吐瀉物の湖
序、封印の扉
ザ・パワーが円卓に戻ると。既に残っているのはライトマンだけになっていた。そもそも招集も、アンデッド対策が目的で。その決議が終わった以上、自分の支配地区が大事、というのが皆の本音。
それ以上に、ザ・パワーの顔をそもそも見たくないというのが理由なのだろう。
ライトマンはくつくつと笑う。
「流石ですな。 あのアンデッドを瞬殺とは」
「鍛え方が違う」
「それで、フラッシュライトが死んだとか」
「休暇を渡す。 葬式に出てやれ」
頷くと。ライトマンも部屋を出て行く。
昔は、市民に会議の様子が公開されていたこの円卓も。インターネットが完全に潰されている今は。ただの硝子張りの部屋。
それも建物の外からは一切見えず。
強力な戦闘ロボットが警備に当たっている、ガラスとは名ばかりの、鉄の箱だ。
ライトマンは、弟子が死んだというのに、悲しんだ様子も無かった。妙だなとは思うけれど。
しかし彼奴が得体が知れないのは、今に始まった事では無い。
とにかくライトマンは分からない。
戦って負ける事はない。それは大丈夫だ。ザ・パワーの実力に関しては、客観的に見てもこの世界最強である。
ライトマンとやりあって負ける確率はほぼゼロだ。
それくらいにザ・パワーの能力は磨き抜かれている。
圧倒的な相性差さえ覆せるほどに。
これは自信では無くて、ただの事実である。
問題はその後。
例えば、他のオリジンズが総出でザ・パワーを攻撃してきた場合どうなるか。勝てる自信はある。
ライトマンが他の面子をまとめている場合。
何かしらの罠に填めた場合。
いずれも問題ない。
頭を振る。
そもそも同胞で。珍しいザ・パワーに反対しない戦士だ。そのように疑うのは、好ましい事では無い。
ただでさえ今の時代、世界そのものが腐っているのだ。
これ以上混乱を加速させてどうなる。
ただ強くなった。
間違ったことはしていない。
ヒーローとして、恥ずかしい事は一つもしていないと、胸を張って言う事も出来る。だけれども。
ザ・パワーは孤独だ。
少なくとも同格の戦士は一人もいない。
初代オリジンズの十人は、皆が絆で結ばれた仲間だったと聞いている。それはおそらく間違いの無い事実。
宇宙人の侵攻の真実を知っている現在でも。
それについては正しいと断言できる。
次のオリジンズにグイパーラが。あの実直な男が加われば、少しはザ・パワーは動きやすくなるはずだ。
だが、二人。
最低でも同志は五人は欲しい。
そうしなければ、腐敗は改革できない。
改革しなければ。
この星の八億しかいない民は。
もはや未来もない時代に、呻き続ける事になる。
嘆息する。
外から来たのは、重要な任務を帯びている特務のサイドキックだ。敬礼をすると、手紙を渡してきた。
フラッシュライトの身辺調査である。
やはりおかしなところが散見されたという。
まさかテンペストにその死を通報されるとは思っていなかったが、やはり彼女が言うとおり。フラッシュライトは暗殺されたようだった。
そして、専属の医師は何者かに事前に抱き込まれ。
用済みとして消された。
此処が分からない。
フラッシュライトは用心深い男で、サイドキックの医師も慎重に選抜していたはず。どうしてそれが、こうも初歩的な暗殺を許した。
フラッシュライトほどのヒーローになると、ほぼ毒も通じない。だから、その体そのものを壊すというのは、暗殺としては理にかなっている。
だがこれは知られていない。
同じようなケースで、ヒーローが他のヒーローを暗殺したケースはある。
だが、それはヴィランにさえ知られていない。
つまり暗殺をしたのは。
他のヒーローに他ならないのだ。
頭を抱える。
宇宙人が攻めてくる。
そのケースはある。ありうる。
あの宇宙人達は、そもそも。
だから、再度の侵攻の可能性は、充分にある。少なくとも、条件が揃った場合は。恐らく前回の侵攻の比では無い戦力。そう、最低でも百五十倍は準備して攻めこんでくる事だろう。
もはやどのようなヒーローでも押し返せない。
それなのに、この星の。この世界のヒーロー達は。
ため息をつく。
そして部屋を出た。
フラッシュライトの人間牧場は解体。市民はみな救出し、ザ・パワーの支配地区に移送させた。
後始末は粛々と進んでいる。
フラッシュライトはサイドキックの反乱を防ぐために、脳にチップまで入れて管理していた。
それなのに、何が起きた。
テンペストの討伐についても考えなければならない。
もしテンペストが、ハードウィンドの弟子だったとすると。
自分を恨んでいるだろうな。
そう、ザ・パワーは悟る。
だけれども、もはやどうにもできない。ヒーローとはこうも無力なのかとさえ思う。しかし、それでもやることはやらなければならない。
無茶な壊し方をすると、秩序は数百年単位で回復しない。
大国が仁義無き殺し合いをしていた時代を考えると。
今のディストピアがまだ生ぬるい地獄だった頃さえあるのだ。
そう。
今のこの世界は。
典型的なディストピア。
そして自分は、変える事が出来ずにいる。
ライトマンは自分の支配地区に戻る。
彼の支配地区では、市民をナンバー管理制で処理している。大型のスパコンの所有許可を貰い、それぞれの市民につけたチップから、発言、思考、行動、その全てを監視しているのである。
他のヒーローに比べると過酷では無いやり方だが。
実はフラッシュライトに人間牧場を提案したのはライトマンだ。
他の何人かいる弟子にも、市民の管理については、幾つかの提案をさせて、そのように動かせている。
ザ・パワーは弱者を守るのがヒーローだなどと吹聴しているようだが。
ライトマンから言わせれば。
笑止の極みだった。
一方で、選ばれた存在だとも思っていない。
ライトマンは自室に戻ると、ワインを開ける。このワインも、宇宙人の大侵攻で一度製法が失われ。
その後に分析して復活させたという経緯がある。
ワインもどきなら簡単に作る事が出来るのだが。
伝統を持つ芳醇な高級品となると、再生は中々難しかった。
勿論市民に作らせてはいるが。
それぞれの行程を別々の市民にやらせているので。製法を盗むことは不可能だ。
しばし味を楽しむ。
白も赤も味は実のところ変わらないのだが。
ライトマンは白の方を好んでいる。
この辺りは、単純に好みの問題である。ちなみに赤が好きなヒーロー用に、そちらも生産はしているが。
「ご報告します」
「うむ……」
どこからともなく声。
それが部下のものだと、ライトマンは知っていた。
サイドキックでは、ない。
弟子でも、ない。
「テンペストの位置を確認しました」
「それで?」
「例の地下組織とやはり接触していたようです」
「そうだろうな。 アンダーウィングの時に、その兆候は見られた。 テンペストの動きを見るに、ほぼ間違いなくハードウィンドの弟子だろうが、それについての裏付けは取れたか?」
そちらはまだだという。
まあいい。
それが分かっただけでも充分だ。
「ザ・パワーに連絡。 そろそろ例の地下組織にヴィラン待遇を設けよう。 「得体が知れない」能力者もいるし、ヒーロー崩れのパーカッションが逃げ込んだという情報もあるしな」
「は。 組織名はなんといたしますか」
「クリムゾンでよかろう。 例の組織が攻撃を行う際、深紅の触手の塊が目撃されているからな」
「ご随意に」
気配が消える。
ワインを一瓶開けると、風呂に。
ライトマンは光を操る能力者だ。だから、便利なように、光学センサを居住空間の彼方此方に仕掛けている。
このため、わざわざ手足を動かさなくとも、スイッチを自在に操作できる。
勿論能力の研磨も兼ねての事だ。
ライトマンも、昔はヴィラン狩り部隊にいた。
その頃は同僚にザ・パワーがいたから、戦いは非常に楽だったけれど。それでも本物の殺し合いを経験してからは、やはり能力の研磨が重要だと気付かざるを得なかった。
風呂から上がると。
ライトマンは机の上にカードを並べる。
それぞれには、名前が書かれていた。
今、彼の手元にあるカードである。
並び替えていく。
完全に制御下にあるもの。
遠隔的に制御はしているが、ふとした事で離れる可能性があるもの。
そして。
意図せず、ライトマンの掌の上で踊っているだけのもの。
しばし腕組みして考えた後。
鈴を鳴らす。
執事役のサイドキックが部屋に入ってきた。
ちなみに元ビートルドゥームの執事役をしていた男だ。あのビートルドゥームに殺されなかっただけあり、かなり有能で。重宝していた。
ビートルドゥームのサイドキックは殆どライトマンの配下に移した。
これは恩を着せてやったのである。
他のヒーローと違って、ライトマンは知っている。
人間は、恩を着せてやった方が動かしやすい。
そうした方が。
使い出が増えると。
「如何なさいました」
「そろそろ夕食にする。 今夜のメニューは」
「鹿肉のソテーにございます」
「そうか」
ちなみに、鹿は絶滅動物だ。
理由はいうまでもないだろう。
現在存在する鹿は、オリジンズの管理地区で再生されたものである。鹿に限らず、宇宙人の大侵攻の際、九割方の生物は死滅したのである。特に大型の動物は致命的な打撃を受け、人間より大きな生物で、生き延びたものは存在しない。
殆どが後に遺伝子工学で再生されたものである。
動物園も存在するが。
それはあくまでヒーロー向けの娯楽用。
