嘲弄の隙間

 

序、摘発

 

死体で見つかったスカイインパルスの後。予想されていた新ヒーローが、即座に出現した。

ブラックファングは、今回は報復を宣言せず。

逆に、鮮やかすぎるほどに、銀行強盗をしたブラックファングを新ヒーローが殲滅し。華麗なデビューを飾った。

今度の新ヒーローは、バイクに乗り、赤いマフラーをたなびかせてはいるが。

全体的に白銀色が目立つ色彩で。

目の部分が強調されていた。

ライダー系のデザインの究極。

そんな風に褒め称える人間もいたが。

私としては、デザインはともかく。

やっていることは、今までのエセヒーロー同様、エセ悪の組織との茶番劇に過ぎないのだし。

なんら評価は出来なかった。

ともあれ、様子を見る。

残念ながら今回は、本当に電撃的に事件が終わったこともあって、ビーコンに反応もなく。

また誘拐事件も起きなかったようだ。

博士の話によると、意外に早く汎銀河連合から調査員が来た、という事もあり。

敵が派手な動きを控えたのかも知れない。

だが、そもそもだ。

茶番劇は現在進行形で、世界中で行われている訳であって。

敵が本当に調査員を怖れ、身を隠しているかは疑問が残る。

もしもそうなら。

ヒーローも悪の組織も。

動きを止めるのではあるまいか。

私はミーティングルームで、世界中の状況を聞かされる。

アメリカのザ・アルティメットは、ホワイトハウスを占領したヴィランズを撃破。怪人(向こうではヴィランだが)数人を同時に立ち回り、派手に戦い。ホワイトハウス関係者に一人の死者も出さずに勝利を飾ったという。

中東のスレイマンは、大規模爆弾テロを計画した悪の組織、72に対して爆弾テロを未然に妨害。

なんと街中に隠されていた爆弾を全て空中に浮かび上がらせ。

爆破解体したという。

スレイマンは超能力を駆使するヒーローとして名高く。

(勿論仕組まれた茶番だろうが)何度も爆弾テロを防いでいると言う事で、現地の住民から絶大な信頼を誇る。

日本にも新しく「ホワイトライダー」が出現したが。

流石に四人目。

それも三人目のスカイインパルスが、実は単なる殺戮マシンと判明してしまった後もあり。

ホワイトライダーの商品化や。

或いはこれで金を稼ごうという動きに関しては。

かなり慎重な動きが見られるようだった。

三度ある事は四度あるのだ。

他の国でも、ヒーローは活発に悪の組織と戦っており。

それに対して、ようやくクロファルア人のものらしき調査船が出現し、現地での作業を始めているという話もある。

博士には言われる。

「今回来た調査員は、銀河系でももっとも厳格なことで知られる種族だ。 私が動く際も、現地の住民には絶対に危害を加えないようにと、念を押された」

「今までだって危害なんて加えていませんよ」

「その通りだ。 彼らほどの厳格な種族が来ることは予測していなかったが、連絡を取った私自身も驚いた。 汎銀河連合が絶対に不正が許されない調査に投入する切り札のような種族で、私のような一匹狼の特殊工作員とはものが違う。 余程、潜んでいる悪党が桁外れなのだろう」

博士の口調からして。

何だか悟りを開いた仏のようなのを想像してしまったが。

博士によると、半魚人みたいな姿をしているそうで。

かなりギャップが凄い。

そうか、厳格で自分にも他人にも厳しい半魚人か。

それはそれで面白いかも知れない。

とにかく、調査員も、日本では既に色々な方面から調査をしているらしく。

政府にも働きかけ。

あからさまに協力者が増えたという。

ただし、それらの全員を信用できるかというと、話は別。

今回の黒幕は極めて周到で邪悪だ。

地球人にも多数の協力者を確保している事はほぼ疑いなく。

それらの協力者は、相当な利益を得ているものと予想される。

金銭的利益ならまだいいのだが。

思想的な利益。

例えば気に入らない奴を消すとか。

思想的に許せない相手を殺すとか。

そういった利益の場合、特定が極めて難しい。

そして、今回の黒幕は頭が切れる。

殆どの場合、こういった思想的過激団体は、一部の切れ者と阿呆の大軍で成立している。

つまりトップさえ排除してしまえば操り放題な訳で。

それをやられていると。

非常に厄介な事になる。

カルトだからバカだろうとか。

そういう風に考えていると足下を掬われるが。

このような状況下では、モロにそれを逆利用されている、と言う訳だ。

カルトはバカの集団では無い。

サイコパスに率いられたバカの集団なのだ。

だからこそに、余計にタチが悪いし。

今回の場合、そのサイコパスの次元が違うのである。

「それで、どう調査員と連携するんですか?」

「今回来ている調査員は極めて厳格で、絶対に違法行為はしない上、汎銀河連合法を知り尽くしている。 此方もそれに合わせて連動しないといけないだろう」

「少し厄介ですね」

「だが、恐らくこれで、敵黒幕は地球から脱出できなくなる筈だ。 問題はそれを相手が予測していた、と言う事だろう」

今回の調査員達は。

地球で言う犬科の動物のように徹底的に敵を追い詰め。

そして狩るという。

ならば、歩調を合わせるのはむしろ難しいか。

「彼らの縄張りを予測して、それ以外の地点を張るというのはどうですか」

私の提案に。博士は触手で腕組みする。

調査員は有能だという。

だったら敵が避けるはずだ、という私の判断だけれども。

博士はあまり良いとは思わなかった様子だ。

「敵は恐らく、調査員が来ることを予想していた可能性が高い。 何かしらの手段で誤魔化せる自信があるとみて良い」

「そうなると、どうします」

「そうだな……」

博士は巨体をゆっくりと揺らし。

そして考え込んだ後。

協力者達の方を見た。

「其方には話は来ていないか」

「いえ。 官僚の間でも意見が割れています。 今一本化が進められていますが、その過程です。 内閣情報調査室までは、具体的な情報は降りてきていません」

「そうなると、まだ動くのは早計だな」

博士はそう言うが。

しかしながら、もたついている間に、敵は更に動いていて。

そしてさらわれた人は。

まず助からない。

博士によると、この手の犯罪には色々なパターンがあるらしいが。

まだ特定は出来ていないものの。

まず証拠になる「人体」を犯人が残している可能性はまずないという。

それはそうだろう。

そして敵は、汎銀河連合の精鋭諜報員ともやり合ってきた歴戦の犯罪者で、最悪のサイコパスだ。

そうなってくると。

此方の浅知恵程度。

あっさり見抜かれていてもおかしくは無いだろう。

「それでは、何もしないのですか」

「いや、動く事は動く。 宏美くん、恐らく君の言ったとおり、調査員はヒーローと悪の組織の戦闘をモニターしに行くはずだ。 その時、もしも犯人だったらどうすると思う」

「元々茶番は陽動ですし、本命の拉致を進める、ですか」

「そうだ。 そして茶番が働くのは、陽動から遠すぎない地点だけだ。 そうなると、犯罪が起きた近くに、出来るだけ可能な限りの速度で、ビーコンを撒くしかない」

しかしその場合。

私がどれくらいの速さで動けるか。

敵にばれるのでは無いだろうか。

それを心配したが。

博士は薄く笑った様子だった。

人間では無いので表情がよく分からないのだけれど。

そんな雰囲気だ。

「ビーコンの数を増やす」

「連携も上手く行っていないのに、大丈夫ですか?」

「まあ何とかなる。 これについては、承諾を取るつもりだ」

「……」

本当に大丈夫だろうか。

少し心配になったが、博士は平気だと念押しする。

しかしやはり心配だ。

相手は銀河系一厳格な種族だという話では無いか。

ルール外の行動を取られたら。

そういう種族は、激怒し。

そして連携が乱れるのではあるまいか。

私がその懸念を上げる前に。

協力者の一人、最年長のおじさんがそれを口にする。まあ、私でさえ思いつく程度の事だし。誰でも考えるか。

そうすると、博士は答えてくれる。

「相手は極めて厳格な種族だ。 だからこそに、事前に一度連絡を取り、此方の厳しい状況は告げるつもりだ。 それでビーコンの数を増やす件について、了承を取ろうと思っている」

「大丈夫ですか? その調査員達は信用できるとしても、何かしらの方法で探知される可能性は」

「クロファルア人達も、自分達の中に凶悪犯が混ざっていることは気付いている筈で、周囲に迂闊に口を滑らせることはないだろう。 彼らもそれほど無能な種族ではないのだから」

「……」

無能な種族、か。

博士は話してくれる。

クロファルア人は、元々地球人類と同じように、汎銀河連合によって滅亡の縁から救われた種族の一つなのだという。

その中でも力を持っている種族ではあるが。

古参と言うだけで、立場は地球人とあまり変わらないそうだ。

要するに彼らも、昔自分達が同じように愚かさから滅び掛けた事も。

自分達のルールで相手を図ることの愚かさも。

分かっている、と言う事なのだそうだ。

それが故にまずは「未開文明」に接する場合は相手にあわせるし。

相手がしっかり歩調を合わせて宇宙に出られるようになるまで、きちんと面倒も見てくれる。

逆に言うと。

そういった段階に進化した種族でも。

いわゆるサイコパス系統の犯罪者は出る、と言う事で。

知的生命体は、それだけ難しい存在、と言うことなのかも知れない。

一人が挙手する。

協力者の中で、最も若いお姉さんだ。

「調査員については、本当に全面的に信用できますか?」

「それについては断言する」

「ふむ、慎重な博士が断言ですか」

「彼らは汎銀河連合が切り札として投入するほどの厳格さを持つ種族だ。 頑固種族とか、カチカチ頭とか、地球では悪い風に取られるかも知れないが。 逆に言うと、ここ数万年、彼らが不正を犯したことは無いそうだ」

