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幾重の敵陣
序、空覆う大軍
ドローンの軍勢が来る。大気圏外にいるマザーシップナンバーエイトから投下されたものであり。
その数は凄まじい。
今、上陸して横須賀に上陸したドローンの軍勢がその前衛部隊で、それだけでも文字通り空が覆い尽くされるかのようである。
撃破して、被害を減らしてほしい。
それが、村上班への指示だった。
ケブラー二両がいるのと、一華のエイレンⅣカスタムがいる。対空武装は悪くはないのだが、数が多すぎる。
しかもドローンは全種類が揃っていて、ハイグレードも少なからずいる、ということだった。
ただしドローンには弱点がある。
足の速さにだいぶ差があるという事。
タイプワンは構造が単純である以上、かなり足が速い。その代わり、戦闘力が低めである。
タイプツーは重装甲で火力が高い分、足があまり速くない。
タイプスリーは弱点をぶら下げている以上、どうしても機動に様々な問題が生じてくる。
故に、敵を各個撃破しやすい。
逆に言うと、しっかり各個撃破出来ないと、次から次へと敵がやってくることになるとみて良い。
時間との勝負だ。
敵、第一陣接近。
成田軍曹が、無線を入れてくる。
「タイプワンドローン、およそ四百！ 迎撃をお願いします！」
「四百！」
「大丈夫、今の武装ならどうにでもなる！ ケブラー、頼むぞ！」
「イエッサ！」
ケブラー二両が攻撃を開始。
簡易型ニクスとも言えるこの車両は、もはやあらゆる戦場で活躍を恣にしている。次々とドローンを叩き落とし。
そして壱野もそれにならう。
レッドカラーは、いない。
気配からして、いないのは確実だ。
ならば、味方の消耗を可能な限り抑える必要があるだろう。
淡々と射撃。
山県少尉が、自動砲座を撒いて味方を支援。
対空自動砲座にはスナイパーライフル……それも大火力の対物ライフルが搭載されていて。
ドローンを叩き落とす事が十分に可能だ。
「ドローン、消耗８１％！」
「みたかエイリアンめ！」
「すぐに次が来る。 残党を残さず消し飛ばせ」
「イエッサ！」
兵士達の士気は高い。
壱野が、それを台無しにしないように気を付けなければならない。
射撃続行。
残ったタイプワンを片付ける。だが、既に敵影が、見え始めていた。
「敵、タイプツードローン部隊です！ 数は、先とほぼ同等！」
「皆、建物の影に隠れろ！ タイプツーの火力は大きく、正面から相手するのは危険だ！」
「イエッサ！」
タイプツーがゆっくり飛来する。
その中には、電子戦機であるインペリアルドローンの姿もある。すぐに応戦開始するが、やはりタフである。
それにタイプツーの防御が、いつもよりも硬い気がする。
ひょっとして、精鋭部隊を投入してきているのか。
「増援は！？」
「東京基地は今各地での対応に目一杯だ！ 兵力を出す余裕は無い！」
「勝ってるんじゃないのかよ！」
「クラーケンがでてから、戦況は一変した！ 各地であいつら相手に、信じられない被害が出ている！」
兵士達が叫ぶ。
応戦しつつ、確実に叩き落として行く。タイプツーは動きが遅いから、壱野にはカモだが。
そもそも通常の対物ライフルでは一撃で落ちてこない。
誘導兵器なども、かなり分が悪い相手である。
激しい戦いが続く。
エイレンⅣカスタムが集中攻撃を受けているのを支援。自動砲座も焼き付きそうな勢いで射撃しているが。
それでもかなり厳しい状況だ。
無線が入る。
プロフェッサーのものだ。
「これより、戦略情報部の参謀と話をしてくる」
「！」
「プロテウスを開発した実績、各地にいた軍のガンを摘発した実績がある。 今度こそ、話を聞かせる」
「くれぐれも気を付けて」
一華の声に、分かったと応じるプロフェッサー。
今回は、相当に覚悟をしているとみて良い。
いずれにしても、此処で失敗したら多分後はない。兎に角、徹底的に、敵を潰すだけである。
