悪意と罵倒

 

序、直接依頼

 

私は小首をかしげていた。

弾薬補給も兼ねて、デルタリオに寄ったのだが。そこのハンターズオフィスで、直接依頼を受けたのだ。

ハンターとして実績を積み重ねると、直接依頼が来るケースがある。

私の場合、短期間でスカンクスを一とする大物を次々に倒しているので、こういう依頼は来るのが珍しくなくなっているのだけれど。

それでも、賞金首を直接倒して欲しいと依頼されるのは初めてだ。

殆どの場合は、ハンターの早い者勝ちにするものなのだけれど。

危険度が高い賞金首が出て。

それを出来るだけ早く退治したい場合。

ハンターズオフィスから、依頼が来るケースがあるのだ。

しかも、である。

これから倒そうと考えていた外道販売鬼。

それも賞金額が40000Gにまで上がっている。

どうやら出現が確認された場所を包囲しているハンター達がいるらしいのだけれど。エサが来なくなったことに気付いた外道販売鬼が何度か突破をはかって戦闘になり。

その度に被害が出ているらしい。

それなりに手練れのハンターが包囲しているだろうに。

それでも被害を出しているのだ。

かなり手強い相手、と判断するべきだろう。

アズサから戻った時点で、船の改装は完了。

デルタリオに寄る前に、ビイハブ船長の故郷によって、墓参りは済ませてきた。

ビイハブ船長には老母がいるのだが。

船長には生存している息子が三人。孫が八人いて。

その内二人が介護をしてくれているので、まったく問題ないらしい。

二人とも例のメイド一族で修行をしているらしく、謎の集団度が増すばかりだが。兎に角リン(正式に仲間加入したのでさんは外して欲しいと言われた)を見ている限り、修行の内容には戦闘もかなり含まれるようだし。

ハンターでは無いと本人は明言しているが。

それならば、今後は後方支援をして貰う。

ケンの格闘技の稽古は少し前までカレンにつけて貰っていたのだけれど。

今後はリンに仕込んで貰うのもありだろう。

いずれにしても、色々な技を見るのは良い事だ。

体が固まりきらない内に、様々な技術を見ておけば。

大人になった頃には、相当な戦士になっているだろう。

ともかく、である。

デルタリオで補給を済ませた後、東の海岸に。

河口を左手に見ながら、対岸に。

遙か東に、巨大なトリの姿が見えるが。

あれはスワンの街。

海の周辺にある街の中でも、最大最悪クラスの無法地帯で。

血に飢えた凶暴な無法者が集う、殺戮の街だ。

話によると、趣味の悪い決闘をずっと続けているらしく。

出来れば近寄りたくない。

気分が悪いからだ。

こんなご時世、人間は協力してノアのモンスターと戦っていかなければならないだろうに。

最悪の快楽に刹那の欲望を見いだし。

人の血を見て喜んでいる連中なんて、関わり合いにもなりたくない。

私は復讐鬼だが。

こういう人間以下の連中と一緒にされる覚えはない。

スワンには近寄らず。

海岸線の一点で船を止める。

この辺りは非常に地盤が怪しく。

クルマを降ろすと、そのまま沈んだり。或いは崩落に巻き込まれたりする。

先人が注意の立て札を彼方此方に立てていて。

場所によっては、桟橋のようなものまで作っている。

モンスターが出る中、大変だっただろう。

とりあえず今回は、ビイハブ船長とアクセル、ケンに船を任せ。

私とカレン。ミシカとフロレンス。それにリンとポチとベロを連れて出る事にする

船については、若干岸から離して停泊するように指示。

甲板に上がって来たモンスターは、Cユニット任せで、クルマの火力で処理する。

今、近辺に賞金首は存在しない。

カジキエフについても、トビウオンとUーシャークが消えたことで、近辺の手練れが嬉々として狩りまくっているらしく。恐らく、わざわざネメシス号に仕掛けてくる事はないだろうし。

仕掛けてきても撃退は可能だ。

ケンは連れていって欲しそうな顔をしたのだが。

今回は、ウルフを任せる。

ウルフで、Cユニットと連携して、上手に敵と戦って見せろ。

そう言うと、ケンは喜んで残った。

後は暇なときに、ビイハブ船長(やっぱり生半可なハンターよりまだ遙かに強い)に、訓練を付けて貰えばいい。

バイクもおいてきたので、徒歩で来るしかないが。

それにしてもこの辺りの地盤の悪さは異常だ。

何処がいつ崩れてもおかしくないし。

何より、彼方此方大穴が開いていて。

多数のモンスターや、墜ちて死んだらしい人間の死骸が転々としている。

ただ、モンスターの姿そのものは少ない。

此処は危険地域なので。

却ってハンター達が一生懸命モンスター狩りをして。

その結果、モンスターはほぼ処理されるという、皮肉な結果に終わったらしい。

例えば、火というのは、触れれば危ない事がすぐに分かる。

それと同じ事で。

危ないと分かるが故に。

積極的にそれを排除した結果。

皮肉すぎる話だが、下手な街中よりも安全になってしまった、ということなのだろう。

しかもこの辺りには、非常に高額で素材を換金できる上、倒す過程で戦闘技術を磨ける事で有名な巨大な亀のモンスター、スローウォーカーが多数生息していたという事もあり。

実力をつけたいハンター達が、せっせと足を運び。

モンスターを絶滅寸前まで追い込んでしまった、という事情もあるようだ。

「それにしても、最悪の足場だな」

「祖父の話だと、地下街があったそうですよ。 それもずっと深くまで。 それが放棄された結果、こんな有様みたいです」

「ノアとの戦いが一段落した後は、一旦全部解体しないと駄目だな。 これだと修復しようがないだろう」

「確かにね。 下の方をごらんよ」

カレンが顎をしゃくる。

下の方は、水が溜まっていた。

あれでは、もう修理どころではない。

いっそのこと、一度全部埋め立ててしまうか。

或いは全て解体した後で、埋め立てるか。

資材については、新しい使い路があるかも知れないが。

それにしても、この辺り一帯全部が地下街だったのだとすると、その規模は正直計り知れない。

大破壊前。

どれだけ人間は、傍若無人に世界をいじくっていたのだろう。

その様子は、皮肉にも。

今のノアと、変わらないのではあるまいか。

しばし、桟橋を行く。

途中、立て札が幾つかあり。

その中には、自販機パラダイスへようこそ、などというものもあったが。その上から、立ち入り禁止の看板が被されていた。

キャンプが見えてきたのは、それから少しして。

比較的安定した地盤の地域が続いて。

キャンプが幾つか作られている。

バイクを持ち込んだハンターもいるようだが。

私はこんな場所に、重武装のバイクを持ち込む気が知れなかった。

辺りには戦闘の跡が残っている。

外道販売鬼が外に出ようとして。

それを食い止めた痕跡だろう。

キャンプにいた数名が、銃を向けてくる。

皆、現役のハンターだろう。

少なくとも、ここに来る手段を有している実力は持っているはずだ。相応の手練れである事は、見てすぐに分かった。

「止まれ、何者だ」

「ハンターズオフィスから派遣されてきたレナだ」

「! お前がスカンクスを倒したというレナか」

「外道販売鬼を退治するために来た」

銃を下ろすと、ハンターが視線を向ける。

自動販売機が、確かにたくさん並んでいる。

電力は未だに供給されているようだ。

ハンターの一人に聞かされる。

屈強な禿頭の大男だ。

禿頭によると。

彼処は、この近辺では珍しい観光地で。

この不安定な地盤の地域に住んでいるホームレス達にとっては、少ない観光資源の一つだったらしい。

だが外道販売鬼が現れて、何人もが喰われてからは状況も一変。

観光地にして生活を凌いでいたホームレス達も近づくどころでは無くなったそうである。そういえば管理していた人間が喰われたという話も聞いたし、確かにそれどころではないだろう。

「こんな危険な場所に住んでいるのか」

「あんたもハンターなら知ってるだろうが、この辺りは昔亀の住みかでな。 それでハンターが片っ端からモンスターを殺して、却って安全になったんだよ。 地盤が不安定、何てのは、危険の内に入らないからな」

