焼け野原に芽吹くもの

 

序、業火収まり

 

高宮映画の、根本的にやり方を変えてから三作品めの撮影が進む中。

一切合切マスコミは閉め出され。

その内容は、世間に明かされないままでいた。

そんな中、高宮は大量に寄せられた映画賞の中身を、一つずつみていく。

まず最初に、規定に違反しているものは排除。

今回は、芸大からの人材発掘を目的としている。

勿論、芸大出身者でなくとも、監督として大成できる人は存在しているが。

今回はあくまで芸大がターゲット。

別のターゲットの映画賞は、その時に行う予定である。

それは事前に告知しているので。

特に反発はなかった。

問題は、違反品が大量に合った事。

経歴を詐称して映画を送ってくる奴はたくさんいたし。

何より、本人が作ったわけでもない映画を送ってくる奴や。

場合によっては、三時間ある映画や。

映画と称して、自分のプレゼンをするだけの動画を送ってくる奴までいた。

そういうのは高宮以外の人間で全部弾いて貰い。

同時に背後関係を洗って貰って。

経歴を詐称している人間の送ってきたものを全て弾いたが。

それでも、三百本近くの映画が残ったので。

毎日ちまちまと処理している所だった。

当然だが。高宮が主催する賞だ。

高宮が見ないわけにもいかない。

平日には一日二本。

休日には一日九本を基本にこなしつつ。

全部の映画を、撮影中に全て見てしまうが。それでも相当に時間が掛かってしまった。高宮は他人にブラック労働はさせないのを基本としているのだが。

それは自身で過重労働をしないことを意味はしない。

それでも、相応に厳しいスケジュールで映画を見ていき。

三ヶ月少しで、三百本の映画を全て見終えた。

いずれにしても、自主製作映画というのは相応のものだ。

特に芸大生が作るのは、相応のものだと昔から決まっている。

あのエドウッドも。

学生時代の自主製作映画が発掘されているが。

プロになってからの自主製作映画と、出来は殆ど変わっていないらしく。

それについては、研究者を驚かせたとか。

そういう逸話が残っている。

高宮としても、最初からその辺りは諦めていて。

一つか二つ、当たりがあればいいなあくらいに思っていた。

そして、十本にまで絞り込んだ。

なお、審査員には、他にも同志の面々にやってもらっている。

忙しい面子を除くので、必然的に小野寺と石山が主体になったが。

この二人もこの仕事を始めてから、散々映画を見ている。

一応、それなりの審査能力は持っていた。

勿論、これだけで審査をするのは不平等である。

故に、有志を二十人ほど雇う。

これらは全員、映画ブロガーである。

彼らも、給金を聞いてすぐに仕事を受けて。

映画を見て、忌憚ない感想をくれた。

それらを総合した結果。

結論としては、大賞はなし。

というのも、正直な話映画としてのレベルがそれほど高い作品は残念ながら来なかったのである。

仕方がない話ではあった。

今、インディーズ映画戦国時代が来ようとしている。

低予算でも、面白い映画はそれこそなんぼでも出て来ている時代だ。

このレベルの映画だと、賞はあげられない。

その結論で皆は一致した。

一方で、副賞は三本出た。

それらには、副賞についての説明をした上で、同意を得た上でネットで公開する事にしたのだが。

その中の一人。

北条という芸大の三年生に、高宮は興味を持った。そろそろ四年生か。

今まで高宮は、副監督を置かないか。置いても置物にする主義で映画の撮影を続けて来たが。

戒めなければならないと、最近は思い始めている。

人間は油断するとあっと言う間に老害になる。

高宮だって、気を付けなければ危ない。

一応、同志の面々は色々たまに諌言してくれるけれども。

それだけでは駄目だろう。

そう、ストイックに考えていた。

北条が出してきた自主製作映画は、低予算の自主製作映画ではあったが。最低限の基準は満たしていて。相応に頑張っている作品だった。

それは意見が一致した。

まあ、それでもかなり厳しい、というのも一致した意見だったが。

ただ、それでも見どころはある。

故に、高宮は。

北条という人間と、接触することにした。

 

高宮は自分の名前を明かさずに、授賞式に来た北条を観察する。

びっくりするくらい綺麗な子だ。

俳優科に誘われていたという話は何度も聞いたのだが。

まあ確かにそれも頷ける。

ただあの容姿だ。

少し前の映画界隈に来ていたら、それこそ滅茶苦茶にされて。精神崩壊まで追い込まれていたかもいれないが。

ただでさえポリコレとか言う意味不明の代物が入り込んで来ているのだ。

味を占めた人権屋どもが。バカを指嗾して散々世界中で狂騒を繰り返している異常事態。却って多様性を失わせる悪夢のような「自由の主張」。それがポリコレの実態だ。その背後にはデリケートな政治的な問題などもあるが、それが逆に人権屋どもには都合がいい事態を引き起こしている。

元々人権屋は、デリケートな話題に入り込んで、金を掠め取る事を得意としている詐欺師である。

この目立つルックスでは、狂人どもに寄って集って炎上させられて。人生を台無しにされてもおかしくなかっただろう。

それくらい、今のポリコレというのは狂っているということだ。

人権屋どもはバカを指嗾して裏では美男美女を独占し。

そしてバカは美男美女を攻撃して悦に入る。

いずれにしても、そんなバカどもにこの子を食い物にされるのは惜しい。そう高宮は思った。

とりあえず、ざっと観察はさせて貰ったが。

容姿を意図的に利用している様子は無いし。

誠実に副賞止まりだったことを受け入れてもいるようだった。

それならそれでまあ良いと思う。

後、小野寺に話して貰った。人を見る目は、はっきりいって小野寺の方がある。

小野寺はぐいぐい行く。

早速ささやかな授賞式(当然マスコミ立ち入り禁止)を行ったのだが。

そこでも、北条に話に行った。

名刺交換の後は、ぐいぐい踏み込んで話をしているようだが。

流石だ。

良い意味での陽キャである。

人の心を掴むことに本当に長けている。

もっとも、本人は世間的に陽キャと言われている連中をとことん軽蔑しているようではあるのだが。

しばしして、戻ってくる小野寺。

「あの子、なかなか凄いですよ。 多分、片腕には丁度良いんじゃないですかね」

「……そう。 分かった。 じゃあ、ちょっとウチの会社に入って貰って、それで様子をみるかな」

「そうですね。 少し様子を見て、その間に背後を探りましょう。 かなり頭も良いみたいですし、裏に何か良くないのがいても不思議ではないです」

「井伊に話をしておいて」

小野寺は頷くと、その場を離れる。

立食パーティというのが、高宮は大嫌いだ。

大量に食べ物を廃棄しなければならないし。

文字通り残飯を野良犬が漁っているのと同じである。

しかも、其処で廃棄されるのは。

貧しい人が一生手が届かないような食べ物ばかり。

昔、貴族や王族が贅沢をすることの何が悪いと開き直るような輩がいたらしい。

勿論、自分の個人財産で贅沢をするのはぜんぜん問題ない。

だが、その貴族や王族が。

民から税金を取り立てて、それで贅沢をしていることを忘れていないだろうか。

あらゆるものに税金を設定し、絞り取るまで絞り取り。

それで贅沢をしていたのが、中央集権時代の王族や貴族だ。

それはつまり、生き血を飲み干していたと言う事に他ならない。

絞り尽くされて死んで行く人間を笑いながら、贅沢をしている連中の。

どこに正義があるというのか。

まあ最低限の贅沢くらいならいいだろうが。

この立食パーティを見ていると。

最悪の意味での贅沢をしていた連中がやっていた。最悪の意味での搾取を思い出して、腹がむかむかする。

それが高宮の本音である。

これも、いずれ廃止するべきだな。

そう判断する高宮。

今や、長者番付の上位に食い込んでいる高宮だが。

だからこそに思うのだ。

高宮は、搾取で金を得たのではない。

多くの人の心を揺らし。

それぞれから少しずつお金を貰って、今の財産を得たに過ぎない。

過剰な税金を取り立てて。

それを懐に入れていた連中とは全く違う。

偉いわけでもなんでもない。

単に労働に見合った対価を得ただけ。

そして今の時代は。

労働に対して、相応しい対価を払うことすら出来ない時代になろうとしている。

そんな時代は。

どうにかしなければならない。

高宮は映画業界を焼き尽くした。

それと同じように。

この腐りきった今の文明を。

誰かが焼き尽くさなければならないのではないのか。

そう、立食パーティを見て思うのだった。

勿論テロやら過激派やらを支援するつもりは無い。

だが、破壊的な改革が必要だと判断するのも事実だ。

特に今の既得権益層は。

どうにかして排除しなければならないだろう。

残念ながら、高宮が手が届いたのは、映画だけだった。

映画業界だけだった。

それ以上の事はできない。

今も、高宮と接触して。

甘い汁を吸おうとしている悪党共は幾らでもいる。

高宮はそういう連中を心の底から軽蔑しているし。そういう連中とは絶対に関わらない事も決めている。

だから、もういい。

タクシーを使って自宅に戻る。

そういえば。

不審者全開の姿をしている高宮は。既に都市伝説になっている様だ。

タクシーに幽霊が乗ってくるとか言う噂が流れ始めているらしい。

この都市伝説そのものは、かなり古くからあったものらしいが。

高宮が使っているスタジオの近辺で流れ始めていると井伊に言われて。

思わず苦笑いしてしまった。

タクシーの運転手も、相当にびびっているようだが。

はっきりいってどうでもいい。

そのまま、自宅近くで降りると。

溜息を何度かついて。

SPと合流。

概ね時間通りだった。

「誰か尾行はしてきていない?」

「問題ありません。 タクシーの手配も、我々で行いましたので」

「そう。 じゃあ私は家に入るから」

「中は既に確認済みです。 これから交代で周囲の監視に入ります」

頷くと、高宮は自宅に戻る。

家の中は全く何も動かされていない。

それでいい。

SPにはしっかり話をしてある。

絶対にものを動かさないように、と。

高宮は用心深く。

色々なものに仕掛けをしていて、誰かが触ればすぐに分かるようにしている。SPだろうと信用できない。

そういうことだ。

とりあえず。何か動かされた形跡は無い。

風呂に入って、それでぼんやりしていると。

すぐに寝ようと決めていた時間が来ていた。

ため息をつく。

何だか、余裕が無くなってきている気がした。

 