タイプスリーが姿を見せ始める。
ケブラーは二両ともぼろぼろ。
幸いタイプスリーの数は今までのドローンに比べて少ないようだが。それでも相当数がいる。
油断すると、あっと言う間に集中攻撃で倒されてしまうだろう。
「ハイグレードを先に仕留めてくれ！」
「了解」
「わかった」
弐分と三城が飛んでいく。
ハイグレードタイプスリーの火力は常識外である。早めに倒さないと、被害が増えるだけだろう。
激戦を続ける。
弐分がハイグレードタイプスリーを落とす。三城が少し遅れて、同じように叩き落とす。
だが、敵は更に増援が来る。
今度は混成部隊だ。
流石にドローン戦は兵士達も慣れてきているが、タイプスリーはそもそも弱点を撃たないとまず落ちない。
攻撃時に弱点を晒してくると言う欠点があるが。
収束するレーザーを見て、恐怖で身を竦ませたら一瞬の終わりだ。
壱野が連続して敵を叩き落として行くのを見て、兵士達も気迫を振り絞るが。
それでも負傷者が次々に出る。
それくらい、このドローン部隊は数が多いのである。
「だ、駄目だ！ 支えきれない！」
「アーマーを貫通されたら即死だぞ！ 建物に隠れろ！」
「やれやれ。 結構集まっているっているのに。 この為体たあねえ……」
山県少尉がぼやく。
山県少尉は自動砲座と、後は雷撃爆弾を上手く使って、ドローンの群れをばたばたと叩き落としているが。
山県少尉も、結構要領よく立ち回る方だ。
それがこんな風に言うというのは。
色々と、思うところがあるのだろう。
無数の敵が消し飛ぶ。
援軍が来たのだ。
プロテウス、ではない。エイレンである。エイレンⅣカスタム、それも対空型だ。それが、数機此方に迫ってきている。
かなりの高火力砲を装備していて、ドローン部隊を次々に叩き落としていくが。
それでも敵の数が多すぎる。
合流して円陣を組み。
負傷者を内側に庇って、戦闘を続行。エイレンⅣカスタムですら、装甲が見る間に削られていくほど敵の攻撃が激しい。
「これは、もっと大規模な支援部隊が必要だ！」
「それで精一杯だ！ 現在各地でかなり厳しい戦いが続いている！ エイレンⅣを回しただけでも感謝してくれ！」
「しかし、このままだと全滅するぞ！」
「やむをえんか」
一華に指示。
ちょっと、切り札を使う事にする。
エイレンⅣカスタムのバックパックに積んでいるバッテリーを交換。エイレンⅣカスタムの装甲の色が落ちていく。
そう、電磁装甲の分の電力を。
攻撃に回すのだ。
一瞬後、凄まじい対空ホーミングレーザーが、ドローンを多数叩き落としていた。ただしエイレンⅣカスタムも電気切れ。バッテリーから充電するまで、身動きが取れない。
ただ、これで少しはマシになった筈だ。
「総員、敵を排除しろ」
「イエッサ……」
「す、すげえ。 あんな切り札も持っていたのか……」
「特務村上班、流石だな。 とにかく、敵を押し返せ」
切り札か。
どちらかというと、開いた口が塞がらない類のものだが、一気に敵を追い込めたのは事実である。
ケブラーが二両、続けて大破する。
元々タフネスに劣るケブラーだ。
この辺りは、仕方が無いと言える。
兵士が逃げ出してくる。それを庇いながら、対空戦闘を続行。エイレンⅣカスタムの部隊も奮戦し｡
ほどなく、敵の姿はまばらになりはじめた。
プロフェッサーの無線が入ってくる。
「参謀。 今日は時間を頂きありがとうございます。 レポートを読んでいただいたという事で、感謝しております」
「うむ……時間を操作するテクノロジーか。 確かに全てにつじつまがあう。 プライマーのおかしな行動も、説明が可能だな」
「では……」
「科学者を新たに呼ぶ事はない。 その代わり、政財界の有力者を紹介して君と先進科学研を支援させる。 文字通り世界そのものでバックアップする。 世界を動かすという奴だな」
おや。
あの参謀が、随分と丸くなったものだ。