「そう、だな」

デルタリオの、いつモンスターに喰われてもおかしくない貧しいボートピープル達を思い出す。

幸い、今は嬉々として腕利き達がカジキエフを一とするモンスター達を狩り始めているせいで、安全度が飛躍的に向上しているようだが。

それでもいつモンスターに襲われてもおかしくないという恐怖は。

地盤が不安定という恐怖よりも、遙かに上だ。

しかもこの辺りは電気が生きている。

ある程度文明的な生活も出来る。

ホームレスといっても、地下には広い空間があって、其処には住み着ける場所もたくさんあるのだ。

暮らしたいなら此処が良い。

そう考える者も多いだろう。

少し困った。

これは取り壊すにしても、考えてからやらなければ、多くの人間の明日を奪うことになってしまう。

より安全な場所を用意するか。

無理にでも地盤を安定させ、それで少しずつ人々を移住させるか。

「いずれにしても、スカンクスを殺ったあんたなら、何とかなるだろう。 今、奴の賞金額はどれくらいになってる」

「40000G」

「妥当なところだな」

「そんなに強いのか」

頷く禿頭の男。

外道販売鬼は、サイズこそそれほどでもないが。

体内に多数の小型ミサイルと爆薬を有しており、その火力は凄まじいという。

本来ならクルマで戦うレベルの相手で。

こんな所にいなければ、手練れのハンターが重戦車を見繕って戦うべき相手、だということだった。

なるほど、それは厄介だ。

「カレン、ミシカ」

「ああ」

「分かってる」

前衛の二人は、負担が大きくなるだろうから、先に声を掛けておく。

他に、詳しい戦闘の経緯を聞く。

一度は追い返したのだ。

聞いておいた方が良いだろう。

それと、ポチとベロに奴の匂いを嗅がせておく。

今、また奴は自動販売機に紛れているという事なので、そうしておかないと危険だ。

更に、である。

奴は凄まじい速度で移動するという。

気がついたときには、歴戦のハンターが後ろをとられていた。

そういう証言も出てきた。

戦闘犬が何頭かいる。

恐らく、外道販売鬼が出てきたときの対策用だろう。だが、かなり傷ついているし。ハンター達も疲弊しているようだ。

いつ来るか分からない。

それも、残像を作るレベルで動いてくる。

それでは疲弊するのも当然だ。

「油断はするなよ。 奴を倒してくれ」

「この人数で手に負えなかったというのも、少し問題だな」

「俺たちはここ出身のハンターなんだよ」

「!」

ああ、なるほど。

それで此処の危機を聞いて、駆けつけてきたという訳か。

ここに来る事が出来たのも。

恐らくそれが故だ。

やむを得ないか。

危険域に足を踏み入れる。

エサが来たことに、外道販売鬼は気付いたはずだ。

フロレンスを中心に、前衛をカレン。後衛をミシカとリン。左を私。右を犬たちで固めて、動く。

自動販売機が、多数並んでいる。

その全てが見える位置に立つ。

本物は壊すな。

そういう指定も受けている。戦闘に巻き込まれる場合は仕方が無いが、此処で暮らしている人達には、数少ない名物で。

外貨の獲得手段なのだ。

物々交換や、漁業で生活もしているが。

それでも安定はしない。

賞金額が跳ね上がっているのも。

この近辺を、まとめて滅ぼしかねない危険な相手だから、である。

少し高い位置があるので、其処から双眼鏡で覗く。仕掛けてきた場合に備えて、左手に対物ライフルを持ったままだ。

遠くの時点では、どれが奴かは分からない。

だが、転々としているのは。

赤黒い骨。

骨だけ残して人間を食らう。

その話は本当らしい。

話が出始めたのはそれなりに前だが。

かなり新しい骨もあるようだ。

餌食になったハンターのものだろうか。

だとすると、早急に撃破しないと危険だ。

「一つずつ調べるか?」

「いや、いい手がある」

ミシカが脳天気な案を出してくるので、即座に却下。

そして、皆に耳打ち。

頷いた皆が、距離をもう一度取り。ハンター達の所に戻る。

もう一度、自販機が並んでいる地点に行く。

私は、口の端をつり上げていた。

見つけた。

即座に、対物ライフルを立射。

多数並んでいる自動販売機の一つを、容赦なく弾丸が貫いていた。更に連射。大穴が開く。

まともに戦う必要なんてない。

悲鳴を上げた自動販売機に擬態している化け物が。

巨大な口を開けた。

それには、鋭い牙が並んでいた。

血まみれの、おぞましい巨大な牙が。

立て続けに皆で仕掛ける。

ミシカが多弾頭グレネードをぶち込み、犬たちが野戦砲を。

フロレンスは制圧射撃。

リンはロケットランチャー。

そして突貫したカレンが。

低い体勢から踏み込み、掌底を叩き込む。

体長七メートルの鉄の塊であるカジキエフに、有効打を与えた掌底だ。

それより遙かに小さい外道販売鬼には、致命打である。

必死に逃れようとするが、既にこれだけの打撃を叩き込んでいる状態である。両腕を伸ばして、カレンを捕らえようとする外道販売鬼の上には、私が躍り出ていた。

そして、剣を抜くと。

一刀に斬り伏せる。

オイルだか、それとも血だかは分からないが。

真っ赤な液体が、大量に噴き出す。

通り抜けざまに、更に一撃。

同じように突貫していたミシカが、束ねた手榴弾を、奴の大口に放り込み。

そして跳躍したカレンとリンが、息を合わせて上から奴に踵落としを叩き込んでいた。

悲鳴を上げることさえ出来ず。

口の中に大量の手榴弾を突っ込まれた外道販売鬼が、爆裂する。

全員が、距離をとった。

流石に賞金首だ。

これでも死なない可能性がある。

その予想は当たる。

不意に、私の後ろに気配。

飛び退く。

巨大な棘だらけの腕が、降り下ろされ。崩れかけているコンクリの床を砕いていた。

「しぶといな」

「人間サン、ハジメマシテ! ソシテ死ネ!」

「黙れ外道」

残像を作って、私の後ろに回り込もうとする外道販売鬼。

だが、私は最初から此処に移動することを決めていた。

そしてこの性根が腐った奴なら、後ろを執拗にとろうとする。

それも分かっていた。

だから、自分が巻き込まれる事前提で。

先に爆薬を仕掛けておいたのだ。

爆裂。

今度は足下から吹っ飛ばされた外道販売鬼。

空中に放り出されながらも、ミサイルを大量にばらまいてくる。

プロテクターで何とか受け止めるカレンだが。数発は皆の周囲に着弾。フロレンスが、悲鳴を上げて吹っ飛ばされるのが見えたが。

その時には、煙を斬り破ってポチが飛び出し、外道販売機に噛みついていた。

ベロが野戦砲を放ち、奴の半壊した口の中に直撃させ。

更に大型ライフルで、ミシカがミサイルポッドを狙い撃ち。

直撃。

爆裂し、空中で体制を崩した外道販売鬼が、崩れかけた床に激突する。

そして、崩れかけていた故に。

其処に填まった。

ゆっくり私が歩み寄る。

「人間サン、殺ス! 殺ス!」

「黙れ」

さっきの爆発で煤だらけ傷だらけになりながらも、私はマリア譲りの大型拳銃を構えていた。

速射。

ピンホールショットで、奴をぶち抜く。

十五発ほど弾丸を叩き込んだ頃には。

奴は動かなくなっていた。

 

1、遡上

 

外道販売鬼の残骸を回収。そのままポチとベロに引かせる。

それにしてもリンの身のこなし。いっぱしのソルジャー並だ。メイドの修行とは、一体何なのだろう。

戦いを見守っていたハンター達が、握手を求めて来た。

「ありがとう。 念のため、もう少し此処を監視してから、俺たちも戻るよ」

「外道販売鬼が二匹以上いる可能性は?」

「それはない。 俺たちも一応プロだ。 もうそれについては調べてある」

「そうか」

フロレンスが、自分の手当をした後、無言で座るように言う。

そして、手当をしてくれた。

小言を言いたそうな顔をしている。

だが、それは後回しだ。

「それにしても、どうやって相手の場所を特定したんだ」

「奴はスピードに自信があるんだろう」

「そうだな」

「それならば、集中して一体ずつ調べていたら、確実にその度に位置を変えて攪乱してくる。 下手をすれば、奇襲だって仕掛けてくるだろうな。 だったら、自動販売機の位置を覚えて、敢えて視線をそらし。 前には無かった自動販売機を叩き潰すだけだ」

愕然としている様子なので、小首をかしげる。

私は単に覚えただけだ。

それで先制攻撃を仕掛けられるのなら、大きなアドバンテージになる。

それに性格も熟知していれば。

相手の動きだって想定できる。

トラップに引っかけられたのも、全て相手を知っているが故だ。

大破壊の前からある書物にも書かれているらしいが。

自分の戦力と敵の戦力を正確に知れば、まず間違いなく勝てる。

それだけである。

手当が終わった。

殺された人々の遺骨は此方で引き取る。

遺品も。

此処で殺されたのは、観光に来ていた人々だ。

ハンターズオフィスに届けがあるだろう。

幾つかの遺骨については、此処のハンター達が引き取るという事なので、引き渡す。仲間のものなのだろうから、当然だ。

遺骨そのものは、その場で荼毘に付す。

衛生的な面からもそのままは持って行けない。

遺品に関しても血だらけだったので。

丁寧に洗浄。

いつでも遺族に渡せる状態にした。

船まで戻る。

戦闘で自販機パラダイスとやらは多少傷ついたが、それでも修復は可能な様子だ。むしろ桟橋を、外道販売鬼を引きずっていく際、ちょっと不安になったくらいである。此奴がどこからどうやって侵入したかは分からないが。

まあいずれにしても、もう動けないようにズタズタに切り刻んである。

更に、船に持ち帰った後は、徹底的に砕いておくつもりだ。

体内からは、腐敗した肉が山ほど出てきた。

それも一緒に荼毘に付した。

生きるために食べるのでは無く。

ただ殺すために食べた。

それも許しがたい悪逆だ。

この狂った世界を、こういう奴が加速させている。

ノアに対する怒りは、賞金首とやりあう度に増すばかり。

Uーシャークにしても此奴にしても。

世界を破壊するために動いているような奴ばかりではないか。

ノアは、人間が環境を破壊するのを止めるために大破壊を引き起こしたという話は誰でも知っているが。

本末転倒も甚だしい。

バイアスグラップラーを皆殺しにした後は、ノアだ。

奴も、生かしておくわけにはいかない。

船に戻ると。

ビイハブ船長は、傷だらけの私を見て、帽子を下げた。

「やはり、凄まじい戦いぶりだな」

「一度デルタリオに戻る。 それから、話に聞いたバトー博士の研究所に向かう」

「分かった。 此処はもう大丈夫か」

「ああ、問題は無いだろう」

いずれにしても。

今、手を入れる問題ではない。

船が出航する。

崩れかけた地下街の残骸。

その一角にある多数の自動販売機。

いつ崩落するか分からない楽園。

それでも、彼処に生まれ育った人々にとっては、もはや他に寄るべきもなく。そしてモンスターも出ないのだ。

偽りの箱庭と言ってしまえば、それはそうだろう。

それを否定出来ない。

だが、それでも。

安全に生きられるだけ。この世界ではマシなのだ。

 

