天雷の巨神

 

序、総力戦

 

250万の敵との戦闘が開始される。ずらりと並んだプロテウスとエイレンが一斉に火力を投射。

凄まじい爆発。

工兵隊が展開した、林立するほどの自動砲座。

圧倒的な火力の滝をかいくぐって、あらゆる種類の敵が突撃してくる。次々に爆発が起きているのは、擲弾兵がいるからだ。

壱野は、敵の優先順位を決め、順番に撃ち抜いて行く。

大型擲弾兵を、今撃ち抜いた。

即座に次弾をライサンダーZが自動装填。

次を撃ち抜く。

もう思考より先に、体が動いている。

だが、それが限界。

これ以上、強くはならないだろう。

狙撃。

ただひたすらに狙撃する。

敵をその度に撃ち倒す。

小型だろうが、大型だろうが。現在仲間を襲っていて、脅威度が高い相手から撃ち抜いて行く。

プロテウスですら、これほどの戦闘力は無い。

何度か、そう言われたか。

遺伝子データの提供をしてほしい。

そういう事も言われて、髪の毛を渡したっけ。

まあ、どうでもいいことだ。

遺伝子データをコピーしたところで、村上壱野をもう一人作る事は不可能。祖父の教育があって。ここまで力をつけたのだ。

それ以外で。

この力を、再現は出来ない。

狙撃を続行。順番に撃ち抜く。打ち抜き続ける。

怪物の数は史上空前。彼方此方で味方が崩れ。その度に補強が入る。敵も崩れ、その度に新手が来る。

β型。

大軍だ。

だが、β型の大軍に、プロテウス数機からミサイルが叩き込まれた。容赦なく粉々に消し飛ばされるβ型の群れ。粉々になった敵の死体が辺りに散らばる。すぐに敵味方にそれも蹂躙される。

飛来するドロップシップ。

コロニスト、コスモノーツ、クルール。それぞれが、わんさか出現。今まで戦い、倒された同胞の穴を埋めるようにして。

戦場に展開していく。

早速、クルールの頭を撃ち抜く。ショットガン持ちの、一番厄介な奴だ。立て続けに、数体。

そうやって、面倒な相手から片付ける。

ショットガン持ちのクルールは、炸裂弾を装備していて、プロテウスですら接近されると破壊を覚悟しなければならない。

今のうちに倒さなければならないのだ。

そのまま狙撃。

続けて狙撃。

エイリアンが、次々に倒れていく。多段式迫撃砲を使おうとしたコロニストの特務を、その場で撃ち抜いて倒す。

その分、皆の負担が減る。

ライジンの火線が迸り、重装コスモノーツが撃ち抜かれて倒れるのが見えた。モンスター型が連続して直撃して、その隣の重装も撃ち倒される。

ドロップシップが次々来るが、エイリアンがどれだけ来ても無駄だ。

特にクルールは脅威度大と認識されていて。

クルールのものだけ破壊出来る事が知られているドロップシップが、中空で撃墜され。バラバラになって焼けた肉が落ちてくる光景もよく見られた。プロテウスの操縦手も、慣れた人間がそれだけ増えているのだ。

「敵、なおも増大」

「流石に分厚いな。 此方も総力で弾薬、補給を急げ! 全力で前線に戦力を投入して、戦線を支えろ!」

「東京基地に、北米からの補給物資第一弾が到着。 前線に回します」

「頼む。 急いでくれ!」

千葉中将が、戦略情報部と話をしている。

だが、これは少しばかりまずいな。

そう、無言で思う。

少しずつ、敵の前線が接近してきている。静かに、確実に。そして敵はこの数だ。一度前線が崩れると、記録的な被害が出る。

敵はまだまだ七割以上が残っているのだ。此処に展開している大軍を全て失ってもである。

一方EDFは此処で壊滅的な被害を出すわけにはいかない。そうなれば、リングを敵は安全圏で迎えることになる。

前に出るのは、壱野。

それを見て、ストームチーム全員が前に出る。そして、己の特技を生かして、全力で敵と戦う。

兵士達の幾らかも、それで前に出る。

踏みとどまれ。

誰かの声が聞こえた。

火線が交錯する。

エイリアンが倒れ。EDF隊員も倒れる。不毛な物量戦。既に、日は傾き始めている。

記憶を遡る限り、これより遅い時間にリングが来た事はない。そうなると、明日に来るとみて良い。

だったら、もう進軍を緩めても良いくらいだが。

いや、駄目だ。

今でもかなりギリギリなのだ。

せめて、今日この陣地を突破しないと。リングを破壊する事も、プライマーと決着をつけることも。

何もかもが不可能だろう。

未来に道が開けていない可能性が高い。そんな事は分かっている。

そもそも地球を離れてどうする。

どうやって地球を離れる。

それもよく分かっていない。

ただ、はっきりしている事はある。

此処で足踏みだけは、していられないということだ。

人生は後悔だらけだ。それは、壱野も良く理解出来た。今までの周回で、数限りないほど大事な人を死なせた。

記憶にはない周回もあるだろう。それら周回では恐らく、弐分も三城も守れなかったに違いない。

「プロテウス隊、弾薬もバッテリーも惜しむな! 敵に全火力を叩き込み続けろ!」

「やっています!」

「敵が多すぎる! 此処は本当に地球なのか!」

「空爆は! 砲兵は!」

悲鳴に近い声が周囲に飛び交っている。

硬X線ビーム砲が雨霰と敵陣に叩き込まれているのに、とにかく敵が多すぎて殺しきれないのだ。

だから、壱野が前に出る。

近寄る敵を、片っ端から叩き伏せる。

ストーム隊全員が、少しずつ進んでいる。怪物を、それぞれが蹴散らしているのだ。勢いがあるわけではない。

究極とも言える段階までそれぞれが己の技術を磨き抜いている。

だからこそ、出来る芸当だ。

上空から、それこそ空が暗くなるほどのドローン。タイプワンばかりだが、文字通り一瞬で地面を溶岩化するほどのレーザーを放ってくる。上空にケブラーが応射するが、反撃をそれぞれが受けて甚大な被害を被る。

レーザーの雨をやり過ごしながら、上空の敵も壱野は薙ぎ払う。

レッドカラーを発見したので、即応してライサンダーZを叩き込む。

それにあわせて、弐分が機動戦をしながらガリア砲を叩き込む。レッドカラーが、空中で爆散したのは次の瞬間。

このドローンの数では、航空機は接近できない。

雷撃爆弾と、デスバード型が彼方此方で炸裂する。

山県少佐以外が使う場合は、工兵部隊が一つまるごと制御に繰り出される。怪物相手には効果が高いデスバード型も、ドローンが相手だと微妙だ。ただし雷撃爆弾は話が違ってくる。

爆発の範囲内に入ったドローンは、怪物以上に文字通り爆ぜる。

壱野だって分かっている。

この数をどうにかするには、爆撃しかない。

衛星兵器を潰されている今。

兎に角、航空優勢を取るしか、手はなかった。

「皆、聞こえているか」

「大兄、敵の攻撃を避けるだけで精一杯だ」

「私も」

「これは、ちょっと身を守るだけで精一杯ッスね……」

皆、相当に参っている。

だが、やって貰う必要がある。

「指定地点に攻撃を集中してほしい」

「……分かった」

「とにかく、出来るだけやってみる」

「頼むぞ」

無線を切りつつ。

アサルトで、迫るドローンの大軍を薙ぎ払い続ける。プロテウスが大破し、崩れ落ちるのが見えた。

敵の数、攻撃の密度。

異常過ぎるのである。

オーストラリアの部隊が前に出てきて戦いはじめるが。完全に焼け石に水。敵のあまりの数を見て、腰が引けているようだった。

「いかれてる! EDFの全軍を連れてきたって勝てっこない!」

「ストームチームは前進し続けている! 踏みとどまれ!」

「嘘だ! プロパガンダだ!」

兵士がわめき散らしているのが聞こえる。

その時。

リー元帥が、無線を入れてくる。

珍しいな。

久々に無線を聞く。

というか、この時間くらいにリー元帥の無線を聞くのは、初めてかも知れなかった。もう、生きていないことが多いし。

生きていても、殆ど生きる気力を失っているか。

激務が祟って、軍病院のベッドにいることが多いのだ。

「此方リー元帥。 今、日本でプライマーとの決戦……恐らく最終決戦が行われているのは知っていると思う。 敵の数は空前、それに対して此方もありったけの兵器を投入しているが、どうも力負けしている様子だ」

素直なことだ。

ライサンダーZで、立て続けにインペリアルドローンを射撃。三発目の射撃で、元々傷ついていたインペリアルを撃沈する。

雑魚ドローンは、アサルトで薙ぎ払う。

アサルトの弾も、一発だって外しはしない。

山県少佐が走り回って、自動砲座をばらまき続けている。輸送車すら、凄まじい敵の攻撃で擱座している状況だが。

歴戦の山県少佐は、敵の攻撃の隙間が見えているかのように走り回っている。

木曽少佐がぶっ放した大量のマルチロックミサイルが、次々に空に爆発の連鎖を作り出している。

下手な対空AFV数機分の活躍を常時しているが。

やはり、補給が常に必要だと言う欠点は、最後まで克服できなかった。

「皆、思い出してほしい。 奴らが空から現れた日のことを。 奴らは空軍基地、戦略基地を非道に踏みにじり、我等の仲間を無慈悲に殺し、市民を無差別殺戮した。 その時は、抵抗もろくにできなかった。 だが、今は違う。 プロテウス、バルガ、エイレン。 その他の兵器も、既にプライマーに力負けしていない」

リー元帥の言葉通りだが。

強いていうなら、数が足りない。

それに、何故今リー元帥が演説をする。

何かあったのか。

「今、各国に展開していた主力部隊が日本に向かっている。 数の優位は敵にあるかも知れない。 だが、既に兵器の質では負けていない。 踏みとどまれ。 援軍は其処へ向かっている! 必ず、敵を打倒できる! 以上だ!」

無線が切れた。

荒木大尉が、しばしして無線を入れて来た。

「壱野、落ち着いて聞いてほしい」

「はい。 何かあったようですね」

「……北米の軍産複合体全てに、MPの強制捜査が入った。 いずれもが抵抗したため、殆どの軍産複合体の幹部がその場で射殺。 各国で、同じように既得権益を貪っていた連中が、EDFのMPによって拘束、逮捕されている」

それはまた。

思い切ったことをしたな。

負けている世界では、此奴らはだいたいプライマーに駆除されているのが普通だった。しかしながら、この世界では。勝っているが故に、人類を蝕んでいる害虫共は生き残ってしまっている。

