赤の編目

 

序、握手

 

予想以上にひどい状況の中、わたしはクリムゾンのメンバーと合流。各地のアジトで医薬品などを合流しながら、一旦ヴィラン討伐部隊と距離を取ることにしたクリムゾンのメンバーに、頼むからしばらく側にいて欲しいと懇願された。

正直困る。

プライムフリーズとも話して決めた。

同盟は組むが、それ以上の事はしない。

そもそも、最終的な目的は同じになる筈なのだ。

宇宙人の植民地に地球が墜ちる事を避け。

そして、圧政から市民を救う。

ヒーローを皆殺しにするというプライムフリーズだけれど。わたしはそれを現実的ではないと思うし。

何より、相手は実際に見てから決めるべきだ。

ヒーローだからとレッテルを貼るのは好ましくない。

だからわたしは実際にゲス野郎を直接見て、その所行を確かめてから、ぶっ潰しているわけだけれど。

だけれど、今は正直、個人のエゴを前に出すべきではないのかもしれない。

フードの影は、ダメージも回復して、人の姿に戻っているけれど。

彼女から、銀河連邦の外交官に、直接話をつけることは難しいらしい。

というのも、既に何度か話したのだが。

既に銀河連邦は、オリジンズと交渉を開始している。

オリジンズ側は動きが鈍くて、外交官は相当に苛立っているようだけれど。それでも、ザ・パワーは誠実に交渉をしようと努力しているようで。その様子を見守りたいという意向のようだ。

つまり、敵対勢力と同時に交渉するのは不義理に当たる、というわけらしい。

「やっぱり誠実な奴らだな」

「だから地球人とは相容れないし、宇宙にも出したくないんだよ」

プライムフリーズが吐き捨てる。

彼女の負傷はまだ癒えきっていない。

それだけ、ヴィラン討伐部隊との戦闘が激烈だったという事だ。というか、ミフネから受けた傷が中々回復しないらしい。

或いは、それがミフネの能力なのかも知れない。

能力は磨けば、付加価値を色々つけられる。

地下道を歩きながら、わたしはロープで、ガス欠になったバギーを引きずる。バギーにはそりが着いていて。負傷者が乗っていた。

せめて回復系の能力を持つヒーローかヴィランがいれば話は違うのだけれど。

回復系能力者はレア中のレアだ。

ただし、存在はしている。

だからわたしとしても、敵の復活を防ぐためにも、能力は消し去らなければならないわけで。

攻撃は過剰になる。

こればかりは、どうしようもない。

仕方が無い事なのだ。

「もう少しで、バラマイタの支配地区につく」

「一旦其処で別れるか」

「……」

プライムフリーズは無言で頷く。

彼女はバギーの下に、氷で路を造り続けてくれていて。わたしは簡単に引くことが出来ていた。

ちなみに雲雀はと言うと、殿軍だ。

負傷者が多い上に、手練れが殆どこの間の戦いで死んだから。雲雀自身が、休憩時以外はずっと異形化して、後方を見張っていないといけない。

それほどクリムゾンの状況は悪い。

「時に、仲間になってくれそうなヴィランやヒーローに宛てはあるのか」

「あるにはあるが、どいつもこいつも碌な連中じゃあ無い」

「……だろうな」

ヴィランとは。

世界の秩序に反するもの。

わたしもそうだけれど。

実際問題、この腐った世界に対抗して、とヒーローの座を捨てたものはごくごくわずかだ。

大半はヒーローの中でもどうしようもないろくでなしとして扱われていた連中や。

ゲス以下のゲス。

どうしても戦闘本能を抑えきれず、他のヒーローを襲ったり。

或いはヒーロー相手に犯罪行為。例えば違法薬物の販売など、をしたり。

そういった連中がヴィランと呼ばれる。

市民出身のヴィランもいるにはいるが、何しろ戦闘力の問題もあって、殆ど相手にされない。

アンデッドの麾下に有名なのがいるが。

あれは、あくまで戦闘タイプでは無いヒーローが落ちた例だ。

バラマイタの支配地区は、それなりに栄えていて、人も多い。

この間、パーカッションが取り出した映像。

あれを調べる必要もある。

何より、わたしが次に潰そうと考えているゲス野郎が、この近くにいる。そういうこともあって、此処まで行動を共にした。

同盟を組んだ以上、ある程度共同戦線は張るが。

プライムフリーズのように、問答無用の殺しは今後もする気は無い。

ヒーローを皆殺しという考えにも反対だ。

出来れば宇宙人とコンタクトを取りたいが。

フードの影は、首を縦に振らないだろう。

ザ・パワーは。

この無意味な状況を、どう思っているのだろう。

ザ・パワーが協力してくれても、正直この腐りきった世界を改革できるとは、わたしにはとても思えない。

例えば、プライムフリーズがオリジンズに復帰して。

まあわたしなりミフネなりがオリジンズに入って。ザ・パワーを補佐したとする。多分それでも無理だろうと、即座に回答できてしまう。

それが現実だ。

プライムフリーズは過激だけれど。

現実を変えるには、生半可な手段ではだめだ。

それはわたしにも分かっている。

だから救えない。

アジトに到着。

中はひんやりとしていて。

ただし、休憩するスペースはある。事前に合流していた者も、三人だけいた。

クリムゾンはしばらく此処に潜伏して、メンバーを増やすつもりだという。不満を持つ市民は幾らでもいるし、サイドキック崩れで地下に潜伏した人間もいる。

少し前のアンデッドの麾下組織による掃討で、その大半が殺されたが。

今でも、個人規模では生き延びている。

それらを仲間に引き入れ。

訓練をして性根をたたき直して。

手足として使えるようにする。

それがプライムフリーズの考えのようだ。

まあ、あまりわたしとしてはコメントしたくない。

前考え無しに人員を増やして、酷い目にあった経験があるのだろうに。何かそれを防ぐ秘策があるのだろうか。

まあそれはともかくとして。

私は、敵を潰しに行くだけだ。

わたし自身も。

傷はまだ治りきっていない。

至近にライトマンがいる状態で戦闘したりと、かなりの極限状態が続いてもいるけれど。だが逆に、それが故に、一戦ごとに技のさえが増している気もする。

あと少しだ。

もう少しで何かが掴めそうなのである。

師匠が側にいれば、適切なアドバイスをくれたのだろうけれど。

或いは、オリジンズが抑えているDBを閲覧できれば。何か適切なデータが手にはいったのだろうけれど。

今は、それも望めない。

アジトを整備していく様子を横目に。

最後尾にいる雲雀が見えてくると。私はプライムフリーズに言う。

「数日は留守にする」

「キルライネンを潰しにいくつもりか」

「その通りだ」

キルライネン。

市民を殺しては、その生き血で化粧している異常者だ。

タチが悪いことに、ヒーローとしては戦闘タイプで。それが被害を増やすことにつながっている。

夜な夜な彼方此方を徘徊しては。

気に入った市民を拉致。

屋敷でミキサーに掛けて肉を絞り、血液を取り出すと。

それを加工して化粧品にしているという。

救いがたい外道だが。

一日辺りの被害が小さいこともあって、今まで後回しにしていた。

今までわたしがぶっ潰してきた連中は、市民を害している数の順だ。その中で、クロコダイルビルドだけを潰せていないのが心苦しいが。

そればかりは仕方が無い。

クロコダイルビルドの支配地区は非常に発達してきていて。

市民の生活も格段に向上している。

これに水はさせない。

クロコダイルビルドにはいずれ仕置きをしなければならないだろうが。

それは後だ。

話を終えると、雲雀が異形化を解いて、裸にコートを羽織った。

プライムフリーズが言う。

「雲雀」

「はい。 何か」

「バラマイタの周辺を探れ。 お前も見ただろうが、あの異常な映像の正体を突き止めておく必要がある。 ザ・アイもそうだが、どうにもこの二人がきな臭いように思えてならない」

「調べろと言われればそうしますが、相手はオリジンズの一角。 特にバラマイタは、苦心して力を伸ばした実力派です。 実力はライトマンに迫るとも上回るとも言われていて、相当に手強いかと」

そんな事は分かっている。

しらけた目でプライムフリーズが返すと。

雲雀は大きく嘆息した。

「分かりました。 ただし、人員のスカウトには回れませんから、それは別のメンバーにやってもらってください」

「石塚」

「分かっています」

呼ばれて、石塚が来たが。

その老い衰えには、私も思わず目を背けたくなる。

ここのところの激しい心労に加えて。

被弾して負傷。

更には、強行軍による苦闘。

わずかの間に、十歳は老け込んだように見えた。

髪もかなり白くなっている。

前は、それなりに精力的な人物だったのだけれど。

今では、フードの影とプライムフリーズの間で板挟みになり、苦労で胃が溶けてしまったかのようだ。

「パーカッションと共同して、相手を洗いながら面接しろ」

「はい」

「それでは、後は見張っておく。 此処での態勢を整えておけ」

プライムフリーズが外で見張りに立つ。

雲雀はまた異形化すると、無数の触手をてきぱきと動かして、アジトの整備を始めた。たくさんの手に箒とかを持って、一気に掃除を進めていく手腕は流石だ。力の使い方を制御する意味もあるのだろう。

わたしもある程度力仕事を手伝った後。

アジトを離れる。

今、ヴィラン討伐部隊が動いているのは、此処から東に百キロ以上離れた地点だ。つまりその辺りに、アンデッドの麾下組織が潜んでいる、と判断しているのだろう。色々名状況証拠を手にしているか。それともしらみつぶしの結果なのかは分からないが。