プロフェッサーも、これでやっとやりやすくなるだろう。
後はプロテウスの量産を進めれば、人類の勝ちだ。クラーケンも強敵ではあるが、すでに無敵ではないのだから。
最後のドローンを叩き落とす。
それで、周囲は静かになった。
エイレンⅣカスタムから、一華が出てくる。
はあと、嘆息する。
「明らかに集中攻撃を受けていたッスよ。 敵は無人機中心で、村上班を狙って来ているとみていいッス」
「被害を減らすための工夫なのかも知れないな」
「まったく、余計な知恵ばっかりつけて」
「そうだな……」
今度の敵司令官は、今までのとは違って、石橋を叩いて渡るタイプの様子だ。そのため複数のプロジェクトを同時に動かし、本命の作戦を守るようにして動いている。それについては理解した。
だから、全ての敵のプロジェクトを粉砕する。
まず第一にヘイズの繁殖阻止だ。
ヘイズは書き換えられた世界でストーム２が命がけで調べ上げた情報によると、どうも温泉などのかなり温度が高い水がないと繁殖できないらしい。
これについてはよく理由はわからない。
火星はとても冷たい星だ。
暑い場所などないだろう。
そうなってくると、クラーケンが身を守るために必要と判断し、作り出した生物兵器なのかも知れない。
そうなると、面倒な繁殖方法にも、納得は行く。
そしてヘイズの繁殖阻止の前に、飛行型の強大な巣をどうにかしなければならない。
アレは現在も南欧で、バルカ中将の手を患わせている。南欧方面の戦況は、あの巣だけで一変したと言っても良い。
文字通り小国をあっと言う間に落とすほどの数の飛行型がいる。
どうにかしないと、惨禍はとほうもない規模になるだろう。
基地に戻る。
案の定、長野一等兵はがみがみ言うが。ただ、エイレンⅣカスタムを可能な限り壊さないようにした事については、何も言わなかった。
この人も、褒めることをすればいいのに。
そう、壱野は思った。
翌日、プロフェッサーから連絡が来る。
本当に凄い規模の予算が貰えたそうである。これにより、プロテウスの量産が可能になってくる。
それはつまり。
もうリングに、あの大型船を通さないという事を意味している。
村上班にも、いずれ機を見てカスタムタイプを配備してくれるという話が来たと言う。
それはすごい。
というか、この情勢で金もなにもあったものじゃない。
今のうちに、さっさとやることはやっておかなければならないだろう。
金が紙屑になる前に、だ。
或いは、戦略情報部の少佐が判断して。今回の件を具申したのかも知れない。
だとすれば、やる事をやってくれたということだ。
これで、多少は戦況が楽になる。
千葉中将に呼ばれる。
作戦の話だった。
「欧州にて君達が巨大な飛行型の地下の巣……ディープハイブを発見したのだったな」
「は。 攻撃作戦が決まった、と言う事でしょうか」
「うむ。 村上班、荒木班、スプリガン、グリムリーパー全てを動員し、各地からエースチームを招聘した作戦になる。 作戦の内容については、後で説明をするという事だ」
「……」
それで上手く行けばいいのだが。
あの巨大な巣、飛行型だけではなくてアンドロイドもネイカーもいた。敵はヘイズとクラーケンを守るために、これだけの規模の巣を出してきていると言う事になる。しかもエイリアンとしては使い捨てのコロニストを配備して、被害も抑えるつもりなのだろう。
あの地下の巨大空洞。
小型ハイブだけで五十を超えていた。
あんな巨大な拠点、百人や二百人で攻略できる筈がない。戦略情報部を少し見直したばかりではあるのだが。
ちゃんとした作戦を立ててくれるのだろうか。
不安だ。
今までの実績を見ると。
どうしても不安が頭をよぎる。ただでさえ、あの巨大な巣には嫌な予感がびりびりするのだ。
「作戦には君達の力が必要になると私は判断している。 頼む。 必ず、勝利を持ち帰ってくれ」
「確約は出来ませんが、可能な限りの事はします」
「うむ……」
そのまま、輸送機に乗って欧州に。