それが懸念事項ではあったのだが。

リー元帥が、自ら動いたのか。

この規模での粛正。

それ以外には、あり得ないとみて良いだろう。

「少しずつ、世界は良い方向に動いている。 だから、後ろを気にしなくて良い。 全力で戦ってくれ」

「分かりました。 しかし、俺も手は抜いてはいませんよ」

「分かっている。 それでもだ」

「……はい」

頷くと。

更に前進。敵のドローンに、攻撃を集中。三城は誘導兵器に切り替えて。短時間で記録的な数のドローンを屠った。

そして、その結果、

ドローンが一瞬、密度を極めて薄くする。

対空クラスター弾が、炸裂し。空から一瞬だけ、ドローンを消し去る。

そして、苦戦しているプロテウス隊の上空を、護衛付きのフォボス十機が。飛び越していた。

「此方フォボス! ありったけの爆弾を投じて爆撃を行う!」

「一瞬だけでも隙を作ってくれて感謝する!」

「ロックンロール!」

ドローンの激しい反撃を受けるのは変わらない。

フォボスの護衛機が、煙を噴いているのが見える。

だが、それでもフォボスは守りきり。

凄まじい量の爆弾が、敵陣に投じられていた。

敵陣が、まとめて燃え上がるように見えた。

一瞬にして、恐らく十万以上の敵が消し飛んだとみて良いだろう。だが、撃墜すれすれの状態で、フォボスも離脱。

ナパームが、辺りを明々と照らしている。

その炎を覆い隠すようにして、ドローンが来る。凄まじい数だが。その瞬間。ナパームに足止めされている怪物の代わりに。

ドローンが、プロテウス隊の硬X線ビーム砲と、ミサイルの直撃をもろに喰らう事となっていた。

記録的な数のドローンが、全て消し飛ぶ。

プライマーでも、これほどの数のドローンを製造するには、一月や二月では無理では無いか、と言うほどの数だ。

擱座していたり、中破して煙を噴いているケブラー隊も、攻撃に加わる。

ドローンが、見る間に削られていく。

空が、少し明るくなってきた程だ。

ナパームを無理矢理抜けてくる怪物。

だが、奴らが見たのは、態勢を整え直し、砲列を揃えた戦車隊だった。バリアス隊が、一斉射撃を開始。

怪物の群れを、文字通り消し飛ばしていた。

「よし、押し返せ!」

「欧州部隊の先陣、東京基地に到着! 編成を済ませ次第、前線に突入します!」

「よし、助かる!」

「アフリカの部隊が現在北米にて補給を受けています! 終わり次第、日本に向かう予定です!」

味方もどんどん集まっている。

完全に押し戻されていた味方が。

押し返し始めている。

壱野は、淡々と大物を屠るだけだ。ナパームに足止めされているキングやマザーモンスターを、淡々と撃ち抜いて行く。

金α型がナパームを抜けてきたら、最優先で始末する。

手が届く範囲内では。

味方の誰も、殺させはしない。

柿崎が突貫。何度目かのフライトユニット全交換を終えたからだ。プラズマ剣を手に、敵陣を蹂躙し始める。

味方部隊が前進を開始。

失ったプロテウスも多いが。

それ以上の援軍が来ている。

敵の大物にも、ブレイザーの熱線が、束になって叩き付けられ。傷ついている所にとどめを刺していった。

「敵ドローン、減っています! 残存数、三割程度!」

「だがそれでも爆撃をするのは厳しい! しかも先の攻撃を見て警戒してか、中空に展開して密集を避けている!」

「やはりケブラーでちまちま処理するしかなさそうじゃのう……」

「ちっ。 面倒くさい連中だな……」

成田軍曹のナビを受けて、日本のEDFの首脳陣がそれぞれ愚痴っているのが聞こえる。だが、それも仕方がないだろう。

ダン少尉率いる東京の部隊が、再編制を終えて最前線に再び出てくる。そしてプロテウスで、悉く敵を薙ぎ払う。

ナパームを己の体で無理矢理もみ消した怪物の大軍も、負けじと反撃に出てくる。

夕陽が、稜線の向こうに。

消えようとしていた。

 

1、夜間の死闘

 

走り回るキャリバン。

悲鳴がどこからも聞こえている。

この様子だと、とっくに東京基地の軍病院はまんたんだろう。だが、各地の軍病院に、患者を分配するシステムはとっくに構築されているし。大規模開戦時には、プレハブで病院を作るノウハウも作られている筈だ。

一華は戦況を見ながら、何とも言えない、と評価を下す。

敵のとんでもない大軍勢を相手に、味方は頑張っている。

プロテウス隊が大活躍しているが、それでも被害は出ている。

つまり、敵も奮戦している事を認めざるを得ない。

どちらも、もう引くに引けない。

人類にとってプライマーは、無差別虐殺者。

プライマーにとって人類は、神を気取った上に、窮地にあるところに追い打ちを掛けてきた悪辣な旧支配者。

それでは、どちらが退くことも不可能だ。

エイレンWカスタムは何度破壊されようが、前線に舞い戻り。不死鳥そのものとして働き続ける。

だが、冷や汗が。

クーラーを効かせているのに、ずっとダラダラ出続けている。

脳を酷使しているからだ。

ブドウ糖の錠剤を掴んで、口に入れる。

それでも、脳が足りない足りないと言っているのが分かるほどである。

最前衛で、ひたすらに最高効率で敵を屠り続ける。それでも、きりがない。

とっくに星が出始めている。

戦線は広く、他のストームチームとの連携は難しい。

ストーム1ですら、視界内で戦っているのが見えるのは柿崎くらいだ。たまに弐分が、彗星のように飛び回って敵を蹴散らしているのが見えるが。

次の瞬間には、視界の外に行ってしまう。

三城は今は大容量のフライトユニットに切り替えて、ひたすら誘導兵器での敵殲滅に切り替えているようである。

ストーム1だけでも。

相当に広く散って戦わなければならない有様だ。

「緑の怪物接近!」

「暗いってのに!」

「緑の怪物は絶対に接近させるな! 火力を集中しろ!」

「……」

どうやら、今一華がいる真正面から来るらしい。味方陣地を見る限り。此処を喰い破られると一瞬で浸透される。そうなると、最前線まで出て来ているキャリバンは当然の事、擱座しながらもまだ奮戦しているケブラーや、負傷して救助を待っている兵士達は全滅である。

ならば、やる他ない。

キーボードを全力で叩く。

そして、マクロを多数動かして。

エンターキーを撃ち込んでいた。

バッテリー、フルパワー使用。

接近して来る緑のα型の大軍を相手に、ぽんと撃ち出すプラズマ隗。

それはゆっくり飛んでいくが。

指定の地点で、予定通り爆ぜた。

ウィングダイバーの一部が使っている超兵器、グレイプニールの改良型。エイレンのエネルギーを代替して用いる、強いていうならグレイプニールβ。

ただ、これだけだと火力が足りない。

そのため、フルパワーでレーザーをプラズマ隗に叩き込み、その熱量を増大させる。その結果、何が起きるか。

巨大化したプラズマ隗が、緑のα型を相手に、情け容赦のない死のシャワーを熱線として叩き込む。

その殺戮効率は、今まで試したどんな兵器よりも上。バッテリーが、殆どなくなっていく中。

緑のα型の群れは、追尾してくる殺戮レーザーに焼き払われ。

そして、消えていく。

「緑のα型、損耗95%!」

「す、凄い!」

「全滅はさせられていないッスよ! 残りは頼むッス!」

「分かっています!」

ブレイザーの火線が集中し、今の巨大プラズマ隗からの殺戮追尾光線を耐え抜いた緑α型を片付け始める。

エイレンにも生き残りが集ってくるが、それは柿崎が来て、一瞬で全部バラバラにしてしまった。

呼吸を整える。

頭が痛い。

用意されているブドウ糖の錠剤をまとめて掴んで、口に入れる。飲み下すのもまどろっこしい。

がりがりとかみ砕く。

本当にまずいな。

愚痴を言いたいけれど、それどころじゃない。殆ど残っていないバッテリーで、エイレンを戻す。

後方に出ると、工兵隊がいた。

バッテリーの交換を頼む。工兵隊は、無言でやってくれる。

「こ、これほどのバッテリー消耗を、どうして……」

「このエイレンWカスタムは、色々実験兵器を搭載しているッスよ。 中には消費がでかすぎて、とても普通のエイレンには乗せられないものもあるッス」

「ろ、浪漫兵器……」

「……」

頭を掻く。

汗だらけで、指先が濡れた。

そんな格好良いものじゃない。

負け戦の時の記憶なども全てかき集めて、プロフェッサーが作りあげた実験兵器を、ありったけ積んでいるだけだ。

今は足回りの強化が進んで、ある程度無駄な兵器も積めるようになって来た。戦闘の度に、使い物にならないと判断すれば外し、その度に次の兵器を積んで試す。それを繰り返して来た。

今のグレイプニールβもどちらかと言えば失敗兵器。

最初に使ったときは、問答無用でバッテリーが全部焼け付いてしまった。

つまり動く事さえも出来なくなった。

今回のは改良型だが。

それでもこのダメージ。

ついでに砲身は一撃でアウト。

工兵に外して貰う。もう、この戦場で使う事は出来ない。当然、予備もない。

「バッテリーの交換、完了です!」

「助かったッス」

「いえ、英雄の戦いに貢献できて光栄です!」

見ると、まだ若い兵士がかなり混じっている。怖いもの知らずに、こんな最前線に出て来て。

肉体年齢はそんなに変わらないけれど。

一華の中身は、もう見た目通りの年齢じゃない。

だから、色々な事を言おうとしてしまって、失敗。とにかく、工兵が前に出すぎだと告げて、すぐに最前線に戻った。

すぐに次の敵が来ている。

プロテウス隊はかなりダメージが大きい。次々に新しいプロテウスが来ているが、交代が間に合っていない。

各地で陣列が崩れ始めている。

だが、敵も損耗が凄まじい。

あれだけ展開していた敵が、もうまばらになりはじめている。特に、対空攻撃に、各部隊が総力を挙げており。

雑魚ドローンしかいない敵は、次々に撃墜されている。

「敵ドローン損耗、95%! 空を突破可能と判断!」

「よし、ナイトバルキリー隊、行くぞ!」

「イエッサ!」

航空機が来る。

夜間爆撃を得意とする部隊らしい。最前衛より突出しないように指示が来る。その間、一華も上空にいるドローンを叩き落とし続ける。

護衛に守られた、ずんぐりした巨体が見え始めた。図体の割りには、かなり飛行速度がある。

恐らくだが、高速型の爆撃機か。

速度を重視する代わりに、搭載できる爆弾が少ない。しかも夜戦用に、機体を黒くぬっている。

下手をすると護衛部隊と接触事故まで起こしかねない。

あまり見た事がない爆撃部隊だが。

或いは初陣の部隊かも知れない。

「敵ドローン、機体前方に……」

「ああ、こじ開けるッスよ!」

収束レーザをたたき込み、うかつにも密集したドローンをまとめて粉々に吹き飛ばしてやる。

ナイトバルキリー隊が突貫し。

爆弾をフォボスほどでは無いが、敵陣に降らせていく。傷ついていたキングが、それで粉々に飛び散るのが見えた。

ナパームも今のでかなりの量が降らされて、戦場が明々と照らされる。

既に星が出ている戦場を、地上からも照らす。

プロテウス隊が、敵を踏みにじりながら前衛に。硬X線ビーム砲を叩き込み、敵の残党を蹴散らす。戦車隊も、負けじと砲撃。150ミリが今の主力か。だが、もっと大きい砲身を搭載している戦車もいる。

