おひさまのぬくもり

 

1、おひさまのぬくもり

 

とてもまばゆいお日様の光。

きょうもきもちがよい光で目を覚ましたわたしは、触手をのばしてお外へ向かいます。お日様の光は、とってもきもちが良いからです。

巣穴から出て、全身をぐっとのばして、ごきげんまんてん。

触手を全部伸ばすのはたいへんですが、隅々まで光を行き渡らせると、とてもきもちがよいのです。

この場所に住み着くようになってから、季節が二千六百回くらいかわりましたが。気候が安定しているこの場所は、とても住みやすくて、わたしのお気に入りなのです。

しばらく体を伸ばしていると、鳥さんが集まってきました。

今はおなかがべつにすいていないので、ほうっておきます。たぶん鳥さんたちも、わたしのおなかがすいていないことに、気付いているのでしょう。触手に止まったり、体の上に止まったりして、寄生虫をたべてくれるのでした。

まわる、まわるよ、おひさまはまわる。

ほうっておくと、すぐにお日様はしずんでしまいます。自然の摂理だから仕方が無いのです。

ですから、みんな、せいいっぱいお日様を楽しんでいるのは、みていてほほえましいのです。

気持ちよくなってきたので、歌うことにしました。

触手を全部震わせながら、世界への感謝の気持ちを、言葉に乗せるのです。

「lasdhfpodasuigoopsui、l;asdhpfcjdojpadsqpmcxpasdjohgopaurc;:;asnsvhdfasi9updjafso、l;dsjfposdhopfhgophgfiopunlda;ppqmc,:qpdfpawgh……」

気持ちよく歌っていると、わらわらとにんげんたちがやってきました。

わたしのおうちの側に住まわせてあげているものたちです。ちっちゃくて、あんまりおいしくないので、たべません。

そうすると、「山神様はとても機嫌が良い」「機嫌を損ねてはいけない」といって、食物をもってくるのです。

なんだかよく分からない理屈ですし、にんげんのいう「山神様」という寝言もよくわからないのですが、もらえるものはもらっておくのです。

「山神様が、ニエを欲しておられる!」

「すぐにニエを持ってくるのじゃ!」

にんげんたちの、としおいた個体が、どーでもいい事を叫んでいます。

意味は理解できるのですが、だからといってなにもかんじません。触手を動かして、しばらく歌を楽しみます。

やがて、にんげんが、いっぱいなにかをはこんできました。

くるまのついた台に乗せてはこんできたのは、よつあしだったり、ふたつあしだったりする、どうぶつがたくさん。とりさんもたくさん。それに、きせつのくだものがいっぱいです。

わたしはくだものがだいすきなので、早速食べることにします。

やまもりにたべものがつまれた台車を触手で掴むと、それごと体の上にある第二十七口にはこびます。

おひさまをたっぷりあびながらのお食事は、とても楽しいです。

台車を傾けて、お口にたべものをざらざらと流し込んで。口を閉じると、とても味わい深いのです。

「おお、山神様!」

「山神様が、ニエをお納めくださった!」

「豊作じゃ! 豊作を祈願するのじゃ!」

にんげんたちが、さわぎはじめます。

しょうじきどうでもいいので、しばらくお日様の光を楽しみながら、すきなようにさせておくのでした。

しばらく動かないでいると、にんげんがごにゃごにゃ、なにかいうのです。

豊作にして欲しいとか、獲物がたくさん欲しいとか。

別にわたしがいるだけで、辺りの土地は栄養価が増して作物がとれますし、ほうっておけばそれをたべてどうぶつやとりさんもふえるのです。

わたしを山神様とかよぶ人間がもう少し美味しければ、適当に増えたところでぱくぱくたべるのですが。こいつらははっきりいってちいさくて食べでもないし美味しくもないので、どうでもいいのです。

ただ、ふえすぎるとめんどうなので、ときどき病気を流行らせてまびいているのです。

そうしないとこいつらはすぐに調子に乗って、へたをするとわたしにさからったり攻撃してきたりするのです。

適当な数くらい、自分たちでかんりしてほしいのです。

よるになると、にんげんはいなくなりました。

にんげんたちの思考を読み取る限り、夜は山神様が恐ろしい悪神に代わって、人を食べるから、というのがりゆうだそうです。

なんだかどうでもいいので、おうちに戻る事にしました。

少し狭めの穴が、私にはとても心地が良いおうちなのです。丁度温度も下がりはじめているし、家に戻っておねんねするにはよいころのです。

おなかの中のたべものを消化しながら、わたしは、そろそろ季節がかわるころだなとおもいました。

 

つぎのひは、不愉快なことに、お日様が雲に隠れていました。わたしが起きてきたのに、隠れているなんてひどいです。

しばらく触手を動かしていましたが、お日様はいっこうに晴れません。

頭に来たので、触手をうごかして、術式をくみ上げます。

そして、お空に放ちました。

雲がある辺りで、思念波を全力で爆発させます。

そうすると、すぐに雲は粉々に消し飛んで、きれいさっぱりなくなったのでした。お日様がまた出てきて、わたしはだいまんぞくです。

からだをおうちから引っ張り出して、お日様をたっぷりあびるのです。

触手の隅々まで活力が行き渡っていくのは、とても素晴らしい感覚です。これでおひさまがずっとでていれば、さいこうなのです。

でも、そうなると、この世界の自転を止めなければならないのです。

できないことも無いですけれど。そんなことをすると、ご飯がいなくなってしまうので、やめておきます。

しばらくぼんやり日差しを浴びていると、またにんげんがきました。

いつもわらわらくる連中とは格好も少し違います。おひさまのひかりにちかい、人間の感覚で言うと「白い」ふくをきています。後、それの中に、人間の血液と同じ色が混じっています。

ここに来るのははじめてなのか、辺りをそわそわみまわしていました。

そのにんげんはわたしをしばらくみあげていましたが、なんだか悲鳴を上げて、にげていってしまいました。

別にどうでもいいので、放っておくことにしました。

また鳥さんが来ます。

美味しそうだから食べる事にしました。触手を伸ばして、十羽くらいをいっぺんに捕獲。第七口にはこんで、むしゃむしゃとたべます。

しばらくしょくじをたのしんでいると。

今逃げた人間が、ものかげからこっちを見ているのに気付きました。

うっとうしくなってきたので、触手で潰してやろうかと思いましたが。やっぱりめんどうくさいので、放っておくことにしました。

なにもかもがめんどうくさいのです。

この世界に降りたって、土着のなんだかつよそうな連中を全部ブチ殺して、或いはおいはらって。

おもしろおかしく実験動物をいじったりしてにんげんをつくったりしましたが。

いつのまにか、なにもかもあきてしまったのです。

さいきょうで何でもできるというのも問題です。

わたしのように、この世界にきた、人間が言う「神様」は、みんなこんなチョーシでだらけているようです。

たまに互いに戦ったりもしているようですが、じゃれ合い程度です。

退屈しのぎにもなりません。

全力でころしあっても、死なないのですから。

まったく、宇宙の中心にいるとか言うアッパラパーに変に強く作られたおかげで、なにもかもが退屈で仕方が無いのです。

少しくらい刺激が欲しいなあと、毎日思います。実際問題、おもしろがってお日様に突っ込んだ奴が生きて帰ってきてから、誰もなにもやるきがなくなってしまったのです。

お日様がぽかぽか辺りを照らしているので、眠くなってきました。

体中に四百七十個ある目を順番に閉じ、命令中枢への情報伝達を交互に遮断することで、七十ローテーションくらいでお昼寝をすることができるのです。

夜にほんかくてきにねるときには、体の周りにしょうへきをはるのです。

これは超新星爆発でも耐えるほどの強度があるので、にんげんなんぞがなにをしてもとっぱできませんし、他の生物にもむりです。

もっとも、しょうへきをとっぱされても、痛くもかゆくも無いのですが。

気がつくと、ゆうがた。

今日も、退屈な日が終わってしまいました。

おうちにもどるとします。

はいずりながら、おうちに戻ると。やはり、あのしろくてあかい服を着た人間が、木陰からこっちをみていたのでした。

いい加減鬱陶しくなってきたので、ぶっ殺してやろうかと思いましたが。

まあいいやと思い直して、おうちにもどって、わたしはぐうぐうねたのでした。

 

わたしはお日様が大好きです。

だからこの世界に着て、土着のやつらを駆除してから、なかまにいってこの場所をもらいました。

どうせみんな欲しい場所なんてなかったので、ある奴は静かにお昼寝できる水の底にすみつきましたし、別の奴は土の奥底でひとりあそびに興じることにしたのです。だれも、互いの土地がほしいやつなんて、いませんでした。

お日様が大好きです。

だから、曇りはきらいです。くもなんか、みんな一瞬で消し飛ばしてしまうのです。

きょうも楽しくひなたぼっこをしようと思って出てくると。めずらしく、人間がわらわら最初から集まっていました。

昨日いた、白くて赤いのが、うしろでに縛られてすわらされているのです。

しっています。

あの縛り方は本縄。

人間の体の構造を熟知して作り上げられた、絶対に抜け出せない縛りなのです。

なんで知っているかというと、人間の味を試してみようと思って、ちょっくら五十万匹ほどごはんにしたことがあるのですが。その時食べた奴の知識にあったのです。

言葉が理解できるのも、その時知識を手に入れたからなのです。

人間がまずいって言う知識も。

触手を揺らして何が始まったのか見ているわたしに、いつもごはんを持ってくる老体がいうのです。

「山神様!」

「中央から派遣されてきた巫女が、御座を汚してしまい、申し訳ございません! この者をニエにいたしますので、お許しくださいませ!」

まるでヒキガエルのように伏すにんげんども。

ちょっと面白いです。

このまま触手で潰して、辺りを真っ赤っかにしたらちょっと楽しそうです。べちゃっていきそうです。べちゃって。

力加減を間違えると、わたしがいる山ごと台無しになってしまうので、手加減が難しそうですけれど。

どうしようかなー。

よーし、やっちゃおうか。べちゃって!ぐちゃって!

面白そうですね!ぜひやりましょう!

