滅びの星歌

 

序、凶星

 

星が落ちてくる。

わたしには、そのように見えた。頭が痛い。こんな程度の痛みなんて、慣れていたはずなのに。

どうしてだろう。

今のわたしには、ひどく辛かった。

気がつくと倒れていた。

戦闘タイプヒーローの身体強度で、精神的なダメージだけで倒れるなんて、滅多にある事では無い。

そう、雲雀に言われた。

分かっている。

ベッドの上で、半身を起こす。

何が起きたのかは。わかりきっていた。

そうだ。

わたしにとっては、全てのオリジン。原点の中の原点。あの人に会うことで、ようやくわたしは人になり。

人にとってより大事なものを知る事が出来た。

だからヒーローを捨てたことを誇ることさえ出来たし。

ヴィランと呼ばれても何ともなかった。

だけれども。

その人が。

実際には、誰だったかを知ったとき。

わたしの中での根元は、木っ端みじんに砕けてしまったのだ。

分かっている。

ザ・ヒーローという人間が、どういうことを考えているのかは。そして、内心ではなんとなく理解も出来ている。

ザ・ヒーローは。

わたしを利用しようとも考えたが。

実際に、本物のヒーローにしようとも思っていたのだ。

人は二面性を持つものだ。

どちらが本当の姿、というのが出てきた場合。どちらも本当の姿、というケースは珍しくない。

考えてみれば妙だった。

スラムの王と言われていたあの人だけれど。

あまりにもものを知りすぎていた。

深くものごとに通じすぎていた。

わたしが今あるのも。あの人に、多角的に鍛え抜かれたから。そしてあの人は、恐らくは。

わざと、ヴィラン討伐部隊に討たれるフリをして。

わたしの前を離れたのだ。

理由も何となく想像がつく。

だけれど、口にはしたくなかった。

「ミフネに何言われたの」

「……わたしの根本に関わる事」

「となると、ハードウィンドか」

「頭が良すぎるのも考え物だな」

ぼやくわたし。

雲雀は実際問題、かなり出来る奴だ。わたしから見れば、少なくともかなり頭が良い方だと思う。

実際ミフネとやりあって逃げ延びてもいる。

生半可な知恵では無い。

クリムゾンにいたとき、雲雀が知恵を見せる場面は何度もあったけれど。いずれも、印象深い結果を残していた。

「それで、立ち直れそう?」

「……実を言うと、わたしも師匠がおかしいことは、うすうす勘付いていた。 ずっと爆弾を抱えていたんだな」

「で?」

「急かすな。 わたしにも、考える時間が欲しい」

雲雀が首を横に振る。

そうは行かないという。

時間がない。

それはそうだろう。宇宙人が指定してきた期限まで、腹時計の具合から考えて、残り34から33日という所。

不満を抱えている7000人以上の戦闘タイプヒーローを。

どうにか大人しくさせて。

今の不平等な状況を、改善しなければならない。

そしてザ・パワーは暴走中。

戦力が味方には、決定的に足りない。わたしが今、倒れるわけにはいかないのだという。

勿論精神論で、砕けたものは治らない。

わたしは、立ち上がると。

じっと壁を見つめた。

「普段の半分、出せれば良い方だぞ」

「分かってる」

「……そうだろうな」

ミフネはどこに行ったか。

聞くと、やはり姿を消したらしい。

奴はやはりクロだった、というわけだ。だが、ザ・ヒーローへの情報の流れ方がおかしい。ミフネ以外にも草が紛れていると見て良いだろう。

しかし、それは。

誰だ。

もとクリムゾンのメンバーは違うだろう。

ペアアップルなどの、ザ・パワーに心酔していた連中も違うと見て良い。グイパーラは収監中。

そうだ、それで思い出す。

ライトマンとアンデッドを何とかしなければならない。

彼奴らの脅威は、生半可なヴィラン十人を超える。

「ライトマンとアンデッドは」

「捕まってないよ。 居場所は大体見当がついたけど」

「……聞きたいことがある。 わたしが行く」

恐らく、その目的だったのだろう。

雲雀は頷くと。

例のヘリの整備が済んでいる事を教えてくれた。

ただし、一人では行かせないとも。

「プライムフリーズは動けないだろうし、ブラックサイズは例の馬鹿共の残党狩りで忙しいだろう。 誰が行くんだよ」

「私」

「!」

「そういえば、組んで戦うのって、久しぶりだったっけ」

大丈夫か。

思わず聞き返していた。

雲雀はむしろ潜入任務や諜報が本領で、戦闘能力そのものは決して高くないはず。戦闘ヒーローとしての戦力は備えているが、それでも中堅程度の筈だ。相手は負傷しているとは言え、オリジンズでも上位に入ると言われたライトマン。それに現役オリジンズを唯一返り討ちにしたヴィラン、アンデッドだ。

ヴィラン討伐部隊も向かっているらしいが。

それでも、逃げられる可能性があるから、保険だと雲雀は言うが。

彼女はヴィラン討伐部隊を信じていないのだろう。

奇遇だが。

わたしもだ。

「ミラーミラーを残すのは少し不安だけれどね」

「ライトマンとの戦闘中に割って入られるよりはましかな」

「……」

いそいそと準備を始める。

今は、忘れる。

勿論、忘れられるはずが無い。

だけれど、あたまの片隅に追いやる。

そうすることで。

これからの大敵との戦いに、備えるのだ。

ヘリが出る。

操縦は雲雀がするという事だった。わたしは病み上がりだし、何よりAIが勝手に動かしてくれるのだけれど。

前から、ヘリの操縦をして見たかっただけらしい。

何だかこういう所はこどもみたいだな。

少しわたしはおかしくなって、くすりと笑うことが出来た。

久しぶりに笑った気がするが。

それも少しだけだ。

すぐに音速を超えたヘリは。

敵大物ヴィラン二人が潜伏しているという、旧EUの一角を目指して飛ぶ。復興どころか、まだ汚染の除去さえ終わっていない地域が多く、荒廃した光景が続く。ただでさえ荒廃しているこの世界。インフラを独占しているヒーロー達が、少しでも自浄作用を備えていれば、こんな事にはならなかっただろうに。

ザ・ヒーローだって、無茶な事はしなかっただろうに。

途中、幾つか話しておく。

「ザ・パワーの様子は」

「相変わらずのジェノサイド中」

「もう手が付けられないな」

「一応殺す相手は選んでるみたいだけれどね。 あんたが倒れている間にも、百人以上殺したみたいだよ」

そうか。

戦闘タイプヒーローは、この星を好き勝手にしてきた連中だ。だからこそ、腐敗も凄まじかった。

いつか、誰かがやらなければならなかったことだ。

だが。

こんな形で、自分たちの絶対権力と繁栄が脅かされるなんて。

彼らも想像し得なかっただろう。

わたしがクズヒーローを叩き潰して廻っていた頃だって、彼らは余裕だった。自分の所に来ないだろうし、来てもヴィラン討伐部隊がどうにかしてくれると思っていたからだろう。

わたしはその隙を突いて。

多数のヒーローを葬ったが。

それについては後悔していない。

例え。ザ・ヒーローが。実際には、戯れに。実験に。或いは、自分の復讐心を満たすために。

わたしを利用していたとしても、だ。

それでも後悔は無い。

わたしは実際に、相手の所行を見た。その上で、行動した。

市民を虐げる悪鬼外道共を叩き潰したことを、今も誇りに思っている。その事に、偽りは無い。

例え師匠との日々が偽物だったとしても。

それでも、わたしのしてきた事は。

この世界にとって、何より自分自身にとっても、誇れること。

わたしはヴィランと呼ばれても構わない。この世界を腐敗させた最悪の邪悪達を潰せるのだったら。

どんな運命にだって。

戦うつもりだ。

それが例え。

師匠が全て否定されたり。或いは、師匠が敵に回るとしても、である。

目的地点まで三時間。

その間にレーションを口にする。

今まで得られている情報を幾つか、確認しておく。

「ライトマンはいい。 アンデッドを手引きした奴はわかりそう?」

「監視カメラの映像だと、自分の皮をダミーに残しながら、自分自身を細分化して、重要臓器だけを自分の足の下から、刑務所の地下へと移動させた後、再構築したんじゃないのかな」

「器用な奴だな」

「わたしもそうやってミフネから逃げた」

なるほど。

可能な方法、というわけだ。

そして実際に、地下からアンデッドの開けた穴と。重要臓器が通ったらしい路が発見されているらしい。

しかし、ライトマンとアンデッドは一緒にいるのか。

それについては、目撃情報があるらしい。

市民からの目撃情報だそうだ。

ライトマンは腕をザ・パワーに握りつぶされていて、まだ完治していない様子だったらしい。着込んでいる派手なスーツも、既にボロボロだそうだ。どうやらフラフラ一度自分の屋敷に戻ろうとして。