故に世界に一カ所、オリジンズの管理区画にしか無い。
その代わり、恐竜を一として、再生に成功した動物は全てを生きている姿で目撃することが出来る。
需要は多いのだ。
凶暴な動物に人間を喰わせて楽しむヒーローは。何もビートルドゥームだけではないのである。
夕食に出た鹿肉のソテーはなかなかの味わい。前菜のサラダもあわせて、栄養のバランスも考えてある。
ビートルドゥームの時の事を聞く。
苦笑いしながら、執事は言う。
「あのお方は、肉が大好きで、どう野菜を食べていただくか、いつも頭を捻っておりました。 下手なものを出せば殺されてしまうのが確実でしたから」
「それでどうしていた」
「医師と相談した上で、栄養だけを肉に仕込んでおりました。 丸焼きを丸ごといただくのが大好きなお方でしたので、気付かれる可能性はありませんでした」
「苦労したのだな」
口元をナプキンで拭くと、皿を片付けさせる。
ちなみに舐めたように綺麗だが。
これは昔の苦労を忘れないためだ。
ライトマンは。
ヒーローとしてのスーパーパワーが覚醒するのが、例外的に遅かった。能力を持っていることは分かっていたのだが、何をどうやっても覚醒しなかった。
早い場合は生まれてすぐに能力が覚醒するケースさえあるこの時代。
27歳まで能力が覚醒しなかったライトマンは、遅いという点で記録に残るほどだったのである。
未覚醒のヒーローは、相応に大事に扱われるが。
同僚のヒーローからは半端物扱いされるのはどうしても避けられない。
更に言うと、ライトマンの場合。
27歳という異常な遅さがそれに拍車を掛けた。
能力覚醒後は、それまでの鬱憤を晴らすように活躍したが。それでも多くの差別は受けたし。
哀しみだって背負った。
この世界が歪んでいるとザ・パワーはいつも嘆いているようだが。
そんな事は言われなくても分かりきっている。
だが、ライトマンは、ザ・パワーとは少し考えが違う。
腐っているなら。
それ相応に利用方法もある。
そう考えていた。
「そろそろ眠る。 寝所の準備は」
「問題ありません。 閨には誰かを寄越しますか」
「不要」
「分かりましてございまする」
そういえば、あのビートルドゥームは、シロサイを閨の供にしていたとか聞いている。まああの大きさでは人間など抱けないだろうし、仕方が無いか。それにビートルドゥーム自身が、人間よりは野獣に近い存在だった。
フトンはよく整えられていて。
ベッドメイクの腕が良く分かる。
満足すると、ライトマンは眠りにつく。
怠惰に遊んでいる他のヒーローとは違う。
ライトマンには、やることがいくらでもあるのだから。
1、滅びの星
何があったのか、未だに分からない。
再び地下に潜ったわたしは。混乱する頭を抱えながら、あてもなくさまよっていた。
自分で相手を再起不能にしたことは何度もある。
それについて、後悔したことは無い。
少なくとも、最初の一件は混乱したが。
それ以降は、必要なことだった。
このおかしくなってしまった世界に、異議を唱える者は絶対に必要だ。だからわたしは戦う。
その決意に代わりは無い。
だが、ヒーロー同士での暗殺劇。
それも、あれほどの数を巻き込んでの大量虐殺。何が、起きたというのか。
現在世界を支配しているオリジンズが分裂したケースについては、まだ聞いたことが無い。
流石に宇宙人がまた攻めてくる可能性がある以上。
そこまで愚かしいまでには出られないのだろうとは、わたしも理解はしているのだけれど。
しかし、あの様子では。
下手をすると、ヒーロー同士が分裂して。武力も交えた派閥抗争を始めかねないのでは無いのか。
終焉の喇叭が吹き鳴らされた。
そうとさえ、わたしには思えた。
アジトにしているビルに入る。
トラップに誰かが掛かった様子は無い。非常に古ぼけたビルで、内部は崩落寸前。わたしは崩落しても何ともないので、平気で使っているが。
他には流石に人気もない。
これでは危なすぎて使えないと。
誰もが知っているのだ。
雨水が滴る音。
天井から漏れた水が、床に跳ね返っている。
水たまりは大きく拡がっているが。
わたしは濡れない場所を上手に確保できたので、そのままにしておく。壁に背中を預けると、ぼんやりと外を見ていた。
立体映像での放送がある。
この地区を支配しているライノダラスは、ヒーローとしてはごく平凡な奴だ。市民をゴミのように扱っている点で。
ただし、抹殺対象にするほどの虐げ方では無い。
だからいちいち戦いに行くまでもない。
情けない話だけれど。
全部殴って行くには、テンペストの力は足りない。
上から順番にやっていくしかないのだ。
われたガラス。
外の冷たい風が吹き込んで来る中。
淡々と立体映像は、くだらない内容を垂れ流していた。
「幾つかのヒーロー支配地区でテロ活動をしていた組織に、この度ヴィラン認定がなされました。 ヴィラン組織名はクリムゾン。 複数のヴィランが実際に所属している危険な組織です。 市民の皆様は、十分に注意してください」
「何を注意しろってんだよ」
ぼそりと、呟く。
市民に何を対策しろというのか。
疲れ果てているテンペストは。
毛布にくるまると、しばし眠る。
結局ザ・パワーに頼るしか、あの数十万に達する市民を救う方法が無かった事。何より、自分では及びもつかない強大な悪夢が、蠢いていること。
何もかもが、テンペストを疲れさせていた。
気を張っている分、疲労が一定を超えると。
特に精神的な疲弊がピークに達すると。
テンペストは動けなくなる。
お前の心は決して強くない。
そう師匠にも言われていた事がある。
だから、いつも師匠の言っていた言葉を思い出して、強くあろうとしているけれど。それも時々駄目になる。
限界を超えてしまうのだろう。
しばし、眠る。
こういうときも、訓練のことを思い出して、浅くゆっくり眠る。もしも襲撃があった場合に備えての事だ。
目が覚める。
外は豪雨。
荷物が濡れるかも知れない。
場所を変える必要がある。
そうわたしは判断した。
まだ、体は。というよりも、心は回復できそうにもない。強烈な疲弊が、全身をむしばんでいた。
頬を叩く。
どれだけ鍛えても。
結局心は脆いままだ。
こんな脆弱な心で。
世界など改革できるか。
自分に何度活を入れても。奮起できない。その弱さが、とにかく腹立たしいし。情けなくもあった。
どうした、お前はヒーローだろ。
立て。
敵の力が圧倒的だからといって屈するのか。
この世界の歪んだ理屈を見逃すのか。
市民が今この瞬間も、どんな目にあっているか、忘れたのか。
思い出せ。
そして立ち上がるんだ。
分かってる。
分かっているよ、師匠。
だけれど、わたしは。
頭を振る。
そして、わたしは立ち上がる。荷物がいつになく、重く感じた。その気になれば、こんなビルくらい、片手で支えられるはずなのに。
どうやら台風が来ているらしい。
立体映像では、それぞれの家に戻るように促していたけれど。それを恨めしそうに、ホームレスの者達が、ビルの影から見つめていた。
わたしは歩く。
そして、別の廃ビルを見つけた。
これはかなり古い廃ビルだ。恐らくは、宇宙人の大侵攻に耐え抜いた廃ビル、とみるべきだろう。
中に入ってみると。
なんと電気も少し生きている。
だがそれが故に。
先客も多かった。
棒きれやら鉄パイプやらで武装した男達が出てくる。市民の武装が許可されない現在、普通の犯罪組織ではこの程度の武装しか出来ない。
中には工夫して弓矢を作ったりしている者もいるが、その程度だ。
「なんだてめえは」
「悪いな、邪魔する」
「巫山戯るな、此処は俺たちファランクスのアジトだ!」
「ファランクス?」
聞き覚えがあるような気がする。
そうだ、思い出した。
この辺りをシメている犯罪組織だ。ヴィランと呼ばれるほどの大規模活動はしていないから、武装したサイドキックに踏み込まれていない。その程度の組織である。鼻で笑うと、鉄パイプを奪い取り、ぐにゃりと曲げてみせる。
それだけで青ざめたファなんとかは、アジトを放棄して逃げていった。
能力者だと一目で理解できたのだろう。
それでいい。
中はかなり寂しい。
犯罪組織といっても、今はそもそも法の隙間に生きて、しゃぶる金がない。古い時代には犯罪組織は国をも揺るがすことがあったらしいけれど。
今の時代、軍隊の比では無い戦闘力を持つヒーローが世界を支配している。
目立つ犯罪組織なんか、一瞬で皆殺しにされるのがオチだ。実際問題、幾つか存在した犯罪組織は、文字通りの鏖殺の憂き目にあっている。現在地下に存在する犯罪組織は、いずれも潜伏していて、権力に手出しできる状況では無い。サイドキックを殺す事は出来ても。戦闘タイプのヒーローには手も足も出せないからだ。核も通じないような奴もいる相手に、アサルトライフル以下の装備しか無い犯罪組織が抵抗できるわけも無い。
ファなんとかにしてもそう。
今まで武装して、ホームレスや子供相手に粋がっていただけの集団だったのだろう。内心ではサイドキックやヒーローの襲来にいつも怯えていたに違いない。
一番奥。
リーダーらしい奴が使っていた部屋は、それなりにしっかり設備が残っていた。
嘆息すると、外に出て。雨風を凌いでいるホームレス達を呼ぶ。
「ファなんとかは追い払った。 しばらく此処で休んでいるといい」
「し、しかし」
