邂逅

 

序、上野地獄絵図

 

上野駅に入り込んでいた悪魔を掃討する。

彼方此方にちいさな入口や、人が守れていない出口があったりして。其処から悪魔が入り込んでいる。

それだけじゃあない。

マグネタイトを利用して、悪魔が実体化しやすい。特にこう言う、人の負の思念が渦巻いている場所は顕著なのだという。

駅という所以の、奥を見せてもらった。

巨大な馬車みたいな箱が壊れて、グシャグシャになっている。それどころか、辺りには大量の人骨。

イザボーが目を背ける。

これは死んだ人の数がどれほどになるのか、見当もつかない。

連携して動いていた人外ハンターがいる。

僕達の活躍を見ていて、相伴に預かりたいと思ったのだろう。どけと視線で言うワルターを、僕は宥めた。

今は少しでも情報が欲しい。

それに、手は少しでも多い方が良いのだから。

そんな人外ハンターに話を聞くと、教えてくれた。

「これは一体何があったの?」

「動けない電車に、他の電車が突っ込んだんだ。 中に乗っていた人間や、逃げ惑う人間が閉鎖空間で丸焼きになってな。 それから悪魔が大量に湧いて、死んだ奴は動いて人を襲って。 思い出したくもない有様だった」

「この箱一杯に人が入って動いていたのか」

「そうだ。 それも数分に一回新しい電車が来ていたんだぜ。 今だともう信じられない、夢みたいなことさ」

確かに信じられない話だ。

一応東のミカド国でも、時間、分、秒の単位については教えていた。一日が二十四時間だが、それで考えると。

とんでもない速度で人々が行き交っていて。

そして此処でとんでもない事が起きたんだ。

そう思うと、慄然としてしまう。

「一体ここで何があったんだ」

「此処でというか、東京全体で大戦があったんだ。 具体的に何があったのかは、俺たち古参の人外ハンターでもよくはしらん。 だがなんでも、世界中で一斉に核兵器が発射されて、東京に降り注ごうとした所を、将門公が守ってくれたって話だ。 将門公はそのまま天蓋になっちまって、俺たちは核からは守られたが、その代わり太陽も失ったのさ」

「……」

分からない単語も多い。

だがヨナタンは考え込んでいる。

後で話を自分なりにまとめてくれるかも知れなかった。

悪魔の気配だ。

奥の方から、殆ど灰のようになっている死体が歩いて来る。無念のうめき声を発しながら。

「悪霊インフェルノよ。 地獄の劫火の中で死んでいった者達の無念がああいう姿になったのね」

「あれは銃は駄目そうだな」

「天使達に頼もう。 少しでもましな終わりを迎えられるように」

ヨナタンが言う。

天使と聞いて、人外ハンターは露骨に不快感を示すが。ヨナタンが使役する天使達が、燃え滓の死体が歩いて来る方に、光の魔術を立て続けに放ち。死体が消えていく。それを見ると、帽子を取って黙祷していた。

かなりの数が此方に来るが、どれも光に溶けて行くのを抵抗しない。

苦しい。

辛い。

いっそ殺してくれ。

そんな声が聞こえてくる。焦げた鉄の箱の有様からしても、積み重なっている膨大な人骨からしても。

此処で悲惨過ぎる事が起きたのは確かだ。

だから、僕も近寄ってくるインフェルノというのを、次々に槍で撃ち払う。光の魔術で灼かれて溶け消えるのを手伝う。

しばらくインフェルノが襲ってきたが、それも相性がいい天使達が片っ端から灼き溶かして行き。

やがて静かになっていた。

「これで彼奴らも成仏できたなら良いんだが」

「成仏?」

「ああ、無念を晴らしてあの世にいける、くらいの意味の言葉だ」

「そうか。 そうだな……」

この辺りは、後で新入りや、あまり力が強くない人外ハンターや、それに雇われた人足が来て、片付けるそうだ。

片付けると言っても。

この大量の骨、せめて葬ってやれないのか。

だが、上野駅から出て、周囲を調べてみると。上も同じだと分かる。

こういう駅には、たくさんの人が集まって。

それでたくさんそのまま死んだ。

それが、彼方此方の戦闘の形跡を見るだけで良く分かる。干涸らびたミイラを囓っている悪魔を見て、僕も牙の槍を振るって消し飛ばす。悪魔は食事をしていただけかもしれないが、ちょっと許せない。

ヨナタンの天使には、逐一浄化して貰う。

地上部分でも連戦を重ねる。

地上部分は、恐らく大量のマグネタイトがあるからだろう。大型の悪魔や、色々な動物の姿をした悪魔も多い。

とにかく、大量の悪魔を駆逐して回る。

何度か人外ハンター協会に出向いて、倒した悪魔について申告しておく。マッカをその度に貰えるが、あまり他の人外ハンターは歓迎的ではない。

天使を使ってる。

上から来たって言っているらしい。

そういう声が聞こえる。

それほど天使が嫌われていると言う事だ。

ワルターが舌打ちしたので、僕は咳払い。とにかく此処で事を荒げるべきではない。

上野の地図もバロウズに作ってもらっているが。

とにかく複雑で、人間が入れない領域が多い。

徹底的に悪魔を駆逐していくと、やがて痩せこけた人外ハンターが声を掛けて来た。

「あんた達、腕が立つみたいだね」

「うん。 でももっと強い奴を追っていてね」

「……上野に来たハンターが、誰も手出し出来なかった場所があるんだ。 それを見て行ってくれるかい」

ワルターが視線を送ってくる。

罠の臭いがする、というのだろう。

僕もそれは感じた。

ヨナタンが咳払いして、丁寧に話を聞く。また、イザボーは既にガントレットを見て、依頼を確認しているようだった。

「依頼を見ているのだけれど、失敗した人が出ている依頼は賞金が上がるようね。 慣れた人外ハンターはそれを見越して、基本的に高すぎる依頼金が懸かっている依頼は避けるようだわ。 その上野の依頼は……いや、これは各地に似たようなものがあるのね」

「不思議な奴と、強力な悪魔が守っていてね。 それでどうしても退けられないんだ」

「……僕達が此処にいても出来る事は少ない。 やれることはやってあげよう」

「確かにそれが良いかも知れないな。 情報収集もそれではかどるだろう。 ただでさえ天使を嫌ってる奴が多い状態だ」

ワルターが敢えて威圧的に言うので、人外ハンターは首をすくめる。

先にヨナタンが目配せしてくる。

確定で罠だ、というのだろう。

ヨナタンは丁寧に人の話を聞くし誰にも親切だが、それはお人好しで騙されやすい訳ではない。

悪魔との交渉をしているのを見ると、いつも恐ろしい程にシビアだし。マッカの管理ももの凄く丁寧にやっている。

醜悪な詐欺師を見抜く目はしっかり持っている、と言う事なのだろう。

他のラグジュアリーズとは本当に違うなと思う。

ともかく、言われた地点に行く。

地上のビルとか言う巨大な廃墟の一つだ。

バロウズが警告してくる。

「どうやらこの中にターミナルがあるようよ。 同時に悪魔が結界を張っているわ」

「なーるほどな。 それは誰も攻略できないわけだ」

「ターミナルがあるなら、一度東のミカド国に戻れますわ。 流石にこれではお風呂どころではありませんし、食事だってまともなものは得られませんことよ」

確かにそれはある。

だが、僕としては別の事をちょっと今考えている。

「ね、ヨナタン。 僕らの方で依頼を出して、この辺りの遺物を集めて貰うってのはどうかな。 老人とか子供とかでも、それなら出来るよね」

「うん? そうだな……僕達はそもそも遺品の価値なんて分からない。 それは可能だとは思うが」

「僕達は僕達で、上で野菜とか新鮮な肉を買ってこっちに持ち込む。 上野の人達、喜ぶと思うよ」

「……そうだね」

当然それにはお金が掛かるけれど、遺物を東のミカド国に持ち帰ればお釣りが充分出る程のお金になる。

更には、こっちに新鮮な食品を持ち込んで、その場で料理して飢えている人にそのまま食べて貰う。

横入りするような奴は僕が見ておく。

それで、かなり情報を集める事ができるはずだ。

「おいおい、慈善作業かよ」

「違う。 こういうのは立派な商売だ。 後から来るサムライ達にも、此処の人達は食事で情報を売ることが出来る。 サムライ達も容易に情報と遺物を集められる」

「確かに理屈としてはそうだが……」

「ただ、此処の人達は皆心が荒んでいてよ。 行儀良くきちんと「並んで待つ」事ができるかしら」

イザボーが懸念を口にするが。

僕としては、やってみる価値はあると思う。

それに依頼には、悪魔の質が低い肉を集めて欲しいというものも結構あった。野菜なんて野菜屑が高級品だという話で、植物悪魔の残骸を囓っている程なのだという。

悪魔の肉はマグネタイトが濃いとある程度食べられるものにはなるとバロウズも言っていたけれど。

そんなのじゃなくて、東のミカド国でちゃんと育てた本物の豚や牛のお肉の方が良いに決まっている。

カジュアリティーズはお肉はあまり頻繁に食べられないのが実情だけれども。

僕達は今サムライで、ラグジュアリーズ並みの財力がある。しかもそれで食べて行く訳でもない。

食糧と情報を交換してくれる人という認識を植え付けることに成功すれば、今後やりやすくなるのだ。

「衣食足りて礼節を知るという。 ともかく此処では衣食住全てが足りていない。 フリンが言う事はもっともだと僕も同意する」

「なる程な。 まあ俺には難しい銭勘定はわからねえから、それは皆に任せるぜ。 或いはボスに相談するのもいいかもしれねえ。 まあ、皆が考えてくれるその代わり……ちょっと此処は俺が頑張るかな」

ワルターが率先して結界に踏み込む。

まあいい。

僕も続いた。

結界の中には案の場領域があり、不自然に広い薄明るい空間に不可解な男がいた。阿修羅会だかの下っ端みたいな白い服を着ているが、どうも雰囲気がおかしい。

「此処には入るなって何度も言ったのにまた来やがったか。 おい、お前等相手の実力も分からない程度ならこんな所に来るんじゃねえ。 一度は見逃してやるから、さっさと失せな」

「……かなり強いなこの男。 あの阿修羅会だかの雑魚とは違うぞ」

「うん。 最初から全力で行こう」

ワルターは相手を侮らない。

僕もだ。

そもそも悪魔の展開する結界の中で、のうのうと生きていられる時点でまともな人間ではない。

此奴、高確率で人型になれるかなり強い悪魔とみて良いだろう。

「ちっ。 雑魚ではないか。 しゃあない、俺も仕事なんでな。 此奴を倒して見せろ。 倒せれば、此処は引いてやる」

「それはどーも。 さっさとなんでも出してきな!」

「そうさせて貰うさ。 来い、邪神太歳星君!」

男が指を鳴らすと、地面を吹き飛ばして、巨大な肉の塊が姿を見せる。全身が蠢いていて、凄まじい力をびりびり放っている。

これは確かに、誰も此処を突破出来なかった訳だ。

あの人外ハンター、仕事場を荒らされるとみて僕らを此奴にけしかけたな。だが、それもいい。

その罠を正面から喰い破ってみせれば、それだけ相手も力を認めるのだから。

「太歳星君。 道教における邪神よ。 祟り神の代表であるものの、実態は地中にある粘菌の塊が怪異として認識されたものに、伝説がつけくわえられたものと考えられているわ」

「道教と粘菌というのがよく分からないが、つまりは実際の現象が必要以上に怪異としての力を与えられていると言う訳だな」

「汚らしい悪魔ね。 焼き尽くすのが順当とみたわ!」

歯ぎしりするような音と共に、大量の触手がこっちに飛んでくる。太い上にしなやかで、凄まじい質量も兼ねている。

動きが速く、重い。

道教というのはよく分からないが、こいつは強い。

僕は最初は回避に徹し、印を切って魔術を発動。連続して強化魔術を自分に掛けていく。その間、前衛に立ったワルターが大剣を振るって苛烈に太歳星君に斬りかかる。太歳星君は暴力的な質量だけではなく、全身から真っ黒な空気みたいなのを放ち続けているが、ワルターには効きが悪いようだ。