つまり、ヴィラン討伐部隊は、しばらく遭遇しない。

他のヒーローやヴィランだったら、ザ・パワーでも来ない限り、プライムフリーズの敵ではない。

いずれにしても。

一息つけた、と言う奴だ。

地上に出る。

バラマイタも、市民を積極的に殺戮して敷いたげはしないけれど。人間扱いせず、苦しめていると言う点では同じだ。

街は広大なスラムと化していて。

たまにやっている店も、怯えながら、という風情である。

まともな経済活動が動いているのは、ザ・パワーの支配地や、そのシンパの支配地区くらい。

最近ではクロコダイルビルドの支配地区もそれに加わっているが。

アレのことは正直考えたくない。

今は兎も角。

街の中をふらつきながら、情報集めだ。

それに仲間に出来そうな奴を、探す目的もある。

子供が走ってきて、ぶつかっていく。

その時、財布をスられたのだが。

瞬時にスリ返した。

別に怒る気もしない。

こんな場所で暮らしている子供だ。生活が苦しくて、サイドキックくらいの裕福さに見えそうなわたしがいれば。財布くらいスってやろうと考えるのは、決して不思議な事ではないだろうから。

幾つかの廃ビルを廻る。

ここに来るのは初めてじゃあ無い。

以前作った人脈もある。

ビルの一つを覗くと。

見知った顔がいた。

髭だらけの老人である。

「テンペスト様……」

「情報が欲しい」

投げて渡すのは、サイドキック達に支給されているレーションだ。つい最近、ボールウェーをぶっ潰したときに、くすねてきた一部だ。

相変わらず味は最悪だが。

栄養だけは満点に近い代物である。

「バラマイタの動きがおかしいと聞いている。 何か聞いていないか」

「サイドキック達の中で、儂と通じている者がいますが。 若い男の市民を宮殿に連れ込んでは、ミイラのようになるまで精を吸い尽くしているとかいう噂があるようです」

「吸血鬼か。 いや、噂に聞くサキュバスか」

「そのようで」

呆れてものも言えない。

市民を貨幣扱いするヒーローだが。

現実問題として、子供はヒーローと作ろうが市民と作ろうが、ヒーローはまず生まれてこない。

これはプライムフリーズにも聞かされているが。

ヒーローは確率によって生まれてくる。そしてその確率を左右しているのは、世界に満ちている粒子。

だからヒーローの中には、市民に片っ端から種を仕込んだり。

逆に仕込ませたりして。

受精卵を大量に培養して、後継者になりそうなヒーローが出来ないか試している者がいると言う。

バラマイタはその一人。

アンチエイジング技術で、初老になった体を若返らせ。

性欲を満たしながら、自分の後継者になり得るヒーローが出来ないか、試行錯誤もしているのだろう。

涙ぐましい努力と言えるのだろうか。

いや、言えないだろう。

実際たった一日で、骨と皮だけにされて返されるというのである。

その後生きていけるとはとても思えない。

それに、実際には。

生きて帰れない者も珍しくないのではあるまいか。

ただ、これはあくまで噂だと、老人は念を押した。そのサイドキックはまだ若い人物で、それほどバラマイタ身辺に近づけているとは思えないとも。

「他には何か無いか」

「ザ・アイ様を時々見かけます」

「!」

「これもサイドキック達からの情報なのですが、ザ・アイ様が時々隠密でここに来られるそうです。 姿が姿なら不倫とか愛人関係を疑う所ですが、何しろあのお姿ですので、何かの悪巧みだろうという説がもっぱらです」

妙な符号だ。

誰かの首を刎ねるバラマイタの映像。

誰かを覗き込むザ・アイの映像。

オリジンズは、基本的に能力の詳細を、周囲に公開していない。まあライトマンのように分かり易いケースもあるが。

バラマイタやザ・アイは定説があるだけで。

詳細は分かっていないのが現実だ。

さて、どうするか。

一度戻って、雲雀に話をしておく。雲雀は頷くと、逆に聞き返してきた。

「その老人、ウチの組織に入って貰って良い?」

「本人に相談するんだな」

「……」

正直、それは本人の問題だ。

無理矢理組織に入れるようなら考えもあるが。雲雀としても、わたしとプライムフリーズの関係が蜜月とはほど遠い事は理解しているだろう。あまり今は、事を荒立てるような真似はしないはずだ。

そして、ようやくだ。

地下下水道を少し急ぎで行く。

キルライネンの支配地区は、此処から近いが。それでも、別のヒーローの支配地区をまたいだ先だ。

ライトマンは話によると、この間の無理がたたって収監されたらしいから、今回は出てこないだろうが。それさえもきな臭いのが事実だ。

どんな罠があるか分からないし。

わたしがいない隙をついて、誰かしらがクリムゾンに仕掛けるかも知れない。

何よりアンデッドの麾下組織だ。

早く逃げ延びている首脳部を捕まえないと。

何をしでかすか分からない。

ザ・パワーと直談判して。同盟を組めれば面白いのだけれど。

流石にそうも行かないだろう。

あれだけヒーローを潰してきたわたしだ。

立場的にも、ザ・パワーはわたしを許すわけにはいかないだろうし。わたしとしても、この世界の歪みをただせずにいる相手だ。

無抵抗でやられるつもりもない。

地上に出た。

そこそこ栄えている町だ。

此処が、キルライネンの支配地区である。

だけれど、人々の顔は暗い。

いつ吸血鬼が現れて、誰かをさらっていくか分からないからだ。しかもその吸血鬼は、単なる美容(主観)のために、人を殺しても、何とも思わないような奴なのだ。

見て回る。

やはり、キルライネンによる被害は本当らしい。

人々の顔は暗く。

彼方此方に、不自然な破壊跡があった。

次や奴の宮殿だ。

古い時代の洋館を思わせる宮殿は、兎に角時代がかっていて、いかめしすぎて逆にちょっと笑ってしまう。

庭もよく手入れされている様子だ。

さて、次は吸血鬼退治だ。

わたしは、出来るだけ手早く済ませようと。

狂ったヒーローの屋敷に、正面から乗り込むことにした。

 

1、手綱

 

