巨怪と魔人

 

序、焦り

 

スカンクスが焦っているのは、誰の目から見ても明らかだった。目付役として派遣されてきたクラッドからしても、これはまずいと思わされるほどに、スカンクスは取り乱していた。

バイアスグラップラーは非道な組織だ。

だが、力を持つ集団でもある。

クラッドが所属したのは、バイアスグラップラーに入れば生き残ることが出来る、と考えたからである。

実際彼の故郷は。

ノアのモンスターに蹂躙され、住民は皆殺しにされた。

ハンターに助けを頼んだが。

100000Gの賞金首だとかが率いているモンスターの群れに挑もうというハンターは一人もおらず。

結果として、暴力的な殺戮の前に。

何もする事は出来なかった。

選択肢などなかった。

そのまま無為に殺されるか。

生け贄を差し出してでも、凶暴だが強い組織に守られるか。

クラッドは後者を選んだ。

ハンターとして仇を討とうとする道もあったかもしれない。

しかし完全な素人で。

体も弱かったクラッドには無理だ。

この世界で弱い者が生きて行くには。

強い者に従うしか無い。

バイアスグラップラーが非道な組織である事は百も承知だ。だが生き残るためには、こんな組織にでも所属するしかないし。

何より。

実際問題。

故郷を滅ぼした賞金首を、ゴミクズのように蹴散らしたのは、テッドブロイラーなのである。

その軍勢はバイアスグラップラーの本拠地に向かって進軍したが。

テッドブロイラーに蹂躙され。

モンスター達は全滅。

後には炭化した屍の山しか残らなかった。

勿論単純にテッドブロイラーが降りかかる火の粉を払っただけだと言う事はよくよく理解している。

それでもなお。

事実として、あのどうしようもない凶悪モンスターを倒したのはテッドブロイラーであり。

組織としてのバイアスグラップラーという事実がある。

弱者は生きるためには。

あらゆる手段を採らなければならないのだ。

クラッドは幸い、テッドブロイラーに信頼される機会を得た。

そして今、スカンクスの目付役として、重要拠点に足を運んだ。

通称グラップルタワー。

地上39階、高さ200メートルにも達するこの建物は。

大破壊の前から残る、数少ない破壊を免れた巨大建造物である。

大破壊の前には、これ以上の高さを持つ建物など珍しくもなかったそうだが。

今では整備も出来ず。

電気は通っているが。

それ以上でも以下でもない。

エレベーターは動いているし。

電気もつく。

多少は家電も使用できる。

それだけだ。

最上階の広い部屋では、スカンクスがずっと二本ある右腕の、下の方に生えている親指の爪をかみ続けていた。

前は癇癪を起こしては部下を殺していたらしいスカンクスだが。

テッドブロイラーに灸を据えられてからは、それも控えるようになった。

そしてその代わり。

ストレスが凄まじい勢いで溜まっているようだ。

グラップルタワーの入り口には、挑戦者は上がってこいとか書かれている。そして実際、何人かのハンターが来て、スカンクスに殺された。

部下を殺すなとは言われたが。

敵を殺すなとは言われていない。

それでわずかながらストレスは発散できてはいるようだが。

スカンクスの血走った目を見る限り。

とても根本的な解決に至っているようには思えない。

考え込んでいるクラッドに。

グラップラーの一人が、話しかけてきた。

「人間狩りの準備、整いました」

「戦力は?」

「ゴリラ1機、軽戦車3機と、輸送用のコンテナです。 狙いは此処から北西にある小さな村です。 人員は百名ほどです。 三十名ほどの収穫が見込めるかと思われます」

「……」

確かこの間。

サイゴンが倒されたと聞いている。

スカンクスに挑んできたハンターは、どいつもこいつも身の程知らずだったが。

もしもサイゴンを倒したハンターが、あの検問を突破した部隊だとすれば。

「少し待て。 スカンクス様に話をする」

「おやめになった方が」

「いや、問題ない」

クラッドがテッドブロイラーの部下だと言う事を、スカンクスは知っている。つまり何かしようものなら、焼き殺されることも理解している。

スカンクスの前に跪く。

戦闘力は兎も角。

その巨体は、テッドブロイラー以上だ。

滑稽な玉座に落ち着き無く座り、貧乏揺すりをしているスカンクスは、不愉快そうにクラッドを見る。

「何だ!」

「人間狩りの部隊編成ですが、もう少し戦力を増やした方がよろしいのでは」

「キキーッ! 俺の考えたことに、けちをつけるつもりか!」

「少し前にサイゴンが倒されています。 もしも検問を突破したハンターだとすると、数十人の武装兵士を倒し、二機のクルマを倒せる実力があることになります。 不意を打たれると面倒かと」

文字通り、玉座から跳び上がるスカンクス。

顔を真っ赤にして、猛り狂っていた。

何か喚き散らしていたが、殆ど聞き取れない。

元がニホンザルだという話は聞いているが。

知能はあまり高く出来なかったようだ。

「更に、人間狩りを行う村が、追加でハンターを雇う可能性もあります。 もう少し戦力を増やすべきかと」

「黙れ黙れ! おいお前、すぐに人間狩りに行ってこい!」

「……はい」

スカンクスの部下の一人が、無言で従う。

かなりの数の脱走者を出した後。

残った兵士達の士気も低い。

まあ、人間狩りの際には、暴行略奪何でも許される。それが楽しみと言えば楽しみなのだろう。

此奴らは、そもそもがならず者なのだ。

とはいっても、クラッドもそれは同じか。

バイアスグラップラーに所属している以上。

ああだこうだと口にする権利は、無いかも知れない。

出て行く部下に、忠告をしておく。

「さっきも言ったとおりだ。 サイゴンを倒した奴が奇襲を仕掛けてきたら、かなり面倒な事になる。 くれぐれも気を付けろ」

「そうですね。 時にお前、どうやって出世したんですか」

「此処を使ったんだよ」

「そうですかそうですか」

頭を指さすが、クラッドの言葉は、そいつにはあまり届いたようには見えなかった。

まあバイアスグラップラーの主力である重戦車ゴリラに、更に軽戦車三機。それに兵士五十人。油断するのも仕方が無いかも知れない。

そして、予感は的中した。

ほぼ1日後。

ゴリラが撃破され。

軽戦車三機も潰され。

なおかつ、四半減した兵士達が、命からがら逃げ帰ってきた。

小さな村に、そんな戦力があるとは思えない。

つまり。

最悪の予想が的中したのだ。

生き延びた中には、例のスカンクスの部下もいた。

命からがら、という様子だったが。丁寧に話を聞くと。やはり不意打ちを食らったようだった。

「相手にはウルフがいた! 相当な手練れのハンターだ!」

「ウルフか……」

この世界で、ウルフはハンターにとってのあこがれの戦車。多くの著名ハンターが乗りこなしてきた傑作機だ。

ゴリラでは少し分が悪かったか。

話を聞いていくと、敵はウルフに加えて、軽車両が二機は最低でもいたという。とにかく、村に向かう途中の崖で、いきなり前後に岩を落とされ。それによって最後尾の軽戦車が潰れ。

身動きを取れなくなった所に、ウルフが坂になっている場所から狙い澄ました一撃を叩き込んできたそうだ。

しかも恐らくは200ミリ砲。

ウルフに標準装備され、大破壊直前には主流となっていた大口径主砲だ。

ゴリラの中にも装備しているものがあるけれど。

最悪な事に、上を取られて、打ち抜かれた。戦車の弱点を、もろにぬかれたのだ。

ゴリラはそれで沈黙。

更に軽車両二機にも、主砲が容赦なく叩き込まれ、後は迫撃砲かハンドキャノンか分からないが、抵抗も録に出来ない状態になった所に鴨撃ち同然に狙撃され。止めに、コンテナの下の地面が爆破され。

コンテナに隠れようとした兵士達が皆殺しにされたそうである。

まあその状況で逃げてこられただけでも強運か。

クルマを捨てて、岩を乗り越えて、必死に逃げたのだろう。

いやまて。

壊滅させたと判断して、敢えて逃がしたのか。

スカンクスは報告を聞くと案の定激怒。

巨大なコンバットナイフを引き抜いて、何か喚き散らしたが。テッドブロイラーの名をクラッドが出すと、真っ青になって黙り込む。

癇癪を起こして、部下を殺したら。

次は俺がお前を殺す。

テッドブロイラーはそうスカンクスに告げた。

そしてスカンクスはニホンザルだ。

如何に強くなっても、野生の動物である以上、相手の実力には敏感だ。此処で癇癪を起こして、生き残りを皆殺しにしたりしたら。

何をされるか、すぐに理解出来たのだろう。

それに、だ。

「人間狩りに、失敗した……」

スカンクスが呻き。

そして頭をかきむしった。血が出るほど激しく。ベレー帽が破れて、床に落ちた。

完全に硬直している。

この失態。

テッドブロイラーが知ったら、何をされるか分からないだろう。

「い、今どれだけの戦車を出せる!」

「ゴリラが17機、軽戦車が50機。 兵士は500名ほど。 ただし全部出すと、周辺の拠点から全ての守りが無くなりますが」

「それはまずい! せ、攻めるにはどれくらいが出せる!」

「ゴリラ5機、軽戦車15機と言う所でしょう。 兵士は200名というところでしょうか」

クラッドが答えると。

じっと黙り込むスカンクス。

必死に計算しているのだ。

兵を出し惜しめば、また不意打ちを食らう。

そして負ける。

しかし、兵を出し過ぎると。

今度は薄くなった拠点を叩かれる。

それくらいの知恵は働くのだ。

敵はウルフを有しているほどのハンター。

しかも、やり口から考えて、検問を突破したハンターの可能性が高い。そうなると、既に此方の動向を見ていると判断していいだろう。

下手をすると、守りが薄くなった所を、このタワーに仕掛けてくるかも知れない。

ウルフ持ちのハンターが、総力戦を挑んできた場合。

スカンクスで倒せるか。

生半可なクルマなら勝てるだろう。実際生身でそれだけの戦闘力をスカンクスは有している。

だが、検問を突破したハンターについては、噂がある。

最近サイゴンを仕留めたハンターと同一人物かも知れない。凄まじい戦いをするハンターで、サイゴンにも果敢に肉弾戦を挑み、戦車砲が飛び交う中撃滅するという捨て身のような戦い方をしたそうである。

