墜ちたハンター

 

序、悪徳の鳥

 

ここから先は、最悪の危険地帯だ。

それは分かっているから、クルマで出向く。ネメシス号も、沖合で停泊させた。

スワンの街。

海周辺における最悪の治安を誇る街である。

元は鳥の形をした巨大な遊覧船だったらしいのだが。

それが大破壊の際に漂着して。

今では街とかしている、と言われている。

遊覧船だった本体の周囲にはスラムが拡がっており、其処もモンスターが侵入し放題。いつ住民の誰が死んでもおかしくない。

文字通り最悪の場所だ。

一部の特権階級だけが元船だったスワンの中に住んでいて。

そして其処では。

人間同士の決闘や。

人間とモンスターの賭け試合。

更に奴隷の売買。

麻薬の売買。

あらゆる悪逆が行われている。

古い時代。発展途上国とかいう場所では、こういう悪逆が当然のように行われていたらしいし。

先進国とか言う場所でも、影ではやっていたそうだが。

それでも、此処は露骨すぎる悪徳の街だ。

クルマで乗り付けると、あからさまに人相が悪いのが寄ってくる。だが、此方が武装したハンターだと知ると、そそくさと離れていった。一応見張りにポチをクルマに残しておく。賢いから、クルマに寄ってくる悪党は追い払ってくれるだろう。勿論Cユニットも警戒モードにしておいたが。

スリと思われる子供が近づいて来たので、即座に手をねじり上げ。

そして地面に放り投げる。

罵声を浴びせながら、子供は逃げていった。

私とミシカとポチ。

それに船長だけである。

残りのメンバーは、船においてきた。

船長に来て貰ったのは、見届けをして欲しいからだ。

マドの街の悲劇。

アレを終わらせるには、バイアスグラップラーを滅ぼすしかない。

だが、その前に。

マドを守ろうとした男が。

どう腐り果て。

そして滅びていくかを。

見届けて欲しいと思ったのだ。

同じ復讐者だから、だろうか。

ミシカについてもそれは同じ。周囲からは、ずっと隙をうかがう視線。バラック小屋の中からも、無数の獲物を見定める獣の眼光。

此処では、安全など一秒ですら存在しない。

一瞬でも気を抜けば。

人間によって、人間がミンチにされるのだ。

人肉食も当然やっているだろう。

住人はどいつもこいつも、ガリガリにやせ細っていた。

「地上の地獄だな」

「今、地上全体が地獄だ。 だが此処は、その中でも更に酷いと言うべきだろうな」

「……そうかもな」

ミシカが、あきれ果てて言う。

彼女にして見ても。

兄であるフェイの戦友の変わり果てた姿と。その最期については、しっかり見届けたい気持ちが強い様子で。

やっぱり自分が戦いたい、という気持ちもあるようだ。

スワンには坂状の板がついていて。

其処から入る事が出来た。

中に入ると、目つきの鋭い屈強な男が、鼻を鳴らす。

「ハンターのレナだな。 話は聞いている」

「ガルシアはどこだ」

「待っている。 この街の流儀に従って決闘をして貰う」

「ふん、賭け試合か。 相変わらずくだらん事をしておるな、この街の連中は」

ビイハブ船長が吐き捨てる。

この街のことは知っている様子だ。屈強な男は、入れ墨をしている禿頭を見せつけるように、顔を近づけてきた。

「そうだよ。 この街の周辺は地獄の一丁目だ。 此処の住民は誰もが此処を逃げ出したいと思ってる。 外も地獄なのにな。 みんなうすうすそれは分かってるから、こういう刹那の快楽を喜ぶんだよ。 何しろ他人の不幸が見られるんだからな」

「そうか。 それで」

「此処では勝った奴が正義だ。 ガルシアはお前さんが極悪非道の輩で、彼方此方で街を焼いたりバイアスグラップラーに荷担しているとかほざいていたが、誰もそんなことは信じちゃいねえ。 まあ、勝てばいいんだよ。 ちなみに俺はガルシアに賭けた。 精々負けてくれよな」

げらげらと男が笑う。

そして通り過ぎるタイミングでミシカの尻を触ろうとしたが。

瞬時に船長が腕をねじり上げ、投げ飛ばしていた。

流石である。

片足を失っていても、生半可なハンターより遙かに強い。男は放り投げられて、スワンから落ちていったが、まあ今の時代の人間だ。

あの程度じゃあ死なないだろう。

ミシカは対応出来ていなかった。

今の奴、この暴悪の街で門番をやっているだけあって、相応に強かった、という事だ。

ビイハブ船長はその上を行っただけである。

ミシカが素直に帽子を下げる。

「すまん、船長」

「これでも妻帯者だからな。 レディに非礼をする輩は許せん」

「良く分からない理屈だが、私が同じ事をされても同じように対応したのか?」

「お前さんの場合は、触らせるどころか、その場で相手を斬り殺しかねないだろう。 放っておくさ」

苦笑。

まあ殺すまではやらないが、腕の一本くらいは切りおとしていただろう。

スワンに入ると。

中で、もの凄い向かい傷を顔につけている老人が待っていた。

此奴がスワンの長老らしい。

周囲には、屈強なボディガードが数人。

見たところ、ハンター崩れか。

モンスターとやり合うのが嫌になると、この手の仕事を始めるハンターはいる。実際問題、殺し合いの世界に常に身を置くよりも、自分の培った強さを財産にして。稼いだ方が楽なケースは多いのだ。

「お前さんがレナだな」

「そうだ。 面倒な手続きはごめんだ。 さっさとガルシアを殺させろ」

「随分と殺気立っているな」

「こんな街に呼びつけて、決闘を申し込むくらいだ。 しかも彼奴は、バイアスグラップラーとの戦いで行方不明になった。 死体が発見されなかったから人間狩りで連れて行かれたのかと思ったが、この様子ではバイアスグラップラーに魂を売った事がほぼ確実だからな」

ふんと、長老が鼻を鳴らす。

此方の事情も、ガルシアの事も。知った事では無いと、その表情が告げていた。

血を見ることが出来れば良い。

それはこの街の住人に共通した感情。

長老も同じ、という事だろう。

ただし、そのカオスが故に、ルールが必要になる。だから決闘にも、色々面倒くさいルールを儲けているというわけだ。

スワンの中は案外広い。

元が遊覧船なのだ。

内部はゆっくり過ごせるように、大きく場所をとっているらしい。ただかなり改装されているようで。

元からの客室には、人が住んでいる様子だ。

また、中央はカジノのようになっていて。

堂々とオッズが書かれていた。

それによると、私が8のガルシアが2らしい。ちなみに勝った場合の倍率である。

ミシカは、私をしらけた目で見た。

「どうする。 ガルシアに賭けた奴らをぎゃふんといわせてやるか?」

「ほっとけ。 私がどうせ勝つ」

「随分自信があるんだな」

「……まあな」

大体予想はついているが。

ガルシアは相当に体をいじくっている筈だ。

それならばそれなりに、此方にも打つ手がある。

酒場では、此方をニヤニヤと見ている目が目立った。

「あれがスカンクスを殺した奴か? 噂通り随分小さいな」

「話によると、バイアスグラップラーというだけで皆殺しにするキリングマシーンらしいぜ」

「おっかねえなあ。 それで荷担した奴のいる街とかを焼いたりしてるんだろ」

「まあ信用できないけれどな」

けらけら笑いながら、好き勝手なことを言っている。

まあいい。

決闘は、スワンの頭の上で行うらしい。

鳥の姿をした遊覧船が、こんな悪徳の都に変わっているのを見たら。船を作った人間は、さぞ嘆くだろう。

もっとも、もう確実に生きてはいないだろうが。

大破壊がおきてから、「人間のまま」生きている者はいない。

そういうものだ。

長老が手を叩く。

皆が、ぴたりと黙り込んだ。

「決闘の申し出を受けたレナが来た。 ここから先は、レナが決闘を申し込んだガルシアと一人で戦う事になる。 勝負には、誰も手を出す事が許されない。 その代わり、勝負そのものでは、何をしてもいい!」

「ほう……」

面白い価値観だ。

どっちにしても、こんな場所には長居無用。

とっととガルシアをブチ殺して去るに限る。

「なお、神聖な勝負には、賭けも許される。 既にオッズは決まっているが、それについて皆異存はないか」

「異存なし!」

「では、レナよ。 此方に」

案内されて、はしごを登る。

決闘開始の合図があるまでに攻撃を行った場合、その時点で負けと見なされ、この街全員の攻撃を受けて殺されるそうだ。

スワンの頭に出る。

機関砲が設置されているのが見えた。

なるほど、あれが合図前に攻撃をした場合、火を噴くわけだ。

そして、頭の先には。

見覚えのない影がいた。

バギーに乗っていたときは、ガルシアは相応に人間らしい姿をしていた。マリアにぶん殴られて吹っ飛ぶくらいには。

だが、今は。

これはおぞましすぎる。

全身が。

半分以上機械になっていた。

右手には機関銃が装着され。

他の体もつぎはぎだらけ。

なるほど、テッドブロイラーの攻撃で、バギーが大破したのだ。中にいた此奴も、無事で済むわけがない。

無理矢理生かされて。

こんな姿になった、というわけか。

確かサイボーグとかいうらしいが。

詳しくは分からない。

いずれにしても、ガルシアは。

以前とは似ても似つかない声で言う。

「よお、久しぶりだなコムスメ」

「バイアスグラップラーに魂を売ったか、三流ハンター」

「言ってくれるじゃねえか。 人の愛車を勝手にいじくりまわして、好き勝手に乗っている分際で」

「クルマと乗り手は関係無いからな。 それで、どうしてあんな外道どもに魂を売り払った」

ふんと、ガルシアは。

何処か遠くから響いてくるような、変な声で言う。

これは、喉の辺りも改造しているのだろう。

「まず、マリアに殴られた憂さ晴らし」

「自業自得だろう」

「次に地位」

「まさか、スカンクスの後釜にでもして貰える、とでも?」

けらけら。

そう笑ったつもりなのだろう。

だが、変な機械音がしただけだ。

もはやガルシアは。

人並みに笑うこともできないようだった。

これは、鼻持ちならない奴だったけれど。それでも人間だったガルシアではないなと私は判断。

殺してやるのが、本人のためだろう。

というか、もはや脳そのものも。

いじくられている可能性が高い。

バイアスグラップラーは、明らかに元の生物とは別のものを作り上げている。バトー博士にも聞いたが。幾つもの武装集団が持っていた技術を回収して、それを悪用しているらしいが。

