怪生物の落日

 

序、前哨戦

 

ダン少尉のカスタム機フォースターを最前衛に、ウォーバルガ隊が横列陣を組む。これに対して、エルギヌス隊が接近を開始。怪物は現時点では存在しない。

ダン少尉が、声を張り上げていた。

「怪生物の数は、確認されているだけでも68! これに多数の大型が加わる! アーマメントとの連携戦だ。 くれぐれも、前に出すぎるな!」

「イエッサ!」

ウォーバルガに乗っているパイロット達は、今までの周回と違う。

以前も、ありったけのバルガをかき集めての決戦を、壱野は見た事がある。その時、ウォーバルガのパイロットは。

文字通り、「乗せられているだけ」。

素人集団であり、ろくにバルガを扱えず、怪生物の猛攻の前に次々と倒れていった。一華の足を引っ張らなかったことくらいしか、褒めることがなかった。

今度は違う。

バルガの操縦、戦闘のノウハウが早い段階から蓄積され。其処にプロフェッサーが一華の戦闘データを仕込んだ。

これによって、それぞれが別物の戦闘力を手にしている。

更に、ウォーバルガ自体の性能も上がっている。それも、最初の周とはまるで別物にである。

壱野は、生憎細かい所は分からない。

カタログスペックが如何に宛てにならないかも知っている。

だが、それでも。

今、こうしてみていると。

ウォーバルガの群れに、安心感を感じる。

エルギヌスの群れが動き出す。前衛は八匹程度か。ウォーバルガ隊も同じ程度。突っ込んできても、気にせず横列陣を維持。

そのまま、各箇所で格闘戦を開始する。

「支援部隊、雷撃を吐こうとしているエルギヌスを集中的に狙え! 硬X線ビーム砲は、きちんと通じる! フィニッシュだけはバルガに任せろ!」

「イエッサ!」

プロテウス隊が、少し後方から援護。戦車隊も、言われた通り雷撃を吐こうとしているエルギヌスに火力を集中する。

一体目が倒れる。

倒したのはフォースターだ。更に撃破数を此処で伸ばす。流石だ。

二体目、三体目とエルギヌスが倒れていく。

リー元帥が、演説を始めた。

恐らくだが、エルギヌスが倒されていく映像を流しながら、だ。

士気を挙げるため。

総力戦が開始されて、一日以上が経過している。疲れている兵士も多い。そういった兵士の、勇気を引き出す。

勿論弾薬がなければ鉄砲は役に立たない。

エネルギーがなければAFVは動かない。

人間だって同じ。

食べ物を食べなければ、すぐに餓える。

精神論で高められる力なんて、一割程度にすぎない。

それでも、今はその一割がほしいのだ。

壱野は狙撃しながら、リー元帥の演説を聴く。

「ストーム隊が、バルガの有効性を提案して。 実際にエルギヌスを倒して見せてから、怪生物との戦いは五分の条件で行えるようになった。 それ以降、世界中でEDFは怪生物と戦い、倒して来た。 エルギヌスはバルガだけで相手出来る。 アーケルスは、機甲師団とバルガの連携で充分に倒せる」

その通りだ。

エルギヌスが次々に来る。

敢えて少数ずつ出してきていると見てよい。

カッパー砲をおそれている、ということだ。

まだ、アーマメント隊は前に出ない。激しい戦闘を、歴戦のバルガのパイロット達がこなして行く。

皆、複数の怪生物撃破経験を持つパイロットだ。

そう簡単に遅れは取らない。

「今、日本に世界中から怪生物が集結している。 つまりここで怪生物を倒せば、敵にはもはや怪生物という最強の手札はなくなる! 我々は五年にわたり、世界中で戦い続けてきた!  今日ここで怪生物を全て葬り! そしてこの長い戦いに終止符を打つ、橋頭堡とする!」

リー元帥の演説が終わる。

敵の切り札が怪生物だけだったら、どれだけ楽か。

突貫してきたエルギヌスに、完璧なタイミングでリバイアサンミサイルが直撃。悲鳴を上げてのけぞった所に、ウォーバルガが上半身を回転させてのハリケーンパンチを入れて叩き潰す。

木曽少佐と山県少佐の連携による攻撃だ。

山県少佐はちょっと怪我が響いているが、それでも頑張ってくれている。無為に死なせる訳にはいかない。

狙撃を続け、機甲師団と連携して雷撃を放とうとしているエルギヌスを狙う。

バルガが一機、中破に追い込まれる。そのバルガは下がり、別のバルガが前衛に出て来た。

ウォーバルガだったら、今確か二十機くらいは存在している筈。その大半がここにいるとなれば。

此方も、逐次状況に応じて戦力を再編して、カッパー砲を温存できる。

またエルギヌスが倒れ。

兵士達が歓声を上げる。

だが、まだまだこれからだ。

「フォースター、エネルギーがきれた。 一度交代する」

「了解。 三匹を倒しての交代だ。 充分過ぎる。 NO13、前衛に出る」

「頼むぞ」

ダン少尉のフォースターが戻ってくる。

すぐにバッテリーの交換を開始。そうこうしている内に、スカウトが連絡を入れてきた。

「此方スカウト」

「!」

「エルギヌスの群れが接近。 常に同規模の前線戦力を維持するつもりのようです!」

「味方の状態は」

千葉中将の声が飛ぶ。

すぐに、戦略情報部が返事を入れた。

「現在、補給、修復中2、予備機八という所です。 前衛は常にウォーバルガ十機を維持しています」

「よし、分かった。 そのままの状態を維持してくれ。 機甲師団は、とにかくエルギヌスの出鼻を挫き続けろ!」

「イエッサ!」

「火力投射続行! とにかく雷撃を吐かせるな! 突貫してくる個体は足を無理矢理にでも止めろ!」

昔のEDFの機甲師団だったら無理だろう。

だが今はプロテウスが多数いる上に、戦車隊も展開している。戦車隊の火力はバリアスが主体になってから比較にならない程上がっているし、ブラッカーのカスタムも火力だけならそれに劣らない。

これに加えて、レールガン部隊の活躍も大きい。

イプシロンは既に、戦場での花形兵器になりつつあった。

更に対空を意識して、エイレンとケブラーが少し後方に待機している。

エイレンはいざという時は、収束レーザーを使ってエルギヌスを押し戻す。

勿論、ストームチームも前線に、といいたいところだが。

今は遠距離戦に徹してほしいと言われている。

いざという時に備えて、戦力を温存してほしいのだそうだ。

確かに、ずっと戦いが続いている。それも、苛烈極まりない戦いが。

最終決戦でへばってしまっては意味がない。

今は。距離を取り。

狙撃に専念するか。

無言で狙撃を続ける。ライサンダーZで、ひたすらエルギヌスの頭を狙う。狙うのは、雷撃を吐こうとしている個体。突貫を仕掛けようとしている個体だ。

弐分はガリア砲で、三城はライジンで、ひたすら同じように狙撃を続けている。木曽少佐は山県少佐と連携で、リバイアサンミサイルをありったけ撃ち続けている。柿崎はすることがないように見えるが。

たまに側後を狙って動いている敵部隊を見つけては、それの撃退に行っていた。

ストーム2はブレイザーで支援。

ストーム3はガリア砲で。ストーム4はモンスター型で支援を続けている。

少なくとも、それぞれが戦車十両分以上の活躍をしており。

戦線は、今の所破綻の動きを見せない。

エルギヌスが次々に倒れる。

倒れたエルギヌスを踏み砕き、ウォーバルガが前に。勿論反撃を喰らってダメージを受けるウォーバルガも出るが。

すぐにさがって、予備機と交代。

周囲にはバルガ用のメンテナンスクレーンが林立し。

工兵が群がって、必死に修理をしていた。

「エルギヌス、更に来ます! 追加五体!」

「随分とまあ、数を揃えてきたものだ」

「此処で全て撃滅する! とはいっても、恐らく敵は全てを此処で使い捨てる事はせず、決戦に温存してくるだろうが……」

「可能な限り撃滅します」

また、フォースターが前に出る。動きも他のウォーバルガより速い。

たちまちに雷撃を吐こうとしているエルギヌスの懐に飛び込むと、コンビネーションブローを叩き込む。

悲鳴を上げて飛びさがるエルギヌスは、三城のライジンによる火線をもろにくらい。

更に、脳天からリバイアサンミサイルの直撃を受けていた。

頭をごっそり抉られて、その場に倒れるエルギヌス。

ダン少尉が、軽口を叩く。

「獲物の横取りか? 少しばかり今日の戦闘では物足りないか、ストーム1」

「いえ。 左斜め前に気を付けて」

「分かっている」

別の個体が、フォースターに襲いかかり。

カチ上げに来ている。

フォースターは踏み込むと、一撃を受け流しつつ、腹にボディーブローを叩き込み。

さがった所には、既に他のウォーバルガが、拳を振り上げていた。

振り下ろされる拳。

悲鳴を上げて地面に撃ち倒されたエルギヌスを、二機のウォーバルガが踏みつけ、たちまちにしてしとめてしまった。

「これほど多数のウォーバルガによる連携戦闘は初めてだが、思った以上に上手く行っているようだな」

「事前にプロフェッサー林が連携用のプログラムを組んでくれていました。 その支援があってのことです」

「先進科学研には世話になりっぱなしだな」

「まったく」

千葉中将に、戦略情報部の少佐が返している。

事実上少佐が完全に戦略情報部を仕切るようになってから、相応にスムーズにはなったようだ。

以前は、参謀が身動き取れなくなっても、戦略情報部がスムーズに動けていたわけではなかった。

それを考えると。

或いはだが。

少佐も、何かしらの影響を受けているのかも知れない。

「エルギヌスの増援停止。 何か戦術を変えてくるかも知れません。 各機、気をつけてください」

「スカウト、展開して情報を。 無人機もありったけ飛ばせ」

「イエッサ!」

残ったエルギヌスが、ウォーバルガ隊に狩られていく。勿論無抵抗ではなく、ウォーバルガ隊もダメージを受けるが。一対一ではエルギヌスの方が戦力が劣る。ウォーバルガ隊は、それに加えて連携しつつ敵を追い詰める。

敵が五体にまで減ったところで、またフォースターが交代。

壱野は、顔を上げていた。

いつの間にか、かなりバルガのダメージが蓄積している。

敵よりは押しているが。

見ると、予備機の修理も終わっていない。

煙を噴いているウォーバルガが前衛に出ている状態だ。少し、まずいかも知れない。

「こ、此方スカウト9!」

「どうした!」

「敵、大型の群れです! マザーモンスターの変異種と思われますが……数は百体を超えます!」

「マザーモンスターが百体だと!」

流石に、壱野も無言になる。

それだけではない。

更に、スカウトが報告を入れてくる。

「此方スカウト2−3! キングの群れを確認! 此方も百体以上が前線に接近している模様です!」

「キングが……」

「こ、此方スカウト3−1! 敵大型船が動きました! 大量のキュクロプスを出現……いやタイプスリードローンも出現させています! タイプスリードローンは先行して戦場に向かっているようです!」

