終わりの始まり

 

序、激戦続く

 

何とか、アンドロイドの大軍を撃破した。既に息が上がっている者もいる。敵は、悠然と構えている。

敵。

マザーシップナンバーイレブン。つまりコマンドシップだ。

何となくだが。手をかざしていて分かる。

あれには恐らく、敵の司令官は乗っていない。

以前のような圧迫感がないのだ。

そうなると、あれには超生命体は乗っておらず、動かしているのはヒラのプライマーか、或いは遠隔操作なのだろう。

だが、手強いことに変わりはない。

既に壱野は万全。

しかし、皆の手当てが時間が掛かっている。

支援部隊も時々来るが、手数が足りない。ましてやあいつはどうせ、これから変形するのだから。

荒木大尉が来る。

「見張りを頼んで済まんな」

「いえ。 それで、皆はどうですか」

「応急処置は終わった。 もう少し周囲の支援部隊が駆けつけたら仕掛けたい」

「分かりました」

荒木大尉も、余裕がないことは分かっているのだろう。

プロテウスが来るのを見たら、コマンドシップは逃げ出す可能性だってある。つまり、出来るだけ早く仕掛け。

泥沼の状態で、コマンドシップにプロテウスをぶつけたいのだ。

一華用の機体は、今回は調整が間に合ったのだが。

まだ此処には到着できそうにもない。

いずれにしても、まだ戦闘は厳しい状態だ。コマンドシップが、どれくらいの戦力を隠しているのかも分からないし。

応急処置が終わった一華のエイレンWカスタムが降りてくる。後は相馬機だ。こっちもダメージがかなり大きく、今長野一等兵が直している。

味方部隊も、緊張して空に浮かぶコマンドシップを見つめていたが。やがて、相馬機が降りてくると。

荒木大尉が。手を叩いて皆の耳目を集めた。

「皆、聞いてくれ。 あのマザーシップは、ナンバーイレブン。 途中まで姿を隠していた、敵の11番目のマザーシップだ。 その特異性から、敵の旗艦である可能性が極めて高い。 それどころか、今までの戦闘でも、他のマザーシップよりも手堅い守りを展開している」

兵士達は黙って聞く。

荒木大尉は、指揮官としての訓練もばっちり受けている。

勿論、だからといって指揮官としての適性があるかは別の問題だ。散々見て来たが、指揮官適性は殆ど才能に依存するからだ。

ただそれでも。

荒木大尉の場合は、才覚があると思う。

事実兵士達は、この肝いりの。戦場で生き延びてきた、若くして歴戦の指揮官となっている者の言う事を、きちんと聞いている。

「勿論ただの罠の可能性もある。 我等を消耗させるためだけの、な。 だが、敵はクラーケン多数を失い、大きな被害を出している事も事実だ。 この作戦は無駄ではないと、客観的に見ても判断出来る」

ここで感情論を口にしないのが尊敬できる所だ。

荒木大尉には、既に真相を伝えてある。

この戦いが、如何に馬鹿馬鹿しい代物かは、分かっている筈だ。

それでも、荒木大尉は先導してくれる。

折れそうになっている皆の、指標になってくれる。

壱野はだから、この人を尊敬している。

もう、人間がどうでもよくなりつつある気持ちも何処かにあるが。

それでもだ。

「敵のコマンドシップを叩き落とせば、現在世界中で行われている戦争も一段落し、地下に逃げ込むしかなかった市民も、日の下に少しずつ帰ってくる事が出来るはずだ。 そのためにも、我等は戦う。 そして、あの邪悪な敵の母艦を叩き落とす!」

「EDF!」

「叫べ、心の底から!」

「EDF! EDF!」

簡単なものほど。

唱和するにはいい。

皆、このEDFという単語を叫ぶ事によって、どれだけ勇気を得られるか。やがて、兵士達をまとめた荒木大尉が、視線を送ってくる。

頷くと、壱野は。

戦闘開始を判断した。

相馬機が既に戦闘可能な状態になっている。

尼子先輩にさがって貰い。補給車だけは側に残しておく。

全軍、そのまま前進開始。

プロテウスはまだ到着していないが、それでもマザーシップ……コマンドシップにこれ以上時間はやれない。

敵だって、何かしらの方法で戦力を蓄えている可能性が高い。時間をやれば、何かしらの作戦を変えてくる可能性もある。

今。此処で。

落とすしかないのだ。

「村上壱野大佐、そこにいるか」

「はい」

プロフェッサーからの無線。

相当に全ての真相を聞いてショックを受けていたが、大丈夫だろうか。

少し心配になったが。

プロフェッサーは、相応に口調はしっかりしていた。

何度も最愛の人を目の前で失ってきたのだ。

修羅場だって、ホワイトカラーとは思えない程くぐってきている。それも、政治闘争のパイとり合戦のようなどうでもいい修羅場では無い。殺戮の血しぶきが飛び交う修羅場である。

前は、奥さんを失って立ち直るのに三年かかったと言っていたっけ。

今は、流石に精神が麻痺してきているのだろう。

それが良い事かどうかは、壱野には分からない。

壱野は元々通常の人間と精神構造が違うようだし。

なによりも、今はもう。

通常の人間に対して、義務以上の理由で守ろうとも思えなくなりつつある。

「どんな酷い理由があろうと、それでも戦わなければならない。 私は妻を守る。 家族を守る。 そのために戦っている。 もしも妻や家族を人類が殺すのだったら、人類に牙を剥いても良いほどだ」

「プロフェッサー」

「分かっている。 この無線は秘匿通信だ。 一華くんお手製のな。 聞かれる心配はない」

まあ、こういう所はまめだなあと思う。

いずれにしても、プロフェッサーはかなり精神的に追い詰められている。これは、気を付けないと危ないな。

そう壱野は思う。

まあ、壱野だって心中穏やかでは無い。

リー元帥がやったとは思えないが。この戦争の引き金をひいたのは、人類の誰かなのだ。

カスターだったら気分は楽だ。

だが、そうではないだろう。

恐らく、戦争に踏み切ったのは、利権構造という現在の人類社会そのもの。

責任は、そんなものを許していた人間社会そのものにあると言える。

この戦争は、人類が起こしたもので。

相応の罰を、全員が受けなければならないのかも知れない。

一世代、二世代前くらいは宇宙人ブームとか言うものがあったらしく。

無邪気に宇宙人は地球人より進んだ文明を持っていて、神のような存在なのだと信じ込む風潮があったそうだ。

だが現実はどうだ。

色々と頭が痛くなってくる。

「コマンドシップとの戦いは初めてではない。 ましてや味方は戦力を増し、敵は相対的に戦力を落としている。 君なら負けるとは思わないが……油断だけはしないでくれ」

「分かっています」

「頼む。 勝ってくれ」

無線が切れた。

ただそれだけの事だが。

それだけの事を言うのに、プロフェッサーはどれくらい逡巡したのだろう。

それをある程度理解出来る壱野は。

溜息を零していた。

幾つかの部隊が到着する。いずれもが、激戦が続く周囲の戦線を突破してきた部隊ばかりだ。

応急処置が必要な部隊もある。補給車を連れている部隊も。

本命の、ジェロニモ少将が率いるプロテウス隊が来るまではまだ時間が掛かるとみて良いだろう。

そろそろ、仕掛けないと。

コマンドシップに逃げられる。

敵だって、これだけ広域での戦闘をしているのだ。物資が無限でない以上、損害ももう無視出来ない段階にまで来ているだろう。

相手からも、いつ仕掛けて来てもおかしくはない。

エイレン八、ケブラー二十。戦車隊が雑多に十四。それらの随伴歩兵。

以前、コマンドシップに仕掛けたときとは雲泥の差。これにストームチームが加わるのだ。

相手に強化がされているとしても、絶対に勝てる。

そう言い聞かせて、壱野は荒木大尉に頷いていた。

「よし、仕掛けるぞ」

「総員、前進! 敵を蹴散らせ!」

「EDF!」

アンドロイド軍団の屍を踏みにじって進むエイレンと戦車。敵はまだコスモノーツが少数残っているが、本格的な侵攻を見て後退を開始。すぐにドロップシップに乗って撤退を開始した。

