対巨怪共同戦線

 

序、永田町へ

 

此処と上とでは時間の流れが違う。それについては、ほぼ確定だろうという事が幾つかの事で検証できた。

ヨナタンの提案で、時間を測りながら移動したのだ。

時間を計るのには砂時計を最初利用したが。上野駅で時計を譲って貰ったのだ。バロウズが確認したが悪魔に汚染されている事もなく、手につける事ができるとても小型でコンパクトなものだが。今は誰も使っていないのだと、寂しそうに譲ってくれた老人は言っていた。

僕がつけると多分壊してしまうので、ヨナタンに預ける。

バロウズに調整して貰って、時間をそれで確認したのだ。

永田町に向かう途中、何度も悪魔と戦い。その度に周囲を掃討して。とにかく人間に対する危害を為す悪魔を倒し。話が分かる悪魔がいる場合はどんどん仲魔にして戦力を拡充。ただ、一度で進むのは厳しい。

異物がある建物は途中にもたくさんあり、何度かに分けて運び出す必要もあった。

この東京の方が明らかに人が困窮している。だから、まずは人外ハンター協会に持ち込んで、それで必要としているものは譲ってマッカに換えてもらった。パソコンに関しては譲って貰うことにしたのだが。パソコンと言っても部品から何から色々あって、中には本くらいの大きさのものもあって驚かされた。バロウズがいうには、ガントレットも広義ではパソコンになるらしくて、それで驚かされたものだ。

ともかく得られたもののうち、東のミカド国に有用なものはターミナルを用いて運び込む。

他のサムライの分隊も何度か行き来しながら、情報を集めているようで。何回か情報交換をしながら、行動範囲を拡げていく。

その過程でターミナルに戻って何回か検証をした結果、どうやら東のミカド国と東京では、時間の流れの速度が六十倍程度違っている事がはっきりした。

六十倍と聞いて、イザボーが思わず声を上げていたほどだ。

ワルターは意外と平気そうである。

「時間が六十倍違うと言っても、俺等が六十倍の速さで年を取る訳じゃねえ。 別になんともおもわねえよ」

「ワルターはその辺りドライだね。 ヨナタンやイザボーは?」

「僕は元々サムライとして好きに振る舞うようにと言われている。 家の方は気にしなくていい。 更に僕に何かあった場合でも、跡継ぎは別にいる」

「私はもともと変わり者で、家族も跡取りとしては期待しておりませんでしてよ」

僕はもう家族もいない。イサカル兄は多少心配だが、あっちはあっちで別の人生を送っている。

僕が関与する話でもない。

とりあえず、分かった事はホープ隊長に話をしておく。それで僕達は、東京に戻って、とにかく永田町という方に向かう。

人外ハンターの本部があるというのが其方にあるシェルターらしいのだ。

東京には幾つかの勢力があり、その中でもっとも話が通じそうなのが人外ハンター協会だというし。

まずは本部に話をしにいくのが一番早いだろう。

道中では悪魔が強くなる一方だが。

途中で、四角い鉄の箱とすれ違った。馬に乗った悪魔が引いていたが、首がなかったように思う。

「なんだろあれ」

「そういえばああいう鉄の箱がたくさんあるな」

「あれは自動車というものよ。 元は自走する機能を持っていて、人々が足代わりに使っていたの。 現在ではその機能が失われてしまって、馬代わりの悪魔が引いて走っているわ」

「なるほど、此方での馬車に相当するものか」

ヨナタンは理解が早い。

頭が硬いかというとそういう事もない。

しばらく移動していると、背が高い建物が増えてきた。半ば崩れてしまっているものも多い。

悪魔がたくさん彷徨いているが、全部が敵意を持っている訳ではない。

そういった建物の影で、細々と暮らしている人もいるようだ。

声を掛けるが、自衛はどうにか出来ているらしい。

食糧も最近は供給を受けているとかで。近々武器を手に、悪魔を狩りに出かけるのだと言っていた。

かなり遠出をしていて、そろそろ今日は野宿を考えなければならないタイミングか。

そう思っていたとき。

ドンと、激しい爆発音がした。

戦闘の音だ。

巨大な建物が倒壊しながら、崩れ落ちてくる。悪魔が逃げ散っているのが分かった。僕も距離を取るが、それにしても本当に山みたいな建物だ。

「どうみても戦闘ですわね」

「一体何がやりあっているんだ?」

「あれだね」

僕が指さしたのは、翼のある悪魔。それと、もう片方は空を飛んでいる人間か。

悪魔に魔術を教わって飛べるようになるサムライがいるという話は聞くが、そういうものだろうか。

翼のある悪魔については、バロウズが解析してくれる。

「堕天使フルーレティよ。 三体の地獄の支配者に使える六体の大悪魔の一人で、中将の地位にあるらしいわ。 雹を扱う悪魔で、暑い土地に住んでいるという伝承があるわ」

「雹を使うのに暑い土地に住んでいるのか!?」

「つくづく悪魔ってのはよく分からない連中だな……」

「夜に力を増す悪魔と言う伝承もあるわよ。 東京ではかなり手強い悪魔となるでしょうね」

それはどうだろう。

六十倍の計算をするならば、今は多分昼だ。

飛んでいる人間が、飛ばしているのは針か。猛攻で追い込んでいるようだが、空を自在に飛ぶ力を使って、フルーレティも応戦しているようだ。

まあ、手助けするのは人間で良いだろう。

それに、あの調子で暴れると、この辺りに住んでいる人間が酷い目にあう可能性も高い。何よりも、どうみても人間に友好的な悪魔とも思えない。

自己強化の魔術を重ね掛けする。

それを見て、ワルターが口笛を吹いた。

「手助けか。 槍で串刺しか」

「いや、し損じて牙の槍がなくなっちゃうと困るからね。 だから、これを使う」

側に落ちている、建物の破片。

この破片も、石のようで違う。ずっと重いし、中になんだか骨みたいな金属が入っている。

だが、質量があるという時点でそれが武器になる。

末の子を喚び出す。

末の子は雷の魔術を鍛えていて、それを使って線を延ばす。

弓なんかに添えるものに近い。

射撃するとき、目安にするためのものだ。

僕はしばらく戦闘を確認。数手先まで読む。

フルーレティは高空を常に維持していて、更にはもう少し低い所にかなりの数の悪魔がいる。

あれは恐らくだが、フルーレティのおこぼれに預かろうとしている連中だろう。空飛んでいる人がやられたら、寄って集って八つ裂きにされてしまうとみて良い。

「フルーレティの動きを僕が止める。 あの火力からして、飛んでいる人がフルーレティは倒してくれると思う。 問題は他の悪魔達だね。 一斉に来るとみて良い」

「上等だ。 全部畳んでやるぜ」

「その通りだ。 僕としてもこの辺りの人々の安全を少しでも確保したい」

「相当な数がいますわ。 後を考えると、大暴れ、では困りますわよ」

しっかりイザボーが釘を刺すのを聞きつつ。

僕は踏み込んで、全力で建物の欠片を投擲していた。

よし、狙い通り。

フルーレティは飛んでいる人が放った針、だろうか。それを魔術の壁で防いでいたが。そこに僕が投擲した欠片が、音の速度を超えながら直撃。本来なら此処までの速度は出ないが、悪魔との戦いで力が上がっている所に、何倍も強化の魔術で補助を入れている。しかも強化魔術にも慣れてきていて、制御も出来るようになってきている。それで、直撃を入れられた。

完全に態勢を崩した所を、飛んでいる人が放った光の魔術らしいものの直撃を受けて爆散。

墜落していくフルーレティの残骸に、更に飛んでいる人が踵落としを叩き込んで、文字通りのとどめ。

他人事のように、荒っぽいなあと、頭を完全に粉砕され、マグネタイトになって消滅するフルーレティを遠目に見ながら思う。

同時に、わっと多数の悪魔が飛来する。飛んでいる人は低空に切り替える。この様子だと、下にも仲間がいるらしい。

良いだろう。

あの人、相当な使い手だ。多分人外ハンターでも屈指の使い手ではないのだろうか。だとすれば、連携出来れば話が早い。

飛んでくる悪魔は、どれも翼持つ者で、鳥だったり堕天使だったり。だが、フルーレティほどの者はいないようである。牙の槍を手に取る。強化魔術は消えていない。既にヨナタンとイザボーは、悪魔を展開し終えている。僕も悪魔を展開。

対空砲火、開始。

一斉に射撃を開始する僕達の悪魔。火焔、冷気、烈風、雷撃。光と、連続して、それぞれが叩き付けられる。一つや二つを防げても、その全ては無理だ。立て続けに統率を取れた射撃が飛んでくるのに対し、雑多な悪魔は算を乱す。

其処へ多分飛んでいた人の仲間か仲魔か分からないが、とんでもない冷気の竜巻が襲いかかる。範囲といい火力といい桁違いだ。

一瞬で粉々に砕ける悪魔が多数。

口笛を吹く。

此処まで凍り付きそうな火力だ。あの悪魔達、むしろいいように誘き寄せられたのではあるまいか。

それでも弾幕を抜けて肉薄してくる悪魔達を、僕とワルターが前衛に立ち。大型の悪魔達も壁になって迎え撃つ。

また、ヨナタンもパワーという悪魔を前に並べる。

中級三位の天使であり、プリンシパティが更に転化した天使だ。

戦闘を担当している天使であるらしく、その分悪魔の影響を受けて悪に落ちやすいのだとか。

ちなみにパワーというのだが、「力」天使ではなく「能」天使であるらしい。「力」天使はパワーの上位のヴァーチャーが該当するのだとか。ちょっとこの辺りは、どうしてなのかよく分からない。

魔法の言語への翻訳は、時々おかしな事になるのだが。理由を知っている有識者に聞きたいものだ。

「よし、行ってこい!」

「任せよ」

ワルターが呼び出したそれは、鬼やナーガよりも更に大きい。

四つ足の巨大な獣で、鼻が長くて、色がとても白い。

聖獣アイラーヴァタというらしい。

象という動物が神の乗り物となった存在らしいのだが。象なんて生物知らない。多分東京にいる人達も、殆どがそうだろう。それもあって、かなり弱体化しているそうだ。

ただ。それでも巨大な図体である。

文字通り寄ってくる雑魚を蹴散らして、踏み砕く巨大な象に、明らかに雑魚が怯む。

更に高所からの狙撃が加わる。あれは定点に誰かが陣取っているようだ。

悪魔達はフルーレティとの戦いで弱った所を大軍で押し包みに来たんだろう。だが、今の展開はそうじゃ無い。

逆に誘いこまれた挙げ句に、蹂躙されつつあるのだ。

目端が利く悪魔は、土下座して助けてと頼んでくる。僕は適当に取り押さえさせつつ、抵抗する悪魔を牙の槍で次々刺し貫く。

一つ目の巨大な人型がうなりを上げて突貫してきたが、その分かりやすい弱点。目を、跳躍しつつ抉り。更にはそこを支点に半回転しつつ、首を後ろから刎ね飛ばした。着地と同時に倒れる一つ目の巨人。

邪鬼サイクロプスというそうだ。

そうか、としか言えない。マグネタイトになって消えていく巨人を見送るだけだ。

これで一段落か。そう思うが、ぞくりと背筋に悪寒。

どうもそうはいかないらしい。

地面が揺れる。

何処かから声が響いた。威厳がある男性の声だ。

「一度散開! 地下から強いのが来る!」

「ひっ、待ってくれ! しにた……」

地面に倒れて動けず悲鳴を上げた悪魔を、十体以上ばくんと食べながら、それが姿を見せる。

巨大な、なんだあれ。

ずんぐりとした巨体だ。それはガツガツと悪魔の残骸を貪りながら、体を地面から引きずり出す。

随分と丸っこくて巨大な悪魔。アイラーヴァタよりも更に大きい。丸っこい体だが愛嬌はなく、筋肉質で、いかにも獰猛というのが一目で分かる。

「妖獣ベヒモスよ。 カバという生物が元になっている、一神教における災いの獣の一つね」

「随分でかいな……」

「理由があってこの国では知名度が高かったの。 だからとても手強いと思うわ。 最悪撤退も視野に入れて」

「いや、これは逃がしてくれそうにないね」

二本足で立ち上がると、凄まじい雄叫びを上げるベヒモス。

そして、巨大な二本の牙が生えた口を大開きすると、辺りの空気ごと膨大なマグネタイトを吸い込んでいく。それで吸い込まれてしまう雑魚悪魔も多く。それをばくんと食べ、むっしゃむっしゃとかみ砕き、豪快に咀嚼するベヒモス。