末の子が出て来て、僕の壁になる。

「フリンさん、呪いの力です! 私を盾にして! 闇の逸話がある悪魔だったら、耐えられる筈です!」

「分かった。 もう少し力を練り上げるまで耐えて!」

「なる程、それでは此方も!」

イザボーも召喚する。悪霊インフェルノだ。

あの上野駅の地下で戦ったものの内、一体が交渉に応じたらしい。イザボーは難色を示したらしいのだが、皆を助けてくれた礼をしたいと言われたそうだ。

インフェルノは真っ黒い炎になって展開すると、立て続けに放たれる黒い波動を全て吸収する。

それを見て、明らかに太歳星君が不快そうに軋りを挙げる。

そして、インフェルノを盾に展開したヨナタンの天使達が、一斉に光の魔術を太歳星君に叩き込む。

勿論天使達はこの手の闇の魔術は完全に天敵として嫌っているようだが。それは太歳星君が光の魔術に弱いのと同じだ。

炸裂する光の魔術が、次々に太歳星君の全身を抉り取る。戦闘を重ね、転化を続けたヨナタンの天使は、質量ともに上がっていて、前は三体だったプリンシパティは五体まで増えていた。

「インフェルノの壁を使って魔術戦に徹してくれ! くれぐれも前衛に出て無駄に命を散らすな!」

「はっ! ヨナタン様!」

「回復の魔術を皆に! この黒い波動、皆の命を削ってくるようだ!」

鬱陶しいとばかりに、太歳星君が触手を振り回すが、その触手が天使達の光の魔術でところどころ抉り取られ、ワルターの大剣でぶった切られた。

更にはイザボーは攻撃にも転じ、インフェルノの壁の向こう側から、天使達と一緒に魔術戦を得意とする悪魔を召喚。一斉に飽和攻撃を仕掛ける。

太歳星君もとても強い邪神らしい意地を見せ。体を再生しつつ触手を振り回す。天使が一発で打ち砕かれ、ヨナタンの盾になったアークエンジェルが数体まとめて薙ぎ散らされる。

だがそれでも皆怯まない。

燃えさかるインフェルノを、真上から触手が叩き潰したその瞬間。

僕は、自己強化を終えていた。

「大きいの行く! さがってワルター!」

「おうっ!」

最前衛を張っていたワルターと交代。態勢を低くした僕は、一瞬だけ太歳星君の視界を潰してくれた末の子の雷撃に混じりつつ、突貫。

全速力で地面を吹っ飛ばして自分を撃ち出す。

槍の基本、突。

それを自分自身を砲弾とすることで、最大限まで火力を増強する。

どんな戦術でもそうだが、小細工をどれだけ重ねるよりも、最大級の力でねじ伏せるのが一番確実だ。

勝負まで、瞬きもかからない。

僕に気付いただろうか、太歳星君は。

強化を最大限まで掛けた僕は、文字通り破壊の鉄槌となって、太歳星君の本体を直撃し。

そのまま、粉みじんに消し飛ばしていた。

悪魔の領域が、吹っ飛ぶ勢いでの破壊が吹き荒れる。

指向性をもった破壊は、太歳星君を呼び出した存在にも勿論襲いかかったが。奴は多少顔を腕で庇ったくらいで、涼しい顔をしていた。

「見事。 これだけやれる相手なら、わしの主も認めるだろう。 ターミナルが目当てだろう? 好きに使うがいい」

「……そうさせてもらうよ」

「ではな。 ただ、他のターミナルも簡単に明け渡すわけにはいかない。 またいずれ会おう。 次はまた違う趣向の相手を用意しておく。 それと、太歳星君は信仰も伝承も失って、最大限弱体化していた。 それは理解しておいてくれ」

男が消える。

そして、領域も消え、辺りは見慣れたターミナルへと変わっていった。

僕は残心をする。

全身にたぎった力が、空に逃れていくようだ。

ヨナタンが膝をつく。天使達もかなり限界が近かったようである。一方ワルターはまだまだ余裕があるようだ。

「大丈夫かヨナタン」

「ああ、少し休めば平気だ。 あの悪魔らしき男の言葉によると、これでも最大限弱体化しているのだな」

「それにしてもとんでもありませんわねフリンの剛力」

「いや、支援魔術を重ね掛けしただけだよ。 今の技だって、基本の突き技だし」

それよりもだ。

ターミナルに登録しておく。外の場所も確認。

此処はサムライ衆に展開する必要がある。それと、此処までの案内も必要になるかも知れない。

ぱっと見、此処の場所なんてバロウズにナビされても分からないだろう。何度かあの天高い塔と此処を行き来する必要がある。

それと、守りに徹する必要があるだろうから此処には来られないだろうが、ホープ隊長と話して、此処との物資のやりとりについて話をする必要がある。サムライ衆と組織的に話をして、場合によってはその財力と予算の後押しをしてもらう必要があるだろう。

僕が知る限り、東のミカド国は、食うに困ってはいない。ラグジュアリーズが横暴をしても、それでも民が不満を爆発させないのはそれが理由だ。不満はみんな持っていても、余裕を持って食べていけるから、誰も奴らを追い出せとかは言い出さないのである。

「周辺の確認よし。 では一度戻ろう」

「まずは風呂だな」

「私は眠りたいですわね」

「僕はちょっとホープ隊長と話す」

そんな事を言いながら、一度東のミカド国に戻る。

やはりというかなんというか。

ターミナルでは空中に放り出されたので、苦笑いするしかなかった。

 

1、不穏

 

丁度要塞化の作業が終わって戻っていたホープ隊長がいたので、僕は上野駅の話をする。

ホープ隊長の周囲からは、腐れラグジュアリーズサムライがいなくなっていたこともあり、だいぶ話がしやすくなっていた。

僕が立て続けに皆と武勲を挙げていると言う事もある。

ホープ隊長も、信頼してくれているようである。

「ケガレビトの里はそのような場所なのか」

「はい。 とにかく貧しく、悪魔に苦しめられ、不衛生で水も食糧も足りていません」

実の所、衛生観念では東のミカド国と大して代わりは無いと思う。

違うのは水だ。

東のミカド国は豊富な水があって、それで体を洗うのも容易にできる。まあ風呂は沸かすのが大変だし、外で体を洗ってると覗かれたりするのはあるが。それでも汚れは洗い流せるし、汚物はすぐに蠅とかの虫が片付けてくれる。下水もしっかり汚れを流してくれる。

彼処はそれがなかった。

多分だけれども、他の里も同じだと思う。

「東のミカド国と何かしら下……ケガレビトの里であったのは確実だと思います。 ミノタウルスの言葉などからもそれは疑いがないはず。 でも、ケガレビトの里では天使を怖れていても、僕達そのものを怖れてはいませんでした。 其処に突破口があるように思います」

「ふむ、続けてくれ」

そこで、食糧と水を持ち込み。

代わりに遺物を譲って貰う話をする。

保存食は大量に蓄えている筈だ。東のミカド国の民は百万とか言われているらしいが、それでも充分すぎる位食べ物はあるのだから。

「過去に何があったかも今の時点では分かりません。 現地に協力者を作る為にも、何よりあの悲惨な人々を助けるためにも。 許可を」

「分かった。 それはそうと、一度休め。 他三人は既に休んでいるだろう」

「まあ、体力だけが取り柄ですので」

「そう卑下するな。 私は今の話を、ギャビー様に進言してくる。 確かに現地に協力者を作るのは有益だろう」

礼をすると、隊舎に戻る。

風呂に入ってさっぱりしてから、食事。いつも以上に食べる。ただ、テーブルマナーは守る。

コレは必要以上に敵を作らない為だ。

丁度食べに来ていたイザボーが既に完璧だと褒めてくれるので嬉しい。

ただイザボーは、上野駅の惨状を思い出して、食事が進まないようだが。

「家にいた頃は何の躊躇もなく残していたのですけれども。 あの有様を思い出すと、とてもそんな気にはなれませんわね」

「僕も村の出だから、食べ物の大事さは分かっていたつもりだった。 でも、あの状態は……」

「ええ、あれを見捨てるのは人倫に反しますわ」

イザボーがそういう点はとてもしっかりしていて助かる。

食事が終わった後は、体を動かそうかと思ったが。太歳星君との戦いもそうだし。濡れ女との戦いでも、体を酷使した後だ。

流石に眠くなってきたので、休む事にする。

それでもきちんと寝る時間は制御。

鶏が鳴き出す頃にはきちんと起きる。

起きて鍛錬をして、それで皆と集まる。鍛錬は、更に楽になっている。これは腕立ても懸垂も、数を増やそうかなとちょっと思っていた。

「相変わらず残像を作りながら腕立てしてるな。 どうなってんだお前の体」

「まあ、頑丈だからね僕」

「それはそれとして。 さっき、呼ばれた。 ホープ隊長の所に向かおう」

「さて、良い返事が聞けると良いのですけれど」

ヨナタンとイザボーは懸念を示している。

サムライ衆は、僕達への態度が真っ二つに割れている。特に粛正されたラグジュアリーズのサムライの関係者だった連中は、僕を恨んでいるようだが。

ただ、武勲についても話を聞いているからだろう。

手を出そうにも出せない。

そういう雰囲気を感じた。

一方で、カジュアリティーズ出身のサムライは好意的だ。

戦いについて話してくれと言ってくる者もいる。

ワルターがそういうときは、色々と恐ろしい悪魔についての話をする。

まあ、今となっては、奈落にいた悪魔なんて、ミノタウルスみたいな例外を除けば雑魚も雑魚なのだとよく分かる。

サムライ衆は護国の戦士として、強くならないといけない。

それは正しかったのだ。

ホープ隊長の所に行くと、先に来ていたらしいギャビーが出てくる所だった。ギャビーは氷のような目で僕達を一瞥すると戻っていく。

隊長の部屋では、あのウーゴがいて。

隊長が苦虫を噛み潰していた。

「ああ貴方たち。 待っていましたよ。 なんとケガレビトの里にもう辿りついたとか。 一目見た時から、きっとやると思っていました」

「良く言うぜ……」

ワルターがぼやくが、しっとイザボーが言う。

確かにギャビーがサムライ衆との交渉役に据えている相手だ。ギャビーが王以上の権力を持っている可能性が高い以上、無碍にも出来ない。

虎の威を借る狐なのは分かっている。

だが此奴は、虎が仕事を任せるくらい、頭が良いのも事実なのだ。

「まず貴方たちには、幾つかの司令がギャビー様から出ています。 追加でね」

「黒いサムライをブッ殺すだけでもかなりの難事なんですけれど」

「いや、出来るだけ捕獲して戻りなさい。 殺したといっても、それを皆の前で証明できなくては、不安を払拭できないでしょう」

明らかに恐怖で声が上擦るウーゴ。

そういえば小耳に挟んだのだが、此奴十も年下の奥さんがいるらしいのだけれども。その奥さんの尻に完全に家では敷かれていて、面罵されている様子が目撃されているらしい。

此奴を嫌っているサムライは多く、それを笑っているのを何度か見かけた。

まあ、それ自体をどうこういうつもりはない。

豪傑が恐妻家であることは珍しく無いのだから。此奴は豪傑には程遠いが。

「まずは、こういうものを見つけたら持ち帰ってください」

「これは……?」

「パソコンと言います。 原理的にはそのガントレットと同じです。 遺物の中でも、もっとも重要度が上です。 とても壊れやすいので、とにかく気を付けて扱ってください」

「奈落でも幾つか見つかったのだが、どれも壊れてしまっていてな。 特にターミナルはあんな感じで空間を渡る。 その時壊さないように注意してくれ」

ホープ隊長の話なら、そういうものかと分かる。

頷くと、更に言われる。

「それと、ターミナルの開放は出来るだけやってください。 それと同時に、精鋭の分隊を幾つかケガレビトの里に派遣します。 貴方たちとは違う方向で動いて貰いますので、まずは貴方たちは、上野駅でしたか。 そこへ彼等を案内してください。 ターミナルには、直接登録しないと使えない事は既に確認しています」