ライトマンの収監後、状況が決定的に良くなったかと言えば、嘘だ。

DBの解析はまだまだ終わらないし。

特に条約の部分は、幾重にもダミーデータが上書きされていて、それらを取り除くのが本当に大変だった。

プライムフリーズと連絡が取れれば、或いはとも思うのだが。

あの厳しい性格のプライムフリーズが。

そのような泣き言を聞いて、助けてくれるとは思えない。

ましてや今のプライムフリーズは、極めて過激な思想に支配されてしまっている。ザ・パワーとしても、戦うのは心苦しいが。

立場的に、戦わざるを得ない。

銀河連邦の外交官は、連日朝八時半きっかりに連絡を取ってくる。

時計も恐らく非常に正確なものを使っているのだろう。

いつも寸分の狂いも無く。

時間がずれたかと思ったら。電子時計で確認したら、ずれていたのは手元の時計だった事も珍しくなかった。

「状況を知らせてくれるかね」

「現在鋭意努力中だ。 進展はあまりない」

「ライトマンを収監したようだが、それからも進展は無いのか」

「すまないが、その通りだ」

クラーフは呻く。

地球の権力構造の複雑さは、彼には煩わしいだけに思えるものらしい。いや、別に彼に限った話では無い。

ザ・パワーにだって、煩わしくて仕方が無い。

アンデッド麾下組織は、どうにか痕跡は見つけたが、まだ本人達を捕まえられていない。

また壊滅させたクリムゾンは、どうやらバラマイタの支配地区の地下に潜ったらしい事は分かっているのだが。

それ以上は、まだ何も出来ていなかった。

「既存の権力機構を全て解体するくらいの思い切った処置が必要だと私は思うのだが」

「その場合、どれほどの混乱が起きるか分からない」

「混乱するようなら、機械か鎮圧部隊を送り込むが」

「もう少し待って欲しい。 我が星の自治の問題なのだ。 出来るだけ、平和的に解決したい」

もう一つクラーフが呻く。

そろそろ堪忍袋の緒が、限界かも知れない。

クラーフは人類を絶滅させないとは言っている。

実際そのつもりだろう。

だけれど、植民地化された場合。

人類が再度立ち上がるのには、一体どれだけの時間が掛かるのか、分からない。ただでさえ、ヒーローが全てを独占してしまっている時代だ。

下手に壊すと。

人類は、原始時代に直行することになる。

先人達の苦労が、全て水の泡だ。

そして多数の人類は、先人の苦労などゴミとも思わない。

技術や社会の仕組みが。

どれだけの先人の苦労によって作り上げられたかなど、どうでもいいとしか思わないのが現実だ。

気がつけば、あっという間に。

人類は、原始時代に逆戻りしてしまうだろう。

クラーフとの通信を切る。

円卓には今、グイパーラしかいない。

他のメンバーは、ザ・パワーの親書を持って、順番にヒーローを廻って貰っているのだ。ただ、バラマイタだけは、本拠に戻って貰っている。

クリムゾンが潜伏しているのを、スネークアームと一緒にあぶり出して貰う必要があるからだ。

ただし交戦は避けろとも言ってある。

プライムフリーズとは和解が必要だ。

その後で、この未曾有の危機に対抗すべく、力を貸してもらいたいと、頼むしか無いだろう。

猫の手も借りたい状況なのだ。

戦力を共倒れにして削るわけにはいかないのである。

黙りこくっているグイパーラに、話を振る。

「如何なさいますか」

「テンペストの動きは予想できているか」

「恐らくは、キルライネンを潰しに行っているのかと思われます」

「キルライネンか……」

吸血鬼の異名を取る、狂気の悪徳ヒーローだ。

殺している人数はそれほど多くは無いが。

兎に角猟奇的で、精神が完全に歪んでしまっている。というよりも、壊れてねじれてしまっている。

理由はよく分からない。

生来的なものなのか。

それとも、後天的に目覚めたのか。

医師による診察も受けさせたのだけれど。

匙を投げられた。

それだけ重度の異常、ということだ。

キルライネンは、狂っている反面、強い。

自分を吸血鬼だと思っているようだけれど。

その思考に負けていない。

基本的に強力な怪物として描かれることが多い吸血鬼だが。キルライネンは、戦闘タイプヒーローの中でも上の下程度には入るヒーローだ。

重い腰を上げざるを得ないか。

「キルライネンを救援に行くのですか」

「いや、キルライネンを説得しに行く」

「話が通じる相手では無いと思いますが」

「それでも、だ」

収監して。様子を見たい。

或いは本人はヒスを起こすだろうが。

テンペストが迫っていると聞けば、対応が変わる可能性も高い。ここのところ、テンペストは非常に恐れられるようになっている。

何よりキルライネンは。

いや、まあそれはともかくだ。テンペストは、今怖れられはじめているのは事実だ。

「常識の範囲内で」市民をオモチャにして殺しているヒーローまでもが、彼女の手に掛かって潰されているからだ。

単なる殺戮鬼では無いのか。

ヴィラン討伐部隊を向かわせて欲しい。

そういう申請さえ来ていた。

脳天気なものである。

宇宙人の艦隊に、水爆つきのICBMをぶっ放すような輩が残っている状況なのである。

優先順位が分からないのだから。

こんな連中が、優れた、進化したと、自称しているのだ。悲しくなってしまう。此奴らは、旧来の人類に比べて、進化などしていない。

むしろしているのは。

退化だ。

腕力だけがものをいった原始時代と、何が違うのか。

グイパーラにその場を任せると。

ザ・パワーは、バラマイタの支配地区に飛ぶ。

其処で一旦情報収集。

迷惑そうにしているバラマイタの所で、サイドキック達が集めて来た情報を閲覧させて貰う。

ライトマンの失脚が決定的になった今。

現在、オリジンズのナンバーツーは事実上バラマイタだ。

だから、機嫌を損ねるのは好ましくないのだけれど。

それでも、此処が重要なのだ。

「何か有益な情報はあったかしら?」

「幾つかな」

嫌み混じりのバラマイタに、大まじめに返す。

実際、テンペストらしき人物が、キルライネンの支配地区に向かったことは、掴む事が出来た。

テンペストは一度捕まえて、しっかり話をしておきたい。

もしも出来るなら。

自分の部下としてスカウトしたい。

今の時代そのものが狂っていることは、ザ・パワーも知っている。だから、テンペストは、悪徳ヒーロー共を潰して廻っている。

市民が貨幣。

人権を持つのは、0.1%のヒーローのみ。

その中でも更に100人に一人の戦闘タイプヒーローしか。

社会を動かす事には関わる事が出来ない。

こんな狂った体勢は、古代の専制主義国家すらも及ばないほどの悲惨な代物だ。改革をするには、少しでも多く手駒がいる。

だが、問題は。

テンペストが、四十人を超えるヒーローを再起不能にしてきたことで。

もし部下にした場合。

反発も凄まじい事になるだろう。

ヴィラン討伐部隊のミラーミラーも欲しい所だが。

人材は何処にでも転がっているものではない。

ヴィラン討伐部隊の質を落とすわけにもいかない。

色々と難しい所だ。

スネークアームから通信。

ミフネ達が、アンデッドの配下達の移動跡を発見したという。

そのまま追跡に入るそうだ。

ザ・パワーも。

キルライネンの支配地区に向かう。バラマイタの動きも気になる。最近、妙にきな臭いのである。

そういえば、ザ・アイも。

二人とも、元からかなり胡散臭い連中だったが。

それはライトマンというより大きな黒幕がいたから、隠されていたに過ぎないことだったのだろう。

円卓はパンデモニウムだ。

どこから悪魔が飛び出してきてもおかしくない。

覚悟は、今のうちに。

決めておかなければならなかった。

 