井伊は立食パーティに参加しなかった。

ああいう場は反吐が出る。

それに、井伊は出来るだけ表に出ない方が良い。

今も離島で仕事をしながら、小野寺の報告を受けていた。

「そういうことだから、背後関係の洗い出しをもう少し念入りによろしくね」

「分かった。 しっかりやっておく」

テレビ会議を終えると。

井伊は溜息をつき。

そして幾つかの興信所に連絡を入れていた。

多少の背後関係の洗い出しくらいなら、いわゆる探偵に任せてしまう。

探偵の主な仕事は、警察への協力とか推理ごっことか、ましてや密室殺人の解決やらではなく。

こういった人間関係の調査だ。

犬猫を探したり不倫を探ったり。

そういうのがだいたいの仕事になってくる。

なお、今の時点でもとっくに調べてはあるのだが。

追加料金で、もう少し調べさせる。

それだけである。

高宮監督から、その分の金は貰っている。

今、高宮監督は更に次の映画を撮る準備に入っているらしく。

井伊の仕事は増えるばかりだった。

だが、この忙しさは。

むしろ心地よい。

井伊は悟っていた。

院とかいって、それで今の時代は贅沢が出来るか。

できない。

良い会社にはいって、それで出世とかして。それで幸せな生活が出来るか。

できない。

今の時代は、良くも悪くも既得権益が全てを独占している。

よく老人が悪い、みたいな話が出てくるが、あれは実際には違う。

老人でも貧しい人は貧しい。

悪いのは、そういう連中では無く。

親から大量の資産を受け継いでいるような連中である。

その手の輩が、「金持ちは優秀」だの。「優秀だから世界の上層にいる」だの。とんでもない寝言を口にしている。

どんな王朝でも、三代続いて名君はでない。

それが血統なんてものが如何にいい加減かをよく示しているし。

そもそも裏口入学がどこの国でも平然と行われている事からも。

「優秀」は簡単に偽造できる。

世界一厳しかったことで知られる科挙試験だって、あれは実際には儒教の思想をすり込むのが目的であって。

暗記メインの試験だった。

つまりは、そういうことだ。

そして世界一厳しい科挙試験で選ばれた、中華の各時代の王朝の官僚達は優秀だったのだろうか。

答えは、残念ながら。

否である。

それが現実なのだ。

井伊は頭をかきまわすと、ともかくネットのアンダーグラウンドに今日も潜る。

どんどん情報を仕入れていく。

表で実際に動くのは、別の人間を使う。

それも何重にも人を介しているから。ちょっとやそっとで井伊にたどり着ける奴なんていない。

そもそもプロキシサーバを何重にも介しているから、井伊が今どこにいるか突き止められるやつだっていない。

ネットの結構深めのアンダーグラウンドに潜っているが。

何処の家の何処の機械が使われているか、というような事まで分かるIPv6であっても。

井伊の居場所を特定するのは不可能である。

事実、今まで世界的なハッカーが、何回か井伊の居場所を探そうとしたようだが。

それらも全て失敗に終わっていた。

さて、今日もちょっと頑張るか。

井伊はそう思う。

ブラック企業にすり潰されずに、こうして好きかってやれている。

高宮監督は、井伊と小野寺という、二人の個性を生かしてくれた。

それだけで、充分過ぎる程に恩がある。

高宮監督が、映画業界を焼き尽くして。

権威を世界から滅ぼした事に対しては、別に思う事は無い。

高宮監督がやった事に関しては、恐らく賛否があるだろうとは思うけれども。

それはそれ。

井伊には関係無い。

あくまで井伊は参謀として動ければいいし。

歴史の影で動ければそれでいい。

それだけ。

だから、井伊は。

今後も、こうして。

高宮の影から。そのある意味邪悪な計画を支える。

それだけだった。

 

1、焼き尽くされた野で

 

高宮は映画を撮る。

また、密閉スタイル、である。

高宮のSNSは、あの時。映画界隈の権威を焼き払った時以来、コーヒーの写真を投稿するアカウントに戻った。

それ以降は、凄まじい数の拡散と返信がついているが。

たまに目を通す以外は、全部無視している。

基本的に返信はしないよ。

そうプロフィールに記載しているのだ。

誰も返信は求めていないだろう。

まあたまにしつこく食い下がってくる輩もいるが。

そいつについても、相手にしないといずれ根負けして去って行く。

それをみて。

コーヒーに負けたと、揶揄する輩もいるが。

当の高宮が一切何もかもを相手にしないので。

炎上しようがない、というのが事実だった。

最近はスポンサーの押し売りも減ってきている。

なお、ハリウッドに来ないかと言われたことが何回かあったが。それも全て断っている。

海外資本に好き勝手にされている上に。

近年は作る映画の質が落ちる一方のハリウッドである。

何とか、話題性のある監督を牽引したいのだろうが。

残念ながらお断りだ。

権威を破壊し尽くした高宮である。

ハリウッドという新しい権威にすり寄るつもりもない。

無論印度映画などの、新興の映画業界にも興味は無い。

そういうのは、好き勝手にどんどんやればいいと思っている。

だが。高宮は関わらない。

それだけだ。

まあ高宮は、なんだかんだで資産が増える一方。

その資産を巡って、凄まじい数の人間が暗躍している。

高宮が三十路の女だと知って。

暴力団の幾つかは、イケメンの男をあてがって落とそうと考えているようだが。

高宮は自分でも自覚がある程性欲が薄く。

男にも女にも全く興味が無い。

恋をすればどうこう、という話があるが。

残念ながら、そんなものには全く興味が無いのである。

フロイト先生残念でした。

性欲がなにもかも人間の全てと考えたフロイト先生の理屈は、もうとっくに論破されているが。

彼の思想は、現在にも大きな呪いとなって残っている。

それを潰すのは、これからの哲学者達だろう。

高宮の仕事ではない。

そういうことだ。

高宮は、既に腐りきった権威を映画業界から焼き払った。

それだけで充分である。

そういう意味では、高宮には欲望そのものが薄いのかも知れない。

そういえば、欲望が強い人間ほど優秀とか言う謎理論もあったっけ。

まあ欲望はモチベになるかも知れないが。

強すぎる欲望は、自分も周囲も焼き尽くすだけだ。

というわけで、高宮は全くそんなものには興味が無い。

淡々と撮影をしていく。

今とっているのは、路地裏のホームレスの物語。

時代が変転していくのを。

二十代で社会からドロップアウトしてしまったホームレスの視線から、淡々と描いていくものである。

題材としては明るいものではないけれども。

様々な時代の移り変わりを、社会から弾かれてしまったホームレスの目線からみていくのは。

それはそれでありだと思う。

俳優達にも、演技指導はするが。

それは最低限。

プロなんだから、入魂の演技をしろ。

方針を告げた後、そういうだけで充分。

後は、劇団で揉まれて来た俳優達が、しっかり演技をしてくれる。

それでよかった。

今回も、主に新人の俳優を使うが。

ホームレス役には、大部屋俳優の一人を起用。

この大部屋俳優は、ホームレス役をやらせたら天下一という話もあって。今回実際に出演作を幾つか見て、それで決めたのである。

本人は文字通り涙を流して喜んでいた。

こういう人が、どうして大部屋俳優なのか。

そんなものは決まっている。

コネがないから。

華が無いから。

そんな理由で、単に「上の方」に好かれなかった。それだけだ。

時代劇の名用心棒悪役が、ずっと大部屋俳優だったように。

実力があれば抜擢されるなんてのは、大嘘なのだ。

事実どんな大根でも、普通に生き残っている俳優なんて幾らでもいる。

映画業界の後は、テレビ業界を誰かがぶっ潰さないかなと高宮は思っているのだが。

自分でやる気がないのだ。

そう思うだけで。

誰かにやれと指嗾するつもりはないし。

強制するつもりもなかった。

ただ、そうならないかなと思うだけだ。

「はいカット。 次はシーン81。 十五分休憩」

少し長めに休憩を入れる。

ホームレス役の主人公が、与太者に暴行を受けるシーンの後だと言う事もある。

勿論実際には当たっていないふうにするのが普通の撮影なのだが。

今回は敢えてモロに入れるようにしていた。

ホームレス役の人は、暴行を受けるシーンに慣れていると言う事で、それで快諾してくれたし。

攻撃役には、演技指導の上で。

どういう風に攻撃をするのか、というのを丁寧に指示した。

勿論怪我を本当にしないように工夫はしたが。

それでも、攻撃をする方も。

受ける方も。

相当に消耗しているのは、見て取れた。

十五分の休憩の間、スポーツドリンクを飲んでぼんやりする。

さて、次のシーンは。

そう考えているうちに。十五分が過ぎてしまう。

年齢を重ねると。

時間はあっと言う間に過ぎる。

三十を過ぎると加速は更に早くなり。

四十を過ぎるともうあっと言う間だ。

そういう話は聞いていたが。

確かにその通りだなと思って。苦笑いすらできなかった。だが、高宮はやり遂げたのである。

以前映画の題材にした風神のように。

あの人の生きた時間は、現在の高宮よりも数年ほど長いに過ぎなかったが。

西国無双と呼ばれた最強の武将の親となり。

西洋から来た宣教師すらも、文句なしの名将だと絶賛し。

そして主君も家族も守り抜いた。

だから、高宮も。

自分の本懐を遂げることが出来たのだから、それで充分だと判断する。

今は、時間がどんどん早く過ぎるようになってきている事は、それはそれでかまわないと考える。

ただ、映画を撮ろう。

それだけで、良かった。

 