「どうやら本気を出してきたようッスね……」

一華がぼやく。

すぐに、アーマメントで最前衛に出る一華。

千葉中将も、あわてて指示を出した。

「アーマメント隊、前に! この規模の大型を相手にしたことは、今まで例がない! 隊列を維持して、カッパー砲で吹き飛ばせ!」

「了解。 問題は対空戦だが……」

「我々に任せろ」

少し後方から、対空戦闘部隊が出る。

ケブラーを中心に、ネグリングも多数。プロテウスも、新しくきた部隊が前衛に。まずはミサイルで、タイプスリーの群れをというわけだろう。

だが、タイプスリーの数は、常軌を逸していた。

空が黒くなるほどの数だ。

今までの戦闘で、タイプスリーは殆ど出てこなかった。此方の切り札が切られた今。敵も、温存していた戦力を隠す必要はなくなった。そういう事なのだろう。

「と、とんでも無い数だ!」

「歩兵部隊も敵を攻撃しろ! ブレイザーなら、タイプスリー相手でも力負けはしない!」

「イエッサ!」

「大兄、前衛に出る」

弐分が近接装備に切り替えたので、頷いて出撃を見守る。三城もライジンから、誘導兵器に変えた様子だ。

柿崎は前衛で敵の攪乱。

壱野は、ここからが勝負である。

ライサンダーZで、次々にタイプスリーを叩き落とす。

タイプスリーはまだ前衛に接触していないが、この距離からで充分だ。遠くで、次々にうちぬかれて落ちていくタイプスリー。

味方部隊は、呆然としている。

ともかく、前衛が接触する前に、少しでも被害を与える必要がある。此処からは、大量の大型相手に、アーマメントとプロテウスがなんとか踏ん張らなければならなくなる。ウォーバルガは、大型の群れを相手にするのはかなり厳しいだろう。消耗も激しい。今こそ、アーマメントの出番だ。

「対空攻撃開始!」

「攻撃開始!」

「! 更に敵接近……ヘイズです!」

「何だと!」

レーザー主体のケブラーにとって、ヘイズは最悪の相手だ。今回対空で出て来ているケブラーはレーザー主体のものだけではないが、ヘイズが出て来たとなると、かなり面倒な事になる。

いずれにしても、敵の大型がこれから大量に来る。

今のうちに、可能な限り敵の空軍は削らなければならない。

プロテウス隊がミサイルを斉射。

これにケブラーとネグリング、更にエイレン隊が攻撃を開始。ヘイズ、タイプスリーの大軍を迎撃する。

空軍は。

ライサンダーZで狙撃しながら壱野は思うが。

この様子では、空軍は対空クラスター弾をぶちまけながら、すぐに基地に帰投することしか出来ないだろう。

恐らく、此処までたどり着けないという事だ。

タイプスリーの火力は大きい。

今では、タイプスリーの弱点をオートロックして射撃するシステムがケブラーに搭載されているが。

それでも次々に撃破されていくのが見える。

相手の火力が大きいのだ。

壱野には、ハイグレードを優先して倒すくらいしか、出来る事がない。

大破したAFVから逃げる味方を、弐分が支援しているのが見えるが。それでも数が多すぎる。

敵全てから、味方を守りきるのは厳しい。

「此方ケブラー隊、損耗大!」

「エイレン隊、ケブラー隊の盾になれ! 敵の航空戦力は多数だが、敵もこの戦場に恐らく勝負を賭けている! 全部叩き落として、味方の突破口を開け!」

「此方大友隊」

「!」

大友少将から無線が入る。

筒井隊と合流して、戦力を増強。更にアフリカから来た部隊も合流して、前衛に殴り込むそうだ。

大内少将も、項少将も似たような事をするつもりのようである。

どうやら、味方も決戦のつもりで動くようだ。

「前衛に突入する!」

「総員、各部隊を支援! 敵の空軍を、一機も生かして返すな!」

「此方ファルコン!」

「空軍か!」

ファルコン。確か最新鋭のファイターで構成された部隊だ。

空軍はとにかく開戦からしばらくは肩身が狭かったが、近年では確実に多数の敵を撃破出来る戦力が揃ってきている。

再び軍の花形に返り咲こうとしている状況だ。

「これより長距離空対空ミサイルをありったけ撃ち込んで、地上部隊を支援する!」

「頼む! タイプスリーによる被害は甚大だ!」

「分かっている! ミサイル、一斉に放て!」

少し間をおいて、空中にて大量のミサイルが炸裂。恐らくは、千を超えるタイプスリーが一瞬で撃墜されていた。

其処へ、再編制された部隊が突入してくる。

上空にブレイザーが雨霰と投射され、次々にタイプスリーが落ちる。

しかし、だからなんだと言わんばかりにヘイズの群れと、それに大量の大型が来る。

此処からだ。

「敵大型多数! アーマメント、陣列を組んでください!」

「了解!」

「戦略情報部で、前衛から送られる情報を分析! 最大効率で敵を殲滅できるタイミングを指示します! カッパー砲を準備してください!」

恐怖を知らないかのように、多数の大型が接近して来る。

そして、カッパー砲が。

戦場を漂白していた。

 

1、魔獣軍団

 

文字通り、消し飛ぶ大量のマザーモンスター。マザーモンスターは既に倒せない相手ではなくなっているが、それでもカッパー砲の火力が異次元過ぎるのだ。バラバラに飛び散りながら、光の中に消えていくマザーモンスターの群れ。

それだけではない。

キングの大軍も、同じ運命を辿る。

一瞬にして。合計して五十体以上の大型が、粉々に吹き飛んでいた。

「アーマメント隊、カッパー砲の再発射まで十二分! 後退する!」

「よし、後は任せろ! プロテウス隊、戦車隊、前に! 大型に、ありったけの攻撃を叩き込め!」

今のを見て、明らかに大型の動きが鈍った。

それはそうだろう。

三城だって、あんな所に突っ込む気にはなれない。

洗脳されている生物兵器でも、流石に恐怖を感じるのだろう。

三城はライジンをチャージすると、プロテウス隊の攻撃を受けてもじりじりと前に来る敵を、順番に狙い撃つ。

傷ついている敵も多く、ライジンの直撃を受けると倒れる。

戦車隊が最前列で踏ん張っているが。

流石に敵との交戦での損耗が激しい。

それでも次々に戦車隊が来て、敵に対応する。EDFは本気で、此処で勝負を付けるつもりだ。

足枷になっていたクズがみんな消えたというのも大きいのだろうか。

ともかく、出来る事を今はするだけだ。

人間に守る価値があるかは甚だ疑問だが。

それでも、この戦場を放棄するわけにはいかなかった。

再びアーマメントが出る。

一華のアーマメントを中央に、展開するアーマメント隊。擱座している戦車を引っ張って、味方前衛がさがる。

それに追いすがって混戦に持ち込もうとする大型の群れを、プロテウス隊の攻X線ビーム砲が薙ぎ払う。

しかし、プロテウス隊も、余りにも多すぎるタイプスリーからの攻撃で、かなり消耗している機体が目立った。

対空攻撃は今も続けられているが。

タイプスリーの火力は大きく装甲は厚い。

簡単に、全て駆逐はできない。

アーマメント隊が前衛に。

タイプスリーが群がって潰そうとするが、横殴りに飛来した対空ミサイルがまとめて相当数を叩き落とす。

大友少将の部隊だ。

ネグリングの部隊をまとめて、一斉射の状況を作ったのだ。

敵空軍が、ヘイズもタイプスリーもまとめて消し飛んで、空白地帯が出来る。

今だ。

カッパー砲が、横並びに斉射される。

前衛に出て来ていたマザーモンスターとキングが、文字通りまとめて消し飛んでいた。戦車隊とプロテウス隊をあれほど苦戦させていたとは思えない程、あっけない末路だった。

「続けてキュクロプス、来ます! 数は恐らく、百を超えています!」

「でくの坊の機械人形どもが……!」

「此方ウォーバルガ隊。 キュクロプスはバルガでも交戦経験があり、かなり有利に立ち回れる。 今度は我々が前衛に出る」

「分かった。 ただしタイプスリーの大軍がまだまだいる。 無理をせず、大破しそうになったら後退してくれ」

何とか修理が終わったウォーバルガ隊が、今度は前に。

味方部隊は、空からの容赦ない攻撃で傷だらけだが、それでも逃げ出す兵士は殆どいない。

ウォーバルガの上に飛び乗ると、誘導兵器を全力でぶっ放す。

フライトユニットの消耗は気にしなくて良い。

タイプスリーが、ばたばたと叩き落とされていく。柿崎が最前衛でタイプスリーの気を引いてくれている。

三城も、同じ程度には活躍しないと。

木曽少佐が放ったマルチロックミサイルが、タイプスリーを多数同時に叩き落とした。山県少佐が、自動砲座を展開。

ミサイルを放つタイプの稀少な自動砲座だ。

小型ミサイルだが、狙いは確か。タイプスリーを確実に削ってくれる。

ウォーバルガが壁になっている間に、擱座しているAFVをどんどん後方に牽引車が引っ張って行く。

負傷兵も、勇敢に前衛に出てくるキャリバンが、回収していく。

それでも死傷者が多数でている事実は変わらない。

ともかく、今は戦い続けるしかない。

キュクロプスの群れが来る。

ウォーバルガ隊が戦闘を開始。拳を振るって、文字通りキュクロプスを吹っ飛ばしていた。

如何に巨大で装甲が厚かろうが、そんなものは知った事では無い。ウォーバルガの拳は、更に巨大で凶悪な怪生物を仕留めるほどの重量を持つ。なんだかんだで、質量兵器が最強なのだ。

キュクロプスが。

歩兵が戦闘する場合は、目玉を狙って決死の覚悟で挑む巨人が。次々になぎ倒されていく。

ヘイズやタイプスリーも集ってくるが、三城は無心に誘導兵器で蹴散らす。

地上近くに降りたタイプスリーを、柿崎が一刀両断にするのが見えた。あの動きは、流石だ。

剣に関しては、大兄さえ凌ぐかも知れない。

まあ、ストーム1の一員なのだ。

それくらいは、当然だろう。

フライトユニットが放熱している。誘導兵器で、ありったけタイプスリーを叩き落としてオーバーヒートしたのだ。

しばしバルガの頭の隅に隠れて、攻撃をやり過ごす。

敵の位置は把握しているから、不意を打たれることもない。こう言うときのために、足腰も鍛えている。

タイプスリーの攻撃は苛烈で、前衛に出ているウォーバルガの装甲にもかなりダメージを与えている。

必死に抵抗しているキュクロプスと違って。

嬲るように攻撃してくるのを見ていると、不快感が増す。

装備している生体ユニットからして、タイプスリーもサイボーグなのだとすれば。

ひょっとすると、悪意があるのかも知れない。

だったら、悪意に相応しい末路をくれてやるだけだ。

フライトユニットがエネルギーチャージ完了。いける。

一番左側のバルガに群がっているタイプスリーを、まとめて薙ぎ払う。ふらふら揺れながら、撃墜されていくタイプスリー。

落ちたところを、バルガに踏みつぶされて爆発する。

いい気味だ。

無言で、隣のバルガに飛び移り。

別のタイプスリーの群れを効率よく駆除する。

大兄の狙撃が、ハイグレードを落とした。

おおと、喚声が上がる。

対空戦闘部隊も被害を出しながら、頑張ってくれている。このまま、敵のこの凶悪な部隊を片付けてしまわないと。

ぞくりと、悪寒がする。

何か、来る。

「大兄!」

「分かっている! ウォーバルガ隊、後退を!」

「? わ、分かった。 全軍停止! 何か来る! 備えろ!」

大兄の勘は、既に兵士達にも知られている。すぐにウォーバルガ隊が停止。その場で、残党のキュクロプスを殴り飛ばして処理する。キュクロプスも相手が悪かったとしか言えない。