其処まで来ると、精神構造が根本的に違う種族なのだろう。

更に、彼らは自分達のパーソナルデータを常に汎銀河連合の中枢の超高度量子コンピュータに転送しており。

自分の潔癖さを見せつけ。

誇ってさえいるそうである。

要するに、厳格であり。

潔癖である事が。

彼らの誇り、と言う事だ。

「分かりました。 それでは、まずは博士に動いて貰って、それからですね」

「ああ。 可能な限り急ぐ。 君達も動く準備を進めてくれ」

ミーティングはそれで解散。

私は一旦部屋に戻ると。

トレーナーに着替え。

軽く体を動かす。

変身後、体が上手く動かなくて困ったことは一度もない。私の才覚や、持って生まれた素質が原因なのだろうけれど。

それでも部活レベルとはいえ、ラクロスをやっていた名残だろうか。

これから動くとなる場合。軽く体を動かしておかないと、少し不安になるのだ。

まあ、この程度で不安が払拭できるなら楽なものだ。

しばらく体を動かしていると。

博士が端末を操作しながら、忙しく移動しているのが見えた。

例の調査員と連絡を取っているのかも知れない。

だとすると、色々と難しい話もあるのだろう。

私は其方を見ないようにして。

ストレッチを続けた。

軽く体を動かした後。

自室に戻ろうとすると。

手にしている端末がアラームを鳴らす。

何かあったな。

私はそう思いながら。端末を起動。

立体映像が出た。

例のホワイトライダーだ。

どうやら悪の組織と交戦しているらしいのだが。

少し様子がおかしい。

見ていると、いつもと違う。

報道陣が、口から泡を飛ばしていた。

「ご覧ください! 悪の組織の拠点が、ヒーローによって攻撃されています!」

「この動画は?」

駆け寄ってきた協力者の一人が頷く。

どうやら、少し前に起きた出来事を、動画にし。独自回線で転送してくれたらしい。

見ると、もうもうと煙が上がる道路。

この地下で、激しい戦いが行われているようだった。

場所を聞くが。

此処から200キロ以上離れている。

首都圏の外れである。

今からどれだけ急いでも間に合わないだろう。

どうやら今回の茶番は。

ヒーロー「ホワイトライダー」が、悪の組織の拠点を発見。攻略する、というものらしかった。

それにしても、今まで人口密集地帯でずっと茶番をやっていたのに。

どうして急に田舎でやるつもりになったのか。

ざっと場所についてのデータを見るが。

首都圏から人口を分散する政策が始まっているとは言え。

人口20万に満たない都市だ。

東京都の人口密集地帯に比べるとスカスカで。

目立つ動きをすればすぐにばれる。

ましてや今、丁度調査員が来ているところである。敵の首魁は、余程自分の手に自信があるのだろうか。

今までの敵の動きからして、敵が阿呆だと言う事は考えられない。

何を考えている。

爆発が起きる。

逃げ出してきた怪人を、ホワイトライダーが蹴りの一発で粉砕。

上半身が半ば消し飛んだ怪人は、次の瞬間爆発、消滅していた。

この辺りはいつもと同じか。

更にもう一体。

サメ頭の怪人が電気のこぎりのような大型の武器を振り回してホワイトライダーに襲いかかるが。

一撃は掠めただけで。

返すカウンターの一撃で、サメ頭が消し飛んでいた。

怪人が爆破、消滅する。

程なく、その場には。

マフラーをたなびかせるホワイトライダーだけが残ったようだった。

マスコミが殺到しようとするのを、警察と機動隊が抑えている。

そしてそのホワイトライダーも。

モンスター級の大型バイクに跨がると、颯爽と消えていく。

格好だけは。

確かに良いのかも知れなかった。

問題は、それが全て出来レースだと言う事で。

この「悪の組織摘発」も、その一環だと言う事だが。

案の定、すぐにホワイトライダーの姿は消えたらしい。

追っていた報道ヘリも、姿をロストしたとか、悔しそうに呟いていた。

 

1、商品

 

知的生命体は全てがカスだ。

それが今回、地球で全ての悪事を計画し。ビジネスとして実施している者の思考だ。

どれだけ殺そうと。

どれだけ蹂躙しようと。

眉一つ動かさない。

だが、それは地球人類も同じだ。

昔、ハンティングが楽しいからと言う理由で、世界で最も繁栄した鳥類を皆殺しにし。

肌の色が違うから、文化が違うからと言う理由で、「原住民狩り」をオーストラリアで行い。

南米では「宗教が違うから」という理由で富の全てを強奪し、病気をまき散らして文明の全てを崩壊させた。

これは、たった一つの文明圏が行った事で。

地球上の歴史を見れば。

これの比では無い悪行が、幾らでも。

どれだけでも出てくる。

更に、これらの悪行を未だに擁護し。

自分達が蹂躙した相手を「動物」呼ばわりしたり。

自分と趣味の合わない存在に対して「人権がない」と発言し。

声ばかり大きな人間が暴力で他人を屈服させ。

カースト制度はどこの国でも実質上取り入れられ。それを歓迎さえしている。

クロファルアによる改革が始まった今でも。

これらの風習は取り除かれていない。

故に。

地球人には少なくとも自分を批判する資格は無いし。

今まで行って来たことを、そのまま返されているという自覚を持つべきではないのか。

そうとさえ考えている。

ただし、それはそれだ。

あくまでやっているのはビジネスである。

そう、昔の地球人が。

大量虐殺や、蹂躙強奪をビジネスにしていたように。

単にビジネスとしてやっているだけだ。

悪の組織の本部の一つ。

今日の会合は、米国の悪の組織とされる、ヴィランズで行う。

ヴィランズは、米国人の好みに合わせて、アメコミ調の怪人で統一された集団、とされているが。

実際はAIで好みを選出し。

彼らから見て「魅力的な悪役」になるように調整している。

どいつもこいつも実際には単なる生体ロボットで。

地球人側の支援者から見て「消えて欲しい」とされる人間を商品化するために。

「ヒーロー」と茶番劇を繰り広げるためだけの存在だ。

この間のホワイトハウス襲撃作戦でも。

此奴らは単に命令で動いただけであって。

結果として、「ヒーロー」である「ザ・アルティメット」がばったばったと敵をなぎ倒している間に。

此方としては、充分な戦果を上げる事が出来た。

「それでは、商品の試飲を行っていただきましょう」

「うむ……」

カプセルが多数並んでいるその薄暗い空間で。

並ぶ影複数。

いずれも顧客だ。

なお、商品は全て地球で加工し。

データとして輸送している。

そのデータも、特殊な秘匿回線を使っていて。

故に現時点でばれる怖れはない。

そう。

犯罪を行うには。

これくらいの慎重さが必要なのだ。

「これは素晴らしい」

顧客の一人が。

感嘆の声を上げる。

いや、恍惚の声と言うべきか。

誘拐してきた人間については。

即座に加工する。

何故、周囲に居場所がない中年から老年に掛けての人間をさらうのか。

理由は二つ。

一つは周囲の協力を取り付けられるから。

勿論表立って協力など依頼しない。

相手が大喜びして、捜査や調査に非協力的になれば良いのである。

また、カルト関係者も抱き込んでいるため。

これらを利用して、捜査を攪乱するにも都合が良い。

もう一つは。

彼らの記憶だ。

必要なのは脳みそに詰まっている記憶。

基本的に周囲から迫害されている人間は。

膨大な迫害の記憶と、孤独に没頭した趣味の記憶をため込んでいる。

これらを全てデータ化し。

邪魔な分を濾しとって。

苦悩と苦痛だけを取り出す。

そしてこれを電子ドラッグとして取得するのだ。

知的生命体には、一つの特徴がある。

「自分より下の存在」を作り出し、安心する、というものだ。

あからさまに自分より下の存在を作り出さないと、安心できないと言い換えることも出来るのだけれど。

この電子ドラッグは。

自分達よりも滑稽で。人権を認める必要さえなく(少なくとも吸う人間はそう考える事が出来る)。動物園を見に行くような感じで、愚かで哀れな有様を楽しめる相手が。もがき、苦しみ、悲惨な死を遂げていく様子を。