キルライネンの支配地区に到着。

荒涼とした町だ。

人々は、何かに隠れるようにして、じっと身を潜めていて。

キルライネンが如何に怖れられているかよく分かる。ザ・パワーが歩いていると。恐怖の視線も飛んでくる。

この地区の人々にとって。

ヒーローは全て狂気の怪物なのだろう。

捕まれば、ミキサーに掛けられて。

キルライネンの化粧品にされてしまう。

それくらいは、おそらく、サイドキックを通じて情報が漏れているのだと見て良い。そして市民は抵抗さえ出来ない。

武装しているサイドキックでも、ヒーローがその気になれば一瞬で全滅させられてしまうのだ。

非武装の市民では。

もはやどうしようもない。

いつ襲ってくるか分からない吸血鬼に、怯えるしか無い。

こんな状況を、銀河連邦は改善しろと言っているのだが。ヒーロー達が、特権を手放せという指示に総スカンをしているこの状況。

もはや、何かしらの強硬手段を執るしか無いのかも知れない。

古めかしい洋館。

キルライネンの屋敷だ。

サイドキック達が、ザ・パワーを出迎えてくれるが。

彼らは、一様に青ざめていた。

どうやら今日は、キルライネンが「気分次第で」多めの市民を殺したらしく。生きたままミキサーに掛ける作業を手伝わされたらしい。

ゲスが。

吐き捨てたくなるが。

現行法では、市民はヒーローの財産に過ぎず、人権は無い。

たくさん殺しでもしない限り、法には問えないし。

法にといたところで、他のヒーローの財産の市民を殺しでもしていない限り、そのヒーローは無罪放免だ。

そんな時代なのだ。

ザ・パワーでさえ。

猟奇的な殺戮を繰り返しているキルライネンを、止めることが許されない。

悪夢に等しい状況だが。

それが現実なのである。

屋敷に踏み込む。

異臭が鼻を突いた。

辺りには、人間を加工したらしい花瓶や絵画が所狭しと並べられ。防腐処置をされている。

椅子や机までもが、人間製だ。

筋金入りの狂人。

だが此奴は、ヒーローには手を掛けない。だから手出しは出来ないのである。口惜しい。

同じように、芸術家を気取っていた狂人にはクロコダイルビルドがいたが。彼奴とキルライネンは殺す人間の数が違いすぎる。少なすぎるのだ。

更に、クロコダイルビルドはザ・パワーによる改革を受け入れ、今は大人しくしていると言う事もある。

手が出せない条件が揃いすぎていて。

もはや歯がみするしか無いのである。

口惜しいけれど、どうにもできない。

コレが、ヒーローとしてトップにいる人間の実情だ。

ザ・ヒーローが見たら嘆くだろう。

キルライネンが現れる。

人間を加工して作った化粧品で、全身を赤黒く塗りたくった異常者は。ザ・パワーには友好的だ。

これも、此奴を排除できない理由になっている。

どういうわけか、ザ・パワーには従う意思を明確に示していて。

数少ないシンパの一人なのだ。

シンパの中では、ザ・パワーの市民に対する接し方を真似しない唯一のヒーローではあるのだが。

だがそれでも、シンパには変わりない。

今の混沌を制御するには。

シンパでさえ、増やしていかなければならない。

「おお、我が英雄よ! よくぞこの美の屋敷へ参られた!」

「うむ……」

「此方へ!」

うきうき気分のキルライネンは、スキップまでしている。

本当に複雑な気分である。

此奴が市民を虐げる狂人でさえ無ければ。

ダイニングに通される。

巨大なテーブルには、料理が載せられていた。

料理そのものは、ヒーロー用の牧場で作られた、牛や鳥などの普通の肉に。普通の野菜で作られた、ごく温かい心がこもったものだ。

問題はテーブルや椅子。

テーブルの脚は、人間の足を複数つなぎ合わせて、赤黒い、恐らく人間をミキサーに掛けて作った液体を塗りたくったものをプラスティック樹脂で固めたもので。

椅子も似たようなものである。

テーブルクロスはほぼ間違いなく加工した人間の皮。

杯に到っては、人間の手が掴むような形になっていた。コップの部分だけはガラスだが。持ち手などの部分は全て人間のパーツ製だ。

吐き気を催すような屋敷だが。

これでも、此奴は市民を殺していない方なのである。

だからテンペストには後回しにされた。

他のヒーローが更に悪辣で。

更に多くの市民を殺している。

この光景を見て。

それが理解できるのだから。この世界がどれだけ腐っているのかは、よく分かるというものだ。

常識、か。

嘆きたくなる。

この世界における常識。

法。

キルライネンは異常者だけれど。

どちらも守っている。

この二つで、狂った吸血鬼を裁くことは出来ない。

何しろ、ヒーローは市民を殺し放題。市民は生きた貨幣としての価値しか無い。それがこの世界なのだから。

食事を終える。

流石に人間の部品に囲まれての食事は、剛毅なザ・パワーでも良い気分はしなかったが。これも外交だ。

何より、此奴を部下から外すわけにはいかない。

「キルライネン。 提案がある」

「何でしょう、我が英雄!」

「貴様は近々テンペストに潰されるだろう。 それに、今銀河連邦の艦隊が、世界の秩序について、色々と文句を言ってきている」

「存じております」

キルライネンは余裕を崩していない。

当然の話で、此奴はかなりの使い手だ。

本人も強いのだけれど。

能力が極めて厄介なのである。

本来はどうと言うことも無い能力なのだけれど。

何しろ磨き方が尋常では無い。

ただ、コレを知っているのはザ・パワーくらいだ。

対外的には、謎が多いヒーローと言う事にしているらしく。凄まじい鍛錬を自分に課していることを、秘密にしている様子だ。

恐らく、その「秘密」という言葉が。

吸血鬼を気取るこの男には、たまらなく魅力的なのだろう。

「クロコダイルビルドを知っているな」

「勿論です、我が英雄」

「同じようにして欲しい。 資金援助は、私とグイパーラから行う」

「市民を殺すのを控えろと言うのですな、我が英雄!」

いちいち芝居がかった様子で、赤黒く異常な化粧を行った男はリアクションする。

頷くと、ザ・パワーは、専門の部下ヒーローを何人か部屋に招き入れる。そして、具体的にどうするかの指示を出す。

しばし黙っていたキルライネンだけれども。

やがて、うなづく。

「DBの遺伝子プールを提供していただけるのであれば、それで我慢しましょう、我が英雄よ!」

「そうか。 誓えるな」

「我が英雄に、この吸血鬼キルライネン、永遠の僕である事を決めておりまする! 我が英雄との誓いを、破ったりいたしましょうか」

「では、さっそく開始だ」

すぐに部下達を動かす。

鉄道を敷設する能力を持つヒーローが、バラマイタの支配地区を経由して、この地区へと輸送用の鉄道を延ばす。

この鉄道は、クロコダイルビルドの支配地区を改革するときにも使ったもので、膨大な物資を一瞬で運ぶことが出来る優れものだ。

更に、街にいる市民に、ザ・パワーが直接説明をしにいく。

「皆、聞いて欲しい。 キルライネンは、君達を以降殺さない。 闇を舞う吸血鬼は、もはや君達の血肉を啜らないのだ」

「……」

ぼんやりと見ている市民達。

不審が目にはありありと浮かんでいた。

当然だろう。

彼らが受けてきた仕打ち。

ヒーローへの不信。

何より恐怖。

これらが揃っている現状で。

どうしてザ・パワーを信頼出来るだろうか。

「これよりこの支配地区には、開発のための部隊が来る。 病院も作成され、弱っているものはすぐに治療を受ける事が出来る」

以前のクロコダイルビルドの時は。

半ばライトマンの陰謀だったけれど。

今回は逆利用する。

ライトマンの資金と支配地区は、ザ・パワーが抑えているので。此処から資金を捻出するのだ。

さぞや牢獄でライトマンは悔しがるだろうけれど。

自業自得。

流石にあの男には、ザ・パワーも同情の余地が無いと思っている。

さて、テンペストだが。

この様子を確実に見に来る。

すぐに工事が開始された。

インフラ整備能力を持つヒーローは、それこそ市民数千人分の労働を単独でこなす。戦闘タイプヒーローとは方向性が違うだけで、超人である事に代わりは無いのだ。彼らがみるみる、スラムを美しい街へと変えていく。

それに伴って、殆ど着の身着のまま、ひどい場合は裸で過ごしている子供や老人達にも、清潔な着衣と入浴をさせ。

周囲を殺菌しつつ、温かいスープを配る。

医療もすぐに開始。

専門のサイドキックを入れる。

キルライネンについては、部下が見張っている。

早速屋敷の地下にクローン人間の製造設備を作り、気に入った遺伝子をプールから引っ張り出しては。

ミンチにして、化粧品を作っている様子だ。

異常者だが。

言うことは聞く。

どれだけ殴りたいか分からない。

テンペストの気持ちは、痛いほど分かる。

だけれど。

こうやって、ヒーローと市民の妥協点を見つけていくのが、ザ・パワーの仕事だ。オリジンズの他のメンバーにも、順次同じ事をして行って貰う。

嫌がる場合は。

粛正も辞さない。

今、ヴィラン討伐部隊の掌握を進めている。

スネークアームはどうやらザ・パワーにしたがってくれる様子だ。彼に任せてヴィラン討伐部隊を動かしているのは、私兵化への第一歩。

ミフネに関しては、前から強い者に従う性格だったので、問題ない。

ミラーミラー。

他のヴィラン討伐部隊メンバーは兎も角。

非常に有能なこの娘は、直弟子にしたい。

単なるシンパであるグイパーラより、ぐっと役に立つだろう。

かといって、グイパーラをないがしろにも出来ない。

そうしたら、きっと大事なシンパを失ってしまう。

今は、ただの阿呆でも。

シンパと言うだけで、大事にしなければならない時期なのだ。

幾つもの人間関係が。

ザ・パワーを周囲から締め上げる。

更にテンペストだ。

テンペストを今回、どうにか接触し。出来れば手中に収めておきたい。思考方法はあまり変わらない様子だから、上手く行けば同盟を組む事が出来るだろう。

調査によると、現時点でオリジンズ級まで後一歩、と言う所まで実力を伸ばしている様子で。

ヴィラン討伐部隊のメンバーにも劣らない。

若手のヒーローで比較すると、ミラーミラーと同格くらいだろう。流石にミフネには劣るが、彼奴は桁外れだ。仕方が無い。

既に、街には多数の部下を放っている。

テンペストさえ手中に収められれば。

或いは、その伝手で、プライムフリーズも配下に加えられるかも知れない。

上手く行けば。

一気に、ザ・パワーの権力基盤を強化出来る。そうなれば、苛立っている銀河連邦に、確実な成果を示せるだろう。

相手と此方とでは力が違いすぎる。

相手の反応次第では、一気に地球を制圧されてしまうのが実情だ。

それを、相手の寛容さでどうにか乗り切れているが。

理性的な相手でも、限界がある。

実際それが前回徒になった。

二百年前は。

理性的な銀河連邦の対応を、地球人が「舐めた」。その結果が、この惨状だ。今回、同じ事を繰り返してはならない。

街が瞬く間に整備されていくのを見て。

ザ・パワーは満足。

一番高いビルの上に立つと、周囲に気を張り巡らせた。

テンペストは見に来るはずだ。

其処を、捕捉する。

 

2、頂点との邂逅

 

これは。

わたしは、遠目からその様子を確認。そして、悔しさに、歯ぎしりする事になった。

吸血鬼の異名を取る悪徳ヒーロー、キルライネンの支配地区が。

丁度以前のクロコダイルビルドのように。

改革され始めているのだ。

奴の宮殿に、正面から乗り込もうとした矢先。

ザ・パワーが、複数のヒーローを連れて、キルライネンの屋敷に降り立つのが見えたので、慌てて距離を取った。

ザ・パワーだけでも手に負えないのに。

こんな相手、どうにか出来るはずもない。

一旦下がって状況を見ていて。

そして、悟らされる事になった。

クロコダイルビルドと同じ時。

あの状況が来たのだと。

断罪できない。

人々を化粧品と称してミキサーに掛け、殺戮してきた鬼畜を。殴って、叩き潰す事が出来ない。

これがどれだけ口惜しい事か、分かるだろうか。

怪物が野放しにされるのだ。

犠牲者の無念が晴らされないのだ。

だが、ザ・パワーは。

どうしてこんな奴を守るために、資金の投入を始めたのだろう。

口惜しいけれど、これでは手出しが出来ない。

一度支配地区を離れて。

そして、クリムゾンと合流。

雲雀が待っていたので、状況を伝える。

そうすると、頭を掻きながら。

ひょろっと背が高く、船幽霊みたいな雰囲気の女は。口の端をつり上げた。

「ザ・パワーもなりふり構わなくなってきたねえ」

「どういう意味だ」

「キルライネンは、ザ・パワーのシンパなんだよ」

「!」

それは初耳だ。

ザ・パワーのシンパは何人か知っているが。そのいずれもが、支配地区でザ・パワーのやり方を真似ている。

キルライネンはそうじゃない。

これは、情報収集不足だったか。

「だが、ザ・パワーのシンパだというのに、あのおぞましい行動を続けていると言うのか」

「前から注意は受けていたみたいだよ。 で、本人が熱烈なザ・パワーのファンらしくてねえ。 ザ・パワーに好かれるためにも、より自分を美しく、て考えていたみたいなんだよねえ」