最後の一機は、パルスレーザーでバルガを撃っていたところを、文字通り踏みつぶされて、生体パーツをぶちまけながら果てた。

問題は、此処からだ。

見えてきた。あれは、アーケルスか。それも、エルギヌスの恐らく残りと思われるものまで来る。

すぐに、備えていたアーマメント隊が前に出る。

だが、此処からは乱戦か。

アーマメントも、カッパー砲だけではなく、格闘戦をしなければならないだろう。

「敵の数が多すぎる! こんな数の怪生物、とても相手に出来ないぞ!」

「大丈夫! まずは一撃を食らわせる! カッパー砲、斉射準備!」

「アーケルス、全力で突貫してきます!」

「かまわない! 発射!」

横並びになったアーマメント隊が、カッパー砲を斉射。

まとめて、アーケルスの群れを薙ぎ払う。

エルギヌスより強力なアーケルスですら、カッパー砲にはひとたまりもない。それは昨日の戦闘で実証されている。

文字通り、七体のアーケルスが蒸発。五体のエルギヌスも、それに巻き込まれていた。

だが、敵は恐らく意図的に、時間差をつけて攻めこんできていた。八体のアーケルスに加え、それの三倍近いエルギヌスが接近してきている。

千葉中将が、声を張り上げた。

「総力戦だ! アーマメントは、格闘戦に移行! ウォーバルガ隊は!」

「消耗が激しく、現在前衛で戦えるのは六機だけです!」

「わかった、ウォーバルガ隊も支援を続行! プロテウス、戦車隊は、それぞれ対怪生物のマニュアル通りに動け! 数が多いが、此方もそれは同じだ! 既に怪生物は、無敵の邪神ではない!」

一斉にファイティングポーズを取るアーマメント隊。

一華もあの中にいる。

そう思えば、多少は心強い。

一華が無線を入れてくる。

「各自に、カッパー砲のダメージ範囲を表示するプログラムを送信したッス。 自動でアップデートされるッスよ」

「ありがたいが、これは」

「最悪の場合は、味方ごとぶっ放してほしいって事ッスよ。 アーマメントだったら、カッパー砲の一発だけなら耐えられるッス」

「分かった! 感謝する!」

アーマメント隊と、アーケルスが激突。

エネルギー補給を終えたフォースターが戻ってくる。一華機が、早速アーケルスを一体殴り倒し。横転させた所に踏み込み。回転しながらのハンマーパンチを、連続してアーケルスに叩き込む。

怯んだアーケルスに、踏み込んでからの大ぶりの一撃。

だが、アーケルスは全身を傷だらけにし変色させながらも、それを回避。

しかし、三城がそこをライジンで狙撃。

動きが止まった所に、拳を固めた一華が、振り下ろしていた。

アーケルスの頭蓋が砕けて、脳みそが飛び散る。

ぐらっと傾いた後、倒れるアーケルス。見る間に腐食して、溶けて行った。

「流石だ。 見事な連携だな」

「まだまだ敵はいるっすよ!」

「分かっている!」

乱戦が続く。

アーマメントは格闘戦でもアーケルス以上の戦力を持つが、敵の数が多すぎる。ウォーバルガも、ダメージを無理して抑えながら次々に参戦。

更にプロテウス隊が硬X線ビーム砲で。戦車隊が150ミリを主体とした火力で。怪生物を抑え込む。

そして、ウォーバルガとアーマメントが。

その圧倒的な質量を誇る拳で、次々と敵を仕留めていく。

勿論無傷とはいかない。

突出した形になったウォーバルガを、アーケルス数体がなぶり殺しに掛かる。パイロットがかろうじて脱出するが、ウォーバルガは爆散。完全破壊される。敵も動きが速く、そして明らかに考えている。

数の利を生かして、削りに来ている。

人間よりも、効率よく動いている程だ。

戦車が踏みつぶされる。

プロテウスが猛烈な尻尾での一撃を受けて、蹈鞴を踏む。擱座したプロテウスが。必死に復旧を急いでいるのを尻目に、またバルガが一機破壊される。

だが、その間にも味方は奮戦。

三城も、ライジンをぶっ放し、次々に敵を倒す手助けをする。またアーケルスが倒れる。エルギヌスも。

アーマメントが、カッパー砲を展開。

さっき一華が配布したプログラムの支援によるものだろう。

そのまま、発射。

誰も巻き込まず、アーケルスとエルギヌス二体を、一瞬で光に返していた。

悲惨だったのは、半端に巻き込まれたエルギヌスで、体を半分以上失って、凄まじい悲鳴を上げながらのたうち廻っていたが、

五月蠅いと言わんばかりにウォーバルガが踏みつぶし、それがとどめになる。

また、アーマメントがカッパー砲を展開。

それを見て、明らかに逃げ腰になるアーケルスを、ウォーバルガがぶん殴り、横転させる。

そこに、カッパー砲が炸裂。

アーケルスと、エルギヌスがそれぞれ一体ずつ、消し飛んでいた。

今の二発が致命打に成り、敵が崩れ始める。だが、味方も満身創痍である事に変わりはない。

またバルガが一体、爆発四散する。味方が逃げ切れているか不安だが、それでも戦うしかない。

フォースターが前に出て、数体のエルギヌスを引きつける。

「今だ、狙え!」

「し、しかし!」

「大丈夫、フォースターなら逃げ切れる!」

「分かった!」

二機のアーマメントが、十字に交差するようにカッパー砲を展開。そのまま、全力でフォースターがさがる。

フォースターをはたきにいくエルギヌス。もう一体は頭突きを仕掛ける。

だが、それで倒れたことで、フォースターが完全にカッパー砲の効果範囲から外れる。

わざと攻撃を入れさせた。

最後の瞬間、それにエルギヌス達は気づいただろうか。

一瞬で、光に帰すエルギヌス数体。

数の優位は。

いつの間にか逆転していた。

しかし、フォースターも今のエルギヌス二体の攻撃をモロに食らったことで、ダメージは決して小さくない。

立ち上がると、後退を開始。

ウォーバルガ隊は被害甚大、アーマメント隊も、乱戦で無傷とはいかない。

他の味方部隊も、タイプスリーとヘイズの大軍勢を相手に、苦戦を強いられている状況だ。

かなり押し込んではいるが、それでもとても優勢だとはいえなかった。

だが、押し込むなら此処だ。

味方も予備部隊を投入。タイプスリーとヘイズの群れに、猛攻を仕掛ける。次々に爆散して落ちていくタイプスリ−。

空軍も、ありったけのミサイルを叩き込んでくれている。

味方海軍も、相当数のドローンを引きつけてくれているはずだ。これならば、きっと突破口が。

三城は、ふと気づく。

何か、忘れていないか。

それに気づいたときには、既に上空に、それが現れていた。

「サイレンだ!」

「三体もいる!」

「……弐分、三城。 俺が言うとおり、攻撃をあわせろ」

大兄が、指示を出してくる。

そして、一華にも指示が飛んだようだった。

サイレンにやってはいけないのは熱攻撃だ。硬X線ビーム砲は効くが、プロテウスの主砲では決定打にならない。

一方で、衝撃波は有効だ。

これは、サイレンから転化したグラウコスが、チラン爆雷で倒せたことからも明らかである。

そしてカッパー砲は反物質兵器だが。

その本質は、桁外れの衝撃波による究極の扇風機というのが近い。

いずれにしても、カッパー砲であれば、サイレンを倒す事は難しく無いはずである。

ただ、三体。

そしてこの世界線のEDFは、サイレンの撃破経験がない。

「カッパー砲を上空に撃つ事は可能か」

「いえ、不可能です。 なんとか地上に引きずり下ろしてください」

「此方ストーム1。 此方で引き下ろす。 その隙に、カッパー砲を叩き込んでほしい」

「分かった。 頼むぞ!」

千葉中将のお墨付きも出る。

大兄が狙撃を開始。三城はライジンを見て、これは駄目だと判断。一旦、補給車に戻る。

装備を切り替える必要がある。

こうしている間にも、サイレンは炎を吐いて好き勝手に暴れ回っている。炎を吐く度に、兵士が多く焼き殺される。

サイレンの状態ですら、以前のEDFでは手に負えなかったのだ。

今のEDFでも、簡単に倒せる相手では無い。

「バルガは他の怪生物を倒す事に集中! 今は敵の頭数を少しでも減らせ! 負傷者、ダメージのあるAFVは後退! この戦場にいることは死を意味する! 無為に死ぬな!」

「イエッサ!」

戦闘が、更に過熱する。

生き残った怪生物に、バルガが更に攻撃を加速。逃げようとしたアーケルスが、完璧なタイミングで放たれたカッパー砲で消し炭になる。

三城は補給車に到着。

よし。

装備を切り替え。

サイレンを、今後も敵が投入して来る事は、想定されていた。だから、装備を作ってもらっていたのだ。

ウィングダイバーはフライトユニットから供給されるエネルギーを用いた、プラズマ由来の熱装備が多いが。

これは誘導兵器の一種である。

熱兵器ではない。

ただ、使うのに特殊な才能がいるらしく。幸い三城はそれをクリアしていた。ただ。普通の人間が使うと廃人になる可能性が高いとか言う恐ろしい兵器で、魔剣とかいわれていたとか。

サイブレードという。

文字通り超能力のサイコキネシスから取っている名前だが、実際にはサイコキネシスを使うわけでは無い。

脳波のパターンとか、空間制御とか。

そういうのをこなせる人間だけが使える。

そういうことらしい。

大兄と小兄は、既に狙撃を始めている。サイレンの翼の一つを集中狙いすることで、落とす事は可能だ。

レールガン隊も、それに協力。

ケブラーはとにかく、タイプスリーの撃破に尽力して貰う。

サイブレードを飛ばす。

昔、似たような兵器を扱ったことがあるが。これはなんというか、全身が脱力するような疲労感がある。

だが、それでもなんとか扱ってみせる。

飛んだのは、衝撃波の刃。それがサイレンの翼の、狙った地点を正確無比に直撃した。そのまま、連続して飛ばす。エネルギーの消耗はそれほど激しくない。ただ、体力がもりもり削られる。

