暴虐の王

 

序、暴君と化した主

 

惨殺されたウォッチの死体は、ヒーロー達全員に公開された。それを公開したザ・パワーは、宣言する。

彼自身が。

オリジンズ本部の建物にある、巨大なテレビ画面で、である。

「現在社会にまかり通っている常識は、腐敗の極限に達したヒーロー達が自分たちに都合良く作り上げたものであることは、この間放送した条約と、それに伴う映像で明らかである。 ゆえにこのような悪しき常識は、これより完膚無きまでに粉砕しなければならない」

更に、ザ・パワーは、オリジンズの強攻改革を宣言。

今残っている七人のヒーローを、全員一度更迭。

オリジンズとして、九人を選び直すと明言した。

当然反発は起きたが。

しかし、三百人からなる「良識派」が、ザ・パワーに勝てなかったこと。更に仮にもオリジンズの一員である上、時間を操作する能力を持つウォッチが瞬殺された事などもあって、ヒーロー達は戦闘タイプであるなしに関わらず、全員が震えあがっていた。

それはそうだ。

今まで舐めきっていた相手が。

どれだけ強いヒーローだったか、認識出来ていなかったのだから。

オリジンズと言えば、戦闘タイプヒーローの頂点。その中でも、時間を操作する能力者であるウォッチの強力さは知られていた。

それを一撃で屠ったのである。

戦闘力の高さは、言うまでも無い。

桁外れすぎるその実力は。

甘い砂糖で脳を浸していたような、堕落の極限に落ちたヒーロー達を黙らせるのに充分だった。

更に、ザ・パワーは続ける。

「今まで市民を殺戮する事を面白半分にしていたようなヒーローは、今後私自身が制裁して廻る。 それが嫌なら私の指示に即座に従え。 期限は二ヶ月と非常に差し迫っており、銀河連邦も此方の態度次第では、それを前倒しにするだろう。 以前の数百倍、いや下手をすると数万倍の機械化戦力が押し寄せる。 映像で見た通り、二百年前でさえ、銀河連邦の技術力で制作されたスーパーパワードスーツは、初代オリジンズ全員を相手に戦ったほどだ。 今度は更にそれを上回る軍が押し寄せるだろう。 しかも質だけの話で、数は単純に数百倍に増えている」

愚かなヒーロー達に、鉄槌が降るときが来た。

そう締めくくると。

ザ・パワーは、その圧倒的な眼光で、周囲を睥睨した。

「私は今まで、皆を信じてきた。 自主性を尊重したし、自浄作用があるとも考えてきたのだ。 だが、それらが全てまやかしだったことは、この間集まった三百人の愚か者どもが教えてくれた。 もう私は迷わない。 この地球にいる、ヒーローと自称する害虫を、全て駆除しなければならない。 まっとうなヒーローだけが残り、市民と共存する社会を成立させなければならない。 それを阻む者は皆殺しにする」

それは。

一方的で。

圧倒的でさえある、殺戮の宣言。

ザ・パワーの眼光と。

妥協のない口調が。

それを、まったく寸分の狂いも無く実施することを、告げていた。

「良識派」三百人については、即座に全員をヴィラン認定することも付け加える。支配地区は全て没収とも。

粛正が。

始まったのだ。

「私に文句が言いたいものはすぐに現れよ。 時間がない。 その文句を言おうとする口を、私が手ずから引き裂いてやる」

言によって士大夫を殺さず。

それは昔の文明に存在した言葉だが。

ザ・パワーにそれを守るつもりは無い。粛正の開始と同時に、その凶暴すぎる事実も告げられた。

更に、である。

四十人以上のヒーローを肉塊にし、再起不能にしたテンペストを、ヒーローに復帰させて。

更にオリジンズに加えるとも、ザ・パワーは宣言。

百年前のオリジンズにコールドスリープ装置に叩き込まれ。

今ヴィランとしてクリムゾンを率いているプライムフリーズについても同様の措置を執ると、明言した。

一旦此処までで、映像は終了。

ヒーロー達は、恐怖に、パニックに陥っていた。

 