これは、大量の悪魔の気配に釣られて出て来たんだ。

だとすれば、此処にある漂っているマグネタイトと、それにエサ……僕達のことだけれども。

食べ尽くすまで暴れるだろうし。

暴れ出したら止まらないだろう。

「それでどうする?」

「向こうの人達と連携する。 とにかく目と足を狙って集中攻撃。 攻撃は擦るだけでも即死だと思うから、気を付けて!」

「よし……ひりついて来やがったぜ!」

ワルターが好戦的な笑みを浮かべる。

僕は少し離れるようにハンドサイン。

ベヒモスが地面に、前足を叩き付けると同時に、地面が激しく揺動していた。

 

霊夢は新たに現れたベヒモスを見て舌打ちしていた。

フルーレティは実際の所、実体がない悪魔だ。ソロモン72柱の一角であるフラウロスが祖であるとされる説もあるほどで、どこかしらの神が貶められて一神教で堕天使扱いされた形跡もない。その割りにベルゼバブの直近の部下で一緒に住んでいるなどと言う、大物ぶった設定がされている。

だから倒すのは逆に面倒だった。

半端に知名度があり、それで弱点もないからである。

奴との戦いで付近の雑魚を引き寄せて、秀とマーメイドと連携して、付近の人間に害為す雑魚悪魔をまとめて始末するつもりだったのだが。

こんな大物が釣れるとは想定外だ。

奴が前足を地面に叩き付けると同時に、激しい地震じみた破壊が辺りを襲う。ただでさえ脆くなっているビルが複数倒壊する。

だが此奴は地下に潜んでいたわけで。

いずれは倒さなければならなかったのだと、自分に言い聞かせ直す。そして、手札を切ることにした。

ベヒモスは、一神教の聖典では最終的に食糧となる。終末に海の巨大悪魔であるレヴィアタンと相争って倒れた所を、人々の糧となるのだ。

つまりその弱点は水。

しかも海水だ。

だが、規格外マーメイドの力を持ってしても、あの巨体を一撃とはいかないだろう。

ベヒモスが空に向けて吠え猛る。

それだけで、周囲の人外ハンターは腰砕けになる。

耳につけている通信装置から、指示が来る。指示は殿からのものだ。

さっきも殿の一喝で、多少は冷静になれた。

昔だったら即時撤退を選んでいただろう。

魔界に足を運んだこともある霊夢だ。

こういった巨大悪魔の戦闘能力については、嫌になる程知っているのである。

「ベヒモスとやらを調べた。 どうやら海の巨獣と相討ちになる定めのようだな」

「ええ。 でも一神教の重要な悪魔であり、七つの大罪の一角であるレヴィアタンを神降ろしは出来ないわよ」

「日本神話の海の神格は」

「……素戔嗚尊は無理ね。 残念だけれど封印されていて、力を出し切れないわ」

素戔嗚尊は日本神話の三貴神とよばれる最重要神格の一角。典型的な暴風神であるが、そもそも海を任された存在であるため、元は海の神としての性質も持っている。

他にも海幸彦など海に関わる神格はいるが、少し非力すぎる。降ろしてもベヒモスには対抗できないだろう。上位の海神だと大綿津見神が存在するが、これは残念ながら素戔嗚尊同様封印されてしまっている。

かといってベヒモスを海に陽動するのは無理だ。

途中にある集落やビルを根こそぎにされるし。

どれだけの人的被害が出るか分からない。

此処で、なおかつ速攻でこの巨体を仕留めるしかない。

その時、ベヒモスの目に、立て続けに魔術が炸裂。鬱陶しそうに体を振るベヒモス。ぼろぼろと土塊が体から落ち、それから悪魔が生じている。

さっき、フルーレティに痛撃を入れた連中か。

「マーメイドと相談しろ。 大きめの海の魔術を使えるか、それを確認して、必要なら膳立てしろ」

「ええ、それしかなさそうね。 時間を向こうに稼いで貰いましょうか。 志村さん、小沢さん、聞いている? 人外ハンターは下げて。 巻き込まれるだけよ」

「分かった! 武運を祈る!」

更に立て続けにベヒモスに魔術が叩き込まれるが、巨体が巨体だ。四つ足なのに、背中までの高さが二十メートルはある。あんなもの、まともに暴れられたら怪獣映画より悲惨な事になる。

当然、殆ど魔術も効いていない。

だが、意識がそっちに向く。

着地。

マーメイドが地面から顔を出す。秀もこっちに来ていた。

「集合。 作戦を決めるわよ」

「流石にあんなに大きいと、冷気の魔術でも倒し切れるかどうか……」

「話を聞いていたと思うけれど、海の魔術で力をそぐわ」

「それにしても何かしらの媒体がないと……」

秀が挙手する。

手持ちがあるというのだ。

海に関わる妖怪が複数手持ちにいるという。そうなると。

むしろ呼び出すのは山幸彦か。

「あっちに四人くらいいるわ。 とても強いけれど、ベヒモスには足止めくらいにしかならないと思う」

「マーメイド、あんたは海を呼び出す大魔術を準備。 あたしと秀で、それを増幅するためのお膳立てをする。 いける?」

「膳立ての次第かな」

「よし、やるわよ!」

祝詞を唱え始める。地面に降りたっての、全力詠唱だ。

あいつは流石に今の霊夢でも単騎では斃せない。

日本神話系の神々が封印されていなければ、大綿津見神の力を利用して、一気に押し流すことも出来たかもしれないが。それも今の状態では出来ないのだから、仕方がない。

ベヒモスが、白い象の悪魔を蹴散らしているのが見えた。

向こうも必死に大量の魔術で視界を封じつつ、散開してベヒモスを翻弄しているが、時間の問題だ。

ドローンが来る。

地獄老人が作ったものだろう。

「通信は任せろ。 あっちに声を届けてやるわい」

頷く。

連携戦だ。

あの巨大悪魔を、此処でぶちのめす。

倒せば伝承通り、膨大な食糧に変換できるかも知れない。そうすれば、むしろ得になるかもしれなかった。

 

1、対巨獣連携戦線

 

これ以上強化魔術は掛けられない。僕は走り回りながら、隙を見てベヒモスの口や目に、瓦礫を叩き込む。

目に直撃しても、それでも鬱陶しがるだけ。瞼に当たってしまうと、痛みすら与えられないようだ。

ベヒモスは動きがそれほど早くないように見えるが、大きさが大きさだ。一歩歩くだけで、こっちに余裕で追いついてくる。

大きく息を吸い込むベヒモス。

まずい。

「全員、瓦礫とかを盾に!」

あわてて皆、散開して逃げ込む。

ベヒモスが、凄まじい雄叫びを上げるが、それはもはや空気による暴力だった。

台風なんて鼻で笑うような風が、辺りを文字通り蹂躙する。吹っ飛ばされる瓦礫。崩れる巨大な建物。

さっき細々と生きていた人達を見た。

進ませると、絶対に巻き込まれる。

要領よく逃げてくれているといいのだが。

「其処の四人、聞こえるか!」

耳がおかしくなりそうだが。

空を飛んでいる何かから声がする。さっきの威厳ある男性のものではなく、なんだか性格が悪そうな老人のものだ。

「足止めを頼む!」

「……足止めで、どうにかなるのかよ」

「なる!」

「ほう、面白い。 人間の浅知恵で我が輩をどうにかできるというのであればやってみよ」

ベヒモスが喋る。

まあ、喋ってもおかしくは無いか。

また空気を吸い込み始める。僕はその喉に向けて、また瓦礫を叩き込む。殆ど打撃にはならないが。

本命は違う。

鬱陶しそうに首を振るって瓦礫を弾き返した瞬間。

隙を突いて、ヨナタンの天使達が一斉に襲いかかっていた。

先頭に立ったパワー達が勇ましく槍を構えて躍りかかる。目を突き刺され、流石に五月蠅そうにしたベヒモスが、二本足で立ち上がると、腕を振るって天使達を瞬時に粉みじんにする。

同時に僕とワルターで奴の足に仕掛ける。僕が右側。ワルターが左側。

それぞれ渾身の一撃を叩き込むが、多少皮膚を抉る程度だ。

そのまま、全力で跳び離れる。

前足を振り下ろしに懸かるベヒモスだが、その時僕の魔術戦部隊の悪魔と、イザボーの悪魔達が、一斉に足下へ冷気の魔術を叩き込む。続けて火焔の魔術。ベヒモスは軽い軽いと笑っていたのだが。

次の瞬間、態勢を崩していた。

僕も知っている。

急に熱いものを冷ますと壊れる。

しかもベヒモスが、散々踏んだり蹴ったりした地面だ。しかも穴から這い出してきたのである。

この辺りの地面は脆くなって滅茶苦茶。

そこに渾身の熱魔術と冷気魔術をぶち込めばどうなるか。

その上、大量の水分もあって、ベヒモスの無理な二足での立ち上がりは、滑るという結果に到達したのだ。

横倒しになったベヒモスが、巨大な建物に倒れかかるようにして倒れ。その上に、今まで良くもやってくれたなといわんばかりに、建物の残骸が降り注ぐ。それを五月蠅そうに腕で払うが。

