血塗られた真相

 

序、前哨戦

 

起きだすのと、ほぼ同時だった。

バイザーに無線が入る。戦略情報部の、少佐からである。

「村上壱野大佐。 行動を開始したのを確認して、無線を入れました」

「監視でもしているのか?」

「バイザーの起動については」

「……分かった。 それで?」

少佐の事は好きじゃあない。

どの周回でも、最後まで好きになれなかった。この周回でも、恐らくそうだろう。というか、壱野は戦略情報部そのものが好きでは無い可能性が高そうだ。

まあそれもそうだろう。何度も戦略情報部が原因で負けた周回があるのだから。プロフェッサーの言う事に耳を傾けていれば。状況が変わった周回も事実あった。

ただプロフェッサーも、正直な所伝達能力が高い方ではない。

それも考えると、全ての責任は押しつけられない。

故に、嫌い、程度で済ませている。

成田軍曹も、オペレーターとして精神的な余裕があるときはそこそこ出来る事は認めている。

だがメンタルが弱すぎる。

そういう事もあって、メンタルを鍛えることを常日頃からやっている壱野としては、どうしても好感を持てない。

人間の中にはメンタルがどうしても弱い者だっているが。

しかしながら、そもそも客観性を常に担保しなければならない情報を扱う人間が、精神のコントロールもできない事は論外。

そういう厳しい判断をしている。

「コマンドシップが動き始めました。 迎撃作戦を開始します」

「分かった。 詳しい作戦内容については、追って連絡してほしい」

「了解です」

無線を切ると、調練を開始。

もう弐分は来ていて、三城もあくびをしながら歩いて行くのが見えた。

軽く調練をこなす。

ストーム1は、朝一からなんか体操みたいなのをしている。

そう、既に噂になっているそうだ。

これが強さの秘密なのかと聞いてくる兵士もいる。だが、違うと応えている。

元々鍛えていて、下地があり。その下地を確認し、調整するために調練をしている。それが真相だ。

体を動かしながら、弐分が聞いてくる。

「コマンドシップか、大兄」

「ああ、これから来るそうだ」

「そう。 じゃあ歓迎パーティしないと」

「そうだな」

それで会話はおしまい。

調練では、精神も練り上げる。

だから、余計な話はしないのが基本だ。遠目にこっちを見ている兵士もいるけれど、ストーム1ということもあって近寄りがたいのだろう。

そういえば、この周回も開戦からそろそろ二年か。

随分彼方此方を転戦した。

そして開戦二年で、人類の被害が開戦前の二割程度で済んでいるのも、この周回が初めてである。

改変前の前周もかなり戦況が良かった。

だが、今ほどでは無かった。

調練を終えると、一旦バンカーに出向く。

次は恐らく、プロテウス三機と合流しての作戦となる。

エイレンWカスタムは、調整がいる。

山県少佐(昇進したばかり)が乗って、扱えないといけないからだ。

一華が使っている自組のPCは凄まじい金が掛かっているらしく、幾つも同じものは用意できない。

そこで、ある程度妥協し。

軍用のPCに、負荷を落とした一華お手製の支援アプリを積み込んで。

エイレンWカスタムに乗せる。

同じシステムを、エイレンWカスタム相馬機にも引き渡すそうだ。

相馬少佐(こちらも昇進したばかり)も、かなりの腕前だが。これで更にエイレンWカスタムは力を増すだろう。

ストーム2は、既に全員がブレイザーを引き渡されている。

その上で、それぞれの得意武器も手にしている訳なので。

ストーム2は、歩兵としては最強のチームといってもいい。

更に頼もしくなる。

また、マザーシップいやコマンドシップ戦に向けて、他の部隊も調整が行われている。

ストーム3には、更に性能を上げたシールドと。ブースターとスラスターの強化が行われた。

ブースターとスラスターの同時使用は、人間がシェイクされると称されるほどの負担が掛かる。

このため使える人員は限られており。

ストーム3や弐分が、重宝される理由だ。

コレに加えて、強力なシールド。文字通り、これ以上もないほどの壁役として活躍してくれるだろう。

勿論火力にも期待できる。

ガリア砲とブラストホールスピア、更には各自にあった武器。

それも先進科学研から送られてきている。

弐分のようにスパインドライバーを使う兵士も出て来ている。こいつの強さが、伝わり始めていると言うことだ。

ストーム4には、更なるフライトユニットの強化。

特にジャンヌ大佐のフライトユニットは、更に速度が上がるように調整が加えられている。

速度だけでは無い。

モンスター型レーザー砲に対応して、容量も増えた。

これで、更にエネルギーの管理がしやすくなっているはず。

今いるストームチームには伝えていないが。

コマンドシップは、変形する。

あの多数の砲台を展開する形態にコマンドシップを追い込んだのは、いつの周回だったか。

記憶がしっかりしている最初の周回だから、四周前くらいか。

あの時は、コマンドシップに乗っているプライマーの指揮官も潰したが。あれは、潰さない方が良かったかも知れない。

彼奴はあからさまに無能だった。

以降の敵司令官は、あいつよりずっと有能な奴が出てくるようになった。

それを考えると。

今になってみても。こうすれば良かったと思えることは、なんどでもある。

軽く一華と話をする。

やはり一華も、コマンドシップが強化されている事は、警戒しているようだった。

「恐らくクラーケンの防空部隊も来るッスよ。 エイレンとケブラーだけだと厳しいッスね」

「各地の部隊も、対クラーケン戦術に熟達してきた。 それでも被害は覚悟しないとならないな」

頷く。

そして、ストーム1全員で集まって、軽く話をした。

この面子の中でも、最初の四人以外は、コマンドシップが戦闘モードに変形することは知らない。

いちおう後から加わった三人にも伝えてはあるが。

コマンドシップの戦闘形態の存在を聞いて、青ざめるばかりだった。

マザーシップですら、あれだけ頑強なキャリアとして、各地で厄介極まりない存在として動き回っているのである。

コマンドシップは戦闘力まで高いとなると、それは面倒な事極まりないと言える。

ヘリが来る。

大型移動車で、ストーム1の専用補給車を積み込み、ヘリに乗り込む。

ストームチームでまずは合流だ。

移動時に順次合流していき、最終的な合流場所は北米のニューヨーク基地。

この周回では無事だ。

前にジャムカ大佐に聞いたが、ジョエルという若者と会ったそうで。

まだ無事なのだと。

今回もやれているのだと、安心した。

或いは何度も歴史を書き換えている影響で、生き残りやすい人とそうでない人が出ているのかも知れない。

だが、そもそも死にやすい人だろうが救う。

それが使命だ。

其奴がどんなカスであろうと、今の時点では気にしない。

全ては、プライマーをたたき出してから考える。

それだけである。

「他の皆は、準備万端?」

「ああ、荒木大尉から問題ないと連絡は来ている」

「そう……」

三城は相変わらず口数が少ない。

とにかく、まずはハワイでストーム2と合流。北米で、欧州から来たストーム4と合流し。

最後にニューヨークでストーム3と合流することになる。

輸送ヘリでハワイまで飛ぶと、今度は大型ヘリに乗り換え。ストーム2と合流した。

また。戦闘経験を増やしたようだ。

荒木大尉も、戦略情報部から話を聞いているようである。

輸送機の中で、話してくれる。

「マザーシップナンバーイレブンと同時に、敵大型船が移動を開始。 多数のヘイズ、マザーモンスター、α型β型、それにクラーケンによる護衛部隊を編成している様子だ」

「敵も本気と見て良さそうですね」

「ああ、そうなるな。 特にクラーケンに加え、大型船が厄介だ。 飛行型の大規模な部隊とクイーンが目撃されているという情報もある」

「プロテウスは」

三城が聞くと。

荒木軍曹も頷く。

あまり三城が、喋る事は得意ではないことを、良く知っているのだろう。それで三城にきちんとあわせてくれるのは立派である。

「残念だが、まだ間に合っていない。 今、生産した三機を慌てて仕上げている所だそうだ」

「そうなると、大型船を撃沈するのがやっとだと思う」

「そうだな……」

「だが、大型船ももう無敵じゃねえ。 俺たちの装備で、どうにでも出来るぜ」

小田少佐がブレイザーと大型ロケットランチャーを見せる。

この人は、本当にいるだけで場所が明るくなるな。

荒木大尉は、小田少佐に油断だけはするなよとしっかり明言。

ただし、それ以上の厳しい事も言わなかった。

北米の西海岸で、ストーム4と合流。

今回もシテイさんが来ている。階級は少佐になっていた。

シテイさんを副官に、合計五名。

いずれもが、各地で豊富な戦歴を積んで来たベテランウィングダイバーだ。そして今回は、マグブラスターの改良型と、モンスター型をそれぞれ装備している。

「今回は雑魚戦に徹するつもりだ。 大型船が動き始めたら、モンスター型で対応するがな」

「コマンドシップは恐らく他のマザーシップよりも強大だとみて良いでしょう。 プロテウスの攻撃でも通るかどうか……」

「珍しく英雄村上壱野大佐が弱気だな」

「いえ、慎重になっているだけです」

流石に弱気になっている訳ではない。

恐らくコマンドシップは、以前と違って改良をしているはずだ。装備している砲台も強大になっている可能性が高い。

更に、恐らく護衛用のチームを複数用意している筈。

生半可な戦闘ではすまないだろう。

だが、それでも撃滅し、生き残る。

敵の精鋭は、製造にも集めるのにも相当にコストが掛かるはず。

それを撃滅すれば、敵にもう代わりはいないのだ。

つまり、それだけ全体的な戦況が有利になる。

ストームチームにしかできないことだ。だから、やるだけである。

輸送機で更に移動。

ニューヨークに到着。ストーム3と合流した。コマンドシップは、ニューヨークから少し離れた郊外に護衛部隊と共に展開。

あわよくば、怪物の繁殖地を作ろうとしている動きを見せているとか。

仮に二隻のマザーシップを立て続けに撃破され、それで降りて来たとしても。油断をするつもりはないし、あわよくば勝ちに行く。

その姿勢が、護衛の部隊の様子からも見て取れていた。

大型移動車に分乗して、此処からは行く。

移動しながら、ミーティングをする。

今回はジェロニモ少将が前線で指揮を執ってくれる。全体の指揮はジェロニモ少将に委任することを荒木大尉が最初に明言。

これで、軍が動かしやすくなった。

「ニューヨークの守備隊から、コマンドシップの攻撃部隊を編成した。 エイレン6、レールガン8、ケブラー20、戦車35からなる部隊だ。 コマンドシップと護衛にクラーケンが多数いる事も鑑みて、多角的な攻撃を試みるために、距離をとってネグリングの部隊も展開している」

「飛行型が接近していると聞いています。 対策はどうなっていますか」

「飛行型に対しては、ネグリングの部隊が接近された場合は即座に離れるように指示を出してある。 ニューヨーク守備隊の航空部隊も、飛行型に空対空クラスター弾を放って撤退を支援する」