「コスモノーツ、撤退を開始!」

「!」

強い気配。

どうやら、相手もやる気になったと見て良かった。

エイレンが収束レーザーを用意するが、壱野が止める。

「各隊、備えろ。 マザーシップナンバーイレブンが何かしてくる」

「! 了解! ストームチームを中心に散開!」

「み、見ろっ!」

味方が散開するよりも前に。

敵が動いていた。

コマンドシップが、まるで今まで最初からずっとそうだったように。ブロックのように分解し。

多数のパーツとなって、そらを漂い始める。

それは二重のバリアで守られていて。

多数のパーツは、全てが砲台だ。

「う、うわあああああっ!」

「な、なんだあの姿は!」

「今まで撃沈されたマザーシップにあのような姿は確認されていません! やはり、あれはコマンドシップで間違いないようです!」

珍しく、戦略情報部の少佐が声を上擦らせている。

そういえば、最初の時もそうだったか。

とにかく、声を張り上げる。

「分解したパーツを各自攻撃! 分解した以上黄金の装甲は意味を成さない!」

「撃って来るぞ!」

「あれは全部砲台だ!」

「だからこそ此方も撃て! 被害を少しでも減らせ!」

一瞬パニックになりかける味方を、荒木大尉が叱咤。即座に戦車隊とエイレンが壁になって、内側にケブラーや歩兵を守り。

更に、ケブラーが対空攻撃を開始。

壱野も狙撃。

ライサンダーZで、敵砲台が粉砕。粉々になって消し飛んでいた。

「やれるぞ! 総員長距離武器で、あのパーツを破壊しろ!」

「卵……!」

成田軍曹が言う。

そう、宇宙の卵。砲台を切り離したコマンドシップ中枢は、確かに楕円形をしている。

いつの間にか噂になっていた、宇宙の卵と呼ばれるものがあるというもの。神話に出てくる神が乗る船。

実際には、そんなものはただの偶然。

人間という生物が共有していた、何かしらのアーキタイプだったのだろう。だが、それを戦略情報部は、藁にもすがる思いで探した。

それに、今見てみると。コマンドシップ中枢は、そんなに卵には似ていない。

砲台が、撃って来る。

レーザー、プラズマ砲、それにパルスレーザー。

殺意をたぎらせて、多数の砲台が撃って来るが。

此方も、以前とは戦力が違う。

ストーム4が、モンスター型を一斉射。

一人が、一つの砲台を叩き落とす。弐分のガリア砲と三城のライジン。それにストーム3のガリア砲も、同じように砲台をそれぞれ破壊出来る。

ケブラーもそう。

流石にケブラーの機銃弾だけでは破壊するのは難しいが、長時間攻撃を浴びせればダメージは蓄積できる。

そこに歩兵の対物ライフルやロケットランチャーが直撃すれば、結果は違う。

エイレンもレーザーを放つ。

レーザーは空気中で拡散して威力が落ちてしまうが、それでもやはり砲台にダメージは与えられている。

ただし敵の攻撃も苛烈だ。

悲鳴が次々に上がる。

負傷者を内側に。

荒木大尉が叫び、自らはブレイザーを振るって敵の砲台を次々に落とす。

見た所、敵の砲台は小型化し、以前の戦闘よりも数が増えている。それでいながら、砲台一つずつの性能は落ちていない様子だ。

結構改造しているな。

挑んでくるわけだ。

だが、どうも妙だ。

素人臭いやり方を時々すると思っていたが、今回のこの作戦はどうにも拙いように思う。それを見越してなおだ。

そもそもストームチームを消耗させようとしていたのは何となく分かったが。

ストームチームが消耗しきっていない上に、かなりの数の援軍が期待できるのも敵は分かっている筈だ。

リングが来るまでまだ時間だってある。

此処で無理に仕掛けて来る理由はなんだ。

まあいい。

どんな罠を張っていようが、正面からぶっ潰す。それだけである。

「エイレン4、一旦後退! 電磁装甲を再起動し、バッテリーを交換する!」

「エイレン3、サポートする! 負傷者とともにさがれ!」

「くっ、対空攻撃も厳しい! 航空機隊、接近できない!」

「山県少佐!」

おうと叫ぶと、山県少佐が位置を指示。

同時に、空から光の矢が降り注ぐ。

衛星兵器はしっかり使用許可が下りている。次々に貫かれ、爆散していくコマンドシップの砲台。

それで隙が出来て、DE204が突貫してくる。

そして、苛烈な機銃での攻撃を叩き込んで、一撃離脱する。

だが、まだまだ余裕という風情で、コマンドシップは全方位攻撃を続けてくる。その火力は、他マザーシップとは文字通り桁外れだ。

更に、余計なのも来る。

「クラーケンの部隊、接近しています!」

「ストームチーム、俺たちが壁になる! 頼むぞ!」

壁になって兵士達を守っていたバリアスと強化改修されているブラッカーの部隊が前に出る。

そして、かなりの速度で接近してきたクラーケンに、一斉に射撃を叩き込んでいた。

シールドで全て防ぐ神業を見せるクラーケンだが、それは一瞬でシールドがオーバーヒーすることも意味する。

戦車隊も打ち返しを受けて甚大なダメージを受けるが。

この隙は、逃せない。

「くらいやがれ、空の化け物っ!」

小田少佐が叩き込んだロケランが、クラーケンの足をまとめて吹き飛ばす。文字通り丸腰になったクラーケンに、浅利少佐のブレイザーでの一撃が突き刺さり。二秒ほどで大炎上させていた。

悲鳴を上げることもなく、地面に力無く落ちていくクラーケン。

随伴歩兵をしていたヘイズが迫ってくるが、今度はエイレン隊の出番だ。CIWSで全て叩き落とす。

ただ、兵士達はまだ恐怖を声に含ませている。

「バリアみたいなのをコマンドシップが張ってる!」

「本隊に攻撃が届かない!」

「今は砲台を攻撃して好機を狙え!」

ジェロニモ少将が叱咤。そして、無線を壱野に入れてくる。

今、プロテウス隊で接近。敵の抵抗が激しく、それを突破しながら進んでいるということで、まだ時間が掛かると言う。

ただ、悪い事ばかりでは無い。

一華用の、一人乗りプロテウスの整備が完了。

現在、合流して一緒に戦地に向かっているという。

なるほど、あれが来てくれれば、恐らく勝負は決まるとみて良いだろう。

そしてコマンドシップは主砲を展開してこない。

恐らくだが。一番性能が高い一番内側にある砲台群と一緒に主砲を展開して来るつもりとみて良い。

その方が、高い戦闘力を発揮できる。

理由は、それだけ。それだけで充分過ぎる程だ。

コマンドシップの浮遊プラズマ砲に、兵士が吹っ飛ばされるのが見えた。即死したかは分からないが。とにかくそのプラズマ砲を叩き潰す。

「高エネルギーを発する砲台を確認! 恐らくはシールド発生装置です!」

「分かった、撃墜する」

「お願いします!」

ただ、他の砲台を破壊してからだ。

あの二重のシールドの内側には、より強力な砲台がいる。まだ外側の砲台が生き残っている状態で戦闘を挑むのは分が悪い。

他のストームチームにも、無線でそれを伝える。すぐに、ストームチーム総出で、残っている外縁部の砲台を掃除に掛かってくれる。

兵士が次々に後送されていく。勇敢に突入してきたキャリバンも、傷だらけだが。それでも怖れずに戦場に来る。

流石という他ない。

「エイレン部隊2-4、現着! これより戦闘に参加する!」

「ケブラー部隊2-29、現着! これよりストームチームと合流する!」

「凄まじい有様だ……」

「今は一人でも手がほしい! 支援してくれ!」

阿鼻叫喚の中、それでも苛烈な戦線をかいくぐった部隊が次々に支援に来る。被害を受けてさがる部隊よりも。

むしろそれは多いほどだった。

 

1、コマンドシップは更に強く

 

三城はライジンを冷やしながら走る。

コマンドシップの砲台の幾つかに、転送砲台がある。それらからは、ぼとぼとと怪物が落とされている。

砲台が減り始めたら機動したのだ。柿崎が対応しているが、戦車隊だけでは抑えきれるかどうか。

兵士達も射撃しているが、アサルトだと厳しいかも知れない。

三城も、前に出るべきか。

ライジンのエネルギーチャージが終わる。狙撃。バリア発生装置を一つ破壊。

それぞれ、どれを狙うように大兄からバイザーに通信が来ている。三城も、黙々と破壊を続ける。

それぞれが破壊する砲台を担当し分ける事で、効率よく敵の砲台を破壊する。

砲台さえ完全に破壊してしまえば、コマンドシップはマザーシップと代わりがない。しいていうなら、主砲が独立していて。主砲を破壊しても、中枢を破壊出来ないということだろうか。