どっちにしても、此奴をブッ殺して。

いやぶっ壊して。

その負の連鎖の一端を断つ。

「察しが良いな、コムスメ。 その通りだ。 バイアスグラップラーの軍事力は底が知れねえ。 俺は奴らの本拠地を見てきたが、この辺りのハンターが束になってもあんなものは落とせねえよ。 それにお前が倒したスカンクスなんか、他の四天王の足下にも及ばねえんだ。 それなら、勝ち馬の尻に乗る方が得だろ?」

「既に奴らは海の西半分を手放している。 残りも私が順次潰す」

「頭でも狂ったか? テッドブロイラーの強さを忘れたのか? お前なんか、逆立ちしたって勝てねーよ」

「生憎、私も人間のまま、彼奴に勝てる自信は無いんでね。 勿論相応の手は打つつもりだ。 策も無しにあんな化け物とやりあうつもりは、私も最初から無い」

気に入らないと思ったのか。

ガルシアが、機関銃を向けてくる。

長老が、声を掛けてきた。

「そろそろいいか」

「いつでも構わない。 何だかこのコムスメ、一丁前に知恵を身につけてきてムカつくんだよ。 はっきりいって今すぐ殺したい」

「こっちもだ。 ゲスに魂を売り払った機械人形の声を聞いているだけで気分が悪いんでな」

「では、始め!」

どんと、何処かで大砲が撃ち放たれた。

下で、わっと喚声が上がるのが分かる。

血に飢えた悪徳の都で。

これから人が死ぬのを、誰もが楽しみにしている。

もっとも、それは違うのだが。

片方は既に人間を止めている。

もう片方は、復讐鬼だ。

私は既に人間ではあるが、人間では無いとも思っている。

バイアスグラップラーの人間を殺すために。

いつでも物理的に人間を止める覚悟だって出来ている。

「そうそう、殺す前に聞いておこうか」

「はあ?」

「そのバイアスグラップラーの本拠地とやらはどこにある」

「教えねーよ、バーカ!」

先手を取ったのはガルシア。

機銃を乱射してくる。

同時に私は。

地面にスモークを叩き付けた。

 

1、悪徳の最後

 

凄まじい弾幕を張ってくるガルシア。

私は煙幕を作ると、プロテクターを使って、それを防ぐ。だが、恐らくガルシアは、熱で此方の居場所を察知しているらしく、精確に狙ってくる。

今の時代のプロテクターは極めて頑強で。

ちょっとやそっとの銃撃ではびくともしないが。

ガルシアの手に装着されている機関銃は、それをも見る間に削って行く。

「ハッハア! そんな策、通じると」

「通じないだろうな」

側面。

ガルシアの左下に出た私。

加速したのだ。

対応出来ていないガルシアに、通り抜け様に一閃。

左腕を斬り飛ばす。

マリアの剣は流石だ。

ガルシアは動じない。

右腕を振るって、私を叩き潰しに来る。

何しろ機械の腕だ。

直撃を受ければ、ただではすまないだろう。

だが、私はまた加速。

今まで散々強敵と死ぬような戦いをして来たのだ。

反射速度も。

身体能力も。

マドでテッドブロイラーとやりあった頃とは、比較にならないほどに上がっている。当たり前の話だ。

残像を抉ったガルシアの腕。

煙幕が張れて来る中、私は対物ライフルをぶっ放し。

それをガルシアは、胴体に直撃させながらも。

下がるだけで耐えてみせる。

残った右腕で乱射してくるが。

私は左右にステップして下がりながら、連射。ガルシアに適宜当てていく。確実にダメージを蓄積させていくが。

ガルシアは余裕を崩していない。

「スカンクスを殺ったってわりには大したことねーなあ!」

「そうかそうか」

馬鹿にされていることに気付いたのか。

喚きながら、ガルシアが腹を上下に開閉。

巨大なレーザー砲が姿を見せる。

同時。

私は、ハンドキャノンをぶっ放す。

いきなり違う武器での攻撃に戸惑ったガルシアは、もろにレーザー砲に一撃を食らい、ずり下がる。

下の喚声が喧しい。

プロテクターを捨てる。

既に銃撃で傷つき。

役に立たなくなっていた。

「てめえ……!」

「それが切り札か?」

「舐めるなよ、コムスメえ!」

斬り飛ばしたはずの左腕から、瞬時にブレードが生えた。

更に、右腕が展開。機関銃からミサイルポッドに変わる。

さて、此処が勝負所だ。

此処までは、此奴を挑発して、本気を出させるための布石。

一瞬でコッチを吹き飛ばそうとしてくる所に。

使う。

ハンドキャノンを捨て、対物ライフルも背負い直す。

そして、マリアの剣を鞘に収めると。

私は真っ正面から、敵に突撃。

「バカが、この攻撃を、正面から突破出来ると思うなあ!」

大量のミサイルと、それに体中に仕込んでいたらしい小型の機銃が、一斉にぶっ放される。

無茶苦茶な改造をしたものだ。

私は剣に手を掛けたまま、突貫。

左右にステップするが、回避するのはミサイルだけ。

それで、ようやくガルシアは気付いたようだった。

銃弾が、私の体に。

弾かれている。

「携帯バリア……!?」

「気付くのが遅い」

携帯バリア。

大破壊の後くらいに開発された、かなりの高級品。要するに戦車などに用いられる装甲タイルを噴霧するもので、装甲タイルほど強力ではないけれど、それでも機銃弾くらいはある程度耐えられる。

ただし、私が戦闘前に使ったものは、それほど性能が良くない。

攻撃を最初プロテクターで受けて見せたのも。

これに気付かせないためだ。

慌てたガルシアが、全身からブレードを生やして、迎撃に掛かってくる。

同時にミサイルが後方に着弾。

スワンが揺れる。

ガルシアはミスをした。

接近戦では、私に勝てない事を、さっきの攻防で理解するべきだった。だったら、遠距離戦に徹するべきだったのだ。

ブレードが、一斉に襲いかかってくるが。

私はその隙間を抜けるように、抜き打ち一閃。

先にハンドキャノンで傷をつけた位置。

つまり奴がレーザーを格納していた腹。

そんなギミックを仕込んでいれば、必然と脆くなる箇所を、一刀に両断していた。

ぶしゃりと、大量のオイルが噴き出す。

更に振り向き様に、背中から胸に向けて剣を突き刺し。

頭を下から唐竹に割る。

上下に割られたガルシア。

上半身が、ゆっくり左にずり下がっていく。

私は跳び離れると。

更に引き抜いた対物ライフルで、ガルシアの下半身を連射。

足を完全に潰し。

更に、肩も続けざまに砕いていた。

完全にブレードと機銃を使えないように、体から切り離したのだ。

呼吸を整える。

ちなみに、携帯バリアの効果は、既に切れていた。

数発が体を掠め。

傷口が焼けるように痛い。

だがこの程度の痛み。

あのマドの街で味わった痛みに比べれば、どうということもない。

「スカンクスより数段劣ったな。 彼奴はウルフとまともにやりあってみせたぞ」

「ハ、お前、終わりだよ。 バイアスグラップラーは、もうお前の名前も特定しているし、賞金も掛けている。 俺以上の刺客が、今後どんどんあらわれるぜえ」

「そいつらも皆殺しにするだけだ。 というか、今まで暗殺者に襲われなかったとでも思っているのか?」

げぶりと、頭を割られたガルシアがオイルを吐く。

もう血ですらない。

「さて、奴らの本拠の場所は?」

「くくっ、最後の嫌がらせだ。 教えてやらん」

「そうか、では私も最後の嫌がらせだ。 お前のバギーは、今後も使い倒してやる。 私のバギーとしてな」

「くそっ……あれは俺の……」

声が途切れる。

私は念のため。

更にガルシアに弾丸をぶち込み。頭部だけではなく、全身を徹底的に破壊し尽くした。

相手は機械だ。

どんな風に不意を打ってくるか、知れたものではなかったからだ。

 

スワンの頭から、降りる。

しんとしている。

観客が青ざめているのが分かった。

どうやら、私を相当に甘く見ていたらしい。ガルシアに対する凄まじい攻撃が、あまりにも苛烈だったので。

恐怖したのだろう。

どうでもいいことだが。

長老が、咳払いした後、話しかけてくる。

「あんたの勝ちだ。 だが死んだ相手を、彼処まで嬲るかね」

「相手は既に人間では無かったからな。 どんな反撃をしてくるかしれたものでは無い以上、破壊するのは徹底的にやるべきだ」

「……」

ミシカが、お疲れ様と声を掛けてきたので、頷く。

そしてフードを被り直した。

人相を隠すのは、相手に対して圧迫感を与える、という理由もある。

私が小さいという事で侮ってくる奴も。

ある程度人相を隠しておくと、対応を変えてくる。

まあ対応を変えてこないのなら、その場でやり方を変えるだけだが。

私は、明らかに試合開始前と打って変わって、怯えている観客に、告げる。

「そうそう、多分この場にいるだろうバイアスグラップラーの手の者に言っておく。 これから貴様ら全員を私が殺す。 あのガルシアの無惨な有様をバイアスグラップラーに今のうちに報告しておけ。 みんなああしてやるとレナが宣言していたともな」

「レナ、その辺に……」

「いや、これでいい」

ミシカが見かねた様子で言いかけたが、ビイハブ船長が止める。

多分、私のやり口が、こういう場所では効果的だと悟っているからだろう。実際問題、この手の連中には舐められたら終わりだ。

手を出そうものなら、皆殺しにされる。

それくらいの恐怖を叩き込んでおかないと。

何をしでかすか分からない。

すぐにガルシアの末路はバイアスグラップラーに伝わるはず。

そして私が(実際には結構危なかったのだけれど)圧勝したように見せたことも、伝わるはずだ。

ガルシアは恐らく、奴らが四天王候補として改造していたはず。

全身に仕組まれた多数のギミックが、それを証明している。相当に強力な改造がされていたと見て良い。

それを私は「あっさり」破壊した。

そうなれば、バイアスグラップラーも簡単には仕掛けてこないはずだ。仕掛けてくるなら手数を増やすか手練れを出してくるはずで、私としても逆に動きやすくなる。

クルマに戻る。

ポチの頭を撫で撫ですると、すぐにネメシス号に帰還。

そして、船で。

フロレンスの手当を受けた。

バリアは結構高かったのだけれど。

こういうときに使ってこそのバリアだ。

それに、怪我もそれなりにしていた。ガルシアは腐っても元手練れ。改造の効果もあって、相応に手強かった。

「実際にはどうでしたか?」

「スカンクスと比べるとかなり見劣りしたな。 だが恐らく、私に勝ったら更に改造を受けて、タワーを再制圧に向かっていたのだろう。 そうなれば、バイアスグラップラーから解放した地域がかなり押し戻されていたな」