「それについては想定していました。 すぐにやります」

いいですねえいいですねえ。

そんな風にウーゴは言うが。

目は笑っていないな此奴。

とにかくいちいち勘に障るらしく、ワルターの怒りが徐々に蓄積しているのが分かるが。まあ、我慢してもらうしかない。

怒りは下で敵対的な悪魔にぶつけて貰うだけだ。

咳払いしたのはヨナタンだ。

それだけで、小心なウーゴはびくりと身をすくめていた。

「それで、フリンからの提案についてはいかがか、ウーゴ殿」

「え、ああ。 それについてですが、指定した分の水、食糧、医薬品、後は衣類を提供しましょう」

「リストを見せてください。 ……たったこれだけ?」

「ギャビー様のご意向です。 ケガレビトは、相応の事をしているからケガレビトと呼ばれているのです」

ちょっと待て。思わずそう声に出す。

僕の声が冷えたのを感じたのか、ウーゴが青ざめて固まる。

あの上野駅の惨状については、僕がホープ隊長に伝えた。ホープ隊長も、それをギャビーに伝えたはずだ。

それで、こんな数人がすぐに消費するような量だけだと。

「ひっ! わ、私の意向ではありません! す、全てギャビー様の」

「ホープ隊長」

「私からも伝えた。 本当の事だ。 遺物の価値を考えると、この程度しか出せないとにべもなかった」

あの冷血女。

そう言いたくなるが、我慢する。

流石に東のミカド国全てを敵に回したいとは思わない。

ギャビーに逆らうのは、そういうことだ。

仮にギャビーと戦うにしても、あれはあのリリスと思われる黒いサムライと同等かそれ以上の実力者である。

それは間近で見て知っている。

今はやりあうには、あらゆる意味で力が足りないのだ。

下には強い奴が幾らでもいることは、太歳星君を呼び出した謎の男との戦闘でもよく分かった。

今は力を蓄えるしかない。

ヨナタンが咳払いして、代案を出してくれる。

「それでは僕達がこれらの物資を遺物と交換しきったら、追加を出して貰うという案はどうでしょうか」

「ふむ……」

「恐らくギャビー様は、遺物がそれほど回収出来るとは思っていないのだと思います。 僕達が下で成果を上げれば、慈悲深いギャビー様が、苦境に喘ぐ民を見捨てるなどという非道をなさるとは思えません」

「そうだな。 そう思うなウーゴ殿」

完全に漏らしそうな顔をしているウーゴは、五つの視線を浴びて、それで失神しかけたが。

やがて相談してみますと、肩を落としていた。

ウーゴが行った後、ワルターが吐き捨てる。

「豚野郎が」

「豚にしては上等すぎましてよ」

「おほん。 それはいい。 お前達はまず、第三、第七、第九の分隊をそれぞれ上野駅のターミナルまで案内してくれ。 彼等は周囲の探索と、悪魔の調査、ケガレビトとの接触に加え、遺物の回収とサムライ衆そのものの質の向上に努めて貰う。 サバトは禁止したが、まだ彼方此方で悪魔化する民が出ていてな。 私は精鋭を連れての監視にしばらくは注力する」

「はっ!」

その後くらいは、物資の準備が終わるらしいので、上野駅の民と交渉を自身の裁量でやってくれという事だった。

さて、此処からだ。

まずは少しずつ、東のミカド国の状態も、東京と彼等が呼んでいたケガレビトの里の状況も、改善していかなければならない。

分からない事が多すぎるのだ。

今はともかく、一つずつやるべき事を片付けなければならなかった。

 

まずは三つの分隊と、スカイツリーの内部のターミナルで合流。其処から上野駅ターミナルまで案内する。

エレベーターを見てどのサムライも驚き。

下の惨状を見て、誰もが息を呑んでいた。

巨大な建物。

凶悪な悪魔。

いずれも奈落が如何に安全な場所だったのか思い知らされるばかり。今連れているサムライの分隊もいずれも優れた精鋭の筈だが、此処ではいつ誰が倒されてもおかしくはないだろう。

上野駅に案内して、人外ハンターに登録して貰う。

凄まじい音と光に、目を回しそうになっているサムライも多い。此方を見ている人外ハンター達は、明らかに値踏みしているが。

あのターミナルにいた悪魔を退けた事は既に伝わっているようで、少なくとも舐めて掛かってくる事は無さそうだ。

その後はターミナルまで案内し、帰路を確保しておく。

三つの分隊はそれぞれに仕事があるので、一度に三分隊を連れて行く訳にもいかなかった。

順番に時間を見ながらつれて行く。

こうして下の……ケガレビトの里で活動するサムライが増えれば、それだけ情報も集めやすくなる。

短時間で強力な悪魔と交戦する事で、力だって上がりやすくなる筈だ。ただし悪魔に殺される危険も大きい。

ただいずれもが実戦経験者だ。

わざわざ僕達がそう指摘しなくても、此処の危険さは一目で分かったようだし。軽率な事はしないだろう。

三つの分隊をケガレビトの里……いや、この言い方は良くない。

この土地の人達にあわせて、東京と呼ぼう。

古くは「東京都」と呼んでいたらしいが、今は都もなにもない。だから東京で問題ないだろう。

ともかく人外ハンターの受付で話をして、物資の交換についての正式な依頼を申し込む。

交渉についてはヨナタンがやってくれる。

やはりヨナタンはかなりしっかりお金の管理をしてくれるだけではなく、足下を見るような態度も即座に見抜いているようだった。

「それでは調理済みの即座に食べられる料理という形で納品してくれるんだな」

「そうだな。 ただし長くはもたない。 今、食が足りなくて苦しんでいる人々に届けられることを直接確認させて貰う」

「オーケイ。 サムライというだけあってとてもしっかりしているな。 こっちとしても、助けられる人間は一人でも多く助けたい。 食い物が足りないからって、阿修羅会に子供を売り飛ばす親が出る現状は、俺も良く思っていない」

「最低の連中ね。 捕まえたあの二人、しっかり報いを受けたのならいいのだけれど」

イザボーがぼやくが。僕としてはあらゆる意味で複雑な気分だ。側を見ると、ワルターも同じのようである。

僕の生まれたキチジョージ村ではなかったが、カジュアリティーズの一部の村では子供を死産といいながら生まれた時点で殺してしまうことを良くやっていた。

産婆がそう判断したという事だけれど。

多くの場合は、経済的な問題での子殺しだ。

それを考えると、此処で行われている事は、切実なのだと分かる。それに、こんな状況では、食べ物だけ渡しても解決にならないだろう。

今はそれしかできない。

だがいずれは、東のミカド国ともっと大々的に交流を持ち。この土地から悪魔を撃ち払って、作物や家畜を育てられるようにするべきだ。もしそれの障害になるのなら、あのギャビーをどうにかしなければならない。

それは分かるのだけれど、どうやってそれをやっていくのかが僕には分からない。多分分かるとしたらヨナタンか。

いや、頼ってばかりでは駄目だ。

何かしら勉強する方法を見つけないと。

とにかく依頼についてはしっかり決めた。人外ハンターの方でも、飢えて困っている人間を選抜することを約束してくれる。

その代わりに遺物を提供して貰う。

その話を終えた後、人外ハンターの受付は言う。

「実はな、これでも少し前よりかなりマシになって来ているんだ」

「どういうことですか?」

「ああ、人外ハンターの本部が強力なシェルターだかを奪還して、其処を本部にしたんだがな。 其処で食うに困ってる困窮者を引き取って、更には余っているらしい食糧を配布してくれている。 阿修羅会の連中が邪魔してなかなか大々的にはいかないようだが、もしも阿修羅会と悪魔を片付ければ、一気に食糧問題が解決する可能性もある。 人外ハンターのトップはフジワラって御仁だが、ここ最近急に行動がアクティブになってな。 誰かブレインがついたって話もある」

「……妙な横文字はありますが、概ね理解は出来ます」

咳払いする受けつけ。

多分此処にも阿修羅会の人間や、それに通じている者もいるからなのだろう。

周りを見回して、それから声を落とした。

周りにガンガンもの凄い音が響いているが、どうにか聞き取れる。

「そういうわけで、あんたらには悪魔の退治を優先的にやってほしいんだ。 阿修羅会は今人外ハンターの新しいボスと思われる存在を探し当てる事に躍起になっているし、小競り合いで武闘派の部下を立て続けに失って混乱している。 むしろあんたらには、野良で動き回っている危険な悪魔を退治して貰う方が、状況が良くなると思う」

「分かりました。 ただし、此方でも遺物を集めて来いと言う任務を受けています。 それと並行になります」

「だとすれば、古いパソコンなんかも此方で出す。 その代わり、周辺にいる危険な悪魔の駆除をしてくれ。 更に遺物集めなんかも速くなる。 それについてはお仲間にも打診しておくよ」

ヨナタンが頷くと、幾つかの依頼をバロウズが先にピックアップしてくれた。

それにしても、さわりもしないのに適切に集めてくれるバロウズはすごいな。

とりあえずイザボーがいい加減頭が痛そうにしているので、人外ハンター協会を出る。その後、皆で話し合う。

僕が挙手。

こう言うときは、まずは僕が話を始めた方が良い。リーダーとして認めて貰っているからだ。

「幾つか話をまとめておこう」

「ええ、よろしくてよ」

「俺は考えるのが苦手だ。 頼むぜ」

「うん。 まず第一に、僕達は此処だけじゃない。 出来るだけ、目につく範囲、手が届く範囲にいる困っている人は助ける。 これは僕達にそれが出来る能力があって、僕達がサムライだからだ」

護国の戦士ではあるが。

僕達はそれ以前に、悪魔召喚を使いこなせる力の持ち主だ。

牙も爪もない人は不要か。

そんな筈がない。

僕はキチジョージ村で、豊富な知識を持つ老人が、どれだけ村に役立ってくれていたかを見てきている。

また、どれだけ元気な赤子だって、生まれて数年は何もできないのだ。

この環境では。

幼子も生き残れないし、老人だってそう。

強い奴だけが生きる資格があるなんて言葉は論外である。

どんな強くなる生物だって、生まれたばかりは惰弱そのもの。

一人で生き抜いてきたとか自負する奴も。

最初は乳飲み子だったのだ。

乳飲み子が一人で生き抜けるものか。

親がいない生き物、つまり虫とかでも同じ。卵の時代はどれだけタフな虫でも襲われればひとたまりもない。

その後も、運がなければ絶対に生き残れない。

強くない奴は生きる資格が無いなんて言葉は、そういった現実を無視している愚論に過ぎない。

僕はキチジョージ村で生きてきた。

僕自身は体力も力も有り余っていたけれども、そうでない人が畑に詳しくて、虫の害を即座に見抜いたり。作物の病気に詳しくて、被害を減らす判断が出来るのを何度も見ている。