長くは生きられないだろう。

そう評していた者もいたそうだが。

クラッドはそう楽観的に考えられない。

もしもそいつが、冷静に頭を使いつつ、命をまったく惜しんでいないのだとすると。

非常に危ないかも知れない。

しかし人間狩りに失敗したのも事実。

テッドブロイラーは言っていた。

人間狩りの成果を出せと。

「近くで、人間狩りが出来そうな街は、他にあるか」

「大きな街はどこも対策をしているので、今多数を集めるのは無理でしょう。 エルニニョにしても、それほどの大人数を差し出すことは出来ないはずです。 近場で、まだ手を出していない小規模な街を狙うしかありません」

「だったら、俺が直接……」

「その隙に此処を攻撃されたらどうします。 指揮系統がズタズタにされますよ。 特に通信装置を破壊されると、各地の拠点との連絡が取れなくなります」

スカンクスはまた頭をかきむしる。

凄まじい再生力で治っていくが。

それでも痛々しい程に血がしぶいていた。

完全にパニックを起こしている。

所詮は元猿か。

これは、クラッドも危ないかも知れない。早めに此処を離れる方が良い。そう判断した。

忠義なんかでは無い。

そもそも、保身のためにバイアスグラップラーにいるのだ。問題は、どうやってテッドブロイラーに言い訳するか、だが。

一つ思いつく。

「出来るだけの大人数で、人間狩りをさせましょう。 恐らく敵は、その様子を見て、何かしらの行動を起こすはずです。 人間狩り部隊に食いついてきた場合は、そのまま反撃させます。 此方の拠点に仕掛けてきた場合は、人間狩り部隊を反転させ、包囲して倒しましょう」

「……それでどうにかなりそうか」

「今度は私が人間狩り部隊に同道します」

「……分かった」

スカンクスは青ざめている。

それに計算したはずだ。

クラッドが死ねば、テッドブロイラーの目付役がいなくなると。少しは動きやすくなる筈だと。

バカが。

どれだけ強くなっても、所詮は猿。

クラッドは腕っ節にはまったく自信が無い。

だが生き残るためには、幾つか策を思いつくことも出来る。

こんな時代。

こんな世界なのだ。

どれだけ汚い手を使っても、生き延びた方が勝ち。

実際問題、ハンター達は自分の村に何もしてくれなかった。賞金首の賞金額を聞いただけで逃げてしまった。

皆殺しから生き延びたのは。

自分だけだった。

どんな手を使ってでも、生き残らなければならない。それを思い知らされたクラッドは。どのような手を使ってでも、生き残るつもりでいた。

 

1、撒き餌釣り

 

双眼鏡で、バイアスグラップラーの機甲部隊が駐屯しているグラップルタワーを監視していると。

カレンが来た。

バギーで出来るだけ急いで、である。

私が座り込んでいたウルフの砲台から降りると。

カレンは告げてくる。

「敵が動き始めたよ。 多分出せるだけの戦力を人間狩りに投入するつもりだろうね」

「概ね予想通りだな」

兵力を出し惜しみした結果、手痛い損害を受ける事になった。

そうなれば、次は兵力を出し惜しみしない。

それだけのことだ。

そして、此方は。

既に動きを読んでいる。

敵は近場にある四ヶ所ほどの拠点から、まずグラップルタワーに向けて、守備部隊を残したクルマを出し始めたが。

その途中の一カ所で、地雷を使って敵のクルマを潰す。

更にもう一カ所で速攻を仕掛け、集結をしようとしている敵の部隊を殲滅する。

かなり忙しくなるが。

それでも、真正面から、推定二十機以上のクルマを出してくる相手とやりあうより、楽な筈だ。

まず最初。

双眼鏡で、敵が動き出した所を確認。

用意しておいた爆薬は大げさすぎるほどだが。

サイゴンの賞金から、かなりを割いて購入した代物だ。強力な対戦車地雷に仕上げてある。

更に遠隔起爆も出来る。

移動を開始したゴリラが、もろにそれを踏み。

爆裂。

混乱する敵の部隊に、ウルフの主砲を叩き込んでやる。装甲車とバギーからも、猛射を浴びせ。

クルマだけを狙い、軽戦車を行動不能にすると。

後は私が迫撃砲を叩き込み、敵を動けないようにしてから、第二地点に向かう。

第二地点を見ると、軽戦車三機だけだ。これならば、真っ正面からたたきつぶせる。だが、今度は敵の反応が早い。

此方を先に発見し、ATMを放ってきた。

ミサイルをパトリオットで迎撃。

だが軽戦車三機が、それぞれATMを搭載している。文字通り連射してくるミサイルは、かなりの数だ。

ウルフに直撃。

かなり揺れるが、タイルはまだまだもつ。

サイゴンから鹵獲した主砲で応戦。

一機目を撃破。かなりの距離から、タイルを全損させ、更にシャーシにも大ダメージ。こんなのを搭載した相手と近接戦をやっていたと思うと冷や汗が出る。更に、後ろからバギーと装甲車が支援。

パトリオットでの対空は、其方へ飛んでいくATMを優先させる。

ウルフは、ちょっとやそっとじゃ壊れないからだ。

更に距離を詰め、二機目をぶち抜く。

敵が不利を悟って逃げ出す中、三機目の軽戦車は下がりつつ、ATMを乱射してくる。これは何かあると見て良いだろう。

「セメント弾」

Cユニットに指示。

自動装填。

アーチストの得意分野は爆薬。

その中には、特殊な砲弾を造る事も含まれる。

徹甲弾や榴弾などもそうだが。

セメント弾もそれに含まれる。

文字通り速乾性のセメントをぶち込むことで、敵の動きを止める弾頭だ。火力は期待出来ないが。

速射。

相手の無限軌道に直撃。

しばしもがくように動いていた軽戦車は、すぐに動きを鈍らせる。

其処に、装甲車の150ミリが直撃。

タイルを全損したところに、間髪入れずバギーの120ミリと、装甲車のバルカンが容赦なくとどめを刺した。

さて、と。

此処からだ。

「機影! ゴリラ3!」

「防御拠点から増援を呼んだな」

此処は敵の防御拠点から近い。今の軽戦車は、少しでも時間を稼ごうとしていたのだろう。

更にゴリラが増える。

包囲する構えだ。

恐らくは、人狩りに出す部隊を反転させ。更に近場の防御拠点からも、兵を出すつもりだったのだろう。

だが、此方も想定している。

最初にゴリラが出てきた敵の拠点が。

いきなり火を噴き、大爆発した。

火薬庫辺りに主砲が直撃したのだろう。

人間の残骸が、バラバラになって飛び散るのが、此処からも見えた。

「一点突破する!」

ウルフから顔を出して、ハンドサインを出すと、そのまま後方に全力でバック。迫ってくるゴリラの主砲が何度か飛んでくるが、ウルフの装甲で弾きつつ、反撃。

ちなみに今のは。

アズサのバイアスグラップラーに抵抗している戦力に声を掛けて、指定のタイミングで攻撃をして貰った。

積極攻勢に出ることは出来なくても。

敵基地の不意を突くことくらいはできる。

しかも今動いてくれたのは、アズサのエースの一人。ウルフを使っているハンターの一人だ。

ヘタを打つような事もないだろう。

更に200ミリ砲を速射。

追いすがってきたゴリラの無限軌道を粉砕。

敵が陣形を崩したところに火力を集中。

サイゴンの主砲が、止まったゴリラを迂回しようとわずかに横腹を晒したゴリラの側面装甲を直撃、タイルを全損させていた。

息を合わせて、バギーと装甲車から火力投射。

タイルが消し飛んだゴリラも、元の装甲では支えきれない。

砲塔が吹っ飛ぶのが此処からも見えた。

流石に二の足を踏む敵。

包囲が乱れる。

そのまま、包囲を抜けつつ。混乱して突出してくる敵の軽戦車を更に三機屠ると、一旦距離を取った。

 

集結の途中で攻撃を仕掛けてきて、かなりの戦力を削いでくる。

やはりと思ったが。

敵は恐らく、検問を突破したハンターに間違いないだろう。

それも、最近サイゴンやアダムアントを倒したという噂のある奴と同一人物だとすると、相当に厄介だ。

しかも防御拠点の一つが潰され。

火薬庫が爆破され。

備蓄物資の相当量が失われている。

クラッドは、どうにか集結した戦力を見たが。

ゴリラが4機、軽戦車11機と、最初の想定よりかなり減っている。しかも、防御拠点の一つにいたゴリラが1機と、軽戦車7機が潰されている状況だ。更に軽戦車1機は、かなりのダメージを受けていて、出来れば引き返させたい。

敵はウルフを使っていた。

何度かゴリラの主砲やATMが直撃したが、分厚いタイルに阻まれて、致命傷を与えるには至っていないと報告も受けている。元々出力が段違いのエンジンを搭載できるウルフである。

それだけ守りを固めることも出来るのだ。

スカンクスが通信を入れてくる。

「どういうことだ! 基地が一つ潰されたとかいうじゃないか!」

「敵は恐らく、何らかの反バイアスグラップラー組織と手を組んでいると見て良いでしょうね。 基地への攻撃は、恐らくそれらによるものかと思います」

「キキーッ!」

「喚いても状況は改善しません。 兎に角充分な戦力は整いました。 これより予定通り、人間狩りに向かいます」

スカンクスは癇癪を起こしているようだが。

これも想定済みだ。

クラッドとしても、敵が恐らく集結途中を叩きに来ることは想定していた。それに、この辺りには、バイアスグラップラーに抵抗する勢力が幾つかあるとも聞いている。その中には、かなりの腕利きのハンターを複数有しているものもあるとか。