「厄介ですね……」

「負けなければ良いだけの事だ」

手当を終えると、少し眠って。

その後は、剣の手入れをする。

人間を斬ったときよりも消耗がひどい。機械を切ったのだから、考えてみれば当然とも言えるか。

ちなみに接近戦で勝てそうになかったら、もう一つ切り札を用意していたのだけれども、それは出来れば使いたくなかった。

前にフロレンスに貰った薬である。

あれは副作用が酷いので、後で意識を保っているのが大変だからだ。

剣の手入れ終了。

これは形見も同然の品。

そういう意味では、ハンドキャノンや対物ライフルもそうだが。

この剣については、より形見としての側面が強い。

というのも、マリアの死後に貰ったからだ。

マリア自身は、私に生きている間は、触れさせることはあっても、実戦で使わせる事は無かった。

勿論使い方は徹底的に仕込んだが。

それだけだった。

実のところ、マリアの剣を戦闘で使ったのは、その死後が初めてなのである。

それなのにしっくり手になじむ。

これはマリアが加護してくれているからかも知れない。

そんなオカルトさえ。

抱かせるようなものが、この剣にはあった。

船は揺れている。

少し波が強くなってきたか。

船長には、イスラポルトに向かうように言ってある。

これで、イスラポルトに到着するまでは、多少時間も出来る。

一眠りして、起きだすと。

甲板に出た。

スワンはもう見えない。

東の遙か向こうには、大きめの街の灯りが見える。

あれがイスラポルトか。

イスラポルトから北上すると、今では珍しい電気の供給設備があるらしいと聞いている。足を運ぶのも良いだろう。

更にイスラポルトの近辺には、まだ重戦車が幾つかあるという噂もある。

ハンターが戦死して放置されたり。

或いは何かしらの理由で売り出されていたり。

いずれもハンターズオフィスの噂話だ。

どこまで信用できるかは、少しばかり怪しいところだが。

それと、アクセルが言っていたひぼたんが入手できるなら、是非しておきたい。今後の戦いには、必須になる筈だ。

数隻の船が、巡回しているのが見えた。

トータルタートルを探しているのだろう。

この間名前を聞いた賞金首。

流石にこれほど厳重な警戒の中、仕掛けてくるつもりは無い様子だが。

それでも、此方も油断はしない方が良さそうだ。

イスラポルトで装備を調え、情報を仕入れたら。

まずは海路の安全を確保するためにも。

最初にトータルタートルを撃滅しておくのが良いかも知れなかった。

ふと、気付く。

戦闘目的の船ではないものがいる。

あれはサルベージ屋か。

Uーシャークとトビウオンが死んでから、サルベージ屋もかなり本格的に仕事を再開したという話は聞いているが。

それでも、トータルタートルがいるのでは台無しだろう。

腕利き達が嬉々としてカジキエフを狩っている今でも。

Uーシャークの後釜に、トータルタートルが納まってしまっては何の意味もないのである。

彼らの生活を脅かさないためにも。

さっさと新しく現れた海の賞金首は、仕留めてしまう方が良さそうだった。

「もうすぐ入港する。 それぞれ準備をしてくれ」

ビイハブ船長の声がする。

船底に行くと。

メンテナンスをしているアクセルに、声を掛けておいた。

「イスラポルトに出るぞ。 ひぼたんを入手できるかも知れないから、降りてきてくれるか」

「分かってる! 偽物掴まされたらたまらんからな」

「頼むぞ」

船長にも声を掛けておく。

バギーと装甲車を固定砲台として残しておくので、沖合に停泊していてくれと。

入港の際には、照明弾を打ち上げるので、対応して欲しいとも。

ビイハブ船長は頷く。

何しろ、ガルシアの一件を見ても。

敵は此方を明確にマークしてきているし。

用心深くもなっている。

更に、かなり気合いを入れて改造したガルシアが私一人に屠られた後だ。かなりの強硬策をとってくる可能性もある。

船にはリンが残ってくれる。

今回ケンは、レオパルドに乗って出て貰う。

ウルフはアクセルに。

バスはカレンとフロレンスに。

私とミシカはバイクで出る。ポチとベロは周囲を警戒だ。

街中だが、それだけ警戒していてもやり過ぎでは無い。

今後は更に。

警戒をして行く必要があるだろう。

レオパルドを任せたケンは、大喜びしていたが。まだ未完成なのだ。

ミサイルを後二つ搭載するつもりなのである。

ちなみにいっそバスに迎撃火器は任せてしまう案も考えている。ミサイルを一斉に発射するCユニットが手に入っているのだから、攻撃の基点となる戦車にしてしまうのもいいだろう。

入港を済ませると。ネメシス号は私達を降ろし、沖合に離れていく。

さて、此処からだ。

ここから先は、賞金首の実力も次元違い。

本当の意味での力が。

試されるときが来ていた。

 

2、イスラポルト

 

イスラポルトは、昔は倉庫街だったらしい。

これは決して都会と言う事は無く。

むしろ、普段は殆ど誰もおらず。

警備の者だけが周囲を巡回し。

そして倉庫には、多くの物資が備蓄されていた。

ノアによる大破壊が行われたとき。

真っ先に狙われたのは軍施設や各地のインフラ。それに大都市だった。

人間がほとんどいなかった故。

この倉庫街は破壊を免れ。

逃げ込んできた人々によって、大都市へと変わっていった。

大量の物資が残っていたことも、それを後押しし。

近辺最大の都市にイスラポルトが変わっていくのにも、それほど時間は掛からなかった。何しろ、人々を喰わせていく食糧があるのだから。

というわけで。

今ではイスラポルトには。

多くの人がいて。

それを狙った賞金首や、それに準ずる実力のモンスターがうようよ周辺に蠢いている。

当然イスラポルトには腕利きのハンターが多数集まり。

そのハンター目当てに武器を売り込みに来るトレーダーも多い。

現時点では周辺の状況は五分五分。

バイアスグラップラーは、自身の軍事拠点が襲われる場合だけしかモンスターとは戦わない。

ハンター達が戦うしかないのだが。

何しろノアの方も、本気で強力な賞金首を繰り出している。

ハンターが賞金首を倒しても倒しても。

次々に新手が現れて、きりが無い様子だった。

以上の情報が。

ハンターズオフィスで聞いた内容である。

一応護衛にミシカとベロがついているが。

周囲からは、かなり視線も感じた。

スカンクスをはじめとして、数々の賞金首を仕留めてきた私の事は、既にイスラポルトにも伝わっているらしい。

ハンターズオフィスの職員も、色々と気前よく情報を教えてくれた。

少し前に海で出会った蒼牙のバークスとだいたいは同じだったが。

そのほかにも、幾つか有益な情報をくれた。

「ここから北西に行くと、まだ生きている発電所があって、各地に電力を供給していますが。 最近トラブルが起きたようです」

「それは聞き捨てならないな」

「ええ。 恐らくノアの賞金首によるものでしょう。 発電所はかなり強力なセキュリティに守られていましたが、それも喰い破られてしまった様子です。 他の手練れは出払っている状態でして、対応をお願い出来ますか」

「安い用だ」

賞金首級のモンスターについても、確認されているという。

ダスト原人というそうだ。

名前は原人だが。

勿論ゴリラとか、人間の先祖とか、そういうわけでは無い。

単純に見かけが人っぽく。

それが故に名付けられたそうである。

此奴が発電所のセキュリティを喰い破ったのだとすると、色々厄介だ。

ハンターズオフィスを出て、アクセル達と合流。

アクセルは、あまり嬉しそうにはしていなかった。

「どうした、ひぼたんは手に入らなかったのか」

「いや、手に入ったよ。ほら」

レオパルドの上には、ひぼたんの特徴である花のマークがあしらわれた、赤いミサイルポッドがつけられている。

更にもう一つつけられているのは。

かなり精度が良さそうなシーハンターだ。

同じ兵器でも。

たまに、精度が凄く良いのが出来る事がある。

恐らくはそれだろう。

更にウルフとバスの上にも、シーハンターがつけられている。

これで総合的な火力は爆上がりした筈だ。

「俺が手を入れる暇も無かったんだよ。 トレーダーが腕が良いメカニックをつれててな、ぱぱっとぜんぶつけちまった」

「それで機嫌が悪いのか」

「それだけじゃねえ。 彼方此方ぱっと手を入れて、改良しやがった。 俺が船の中で、散々改良してきたのに、まだ甘かったらしい。 向こうの腕が凄いのは認めるけれどよ、何だか悔しくてな」

「だったら今後腕を磨けば良い。 うちの専属は今後もお前だ。 そいつくらいの腕前にさっさとなってくれ」

不機嫌そうにアクセルが頷く。

いずれにしても、これで戦力は整ったか。

一度ネメシス号に戻ると、話をする。

そうすると、ビイハブ船長は、良いアドバイスをしてくれた。

「それなら、イスラポルトに戻る前に、タイシャーにも寄っていくと良いだろう」

「タイシャー?」

「その発電所の東、ずっと東にある山間部の小さな街だ。 Uーシャークを追っているときに聞いたのだが、どうやら強力な戦車があるらしい。 ただ、手に入れるのには骨が折れるかも知れないな」

