塔の激戦

 

序、攻城戦へ

 

ウルフから上半身を出して、双眼鏡で覗く。

敵の前線拠点が、からになっていた。

何度か襲撃を掛けて敵の戦力を削ったから、だろうか。或いは、士気が下がっていた敵兵が、逃げ出したのか。

ただ、戦車などのクルマも引き上げている。

それに、である。

むしろスカンクスがいる塔の方は、守りが堅くなっている。つまり、敵は戦力を集中し、これ以上の消耗を避けようとしていると見て良いだろう。

それと同時に、ある程度の機動部隊を編成し。

塔を此方が攻撃しようとしたら、背後を突こうとしているのかも知れない。

いずれにしても、スカンクスは思ったより冷静に対応してきている。或いは、誰かが入れ知恵をつけたのかも知れないが。

ウルフの中に引っ込むと。

一旦移動を開始。

敵が放棄した基地の中には、ブービートラップが仕込まれている可能性も高いし、迂闊に足を踏み入れるのは危険だ。

かといって、爆破してしまうのももったいない。

アズサに爆破物やトラップの処理に長けた人員がいる。

スカンクスを仕留めた後。

協力して、この辺りの拠点にある物資は根こそぎにしたい。

いずれにしても、まだ先だ。

この周囲を回って、敵の戦力配置をしっかり確認しておく必要がある。

わざと敵から見えるように、何度か車列を組んで移動しているのだけれども。

スカンクスは塔に備え付けているだろう野砲で仕掛けてこない。

震えあがっている、ということは無いだろう。

穴熊を決め込んでいるのか。

それとも。

しばらく周囲の敵拠点を廻ってみたが、やはり兵はそっくり引き上げたようだ。立て続けに襲撃をして、兵力を削り取って廻ったから、というのもあるだろう。

それにグラップラーどもの脱走もあいついでいるらしい。

スカンクスが暴発寸前なのは、前に口を割らせた奴らの下っ端に聞いたし。

それに此方が容赦なくジェノサイドしてくる事も知っているだろう。

だが、バイアスグラップラーは、今まで自分たちがそれをして来たのだ。

今、やってきた事が、全て返ってきている。

それだけである。

一度、バザースカまで戻る。

宿を取ると。

大部屋で全員で集まり、話をする。

「やはり、全戦力を塔に集めたようだな」

「だとすると、ゴリラが最低でも七機か八機は出てくると見て良いだろう」

「そんなにかよ」

「そうだ」

ミシカに、カレンが応じる。

普通レスラーと言えば脳筋だが。

カレンは見た目からもそうではないし。

戦士として頭も使う。

今ではおおざっぱにレスラーとして区切られている肉弾戦闘要員だけれども。彼女はむしろ、拳法の流れを汲んでいるらしいので、ある意味流派とかが違っているのかも知れない。

ミシカは何度かの小競り合いで実戦での実力を見たが、射撃のエイムにしても格闘戦にしても申し分ない。

頭が少し足りないが。

それは此方で指示をすれば良いだけだ。

何でも出来る奴なんていない。

出来る奴が、出来る部分を担当すれば良い。

それだけのことである。

フロレンスが、食事を持ってくる。今日帰る途中に仕留めたモンスターの肉を適当に調理したものだ。

トリのモンスターだったが。

はっきりいっておいしくない。

噂によると、ノアは配下のモンスターの肉を、人間にはおいしくないようにわざわざ調整しているらしい。

これは長期的に士気を削ぐためだとかいう話だが。

しかしながら、あくまで噂。

そもそもそんな事をノアに聞いた奴がいるとも思えない。

いずれにしても、おいしくもない肉料理を適当に口に運びながら、話を続ける。

「問題は、塔の構造だが」

ざっと私は、図を出す。

双眼鏡で確認した塔の構造だ。

まず入り口がよっつ。

普段は一つだけ、正面のものが解放されているが。他に三つ、クルマが出られる入り口が存在している。

つまりウルフを先頭に敵陣に仕掛けると。

四方八方から袋だたきにされる、という結果になる。

更に塔の上部には、恐らく200ミリ以上と思われる野戦砲が幾つか据え付けられていて。

しかも、実戦になれば更に見えている以上の数が顔を見せるだろう。

そういう意味でも。

簡単に仕掛けてはならない場所だ。

ミシカが脳天気に提案してくる。

「前みたいに、挑戦者として正面から乗り込むのはどうだ」

「後衛のメンバーは戦闘に参加させられないとして、私とカレンとミシカ、そうだな、ポチも加えるとして、そのメンバーだけでスカンクスを倒せると?」

「やってみる価値は」

「無意味だ」

即答すると、ミシカがむくれる。

なんでだよと聞かれたので。

私は、頭を掻きながら答える。

「スカンクスが正々堂々約束を違えず戦うような奴だと思うのか」

「少なくとも、アタシの挑戦は受けたぞ」

「それは勝てると分かりきっていたからだ。 もしも不利になったら、塔にいるバイアスグラップラーの雑兵どもが、一斉に襲いかかってくるぞ」

「!」

真っ青になるミシカ。まさか本当に気付いていなかったのか。

多分他のスカンクスに挑んだハンター達は、スカンクスの戦力を見るつもりだけだった筈だ。

しかし威力偵察のつもりが、墓穴を掘ることになってしまった。

それくらいの手練れ、ということである。

更に、スカンクスは猿だと聞いている。

何人か拷問して情報を聞き出したバイアスグラップラーの兵によると。

オツムの出来は猿と人間の真ん中くらいだという。

好意的に見て、だ。

つまりそういう事である。

有利だったから、挑戦を受けていた。

それもガス抜き代わりに。

もし不利になったら。

絶対に、塔にいるバイアスグラップラー全員で襲いかかってくるだろう。

ただし、である。

スカンクスの場合、人望が致命的に無い。

此方がいかれている事。

スカンクスより明らかに強い事を見せつければ。

後は逃げ出す可能性も低くなかった。

「もう少し締め上げるぞ」

「何だか、ちまちました戦い方だな」

「それでいいんだよ」

大規模な戦力が此方には無い。

例えばだが、テッドブロイラーを正面から倒せるなら、堂々と軍勢を整えて、喧嘩を売りに行けば良いのである。

しかし現実にはスカンクスの保有戦力さえ、正面からの攻撃では厳しいだろう。

それが出来ないから。

こうして小手先の作戦を駆使している。

そして戦略的に敵を締め上げ。

戦術的に痛めつける事で。

スカンクスは恐らく、暴発する。

どういう形で暴発するかは分からないが、奴は状況を見る限り、指揮能力は無いに等しい。

外にでも出てくれば好都合だ。

ウルフの主砲を叩き込んでやる。

敵に大量の脱走者が出た場合は更に好都合だ。

スカンクスだけが相手ならば。

私達だけで、どうにか出来る可能性が出てくる。

その時は、力を絞って戦うのと同時に。

グラップラー四天王の実力。

見せてもらう。

ミシカを一方的に嬲ったという話だから、その戦闘力は絶対に侮れない。だが、今回は条件が違う。

相手が精神の均衡を決定的に欠き。

なおかつ此方が気力充分となれば。

勝ち目は生じてくる。

だが、それでも相手は手負いの獣だ。

油断だけはしてはならないが。

夜陰に乗じて、塔に近づく。

何カ所か割り出してある敵の死角から、歩哨を狙撃。

仕留める。

当然敵は慌てて警戒するが。

その時には、とっくに此方はいない。

数機のゴリラが出てくるが、それについても想定済み。

ゴリラと随伴歩兵が押し寄せてきて、周囲を警戒している間に。充分な距離を取った私は。

爆薬を起爆した。

随伴歩兵十数名が吹っ飛ぶ。

ゴリラも無限軌道をやられて、その場に擱座した。

仕留めきれなかったのは残念だが。敵は慌てて、擱座したゴリラを牽引して、後退を開始する。

其処にウルフで姿を見せる。

勿論塔に据え付けられている砲が届かないのは承知でだ。

バギーと装甲車。

更に、バイクに跨がったミシカも姿を見せる。

ミシカには、暴徒鎮圧用の多段グレネードを渡している。少し前に、辺りのモンスターを狩って購入した品で、単独で面制圧が出来る武器だ。

連続で主砲を叩き込み。

更に一機を擱座させ。もう一機に致命打を叩き込む。

敵の軽戦車の部隊が出てきたころには、さっさと引き上げを完了。

敵ゴリラは、二機が擱座。

そして一機は撃破。

軽戦車がゴリラを牽引して行くのを見送る。

さて、どうするスカンクス。

お前を守る戦力は、着実に減っていくぞ。

 

翌朝。

敵の歩哨は、完全に土気色の顔をしていた。

野砲の守備範囲内を廻っていると行っても。

当然狙撃はその外側から飛んでくるのだ。

しかも駆けつければ、罠が高確率で仕込まれている。

こうなってくると、プロの軍隊では無い所が、マイナスに響いてくる。バイアスグラップラーの兵士達も、自分たちがゴロツキチンピラの集団に過ぎないこと。それ故に使い捨てである事は、分かっているのだ。