そういう人は僕よりずっと弱かったかも知れないけれど。

だからといって、僕より社会の役に立たないかといえばノーだ。

偉そうに人を顎で使ってふんぞり返っているだけの奴だけでは、社会なんか動かない。たくさんの人が少しずつ出来る事をやって、それで社会は動く。

僕は農村で見てきたから、それを知っている。

此処、東京では。

それすら出来る環境にない。

その環境をただせるなら、するべきだ。勿論僕らも全能でも万能でもないから、出来る範囲からやっていくしかないが。

「なるほどな、理路整然と言う奴だ。 お前が見た目と行動と裏腹に頭が切れる事は分かっていたが、俺にも納得が行くぜ」

「問題は、具体的にどうするべきかがよく分からない事だね。 とりあえず、この上野周辺で被害を出している悪魔を率先して狩ろう。 阿修羅会というのと本格的に対決する事になるかも知れないけれど、それは人外ハンターという人達が今は引き受けているから、任せるしかない。 悪魔退治が一段落したら、食事を運ぼう。 それで効率よく遺物を集められる。 遺物の価値なんて僕達には分からないから、まずはパソコンとか言うものを回収しよう。 それ以外のものでも、ここのは技術からしてまるで違うのは一目で分かる。 持ち帰れば、此処ではゴミにしかならないものでも、東のミカド国では宝になる筈だよ」

「その通りだ。 何か問題があるようなら僕が口出ししようと思ったが、流石だフリン。 君は聡明だよ充分にね。 僕の方から、後で帝王学の本を貸すよ。 何か参考になるかもしれない」

「ありがとう。 助かる」

帝王学、ね。

ヨナタンやイザボーみたいな例もたまにはいるが、ラグジュアリーズの腐敗と無能を近くで見ていると、それが役に立つかは疑問だ。

それよりもだ。

こっちで本が手に入るかもしれない。

それも出来れば手に入れて読んでしまいたい。

だがその前に。

悪魔退治だ。

上野駅を出て、指定された場所に行く。上野駅の外でも、身を寄せ合って生きている人々がいる。

そういう人達を嘲笑うようにして闊歩している悪魔を一瞥して追い払う。雑魚も雑魚は、もう視線だけで追い払える。

町外れに、大きい気配がある。

足を運ぶと、其処には水が……酷く汚れているけれど。水が溜まっている池があった。酷い水だ。これは湧かしてもすぐには飲めないだろう。

池には不可思議な形をした塔があって、其処には此処が縄張りだといわんばかりに、何だか不可思議な形をした悪魔がいた。

目があう。

即座に跳んできた。

近くに着地したそれは、四つ足獣の態勢を取るが。顔は人間、体は緑色で、尻尾に有害そうな棘を持っている。背中にも翼があって、口の中は鋭い牙だらけだ。大きさは背中だけでも、ワルターの背よりも高い。

「ひひひ、うまそうなのが四匹も。 しばらく人間は喰らっていなかったでな。 逃がさぬぞ」

「妖獣マンティコアよ。 砂漠に住み、人を率先して喰らう危険な悪魔よ。 サソリの尾を持ち、猛毒を持っているわ」

「さそりってなんだろ」

「分からんが、尻尾に毒があるのは分かった」

とりあえずは此奴からだ。此奴は此処を縄張りにするだけではなく、近場の人間を食い荒らしている被害が大きい悪魔だ。

上野駅の中にすら悪魔がいて、それらを駆除するので上野の人外ハンターは手一杯。だったら僕らがやるしかない。

ハンドサイン。

散開。

躍りかかってきたマンティコアの突貫を、スプリガンが受け止め。

即座に鬼とナーガがそれぞれ襲いかかる。

驚くべき俊敏さで鬼とナーガが抑え込もうとしたのを回避するマンティコアの背後に回り込んだワルターが、大剣を一薙ぎ。

空中に逃れたマンティコアが、尻尾を振るうと、大量の毒針が放たれ、辺りを一斉に串刺しにする。

鬼とナーガがひとたまりもなく倒され、スプリガンも倒れる中。

空中に逃れたマンティコアを、ヨナタンの天使達が一斉に串刺しに。

更にはイザボーと僕が呼び出した魔術戦担当の悪魔達が、魔術を一斉射撃。綺麗に連携して離れた天使達が、翼をばたばた動かして逃れようとしたマンティコアを、魔術が放たれてきた方へと蹴り飛ばす。

直撃。

炸裂した魔術の雨に打たれて落ちてくるマンティコア。

僕は真下で踏み込むと。

直上に向けて、牙の槍を突き出していた。鬼相を浮かべて、凄まじい口を開いて僕を呑もうとしたマンティコアが。

渾身の上突き、月落としを叩き込まれ。

その場でぶくぶくと膨れあがると、衝撃に耐えきれずに爆発四散していた。

肉塊や赤い血が降り注ぐが、それもすぐマグネタイトに変わっていく。

「きたねえ野郎だ」

「でも、マグネタイトにはなったね。 この水も何処かに流すか、新しい水を入れれば、飲料水はすぐには無理でも、農業用水なんかには使えそう。 水を浄化できる悪魔はいないかな」

「いるにはいるけれど、それなりに高位の悪魔になるわよ。 作り出すのは手間が掛かりそうね」

「だとしてもやっておくべきだろうね」

バロウズに現実的な案を出して貰う。

その後は、上野に戻る。まずは一体、厄介者を始末した。

これから数日は、上野駅周辺の悪魔を、こうやって始末する必要があるだろう。僕達が更に先に進むための、力を得るためにも。

 

2、汚濁の川

 

コレは酷いな。そう呟いてしまう。

志村は上野駅への斥候に出てくれていたニッカリから話は聞いていたが。現在上野駅に向かう途中にある川が悪魔の縄張り争いに巻き込まれている話を聞き、ナナシとアサヒ、他数名を連れて偵察に来ていた。

不忍池とそれにつながる川がおぞましい程汚れているのを見て、それで口を塞いでいた。

汚水を好む悪魔もいる。

そういう悪魔が、この辺りを制圧したのは間違いなかった。

今回は霊夢も秀も来ていない。

代わりに、地獄老人が来ている。

制圧用の重機関銃を改造して、それが使えるかどうか試しに来たのだ。米軍がうち捨てていった重機関銃の幾つかは、既に弾がなくて使える状態になかったのだが。シェルター地下で弾を生産出来るようになり。

更に地獄老人が性能を改造してくれたおかげで、雑魚悪魔だったら充分に打ち倒せるようになった。

問題は弾だ。

弾を生産出来ると言っても、それでも無限に作れる訳ではない。

数日前に霊夢がすぐ近場にある悪魔の縄張りとかしている拠点を奪還してきてくれた。そこからかなりの物資を回収出来たのだが、それでもまだ足りない。

やはり東京を行き来するためのインフラを開放するのが先だ。

それもあって偵察しに来てこれである。

アサヒは真っ青になって口を塞いでいる。

幾ら汚れきった地下街で生きてきたといっても、これは簡単に許容できる臭いでもないだろう。

「酷い有様だな」

「それでどうするんだ志村のおっさん。 悪魔を片っ端から倒せばいいのか。 その機関銃ってのでズドドドってやるのか」

「ナナシよ。 こいつはあくまで試作品でな。 何にでも効く便利兵器ではないんだがな」

「そうかよ。 意外と不便なんだな」

ナナシは地獄老人を気味が悪いと公言してはばからない。

どうも根本的にあわないようだ。

ただ、さっきその機関銃で、今までは苦戦が必須だった大型悪魔のオルトロスが、手も足も出せずに蜂の巣にされるのをみて、おおと感心もしていた。

まだ信じ切れないが。

作るものは認めている。

そんな感じだろう。

ともかくだ。一つずつやっていくしかない。

悪魔を呼び出す。

水辺だったら此奴が良いか。

妖精ケルピーを呼び出す。

乗ろうと考えると非常に危険だが、手持ちの悪魔として考えるなら得に問題はない。バスを引く時に使うし、この間の天王洲シェルター救出作戦でも、大変に役立ってくれた。

志村も手持ちに一体持っている。

最悪の場合の足として使うためだ。ただ扱いが難しいので、乗ろうとして手足を食い千切られたり、水に引きずり込まれる事も覚悟しなければならないが。

水辺にケルピーが近付くと、別のケルピーが姿を見せる。

そして人間の言葉で話し出していた。

「おや人間に飼われているお仲間かい。 どうしたね」

「この川の有様はどうしたのさ。 酷い臭いじゃないかね」

「ああ、上野の不忍池にピアレイとかいう悪魔が住み着いてね。 それが怨念と汚れをため込んでさ。 此処まで垂れ流しているんだよ。 何回かやっつけにいったんだけど、返り討ちにあって仲間が随分食われちまった。 ただ……」

「どうしたんだい」

どうもピアレイの様子が変だという。

ついさっき、凄まじい悲鳴が上がって、気配が消えたらしいのだ。

志村は話を聞きながら、状況を分析する。

上野近辺には幾つか水場があるが、どれもあまり水の状態が良くない。しかも悪魔が住み着いているから、迂闊に水を汲みにも行けない状態だ。

「志村のおっさん、ピアレイってなんだ」

「スコットランドの伝承に登場する邪悪な水の魔だ。 悪霊とも悪魔ともいわれ、毛むくじゃらで得体が知れないとされている」

「危険さでいうとあいつらも変わらないんじゃないのか」

「そうだな。 ケルピーも人食いの伝承があるし、積極的に人を襲う。 だが、不用意に近付いたりしなければ問題ないし、使役すればこの間の天王洲作戦のように役立ってもくれる」

そんなものかと、ナナシがぼやく。

程なくして、ケルピーが騒ぎ出した。

粉々に吹っ飛んだピアレイの体を、わっしょいわっしょいと弄んで遊んでいる。凄まじい殺され方だ。

一体何に遭遇したのか。

「どうしたんだいあれ」

「仲魔の一人が人間に依頼を出して、ピアレイを倒してくれたらこの川を渡らせてあげるよと言ったんだ。 そうしたら本当に倒してくれたようでね。 あっと、今汚水を海まで通すって言ってる。 酷い臭いが来るから気をつけな」

「それは大変」

ケルピーが、大量に。数十はいるだろうか。

それらが水から上がる。

どっと汚水が流れてきた。

ヘドロとか、公害で汚染された水とか、そういう感じじゃない。明らかにもっと危険な、触るだけで命が奪われそうな汚染がされているのが分かる。

だが、汚水も流れきってしまえば普通の水だ。

東京にどこからか流れ込んでいる水は、大本はとても正常な水なのである。

今回もバスを持って来たのだが、バスに避難するように皆に志村は指示。

志村自身も耐えがたい臭いだったので、バスに隠れてしばらく様子見。

だが、それで妙な事が起きる。

もっと時間が掛かるだろうなと思っていたのだが、水がまるで波紋が拡がるように綺麗になっていくのだ。

なんだあれは。

思わず息を呑む。

更には、その美しい水が、一気に波濤となって流れ出す。どっと激しい流れが起きて、川の下流までその水が流れていく。

ごうごうと氾濫していた水は、川の底が見えるほどに美しい。

こんな水を見るのは久方ぶりだ。

いや、シェルターの中で浄水設備によって綺麗にされている水はあれくらい綺麗か。それでも、あんな規模ではない。

「凄い女神様が水を綺麗にしてくださった!」

「水が美しい! 良い香りまでする!」

「なんだか浄化される……」

本当にケルピーが数体、浄化されて消えていく。

それも浄化されて消滅することを嫌がっていない。

思わず息を呑む。

凄まじい光景だ。

「ふむ、水を綺麗にする悪魔でも降臨したのか? それにしても凄まじい効果だが……」

「志村のおっさん、なんかしらねえか」

「いや。 水を綺麗にする悪魔は幾らか覚えがあるが、この規模となると……どこかの神格かもしれないな」

「まあよい。 とりあえずさっさと渡れ。 上野の要救助者を助けに行くのだろう」

地獄老人に促されたので行く。

途中、空から襲いかかってきた鳥の悪魔がいたのだが。機関銃が火を噴き、たちまちに蜂の巣にしてしまった。

弾に限りはあるが、凄まじい火力である。

一方で、陸上で道をふさいでくる相手には、自力で対処しろと視線で促してくる。

幸いこの辺りは、たまにうろついている危険な悪魔を除くと、そこまで強力な悪魔は徘徊していない。

バスは上野駅まで到着。

現地の人外ハンターと合流。既に決めてある人員を搬送して貰う。同時にナナシ達には、上野駅の内部に。

まだ雑魚悪魔が少数いる。

それを対処して貰った。

だが、思った以上に少ない。

少し前にニッカリに遠征して貰った時には、かなりの数がいるという話だったのだが。

それに、見慣れない奴らがいる。

青い服を着ていて、随分と統率が取れている。

「不思議な格好の奴らだな」

「よく分からないが、上から来たらしい」

「あれがか」

「ああ。 あいつらとは違う、同じ格好をしていた最初に来た四人組は恐ろしく腕が立ってな。 上野にいた濡れ女やマンティコアを次々に倒してくれた。 ターミナルも今は開放されて、好きに使えるようになっている状態だ」