「詳しく」

個人の所有物だという。

しかも、その個人というのが厄介で。

宗教団体の教祖だそうだ。

「どんな無理難題をふっかけられるか分からない。 無茶だと思ったら、一度手を引くことを考えてくれ」

「分かった。 だが重戦車は何機でも欲しい」

「宗教関係者は、人間の心理を掴んで、意のままに操ることが多い。 下手な欲を出すと、掌の上で転がされるぞ」

「気を付ける」

その後、一旦イスラポルトを離れて、西の海上を周回。

トータルタートルを仕留めてから、その発電所に行こうと思ったのである。海路の確保は重要だからだ。

トータルタートルは、何度かこの辺りにいる手練れと遭遇しているらしいが。

まだ周回路はよく分かっていないらしい。

遭遇箇所について聞いた場所に印をつけていくと。

ビイハブ船長は、頷いた。

「コレは恐らくだが、海流に乗っているな。 自力でほぼ泳いでいない。 浮かんでいるだけだ」

「賞金首の割りには情けないな」

「いや、多分それだけ重武装で、防御と火力に特化している、という事だろう。 厳しい戦いになる。 気を付けろ」

ビイハブ船長は、迎え撃つには此処だと、地図上を示し。急行。

岩場が多く。深く潜れず。

更に海流が一方的で、敵を待ち伏せし、迎撃するには最適の場所だと言う。

予想通りなら、数日で遭遇すると船長は言ったが。

翌日には、巨大な影が姿を見せた。

トータルタートル。

Uーシャークの後釜として、海を牛耳ろうとしている賞金首。

禍々しいまでに巨大な亀だ。サイズだけなら、Uーシャーク以上だろう。しかも丸いので、長さ以上に圧迫感が凄まじい。

勿論全身が機械化されていて。

流れながら、此方を既に発見。

戦闘態勢をとっているようだった。

面白い。

海流は此方に向けてきている。

ネメシス号は碇を降ろして停泊。全車両、戦闘準備万端。

待っている途中に寄ってきた雑魚モンスターを蹴散らして、武器は温め終わっている。戦闘は何時でも出来る状態だ。

迎え撃ってくれる。

「碇を上げろ!」

「アイ!」

船長とリンが、連携して動く。

此方は船上で、やりとりを聞いているだけだが。それでも船の方は、二人に全部任せてしまって大丈夫だろう。

近づいてくると分かるが。

トータルタートルは、主砲やミサイルをてんこ盛りに背中に乗せている。それ故に、火力には自信があるが、その反面動きは鈍いのだろう。

だが、それが命取りだ。

此方は最前列にウルフとレオパルド。

その後ろにバギー、装甲車。最後尾にバスを乗せている。

大まかにはくさび形の陣形になる。

敵が、主砲とミサイルを、一斉に放つ。

ミサイルは凄まじく、二十発以上を計上できた。

バスのレーザー迎撃と、ウルフのパトリオットが迎撃するが、当然のことながら落としきれない。

半分以上が着弾。

甲板が猛烈な爆炎に包まれる。

だが。

私は、その瞬間を待っていた。

レオパルドに乗った私は、あらかじめ攻撃のタイミングを指示してある。一瞬にして、全車両が反撃。

特にレオパルドは、それこそ面を埋め尽くすほどのミサイルを、瞬時にして放っていた。

トータルタートルが見たのは、煙幕をぶち抜いてくる砲弾とミサイルの群れ。

200ミリ砲二つ、Uーシャークの主砲、サイゴンの主砲。それに150ミリ。ひぼたんを含むミサイル多数。

それが一斉に、強固さを売りにしているはずのトータルタートルに襲いかかる。

迎撃火器など、間に合うはずもない。

更に、バスから飛び降りたミシカが、多弾頭グレネードを乱射。ポチとベロも野戦砲をぶっ放す。

文字通りの飽和攻撃である。

動きが遅いトータルタートルは、かわすどころか、回避運動も出来なかった。

全弾直撃。

装甲が一瞬にして崩壊し、亀裂だらけになったトータルタートル。

私はレオパルドのCユニットに継続しての攻撃を指示。

砲塔から顔を出すと、マリアの拳銃を連射。

ケンも同じようにして、ウルフの砲塔から顔を出すと、多少もたついたがRPG7をぶっ放していた。

凄まじいミサイルが、至近で発射されている中の攻撃。

煙幕が凄まじいが。

それでもこの拳銃には慣れてきている。

味方第二射、全弾直撃。

トータルタートルの武装が全損。

更に、迎撃火器を使おうとした瞬間、私の拳銃弾がミサイルに直撃し、爆裂させていた。

流石に勝ち目無しと判断したのだろう。緩慢に逃れようとするトータルタートルだが、連射される主砲が、容赦なく鈍重な体を蜂の巣にして行く。此方としても、逃がすわけにはいかない。

第二のUーシャークを海に野放しにするわけにはいかないし。

ミサイルも、どうせ補給すれば良い。

文字通り雨霰と降り注ぐミサイルと砲弾の前には。

小さな岩礁ほどもある亀も、どうにもならなかった。

やがて、海上にはオイルが漂い始めた。

舌をだらしなく出したまま、海上に浮かんでいるトータルタートルは。

機械化された全身をずたずたに。

そして内部の生体構造を露出させ。

命を落としていた。

フロレンスはバスで待機。

カレンはこういう戦闘では出番無しだ。

ちなみに、とどめを刺したのはビイハブ船長である。

砲撃が一段落したところで。

ネメシス号で、体当たりを浴びせたのである。

巨体といっても、戦車十数機を乗せられるネメシス号に比べれば小さい。

へし折れ、砕けた体の破片が。

辺りには散らばるようにして浮いていた。

リンが出てくると、小舟を降ろす。

アクセルもそれについていった。

使えそうなものが無いか、調べに行くのだ。とはいっても、相手は機械の塊。急がないと、沈んでしまうだろうが。

それを見越してか。

まず最初に二人がやったのは、クレーンを降ろして、トータルタートルの残骸を引っかける事。

そして、船体を多少傾けながらも。

甲板に賞金首の残骸を引き上げた。

ただ、体の一部は剥落してしまった。

あれだけ凄まじい攻撃を浴びせたのだ。

仕方が無い事だろう。

「後で詳しくばらすが、手伝ってくれるか」

「いいだろう。 暇だったから、私がやるよ」

アクセルにカレンが応じている。

カレンは実際てきぱきと巨大な亀を捌き始め。不発弾を取り出して捨てたりしていたが、やがて何か見つけた。

どうやら高性能アースらしい。

地上戦も想定していたのだろうか。

いずれにしても、此奴にはあまり優秀な装備とは思えない。何でもかんでも乗せるから、動きが鈍重になるのだ。

私もレオパルドを降りて、損害を確認する。

ネメシス号、各車、ともに装甲タイルをかなり持って行かれている。わざと敵の第一射を直撃させたのだ。

耐えきる自信はあったとは言え。

流石に相応に被害は大きかった。

だが、それを耐え抜いたのは、流石重戦車。

最前衛の二機は相応にタイルの消耗もひどかったが。

それでも余裕があった。

「流石だ。 ミサイル特化の車両を作ったのは正解だったな。 初陣としては満足できる内容だ」

「いっそ、主砲も外してミサイルにするか?」

「いや、そうすると対応力が落ちる。 ミサイルは四つだけにしておこう」

圧勝だったが、基本的に重戦車は動きが鈍い。

ウルフもレオパルドも時速九十キロくらいは出るが、他のクルマはパワーパックの性能もあって、それ以上の速度が出る。旋回性能や機動性も、遙かにバギーや装甲車の方が上だ。

その一方で、身動きが取れない海上だと、バギーや装甲車は不利だ。そもそも車高が高いバスは仕方が無いにしても、敵の火力でかなり危ない目にあっている。

実際問題、今回バギーには誰も乗せなかった。

敵の火力を予想の二倍とした場合、貫通される可能性があったからだ。

私は常に戦略を練って動く。

勝つためには、当然のことだ。

ビイハブ船長が来る。

片足が義足でも、動きにはまったく問題は無い。それにしても、船の舳先で敵をへし折ったり砕いたり、荒っぽいやり方を好む船長だ。

ネメシス号も、この船長では仕方が無いと苦笑いしていそうである。

「快勝だな。 それで、イスラポルトに戻るのかね」

「ああ。 ノアの対応が想像以上に早かった事もある。 一度戻って、トータルタートルの排除についてはハンターズオフィスに届けておいた方が良いだろう。 今、腕利きのハンター達がカジキエフを狩っている最中だが、ノアがどう動くか分からない。 警告も同時にしておくべきだな」

「ふむ、同意見だ。 それに補給と整備も済ませておきたいしな」

「舵の方は任せる。 私は今後の戦略について考えておく」

イスラポルトの近辺には、バイアスグラップラーもかなり力を入れて兵力を配置している。

ただ、強硬手段に出てきていないだけだ。

しかしながら、人間狩りはイスラポルト近辺でも行っているようだし、今後もそれについては変わらないだろう。

外道は何処まで行っても外道。

そういうものだ。

早速イスラポルトに帰還。

その頃には、トータルタートルの片付けと。

クルマの整備は終わっていた。

ハンターズオフィスに、水揚げしたトータルタートルの残骸を納品。スクラップになった巨大亀を見て、ハンターズオフィスでも喜んでくれた。クルマの方は、アクセルがカレンとフロレンスを連れて、補給をしに行ってくれている。これだけのミサイルをぶっ放すと、流石に補給にも相応の金が掛かる。昔はミサイル一発で家が一軒余裕で建つくらいだったらしいが。

ミサイルの小型化と量産化が進んだ今は、砲弾より高いとは言え、かなりお安くトレーダーから補給できる。

とはいっても、今回のように凄まじい量のミサイルを消耗すれば、結果的には高くつく。まあ雑魚敵には、皆が肉弾戦を行ったり、ただで補給できる機銃で対応していくことになるだろう。

ネメシス号が接舷したドッグには、ハンターが集まって来て、色々と様子を見ている。水揚げがあるので、ハンターズオフィスの職員にも来て貰ったのだが。それで却って騒ぎが大きくなった。

集まっているハンターには、かなりの手練れも散見された。

「あれが噂のレナか。 早速イスラポルトでもやってくれたな。 トータルタートルを早々に仕留めてくるとは流石だ」

「スワンでも一騎打ちに凄まじい戦いで勝ったらしい。 重戦車も二機持ってるとなると、今後はエース格として、近所の賞金首をあらかた狩ってしまうかもしれないな」

「おまんまくいあげ、とまではいかないか。 この辺りは、次から次へと賞金首級のモンスターが湧いてくるしねえ」

「いずれにしても楽しみな若手が出てきやがったぜ。 あのいけすかねえバイアスグラップラーを本気で潰してくれるかもしれないな」

好意的な意見も多い中。

そそくさと逃げ出したり。

こっちを伺っている奴もいる。

顔は覚えられるだけ覚えておく。

ハンターの中には、バイアスグラップラーと通じている奴もいる、と聞いている。こういうご時世だ。仕方が無いと言い訳したいだろうが、そうは問屋が卸さない。後で見つけ次第潰す。

