草原のバス

 

序、デルタリオ

 

デルタリオに到着してから数日は、情報収集に費やした。

まずビイハブ船長。

大きな船を持っていて、Uーシャークという賞金首モンスターを追っている存在だけれども。

今、丁度デルタリオを離れているらしく。

会うことは出来なかった。

ただ、話によると、最近はデルタリオを拠点に活動しているらしく、言づてを頼む。U−シャークの撃破に協力したいので、声を掛けて欲しいと。

私はスカンクスを倒した事で、ハンターズオフィスにも名前が知られるようになっているし。

レナというハンターが、次々に五桁賞金額の賞金首を倒しているという噂が流れているのも確認している。

ビイハブ船長は相当な手練れだろうが。

それでもクルマも無し、一人だけで、賞金額30000Gに達するU−シャークを倒すのは厳しいだろう。

人間を止めているなら兎も角。

昔は腕利きとして知られていたらしいが。

相当な高齢だという話だ。

流石にいくら何でも厳しすぎる。

続いて、天道機甲神話について情報も集める。

ハンターズオフィスに顔を出すと、続報が入っていた。

最近、手練れのハンター達が撃退に成功したらしいのだが、その時に北の方に逃げたという。

とはいっても、重戦車を含む四機のクルマで包囲し。

それで攻撃を加えて撃退出来た、という事なので。

相当な激戦を覚悟しなければならないだろう。

厄介なことに、ノアが放っているモンスターの中には。

大型機械のモンスターを修復するために活動しているものや。

自己修復機能を持っている大型機械も存在している。

天道機甲神話もそういった武装を有していないとは言い切れない。

北にはノボトケという小さな村があるが。

此処はかなりの貧弱な人口と装備しか備えていないと聞く。

住民に危険が迫っていると見て良いだろう。

街に散った皆も、情報を集めてきた。

ミシカとポチは私と一緒に行動していたが。

カレンは、アクセルとケンのグループと、別々に情報を収集。

ちなみにフロレンスは留守番だ。

一度、町外れで合流。

宿を決めた後。

ボートピープルが多数浮かべている船をウルフの上に座って長めながら、話をまとめる。

それによると、やはり天道機甲神話は、一度撃退されたことで間違いないらしい。

見境無く人間を襲う上。

危なくなったら逃げる判断力も備えている、という事だ。

厄介なのがこのタイプだと、マリアは前に言っていたか。

危険な賞金首クラスのモンスターの中には、手練れのハンターに出くわすと、一目散に逃げるタイプがいるらしい。

憶病なのでは無く。

狡猾なのだ。

こういうタイプの賞金首モンスターは戦闘力が高いケースも多く、しかも手練れと出くわすと逃げると言うこともあって、被害が大きくなりやすい。

天道機甲神話も、ノアの手下だろうし。

そういった危険な連中のデータを回収し、頭脳部分に取り込んでいる可能性がある。

そうなると、出来るだけ早めに倒さないといけないだろう。

大物の賞金首になると、単独で街の一つや二つ潰している例も珍しくない。

移動要塞クラスの賞金首になると。

大量の手下を従えながら移動しているケースまであるという。

「いずれにしても、厄介な相手だね」

「デルタリオでも、早めに影響力を高めた方が良いな」

「バイアスグラップラーはいましたか」

「いたよ。 かなりの人数が、街の中を巡回してた」

ケンが発言する。

アクセルは腕組みしたまま、それに付け加える。

「街を支配していると言うよりも、物流とかを監視している感じだな。 後、エバって人間に危機が迫ってるので探して欲しいとか、ハンターズオフィスに依頼が入ってたぜ」

「エバ? 誰だ」

「知らん」

「……」

随分アバウトな依頼だ。

エバという名前にも聞き覚えがない。皆を見回すが、知り合いでは少なくとも無い様子だ。

「依頼を出したのは」

「分からないが、ジェントルマンとか名前が書いてあったな」

「悪戯じゃないのか」

「いや、それがな。 解決額が2000G」

2000Gか。

小型のバイクなら買える金である。

貧しいので構わないのなら、一年くらいは普通の人間が生活できる金額でもある。実のところ、ハンターズオフィスには普通の人間でも解決できる依頼が入っているケースがあるため。

ケンのような浮浪児崩れが入り浸って、情報や仕事を探している場合がままあるのだ。そういう簡単な仕事には、負傷をしてあまり動けないハンターが食いつなぐためや、或いはわざわざ戦闘力を持った人間がやるにはもったいないものもある。つまり、手数さえ揃えばいいわけで、ハンターズオフィスも解決さえすればいい、と考えている節がある。

おそらくは、そういった「数の力」での情報提供依頼なのだろうが。

それにしても2000Gとは剛毅である。

メンドーザが、500Gぽっちで反抗勢力の頭を捕まえろとか私に依頼してきたのを考えると。

少なくとも、よっぽど懐が温かい人物なのか。

それとも恩義でもあるのか。

或いは。

罠か。

実のところ、依頼を出すのには、色々と面倒な手続きがいる。

悪戯だとすると。

やった奴は余程の暇人か。

或いは手が込んだ悪戯が大好き、という事なのだろう。

「とりあえずそれは保留だ。 エバという人物が何者かは分からないが、はっきりしている危険として、天道機甲神話がいる。 幸い、姿ももうはっきりしている」

カメラは当然のことながら、存在している。

ポスターには手書きもものもあるが。

写真として使われているものもあるのだ。

この間撃退したハンターが撮った写真が焼き増ししてポスターに使われているのだが。

見る限り、少なくとも主砲はついておらず。

その代わり、パラボラらしきもの。

光学兵器らしきもの。

ビーム兵器らしきものが。

背中にそれぞれ搭載されている。

他にも武器を隠し持っているかも知れない。

「現在進行形で大きな被害を出している賞金首だ。 早々に退治してしまおう」

「勝てるのかい」

「情報は集めてきた」

ハンターズオフィスで話は聞いて来たし。金も出して、更に詳しく、戦闘の状況についても確認している。

恐らくは、どうにかなるだろう。

それに、だ。

機械兵器が相手である以上。

搭載している武器類は、鹵獲できれば使えるかも知れない。

エンジンなどもしかり。

Cユニットは汚染されているだろうから。

一度まっさらにしないといけないだろうが。

とりあえず、当面の目標については、これで決定。

宿で一日だけ休む。

天道機甲神話については。もうかなりの危険度として情報が伝わっているのだろう。大げさすぎるほどのコンボイが組まれて、トレーダーが物資を輸送しているのが見えた。海路を使う手もあるが、あっちはあっちで活動的な大物賞金首が二匹もいるのである。

陸路を行くのも地獄。

海路も同じく。

実際、コンボイに混じれず、立ち往生してしまっているトレーダーも少なくないようで。

困り果てている彼らを助ければ。

大きな恩を売る事が出来る。

それに、だ。

ベンに聞いたが。

ノボトケ周辺では、バスを手に入れられるかも知れない。

戦闘力はあまり期待出来ないけれど。

もしも手に入れられたら。

人員輸送や物資の輸送で。

大きな役割を果たしてくれる可能性が大きい。

手に入れるために、努力をして見る価値はある。

一旦デルタリオを出て、北に。

すぐ北には、小高い丘があって。

その辺りから、草原がずっと拡がっていた。

勿論レーダーも稼働させているが。

一人は、ずっと双眼鏡で監視をした方が良いだろう。

最前列はウルフ。

最後尾は装甲車。

一番脆いバギーを真ん中に、その左右をバイクに乗った私とミシカが挟む。

この状況で、バギーに乗ったケンが、双眼鏡でじっと周囲を監視。ケンの側にはポチを付けている。

ポチは目も良い。

古い時代のイヌは、目が悪いことが弱点の一つだったのだが。

大破壊の後の淘汰で、イヌは目も改善され。

今では人間並みか、それ以上の視力を手に入れることに成功している。

噂によると、生体改造によって、人間以上の知力を持ったイヌまで実在しているらしいのだが。

それは流石に実物を見たことが無い。

「敵影無し」

「定時で報告を」

「分かりました」

ケンは真面目だ。

黙々と、一生懸命監視を続ける。

雑魚を発見。

即座に対応に掛かる。

隊形を変え、引きつけたところで機銃で打ち据えて、近づくことさえさせずに殲滅。資金が余ったので改良を施し、バイクも含めた全てのクルマに機銃を配備している。弾丸代の節約のためだ。

モンスターの駆除が終わると。

換金できそうな素材を探しにバイクを降りようとする。

ケンも降りようとしたので、手を上げて止めた。

「此処は天道機甲神話のテリトリーだ。 監視を続けろ」

「わ、分かりました」

死体を捌いて、換金できそうな素材を探す。

ウサギのモンスターだが、半分機械化されていて。

あまり肉の部分は多く無いし、何よりも血が非常にオイル臭い。

しばし目を伏せたが。

これは機械部分をむしろ持っていくべきだろう。

頭を開いて、脳みそにめり込むようにしてつけられていた操作機械を取り外して、回収して。

後の部分は地面に埋める。

少しでも良い肥料になるといいのだけれど。

バイクに戻ろうとした。

その瞬間だった。

「敵影!」

「!」

ケンが叫ぶ。

私も振り返るが。

遙か遠く、ぽつんと小さな点が見える。

即座にバイクに乗り、戦闘態勢を整える。

自分でも双眼鏡で見るが。

間違いない。

天道機甲神話だ。

じっと油断無く此方を伺っている。

今までは蹂躙できるような雑魚ばかりを相手にしてきたが。この間撃退したことで、慎重になったのか。

此方の戦力をはかっているようだった。

まさか、今の雑魚も。

此方が隙を見せるのを狙って、けしかけてきたのか。

しばしにらみ合いが続くが。

やがて、凄まじい速度でバックすると、視界から消える天道機甲神話。手強いと判断したのか。

それとも何か罠を掛けているのか。

緊張しながら、草原を進む。

AFVの賞金首は、相当な高速で移動するのが普通だ。

移動要塞クラスになると鈍重になるが。

あの天道機甲神話は、どちらかといえば重戦車。重戦車は、今の時代装備次第では、時速100キロ以上で自由自在に動き回る。

丘を抜けると。

盆地に出た。

ノボトケの村周辺は、一体が盆地になっているのだが。

見渡すと、確かにいるわいるわ。

バスが数機、動き回っている。

いずれもが暴走したCユニットによって、四方八方勝手に動いているようだが、色々面倒だ。

まともなのが一機でも捕まえられればいいのだが。

盆地の奥の方。

何か人型がある。

あの人型が、ノボトケの村そのものである。

一旦彼処へ行く。

それから、天道機甲神話について、念入りに調べ。

そして叩き潰すとしよう。

 