デルタリオで、ハンターズオフィスに外道販売鬼の残骸を引き渡す。早速の仕事に、向こうも喜んでくれていた。

ただ、視線を感じる。

何だろう。

何処かで感じた気配のような気がするが。

ただ殺気はない。

だから相手にしない。

「流石ですね。 今後も厄介な賞金首が現れたら、指名させていただきますね」

「ああ、それは構わない」

賞金を受け取る。

40000Gといえば、かなりの大金だ。

今は若干懐に余裕があるので、マドの街とアズサに、それぞれ10000Gずつ送金しておく。

マドにはちょっと遠くなってしまったこともあって、中々立ち寄れないが。

これを復興資金にしてくれれば何よりだ。

それと、殺された人々の遺骨と遺品も納品しておく。

外道販売鬼が街に入っていたら、被害はこんなものではすまなかっただろう。だが、これだけの人が殺されたのも事実。

そして現地で知ったが。

現地には多くの人々が暮らしていて。

その人々にも、危険が迫っていたのも事実だったのだ。

半日ほど、皆に自由時間を渡した後。

私は単独で、フードを被ったまま街外れに。

視線はついてくる。

舌打ちすると、さっと路地裏に隠れた。

当然追いかけてきた視線だが。

私が待ち伏せしていることに気付いたのか、さっと引き返し、そして気配も消えた。

結構出来る。

或いは、何かしらの理由で、私を監視しているのか。

バイアスグラップラーの手の者だとすると、今まで仕掛けてきた暗殺者の誰よりも手強い。

スカンクスほどではないが。

それに近い実力を感じる。

まあいい。

今は、これ以上戦っても詮無きことだ。

バイアスグラップラーの手の者なら殺すが。

その確証もない。

それならば、敢えて此処から追撃する必要もないだろう。

宿では無く、ネメシス号に戻る。

ネメシス号では、せっせとアクセルが改造をしていた。何でもデルタリオで良いエンジンが入っていたとかで、ウルフのパワーパックを積み替えているという。

これでもう一個くらい武装を搭載できる。

そう嬉しそうにアクセルは言う。

「で、どうする? 主砲にするか? ミサイルにするか?」

「現時点では主砲二つにシーハンター、それにパトリオットだな」

「ああ、それにもう一つくらい決定打を加えられるぜ」

「考えておこう。 良さそうな武器を見つけたら、搭載できるようにしておいてくれ」

賞金首や、モンスターの戦闘で。

良さそうな武器を手に入れられる機会は多い。

更に言えば。

これから向かうバトー研究所で、良い武器が手に入るかも知れない。

そうでなくても、その後には周辺が魔境として知られる海の東最大の都市、イスラポルトに行くのだ。

彼処でなら、更に強力な武装が手に入る可能性も高い。

いずれにしても、今は温存しておくべきだろう。

私は疲れも溜まっているし、船室で寝ていることにする。

見張りとしてポチとベロをおいている。

この二匹を出し抜くほどの相手が船に乗り込んできたら、どっちにしても此方もただではすまないし。

戦車のCユニットも警戒モードにしている。

なお、他の皆にも。

自由時間とは言え、一人では行動するなと伝えてある。

当然の話だ。

スカンクスを殺した後も、私はバイアスグラップラーを多数この世から抹殺してきている。

その一味だと知れたら。

何が何でも殺しに掛かってくる可能性は、小さくないのだから。

半日はあっという間に過ぎ。

全員が船に戻ってくる。

ケンはリンに稽古をつけて貰っていたらしい。

カレンとは流派が違うようで。

やはり教えて貰っていて、有意義だったと言っていた。

「どういう風に違った?」

「カレンさんの技はなんというか、相手を殺すために特化した技で。 リンさんの技は相手の動きを止めるための技だって」

「それをリンがいったのか」

「……うん」

正直な奴だ。

ケンはまだまだ其処までの実力はない。観察眼はあるし、鋭い所もあるのだけれども。流石に相応の使い手の技の性質までは見抜けないだろう。

まあいい。

全員が揃ったところで、再びデルタリオを離れる。

そろそろ、この街を拠点にすることも終わるだろう。今後は恐らく、イスラポルトとハトバを直接行き来することになる筈だ。

イスラポルトの近辺は、海の西側とは次元違いの賞金首がいるとも聞いている。

装備についても。

クルマについても。

吟味が必要だ。

そういう意味では、バトー研究所に行く価値はある。

川を遡っていくと。

途中、小さな集落が幾つかあった。

いずれも武装していて、モンスターに対する自衛能力は備えている。勿論立ち寄って情報を収集していく。

現時点では、この近辺に強力な賞金首の話はないという。

実は、この辺りまで外道販売鬼の噂は伝わっていたらしく。

こっちに来るのでは無いかと、戦々恐々としていたらしい。

倒したという話も既に伝わっていて。

感謝はされた。

ただ、集落では、バトー研究所の話は知らないと言われた。

此処から北に行くと、荒野があるだけで。

しかもその荒野には、人間に偽装したモンスターがかなり出ると言う。また、長居すると体を壊すそうである。

大破壊の時。

世界を焼き尽くした兵器は。

それまで人間に向かって使われる予定だったもの、らしい。

恐らくそれが近くに着弾したのだろうとフロレンスは推察したけれど。いずれにしても、どうしてそんなところにわざわざ住んでいるのか。

バトー博士は筋金入りの変人で。

絶対に殺すなと言われているが。

何だか、住んでいる場所の時点で。

相当にヤバイ奴のような気がしてきた。

集落にいたトレーダーに、次の集落に行くまでの護衛を頼まれたので、快く引き受ける。更に上流にある街だ。

一旦其処で商売をした後。

帰りはデルタリオまで送って欲しいと言う。

なおコンテナには、ぎっしり武器をはじめとした物資を積み込んでいたが。

内容を聞く限り、今購入してもあまり良いとは思えないものばかりだったので、買うことはしない。

なお、護衛の料金はかなり良かった。

実は、前々から時々トレーダーの護衛はしている。

以前、人間狩りにあいかけた街の人間を、全員マドの街に逃がしたことがあったが。

それがトレーダーの間で噂になっているらしい。

実際私は、トレーダーの護衛でしくじったことはない。

今回も、その「信頼」が、私に高額で護衛を頼んだ理由になったそうだ。

トレーダーは家族経営でやっているらしく。

ただし、しきっているのは母親らしい。

恰幅が良い母親は。

私に、色々というのだった。

「レナさんでしたわね。 お仕事に関してしっかりやってくれれば、私達トレーダーは相手なんて選びませんのよ。 バイアスグラップラーだろうとそれは関係ありませんことよ」