そう思って、触手を振り上げようとしたわたしでしたが。白と赤の服のが、なんかいっています。

「貴方は、神様なんかじゃ無い……!」

そりゃあ、にんげんの定義した神なんてものじゃないです。

でも、なんだかちょっと、少しだけその言葉が面白かったので、触手を振り上げるのをやめてやりました。

「この無礼者! 山神様になんと言うことを!」

集団ヒキガエル化していた人間共が、赤白をぼこぼこになぐろうとしたので、ちょっと息を吹きかけてやります。

今度は車にひかれた蛙になりました。

おもしろすぎて、きゃっきゃっと声を上げたくなります。

人間は食べるとおいしくないんですが、こんな風にちょっかいを少し出すと、たまーにおもしろいですね。

白赤は、飛ばされず、地面にすがりつくようにして。

でも、こっちを見ています。

じっと疑うような目で。

いいです。とてもぞくぞくします。このまま触手で握りつぶして、頭をもみじおろしにしたら、とてもたのしそうです。

でも、これはころさないで、観察した方が、もっとたのしそうだと、わたしはおもいました。

「やめよ」

「山神様!」

「みな! 静かにせよ! 山神様が、10年ぶりにお言葉を賜る!」

また、ヒキガエルになる人間ども。

やっぱりつぶしたくなってきますが、まあそこは我慢です。たまには、がまんもいいでしょう。がまんがまん。

なーに、退屈を考えられないくらいの時間、我慢しているのです。

ちょっとの我慢で面白いのがでてくれば、とても嬉しくてたまりません。

「それはなんだ」

「はい! 中央の神殿から派遣されてきた巫女だという話です! しかし、神様をみて、神様では無いなどと、大変な無礼を!」

なるほど、だいたいのじじょうは理解できました。

わたしが面白半分にブチ殺しまくって、いちどこの島にある人間の世界は崩壊したのです。そりゃあもう、殺さなかった人間も、狩の感覚で、徹底的に殺しまくりましたから。あ、この面白半分に殺すという概念は、食べた人間の知識から得ました。人間って、そう言う意味でも面白いですね。自分たちで作ったのに、発見があるのだから、あるいみ有意義です!有意義!有意義!

それから、また独自の文化が創り上げられたらしいと、わたしがこの島中に張り巡らせた根から、情報が来ているのです。

つまり、中央というのは、人間の政権中枢ということなのでしょう。

わたしを調べに来たというのは、良い度胸です。

「ならば、ここにおいておけ。 すきなようにさせるがいい」

「よ、よ、ろしいのですか」

「くどい!」

少し強めに言うと、また人間共はカエルになるのでした。

いっそ、この赤白だけを残して、後はぺちゃっていこうかなーとか思いましたが。まあ、それは我慢です。

ほかのを生かしておいた方が、見ていて面白そうなのです。

だったら、残しておくとしましょう。

 

2、おひサまのぬくもり

 

巫女とやらは、なんとわたしのおうちの近くに住み着くらしく、山の周辺に住んでいる人間共に家を建て始めさせたのでした。

この形式は、確か神社と呼ばれている奴です。

おもしろくなってきました。わたしのおうちをこわしたり、ひなたぼっこをするのを邪魔するようなら、ぶっ壊すだけの事です。

それに、わたしを神様ではないとか宣ったのに、どうして神の御座である神社を作るのかが分かりません。

どういうつもりなのかは、本人と話してみると楽しそうです。

もちろん、飽きたら、その瞬間にぺしゃってやってしまうつもりですが。

わたしが住んでいる山は、てっぺんふきんが少し平らになっています。なんで平らかというと、最初に住み着いたときに、吹っ飛ばしたからです。

それから穴を作って、おうちにしました。

人間どもは、そのわたしのおうちを囲むように、なにやら手を入れています。一番大きな木を神木だとか言って、しめ縄とかいうものを結んでいました。人間の文化なんか、それこそどうでもいいのです。

他の人間共がいなくなると、巫女はひとりになります。

ひとりになっても、行動は代わりません。どうやら老廃物を洗い流す洗濯という行動をしているようです。

おうちから体を半分出して様子を見ていたわたしは、面白半分に聞いてみることにしました。

「巫女とやら。 お前の行動が理解できん」

「だから、私を側に置くことを、許したんでしょう」

「ほう?」

巫女の声は震えているのです。

あきらかにわたしを怖れているのです。

しかし、受け答えはしっかりしていて、面白いです。おもしろさを少し加点してしまいました。

「この国ができる前、大いなる災いがあったと記されています。 世界が闇に閉ざされ、多くの人々が亡くなりました」

ああ、それはわたしのしわざです。

狩取った後、人間を効率よく駆除するために、山を一つ噴火させましたので。噴煙でおひさまが遮られるのもうっとうしかったので、適当に駆除が終わった後、強引に噴火を止めましたけどね。

なるほど、人間の世界では、神話の一つになっていたわけですか。それこそどーでもいいことなので、忘れていました。

これを!おしえてやったら!

この赤白のはどんなかおをするのか、楽しみです!

でも、今は我慢します。

がまんです。がまん。がまん!がまん!

「だから、みな不安です。 貴方のような存在だけでは無く、多くの力ある存在が神様として崇められています。 中には強大な祟り神も存在していて、監視のために、神宮から訓練を受けた巫女が派遣されているんです」

事情を淡々と話す赤白の。

あいかわらずわたしを怖がっているのは見て分かるのですが。それ以外の光も、確実に目の奥に宿しています。

「前に、私が仕えさせていただいた神様は、とてもお優しい方でした。 貴方は、違う」

わたしは応えません。

目の前のこのちいさなのが、どんなことを言うのか、興味が消えていないからです。わたしを害するようなら、ぷちっと潰すだけですし。それも面白そうなので、寝ている隙を突こうとかしてきたら、わたしは小躍りしてしまいます。

「貴方は何者ですか。 自然の存在が力を得て、神様になった存在は、何柱も見てきました。 貴方は、それらとは根本的に違う気を発しています。 まるで、世の中の闇を、一点に集めたような……」

だからなんなのでしょう。

わたしにしてみれば、どうでもいいことです。ちいさな知的生命体、それもわたしたちが作った存在の末裔が、何をどう定義しようと、しったことじゃありません。

わたしたちの常に発している精神思念波は、脆弱な生物だったら側にいるだけで精神を破壊されると聞いています。

この星の生物どもは、わたしたちの精神思念波には耐えるくらいの精神強度をもっているようですが。

それを闇とか定義しているのは、おもしろいですね。

とっても面白くて、また国ごと蹂躙し尽くしてやりたくなります。まあ、めんどうくさいですし、食べてもおいしくないので、やめておきますけれど。でも、なんだか、人間にちょっと興味がわいてきました。

この赤白の、食べてしまおうかなあと思います。

まずいですけれど、この赤白がどんなことを考えているのか、ちょっと知ってみたいですし。

会話なんてまどろっこしい手段だと、どうしても知識を得ることはできない部分もありますし。

「私、貴方の側にいようと思います。 貴方が危険な存在である事は、一目で分かりました。 でも、人間に殆ど興味を持っていないことも、その存在に価値も見ていないことも分かりました。 だから、側で見張ろうと思います。 私に何ができるかは、分かりませんが」

触手を伸ばそうとして、止めます。

逃げる気は無く、わたしの側にいると。危険だとわかりきっているのに、自分が微力だと知っているのに。

見張るために、側にいるのだと。

何だか面白いです。

全部ぷちっとやっちゃうのではなくて、手とか足とかもいだらどんな風に動くのかが、面白そうです。あっと、人間はちょっと手加減を間違えて壊すと、すぐに元に戻らなくなったり死んだりするので、面倒ですね。一応直すことはできますが、ちょっと違うだけで、随分精神に損傷を受けるようですし。

どうしようか悩んでいると、赤白のは洗濯に戻りました。

しばらく触手を動かして、どうしようか考えます。

この赤白のを食べれば、全部理解できそうです。というか、理解できます。人間如きの解析は、全部済んでいるのです。食べれば脳の中に何があるのだとか、得ている情報とか、全部解析が可能です。

でも、なんだかもったいない気がしました。

此奴はひさしぶりに、わたしを退屈させないでいる存在なのです。人間は多く見てきましたけれど、どれもこれもつまんないのです。これは違う。まあ、飽きたらぷちっとやっちゃうか、或いは食べてしまうか、どっちか二択で確定なのです。

もうお日様も沈みましたし、休むことにします。

今日一日が、いつもにくらべて、随分短く感じました。いつもは退屈を避けるために、色々と脳内で一人遊びをしたり、お昼寝に時間を費やしたりするのですが。今日はその必要もありませんでした。

なんだか、赤白のをどうするか、考えるだけで。

ちょっと、退屈が紛れそうなのです。

 

赤白が暮らすための家ができました。

わたしが殺さないようにっていったからか、周囲に住んでいる人間共は、むしろ積極的に赤白のに協力しているようです。

野菜とか果物とかを分けている個体も見かけました。

これは恐らく、わたしの「お気に入り」だと、赤白の事を判断しているのでしょう。なるほどー、それであわよくば、わたしの関心をかおうともしているわけですね。さすがの!さすがの!浅はかさ!です!

こういうアホな所は、さっそく潰してやりたくなる所です。

面白半分に、地下の対流している溶岩にでも働きかけて、地震でもおこそうかなあと思いましたが。

そうなると、多分このわたしの心地よいおうちもだめになってしまうので、やめておきます。

いざ動こうとなると、めんどうくさいのです。

実際問題、動かなくても、なにもこまらないのです。おなかがすいたところで、その気になれば栄養なんていっくらでもこの場でかき集めることができます。たとえばですねえ、人間共に、わたしのごはんになれーと、精神波を送れば、瞬く間に何十万とこの山に集まってくるのです。鳥でも虫でもそれは同じなのです。

それに、いきものじゃなくても。

つちからも、くうきからも、栄養なんていくらでもとることができるのです。

お日様だって、その気になれば栄養にできるのです。だから、別に動かなくても、大丈夫なのです。

山に入りやすくなるように、階段をつくって、鳥居という入り口の印も立てていました。全部作るまでに、季節が一つ変わるほどの間が掛かりましたが。しょうじき、作る過程はどうでもいいので、ぼーっと眺めていただけです。

おひさまのひかりを遮ることを許さないと、わたしはなんどか言っておいたので。

とりあえず、わたしのおうちに邪魔な屋根とかは作らなかったようです。赤白が暮らしている所には、屋根がありましたけれど。

人間は脆弱です。

雨が降ったら体を壊すとか、わらってしまうのです。

巫女だとか名乗る赤白は、毎日何だか儀式的な行動をしています。水をかぶったり、白いヒラヒラがついた棒を振るったり、くるくる廻ったり。

わたしに対してそれで働きかけているのかと思ったのですが。聞いてみると、どうもちがうようなのです。

「貴方は、これが何に見えますか」

「儀式」

「そうです。 儀式というのは、表向きは神様に捧げるために行います。 でも、実際は、人間が不安を潰すためにしているんです」

これは面白い事をいいだすものです。

わたしの反応を引き出すためかと思ったら、どうも違う様子なので、またちょっぴり面白さに加点です。

赤白のが言うには、実際に人間に加護を与える神様なんて、殆どいないのだとか。

殆どは何ら関心が無く見ているだけか、もてあそぶか、実際に手を貸す場合にも生け贄が目当てかなのだそうです。

それを聞いていると、面白くて笑いそうになります。

どいつもこいつも、わたしの同類ということなのですから。

しかしそれだと、解らない事があります。

どうして此奴は、わたしを神様ではないと呼んだのか。気配が違うという点だけなのでしょうか。

何だか、違う理由があるような気がします。

やっぱり食べてしまうのが早いでしょうか。

でも、人間はまずいのです。実に!悩ましいところですね!

