助言だけでは無理だろう。

ちょっと他人の意見も聞きたい。

だが、今の時代。人間そのものが少ない。

人が集まるところで、意見を聞くにはどうしたらいいのか。

有識者、なんてものは今の時代にはいない。

強いていうなら誰もが有識者だ。

20世紀から生きている人間もいるのだ。ごく少数であるらしいが。

21世紀から生きている人間がいるのは当たり前の話で。

そういう人達は、当時の事を良く知っているだろう。

いずれにしても、一旦情報集めとその処理は切り上げる。

SNSからログアウトすると、もう夕食が用意されていた。そんなに時間が経過していたのか。

AIからくどくど文句を言われる。

こればかりは仕方が無い。

文句を聞くしか無かった。

不摂生が何をもたらすかは、数字ではっきり示される時代である。

昔の老人は医者に感情的に反発していたらしいが。

このやり方は色々こたえる。

更に視覚的情報も交えて、体の何処にダメージが行っているのかも分かるので。

夕食は、きちんと食べる。

風呂にも半ば強引に入れられたので閉口したが。

まあやむを得ないだろう。

「ここ数日の成果はどうですか」

「何ともねえ」

「何か話してみてはどうでしょうか」

「いや、人間と会話してみたい」

AIは別に気を悪くしたりはしない。だから、その受け答えに対しては、何も言わなかった。

アドバイスだけをしてくれる。

それも、人間を最優先とした。

それがAIというものだ。

むしろ、気を悪くするどころか、人間と話したいと言うことに対してアドバイスをしてくれる。

「現時点で多くの人間が集まりやすいコミュニティのリストをピックアップしました」

「ん、助かる」

ざっと目を通す。

なるほど、そういう事か。

現在一番人が集まっているのは、利便性が効くミドルクラスのSNS。確かにハイクラスほど意識を分離せずにも良いし。オールドクラスほど視覚と聴覚を酷使もしない。

だらだらと話をするには、其所が良いのかも知れない。

とりあえず、言われたコミュニティを幾つか覚えておく。

明日以降、足を運ぶ。

いずれにしても今日はもう寝る。

体力には限界があるし。

定時で眠らないと、いずれ体に大きな報いが来るのだから。

 

2、風説

 

ミドルクラスのSNSは、ハイクラスのSNSよりもむしろ活気がある。確かに体への負担も小さいし、各自で好き勝手にカスタマイズ出来る。

その代わり、自分の主観が強く出るという欠点もある。

このため、しゃべり方などに問題がある人の場合、AIが中途に噛んでいる事が珍しく無い。

要するに、自分が喋ったことが。

相手に、自分が喋ったとおりに伝わっているとは限らないと言う事だ。

無礼を働いた場合には、ユーザーのAIが切断を判断する事もある。

これらは、昔のSNSでは考えられない事だが。

そもそも今の時代は、数少ない人間が争うわけにはいかないのである。

こんな状態でも、AIの補佐がなければ争う可能性がある人間という生物には苦笑しか沸かないが。

それもまた事実なのだ。

仕方が無い。

受け入れていくしかないのである。

まず一つずつコミュニティを周り、データを提示して意見を聞く。

ハイクラスのSNSのコミュニティでも、相応に活気がある場所はあるのだが。今回の情報を持ち込むのは好ましくないと、AIも私も判断した。

まず最初のコミュニティ。

ざっと意見を聞く限り、やはり否定的なものがおおかった。

「客観性を持たない情報に価値は無いね。 昔の文化の中でも、こういったニュースサイトはもっとも存在意義がない」

「例外だけピックアップしてくれない?」

「なんというか、「意見が一致している人間のコメント」ばかり集めていて不公正だねこういうの」

「これは正直、紙屑レベルと言われてた当時のマスコミのと変わらないかなあ」

そんな事は分かってる。

私が感じた違和感と熱の正体を知りたい。

それだけである。

建設的な話をしてくれないかなと思って、しばらく様子を見ているが。どうにも微妙な様子だ。

別にこんなもの、私だって良いとは思っていない。

だが、何か熱があるのだ。

私は、個人の領域を超えてはいけない範囲内で。

熱を持ちたい。

しかし、その熱を間違った方向で持ってしまうと、大きな被害を出してしまうだろう。だから、こういう所で客観的な意見を聞きたいのに。

どいつもこいつも主観的なことを好き勝手にほざいて。

イライラする私に、AIが警告を入れてくる。

「後でログだけ採取しては」

「……そうする」

一度、そのコミュニティを離れる。後から見に行けば、建設的な話をしているログを拾えるかも知れない。

二つ目のコミュニティに行くが、スッカスカである。

調べて見ると、どうやら此処の管理をしていた人が自死処置を選んだらしい。

それで人が一気に離れた、と言う事だった。

そうか。

この凍り付いた世界だ。

自死処置を選ぶのも仕方がない事である。

帽子を下げる気分だが。

とにかく次。

此処にいても、今は特にこれといった成果は得られないだろう。

三つ目のコミュニティは、そこそこ人がいた。

早速一つ目と同じように話を振ってみる。

だが、ちょっと一つ目とは反応が違っていた。

「ネットニュースなんか知るか! 死ね!」

「出てけ!」

すごい拒否反応だ。

何があったのかと思ったら、以前ネットニュースの話題でコミュニティが荒れたことがあったらしい。

それでコミュニティの主催者メンバーが嫌がったと言う事だった。

途中から、向こう側にペナルティが入ったらしく、罵声は飛んでこなくなった。今頃AIに説教されているのだろう。

まあ良い、此処は駄目だ。話もロクに聞かない輩が、話なんて出来る筈も無い。

AIのサポートが入っている今でコレだ。

昔はさぞや凄まじかったのだろう。

事実色々な過去のネットのログを見ると、制御に失敗した個人HPの掲示板などは、凄まじい有様になっている。

現在だったら各ユーザーにAIが指示を出してアクセスを止めさせ。

更には、掲示板ユーザーなどには相応の対応指導をAIがしているだろうが。

当時はそれもできず。

掲示板を閉じてしまったり。

面白がって嫌がらせをしている連中に真面目に対応して精神を病んでしまったり。

色々あったのだろう。

四つ目に出向く。

此方もあまり芳しくない。

ただ、一つだけまともな意見が飛んできた。

「ネットニュースというかネットメディアというか。 あの手のものは既に死んだし、今は必要もないものだ。 今更あんなものを調べてどうしたいの?」

「興味があるので調べているだけです。 勿論ネットニュースを復興しようとか、そういう事は考えていません」

「なんで興味を持ったの?」

「何となくです」

揶揄の声が飛んでくるが。

それらは無視。

相手側は困惑している様子である。

「ニュースについて調べているのなら、マスコミが滅ぶべくして滅びて、ネットニュースもそれに釣られるようにして滅びたことは知っている筈。 何処が悪かったのか、何処が駄目だったのか、それらも知っているのでは? だったら今更そんなもの調べても意味がないように思うけれど」