生きるために入っている組織である。

暴虐が許されるから所属しているのである。

それが、自分たちがやってきた事をそのまま返されていること。

しかも、捕まったら確実に殺される事。

それを今まで、何度も私が示している。

時々、捕虜を斬首して。

首をずた袋に放り込み。

投石機で、塔の入り口に投げ込んでいるのだ。

捕まえ次第こうする。

その意思の表明である。

更に手を変え品を変え、相手の歩哨を、狙撃している。

今に至っては、塔の中で談笑している相手も。

狙えるようなら狙撃し。

撃ち抜いていた。

脱走者が出始めている。

歩哨は完全にやる気を無くしているし。

ここ二日は。

歩哨を撃っても、敵の機動部隊が出てこなくなった。

そうなれば、敵はどんどん目減りしていると見て良い。

どうして、敵が主力部隊を引き上げたのかはよく分からないが。テッドブロイラーが出てくれば、一瞬で奪還できる自信でもあるのかも知れない。

それとも、もっと別の理由か。

いずれにしても、此処を陥落させる目処はついた。

塔の六階で、銃座についている敵を確認。

対物ライフルで狙撃。

頭を吹き飛ばす。

慌てた敵が反撃してくるが、当たるはずがない。

悠々とその場を離れ。

そして、ウルフに乗って、距離を取った。

一旦バザースカの近くまで後退。

其処でキャンプを張り。

今後の話をする。

「敵の数はかなり削った。 恐らくスカンクスは相当に追い込まれているはずだ」

「問題は敵が援軍を呼んだ場合よ」

カレンの言葉に、私も頷く。

その通りだからだ。

スカンクスは話を聞く限り、プライドばかり異常に肥大している。何かしらの理由があるのかも知れないが。

自分からテッドブロイラーに頭を下げて、大規模な部隊を廻してください、とは言えないだろう。

そもそもだ。

人間狩りに来た部隊が健在だったら、此処まで楽には攻められなかった。

あの部隊がガチガチに守りに入り。

この周辺を固めていたら。

私も、こうも容易く敵陣を引っかき回せなかっただろう。

弾薬の補充は、ケンに任せる。

ケンはバギーを使って、バザースカに行く。念のために、ポチとミシカも連れていかせる。

ポチは単純な護衛だが。

ミシカはなんというか。

会議を始めると寝てしまうのだ。

本当に頭が単純なのだろう。

戦闘のことしか考えていない私も問題と言えば問題だが。

ミシカの場合は、頭が足りない。

もっとも、戦闘では充分に働けるし、手綱さえとれれば問題ないので。私としては気にしていないが。

適材適所だ。

フロレンスが提案してくる。

「もしも敵が援軍を出してくるなら、東からでしょう。 海岸線があります。 海上に敵は引き上げたという話ですし、そこから来る可能性が高いと思います」

「ウルフを任せたとして、時間稼ぎは出来るか」

「時間稼ぎだけなら」

「ならば任せてしまうか」

後はスカンクス対策だ。

マリアは、グラップラー四天王を何度か倒している。

その後釜として入ったスカンクスだ。

実力に関しては、要するに、人間でどうにか出来るレベルである。テッドブロイラーとは天地の差があると見て良いだろう。

それならば。

怪物の力に、力で対抗しようとしなければいい。

ケン達が戻ってくる。

弾薬の補充は充分。

だが、ケンが気になることを言った。

「バザースカで、女の人に急にポチが吠えだしたんだよ」

「ああ、そうだな。 アタシも何だろうと思ってさ、よく見ると、その女、瞬きをしなくてよ」

声を掛けると。

いきなり、逃げだそうとしたという。

その場でとっ捕まえて、腕をねじ上げたら。

なんと。

女は機械だった、というのだ。

自爆されて。

危うく巻き込まれるところだったという。

バザースカは騒然となったが。

ミシカは未だに、手の震えが止まらないという。

「ポチが吠えなければ、全然気付かなかった。 人間そっくりの機械なんて、実在するんだな」

「ノアの手先か?」

「何とも。 だが、ポチに吠えられる前は、街の人間に親しく話しかけられて、応じてたみたいだぜ」

「……」

妙だ。

ノアの手先、つまりスパイだとしたら。

そんな風に丁寧に潜り込む意味がない。

トレーダーにでも化けて入り込み。

防御力と人数、くらいを確認だけして出て行くはずだ。

実際そういうノアの兵器が存在するとも聞いている。

だとすれば。

そんなロボットを作っているのは、誰だ。

ヴラド博物館での出来事を思い出す。展示はあらかた奪い去られていたが。未来を担う人型ロボット。新しい労働力の形、なんてものがあった。

まさかな。

とりあえず、今後は他人と接するときは、ポチと一緒にいた方が良いだろう。

「明日は一日、遠距離から塔に対して、砲撃を続ける」

「弾代が掛かるぞ」

「砲撃はウルフだけでやる。 他の面子は、邪魔が入らないように、周囲のモンスターを掃除して欲しい。 もし敵の機甲部隊が出てきた場合は、合流して対処する」

当然、資金を補い。

更に周囲を確認することで、伏兵による奇襲を避けるためだ。

スカンクスとの血戦は。

間近に迫っていた。

 

1、猿の過去

 

スカンクスは、昔動物園という所にいた。

大破壊の前である。

そんな時代から生きている猿が、存在するわけが無い。人間でさえ、大破壊を経験している者は、もういないのだ。

人間を止めたものなら、兎も角、である。

スカンクスは冷凍冬眠を受け。

そして、「海」の上に浮かんでいるバイアスグラップラーの研究施設で、強力な生体強化手術を受けた。

知能を高くし。

戦闘力を高くし。

そして、幹部候補として。

色々な事を教え込まれた。

スカンクスは、動物園にいた頃、不遇だった。

ボスザルとして、猿山に降臨していた時期もあった。だが、猿も人間と同様、衰えるのである。

人間の歓心を得る事に、猿時代のスカンクスは長けていた。

だからボスザルであり。

更に、エサも外から投げて貰える、恵まれた地位にいたが。

それも年老いてくると。

若い猿に、脅かされるようになる。

ある日、スカンクスは気付いてしまった。

既に自分が、猿山最強ではない事を。

そしてスカンクスは。

ボスザルの地位を追われた。

メスもスカンクスの側を離れていった。

荒れたスカンクス。

当然芸もしなくなり。

動物園に来る人間から、エサも貰えなくなっていった。

今までずっと頑張って来た。

それなのに、年老いたと言うだけでこれか。

憎悪が膨らんでいくのを、スカンクスは感じた。

そして、それが制御不能になった頃。

不意を突いて。

自分からボスザルの座を奪った猿を、スカンクスは殺した。文字通り喉を食い千切ったのである。

普通、ニホンザルは縄張り争いで、其処まではしない。

他の猿たちは恐れ。

だが、人間は逆に興味を持った。

麻酔弾を撃ち込まれ。

そして気がついたときには。

スカンクスは猿ではなくなり。

化け物になっていたのだ。

圧倒的なパワーを感じて、歓喜したのは最初だけ。すぐに思い知らされたのは。自分など及びもつかない化け物が、いると言うことだ。

テッドブロイラー。

力を喜んでいたスカンクスは。

そいつを見た瞬間。

文字通り小便を漏らしていた。

何だ此奴は。

元動物だったから、分かる。

これは人間の形をした、何か別の存在。

生物でさえない。

究極の暴力。逆らったら、絶対に殺される。

それを見ただけで理解出来たスカンクスは。恐怖と供に、相手にひれ伏していた。そしてテッドブロイラーはそれに満足せず。

スカンクスに、上下関係を徹底的に仕込んでいった。

勿論それには。

暴力が伴った。

スカンクスは逆らえなかった。

逆らったら殺されるのが明白だったからだ。或いはそうでは無かったかも知れない。今になって思うと、クラッドのように、テッドブロイラーに意見をして、通っているケースもあった。失敗しても、許されている場合もあった。