それはすごい。

上野にいるのは場違いと言う程濡れ女は手強かったし、マンティコアも狡猾で危険な悪魔だった。

それに、確か僅かだけ聞かされている情報だと、ターミナルには確か太歳星君を従えている危険な悪魔がいた筈。

それを退けたと言う事は、確かにその強さは生半可な人外ハンターより上だろう。

衰弱していたり、栄養失調だったり。老人だったり、妊婦だったり。

上野では暮らしていけない人達を、順番に引き取る。

つれて来ている医療従事者には、すぐに手当てを開始して貰う。意識レベルが低い人もいて、出来るだけ急いで戻るべきだ。

ナナシに遠隔で通信を取る。

スマホを渡しているので、問題は無い。

「ナナシ、其方はどうだ」

「問題ねえ。 俺だけでも充分なくらいだ」

「くれぐれも油断だけはするなよ。 どんなベテランでも、一瞬の油断で死ぬ」

「分かってる。 アサヒ、後ろだ!」

ざざっと雑音が混じって、戦闘音。

大丈夫か。

少ししてから、また通信が入る。今度はアサヒからだった。

「ごめんなさい志村さん。 少し油断してしまって。 でも、なんとか切り抜けられたよ」

「そうか。 俺たちは一旦要救助者を搬送する。 お前達は上野の人外ハンターと連携して、駅の内部にいる悪魔を可能な限り駆除してくれ。 勿論仲魔にしてしまってもかまわないぞ」

「うん。 少しでも戦力を充実させておくね」

「その意気だ」

ターミナルの様子も少し気になる。

実はシェルター内にもターミナルはあるのだが。厳重に封印されていて使えないのである。

フジワラも封印されていて使えないと言っていたので、何かしらの権限が必要になるのかもしれない。

帰路を急ぐ。

あの川は、とても水が綺麗になっていて、人外ハンターだけではなく、比較的危険度が低い悪魔も様子を見に来ていた。

マーメイドが数体泳いでいるのが見える。

とはいっても、シェルターを守ってくれている規格外マーメイドと違って、基本的には危険な面も大きい悪魔だ。

それに本来は下位の悪魔。

わざわざ仲魔にする意味もない。

シェルターに戻る。

すぐに医療関係者が要救助者を搬送していく中、地獄老人が、シェルターから出て来たフジワラと話をする。

「リストにあった内、これらの悪魔には効果を確認できたな。 これを量産して、弾も揃えれば、雑魚相手に苦戦する事は……拠点防衛という観点ではなくなるだろう」

「ありがたい。 次は歩兵戦闘車の修復ですか」

「それはかまわないが、問題は燃料だな。 流石に原子炉を積むわけにもいかんし、ガソリンなんぞ手に入らん。 いっそエイブラムスと同じく、ジェット燃料を使えるガスタービンエンジンでも積むか?」

「いや、それこそ危険すぎます。 あれは堅牢なエイブラムスだから許される話であって……」

ああだこうだと話している内に、補給、更には人員の搬送が終わる。

まだ上野には要救助者が残っている。

後何往復かしないといけないだろう。

それにだ。

少し前に、スパイが入り込んだばかりである。

しばらくは要救助者にも気を配らなければならない。悪魔が化けている、なんてケースも想定しなければならないのだ。

小沢が率いる別のチームが、霊夢が開放してくれた前線基地から、どんどん物資をシェルターに運び込んでくれている。

既に放棄された基地には意味はない。

物資を阿修羅会辺りに漁られる前に、さっさと集約するべきだろう。

今の時点では難攻不落のこの国会議事堂シェルターだが、それも絶対などとは言い切れないのだ。

小沢が加わり、手が開いている時はニッカリも手伝ってくれるようになってくれたことで、更に手数が増えた。

だが、それでもやはり高位悪魔と出くわしてしまったらひとたまりもない。

比較的安全な範囲内でしか、動けないのも事実だった。

それからは、単純に上野との往復をする。

上野では、また青い服のサムライというのを見かけた。

最初の四人組と言われていた者達は段違いに強かったようだが、今見かけた者達は標準的な人外ハンターくらいの使い手だ。

まあ、上野辺りならなんとかやっていけるだろう。

三度の往復で、上野で生きているのだけで必死の状態の人達はどうにか救助を終えた。

ナナシとアサヒ、他数名の人外ハンターも回収。

軽く話を聞く。

「なんだか先に来たサムライとかいう連中が、悪魔を片っ端からぶちのめしてくれていたらしくてな。 駅の構内とか、前は悪魔だらけだったらしいのに、すっかり綺麗になってたぜ」

「そうか。 いずれにしても安全圏が増えるのは良い事だ」

「上野にいる人達、これで少しは楽になるかな」

「駅の構内からは悪魔を追い出せても、上野駅にいる大量の悪魔を片付けるのはすぐには無理だろう。 非戦闘員を守れる態勢は出来たがそれだけだし、大物の悪魔が出て来た場合には、どうにもならない。 いずれにしても、守りを固めなければならないだろうな」

バスで引き上げる。

帰路にも悪魔に襲われたが、地獄老人の機関銃が対空では火を噴いて片付けてくれたし。陸の悪魔は、バスを引いているデュラハンと志村の手持ちで撃退出来る範囲内だった。

途中でカタキラウワが出たので、片付けて肉は回収しておく。あまり質が良い肉ではないが、加工して保存食にしておけば、いずれ役立つ可能性もある。

シェルターで生産している新鮮な野菜などで感覚が麻痺しているが。

この事態を引き起こしたような連中は誰かも分かっていないし。

アドラメレクと同格の悪魔に霊夢や秀、あの規格外マーメイドがいないとき襲われたら、シェルターは落ちる。

そういった時の事も考えて、志村等大人は動かなければならない。

シェルターに到着。

丁度良いと、歩哨の人外ハンターに声を掛けられた。

「志村さん、これからタヤマとフジワラさんが話すそうです。 貴方も立ち会って貰えませんか」

「此処でか」

「わしがテレビ会議のシステムを復旧したからな。 それでやるのよ」

「……分かりました。 それであれば良いでしょう」

銀髪の娘についているあの存在。

あの存在は、自分の存在を表に出すなと言っている。

今の時点では、まだ表に出るべきではないという事らしい。悪魔相手でも、出来るだけ姿は知られない方がいいという事らしい。

シェルターの奥に。

霊夢と秀は既にいた。

規格外マーメイドは奥にあるビオトープの調整をしていたようだが、それが終わったので来てくれる。

地獄老人が機器の調整をして、それを興味深そうに銀髪の娘が見ていた。

孫でも見ているかのように。あの肌の色も恐ろしくて、爪とか伸びている悪魔より悪魔みたいな姿をしている地獄老人も、銀髪の娘には態度が優しい。

「どれ、調整の仕方を教えてやろう」

こくりと頷く銀髪の娘。

てきぱきと言われたとおり動いている様子を、地獄老人は目を細めて指導している。こうしていると、ただのいいお爺さんだが。

この老人が昔はナチにいて。

ナチを抜けた後にも世界征服とか企んでいたことは、志村も知っているし。フジワラにも一応報告はしてある。

今は味方をしてくれているが。

いつどうなるか分からないから、目を離さないように。そうフジワラからも注意を受けていた。

銀髪の娘とは無関係に、憑いている存在は、フジワラと話している。

「事前に打ち合わせしたとおり、奴らに手札は明かすな。 可能な限り助けられるだけの人間と人質交換を成立させろ」

「分かっております」

「さて問題はどれだけ助けられるか、だな。 わしの方でも支援はするから、可能な限り連中の内情を引きずり出せ」

「はっ」

フジワラとこの存在では、完全に主従が成立している。

まだ正体は確証が持てないが、現時点ではその正体はほぼ確定だろうと志村も思っている。

そう考えると、

素直に従うのも無理はないか。

実際、記録に残っている以上の能力だ。今やるべき事を確実に指示し、的確に次へとつなげていく。

戦術家としても戦略家としても政略家としても超一流。

それが分かるから、志村としても人外ハンターに来てくれた事を感謝するしかない。

ほどなくして、時間が来る。

テレビ会議のモニタに映るのはフジワラだけに調整してある。会議が行われる部屋の守りは秀が担当。

霊的な結界も、霊夢ががっちり張ってくれた。

志村も軍人として、出来るだけの守りを固める。

できるだけ早く、この軍人としての知恵と技術を後続に引き継ぎたい。

ナナシはどちらかというと軍人としては不向きだ。

だとすると、アサヒだろうか。

いずれにしても、生き残ってしまった者の義務として、やれることはやらなければならないし。

引き継げるものは引き継がなければならないのだ。

「通信つながるぞ」

「よし」

ちなみに既に復旧している大型モニタに、相手側の映像は出る。かといって、向こうに見えているのはフジワラだけだ。

映像出た。

高級スーツに身を包んだ、強面のサングラスの男。

誰でも知っている、阿修羅会の総元締め。

タヤマだ。

元はただのチンピラに過ぎなかった男が、運が良かっただけで必殺の霊的国防兵器を手に入れてしまい。

それで東京の悪辣な支配者と化した。

その事実そのものが。

今の東京が、実力主義で動いている場所などではないことを示している。

「久しぶりだなタヤマ。 まだタワマンなんて戦前ですら不便と言われていた場所に固執しているのか」

「ああ、そうだな。 これが金持ちのステータスで、支配者のシンボルだからな。 其方こそ、いい趣味の喫茶店から、穴蔵に移ったそうじゃないか」

「穴蔵は穴蔵でも、此処は全てが揃っていて快適だ。 私だけではなく、守るべき者達にとってもね。 それに喫茶店はツギハギが守ってくれている。 コーヒーならいつでも飲みに戻れるのでね」

早速毒のある応酬。

タヤマは今の時点で、表情一つ変えていない。

後ろにいる長身の男は、若頭のアベ。サラリーマンのような立ち姿だが、屈強で、目つきがカタギのそれではない。

一見理性的だが、阿修羅会の内部では最も怖れられている男だ。

とにかく腕が立つのである。

現在事実上阿修羅会のナンバーツーであり、タヤマなんかより頭が切れるのではないかという噂もある。

霊夢が奴を見て、小首を傾げる。

何か気付いたのかも知れない。

「うちの若い衆を随分殺ってくれたな。 この報復はさせて貰うぞ」

「我々が殺したという証拠は? 悪魔だらけのこの東京で?」

「俺たちは悪魔には襲われない!」

「それは嘘だな。 このシェルターを守っていた君の手下は、堕天使アドラメレクに食い荒らされた」

そう事実を指摘するフジワラ。

ぐっと呻くタヤマ。

阿修羅会が、悪魔を大人しくさせている等と放言しているタヤマである。赤玉はそのために必要だとか抜かしているが。

はっきりいって、そんなことは大嘘だ。今でも大量の悪魔が東京を闊歩し、こうしている間にも人が襲われているのだ。

「……さて、本題に入ろうか。 人外ハンターやこのシェルターを襲い、それで返り討ちにした君の手下の内、生かして捕らえたものが十九人いる。 その中にはスパイとして潜り込んだものが四人。 彼等の記憶は消させて貰った。 それが出来る手持ちの悪魔がいるのでね」