最前衛に、威圧的に出るのは、あれは大内少将のタイタンか。

見ると傷だらけだ。護衛の戦車隊も、ダメージが決して小さくない。大内隊の消耗そのものが、かなり激しいようだ。慌てて、味方が前線を押し上げる。だが、それこそが狙いなのだろう。

今の爆撃で更にだめ押しが入った敵。

腰が引けている味方。

立ち直るのが早い方が勝つ。

だから、大内少将は自らを危険にさらしてでも、味方の尻を叩いた。周囲の部隊も、それを承知で動いていると言う事だ。

「レクイエム砲、撃てっ! 砲身が焼け付くまで連射じゃあ!」

「敵、ナパームを突破して此方に来ます!」

「接近戦か。 要塞を突破出来るか、試してみるかあ?」

「敵と至近での殴り合い、私も参加させて貰うッスよ」

一華が、エイレンWカスタムで、タイタンの前に躍り出ると。

わっと喚声が上がる。

赤いエイレンだ。

そう喜ぶ兵士もいる。

そもそも大内隊とストーム1は縁が深い。

ただし、縁が深くても、怖れる兵士はいるし。大内隊の激しい戦いからも損耗率は決して低くなく。

新入りは、どうしてもストーム1に対して。戦場では喜ぶが。戦後は恐怖に駆られる傾向がある。

いや、新入りでなくても。

だが、それは今は良い。

大内少将は、どの周回でも世話になった。こんなところで死なせる訳にはいかない。

フルパワーのレーザーで、接近して来る怪物を片っ端からねじ伏せる。横殴りに狙撃が来る。

リーダーだ。

もう夜だというのに、それでも外す気配がない。支援があると分かるだけでも、ぐっと気が楽になる。

前線を無理矢理押し上げたことで、味方部隊が強引に前進。

プロテウス隊が、ありったけのバッテリーを消耗して、敵陣を無理矢理に消し飛ばす。それで、勝負がついた。

2200を少し過ぎた頃。

敵の第一陣。

250万に達する敵兵は。

壊滅していた。

 

前哨基地が作られる。

工兵が走り回っている中、クレーンが作った簡易バンカーにエイレンWカスタムを預ける。

リング出現予定地まで、まだ少しある。

横になって休むが。

バイザーはつけたまま。戦況は把握しておかなければならないからだ。

「それでは、怪生物が現れなかったのは……」

「そうだ。 次の戦線に集結している。 エルギヌスだけで二十体を超えている様子だ」

「エルギヌスだけで二十体だと……!」

「三十に達するかも知れない」

それだけではない。

アーケルスも相当数がいるという。

サイレンも。

それらを聞いて、首脳部が絶句している。それに、だ。それだけではない。

「今突破した戦線の敵の残党が集結し、此方に向かっています。 その中に、エルギヌスがいるようです!」

「真夜中だってのに、元気なことだ」

「プライマーは夜勤はしないんじゃなかったのか?」

「とにかく出るぞ!」

一華も、身を起こす。

どうやら、これは数日徹夜かも知れない。ともかく起きだす一華に、声が掛かる。

「此方成田軍曹」

「!」

「敵は怪物を随伴に連れています。 バルガだけでは迎撃は難しい状況です」

「例のものを、使うッスね」

帰って来るのは無言。

つまり、そういう事だ。

リーダーも聞いている。

「一華、頼めるか」

「どっちにしても、誰かが最初に使わなければならないッスからね。 いいッスよ。 準備が出来次第、戦地に投下してほしいッス」

「了解しました。 アーマメント、準備します!」

「了解。 戦場に向かう!」

エイレンWカスタムはまだ整備中だが、乗り込む。戦場に出るのは、プロテウス二機、それに少数のケブラー、そしてタイタン。タイタンに乗っているのは千葉中将だ。此処を通すわけにはいかない。

それに、見届けなければならないからだろう。

人類の切り札を。

サーチライトが当てられる中、迫り来るエルギヌス。プロテウス隊は、あの戦闘でも生き残っていた駆除チームの面々のようだ。

「怪物共は散々ひねり潰してきたが、怪生物はまだだったな!」

「硬X線ビーム砲で、焼き肉にしてやるぜ! 今日はエルギヌスで焼き肉パーティーだ!」

戦った事がない。

それが一発で分かる。

怪生物は死ぬとすぐにグズグズに溶けてしまう。あの異常な再生能力と引き替えに、体をそう弄っているのだろう。

気の毒なことだが、同情している余裕は無い。

ここで、仕留める。

リーダー達が最前衛に出て、怪物を食い止め始める。ストーム2、ストーム3、ストーム4もいる。

それだけじゃあない。

なんと海野大尉もいる。いや、今は曹長か。

動ける部隊がそれだけ少ないと言う事だ。ストーム2の支援要員として、一緒に戦っているようだ。

「無理をするなよ曹長!」

「分かっております大尉殿! 歴戦の経験だけが自分の武器であります!」

「頼もしい! マル暴の頃から、ゴロツキとの戦闘経験は豊富だそうだな!」

「恐らく、この国の警察官としては一番であります!」

そうか。

頼もしいことだ。

荒廃した未来では、いつも世話になっていた。それだけの経験に裏付けられた力が合ったから、いつもあの人は生き残れていたのだろう。

一華も、まだ修理が不十分なエイレンWカスタムで敵を食い止める。

250万にも達した先の敵前衛の偉容には程遠いが。その残党としても、相当な数。何よりも、こっちは疲労がひどい。

ケブラーが凄まじい水平射撃をして支援をしてくれているが、抑えきれるような相手ではない。

エイレンのフルパワーで怪物を倒す。その間。プロテウスは一匹目のエルギヌスに集中攻撃。

硬X線ビーム砲は、効いてはいるな。

横目に、それだけは確認する。

だが、それだけだ。

「な、なんだと! 硬X線ビーム砲が直撃しているんだぞ!」

「出力が落ちていると言う事はないか!?」

「バカをいえ!」

「くそっ! バルガ以外ではストームチームくらいしか倒せないって話は聞いていたが、本当だったのか! これほどの化け物だったとは!」

プロテウス隊は、それでも硬X線ビーム砲を叩き込む。

エルギヌスは鬱陶しそうにしながらも、バックステップを何度かして、攻撃をいなしつづける。

そろそろだな。

一華は、バイザーを通して、皆に無線を入れる。

「例のものが来たようッス。 乗り換えるから、後は頼むッスよ!」

「ああ、分かっている! どうせ明日、使わなければならない! 試運転は今のうちにする必要がある!」

エイレンWカスタムを、PCを抱えて飛び降りる。すぐに山県少佐が来て、乗り換えていた。

前の方で、相馬少佐の白いエイレンWカスタムが頑張っている。

だが、長くはもたないはずだ。

上空。

来た。運ばれて来たのはバルガだ。

だが、全体的に黒いカラーリングで、肩から背中に掛けて、二門の大型砲を搭載している。

あれこそが、EDFの。人類の切り札。

一華にとっての切り札の一つが一人乗りのプロテウスカスタム。

そしてもう一つの切り札が。いま運ばれて来たもの。

アーマメントバルガ。

大軍殲滅、対怪生物に特化した。究極のバルガである。

「アーマメント、現着! 一華中佐、搭乗してください!」

「此方輸送チーム! ストーム1を確認した! 投下する!」

四機の輸送機が、同時にワイヤーをパージ。

地面に、バルガが投下される。

投下時のショックアブソーバーはしっかり機能している。それでも、地震のように揺れたが。

エルギヌス、二体目。

一体目も、吠え猛ると、硬X線ビーム砲を押し返し始める。今までは遊びだったといわんばかりに。

一華は、アーマメントの足下に。

専用のエレベーターは、バルガに比べてぐっと改良されている。乗り込む際はあれほど怖くないし。一人でも大丈夫。認証して動かす。滑らかに上昇を開始。

更には、脱出装置も完備されている。

バルガが破壊されても、背中から非戦闘地域まで射出され。

パイロットは生存することが可能だ。

コックピットへ到着。空気の排出音。即座に戦闘に最適化された気温気圧に環境が変わる。

モニタが全周式なのは通常型と同じ。また、ダイラタンシー流体でコックピットが守られているのも同じだ。

ただ、コックピットの設備が、通常のバルガとは比べものにならないほど進歩している。

人類最強の兵器として仕上げられただけの事はある。

これを建造するいざこざで、プロフェッサーに暗殺者が向けられたという噂まである兵器だ。

その時は荒木大尉が護衛に当たったらしいが。

この話が本当かどうか荒木大尉が話そうとしない辺り。どうせ競合兵器をぶち上げた軍産複合体のお偉いさんあたりがヒスを起こして、実際に暗殺者を送り込んだ可能性は充分過ぎるほどにある。