「了解です」

それでいい、と思った。

ジェロニモ少将は、そのまま順番に説明をしてくれる。

とにかく淡々とした、戦術家として理論的な人だ。

戦争の強さは資質で決まる。

それまで「姫のようにか弱い」と嘲笑われていた男性が、初陣を果たした後は「鬼のような荒武者だ」と評価が一転した例が日本にも実在している。

そういうものなのだ。

学歴だのなんだのは関係無い。

ジェロニモ少将は、ここまで上がって来ただけの実力があり。

EDFではそれを生かせている。

カスターのようなアホが早々に退場してくれたこともその要因となっているのだろうが。

今回は追い風として、素直に喜ぶべきだろう。

エイレンを乗せた大型移動車がおいついてくる。ケブラーと、兵士達を乗せたグレイプも。

最近はグレイプは殆ど兵員輸送車としてしか使われておらず、戦場では殆ど出番がないようだが。

それだけ戦車が強いと言う事だ

周囲で鱗形陣を敷いている戦車は、全てバリアスであること。

いつもの周回で落とされてしまうニューヨーク基地から、これだけの部隊が出ていることそのものが。

EDFが戦力を増していることの証左であり。

敵の戦力が逆に削がれていることも意味していた。

現地に到着。先遣隊が、既に展開を開始している。

手をかざして確認する。

コマンドシップの下は、文字通りの百鬼夜行だ。

「壱野、罠はあるか」

「はい。 仕掛ければ、虎ばさみのように動くでしょう」

「それはやっかいだが、確実に仕留めていくだけだ」

「……」

大型船はかなり上空にいて、距離を取っている。

恐らくテイルアンカーを落としてくるつもりだろう。マザーシップの護衛部隊を展開した後は、撃墜を避けて上空に逃れた、というわけだ。

既に火力を集中すれば、大型船は撃墜出来る。

今回、コマンドシップの周囲には4隻の大型船がいるが。4隻程度なら、どうにでもなるはずだ。

「此方ジェロニモ少将。 作戦地点に到着。 部隊の展開が済み次第、攻撃を開始する」

「此方リー元帥」

「!」

リー元帥が出たか。

だったらメイルチームでもプロテウスでも用意してくれればいいものを。

だが、それでも最大限のバックアップをしてくれていると言う事だ。

文句は、言わない方が良いだろう。

「コマンドシップ……マザーシップナンバーイレブンは、恐らくだが今回展開している戦力でストームチームの戦力を削ぐつもりとみて良いと戦略情報部が結論した。 ジェロニモ少将、ニューヨークの部隊で敵の戦力に対応できそうか」

「なんとかやってみます」

「うむ、頼りにしている。 コマンドシップは、恐らくこのまま北米全土を転戦しつつ、キャリアとしての能力を生かして怪物をばらまくつもりだ。 此方も現在プロテウスを含めた本命の戦力の編成に入っている。 敵を追い散らしたら、コマンドシップを追撃する事になるだろう。 厳しい戦いになるが、勝ってくれ」

「イエッサ!」

全員で声を合わせる。

リー元帥も、総力を挙げてくれている。

だったら、負ける訳にはいかない。

そのまま、戦闘を開始。

戦車隊が、最初に並んで砲撃を仕掛ける。

敵群に砲弾が炸裂。

一瞬おいて。

わっと、敵のコマンドシップ守備隊が、一斉に襲いかかってきた。凄まじい規模だ。以前コマンドシップと戦闘した時よりも、明らかに守備隊の規模が大きい。

これは恐らく前哨戦だが。

前哨戦から死闘になるな。そう、壱野は覚悟していた。

 

1、対コマンドシップ前哨戦

 

一華はエイレンWカスタムのコックピットで、キーボードを激しく叩きながら、支援戦闘に徹する。

戦車隊の猛砲撃に耐えた敵が突撃してくる。エイレン部隊が前衛に出て迎え撃ちに掛かるが、ヘイズの大軍が来る。ケブラーと共同して撃墜していくが。それが結果としてスモークを作り、敵軍を守る。

煙を斬り破って最初に突貫してきたのは赤いα型。いや、オレンジがかっている。赤いα型の変異種か。

水平射撃に怯まず突撃してくるその耐久は、確かに侮れるものでは無い様子だ。

「赤いのが来るぞ!」

「熱源反応を利用して、ケブラーはクラーケンに攻撃! 多少の反撃に怯むな!」

ジェロニモ少将が指示を猛々しく出し、そのままケブラー隊が対空攻撃に移る。サーモセンサーすらも鈍らせるヘイズのスモークだが、それでもクラーケンほどの巨大熱源となるとそれでも分かる。