「交渉が出来る立場だと思っているのか」

「出来るさ。 もしも交渉を突っぱねたら、その時は君は手下を見捨てたと人外ハンター全員で喧伝する。 そうなればただでさえ刹那的にしか生きられない阿修羅会の構成員は、君をどう思うかな? 君のために命まで張ったスパイまで見捨てられたのだとすれば、ね」

タヤマの額に青筋が浮かぶ。

アベが何やら耳打ちをして、それで酒らしいものを飲み干していた。タヤマはふうと息を吐くと、言う。

「条件とはなんだ。 言って見ろ」

「人質交換と行こう。 君達が連れ去った人間を帰して貰う。 全員と言いたい所だが、君達が非人道的な方法で人間を加工していることは此方でも掴んでいる。 まだ無事な人間全員を開放して貰おう」

「全員だと確かめる術なぞ其方にはないが」

「此方は記憶を調べる魔術を使える悪魔が幾らでも手持ちにいるんでね」

「そうだったな。 ……此方も少しでも部下を失いたくはない。 分かった。 この辺りで手打ちにしよう。 此方としても、簡単にそのシェルターを潰せないことは理解した。 一旦、攻撃をやめる。 その代わり、そっちも此方に対する攻撃は控えろ。 それが最低条件だ」

勝手な事をほざく。

東京のインフラを独占して、人々の行き来を妨げ、団結すれば立ち向かえる悪魔にも逆らえないようにし。

挙げ句の果てに武器やスマホまで取りあげて。

至近にいたら頭を撃ち抜いてやる所だ。

「いいだろう。 人質交換が終わり、人質が無事に此方のシェルターに戻るまでは少なくとも休戦を約束する。 ただし君達が各地の道を封鎖したり、人々をさらうのを続けるのであれば、此方としても相応に対応する」

「あのなあ。 お前が言う通り悪魔全てを抑えるのは確かにできていないかもしれん。 だがはっきりいうが、赤玉がなくなれば、もっと被害は拡大する! 俺が、役立たずどもを犠牲にして、都民を守っているんだ!」

「お前の主観の役立たずなんて言葉など、何の意味がある! 未来を作る幼子や、知識を未来に渡す老人、病を治せば働ける者や、戦えなくても技術を持つ者! お前の東京では、そういう人々が殺され続け! それで未来がなくなっている! お前の寝言は全てが詭弁だ!」

珍しくフジワラが激しい言葉でタヤマを面罵する。

タヤマとフジワラでは、フジワラの方が実力が上だ。フジワラが本気になった場合、必殺の霊的国防兵器を繰り出さない限り、阿修羅会は全滅する。天の軍勢とやりあった三人のうちの一人であるフジワラ。もう一人のツギハギ。その戦力は圧倒的で、阿修羅会のチンピラなんて雑兵に等しい。

それも霊的国防兵器は阿修羅会の最重要拠点を守っているため、戦いには繰り出せないのだ。

「……人質交換だ。 日時場所は此方で指定する」

「おのれ。 いつまでも好き放題出来るとは思うなよ」

「それは此方の台詞だ。 少しでも舐めた真似をして見ろ。 そのタワマンを、私が粉々に消し飛ばしてやるからな」

フジワラの強力な手持ちの何体かは、実際にそれが出来る。

通信を切る。

霊夢が最初に言う。

「あのタヤマという男はただの小物ね。 問題はあのアベという男だわ」

「同感だ。 あれはただ者では無いぞ」

「私の方でも奴には注意している。 内偵はしているのだが、どうにも正体が分からない。 阿修羅会の古参幹部というわけでもなく、上位団体からの出向者でもないようだ。 ともかく、注意すべきなのは事実だろう」

志村が指示を受ける。

人質交換についてだ。

咳払いする霊夢。

以前捕獲したハレルヤという青年だ。あいつには、ちょっと注意した方がいいということだった。

「あいつ、恐らく高位悪魔と人間の合いの子よ。 実力もかなり高いとみて良いわ」

「それは厄介ですね……」

秀と同じ合いの子についての発言だが、高位悪魔と来たか。

人間と悪魔の合いの子は、幾らか例があるらしい。ただしかし高位の悪魔が相手となると、危険度も増す。

以降は最大限まで警戒度を上げなければならないだろう。

「一応結界で身動きは封じたし、記憶も出来るだけ飛ばしておいたけれど、シェルターの何処まで入り込まれているかも、記憶を完全に消せたかも分からない。 手持ちの悪魔も全て回収しておいたけれど、それでも油断しないで」

「そろそろわしが陣頭指揮を執る頃合いかもな。 もしもわしの存在が阿修羅会にばれた場合は、次の段階に入る」

銀髪の娘についている存在が言う。

明確な戦略を示してくれるのは助かる。

すぐに全員で動き出す。

相手は阿修羅会。今になってもまだ反社として生きている連中。油断だけは。してはならない相手だ。

 

3、人質交換

 

指定された位置に、乱暴にコンテナが横付けされる。

志村は狙撃班として定位置に。実際に人質を受け取りに行くのは幻魔ゴエモンと、人間に慣れている友好的な悪魔数体だ。

阿修羅会は明らかに下っ端が来ていて、ゴエモンに対して威嚇の声を張り上げる。

「何じゃワレェ! 人間が来てやってるのに、悪魔なんか出しよってどういうつもりじゃボケェ!」

「いてこますぞダボがァ!」

「黙れ」

ゴエモンは何もしていない様に見えただろうが。

がなり立てていた阿修羅会のチンピラ1が吹っ飛んで瓦礫の中で黙る。まあそうだろうな。

ゴエモンは軽くデコピンしただけだが、チンピラが視認できる速度ではなかったのだ。

さて、まずは確認からだ。

今回は地獄老人がどうにかして作りあげた遠隔確認装置を用いる。ドローンとカメラ。それに検査装置を組み合わせたものだ。

ゴエモンを使うのは、当然自爆などをしてくる可能性があるから。

この世の悪を煮詰めたような輩だ。

タヤマは小物だが、タヤマをいいように操っている可能性が高いあのアベという男はわからない。

コンテナを開けるゴエモン。

ゴエモンもイヤホンをつけていて、通信は共有されている。

阿修羅会のチンピラ共は、側にいる悪魔が監視している。恐ろしい姿の巨人で、側に立つだけで阿修羅会のチンピラが萎縮するのが一目で分かった。ただ、あれが阿修羅会の本命戦力ではない可能性が高い。

だから志村の責任は重い。

「此方狙撃班B」

「どうした」

「飛行物体飛来。 悪魔ではありません」

「警戒。 コンテナには絶対に近付かせるな」

小沢が率いる別狙撃班から連絡。

同時に通信が入る。

「コンテナ内に人間確認。 子供二十三、大人十四。 全員意識なし」

「生命反応、爆弾などの有無を確認」

「この装置をかざせば良いのだな」

「うむ、一人ずつ試してくれ」

今回の人質交換については、此方に有利な地点でのものとなっている。コンテナはガソリン車であり、良く動かせたものだと感心してしまうが。いずれにしても、内部について徹底的に確認する。

確認し次第、一人ずつ運び出していく。

運び出すのはこれも訓練された悪魔が行う。

一人ずつ別室に移し、爆弾などの危険がないと判明してから、丁寧に身体検査をしていくのだ。

この全員が、口減らしに阿修羅会に売り払われた存在だと思うと、怒りで震えるほどだが。

問題は全員とは限らない事で、異物が混じっている可能性があるということ。

だから慎重にやらなければならないのだ。

それに体に爆弾が仕掛けられていなくても、毒物が仕掛けられている可能性も高いのである。

運び出した人質は、側にある内部を制圧しているビルの一室にそれぞれ運ぶ。その後、丁寧に聴取と検査をする。

半分ほど運び出した時点で、狙撃班Bが声を張り上げていた。

「飛来物接近! ドローンです!」

「撃墜許可」

「了解」

狙撃銃で、ドローンが撃ち抜かれる。同時に大爆発が起きる。

爆発と同時に、ゴエモンが剣を抜いたのが分かった。倒れていた人質の一人が、膨れあがって悪魔になったのだ。

ゴエモンが即座に斬りかかるが、その一撃を受け止める悪魔。膨れあがる肉の中、飛び出した狛犬が、側に倒れている人間を咥えて、即座にコンテナを飛び出す。だが、それらの救出した人質に、罠が仕込まれている可能性は高い。

「救出急げ! ゴエモン、勝てそうか!?」

「問題ない」

「ちょ、どういうことだよ!」

「俺たちは何も……」

人質を助け出す。だが、混乱の中で助け出す人質は、別のビルに移す。この混乱の中で、スパイを送り込んでくる可能性はあるし、最初から想定されていたことだ。既に念入りに準備が行われ、作戦は練られている。

阿修羅会を見張っていた巨人が、唸りながらチンピラを全員抑え込んだ。最後の人質をコンテナから助け出した瞬間、コンテナが爆発したのだ。悪魔がゴエモンを巻き込んで自爆したのである。

通信ノイズ。

同時に、志村は身を隠していた。狙撃だ。

「くそっ! 此処まで強硬な手段に出るとは!」

「想定の範囲内だ。 各自冷静に迎撃せよ」

「現地班!」

「ゴエモンは駄目だな。 ツニート!」

唸り声。巨人の声。無事だ。傷ついてはいるが。

ツニートというのはフジワラの手持ちの悪魔の一体で、イヌイットの伝承に残る心優しい巨人だ。種族は魔神だが、それほど高位の悪魔ではない。見かけは恐ろしいが、人間に友好的で。力は強いが戦闘には向いていない。

あの一瞬、ツニートは阿修羅会のチンピラを守ったのか。

そう思うと、少し複雑な気分になる。

「狙撃手確認」

「!」

声は秀のものだ。

今回秀にはスコープを渡してある。使い方を教えた上でだ。

秀が発見した相手の位置を指定されるが、即座に確認してえっと声が出る。狙撃者は、人間じゃない。

狙撃はかなり高度な戦術で、悪魔に教え込むのは至難だ。

とにかく、狙撃してきたのは、背が高い悪魔。恐らくは堕天使だろう。此方に気付くと、ふっと笑って姿を消す。

ボロボロになったツニートが、倒れたままの阿修羅会の者を抱えて、安全圏に離れる。警戒続行。

志村は周囲のクリアリング開始。

これではまだ医療班は近づけられない。だが、時間がない。

霊夢が降りたって、それで医療班の護衛につく。やっとこれで話を進められる。此処からは時間の勝負だ。

 

二十分ほどで連絡が来る。

阿修羅会が、これは自分達の仕業ではないとがなり立てているらしい。タヤマが緊急で通信を送ってきたというのだ。

「俺としても下っ端を更に捕らえさせる訳にもいかない! そんな事をすると思うのか!」

そうタヤマは喚いたらしいが、確かに一考の余地はある。

嘘しか無い世界で生きている反社のタヤマだが、これは余りにも利がなさすぎるのである。

実際、現場に来た阿修羅会の連中も、何が何だかという顔をしていたし。

安全圏にツニートに運ばれて意識を取り戻した後、見捨てられて使い捨ての駒にされたのだと思い込んで、真っ青になって泣き出す奴までいたようだ。

いずれにしても、これ以上返せる人間はいないし。

攻撃は控えてくれと、タヤマが困惑気味に言う。

しかし、誰の仕業だ。

人外ハンターは一枚岩ではないとはいえ、内部にこんな事をやる奴がいるとも思えないのだが。

内通者を使って、タヤマ以外の人間……例えばアベとかが、これをやらせたか。

いや、しかしドローン兵器は大戦の時に悪魔に片っ端から叩き落とされたこともあり、今では超がつく貴重品だ。残りも悪魔に汚染されている可能性が高い。

いずれにしても、話し合いはフジワラに任せるしかない。

周囲のクリアリングが完了。秀も周りを見回って、敵性体はいないと言ってくれた。一人ずつ、心を読める悪魔が接して、スパイがいないか、回収した人質を確認していく。その過程で、芳しくない報告が上がって来ていた。