だけれども、スカンクスは。

暴虐によって一線を越えてしまった。

どうしようもない鬱屈が、暴虐によって暴発した。

ニホンザルという生物のルールを。

逸脱してしまったのだ。

だからこそ、同じような逸脱者であるテッドブロイラーの恐ろしさは、嫌と言うほど分かったし。

逆らおうなどとは、微塵も考えられなかった。

だから今。

スカンクスは、頭を抱えたまま、玉座にいる。

毎日繰り返される攻撃。

脱走者も多く出る。

何しろ、いつ仕掛けてくるか分からないし。

最近では、窓などに近づいただけで狙撃され、頭を吹き飛ばされている部下が目立っていた。

敵は此方を知り尽くしている。

スカンクスも元は動物だ。

相手が、此方より頭が良いことくらいは分かる。

だからこそ、暴虐で相手をねじ伏せてきた。

だけれども、テッドブロイラーのような、さらなる恐怖と暴虐にはなすすべがないのが実情だし。

何よりも、暴虐が敵になった場合。

その恐怖は、想像を絶した。

思い出す。

メスが、自分を離れていったときのことを。

ボスザルの座を奪われたときのことを。

エサを貰えなくなっていった時のことを。

どれだけよくしてやっていた部下達も。

ボスでは無くなった途端、掌を返した。

薄情なのは人間だけでは無い。

むしろ、薄情という点では。

猿も同じだ。

頭をかきむしっていると、通信が入る。

テッドブロイラーからだ。

思わずぴんと背を伸ばし。

テッドブロイラーの通信に出る。テッドブロイラーは、少し前に敵の大規模攻撃部隊を退けたらしいのだが。

その時、巨大な恐竜と戦艦が融合した化け物や。

移動型要塞を、単独で始末したという。

テッドブロイラーに言われた事の内。

スカンクスは癇癪で部下を殺さない、ことだけしか守れていない。

震えあがるスカンクスに。

テッドブロイラーは言う。

「話は聞いた。 散発的な攻撃を受けているようだな」

「キキーッ! その通りです!」

「その塔を失うと、バイアスグラップラーは海岸西の支配を失う。 お前がもしもその塔を奪われたら。 その時、失態は命で償って貰う」

「!」

青ざめ。

そして硬直し。

絶望に全身を鷲づかみにされた。

呼吸が乱れる。

テッドブロイラーのことだ。

言った事を寸分違わず実行するだろう。

殺される。

いや、ブルフロッグの研究所に送り込まれて、また改造されるかも知れない。他の猿たちが、どのような目にあっていたかは、今でも覚えている。

恨みがあったのに。

あの光景は、恐怖で竦んでしまうほどだった。

「て、敵は、明らかにレジスタンスと連携して動いています! キキーッ! そ、その、援軍を」

「今、此方は作戦の最終段階に入っている。 しかも、ノアの大規模攻撃によって、少なくない被害を出したばかりだ。 お前のような無能のために回してやる兵力はない」

「そんな!」

「もしも援軍を回して欲しければ、敵の挑発に乗らず、その塔を守りきれ。 もしも敵の攻撃を凌ぎきれば、援軍を出す事を考えてやってもいい」

「キキーッ!」

頭を下げる。

通信は、ぶつりと切れた。

震えているスカンクス。

恐怖で、また漏らしそうだった。呼吸を整えながら、玉座に戻る。部下達が、ひそひそと此方の噂をしているのが分かる。

身体能力は滅茶苦茶に上がっているのだ。

陰口をたたいているのも分かった。

「お前達ッ!」

「は、はいっ! スカンクス様!」

「今日から見張りだ! 外に行ってこい!」

青ざめた二人が、それでも言うことを聞く。

そしてその二人は。

その日のうちに、命を落とした。

静かになった。

また。

塔の中から、どんどん部下が消えていく。

既に、敵が攻撃を開始してから、半分を切った。大半は脱走によるもので。残りは狙撃で殺された。

狙撃を仕掛けてきた地点に調べに行ったら。

クルマごと爆破された事もあった。

部下達も怯えきっている。

だが、部下達だったら。

バイアスグラップラーも、元から十把一絡げに扱っているのだ。それにそもそも、人間である。

人間に溶け込むのは、難しくないはずだ。

だがスカンクスは。

見るからに人間では無い。

外で生きていくことは、或いは出来るかもしれない。

だが、追ってくるだろう。確実に。

テッドブロイラーが。

そうしたら、確実に殺される。

あんな化け物に、勝てる訳が無い。

震えが止まらない。

何処で自分は間違えてしまったのだろう。どうして自分はこんな風にされてしまったのだろう。

力を得てからは、更に暴虐になった。

癇癪で部下を殺しもしたし。

敵も殺した。

だが、そんなのは、誰だってやっていることではないか。

四天王でも飛び抜けて下っ端で。

賞金額があまり変わらないとは言っても、カリョストロやブルフロッグとは、そもそも扱いが完全に違っている。

使い捨ての、哀れな猿である事を。

他ならぬスカンクス自身が、一番知っていた。

 

翌日も。

攻撃は続いた。

部下が時々報告に来る。

スカンクスの周囲に控えていた部下は、もう殆どいなくなっていた。脱走したか、殺されたのだ。

あのクラッドという奴が、主力を引っこ抜いて行ってから。

致命的な事態に、歯止めが利かなくなった気がする。

そもそも、あの主力には。

この塔を管理していた、幹部クラスの者達も多くいたのだ。

そいつらは、スカンクスの足りないところを補佐してくれていた。

今更ながらに気付く。

スカンクスは、もはや。

どうにもならない所まで来てしまっているのだと。

玉座からふらふらと立ち上がると。

辺りを見て回る。

士気が落ちきった部下達が、カードで遊んでいたり。連れ込んだ女と遊んでいたりしているが。

どうでもいい。

スカンクスはこの体になった時、性欲をカットされた。

その代わり、スカンクスは量産する計画があると言う。つまりスカンクスの子孫というか分身は。

戦場に投入されるかも知れない、という事だ。

小耳に挟んだだけの話だから、何処まで本当かは分からないが。

エレベーターを使って、一階まで降りる。

見張りは、外にいない。

ビルの中で。外をこわごわ窺っていた。

「何をしている!」

「スカンクス様、あれを……」

外には。

死体が散らばり。

カラスがついばんでいた。

外に見張りに出た瞬間に撃ち殺される。それが続いて、今や外には、十人分以上の死体が散らばっているという。

「外に出たら死にます。 流石にそれは勘弁してください」

「だったら、戦車で……」

言いかけて、気付く。

外に、撃破された戦車の残骸がある。

ウルフの主砲にやられたのか。

戦車に乗って見張りをしようとして、それも失敗した、という事だ。

何も言えなくなる。

スカンクスは、気付く。

見られている。

そして、次の瞬間。

狙撃されていた。

対物ライフルの弾が、頭に直撃したが。

頭蓋骨を滑って、脳には入らなかった。

それでも殴られたような衝撃が来る。

「いてえ……」

周囲の部下どもが、さっと飛び退く。

気付いたのだろう。

スカンクスがキレたことに。

「キキーッ!」

喚きながら、スカンクスは、武器を四本の腕に持ち、外に飛び出した。

何処だ。

何処にいる!

殺してやるぞ!

喚くが、誰も姿を見せない。

しかも、である。

「臆病者のスカンクス!」

「勝てると分かりきっている相手としか戦わないスカンクス!」

遠くから声がする。

拡声器か何か使っているのか。

スカンクスは跳び上がる。

それが動物として当たり前の事だと分かっていても。対物ライフルで頭を殴られた直後の今だ。

冷静ではいられなかった。

声がする方向に、飛び出していく。

完全に頭に血が上ったスカンクスは、塔を守れと言われていたことさえも忘れた。だが、それを、なんと敵が指摘してくる。

「いいのか塔を離れて! テッドブロイラーの言いつけに逆らうのか?」

「っ!?」

「部下には脱走され、此方の攻撃には好き勝手にされ、挙げ句の果てに言いつけの一つも守れない! テッドブロイラーはお前に愛想を尽かす! そして殺しに来るぞ!」

完全に足を止めたスカンクスの顔面に。

また、対物ライフルの狙撃。

だが、今度は。

スカンクスは、腕の一本を振るい。

手にしているコンバットナイフで、その弾を受け止めていた。

特注品の、特殊合金のナイフである。

腕力さえあれば。

対物ライフルの弾を、受け流すことは可能だ。

しかし、本命は側面から来た。

戦車砲である。

どうやら、声がするのとは別方向から。

アウトレンジでの精密射撃。

150ミリ砲だろう。

こればかりは、どうにもならない。

爆発し、吹っ飛ばされる。

だが、スカンクスもグラップラー四天王の一人。砲撃に耐え抜くと、血だらけになりながらも、雄叫びを上げた。

「良いだろう! そっちに行ってやる! もうこうなったら関係無い! お前達の首を引きちぎって、テッドブロイラー様に捧げてやる!」

飛び出すスカンクス。

もう、何もかもどうでもいい。

殺意に脳は真っ赤に染められ。

何も見えなくなった。

手にしている武器からは、完全に見境無く発砲。目につくものは、手当たり次第に殺戮した。

暴れ狂いながら、走るスカンクスは、見る。

丘の上から、みくだしている戦車。

ウルフだ。

あいつか。

彼奴が、好き勝手をし続けて。

スカンクスを、死の淵に追いやろうとしているのか。絶対に許さない。絶対に殺してやる。絶対に壊してやる。

叫びながら、走る。

ウルフがバック走を開始。

相当なスピードだが。

スカンクスも、それについては同じだ。戦車と戦うくらい、慣れっこである。

二本の腕で、重機関銃を乱射。

ウルフの装甲タイルが消し飛んでいくのが見える。

このまま、押し切る。

逃がすものか。

殺意一色に。

既にスカンクスは染め上げられていた。

 

2、グラップラー四天王末席、スカンクス

 