わたしは、映像の全てを見た。

ザ・パワーが本気で怒っていることはよく分かった。ミフネにやられた傷が少しまだ痛むけれど。

それどころではない。

わたしが本気で尊敬していた、現在の唯一のヒーロー。師匠が生きていれば、多分並んだだろうその男は。

阿修羅と化していた。

わたしはオリジンズ入りを受け入れるつもりだが。

だが、それで上手く行くとは思えない。

其処から先に待ち受けるのは。

恐らく、血の池地獄も真っ青な、殺戮の連鎖だ。反対派をザ・パワーは絶対に許さないだろう。

徹底的に殺して行くに違いない。

二ヶ月。

あの大乱闘を見て、即座に制圧行動に切り替えなかった銀河連邦は充分すぎるほどに寛大だとわたしは思う。

だけれども、二ヶ月は短すぎる。

師匠も言っていた。

人という生物は、数千年というスパンで変化すると。

二百年やそこらで、人が変わるわけがない。

もし変えるために無理矢理何かの手段を講じるとしたら。

それは洗脳しかあり得ない。

ザ・パワーは反対派を皆殺しにした後、一体何をするつもりなのだろう。場合によってはとめなければならない。

不意に、隣に。

ぞわりと、不快な空気が満ちた。

隣には、感じの良い女が立っている。美しい髪を腰辺りまで伸ばした女性だ。細い目で、嫌みのない笑顔を浮かべているけれど。

わたしには、どうしてか。それが肉食獣の笑みにしか感じられなかった。

「テンペストさんですね」

「見覚えがある。 ミラーミラーだな」

「はい」

おっとりした雰囲気の女だ。

だけれども、どうしてだろう。

前に遠くで見た時とは、何かが根本的に違う。

本性を現した、というのともまた違うような気がする。

一体この差は、何なのだろう。

「オリジンズに勧誘されたそうですが、受けるのですか?」

「そのつもりだ」

「たくさんのヒーローを手に掛けたヴィランが、ヒーローに抜擢とは、面白いというか、ムシが良いと言うか」

「その通りだな。 だがわたしは、ヒーローの風上にも置けないゲス野郎をぶちのめしたことしか無いけどな」

いきなり喧嘩を売られているのは分かっているが。

此奴は多分悪意を持ってやっていない。

恐らくは、天然で。

思った事を、すらすら口にしているだけ、なのだろう。

雰囲気はあくまでおっとりしているが。

側に立ってみて分かった。

此奴、相当な拳法使いだ。

能力に奢った戦闘タイプヒーローなんて、体術だけで圧倒してみせるかも知れない。それくらい強い。

下手をすると。

今のわたしよりも、である。

「やれやれ、ここに来るのは久しぶりだな」

振り向くと、其処にはプライムフリーズ。

まだ本調子では無い様子だけれど、雲雀もいる。

プライムフリーズとミラーミラーは。わたしと同じように、毒が籠もった押収をしていたが。

此方も、相手に悪意が無い事は即座に察知したらしい。

少なくともプライムフリーズは、苦笑いだけで済ませていた。

「テンペスト、当面同盟関係は継続で構わないな」

「ああ、そのつもりだが」

「わしとしても、ザ・パワーを抑えられる奴が必要だと考えている。 いざという時は、わしとお前の二人がかりでどうにかするぞ」

「……」

ああと応えたかったけれど。

本気になったザ・パワーが、ウォッチを一瞬で能力ごと粉砕したという事実が、わたしに断言を許さなかった。

さすがはトップヒーロー。

時間を操作するという最強級の能力を、真正面から打破するだけの能力を持っていることが証明され。

生半可な戦闘タイプヒーローでは、束になってもかなわないだろう。

プライムフリーズは、六人ものヴィラン討伐部隊を同時に相手にして生き延びたほどの実力者だが。

それでも、ザ・パワーには及ばないのでは無いかと、わたしは思っている。

その場合、わたしが加勢しても。

結果は同じ。

特に、今のザ・パワーは阿修羅も同然。

その怒りは凄まじく。

逆らう者には、一切容赦しないだろう。

だが、それがゆえに。

ブレーキ役が必要だ。

周囲は戦闘の余波が残ってはいるが。インフラ整備系の能力を持つヒーロー達が活動して、修理を始めている。

オリジンズ本部のビルなども、戦闘のダメージを受けていたのだけれど。

それも復旧し始めている様子だ。

ビルの中に入る。

真正面から、バラマイタに遭遇。

此奴の屋敷に潜り込んだことは口にする必要もないだろう。ローズをさらったのがわたしだと知れたら、キレて大暴れし始めそうだ。

「あらあら。 肉塊製造器の登場かしら」

「クズヒーロー限定でな」

「うふふふ」

「バラマイタ、あんたオリジンズを首になったんだろう。 どうしてこんな所をまだうろついているんだよ」

わたしの冷徹な指摘にも。

バラマイタは表情一つ変えない。

いずれにしても、此処はもう彼女の居場所でもないし。

頂点にも立っていない。

ただしオリジンズの中でも上位に入ると言われた戦闘力は健在の筈で。それが衰える理由は無い。

バラマイタの後ろに。

眼球だけに、手足が生えたような異形が現れる。

後ろで、雲雀が少しだけ身を浮かせるのが分かった。

此奴がザ・アイか。

「バラマイタ、もう行コウ」

「わかっているわよ」

ザ・アイは能力もよく分からなかったけれど。

ただ、凶悪ヴィランを収監している刑務所を支配していると聞いた事がある。引き継ぎはどうしたのだろうか。

凶悪ヴィランの中にはアンデッドもいたはず。

だからか。

プライムフリーズが、ザ・アイを呼び止めた。

「待て、ザ・アイ」

「偉大なる初代オリジンズに声を掛けていただけるとは光栄ダネ」

「おべんちゃらはどうでもいい。 刑務所はどうしている」

「今の時点では脱走者もいないヨ。 ライトマンもアンデッドも大人しくしているサ」

鼻を鳴らすと、プライムフリーズは、刑務所に後で視察に行くといい。

好きにしろと、ザ・アイは、巨大な単眼を細めたのだった。

オリジンズの円卓に急ぐ。

途中で。

壁に背中を預けている黒衣。背中には鎌。

ブラックサイズ。

以前、戦って決着がつかなかった相手だ。兎に角強烈な戦闘力を持ち、強い付与効果のついた武器を造り出す能力を持っている。

その武器を縦横無尽に操り。

わたしを追い詰めた。

死神の異名を持つ、汚れ役専門のヒーローだ。

思わず構えをとるわたしに。

ブラックサイズは、喋るのも面倒くさいという風情で言う。

「戦う気は無い」

「……」

「困ったことに、俺もオリジンズに呼ばれた口でな。 後ミフネも来るらしいが、彼奴は最後になるだろう。 ヴィラン討伐部隊をまとめて、此方に向かっているそうだからな」

「そうかよ」

ブラックサイズは。

物事の善悪には興味が無い男に見える。

金だけ貰って、必要な相手を殺す。

それがヒーローでも関係無い。

文字通りの死。

このような男がヒーローをしている理由は、それこそオリジンズが汚れ役を必要としていたから、に尽きるのだろう。

実際問題、どうしようもない下郎が、オリジンズには多数いたし。

その支配体制は苛烈だった。

今でこそ、オリジンズでどうにかまとまっていたが。

それもあと百年、同じ体制が続いていたらどうなっていたか。

かなり怪しいと、わたしは思っている。

念のため、パーカッションとクリムゾンのメンバーは、隠れて貰っているけれど。流石に過激派も、今の阿修羅となったザ・パワーに逆らおうという気力は無いだろう。三百人の戦闘タイプヒーローを、正面から相手にしたのだ。

エレベーターに乗る。

バラマイタとザ・アイは何処かに行ってしまったが。

あれは支配地区に戻ったのだろう。

多分体勢を立て直すつもりだ。

勿論逆らう事は、ザ・パワーも許さないだろうし。

今後、ザ・パワーが進めていた、市民の生活向上と福祉厚生を、他のヒーローの支配地区でも強制していくのは確実。

今までヒーロー達が蓄えてきた富は。

一気に放出されることになる。

逆らうつもりなのかは分からないが。

いずれにしても、とんでもなく忙しくなるのは事実だろう。

そして逆らった場合。

ザ・パワー自身が、叩き潰しに行くのは目に見えていた。

だが、二ヶ月。

それで間に合うのか。

エレベーターが、止まる。

相当な高層ビルだが。

この技術そのものが、宇宙から持ち込まれたもので、しゅっと移動してすっと止まった。既存のエレベーターより遙かに動きがスムーズで、移動時のGもほぼ掛からなかった。

エレベーターから外に出ると。

サイドキック達が働いている。

多分ザ・パワー直属のサイドキック達だろう。

士気はそれなりに高い様だった。

壁を外している。

そして、外した壁の内側からはガラスが出てきていた。

「これは、何をしているんだ」

「懐かしいな。 昔オリジンズにわしが所属していた頃、円卓は硝子張りだったんだよ」

「そういえば聞いた事があるな」

「市民にもオリジンズの会議を公開する、という意図でな。 わしがどれだけその意味を説いても、後進の阿呆どもは理解せず、とうとう部屋をセキュリティの要塞へと変えてしまったが」

壁の工事はまだ半ば。

ザ・パワーは。

気配からして、いないか。

ただしグイパーラがいた。

ザ・パワーの懐刀とされていた男だが。

雲雀が持ち帰った資料によると。此奴も状況を混乱させていた側の人間である可能性が極めて高い。

グイパーラはわたしを見ると。

露骨に唇を結んだ。

「あんたがグイパーラだな」

「その通りだ」

「ザ・パワーはあんたにヒーローの持つべき志や魂について説いていたはずだ。 まったく心には届かなかったのか」

「テンペスト、よせ」

プライムフリーズに止められる。

グイパーラは無言。

反論する気も起きない、という事か。

まあそれはそれで別に良い。

此奴に説教しても仕方が無い。個人的には、もっと別の所に興味がある。

「あんたの経歴は調べたが、ザ・パワーが一番困っているときに接近して、そのまま側近に居座ったな。 以降は人畜無害のフリをして、ずっと悪事に荷担していたって訳なのか」

「何を持って悪事とするかは、後世が判断するだろう」

「詭弁だな」

「いずれにしても、私には私の信念がある。 それは手を汚しても、耳を塞いでも、成し遂げなければならないことだ」

多分グイパーラは、しばらくザ・パワーの監視下におかれるのだろう。

バラマイタやザ・アイと違って、オリジンズを追い出された様子も無い。円卓を見るけれど。

多分ザ・パワーがウォッチを殺したときの影響だろうか。

机が砕かれてしまっていた。

あの机も作り直すのだろうか。

わたしは頭を振る。

このような虚栄の円卓に、何の意味があるのだろう。

単純な暴力装置か。

それにはわたしが都合が良いのか。

分からない。

工事はてきぱきと片付けられ。硝子張りの円卓は、一時間ほどで修復された。これも、初代オリジンズが健在だった頃の状況だ。

ザ・パワーの側近を新たに務めているらしいヒーローがくる。戦闘タイプのヒーローでは無くて、多分事務能力に特化した能力者だ。

あまり背が高いとは言えない女性で。

無気力そうな目をして。何というかリンゴのような印象を受ける。

「ペアアップルと申します。 ザ・パワーからあなた方へ案内をするようにと言われております」

「すまん、先に来てしまった」

「これから説明することが色々とございます」

ぺこりと頭を下げられる。

そして、ついてくるように言われた。

 

1、わき起こる混沌の渦

 

ウォッチを殺した後、ザ・パワーは。バラマイタとザ・アイ。それにマンイーターレッドを、呼び出した。

オリジンズの円卓にではない。

バラマイタの屋敷に、である。

相変わらず何というか、勘違いした貴族趣味というか。そういう雰囲気の屋敷だが、今はどうでもいい。

ザ・パワーとしては。

聞いておく事が幾つもある。

既に怪我は癒えた。

三人はウォッチの死に様を見て観念しているのか、切り札があるのか。

ある程度平然としていたが。

分かってはいるだろう。

ザ・パワーはもう戦闘モードで。返答次第では、即座に殺しに来ることを。

能力に驕ったウォッチと違い、バラマイタは苦労して実力を伸ばしてきた戦闘巧者だということは、ザ・パワーも重々承知。ザ・アイもよく分からない能力を使うという話だし、マンイーターレッドも植物操作能力が凶悪だ。

だが、それでも。

側で見てきたから分かる。

三人がかりでも勝てる。

これに何かしらの切り札が加わっても同じだろう。

「さて。集まって貰った理由は分かっているな」

「美味しい紅茶を出したいところなのだけれど、熟練したメイドがこの間さらわれてしまってねえ」

「ああ、君の食用肉カ」

「そうよ。 まったく惜しい事をしたわ」

バラマイタは余裕を見せるつもりなのか。

長テーブルで、ザ・パワーに冗談を飛ばしてみせるが。

ザ・パワーも知っている。

バラマイタが、美貌にコンプレックスを持っていて。自分の体を、能力を使って文字通り作り替えてきたことを。

その歪んだ美意識は、遺伝子プールから見目麗しい十代の女性を造り出し。

ひとしきり愛でてから、本当に料理して、骨まで残さず食べてしまうと言う猟奇的な行動にも発展していた。

首から下は、既に全てが作り替えられている。

そう言われているバラマイタだ。

元の姿は非常に醜かったと言う話で、それが本人のモチベーションにもなっているのだろう。

美しくありたい。

だから能力を磨いて強くなった。

だが、それは。

ビートルドゥームと同様の。

間違った強さだ。

「時間もないので単刀直入に行く。 君達を背後から操っていたのは誰だ。 返答次第では即座に殺す」

「気が短いわねえ」

「……」

「分かっているわよ。 私も貴方と真正面からやり合って勝てるとは思っていない」

バラマイタはペストマスクを上下に斬ったような仮面を外す。

其処には。

確かに、大変に造作が崩れた顔があった。

兎に角造形が崩れている。

鼻も目も口も。

何もかもが、である。

ペストマスクのようなもので顔の上半分を隠すことで、どうにか外に見られる姿にしていたのだと、これでよく分かる。顔の下半分だけ見える分には美女なのだが。上半分が見えた瞬間、印象が変わるレベルだ。

少なくとも、もうザ・パワーは。

バラマイタを美女とは認識出来ない。

そしてこの顔に。

バラマイタが、どれだけ苦しんできたかも、だ。

「私に接近してきた奴が、何者かは知らない。 複雑な経路を駆使して私に接近してきたそいつは、ザ・アイとウォッチをその時既に取り込んでいたようよ。 そして私に提案してきた。 その顔を直してやると」

「整形や何かを使おうとは思わなかったのか」

「この顔はね、能力に直結しているの。 私の能力では、どうしても首から上はすげ替えられない。 能力の影響もあって、どれだけメスを入れても、顔は崩れた状態に戻ってしまう」