「中央政府が作り上げた方式に従って、儀式の術式は組んでいます。 でも、これが貴方に効果を示さないだろう事は、私も最初から知っています」

そうですかそうですか。

実際蚊に刺されたほども効いていませんから、その言葉は正しいのです。最初はただの臆病なのかと思ってましたが。見れば見るほど、色々と頭をかち割って中身を見てみたい造りです。

儀式を終えた赤白のは、丁寧に私に礼をしました。

それから、屋根が無い神社を、掃除します。掃除の手際はとても良くて、日常的にしていた事がよく分かります。

はっきりいって、ぎゃあぎゃあ五月蠅い周辺の人間共よりも、手際が良いくらいです。

「御座の周りも、掃除しますか?」

「不要」

「分かりました。 貴方のお好きなように」

拒否されても、いやがる様子はありません。

多分、最初から拒否されることを、知っていたような感触です。どうやって知ったのかは分かりませんが。

ひょっとして、少し話しただけで、わたしの事を学習したとでもいうのでしょうか。

それはそれで!面白いのです。

いやはや、この赤白のを、食べるか食べないか、悩むだけで随分と楽しめます。五十万ほど人間の知識を喰らって得ましたが、これはそれらとは別次元で面白いのです。決めました。

飽きたら潰すのでは無くて、食べましょう。

どんな遠くに逃げても、絶対に食べるのです。

どのみち、人間の文明程度では、逃げられる場所にも距離にも限界があります。わたしは根を辺り中に張っているので、その気になればどこに逃げても捕食することができるのです。

赤白のは掃除を終えると、洗濯をはじめました。此処まで水を運ぶこと自体が重労働の用ですが、毎日文句の一つも言わずにやっています。何かあれば文句を言うのが人間なのに、面白いですね。

わざと洗濯の桶をひっくりかえしたら、どんな顔をするのでしょう。

と思っていたら、手際よくひょいひょいと終えてしまいましたので、がっかりです。此奴、さてはわたしが面白おかしく痛めつけようとしていたのに、先に気付いていたのでしょうか。

それはそれで面白いのですね。

「それでは、戻ります。 何か用事があるときは、この鈴を鳴らしてください」

ぺこりと拝礼すると、赤白のはいつものように、居住スペースに戻っていくのです。

ちょっと、この赤白のについて、色々と知りたくなってきました。

 

夜中に動くのは、久しぶりです。

おひさまのぬくもりが大好きなわたしとしては、正直な話起きているのでさえおっくうなのですが。

それでも、興味が勝ったのです。

触手を伸ばして、赤白のが眠っている建物を掴みます。そうすることで、精神波の三角測量を行い、知識と記憶を吸収できるのです。

人間の知識なんか、脳細胞の仕組みの一つに過ぎません。

外部の情報媒体も使っているようですが、人間の脳細胞は、基本的に覚えた事は忘れないのです。

人間が、それを引き出せないだけで。

測量完了。

起きている間にやっても良いのですが、寝ている間の方が、知識をよどみの無い形で得られるのです。

測量は終わったので、巣穴に戻ります。

で、知識を覗いてみたのですが、これがどうも妙なのです。

赤白のはどうやら人間の世界における最下層に生まれたらしく、両親の顔さえも知らない様子です。生まれてすぐに売りに出され、人間達が神様と呼ぶ存在に仕える者を育成する組織に拾われたようなのです。

普通、それだと生まれを恨みそうなものなのですが。赤白のは、あまり気にしていないようです。

その後、いろいろな虐待を受けたにもかかわらず、です。

やはり、分からなくなってきました。

どうもここに来たのも、その虐待の一環だったようなのです。人間の世界では、能力よりも血筋やこびの売り方が重視されるようです。赤白のは一通り修行とやらで、わたしのような存在と喋る術を身につけた後、厄介払いも兼ねて此処に送り込まれたようなのですが。

最初は怖がっていたのに。

むしろ、今では、死を楽しみにしている節さえあるのです。

なんだか、さらに面白くなってきました。おもしろさにちょっと加点です。

両手足をどんな風にむしったら面白いかというのも考えていたのですが、やめておきましょう。何だか喜ばせるだけのような気がしてきました。死にたいと思っているのなら、なおさらでしょう。

なら、わたしの体の中に取り込んで、永久に苦痛を味わせ続けるというのは。

それもとても面白そうです。いっそ殺してとか叫んだら、ちょっとわたしも大興奮なのです。

ああ、いつぶりでしょう。

どう殺すかを考えるだけで、いたぶり方を考えるだけで、こうも面白おかしいのは。

五十万ほど喰った人間は、老いも若きも雄も雌もいましたし、喰う端から知識も意識も全部取り込んだのですが、こんなに面白いのはいなかったです。

かといって、最近の人間はどうかというと、別に前と代わらないのです。

ここ最近は、ためしに張り巡らせた根を使って測量を行って知識や意識を吸収しているのですが。昔と代わり映えがしなくて、はっきりいって面白くありません。

体を蠕動させて、笑います。

退屈を終わらせてくれたのは、わたしも思いもしなかった存在でした。

せっかくなので。もっとこれで遊ぶことにします。

大事にしているものがあったら、目の前で壊してやりたいくらいなのですが。自分の命さえ大事に思っていない様子なので、それも難しそうです。

さあ、どうしたら心が折れるのか。

恋人がいるなら簡単です。家族がいるならもっと簡単です。

特にこういう若い個体は、恋人と称するつがいを痛めつけたり殺したりすると、自分の事以上に怒ったり心が折れたりするのです。つがいになっていなくても、つがいになりたいと思っている人間がいたりしたら、同じようにできるのです。

これでも、人間が一生涯に接するよりもたくさんの人間を、わたしは知っているのです。しかも、表向きの知っているではありません。

文字通り、あたまのなかみを全部しっているのです。

大事なものがあるやつほど、人間はむしろ壊れやすいのです。でも、さっき測量した感じだと、こいつには大事なものがあるようには思えないのです。

それがまた!面白くて、興味をそそるのです。

赤白のは寝ています。

ある意味、此処は一番安全で、一番危険な場所なのです。

最初は怖がっていたのに。

今は平然と寝ている赤白のは。よっぽどわたしとやっていく自信があるのか、それとも何もかも投げ出してしまっているのか。

どっちにしても、ころす日が、楽しみで仕方が無いのです。

どんな風にころすか、想像するだけで、面白すぎるのです。

久しぶりに徹夜をしてしまいました。

 

朝。

お日様が昇るのです。ぽかぽかなのです。

おひさまはとても気持ちが良いのです。

ついでにいえば、おひさまがあがると、今一番見ていて面白くて、どうころすか考えるだけで楽しくて仕方が無い赤白が起きてくるのです。わくわくなのです。

おうちから体を半分出して見ていると、赤白のが起き出してきました。赤白のは、起きてからすぐに、水を被るのです。人間の脆弱な肉体では風邪を引きそうなものですが、習慣になっているのか、壊れないのです。

最初は露骨にわたしにこびを売るために、赤白と仲良くしようとしていた周囲の人間どもは、何だか知らないですが、いつのまにか赤白を悪く思わなくなっているようなのです。たまにこの「神社」で何か催事を行うと、明らかに利害関係以上の所で、人間共が集まってくるのです。

中には赤白のをつがいにしたいと思っている人間も見かけられるようになりました。

うっとうしいので全部喰ってやろうかと思ったのですが。

でも、赤白は、そういう人間を何とも思っていないようなのです。中には求愛行動に出たのもいましたが、大体は断られて泣く泣く帰って行くのです。

人間は、雄も雌も欲望の塊なのです。特に性欲は他のどの生物よりも強烈なのです。これは生物兵器として作ったときに、増やすのを容易にするためだったのです。まあ、人間が言う愛などと言うのは、ようするにわたしたちが作った錯覚なのです。兵器として活用しやすくするための。

愛とかのおかげで人間は異常な繁殖力を示すし、相手を憎むことも簡単なのです。そして愛とか言うのを正当化する事で、どんだけ同胞をブチ殺しても、抑えが効かなくなるのです。

そりゃあ、兵器として都合が良いように作られた感情なので、当然なのです。

こういう事実を突きつけて、心がブチ折れるのをみたいのですけれど。

しかし、本人がまるで交尾に興味を見せないのでは、どうしようもないのです。つがいができたら真っ先に八つ裂きにして、目の前で原型が無いほどぐちゃぐちゃにしてやろうとおもっているのですけれど。その日は遠そうなのです。

心をー、おりたいー。

触手をわきわきさせて見ているのですが、これではちょっと退屈です。いっそ他の方法で、心を折れないでしょうか。

うでとかあしとかもげば、一緒に心が折れないでしょうか。

食事をしようと、火を焚き始めた赤白のに、声を掛けてみます。知識や意識は測量済みなのですが。圧力を掛けて出てくる反応が、面白いのです。

「巫女とやら」

「何ですか。 今、朝食の準備中ですが」

「お前は何が一番怖い」

「今は貴方です。 貴方は気まぐれで、世界を滅ぼしかねませんから」

こっちを見もしないで、うそばっかり言う奴です。

こいつの頭の中は既にみているのです。そうすると、ああまどにまどに!というかんじではないのです。

もちろん、わたしのことなんて、怖がってはいないのです。

最初は怖がっていたようですが、今はもうへいちゃらなのです。あるいは、わたしに慣れてしまったのかもしれないのです。

「昔は他に違うものが怖かったのか」

「周りの人達が」

「ほう?」

そういえば。

のぞいた知識に寄れば、こいつは売り物だったのです。人間の貨幣と交換されて、モノとして扱われるそんざいだったのです。

周りの人間は、基本的に弱者と見なした赤白を、徹底的に痛めつけていたのです。髪を引っ張ったり、水を掛けたり、掃除をさせたり。

人間は退屈になると、暇つぶしと称してどんな愚行でもするのです。

そこは、わたしたちと同じなのです。

まあ、当然の話ですね。わたしたちが作ったんですから。

「それで、以前激高した村人共に囲まれても、絶望はしていなかったのか」

「むしろ、あれで頭が冷えました」

「ほう?」

「私は最初、これでやっと自由になれると思っていました。 以前は神様と接する機会があっても、監視がついていましたから。 今回は、初めての一人での仕事でした。 だから、自由が認められたと、思っていました」

つまり、今は思っていないと言うことなのですね。

そういえば、こいつは。普通護衛がつくような道を、一人で歩かされていたようなのです。

どう考えても、自由と言うよりも。

死ねと言われている様なものだったのですね。

なるほどー。これが、人間が大好きなイジメという奴なのか!そうなのか!また一つ、勉強になってしまいました。

ようするに赤白はどうしてか人間の他のに、気にくわないと思われているわけなのですね。

だから死ねと。

周りは、赤白が、死ぬような事を仕向けたのです。

そして、赤白も、それを内心気付いているのです。

多分、気付いたのは、わたしを見た時だったのでしょう。なるほどー、それなら合点がいきます。

最初は怖くて、頭も整理できなくて。

でも、だんだん分かってきたという訳なのでしょう。

ここで、自分は。

同じように、孤独で。

周りぜんぶが、ころしてやろうと考えていて。

あるいは、性欲のままに蹂躙しようと思っていて。

そして、けっきょく、いためつけられるためだけに生きていると。

なるほど!なるほどなるほどなるほどなるほどなるほど!がてんです!がてんがてんがてん!がてんが行きました!それなら、わたしを最初以外怖がらなかったのもなっとくなのです。

この赤白のは、いっつも虐待を受けて育ち、ついでにいえばいつころされてもおかしくない環境で暮らしていたという訳なのですね!