高宮の映画が公開される。

ホームレスが題材と言う事で、懸念される声もあったのだが。

封切りが行われてから、流石に凄まじい勢いで客が来た。

それで満足していったようだった。

「なんというか、もう見る睡眠導入剤だった高宮映画はなくなったな。 毎回確実に当たりを出してくれる。 ペースは落ちたが、今回も感動した」

「時代考証みたか? 十七人もやとってやがる。 本当に細かく、時代を丁寧に見ていく作りになってるんだな」

「悔しいが面白いな」

「何で悔しがってるんだよ。 まあともかく凄く良かったよ。 明日二回目見にいってくるわ」

今回も、売り上げ兆越えか、とまで言われているようだが。

まあその辺りは高宮には分からない。

予算は自分の資産から出しているし。

多分黒字にはなるだろう。

それで充分である。

それよりも、高宮には気になる事があった。

配給会社にて雇った。正確には高宮が雇わせた北条。どれくらいできるか。ちょっと興味がある。

確か、少し前に映画が出た。

新人監督の映画と言う事で、それなりに不安視されていたらしいが。

それでも、そこそこにヒットはしたようだ。

Blu-rayが来たので、早速内容に目を通す。

なんというか、お洒落な映画である。

派手な恋愛模様を描いた作品で。

下品になりすぎない程度に濡れ場もいれており。

まあ若い人には受けそうなないようだな、と思った。

ただ、まだまだ伸びしろがあるなとも感じた。

テレビ会議を開く。

石山だけはいない。

今、石山にはある記事を書いて貰っている。

本人が入魂なので。

テレビ会議には欠席していいと連絡してある。

石山が、毎回記事を書く度に数キロ痩せることは、既に同志のうちでは周知になっているし。

それであの記事が出ていることも知れ渡っている。

だから、誰も文句は言わない。

「北条さんの映画についてはどう思う?」

「良の中くらい」

ずばりと井伊が言う。

はっきり言うなあとちょっと呆れたが。

まあそれはいい。

小野寺は、咳払いすると。

無難に言う。

「何というか、我々の世代向け、という感じでしたね。 正当派の恋愛映画という感じでした」

「ちょっと色々ただれてると思いましたが……」

そう苦言を呈したのは日野である。

勿論日野も、高宮に接触しようと躍起になっている連中のターゲットになっているので。SPに護衛させている。

場合によっては警察にも出て貰っている。

これでまるで隙が無くなっているのも事実なので。

多少は我慢して貰う他無い。

日野は案外倫理関係の思考がしっかりしているようで。

まあ派手な男女関係が描かれる北条の映画を見て、そう思ったのは妥当なのかも知れない。

黒田が口を開く。

「映画撮影に関しては、保守的な人なんだなと感じました。 CGとかは最低限しか使っていませんね」

「そういえばそれは気になった」

「ひょっとしたらですけれども、かなり古い映画に傾倒している人なのかも知れないですね。 本人の感性は若いですけれども、それでも映画に対する考えは古いのかも知れないです」

なるほど。

エンジニアからはそんな意見が出るか。

一通り意見を聞いた後。

高宮は、自分の意見を話す。

「とりあえずこれから北条さんに話をして、次回の映画の副監督になってもらおうかなって思ってる」

「!」

一気に皆の顔に緊張が走る。

高宮映画の副監督と言えば、置物で有名だ。

あえて副監督に。

それはどういう意味か、気になったのだろう。

「理由を知りたい」

「私は老害になりたくない。 若い人の感性をできるだけ近くで常に感じていたいと思っている」

「……」

「老害になると、私が焼き払った連中みたいになる。 そうなると、もう芸術家としても批評家としても終わりだ。 だから、私はそうはならない。 もしも決定的に感性が古くなったと思ったら……私は映画監督を引退する」

ついでに、これも告げておく。

皆、更に驚いたようだが。

小野寺だけは冷静だった。

「高宮監督は、相変わらずですね」

「そう思う?」

「高宮監督は、映画を本当に愛していたし、だからこそ映画という文化を私物化してやりたいほうだいしていた人達を心の底から嫌っていた。 だからこそに、自分がそうなりたくはないと今も思っている」

そうだ。

小野寺は、その意思疎通能力をフル活用して、ずっと助けてくれている。

それは今も、だ。

小野寺は、今も高宮の心をずばり当てて見せた。

別に小野寺はIQが高い訳ではない。

井伊などに比べると、まったくというほどだ。

だが。それでも。

この天から授かった才覚。

意思疎通を誰よりもこなせる技術によって。

ここまで、色々なものを動かしてきている。

それはとても尊い事だと思う。

「そういうことなんでしょう、高宮監督」

「ありがとう、言いたいことを全て代弁してくれて。 とても助かるよ」

「……」

「そういうわけ。 北条が若さを失ったら、また次の世代を側において、感性をどんどん取り入れる。 自分のやり方が正しいとか、自分のやり方がスタンダードだとか。 そんな風に思うようになったらおしまいだからね。 新しい技術や感性は、どんどん取り込んでいかなければならない。 そのためにも自分の周囲には対等な同志が必要だし、若い力も必要なのさ」

同志には、対等である事は告げてある。

何を言ってもいいとも。

昔の君主は、言で士大夫を殺さずという旨の発言をしていたのだっけ。

もっとも、それがきちんと守られたことは、殆ど無かったようだが。

「北条さんの背後関係は洗えた?」

「問題なし」

「そ、じゃあ後は本人の意思次第だね。 晴さん、よろしく」

「分かりました」

テレビ会議を終える。

皆に告げたことは全て本音だ。

高宮は、老害になるくらいなら、映画監督をやめる。

醜い老害になっても、映画監督にしがみついている輩を何人も知っている。

そういう輩は、ファンを怒鳴りつけたり。

自分の息子を身内人事で監督にして、名作の作者を激怒させたり。

そういう事を平気でやらかしている。

若い頃、どれだけ優れた人間だったとしても。

年をとれば、駄馬にも劣る存在になるのだ。

それは人間である以上どうしてもそう。

老いてもなお盛んなんて人もいるけれども。それは例外中の例外。あくまで特別例なのである。

だから、高宮は引き際をわきまえるためにも。

先に同志に告げたことを、実施するつもりでいた。

そして人間は、器で無い場所に行くとすぐに老害になる。

早ければ四十代で簡単に老害になる。

高宮はまだ三十路前半だが。

それでも油断すれば、あっと言う間に老害に転落するだろう。それが人間なのだと。高宮は知っている。

だから、そうならないためにも。

早めに、手を打って置かなければならないのだ。

 