僕は渾身の突撃技を使い、足につけた傷に更に一撃を叩き込む。

皮膚を割いて、確実に肉まで通る。

だが、ベヒモスの尻尾が、僕をはたく。ワルターが飛び出してきて大剣を盾にして庇うが、二人まとめて吹っ飛ばされていた。

「フリン! ワルター!」

「プリンシパティ! 回復魔術を!」

吹っ飛んだ先が、幸運にも柔らかい地面だった。ワルターは少し離れて、頭から上半身地面に突き刺さっていた。

僕は骨が何本か折れて激痛が走る中、ワルターを地面から引っ張り出す。

二体だけ生き延びていたヨナタンのプリンシパティ達が、回復魔術を全力で掛けてくれる。

それでも激痛が酷い。ワルターは目を回していて、意識が戻らない。

それに、大剣は折れてしまっていた。それだけですんだのだから、マシだろうか。牙の槍も、今のでかなり傷んだ。一度鍛冶屋に持っていかないと駄目だろう。

「おのれ羽虫どもが……!」

ベヒモスが瓦礫を押しのけながら体を起こす。右後ろ足に僕が穿った傷が再生しているのが見える。

あの巨体で再生能力か。歯を噛みながら、ワルターを担いで走る。天使達はその間も回復魔術を掛けてくれているが、間に合うか。

後ろから、激高したベヒモスが追ってくる。

降り立った末の子が、雷撃魔術を必死に叩きこんでくれるが、目くらましにしかならない。いや、目くらまし。

僕は敢えて声を張り上げる。

「図体だけのうすらバカ! こっちだよ!」

「巫山戯るな小虫の分際で! 貴様など喰らおうとも思わん! 踏みつぶしてくれるわ!」

ハンドサインを出す。そのまま僕は走る。

完全に怒りに目が眩んだベヒモスは走るが、そのまま、自分が開けた大穴に、真正面から突っ込んでいた。

巨体だけあって質量も凄まじい。

右前足を突っ込んで顔面から地面に突っ込み、それで顔がぐしゃりと凄まじい音を立てていた。

血がこっちまで飛んでくる。

あれは痛いと、イザボーが戦慄しながら言う。

そして、その時。

時間稼ぎが、意味を為したようだった。

巨大な黒い影が、ベヒモスに覆い被さる。

いや、まて。

辺りがいつの間に、大水に浸されている。

しかもこれ、塩水か。

「な、なんだ貴様っ! お、おのれええっ!」

「海坊主か。 海の妖怪としては最大級の一角。 従えているのは流石だわ」

「長くは呼び出せない。 急げ」

「分かっているわよ。 山幸彦、しおみちのたまの力を全力に!」

更に塩水が溢れ、ベヒモスを包み込む。あの巨大な黒い影が、暴れるベヒモスを抑え込んでいるが。

生きているかのように海水がベヒモスに絡みつき。それでベヒモスは恐怖の声を上げていた。

「う、海が何故こんな所に来る! よせ、離れろ!」

「耳を塞いで!」

澄んだ声。鈴を鳴らすようなという表現が相応しい、だが何処か憂いを秘めた声。

僕もあわてて耳を塞ぐ。

当時に、振り払われた黒い影。

ベヒモスが暴れようとするが、その時にはその全身を、海が覆い尽くし。それどころか、完全に凍結させていた。

悲鳴さえ上がらず、ベヒモスの全身が硬直する。

こっちまで、真冬のような冷気が吹き付けてくる凄まじさだ。

まだもがこうとしているベヒモスだが、その目が白く凍り付くのが分かった。

死んだ。

恐らく、海そのものが奴にとっての弱点だったのだ。ただ、辺りの塩水がいつの間にか消えている。

ベヒモスと相討ちになって、かき消えたと見て良かった。

凍り付いた巨体が、どしんと凄まじい地響きとともに倒れる。

「冷凍肉、1丁上がりか」

「解体はそっちでやりなさいよ。 人間とか食べてそうだし、あたしはいらない」

「どうせ悪魔肉だ。 冷凍しておいて、非常用に使う程度で良かろうよ」

空にある機械と、空を飛んでいた女が話している。

僕は疲れ果てて、ワルターを降ろすと、へたり込んでしまった。生き残った魔術班の悪魔が、回復に切り替えてくれるが。今の体調だと、すぐには動きたくは無い。

こっちに来る三人。一人は悪魔だ。

紅白の……なんだろう。不思議な衣服を着た女。飛んでいたのは彼女だ。一目で分かるが、歴戦も歴戦の猛者だ。

もう一人は、黒い髪の美しい武人の女だ。口をへの字に結んでいなければ、多少は愛嬌があるかも知れない。

不思議な鎧を着ていて、なんだか丸い紋みたいなのが書かれていた。

最後の一体はマーメイドか。

僕も時々見かけた人魚だ。

だが、何度か見かけた人魚とは力が桁外れどころではないことが分かった。最後の大魔術、多分この二人のお膳立てがあったとは言え、それでも文字通り驚天の技だったと言えるだろう。

「その格好、少し前に上野に現れたっていう侍を称する集団かしら」

「ああ。 僕達は東のミカド国より来たサムライ衆だ。 彼女が僕達のリーダーのフリン。 僕はヨナタン、其方の気絶しているのがワルター。 彼女がイザボーだ」

「あたしは博麗霊夢。 そっちの子は、正式には違うらしいけれど秀と呼んでいるわ。 其処のマーメイドは途中から手を貸してくれているけれど、ちょっと素性は分からない。 なにか目的があって此処に来ているらしいわ」

「よろしく」

ヨナタンが好意的に話を進めてくれていて助かる。

僕は挙手する。

ちょっとフラフラだ。

「ごめん。 霊夢さん。 貴方がリーダーだよね」

「霊夢でいいわよ。 見た所同年代みたいだし」

「ありがとう、お言葉に甘えさせて貰うね。 ちょっと色々フラフラなんだ。 休めるところ、ある?」

「こっちで引き受けよう。 どうせサムライとやらとは、一度接触しておきたかったんだろう?」

空にある機械から、老人の声。

色々と不可解な事だらけだが。

まあ、どうにかこの場は収まりそうで良かった。それだけしか、今はちょっと余裕が無くて考えられなかった。

 

鉄の箱が悪魔に引かれてやってくる。それも一台じゃない。それに、巨大な体格の悪魔達が冷凍肉を切り分けて乗せている。

元々ベヒモスは最終的に食べられる、という逸話があったらしいので、肉も残ったのだろう。

ある意味哀れな最期とも言えるが。

ただ、あいつの暴れ回った後と、放置した場合の被害を考えると、あまり同情は出来なかった。

鉄の箱の一つに乗せて貰って、移動する。

ワルターはもう目を覚ましていて、不甲斐ないところを見せちまったと苦笑い。まあみなボロボロだったのだ。

僕だってへたり込んでいたし、他の人の事は言えない。

鉄の車には霊夢という人も乗って来ていたので、軽く話す。

「その紅白の服はなんなんだ。 頭に赤い頭巾も着けているようだが」

「これは千早と言ってね。 巫女が着る服よ。 ただしあたしのは趣味で色々改造しているけれど」

「どれもこれも聞いた事がない単語だな……」

「普通に日本語を理解出来ているのに、会話が通じないのも不思議な気分ね。 東のミカド国だったかしら? この上にあると聞くけれど、一体どんな文化があるの?」

霊夢という人はやはりこっちを警戒している。今の時点では、向こうの方が二段くらいは力が上だ。

ただ此方としても、色々と話はしておきたい。

ヨナタンが東のミカド国について説明する。身分制度や王政だという話を聞くと。霊夢ははっと鼻で笑っていた。

まあ、僕としてもなんでラグジュアリーズが偉そうにしているのかは色々疑問がある。

ただこっちはこっちで、そもそも国家とかそういうものさえ無さそうだが。

「此方としても聞かせてほしい。 今向かっている国会議事堂というのは一体なんなのだ」

「其方で言う所の一番偉い人達が、話し合いでものごとを決めていた場所、らしいわよ。 大戦やらで機能しなくなって、今は中は空っぽ。 その下にある避難所として作られたシェルターが、あたし達の本拠ってわけ」

「避難所か。 大戦というものは、それほどに凄まじかったのだな」

「あたしは最近来たばかりだからなんとも言えないわね。 こっちとしても、故郷の平穏がかかっているから、もたついてはいられないのだけれど。 流石にこの惨状を放置はしていられないわ」

霊夢という人は、幻想郷という更に別の場所から来たらしい。

そこも天使やらロウ勢力を名乗る存在に攻撃されたと聞いて、ワルターが興味を示す。

「東京はかなり前に滅茶苦茶にされたみたいだが、そっちは大丈夫だったのか」

「大丈夫じゃないわよ。 今のあたしよりも数段強い奴や、あたしが此奴が死ぬわけがないって思っていた奴が大勢殺されたわ。 激しい戦いの中、必死に何とか生き延びて、相手が根負けして引いてくれたからどうにか一段落。 その後態勢を整えて、状況を確認しにあたしは出て来た、て訳。 昔はこういうのを「異変解決」なんて言って遊び半分にやっていたのだけれど、今回はそれどころじゃない殺し合いね」

「どこでも悪行を行っているんだな天使ってのは」

「しかし僕が従えている天使は秩序に忠実で、虐殺者とは遠い。 一体何が起きているのだろう」

ワルターが茶化すが、ヨナタンは冷静に応じる。

僕としても、何も法が無い世界なんぞクソ喰らえだとは思う。そんな場所では、多分人間なんかまともに生きられないだろう。

天使は秩序、法をとにかく大事にするべきだという話を時々ヨナタンとしている。それについては、実の所僕もある程度は同意できる。

問題はその法と秩序の内容だ。

例えばラグジュアリーズとカジュアリティーズの身分を作り、それで無意味な格差を作る東のミカド国の今の状況。

ラグジュアリーズは血統だけで優秀と勘違いし、カジュアリティーズからは本を取りあげ、何も教えない。

それを正しい秩序と法とか言われたら、僕としては賛同できない。

他にも幾つか話を聞く。

だが、此処についての詳しい話は、シェルターにいる人の方が詳しいと言われて、そうかと思った。

まあ、そうなのだろう。

話を聞く限り、霊夢という人も比較的最近此方に来た新参だ。それならば、歴史の生き証人に話を聞くべきだろう。

がたんと鉄の箱が何度も揺れる。

むかしはこういう鉄の箱が、揺れることもなく、たくさん走っていたらしいと聞くと。どれだけ荒廃したのだと、戦慄してしまう。

しばしして。

鉄の箱が止まっていた。

促されて降りると、そこには不可思議な建物があった。あれが国会議事堂らしいと聞かされる。

鉄の門があって、それがしっかり閉じられている。

現在内部は何度か悪魔を掃討したらしく、空っぽだそうだ。様子を見ながら、少しずつ残されている物資などを運び出しているらしい。

大きな鉄の箱がある。

あれは、なんだろう。

筒みたいなのがついている。

「物々しい鉄の箱だな」

「戦車というらしいわよ。 東京がこんなになる前は、陸上での戦いで最強だった存在らしいわ。 あたしの故郷でも存在は知られていたらしいけれど、それも悪魔には歯が立たなかった。 機械に詳しいお爺さんがいてね。 それが直して強くしようと考えているらしいけれど、現状はただの箱ね」

「戦車というとチャリオットのように使うのだろうか」

「いや、そっちの方があたしには分からないわね」

微妙に話が通じない。

霊夢という人が、衛士らしい人外ハンターに話をつける。そして、此処からはその人に案内して欲しいと言う事だった。

まだまだ彼方此方を回らないといけないらしい。

ベヒモスと戦った後なのにか。しかもその直前には、フルーレティともやりあっていたのに。

「まだこのくらいなら平気よ。 それにあいつらが此処を狙って来たから迎撃に出ていただけで、本当だったら戻る予定もなかったわ」

「タフだな」

「どうも。 ただこっちも戦いには慣れているのでね」

霊夢と別れて、案内される先は、あのエレベーターだ。ただしずっと小さい。

内部に入ると、降りる高さも、スカイツリーとは比較にならない程少ないようだった。

降りて、内部に入ると、光景が変わる。

辺りがとてつもなく清潔なのだと分かる。

どちらかというと、ずっと封じられていたターミナルに近いかもしれない。行き交っている人もいるが。

皆他の場所とは違う、清潔な衣服を着ていた。

「此方だ。 来て欲しい」

「一番偉い人の所に案内してくれるの?」

「いや、そこまでフジワラさんもフットワークが軽くはない。 まずは其方の話を詳しく聞かせてくれ」

「さっきも話しただろ」

ワルターが不満そうにいうが、イザボーが咳払い。

ヨナタンが応じると言うと、人外ハンターはやはり多少警戒しながらも頷いていた。

「あんたらは本当に天使じゃないんだよな」

「僕は手持ちとして天使を従えているが、あくまで手持ちとしてだ。 れっきとした人間だよ」

「わたくしも何回か合体材料としては使いましたけれども、それ以上でも以下でもありませんわ」

ヨナタンに対して、イザボーは天使の扱いがドライだ。

ヨナタンは天使について色々と思うところがあるらしく、とにかく増やして大事に育てている。

戦場では自爆特攻上等の戦い方をする天使達だが。

ヨナタンはそれを強要していない。

むしろとても丁寧に、礼をもって接していて。

それで天使も思うところがあるのだろう。

最近は何も言われなくても、ヨナタンに献身的に動いている様だった。

部屋に通される。

丸いテーブルと椅子が並んでいるが、テーブルも椅子も素材が分からない。椅子に座ると反発があって、思わず立ち上がってしまった。

椅子も座るとクルクル回るので、イザボーが困惑しながら立ち上がっている。ヨナタンは椅子を回しながら、こう言う仕組みなのかと感心していた。

ワルターはちょっと居心地が悪そうだ。

元々ガタイが大きいので、椅子が小さいらしい。大きめの椅子を人外ハンターが用意してくれて。それでやっと落ち着いていた。

「これはご機嫌だぜ。 基本木の椅子しかないもんな俺等の所だと」

「ああ。 この椅子は骨格に金属を使っているらしいが、しかしそれ以外の材料はなんだ……?」

「皮みたいだけれど、多分違うね。 生き物っぽくない」

「失礼します」

部屋に入ってきたのは、下働きみたいな格好をした女性の悪魔だ。妖精シルキーとバロウズが教えてくれる。

丁寧に料理を出してくれるが、とても新鮮な野菜を中心に、僕らがみても美味しそうな品である。

一応毒にもある程度耐性がある僕から食べる。

何しろ農家の出である。

痛みかけの食べ物はどうしても口にするし、毒については口に入れてみれば分かる。

ちょっと違和感があるが、毒ではないと思う。

野菜については見た事もないものもあるが、充分にみずみずしくて美味しいと思った。皆にそれを告げて、食べさせて貰う。

東京の人達が食べている地獄のような食べ物は既に見ている。

あの地獄みたいな食べ物でも、ワルターは興味深そうに食べていたが、僕でもあまり美味しくは無いと思ったし。ヨナタンは拒否。イザボーは見るだけで気分が悪くなりそうな顔をしていた。