状況次第では殺す。

ハンターズオフィスの方でも、早速大物を潰した私に、口が滑らかになる筈だ。

「これからどうなさるおつもりで」

「まずは近辺の安全を確保する」

いきなり発電所に行く、とは言わない。

というのも、発電所は重要施設だ。

バイアスグラップラーが絡んでいる可能性もある。

それに、だ。

ノアが人間型のモンスターを送り込んでいる、というのは実際に目にしている。

私は散々ノアのモンスターを潰しているし。

行動については、具体的に話さない方が良いだろう。

賞金を受け取る。

アクセルが戻ってきたので、精算。

黒字にはなった。

流石にこの辺りの賞金首は、五桁の賞金が当たり前で。

トータルタートルも例外では無かった。

それを一方的にたたきつぶせたのだ。

少しばかり、気を引き締めないといけないかもしれない。

こういう所で気を抜くと。

それが大けがの元になるのだ。

一度ネメシス号に乗ると、イスラポルトを離れる。

海上で会議をするためだ。

艦橋に集まる。

ベロだけは、甲板に出て行った。何かあったときに、知らせるつもりなのだろう。こういう所で頭が働くのが、大破壊後のイヌだ。

ポチはそのまま寝そべっている。

此奴はそういう奴だし。

別にそれでいい。

不意を打たれた場合に、対応出来るから。これはこれで、別に構わないと言うのが私の本音である。

ミシカは退屈そうで。

早く会議終われと顔に書いている。

私も長引かせるつもりはない。

「まずは発電所を制圧する」

「この近辺に電力を供給しているってあれか。 トラブルはあったって話だけれども、電気そのものは来ているみたいだけれど?」

「賞金首モンスターが確認されている、というのが気になる」

「ふむ……」

カレンが考え込む。

バイアスグラップラーは、この間ガルシアを機械化して送り込んできたが。

他でも同じ事をしている可能性はある。

発電所にいるのがノアのモンスターとは限らない。

しかも、この時代の発電所だ。

重要設備で、強力なセキュリティに守られているはずで。

それを一瞬で喰い破られたとなると。

相当に面倒な賞金首と見て良いだろう。

トラブルになってからでは遅いのだ。

「外道販売鬼とやりあった時の事を覚えているか」

「ああ。 確かにあの辺りにも、電力は来ていたね」

「モンスターはいない。 電力はある。 それだけで、あの辺りの住民は命をつないでいるんだ。 電力がこなくなったら、生きていけなくなる奴も出てくるだろう。 慈善作業をするつもりはないがな。 もしもそういった電力を横取りして、好き勝手しようとしている奴がいるとしたら、誰であっても許すわけにはいかない」

「……そういうところが、あんたをバイアスグラップラーと同じレベルにまで落としていない原因なんだろうね」

カレンは賛成してくれる。

ケンが挙手。

ちょっと顔色を窺ってはいるが。

それでも、勘が鋭い此奴は、少しずつ力をつけてきている。

「今回は僕も連れて行って貰えますか」

「良いだろう」

「良いのか!?」

ミシカが驚く。

最近は留守番や戦車に乗っての戦闘ばかりをやらせていたが。

この間のトータルタートル戦では、きちんとRPG7での射撃を命中させて見せた。

そろそろ肉弾戦を想定した実戦に出て貰うタイミングだ。

ベロとバディを組ませる。

それで多分、一人前の活躍は出来るはずだ。

「アサルトライフルを渡しておく。 制圧射撃を頼むぞ」

「分かりました」

「後は船だが、ビイハブ船長。 任せても構いませんか」

「応。 迎えに行くタイミングだけ知らせてくれるか」

頷く。

イスラポルトに停泊し続けるのでは、危険が大きすぎる。

バギーを固定砲台として残し。

一旦船長には、自分の島に戻って貰う。

この間、船長の島は墓参りついでに見てきたが。

船長の島は強力な砲台と機銃で武装していて、生半可な武装船程度ではとても近寄れない。

弱めの奴なら。賞金首モンスターでも太刀打ちできないだろう。

防御力が攻撃力に追いついている現在。

要塞は再び意味を持つようになっている。

船長の島は、正にそれなのだ。

「リンは来て欲しい。 今回は、総力で出る場合にどうなるか試したいし、それにあんたのメシはうまい」

「メイドとしての仕事ですね」

「それもあるが、勿論戦闘でも活躍して貰うぞ。 この近辺の賞金首は海の西側とは桁外れに強いとも聞いているし、出来るだけ多くの戦力を連れていきたい」

戦力を出し惜しみして失敗するような真似だけはしたくない。

基本的に、移動時の陣形についても決めておく。

前衛をウルフ。最後尾をレオパルドと装甲車。

最後尾を二機にするのは、レオパルドがミサイル特化の車両で。戦闘ではやはりウルフの汎用性に頼りたいからだ。装甲車の支援を受けながら、ウルフが前衛に出てくるのを待つか。

或いは包囲された場合に対応する。

真ん中にはバス。

その左右に、私とミシカがバイクで展開。

フロレンスとカレンはバスに乗ってもらい。

ウルフを操作するのはケン。

アクセルがレオパルド。

装甲車はリンに操作して貰う。

本当はリンにもバスに乗って欲しかったのだけれども、これは安全の確保、危険の分散のためだ。

フロレンスもリンも、支援要員としての役割が強い。

特にフロレンスがやられることは、一気に全体が継戦力を失う事を意味している。

そういう意味では、迎撃と支援に特化し、攻撃をあまり考えていないバスに乗って貰っていた方が良い。

なお、イヌは最初から二頭とも外に出て貰う。

「基本的にはこの陣形を維持して移動する。 狭い場所に入った場合は、一列で移動することになるが。 その場合はウルフを先頭に、バス、装甲車、レオパルドの順で」

「異議無し」

見ると、ミシカが完全に船を漕いでいる。

これくらいの時間耐えてくれと思ったが、まああまりそうがみがみいっても仕方が無いので、放置。

肉弾戦では活躍してくれているし。

それでいい。

「では、イスラポルト北の海岸に接舷してから、クルマを降ろし、後は発電所に向かって移動する。 道中、此方を監視している奴がいるかも知れないから要注意だ」

「OK!」

「それでは、一旦解散。 海岸に着くまでは休憩とする」

皆が散った後。

私は艦橋で、船長に話をしておく。

ちなみに最近から、意識して船長には敬語を使い始めている。まだあまり上手くは行かないが。

アズサの長老以外には、敬語なんて使う必要がなかった身だ。

あまり切り替えが上手く行っていない。

これは船長には、今後の事を考えて、後見人としてのポジションに着いて欲しいと考えているからだ。

船長にもその事については、話はしてある。

「実のところ、バギーも連れていきたいと思っています」

「この船を武装したい、というのだな」

「ええ。 資金には余裕がありますし、海上ではもっと強力な賞金首が現れる可能性もあります」

ハンターズオフィスで前に聞いたのだが。

大破壊前の戦艦や潜水艦がノアにまるごと乗っ取られ。

周辺を無差別攻撃する、というケースがあり。

それらは賞金首として手配されていた時期があったという。

もう破壊はされているのだが。

そういった、いわゆる陸上要塞級の賞金首が、海に姿を見せないとも限らない。

ネメシス号については、強固な防御と、何よりビイハブ船長の判断力もある。今の時点ではバギーを固定砲台として残しておけば、雑魚は蹴散らせるだろうし、賞金首級と遭遇しても逃げる時間くらいは稼げるはずだ。

だが、それはあくまで消極的な話。

危険を避けるためにも、ネメシス号は停泊させたくない。

今の時代、危険があらゆるところにある。

出来れば安全を確保できる場所を作っておきたい。

それに、ネメシス号にも、自衛能力をつけたいのだ。

「イスラポルトでの品揃えを見ましたが、レーザー迎撃装置とミサイルポッド、それに150ミリ砲二門。 この程度なら、余裕を持って購入できます。 クルマ一機分の武装です。 ネメシス号にごてごて武装をつけたくないというお気持ちは分かりますが、ご一考願えますか」

「……そうだな。 考える時期が来たのかも知れん」

ただし、その分積載量は落ちる。

そう言われたが。

頷く。

まあ仕方が無いだろう。

アクセルの部屋に行く。眠ろうとしていたらしいアクセルは、イスラポルトで買ったらしいファンキーなパジャマに着替えていたが。

私が顔を見せ、話をすると。

少し考え込んだ。

「それだけの武装となると、購入して搭載するのに、最低でも20000G以上は掛かるぞ。 装備するのにも時間が掛かる」

「ああ、分かっている。 だから今回の発電所の様子を見に行った後で構わない」

「なるほど、帰り際にイスラポルトに寄って、それで武装も購入していく、というわけか」

「そうなるな」

アクセルは、船長は良いと言ったのかと聞いてくる。

きちんと此奴は、要所で話を聞いているのだ。

船長はネメシス号を武装することをよしとしていなかった。

だが。

そもそも、Uーシャーク戦でもそうだったが。

ネメシス号が武装していたら。

もっと戦闘は楽になっていたのである。

その辺りは、自分のこだわりが、今までUーシャーク討伐が長引くことにつながっていたことと。

無関係では無いと。

船長も気付いている筈である。

そもそも、この規模の船だ。

武装をクルマに頼りっぱなしと言うのも、問題だったのだ。

「バギーも船から降ろして使いたいと考えていてな。 ネメシス号の安全を考慮すると、武装もやむを得ない」

「そういう理由もあるのか……」

「出来るか?」

「ああ、何とかなる」

頷くと、私は自室に戻る。

部屋はどれも狭くて無骨だが。

今の時点では、人数分ある。

ちなみにポチはケンと一緒の部屋。

ベロは誰かと一緒にいるのがいやらしく、甲板にいる。主人と認めた私とも、必要以上になれ合うつもりはないようだ。

イヌにも色々いる。

なお、賢いので、ケンとバディを組めと言えば、きちんとそれに従って動く事だって出来るだろう。

私としては。

それだけできれば充分だ。

二時間ほどして。

予定地点に到着。

タラップを降ろして、クルマを上陸させる。

砂浜だが、問題なくクルマは移動することが可能だ。昔の時代の重戦車だったら、砂浜に沈み込んでしまったかも知れないが。

今はそういう問題はクリアされている。

全部のクルマが降りきった後、予定通りのフォーメーションを組んで移動開始。此処からは、魔境だ。

イスラポルト近辺のモンスターは桁外れに強い。

気配だけでも、今までの地方とは、まるで空気が違った。

一度全員降車して。

最後の確認をしておく。

「全員、常時油断するな。 トレーダーのキャンプや小さな街については、用が無くても寄っていく。 これは補給はこまめにおこなうためだ。 最新の情報を得るためにも必要だ」