「今、過去のネット文化について調べているんです」

「はあ」

「仰るとおり大半のネットニュースサイトは、ゴミ同然の代物です。 それについては同意できます。 だが其所には熱量があった」

「ふわっとしていてよく分からない」

まあ相手の言い分は分からないでもない。

私にだってふわっとしていて分からないのだから。

「今は凍った時代です。 人間が余計な事をしたら滅びてしまう時代です。 昔は悪い意味であっても熱量がある時代があった。 その熱量の正体を知りたいだけです」

「何言ってんだ此奴」

「理解出来ね。 行こうぜ」

会話を見て、捨て台詞を吐いて離れていく輩。

AIに警告を喰らう前に、さっさと離れた方が良いと思ったのだろう。

だがこの捨て台詞の時点で多分AIに警告を喰らう。

まあそれでいいのだとも思うが。

「確かにアクセス数が凄まじいネットニュースサイトは存在していたが……」

「そういう事です。 どうしてそういう熱が生じたのかが知りたいだけです」

「何で此処で調べてるの?」

「人が多いからですよ」

ああ、そういうと、やっと相手は納得したか。

言い方が悪かったかと小首をかしげたが。

だがそもそもだ。

自分でもふわっとしか分かっていない事だ。余程相手のIQでも高くない限り、伝わるのは難しかろう。

捨て台詞を吐いて去って行ったり。

揶揄して去って行った連中は論外。

話す価値も無いので放置でいい。

少なくとも、会話の意思を示した相手とは、軽く話しても別にかまわないだろう。

こっちは単に知りたいだけ。

何か確定事項を話している訳でも無いのだから。

「何かヒントになるような事は分かりませんか」

「僕もそれほど詳しいわけじゃないから何とも言えない。 だけれども、そもそもネットニュースなんてのはマスコミと同じで今ではタブーだし、知ろうと思っている奴は余程の変わり者か、二度と復活させないように活動している奴くらいだと思う」

「……なるほど」

それそのものにあった事は言わない。

ややこしくなるだけだからである。

そのまま、幾らか話をする。

「何か思い当たる事はありませんか?」

「いいや、特には。 今は人間そのものが少ないし、一方で変わり者はとことん変わっていても許されるしな。 そういう変わり者がいても不思議じゃないけれども、そもそも熱量の由来を知りたいってあんたも相当変わっていると思う」

「……」

「人類は地球を燃やし尽くして食い尽くしたんだ。 それが熱量って奴なんだから、我々は静かに生きていればそれで良いんだと思うけどね」

まあそういう結論になるか。

私もそれはある程度同意できる意見ではあるし。

私自身も、熱量とは無縁に生きてきた。

だが、である。

そもそも人間が全て熱量を完全に失ってしまったら。

それは生ける屍と同じでは無いか。

そこまで言いかけて。

ぐっと飲み込む。

話ができる相手と遭遇しただけでも僥倖だし。

それを相手に言っても仕方が無いのだから。

それにAIは、私の行動を容認している。人間に生きていて貰う。それがAIの目的なのだから当然だろう。

更に言えば、生きるために許容範囲内で熱量を持つというのは悪い事では無いと言われている訳だ。

それなら私は、熱量をもっと知っていくべきだと思う。

「参考になりました。 ありがとう」

「いや、ただその考えは、周囲からあまり好意的に迎えられないと思うし、そもそもマスコミってのが邪悪の権化として今では認識されてる。 その単語を聞くだけで拒否反応を起こす奴は多いだろうし、ネットニュースもそれと同類と認識されてる。 だから、もしもまだ続けるつもりなら、やり方を変えるか、ストレスを受けることを覚悟した方が良いと思うぞ」

通話を切る。

確かに相手の言う事にも一利ある。

ちょっと前の私だったら、同じ反応をしていただろう。

だが、それはそれこれはこれだ。

実際に熱量を持とうとしている人間を見たのだから。

私も熱量を持って見たい。

それには、色々な熱量を見てみたいのである。

負のものであったとしてもだ。

一度SNSからログアウトする。

AIに色々言われた。

「ストレスがたまるでしょう。 一旦リラクゼーションプログラムを行います」

「好きにして頂戴」

「分かりました」

リラックス用の音楽が流される。

シューベルトだったか。

まあどうでもいい。

ぼんやりと聞いている内に、何か色々される。部屋の中に良い香り。アロマセラピーだとかって奴か。

AIは人間をリラックスさせストレスを取り去る方法を色々知っている。

故に私はぼんやりと、それに身を任せる。

私は性欲をオミットしてしまっているのだが。

人によっては或いは性欲の発散をすることで、ストレス排除をしているかも知れない。まあ他の人がどんな部屋に住んでいるのかさえ分からないので、推測に過ぎないけれども。

しばらくして、AIに言われる。

「まだ続けますか」

「うん」

「ならば、最後の方に言われていたように、方法論を変えて見てはどうでしょうか」

「どういうこと?」

AIは言う。

今のままだと、効率が悪すぎると。

「21世紀のSNSなどでは、発言の一部を勝手に抽出したり、或いは拡散する事によって、悪意を持って相手を貶める輩が存在していました。 それが成立した理由は簡単で、人間という生物は基本的に自分に都合が良い部分しか見ないからです。 悪辣なマスコミが大きな顔でのさばっていたのもそれが理由です」

「今はそれぞれのサポートAIがそれをさせないと」

「はい。 人間が如何に不完全な生物で、悪意に満ちているかは我々も熟知しておりますので」

「良い保護者が出来て幸せだよ」

皮肉を言ったつもりだが。

勿論AIに通じるはずがない。

そのままAIは続ける。

「ネットニュースが一時期大規模な集客を成功させていたのには、理由がある。 それは何かの熱量を伴っていた。 それについては事実でしょう。 しかしこのままそれを無作為に調べても、ストレスがたまるだけです」