「何が美しくだ、イカレた吸血鬼野郎が……」

「その通りだけれど、私に怒っても仕方ないんじゃ無いかな」

返す言葉も無い。

それにしても、ザ・パワーがここに来た理由。それも今、は何だろう。

クリムゾンのアジトに戻る。

人数が少しずつ増えている。

元サイドキックの人間や。

市民の中で、意思があるものを、少しずつスカウトしているらしい。

現状に不安がある市民は多い。

てか、当然だろう。

空に現れた、無数の宇宙人の船。

あれだけでも恐ろしいのに。

ヒーローはそれと戦おうともせず、暗闘を繰り返している。

今までは、圧倒的な暴力の前に、市民はなすすべがなかった。だが、宇宙人の戦艦が来たことで、状況が変わった。

ヒーローが浮き足立っていることを。

市民は悟ったのだろう。

識字率が1%しかなくても。

思考能力はある。

そして、気の利いた奴は、地下で活動を始めようと考える。

その一部が。

クリムゾンに合流した、というわけだ。

石塚が、新しいメンバーに訓練を施している。

中には、サイドキック養成校を命からがら逃げ出してきた者もいる様子だ。わたしと同じ年くらいの男女が何人かいる。

仲良しグループで、一緒に逃げてきたらしい。

まあ、これから修羅の世界にはいるわけだが。生き延びられるかは、これからの訓練に、如何に身を入れるか、だろう。

プライムフリーズが来る。

傷はまだ完治していないようだけれど。

戦うには支障ない。

丁度良いので、石塚とフードの影も交えて話す。

前はもっと幹部がいたが。

今は他に数人しかいない。

「ザ・パワーが来ているか」

「プライムフリーズ、丁度良い機会です。 ザ・パワーと直接会合を持つべきではありませんか」

「……本気で言っているのか、石塚」

「大いに本気です」

ちなみにわたしも賛成だ。

プライムフリーズがオリジンズに入れば、ザ・パワーが改革をする場合、大きな力になるはず。

ヒーローを皆殺しなんて馬鹿な事さえ言い出さなければ。

プライムフリーズは、むしろ理性的に事を進められる人なのだ。

わたしだって、師匠を殺したヴィラン討伐部隊は本音で言えば潰してやりたいけれど。

彼らがいないと、暗躍しているアンデッド麾下組織は潰せない。

仕方が無いのだ。

世の中には。

歯を食いしばって、我慢をしなければならない事があるのだから。

「如何でしょう」

「断る。 今はまだその時期では無い」

「何か条件があればザ・パワーと共闘を?」

「わしの目的は、ヒーローをこの世から消す事だ。 そのためには、もっと市民が力をつける必要がある」

現時点で。

市民が戦闘タイプヒーローを殺す手段は存在しない。

これは比喩では無くて。

絶対的な事実だ。

力が違いすぎるのである。

核兵器を使っても殺せない相手もいるほどなのだ。市民が何をしようと、戦闘タイプヒーローは死なない。

毒を盛ろうが無駄。

心臓を刺そうにも刃が通らない。

プライムフリーズが、市民が力をつけるというのが、どういう意味かはよく分からないけれど。

いずれにしても、ぴんと来ない。

「わたしは、ザ・パワーと交渉して見ようと思ってる」

「危険だぞ」

「分かってる。 だが、直接本人と話せる数少ない機会だ。 この時期にキルライネンの所に来たくらいだ。 向こうも、敢えてそれを狙っていると見て良いだろう」

この程度の判断は、わたしにも出来る。

雲雀が大きく嘆息した。

「まとまらないなあ」

「なあ、雲雀」

「何」

「お前、今どれくらいやれる」

雲雀はしばしきょとんとした後。

意地が悪い笑みを浮かべた。

「まだあんたほどじゃないけれど、下っ端の戦闘タイプヒーローなら確実に潰せるよ」

「それじゃあ、頼みたい事がある」

「へえ?」

ザ・パワーは、今目を皿のようにして、キルライネンの支配地区を見張っているはず。

わたしは、ザ・パワー自身は信頼出来ると思っている。

だけれども、周囲は別だ。

「身を隠して周囲の警戒をして欲しい。 特にバラマイタとザ・アイが変な動きをしているし、この間ボールウェーを潰したとき、変な奴が裏で黒幕になっていた。 そいつのことも気になる」

「良いけれど、これで貸し借り無し?」

「同盟関係だぞ。 まけろ」

「……、まあいっかな」

プライムフリーズは何も言わない。

石塚も。

条件成立と見て良いだろう。

なお、フードの影は、最初から最後まで会話に加わらず、ずっとにやにやし続けていた。

 

キルライネンの支配地区に戻る。

流石インフラ整備型のヒーローは能力が違う。またたくまにスラムが綺麗になって行っている。

炊き出しも行われ。

骨と皮だけだったストリートチルドレンや、ホームレス達も。温かい食事にありつけることが出来ている様子だ。

これは嬉しい所だが。

しかし、キルライネン自身が野放しなのが許しがたい。

クロコダイルビルドの時も同じだ。

勝ち逃げしたも同じでは無いか。

不愉快だけれど、こればかりは仕方が無い。

キルライネンを此処で無理に潰せば、この市民達に訪れた安息の時が、台無しになる可能性が高いのだ。

それだけは許されない。

ザ・パワーは。

いる。

一番高いビルの上で、周囲を睥睨している。

着込んでいるスーツも、本人の威厳も。

現在のトップヒーローにふさわしい。

既に壮年だというのに、筋肉質の体には贅肉一つなく。

その姿は、正に神話に出てくる英雄そのものだ。

もしもザ・パワーが神話の時代にいたら。ヘラクレスであると紹介されても、誰も疑わないのではないのか。それほどの、ヒーローとしての容姿を持つ男である。

歴代オリジンズには、細いヒーローもいたらしい。

まあ、プライムフリーズがその代表例だろう。

だけれど、見かけからして、ザ・パワーはヒーローをしている。

其処が何というか。

形から入る部分なのだろう。

郊外で、隠れて様子見。

気配は消せている筈だ。

一番警戒しているのは、わたしがザ・パワーに気を取られた瞬間、ヴィラン討伐部隊なり、他のオリジンズなりに奇襲されることなのだけれど。

今の時点でその恐れは無い。

雲雀が異形化して、警戒に当たってくれているが。

時々問題ないと返してくれている。

隠密能力に関して、雲雀は既に一流だ。

彼女が警戒に当たってくれているのであれば。

気にしなくても大丈夫だろう。

さて、ザ・パワーの鋭敏さなら、そろそろ気付いても良い頃だろう。市民達が医療を受け、食糧支援を得て。仕事も始めているのを横目に、わたしはザ・パワーを見る。

向こうも、気付いた。

一瞬で、側に降り立ったザ・パワー。

流石に背が高い。

身長二メートルを超えているだろう。

私より頭二つ分大きい。

身近で見ると分かるが、単純に強い。それもとてつもなく強いヒーローだ。これならオリジンズのトップに過不足無いと思う。プライムフリーズと正面からやり合っても、僅差で勝てるのではないか。

だけれど、この偉大な男が。

まったくオリジンズをまとめられずにいる。

この腐った世界を。

覆せずにいる。

一番恐ろしいのは、やはり人間。

ましてや今は。野獣よりおぞましい力を持った、ヒーローという凶獣が跋扈する世界なのである。

「君がテンペストか」

「ああ。 あんたがザ・パワーか」

「その通りだ」

「あんたのことは尊敬している。 これは本当のことだ。 だが、幾つか、質問をさせてくれないか」

良いだろうと、ザ・パワーは言う。

周囲に他のヒーローの気配はない。

つまり、罠には填められていない。

側で見て分かったが。

この男は、あくまで愚直なヒーローなのだろう。

弱きを助け強きを挫く。

その思想に染まっている、今原理主義者と嘲弄される考え方の持ち主。しかしながら、現実的に絶対に勝てず、戦った時点で全てが終わってしまう相手とは、やり合わない判断力も持っている。

多分、歴代オリジンズでも。

トップクラスの逸材の筈だ。

それなのに、この腐りきった世界は、彼を老害と称して、排除さえしようとしている。嘆かわしい話だった。

「わたしは、ヒーローの名を持つにふさわしくない奴をぶっ潰して廻っている。 悪党に関してはヴィランも同じだ。 これは、わたしの師匠に叩き込まれた思想があるからだ」

「ハードウィンドだな。 スラムの王と呼ばれていたと聞いている」

「わたしの師匠を殺すように指示したのはあんたか」

「違う」

そうか。

それはよかった。

もしそうだったら、この場でザ・パワーとやりあわなければならなかった。性格的に、嘘をつける男でも無いだろう。

質問を続ける。

「今、銀河連邦の大艦隊が地球の至近にいる。 彼らから、条約についてさっさと復旧しろって言われているんじゃ無いのか」

「その通りだが、どうして知っている」

「プライムフリーズとは仲が悪いが同盟を組んでいる身でね」

「なるほど、合点がいった」

まあ、条約を知った経緯については省く。

話を混乱させても仕方が無いからだ。

条約について話してしまおうか。

そう思ったが、辞めた方が良いだろう。

大事な手札だ。

まだ、相手の出方が分からない以上、温存した方が良いはずだ。小石が転がる。事前に決めておいた合図。

雲雀もわたしの判断に同意してくれている。

「ライトマンは収監されたと聞いている。 その後釜に、プライムフリーズに復帰して貰う気は無いか」

「!」

「出来ないか」

「難しい。 オリジンズの中で、私の味方をしてくれるのはグイパーラだけ。 他のメンバーは、私を内心馬鹿に仕切っていて、必要だから今は賛成してくれているだけだ。 プライムフリーズほどの強力なヒーローが復帰したら、彼らは態度を一気に硬化させる危険がある」

そうだろうな。

だけれども。

そうするほか無いのが、現状では無いだろうか。

核心に踏み込む。

「誰だ。 改革の邪魔になりそうな奴は」

「他のオリジンズの中では、バラマイタとザ・アイがおかしな動きをしているが。 グイパーラとスネークアーム以外は、皆信用できないと判断して良いだろうな」

「なるほど、其方の窮状は理解できた」

「今度は此方の質問だ」

色々聞くだけ聞いたのだ。

応えるのが筋だろう。

頷くと。

ザ・パワーは、雲雀が隠れている辺りを一瞥。

流石にこの辺りはトップヒーローか。雲雀が如何に優れた隠密能力を持っていたとしても、見破れるだけの実力はあると言う事だ。

「ヒーローに復帰する気は無いか」

「どういうことだ」

「今、ヴィラン討伐部隊のミラーミラーという有望な若者がいてな」

知っている。

遠くから一瞥だけしたが、おっとりした雰囲気の優しそうな女だ。同年代の能力者としては意識せざるを得ない実力者である。

奴の能力が、恐らく。

ヴィラン討伐部隊が、アンデッド麾下組織のアジトに踏み込む事を成功させた、対消滅だろう。

戦うとなると、純粋な身体能力の勝負になる。

壮絶な泥仕合は確定。

できればやり合いたくない相手だ。

「彼女を直弟子にしたいと今考えているが、同時に君も私の弟子にしたいと考えているのだ」

「私は四十人以上のヒーローを再起不能にした凶悪ヴィランだぞ」

「君が潰してきた面子は、ヒーローの面汚しばかりだ」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、あんたがオリジンズを掌握できているとも思えない状況だ。 時期尚早だと思うね」