それならば、そいつらと例の奴が手を組んでいれば。

この被害は、最初からあり得たのかも知れない。

スカンクスとの通信を切ると。

テッドブロイラーに連絡を入れる。

「クラッドか、どうした」

「良くない情報です。 スカンクス様の機甲部隊にかなりの被害が出ています。 基地も一つ潰されました」

「ほう……」

「以前検問を守っていた部隊が全滅する事件がありましたが、手口などから考えて、同じ人間の仕業かと」

わずかな沈黙。

テッドブロイラーは、今本拠の南門、通称不滅ゲートにて、守りを固めている。というのも、今バイアスグラップラーの本拠に、軍艦ザウルスの上位種、軍艦キングと呼ばれる巨大な賞金首モンスターに加え、ノアに乗っ取られた六機の移動要塞級の大型戦車が向かっている、と言う報告があったからだ。勿論、大量の雑魚モンスターも従えている。数も知れないほどに。

バイアスグラップラーとしても、本拠に温存している戦力の全てをつぎ込んで、これを迎撃するつもりだろう。

ノアとしても。

バイアスグラップラーが大きくなってきた事を、見過ごせなくなってきた、という事である。

勿論テッドブロイラーがいる限り、バイアスグラップラーが勝つだろう。

だがそれでも。

今テッドブロイラーは。

本拠を離れられない。

「今、人間が不足している。 人間狩りを優先しろ。 スカンクスは最悪死んでもかまわん」

「グラップルタワーが陥落するかも知れませんが」

「その場合は、新しい幹部を送り込むだけだ。 今此方に向かっているノアの手下どもを処分したら、俺が其方に向かう。 小うるさい蠅がいるようなら、叩き潰してやるだけの事だ」

「それならば、こういう案はどうでしょうか」

スカンクスを見捨てるのなら。

もういっそ、一旦この辺りの防御拠点は全て捨てる。

全機甲戦力は、一旦ブルフロッグがいる海上拠点に海輸し。

残りの部隊で人間狩りをしてから、スカンクスを残してこの部隊もブルフロッグの拠点に撤退する。

それを提案すると。

テッドブロイラーは、少し考え込んだ。

「案を修正しろ。 最悪スカンクスは死んでも構わないが、拠点を全て放棄すると、再奪取が面倒だ」

「それならば、グラップルタワーのみの戦力を残し、それ以外の機甲戦力は撤収、でどうでしょうか」

「……いいだろう」

「それでは、私は集結した部隊で人間狩りに向かいます」

これでいい。

クラッドとしては、被害を最小限に減らせればいい。

スカンクスなんてどうなろうと知った事か。

むしろ保身のためには邪魔なだけだ。

すぐに各拠点に指示を出し、撤退を開始させる。相手がウルフを有している例のハンターだとすると、恐らくは相当面倒な事になる。各地の小規模基地は、正面からカチコミを掛けられて、各個撃破される事になりかねない。

スカンクス自身が負けるかどうかは分からない。

アレは相応に強い。

実際戦う所を見たが、生半可なハンターでは手も足も出ないだろう。

だが頭は猿以上人間以下という所だ。

斥候を多めに出して、道中を確認させる。

また不意打ちを食らうのは面白くない。

多少大回りでも、致命的な攻撃を受ける地点は避ける。

そうして、じっくりと進んでいく。

クラッドは失敗しない。

失敗したとしても。

それはスカンクスに押しつける。

全てを利用し、生き残る。

それがクラッドの生き方だ。

 

私は双眼鏡を覗き込んでいたが、舌打ちする。

人間狩り部隊の隊長が、かなりの手練れである事は良く分かった。集結前にもう少し叩ければ良かったのだが、ウルフの補修を済ませている間に、敵が複雑な動きを始めて。それを見極めるために、此方も色々とやらなければならなかったのだ。

いずれにしても、人間狩り部隊を潰すのは厳しい。

生半可な戦力ではないし、如何にウルフが此方にいても、敵のあれはいわゆる数の暴力だ。

押し切られるだろう。

そうなると、手は一つしか無い。

ウルフをアクセルに任せる。

敵は幸い、安全策をとって、かなりの大回りで目的と思われるフダの街に向かっている。私はバイクで単騎、其方へ急ぐ。

街は潰されても、再建すればいい。

人間狩りによって、若い労働力が奪われることだけは、避けなければならないのだ。

一足早く飛び込んだ私は、街の長老に告げる。

「バイアスグラップラーの人狩り部隊が迫っている。 クルマ20機近い大軍だ」

「クルマ20機!?」

流石に跳び上がった長老。もう腰が曲がった老人で、落ち着いた雰囲気だが、それでも心臓が飛び出すほど驚いたのだろう。

私もハンターである事を告げるが。しかしながら、専守防衛では厳しい事も告げる。

街には自衛用の野砲があるが。

そんなものではとてもとても。

此方にはウルフを含むクルマ四機。まあその内一機は機銃で武装しただけのバイクだが。いずれにしても、マドの街と大して規模も変わらない此処では、防ぐのは不可能だ。

「し、しかしどうすれば」

「一旦街を放棄するしか無い」

「! しかしそれでは」

「街の地形を利用して、敵の戦力を消耗させる。 その間、何処かに隠れていて欲しい」

マドの街で。

マリアは命を賭けて、敵を迎撃した。

その結果、敵はさらなる戦力を繰り出してきた。

此処で敵を撃退しても。

いずれテッドブロイラーが来る。

まだ奴とは戦えない。

やりあっても死ぬだけだ。

それでは本懐を果たせない。バイアスグラップラーを叩き潰すためにも、まだ私は死ねないのだ。

トレーダーに声を掛ける。

ありったけの火薬を購入。手持ちの火薬もまだ残っているが、これで充分に足りた。

しばしして、アクセル達が追いついてきた。

その時には、街の避難は始まっていた。

アズサの手練れに協力して貰いたいが、それも流石に厳しいだろう。今回大々的に動くと、やはりテッドブロイラーが来る可能性が高い。アズサがテッドブロイラーに攻撃を受けたら、流石に非常に厳しい状況になる。アズサの手練れ達でも、流石にあの化け物には勝てないだろう。

動いているのは、私と。

散発的な小規模組織。

そう思わせる方が今はいい。

すぐにフダの街から、住民の避難を開始させる。

敵の姿は、後数時間もすれば見えるはずだ。

それからでは遅い。

アクセルにはアクセルで、作業をさせる。

街から少し離れた場所に、野砲を牽引。

モンスターからの自衛用の武器だが。

これにトレーダーから購入したCユニットを取り付ける。

山の中だ。

三門の野砲は、簡単には発見できない。

そして、街の中に、急いで爆薬を仕掛けて廻る。殺傷するのは、軽戦車では無くて、随行歩兵である。

敵が、来る。

敵はフダの街の近くで布陣すると、斥候達が街に入ってくる。

随分と慎重なことだ。

だが、それでいい。

私は街の外れに陣取ると、其処から鴨撃ち開始。

完全に間合いに入った相手に、対物ライフルで狙撃を開始する。慌てて逃げ出す斥候だが。

その背中は敢えて撃たない。

抵抗勢力がいる。

そう思わせるのが重要なのだ。

どっと本隊が入り込んでくる。

そこで、バイクに跨がると。

さっと街を離れ。

起爆ボタンを押す。

フダの街が、文字通り吹っ飛んだのは、その瞬間だった。

背後にあった街が、綺麗さっぱり消え去る。

入り込んできていた敵の歩兵も、みんなミンチより酷い状態になって消し飛んだ。二三十人は殺せたか。

そのまま山に入り込み、敵の出方を窺う。

いずれにしても、だ。

これでは人狩りどころでは無い。

敵の機甲部隊は、愕然としている様子だ。

まさか街ごと自爆するとは思ってもいなかったのだろう。

これでも追ってくるようなら、山に隠した野砲で迎撃。

更に山に引きずり込んで、ゲリラ戦で敵を削り取ってやるつもりだったのだが。敵は、この有様を見ると、後退を開始した。

「奴ら、引き揚げて行くぞ」

「……」

私は、アクセルの声を聞き流しながら。

双眼鏡で様子を見る。

ゴリラから上半身を出して指揮をしている奴がいる。

あれが今回、敵を動かしていた奴だろう。

今なら、狙撃できるか。

いや、止めておく。

今回は、此方が進退窮まって、全員で自決した、と思わせることが重要なのだ。敵に人狩りを諦めさせるには、それしかない。

街の住民達は。

燃えさかる自分の故郷を見て、涙を流していたが。

それでも、全滅するよりはましだっただろう。

「街を再建する時は、位置をずらしてくれ。 奴らに発見される可能性がある」

「……いや、そんな資金はないよ」

「そうか」

ならば、手は一つしか無いか。

移住だ。

「現在、再建を進めているマドという街がある。 其処になら、移住できるかも知れない」

「マドと言えば、此処からかなり南だろう。 そんなところまで、行けるのか」

「移動用のコンテナは此方で手配する。 護衛も我々が」

「……他に手は無さそうだの」

長老は、大きく嘆息した。

アクセルにウルフでバザースカにひとっ走りしてもらう。

少し距離は遠くなるが。

山中を通って、マドへ向かう。強行軍になるが、今の時点で賞金首と出くわす可能性はない。

というのも、少し前にマリアと同じ経路を通り。途中のめぼしいモンスターは、マリアがみんな片付けたからである。マドの街で、マリアが死ぬ前の事だ。

あれから時間も経っていない。

いきなり賞金首が居座っていることもないだろう。

数時間後。

コンテナ二機を連れて、アクセルが戻ってくる。

その時には、村の者達も、荷物やなんやかやをまとめていた。

当座の生活資金としては、私が手持ちの金を出す。

何よりマドは人手不足だ。

人員が増えれば、向こうも喜ぶだろう。

コンテナに分乗して貰い、更にせっかくの野砲も牽引して、そのままマドに向かう。敵に被害は出したし、人狩りも阻止した。

街はそのまま消し飛んでしまったが。

それで多くの人間を救えたのなら。

それはそれで構わない。

今の時代。

人間が生き抜くことが、何よりも大事なのだから。

 