映画の興行収入は上出来だ。

流石に前回ほどでは無いが、それでも既に全世界で八千億を超えている。この様子だと、また一兆はいくだろうという話も出て来ており。

映画界隈も、既に高宮を。

一度全て焼き払ったにもかかわらず。

無視出来なくなっていた。

アカデミー賞もフランスの映画賞の再興運動もだんまり。

それはそうだろう。

敢えてつまらなく作っていたという発言を高宮がしたことにより。

その権威が地面にめり込んで、掘り出せなくなったからである。

新しい映画賞もぽつぽつと出始めているが。

それも権威とはなり得ていない。

高宮が自費でやっている映画賞に人が来るくらいだ。

当面、焼け野原になっている権威が復活する事は無いだろう。

そして、インディーズ映画の猛攻は止まらなかった。

権威が壊れ。

ポリコレにノーが突きつけられたことにより。

どんどん新しい表現、新しい技法で作られた映画が出て来ている。

ポリコレを露骨に揶揄する映画も出て来ており。

それらはSNSに湧いているポリコレ信者を激怒させたが。むしろ、一般視聴者はそれらを歓迎した。

ヒスを起こしてわめき散らすポリコレ信者が如何に攻撃的で害悪になっていたか。

誰もがそれらにうんざりしていたか。

それだけでも、明らかすぎる程だった。

大規模な映画会社は、それらの風潮に対して黙り。

ただし売り上げは正直だ。

鼻息も荒く、過激なポリコレ論で知られる映画監督が出した作品は。歴史的な大爆死を遂げた。

なんと赤字1500億である。

幾つかのスポンサー企業が倒産したが。

それにたいしてポリコレ論者達は、「映画を見る目がない」とわめき散らし。

更に傷口に塩を塗りたくるのだった。

いずれにしても、もう焼け野原になった既存の権威には。

既に誰も寄りつかなくなり。

もはや死体にすがる阿呆と、その信者だけが纏わり付き。

高宮にとっては、理想的な状況が来ていたと言える。

そして高宮は、やはり人前に姿を見せない。

いつしかだが。

高宮という監督は実際には存在せず。

数人の人間が、代わり代わりでやっているのではないかという都市伝説まで出始めていた。

これはこれで面白いな。

そう高宮は思ったが。

SNSにコーヒーの写真をアップした後に、その手の話をしてくる輩も増えたので。流石に今は情報の足が早いなと、苦笑するのだった。

まあどうでもいい。

映画を発表してから、一段落して。

北条が来る。

顔を合わせたのは、配給会社ではなく。

ある廃ビルの一室で、だった。

北条は、なんでこんな所に連れてこられたのかと青ざめていたが。

この廃ビル。

実は高宮の私物である。

撮影に使えるかも知れないと思って、ストックしてあるのだ。

なお、冗談みたいな値段で買えた。

ちな買ってきたのは井伊である。

今回は撮影では無く。

面接に使うことにしたのだった。

高宮は、まずは自分の事を明かす。

それで、何となくだが。

北条は、事情を悟ったようだった。

「貴方が、高宮監督なんですね」

「そういうこと。 それで、貴方に頼みたい事がある」

「頼みたい事……ですか?」

「次の映画の副監督をやって貰いたい」

流石に驚く北条。

それはそうだろう。

結局なんだかんだで兆越えの売り上げを二回連続で出した映画監督から、副監督を希望されているのである。

だけれども、どうしてこんな所で。

そういう不安もあるのだろう。

不安そうにしながらも、北条は聞いてくる。

「どうして私なんですか?」

「貴方の感性が若いから」

「……」

「私は若い感性に常に触れたい。 老害になりたくないからね」

そう告げると、何となく理解は出来たようだが。

それでも、よく分からないと視線を向けてきていた。

「若い人なら、誰でもいいということですか?」

「若くて才能がある人がいい。 貴方のはまだ荒削りだけれども、それでも側で見ていたいと思った」

「……」

「勿論私から盗めるものがあれば盗んでくれていい。 私の映画で副監督は殆どやることがないけれど、側で見ていれば何か得られるかも知れない。 此方としては悪くない提案だと思うけれど、貴方の意思次第」

北条は黙り込む。

ギブアンドテイクの関係。

そうであることを理解したからだろう。

それはそれでありだと、受け止めきれるだろうか。若いうちは、潔癖な思想から。こういうのは嫌がるかも知れない。

だが、それもありだ。

駄目なら、別の若い子を選ぶ。

今、インディーズ映画の戦国時代が到来している。

権威が崩壊して、素晴らしい映画の定義が完全に崩れたからだ。

勿論過去の名作が汚されたわけではない。

焼き尽くされたのは、映画という文化を勝手に私物化していた連中だけである。

高宮も、そこまで優しい訳では無い。

北条が拒否すれば。

それまでだったと、思うだけだ。

代わりはいる。

しばしの逡巡の後。

北条は、顔を上げていた。

「貴方の目的は、何なんですか。 映画業界の権威が失墜して、今戦国時代になったのは周知の事実です。 アカデミー賞はずっと再興の気配もなく、フランスの映画賞はもはや物笑いの種です。 権威を作っていた人達を、地獄に叩き落とすのが目的だったんですか?」

「そうなるね」

「老害……だったからですか?」

「映画ってのは娯楽だよ。 他の文化もだいたいは基本的には娯楽なんだよ。 それを一部の人間が神格化して、既得権益を独占するようになるとおかしくなる。 古い文化で言うと歌舞伎なんかが分かりやすい。 今では映画が筆頭格だ。 他にも小説やゲームなんかでも同じような事が起きてる。 私はそれが許せない。 文化に貴賤は無い。 誰もが楽しめるものが文化だ。 それを否定する奴は、私が徹底的に焼き払う」

それが目的だと言うと。

苛烈さに北条は青ざめたが。

しかし、やがて顔を上げていた。

「貴方が第二の老害にならないため……?」

「そういうこと。 だからギブアンドテイク」

「……分かりました」

ぐっと顔を上げる北条。

目の前にいる高宮が、邪神。いや破壊神だと言う事をはっきり理解したのだろう。その上で、判断したらしい。

「副監督、受けさせていただきます」

「よろしい。 じゃ、貴方の若い感性、啜らせてもらいます」

「私も、貴方の映画の撮り方、勉強させて貰います。 史上最高の興行収益を上げた貴方の手腕。 それも低予算映画で……。 大いに参考にさせて貰います」

これでいい。

こうして、血は循環する。

年老いても、老害にならない人はいる。

高宮はそうだとは、言い切れない。

自分が老害になったとき。

映画監督としての自分にとどめを刺してくれる人が絶対に必要だ。

北条がそうであるかどうかは分からない。

だけれども。

それでも、少しでも多く。

映画という文化が焼け野原になった今。

その焼け野原から、新しい芽が出る手伝いを、高宮はしたかった。

ポリコレだのフェミニズムだのの人権屋に食い荒らされた映画業界は、一度焼け野原になった。

だが、その後何もしないのはいくら何でも無責任だ。

だから高宮がやるべきことをやる。

ただ、それだけの事だった。

メサイアコンプレックスというような大げさなものではない。

くだらない既得権益層を焼き尽くし。

焼け野原に種をまく。

ただ、それだけの事。

勿論それを邪悪と呼ぶ人もいるだろうが。高宮にとっては、知った事では無かった。

 

2、消えゆく黒い影

 