楽しむ事が出来るというものだ。

故に最高の多幸感を体感できる。

他人の不幸は蜜の味とか言う言葉が地球にあるそうだが。

それは宇宙共通だ。

自分より劣っている相手の、滑稽な様子を楽しむ。

それが基本的に笑いにつながり。

幸せになる。

地球でもそれを証明する例がある。

バラエティ番組、等がそうだ。

あれなどは、「愚かで滑稽な存在」を見せつける事で。

「自分より下の存在」がいると思わせ。

相手を笑わせる事に特化している。

途中からバラエティ番組が失敗したのは。

「客を笑わせる」のではなく。

テレビ局の関係者が、「自分達が客より上であることを確認する」事を始めたからであって。

猿がマウントをして地位確認をしようとしたのと同じ事をテレビで行い。

結果、テレビを見ていた人間が離れたのが理由である。

客は、「自分達より劣る低脳」が、「無能の限りを尽くす」有様を見たがっていたのであって。

「テレビ局の人間が如何に凄いか」等を見たがっていたのでは無い。

この電子ドラッグも、理屈は同じ。

飲んだ人間に対して。

無限とも言える徹底的な自己肯定を与えてくれる。

電子ドラッグの材料は、作ったときに全て溶かしたあげく、気化させてしまうが。

そんな事はそれこそどうでも良い。

金になれば良いのだ。

ビジネスとは。

そういうものである。

最初は首狩りをしていた事もあったが。

丸ごとさらった方が、事件性が無いと気付いてからは。

そうするようにしている。

いずれにしても重要なのは。

「顧客が満足」し。

「ビジネスとして成立する」事である。

現に今も。

顧客は大いに満足していた。

「いつもながら素晴らしい品質だ。 これほど惨めで愚かで哀れな生物の無駄極まりない生を体験できると、笑いが止まらない」

「その上この電子ドラッグには副作用もない。 好きな時に好きなだけ買う事も出来るし、健康被害も出ない。 むしろ吸えば吸うほど笑って健康になる事が出来るというのは本当に素晴らしいな」

「楽しんでいただけて何よりにございます」

「だが、調査員が来ていると聞く。 それは大丈夫かね」

問題ない、と即答。

当然だ。

どれだけ調査員と渡り合っていると思っている。

奴らのやり口は知り尽くしている。

更に、此方は汎銀河連合の法も全て把握している。

特に今回来た連中は、相応に仕事は出来るが。

法の範囲の外にある事は、一切出来ない硬直化した者達だ。

そんな奴らは恐るるに足りないし。

犯罪をビジネス化しているエキスパートである自分の前では、赤子も同然だ。

「彼らは法というレールの上でしか動けません。 此方はレールの外で動くだけの事です」

「しかし日本とか言う国で、計画が乱されているとか聞いているが」

「既に修正は実施済みです。 予定通りの収穫は出来ていますのでご安心を」

「そうか、ならばいい」

影達が消える。

さて、ビジネスパートナーどもは、充分に働いてくれている。

金さえくれれば、それで問題ない。

次は。

地球人の方だ。

映像を切り替える。

配下においている、思想的過激派の連中が、映り込んできた。

何処の文明圏でもそうだが。

カルトというのは、ブレインと多数の家畜で構成されている。

このブレインは厄介だが。

家畜は単純にルーチンワークをこなしているだけで。

知能など無いに等しい。

というよりも、知的生命体というもの自体が欠陥品だと自分は考えている。

考える事を放棄する方が楽だし。

何よりも、「よりすぐれた存在」に「支配していただく」のが幸せだと考える存在は多数いるのである。

これは動かしがたい事実であって。

実際問題、多くの文明は。

その言葉を体現する宗教によって、進歩してきた歴史があるのだ。

「貴方方に提供していただいたデータですが、大変役に立っております」

「いえいえ。 此方こそ、人類の恥部を取り除くのに尽力していただき、感謝の言葉もありません」

「本当にねえ。 いっそのこと、男を全部去勢して、この世界から排除してくれれば更に嬉しいのだけれども」

「ははは。 考えておきましょう」

此奴らはブレインだが。

阿呆だ。

正確には、自分と比べると、完全に阿呆だ。

基本的に自分達の思想を全面的に正しいと信じ込み。

それによって他者を殺す事を許されると考えている。

自分の場合は、ビジネスで単に殺処分する相手を探しているだけだが。

此奴らは利用価値のある極めて有用な道具だ。

知的生命体の中でも、特定思想に極端に偏った存在はこうなる。

何処の文明でも過激派は存在するし。

此奴らなどはその見本のような例だろう。

そしてこの手の連中は。

利害さえ一致させてやれば。

文字通り掌の上で転がすことが出来る。

元々リベラルと呼ばれていたり。

フェミニストを名乗っていた連中の成れの果てが此奴らだ。

自分達にとって価値が無い存在の命を売り渡す協力をしてくれる。

それも、此奴ら自身が構築したダークウェブを、常に流動させながら、である。

此奴らのデータは非常に有用で。

誰が何処で孤立しているか、とか。

何処で誰がどのように趣味を持っていて、周囲から隠しているかとか。

そういったデータが全て出てくる。

そして此奴らは、気に入らない相手を殺してくれさえすれば手段を選ばない。

それも手を。自分達の手を汚さずに済むのだ。

嬉々として人殺しに協力しているわけで。

地球人類という生物。いや、知的生命体という存在がどういう連中か、此奴らを見ればよく分かる。

此奴らが特別なのでは無い。

むしろ、生物としては此奴らは「まとも」な部類であって。

知的生命体になる時に通る、社会のリソースを確保するために、弱者を保護する。周囲と協調するというイニシエーションを。

動物のままのメンタルである此奴らは、通過できなかった。

故に気に入らないというだけで相手を殺そうとするし。

排除しても、何ら心を痛めることもない。

この星風の言い方をすれば「畜生」である。

そして知的生命体の本質は「畜生」であって。

此奴らは動物としての本能がより強いまま、知的生命体としてやっている。

故に上手く行かず。

己の星を滅ぼし掛け。

今もその原因が自分達にあるとは考える事さえ出来ない。

滑稽すぎて仕方が無い。

もっとも、ビジネスの道具としては重要だ。

適当におだててやらなければならないが。

「それよりも、調査員の手が及んでいます。 警告した地域のデータは、まめに消すようにしてください」

「分かっておりますよ、救世主様」

「此方にも、備えがあります」

「頼みましたよ」

通信を切る。

何の備えだか知らないが、どうせアナログな記憶媒体を使うとか、瞬間記憶力を持つ人間を使うとか、そんな程度の事だろう。

割とどうでも良いし。

切り捨てるときが来たら、いつでもそうするだけだ。

画像を切り替え。

自分の個室に戻る。

クロファルアの民は、それぞれの個室が宇宙ステーション内に与えられていて。

一定のプライバシーが確保されている。

このプライバシー空間を当然悪用し。

様々な改造を施しているのだが。

これらは、全て合法の範囲内だ。

何処の文明でも、知的生命体は法を如何に都合良く破るかに全力を注ぐものだが。

自分がやっているのもそれと同じである。

情報の整理を終えると。

普通の仕事に戻る。

邪悪の権化と周囲に言われるかも知れないが。

公務員としての仕事もしている。

激務ではあるが。

財産は腐るほどあるので。

むしろ働くのは楽しいほどだ。

隠れ蓑として働く事によって。

後は勝手に構築したシステムが稼いできてくれるのだから。

笑いが止まらないとはこの事である。

同僚に呼び止められる。

仕事の話をされたので、丁寧に受け答え。

地球人から見て、美の究極にまで姿は調整してあるが。

正直な話、自分達から見ると気色が悪い。

実際問題。

美的感覚などと言うものは。

そういうものである。

「ありがとうございます、先輩。 それでは、この仕事を上役に持っていきますので」

「手を抜かぬように気をつけてください」

「はい、ありがとうございます」

礼をして駆け去って行く後輩。

ああ。

面倒くさい。

あれも金に換えられたら、どれだけ楽だろう。

流石にクロファルア人に手を掛けたら、ばれる。

今どうしてこれだけやっていてもばれないかというと。法の狭間にある金を掬い上げているからであって。

クロファルア人や調査員に手でも出したら。

その時点で確実に発覚する。

だからこの星でも、事実上一人で乗り込み。

元から作ってあったシステムを使って動いているのだ。

ビジネスパートナーはそれぞれ全然違う場所にいるし、地球には近づいてさえいない。

この世界の全てを。

自分の資産に換え。

知的生命体全てを。

殺し尽くす事が出来れば。

どれだけ爽快だろうか。

勿論そんな事は思っていても、顔には出さない。

ただ、ビジネスを。

淡々と完遂するだけだ。

職場に移動して。

書類を提出する。

上司は目を通した後。

決済のハンコを押してくれた。

問題は無いという事だ。

頷くと、次の仕事に取りかかる。

普段はあくまで真面目な公務員。

それも、文明を救済するという目的で選抜された精鋭の一人という扱いなのだ。仕事に手は抜けない。

なお、自分が邪悪の限りを尽くしても。

地球の状況は年々改善している。

あくまで、改善の間に取りこぼされる富を回収しているに過ぎないのだ。

そういう意味では、自分は。

敵対文明を滅ぼしたり。

根こそぎ略奪して、種族ごと消していった地球人よりも。

まだマシなのかも知れない。

笑いを堪えるのに苦労する。

自分がビジネスとして邪悪を行っていて。

それが故に際限なく邪悪な事くらいは分かっている。

だが、それよりも邪悪なのが、平均的な知的生命体だと思うと。

笑いを堪えるのが、本当に難しかった。

 