2、巨怪血戦

 

バイアスグラップラー本拠。

バイアスシティ。

古くにヴラドコングロマリットの本社があった場所であり。今ではメガフロートを利用した鉄壁の要塞である。

南部には不滅ゲートと呼ばれる強力な防御施設があり。

其処の警備主任であるゲオルグは、狂信的なまでの忠誠をヴラド博士に誓っている。なお、テッドブロイラーと並ぶ古参で。

バイアスグラップラーの幹部としては、四天王に並ぶ地位を与えられている特別待遇の存在だ。

何でも話によると、人間だった頃にヴラド博士に難病を治して貰った経験があるとか言う事で。

それ以降、忠誠を誓っているのだそうだ。

大破壊前の事である。

もはや、その当時の人間は誰も生きていない。

生きているのは、人間を止めてしまった者達。

テッドブロイラーやゲオルグ。

そしてヴラド博士。

ノアによる大破壊は、世界に致命的な爪痕を残したが。

それは何も言葉通りの意味だけでは無い。

人間の心というものも。

徹底的に破壊したのだ。

なお、ゲオルグはこのならず者ばかりの組織の中では珍しく極めて良識的な男で、人間狩りには常に反対している。

神のように崇拝しているヴラド博士に対しても、直言を惜しまない。

それでいながら、この重要拠点を任されているという事は。

ヴラド博士が、それだけゲオルグを信用している、という事である。

だが、人間狩りに対しては、ゲオルグと意見が一致することが無く。

それについては、いつも議論が白熱している様子だ。

不思議とゲオルグは、対照的な性格のテッドブロイラーとも仲が悪くない。

人間狩りに反対しながらも。

しかし、バイアスグラップラーのため。いやヴラド博士のために全力を尽くしている。その姿勢は、テッドブロイラーと同じ。

そこが、何処か共感を招くのだろう。

使えない部下は容赦なく粛正するテッドブロイラーだが。

ゲオルグに関しては、今まで鉄壁の守りを不滅ゲートに敷いてきた事もあり。一度もノアの手先を通したことが無いという実績もある。

体が機械になってしまっても、揺るがない忠義心と、直言を怖れない勇気。ゲオルグに、テッドブロイラーは敬意を払っていた。

ゲオルグも、ヴラド博士への忠義という点では絶対揺るがないテッドブロイラーに対して、同じく敬意を払っているようである。

ゆえに友情が成立するのだろう。

ただし、時々口論にもなる。

流石にテッドブロイラーほどの戦闘力はないものの、バージョンアップを重ねているゲオルグの戦闘力は高く、スカンクスなどの比では無い。

殴り合いになる事もあるが。

簡単に壊れないので、テッドブロイラーもその時は純粋に楽しめる。

ゲオルグは、古い時代の鎧武者のような姿をしているが。

その両目は赤い光を放っており。

そして、テッドブロイラーに対して、常に正確な報告をしてくる。

「敵の大部隊は、不滅ゲートの射程範囲内にそろそろ入ります」

「入り次第攻撃を開始しろ」

「テッドブロイラー殿は」

「俺はあの真ん中にいるデカイ奴を潰してくる」

軍艦ザウルスは今や世界中にいる。ノアが大量生産したのか、それとも気に入ったのか。繁殖しているのか。

どちらにしても、サイゴンと同じくらいメジャーな賞金首モンスターだ。

だが流石に上位種は滅多に見られない。

今回姿を見せた軍艦キングは、話によると世界でも数匹しかいないとかで。撃ち倒せば大きくノアの勢力を後退させられるだろう。

ただし、そのサイズは全長二百メートルを超える軍艦ザウルスよりも、更に二回りも大きい。

搭載している主砲にしても、大破壊全後で最強を誇った220ミリを更に超える300ミリクラスである。

流石に動きは緩慢だが、当然のように対空迎撃装備も積んでいて。

テッドブロイラーでも簡単には近づけないだろう。

敵が、不滅ゲートと。

その周辺に展開している野砲。

更に、ゴリラの部隊の射程距離に入る。

敵は軍艦キングと、六機の移動要塞級戦車に加え、無数の雑魚。今まで、バイアスシティに仕掛けてきた戦力としては、最大級のものだ。

だが、それでも。このゲートは不滅。

バイアスグラップラーもまた、不滅なのだ。

ましてや、今回はゲオルグが守るだけでは無い。

テッドブロイラーも来ているのだ。

「攻撃開始!」

ゲオルグが吼える。

命令は単純極まりなく。

そして、作戦も既に細かく伝達されていた。

同時に、全砲門が一斉に火力投射を開始。敵の先頭部分が蒸発。同時に、敵も反撃を開始。

移動要塞級の敵戦車が、主砲をぶっ放し。

ゴリラがオモチャのように吹っ飛ぶ。

その一方で、不滅ゲートに搭載されている超大型野砲も黙っていない。敵の移動要塞級に直撃弾。

流石に弾が巨大すぎて、レーザーでもパトリオットでも落とせない。

爆裂し、揺動する敵の移動要塞級。

其処に火力が集中し、見る間に破砕されていく。

敵の小型戦車が対空迎撃を掛けてくるが、そんなものでは間に合わない。

間もなく、移動要塞級がスクラップになる。

腕利きのハンターが、重戦車四機がかりでどうにか、という相手がこの短時間で木っ端みじんである。

此処の防御の凄まじさが、よく分かろうというものだ。

爆発でキノコ雲が上がると。

それを踏みしだくようにして、軍艦キングが前に出てきた。

敵との火力応酬は苛烈。

不滅ゲートは分厚く巨大な門だが。

其処にも次々と直撃弾。門が揺れるが、流石にゲオルグはまったく動じていない。歴戦を重ねているだけのことはある。

ゲートの上にテッドブロイラーが出る。

淡々と指揮を続けていたゲオルグが、聞いてきた。

「出られるのですか」

「ああ。 レーザーだけはどうにもならないからな。 デカイのを潰したら、一度戻ってくる」

「分かりました。 ご武運を」

「ああ」

軽く敬礼をかわすと。

背中のボンベを吹かし、跳躍。

一気に高度1200メートルまで上がると。

其処から獲物を狙う隼のように、テッドブロイラーは軍艦キングへと躍りかかった。その間、ゲオルグは敵の随伴戦力、移動要塞に攻撃を集中。

突撃してくる雑魚はゴリラの砲列に処理を任せ。

不滅ゲートの巨大砲は、大物への火力投射に集中し始めていた。

軍艦キングが、躍りかかってくるテッドブロイラーを見ると。

300ミリ三連装砲を此方に向ける。

此奴はこの化け物のような兵器を、体の前半に二門、後半に一門つけているのだ。

発射される弾丸は、正確極まりなく飛んでくるが。

テッドブロイラーは避けない。

「がががががーっ!」

絶叫と同時に、拳を繰り出す。

そして、砲弾を、真正面から粉砕した。

爆炎の中から躍り出ると、そのまま突入。軍艦キングの、いわゆる草食の雷竜に似た頭に、拳を叩き込んでいた。

悲鳴を上げながら、その巨体が揺らぐが。

流石に賞金額ではテッドブロイラーに近い怪物。

踏みとどまると、三連装砲を連射してくる。

亜音速で飛行し避けながら、テッドブロイラーはモヒカンを外し、投擲。

弾丸の一つを貫通したスラッガーは、敵の装甲を抉り取りながら火花を散らし、きちんと手元に戻ってくる。

更に目からレーザーを放ち、その傷を更に抉る。

赤熱する敵の甲板。

喚きながら、小型の迎撃装置を起動する軍艦キング。

無数の機銃弾が降りかかってくるが。

残像を作って避けながら、更にスラッガーを投擲。同じ場所を、激しく、容赦なく抉り取る。

次の瞬間。尻尾が。

あまりにも長大で巨大な軍艦キングの尻尾が。

テッドブロイラーを直撃していた。

流石にコレはどうにもならない。

元々雷竜の尻尾は、大型肉食竜を退けるほどの破壊力があったという研究もあった。音速近い速度が出ていたという研究もあるそうだ。それをこのサイズでやるのである。

吹っ飛んだテッドブロイラーは、地面に激突し、クレーターを作る。

更に踏みつぶしに来る軍艦キング。

だが、空振り。

即座にその場を逃れたテッドブロイラーが。

むしろ上昇しながらテッドブロイラーは、戻ってきたスラッガーを掴み。それを手に、敵の足を滅茶苦茶に斬りながら敵の頭上に躍り出て。先ほど三度にわたって穿った傷に、目から最大出力のレーザーを叩き込む。