正論を聞くと。

意外そうな顔をザ・パワーはした。

猪武者と聞かされていたから、だろうか。

実際の所、わたしは自分を猪武者だと思っている。頭を全て敵を叩き潰す事に使っているからだ。

だけれど、それはあくまで、最終目的。

過程については考えるし。

勝つことに利が無い相手や。戦う事に意味がない相手を潰すような真似はしない。

わたしが潰すのは。

あくまでそうする必要がある相手だけだ。

「改革、上手く行っていないんだろ」

「ああ。 見ての通りだ」

「だったら、邪魔になるオリジンズを何人か潰すしかないんじゃないのか」

「今、円卓は宇宙人に監視されている。 軽率には動けない」

嘆息する。

八方ふさがりか。

それで戦力が欲しくて、来たと言う訳か。

「同盟だったら、考える」

「ほう」

ザ・パワーも、流石に同盟と言われて。複雑な気分のようだった。

わたしは格としてもザ・パワーに劣る。そのわたしが、対等な立場での同盟を提案してきたのだ。

剛毅と思ったか。

不遜と思ったか。

どちらにしても、驚くのは不思議では無い。

わたしは咳払いすると、言う。

「わたしの実力はもうオリジンズに届く。 あと少しで、だ。 今、オリジンズを裏から支配しようとしているゲス野郎はいないか。 わたしが潰してやる」

「……。 まだ調査の段階だが、バラマイタがかなり怪しい」

ザ・アイではなくてそっちか。

見るからに異形のザ・アイは能力さえ不明で、兎に角得体が知れない存在なのだけれども。

バラマイタは、一見すると実力を自力で伸ばしてきた正統派だ。

性格は良いとは言えないが。少なくとも努力の人で、それはわたしも認めるべきだと思っている。

奴は市民に関心がなく。

虐げもしないが、慈しみもしていない。

弱者を嬲っているような奴なら、わたしが遠慮無く潰しに行くのだけれど。

もう一つ理由は得られないか。

「何か、バラマイタが特級の外道行為を行っている情報はないのか」

「噂に過ぎないが、奴は市民の遺伝子を取り込むことで、その才能を全て奪っていると聞いた事がある」

「!?」

「そういう能力が存在するんだ。 バラマイタ自身の能力ではないという話だから、詳細はよく分からない」

しばし考え込んだわたしは。

挙手した。

「分かった。 わたしがそれを調べる。 バラマイタの周囲から、他の戦闘タイプヒーローを遠ざけてくれないか」

「密約か」

「苦手なのは分かる。 だけれど、この世界の命運が掛かっているのは、あんただって分かっている筈だ」

今、オリジンズの結束を固めるには。

ザ・パワーの協力者が、最低でもさらに二人はいる。

グイパーラとスネークアームが協力的だとして。

残り一枠にミフネなりなんなり、ザ・パワーに協力的な実力者のヒーローが入り。そして、もう一人。

バラマイタの枠を開けて。

そこにザ・パワーのシンパをねじ込めば。

ただ、問題は。

特権を奪われることに、ヒスを起こしているクズヒーロー共だ。

そいつらは、どうする。

流石に一斉に反乱を起こされると、ザ・パワーでも手に負えないだろう。下手をすると、分離独立運動を始める奴が出始めるかも知れない。

「分かった。 どうにかしてみよう」

「あんたが話の分かる奴で助かった。 ただ、言っておくが、バラマイタが白だったら手は出さないからな」

「それは当然だ。 その場合は、ザ・アイを調べて欲しい。 此方についても、妙な噂が出回っている」

「妙な噂?」

内容を聞かされて、愕然とする。

ザ・アイは、実物では無いというのだ。

実際のザ・アイは別の所にいて。

あの誰もが知る異常な形態は、よそから動かしている一種のパペットだというのである。そして、その能力には。

多くの市民の犠牲が関わっているとか。

ザ・アイの支配地区も、それなりに栄えている。市民の数は多いし、其処まで市民の死亡率も高くないと聞いている。

そうなると。

バラマイタにしてもザ・アイにしても。

よほど狡猾に。

悪行を隠してきたか。

それとも、市民が失踪しても平気な体勢を造り出してきたか。

その双方か。

そうであれば、手強い相手だ。

あくまで、そうであれば、だが。

師匠に言われた事がある。

風聞を鵜呑みにするなと。

全て確かめるべしと。

だからわたしは。

ぶっ潰すと決めた奴のいる場所へ必ず足を運び。

その邪悪なる所行を確認した後、ぶっ潰す。

逆に言えば。

ぶっ潰す理由が無い相手とは、戦う事はあっても、出来るだけ再起不能にするのは控えるようにもしている。

名高いザ・パワーの依頼。

光栄ではあるけれど。

ただ、罠の可能性は捨てきれないのが苦しい。

更に、咳払いして、ザ・パワーは付け加えた。

「あと一つ」

「?」

「この二人が白だった場合。 ……疑いたくはないのだが、グイパーラを調べて貰えるか」

「注文が多いな」

苦笑いすると、ザ・パワーはその場を離れる。

それにしても、グイパーラ。

ザ・パワーの懐刀だろうに。もはや、懐刀さえ、信じられない状態なのか。無能な男だと聞いているが、それでもオリジンズに加入したヒーローだ。もしも無能なのが、全て偽装だとしたら。

いや、ひょっとして。

ザ・パワーは。

既に懐刀さえ、信じられないほどに。

疑心暗鬼に陥っているのかも知れない。

いずれにしても、現れたザ・パワーが本物である事はわたしが保証する。あの気当たり、生半可なヒーローじゃ無い。前遠目に見たライトマンより確実に上。トップオブヒーローの名を冠するにふさわしい実力者だ。ミフネでも真正面からでは勝てないだろう。それくらいの実力が、肌を通して伝わってくるほどだった。

側に、全裸の雲雀が突然姿を現す。

異形化を解除したのだろう。

コートを持ってきていたので、かぶせてやる。

わたしより背が高くて、よりすらっとしているから。何だか妙な光景ではあるけれど。まあ、これでもわたしも、外で裸でいるのは良い気分じゃ無い。同盟を組んでいる以上、それくらいの配慮はしたい。

「あれ、本物だと思う?」

「確実に本物だ」

「まずいね」

「何が」

オリジンズは、完全に内紛状態だと、雲雀は言う。

それは確かにそうかも知れないが。

だが、それを打破するために、ザ・パワーはあらゆる努力を惜しんでいないのだろうとも、わたしは好意的に解釈した。

だが、雲雀は首を横に振った。

「時期が悪い。 今、宇宙人が殺気だって、宇宙戦艦の主砲を地球に向けている時期なんだよ。 例の条約を思い出してみて?」

「それは分かってる。 だが、このまま身動きできないよりも、膿出しをする方がずっと良い筈だろう」

「膿出しで済めば良いけど」

「……いずれにしても、わたしはバラマイタの方を調べる。 時間がないし、雲雀。 あんたはザ・アイを調べてくれるか」

頷きあうと、その場を離れる。

さて、此処からだ。

もしも、オリジンズを好きにしている黒幕がいるのなら。

前は確実にライトマンだった。

もし黒幕の座が交代したとすると。

その時期は、多分ライトマンの失脚が確定した頃だろう。

そうなると。

黒幕は、他のオリジンズに顔が利くはず。

宮殿に忍び込めば、何か分かるだろう。

急激に発展しているキルライネンの支配地区を見て、わたしは舌打ち。

ザ・パワーは。

今まで殺された人々の無念をどう思っているのだろう。

だけれど、この方が市民にとってはずっと良い筈だ。衣住足りて礼節を為す、だったか。人は最低限の尊厳も。

まともな生活が送れない状態では、守れないのだ。

世界規模で、こうやって改革が進んでいけば。

本来この世界は四十億程度の人間が、不自由なく豊かに暮らせると、前に師匠から聞かされた事がある。

わたしは無言で。

キルライネンの悪行に対する怒りを飲み込むと。

この場を後にする。

奴には、クロコダイルビルド同様に、いずれ鉄槌を下さなければならないだろうけれど。

それは、今では無い。

 

3、影の女

 

バラマイタ。

謎が多いオリジンズメンバーだ。実力的には非常に高い次元に有り、オリジンズでも高位に位置するヒーローである。

ヒーロー達が普通に使っているアンチエイジング技術で、若々しい姿を保ってはいるけれど。

実際の年齢は、かなり行っているし。

何より、努力を重ねて、底辺からトップに成り上がったという人物でもある。

そう考えると。

そんな奴が、陰謀でオリジンズ内部で暗躍し。

宇宙人が来ているにもかかわらず。

空気を理解も出来ず、腐肉を争う野犬のような醜い行為に出ているのかと言われると、小首をかしげる。

だけれど、わたしも。

クリムゾンの本拠で見たのだ。

バラマイタが、誰かの首を切りおとして、持っていく映像を。

一度クリムゾンの本拠に戻り、パーカッションに頼んで、もう一度それを見たのだけれど。

やはり間違いない。

記憶に焼き付いている映像に嘘はつけない。

アレはバラマイタだ。

しかしバラマイタだとすると、何が目的なのか。

能力を偽装しているヒーローは珍しくないと聞いている。

本来とはかけ離れた時点にまで、磨き上げて偽装している人物もいるとか言う話である。まあかくいうわたしもそうだ。

実際問題、わたしと対戦した相手も。誰もが、わたしの能力が粉砕だと言う事には気付けなかった。

分析したライトマンくらいだろう。

それに、真に磨き抜いた能力は、分析された程度では攻略できない。

わたしだって、師匠と供に磨き抜いたこの力。

あっさり破られるほど柔では無い。

クリムゾンの本拠で、わたしは。

石塚やプライムフリーズ、フードの影と話して、バラマイタの情報を、もう一度整理する。

ザ・パワーとの接触も彼らは驚いていたが。

それよりも、バラマイタの情報は。

ずっと地下組織を続けてきた石塚の口でからさえ。

驚くほど、出てこなかった。

それほど謎が多い、という事か。

「特にスキャンダルの類はほぼ出てこないな。 実の顔を見せることを避けているとは聞いているが」

「ああ、顔を見られると激高するとか」

「それで殺されたものも多くいると言う話だが。 しかし実は、これも本当かどうか、かなり疑わしい」

石塚の言葉に驚かされる。

彼によると。

今まで地下組織に多数接してきたが。その現場にあった人間に、遭遇したことがないのだとか。

バラマイタの噂は嫌と言うほど聞かされてきたが。

その殆ど全てが、当たり障りの無いものばかり。或いは、信憑性に欠けるものばかりだそうだ。

街で老人に聞いた、若者を屋敷に連れ込んではミイラになるまで搾り取るとか。ザ・パワーに聞いた、遺伝子を取り込むとか。そういうのも、実際かどうかはかなり疑わしいという。