連中の腐敗は、負けた世界でデータを存分に確認させて貰った。奴らがそれくらいは普通にする連中で、モラルなんてものは存在していないことは分かりきっている。

そもそもプロフェッサーがそれを利用して、かなり開発で予算関係を有利に回らせたという話である。

手段を選ばなくなったプロフェッサーは強い。

だが、だからこそに。

そんなクズ共は、地上から駆逐しなければならなかったし。どうもそれをやってくれたらしいリー元帥には、感謝しなければならないだろう。

コックピットに愛用のPCを据え付け、そしてOSを起動する。

起動は非常に速く、バルガはしっかり改良されたのだとよく分かる。

最初は鉄屑とまで言われたシリーズだったのに。

今では最早、完全に人類の守護者である。

どっかと、シートに座る。

そして、一華は、声を張り上げていた。

「アーマメントバルガ、バトルオペレーション!」

「アーマメントの装甲は、通常のバルガの数倍だ! ただし接近してきた怪物の大軍を捌く力はない! 随伴は集ってくる怪物をアーマメントごと撃て!」

「了解! また凄いのが出て来たな。 うちらの参謀だったら、どうにかしてくれるんだろうけどな! EDFの参謀とは偉い違いだぜ!」

「そうだな!」

小田少佐の軽口に、浅利少佐が同意している。

珍しい事もあるものだ。ともかく、両拳を振り上げ、戦闘モーションを取る。突貫してくるエルギヌス。

足下は無視。

まずは、戦闘力をためさせてもらう。

エルギヌスとは、散々戦った。荒廃した世界でも、勝っている世界でも。もう、普通の個体なんか、バルガに乗った一華の敵じゃない。

ただしそれは通常のバルガの場合だ。

アーマメントの性能ではどうか。

動きが、恐ろしい程滑らかだ。それでいて、バルガシリーズ特有の重量感もしっかりある。

突貫してきたエルギヌスの頭蓋を、拳でたたき割る。

一撃で、いつもの数倍のダメージが入ったのが分かる。タイミングが完璧になるように、バルガのOSで支援、補助までしてくれているということか。

プロフェッサーから無線が入る。

「君のバルガの動きを参考に作った支援プログラムだ。 恐らく馴染んでくれるとは思う」

「充分ッスね。 最高ッス」

「そうか、ありがたい。 これで他のアーマメントに乗る兵士達にも、安全を保証できるだろう。 例の兵器も試してくれ」

「イエッサ……と」

一匹目の頭を踏みつぶし、地獄に送る。元々プロテウスの硬X線ビーム砲でダメージそのものは受けていたようだ。

それでとどめとなり、即死。

二匹目はそれを見て、吠え猛る。

奧から迫ってくるのは、アーケルスだ。エルギヌスとアーケルスを同時に相手か。まあいいだろう。

早速だが。最強の砲の錆とさせて貰う。

「総員、アーマメントの後方にさがれ!」

「? わ、分かった!」

「カッパー砲、ロック解除! いつでも撃てます!」

「了解!」

肩から背中に掛けて装着されている二門の砲がせり上がる。それは前面に砲首を向け。そして、固定した。

エルギヌスが吠え、アーケルスは転がりながら突貫してくる。

だが、怪生物は。

もはや無敵でも、最強でもない。

世界に閃光が迸り。

そして爆音が、それに続いていた。

カッパー砲。名前の通り、銅を用いた兵器。ただし銅の元素を用いて、複雑な行程で最大効率でエネルギーを引き出せる対消滅現象を引き起こし。そのエネルギーを衝撃波にして、前面指向で放つ最終兵器だ。

発射が終わった後。

何もかもが、なくなっていた。

前面に群れていた、敵の残党。アーケルス、エルギヌス、それぞれ一体ずつ。そして、街の残骸。

それらが、最初からなかったかのように。この世から消滅していた。

明らかに僅かな生き残りの怪物達が、恐怖して逃げ散り始めている。怪物が恐怖するというのは、余程の事である。

わずかな残党達は、背中を見せた瞬間、皆が駆逐してしまったが。

「て、敵……怪生物消滅……」

「リー元帥に連絡を入れてくれ。 プライマーを倒し次第、カッパー砲は封印指定としてほしいと」

「は、はい」

「これは、人類の手に余る兵器だ。 絶対に、乱用は許されない。 火力は核以上と聞いていたが、これほどとは……」

千葉中将が、戦慄を声ににじませる。

確かにその通り。

これは一種の反物質兵器。反物質兵器については、そもそもEMCの時点で反陽子砲が成立していたが。

これはそれ以上の代物だ。

人類にこれが使えるとは、一華にはとても思えない。

そして撃った後の衝撃が小さく。とてもではないが、怪生物二匹と、怪物の大軍を消滅せしめた超兵器の引き金を引いた後とは、とても思えなかった。

プロフェッサーから無線が来る。

「一華くん。 どうだね、この性能は」

「明日が恐らく最後の戦いになるッスね」

「ああ、そうだろうな」

「それでこの兵器は封印ッス。 はっきりいって、私も千葉中将と同意見ッスわ。 こんなもん、今の人間には渡しては駄目ッスよ」

プロフェッサーが黙り込む。

恐らく、自信作だったのだろう。

だけれども、一華はあの人が科学者としては一流とは言えない事を知っている。だから、別に怒る事はなかった。

核兵器を作った連中だって。

自分がどのような代物を作ってしまったか、分かっていなかった可能性が高い。

もしも核が実際に使われたことによって何が起きたか実際に見て知った上で核を絶賛しているとしたら、それはサイコ野郎以下だ。

そしてカッパー砲はそれよりも更にタチが悪い。

これは惑星間戦争でつかうような兵器だし。

それでも、使ってはいけない代物だ。こんなものを人類に渡したら、冗談抜きに滅びが見える。

だが、それでもなお、明日の戦いでは使わなければならないだろう。

無数の怪生物が確認されている。

既存のバルガでそれら全てを倒す事はとても不可能に近い。

悲しい話だった。

リーダーから無線が来る。

休むように、と言う事だ。

無言で頷いて、休ませて貰う。

これは、使っているととてもではないが喜べない。人類はプライマーとの戦争の果てに、ついにこんなものを作り出してしまった。

恐らく、この代償は小さくないとみて良いだろう。

これを持って調子に乗り、太陽系外に進出しようとした挙げ句、フォリナとか言う超文明にぼこぼこにされなければ良いのだけれども。

何処か他人事のように。一華はそう思っていた。

 

2、沈黙の早朝

 

荒木大尉がストーム隊に招集を掛ける。0500の事だ。

三城はもうこの時間には起きだしていた。とっくに調練も済ませて食事をしているところだった。

食事を急いで終えると、招集に応じる。

多少眠そうに、木曽少佐が先に来ている。

流石に負けた世界などで生き抜いてきたサバイバルの記憶もある。こう言うときは、きちんと動けるようにはなっていた。

荒木大尉が、厳しい顔で周囲を見回していた。

「どうした大尉殿。 昨晩の、あの超兵器のことか」

「そうだ」

「そうだろうな……」

ジャムカ大佐も、無言で頷く。

誰もが、あれには思うところがあったのだろう。

ジャンヌ大佐が、挙手する。

「原爆は人類の負の歴史の一つだが、カッパー砲はそれ以上に危険だ。 一華中佐の話は聞いている。 殆ど、撃ったときに手応えがないんだろう?」

「そのようだな」

「使用は出来れば禁止すべきだが。 この先の、敵の中軍に当たる部隊には、多数の怪生物と、大型の怪物が控えていると聞いている。 使わざるを得ないだろうな」

怪生物の戦闘力は、ぶっちゃけ気化爆弾を一発二発当てた程度では、一番弱いエルギヌスですら埒があかない。

これについては、既に実証されている。

そもそも、α型……赤いα型に顕著だが。通常の怪物ですらも、条件が整えば戦車砲を弾くのである。怪物に、今までの兵器の常識は通用しないのだ。恐竜ですら、怪物に比べれば雑魚も同然なのである。

だから、強力な兵器が必要だ。残念ながら、それが事実。

黄金の装甲はとっくに無敵の時代を終えているが。

それでも、これが現実というものだ。

三城は挙手。

「それで、どうするの荒木大尉。 千葉中将は、リー元帥に封印の許可を求めていたようだけれども」

「やはりそうもいかないようだな。 総司令部は、昨日色々大きな問題が起きていてな」

そういえば。

スポンサーになったのを良いことに、好き勝手をほざきまくっていた軍産複合体とか、1%の人間が99%の富を独占している状況を代表しているような悪辣な金持ちとかを、まとめて処分したのだっけ。

それについては、誰も何も言わない。

クーラーが効いた部屋で指揮を取っている癖に、人間の命をゴミカス以下の駒としか見ていないような連中よりも、更に非人道的な連中だ。

今まで此奴らが資本主義の美名の下に搾取を繰り返し、どれだけの殺戮を合法的に行って来たかしれたものではないし。

何よりも、恐らくこの戦争の引き金を引いたのは、連中の可能性が極めて高いのである。生かしておく理由の方がないだろう。

ただ、それだけの事をやったのだ。

リー元帥だって、身を守るので精一杯だろう事は、容易に想像がつくし。

全員の駆除が終わっているとも思えない。

「MPの追求を逃れ、逃げ延びたターゲットが少数いると聞いている。 それらの駆除を急いでいるらしいが、すぐには捕殺できないだろう。 それに……軍の中にも、威力に目が眩んで、もっと量産すべきだという声まで上がっているそうだ」

「バカじゃないのか」

小田少佐がストレートに言う。

強力な兵器を見た時、喜ぶ事が多い小田少佐ですらそういう意見が出てくるのだ。間近でみれば、まあそうなるのが良心が僅かでもある人間という事である。

三城も小田少佐と同意見だ。

あんなものは、量産すべきではない。

「皆の意見を聞いておきたい。 カッパー砲は、プライマー戦役を最後に使うのを止めるべきだと思うか」

「賛成」

その場にいる全員が、賛成の意思を示した。

頷く荒木大尉。

そうだろうなと、思ったのだ。

世界には、色々な意見があるべきだ。多様性と言う奴である。だが、あれはそういった原則を軽く飛び越えてしまっている。

一万年前に文明を構築し始めた人間が。

一万年経ってもまるでテクノロジー以外は進歩していないという現実がある以上。

あんな兵器を、人間が持つべきではない。

当たり前の話だった。

「意見は纏まったな。 明日……いや明後日までもつれ込むかも知れないが、それでもアーマメントはカッパー砲を外し、プライマーとの決戦が終わり次第ただのバルガとして活用するように、上申する。 もっとも、その時は俺たちは用済みとされるかもしれないがな」

「荒木大尉。 そういうことは、いうなよ……」

「小田少佐。 もしもそうなったら、躊躇なく逃げてくれてかまわない。 ただ、俺はストームチームとEDFが戦うという最悪の展開だけは、避けなければならない」

「……」

無言になる皆。

無線が入る。

プロフェッサーからだった。

徹夜で作業をしていたのだろう。少し、声に疲れが見られた。

「話には混ざらなかったが、聞かせて貰っていた」

「……」

「カッパー砲のことは、確かに冷静になって見れば本当にどうしようもない。 こんな兵器は、プライマーの使っている兵器と同じだ。 我々こそ、邪悪な侵略エイリアンになるところだった」

邪悪な侵略エイリアンか。

人間以外の生物にとって。人間はすべからず邪悪な侵略エイリアンだと思うが。

ことさらにホラー映画で、圧倒的な強さを持つ凶悪クリーチャーが人間を侵略して殺戮しまくるものがあるが。

あれは普段人間が。

それ以外の生物に対してやっていることだ。

そういった考えを、ずっと戦っている内に出来るように三城はなっていた。

ストームチームの皆は信頼出来る。

だが、「人間」を信頼するのは。

もう無理だ。

「既にカッパー砲の製造については、私の頭の中だけにある。 図面の類は、全て破棄した」

「!」

「だからこそ、もう現有分しかカッパー砲はない。 確実に、敵を倒し尽くしてくれ」

「分かりました」

無線を切る。

そして、後は、静かな沈黙が訪れていた。

 