そして思い直したらしい。

アンデッドのほうは、途中でライトマンを見つけて合流し。

そのままだそうだ。

アンデッドは全身を滅茶苦茶にライトマンに傷つけられていたそうだけれど。今は表皮を除いて回復している可能性が高いとか。

ただし、無茶な内臓移動をしたのだ。

戦力は半分も出せないだろうとの見解も、雲雀はしていた。

まあ話半分に聞いておく。

わたしは楽観はしない主義だ。

「スネークアームはどうしている」

「また三十人規模の「抗議活動」があって、鎮圧に向かってる。 こっちに来るのはその後」

「……彼方此方で起こり始めたんだな」

「当然だろうね」

それはそうだ。

恐怖も度を過ぎると。

爆発する。

ザ・パワーの粛正は急すぎた。だから、次に殺されるのは自分かも知れないと思ったクズヒーロー達が、反旗を翻すのは当然とも言えた。

だけれど、同情は出来ない。

彼らは自業自得の末路を迎えているだけなのだから。

現地近くに到着。

荒廃が著しい地区だ。

この地区は、ヒーローが支配地区にしているものの、市民さえ近寄らない。大戦の初期に、EUがありったけの核を叩き込んだ場所で、そうすることで銀河連邦の機械化された先遣部隊を潰したのだ。

流石に核の飽和攻撃には、それなりのダメージを受けた先遣部隊だが。

それはあくまで先鋒も先鋒。

すぐにそれに数倍する部隊が現れて。

敵対行動を取ったEUを、滅茶苦茶に蹂躙した。

蹂躙に掛かった時間は、一日もなかったという。それはそうだろう。あの米軍を、一日で滅ぼした戦力なのだ。

いずれにしても。

此処はその時の戦いで。

最も汚染された場所。

建物さえ残されていない。

今でも、高濃度の放射能が、検知されている場所だ。

「状況は」

「戦闘タイプヒーローの肉体でも、何日も潜むのは難しいね。 ただライトマンがいるとなると、対空迎撃はしてくるかも」

「……いや、それはないな」

気配を感じない。

というよりも、此処にはいないとわたしは見た。

或いは、一度此処に逃げ込んだのかも知れない。

だが二人とも傷ついている。

こんな最果ての地では、傷を癒やすどころでは無いと判断したのだろう。或いは、誰かに手引きされたか。

「気配分かるの?」

「死線を越えてから鋭くなってな。 ライトマンやアンデッドくらいの使い手だったら、すぐに分かる」

「それは便利だ」

「移動しそうな場所に心当たりは」

少し考えた後。

雲雀は、顎をしゃくる。

すぐ近くに。

クロコダイルビルドの支配地区がある。

既に市民が人権を認められ。最悪のヒーローの一人だったクロコダイルビルドは大人しくなり。

受けられて本来は当然の福祉や社会保障が復活し。

もっとも「この世界で先進的な」地区となっている。

嘆かわしい話だが。

「この世界で先進的な」地区である。

「逃げ込むなら、彼処かな」

「市民には出来るだけ危害を加えさせない」

「……」

雲雀がヘリを、まっすぐクロコダイルビルドの支配地区へと向ける。速度を上げて、サイドキック専用の空港に。

そうそう。

サイドキックというこの用語についても、変更案が出ている。

今後はあの地獄のサイドキック養成校を廃止。

軍として再編成するそうだ。また、単純に市民と同格ともするという。

戦闘タイプヒーローの中には、反発するものも多い様子だが。

ザ・パワーの粛正ツアーが続いている現状。

表だって不平は言えないのだろう。

空港にヘリが着陸。

わたしはまだ本調子とは言えないけれど。

ヘリの中で着替えも済ませ。

戦闘態勢は整えていた。

そして、はっきり感知する。

いる。

ライトマンとは、いずれ決着を付けなければならないと思っていた。此処でと言うのであれば。

望むところだ。

 

1、光と死

 

アンデッドが促して、ライトマンを急がせる。

脱獄を手引きしたのは、アンデッドだ。実際には、脱獄の手はずを整えた奴が別にいるのだけれど。

完全に廃人になっていたライトマンの精神に光を灯し。

脱出を促したのは、アンデッドなのである。

氷の能力を使って、じっくりじっくり洗脳した。

プライムフリーズに気付かれないように作業を進めるのは本当に大変だったけれど。するだけの価値はあった。

ライトマンは傷もまだ回復しきっていないが。

光を操作する能力は凶悪だ。

ザ・パワーに見つかったらひとたまりも無いが。

能力の練度と言い。

生半可なヒーローなど、束にして返り討ちである。

「お、お前」

「……?」

「私を、恨んで、いないの、か……」

ライトマンの言葉はたどたどしい。

精神をやられているのだ。

そうなって当然だろう。

アンデッドは鼻を鳴らす。

ちなみに欠損した部分は、氷で補っている。今の時点で、戦力に不足は感じていない。コールドスリープから復帰したとき、既にアンデッドの肉体はボロボロだった。プライムフリーズのように丁寧にコールドスリープされたのでは無い。

そして目覚めさせた奴に。

徹底的に改造もされた。

その結果が、オリジンズを返り討ちにする戦闘力と。

この狡猾さだ。

組織でさえ、与えられたものにすぎない。

自分で編成したわけでは無いのだ。

闇の中から、数人が現れる。

出迎えだ。

ひっと、小さな声をライトマンが上げた。

どれも同じ顔をしているからだろう。

「お迎えに上がりました」

「幹部共は」

「既に亡くなられています」

「そうか……」

それは、残念だ。

ヴィラン討伐部隊と戦いは続いていたし、今後はこの量産化ヴィランどもを活用して、あのお方の指示に従うしか無いだろう。

今、どれくらいいる。

そう聞くと。

二十人と返事があった。

ただし、このクロコダイルビルドの支配地区に来ているのは、この数人だけ。つまり、アンデッドの組織は。

もはや此処にいる手駒だけが、全戦力とも言える。

それに、である。

アンデッドは気付いていた。

追っ手が来ている。

「ライトマン。 先に行け。 一人、あのお方の所に、ライトマンを案内しろ」

「分かりました」

「残りは私と来い」

アンデッドは、一旦移動。市街地へと、堂々と姿を現す。

市民共が、ぎょっとした様子で。

量産化されているとしか思えない部下達と。

それに、死人にしか見えないアンデッドを見て、ひそひそと言葉を交わした。一旦此処で、敵を引きつけるために。市民共に通報させるためだ。

もう一つ利点もある。

追っ手は恐らく、あのテンペストだろう。

今やり合ったら、どうなるか分からない。

相手は病み上がり。

これについては、ミフネから通信を受けている。

だが、病み上がりと言っても、今のテンペストは、戦力として侮れる相手では無い。既にライトマンと同等か、それ以上の戦闘力を持っているという話も聞いている。それだけ強いと言うことだ。