だが、それでも無駄にはしていなかった。

そんな食べ物でも、食べる事ができない人すらいる。

それが今の東京だと分かっているからだ。

今出されている食べ物は、まるで別物だ。僕の表情で察したか、皆も食べ始める。

まあ、そういう状態だから、警戒と同時に、向こうも興味を持っていると見た。

それに聞いていた話通りだ。

上野の人外ハンター協会でも言っていたが、新鮮な食べ物が出回り始めているらしいというのは聞いている。

出所は此処だろう。

確かに美味しいし新鮮だ。ちょっと味に違和感はあるけれど。

「この肉は何の肉だろう」

「豚でも牛でもないね。 鶏とも違う。 シルキー、これは何?」

「私にも詳しい仕組みは分からないのだけれど、機械が全て自動で作っているらしいわ」

「機械が……文明の桁が違いますわ」

絶句気味にイザボーが言う。

しばし美味しい料理をいただいた後、待つ。

トイレについても案内して貰ったが、全自動で汚物を流してくれる上に、とても清潔だった。

水もここは潤沢に使えているらしい。

その途中で、軽く見るが。

子供が、悪魔に指導を受けて、戦い方を習っていたり。お爺さんが本を読み聞かせて、勉強をさせていたりしていた。

他にも色々な仕事を、それぞれ分担してやっているようだ。

カジュアリティーズより組織化されているんじゃないかあれは。

そうとさえ思う。

部屋に戻って、少し待つと。

やがて、もう少しで引退だろう人外ハンターの戦士が来る。

志村と名乗ったので、此方も名乗る。

志村と言う人は、数体の悪魔を連れていたが。いずれもかなりの強者だ。ただし、どれも志村の手持ちには見えない。

「サムライとはいうが、名前は洋風なんだな」

「洋風?」

「君達の話を聞く限り、公用語と魔法の言語というのがあるんだろう。 そして実際に聞く限り、その公用語というのは英語と本来は言われているものだ。 魔法の言語は日本語と言われている」

「よく分からない話だな。 生まれつき使っているから、なんともおもわねえ」

僕もそれについてはワルターと同感だ。

それから幾つか互いに質疑をする。

志村の話によると、此処の一番偉い人はフジワラというらしいのだが。今はちょっと所用で出ていて、二日ほど戻らないという。

池袋という土地で危険な悪魔が暴れていて、それの威力偵察らしい。

手伝おうかというと、志村に提案される。

「我々としても、まだ君達を信用できる状態にはない。 それで、一つ今手が足りなくて解決できていない問題をどうにかしてほしいんだ」

「ああ、信用を得ろって事だね」

「そうなる。 東京の政治の中心だったのがここ国会議事堂だが、行政の中心だった東京都庁というものがある」

この辺りは土地としては「霞ヶ関」となるらしい。永田町は、その一角であるそうだ。

都庁というのは新宿という場所にあるそうで。その新宿は、大戦の前には世界でもっとも人間が行き来する駅だったらしい。

上野駅とも比較にならない規模だったとか。

「今新宿都庁に厄介な悪魔が住み着いていてね。 人を襲い喰らう危険な奴だ。 此方としても対処したいんだが、手が足りていない。 救うべき人を各地から救助するだけで手一杯なんだ。 霊夢さんらも各地のもっと厄介な大物なんかに対処するので手一杯の状態でね」

「分かった。 片付けてくるよ」

「助かる。 人外ハンターを何度も退けている相手だ。 くれぐれも気を付けて欲しい」

もう一つ、片付けて欲しいものがあるらしい。

此処のすぐ隣にちいさなシェルターがあるのだが。その中にターミナルがあるという。勿論悪魔も陣取っているそうだ。

そうか、それは片付けておきたいところだ。

行き来も楽になるし、一度報告のために東のミカド国に戻ることも出来るだろう。

新宿の場所をバロウズに登録。

それで、僕は腰を上げていた。

ターミナルにいる悪魔となると、弱い訳がない。

皆頷く。

太歳星君ほどの相手かは分からないが、それでも油断はとても出来なかった。

 

2、共闘開始

 

ターミナルに出向く途中で、志村が若い子を二人呼んでくる。見た所、十三〜四歳というところか。

男の子と女の子だが、男の子の方は何もかも恨んでいるような獰猛な雰囲気である。

女の子の方も野性的な格好をしているが、比較的言動はしっかりしていた。

「志村さん、この人等は?」

「噂のサムライだ」

「それって天使かもって言われている奴らだろ。 大丈夫なのか?」

女の子の方は、天使という単語が出ただけですくみ上がっていた。それほど怖れられているのか。

今の子供達は、東京で起きた大戦という災厄を直接は知らないらしい。

それでこれほど怖れられていると言うのは、相当だな。

僕はそう思って、天使を大事にしているヨナタンの事を一瞥する。ヨナタンも思うところがあるらしい。

「皆の中で天使を使役しているのは僕だけで、僕も大戦というものでこの辺りを荒らし回った天使が何者なのかは知っておきたい。 僕の手持ちの天使が悪さをしないことは約束しよう」

「ふーん、随分毛並みが良いんだな」

「こいつは貴族様だぜ。 だが、クソみたいな血筋だけの貴族様じゃなくて、きっちりちゃんと立派に貴族をしてる。 それは俺が保証する」

「そっか。 あんたはなんだか俺と馬があいそうだ。 そんなあんたがいうなら、ちょっと信じてもいいかな」

男の子、ナナシがそういう。

とりあえず、ターミナルに。

移動しながら、軽く話をする。志村もついてくるので、まあ身を守ることだけは問題ないだろう。

「ターミナルに前にいたのは太歳星君って邪神だった。 とにかく手強い相手だったし、今回も何がいてもおかしくない。 最悪さっさと逃げてね。 ターミナルの主は、逃げる相手を追うつもりもないようだったし」

「上野のターミナルに太歳星君がいたのは私も把握している。 此処にいるのがそれより弱いとは限らない。 二人とも、支援に徹しろ。 くれぐれも前に出るなよ」

「分かった。 そんなにヤバイ奴がいるのか」

「回復は任せてください。 回復魔術使いで揃えてありますので」

女の子の方、アサヒがそう言う。

僕は頷くと、またエレベーターで降りる。

こっちはつい最近内部を制圧したばかりらしい。しかもターミナルがあるから、内部にまだ拠点は作っていないそうだ。

見ると埃っぽく、色々と機械や知らないものがある。

志村が此方だと案内してくれる。

血の跡もある。

ここで死んだ人もいるのだろう。或いは、実体がある程度ある悪魔かも知れないが。

案内された先には扉がある。

いる。

びりびり気配がする。僕は先に呼吸を整えると、「入って」おく。それを見て、ワルターが前に出ていた。

「大剣は折っちまったが、ステゴロでもやってやるぜ」

「その意気。 ターミナルだったら一度戻って、それから装備を調えて新宿とやらに向かおう」

「さっきのベヒモス戦で、パワーに転化した天使が更に増えた。 前衛はサポートするよ」

「わたくしの鬼も、スイキという更に大型の鬼に転化しましたわ。 前衛はある程度支援できましてよ」

心強い話だ。

僕が最前列で扉に入る。

やっぱり結界が張られていて、内部は領域になっていた。

「む、もう来たのね。 思ったよりも早いじゃない」

「?」

気配は以前と同じだ。

だが、前にいた奴と同じだろう人型の悪魔は。屈強な男性なのに、何故か女物らしい服を着ていて、しゃべり方もそれっぽかった。

声が低いから、余計に違和感が強い。

「なんで前と声とか格好が違うの?」

「それはね、あたしもいつも同じだとつまらないと思うから。 格好とか色々、用意してお・出・迎・え、というわけよ」

「へえ……」

「じゃ、今回は彼に相手をして貰おうかしら。 彼を斃せたら、此処は自由に使わせてあげるわ」

すっと進み出てくるのは。

なんだ。

小柄な子供に見える。

手足に何か不可思議な道具をつけているが、びりびり来るほどの強い気配だ。

「軍神ナタタイシ、行きなさい」

「ナタタイシだって……!」

「志村のおっさん、知ってるのか?」

「道教でも屈指の人気を持つ軍神だ。 くっ、まずいな。 フリン殿、手強いぞ!」

分かってる。

実際、いきなり足も動かさず、滑るようにして拳を叩き込んでくる。とんでもなく重い。僕も牙の槍で弾きながら、足捌きを用いて受け流すが、それでも後方に吹っ飛ばされる。更に蹴りを長い足から叩きこんだワルターだが、振り向きもせずにナタタイシは拳を振るい。

ワルターが衝撃波だけで吹っ飛ばされて、壁にドゴンとか音を立てて叩き付けられていた。

数体のパワーが同時に襲いかかるが、ナタタイシが手にしている武器をすっと振るだけで、スライスされてかき消える。

冗談じゃない。

前の太歳星君よりも更に強い相手だ。

僕は飛び起きると、ジグザグに走りながら突貫。その間、イザボーがスイキを突撃させ、同時に魔術攻撃班で一斉に魔術を叩き込ませるが、どれも涼しい顔でナタタイシは耐えている。

ナタタイシを呼び出した男は腕組みして、後ろで余裕を持って見ている有様だ。

後方から志村とナナシが援護射撃をしてくれているが、銃弾を受けてもナタタイシにダメージが入っている様子はない。

多分此奴も弱体化しているのだろうが。

それでこの強さか。

僕が呼び出したピクシーと末の子が、連携して雷撃魔術を叩き込む。

それを見て、イザボーが詠唱から、大きめの冷気魔術を同時に放っていた。

雷撃魔術を涼しい顔で受け流したナタタイシだが、その頭に、復帰してきたワルターが、舐めるなと叫びつつ、凄まじい蹴りを叩き込む。それも腕でガードするナタタイシだが。その時、僕が強化魔術込みの突きを同時に打ち込む。それももう片方の手でガードするナタタイシ。