大物人権屋の一人が、米国で逮捕された。

映画業界の利権に食い込み。

ポリコレを指嗾して映画文化を無茶苦茶にしていた一人である。

此奴は色々なスポンサーと結託し。

更にはポリコレ思想で洗脳した手先を多数騒がせて。

結果として、映画業界を滅茶苦茶にしてきた張本人の一人だ。

本人はあくまで慈善活動家として振る舞っていたが。

此奴が金を寄付していた孤児院は、いわゆるヒットラーユーゲントに等しい子供達を育てる場所で。

此奴の思想のままに動く兵隊を育成するための洗脳施設だった。

金さえ払えば、殺人犯でも平然と裁判に勝つことができ。

野放しになる。

それが当たり前になっている米国ですら。

ついに此奴の悪行は看過できないとなったのだろう。

そして此奴の資金源の一つである国が。

近年急激に経済悪化してきていることも、逮捕の一因となったようだった。

何より警察が逮捕に踏み切ったのは。

この外道が資金難に陥り。

まともな弁護士を雇えなくなった、というのも大きい。

まあ逆に言うと。

此奴が金を持っているうちは、手出しが出来なかった。

「弁護士は雇い主を勝たせるのが仕事」。そんな寝言をほざく連中が、米国という国を犯罪者天国に変えた。

元々犯罪組織の力が極めて強い国ではあったが。

それを更に滅茶苦茶にした。

アルカポネは冤罪で、裁判をやり直すべきだとかほざく畜生以下が未だに実在している国である。

あの直接的間接的に殺した人数は数百人どころでは無い鬼畜を、だ。

そんな国なのだから。

一つの文化を滅茶苦茶にし。

自分の手先を多数育て上げ。

やりたい放題に邪悪を尽くしていた輩が野放しにされていたのも。警察が手出しできなかったのも。

仕方が無かったのかも知れない。

ただし。いざ裁判に勝てるとなると、警察の動きは速く。

この外道は早速逮捕され。

そしておぞましい背後の実態がどんどん暴かれていった。

これにより。

ハリウッドは文字通り灰燼と帰した。

それはそうだろう。

スポンサーの大半が、こいつと関係を持っていたことが判明。

それどころか、大規模な枕営業の斡旋や。

更には、気に入らない監督を干すどころか、自殺にまで追い込む。

気にくわない俳優も、同じように処す。

マフィアやらギャングやらを動かして、気に入らない人間を五十人以上暗殺し。

挙げ句の果てに。

上院議員に対して、膨大な献金をしていて。

将来的には大統領になる事まで目論んでいたのである。

FBIも前から捜査はしていたらしかったのだが。

金がありすぎて、逮捕してもどうせ弁護団を大量に雇われて、有罪に出来ないのが確定だったらしい。

故に手が出せなかったのだが。

昨今の映画業界の大混乱で、どんな映画が売れるか全く分からなくなり。

更には此奴が推していたポリコレ作品が悉く大爆死したこともあって。

ついに御用となったようだった。

高宮はニュースを見て、ふーんと呟く。

まあこの手の奴は、今後どんどんあぶり出されていくだろうな、と思う。

主に邦画と、欧州の映画界隈を灰にした高宮だが。

ついにその影響が。米国の映画界隈にまで波及したと言える。

逮捕された奴は、にやついたまま警察に連行されていたが。

警察は周囲に武装したSWATを配置。

ぎゃいぎゃい喚いている脳みそが空っぽのポリコレ思想家どもを遠ざけていた。

本気度が伺える。

これは、ハリウッドの方でも相当な混乱が続くだろうな。

そう思ったが。

ハリウッドはハリウッドで。

脚本には特定の決まりがあるとか。そういう風なマニュアルを整備しておきながら。

それでいて、確実に稼げる訳でもなく。

特に日本作品を原作とした作品は、外れ率も高く。

ある有名な格闘漫画などは、実写化が記録的な駄目映画と化してしまったこともある。

無論成功例も複数あるが。

それはそれ。

いずれにしても、既得権益が上澄みを独占し。

やりたい放題していたという点では、邦画と同じ。

いや、既得権益層がやりたい放題をするようになると。

世界のどこでも。

どんな文化でも。

腐敗するのは、きっと同じなのだろう。

いずれにしても、今回逮捕された腐れ外道が動かしていた金は10兆円を超えるとか言う話で。

今回の捕り物で芋づるになる逮捕者は、数百人になるだろうという話だ。

その中には有名な映画監督も複数含まれている。

米国の映画関係の話題が、SNSのトレンド上位を独占している。

まあそれはそうだろう。

既に発見されている多数の遺体の中には。

ある時期から不意に姿を見せなくなった俳優などもいて。

この辺りは、邦画の闇が完全に暴かれて。

警察のメスが入った時と、同じ状況だった。

どこも同じなんだな。

呆れて、高宮は嘆息した。

昼休みの休憩終わり、である。

そのまま、撮影に移る。

副監督である北条は、高宮のやり方を黙々とみて。時々休憩時間に質問をしてくるけれども。

それ以外は、言われない限り一切動かなかった。

これは指示待ち人間とかそういうことではない。

高宮が、映画開始前に説明したのだ。

今回、北条は勉強のためにここに来ている。

副監督ではあるが、基本的に今までの映画撮影でもそうだったように。高宮は映画で副監督を使わない。

何故来ているのか。

それは簡単な理由で、未来の人材が必要だからだ。

今いる人間だけで満足していると、その業界は滅ぶ。

これはどんな文化でも同じだ。

既得権益層が固定化されると。

どんな文化でも腐敗し。

高尚にしたてあげられ。

そしてやがて誰も見向きもしなくなっていく。

だから、今後のために、どんどん若手の育成をする。

勿論、地力でどんどん映画業界で実績を上げている若手もいる。

だが、そういう若手が勝手に育ってくれることに期待するのは、はっきりいって極めて身勝手だ。

人間は育成されなければ、猿と同じ。

人間の本性なんて、猿以下なのだ。今回の事件を見ても分かるように。

だから、人間たるべく。

教育は必要となる。

高宮にできる事はあまり多くは無いが。

それでも、時代の育成に手をかせるなら、そうするだけ。

ただそれだけである。

そう説明したのだ。

そして北条にも、一切余計なことをせず。やり方だけを観察して覚え。その中から、自分で強みに出来そうなところだけを真似しろ。

そう説明しておいた。

だから北条は、ずっと座って様子を見ている。

この行儀の良さ。

石山を思い出すな。

石山も、取材の時は本当に静かにしていて。

メモを熱心に取っていたっけ。

取材の時も、きちんと時間を決めて。その時間に沿って丁寧な取材をしていた。

あれは相当に練り込んだ上でやっていた。

特権階級と自分を錯覚した新聞記者にできる事では無かった。

もう記者では無かったともいえる。

北条は、時代の映画監督ではあるが。

いずれ、石山と同じような。

枠組みを超えた存在になれるだろうか。

それについては。ちょっと分からなかった。

そのまま、高宮は撮影を続ける。

あまりNGは出さないが。それでも俳優達は真剣極まりなく演技をしている。

それはそうだろう。

もしも変な演技をして、NGが出無かった場合。

その恥が、一兆円の興行収益をたたき出す高宮映画で。

大スクリーンで、膨大な人が見るのである。

そう考えると。

とてもではないが、巫山戯た演技なんて出来ようがない。

気合いが入った演技を横目に、北条を見る。

役者を発憤させるやり方に感心しつつ、メモを取っているのだろうか。

ともかく、非常に高い熱量が感じられ。

このましいと、高宮は思った。

「はいカット。 休憩十七分。 次はシーン118」

わっと俳優達が散る。

スポーツドリンクを口にするもの。

脚本を見に行くもの。

ストレッチをするもの。

様々である。

発声練習をしに行く者や。

のど飴を口に放り込む者など。

様々に別れる。

それを誰も止めない。

演技だけすればそれでいい。休憩時間に何をして過ごそうが自由。

これについては、高宮が何度も何度も現場で言っている。

勘違いしている奴が、怒鳴ったりした場合。

即座に追い出す。

これも昔から方針は変わっていない。

高宮映画の現場はある意味ホワイトだが。

ブラックにしようとする奴がいた場合は、容赦なく追い出される。

そういう話も伝わっているのか。

大道具やら照明やらの監督も。

役者とは、出来るだけ静かに話すようにしているようだった。

一方で、スタジオの向こうの方では、怒鳴り声が聞こえている。

高宮はふらっと其方にいくと。

顔を真っ赤にして怒鳴っているどこぞの監督の肩を叩く。

俳優は泣いているのに、まだ怒鳴っているその監督は。手を払いのけて振り返ったが。それで、高宮の不審者全開の姿を見て、絶句したようだった。

そりゃあそうだろう。

映画関係者界隈では、高宮が不審者その者の姿をしていることは誰だって知っている。

そして、容赦もしないこともだ。

「こ、これは高宮監督……」

「怒鳴るならよそでやってくださいね。 もしも撮影中に貴方の声が入り込んだ場合、此方も法的措置を検討しますので」

「ひ……」

「それではいい映画を撮ってください」

その場を離れる。

腰を抜かしたらしいおっさんの監督が、その場でへたり込む。

俳優は何度も涙を拭っていたが。高宮がふらっと行くと、頭を下げていたようだった。

まあいい。

あれで静かになるだろう。

現場で怒鳴るような奴はいらない。

監督だから偉いとか勘違いしているのなら、なおいらない。

此処に偉い奴なんて誰もいない。

誰もが役割を分担しているだけの事だ。

それを理解していない奴がブラック労働環境を作る。

社長だって別に偉いわけでも何でも無い。

それが責任は部下に押しつけ、権利だけを主張するようになるから、ブラック企業になる。

高宮は、自分がいる場所を。

ブラック企業にするつもりはない。

高宮が席に戻ると、休憩時間は丁度終わった。

そのまま、撮影に入る。

まあまあ順調だな。

そう思いながら、高宮は。

映画の撮影を、淡々と続けた。

 

定時で撮影を切り上げる。

これについては、もはや高宮映画の現場における常識となっているのだろう。皆、不安そうにもせず、帰宅していく。

また、現場に残る事も禁止している。

スタジオの利用スケジュールというのは結構面倒くさく組まれている事が多いからだ。

スタジオで役者だの何だのがぺちゃくちゃしていたら。

他の時間帯で利用スケジュールを組んでいる人間が迷惑する。

だから、撮影が終わったら即座に帰るように。

そう指示している。

まあスタジオから帰れば、あとは自由だ。

カラオケでも何でも好きに行けば良い。

翌日に響かないなら、それは自由だ。

高宮も、SPに周囲を囲まれながら、車で自宅に戻る。

北条は一礼すると、電車で帰るべく、駅に向かったようだった。

車に乗ると、後は自宅に。

今日はテレビ会議をすることを告げていたし。

別に問題はないだろう。

そのまま自宅に着くと。

テレビ会議の時間まで、情報を見て過ごす。

ハリウッドでは、幾つかのスタジオが半分閉鎖状態だそうだ。

まあそれはそうだろう。

あれだけの大きなスキャンダルがあったのだ。

一部では、反ポリコレの大規模暴動まで起きているらしい。

ポリコレ関連のスポンサーをしていた企業に色々飛び火しているらしく。

向こうの人達は血の気が多いなあと、高宮は苦笑した。

もっとも。

彼方は、貧富の格差が尋常では無い。本邦だって酷いけれど、その比では無いレベルで酷い。

こう言う機会に、ただ暴れたいだけ。

そういう人も、たくさんいるだろう。

そこら辺は、高宮だって理解している。だから、そういう事に首を突っ込むつもりはなかった。

テレビ会議を始める。

幾つかの連絡事項をしたあと、井伊が切り出す。

「日本最大の暴力団が、映画から手を引くことを決めた様子」

「お……」

「米国の大スキャンダルが切っ掛け。 どうやらリスクが大きすぎると判断したみたい。 事実マル暴が既にかなりの暴力団員を逮捕している。 シノギとしては美味しくないと判断したとみていい」

「任侠組織だと勘違いしてるアホも今時いないだろうけれども。 犯罪組織ってのは結局ビジネスで動くんだねえ」

「それについては昔からそう。 伝説になってる任侠だって、実態はただの知的犯罪者」

ずばりという井伊。

まあ実際それはそうだ。

任侠のレジェンドである国定忠治だってそれは変わりない。

マスゴミが昔からマスゴミだったように。

任侠なんてものは、昔から実態のない張りぼてに過ぎなかったのだ。

「いずれにしても、これで多少は動きやすくなるかな。 海外の犯罪組織も、映画はリスクが高いと思ってるでしょうし」

「それはそう。 ハリウッドの件で、特に中華関連のマフィアが大きなダメージを受けて、幹部が何人か失踪した。 多分消されてる」

「詳しいね」

「コネを拡げて、FBIに知り合いもいる」

そうかそうか。

それにしても中華マフィアか。

何というか、近年の露骨な関係が見て取れて、苦笑いしてしまう。

いずれにしても、ポリコレだとか言う腐った代物。自由を歌いながら、自由をこれ以上もなく圧殺する腐った思想は。

これで一段落するだろう。

後の時代には、暗黒時代として知られるだろうな。

そう思うが。

敢えて此処では口にしない。

此処にいる同志達は。

皆そういう高宮の考えについては、理解しているからだ。

「ただ、映画業界はかなり今戦国時代として過熱しています」

石山がいう。

この間石山が記事を書いてくれた。

注目すべきインディーズ映画と監督について、だ。

インディーズ映画は、今全盛期にあるとみて良い。

石山がそれについて記事を書いたが。

はっきりいって、その辺のカストリ雑誌では比較にならない精度の代物で。映画ブログの筆者がこんなの書かれたらうちに誰も来なくなると嘆いていた程だった。

まあそれは、石山は映画を十回は見てから記事を書くようにしているようだし。

一回だけ適当に映画を流し見して、記事を書くような「クオリティペーパー」の記者とは違う。

あからさまなバトルヒロインを「守られる系の女の子」とか抜かして顰蹙を買ったその手のアホ記者が存在していたが。

まあ一回流し見しただけでは、そんな風な感想しかでないだろう。

記者なんてものが如何に腐りきっていて。ついでに見る目もないか。何より客観性という概念もないか。

それだけで一発で分かる程だ。

「今後、焼け野原になった権威はもう復権できないでしょうが、そのうち映画史上は再び爛熟に入ります。 イノベーションというのでしょうか。 いずれにしても、高宮監督がやったことの結果です。 その爛熟したときに、注意しないとまたあっと言う間に既得権益が出来て。 そして犯罪組織が其処に関わろうとするでしょうね」