フォーリッジ人の監査チームが来る。

元々少数で到来した彼らは、サポート用の超高性能護衛ロボットと、AIを搭載した秘書ロボットをそれぞれが連れている。

なお、その戦闘力は。

現時点で自分が展開できる戦力の、1000万倍以上。

それぞれが単独で余裕で地球を滅ぼす事が出来るし。

その気になれば、地球を粉砕することも可能だ。

過剰すぎる戦力だが。

過去に、悪事の証拠隠滅を図るために、星をまるごと消そうとした悪党がいたため。フォーリッジ人にはこのような強力な武装が渡されている。

本来ならばあり得ない事だが。

ともかく生真面目という言葉をそのまま生命体にしたような変人集団である。

自分から言わせれば、知的生命体とはとても思えない連中で。

それが故に汎銀河連合も重宝しているし。

圧倒的な戦闘力で周囲を固めさせ。

不正を絶対に暴こうともさせている。

今日は、フォーリッジ人の調査員は。

金魚鉢のような水を満たした移動用の装置に入ったまま。

クロファルア人達の端末を、超高速で精査していた。

おかしな所が無いか。

AIの助けも得ながら、徹底的に調べ上げて行く。

時々疑問を見つけては。

鋭い質問が飛ぶ。

ちょっとのミスでも見つけられると。

途端に容赦のない叱責が飛ぶ。

これ故に彼らは怖れられる。

彼らは他人にだけ厳しいのでは無く。

自己がミスしたらその時には必ず申告するほどの真面目さであり。

それが故にやりにくい。

だが自分にとっては。

だからこそカモだ。

違法行為が分かるようにはやっていない。

彼らは合法的な範囲内でしか本当に捜査はしないのだ。

勿論合法の中に違法を包むのは難しいし。

データを精査されると、どうしてもばれることはある。

だが。そのくらいの修羅場は何度もくぐってきているし。

手口も知り尽くしている。

故にまったく怖れる事は無い。

確かに彼らは買収が通じない。

もしもばれたら確実に死刑だろう。

だが、ばれることはない。

何、何処の知的生命体も同じ事を考えているのだ。

「ばれなければ何をしても良い」と。

どの知的生命体も、不文律でそれを押さえ込もうとしてきたし。それも無理になったら明文法を使うようになる。

だが、それでもどうにもならない。

知的生命体は欠陥品。

故に自分のような邪悪は。

好き勝手に跋扈できるのである。

精々見つかりもしない証拠を探していろ。

自分は内心せせら笑いながら。

腰を低くして、フォーリッジ人の精査を横目で見ていた。

 

2、エンターテイメントの流血

 

今まで、発見さえされなかった悪の組織の拠点の、初壊滅。

それだけで、ホワイトライダーは一気に評価された。

前のヒーローであるスカイインパルスが、実際にはただの殺戮マシンだったことが判明してからと言うもの。

マスコミさえ及び腰になっていたのだが。

ホワイトライダーが壊滅させたブラックファングの拠点から、実際に過激派が蓄えこんでいた装備類などが発見され。

更に、完全に溶けてしまってはいたが、怪人や構成員の残骸も今までに無い量が発見された事で。

マスコミはまた、メタリックマンが連戦連勝していた時のように過熱報道を開始していた。

私はうんざりしてそれを見る。

此奴らには学習能力が無いのか。

それだけしか、言う事は無かった。

嘆息し、自室の寝台で横になる。

しばらくぼんやりしていると、呼び出しがある。

ミーティングだ。

博士によると、どうやら交渉が上手く行ったらしい。かなり難航したそうだが。それでも譲歩を引き出すことに成功したそうだ。

渡されたビーコンには自壊機能を付ける条件で。

今までの二十倍。

数が支給された。

勿論、指定の目的以外に使うことは許されない。

当たり前の話で。

地球では再現不可能なオーバーテクノロジーだ。変な使い方をしたら大変な事になる。

なお、摘発された拠点では。

ブラックファングの母胎となった過激派がため込んでいた武装類も相当な量が蓄積されていた様子だが。

そんなものにブラックファングが頼ったところは見た事がない。

或いは、ひょっとしてだが。

ブラックファングの母胎になった連中が、使っていて。

其処を単に邪魔だから切り捨てた、というだけではないのだろうか。

なお、警察が、とても綺麗に並べた武装類には。

RPG7を一とする火器や。

軽機関銃などの強力な制圧能力を持つ銃器。

大量の手榴弾に。

仲間の「総括」に使ったらしい血のついたナイフなど。

過激派の実態が、1960年代と何ら変わっていない事実が浮き彫りになる代物が多数置かれていた。

なお検出された血からは。

指名手配されている過激派のDNAが検出されたそうである。

この地下組織に、黒幕の言う通り過激派が集まり。

やがて殺され。

ブラックファングの素材にされた。

そういうことなのだろうか。

或いは、実際に殺したのは別の場所なのかも知れないが。

いずれにしても、もう生きてはいないだろう。

どうしようもない連中だっただろうが。

大量に殺されたという事実だけは残っている。

そしてそれに気づきさえしないマスコミは。

連日拠点摘発の情報を流し。

また何処かから連れてきた謎の「有識者」が、何やらえらそうに解説を行っていた。

「これらの武装があれば、日本の警察なんてあっという間に皆殺しにされていたでしょうね。 ホワイトライダーには感謝の言葉しかありません」

「それは何十年も前の話だ」

不愉快そうに、皆で動画を見ているとき。

呟いたのは、一番年上の協力者だった。

現在の警察は、クロファルア人の協力で、ライフル弾くらいなら防ぎ抜くチョッキを支給されており。

暴徒鎮圧用の盾に至っては、至近でC4が爆発しても衝撃を殺しきる。

訓練などに関しても、効率の悪い旧式のやり方は排除され。催眠学習装置の導入によって、凶悪犯に対応出来るようになっている。

クロファルア人のおかげではある。

だがもう昔の警察では無い。

少なくとも、こんな旧時代の火器ではどうにもできない。

自衛隊も同じである。

その話を聞いて。

私はぼつりと漏らしていた。

「旧時代の過激派の墓場ですね」

「そうだな」

「そんなものを、どうしてブラックファングが守っていたか。 私にも分かるくらいなんですが……」

「ああ、その通りだ」

苦々しげな顔をする協力者達。

そう。

完全に出来レースに利用されただけ。

それも、別に犯人にしてみれば、「ヒーロー」が信頼などされる必要などないのである。

混乱さえさせればいい。

その間に、本当に犯人が必要としている、ビジネスの材料だけをかき集めて、そしてある程度稼いだら消える。

そういう事をやっている相手なのだ。

無邪気と言うよりも。

むしろ愚かなのだろう。

そしてマスコミは、ここ数十年ずっとこの体質から抜け出ることが出来ていない。

勿論クロファルア人が手を入れて、組織改革などはしたが。

それに強固に抵抗して。

未だに古い体勢のまま動いている。

自分達を絶対正義と信じ。

金を稼ぐためにはどんな嘘の記事でも書いて良い。

そう考えているマスコミには。

もはや何をしても無駄なのだろうとしか思えない。

また、情報が入る。

「拠点」を潰されたブラックファングが、動画をアップしたのだ。

それには、「ヒーロー」ホワイトライダーに対する怒りが粛々と綴られていたが。

私が叩き潰したときのような、具体的に大量虐殺をする、というような文言は一切なく。必ず報復をするとか、この国は近く我々の手に落ちるだろうとか、具体的では無い事ばかりが合成音声で綴られていた。

勿論協力者達はこんなものでも分析しなければならないのだが。

何しろ串を数十個使って動画が投稿されている上。

ダミーのPCから発信されているため。

事実上特定は無理である。

敵は、地球の技術を知り尽くした上で。

こういった犯罪をやっている。

悔しいが、頭は相手の方が良い。

だが、いつまでもやられ放題のままでいると思うな。

絶対にいつか頭を抑えてやる。

博士が来る。

ビーコンの配置を終えたらしいのだが。

あまり機嫌は良さそうでは無かった。

「何かあったんですか」

「何かも何もなあ」

ああ、例の堅物達とやりあったな。

それは私にも分かったが。

敢えて黙っておく。

博士は機嫌が悪くなると、鰓をぶるぶると振るわせる傾向がある。

これについては、しばらく博士を見ていて気付いたのだが。

周囲には言っていない。

とにかく、博士はデータを出してきた。

多分そのデータを取り出すだけで。

相当な苦労をしたのだろう。

「犯人について、フォーリッジ人から情報提供を得た」

「具体的な人物像が分かったんですか!?」

「あくまで候補だ」

すぐに協力者達も集まってくる。

十名ほどの。

銀河系に名を轟かせる凶悪犯の映像が映し出された。

分かり易い凶悪犯は、今の時代はすぐに捕まってしまうのだという。

現在捕まらずにやりたい放題をしている凶悪犯は。

基本的には知能犯。

それも、治安が悪い地帯などを渡り歩きながら。

感情などを一切表に出さず。

知能犯に徹する。

サイコパス中のサイコパス。

文字通りの怪物だ。

地球上の犯罪史にも、こういった類の犯罪者は多数存在する。一時期世界を滅ぼし掛けた元凶、ブラック企業の支配者達などはスケールこそ小さいものの、この手の犯罪者の亜種と言っても良いだろう。

此奴らは、それらよりも、桁外れの凶悪さを誇る反面。

ざっとデータを見る限り。

普通の人間やらにしか見えない。

収斂進化で、知的生命体は似た姿になるケースが多いらしいのだが。

中には、ごく感じが良さそうな人間の青年にしか見えない奴もいた。

「勿論これらは本当の姿であって、現在は姿を変えているだろう。 それも、地球の変装技術など文字通り児戯に過ぎない。 それこそ身長だろうが体重だろうが、まるで関係が無い筈だ」

「そこまで姿を変えられるのですか」

「下手をすると、肉体を消滅させ、精神だけで他人を乗っ取っているかも知れない」

「!」

それは、色々凄い。

だが博士の言う事だ。

事実なのだろう。

此奴ら十人はまだ捕まっていないが。その内五人ほどについては、現在銀河系の別方面で活動を確認しているらしく。更に三人については、逮捕目前だという。これらについては除外して問題ないと、博士は言う。