つ、ま、り!

ここと、他が、同じだったという事です!

見事な理解!

我ながら、冴えまくったあたまがほこらしいのです。

さーて、わかってしまったし、どうしましょうか。赤白の、そのままぺしゃってつぶしてしまっても良いし、食べてしまっても良いのですが。

ふと、思います。

此奴は今、いつころされてもおかしくないと、自分でも思っているのです。そんなのを襲ってころしたところで、なにも面白くないのです。多分、あらゆる種類の苦痛の限りを与えて、人間が思っている「尊厳」だとかを徹底的に蹂躙したところで、こいつは悄然と受け入れるにきまっているのです。

心は、ブチ折れないのです。

「貴方は一体、何を得たら退屈から解放されるのですか?」

いつの間にか、赤白がこっちを見ているのです。

退屈。

そういえば。

此奴の事を理解してしまってから、また退屈になりました。見ていても、大体は判断ができてしまうのです。

「さあ。 分からんな」

「そうですか。 何だか似たもの同士かも知れませんね。 私達」

まさか人間如きに、同格の存在だとかフかれるとは思いませんでした。

ちょっと不愉快なのです。

ただ、どうしてでしょう。

ちょっと不愉快なくらいでは、此奴を潰そうとは思わないのです。此奴は面白おかしく虐殺したいのです。

おうちに体を戻します。

せっかくですし、思考を進めておくとします。似たもの同士とかフザケた事を言われたのです。

やっぱり、面白半分にころすには、心を折るにはどうしたら良いのか、考えるのが楽しそうなのです。

その楽しい時間を、わたしは大事にするのです。

たいくつのつまらなさを、知っているから。

 

3、オひさまのぬクもリ

 

一年が経ちました。

まだ成長期だとかで、赤白のは少し背が伸びました。もっとも、人間の雌の中では、背丈が低くて性的な特徴も薄く、成長が若干遅めなのです。取得してきたエサが良くなかったのでしょう。まあ、此奴の周囲からの扱いは、頭の中を覗いて知っているので、頷ける話なのです。

今は周りの人間がエサを持ってきているので、それなりに食べる事ができているようですが。

此処に来る前は、周囲に比べて著しく栄養価も味の質も落ちるエサを食べさせられていたようなのです。

普通、赤白の年の人間を、単独で派遣などしないという事で、如何にこれが周りから嫌われていたのか、よく分かります。

此奴の心をへし折って面白おかしくブチ殺すために、わたしも色々と調査を進めてみたのです。

そうしたら、見事に何も無い!

記憶をたぐって、赤白のを知っている人間を割り出して、測量して知識や意識を吸収してみたのですが。

それこそ、家畜と同類か、痛めつけて楽しむオモチャくらいにしか思っていないのです。

同じようなことを何匹かの人間で調べてみましたが、どうも面白い事が分かってきたのです。

赤白のは、そもそも周りの人間が、見下して安心するために、奴隷からわざわざ買い上げられたという事。

公認で暴力を振るっても良いし、差別して良い存在として、扱われていたという事。

それなのに、成長するに従って、人間の基準で可愛らしく育ったという事。

しかも、巫女としての才能もあったらしいという事。

などなどが重なって、人間共にとっては、不快きわまりない存在だったようなのです。それこそ、ぶっ殺してやりたいと周り中が思うほどに。特に、雌達にとっては、ころしても飽き足らないほど不快だったようなのです。

要するに、アレです。

自分より下だと思って鼻で笑っていた存在が、自分よりも上だと気付いてしまったのです。

まあ、人間は基本的に、自分より下の存在を設定して、やっと安心して自我を保てるようなくだらない生物なのです。

五十万匹ほど喰って、そいつらの全部を知り尽くしたので、よーく知っているのです。何より作ったのはわたしたちですしね!

そんなくだらない生物にとって、自我のありようを脅かす存在は、ころしてやりたいものなのでしょう。

実にくだらない!

そのくだらなさが、わたしたち好みです!赤白で遊び尽くしたら、また人間は面白半分にブチ殺しまくって、遊ぶとします!それがいい!それがとっても楽しそうです!退屈がなくなりつつあって、実に嬉しいですね!

それで、退屈を紛らわせてくれた赤白には、わたしなりにお礼をしたいなあと、最近は考えはじめていました。

洗脳してつがいでもよういしてやるか、それとも人間の基準でおいしいけれど全身が猛毒に浸されるエサがいいか、それとも孕ませてやるか。勿論生まれてくる子供は、わたしたちと同じ姿をした落とし子なのです。

本人が一番望んでいないお礼を押しつけるのが、一番楽しめそうです!

神社は去年に比べて、屋根が無い事は代わりませんが、それ以外は随分立派になったのです。

毎日赤白のが掃除を丁寧にして、もらった供え物を整理しているからなのです。

赤白が掃除を終えたところを、呼び止めます。

小首をかしげた赤白に、わたしは笑いをこらえるのを苦労しながら、聞いてみるのです。

「随分神社を立派にしたな。 仕えることも、しっかりしてくれている。 そこで、褒美をつかわしたい」

「……」

すごく悲しそうな目をしました。

ひょっとして、こいつ、わたしの意図に気付いているのかも知れません!うひゃほう!興奮します!

さてさて、意識を覗いてみましょう。

一番ほしがってないもの!

あ、そうです。

此奴が育った場所に送り返すというのはどうでしょう。それで、それ以外の場所を、全部焼け野原にするのです!

その気になれば簡単です。

ですが。わたしは、いきなり途方に暮れました。

此奴の心は、無そのもの。

人間が大喜びする、無の境地だとか、そういうのではありません。本気で何にもほしがってません。

もちろん、いやがっているものもないのです。

冗談抜きで、どうしようか困ってしまいました。

「貴方の意図は理解しています。 私が本気でいやがるものを、押しつけるつもりなんですね」

「だとすればなんだ」

「お好きなようになさってください。 私には、逆らう力も、逃げる意思もありませんから」

ぺこりと一礼すると、赤白のは家に戻るのです。

しばらく困り果てて固まっていたわたしなのです。

そして、思い始めました。

本当に赤白のは、人間なのでしょうか、と。

 

今日もぽかぽか、おひさまはとても優しい日差しがすてきなのです。気持ちが良いので触手を伸ばして、日光浴なのです。

何度調べても、赤白は肉体的には人間なのです。

しかし頭の中身は、どう考えても、周りの人間とは違っているのです。元々芯になるようなものがないから、ブチ折れない。かといって、空っぽというわけでも無い。周りの人間には、性欲と利権の対象としてしか見られていない。そう思っていない奴もいますが、赤白の本人が拒絶しています。というか、理解できない様子です。

完全に孤立した存在なのです。

群れを作るのが基本の人間には、珍しい存在なのです。実際問題、どんな事も「仲間のため」という言葉で許す傾向が、人間にはあるのです。ナカマナカマと言えば、不可解な関係性でも正当化されるのが人間なのです。

こいつには、明らかにそれがないのです。

人間の雌は幼体をかわいがる傾向があるのですが。

赤白は、神社に来た子供に優しくすることはあっても、内心ではなんにも考えていないのです。

多分目の前で子供をむさぼり喰って見せても、なにも反応しないことでしょう。

くあー。わからん!

理解の外にある存在です!

でも、それが面白い!

退屈の恐ろしさを知っている私だから、赤白の存在は大事にしたいのです。

にっこうよくをしながらぼんやり考え事をしていると、お供え物とやらが運ばれてきました。

どういうわけか、赤白は、わたしが肉よりも果物を好むことを知っているようなのです。台車の上には、果物が山盛りなのです。多分、第六感がとても鋭いのでしょう。巫女としての才能があるとか言う話ですし、よく分からないのですが、あり得ない事ではないのです。

「村の人達が納めてくれたお供え物です。 お納めください」

「……」

触手で台車を掴むと、丁度空いていた第八口にざらざら流し込むのです。

美味。

退屈が薄れると、味まで鋭敏に感じられるのですね!新発見です!

以前は人間共が供え物の度に大勢やってきて、その度にガマガエル化していたのですが。今は赤白のが、全部を取り仕切っているのです。

個人的には大勢来ても鬱陶しいだけだったので、それで構わないのです。それに食事はあくまで嗜好。

食べても食べなくても、別に死にはしないのです。

それより今は、赤白のをどう面白おかしくころすか、考える方が楽しくて仕方が無いですし。

赤白はきょうは、お掃除をしています。

時々大がかりな掃除をすることがあるのですが、その日なのです。わたしの家の周り以外は、ゴミ一つ逃さず、綺麗にお掃除しているのです。まあ、わたしの家に手を出さなければ、何もしないのです。

掃除が終わると、赤白のは、行商人とやらから、なにやら買い込んでいました。赤白用のエサのようです。

人間共が、赤白に金をたくさん払っているのは、わたしも知っています。だったら使えばいいような気がするのですが、それは殆ど使わず、最小限のエサしか買っていないようなのです。

栄養価も、それに人間が喜ぶ味についても、です。

よく分からないのですが、節制が身についているのだとか、赤白は言っていました。本当によく分かりません。

行商人が言ってしまうと、赤白は家に戻って、何か作業を始めたのです。何だか分からないですが、人間共に配るオフダだとかを作っているのだそうです。これも、実際に効果は無くて、人間を安心させるためなのだとか、赤白は言っていました。

わけがわからん。

だがそれが面白いところです。

基本的に、赤白のは、わたしのおうちのそばを動かないのです。

其処が赤白の新しい家だという事もあるのですが、時々赤白の所に来る手紙には、近況報告を求める文字が書かれているのです。

要するに、わたしの実力は、人間共も一応把握はしているのでしょう。

そしてどういうわけか、わたしに気に入られている赤白のを生け贄にして、人間共は安全を保っているわけですね!

人間らしい考え方です!

自分たちで不文律や明文法を作っておいて、それを蹂躙すると「人間らしい」とか抜かす生物なのです。

生け贄でわたしが静かになるなら、大いに結構というわけなのですね。理解しやすくて、とても素晴らしい。

此奴だけが、分からないのです。

夜になると、赤白のは本格的に家から出てこなくなります。とはいっても、思考や記憶はのぞき見しているので、何をしているのかは一目瞭然なんですけどね!