まさか此処まで綺麗に釣れるとは思わなかった。

しかも、元から部下に人望が無いスカンクスである。

部下達は颯爽と逃走を開始。

塔から、我先に逃げ出しているようだった。

放置で構わない。

今はグラップラー四天王の一角、スカンクスを葬るという事実が重要なのである。そしてあの塔が無くなれば。

アズサがずっと受け続けていた軍事的圧力は消失。

更にマドに一番近い敵の拠点、エルニニョも孤立する。

結果として、海の西側は。

バイアスグラップラーの領土では無くなるのだ。

所詮は猿か。

ウルフに乗って敵を牽引しながら、私は冷静に状況を観察。流石に話通り、スカンクスは強い。

時速90キロ近くでバックしているにも関わらず、余裕でついてくる上に。

両腕には重機関銃を手にしていて、それで此方のタイルを容赦なく削ってくる。更に、ダメージは受けたとは言え、戦車砲にも余裕を持って耐え抜く有様だ。

アレは本当に生物か。

だが、傷を受けている以上。

殺せる。

そろそろ頃合いだろう。

不意にドリフトして下がりながら、主砲の200ミリを叩き込む。

驚くべき反射神経で避けるスカンクスだが。

本命は次だ。

側面に回り込んでいた装甲車が、150ミリ砲を叩き込む。

それも、なんと避け、跳躍するスカンクス。

機銃がその体を打ち据えるが。

機銃弾では、どうやら分厚い毛皮を突破出来ないらしい。

着地すると。

凄まじいプレッシャーが周囲に溢れるのが分かった。

「アクセル、任せるぞ」

「おいおい、アレにマジで肉弾戦をやるつもりか」

「手数を増やすだけだ」

ウルフから、私が。

装甲車からカレンとポチが。

そして、バイクに乗ったミシカが姿を見せ。

スカンクスを包囲する。

バギーは隠れたまま。

だがスカンクスは、バギーの存在にも、気付いているようだ。だが、それでいい。プレッシャーを与えるためだ。

「何だあ? 雑魚が集まっても、オレ様に勝てると思ってるのか? キキーッ!」

「スカンクス」

「スカンクス様と呼べ、雑魚ッ!」

「お前、人間狩りをやっていたよな」

吠えるスカンクス。

重機関銃を乱射してくるが、その時には、ウルフが私を庇うように前に出て、重機関銃での射撃を防ぐ。

タイルが削れるが。

スカンクスは、殺せなかった事に、更に猛り狂う。

「人間狩りをしていたんだよなあ、スカンクス」

「それがどうした」

「だったら殺す!」

ウルフを蹴って、頭上から躍り上がる私が、対物ライフルをぶっ放す。

余裕を持ってそれをコンバットナイフで受け止めるスカンクスは、飛び下がりながら、右腕の一本で、大量の手榴弾を取り出す。

そして周囲に放り投げた。

爆裂の嵐。

回転しながらの滅茶苦茶な投擲。

さながらスカンクスハリケーンというところか。

爆風を斬り破り、私が姿を見せ、剣を一閃。コンバットナイフで受け止めるスカンクス。真後ろからカレンが突撃。ポチも。

カレンが繰り出した蹴りが。

鉄板をもへし折る蹴りが、スカンクスの背骨に届く瞬間。

柔軟に伸びた左腕の一本が、重機関銃でそれを柔らかく受け止めていた。

ポチも同時に野戦砲をゼロ距離で叩き込んでいたが、それについては残像を残してかわし。

しかもミシカが装甲車の影から放った射撃も、虚空を抉る。

速い。

装甲車の上。

残像を作って出現したスカンクスが、両手の重機関銃。

とはいっても、ミニガン並のサイズのものを、ぶっ放そうとする。

基本的に装甲車両の弱点は上だ。

装甲車も例外では無い。

しかし、その瞬間。

即応したウルフのATMが、スカンクスを横殴りに襲い。

スカンクスは、空中機動までは出来ないのか、それをもろに食らって、吹っ飛んだ、ように見えた。

だが、私は見ていた。

重機関銃を放り投げ。

腹から小型のタイルを取り出すと。

それで受け止めて、吹っ飛ぶ破壊力を利用して飛び。

そして包囲を抜けて着地するスカンクス。そして放り投げた重機関銃を受け止める。

衝撃波によるダメージはあるが。

それでも凄まじい動きだ。

伊達にグラップラー四天王では無いか。

こんな連中を倒していたマリアの凄まじさが、今更ながらに思い知らされるし。更に、そのマリアさえ歯が立たなかったテッドブロイラーのおぞましいまでの強さが、より鮮烈に思い知らされる。

私も即応。

カレンも。

それぞれ側面に廻りつつ、私はミニガンを連射。カレンは接近しての攻撃を狙う。装甲車とウルフも立ち位置を変え、ミシカはバイクを駆って敵の後ろに回り込もうとする。ポチは気配を消したが、スカンクスは掴んでいるようだった。

「キキーッ!」

叫びながら、スカンクスが両手の重機関銃をぶっ放す。

装甲車が私を。

ウルフがカレンを庇う。

そして、躍り出たポチが、スカンクスの真後ろに。

野戦砲をぶっ放すが。

スカンクスは横滑りに避けた。

だが、避けた先には。

既に投擲済みの手榴弾。

ミシカが投げたものだ。

爆裂。

スカンクスが、悲鳴を上げながら、後ずさる。

其処に、私がミニガンを叩き込む。

奴の軍服がはじけ飛び。

血がしぶく。

しかし、スカンクスも流石に猛者だ。

筋肉だけでミニガンの弾丸を、受け止めて見せる。

そして、凄まじい雄叫びを上げた。

音による暴力。

思わず、体が一瞬硬直する。

その隙に。

スカンクスは、私の後ろに、回り込んでいた。

全武装を解放。

一瞬でミンチにするつもりだ。

しかし、この時。

隠れていたバギーが、火を噴く。

120ミリ砲が、スカンクスの背中に、直撃弾を浴びせていた。

よろめいたスカンクスに。

逆に私が至近から、ミニガンの弾をしこたまくらわせてやる。

更に追いついたカレンが、横っ腹に鉄板をへし折る一撃を叩き込む。強烈な掌底だ。それでも、スカンクスは目を血走らせると、吠えて跳ぶ。

重機関銃を振り回し、発砲しようとした瞬間。

その重機関銃を狙って、ウルフがサイゴン砲を放っていた。

「ギャッ!」

スカンクスが悲鳴を上げる。

右手の、重機関銃が。

半ばから吹っ飛んでいたからだ。

更にポチが野砲をぶっ放し、左手の重機関銃にへこみが出来る。

着地したスカンクスは、血だるまだが。

それでも、急速に傷が治っていくのが分かる。

生物の限界を超えた回復速度だ。

尋常な代物ではない。

勿論、此方も手加減をするつもりはない。

このまま攻め落とす。

何か新しい武器を出そうとするスカンクスだが、そうはさせるか。

弾が尽きたミニガンを放ると、対物ライフルに切り替える。それが散々狙撃をして来た銃だと気付いたのか。

スカンクスは激高した。

「やっぱりお前が! 好き勝手をしてきた奴か!」

「好き勝手だと?」

スカンクスが、体勢を低くすると、突っ込んでくる。

うなりを上げて迫るコンバットナイフ。

至近、掠める。

髪を数本持って行かれる。

だが、同時に、ミシカが大型ライフルで狙撃。

毛皮は破れなかったが、側頭部に直撃。

冷静さを欠いたスカンクスでは避けられなかったのだ。

頭を揺らされて、わずかに動きが鈍ったスカンクスの横腹に、カレンの渾身の蹴りが直撃する。

更に、ウルフの主砲が火を噴き。

スカンクスを直撃していた。

吹っ飛んだ猿の怪物は、地面に叩き付けられ、しかし即座に跳ね起きる。

だが、それを待っていた装甲車が、下がりながら150ミリ砲を。狙っていたバギーが、120ミリ砲を叩き込む。

スカンクスが、もはや猿とは思えない叫びを上げ。

両腕で、砲弾をそれぞれ受け止めるが。

その代償は高くついた。

爆炎が収まったとき。

四本腕の大猿は。

二本腕になっていた。

肘から先が消し飛んだスカンクスの両腕。

残り二本。

さっきのような、スカンクスハリケーンはもう出せないだろう。

だが、スカンクスは、頭に血を上らせながらも、まだまだ倒れる気配がない。コンバットナイフをもう一本取り出すと、凄まじい形相で喚く。

「まだまだだ! 殺してやる!」

「それは此方の台詞だ」

スカンクスは、気付いただろうか。

私が、ボタンを手にしている事に。

事前に決めていたのだ。

スカンクスがある地点に到達したら、起爆すると。

スイッチを押す。

スカンクスは、対戦車地雷の爆発に、思い切り巻き込まれていた。

 

爆炎の中。

スカンクスが、まだ起き上がる。

舌打ちした私は、距離を取るように指示。

流石に凄まじい化け物だ。

賞金額50000は伊達では無い。

ミシカが一方的にやられたのも頷ける。

足もズタズタ。

腕も二本失いながらも。

スカンクスは、大きく息を吸い込む。

先以上の、音波攻撃が来る。

皆に警告。

耳を塞ぐが。

それどころではすまなかった。

爆裂。

文字通り、空気を吹っ飛ばすような、凄まじい音。

衝撃波に吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられる。

カレンも、ミシカも、ポチも。

スカンクスを中心にわき起こった爆破に、思い切り巻き込まれ。音によって吹っ飛ばされていた。

凄まじすぎる音は。

それそのものが、爆発と変わらない火力を持つ。

分かってはいたはずだが。

まさか生物がそれをやってのけるとは。

更に、もう一度。

スカンクスが息を吸い込み始める。

ウルフの中のアクセルも、装甲車の中のフロレンスも。そしてバギーの中のケンも、無事ではないのだろう。

戦車が動きを止めている。

だが、私は見る。

スカンクスの胸の辺りから、血が噴き出している。

なるほど、胸の筋肉を極限まで使って、無理矢理に彼処までの爆発的な音波を繰り出しているわけか。

だが、それはスカンクス自身にも、強烈な負荷を与える。

両足をずたずたにされているスカンクスだ。

もうまともに機動戦は行えない。

だからこそ。

自身を砲台にして。

此方を覚悟の一撃で仕留めよう、というわけだ。

面白い。

ならば、此方も、全力で答えるのみ。

対物ライフルを、震える手で構える。

頭が揺られるようだが。

視界もぶれているが。

それでも、ぶっ放す。

スカンクスは避けない。

いや、避けられないのだ。

直撃が入る。

膨らみかけていた胸の。血をしぶいていた辺りに。

スカンクスがよろめき、それでも無理矢理に空気を吸おうとする。更に、もう一撃。目を血走らせたスカンクスが、無理に無理に空気を吸っていく。

バゴンと。

悲惨な音がした。

スカンクスの胸が破れたのだ。

数歩後ずさるスカンクス。

バイクごと倒れていたミシカが、重機関銃を手に、連射。

スカンクスの全身を打ち据える弾丸。

アクセルがやっとCユニットに指示を出したのか。

ウルフが動き出す。

ポチは駄目だ。

だが、カレンは耳を押さえながらも立ち上がり、突貫。

私も、同じく。

マリアの剣だけを手にとると、突貫した。

スカンクスの目に、壮絶な覚悟が浮かぶ。

死を覚悟し。

相手を道連れにしてでも。

倒そうという形相だ。

だが、こんな奴に道連れにされるつもりはない。

コンバットナイフを投擲してくるスカンクス。音速近いと思う。

だが、私は抜き打ち。

それを中途で弾き、わずかに軌道をそらす。

頭に突き刺さる筈だったコンバットナイフは、私の肩に突き刺さったが。無視して、そのまま突貫。

カレンも、コンバットナイフを何とかしたのだろう。

そのまま突貫。

ミシカは、重機関銃をぶっ放し続けている。スカンクスが、また、数歩。蹈鞴を踏むようにして下がる。

そこに、ウルフが主砲の照準を合わせる。

射撃。

スカンクスが、残った手で、プロテクターを取りだし、直撃を避けるが。それはすなわり、もはやスカンクスには、ウルフの主砲に耐える体力がないと言う事を意味している。それに、今の一撃で、スカンクスの両腕。残った二本も、使い物にならなくなったようだった。