そして残った五人だが。

いずれも、それほど特徴的な姿には見えなかった。

しかし経歴は強烈である。

ある犯罪者は、発生したばかりの文明に神として降臨。

大量の現地住民を殺戮したあげく。

食肉加工して、売りさばいた。

その数六億とも言われ。

現在デッドオブアライブで調査が行われている。

しかも売りさばいた先が別の発生したばかりの文明で。

其処からは、貴重な鉱石類を強奪しており。

この鉱石類が治安が悪い地帯でたたき売られて、。

相当な利益を出したそうだ。

文字通り、自分の金のために、六億に達する人間を殺し。

更にそれ以上の数の人間を不幸にした。

鬼畜としか言いようが無い輩だ。

他の犯罪者も似たようなもので。

どいつもこいつも億単位の人間を不幸にしている、桁外れの連中である。

流石に星を消し飛ばしたり、といった犯罪はここ数万年起きていないようだが。

此奴らは、好機さえあればやるだろう。

良心など持っていないし。

相手の命などどうでもいい。

金さえ手に入ればそれで良いのであって。

その事を悪いと思うどころか。

人を殺したことで、反省をすることなどあり得ず。

自分さえ良ければ、他人などどうなろうと構わない。

その点で、宇宙規模の犯罪者というに相応しい。

そして、この五人のいずれか、若しくは複数が地球に来ている可能性があるとなると。

正直ぞっとしない。

地球人にも、桁外れの犯罪者がいるが。

そいつらでさえ。

この宇宙規模の犯罪者に比べれば。

霞んでしまうほどだ。

「これが、我等の敵」

「ああ。 そして行動パターンや経歴からして、此奴が怪しいと私は睨んでいる」

触手を動かし。

博士が立体映像の一つを動かす。

それは、小柄な人間で。

感じの良さそうな笑みを浮かべている青年だった。

地球人にとてもよく似た種族らしい。

「クロファルア人では無いのですか」

「クロファルア人の誰かしらの精神に潜り込んでいると見て良い。 此奴の肉体は既に発見され、抑えられている。 現在は精神だけが勝手に動き回り、寄生先を換えながら、犯罪をしている状況だ」

「そうまでして、一体何故金を稼ごうとするのでしょうか」

「凶悪犯罪者というのはそういうものだ」

博士のお言葉通りである。

この手の超凶悪犯罪者は、思考回路からしてブッ飛んでいるケースが珍しくない事は、私も知っている。

ボタンの掛け違いから、どうしようもない犯罪に手を染めてしまうケースも当然存在しているが。

それはそれとして。

生来の性質として、どうしようもない邪悪として生まれつくものもいる。

そういった邪悪は。

星を選ばず生まれてくる。

そういう事なのだろう。

そしてタチが悪いことに。

この手の邪悪は、周囲からは愛されるケースが多い。

地球では少なくともそうだった。

他人の心に取り入ることが上手で。

容姿も優れている場合は。

最悪だ。

基本的に容姿で相手を判断する地球人である。

その地球人の弱点を完璧に突いてくるも同然であり。

文字通り、手が付けられなくなる。

その結果、数百人という単位で、一人の犯罪者が殺しを行ったり。

巨大犯罪組織を作り上げたりするが。

今、博士が提示した五人は。

宇宙に進出した後も出現した、桁外れの本物の邪悪。

だが、それは。

地球人から見て。

決して異なる存在では無い、と言う事だ。

ともかく、これらの情報は最重要機密だ。

この場で見て、覚えてしまう。

特に博士が怪しいと言った、「ポーニヴァル」という犯罪者については、要チェックである。

その場で名前も覚えた。

もっとも、今そう名乗っている可能性はないだろうが。

全員の携帯のアラームが鳴ったのは、直後だった。

また何かが起きたらしい。

即座に調べに出た協力者が。

すぐに戻ってくる。

「またホワイトライダーです」

「今度は何ですか」

「拠点をまた見つけて襲撃しているようです。 場所は……北関東の端ですね」

「……」

間に合いそうにない場所だ。

しかし、敵にとっても得られるものは少ないはず。

博士も人口密集地帯に仕掛けたビーコンを調べているが。

首を横に振る。

やはり引っ掛からないらしい。

協力者の一人が。

また続けて、情報を持ってきた。

やはり警察がバリケードをつくって押さえ込んでいる所を、マスコミが無理矢理割り込んで撮影しようとしているのだが。

ちょっと様子が違った。

どうやらかなり後方から。

望遠レンズを使って、主にマスコミの醜態を写しているらしい。

声も合成音声を使っていて。

非常に淡々としていた。

「ヒーローと悪の組織の死闘を、エンターテイメントにして稼ごうとする腐敗しきったマスコミの醜態をご覧ください」

合成音声は、一時期それ自体をアイドル化する事が起き。

それ故に有名になったりもしたが。

今は素人でも、簡単に自然な合成音声を作り出せるようになっている。

面白い動画だ。

ニュースなどよりも、現場で何が起きているか、非常にわかりやすい。

更にカメラを複数使っているのか。

或いはマスコミに反発した者が、何人か同時に撮影しているのか。

現場での戦闘についても。

かなり解像度が高い画像が上がって来ている。

そして、普段マスコミが撮影を避けたりカットするような。

残虐に怪人や構成員をヒーローが殺すシーンも。

余さず撮影していた。

特撮だったら兎も角。

今行われている茶番では、実際に命が奪われている。

当然手足がもげるし。

首も千切れる。

ヒーローは凄まじい速度で動くし。

何より殺した怪人も構成員も血さえ残さず消滅する。

だが消滅するまでは。

ちぎれた体のパーツは残るのだ。

マスコミは「残虐だ」とかいう理由で、それらの画像を写さないでいるが。

実際には、これが殺し合いというものだ。

殺し合いに綺麗も汚いもない。

死体が消えるという異常現象が起きなければ。

周囲には死屍累々の地獄が拡がっているだろう。

特撮でも、何かしらの理由で死体が消える作品はあるが。

これも、たまたまそうだというだけで。

本来は、死体が散らばる方が自然なのだ。

案の定、ニュースはまったく視聴率が伸びないのに対し。

この動画は、凄まじい勢いで伸びているようだ。

「ヒーロー残虐じゃね?」

「なんだかんだ言っても、悪の組織の連中も人型なんだよな。 それをこんな風に木っ端みじんにしていたんだな」

「当たり前だろ。 此奴らだって、似たような事してるんだぞ」

「ヒーローもあまり変わらないのかな。 前にいたスカイインパルスも、民間人を大量虐殺したんだし」

動画のコメントには。

何を今更と呟きたくなるものが並んでいたが。

鋭いものも多い。

「何だかやっぱりおかしいぞこれ。 都心で暴れてるブラックファングが、どうしてこんなド田舎で拠点作ってるんだよ。 此処から都心まで移動するのに、リスクしかないじゃねーか」

「やっぱり宇宙人の技術だろ。 だけどアポロニアが発表していたけど、空間転送系の技術は絶対に使用禁止にされているとかいう話だぞ」

「じゃあ奴らが関与しているのか」

「クロファルア人そのものが関与しているって事はなさそうだけれど、犯罪者が混じっているのは可能性としてありそうだな」

ちょっと安心した。

このくらいは考えが及ぶ人間もいるんだなと思ったからである。

ともかく、また拠点が潰され。

怪人五人。

構成員百五十人ほどが、ホワイトライダーによって叩き潰された。

そしてホワイトライダーはマフラーをたなびかせながら颯爽と姿を消し。

自衛隊が拠点に突入して調べる。

そうすると、旧東側の残党の国から輸出されたらしい膨大な違法薬物や。

大量の火器類が出てきたと言う事だった。

昔この国で、最悪のカルト関連テロを行った団体は。

旧東側の残党の国家から、違法薬物を輸入して資金源にしていたのだが。

どうやらそれの名残らしい。

流石にもう劣化していたようだが。

それでも精製しなおせば、また違法薬物に変える事が出来る。

つまり、これが資金源なのだろうとマスコミは報道していたし、「有識者」が何やら喋っていたが。

すぐに反論が起きる。

まずそもそも、クロファルア人が来てからは、ストレス発散用のシステムが民間レベルにまで浸透。

これが酒や違法薬物の類とは比べものにならないほどの快楽とストレス発散を可能とし。しかも低額でレンタルされている。

勿論システムはブラックボックス化されているし、無理矢理触ろうとすると消滅してしまうが。

それでもこのシステムが導入された結果。

かなりの人々の幸福度が上がっている。

いずれにしても薬物関係で稼いでいた業者は軒並み廃業。更にクロファルア人が投入した制圧用ロボットによって、薬物関係で稼いでいるマフィアは悉くが鎮圧されている事もあり。