「そうか」

「その点、貴方は理想的ですのよ。 仕事についてきっちりやってくれるし、此方に干渉もしない。 今後は、もっとトレーダーから、大きな仕事が来ると思いますのよ」

まあ、片手間にやれる仕事だったら、それはそれで構わない。

だが。此奴らの逞しいを通り越して、何もかも選ばなすぎる行動については、ちょっと色々思うところもある。

だが、トレーダーに対しては絶対不可侵というのは、暗黙の了解だ。

トレーダーも、安全な仕事では無い。

ノアのモンスターは、トレーダーが人間に武器を供給していることを知っているらしく、かなり積極的に攻撃をしてくると言う。

川を遡上している間に聞かされたが。

トレーダーをやっている人間で。

モンスターに襲撃されたことがないものは、まずいないそうである。

人間が完全に勢力圏においている地区に足を運んだことはあるのかと聞いてみたが。

あると聞かれた。

とはいっても、工場地帯で。

周囲は軍隊でガチガチに固められ。

人々が楽に生活している、という事は無い様子だそうだ。

一応インフラは整っているものの。

兎に角、時間があれば武器を作れ。

資源があるなら集めてこい。

そういう考え方をする人々が集まっているらしく。

其処に行けば安楽に暮らせる、なんてのは幻想だと、トレーダーは言い切った。

「商売だから足を運びますけれどね。 あんな所にいたら、大破壊前の人々同様、カロウシしてしまいますことよ」

「過労死……」

「実際、働いている人々を見ると、みんな目が死んでいますもの」

そうか。

隣の芝生は青く見えるというのは、大破壊前からのことわざだったか。

いずれにしても、ノアを倒しても。

しばらくはその残党が跋扈するだろうし。

何よりも、バイアスグラップラーのような鬼畜外道集団が残っている限り、秩序の到来は遠い。

そういった工場も。

しばらくは状態を変えられないだろう。

遠くの話だが。

武器を使うという点では、近くの話でもある。

せめてバイアスグラップラーが、その強力な軍事力で、人々をノアから守ってくれさえすれば、全然状況は違っただろうに。

奴らは凶行に出るという最悪の愚行をおかした。

だから滅ぼさなければならない。

しかも、奴らの持っている軍事力や生産設備は、出来るだけ温存しなければならないだろう。

面倒な話だ。

上流の集落で、一旦トレーダー一家を降ろす。

後は帰り道で合流だ。

更に上流に行くが。

ビイハブ船長が、船を止めた。

「川が浅くなってきた。 そろそろ接舷する」

「分かった。 守りは頼めるか」

「良いだろう。 この船は儂の手足も同然だ。 何が来ようと守りきってみせるさ」

念のため、自衛用の戦力として、バギーは残しておくことにする。一応150ミリ砲を搭載しているし、機銃も積んでいる。雑魚モンスター程度なら蹴散らせるだろう。

更に、直接モンスターが乗り込んでこないように、船も離岸させる。

上陸するのは、ウルフ、装甲車、それにバスと、バイク二機。

船には、船長の他に、アクセルとケンだけを残す。アクセルは更に整備を進めたいらしい。一緒に旅をしていれば嫌でも分かるが、此奴は筋金入りのメカニックである。

後のメンバーは全員が上陸。

此処からだと、かなりバトー研究所まである。

地図は貰っているのだが。

地図を見る限り、高低差もかなりあるし。

何より、非常に遠い。

恐らく、片道で二日はかかるだろう。

最前衛にウルフ。

最後尾に装甲車。

左右を私とミシカ。

ポチは最後衛に。

最前衛にはベロを配置する。

そのまま移動開始。

周囲は、草も生えていない、完全な荒野だ。酸の雨が降っていたハトバ西の森もどうかと思ったが。

此処まで緑がないと、目に痛い。

所々に水たまりがあるが。

虹色の水が溜まっている。

とても飲めるものではない。

川にもこれでは、有毒物質が流れ込んでいるのも納得である。海の魚が、奇形だらけなのもだ。

この辺りの地面から。

思い切り川に毒物が流れ込んでいるのだ。

蒸留装置を使って、雨水でも濾過しない限り、とても水は得られない。

井戸なんて役に立たない。

毒の水を溜めて。

それで何の意味があるというのか。

荒野で生き抜いてきた人々でさえ、死ぬような毒水が。

この辺りには平然とある。

トレーダーは、こういう辺境に、蒸留器なども持ち込むのだけれど。

当然これらは高値だ。

辺境の人々は、生きていくだけでその全てを使い果たしてしまう。

こんな時代は出来るだけ早く。

終わらせなければならない。

一日キャンプして。

途中、突っかかって来るモンスターを片っ端から返り討ちにしていく。

噂に聞いていた、人型のモンスターも時々姿を見せたが。あからさまに動きがおかしいのと、受け答えが妙なので、判別は用意だった。

ただ、自爆を狙って特攻してくるのが厄介だったが。

いずれにしても、消耗はそれほどしていない。

二日目の夕方。

小さな施設が見えてきた。

ドーム状の建物。

間違いない。

あれが、バトー研究所だ。

 

2、舌剣バトー

 

バトー博士という名前は、世襲制だという話を聞いた。ここに来る前に、アズサで、である。

ずっと昔にも、バトー博士という人物がいて。

その人物は、文明を保全することに成功した、人類の最後の砦とも言える街で、幹部をしていたという。

ただ、その昔のバトー博士も筋金入りの変人であったらしく。

以降、その子孫は、変人一家として名を知られているらしい。

いずれもが図抜けた頭脳を持ち。

戦車をこの時代、新しく設計できる数少ない人間。

しかしながら、舌禍が問題になり。激高した相手に殺された一族も珍しくないのだとか。

いずれにしても、私が訪れると。

よれよれの白衣を着たその無精髭だらけの男は。にんまりと笑みを浮かべた。ぐるぐる眼鏡を掛けていて、荒野に生きていく力は欠片も感じられない。どちらかといえば太めの体型も、弛んでいるとしか言いようが無い。顔立ちなんて、当然整ってもいない。

紹介状を渡すと、けらけら笑いながら読む。

「アズサのじいさん、相変わらず頭が悪そうな文章だなあ! 脳みそのちっささがよく分かるね!」

いきなりこれか。

ほとんど本能的に、真顔のまま拳銃を抜きそうになるが、ミシカに抑えられる。カレンはしらけた目で見ているし。

フロレンスは、私が暴発しないか、気が気ではないようであったが。

「で、頭が悪そうなキミが、戦車を欲しがってるんだ。 ふーん」

「お願い出来ますか」

「いいよ、ボクの友達になってくれたらね」

「バトー博士には、友達がいないのです」

バトー博士は、丸い頭をした、助手らしいロボットを連れていた。こっちは普通のしゃべり方をする。

かなり年季の入ったロボットだ。

或いは、先代、先々代から受け継がれている品なのかも知れない。

「構いませんよ。 友人ならば、言葉遣いも変えるか」

「いいね! じゃあこれからキミのことをボケナスと呼ぼう!」

「ボケナス……」

「友人なら渾名をつけるのが当たり前だろ? 脳みそがちっさそうなキミには丁度良い渾名じゃないか」

ミシカがぶるぶる震えている。

真っ青になっていた。

私がキレそうになっているのに気付いているのだろう。

だが、私も。

流石にバイアスグラップラー以外の人間を、無意味に殺すつもりはない。

マリアにも教えられた。

とにかく戦闘では冷静になれと。

頭を切り換える。

これは戦闘だと自分に言い聞かせる。

そうすれば、多少は気分もマシになった。

「分かった。 別にそれで構わない」

「うんうん、友達なら当然のことだよね! で、天才であるボクに、どんな戦車を作ってほしいって?」

「ウルフとは言わないが、それに近い性能のMBTが欲しい。 丁度ミサイルを一斉発射する強力なCユニットを手に入れてな。 そいつを生かせる性能の戦車が欲しいと思っていた所だ」

「おバカにしては良い線を突くねえ」

これは、向こうなりに褒めている、という事なのだろう。

けらけら笑いながら。

奴はこっちに背中を向けて。

さっそく何か操作し始めた。

パソコンのキーボードに似ているが。

比較にならないほど大規模だ。

不意に、何かが浮かび出る。

噂に聞く立体映像か。

バトーが恐ろしい勢いで手を動かす度に、設計図が作り上げられていく。凄まじい手際というか。

慣れきっている。

完全にこの機械を、使いこなしているとみて良いだろう。

アズサでも、頼りにしている訳だ。

この舌禍が過ぎる男を。

良くもまあ頼ると最初は思ったが。

これだけの動きをしているのを見ると。

それも納得できる。

「とりあえず、大破壊前のドイツで次期主力として試験的に配備されていたレオパルド3をベースにした車体になるかな。 ボケナス、こんな感じでどうだい」

「ふむ」

設計図を見せてもらう。

重厚な車体。

ドイツのレオパルドシリーズと言えば、傑作戦車として名高く、大破壊後の今も、近代改修して使っているハンターは多い。

兎に角堅牢。

兎に角強い。

大破壊前の、世界中を巻き込んだ戦争でも。

ドイツは世界最強の戦車を作り上げた国だったが。

そのノウハウは様々な形で継承され。

傑作戦車、レオパルドにつながっていった、という説がある。

あくまで説だ。

大破壊後の今では、確認するすべも無いし。

何よりそれが事実だったとしても、嘘だったとしても、どうでもいい。悪路を踏破できて。

頑強に敵と戦えれば。

今の時代は、それだけでいいのだ。

「いいな。 これで頼めるか」

「では、ミサイルについてはコッチで二つほど作ってあげよう。 ただね、流石に戦車となると、ただじゃあつくれないんだなあボケナス」

「分かっている。 金なら相応に持ってきている」

「いや、金なんていらない」

すっぱり言われる。

バトー博士という男。

今の時代には珍しいタイプだ。

ちょっとした金のために、人間を殺す奴が珍しくもない時代である。人攫いを行う奴も絶えないし。

奴隷として人間を使って、悦に入っている奴もいる。

いずれも金だ。

だが、その金をいらないというのは。面白くはある。

「この研究所には、自活用のシステムが完備されているんだ。 金なんてまーったくいらないんだよ。 ボケナスの小さな脳みそでは分からないかも知れないけれどさ、ハハッ」

「それで、ただではないとすると、代わりに何をすればいい」

「ボケナスには分からないかあ。 材料が欲しい」

「ストレートな話だな」

少しずつ此奴との接し方が分かってきた。

それでも、発作的に首を刎ねたくなってくるが。

我慢だ。

重戦車をもう一機。

得られるなら、何でもする。

そも、発掘するのでなければ、重戦車の相場は100000Gともそれ以上とも言われている。

性能が微妙とは言え、量産型の重戦車を多数有しているバイアスグラップラーが好き勝手出来る所以だ。

それを、材料だけで良いと言うのだ。

むしろこれは、良い話だ。

「では、具体的な材料について提示してくれ。 集めてくる」

「それも、具体的にはいらないなあ。 この研究所の近くに、ノアのモンスターが散々うろついてるだろ? 警備ロボットが追っ払ってるんだけれど、どうしても潰しきれなくてうざくてね。 兎に角、機械系、AFVとかのノアのモンスターは、ブッ殺し次第全部持ってきてくれるかい? 適当な量が手に入ったら、それで戦車を作ってあげるよ」

「おやすい御用だ」

そも、モンスター退治は此方としても得意分野になる。

更に、である。

この近くの集落に、トレーダーがいる。

弾薬類は、そいつから補給すれば良い。

めぼしい武器は売っていなかったが。

弾薬については話が別だ。

一度、研究所を出る。

その時、だ。

メイドさんが一人、こっちにくる。

リンさんと同じように、きっちりメイドの衣装を着こなしているけれど。よく見ると、機械のようだった。

アンドロイドと言う奴だ。

「よろしいですか」

「何だ」

「私、代々のバトー博士に仕えているシルキと申します。 見ての通りのロボットです」

「レナだ。 よろしくな」

主人と違って礼儀正しい奴だ。

軽く話を聞くと。

シルキも、どうやら主君が無礼な事は、よく分かっているようだった。

「実はバトー博士は、自分の遺伝子から直接自分を造り、意識を移し替えて、ずっと生きているのです」

「ほう」

「大破壊直後に生まれたバトー博士は、自分の子孫を彼方此方に派遣して、更に意識も並列化しています。 色々な場所で戦車を作って、せめてこの世界を少しでも早くノアの手から取り戻したい。 博士なりに考えての行動なのです」

「そうか。 しかしどうしてああも毒舌なのだ」

それについては地だと返されて口をつぐむ。

まあ地なら仕方が無いか。

いや、それにしても度が過ぎている。

カレンが、呆れたように言う。

「あんたが教育したらどうだい?」

「バトー博士は、寂しいお方なのです。 大破壊の後に生まれてしまった、ということもあって、その頭脳を使うことも限定的にしか出来ず。 大破壊の前に生まれていれば、ヴラド博士と並ぶ天才として、世界をダイナミックに変えられたでしょうに。 親にまで疎まれ、友達も出来ず。 いつのまにか、あんなにひねくれてしまったのです」