「問題ない。 今から残りも全部シメてくる」
ああいうのは、放置しておくと、後で逆恨みして、弱者に八つ当たりする可能性が非常に高い。
市民は守るべきものだが。
あれは市民に分類していいものか。
勿論やり過ぎないように注意はする。
小悪党までぶっ潰していたら、それこそこの世界の人間全てを叩き潰さなければならなくなるからだ。
ふと、鏡を見る。
目がどす黒く曇っているのをみて、はっとなった。
わたしは、ひょっとして。
殺意のまま動こうとしていたか。
慌てて頭を振る。
駄目だ。
市民を守るのがヒーローだろう。市民を選別してどうする。彼奴らにも、全うに生きる道を示さないといけない。
ただ、言葉が通じない相手の場合は。
相応の処置が必要だろう。
逃げていった方角は分かる。
だから追いつくのも簡単だった。
全員を動けない程度に叩き伏せる。
その後は、恐怖をたっぷりとねじ込んでいった。
「わたしの名前はテンペスト。 まあ中堅所のヴィランだ。 覚えておけ」
「ヴィ、ヴィラン! ひいっ!」
「しばらくこの地区に滞在する。 その間、ホームレスや子供や、普通の生活をしている市民に暴力を振るってみろ。 全員一生病院から出られない体にしてやるからな」
勿論この世界で、市民が入れる病院なんて、一部の地区にしか無い。
それが事実上の死刑宣告だと、ファなんとかは悟っただろう。組織のボスも、徹底的に潰しておく。わたしの名前を聞いただけで小便をちびる程度にぼこぼこにしておいた。もう悪さは出来ないだろう。わたしの名前がトラウマになるくらいまで痛めつけたから、これ以上は悪党として活動不能だ。
これでいい。
元のビルに戻る。
かなりの数のホームレスや貧民が入り込んで、雨露を凌いでいた。
わたしは無言でその場を後にする。
わたしがあの中にいたら。
せっかくの避難場所を見つけた人々が、迷惑する事になる。
別のビルを探す。
その間、わたしに声を掛けてくる者は、何処にも。誰も、いなかった。
気がつくと、雨も止んでいた。
台風が去ったらしい。
結局歩き通しだった。地区も別の場所へ移ってしまっているだろう。地図を確認して、此処がサンドショットの支配地区だと悟った。
溜息が出る。
どうしてだ。
この隣の隣の地区が、次のターゲット。
クロコダイルビルドの支配地区だ。
順当に進んでいる。
大雨の中を歩いてきた割りには消耗も少ない。それにサンドショットの支配地区は、ライノダラスと大差ない状況。
休む事は難しくないだろう。
砂丘に出た。
砂に沈むようにして、幾つかのビルが見える。どれもが、宇宙人の大侵攻で放棄されたものばかり。
砂で覆われているのは。
サンドショットが、自分が戦いやすいようにするためだ。
名前の通り、サンドショットは砂を操作するヒーロー。能力としてはそこそこだけれども。
この地区は全域が砂漠化していて。
奴にとっては非常にやりやすい戦域になっている。
その分市民の生活は非常に苦しいようだが。
積極的に虐げていないだけ、ほかのヒーローよりはまだマシだ。
適当なビルに入ると。
ミイラ化した死体が、幾つか散らばっていた。鼠が囓っていたので、追い払う。ビルの最上階だけが残っていて。
他は砂に埋もれているようだった。
外に墓があったので。その隣に死体を埋葬していく。
そして、分かり易く墓標を立てると。
ビルに入った。
「ごめんな。 あんた達の家で休ませて貰うよ」
壁に背中を預けると、眠る。
この地区は、急いで抜けるつもりだ。クロコダイルビルドはかなり手強い相手だし、サンドショットも相手にするには面倒くさい。
ただ、最強と言われるヴィランのアンデッドが捕縛された今、ヒーロー側としても、そろそろ「ヴィラン」テンペストを無視できなくなってくるはずだ。
戦闘での一撃離脱を考慮すると同時に。
もっともっと強くなっておかなければならないだろう。
缶詰を開けて、適当に頬張る。
そして、眠った。
だが、すぐ目が覚める。
武装した人間の気配。
それも、相応の数だ。
すぐに意識を立て直すと、外を確認。どうやら、此方が狙いではないらしい。サイドキックの一団が、巡回しているのだ。
砂漠仕様の装甲車が走る。
身を隠す必要もないか。奧で眠ることにする。サイドキックも、此方には興味も無いようで。
砂を激しくまき散らしながら、砂丘の向こうへ消えていった。
気付く。
気配がある。
この間一緒に戦った奴らの一人。フードの影だ。
クリムゾンとか組織名をつけられていたが。本人はそれで満足なのだろうか。
「どうした、首領が直々に来るとは。 暇なのか」
「クロコダイルビルドを叩きに行くつもりか」
「そのつもりだが」
「やめておけ」
妙なことを言う。
奴はビートルドゥームより若干格が落ちるヒーローだ。戦闘力という観点でも、である。更に言えば、能力の種も知れている。
勝てる相手である。
それなのに、こういうことを言ってくる、という事は。
「何があった」
「クロコダイルビルドが、ザ・パワーの派閥に所属することを事実上宣言した」
「!」
何だと。
奴は典型的な、享楽的に快楽を求め、必要以上に市民を迫害する輩だ。それが急にザ・パワーの派閥に鞍替えだと。
しかも、である。
フードの影は言う。
「既に支配地区での大改革が始まっている。 ザ・パワーの支配地区から人員が投入され、市民の生活が劇的に改善されている様子だ」
「ばかな。 あのクロコダイルビルドだぞ。 悪名の高さで言うと、ビートルドゥームにも匹敵したゲス野郎だ」
「理由は分からないが、オリジンズにグイパーラが正式加入した影響かも知れん。 ザ・パワーの強烈なシンパであるグイパーラがオリジンズに加入したことで、その権力が拡大したと判断した可能性もある」
「政治的判断って奴か」
胸元で拳を掌に叩き込む。
不愉快だが。
しかし、もしそれで市民の生活が向上するなら。
だが、クロコダイルビルドは。
芸術家を気取って、市民を「材料」として今までに五十万人以上も殺している悪辣な輩だ。
そんな奴を許さなければならないのか。
ただ、ザ・パワーにすり寄ったと言うだけの理由で。
何だ、これは。
ヒーローならどうする。
本当のヒーローなら。
師匠なら。
「現地に行ってから考える」
「好きにすると良い。 ただし、分かっているだろうが、もしも現状でのクロコダイルビルドに手を出したら、我々とは敵対関係になる」
「……そうだな」
別にそれはどうでもいい。
此奴の事は気にくわないし、やり方だって認められない。
だが、政治的判断だけで、相手をたたきつぶせなくなると言うのは、やはりおかしいとしか言いようが無い。
フードの影が消える。
そして、奴がいなくなってから。
わたしは荷物をまとめた。
2、掌反転
アーノルドとバディを組んでからしばらく経つが、やっぱり此奴は鬱陶しい。テンペストを神格化しているし、何より私になんだかんだで絡んでくる。ちなみに私が能力者だと言う事はもう知っているようだ。
此処は、巨大な湖、だった場所。
大量にあったおぞましいオブジェが建ち並び。
地獄の湖と呼ばれていた場所だ。
アーティストと自称するヒーロー。クロコダイルビルドが、市民を大量虐殺しては、その体を防腐処理して、湖に並べていた。それを芸術だと称し、他のヒーロー達に自慢していたのだ。
市民達は恐怖に打ち震え。
いつ自分が芸術作品にされるかも知れないと、泣きながら過ごしていた。
だが、不意に。
クロコダイルビルドが宣言したのである。
ザ・パワーの派閥に入り、地区の状況を改善すると。
何が起きたのかは分からないが。
この人間の死体を大量に串刺しにしていたおぞましい湖も、オブジェの数々も撤去され。市民用の病院。インフラの整備。いずれもが、急ピッチで進められている。なんと市民向けの学校までもが作られる予定の様子だ。
たくさんの、非戦闘タイプヒーローが働いている。
彼らは重機なんかものともしない能力で、それこそサイドキックの労働者数百人分の働きを片手間にする。
戦闘特化で無い分。
それだけ強力に能力を展開できるのだ。
潰されていたビルなども、処理して、資源に戻している。
それはそれで、別の担当ヒーローがいる。
唖然とした様子で。
双眼鏡から、アーノルドが顔を上げた。
「何だこりゃあ。 どういうことだ」
「さあね。 サイコ野郎が急に改心したとは思えないし、何か大きな事があったんだろうね」
「!」
「よこせ」
そのサイコ野郎。
クロコダイルビルドがお出ましだ。
奴はワニをかたどったマスクをしていて、全身を鰐皮のスーツで固めている。水中戦を得意とするヒーローだが、戦闘力に関しては精々中堅所。この間テンペストが倒したビートルドゥームに比べると、二回りくらい劣るヒーローだ。
奴の側にいるのは。
反射的に首をすくめた。
まずい。
もの凄く強い。
下手をすると、気付かれる。
「何だ、どうした」
「一度撤退する」
「何だよ、はっきり言え」
「オリジンズ級のが敵にいる。 クロコダイルビルドの横にいた女がそうだ」
ひょっとすると、バラマイタか。
オリジンズの一人。
女性ヒーローとしては、恐らく現在世界最強の一人。実力もオリジンズの所属ヒーローとしてまったく恥ずかしくないもので、ザ・パワーには劣るものの、貧弱な能力を研磨に研磨を重ねて、今の地位まで辿り着いた猛者だ。