ふっと体を回転させるだけで、僕とワルターを吹っ飛ばして見せるが、少しずつパワーと速度になれてきた。

ワルターのナーガが飛びついて、絡みつきに懸かるが、ナタタイシはナーガをそのまま引きちぎってしまう。

更にはスイキに組み付かれるが、そのまま投げ飛ばして地面に叩き付ける。

二体とも消えてしまう中。

一斉に叩き込まれた天使の光の魔術。

それも、気合でかき消してくる。

しかしその間、僕は更に強化魔術を重ね掛け。

筋力強化では無い。

今度は速度強化だ。

すり足から、ナタタイシに今度は払いを、更に続けての突き技を、連続で叩き込んでいく。速度が上がったことに気付いたナタタイシだが。その足が滑る。

さっきの冷気魔術の掃射の結果、床が濡れたのだ。ナタタイシの足下はなにか機械みたいなので動いているのだが。

それが上手く濡れた水に対応できなかった。

一瞬態勢を崩したところに牙の槍を地面に突き立てつつ、それを軸にして回し蹴りを叩き込む。

完全に入った。

くの字に折れたナタタイシが吹っ飛び、壁に叩き付けられる。

一斉に銃撃と魔術での飽和攻撃を浴びせかけるが、それが全てかき消された。ナタタイシが纏っている布みたいなのが、それを為したらしい。

「信仰が失われ弱体化しているとは言え、道教でも屈指の武闘派神格よ。 色々な技を持つわ。 さあ、どう攻め……」

「いや、もう貰った」

僕は深呼吸すると、最後の一押しに入る。

悪魔からどんどん色々な技を教わっているが、その一つ。

体内の力の流れをコントロールして、一点に爆発させる奥義。

悪魔はチャージと呼んでいたっけ。

それを、ナタタイシが飽和攻撃を吹っ飛ばした時から練り上げ、既に完成させていた。

突貫。

ナタタイシが拳を此方に向けると、強烈な衝撃波を叩き込んでくる。ワルターが立ちふさがると、大きな蜘蛛みたいな悪魔を呼び出して、その悪魔と一緒に体ごと防ぐ。そして、ナタタイシの全身が凍り付く。

時間差でイザボーが魔術を叩き混んで凍らせたのだ。

そして左右から、ヨナタンの天使が一斉にナタタイシに襲いかかる。それを捌くのが、最後の頑張りだった。

僕の渾身の突き技が、ナタタイシの胸を貫く。

若干効きは悪かったようだが、それでも何か大事なものを砕ききった手応えがあった。

悪魔の領域が吹っ飛ぶ。ナタタイシは胸に大穴を開けつつも、原型を保ったまま倒れていた。

おおと、ナタタイシを呼び出した男が感心していた。

「まさか弱体化しているとは言えナタタイシを下すとは。 見事見事。 ターミナルは明け渡すわ」

「……僕はもういいんだな」

半身を起こしたナタタイシが喋る。壊したと思ったのに、まだ動けるのか。

なんか声はクソガキじみていた。

「いいわよ。 あの西王母に協力したくないって拗ねてた所を契約しただけですものね。 元々は護法神に近い貴方が、あたしみたいな冷血悪魔と協力するなんて屈辱だったでしょう。 後は好きにすればいいわよ」

「そうさせてもらう。 おい、其処の人間共。 僕の本当の力はこんなもんじゃないからな。 悪魔召喚で呼び出せ。 その時は本当の力、見せてやるよ」

負け惜しみというか捨て台詞というか。

そういうと、ナタタイシはマグネタイトになって消え果てた。

後ろで志村が冷や汗を掻いているのが分かった。

「じゃ、あたしはこれで。 また何処かで近いうちに会いましょうねえ」

「二度とくんな」

「あら釣れない。 でもどうせすぐに会うことになるわよ」

すぐにアサヒが回復魔術を掛けてくれる。ナナシは舌打ちすると、じっと手を見ている。

非力すぎる。

そう感じたのかも知れない。

だが、あのナタタイシの膨大なマグネタイトを得たのだ。きっと、すぐに強くなれる筈だ。

領域が消え、ターミナルになる。

アサヒの回復魔術を受けた僕は、まだちょっとふらつくけれど、もう大丈夫だ。

「ありがとう。 とりあえずターミナルに登録して、一度東のミカド国に戻るよ。 ワルターも武器を無くしちゃったしね」

「ナナシ、アサヒ、お前達も登録しておけ。 私も人外ハンターへの登録を勧めておく。 これで一瞬で此処に戻れる。 ただしターミナルからターミナルへの移動が出来るだけだし、何より直接登録した人間しか使えないから、誰かを連れて転移する事は出来ないぞ」

「便利だな。 でも俺の今の力じゃ、それを生かせねえ」

「お前は同年代では充分過ぎる程に強い。 だから今は気にせず、確実に修練して力を伸ばせ。 それはアサヒも同じだ」

志村が慰めている。

いずれにしても、僕達も一度戻る頃合いだ。

此処を使わせて貰う事。

他のサムライにも、此処は案内すること。それを告げて、後はターミナルから一度戻る。

東のミカド国王城ターミナルに戻ると、やはり空中に放り出されて。

疲れきっているワルターは受け身を取り損ねて、僕があわててお姫様抱っこして受け止めていた。

「危なかったね。 大丈夫?」

「……屈辱だ」

「あんな相手と戦った後だし、仕方がないよ。 強かったねあいつ。 ワルター、作れるようになったら呼び出してみたら?」

「そこまで力が上がるなら、やってみるさ。 それにしてもターミナルは便利だが、毎度あんなのが出てくるのか? 冗談きついぜ……」

城の広場に出る。

まずはホープ隊長の所に。

ホープ隊長は執務室にいて、ボロボロになって戻って来た僕とワルターを見て、絶句していた。

「何があった」

「ターミナルに凄い悪魔がいて。 酷い目にあいました。 ただ、また一つターミナルを開放したので、報告がてらに戻りました」

「それとすみません。 大剣折っちまいました」

「結構な業物だったのにな。 まあいい。 ヨナタン、報告書を。 ワルター、お前は始末書だ。 文面は渡すから、それにそって書くように」

僕とイザボーは、一旦休むように言われる。

これが僕の報告書よりも、ヨナタンの奴のが正確性が高いから、という判断らしい。

まあ僕が最前線で常に体張ってるのは、ヨナタンも報告してくれているのだろう。だとすると有り難い話ではある。

イザボーもなんだかんだでブレーキ役をやってくれるし、悪魔から多彩な魔術を習って今ではすっかり熟練の後方支援役だ。

ナタタイシとの戦いでも、随分支援してくれた。

一度隊舎に行って風呂に入り、その後は睡眠を貪る。

寒くなって来ている。

前に十月の末になっていたが。

多分これは十一月過ぎているな。

そう、僕は思った。

 

報告書をヨナタンが提出してくれたらしく、ついでにワルターも始末書を書いて提出したらしい。

僕は牙の槍を鍛冶屋に渡して、調整して貰う。

鍛冶屋は口調は丁寧だが、時々ちくりと釘を刺してくる。

「おサムライ様は年齢には似合わぬ程の武芸の持ち主のようですが、それでもまだこの槍が悲鳴を上げていますな。 もう少し腕を磨けば、更に力を発揮できることでしょう。 処置は澄ませておきました。 ただ、あまり乱暴に扱うと、その内折れてしまいますよ」

「ごめん」

「謝るのはこの槍にしてくださいませ。 それでは、此方になります」

支給されているお給金で支払っておく。

命を預ける武器だ。これくらいの出費は仕方がない。

ワルターは最初から大剣を買い直しだ。相手がベヒモスだったのだし、仕方がない。僕だって、牙の槍を守りきれたのが不思議なくらいなのだ。

一度四人で集まる。

それで話を聞いたのだが、ナバールが奈落で修練を積んで、なんと東京に出る分隊のメンバーに選抜されたらしい。

他の班が今度上野まで引率するそうだ。

今では逃げ癖もなくなって、悪魔ともかなりやり合えるようになっているそうだ。

「それは良い事だね」

「やっとまともになっただけですわ。 今までの不良行為がそれで消える訳ではない。 ようやく人並みになった、ということですのよ」

イザボーは手厳しい。

まあ、悪党がたまに良い事をすると、普段から真面目に生きている人より偉いみたいに言われる風潮は、僕にも思うところがある。

確かにナバールはこれからだろう。

これから悪党に戻るようなら、それまでだ。

僕も擁護はしきれない。

「それで、新宿という所に出向くんですのね」

「うん。 フジワラって人は恐らく僕らを試しているし、こっちとしても円滑な連携を組むためにも必要だよ。 それに悪魔にも色々いる。 人間を食い荒らしているような奴は、さっさと駆除しないとね」

「ああ。 ただ、人間の方が悪い状況も、あの東京ではあるかもな」

「……阿修羅会だとかいう連中の事を考えると、そうかもね」

赤玉とか言う連中が持っていた奴。

あれは志村に引き渡して来た。

どうにも嫌な代物だったし。志村の方で処分してくれるという事だったので、それでいい。

二日休憩を取るが、こっちと東京では時間経過が60倍違う。二日なんて、東京では一瞬だ。

だからそれでじっくり休んだ後、また霞ヶ関のターミナルに戻る。

そして戻ると、既に人が入り始めていて、驚かされた。

悪魔が組織的に何か機械みたいなのを運び込んでいて、それを統率しているのは肌の色が人間とは思えない、筋肉質の老人だ。

「な、なんだ貴方は!」

「人間!?」

「失礼な。 まあ、不死の薬を飲んだから、厳密に人間と呼んで良いかはわからんがな」

声で分かった。

あのベヒモス戦で声を掛けて来ていた老人だ。

悪魔達と一緒に荷物を運んでいる銀髪の女の子がいる。此方を一瞥だけして。一瞬だけ視線があったが。

なんだろう。

なんだかぼんやりと、知っているような気がする。

いずれにしても、僕よりも小さな体だけど、荷物を苦も無く運んでいるし。手助けは必要なさそうだ。

「わしは地獄。 そうさな、ドクターヘルとでも呼ぶがいい」

「またそれは、随分と物騒な名前だな……」

「好きこのんでどうしてそんな名前を?」

「カカカ、この世のあらゆる地獄を見て来たからな。 まあそれはいい。 今は忙しいのでな、失礼する。 此処を工場化して、更にあのシェルターの物資生産力やらを強化しなければならんのよ」

まあ、急がしいというなら仕方がないか。

ともかくさっさと此処を後にさせて貰う。

新宿という土地は此処からそれなりに遠い。

移動経路については教わっているが、現状だと地下通路を何回か経由していくのが現実的らしい。

勿論そういう通路は悪魔だらけなので、戦闘は避けられないだろう。

それよりもだ。

ピクシーを呼び出すと、言われる。

「ねえねえ。 私、上位の存在になれるみたいだよ!」

「本当。 そっか、転化か」

「やってみてもいい!?」

「いいよ」

ピクシーが、頷くと光に包まれる。天使の転化は何回か見てきたが。僕の手持ちの転化は初めてだ。

ピクシーが光を振り払い、現れたのはもう少し大人っぽい容姿になって、鎧を着込んだちいさな妖精の戦士だった。

ふふんと胸を張ってみせる。

あのナタタイシとの戦いで、大量のマグネタイトを吸収したのが大きかったのだろう。

バロウズが早速解説してくれる。

「ハイピクシー。 ピクシーの上位存在ね。 妖精としてはそれなりの力を持っていて、兵士階級にあたるそうよ」

「ええ、そういうこと。 今後ともよろしく」

「うん」

さて、戦力も少しずつ増強されている。

末の子はと聞いてみるが、まだまだだと悲しそうに言われた。

まあ元々が色々と難しい出自の悪魔だ。

そう簡単に上位種にはなれないだろう。

人外ハンターと、明確に連携する事で、大きな成果があった。それは事実だ。

新宿に向かう途中。

鉄の箱が追いついてくる。

志村だった。

「君達、随分戻りが早かったな」

「大丈夫、休んできましたよ」

「それならいいのだが。 新宿については、ナナシとアサヒが土地勘がある。 つれて行ってくれるか」

「大丈夫、役に立って見せます!」

アサヒが言う。

アサヒは少しターミナルで戻る前に話したのだが、冷静に魔術戦をこなすイザボーを見て、感動したらしい。

女子にもてるという謎体質がまた発動しているのかも知れない。

イザボーの手を採って、ブンブン上下に振り回すアサヒ。

「イザボー姉さんと呼ばせてください!」

「えっ? は、はあ。 まあよくってよ……」

「やったあ!」

一方ナナシは、銃を丁寧に整備している。僕はとりあえず、この子はまだまだだと思うが。ただ、将来性は高そうだとも思う。

またナナシは、ワルターに興味があるようだ。

だからワルターに声を掛けておく。

「ナナシって子は頼むよ」

「俺か? まあ良いけどよ」

「お願いします。 少しでも早く強くなりたいんで」

「……そうか。 分かった。 くれぐれも俺の前に出るな。 支援に徹しろ。 それを約束できるなら良いぜ」

まあ、そうだろうな。

僕にはなんとなしに分かるのだ。

ワルターは漁師町で荒れた生活をしていたと聞く。早く大人になって力が欲しいと思っていただろう。

それに、ナバールについてのイザボーの話を聞いて、色々思うところもあったようだ。

ワルターは世界に対する反発はあっても、根っからの悪人ではない。

昔の自分に近い相手がいれば、きっと思うところもあるはずだ。

「それとあんた、フリンさん」

「うん?」

「あんたのもの凄い戦闘術、間近で見せてもらって勉強させて貰うッスよ。 よろしく」

「ありがとう。 追いつかれないように頑張るよ」

さて、では行くか。

新宿とやらまで相応にかかる。それに、だ。

遺物なんかを集めるのにも、現地の協力者がいるのは、とても有り難い話であった。

 