私と、カレンが。

同時に仕掛ける。

私が跳躍。

袈裟から斬り降ろす。

カレンも跳躍。

完璧なタイミングで、飛び膝をスカンクスの側頭部に叩き込む。

ぐらついたスカンクスは。

それでもなお、あがく。

「お、おれは、もう二度と、あそこには、戻りたくない! おれは、ここでだけは、一番でいたい!」

振り返り様に。

胸の傷にマリアの剣を突き刺すと。

更に、蹴り込む。

剣の切っ先が、スカンクスの背中に抜ける。

断末魔の悲鳴を上げるスカンクスだが。

剣を無理やり引き抜くと。

放り捨てた。

凄まじい量の血が、間欠泉のように噴き出す。

私は間髪入れず、転がって対物ライフルを広い、その顔面に放つ。あれほどの機動を見せたスカンクスも、私の対戦車地雷で足を潰されてからは、動きも鈍い。左目に直撃。更にミシカも、大型ライフルで、スカンクスの右目を狙撃し、当てていた。

全員満身創痍の中、スカンクスは、両目を潰され。

なおもまだ、立っている。

尻餅だけはつかない。

「おれは、王様だ! ここだけでも、王様なんだ! もう二度と、とられてたまるかあああああああっ! キキーッ!」

なんと。残っていた、しかも砕けていた筈の二本の腕を地面につけると。

スカンクスは四つ足の体勢になる。

そして、もはや追う気力も残っていない此方を無視して、塔の方へと全力疾走する。ウルフから、アクセルが顔を出す。

「さっき、バギーのケンから手信号があった! 敵の増援は来ていない! 塔の中は、もうみんな逃げ出して空の筈だ! トラップもこの様子だとないだろう!」

「分かっている……!」

身動きできないミシカの所に行くと、側に倒れているバイクを起こす。

ミシカは。呆然とそれを見ていたが。

それが限界だったのだろう。

気を失った。

カレンは、皆を見ておくと、頷いてくる。

私は頷き帰すと、剣を拾って、奴を追う。

スカンクスは、バイクで追ってくる私に気付いているのかいないのか。凄まじい勢いで、四つん這いで走る。

ニホンザルとは思えない動きだが。

四本の腕を持つニホンザルなどいない。

他にも、色々な生物が合成されているのかも知れない。

頭がぐらぐらする。

こっちも限界近い。

スカンクスは何をしようとしている。

塔の中に突入。

荒れ果てたビルだ。

エレベーターが二本あるが。

一本が上に上にと動いている。

周囲にはクルマが何機かいるが。

どうやら此処の守備部隊は。

スカンクスを見捨てて逃げ出したようだった。

もう一本のエレベーターに飛び込むと、最上階を押す。

エレベーターが動き出す。

恐らくは最上階で間違いない。違った場合は、階段をバイクで駆け下りるだけだ。最上階まで、ぐんと、凄まじい加速でエレベーターが上がる。

私はしばし無言で、待つ。

エレベーター、到着。

やはり、スカンクスはこの階で降りたらしい。隣のエレベーターも、此処で止まっていた。

血の跡が点々と続いている。

あの有様では、トラップを仕掛ける余裕は無いだろうが。

それでも気を付けて進む。

途中、セキュリティシステムらしいトラップが、グチャグチャに潰されているのが見えた。

多分スカンクス自身が引っ掛かって。

そして癇癪を起こして潰したのだろう。

血も飛び散っている。

銃座型のトラップだったようだが。

それ故に、目が見えないスカンクスを、滅茶苦茶に銃撃したのは、見なくても想像はできた。

先回りしたら。

私もこうなっていたか。

嘆息すると、スカンクスの後を追う。

階段。

バイクで無理矢理乗り切ると。

屋上の、開いたままの扉を抜け。

そして、凄まじい風が吹き荒れる其処で。

スカンクスが、何かにすがっているのを見た。

それは、滑稽な旗。

そうか。自分の王国をとられたくないとスカンクスは叫んでいた。これが、その象徴というわけだ。

幼児が殴り書きしたような絵。

きっと、スカンクスの美意識による、格好いい自分の姿、だったのだろう。

必死にそれを抱きしめているスカンクスは。

私に気付いているようだった。

「こ、これだけは、渡さない」

「いいよ、くれてやる。 その代わりお前の命を貰うがな」

「おれなんか、他の四天王の足下にも及ばない!」

「知っている。 お前の前任者を殺したのは、私の育ての母。 マリアだからな」

歩み寄る。

スカンクスは、その場で動かない。

否。

もう動く力が無いのだ。

私は、マリアの剣を抜く。

手入れが後で大変だ。

血に塗れているし。

散々こんな堅いのを斬ったのだから。

「おれは、最後まで、裏切らなかったぞ! バイアスグラップラー万歳! バイアスグラップラー万歳! テッドブロイラー様万歳! おれさまの王国万歳! おれは最後まで、部下には、何も、おれのものはくれてやらなかったぞ!」

「だから皆に逃げられたんだよ」

「皆なんていらない! おれだけがいればいい!」

「そうか。 だったらお前だけで地獄に落ちろ」

一息に、スカンクスの喉を斬る。

更に、スカンクスの心臓を一突き。

どちらも、傷だらけの毛皮だったから容易だった。

離れる。

しばらくスカンクスは、壊れた笛のような音を立て続けていたが。

やがて、旗を抱いたまま、その場に倒れた。

同時に、何か迫撃砲のようなものが起動。

空に、打ち上げる。

花火か。

いや、これはおそらく、スカンクスの命に連動して。その死を知らせる仕組みなのだろう。

他の四天王も。

スカンクスの死を知ったと見て良い。

鼻を鳴らす。

どのみち全員殺すのだ。

スカンクスを殺せる敵対者がいる。

それを理解すれば。

それで充分。

私は、哀れな猿の死骸を一瞥すると。バイクにくくりつけ。牽引して行くことにした。

旗だけは。

奪わなかった。

 

3、戦いの後で

 

アズサに戻ることにする。

その途中。バザースカで、スカンクスの死骸はハンターズオフィスに引き渡した。ハンターズオフィスから賞金は貰ったが。

50000Gという大金は、流石に重かった。

噂も広まる。

グラップラー四天王は、今までに何度か倒されていたが。

スカンクスは末席とは言え、久々の撃破報告である。

「海」の周囲はここしばらくずっとバイアスグラップラーの支配地区だったこともあり。その西の陥落は、極めて大きな事件だともいえた。

だが、流石にそのままバザースカに留まるのは危険すぎる。

一旦街を離れ、アズサに向かう。

装甲車の中で、私はフロレンスに手当を受ける。カレンも、ミシカも、ポチも。

なお、フロレンスは、スカンクスの絶叫で、意識を失っていたらしい。

まああれは仕方が無い。

あんな強烈な音波攻撃。

どうあっても耐えきれはしない。

至近にいた私達など、吹っ飛ばされたくらいなのである。

物理的圧力を伴う絶叫。

それも、そんなとんでもないものを使い。戦車の主砲にも耐え抜いた奴が、グラップラー四天王の末席だと言う事。

あのプライドが高そうな猿が。

他の四天王は更に強いと言っていたこと。

それは、あまり好ましい事とは、私には思えなかった。

いずれにしても、レベルメタフィンを出来るだけ急いで手に入れたい。

多分、だが。

テッドブロイラー以外の四天王は、マリアでも手に負える相手だと見て良いだろう。つまり、人間がどうにか出来る相手、というわけだ。

だがテッドブロイラーだけはどうにもならない。

彼奴は人間では勝てない。

ただし、今回の勝利には、大きな意味がある。

戦略的に、今回バイアスグラップラーは、人間狩りを行える大きな土地を失った。これにより、エルニニョも孤立状態になったと言って良い。

なお、塔の中はあらかた探索して。

使えそうな物資は、一通り回収してきた。

大きな発電機があったが、それについても停止してある。

いずれ専門の業者が取りに来るか。

それとも、塔をまともな状態にしてから電気をまた入れるか。

それはアズサの者達にでも任せるべきだろう。

今は、ノアとの戦いを最優先しなければならない時だというのに。

未だに、こんな争いを続けなければならない人間。

あの塔も、ノアとの戦いのために使うべきで。

体勢が整ったら、ノアとの戦いの前線として活用するべきだ。私はそう思っている。そしてノアを打倒したら、復興の象徴として使って行くべきだろう。

「少し眠りなさい」

フロレンスに言われて、素直に頷く。

流石に今ばかりは、ゆっくり休んでおきたかった。

スカンクスは強かった。

心は弱かったかも知れないが。

戦車砲に耐え抜く耐久力。

あの多彩な技。

文句なしの実力者だった。

あれだけどうしようもないオツムでも、重要拠点を任されていた訳である。奴との戦いのダメージは、決して小さくは無かった。

しばし眠る。

ドッグシステムがあるとは言え。

誰かがそれぞれクルマに乗ったまま、意識を保っていないと、敵に奇襲を受けたときが危ない。

前線に立たなかったアクセル、フロレンス、ケンの仕事だ。

一眠りして、おきても、当然まだ体は痛い。

眠っている間に、フロレンスが色々処置をしてくれたようだけれども。

まだ、それだけでは直りきらないほど。

ダメージが大きかった、というわけだ。

アズサに到着。

降りてみると、装甲車もウルフも、ダメージがかなり大きかった。あの音波攻撃、タイルにも相当なダメージを与えていたのだ。

それにスカンクスが乱射した手榴弾も、

予想以上にクルマの装甲を削っていた。

アクセルが降りると、メンテナンスをすると言って、バイクも含めて全クルマをドッグに持っていった。

長老が来る。

ボロボロの私を見て、手をとった。

「この度の武勲、見事だったな。 母の名を辱めないものだった」

「有難うございます」

「今回の勝利で、バイアスグラップラーの人間狩りの恐怖から、多くの人々が解放された事は間違いない。 このまま、アズサとしても、敵の拠点を接収し、戦力の強化に努めるつもりだ」