一度解散して、0800までの時間を過ごす。

兵士達は疲れきってぐったりしているのか、殆ど誰も起きて来ていなかったが。それでも工兵隊や、救急隊は動いている様だった。

キャリバンが前哨基地の彼方此方を走り回っている。

昨日の戦いが凄まじすぎた事もある。

やはり、精神的に異常をきたした兵士も出て来ているらしい。

それもそうだろう。

あれだけの超絶の大軍を前にしたのだ。

冷静でいられる、自分の方がおかしい。

そう、三城も思えるようになっていた。

もう少し体を動かすかと思ったが。

今日も、どうせ激しい戦いになるのは分かりきっている。

それに、だ。

いつの間にか、アーマメントが九機、前哨基地周辺に揃っている。更にこれに、予備機があるらしい。

今日の戦いでは、アーマメント隊の装備するカッパー砲で敵の軍勢を追い散らし。

更にプロテウスの硬X線ビーム砲。他のAFVの制圧射撃で、敵の軍勢を蹴散らすことを主体にしていくという。

1300までに。リングを射程圏内に捕らえる。

昨日リングが来なかったのは運が良かった。

今までの周回でも、一日前後リングの到来がずれることがあったから、不思議な事ではないだろう。

或いは、フォリナが戦況を見ながら、リングを寄越しているのかも知れない。

一華の話を聞く限り、フォリナは正義とかそういったものは一切合切関係無く動いている種族だ。

別に今回の戦争だって、プライマーと地球人を戦わせて遊んでいる訳でもなんでもないし。

地球人に責任があるから、プライマーと話し合って落とし前をつける場を設けたに過ぎないのだろう。

そして地球人には、相手に謝るどころか、目の前の金を見て欲望を制御する力すら存在しなかった。

この戦いは。

必然だったのかも知れない。

フォリナが敵に回っていてもおかしくは無かったのだろう。

そうなっていたら。終わりだった。

ブラックホールを利用した兵器を、まるで小石でも蹴飛ばすように悉く跳ね返したという話だ。

今の地球文明なんて、どれだけ頑張っても。それこそ逆立ちしても勝てる相手などではない。

何が相手でも勝てる大兄だって。

今度ばかりはお手上げだろう。

「アーマメント隊、前に。 事前にフォーメーションを確認しておく」

「イエッサ」

「ウォーバルガ隊やフォースターとの連携は」

「今の時点では必要はない。 怪生物が出てくるまでは、カッパー砲による制圧で、各部隊の消耗を抑える」

0630か。

未だにこんな訓練をしているということは。このアーマメントが如何に緊急で投入されたかがよく分かる。

勿論、事前に一華とプロフェッサーが、念入りに打ち合わせをして、完成させたのだろうが。

それでも。実際に運用してみると、だいぶ話は違ってくるのだ。

これはどんな兵器でも同じ。

使えそうだと思った武器が、実際に戦場では何の役にも立たなかった経験は三城だって山ほどある。

あくびは出ない。

アーマメントの破壊力を見た今。

むしろ、全身は悪寒に包まれていた。

もう一眠りしてくると言っていた一華が、戻って来たのが七時過ぎ。

既に周囲は、明るくなりはじめていた。

「おはようッス」

「おはよう」

「ふーん、結局横列陣を展開して、カッパー砲で怪物を殲滅する事にしたみたいッスね」

「何か問題点がある?」

首を横に振る一華。

なお一華は、怪生物が出るまではエイレンWカスタムを使うそうだ。

プロテウスカスタムは、リングに肉薄するまで温存するらしい。まああれほどの兵器である。

それが正しいと、三城も思う。

皆が揃う。

他の兵士達も、忙しく走り周りはじめた。大兄が、皆に説明をする。

「先ほど連絡があった。 此処からは、アーマメントで敵の主力を蹴散らしつつ、リングに向けて前進。 1000までに、リングの至近周辺にまで、戦線を進めるのを目的とするそうだ」

「至近周辺?」

「具体的には自走砲型のフーリガン砲を護衛しつつ展開出来る距離までだな」

それだけで、此処にいる皆には分かる。

歴史改変船団が来た場合。撃墜するための準備だ。

既に潜水母艦三隻は、敵と交戦を開始しているという。凄まじい数のドローンに対して、対空攻撃を行っているそうだ。

これに、この決戦に備えて増産が進んでいた潜水艦隊も、海上に展開している海軍も参戦。

現在、日本海と太平洋、両方で苛烈な会戦が行われているそうだ。

戦闘が開始されたのは昨晩くらいからと言う事で、戦況は有利。

1000には、少なくともこのまま行けばリング周辺を攻撃出来る準備が整うという事だ。

更に、アーマメントによる一斉攻撃を行う事により、敵を蹴散らすことが出来れば。今後の戦いが楽になる。

プライマーが用意しているだろう最終兵器まで蹴散らせるかは分からないが。

それでも、最前線まで歩を進めることが出来るだろう。

「それにしてもこれは、大砲が初めて戦場で活躍するようになった時代の戦争のようッスね」

「戦列歩兵が現役だった時代の戦争が確かに近いかも知れないな。 兵器の進歩が、戦争を進歩させるとは必ずしも限らない。 それに、だ。 カッパー砲は、最早鬼子と言ってもいい」

リーダーの言葉は苛烈だ。

そのまま、最前線に出る。アーマメントの軍団が歩いて来るのを見て、怪物がざわめいているのが見える。

数は昨日と同じくらい……最低でも200万くらいはいるとみて良いだろう。

それが、怯えを隠せずにいる。

督戦隊であろうエイリアンの部隊もいるが、それもアーマメントと、護衛のプロテウスを見ると、流石におののいているようだった。

もう自分が正義だなんて考えていないが。

これではますますそれが加速する。

無言で、三城は上空に出ると。歩いて来ているアーマメントの一機の頭の上に乗る。頭と言っても、元はクレーン。

半円形をしていて、周囲は足場だ。

「ストーム1、三城中佐。 如何為されましたか」

「大兄……ストーム1リーダーの指示。 此処から狙撃をさせて貰う」

「なるほど、失礼しました。 カッパー砲を今日は多用します。 非常に危険ですので、肩の砲台には近付かないようにしてください。 勿論、此方でも最悪の場合はセーフティロックは掛けます。 釈迦に説法かも知れませんが、貴方方を失う訳にはいかないのです」