実際にバラマイタが暴君として振る舞い。

恐怖を覚えて、その場を逃げ出した者は、見たことが無いのだとか。あの映像ぐらいだという。

だとすると。

どうしてその噂は広まった。

人の口に戸は立てられぬと言うけれど。

誰か生き残りが、外で話したのだろうか。

いや、市民の識字率1%の時代。

サイドキックだって、奴隷同様に消耗されるのが、今の時代なのだ。下手な噂なんか流したら、それこそ物理的に首が飛ぶ。

「妙な女だな。 いっそわしがいくか」

「いや、プライムフリーズ、貴方は此処に残ってください。 今、必死に立て直しているクリムゾンを守るためには、貴方の力が必要なんです」

「分かった分かった。 そう必死な顔をするでない」

流石にげんなりしたのか、プライムフリーズも、必死に食い下がってくる石塚に返す。わたしの方も、支援人員は不要と応えた。

バラマイタの支配地区と宮殿については、ある程度情報を貰う。

真正面から乗り込むのは得意だけれど。

調査任務は、其処まで得意じゃない。

だけれど、やる必要があるだろう。

ザ・パワーは、かなり追い詰められている。

あの様子だと、条約の内容はまだ本当に知らないだろうし。

知ったときに備えて、ザ・パワーの力は多い方が良い。もしオリジンズを裏側から掌握しているのがバラマイタかザ・アイならば。

どちらかを叩けば、かなりザ・パワーの状況は良くなる。

だけれど、もし。

どちらも違ったら。

考えにくい。

グイパーラは、有名なザ・パワーのシンパだ。

オリジンズに入ってからも、活動はぱっとしないと聞いている。

いずれにしても、此処からだ。

情報を携えて、わたしは、バラマイタの支配地区に乗り込む。発展しているとも、寂れているとも言えないけれど。

人だけは、多かった。

 

バラマイタの屋敷は、何というか。

ペストマスクを半分に切って被っているという、個性的な容姿にふさわしいというか。独創的な美意識で作られていた。

外から見ても、すぐに何か異様な建物があると分かるのだ。

気配を消して、接近する。

バラマイタは、いる。

気配で分かる。

見張りをしているサイドキックは、かなり数が多い。オリジンズの一人なのだから。当然だろう。

それに、バラマイタは、オリジンズの最古参の一人だ。

サイドキックの運用体制も、安定している様子だった。

「シフト第二班、異常なし」

「第三班に交代」

「イエッサ」

目の前で。隠れているわたしの前で、サイドキックの小隊が、敬礼して行き交っている。シフト制を組んで、24時間体制で見張りを続けている様子だ。秩序は非常にしっかりしている。

というよりも。

今まで見たどのサイドキックよりも、軍隊している。

私設軍隊としてのサイドキックは、この世界のヒーローがどういう存在かを示す、代表例だが。

これほど秩序が整っているサイドキックの部隊は、わたしもはじめて見た。

ザ・パワーの支配地区に入ったこともあるけれど。

其処のサイドキック部隊でさえ、此処まで整然とした秩序に包まれてはいなかったような気がする。

ひょっとすると。

バラマイタは、ヒーローよりも、軍人としての適正がある人間なのかも知れない。まあ、この様子だと。その仮説は、信憑性が高い。

移動しながら、様子を見ていく。

街は寂れているが。

少なくとも、悪徳ヒーローの支配地区ほどでは無い。

細々ながら商売を行っている者もいるようだし。

それらも、サイドキックから搾取はされていない様子だ。

人間の数も多い。

ただし、物乞いも少なくない。

道ばたで死にかけている人が、放置されてもいる。

悔しいけれど。

彼ら全員を救うことは、今は出来ない。

地球全域で、ザ・パワーの改革が進めば、こんな悲しい光景はなくなるはず。そもそも今は、技術的な点で言えば、飢えは解消できる筈なのだ。人口爆発だって、抑制することが可能だろう。

それが出来ていないのは。

ヒーローによる、市民を生きた貨幣としか扱わないこの世界の仕組み。

悪しき常識が故だ。

わたしはバラマイタの宮殿に近づく。

サイドキックの数が増えてきている。巡回しているサイドキックは、油断無く武装を構えて。

その装備もものものしい。

普通は装甲車を使っている場合が多いのだが。

バラマイタの部隊は、装甲ヘリや、戦車も使っているようだった。

勿論ヘリだろうが戦車だろうが、戦闘タイプヒーローが出てくると、気休めにもならないのだけれど。

実際わたしだって。

油断しているところに戦車砲をくらっても、死なない自信がある。

その程度のものなのだ。

今の時代の兵器は。

戦闘タイプヒーローは、それほどまでに圧倒的。

だからこそ、弱者を守らなければならないだろうに。

一度、地下下水道に入り、其処から移動。

慎重に、バラマイタの屋敷へと。

距離を詰めていく。

程なく、屋敷の境界内へと足を踏み入れた。

同時に、露骨に空気が変わる。

バラマイタの気配が大きい。

わたしも死線を散々くぐってきたけれど。

これは、まともにやりあって、勝てるかはかなり微妙だ。いや、勝てない可能性の方が高い。

バラマイタはそれだけ出来る奴、という事だ。

下水道から、移動しつつ。屋敷の地下へ。

ダクトスペースや、天井裏を通って、気配を殺しながら、確実に少しずつ進む。そして、途中の一カ所。

天井点検穴を見つけた。

其処から下を窺う。

古式ゆかしいメイド服を纏った女性が、仕事をしているのが見えた。並んでいる美術品に、はたきを掛けている。

はて。

サイドキックが着せられるには、妙に整った服だ。

其処へ、別の誰かが来る。

気配を消して様子を見守る。

武装したサイドキックだが。

燕尾服を着ていて、執事のようだった。

「廊下異常なし」

「お疲れ様です」

「警戒に戻ります」

敬礼すると、執事っぽいサイドキックは、廊下に戻る。勿論アサルトレーザーライフルは担いでいた。

どういうことだ。

あのメイド、武装要員より地位が高いのか。

捕縛して話を聞きたいところだが。

調査が進むまでは、荒事は避けたい。

何よりも、気になるのは。

他の天井点検穴から、状況を確認していくと。

同じようなメイド服を着た者はいない、ということだろうか。

何だ。

あれは、どういうことだったのか。

しばし悩んだ後、屋敷の全域を調べていく。途中警備装置も見かけたけれど、天井裏で埃まみれで移動しながら、全て避けて行く。

これでも場数は踏んでいるのだ。

多分雲雀の倍以上時間は掛かっているだろうけれど。

それでも、この程度は出来る。

さて、天井裏から、バラマイタ本人を確認したいが。

この気配だと、近づくと危ないだろう。

一旦此処で小休止。

レーションを口に入れながら、情報を整理する。

 