鬱陶しそうにサイレンが此方を見るが、頭上からリバイアサンミサイルが直撃する。

木曽少佐と山県少佐のファインプレーだ。

ぐらついた所を、更に大兄が狙撃。

翼の骨を、へし折っていた。

サイレンが落ちる。

完璧なタイミングで一華が、それに合わせていた。

カッパー砲、発射。

サイレンですら、その圧倒的。いや、もはや暴力的な火力には、抗えなかった。

サイレンが、千切れ飛ぶ。

あのグラウコスの圧倒的戦闘力を知っている三城としては、言葉もない。確かにこれは、人間が使って良い兵器じゃない。

核どころじゃない。

もしもこれが普通に使われるようになったら、世界は地獄と言うのも生やさしい場所になる。

後、二匹、

サイレンが、怒りを込めて、一華のアーマメントに急降下攻撃をしてくる。だがそれは、むしろ思うつぼだった。

振り返ると同時に、一華のアーマメントがそのサイレンの足を掴む。

一発なら、カッパー砲に耐えられる。

だから撃て。

そう、さっきもいっていた。

一瞬だけ逡巡したアーマメントの一機が、それでもカッパー砲を放つ。それで、文字通りサイレンの首から上が消し飛んでいた。

こうなってしまうと、サイレンでもどうしようもない。

その場に倒れて、死体は一瞬で崩れていく。

最後の一体。翼への集中攻撃。

残った敵が群がってくる。走りながら、サイブレードを連射。タイプスリーの相手は、対空車両と歩兵に任せる。

多数のミサイルが飛来。

タイプスリーを多数、一瞬で撃墜する。

空軍か、どこかの部隊かは分からない。だが、分かっている事はある。サイレンも再生力は高く。

そしてここで逃したら、どこで再度仕掛けて来るか、知れたものでは無い、ということである。

煙を噴いている一華のアーマメント。

あれは、耐えられたには耐えられたが。もうこの戦いで使う事はできないだろう。もう一機予備機があるらしいが、それだって今投入する訳には。

至近に、レーザー。

足をざっくり抉られる。

だが、痛いだけだ。

骨にまでは届いていない。

撃った瞬間、タイプスリーが撃沈されて。それで狙いが逸れた様子だ。今までの周回で、不運ばかりだった。

だから、こんな時くらい。

幸運が味方してくれても、いいだろう。

そう三城は思う。

大兄に狙撃に会わせて、とにかくサイレンの翼を狙う。既に怪生物は殆ど残っていない。バルガ隊の奮戦が故だ。向こうでは、丁度立ち上がった瞬間のアーケルスの頭を、フルスイングで振るわれたアーマメントの拳が砕いていた。

もう、残りの怪生物は数体。

だが、バルガも無理をして前線に残っている機体ばかり。アーマメントも、煙を噴き始めている機体がいる。

そろそろ、決着を付けなければ危ない。

サイレンの翼に、集中攻撃を続ける。だが、それを理解しているように、敵も大兄と小兄、それに三城を狙って来る。

大兄と小兄はいい。

やられるわけがない。

三城は、そろそろ危ないか。手傷も増えてきた。また、レーザーがざっくり行く。今度は肩か。

だが、致命打ではない。

いける。

そのまま、精神を振り絞るようにして、攻撃を続ける。

ついに、根負けしたのだろう。

サイレンが、落ちてくる。

「カッパー砲!」

「今撃てる機体はありません!」

「だったら俺がやる!」

「ダン少尉!」

乱戦と。破壊と。殺戮の中を、フォースターが早足で行く。そして、地面に激突したサイレンに、コンビネーションブローを叩き込む。

サイレンが。悲鳴を上げて逃げようとするが。尻尾を掴む。そして、無理矢理引きずり降ろす。

後は、容赦なく数体のウォーバルガとアーマメントがサイレンに群がる。一方的に殴られるサイレン。

炎を吐いて抵抗しようとするが、その度に頭を強烈な拳で殴られ。全身を強烈な質量の篭もった一撃で粉砕された。

あれほど、前は苦戦させられた相手だったのに。

熱攻撃は駄目、というのが分かっているだけで、こうも戦闘の結果が違うのか。

技術だけは、人間は進歩している。

それがよく分かる。

ほどなく、一華がリンチに混じる。

そして、拳が容赦なく、サイレンの頭を打ち砕いていた。

サイレンが溶け崩れ始める。恐るべき怪生物は、グラウコスに転化することもなく、命果てた。

その時には、既にタイプスリーの掃討も完了。

戦場は。

静謐に支配されていた。

敵第三陣から、かなりの援軍が出ていたことを確認している。これで敵は既に、布陣していた戦力の六割以上を失った筈だ。

更にリングは既に射程圏内に入っている。

味方の優位は、この瞬間決定的になったと言えるかも知れない。

プロフェッサーが、無線を入れてくる。

「リング近辺への、射線が通ったことを確認した。 これで歴史改変船団は、もう過去に飛ぶ事は出来ない!」

「まだ、リングそのものの戦闘力がどれほどかは分かりません」

「ああ、その通りだ。 リングもまだ来ていない。 だが、これでチェックメイトにまた一つ近付いた」

プロフェッサーは静かだ。

アーマメントの過剰火力を批判された直後だとも思えない。

散々修羅場をくぐってきたからだろう。

頭の切り替えが、明らかに早くなっているという事だ。

こうやって進歩出来る人間もいるにはいる。

だが、それはほんの一部。

天を仰ぐ。

周囲は死体だらけ。キャリバンが、一人でも負傷者を救助しようと、走り回っていて。そのキャリバンも、傷だらけの車体が目だった。

 

2、最後のリング到来

 

前哨基地がまた進められ、まずは周辺の掃討作戦が開始される。その間。ストームチームは休むように言われた。

一華は、専用機のアーマメントが運ばれて行くのを見送る。

彼方此方に立てられているクレーンだけでは、修理が追いつかないのだ。一度輸送機で、後方に運んで、バンカーに入れるらしい。

既に時間改変戦術の基点となる地点を抑えた、とプロフェッサーが発表した事により。EDFは一度進軍を停止。

リングが来るのは、恐らくそろそろだ。

仮にリングが来て、敵が反転攻勢に出ても。アフリカの部隊の主力が到着し、北米の部隊も続々と着陣している今。

プライマーでも、簡単にこの周辺を奪還する事は出来ないだろう。

ずらりと並んだフーリガン砲。

そして各地から集まって来ているケブラー。プロテウス。

この戦力を前にしては、プライマーだって迂闊に仕掛けられない。怪生物の一匹や二匹、どうにでもなる。更にバルガも、無事だったアーマメント数機が、戦場付近に控えている。油断はない。

ウォーバルガ隊は損耗が激しく、全機が一旦後方にさがった。フォースターも例外ではない。

今頃、東京基地をはじめとする基幹基地は、てんてこまいだろう。

一機一両でも多く、戦力になるAFVを前線に送る。

そのため、工兵や整備兵が、一番きつい状態の筈だ。

一華はエイレンWカスタムの定座で、ぼんやりしている。

休むようにと言われたけれど。さっき仮眠はとった。だが、眠れなくて起きて来たのである。

何度も細かく仮眠を取ったから、かも知れない。

「皆、聞いているだろうか」

プロフェッサーから通信が来た。

そういえば、そろそろか。

時間は丁度14時。

そろそろ、リングがいつ現れてもおかしくないタイミングである。

だが、別に警戒心や感動は無い。

油断もしていないが。

「リングがそろそろ姿を見せるはずだ。 もはや大型船は通る事は出来ないだろうが、それでも油断だけはしないでくれ」

「イエッサ」

「私も前哨基地で、情報を可能な限り集めている。 いざという時は、アドバイスをさせてくれ」

「ありがとうございます」

リーダーの対応は丁寧だ。

さて、そろそろかな。

そう思っていたら。

にわかに、場がざわついていた。

「お、おい!」

「空に何かばかでかいのがいるぞ!」

来たな。

顔を上げて、周囲を確認。

また、位置がずれている。

多分位置がずれているのは、タイムパラドックスのダメージを緩和する為、なのだろう。

リングを作ったフォリナは、プライマーに本格的なタイムトラベルの技術を与えたほどの文明だ。その技術については、推測することしか出来ないくらい人類とは違う。

一華も色々タイムトラベルについては調べたのだが。

結局いずれも皆が妄想する範囲内でしか分かっておらず。

まだ地球人には遠すぎる技術。

それだけしか、分からなかった。

いずれにしても、奴が。リングが降りてくる。その巨大さは圧倒的で、文字通り都市を相手に戦うようなものだ。

「こ、こちらスカウト! プライマーの巨大兵器らしきものが出現しました! 大きさは直径数キロメートル! 中央部に菱形のパーツがありますが、それ以外は概ねリング状の形態をしています!」