「お願いします」

カレンと私、フロレンスで、長老達と会議の場に出向く。

もう少し怪我を癒やしたい所だけれども。

今は、すぐにでも方針を決めておかないとまずい。

スカンクスの死で放棄された拠点を、別のならず者が抑えたり。或いはノアのモンスターが制圧すると面倒な事になるからだ。

すぐに会議が行われ。

それぞれの街のレジスタンスや、アズサから手練れが出て、拠点を抑えることに決まる。地図を見て、全ての拠点がどうなっているか、フロレンスは詳細に覚えていた。この辺り、流石である。

「此処は見ていません。 まだ敵が残っているかも知れませんから、気をつけてください」

「分かった。 それでは、ベン。 頼むぞ」

「任せてください」

そういって、ベン。

この街でもマリアに次ぐ実力者だったハンターが頷いた。

通称蒼狼のベン。本名はベンジャミン。

ウルフを任されている手練れで、この間スカンクスの部隊に対する支援攻撃をしてくれたのも彼だ。

賞金額45000Gの賞金首を倒した事もある凄腕で。

いつも三人の仲間と一緒に活動している。

全員がMBTを持っている優秀なハンターで。

この辺りで、マリアがいない現在。

最強のハンターだと言えるだろう。

多分、もっと高額の賞金首ともやり合える筈だ。本人の戦闘力も、相当に高い。

ベンは重厚な体つきと、彫りの深い顔をした中年男性で、この地域の平均的な男性とは顔がかなり違う。

別の地域から来た人間か、或いはその混血か。

いずれにしても、大破壊から数世代も経過して、世界の情勢が分からない状況なのである。

今では推察するしか無い。

「それでレナ。 お前はこれからどうする」

「まずはエルニニョを落とします」

「ほう。 確かに彼処を落とせば、海の西側は完全にバイアスグラップラーの影響力を排除できるな」

それにマドの街の安全も確保できる。

これについては、口にしない。

マドの街には世話になった。

死にかけたところを助けられたし。

マリアも丁重に葬ってくれた。

金を払ったのに役に立たなかったとか、そういう心ないことを言う者は誰もいなかった。だからこそ、私も。

それなりの対応をする。

マドを完全に安全な状態にすることは出来ない。

ノアのモンスターに、常に集落は狙われているからだ。

だがエルニニョのメンドーザを潰せば。

これで完全にマドは、バイアスグラップラーの恐怖からは解放される。

今は三門の野砲をはじめ、軽戦車から鹵獲した80ミリ砲や幾らかの戦力で武装もしているし、周囲の武装集団程度なら、どうにでもなるだろう。

「手を貸さなくても大丈夫か」

「無用。 今の戦力ならば充分にメンドーザを討ち取れます」

「分かった。 スカンクスを倒したのだ。 その実績を見込んで頼むぞ」

ベンにそう言って貰えると嬉しい。

後は、だ。

千手沙華を放置しておく訳にはいかない。

エルニニョのメンドーザを潰した後、あの巨大植物を焼き払ってしまえば。

新しい大物賞金首が現れるまでは。

マドの周辺は安泰になるだろう。

勿論ノアを潰さなければ、根本的な解決にはならない。

というか。

ノアを潰す前にも。

世界は人間同士で殺し合い、つぶし合いを続けていたと聞いている。

無数の国家が存在し。

領土を奪い合い。

互いに憎しみあって、多くの悲劇を量産していたという話である。

ヴラドコングロマリットと神話コーポレーションでも、似たような争いをしていた筈で。

そもそも、ノアを滅ぼす前には、地球は汚染されつくし、どうにもならない状態になっていた、という話もマリアに聞かされていた。

ひょっとすると、だが。

ノアを倒しても、何も解決しないのかもしれない。

だが、それでも。

出来るだけの事は、しなければならなかった。

千手沙華の事を提案。

エルニニョを潰した後、腕試しもあって、私が倒す事を告げると。長老は若干難色を示した。

あれは明らかに賞金額以上の実力を持つ相手で。

まだ私には荷が重いのでは無いのか、というのである。

スカンクスはクルマで取り囲み、文字通りの総力戦を挑む事が出来た。だが、千手沙華はクルマを持ち込めない地点に居座っている。

今のところ、そこまで大きな被害は出ていないが。

ただし今の時代のモンスターだ。

いつ動き出して、人里を襲うかも分からない。

だが、ベンが後押ししてくれた。

「我々でも手出しが難しかったスカンクスを倒したレナです。 信じてみましょう」

「そうだな……分かった。 やってみるがいい。 レナ」

「有難うございます」

方針を決めた後、会議を解散。

私はと言うと。

そのまま、マドに向かう事を皆に告げる。

アクセルは、整備に二日かかると言う。

なお、アクセルだが。

髪が充分に伸びたから、だとかで。何だか変な髪型にし始めていた。真ん中だけを染めている、奇抜な頭だ。確かモヒカンだとかいったか。それに近い。

この頭にしたかったのか。

まあ個人の好みだし、何も言わない。

「もっと良いエンジンを積んで、更に武装を増やしたいなあ」

「最低でもイスラポルト辺りまで行かないと、もっと良いエンジンは無いだろう。 カルメン辺りがあれば良いんだがな」

「流石にそれはなあ」

量産品としては最高性能を持つエンジン、カルメン。

チューニングして使うのが当たり前で、その性能は非常に高い。トレーダーとしても中々扱わない品物で、もし売りに出されると、あっという間に売り切れるという。しかも言い値で、だ。

いずれにしても、今は手が届かない。出来る範囲でやっていくしかない。

整備はアクセルに任せる。

フロレンスがあまり嬉しそうにしていない事もある。

アズサの街に何度も上り下りするのも骨だし、下にある宿を借りて、其処で手当を受ける。

カレンとポチ、ミシカも、皆怪我は相応に酷い状態だったが。

それでも、そう治るのに時間は掛からないだろう。

今の時代の人間は、回復力も高いのだ。

昔の人間は、回復速度がこれとは比較にならないほど遅かったらしいが。

横になって、軽く話をする。

「ミシカ」

「なんだよ」

「スカンクスは死んだ。 少しは気は晴れたか」

「……バイアスグラップラーを潰さない限りは無理だ」

同感だ。

そう言うと、くつくつと笑いが零れた。

暗い笑いだった。

復讐心は、人間の精神を闇に染める。

闇は力を生む。

そして歪みも。

「エルニニョで奴らの残党狩りをするのは、マドの様子を見に行ってからだ」

「エルニニョって言うと、あのメンドーザの野郎か」

「奴の首を取る」

「……なあ、正直な話をするが、あの街の連中に自治なんか出来るか?」

不意に、ミシカが鋭いことを言う。

カレンが身を起こすが。

ミシカは、横になったまま続ける。

ミシカは頭はあまり良くないが。それ故に、こういう鋭い所があったのは、以外だったのだろう。

カレンはずっと黙っていた。

「アタシが前に彼処に行ったとき、何とか団とかと顔を合わせたが、どいつもこいつも街をまとめるような気概なんて持ち合わせていない奴らばかりだった。 メンドーザの首を取れば、バイアスグラップラーによる人狩りだけは止まるだろうが、多分それだけだろうな。 最悪な街のままだ」

「案外に鋭いな。 頭悪いのに」

「アタシがバカなのは分かってる。 でも、このくらいの事は分かる」

「……実は私もそれを懸念している。 いずれにしても、バイアスグラップラーの勢力をあの街から追い払うのは大事だ。 それと……」

今、この場にいないから話す。

ケンについてだ。

そろそろ、前線に立って貰う。

戦闘はもう充分経験した。

そしてケンでも、アサルトライフルくらいはもてる。

狙撃銃でも使わせれば、充分に敵に対する脅威にはなる。

「基礎については、アズサの方でベテランに叩き込んで貰っている。 そろそろ、バギーの中に引きこもっているわけにはいかない。 アクセルはメカニックとしてクルマのメンテナンスに必須だし、フロレンスは支援要員として最後まで無事でいて貰わなければならない。 だが、ケンはそのどちらでも無い。 今の時代は、子供だからといって、特別扱いは出来ない」