アンデッドならどうか。

まあ、何とかやれるだろうか。

気配からして。

まだ少しアンデッドの方が強いが。

しかし、相手の能力を考えると、油断は出来ないだろう。

適当に移動しながら、相手の反応を見る。

冷静に追ってくるかと思ったが。

意外だ。

すぐに、姿を見せた。

指ぬきグローブをつけ。サイドキックに支給されている戦闘服を着込んだ。赤い髪の女。

背はそれほど高くないが。

凄まじい強さを。

錬磨され切った能力を感じる。

此奴が粉砕の拳、テンペストか。

能力についてはライトマンから聞いている。

汎用性が高い、厄介な相手だ。

だが、それでもどうにでもなる。今、此処で奴は戦えない。多くの市民を巻き込むことになるからだ。

「あんたがアンデッドだな」

「いかにも」

「長い事続いたあんたの組織との戦いで、幹部はもう生き残っていないそうだ。 降伏しろ、面倒が無い」

「分かっているくせに、おかしな事を言うのだな」

テンペストは表情を動かさない。

だが、嫌な予感がした。

同時に。

部下達が、いきなり地下へと引っ張り込まれる。

そして、アンデッドの足にも。

赤い触手が絡みついた。

放送が轟く。

「市民の皆さん、凶悪なヴィランが出現しました、すぐにその場から離れてください!」

そして、その放送が轟いたときには。

アンデッドの腹には。

テンペストの拳が、ぶち込まれていた。

内臓を移動させて耐えるが。

しかし、強烈なダメージだ。

一撃一撃が、此処まで強力になっていて。これでも病み上がりだというのか。

だが、二撃目は受けない。

するりと触手を抜けると、上空に躍り出る。

背中に現したのは。

氷と血を使って使った翼。

禍々しい、蝙蝠を思わせるものだ。

部下共はどうでもいい。

あれは時間稼ぎに使えればいいと考えて、呼んでおいたものだ。本隊の方は、既にあの方の所にいる。

それで後はどうでも良い。

復讐をさせてくれる。

あのお方は。

父を殺したこの腐った世界に。

復讐をさせてくれるのだ。

飛んで逃げる。

テンペストが追ってくるけれど、流石に市街地だ。無茶な事はしない。まずは、市街地の外にまで追い出そうとしてくるはずだ。

そう思った次の瞬間。

いきなり、目の前に、赤い壁が出来た。

回避。

だが、回避した横っ面に。

コンクリのブロックが直撃。

コレは面白い。

そう思いながら、回転し、アンデッドは吹っ飛ばされた。そして、市街地の上空を抜けて。

郊外の地面に着弾した。

クレーターが出来る。

そうか、連携しているな。

もう一人は東雲雲雀か。

直接戦闘にはそれほど長けていないと聞いているが、相応の支援能力を持っている。厄介な相手だ。

立ち上がるアンデッドの前に。

悠々とテンペストが現れる。

そして、宣言した。

「潰す」

「出来るかね?」

いきなり。

地面から、膨大な数の氷の槍が、突き出す。

冷気を操作する能力にて、地面を凍らせ、巨大な霜柱を作り上げたのだ。だが、気付く。テンペストは即応。

地面を粉砕して。

能力ごと、氷の槍を潰してきた。

流石に早いか。

だが。

今度は周囲の空気中の水分子を凍らせ、大量の槍にする。そしてそれにて、飽和攻撃を掛ける。

同時に、また地面からの氷の槍も浴びせる。

「……おおおおおっ!」

テンペストが吼える。

同時に、氷の槍が、全て消し飛ぶ。

予想通り。

テンペストの至近。

アンデッドが踊り込むと。

凍らせて、極限まで硬化した拳を、叩き込む。もろに腹に入る。これだけの数を捌いたのだ。どうやったって隙が出来る。

というよりも。

やはり病み上がりというのは本当か。

少し反応が鈍い。

腹の一撃。更に、顎を横から擦る様にして、急所への打撃を狙うが。それは止められた。そして、氷の塊ごと、握りつぶされる。

もっとも、手は殆ど残っていない。

潰されても痛痒は感じないが。

密着状態から、膝蹴りを放ってくる。

氷でガードしながら飛び退くけれど。その氷のガードを強引にぶち抜きながら、クロスレンジを維持して、そのまま突貫してくる。ラッシュ。強烈な拳が、無数に飛んできた。全てを捌きながら、次の反撃の準備を整えた瞬間。

テンペストが下がる。

そして、上から。

大量のミサイルが降ってきた。

勿論、ミサイル程度にやられるほど、アンデッドは柔では無い。降ってきているのは、恐らくはクロコダイルビルドのサイドキック基地に配備されている巡航ミサイルだろうけれど。

まとめて氷漬けにする。

その瞬間。

アンデッドの顔面に。

テンペストの拳がめり込んでいた。

噂には聞いていた。

顔面を凹ませる一撃だと。

思考が、ぐらつく。

更に一撃。

腹に入る。

内臓を移動させる余裕も無かった。

これは、サイドキックと完全連携して動いているのか。まあ、ライトマンを逃がせれば、それでいい。

あのお方の指示だ。

ライトマンが手駒として必要だと。

復讐できる。

それを思うならば。

アンデッドは、幾らでも、手駒になる。

この姿になったとき。

自分は捨てたのだ。

ラッシュ。叩き込まれる。コレが本当に病み上がりか。徹底的に全身が粉砕されていくのが分かる。

内臓もダメージを受けていく。

嗚呼。

体が壊れる。

やっと、これで、自由になれる。

だが、私にも。

最強のヴィランとしての自負がある。

無理矢理氷で全身を整え直す。

そして、大剣を造り出すと、大きく振りかぶって、叩き付けた。

ラッシュを浴びている最中の、不意の一撃である。

テンペストも驚いた様子だったが。

それでも即応してくるのが流石。この辺りは、あのお方が見込んでいるらしいと言う噂も、本当なのだろうと、実感させてくれる。

大剣を、白羽取りするテンペスト。そして、砕く。

だけれど、その隙に、蹴りを叩き込む。

横殴りに叩き付けられた触手は、氷の壁でガード。さっきから横やりを入れてきている雲雀の実力は大体見切った。

これならば、片手間に。

気付く。

複数の赤い針が、体を貫いている。

そしてそれらが、爆発的に膨張して、爆裂した。

まさか。

コレは陽動か。

針が蠢きながら、地下に逃げ込んでいく。

体を分離して、こんなトリッキーな使い方まで出来るのか。

素晴らしいじゃないか。

大穴が開いた体を、氷で無理矢理埋める。

我が名はアンデッド。

不死なるもの。

まだだ。

この程度では、まだ我は死なぬ。この程度では、我を破壊しつくすことなどできはしない。

うそぶきながら、体を再構成。

内臓もダメージが限界近いが。

病み上がりのテンペストと。

奇襲しか出来ない雲雀。

此奴ら程度なら、私でも余裕を持って相手できる。そう、自分に言い聞かせながら、戦い続ける。

腕が、砕けた。

完全になくなった。

テンペストの蹴りが、氷でつないでいた腕を、完全に粉砕したのだ。

更に、足も。

氷で補填しようとするが、追いつかない。

凄まじいラッシュが。全身を壊して行く。

まだだ。

こんな程度で、私は。

私は。

いつの間にか。

私は、動けなくなっていた。

見下ろされる。テンペストは病み上がりだ。息も上がっているようだけれども。それでも、油断はしていない。

ライトマンによる奇襲を警戒しているのだろう。

近くから現れる東雲雲雀。

「彼奴ら全部やっつけた」

「そうか。 で、此奴は話し通り、脳は壊さないでおいた」

「流石だね」

脳天気な会話だが。

テンペストのダメージも小さくない。東雲雲雀も、地下で量産型ヴィランとやりあったからだろう。

ダメージは決して小さくない様子だった。

「回収部隊を手配してくる。 その間に尋問しといて」

「……もう動けない相手に、手荒なまねはしたくない。 応えてくれると、わたしとしても助かるな」

「そうかそうか」

口を動かすのも一苦労。

分かる。

能力を、死なない程度に残された。

此奴は気付いていた。

私が本来なら、とっくに死んでいるという事を。能力を使って、無理矢理生きているという事実を。

だから。殺さない程度に加減した。

その程度の実力差が。

二対一とはいえ、あったという事だ。

「ザ・ヒーローの居場所は?」

「其処まで辿り着いていたのか」

「そうだ。 わたしの師匠だったということも含めてな」

「正確には違う。 あのお方は、分身を造り出す能力を持っている。 ハードウィンドに成り代わっていたのは、その分身の一人だ」

これくらいは教えてやっても良いだろう。

最強のヴィラン、アンデッドを倒した奴なのだ。

褒美はくれてやらなければなるまい。

「分身は死ねば消える。 つまり、そういうことだ」

「……それで、その分身とやらについて、知っている事をもっと教えろ」

「良いだろう。 あのお方が造り出す分身は、それぞれ独立した思考を持っている。 お前の前に現れたハードウィンドは、丁度ヒーローとしての理想的思想をもった人格をしていたようだな」

テンペストが眉をひそめる。

知りすぎていることを不思議に思っているのか。

或いは、気付いたか。

もう生きる気が無いことに。

だが、もう少し。

引き延ばさせて貰う。

「あのお方は、複数のことを、同時に試されておいでだ。 お前には、この狂った世界に鉄槌を下すヒーローとしての役割を期待していたのだろう」

「それはミフネにも聞いた」

「余計な事をいいおるわ」

「で、ザ・ヒーローの居場所は」

知らない。

それを最後の言葉にする。

実際知らないのだ。

指示は受けるだけ。部下達にしても、みんなそうだったのだ。アンデッド自身は複雑な計画を立てて、部下達に実行させていたが。

それらを微調整していたのはあのお方。

あまりにもスムーズに、何もかもが動くのは、おかしいと思っていただろう。此奴くらい出来る奴なら。

そして、だから故に。

もはや何も教えてはやらない。

褒美分は教えたのだ。

これ以上は蛇足だろう。

そのまま、能力を停止。

内臓を、全て。

強制的に、止めた。

 

私が戻ってきたときには、テンペストは首を横に振っていた。アンデッドは自害したらしい。

不死身の怪物と呼ぶに相応しい化け物だったけれど。

それでも、最後は無惨だった。

死体だけでも回収する。

脳は、腹の方にあった。

これも回収して、保存。

脳細胞が壊れきる前に、データを引っ張り出せるだけ引っ張り出す。パーカッションには苦労を掛けるが、仕方が無い。

それに、気になる。

此奴、ライトマンを逃がすために、捨て石になったような感じだった。

「どうした」

「ん、ヘリに戻って」

「別に良いけど、連携できるならしておこうぜ」

「そうだね」

テンペストに促されて、一緒にヘリに戻る。なれ合いでは無くて、あくまで作戦上の連携だ。

すぐに他の輸送ヘリも来て。

アンデッドの亡骸を輸送して行った。

不死身のヴィラン。

オリジンズを返り討ちにした最強のヴィラン。

その最期だ。

一つの時代が終わったのかも知れない。

もっとも暴れ回ったヴィランだったテンペストが。アンデッドを倒したのだから。そしてテンペストは、そもそもヒーローと呼ばれる事を好んでいない。

ヘリが動き始める。

「ダメージは」

「流石に厳しいな。 レーションくれ」

「はい」

「おい、レーションで良いって」

テンペストは眉をひそめながらも。

ヒーロー用に支給されている、高品質の栄養サプリを受け取った。彼女が美食を嫌っているという話は聞いているが。それでも出されたものは残さず食べるというのが主義なのだろう。