ノボトケの村は、極貧生活を送っていた。

当然だ。

トレーダーによる物資の補給が断たれてしまっているのだから。

天道機甲神話のせいで、トレーダーは此処にまともに立ち寄れなくなっている。人口も百人を超えない程度の小さな街で。

一応自衛用の野砲は数門備えているし、少し古い型のクルマもあるようだが。

どちらにしても、自衛用。

天道機甲神話に対して、積極的に攻撃を挑めるほどの戦力では無い。

また、ノボトケの村には、トレーダーがかなりの人数、足止めを食らっていた。ここに来た直後に天道機甲神話が現れ。

或いは天道機甲神話に襲われて、命からがら逃げ込み。

そういう者達だろう。

またまった戦力のハンターが来たことで、彼らは喜ぶ。

「デルタリオへ行きたいのです。 是非護衛をお願いしたく!」

「構わないが、報酬は貰うぞ。 それに天道機甲神話は極めて狡猾な奴だ。 守りきれる保障は無いが、それは覚悟してくれ」

「分かっています。 このままでは、商品を売ることも出来ず、干上がってしまいます」

懇願される。

私は、トレーダー達に荷物をまとめるように指示。

その間カレンに、ケンを連れて情報収集に行くよう頼む。

ケンは勘が鋭いところがあって。

意外に良い所を見ている。

アクセルには、その間。

トレーダー達の使っているコンテナを、確認して貰った。

コンテナ。

この荒野を渡るために、チューンされたトラックの一種である。

クレーンを積んでいる事も多く。

大量の積載量。

それに悪路踏破性。

何よりも圧倒的な頑強さが売りだが。

それらの全てを、この過酷な世界は時に踏みにじっていく。

それでも、トレーダー達が使うコンテナは、必死に各地に物資を運ぶ。

人間が確保している工場や、数少ない生産拠点から。

最前線となり、モンスターの攻撃に晒されている辺縁の街や村に。

故に、人類にとっての生命線であるインフラを、必死に支えている存在だとも言えるだろう。

バイアスグラップラーでさえ不可侵のトレーダーだが。

モンスターにはそんなルールなど通用しない。

ならず者の中には、敢えてトレーダーばかり狙う者もいるらしい。ハンターズオフィスを敵に確実に回すのにも関わらず、である。

自分の危険よりも。

すぐ先の金を求めてしまうタイプ、なのだろう。

なおコンテナは、少し大きめの街があるならば、借りることが出来る。

デルタリオでもコンテナは貸し出していたし。

ハトバやバザースカでの貸し出しコンテナは随分と助かった。

カレン達が戻ってくる前に、アクセルがざっとコンテナを確認。

「自走には問題ないぜ。 ただどのコンテナも鈍足だな。 これを全部守りながら行くのは、ちょっと厳しいかもしれない」

「そんな、殺生な」

「慌てるな。 天道機甲神話がいれば、の話だ。 普通のモンスターしか出ない状態なら、安全に送り届けられる」

商品を見せてもらう。

幾らか、改良できそうなパーツがあったので、購入しておく。今財布はかなり暖かい。特に、ウルフ用に攻撃用のミサイルが欲しいと思っていたのだ。

魚雷としても使えるシーハンターというミサイルポッドがあったので、購入しておく。

非常に評判が良いミサイルで。

近辺のハンターはあらかた装備しているという優れものである。一度に数発の、極めて誘導性が高い上、火力も大きいミサイルを放つ上、魚雷にもなる。

予備としてもう一個くらい欲しいが。

今持っているクルマでは、積載量の関係上、厳しいだろう。エンジンを根本的に変えないと厳しいはずだ。

カレンが戻ってくる。

「野バスの中に、使えそうなのがいるって話だよ。 天道機甲神話を倒してくれるようなら、教えてくれるってさ」

「もとより奴は倒すつもりだった。 口約束だったらそれまでだ。 期待しないでおくとしようか」

「そうだね」

さて、では狩りにでるか。

この近辺を脅かす悪魔のマシン。

AFV、天道機甲神話を倒す。

 

1、機械の殺戮虫

 

盆地では、どうしても敵を探すのは不利だ。小高い場所に出る方が良い。

それについては、既に同じ事を考えていたグループがいた。

噂に聞いている、天道機甲神話を撃退したハンターグループだろう。

丘を占拠して、四機のクルマが陣形を敷いている。周囲に隙無く目を光らせている、なかなかの実力者だと一目で分かるクルマ揃いだ。

エース級のクルマはT14。

大破壊前の戦車としては最新鋭に近いもので。

かなりの当たりとして知られる戦車である。

MBTの中でも高い次元で性能がまとまっていることから、M1エイブラムスや10式戦車と並んで、かなり評価が高い。

流石にウルフには及ばないが。

それでも相当な手練れだと見て良いだろう。

此方が近づくと、向こうも顔を出す。

戦意が無いことは、最初から示している。ハンター同士で争っても、詮無きことだから、である。

私がバイクを降りて歩いて行くと。

向こう側のリーダーも、こっちにきた。

ばいんばいんの大変けしからん体型の美女である。

非常に妖艶なフェロモンをばらまいているためか。

子供っぽいミシカとは、同じブロンドの長身でも、雰囲気が真逆だった。

私と比べてしまうと、体型どころか何もかもが真逆だ。

「マゼンダよ。 よろしくね」

「レナだ。 よろしく」

「! 噂には聞いているけれど、本当に小柄なのね。 スカンクスだけではなく、多くの賞金首を倒しているって聞いているから、実力は疑わないけれど」

「いずれバイアスグラップラーは皆殺しにする」

軽く挨拶を住ませると、情報交換。

相手側は持っているクルマの質でも、此方より上だ。エース級のT14を筆頭に、もう一機重戦車がいて。残りは軽戦車。

どれもそこそこに良い武装をしている。

話によると、賞金額25000Gの賞金首を倒した事もあるらしい。

デルタリオの方では、マゼンダといえば相当に名前が知られているハンターだと言う事だが。

確かにハンターズオフィスで情報収集するときに、その名前は聞かされた。

天道機甲神話について、話をするが。

やはり奴は、この近辺をうろついているという。

「私も見た。 ただ、遠巻きに見ているだけで、仕掛けては来なかったが」

「何か罠を仕掛けている可能性があるわねえ」

「そうだな。 対戦車地雷か何かかも知れないな」

「ぞっとしないわ」

そういえば。

マゼンダが連れている他の仲間は、全員男性だ。

ちょっと面白い編成かも知れない。

マゼンダが腕利きである事は私も疑わないけれど。

他の男性は、皆マゼンダの愛人だとすると、何というか面白い。良く関係が破綻しないものである。

あらゆるものを武器に使う。

そういう生き方をしているハンターなのかも知れない。

「この辺りは、私達が見るわ。 分かっているとは思うけれど、天道機甲神話との交戦状態に入っても、横やりは不要よ?」

「其方が壊滅したら?」

「その場合は仕方ないわ」

「今、戦えるハンターは一人でも必要な状態だ。 バイアスグラップラーのような連中がのさばっているのも、奴らの戦力が圧倒的過ぎるからだ。 バイアスグラップラーの名前を聞いただけで、尻込みするハンターを私は何度も見た」

戦える奴が、簡単にプライドを命より重く考えるな。

マリアの持論だ。

勿論、どうしようもない相手とぶつかった場合は、死力を尽くして、戦うしかない。

だが、勝てる相手に負ける戦いをするのは、愚か者の行動だ。

「危険だと判断したら、照明弾を打ち上げてくれ。 貴方達の実力を疑うつもりはないが、天道機甲神話は負けたフリをして油断させるつもりかも知れないし、或いは狡猾な攻撃を仕掛けてくる可能性もある。 可能な限り支援する」

「ふふ、面白い子ね」

「……外道が相手なら兎も角、今は人間が可能な限り協力すべき時なのではないのか」

私は正論を言っているのだろうか。

少なくとも、意外そうな顔をしているマゼンダを見ていると。

何だかおかしな気分だ。

こんな時勢である。

勿論私としては、復讐心が第一にある。

バイアスグラップラーは皆殺しにしなければならないとも思っている。

だが、それ以外は。

人間はもっと団結して、ノアと戦っていかなければならないのではあるまいか。

此処まで何もかも無茶苦茶にされた世界なのだ。

ノアとしっかり戦い。

そして滅ぼせるようでなければ。

やがて人類は押し負ける。

世界は既に極限まで疲弊し。

人類がどれだけ生きているかも、よく分からない状況なのだ。

それなのに、人類同士で、無意味な争いをするのは避けるべきだろう。

バイアスグラップラーどもは、それをやっている。

故に滅殺しなければならない。

「この辺りをマゼンダ、貴方達が見張るというなら、私は向こう側を見張る。 危険を察知したら照明弾を上げる。 支援を頼むぞ」

「分かったわ。 では共同戦線といきましょうか」

「ああ……」

一旦距離を取る。

ミシカは何だか気分が悪いようで、ずっとむくれていた。

「何だよあの女。 男たくさん侍らせやがって」

「何だ、もてたいのか」

「い、いや、決してそういうわけじゃないんだけどな」

「分かり易い奴だな……」

呆れたが。

まあ気持ちは分からないでもない。

ミシカはオツムが子供だし、感覚も私みたいに壊れた奴とは違って、比較的まともな部類に入る。

もてたいと思うのは、普通かも知れない。

ましてやミシカは健康的な美貌の持ち主だ。

普通にしていればもてるだろう。

だがオツムが子供なのと。

何よりけんかっ早い事がまずい。

だが敢えて口にしない。

フロレンスはフロレンスで、かなりもてるようだが。

片っ端から男を袖にしている様だ。

カレンはそもそも鍛えることが最優先らしく、男には殆ど興味を見せていない。

アクセルはというと、街に出ると女に声を掛けては、毎回失敗してしゅんとしている。ケンが、もうみっともないからやめようよとアクセルに声を掛けているのを一度見て、何だか遠い目をしてしまった事があったか。