しばし休んだ後。

真夜中になってから、行動再開。

サイドキックはシフトを組んで巡回を続けているが。その巡回ルートや、監視カメラの位置は、大体掴んだ。

今回はこれで引き上げても良いくらいだが。

もう少し、調査は進めておきたい。

しばし辺りを探り、女中の役割をするサイドキック達の寝所を見つけるが。皆、どちらかというと、貧しい服装をしていて。

あんな美しいメイド服は、誰も着ていなかった。

どういうことだ。

あれは何か、特別な地位にいるメイドだったのか。

見たところ、わたしと大して年も変わらない様に見えた。

それなのに、武装要員に敬語を使われていた。

この世界では。

戦闘タイプヒーローの地位が一番高い事からも分かるように。強いと言うことがステータスになる。

戦闘力を持たない給仕は、男女関係無しに地位が低いのが普通で。

サイドキックの間でも、その力関係は健在だ。

例えば、特殊な技師や医者などは話が別だけれど。

あのメイドがそうだったとは思えない。

長い黒髪を腰まで伸ばしていて、美しい顔立ちをしていたけれど。

それも妙だ。

バラマイタは、顔をコンプレックスにしていると聞いている。

それがどうして、明らかに自分より美貌という点で優れている女を、メイドにして優遇している。

欲望に忠実なのがこの世界のヒーロー。

ましてやバラマイタは、ライトマンに協力して、ザ・パワーの邪魔を散々していた筈で。今もあまり良い関係では無いと聞いている。

弱きを助け強きを挫く。

それを老害の思考と考え。

力を振るって自分の快楽を求めて何が悪い。

それを正当化する、今の時代の常識に当てはまるヒーローだ。

あのメイドを探す。

アレは多分、何かの鍵になっているはずだ。

見たところ、戦闘タイプヒーローでは無いし。普通のヒーローでもないと思うのだけれど。

しばし、彼方此方の部屋を探し廻った後。

見つける。

廊下で美術品の掃除をしながら、移動していた。

無音でその背後に降りると。

監視カメラに見つからない位置で口を塞ぎ。

天井に引っ張り込む。

子ウサギを捕まえるより容易かった。

恐怖に青ざめるメイドの耳元に囁く。

「騒ぐと壊す。 だけれど、質問に答えれば、記憶を壊すだけで助けてやる」

「……」

こくこくと頷くメイド。

演技とは思えない。

つまり、荒事の経験もない、という事だ。

サイドキックとして、戦闘経験くらいは受けているケースはあるし。機密を預かる立場の場合、拷問に対する訓練くらいは普通受けているものなのだが。

これでは、それこそ。

蝶よ花よと育てられたお嬢様で。

しかも、どうしてそれがメイドの格好をしている。

「名前は」

「ローズです」

「薔薇か。 あんたは何者だ。 何故戦闘要員のサイドキックに、敬語を使われている」

「バラマイタ様が、そうするようにと皆に言っているのです。 私自身も、理由は分かりません」

嘘は言っていない。

言葉の様子から分かる。

この娘は本気で怯えきっていて。

わたしにいつ縊り殺されてもおかしくないと、悟っている。

少しボディチェックさせて貰う。

変な装備は持っていない。

しかし、気になる事があった。

「何か美容の類をやっているのか」

「いえ、おいしいものは食べさせていただいていますけれど」

「……そうか」

こんな美貌の持ち主。

昔のアイドルにもいない。

わたしなんて到底問題外。何処の男でも、舌なめずりするレベルだろう。

サイドキックという立場同士なら、男が放っておかないはず。だが、この娘を見る限り。明らかに周囲は、距離を置いていた。

つまり他は知っている。

頭を弾いて、記憶と意識を壊すと。

下に降ろしてやる。

すぐに目を覚ますと、メイド服の娘は行った。

続いて、別の奴。

武装したサイドキックを捕縛。

天井裏に引きずり込む。

わたしの顔は知っているのだろう。

青ざめたサイドキックは、小さな悲鳴を上げた。大声を出したら首をねじ切ると脅したら、すぐ静かになったが。

「あのメイド服の娘は何者だ」

「あ、あれは……」

「いわないと殺す」

「……! 勘弁してくれ、もし言ったことがばれたら、家族もろとも皆殺しにされてしまう」

だったら、家族もろとも脱出させてやる。

そう約束すると。

青ざめていたサイドキックは。ようやく、話し始めた。

その内容を聞いて、わたしは。

流石に背筋が凍るのを感じた。

「フランケンシュタインの怪物、だと」

「バラマイタ様は、その、自分のお姿にコンプレックスを持っていて、自分を美しく改造する技術を求めておられる。 手足を交換したくらいでは、ヒーローの能力はなくならないからな。 最終的には、顔の造形も含めて、全てを改造為されるおつもりらしい」

「何だそれ……」

「女中の間では有名な話だが、昔のバラマイタ様は、それは醜いお姿だったそうだ。 そこで市民を増やして、美しい女性の遺伝子を採取。 クローン人間を作っては、少しずつ自分の体に移植していった……」

おぞましい。

その結果が、今のバラマイタか。

美容整形なんてレベルじゃ無い。

文字通り、美容変身だ。

なるほど、噂はまるっきり全部嘘では無くて。一部だけは適中していたのか。

此奴はかなり古株のサイドキックとみた。それに嘘はついていないと、わたしの経験が告げている。偽情報を話しているわけでも無いだろう。

「今では、首から下の全てを交換済みで。 顔も全て整形しているそうだ。 そして最終的には、顔も変えたいと思っておられるらしい」

「それであの娘は実験体だと」

「それも十七代目だ」

「……!」

バラマイタは、気分次第で、つぎはぎして美しい娘を作るという。

勿論、本来そんな技術はまだ存在しない。

バラマイタの能力なのだろう。

恐らく、世間的に公表されている能力は偽装。

そのつぎはぎこそが。

バラマイタの本当の能力、という事なのだろうか。

「バラマイタ様は歪んでおられる。 あのローズも、今は愛でているが、その内気分次第で殺してしまうだろう。 そして殺した後は、料理して自分でお食べになるのだ」

「ビートルドゥームの同類か」

「美を取り込みたいんだそうだ。 そして、また遺伝子プールから、理想的な美貌を作り上げて、側に置いて。 自分がより美しくなるための参考にするんだよ」

溜息が零れた。

このサイドキックは、嘘をついていない。

しかし、その全てが本当だったとして。

バラマイタがオリジンズの黒幕となっていると言う話にはつながらない。

もう少し調べて見るが。

恐らくこの女は白だ。

ただ、あのフランケンシュタインの怪物と呼ばれた、ローズという娘は。このままだと殺されて喰われてしまうだろう。

「な、なあ、全部喋ったんだ、殺さないでくれ」

無言で頭を弾く。

今の記憶を全て粉砕したのだ。

床に降ろしてやると。

何が起きたかも忘れた様子で、サイドキックは歩き出す。

雲雀の方は、成果が出ただろうか。

わたしはローズというあの哀れなフランケンシュタインの怪物と呼ばれた実験体をもう一度引っさらうと。

美に取り憑かれた狂鬼が住まう屋敷を、後にしていた。

 

4、目

 

ザ・アイの屋敷に潜入。

今頃テンペストも、バラマイタの屋敷に潜入している頃だろうが。入って見て、すぐに分かった。

此処は、難易度が今まで潜入した拠点で最高だ。

私にとっては、潜入は既にお家芸。

戦闘は精々中堅の戦闘タイプヒーローと同等くらいにしかこなせないけれど。潜入に関しては、ザ・パワークラスの相手で無ければ気付かれない自信もある。その私が培ってきた経験が、びゅんびゅんと警戒音を鳴らしているのだ。

此処はまずい。

逃げろ。

そう本能が告げている。

そもそも、外観からしておかしい。

此処は何かの肉を培養して作った巨大な塊で。

屋敷と言うよりは、命を持たない肉が、蠕動しながら蠢いている、という風情の姿なのだ。

ザ・アイは支配地区も謎が多く。

住民達は多いが、皆一言も喋らず、人形のように動き回っていると聞いていたが。

インフラなどをたどって屋敷を見つけ出してみれば。

地下深くに、こんなものを見つけたのだ。

これでは、他のヒーローが知らないのも無理はないだろう。

表向きの屋敷は一応地上にあるが。

其処は、通過点としてしか利用していない様子だ。

つまり、エレベータールームのような扱いである。

「生体気配が多すぎて、サイドキックだか何だかわからんな」

ぼやく。

天井裏と呼べるのか、隙間を通って移動するけれど。通路には人影も無し。ザ・アイはこんな気色の悪い肉塊の中で、何をしているのか。

しばし辺りを観察するが。

ザ・アイはいる。

肉塊の屋敷の最深部。

二日掛けて到達した其処で。

ザ・アイの。

巨大な眼球に、手足だけが生えたような姿があった。

此奴はまったく能力の正体も知れていないと言うことで、他のオリジンズからも気味悪がられているようだけれど。

確かにこれを見る限り。

尋常では無い。

普通の人間がここに来たら、一時間も保たずに精神を病むだろう。

最深部は、無数の硝子ケースが並べられた、実験施設になっていて。多数の人体が其処に浮かべられていたが。

その全てが、異形だった。

どれもが人間に似ているが、違う。

ザ・アイは。

ロボットアームを動かしながら、研究を続けている。

周囲に人影は無い。

「これもだめカ」

溜息が零れる。

ザ・アイは悲しんでいる。

恐らく自分の研究成果が上手く行っていないことに、苛立っていると言うよりも。もはや諦めている雰囲気だ。

「ザ・アイ」

「ウォッチか」

身を竦ませる。

ウォッチと言えば、時間を操作するオリジンズの一人だ。

いきなりその場に現れていた。

時間を止めて、此処まで移動してきたのだろう。

「研究は、うまくいかないみたいだねえ」

「ここには来るなと言っている筈ダガ」

「盟主からのお呼び立てだよ」

「! そうか、ならば仕方ない」

盟主。

バラマイタか。

いや、ウォッチまで参加しているとなると。

更にヤバイ何かか。

オリジンズ以外に、そんな大物はいるか。

どうにも思い当たらない。

オリジンズのメンバーは、他にはさほど存在感がある奴もいない。ライトマンがいなくなったあと、その権威を全てかっさらえる奴なんて、想像も出来ない。

二人が出て行った後。

肉の屋敷には、静寂が戻った。

研究室に潜り込むと、資料を漁る。

そして、とんでもないものを見つけた。

断片的だけれども。

これが本当だとすると。

ひょっとすると、とんでもない勘違いをしていたのかも知れない。

すぐに異形化して、最大限まで気配を消す。そして、肉の屋敷を脱出する。ここからが大変だ。

資料を見られたことに気付けば。

恐らく、ザ・アイとウォッチは、全力で殺しに来るだろう。バラマイタも多分同様だ。この三人がつるんでいることはもうどうでもいい。

問題はその背後にいる奴だ。

そうか、もしこの仮説が本当だったとしたら。

この荒涼たる世界は。

どうにか地下下水道に戻り、異形化を解除。其処においてきたコートにくるまり、ようやく一安心する。

呼吸を整える。

コレが本当だったら、まずい。

まずいなんてもんじゃない。

下手をすると。

アンデッドでさえ、そいつの掌の上で転がされていた可能性がある。しかも、証拠が無い。

私が掴んだのは、あくまで状況証拠の断片。

それを元に、話を進めて行くのは危険すぎる。

まずは、プライムフリーズの所に戻って、そこで相談だ。

レーションを手にしようとしたとき、気付く。

目の前に。

いなかったはずの誰かが、いた。

「……っ!」

「見事な穏行だな」

それは、ミフネだ。

まずい。

勝てる相手じゃ無い。というか、戦える相手でさえない。そして、なんと無しに悟る。此奴も、糸につながる一つ。

多分此奴は。

ザ・パワーの手に負える相手じゃ無い。

「ど、どうして此処に」

「話すと思うか?」

「……」

無理だ。

完全に王手。

ミフネは既に刀を抜いている。この刀は、普通のものではない。あのプライムフリーズを貫き、致命傷を与えたほどのものだ。私なんかが喰らったら、それこそひとたまりも無いだろう。

異形化出来れば。

まだワンチャンあるのだが。

試すしか無い。

「と、取引しよう」

「何をだ」

「今のは忘れる。 だから部下に。 今の穏行、見ていただろう。 使えるはずだよ」

「……」

次の瞬間。

ミフネの振るった刀が。

私の首を、刎ね飛ばしていた。

 

(続)