生活が生活だ。

そういう習慣が身についても、不思議では無い。

「まずい?」

「いや、おいしいさ。 だから気に入らない」

「何だかストイックをこじらせてるね」

「うるせーよ。 実際このおいしさを作るために、どれだけの弱者が犠牲になってると思ってるんだ」

だけれども。

テンペストも、それ以上は言わなかった。

複雑なのだろう。

師匠の正体も。

アンデッドの行動も。

そして、これから自分がしなければならない事も。

アンデッドが言い残したことは、雲雀も聞いた。アンデッドは不思議な奴だった。多分、嘘は言わなかっただろう。

つまり、ハードウィンドに成り代わっていたザ・ヒーローの分身は。

本当に、ヒーローだった頃のザ・ヒーローだった、というわけだ。

それが師匠だったのだ。

テンペストが原理主義者と呼ばれるわけである。

勿論、もっとも好意的な解釈をした場合の話、だが。

「次はどうすれば良い」

「ライトマンの追撃かな。 まだ遠くには行っていないから、どうにか見つけてみせるよ」

「ああ、頼む」

私は早速、オリジンズ本部に連絡。

アンデッドを葬った事。

そしてこれからライトマンを潰すことを告げると。

予想される逃走地点へ。

ヘリを向けたのだった。

 

2、果ての姿

 

悲鳴を上げる相手に。

ザ・パワーは歩み寄る。そして、もはや降伏勧告さえせずに、その頭を叩き潰した。今日だけで、四十六人目である。

「残りは?」

此処に集っていたのは。

また、反対集会とかをしていた戦闘タイプヒーロー。

そして、其処へ。

直接ザ・パワーが乗り込んだ。後は、殺戮の宴が出現するだけだ。

異常すぎる既得権益だ。

手放せと言われて、はいそうですかと従うはずもない。ましてや今や、ザ・パワーによる強力な独裁で、法も機能していない。

とはいっても、元々ヒーローの間同士でしか、法は機能していなかったが。

いずれにしても、手当たり次第に殺されていく戦闘タイプヒーロー。

それを見て、恐怖が伝染拡大。

最悪だったのは、この間の原子炉占拠事件。

その際に、情け容赦なく、ザ・パワーが相手を殺したという噂が伝わり。各地で恐怖からの暴動が発生している。

しかし、それらを。

大きくなる前に、圧倒的な力で。

ザ・パワーは叩き潰していた。

毎日殆ど休みさえせず。

その背後には、今まで世界を牛耳り、既得権益を独占してきた、戦闘タイプヒーローの死体が積み重なっていく。

後は、残ってふるえている非戦闘タイプヒーロー達。彼らはまるで、突撃してくる雄牛を前にした、子ネズミの様な恐怖を、顔中に浮かべていた。

無視。

ザ・パワーは、ペアアップルに通信。

「制圧チームを寄越せ」

「しかし、サイドキックしか出せませんが」

「戦闘タイプは皆殺しにした。 サイドキックで充分だ」

「……分かりました」

ペアアップルの声には、哀しみが含まれていたが。

ザ・パワーは。

それ以上の怒りで、全身が焼き切れそうだ。

脳もである。

自分たちの思想を押しつけるために、原子炉まで爆破しようとした連中だ。追い詰められたから、などという言い訳は通用しない。

強大な力を持っているなら。

責任が伴う。

それを実施してこなかった。

この世界のヒーロー達は。

自分たちの力を振るって、世界を好き勝手にすることだけを考えた。だから、今。ザ・パワーが。

全ての尻ぬぐいをさせられている。

何もかもが。

この腐りきった、クズヒーロー共のせいだ。

サイドキック部隊が到着。

血を全身に浴びているザ・パワーを見て。歴戦の彼らも、流石に青ざめたが。しかし、すぐに作業に掛かる。

血まみれの巨像と化しているザ・パワーには。

怖くて声など掛けられないのだろう。

戦闘訓練を受けていようがいまいが同じだ。

貴重な音速移動用ヘリが来たので、それで移動する。

今は、体力を温存するのが先だ。

ペアアップルに通信。

まだ鎮圧していない暴動があったはずである。

ただし、暴動を起こしているのは、ヒーローどもだけ。

市民は、至って大人しい。

違う。

暴動を起こす力さえ無い。

インフラも武器も与えられず。そしてアンデッドの麾下組織によって、抵抗勢力もクリムゾン以外は皆殺しにされた現状。

市民はもはや。

神々の争いを、地上から怯えて眺める、哀れな弱者に過ぎなかった。

まずは彼らに権利を。

そして教育を。

だが、既得権益の独占を叫ぶ堕落ヒーローがいる限りは、それさえも達成の望みが無いのである。

振るわなければならない。

血に染まった拳を。

叩き潰さなければならない。

愚かしい既得権益の亡者共を。

「なるほど、戦闘タイプヒーローは十二人が参加か」

「はい。 いずれも中堅から下級の戦闘力と実績しか持ち合わせていません」

「そうか。 皆殺しにするだけだ」

「……一つ、朗報があります」

ペアアップルによると。

アンデッドが死んだそうだ。

あの不死身の化け物も。

ついに終わるときが来たか。

手を下したのは、テンペストらしい。何度たたきのめしても立ち上がってくるアンデッドに一歩も引かず。

ぼろぼろになりながらも、ついに下したそうだ。

雲雀もアシストに活躍したそうだが。

それでも、大金星である。

何しろ、現役のオリジンズを返り討ちにした唯一のヴィラン。それも事故や引退間際だった者では無い、である。

文字通り、最強のヴィランを討ち取ったのだ。

テンペストを、ザ・パワーの後継にすることに、不平を漏らす者などいないだろう。

「それで、テンペストは」

「ライトマンの追撃に向かっています。 ライトマンも負傷しているようですし、地下に潜られると厄介かと」

「そうだな……」

ライトマンは強い。

名前の通り、光を操作する能力者としては、最強の部類に入るだろう。ザ・パワーなら圧勝できる自信はあるが。

それでも、今の。

それも手負いのテンペストだと、かなり厳しいかも知れない。

しかし、増援を廻すにしても。

ブラックサイズにしてもザ・パワーにしても、彼方此方を転戦中だ。

それに、何より。

ミラーミラーはまだ信用できない。

ミフネは姿を消したきりだし。

此処は、テンペストに任せるしか無い。

移動しながら、缶詰を開ける。

適当に栄養を補給しながら、次の戦いでは、どう殺すか。イメージトレーニングを続けた。

ザ・パワーは。

今でも能力の研磨を忘れていない。

元々研磨しないと使い物にならない能力なのだ。

その一方で、健康診断も受けている。

今後はDBからスーパーアンチエイジングを復活させることも視野に入れているが。それを使う場合。

ザ・パワー本人では無く。

テンペストにだ。

今はまだ若い彼女だが。

その魂は、ザ・ヒーローの再来とも言える。ならば、最初から、ザ・ヒーローがずっといれば良かったのだ。

テンペストがずっと睨みを利かせれば。

それは独裁体制にはなるだろう。

だが、恐らく。

この世界から、ヒーローが消えるまではもつ。

もしくは、ヒーローを消さないにしても。

粉砕の能力は、汎用性が極めて高い。

頂点に立つには、これ以上も無いほど優れた能力だ。そして彼女が研磨さえ怠らなければ問題はなく。

研磨を怠る性格でも無い。

汚れ役は。

今のうちに、徹底的にザ・パワーがやっておく。

宇宙人に植民地にされる場合も、視野に入れておく必要もあるかも知れない。

その場合でも。

テンペストは、恐らく復興の象徴として、人々の希望の星になるだろう。

ザ・パワーは。

自分の事を、捨て石と考えている。

今後権力を握り続けるつもりはない。

あの原子炉の事件で思い知った。

もはや糸を引いているザ・ヒーローには。

自分が手を下さなければならないのだと。

 

次の暴動地点に到着。

ザ・パワーが姿を見せると、露骨に恐怖の声が上がった。殺される。誰かが叫ぶ。だが、その誰かの前に先回りすると。ザ・パワーは、出来るだけ抑えた声で言う。勿論先回りには、一秒もかからない。