「ばかなばかなばかな!」

いつもの兵士の声が聞こえる。

今回も、この苛烈な戦場を生き残った訳だ。

一華はあわてない。

何度も何度も、この光景を見て来たからだ。それに今回は、あわてる理由がない、というのもある。

リングそのものには防衛能力はなく、恐らくだがプライマーが後付で装備した砲台がついているだけだ。

勿論今回は、それだけではなく様々な武装を追加している可能性が高い。

プライマーにしても、もう後がない。

リングが借り物である以上、リングそのものに手を加えることは出来ないだろうが。それでも、どんな武装が追加されているか、知れたものではなかった。

此処まで届く超破壊兵器を搭載している可能性は。

いや、ないだろう。

あのフォリナという文明の担い手の話を聞く限り、そんなものを搭載する事を赦しはしないはずだ。

今になれば分かる。

プライマーは、マザーシップから戦略兵器で地球を焼かなかった。

それは、環境に配慮していたのではなく。

あの主砲の威力を、戦略兵器にすることを。フォリナがゆるさなかった、ということなのだろう。

兵士達が大慌てする中。

千葉中将は、冷静だった。

「あれが、プロフェッサー林が予見していた時間改変装置の基点か……」

「出現位置はほぼ予想通りです。 あのリング状の地点を通ろうとする兵器は、全て撃墜が可能です」

「対空戦闘部隊、戦闘準備! 何が出現しても、絶対にあのリングを通らせるな!」

「了解!」

リングまでおよそ七キロ、というところか。

一華はそのまま、戦闘態勢を維持。ストームチームも、休憩を切り上げて、展開を開始していた。

「プライマーの部隊が展開を開始! あのリングを守るようにして、残る全ての部隊が展開しているようです! 数はおよそ……四百万!」

「配置を総司令部に転送してくれ。 すぐに突破作戦を策定する」

「イエッサ!」

「敵大型船確認!」

大型船が出現する。

だがそれらは、リングを通ろうとはしない。

リング周辺の低空に滞空すると、防衛部隊に合流する。

また、マザーシップもリング直上へと移動した様子だ。衛星兵器による攻撃を防ぐためとみて良い。

これで、はっきりした。

今回、プライマーはもう時間改変戦術を使うつもりは無い。

恐らく、フォリナに今回が最後だと、突きつけられたとみて良い。

だからリングで決戦を挑むつもりだ。

あのリングなら、未来から兵器を送り込んでくる事だって可能だろう。

どんなとんでもない兵器が出てくるか分からない。

ただはっきりしている事がある。

あのフォリナの発言を確認する限り。

人類が絶対にどうにもできない兵器は、出してこない。いや、この時代に運んでくる事ができない。

思えばマザーシップだって、EDFが撃墜する事が可能だったのだ。

こういう戦争になる事を可能性として予期していただろうフォリナの。彼らなりの、独自のルールなのかも知れない。

「マザーシップより何倍も大きい! あんな巨大兵器、どうにかできるのか!?」

「俺たちがそのためにいる! EDFがいる! 人類は負けない!」

勇ましい事をいう兵士が、周囲を勇気づける。

確かに、マザーシップの過半を撃墜し、コマンドシップも既に落としている。あのリングだって。

ただし、リングそのものは分かっていない事だらけだ。

あの、下部にある赤い装置が本当に弱点なのかすら怪しい。

いつも破壊しているあの装置だが。

装置を破壊した後、過去に転移はしているが。

それだけ。

リングが撃墜されるのを、確認したことは一度もないのである。

「あの新型敵兵器を、リングと呼称します。 敵、時間改変船団、リングを通る事を諦めた様子です。 恐らくですが、対空防衛網を突破出来ないと判断したと思われます」

「分かった。 そうなると、敵リングの守備隊を突破し、リングそのものを破壊する作戦にシフトする事になるな」

「はい。 現在、ありったけの偵察システムを利用して、敵を解析しています。 最大の危機……時間改変船団の過去への派遣は阻止できました。 敵も、即座に行動は出来ない筈です。 今のうちに兵力の再編制と、負傷者の後送をしてください」

各地から来た部隊が動き出す。

フーリガン砲は既に射程も確保出来るようになっており、どこから敵の大型船が来ても撃墜出来る。

それにフーリガン砲以外でも、既に撃墜手段はいくらでもある。

海軍はまだドローンの群れと激しい戦いをしているようだが、既に押し始めているようだから。

その気になれば、極音速ミサイルによる撃墜も可能だろう。

兵士達に、休憩が言い渡される。

同時に、プライマーも。兵力の再編制を行い。

更に分厚く、縦深陣地を再構成しているようだった。

 

ストーム隊が、幹部会議に呼ばれる。

錚々たる面子が揃っていて、驚かされる。北米での残務が残っているらしく、まだジェロニモ少将はこの場に来ていない。また、当然だが。総司令部のリー元帥も、来てはいなかった。

テレビ会議が普通だったから、これだけの数の幹部がこの場にいる事は珍しかった。

ジャムカ大佐が呟く。

「これだけの勇士が揃うと壮観だな」

「そうだな。 会議が始まる」

「……」

千葉中将が咳払いすると、皆を見回す。

リー元帥も、テレビ会議に姿を見せる。ある意味、恐らく今リー元帥は一番忙しく、危険だろう。

人間にとっての最大の敵は、今も昔も人間。

人間社会のガンを丸ごと駆除したリー元帥だが。

そのガンの手先が、EDFの内部に潜んでいるのはほぼ確定だ。

どんな行動を起こすか知れたものではない。

護衛の部隊も、信頼出来る人員だけで構成しているようだが。その人数も、多いようには見えなかったし。

恐らくだが、地下の総司令部の位置を、何度も変えているのだろう。

暗殺を避ける為に。

「プロフェッサー林の予見通り、敵の時間改変戦術の基点が出現した。 そして、敵は今回の状況を見て、時間改変戦術の実行を断念。 まずは、総力を挙げてEDFとの決戦を選んだ。 そう判断して良いだろう」

リー元帥が言う。

そして、付け加えた。

「五年にわたる戦いが、今終わろうとしている。 だが我等にとっては五年だが、奴らにとっては何年か知れたものではない。 それそのものが隙になる。 長期戦で司令部は間違いなく疲弊しているはずだ。 更に今回は、今までにない状況での戦闘になる筈。 そこにつけいる隙がある」

戦略情報部が、立体映像で地図を出す。

縦深陣地が表示される。

極めて分厚い陣地だ。

「これは、EDFの総力を挙げなければ、突破は無理そうじゃのう」

「しかし敵には転送装置がある。 総力を挙げれば、後方を奇襲されかねない」

「その通りだ。 しかも一点突破を狙えば、敵は相互に補完しながら、即背を狙って来るだろう」

かなり考え抜かれた陣形だ。

そうリー元帥は敵の事を褒めた。

まあ、事実だ。

戦場は、基本的に客観で見なければならない。敵が優れているなら、そうだと認めなければいけない。

そうでなければ、勝てないのだ。

「戦略情報部でシミュレーションを行いましたが、全戦力での一点突破は失敗する可能性が極めて高いという結論が出ました。 そこで部隊を三つに分け、敵陣に常に圧力を掛けながら、本命の部隊をリングにまで届けます」

「本命の部隊とは、勿論ストームチームだな」

「はい。 しかし、敵も恐らくそれを読んでいるでしょう。 故に、本命のチームの戦力は最小に、他のチームの戦力を多めに割り振ります」

立体図が出る。

ストームチームが所属するチーム1は、大型船七隻が駐屯している敵の前線を喰い破りつつ、リングを目指す。

この部隊の兵力は全体の一割ほど。

支援するのは、ダン少尉の率いる東京守備隊。これに項少将の虎部隊が加わる。虎部隊は乱戦を得意とする部隊だ。ただし消耗も激しいので。支援が必要になる。ストーム1と連携するには、もっとも適している部隊である。

右翼方面。新潟に近い方向から攻めるのは、ジョン中将が率いる欧州部隊を中心に、ジェロニモ少将率いる北米の部隊の三割が含まれる部隊。

左翼方面。

甲府側から攻める部隊は、タール中将が率いるアフリカ戦線の部隊を中心に、大内少将、大友少将が支援する。

更に筒井大佐が、後方の支援部隊を指揮する。

この支援部隊は、戦況を見ながら動く。

各国から来た部隊は、一度この後方支援部隊と合流。それから、状況を見つつ各部隊へと編成される。

アーマメントは全機が無事だが、ウォーバルガで動けるのはダン少尉のフォースターだけである。

このフォースターも、かなり破損が深刻で、最初の敵陣を突破するのが精一杯だという報告が来ていた。

これに加えて、アーマメントも、三機が損傷が深刻。

一華機と、予備機の二機のみで、主力部隊を支援。

更に、プロテウス隊も全体の二割程度が、主力部隊に参加する。

戦車隊はほぼ全てが左翼に。

右翼はプロテウス隊を多めに編成する。

これは右翼方面の方が地形が厳しいからである。峻険な山岳地帯で、下手をすると雪が積もっている中を進軍する。

勿論敵は、そんな地形などお構いなしに布陣している。

雪でどうにかなるほど柔な相手では無いことは、既に判明しているし。まあ不思議ではないだろう。

「作戦開始は本日1600。 状況を見ながら、相互支援しつつ、敵への距離を詰める事となるだろう」

「一部隊ずつ、130万の敵が相手か。 腕が鳴るのう」

「ふん。 まあどうにかするしかあるまいな」

「最悪の場合、左右両翼は敵の主力を引きつける事に注力してください。 ストームチームを……地球最強の特務を、リングに届けるのが作戦の主任務です。 ストームチームがリングにたどり着ければ、後はある程度作戦に幅が出るはずです」

簡単に言ってくれる。

ジャンヌ大佐がぼやく。

いつも自信満々なこの人がそうぼやくほどだ。

敵の強大さは、よく分かっているのだろう。

昨日今日の戦闘だけで、これだけの被害が出たのである。EDFの各部隊は、相当な消耗をしている。

敵も六割に達する戦力を失っているが。

それでも、多数の怪物やアンドロイドが残り400万。

プロテウスやアーマメントを揃えても、簡単に突破出来る数では無い。

その上、だ。

敵の主力ともいえる、最強のエイリアン。クラーケンが殆ど姿を見せていなかった。つまり、温存されていると見ていい。

怪生物はあらかた片付いた筈だ。

だが、プロテウスの装甲を短時間で破壊出来る武装を持ったクラーケンが多数残っている状況だ。

油断など、出来ようはずがない。

細かい作戦の説明が続く。

一華も内容については覚えておく。

北米のメイルチームも作戦に参加するべく、北米を発ったそうだ。間に合うかは分からないが。

いずれにしても、まずは最初にやる事がある。

この前哨基地の周辺に、プライマーの部隊が集まって来ている。アンドロイドが中心だが、それでも油断出来る相手では無い。

恐らく威力偵察のつもりだろうが、それでも片付けないと危険だ。

早々に処理する事とする。

作戦開始が1600。今1520だから、40分で処理する必要がある、というわけだ。まあ、余裕だろうが。

それでも油断は出来ないだろう。

すぐに全軍が動き出す。

一華も、エイレンWカスタムに飛び乗る。最前衛は、到着したばかりの北米部隊の先遣隊だ。

被害が一番小さいのだから、当然だろう。

また、ストーム隊も、最前衛に加わる。

敵が何かしらの罠を仕掛けている可能性が高いからだ。

海野曹長も、作戦参加を志願した。

断る理由は無い。

腕利きは一人でも多い方が良い。

特に最前衛なら、なおさらだ。

出撃。

殆ど更地になっている街を行く。アンドロイドや怪物の残骸を、無慈悲にプロテウスやバリアスが踏みにじりながら進む。

間もなく見えてきたのは、高機動型の群れだ。

骨組みが露出しているビル街の中を飛び回っている。こっちには、とっくに気づいている様子だ。

更に、コロニストの特務もいる。

コスモノーツも。面倒な事に、レーザー砲持ちがいる。早々に処理しなければならないだろう。

「攻撃開始! 敵の斥候だろうが、容赦するな!」

「イエッサ!」

「可哀想な奴らだぜ。 もう負けは確定しているのにな」

「あんな兵器で、ストームチームに勝てるものか!」

兵士達が、強気に言っているが。

一華は分からない、としか応えられない。

未知の兵器を繰り出してくる可能性は低くないし。

それが仮に倒せるとしても、どれだけの被害を出す兵器かは知れたものではないのだから。

ましてや敵はマザーシップをキャリアと割切って運用している。

最悪の場合。

マザーシップを盾にして使ってくる可能性もある。

マザーシップ三隻による支援攻撃。

はっきりいって、あまり想像はしたくない状況だ。

戦闘開始。

プロテウスが硬X線ビーム砲を敵に投射。リーダーの狙撃が、レーザー持ちコスモノーツのレーザー砲を文字通り吹き飛ばす。

特務のコロニストは距離を取って回避しようとするが。

戦車砲と硬X線ビーム砲、更にはブレイザーの集中投射で、逃れる事すら出来ずにその場で灰と化す。

次々に破壊されて行く高機動型だが、それでも接近に成功するものはいる。

柿崎が、次々にそんな猪突してきた相手を切り伏せる。

人斬り。

その言葉が、彼方此方から聞こえる。とにかくこの異色の戦い方をするウィングダイバーは、周囲から恐怖されるばかりだった。

それで全く気にしている様子がないのだから、色々な意味で大物だ。

一華も、舌なめずりしながら、レーザーで敵を薙ぎ払う。連戦が続いているから、エイレンWカスタムもダメージを回復し切れていない。相馬少佐のエイレンWカスタムも、同じ状態の様子だ。