それは、辛かっただろう。

勿論辛かったからと言って、弱者を好き放題に殺戮して良いと言う理屈にはつながる筈もないが。

続きを促す。

バラマイタはそれから、何者かの指示を時々受けながら、オリジンズの動きを鈍化させるように工作していったという。

ただし、それはあまり積極的なものではなく。

時々ウォッチやザ・アイと連携しながらの、限定的なものだったそうだ。

なるほど、やはりか。

ザ・パワーも何となくは理解していたが。

敵は恐らく、一つ一つのパーツを、ヒモで結ぶようにして、芋づるに引きずり出されるのを防いでいる。

何個かの部下のブロックが存在し。

それぞれが相互には独立していながらも。

最終的に何者か。

ザ・パワーが仮説を立てている存在の所へ、収束するようになっている、という事なのだろう。

アンデッドに知恵を授けたのも。

アンデッドがいなくなっても、その麾下組織が平然と動いているのも。

ひょっとすると。

テンペストに対して、ヴィラン討伐部隊が中々動かなかったのも、これが原因かも知れない。

だが、糸は。

一つずつ、断ち切らせて貰う。

「ザ・アイ。 君は」

「ボクはもっと切実ダ。 この異形を直したくてネ」

「続けてくれ」

「自分でもDBにある遺伝子プールを利用して、様々な畸形を造り出して、それを元に戻す実験をしていたんだが、どうにも上手く行かなくてネ。 そこに、彼が声を掛けてきたのサ。 男かどうかも分からないけど、ボクは男だと思ってイル」

「……そうか」

これは、実はザ・パワーも見解が同じだ。

恐らくは、だが。

黒幕は男性だろうと考えている。

そして、マンイーターレッドにも話をさせる。

「私は単純に権力を安定させたかっただけよ。 それに、実際のオリジンズが、あんたじゃなくて、ライトマンに牛耳られていることは分かっていたもの。 そのライトマンも道化だったけれど」

「権力に流されるだけだった、というのだな」

「そうよ。 保身を計って何が悪い訳?」

肩をすくめてみせるマンイーターレッド。

嘆息すると。

ザ・パワーは言う。

「もうお前達をオリジンズに復帰させるつもりは無い。 ただし、これ以上余計な動きをしないなら、殺さないとも約束する」

「あら、寛大ね」

「そうでもないさ。 監視を常につける。 後、行動スケジュールは、常に提出して貰うからな」

監視用のヒーローは、ザ・パワーも抑えている。

スケジュール通りにこの三人が動いているかは、手にとるように把握できるほどの、強力な能力者だ。

戦闘タイプの能力者じゃ無いから、守ってやる必要があるが。

いずれにしても。

旧オリジンズの無力化は、更に進めていかなければならない。

スネークアームは、今ヴィラン討伐部隊を率いて戻ってきているが。此奴については、事情を知っていることもある。

ロボットスーツに技術者に手を入れさせ。

それで手打ちにしようと考えていた。

ただ、問題が一人いる。

カルルス。

異様な言動を繰り返す首が長い男で。

翻訳専門のサイドキックが常に控えているほどの男だ。

キャラ作りのためにやっているのではなくて、実際に脳が非常に特殊な構造をしているらしく、普通に喋る事が出来ないらしい。

思考回路も独特で。

何を考えているのか、さっぱり分からない事も多かった。

「それでは、失礼する」

「紅茶でも用意するけれど?」

「不要。 牢獄に入れはしないが、今後は監視付きだと忘れるな」

さて、次だ。

予定通りカルルスの支配地区に向かう。

その途中。

三人のヒーロー、いやヴィランが、ザ・パワーの前に立ちふさがった。

あの三百人の生き残りか。

「ザ・パワー! 我等をヒーローに戻していただきたい!」

「我等は良識を持って行動しただけだ! 平和的なデモだったはずだ! それを貴方は暴力で踏みにじった!」

「我等の方にこそ正義がある! 我等はヒーローだ!」

「言いたいことはそれだけか」

拳が、一人目の顔面を粉砕し、頭を粉々にするまで一瞬。

更に残りの二人も。

地面で赤い染みになるまで、時間も掛からなかった。

オリジンズ本部に連絡を入れる。

殺した奴の名前くらいは、把握している。

「今、ヴィランを三人処分した。 リストに加えておけ。 名前は……」

機械的に。

殺しを行ったザ・パワーは。

顧みることも無く。

次の目的地に向かう。

 

カルルスの屋敷は、何というか、高層ビルというのか。しかしながら木造という、不可思議なしろものである。

どうやら要所と大黒柱に鉄筋コンクリートを用いているらしいのだけれど。

全体的には木で作っているという、変なこだわりが見て取れる。

カルルスは兎に角意思疎通が難しい事もあって、周囲からは気味悪がられていたけれど。

市民を虐げる事もそれほどひどくは無いし。

人体実験をしたり、人間を殺したりもしていない。

戦闘力そのものもオリジンズとして恥ずかしくないもので。

ザ・パワーはそれほど危険視はしていなかった。

他人に理解されない。

その事のつらさは良く知っているつもりであったからだ。

ただ。独自の思考回路を持つカルルスが、どのように物事を考えているかは、よく分からない。

こういう同情は余計なお世話かも知れないし。

何より、実際にはとんでもなく腹黒い事を考えているかも知れないのだ。

いずれにしても、カルルスの思考回路は、普通の人間とは相当に違っている。それだけは事実である。

屋敷に案内される。

内部には無秩序に色々な部屋があり。

噂に聞く、旧時代の九龍城を思い出す。

奥の方の部屋で。

カルルスは、首をバンドで天井から吊って、座っていた。

首が非常に長いので、こうすることで楽に座れるのだという。一見すると自殺しているように見えてしまうが。

カルルスの首は長く。

しかも大変に柔軟なので、問題は無い。

側に控えているサイドキックが。

カルルスが何か訳が分からない事を喋ると、翻訳してくれる。

「丁重におもてなししたいと、カルルス様は申しております」

「あいにくだが、今は時間がない。 単刀直入に行くが、君はオリジンズを背後から操作していたものとつながっていたか。 返答次第ではこの場で殺す」

「物騒なことを言うと、カルルス様は申しております」

「……」

返答を待つ。

ザ・パワーは、もはや敵を殺す事を躊躇わない。

最終的に、八千人の戦闘タイプヒーローを、全員殺す事さえ視野に入れている。それくらいしなければ、地球の独立は守れない。

植民地になった国が、どれだけ悲惨かは、良く知っている。

如何に相手が理性的で良心的でも。

それに変わりは無い。

ありとあらゆる手段を用いて。

ザ・パワーは、二ヶ月以内に。

何もかもを掌握し。

黒幕を引きずり出して、殺すつもりだ。

「カルルス様は……申しております。 自分は周囲から異様な目で常に見られていて、会話も成立しづらいこともあって、オリジンズを牛耳る戦力としては判断されていなかったようだ、とのことです」

「それが本当かどうかは調べて見ないと何ともいえんが」

「後ろ暗い事はなにもないので、好きに調べて欲しいと、カルルス様は申しております」

ふむ。

此奴は此奴で好戦的なところもあったりするのだけれど。

しかし、今の言動を見る限り、心外なことで疑われるのは腹立たしいと考えている、のだろうか。

何しろ考え方からして独特な奴だ。

何処まで信じて良いのかよく分からない。

ただ。はっきりしたことがある。

恐らく。バラマイタらとの横のつながりはないと見て良いだろう。

そうなると、黒幕の直下にいるか。

黒幕か。

関係が一切ないか。

この三つのいずれかだ。

「分かった。 処分は保留とする」

「それで、監視だけにするのかと、カルルス様は申しております」

「そうだ。 厳重に監視させて貰う。 スケジュール表は必ず毎日提出するように」

後何人か、廻らなければならない。

そして最後に。

アンデッドとライトマンに、直接話を聞きに行く。

其処までで、今日は終わる。

残りは57日。

驚くほどに。

残った時間は、少ないのだ。

カルルスの屋敷を出ると、中空に。其処から一気に加速して、オリジンズ本部へと戻る。

途中で市民が、空を一直線に突っ切るザ・パワーを、呆然と見上げている様子が見えた。

あれではだめだ。

識字率1%。

この悪夢のような現実も。

変えなければならない。

愚かすぎる先祖達の行動から、市民を解き放たなければならない。何もかも、負の遺産が積み重なっている。

それらを崩し。

打ち砕き。

この地球の独立を守るためには。

もはや手段は選んでいられないのだ。

刑務所に到着。

着地した瞬間。

真横から、極太のエネルギービームが叩き付けられた。

手で弾く。

明後日の方向に飛んでいったビームは。

見かけだけは派手でも、射程はそうでもないらしく。途中で雷のように放電しながら、消えていくのが見えた。

ビームを放ったのは、この間の三百人の一人。

問答無用で躍りかかると。

逃げようとするそいつの頭へ、拳をハンマーのように降り下ろした。

頭蓋が砕けて、脳みそがぶちまけられる。

首から上が吹っ飛び。

鮮血がまき散らされる中。

ザ・パワーは、集まって来たサイドキック達に、顎をしゃくる。

「逃亡中のヴィランを処分した。 死体を片付けておけ。 名前は……」

手をハンカチで拭くと、そのまま刑務所に。

この調子で、ザ・パワーに馬鹿共が群がってくれば、大変やりやすくなる。なお、ザ・パワーの支配地区には、数少ない何人かの戦闘タイプヒーローが張り付いている。馬鹿がテロを起こそうとしたら、ザ・パワーが駆けつけるくらいまでは、持ちこたえてくれるはずだ。