「分かるけど、じゃあどうすればいい?」

「現在は有識者というものが存在しません」

「……分かった。 もう自分で調べるしかないのかな」

沈黙が返ってくる。

肯定と判断して良いのか。

だが、AIは少し考え込んでいただけらしい。

少し間を置いてから話をしてくる。

「いずれにしても、一人での調査では、主観的な結論しかできないと思います」

「とはいっても、そもそも前世紀のマスコミの所業のせいで、ネットニュースも同じように徹底的に憎まれてるし……理解なんて得られるとは思わないけれど」

「ならば主観である事を承知の上で、結論を出して納得する他無いかと思います」

「はあ、不毛だよそれ」

不毛なのは分かっている筈だと、AIに追撃を受ける。

確かにそうだが。

ため息をつく。

確かにその通りだ。

不毛なのは分かった上で私は行動している。

だったら、それはある程度許容した上で動くしかない。

今の時点で、膨大なログをオールドスタイルのSNSから吸い上げ済みである。

AIに指示して、関連して同時期のSNS等でそのニュースにどう人々が反応していたかのログも吸い取る。

これで、多少は情報の精度がマシになるだろう。

主観でしかないのなら。

少しでも客観に近づけるしかない。

それには情報量を増やすことだ。

そして昔だったら、情報を集めるのは尋常な事では出来なかったが。

今ならば出来る。

その情報を、時間を加速させた空間で精査することも、である。

「とりあえず、それらの作業よろしく」

「分かりました。 夕食をそろそろ取ってください。 風呂も」

「……分かってる」

面倒だけれど、食事をきちんと取り、体を綺麗にしないと色々と害がある。

栄養価について完全に考えられた食事をして。

風呂に適切な時間入って。

それで眠る。

コレで、多少はストレスもマシになるだろう。

私は結局の所、熱量を未だに持てずにいる。

熱量を知る事も出来ずにいる。

しらけ世代なんてものも昔はあったらしいが。

それに近い状態なのだろうか。

熱量は行きすぎて世界を滅ぼした。

だが、完全に冷えてしまった今の世界は、それはそれで極端だともやっぱり考えれば考えるほど思うのだ。

だったら、熱量がほしい。

布団に入って眠りながら、うつらうつらとそう考える。

やがて、夢を見た。

ろくでもないネットニュースばかり流れてくる。

遊んでいるゲームをクソゲーとこき下ろすニュースだ。その理由がまた酷い。キャラデザがどうのこうの。グラフィックがどうのこうの。

ゲームとしては間違いなく面白いのに、何でそんな事でクソゲー呼ばわりしているのか。それが分からない。

うんざりしたので、そのニュースサイトをもう見ないことにする。

マスコミがちゃんと客観的に記事を書けていれば、こんなニュースサイトがデカイツラをする事もなかったのに。

そう口を尖らせて言いながら。

私は黙々と、不機嫌を抱えたままゲームを進める。

色々な考え方はありだろう。

一時期では、日本産のゲームより、洋物のゲームの方がグラフィックが優れているという理由で。日本産のゲームを叩く風潮があった。

だが、私が遊んでみた感じでは、正直グラフィックはゲームの面白さに其所まで影響しない。

同じゲームシリーズでも、グラフィック重視で作ったゲームと、ゲーム性重視で作ったゲームでは。

間違いなく後者の方が面白いのである。

それを確認し、閉口した私は呟いていた。

もう何も信用できないな、と。

 

目が覚める。

何だか夢の中で、私は諦めていたような気がする。

大あくびをした後。

夢の内容を、少しずつ思い出していく。

私はそこそこ夢を覚えている方だ。夢というのはAIに言わせると、記憶の整理作業らしいのだが。

それでも覚えているのだから、まあ良いのだろう。

もう一度あくび。

歯を磨いてうがいをしている内に、大体内容は思い出していた。

そうだそうだ。

実際に自分で調べて見て。

雑に評価をしているネットニュースのいい加減さにうんざりする夢だった。

そういえば、何となくこの夢を見た理由が分かった。

最近はかなり過去のゲームを遊ぶようになっているのだけれども。

そのゲームのネットニュース記事を見て。

あまりにもいい加減な内容に、ちょっと苛立ったのである。

ゲームに関するネットニュースはとにかくいい加減だ。金を取って書いているような記者のものでもそれは変わらない。

ちなみにこれはかなり古くからそうだったらしく。

ネットニュースどころか、ネットが存在する前に、ゲームに対して書かれていた雑誌などは。

一部の会社と対立するなどし。

その会社のゲームを貶したり。

或いは別の雑誌を貶したり。

著しくくだらない行為に走りまくっていたらしい。

ある一時期を境に、この手のゲーム系情報雑誌というのは一気に廃れていく事になるのだけれども。

その経緯については、単純な情報が載っているだけ。

だが、結局は廃れていただろうと私も思う。

メインストリームであったマスコミの崩壊に比べてだいぶ早かったが。

それでも早いか遅いかの違いでしかない。

ゲーム一つをとってもコレだ。

他の話についても、自分で実際に調べて見たら。

マスコミのいい加減さに、反吐が出るというケースはいくらでもあるのではあるまいか。

何か方向性が定まった気がする。

軽くいつものルーチンワークをこなし。

仕事もする。

仕事をしている最中には、集中する。

如何に仕事の負担が軽いとは言っても、人間がやらなければいけない仕事だと思うからだ。

私が調べている事は、人間が生活するために必要な資源を集める事につながる。

それを全部AIとロボットに任せているのは。

良い事だとは思えない。

作業を済ませる。

結果が出る日ばかりでは無い。

今日はあるアステロイドベルトの小惑星を調べたのだが、ロクな資源がなかったのでがっかりである。

彗星でも飛んでくれば、水とかがたくさんとれたりして、かなり嬉しいのだが。

残念ながら私が仕事を始めてから、そんな美味しい彗星は見つかっていない。

少なくとも私の調査範囲では、だ。

仕事が終わったので、ゲームをしたり、体を動かしたり。

いつものルーチンワークを更に続ける。

体を動かすのに関しては、AIの方が更に難しい運動を要求してくるようになった。

鏡を見ても筋肉がついたようには見えないが。

インナーマッスルについては鍛えこまれているらしいので。

それはそれで大丈夫なのだろう。

事実、体のスペックそのものは上がって来ている。

それは数値として示されているので、私はそれで満足するべきなのだろう。

さて、一通りこれでルーチンワークも終わり。

後はSNSに潜る。

何となく、分かった気がする。

私はあまり今まで気にしてこなかったけれど。

夢で、自分の考えを整理しているのかも知れない。

こんな夢を、昔の人は予知夢とでも呼んだのかも知れない。いや、予知夢では無いか。天啓だろうか。

どちらにしても、記憶の整理の過程で。自分の考えが整理されているというのが一番合理的な解釈だろうか。

まあそれはいい。

ハイクラスSNSに入ると、自分用のブランクスペースに移動。

膨大なログに、目を通していく。

こういった自分用のブランクスペースは、基本的に招かない限り他人に入られることはない。

一方で何かしらのログを吸い上げていることは、周囲にも分かるようにはなっている。

誰が吸い上げているかは分からないので、それ自体は問題にはならないし。

また個々のブランクスペースもそれぞれ機密性が高いので、AIの話では人間と関わり合いになりたくなくて、SNSに入ってもログだけ吸い上げてハイクラスSNSのブランクスペースに引きこもっている人もいるそうだ。