「了解」

ずしん、ずしんとアーマメントが歩いて行く。

ウォーバルガよりも更に洗練された、戦の神だ。

その圧倒的な重量感は、側で見ているだけで安心感が湧いてくるほどである。肩のこの余計な砲台さえなければ。

無言で、ライジンをチャージ。

0800。

同時に、最前線で、タイタンに乗っている千葉中将が、攻撃の指示を出した。

「アーマメント隊、カッパー砲を斉射せよ!」

「アーマメント隊、カッパー砲を展開!」

「八機だけか?」

「十機あるらしいが、二機は事実上ストームチームの直衛らしい。 それだけ、敵の抵抗が激しいことを想定しているそうだ」

兵士達の声が聞こえる。

なるほどね。

今の時点では、最高の待遇はまだしてくれていると言う事だ。今の時点では、だが。

そのまま、カッパー砲がぶっ放される。

最高効率で撃つ方法は、とっくに計算済だったのだろう。文字通り、敵が万単位で消し飛んでいた。

それも、それが八発である。

督戦に出て来たエイリアンなんて、影も残っていない。

原爆の被害を受けて、影しか残らなかった人の事を思い出す。

こんな兵器、多用していいものではない。

「敵、混乱しています!」

「第二射準備」

「カッパー砲は、流石に連射は出来ません。 第二射までのカウントを出しますが、五分以上掛かると考えてください」

「了解した。 プロテウス隊、前に出ろ。 総員で、敵の反撃を蹂躙しろ!」

千葉中将も、半ば自棄になっているのか。

昨日到着した。欧州のプロテウス隊が前に出る。ルイ大佐が率いている部隊だ。

ルイ大佐が、無線を通じて軽く挨拶してくる。

まだ体型は太めのままのようだが。今回はプロテウスカスタムに乗って、最前衛で指揮を執るようだ。

「敵、突貫してきます!」

「危険度の高い敵から片付けろ! ファイアっ!」

「オープンファイアっ!」

ルイ大佐の部隊が、一斉攻撃を開始。ジョン中将が、無線を通じて千葉中将と話をしている。

カッパー砲について、質問を色々としている様子だ。

「総司令部にクレームが入ったというのも納得だ。 あれでは、核兵器を水平にぶっぱなしているようなものではないか」

「その通りだ。 先人の悪い真似を我々がする訳にはいかない」

「そうだな……」

「プロテウス隊の指揮は頼む。 私は部隊を再編制しつつ、カッパー砲の発射準備まで対空戦の指揮を執る」

ジョン中将が、今度は指揮を代わる。

突貫してきた怪物達が、プロテウスの猛攻に文字通り弾き返される。三城はライジンを用いて、アーマメントの上から狙撃。主に大物を狙う。

だが、昨日の戦いに比べると、大物が少ない。

大兄も狙撃していることもある。

大物はどいつもこいつも前線に接触するどころか、中途で蒸発してしまう。

「カッパー砲、第二射発射準備良し!」

「プロテウス隊後退! 歩兵隊も急げ! 巻き込まれるなよ!」

「くそっ! あんなのに巻き込まれたら、何も残らないぞ!」

兵士達が慌ててさがってくる。

最前列少し後ろにいたアーマメントの後方にさがるプロテウス隊。三城はその間も、危険な相手に目星をつけて狙撃を続行。

無言で、それをひたすらに続ける。

皆も、カッパー砲発射の寸前まで、戦い続けている。

既に全員の戦闘技量が極限まで研ぎ澄まされている。カッパー砲が発射されるまでの隙を狙って突貫してきた敵部隊は、皆大兄達によって返り討ちに遭う。

そして完璧なタイミングで、カッパー砲が放たれていた。

再び、敵が万単位で消し飛ぶ。

恐慌状態に陥ったのか、敵がバラバラに散らばり始める。

いや、違う。

部隊の密度を下げることにより、アーマメントとまともにやりあうことを避け始めたとみていい。

何も分かっていない、ハイになっている兵士が叫ぶ。

「EDFの力を見たか、クソエイリアンども!」

「お前らの星まで、吹き飛ばしてやる!」

「皆殺しだ! 今まで殺された仲間と民間人の分まで殺してやる!」

「徹底的に吹き飛ばせ!」

狂騒そのものだ。

後で自分が何をやっているか理解したとき、PTSDを発症しないといいのだけれども。

無言で狙撃を続行。

二発カッパー砲の斉射をしたことで、データが取れ始めたらしい。

成田軍曹が、前線の指揮官達に無線を入れている。

「此方戦略情報部。 先進科学研と共同して状況を分析しています。 カッパー砲に関しては、どうやら五分間隔で発射するのは少しまずいようです」

「あの大火力だ、無理もあるまい」

「はい。 放熱が間に合っていません。 砲の損傷を避ける為にも、次は十分後に発射して様子を見ます」

「そうしてくれ」

投げやりな千葉中将の返事。

成田軍曹の様子を見て、色々と思うところがあるのかも知れない。

プロテウス隊が再び前に出る。

タール中将の部隊が、東京基地に到着し始めた。そう連絡がある。頼もしい話だ。此処から、何が起きるか分からないのだから。

密度が下がった敵部隊を、プロテウスの硬X線ビーム砲が文字通り薙ぎ払って行く。

戦車隊もレールガンも、ケブラー隊も、容赦なく密度を下げざるをえない敵部隊を蹴散らし、どんどん前線を押し上げる。

見えてきた。

見覚えがある場所。

リングが降りてくるのを、以前見た場所だ。

以前は、彼処で迎撃態勢をとり、100隻近い敵大型船を撃墜したが、それでも五十隻ほどは逃がしてしまった。

今度は一隻も逃がさない。

まだ、前線まではかなり距離がある。

それでも、三射目のカッパー砲が炸裂すると。敵は。綺麗に消し飛び。残骸も残っていなかった。

ただし、それは都市も同じだ。

この辺りの都市は、文字通り更地になってしまった。

全て再建しなければならないだろう。

「一部のカッパー砲に異常が発生」

「ちっ。 こんなバカみたいな火力だ。 不具合も出るだろうさ……」

「一度アーマメントを後退させてください。 敵がどう動くか分かりません。 警戒を」

「ああ。 分かっている」

ジョン中将が、後退するアーマメントを支援。

敵も、これまでの事がある。

流石にまとめて消し飛ばされるのを避けようと判断したのだろう。アーマメントが後退するのを見ても、前衛に出てくる事はなかった。

アーマメントの代わりに、ウォーバルガ隊と、フォースターが前に出る。怪生物軍団が出現した時の備えだ。

これに、修理を終えたプロテウスだけではなく、各部隊がどんどん加わってくる。敵の第二陣250万の大半を、カッパー砲の超破壊力で殆ど被害を出さずに撃破出来たのは確かに大きいが。

まだまだ敵は多数が残っている。

そして敵は生物兵器である以上。必要とあれば躊躇なく全軍を投入して、乱戦に持ち込んでくるだろう。

そうなると、アーマメントですら危ないかも知れない。

ただ、いずれにしても当初の目標は達成出来る。

1000には、目的地に到達。まだリングは出現していないが、恐らく出現は1300から1400の間だろうと、プロフェッサーは推察していた。

記憶力に関しては、忘れる事が出来ないプロフェッサーだ。信用して良いだろう。このデータも、その記憶から来る統計だろうし。

一度、アーマメントから降りる。

今、工兵隊がアーマメント隊に群がり、専用の足場を組み立ててカッパー砲を修理している状況だ。

また、味方のバルガ隊を見て、敵も怪生物を出してきている。エルギヌス、アーケルスともに凄まじい数だが、距離を取って一旦停止。

敵は大物を大軍で用意してきている。

マザーモンスターやキングも、信じられない数が出て来ている。

「此方左翼部隊、大友少将」

「大友少将、何か問題が」

「怪物共が攻勢に出ておる。 オーストラリア、東南アジアから来た部隊と連携して戦闘中。 しばらく支援にはいけんぞ」

「此方大内少将!」

大内少将も、似たような報告をしてくる。

なるほど、アーマメントの撃破は一旦諦め、両翼に戦力を集中して固定。更には突破力のある部隊をまとめ、中央突破をはかるつもりか。勿論それを防いだとしてもダメージを与えられるし足を止められる。それで充分なのだ。

敵も敵で、これ以上戦線を進められるとまずい事は理解しているのだろう。

大物は見ているだけ。

雑多な怪物が、もはや残骸も残っていない都市を踏みにじるようにして、突貫してくる。

プロテウス隊が応戦を開始するが。数が多い。リング周辺を警備していた、敵の中軍も一部参加しているとみて良い。

第二陣までの撃破で、恐らく敵の半数は削ったはずだが。

それでも、まだ敵は半数が残っている。

半数がやられた場合、地球人の軍隊では全滅判定だが。プライマーの場合、構成しているのが生物兵器とクローン兵士だ。それこそ、痛痒にも感じまい。

そして、海軍から連絡。

「此方潜水母艦エピメテウス。 敵ドローン、増える一方」

「何ッ!?」

「恐らく衛星軌道上のマザーシップが、ピンポイントで投入してきている。 現在、全海軍を上げて戦闘中。 指示あればミサイルを発射するが、全てが届く保証は残念ながらで来ない」

「……分かった。 ドローンの排除に集中してくれ」

更にスカウトから連絡が来る。

敵の部隊が、此方に接近中だという、カッパー砲で消し飛ばした部隊以外にも、まだこれだけ残っていたのか。

まあ、観測されただけで敵は約一千万。

まだまだ予備兵力がいても不思議では無い。

何度も周回を繰り返しているのは、プライマーも同じだ。

怪物を増やすノウハウなどは、極限まで蓄積しているのかも知れなかった。

「カッパー砲修理までの時間は!」

「二時間という所です!」

「二時間、か。 先進科学研から指定があった時間には間に合うな。 ただ、それまでに前線が崩されると意味がない」

「分かった。 欧州支部の総力を挙げて、敵をたたき返す」

ジョン中将が、出るぞと猛々しく声を上げ。

乗騎のプロテウスカスタムで、最前線に出てくる。

大兄が、指示を出してきた。

「ジョン中将を死なせるな。 俺たちも最前線に出るぞ」

無言で、三城は頷いていた。

最初に残っている負けた世界では、欧州は真っ先に陥落した。それが切っ掛けになって、各地での敗色が濃くなっていった。

同じ事を、繰り返させるわけにはいかない。

ルイ大佐も、ジョン中将も、これ以上死なせるものか。

広い戦線の各地で、ストーム隊皆が戦っている。三城はデストブラスターを持つと、敵に突入する。

まだ、日は上がりきっていない。

それなのに。

もう、何十日も戦っているかのような気持ちに、三城もなっていた。

 

3、後一歩の戦い

 

欧州のプロテウス隊の戦闘力は流石だ。山県は裏方をずっと続けて来たから、正面火力の品定めだって出来る。

だから分かる。

此奴らは、強いと。

とにかく火力が大きい。

EDFで改良を重ねたバリアス隊とプロテウス隊を中心に、ケブラーもレールガンも、新鋭機が揃っている。

アフリカが失陥せず。

欧州としての立地を保ち続け。

むしろ中央アジアや中東から来る敵を迎撃し続けた。

その戦闘経験値も相まって、欧州の部隊は強い。そう結論することが出来ていた。

ルイ大佐やジョン中将の前衛での指揮も悪くない。

とにかく自動砲座を撒き。

必要な地点にデスバード型を飛ばし。

雷撃爆弾を設置して起爆し。

ひたすらに地味に戦闘をこなしながら、山県は走り回る。昨日から、ずっと走り回ってばかりだが。

それでも走り回らなければならない。

「山県少佐」

「どうしたね、壱野大佐」

「前衛に敵が迫っている。 かなり危険な気配だ。 足止めをしてほしい」

「了解、と」

手をかざしてみる。

気配と来たか。激しい砲撃戦が続いている中、敵は突出しては撃退されを繰り返してはいるが。

それでも確実に此方にダメージを与えてきている。

アーマメントを使う事に、何かしらの制約がある。

それを見切ったとみて良い。

それに、だ。

山県から見て、この状況はよくない。

決戦にまたアーマメントが出てくるとしても、焦っていないと言う事だ。敵の指揮はしっかりしている。

或いは、既にショックから立ち直ったのかも知れないが。

まだアーマメントがある事。

短時間で修理が終わること。

それくらいの可能性は考慮しているはず。

それでこれだけ積極的に仕掛けて来ているという事は、その気になれば別に大した相手ではないのか。

それとも。

いずれにしても、あまり好ましい状態ではなかった。

雷撃爆弾を複数仕掛けて、壁を作る。さて、何が来る。見ていると、わっと飛んでくるのは赤い飛行型。

凄まじい対地攻撃力を持つ、飛行型の変異種だ。

すぐに自動砲座が迎撃を開始するが、数が多すぎる。

ケブラーも攻撃を開始するが、すぐに死傷者が多数で始めた。発射する針の火力も大きいし、性格も凶暴。

他の怪物と違って飛行型は明確に感情を見せるが、此奴らもそうだ。

怒り狂っているのが一目で分かる。

デスバード型を即座にばらまきながら、走り回る。倒れている兵士は、山県では助けきれない。

リーダーや弐分だったら兎も角。

山県はスーパーソルジャーではないのだ。

デスバード型で。多少飛行型の動きが鈍る。その隙に、ケブラー隊が敵を次々叩き落とすが。

一部の飛行型はプロテウスに集り、その結果全体の正面火力が低下する事態に陥っていた。

それどころか、一部は前衛を飛び越して、後方のキャリバンや負傷者にまで襲いかかっている。

文字通りの阿鼻叫喚である。

デスバード型を焚くのが遅かったら、もっと被害は増えていただろう。

口を押さえながら、更にデスバード型を焚き、補給車に。自動砲座を取りだして、彼方此方にばらまく。

レーザー型では無く、少し型式が落ちる実弾式だ。

こうしないと、この毒ガスの中では、火力が著しく落ちてしまう。

どすんと、間近に赤い飛行型が落ちてきた。

もがいていたが、やがて死ぬ。

兵士達は必死に応戦しているが、爆発が見える。

何かAFVがやられたとみて良い。敵も、ガスでやられっぱなしではないのである。

「被害甚大! 増援をこう!」

「くそっ! 開戦当初かよ!」

「生き残る事だけはしたもんな、お前」

「……死にたいか?」

兵士達が怒鳴り合っているのが聞こえる。欧州の部隊は元々ゲルマン系。そうなれば、気性が荒いのも当然か。

だが、凄まじい怒鳴り声が、場を圧する。

「敵を間違えるな! くだらん喧嘩で手を鈍らせるような奴は、俺のプロテウスの主砲で消し飛ばしてやるからな!」

ジョン中将の怒号が。兵士達の軽口を黙らせる。

一転して、一斉反撃開始。ケブラーが火を噴き、次々に飛行型を叩き落とす。

程なくして、飛行型の駆逐は完了。

かなりの被害を出したが、それでも敵は撃退出来たのだ。ただし、毒ガスが晴れてくると、死屍累々の有様が明らかになってくる。山県は嘆息すると、走り回りながら次の攻勢に備える。