「バイアスグラップラーに、私達の居場所が知られる事にならないかい?」

「それはそれで好都合。 今の戦力なら、ゴリラ数機程度なら正面から撃破出来る」

「確かにそれはそうだね」

それに、だ。

実のところ、この間デルタリオで興味深い情報を入手している。

デルタリオのバイアスグラップラーの支部をぶっ潰したとき。何人かを拷問して聞き出したのだが。

今テッドブロイラーは、この間ノアとバイアスグラップラーの間で行われた大会戦の後始末に追われていて、動けない状態だという。

更に、バイアスグラップラーは、近々強力な戦力を整備して、ノアに対して仕掛けるという話もある。

要するにだ。

ガルシアに近いレベルの相手や、四天王は仕掛けて来る可能性があるが。

テッドブロイラーだけは恐らく姿を見せない。

それだけで、此方の選択肢は非常に増える。

今の時点では、テッドブロイラーに遭遇しただけでアウトだが。

その恐れがない以上、此方としてはかなり大胆に動けるのだ。

大胆に動ける間に。

可能な限り戦力を増やしておきたい。

重戦車も後二機は欲しい所だ。

ただ、重戦車はどのハンターも喉から手が出るほど欲しがっている。いずれにしても、簡単には手に入らないだろう。

移動開始。

これより、イスラポルト近辺の。

掃討作戦を開始する。

 

3、発電所

 

荒野は、何処も気を抜くことが一切出来なかった。

噂通りの魔境だったのだ。

モンスターの数自体も多い。

遠くを通り過ぎていく巨大なゴミの山。

あれが噂のスクラヴードゥーだろう。

仕掛けてもいいが、戦力の消耗がかなり大きい。悔しいが、今は見送って、また別の機会に攻撃を仕掛ける。

スクラヴードゥーは凄まじい火力を有しており。

生半可な重戦車ではあっという間にスクラップにされるという話である。

この辺りのモンスターは、軽戦車などのAFVだけではなく。

航空戦力も多い。

機銃だけで対応しようと思っていたが、はっきりいって甘かった。

主砲やミサイルも適宜使って行かないと、そもそも目的地までたどり着けそうにもないというのが実情だ。

ハンターズオフィスに貰った地図を見ながら、二日ほど北上。

最初の小さな街に到着。

さっそく補給を済ませる。

更に、バスに乗せて持ってきた軽戦車の残骸を一とする、換金できそうな素材を換金しておく。

補給費用がバカにならないのだ。

更に言うと。

恐らくこの辺りのモンスターの強さが故、だろうか。

街の武装も尋常では無かった。

街の周囲には堀が作られて水がため込まれ。

塀には見張り台が幾つもあり。

彼方此方に野砲。

それも150ミリクラスが、多数設置されている。

街の中の一番高い建物には、ミサイルポッドまで設置されている有様だ。

これでは、生半可な武装集団なんて、瞬く間に返り討ちだろう。

こんな地獄に暮らしているのだ。

相応に強くなければ、生きる事さえ許されない。

それが悲しい現実である。

ハンターズオフィスはこの街にもあった。

話を聞くと、もう少し詳しい発電所についての情報が入ってくる。

「発電所の近くには、管理をしている人達が住んでいる集落がありましてね。 この人達も、重要設備の管理をしているだけあって、相応に武装はしていたらしいのですが。 発電所はセキュリティシステムに任せていたそうです」

「警備を置いていなかったのか」

「大破壊前から残っている珍しい発電所で、かなり強力なセキュリティがあったらしく、それに油断していたのでしょうね」

「何てことだ」

呆れてしまうが。

咳払いして、かなり年老いた女性のハンターズオフィス職員は続ける。

「発電所の管理者達が気付いたときには、既に完全に乗っ取られていたそうです。 ただ、不可思議なことに、電気の供給は続いていて、何が起きたかは具体的にはよく分からないのだとか」

「何をやっているのだか……」

「彼らも、何世代にもわたって電気を守ってきた一族です。 油断が生じてしまったのも、仕方が無いのでしょう」

「分かった。 どうにかする」

いずれにしても、補給は済ませた。

アクセルが、地元のメカニックと協力して、各車のメンテナンスも済ませてくれた。

さっさと現地に急ぐ方が良いだろう。

街を出たところで、今聞いた話をする。

ただし、本格的な聴取は、その管理者達からする。

又聞きの情報は。

どうしても精度が落ちるからだ。

なお、ダスト原人とやらの賞金額は、40000G。

これは発電所という重要拠点に現れたことが大きい。

この近辺の幾つかの街には、まだ無事なインフラから、微弱とは言え電気が補給されていて。

それが失われるのは、死活問題なのだ。

発電機というものもあるが。

動かすのには燃料がいる。

この燃料が、バカにならない値段なのである。

なお、クルマの燃料についても、同じように相応に金は掛かるが。

ハンターズオフィスから補助が出ていて。

ハンターとして活動していると、かなり割安で提供して貰える。

それに昔は、ちょっと戦車を動かすと、目玉が飛び出すような金が掛かったらしいのだけれど。

今の時代は、色々な改良の成果で。

金も殆ど掛からなくなっているのだ。

この辺り、大破壊で何もかもが失われず。

ある程度文明が保持されたのが助けになっている。

文明が完全破壊されていたら、もう人類はとっくにノアに滅ぼされてしまっていただろう。

こういった、戦うためのテクノロジーが残っているのが。

今も、人類が、手段を選ばないノアに対応出来ている理由なのだ。

砂漠に出た。

荒野を抜けると砂漠だ。

転々と立っているのは何だろう。

羽のようなものがついていて。

クルクルと回り続けている。

壊れてしまっているものもあるようだ。

「何だアレは」

「発電用の風車ですね」

「ほう?」

バスから顔を出したフロレンスが教えてくれる。

なお。私は発電には燃料がいるとばかり思っていた。

「あまり効率は良くないし、問題も多いらしいのですが、燃料無しで風さえ吹けば電気が作れる便利なものです。 見た感じ、かなりの数がありますし、発電所近辺はあれらで埋め尽くされているのでしょう」

「なるほど、重要施設だな」

「バトー博士を連れて来ましょう。 壊れている設備は、直した方が良いでしょうし、発電所を守っているメンバーでは、修理まで手が回らないでしょうから」

「それがよさそうだな」

発電所も。

今回の件で懲りただろう。

状況を見て、奪回に成功したら。

根本的なメンテナンスをさせるべきだと私は思った。

今の時代、人間は助け合っていかなければならない状況だ。だからバイアスグラップラーのような鬼畜は滅びなければならない。

そして、私も出来るなら。

こういう重要設備は、守らなければならないとも考えている。

見えてきた。

どうやら、あれが発電所の管理者達が住んでいる場所らしい。

なにやら背が低い建物が、ずっと横並びになっている。

周囲は護衛用の火器で守られているが。

それはそれとして、何だか奇妙な光景だ。

今の時代、人間がたくさんくらしていた時代とは、何もかもが違うのだけれど。それが故に、元々人が住んでいなかったような場所にも、人が住み着いていると聞いている。

あれはもしかして。

最初から、人が住むために作られた施設、なのかもしれない。

とにかくだ。

集落に入る。

集落に入ると、ハンターズオフィスから派遣されてきたらしいハンターが数人、救助活動に当たっていた。フロレンス同様の、ナースの役割をしているハンターが目立つ。

「私も手伝ってきます」

「此方は情報収集をしてくる」

フロレンスには、リンをつける。ケンもついでに行って貰った。

アクセルは犬たちとクルマの見張り。

私はミシカとカレンと一緒に、ハンターズオフィスを探すが、どうやらこの街には無い様子だ。

そうなると、有力者を探すしかないか。

落ち込んでいる様子の街の住人に聴取をして。

長老格の人間を探す。

しばしして。

一番奥の建物に住んでいる、やる気の無さそうな老人を見つけた。昼間から、飲んでいるようだった。

私が壁をどんと叩くと。

びくりと身を震わせて、コッチを見る。

そして、小さな悲鳴を上げた。

私の目を見てしまったからだろう。

「発電所の奪回に来た。 話を聞かせて欲しい」

「あんたが、ハンターズオフィスが派遣してくれるという腕利きかね」

「レナという」

「噂は聞いている。 あの恐ろしいバイアスグラップラーの幹部を倒したとか」

頷くと、長老は緩慢に立ち上がりかけて失敗。

転びそうになった所を、ミシカがおっとと言いながら支えた。

長老は酔いも冷めたようで。

すぐに職員達の内、無事な者達を集める。

かなり数が少ない。

これは話に聞いていたよりも、状況はまずいのかも知れない。

「何が起きたのかを教えてくれ」

「最初に、バイアスグラップラーが襲ってきたんだ」

白衣を着た、中年の男性が言う。

どうやら、実質上此処を仕切っている人物らしい。頷くと、私は続きを言うように促す。

バイアスグラップラーにして見れば、確かに発電所を制圧する意味はある。勿論捕まえた職員は人間狩りに回しただろうが、それ以前に発電所という代物に、戦略的に巨大な価値があるのだ。

何よりも、この人物達が脱出できたという事は。

危険を最初から予期して、備えていたという事だ。

「我々はどうにか脱出して、セキュリティに任せた。 かなりのけが人は出たが、もともと移動用のクルマはあるからな。 何とか逃げ出すことは出来たし、発電所の状況もモニターしていた。 奴らはセキュリティの戦闘ロボットと戦いながら、奥を目指していたようだった。 どんどんセキュリティが喰い破られていって、不安になる中、それが起きたんだ」