だが、奴は確か。ザ・パワーとは反発しているはず。
どちらかというとバラマイタもかなり即物的なヒーローで、支配地区では市民から絞りに搾り取り、市民を虐げる事を厭わない奴だ。
それなのに、このザ・パワーのやり方を思わせる改革に、どうして参加している。
いずれにしても、テンペストでは此処には手出しできない。
そればかりか、今のうちの組織では、戦うだけ時間の無駄。一瞬で皆殺しにされるレベルの相手である。
戦闘向けでは無いパーカッションなんかひとたまりも無い。
私だって同じだ。
「アジトに戻るぞ」
「何だよ、納得いかねえぞ」
「死にたいか」
とにかく、アーノルドを引っ張っていく。
そして、アジトに戻る。
其処でも、かなりの混乱が見られた。
石塚が、電話先に怒鳴っている。相当パニックになっているのだろう。ちなみにこの電話は擬似的なものだ。実際には一種のイントラネットを利用して、通話ソフトを用いている。
そのため、あまり遠くとは通信できない。
「今戻りました」
「みてきたか」
「ええ。 話の通りです」
「どういうことだ……」
石塚が言う。
それによると、オリジンズの一人である、マンイーターレッドが来ているという。
マンイーターレッド。
バラマイタではなかったか。
マンイーターレッドは女性ヒーローで、オリジンズの一人。戦闘力については非常に高く、能力の詳細もよく分かっていない。どうやら植物を操作するらしいと言う話はあるのだけれど、推察の域を出ない。
若々しい女性で、中肉中背の目立たない外見をしている反面、スーツは非常に派手。
赤と蒼という目に優しくない組み合わせで、しかも幾何学的な模様。
だが、遠目に見た感じ、一瞬では其処までは確認できなかった。色も違ったように思える。
ひょっとすると、情報が違うか。
それとも、私服できているのかも知れない。
いずれにしてもだ。
オリジンズ級の相手がいるとなると、今の戦力では手が出せない。クロコダイルビルドだけだったら、何とかテンペストと共闘すれば殺れたのだけれども。何より、奴の方向転換が痛いのだ。
ヒーローの支配地区は、個人のもの。
運営方針も、個人にゆだねられる。
つまりクロコダイルビルドが死んだ場合。
せっかく市民を虐げない方向で改革が進み始めたのに、それが全てチャラになる可能性が大きい。
それは何を意味するか。
市民の生活を踏みにじる事を意味している。
私にとっては。
それは。
全体の幸福と天秤に乗せて考えてみる。
今生活している市民が、クロコダイルビルドの支配地区にはいて。
その生活が改善するのであれば。
呻く。
これは、テンペストは頭を抱えているのでは無いのか。
彼奴は少し話しただけだが、本物の原理主義者だった。初代オリジンズの思想を体現しているような奴だった。
だとすると、本当に苦しむだろう。
今更クロコダイルビルドのようなゲスが改心するはずも無い。
何かしらの政治的判断に決まっている。
だが、その政治的判断で。
弱者が多数救われるのも事実なのだ。医療も教育も手に入るのである。
フードの影が来た。
顎をしゃくって、来るように促される。
頷くと、アーノルドをその場に残して、別室に。別室では、席が準備されていた。
言われて、席に着く。
フードの影は、テンペストと話をつけてきたという。
混乱していたでしょうと聞くと。
くつくつと笑った。
「その通りだ」
「それで、どうします」
「此処で足踏みするのも何だろう。 ターゲットを変える。 だが、どうにも嫌な予感がしてな」
「……」
そうだろう。
実は私もだ。というか、殆ど誰もが嫌な予感を覚えているはずだ。
恐らくコレは。
政治的策謀だ。
「お前達が言う宇宙人の大侵略がある前の話だ。 ある国では、創作に過剰なモラルが求められた。 その結果、創作のあるジャンルが奇形的に発達した」
「あるジャンル?」
「英雄譚だ」
フードの陰は言う。
その国は、当時世界最強の存在だった。
数多の人種と思想があり。
あらゆる考え方が差別を想起させた。
そして問題も起きた。
結果。
許された一つのジャンルだけに、創作が異常集中して、発達が促されていったのだという。
「つまり、差別の対象にもならず、子供が見ても喜ばしい存在。 すなわち、ヒーロー達の物語だ」
「……」
「だが、異常発達の結果、ヒーローを題材にした作品は飽和していった。 その結果、ありとあらゆる人種の坩堝にふさわしい、独特で異様で混沌とした世界になって行った」
ヒーロー達は派閥を組み。
ヴィランも同じように派閥を組む。
その立場はシナリオによって入れ替わり。
果てしなくインフレしたその設定は、やがて破綻と再生を繰り返しながら。歴史の中で、文化としてうねりを作っていった。
「今の時代ほど悪辣では無いが、ヒーローが派閥抗争をして、その結果様々な災厄が生まれる話もあったそうだ」
「それで、私に何を言いたいんですか?」
「現実は皮肉だと言う事だ。 ヒーローが実際に現れ、世界を救った後、始めたことと言えば圧政と派閥抗争だ。 この市民への救済も派閥抗争の一端だとしたら。 私としては興味深い事例だ」
「ああ、貴方にはそうでしょうね……」
此方には冗談じゃあ無い。
ただでさえ此方は戦力不足。
今クロコダイルビルドに手を出すわけにはいかないし。かといって、同じような事があったらどうすればいいのか。
勿論クロコダイルビルドが改心などしているはずも無い。
この世界は。
何一つ変わっていないのだ。
石塚が呼ばれる。
彼も、今回の件については、首を捻っているようだった。
「まさかクロコダイルビルドほどのヒーローが、テンペストの襲撃を怖れたとは考えにくいです。 その気になればヴィラン討伐部隊でも呼べば良いだけのことですから。 今までテンペストに潰されたヒーローは、プライドが先行するタイプばかり。 クロコダイルビルドはそうではない」
「だとすると?」
「今回の技術やノウハウの提供はザ・パワーが行っているはずです。 更に言うと、オリジンズにザ・パワーのシンパであるグイパーラが加入しています。 無関係だとは思えません」
無関係でなかったら。
どうだというのか。
石塚が、幾つか考えられるケースを挙げる。
まず、クロコダイルビルドが、将来ザ・パワーがオリジンズを完全掌握すると判断して、その傘下に入ることを考えた場合。
これは考えにくいという。
「ザ・パワーはオリジンズで孤立しています。 グイパーラが加入してようやく味方が一人出来ただけ。 ライトマンはザ・パワーに忠実という噂ですが、きな臭い話が多く、恐らくザ・パワーも信用していないでしょう。 クロコダイルビルドほどのヒーローが、その事情を知らないとは思えません」
「ふむ、次」
「そうですな」
別のヒーローが、ザ・パワーの力を削ぎに掛かっているケースが考えられるという。この削ぎに掛かっているというのは、純粋な財力の話だ。
例えば、今回のクロコダイルビルドの支配地域改革の話。
もしも、提案者が、ライトマン辺りだとしたら。
「陰謀の臭いがしますな。 ザ・パワーは世界でも屈指の支配地区を持っていますが、決してその財力は大きくありません。 普通のヒーローなら市民から搾取しているところを、市民に還元しているからです。 正直な話、他のオリジンズがその気になれば、市民をザ・パワーの支配地区より増やすのは容易でしょう。 ましてや今回の件が、ザ・パワーの懐を更に痛めつける事になるとすると……」
「グイパーラがオリジンズに加入した事による危機感から、誰かがクーデターでももくろんでいる、と?」
「可能性はありますな」
「ふむ、面白い」
フードの影は本当におもしろがっている。
私は嘆息した。
此奴は感情を隠さない。
本当に、冗談抜きに楽しんでいるのだ。
「他のケースは」
「クロコダイルビルドが何かしらの失敗をして、ザ・パワーに補填を頼み。 その代わりとして、今回の作業を受け入れた、とか。 しかしクロコダイルビルドは保身にも熱心な男です。 本物のサイコパスではありますが、その一方でサイコパスは頭が非常に良いケースが多く、クロコダイルビルドはそれに合致します。 自分の政治的地位については敏感なはずです」
「これも考えにくいと」
「情報収集が必要でしょう」
部屋に飛び込んでくるのはジャスミン。
急を要する事態が発生したという事だ。
皆が黙り込む中。
ジャスミンは言う。
「テンペストが姿を見せました!」
「まさか、この地区にか」
「いえ、それが……」
テンペストが姿を見せたのは、なんとA地区でさえない、AF地区。古くはアフリカと呼ばれていた場所だ。
まさか。
ヒーローにしか飛行機を使えない現在。
そんなところに、この短時間で移動出来るはずがない。
テレポート系の能力者は非常に貴重で、その所在なども完璧に抑えられているはず。テンペストにそんな能力があったとは聞いていないし。戦闘を見る限りほぼ確実に違っている筈だ。
となると、何が起きた。
AF地区にいるヒーローがテンペストに襲撃を受けたと、立体映像で情報が流されているという。
ちなみに負傷しただけで無事だったそうだ。
「本物か?」
「分かりません。 何しろ通信手段が……」
「そうだったな」
インターネットが世界から撤去されてかなり時も過ぎている。通信をするのは、本当に大変なのだ。
距離が短い通信手段で、リレーをして行くしか無い。