「この巫山戯た暴動の首謀者は」

「ひいっ! あ、彼処です」

「逃げようなどと思うな。 逃げようとしたら殺す」

腰を抜かして、小便を漏らした非戦闘タイプヒーローを放置して、ザ・パワーは歩く。見ると、首謀者の中には、MHCも混じっている。

だからなんだ。

「ぼ、暴力による圧政反対!」

「我々は死には恐怖しないぞ!」

「ザ・パワー、目を覚ましてくれ! 市民などに権力を戻しても、世界は何ら良くなどならない!」

口々にほざく堕落ヒーロー共。

勝手な言い分だ。

此奴らが、まともな統治をしていたのなら。

今の発言にも、説得力があったのだろう。

だが実態はどうだ。

市民を生きた貨幣として取引し。面白半分に殺戮し。

自分たちでインフラすら独占し。

何もかもをオモチャにして遊んでいた結果。

世界の人口は、八億にまで減った。

今の技術だったら。

四十億までの人間が、何ら不自由なく生活でき。更に言えば、その状態で、人口抑制だって難しくなかった。

それらの技術を、全て独占して。

自分たちだけで好き勝手にしていた此奴に。

何かものをいう資格は無い。

滅びろ。

ザ・パワーは拳を振るい上げると。

手始めに、MHCの顔を粉砕して、即死させた。

そして一切容赦もせず。

残り11人を、瞬く間に殺しつくした。

「クズ共の処理完了。 制圧部隊を送れ」

「わ、分かりました……」

「もう一度言っておく。 逃げようとしたら殺す」

サイドキックでも、非戦闘タイプのヒーローならどうにでもなる。そして、ザ・パワーがどうにでもしていいと言っているのだ。

彼らも、今まで不可侵だった相手に。

縄を掛けられる。

ヘリに乗り込む。

その中で、軽く仮眠を取る。

先に聞いておく。次の暴動は。

「い、今の時点では、起きていません……皆解決しました」

「そうか」

「問題が一つあります」

話す様に言うと。

ペアアップルは少し悩んだあと、正直に口にした。

既に、八千人いた戦闘タイプヒーローは、七千人を割り込んでいるという。ザ・パワーによる大粛正の結果だ。

その結果、支配地区の再編成で大わらわだそうだ。

支配地区、という仕組みそのものがおかしいと思っているので、ザ・パワーは鼻を鳴らすだけだが。

「そうか。 苦労してくれ」

「しかし、そう言われても」

「本来は、統治用のマニュアルがある筈だ。 それを戦闘タイプヒーローが好きかってするために無視していたという現実がある。 事実私の地区では、それを用いて、円滑に統治を行っている。 最終的には、市民とヒーローが同権になるのだ。 戦闘タイプヒーローだからといって、無条件で支配地区の頂点に座れる時代は終わる。 その予行演習だと思って貰おう」

「わ、分かりました。 マニュアルについては各支配地区にあるはずなので、それをすぐに徹底する様に通達します」

当たり前の事を聞いてくるな。

そう言いたくなるが。

ペアアップルも。所詮はヒーローが全てを握っている世界の支配者層だ。その程度の考えにも到らないのだろう。

愚かしい。

そしてくだらない。

何もかも壊したい。

胸の奥から。

破壊衝動が、怒りとともにこみ上げてくる。殺意とともに、わき上がってくる。それが、全てだ。

ヘリは、ライトマンが潜伏していると思われる地区に向かわせる。

テンペストが不覚を取るとは思えないが。

それでも。

最悪の場合は、アシストをする必要があるからだ。

 

3、光包む闇

 

ひどく痛む体を引きずって、ライトマンは逃げる。

何もかもを失い。

そそのかされるまま脱獄してきたが。

これからどうすればいいのか。

あのお方とアンデッドは言っていた。そして、ライトマンも、そいつの掌の上で、遊ばされていただけだと。

何だそれは。

最初は憤ったけれど。

逃げながら考えていると。色々と思い当たる節がある。確かに今までライトマンは、誰かに誘導されていたような気もする。

それも、極めて巧妙に。

笑えない話だ。

オリジンズを牛耳ろうとしていた自分が。

実は、誰かに牛耳られていたなんて。

馬鹿馬鹿しい話だとも思う。

だけれども、どうしようもない。

もはや、どうにもできないのだ。

「此方です」

同じ顔をした連中が、来る様に促す。増援として先ほどから数人が追加で現れた。

見るだけで気色が悪い、量産型ヴィランだ。前は素体として市民をさらっていたらしいのだけれど。

此奴らはオリジンからして違う。

どうやらオリジンズが抑えていたDBの一部が、流出しているらしく。その中にある遺伝子プールから、再生した人間。つまりはクローンだ。

優秀な遺伝子から作ったクローンに、能力を植え付けた。

そういう存在であるらしかった。

既にアンデッドの麾下組織は潰されてしまって、人員も全滅しているらしいのだけれど。その研究成果は、全て今から向かう場所に蓄積されているらしい。

それは大したものだ。

問題は。

どうせろくなことにならないだろうという、悪い予感しか無い、ということだが。

ライトマンは、これでも。魑魅魍魎蠢く世界で、ずっと生きてきた。それが完全に破壊された今。

もう、自分が助からないだろうという予感はある。

他人の無惨な末路はたくさん見てきた。

だからこそ、分かるのだ。

次は自分だと。

だけれども、出来るだけの努力はしてみよう。

そうと思っているのも事実だ。

どこか焼けばちだけれども。生きようと考えるのは、生物の本能だ。それは戦闘タイプヒーローだろうがなかろうが、同じだろう。

地下下水道を這いずるようにして行く。これが、あのオリジンズを裏から好き勝手に動かしていたライトマンの末路だと思うと、滑稽ささえ感じる。そして、惨めな末路は、間近に見えていた。

ザ・パワーに握りつぶされた腕が、ひたすらに痛む。

そして、気付く。

追いつかれたと。

迫ってくる赤い触手の群れ。

量産型ヴィランが振り向くと、数人が立ちふさがろうとした。だが、その横っ面を、拳が直撃。

吹っ飛んで、コンクリに突き刺さり。

そのまま動かなくなる。

気絶しただけだろうが。

今の拳は。見覚えがあった。

下水道の横から姿を見せたのは、テンペスト。

アンデッドを倒したのか。

負傷はしているようだが。

それでも、追いついてきたというのか。

背筋が震える。

量産型ヴィランが、前に立ちふさがった。

「先指示した場所へ急いでください」

「あ、ああ」

「まて、にがさねーよ」

「……!」

恐怖が背筋を這い上がる。

テンペストの目を見てしまったからだ。

ザ・パワーと同じ目。

全てに対する、凄まじい怒り。

燃え上がる憎悪。

そして、ヒーローとしてと言うよりも。自分の強すぎる信念で、周囲の全てを焼き尽くす目だ。

あの目で。

腕を握りつぶされた。

そして、その時。

決定的な恐怖が、叩き込まれてしまった。

訳が分からない悲鳴を上げながら、逃げる。

それでも、言われた場所は、頭に入っている。

必死に逃げながら、後ろを時々見る。テンペストに対して、量産型ヴィランは結構善戦している様子だ。

そういえば、アンデッド麾下組織の量産型も、最終盤ではかなりの性能を見せていたと聞いている。

負傷したテンペストが相手なら。

数人がかりなら、防げると言う事か。

面倒だ。

そして、怖い。

あの目で迫ってこられたら。もはや、抵抗できないのでは無いかと、思えてしまっている。

体が震える。

怖い。

そして、逃げた先でも、どうせ碌な目に会わない。

それが分かっているから。

ただひたすら、心を絶望が塗りつぶしていく。

そして、絶望は。

突如、物理的障害となって、出現した。

いきなり目の前の通路が崩落。

全身に返り血を浴び。所々内臓さえこびりついているザ・パワーが。姿を現したのである。

地上から、地下下水道へ。

ぶち抜いて来たのは確実だった。

思わず跳び上がりそうになる。

どういうことだ。

こんな馬鹿な事が、あっていいのか。どうして先回りされている。どうしてなんだ。

恐怖に体が動かない。

だが、ザ・パワーも。

行く手を塞ぐだけ塞いで、それきりだった。

何もしようとしないのは何故だ。

その答えは、すぐに分かった。

「ザ・パワー!?」

「逃げ道は塞いだ。 存分にやるといい」

「……」

恐怖で、固まったライトマン。

後ろから聞こえてきたのは、テンペストの声だ。そうか、もう追いついてきたのか。そして、ザ・パワーがいる以上。

逃げるのは、無理だ。

だが、その時。

さらなる闖入者が乱入する。

ザ・パワーが即応。

ライトマンの首を刎ねようとしたその刀を、白羽取りしていた。

ミフネである。

「流石だ」

「首から上だけ持ち帰れば良い。 そうザ・ヒーローに言われていたな」

「其処まで分かっているのか。 ならば、そこの阿呆そのものに用が無いことも分かっているだろう。 俺はそいつの首を持ち帰る。 貴方は体を持ち帰る。 それでいいのではないのかな」