だが別に、そもそも破壊方法は分かっている。

だから、怖れる必要などない。

接近して来るヘイズと怪物。

ヘイズは優先的にエイレンが仕留めているが、怪物はそうもいかない。デストブラスターに装備を切り替えようかと思った瞬間。

ストーム3が突貫してくる。

そして、ズバズバとスパインドライバーとブラストホールスピアで怪物を仕留めていった。

「対空狙撃に集中しろ! 地上の雑魚は彼処の人斬りと俺たちで対処する!」

「わかりました」

「ああ、任せておけ! 死神が通るぞっ!」

ジャムカ大佐が、怪物の血に塗れたフェンサースーツで、更に大暴れする。これは、後の始末が大変だろうなと思う。

ライジンのチャージを開始。

チャージ中も、ずっと走る。

当たり前の話で、かなり目減りしたとは言え、敵の砲台は残っているのだ。足を止めたら、撃ち抜かれる。

プラズマ砲台は全て片付けたが、レーザー砲台がまだまだ残っている。

更に、怪物を呼び出す転送砲台もだ。

狙撃して、転送砲台を粉砕。

今のライジンの火力だったら、一撃で粉砕する事が十分に可能だ。

すぐに次の狙いが送られてくる。

大兄の指示は的確だ。荒木大尉も、その辺りは全て任せてしまっている。味方部隊の損耗も減ってくる。

大破する様子が目だったケブラーも、数が増えてきていて。次々と暴力的な火線を浴びせて、敵砲台を粉砕していた。

「バリアの外側を移動する砲台、消耗80%!」

「しかし、バリアの内側にある砲台は、より強大だとみて良いでしょう。 今のうちに補給と負傷者の後送を」

「分かっている!」

戦略情報部の少佐に、若干苛立って荒木大尉が応える。

荒木大尉の指示も、それぞれの部隊に飛んでいる。エイレン部隊は陣列を都度組み直して、破損が酷い味方やケブラー、負傷した歩兵を守っている。

現場において、極限まで経験を積んだ指揮官の動きだ。

だが、それは恐らくだが。

何度も何度も、この狂った世界を繰り返して。その結果、本人も知らない間に力が蓄積した。

その結果、なのだろう。

「浅利、さがります! ブレイザーのバッテリーを交換してきます!」

「よし、そうしてくれ。 残りのバリア発生装置と思われる砲台は幾つだ!」

「残り二つです!」

「それを破壊し次第、敵は更に強力な砲台を一斉に起動するとみて良い。 今のうちに準備を整える!」

頷くと、三城は更に指示された砲台を撃ち抜く。

大兄みたいな境地では無いが、こんな見えている範囲にある砲台なんて、外しっこない。確実に貫いて、爆散させる。

ついに怪物を発生させる転送装置は壊滅。残っていた怪物は、ストーム3と柿崎が全て始末して、一度戻ってくる。

ストーム3は、シールドの交換のために補給車に。

柿崎は、もう少し後方にある大型移動車へ。

多分フライトユニットがダメージを受けているから、修理をするためだろう。あいつは人斬りだが。

それとベストコンディションで常に戦う事を意識することは、まるで別物。

キノコで幻覚を見て暴れていたバーサーカーとは違うのだ。

冷静なのである。

だからこそ、余計に危険なのだが。

ケブラーの機銃がうなり、最外縁を飛んでいたレーザー砲台をあらかた蹴散らす。一度、荒木大尉が点呼を取らせ。負傷兵を下げた。そして、頷く。

三城は、そのままライジンで、シールド発生装置を粉砕していた。

シールドベアラーが作り出すシールド発生装置より遙かに強力なシールドが、一瞬赤くなり。

そして消滅する。

「シールド消失」

「更に内側にシールドがあります!」

「冷静に砲台を破壊しろ! 恐らくクラーケンの増援も来る! 油断するな!」

「う、うわああああっ!」

最前列に出ていたエイレンが一瞬で大破していた。

砲台から放たれるレーザーが、三城の知る以前戦ったマザーシップナンバーイレブンとは段違いに強化されている。

電磁装甲を貫通しかねない勢いだ。

「や、やばい! あんなの、喰らったら何も残らない!」

「山県少佐」

「おう!」

即座に、衛星砲第二射。

コマンドシップ中枢を軸に回転運動を続けている砲台を、まとめて衛星兵器から降り注いだ光が薙ぎ払う。

それで次々爆発四散するのだから、かなり脆い。

更に、冷静に見ると今の強化レーザーは、それほど数がある訳ではない様子だ。すぐに大兄が、狙う砲台を指示してくる。

ただし、それ以外の砲台もパルスレーザーを発射し、容赦のない攻撃を仕掛けてきている。

すぐに破壊し尽くさないと、危険極まりない。

「ぐっ!」

「シテイ少佐!」

「問題ありません! 戦闘を続行してください!」

「少しでも壁になって時間を稼ぐ! 即座にあのレーザーを黙らせろ!」

前衛にストーム3が躍り出る。同時に柿崎も前衛に飛び出すと、囮になって動き始める。

敵砲台の中には、転送装置も混じっているようだ。今度は、高機動型アンドロイドがわんさかわき始める。

最悪の組み合わせだが。

レーザーを放とうとした砲台を、ストーム2のブレイザー一斉射が迎撃。即座に爆発四散させる。

負けていられない。

チャージ中のレーザー砲台を、ライジンで撃ち抜く。

内側で高熱が反応したのか。

敵砲台が、粉々に消し飛んでいた。

「クラーケン部隊来ます! 対空戦闘の準備をしてください!」

「今はそれどころじゃあ……」

「ストームチーム、頼むぞ!」

再び戦車隊が前に出る。

壁になってボロボロに傷ついているが、怖れている様子はない。荒木大尉は、止めようとしてやめた。

誰かが、クラーケンのシールドは撃たなければならない。そして大兄のライサンダーZでは、間に合わないのだ。

クラーケンが三体いる。それはまだ残っている多数の攻撃用砲台を守るようにして飛んでくる。

高機動型アンドロイドが、数にものをいわせてストーム3と柿崎を押し込んでいる中。

戦車隊が、攻撃を受けるのをものともせず。一斉射開始。クラーケンも、ここまで無謀な反撃が来るとは思っていなかったのか。攻撃を中断して、一度シールドで防ぎに掛かる。

どうせ戦車隊は満身創痍。

すぐに耐えられなくなる。

そう思ったのだろう。

だが、戦車隊は大破し擱座しながらも、射撃を続行。

クラーケンが困惑する中、シールドがオーバーヒートする。

三城がライジンで。

大兄と小兄がライサンダーZとガリア砲で。

ストーム2がブレイザーの集中攻撃で。

それぞれクラーケンを仕留める。半狂乱になったヘイズが、ぼろぼろの戦車隊に襲いかかろうとするが。

一華のエイレンWカスタムが前に出ると、レーザーで片っ端から叩き落とす。相馬機も、それに続いていた。

「よし、充分だ。 さがってくれ」

「役に立てたか?」

「最高の活躍だった。 まさにヒーローだ」

そうか、と返事があるが、力はあまりない。

下がりはじめる戦車部隊。

戦線を突破したバリアス隊が代わりに来たのは、丁度その時だった。もう少し早く来てくれていれば。

今の戦車隊、被害甚大だったはずだ。ベテランの戦車兵を少なからず失った。

だが、味方を指揮しているのはあのジェロニモ少将だ。

手抜きがあったとは思えない。

それだけ、苛烈な抵抗を、敵がしていると言う事だ。無言で戦闘に戻る。たまに絡んでくる高機動型が鬱陶しいが。エイレン隊は高機動型の対応に回る。特に一華のエイレンWカスタムの活躍は凄まじく、明らかに意思がないアンドロイドがおののいて見えるかのようだった。

「高火力レーザー砲台、全て沈黙!」

「よし、次はパルスレーザーを狙え!」

「シテイ少佐、さがって応急処置を!」

「すまない、後は頼むぞ!」

地力でさがるシテイ少佐だが、かなり血だらけになっている。あれは、もうこの戦いでは戦闘復帰は無理だろう。

その分、此方で頑張るしかない。

パルスレーザーが、ひっきりなしに飛んでくる。

この様子だと、あの豪雨のようなレーザーを降らせて来る砲台も内側にいるとみて良いだろう。

それに、そいつを相手にしながら、主砲も潰さなければならない。

決して、楽な状況とは言い切れない。

「ドロップシップ多数飛来! 乗っているのは、クルールのようです!」

「囲むように来たか……」

着地するドロップシップ。

次々に降りてくるクルールだが、それを横殴りの射撃が次々に貫く。混乱するクルール。

「此方長距離ロケット砲部隊! 長時間の支援は出来ないが、可能な限り支援する!」

「ありがとう、助かる!」

大兄が、混乱している二枚シールド持ちのクルールの頭を貫く。

味方部隊も、敵に先んじて反撃を開始。三城には、続けて敵の砲台を落とすように大兄から指示が来る。

確かに、高機動型がボトボト落とされている今、出来るだけ急いで砲台を潰さないと味方が全滅しかねない。

確実に、一つずつ落とす。

ストーム4のモンスター型が、転送装置砲台を叩き落とすのを見る。

内心でよしと呟きながら、ライジンをチャージしつつ走る。

至近距離に、高機動型のバリスティックナイフが立て続けに突き刺さるが、エイレン部隊が応射。

迫ってきていた高機動型を、まとめて空中で薙ぎ払っていた。

ブレイザーが唸り、次々とクルールを打ち倒して行く。クルールは怖れる事もないように迫ってくるが、横殴りのミサイル攻撃がまた来て、動きが止まったた所をエイレンがまとめて狩り倒す。

乱戦の度合いで言うと、コロニストやコスモノーツの部隊が逐次投入されてきた前のコマンドシップ戦よりも酷い気がするが。

しかし、味方がそれ以上に強い。

荒木大尉も、やられそうには見えない。

だが、コマンドシップも黙っていない。更に凄まじい勢いで高機動型を出現させてくる。

転送装置砲台を、もう一つ破壊。だが、それでもまだまだ数が多い。前衛にいるエイレンは、集中攻撃を受け、さがらなければならない事態が来ている。

ここにネイカーでも呼ばれたら最悪だ。

とにかく、一刻も早く。

だが、焦るな。

能力の範囲内で、できる限りのベストを尽くせ。

そう言い聞かせながら、ライジンをぶっ放す。

また一つ。転送装置砲台が吹き飛ぶ。コマンドシップ中枢を軸に回転している砲台が、どんどん減っていく。

「内側の砲台は明らかに強力だ。 態勢を立て直し、シールド破壊装置を粉砕する準備をしてくれ」

「了解! プロテウス隊は!」

「今、かなり強力な敵部隊と交戦しているが、これを突破すればもう少しでコマンドシップの所に到達できる!」

ジェロニモ少将の言葉が心強い。

また、衛星兵器がぶっ放される。多数の高機動型が、射撃に巻き込まれて消し飛んでいた。

ストーム3や柿崎は。

巻き込まれるようなへまはしないはずだが。それでも、爆風を手で遮りながら、少し心配する。

大丈夫。

シグナルはロストしていない。

ただし、一度戻ってくる。ストーム3は、全員がスーツがボロボロ。柿崎も、またフライトユニットを変えに戻るようだ。

高機動型がかなり減っているとは言え、その間の前衛はエイレン隊がしなければならない。

一華機と相馬機が最前衛で大暴れするが。他のエイレン隊だって負けてはいない。一華が組んだCIWSをレーザーに組み込んでいるのだ。雨霰と飛んでくる高機動型のバリスティックナイフを叩き落とし、敵を切り刻む。

元々タフネスに欠ける高機動型は、ケブラーや戦車隊の攻撃でも情け容赦なく吹き飛ばされていく。

ライジンで狙撃。

最後の転送装置砲台を破壊。後はパルスレーザー。それも、残りは少ない。ストーム4のモンスター型の斉射で、一つが吹き飛ぶ。

「飛行型の怪物、多数接近中!」

「出番だ! 対応を任せろ!」

ケブラー隊が隊列を作る。

飛行型が来るが、ケブラーの出番だ。対空弾幕を展開して、片っ端から叩き落として行く。

昔は飛行型が来るとニクスでもひとたまりもなく破壊されていたが。今ではケブラーでもエイレンでも、こうやって対応できる。一瞬、任せる。そして、残りのパルスレーザーを叩き落とす。

負傷した兵を救援すべく、また戦場にキャリバンが突撃してくる。

更にデスバード型を、山県少尉が使ったようだ。

飛行型が動きを止め、苦しんでいる所をケブラーが更に追撃。叩き落として行く。よし、あと少し。

あと少しだ。

言い聞かせながら、砲台を叩き落とす。

シールド発生装置以外の砲台は、全て粉砕。

よし、これでいい。

飛行型の駆逐に向かう。その間に、味方の態勢を立て直して貰う。

「此方ジェロニモ少将! まもなくバトルフィールドに到着する!」

「……ジェロニモ少将が到着し次第、勝負を仕掛ける! 準備を!」

荒木大尉が声を張り上げる。

荒木大尉も煤だらけだが、それを気にしている様子はない。明日は筋肉痛だろうか。まあ、それはよく分からない。

大兄達に散々鍛えられたからか、筋肉痛になった記憶があんまりない。村上家に入ってからは、最初の頃はあったような気がするが。

或いは、その程度の痛みは。

痛みとして、認識出来ない体なのかも知れない。

味方の再編制を実施。

プライマーも、恐らくだがまだ部隊を送り込んでくるはずだ。しかし、プロテウスが来たら話は別。

しかも一戦場に三機。

前周のプロテウスよりも性能が上がっているのが三機だ。

絶対に勝てる。

プロテウスが見えてきた。

荒木大尉が、叫ぶ。

「よし、シールド発生装置に攻撃開始! 最後の一つは残して、クールダウン後に破壊する!」

「イエッサ!」

「撃て!」

シールド発生装置に、火線が集中する。

戦闘は、佳境に入っていた。

 

2、コマンドシップは再度落つ

 

「旗艦、苛烈な攻撃に晒されています……」

「風の民」長老は、臨時指揮所で話を聞いていた。

今まで座を置いていた旗艦は、今回の作戦の為に使い捨てる。だが、それでも気分が良い訳ではない。

以前は、「水の民」長老があれと運命を共にした。

それを気にしている兵士もたくさんいる。

だが、最終的に勝つためだ。

ずっと監獄にも等しい星に閉じ込められて、それで満足しろというのか。他の知的生命体とやっていけるなら、出してやる。

そういう話だが。

本当にそれができるのか。

「いにしえの民」の強い影響を受けてしまった今。それが本当に出来るか、とても不安である。

だから、勝つしかない。

勝てば、火星を母星とした太陽系で静かに暮らしていける。

それはきっと、フォリナ……「外」が用意する環境よりずっと良い筈だ。だから、そのために。

負ける訳にはいかないのだ。

「ストームチームの戦力消耗を常にチェックしろ。 最終決戦の時に、上回れるように、だ」

「し、しかし……」

「今回の捨て石は、無駄ではない。 絶対に、無駄にはしない」

その声を聞いて、部下はどこか諦めたように作業に戻る。

戦いは佳境。

「いにしえの民」がプロテウスと呼んでいる兵器が出て来た。旗艦は墜ちるだろう。だが、それまでに。

可能な限り。

敵の実働戦力の、現在の能力を。知っておかなければならなかった。

 