今の時代だと、地下組織がアジアからアフリカまで連絡を取るには、最低でも一週間はかかる。
その上、伝言ゲーム状態になる。
どれだけ正しい情報が届くかさえも分からない。
ヒーローは強力な無線機を持っていて、それを使って高速で通信できるが。それでも、制約が大きいと聞いている。
ブラフだな。
フードの影が言う。
「石塚」
「はい」
「今回のケースは、恐らくかなり複雑な政治的策謀が絡んでいると見て良いだろう。 組織の力を結集して情報収集に当たれ」
「うい」
敬礼すると、石塚は出て行く。
ちなみに此奴も。
私と同じサイドキック養成校の出身だ。まあ奴隷商の別名だが。
すぐに皆が散る。
情報はほんの少しでも必要だ。
此処で起きている事は。
ひょっとすると、この世界を大きく変える出来事につながるかも知れない。
更にテンペストが襲撃したというヒーローは、確か市民に対してそれほど強烈な迫害を加えていない、むしろザ・パワー寄りのヒーローだったはず。それを考えると、今回、かなり大きな力が動いている。
一体何が起きた。
この世界に、何が起きようとしている。
テンペストは正直気にくわないが、彼奴はヒーローだ。
この腐った世界に、押し潰されていく姿は見たくない。
考え方は違うとしてもだ。
先ほど、フードの影が言っていたことを思い出す。
昔のヒーロー達の物語でも。ヒーロー達は派閥を造り、立場を変えながら争うことがあったと。
それが現実になった時。
市民は一体。
何処で安息の地を得ることが出来るのだろう。
外に出る。
私も情報収集だ。
能力強化訓練も兼ねる。
適当な情報屋に接触。場合によっては捕縛して、パーカッションに調べさせる。そうして情報を集めていくが。
その間に。
見る間に、クロコダイルビルドの支配地区は、市民が暮らしやすい場所へと変貌していった。
食糧や服までも配給されている。
仕事も準備されている様子だ。
膨大な資本が流れ込んでいる。
これは、本当に。
ザ・パワーの懐から出ているとなると。相当な打撃になる筈だ。
舌打ち。
クロコダイルビルドが本物のクズなのに。これでは手出しをしたら、その瞬間市民の生活を踏みにじる事確定だ。
その上ザ・パワーの力が削がれるとなると、部屋に動く事だって出来ない。
誰だ。
一体この策謀の裏で、誰が動いている。
ライトマンか。
それとも。
もっと、おぞましい何者か。
分からない。
ただ今は。
自分に出来る事を。自分に出来るだけしながら。能力の強化に、少しずつ努めていくしかなかった。
3、炎の日
おぞましい夢を見た。
わたしがビートルドゥームと同じように、ヒーローとして生きてきた結果。戦闘の快楽にずぶずぶに浸かり。
多くの市民を虐げている夢だ。
わたしは、初代オリジンズに憧れていた。だからヒーローとしての能力に覚醒してからは、財力を使って古い資料を集めた。元々マニア気質があったのだろう。今世界に流通しているデータでは満足できなかった。
それが良かったのだ。
古い時代のデータでは、見るもおぞましい生物兵器の群れや、宇宙からの侵略者と傷つきながら戦っていく初代オリジンズや、そのサイドキック達の勇姿が、生々しく映し出されていた。
同年代のヒーロー達は、誰もそのすごさを理解しなかった。
「一瞬で敵を全滅させてこそヒーローだろ。 こんなに苦戦してるなんて、初代オリジンズって大した事ねーな」
同年代のヒーローはそう言ってせせら笑った。
本気で悔しかった。
わたしはその頃から戦闘適性が高くて、初代オリジンズが如何に強力な敵。そう、今のヒーロー達がまず遭遇する事が無い次元の相手と戦っていたかが、一目で分かっていた。現在のオリジンズのトップにいるザ・パワーでさえ、初代オリジンズの中では中堅くらいだろう。
敵の数は圧倒的。
むしろ暴力でさえあった。
それでも市民を守りながら、必死に戦っていく姿に、わたしは本当に憧れた。
だけれども。
誰も、それを理解しなかった。
わたしは夢の中で。
初代オリジンズに憧れなかった。
その結果、ビートルドゥームと同様の、人食い鬼とも呼べるような、怪物と化してしまっていた。
ただ殺す。
ひたすらに殺し続ける。
殴って壊して。
血反吐を吐いた相手を、笑いながら踏み砕く。
壊す壊す壊す。ただひたすらに壊す。
力に酔う。
わたしは強い。
最強だ。
相性云々関係無い。この適性の高さと、能力の汎用性。両方あわせれば、ザ・パワーでも倒せるかも知れない。
やがてわたしは。
本物の暴力の権化になり。
血に飢えた殺人鬼と化した。
目が覚める。
最悪の夢だ。
ビートルドゥームは、わたしがなり得た未来の姿。あのような存在になっていた可能性は低くない。
そして、次のターゲットは。
考え抜いたあげく。
クロコダイルビルドから、切り替えた。
その次の撃滅対象。
ヒーロー名、クラッククラック。
先ほど夢に出てきた、同年代の男子だ。現在では支配地区で、順調に市民を虐げるゲス野郎と化している。
昔から、その傾向はあった。
市民なんか勝手に増えるだろ。
俺たちは強いんだよ。
だからなんで市民なんか守ってやる必要がある。あんなのは、強くて賢くて偉い俺たちのために、ひたすら奉仕し続ければ良いんだよ。
笑いながらそういう彼奴は。
思えば、当時から暴君の素質を秘めていたのかも知れない。
あの事件の後。さらなるゲス野郎に遭遇して、わたしはついにブチ切れた。それまでは、むしろ無邪気な性格だったのだけれど。
丸焼きにされた街と、市民の炭化した死体の山を見て。
ついに、悟ることが出来たのだ。
今の世界にいるヒーロー共は。
ヒーローと呼ぶに値しないと。
奴らは悪魔だ。
立ち上がる。
とりあえず、クロコダイルビルドは後回しだ。豹変して市民を虐げようとするなら、その時は今度こそぶっ潰す。
奴の支配地区を見に行ったけれど。
確かに劇的な改善を見せている。
多くの市民が医療を受けて救われ。食糧も配給され、まっとうな仕事にまで就いている様子だった。
クロコダイルビルド本人は確認できなかったが。
それはどうでもいい。
多分自制心に自信が持てなかった。奴が行って来たことを考えると、どうして今、撃滅対象のランクを下げられたのか、理解できなくもなったりする。
大きく息を吐いて、吸う。
こういうときこそ、冷静にならなければならない。
まずは、クラッククラックだ。
この世から、悪を一人ずつ処理していく。
そのためには。
順序がある。
師匠、見ていて欲しい。そしてわたしが間違いそうになったら、すぐにしかって欲しい。わたしには貴方がまだ必要だ。必要だったんだ。
あと半年。
ヴィラン部隊の襲撃が遅れていれば。
わたしはもっと強くなって、こんな苦労はせずに、易々とゲス共を撃破して行けただろうに。
口惜しいけれど、今は現有の戦力でやっていくしかない。
戦闘経験は積んでいる。
この世界では、能力をどれだけ研磨したかが勝負を分ける。今の私なら。クラッククラックなんかには、負けない。
下水道を出る。
もう少し行くと、クラッククラックの支配地区だ。
支配地区の境界線をまたぐと。
露骨に空気が変わった。
死臭がする。
それも、尋常では無い数だ。
クラッククラックの支配地区に入ったのである。
この周辺には、バラック小屋やスラムさえ存在しない。市民は全員が、同じ場所にいるのである。
クラッククラックは、恐怖が大好きだ。
昔からそうだった。
遠くに見える巨大なビル。
あれがクラッククラックの居城であり。市民達が閉じ込められている檻でもある。高さは四百七十メートルと、この世界でも屈指。
ビルそのものが、巨大な都市にもなっているのだけれど。
実はこれは、昔の軌道エレベーターの名残。実際に都市として使われている部分は、あの一割もない。
その最下層区画に市民達は閉じ込められ。
全員が、体の脇に穴を開けられ。
鎖骨の間にロープを通されて。そのロープに振られた番号で管理されている。
クラッククラックは、市民に意図的に厳しい労働を課すだけでは無い。
毎日番号を読み上げて。
該当した市民同士を殺し合わせる。
そして勝った方も殺す。
負けた方は、番号が隣り合っている二人も巻き添えになる。家族も全員同じ運命。
結局番号を呼ばれたら、その時点で死が確定。更に気分次第で、勝者の家族も皆殺しにするという。
殺し方も残虐極まりなく、専用のルーレットを作って、それで決めているそうだ。
この辺り、ビートルドゥームよりも、更に性根が腐りきっている。
ただ、一日に殺される市民の数は、ビートルドゥームより少ない。そして殺された市民は。
この辺りに、無惨に散らばっていた。
歩きながら、奴の居城を目指す。
戦闘態勢は整えてある。
今日中に、奴を潰す。
あんなのと幼なじみだったことは、文字通り人生の汚点だ。勿論向こうも此方に対してそう考えているだろう。
だったら遠慮する必要はない。
歩いていると。
出迎えが来た。
サイドキックの部隊だ。かなりの重武装で、装甲車の数も多い。アンダーウィングの時よりも、かなり重厚に防御陣地を敷いている様子だ。
見ると、長距離砲もかなり備えている。
あれだけの巨大なビルを支配しているのだ。
財力も豊富、という事である。
「止まれ! ヴィラン、テンペストだな!」
「だったら?」
「攻撃開始! 生かして帰すな!」