で、何をしているかというと。

交尾やその真似事だったら笑えるのですが、実際には殆どの場合は寝ているのです。そうでなければ仕事をしているのです。

此奴には欲望が無いのかと感じます。

実際、欲望がとても希薄なのです。

 

夏が来ました。

丁度、近くを通りがかった同じような存在がいたので、思念をつないでみます。そいつは土の中を進みながら、気まぐれに地震を起こしたり、噴火を起こしたりして、人間を間引くのが趣味の奴なのです。

なんでも、自分たちが作った人間が、適当に増えたところを減らすのが面白いのだとか。何となく分かる気がします。

此奴が歪んでいるのは、時々気まぐれに人間に文明とかを与えたりして、自分を神と崇めさせたりしている事なのです。

でも、歪んでいるのはわたしもお互い様なのです。ひひひひ。

「久しいな、土の」

「おお、貴様は風のか。 ふむ、最近何か面白き暇つぶしを見つけたか」

「面白い人間を見つけたのだ」

赤白の事を教えてやります。

どうころすか考えるだけで、面白くて仕方が無いのだと。

「それはステキなオモチャを見つけたな。 羨ましいことだ。 儂はこの間、離島に文明を作らせて、それを火山の噴火で丸焼きにしてきたところだ。 火山の噴火が儂の仕業だとも思わず、儂に必死に助けをこう人間共は、とても面白かった」

「それは重畳」

「時に、この惑星を離れようという同胞が増えている。 貴様はどうする」

「わたしはしばらく此処に残るつもりだ」

とはいっても、気が向いたらすぐにでもこんな星は離れるつもりですが。

多くの人間を見たから知っているのです。

赤白のは例外的に面白いのであって、他がこんなに面白いわけではないと。

じっさいおひさまのぬくもりがわたしには丁度良い場所だから、しばらく此処に住み着いているだけなのです。

何かしらの出来事で、おひさまが気持ちよくなくなったら。

すぐにでも引っ越すのです。

面倒くさいですけど!

「土の。 お前はどうするのだ」

「儂はそうさな。 今度は少しおおきめの大陸に行って、其処の人間をいじくり回して遊ぼうと思う」

「相変わらずだな」

「うむ。 今度は適当に奇跡を見せてやって、それから一神教を作らせてみようかと思ってな。 それも、別々の民族ごとに接触して、一神教同士で、仁義なき殺し合いをさせてみようかなあと考えているのだ」

うひひひひと、土のは笑います。

わたしも、それを受けて笑いました。

いいなあ。

そんな程度の事で、楽しそうで。これは冗談抜きに羨ましいのです。

わたしも前はそういう事をして遊んでいましたが、いつしか不意に退屈になってしまったのです。

多分心が老いてきているのでしょう。

土のは心がまだまだ若いのです。羨ましいのです。

去って行く土の。

おうちから出てくると、珍しくおうちのすぐ側まで、赤白が来ていました。

「何か、良いことがあったのですか」

「どうしてそう思う」

「嬉しそうにしていると思いましたから」

「ふむ、巫女としての才能があると言うのは、本当のようだな」

実際、第六感でそこまで分かればたいしたものなのです。

そして、こいつは知っています。

これから少し先に、祭とか言うものが開かれます。

それは表向きはわたしを「慰めるために」人間が行うもので、赤白のは巫女としてそれを主催するのですが。

わたし自身は、祭とやらを、何とも思っていないと。

そうでなければ、祭が楽しみなのかとか的外れなことを聞いて来て、わたしが即座に触手でぷちっと潰していたことでしょう。

体を裏返して、いつもおひさまに当てていない部分まで、あたためます。

体の下側にある第一口は、滅多におひさまに当てないので、こうしないとたまに寄生虫がわいてしまうのです。

まあ、そんなものは、駆除しようと思念を送るだけで、全滅させることができるのですけれどね!気分の問題なのです。

「久方ぶりに友と話したのだ」

「その辺り、壊さないでください。 修理が面倒ですから」

「窮屈なことだな」

思わず苦笑いしてしまうのです。

この図太さは、面白い点の一つなのですね。

「お友達も、貴方のような恐ろしい方なのですか」

「わたしよりもずっと人間が大好きで、人間の発展を見るのが好きな存在だ」

「そう……ですか」

此奴は、やはりわたしの言葉の意図を理解しているのですね。実に素晴らしい。発展させた後で潰して遊んでいる奴なのだと、今の言葉だけで理解しているのは、なかなかなのです。

祭の準備があるとかいって、赤白のは山を下りていきました。

赤白のが山を直接下りるのは、滅多に無い事なのです。とはいっても、張り巡らせた根で、動向はきちんと観察しているのですが。

そうしないと、何も知らない野生動物とかが襲ったりするかも知れないじゃ無いですか。そんなことになったら、実にもったいないのです。人間は何しろ脆いので、ちょっとした怪我からも感染症で死んだりするので、油断できないのです。

赤白のがいないと、退屈です。

おひさまが、随分味けないのです。

その日の夕方。赤白のは、周囲に住んでいる人間を、何百匹か連れて戻ってきました。随分たくさんですが、これが祭だと言うことなのです。ほとんどは老体ばかりなのですが、若いのもいます。

此処から、祭は夜通し続きます。

赤白がいないときは、ここに来ている老体がしきって祭とやらをやっていました。はっきりいって五月蠅いだけだったのです。

実際、赤白が取り仕切っている今でも、五月蠅いばかりなのです。

宇宙の中心にいるアッパラパーが、いつも寝ているのは、周囲にいる取り巻き共がどんちゃんさわぎをしていて五月蠅いからだと、わたしは思っているのです。なんだか、そうなった気分なのです。

赤白が、ひらひら踊り始めるのです。

奉納の儀とかいうものらしいのです。わたしにとっては、ふーんと呟くしかないものなのです。

いつもより少し薄い赤白のを来ているのです。

人間共は這いつくばってガマガエルもどきになっているのです。ただし、若いのはときどき、ちらちらと赤白のを見ているのです。

赤白のと交尾すれば、わたしにこびを売れると思っているらしいのです。さらにいえば、つがいになれば、やりたいほうだいだとも思っているのです。

阿呆な連中です。

赤白の頭の中を覗いてみると、とても面白いのです。

こいつはやはり、他の人間には、何にも期待していないのです。雌は愛とやらを求める傾向があるらしいのに、それも求めていないのです。

ひらひら踊りが終わると、酒を配りはじめます。

わたしにも酒がなみなみとつがれた杯がわたされたので、上にある第十六口からひょいと飲み干します。

わたしにとって、酒などは、嗜好品に過ぎません。

人間のように脳がおかしくなったりはしないのです。

「宴は丑の刻までです。 それ以降は、皆様自己責任で引き上げてください」

赤白が通告するのですが、はてさて聞いているのかどうか。

しかし、意外なことに。

人間が丑の刻と呼ぶ深夜にまでなって、わたしが触手を打ち合わせると。人間共は、めいめい引き上げていったのでした。

赤白のは、これから徹夜で後片付けなのです。

人間共はこれから山を下りて、更に宴を続けるらしいのです。わたしには知ったことでは無いですが。

宴の間、赤白はずっと正座をして、目を閉じていたのです。

その雰囲気におされたのか。

赤白のに話しかけようとしたり、交尾をせがんだりするオスはでてこなかったのでした。或いは、わたしが赤白の上で、触手をひらひらさせていたから、かも知れません。

「どうして、手伝っていただいたんですか」

「五月蠅かったからだが」

「そうですね。 貴方はそう言う方です」

そう言う方とは、どういう方なのか。興味が出てきたので、頭の中を覗いてみると、極端な自己中心主義者という意味だったのでした。

すばらしい!

まさにその通りです。

理解理解理解!きちんと理解している!

発作的に潰してやりたくなったのですが、寸前で触手を止めます。触手が動いているのをじっと見つめていながら、赤白のは全く怯えていなかったからです。ちょっとでも怯えていたら、山ごとぶっつり潰していたことでしょう。実に、惜しい!本気でころしたくなってきています。

明け方近くまで、赤白は人間共がちらかしたのを片付けていました。

人間共の信仰では、この日は無礼講で、何を騒いでもわたしは咎めない、ということになっているらしいのです。

お笑いですが、まあいいでしょう。

実際、わたしに無礼を働く奴はいなかったのです。

無礼を働いていたら、ぱくっとやっていたのですが。ぱくっと。今までの祭とやらで、なんどかそれはあったので、流石に人間共も学習していた、ということなのでしょう。まあ、その程度はできるんでしょうね!如何に低能でも!

ふらふらになっていた赤白ですが、それでもきちんと朝までに片付けを終えて、朝の仕事をして、そしてわたしにたいして何だかいつもの儀式だかを済ませると、寝床にひっこんだのです。

わたしもねていてもよかったのですが。

暇つぶしに、ふらふらになってまで働いている赤白を見ていました。此奴は周りになんにも期待していないのに、よく仕事をする気になるなあと、感心した、という事情もあるのです。

全く無意味だと知っているにもかかわらず。

どうして此奴は仕事をするのか。

寝ている赤白の頭の中を覗いてみると、理由は無でした。

理由などは、何も無いのです!

要するに、周囲には何も期待していないから、存在自体を社会の部品とすることで、生存するため。それだけが、目的なのです。

人間の感情なんぞ、作り物だと本気で思っている辺り、実に面白い。

興奮します。

それでこそ、わたしが今、一番惨殺したい奴なのです。

もし赤白に希望とかを見せることができたら、その後にどん底まで叩き落とすことができるのです。

よし、赤白に希望を見せる方法を考えて見よう。その後、絶望に叩き落とせば、ものすごく、ものすごーく!楽しそうなのです!

興奮しすぎて、この島ごと消し飛ぶかもしれません!おひょう!めっさ楽しそう!めっさ面白そう!

なんだか、随分久しぶりに。恐らく千年ぶり以上でしょうか。目的のようなものができました。

赤白のは、どうしましょう。

死んだらもったいないので、手を加えて死なないようにしましょうか。わたしが面白おかしく遊ぶまで生かしておくには、それが良い気がするのです。

ただし、それではせっかく面白い赤白の精神に、わたしによる加工の影響が出てしまうのです。それではもったいない。

しばらく悩んだ末に、何かしらの問題が起きて、赤白の生存が不可能になった場合だけ、不死処置を行うことにしました。といっても、わたしがころそうと思ったら、即座に死ぬように、調整はするのです。

問題は、どう希望を与えるか、ですが。

交尾相手を見繕うのはどうでしょう。

人間の雌は、つがいができると性格ががらりと変わったりするのです。これは生物的な本能からなのですが、赤白の場合は黙々とそれを受け入れるだけで、自分の子供にも多分心を開かないのです。笑顔くらいは見せるでしょうが。

それはそれで面白いのですが、人間が大好きな自家発電行為みたいでびみょうなのです。美学の問題で、却下。

じゃあ、友達を作るのはどうでしょう。

人間は異性とある程度仲良くなると交配の相手として認識するようになるので、それなら同性のがよいのです。

しかし、勘が鋭い赤白の心に潜り込むには、相当な完成度が必要となってくるのです。たとえば、赤白の保護が無ければ、死ぬような。しかし、赤白は、周囲の人間共に、世話をさせることが可能な立場にあるのです。

世話をしなければ死ぬようなものがいたとしたら。多分赤白は、周囲の人間共を呼びつけて、世話をさせるだけなのです。

人間の雌が好む子供でも、多分同じ結果になるのです。

ならば同年代の雌を、不自然では無いように接触させ、人間に何一つ期待していない赤白の考えを変えさせるというのはどうでしょう。

良い考えそうですが、赤白は勘が鋭い上に、此処から殆どでないのです。山に来てから一年ほどですが、外に出たのは都合四回。そのうち二回は、その日のうちに帰宅。他の二回も、二日で帰ってきているのです。

ちなみに何をしていたかは、全て把握済みです。

何しろ大好きなオモチャの事ですから!人間もあれです、自分の性的嗜好があった相手のことは、徹底的につけまわして、その全てを知ろうとするじゃないですか。わたしもその点では、人間と似ていますね!まあ、わたしたちが、自分たちの最も邪悪な部分をかき集めて作った、戦闘のためのオモチャが人間なのですから、無理も無い事なんですけど!うふふふふ。

さて、大筋の戦略は決まりました。

此処からは、肉付けに入るのです。

さて、適当なのを見繕うとしましょう。わたしはこの島の彼方此方に根を伸ばしているので、別に好き勝手な方法で人間を捕食したりいじくったりできるのです。

おおっと、この島にある政権の首都で良いのを発見です。

性欲のままに子供を作ったつがいがいます。育てられないからと言うすてきな理由で、ドブに産んだばかりの雌の子供を捨てているのです。とっくに子供は息絶えているのです。たぶん、餌を与えていなかったのでしょう。しかも、捨てたのは常習犯らしく、全然心さえ動いていないのです。

人間が持ち上げている母性とやらが妄想なのだと、よく分かる現実ですね!