「そのような戯れ言が……」

ライトマンは光になる。

分かっていた。

ミフネの所に誘導されていたことは。

辿り着く事はなかったが。

それがゆえに、逆に命をつないだという事も。アンデッドの指示のまま、目的地についていたら。

ミフネに首を刎ねられ。

何かライトマンが持っている大事な記憶ごと、ザ・ヒーローに献上されていたことだろう。

あのお方こと、ザ・ヒーローに。

それが何を意味するのかは分からない。

だけれど、今は。

ザ・パワーが入ってきた穴を使って、光となって外に脱出。

全身を光に変えるのは大技だ。

相当に消耗も早い。

だけれども、今はやらなければならない。そうしなければ、生き残ることさえできないのだから。

乱戦の中。

いち早く逃れたライトマンは。

まだ自分に運がある事を悟り、ほくそ笑む。

光から元に戻ったのは、スラムの真ん中。場所的には、恐らくは、既に殺された誰かヒーローの支配地区だった場所だ。今は来る途中に聞いた話によると、スネークアームの支配地区だそうだが。

走る。

此方を呆然と見ている市民共。

途中、子供を突き飛ばした。

市民なんぞ死のうがどうしようかしったものか。

古い時代の映画でも。ヒーローは市民の車や何やらを、盗み放題では無いか。あの頃のヒーローだって、自分と何も変わらない。

そうだ。

ヒーローなんて、昔から。

こんなものだったのだ。

笑いながら、ライトマンは走る。

だけれど、その背中に。

蹴りが直撃。

吹っ飛んだライトマンは、地面に叩き付けられ。バウンドして、数回転がって、やっと止まった。

「追いついたぜ、ゲス野郎」

死神の声。

必死に顔を上げると。

其処には、拳を鳴らすテンペスト。

乱戦から逃れて、追撃してきたのか。力が殆ど残っていないから、光を武器に変えることも。光になって逃げる事も、限界がある。

特に光になって逃げる場合。

膨大な力を一瞬にして消耗する。

光は一秒で地球を七周半するほどの速度を誇るけれど。

ライトマンでも、もしフルパワーの状態で同じ事をしたら。蒸発して、無くなってしまうだろう。

それだけ、消耗が激しいのだ。

かといって、光線を放つ攻撃だって、力を消耗する。

どうする。

逃げに徹するか。

見るとテンペストも、負傷がひどいし。力の残りもあまり多いようには思えない。どうする。

修羅場だったら。

あくまで政治的な、という条件でだが。

ライトマンだって、散々くぐってきた訳では無いのだ。

此処は、逃げるべきだ。

そう結論すると、動きは速い。

すぐに体を光に変えると。

また、逃げに掛かる。

だけれども。

その寸前に。

テンペストの拳が、直撃していた。

同時に、体を光に変える仕組みが失敗。エラーを起こした。

全身が、一瞬ではじけ飛んだのが分かった。

「!!!!! ぎゃああああああああっ!」

左手と右腕が、体から泣き別れになっている。

残りもずたずただ。

内臓も腹からはみ出していることだろう。戦闘タイプヒーローだったから即死しなかった。そうでなかったら、瞬時にショック死していただろう。

「逃げようとすることは分かっていた。 だから先手を取らせて貰った」

淡々と言うテンペスト。

その声に、微塵も容赦はない。

恐怖がわき上がるけれど、それでも自分の状態に気付く。

左目が無い。

口も、半分以上裂けている。

もがいて、それで自分がもはやどのような状態かも分からないほど、悲惨な事になっていることに。

ようやく気付いた。

悲鳴を上げて、這いながら逃げようとするが。それでも、体が上手く動かない。

つまり、恐らくは。

脳もシェイクされてしまっている。

更に、である。

地面を突きだして伸びてきた触手が、ライトマンを捕縛する。あの東雲雲雀に間違いなかった。

「ひどい状態だが、もう力も残っていない。 殺すなよ」

「いや、殺すね」

「!」

止めろ。

そう叫ぼうとした時には。

もう首を刎ねられていた。

どうやってザ・パワーとの乱戦から逃れたかはしらないけれど。

其処には、ミフネがいて。

ライトマンの首を掴むところまでが見えた。

後は、もう意識もない。

死んだのか。

そう、ライトマンは思い。

もはや、言葉も無いと、自嘲した。

 

半壊したライトマンのアタマを掴むと。ミフネは、刀を振るって、血を落とす。まさか、ザ・パワーに勝ったのか。

いや、違う。

ミフネが飛び退く。

地面を吹っ飛ばして、ザ・パワーが姿を見せる。

そうか、最初から逃げに徹したのか。

それにしても、消耗しているとは言え。よくもまあ、ザ・パワーから逃れられたものだと思う。

そして、である。

不意に、空間に裂け目が出来る。

其処から姿を見せたのは。

「お、お前……!」

「久しぶりだな、テンペスト。 あんたのこと、本当に尊敬していたんだぜ」

そう。

雲雀から死んだと聞かされていた。

アーノルドだった。

パーカッションを庇い、逃れる最中に死んだと聞いている。だが、どうして此処に、無事な姿でいる。

まさか。

此奴も、ザ・ヒーローの分身の一人か。

そしてアーノルドは。

姿を変えてみせる。

「死んだふりくらいは簡単なんだよ。 おい、ミフネ、急げ」

「ああ」

ミフネが、悠々と空間の隙間に姿を消す。

どうして追えない。

理由は分かっている。

その空間の隙間の向こうから。

手傷を負った状態では、どうにもできない、凄まじいまでの力が、吹き付けてきているからだ。

これは、何だ。

あまりにも、圧倒的過ぎる。

分かっている。

これが二百年力を練り上げた、ヒーローズオリジン。ザ・ヒーローの力だと言う事くらいは。

考えが甘かった。

万全の状態で。ザ・パワーとプライムフリーズがいても。

これは、勝てるか分からない。

そして、アーノルドから、姿をどんどん変えているザ・ヒーローの分身は。またいつの間にか、アーノルドに戻っていた。

そうか、こんな事が出来たのか。

それでは、刑務所から、アンデッドを脱出させる手引きだって、容易だったはずだ。反則に近い。

だけれども。

ザ・ヒーローが、万能に近い事は分かっていたはずだ。

対策をしていなかった此方にも問題がある。

空間の裂け目が消える。

ザ・パワーが。

無言で、此方に歩いて来るのが見えた。

何も言えない。

追えなかった。

追えば死ぬ。

それがわかりきっていたから。

戦士として経験を積んだから。故にからだが動く事もなかった。そういうものなのだと、分かっていた。

でも、動かなければならなかったのだ。

なぜなら。

今だったら、届いたのだから。

「一度戻るぞ。 アンデッドとライトマンを討ち取ったことは大手柄だった。 ミフネは逃がしてしまったが、それでも目的は達成できた」

「すまない、ザ・パワー」

「いや、正しい判断だった。 あのまま追っていれば、確実に殺されていただろう」

その通りだけれど。

だが、師匠の教えを実践するのだったら。

あの時、動かなければならなかったのだ。

それが出来なかったという事は。

まだわたしは、おそらく。

最後の最後の壁を、超える事が出来ていない。

そういうことなのだろう。

自分がヴィランに近い事は言い訳に過ぎない。それを超えられなかったのが、今、好機を潰してしまったのだから。

ヘリが来る。

ヘリの中で、雲雀と一緒に聞かされる。

起きていた暴動は、あらかた力尽くで片付けたという。既に世界に存在する、戦闘タイプヒーローは、七千人を切っている。

一割以上が死んだのだ。

残りは怖れて恭順を誓っている者が大半。

後は、たわけた無制限特権を、順番に奪って。市民に還元していくだけだと。ザ・パワーは言うのだった。

そう上手く行くか。

今は恐怖で頭が麻痺しているだけだ。

それも終われば。

今度は。復讐と、反撃を目論むに決まっている。ザ・パワーだって分かっている筈。今のままでは、根本的な解決にはならないと。

オリジンズ本部に戻ると。

医務室に直行。

アンデッドとライトマンとの戦いは、それなりに厳しかった。ライトマンはほぼ自滅で、ダメージも受けなかったが。行く手を塞いだ量産型ヴィランが、想像以上に手強かったのだ。

力を消耗しきったテンペストは。

栄養剤を渡されると、眠るように言われる。

そろそろ、残り三十日を切る。

恐らくは、ここからが正念場だというのに。

本当に間に合うのか。

不安は、消える様子も無かった。

 

4、幾つもの手

 

私、雲雀も参加して、オリジンズの会議が行われる。

私自身はオリジンズに参加したわけではないのだけれど。ただ、もう幹部としては見なされている、という事なのだろう。

虚しい話だが。

ミフネがザ・ヒーロー側の人間だった事が、正式に通達された。これは、しかし可能性が高いという事を、誰もが理解していたから。今更、驚く者は誰もいなかった。それはまあ、そうだろう。