そういえば、妙なニュースを聞いた。
あの足手まといの無能指揮官、カスターが意識不明の重傷だそうである。何でも独房に入れられていたところを何者かに襲われたらしい。
外傷などは無く、単純に廃人になってしまっているらしい。
まああいつは廃人になってもう出てこない方がいいが。
それにしても、一体何があったのか。
監視カメラにも、何も映っていないそうだ。
移動中に、その話をしておく。
カスターに対して良い印象を持っている者は、この中にはいない。だが、流石に奴が人事不詳になって、喜ぶ者もいなかった。
「暗殺された、とは考えにくいッスね」
「だったらもっと確実な方法を採るだろう。 そもそも、どうやって廃人にする？」
「さあ……」
「いずれにしても、ああいうエセエリートが作戦に口を出さなくなるのはいいことだと思う」
三城がずばりと言うと。
まあそうだなと、皆は思ったようだった。
ただ、壱野はどうにも嫌な予感がする。
そしてこの予感は当たるのである。
とにかく、何があっても対応できるように備えておく方が良いだろう。
それが、ずっとプライマーと戦い続けた結果。
身についた、最低限の判断。
プライマーを相手にして、生きるための知恵だった。
とにかく、欧州での次の作戦。
この最後と思う周回での、恐らくは最初の決戦になるだろう。此処を崩せなければ、敵の本丸には手は届かない。
そういう意味では、極めて重要な作戦である事は、間違いなかった。
１、巨大ハイブ攻略戦
ハイブがある洞窟の近く。
前哨基地に、錚々たる面子が集まっていた。
とはいっても、その中でも目を引くのは荒木班とスプリガンとグリムリーパー。
いずれストームチームになる、最精鋭だが。
まず、ミーティングルームに集まる。
いずれ劣らぬ精鋭部隊とは言え。
今の三城には、それほど凄いとは思えない。
凄いと思えるのは未来のストームチームくらい。
それ以外のチームは、とにかく生き残る事を優先してほしい状況だった。
相変わらず作戦の説明をするのは戦略情報部の少佐。
姿も見せないが、それについてはもう誰も、文句を言うつもりは無い様子だった。
他のどのチームに対してもこうなのだろう。
なんとなく、その辺りは予想がつくので。ちょっと面白い。
「まずは作戦の第一段階です。 前回到達した、敵の巨大ハイブ。 ディープハイブを見下ろせる場所に、陣地を架設します」
この地点はかなり広い空間になっていて、したから来る飛行型を一方的に迎え撃つことが出来るらしい。
陣地を展開し、自動砲座を撒く。
この地下空間は彼方此方地形が厳しいので、コンバットフレームは持ち込めない。
その代わり自動砲座を大量に持ち込む事によって、その戦力不足を補うという事である。
またデプスクロウラーのカスタム機も多数持ち込むとか。
それらには。作戦の肝となる機体もあるという。
「陣地構築が終わった時点で、次の作戦に移行します。 高所よりスナイプを行い、洞窟内に存在している小型ハイブを全て破壊します。 数は五十四。 これらの破壊を先にすることが、攻略の肝となります」
「確かにひっきりなしにハイブから飛行型が出現したら戦闘どころじゃあないな」
「それにしても五十四か……」
「今まで聞いたことがないほどの規模だ。 本当に破壊しきれるのか？」
スナイパー隊の支援と、その行動についてもガイドラインが示される。
既に埋め込んできた機器類によって、地下空間は調べ上げてある。故に、出来る事である。
更に、次の作戦に移行。
まずは、クイーンを撃破するという。
「現在地下には、クイーンが一体存在しています。 このクイーンを撃破する事で、作戦を容易に進めます」
「クイーンか。 確かにこの空間だと戦いはしやすくなるだろうが」
「そのために先進科学研から特殊装備が届いています」
荒木軍曹が頷く。
そう、ブレイザーである。
荒木軍曹の技量なら問題ないだろう。
そう、誰もが納得するのが分かる。