更にネグリング部隊が攻撃を開始。

横殴りに、敵陣にミサイルが着弾し、次々に爆発した様子だ。だが、敵は怖れる様子もない。

突撃してくる様子を見て、少しずつ戦車隊がさがる。エイレン隊はそれに対して前に出て、両手主砲のレーザーで敵を薙ぎ払う。

其処に、硬X線ビーム砲が着弾。

エイレン一機が、大破していた。

「エイレン3、戦闘不能!」

「クラーケンへの集中攻撃を続けろ!」

「一華。 俺が送った地点に、収束レーザー」

「了解ッス」

リーダーから連絡が来る。即座に収束レーザーを叩き込んでやる。

吹き飛んだクラーケンの手応えあり。

ケブラーの攻撃でシールドにダメージを受けていたのだろう。そこに直撃した収束レーザーが、クラーケンを仕留めたのだ。

更に、三城もライジンでクラーケンを撃ち抜いたようである。

リーダーはスモーク関係無く狙撃を続けている。

赤いα型を食い止めている戦車隊の砲撃をものともせず、マザーモンスターが出現するが。

リーダーの狙撃を散々喰らって、既に瀕死だった。

「マザーモンスターだ! 手強いぞ!」

「既にダメージを受けているようだな。 俺たちが始末する」

ジャムカ大佐が出る。

凄まじい高機動でジグザグに間を詰め、間にいる赤いα型を全て片付けつつ、接近。

大量の酸で出迎えようとしたマザーモンスターを、そのままブラストホールスピアやスパインドラーバーでなぶり殺しにしてしまう。

もう一体、マザーモンスターが来る。

こっちはダメージが比較的小さいが、接近して来る雑魚を相手にしていたストーム4が即応。

一斉にモンスター型で狙撃を浴びせて、瞬時に穴だらけにしていた。

マザーモンスター三匹目。

弐分が今度は出て、至近距離からデクスターをしこたま叩き込む。それで悲鳴を上げてのけぞったときには、ストーム3が突貫。

そのままブラストホールスピアと、スパインドライバーのエジキにしていた。

大兄が、狙撃。

スモークの中で反射され、大兄の至近地面に反撃が突き刺さった。

クラーケンか。

赤いクラーケンが姿を見せる。

冷静にジェロニモ少将が迎撃を指示。

戦車隊が反射ダメージを度外視で集中攻撃を浴びせ。シールドによる反撃でかなり装甲を削られつつも、それでも攻撃の隙を潰す。

更に、其処に山県少尉が雷撃爆弾を発動させる。

雷撃の嵐の中で、クラーケンが悲鳴を上げてのたうち。触手が次々と爆ぜ割れて、肉が焼ける嫌な臭いが漂いそうだ。

エイレンWカスタムの中にいるから臭いは気にならないが。

いずれにしても、今仕留めてしまう。

収束レーザーを叩き込み、赤いクラーケンを撃破。味方の損害も増えてきているが、それでもまだまだ。

怪物との乱戦を、三十分以上続ける。

ヘイズが兎に角多い。

このため、戦場の彼方此方でスモークの壁が出来ていて。それだけ敵に有利になっているようだった。

「ネイカーだ!」

「歩兵部隊、マニュアル通りに動け! 接近後、集中攻撃!」

「イエッサ!」

「弱気になった奴から死ぬぞ! 根性を入れろ!」

精神論だが、ネイカー相手は本当にこれしかないのが厳しい。

エイレンWカスタムで前に出る。相馬機も前に出ていた。考える事は同じか。当然集中攻撃を浴びるが、それはどうでもいい。

ネイカーの群れが、一斉に来る。

歩兵部隊が応戦しているが、どうしても仕留めきれない。外したらおしまい。それが厳しいのだ。

だから、組んである対ネイカープログラムで支援。

一斉にネイカーをレーザーで貫き、爆破する。

だが一部は側面後方に回る。これが厄介だ。だが、厄介な奴は、それぞれの場所で対応して貰うしかない。

またα型が来る。

それでも、少しずつ戦線を押し上げる。

被害を受けたAFVは、急いで構築した前哨基地に運び。修理できそうなら応急処置をして、前線に戻す。

だが、そうでない機体も多く。

擱座したものは放置。

大破したものも、同じく乗員を救出できる場合はそうして。そうでない場合は放置するしかなかった。

「やはりこれはコマンドシップで間違いなさそうだな。 敵の抵抗の激しさが他のマザーシップ守備隊とは段違いだ」

「次、来ます!」

「迎撃しろ!」

「クラーケンです!」

まだクラーケンが来るのか。しかも最悪の毒ガス装備持ちだ。

リーダーが指示を出してくる。

レールガンの使いどころだな。やむを得ない。

リーダーが狙撃し。それとあわせて、即座にレールガンを叩き込む。

戦車隊の猛攻と、リーダーの狙撃をそれぞれ弾き返したクラーケン。ここまでは流石だが。

流石にその後の、レールガンまでは防げなかった。

クラーケンの上半分が消し飛ぶ。

大量の鮮血をまき散らしながら、色を失ったクラーケンが落ちていく。あいつに毒ガスを撒かれたら、記録的な被害が出るところだった。

戦車隊も損耗が大きい。

ニューヨーク基地から、増援が来るが。被害を埋め合わせるほどの戦力ではない。

「此方スカウト! 飛行型の部隊が其方に向かっています!」

「数は」

「およそ二千! クイーンも混ざっているようです!」

「厄介だな。 ケブラー隊、今のうちに応急処置を!」

だが、そうはさせるかとばかりに、α型とβ型の混成部隊が来る。しかも、ヘイズはひっきりなしに来る。

これで前進を続けなければならない。

その厳しい状況が、更に被害を増やしていく。

恐らくだが、この護衛部隊。スモークに隠れているが、コマンドシップが次々呼び出しているとみて良い。

だとすれば、接近は確かにするしかない。

それにしても厄介な。

舌なめずりしながら、ダメージを横目に確認。一度電磁装甲を再起動した方がいいか。こまめに調整するべきだ。

さがる旨を伝える。その分、エイレン部隊が前に出る。

少し下がって、電磁装甲を再起動。更にバッテリーを今のうちに変えておく。最前衛で暴れ回っている柿崎。

スモークなんか関係無いという勢いで、ばったばったと怪物を斬り伏せている。

相変わらずのおっそろしい有様だな。

そう思いながら、一華は応急処置を終了。

この状態でも、レールガンの弾は二発しか装填出来ず。新しく装填する場合は、バンカーの設備を使うしかない。

荒木大尉のブレイザーが、敵を薙ぎ払う。

どうやら、飛行型が到着したようである。

「敵の守備隊は規模が大きい! だが、クラーケン多数を含むこれだけの部隊を失えば、敵の損害は馬鹿に出来ない筈だ! 踏みとどまれ!」

叫ぶジェロニモ少将。

ジェロニモ少将は、エイレンの指揮官用カスタムに乗って出て来ている。二人乗りの例の奴だ。

力戦するエイレンW指揮官用カスタム。

怪物の攻撃を受けても怯む様子もなく。それが兵士達の勇気を奮い立たせる。

更に前線を押し込む。

ヘイズの猛攻が止んだ。

だが、その時には。

コマンドシップが真上にいて、大量の飛行型が、先行部隊を包囲していた。

先行部隊にはジェロニモ少将のエイレンW指揮官用カスタムもいる。無言で一華は前進。飛行型に、レーザーを叩きこむ。

木曽少佐がぶっ放したマルチロックミサイルが、飛行型を立て続けに爆破する。ケブラー隊も、前衛に出た様子だ。

飛行型の奇襲を受けた前衛部隊が、流石にさがる。此処まで接近しなくても、別に良いからだ。

ヘイズのスモークがずっと焚かれていたせいで、どうしても距離感が狂っていた。それはジェロニモ少将ほどの指揮官でも、仕方が無い事だったのだろう。

クイーンが上空にいるが、横殴りにストーム4が叩き付けたモンスター型の斉射を浴びて、身をよじって悲鳴を上げる。

それを聞いて、怪物共が凶暴化して襲いかかってくるが。

態勢を立て直した戦車隊が、一斉に射撃。

更に、飛行型をケブラーに任せたエイレンも対応に入り、怪物が一時、殆ど全滅した。

リーダーが叫ぶ。

「後退を! 急いで!」

「む。 分かった、後退しろ!」

「後退っ!」

ジェロニモ少将も、リーダーの勘は知っているのだろう。というか、ストーム1の勘はあまりにも有名だ。

一応五感を研ぎ澄ましているだけ、というだけの例の説明も、報道に対しては行っているらしいが。

本人も最近は自信がなくなってきているらしいので。

本当に人外の力なのか。

或いはタイムパラドックスをプライマーがやりすぎた副作用なのかも知れない。

一度、完全制圧した地点を捨てて、全軍で慌てて退く。それが正解だった。

上空にいるコマンドシップが、大量のアンドロイドをばらまきはじめたのである。その地点にいたら、完全に乱戦になる所だった。アンドロイドは接近戦に持ち込まれると厄介極まりないのだ。

「アンドロイドどもか……!」

「確実に始末しろ! 擲弾兵を最優先!」

「数が多すぎる!」

「大丈夫、今日は味方も全力で兵を出している!」

さがりつつも、戦車隊、ケブラー、それぞれが攻撃を続行。

荒木大尉のブレイザーがうなる。文字通り、横殴りに溶かすようにしてアンドロイドを撃ち払っていく。

流石だ。

更にリーダーがスタンピートを持ち出し、叩き込む。

まとめて消し飛ぶアンドロイドの群れ。

多少哀れではあるが。

はっきりいって、同情している余裕などはない。囲まれたら、エイレンの電磁装甲でも危ないのだ。

バリスティックナイフが来る。

エイレン部隊がCIWSで片っ端から叩き落とすが、それでも戦車やケブラーに次々着弾する。

其処に、レールガン。イプシロン部隊が前に出る。

射撃と同時に、アンドロイドがまとめて消し飛ぶ。

横並びの射撃で、前方にいる敵が、まとめて吹っ飛んでいく。

イプシロン型の火力は異常だと前々から声が上がっていたが。接近さえエイレンWがある程度緩和してくれればこんなものだ。

激しい戦闘の中、これが決定打になる。

すぐにイプシロン隊は後退。

かなり間引かれたアンドロイド部隊に、今度は自動砲座からのレーザーが襲いかかる。今の隙に、山県少佐がばらまいたのだ。

更に木曽少佐がミサイルを叩き込み。

ストーム3と柿崎少佐が、再び前衛で大暴れを始めた。完全に足を止めたアンドロイド隊に、味方が猛攻を加える。

だが、コマンドシップが慌てる様子はない。

ジェロニモ少佐が、対空攻撃を指示。

レールガンが、上空にいるコマンドシップを狙って一斉射。だが、多少黄金の装甲に傷をつけたくらい。

とても撃墜するのは無理だ。

「コマンドシップの装甲は、マザーシップを凌ぐようです!」

「よし、今の時点では次の戦闘に備えろ。 コマンドシップの様子からして、増援が更に来る可能性が高い。 負傷者を後送。 弾の補給を急げ」

「イエッサ!」

「厄介だな……」

ジェロニモ少将がぼそりと呟く。

これだけの規模の部隊。更にストームチームも交えての攻撃だというのに、まだまだ余裕を残しているコマンドシップ。

人類は優勢の筈だ。

それなのに、この敵の強さ。

前線で、指揮官は戦争の現実を知るべきである。

荒木大尉の言葉だ。

ジェロニモ少将も、恐らく似たような考えを持っている筈。そうなってくると、この状況のまずさがよく分かるのだろう。

「! 此方戦略情報部、成田!」

「どうした」

「上空の大型船に動きが見えます! 恐らくは、テイルアンカーを投下するつもりのようです!」

来た。

どうやら、本気で此方に損害を与えるつもりらしい。実際問題、猛攻と乱戦でニューヨークの守備隊はかなりのダメージを受けている。

戦況は、まだまだ手札を隠しているコマンドシップ側に有利。

ここでのテイルアンカー投下は非常にまずい。

「テイルアンカーの射出角度を計算してくれ。 無理そうなら、映像を一華に送ってくれるか」

「いえ、此方で何とかします!」

「頼むッスよ……」

「任せてください!」

成田軍曹も、フルパワーでキーボードを叩いて計算している様子だ。

ほどなくして、情報が来る。

同時に、弐分、三城、それに声を掛けられたストーム3、ストーム4が動いていた。

殆ど同時に、テイルアンカーが四本、地面に突き刺さる。

しかしながら、それが怪物を出現させる事はなく。

弐分のスパインドライバーとデクスター。三城のライジン。ストーム3の一斉攻撃。ストーム4のモンスター型斉射を浴びて。

それぞれが、ほぼ同時に破壊されていた。

それを見て、頃合いだと思ったのか。

コマンドシップが、おぞましい数のヘイズを放出し始める。ちょっと、洒落にならない数だ。

「ヘイズです!」

「対空戦闘! あれを接近させるな! 見た目以上に危険だぞ!」

「イエッサ!」

生き残っている部隊が、全て対空戦闘を開始する。

だが、コマンドシップは、捨て石にヘイズを使うと、堂々と逃げ始める。それも、大気圏外に逃れる様子はないようだった。

「どういうことッスかね」

「恐らくだが、連戦を強いようとしているんだろうな。 ストームチーム相手に有利に戦うために。 だが、どうも何か引っ掛かる」

「……」

一華の言葉に、リーダーが応えてくれるが。

どうも気になることもあるようだ。

確かに、コマンドシップは予定通り降りて来た。

だが、あまりにも上手く行きすぎている気がするのも事実である。

いずれにしても、おぞましい程多いヘイズを始末しないといけない。この数は、実際問題極めて危険だ。

攻撃を集中して、次々に叩き落とす。

一部紫のヘイズも混じっているようで、厄介極まりない。

更に、周囲から怪物が集まっているという報告がある。阿鼻叫喚の中、それでもジェロニモ少将が指示を出す。

「周囲のネグリング部隊は移動中の怪物を攻撃! その後、撤退!」

「わ、分かりました!」

「この場でヘイズを可能な限り早く撃ち払い、周囲から来る怪物に備える!」

「大変です! 怪物だけではなく、ドローン、ネイカーも来ている模様です! それも、ハイグレードタイプのようです!」

成田軍曹の慌てた声。

確かにそれは一大事。ヘイズによる猛攻を受け、がつんがつんと凄い音が立つ中、一華は思う。

上空に対してCIWSのシステムを組み込んだレーザーでヘイズを薙ぎ払っているが、完全に闇も同然だ。

熱源センサでどうにか対策できているが、これは兵士達はどうにもできないだろう。

いや、バイザーの熱源探知システムを上手く使えば。

すぐに、無線を全体に入れる。

「バイザーの熱源探知システム、起動するッスよ! 熱源の形をよく見て、ヘイズを狙い撃ってほしいッス!」

ちょっと本当はやってはいけないことだが。

強制的に、この戦場にいる兵士のバイザーにハックして、システムを強制起動する。

本来は夜間などに使うスターライトスコープと類似の機能なのだが、これについては必要と後でレポートを出すしかないだろう。

いずれにしても、これでヘイズの撃退効率が上がる。

上がると信じて、戦闘する。

リーダーの大暴れもある。

三十分ほどで、コマンドシップがまき散らしまくったヘイズの駆逐は完了。かなりの被害を出したが、それでもまだ戦える状態である。

そこに、ハイグレードを含むドローン部隊。少数のハイグレードネイカー。

そして、キング数体を含む怪物が来る。

ヘイズがまき散らしたスモークが残っていたら、かなり危なかっただろう。だが、既にヘイズは。

スモーク含め、片付いていた。

 

敵の残党を始末すると、被害を確認。

ストームチームは全員無事。ストーム4が一名負傷したが、戦闘続行可能なレベルの軽傷だ。

ニューヨーク守備隊は、かなりのダメージを受けた。各地から再建のための部隊を寄越して貰わないと駄目な程に。

だが、それでも致命的な損害では無い。

ジェロニモ少将も無事だったし。

小耳に挟んだが、ジョエルという例の人も無事だったようだ。

悪運が強いと言うか。

それとも、無理矢理プライマーが無茶な歴史改変を行わなければ、生き残る強い運命があるのかも知れない。

とにかく、エイレンWカスタムは一華のも相馬機もかなりダメージが大きい。すぐに修理して貰う。

移動しながら修理したいくらいだが。

長野一等兵が無理と判断。

他の装備のダメージ、更には疲労もある。最低でも仮眠が必要だとリーダーに正論をぶつけ。

それをリーダーも認めた。

荒木大尉もだ。

「相変わらず、厳しい言葉のおっさんだなあ」

「だが、正論を言えるというのは大事な事だ。 一時期モラハラだのなんだので、正論を忌避する風潮があったらしいが、正論を言えない組織というのはただのワンマン組織になる。 そうなれば後は衰退するだけだ」

荒木大尉も、そう言う。

一華も同意見だ。

正論というのは正しいから正論だ。それをお気持ちで否定するような人間は、その程度の器と言うことである。

良薬口に苦しという言葉もある。

昔から、それを人はわかっていたのに。どうしてお気持ちを優先するのか。それが人間が、中東で文明構築してから万年経ってもこんな生物であるが故なのだろうとも思う。

一華だって、別に人間一頭が良いわけでもない。

だが、人間の馬鹿さ加減には、うんざりしていた。

とにかく、言われた通り休む。

それに、エイレンWカスタムを、愛用の自作PC無しでも動かせるようにする改装はとっくに終わっている。

後は、プロテウスが到着するのを待つだけ。

こっちとしても。

何にしても、すぐに追う事は、できないのだ。

一眠りする。

その間に、夢を見る。

梟の夢だ。

梟のドローン。

恐らく、プライマーの上位者。また、夢に出て来たか。

今度こそ、聞き出すことは山ほどある。

話を、全て聞き出さなければならなかった。

 