3、池袋威力偵察

 

霊夢は上空から、池袋に到達。途中で悪魔に何度か仕掛けられたが、いずれも叩き落としてきた。

スペルカードルールという、殺し合いにならない決闘方ですませられていた昔が懐かしい。

狭い幻想郷で殺し合っていたら、あっと言う間に誰もいなくなる。

だから霊夢の友人が考え出した、誰も傷つかない決闘方、スペルカードルール。弾幕ごっことも言われたそれだが。

当然、侵略してきた「天の国の兵士」だとかいう天使どもは、そんなものには乗ってくれなかった。

凄惨な殺し合いが始まり。

人間も神も妖怪も、散々殺された。

霊夢も殺しに慣れた。妖怪を退治するのは昔からやっていたが、本当の意味での殺しに、だ。

今は、悪魔をなんの躊躇もなく殺せるようになっている。昔から気性は荒く手も早い方だったが。

それでも今は、眉一つ動かさず、状況次第で人間も殺せるようになっていた。

この辺りが池袋か。

新宿に近い地域だが、確かに凄まじい有様だ。炎で全域が覆われている。

着地して、周囲を確認。

なるほど、これは厄介だ。

燃えさかるこれは、普通の炎ではない。下手をすると、内部の人間は全て食い荒らされるだろう。

赤い服……修行僧だろうか。そんな服をきた奴らと、その使役悪魔らしいのが、不意に周囲を取り囲む。

動きは統率が取れていて、自己鍛錬を欠かしていないのが明らかだった。

「空を飛んでいたな。 何者だ」

「最近此方に来た博麗霊夢。 今は人外ハンターに協力しているわ」

「……人間か」

「人間よ。 人間離れしているとは良く言われるけれど」

赤い奴らはしばし距離を取っていたが。

その中から、背の高い女が進み出てくる。

カガと名乗る。

霊夢は頷くと、何者かと聞いておく。

そして帰ってきた答えが、ガイア教団だった。

そうか、此奴らが。

東京を三分する人間勢力の一つ。力が全て、欲望全肯定、金。そういう組織だと言う事だ。

霊夢もどちらかと言えば金に関してはシビアな方だが。力がある奴は何やってもいいという理屈が、如何に幻想郷を蹂躙したかは間近で見ている。

そういう思想には嫌悪感しかない。

昔の霊夢だったら違っただろうが。

凄惨な絶滅戦を仕掛けて来た天使共の残虐行為を散々間近で見た身としては、そういう思想には絶対同意できなかった。

「かなりの力の持ち主のようだな。 何をしにきた」

「池袋に厄介なのがいるって聞いてね。 手がようやく空いたから、実際に見に来たわけ。 これは確かに厄介だわ」

「そうだな。 現在此方でも、突破を図れないか調べている所だが……」

「それより後ろの。 出て来なさい。 さっきからしつこいんだけど。 五月蠅いようだと潰すわよ」

気配を消して潜んでいるつもりだろうが、こっちは潜った修羅場の数が違う。

諦めたか、姿を見せる子供。

ナナシやアサヒよりもう少し年下か。肌が異様に白く、一目で分かる。暗殺者として徹底的に訓練され、感情も何も殺して生きる存在だ。

手に持っている大きな鉈が、もの凄く馴染んでいる。これは実際に、もう人も殺しているだろう。

カガという女が眉をひそめる。

霊夢の嫌悪感に気付いたからかも知れない。

「それほどの力を持ちながら、力を貴ばないのだな」

「この程度の力の持ち主なんて幾らでもいる。 あたしのいた場所でもそうだったし、この東京でもね。 井戸の中のカエルの勢力争いなんか興味ないんだわ」

「厳しい言葉ではあるが、その通りではあるのかもな」

「それよりも、突破は諦めなさい」

霊夢が言うと、ガイア教徒達は殺気立つ。

それはそうだろう。

此奴らは典型的な脳筋だ。

霊夢がいた幻想郷にも武闘派の仏教徒集団がいたが、あっちの方がまだ頭を使ってクレバーに動いていた。

此奴らは力を貴ぶ割りに、頭を使わなさすぎる。

「今軽く見て回ったけれど、この池袋、現時点で三重の結界が施されているわね」

「三重……?」

「此方としても此処に巣くっている西王母は倒すべき敵だ。 詳しく教えてはくれないだろうか」

「……まず第一にこの炎の結界。 これはそもそも本来はこの土地の神が持っていた所有権そのものを炎にしているものよ」

この国の神々は多くが封印されている。やったのはあの天使とかいう連中だ。それは間違いない。

問題はそれで空いた領土に、外来種が居座ったことだ。

その外来種が西王母である。

西王母は霊夢も知っている。

霊夢が敵対していた強大な相手……月。現実の月ではなく霊的な月で、其処に住んでいたのは月夜見を初めとする日本神話の一部神格と中華系の神々だったが。その首魁である嫦娥の悪辣さは、反吐が出る程の代物だった。

後から詳しい話は月から離脱した連中から聞いたのだが、今の霊夢でも不快感がこみ上げてきて、冷静に対応は難しい。

その月が、霊夢のいた場所……幻想郷に天使共が攻めこんできた事件に関わっているのだが。

ともかく月は既に破綻しており、殆どの神格は月が天使共に潰された時に殺された。だが、生き延びて地球に降り立った神格もいる。

それらの神格の内、明確に厄介者としてタチ悪く立ち回ったのが西王母だ。

何処で何をやらかしているか分からないから気を付けろ。

そう元月の武闘派神格であり、神降ろしについて指導してくれた神は言っていたな。その危惧が当たってしまった。

元々西王母は道教の古い神である。本来は凶暴な獣の神で、炎を噴く極めて荒々しい神格だった。

それが人間達の間で理想的な女神みたいに持ち上げられて、大人しそうな神格になった訳だが。

一度信仰が壊れてしまえば。

その凶暴な本質が剥き出しになる。

嫦娥が滅されたというのは良かったのかも知れない。

嫦娥までここで好きかってしていたら、はっきり言って手に負えなかっただろう。

「この国の土地の力を乗っ取って作った炎の壁だから、土地の神の許しがなければ通る事は不可能よ。 土地の神はどこで何をしているやらね」

「むう……」

「確かにどの悪魔でも焼け死ぬだけだった。 水も氷も効き目がないが……」

「そんな魔術通じないわよ。 そういったものの最上位の存在が壁になっているんだから」

更にもう二つの壁。

これが厄介だ。

西王母は現時点でこの炎で包んだ池袋の住人を片っ端から食い荒らしているようだが、それは自分を恐怖させるためだ。

恐怖を用いて自分の力を増している。

東京全域で残り10万だかしかいない人間を、池袋だけとはいえ手当たり次第にだ。

つまり先の事なんて考える脳みそが失われてしまっている。

神としてただの無差別な祟り神に落ちており。

神格としての最悪の意味での堕落を引き起こしていると言えるだろう。

その堕落を用いて、自分の力を最大限に増幅する結界を展開している。これが第二の壁。東京で悪魔が自分の領域を作る時にやる奴だが、西王母はもう一枚上手だ。

三枚目の壁。

それが、陰陽五行を利用した防壁である。

「池袋の五箇所に奴の手下の中華系神格が配置されているわね。 中華そのものがなくなってしまった今は、どれも最悪まで堕落した存在に落ちている筈よ」

「その五箇所がどうかしたのか」

「その五箇所から同時に力が西王母に供給され、西王母からもその五箇所に力を同時供給している。 要するに西王母とこの五箇所にいる堕落した祟り神を同時に叩かないと、まず西王母は斃せない。 その前提を満たしたとしても、相手は結界内で力を極限まで増幅している状態だけれどね」

つまり無敵バリアの二枚重ねと言う訳だ。

それを聞いて、カガが呻く。

そもそも立ち入れないし、立ち入った所で勝ち目がない。

「分かったら良いから帰りなさい」

「貴様はどうするつもりだ」

「作戦を立てるために一旦戻る。 道具類も準備しないといけないし、力が落ちているとはいえ、西王母と五箇所の要所を同時攻略するとなるとそれなりの人手が必要だわ」

さて、話を聞くだろうか此奴ら。

デタラメだとか抜かし始めたら、ぶん殴るしかなくなる。

霊夢としても、この人数を殺さずに黙らせるのは手間だ。

だが、意外に。

カガという女は、物わかりが良かった。

「……どうやら、いずれにしても今すぐの攻略は不可能なようだな。 我々も引くぞ。 情報収集がいる。 炎の周囲に群れている悪魔を駆除する人員以外は、情報収集に移行せよ」

「承知!」

ガイア教徒が引いていく。

鉈を持った子供は、しばし霊夢を見ていたが。視線を向けると、顔を背けた。

「何」

「それだけの力があるのに、論理的だな」

「結界のエキスパートですからねこれでも」

「そうか。 何かを極めているというのは凄い事だ」

何だか子供らしくない奴だな。まあそれはいい。

カガに言われて、子供が行く。呼んだ様子からしてトキという名前らしい。

まあ、あのカガという女も、トキという子供も、無理に炎に突っ込まずに死ぬのは避けられるだろう。

問題はそれじゃない。

今この瞬間も。池袋に閉じ込められている人間の命が減り続けている。魂すら外に漏れてこない。

恐らく西王母は、魂をそのまま自分に取り込んで、輪廻の輪に返していない。

それは神としては最大限の命への侮辱だ。

元々月の都の上層部は腐りきっていると聞いていたが、敗戦から此処まで墜ちたのか、それとも最初から落ちていたのか。

それは霊夢には分からない。

ともあれ、大まかな結界の仕組みは理解した。

西王母と戦うのは霊夢がやるか、あるいは規格外マーメイドに任せるか。だが、五箇所の雑魚をどう始末するか。一番腕がいい人外ハンターを見繕っても、多分まとめてぶつけて一箇所を制圧するのがやっとだとみて良いだろう。

相手は西王母含めて切り札六枚。

此方は霊夢と秀とあの規格外マーメイド。

それにフジワラとツギハギ。最悪あの銀髪の娘にも出て貰うとしても、それでも手札が足りない。

ある程度調査をしていき、それで分かってきた事がある。

五箇所の結界を守っているのは、負の力に引きずられて堕落した五神だ。玄武白虎青龍朱雀、それに黄龍。

中華の方向信仰の主神にて、それぞれが様々な要素を司り、風水の重要な要素になっている存在。

西王母の麾下に無理矢理組み入れられ、しかも相当に弱体化しているだろうが。

それでもかなり手強い筈だ。

池袋の構造も可能な限り調べるが、最悪だ。

全体が西王母の胃袋になっている。

内部では人間がひたすらに恐怖を与えられつつ、見せつけられるようにして少しずつ食われているようだ。

それもひと思いになどではなく、凌遅刑のように切り刻みながら食べているようである。

ともかく、これは一刻も早くどうにかしないとまずい。

シェルターに戻る。

とにかく手札が足りない。それについては、報告をして、情報を共有しなければまずい。

 

