お酒な一日

 

平和が訪れたある日、パォフウはアジトにて、半神ジャガーズの録画試合を

ビールを片手に、もう片手につまみを持って、のんびりと堪能していた

その試合は珍しく半神が嫁売を圧倒しており、パォフウの機嫌はすこぶるいい

克哉は事後処理でかけずり回り、南条も似たような状況であろうが

様々に苦労したナナミや舞耶、それにうららやパォフウは意図して仕事が回らないようにされており

此処数日の彼は、きままな数日を送っていた

だが、無論このままだらだら生きるつもりもない。 盗聴バスターの次にやる仕事を決めてないし

金だって、無限にあるわけでもない。 唯一やったのは、ホームページの閉鎖くらいである

突然に、扉が叩かれた。 竜蔵と戦っていたときの習性で、パォフウの顔に緊張が走るが

のぞき穴から外を見ると、そこにいたのはナナミであった

「なんだ、昼間っから。 まあ、良く来たな・・・」

パォフウの言葉は、前半部は不機嫌そうだったが、後半は一気に表情と共にゆるんだ

理由はナナミの手にある袋へ目がいったからである。 それはパォフウも大好きな高級酒であった

ナナミは口だけで笑うと、たっぷり皮肉を込めて言う

「これは差し入れですけど・・・やっぱりおじさんの機嫌を取るには、これですか。

最も、もうすぐイギリスに帰っちゃう幼気な少女を、追い出すような外道ではないと信じてたですう」

「そうそう、これなら機嫌が良くなるって、言ったとおりでしょ」

パォフウの顔が苦虫をかみつぶしたように歪み、視線がずれた。

ナナミの少し後ろに、うららがいたのである。 扉ののぞき穴越しには、見え無い位置だった

うららが歓声を上げた。 パォフウを押しのけ、アジトの中に駆け込む

「あー! ビールがある! 私も飲むー! 何このコード。 邪魔ー」

「あ、こらまて芹沢! ナイトメア、止めねえか! 大体なーにが幼気な少女だ! てめえの年考えろ!

・・・あああ、芹沢ー! そのコードはいじるんじゃねえええ!」

何かが切れる音がし、同時に、テレビに砂嵐が映る

「酔いどれおじさんと、酒好きOL。 へっ、良い組み合わせですう」

ナナミが肩をすくめる向こうで、既に二本のビール缶が空になっていた

 

「ったく、たまに気が利くと思ったら・・・」

数時間後、すっかり酔いが回ってソファに轟沈したうららが大いびきを挙げ

ナナミが端末の一つを借りてインターネットに興じている横で、パォフウは空き缶を片づけていた

手に入れた高級酒は死守した物の、ビール缶十数本を失ったのは痛い。

休日だからとはいえ、うららもよく飲む。 それに食い散らかしたつまみの片づけも大変だった

ふとパォフウは視線をナナミに移し、聞いた

「そういえばナイトメア、お前さん何か用事があって来たんじゃないのか?

けちなお前さんが、ただで俺に酒をよこすとも思えねえしな」

「それについては、ここではいえないです。 ま、ナイトメアは酒飲まないから

系列会社から酒なんか貰っても使い道ないし、こうやって有意義に使えて良かったですけど

用件の方は、手紙に詳しくかいといたんで、よろしくです。

後でゆっくり読んで、すぐに返事をよこすです。」

そういうと、ナナミは回線の接続を切った。 どうやら酒は、南条が歳暮で受け取った物の一部らしい

用件を住ますと、うららを起こし、悪魔の少女は立ち去っていった

「ふう、やれやれだな。 さて、半神の試合を・・・」

「パォフウさん、今日わー!」

吹き出したパォフウが振り返ると、そこには園村麻希と桐島英理子がいた

ナナミと殆ど入れ違いのようだが、ドアは既に開いている。 鍵を掛けておくべきだったかもしれない

「何のようだよ、嬢ちゃん・・・」

「Mrパォフウ、MakiにInter netの使い方をLectureしてあげてくれません?