「霊夢よ」

「何かありましたか」

「これ、霊的な洗脳を受けているわね。 いや、少し違うか。 全員頭を空っぽにされているというか……。 大人が子供同然になっていて、言葉も要領を得ない。 子供もまるで赤ん坊みたいにされて……それで感情だけは異常に出るようになっているわ」

「何をしたんだ阿修羅会の連中は」

赤玉に人間を加工していることは分かっている。そう以前どや顔でほざいていた阿修羅会の関係者を見つけて、尋問して吐かせた。そいつは後で消されたらしく、それが事実なのはほぼ確定である。

むしろまともな状態の人質がおかしいのか。

ともかく、丁寧に確認していく。

志村はクリアリング続行。

嫌な報告が来ていた。

「いいかしら」

規格外マーメイドの声だ。今回の作戦は非常に大きなものだったので、シェルターには彼女だけ守りに残って貰っている。地獄老人もいるにはいるが、あの御仁は現時点では戦力にはならない。

マーメイドによると、シェルターを伺っている堕天使が数体。

いずれも雑魚ではないという。

「今は此処を離れられない。 どうすればいいかしら」

「すまないが、守りに徹して欲しい。 回収を済ませるまでは、厳戒態勢を続行だ」

「いえっさー、で良いのかしら」

「貴方には協力して貰っている立場だ。 だからもっとフランクでかまわない」

フジワラもかなり焦っているようだ。

ふと、志村は気付く。

この件、もしも人外ハンターの反発している派閥の行動でも阿修羅会の内ゲバでもないのだとすると。

ずっと静かにしていたもう一つの勢力が思い浮かぶ。

ガイア教団。

しかし、ガイア教団に、こんな事をして何の得があるのかがよく分からない。ガイア教団は現時点で中立の立場であり、阿修羅会を徹底的に軽蔑している節はあるが、特に敵対を考えてはいないようなのだ。人外ハンターに対しても、金を渡せば普通に商売をしてくるし、力を示せば銀座どころか本殿に入れてくれるくらいのフランクな組織である。こんな陰湿な行動を取るだろうか。

装甲バスが来た。

秀がついて、順次救出した人間の内、シロと判断した者を輸送して行く。手間取っているのは、あの結界術のスペシャリストにて、神降ろしの専門家である霊夢ですら、人質の状態が良く分からないから、らしい。

報告が入る。

ゴエモンからだった。

マグネタイトをつぎ込んで復活させたらしい。まだ声が弱々しいが、はっきりした証言をしてくれる。

「爆発した人質は、明らかに外部から悪魔が入り込んだ様子であった。 空っぽの器にされた人間であったから、憑依しやすかったのだろう」

「なんと非道な……」

「すまんなわしの検査装置が役に立たなくて。 近代科学で解明されていない分野の場合はわしの専門外であるものでな。 それにしても、そうなると偶然に悪魔が憑依とやらをしたのか?」

「いや、あのコンテナは稚拙ではあるが対魔処理がされていた。 だとすると、仮に憑依するにしても下級ではない。 高位の悪魔が、狙って憑依したのだ」

自爆した悪魔は、或いは狙撃してきた悪魔の分霊体か何かか。

装甲バスがまた行く。

霊夢から、追っての通信。

「身体検査の結果、体内に通信装置や盗聴装置が埋め込まれていた人間が数名。 その場で医療班が切除したわ」

「やはりか。 外道が……」

「今はそれよりも、出来るだけ急いでこの場を離れた方が良いでしょうね」

霊夢が言う。

桁外れの悪意の臭いがすると。

霊夢の勘は暴力的に当たるらしく、これは本来の巫女としての能力であるらしい。

近くに捕まえたままの阿修羅会は確保してある。此奴らに何かあった場合も、それはそれで厄介だ。

阿修羅会の連中が、わんさか車やらバイクやらでやってくる。まだ動く車はあっても、ガソリンは稀少なのに。

ぎゃいぎゃい喚いているそれらを、ツニートが唸って威圧する。

ともかくこのままだと本格的な衝突に発展しかねないだろう。

いきなり銃声。

空に向けて発砲した奴がいる。

阿修羅会の連中が黙り込む。

あれは、アベだ。

「黙れお前達、此処を無意味に鉄火場にしたいか! ……此方アベ。 現場に到着。 フジワラさん、聞いておられますか」

「聞いている。 今回の件、何が起きているのか説明して欲しいくらいなのだがね」

「此方もです。 此方は人質を返しました。 無事な人間はほぼ全員。 赤玉を作る事の是非については申し訳ありませんが、話が平行線になるでしょう。 ただ、此方は筋を通しました。 此方としても、人質をお返し願いたく」

「……このまま其処でにらみ合っていても埒があかないのは同意する。 今、最後の検査をしている者達を運び出す準備をしている。 ああそうそう、君達が仕込んでくれた発信器や盗聴装置は取りだしておいたよ」

それも覚えがないとアベは言う。

まあ、此奴も反社の人間だ。何処まで言う事が信じられるかはわからない。

しばしの沈黙の後、霊夢が言う。

「ふうん、なるほどね……」

「どうしました」

「側で見て確認できたわ。 あのアベって奴、悪魔よ。 かなり上手に擬態しているけれどね。 それも下位の奴じゃないわね。 最初から本気でやりあっても勝てるかどうかかなり疑わしいわ」

「!」

そうか、確かにその可能性はあったか。だがどうして悪魔が、タヤマごときに人間のフリをして従っている。

ただ、どうしてだろう。

あれが嘘をついているとはとても思えないのだ。

相手が悪魔となると、狙撃銃程度で殺せる可能性は低い。ましてやアドラメレクを圧倒したあの霊夢が強いと言う程の相手だ。クリアリングに務める事にする。

程なくして、最後のバスが出る。

一人人質は救出できなかったが。

それでも、残りは救出できた。

阿修羅会の此方が抑えていた人員を開放する。ハレルヤというあの若いのが、連れてこられると。

アベに申し訳なさそうに頭を垂れていた。

「なるほど、これで全員ですか」

「いや、さっきツニートが爆発から守った者達がいる。 それも返しておこう」

「仁義を守っていただき有り難く。 おい、お前達! 相手は仁義を果たした! 今回の件は誰が糸を引いたかわからねえが、少なくともフジワラさんではないはずだ! 今回の抗争は一度しまいだ! 引き上げるぞ!」

「へいっ!」

ボスがいると統率が取れているな。

阿修羅会が引いていく。最後まで現地に残っていた秀が、出てくるように声を掛けて来たので、一度集合。

全員いる。小沢が率いていたB班も全員無事だ。

「一度戻るわよ。 誰が第三者か知らないけれど、この状況だとこの中にいてもおかしくはないでしょうね」

「そうでないことを祈ります」

「……」

秀が周囲を一度だけ見て、それで戻って来た装甲バスで戻る。

地獄老人が来ていたので、軽くバスの中で話をする。

検査装置が駄目だったという話をされた。かなり口調が熱い。

「さっきの霊的な憑依云々な。 あれも科学的に必ず解明できるとわしは信じておる。 悪魔がいるということは、それは科学で解き明かせると言う事だ」

「そうですね。 悪魔がいるから科学は無意味だなんて考えこそが、非建設的でしょうね」

「アティルト界とアッシャー界であったか。 いずれそれらについても確認し、もしもそのアティルト界とやらに神とやらが潜んでいるのなら。 引きずり出して、叩き潰してくれるわ」

随分と闘志を燃やしているが。

自慢の検査装置をくぐり抜けられて、爆発されたのが余程頭に来たのだろうか。

この人は、危ういことは分かっている。恐らく機会があれば簡単に悪に転ぶのだろう。だけれども、今は人間の味方だ。しかもこれほどテクノロジーというものを理解し、再現できるスペシャリストはそうそういないだろう。

この人なら、悪魔に対して対応できる電子機器を造り出せるかも知れない。

今まで無人機の類は悪魔の格好の餌だったのだが。

それが終わりになるかも知れないのだ。

シェルターまで戻る。

シェルターの地下には医療設備もあって、今回収した人々が治療をすでに受けている。ただ、やはり無事な状態では帰ってきていないようだ。

けらけら笑っているいい年をした男性。

まるで子供みたいに無邪気に笑っている。

子供は虚空を見てぼんやりしているように見えて、めまぐるしく表情を変えている。

女性は医師が話しているのを聞く限り、子供を信じられないハイペースで産まされた形跡があるらしい。

女性は子供を産むとかなり体にダメージが出るものだ。

それが蓄積して、相当に弱り切っているという。ただでさえ栄養が不足している今の東京で。

そして共通して。

何をされていたのか。

何処にいたのか。

誰も覚えていなかった。

「末世とはいえ、これは度を超えている。 しかもこの人達はまだマシな状態で、この先には死しかなかったというのか」

フジワラが、救出した人質の様子を見て憤慨している。先にタヤマに対して面罵してから、今まで抑えていたこの人の哀しみと怒りが、一気に噴出したのかも知れない。

天の軍勢を撃ち払った三人の英雄とはいえ。

この人だって、助けられなかった人間の方が、助けた人間よりも遙かに多いのだ。

助けた人間には、恩知らずにも阿修羅会になっている者もいると聞く。

今の時代、恩義なんて返す存在はいない。

それどころか、筋を通す事自体、バカのやる事だと認識しているものですらいる。

それは皮肉な事に。

大戦前夜の世界と同じだった。

あの頃も、そういう時代だったと、志村は思い出して慄然とする。既にあの時、世界の破綻は始まってしまっていたのかも知れない。

そんな中、アベの言動は異質だった。

なんで阿修羅会なんかにあの男がいるのか。

いや、あの男だって、この非人道的行為に荷担していてもおかしくは無いだろう。

忙しく働いている医療班の中で。

ベテランの医師だったらしい人物が来る。

もう八十近いが。

それでも引退できる状態ではない。

よくこの地獄を今まで生きてこられたものだと感心するが。今は、そういう話ではない。

「フジワラさん、いいかい」

「ああ、聞かせてください」

「ええ。 何人かは、頭に穴を開けられていた形跡がありますね。 回復の魔術で塞いだ様子ですが」

「!」

赤玉について、悪魔が話しているのを聞く。

人間の感情が全て詰まっていて、人間の味もするので、とてもおいしい。一度食べるとやみつきになる。

それで、阿修羅会の言う事をある程度聞くようになる悪魔もいる。

ただ実際には、下級ばかりらしいが。

地獄老人が咳払い。

「赤玉とやらの現物は確保しているか」

「幾つか捕らえた阿修羅会から回収しました」

「わしが解析する。 少しラボを借りるぞ」

「生物学も出来るんですか」

ふっと鼻を鳴らす地獄老人。

ナチにいた頃はIQ200くらいあったとかいう話で。それでナチも地獄老人を贔屓していたらしい。

現在までの科学技術はだいたい全て仕組みを理解していて、それでどんどん再現する事ができるらしいが。

それが理由の一つであるのだろう。

「製造の工程までは分析出来んが、成分は分析出来る。 霊的云々はちょっと分からないがな。 まあこの様子からして、十中八九血と脳内分泌物が主体であろうよ」

「なんということだ……」

「これは悪魔というより人間の発想だな。 ナチで優性思想を拗らせたアホ共が、同じ人間にどれだけの非道をして来たか、わしは間近で見てきた。 殺して奪うだけの悪魔よりもよっぽど人間の方が残虐で信じられないくらいの悪辣さよ。 わしはそっちには関わらなくて兵器開発専門だったし、末期は兵器の修繕ばっかりやっていた気がするがな」