更にだめ押しに、現在では都市部田舎を問わず、違法薬物を探知するドローンが常時調査を行ってもいる。

これらをかいくぐって、わざわざ違法薬物を入手したり。

使う事は極めて難しい。

それでも使いたがるマニアはいるらしいが。

こんな危険な状況では、値段は跳ね上がる一方。

以前の末端価格の千倍近くまで値段が跳ね上がっているそうで。

とても割に合わないため、商売から手を引く組織も多いそうだ。

ブラックファングの資金源として、これらのカビが生えた違法薬物が使われていた可能性は低いし。

何よりも、薬物汚染は過去の話になっている現在。

使用しただけでばれるような状況で。

誰がどう捌いているのか。

質問がテレビ番組に寄せられたが。

完全にテレビ局は無視。

結果、視聴率は更に下がることとなった。

博士は嘆息。

私もだ。

これは出来レースだ。

あからさまな、それっぽい証拠を残しているだけ。

ホワイトライダーの目的は、私に対する敵愾心を煽った後の、その次。

ヒーローの正当性を示す。

それだけなのだろう。

だから都市部を離れ。

敢えて私が活動していない田舎で、茶番をする。

そしてこの時点では、敢えて普段やっている誘拐は行っていないのかもしれない。

別の国では。そもそもヒーローが倒れる気配もないし。

そっちで充分稼げる。

或いは、フォーリッジ人の目を引きつけるため。

それだけの目的で。

ホワイトライダーは動いているのかも知れなかった。

いずれにしても、行動圏外に出現されてしまうと、此方では手の出しようが無い。

悔しいが、今は。

指をくわえて、エンターテイメント感覚で、悪の組織の拠点を潰して行くホワイトライダーを見ているしか無かった。

 

3、影のその影

 

東方は、アップされた動画を、桐野の紹介で見ていた。

腕組みする。

良く出来た動画だ。

作った連中については、既に調べがついている。

既にマスコミの信頼度は地に落ちていて。

最近では、民間で情報を収集し。

自分達でニュースにする者達が増えている。

そういったセミプロとでも言うべき報道者達が。

今回の動画を作ったらしい。

面白いのは、二箇所から撮影をしていることで。

一箇所では、暴徒同然になっているマスコミを、背後から写していること。勿論マスコミががなり立てている暴言も完全に拾っている。

もう一つは、かなり近い場所。

恐らくは、自宅の二階か何かから、撮影をしている事。

これについては、たまたまか、或いは協力を依頼したかで、動画をゲットしたのだろう。

いずれにしても、はっきりしているのは。

マスコミが作るニュースよりも。

事件の流れが余程分かり易いし。

何より生々しく現実が伝わってくる、と言う事だ。

東方もかり出されてバリケードになる時は。ヒーローによる悪の組織の虐殺劇を何度も見るが。

やはり手足が千切れるし。

首だって飛ぶ。

残酷だと言う事でそれらのシーンをマスコミはカットしているが。

それは本当に適切なのだろうか。

この動画を見ていると、ヒーローが。いや、エセヒーローが、如何に一方的な蹂躙をしているかよく分かる。

特撮の血を吐きながら戦う悲しいヒーローとは違う。

勝つことが最初から決まっていて。

淡々と機械的に殺戮をしている。

そういう存在だと。

この動画を見ると分かる。

実際に既に再生数は1000万に達しており。

相当なコメントも寄せられていた。

殆どは楽しんでいるだけのものだが。

その中にはかなり鋭いコメントもあり。

東方も唸らされる。

桐野が来る。

「先輩、どう思われますかこのニュース」

「さっき捜査四課と鑑識に行ってきたんだがな。 やはり違法薬物の類が近年大量に出回っている事実は無いそうだ。 クロファルア人が持ち込んだ例のドローンが、リアルタイムで監視をしているからな。 仮に持ち込んでもすぐに見つかるし、どれだけ巧妙に使っても即座に発覚する。 そんな状態で、大量に違法薬物なんぞ捌ける訳がない。 ルート構築さえ無理だろう。 現在では暴力団関係者も、薬物は金にならないと判断して、手を出さないらしい。 今もそれに変わりは無いそうだ」

「黄金の三角地帯や南米の麻薬地帯が完全に焼け野原になったくらいですもんね」

「ああ。 独立国家状態だった場所まで潰されているような状況で、しかも現実的かつ健康被害もない上、誰でも利用できる代替手段が出来てきている。 あのカビが生えた薬物は、完全に囮だ」

それに気付かず。

えらそうなことをニュースでくっちゃべっている自称「有識者」には、本当に腹が立つが。

もう相手にしていても仕方が無い。

しかもだ。

ホワイトライダーが出てから。

失踪事件が収まっている。

ホワイトライダー自体は、今までのエセヒーローとあまり変わらない様に東方にも思えている。

そうなってくると。

やはり何か撹乱が目的なのだろうか。

いずれにしても、この間スカイインパルスが地にまで落としたヒーローの信用は、ホワイトライダーが一気に取り戻している。

あくまで人気、という点での話だが。

おかしい。

それに、動画でも指摘していたが。

ブラックファングの拠点が、どうしてあんな利便性最悪の地方でばかり見つかり。

それも、ホワイトライダーはそれを的確に見つけ出している。

今の時点で、ホワイトライダーが動いた時、失踪事件は起きていないし。

ブラックファングに人は殺されていない。

だが油断は出来ない。

ブラックファングがヒーローと裏でつながっていると仮定すると。

腑に落ちることは幾らでもあるのだ。

「東方」

「お、どうした」

顔を上げると。

調査を依頼していた、捜査二課の石原だった。

促されて、喫煙室に行く。

副流煙が即座に吸い出されて、天井に消えていく仕組みの喫煙室は。

同時に、タバコの害になる物質を、出入りの度に体内から瞬時に取り除いてくれる。

この辺りのオーバーテクノロジーは素直に有り難い。

ブラックボックス化されてはいるが。

人類が進歩し次第、それも少しずつ解除するという声明も出ているので。

いずれ地球人類は、クロファルア人に頼らずとも生きていけるようになるだろう。

実際ヒーローと悪の組織が茶番劇さえしていなければ。

今の社会は、クロファルア人が来る前の、完全に詰んでいた状況に比べれば、何百倍、いや何千倍も暮らしやすいのである。

周囲に他の喫煙者がいない事を確認してから。

石原が言う。

「おかしな動きをしている団体を見つけた」

「有り難い。 どんな連中だ」

「昔はフェミニストを名乗っていた連中でな。 今は大学教授崩れをカルト教祖状態にして、「救済会」と名乗っている。 昔は男児が生まれたら間引こうとか大まじめに口にしていた狂人どもで、何度か警察の捜査が入って、今は大人しくしているんだがな。 それが最近、妙な独自SNSを始めている」

「詳しく頼む」

頷くと、石原は続ける。

それによると、救済会とやらは典型的な超過激派エセフェミニスト団体で、実質上は男性差別を至上とした集団。警察に摘発されて現在はかなり大人しくなってはいるものの、それでも本質は変わっていないという。

現在では完全にアンダーグラウンド化し。

会員制のSNSを開始。

その中でやりとりをしているという事だが。

サイバーセキュリティ課と協力して調査をしたところ。

おかしな事が分かったと言う。

「オタク告発、というのをやっていてな」

「何だそれは」

「簡単に説明すると……」

喫煙室に人が入ってきたので、場所を移す。

現在デカ部屋と言われる空間は撤廃されているが。

他に人が聞いていると困る話をする場合、利用できる空間が幾つかある。

さっきの喫煙室もその一つだったのだが。まあ人が来たので仕方が無い。

会議室の一つを借りて話を続ける。

なお完全防音仕様の上、内部は常時違法行為が行われていないかの監視もされている。

「元々エセフェミニスト団体はいわゆる趣味を持つ人間であるオタクと相性が最悪でな、先鋭化の極致に達していた時代は、激しく衝突もしていたし、殺し合いにまで発展するケースもあった。 クロファルア人が来る前くらいには、エセフェミニスト団体は危険な反社会的集団だという認識が広まり、その行動は監視されるようになっていたが。 その結果地下に潜るようになってな。 今回の団体もその一つで、オタク告発とか言うのも、身近な「気に入らないオタク」を名指しで周囲の人間に知らせる、という体裁なのだが」

「何かおかしいのか」

「失踪者が複数含まれている」

「!」

今回のケースの場合。

失踪した人間が出てから、その親族が動くのがいつも早すぎる。

或いは、此奴らは嫌いな相手を常時監視していて。

いなくなったらすぐに「制裁」を加えているつもりなのかも知れない。

「勝手に失踪者の私物を売りさばいていた連中の身元は抑えてある。 照合をしてくれるか」

「分かった。 すぐにやってみる」

石原に任せると、自分はデスクに。

自衛隊とも情報をある程度共有しているので、今回の事件についても少し調べる事が出来るが。

やはり出てくるのは、一世代前の武器ばかり。

勿論強力は強力だが。

当然この国をひっくり返せるようなものはないし。

ましてやクロファルア人の提供した武装に身を固めた今の警察なら鎮圧可能だ。

逆に言うと、そんな警察でも紙くずの様に引き裂いていくブラックファングの事を考えると。

こんな骨董品を後生大事にしまい込んでいるのは不自然すぎる。

装備品は東南アジアを経由して、中東から流れてきたもののようだが。

いずれも整備不良なのも気になる。

要するに、使う気が無い、と言う事だろうか。

やはりただのエサに過ぎないのではあるまいか。

程なくして。

またホワイトライダーが出現する。

今度は関東北西部の隅。

山岳部で、ブラックファングとの交戦だ。

拠点を襲ったわけではないようだが。

ブラックファングの部隊が何故か移動中の所を襲撃したらしい。

彼奴ら、基本的にどこからともなく沸いてくるのに。

どういうわけか、今回に限っては地上を戦列歩兵よろしく行進していたらしく、ぎょっとした地元の住民が警察に通報までして来ていた。

そして警官が辿り着く前に。

ホワイトライダーが文字通り「颯爽と」出現。

今、引きちぎっている最中だという。

東方には声が掛からない。

遠すぎるし、今から行っても間に合わないからだ。

ライブカメラで様子を見るが。

怪人と構成員三十からなる一部隊が全滅するまで数分。

そして、その場には。

どうやら近くの警察署を襲撃するために持ち出していたらしい、大量の爆弾が残されていた。

それも旧式のC4である。

C4も時代によって火力がかなり違うが。これはとても現在では実用に耐えない代物である。

わざとやっているのか。

その可能性が高い。

そう東方は判断した。

警察と自衛隊をおちょくっているとしか思えない。

頭に来させて、本命の作戦をやるときに大きな被害でも出させるつもりか。

それとも、これでバカなマスコミはだませるから、攪乱には充分だと判断しているのか。

不意に、署が騒がしくなる。

どうやら、客らしい。

それも、ただの客では無い。

アポロニアが口にしていた、調査員のようだった。

 