2、根絶戦争の真相

 

梟のドローンは、一華の頭の上にとまる。

昔はそれでとても心地よかったのだが。今は、不信感が強くて不愉快だ。それが、たとえ夢の中でも、である。

話しかけてくる梟のドローン。

いや、此奴は単にそれに偽装していただけで。最初からそんな代物ではなかったのだろう。

「戦い、佳境なようだね」

「幾つか、聞きたいことがあるッス」

「なんだい」

「あんたが何者かはいい。 プライマーは一体どうして、こんな馬鹿な侵略戦争を開始する事になったのか、具体的に知りたいッスね」

しばし、梟は黙っている。

一華に話すと、ストームチームに伝わる。

そう判断して、ある程度は考えているのだろう。

そして、言った。

「タイムマシンには三段階あってね」

「?」

「一段階目のタイムマシンは、君達も既に使っている……生物には備わっているとさえ言えるものだ。 過去の事象をみる。 もっとも下等なものでは目だ。 見て認識したものは、現実とタイムラグがある。 映像記憶媒体なども、タイムマシンの一種と言えるだろう。 高度なものは、量子コンピュータなどを使って、過去の事象を現在の事象から遡ってみるようなものがあるが。 いずれにしても、過去に実際に自分が行くわけではない」

「……」

何を言っている。

此奴は恐らくだが、超先進文明の産物だ。

そう考えると、この発言には意味がある。

内容は、理解出来る。

だから、聞いておく事にする。

「第二段階のタイムマシンは、いよいよ実際に過去に行くものだ。 だがこれには問題があってね。 宇宙そのものには、君達が言う修復作用が常に働いている。 過去にワームホールなどを用いて行ったとしても、億年単位で見ると歴史は変わらないんだ。 効果範囲も惑星系を超えない。 宇宙の歴史を変えるほどのパワーがないタイムマシン。 これが第二段階のタイムマシン技術と言える」

「ほう、それで」

「第三段階のタイムマシンは、宇宙そのものの歴史を変える力を持つ、文字通り神の力に至るタイムマシンだ。 これは宇宙の歴史修復作用を超える力を持っている。 君達風に言うと、新しい平行世界を出現させるテクノロジーだ。 いうまでもなく、宇宙には幾らでも場所と時間があるわけじゃあないからね。 これは僕達の文明でも実現はしているが、基本的に使う事はない」

「プライマーが使っているのは、第三段階のもの……では無さそうッスね」

此奴の話を聞く限りはそうだ。

恐らくだが、此奴はプライマーを過去に送り込んだ張本人。リングを作ったのも此奴だろう。

まて。

プライマーにそもそも時間転移技術があったとしても。リングがそれを相殺して、歴史へのダメージを抑えているとしてだ。

そもそも、プライマーは過去に行っていないのではないのか。

「気づいたね」

「どうしてプライマーの船が数千年前の地球に落ちたのかが、ずっとずっと疑問だったッスよ。 どんなバカでも時間旅行なんてすればどんな危険があるか分かる。 それに、なんで奴らは船を即座に回収しなかったのか。 そもそも、プライマーに過去に転移する技術はないって事ッスか」

「正確には、第二段階の初期状態の技術はプライマーも持っていた。 だが、彼らはそれを兵器として使ったんだ。 太陽系の外に対して喧嘩を売るときにね」

「な……」

それは。

想定外の事実だ。

この梟ドローンが、「上位者」なのも確実。

今見ているのが、夢では無いのも確実。

そして、告げられているのは、間違いなく真実だろう事も確実。

なぜなら。

此奴ら上位者の実力は、恐らく宇宙そのもの。いや、それすら凌駕するほどの代物だからだ。

此奴らに比べたら、プライマーなんて、それこそ芥子粒にすら劣るだろう。

もちろん、人間もそれ以下だ。

「太陽系の外には、幾つもの知的生命体がある。 プライマーは観測してそれを知っていた。 太陽系の外に進出しようとしたとき、彼らはその文明を侵略し、全てを略奪し、挙げ句殺し尽くそうとした。 どうしてだと思う」

「……」

「プライマーは、自分達がテラフォーミングされた火星で、彼らが「神の船」と呼ぶ地球文明が最後の力で送り出したテラフォーミング船によって、数千万年の時を掛けて作り出されたことを知っていた。 彼らは言葉の通り「神」と君達を最初は崇めていたんだよ」

言葉もない。

そういえば、トゥラプターは戦う事を楽しんでいた。

あれは、ずっと敬意を持って歴史の中にあった「神」の強者と戦えるからではなかったのか。

「宇宙に……まあ太陽系内限定だが、出る技術を得たプライマーは、未来の地球に降りて「神」の痕跡を探していった。 そして地下シェルターの残骸などから、技術を更に高め、そしてついに直に過去を見るタイムマシン第二段階の入口の技術に到達した。 そして彼らは見たんだよ。 君達の現実を」

「例えば、ヴァイキングや遊牧騎馬民族、大航海時代の海賊や、経済で各地を侵略して無理矢理根付いていくような連中をッスか?」

「正解だ。 元々厳しい火星の文明で育ったプライマーは、元々はむしろ穏やかで比較的平等性の強い文明を作っていた。 彼らにとっては、「神」の正体は衝撃的だった。 宇宙でももっとも凶暴で残虐な侵略と殺戮を嬉々として行う血塗られた種族。 それが事実だったからだ」

「何てことだ……」

一華は言葉を失う。それでは、人間がプライマーをこうしてしまったようなものではないか。

まさか、それでか。

内乱に関与しないとかいうのは。

どこかでそんな話をしていた気がする。

「外」の超文明は、人類がプライマーを変え。その結果泥沼の戦いになった事を知っていたのか。

「プライマーはその時には我々のことも、シリウスやαケンタウリに平和的で穏やかな宇宙文明が入植していることを知っていた。 彼らは嬉々として、外に乗り出すことにしたんだ。 「神」がやっていたくらいだ。 その文明的直系子孫である我々には、同じ事をする権利があるとね」

「それで敗れたと」

「我々は既に肉体を必要としない文明にまで到達している。 前の宇宙から存在している文明だ。 我々の目的はただ一つ。 知的文明の支援。 テリトリを侵さない。 殺し合いをしようとしたら止める。 説得が通じないなら、テリトリから出ることを禁じる」

それは、目的がたくさんあるように聞こえるが。

知的文明の支援という観点では一つなのか。

いずれにしても、頭がクラクラしてきた。

プライマーは、神気取りの客観性の欠片もない人間の精神性を学習してしまった。

元々染まりやすい種族だったのかも知れない。

そういえば、あの苛烈な侵略の割りには、戦争のやり方はどうも素人臭いと思っていたのである。

そういう理由だったのだ。

多分だが、プライマーは。

「外」の超文明に喧嘩を売るまで、戦争をしたことすらなかった種族だったのだろう。

まさか、何千年も後の文明に、こんな形で最悪の影響を残すとは。

人類の罪深さ、ちょっと次元違いなのではあるまいか。

「太陽系を出ようとしたプライマーの艦隊は、我々が派遣した警備艇の小ささを笑って、その警告を聞いて更に笑った。 止められるものなら止めて見ろ。 すっかり気が大きくなっている彼らはわめき散らし。 そして太陽系の外縁に張られているバリアに当たって、そして激高した」

「バリアなんて張ってるッスか」

「今の君達の文明では、観測できない程度の技術によるものをね。 知的生命体限らず、生命体が発生した星系には基本的にバリアを張って、他の文明と上手くやっていける種族が宇宙に出た場合のみ、外に出られるようにしている。 そうでない場合は、穏当に追い返すだけだよ。 普段はね」

色々と言いたいことはあるが。

確かに、むしろ穏当なやり方だ。

人間で言うと、特定動物に対する接し方が近いかも知れない。

確かに、此奴らくらいの文明の規模となってくると、人間なんかライオンと同じようなものだろう。

プライマーも当然、同じである。

いずれにしても、梟のドローンは、残酷な結末を話してくれた。

「プライマーの侵略艦隊は、警備艇に攻撃を開始。 五分ほどで、君達がSFで思いつきそうな攻撃はあらかた叩き込んできたよ。 だけれど我々の船にとっては、君達が言う所の銀弾鉄砲で戦車の装甲を撃つようなものだ」

「反撃したッスか」

「ブラックホールによる攻撃や、余剰次元を使ったマイクロブラックホール蒸発の高熱による攻撃、更にはプライマーが使えるようになりはじめた、短時間時間跳躍による船そのものの特攻まで仕掛けて来たからね。 全部跳ね返した」

「……っ」

一瞬でプライマーの艦隊は全滅。

そして、プライマーの本星である火星を含め、未来の太陽系は全て制圧されたという。

たった五分で、恐らく地球に攻めてきた、力を制限されている状態よりも遙かに強いプライマーが全滅。

凄まじすぎる強さだ。

そもそも武器が一切使用できないようにして「外」はプライマーを制圧。未来の太陽系全域をプライマーの本星である火星ごと支配下に置いた。

その時点で気づいたそうだ。

プライマーが致命的な過ちを犯したことに。

「プライマーは、時間を短時間跳躍して攻撃する船を用いたが。 それはパニックに陥って、試作段階の兵器を使ってきたものだった。 彼らはそれが弾き返された場合、どうなるか理解していなかったんだよ」

「まさか……」

「そう。 それが地球に落ちた船の正体だ。 プライマーは過去の人類を見て、映像とかは過去の人類に見せたかも知れない。 それが影響を与えたかも知れないが、それ止まりだ。 むしろプライマーの方が過去の人間に強い影響を受けて、そして挙げ句に過去に本当に船を送り込んでしまったんだよ」

「最悪だ……」

何というか、何もかも合点がいった。

全てのピースが、組み合わさったという印象だ。

プライマーは、朱に染まってしまったのだ。

その結果、バカを散々繰り返した挙げ句、過去の地球に致命的なパラドックスの種をまいてしまった。

その結果が、今というわけだ。

「プライマーは大慌てした。 我々としても、種族が滅ぶのを見過ごすのはよろしくはないと判断した。 その上、過去に飛ばされた船は、既に人類に影響を与えてしまっていたし、此方で回収するのは恐らくプライマーのためにもならないと判断した。 よって、我々は二つの手を打った」

「一つは、リングッスね」

「そうだ。 君達人類にも今回の件は責任がある。 だから、プライマーには話をしたんだよ。 地球人と話し合いをして、火星にテラフォーミング船を送るように交渉するように、とね」