シェルターに戻ると、フジワラを探す。

フジワラは丁度戻って来ていて、銀髪の娘に取り憑いている何者か。フジワラが殿と呼んでいる存在に、アドバイスを受けているようだった。

「先に視察してきたが、七班の動きが良くないな。 指定する二人は戦闘指揮から外せ。 他にやらせる仕事を見繕ってやらせろ」

「分かりました。 確かに子供への教育方針が厳しすぎるとは見ていて思っていましたが」

「その内血を見る事になる。 わしが教えたとおりに教育をさせよ。 今の言葉でいうスタンドプレイをする輩は此処にはいらん」

「ははっ」

咳払いすると、気付いておると殿は言う。

まあそうだろうな。

まず、池袋について話をしておく。かなり悪い状態だ。

全て丁寧に説明を終えると、フジワラは帽子を取ってため息をついていた。

「なる程、五箇所の結界の要地を同時に攻略しつつ、結界で強くなっている西王母を倒さないといけないと」

「ええ。 その上……最悪の場合、奴は蓬莱の薬を服用しているかも」

「蓬莱の薬?」

「不老不死の秘薬よ。 それも瞬間再生レベルのね」

絶句するフジワラ。

あれは確か、月の都でも嫦娥と他限られた存在しか服薬していなかった筈だが。月が滅んだときに、西王母が持ち出していたら最悪の事態になるだろう。

しかも奴は貪欲に毎日人を喰らっている。当然邪神になっている西王母は、魂ごと人間の恐怖を取り込んで膨れあがっている訳で、毎日更に強くなっている。

時間はない。

「そもそも池袋になんで奴が居着いたの? 外部から神でも招こうと住民がした訳?」

「これは少し古い話になるんだがね」

フジワラが寂しそうに話し始める。

池袋という土地は、元から不良外国人に好き放題されていた土地だったのだという。戦後の頃からそうで、ずっと地元の人間なんておらず、暮らしているのは外来種ばかりだったそうだ。

海外の犯罪組織やらが抗争を繰り広げる東京の果ての地。

他にも新大久保とか似たような土地はあったらしいが、池袋は特に酷かったというのだ。

「大戦の後池袋は阿修羅会が乗っ取った。 まあそれもそうで、海外からの資本がなくなった以上、犯罪組織なんかもとの自力が高い方が勝つ。 問題は、住民がそれを良いかと受け入れてしまったことだ。 そこに更に西王母がつけ込んだ。 西王母は、阿修羅会よりましな支配をしてやると住民にささやきかけたことが分かっている。 よりにもよって、文字通りの悪魔の囁きに、池袋の住民は乗ってしまったんだ」

バカなのか。

だが、そうも言えないか。

霊夢がいた幻想郷の人間だって、妖怪がいる事を受け入れていたし。人間の里の実際の支配者が、賢者と呼ばれる最高位妖怪である事を受け入れてしまっていた。妖怪を追い出して自治を、なんて言い出す奴はいなかった。

それは霊夢だって同じだ。

幻想郷はこういう場所だと思って。人間を明確に食うような妖怪は始末していたが、それ以外の人間を恐れされて力に変えるタイプの妖怪には寛容だった。

幻想郷はなんでも受け入れる。

その賢者の言葉だ。

だから、受け入れてしまったのかも知れない。

あの天から迫り来る、殺戮しか考えない天使の群れを。

「西王母は強いわ。 幸い月にいた頃ほどではないでしょうけれどね。 あたしが調べた二枚の壁を突破してもなお力勝負になるでしょうね。 ぶつけるのは最低でもあたし達のうち二人以上が最低条件よ。 他五体も、決して弱い悪魔じゃない。 しかもそれら全て同時にダメージを与えて、西王母ごと倒すくらいの作戦行動が必要だわ」

「……今そんな作戦に乗ってくれる人外ハンターはそう多く無いな。 実は炎の壁の突破については、目処が立っているんだが」

「!」

「僕の方でもなんとか探してみる。 腕利きの人外ハンターだけでは駄目となると……柔軟な対応が必要になるかも知れないな」

柔軟な対応ね。

幻想郷にも小細工が好きな奴がいた。いつも訳が分からない事件を引き起こして、あの隠れ里を退屈にしないように頑張っていた。

だが小細工は、圧倒的な力の前には通じない。

それはもう、霊夢も嫌になる程思い知らされている。

一旦休憩。

池袋から漏れている凄まじい悪意を浴び続けてちょっと調子が悪い。

元々ろくでもない場所だった月の都の最上層にいた神格だ。ろくでもない奴なのは分かりきっていたが。

これを意図的に引き起こしたのだとすると、絶対に許せない。

月には色々と因縁があるのだが。

この件で終わりにして起きたかった。

風呂を浴びてすっきりしてから、一眠りする。とんでもない邪気を浴びて、地獄や魔界に赴いたことがある霊夢も流石に疲れた。

というかこの東京に満ちている邪気、地獄の最深部と遜色がない。

どれだけ恨みと絶望をこの土地にため込んだのか。

残念ながら英傑は出なかった。

だから、それも解消できなかった。

悲しい話なのかも知れない。

どちらかと言えば他人にあまり興味がない霊夢でも。こればかりは、他人事ではなかった。

一休みして食事を取っていると、忙しく動き回っていたらしいフジワラが来る。汗を掻いているのは、流石に年だからか。

「休憩後にすまないね。 サムライ達が新宿に行ったことを覚えているかい」

「ええ、それがどうかしたの」

「人外ハンターで彼処に出向いた人物が証言している。 都庁に住み着いたのはクエビコらしいと」

「!」

クエビコ。

古事記に記録がある、田の神であり知恵の神だ。一寸法師のモデルになった神格である少名毘古那神の逸話に登場する他、案山子のモデルになった神格だという話もある。

いずれにしても獰猛な神格ではなく、れっきとした守護神格であり。本来は人を襲うような神でもない。

そして恐らくは、土地と切り離されてしまっている。それで荒神として暴走しているとみてよい。

人を襲ったのなら祓わないといけないだろう。

邪神に落ちてしまったのなら、禊ぎをしなければならない。

いずれにしても霊夢の専門分野だ。

荒神に落ちた神を調伏して元に戻したことは何度もある。とにかく今回もやらなければならない。

より荒っぽくだが。

「丁度良さそうだわ。 本来は田の守護神格である知恵の神が人々を襲い喰らう悪神と化しているのなら、暴走を鎮めた後に償わせなければならない。 恐らく土地の所有権に関する神権を有している筈だし、丁度良いわ」

「すぐにサムライ達を追ってくれるか」

「問題なし。 新宿は以前案内して貰った場所だったわね」

「そうなる」

これでまず一つ問題をクリアか。

次の問題がある。

西王母に誰をぶつけるかだ。

霊夢と秀の二人がかりでどうにか倒せるか、という相手だ。出来れば規格外マーメイドをぶつけたいが、そうもいくまい。

少し考え込む霊夢に、フジワラが提案をしてくる。

「私とツギハギ、それに人外ハンターの精鋭。 それと、あの有能なサムライ衆。 君達。 後一枚、手札を用意できるかも知れない」

「あまりいい手札では無さそうね」

「私が現地に出向く必要があるね。 それとひょっとすると……殿。 申し訳ありませんが、手伝いをお願いするかも知れません」

「別にかまわん。 この娘は強いぞ。 わしが見た所、霊夢よ、そなたと実力は大して変わらぬ」

それは心強い話だが。

いずれにしても、それぞれが急ぎになるだろう。また、問題になるのは此処の守りである。

霊夢がバキバキに結界を張って強化はしているから、ちょっとやそっとでは破られない自信はある。

だがそれでも、高位悪魔が本気で破りに来たら、いずれは破られるだろう。

現在秀は、まだ彼方此方の街を回って、暮らしていけない人間を回収してきている。このシェルターには一万人を現時点で収容できるらしいが、更に拡大する事をフジワラは考えており、実際地獄老人がそれを始めている。

此処の守りは規格外マーメイドに任せるしかない。

「マーメイドと連携して此処の守りをよろしく。 あたしは新宿に出向いてくるわ」

「分かった。 それぞれ手違いがないように動こう」

「ええ」

さて、此処からだ。

後、今回研修も兼ねてナナシとアサヒも新宿に出向いているが、あの二人で荒神を相手にして無事に生き残れるか。

ちょっと急がないと、危険かも知れなかった。

 

霊夢は空間移動の技術を持っているが、それを使うには幾つかの条件が必要になるし、消耗も大きい。

以前で向いたときは、クエビコがそれほど暴れていなかった事もある。ただ今回は、荒神化したクエビコが新宿全域を領土に変えている可能性が高く、空間移動を弾かれる可能性も高かった。

それにしても、荒神にもっともなりそうもない神格が。

ただ、どんな神格でも荒神になる事は、霊夢自身が幻想郷で起きたもめ事の幾つかで実際に見てきている。

そういうわけで、空を急ぐ。

新宿にある、フォークみたいな形をした特徴的な建物。あれが都庁だ。

昔は夜中でも輝いていたらしいが、今では禍々しい邪気を放っていて、見られたものではない。

これでも悪魔達は人間に依存している。

それが現実だ。

人間の恐怖がなければ自我すら保てないし、実体化もマグネタイトがないと出来ない。マグネタイトは自然界にも存在するが、人間を媒介にするのがもっとも効率がいい。

人間を殺し尽くしたら自分達も破滅するのに。

それでも人間を殺す事を止められない悪魔達。

滑稽な事だ。

人間も悪魔も。

どうして世界がこうなったのかは、フジワラですらよく分かっていないらしいから。もう誰にも分からないのかも知れないが。

少なくとも飛んでいれば、この世界の異常さが良く分かる。

特に悪鬼調伏の類をずっと続けて来た霊夢ならなおさらだ。

途中で仕掛けて来る鳥やら悪霊やら、飛行する悪魔は片っ端から叩き落とす。いずれも大した奴はいないが、ただこの東京を我が物顔に飛行する大物は何体かいて、いずれ倒さなければならない相手ではあった。

数度の戦闘を経て、新宿に降りる。

昔は一日一千万を超える人間が行き来していたという世界最大の駅は、今やその規模に相応しい墓場と。

僅かに生き延びている人間が暮らしている、無惨な廃墟に過ぎない。

しかも此処はその昔から迷路に等しい場所だったらしく、そういった迷路部分に住み着いた悪魔は手に負えない状態らしい。

今回はまずはあのサムライ達。フリンが率いる第十六分隊だったか。それと合流しなければならないが。

駅の改札に降り立った瞬間。

全身が総毛立った。

今まで感じたこともないほどの強い力だ。

思わず振り返ると、其処には気配はなかった。代わりに此方に来るのは、明らかに場違いな女だった。

着ているのは学校の制服だろうか。

後から幻想郷に来た奴に、見せて貰った事がある。十代の人間はこういうのを着て、学校に出向いているのだと。

見るからに明るい雰囲気の女だ。

笑顔がまぶしすぎるくらいで。

つまり、違和感の塊である。

そんなのが、どうしてこの修羅の地で生きていけているのか。

即座に飛び退いて戦闘態勢を取る霊夢に、その女は知ったことかという雰囲気で笑いかけてくる。

「あら、空を飛んでくるなんて面白い人ね。 私はヒカル。 貴方は?」

「霊夢」

おかしい。

此奴の正体を看破できない。

明らかに人間ではないと勘が告げているのに、人間だとしか判断できないのだ。放っている魔力量も、身体能力も、全てが人間のものだと告げている。力なんて微塵もない。それなのに、どうして嫌な冷や汗が止まらない。