調査員は、人間から見て「生理的に嫌悪を催す」姿をしているらしく。姿を立体映像で隠していた。

傍目から見ると、巨大な球体にしか見えない。

球体と会話をするのは不思議な気分だが。

聞き取りをされる際には。

とても理知的だとは感じた。

「君の調べたデータは拝見した。 どうやら世界各国でも同じような失踪事件が起きているらしい。 君の調査は緻密で、極めて参考になる」

「ありがとうございます。 本官の友人である二課の石原も、これに協力して調査をしてくれています」

「中途の段階のようだが、資料は拝見した。 それを見たので、此方に来たのだ」

恐縮である。

流石に緊張するのは、今宇宙人の機嫌を損ねたら大変な事になるのが分かりきっているからで。

しかも、相手が一対一で話したいと言い出したからである。

幾つか質問される。

話していて思ったのは。

恐ろしいほど厳格な人物だ、と言う事だ。

会話の際には翻訳装置を使っている様子なのだが。

とにかく非常に自分にも他人にも厳しい様子がうかがえる。

「我々は、現在行われているヒーローと悪の組織の戦いは、茶番だと考えている」

「気になるのは、時々現れる怪物です。 姿こそ違えど、どうも人々をこの茶番から守っているようにしか思えません」

「我々もそれは考えている。 情報は明かせないが、調査を続行中だ」

「出来れば連携したいのですが」

即時で断られる。

何でも、この署のセキュリティでは、犯人側に露見する可能性があるから、というのが理由らしい。

確かにそうかも知れない。

相手は宇宙規模の犯罪者なのだろうから。

今、この警察内にあるセキュリティ程度では。

情報を簡単に奪われてもおかしくは無い。

とはいっても、今東方が調べているデータ程度。

敵は把握していても不思議では無い。

「法的にはデータのプロテクトが出来ないのが惜しい所だが、その代わり此方からも日本政府に協力を申し出る予定だ。 君はそのまま情報の調査を続けて欲しい」

「分かりました。 それで……一つ確認したいのですが」

「何か」

「誘拐された人々は、やはり」

しばしの無言。

話して良いのか、悩んでいるのだろう。

だが、それもすぐに終わった。

「残念ながら、この手の凶悪犯は足がつくような事はまずしない。 残念ながら、誘拐された人々は、遺伝子の欠片も残さず消滅させられてしまっているだろう」

「そう、ですか」

「だからこそ犯人は必ずや捕まえ、死刑台に送らなければならない」

頷く。

握手を交わしたいところだが。

それは出来ないのが口惜しい。

ちなみに死刑というのはあくまで比喩。

実際には死ぬ方が何百倍もマシという凄まじい刑罰が与えられるそうだが。

まあそれについては、聞かない事にしておく。

流石に桁外れの犯罪者だ。

死刑にしてすぐに楽にしてやる程度では、とてもではないが法が機能しないから、なのだろう。

大量虐殺を指嗾した独裁者や、子供に爆弾を抱えさせてテロを起こさせたレベルの犯罪者である。

まあ、それが妥当なのも頷ける。

過激な死刑廃止論者でさえ。

犯人が行った事に関しては、流石に口をつぐむだろう。

なおこういうケースの場合は。

地球で言う弁護士もつかないそうである。

それだけ、凶悪な犯罪として。

汎銀河連合でも、問題視されたという事なのだろう。

会談が終わって、解放される。

それにしても、姿を見せないようにするというのは、一体どれだけの凄まじい代物なのか。

少し気にはなったが。

強力に調査を推進してくれる、というのは助かる。

それも、汎銀河連合における最新鋭の武装で身を固めているらしく。

何処まで行っても所詮犯罪者の身では。

殺すのはまず不可能だそうだ。

本来此処まで重武装の調査員が来ることは滅多にないそうで。

それだけヤバイ犯罪者が来ている、と言う事なのだろう。

デスクに戻る。

部長が代わりに呼び出されていたが。

すぐに戻ってきた。

得るもの無し、と判断されたのだろう。

まあどうでもいい。

無能なキャリアが。

無能相応と判断されただけである。

既に戻ってきていた桐野と、軽く話をする。

「あの後ホワイトライダーは出ていないか」

「それが、丁度今出ています」

「!」

ライブ画像が入る。

やはりテレビ番組などよりも、もはや動画などにリアルタイムでアップされる画像の方が、視聴率も良い様子だ。

テレビの凋落極まれり、だが。

視聴者を馬鹿にした番組を造り続けた、当然の末路だろう。

それによると、やはり不可解な動きをしているブラックファングを。

一瞬で蹂躙したらしい。

大量の、旧時代の火器で武装したブラックファングが、下手をすると二次大戦で使われるレベルの装甲車に乗って、東北地方の県庁舎に襲いかかろうとした所に出現。

一蹴したそうだ。

辺りには、装甲車の残骸やら。

銃火器の残骸やらが。

それこそミリタリーマニアだったら、悲しみに暮れるような悲惨な有様で四散しており。

殺されたブラックファングの怪人も構成員も。

欠片も残っていないそうである。

なんでそもそもこんな田舎を襲撃したのか、正直意味も理由も分からないが。

ブラックファングを立て続けにホワイトライダーが撃破しているのは事実で。

少なくとも今の時点では、恐らく不愉快な茶番をしている、と言う事しか分からないし。

何よりあのブラックファングの構成員と怪人を一蹴する実力である。

警察で逮捕することも不可能だ。

だが、現場には今、自衛隊の代わりに例のフォーリッジ人が訪れているようで。

丁度調査をしている所らしい。

とはいっても、例の球体の周囲に、複数の光の球が浮かんで旋回し。

色々と妙な光を放っているだけで。

何をしているのかさっぱり分からなかったが。

「これは、何をしているんでしょうね」

「教えてくれることは無いだろう」

「それは、そうでしょうが」

「……我々には、我々に出来る事を進めるぞ」

いずれにしても、あれだけの強力な援軍が来てくれたのだ。

勿論敵はそれを想定している、という可能性もある。

だからこそに。

此方でも動いて。

相手の向こうずねに蹴りを入れてやる。

未開惑星の原住民と侮ったことを後悔させてやるには。

相手が想定もしていない事を。

徹底的なまでにやるしかない。

すぐに調べるが。

やはり今回も、不可思議な失踪事件は起きていない。

ブラックファングを操っている輩は、何を考えている。

日本ではしばらく陽動だけをするつもりか。

それとも、何かもっと邪悪なもくろみがあるのか。

あるのだとしたら。

一体何をしようとしているのか。

 