問題は。

まだスパイがいる可能性が高い、ということだ。

死んだと思っていたアーノルドは、実は姿を変えて生きていて。しかもザ・ヒーローの分身の一人だった。

そう思うと。

テンペストにやたらすり寄っていたのは、その姿を見極める意味もあったのだろうと、私は思う。

あれは本当に自然だった。

実際に、経歴を聞いて、私は疑わなかった。ひょっとすると、だけれども。アーノルド自身も、真実を知るまでは、本気でそう思っていたのかも知れない。

実際、アーノルドという人物は実在していた。

調査の結果、確かに存在していたことが分かっていた。彼の言う経歴通りの人生も送っていた。

だが、途中で、入れ替わったのか。

或いは、乗っ取られたのか。

何にしても。

完全にスパイになった。そして、ザ・ヒーローの走狗として。動いて。死んだふりをした後は。姿まで変えて潜り込み直し。そしてずっと情報を流し続けたのだ。

便利すぎる能力だが。

ザ・ヒーローのコピー能力を考えれば、不可能では無い。流石にヒーロー達のオリジン。究極とも言える力である。

それくらい出来ても不思議では無いし。

今後はそのせいで。更に事態が紛糾することが、容易に予想できた。

もしも、事態を収めるつもりなら。

ザ・ヒーローを殺すしか無いだろう。

出来るのか。

あの偉大なる存在を。

この間、一瞬だけ邂逅したときにさえ。その超絶的な力が伝わってきた。今此処にいるメンバーが総出でも、倒せるかどうか。

その可能性は低い。

そう言わざるを得ないほどの相手だ。

会議が終わると。テンペストが声を掛けてきた。

「雲雀、いいか」

「どうしたの」

「確認しておきたい事がある」

テンペストの表情は真剣だ。

そして、私にも。

聞きたいことの内容は、大体理解できていた。

「スパイは誰だと思う」

「多分その前提が間違ってる」

「?」

「ザ・ヒーローの能力を見たでしょ。 今、スパイが誰になっているか、を知るべきだろうね」

口を引き結ぶテンペスト。

例えば、アーノルドは変身していたようだけれど。

ひょっとすると。

憑依型の能力も、同時に使っているかも知れない。

ハードウィンドに成り代わったザ・ヒーローが、テンペストを鍛えていた頃。ザ・ヒーローが、他で活動していなかったとは思えない。

複数の分身を作れると見て良い。

更に言えば。

その分身の性質だって、複数同時、といけるはずだ。

精神だけの分身を、他人に寄生させることだって、不可能では無いはずだ。

「そんなの、無茶苦茶だ……」

「そもそも、あの銀河連邦の戦力とまともにやりあって、相手に根負けさせたほどの存在だよ。 それくらい出来ても不思議じゃ無い」

「……確かに、感じた力は圧倒的だった。 師匠も、彼奴の一部だったと思うと、納得がいった」

陰鬱な表情のテンペスト。

此奴がこんな顔をしているのは。

滅多に見られない。

基本はヒーローらしく、心を燃え上がらせて、戦いに赴く戦士だ。例え本人が、自分はヴィランだと考えていても、それに変わりは無い。

この世界で、数少ないヒーローの心を持つもの。

それがテンペストだと、雲雀も思っている。

「とにかく、あぶり出しは逆効果。 ザ・ヒーローの側にはミフネもいる。 生半可な戦力じゃ、返り討ちに遭うだけ。 それに何より、その目的が見えない」

「複数同時という話だけれど」

「一つはほぼ確実に、このままザ・パワーに独裁を続けさせることだとは、私も思ってる」

テンペストは、それについては同意らしい。

頷いた彼女と、認識を共有する。

そもそも、銀河連邦が今回の件で、納得して引き下がったとする。

その後どうなるか。

ザ・パワーの恐怖政治も、いつまでもつづくものではない。そんな事はわかりきった話だ。

三百人の雑魚に負けなかったとはいっても。

まだ七千人弱いる戦闘タイプヒーロー全員に攻撃されて、無事で済むだろうか。

それに、心は劣化する。

今は、他に方法が無くて、このような手を採っているとしても。

ザ・パワーの心は。

どうしようも無いレベルで、闇に侵食されていくはずだ。

その内、無抵抗の弱者にも手を掛けるようになって行く。その様子は、見なくても、ありありと想像できるほどだ。

英雄は。

独裁者になり。

独裁者になると。

暴走する。

自己肯定と自己神格化の暴走を。

勿論、そうならなかった独裁者もいただろう。歴史上の人物には、それが出来た人間もいたはずだ。

だが、ザ・パワーは。

多分出来ない。

あの人は、真面目すぎた。

周囲の存在に対して。

優しすぎた。

だから壊れた。

そして今も、現在進行形で、全てを破壊する悪夢の使徒とかしている。この人をどうこうするのは、今の戦力では、厳しい。

テンペストがザ・パワーに勝てるようになるまで、後どれだけ掛かるか。

多分一年以上。

そう雲雀は見ている。

複数で掛かっても、結果は同じだろうし。

今ザ・パワーを倒したところで。

良い結果につながる筈が無い。

問題は山積みだ。

不意に、館内放送が入る。

「銀河連邦政府からの連絡の時間だ。 オリジンズは一度全員、話を聞いておいた方が良いだろう。 円卓に集合してくれ」

「だそうだよ。 行っておいで」

「あんたも来るべきだ、雲雀」

「……私オリジンズじゃ無いけど」

だけれども。

テンペストに手を引かれて円卓に行くと。ザ・パワーは嫌そうな顔をしなかった。むしろ、自然に迎え入れてくれた節がある。

理由は何となく分かる。

人材がいないのだ。

元から好意的だったシンパにしても、グイパーラを一として、碌な連中がいない。クロコダイルビルドやキルライネンのような文字通りのサイコパス野郎まで混じっている有様だ。

そんな状況で、ザ・パワーは。

信頼出来る人員を選別するのに、本当に苦労しているのだろう。

それについては、同情したくなる。

しかしながら、である。

雲雀としても、その暴虐はどうにかしなければならないとも思う。

朝八時と同時に。

通信装置から。音が鳴る。

「此方クラーフ。 ザ・パワー、応答せよ」

「此方ザ・パワー。 聞こえている」

「進捗はどうか」

「各地で起きていたヒーローの特権排除に反対する暴動は全て鎮圧した。 この過程で、既に戦闘タイプヒーローの数は七千を割り込んだ」

これからも、更に間引く予定だ。

そう堂々と言い放つザ・パワー。

眉をひそめたプライムフリーズ。

ヒーローは全て排除する。

そう言っていたプライムフリーズでさえ、今のザ・パワーのやり方は、性急すぎるものに感じるのだろう。

「恐怖による支配は上手く行くとは思えない。 いずれ必ず、想像を絶する大規模な反乱が起きる筈だ」

「その場合は、正面から叩き潰す」

「まあ、上手く行くことを願っている。 期限は残り29日だが、延長は必要ないのだな」

「必要ない」

それで通信は終わり。

ザ・パワーは、本当にこのまま。

残り日数だけを使って、この世界の浄化を行うつもりだ。そうなると、強めの戦闘タイプヒーローがあらかた戦えなくなった今。

ジェノサイドに拍車が掛かることだろう。

それは、血みどろの道。

ザ・パワーは。

もはやローラーで、今まで世界を腐敗させてきた堕落ヒーロー共を、挽きつぶすことを厭わない。

神話に出てくる神の戦車のようだ。

恐ろしく。

そして、それはもはや、人智が及ぶ存在では無い。

「それで、ザ・パワー」

雲雀が挙手すると。

ザ・パワーは、無言で此方を見た。どうして君が此処にいる。その手の罵声を浴びせられるかと覚悟もしたけれど。

実際には、むしろ発言を促された。

「続けてくれ」

「はい。 ザ・ヒーローは、ライトマンの首を持ち去りました。 何か目的に心当たりはありますか」

「ライトマンだけが知っている、何か重要な事か」

「はい」

ザ・ヒーローが全ての糸を引いていたとすると。

その可能性が高い。

そう雲雀は判断した。

だが、ザ・パワーは。首を横に振る。

「考えにくい」

「といいますと」

「確かにライトマンは、オリジンズが管理するDBの、本当の内容を代々伝えられてきた一族の出身者だ。 実際DBを復旧してみると、ライトマンの言葉通りの事実が、幾つも発掘された」

だが、と言葉をザ・パワーは切る。

それ以上の事を、ライトマンが知っているとは思えないという。

コネの類では無いかと雲雀は一瞬思ったが。

どうもそれについても、否定的な見解を、ザ・パワーは返してくる。

「ライトマンが円卓を追放される寸前、彼の人脈は瓦解していた。 主に君の攻撃が原因だがね、プライムフリーズ」

「あれは仕方が無い事だったさ」

「それについては今議論しても仕方が無い。 いずれにしても、ライトマンの中には、もはやザ・ヒーローが欲しがるようなデータは残っていなかったはずだ」

「……」

本当に、そうだろうか。

ザ・パワーは人を見る目があるとは言い難い部分がある。私はもう一度挙手すると。ライトマンについて洗いたいと提言。

良いだろうと、返事を貰った。

 