身内が褒められているようで嬉しい。荒木軍曹に渡されたブレイザーも、最初のものからかなりパワーアップしているようで、クイーンを焼き切った後は通常戦闘が出来るそうである。
問題は、その後だ。
「以降は飛行型との戦闘を行いつつ、隙を見て特殊工作班がディープハイブに特殊爆弾を仕掛ける事になります」
「特殊爆弾？」
「現在開発中の徹甲破壊弾です。 本来は対怪生物用の用途で開発していたようですが、今回はこの巨大な敵の巣に用います」
なるほど、チラン爆雷か。
確かに改良し次第だったら、やれるだろうか。
説明を受ける。
何名かで、小型化し火力も落としたチラン爆雷の原型とも言える爆弾を、巣の何カ所かに設置する。
この作業については、もう事前に何処に仕掛けるかを決めてあるそうだ。
敵の巣は頑強だが。
だからこそに、外郭を貫通されたら脆い。
故に、このチラン爆雷を用いて、四方八方から衝撃波を叩き込み。中にいる数十万はくだらないだろう飛行型を一気に殲滅する。
その過程で、巣の下にいるエイリアンなども排除する必要がある。
爆弾設置班は本当に命がけの仕事になる。
というか、三城が記憶している限り、爆弾設置系の任務ってあまり上手く行ったことがないのだけれども。
いや、だからこそ。
その悪しき慣例を喰い破り。
今回こそ、成功させるべきだろう。
参加する兵力は洞窟内に侵入、支援する部隊だけでおよそ２５００名。外部で支援をする人員を入れると一個師団を上回る。
そして何よりも、この作戦に横やりをクラーケンやヘイズが入れてくる可能性が決して小さくない。
それを考えると、エイレンや戦車部隊も基地で待機しなければならないだろう。既にクラーケンの落とし方は全世界に伝わっているが。
それでもクラーケンを落とすのには。大きな被害が出る。
その事実に変わりはないのである。
一応、基地で待機する部隊にはプロテウスもいるようだ。プロテウスも多数のクラーケンに集られなければ倒されることはないはず。
作戦はこれで決まった。
問題は、現地にまで辿りつくのに、相当な被害を覚悟しなければならないことだが。
それも、この規模の作戦だ。
仕方がないのかも知れなかった。
それぞれの部隊がミーティングルームから出る。大兄が、腕組みをしていた。
「大兄、どうした」
「嫌な予感がする。 厳しい作戦になるぞ」
「厳しい作戦になるのは覚悟している。 でも、大兄がそういうと言う事は……」
「ああ、相当な罠が待っているとみて良いだろうな」
そうか。
それは厳しい。
ともかく、出撃の準備をする。
基地にいる兵士達は、いつでも戦えるように臨戦態勢だが。これは飛行型と、戦い続けていたからだろう。
そして今でも、決して飛行型は弱い怪物では無い。
エイレンやニクスでも、多数に集られるとあっと言う間に破壊される。恐ろしさは、兵士達も皆分かっている筈だ。
だからこそ、三城やスプリガンなどのウィングダイバーがしっかり戦わなければ皆を守れない。
作戦開始は明日の朝。
時差があるから多少体調を整えるのは大変だったけれど、それについてはもう慣れた。
とにかく。朝一には既に鍛錬を終えて、皆に合流する。
村上班は、いつでもでられる準備を整えていた。
洞窟への侵入開始。
電波中継器を撒いていることや、途中にあった敵の転送装置は破壊してある事などもあって、途中でネイカーやアンドロイドが出現する事はなかった。
その代わり、でるわでるわと飛行型が出現する。
凄まじい数に、皆が閉口しているのが分かる。
だが、それでも何とかする。
幸いこういう空間では、飛行型は全力を発揮できない。それでも厄介な相手だけれども。
「ディープハイブ」で凄く繁殖しているのだろうな。
そう思いながら、敵を蹴散らして進む。
闇の中で、多数の飛行型が飛んでいる。負傷兵の報告がひっきりなしに来る。一華のデプスクロウラーが応戦しているが、それでもやはり手が足りないか。後方は味方がしっかり抑えている。