「アタシが守れば良いか」

「そうだな。 足りない分は補ってやってくれ。 敵は私が殺す。 ミシカやカレンは、私の背中を守ってくれるだけで充分だ」

「あんたはとにかく恐ろしいな。 バイアスグラップラーも、とんでも無い奴を敵に回したもんだ」

ミシカは、少し乾いた笑みを浮かべる。

彼女は、私が血だらけのスカンクスの死骸を引っ張ってきたとき。少しだけ青ざめていた。

本当は、線が細い所があるのかも知れない。

こんな、荒野と血に塗れた世界で生まれたというのに。

だとしたら、フェイに余程甘やかされていたのだろう。

そしてそれ故に。

フェイが大好きで。

その死で、復讐に立ち上がりもした。

「もう少し、味方の人数を増やしたい」

私は提案する。

エルニニョのメンドーザを潰せば。

それだけ、名声も上がり。

連れて行ける手練れも、増えるはずだ。

アズサから、一人か二人。

手練れを手配してくれるかも知れない。

反対意見は、誰からも出なかった。

実際問題、まだまだ此方の戦力は小さすぎる。戦車と呼べるものもウルフだけ。今後は、もっとマシなクルマを、増やしていかないと危ないだろう。戦車未満ばかりでは、今後がかなり厳しくなってくる。

今、少し予算に余裕がある。

これをどう使って行くか。

それが課題だ。

 

ウルフのメンテナンスが終わってから、アズサを出て、南下。ハトバは遠くから一瞥したが、特に何も変わっている様子が無かった。

検問がしかれていた橋もそのまま。

スカンクスが潰された事で。

バイアスグラップラーの戦力が、この近辺でがた落ちしたのは露骨すぎる位だった。元々スカンクスのせいで相当な人数が脱走していたようだが。この有様では、エルニニョからも脱出者が相当出るだろう。

エルニニョの様子を軽く偵察。

一応、まだバイアスグラップラーの連中はいる。

だが、スカンクスが死んだ事は伝わっているはずだ。

相当にぴりぴりしている様子である。

多分レジスタンスを気取る腑抜け何とか団もそろそろ動ける状況になっているだろう。

だが連中は陽動くらいにしかあてにしない。

いや、そもそも陽動にすら使えるかどうか。

いずれにしても、見た感触では。

理想的な状況だ。

「かなり見張りの人数も減っている。 脱走者が出たか、或いは本拠に引き上げたな」

「戦力の温存を図るつもりかねえ」

「さあな。 だがいずれにしても、メンドーザがもしこれで人間をバイアスグラップラーに差し出し続ける行動をとろうというのなら、暴発が起きるな」

ブッ殺すには丁度良い。

いずれにしても、人間狩りに荷担していたと言うだけでも万死に値するし。

バイアスグラップラーに所属しているだけで更に万死に値する。

偵察だけを済ませると、マドに。

以前此処に助け入れた難民達は、既に受け入れられ、復興作業にいそしんでいるようだった。

運び込んだ野砲三門もきちんと据え付けられ。

見張り台も作られている。

どうやら、流れのハンターを雇ったらしく、見張りも何人かいた。

街を復興させるにはインフラが必須だが。

それについては、元々大型の植物育成施設が存在するほどの場所である。人数を養うだけの食糧はある。

それに、手練れを四人も雇うほどの金を出せるくらいには、余裕はあった街なのだ。

潜在力は高い。

ノアを怖れて人数は増やせなかったのだろうが。

今後は、さらなる発展も見込めるだろう。

長老の所に顔を出す。

今の時点では、バイアスグラップラーの偵察も来ていないという。

スカンクスを殺したという事については、既に話も伝わっていた。

「とうとうやってくれましたな。 エルニニョの街からも、露骨にバイアスグラップラーの兵士が減っているという報告が来ております」

「いや、此方もギリギリの勝利だった。 それにバイアスグラップラーは、スカンクスより遙かに強い幹部をまだ何人も抱えている筈。 油断は出来ない」

「それでも、本当に助かりました」

「……エルニニョをこれから落とす」

話はしておく。

この辺りは、この地域の辺縁。

西も南も街が無く。

西にはこの間越えた峠。此処を抜けると、数段強力になったモンスターが、手ぐすね引いて待っている。

人間が暮らしている街に行くには、数日間、ひっきりなしに襲ってくるモンスターを倒し続けるくらいの戦力を有したコンボイを組まないといけないだろう。

南も似たような状況。

コッチはより酷いという話で。

山を越えた先には。

文字通り何も無いそうである。

完全に大破壊の時に焼き尽くされてしまい。

今では円形の湖がたくさん残されていて。その湖にも、生物はまったくみられないのだそうだ。

危険すぎて踏み込めないその場所は。

更に進めば、何かあるのかも知れないが。

トレーダーにでも話を聞かないと厳しいだろう。

いずれにしても、予備知識無しで踏み込むのは、それこそ自殺しに行くのと同じだ。当然モンスターも、賞金首クラスがゴロゴロいる事だろう。

「金を少し渡しておく。 エルニニョが陥落したら、もう少し用心棒を増やした方が良いだろう」

「有難うございます。 獅子の子は獅子に育ちつつあるのを見て嬉しいですなあ」

「……いや、私はまだマリアにはあらゆる点で及ばない」

一礼だけすると、すぐにエルニニョに向けて発つ。

イリットは少しだけ話したが。

やはり此方のことを、ずっと心配しているようだった。

 

4、混乱波及

 

バイアスグラップラー本拠バイアスシティでは、スカンクスに任せていたグラップルタワー陥落の報が届き。其処から逃げ出してきた兵士達の聴取が行われていた。

スカンクスの無能のせいで、兵士達の士気は落ちきっていた。

陥落の可能性もあった。

それは理解していたが。

テッドブロイラーにしても、だからといって手心を加えてやる理由は一つも無い。

生き残り全員を焼き殺してやりたい所だが。

少なくとも、おめおめと逃げ戻った隊長クラスは。

話を聞いてから殺さなければならないだろう。

「それで、主力を引き抜かれたところに、徹底的な攻撃を連日受けたと」

「はい。 反撃もしたのですが、敵は此方の射角などを知り尽くしておりまして、毎日狙撃で被害が出まして」

「それで我慢できなくなった猿が飛び出したというわけだな」

「はい。 制止したら、殺される所でした」

土下座したまま、完全に震えあがっている隊長数人。

テッドブロイラーは、この役立たずどもをどうしようかと思っていたが。

しかしながら、ゴロツキとはいえ戦力は戦力。

皆殺しは止めた方が良いだろう。

だが、此奴らは別だ。

隊長である限り当然のことながら責任もある。

最前線で戦おうともせず。挙げ句の果てに、部下より先に逃げ出した。

論外。

生かしておく価値なし。

そのまま、遺伝子の欠片まで焼き尽くす。

土下座したまま、黒焦げになった死体が幾つか出来た。

スカンクスを倒したハンターについては、調査する必要があると見て良いだろう。すぐにテッドブロイラーは、部下を呼び出した。

情けない風体の男二人である。

兄はステピチ。

弟はオトピチ。

通称ピチピチブラザーズ。

ハンターズオフィスにも賞金首として登録されているが、1000Gと最低ランクの扱いである。

それもその筈。

此奴らは元々単なる小悪党で。

名を上げたいと、土下座してバイアスグラップラーに入ってきたのである。基本的にゴロツキの集まりであるバイアスグラップラーの兵士には、こういうのが珍しくない。ただ、小悪党なりに色々な技術を持っており、それ故にテッドブロイラーの目にとまったのだ。とはいっても、どれもこれも小手先の技術だが。

其処を、人体改造によって強化し。

そして「情けない小悪党」として知られていたところを逆に利用して。各地で諜報を行わせている。

此奴らはバカで無能だが。

逆にそれが故に警戒されないし。

更に言えば、失ったところで惜しくないという利点がある。

なお、兄はすらっと背が高いが、ひょろひょろ。

弟は豚のように太っている。

どちらも昔で言うメキシカンスタイルで、ソンブレロを被っているが。単純にこれも、昔生き倒れの服を貰ったものらしい。

バカ兄弟は現れると、土下座した。

さっきまで、逃げてきたことを正当化し。

必死に弁明をしていた連中と同じように。

「テッドブロイラー様! ミー達に何の用ザンス!」

「兄貴ー! テッドブロイラー様、いつもかっこいいな!」

「黙ってるザンスよ! お前は余計な事をいうなザンス!」

阿諛追従を使う脳も弟に無いのは知っているので、テッドブロイラーは腕組みして、そのまま漫才を聞いている。

なお、黒焦げの死体はそのままだ。

「スカンクスを殺したハンターについては聞いているな」

「勿論ザンス! 何でも、天を突くような大男で、スカンクスを殴り殺したとか」

「いや、俺の予想では小娘だ。 ただし、目には地獄が宿っている。 戦闘力も、お前が想像する天を突く大男よりも更に高いだろう」

「それは、恐ろしいザンスね! 気を付けるザンス!」

何だか気が抜けるが、これくらいアホなら相手も油断するだろう。

それに此奴らには、生体改造を施して、実際には賞金額5桁クラスの実力を与えてある。バカだから力を使いこなせるかは分からないが。スカンクスほどではないにしても、相応には戦える筈だ。

最低でも自衛は出来るだろう。

「戦おうなどと考えなくても良いから、情報を探り出せ。 そして都度俺に送れ」

「分かったザンス! ミー達が、必ずやテッドブロイラー様のお力になるザンス!」

「ならばいけ」

「その前に、お願いザンス! ミー達も、人間を止めて生体改造も受けている身ザンスし、もしもそのハンターの素性を突き止め、討ち取ることが出来たら、スカンクス様、いやスカンクスの後釜にして欲しいザンス! 四天王になりたいザンス! 勿論二人一緒で四天王の一人扱いで良いザンスよ! 二人でやっと一人前なのは分かってるザンスから!」