そうなると、最初は本当にプライマーは地球人と交渉するつもりだった、とみて良いだろう。

そうなってしまうと、プライマーの手に負える相手じゃない。

地球の人間は、万年の文明の間、ずっと互いに殺し合い肉を食い合っていた修羅そのものの種族だ。

今でも物理的な戦争もそうだし、経済的な戦争をずっと続けている。

政治闘争の世界では、金がものをいう。

そんな世界に、戦争を始めてやって負けたような種族が乗り込んできても、翻弄されるだけだ。

恐らく、相当無茶な要求をプライマーにしたか。

それとも、或いは核で全部撃墜して、資源にしてしまおうとしたか。

どうせあのカスターとか、その同類とかがやったのだろうが。

手を出したのは、多分地球人の方だろう。

それで、戦争の経験が殆どないプライマーは、大慌てしたというわけだ。

「で、戦争が発生して、殺し合いが苛烈になるのを、黙って見ていたッスか」

「おかしな話だな」

「?」

「私は知的生命体の自主性を最大限尊重する。 君達は自分の主観で相手を判断し、それによって相手の存在価値まで決めてきた種族だ。 それがどう判断しようと勝手だし、関与するつもりもない。 自分のミスは自分で取り戻す。 文明単位であっても、それは同じだろう?」

うっと、思わず声が漏れる。

ド正論が飛んできた。

此奴らには、本当に悪意が微塵もない。

本当に、相手を一丁前の大人として扱っている。

「過去に行くプライマーの技術を制限しているッスよね」

「その通り」

「それはフェアな立場で会話させるつもりだから、ッスか?」

「いや、高度すぎる技術を過去に持ち込まれると、パラドックスの解消が大変だから、だよ」

ああ、そういう。

いずれにしても、全て分かった。

これは文字通り、地獄のマトリョーシカだったのだ。

そして、それに対して、人類は文句を言う資格はない。

自分達を創造した神に等しい存在に対して、夢を持っていた純粋な種族を、此処までねじ曲げて。

挙げ句の果てに星間戦争で勝ち目のない相手に喧嘩を売らせ。

本国も何もかも占領させ。

そしてタイムパラドックスで滅亡の危機に瀕した相手の足下を見て、挙げ句に先制攻撃までした。

本当に、こんな種族、守る価値はあるのか。

種族としてはないかもしれない。

だが一華は、何人もの顔を思い浮かべる。

守るべき価値がある人はいる。

それだけで、一華が戦うには、充分過ぎる程だった。

「仮に我々が勝ったら、どうするっすか」

「例えばリングは、塵も残さず破壊された場合は自壊するようにしている」

「……プライマーは、多分滅びるッスよ」

「それは問題ない。 君達もプライマーも、知的生命体としては貴重なサンプルだ。 既に確保してあるデータを元に、監視用の惑星に再生する。 その後は、物資の支援以外の干渉は一切しない。 もしも宇宙の他の文明と仲良くやれるようならば、外に出ることを許可するし。 文明の最後まで、他の文明に対する排他性と攻撃性を維持するようだったら、そのまま種としての命数を使い果たすまでそこにいて貰う。 それだけだ」

公正だ。

人間なんかよりも、ずっと。

上から見下ろされているようで腹が立つ、みたいな感想を口にする者もいるかも知れないが。

実際に此処まで実力が違い過ぎると、仕方が無い事なのだろう。

ブラックホール兵器まで手にしたプライマーが、それこそアニメに出てくるようなブラックホール砲の斉射を浴びせて。

一瞬で反撃で全滅した。

その事実を思うだけで。地球のSFに出て来たどんなロボットを繰り出そうと、此奴らには勝てない。束にしてもだ。

「ハア。 もう分かったッスよ」

「君達も、宇宙に出てこられる文明になると実は個人的には嬉しい」

「? どういうことッスか」

「前の宇宙。 ビッグバンが起きる前の宇宙で、我々は種の命数を使い果たしかけた事がある。 その頃は、まだ我々は肉体を必要とする文明だった。 その時世話になったのが、極めて凶暴で攻撃的、排他的な種族だった。 彼らは君達と、容姿も性格も、文明のあり方もそっくりだった」

そうか、それでか。

それで、そういった文明ともやっていけるように。

そもそも関わらないという、最善の方法を編み出したわけだ。

笑えてくる。

その前の宇宙にいた地球人によく似た種族にも、村上壱野みたいな英雄がいたのだろうか。

だとすれば、手加減して掛かってくる此奴らの兵器を相手に、バッタバッタとなぎ倒して回っていたのだろうか。

「最後に、あんた達の名前は」

「我々はフォリナ。 ……そう、君達に似ていた種族には、フォーリナーと呼ばれていたよ」

「そうっすか……」

「それでは、これで恐らくは最後だ。 君は周囲にこの話をするといい。 そして、プライマーとどう接するか決めるんだね」

ぷつんと、全てが消えた。

闇の中に沈んでいくような意識。

恐らくは、夢に戻ったのだ。

そう、一華は理解していた。

 

目が覚めた。

はあと、頭を振るう。今見た夢、妄想とはとても思えない。即座に、メモを取る。明晰夢にも程がありすぎる。

内容は、全て覚えていた。

プライマーがどうして攻めてきたか。

どうしてこんな戦争になったのか。

それは、地球人類が度を超したアホだったからだ。

それは何となく想像がついていた。

実際問題、声だけ大きい輩が周囲を威圧し。その手の輩が「コミュニケーション能力に優れている」と自称するような文明だ。客観性などとはずっと無縁だった。

昔、ハッカーをしていた時代。マスコミ関係者の端くれと話をした事がある。

呆れた話ばかりを聞いた。

「報道に客観性など必要ない」「自分達の主観こそが真実である」「自分達の真実を他者に押しつけていいし、むしろ自分達の主観こそが真実である」。そんな頭がクラクラするような話を聞かされた。

情報を専門で扱う人間がそれなのだ。

しかも、先進国と言われるような国で、である。

一万年間、地球人類は技術以外は何一つ進歩していない。近年も、いわゆる主権国家の再来を望んだり。独裁者の誕生を望んでいるような人間もいる。進歩していないどころか、むしろ後退している。

ちょっと前に何が起きたかすら忘れるのだ。

そんな生物、むしろそれでも知的生命体と保護することを考える、あのフォリナという種族が大人すぎる存在に思える程だ。それはそれとして、フォリナにはとても頭に来るのも事実ではあるが。

多分プロフェッサーが聞いたらブチ切れるだろうな。

そう思って、またため息をつく。

あの人は記憶力は優れているが、学者としてはそれほど優れてはいない。まあ人間の他九割以上と違って、それについては自覚できているのが救いだろう。

ともかく、憂鬱だが全てをまとめた。

そして、何度か逡巡した後。

リーダーに無線を入れた。

「リーダー」

「何かあったな」

「どうもプライマーの上位者の全てが分かったっぽいッスよ。 ストーム1と、後はプロフェッサーに声を掛けてくれるッスか」

「分かった、良いだろう」

リーダーは物わかりが良くて助かる。

そして、専用のVPNでネットワークを構築。

これはプロトコルやパケットまで自前で構築した代物で、暗号ソフトも自分製。つまり、ハッキングできない。

メールを送るのはリスクが大きすぎる。

だから、全ての事を話した。

プロフェッサーが完全に黙り込んでいるので、少し心配になった。リーダーが、最初に話してくれた。

「なるほどな。 事情はよく分かった」

「随分とあっさり受け入れられるッスね」

「どんな事情があろうと、俺の実家を焼いた敵に変わりはない。 俺の実家に、三城を殺そうと押しかけてきた半グレのカスどもだって、それぞれ腐りきった教育やら家庭やらコミュニティやらで、ゴミカス以下になった。 だが、だからといって連中に殺されてやらなければならない理由は無い。 完膚無きまでに叩きのめす。 その方針に変わりはない」

流石というか何というか。

色々と完全にガンぎまってるなあ。そう一華は苦笑するしかない。

弐分は黙り込んでいたが。

続けて発言する。

「それで大兄。 問題はその後だが……」

「プライマーを撃退出来るか分からないし、その後は考えなくて良い。 それに撃退した所で、どうせ地球人にこのことは教えない方が良い。 外……フォリナだったか。 それにぶちのめされるとしたら、それも自業自得だろう。 実際問題、責任を自分で取るようにと、リングまでお膳立てするような種族だ。 此方に対する敵意もないし、それに喧嘩を売る理由がない」

「むしろ、プライマーに喧嘩を売ったバカ共にしっかり制裁をしないとまずい」

「そうだな」

三城の言葉に、リーダーが同意する。

柿崎は、黙っている。

話の内容が理解出来ていないとは思えない。

単に、今後も敵を斬ることが出来れば良いのだろう。

そう思っていたら、柿崎が挙手。

「一華中佐。 交渉を望んだプライマーに核を撃ち込むことを決めた者達を特定出来るなら、私が斬ってきましょうか?」

「いや、幕末の人斬りか。 駄目ッスよ」

「最悪の戦争犯罪人でしょうに。 人間にとってもプライマーにとっても」

「もう過去が改変されすぎて誰かも分からないし、今はそれは考えなくていいッス」

残念そうな柿崎。

本当に残念そうなので、ちょっと呆れてしまう。

山県少佐も、挙手。

「なんだか夢みたいな話だが、それでどうするんで? その話、誰かにするのかね?」

「いや、この面子だけで共有する。 ……荒木大尉には、後で俺が話す」

「そうか。 まあ、それが無難かも知れないなあ」

「そういうことだ」

木曽少佐はずっと青ざめていた。

倒れそうな様子なので、ちょっと心配である。まあ、木曽少佐はかなり感性がまともというか……。

いや、まともな感性というのがむしろ今の時代ではレアか。

いずれにしても、ショックは大きいだろう。

発言できないのも、仕方が無い事だった。

プロフェッサーが、やっと重い口を開く。

それはそうだ。

この人にしてみれば、ずっと奥さんを殺され続けたのだ。何百億に達する人々がプライマーに殺されてきたと思ってもいただろう。

だが、現実はいつもフィクションを越えて来る。

事実は小説より奇なりという奴だ。

あの梟ドローン、あらゆる全ての発言が何というか腑に落ちるのだ。嘘をつく理由すらない。

だとすると、この戦争を引き起こしたのは人類だ。

それも、何千万年も後。

地球を汚染し尽くした挙げ句に滅びた人類は。新しく産まれた別の知的生命体にまで迷惑を掛けたことになる。

それは、許される事なのか。

人類は万年の文明で、主観で相手を判断し、気にくわなければ殺戮する以外の事をしてこなかった。

だからずっと既得権益層が社会を支配し続けて来たし。

既得権益層に都合が良い思想が、宗教として世界中で拡がった。

それを打破しようとした変わり者もいたが。

作り出した新しい思想も、全て既得権益層に都合が良いものにいつの間にか書き換えられていた。

人間は詐欺のプロだ。

だから、この戦争が起きた。

そしてこの戦争に勝ったとしても。

多分、進歩すること何て、出来ないのだろう。

プロフェッサーは、多分心が張り裂けそうなのだろう。一言一言を、丁寧に紡ぐ。

「この戦争が、そんなばかげたものだったなんて」

「プライマーは得意げに時間旅行を楽しんでいたに違いない。 それで事故を起こしてこうなった。 その結論は、結局人類は全て被害者で、アホな宇宙人があらゆる邪悪の権化だった、という悪意の塊みたいな源泉から作り出されたものだった。 それが違うと分かって、プロフェッサーは戦えるッスか」