マゼンダはざっと見た感じ、かなり容姿を繕うことで、自分の美貌を引き立てて、それを武器にしているタイプだ。

当然仲間をたらし込むのに、体も使っているだろうし。

何より、仲間同士が反目しないように、上手く制御もしているのだろう。

魔性と言えば魔性だが。

たくましいといえばたくましいのかも知れない。

まあ此方としては、あまり同じやり方をやろうとは思わない。

最悪の場合。

利害が一致していればいいのである。

盆地を抜けたので。

丘に陣取る。

天道機甲神話は、姿が見えない。

別の丘へ移動する。

その間も、ずっと周囲を警戒。どこから仕掛けてくるか、知れたものではないし。何より地雷などで奇襲を仕掛けてくるかもしれないからだ。

不意に、嫌な予感。

私がバイクを止めて、ハンドサインを出す。

止まれ、の指示だ。

少し先の地面が、盛り上がっている。

目を細めて、観察するが。

多分対戦車地雷だ。

「200ミリ砲をぶち込め」

「いいのか、弾だってただじゃないぞ」

「やれ」

アクセルがへいへいと答えて、ウルフの主砲をぶっ放す。

盛大に爆発。

やはり地雷だったか。

だが、観察すると、前方にはかなりの数の地雷がある。

地雷の配置を見ると。

U字状になっているのが分かった。

「全員反転! 罠だ!」

すぐに、全員が動く。

後方から、凄まじい勢いで突貫してくる天道機甲神話。退路を塞いで、一気に撃滅するつもりだろう。

同時に、周囲から、無数の影。

RPGを抱えた、人間大の鼠のような影。

通称プレーリーゲリラ。

穴を掘る性質を持つ、プレーリードッグという生物に改造を加え、RPGで武装する程度の知能を与えたモンスターらしく。

生息地域では、ハンターが囲まれて大きな被害を出す事があるという。

早速交戦開始。

RPGをぶっ放す前に、先制攻撃。

機銃で薙ぎ払い、ミンチにし。

更に、主砲もぶち込む。

だが、それでも残りがRPGを叩き込んできて、それがクルマの装甲タイルを派手に削り、衝撃波が私とミシカのバイクを激しく揺動させた。

その隙に、天道機甲神話が。

至近まで迫っていた。

「ヘッドギア!」

叫びながら、私は、対物ライフルをぶっ放し。

至近から、RPGを放とうとしていたプレーリーゲリラを吹っ飛ばす。

上半身が消し飛んだプレーリーゲリラは、上空にRPGをぶっ放し。

それが戻ってきて、他のプレーリーゲリラの巣を直撃。中にいた奴をRPGごと吹っ飛ばしたようで、大爆発が起きた。

だが、その時には。

天道機甲神話のパラボラが、凄まじい音をぶっ放していた。

スカンクスの、物理的衝撃波を伴うほどの音では無いが。

ヘッドギアをしていても、思わず意識を手放しそうになるほどの音。

更に、妙な光線を放ってくる。

ようやく向きを変えたウルフが、主砲二つをぶっ放すが、一撃では装甲を貫通できない。そればかりか、その場にミシカが倒れてしまう。

やはり催眠か何かの光線か。

バギーは沈黙。

装甲車は何とか動いて、主砲を叩き込むが。150ミリでは、天道機甲神話の装甲を貫けないようだった。

更に音を強くしていく天道機甲神話。

そして、その丸っこい体が上下に開き。

無数の主砲が姿を見せる。

そうかそうか。

動きを止めて、それらでとどめを刺す、というわけか。

必死にウルフが次弾を放とうとするが、敵の方が早い。

六門の主砲が一斉に火を噴き。

装甲車とバギーが横転した。この至近距離からの200ミリクラスを、それぞれ二発同時に食らったのだ。

タイルをどれだけ積んでいても。

耐えきれるものではない。

爆風で、ミシカは完全に意識を手放し、転がっていて。

私もバイクから投げ出され。地面で立ち上がろうとするが。

天道機甲神話は、中破したウルフと、砲弾装填のチキンレースの真っ最中。つまり、ならば。

勝機はある。

私は震える手で、対物ライフルを構え。

敵の主砲の内部に。

ピンホールショットを決めた。

一瞬の沈黙の後。

爆裂。

天道機甲神話の内部で、強烈な爆発が起きたようだった。

それはそうだろう。

大砲の内部にセットされた弾に、直撃を入れてやったのだから。

更に、ウルフが主砲をぶっ放す。

ついでに、買ったばかりのシーハンターを全弾発射。噂通りの火力で、天道機甲神話の上部にある構造体、パラボラやビーム兵器類が、根こそぎ消し飛んだ。

天道機甲神話が下がろうとし始めるが、バイクを立て直した私が、無理矢理後ろに回り込むと、更に先ほどウルフが主砲を叩き込んだ地点に、対物ライフルをぶち込む。装甲タイルを完全に貫通。