そう信じたい。

刑務所に。

奧にはライトマン。

すっかりやせこけて、目だけがらんらんと輝いている。

オリジンズを全部首にして、再構成を始めたと言うと。最初、げらげら笑いながら嘘だと言ったが。

ザ・パワーが表情を変えないこと。

ウォッチも殺した事を告げると。

流石にライトマンも押し黙った。

「聞かせて貰おうか。 お前の後ろに誰がいたか」

「ま、まて」

「またん」

牢の中に入ると。

ザ・パワーは、ライトマンの腕を掴んで。無造作に握りつぶした。折るのでも捻るのでもない。

握りつぶしたのである。

筋肉や骨ごと、だ。

絶叫したライトマン。

更に力を込めながら、ザ・パワーは言う。

「言え。 今の私は手加減も出来ないし、するつもりもない。 時間もない。 お前が言わないのなら、頭だけ切り取って、記憶を引き出す能力者に渡すだけだ」

「いだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいだい!」

「返事になっていない」

「ぎゃあああああああああっ! た、たす、たすけ!」

手を離し、壁に叩き付ける。

更に無様な悲鳴をライトマンが上げる。

光の能力で反撃しようとするが、それを素手で払うのを見て。ライトマンは、流石に絶望した様だった。

本気でザ・パワーが。

ライトマンを殺そうとしていることに、ようやく気付くことが出来たのだろう。

「分かった、話す、話す! だから治療を!」

「治療は後だ。 話せ」

「……!」

怯えきった様子のライトマン。

そして、彼は、ぼつりぼつりと話し始めた。

 

オリジンズ本部に戻る。

結局アンデッドは、自己暗示でも掛けているのか。拷問しようが自白剤を打とうが、何も喋らなかった。

だが、幾つか分かったこともある。

グイパーラが出迎えてくる。

「その、お疲れ様です」

「お前のおかげでな」

ザ・パワーも。

辛らつな言葉が、すらすら出るようになってきていた。

もはやリミッターは完全に外れた。

これからは、一切の容赦も無く。

逆らう相手は皆殺しだ。

そうしない限り、もはや何一つ守る事は出来ない。それがはっきり分かってしまったからである。

円卓に向かう。

円卓では、その機能などを、ペアアップルが新しいオリジンズ達に説明している所だった。

ザ・パワーを見ると、授業を中断しようとしたペアアップルだが。

手を上げて、遮る。

「よい、続けろ。 私はこれから、自室で少しだけ休憩する。 その後は、各地の実力者の所に向かう」

「粛正ツアーか」

「相手の出方次第ではな」

プライムフリーズに、皮肉を返すと。

きびすも返す。

さて、此処からだ。

各地の有力ヒーローを腕力で屈服させた後。

改革を強引に開始する。

宇宙空間には、しばらく銀河連邦の艦隊が駐屯するだろうが。成果さえ見せれば、いずれは去ってくれるはずだ。

どちらにしても。

宇宙に出るには、人類は早すぎた。

それについては、ザ・パワーも完全に同意だ。

今日だけで四人ほど殺した事を、秘書としてついてきたサイドキックに告げる。確認の意味もある。

「随分と乱暴ですね……」

「こうしないと、もはや事態は収拾できん」

「……」

サイドキックは、困惑しきった表情で、メモを取る。

自室についた。

誰も入れないように指示。

それからザ・パワーは。

何年も開けていない酒瓶を、戸棚から取り出した。

そして呷る。

酒なんて好きでも無いのに。

今は、飲みたい気分だ。

ただひたすらに度が強い酒を口にして。

無理矢理酔う。

だけれど、戦闘タイプヒーローの特性だ。あっという間に酔いは覚めてしまう。

この世界が夢であったらどれだけいいか。

そんな事を考えながらも。

ザ・パワーは、更に酒を呷った。

 

2、惨劇の傍観

 

テンペストは、ザ・パワーに提案。

今までリストアップしていた悪徳ヒーローを提示。此奴らに対して、即座に市民に対する残虐行為を止めるように布告。

言うことを聞かない場合は。

テンペストが出向いて、叩き潰す。

かなり過激だが。

しかし、今回が好機だ。

ヒーロー社会にたまった膿を出す好機。

ちなみに、わたしはヒーローに復帰させられたけれど。自分をヒーローだとは思っていない。

嬉しくも無いし。

ふさわしいとも考えていなかった。

この過激な提案は。

なんとおまけ付きで受け入れられた。

ザ・パワーは、出先で。誰かヒーローを殴りながら、通信を入れてくる。ぐしゃり、ぼぎゃりと、凄まじい音が、会話の合間に響いてくる。

流石にペアアップルが眉をひそめていたが。

今ザ・パワーが叩き潰しているのは、「良識派」などと名乗っていた阿呆どもを煽っていた大物ヒーローの一人だ。

完全に自業自得だし。

どうでもいい。

ただ、ザ・パワーが阿修羅になってしまったことは、わたしも何処かで残念には思っているが。

「いいぞ、早速実行してくれ」

「分かった。 すぐに動く」

「それと、そのリストの人員は、言うことを聞かない場合、即座にヴィラン認定して構わない」

「……!」

それはまた、過激だ。

本当にこの世界の根本ルールをひっくり返すつもりなのだと、わたしも悟らされる。だけれど、こういうやり方は。

上手く行くのだろうか。

とにかく、だ。

わたしは出かけることにする。

その前に、リストに載せているヒーロー達に、連絡を入れさせる。

わたしからではない。

敢えてペアアップルからだ。

というのも、わたしから通信すると、絶対に口論になる。

淡々と説明が出来るペアアップルの方が、時間が掛からない。まず、一人目。ペアアップルが通信。

相手に状況を告げる。

流石に相手は震えあがった様だった。

テンペストは、既にオリジンズに加入させられてから、何度か武勇を振るって見せている。

テロ同然に仕掛けてきた戦闘タイプヒーローを、数人まとめて返り討ちにする画像も出回っている様子だ。

更に、今まで四十人以上のヒーローを再起不能にしてきた実績もある。

とてもではないが、生半可なヒーローでは、勝てる気がしないのだろう。

更に、である。

ザ・パワーはヴィラン討伐部隊の掌握に成功。

少なくとも表向きは従っている。

ミフネはどういうわけか、ザ・パワーに従う意思を見せていて。

わたしに対して刃を向けたあの態度については、知らぬ存ぜぬで通していた。

何か企んでいるのは確実だが。

今はそれを追求するよりも、利用する方が先だ。

ミフネと二人を、アンデッド麾下組織の討伐に繰り出し。

残りは、この間の三百人、つまり「良識派」の残党狩り。更に今回、わたしがリストアップした連中のうち、言うことを聞かない奴らの討伐に向かわせる。

これで、一気に。

悪徳ヒーローが片付く。

オリジンズ本部はプライムフリーズが固める。

ミラーミラーはまだ少し不安なところがあるから、だろう。ザ・パワーに同行して、仕事ぶりを見学しているそうだ。

見学、か。

それにわたしが巻き込まれなくて良かった。

なお、クリムゾンもヴィラン組織認定を解除。

今は雲雀と一緒に、諜報活動を始めたところだが。

プライムフリーズの私兵である事に代わりは無いため、場合によってはきな臭い事になるかも知れない。

「じゃ、行ってくる」

「お気をつけて。 二人目以降も、私が随時連絡を入れておきます」

「頼む」

ペアアップルに言い残すと。

屋上のヘリポートに。

ヘリとはいっても、マッハ4以上で航行できる一種のVTOL機だ。今回はそれほど遠い場所でもないので、これで充分。

前は歩きでわざわざ相手の所に出向いていたけれど。

ヘリを使って討伐に向かうのは斬新だ。

ふと、気付いて。

ヘリに向けて放たれた光弾をはじき返す。

光弾を放ったのは。

例の三百人の残党だ。

赤いスーツを着た大男で、ヘリポートに着地する。

「テンペスト……! 狂気の独裁者の犬め!」

「お前、良識派とやらの残党だな」

「そうだ! 正しいのは我々なのに、異常な理論をふりかざして世界をみだ……」

その時には。

すり足で間合いを詰めたわたしが、相手の腹に拳を叩き込んでいた。

隙だらけだったという事もあるが。

どう考えてもおかしいのは此奴らだし。

此奴らが良識を騙る事を、わたしは絶対に許さない。

よく考えなくても、此奴らのせいで、いま大変なことになっているのだ。

腐敗の極限まで達した此奴らは、ヒーローじゃない。恐らくは、ヴィランでさえないだろう。

強いていうならば。

邪悪の権化だ。

「あんたがどう思って良識派とかいう笑止な集団に参加したかは知らないから、再起不能にまではしない。 牢獄で反省するんだな」

壮絶な表情を浮かべたそいつは、更に至近距離から光弾を放とうとするけれど。

顎を蹴り挙げて頸椎をねんざさせ。

更に中空で回転すると、踵を顔面に叩き込む。

地面に折り曲げられるようにして叩き付けられたそいつに。

ザ・パワーに降伏したヒーローが駆け寄る。

そして、拘束した。

「おけがはありませんか」

「こんな程度の相手ならな」

此奴らだって。

暴利を貪っていたクソ野郎どもだ。

更に、その中の一人に。

したり顔のキルライネンがいるのを見て、私はぶちギレそうになった。だけれども、我慢だ。

この状況。

今は、全部まとめて敵にするわけにはいかない。

各個撃破していくしかないのだから。

キルライネンやクロコダイルビルドは、間違いなく最終的に討つべきクズだが。奴らの領地では、率先して市民の権利が回復され。生きるための設備が整えられている。そしてこのクズどもは、それを嫌がらずに粛々と進めている。