「ものには限度があるだろ……」

ミシカが、生きた心地がしなかったと、カウボーイハットを下げる。

彼女は意外と小心なところがある。

びっくりさせると、結構可愛い悲鳴を上げたりするし。

やっぱりお兄ちゃん子として、甘やかされて育ったのだろう。

「先ほどのお言葉、本当ですか? バトー博士の友達になっていただけると」

「別にそれは構わん。 流石に色々頭に来たが、此方としても利はある。 それに、ああいうしゃべり方をする奴なのだと思えば、何とか我慢は出来る」

「有難うございます。 先ほども話したとおり、バトー博士なりに世界を案じてはいるのです。 一刻も早く信頼出来るハンターに力を与え、ノアを倒して貰う。 それが博士の願いなのです」

「私の願いは、まずはバイアスグラップラーの殲滅だ。 ノアも倒すつもりだが、優先順位についてはバイアスグラップラーが先になる。 それだけは理解してくれ」

シルキが頷く。

多分、バトー博士に伝えてくれる、ということなのだろう。

まあそれはどうでもいい。

とりあえず、モンスター狩りだ。

一度外に出ると、まずバスから、換金できそうだと思っていたモンスターの部品を降ろす。

これも使ってしまおう。

戦車が手に入るのなら。

これの換金額など、安いものだ。

バトー研究所の後ろには、巨大なコンベアがあり。此処にどんどん残骸をおいて欲しい、という話である。

現状で換金できそうな素材を全部突っ込むと。

すぐに外に出る。

バイクに乗って無言でいる私に。

ミシカが話しかけてくる。

「あのさ、その」

「問題ない。 怒りはモンスターにぶつける」

「そ、そうだよな」

「冗談だ。 私やお前を死の淵から引き上げてくれたドクターミンチも筋金入りの変人だったことを覚えているか?」

ミシカが、うっと口をつぐむ。

私としても、分かってはいる。

ある程度以上の才覚を持つ人間になると。

平均から相当に逸脱する。

あのバトーもそうなのだろう。

話を聞く限り、大破壊の後に生まれてからの記憶を、ずっと持ち続けているようだし。それを考えると、相当な才覚の持ち主である。

それならば、あの言動も仕方が無いのだろう。

フォーメーションを組み直して、移動。

Cユニットが警告してきた。

前方に、軽戦車数機がいる。

いずれも人間が乗っている形跡は無し。

近づいてみると、予想通り。

問答無用で発砲してきた。

即座に反撃。

バスとウルフに積んでいるシーハンターと、装甲車の200ミリ主砲が火を噴き、即座に爆破。

中で朽ちていた死骸を引っ張り出し、埋葬すると。

後は一旦船に持っていく。

アクセルと合流すると、事情を説明。

仕えそうな部品だけアクセルに外させて。

残りの全ては、バトー研究所に持っていった。

こういうとき、バスが便利だ。

クレーンを使って、破壊した軽戦車を丸ごと持っていくことが出来る。移動速度を考えなければ、移動させるのも楽々だ。

ちなみに、破壊した軽戦車には。

ろくな武装がなかった。

せいぜい80ミリ主砲くらいしか使えるものはなかったので。

それ以外は全部渡してしまった。

同じようにして、数日周囲を徘徊。

モンスターは片っ端から叩き潰し。

手当たり次第に処分し。

機械部品は、バトー研究所に放り込んでいった。

 

作業開始から四日目。

弾薬が残り半分をきった。そろそろトレーダーから補給したいところだ。だが、それには一度面倒くさい経路で戻らなければならなくなる。

一度バトー研究所に寄って、破壊した軽戦車の残骸をベルトコンベアに乗せる。そうすると、シルキが姿を見せる。

「レナ様」

「何か問題が起きたか」

「いいえ。 これくらいで充分だと言う事です」

「そうか。 随分と楽だったな」

クルマの見張りはフロレンスに頼んで、地下に降りる。

地下では、溶鉱炉で一旦軽戦車を溶かし。

パーツを全て作り替えて。

戦車に作り直しているようだった。

バトー博士は、コッチを見もせず。

あの機械を、操作し続けていた。

「ボケナスー! 随分遅かったね! 亀の方がキミより早く動けるんじゃないのかな、んー?」

「四日で軽戦車七機を撃破。 モンスターは合計150匹を破壊。 ハンター1チームとしての実績としては平均を遙かに超えているはずだが」

「何だ、そんな数カウントしてるの?」

「それはそうだ。 彼方此方に足を運ぶからな。 その地域にどれだけノアのモンスターが浸透しているかは調べておく必要があるし、何より退治できるモンスターは全て消して換金する」

バトー博士が振り向く。

にやにや笑いは消えていた。

「その調子で今後も頼むよ、ボクの友達」

「……ああ、分かっているさ。 ただ聞いているかも知れないが、私の第一目的はバイアスグラップラーの撃滅だ。 ノアはその後になる」

「構わないよー。 あのゲスども、ノアと大差ないくらい世界を乱してるし、何よりねえ」

「何か知っているのか」

バトー博士は、再び機械を操作し始める。

溶鉱炉から出てきたパーツが。

複雑なロボットアームによって、整形されていく。

シャーシは既に出来ているようで。

話に聞いていた、サービスしてくれるという二つのミサイルを、取り付けているのだろう。

カスタマイズに関しても、ある程度ミサイル主体の構造にする、という事で、話はしてあるので。

恐らく主砲1、ミサイル4の構成で、武装を搭載できるだろう。

いずれにしても、凄まじい数のミサイルを同時発射し。

敵を一気に粉砕する強力な戦車に仕上がるはずだ。

「ヴラドコングロマリットは知っているかい、ボケナス」

「ああ、もちろんだ。 大破壊前に、世界を二分していた企業だな」

「それが、バイアスグラップラーの前身なんだよ。 正確には、ヴラドコングロマリットの軍事部門が、米軍の残党や、各地の武装勢力を取り込んで出来たのが、バイアスグラップラーなのさ」

「……」

実は、聞いた事があるのだが。

しかしそれとウルフは別。

だが、更に突っ込んだ話を、バトー博士はする。

「ヴラド氏はボクも知っているんだけれどねえ、どうやら今もまだ生きているみたいなんだよ」

「何!」

「恐らく、バイアスグラップラーを指揮しているのはヴラド博士だよ」

「……どうしてそう思う」

ヴラド博物館に立ち寄ったとき。

創業者の割りに、自分を宣伝しない様子を見て、非常に謙虚な人柄を感じた。

少なくともヴラド博士は、自己顕示欲の塊みたいな奴ではなかったはずだし、むしろ善人と呼ばれるタイプの人間だったはずだ。

実際問題、巨大複合体を作った割りには。

色々と、生臭い怪物的な存在だとは思えなかった。

そういう奴なら。

巨大な自分の立像を博物館に作ったり。

自分の半生について、博物館で自慢たらたらに語ったりしただろう。

ヴラド博物館では、そういう情報は一切出てこなかった。

珍しく、良識的な天才。

そうだと私は認識していたのだが。

「バイアスグラップラーの幹部については、ボクも情報を得ているんだけれどねえ、ちょっと前にあるハンターにぶっ潰された冷血党って組織のテクノロジーを回収して使っているんだよ。 より高度に発展させてね。 そのテクノロジーに、明らかに今までは存在しなかったヴラド博士の技術の「痕跡」が見えるのさ」

「技術の痕跡?」

「ボクくらいになるとそれが分かるんだなあ」

「私には分からない世界だが、そうなるとどうしてヴラド博士は豹変した」

それは分からないと、ぴしゃりとバトー博士は言う。

そして、ベルトコンベアに乗せられて。

200ミリ主砲と。

広域攻撃用の大型ミサイル。

更に強力な突破力を持つ翼状の形を持ったミサイルを搭載した戦車が、姿を見せた。

「出来たよボケナス。 名前はどうする?」

「レオパルド3がベースだろう? 別に名前などどうでもいいだろう。 レオパルドRにでもしておくか」

「ハハハ、そのRって何?」

「私の名前の1文字目だ」

相も変わらずの罵詈雑言。

此処で殺されるとは考えていないのだろうか。

私にして見れば、戦車を手に入れてしまえば、此奴にもう用は無い、という状況もありうるのに。

もっとも、私はそういう事はしない。

「いずれにしても、これだけの強力な戦車を手に入れられたのは有り難いな。 後はシーハンターと、迎撃用のパトリオットを搭載して完成だな」

「そうそう、一つ」

「何だ」

「友達なんだから、時々遊びに来てくれる? それと有望なハンターがいたら紹介してよ」

しらけた目の私に。

バトー博士は、ボケナスには無理かな、とか余計な事を言った。

私は嘆息すると。

考えておく、と答えた。

戦車を外に出す。

これで、念願の重戦車二機目。

かなり強力なパワーパックがダブルで積まれている。Cユニットはごく普通の代物が搭載されているので、これは外して、船に保管している例のトビウオンから奪った奴に変えてしまうとしよう。