「山県少佐、ありがとう。 できる限りの事をしてくれたようだな」

「いいや。 多数死なせてしまいやしたよ」

「そうか……」

「俺はロートルでさ。 才能があるわけでもない。 あんたら超人とは違う」

「だが、それでも普通の兵士百人分は働いている。 そのまま、その地点を死守してくれ」

あいあい。

そう呟いて返しながら、敵の攻撃に備える。

負傷者を必死に回収し。キャリバンが走り回る中。接触事故を起こさないように、要領よく走り回る。

自動砲座を展開。

デスバード型を手元に集め、雷撃爆弾の準備もしておく。

制空権は。

駄目だ。かなりのドローンが上空から日本海と太平洋に降りている。もしもフォボスが仕掛けようとしたら、恐らく上空から強襲される。戦闘機も、真上というのは弱点なのである。ましてや爆撃機は。

敵が来る。

今度はβ型か。面倒な銀β型が混じっているので、バイザーの映像をプロテウス隊に送る。

プロテウス隊は戦車隊と連携して、火力を集中。

β型を近寄らせないように撃退開始。

自動砲座も、レーザーで近寄るβ型を片っ端から薙ぎ払うが。

敵銀β型は、上手に味方の死体を盾にしながら接近して来る。たまに、ああいうのがいる。

そしてああいうの一体で、他十体以上の被害を出す。

人間と同じ。

実際に戦場で、敵を殺している兵士は一割ほど。その一割が、半分の殺戮をやっている。プライマーも同じ傾向がある。

にぎやかしに正面で気を引くだけの敵と。

側面後方に回り込んでくる敵。

両者の混成が、厄介極まりないのだ。

雷撃爆弾を使って、潜みながら迫ってきているβ型を直撃させる。敵が密集しているわけではない地点だが。

彼奴は、近付かせるとまずい。

兵士達に叫ぶ。

「あの銀β型を!」

「わ、分かった!」

ブレイザーが集中投射されて、潜みながら接近してきていた銀β型を仕留める。よし、これでいい。

後は。

真上。

糸が飛んできたのを、大慌てで避ける。そっちにも、まだいたか。半分溶けている高層ビルに貼り付いて、糸を放出しまくっている。

手榴弾のピンを引き抜くと、放り投げる。

爆発に巻き込まれたβ型が吹っ飛び、ビルの残骸が砕ける。ばらばらと落ちてくる瓦礫。全く、ロートルにはきつい。

ぼやきながら、瓦礫の下敷きにならないように走る。

大半のβ型はプロテウスが片付けたが、今度はディロイだ。

ディロイの危険性は、誰もが知っている。プロテウスが集中投射を開始。次々に屠っていくが。

その隙に接近してきたβ型が、浸透を狙って来る。

自動砲座による迎撃で大半を撃破するが、間に合わない。仕方がない。走りながら、β型の群れに接近。

近距離用の自衛武器、サプレスガンで撃ち抜く。

数体を撃ち抜いている間に、敵の攻撃もアーマーを掠める。どれだけ進歩しても、無敵のアーマーなどあり得ない。

びりっと痛みが来る。

相手はβ型だ。直撃を避けたとしても、どこか切り裂かれたのかも知れない。

呼吸を整えながら、兵士達を今まさに蹂躙しようとしているβ型を片付けて回る。更に痛み。今度は足だ。

だが、ロートルの肉体を引きずって走る。

そして、最後の一体を片付けたとき。

転んでいた。

立ち上がれない。

ちょっと、いやかなり出血している。周囲はβ型の死体の山。兵士達が、青ざめて山県を見ていた。

「ストームチーム。 支援班でも、これだけ強いのか……」

「くっ、やっちまったか……」

かなり手傷を受けている。敵の部隊は、一時退いた。

キャリバンが来た。

残念だが、一旦手当てか。

今日中、明日には決戦だと聞いている。

だとすれば、休んでいる暇など無さそうだった。

 

前哨基地で手当てを受ける。本来だったら即入院の怪我だと、軍医はがみがみと怒っていた。

だが、仕方がない。

山県も、事情は知っている。

この戦争は終わらせなければならない。

応急処置をして貰って、最前線に出る。1100。まだリングが来るまでは少し時間がある筈だ。

だが、それでも状況は良くない

味方部隊は、前線を完全なものに仕上げられていない。

下手をするとこのままでは。

少数だとしても、歴史改変船団に、リングを通られる。それは、極めて良くない結果を生むだろう。

エイレンWが来る。

つかえ、と言う事らしい。有り難い話だが、山県は基本的に生身での戦闘主体なのだが。しかしこれでは、そうもいっていられないか。

とりあえず、乗らせて貰う。

ライセンスは持っているので、即座に動かす。一華中佐の使っているエイレンWカスタムとは性能が雲泥だが。それでも昔乗っていたニクスとも桁外れに性能が変わっている。全てのシステムが問題ない事を確認すると、前線に。

敵はまだまだ来ている。

それを、レーザーで薙ぎ払いつつ。ところどころ要所で足を止め、バックパックから自動砲座を取りだしてばらまく。

敵を地雷原に誘導していくようなものだ。

エイレンから仕留めに来る怪物は、自動砲座の一斉攻撃を食らって文字通りバラバラに切り裂かれる。

アンドロイドでもネイカーでも結果は同じだ。

キーボードを叩き、操縦桿を握って捜査を続ける。

対ネイカーのプログラムが有り難い。一瞬で、周囲を囲んで火を吐こうとしてくるネイカーを片付けられる。

悔しいが、これを組んだ一華中佐は天才だ。

そして「頭だけしか良くない」とか抜かして、一華中佐を放り出した初期のEDFの無能な事よ。

まあ無理矢理各国の軍を統合したのだ。

仕方が無いと言えば、そういうことなのだろう。

エイレンWは機械だ。

二足歩行兵器に特別な思い入れがある人間もいるだろうが、山県は違う。淡々と、盾として使う。

兵士の命と比べたら。

機体の損傷など、安いものだ。

敵の攻撃を受け止めながら、波状攻撃が続く最前線で戦う。少しでも、被害を減らすためにだ。

1120になる。

息が上がってきた。渡されていた、栄養剤を口に含む。出来ればもう少し寝ていてほしかったと軍医は言った。点滴だけは打たれた。

だが、戦っていれば主に脳を。

それ以外の内臓も。

酷使することになる。

だから、こうやって栄養剤を入れなければならない。それでも耐えられない奴の一部が、違法薬物に手を出す。

そうなると、もう助ける事はまず不可能だ。

山県は酒ばっかり飲んでいるが。

それは、そういった落ちてしまった兵士達を嫌になる程見てきたから、と言う事もあるし。

誰も助けられなかった、という現実もある。

あの手の薬の恐ろしさを知らない奴ほど、薬を肯定する。

本当にどうしようもない。人間は。

本当に守る価値があるかで悩んでいるのは、山県だって同じだ。他のストーム1と同じように。

人間の業を見続けてきた。

それについては、変わらないのだから。

それでも今は、戦う。

戦う事で頭を空っぽにしなければ、本当にやっていられなかった。

射撃を続ける。

まだか。

アーマメントが直らないと、この先に進めない。この前線を安全な場所に出来ないというのなら。

それこそ、全兵士を使ってでもメンテナンスをしろ。

怒鳴りたくなるが、EDFは元々各国の軍を無理矢理まとめた組織だ。こうやって、組織的に動けているだけでも奇跡的なのかも知れない。

総力で攻撃を続行。

エイレンWが、ダメージを告げてきている。

やはり、一華中佐のに比べると雲泥だな。

そう思いながら、極限まで使い倒すべく。山県は更に前線にエイレンWで突っ込んだ。敵の攻撃が集中してくる。全火力で応戦する。味方も、負担が減った分支援してはくれるが。

装甲がもつかは、ギリギリだ。

「敵更に来ます!」

「くっ、どれだけの大軍だ!」

「上空にも多数のドローン! あれだけの数を海軍に差し向けておいて、まだあんなに……!」

「ほ、本当にこれを突破出来るのか!?」

兵士達が怯え始めている。

これは、まずい。

そう思うが。それでもどうにか誰かが踏ん張るしかない。その誰かが、声を張り上げていた。

ルイ大佐だ。

最前衛に出て来ている。

「私は此処から退かん! 総員、俺と同じ地点で踏ん張れ!」

「……っ」

「くそったれっ!」

「やってやる! やってやるぞ!」

エイレンを、兵士達が追い越していく。山県は、嘆息しながら、その支援をする。ルイ大佐の専用機も猛攻を受けて傷だらけだが、それでも踏みとどまった。

誰かが、踏みとどまった。

此処では、ストーム1以外にも、それをやれる奴がいた。

それだけで立派だ。

山県は、破壊寸前のエイレンの電磁装甲を再起動する。それだけの余裕が出来たからである。

ついに、味方が敵を押し始める。アーマメント無しでだ。困惑している敵を、半ば焼け鉢の味方が押し込んでいく。

一箇所の戦線が崩れると、怪物の群れは一度後退して、前線を再構築する。どれだけの火力投射を受けてもひるみもしない。

それに増援はまだまだ際限なく来る。

そして、僅かの前線が押し込まれたことで。

ついに、フーリガン砲部隊が、前線に到着。

既に射程も伸びているそれらが、リングが降りてくる地点を、射程に捕らえていた。

「フーリガン砲部隊、戦線中央で展開完了!」

「よし、やったか!」

「戦線右翼でも、敵を押し込んでいます! 間もなくフーリガン砲部隊を展開出来ます!」

「此方戦線左翼! 敵を蹴散らすことに成功! 戦線を再構築次第、フーリガン砲部隊を展開します!」

「よし……! よし……っ!」

ジョン中将が、万感の思いと共に呻く。

それはそうだろう。

欧州戦線は、とにかく守りの戦線だった。それが、ついに攻勢に転じ。決定的な地点の確保に成功したのである。

欧州にずっといたジョン中将としては、本当に嬉しいだろう。

見て来たどの周回でも、ジョン中将はそうやって苦労を重ねていた。

そして、増援が来る。

傷だらけになっている欧州部隊と違って、戦意をぎらぎらとたぎらせていた。

「此方タール中将。 まだ前衛部隊だけだが、戦地に到着した」

「おお、アフリカの獅子か!」

「そう言ってくれると光栄だ。 これより欧州部隊の支援に回る。 総員、前衛に展開せよ!」

アフリカの守備隊は、もっとも苛烈なプライマーの攻撃を受け続けた部隊だ。アフリカ大陸だって、反撃に転じるまで人口を何割も失った。もっとも激しく、民間人に対して攻撃を受け。