コマンドシップの、最後のシールド発生装置が粉砕されて。ついに最強の砲台群が姿を見せる。

同時に、一華は山県少佐に頼んでいた。

あの最後のシールドが壊れた瞬間。

コマンドシップ中枢に当てるようにして、衛星兵器をありったけ叩き込んでほしいと。

あの中枢を中心に回転している以上、多数の砲台をそれで屠ることが可能になるはずである。

とにかく、それで少しでも数を減らさないといけない。

総攻撃開始。

プロテウスも、硬X線ビーム砲を展開。

動き始めた、高火力砲台を次々に撃墜していく。流石プロテウス。だが、敵も黙ってはいなかった。

「クラーケンです! 数は十体以上!」

「敵コマンドシップ、主砲を展開しています!」

「くっ、まずいな」

準備の時間を与えたから、とぼやきたくはなるが。

恐らく真相は違う。

どうにも誘いこまれていた感が否めない。

勘では無く、あらゆる情報を総合しての結論だ。敵はコマンドシップとの戦闘で、可能な限りストームチームを消耗させようとしている。

それで何をしたいのか。

更に、あの時の無能でくの坊みたいなのを出してくるつもりか。

いや、リーダーはコマンドシップにそういった気配は感じないと言っていた。

つまり、いないということだ。

「主砲を最優先する。 集中攻撃を装って、まずは三つの構造体を叩く」

「了解」

リーダーの指示。

まあ、最優先はそれだろう。

一斉射撃開始。

主砲を支える三つの構造体が、強力なダメコンを行う。最初に記憶にある世界で、どうしてもマザーシップをどうにもできなかったのは、それが理由だ。だが、今は弱点を知っている。

構造体が、凄まじい火力を浴びて、瞬く間に崩落。

一つ、二つ。

レールガンを惜しんでいる暇はない。クラーケンが迫っているのだ。

三つ目。

粉砕完了。

大型のトラックが来る。頷くと、それに乗り換えるべく、すぐにPCを外して飛び出す。山県少佐が、すぐに今まで一華が乗っていたエイレンWカスタムに乗り込む。そして、トラックの荷台が開いて。

一華専用の、プロテウスが出現していた。

やはり少し他のプロテウスより足回りがずんぐりしている。一人乗りにするために、色々と機能に無理を生じさせているのだ。

乗り込んで、すぐに機能確認。

大丈夫、足回りはまだ多少問題があるが、火力は想定通り。これなら、存分にいける。

既にクラーケン部隊が迫っている。だが、時間差各個撃破のエジキにしてやる。

まずは、コマンドシップ主砲に対して、硬X線ビーム砲を叩き込む。構造体を失ったコマンドシップの主砲は、数秒間耐えたが、それで爆散した。

吹き飛びながら、弱点部分を晒す。

真下にある光。

あれがなんなのかは分からない。

「外」……フォリナとかいう超文明が、弱点として設定させた部分なのかも知れない。いずれにしても、潰す。

次は、敵の高火力砲だ。

凄まじい威力のレーザーが、プロテウスを直撃。更には、驟雨のようなレーザーが降り注いでくる。

だが、プロテウスだ。何でもない、とまではいかないが。一撃で粉々にされるほどもろくもない。

反撃。

硬X線ビーム砲と、ミサイルを叩き込んでやる。

次々と砲台が爆発四散していく。これで、もう歩兵部隊だけで対応できる筈だ。

最後はクラーケン。

既に、三機のプロテウスと戦闘を開始している。一緒に来た戦車隊が援護射撃をして、必死にクラーケンのシールドを潰しているが、間に合わない。十体のクラーケンは散開して攻撃しており、次々に味方のAFVが大破、もしくは破壊に追い込まれている。

クラーケンの群れに、横殴りにミサイルを叩き込む。跳ね返されてくるのは、爆発のエネルギーと運動エネルギーか。電磁装甲への負担は小さくないが、プロテウスだ。少しなら耐えられる。

そのまま射撃を続ける。硬X線ビーム砲が、シールドをオーバーヒートしたクラーケンを焼き尽くす。

味方のエイレンが、擱座しながらも収束レーザーを叩き込み、クラーケンを撃ち抜く。

次々に敵味方が倒れていく中、指揮官車両のプロテウスが、右腕を吹っ飛ばされるのが見えた。

指揮官車両だと、クラーケンも分かっていたのだろう。

だが、それでもジェロニモ少将は声を張り上げる。

「かまうな! 私は無事だ! 総攻撃を続けろ!」

「ヘイズ多数接近!」

「クラーケンを優先しろ! ヘイズは生き残っている対空部隊に任せろ!」

クラーケンの数が減る。

当然、相対的に攻撃が集中する。レールガンの弾頭が炸裂したクラーケンが、体に大穴を開けて即死。

反撃も凄まじい。

一華のプロテウスにも、硬X線ビーム砲が直撃。一瞬で電磁装甲を持って行かれる。だが、電磁装甲を即座に再起動。残りのバッテリーは少ないが、それでもやれるだけはやってやる。

三城のライジンが一体を屠る。

此方に攻撃が来たと言う事は。

おお。

コマンドシップが、火を噴きながら落ちている。コマンドシップの砲台を全て叩き落とし、内部に攻撃を叩き込んだ。そして、致命傷まで行ったのだ。

ヘイズが、大量にコマンドシップの内部から逃げ出してくる。

だが戦闘タイプではないのか、荒木大尉のブレイザーがちょっと擦っただけですぐに落ちていく。

追加で来たヘイズも、既にクラーケンが全滅していることもある。

落ちていくコマンドシップを背に、大量に迫ってくるが。

それでも、もはや態勢を立て直したコマンドシップ攻撃部隊の敵ではなかった。そのまま、まとめて薙ぎ払われていった。

「コマンドシップ、撃沈!」

戦略情報部の少佐が声を張り上げる。

大きな、大きな被害を出した。

何とかカメラを確認して、全員のシグナルを調べる。ストームチームは、幸い全員無事である。

だが、大きな被害が出た。

ジェロニモ少将が、助け出されながら半壊したプロテウスから出てくる。クラーケン十体を相手に、プロテウス四機と随伴で殴り合ったのだ。被害が一機中破だけで済んだのは、まだマシな方だろう。

「ジェロニモ少将!」

「私は良い! とにかく負傷者を救出! コマンドシップから、出来るだけ離れろ! 残敵の掃討も忘れるな!」

「各地の戦線で、プライマーが後退を開始! コマンドシップの撃沈を悟って、作戦を停止したものと思われます!」

「追撃の余裕はないな……」

リーダーが周囲を見回す。

全員ぼろぼろだ。

今回は、文字通りの死闘だった。

それでも、勝つ事は出来たし。恐らくは、前のコマンドシップ戦よりも、ずっと楽だっただろう。

多数の死傷者を出した。

コマンドシップ自体も改装されていたし、随伴が凶悪極まりなかったからだ。

それでも、勝利だ。

今は、嘆息しながら。プロテウスの定座に、一華は背を預けるしかなかった。

あまりいいクッションでは無いが。

それでも、助かったと思った。

 

2、それから

 

コマンドシップを撃墜して、各地で一旦プライマーは大規模攻勢を停止した。歴史的、記録的勝利だ。

弐分も、一度しかコマンドシップを落としたことがなかった。これで、二度目となる。

そして、出来れば最後にしたい。

色々聞いている。

一華の話は衝撃的だった。

あの梟のドローン、とんでもない代物だったのだなと思う。

とにかく今は、EDFの基幹基地に戻る。

ジャムカ大佐が、マスクを取って。ぼんやりと空を見上げているのが見えた。救えなかった兵士が多い。

だが、それでも。

それ以上に救った兵士が多い。

複雑な気分なのだろう。

ジャンヌ大佐は、疲れた寝ると言い残して、大型移動車の隅に。寝るスペースはあるので、交代で利用する。

コマンドシップが落ちて、プライマーは攻撃を停止したが。

かといっていなくなったわけではない。

衛星軌道上には、まだ八隻のマザーシップが健在であり。今は動きを止めているが、いつまた動き出してもおかしくない。

またマザーシップの周囲には大型船が多数浮遊しており。

ミサイルなどの攻撃から、マザーシップを守ろうとしていることは確実だった。

基地に到達。

真夜中だ。

兵士達が祝勝パーティーをしている。

流石に、それに混じる気にはならなかった。大兄が、皆に指示する。混ざりたいなら、好きにするようにと。

誰も、混ざる者はいなかった。

 

しっかり眠って、それで起きだす。

朝から調練をする。

流石に昨日はフルパワーで戦い過ぎた。あのコマンドシップの最終形態の砲台。一つでも残しておくと、とんでもない被害が出る。それを知っていたから、全力で破壊して回った。

結果として筋肉痛だ。

いつぶりだろう。

だが、まだ人間らしい痛みがあるのだなと思って、少しばかり苦笑してしまうのだった。

大兄と三城と一緒に調練をした後。

彼方此方で酒と吐瀉物の臭いがしている基地を見て、うんざりする。祝勝パーティーに加わった兵士は、相応に多かったのだろう。

だが、その一方で、キャリバンはもう走り回っている。

各地の戦線で、まだ負傷者の通報があるという事だ。

大兄が、心配そうに見ている弐分を見透かしたのか、言う。

「後は専門家に任せろ。 俺たちは怪物やプライマーを始末するだけだ」

「ああ、分かってる」

「それより大兄。 敵の動き、どう思う」

「俺たちの力は、もうピークにあると思う」

不意に、思ってもいなかった言葉が返ってくる。

そして大兄は、咳払いすると、分かりやすく言う。

「今回の戦闘で、敵はそれを見きったとみて良い。 コマンドシップを犠牲にしてまで、な」

「大兄は、今回の敵の攻撃は、全て罠だったというのか」

「恐らく、リングが来た時にでも、本気での決着を挑んでくるとみて良いだろうな。 コマンドシップを使い捨ててまで、此方の全力を測ってきた。 それはつまり、そういう事だ」