赤熱し、大きな傷が出来ていた場所が。

ついに抉れ、吹っ飛ぶ。

突撃。

まずいと判断したのだろう。

軍艦キングは巨体を緩慢に動かしながら、背中のハッチを開ける。

其処から、大量の艦載機。

正確には、無数の飛行型モンスターが出てくる。

いずれも、翼に大量の爆弾を抱えた、鳥形のモンスターである。爆弾は小型とは言え、それでも巡航ミサイル並の火力がある。

以前、あれの大軍が、不滅ゲートを襲撃してきたことがあるのだ。

そうか、此奴が母艦で、内部で育てていたのか。

「焼き払ってくれるわ! がががーっ!」

ボンベから火を噴き、一気に目の前を深紅に染め上げる。

瞬時に爆弾に引火。

大爆発が巻き起こる。

テッドブロイラーも巻き込まれるが、それこそどうでもいい。

悲鳴を上げる軍艦キングの体内に突入すると。

テッドブロイラーは、全火力を其処で解放した。

そして、内部を滅茶苦茶に破壊しながら、スラッガーで爆発する敵の横腹をぶち抜き、外に出る。

白目を剥いた軍艦キングが。

全身から炎を噴き出しながら。

横倒しに倒れていくのが見えた。

「ふん……そこそこに手応えはあったな」

周囲の雑魚が群がってくる。

仲にはレーザーを放ってくるものもいる。

レーザーの弾幕ばかりは流石にどうにもならない。スラッガーを投擲し、目立つのを叩き潰すと、一度ゲートにまで戻る。

ゲオルグは流石で。

既に移動要塞級の三機までを葬っていた。

「味方の被害は」

「ゴリラ13機、軽戦車31機が撃破されました」

「ふむ」

ゲオルグは不用意に言葉を飾らない。

被害としてはかなり大きいが。

敵は既に主力を失っている。

それでも突撃を続けてくるのは、ノアの命令があるから。それに、奴らは死など怖れていないのである。

体は回復が始まっている。

流石に軍艦キングと真正面からやりあったのだ。

このくらいのダメージは仕方が無いか。

「もう少し部下どもの被害を減らしておくか。 また出る」

「それならば、あの敵を。 此方では他を集中攻撃します」

「分かった」

ゲオルグが指したのは、最左翼にいる移動要塞級。丁度面倒くさい場所に陣取られ、不滅ゲートへの攻撃を続けていると言う。

ゴリラへの損害も、そいつによる打撃が無視出来ない。

ミサイルとレーザー、砲弾が飛び交う中。

ガスを補給したテッドブロイラーは、また戦場に出る。

再び上空に躍り上がった後、移動要塞級に躍りかかる。

移動要塞級は、マルドゥーク型だ。

各地に出没が報告されている超重戦車で、横に長いロンメル型に対して、縦に長い構造をしている。

つまり車高が高い訳だが。

非常に充実した迎撃兵器類で、その弱点をカバー。

むしろ車高の高さを利用した迎撃角度の広さで、広範囲を制圧することを目的としている兵器である。

マルドゥーク型は、突入してくるテッドブロイラーを見ると、膨大な弾幕で迎撃してきた。主砲も副砲もミサイルも、全てフル稼働して迎え撃ってくる。テッドブロイラーは、その全てを拳のラッシュで粉砕して強引に突破。

至近に躍り出ると。

まずは敵のレーダーを、スラッガーで一刀両断。

後はレーザーを真上からぶち込み、融解した所に灼熱を叩き込む。

こうなると、マルドゥーク型でもどうにもならない。

拉げた装甲に、更にスラッガーを叩き込み。

内部構造が露出したところに。

とどめの炎を叩き込むと。

マルドゥーク型は、随伴のモンスター達もろとも、キノコ雲になった。

キノコ雲から姿を見せたテッドブロイラーに対して、恐れを知らぬはずのモンスター達が、流石に退こうとするが。

逃がすか。

スラッガーを投擲して、片っ端から首を刎ね。

炎を放って、周囲を獄炎の野に変える。

笑い。

雄叫びを上げ。

単独で敵左翼を蹂躙し。

だが敵の反撃も激しく浴びた。

不滅ゲートに戻ってきたときには。

既に戦いは決着がついていた。

残敵の掃討は、ゴリラの部隊で充分だろう。不滅ゲートの方は、既に自動の修復システムが稼働を開始。

受けたダメージを回復し始めている。

物資についても、地下には巨大な備蓄工場と兵器生産工場がある。

戦車を即座に新しく大量生産することは出来ないが。

装甲や砲弾くらいなら幾らでも作れる。

ゲオルグは、流石に激しく傷ついたテッドブロイラーを見て、不安の声を上げる。

「流石にあの重量級を二体続けて相手にすると、貴方でもそうなりますか」

「俺は最強だが無敵では無いからな」

「それはそうでしょう。 貴方もどれだけ強くなったとは言え、どうしてもまだ生きているのですから」

「そうだな……」

一度回復槽に戻る事にする。

今回は流石に相応のダメージを受けた。

バイアスシティの守備隊も、それなりの打撃を受けている。

いずれにしても、しばらくは此処でテッドブロイラーが敵の再攻勢に備えなければならないだろう。

だが、軍艦キングほどの大物を繰り出してきたのだ。

ノアも其処までの戦力を有してはいない。

流石にこれほどの規模での攻撃を、もう二度三度とは繰り返せまい。

培養槽で、受けたダメージを回復し。

その間に装備の修復をさせる。

そして、無理矢理に眠った。

 

テッド先生。

子供達の明るい声。

物憂げな青年だった頃のテッドブロイラーは。今のような巨体など持ち合わせておらず。容姿も全く違っていた。

医者は仁術と言うが。

その一方で、厳しい現実に晒される仕事でもある。

辛い目にも何度もあった。

特に大破壊の後。

あの決定的な事件が起きて。

テッドブロイラーは破壊者になった。

それでも、どうしてだろう。

捨てたものの声が、時々聞こえる。

失ったものの残り香が、周囲にある気がする。

目が覚めて。

培養槽から起きだす。

装備は既に直っていた。

体も。

時間を見ると、二週間ほど経過している。

さっそく不滅ゲートに出向く。起こされなかったということは。ノアの軍勢の再侵攻はなかったのだろう。

ゲオルグが、部下からの情報を多数同時に聞いている。

機械の処理速度だから出来る事だ。

テッドブロイラーにも気付いていた。

「起きられましたか」

「ああ……」

「いつも寝起きは機嫌が悪いですね」

「そうだな」

何かあったか聞く。

少し考え込んだ後、ゲオルグが言う。

「スカンクスが苦戦しているようです」

「あの猿が。 最初から何も期待していないが、また失態をおかしたか」

「麾下に立て続けに大きな被害を出している様子です。 人狩りも失敗したようですね」

「何だと」

人狩り部隊にはクラッドが同行していたはず。

クラッドについては、連絡が取れた。

そして、その報告を聞いて。

テッドブロイラーは、思わず声を上げていた。

「街ごと自爆しただと……!」

「信じがたい事ですが。 今の時代、生き延びようとあがくのが普通です。 それが、もう逃げられないと悟ったのでしょうか。 トレーダーから購入しただろう爆薬で、街もろとも粉々に」

「……そうか。 では仕方が無い。 他に人間狩りが出来そうな場所は」

「近辺には、既に勢力下に無い村や町は存在していません。 遠征の距離が長くなると、敵が腕利きのハンターを集める可能性も高くなります。 反撃による被害も大きくなる可能性も……」

舌打ち。

テッドブロイラーは当面バイアスシティから動けない。

今、味方の斥候が、敵の進軍経路を調べて、ノアの居場所を割り出そうとしている所だ。

ノアを相手にするには、テッドブロイラー以外では無理だろう。

流石に今回ほどの規模の敵が押し寄せることはそうそうないだろうが。

それでも敵の動きは看過できない。

「一度戻ってこい。 スカンクスには専守防衛だけを命じろ」

「大命を果たせず、申し訳ございません」

「街ごと自爆したというのなら仕方が無い。 支配地域から少し厳しめに搾り取るしかないだろう。 後、ブルフロッグの研究所から、あまったのを此方に回させる」

クラッドを戻させると。

テッドブロイラーは、ヴラド博士に報告に行く。

とはいっても、通信機を使っての報告だが。

話を聞くと。

ヴラド博士は、ふむと言った。

「どうもきな臭いな」

「と申されますと」

「そなたが言うとおり、この時代の人間は生にしがみつくものだ。 どのような状況であってもな。 追い詰められて集団での自決をはかるというのは、何とも前時代的に思えてならん」

「部下を信用するわけではありませんが、クラッドは成果を上げようとする男です。 保身に必死になっているだけではありますが、いい加減な報告はしてこないでしょう」

それについては、ヴラド博士も分かっている、と答えた。

その上で、言う。

「何かしらの知恵者が相手側にいて、それが知恵を出したのかも知れん」

「知恵とは」

「例えば、自爆したように見せかけて、別の場所。 我が支配地域外に逃れた、とかな」

「!」

それは想定していなかった。

だとすると、その知恵者は何者か。

一瞬だけ、あの時。

検問を潰した奴と目があった。

彼奴では無いかと思ったが、それはそれでできすぎか。

「いずれにしても、人間狩りには失敗しましたが、供給については行えるように手配します」

「それについては朗報がある」

「ほう。 お聞かせ願いたく」

「ホロビの森に君臨しているマダムマッスルという輩について聞き覚えはあるか」

聞いた事がある。

スカンクスと同等程度の賞金が掛かっている猛者だ。

半分人間を止めている戦闘力を持ち。

周辺にて人間狩りの真似事をしているそうである。

そして配下の者達は。

まるで姉妹か何かのように、皆同じ姿をしているのだとか。

「カリョストロが交渉の結果、奴を麾下に加える事に成功した。 奴は米軍が開発していた最新鋭のクローン技術を有している。 コレを使えば、人間狩りの頻度を減らすことが出来るだろう」

「朗報ですな」

「そうだ。 後は無駄に兵力を消耗しないよう、細胞の供給と遺伝子プールの蓄積を続けていけばいい」

約束の日は近い。

そう博士はいい。

テッドブロイラーも、笑みを浮かべた。

「ノアめに鉄槌を下す日もまた近くなりますな」

「ああ。 不肖の息子に鉄槌を下すときは。 そなたに頼むぞ、テッドブロイラー。 そなたなら、万が一にもしくじるまい」

「分かっております」

礼をすると、その場を退出する。

さて、大きな損害は受けたが、ノアの主力部隊は撃破。

人間狩りは失敗したが。

若い細胞の確保には成功。

スカンクスの失態はもう仕方が無い。あれについては、最初からあまり期待していない。単純に抑止力として割り切っている。

不滅ゲートに戻る。

ゲオルグと、今後について相談しておかなければならないし。

場合によっては、ノアの居場所が見つかるかも知れない。

そうなれば。

出向く必要がある。

この体は。

戦いと血を。

求め続けていた。

 

3、逃避行

 