無差別攻撃で、多数の人間を失った大陸だ。

だから、凄まじい怒りを兵士達はプライマーに抱いている。

正確には、そうなってきたのは比較的最近だ。

昔は生き残るだけで精一杯。

周回によっては、蹂躙されて逃げ惑うだけの姿だって見てきた。

だが、今は違う。

優勢に転じたから。

アフリカのEDFは、怒りと復讐心に、煮えたぎっていた。

心を折られず。命も奪われず。

だからこそ、こうなれたとも言える。

最前衛に、荒々しく出て欧州の部隊と交代するアフリカの部隊。タール中将が、無線を入れてくる。

「ストーム隊、少し休んでくれ。 俺たちが、その間の時間を作ろう」

「すまない、助かる」

「また大きめの作戦があるんだろう? 俺も山のように怪生物が押し寄せてくると聞いている。 その戦場には、お前達が必要だ。 出来るだけ休んで、ベストとは行かないにしても戦える状態に調整してくれ」

「皆、後退だ」

代表して対応してくれた荒木大尉が、それぞれに後退を指示。

大きくため息をつくと、山県はチューハイの缶を開けていた。

また、死にぞこなったな。

多分だが。

ストーム1に勧誘される前の周回では、都度死んでいたはずだ。ストーム1で調べて、山県を必要だと思ってくれたのだろう。

それ自体は有り難い話だ。

だが、山県自身は、どこかで死ぬ運命だった……本来は……なのだろう。

だから、こうして生きているというのは不思議な機分だ。

運命に打ち克ったのか、それとも。

ねじ曲げたのか。

さがって、前哨基地に。エイレンWも返却する。

皆、ボロボロだった。特に相馬少佐のエイレンWカスタムは、かなり酷いダメージを受けていた。

ストーム2も、最激戦区で大暴れしていたらしい。

煤まみれの皆を見て、長野一等兵が呆れていた。

「皆、風呂を浴びてこい。 武装は俺が見ておく。 直せるようなら直すし、駄目なら補給部隊から調達しておく」

「やれやれ、おっかないとっつあんだ」

「だが、その通りだ。 皆、シャワーだけでも浴びてきてくれ。 俺もそうする。 そして、1300まで仮眠を取ってくれ。 時間はあまりないぞ。 急いで欲しい」

「イエッサ!」

ジャムカ大佐すら呆れる中、荒木大尉が音頭を取って、皆を休ませる。

荒木大尉も休むと言ったことが決定打になり、皆それぞれシャワーを浴びに、前哨基地に入っていった。

山県も、そうするかと思う。

シャワーなんて気分では無かったが。多分本来だったら死ぬ運命を、ねじまげてここにいる。

それだったら。

他のストームチーム同様に。

最後まで戦い抜いてみるか。

そう、思うのだった。

 

4、立ち並ぶ巨神

 

決戦開始二日目。1330。

何とか応急処置を終えたアーマメントの部隊が、ずらっと最前衛に展開。その少し後ろに、ウォーバルガと、フォースターも控えていた。

バルガ二十機以上という凄まじい偉容だ。

それに対して、プライマーは怪生物をまばらに展開している。

カッパー砲で万単位の怪物が一瞬で消し飛び、怪生物ですら一撃で吹き飛ばされる事や。

何よりも、恐らくカッパー砲を防げる兵器が、敵には無いのだろう。

弐分は、起きだしてから軽く戦闘記録を見た。

カッパー砲を乱射しながらアーマメントが戦線をこじ開けている時。敵にはシールドベアラーもいた。

シールドベアラーの展開するバリア、通称防御スクリーンは凄まじい防御性能を誇り、通常手段では破壊出来なかったが。

カッパー砲はそれすらも容易く貫通し。

中にいたシールドベアラーごと、分子レベルまで分解し、痕跡も残さなかった。

あのネイカーですら、カッパー砲には耐えられず。

ハイグレードネイカーですら例外では無かった。

敵は、だからこそ自分から仕掛けて来る様子はない。カッパー砲を、まずは見極めようというのだろう。

賢明な判断だ。

そして敵は賢明だ。

弐分は、少しずつ思い始めている。

もしかして、完全に決着がついたら、和解が出来るのでは無いかと。

だが、それはあくまで淡い希望だ。

プライマーは、人類の子孫とも言える存在で。

最悪の影響を受けてしまった子孫だ。

今の最果ての時代の人間の思想を受け継いでしまった子孫。

それがプライマーの正体だ。

だが、プライマーが今の時代の狂った思想を受け継いでしまったのだとすれば。

それから脱するのにも、それほど時間は掛からないはず。

いつかでいい。

フォリナとかいったか。

フォリナが、もしもプライマーを滅ぼさないというのならば。

この後、人間がもしもプライマーと同じ道を歩かなかったら。

ひょっとしたら。

遠い遠い未来に。和解の可能性はあるかも知れない。

だが、今は少なくとも、和解の可能性はない。

それだけは、はっきり分かっている。

三城が側に降り立った。

「昨日の戦闘経緯を鑑みて、アーマメントとウォーバルガを交代で前衛にするって話らしい」

「妥当な所だろうな。 カッパー砲は無理をさせられない兵器だと分かったし。 それに、あまり乱用は好ましくない」

「小兄……みんな迷ってる」

「ああ」

三城の言う通りだ。

みんな、迷っている。

人間に守る価値があるのか。ストーム2やストーム3、ストーム4にまでこの悩みはもう伝染しているはずだ。

それでも、今は目の前に敵がいるから戦う。

それだけだ。

「いざという時は、私の敵討ちとか考えないで、そのまま戦ってほしい」

「ああ。 敵討ちもなにもないものな」

「……うん」

三城の言う通りだ。

散々敵を殺し、殺されてきた。

今更敵討ちもあるか。

その上、先に手を出したのは人類なのは、ほぼ確定だ。それこそ、敵討ちの権利は敵にあると言える。

フォリナという超文明は別に間違ったことを言っていない。

殺戮と略奪しか考えていない文明の拡散を抑える。それは当然の、力ある文明の義務と言えるだろう。

こう言うときに、都合が良いときだけ弱肉強食論とか、人間も動物だとか抜かす輩がいるが。

文明と理性を持った以上。

それを都合が良いときだけ無視して、動物になるのはあまりにも身勝手であり。

あまりにもいい加減な行動だ。

少なくとも、文明を持ち。

様々な文明の利器と責任を手にしている者がするべき事では無い。

フォリナについては思うところもある。

だが、少なくとも、その判断は間違っていない。

むしろ、ありもしない人間が考えた神よりも。

よっぽどきちんと神をしている、と言えた。

嘆息すると、戦闘モードに心身を切り替える。いつでも戦える。

三城も頷くと、ひょいと飛んでいった。これからバルガの上に乗り、其処から狙撃をするという。

各バルガにも通達が入っている。

昨日、三城がやったバルガの上からの狙撃が、大きな戦果を上げた。今日も同じようにすると。

更に言えば、バルガを守るためにも。

誘導兵器を手にしている三城が、バルガの上にいることは、大きな意味がある。

飛行型などのバルガの天敵に対して、文字通り群れ単位で相手を制圧出来るからである。

「皆、聞いているか」

荒木大尉の声だ。

そしてこれは秘匿通信である。

つまり、重要な話である。

「リングを通ろうとする敵大型船がいても、破壊出来る態勢は整った。 此処からは作戦を一段階進め、リングを破壊する作戦へと移行する。 リングがいる限り、プライマーは何度でも勝利の機会がある。 それを止める必要があるからだ」

それが本当かは分からない。

フォリナの様子からして、恐らくだが今回が最後ではないかとも思う。

プライマーがこう大苦戦しているし。

何よりこれ以上人類の文明が進歩したら、恐らくだが宇宙の歴史に影響が出るのではないのか。

いや、億年単位では問題がないとか言う話だったか。

現在の地球程度の文明。

フォリナにして見れば、地球人でいうところの、石器時代以前の代物なのかも知れない。

「リングを敵が通るのはこの地点で防げるが、リングを破壊するにはまだ十q前後、前線を進めなければならない。 そのためには、まずは今目の前に展開している敵部隊を排除する必要がある。 その後、この周辺を整地してリングが降りてくるのを確認し、リングの破壊作戦へと移行する」

「十q程度か。 余裕だな」

「相変わらずの自信だな。 だが、今回は同意する。 今までの戦闘に比べれば、どうということもない」

ジャンヌ大佐とジャムカ大佐は相変わらず仲良しだ。

咳払いすると、荒木大尉は続ける。

「一華中佐」

「はいッス」

「専用機のアーマメントを任せる。 次の戦いでは、主力となって戦闘をしてほしい」

「了解ッス」

最初から、一華がアーマメントに乗るのか。

恐ろしい話を荒木大尉がしたのは、直後の事だった。

「大型の敵が集結している。 エルギヌスおよそ50、アーケルス15、サイレン3が既に確認された」

「なっ……」

「マザーモンスター、キング、キュクロプスも多数いるようだ。 アーマメントでも、全てを倒し切れるかは分からない。 ウォーバルガ隊がカッパー砲発射の時間を稼ぎ、他の部隊も総力戦で大型に攻撃を集中しなければ勝てないだろう」

その通りだ。

少しばかり、武者震いをする。

どうやら、次は敵も総力で仕掛けて来るらしい。

だが、勝つ。

此処で勝てば、大型を殆ど駆逐出来る事を意味している。

流石にこれだけの規模の部隊を展開してきているプライマーでも、大きな痛手になる筈だ。

ただ、プライマーはまだあのトゥラプターが出て来ていないし。

何かしらの決戦兵器を用意している可能性もある。

それを考えると。

此処で勝つのは最低限の話。

勝たなければ。

決戦を始めることすら出来ないだろう。

「ストーム隊は、アーマメント一華機の周辺に展開して、護衛を行う。 三城中佐だけは、その周辺のバルガの上から援護攻撃。 そのフォーメーションで行く。 くれぐれも、カッパー砲を撃つときに、前には出るなよ」

「イエッサ!」

「よし……戦闘開始だ」

敵も味方も動き出す。

複数のエルギヌスと、数え切れない怪物が、此方に向かってきているのが見えた。

まずは戦車隊とウォーバルガ隊が相手をするようだ。

妥当な所だろう。

戦闘が開始される。

巨人と巨神がぶつかり合う。

神話の戦場が、ここに開かれていた。

 

(続)