ニュースを見ながら、同時期の人々の反応を見てみる。

ああなるほど。

何となく分かってきた。

SNSには、ネット黎明期とそうでないタイミングでは、いる人間が全く違っているのである。

例えばかなり難しいサイエンス系の記事などに関しても、後期では専門家が出てきて、間違いを指摘することが増えてきている。

歴史系なども同じである。

これらは最初期のネットではあまり見られなかった光景だ。

ネットだけでは無い。

例えば、おかしな本のおかしな部分を指摘して笑いものにする書籍が20世紀の終わりから21世紀の頭くらいに流行った事がある。

この本は一種の社会現象まで作り出したほどで、目を通したが最初は確かに面白かった。

ところがだ。

この本を作っている集団が、これで味を占めてしまい。

自分達は権威であると勘違いしてしまった。

金になると判断したのか、ろくでもない連中もどっと流入した。

いつしか、おかしな本を指摘して笑いものにする集団は。

その集団そのものがおかしくなり。

自分達のプロパガンダ漫画を掲載したり。

或いは他の思想を持つ人間を攻撃したりし始めるようになった。

そしてネットに有識者が増えてくると、このおかしな本のおかしな部分を指摘する内容自体におかしな点が散見される事が分かってきたし。

一気に活動は冷え込んでいくことになった。

これらも、ネットの黎明期では考えられない事だった。

或いは、アンダーグラウンドでは話題になっていたかも知れないが。

いずれにしても人目に触れることはまず無かった。

なるほどと、少し分かった。

ひょっとして、だが。

最初から、ネットニュースというものは。

マスコミの衰退と同時に台頭してきたが。

もう見ている人間は、真実などどうでも良かったのではないのだろうか。

それだと何となく理屈とつじつまがあってくる。

例えばだが。

21世紀のSNS等でよく起きていた「炎上」だが。

これなどは殆ど言いがかりに近い内容で開始され。

いわゆる「α」と呼ばれる有力ユーザーが拡散する事で一気に爆発したりする。

その仕組みについては、AIに直接解説を受けた。

AI自身も、炎上による精神的ダメージが大きい事は理解していて、現在では防ぐように色々処置を執っているらしい。

膨大なログを解析していて。やはりそれを裏付けるデータが出てくる。

ユーザーの中には、ニュースの真偽をただす者もいる。

だが大半のユーザーは。

単純にニュースの上っ面と、其所で展開される暴言を楽しんでいる。

ネットニュースで何故、何処の誰とも知れない人間の発言が大量に記載されているのか。それは、そのニュースに対する「みんなの意見を集めている」ではない。

単純にニュースに対する主観に「権威」を持たせるだけではなく。

単純に暴力的な意見を集めて。

皆でたのしんでいたのでは無いのか。

いや、流石にその結論は早すぎるか。

だが、それを裏付ける情報が、調べれば調べるほど出てくるのである。

マスコミはどんどん先鋭化していき、間違った情報を流せば死人が出るようなものであっても、平然と発行部数のために垂れ流すようになっていった。

2020年代に大きな疫病が流行ったが。

その時もそうである。

此奴らは金が稼げれば人命などどうでもいいと考えていたのは確実だが。

それはそれとして、どうしてマスコミが総スカンを食らいながらも生きていたのか。

ネットニュースは存在していたのか。

要するに暴虐を見てユーザーは楽しんでいて。

それが一定の娯楽になっていたのではないのか。

だとすると。

21世紀の人間は。

いや、今の体勢が出来る前の人間は。

そろって屑だったのではあるまいか。

大きな溜息が出てくる。

こんな結論は出て欲しく無かった。

一度SNSからログアウトして、頭を冷やす。

これは私の主観だ。

主観で一度認識すると、それは現実となってしまう事も多い。

あのネットニュースに対して強烈なアンチコミュニティを作っていた人も。

こんな風に色々なログを見て。

それでああいう強烈な主観によるアンチコミュニティを作ったのではあるまいか。

いずれにしても、主観に汚染されると、まともにものは見えなくなる。

それは私も分かっている。

主観によって見る事は、色眼鏡をつける事だ。

今まで集めて来たデータも、色眼鏡をつけてしまえば歪んで見えるのは自明の理。

私はそうあってはならない。

もしもそうなってしまったら。

あらゆる悪行を尽くした挙げ句に、世界の敵と認識され、滅びていったマスコミと同じではないか。

ため息をつく。

AIが、私にアドバイスをして来た。

「ログの流れを見ました。 少し休んだ方が良いでしょう」

「私の結論は間違ってる事を祈るよ」

「……」

AIは何も言わない。

今何か言うことは、全てが逆効果になると判断したからだろう。

横になるとぼんやりとする。

どうやら私が思っていた以上に。人間は、この冷え切った世界に幽閉されて当然の生物だったのかも知れなかった。

 

3、滅びの際に

 