少し呆れた。

調練が終わったので、後は指示があるまで休憩で良いと言われた。だから、自室でゆっくりする事にする。

バイザーで、情報を調べられる。

コマンドシップを失っただけではない。プライマーは、全線域で合計三十体以上のクラーケンを失い。怪物、アンドロイド、いずれも記録的な被害を出したという。

一旦各地での戦線を後退させ。テレポーションシップで残存戦力を回収したらしいから、その被害の程が分かる。

とはいっても、まだ敵には余力があるはずだ。

大兄が言う所によると、今回の戦闘は、ストームチームの実力を見極めるための行動だったという。

だとすると、本命の戦力をまだ隠しているとみて良い。

それが機械兵器なのか、生物兵器なのかは分からない。

今回の戦いで、あのトゥラプターは出てこなかった。

大型船とともに爆発四散していなければ、必ず次の戦いには参戦してくるとみて良いだろう。

ただ、それも恐らくは三年後だ。

今の時点では、気にしなくてもいい。

味方の被害も確認する。

目を覆うばかりの被害だ。

だが、それでも。

今までの周回で、アーケルスに踏みにじられた時や。スキュラの群れに蹂躙された時に比べれば、全然。

戦闘が成立しているだけ、ずっとマシだと言える。

再建も可能だ。

それだけ、被害は大きくとも。味方は、しっかりやれていたということである。

ストームチームがいなくとも、クラーケンを倒せるのは大きい。

対クラーケン戦術は、今後更に洗練されていくだろう。いずれにしても、今回の勝ちは。敵を利するだけのものではなかった、ということだ。

嘆息して、横になって少し休む。

筋肉痛が出るほど激しく戦ったのは久しぶりだ。

少し寝るのも良いだろう。

それに、まだまだプライマーは誰の目が見ても分かる程に、余力を残している状態である。

まだ、「戦後」については。

考えなくても良いだろう。

一眠りして、疲れを取る。起きると、猛烈に腹が減っていた。そのまま食堂に行く。祝勝会で飲み食いした連中以外は、多分弐分と同じなのだろう。病院送りだった連中以外は、あらかた食堂に来ていた。

ジャムカ大佐の横が開いていたので。断って座る。

そういえば、弐分も中佐か。

もう、それほど階級に差は無かったな。

「遠近の使い分け、凄まじい働きだったな。 俺たちは最後まで、前衛で盾になり続けることしかできなかった」

「いえ、まだまだです」

「謙虚という奴か? 日本人というのはよく分からないな。 自分の働きに誇りを持てばいいものを」

別にまずくもないが、量がとにかく多い。

確か日本の軍だった「自衛隊」でも、食堂では大量の食事が出たと聞いている。

もうEDFに統合されてしまってなくなったが。

「コマンドシップを敵は使い捨てた様子だな。 逃げる気も見えない。 これは、また近いうちに戦闘があるだろう」

「恐らくですが、ストームチームが揃って戦う事はしばらくはないと思います」

「そうだと良いんだがな」

ステーキを食べ終えると、ジャムカ大佐は先に行く。

弐分もステーキを注文すると、量を優先しているそれを食べて。自室に戻った。あまり、元気そうでは無い兵士が目立つ。

それはそうだ。

総力戦の後だし。

戦友や恋人を失った兵士だって多いだろう。

目に入る範囲の味方は出来るだけ守った。

だが、出来たのはそれだけだ。

全員を守れる訳ではない。そして、その限界は、既に敵に見切られたと判断して良いだろう。

自室に戻る。

一華から無線が来ていた。

「休んでる所悪いッスけど、多分明日にはもう仕事が来るッスねこれは……」

「マザーシップが活動しているのか」

「バリバリに」

ちょっとうんざりだが。

それもまた、仕方がない。

まだ八隻残っているのだ。既に撃墜方法も確立出来たとはいえ、簡単に落とせるような代物でもない。

それに、敵の物量は底が知れない。

しかも敵は撤退して、兵力を温存する事を覚えた。

今後は、まだまだ厳しい戦いが続くと見て良かった。

翌朝まで適当に過ごし。

朝調練を終えた後、一旦ストームチームを解散する。ストーム2は日本に、ストーム3は北米に、ストーム4は欧州に戻る事になる。

敬礼して、一度別れる。

既にエイレンWカスタムは万全の状態に仕上げられていたが。

これは、またすぐに酷使されるのだろうなと思って。機械相手なのに、ちょっと気の毒になった。

大型輸送機が来たので、大型移動車ごと乗り込む。

途中で、大兄から話を聞く。

流石にストーム1のリーダーだけあって、先に話は行っているようだった。

「まずアフリカでタール中将の支援に向かう」

「アフリカですか?」

「ああ」

木曽少佐に頷く大兄。

木曽少佐は、ずっと決戦の間小物の相手をマルチロックミサイルでしていた。時々クルールなどにミサイルを降らせて動きを鈍らせていたが。

行動はとにかく地味で、だがだからこそ必要だったとも言える。

「既にマザーシップが地上近くまで降り、かなりの数の怪物とアンドロイドを降ろした様子だ。 軍が来なければ、更に数は増えるだろう。 各地で沈静化していた怪物も、動き始めている。 この様子だとまだまだマザーシップを落とさないといけないだろうな」

「だけれども、簡単に近付かせてくれるとは思えない」

「その通りだ」

三城の言葉に、大兄は頷く。

今後も、敵に近付き撃沈するには、相応の作戦がいるだろう。

大型船と多数のドローンに守られている以上、巡航ミサイルやテンペストでは分が悪い。航空機も接近は難しい。

かといって、衛星兵器では残念ながらマザーシップを落とすにはパワー不足だ。

そうなると、歩兵で接近して叩くしかない。

原始的なやり方だが。

それ以外に方法がないのである。

無言で現地に急ぐ。

アフリカで、タール中将と合流したのは夕方近く。前線近くまで、タール中将は出張っていて。

それで合流が遅れた。

タール中将は、ストーム1が来たと聞いて喜んだようだった。

「コマンドシップ戦での活躍は聞いている。 通常のマザーシップの何倍も強い敵だったそうだな」

「はい。 どうにか倒す事が出来ました」

「残念ながら今回アフリカに降りて来たマザーシップナンバースリーは、既に逃げてしまっている」

上空を、顎で指すタール中将。

不愉快そうだ。

だが、此方には、別に敵意を向けていない。

「かなりの数のゴミを不法投棄していった。 今日はスカウトが様子見だけをした。 今の時点では、陣地だけ構築して、それで侵攻するつもりはないらしい。 放置して、明日処理する」

「分かりました」

一度、基地まで戻る。

夜戦を仕掛けるリスクは意味がない。

そうタール中将は、判断したらしい。

別にそれでいいと思う。コマンドシップとの決戦で、相当な消耗をした後なのである。出来るだけプライマーとの消耗戦は避けるべきだ。

その判断は、間違っていない。

勿論、誰かが攻撃を受け、襲われるというのなら。それは対処しなければならないけれども。

今の時点でも。

プライマーは、結局夜には活動しない。

これも、一華が言っていた上位者によるしばりなのだろうか。

それについては、何とも言えなかった。

結局、戦うことなく、移動と現地の視察だけでまた一日が過ぎた。

そして、翌日が来た。

 

各地での広域戦闘が行われた対コマンドシップ戦だが、アフリカにまでは余波は及んでいないようだ。

既にアフリカの少なくとも基幹基地では戦力が補強され、現地に戦車隊とエイレン隊、更にはケブラーで向かう。

今回はプロテウスは出無いが。修理中らしい。

各地の戦線で酷使されているプロテウスだが。

それは此処も同じ、ということだ。

スカウトから連絡が入ってくる。

「敵は昨日と同規模。 怪物はヘイズ含めて、全種類が確認されています。 アンドロイドは擲弾兵と高機動型が中心のようです」

「分かった。 敵に発見されないように、定距離を保って偵察を続けろ」

「イエッサ!」

「よし、隊列はそのまま。 戦車隊を前衛に、敵を叩き潰す」

タール中将の指揮のまま、現地に到着。

戦車隊が砲撃の準備を整え。

そして戦闘が開始される。

一斉射撃で、相当数の怪物が吹き飛ぶが。それぞれがとんでもない巨体を誇る化け物どもである。

勿論キングやマザーモンスター、クイーンも敵には混じっている。

その程度か、と言わんばかりに、敵が此方に向かってくる。既にスカウトは退避ずみである。

「敵の到達の時間差を利用し、各個撃破する。 飛行型とヘイズが先に来る。 エイレンとケブラーで対応する。 戦車隊はそのまま砲撃を続行」

「来ました、飛行型、それにヘイズです!」

「ストーム1、クイーンを任せるぞ」

「イエッサ」

飛行型とヘイズが来る。

弐分は前衛だ。

クイーンは一体か。まあ、三城と一華のエイレンWカスタムで充分だろう。弐分は、前衛で暴れる事にする。

柿崎は対地戦力の方が得意だ。

故に、今は力を温存していて貰う。

高機動で敵に迫るのを、木曽が放ったミサイルが追い抜いていく。空中で炸裂するミサイル。

更に、敵陣のど真ん中で雷撃爆弾が炸裂。彼方此方で、デスバード型も焚かれているようである。

AFV殺しとして名高かった飛行型も、こう対策がされるとどうにもならない。次々とケブラーの弾幕に叩き落とされていく。

それだけではない。

後から来たヘイズも、概ね同じ運命を辿っていく。

ケブラーは実体弾を現在は使っているが、いずれエイレンと同じレーザーを搭載する方を主力にする構想があるらしい。

プライマーが、今後大規模な増援を送ってこないとは言い切れない。

先進科学研が冷や飯食いになる事もなく。

まだまだ、プロフェッサーの力は必要とされるとみて良いだろう。

「少しずつさがりながら戦闘を続行」

「イエッサ!」

戦車隊、エイレン隊が一糸乱れぬ統率で動く。

タール中将は、指揮官用のタイタンに乗っているから速度はどうしても出無いが、それでも圧倒的な存在感がある。

射撃を続ける内に、敵の地上戦力が見えてくる。

飛行型はクイーンも含め、殆ど片付いたが。まだヘイズが少数いる。そのヘイズはケブラーが相手をし。

戦車隊とエイレンは、地上戦力に火力を向け始める。

敵はマニュアル通り、赤いα型を前衛に迫ってくる。自動砲座がばらまかれている状態で、それでも怖れずに突貫してくる。

初期のブラッカーの戦車砲すら弾き返した装甲だが。

今ではある程度の対策が為されていて。赤いα型も、戦線に到達する前に大半がなぎ倒されていた。

だが、それが盾になり。

高機動型アンドロイドと、擲弾兵が迫ってくる。更にさがりながら、戦車隊が射撃して、迎撃。

やがて戦線が接触して、激しいもみ合いになる。

大兄が目立つ敵を全て片付けてくれている。

ならば、弐分も。

高機動で飛び回りながら、デクスターの散弾を浴びせて回る。

その度に爆ぜ飛ぶ高機動型。たまにいい位置から狙って来る奴がいるので、それはスパインドライバーで叩き潰す。

柿崎が突貫。

敵を斬り刻み始めた。

人斬りが行ったぞ。

そういう声がする。どうやら人斬り……「ヒトキリ」とそのまま言っているようだが。きちんと日本語に翻訳されているそれは。どうも柿崎のせいで、世界的に言葉として定着しはじめているらしい。