「それ、とは」

「ノアのモンスターが乱入した」

なるほど。

そういうことだったのか。

ノアのモンスター、恐らく賞金首ダスト原人だろう。そいつは、多分チャンスを待っていたのだ。

セキュリティが弱まるチャンスを。

そして、セキュリティと相打ちになって消耗していたバイアスグラップラーの兵士達を皆殺しにすると。

奥に居座ってしまったという。

後は、電気を横取りしながら、其処で大人しくしているそうだ。

コレについては、セキュリティが壊滅状態になっているのを外部から確認後。

発電施設に居座り。

電気を吸い続けているダスト原人について、職員の一人が見てきているという。

ただし、かなりの数のモンスターがダスト原人と一緒に入り込んでいて、それも排除しなければならないとか。

「大体事情は理解出来た。 つまり可能な限り発電所そのものには傷つけず、ダスト原人とモンスターを排除して欲しい、という事か」

「傷をつけられると、修復の手立てがない。 そもそも、発電所の仕組みそのものに、無理が来始めている」

「外の回っている奴の中に、かなり動けない奴がいた。 あれらか」

「そうだ。 元々、大規模なメンテナンスが必要な時期に来ているんだ。 だが、それが出来る人員も、テクノロジーもない」

悔しげに職員が俯く。

これは、バトー博士を呼んできてもらうしかないだろう。

「フロレンス」

「何ですか」

「バスを任せるから、バトー博士を呼んできてもらえるか。 その間に此方で、ダスト原人は片付けておく」

「分かりました。 しかし、くれぐれも無茶はしないようにお願いします」

フロレンスに行って貰うのは、バトー博士との交渉を任せられるのが彼女くらいだから、である。

あの博士は、孤独に耐えられないタイプだ。

護衛付きで外に出すにしても。

恐らく「友達」である事を了承した私をエサにしない限り、出てくる事はまずないだろう。

そして、ここからが重要だが。

テクノロジーを失っている此奴らは。

バトー博士に頭を下げてでも。

テクノロジーを得なければならない。

数世代を惰性で過ごすうちに、機械の動かし方は知っていても、その仕組みを忘れてしまったのだろう。

その機械が。

どれだけ重要な代物か分かっているにも関わらず。

ノアが攻撃をしなかったのは。

多分他の施設の方が重要だと判断していたから。

故に、今回は。

賞金首を使って監視させ。

隙を見て乗っ取らせた。

そういう事なのだろう。

さっそくフロレンスが、バスで飛び出していった。ドッグシステムを使うとは言え、かなり危ない。

なお、ビイハブ船長については、連絡手段を確保はしてある。

少し時間は掛かるが、この施設は奪還する意味が大いにあるし。

修復する意味もある。

イスラポルト近辺の制圧には相当手間が掛かるとみているが。まずその第一歩だ。そして、イスラポルト近辺からバイアスグラップラーの戦力を一掃できれば。

その戦略的価値は計り知れない。

「これから、テクノロジーを持っている奴を此処に呼ぶ。 非常に舌禍が過ぎる奴だが、テクノロジーを持っているという事が何を意味するかくらいは分かっているな」

「……」

「奴は今の時代に戦車を作り出せるほどの男だ。 恐らくは此処の修復も出来ると見て良いだろう。 奴の舌禍に対して、とにかく冷静に対応しろ。 頭を下げて、テクノロジーを得るんだ」

「分かった。 正直な話、今回の一件で思い知らされた」

私も、正直我慢できる限度を超えていたのだが。

それでも、こう言っておかなければならない。

そうしないと、非常に貴重なテクノロジーが、この世から失われてしまうかもしれないのだから。

バスがいなくなって、残ったのはウルフとレオパルド。装甲車。バイク二機。

主力である重戦車二機がいるのは助かるが。

しかしながら問題は。

発電所の奥に巣くっている賞金首クラスのモンスターを。

発電所に出来るだけ被害が出ないように倒さなければならない、という事だ。

こればかりはかなり厳しい。

恐らく敵は地の利を最大限に利用してくるだろうし。

セキュリティそのものが無い今、発電所は既に敵の巣だ。

まずは、城攻め。

それも城を傷つけない方法で、を行わなければならない。

面倒くさすぎる。

ちなみに、電力についてだが。

かなりまずい情報を、職員から得ていた。

今の時点では、通常通りの電力供給が続いているらしい。それにも関わらず、発電の仕組みはオーバーワークを繰り返しているとか。

それはつまり。

ダスト原人が、オーバーワークを意図的に引き起こし。

残り分を何かに利用しているという事だ。

ノアに送っているのか。

自分で電気を利用しているのか。

どっちにしても非常に厄介だ。

ただでさえ、だましだましに使っているような施設である。

オーバーワークなんかしたら。

もつわけがない。

トレーダーが来てはいるので、補給は出来る。それだけは救いだ。

一旦街を出ると、発電所に向かう。

だが、今回は。

腰を据えて掛からなければならない。

 

数日掛けて。

発電所周辺のモンスターは掃討した。

かなりの数のモンスターがいて、消耗は避けられなかった。

軽戦車などのAFVのモンスターも多く。

バスがいない現状、クレーンで引っ張るわけにも行かず。

久々にトレーダーにコンテナを借りて、それで残骸を引っ張っていくしかなかった。

街に戻っては、戦利品をさばいて。

中に遺体がある場合は埋葬。

壊した機械の大半は鉄屑にし。

Cユニットや大砲、ミサイルや特殊兵器など、積んでいるものは基本的にトレーダーに売って金に変えた。

他のモンスターについても、かなり強い奴が多く。

半分以上砂漠になっているこの地域では。

特に大型化する傾向が強いようだった。

コンテナはフル稼働。

体長二十メートルを超えている蛇のモンスターを引きずって戻るときには。その蛇がサイボーグ化している事もあって、かなり難儀した。

トレーダーは初老の女性だったが。

これだけの商品が得られ。

しかも弾薬を派手に使ってくれると、大喜び。

仲間にまで声を掛けて、此処に集めている様子だ。

かき入れ時と判断すると。

トレーダーはすっ飛んでくる。

事実、数日で掃討作戦を終了した頃には。

街には、四人もトレーダーが押しかけ。

補給だけでなく、武器まで売りつけようとしてきていた。

だが、アクセルが見たところ。敢えて変えるような必要性のある装備品は見当たらず。

強いていうなら、今使っているよりマシなエンジンが一つと、そこそこ珍しい機銃が一つ。

装甲車のエンジンを変えて。

機銃を変える。

20ミリの機銃だ。

かなりの破壊力を持ち、この辺りの雑魚にも有効打を与えられる。

ただ、正直な話。

賞金首クラスには相手が悪いだろう。

というわけで、今までよりも装甲を増やせる、という事がプラスに働いた。それ以上は考えないことにする。

ともあれ、掃討作戦は完了。

トレーダー達には告げる。

「ここからが本番だ。 発電所に巣くっている賞金首を始末した後、此処に発電所を修理できる奴が来る。 そいつはテクノロジーを持っているが、恐らく修理のための資材が足りない。 あんた達には、それを揃えて貰いたい」

「金次第だねえ」

「ああ、その通りだ。 金については私がある程度工面する。 足りない分は、彼らにどうにかして貰う」

顎をしゃくり。

発電所の職員達を指す。

彼らにして見ても、平穏がいつまでも続くとは思っていなかっただろう。

貴重な残されたインフラの一つが。

こんな形で奪われ。

彼ら自身は、存在意義そのものを失おうとしている。

それは人類そのものにとっても。

大きすぎる損害なのだ。

フロレンスが戻るのを待っている時間はない。

アクセルが整備を終えるのを待ってから。

すぐに発電所に出る。

今回の作戦は、電撃作戦となる。

一瞬で勝負を決め。

その結果、被害を抑える。

賞金首クラスのモンスターを相手に、手加減することは死を意味する。

手加減は一切無し。

徹底的に。

一瞬で叩き潰す。

 

発電所の内部構造は、既に職員から地図を貰っている。正面から見ると、幾つか巨大な煙突があって。

その真ん中に、土まんじゅうみたいな巨大な施設があった。

周囲には食い散らかされた人間の骨、多数。

発電所の職員は、負傷者こそ出したが、死者はなかったということだから。

これはバイアスグラップラーの連中だろう。

死体は放置。

そのまま進む。

本来は機能していたらしい銃座や、野砲の類は、どれも沈黙している。

バイアスグラップラーが攻めこんだときに、破壊したのだろう。

ゴリラの残骸があった。

それも三機。

後で調べる。良い主砲とかミサイルとか、役に立ちそうなものが手に入るかもしれない。

恐らくは、ダスト原人とやらに、消耗しているところを奇襲されたのだろう。

中に入ると。

モンスターの死骸も多数。

人間の死骸も同じく。

凄惨な有様だ。

まずは整備云々以前に。

片付けが必要だろう。

此処は、発電所の地上部分。セキュリティなどを司っていて、戦車が入れるサイズではない。

内部には、レーザーやらを発射する装置や。

監視カメラなどがあったけれど。

それらは全て死んでいた。

大型の警備ロボットがあるが。

RPG7で乱暴に破壊されていた。

壁も床も、腐敗した血と臓物に彩られているが。

ゾンビ化したバイアスグラップラーの兵士や。それにモンスターが、時々姿を見せる。

ケンとアクセルだけはクルマに残し。

他の皆で排除して回る。

セキュリティの最深部まで辿り着くのに、地図を見ながらほぼ半日。

悪知恵が働く事に。

彼方此方意図的にバリケードが作られていて。

その辺りには、強力なモンスターが少なからずいた。

フロレンスがいない今、無理も出来ない。

兎に角、破壊し、倒さなければならないが。

厄介極まりない。

少なからず全員が消耗する中、リンが手当をしてくれる。本職のフロレンスほどではないが。

相応の事は出来るようだった。

セキュリティシステムそのものは、生きていた。

手足をもがれただけで。

監視カメラも無事だ。

破壊する意味がなかったから、だろう。

此処までの時点で、ダスト原人には遭遇していない。

つまるところ、奴は地上部分にはいないか。

奇襲の好機を待っている、というところだろうか。

私は、職員から教わっているパスワードを入力して、システムを掌握。

この瞬間が一番危ない。

カレンとミシカには、最大限の警戒をして貰う。

私自身は。教わった手順通りに、セキュリティの状態を確認していくが。やはり、セキュリティはほぼ全滅状態。

これも復旧しなければならないだろう。

「ダスト原人は見つかりそう?」

「地上部分にはいないようだな。 今、地下を調べているが……」

幾つかのモニタを切り替えているうちに。

見つけた。

なんと、発電所の中枢部分。

其処に、人型のケーブルの塊が、ぼんやりした様子で突っ立っている。

ただ、その体からはケーブルが伸び。

発電所の中枢と、直接つないでいるようだった。

これはひょっとして。

余剰電力を喰っていやがるのか。

少しまずい。

恐らくだが、奴はこの発電所をオーバーヒートさせて、破壊するつもりだ。それも、修復不可能なレベルで。

しかも此奴は、それをするためだけに産み出された存在。

自分が消し飛ぶ事なんて、何とも思っていないのだろう。

ざっと見るが。

恐らくは、電力関係の装備しかしていない。

この間、トータルタートルからぶんどったアースはきちんとウルフにつけている。それならば、いけるか。

「この戦闘では、主砲だけを使う」

「被害を小さくするためかい?」

「そうだ。 まず、カレンとミシカ、犬たちと一緒に、ダスト原人のケーブルを斬ってしまってくれ。 私もそれに参加する。 奴は恐らく高電圧の攻撃を繰り出してくるが、それはウルフで受け止める」