「戦うしかない。 妻のためにも」

「……」

そうか。

この人は、愛のために戦うか。

それも良いかも知れない。

考えて見れば、村上三兄弟は、それぞれのために。家族のために戦っていると言ってもいい。

道場を再建するのも、結局は家族のためだろう。

一華は、死にたくないから戦っているだけ。

それは、褒められた内容では無いが。この戦争の馬鹿馬鹿しすぎる開始理由から考えれば。

それでも少しはマシなのかも知れなかった。

「一華くん」

「何ッスか」

「これについては、私は戦略情報部などには開示しないつもりだ。 それと……もしも戦後に生き残る事があったら。 やる事が出来た」

「何をするつもりかは知らないッスけど、フォリナとか言う外宇宙文明相手には戦争しても絶対に勝ち目はないッスよ。 単艦で文明を滅ぼしてくるようなSFアニメの超戦艦や、人間が想像するような宇宙規模の力を持つ邪神でも、多分勝ち目は0ッス」

そうじゃないと、プロフェッサーは言う。

苦しそうに、プロフェッサーは、その先に続ける。

「戦後のことを考えなければならない。 君達は、戦後……この世界を離れた方が良いだろう」

「!」

「方法は私が考える。 ただ、私は、最高の英雄が「事故死」や「不審死」したり、或いは「魔王」同然の存在になるのを見たくは無い。 勿論君達にも悪くは無い方法をどうにか模索する。 協力を……頼む」

多分、通信の向こうで頭を下げたのだろう。

大きな溜息を、皆がついていた。

そして、同意する。

確かに、こんな戦争だ。それを引き起こした人間だ。

万年進歩しない、どうしようもない種族だって事くらいは、分かりきっていた。そんな事は、今まで嫌と言うほど見てきたからだ。

SNSが発展したことで、人間はその醜悪な本性を更に強く晒し出すようになった。

それこそが、人間の姿そのもの。

やがて、更に醜くエゴイスティックになっていくだろう。この文明は。

これが良い方向に変わる未来は、一華にも見えなかった。

プロフェッサーは、どうするつもりなのだろう。

いずれにしても、確かにこの世界からプライマーをたたき出したら。

もう、人類を助ける道理はないのかも知れない。

一華も、少し愛想が尽きた感がある。

そして、それは。

恐らく、ストームチーム、全員がそうなのだろうことは、何となく分かった。

 

3、衝撃の後に

 

例えどれだけ愚かしい事実があったとしても。

その後、戦わなければならないのは事実だ。

大兄は、荒木大尉に時間を取って貰った様子だ。そして、恐らくは話をしたのだろう。

荒木大尉は、その後も冷静だった。

流石というか何というか。

だが、それでも周囲でそれぞれ、気を付けなければならないだろう。この戦いは、誰かが死ぬにはあまりにも馬鹿馬鹿しすぎる。

未来から連れてこられただろう怪物共だって、生物兵器ではあっても気の毒極まりない。

この怪物達だって、人類が勝ったら何もかも消えてしまうのだろうか。

そういえば、コロニスト。

あれは地球の未来の人類だ。

プライマーに生物兵器として捕獲されて、その挙げ句に滅ぼされたりしたら、それこそ何を恨んで良いか分からないだろう。

業が深いな。

そう、三城は思った。

煤を乱暴に拭いながら、戦闘する。

コマンドシップの直衛は、その怪物達。命を捨てて襲いかかってくる。それを、片っ端からなぎ倒す。

決めたことがある。

自分の意思で戦う。

それはずっと前に決めた。

この戦いで、プライマーを地球からたたき出す。

それも、ずっと前から決めていた。

その後は、プロフェッサーの言葉では無く。

自分の意思で、地球を出ていこうと思う。

フォリナだったか。

一華にアクセスしていた超文明の存在。

そいつにどうにかしてアクセスして。地球を離れたいと思う。

一華は、大兄と小兄。後は、ほんの少しの尊敬できる人を除いて、人間を今でも凄いとは思えない。

それは、過去には偉人はいる。

確かに、極例外的に、尊敬できる存在はいる。

だが、その偉人達の業績を、全て食い物にしてきたそれ以外はどうだ。

三城は、人間が明確に嫌いになりつつある。

怪物を叩き伏せて。そしてライジンをぶっ放す。

レーザー砲を構えていたコロニストの、上半身が消し飛ぶ。大兄に指示を冷静に聞きながら、少し下がる。

敵の防衛陣地は強固だが、そろそろ崩れそうだ。

「プロテウスは!」

「現在、三機目の調整が完了! 輸送の途中です!」

「急いでくれ!」

大兄が成田軍曹に返す。

戦況は、お世辞にも良くない。第二防衛線を構築したコマンドシップは、非常に頑強に抵抗している。

ストームチームと。各地から集められてきた精鋭部隊で突破を謀っているが。ネイカーもヘイズもいる。

クラーケンも時々飛んでくるので、被害は避けられない。

それどころか、コマンドシップの飛来と同時に怪物達も活性化して、各地戦線は激しい戦いが続いている。

一瞬だけプライマーを完全に追い払った日本でも、また戦闘が開始されているようだ。

もう世界中どこにも。

安全な場所なんて、存在しないのだ。

レーザーが至近を抉る。多数いるレーザー砲持ちコスモノーツが、集中して狙って来ている。

此方もレールガンや戦車砲で集中砲撃しているが、敵は特務の精鋭。回避も素早く、位置取りも上手い。

或いは、今までの周回で蓄積した戦闘経験を、全てに並列化している可能性もあると一華は言っていた。

エイリアンが逃げ腰にならない事を見ると、既にクルールやコスモノーツはクローン個体が出て来ている可能性が高く。

脳も弄られていて。既に「兵器」なのではないかと、一華は説を述べていたが。

それは人権云々には色々面倒なのかも知れないが。

はっきりいって、今殺し合っている分にはどうでもいい。

それに、人権屋の金儲けの手段とかしている人権は、本当に存在しているのか、三城には疑問だ。

もしそんなものが存在しているのなら。

どうして強引な捜査で祖父と海野大尉が来るまで、三城はあのケダモノどもに虐待され続けた。

もう少し年を取ったら客を取らせよう。

そういって、「両親」がゲラゲラ笑っていたのを、三城はまだよく覚えている。

あれが普通の人間だとも思っている。

あんなもの。

救う価値など、あるものか。

ライジンで、またコスモノーツを撃ち抜く。

体に大穴を開けたコスモノーツが倒れて。敵の陣に穴が開く。呼吸を整えながら、少し下がる。

冷静さが揺らいでいる。

それを自覚したからだ。

少し下がって、呼吸を整える。そして、大兄に言う。

「水飲んでくる」

「分かった。 トイレもついでに行ってこい」

「わかってる」

大兄は淡々と指示すると、戦闘を続行。さがって、本当に水を飲んで迷いを晴らす。こういう日常行動が、案外迷いを晴らすには良い事を、三城は経験的に知っていた。

無言でトイレも済ませると、顔を洗ってため息をつく。

そして、前線に出る。

中破した戦車が、煙を噴きながら後退してくる。バリアス型でも、敵は全く怖れないし、攻撃を集中されれば破壊される。ブラッカーの初期型のような悲惨さはないが、それでも絶対的な壁としては機能しないのだ。