田舎をどさ回りするように動き。

そしてブラックファングの「支部」やら「拠点」やらを潰して廻っていたホワイトライダーが。

公道を堂々と走りながら。

首都圏に入ったのは。

調査員と東方が接触してから、四日後の事である。

スピード違反の類もしていないし。

接近したパトカーが、渡されている器具で調べた所、間違いなく本物で、コスプレイヤーの類では無いと言う。

つまり本物が、堂々とゲリラ撮影同然に。

姿を見せた、という事である。

ブラックファングの襲撃が懸念されたが。警察が調べる限り、ブラックファングの襲撃どころか。

姿さえ確認されていない。

むしろ、ホワイトライダーは、都市部をぐるぐると回るように。

移動を続けていた。

何かを挑発しているのでは無いか。

そういう意見さえ出たが。

それに対する答えも無く。

反応も無いまま。ずっと、ホワイトライダーはバイクを駆り続けていた。

異変が起きたのは、それから数時間後である。

いきなり首都高に、十体を超える怪人が出現。その三十倍に達する構成員が現れたのである。

ホワイトライダーを囲むように現れたそいつらは。

そもそもホワイトライダーにブラックファングが仕掛ける事を懸念し、警察が最初から車を遠ざけていたこともあって。

邪魔も無く、ホワイトライダーを取り囲んだ。

壮絶な戦いが始まる。

今までに無い戦力を投入してきているブラックファングだ。

確認されている中でも、拠点での戦いで、精々三から五部隊程度しか出してこなかったのに。今回は十部隊同時である。

いかにも、本気でブラックファングが戦力を出しているようにも見えるが。

しかし見ている限り。

戦況は大して変わらなかった。

普通此奴ら、戦う際には誰もいない場所に移動するものなのだが。

今回はあからさまにホワイトライダーが公道を走って登場したから。警察も避難誘導が間に合い。

その結果、何もしなくても、周囲に誰もいない状況が出来ている。

だからか、その場で戦っているし。

高速道路が壊れることも、何ら気にしていないようだった。

自衛隊のヘリが遠巻きに様子を確認。

マスコミのヘリは、強制的にリモート操作で近くに着地させる。

マスコミがぎゃあぎゃあ騒いでいるが。

暴徒扱いして、機動隊が押し返す。

首都高の上で戦っている事もあり。

首都高に近づけないようにしている状況だと、マスコミは本当に喧しく騒ぎ立てて。機動隊も辟易させていた。

撮影させろ。

吠えるマスコミだが。

今回は、自衛隊がライブ映像を撮っているので。

別に誰も戦いの様子を見るのには困らない。

なおマスコミにはこの画像を使う事を許可していない。

その一方で、動画サイトに自衛隊の広報が動画を公式アップロードしているので。

文字通りマスコミにとっては。

面目丸つぶれである。

緊急特番まで開いて、「有識者」がヒステリックに自衛隊を批判していたが。

視聴率はどのテレビ局も軒並み墜落寸前という有様で。

まあそうだろうなとしか、東方には言えない。

少し遅れて現地に到着した東方は。

桐野と一緒に、少し離れた所に陣取る。

怪物が出るのでは無いか、と思ったからである。

自衛隊のライブ映像を見る限り。

既にブラックファングの戦力は半減。

殆どホワイトライダーはダメージも受けていない。

そして、その時は。

唐突に起きた。

突如、黒い球体が。

交戦が行われている地点に出現。

ばつんと凄まじい音がしたと思うと。

後には何も残されていなかった。

正確には、血だらけの、元が何だったか分からない代物が。

多数散らばっているだけだった。

ホワイトライダーも。

ブラックファングの怪人も。

もはや見分けがつかなかった。

「ホワイトライダーにも容赦なし、か」

「特に悪事を働いていたようには見えませんでしたが……」

「そう、だな。 我々が調査する限りはそうだったな」

だが、桐野の疑惑は。

本庁に戻って、被害報告を確認しているとき。晴らされた。

首都高で派手にホワイトライダーが暴れている時。

行方不明者が。

今までに無い数出ていたのである。

すぐに現地に向かう。

行方不明者の家族については、石原がすぐに手配して、怪しい人間を抑えさせたけれども。

それでも半数近い行方不明者の親族が既に家に乗り込み。

私物やら何やらを、勝手に売り払い始めていた。

警察が差し押さえることを宣言して、業者を追い出すと。

親族は鬼のような形相で食ってかかってきた。

「何よ! 税金泥棒が邪魔しないでよ! 悪の組織に手も足も出ない癖に!」

「その悪の組織が、貴方のような人間を利用して、行方不明者を選抜している可能性が出てきていましてね」

もう此方としても。

遠慮する必要はない。

ヒステリックにもはや人間の言葉に思えない金切り声を上げる親族を。

その場で拘束。

任意同行させる。

こうして、合計十七人を任意同行し。

そして後の聞き取りは、石原に任せた。

更に、七件は親族が動く前に確保。

内部の状態を維持したまま。

科捜研に引き渡した。

勿論、これも全て。

首都高での戦いが、一瞬で終わったこと。

更に此方が、敵の動きを想定していたから。

故にできた事だが。

しかし不可解だ。

あまりにもあからさますぎる。

ひょっとしてだが。

掌の上で踊らされているのでは無いのか。

それを疑わなければならないだろう。

確かに表面上は勝ったようにも見える。

だが、それは、あくまで表面上。

実際には、多数の失踪者を出している。

まだ警察は。

勝ってなどいないのだ。

 

4、白騎士落ちる

 

変身フォームを解除した私は。

嘆息していた。

珍しく等身大の変身フォームであるこれは。

小型のブラックホールを任意の地点に出現させ。更に一瞬でホーキング輻射によって蒸発させる。

その熱と光で。

一瞬にして敵集団を蹂躙するのだ。

制圧用のフォームの四つ目であり。

あくまで固定砲台であるため。

機動力はゼロ。

姿も蛾の蛹のような感触で。

他のフォーム同様、見栄えが良いものでは無かった。

いずれにしても、ホワイトライダーを倒す好機が来たと言うことで、撃破したのだけれども。

今回に関しては。

協力者の間からも、疑念が上がっていた。

ホワイトライダーが現れている間、行方不明者は出ていない。

いっそのこと、奴にブラックファングを潰させてしまう方が良いのではないのか、というのである。

だが、実際には。

ホワイトライダーが首都圏に出てきた時点で、誘拐事件が起き始め。

倒すまでは止まらなかった。

やはり出来レースは出来レース。

しかしながら。首都圏に出れば、間違いなく私が出てくるだろう事は相手も分かっていただろうに。

どうしてこのようなことをしたのか。

それに、私も一瞬で敵を片付けた。

奴か奴らかは分からないが。

思っているほどの収穫は得られなかったはずだ。

いずれにしても、拠点に戻る。

博士が、ミーティングを始める。

不可解だというのである。

相当数仕掛けたビーコンに。

悉く反応が無いと言う。

ビーコンそのものが破壊された形跡は無い。

となると、どういうことか。

理由など、言う間でも無い。

ビーコンでは探知出来ない技術で、ブラックファングが出現した、と言う事なのだろう。

博士は悔しそうに言う。

「やられたな。 恐らく敵は、敢えて首都圏から離れた地点で騒動を起こすことで、却って此方を釘付けにしたと見て良い」

「田舎までは出向けないし、間に合わないと思わせた、と言う事ですか」

「そうだ。 そしていきなり首都圏に現れて、却って此方の動きを硬直化させた」

なるほど。

そして恐らくだが。

ブラックファングの十部隊は、何かしらの方法を用いて、地下か何かを通るかでもして、ホワイトライダーとの茶番を開始したのだろう。

誘拐に使った部隊も。

同じような行動をした、と見て良い。

非常に厄介だ。

「これで全て振り出しですね」

「いや、そうでもない。 一つだけ、収穫があった」

「!」

博士は悔しそうにしているが。

それは予定通りにやっておいたことが、上手く行かなかったから。

一つだけ。

隠して配置しておいたビーコンに、反応があったそうである。

それは北関東の一部。

一箇所だけ。空間の穴が観測されたという。

その空間の穴は、位相をずらした世界につながっていて。

その位相も計測できたらしい。

既に情報はフォーリッジ人に転送済み。

更に、これから突入を図るという。

いよいよか。

勿論罠の可能性もある。

だが、既にフォーリッジ人の無人兵器部隊が動いているらしく。

私は動かなくて良いらしい。

ちょっとそれは不満だが。

結果もすぐに出た。

もぬけの殻、である。

それみろと言いたくなったが。

敢えてそれは堪える。

そんな風なことを言ったら。

大まじめに行動していたのが、馬鹿馬鹿しくなってくるからだ。

ただ、完全に空っぽであった、と言う事はないらしい。

「どうやら、拠点である事は間違いなかったようだ。 無人兵器部隊がブラックファングの生産工場に突入。 自爆される前に確保したらしい」

「……」

「現在結果を調査中、だそうだ」

そうか。

成果が出たなら良い。

本当だったら、私が自分で皆殺しにしてやりたかったが。

きちんと法が働いて。

それによって裁きが下されるのなら。

情報が続けて入ってくる。

作成途中だった怪人十体、構成員三百をそのまま捕獲。

消去装置が発動する前に固定化。

そのまま、拘束して輸送を開始したという。

偽物では無く、本物である事は確定で。

敵の規模から言っても、相当な打撃を与えた事は間違いないという話だが。

本当にそうか。

少し私は不安になったが。

それはすぐ現実のものとなった。

被害を嘲笑うようにして。

またしても、ブラックファングが出現したのである。

それも、東京のど真ん中だ。

すぐに出る。

繁華街を目指して爆走するブラックファングの部隊を先回りするのは難しい。

だが、幸いにも。

今回は、フォーリッジ人が動いている。

無人兵器部隊が。

衛星軌道上から降下。

着地する前にビームを乱射し。

そもそも、誰かが殺される前に。

ブラックファング構成員と怪人を、まとめて消滅させた。

だが、まだ何があるか分からない。

私は、狙われていたと思われる場所へ、全速力で急ぐ。

そして思い知らされる。

敵は遊んでいるだけだったのだと。

またしても、ビーコンの反応範囲外から。

数部隊に達するブラックファングの怪人と構成員達が姿を見せたのである。

繁華街が大パニックになる瞬間。

私は、変身を余儀なくされていた。

 

巨大な花が咲いた。

目撃者は、そう言ったそうだ。

アスファルトを突き破って出現した巨大な花が。

一瞬で、ブラックファングの怪人と構成員を殺したと。

花からまき散らされた花粉を浴びた怪人と構成員だけが苦しみだし。

逃げ惑う人々には何の害も出なかった。

なお転んだりして怪我をした者も出たようだが。

それだけだった。

現場に急行した東方は舌打ちする。

また騒ぎになり。

相当規模のブラックファングの部隊が出現。

そして倒されても。

打撃を受けている様子も無い。

本当に奴らの規模は此方の想定通りか。

本当は、無尽蔵の戦力を有しているのではあるまいか。

現場検証のために自衛隊とフォーリッジ人が来る。

後は任せて、桐野と一緒に本庁に戻る。

どうせ行方不明者が出ているはずで。

此処から石原と連動して動く事になる。

「きりがありませんね……」

桐野が悔しそうに言う。

東方も。

同意見だった。

 

(続)