まだセキュリティで操作できる箇所。

発電所中枢への入り口を開けながら、私は続ける。

この入り口は広く。

クルマで入る事が可能だ。

「此処の電力供給は止めるわけにはいかない。 その後、奴をウルフで無理矢理外に押し出す」

「随分乱暴な方法だね」

「外に押し出した後は、全火力を用いて叩き潰す」

ひゅうと、アクセルが口笛を吹いた。

私がウルフを動かすつもりだったが。

ケンが挙手する。

「僕がやります」

「幾ら高性能アースを積んでいるとしても危ないぞ」

「大丈夫です。 やらせてください」

「……分かった。 手順について反芻してみろ」

ケンは、順番に反芻していく。

ダスト原人を、発電所中枢から切り離す。

その間奴の攻撃を、ウルフのアースで受け止める。

なお、クルマの主砲だけを使って、奴を攻撃する。

私とミシカは、バイクで機動戦を仕掛けるが。

その時にも、可能な限り電気をもろに浴びないよう、気を付けなければならない。

そして、奴がクルマに気を取られている間に。

ミシカとカレン、私で。

奴のケーブルを切り裂く。

切り裂いた後、ウルフで体当たり。

無理矢理に発電所からダスト原人を追い出し。外で総力戦を仕掛ける。ウルフへの負担は大きいし、中に乗る人間の危険も大きいが。

そろそろ、ケンだけ特別扱いも出来ない。

作戦開始。

セキュリティを現状固定すると、外にばらばらと出る。

そして各自クルマに分乗。

カレンと犬たちは外に出たまま。

ウルフはケンに。レオパルドはアクセルに。装甲車はリンに任せる。ミシカは、多弾頭グレネードを使わないように釘を刺し。

代わりに大型ライフルでの攻撃と。

この間トレーダーから入手した、強力なセラミックブレードを使うように指示。

バイクに乗ったまま振るうセラミックブレードは、Cユニットの操作補助と連携すれば、絶大な破壊力を発揮するのだ。

ただ、ミシカはこの手の武器を使うのは、あまり慣れていない様子なので。

私が手ほどきしなければならないが。

ソルジャーとしては、今後もこういう武器を使って行く必要性はある。

ミシカはエイムに関しては私と同等かそれ以上にこなせるので。

今後の課題は格闘戦だろう。

カレンに教わってある程度は習っているようだが。

今回は、ちょっとみんなの負担が大きいかも知れない。

発電所の裏に回る。

大きなスロープがある。

此処から、突入だ。

突撃開始。

ウルフを先頭に、突入。

見えた。

ケーブルの塊みたいな奴が、精密機器のど真ん中に居座っている。ウルフとレオパルドで主砲を叩き込む。

だが、あまり手応えがない。

そもそも、ケーブルが本体で。

人型は便宜的にとっているだけなのかも知れない。

予想通り。

凄まじい稲妻を放ってくる。

ウルフが直撃を受けるが、この間のトータルタートルから奪ったアースで、殆どを床に逃がす。

ただ、バイクに乗っている私の方に、びりっと来た。

かなり拡散させてこれだ。

直撃を食らうとまずいだろう。

突貫。

叫ぶと同時に、私はマリアの剣を引き抜き。

ケーブルを数本、同時に切断。

強烈なしびれが手に来る。

私もセラミックの剣にしておけば良かったか。だが、使い慣れていない武器でやりあうのは、正直ぞっとしない。

ウルフが、ダスト原人に体当たり。

ケーブルの塊は、力比べを受けて立つ。

そして辺りが真っ白になるほどの凄まじい電気を、ウルフに浴びせたが。

ウルフは無限軌道を回転させながら、ゆっくり位置をずらしていく。

その間に、ミシカがバイクで突貫。

またケーブルを一本切断。

犬たちは敵の回りを廻りながら、野戦砲を叩き込み。

カレンが、隙を見て掌底を直接叩き込んだ。

蹈鞴を踏むダスト原人。

体がひりつくのを我慢して、私が装甲車をジャンプ台にして、バイクを中に踊らせる。そして、発電機に伸びているケーブルを、空中で叩ききった。

ミシカも、更に一本。

ダスト原人は、此方の狙いを悟ったのだろう。

凄まじい雄叫びを上げると、此方に電撃を放とうとしてくるが。

ウルフが強烈な旋回を見せて、自分の身を盾に電撃を受け止める。

その隙に、背中をミシカがなで切りに。

カレンが、頭に飛び膝を叩き込む。

ぐらりと傾いたダスト原人。

そのまま回り込むウルフ。

その間も、レオパルドと装甲車は主砲を叩き込み。

私は、最後のケーブルをブチ切った。

「よし、外に押し出せ!」

ウルフの車体から、かなり煙が上がっている。

まずい。

それに、ダスト原人は、ケーブルをまた延ばして、発電所中枢にアクセスしようとしている。

ケンは無事か。

ウルフに乗り込もうかと思った瞬間。

ウルフが動く。

ダスト原人に体当たり。

軋みのような悲鳴を上げるダスト原人を、一気に発電所から押し出すようにして、スロープを駆け上がっていく。

全車それに続く。

どんと、凄まじい音がしたのは。

スロープを上りきったウルフが、文字通り坂道を利用して「飛んだ」から。

着地と同時に、ウルフがダスト原人から離れつつ、主砲を叩き込み。

そして装甲車、レオパルドが遅れて到着。

三方向から包囲し。

全火力を解放した。

悲鳴か、怒りか。

分からないが、ダスト原人は凄まじい雄叫びを上げる。

外なら関係無い。ミサイルの飽和攻撃を叩き込む事が出来る。

更に、ミサイルが止んだ後、多弾頭グレネードをミシカが叩き込み。私がハンドキャノンをぶち込む。

流石にずたずたになったダスト原人が、その正体を晒す。

ケーブルの塊の奥にあったのは。

小さな機械だった。

あれが本体か。

すぐにケーブルがそれを守ろうとするが、遅い。

私が対物ライフルで速射。

本体を貫かれたダスト原人は。

それでもなおあがく。

周囲全域に、己がため込んでいただろう電力を、全てぶっ放したのだ。

砂漠に、光が炸裂した。

 

4、痛み

 

痺れる体を無理矢理立ち上がらせ、周囲を見る。

損害は大きい。

特に最後の、奴の渾身の雷撃は凄まじかった。

私は見ていた。

最後の瞬間、カレンがダスト原人を空に蹴り挙げて。

それで被害が減った。

だがその代わり、カレン自身は蹲ったまま動けない。

アクセルがレオパルドから出てくる。かなりレオパルドのダメージも大きい。

装甲車から出てきたリンが、皆に呼びかけ始めた。

私は、ウルフに歩み寄ると(走る余裕など無かった)、砲塔のハッチを開けて、ケンを引っ張り出す。

気を失っているケン。

多分最後の一撃を受けて、ついにもたなくなったのだろう。

よく頑張った。

声を掛けると、後はリンに任せる。

予想以上に厳しい戦いだった。

周囲のモンスターを掃討しておいてよかった、としかいえない。こんな状態で強めのに襲われたら、ひとたまりもない。

「カレンさんの状態が良くないです。 命には別状はないですが、出来ればフロレンスさんの治療を受けて欲しいです」

「一度戻るぞ。 クルマは全部動くな」

「アタシは、ちょっと無理かも」

最後の一撃で、ミシカとポチも相当なダメージを受けた様子だ。実を言うと、私もあまり意識を保っていられるか自信が無い。

コンテナにダスト原人の残骸とバイク二機を乗せると。

後は皆、クルマに分乗して、ドッグシステムで職員達の街に戻る。

その間、眠ることにする。

うとうととしている内に、目的地には着いたが。

その時には、体の痛みが顕在化していた。

アドレナリンが切れたのだろう。

凄まじいまでに痛いが。

だが、それは、顔には出さない。電気は食らうと痛いものなのだ。こればかりは、仕方が無い。

フロレンスが到着していた。

皆の状態を見ると、即座に治療を始める。

私は、まだ多少余裕があるアクセルとリンに、補給とクルマの整備を頼むと。バトー博士と、一緒に来たらしいシルキと話をするべく、歩く。

意識が飛びそうだが、此奴とまともに交渉をするのは、私でないと駄目だ。

「やあボケナス! 酷い状態じゃないか、んー?」

「両手を縛られたも同然の状態で、賞金額40000Gの賞金首とやりあったばかりだからな」

「ハハハ! それは酷いね! ボケナスらしいや!」

「それはどうでもいい。 発電設備の復旧にお前のテクノロジーがいる」

声のトーンが変わったことに、バトー博士も気付いたのだろう。

私は少しばかり真面目な話をしている。

「お前には、発電設備の修復と、そのテクノロジーをそこにいるでくのぼうどもに教えて欲しい。 出来るか」

「やれるよ? ボケナスと違って天才だし」

「資材は其処にあるので充分か」

「ちょっと見てみないとなんともいえないねえ。 来る途中に風力発電機の壊れている奴はみたけれど、アレは直すのそんなに難しくない。 発電所の方は、内部がどんだけ壊れてるか、見て確認しないとね」

頷くと。

一旦手当を受けるので、被害状況の確認をアクセルと二人でしてきてくれと、バトー博士に頼む。

アクセルは露骨に嫌そうな顔をしたが。

正直、多分最初に動けるようになるのはアクセルだ。他に頼める相手がいない。

フロレンスが、かなり怖い顔をしてこっちに来た。

「レナさん、貴方もかなり酷い状態です。 すぐに診ますので、横に」

「分かっている」

手当を受ける。

さて、此処からだ。

復旧まで、どれだけの手間が掛かるか。

まずは此処をしっかり抑えておかないと。

以降の作戦も上手く行かないだろう。

此処はそれこそ、周辺地域にとっての生命線。ノアに二度と抑えさせるわけには行かない。

問題はアズサの戦力は、此処に廻せるほど多く無いという事だ。

セキュリティを復旧させるどころか。

より強固にしないといけないだろう。

「もの凄く痛いはずです。 具体的に何処が痛いか教えてください」

「そうだな……右手が特に酷いな」

フロレンスは、薬を塗り始める。

その間も私は眉一つ動かさなかったが。

それを見て、フロレンスはため息をついた。

「痛みは体の警告です。 精神力で押さえ込む事だけは、必ずしも良い事ではありません」

「分かっている」

だが、私の痛みは。

両親を殺され。

育ての親を殺された。

それだけにぶつけたいのだ。

戦いは、まだ続く。

それまでに、痛みは。

絶やしてはいけない。

 

(続)