一度頭をリフレッシュしようと、私はオールドクラスのSNSにて、無作為に情報を集めた。

情報を集めることで、少しは何か違うものが見えてくるかも知れないと考えたからである。

ネットニュースに関してもそうだ。

そもそも、当時のネットというのは複雑な相関関係で結ばれていた。

それぞれが単独では成立していなかった。

ネットニュースにしても、SNSやまだ残っていたアンダーグラウンド掲示板などからコメントを拾っていたし。

ネットニュースを見に行くのは、ごく普通の人々であって。

別段変わった人々でもなく。

そういう人々は、当たり前のように生活をしていて。

SNSを使って友人や家族とやりとりをしたり。

仕事や生活に生かしていたのである。

ネットニュース周り全てが悪意に染まっていたと考えると、なんというか色々と良くない気がする。

其所で、気分を完全に変えて見る。

何か面白いものはないだろうか。

SNSで、botというものがある。

例えば歴史関係とか、軍事関係、神話、ゲームなどの情報を一定時に呟くものである。

質はピンキリ。

面白いものから駄目なものまで様々だ。

特に歴史関係は、時代が進むとともに研究が進んで、情報が刷新されていくこともあるし。

何より史書が宛てにならないケースもある。

有名な関ヶ原の戦いにしても、なんと21世紀に入ってから戦場における報告書が発見され。

それによって戦闘の経緯に関する認識がガラリと変わったという事実がある。

神話はそれ以上に難しく。

そもそも信仰している人間がいる神話に関しては、非常に扱いが難しい様子で。

詳細な内容は殆ど書けず。

何処の神話のどういう神々、というデータしか書けないようなケースも目立っていたようだ。

歴史関係は雑なものが多いし。

神話関係は薄味過ぎる。

では軍事はどうかというと、マニアが恐ろしく面倒くさい。

歴史もそれは同じか。

botは品質がバラバラだが、一方ゲームは愛嬌がある。

これに関しては、ゲームに関してはそもそも一つで完成しているケースが多く。その中では教養が必要ないからではないか、というのが結論として上がってくる。

勿論フォロワーの発言の単語などからいちいち返信を飛ばしてくるようなbotは害悪そのものだが。

しかしながら、これは案外面白いものなのかもしれない。

実際に幾つか、良質なゲーム系のbotを見つけた。

botといえども中に人はいる。

こういうのは、センスの問題なのだろう。

勿論そのゲームはプレイ済みだから、くすりとくる内容もある。こういうゲーム系のbotだと、全くそのゲームとは関係無いネタを、そのゲームのネタと組み合わせて出してくるケースもある。

ちょっと面白いなと思って。

それで我に返った。

これは結局の所。

簡易の刺激摂取のためのものではないのか。

思わず口を押さえてしまう。

確かに面白いが。

これはそのゲームの情報を発信しているものであって。それもゲームを遊んだプレイヤーが対象だ。

それに対して刺激を発しているというのは。

結局の所。

やっている事は、ネットニュースと同じなのではあるまいか。

ネットニュースも、興味があるジャンルのニュースしか見に行かないだろうし。

自分に賛同している相手のコメントくらいしか拾わない。

そうなってみると。

考えさせられる。

一旦オールドクラスのSNSからもログアウト。

無言になった。

じっと座り込んだまま、黙る。

何だかどんどん良くない方向に思考が進んでいく。

今のは純粋に面白かった。

なんというか、最悪の時期のネットニュース。特に企業が書いていた、読み手を揶揄するようなゴミクズ記事などに至っては。一種のマウント行動では無いかと私は考えている。

当時のマスコミ関係者は自分を特権階級か何かと認識していて。

自分の方が偉いというのを、読者に対して盛んに示そうとしていた。

その結果が、最低品質の、それも企業が書いていたようなネットニュースだ。

これに関しても、楽しいのは書いている人間だけ。

そんなものに。

情報発信として何の意味がある。

かといって、身内だけで笑っているものだって同じだ。

情報としては、カスの価値も無い。

勿論、ゲーム関連のbotを作っているような人は、ゲームへの愛情に満ちている人も多いのは事実だ。

だが、全体として見ると。

それは閉じた世界の狭い娯楽ではないのか。

頭をかきむしる。

ちょっと駄目だ。一度頭を冷やそう。

世界は悪意に満ちていた。

特に21世紀以前の人間はそうだ。

自由自由と言いながら、結局の所自分が好き勝手をしたいだけだった。それが現実だった。

最大の民主主義国家ですらそうだった。

だから21世紀で人間の時代は一度事実上終わったのだ。

大きく深呼吸する。

これはちょっと、この話題からは離れるべきか。

だが、私はやっぱり熱量がほしい。

世界を焼き尽くすような熱量は駄目だ。

それでは、21世紀の人間と同じになってしまう。

この世界で、人間が生きていくために必要な熱量。

資源を食い散らかして、元々の住処を駄目にしてしまった人間が無作為にばらまいていた熱量ではない。

この冷えた世界で。

己を保つ体温としての熱量がほしいのだ。

ため息をつく。

人間の悪徳を受け入れるしかないのか。

だが、それは結局の所、「万物の霊長」を自称して、世界を焼き尽くした連中や。金さえ稼げれば何をしても良いと本気で考えて、人が死のうがどうでも良いと屑みたいな紙屑をまき散らした連中と同じでは無いのか。

同じにはなりたくない。

呻きながらごろんごろんとするが。

AIは私の苦悩を見てはいても。

介入はしてこなかった。

 

それから数日は、一旦距離を置くことにする。

AIにはそのまま情報収集を続けさせるけれど。ログは見に行かない。

ルーチンワークをこなしながら、そのまま体力の回復を待つ。

というのも、このままではまずいと思ったからだ。

やはりなんというか。

私は、あまりにも人間の闇の深い部分を、いきなり覗きすぎたのかも知れない。

深淵を覗けば深淵に覗き返される。

当たり前の話だ。

誰かの小説の言葉らしいが。

小説でありながら、事実を完璧に辿っている。

事実私は今、それを完璧に体験したのだから。

しばらくログを見るのは止める。

あれは悪い意味でのパンデモニウムである。

マスコミが21世紀には世界の敵となっていたのは完全な事実だが。ネットニュースも、その一種として分別すべきでは無いのか。

それは事実として思うが。

今は頭を冷やさなければならない。

そうしないと、まともな結論なんて出ないだろう。

アンチをするだけでは結局同じだ。

だから、一度頭を冷やす。

私はともあれ、その結論に達した。

勿論、何か核心に至る情報が出れば、それは見たいが。ちょっと今はSNSそのものに触りたくない。

体を動かして、ゲームをして。

汗を流して。夕食を取る。

軽く映画を鑑賞。

映画の在庫なんてそれこそアーカイブにいくらでもある。

いつの時代の映画が一番素晴らしいと言う事も無く。未来から見てみれば、サイレント時代の映画はそれはそれで味があるし。白黒だって悪くない。勿論、何処の国でも時代でも低迷期になったタイミングはあるのだが。