バトー博士か。

外に出ると、シルキが頭を下げる。

「分かっている。 今、私の所に将来を期待出来る若いのが一人いるから、今度機会を見て連れてくる」

「お願いします」

「ただ、私もいつ死ぬか分からない身だ。 それだけは理解してくれ」

「ええ。 ここに来たお客様の中にも、もう墓の下にいる方が何人もいられます。 バトー博士と友達になってくれた人もいますが、この過酷な世界ではどうしても」

ロボットなのに。

シルキは本当に、バトー博士を心配しているようだった。

ロボットとしては出来すぎている位だ。

「では、また来る」

「秘密の抜け道があります」

「!」

「地図を見せてください」

意外なところを、指定された。

デルタリオの東海岸。

数少ない戦車で上陸できる地点から地下に潜り。其処から進んでいくと、バトー研究所近くの洞窟に出るという。勿論戦車でも通ることが出来るそうだ。

それなら、ドッグシステムを使って、其処から自動で行き来が出来るか。

「そうだ、珍しい武器のカスタマイズも頼めるか」

「博士は戦車を作り出せるくらいです。 恐らくは簡単にこなしてみせるでしょう」

「……そうだな。 ならば、今後手に負えそうにないものを見つけたら、持ってくることにする」

手を振ると。

笑顔を作って、シルキは頭を下げた。

彼奴がいてくれるなら。

友達はいらないのではないかと私は思ったが。

バトー博士には、人間の友達がどうしても欲しいのかも知れない。

マリアにそういえば言われた事がある。

孤独でも平気な奴と。

そうでない奴がいると。

バトー博士は、こんな世界でも、自力で戦車を作り出せる凄まじい技術の持ち主だ。天才という言葉に相応しい人間だろう。

それでも、孤独には耐えきれないのか。

後、気になる事がある。

バイアスグラップラーの背後に、ヴラド博士がいる。

もしそれが本当だったら。

どうしてヴラド博士は、あの博物館で見られる人柄から、豹変した。

何かあったのか。

いずれにしても、一度船にまで戻る。

これから、ちょっと金を掛けてでも。

レオパルドRに手を加えて。

ウルフに次ぐエース戦車として、今後の主力として活躍して貰わなければならなかった。

 

集落でトレーダーと合流し、そのまま川を下る。

途中でアクセルにレオパルドRを見てもらったが、アクセルはそれこそ、玩具を貰った幼児のように興奮しっぱなしだった。

「すっげえぞこれ! レオパルド3をベースにしてるみたいだが、兎に角独創的で、造りに隙が無い! 拡張性も高い! 多分どこのメカニックでも、これ以上手を入れられないぞ」

「お前が其処まで言う程か」

「ああ。 新しくミサイルを二つ取り付ければ良いんだな。 一つは高性能の迎撃ミサイルとして、実は、イスラポルトにひぼたんが入ったって話があるんだよ」

「!」

ひぼたん。

ヴラドコングロマリットが作った戦車の武装シリーズで、大破壊前に存在した国家と提携して作り上げたものらしい。

最強の名を恣にする量産兵器で。

一応、人類の確保している工場などでも生産はしているらしいのだけれど。非常に強力かつ資源確保が難しいらしく、中々この辺りまでは出回ってこないそうだ。

主砲やミサイルにひぼたんのシリーズは幾つかあるが。

その中でも対戦車ミサイルのATMひぼたんは、同時に多数のミサイルを連射する強力な代物で。

性能に関しては、シーハンターを上回るという話さえある。

「ただ、相当に値が張ると思う」

「今後賞金首は更に強力な奴が出てくる。 それを考えると、多少の出費は仕方が無いだろう」

「そうだよな……」

「デルタリオを出たら、すぐにイスラポルトに向かうか」

幸い、懐は温かい。

それに、バトー博士の所で出費を相当にするだろうと覚悟していたのに、それも押さえ込む事が出来た。

その分の資金もつぎ込むことが出来る。

さい先が良いとはこの事だ。

ただ、ラッキーはあんまりたくさん続かない。

何か凶事があっても不思議では無いだろう。

デルタリオに到着。

最初にアクセルにクルマを全て任せて、補給と整備をしてもらう。私はミシカと組んで、ハンターズオフィスに。他の皆は、めいめい自由行動だ。

ハンターズオフィスに出向くと。

私宛に、話が入っていた。

「極秘、内々の話です」

「良いだろう。 聞かせてくれ」

「此方に」

ミシカも連れて、別室に。

ハンターズオフィスの職員は、周囲を警戒した後、扉を閉めた。

そして、咳払いする。

「エバ博士という名前に聞き覚えはありますか」

「聞いた事はある。 何だか危険が迫っている、とかいう話だったな。 まったく面識もないし、それ以上の情報もないから、どうしようもなかったが」

「そのエバ博士から、貴方宛に伝言です」

「どういうことだ」

手紙を渡される。

それには、懺悔の記録が書かれていた。

エバ博士は。

バイアスグラップラーの研究施設で。

おぞましい人体実験に携わっていたという。

既に老齢になっていた博士だが。

多くの人間を動物と融合させ。或いは人間では無い存在にし。

バイアスグラップラーの凶行を助けてきた。

それをずっと苦しんできたエバ博士は、ついに脱走。

研究所の所長を殺害し。

デルタリオに逃げ込んだのだという。

だが、ついに追い詰められ。

逃げられそうも無いと判断。

掴まることを覚悟で外に出て。

ハンターズオフィスに、今一番名前が売れているハンターを聞きに来たと言う。

そして、この手紙を渡すように、頼んだのだそうだ。

「表向きは、モンスターの討伐依頼でしたが。 貴方に命に替えてもこの紙を渡して欲しいと言われました。 バイアスグラップラーを憎んでいるというのなら、更に好都合だとも」

「……」

読み進める。

エバ博士によると、海には、二カ所。

バイアスグラップラーの幹部が守る施設があるという。

一つはデビルアイランド。

此処が、バイアスグラップラーが生態研究をしている施設だが。此処は島そのものが要塞化されていて。生半可な戦力では、近づくことも出来ないそうだ。勿論地図にも乗っていないという。

エバ博士は、此処から逃げ出してきたらしい。

此処の支配者は、バイアスグラップラー四天王ブルフロッグ。

ウシガエルという動物の事だが。

このブルフロッグは、文字通り牛と蛙を融合させ、更に体をサイボーグ化しているという事だ。

バイアスグラップラー四天王二位の実力者で。

その戦闘力は、あのテッドブロイラーに次ぐとも。

そしてもう一つ。

恐らく、自分を追ってきている存在である、カリョストロがいる拠点。

此方は、地図に書かれていた。

海の東端。

古い時代に、ダムと呼ばれていた設備。

其処の深奥に、バイアスグラップラーの本拠であるバイアスシティを守る鉄壁の要塞が存在しているとか。

其処のボスが、カリョストロ。

あらゆる姿を採ることが可能で。

戦闘力も凄まじいという。

カリョストロは、バイアスグラップラー四天王第三位。

くれぐれも、用心して欲しい、と書かれていた。

「スカンクスを倒した貴方でも、バイアスグラップラー四天王は簡単には倒せないでしょう。 どうか、くれぐれも気を付けて」

「分かっている」

スカンクスは手強かった。

あれだけの戦闘力を持っていながら、それでもバイアスグラップラー四天王最下位。それも圧倒的最下位だったと聞いている。

それならばなおさらだ。

エバ博士という人物は。

多くの悪行に手を染めた。

それは許しがたい。

だが、こうして、贖罪のために出来る事をした。

そう信じるべきなのか。

いずれにしても、参考情報だ。

それに、この様子では。

もはや、本人は捕らえられてしまっているだろう。どうにも出来る状況ではない。

何よりだ。

この内容を確認する限り、恐らくはすぐには殺されないはずだ。焦って突入しても、意味がない。

「もう一つ、貴方に情報があります」

「何だ」

「ガルシアという人物に聞き覚えはありますか」

「ある」

ミシカも眉を跳ね上げた。

ガルシアと言えば、マドの街の攻防戦で、マリアと一緒に戦った奴だ。鼻持ちならない奴だった。

バギーの元の持ち主で。

私をいきなりコムスメ呼ばわりしたり。

色々と、不愉快な言動をしてくれた。

実力は一応相応のものがあったが。

そういえば彼奴。

死体が見つからなかったと聞いている。

バギーはテッドブロイラーが一撃で大破させたのだが。

あれで死んでいなかったとは思えない。

そうなると。

恐らくは、死体はバイアスグラップラーに回収された、と見て良いだろう。

「そのガルシアが、スワンの街で貴方を待っているそうです。 殺してやるから来て見ろ、という言づても預かっています」

「スワン……」

海周辺でも、最悪の街。

最悪の治安と。

血に酔った住民達。

モンスターと囚人を殺し合わせたり。

決闘を見て楽しんだり。

そういった、人間として最底辺の連中が集まる街だ。

「気をつけてください。 ガルシアという人物については、別のハンターズオフィスから情報が届いていますが、既に人間とは思えない容姿だったという事です。 一体何をしでかすか」

「分かった。 すぐに向かう」

元々ゲス野郎だったガルシアだ。

ただ、それでもマドの街を守るために戦ったことに違いはない。

だとすれば、落ちたと言う事だ。

頭を弄られたのかも知れない。

いずれにしても。

放置はしておけないだろう。

「どうするんだ」

「行くに決まっている」

「アタシにやらせてくれないか」

「駄目だ。 ガルシアを直接知っているのは私だ。 だから、奴がどう変わったか見届けて。 そして変わり果てているようならば、引導を渡す責任もある」

ミシカは少し不満そうだったけれど。

これで方針は決まった。

いずれにしても、スワンという街には一度足を運んでおく必要はあったのだ。最底辺の治安の街。

そこでは、最底辺なりに。

別の情報が手に入るのかも知れないのだから。

ただ、一つだけ。

その前にやっておくことがある。

実はさっき、ハンターズオフィスから情報が入ったのだ。この街の塵掃除を、済ませておく必要がある。

「ミシカ、先に戻っていろ。 私は用事を終えたら戻る」

「……分かった」

何となく、ミシカも私の用事を悟ったのだろう。

それ以上は何も言わず。そして、船に戻っていった。

さて、処理を始めるか。

奴らは。

皆殺しだ。

 

3、デルタリオの暗雲

 

