幸福なる誕生日

 

帰国子女、桐島英理子の趣味はオカルト研究である。 その教養は半端なレベルではなく

東洋から西洋、妖怪から悪魔、呪術から占星術

マジックアイテムにファンタジーの英雄と多岐をカバーし、しかも実際にその知識を戦闘でも

それ以外でも生かし、現実に役立ててきた。

セベクスキャンダルでも珠阯レ市の異変でも、生きたオカルト辞典として活躍したのは記憶に新しい

以前は様々な理由から自然な笑顔が出来ず、モデルの仕事で苦労してきた桐島であったが

今はそれも克服し、日本で一〜二を争う知名度の実力派モデルとして、現在は名を馳せていた

そんな桐島の元に、黛から電話がかかってきたのは、彼女の誕生日の一週間前のことだった

面倒見の良い黛は、旧エミルンペルソナ使い達の、実質的な幹事長をしている

黛の提案は、丁度日本に戻ってきている稲葉も交え、誕生会を開こうという物だった

残念ながら、上杉と城戸、それに弓月は欠席することが決まっているが

彼らはこの間の同窓会には出席していたから、特に桐島に不満はなかった

場所は小さなキャンプ場に決まり、そして当日が来た

 

「オッス、稲葉君、久しぶりだね」

「そ、園村も元気そうでよかったぜ。 あれ、南条、あのにくったらしい悪魔っ娘はどうしたよ」

「残念そうだな、稲葉。 彼奴は今日、はずせない仕事が出来てしまってな。

代わりに俺が楽しんできてくれと言われた

だから、彼奴の分も今日は楽しむつもりだ。 無論プレゼントは持ってきたぞ」

「相変わらずカタイ口調ー。 南条、若いのにオヤジっぽいってカンジー

せっかくなんだから、リラックスしなよー、リラックスー。」

「Huhu・・・みんな、変わりませんわね」

永遠の仲間達が、かってと同じ口調で、同じようにじゃれている

ナナミの急な欠席は残念であったが、それでも場には黛、南条、園村、稲葉、綾瀬が訪れており

それぞれが食べ物や道具を持ち寄って、炊事が行われ、キャンプファイアーがたかれ

最終的にはログハウスでの誕生会に移行した。 普通の楽しい同窓会だが、此処からは普通でなくなる

全員、桐島の趣味は知り尽くしている。 それが、非日常を場に呼び込むのである

 

夜が更けた頃には、園村が作った苺がやたら多いケーキを皆で(稲葉などは感涙しながら)平らげ

誕生会には恒例の、プレゼント贈呈が始まっていた

南条と稲葉は掌大の、綾瀬はカード状の、黛は少し大きな、園村は椅子に立てかけられるほどの

プレゼントをそれぞれ持ってきており、最初に綾瀬がプレゼントを手渡した

貰ったプレゼントを後で開けるか、先に開けるかは個人差があるが、桐島は後者である

これは彼女が帰国子女であるという事にも関係しているが、それはさておき、出てきたのは写真だった

「Ayase、これは・・・?」

「この間、旅行に行ってきたときの写真。 はじのほう、よく見て見てー」

「・・・Oh! Fantastic!」

しばしの沈黙の後、桐島が歓声を上げた。 其処には、あり得ない人影が映っていたからである

ペルソナ使いである彼女には、それが本物の霊が写った物であると理解できた

「ほほう・・・心霊写真か。 ペルソナ使いであるお前なら、悪霊を自力で撃退することも可能だな

よかったではないか、桐島。」

「ええ・・とても嬉しいですわ」

何か妙にずれた感触を受けた者は、長らく桐島とつきあってきた彼らの中にはいなかった

これが、桐島にとっては自然なのだ。 続いて稲葉がプレゼントを出し、中身は小さな物体だった

流石に何か分からず、正体を問う桐島に、頭をかきながら稲葉は応えた

「あ、それネイティブの村に行ったとき、貰った呪術具。 実際に魔力あるみたいだぜ

使い方は、英語で紙に書いて貰った。 後でよんでくれや」

「It’s great! 有り難う、Mark! 大切にしますわ」

「次はあたしだね。 はい、これ」

黛が差し出したものは、古ぼけた弓であった。 魔力を秘めているようであったが・・・

当然説明を求められ、黛は応える。 以前取材に行った時、小さな山寺を藤井と共に訪れ

其処で毎晩現れる悪霊を、藤井が知らない間に退治したところ、住職にこっそり貰った物で

何でも、鎌倉時代に武芸者が、狐の物の怪を退治したときに使った物だとか。

説明を聞く内に、桐島の目は輝き、弓に頬をすり、そして言った

「Thank you、Yukino! 素晴らしいプレゼントですわ」

「じゃ、私だね。 はい、これあけてみてー!」

園村の大きなプレゼントは、案の定絵であった。 それは巨大な蛸のような怪物を書いた物で

下には変な人物が蛸の足に巻き取られ、もがき苦しんでいる。

誰の目にも、悪魔をモチーフにした物だとは分かるが・・・

「Maki、これは?」

「えーとね。 邪神ハスター。 この間パォフウさんが発動させてるの見て

格好いいからスケッチさせて貰っちゃった!

パォフウさん、ずっとペルソナ出してたから、後で死にそうになってたけどね」

皆がパォフウに同情する中、稲葉は別の感情を覚えていた

確かに奇矯な絵であるが、絵からは圧倒的な威圧感が、炸裂するように伝わってくる

画題はともかく、これは充分に一流の芸術作品である。 稲葉も大分ポップアートの腕を上げたが

まだまだ、これ程の物は書けない。 無論、園村の才能を素晴らしいと思っても嫉妬などしない

認識を新たに、明日からの闘志を燃やす稲葉の目は輝いていた

それをよそに、ふと南条は気づき、首を傾げた

「まてよ・・・と言うことは、ハスターに襲われるこの人物は・・・まさかMrパォフウ?」

園村の笑みはそれを肯定していた。 遠くで、その時唐突に、パォフウがくしゃみをしていた

 

最後に取り出された南条のプレゼントは、ネックレスであった。 何やら奇怪な模様が施されており

得体の知れない宝石が、中央にて輝いている。 南条は眼鏡をなおし、それを説明した

「ナイトメアと俺からのプレゼントだ。 この間彼奴が魔界に少し出かけてきてな

土産に、その変な指輪を持って帰ってきた。 分析ついでに、デザイナーに細工をさせた物だ

他の部分は単なる銀、その石自体はまだまだあるから遠慮するな。

負の効果がある魔力も無いことが分かっている。 危険はないぞ」

「Kei、まさか魔界のStoneなんて・・・素敵ですわ!

今日という日を、私は一生忘れません。 こんな素敵なプレゼント達に巡り会えたんですもの!」

桐島は心底嬉しそうに、実際喜んでそういい、誕生会が終わって後、プレゼントを大事に持ち帰った

そして桐島の部屋には、それらが常に大事に飾られ、訪れる者を驚かせるという