そうこなくっちゃあ。
此方としても、その方がやりやすい。
真っ正面から突入開始。
レーザーアサルトライフルの弾幕をかいくぐって、先頭の装甲車に拳を叩き込む。拉げた装甲車が吹っ飛び、遙か彼方で爆散した。
死にたい奴から、来い。
そう宣言すると。
手当たり次第に、周囲のサイドキックを蹴散らしていく。その過程で多少レーザーアサルトライフルがかするが。
どうでもいい。
装甲車を蹴り挙げ。
長距離砲を折り砕く。
真っ正面から敵陣を粉砕していきながら進む。
さて、あの卑怯者のことだ。
どういう手に出てくるかは、大体見当がついている。だから今は黙々と、敵を削り取っていく。
不意に、影が大きくなる。
飛び退くと、着地したのは。全長十五メートルほどある、巨大な人型の兵器だ。
市民を制圧するためのものではない。
明らかに対ヴィランを想定したものである。
鼻を鳴らすと、殴りかかる。
真正面から装甲をぶち抜き、一瞬で粉々にしたが。妙だ。脆すぎる。
そして、気付く。
周囲がいつの間にか、粉っぽくなっている。
「着火!」
多分C4だろう。
起爆された。
いわゆる粉塵爆発か。
だが。
爆裂が収まったとき、わたしは無事だ。
ごしごしと頬を擦ったのは、ちょっと煤を受けたから。流石にこの光景を見て、サイドキック達が青ざめる。
一気に攻める。
そして、敵陣を蹂躙しつくした頃には。
四時間ほどが経過していた。
それなりに消耗したが、まだまだ行ける。
そのままビルに向けて歩く。
辺りは死体だらけだ。
新しいものから、白骨化しているものまで。市民が隠れる場所など、一つも無い。
わたしはクソ野郎共をぶっ潰してきたが、その過程で分かったことがある。現在の世界のルールが狂っているのは、もはやどうしようもない事実として。
それでも市民を激しく虐げるタイプのゲス野郎には、共通する特徴がある。
それは、臭いだ。
何となくだけれど、非常に嫌な臭いがする。
これは物理的な話では無い。
多分第六感だ。
ただし、わたしはこれをあまり信用していない。
自分の「直感」でサイドキックを選ぶヒーロー達の醜さを散々目にしてきたし。
何よりも、むしろ相手の悪逆を見届けてから、倒すべきだと思うからだ。
また敵陣が構築されている。
クラッククラックは、わたしと戦う事を想定していたとみるべきだろう。だから捨て駒を可能な限り使って、徹底的に削りに来ると言うことだ。
他のヒーローでも助けに呼べばいいものを。
あのプライドに凝り固まった幼なじみは。
何も変わっていない。
「捨て駒になりたい奴だけ掛かってこい! 逃げる奴を追い打ちはしない!」
わたしは吼えるけれど。
まあムリだろう。
サイドキックの中には、家族がいる奴もいる。そういう奴は、首根っこをヒーローに押さえられているのも同じ。
長距離砲の射撃。
弾丸をはじき返してやる。
流石に、サイドキックの間から、恐怖の声が上がる。
其処へ、突入。
さて、この様子だと。
奴をぶん殴りに行った時には。どれくらい体力が残っているだろうか。
ビルに突入してからも、敵の抵抗は激しかった。
バリケードを彼方此方に作って、毒ガスまでばらまいて抵抗してくる。それも全部正面突破。
「ガスが効きません!」
「何とかしろ!」
必死の声。
そりゃあそうだ。
だけれど、根本から違っている。
わたしだって、毒ガスをまともに吸えば死ぬ。
だけれども。
そうはならないのだ。
バリケードを拳一撃で粉砕。既に三十階は登ったが、まだまだ登頂にはほど遠い。階段の上から、一斉射撃。
頑張るな。
そう思いながら。
彼らが振り返ったときには、既にわたしは後ろにいる。
そして、一撃で眠らせていく。
階段を上がりながら。
上から振ってきたコンクリートの塊を、拳で粉砕。上を見るまでも無い。部下ごと殺すつもりで、爆破してきたというわけだ。
下の方にいる市民達は不安だろう。
だから、一秒でも早くけりをつける。
此処からは階段を使わない。
壁を蹴り破ると。
ビルの外に。
そして、外壁をクライミング。垂直に駆け上がるように、だ。
ザ・パワーはマッハ10を超える速度で飛ぶとか聞いた事がある。上級の戦闘タイプヒーローなら、これくらいの芸当は出来る。わたしにだって出来ないと、今後は戦って行けない。
敵も流石に度肝を抜かれたのだろうか。
それとも、サイドキック達は知らなかったのだろうか。
この世界で強いヒーローは、これくらい出来て当たり前だ。
私はそいつらと、場合によっては複数同時にやりあわないといけない。これくらい出来ないと、話にならない。
頂上。
躍り出た私は、ガラスを蹴破って部屋に飛び込む。
其処では。
相変わらずムカつく笑顔を浮かべて。椅子に深々と座っているそいつがいた。
クラッククラック。
本名前島貞夫。
赤黒いタイツ式のスーツを着込んで。口元だけを露わにしている。
その口元を、一瞬でも早くぐちゃぐちゃに潰したい。
「よお、久しぶりじゃねーか、静」
「久しぶりだなゲス野郎。 相変わらず市民を虐げて調子に乗っているそうじゃないか、ええ?」
「ハ、相変わらずガキだな。 まだ市民を守るのがヒーローだとかほざいてんのか、この幼児以下」
げらげら笑うクラッククラック。
この様子だと。何か切り札があるな。
まあそれはどうでもいい。
こんなクズは、一秒でも早く黙らせるに限る。
側にあった植木。大きな覇王樹だけれども。それを持ち上げると、投げつける。瞬時に覇王樹が爆裂。
なるほど、バリアか。
ヒーロー達が使っている技術の一つ。近年では、大型の装置で、発生させることが出来るようになっていると聞いている。
主に厄介な能力を持ったヴィランを収監するときに使うらしいが。個人用に備えているという事は、さぞや大金を払ったのだろう。
「何だ、おいたか? しつけがなってねーなあ、オイ」
「黙れ」
バリアに近づいてくるわたしを見たまま、クラッククラックは笑っている。なるほど、そういえばわたしの能力をある程度推察は出来ても不思議では無いか。
わたしが拳でバリアをぶち抜いた瞬間。
もう一つ、部屋に殺気。
飛び退く。
其処には、背中に二対の翼を持つ、純白のスーツに身を包んだ大男がいた。背丈は二メートル五十を超えている。全身は筋肉の塊。顔は非常に端正で、堀が深い。それが逆にアンバランスで、不気味さを加速させていた。
見覚えが無い奴だ。
翼はヒーローのモチーフとして人気がある。戦闘タイプヒーローは世界に一万人近くいるわけだし、分からない奴もいる。
用心棒をすることを専門にしている奴もいるはずだ。
だが、何だ此奴は。
「お前がテンペストか」
「その通りだが。 其処のカスの飼い犬か」
「用心棒だ」
かなり体を鍛え混んでいるのが分かる。さては。
あきれ果てた奴だ。
「お前、よりにもよってヴィランを雇ったな」
「脳みそ空っぽの割りには察しがいいじゃねーか。 その通りだよ」
舌打ち。
いるのだ、たまに。
用心棒代わりに、ヴィランを雇う奴が。そういうときに雇われるヴィランは、だいたいの場合、戦闘本能を抑えきれずに他のヒーローを襲ったり、殺したりした奴だ。
しかも此奴の資金力で雇ったという事は。
相当に手強いと見て良いだろう。
「ビートルドゥームを倒したという話は聞いている。 少しは楽しませてくれよ」
「名前は」
「カリギュラ」
「そうか。 じゃあカリギュラ、覚えとけ。 わたしは其処のカスにしか用が無い。 怪我したくなかったらどいているんだな」
それを不遜な挑戦と受けたのだろう。
カリギュラは、雄叫びと供に。低い態勢から、拳を叩き込んでくる。その間に、クラッククラックは、さっさと部屋を後にする。にやつきながら。
拳を受け流しながら、下がる。
此奴もほぼ確実に面倒な能力持ちだ。
まずは何をしてくるか。
拳から、蹴りへつなげる自然な流れ。受け流しながら、もう少し下がる。ラッシュを掛けてくるカリギュラ。
拳法の腕前は。まあ師匠に比べるとゴミみたいなものだけれど。
妙な圧迫感がある。
油断するな。
本能が告げているのだ。
「シャッ!」
叫びと供に、繰り出してくる拳。
わたしは敢えて避けずに、それを掴む。
一瞬の膠着。
パワーは、五分。
弾きあう。
そして、カリギュラは、眉をひそめていた。
「何をした」
「さあ、何だろうな」
やっぱりか。
身体能力を上げるタイプの能力持ちは、意外な話だけれど。相手に触られることを好まない。
相手が面倒な能力を持っていた場合、対応出来なくなる可能性があるからだ。
師匠はそれを教えてくれた。
だからわたしは、相手の能力が分からない場合は、先手を取らせる。意外な話だけれど。格闘戦に持ち込んでくる奴の場合。触ると勝ちが確定する能力持ちのケースが珍しくない。勿論能力を研磨すれば無効化できるケースも多い。
わたしの場合は。
敢えて受ける。
この手の能力者は。
わたしにとっては完全にカモだからだ。
再び、ぶつかり合う。
相手はかなりの手練れだけれど、これは勝ちが見えた。少しやり合って分かったが、カリギュラはインファイトを我流で磨いてきたタイプだ。
しっかりした師匠がいるわけじゃあない。
それだと限界がある。
拳法の類がなぜ存在するか。
それは幾多の人間が試行錯誤を繰り返して、その中から選び抜いてきた「最適点」。格闘におけるそれが拳法だからだ。
師匠は教えてくれた。