ステピチは、ハンターズオフィスから出てきたレナが、殺気立っていることに気付いた。

どうにか、足止めには成功。

一度デルタリオに戻ってきたときにはひやりとしたが、もっと優先順位が大きい事があったらしく、すぐに出て行ったので。結果的にはうまくいった。

時間が出来。

カリョストロは、エバ博士の確保に成功。

そのまま、引き揚げて行った。

次の指示を待つように。

そう言われていたステピチは、オトピチと一緒にレナがどう動くのかを見極めようと思っていたのだが。

どうやら、レナも。

エバ博士が攫われたことに勘付いたらしい。

何となくだが、それが分かった。

恐らく彼奴は相当に怒っている。

だが、怒りの理由は、エバ博士が攫われたことにあるとは思えない。何か、別の理由があるのではないのか。

しばらく監視を続けて。

やがてレナが、仲間と合流。船でデルタリオを出るのを確認。

東に向かったから、行き先はイスラポルトか、或いはスワンか。どっちにしても、今すぐ追うつもりはない。

オトピチと一緒に、デルタリオの路地裏に。

バイアスグラップラーの支部に顔を出す。

だが、其処は。

既に血の海になっていた。

全員殺されている。

元々それほどの人数はいない支部だが。

それでも、凄まじい有様だ。

恐らくはレナの仕業だろう。死体はなくなっている。

全部死体はハンターズオフィスに持って行かれたと見て良い。機械類も、全て奪われていた。

ちょっと目を離した隙にこれだ。

レナは待っていたのだ。

デルタリオで、バイアスグラップラーの影響力が衰える瞬間を。

海上では賞金首二体の跳梁跋扈を止められず。

陸上では天道機甲神話に好き勝手を許し。

そして最近では、外道販売鬼にやりたい放題をさせていた。

それでいながら、武力を背景に、好き勝手。

恐らく誰かが。

バイアスグラップラーの拠点の位置を、レナに吹き込んだのだろう。

そうなれば、放たれた矢も同然。

レナと話したとき、計算が出来る奴だなとは思った。

だが、その一方で。

彼奴はバイアスグラップラーに対しては、まったく容赦をしない。精神的な箍がその点だけは完全に外れているのだ。

周囲を改めて見回す。

出払っていなければ、この血の海にステピチとオトピチも混じっていたのだろうか。その可能性は低くない。

レナは着実に強くなっている。

それに対して、体を弄ったステピチとオトピチは。

どうしても体を鍛えるとか、戦闘経験を積むとか。

そういった事で、強くなりづらい。

それにしても、この有様は。

ステピチが監視を開始する前に、既にこうなっていた可能性が高い。恐ろしい奴だなと思ったけれど。此奴らも、弱者を虐げて、毎日好き勝手をしていた連中だ。

こうなる覚悟はしていたはず。

いや、していなければならない。

死んだ事を恨む資格は無い。

それは、ステピチ達も同じだ。

「兄貴ー。 みんなやられちゃったみたいだな」

「そうザンスね。 もう此処にいても意味はないし、移動するザンス」

二人のバイクで、海岸に移動。

其処で、ランタンを使って信号を送ると、バイアスグラップラーの船が来た。

デビルアイランドには、この船でないと入れないのだ。それ以外の船には、無差別攻撃が行われるようになっている。

船はそれほど大きなものではないが、一応の通信設備は整っているので、先にテッドブロイラー様に連絡。

進捗を説明した。

カリョストロには既に話はしてある。

レナの足止めには成功。

結果、カリョストロはエバ博士の誘拐に成功した。だから、約束通り強化して貰う事になっている。

それに、である。

四天王候補のもう一人、ガルシアが。レナに仕掛けるという情報が入ってきている。

ガルシアは一度顔を合わせたが、鼻持ちならない奴で。どうしようもないゲスだ。先を越されるのは仕方が無いにしても、彼奴よりは強くなりたい。

声だけでも。

テッドブロイラー様は、極めて強烈な威圧と強さを感じさせる。

「カリョストロから話は聞いている。 実際エバ博士の奪還に成功したのは、お前達の功績が大きい。 しかも自費でレナを釣ったそうだな」

「ミー達はたまたま給金を貯め込んでいただけザンスよ」

「その分の補填は此方でしておく。 それと、強化についても、カリョストロから話を聞いているが。 希望を聞いておこう」

「希望……ザンスか」

テッドブロイラー様は言う。

ただ、強くなることだけを求めるのか。

強さはともかく、人格を可能な限り残すのか。

二択だという。

「俺や他の四天王は、強くなることだけを選んだ。 カリョストロとお前達は会ったと思うが、どう感じた」

「ただ恐ろしいと感じたザンス」

「そうだろうな。 彼奴はお前と同じようなスラムの出身で、丁度前任者がマリアに殺された直後くらいにバイアスグラップラーに駆け込んできてな。 貧相な小男で、腕力も弱かった。 恐らく体の改造には耐えられないだろうと科学者達は言ってきたが、本人は言ったのだ。 どのような姿、どのような精神になってもいいから、兎に角強くして欲しい、とな」

口をつぐんでしまう。

ステピチとオトピチと同じだ。

バイアスグラップラーが、鬼畜外道の集団だと言う事なんて、分かりきっていた。

それでもここに来たのは。

強くなりたかったからだ。

「今の彼奴の好む姿は、望んでなれなかったものだ。 大破壊前のヒーローの姿。 ただしその実態は腕力で周囲を従える暴虐の権化。 上っ面を取っ払ってしまうと、お前達が見ただろう、真の姿になる」

「……」

「それで、どうする」

「出来れば、ミー達は、人間でありたいと願うザンス」

テッドブロイラー様は、そうかと、嘆息したようだ。

この人が、強さだけの存在では無い事は、ステピチも知ってはいたけれど。

どうしてか。

その嘆息には、哀しみが籠もっているように思えた。

「俺からブルフロッグには話をしておく。 ブルフロッグも、俺からの指示には忠実だし、何よりお前達は俺の直属だ。 悪いようにはしないだろう」

「有り難き幸せザンス」

「次の仕事は、改造が終わってから、追って沙汰する。 それまでは、体が馴染むのを待て。 捕獲したノアのモンスターとの戦闘で、実力を試すのも良いだろう」

「ははーっ!」

通信が切れる。

オトピチが、心配そうに此方を見ていた。

「兄貴ー。 俺達、大丈夫なのかなー」

「テッドブロイラー様が念押ししてくれるから、大丈夫ザンス。 あの人は強くて恐ろしいけれど、きっとこういう所で嘘はつかないザンスよ」

「そうなのか」

「強いからザンス。 嘘なんてつく必要すらないくらい」

圧倒的な戦闘力に裏打ちされた言動。

嘘なんて。

あの人には必要さえないのだ。

それにしても、カリョストロの事は意外だった。

化け物じみているとはおもったけれど。

まさかそんなオリジンがあったとは。

あんなヒーローみたいな姿を採る訳である。

本物は、もはや生物かも怪しい存在だというのに。

やがて、デビルアイランドが見えてきた。

船が何度か光通信して。

それで進み始める。

なお、船頭はロボットだ。

反射的に行動して。

そして船を動かしている。船にも自衛用の火器を積んでいるが。それらは全てCユニットで動いている様子である。

少し前までは、バイアスグラップラーの船がトビウオンとUーシャークにおそわれる事も珍しくなく。

ロボット制御の船が何隻も撃沈されたそうだが。

今はその被害も無い。

皮肉な話だ。

デルタリオが事実上陥落したのは、正にそれと連動している。

四天王クラスの幹部が、賞金首モンスターを狩りに出てきていれば、多分全てが一発で解決した。

カリョストロでさえあれだ。

ブルフロッグやテッドブロイラー様だったら、それこそ歯牙にも掛けなかっただろう。

バイアスグラップラーは、何をしようとしているのだろう。

それが、ステピチには分からない。

 

巨大な岩山が、海からそそり立っているような場所。

海図にもない島。

それがデビルアイランドだ。

入港した船から下りると、多数の檻が並んでいる。中には、虚ろな目の人々がたくさん入れられていた。

知っているのだ。

此処が改造施設だと。

色々な組織から伝えられてきた、生体改造の技術の集大成が、バイアスグラップラーにはある。

それを、更に錬磨し。

強力にするために。

この島は存在している。

ロボットに案内され、進む。

奥に行くと、白衣を着た連中が、げらげら笑いながら、胸くその悪い話をしていた。どの被検体を弄ったら、どんな風に悲鳴を上げたとか。失敗して、どんな風に破裂して死んだとか。

許せない。

オトピチが、反射的に手を出そうとするが。

止めさせる。

ステピチだって、こんな奴らに頼って強くなるのはうんざりだが。

それでも、この世界で生きて行くには。

他に手が無いのだ。

ある部屋では、たくさんのロボットがあった。

人間と見分けがつかない。

何でもノアの、人間型ロボットを鹵獲し。

それを改良しているそうである。

以前、此処で改造を受けたときに、聞かされた話である。

話によると、これら再改造を受けた人間型ロボットは、各地の街に入り込んで、バイアスグラップラーにとって都合が良いスパイ活動をしているらしい。

イヌが天敵で。

どうしても見破られてしまうらしいのだけれど。

それさえなければ、かなりの精度で情報を集めてくるそうだ。

生首が多数並んでいる。

それらが笑ったり、喋ったり。

ロボットだと言う事がわかっていても。

それが如何に端正な顔立ちだとしても。

おぞましい光景だ。

さっさと先に進む。

こんな所。

一秒でもいたくない。

最上階に出ると、ブルフロッグがいた。

玉座の類はない。

ブルフロッグは、名前の通り、巨大なウシガエルそっくりの姿をしている。姿関係無く、強さだけを求めた者。

顔にはガスマスクのようなものをつけているが。

それだけだ。

人間らしい要素は。

ただ、一段高いところに鎮座していた。

近くによると、背中や手足を中心に、サイボーグ化もしているようだ。バイアスグラップラー四天王二位。

ブルフロッグの名は伊達では無い。

正体がハンターズオフィスにはあまり知られていないため、賞金額も五桁に留まっているのだが。

実際の実力は、六桁賞金額の賞金首に劣らないという。

それも頷ける。

カリョストロ以上の威圧感が、離れているのにびりびり伝わってくる。

「キミ達がテッドブロイラー様の直属?」

「ピチピチブラザーズザンス。 以前もお会いいたしましたザンス」

「そうだっけ? まあいいや。 手柄を立てたって言う話だし、強化改造してあげるよ」

「有り難き幸せザンス」

ブルフロッグは、小馬鹿にした口調で続ける。

どうやらこの怪物は。

スカンクスと同類らしい。

此処を自分の王国としていて。

其処では絶対者。

科学者達には寛容に研究をさせるが。

それ以外は一切合切が全て自分の思うがまま。

子供っぽかったスカンクスと違って。

ブルフロッグの場合は、計算し尽くした傲慢さを感じ取ることが出来るが。結局の所同類は同類だろう。

「それで、姿を厭わず改造すれば、次の四天王は確定だと思うけれど、いいのそうしなくても?」

「ミー達は、苦しいときもずっと一緒にやってきたザンスし、それを恥ずかしいと思った事は無いザンス。 だから、体を弄るとしても、最後の一線だけは越えたくないんザンスよ」