地獄老人が地下のラボに降りて行く。そのラボも、地獄老人が復旧したものだ。

若い助手を既に何人か育て始めているらしい。

悪魔も支援として使っているようで、もうすっかりこの悪夢の土地に馴染んでいるようだから。

老人とはとても思えないアグレッシブさだ。

フジワラが手を叩く。

「とりあえず、作戦に参加した皆はお疲れ様。 交代して休んで欲しい」

「はっ!」

「外は確認したけれど、距離を取って見張っていた堕天使は去ったわよ。 一体誰が仕込んだ事かしらね」

「……」

霊夢の言葉に誰もが黙る。

悪辣さでは、人間は悪魔なんかの比ではない。

それについては、志村も覚えがある。

自衛官に助けられた民間人が、悪魔に襲われた時、真っ先に助けてくれた自衛官を盾にして逃げるような場面は何度もみた。

そういうものだ。

志村は酷く疲れたので、シャワーを浴びて休む事にする。

既に水の循環システムは復旧していて、個室は流石にないものの、交代でシャワーは使う事ができる。それも温かいお湯が出る。

それだけで、どれだけリフレッシュ出来るか分からなかった。

 

ビルの上で状況を見終えたクリシュナは、ふっと鼻を鳴らした。

側に集まって来た、四体の動物たち。

それは一つに集まると。

ジャガーを主体とした、奇妙な悪魔へと姿を変えていた。

邪神テスカポリトカ。

南米の神話におけるトリックスターにて、主神であった時期もある存在。様々な動物の姿を取る事が出来、世界の破綻にも関わる様々な特性を持つ神格だ。創造と破壊を司るという点では破壊神の神格に近いようにも見えるが、実際には南米の信仰の変遷を示しているような存在と言える。古くには信仰され、後には信仰が淘汰されたということだ。

足下に集まってくるのはコヨーテ。

勿論ただのコヨーテではない。

此方も北米の神話におけるトリックスターとしてのコヨーテだ。

北米の神話ではコヨーテは気分次第で悪も善も為すトリックスターとしての色彩が強い。

現在では同じ一神教に淘汰された存在で、しかも性質が近いと言う事もある。

テスカポリトカとコヨーテは、一緒に行動するようになっていた。

「意外だったねクリシュナ。 俺が引っかき回せば、もっと混乱すると思ったのに。 人間共、意外と冷静じゃないか。 ひひひ」

「私としても意外だ。 人間を試すつもりもあったのだが……」

「試すにしては、少々手口が邪悪ではないのか」

ふっと側に現れる存在。

巨大な白い蛇。翼を持つその存在は、強い怒りを目に宿していた。

南米神話における主神、ケツアルコアトル。

人型を取る事も出来るが、巨大な蛇としての姿も持つ。

南米の神話と言えば、日蝕を恐れ世界が闇に包まれるのを防ぐ為に生け贄を捧げていた悪辣な面が強調されることが多いが。

ケツアルコアトルは慈悲深さも多く。インカ文明では状況が変われば生け贄を必要としないこともあったという。

また、後から入った一神教によってその存在を歪められたという事もある。

残虐性が強調されたというのはどうしてもあるだろう。

ケツアルコアトルとテスカポリトカは水に油だが、多神教連合の同志である。対一神教と言う点では、利害が一致しているのだ。ただし、同志と言っても主従では無い。行動次第では、即座に連合を離れるだろうが。

「んだよご主人様よ。 お互い生け贄を欲する神だろ」

「貴様と一緒にするな。 この世界に太陽を再臨させることが余の願いだ。 堕天使のフリをして狙撃だの、人間を破裂させるだの。 貴様には神としての誇りがないのか」

「そんなもん、貴様に取って代わられた時点でなくしたわ」

「まあまあ、お二方とも。 今回の件で、人間は思ったよりもずっと出来る事が分かりました。 それと……」

クリシュナは人なつっこい笑顔で二柱を戒めると、咳払いしていた。

人外ハンター。阿修羅会。

どちらも、本当の主は別にいる。

そう指摘すると、ケツアルコアトルは頷いていた。

「阿修羅会の本当の指導者はあのアベという悪魔だな。 あれは余が見る所……」

「ひひ。 それにフジワラとやらには強力なアドバイザーがいるねえ。 多分まっとうな人間じゃない。 こんな世界では生まれ得ない存在だと見て良さそうだ」

「或いは、切り札を出さずとも、事態を収束できるかも知れない。 こんな状態でも神々の主を気取って座に君臨しているあの存在を、引きずり下ろせるのであれば、穏健策に移行するのは全然アリだ。 その場合は、信仰と姿を取り戻すためにも、軽挙妄動は控えなければなりませんな」

敢えてテスカポリトカに釘を刺しておく。

ケツアルコアトルは、余程の事態にならない限り、暴虐に出る事はないだろう。

クリシュナとしては、それで良かった。

一度アティルト界に戻る。

次に打つ手は、幾つか考えてあるが。

今クリシュナは。

温めていた全てを破壊する存在を孵化させることよりも。

むしろ多神教連合を挙げて、四文字たる法の神を引きずり降ろすために人間に知恵を授ける方が良いのではないかと思い始めていた。

 

4、違和感

 

一度東のミカド国に戻る。予想以上に大量の遺物が集まったからだ。食糧を提供する事で、パソコンとやらも手に入れる事ができた。ただ、一度にまとめて運ぶと、ターミナルを移動する時に壊す可能性が高い。

非常に精密で、壊れやすいと聞いている。

それもあって、四人で分担して、何回かに分けてターミナルを移動して、物資を運ぶ事にした。

それで東のミカド国に戻ってきたのだが。

妙だ。

暑さのピークを越えている。

確か、東京へ辿りついた時が、丁度夏の盛りで、暑さのピークに達していたはずだけれども。

少し涼しすぎておかしい。

小首を傾げながら、後から来たヨナタンの荷物を受け取っておく。そして荷車に分別して並べる。

遺物の殆どはまったく正体が分からない。

何回か往復して、荷車に一杯荷物を詰め込むと、一旦は酒場に。

酒場を経由して、寺院に納品するのだ。

その後寺院に呼ばれる。

面倒な話だが、とにかくサムライである以上、手順は踏まなければならないのだ。

ウーゴが山ほど遺物を持ち帰ったのを見て、黄色い声を上げて歓喜していた。

「貴方たち、やるじゃないですか! しかしこのパソコンは残念ながら部品が足りませんね。 もう少し色々と遺物を集めて貰う必要があります。 パソコン自体も、もっと集めてください」

「注文が多いんだよこの……」

「ワルター。 ウーゴ殿、正式に酒場に依頼として出してください。 此方もサムライ衆として依頼を受けますので」

「そ、そうですね……。 まあ、遺物の中にはとても有用なものがたくさんありますので、それで可としましょう。 おお、これなどは技術書ではないですか! しかも公用語で書かれている! 素晴らしい!」

半分話を聞いていないなこれは。

ワルターが不機嫌にみるみるなっていくのを、僕が袖を引いて遠ざける。このままだとウーゴはワルターの拳骨で寺院の床にめり込みかねない。

それよりも、皆と話しておく事がある。

サムライ衆の食堂に移動してから、軽く話す。

「ね、今って八の月だよね」

「そういえば妙に涼しいな。 そういう日か?」

「いや……まて。 カレンダーを見るんだ。 今は十月になっている。 それも十月末だ」

「嘘でしょう。 そんなに長期間東京にはいませんでしたわ」

イザボーが驚くのも当然である。

僕も驚いた。

一旦それぞれの宿舎に戻る。宿舎はそれぞれ、下働きが掃除してくれていたので埃は積もってはいなかったが。

キチジョージ村の人から、何通か手紙が来ていた。

無事だった人が感謝の言葉を述べてきているものもある。

だが、何ヶ月もサムライとして活躍してとか、武勲をたくさん挙げたと聞くとか、色々不可解だ。

僕はサムライになってから、それほど時間は経っていないのだが。

一度休んでから、また食堂で話す。

一日だけカレンダーは経過している。

どういうことだこれは。

「ケガレビトの里……東京で連戦していたけれど、陽が差さない土地とは言え、時間感覚は其処まで狂っていないはずだよ。 こんなに時間が経過しているのはいくら何でもおかしくない?」

「確かにそうだ」

「お前達、戻っていたのか」

ホープ隊長だ。

礼をしてから、話をする。

そうすると、お前達もかと言われた。

「実は既に活動しているサムライ衆の分隊から、ほぼ同じ話が出ていてな。 ケガレビトの里に出向いてから此方に戻ると、考えられない時間が経過しているというのだ」

「どういうことですかねこれ……」

「分からないが、気を付けろ」

「或いは、此処とケガレビトの里では、時間の流れが違っているのでは」

イザボーがいう。

そういえば、時間の流れが違う土地に流れ着いてしまった人の昔話がある。

バイブルがあまりにも退屈と言う事もあって、彼方此方の村ではそういうお話が広まっていたりするのだが。

虐められていた亀を助けた漁師が、美しい城で夢のような時間を過ごし。数年程度の筈だったのに、帰ってきたら誰も自分を知っている人はいなくなっていた、なんてものであったそうだ。

「時間の流れが異なる、か。 可能性はあるな。 お前達、出来るだけ小刻みに此方に戻るように心がけてくれ。 そうしないと、体調を崩したりする可能性も出てくるだろうな」

「分かりました」

「お頭、それはそれとして、遺物は回収しているんだから、お給金ははずんでくださいよ。 出世についても考えてくださいね」

「現金なものだ。 案ずるな。 お前達の武勲は群を抜いているし、無能者がまとめて粛正されたこともある。 すぐに出世出来る。 フリンに至っては、ある程度武勲を重ねたら、私の後継者になってもらうつもりだ」

そうか。

それは有り難い話である。

歴代でも女性のサムライ衆の長は珍しくもないらしい。

ただ、そこまで高く買って貰っているとは思っていなかった。嬉しくないといえば嘘になるし。

サムライ衆の長になれば、キチジョージ村の復興を、より効率的に進められるかも知れない。

軽く打ち合わせをした後、東京に戻る。

風呂にも入って体を休めたし、上野駅周辺の厄介な悪魔はあらかた掃討駆逐した。大量の悪霊を引き連れて現れたピアレイという悪魔の悪臭には辟易させられたが、幾つも得たものはあった。

バロウズのアドバイスで悪魔合体を繰り返した結果、出来た悪魔がいる。

召喚するのは、その悪魔。女神アナーヒター。

古い古い時代の女神らしいのだが、戦いの神でもあるらしい。

特筆すべきは水魔法の専門家と言う事で、不忍池と言われる池の汚染を、その周辺の川の汚染も、一気に浄化してくれた。

流石に生水をのむ事は避けた方が良いだろうが、それでも不忍池は今や清浄な池と化していて。

お魚を放しておけば増やして食べられるようになりそうだし。

湧かせば飲料水としても使えるはずだ。

そのアナーヒターに、川を凍らせて貰う。

川の先に、以前ニッカリという人外ハンターが言っていた、国会議事堂シェルターがあるらしいのだ。

一瞬で川が凍り付くのを見て、渡り守をしていた人外ハンターが驚く。

「おいおい、これは……」

「渡し守、命がけでしょ。 いずれ、橋も作ってしまいたいけれど」

「そうだな。 だが、阿修羅会がまだ大きな力を持っているから、あいつらをぶちのめさないと厳しいだろうな」

「なにその連中。 まとめて凍らせてやろうかしら」

アナーヒターが冷たい声で言うと、人外ハンターはぞっとしたようで、愛想笑いを引きつった顔で浮かべるばかりだった。

ともかく、これで永田町方面に向かえる。

まずは、人外ハンターの本部とやらに出向いておきたい。

情報を収集して。

あの黒いサムライ。リリスと思われる存在を追うために。

 

(続)