復帰すると同時に、移動を指示される。

移動して、フライトユニットでかなり高く飛ぶ。途中でレーザーが飛んでくるが、回避は難しく無い。

勿論レーザーに直撃したら死ぬが。

大兄ほどではないにしても、ある程度は勘で攻撃のタイミングはわかるし。

敵の視線などで、狙っている位置も分かる。

至近距離だったら回避できずにスライスされる可能性も高いが。

これだけ距離が離れていれば、まず当たる事はない。

半分崩れているビルに着地。

此処から、ライジンで何体か倒してくれ、と言う事だ。

既にチャージを済ませているライジンで、コスモノーツを撃ち抜く。頭が消し飛んだコスモノーツが、横倒しに倒れる。

コロニストが前衛に出て来た。

装甲で全身を守った特務だ。何より装備が凶悪で、放置しておくのは危険すぎて推奨されない。

「大兄、コロニスト特務」

「確認している。 俺が対処する。 三城はそのまま、コスモノーツ砲兵を対応してほしい」

「わかった」

大兄は全体を見て指示を飛ばしている。この戦線では荒木大尉はいないし、将官級の指揮官も出て来ていないからだ。

規模はそれほど大きくない戦場だが。

それだけ大兄の責任は大きい。

そのまま、無言で戦闘をする。敵の抵抗も徐々に弱まってきているが。それはそれとしても、味方も被害を出す。

程なくして、敵の戦線を抜いた。

残党処理は、後方から駆けつけてきた部隊に任せる。ただ金α型などの危険な敵がいないかは確認し。

いる場合は処理しておく。

大型移動車に乗り込むと、皆と合流。すぐに前線に向かう。

ストームチームは分散して、コマンドシップが恐らくは決戦を挑んでくるだろう地点に向かっているが。

現地で全員辿りつくのは確信としてある。

少なくともストーム2の全員と。

ジャムカ大佐とジャンヌ大佐は、確実に辿りついてくれるだろう。

大型移動車で、少し休む。ぬれタオルで顔を拭いた後、乾いたタオルで拭き直す。

化粧とか、そういう事をしている暇はない。

ウィングダイバーにはいちいち化粧をしている隊員もいるらしいが。そういえば、戦況が不利になればなるほど、そういう隊員も減っていく記憶がある。

この周回では、味方は敵の時間改変戦術も打ち破って押している。

だから、出来る隊員がいる。

木曽少佐は、多少の化粧をしている様子だ。それを責めるつもりは無い。活躍が出来ているのだから。

柿崎少佐は素で顔がいいので、多分化粧なんていらない。

化粧とかしたら、すごい美人になるのだろうが。

彼女の場合、戦場で浴びる敵の血の方が、余程化粧として魅力的に見えるのだろう。そういうものだ。

戦場を急ぐ。各地で小規模な戦闘が起きている。

コマンドシップは、かなりの部隊を集結させ。何重にも防衛網を構築している。もたもたしていると、到達できなくなるぞ。そう脅すかのように。

ストームチームの消耗を謀っているのか、それとも何か理由があるのか。

いずれにしても、味方部隊の損耗は激しく。リー元帥が時々冷静に後退を指示しているのも無線に入ってくる。

戦略情報部も、細かく指示を出して、どうにか道を突破出来るように、味方を支援している様子だ。

「マザーシップナンバーイレブンが動きを止めました。 此処から二十qほどの地点です!」

「ようやくか。 現地にはかなり大規模な守備隊がいるのか?」

「クラーケンだけで十体を超えるようです。 ヘイズ、コスモノーツ、コロニスト、クルール。 大量のドローンに怪物、テレポーションシップもいます」

「そうか、それだけ蹴散らせば、敵の損害も無視出来ないな」

「……」

大兄の言葉に黙り込む成田軍曹。

まあいい。

とにかく、現地へ急ぐだけだ。

大型移動車を降りる。アラームがなったからだ。敵の軍勢が、また前線を構築している。蹴散らさないと進めない。

補給車が心配になるが、幸い蹴散らした敵前線が再構築されるような事もない様子だ。

敵もそれだけ、各地から兵力を裂いてきている、ということだろう。

それに、蓄えている兵力にも限界があるはず。

大型船も、重要な地点でしか姿を見せなくなっている。撃墜されると、それだけ損害が大きいのだろう。

小兄と柿崎が真っ先に敵に突貫。その後に三城も続く。

今回は接近戦になると判断したので、デストブラスターを手に突撃。敵を順番に蹴散らして回る。

支援部隊が次々に来るが、無傷の部隊は殆ど見られない。

北米全土で、敵の戦線が構築され。また、この戦いの為に部隊が動いている。そう判断していい。

ただ、まだまだ余力がある海軍と潜水母艦が全力で支援に回っていて、各地の部隊は動きやすくなっているようだ。

前周のようにスキュラが出ていたらもっと大変だったのだろうなと思う。

あいつは余程色々条件があったのか。それとも前周最後でリングに吸い込まれる大型船の大半を撃墜したのが要因だったのかは分からないが。この周回に出て来てはいない。手強い相手だったし、それだけは幸いだ。

前線を突破。

負傷者を下げ、合流した支援部隊と共に更に前線を押し進める。あまり自分だけ突出しても包囲されるだけだ。

だから、気を付けて歩調を合わせなければならない。

時々、停止して様子を見なければならない時もあり。

そういうときは大兄は大型移動車の上に上がって、其処から狙撃し。前方にいる敵や、味方を襲っている敵をたたいているのだった。

「大兄、休憩は大丈夫?」

「問題ない。 体の調子なら良すぎるくらいだ」

「……」

「ああ、分かっている。 本当に厳しいときは休むから、心配するな」

大兄がまた狙撃。

敵がまた倒れたのだろう。

少し休憩する。他の前線が苦戦しているというのなら、無理に押し込んでも戦術的にも戦略的にもむしろ不利になる。

そのまま様子見して、しばしして動き始める。

その間に軽くレーションを口にして、腹も少し膨らませておいた。

前線に近付く。

かなりの怪物が散らばっていて、大兄が狙撃して仕留めたのだろうと言う事は分かったが。

その数が思ったよりかなり多い。

死んで横たわっているクラーケン。

前線に出て来ていたのか。

或いは、こいつも大兄が。あり得る事だが。クラーケンにしてみれば、たまったものではなかっただろう。

ただ此奴らも、サイボーグになっている可能性が高い。

自意識もない殺戮マシンになっているのなら、即座に殺してやるのがむしろ情けというべきだ。

前進して、前線に接触。

敵まで五q。

既にコマンドシップは見えている。この辺りで、包囲網を構築する予定だ。戦闘を行い、少しずつ敵を削る。

特に上空では、今まで見た事もないくらい航空機が出ていて、敵ドローンにかわりばんこに空対空クラスター弾を叩き込んでいた。それでも被害は出る様子で、戦闘機は傷だらけになって引き返していく。撃墜されている戦闘機も、見えている範囲の外にはあるかも知れない。