今、ザ・パワーの豹変に震えあがったヒーロー共は。

まだ、それら作業を出来ていない。

今後テストケースにするためにも。

此奴らをまだ討伐するわけにはいかないのだ。

口惜しい話だが。

ヘリに乗り込むと。

ペアアップルに連絡。指示を蹴ってきた奴のリストを確認。今回はまず、バラッドクッキーの所に向かう。

此奴は実力的にかなり高く、今回の件もあっさり鼻で笑うようにして蹴ってきた。つまり、ぶっ潰されても良いと言う事だ。

ヘリが飛ぶ。

途中仕掛けてきても大丈夫なように、サイドキックを運転手には使わない。オート航行である。

それに低高度だから、もし落とされてもわたしは平気だ。

そんな程度で傷つくほど柔では無い。

ただ、後一歩。

まだ力が足りない気がする。

ミフネの猛攻は凌ぎきった。

だけれど、今のわたしに必要なのは。

最悪の事態に対応する力。

つまり。

これ以上暴虐の権化にザ・パワーが変化したとき。

止めるための力だ。

流石にこれ以上の暴虐は、わたしとしても見過ごせない。過激な手段しか、もはや採るべき手が見つからない事は同意だ。

銀河連邦の言うことが正しい事も分かる。

ザ・パワーが怒る理由だってよく分かる。

だが、いくら何でも。

逆らう奴を皆殺しにしていたら、それは地獄を。今以上の地獄を産むだけでは無いのだろうか。

現地に到着。

サイドキック部隊が布陣していたが。

わたしが一喝した。

「降伏するなら罪は問わない! 今、お前達の主人は、既にヴィラン認定されてしまっている! 武装解除しろ! そうしないと、わたしだってお前達の安全については保証できないぞ!」

「……!」

恐怖に青ざめるサイドキック達。

わたしはそのまま進み始める。

さっと、左右に分かれるサイドキック。

オリジンズに所属することになったわたしの実力は、知れ渡っているのだろう。これについては良い事だ。

無駄に戦わなくても良い。

サイドキックくらいなら、殺さず撫でていくことも出来るけれど。

それでも、万が一もある。

不要な殺しはしない。

それがわたしの流儀だ。

街を見ながら歩く。

未練たらしくついてくるサイドキックもいる。

一度狙撃されたが、ライフル弾をつまんで受け止めて見せると。以降は誰も狙撃しなくなった。

荒廃した街。

噂は本当であるらしい。

実際に見て、本当だったらぶっ潰し。もしも風聞に過ぎなかったとしたら、逮捕にとどめようと思っていたが。

今決める。

潰す。

バラッドクッキーは、異常者だ。

此奴は市民が経済活動をすることも許さず。極限までやせ衰えたところに、自分で作ったクッキーを与えて廻る。

そのクッキーには、1%の確率で致死毒が入っていて。

どの市民が死ぬかを賭の対象にし。

自分で遊んでいた。

他のヒーローと賭けをする事は、かなり厳重に法で規制されていることもあって、制約が多い。その制約にこの賭は抵触するらしく、此奴は単純に自分が楽しむためだけの行動としてやっている。

そうして殺した市民の死体を回収すると。

飼っている犬の餌にして。

「かわいい」犬たちが、毒エサを食べてもがき苦しんで死ぬ様子を楽しむという、二重に狂った行動をしていた。

というのは噂だが。

骨と皮しか無い市民をみると、それが本当だとよく分かる。

サイドキックを捕まえると。

彼ら用の食糧を、即座に市民に供給するように指示。やせ衰えているから、まずは自ら与えて、次はかゆ。そして徐々に柔らかいもの。その順番に与えるように、とも。

サイドキック達は、すぐに動いた。

流石に、ヴィランの部下として、動くのはリスクが高すぎると思うのだろう。賢明な判断である。

そして、ゲス野郎の屋敷に乗り込む。

中では、腐臭。

思わず眉をひそめたが。

その正体は、すぐに分かった。

骨の山がある。

イヌがたくさん死んでいて、更にそれをぎらつかせた目の他の犬たちが、貪り喰っているのだ。

時々、きゃんきゃんと悲鳴を上げて、イヌが暴れ始めるけれど。

それも、くるくる廻ると、途端に倒れ、死ぬ。

どうやら、毒入りクッキーを与えて死んだ市民を。イヌに喰わせている状態らしい。そして死んだ犬を、更に他のイヌが喰って、死んでいる、と言うわけだ。

毒の無限連鎖という訳か。

不意に声が響く。

姿は見えない。

「やあかわいいお客人。 テンペストくんだね」

「バラッドクッキーだな」

「いかにも。 わたしが誰か分かっていると言うことは、とっくの昔に用件だって伝わっているはずだが」

「うーん、僕としてはヴィランになるとしても、この趣味は止められないんだよ。 だってさ、一度見たら我慢できないもの。 ガリガリにやせ衰えた市民が、毒が入っているって分かってるエサに飛びついて、自分から死んでいくんだよ? こんな面白い見世物、他にないよ?」

無邪気な声。事前に写真で確認してあるが、見かけも、どちらかと言えば可愛らしい少年だ。亜麻色の髪も綺麗に整えられていて。声も澄んでいる。顔立ちも整っていて、中性的でさえある。スーツも、クッキーをイメージしたパーツを彼方此方にあしらっているが、全体的に青っぽく、どこかエロティックだった。

容姿と中身は一致しない。

その良い例だろう。

此奴、経歴を調べてあるが。

典型的なMHCだ。

昔から虫の足を引きちぎって遊ぶのが大好きで、それが他人の手足を千切って遊ぶようになるまで一年と掛からず。

ただし、殺す人数はそれほど多くなく。

わたしの中では、抹殺対象の上位には出来なかった。

此奴の比では無い数、非道な殺戮をしているヒーローが幾らでもいたからである。

だけれども。

今は此奴が、最優先抹殺対象の第一位だ。

「覚悟は出来ているだろうな」

「子供を殴るのかい? ひどいねえ」

「お前は子供じゃないだろう」

アンダーウィングの時も言ったことを繰り返す。

大人と同じ武力を持ち。

同じ経済能力を持ち。

他人を自由に殺す能力を持った奴の事を、子供とは言わない。保護を必要としていないし、都合の良いときだけ自分を子供と称しているだけだ。

そのようなクズは。

わたしのもっとも嫌悪する所だ。

銀河連邦政府が怒るのも、似た理由では無いのか。

身内には人間の理論を適用するくせに。

身内以外には獣の理論で接する。

弱者救済をと、身内相手には叫びながら。

実際に他の弱者には、弱肉強食を叫んで、暴虐を振るう事を辞さない。人類が文明レベルで昔から繰り返してきた愚行だ。

実際問題、こういう箍が外れた下郎を見ると。

わたしは、宇宙人達が地球人を、まだ宇宙に出るべきでは無いと判断するのもよく分かるし。

意見に賛同も出来る。

だけれど、植民地化されるのは絶対に嫌だし。

許すわけにもいかない。

いずれにしても、このゲス野郎をぶっ潰す。

今は最大速度で、それを為す。

気配を察知。

地下か。

床を蹴り砕いて、一気に崩落させる。

きゃっきゃっと黄色い声を上げながら、飛び出してくるバラッドクッキー。

このMHCが、まともな精神など持ち合わせていないことを、よく示していた。

「さすがだねえ! 良く僕の居場所が分かったねえ!」

「随分と余裕だな」

「そりゃあそうだよ。 だって僕、自分で死ぬのは決めるもん」

「!?」

黄色い笑い声を上げながら。

どこからともなく取り出したクッキーの剣を、自らに突き立てるバラッドクッキー。しかもその剣は、チェーンソーのように、刀身が回転しているのだ。

凄まじい鮮血が噴き出す。

黄色い笑い声も、ますます高くなった。

更に、力をこめたバラッドクッキーは、自分を下から上に、引き裂いていく。腹に刺した剣を、喉に向けて、引っ張り上げていくのだ。

その間、凄まじい笑い声が絶えない。

わたしは、あまりの光景に、愕然としていた。

やがて、笑いながらバラッドクッキーは、自分の頭を左右に両断。

それでもなお動きながら。

心臓に、剣を突き立てていた。

能力で作り上げた剣が、完全に停止するまで。上半身が左右に真っ二つになったバラッドクッキーは、笑い続けていた。

わたしは、その凄まじい有様を見て。

しばし、身動きが取れなかった。

「どうだい? 僕の死に様、見てくれたかな?」

声が響く。

どうやら、あらかじめ録音していたらしい。

此奴。

異常にもほどがある。

この世界は元から狂ってしまっている。世界そのものが、常識のレベルから狂ってしまっているのだ。

だから、イカレた奴は幾らでも見てきた。

だが、これは。

「僕は君に殺されるのはいやだったし、逃げ切る自信もなかったからね。 でも、君達の理屈で殺されるのはもっといやだったから。 自分で死ぬ事にしたんだ!」

その声は、心底嬉しそうで。

斬新すぎる割腹自殺を遂げた異常者が。

自分の素敵な芸を周囲に見せて、本当に喜んでいるのがよく分かる。

多分この声を録音するとき。

バラッドクッキーは、心底からの笑顔を浮かべていたことだろう。

それこそ、古い時代の、少女向けの漫画に出てくるような、ヒロインが浮かべているような、である。

部屋にたくさんのイヌが飛び込んできた。

それはわたしを完全に無視して。

凄惨なバラッドクッキーのしがいに飛びつくと、貪りくい始める。

「死体だって綺麗な状態じゃ残してやらない。 その僕の可愛い飼い犬たちが、全部処理してくれるからね。 先に暗示を与えておいたんだよ! 凄いだろう?」

「ああ、別の意味でな」

「この犬たちも、みんな遅効性の毒を摂取している! みーんな僕と同じ天国に行くためにね! あは、あふふ、ぎゃひひゃははははひひひふへへははへへへははははははは!」

もはや聞くに堪えない嬌笑。

わたしは、大きく嘆息すると。

手配書のバラッドクッキーを破り捨てた。

すぐに渡されている無線で、オリジンズ本部に連絡を入れる。

「バラッドクッキー無力化。 サイドキック部隊は投降」

「早かったね」

「雲雀か」

どうやら、通信を受けているのは雲雀らしい。

PTSDを克服するまで、しばらく裏方に廻るつもりなのだろう。まあ、賢明な判断だろう。

状況を説明すると。

通信の向こうでも、雲雀は苦笑いしていた。

「そりゃまた、武士もびっくりのハラキリだわ」

「異常者が自己満足の死を遂げただけだ。 今まで万を超える死を見てきたわたしだし、この程度ではなんともおもわねーよ」

「そう。 ならよかった」

次の奴を潰しに行くと告げて。

通信を切る。

舌打ち。

キャンキャンと、犬たちが悲鳴を上げている。

もう助からないだろう。

元々遅効性の毒を与えられていたというのだ。かわいがるというのも、面白おかしく死ぬのを見る為という。倒錯した理由から。

完全にいかれているMHCの。

自己満足の死に巻き込まれたのだから、たまったものではなかっただろう。

サイドキック部隊が集まって来ていた。

市民もいる。

だから、告げる。

「バラッドクッキーは死んだ! 逃げ切れないと悟って、自分から割腹自殺した! この地区は、ザ・パワーが直接統治することになる! それまで、代理のヒーローが来るから、指示に従うように!」