「高機動型、更に来ます!」

「タイプスリードローン確認!」

「昨日、あれだけ粉々にしてやったのに!」

「ケブラー、応戦しろ。 昨日ほどの数じゃない。 蹴散らす事が可能な筈だ」

今回、前線で指揮を取っているのはルイ大佐だ。

北米の部隊に対してルイ大佐が指揮を執るのは、これから複数の指揮官が入り乱れての戦闘が行われるから。

元々EDFは多国籍の部隊編成をする組織だが、それでも此処まで色々な国の部隊が集結する戦闘は珍しい。

そのため、作戦を指揮するのにも柔軟性が求められる。

同格の指揮官が複数いる戦場は、大混乱を招くだけなのである。

一華でも、それくらいは知っている。

だからこそ、なのだろう。

事前に状況を見ておく、というわけだ。

ルイ大佐の指揮は、いずれにしても的確。

今まで何度も見てきているが、危なげは全く無い。

そのまま敵を蹴散らし、タイプスリーも撃墜していく。リーダーの狙撃も冴え渡っていて、空中を飛び回る高機動型に対して一発も外さない。

「一機後ろに回り込もうとしている。 三城、落とせ」

「分かった」

三城がライジンで、後方に回り込もうとしてたハイグレードを叩き落とす。

プロテウス隊、ケブラー隊、いずれも消耗軽微。兵士達も、全力で戦い続け、ブレイザーが唸る。

敵の兵器は次々に破壊されて行くが。

ドロップシップが来る。クルールの部隊か。

それにあわせて。大量の擲弾兵、それにキュクロプスも来る。大型擲弾兵を、リーダーが優先的に狙い始めた。

まだ、レールガンは温存した方が良いか。

そう思った一華は、収束レーザーに切り替え。

見た所、散弾銃持ちの厄介なクルールはいない。クルールを、収束レーザーで一体ずつ仕留めていく。

見ると弐分と柿崎が、前衛でクルールを相手に縦横無尽に暴れ回っている。ならば。

狙うはキュクロプスだ。

残った建物の残骸をなぎ倒しながら進んでくるキュクロプスに、収束レーザーを叩き込んでやる。

ネイカーがいたらもっと厄介だったのだろうが、幸いネイカーはいない。

味方部隊は、慣れたもので丁寧に対応を続ける。擲弾兵も、味方前線まで進む事が出来ず。中にはクルールを巻き込んで爆発する個体もいた。兵士達にも、慣れている者が多いのだ。

キュクロプスが爆発四散する。

バッテリーの様子を見ながら、また収束レーザーを叩き込む。モノアイを貫通されたキュクロプスが、また倒れ、爆発する。

ケブラー隊の一両が、中破して後退を開始。

味方が後退をしっかり支援する。他のケブラーも、追撃を許さない。タイプスリーが、次々に叩き落とされていく。

程なくして、制空権は確保。

フォボスが飛んでくる。山県少佐が呼んだな。そう思いながら、戦闘を続行。

残った敵に、フォボスが爆撃を実施。殆どを、まとめて消し飛ばしていた。

それからは掃討戦に移行。

予定より少し早く、戦闘が完了する。

「クリア」

「よし。 流石だストームチーム。 頼りになる」

「ありがとうございます」

「一旦後退。 敵の斥候は退けた。 ただ、斥候でもこの規模だ。 此処からは厳しい戦いになるぞ」

兵士達が油断しないように、引き締めを行うためだろう。

ルイ大佐が、敢えて脅かすように、そう言ったのだった。

 

3、凡人はただ走るだけ

 

昔から、小田は上司に嫌われた。

お調子者。

口が悪い。

不平屋。

上司に嫌われる要素は揃っていた。だが、だからといって人格を矯正だの。セミナーに出ろだの。そういうのはまっぴら御免だった。そんなのは、洗脳と一体何が違うと言うのだろうか。

どこでも無能の烙印を押され。

挙げ句の果てには、無茶な作戦を指示する上司と口論になった。無能な男だったが、その日は特に酷い指示を出してきた。

小田だって、死ねと言われて死ぬわけにはいかない。

その作戦は死ねと言っているのと同じだ。

そう指摘すると、上司は吠えた。

死ね。お前らは駒だ。

その瞬間、かっとなっていた。

気がつくと懲罰房に入れられていた。あのクソ上司をノックアウトしてしまったらしい。今までは「役に立たないので降格」だとか、「使えないので左遷」だとかで済んでいたのだが。とうとうやってしまったか。

だが、そのおかげで作戦は中止になった。戦友は大勢死なずに済んだ。

上司には嫌われているが、友人は何人もいる。

その中の一人が、荒木軍曹に連絡してくれたらしく。

荒木軍曹が、作戦内容を見直し。

実際に自殺を強要するも同然だったという事を告発し。小田を引き取ってくれた。

それから、やっと運が開けた。

荒木軍曹は小田より年下だったが、いわゆる肝いりだった。

今までも何人か肝いりは見た事があったが。あまり良い印象はなかった。

手下がほしいのかも知れない。

そういう先入観もあったが。びっくりするほど腕が良いのと。何よりも一兵士として戦場にありたいという理由で、「軍曹」と名乗っていることを知り。それらの発言に嘘がないことを知って。

今までのアホ上司とは違うと、小田は悟り。

以降は、憎まれ口を叩きながらも、荒木軍曹に全面の信頼を寄せるようになった。

今も、減らず口をたたきながら戦っている。

まさか小田も、自分が少佐にまで出世するとは思わなかった。

あの時、無茶な作戦を強要しようとした奴は、大尉だったか。このプライマー戦役が開始されてから、やはり無茶な作戦を実施した挙げ句、自分だけ逃げようとして真っ先に怪物に食われたらしい。

ざまあ見ろと一瞬思ったが。

その時、他の戦友がたくさん死んだのだと思うと。あまり、笑うわけにも行かないと感じるのだった。

走る。

最後の戦いが始まっている。

恐らく今夜から明日に賭けて。明後日まで掛かるかも知れない。いずれにしても、ハードな戦いだ。

既に殆ど丸一日以上、休みを途中で何度も入れながら戦っている状態だ。時々、乱暴にレーションの袋を開けて食べる。食事はきちんと取っているのに、栄養が足りなくて仕方がない。

それくらい、動きまくっていた。

もう少し先に、敵の大型船が固まっている。

テイルアンカーを投下してくる可能性もあるし、もっと厄介な敵を繰り出してくる可能性だってある。

怪生物が出るかも知れない。

少し後方から、まだ万全では無いフォースターが続いている。

怪生物も。

大将達と一緒なら、倒せる自信はある。

だが、それでも。戦力を温存するために、ダン少尉に任せるのが最上。今は、そう判断出来るようになっていた。

群れている怪物の中に、ロケランを叩き込む。

爆発四散する怪物。

「グッドキル」

「おうっ!」

荒木大尉。昔は荒木軍曹と呼んでくれと言っていた上官は。そうやって確実に戦功を褒めてくれる。

既に閣下になっているのに大尉と呼んでほしいと言っている。

この辺りの考え方は、ジャムカ大佐やジャンヌ大佐は理解出来ないらしい。ただ、それでも尊重してはくれる。

小田も、少佐になった今でも。

一兵卒のつもりだ。

少なくとも、今後クーラーの効いた部屋で偉そうに指揮を執るつもりはない。

それに。

大将達の真実についても聞いている。

確かにあの頭がおかしすぎる強さ、おかしいとは思っていたが。今なら、それも納得出来る。

頭の切り替えが速い事は、お前の強みだ。

そう荒木軍曹だった頃にはもう言われていたっけ。

いずれにしても。

プライマーとの決戦には、大将達の力が必須だ。

「大物がいる!」

「キングだ!」

「集中攻撃! プロテウスの攻撃が来るまで、敵の足を止めろ!」

荒木大尉が指示。大将達は、ちょっと離れた所で戦っている。敵の第一前線までもう少しだが。

敵の斥候だけでもこの戦力。

しかもキングまで繰り出して来ている。

厄介極まりない。

とにかく、ブレイザーで荒木大尉と、いつも小田と軽口をたたき合っている浅利少佐がキングの足止めをしている。

其処に、小田はロケランを叩き込む。

キングが明確に怯み。後方から、プロテウスがやってきていた。

硬X線ビーム砲が叩き込まれる。こうなると、キングでも流石にひとたまりもない。逃れようとするが、すぐに悲鳴を上げてばらばらに散らばっていた。

「此方ストーム2、キングが出現した。 敵大型船が転送している可能性が高い。 注意されたし」

「此方ストーム4。 此方ではクイーンが出現した。 既に撃破したが、同じく。 敵大型船による転送の可能性が高いだろう」

「そうなると急がないと危険か?」

「そのようだ」

指揮官同士の会話には、口を挟まない。

無線を切った荒木大尉に、意見は言っておく。

「なあ大尉。 大将達と合流した方が良くないか?」

「このままのルートを行くと、合流することになる。 むしろ、悩んでいると進軍を遅らせることになるぞ」

「それならいいんだけどよ」

「どうした。 何か不安があるのか?」

荒木大尉は、こう言うときも責めるようには言わない。

昔の上司の中には、奴隷である事だけを要求してくる奴もいた。そういう奴は、本当にむかついた。

この戦役で、大半が死んだらしいが。

巻き込まれた部下が可哀想だとさえ今は思う。

せいぜい怪物どもと同じ地獄に落ちていてほしいものだ。

「これ、ひょっとすると敵の抵抗がルートによって違うんじゃないのか。 事実ストーム3からは何も連絡がないぜ」

「そういえば……分かった。 少し確認する」

荒木大尉が連絡。

そうすると、ジャムカ大佐がおかしいなと返してくる。

「此方は順調すぎるくらいだ。 壱野大佐、其方はどうだ」

「此方も同じく。 アンドロイドを蹴散らしながら、順調に進めています」

「……罠だ!」

荒木大尉が、即座にさがるように二部隊に通達を入れる。

同時に、敵がしかけてくる。

突出した二部隊を包囲するように、かなりの大軍を出してきたのだ。だが、即座に後退を開始するストーム1とストーム3。

おびき出されていたことを、いち早く気付けていたことが大きかった。

被害を最小限に、一旦足並みをそろえる事に成功。

またキングが来る。それどころか、キュクロプスまでいる。

「敵さん、まだ本番の戦闘が始まってもいないのに、はりきっていやがるぜ」

「可能な限り此方を消耗させるつもりなんだろう」

「後には引くに引けないのだろうな。 話を聞く限り」

「馬鹿馬鹿しい話だぜ。 結局、無駄に金ばっか持ってる連中のせいじゃねえか。 戦争はいつもそれで起きる」

小田がぼやくが。

其処までにしておけと、荒木大尉がたしなめる。

そのまま戦闘開始。優先して倒すのはキングだ。他の兵士達が、キュクロプスに集中攻撃。

既にブレイザーがモノアイに直撃すれば確実に倒せる事を、一般の兵士達も知っている。更には、怪物対策のマニュアルもバイザーに仕込まれている。そして今は、一番苦しかった時と違い。