それが良い事なのかは分からないが。

柿崎が敵を斬る度、味方の被害が減る。

それもまた、事実だった。

レーザーの自動砲座が展開。本命の、最新鋭型だ。山県少佐がばらまいたそれは、アンドロイドと相性抜群。

機械の装甲を、次々輪切りにしていく。

爆発する擲弾兵が、彼方此方で見られる。大型の擲弾兵は、大兄が冷静に遠くから始末してしまう。

爆発する敵弾が、雑魚を大量に巻き込んで吹き飛ぶ。

そうしなければ、吹き飛ばされるのは此方の方だ。

宗教原理主義者のテロリストのような敵だが。

プライマーがどうやって戦争を覚えたかの経緯を考えると、案外そのまま真似しているのかも知れなかった。

「敵、更に来ます!」

「味方の損耗は」

「最小限ですが、このまま戦闘が続くと……」

「仕方がない。 少しずつさがりながら、敵をいなせ。 自動砲座が大量に撒かれている状態だ。 味方の生存率を最優先!」

タール中将の指揮に従って、味方が更にさがる。

戦線を押し込まれているように見えるが、味方は被害軽微、敵は違う。

激しい攻撃で敵は次々に倒されているのに対し。

味方は被害を抑えながら、堅実にやれている。

今までのどの周回よりも戦況が良い。

まだ落ちた大陸は一つも出ていない。

熟練兵も、大勢生きている。

それが、今だ。

 

夕方近くに、戦線の整理が完了。怪物の群れはあらかた片付いて、それで一度引き上げる事となった。

基幹基地に戻ると。兵士達を先に休ませ、タール中将は執務室に。大兄は、別に呼ばれる事はなかった。ただ、敬礼して別れただけである。

「ストーム1の戦いは何度か見たが、もう人間じゃねえな。 サイボーグだって噂も嘘じゃないんじゃないか」

「ありうるな。 兎に角狙撃の精度があり得なさすぎる」

「おっかねえ……」

「コマンドシップが落ちたのは助かったが、プライマーはまだまだ健在だ。 あまりそういうことはいうな」

聞こえている。全部。

陰口は最近特に増えてきている。

それが、未来を暗示しているようにも思えて、弐分には気分が悪い。

フォローを入れる兵士もいるが。

それは、現時点でストーム隊がいないと困るから、である。

誰もが怖れている。

そして、怖いから悪口を言って良いと言う理屈を持っている人間は相当数いる。悪口ですめばいい。

相手が怖ければ迫害しても良い。

殺しても良い。

それが普通の人間の理屈だ。

馬鹿馬鹿しい事この上ない。

こんな生物守る意味があるのかと、疑問になって来たと三城がぼやいているのを聞いて。たしなめた弐分だが。

だんだん三城の気持ちになってきていた。

自室に戻る。

勿論、理解者だっている。

だが。理解者以外の方が大半だというのが事実だ。

それを考えると、確かにこの世界を離れる方法について、考えるべきなのかもしれない。

人間は助けて貰ったら、恩に報いるなんて殊勝な生物ではない。

多数の英雄譚がそうであるように。

英雄は、必要なくなったら消される。

それが、人間社会の真理なのだから。

 

3、苦悩

 

ジャムカは北米の基地で、連絡を受ける。北米では現在、誰を中将に据えるかで色々と揉めているらしい。

ジェロニモ少将でいいだろうにと思うのだが。

ジェロニモ少将には、悪名高い北米の軍産複合体のバックアップがない。それに、軍産複合体は、今色々スキャンダルが噴出して。金の価値が暴落している今、肩身が狭い状態だ。

混乱している北米の軍事事情だが。

他よりはまだマシと言える。

いずれにしても、会議に出るようにと言われたので。副官のマゼラン少佐と一緒に出る。ばかばかしい会議だ。

これだったら、どれだけ戦場にいた方がマシか。

会議は基本時間通りに進められる。

これだけについては、日本式よりずっといいと村上壱野が言っていたか。日本の企業式会議は、基本的に絶対に終了時間を守らないことで悪名高いそうだ。

まあ企業のクソッぷりは北米も同じだ。

お気持ちでギャアギャア騒ぐ阿呆を相手に、みんなうんざりしている。

結局の所、資本主義も民主主義もまだまだ未完成な代物で。

特に資本主義は、既得権益層を守るためのものでしかないのかも知れなかった。

北米の現実である。

会議は時間通りに終わったが。

結論としては何も決まらなかった。

最後に、リー元帥が大きく嘆息していたのが印象に残る。

とてもコマンドシップに勝った後だとは思えない。

「本当に、我々はコマンドシップを倒したのでしょうか。 何か幻覚を見せられていると言う事はないでしょうか」

「心配するな。 コマンドシップを倒した事も、このくそったれな会議が現実である事も、俺が保証する」

「そうですか……」

肩を落とすマゼラン少佐。

コマンドシップを落としたら。何もかもが上手く行く。

そういう風に考えていたのだとしたら。このジャムカの右腕も、案外ロマンチストなのかも知れない。

ジャムカは何となく分かっていた。

コマンドシップは、どうも威圧感がない。

村上壱野がそう言っていたのは事実だった。

確かに、最高の獲物ではあったが。なんというかひと味足りない感触だったのだ。

あれは、恐らくプライマーの全力ではなかった。

そして、だからこそ多数の味方が生き残り。

余裕があるから、勝ったと既に思っているバカ共が騒ぎ始めている。うんざりするような話だが。

全て現実である。

無言で、ストーム3の皆の所に戻る。

現時点では、五名を定員に。残る精鋭は、複数のオーガチームに分けて編成している状態だが。

今でも、皆がストーム3。グリムリーパーだとジャムカは思っているし。そう本人達にも告げている。

だから黒のスーツに髑髏の盾というトレードマークから、オーガチームになって換わっても。

それぞれの兵士は、誇り高くある。

負傷者や死者が出た場合は、交代もさせる。

だが、間違ってもそれを望むなと、釘も刺している。

何度も唱和させる。

仲間のために死ね。

次の戦場で死ね。

それが、俺たちの誇りだと。

ジャムカはずっとそれを守ってきたし。部下達も、それを見てきたと信じている。だから、きれい事だという奴は、幸い今まで見ていなかった。

「すぐに戦場に出る」

「分かりました。 準備は出来ています」

「よし」

大型移動車は準備してある。そういえば、ストーム1の大型移動車。あれの運転手は、良い腕だったな。

そう、ジャムカは大型移動車に揺られながら。思い出していた。

 

北米の各地では、コマンドシップ戦の残り火が彼方此方で燻っていた。小さな戦線が多数あって、全てを叩いていられない。

だから、部隊を送れない場所には、ストーム3が派遣される。

敵の数は100ちょっとか。

まあこれなら、撃破は出来るだろう。

頷くと、全員で即座に仕掛ける。敵は雑多な怪物。移動中だったという事を考えると、兵力再編のために後退していたのかも知れない。

「一匹も残すな! 殲滅しろ!」

「イエッサ!」

見る間に迫ってくる怪物。

α型を、ブラストホールスピアで貫く。

キル1。叫んで、次に。

これは、荒木大尉どののやり方を取り入れた。グッドキル、とかキル1とか叫ぶ事で、戦況が分かりやすく。

なおかつ、味方に激励を飛ばせる。

荒木大尉どのの考え方には、特に謙譲の心には分からない事が多すぎる。

昔は、武士道というのも理解不能な考えだったらしく。日本の事を紹介するときに、滑稽な日本像として紹介されたようだが。

武士道は話を聞いている内に理解出来た。

しかし、ああいう謙譲の心というのは、まだ残念ながらジャムカには理解出来ていない。だが、理解出来ないから嗤うというのはあまりにも狭量で情けない事でもあると思う。

だから、今後はどうにかして理解したい。

見る間に敵を叩き潰していく。

ほどなく、敵が半減。更に四半減して。

最後の敵をブラストホールスピアで貫くと。周囲は静かになっていた。

「負傷者は」

「おりません」

「よし、次を片付ける」

無線を入れる。

百体ほどの怪物を始末した事を告げると、驚きの声が帰って来る。

「ひゃ、百体をですか!?」

「ストーム1はもっと凄まじいぞ」

「そ、そうですね。 次の作戦ポイントを指示します」

鼻をならす。

なんだか、ジャムカまで怖れられ始めていないだろうか、これは。

だとしたら、北米のEDFも内部が腐り始めていたのだろう。カスターのようなド低脳が居座るわけだ。

とはいっても、そもそも北米の大統領だって、最初に北米に着いた者達の子孫が選ばれるというのが暗黙の了解だったし。

その背後にいる軍産複合体の外道共の利権調整をするのが大統領の仕事だというのも、誰もが知っていることだ。

そう考えてみると、民主主義の牙城という言葉の、なんと脆く儚いことか。

貴族制と何も違わないではないか。

次の作戦指示が来る。

苦戦している味方の支援要請だ。少し離れた所で、味方部隊が少し多めの怪物に襲われて、必死に逃げている。

それを救援してほしい、と言う事だった。

すぐに現地に向かう。

タンクデサンドして、必死に逃げている兵士達が見えた。追ってきているのは、多数のβ型か。

「面倒なのがいますね」

「β型は高い浸透力と機動力を持つ。 背後を絶対にとられないように各自気を付けろ」

「イエッサ!」

勿論、全員知っている事だが。

敢えて注意喚起することで、もう一度危険性を身に染みさせる。そうすることで、事故を減らす。

基本中の基本だ。

そのまま突貫、β型の群れに突っ込む。

ブラストホールスピアで敵を蹴散らしながら。撤退中の部隊にバイザーで連絡を入れる。

「ストーム3、現着!」

「おお、英雄部隊だ!」

「英雄かはどうでもいい。 態勢を立て直して、戦う準備をしろ。 俺たちが壁になっている間に、戦闘態勢を取れ」

「わ、分かりました!」

ボロボロの戦車隊が隊列を整える。

同時に散開。

戦車砲が一斉にぶっ放され、もともと耐久力に問題があるβ型をまとめて吹き飛ばしていた。

かなり数が減ったが、それでも後続が来る。あれは、キングか。

大型の怪物はもう珍しくもないが、それでこの味方部隊は逃げていたのか。

「き、キングだ!」

「うろたえるな。 そのまま戦闘を続行。 キングは俺たちで始末する」

「しかし、たった五人で!」

「ストーム1なら、一人であんなのは片付ける!」

そう叫んで、対抗意識がある事に気付いて苦笑する。

バカみたいな対抗意識はなくなったと思ったが。まだまだというわけだ。

キングは幸い、変異種ではないようだ。

変異種だと一回り強いから、これは助かる。とにかく、高機動で接近して、ブラストホールスピアを叩き込む。

キングが、大量の糸を放ってくるが。遅い遅い。とまって見える。

そのまま回避して、次々に近距離攻撃を叩き込む。キングも装甲は大した事がない。やがて。穴だらけになった巨怪は、地面に臥した。

ただし、味方も損害が小さくない。

β型の群れとの戦闘は、どうしてもリスクが大きいのだ。

助かったと礼を言う部隊に敬礼し。

そのまま一度基地に戻る。

二名、負傷者が出ていた。負傷者は軍病院に。

「味方を守った。 それを誇りに思え。 死ぬのは次の戦いにしろ」

「イエッサ」

負傷して軍病院に行く事になり、悔しそうにする兵士に、そう告げると。

補充の兵士二人と合流。オーガチームも各地で激しい戦闘を続けている部隊である。当然、腕は鈍っていない。

再び、戦場に出る。

何度でも、戦う。

プライマーが、この星からいなくなるまで。

 