ご褒美に、二匹には、そのままわたしの触手でぺしゃんこの刑を差し上げるのです。なんと、二匹仲良く赤い肉片なのです!人間が言う、「永久に一緒」という奴なのです。片方は性欲が目当てで、片方がお金が目当ての、ヒモとかいうすてきな関係だったようですし、何とも幸運な奴らですね!

で、既に泥まみれの死体になっている幼児は、そのままぱくっと回収です。まずいですが、我慢です。もっと楽しい事のためには、多少の我慢や努力ぐらいは、しなければならないことなのです。

食べたので、全構成情報を吸収できました。

後はそれを元に、生きていて、栄養状態がそこそこであれば、十二年後に取る姿を再構成です。

ふんふんふふーん、ふふふんふーん。

にーくをこねこね、わたしのりょうりー。

できました!

まあ失敗したら、その場でまた別のを作るだけなのです。後は、どんなふうに出会わせるか、ですね。

境遇は赤白のと近いですし、設定は、そうですねえ。

酒浸りの親に体を売らされていたところを、暴力に耐えかねて逃げ出してきた。うん、それっぽくて、良い感じです。

で、此奴が赤白のにかくまって欲しいと頼み込む。

ヒモの親は地元の名士で、村人達では情報を売られる可能性がある。

ふふーん、我ながら、なかなかのそれっぽさです!人間関係に乏しい赤白のですし、これなら良い感じに懐には入れるはずです。

格好は、今潰したクズ……おっと、すてきなご両親から、服装だけをコピーして再現です。それくらいは、わたしに掛かればちょちょいのちょいなのです。

よーし、できました。

さて、これをけしかけて。後は、赤白のを、絶望の果てに、叩き落とすだけなのです。

 

4、オヒさまノぬくもり

 

丁度良い感じの、嵐の日なのです。

鬱陶しいので、山の上の雲を消し飛ばして、わたしだけはお日様を楽しんでいました。早朝にお日様を強引に露出させたわたしを、呆れたように赤白は見ているのです。

「自然の摂理は、貴方の前では形無しですね」

「わたしにとっては、お日様を浴びる権利こそが摂理の表れである」

お日様は露出するにしても、何しろ嵐の日です。

風に紛れて、色々飛んでくるのです。

赤白のは、それを黙々と掃除していました。屋根が無い神社のなかのものは、既に倉庫に片付け済みです。

見ていると、有能なのは、決して神事だけでは無いのです。

生まれがどうの人間関係がどうので、有能な人材を放り捨て、ころそうとする。さすがは人間!

そのあまりのくだらなさに、笑いが止まらないのです。

さて、仕込みは充分です。

使うとしましょう。

わたしのなかで眠らせて保存していた、赤白絶望用の肉人形を動かします。記憶の偽装は完璧。

「本人」も、自分の記憶が嘘だとは思っていません。

この肉人形に、お前はわたしが作った、赤白を絶望させるためだけのオモチャなのだと教えたら。それはそれで、実に!面白そう!なのです。

我慢我慢。

赤白を絶望させる方が、よりおもしろいのですから!

掃除を終えた赤白が、飛んでくるこの葉を見て一つため息。

「きりが無いですね」

「自然の摂理ではないのか」

「そうです。 ただ、この時期は、それを煩わしく感じてしまいます」

なんなら、この近辺の木を全部斬りでもすればいいのに。

ほうきで枯れ葉を払っていた赤白のが振り返ります。

わたしが作った肉人形が、丁度坂を駆け上がり終えたところでした。

 

かくまって欲しいと言う肉人形に、赤白のは無言で自分の家に上がるように促し、エサを出していました。

わざわざ、自分用の昼食を、です。

そして、どこから来たのか、何からかくまって欲しいのかを、順番に聞いていくのでした。

自分より年下に見える肉人形に、赤白のは丁寧に話をして。

肉人形も、それに順番に答えているのです。

見ている限り、話に矛盾は出ていません。そりゃあそうです。二千人分くらいの記憶から抽出して、矛盾が無いように仕上げているんですから。

「分かりました。 しばらく此処においてあげてもよいです」

「本当?」

「ただし、此処にいる神様は大変気まぐれで、残酷です。 機嫌を損ねたら、すぐにころされるかも知れません。 いつも気は配ってください」

「ひ……」

青ざめる肉人形。

感情は豊かに調整してあるのです。

「それと、私にも、生活にさほど余力はありません。 貴方にも、ある程度働いてもらいます」

「それは勿論。 良かったー。 助かったよ!」

わたしの話をするときに、赤白のは意図的に恐ろしげに声を工夫していたのです。頭の中を覗いてみますが、看破している様子はありません。

うひひひひ。

これで、まずは第一関門突破です。

赤白のは、案の定全く肉人形には心を開いていないのです。というよりも、人間に対して心を開いた経験が無いのです。

ならば、ここからが、わたしの腕の見せ所です。

さあ、どうやって赤白を究極的な絶望へと導いていくか。導いてやったとき、赤白はどんな顔をするのか。

今からよだれが止まらないのです。

赤白のは、蓄えてあった金を使って、布を飼ってきました。それを使って、服をちくちく縫いはじめるのでした。赤と白の布では無くて、普段着に使う木綿の布地なのです。まあ、染めてある服なんてとても高いでしょうし、妥当なところです。

手先は不器用なので、見ていてとてもほほえましいです。何度も針を指に刺しているのです。

そういえば、自分の服を繕うときも、凄く苦労しているのです。ましてや、丈が分からない他人の服だと、更に苦労するようなのです。

わたしが助言してやると、ものすごく嫌そうな顔をするのですが。しかし、助言通り動くのは、実に面白いのです。

「わたしの言うことを聞くのは何故だ」

「処世術です」

「ほう?」

「そうしないと、折檻でしたから。 そうしても、なんだかんだと理由を付けられては、折檻されましたけれど」

そういえば、赤白のは人間共に取り押さえられたときも、逃げるそぶりは見せなかったのです。

おそらくは、逃げても無駄だと知っていたのでしょう。

服が縫い上がりました。

赤白のが肉人形に着せてやるのです。肉人形は、きゃっきゃっと喜んでいるのです。まあ、逃げてきたときは半裸だったので、喜ぶでしょう。そういう自然な反応をするように、組み込んであるのだから、当然です。

すごいぞわたし!流石だわたし!

まあ、失敗しそうなら、頭を触手でぷちっと握りつぶしてしまうので、別にどーでもよいのです。

赤白のはまだ肉人形をこれっぽっちも信用していませんし、今ブチ殺した所で、何ら影響は無いのです。

それから、赤白のは、遊びたい盛りの肉人形に、苦労しながら掃除や炊事、洗濯などを教えていきました。

そして、人間共が来ると、肉人形を紹介して、こう言うのです。

「この子は、不憫な出自ですが、しかし山神様のお気に入りです。 もしも危害を加えたら、天罰が下ります」

「へへーっ! 巫女様の仰せの通りにいたします!」

すっかり従順な下僕になっている人間共が、面白おかしい反応をするのでした。赤白が来てからわたしがおとなしくしていると、人間共が噂をしているのは、当然把握しています。赤白は、虎の威を借りていると知っていて、分かった上でわざとやっているのです。人間的では無い赤白でも、こういう所では人間なのです!こりゃあ、ますますブチ殺すときが、よだれが流れ出そうになるほど楽しみでなりません。条件反射!条件反射!これぞ、条件反射なのです!

肉人形には、碌な食事をしていなかった記憶を与えているので、とても上手とは言えない赤白の料理でも大喜びな反応が出るのです。

それを見ると、赤白は非常に複雑な顔をするのです。

胡座を掻いてがつがつ碗からエサを食べる肉人形に、まず赤白は箸の使い方かた教え、食べるときの行儀や、礼儀作法なんかも教えているのです。

覚えなければ、その場で殴られた。

そう、赤白の記憶にはあるのです。

なるほど、それなら嫌でも覚えるというわけですね!人間らしいすてきな教育方法で、実にわたし好みなのです。わたしも人間を育てることがあったら、逆らったら極限の苦痛、覚えなかったら極限の苦痛でやることにしましょう。うひひひひ、だって人間の中で、信仰を締める一番上位にある組織で、そういうやり方を採用しているのです。人間が、わたしのやり口に、文句を言う資格などは無いのです。

肉人形との生活をはじめて、赤白は少し大人びたように見えました。

わたしにとっては、つぼみが花開いた時こそ、滅茶苦茶に汚して蹂躙する時なので、じつに好ましい事なのです。

さあ、早く花咲け。

わたしは、ついつい、第十三口から漏れてしまったよだれを、触手でぬぐうのでした。

肉人形の才能は、わたしが少し手心を加えています。

つまり、ちょっち出来が良いのです。赤白が教えたことを真綿が水を吸い込むようにと言う表現通りに、全て吸収していくのです。

だって、展開が早い方が面白いでは無いですか。

勿論人間の域を逸脱しないように、工夫はしっかりしています。流石に一発で全部覚えると不自然なので、二度目くらいから覚えるようにはしてあるのです。まあ、わたしが操ってるわけでは無くて、そう動くように調整してあるだけなんですけれど。何しろ作ったのがわたしなのです。予定通りに、機能しているのです。