テンペストは出かけていく。

ザ・パワーと、ブラックサイズと一緒に。

それに加えて、ヴィラン討伐部隊も出て行った。

しかしながら、である。

腐敗ヒーローはまだたくさんいるが。暴動は全て鎮圧完了しているはず。これ以上暴力を振るうのは、あまり良い効果を呼び込むとは思えない。

私自身は。

ライトマンの屋敷に直行。

其処で、残っていたわずかな人間達に、出迎えられた。

老執事が何人かいる。

その中の一人は、あのビートルドゥームの部下だったという事で。それは驚かされたけれど。

考えてみれば、ライトマンは、首になったり主君を失ったサイドキックを引き取るという癖があったらしいと聞いている。

不思議な話ではないか。

「ライトマンの書斎は」

「此方にございます」

いかにもくせものという風情の執事に案内されて、屋敷の奧に。

書斎と言うには巨大すぎる其処には。恐らく万を超える本が存在していた。

この屋敷には、ICBMが直撃したらしいけれど。

幸いこの書斎は無事だったらしい。

だけれど、よく見ると。

殆どの本は、開いた形跡さえ無い。一部の本だけ、熱心に読み返していた様子だ。他の本は、殆どコレクションだったのだろう。

痕跡を確認。

それに、屋敷の構造も。

一瞬、此処に隠し部屋か何かがあるかもしれないと思ったのだが。

考えすぎだ。

この部屋は孤立していて、構造的にも隠し部屋や隠し通路を作る余裕は無い。それに、そんな複雑な機構を作れるほど、屋敷にも余裕は無い様子だった。

ライトマンは、あるものを全部使って。

自分の虚飾を満たしたい、と考えるタイプの男であったらしい。

屋敷を丁寧に調べていくと、それがよく分かってくる。

ICBMが直撃したワインセラーの辺りは消し飛んでしまっているが。

在りし日の写真が出てきたので確認すると。

世界各地のワインが、勢揃いしている。

といっても、二百年前の戦争で、殆どのワインは製法が失われ。今では一部のヒーローが生産しているだけ。

市民に到っては。

ワインを知らない者も多い。

美術品もあるが。

あまり落ち着いた雰囲気のものは多く無く。

金箔が張られていたり。

何というか。

間違った貴族趣味が、兎に角目立つ構造になっていた。この辺りは、他の腐敗ヒーローもそうだ。

俗悪で。

己の権力に酔う。

だから、どれだけ残虐な事をしても、平然としているし。権力が無い相手を殺戮しても何とも思わない。

そういう意味で。ライトマンも、今時の平均的なヒーローだった、という事なのだろう。

ただ、正直な話、美術品そのものに興味があったようには思えない。ステータスシンボルとしてだけ集めていたのだろう。

そして、読み込んでいた本は。

市民の増やし方とか言う、何処かのクズヒーローが書いた胸くそが悪くなる代物だった。まあ、この辺りも。ライトマンが支配している市民の数が影響力に直結した時代のヒーローだった、ということをよく示している。

さて、ライトマンの人となりは分かった。

執事に案内されて屋敷を見て回る。

設計図も入手済みなので、それを確認しながら見て行くと。何カ所か、不審な箇所が見当たった。

殆どが倉庫や、隠し部屋のような、分かりづらい空間。

その中の一つは。

非常に大量の性的なグッズが収められている場所だった。中でも、電子書籍類が多かった。

まあこれは、ライトマンも男だった、という事だろう。

男性の性欲が女性のそれとはかなり違う事は、雲雀も知っている。苦笑しながら、ライトマンの秘蔵の品を収めた部屋を閉じる。

次。

今度の部屋は、情報媒体がたくさんある。

少し調べて見ると。

他のヒーローとの会話が記録されている音声媒体だったり。

或いは、会食している様子を写した映像媒体だった。

考え込んだが。

結論はすぐに出た。

なるほど、これは人脈の記録だ。

ライトマンという男は、自分の力がどれほどあるか、確認しないと不安になるタイプの人種だったのだろう。

だからこんな形で、コネクションを視覚化した。

何だか気の毒な話だ。

この部屋に籠もって、誰とどういうコネクションを作った。

それだから、自分は偉い。

そう考えて悦に入っていたのだろうと思うと、同情してしまう。

何しろ、ライトマンの末路を考えると。

こんなコネクションなんて。何の役にも立たなかったのだから。

コネクションは所詮コネクション。

彼ほど、因果応報という言葉を体現する存在はいなかった。勿論それは一種の迷信だろうと雲雀も思うけれど。こういう実例もあるのだ。

順番に見ていって、めぼしいものは見つからず。あまり期待はしないながらも、残った最後の部屋を見る。

此処は、がらんとしている。

だけれども、見た瞬間、感じた。

何かあるな。

私はすぐに調査班を呼ぶ。到着する間に、自分でも情報を集めておくことにする。

ゴム手をすると。

周囲を確認。

小さなベッドが一つだけの、殺風景な部屋だ。窓も無い。

何よりも、だ。

ベッドがあっても、生活感がまるで感じられないのだ。

これは、何かある。

隅々まで調べていくと。どうやら、構造的にもおかしい。隠し部屋か何かがある可能性は高い。

そもそもライトマンは、オリジンズの中でも。DBを封じたり。プライムフリーズを幽閉した連中の子孫だ。

これは血縁があるというわけではなくて。

単純に権力基盤を受け継いできた、と言うだけの話である。

それにしては、この屋敷は。

少しばかり質素すぎるかも知れない。

解析班が到着

部屋を任せて、自身は一旦外に。貴重な通信装置を使って、オリジンズ本部へと連絡を入れる。

そして、状況を説明。

ペアアップルは小首をかしげた。

「離れはありませんか」

「離れがあるのか。 地図には無いが」

「ある筈です。 ライトマンの会話の内容が少し残っていますが、離れで酒をたしなんでいた雰囲気があります」

「……」

離れ、か。

部屋は解析班に任せて、雲雀は周囲を探る。

屋敷の周囲は荒野では無くて。鬱蒼とした森が拡がっている。この中を調べていくのは骨だ。

執事に聞く。

一人が、挙手した。

「整備していたことがございます」

「案内を願います」

「分かりました」

さて、何かあるなら、其処か。

森の中。

ログハウスの様な、小さな建物がある。離れがあるとすると、恐らくはこれだろう。しかし、小さな離れだ。

ざっと見たところ、地下室も無い。

だが、妙だ。

離れの周囲を見ると。

電力が切れて動かなくなった防衛装置が、かなりの数配置されている。勿論ヒーロー相手に役には立たなかっただろうが。

それでも、これだけ厳重にしていたのだ。

此処には何かあったとみるべきだろう。

此処にも調査班を呼ぶ。

さて、自身はどうするか。

もう一度執事達の所に戻る。

そして、一人ずつ。

ライトマンの生活について、聞いていった。

ライトマンはどうやら、部下には相応に寛大だった様で、休暇もそれなりに与えていたらしい。

基本的にサイドキックは使い捨てという風潮がある現在。

比較的珍しいヒーローだと言える。

まあもう今はヴィランだし。

それ以外の点では、他のヒーローと残忍さといいエゴといい、大して変わるものではなかったが。

細かく生活についてメモ。

その人生の末期には、此処には戻れなかったが。

古参の執事によると。

むしろライトマンは、此処に客人を招いて、様々な密談などを行っていた事が多かったそうである。

そうなると。

やはり何かあると見て良いだろう。

「何か、他に気になる事は」

「一つあります」

挙手したのは。

例のビートルドゥームの所から移籍した執事だ。そういえば此奴。手柄を挙げて、今度は私の執事にでもなるつもりか。

たくましいというか何というか。

意外と、これでは重宝されていたのだろうなと、察してしまう。あの粗暴なビートルドゥームに殺されず。ライトマンにも処分されなかった男だ。

「一つとは」

「ライトマン様は、出かけた後、すぐに戻ってくる事が二度、三度ありました。 特に用事があるとも思えないのに出かけて。 すぐに戻ってくる様子は、何処かしら不自然ではありました」

「……」

となると。

やはり離れに行っていた可能性が高。

重点的に調べるのは其方か。

そう思っていた矢先。

寝室(?)を調べていた方のチームから連絡が来る。かなり切迫した様子だった。

「寝室の地下に、巨大なストレージを発見しました!」

「稼働中?」

「いえ、電源を落とされています」

「ならば搬送の準備」

此方にはパーカッションがいる。

かなり調査という点では有利になる筈だ。

続けて、離れの方でも、大型のストレージが見つかった。

此方も持ち帰らせる。

そして、戻り際に。

屋敷で働いていた使用人達に。

皆、再就職先を用意した。

 

オリジンズ本部に戻ると、パーカッションを呼んで、早速データのコピーを開始させる。その矢先だった。

通信が入る。

テンペストからだ。

「雲雀か、まずい事になった」

「何が起きたの?」

「どうやら核テロを計画している一派がいるらしい」

またか。

いずれにしても、止めなければならない。

「合流する?」

「いや、そっちにはそっちで、頼みたい事があってな」

言われて見ると、確かにそれは、雲雀の得意分野だ。

頷くと

自分なりの戦いに赴くべく。

雲雀は、準備を始めていた。

 

(続)