更に一撃。

悲鳴に近い軋みを、天道機甲神話が上げた。

逃げようと、無理矢理バックしようとするが。

ウルフが突っ込むと、またゼロ距離からの砲撃。

タイルが全損したところからの、ゼロ距離射撃。

もはや、流石に耐えきれなかったのだろう。

内側からの爆発が起き。

天道機甲神話の上半分が、綺麗に消し飛ぶ。

駆動部分だけが残ったが。

それも、もはや動かなかった。

呼吸を整える。

煤だらけになった顔を拭う。

衝撃波で何度も叩きのめされたが。どうにか無事だ。ヘッドギアをつけてはいるが、あの音波攻撃。

強烈にも程があった。

まだ頭がガンガンしている。

ウルフが牽引して、装甲車とバギーを起こす。

バギーの中のケンは完全に気絶していた。

ちなみにポチは、まだ残っていたプレリーゲリラの掃討に走り回っていて、しばらくしてやっともどってきた。

この辺りは、知恵がついても所詮動物か。

仕方が無い、といえば仕方が無い。

それにRPGで武装したプレーリーゲリラは、クルマにとっても危険なモンスターだ。駆除しておくに越したことはない。

フロレンスは気絶はしていなかったが、主砲直撃の時に中でしこたま体を叩き付けたらしく、それでカレンも外に出られなかったらしい。

カレンは、すまんと頭を下げてきたが。

こればっかりは仕方ない。

もっと早く、罠に気づければ、出番も作れたのだろうが。

RPGで武装したプレリーゲリラに囲まれた状況だ。

装甲車の後部ハッチなど、危なくて開けられなかっただろう。

体勢を立て直し、ようやくアクセルがウルフから出てくる。

げんなりした様子だったが。

意識ははっきりしているようだった。

「何とか、勝てたな」

「鹵獲できそうな装備は」

「いや、コレは無理だ」

「……そうだな」

文字通りの木っ端みじんである。

アクセルが確認したが。

破壊したパーツの中にも、使えそうなものはない、ということだった。精々鉄屑としてトレーダーに売りつけるくらいだろう、と。

ただ、部品を集めていけば、天道機甲神話の残骸だと言う事は分かる。写真があるから、それと照合できるのだ。

一旦ノボトケに戻る事にする。

小さいとは言え、戦車の整備施設くらいはあるし。何よりも、少し休みたいから、である。

その途中で、おかしな事が起こった。

マゼンダのグループが来る。

向こうも、手酷くやられていた。

そして引きずっているのは。

天道機甲神話らしいAFVの残骸である。

「どうしたんだい、あんた達」

「それは? 此方でも天道機甲神話と交戦して、破壊したのだが」

「何だって? ちょっと待ちなさい!」

残骸を見せる。

血相を変えて降りてきたマゼンダは、写真と照合。

Cユニットにも精査させるが。

どうやら本物、と結論したようだった。

「そっちにも出たのか」

「ああ。 ひょっとして此奴、最初から複数いたのか」

「その可能性が高い。 道理で神出鬼没なわけだ。 まずいな……」

地雷を使った罠を使って、此方を誘いこんでくるような奴だ。もしも量産されていて、たくさんこの辺りに来ているとすると、大変なことになる。

いずれにしても、今倒した二機の他に存在しないか、確認する必要があるだろう。

マゼンダの側の損害を確認。

向こうもかなりやられていて、T14は中破。主砲を潰されてしまっていた。

「これは、ハンターズオフィスに話をつけるしかないね。 それに消耗した状態で、また天道機甲神話に襲われるとまずい」

「……やむを得ないな。 一度ノボトケに移動して、其処で対策を考えよう。 此方も其方同様消耗がひどい」

「話が合うじゃない。 ちっこいけれど、スカンクスを倒しているだけのことはあるね」

「ちっこいは余計だ」

クルマ七機、バイク二機の部隊が、ノボトケに向けて移動するのは壮観だ。

それが、どれも手酷く傷ついていなければ。

ノボトケに入ると、住民達は、最初この大規模部隊が負けたのかと錯覚したらしく、恐慌状態に陥ったが。

しかしながら、倒した天道機甲神話を見せると安心し。

まだいるかも知れないというと、真っ青になった。

アクセルがウルフから降りると、早速修理を始める。

修理に関しては、私も勉強して、少し出来るようになっている。別のクルマの修理を開始する。

マゼンダの側も、同じように修理を開始。

トレーダーから、弾を購入しているようだった。

村そのものになっている、巨大な人型から、長老らしい老人が出てくる。

老人は、非常に背が高く。頭が長くて、何だか昔話に出てきそうな容姿だった。それでいながら、髭は一切生やしていない。

その穏やかそうな、仙人のような老人は。

話を聞くと、文字通り跳び上がった。

「天道機甲神話が、複数いる!?」

「最低でも二機はいた。 我々は同時に襲われたからな」

「そそそ、そんな!」

「ほら、残骸を見ろ。 どっちも同じタイプだろう」

ケンが、私の服の袖を引く。

頷いてついていくと。

その残骸に、数字がきざまれていた。

最悪な事に。

私が倒した奴には1。そしてマゼンダが達が倒した奴には3。

つまり、最低でも。

もう一機はいる可能性が高い。

コレは厄介だ。

なるほど、手当たり次第に人間を襲撃してくるわけである。30000Gの賞金首にしては、妙に脆いなと思ったのだ。

虫のように多く。

そして物量で攻めてくる。

攻撃も多彩で、極めて厄介。

これほど面倒な相手は、そうそうはいないだろう。

ただ、朗報もある。

マゼンダが倒した方の残骸から、アクセルがCユニットを引っ張り出してくる。それには、どうやら複雑なプログラムが書き込まれているようだが。三体一組で行動するというようなプログラムが、起動できたというのだ。

「後一匹潰せば終わり、って事だな」

「何とかするしかないね」

マゼンダが、手当を手下の男達にやらせながら言う。

諸肌を脱いで、手当をさせている様子は、やはり荒野を渡って来た凄腕のハンターの実力を感じさせる。

私は頷くと。

先に作戦を考えるべく、少し眠ることにした。

村の方でも、休む部屋を提供してくれる。人型の中は空洞になっていて、何カ所か部屋状になっているのだ。

眠る前に考え込む。

音波は厄介だ。

先ほど戦った時も感じたし。

スカンクス戦でも思ったが。

音は人間の弱点になる。

集中力を乱すし。

五感の一つを潰されると、人間はこうも弱体化するのかと、色々と思い知らされる部分も多かった。

何かしら、対策をした方が良いだろう。

次もあの天道機甲神話。

同じ手で攻撃してくるとは、限らないのだから。

思考を中断して、そろそろ休むかと思った時。

悲鳴に近い声が上がる。

此方に凄まじい速度で迫ってくる影。

天道機甲神話。

三機目だ。

此方が疲弊していて、回復しきっていないと判断したのだろう。しかも、相当数のモンスターを連れている。

「出るよ! 全員武装! 乗車!」

マゼンダ組が、まだ充分な補修をしていない状況で、街を出て行く。

街の連中は、野砲に飛びついて、撃ち始めた。だが、モンスターの数がかなり多い。これは簡単には行かないだろう。

私はバイクに飛び乗ると、アクセルに聞く。

「ウルフのタイルは」

「すぐに貼る! ただ、バギーと装甲車は動かすのが厳しい」

「やむを得んな。 カレン、ミシカ、ポチと一緒にモンスターの群れを任せられるか」

「分かった!」

フロレンスには、アクセルと一緒にウルフに乗って貰う。

ケンは残って貰おうかと思ったが、ケンは訴えかける。

「ウルフの上から、アサルトライフルで援護します」

「……分かった。 くれぐれも、気を付けろ」

敵の群れの中で、マゼンダ達がもみくちゃにされている。

これは急がないとまずいだろう。

私が速攻でバイクで飛び出す。ミシカがそれに続く。

総力戦だ。

バギーと装甲車は、街の外縁に張り付かせて、野砲として活用する。マゼンダ組の戦車も、T14以外はまともに動けないようで、真っ先にモンスター達の標的にされて、集中攻撃を浴びていた。

このままだと、破壊され。

中に乗っているハンターは引きずり出され。

ずたずたに食い千切られてしまうだろう。

それだけではない。

此方に来る天道機甲神話は、完全に無傷な状態。

彼奴をぶっ潰しても。

残りのモンスターが引いてくれるかどうか、極めて怪しい。

ウルフが主砲をぶっ放し、天道機甲神話に直撃。

私が、モンスターどもを、バイクの上から剣を振るって薙ぎ払いながら、直線的に敵への間合いを詰めていく。

馬鹿めと言わんばかりに。

天道機甲神話が、音波攻撃と。

催眠光線を。

同時にはなってくる。

だが、私はウイリーして、視界をそれからそらす。音波攻撃に関しては、仕方が無い。私がいきなりいなくなったことで、天道機甲神話は悟ったはずだ。至近距離に、いつの間にかウルフがいると。

ウルフもたくさんのモンスターに集られているが。

そこへ、ミシカが多弾頭暴徒鎮圧用グレネードを叩き込む。

ウルフに直接、である。

モンスターがミンチになって吹っ飛ぶ中。

ゼロ距離で、ウルフの主砲が、天道機甲神話に火を噴く。二つとも、同時に。天道機甲神話が、六つの主砲を展開しようとした瞬間。

私が、真横から突貫。

ゼロ距離砲撃で抉られた天道機甲神話の穴に。

対物ライフルの一撃。

かっさらうようにして横滑りに逃れ。

天道機甲神話が、此方に対して対応しようとしたとき。

ウルフが、とどめの第二射を叩き込んでいた。

爆裂する。

ただし、それには、ウルフも思い切り巻き込まれていた。

擱座したウルフ。

大量のモンスターは、やはり引かない。

血みどろの戦が続く。

しばしその場は。

阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 

2、戦い終わって

 

ノボトケの村に大量に押し寄せたモンスターの軍団は、制圧されたが。

マゼンダ組の戦車はどれも中破以上の損害を受けていたし。

私の方も、損害は小さくなかった。

特にケンは肩に直撃弾を受けていて、今フロレンスが手当てしている。かなり深い傷で、しばらくは銃を持たせるな、という事だった。

ケンが望んだこととは言え。

リハビリに時間が掛かるだろう。

それにしても、凄まじい乱戦だった。

村側にもかなりの流れ弾が飛び込み、大勢の負傷者が出たが。

死者はどうにか出なかった。

マゼンダ組のハンター達は全員重傷。

此方も、私を含めて、全員がかなりの手傷を受けていた。

数日間は、治療に専念する。

アクセルは負傷をしてはいなかったが。その間、戦車の修理をずっと続けていた。マゼンダ組の修理も、突貫で行っていた。

ノボトケの村にもメカニックはいたのだが。

彼の手だけでは、とても足りなかったのだ。

ノボトケの村の長には感謝されたが。

しかしながら、この村の周辺は、話を聞く限りまだまだ危ないという。

凶暴化した野犬や。

以前にも話に聞いた、暴走状態に陥っているバス。

様々な危険があるため。

あまりトレーダーも近寄りたがらないという。

「とにかく、天道機甲神話を倒してくれたことは本当に感謝しております。 なんと礼を言えば良いのか」

「いや、此方としても仕事だ。 あまり気にしなくていい」

私はあまり礼を言われてもくすぐったいだけだし、そのまま流す。

マゼンダが来る。

賞金の分け前について、だ。

「あれだけの乱戦だ。 モンスターを其方で引き受けてくれなければ、ウルフと天道機甲神話の一騎打ちには持ち込めなかっただろう。 半々で構わないか」

「二対一とか言い出すんじゃ無いかって皆が懸念していたんだが、あんたが良いんだったらそれで行こう」

「ああ。 此方は別に金に困っているわけでもないしな」

「剛毅なことだね」

マゼンダも手酷く負傷していたが。

それは私も同じだ。

天道機甲神話に致命打を与える切っ掛けになった私には、モンスターは執拗な攻撃を加えてきていた。

当然手傷も増えるわけで。

フロレンスからは、三日は絶対に動かないように、とまで釘を刺される始末だった。

とにかく、一週間ほどで戦車の修理は終わる。

一度マゼンダ組と一緒にコンボイを組んで、立ち往生していたトレーダー達を、デルタリオに送り届ける。

其処でマゼンダ組とは解散。

話によると、北に行くと言うことだ。

ノボトケの更に北。

かなり寒い地方になるそうだが。

彼女らからみれば手頃な賞金首が多数いるそうで、稼ぐには丁度良いそうである。マルドゥク型移動要塞の賞金首がいるとかで、最終的にはそいつの撃破が目的になるのだとか。

「もう少し全員が力をつけたら、倒してみせるよ。 賞金額は110000G。 倒せたら、英雄になれるね」

「頑張ってくれ。 此方も、バイアスグラップラーをその頃には壊滅させている」

デルタリオの街の出口で、握手をして別れる。

トレーダー達からの報酬も折半し。

天道機甲神話三機分の残骸も、ハンターズオフィスに納入した。

ちなみにどの機体も無茶苦茶に壊れていて、とてもではないが武装を回収どころではなかった。

最後まで嫌がらせのような敵だった。

「まさか、三機一体で動いていたとは……」

ハンターズオフィスの職員も、驚愕していたようだが。

こういう賞金首は、今後増えるかも知れない。

ノアにしても、今回かなりの戦果を上げたと判断した事だろう。

似たようなタイプを繰り出してきてもおかしくはない。

厄介な話だが。

それでも、倒していかなければならない。

人類の生存権を守るために、である。

天道機甲神話の危機が去ったことで、デルタリオは少しばかり雰囲気が落ち着いたが。

まだまだやる事はいくらでもある。

まず第一に、野バスを確保できれば確保する。

クルマはあるだけ必要だ。

特に多数の人員を同時に輸送できる大型車両は、今後いちいちコンテナをレンタルしなくても良くなる。

以前はCユニットなどがなかったり、簡単には輸送できない戦車を発見した場合、どうしてもコンテナをレンタルしなければ引っ張り出せなかった。

また、多くの難民を救助するときも、似たような手間が必要だった。

大型のバスはその分目立ちやすいが。

それでも、一度に多数の人間を乗せ。

輸送することが出来る。

物資についてもしかり。

このアドバンテージは大きい。

もう一つ、ビイハブ船長の所在だが。

ついに確認することが出来た。

まずは、話をつけるところから、だろう。

野バスの方も気になるが。

船長の方は、ようやく見つけたのだ。

話をつけておけば。

此方としても、かなり動きやすくなる。

一度、二手に分かれる。

ビイハブ船長はかなり気むずかしい人間だという話を聞いている。

アクセルはウルフにケンを乗せて、ノボトケに向かって貰う。野バスの確保のためだ。他のメンバーは、私がビイハブ船長と接触し、説得している間に、この街で情報収集をして貰う。