そのザ・パワーも。

狂い始めている。

とにかく、今わたしがするべきことは。

状況を可能な限り流血せず治めること。

ヘリの元へ。

無事だったヘリに乗り込むと、次のリストに載っているクズヒーローの所へ向かうように指示。

簡単なAIを搭載しているヘリは、勝手に動き始めた。

胸くそが悪い。

あんな異常者の自己満足につきあわされるなんて。だけれども、奴は自分の理屈で死にたいと言った。

異常者だけれど。

プライドだけは持ち合わせていた。

そして、そのプライドに他人を巻き込みはしたけれど。

自分自身で、手を下しもした。

それをわたしは、止められなかった。

ぐっと拳を握り混む。

一瞬だけ。異常者の中に、光を見た気がしたのだ。

わたしは。

あの時。

傍観者になってしまった。

自分自身の意思で。

これではいけない。

師匠が見たら、なんというだろう。

相手を尊重するのは大事だ。だが、相手は、まともな精神状態じゃなかった。それなのに、わたしは。

判断を誤ったのかも知れない。

畜生。

呟く。

あの程度の凄惨な死なら、今まで嫌と言うほどみてきた。それについては、どうとも思わない。

だけれども。

今更失敗は、取り返しがつかなかった。

 

3,埋め火が掘り起こされ

 

オリジンズ本部の周囲に、幾つかの氷柱がある。

それは錐状に尖っていて。

攻め寄せた、「良識派」のヒーロー共が、モズのはやにえになっていた。

いうまでもない。

プライムフリーズの仕業だ。

ザ・パワーから指示されている。

オリジンズ本部に攻めこんでくる阿呆がいたら、その場でブチ殺して構わないと。プライムフリーズとしても、容赦をするつもりは無いのだろう。問答無用でブチ殺して廻っていた。

既に十五人がああやってモズのはやにえになって、見せしめになり。腐臭を放ちながら、蠅と鴉の餌と化し。

それを見た他の生き残りは。

恐怖に二の足を踏んでいる。

恐怖政治だな。

私はそう思ったけれど。

今までヒーローがやってきた事と何ら変わりが無い。

いや、政治であるだけまだマシかも知れない。

ヒーロー達は。

市民相手に。

政治さえしなかった。

奴隷の地位が著しく低かった古代社会でも、此処までひどい国家は存在しなかっただろうというのが、誰もの統一された意見だけれど。

こうして決壊してみると。それが本当だったのだとよく分かる。この世界の常識は、ついにキレたザ・パワーによって壊されつつあるけれど。

それがまず恐怖によるのは。

仕方が無い事だろう。

私は良い医療能力持ちのヒーローに見てもらっているけれど。PTSDがどうにもなかなか克服できない。

体の傷は回復がむしろ早いのだけれど。

ミフネの攻撃が。

あの刀が。

どうしても、目の奧に焼き付いているのだ。

時々、フラッシュバックする。

重要臓器を下半身に移していたとは言え、首を刎ねられた瞬間の事は、どうしても忘れられない。

恐怖とともに蘇る記憶は。

私から戦う力を伸ばすことを、拒否する様だった。

だけれど、やらなければならない。

テンペストは力押ししか出来ないし。

ミラーミラーはまだ信用できない。

あいつが得体が知れない黒幕の紐付きでは無いと、どうして断言できようか。実力もテンペストと同格という、非常に強いヒーローだ。もしも奇襲を受けると、プライムフリーズでも危ないかも知れない。

仲間は多くが死んだ。

今はプライムフリーズの仲間と言う事で、オリジンズ本部にいるけれど。

ここに来る事が出来た旧知は殆どいない。

ザ・パワーのシンパだった何人かのヒーローがオリジンズ本部に来ていて、修行を見てくれるけれど。

それは豹変したザ・パワーが怖いからだと、私は見抜いていた。

とにかく機嫌を伺いたいのだ。

そうしないと、殺されるかも知れない。

実際一番のシンパとして知られていたグイパーラは、投獄されて今では陽の光を見られない状況だという。

いつそうなってもおかしくない。

シンパ達でさえ、そう考えているのだろう。

私も中堅所くらいまで強くはなった。

逆に言うと、中堅所程度の実力しかない。

ミフネの桁外れの戦力を見た後だと、どうしても実力の足りなさを実感してしまう。勿論、私の本領は隠密と諜報だけれど。

それでも、どうしても、もっと強くなりたいのだ。

訓練を受けて。

体を動かして。

異形化の速度と展開力を上げる。

隠密性も。

前、ザ・パワーに即座に見抜かれたが、あれではだめだ。相手がザ・パワーでも気付かれないくらいにならないと。

ただでさえ、今地球が銀河連邦の植民地にいつされてもおかしくない状況なのである。私に出来る事は、可能な限りやっておきたい。

激しく訓練をした後。

トレーニングルームを出る。

呆れた話だが。

このトレーニングルーム、ザ・パワーしかほぼ使っていなかったそうである。他のオリジンズが如何にさぼっていたか、それだけでもよく分かる。

外に出ると。

フードの影が来る。

プライムフリーズがザ・パワーと合流したことで、銀河連邦側の外交を担当している地球の発音でクラーフ氏とのやりとりが円滑になったと言う。

もっとも、地球は絶賛大混乱中だし。

クラーフ氏も、二ヶ月という期限を取り下げる気は全く無い様子だ。

それを考えると、状況は厳しい。

「どうだ、手応えはあるかい?」

「まあまあ。 テンペストと手合わせできればいいのだけれど」

「あの子は、今最後の壁と戦ってるところだよ」

「?」

テンペストは、今。

リストにある悪徳ヒーローを、片っ端から潰しているところだけれど。殆ど休まず、連続して戦い続けているという。

自分を極限まで追い込むことで。

壁を越えたいのだという。

なるほど。

確かに、今オリジンズ級と言っても、ミフネのような規格外もいる。それに、黒幕が何者か分からないし、その戦力も知れない。

どれだけ鍛えても、安心は出来ないのだろう。

顎をしゃくられたので、出向く。

辿り着いたのは、貨物エレベーター。

此処に時々グイパーラが来ていたのだという。

「今解析班が調べているのだけれど、どうにも妙でね」

「どういうことで?」

「埃が出なさすぎる」

こんな貨物エレベーターを、どうしてグイパーラが利用するのか。

ザ・パワーのシンパという政治的地位を利用していたとは言え、一応オリジンズだった男だ。

能力はくわしくは分からないけれど、空を飛ぶ所を見ていた人間も多い。エレベーターなど使う意味もない。

だけれど、このエレベーター。

調べれば調べるほど、何も出ないのだという。

それが逆に怪しいと、フードの陰は言うのだった。

石塚が来る。

頭を横に振った。

「解析班は白だと言ってる」

その頭も真っ白だ。

ここのところ心労が続いたし、仕方が無い。やせ衰えてしまってもいる。衰えた石塚に対して、パーカッションはやっと安心できる場所に来たからか、お菓子をもりもり食べてつやつやしている。二人は色々と対照的だった。

パーカッションも、現在のヒーローの残虐性についていけなくなり、ドロップアウトした人間だ。

本来は、彼女のように。

市民と共に生きることを、ヒーローが選ぶべきだった。

実際、今も、石塚が連れて来たチームと、ザ・パワーの配下達は対立していて、仕事も上手く行っていないと言う。

まあ、当然だろう。

今まで市民は、生きた貨幣扱い。

世界の殆どでは。

今でも、それに変わりは無いのだから。

「雲雀、調べてくれるか」

疲れきった様子の石塚に言われる。

頷くと、私は異形化。服をわざわざ脱がなくても。服を破かずに異形化出来るようになってきた。

これはコントロールが出来るようになってきたからだ。

辺りをまずは丁寧に調べていく。

グイパーラのデータを貰う。

確かに来ていた形跡がある。それも、時々、エレベーターに乗って何かしていた様子だ。痕跡が残っている。

だけれど、それだけ。

電子回路を解析するヒーローが、エレベーターを徹底的に調べたけれど、何も出てこなかったと言うほどだ。

私はエレベーターの床を酸で溶かすと。

シャフトを降り始める。

エレベーターの外面を、調べるためだ。

真っ暗だけれど。

気を利かせたジャスミンが、カンテラをロープにくくりつけて、降ろしてくれた。これで周囲を確認しやすい。

ゆっくり降りていく。

まあ今の体なら。落ちても平気だけれど。

これでも中堅の戦闘タイプヒーローと戦えるくらいまでは強くなったのだから。

まずは、一番下まで。

降りきってから周囲を確認。

壁を破ってみると。

オリジンズ本部一階の、荷物搬入口に出た。

時々大型機器を運び込むために使っていたものだ。当然のことながら、怪しいものは何一つない。

だけれども。

それが逆に怪しい。

何より怪しいのは。

此処からグイパーラが出た形跡が無い、という事だ。

つまり、グイパーラはエレベーターに乗ってから何かして。そのまま、同じ所から出て行っている、という事である。

何かある。

壁に沿って調べていくけれど。

おかしな所は見当たらない。

一旦上まで戻ると、人間形態に戻る。服を着直しながら、私は状況を説明。調査班に、オリジンズ本部ビルの見取り図を要求。

怪しいところがあれば。見て気付けるはずだ。

だけれども、そもそもこのビルそのものが、桁外れに大きい。小さな山ほどもある建物なのである。

図面なんて、誰も確認できる訳がない。

だから、私は提案。

「人海戦術で。 各階の、このエレベーターシャフト近辺で、怪しい部屋が無いか調べるべき」

「ふむ……確かに気になるな」

石塚が腕組み。

調べて見ると、グイパーラは、ザ・パワーが一番孤立していたタイミングを見計らって接近した節がある。

無能を装っていたが。

実際には相当なくせ者だったのではあるまいか。

まさかザ・パワーが彼処までの暴走をすることは予期できなかった様だけれど。というか、逆に彼処までの暴走をすると予期できたら、それは何というか、もう人間では無くて神とかそういう存在だろう。