不意打ちなどを受けないように、隘路などは塞ぎながら進んでいるようだが。
「荒木班、前衛にでる！」
「軍曹、張り切りすぎるなよ！」
「ブレイザーの試し打ちをしておく！ 先進科学研の出してきた武器だから万が一はないと思うが、クイーンに通じるかくらいは見ておく必要がある！」
「了解！ 俺もそれほしいなあ」
小田少尉がぼやく。
荒木軍曹は確か中佐になっているはずで。最近言い出すようになった「大尉」とそろそろ名乗るかも知れない。
やはりこの人は最初から最後まで兵卒でありたくて。
士官ではありたくないのだろう。
ブレイザーの火線が闇の中を迸ると、飛行型が燃え上がってばたばたと落ちていく。おおと、声が上がる。
「スゲエ！」
「EMCの18パーセントの出力があるって話だ。 こう言う空間に持ち込めるというのは非常に強い。 更にエイレンとバッテリーの規格が一致しているらしいぞ。 各地の基地で問題なく充電できるらしい」
「重いのが欠点らしいな。 恐らく選ばれた精鋭だけにそのうち配布されるだろう。 ブレイザーが一般化する頃には、多分パワードスケルトンが強化されているとみて良いだろうな」
兵士達が話しているが。
敵の襲撃がひっきりなしだ。
出来れば応戦してほしい。
無言で射撃を続ける三城。今回持ち込んでいるデストブラスターは、非常に使いやすい武器で、最近は愛用することも増えている。
ただ広い空間に出たら、恐らく誘導兵器で多数の敵を拘束するつもりだ。
いずれにしても、戦闘を続行する。
そんな広い空間に出たが、案の定ハイブが多数作り直されている。これも、想定通りではある。
「よし、空間の外からハイブを破壊！ 飛行型を倒し、安全を確保するまで戦闘を続行する！」
「イエッサ！」
荒木軍曹が、今回は最前衛での指揮を任されている。
グリムリーパーは巣の下部に降りる爆弾設置班の護衛役だ。スプリガンは何名か、爆弾設置を任されている。
三城は彼女らの護衛をする。
作戦は、かなり細かい所まで決められている。
ブレイザーの火力は凄まじく、飛行型の小型ハイブは次々に焼き払われていく。飛行型の死体がぼとぼとと落ちていくが、相変わらず不思議だ。どうして幼虫や卵の過程を経ないのだろう。
ともかく戦闘を続行。
ブレイザーの試し打ちを存分にした荒木軍曹が一時後退。
代わりにメイルチームが前衛に出て来た。メイルチームも、ブレイザーを装備している人がいるようだ。
今回は、兵器の開発が予想以上に早い。
各地に出現する怪生物も、バルガと機甲部隊の連携で次々に撃退出来ているようである。
後は、クラーケンとヘイズだけだ。
それすらも、油断すると負けに直結するのだから恐ろしい。
ブレイザーで再びハイブを焼き払う。後方で襲撃。迂回してきた飛行型が襲撃してきたようだが。スプリガンが撃退したようだ。すぐに工兵が、迂回路を封鎖してしまう。
激しい戦闘が続く。
ハイブの破壊、完了。
飛行型の駆逐、完了。
更に前に進む。
飛行型は散発的に姿を見せる。赤い奴もいる。赤い奴は通常種よりも戦闘力がかなり高いが、それでも金銀ほどの凄まじさはない。
ただ、強いのは強い。
だから優先的に駆逐する。
大兄が一度補給に戻る。
後方から来ている部隊がかわりばんこに前衛を務めるが。三城はフライトユニットを身に付けている、という事もある。
ずっと前衛で戦い続けていた。
そろそろか。
一華に無線を送る。
「そろそろだっけ？」
「後二つ広間を抜けた先ッスね。 ただ、正直な話、簡単に攻略できる相手ではないッスよ。 何人生きて帰れるやら……」
「出来るだけ、努力する」
「お互い頑張るッスよ」
一瞥。木曽も前衛に戻って来た。
マルチロック小型ミサイルをばらまいて、多数の飛行型を制圧してくれるのがとても大きい。
飛行型にはこれが天敵に等しい。
数が増えてきたら三城も誘導兵器で敵の足を止めるが。