誰か、仲間を欲しがっている手練れのハンターがいないか。

手練れでなくてもいい。

バイアスグラップラーとの戦いに尻込みしなければ。

皆でチームを組んで動いて貰う。

私はフロレンスとだけ組んで、ビイハブ船長の所に向かうが。

船長は、海の荒くれ達が集う酒場の二階で。

ちびちびと飲んでいるようだった。

酒場に入ると。

凄まじい、低品質のアルコールの、むせかえるような苦い匂いが充満している。げらげらと笑っている船乗り達。

いずれも、賞金首と遭遇する事が珍しくもない中。

奇形だらけの魚を捕って。

それを平然と食べて過ごしている連中だ。

図太く。

そして命知らず。

その図太さを見込まれて、ハンターにスカウトされる奴も珍しくないとか。

ここに来る前。

アズサで、聞かされた。

実際問題、此処の仕事は過酷極まりなく。

命の危険も大きいので。

もしも他に仕事があるのならと、スカウトを受けて出て行く奴や。或いは、大破壊前の宝を狙って、サルベージをする者もいるらしい。一攫千金が達成できれば、それこそ後は寝て暮らせるからだ。

だがそういった者達の大半が。

生きては帰れない。

酒場でげらげら笑ってガバガバ飲んでいるのは。

恐怖を紛らわせるため、というのもあるのだ。

マスターに、話を聞く。

コインを弾むと、髭を蓄えたマスターは、面倒くさそうに言う。

「船長なら上にいるが、やめておいた方が良いぞ」

「何故だ」

「船を欲しがって、船長と一緒にU−シャーク狩りの仕事をしたハンターは俺が知っているだけで四組いるが、例外なく全滅している。 U−シャーク自体も強いが、高確率でもう一匹の賞金首、トビウオンが乱入してくるんだよ」

船長の渾名は死神だそうだ。

何しろ、戦いの度にハンターは全滅し。

自分だけが逃げて返ってくる。

船目当ての雑魚ハンターなら兎も角。

元々、ビイハブ船長自身が手練れのハンターだったのだ。今でも、生半可な現役のハンターよりも強いと聞いている。

それでも、この有様。

如何に厄介な賞金首かは、明かだろう。

「U−シャークについて詳しい話を」

「300G」

「ほら」

「気前が良いな。 ハンターズオフィスには情報が入っていないが、元々Uーシャークは非常に狡猾で、相手が手強いと判断するとすぐに逃げるようだ。 トビウオンとは何かしらの方法で連携しているのか、相当に巧みな動きで相互補完をするらしい。 定期船で護衛に雇われてUーシャークと戦って生き延びたハンターはいるにはいてな。 アズサ出身の戦士だが、そいつから聞いた事がある。 もっともそいつも、戦車を半分スクラップにされて、デルタリオに辿り着いたときには息も絶え絶えだったようだが」

そうか。

どうやら、噂以上に厄介な相手のようだ。

更に100Gを渡しておく。

これは情報量の手間賃だ。

ついでに、お大尽として、1000Gを奮発した。どうせこの間、天道機甲神話を倒した際に、大量のモンスターを仕留めている。その時に換金した金が余っているし。更に言えば、スカンクス戦以降、懐は温かい。

此処にいる連中は、後で使えるかも知れない。

名前くらいは売っておいても良いだろう。

「お大尽だ。 皆、このレナさんに感謝しろよ」

「お大尽なんてするハンター、久しぶりに見たぜ!」

「スカンクスを倒したってのは本当か? 随分若いが、すげえな」

「天道機甲神話も倒したってんだろ? マゼンダと協力して殺ったって話だが、それでも大したもんだ」

わいわいと騒ぐ中、私はさっさと一階を後にして。

ビイハブ船長を見に行く。

どさくさに紛れてフロレンスの尻を触ろうとした者もいるようだが。

目にもとまらぬ早業で、ばちんと叩かれて、周囲からけらけら笑われていた。フロレンスもケン同様、前線に立てるように、相応に修練をしているらしい。

ただ、最悪の状況を想定して。

最後まで生きていて貰わないと困るのがフロレンスだ。

だから、護身を中心に、攻撃は考えなくて良いと言っているのだが。

やはり、この間ケンが大けがをした事もあって。

色々と思う所もあったのだろう。

二階。

個室で、下の喧噪が聞こえて来る中。

気むずかしそうな、白い髭の屈強な老人が、酒を飲んでいた。

右足が義足になっている。

顔には凄い向かい傷。

体の方も、相当な歴戦の証が刻まれていそうだ。

「貴方がビイハブ船長か」

「いかにも。 その風体、スカンクスを倒したレナか」

「ああ」

「若いな。 そしてその目。 狂犬の目だ」

狂犬か。

それもまあ悪くは無い。

何より、名前が知られてきた、という事は大きい。当然バイアスグラップラー側も狙ってくるだろうが。

それでいい。

全部まとめて返り討ちだ。

「Uーシャークを倒すのに協力してもいい」

「ほう」

「下で話は聞いた。 既に四回、ハンターが全滅しているそうだな」

「その通りだ。 実際には、俺の家族も含めると、もっと多くの死者を出しているがな」

Uーシャークの賞金額は30000G。

トビウオンの賞金額は20000G。

どちらも定期船に多大な被害を出しているが。

エサを狩つくさないようにするためか。

定期船を沈めないようにしながら。

人間を殺していくという。

彼奴らは、分かっていて殺戮を行っている。そう、ビイハブ船長は、目に灼熱の憎悪を込めていた。

「今までの戦闘の経緯について、可能な限り詳しく教えて欲しい」

「いきなり行こうとか言い出さないのか。 凄まじい戦い方をすると聞いているが、随分慎重だな」

「私は戦略を重んじるんでな。 まず徹底的に情報を集めて、勝つための準備をしてから、火のように戦う。 火のように戦う事だけが噂になっているようだが、基本的に何も考えずに突っ込むような真似はしない」

「面白い。 では、順番に聞かせてやろう。 老人の話だから、少しばかり長くなる」

フロレンスに顎をしゃくり。

下で酒を注文して貰ってくる。

ちなみに私は飲まない。

できる限り、正確な情報を得る必要があるからだ。

フロレンスはすぐに酒とつまみを持ってきてくれた。

つまみと言っても、奇形だらけの得体が知れない魚に、得体が知れない調理をした、間違っても美味しいなどとは言えない代物だが。

これくらい食べられないようでは。

今の時代、生きてはいけない。

「最初に奴と遭遇したのは、もう三十年も前になるな。 海で無敵を自称して、調子に乗っていた儂の前に、奴は現れた……」

 

翌朝。

ビイハブ船長と一旦別れた私は、あくびをしながら、アクセル達と合流する。

アクセル達は、野バスについての情報を、徹底的に仕入れてくれていた。

とってある宿に移動。

其処で全員で集まり、話をする。アクセルは、目を擦っている私に、いきなり軽口を叩く。

ドッグシステムを使って移動していただろうし、その間は寝ていたのだろう。元気なのを見ると、若干腹が立つが。こればかりは仕方が無い。

「何だ、眠そうだな」

「老人の話を一晩中聞かされたんでな」

「へえ、そういう趣味が?」

「阿呆。 ビイハブ船長に、Uーシャークとの戦いについて、情報提供を受けていたのと、今後戦う際の下調べだ」

アクセルが興味津々の様子だったので、きちんと否定しておく。

ただ、見た感じビイハブ船長はまだまだ現役で戦える。

あれならば、船を譲ってもらうのではなく。

船ごと仲間になって貰うのも有りかも知れない。

どうせ海は散々探索することになるし。

今後は海を通らないと、行けない場所も増えてくるだろう。

何より、賞金首さえきちんと掃除し。

現れるモンスターを片っ端から蹴散らしてしまえば。

海は輸送のために。

大変有意義に使う事が出来る。

ノアにしても、直接海にモンスターを放している訳では無いだろうし。

一度賞金首を全滅させ。

大物になり得るモンスターを撃滅しておけば。

かなりの長期間、海は安全な場所になる。

更に、である。

私が探しているレベルメタフィン。

高濃度のレベルメタフィンがいくらでもあるという例の場所。グロウィンなる賞金首の体内。

グロウィンは島になり、海を浮かんで移動していると聞いている。

つまり其処に行くには。

船が必要だと言うことだ。

「相変わらず、下調べに余念がないんだな」

「戦略って言葉を知っているか」

「いや、知らん」

「戦場では、実際に戦う前に、どれだけ準備をするかがものを言うんだよ。 最強の戦士だった私の育ての母マリアだって、最初から最強だったわけじゃあない。 恐らくは、あのテッドブロイラーだって同じ事だろう。 戦場で都合良く技術のレベルアップが出来る訳じゃあない。 どれだけの準備をして、戦場に出向くのかが重要なんだよ。 それを整えるのが、戦略だ」