アズサの西は、山岳部になっているが。道が厳しい反面、大型の賞金首モンスターが出づらいという利点がある。

空から襲ってくるタイプの奴はどうしようもないが。

それ以外はどうにかなる。

コンテナを守りながら、進む。

最前衛のウルフはアクセルに任せ。

その後ろにコンテナ二機。

続いて私がバイクで。

更に後方に、フロレンスに任せた装甲車と。ケンに任せたバギーが続く。

コンテナには野砲も載せている。

コレはマドにそのまま据え付けるつもりだ。

モンスターに対する防御力が、格段に上昇するだろう。マドはエルニニョにも近い。今回の件で、スカンクスの戦力は大体把握できた。

上手く立ち回れば、スカンクスを殺す事は出来るはずだ。

麾下の機甲師団さえどうにか出来れば、スカンクスに肉薄できる。

或いは、スカンクスと大まじめに戦う必要はないかも知れない。

奴のいる塔を。

そのまま破壊する方法を、何かしらの手段で考えてもいいのだ。

コンテナがあるから、あまり素早くは進めない。だが、この辺りは、バイアスグラップラーの勢力範囲外という利点もあるし、トレーダーも通らない。隠密行動には最適なのだ。

峠に出たので、一旦此処で停止。

一晩を明かすことにする。

日中だと、流石にコンボイが移動するのは目立つ。

ハトバ辺りから丸見えである。

夜を待って、移動する。

それまで、しばし待つ事にする。

コンテナ二機に分乗した百名ほどの様子を見る。モンスターの襲撃は何度かあったが、いずれも退けている。

ウルフの戦闘力は流石で。

多少タイルをやられてはいるが、基本的に雑魚なら寄せ付けない。

ただ、疲弊している住民が目立つ。

人間狩りは免れた。

だが、それでも。

街が滅びたことに、代わりは無いのだ。

家を失った。

住む場所も。

マドは今、再建途上。

このくらいの人数を受け入れる余地はあるし、何より今の時代、私に言わせれば人間は出来るだけ集まって暮らした方が良い。

野砲三門もあるし。

マドの長老も、喜ぶ筈だ。

どちらにしても、今の時代は。

土地は有り余っている。

問題は食糧だが。

それについても、近場にはモンスターもたくさんでる。マドには、作物を育てている施設もあり、それも復旧している。

恐らくは、支えきれるだろう。

ただ、難があるとすれば手持ちの食糧である。

途中でトラブルがあると、面倒な事になるかも知れない。

更に言えば。

出来れば途中で人間とは接触したくない。

フダの街が、自爆したのでは無く、逃げた。

それが人づてにバイアスグラップラーに伝わると、色々面倒だろう。今の時点で、だ。時間が経てば、伝わるのは仕方が無い。

だがその時には。

私がスカンクスを殺し。

この近辺からバイアスグラップラーの勢力を消している。

長老に話を聞きに行く。

「まだ時間は掛かるのかね、ハンターさん」

「レナだ」

「そうか、レナさん。 後どれくらい時間が掛かるのかい」

「上手く行けば二日。 ただモンスターの襲撃などがある場合、被害が出ないように戦うので、四日を見込んでほしい。 いずれにしてもあなた方は守りきる」

頼みますと、懇願される。

頷くと、ケンの様子も見に行く。

バギーを任せているケンは、Cユニットの補助があるとは言え、かなり危なっかしい。戦いの際も、少し遅れて、敵に先手を取られることがままあった。

だがそれは仕方が無い事だ。

実戦は積んでいけばその内実になる。

それまでは、どれだけ理論を知っていても、所詮は机上論。

実戦で生かせるようになるには。

時間が掛かるのだ。

ケンは不安なのか、ポチによりそってじっとしている。ポチはこの少年が明らかに経験不足なのを知っているのだろう。弟分か何かと思っているようで、よりそっている間もじっと動かない。

情が深いということだ。

イヌにも色々性格がある。

カレンが戻ってきた。

近くを偵察して来たのだ。

「少し先にモンスターがいる。 軽戦車だ。 明らかにハンターは乗っていない。 数は一機」

「面倒だな。 移動前に潰しておくか」

「ウルフで行くか」

カレンとポチ、私で行く。

そう告げると、敵の方へ。

確かに、茂みの中に。

明らかに様子がおかしい軽戦車がいる。

人間が乗っているのなら、そういう動きはしない。

ノアに乗っ取られている戦車だというのは、一目で分かった。

茂みに紛れて接近。

だが、先手を取ってきたのは敵だ。

いきなり機銃で掃射してくる。

すぐにその場を離れ、ポチが野戦砲をぶち込む。タイルをかなり削るが、装甲を貫通するには至らず。

二手に分かれたカレンと私が、突撃。

敵は主砲をバイクに乗った私に、機銃をカレンに向けてくる。

だが、その隙に。

間近に接近したポチが、今野戦砲をぶち込んだ位置に、ゼロ距離からの射撃を叩き込んでいた。

大きく揺らぐ軽戦車。

其処へカレンが、鉄板をもへし折る掌打を。

私が反対側から、対物ライフルを叩き込む。

ダメージがタイルの許容量を超えた軽戦車が爆裂。

内部を調べて見るが。

やはり白骨化した人間の残骸があった。

大破壊の際に乗っ取られ。

そのまま、内部で餓死したのだろう。

気の毒な話だ。

死骸を引っ張り出し、遺品を取り出すと、アクセルを呼ぶ。使えそうなものはあるかと聞くが。

首を横に振られた。

「この主砲は80ミリだ。 正直二線級だな。 機銃も9ミリ。 これだと、マドに持っていって、自衛に使うしか使い路が無いな」

「シャーシは」

「まあ正直ありふれた軽戦車だが、牽引して行くか。 アズサに持っていけば、喜んで貰えるかもな」

ウルフで軽戦車の残骸を牽引し。

そしてコンテナに載せる。

丁度夜が来ていた。

コンボイで移動を開始。

モンスターとの戦いはその後も散発的に続いた。

なお、峠を越えるとき。

賞金首モンスター、千手沙華の姿が見えた。

サイゴンと同格の賞金首だが、とにかく凄まじい巨大さだ。ビルほどもある。

あれとやりあうにはまだ少し力が足りないな。

装備も。

私は、冷静に、それだけを判断していた。

 

翌日の朝から、雨が降り始めた。

今の世界、雨は猛毒である。

コンテナは耐酸コーティングをしているが、雨が吹き込まないように注意。内部の人達にも、注意を促した。

「コンテナにはコーティングをしているが、雨漏りには気を付けろ。 レンタル品だから品質に保証は出来ない」

「ああ、分かったよ。 それよりあんた達は」

「速度を落としながら移動する」

私はコートを被ると。

少し前にバザースカで買ったゴーグルをつける。ポチにもイヌ用のコートを。カレンも、である。

これは外で戦う可能性がある組には必須だからだ。

速度を落として、敵の奇襲を警戒しながら進む。

ノアのモンスター達も分かっているようで。

こういう天候の時には動きが活発になる。

案の定、酸の雨に紛れて、昨日とは比較にならない頻度でモンスターが襲撃してくる。

前方はウルフになれてきたアクセルが即応してくれるからいい。

問題は最後尾だ。

どうしてもケンは不慣れで。

まだまだ敵に先手を許す場面が目立った。

フロレンスが補助するので、まだ大きなダメージは受けていないが。

戦闘の度にタイルを剥がされ。

その度に、予備に積んでいるタイルを張り直す。ケンは足手まといになっている事を敏感に察知しているのか。悔しそうだった。

私がタイルを貼っているケンの側で、傘を差す。

「ありがとうございます」

「気にするな。 私もマリアに連れられて最初のモンスター狩りにでたときには、もっと活躍できなかった」

「本当?」

「ああ。 生き抜いて力をつけろ」

ケンは少しだけ気が楽になったのか。

てきぱきとタイルを貼る。

これだけは凄く手際がいい。或いは、アクセル同様メカニックに向いているのかも知れない。

昨日の半分どころか。

4分の1程度の速度で進む。

荒野に出た。

彼方此方にぬかるみが出来ていて、モンスターもちらほら視認できる。近づいてくる奴は、片っ端から鴨撃ちしていくが。

それでも、やはり銃声が敵を引き寄せるのだろう。

モンスターは、かなりの数が襲ってくる。

そして、ノアのモンスターは怯まない。

動物の姿をしていても。

脳を弄っているからだ。

恐怖など感じないのである。

山脈を背に、コンテナを守るようにウルフと装甲車とバギーを展開。更に私がバイクで遊撃。カレンとポチが近づいた敵を処理するが。

それでも、かなりの頻度でモンスターが姿を見せる。

夕方近くになり、雨が止むと。

辺りは死体の山になる。

フロレンスが出て、換金できそうなモンスターをばらし。或いは肉を捌いて行くけれど。それを横目に、アクセルが言う。

「まずい。 弾薬がもたない」

「マドまであと1日半というところだ。 強行軍で突破するか」

「それしかない。 今までの苛烈な戦いで、多分モンスターも此処に人間がいる事に気付いている。 クルマが一機でもやられると、更に勢いを増して来るんじゃないか」

「そうだな。 賞金首クラスが姿を見せる可能性もある」

ぞっとしない話だ。

幸い、この辺りは、人間がまず通らない。

モンスターが多いのは仕方が無い。

ただ、激しい雨だけは想定外だった。

だが、常に最悪を想定しろ。

それはマリアの言葉だ。

弾薬も多めに用意はしてきた。

だが、トレーダーから爆薬をかなり購入したことで、手持ちの弾薬が不足していた事実は否めない。

財布はそれほど余裕があるわけではないのだ。

コンテナにて縮こまっている長老に声を掛ける。

「これから強行軍で、無理矢理マドまで突破する。 かなり揺れるので、覚悟はして欲しい」

「大丈夫なのかね」

「我々の命に替えてもあなた方を守る」

それだけ言うと、私は皆を集めて、強行突破を告げる。

そして、以降は。

脇目もふらず。

まっすぐ、マドへと進撃を開始した。

案の定と言うべきか。

血の臭いを嗅ぎつけたのだろう。

小物のモンスターが、わらわらと集まってくる。当然、その多くが追いすがって来る。

前方は突破のためウルフ。後方は、バギーと装甲車を並べて、バック走させ、追いすがって来るモンスターを機銃で蹴散らす。

勿論側面からも来る。

私はバイクの機銃でそれを蹴散らし。

更に対物ライフルをぶっ放して、敵を吹っ飛ばす。

反対側の側面はカレンに任せる。

だが群れてくる雑魚は多い。

最悪な事に。

雨まで降り始めた。

昨日ほどの大雨では無いが、どうしても体力を奪われる。山を一気に駆け上がる。バイクの操作をCユニットに任せつつ、対物ライフルで狙撃を続けるが。どうしても、手がかじかんでくる。