いずれにしても、グイパーラは油断できない相手だ。

徹底的に調べる。

 

時間がない。

一日掛けて、人海戦術で地図を精査。

怪しい地点を片っ端から調べて見るけれど、単なる倉庫だったり、デッドスペースだったり。

何かしらの能力が使われている形跡もない。

流石にコレは困った。

私も、エレベーターのシャフト側から調べて見るけれど。壁を幾つか抜いてはみたが、何処も部屋や廊下に出るばかり。

ひょっとすると、何か見落としをしているのでは無いのか。

そう思って、エレベーターの天井を抜いても見たけれど。

普通に屋上に出るばかりだった。

グイパーラを拷問しに行ったプライムフリーズだけれど。

一目見ただけで戻ってきた。

「あれはわしでも手に余る」

「グイパーラの実力はオリジンズでも底辺だと聞いていましたけれど」

「違う。 あれは盆暗を装った狂信者だ。 わしはその手の輩を何度も見てきたから、一目で分かった。 多分自白剤も通じない。 最初からザ・パワーでは無く、誰か別の存在に忠誠を誓っていたのだろう」

「厄介ですね……」

プライムフリーズは、エレベーターの床に私が開けた穴を一瞥。

下に向けて、冷気を放つ。

そして、シャフト全域を冷気で探り始める。

しかし、彼女でさえ。

首を横に振る。

「これは、セキュリティがあるとしたら、相当高次元な設計だ。 恐らくは疑われることさえ想定していると見て良い」

「しかし、此処は怪しいです」

「怪しいも何も完全にクロだ。 お前の報告書を見たが、此処に何かあるのは確実と見て良いだろうな。 ザ・ヒーローめ、わしにさえ隠し事をしていたとは聞いているが、本当に秘密を分散してくれたな」

腕組みして、大きく舌打ちするプライムフリーズ。

プライムフリーズは言う。

晩年のザ・ヒーローは猜疑心の塊で、プライムフリーズに後事を託したのも他に人がいなかったから、というのが大きいという。

まあヒーロー社会の腐敗が、プライムフリーズが後事を託された頃には洒落にならない状況になっていたのも事実だ。猜疑心をため込んでいたのも当然だろう。こればかりは、プライムフリーズもザ・ヒーローを責められないと、嘆く。

実際後事を託されても。

どうにも出来なかったのだから。

ザ・ヒーローには申し訳なくも思っているのだろう。

「他に後継者がいた可能性は」

「ない」

「断言しますね」

「断言できるからだ。 彼奴はもう初代オリジンズであるわしさえ信じ切っていなかったんだぞ。 他の奴なんか信じるか」

だとすると、妙だ。どうしてこのような秘密が残っていて、グイパーラが関わっている。

それを指摘すると。

不意にプライムフリーズの顔が曇る。

「ザ・ヒーローには子息もいなかった。 いたにはいたが、わしが目を離した隙に、皆殺しにされてしまった」

「……!」

「独身で知られる古い時代の宗教の開祖が、実際は妻帯して子供もいたという都市伝説がある。 その宗教では純潔を貴んだため、その事実は抹殺されたという説があってな。 ザ・ヒーローも神格化されていったが、その過程で同じ事を考えた奴がいたのだろうな」

「……となると、直接的な子孫のケースは無しですか」

或いは。

クローンかも知れない。

しかし、ザ・ヒーローのクローンはタブーとされていたと、プライムフリーズは言う。何よりヒーロー能力が宿らないし、そもそもが神格化する場合には不適切だから、というのが理由だ。

コレも納得できる。

少し考え込んだ後。

私はいう。

「プライムフリーズと同じケースは?」

「意味が分からん」

「死を偽装して、地下に潜った可能性は」

「!」

弾かれたように、プライムフリーズが顔を上げる。

スーパーアンチエイジング技術で若返った彼女だ。ザ・ヒーローが、同じ事をしていたとしたら。

可能性は否定出来ない。

「当時にはもうクローン技術はあったはず。 クローンを活用する事がタブーでも、死体を偽装することは不可能ではなかったのでは」

「盲点だった。 ザ・ヒーローの周囲に、わしも常に張り付いていたわけではなかったからな。 まさか本人が二百年生き続けていて、そしてこの世界を銀河連邦の植民地化させてしまおうと目論んでいるなんて事は、思いつかん」

「そこまで私は考えたわけではなかったのですけど、確かにその可能性もあるんですね……」

ぞくりとした。

スーパーアンチエイジングは、今まで人類が造り出してきた同様の技術とはまるで桁が異なる。

脳までも若返らせるのだ。

具体的には、記憶そのものは抽出し。

若返った脳に再プリントする、という過程を経て。完全に若返った肉体を手に入れるのだそうである。

倫理的な問題なども昔はあったが。

そんなものは、ヒーロー社会が堕落するにつれて消し飛んだ。

ただし、これはオリジンズ上層にのみ伝わった技術だそうで。プライムフリーズは、封印される前に殆どをブラックボックス化。

現在は、此処までの完璧なアンチエイジングは不可能になっていると言う。

「雲雀」

「はい」

「エレベーターシャフトの地下をぶち抜いてみろ」

「一番基底を、ですか? 構造的にエレベーターが到達できるとは……」

其処で思い当たる。

そうか。

其処までエレベーターに乗って。其処から乗り換えた、と言う可能性もあるのか。盲点だった。

ザ・ヒーローが設計したのだとすれば。

こうするだろうと、プライムフリーズは苦々しく言う。

確かに、本人を知る彼女でないと、どうにもならないだろう。

すぐに異形化して降りる。

その途中で、テンペストから中間連絡があった。触手の一本で掴んでいるヒーロー専用の通信装置に状況が入る。

「五人目のクズヒーローを潰したところだ。 サイドキックはわたしが行くとみんな潰走するし、支援が現れる可能性もない。 ゲス野郎がこれ以上市民を苦しめないと思うと、多少は気も楽だ」