数日、激しい戦いを続けて、基地と戦場を行き来する。ジャムカは疲れるとは思わない。ただ。敵はコマンドシップを失ってもまだまだ戦意が旺盛だなとは感じる。

あれがコマンドシップだったのは確実だ。

他のマザーシップとは、明らかに格が違った。変形能力に加え、多段のシールド。それに、あれだけの大規模な防御陣。

だが、その割りにはおかしいとも感じたのも事実だ。

最高の獲物だったが。

やはり、少し味が足りない気がする。

迫る赤いα型を、ブラストホールスピアで串刺しに。倒れても倒れてもやってくる有様は、まるでゾンビだ。

だが、それもまたいい。

ゾンビ映画はだいたいバッドエンドだが。

此処にストームチームがいる限り、そうはさせない。

赤いα型の陣列を崩すと、味方の火力投射が高い効果を示すようになる。これくらいでいいか。

そう判断して、味方と共にさがる。

後は、味方がどうにかする。

赤いα型の壁に穴が開き、それが塞がる前に味方の火力投射が敵陣を崩す。やがて敵は緩やかに崩壊し、撤退を開始していった。

味方の損害が大きいので、追撃の余裕は無い。

すぐに、次の戦場を指定。ストーム3のオペレーターは呆れていた。

「貴方は疲れると言うことがないんですか?」

「ストーム1の村上壱野程じゃあない。 あれは地球人類史上で最強の男だ。 間違いなくな」

「は、はあ……。 確かに桁外れの強さである事は確かですが」

「次に行く。 奴ほど活躍出来ないとしても、それでも俺たちが出来る事は確実にこなしていく」

すぐに次の戦場へ。

そうして、一月もした頃には、随分と敵の死骸を積み重ねていた。

死神だと自分を自重していた。

死神というのは、相手を殺す神ではない。

基本的に、命運が尽きた相手を、あの世に迎えに来る神だ。

そういう話を、ジャムカも聞いた。神話にはあまり詳しくないから、そういう話は知らなかった。

そういう意味では、確かにジャムカは死神ではなかったかも知れない。

いずれにしても、意味はともかくとしてだ。

味方を出来るだけ守る存在になりたいとは、ずっと思っていた。だから部下達にも、そう言っていた。

グリムリーパー(死神)という部隊名がなくなった今。

むしろ、良い機会なのかも知れない。

そろそろ、過去に囚われた自分から、離れるべきではないのか。

しかし、まだ酒から手を離せない。

時々、怖いのだ。

だから、ひたすら戦場を駆ける。そして、生きているかどうかを確認する。あまり健康的とは言えない。

また、戦場に出る。

北米の戦線は落ち着いて来たが、それでも各地で苦戦している部隊はいる。その度に、救援に行く。

恐らく、次にストームチームが集合するときは、マザーシップの撃墜の好機がある時だろうな。

そうは思っている。

その時、あの村上壱野は、更に強くなっているのだろうか。

そればかりは、ちょっとジャムカにも分からなかった。

 

基地に戻ってくる。

ぼろぼろになった部隊と一緒にだ。死神部隊。そう呼ばれてきた。だから、別に畏怖の視線には慣れている。

「助かりました。 ありがとうございます」

「気にするな。 これが俺たちの仕事だ」

救援した部隊の長と敬礼をかわし、休憩に。

自室に戻る。将官への出世の話が出て来ているが、どうもかなり揉めているらしい。

荒木大尉どのを少将にするかどうかで、相当に議論が出ているようなのだ。

コマンドシップを撃墜した英雄チームのリーダーだ。

いっそ村上壱野と一緒に中将くらいにしてやれとジャムカは思うのだが。多分、上層部の連中は怖くてたまらないのだろう。既得権益層の権化みたいな奴らだ。はっきりいって反吐が出る。あれだけの活躍をした英雄に報いなくて、一体誰に報いるというのか。

まあ歴史上繰り返されてきた事だし、どうでもいいことだな。そう思って酒を探し、ウィスキーがないことに気づく。舌打ちして、他の酒を探すが。

チューハイがあった。

安酒だが、酔うにはいい。適当に飲み干す。強烈な酔いが回ってきて、多少心が楽になった。

バイザーを使って、ニュースを見る。

幾つかニュースが出ていた。

村上班、いやストーム1の活躍は相変わらず凄まじい。アフリカで大活躍をしていて、敵の大規模な部隊を次々に粉砕している様子だ。

ストーム2は日本で戦闘中。

かなりの活躍だ。ブレイザーを渡されている部隊は珍しくなくなりつつあるのに。それでも活躍出来ると言う事は、それだけ腕が良いという事である。

ストーム3は欧州。

欧州戦線は、ジョン中将が指揮を執るようになってから、戦線がとても安定している。

その戦線を更に安定するべく、比較的危険な戦線を担当している様子だ。まあ、あのお嬢さん方ならそれが良いだろう。

ジャムカは。

北米での活躍が、大々的に表示されていた。

もはや死神部隊では無い。我等の守護神だ。

そういう評価があって、困惑した。

守護神、か。

誰も守れていない。守るようにと自分と部下に言い聞かせてきたが、守れたことなど、あっただろうか。

村上壱野と出会ってからは、奴の盾になるのが精一杯。勿論活躍はして来た自負はあるが、あれはレベルが違い過ぎる。

だが、守護神。

もしも死神が的外れなものだったとしたら。

それを目指すのも、良いかも知れない。

少しだけ、気分が上向いてきた。嘆息した後、からからと笑う。笑ったのは、いつぶりだろう。

ずっと、そんな機会は。

紛争で、仲間がみんな死んでから。

なかった気がした。

 

もう、部隊名は既に変わっている。

ストーム3だ。

ガーディアンとか、ガーディアンエンジェルとか、そういう呼び名は間違ってもガラじゃあない。

だから、ストーム3でいい。

翌日も、ジャムカは各地を転戦。ウィスキーを発注しておいたが、届くのはいつになるのやら。

酒豪とか言う噂が流れているが、実際には違う。

ただ、酒に逃避しているだけだ。

それも、軍医に時々飲み過ぎるなと釘を刺されている。

酔うためだけに飲んでいるのだから、単に肝臓が弱いのだとみて良い。それはつまるところ、酒に強く何てないし。酒豪でもなんでもない、ということだ。

敵の大軍に、脇目もふらずに突っ込む。

他の部隊が尻込みしている。

それは却って被害を増やす。

だから、こうやって手本を示す。古い時代は、一部の騎士が似たような事をしていたらしい。

勿論ジャムカは。

守護神というガラでもないし。

騎士というガラでもない。

だが、それでも、真似事は出来る。

誰かを守るために死ね。次の戦いで死ね。そういって、部下達にも考え方を叩き込み続けた。

その結果、戦場で恥ずかしい真似をする部下はいなくなった。

ブラストホールスピアで、怪物を貫く。

スパインドライバーというあの鈍器も何回か使って見たのだが。どうしてもこっちの方が肌に合う。

射程を既に完璧に体が覚えているし。

使う時の挙動だって、体に染みついている。

もう、体の一部だ。

高機動で戦場を駆け回りながら、怪物を片っ端から貫く。大物が来たぞ。叫んで、部下を集め。

マザーモンスターに突貫。

怪物もかなり集まってくるが、それらは全て鎧柚一触に蹴散らしていく。

マザーモンスターも、こんないきたビルみたいな化け物、昔だったらどう倒したものかと困り果てたが。

戦術の確率と装備の強化で、倒せない相手ではなくなった。

主に下が弱点だ。

足下に潜り込んで、ひたすらに攻撃を浴びせろ。

マザーモンスターとの戦いで一番気をつけなければならないのは随伴歩兵だ。特に金のα型は絶対に目を離すな。

部下に言い聞かせるが。

これは自分に対して言い聞かせている言葉でもある。

凄まじい連打を浴びせて、マザーモンスターを撃ち倒す。不意を突こうとしていた金のα型も、全て駆逐した。

戦場全域の流れが変わっている。

彼方此方でEDFの叫び声が上がり。戦車隊が列を並べて前進を開始。一糸乱れぬ斉射を浴びた怪物の群れが消し飛ぶ。

この辺りの敵戦線を駆逐するのには、相当な被害を覚悟しなければならないという話も出ていたのに。

敵は、脆くも敗走を開始していた。

「なんだ、手応えがない……」

「戦略的行動を敵は取っているだけだ。 敵には余力があり、それを温存するために撤退している。 下手に深追いすると大けがするぞ」

「はっ、隊長!」

「くれぐれも敵に油断だけはするな。 俺たちは末期騎兵と同じだ。 破壊力は高いが、その分脆くもある。 油断した奴から死ぬぞ。 この戦場で死ぬことは許さない」

厳しく言い聞かせると、味方の動きを見ながら追撃し、敵を削れるだけ削る。

味方の指揮官に、何度か深追いを避けるように言い聞かせ。三回目で、やっと動きが止まった。

敵はかなり強固な陣形を再構築して、テレポーションシップを使って撤退を開始している。

迂闊に突っ込めば、猛反撃を受けて、味方が半壊してもおかしくなかった。

一度、距離を取る。

バイザーに無線が入っていた。

「ありがとうございます。 ただのでかい怪物の群れなのに、いつのまにかあんなに強力な防御陣を組むなんて……」

「相手を侮るな。 エイリアンに使役されていることを忘れると、奇襲だって受けるぞ」

「はっ!」

「これ以上の攻撃は厳しいだろう。 行かせろ。 充分に敵を削り取り、ここの戦線は破綻させた。 それで充分だ」

前線で指揮を執っていた中佐には、そうやって言い聞かせた。

問題は、その後だ。

ここの指揮を執っている少将は、面倒な奴で。まあカスターと関係があった輩だ。

後から出てきた少将が、案の定休憩に入っていたジャムカに噛みついて来る。

「貴方が英雄だと言う事は知っているが、どうして敵をむざむざと逃がしたのか!」

「敵の陣形を見ていなかったのですか、少将殿。 下手に攻撃をすれば、猛反撃を受けて、味方の損害は五倍では済まなかったでしょう」

「そんなものはやってみないと分からない!」

「だったら貴方が最前線に立てば良い。 フェンサースーツは日々改善が進んでいるし、貴方も着られるはずだ。 俺は大佐だが最前線に出ている。 貴方は口では無く、体を動かすべきでしょうな」