地上にいる敵を可能な限り引きつけて、戦闘を続行。

しばしして。荒木大尉達が来る。これで手数が増える。今では三人がブレイザーと得意武器を装備していて。

更にエイレンWカスタムの支援もある。

戦闘して敵を少しでも削り引きつけながら、他のストームチームの到着も待つ。

この敵の陣容。

恐らくだが、此処でコマンドシップは勝負を付けるつもりだ。

「ストーム3、現着!」

「ストーム4、現着!」

殆ど同時に、ジャムカ大佐とジャンヌ大佐が到着。

隊員に脱落者もいないようだ。これで、決戦の準備が整った。後は、味方の支援部隊が頼りか。

「気を付けろ。 敵は恐らく今までにない規模の防衛戦力を展開してくる。 あれが旗艦ならなおさらだ」

「最高の獲物だ……」

ジャムカ大佐がそう言う。

以前は悲壮な戦況だったから、こんな風に嬉しそうではなかった。味方のために死ぬ。次の戦場で死ぬ。

自分を死神とまで皮肉っていた人が。

今は、敵に対しての死神となれている。

「今回は対シップ装備に注力する。 支援を頼むぞ」

新型らしいモンスター型を手にしたストーム4。荒木軍曹が頷いて、それに応じる。

荒木軍曹が手にしているブレイザーも、ちょっと小型化している様子だ。

「俺たちが援護する。 マザーシップに喰らわせろ」

「期待している」

「前線を進めてください。 敵のドローン駆除が一段落しました。 まずはテレポーションシップを処理します」

成田軍曹からの無線。

そのまま、ストームチームは固まって前線に。

ほどなくして、ずんぐりした巨体の戦闘機が来る。護衛らしい戦闘機が即座に散って、ドローンを駆逐しに掛かる。

フーリガン砲搭載機だ。

前に見たことがある別形態のものよりも、かなり小型化しているし。飛ぶのも速い様子だ。

「フーリガン砲、発射!」

テレポーションシップが、立て続けに二隻貫かれ。爆散。

ドローンが迎撃に掛かるが、エイレン部隊が到着。更にレールガンも。

エイリアンの迎撃部隊を牽制しつつ。上空のドローンにCIWSで管理されたレーザーの雨を浴びせる。

切り刻まれ落ちるドローンの間を抜けるように飛び、フーリガン砲搭載機が、次弾を叩き込む。

また、テレポーションシップが落ちた。

「空軍の奴ら、今回の作戦に賭けていやがるな」

「いずれにしても、これで小うるさいテレポーションシップは片付いた。 総力戦に持ち込める」

「敵もこの間の戦いで、数体のクラーケンを失っている。 だが、此処にもクラーケンが確認されている。 まずはクラーケンから片付けるぞ」

荒木大尉がジャムカ大佐に応えると、前進と声を張り上げる。

そのまま、敵の群れを突破。文字通り蹴散らして、敵陣に進む。

エイレンとイプシロンの部隊が、コスモノーツの部隊と激しくやりあっているが。それを横殴りの射撃で援護。

三城はライジンで、重装コスモノーツを撃ち抜く。

文字通り鎧を貫通された重装が倒れる。

だが、上空にはクラーケン。やはり、相当数が来るか。

「クラーケンだ! 集中攻撃で仕留めろ!」

「此方エイレン部隊。 ストーム隊、クラーケンへの攻撃は此方で行う。 逐次とどめを頼む!」

「了解した。 無理をしすぎず、ダメージを受けたらさがれ!」

「ありがとう。 それでは行くぞ!」

エイレン隊が、接近するクラーケンにレーザーの雨を浴びせる。当然反射されるが、シールドが見る間に消耗し、そしてオーバーヒート。

三城がライジンを。

ストーム4がモンスター型を連携して叩き込み、見る間に二体のクラーケンが命を失った。

その分エイレン隊の消耗も大きい。

ただし、恐らく別戦線でクラーケンとの戦闘経験があるのだろう。慌てている様子はない。

ダメージを受けた機体は即座に電磁装甲を再起動しながら後退。

ダメージが小さい機体が前に出て、前衛を換わる。その間、レールガン部隊は地上に水平射撃を実施。

火力が大きいので、コスモノーツですら手を焼いている。

怪物など、まとめて貫かれている有様だ。

ただレールガンはどうしても耐久に問題がある。攻撃を受けて被弾すると、すぐにさがっている。

此処の部隊は、長期戦向きでは無い。

正確には、クラーケンがいるから長期戦は厳しい。

とにかくイプシロンが来るまでにもてばよく。

クラーケンを可能な限り削り取って、ストーム隊のために道を作るために編成されているとみて良い。

ジェロニモ少将がやってくれたのか、それとも。

少なくとも、此処で最前線に立っている兵士達は尊敬できる。

コマンドシップの直下まで、どんどん押し込む。クラーケンは次々に撃墜され、最後の一体がストーム4の集中攻撃で灰燼と化す。

しかしながら、味方の被害も大きい。

レールガン部隊は一度後退。

エイレンは三割以上が消耗して、後退を開始していた。

「道は開いた。 必ず突破してくれ」

「イエッサ!」

「ありがとう、感謝する」

「後続の部隊はこれから来る。 連携して、あのデカブツを必ず叩き落としてほしい!」

エイレン部隊がさがる。

敵はまだ少数が残っているが、コマンドシップからの増援もあり得る。それに、移動して別の部隊との合流を試みるかも知れない。

兎に角、一旦補給だ。

全員のコンディションを万全にしてから挑む。

そうこうしている内に、最初に交戦していた部隊の内、少数の無事だったエイレンが此方に来る。

クラーケンを相手に正面からやりあったのだ。

命を拾っただけでもめっけものだろうに。

援護するという言葉を聞いて、三城は頷く。

昔の、弾よけにしかならなかった状態と違う。

プロフェッサーは本当に努力して、人類側の兵器を強化してくれた。それで今では、皆一緒に戦える。

それが一華が聞いた話を考えると複雑だ。

未来では、人類同士がそれで戦うか。

或いは、外宇宙に侵略行脚に出かけようとして、フォリナとか言うプライマーの上位にいる存在に殴られるか。

この技術を平和に使い。

人類をより高いところに導こう、なんて考える人間はごく少数の筈。

それが、どうにもやるせなかった。

「コマンドシップ、動きありません!」

「フーリガン砲は!」

「現在、第二部隊が展開準備中。 もしも動きがこのままないようなら、そのままコマンドシップに攻撃します」

「うむ……」

ジェロニモ少将が無線の向こうで考え込んでいる。

多分だが、今プロテウス隊と一緒に此方に向かっているのだろう。

大兄が、じっとコマンドシップを見ている。

「嫌な予感がする」

「不意打ちか? それとも超兵器か?」

「おそらく不意打ちですね」

「全員、備えろ!」

荒木大尉が、即座に指示を飛ばす。エイレン隊も、対クラーケンの隊列から、更に散って敵の不意打ちに備える。

いきなり、凄まじい数のアンドロイドを、コマンドシップが落とし始める。

更に、ドローン部隊もである。

こんな雑魚を、今更出してくるのか。いや、数が数だ。

荒木大尉が、即座に指示。

「エイレン隊は俺たちと合流してくれ! 少しずつさがりながら、敵の大軍をいなす!」

「イエッサ!」

「此方砲兵隊! 其方に支援砲撃を実施する!」

「かなり低い高度にコマンドシップがいる! 気を付けてくれ!」

砲兵による圧倒的な火力投射は、むしろ昔東側と呼ばれていた国々の得意技だったか。米軍は艦砲射撃で似たような事をするのを得意だったと聞いている。

アンドロイドの大軍が、ひっきりなしに来るのを捌く。

エイレン隊がまとまってレーザーを浴びせ。ストーム隊がそれぞれの得意武器でアンドロイドを仕留めるが。

数が本当に多い。

少し下がって、砲兵隊の射撃を山県少佐が支援して誘導。

コマンドシップに多少直撃しつつ。アンドロイドの群れに、大量の砲撃が叩き込まれていた。

爆発して吹き飛ぶアンドロイドの群れだが、ちょっとこれはこのままでは進めない。

ドローンもかなり数が多い。

前線が押し下げられる。このまま無理に進むのは危険だ。

「此方空軍! 状況を確認した! ドローンが多すぎて、戦線に直接出向くのは危険すぎる! フーリガン砲を守りきる事も不可能だ!」

「やむを得ん、自衛に徹してくれ! 周囲の部隊は!」

「なんとか集結を試みている! しかし敵が勢いづいていて……」

「分かった。 プロテウスが到着するまで持ち堪えてくれ。 各自、戦線を維持するように!」

ジェロニモ少将も急いでくれている筈だ。

だったら、三城もここで全ての力を使って、敵を削る。

敵の狙いがストームチームの消耗だとしたら。

このアンドロイド部隊を蹴散らして、消耗したところで。例の戦闘形態に入る可能性もある。

更にさがる。敵の数が多すぎるのだ。

それに、敵の移動基地との決戦で。ストームチームが全滅した周回もあった。それを思い出すと、どうしても強くは出られない。

恐らく大兄も小兄も、一華も同じだろう。

アンドロイドへの攻撃は無言で、苛烈なものとなっている。

そしてそれをものともせずに前進してくるアンドロイド。とにかく、数が多すぎるのである。

「あのデカブツ、内部に転送装置でも積んでやがるのか!?」

「可能性はあるかも知れないな。 とにかく今は、全員がそれぞれ無事である事を最優先しろ! 雑魚とは言え、あのバリスティックナイフをまともに食らうとかなり危ないぞ!」

荒木大尉が、まずは防御と言い切り、そのまま少しずつさがりつつ敵を撃つ。

コマンドシップは、まだ戦うそぶりを見せていない。

 

4、決戦に向けて

 

昔から、感情が薄いと言われていた。

エリート教育の本場とさえ言われていた北米でも、裏口入学が当たり前になっている今の時代。

それでも実力で、国家のキャリアになった。

そして今は、EDFで少佐になり。戦略情報部を事実上取り仕切っている。

そういう人生だった。

戦略情報部の少佐。名前を周囲に公開はしていない。

サングラスを掛け、硬質の容姿に更に人間味をなくしている。たまに激高することもあるが。

それはそれ。

基本的に他人に感情を見せないし。

気色が悪いと言われても、何もそれに反応することはなかった。

今は、専用の席でずっと戦況を見ながら、各地に指示を出している。コマンドシップを中心に、半径五十キロ以上が、現在地球史上でも最も苛烈なバトルフィールドになっている。

一度はフーリガン砲を通す事が出来たのだが。

敵は兵力を再編制しながら、必死に粘る。

各地から怪物やアンドロイドを割いて、更に戦況をややこしくもしているようだった。

「少佐」

サングラスに無線が入る。

ただのサングラスでは無く、兵士達がつけているバイザーと同じで通信機能もついているのである。

そして、少佐とだけ呼ぶのは。

戦略情報部を作りあげた立役者。

参謀である。

「戦況が良くないようだな。 一度退いて、立て直すか」

「いえ。 コマンドシップを引きずり出すのに、相当な消耗を既にしています。 敵もなりふり構わず戦力を投入し、この戦闘だけで既に十体以上のクラーケンを消耗している程です。 敵が追い詰められている証拠と判断し、このまま攻撃を続行します」

「そうかね。 ただしそれは君の責任でやりたまえ」

「……」

相変わらずだな。

少佐はそう思った。

無線を一方的に切った参謀。

EDF設立の立役者の一人でもあり、世界政府成立に向けて各地で暗躍した者。政治闘争の怪物であり、それでいながら政治については殆ど能力がない。

組織を作りあげたのは結構だが。

組織が何をするかについては、ほぼ貢献できていない者。

それが、参謀だ。

少佐は参謀の愛人だとか言う噂が流れているが、冗談じゃあない。

元々感情がこんなだから、恋人だの何だのはあまり出来なかったが。それでも寝る相手くらいは自分で選ぶ。

あんな、自己保存の為だけに生きているような輩に股を開くのはごめんだ。

だが、噂をいちいち否定して回るのも、馬鹿馬鹿しくてやっていられなかった。

戦域にジェロニモ少将の部隊が到着。

エイレン十機以上と、何よりプロテウス三機で構成された強力な部隊だ。特にプロテウスの一機は指揮官仕様で。

以前、大型船を撃沈するため、またマザーシップを撃沈するために用いられた、一華専用機の硬X線ビーム砲を搭載している。つまり強化型であり、恐らくはマザーシップの船体にダメージを与えられる。

実際には、あのナンバーイレブンがコマンドシップだという保証はない。

だが、それでもあの守りの堅さ。

他のマザーシップとは格が違う。

必ず何かある。

だから、ジェロニモ少将の率いる精鋭がストームチームと合流すれば、撃沈作戦を発令したい。

成田軍曹から無線。

そのまま受ける。

「少佐、妙な敵の動きが見受けられます」

「具体的に」

「はい。 今、映像を送りました」

手近にあるモニタで確認。

マザーシップの直近での動きを確認しているのだが、確かにおかしい。

以前、ストームチームがマザーシップを落とした時には、二隻が援護に回っていたのだが。

今回は、コマンドシップとはまるで無関係かのように、他のマザーシップは動いている。

どれも衛星軌道上にいたり、海上で静止していたりと、おかしな挙動ばかりだ。これは、人類を混乱させるためか。

それとも、ナンバーイレブンは実はコマンドシップなどではなく。

これを撃墜する過程でEDFが消耗するのを待ち、反撃に出るつもりか。

戦術コンピュータ、戦略コンピュータにそれぞれ分析させる。

いずれも大型のスパコンと直結しており、即座に反応が返ってきた。

「罠である可能性、極めて大。 各地から、これ以上の増援をマザーシップナンバーイレブンの直下に送るべきではないと判断する」

「同意見。 敵が得意とするゲリラ戦に、地球全土が巻き込まれている今、これ以上敵に先手を取らせるべきでは無い」

しかし、だ。

コンピュータは所詮コンピュータ。

現在のAIはそれほど大した代物ではなく。

ストーム1の村上壱野がぼそっと呟く「勘」にどうしても勝てた試しが無い。

だからこそ、主戦場の外では成果を上げろ。

そう、参謀に言われている。

ただ、政治闘争で生き残ってきただけで。実際にはなんの成果を上げたこともない、生き残る事だけに特化した怪物に。

それが、何となく気にくわなくなってきていた。

気にくわない、か。

何でも嫌な事は飲み込んできた少佐だ。

ルックスがルックスだから、言い寄ってきた男は多かった。いちいち鬱陶しいので、サングラスを掛けるようになった。

そうすると威圧感が倍にも三倍にもなって。

今までしつこく良い寄ってきた男も、近寄らなくなった。

それでいいと思う。

モテる事自体は別にどうでもいい。

少佐はこう見えて、自分が周囲が思っているのとは違い。相応に俗っぽいという事を自覚している。

だから好きな男が出来たら恋愛だってしたいし。

一緒になりたいとも思う。

性的嗜好は特に変わったものではないので。

そういう風に考える。

しかし、それはそれだ。今は、心を殺して。最大限、冷静に動くべき時だった。

「……これは、此方の行動を鈍らせるための罠と判断します。 現在温存している部隊を全て投入。 思わせぶりな動きをしているマザーシップには監視だけをつけて、ナンバーイレブンに向かわせてください」

「し、しかし何か罠があった場合……」

「総合的に判断して、マザーシップ二隻を失い、三隻目を守る過程で相当な被害を出している敵に余裕があるとは思えません。 あるとしたら、戦略的に此方の手を兵力を割かずに減らす事。 頑丈なキャリアを用いて、ハラスメントする。 敵に出来るのは、今はそれだけの筈です」

断言したが。

勿論、敵の保有している戦力なんて分からない。

何しろ、どれだけ倒しても湧いてくるのだ。

先進科学研から、敵が未来から来ているという話は聞き。今ではそれに納得もしているのだが。

それでも、どれだけの物資があっても不思議では無い。

敵は、最低でも未来の太陽系全土を手中にしている可能性が高い。

そうなると、敵の兵力は予想もつかないほどいる筈だ。

だがそれでも限界がある。

敵には、それが来つつある。

そう判断して良い。

各地の戦線に指示を出しつつ、コマンドシップ周辺の戦線をもう一度確認する。

激しい乱戦で敵味方消耗している中、確実に敵の密度は薄くなっている。味方もダメージを受けて次々戦線離脱しているが。

ストームチームのいる戦場が、一番兵力分布が濃いほどだ。

少し悩んだ後。

少佐は、参謀に掛け合う。

「総司令部直下、コマンドチームの出動を」

「何だと。 まさかナンバーイレブンの攻撃作戦に参加させるつもりか」

「いえ、陽動です。 総司令部直下部隊は、プロテウスも所持しています。 これが移動を開始するのを見れば、敵が焦る筈です。 そこに最大限つけ込みます」

「総司令部の部隊を動かすとなると、総司令部に大きな借りを作る事になる! そうなると、将来の戦略情報部の立場が」

ふつりと、頭の中で何かキレた。

怒鳴ろうかと思ったが、寸前で思いとどまった。

この哀れな、保身にしか興味がない怪物に。まともにかまっているだけ無駄だ。

「報告はしました。 此方から総司令部に掛け合います」

「なんだと! 私のものだぞ戦略情報部は!」

「このような部署、ストーム1が……村上壱野が活躍していなければ、とっくに灰燼と化すか、それとも潜水母艦とともに深海に逃げ込むしかなかったでしょう。 我々は独立部所で、他の干渉は受けません。 ですが、それは貴方の権力を保証するためではなく、外敵に勝つためです」

驚いた様子で、周囲の人間が此方を見ている。

参謀に逆らう事。

それは、戦略情報部におけるタブーの一つだ。

何か、わめき散らそうとしていた参謀だが。

どうやら、怒りがピークに達してしまったらしい。

その場で卒倒したようだった。

一応、医師は呼んでおく。

もう、その場で倒れて、二度と起きてこなくて良い。

戦略情報部はあの人のせいで、どれだけ他の部署の足を引っ張ったか。

あの人の権力を守るための傘として、どれだけ兵士の命を奪ったか。

それを、これから。

少しでも取り戻さないといけないのだ。

咳払いして、周囲の者達を仕事モードに戻すと、指揮を執りに戻る。

此処から。

正念場が始まるのだ。

 

(続)