アクセルは感心していたが。

フロレンスは、眉をひそめていたようだ。

その割りに。

つまり、私が丁寧に戦略を組む割りには。

命を捨てるような、荒々しすぎる戦いをするのが、気になっているから、なのかも知れない。

根本的に、フロレンスは医師だ。

だからこそに。

色々と、私の苛烈すぎるやり方には、眉をひそめてしまうのだろう。

アクセルに野バスの話を聞く。

それによると、野バスの中には、まだ一部Cユニットが異常を起こしていないものがいるらしく。

「バス停」なるものに停車する習性を残しているものがいるそうだ。

つまり、である。

「バス停」を使って野バスを止め。

止まっている間に、Cユニットを交換してしまえば良い。

そういう事になる。

ノボトケでは、この間の天道機甲神話と、その配下のモンスターの大軍勢を退けてくれたという事で、情報をサービスしてくれたそうだ。

更に言うと、完全に孤立していた状況だったノボトケが、天道機甲神話の恐怖がなくなったことで、物流が回復。

その恩もあって、協力は惜しまない、という事らしい。

更に、である。

情報がもう一つ入ったそうである。

「ベロというイヌがいるらしい」

「ベロ?」

「誇り高いイヌで、自分より強いと認めた相手にしか従わないそうだ。 ノボトケ周辺で、たまに姿を見かけるらしいが、強い戦士がいない場合は、そのまま去ってしまうとか」

「面白いな」

戦闘犬は何頭でも欲しい。

野バスとついでに、そいつも仲間にしておきたい。

ポチが弱いというわけではない。

俊敏で頭が良い戦闘犬は。

戦場では、下手をすると人間の手練れ以上の活躍をする。モンスターにも臆することなく向かって行く。

モンスターを退けながら、強者を探している戦闘犬となれば。

その実力は相当だろう。

連れていく価値はある。

「で、どうするんだ」

「まずはノボトケで、野バスとそのベロというイヌをどうにか確保したい」

「分かった。 ビイハブ船長の方は良いのか」

「準備に時間が掛かると言ってある。 どうせ一人では勝てない事は向こうも分かっているだろう」

それに、準備に時間が掛かるのは本当だ。

トレーダーの物流が再開したことで、シーハンターがもう一個くらい入手できそうなのである。

もしも、バスに搭載できれば。

一気に戦力を追加できる。

天道機甲神話戦でも猛威を振るったシーハンターだが。更に一つ二つ搭載できれば、その火力は凄まじい。

また、バギーには、いっそのこと迎撃用のパトリオットと、シーハンターだけ積んで、車列の中心におくのも有りかも知れない。

重い主砲を積むくらいなら。

そのくらいでむしろ丁度良い。

いずれにしても、まずはバスをどうにかして手に入れる。

それまでは、そういった話は。

とらぬ狸の皮算用だ。

すぐに、ノボトケに向かう。

戦力は。

それこそ、幾らでも必要なのだ。

 

3、バスと魔犬

 

バスが行き来している地帯というのを、ノボトケで既に教わっているので、其処を見つけるのは難しくなかった。

確かにいる。

数機のバスが、あてもなくフラフラと移動しているが。

どれもこれも、もうまともなCユニットで動いているとは思えない。人間を見ても、見境無しに突っ込んでくるだろう。

巨大なクルマだ。

戦車より遙かに車高が高く、非常に長い。

側まで近づくが、そのまま走り去ってしまう。

戦闘用車両ではないこともあって、装甲は極薄。

あれは、タイルをびっしり貼るか。

それとも、改造を根本的に施さないと駄目だな。

私はそう判断した。

バス停。

ノボトケで譲り受けた。

見た感じ、楕円形の何だか良く分からない構造物に、棒が生えただけのものだ。

これを刺すだけではなく。

特定の場所に刺さなければならないらしい。

そうすることでやっと。

「一部の」バスが、それに反応するそうだ。

何でも、自動航行で動いていたバスだが、それも様々なルートがあったそうで。バス停があっても、反応するとは限らないらいし。

その上、狂ってしまっているCユニットである。

確かに、まともに動くとは考えにくい。

しばし時を経て。

バスが何度か、バス停を通り過ぎるのを、じっと見つめる。

襲ってきたときに備えて、ウルフと装甲車、バギーは臨戦態勢。

私とミシカはバイクで構えているし。

カレンとポチも外を見張っている。

モンスターがいつ姿を見せるか分からないからである。

また、バスが来た。

バス停を無視して、通り過ぎていく。

「駄目じゃね?」

アクセルがぼやく。

私は咳払い。

そんな事は分かっている。

だが、それでも。

あの長大な車体だ。

輸送用にも、補助戦闘用にも、役立てる事が出来る。巨大な車体だから、パワーパックを二つ積むことだって出来るだろう。

積載量を増やせば、当然武装も装甲も強固に出来る。

ミサイルを大量に積み込めば。

敵を弾幕で圧倒できるかも知れない。

しばし、バス停を立てたまま待つ。

野バスは、完全に壊れてしまったバスなのだ。本来は、多くの人間を輸送するために作り出され。

そしてその仕組みが壊れた結果。

ある意味、機械が野生化した。

ノアが手を出していないのだけは救いか。

というよりも。

手を出す必要もないと判断したのだろう。

動力に関しては、半永久的に動くらしいので、外部からの攻撃で破壊されない限りは、ずっと動き続けるらしいのだが。

ハンターが試し撃ちでもしたのか。

車体の横っ腹に、大穴があるバスも散見された。

それとも、他のモンスターにやられたのか。

いずれにしても、想像することしか出来ないが。

「まだ粘りますか」

「その価値はある。 場所についても、此処で間違いないはずだ」

だが、長期戦になる事は告げる。

警戒態勢は維持。

その代わり、休める奴は先に休むようにとも、周囲に話はした。

私も、見張りを適当に交代しながら、様子を見る。

現時点で、バス停の前を通過していったバスは七機。

そういえば、古い時代。

クルマは両とか台とかいう単位で呼んでいたらしいのだけれど。

今は機で一括するのが普通だ。

これは、クルマと一括したときに、あらゆる「自走する機械」を混ぜてしまったのが原因らしいと前にマリアに聞いた。

そんな話を、ケンにしている内に。

来た。

非常にボロボロのバスだ。

タイヤもかなりやられている。

だが、そのバスは。

バス停の前で、停止した。

側面にあるドアが開く。

かすれた音がした。

「klasdfhldh駅前。 ご利用のお客様は、乗車カードを提示して、お乗りください」

「待った甲斐はあったな。 アクセル」

「おうよ」

すぐにアクセルが、Cユニットを抱えて乗り込む。

そして、Cユニットの交換作業を始めた。

バスは揺れる。

抗議するように。

何だか色々な音声が聞こえたが。

窃盗だとか、強盗だとか、そんな事を口にしていた。

ある意味、そうかも知れない。

だがこのバスを所有していた組織だか国だかは、もはや存在さえしていない。

ならば、もはやそのような言葉は、意味を成さないだろう。

やがて、バスは大人しくなる。

「よし、完了だ。 ただこれは、整備がいるな……」

アクセルが埃まみれの姿で出てくる。

だが、それで別に構わないだろう。

続いてベロを探そうと思っていた所だ。

「アクセル、ノボトケに先に行って、バスの整備を始めてくれ。 この間購入したシーハンターの二つめを搭載できるようなら、やってくれるか」

「分かった。 試してみる」

「カレン、皆をまとめていてくれ。 私は此処から少し単独行動する」

「くれぐれも気を付けな」

頷く。

ベロというイヌ、相手の実力をはかるために、戦いを挑んでくると言う。

此方の実力を認めなければ、殺しに来るかも知れない。

それはそれで構わない。

それで負けるようなら。

私も其処まで、という事だ。

バイクに乗って、ノボトケの近くにまで移動。

ベロは話によると、ノボトケの周辺を縄張りにしているらしく、クルマに乗っていると姿を見せない。

バイクから降りて、しばらく待つ。

時々モンスターが姿を見せるが、対物ライフルで速射して、近寄らせない。

数が多い場合はバイクに乗って、機銃で蹴散らす。

どうせバスの整備には時間が掛かる。

金も渡してあるから、相応に豪華に仕上げてくれるだろうが。

二日や三日では終わらないだろう。

何処にいるかについては、カレンとフロレンスに話してあるから、時々差し入れをしてくれる筈だ。

私はそのまま、待つ。

どれくらい、時間が経っただろうか。

闇の中に。

一対の光。

真夜中だというのに、どうやらお出ましらしい。

私はカフェイン剤を口にすると。

ベロを前に、剣を抜いた。

「ベロだな」

返事は唸り声。

現れたという事は、向こうは此方を強者と認めてくれたらしい。ならば、勝負をして、ねじ伏せるだけだ。

普通、戦闘犬がその気になったら。

単独の人間では勝てない。

少なくとも素手では絶対に勝てない。

銃火器で武装して、イヌと人間はやっと対等の戦闘力を得る。人間が荒野に揉まれて強くなった今でも、それは同じだ。

だから私は武器を使う。

ベロは武装していないが。

それでも、その動き。気配。

明らかに、凄まじい気迫を感じた。

躍りかかってくる。

むしろ私は前に出て、剣を一閃させる。

血がしぶく。

ベロの方も。

私の方も。

振り返って、一閃。

頭をかち割るつもりだったが、横滑りに逃れるベロ。更に、凄まじい反射神経を駆使して、頭上を取りに来る。

飛びつかれたら終わり。

そうだとでも思ったか。

私は即座に体勢を低くすると、横っ飛びにベロの噛みつきをかわしつつ、切りあげる。向こうも、間一髪で逃れ、更に飛びかかってくる。

体勢を立て直した私は、気合いと供に切り伏せるが、残像を斬るのみ。

早い。

後ろに回り込まれた。

首をめがけて、食いついてくるが。

振り返りつつ、マリアの大型拳銃をぶっ放す。

かろうじて避けたベロだが、今ので耳をやられたらしく、悲鳴を上げて転がる。其処に飛びかかると、私は剣を容赦なく振るって、斬った。

腹の辺りから肩の辺りまで、皮を切り裂く。

更に、一撃。

腹に刃が食い込んだ。

呼吸を整えながら、私は。

ベロに問いかける。

「まだ、やるか」

噛みつこうとしてくる頭を、踏みつける。

ギャンと、鋭い悲鳴が上がった。剣は更に切っ先を、体の奥へと潜り込ませていく。

「私のものになれ」

もう一度、言う。

ベロは、どうやら観念したらしい。

大人しくなった。

私が剣を引き抜くと、ベロは血だらけの腹を見せてくる。

降伏の証だ。

良いだろう。

戦闘犬は何頭でも欲しいと思っていた所だ。

此奴には、ポチのようなテクニカルな戦い方では無くて、敵中を真っ先に突破するような、弾丸のような戦い方をやらせたい。

「ついてこい。 手当をしてやる。 以降は私がお前の主人だ」

 