「五人立て続けで? 死ぬよ」

「まだいける。 それに、こうしないと、最後の壁が越えられない」

テンペストは、ようやく。

どうすれば、最後の壁を突破出来るのか、悟ったらしい。

やはりそれには、極限まで自分を追い込むことが必要なのだろう。フラフラになって、勝率を五割より下げて。それでもなお勝つ。

そうすることで、ようやく。

ザ・パワーが最悪の暴走をしたときに、止める力が手に入る。

「そっちは」

「今、とんでも無い話になってる」

「そうか。 もう五人ほど片付けたら、一度戻る」

「死なないでね」

雲雀にとって。

テンペストは複雑な思いのある相手だ。

同年代のヴィラン。それも似たような経緯で社会の常識に喧嘩を売り始めた。テンペストは力で。雲雀は知恵で。

テンペストがまっすぐな稲妻だとすると。

雲雀は邪道を極めたいにしえの闇。

何もかもが対照的な二人は。

やはり互いを意識し合うのも当然か。

エレベーターシャフトの最下部に到達。ミラーミラーが降りてきた。何をしに来たと警戒する雲雀だけれど。

細めのまま、彼女は胡散臭く笑う。

「大丈夫。 プライムフリーズが見ている状況で、貴方に危害を加えたりはしませんよ」

「不穏な言葉だね」

「ふふ、私口べたなんです。 言葉選びもちょっと苦手で」

まず、私が酸をぶちまけて、床を溶かしてみる。

しかし、びくともしない。

強化コンクリートで、しかも酸対策をしている。

まあ、これだけの巨大な建物の基盤なのだから当然だろう。相当に頑丈に作られているのは当たり前だ。

だが、それで思い当たる。

確かこのビル。

まだ地下がある。

となると、本当の基盤はもっと下だ。

頑強すぎる。

対消滅の能力を、ミラーミラーが展開。

その後、床に向けて、何か拳法の掌底らしい動きを叩き込む。

酸で脆くなっていた床が。

一気に崩落した。

それも正円に穴が出来ている。

思わず口笛を吹く。

中に踊り込んで、気付く。

やはり、扉になっている。それも、強烈に厳重な。複層構造で、様々なヒーローの能力を遮断する仕組みの様だ。

中に入ると、完全に別世界。

古くさい意匠と廊下。

そして奥に部屋。

プライムフリーズに、あったと告げる。

「よし、お前達は護衛だ。 調査班、いけ」

すぐに専門のチームが乗り込んで来た。

いささか疲れたが。

今判明した事が本当だったら。

テンペストはどんな顔をするだろう。

尊敬していたザ・パワーだけではなく。

自分にとっても神に等しかったザ・ヒーローが。地球を銀河連邦の植民地化しようとしている黒幕かもしれないと知ったら。

ちょっと意地が悪い笑みが浮かんだけれど。

同時に。

ザ・パワーみたいに壊れないと良いのだけれど、と。少しだけ心配した。

ミラーミラーは、そのばで悪さをするでも無く、一旦引き揚げて行く。調査チームが代わりに来て。

扉を破ると。

其処には端末があった。

「グイパーラ氏の痕跡があります!」

「調査開始!」

「……」

端末が爆発するようなことは無いけれど。

念入りにパスワードが仕掛けられている様子だ。

ネットセキュリティの概念が風化した現在、コレの突破には骨が折れる事だろう。何しろ、改ざんされまくったDBの復旧だって、大変だったのだから。

端末は一旦落として、ストレージをはずして持っていく調査チーム。

データを端末操作で消されたらたまらないから、というのが理由の一つだろう。此処はパーカッションの出番だ。

人間の記憶を記録ソフトに変えてHDDに移せるパーカッションだが。

実は同じ要領で、データを別のHDDにコピーも出来る。

つまり、最悪の場合に備えて、複製をしておく、という事だ。

「パスワード解除ツール、投入!」

「これは200年前に一般的だったOSだな。 パスワードの仕組みはそれほど難しくは無いが……」

「アカウントロックはかからないようですが、裏で何か動いている様子です!」

「一旦通信回線は切っておけ」

様々な会話が続く中。

二時間ほどで。

ついに認証突破。

専門家のチームが、端末を立ち上げたが。

驚くほど殺風景で、デスクトップ画面にも何も表示されていなかった。

通信履歴などを漁りはじめるが。

それもだめだ。

多分パスワード解析ツールが投入されたときに、消えたのだろう。だけれど、此方には、パーカッションがいる。

一度HDDは端末からストレージと一緒に外してある。

コピーデータを、よそから解析ツールで調べれば良い。

勿論此処の解析班でさえ使ったことが無いような骨董品のツールだけれど。

それでも、どうにかなるだろう。

さて、此処からだ。

本当に黒幕は、スーパーアンチエイジングを使ったザ・ヒーローなのか。もしそうなら、どうして此処まで複雑な仕掛けを仕込んだのか。

解析すれば、或いは。

手詰まりに思えるこの状況も。

打開できるかも知れない。

 

4、英雄の概念

 

最初にあったのは、憎しみだ。

適正があるとかで、底辺の労働者だったルカルフ=グラーネフは、米国の政府機関に連れて行かれた。

何だか知らないけれど、急に技術バブルが起きたとかで、各地で検体のバイトが急増していて。その金額も破格だった。

その一方で、良くない噂もたくさんあった。

検体のバイトに行った奴が帰ってこない。

或いは、あり得ない技術で作られたとしか思えない薬が、検体に投与されていて。その結果異形になり果てている。

ルカルフは、それでも。

バイトに向かった。

当時の世界情勢は地獄の一言。大国列強がにらみ合い、各地で紛争が激化して、一部では核も用いられていた。

小国からの通信が途絶したとか言うニュースもあった。

何処かの列強が核か、それ以上の兵器を使っているという噂もあった。

そんな中。

どこからか連れてこられたらしい人々と一緒に。

ルカルフは手術を受けた。

酷い痛みだった。

金を払うのだから我慢しろ。

そう、人間を見る目では無い、機械的な動作で、医師は処置を施していった。数日は熱が出て、うなされた。

そして、隣のベッドに寝ていた奴が死んで、運ばれて行くのをみた。

此処は地獄だ。

仕事なんてどこにもなく。

あったところで、月三百時間とか四百時間とか働かされるのは当たり前。

昔、日本で噂になっていた地獄労働は。

今や世界中に拡散し。

紛争も手が付けられない状況になり。

政府でさえ金が無く。

ただひたすらに、仁義無き殺し合いが、世界中で行われていた。

気付いたのは。薬を投入されて、手術を受けてから、一週間ほどたった後のこと。

気付くと、ルカルフは。

スーパーパワーに目覚めていた。

 

目が覚める。

ザ・ヒーローは、あの時。

ルカルフではなくなった。

周囲の、同じように生き延びた者達を先導して、病院を脱出。警備の兵士達をゴミのように蹴散らして。

コンクリの壁を素手で素足で砕いて。

そして、逃げ出した。

みな、体が異形になってしまっていたり。

おぞましい能力が手に入ってしまっていたりした。

各地に似たような研究所がある事も。締め上げた研究員から聞いていた。

助けなければならない。

ザ・ヒーローはそれを誓い。

虐げられた者達を助けるために、動き始めた。

そうこうするうちに。

宇宙から、激高した宇宙人達が攻めてきた。

彼らは、まず最初に、地球で行われたあまりにも罪深き事を、上空から放送。人間の言葉に翻訳されたそれは、各国の主要言語で、二時間ほど掛けて放送された。

勿論箝口令を敷こうとした各国政府だが。

宇宙人の兵器が実際に攻めこんでくると、それどころではなくなった。放送の中には、無条件降伏を呼びかけるものもあったし。

非道な手段で略奪した技術を封印することと。殺害した平和の使者の亡骸を返還するように促すもの。それらを粘り強く交渉したのに、あろうことか水爆つきのICBMを返礼として寄越したこともあった。

ああ、これは地球側が悪いな。

そうザ・ヒーローが思ううちに。

宇宙人達の兵器が姿を見せた。

そして、あの世界最強の米軍が。

一日で壊滅した。

冗談のような結末だった。単独で世界全部を相手にしても勝てると言われた米軍が、一日で、である。

ロシア、中国、EU。

列強が次々と、一日、或いは半日もかからず軍を叩き潰されていき。

更に、宇宙開発関連の開発センターを、宇宙人達は容赦なく攻撃して、粉砕していった。

降伏を呼びかける宇宙人に従おうとする市民もいたけれど。

軍の生き残りはそれを許さず。

各地でゲリラ戦を展開することを指示。

多くの市民を無理矢理巻き添えにしながら、宇宙人に対して、今まで見たことも無い武器で応戦していた。

それだけで分かった。

技術を略奪して。

それを自分たちに試していたのだと。

思わず雄叫びを上げていた。

これが人間か。

こんな事をするのが。

人間なのか。

涙が流れた。

これが、様々な作品で、ヒューマニズムを持ち上げられ。人間賛歌が作り上げられた生物の実態だ。

だけれども。

それでも、ザ・ヒーローは、戦う事を選んだ。

妻は人間だ。

このままだと死ぬ。

検体になって、金を稼ごうと思ったのも。せめて妻には良い生活をさせたいと思ったから。

必死に周囲を説得して。

ようやく仲間を集めて。

そして宇宙人達に反撃を開始したときには。

もはや各国の政府は崩壊。

軍も、生き延びてはいなかった。

懐かしい。

あの時、ザ・ヒーローは、最初の絶望から立ち直り。そして信頼出来る仲間達を得て、オリジンズを結成。

オリジンズ達と、他のヒーロー達も交えて。

明らかにやり過ぎだと思える宇宙人達と戦った。更には家族を守るために、戦う必要もあった。

そして、どうにか条約を結び。

その結果は。どうだ。

なんということだ。

宇宙人達は正しかった。

たったの数世代で。スーパーパワーに驕ったヒーロー達は、極限まで腐敗。ザ・ヒーローが叫ぶ、弱きを助け強きを挫くという思想そのものが古いとされ。市民は生きた貨幣へと変えられ。インフラはヒーローが独占し。

そして仲間達も、失望しながら次々に世を去って行った。

妻も暗殺された。

神格化されたヒーローであるザ・パワーに。

市民の妻がいるなどと言うことは、許されない。一部の阿呆が、そう叫んだのだ。そして暗殺を実施した。

プライムフリーズにも言っていないが。

妻は目も当てられない悲惨な姿になって息を引き取っていた。裸にされたその体には冒涜の文字が書き込まれ。

神を誘惑した売女の末路、などと書かれた杭が、口から突き刺され、頭を貫通して、壁に刺さっていた。

苦しかっただろう。

悲しかっただろう。

だから、ザ・ヒーローは決めた。

最後に生き延びていたプライムフリーズに後事を託すと同時に。

クローンを使って死を偽装。

自身もスーパーアンチエイジングを用いて、地下に潜った。

そして地下に潜った後は。

糸を張り巡らせるように。

各地に人脈を構成。

コレは使えると思った相手には、実際に姿を見せて、引き込み。復讐に凝り固まっている相手には。それを指嗾して、走狗へ変えていった。

ミフネは前者。

アンデッドは後者。

そして、上手く行くようになると。

グイパーラや、他のオリジンズのように。

直接会わずとも部下に出来るようになっていった。

そして、今。

作戦は順調に動いている。

最高の予想は、300人の良識派ヒーローとザ・パワーが戦いはじめた時点で、キレた銀河連邦が介入を開始する筈だったが。

まあそれがなくとも、二ヶ月という短期間で、完全に堕落した8000人の戦闘タイプヒーローを矯正など出来るはずがない。

まだ幾つも切り札は隠してある。

若き英雄テンペスト。

昔の自分を思わせる、まっすぐな稲妻が。今、安楽椅子に座っているザ・ヒーローの前に置かれたモニタに映っている。

彼女がぐちゃぐちゃに粉砕しているのは、クズヒーローの一人。悲鳴を上げていたクズは、やがて命があるだけの肉塊になった。

此奴は、欲しい。

ミフネ以上の逸材になる。

そして、世界に対する復讐も。此奴を使えば、更に完璧に、なおかつスマートに行う事が出来るだろう。

何もかもを裏切った地球人類。

あの時、本気でザ・ヒーローは、地球人類の未来を信じた。

其処まで愚かな生物では無いと思っていた。

希望。願い。託した未来。

その全てを蹂躙された今。

ザ・ヒーローに残っているのは。

復讐だけだった。

 

(続)