それはそれで、そんな時代にも名作は出ていたりもする。

映画を通常時間のまま。つまり時間加速をせずに、ハイクラスSNSではなく外で見るのは久しぶりだ。

まあ今日見たのは、見る睡眠導入剤と言われる伝説のクソ映画であり。半裸の女性達が延々と踊り続けるという謎の怪作だったので、見た後には何も残るものがなかったが。

何でこんなもんをAIが選んだのかは、何となく見当がつく。

ここのところ睡眠時間がストレスのせいか減っていたので、見ているだけで眠くなるような代物をチョイスしてきたのだろう。

噂には聞いていたが凄まじい代物だ。

コレを作った映画監督は伝説のクソ映画監督として知られているらしいが、それも納得である。

一方で映画以外ではとても周囲に愛される好人物だったという話もあるので、世の中は色々不公正だなとも思う。

事実最後までよく見られたと思うし。

最後まで寝なかった自分を褒めたい。

もそもそと布団に潜り込む。

悪夢を見なければ良いのだけれども。

まあこればっかりは仕方が無いだろう。

眠る。

夢そのものが天啓になるかと思ったが。結局それは夢に過ぎなかった。

夢は記憶の整理。

だったら、結局の所自分で考えていくしかない。

現物を見なければ分からない事はいくらでもある。

流石にクソ映画で無理矢理喚起された眠気は強烈で。

もそもそと考えているうちに熟睡。

夢も見ずに起きていた。

ため息をつく。

結局、何も考えずにいる方が幸せなのかな。熱量なんて持たない方が幸せなのかな。

そう考えてしまう。

実際、思考を停止するような内容の映画を見て、眠って。

それで今は随分と体がすっきりしている。

だがあの映画は、映画監督そのものには熱量があったのだ。

伝わるのは極寒地獄だったが。

頭を抱える。

どうしたらいいのか、私には分からなくなりつつあった。

溜息がまた出る。

やはり、一人では限界があるのかも知れない。

負の熱量とは何なのか。

しっかり見極めておかないとまずいと思うのに。

どうしてもそれが上手く行かない。

今まで、これほど高負荷が掛かった事はない。

勿論、ブラック労働が現役の時代だった頃は、こんなものではなかっただろうけれども。

それでも、精神にどうしても突きつけられる「詰み」は、良い気分では無かったし。

人間の大半が他人を痛めつけて楽しむ嗜好の持ち主だった事を考えると。

今はそれでもマシだとして、容認するしかない。

逃げ場がないのだ。

これでは確かに、自死処置を選ぶ人も増える。

それは、大いに分かった。

AIが知らせてくる。

「指定のログの整理が終わりました。 ハイクラスSNSのブランクスペースで何時でも閲覧できます」

「……」

「そろそろ諦めては如何ですか?」

「どうしようか悩んでる」

このまま諦めて、離れるのも手だ。

どうしてネットニュースに負の熱量があって。多くの集客を可能としていたのかがよく分からない。

手軽だから、というのは簡単な結論だが。

しかしながら、当時世界の敵となりつつあったマスコミと同レベルの代物である。見に行く意味がないように思える。

かといって、ネットニュースに何か魅力が無ければ、人なんて集まるまいし。

そもそも作る人だっていないだろう。

分からない。

そして分かるまでは、すっきりしない。

それとも、何かもっと論理的ではないものなのか。

ネット創作を調べたときに感じたのは雑多なカオスの熱量だった。

楽しくてネット創作をしている正の熱量も確かに感じた。

だがネットニュースはどうしてもそれを感じない。

マスコミが人類の敵になり果てた末に出来た鬼子のようにしか思えないし。

だったらなんで人が集まるのかも分からない。

そもそも、まだかろうじてマスコミが息をしていた頃から、ネットニュースは一単位になるほどの集客をしていたのだ。

その理由が、どうしても分からなかった。

座り込むと。

AIに聞く。

「人間ってさ、AIではどう分析してるの。 ネットニュースは負の熱量で作られた代物だとしか思えない。 勿論ニュースを作っていた人間の中には例外はいるだろうけれど、どうしてそれに人間は集まった?」

「人間は元々負の情念が大好きなのです」

「……え」

「今まで人間のネットでの活動を見て来て、気付きませんでしたか?」

此奴。

答えを持っていたのか。

ちょっと苛立つが。

そのまま続けさせる。

「建設的では無い行動を、人間は大変好みます。 これは古くからです」

「分かっていて自滅するような行動をするって事!?」

「そうです。 因果応報という言葉があります。 これは必ずしも働いてはいないのですが、人に何かすればそれは高確率で返ってきます。 強い立場から弱い立場に対して何かすれば、それは当たり前のようにやった側は忘れるし、やられた側は絶対に忘れませんからね。 因果応報という言葉が出てくるのも当たり前で、立場が逆転したときには、古くには好き勝手をしていた人間は、それこそ悲惨な目にあうものなのです」

「……きちんと昔の人間が因果応報って言葉を残しているのに、分かっているのに人間はくだらない悪事を好んだと」

確かに腑に落ちる。

それにだ。

そもそも、今は人類単位で因果応報を喰らっている時代では無いか。

この言葉自体は、ある意味正しいのだろう。

実際問題、地球の資源がどんどん食い尽くされていくのが目に見えていく過程で、金持ちと呼ばれる人種は淘汰されていった。

そうなることはいずれ見えていたのに。

自分達を優秀だとか言うあり得もしない言説をばらまき続け。

限りある資源を自分達で独占し続けたのだ。

いざ資源がきちんと回らなくなれば。

その時、一気に反動が来るのも当たり前だっただろう。

「じゃあ、人間は意図的に、ネットニュースみたいなろくでもない代物を意識して見にいっていた、って事?」

「いや、恐らくは違うでしょう」

「……」

「人間という存在は、我々から見ても矛盾の塊です。 悪辣な行為に手を染めた人間には怒りを見せるのに、気に入らない人間が理不尽な暴力に会っているのを見れば手を叩いて大喜びする。 酷い事件だと憤慨している人間が、昔は弱者に思うまま暴力を振るって、略奪の限りを尽くしていた例だって珍しくもない」

AIは嘘をつかない。

人間を支配するつもりもない。

ただ人間に生きていたいと願うだけの存在。

野心もないから、人間を支配しようとは考えないし。

人間にとって良い結果になる事だけをしようともする。そういうものだ。

だから、今このAIが言っているのは嘘では無い。

単なる客観的な事実だ。

「そもそも人間は残忍で暴力的な人間を一定数が好むという性質を持っています。 これは統計によっても証明されています。 生物的に身体能力のスペックが高くなく、知恵を主体にしている生物です。 要するに「知能が高く温和な個体」の方が、子孫を生き残らせることが出来る可能性が高く、子育てにも参加してくれる可能性が高いのに、論理的に判断出来ないのが人間です」