どんな天才でも。
超えられない壁はある。
十人の凡人でも。全人生を掛けて技を研磨すれば、天才の上を行く可能性が出てくる。十人で駄目なら十五人。十五人で駄目なら二十人。
自分が押されていく事を悟り。
カリギュラが、端正な顔に焦りを浮かべ始める。
拳が、もろに鳩尾に入る。
丹田に気を叩き込み、吹っ飛ばす。
壁に叩き付けられたカリギュラは。
頭二つ小さい小娘に、どうしてと。顔に書いていた。
今までヴィランとしてやってこられた自信もあったのだろう。それが砕けていく様子が、顔にありありと出ていた。
あいにくだが、此方は。
本物の専門家に、基礎からしっかり鍛え抜かれているのだ。我流で技を磨いてきた奴だったら。余程地力の差がない限りは、負けない。
「あんたがどういう奴だか知らん。 だから今退くなら見逃す」
「余裕のつもりか!」
「そうだ。 それにあのカスを放置しておいたら、多くの市民が苦しむ。 優先順位もある」
「なめるなああああっ!」
真っ正面から突っ込んでくる。
そして、地面を一撃。
爆裂。
やはりこのタイプか。触ると勝ち確の奴は、大体こういう、必殺型の能力を持ち。それを使った戦術展開をしてくる。
だからわたしも対応。
ぱんと、音を立てて掌をあわせると、目を閉じ。
そして、くるりと腕をまわして。死角から拳を叩き込んできたカリギュラを、投げた。
巨体が一回転し、床を突き抜いて、下に。そして、此処だ。
背後から来た殺気を、拳で受け止める。
愕然としたクラッククラック。
此奴のやり口は、わかりきっている。
「逃げたフリをしてステルスを発動。 更に背後から奇襲。 相変わらずゲスのままだな、テメーは」
「う、嘘だろ!? カリギュラの能力は、お前と相性最悪の……」
「わたしの能力が身体強化だったらそうだろうな」
拳を握りつぶすと。
引きつけながら、顔面に膝をぶち込んだ。
勿論容赦なんてしない。
端正な。
そういえば、前に見た時と少し違う形の鼻を、盛大にブチ砕く。前のアンダーウィングと大差ない無様な悲鳴を上げた幼なじみの髪の毛を掴んで視線を無理矢理合わせると、今度は頭突きを叩き込む。ぐしゃりと音がしたのは、顔が凹んだからだ。
豚も吃驚するような悲鳴を上げたクラッククラックの股間を蹴り砕く。
これで生殖は一生不可能。
股間を押さえてへたり込むクラッククラックの側頭部に蹴り。
吹っ飛んだバカは。
壁に突き刺さった。
今日は自分でも分かっているが、荒っぽい。此奴自身が徹底的に嫌いと言うこともあるが、やり口が気にくわないこともある。何より此奴がもてあそんできた人間の数は、今まで来る途中で見た通りだ。
悶絶しているクラッククラックの足を引っ張って、無理矢理壁から引きずり出すと。
水をぶっかけて、意識を取り戻させる。
更に、である。
わたしはこぶしを鳴らす。
それがどういう意味を持っているか。
クラッククラックは悟ったはずだ。
「覚悟は良いだろうな、ゲス野郎」
「ま、まて! 金なら出す! 其処の役立たずと同じく、好きなだけ何をやっても構わない! 僕はこの地区を任されているからかくまえる! ヴィラン狩り部隊に追われないように手配だってしてやる! だから」
「許すわけが無いだろうが」
「……」
絶望。
恐怖。
此奴が今まで市民を使って楽しんできたものが。
此奴自身に全て返ってきていた。
私は息を吐くと。
八百五十七発。
此奴の全身に拳を叩き込んでいた。
完全に再起不能になったクラッククラックだが。カリギュラは其処までは潰していない。まだ若干余裕がある様子で、此方を見ていた。
「どうした、まだやるつもりか」
「……貴様の能力、それは何だ」
全身の骨を砕かれ。
能力も喪失したクラッククラックが、其処に転がっている。
ボロぞうきんのような有様だ。
「悪いが教えるわけにはいかない。 お前は味方では無いし、能力だの何だのをベラベラ喋るほど間抜けでもないのでな」
「……信じられないくらい慎重だな。 今の時代、ヒーローは能力を自慢し合うのが普通だというのに」
「わたしはヴィランなんでな」
それに。
能力に対策されると面倒だ。
もっとも、わたしの能力そのものは。
簡単極まりないものなのだが。
「行くならいけ。 今はこっちも消耗が激しいし、後始末もある。 構っている暇は無いんでな」
「……そうさせて貰うか。 此奴の攻撃の隙を作ることで、一宿一飯の恩義は果たしたし、これ以上義にこだわる必要もないだろう」
「今時珍しい奴だ。 確かカリギュラってのは、古い時代の暴君の筈だが」
「我ながら面倒な性分だと思っているよ」
ビルから飛び降りると。
そのまま、飛行して去って行くカリギュラ。
さて、後は此奴だ。
もはや完全に再起不能になった幼なじみの部屋を調査。そして、地下に閉じ込められている市民達を解放。
隔壁を開け。
見張りをしているサイドキックの制圧に向かう。
途中サイドキック達は勿論抵抗した。
クラッククラックが潰された時、お前達は何をしていた、となるのがオチだからだ。だから適当にあしらう。
ただし人質を取ろうとする奴は許さない。
そういうゲスは、容赦なく半殺しにした。
地下へ降りて。
安全路を確保。
案の定、混乱の中、市民は何人も命を落としていた。逃げようとする彼らを、サイドキックが発砲して止めようとして、衝突になったのだ。死体が折り重なる様子は、此処がいかなる恐怖の土地で。
絶望から逃れようと、市民が必死になっていたのか、一目で分かるものだった。
目を伏せる。
そして黙祷した。
奧には、クラッククラックが遊ぶための闘技スペースがあった。
ビートルドゥームが使っていた空間と似ているが。円形で、より小さい。ざっとみたが、
此処で五千。いや、一万以上は命を落とした筈だ。
負けた方は、家族全員の死。
勝った方も死。
絶望の中必死に殺し合う様子を、クラッククラックは、此処で笑いながら見ていたのである。
胸くそ悪い野郎だ。
幼なじみだった頃から、まるで変わっていない。
むしろ邪悪になるだけなった。
情操を成長させることなど一切なく。
そのおぞましい思考回路だけが肥大化した。
それも、この無制限の特権が与えられる社会の原因。
勿論生まれながらにクラッククラックがゲス野郎だったという事もあるだろうが。それも、実現さえさせなければ、実害など無いのだ。
クラッククラックを引っ張ってくる。
睾丸と陰茎の機能を膀胱も含めて完全に破壊したからか、小便を垂れ流し。もう喋ることも出来ないクラッククラックを。
床に穴を掘って。
首だけ出して埋める。
そして、まだ残っていた市民に告げる。
「此奴が貴方たちをもてあそび、殺し続けていたクラッククラックだ!」
「この無惨な奴が」
「ゆるせん……!」
「後は貴方たちに任せる。 もうヒーローとしての能力も失っているから、何をしても大丈夫だ。 殺すなる嬲るなりヒーローの病院に入れてやるなり好きにするといい。 一つ言っておくならば、此奴はもう一生目を覚ますことも無く、全身の激痛に永遠の悪夢を見続けるだろう、ということだ」
一瞬の復讐心を満たしたいなら殺せば良い。
だけれど病院につき出せば、他のヒーローから謝礼が出る上、一生此奴は苦しみ続ける事になる。
選ぶのは、法じゃ無い。
本来だったら法が裁くべきだろう。
だが、ヒーローは無制限の特権を持っている世界で、法に任せる事は。市民が一方的に泣くことになる。
だから、市民に任せる。
わたしは、ゲスだった幼なじみを一瞥すると。吐き捨てた。
「お前との思い出はクソの山だったな。 後の人生は、市民に袋だたきにされるか、一生悪夢に苦しめられるか、二択だ。 あばよ、ゲス野郎」
もはや抵抗する気力も失せたらしいサイドキック達は。
わたしが行くのを止めない。
そしてわたしは。
幼き日のくだらない思い出に。
しっかりこれで、決着を付けたのだった。
4、混乱
サイコ野郎が。
ザ・パワーは吐き捨てていた。
どういうわけか、自分の派閥に入るといいだした上。市民をもう虐げないと約束までしたクロコダイルビルド。
そして資本の受け入れと、支配地区の改善も言うままに行った。
だが、その狙いは、ザ・パワーには見えていた。
これでも、オリジンズのトップだ。
困惑した様子で、グイパーラは言う。
「市民を多く救う事が出来たのです。 良しとするべきではありませんか」
「その通りだ。 だが今回の件で、私の支配地区の市民達に、大きな負担を掛けることになった」
具体的には、資産の半分を失った。
他と違って、ザ・パワーは市民から資金を搾取していない。故に、ただでさえ苦しい懐が。
更に苦しくなったことを意味する。
その上クロコダイルビルドは。
地下に作ったアトリエで。
クローンで増やした人間を使って、早速大量虐殺を始めている始末だった。
殺しさえ出来れば何でもよい。
それが此奴の本音だ。
ゲス野郎で、サイコ野郎である事には代わりは無い。
だがクロコダイルビルドは、実際に多くの市民を虐げるのを辞めた。その上、将来のザ・パワーの派閥に入る事も約束した。
見過ごせない。
例え、自分の力を、現時点で削ぐことになっても、である。
実直なグイパーラは。ザ・パワーの苦悩を当然理解しているのだろう。
そう思ったのだが。
違った。
「これで将来の権力基盤は強化されます。 私もおりますし、もう一人二人同じ派閥のヒーローがオリジンズにいれば、かなり安定するでしょう」