ほう。

これは予想外だ。

此奴らも人間だった、という事か。

分不相応な野心は身を滅ぼすだけだが。

それでも、こういう事を面と向かって言ってくる奴は、個人的には嫌いじゃあない。

実は四天王の新しい候補には、別の奴が挙がっているのだが。

それを理由に此奴らの懇願を蹴る必要もないだろう。

スカンクスの後釜に据えられるような実力者なんて。

実際バイアスグラップラーには幾らでもいるのだ。

というか、四天王そのものが、そもそもテッドブロイラー以外は代わりが幾らでも効くのである。

ヴラド博士と。

テッドブロイラー。

それに不滅ゲートとバイアスシティ。

この四つがなくならない限り。

バイアスグラップラーは、幾らでも蘇る。

何度でも立ち上がる。

実際問題、近辺の武装組織の中で最大を誇り。多くの武装組織の残党を吸収してきたバイアスグラップラーも。

昔はそれほど強大な組織ではなかったし。

ノアの軍勢の攻撃で、大打撃を受けて、勢力を縮小したことも何度かあった。

テッドブロイラー一人だけでは、どうにもならないほど、戦線が拡大した場合には。全ての戦線で勝利する、というわけにはいかなかったのだ。

それに、人間狩りに関しても。

少し前に、不足を解消する出来事が起きている。

「良いだろう。 ただし、今四天王候補に挙がっている者がいる。 その者が、問題のハンターを倒したら四天王に昇格が決まっている。 急ぐようにな」

「了解ザンス! オトピチ、行くザンスよ!」

「分かったよ、兄貴ー」

もたもた歩いて行く豚のような弟と。危なっかしく歩いて行く枯れ木のような兄。

情けない二人だが。

それ故に、油断を誘うには充分だ。

それにテッドブロイラーも一切期待していない。

まあ、出来てハンターの詳しい素性を調べ上げるくらいだろう。

少なくともあの二人は、生きて不滅ゲートまで辿り着き。

テッドブロイラーに謁見するところまでやりとげた。

小悪党としては、それだけ出来れば充分だ。

後は、運を何処で使い尽くすか。

それを見届ければ良い。

それに、約束をした以上。万が一が起きたら、きちんとそれも守る。能力は与えてあるのだし、少なくともスカンクスよりは使えるだろう。

さて、次だ。

通信施設に出向く。

バイアスシティは広大で、中にはこの時代には珍しい鉄道まで稼働している。とはいっても、三駅しかない単線だが。テッドブロイラーが乗り込むと、移動のために使っていたバイアスグラップラーの兵士共はみな沈黙し、直立浮動して談笑を止める。それほど怖れられているのだ。

それでいい。

恐怖の権化である事。

それがテッドブロイラーのあり方だ。

テッドブロイラーも何も喋らない。

スカンクスが駄目だったのは、その子供じみた癇癪で、理不尽に部下を殺していたからだ。

それ故に、部下に見切りもつけられた。

恐怖の量が足りなかった。

理不尽だった。

テッドブロイラーは違う。

絶対恐怖。

圧倒的力。

それらを見せつけつつ、使える奴はきちんと使う。

そうすることで、恐怖を見せつけながらも、ついていけば勝てると思わせる。そうすることにより、この組織の揺るぎないナンバーツーとして。まとめ上げることに成功してきたのだ。

通信設備に到着。

無数のサーバが林立。

幾つかのモニタがある中、テッドブロイラー専用のものを使用する。

小さすぎる椅子に座ると。

軽く操作して、ブルフロッグの所に連絡を入れる。

海の北西。

要塞化した島にいるブルフロッグには、重要な研究設備を任せている。奴の所で、先ほど話題に上がった四天王候補が、そろそろ完成する筈なのだ。

そいつは、以前捕まえた人間で。

改造して、脳も弄り。

バイアスグラップラーのために働く戦闘マシンとして生まれ変わった。

ただ元から三下だった様子で。

捕まった後は、バイアスグラップラーに宗旨替えしたい、とまで口にしていた。それも本心から。

あまりにも情けないので、その場で焼き殺してやろうかと思ったが。

使えるものは使った方が良い。

使えないのは焼き殺す。

使えるなら、使って見る。

それだけだ。

ブルフロッグは、すぐに通信に出た。

「テッドブロイラー様! ボクに何用です?」

「お前の所に回した、あのガルシアという男は改造が終わったか?」

「それはもうばっちり。 いつでも戦闘に投入できますよ。 ひひひ」

「そうか。 それでは野に放て。 スカンクスを殺したハンターを倒したら、後釜にしてやると吹き込んでな」

ブルフロッグは、精神が子供だ。

精神が猿のスカンクスよりはマシだが。強化手術の時に、脳を操作するのに少しばかり失敗したらしい。

その代わり、兎に角狡猾で。

テッドブロイラーには絶対に忠誠の姿勢を崩さない。

ただし自分の要塞の中では、「自分こそグラップラー四天王最強」等と抜かしているらしいので、失笑ものである。

ただ、部下に対して不必要な虐待を加える事は無く。

麾下の研究施設にもほぼノータッチ。

抱えている科学者達にも、理不尽な扱いを強要することは無い様子なので、其処だけは信頼出来る。

少なくとも、スカンクスよりはマシな部下だ。

「それと、例のものは出来たか」

「出来ました。 まあノウハウはありましたし、科学者達は有能ですし」

「ではデスクルスに回しておけ。 様子を見る」

「分かりました」

例のもの。

まあ、戦闘力だけはそこそこと評価していたスカンクスのクローンである。ちなみに脳は弄ってある。

話を聞く限り、スカンクスの敗因はその頭の弱さだ。

それだったら、頭を少し弄っておけば、少しはマシになるだろう。

ちなみに四天王にはもう昇格させない。

思考能力も奪ってあるから、余計な事を考えるような失態も無い筈だ。

さて、次だが。

もう一つ、やっておくことがある。

通信を入れた先は。

カリョストロの所だ。

通称、海の門。

海の東側に存在しており、峻険な山脈で塞がれている南部と違い。やりようによっては簡単に通ることが出来る海の東側の川。

それを封鎖している、要衝だ。

これといった強力な軍事設備は存在していないが。

その代わり、カリョストロが強力なセキュリティを施し、守っている。

内部は迷宮同然で。

今の時点で、ここに入って生きて出たハンターは存在していない。

カリョストロも、通信にはすぐに出た。

豊かなバリトンで、芝居がかったしゃべり方をするカリョストロは、見た目伊達男だが。実際の此奴は、体の構造を自由自在に変えることが出来る。

伊達男の見た目は。

単なる此奴の好みだ。

真の姿は、見るもおぞましい代物で。

テッドブロイラー含め、数名しかその真の姿は知らない。

ちなみに此奴も、「比較的」最近に四天王に昇格したのだが。マリアに殺された前任者の代わりとして昇格した割りには有能で。

ずっと四天王ナンバースリーの座を堅持している。

「エバ博士は見つかったか」

「いえ、まだにございます。 我が主よ」

「勘違いするな。 我等が主はヴラド博士だ」

「それは失礼いたしました。 エバ博士に関しては、現在四方に手を回しておりますが、何しろ老齢の身。 そう遠くには逃げる事は出来ないでしょう。 レジスタンスに匿われていると厄介ですが、恐らくはハトバかデルタリオのどちらかに逃げ込んで、其処に潜んでいるでしょうね」

それで、これより探しに行くと言う。

ならばいい。

「一刻も早く探し出せ。 エバ博士は、厄介な情報を持ちだした可能性がある」

「それについても聞き出します。 お任せください。 拷問はこの私めの得意とする所にございます」

「そうか。 急げよ」

「はい。 テッドブロイラー様。 時に一曲いかがでございましょう」

通信を切ろうかと思ったが、まあいい。

此奴は大破壊前の歌手の映像を見てから、すっかり歌にはまってしまったらしく、自由自在に変えられる肉体を利用して、プロ顔負けの歌唱を行う事を趣味としている。時々テッドブロイラーも聞かされる。

確かに技量は高い。

だがそれだけだ。

「また今度な。 それよりもエバ博士の捜索を急げ」

「分かりました。 獄炎の魔人たるテッドブロイラー様」

通信を切る。

とりあえず、これで終わりか。

呼び出し。

ヴラド博士からだ。

階段を使って、地下に降りる。

最高セキュリティエリアに入ると。ヴラド博士の声がした。

「テッド。 機嫌はどうかね」

「スカンクスが失態をおかしたせいで、少々気分は悪いですが。 それで如何なさいましたか」

「出来たよ、量産型の最強の兵士が」

姿をみせるは。

たくましい、青緑色の肌をした兵士達。

いずれもが屈強で。

優れた戦闘能力を有しているようだ。

これぞ、SSグラップラー。

今後量産を進め。

バイアスグラップラーの底辺を支える、最強の歩兵だ。

「どうだね、この完成度は」

「歩兵としては申し分ありませんな」

「だろう。 最終的には10000体を生産する。 そうなれば、ノアののど元にも手が届く。 ついに、ノアを撃ち倒し。 この世界の全てを握る日が近づいて来た」

「ノア本体との戦いは、このテッドブロイラーめにお任せを。 どのような苛烈なセキュリティで身を守ろうとも、撃滅してみせましょう」

もちろんだとも。

そう快く、ヴラド博士は答えた。

頷くと、テッドブロイラーは笑みを浮かべる。

着実に、その日は近づいている。

全てを握る、その日が。

 

(続)