「ふむ、それに備えておくべきだと」

「そうなります。 今、丁度伝説の火の鳥のように、映画業界は一度灰になって、其処から蘇ろうとしている状況です。 ですので、今後はどういう人材が育つかで、衰退するか発展するかが決まります。 自浄作用が出来るか出来ないか、もね」

今、状況を牽引しているのは高宮だ。

もしも高宮が腐敗を肯定するような映画を作れば。一気に業界は腐敗するだろう。

またスキャンダルが発生した場合。

一気に映画業界がそれに引きずられて、数十年は再起不能になるだろう。

そう、石山はいう。

その通りだと思う。

高宮も、それについては同じ分析をしている。

小野寺が挙手。

そのまま、話を聞く。

「それで高宮監督。 あなたはどうしたいんですか?」

「勿論、映画業界には健全に発展して貰いたいって思ってるよ」

「お金が動けば悪い人もたくさん動きます。 私もここしばらくで、随分それを見てきました」

「それについては分かってる」

高宮の個人資産に集ろうとしている奴はまだいる。

今の時点でガードがガチガチなので暴力団員は攻めあぐねているようだが。

井伊だけでこのまま守りきれるかどうか。

また、週刊誌とかは高宮に個人的な恨みも抱いている。

隙が無いから今まで一切合切飛ばし記事を書きようがなかった。その上、法的措置が容赦ない事も知っているから。迂闊に手を出せずにいる。

だがマスゴミどもが結託すれば。

何かとんでもない飛ばし記事を書いてくる可能性もある。

勿論、その時には備えているが。

対策に失敗した場合は、覚悟しなければならないだろう。

「いっそのこと、この資産手放すかな。 使い路がないし」

「止めた方が良いとおもう。 下手に金を手放しても、金は動くだけ。 場合によっては行き先の人を不幸にする」

「そういうものか……」

「そういうもの。 高宮監督は、現時点でも各地の孤児院に充分な寄付をしているし、それで充分」

そっか。

高宮は金をきちんと使えていると、井伊は太鼓判を押してくれているわけだ。

まあそれなら、それでいい。

最後に、日野に話を聞く。黒田は、こういう話には興味が無さそうだった。実際高宮は、黒田の要望には応えてどんどんリッチな環境を用意しているのだから。

「日野さんは今後どうしたい?」

「悪い人とは関わり合いにもなりたくないです。 ただ、色々な映画に出て、色々な役に挑戦してみたい」

「分かった、じゃあそれはこっちで便宜を図るよ」

「お願いします」

テレビ会議を終える。

日野は辛そうだったな。

それはそうだろう。

元々演劇マシーンなんて劇団時代には言われる程、俳優という仕事に命を賭けている人間だったのだ。

その事もあって、俳優時代には随分辛い思いもした様子である。

それは高宮も調べて知っているし。

今更掘り返すつもりもない。

もう少しで、映画業界は戦国時代から。盛り返すかそのまま終わるかが決まる。

権威が崩壊した後のこの世界は。

今後はどうなるか、高宮にだって分からないのだから。

いずれにしても、今映画業界は白い。

黒い影からの束縛は、やっと消えゆくある。

この後どう染まるかは。

まあ、今いる人次第だ。

高宮には、そういう意味では大きな責任がある。

今後、また真っ黒な。

闇の時代を到来させないためにも。

高宮には、責任のある行動が求められる。

政治家のように動く必要は、一切無いだろう。

だけれども。

それはそれとして。無為な行動を取るわけにはいかない。

それは、高宮も。

しっかり理解は出来ていた。

 

3、崩壊連鎖

 