ノボトケにつくと。アクセルが此方に来る。

私も血だらけ。

傷だらけのベロ。

どっちも見て。

アクセルは呆れたようだった。

「子供か」

「こういう風に上下関係を叩き込む必要も時にはあるんだよ」

「だけどよ、犬相手になあ……」

「此奴は強いぞ。 使える」

フロレンスが、すぐに消毒と、あと何かのワクチンを打つ。

ベロにもだ。

狂犬病とか何とか言っていたが。

多分それは、ずっと昔に根絶されたか。それとも残っていても、今の人間には効かないような病気だろう。

「犬には一応気をつけてください。 狂犬病になった患者は近年見ていませんが、それでも発症するとまず助かりません」

「分かった。 その時は見てもらう」

「お願いします」

フロレンスが喋るのは、大事なときだけ。

それを分かっているから、私も邪険にはしない。

いずれにしても、これでどうにかなったか。

ノボトケには、トレーダーが普通に来るようになり、此方を見ては礼をしてきたりしている。

以前の件で、世話になったことを感謝してくれているのだろう。

実際、天道機甲神話は、倒さなければならない相手だった。

トレーダーとは、カレンが交渉しているようである。

シーハンターなどのレアな装備がないか、という交渉だが。

良い返事はないようだった。

戻ってきたカレンの表情はしぶい。

「流石にあちらさんもプロだ。 ない袖は振れない、と言う様子だね」

「実際にものがないのなら仕方が無い。 ただ、バスには自衛用の装備くらいはつけておきたいな」

「それなんだがな」

アクセルが、見せてくれる。

まずバスの周囲を強固な鉄板で補強。

これで、装甲車両くらいの防御力を得る事が出来た。ただし、その分強烈に重くなったが。

窓はガラスがはめ込まれていたらしいが。

それも今は既になくなっていて。

一部の窓があった場所を、内側から開けるようにはしたが。基本的には、上を開けて、周囲を見回すようにする仕組みに変えている。

つまりフレームからして。

徹底的に弄っている、という事だ。

当然金も湯水のように掛かる。

少なくとも、天道機甲神話の賞金は全て吹っ飛んだらしい。

だが、これで戦場に、大積載を可能としたクルマを持って行ける。

車体上部にはミサイル。

これは、装甲車に搭載していたシーハンターを移し替えた。

代わりに、装甲車には、先ほどトレーダーから入手したパトリオットを搭載したという。パトリオットの方が若干軽いので、その分タイルをたくさん貼り付けられる。

つまり防御力を上げられる、という事だ。

「装甲車両の後方も、コレにあわせて強化した。 もう陸戦要員は、バスに乗って貰う方が良いだろうと思ったからだ」

「バスからは迅速に降りられるのか」

「基本的に、側面の一部が開く」

ギミックを見せてくれるアクセル。

丁度側面の一部が、笠状に開く。そうすることで、出来るだけ敵弾を怖れず、降りる事が出来るという。

しかも敵弾が飛び込みかねない角度は。

他の車両でガードすることが可能だ。

ただ。問題は。

これも戦車では無い、ということ。

そろそろ、二機目の重戦車が欲しいが。

それもまだ難しそうだ。

いずれにしても、バスにはシーハンターを搭載したし。その長大な車体は、どちらかと言えば装備や物資を運搬するのに使える。

今までは装甲車やバギーに分乗していた物資を。

バスがまとめて引き受けることが出来るだろう。

「エンジンの方は」

「何とかなると思う。 それほど優れたエンジンじゃないが、パワーパックは二つ搭載できそうだ」

「中を見せてくれるか」

「ああ」

ちょっと手間が掛かるが、車体後方も開けられるようにしたという。

其処にはクレーンも入っていて、クルマを牽引することが出来る様子だ。

ただ、その分手狭だ。

荷物などを詰め込むスペースもあるが。

取り出すのには、少し手間が掛かる。

乗れる人数も、一般的なコンテナより、かなり少なめを見積もるしかないだろう。二十人程度だろうか。

これは、結局の所。

大人数を護衛しながら移動する際には、コンテナをレンタルしなければならない事に代わりは無さそうだ。

自衛能力を持ったコンテナとなると。

どうしてもこういった、武装が必須になってくる。

「少し手狭に感じるな」

「元々が客を輸送するための車両だからな。 戦闘を想定している車両じゃないから、その辺りは仕方が無い」

「まあエンジン次第では、もっと工夫が出来るか?」

「いや、何しろ巨大な車体だ。 Cユニットの補助があるとしても、被弾はどうしても避けられない。 防御用の武装としては、シーハンターが積んであるから、それで充分だと俺は思う」

アクセルはシーハンターを見上げる。

あれの火力は、確かに実戦で証明済みだ。

しばし私も考え込んだが。

やがて、頷く。

まあ良いだろう。

「分かった。 この方針で進めてくれ」

「一応、俺なりに安全を最優先して考えた結果なんだが、不満があるなら言ってくれて構わないぜ」

「これ自体には不満はない。 ただ、やはりそろそろバギーにしても装甲車にしても、力不足だ。 この間の天道機甲神話戦で、ひっくり返されたのをみただろう。 重戦車では、ああいうことは起こらない」

「……」

アクセルも、悔しそうに俯く。

戦車未満。

それに代わりは無いのだ。

今後は遊撃で動かす事になるだろうが。

フロレンスやケンには。

運転者の安全を確保できる重戦車に乗って欲しいのである。

勿論、その場合。

バギーや装甲車には、自動迎撃のシステムをCユニットに搭載して、自動で戦って貰う事になるし。

どうしても被害が目立つようになれば。

マドに送って。

其処で防御用の車両として活動して貰う。

いずれにしても、しばらくは戦力が足りないのが実情だ。

クルマは一機でも欲しい。

戦える人間は一人でも欲しい。

バスにまだチューンをする。

そうアクセルが言うので、後は任せてその場を離れる。そうすると、カレンが話しかけてきた。

「レナ、ちょっといいか」

「どうした」

「あの大きいの、私に任せて貰えるか」

「別に良いけれども、ああそうか」

いずれにしても、バスは戦闘時には機動を駆使して、敵を翻弄するような戦いは出来ない。

あの巨体だ。

被弾上等で、敵と殴り合う戦いが主体になる。

そういう意味では、元から戦闘向きでは無いバスは、色々な意味でカレンには向いている。

早々にバスは降りてしまい。

肉弾戦に移行できるからだ。

何も考えずに、敵と常時殴り合うのであれば。

Cユニットにオートでやらせればいい。

ただし足が止まることになるから、タイルを剥がされて、内部に弾が飛び込む可能性も出てくる。

救助した人間を乗せたりしている場合、そうなると一撃で内部は地獄絵図になるだろう。それは避ける必要がある。

「パトリオットも搭載しておくか」

「いや、パトリオットはもうあるし、レーザー系の迎撃兵器の方が良いだろう。 少し重いが、今の時代は基本的に燃料を気にせず動くと聞く」

「しかし高くつくぞ」

「多少積載量は小さいが、それでも自衛能力のあるコンテナだと思えば安い。 それに、高所から迎撃用のレーザーを撃てるとなれば、他のクルマに対する自衛能力も上がるんじゃないのか」

それもそうか。

そもそもバスは車列の真ん中におくことを想定している。敵と殴り合う事が前提になっているウルフとは違うのだ。

アクセルと、その辺り話しておくか。

積載量に余裕はあると聞いている。

シーハンターは入手できなかったが。

デルタリオまで戻れば。

レーザー系の迎撃装置くらいは、トレーダーから入手できるかも知れない。

いずれにしても。

重戦車ではないにしても、待望の新しいクルマだ。

そろそろ、もっと強力な戦車も欲しいが。

贅沢はいっていられない。

もっと酷いクルマで、頑張っているハンターだって多いのだ。

私も、その辺りは。

我慢するしかないだろう。

バスを見上げる。

アクセルがせっせと手を入れている巨体は。

昔日の、多くの人々を安全に運んでいた車の面影はなく。

荒野で生き延びることを目的とした。

鋼の巨体に生まれ変わろうとしていた。

 

4、海へ

 

デルタリオに戻る。

ウルフを先頭に、バス、バギー、装甲車と続き。左右を私とミシカのバイクが固める。ポチとベロはバスの中。

ベロは上下関係を叩き込んでからは、完全に大人しくなり。

私の言うことも聞くようになった。

ただ、ポチとは距離を置いている。

私には従うが。

他のメンバーには、あまり言うことを聞かない。

この辺り、群れの中で私より下だと思っていても。

他のメンバーとは対等だと考えているのかも知れなかった。

イヌらしい頭だが。

まあそれはいい。

途中、何度かモンスターに襲われたとき、戦闘力は試してみた。ポチと同じ野戦砲を背負わせてはみたが遠距離では使わず、至近距離まで果敢に間を詰めて、其処で野戦砲を使う捨て身の戦法を得意とするようだった。