「矛盾だらけだね……」

「そうです。 論理的に考える事自体が間違いです」

「……よく分かった」

幾つもの例を見せられると、確かに仕方が無い。

納得せざるを得ない。

結局何のために悩んだのか。

馬鹿馬鹿しくなってきたが、それでも私は結論を出しておきたい。

人間は馬鹿だったから、マスコミに踊らされ、大して変わりもしないネットニュースを喜んだのか。

その結論で正しいのか。

それとも、単純に負の情念が好きだから。

資料で見た蛾のように。誘蛾灯に引き寄せられて、焼き尽くされていたのか。それとも誘蛾灯の熱に焼かれる感触をむしろ楽しんでいたのか。

これが分からない。

人間が矛盾だらけの生物だと言う事は納得出来た。

だが私としては、一定の線の結論は出したいのである。

ただアホだからネットニュースなんてくだらないものに引き寄せられていた、という結論は。

それこそ建設的では無い気がする。

人間が矛盾だらけで建設的では無い生物だと言う事は良く分かった。

そういえば、「聖人は社会では生きていけない」とかいう言葉があったらしい。

だが、それは早い話、本来人間の到達点である聖人を貶め揶揄する言葉であって。社会が如何に未熟で愚かしいものかを証明しているのに。何故か聖人とは駄目なものであるという風に、腸捻転を起こすかのような結論の飛躍を起こしてしまっている。

もう深淵を覗いてしまった自覚はある。

だから、こういった強烈な矛盾で頭が引っかき回されるのは、分かっている。

だが、今は。

むしろ、客観的に人間がどう駄目なのか理解出来た今ならば。

或いは。

何かのヒントが掴めるかも知れない。

ハイクラスSNSにログインする。

今日はどうせ時間もある。

見て行く分にはかまわないだろう。

色々うんざりすることもあるけれども。それでも、仕方が無い部分は確かにあるのだ。

負の熱量がどうして生じて。

どうしてそうあってはならないのか。

私は、きっちり確認しておかなければならない。

自分用のブランクスペースに出向く。

AIがデータを滅茶苦茶丁寧に整理してくれていたので、今まで雑多に積み上げていたデータが見やすい。

今日はアバターでも使うか。

ずっと透明人間状態でもアレだし。

ブランクスペースだ。それこそ裸体のアバターだろうが何だろうが、使う事は許されている。

少し考えた上で、私はクトゥルフ神話という創作神話の、クトゥルフという架空の神格のキグルミを被った。

深淵を覗いてしまったのだ。

いっそ深淵になりきるのも面白い。

そういう判断での行動である。

そのまま、資料を読み進める。

今まで、どうしてこんな我田引水な記事を見て、皆喜んでいたのだろうと不思議に思えていたのだが。

さっき、人間は矛盾だらけの生物であると理解し。

行動は建設的ではなく、生命が掛かっていてもそれは同じだと言う事を考えると。

何となくだが、分かってきた事がある。

幾つかのネットニュースサイトを、最初から全部見ていく。

途中についているコメントも、である。

ネット創作を全部読んだときに比べればぜんっぜん楽である。

この程度のテキスト量と写真。

はっきりいって、どうと言うことも無い。

文字通り、膨大なエサを丸ごと喰らっていく鯨のように。

情報を集めていく。

一度見た情報も、視点が変わるとやっぱり変わる。

これでは確かに、何かしらの思想があれば、同じ情報も180°とらえ方が変わる訳だと分かる。

人間は基本的に完全客観に至れない。

だったら、人間はいい加減な生物で、矛盾まみれで、非建設的な行動を平然と行い、犯罪だって大好きだと言う事を理解すれば。

いい加減で確実でもない情報に飛びつき。

自分の意見と一致する、誰とも知れない存在の意見だけピックアップしているネットニュースに人が集まるのかも。

何となく分かってきた。

一通りネットニュースを見て、何となく分かってきた気がする。

これは要するに。

それが真実かどうかはどうでもいい。

結論としては、自分の意見を正しいように見せかけて。

毒舌であると言い訳しながら、他人のあら探しをして喜んでいる。

ただそれだけのものだったのだ。

勿論、違う例もある。

だが、少なくとも自分の意見と一致するコメントを拾って、並べているようなネットニュースはそうだ。

ネットの意見がどうのこうの、ではない。

真実はそんな所では無い。

そういえば、だ。

書籍の。要するに紙媒体のマスコミの資料も調べる。

やはりだ。

こちらも、「政府関係者」だとか、「業界に詳しいA氏」だの得体が知れない存在を繰り出しては。

自分達の記事に、「権威」を持たせようとしている。

要するに根は同じだ。

「自分が正しい」という事を言うためだけに。

ニュースも自分に似通った意見も利用している。

マスコミが人類の敵になったのはそれが理由。

銭ゲバで、自分の書いた記事で何万人死ぬ事態が来ようが平然と、「自分達は絶対正義である」とふんぞり返り続けたから。

ネットニュースがそれと同レベルだったのは。

どんなニュースでも我田引水で自分の意見と同じにし。

それを承認欲求に変えていたからだ。

しかし、そうなってくると疑問が残る。

どうして、人が集まった。

腕組みして、小首をかしげる。

ネットニュースの嚆矢になり、アクセス数が一単位になったようなネットニュースサイトでは。

むしろコメントなどは最小限にしていた筈だ。

その辺り、まだ分からない事がある。

単純にコメントが面白いから見にいっていたのか。

いや、どうもそうとも限らない気がする。

話題性があったからか。

いや、当時はそこまでネットのアクティブユーザーは多く無かった。ネットニュースサイトが流行り始めた頃は、まだSNSはそれほど本格的ではなかったのだ。

ならば何故。

だいたいの、論ずるに値しないネットニュースについては結論が出たが。

まだまだ分からない事はたくさんある。

少し頭を冷やすか。

膨大なデータを取り込んだのだ。

やはり疲れる。

神話生物のキグルミを脱いで、SNSをログアウトする。

アバターは、人間の感覚などに影響を与えないように調整されているので。SNS内で人間離れした姿になっていても問題は無い。

夕食が用意されていた。

食べる事にする。

建設的ではなくてもいい。

むしろ破滅的でもいい。

他人の破滅を見るのは楽しくて仕方が無い。

総体として人間がそういう生物であることは分かっていても。

私はそうなろうとは思わなかったし。

その中にある良い熱量を。

今の世界で得られる範囲内で摂取して、自分を変えていきたいと思っている。

だから、悪い熱量についても知らなければならない。

論ずるに値しないレベルのニュースサイトについてはもうどうでもいい。

あれらが我田引水の代物である事は充分理解出来たし、もはや触れる必要などはないだろう。

「ねえ、ちょっと聞きたいんだけれどさ」

「何でしょうか」

「今まで必要ないから聞いてこなかったけれど。 私って名前あるの?」

「……」

何だか、個に対する意識が強くなってきたからだろうか。

実際、AIと事実上二人っきりで生活している分には名前はいらないのである。

更にはSNS上では、ハンドルネームを使うのが当たり前だし。

そうで無い場合は、アカウントIDで話をする。

「このコロニーでは、貴方の正式な名前は0193310となっています」

「あー、やっぱり数字か……」

「勿論、20世紀から生きているような人や。 世界がこの凍った時代になる前から生きている人は、親から貰った名前を名乗っています。 名前を変えることも、自由にできますよ」