ポリコレの大物活動家が逮捕されたことで。一気に連鎖して逮捕が続く事になった。

SNSでは暗黒時代だの何だのわめき立てる輩がいたが。

誰にも相手にされなかった。

まあそれはそうだろう。

フェミニストやらポリコレやらが、如何に文化を滅茶苦茶にしてきたか。その程度の事は、小学生でも知っている。

ヒスを起こして喚くだけの連中である。

相手にする価値も無い。

SNSに触れていれば、半年もすれば分かる事である。

そして人間が、まず変わる事がない生物である以上。

変わることを期待して。

おかしな思想にはまってしまった人間を諭しても無駄だという事は、大半のネットユーザーが理解している。

まあ多くは傷ついて理解するのだが。

それはそれ。

これはこれだ。

いずれにしても、どんどん文化を汚していた連中が消えていく。

それはとても良い事だった。

裏で膨大な金が動いていたことも発覚。

人権だの何だの口にしながら結局金か。

そう嘲笑する声が広まり。

結果としてポリコレもフェミニズムも、その「権威」は文字通り地の底に落ちた。

本来、自浄作用が働かなければならない事だったのだ。

それでも、誰もやらなかった。

高宮は映画の範囲内でやった。

それが連鎖した。

ただそれだけの事。

いずれにしても、崩壊の速度は凄まじく。

どんどん文化を蝕んでいた黒い影は、その影響力を落としていく。

これについては、掛け値無しに良い事だと思う。

いつの間にか窮屈極まりなくなっていた映画界隈は。

とても静かで。

過ごしやすい場所になっていた。

膨大な、実験的な作品があふれかえる。

それには外れの作品も多かったが。

それでも、なんというか。

それぞれが奔放な実験をやってみようという意図があった。

映画には歴史がある。

誰かがやった事が、大量にある。

だが、それでも誰もやらなかったことはある。

たくさんたくさんある。色々ある。

それらを、インディーズの監督達は果敢に挑戦し。試してみて。失敗しても苦笑いして。次の挑戦を行うのだった。

これでいい、と高宮は思う。

文化は娯楽だ。

そこに貴賤はない。

いつのまにか貴賤が生じ。

そして権威を気取る奴が出てくる。

だからおかしくなる。

高宮は、誰もが楽しめるのが文化だと思っている。誰かが独占した時点で、文化は腐敗が始まるとも。

実際問題、一部の人間だけが楽しんでいる文化が、発展性を残していた試しがあるだろうか。

既にそれは文化としては完全に停滞し。

死んでいるのと同じだ。

昔は一部の金持ちが、文化を囲うことがあった。

今はガチ勢とか自称する愚かな身の程知らず達が、攻撃的な言動で新規のファンを遠ざけ。文化を囲うことがある。

そうやって囲われてしまうと文化は悲惨だ。

新しいものを作ろうとしても。

独占していると勘違いし。更には自分を特権階級と思い込んでいるガチ勢だの老害だのから袋だたきにされる。

映画界隈で散々見て来た光景である。

今では一部のジャンルの小説やゲームでも見られる。

はっきりいって、度し難い不徳であり邪悪だ。

だから、焼き払った。

それだけだ。

高宮は、また新しい映画を公開し。

わっと客がきた。

映画業界は衰退していない。

そういう声も上がっているが。

高宮はノーコメントだ。

そのまま邪悪な人権屋が跋扈し。完全に年老いて客観性を失った権威がデカイ顔をして居座り続けたら。

いずれ手が施しようがないところまで、映画界隈は落ちていただろう。

高宮が焼き払った時点で、既にギリギリだったかも知れない。

いずれにしても、今回の映画も一兆円を稼ぐ事はほぼ確定のようだ。

別に稼ぐ額はどうでもいいが。

いずれにしても、高宮は今後も、面白い映画を作っていきたいと思うし。

意識高い系と迎合もしない。

ましてや、自分は巨匠だ等とは思わないし。

他の映画監督にも敬意を払う。

特に表現の仕方が違う相手には、嫌いであっても一定の敬意を払う。

そのつもりでいた。

人権屋が持ち込んだ概念は、それら全てを否定するものだった。

だから破壊しなければならなかった。

しかも、その概念は金儲けを基本として持ち込まれたものであり。カルトとも通じるものだった。

だから排除しなければならなかった。

高宮は、引退も考え始めているが。

まだ止めた方が良いだろうと、井伊には言われている。

新しい映画界隈は、灰の中から芽が出始めている状態だ。

此処で、事態を牽引した高宮が抜けるのは。

色々と致命的だというのである。

まあ、それなら仕方が無いだろう。

北条は、副監督として学んでくれただろうか。

これからも、他にも出来そうな人材がいたら。副監督として誘うつもりだ。

高宮に教えられることがあるかはよく分からない。

だけれども。

もしも相手が望むなら。

受けるつもりだし。

もしも何か高宮から学べるものがあるのなら。

学んでいってほしいとも思う。

それくらいのことだ。

何も学ぶものがないのであれば。その時はその時。

高宮は自分を巨匠だなどとはおもっていない。だから、それもいいだろうと考えている。

いずれにしても、映画の撮影が終わって少し疲れた。

一週間ほど、休憩することにする。

配給会社は、すっかり小野寺が回しているので。

もう小野寺に社長になって貰おうかと考えている。

意思疎通の達人である小野寺だが。

本来だったら、とっくにブラック企業ですり減らされて、潰されてしまっていただろう。

だが、高宮と偶然出会えた。

今後も、その類い希なギフテッドを最大限まで生かして欲しい。

だから、社長が適任なら。

それはそれでいいだろう。

何、今の社長にも充分な退職金はくれてやる。

それで充分の筈だ。

温泉に出向く。

たまに足を運んでいる温泉だ。

マスゴミもまだ此処は嗅ぎつけていない。

静かな温泉だし、予約を入れないと入れない場所ではあるのだけれども。

効能は抜群。

ただあまり評判はきかないので。

単に高宮の体質と、相性がいいだけかもしれない。

地熱で体を温める施設もある。

それでゆっくり休む。

しばらくねむって、とにかく疲れを取っていると。

スマホに連絡が入っていた。

小野寺からだ。

なんだか映画賞を作るので。

それの審査員をやってくれないかとかいう話が入っているらしい。

高宮個人での人材発掘はするが。

残念ながら、映画賞の審査などするつもりはない。

それについて伝えると。

そういうと思っていたと言われた。

まあそうだろうな。

小野寺は、良く高宮の事を理解している。恐ろしいくらいに、である。多分両親なんかよりもずっと。

これくらい人の事が見えていると。確かに恋愛恋愛言っている周囲の人間が、馬鹿馬鹿しくなっただろうし。

スクールカーストなんか猿山にしか見えなかっただろうなと思う。

とりあえず、断りは小野寺から入れて貰う。

休暇中すまない、と小野寺は言ってくれたので。

それだけでも嬉しかった。

さて、また休暇を続行だ。

何もかもを焼き尽くす事は終わった。

後は出来る範囲で。

腐りきった野を焼いた後。芽吹くものをどうにかしていきたい。

それはあくまで、自分の手で出来る範囲で。

利権や何やらには関与しない。

そんなものが出張ってくるから、文化は腐敗する。

故に、前例は作っておかなければならなかった。

今度は外からSPだ。

連絡がスマホに来る。

気がつくと、数時間ほどねむっていたようだった。

「失礼します。 外に不審者がいます」

「ライフルで狙撃とかしようとしているとか?」

「いえ、恐らくは何処かのマスコミの記者でしょうね。 取り押さえておきますか?」

「そいつに全員掛かりにならないようにね。 こっちの守りがおろそかになると困るし」

SPもプロだが。

その辺は、一応注意喚起しておく。

ほどなく、やはり記者だったらしいのが捕まり。

そのまま、連れて行かれたようだ。

まあ世にも恐ろしいおしおきをされるのだろう。

はっきりいってどうでもいいが。

そのまま、再び休む。

ずっと戦い続けてきたのだ。

表には見えない形で。

高宮はずっと遊んでいる。

そう揶揄している奴がいた。

何の努力もせずに、金だけ稼いでいる。

そういう揶揄もある。

だが、そういう連中は。高宮が半生を賭けて念入りに計画を立てていたことなど、知る筈もない。

だから、はっきりいって、鼻で笑う気にもならない。

平均的な人間は、主観でしかものを判断出来ない。

多くの場合は、それは自分が見下した相手に向けられる。

見下している相手がやったことは、全て無駄な努力。

見下している相手がいったことは、全て嘘。

そう考えるのが、平均的な人間。

だから、高宮を揶揄している輩は。

高宮を見下している人間だ。

そして人間は変わらない。

一度相手を見下すと、絶対に相手への評価は改めない。

そういう生物だ。

だから高宮もそんな連中にはなんの興味も持たない。

せいぜい人を見下しながら、己の主観だけの狭い世界でのたれ死んで行ってくれ。そうとだけしか感じなかったし。

高宮の手が届く範囲内は何もかもを焼け野原にする事に成功した今は。

負け犬の遠吠えを聞いているだけにしか思えず。

むしろ失笑が浮かぶだけだった。

数日、体を温泉で休めると。

仕事に戻る。

次の映画だ。

生きている間に、出来るだけ映画を作っておきたい。

後発で、自分以上に稼ぐ監督が出てくるかも知れないが。

その時はその時。

むしろ祝福したい。

あくまで高宮は、自分が作りたい映画を。自分の資産から捻出して、作っていくだけである。

それはどうあっても低予算映画の域を出ないが。

それでも工夫次第で幾らでもやりようがあることを、高宮は世に示した。

それだけで充分だ。

高宮が作った俳優事務所は、大部屋俳優として不遇を受けていた人も最近は採用し始めている。

主に面接では無く引き抜きが主体になりはじめていて。

政治力がなかったり。

資金力がなかったりで、冷遇されているのに実力はある俳優を抜擢する事に終始していた。

そして高宮が、今では小野寺が事実上回している配給会社の映画監督に回す。

彼らも出自がしっかりしていて安心して使えると言う事で、安心して俳優達を映画に出しているようだった。

事務所の俳優は既に百人を超えている。

これからは、色々な俳優を使って。

様々な映画に挑戦していくことが出来るだろう。

とても良い事だと、高宮は思う。

事務所に出向く。

事務所を普段運営しているのは、誠実なことだけが取り柄の人物だ。

とにかく不正をしないので、小野寺が抜擢した。

経営手腕は凡庸だが。

とにかく不正をしないので、それでいいと思う。

そのまま、彼に案内して貰い。

次の映画で必要な役のリストを見せる。

まあ一人は日野で確定なのだが。

リストを見せると、事務所の支配人はしばらく考えた後、必要な人員を連れてくる。

顔合わせをして、軽く話をし。

役について出来そうか確認。

本人の意思を尊重する。

そして、同意がとれたら、映画に出て貰う。

俳優はOK。

次はスタジオだ。

スタジオを既に幾つか手持ちの資産で買収した高宮だが。

それでも、まだまだ映画によってはセットが足りないと感じている。

勿論普段は別の監督にも使えるようにしているけれども。

こういう事を始めると。

金は幾らでもいるんだなと、少し寂しくなる。

次回撮る映画は、ある戦国大名の物語だ。

近年有名になってきた戦国大名で。

戦国時代最弱とも言われる人物である。

とにかく、勝てた試しが殆ど無い戦国大名であり。

それでいながら領民には何故か慕われ。

何度も何度も城を奪われながらも。

文字通り不死鳥のように再起した。

その生き様から、近年は色々な意味で有名になりはじめており。

有名になる前から、この戦国大名を映画にしたいと思って脚本を温めていた高宮は。

今回、ついに映画の主役に抜擢する事としたのだった。

まあ、そういう不思議な大名だし。

俳優達が二の足を踏んだのも仕方が無いとはいえる。

城はCGでいいだろう。

今の時代、殆どの時代劇で、城を移すときに姫路城を使っているように。

実物と違おうがどうだろうが、殆どの人間は気にしないのである。

スタジオに入る。

SPもついてくるので、多少窮屈だが。

相応に資産があるので。

自衛はしなければならなかった。

移動中に、何度か尾行があったが。

SPによると公安だそうだ。

高宮は保有資産が尋常では無いこともあるし。

警察ともコネが幾つかある。

まあ日本の警察は、上層部を除けば有能だ。

だから、その程度の事はすぐに掴めると言う事だろう。

公安が見張っているというのは、何かで逮捕してやろうという意図があるのではなく。

お前の事を見ているぞ、というわけで。

牽制をしているらしい。

まあどうでもいいけど。

そのまま、スタジオを幾つか見て回った頃には。

その日の仕事時間は終わっていた。

帰宅する。

次の映画の撮影を開始できるのは、恐らくだがもう一週間以上先になるだろうが。

それでも、高宮の驚異的な稼ぎをたたき出す映画の撮影としては、初動はかなり早いほうである。

特にスポンサーがいないという事が大きい。

挨拶回りだの利害の調整だのが必要ないので。

その辺は気にする必要もない。

更にスタジオ関係も、もう高宮がオーナーである。

この辺りも、幾らでも融通が利く。

ただしそれで暴君になってしまってはいけないから。

他の監督も使えるように、きちんと配慮しなければならないが。

「高宮監督、よろしいですか」

不意に、メールがスマホに届く。

北条からだった。

「次の映画を撮影することになりました。 以前は副監督として勉強させていただいて、感謝しています」

「いやいや、別に。 何か得るものがあったのならいいのだけれども」

「色々勉強になりました」

北条は誠実にどう勉強になったのか、話をしてくる。

まずスケジュールの組み方。

徹底的にスケジュールは調整してあるので、多少のつぶしがきく。そのつぶしがきくやり方も、勉強になったという。

俳優を怒鳴ったりせず、丁寧に接して演技についても指導は論理的に行う。場合によっては意思疎通のプロを使ってそれを行う。

セットなどについて。

あらゆる工夫をすることによって、予算を圧迫する。

また、CGについても的確な場所で使う事によって、無駄な予算の消費を抑える。

他にも脚本の作り方や。

色々な小道具の使い方など。

勉強になる事はたくさんあったそうだ。

そう言われると照れるが。

最後に、ただひとつと言われた。

「高宮監督の心は良く分かりませんでした。 作品で表現したい事とかは分かったのですけれども……」

「心ね……」

「聞かせていただきたいです。 高宮監督にとって、映画とはなんなんですか?」

「好きなもの。 この世で一番」

そうなのか、と北条は納得出来ない様子だった。

だが、それは若いからだろうと思って、笑って流す。

そもそも、好きは人によって違う。

それを言い出したら、きりが無い。

好きの解釈について話し始めたら、絶対に喧嘩になるし、無駄な争いになる。

事実今でも、人権屋どもが動いているでは無いか。

自分の主観で好き嫌いを判断し。それを正しい間違っているに直結させるバカ共を煽り。

自分の手下として活用している。

高宮は、好きを他人と共有するつもりは一切無い。

今までもそうだったし。

これからもそうだ。

孤独な生き方だ。

だから、他人にそれを勧めるつもりもないし。

理解も求める気は無かった。

「有難うございました。 それでは、失礼します」

「頑張ってね、新作の撮影」

「はい」

北条とメールのやりとりを終える。

そして、思った。

さて、北条はどこまでいけるだろうか。

ルックスがいいから、それを利用すれば馬鹿なマスコミはすぐに食いつくだろうが。マスコミがまともな情報発信を出来る能力などは、とっくの昔になくなっている。まあ本当は最初からなかったのかも知れないが。