彼女、仕事に生かしたいそうなんですけど、どうも身近に詳しい方がいなくって・・・

勿論、ただとはいいませんわ」

エリーが捧げ持っていたのは、ナナミが持ってきた物ほどではないにしても、高級酒であり

思わずパォフウの目は釘付けとなった。 エリーが目を細め、勝利を喜んだ

元々二人は顔見知りだし、なんだかんだ言ってパォフウはフェミニストである。 断れるはずもない

「ーったよ。 まずは、ネットへの接続から行くぞ・・・」

頭をかきながらパォフウが言い、二人を奥へ案内した。

園村はその時既に、イチゴの表装がついたメモ帳を取りだしていた

 

たっぷり三時間ほど、人の良いパォフウはインターネットの講師をさせられ

親切にも(?)簡単なハッキングまで教えてやって、二人を帰した、既に時刻は午後6時を回っている

「やれやれ、これでようやく半神の試合が・・・」

「ちわーっす、パォフウさん! いるっスか?」

突然に轟く上杉秀彦の声。 青ざめてパォフウが振り向くと、既にドアは開き

声の主が満面の笑顔を浮かべながら、そこに立っていた。 後ろには城戸玲司の顔も見える

たっぷり数秒の沈黙の後、パォフウは厄日を呪いながら、口を開く

「何の用だ、上杉、城戸。」

「今日は俺様達オフで、たまたまここによったっス!

そしたらアニキが、インターネット知りたいって・・・ついでに俺様も・・・駄目っスか?

勿論、授業料はあるっスよ。 ほら、コレ・・・」

笑いながら上杉が取りだしたのは、あまり高級酒ではないが、パォフウも大好きな酒であった

数秒の思案の後、彼は折れた。 二人を奥に案内し、パソコンを再度立ち上げる

再び親切にかつ丁寧にネットのことを教え、またしても簡単なハッキングまで教えてやると

三時間ほどが経過しており、上杉と城戸はメモ帳と一緒に満足して帰っていった

溜息をついたパォフウが、ドアに鍵を掛ける。 流石に、もう人が来る気配はない

手元に残ったのは、高級酒二本と、上手い安酒一本だった

ふと思い出して、ナナミの持ってきた瓶を探ると、手紙が言葉通り着いていて

それには、ハッキングの依頼が書かれていた

手紙によると、どうも南条コンツェルンの系列会社の一つに不法行為を行っている物があるらしく

南条は正攻法で調査を、ナナミは裏手からの捜査を松岡と共に行っているらしいのである

簡単な証拠で良いから、もし見つかったら更に同じ酒を一本プレゼント、という言葉で手紙は終わり

ハッキングに必要な情報が、幾つか書かれていた

「しゃあねえな、これで最後だぞ・・・」

口の端に笑みを浮かべると、パォフウは仕事を開始した

それが終わったのは夜半過ぎ。 

ガードはどうと言うこともなく、以外にあっさり証拠となりうる情報は見つかり、酒は約束されたが

もう彼は疲労のピークにあり、半神の試合を見る気力など残ってはいなかった

「へへ、やれやれ・・・俺もたいがいお人好しだな。 寝るか・・・」

その時、突如、響きわたるドアのノック! パォフウが青ざめ、ドアを凝視する

「じょ・・・冗談じゃねえ! 俺は寝るんだ! 知るか、居留守だ居留守!」

布団に潜り込み、枕を頭から被ってがたがた震えるパォフウ

彼は気付いていなかった。 そのノックが、隣の家のドアを叩いている物だと

翌日、冷や汗をぐっしょりかき目覚めた彼は、酒の瓶を手に取り呟いた

「酒は好きだが・・・こんな日はもうごめんだな」

そしてようやく見ることが出来た半神戦は、嫁売の逆転勝利に終わったという

                                    (続)