予定通りに動かない赤白が、絶望へ落ちるように、まずは希望をこの肉人形で与えてやるのです。

それには、ある程度の不可視要素も必要だろうと、わたしは考えているのです。

だから、全てを操作するのでは無く、最初に与えた機能通りに動くように、見ているだけでいいのです。

まあ、あまりにも予定から外れたら、その時はぷちっ、なのです。

赤白は手が増えたと言って、生活の水準を上げようと工夫しているのです。それを先読みするようにして、肉人形は動くのです。

風呂の時間になれば、薪を焚き始めるのです。

食事の時間の前には、下ごしらえを終えているのです。

洗濯は何も言われずにやるし、夜更かしもしません。人間共が来た時には、要件をきちんと聞いて、赤白に伝えに行くのです。

赤白が、不審そうに眉をひそめているのです。

これは失敗したかなと思った時、肉人形は言います。

「あたい、役に立ててるかな」

「とても役に立っています。 それが、どうしましたか」

「うん。 お姉ちゃんが、あたいのこと、とても冷たい目で時々見てるから。 昔の生活に戻りたくないから、頑張ってるけど。 迷惑だったかなと思って」

これは予想外の行動です。

泣き落としの類を、赤白のに掛けるとは思っていませんでした。赤白は冷酷な目でしくしく泣き始める肉人形を見ていましたが。

やがて、ぎゅうと抱きしめたのです。

反応を見ている限り、わたしが気付いた罠だと、気付いている様子はありません。

「大丈夫。 貴方は頑張っています」

そんなことを言いつつも、赤白は全く肉人形に心を許してはいないのです。それが、また攻略困難で、わたしの心をくすぐるのです。

そして、わたし自身も学習します。

こいつを赤白のが疑った理由は、多分よい子過ぎるから、なのだろうと。調整するかと一瞬思いましたが、まだ致命的な段階には行っていません。

もう少し、様子を見ることにします。

だって、破滅は破滅で、それはそれで面白いでは無いですか。

 

赤白を派遣した組織から、人間が来たのは、その年の冬のことです。

手紙をやりとりはしていましたが、どうやらまだわたしが赤白のをぶっ殺さないので、様子を見に来たようなのです。

見に来たのは、神経質そうな中年の女で、やっぱり赤白と同じ服を着ていました。

まず最初に、わたしに拝礼したので、適当に触手を動かして挨拶に応えてやります。それから、赤白の住んでいる家に行って、なにやら問責していたのです。

勿論、内容は全部把握していますがね。

祭に不備が無いか。

わたしが、赤白に対して不満を言うことは無いか。

それらをねちねち問いただしていました。話の間、追い出された肉人形は、敵意の籠もった目で、じっと赤白の家を見ているのです。

「どうした。 あの中年の女が気に入らないか」

「気に入らない」

「何故だ」

「お姉ちゃんがあんなに冷たくなったの、絶対に彼奴らのせいだ。 ときどき手紙書くとき、お姉ちゃんすごく怖い顔になって、感情も無くなってる。 今でも、きっと酷いコトされた時のこと、思い出すんだ。 寝てるとき、うなされてることも、結構あるんだ」

やがて、中年の女が、此方に来ました。

拝礼した後、わたしに話しかけてくるのいです。少なくとも、わたしの存在がどれほど恐ろしいかは、理解している様子です。

「如何いたしましょうか。 あの子は此方に引き取りましょうか」

「わたしはあれを気に入っている。 もしも余計な事をすれば、この国を根こそぎ焼き払うぞ」

「分かりました。 あの子はここに残させていただきます」

中年女の心の中が、灼熱の憎悪に満たされていくのが、手に取るように分かりました。

要するに、赤白のが気にくわないのです。

形はどうあれ、誰も御せなかった荒神を、見下していた相手が御しているという事実が、です。

実際には少し違うのですが、まあそれはどうでもいいのです。

わたしにとっては、人間がその事で感情を乱したり、絶望に身を焦がしたりするのは、素晴らしいと言うほどでは無いですが、見ていてそれなりには面白いのです。クズほど余計な自尊心が邪魔になるというのは、五十万ほど喰った人間から得た情報なのですが、どうやら間違いないようなのですね。おひひひひ。

中年女が帰ると、肉人形があかんべえをしていました。

赤白のはまだ肉人形に心を許していないというのに、甲斐甲斐しく慕っているものですね。

わたしが作った道具だと言うことを此奴に教えたらどうなるのか。それはそれで面白そうなのですが。

まあ、主食の前に、つまみ食いをするのは止めておきましょう。

がまん!がまん!がまんがまんがまん!

赤白のが、家から出てきました。

肉人形がむぎゅうと抱きつくのです。

「お姉ちゃん、酷いコトされなかった?」

「大丈夫。 何もされていないよ」

「此処から連れて行かれない?」

首を横に振る赤白の。

はて。

家の中の会話では、そんな話は出てこなかったのに、どうして確信できるのでしょう。頭の中を覗いてみると。

こ、こいつ。

この後、わたしがあの中年女とどう会話するか、ほぼ正確に予測していたのです。

やりますねえ。

まあ、知能が高めの人間だったらできても不思議では無いのです。

わたしが驚いているのは、此奴の知能にしては、随分と出来た事をしたなあという事実なのです。

わたしが見ている内に、知能が上がったのでしょうか。

それとも、よりにもよって、わたしの行動を理解しているという事なのでしょうか。つもりではないのは、今回の実績が証明しているのです。

ううむ、面白い!

ですが、どこか不快です。

それにしても、肉人形がお姉ちゃんと呼ぶのを、赤白のは止めません。どういう意図があるのか。

妹が欲しかったなどと言うりゆうはなさそうですし。

そうか、理解しました。

最初から此奴には何も期待していないので、何を言われても全く動じることも無いと言うことなのですね!

実に分かりやすい結果です!

でも、肉人形を甲斐甲斐しく世話しているのも、事実なのです。

何だか、分からなくなってきました。

ですが、それはそれです。

しばらく様子を見ることにするのです。

 

5、オひサまのぬくモり

 

大雨が降り始めました。

赤白のが来てから、三年目の事です。

なんだか嫌な予感がするのです。わたしはおうちに引きこもって、ぼんやりしていました。

おひさまが出る気配も無いのです。

 

赤白のを面白おかしくぶっ殺す計画は、最初から数年単位で実行するつもりでした。

ところが、です。

どれだけ時間が経っても、赤白のは、肉人形にまるで心を許さないのです。同じ布団で寝ようが、風呂に入ろうが、内心では全く信用していないのです。そもそも誰にも期待していないので、無理も無いのでしょうが。

肉人形はそれはそれで、自分がどう思われてるか理解しているのです。わたしが中途半端に賢く設定したので、まあそれくらいは分かるのです。

最近は、仕立てた赤白の服を着せられて、催事の真似事もしているのです。

祭の際は、赤白の手伝いをして、場合によっては踊ったりもしているのです。最初は猿みたいな頭でしたが、赤白と一緒に伸ばして、今は肩の先まで髪が来ているのです。

気に入られようと、必死に尽くしているのに。

赤白のは、それでも信用しないのです。

何となく、面白い事が分かってきました。

赤白のは、子供時代に自分がされたことを、そのまま返しているのです。とても暗い感情のまま、復讐を無関係の相手にしている、というわけなのですね。

これぞ!人間!

何だか、最初は肉人形はそうそうに潰して別の手をと思いました。そう思っていた時期も、わたしにはありました。

しかし今では、報われない肉人形を見ていると、それはそれで面白いのです。

何をやっても内心では相手を信用しない赤白の冷酷な対応を見ていても、大変楽しめるのです。

わたしじしんも、これは放置されているかのようで、どきどきなのです。

肉人形はたまに、わたしに愚痴を言いに来るのです。

此奴はどうしてか、わたしに同調を感じているのか、或いはわたしが人間にしてやったのかを内心気付いているのか。ともかく、わたしを怖がらないのです。

大雨で、赤白は神社を片付けると、蓑を被って出かけていきました。

留守番を任された肉人形は、大雨だというのに、わたしのおうちのそばに座って、話しかけてくるのです。

「今日のお料理、自信あったのに……」

「おいしいと言っていたでは無いか」

「でも、顔が笑ってなかった。 お姉ちゃん、今でも、上っ面でしか、接してくれないんだよ。 どうしたら、あたいを認めてくれるんだろう」

時々泣いていたりする分、此奴の方が、赤白よりもむしろ人間らしい、といえるのかも知れないです。

面白いですね!

実際人間が交尾して生まれた赤白のより、わたしが面白おかしく遊ぶために調整した肉人形の方が、人間っぽいのですから!

「山神様、あたいがどうしようもない親の子供だから、お姉ちゃんは嫌ってるのかなあ」

肩をふるわせて、しくしく泣き始める肉人形。

此処でお前はわたしが面白半分に遊ぶために作ったとか言ったら、精神が崩壊しそうですね!

まあ、自家発電みたいで美学に反するので、止めておきますか。寛大にも、やめておいてやるのです!

「だが、お前を嫌ってもいないようだが」

「そうかなあ……」

「嫌っていたら、小言や折檻が入るのでは無いのかな」

「お姉ちゃんは、そんなことしない! しない……!」

しばらく泣いていた肉人形ですが、大雨に打たれたまま、ぱたぱたと走り去ってしまったのでした。

ちなみに行き先は、家の中です。

先に風呂を沸かして入り始めたのは、風邪を引いてしまうと、赤白を心配させるから、という理由のようです。

汚してしまった服も、洗い始めます。

途中で何度も涙を拭いながら。

さて、赤白のは、ですが。

人間共の所に行って、何か集めています。大事そうに抱えているのは、エサですね。ごちそうを作るとかいって、蓄えを切り崩しているのです。

赤白のをしばらく見ていましたが、自身の快楽を求めることは、まず無いのです。ある意味人間らしくない、面白いオモチャなのです。

それが、祭の時期でも無いのに、ごちそうを買い込んでいるのです。

一体何をもくろんでいるのか、気になります。

そのうちに、肉人形は疲れて、寝てしまいました。

寝ているところを、引きちぎったり、引き裂いたり、頭を引っこ抜いたりしたら面白そうですけど。

だってあれですよ!ごちそうを買ってきているのは、絶対に肉人形のためです!そこをですね、持ち上げて落としたらどうなるか!

うひひひひひっ!どんな顔をするのか、見物なのです!

……しばらく悩んだ末に、止めました。

まだ、それでは絶望には足りないのです。

気まぐれで、ごちそうを買いに行ったのかも知れませんからね。

雨が、まだ降り続いています。雲に精神波を叩き込みましたが、今日の雲は分厚すぎて、ちょっとやそっとでは穴が空きません。

とりあえず雨脚は弱まりましたが。

少なくとも、赤白のが戻ってくるまでは、何も起きませんでした。

 

退屈だと思っているわたし。

赤白が戻っては来ました。籠を抱えています。大事そうに、ごちそうの材料を、たくさん入れているのです。

何を考えているのかと思いましたが。

読み取れないのです。

つまり、何も考えていないと言うことなのです。

家に戻ろうとする赤白の。

呼び止めると、被っていた笠を少し持ち上げて、此方を見ました。

「あの子は、貴方に愚痴を言ったのでは無いですか」

「その通りだが、どうしてそう思う」

「何となく分かります。 あの子は、私よりも、貴方を慕っているようですから」

ほう。

まさか、これは嫉妬。

しかも、わたしに対して、人間が嫉妬をしている。

面白くて、笑い出しそうになります。

この関係、いわゆる三角関係という奴ですね。わたしは赤白のが大好きです。赤白のは、肉人形が好きなのです。そして、肉人形は、赤白のもわたしのこともダイスキなのです。面白い事に、それらの感情の全てが一方通行で、相手はどうにも思っていないのです。

これは、まさに人間的な愛情関係!

まさかわたしがそれに巻き込まれるとは、思ってもいませんでした!