「お前は、あのサイコ野郎をオリジンズに入れろと言うのか」
「将来的にはそれが最適かと」
「少し考えさせてくれ」
本気で頭痛がしてきた。
困惑した様子で、グイパーラはザ・パワーの部屋を後にする。此奴は、分かっていない。分かっていない。分かっていない。何度も同じ言葉が、頭の中で反響した。最低限の理解はしていると思ったのに。
ヒーローにとって大事なのは。
政治をすることじゃない。
まず第一に、助けを求める弱き市民を助けることだ。そんなことは、散々グイパーラにも叩き込んだ。
他の弟子のヒーロー達にもだ。
それなのに。
どうして。
頭を抱えているザ・パワーの所に連絡。
どうやら、予想していた事態が起きたようだった。
慌てて部屋に駆け込んでくるサイドキック。
報告するようにと指示すると。敬礼してから、丁寧に話し始めた。
「クラッククラックが死亡しました」
「テンペストか」
「いえ、手を下したのはカリギュラというヴィランです」
「どういうことだ?」
テンペストが、クラッククラックを狙って動き出したことは分かっていた。確かに狙われて当然の外道行為を散々繰り返していた男だったからだ。叩き潰されても何ら文句を言う資格は無かっただろう。
それに、クラッククラックは、ヴィランをかくまっているという噂が昔からあった。
恐らくは私兵として使っていたのだろう。
二世ヒーローなどにもたまにあるのだけれど。自分の支配地区を盤石にするために、用心棒を雇うケースはある。
支配地区を持たず、用心棒に特化しているヒーローもいるが。実際には、それほど能力が高くないケースが多い。
だから用心棒としては。
腕利きのヴィランの方が、むしろ重宝される。
クラッククラックは、まさにそのケースだった。
内偵を入れる話もあったのだが。
何しろクロコダイルビルドの件で忙しく、それどころでは無かった。結局の所、最悪の意味で後手に回ったことになるが。
戦いの経緯を聞く。
やはり、か。
「どういうことでしょうか」
「カリギュラというヴィランに取ってみれば、記憶転写の能力でも持つヒーローがいたら、素性から何から全て暴かれかねん。 テンペストが行った後に、始末しておくことは必須だったんだろう」
「自業自得、ですかね」
「そうだな……」
いずれにしても、カリギュラとやら。
データベースを調べると、あった。前にも、二世ヒーローの護衛をしていた経歴があるようだ。
能力は溶解。
それも爆発的な勢いで、溶解させるという。
つまり触れば勝ち確定の能力で。相手との実力差、能力の研磨差があまりにも開いていない限りは、格闘戦に持ち込めば高確率で勝てる、強力な能力者だ。
だが、テンペストには勝てなかったらしい。
監視カメラの画像が、その一部始終を映し出していた。
目を通す。
テンペストの動きは、見本のような拳法だ。
とにかく凄まじい腕前で。
何十年も技を磨いた達人を思わせる。
だがどこかいびつに未完成だ。
ひょっとすると、訓練の途中で師匠が死んだか。或いは、師匠の元を離れる事になったのか。
どちらにしても。
このいびつさを埋めるために、テンペストは今後も苦労を強いられていくことになるのだろう。
ヴィランだから放置は出来ない。
もう何人か、ヒーローを潰されたら。
そろそろ、対応を考えなければならないだろう。
夕食を終えると、アンデッドの様子を見に行く。
ゾンビのようにやせこけた男は。
ザ・パワーの顔を見ると、本当に嬉しそうにした。
バリアで封じられた檻の奧で。
まるで地獄から来た死神のように。
アンデッドは闇を作っている。
「なんだあ。 ヒーロー様のお出ましか」
「一つ聞きたいことがある」
「何だ」
「この娘に見覚えは」
アンデッドはしばし写真を見ていたが。
やがてけらけらと笑い出す。
「いたな、こんな奴も。 一緒に修行をした仲だよ」
「まさか、ハードウィンドか」
「そうだ。 此奴は天才的な素質持ちでな。 ハードウィンドが、その内自分を超えるとか言っていたっけな」
「そうか、分かった」
写真を取り返す。
目つきが鋭く。
世界そのものと戦う事を決めた覚悟を秘めた瞳。
この娘の幼い頃の写真を見た。
ごくありふれた笑顔を浮かべた、元気そうな女の子だった。
それが、必要とあれば相手をぶっ潰す事をまったく厭わない性格になったのには。ある程度調査がついていたが。
やはり、ハードウィンド関連のごたごたが原因か。
それでは、この世界に怒りを抱くのも無理はない。
ハードウィンドは、ヴィランにならなければ。今頃、オリジンズの一角を埋めて、この世界の健全化に尽力してくれていただろうに。世界の健全化など、ヒーローの誰も望んでいないという現実が。彼をヴィランに変えた。
「おい」
後ろから声が掛かる。
アンデッドはにやにや笑っていた。
「ライトマンには気を付けろ」
「どういう意味だ」
「ヴィランにはヴィランの情報網があるってことだ。 ライトマンは近々面白い事をもくろんでいるようだぜ」
「そうか」
勿論話半分に聞いておく。
ライトマンの動きがおかしい事くらいは分かっている。
彼奴は得体が知れない。
今のところ忠実な僕を演じているが。
実際には、腹の底は知れたものではない。
少なくとも。
世界を憂うる士ではないし。
初代オリジンズの理想を受け継いでもいない。
即物的で。
エゴの塊だ。
自室に戻る。
どうすればいい。
根本的に物事を理解していなかったグイパーラ。恐らくは、実直に仕事をさせれば、成果は出すだろう。
だがそれだけ。
ヒーローとしての魂など、受け継いではいなかった。
あれだけ何度も何度も説明したのに。
どうして弱者を守らなければ行けないのか。
何故に力があるのか。
力があるから、どういう責任が生じるのか。
力があるからと言って、それを使って好き勝手をするという事は。世界にとっても力にとっても冒涜になると言う事も。
みんな、グイパーラは理解していなかった。
結局の所、グイパーラはザ・パワーのシンパ以上でも以下でもなかった。ザ・パワーに心酔しているだけ。
ただそれだけだった。
分かっていた。
心の何処かでは、知っていたはずだ。
だが弟子として鍛え上げて。
ついにオリジンズまで上がって来た男だ。
理解してくれていると思っていたのだ。それが、あまりにも甘すぎる現実だと、今思い知らされていた。
自室に戻ると。
また即座に連絡があった。
アフリカの方で暴れているとか言うテンペスト(恐らく偽物)が、またヒーローを襲撃したという。
誰だか知らないが、暇な奴だ。
映像を出させる。
似ても似つかないどころか、そもそも男だ。
それも、通り魔的に行動をしている。
こんな偽情報。
誰が流した。
「現地のヒーロー数人に対処させろ。 実力はどうということもない」
「分かりました」
「しかし、一体誰が、何の目的で……」
インターネットがもはや存在しない今。
情報の拡散には手間が掛かる。
本当に何が。
この世界の裏で、蠢いているのか。
5、根を囓るもの
私が本部に戻ると、石塚を一とする幹部はてんやわんやしていた。これは、新しい情報が得られたと見て良い。
石塚は、私を見ると、早足で来る。
「新しい情報は」
「いえ、特に。 テンペストがクラッククラックを潰したって情報は確報の様子ですが」
「そうか」
すぐに会議に加われ。
そう急ぎ足で、石塚は他の主要メンバーを連れて、奥の部屋に。
私も後ろを見て、アーノルドに言う。
「会議室の見張りヨロシク」
「ああ、そうだな」
アーノルドには退屈な話だろう。
彼も二つ返事で引き受けた。
奥の部屋で防音を施すと。
まずは、フードの影が言う。
「今回のクロコダイルビルドの件だが、流れ込んでいる資本はザ・パワーのもので間違いないと結論できた」
「そうなると、やはり」
「そうだ。 誰かがザ・パワーの力をそぎに来ていると見て良いだろう」
そして恐らくだが。
このまま、同じようなケースが続くだろうとも、フードの影は言った。
ザ・パワーは他のヒーローに借金をせざるを得なくなる。
それは大きな借りとして響いてくることだろう。
「予想される黒幕は」
「ライトマンの可能性が大きいが、どうにも妙でな」
「と言いますと」
「これを見て欲しい」
それは。
古い監視カメラの画像。
其処に映っているのは。
誰もが知る男。
世界最強のヴィラン。そしてこの間捕縛された。アンデッドだ。
彼は机に座り。
此方に語りかけてきている。
「ライトマンをまず最初に潰す」
さて、これはどういうことだ。
何かの鍵でも、ライトマンは握っているのか。
石塚が腕組みして。
そして、言う。
「ひょっとすると、アンデッドはわざと捕まったのかも知れない」
「……」
もしそうだとすると。
何か、とんでも無い陰謀が。
世界を巻き込みながら、動き始めているのかも知れない。
私は咳払いすると挙手。
これから訓練メニューを三倍に増やすと提案。許可を入れられた。
さて、会議室を出ると。私は力を解放して、戦闘訓練を開始する。
もう少しで、弱めの戦闘タイプヒーローなら相手に出来るくらいの力がつく。そうなれば、出来る事はぐっと増える。
この世界に巣くう害悪を。
可能な限り消す事も。
だが、まだ今は駄目だ。
力を蓄えなければ、ならなかった。
(続)
|