「時々空を飛んでいるのを見かけるけれど、どうやっているの?」

「能力よ。 あたしがいた土地では、「程度の能力」何て言っていたわ」

「そう。 面白いわ貴方」

「それはどうも……」

全力で逃げろ。

本能が訴えかけているのに、体が動かない。

これは、まずい。

ベヒモスなんかとは比較にならない危険を感じているが。それでも此奴からは、危険を一切感じないのだ。矛盾しているが、それが事実なのである。

魔界の創造主を名乗る奴と出会ったこともあるが、其奴と比べてもまるで違う異質さ。

一体何だこいつは。

「それで新宿に何をしに来たの?」

「ここに来た知り合いと連携して作戦をとるためよ」

「ああ、さっきあった人達かな。 四人組の、青い服を着た戦士達と。 その戦士達について歩いていた可愛い子達。 戦士達の中にいた綺麗な女の人には嫌われちゃったみたいなの。 男に媚びてるみたいだってね」

肩をすくめるヒカル。

霊夢としてはどうでもいい。

なんとなく分かってきた。此奴、観察している。それも、極めて巧妙に。自分の姿を一切明かさずに。

「最近人外ハンターが色々な人を積極的に助けているけれど、その切っ掛けになったのが貴方たちね。 貴方が特に基点になっている様だけれど……目的は何?」

「困っている人間がいるなら助ける……といいたいところだけれどね。 あたしはただ故郷が破綻するのを防ぎたいだけ。 このまま人間に滅びられると困るんだわ」

「へえ……」

「もう行くわよ」

違う。

逃げたい。

だが、そう強がるのが精一杯だった。

ふっと笑うと、ヒカルという女は手を可愛く振ってバイバイなんて言って去って行った。

それだけで、その場に崩れ落ちそうになる。

呼吸が荒くなる。

前に月を二体だけで圧倒した奴らと戦った時とさえ、比較にならない危険を感じた。あれは相手にしてはならない存在だ。

少なくとも日本系の主神達を開放して、力を十全に引き出せるようにならない限りは、勝負の土俵にすらたてないだろう。

それでいながら、目の前にいたあれは、危険なんて一切感じさせなかったのだ。

その異常な違和感と齟齬が、また悪寒を強くする。

なんだあいつは。

一体何が此処で動いている。

隙と見たのだろう。飛びかかってくる獣の姿をした悪魔。正体なんか知らない。即応して、全身を針で串刺しにして、更に札を叩き込んで爆散させる。立ち上がると、続けて襲いかかってくる悪魔をまとめて消し飛ばして。それでようやく腹が立ってきた。

悪魔達が逃げ出すが、逃がすか。

全部追って叩き潰す。

そして、怒りが収まった頃に、ようやく冷静さが戻って来ていた。

クエビコの気配だろう、これは。

この辺りを包んでいる邪気は揺らいですらいない。だとすると、あのサムライを名乗る四人組は、まだ接敵していないとみていい。あの四人は強かった。ベヒモス相手に気を引いて、生き残れるくらいには。

ともかくまずは合流だ。

現在もっとも厄介な事になっている池袋をどうにかするためには、幾つかの条件をクリアしなければならない。

その一つがクエビコの調伏。

それである以上、まずは冷静さを取り戻し。

神に対しての戦いをするための準備もしなければならなかった。

 

4、手札を揃えて

 

フジワラは元はしがない三流の記者だった。それでも、周囲の記者達のようになろうとは思っていなかった。

フジワラが記者をしていた時代、マスコミというのは腐り果てた存在だった。

スポンサーの喜ぶ記事を書く。

それだけしか存在意義がなかった。

自国の悪を暴くと言いながら。

スポンサーになっている他国の犬と成り下がる。

それがフジワラが見てきたマスコミの実像。

「記者もサラリーマンだから」などと抜かしながら、愚かしい所業に手を染めている周囲をフジワラはどうしても許せなかった。

多様性を歌いながら、自分達が作りあげたルールに従わない相手を叩きたいだけの者達。

スクールカーストで醸成された感情だけで全てを判断していい文化によって脳が腐り果てた人間によって作りあげられた社会の住人。

そういった連中に迎合すらしている記者達。

そんな連中と一緒にならないためにも、フジワラは新聞記者に見切りをつけて、フリーのライターになったし。

ネットを活動の舞台にして、ある程度の支持を集めるネット記事を書くことが出来ていた。

ただその過程で散々修羅場も潜ったし。

逆に、そんな最果ての時代でも生きているまともな人間に、あうこともあった。

だから大戦が起きたとき。

そういうまともな人間を守るために、出来る事はないかと必死に調べ。

悪魔召喚プログラムに辿りついた。

最初に呼び出した悪魔はナジャという妖精の女の子だった。

無邪気な女の子の妖精で、それでいながらませた子だった。力はそれなりに強く、最初は頼りっぱなしだった。だが、修羅場を潜っていた経験もある。やがて肩を並べて戦えるようになっていった。

激しい戦いの中で、徐々に仲間と仲魔を増やしていった。アキラとツギハギといつの間にか組むようになった。

荒事ではツギハギが一枚抜けていたし。

アキラはリーダーシップに優れていた。

フジワラはネゴシエートに特化していった。

おかしな話で、悪魔とのネゴシエートは、むしろ人間のそれより楽なくらいだった。それくらい、人間の世界は伏魔殿と化していたのだろう。自分の感情だけが全ての価値基準になっているような肥大化した自尊心の塊と接するくらいだったら、まだ残忍な悪魔の方が話が分かる。

それが現実だったのだ。

ナジャはもう手元にいない。

死んだのでもいらなくなったのでもない。

今は転化して、別の悪魔になったのだ。

滅多に見せないフジワラの切り札だ。

今は、呼び出すときでもない。

ただ、たまに呼び出して、愚痴を聞いて貰う事はある。

あの三人と殿、地獄老人が現れて、事態が決定的に変わってからは、それも減ってきた。失われた活力が、戻りつつある。

地獄老人が復旧してくれた通信網を使って、伝手を辿る。時には悪魔に対して言づても頼む。

そして、何回かそういう複雑な経路でアポを取り付けて。

最終的に、フジワラはある場所で会合を持つ事に成功していた。

場所は上野の廃墟の一角。

上野では急激に悪魔の掃討が進み、亡くなった人々の埋葬などが始まっているが。

地上部分は悲惨な状態で、多くの建物が倒壊したままだ。

その中で、奇跡的に残っている喫茶店がある。

手持ちにいる、シェルターを守らせているのとは別のシルキーと、数体のゴブリンを呼び出す。正確にはホブゴブリンだ。ゴブリンには様々な類種があるが、家の手伝いをするいわゆるハウスメイド系の者もいる。それがホブゴブリンで、シルキーと性質はとても似ている。

急いで喫茶店の内部を片付けさせる。

コーヒー豆などは、まあインスタントではあるが、シェルターから持ち出した。

アポを取り付けた客が来る頃には、喫茶は形に出来ていた。

アポを取り付けたのは、妖怪じみた老婆二人だ。

ガイア教団の幹部二人である。

古くからガイア教団の幹部をしていたらしい強力な超能力者だ。

ちなみにガイア教団は、東京の混乱の中で、予想されていた大暴れをせずに。むしろ独自の動きをし、悪魔との交戦を選んだ。

今の時点では、正面から戦う理由がない。

人外ハンターの中には、ガイア教団に入信しているものすらいる。

そういう伝手を辿って、この二人。

ミイとケイを呼び出したのだ。

ミイとケイは座ったまま浮いて移動して、店に入ってくる。もうこの時点で人間離れしすぎている。

「おや、雰囲気のいい喫茶じゃないか」

「今の時代に、こんな場所があったとはねえ」

「急ごしらえですがね。 本格的な喫茶なら、純喫茶フロリダに来ていただいてもいいのですよ」

「キッヒッヒ。 流石に其処に行く度胸はないよ。 こちとら非力なババアさね」

何が非力なものか。びりびりと凄まじい力を今でも放っている癖に。

今日は無表情で無口な子供を二人は連れている。

ガイア教団では欲望を全肯定する癖に、子供が生まれてくるとだいたいは惰弱だといってすぐに悪魔のエサにしてしまうらしいが。

この子供は孤児だったのを拾われたのか。

イカレた環境で生き延びたのか。

いずれにしても、まともな子供ではないだろう。気配からして悪魔ではなさそうだが。

「ご注文は」

「ブラックで」

ミイとケイは揃って言う。子供にも聞くが、困惑した様子で老婆達を見る。

そもそも、嗜好品としての飲み物など知らないのかも知れない。

ミルクティーを出そうかというが、ミイとケイはストレートにしろという。

なるほどな。

甘みなんてものを覚えさせると、惰弱になるとでも考えているのか。其処で、二人には分からないように、僅かに砂糖を入れて出す。

これで飲みやすいはずだ。

軽く一服して貰ってから、本題に入る。

「池袋の件で話があります」

「ああ、聞いているよ。 西王母が厄介な結界を張っているというあれだろ」

「うちの血の気が多い連中が何故引いたんだと五月蠅くてねえ」

「ならば丁度いい。 貴方方と思想では相容れませんが、敵は共通だ。 共闘の申し入れをしたい」

ほうと、ミイの方が言う。

ケイは面白そうに様子を見ていた。

「西王母自身には、うちの食客が最低でも二人がかりで当たるのが絶対だという話を受けています。 ただうちのシェルターの守りもある。 全ての戦力を出し尽くす訳にもいかない状態でしてね」

「それでうちか。 それでどうすればええんや」

口調が変わったな。

これは、恐らくはこっちを試すつもりだ。

フジワラはふっと笑う。

「まず此方であの炎の結界を解除します。 それについては、そう時間をおかずに出来るでしょう」

「それで?」

「食客の一人と最近この辺りに現れたサムライという手練れ四人で西王母に当たります。 これについては私から頼むつもりです。 同時に西王母を無敵化している五つの結界の要所に手練れを当てる。 此方としても精鋭を用意しますが、どう考えても手が足りない。 其処で其方からも精鋭を出していただきたい」

「ふむ、どうするケイ?」

二人が黙り込む。

テレパシーか何かで会話しているのかも知れない。

その間、ふーふーしながら子供は紅茶を飲んでいた。

初めて飲むのだろう。

困惑しながら、それでもフジワラに警戒を解いていない。

「わかった、ええよええよ。 ただし此方でも、西王母にうちの精鋭であるカガを当てさせる」

「他の場所の制圧に戦力が足りますか」

「たりるわ。 うちらをなめないでもらえんか?」

「ならばそれでもかまいませんが」

詳しい話については、メールで送って欲しい。

そう告げてから、メールアドレスを交換する。

ミイとケイはそれぞれ昔は大流行していた猫のキャラクターでとても可愛らしくデコレーションしたスマホを持っていて、ちょっとフジワラも驚かされたが。まあ考えて見れば、このキャラクターが流行っていた頃は、この二人もまだ若かったのかもしれない。この二人については、謎が多くてよく分からないのだ。

「トキ、いくで」

「はい」

「じゃあそっちでも戦力を集めや。 腑抜けた雑魚集めて来たら、しばいたるさかいな」

「此方こそ、期待していますよ」

一瞬だけ火花が散るが、それでも高笑いしながらバケモン二人は出ていった。トキという子も大概だが、あの化け物に比べればひな鳥だ。

シルキーとホブゴブリン達に片付けを終わらせると、フジワラはシェルターに戻る。

さて、此処からは殿と一緒に戦略を練ることになる。

クエビコの調伏を霊夢が……あのサムライ達も向かっている筈だが、ともかく終わらせたら、続いて大規模な作戦開始だ。

今は人間同士で争っている場合では無い。

出来るだけ、無意味な死者は減らさなければならなかった。

 

(続)