ただあのルックスは、上手に生かせばそれだけ映画の知名度アップにつなげられるだろうけれども。

その代わり、変な虫も寄ってきそうだ。

どこまで、自覚的に容姿を利用するかで。

今後の北条の映画監督としての人生は変わってきそうだけれども。

それについては北条の人生。

高宮が関与できることではないし。

関与してもいけない事は、当然理解していた。

さて、明日からのスケジュールを再確認だ。

映画だけじゃあない。

高宮は、常に先の先。百手ほど先まで読んで常に動いている。

そうしているからこそ、成し遂げられた。

これを他人に真似しろというつもりもない。

そもそも高宮は。

本来だったら、映画撮影にだけ集中していれば良かったのだろう。

あのサムライ映画の巨匠がいた時代だったらどうだったのだろうか。

女性監督と言うだけで厳しかったかも知れない。

映画がもっとも自由で。

もっとも好きに作れた時代はいつだったのだろう。

考えて見ると。

どうもあまり、そんな都合がいい時代は見当たらなかった。

それはそれで悲しい話だな。

そう高宮は思う。

そして強いていうならば。

今がそうなのだろう。

頬を叩くと、気合いを入れ直す。

時代は変わった。

腐りきった権威は全て焼き払われた。

そして新しい時代が映画界隈に来ようとしている。

それを牽引した以上。

高宮にも責任はしっかりある。その責任を放棄するわけにはいかないのである。

これから少し忙しくなるが。

それでも体を壊すような無茶はしないように動くつもりだ。

そうしなければ、自分が作り出した沃野が緑に満ちるのを見る前に、倒れてしまうことだろう。

そうならないためにも。

高宮は。まず自分の体に気を遣い。

同志達にも気を遣い。

その上で。

慎重に慎重を重ねながら。

動かなければならなかった。

 

エピローグ、焼け野原から芽吹くもの

 

権威となっていた幾つかの映画賞が消え。

スポンサーが凄まじい金を投じて、結果としてがんじがらめになった「大作映画」がいつしか人権屋に乗っ取られる時代も終わり。

映画戦国時代とも呼べるものが到来してから。

しばらく時が経っていた。

万雷の拍手を受けて、壇上に上がったのはまだ若い監督だ。

今、映画は空前のインディーズ時代に突入している。

スポンサーが金を出して、自分達の会社や思想に都合がいい映画を作らせる時代は既に終わり。

今は、それぞれが低予算で工夫しながら映画を作る時代が来ている。

そういった映画には外れも大量にあるが。

その反面で、上手く行った映画もあり。

それらが、更にインディーズ映画熱を加速させていた。

いい傾向だ。

そう、少し年老いた高宮は。

動画サイトで、その様子を見ながら思った。

高宮は、まだまだ現役で映画監督をしている。

だが流石に、一時期ほどの勢いはない。

この間公開した映画も相応のヒットはしたが。

昔日ほどの勢いはなく。

それなりに好評だったが。

それなりどまり。

まあ黒字にはなったし。

なんなら後は一生遊んで暮らすことも可能なのだけれども。

そうするつもりはない。

高宮は、老害にならない限り一生映画とともにある。

だから、こうやって。

映画界隈の動向には、常に目を光らせていなければならなかった。

井伊から連絡が来る。

今は、井伊はどこにいるのだろう。

同志にすら、居場所を明かしてくれない。

たまに小野寺とだけは会うそうだが。

「また、ろくでもない連中が結託して映画賞を作ろうとしていた。 映画賞といえば聞こえはいいが、スポンサーの言いなりになる映画を作らせて、人権屋の懐に大量に金が入るシステムを再構築しようとしていた」

「連絡をしてきたって事は、潰したの?」

「潰した」

「そう……」

井伊は、容赦が無いな。

そう思う。

もうFBIにも顔が利くと聞いている。

本人は連日ダークウェブに潜り。更にハッキングなども駆使して、密閉性が高いSNSなどにも潜り込んで。

様々な情報を収集。

世間に先んじて動いている様子だ。

井伊に言われたニュースを確認する。

幾つかの過激派人権団体の内部抗争があり、警察が踏み込んだ結果。十人以上の遺体が発見され。

人権団体の幹部全員が逮捕された、ということだった。

いたましい事件だけれども。

酷いのは、遺体は殆どが子供ばかりだと言う事。

井伊の話によると。

すっかり落ち目になったポリコレは、過激派カルト団体ともう脇目もふらずに合併を繰り返し。

もはや元が何だか分からない状態になっているそうである。

今回の件も、それぞれの幹部が人質交換をしている状態で話を進めていたそうなのだけれども。

その人質がそもそも養子。

更には話が決裂したと言う事で、人質を連中は容赦なく殺し合い。

警察が踏み込んだ時には、内部で銃撃戦までしていたそうだ。

本邦でもひたすらテロと内部分裂と内部での粛正を繰り返した挙げ句、いまだに影響力を持っている過激派団体が存在しているが。

どこの国でもこの手の連中は同じなんだなと。

高宮は呆れた。

「いずれにしても、これは大スキャンダルになる。 大手マスコミも報道せざるを得ないだろう。 まあ連中なんてもはやあっちでも誰も相手にしていないが」

「お疲れ様。 とりあえずガンガン真相をネットに流しちゃって」

「了解している」

井伊との通話を終えると。

溜息が漏れた。

さて、今週出た映画について確認するか。

すっかり地歩を確保した北条は、かなりの有名映画監督になっている。

代表作も幾つか出来。

今、注目されている若手になっていた。

良い事だと思う。

このまま、どんどん先へ進んでほしいものだ。

日野は高宮が映画を撮るペースを落としてからは、色々な映画に出るようになり。既に日本の女優の中でもトップクラスの知名度をもつようになっている。

マスゴミには高宮のお気に入りとして散々嫌われているようだが。

そんなものは、もはや何の意味もない。

日野は既にそんなネガキャンなどなんら意味もない人気を持つようになり。

また身の回りに隙が無い事もあり。

週刊誌も、スキャンダルをでっち上げる事は出来ないようだった。

高宮が影響を与えたのは。映画界隈だけではない。

マスコミの凋落は決定的になったし。

スポンサーが大金を突っ込み。

その結果、大金を突っ込まれたにもかかわらず、駄作が出来ると言う醜悪なサイクルも終わったとも言える。

今では、スポンサーがバカみたいな大金をつぎ込むことは、映画だけではなく。ドラマやゲーム、他の全てでどんどんなくなりつつあり。

社会の流れが明確に変わっている。

また。一時期大暴れしていたフェミニズムとポリコレに関しても。

完全に過激派テロ組織と認識されるようになり。

もはやカルトと同一視するか、自然解散するか。

そのどちらかに別れるようになった。

これも高宮の行動の結果だ。

それによって、過激派の一派が消えた。

ただ。世の中に盗賊の類が消えないように。

この手の人権屋はあらゆる手を駆使してくる。

特にこいつらの背後にいた連中が、分が悪いと判断したのだろう。ポリコレとフェミニズムが斬り捨てられると。

その後には、すぐにまた面倒な人権団体が出て来て。

今も暴れている。

これらも、いずれ対処をしなければならないのだろうが。

人権が金になる現状。

更には、デリケートな問題で。

なかなか踏み込めない現状。

やはり、人権を悪用し。

邪悪の限りを尽くす輩は、この世から消える事はおそらく無いのだろう。少なくとも人間が変わらない限り。

そして人間は変わらないのだから。

どうにもならないのである。

コーヒーの写真を上げる。

SNSで、今も続けている習慣だ。

流石に全盛期ほどではないにしても、それなりにコメントはつくし拡散される。

毎日コーヒーの写真がアップされていて、安心するという声まであった。

苦笑すると、家を出る。

今日も仕事だ。

まだ、老害にはなっていないつもりだ。

もしも、満足出来ない映画に仕上がったときは。

その時は引退する。

映画監督として、やれるからやっている。

映画が好きだから、映画を撮っている。

それが完全に衰え、自己満足になった時には。

その時は、引き際だ。

諦める覚悟は。

既に出来ていた。

以降も、大御所だの何だのとかになって、映画界隈に口を出す気は無い。

高宮が焼き払った彼奴らと同じになるのなんて、はっきりいって死んでもごめんだ。

外に出る。

朝日がまぶしい。

伸びをすると。

高宮は、己が焼き払った映画界隈に。新しい文化の森が出来ている事を再確認して。

満足して歩き出すのだった。

破壊神は全てを焼き払い。

その後の創造を司る。

高宮は、どうやら。

立派な破壊神になることが出来たらしかった。

 

(謎の映画監督の物語、無の映画監督・完)