きちんと訓練を受けた兵士が、前線に出て来ている。

大将の話だと、本当に酷い戦いをしてきたらしい。

素人を前線に出して、肉の壁にしていたそうだ。

みんな兵士にしてしまえば良い。

そう小田が、やさぐれて言っていたこともあったとか。

人は環境で変わる。

そこまで俺が、酷い事を言えたのか。そう思うと、小田は慄然としてしまう。だが、それでもだ。

今は、まず戦う。

それが第一だ。

キングを、プロテウスと協力して倒す。銃のオートエイム機能はまだ実現していないが、レーザーサイトは存在している。故に、兵士達もかなり戦いやすくはなっているようだ。まだ苦戦しているようだったので、ロケランを叩き込んで、キュクロプスにとどめを刺す。兵士達が、感謝の言葉を述べてくる。

そのまま戦闘続行。

敵の前線はとにかく分厚い。今までは、もっと小規模な単位での戦闘が多かった。だが、考えて見れば敵は火星からきた未来の文明。

他の星に兵を降ろすことはしているだろうし。

大規模戦闘は、むしろ得意なのかも知れない。

激しい戦いで、何度も攻撃が掠める。レーザーだったり、或いはバリスティックナイフだったり。

エイレンWカスタムから、凄い音がした。

バリスティックナイフが直撃しただけだが、この音は。

スーパーアンドロイドか。

「敵さん、出し惜しみ無しってわけか」

「良いだろう。 此処で削れるだけ削るだけだ」

「イエッサ!」

此方に来るスーパーアンドロイド。赤い体の、逆三角形の姿。火力装甲ともに、普通の兵士が相手出来る敵ではない。

ブレイザーに切り替えると撃つ。

集中攻撃でとにかく徹底的に攻撃を仕掛けるが、此奴の装甲は凄まじく、生半可な攻撃ではびくともしない。

プロテウスのミサイルが直撃。

それでも立っているのを見て、兵士達がひっと声を上げる。

噂には聞いていたが、ここまで凄まじいとは思っていなかったのだろう。

だが、今でのかなりダメージが入った。それは、何度も此奴らと戦って来たから分かる。

射撃を集中し、ブレイザーのエネルギーを使い切るまで叩き込む。

ほどなく、装甲が融解。

スーパーアンドロイドが小田を狙って来るが。

その隙に、荒木大尉が撃ち抜き。

スーパーアンドロイドを倒していた。

バッテリーを無言で取り替える。

そろそろ、補給がいるか。

補給車は少し後ろだ。流石に、最前線の最前列に補給車をおくわけにはいかない。敵も狙ってくるからだ。

「今のでバッテリー使い切った! 一度補給する!」

「分かった。 カバーは任せろ」

「ありがてえ!」

すぐに後方に。

補給車を確認。ブレイザーのバッテリーは、かなり使用頻度が高い。補給をするが、そろそろ在庫が厳しいようだ。

補給車の運転手に話をしておく。

分かったと、すぐに手配してくれることを約束してくれる。これも少佐だからだろう。一兵卒だった頃は、補給物資なんて口にしたら。場合によっては殴られる事すらあった。

EDFは比較的腐敗が少ない軍隊らしいのだが。

実態はこれだ。

末端にはカスがわんさかいるし。

上層部だって腐敗している連中が幾らでもいた。

今は、違うかも知れない。

だが、プライマーがいなくなったら、どうせまた。

そう思う気持ちは、嫌になる程わかる。

ただ、今は。

恩人である荒木大尉や戦友達を、死なせる訳にはいかない。

最前線に戻る。

また大型が来ている。あれは、コロニストか。特務でもないコロニストを出してきていると言うことは、相当に敵は焦っているとみて良い。

そのまま攻撃を集中し、倒してしまう。彼奴の相手なら、しなれている。ただ、大将だったら、ストーム2全員分の活躍を、単独かつ余裕でこなすだろうが。

戦闘を続行。

連絡が来る。

今日の目的は、敵が大型船を配置している戦線近くまで、戦線を押し上げる事であるらしい。

後数時間でやるように。

そう居丈高にいわれたようで。荒木大尉が、言い返してくれていた。

「今、足並みを揃えて前線を押し上げている最中だ。 そんなに急ぎたいなら貴方が最前線に来て指揮をしろ」

「し、しかし」

「ストーム2として進言する。 無理な前進をすれば兵を損ない、明日の戦闘にて不利になる。 作戦を再考されたし」

ぶちんと無線を切る荒木大尉。

小気味がいい。

これでこそだ。

 

激しい戦いを続けて、ようやく予定の地点まで到達したのは2000だった。

敵は一旦後退して、陣地を再構築。大型船から出現しているのは、キング、クイーン、キュクロプスのようである。

大型船を破壊するためにフーリガン砲を持ち込むか、それとも大将達の武装や、プロテウスでどうにかするか。

それを、丁度今会議で話し合っている。

四方向から最前線に向けて兵を進めていたのだが。

予定より少し遅れたこともある。

会議は、時間が掛かっているようだった。

程なく、ストームチームの指揮官が皆出てくる。

不愉快そうにしているのはジャンヌ大佐だ。

「北米閥の高級士官は皆あんななのか?」

「ああいうのはだいぶ掃除されたんだがな。 まだ残っているようだな。 それに関しては、すまないとだけ言っておく」

「まったく……」

怒って行ってしまうジャンヌ大佐。

ジャムカ大佐も肩をすくめると、戻って休むようだった。

荒木大尉が説明をしてくれる。

「さっき無茶な作戦を提案してきた大佐が、上官である少将に泣きついたようでな。 其奴が俺に対してクレームを入れて来た。 だが、千葉中将が一刀両断して、そいつをだまらせてくれたよ」

「有り難い話だな。 だが千葉中将も、足下までは見えないだろうさ」

「……そうだな」

千葉中将は日本支部のEDFでずっと高官をしている。

元々自衛隊の結構なお偉いさんだったらしく、そのままEDFにスライドして高官になっているようだ。

ただ、それは逆に言えば。

小田が遭遇したクソ上司が、のうのうとしていられたのも千葉中将に原因の一端があると言える。

足下までは見えないと言う事だ。

「とりあえず、三つの戦線で同時に明日0600から仕掛ける。 後は休んでくれ」

「分かった。 明日、突破出来ると良いんだがな……」

「……」

小田のぼやきを、誰も否定しない。

とにかく、此処で負ければ一発逆転を許しかねないのだ。敵の数が数だし、敵には転送装置がある。

EDFはほとんど総力を繰り出している以上、此処で負ければ開戦当初のように世界中が蹂躙される。

勿論今の人類は、プロテウスなどを生産できる。だから、開戦当初よりはまだましな状態になるかも知れないが。

それでも兵力の殆どを失えば、以降立て直すまで一年以上は掛かるだろう。もしもストーム隊を失ったりしたら、それこそ致命傷になる。

人類は押し込んではいるが。

勝ってなどいない。

それが客観的な事実だ。

前哨基地にあるプレハブに入って休む。時々、散発的に銃声がする。怪物も最終防衛ラインを守るために、かなり夜間も活発に動いているらしく。交代で見張りをしている部隊が遭遇している様子だ。

それでも眠らなければならない。

早ければ明日。

遅くても恐らくは明後日には、大勢が決まる。

それで、勝たなければ。

人類は、逆に大敗を喫し。一気に追い込まれる。リングに時間改変船団とやらが通るのも許すかも知れない。

或いは、プライマーが繰り出してくる最終兵器で、一気に駆逐される可能性すらある。

出来るだけコンディションを。

既に不眠症の薬は貰っている。

昔、軍での生活がストレスでしかなかった頃、不眠症を患った。

小田はその時思い知ったが、病気に対しての理解というものは、基本的に人間は持ち合わせていない。

病気になると痛めつけられる。

嘲笑われる。

今でこそハンセン氏病患者などの業病患者への差別は人類史の恥として認識されているが、それも実際にはどうだか。

今は殆どいなくなったから差別が消えたように見えるだけで。

また増えてきたら、差別は復活するのではないか。

少なくとも重度の睡眠障害に対する無理解と差別は、小田が知る限り健在だ。説明をして、理解をしてくれたのは荒木大尉と、荒木班の皆だけだった。後は、ストームチームの同僚達か。

薬を入れても、簡単に眠れない。

しばしして、浅い眠りを何度か繰り返し。

そして、やっと最低限だけねむる事は出来た。

もう、朝だ。

これが、睡眠障害の現実。

どんどん体が底から芯からすり減らされていく。

そういうものだ。

嘆息しながら起きだして、戦闘の準備をする。これでもまだ起きだすのはかなり遅いらしい。

ストーム1の村上三兄弟は、とっくに朝の調練を終えて、食事にしていた、

最後の食事になるかも知れない。

レーションでは無く、ちゃんと食堂があるので、そこで食事にする。この部隊が一番危険な任務をするという事もあるのだろう。

軍でもコックが、危険を冒して食事を作りに来てくれていた。

だが、みんな殆ど無言で食べている。

感謝の言葉を言う精神的な余裕もない、ということだ。

食事を終えると、荒木大尉の所に出向く。

もう、皆揃っていた。

「昨晩の内に、スカウトと無人偵察機が、敵の陣容を確認してくれていた」

荒木大尉が、説明を開始する。

項少将や筒井大佐、ダン少尉も話を聞いている。

ストームチームとの連携をしなければ、この戦いは絶対に勝てない。

それを知っているのだ。

「この少し先に、知っての通り敵大型船がいる。 その大型船を護衛して、スーパーアンドロイドがおよそ三十。 キング、クイーンがそれぞれ五ずつ。 エルギヌスが三体いるようだ」