細かいぶれが。

どうしても敵への狙撃失敗につながる。

後方で、装甲車が手間取っている。

かなり大きいのに食いつかれたのだ。対物ライフルで支援するが、一撃目を外した。舌打ちすると、もう一度しっかり狙いをつけて、二撃目。

今度は命中、即殺。

次の弾を込めようとして、もうない事に気付く。

ハンドキャノンに切り替えるが。

こっちも弾数はもう残り少ないはずだ。

ウルフが峠を越える。というか、戻ってきた。

この峠の向こうはマドの西。比較的モンスターも少ない地域で、人間もかなりいる。

ウルフが最前衛を外れて、後衛に廻ったのである。

代わりにバギーを前衛に行かせる。こちらは先導兼護衛だ。

一瞬不安そうにしたケンだが、ハンドサインをもう一度受けると、頷いて進む。今は猫の手でも借りたい。そして、今はケンがそれだ。私は装甲車とウルフとバイクを並べると、敵をつるべ打ちにする。

追いすがって来る敵が減ってくる。

流石に敵の物量にも限界が来たか。

だが、その瞬間。

私が、バイクから吹っ飛ばされた。

直撃弾だ。

チョッキの上からも、かなりの衝撃が来た。

立ち上がる。

今までの体力消耗がひどいこともあって。

今のはかなり効いた。

何度か咳き込む。

内臓までダメージは行っていない。血は出なかった。

だが、体の芯が痺れるようだ。

躍りかかってきた大きなイヌ。

戦闘犬は何も人間だけの味方では無い。

脳改造され、ノアの手下になったものや。

完全に野生化し、下手なモンスターよりもタチが悪い野獣に成り下がったものもいる。

背中に機関銃を背負っているから、ノアの手下だろう。

その強靱な牙が私の喉に届こうとした瞬間。

私は、マリア譲りの剣を抜き打ちしていた。

イヌの首がすっ飛ぶ。

呼吸を整えながら、立ち上がる。

今のでフードが外れ、酸の雨がもろに顔に掛かっている。緩慢にフードを直すと、私は更に跳びかかってきたイヌを、真正面から唐竹に斬り下げた。

普通、イヌの反応速度は人間を上回るが。

私はマリアに鍛え抜かれてきた。

アーチストはどちらかといえば、役割としては中衛から後衛になるのだが。

私はマリアによって、近接戦闘も仕込まれてきた。

頭が朦朧としてくる。

更に直撃弾。

吹っ飛ばされる。

他のメンバーも、もう気力が限界近い様子だ。

立ち上がり、咳き込み。

そして、殆ど本能的に。

迫ってきていた大型の鹿の喉を、刺し貫いていた。

体高二メートル近くあり、口に重火砲を仕込まれている鹿は。いわゆるヘラジカの仲間だったのを改造したのだろう。

急所を貫かれ、動きが止まった所に。

更に立ち上がった私が、剣で切り伏せる。

ずり落ちる鹿の首。

大量の鮮血が噴き出す中。

私は立ち尽くす。

目に炎を燃やして。

こんなところで。

死ねるか。

アクセルが叫んでいるのが聞こえる。

「おい、もう限界だ!」

「まだよ! あれを放置出来ない!」

フロレンスの声。

迫ってくるのは、丸い、もの凄く素早い何か。

一つ目で、人間を嘲笑うような笑み。そして漫画のような凄まじい動きで、二本の足で走り回っている。

それがジグザグに、此方に来る。

カミカゼボム。

人間を殺すためだけに。

全力で突入してくる。

ノアの作り出した殺戮兵器。

こんな奴、この辺りに出没したのか。

だが、そもそもこの辺りは。マリアと一緒に通ったときも、近辺では場違いなモンスターが多数出た。

リスクとしては、少し高すぎた。

失敗したな。

フロレンスが投げ渡してくる。

機関銃だ。

かなり重い。

ミニガンと言う奴である。

以前鹵獲した武器を、何かのためにとっておいたのだ。

昔の人間では携行できるような武器では無かったが。今の時代はそれも違う。剣では、流石にあの素早いカミカゼボムの相手は厳しい。

「全弾ぶち込め!」

「おうよっ!」

一匹でも通せば。

多分コンテナに直撃する。

数十人単位で死者が出るだろう。

それが数十匹。

バカにしきった笑顔で、此方に突進してくる。一匹でも、通すわけにはいかないのだ。

絶対に、此処で仕留めきる。

カレンが飛び出す。

私は、出来るだけカレンに当たらないように祈りながら、ミニガンをぶっ放した。

途中、次々とカミカゼボムが爆裂する。

衝撃で簡単に爆裂するのだ。

カレンの蹴りが見事に決まり。

他の奴にブチ刺さったカミカゼボムが爆裂。

爆裂するまで、わずかに差があるのか。

カレンは知っていたのだろう。

だが、それでも。

まともな神経では出来ない戦い方だ。

雄叫びを上げると。

更に乱射。

乱射。

手元が狂いそうになる。

だがカレンの背中だけは撃てない。

雨が降りしきる中。

爆裂が、連鎖し続けた。

 

どれくらい時間が経っただろう。

もう殆ど意識が無い。

手足の感覚もない。

マドの街へと、ほとんど力なく歩いて。進む。

耐酸コーティングした戦車とは言え、限界がある。全員がずたずたに傷つき。バイクは牽引。

そして私は、戦車に乗ろうという発想が起きず。

無心に、荒野を歩いていた。

マドの前で、膝が折れ掛けるが、剣を杖に何とか立て直す。

意識は殆ど無く。

マドにきちんとコンテナが逃げ込んだこと。

介抱の準備をしていることを見届けると。

全員の無事を確認。

とはいっても、カミカゼボム相手に近接戦を挑んだのだ。

カレンは全身に手酷く傷を受けていた。

今アズサにドクターミンチが移っていることもあって、医師は体力を温存していたフロレンスと、マドに元からいたあまり腕の良くない医者しかいない。

また、イリットの所に世話になる。

カレンも今回は一緒だが。

手当を受けていると。

イリットが、様子を見に来た。

フロレンスに言われて、肉かゆを作ってきたという。

そういえば。

いつの間にか、意識を失っていた。

このような状況では仕方が無い。

手当を受けている間に、意識を失ってしまっていたらしかった。

こんな事をしていれば。

寿命を縮める。

それは分かっている。

だが、もとよりヒトとしての生は捨てる覚悟。

何より生半可な覚悟では。

奴は。

テッドブロイラーは倒せない。

黙々と、美味しいとはいえない肉かゆを啜っていると。

イリットが状況を話してくれた。

「コンテナで逃れてきた人達は皆無事です。 これからはマドの立て直しを一緒にやっていく予定です」

「そうか、それは何よりだ」

「……英雄ですね、貴方は」

「まだまだ。 マリアは……」

ふと気付く。

イリットの目が、哀しみに満ちている事を。

なるほど。

英雄という言葉を、肯定的には使っていないと言うことか。

それはそうかも知れない。

このような生き方。

まともとはとてもいえない。

イリットは言う。

「此処で、用心棒として暮らすと言うことはできませんか? 私の家族になって、ずっと此処を守るという選択肢はありませんか」

「すまないが、それはない」

「復讐のためですか」

「そうだ」

言葉を誤魔化すつもりは無い。

確かにバイアスグラップラーを許しておく訳にはいかない、という理由もある。だが私に取って一番大事なのは。

復讐。

両親を殺し。

育ての親を焼き殺した。

あのテッドブロイラー。

そしてその所属するバイアスグラップラー。

その二つは。

絶対に許しておかない。

イリットは、それ以上何も言わなかった。

私がどれだけの凄まじい怒りを、全身に満たしているか、悟ったからだろう。無為な言葉は、これ以上は届かない。

フロレンスが代わりに来る。

彼女も逃避行で相当消耗していたはずだが。

それでも、何とか私やカレンよりはマシだ。

二日は絶対安静。

そう言われると、眠るように指示される。

参ったな。

出来るだけスカンクスの配下を叩きたいのに。

これでは。

機会を逸してしまう。

もっと、もっと力がいる。

重戦車も、人でも。

更に欲しい。

素直に、私はそう思う。

だがそれには、勝ち続けなければならない。更に私が、最低でも全盛期のマリア並に強くなり。

そして更にその上に行くために。

レベルメタフィンを手に入れなければならなかった。

 

4、猛攻

 