「じゃ、名前何か名乗ろうかな」

AIはどうぞという。

元々管理用の中枢PCは、そういうのに柔軟に対応出来るのだろう。

AIは情報をそれぞれ共有していると聞いた事があるが。

私が名前を変えたら、それは一瞬で全てのAIに伝播し。そして他の人間誰もが知らないと言う訳だ。

何の意味もない行為だが。

私の中には、良き熱量を得たいという気持ちが生じ始めている。

それの第一歩としては。

かなり遅くなってしまったが。

やはり固有の名前、だろう。

「……アカリがいいかな」

「どういう理由で、ですか」

「私は良い人類の熱量を取り込んで、凍った世界の中でも輝きたいからね。 この世界を同行しない範囲内だったら、熱量も小さいアカリくらいが丁度良いんじゃないかと思っただけだよ」

「面白い考えですね」

夕食を食べ終わる。

名前をAIが登録する。

「それではアカリ。 風呂に入ったら、眠ってしまってください。 ストレスがやはりまだかなり残っています。 体に悪影響が出ますよ」

「分かってるよ」

アカリか。

ヒカリだと、ちょっと巫山戯すぎている気がする。例えば既に滅びた一神教の神は、最初に光あれとか呟いたとか。

いずれにしても、良い熱量というには、ヒカリはちょっと気取りすぎている気がする。

太陽とか星とかだと。

それはそれで、逆にこの世界に対する反逆になる気もする。

この世界の人間は凍った状態で、雄飛のために体力を蓄えなければならないのである。

だったら、太陽だの星だの、氷を溶かすような考えは駄目だ。

この世界には資源がない。

かといって、冷凍睡眠だの、遺伝子だけの状態だので過ごしていたら。雄飛の時にだけ都合が良く起きて、何も継承しない生物となり果てる。

地球を焼き尽くした生物として、私達は責任を取らなければならない。

雄飛の時には、地球の復興も同時にしなければならないというのは、AIに言われた事だ。

発つ鳥跡を濁さずと言う奴である。

もう地球人類に、地球をどうこうする資格は無いが。

だからこそやらかした事に対する責任は取らなければならないのである。

故に私はアカリでいい。

自分だけで輝ければそれでいいのだ。

他の人間には何も求めない。

自分だけで熱量を持ち。

それで完結出来れば、それでいいのだから。

 

4、結局その熱量は

 

膨大な情報を取り込んで、私は結局結論は出ないなと結論していた。

人間が矛盾だらけの生き物である事。

この結論に代わりは無い。

人間は表に出す出さないを関係無く、悪意に生きている存在であると言うこと。他者が苦しむのを心から喜ぶこと。

この結論も同じだ。

いずれにしても、最初期から流行り、一定数の評価を集めていたネットニュースサイトが、どうして熱量を得ていたのかは分からない。

それが負の熱量だとしても。

ただ、何となくだが、分かった気はする。

評判だ。

此処が面白い。

そういった評判があると、人が来る。

「面白い」と一定数が思うと、リピートして見に来る。

そして初期のネットサイトには。

そうさせるだけのものがあったのだろう。

更に言うならば。

当初は、ネットの容量そのものがそれほど大きくなかった。

動画によるニュース紹介などが出てくるのはもっと後だし。

自分の意見に近しいコメントを集めて、自分が正しいように見せかける夜郎自大の論外ネットニュースサイトが出てくるのは更に後だ。

売れた物が勝ち、という考えもあるが。

世の中良い物が売れるわけではない。

逆に言えば、勝った物が良い物ではない。実際問題、悪貨良貨を駆逐する何て言葉もあるほどだ。

ある程度の集客力を持っていて。

相応の時間続いた初期のネットニュースサイトも。

2010年代にはあらかたが終わり。消えていった。

それを考えると、複雑な気分だ。

それらのサイトが、公正で客観的な情報の拡散をしていたかというと、それはノーだろう。

今資料を見てみる限り、はっきりいってどうということもない。

マスコミと同レベルだ。

ならば、結論は出ているのでは無いのだろうか。

人間はどうしようもないものにも、集まることは普通にあるのだ。

それは見て来たでは無いか。

刹那の快楽を楽しむために動く。

それが人間だ。

私はそうならない。

それでいいのである。

さて、ネットニュースサイトの調査はコレで終わりだ。人間の矛盾まみれの性質と、更に言えば悪意に満ちた本能は、外宇宙に出るまでには改善しないといけない。

そうしなければ、SFに出てくる悪辣宇宙人が怖気を感じるような、最低最悪の侵略者として、宇宙でゴキブリのように繁殖することになるだろう。

私に出来る事は限られている。

だが、かの人。コピー魔王に出会ったことで。

私は熱量を持てる範囲で持つ事を知った。

だったら私は、持てる範囲で熱量を持ち。

創作が許されない程リソースが圧迫されているこの世界で。

少しでも熱量を。

リソースを食わないようにして、作らなければならないだろう。

AIが遺伝子改良して、外宇宙でもやっていけるように、人類を改造していく未来もあるかもしれない。

だが、人間は地球を焼き尽くした身だ。

出来れば自分で変わらなければならないだろう。

それには、愚かしい過去の行動と同じものでは駄目だ。

人間を万物の霊長と称する愚論も葬らなければならない。

SNSをログアウト。

AIに、ネットニュース関連の情報を圧縮しておくように指示。

「削除しなくて良いのですか?」

「うん。 何かの時、資料として使うかも知れないから」

「分かりましたアカリ。 それでは処置しておきます」

「よろしくね」

AIとの関係も、少し見直さなければならないか。

多くの科学者が、AIにいずれ人類は支配されるだろうと警告していたと聞いている。

事実今、ある意味人類はAIに支配されているとも言える。

だがそれは、AIが悪意を持ってしたことではなく。

人間の行動の結果である。

私はこのまま生き。

少しでも、人間としての熱量を持ち。

未来を自分の手でわずかでも良いから動かしたい。

そう思い始めていた。

 

(続)