「ふーん。 気持ちは分かるけれど、それだと多分最強にはなれないよ? 最強になりたいと思うんだったら、色々捨てないと無理だからね」

ニヤニヤとブルフロッグが笑っているのが何となく分かる。

ガスマスクをつけているし。

カエルなのに。

それなのに、どうしてか分かるのだ。

此奴が、今自分たちを見定めて。

苦悩する様子を、楽しんでいるのが。

「ミー達はテッドブロイラー様の忠実な部下ザンス。 だから、テッドブロイラー様を越えられなくても良いザンス。 あのお方のお役に立てれば、それでいいんザンスよ」

「ふーん。 野心がなくてつまんない奴」

「……」

「まあいいや。 テッドブロイラー様には流石にボクも逆らえないし、直属の部下を変な風にしたら、何されるか分からないからね。 知ってる? 少し前にテッドブロイラー様、あの軍艦キングをタイマンで倒したんだよ? ボクも其処まで生物止めてるお方に、逆らおうって気は無いわけ。 けらけら」

話には聞いているが。

ブルフロッグがそういうなら、事実だったのだろう。

それにしてもとんでもない。

軍艦キングと言えば、ステピチでさえ知っているほどの強豪賞金首だ。単独で倒すなんて、考えられない。

現在、テッドブロイラー様の賞金額は250000Gだそうだが。

実際の実力はそれを遙かに凌いでいるのではあるまいか。

白衣の科学者達が来て、研究室に案内される。

後は、麻酔を打たれて。

意識が混濁していった。

目が覚めたときには。

更に強くなる。

そして強くなったら、さっさとこんな所からは、おさらばしたい。

此処は、文字通り。

悪魔の島だ。

 

4、海上で

 

ネメシス号の艦橋に顔を出すと、今後の話をする。

まず最初にスワンに出向く。

スワンと聞くと、カレンもビイハブ船長も、いい顔をしなかった。

「あんな所に行くのか。 彼処は恐らく、この近辺で最も腐った街だ。 儂だったら絶対に勧めないが」

「歓楽に行くのでは無い。 人倫を踏みにじった外道が挑戦状を叩き付けてきた。 彼処で待っているそうだ」

「そういう理由か……」

「奴の目的を確かめなければならない」

実のところ。

ガルシアが其処までのゲスに落ちたかはまだはっきりは分からない。

だからそれを見極める必要もある。

それにしても、あのバギー。

ガルシアが使っていたものだと思うと微妙だ。

独り立ちしてから、バイクの次に手に入れて。それからずっと使っている愛着のある車両だけれども。

それでも何というか、思わず口をつぐみたくなる。

ただ。クルマに罪は無い。

使う人間次第だ。

きちんと扱えば。

きちんとクルマは答えてくれる。

「その後はイスラポルトだ。 あの周辺には、強力な賞金首が多数いると聞いているし、何しろ交通の要所だ。 情報を集めつつ、カリョストロの居場所を探る」

「異議無し」

カレンが言うと、他の皆もしたがってくれた。

カレンは戦闘力でも判断力でも、皆の中でナンバーツーの位置にいる。生身で機械と渡り合っている様子を見て、アクセルも凄いと素直に感想を口にするくらいだし。それに何より、私のストッパーとして、周囲が期待している節がある。

皆の頭脳として動いているフロレンスと同じく。

この姉妹と早めに知り合えたのは、私に取って僥倖だったのかも知れない。

東に進んでいると、別の船とすれ違う。

大型の船で、戦車を三機も乗せていた。別のハンターのチームらしい。

一旦停泊して、向こう側に乗り移り、話を聞くことにする。

向こうはどうやらカジキエフ狩りをしていたらしく。

甲板には、二匹のカジキエフの残骸が水揚げされていた。

「あんたがレナか。 噂は聞いてるぜ」

「貴方は?」

「俺は蒼牙のバークスってもんだ。 イスラポルトを中心に活動している」

船に乗せられている戦車は、M1エイブラムスと、軽戦車が二機。

そうなると、相当な手練れだろう。

ウルフほどではないが、M1エイブラムスは強い。ウルフが現れるまで文句なしに世界最強の戦車だったのだ。

T14や10式戦車でも、実戦経験による改修を重ねていったM1エイブラムスには劣るというのがハンター達の一致した見解で。

流石にレオパルド3やウルフなどの最新鋭に比べると若干見劣りはする部分があるものの。

それでも傑作戦車であることに違いはない。

それに、カジキエフを倒して稼いでいるのだ。

凄腕なのは間違いないだろう。

色々と情報交換をする。

「ああ、スワンに向かうのか。 彼処は決闘場として名高いからな」

「私の悪評を流している奴がいると言う話だが」

「誰もあの街発の情報なんて気にもしないさ。 彼処はゲスとクズのたまり場だ。 ハンター崩れや血に飢えた外道。 他には居場所が無くなったカスだけが、彼処に集まる、吹きだまりみたいな場所なんだよ」

「……」

随分な言いようだ。

相当に嫌っているのは確実。

このバークスというハンターは、相応の凄腕なのだろうが。

それが故に、誇りも高く。

故に許せなくもあるのだろう。

「イスラポルトの近況についても教えてくれないか」

「良いだろう」

チップを渡すと、色々と教えてくれる。

現在、イスラポルトはバイアスグラップラーに制圧されてはいるが、それほど厳しく制圧されているわけではなく、ハンターズオフィスにもそれほど監視は掛かっていないと言う。

というのも、イスラポルトは凄腕ハンターがごろごろいて。

周辺もそれらのハンターでも倒し切れない凶悪な賞金首の巣窟。

並の賞金首より明らかに強いスクラヴードゥーが多数徘徊していると言うだけでも凄まじいのだが。

それより強い賞金首が、うようよいるという。

「今の時点で倒されていないのは、カミカゼキングとトータルタートル、それにマダムマッスルだな」

「それぞれ詳しく教えてくれるか」

「ああ。 カミカゼキングは、カミカゼボムの最上位種で、兎に角素早い。 スクラヴードゥーを護衛にしていて、不利になると奴を盾にして逃げる」

「なるほどな」

「トータルタートルはごく最近海に現れた賞金首だ。 Uーシャークの後釜を狙っているという話もある。 我が物顔に周回しては、船を襲っているようだが、動きが鈍いこともあってUーシャークほどの脅威では無いな。 ただ戦ったハンターの話によると、凄まじい硬度の外殻に守られているらしく、生半可な攻撃では通用しないそうだ」

それは面倒だ。

いずれにしても、イスラポルトで装備を調えて、レオパルド3を完成させてから戦う事になるだろう。

最後のマダムマッスルだが。

此奴については、情報が錯綜していて、よく分からないらしい。

「ホロビの森という場所があってな。 其処に、姿が全員同じ女達がいるらしい。 その女達の元締めをしているのが、マダムマッスルだという話だ。 周辺の街から人間狩りまがいの事をしているらしく、賞金額も50000Gとスカンクスと同等。 最近バイアスグラップラーと手を組んだという噂もあって、更に賞金額が上がるかも知れないな」

「なるほど、有難う。 感謝する」

「何、此方もあのトビウオンとUーシャークを倒してくれたおかげで、カジキエフ狩りがやりやすくて助かっている。 今日狩った此奴らだけでも、しばらく遊んで暮らせるくらいの金に変わるからな。 戦車の装備も更に強化して、もっと強い賞金首を狩りに行けるぜ」

握手をすると、自分の船に戻る。

有益な情報を得られた。

それにしても、やはりというかなんというか。

海にまた賞金首が現れたか。

まあ、いずれにしてもブッ殺すだけだ。

賞金首クラスのモンスターを送り込んできたという事はノアだろうが。

上手く利用すれば、カジキエフが入り込んできている地点を特定出来るかも知れない。恐らくは、同じ場所から来ているのだろうから。

艦橋に戻ると、ビイハブ船長が言う。

「明日の朝にはスワンに着く。 全員で乗り込んで叩き潰してしまえば良いのではないかと儂は思うが」

「いや、一人で充分だ」

「無理はするなよ」

「分かっている」

手札は充分に用意している。

ガルシアの実力も、前に見ている。

そして、奴がどれくらいパワーアップしたとしても、今の私なら勝てる自信もある。勿論、自信だけでは無くて、きちんと準備も終えている。

ガルシアと会うのは。

奴を締め上げることで、バイアスグラップラーの情報を得るためだ。

戦いの勝ち負けなんかは最初から度外視。

負けるつもりなんて最初から無いし。

此奴に負けるようでは。

テッドブロイラーになど勝てる訳も無い。

イスラポルト周辺での探索を終えたら、今後は海をまず調べて、レベルメタフィンの探索を本格的に行うが。

その前に。

マドでの出来事に、しっかりけりをつけておく。

充分に休んでおくようにビイハブ船長に念を押されたので。

素直に言うことを聞く。

そういえば、いつの間にか。

船の揺れは、まったく気にならないようになっていた。

 

(続)