雨の中、一礼すると、いえに戻っていく赤白の。

赤白のは、肉人形が、自分よりも、わたしを慕っていることに気付いてしまっているのです。

これは、面白い。

このままこのねじれて屈折した関係を更にもう少し弄ってみれば、いっきに大噴火につなげることができるのです。

思いあまった赤白のが肉人形を刺したり。

逆に肉人形のが此処を飛び出したりしたり。

どんな状況になっても、わたしは大興奮なのです!

これは目を離せないのです。

案の定、料理を食べている間肉人形はにっこにこだったのですが。赤白のは、その間、ずっと無表情でした。

何を赤白のは求めているのか。というよりも、むしろ何をしたいのか。

どちらにしても、この歪んでねじれた関係は、破滅を予感させるだけで、大変に素晴らしいのでした。

やがて、雨が止みました。

雨が止むと、山の上にも、しっかりおひさまが出ます。

気がつくと、次の日になっていました。

退屈でまた死にそうになっていたわたしは、おうちを出て、おひさまのぬくもりを、精一杯に楽しむのでした。

さあ、どうなるのだろう。

これから、どうやって赤白のを惨殺してやろう。

どんな風に関係を掻き回して、持ち上げた後、落としてやろう。

不器用な愛情を肉人形に見せている赤白は、あれで、実は幸せなのかも知れないのです。あと一年くらい肉人形と一緒にいさせてやれば、全て思い通りになりそうなのです。そうなったら、目の前で、肉人形をぷちっと潰して、真実を笑いながら教えてやるのです。その時、どんな顔をするでしょう!

興奮しすぎて、よだれがぼとぼとこぼれてきました!

 

その時。

 

異変が、わたしをつらぬきました。

 

気がつくと、わたしの体を、巨大な矢が貫いています。

これは、なんでしょう。

わたしの力が、失われていくのです。

「な、なにもの……」

みあげたさきにいたのは。

チャリオットにのった、人間の老体なのです。手には、弓矢を携えているのです。

一目で分かります。

人間ぽい姿をしていますが、同類なのです。

「お前が油断するのをずっと待っていたよ。 あの哀れな娘を如何に面白おかしく惨殺しようか考えるあまりに、隙を見せる瞬間をな」

いえから出てきた赤白のが、矢に貫かれた私を見て、口を押さえるのです。

肉人形が、赤白のにすがりついて、悲鳴を飲み込むのが見えました。

老人ぽい奴に向けて、触手を伸ばそうとします。思念波を放とうとします。でも、からだが、もう動かせないのです。

なんという強力な一撃……!

「き、きさま……」

「眠れ。 お前が目覚めたときには、人間が、お前達の暴虐に耐え抜ける力を手に入れているだろう」

更にもう一本。矢が、体を貫きました。

ま、まってくれ。

せめて、赤白のを、面白おかしく惨殺させて欲しい。

お願いだ。後生だ。

呟きながら、触手を伸ばします。そして、気付いたのです。肉人形が、こっちを、拒絶の目で見ているのを。

「やっぱり……!」

「な……に……」

「うすうす、思ってた。 あんたの目的が、お姉ちゃんを酷い方法で殺す事なんじゃ無いかって。 しかも、面白半分に!」

ばかな。

そんなことに、此奴は気付いている様子は無かったのです。

赤白のと揃いの服を着ている肉人形は、だが、敬愛する姉貴分の腕を引いて、下がるように促しているのです。

「だから、あんたに困ったときには、相談するふりをしてた! いつか、絶対に、本性を見せると思ったから!」

「わたし……は……」

肉人形の頭に手を置くと、赤白のが前に出てきます。

そして、首を横に振るのです。

「知っていました。 それくらいは」

「お姉ちゃん!」

「山神様、教えてください。 わたしは、結局人間の社会では、孤独と孤立に苛まれてきて、今後も愛情を他人に与えることはできないでしょう。 結局それは真似事だと、気付いてしまいました。 でも、おかしいですね。 私は、いろいろな人に会ってきましたけれど、愛情なんて持っている人とは、ついぞ会ったことがありません」

この子は、貴方が作った、私を苦しめるための、道具だったんですね。

そう、赤白は言います。

馬鹿な。

看破している様子は無かったのです。

それにあの老体。

確か噂に聞いている。人間に味方して、我らの同胞を眠りに追いやっているという奴なのです。

こんな精確な攻撃が、いくら何でも来るはずがありません。

赤白か、それとも、肉人形か。

呼んだに間違いないのです。

分かりません。どっちにしても、矛盾が多すぎます。わたしが、人間ごときの考えを、看破できないわけは無いのです。

この老体が手を貸していたのでしょうか。

いや、そんなはずは無いのです。そもそも、こいつと接触していたのなら、すぐに分かったはずなのです。

「山神様、愛情って、何ですか。 それは、実在するものなんですか」

あげく。

赤白は、わたしにそんなことを聞きました。

わたしはしばらく馬鹿笑いします。だって、人間と言えば、愛情と閃きを自種族の特権的専売特許みたいに思ってるというか妄想している生物じゃあないですか。それが、冷酷残虐だとわかりきっているわたしに、愛情は何か聞くなんて。

「愛情だと! わたしも五十万ほど人間を喰らったが、そのようなもの、一方的な押しつけ以上で持っている個体など見たことが無いわ! くくくくくっ、それにだ! 貴様らも覚えておくがよい! 貴様らの存在は、わたしの存在によってのみ、成り立つもろいものだったのだと! わたしがいなくなった後、貴様らがどのような……」

三本目の矢を喰らいました。

休息に眠くなっていくのです。

ああ、悔しいなあ。

あとちょっとで、今までに無いほど、楽しくて面白い遊びができたのに。

わたしはまるで巨大な木のように変化しながら、そう呟いたのでした。

 

わたし達は、死ぬ事はありません。

多分眠りについている今でも。太陽に放り込まれても、死ぬ事は無いでしょう。老体に掛けられた訳が分からない術が解ければ、普通にまた動き出すようになります。

それに、眠っていると言っても、完全に意識が無いわけではないのです。

地上に降りてきた老体と、赤白と肉人形の会話も、普通に聞こえていました。

連中の会話を聞く限り、なんと二年以上前に、接触はあったようです。

ただし、巧妙に偽装されていました。わたしもそのことについては、うっかり見逃していたほどです。

しかしながら、普段だったら見逃さなかったような事であったのも事実。

わたしが、赤白のをおもしろがって、楽しくぶっ殺そうと考えはじめたとき。やはり、老体が言うように、隙が生じ始めていたのでしょう。

「すまぬな、二人とも。 危険な橋を渡らせることになってしまった」

「いいえ。 私達こそ、決断が遅れてしまって、申し訳ありませんでした」

くそ。

やはり、随分前から、此奴らは造反を計画していたようなのです。

どうして見抜けなかった。

老体が手を貸していたとは言え、いくら何でも油断しすぎなのです。わたし。

でも、いいのです。

退屈にころされそうになっていたのですし、しばらく眠るのも、悪くは無いでしょう。それに、此処ならば、お日様を気持ちよく浴びることもできるのです。どうせしなないのですから、ゆっくりすればいいのです。

色々と話をした後、老体はその場を後にしました。

じっと此方を見つめながら、赤白は言うのです。

「山神様。 貴方が残虐で非道な存在である事は分かっていました。 それでも、感謝はしていました」

感謝。

おかしな話です。

わたしがこいつを助けたのは、自分の快楽を満たすため。他の人間共と、変わらぬ理由だったのです。

それに此奴らは、どのみち永くは生きられないでしょう。

肉人形は、寿命の調整をしていません。いつ潰すか未定だったので当然とも言えるのですが、それでもしばらくすれば、年老いないから絶対におかしいと思われて、多分ころされるのです。

赤白のは、元々社会に居場所が無いのです。

ころされるために、わたしの所に派遣されたようなものなのです。しかもわたしがいなくなった事で、大変に立場が不安定になっているのです。

いずれにしても、もうころされるのは、ほぼ確定でしょう。

悔しいのは、わたし自身が、面白おかしく手を下せないことくらいでしょうか。

「私達は、しばらく此処で暮らします。 あの老人が、色々と知恵をくれましたから、きっと私が年老いて死ぬくらいまでは、誤魔化すことができるのだと思います。 問題は、この子のことですけれど」

肉人形は、虚ろな目をして、地面を見つめているのです。

うすうす勘付いていたとはいえ。

自分が、わたしが面白半分に遊ぶために造り出した人形だと知れば、それは精神に大きな打撃を受けることでしょう。

それが楽しいんですけれどね!

「私が年老いて死ぬまでには、何か生き残る術が無いか、考えて見ます」

もう一度、赤白のはいうのです。

わたしに感謝していると。

不快きわまりない言葉ですが。それでも、何だか納得はできるのです。利害だけの関係であったとは言え、赤白が生きるのに、わたしが貢献していたのは、事実なのですから。

おひさまのぬくもりが、とても気持ちよいのです。

触手を伸ばして、体一杯にぬくもりを受けられないのは、ちょっと不愉快ですけれど。

それでも、おうちのなかにいるときでなくて良かったと、思ったのでした。

 

人間の世界の時間は、過ぎるのがとても早いのです。

それから赤白は周囲の人間共を使って、神社を「立派に」修復したのです。多分、わたしの姿を外から見えないようにするのが目的だったのでしょう。

いちおう、屋根を付けずにおいてくれたのには、わたしも満足しています。お日様が出れば、ぬくもりぽかぽかなのです。

赤白が所属していた中央の神社も、何も言ってきません。

わたしが一度、赤白をころしたらぶっ潰すと言っておいたからでしょう。嫌いな相手とは関わりたくも無いというのが、彼らの本音なのかも知れませんね。人間らしい、姑息な自尊心の満たしかたなのです。実にくだらなくて、見ていて大笑いしたくなってくるのです。

この辺りの立ち回り、赤白が考えたにしてはできすぎています。

多分、あの老体が、知恵を与えたのでしょう。全く、余計な知恵を与えるものです。人間どもなどは、勝手に破滅に向かって舞い踊るのを見て楽しむモノだというのに。わざわざ知恵を与えて、破滅を回避させようなどと言う考え方が、わたしには理解できないのです。

まあ、見ていて面白いので、由としましょうか。

肉人形は半年くらいで立ち直ると、後は赤白と仲良く暮らしたのです。

ただしやはりある程度まで年を取ったら、それ以降は全く加齢しなくなったので、途中から顔を隠して行動するようになったのです。外に出る回数も減りました。

やがて、御簾を使って姿を隠し、外の人間と応対するようになっていったのです。

わたしは、それらの光景を見ながら、思います。

破滅すれば良いのにと。

そうしたら、面白いのに、と。

うつらうつらと眠りながら、それでも周囲が見えているわたしには。にんげんの強欲さと邪悪さが、わたしたちとまるで変わらないことが理解できています。

また、新しい楽しみができたかも知れません。

此奴らが破滅する時を、ただ待つという楽しみが。

わたしが目覚める前には、この奇妙な関係は、必ず破綻することでしょう。

その時が、楽しみでならないのです。

 

(終)