別に敵さえ倒せればそれでいい。

やり方にけちはつけない。

ただ、バスから飛び出すと、矢のように突貫していく様子は。

まるで死に急いでいるかのようで。

その辺り、イヌであっても。

今の時代は、苛烈な経験をして来ているのだなと、思わされる。

とにかく、デルタリオに到着すると、一旦クルマをドッグに入れる。皆は見張り番のアクセルとポチを残して情報収集に出る。

フロレンスはベロと組ませたが。

どうもベロの扱いが上手らしく。

ベロもフロレンスを嫌がってはいなかった。

治療の手際を見ていたから、かも知れない。

カレンはケンと一緒に、街の様子を見に。

私はハンターズオフィスに出向く。

賞金首の情報だが、やはりトビウオンとU−シャークは健在。

此奴らがまた定期船を襲い。

沈みさえしなかったものの。

護衛に乗っていたハンターが命を落としているという。

戦車も破壊されたそうだ。

しかも、二匹同時に襲ってきたそうで。

定期船に乗っていた乗客にも、大きな被害を出しているという。

ハンターズオフィスの職員は、悔しそうに言う。

「奴らは海を狩り場としています。 それも、人間を食らう目的で襲っているのでは明らかにありません。 ただ殺すためだけに攻撃をして来ています」

「ノアのモンスターだ。 それも当然だろう」

「許せない事には変わりません」

「まあ、それはそうだな」

説得できる相手では無い。

殺すしかない。

それには同意だ。

いずれにしても、ビイハブ船長に船を借りたら、ブッ殺しに行く。二匹同時に現れる事を想定して、此方も戦力を増やしている。

他に情報がないか、聞いてみるが。

気になる情報が入ってきているという。

「此処から東側の海岸線に、自動販売機がたくさんならんでいる場所があるのですが」

「自動販売機がたくさん」

自動販売機。彼方此方の街にある、自動でものを売り買いする機械だ。

まだ動いているものもある。

昔の通貨を入れると動き、商品を出す。

古い時代のものは、入っている商品が傷んでしまっているケースもあるのだが。

中には、近代化改修をして、現在の世界で使える商品。つまり薬やら何やらを入れている自動販売機もあるそうだ。

そういう自動販売機では、現在流通しているGを通貨として用いる事が出来る。

私はあまり使わないが。

実際に商品を見て、見定めたいタイプなのだ。

「其処で立て続けに、人間が食い殺される事件が起きています。 骨になるように喰う非常に残虐なやり口で人間を殺していて、明らかに楽しんでいます。 自動販売機の管理業者も殺されました。 今、同地域には立ち入り禁止令が出ています」

「何かモンスターが紛れ込んだのか」

「恐らく。 実は以前に類種のモンスターが現れた事があります。 自動販売機に擬態し、買い物をした人間に襲いかかり、食らう恐ろしい奴です」

通称外道販売鬼。

実は大量の量産型が現れた地域もあったらしいのだが。

その時は、あるハンターによって破壊され尽くされ。殆ど駆逐された、という事だ。そのハンターは伝説的なハンターの一人で、多くの六桁賞金額賞金首を撃ち倒しているらしいので。

流石の外道販売鬼も相手が悪かった、という事だろう。

それ以来目撃報告がほぼ絶えていたのだが。

恐らく、ノアがまた造り、送り込んできたのだろう。

「こういう街にも入り込んでくるタイプは危険です。 賞金額は現時点で10000Gを設定していますが、もっと上がるかも知れません。 立ち入り禁止にした事で、自動販売機が並んでいる周辺に多数のモンスターが入り込んでいるという話もあります。 出来れば、その駆逐もお願いしたいのですが」

「分かった。 立ち寄るときには考えてみる」

「なお、現地は地盤が緩んでいて、恐らくクルマを持ち込むことは出来ないかと思います。 油断だけは絶対にしないようにしてください」

頷く。

此方としても、千手沙華戦での苦闘は記憶に新しい。

自動販売機に擬態すると言う事は、当然小型のモンスターだろうが。

それと戦闘力は結びつかない。

現在、外道販売鬼が出現したことで、各地の街からは自動販売機を街の外れに撤去する作業を進めているという。

ハンターズオフィスが主導して。

レンタルタンク屋やハンターが協力し。

自動販売機を隔離。

そして、監視する体勢に入っているという。

外道販売鬼は以前複数現れた経緯があり。

今回も、いつの間にか入り込んでいたことから、他の街でも被害が出ることを想定しての事だ。

勿論無意味な上に手間も掛かる。

ハンターの中には、各地の自動販売機を見て回るのが趣味になっている者もいるとか言う話で。

更に言うと、街に入り込んでくる危険性のある賞金首である。

急いでの討伐を、とハンターズオフィスで呼びかけているそうだ。

此方としても、すぐにでも倒してしまいたいが、移動手段がない。

デルタリオから一応定期船が出ているが。

それも、近くにある小さな街いきのもので、一週間先まで出ない。そもそも出たところで、U−シャークとトビウオンに襲われる可能性も大きい。

それならば、先に。

やる事が決まっている。

ビイハブ船長に会いに行く。

片足が義足になっている船長は。

私を見ると、時が来たことを悟ったようだった。

「どうやら、準備が整ったようだな」

「ああ。 海を荒らし回るサメとトビウオを撃ち倒す」

「昔だったら、あんな奴は儂一人で充分だったのだがな……年を取って衰えるというのは悲しいものだ」

「一つ、提案がある」

何だ、と聞かれる。

実は前に話を聞いたのだが。ビイハブ船長は、賞金には興味が無いらしい。

昔は相応に実力者のハンターとして知られていたという事もあり、老後の生活には困らない程度の金を持っているから、というのが理由だそうだ。

だから賞金は全部持っていけ。

そう言われていたが。

個人的には。

ビイハブ船長自身と、船が欲しい。

「貴方の船は有用だ。 貴方自身も、老練な経験を持っている。 U−シャークとトビウオンをブチ殺したら、私とともに来て欲しい。 貴方から船を取りあげるのは忍びないし、一緒に行動してくれれば心強い」

「ふむ……こんな老骨が欲しいと」

「ああ。 うちのメンバーは若い奴ばかりでな。 私を含めてだ。 老練な経験者が一人か二人は欲しいと前から思っていた」

「良いだろう。 面白い娘っ子だ。 話には聞いているが、あの最強のハンターと言われたマリアの子なだけはある」

案内される。

四角く、無骨な船。

今あるクルマは、バスも含めて全て乗せられるだろう。かなりの巨体で、多分クルマ十機以上を乗せることができる筈だ。

砲台の類はついていない。

乗せるクルマに、それは任せるのだろう。

「これがネメシス号だ。 儂の息子と弟を奪ったU−シャークを殺すためだけに作り上げた装甲船だ」

「頑強だな」

この老人のように。

重厚な造りだ。

これなら、苛烈な賞金首級モンスターの攻撃にも、ちょっとやそっとじゃ沈みやしないだろう。

乗せて貰う。

中にはメイドさんが一人いた。

かなり若々しい女性で、はつらつとした雰囲気である。

メイドさんであるとしかいいようのない格好をしていて。とても若々しい。

「リンと申します。 よろしくお願いします」

「孫だ。 息子の敵を討ちたいと、この船にずっと乗っている。 危ないから止せと言っているのだがな」

「この世界、安全な場所なんてありませんよ、お爺さま。 それに私も、色々と戦いの手ほどきを受けています」

それは心強い。

他にもビイハブ船長には年老いた母親がいるそうだが。

その母親にも、メイドがついているそうだ。

何でもメイドをたくさん輩出している一族と関わりがあるらしく。

そもそもその母親が、その一族の出身者らしい。

リンはその一族から勧誘を受けて。「修行」をして、メイドになったそうだ。

よく分からない世界だが。

そういう一族もあるのだろう。

クルマの甲板に行くと。

車止めが幾つも設置されていた。

多少船が揺れたくらいでは、びくともしないようになっている。なるほど、船が傾いたとき、戦車が海にドボンといかないようにする仕組みだろう。

更に、甲板の下には、相応の重量を積載できるスペースがある。

その割りにコンパクトにまとまっている。

「この船は、もともと遺棄されていた強襲揚陸艦を改造したものでな。 武装の類は全て売り払ってしまったが、陸上戦力を的確かつ迅速に送り込むことが出来る。 武装があった部分には、戦車を乗せて補う仕組みだ」

「素晴らしい」

「ほう。 海に何か用でも」

「いずれ話す」

これならば。

レベルメタフィンを探して、海中を廻ることが出来るだろう。グロウィンと戦うのも、難しくないに違いない。

話はついた。

皆に、船に乗り込んで貰う。

保有しているクルマも全て乗り込む。

マゼンダのチームも協力してくれれば更に楽だったかも知れないが、そう簡単にはいかないだろう。

いずれにしても、武装は充分。

なお、デルタリオで、レーザー迎撃兵器はどうにか入手できた。

前に助けたトレーダーが、手を回して商品を見つけてきてくれたのだ。出航前にバスに取り付け、戦闘準備完了。

そのまま、船を海に出す。

ぐんと、強烈なGが掛かる気がする。

「武装したまま落ちると、まず助からん。 気を付けろよ」

私に向けて。

ビイハブ船長は、鋭い眼光を向け。

そして、船長室に案内してくれた。

舵はリンが取るらしい。

ネメシス号は、多くの人々を面白半分に殺し。

そして今も多くの害を為している賞金首をこの世から消し去るため。

雄々しく。

力強く。

海に出た。

 

(続)