周囲の視線が、敵意に満ちているのを感じて。

その「クーラーの効いた部屋で指揮をしている」タイプの少将は、うっと呻いた。此処には誰も味方がいない。

いつも取り巻きを連れて、偉そうにふんぞり返り。権力闘争だけをして現場を知らない輩には、この空気は苦しいだろう。

悔しそうに視線を背けると、何かもごもごと口を動かして。

それで去って行く。

わっと、兵士達が声を上げた。

「よく追い払ってくれました、ストーム3!」

「クーラーの効いた部屋で適当な指示を出しているだけなのに、手柄を立てたつもりでいる阿呆が、とっとと帰れ!」

「また俺たちを守ってくれた!」

「英雄だ!」

そうか、そう言ってくれると嬉しいが。

村上壱野に、それをもっと言って欲しい。

程なくして、リー元帥からバイザーに連絡が来る。多分、あの少将が泣きついたのだろう。

ただリー元帥も、あまりあの少将には優しくなかったようだが。

「現場を知らないおろかな将帥に、きちんと諭してくれて助かる。 私の方からも、しっかり言い聞かせておく」

「いえ……」

「既に守護神と呼ばれ始めているそうだな、大佐。 相応しい呼び名だと思う。 ストーム3という呼び名から、今からでも変えて見るか?」

「流石に勘弁してください」

はははと、リー元帥は笑った。

だが、ジャムカは笑えなかった。

今でも酒を手放せない。

そういう事なのだ。

「今日の活躍も見事だった。 敵はコマンドシップを失い、明らかに各地での動きが鈍り始めている。 後何年か戦争は続くかも知れないが、それでも各地での戦乱は少しずつ、確実に収まっていくはずだ。 決戦があるかも知れないが……それまでは確実に生きてほしい」

「イエッサ」

「それでは引き上げてくれ。 君の活躍に報いられないのは悔しいが、此方でも出来るだけ、無能な既得権益層と結びついた将校は排除をしていくつもりだ。 さっきの愚か者のような、な」

そうか。

リー元帥はそう言ってくれるか。

だが、暗殺されないように気を付けてほしい。

誰か、ストームチーム辺りから護衛をつけたいくらいだが。そうも行かないところが悔しい。

基地に戻る。

基地に戻った頃には狂騒は収まって。むしろ怖くなってきた兵士も多いのだろう。視線が、帰る途中で換わっていくのに、ジャムカは気づいていたが。もうどうでもいい。

自室に戻ると、酒を入れる。

ウィスキーはまだ来ないから、安酒を入れるだけだ。

酔いながら、思う。

一応、良い流れは来ている。

だが、プライマーを完全に追い払えば、話は変わってくるはずだ。あの少将みたいなのが幅を利かせるようになって、英雄の活躍は全部嘘だとか、プロパガンダだとか、言い出すだろう。

あっと言う間に英雄の座は追われる。

それは、分かっていた。

不意にバイザーに無線が入る。

荒木大尉どのだった。

「どうした、大尉どの。 マザーシップを撃墜する作戦か何かか?」

「また酒を入れているのか、ジャムカ大佐」

「ふっ。 そうしないと指先の震えが止まらなくてな」

「強がらなくても良い。 それよりも、重要な話がある。 この回線は秘匿回線で、他の誰にも聞かれない」

そうか、と返しながら、酒を入れる。

何となく分かる。終戦後についての話だろう。

だが、予想を超える内容だった。

対プライマー戦争の真相。それを聞かされて、ジャムカは思わず絶句していた。

そんな理由で。

この世界全てを巻き込む戦争が起きていたというのか。

だとすればあの阿呆ども。どうせ既得権益層と結びついた連中が、トリガーを引いたに決まっている。

全部クーデターか何かで駆除するべきではないのだろうか。

「他言無用に頼むぞ。 この話は、あまりにも世界に公表するには衝撃的だからな」

「ああ。 ……俺に話してしまって良かったのか?」

「ジャムカ大佐、貴方と。 後はジャンヌ大佐には話しておくつもりだ。 後はストーム1が村上班だった頃からの相棒役だったストーム2、俺の部下達にもな。 それ以外の人間は、これを知らない方が良い」

「その様子だと、ストーム1は知っていたのか」

ずっと昔から。

ストーム1は、繰り返し繰り返し、世界のために戦っていた様子だと。荒木大尉どのはいう。

溜息が漏れた。

そこまでして戦ってくれている人間に対して、何を報いてやれている。

それどころか、どうせ人類は。

この戦争が終わったら、村上壱野を排斥するに決まっている。ジャムカですら未来の処遇は怪しいのである。

「分かった。 戦後にまだ村上壱野達が人間でいられるようだったら。 俺たちが、どうにか守る事を考えよう」

「話が早くて助かる」

「何、俺もあそこまでではないが、紛争で似たような経験をしている。 直接軍事裁判には掛けられなかったが、散々心ない言葉を浴びせられたものさ」

無線を切る。

溜息が出た。

また酒量が増えそうだな。

そう、ジャムカは思った。

 

4、備え

 

プロフェッサー林は、レポートを作成。戦略情報部に提出していた。

今回のコマンドシップによる敵の攻撃が、今までの作戦に比べて極めて拙いこと。何かしらの切り札を用意している可能性が高い事。

それを迎撃するために、まとまった戦力がいつでも動ける態勢を作る必要があること。

ただし、すぐにその切り札が出てくる可能性は、状況から見て低いこと。

それらをまとめ、分析したものだ。

あまり長い時間を掛けず、レポートに返事が来る。

戦略情報部では、既に参謀が殆ど動きを見せていない。

何があったのか、よく分からないが。

いずれにしても、既に戦略情報部の権限は少佐が握っている。そう見て良さそうだった。

「レポートを拝見しました。 コマンドシップを超える最終兵器を敵が持っている可能性が高い、ですか」

「そうなる。 もしもコマンドシップを失って敵に勝ち目がなくなったのだとすれば、アプローチを変えて来るはずだ。 だが、敵は相変わらず三割ほど減った兵力で、それでも各地で激しい抵抗をしている。 連日新しい戦線を構築し、撃退されたら別の場所に戦線を構築する。 これは負けている側の戦いでは無い」

「一利あります。 敵にはまだ隠し札がある可能性が高いと言う分析は、戦略情報部でもしていました」

そうか、それは良かった。

前周では、プロテウス部隊を揃えるのに、本当にかなり無理をしたのだ。

今回は、恐らくだが。

それほど無理をせずに、リングとその護衛部隊。

或いは、リングを潰した後も、更なる兵器をプライマーが繰り出してくる可能性もあるだろうが。

それに対策して、部隊を用意できる可能性が高い。

「プロテウスの量産が進んでいる事で、少しずつ作成に掛かるコストが減り始めています」

「うむ」

「二年後……いや二年半後には、各地でプライマーを圧倒する態勢を作る事が出来ると考えます。 敵もそれを理解していないとは思えません。 主任の言葉は正しいとみて良いでしょう」

準備を開始してくれるという。

戦略情報部の支援があるのは助かる。

前は、指定した戦力を戦略情報部がわずかにけちった。

結果五十隻の大型船が、リングを通ってしまった。それだけでも、歴史がかなり変えられてしまったのだ。

今回は、同じ轍は踏まない。

ただの一隻だって、大型船はリングを通さない。

「ただ、その作戦を実施するには、もう数隻はマザーシップを撃破しないと厳しいと思われます」

「分かっている。 それはストームチームと相談してほしい」

「……此方でも、作戦を進めます。 勝利のために」

「頼む」

通信を切ると、大きく嘆息した。

妻は、プロテウスの事を喜んでいない。

恐ろしい兵器だと、いつも言っている。

妻が言う通りだ。

今はプライマーとの戦いで使われているプロテウスだが。EDFの一部が内乱でも起こしたら。

あれが人類に向けられるのだ。

硬X線ビーム砲を装備したプロテウスどうしの戦い。

考えるのも恐ろしい程だ。

そして、「外」。フォリナの言葉を聞く限り。人類はプライマーに最悪の影響を与えてしまった種族だ。

今後の未来はどうなるか分からない、なんて無責任な言葉は言えない。

絶対に、プライマーがいなくなったあと。

ネイカーやドローン、アンドロイドなどのキラーロボットを使おうとするテロリストは出てくるし。

それどころか、国家レベルでそれをやろうとしてくるだろう。

世界政府が瓦解でもしたら。

それこそ、プロテウスを装備した国どうしが大規模戦争をする可能性もあり。そうなったら、今度は人類がマザーシップを駆って、各地を砲撃する可能性もある。

それだけじゃあない。

太陽系に無秩序に進出して、資源を漁り尽くした挙げ句。

プライマーのように、「外」に。

宇宙そのものと言っても良い超絶文明に、身の程知らずの喧嘩を売る可能性だってある。

それが、不当な支配に対する抵抗だったらまだ大義がある。

だが、人類がやらかすのは。

過去の歴史がそうであったように。

侵略とエゴの押しつけだ。

人類は対話でものごとを解決したためしなんてない。

基本的に利害の調整でものごとを解決してきたのだ。

今回も、それをやろうとする。

相手を見極める事が出来ずに。

プライマーに対して、そうしたように。

だから、備えておく必要がある。

最悪の場合、あらゆる技術を封印する必要さえあるかも知れない。

どんな風に手を汚すかも。考えなければならない時が近付いている。

少なくとも。

あのストームチームに。

手を汚させるわけには行かなかった。

 

(続)