「アーマメントを出すか?」

「いや、エルギヌス三体だったら、時間差各個撃破で俺が仕留める」

ダン少尉が言うと、皆が頷く。

ダン少尉のフォースターは、この最終決戦が開始されてからも、多数のエルギヌスを倒して来ている。

一華ほどの規格外ではないが。

アーマメントを温存するのには、充分過ぎるほどの実力者だ。

それに、相手は最後に残った怪生物だとみて良いだろう。

此処で、最後のウォーバルガが相手にするのは、理にかなった話であると言える。

「大物はプロテウス隊が引き受ける」

「よし。 戦車隊、ケブラー隊でダメージを与えた後、ブレイザーの一斉射撃でスーパーアンドロイドにある程度ダメージを与え、以降は格闘戦を行う。 手強い相手だが……」

「分かっています。 時間を皆が稼いでくれている間に、俺が敵の大型船を全て撃沈します」

既に大型船を撃沈するのは難しくない。

そして、前衛には自走砲型のフーリガン砲が出て来ている。

村上壱野大佐が。大将がそれを操作すれば、一射確殺で大型船を叩き落とす事が出来るだろう。

ストームチームは、残り全員で、フーリガン砲の護衛だ。

項少将が、皆を見回した。

「大型船は強力な転送装置を持っている。 ほぼ確定で増援が来るぞ。 この戦闘は恐らく、如何に迅速に処理するかの勝負になるだろうな」

「それなら、大将が大型船を処理するんだ。 大丈夫に決まってる」

「……そうだな」

少しだけ、大昔の猛将みたいな項少将が笑みを浮かべて、皆驚いた。

小田もちょっと出過ぎたかと思ったのだが。

良い感じで、空気を緩和できた様子だ。

この先の敵陣地を突破出来ても、まだまだ敵はいる。130万に達する敵に加えて、敵が温存してきたクラーケン。

そしてリング。

リングを潰しても、まだ敵には最終兵器が控えている可能性が高い。

増援は、まだ来る。

プロテウスは生産したてのものが、前衛に送られてくるだろうし。

空軍も、海軍と連携してドローンを始末している。

ドローンの処理が終わり次第、空爆支援に来てくれる筈だ。

だが、それでもなお。

130万というとんでもない大軍を、本当に突破出来るかどうか。

分かっている。

こう言うときこそ、ムードメーカーが動かなければならないのだ。

部隊が解散して、それぞれ戦闘態勢に入る。

大将が。

村上壱野大佐がいたので、声を掛ける。

「よう大将」

「小田少佐、さっきは助かりました。 それに……項少将も感謝していたようです。 誰もが、負けを覚悟していましたから」

「良いって事よ。 それに、実は俺も怖くて仕方がねえ。 こんな大軍と、正面からやりあうんだからな」

そういえば、聞いてみたい事があった。

咳払いして、周囲を見回し。

声を潜める。

「その。 何度も負け戦を繰り返し、過去に遡ってきたんだろ」

「……はい」

「俺は、その毎回みっともなく死んでいたのか?」

「いえ、貴方はいつも荒木大尉とともに、本当に立派に最後まで戦士でした。 一つ前の周回でも、ヘイズの繁殖をどうやって阻止するのか、荒木大尉達と命と引き替えに見つけてくれました。 今回、対策を手早く出来たのは、それが理由です」

そうだったのか。

その話が本当だとすれば。

今回も、きっとやってやれるはずだ。

「そっか。 くそ、なんだか俺の事とは思えねえな」

「尼子先輩も長野一等兵も、プロフェッサーもストームチームの皆も、それにこの戦線に来てくれた将軍達も俺は頼りにしているし、信頼しています」

「そうか。 こんなに情けない有様を、まだ晒している人類なのに。 それでも他とは違うと思ってくれているんだな」

「はい。 皆、此処にいる戦士のようであれば良かったのにと、今でも思います」

そうだな。

そうかも知れない。

この事態を招いたのは、人類の自業自得だ。それを公開しても誰も認めないだろうし、場合によっては裏切り者呼ばわりし始めるだろう。

残念ながら、それが人間という生物だ。

エイレン部隊が動き出す。

戦闘には、一華機と相馬機。

先陣を切るのは、あの二機の役割だ。そして、それでいながら、いつも確定で生き残ってくる。

相馬機は結構やられるのだが、それでも生き延びてくる。

多分だけれども。

負ける世界では、それがやられてしまうほどに、戦況が悪いのだろう。

敬礼すると、ストーム2に戻る。

バリアス隊が展開を開始。

ケブラー隊も。

「敵には多数の大型、怪生物もいる! スーパーアンドロイドも大型船の護衛についていて、更に確定で増援が来る! 乱戦になるぞ! 一瞬でも気を抜くなよ!」

「イエッサ!」

誰かが叫んで、兵士達が応じている。

わかっている。

だが、誰かが多少気を緩ませてやらなければ負ける。

小田の仕事はそれだ。

張り詰めた糸は簡単に切れる、だったか。

似たような諺が古くにあったらしい。

小田は、この苛烈な戦場で。

それでも、ムードメーカーでいなければならなかった。

 

4、敵を総力で引きつけて

 

ジョン中将は、手をかざして敵部隊を見やる。

これからやるのは、総力を挙げての陽動だ。敵リングに到達できればそれはそれで良いが。

この部隊がやるのは、可能な限り敵を引きつけ、膠着状態を作る事。

あの忌々しいリングには、ストーム1がたどり着ければ良い。そうすれば、後はどうにかなる。

それについては、圧倒的な信頼感がある。

欧州で、何度もストーム1には助けられた。ストーム4も圧倒的な戦果を残してきたが、ストーム1のはちょっと次元が違った。何度、不利な戦況をひっくり返してくれたか。無茶な前線突破を成功させ、敵を敗走に追い込んでくれたか。アンノウンを蹴散らし、弱点を見つけてくれたか。

ストーム1を悪く言う奴は、特に上層部に多い。

リー元帥が唐変木どもを掃除してくれた今でも、まだかなりいる筈だ。

以前のことだが。ストーム1に絶体絶命の窮地を助けて貰ったにもかかわらず、恩知らずな発言をしている中将を捕まえて。襟首を掴んで、面罵したことがある。

兵士達に嫌われているだけでは無い。

そういう事をするから、ジョン中将は誰にでも嫌われる。

それも分かっている。

だからこそ、最低限の仕事はする。

「此方北米EDF先遣部隊。 戦闘準備完了」

「よし。 総員、まずは敵に花火をプレゼントだ! 派手に行くぞ!」

「オープンファイア!」

「てえっ!」

ジョン中将が、プロテウスカスタムの定座で叫ぶと、戦闘が開始される。

プロテウス隊が一斉にミサイルを叩き込み、戦列を作った戦車隊が攻撃を開始。怪物の群れに着弾。

同時に、敵も動き出していた。

兵士達がブレイザーで、一斉に敵を出迎える。補給車が最前列のすぐ後ろにいる。どこの戦線も絶対に突破させない。

プロテウス隊は総力を挙げて、最初から敵部隊を攻撃する。

指揮シートには、絶え間なく戦況の変化が来る。

ジェロニモ少将は噂には聞いていたが、もの凄い猛将だ。淡々と戦い、確実に敵を倒していく。

歩兵戦闘の絶技に達していると言っても良い。

これなら、中将にしてやっても良いだろうに。

北米閥の軍産複合体の阿呆どもの息が掛かっていないのが原因で。夥しい戦果にもかかわらず、今だ少将止まりだ。

ジョン中将の所だって、大して差は無い。

たまたま運が良かったから、ジョン中将はこの階級になれた。

それだけだ。

評判が悪いジョン中将を引きずり降ろして、別の指揮官を中将に据えようという声はなんどもあったと聞いている。

欧州でも醜悪な軍産複合体はあって、それらがつかえもしない兵器をコンペに出してくる。

EDFでも、一時期そいつらがつくったポンコツ戦闘機を採用しかけたことがあった。

もし採用していたら、戦況は更に不利になっていただろう。

プロテウスの至近、マザーモンスターが迫る。戦車隊が応戦しているが、金のマザーモンスターだ。

簡単には倒せない。

「あの目障りな金メッキを叩き潰せ! 接近させると、とんでもない被害が出るぞ!」

「イエッサ!」

指揮官機のプロテウスも含め、複数のプロテウスが硬X線ビーム砲を浴びせて、金マザーモンスターが悲鳴に身をよじる。

やがて、何かが致命傷になり。

文字通り、黄金の巨体は消し飛んでいた。

「プロテウス4、ダメージ大! 後退!」

「プロテウス31、カバーに入る!」

「交代の隙を突かれるなよ! 随伴歩兵、気合いを入れて守れ!」

「イエッサ!」

上空から、ヘイズが多数来る。

あれだけ倒しても、まだ湧いてくるのか。此奴の繁殖を許していたら、更に酷い事になっていたのだろう。

ケブラー隊が応戦を開始。

ネグリング隊も出る。

ミサイルが多数ヘイズを叩き落とすが。雑魚に紛れている赤紫のヘイズは、簡単に倒せない。

更に、である。

もっと最悪な敵が来る。

「ネイカーだ!」

「エイレン隊、対応! 口を開けたところをまとめて薙ぎ払え! 工兵隊は、自動砲座を設置! 側面背後に回り込んでくるぞ! 歩兵は対応を怠るな!」

指示を出しながら、冷や汗をジョン中将は拭う。

他の戦線も、恐らく似たような感じの筈だ。

勇猛なタール中将が指揮するもう一つの戦線も、130万に達する敵を相手に、ガチンコを続けている筈。

増援が来ているとはいえ、油断など出来る状況には無い。

「北米EDF、第二陣東京基地に現着! これより輸送ヘリに分乗して戦場に向かいます!」

「中東EDF先鋒隊、現着! ストームチームには皆が助けられた! 総員、気合いを入れろ! 救援に向かうぞ!」

「南米EDF選抜部隊、東京基地に現着! 名誉を挽回するときだ! プライマー共を蹴散らせ!」

援軍は次々に来る。

だが、それは地球人の総力が此処に集まっていることを意味する。

敵がこれを喰い破ったら、味方は負ける。

その覚悟で、最前線をジョン中将は守り続ける。

また、大物が来た。

だが怪生物ではない。銀のキングだ。攻撃を集中して、ひたすらに怯ませ続ける。

キングは変異種であっても脆く、攻撃を受けるとどうしても怯む。それが弱点である事は分かっている。

ただ、プロテウスが二機、どうしてもかかりっきりになる。

それだけ隙が出来る訳で、その分前線指揮官が目を配らせなければならない。

上空。

また敵の増援だ。

「飛行型、多数接近!」

「ネイカーによるゲリラ攻撃で、被害が蓄積しています!」

「ケブラー、飛行型を撃退! 随伴歩兵、ネイカーが口を開き次第、確実に仕留めろ!」

戦闘を続行。

少なくとも、敵の大半は引きつけられているはずだ。

後は、ストームチームさえリングに届けば。

じりじりと焦りが募る中。

ジョン中将は、指揮を続ける。

 

(続)