怪我が癒えてから。

かなり人数が増えたマドを後にする。

マドの長老によると、人員は充分養えるそうだ。元々マドは元に比べて、かなり人間もすり減らされていた。

新しく来た人々を受け入れる余裕はある。

土地も余っている。

更にコンテナに積んで来た野砲は有り難いと、長老は言っていた、

これならば、手練れを雇わなくても、多少のモンスターが相手であれば、自衛が可能だからだ。

だが、人数が増えすぎれば。

またバイアスグラップラーが来る。

つまり、いつまでも。

安寧は貪っていられない、という事だ。

まずはスカンクスを潰す。

アズサに直行。

そのままケンには、バギーでコンテナを返しに行って貰う。こういうお使い事も、きちんとした仕事の一つだ。

レンタルするクルマの中には、自走して勝手に戻っていくようなCユニットを積んでいるものもあるが。

この手のコンテナには、そんな高等なものは積まれていない。

念のためにポチもついていくのを見送ると。

私はアズサで療養していたミシカの様子を見に行く。

予定よりも時間が掛かった事もあり。

ミシカは既に充分な状態に自分を仕上げていた。

「待ちくたびれたよ。 あのけったくそわるい人間狩りから、街一つを守ったんだって?」

「正確には街の人間を、だ。 街は敵ごと爆破した」

「過激だねえ」

「それくらいしないと撃退出来なかった」

ミシカは、カウボーイハットを被って。少し古い時代の。そう西部劇時代のような格好をしている。

こういう古めかしい格好をする戦士は多い。

フェイはもういい大人だったけれど。

ミシカはどちらかというと、少しばかり幼さを感じる。

背は高い。

かなりの美人だ。

だが、オツムが子供、という事なのだろう。

まず凄腕と言って良いフェイに仕込まれて、射撃から格闘までこなせる。ソルジャーとしていっぱしに働いてみせる。

そういうミシカに、顎をしゃくって。

少し組み手をする。

アズサの広場で。

少し距離をとって向かい合うと。

私はいきなり、剣に手を掛けたまま突進。

そして剣を抜くと見せかけて、至近で後ろ回し蹴りを見舞った。

ミシカは体勢を低くすると、首を刈り取るように跳んだ蹴りをかわしきる。

カウボーイハットはふっとんだが。

頭には直撃はしていない。

更に、銃を引き抜いて、速射しようとするが。

今度は私が跳躍し。

ミシカを飛び越して、低空からタックルを浴びせる。

体格ではミシカの方が大きいが、体勢を崩していたところへの弾丸のようなタックルだ。だが、ぐらつきながらも、ミシカは私に冷静に銃を向けてきて。

私も、ぴたりとミシカの喉に、引き抜いた剣を当てていた。

「まあいいだろう」

「前衛職並みに戦えるみたいだね、あんた」

「まあな」

剣を鞘に収める。

ミシカも銃をホルダーに戻した。

持っている武器を見せてもらう。

44口径のマグナム銃。

それに幾つかの大型携行火器。

「対クルマ用の武器は」

「使い捨てのRPGや手榴弾があるが」

「それじゃあ力不足だな」

「何だよ。 前衛職にクルマとやりあえっていうのか」

不満を口にするミシカ。

だが、私は迷いなく頷いたので。ミシカは黙り込む。

私が使っている対物ライフルと、超大型拳銃。ハンドキャノンを見せると、唖然としていた。

「こんなバケモノみたいな武器で、何とやり合うんだ」

「バケモノとだ」

「……本当かよ」

「スカンクスは人間だったか?」

黙り込むミシカ。

この辺りも、やはり何というか。

子供だ。

私も肉体年齢的には、まだ子供という部類に入るはずだが。

そんな甘い考えを持ったまま生きられる環境にいなかった。

ミシカはフェイに甘やかされていたのだろう。

ひょっとすると、戦闘訓練は受けてはいたものの。

センスだけで戦っていて。

経験はそれほど積んでいなかったのかも知れない。

「まあいい。 バイアスグラップラーとやりあうというなら、共闘したい。 構わないだろうか」

「ああ。 アタシは是非頼みたい。 彼奴らと一人でやりあうのは……悔しいが無理みたいだ」

「そうだろうな。 私も、彼奴らと一人でやり合うつもりはない」

握手をする。

これで一通りの役割は揃ったか。

だが、もっと人数が欲しい。

戦闘犬は何匹いてもたりないし。戦車の専門家もほしい。メカニックでは無く、操作して戦う方だ。

ケンは地道に力を伸ばしているが、まだまだ危なくて前線には出せない。

フロレンスは一番堅牢なウルフに常駐して貰って。装甲車の操作は、他の誰かにやってもらいたい所なのだ。

バイクももう一機欲しい。

ソルジャーとしての訓練を受けているミシカは、バイクを使いこなすのに丁度いいポジションだが。

私もバイクで敵とガチンコをするのが性にあっている。

まあ、バイクはクルマとしては比較的手に入れやすい部類に入る。

このまま戦っていけば、その内手に入れる機会はあるだろう。

しばらくは私がウルフを操作し、アクセルを補佐。

装甲車はフロレンスに。

バギーはケンに任せる。

装甲車には、近接戦闘要員としてカレンとポチに常駐して貰い。バイクでミシカがこれに随行する。

このスタイルで行く。

説明を終えると。

不満の声は出なかった。

「それで、これからどうするんだ」

「スカンクスの保有戦力は分かった。 これから奴らの前線基地を片っ端から襲撃して、クルマを破壊して廻る。 出来れば鹵獲もしたい」

「おおっ! 一暴れ出来るんだな」

「戦略的に見て、敵は相当焦っているはずだ。 人間狩りに主力部隊を出して失敗した直後だ。 人事の更迭や、混乱を起こしていてもおかしくない。 其処を突く」

ミシカが、真顔になったので。

フロレンスが分かり易く解説する。

それでようやく分かったらしく。

ミシカがうんうんと頷いていた。

カレンが呆れている。

こういう所では、頭が悪いと生き残るのは難しくなる。本当にセンスだけで戦っていたのだなと、私は少し本気で呆れた。

それはスカンクスに殺され掛ける訳だ。

何も考えていないのだから。

「スカンクスがどうして挑戦を受け付けていたと思う」

「強いって自信があるからだろう? 実際彼奴、生半可なクルマじゃ歯が立たないくらい強かったぜ」

「それもあるだろうが、色々な情報を総合する限り、スカンクスはメンタル面に大きな欠陥を抱えている。 部下を癇癪で殺して、それで部下が大規模な脱走を起こすくらいにな」

今回の人間狩りでも。

大げさすぎるほどの戦力を出してきている。

そのくせ、スカンクス本人は本拠地から出てきていない。

これはどういうことか。

早い話。

スカンクスというバケモノは。

精神と肉体がつりあっていないのだ。

気が弱いのである。

或いは小さいと言うべきだろうか。

「締め上げていけば、かならず暴発する。 其処を叩き潰す」

「……あんた、色々考えているんだな」

「まあな」

ミシカは、感心している。素直に、何度も嬉しそうに。

どうやら、戦略や戦術について、考えたことも無かったらしい。

だが、別にそれでも構わない。

戦士は強ければそれが正義だ。

ましてやミシカのようなソルジャーになってくると、手綱さえ引いておけば、後は最前線で大暴れだけすればいい。

考えるのは、私がやればいいだけ。

それだけだ。

すぐに仕掛ける。

アズサから出立すると、一番近いバイアスグラップラーの拠点に出向く。それから、他の拠点も観察して廻る。

兵力がかなり目減りしている。

この間のフダの街で、突入部隊がまとめてミンチになったのは、全員が知っているのだろう。

コレはその後。

更に何か事件があったとみて良いだろう。

好都合だ。

敵の拠点位置を確認した後、一番守りが薄い場所へ強襲を仕掛ける。

ウルフを先頭に、夜明けに奇襲を開始。突入して、迎撃してきたゴリラを真っ先にスクラップにすると。拠点の中を荒らし回り、徹底的に爆破。

更に火薬庫に砲撃を叩き込み、撤退した。

敵はゴリラ一機、軽戦車三機を失い。死者も二十人を超えた。

そしてその中で。

私は、バイアスグラップラーの構成員を五人ほど。

カレンに言わせて捕縛させていた。

基地から離れると。

後ろ手に縛り上げたそいつらの前で、私は剣を抜く。

丁度此処はバザースカとアズサの中間くらいの地点。

既に、爆破した基地は、遠くで見えなかった。

「私は検問を突破し、サイゴンを倒したハンターだ。 それだけでお前達には分かるな」

「ひ……!」

チンピラだ。

相手が自分より恐ろしい場合。

口は非常に軽くなる。

チンピラの首元に剣を当てる。

フロレンスは、これから行われる事を察して、ミシカとケンを連れていった。

「幾つか質問がある。 本当のことを言えば助けることを考えてやる」

「……」

「人間狩りに失敗した後、何が起きたか、出来るだけ詳しく言え」

「そ、その、俺らは下っ端で、その……」

次の瞬間。

そいつの首を、私は躊躇無く刎ねていた。

鮮血が噴き出す中。

次の奴の前に、歩く。

「人間狩りに以下略」

「す、スカンクス様が、耐えきれずに暴れ出したんだ! テッドブロイラー様に殺されるって! それに、主力を率いていたクラッドとか言う奴が、テッドブロイラー様に呼び戻されて、クルマも野砲も、いろんな最新設備まで持っていって! それで、グラップルタワーの地下にある工場で、何もかも作り直さなければならなくなったんだ!」

「ほう、それで」

「毎日スカンクス様はかんかんだ! 元々癇癪で俺たちを殺すような奴だったし、テッドブロイラー様に癇癪で部下を殺したら殺すって脅されてても、いつ暴発するかまったくわからねえ! 生きた心地がしないんだよ!」

頷く。

なるほど、大体状況は掴めた。

好都合だ。

更にスカンクスを焦らせれば、致命的な暴発を引き起こす可能性が高い。

そうなれば、かなり此方に有利に事を運べるだろう。

本来なら賞金額50000の壁は厚いが。

それを敵が勝手に崩してくれる。

機械的に、残り四人にも話を聞く。

ほぼ内容は一致していた。

嘘はついていないだろう。

私は、話を聞き終えると、残りの四人も処分。

助けることを考えるとはいったが。

助けるとは一言も言っていない。

バイアスグラップラーは皆殺しだ。

「フロレンス、死体の処理を手伝ってくれ」

「分かりました。 少し無情なのでは」

「此奴らの存在そのものが悪だ。 私もその点では同じかも知れないがな」

「……」

少し悲しそうにフロレンスは眉をひそめたが。

黙々と死体の処理を始める。

私は剣を振るって血を落とすと。

どう敵を締め上げていくか、考え始めていた。

 

(続)