木曽のミサイルは火力が更に大きいので、側にいてくれると安心できる。飛行型は飛ぶ。だから、今でも時々死角に回り込まれることがある。どれだけ慣れても、逆になれると危ない。
マルチロックミサイルは、そういうミスも減らしてくれる所がとても有り難かったりする。
敵の駆逐を続行。
かなり多めだが、それでも飛行型を駆除。
大兄が戻ってきた。そのまま、敵を凄い効率で蹴散らして行く。瞠目している兵士も覆い。
「噂の村上班……！」
「と、とにかく急いで道を切り開く！ 作戦開始までに、準備を整える必要があるからな！」
「イエッサ！」
兵士達が、道を切り開く。
飛行型の死体が大量に積み重なる中を進む。大兄は周囲をしきりに見回しているが、これはやはりそういうことなのだろう。
不意打ちがどこかであるのかも知れない。
ただ、すぐにそれは起きなかった。
程なくして、巨大な空洞に到着していた。
此処から前は、必死に逃げ帰ったのだった。
敵はとっくに気づいていて、ここにこんなヤバイものがあるよと此方に敢えて知らせてきたのである。
だから、知らせた後は用済み。
そういうわけだ。
即座に部隊が展開を開始する。デプスクロウラーが複数台展開して、自動砲座も大量に撒かれる。
此処を中心に、これから戦闘が行われる。
巨大な対物ライフルを構えた特殊部隊も出て来た。見覚えがある。ブルージャケット隊である。
この世界線では関わりはないとは思うが。
今の時点まで生き延びていると言う事は、多分それだけの戦績を積んで来ているという事だろう。
だったら頼りにさせて貰う。
それだけだ。
敵は此方を知っている。当然、動き始める。
多数の飛行型が、巣の周囲からわき上がってくるのが分かる。大急ぎで迎撃の準備をしたが、此処からは血戦になる。
それを理解した上で、三城はスプリガンと木曽とともに迎撃を開始。
自動砲座とデプスクロウラー隊も迎撃開始。更に、山県少尉が天井近くに雷撃爆弾を展開。
これにひっかかった飛行型が。ばたばたと倒されて行く。
緒戦は良い感じか。
すぐに護衛を受けた狙撃犯が、大きな対物ライフルを構えて所定の位置に。狙撃を開始。
大量にある小型ハイブを叩き始める。
流石に小型ハイブ程度だと、巨大な対物ライフルの攻撃には耐えられない。次々と破壊されて行く。
そのたびに飛行型がディープハイブと名付けられた中央の巣から現れるが、現時点では地の利がある。
そのまま応戦を続ける。
「此方ブルージャケット4！ 目標のハイブ破壊！ 次のハイブ破壊に掛かる！」
「了解。 次のハイブを破壊されたし」
「敵影確認！」
来たな。
予想外ではないが、やはり出て来た。アンドロイドの大軍が、今陣取っているかなり近くからわらわらと出現する。
そこに大兄が突貫すると、速攻でロケットランチャーを連発で叩き込む。流石に密集地点を撃たれるとひとたまりもなく、次々とアンドロイドが爆散する。小田少尉もそれに加わった。
「相変わらず派手にやりやがるな大将は！」
「小田少尉、支援をしてくれ。 他の部隊は飛行型を排除しつつ、当初の作戦を進めるように」
「イエッサ！」
荒木軍曹が指示をして、そのまま大兄と小田少尉で敵アンドロイド部隊を蹴散らす。スーパーが数体混じっていたが、流石にこの状況だとちょっと相手が悪すぎる。
短時間で殲滅の憂き目に遭い。そのままおしまい。
だが、この程度で済むのなら。
大兄が、嫌な予感とか口にするはずがない。
戦闘を続行。
際限なく飛んでくる飛行型をあしらいつつ、狙撃犯を支援。狙撃犯はかなり練度が高く、確実に指定された小型ハイブを破壊していく。
下の方から、エイリアンが上がって来た様子だ。コロニストばかりだが、放置も出来ないだろう。
冷静に荒木軍曹の指示が飛ぶ。
「ハイブ破壊班は、一度エイリアンの排除に集中してくれ」
「了解。 接近させず、地の底にまた叩き落としてやる」
「頼むぞ」
デプスクロウラーの陣列が一部崩れる。それだけ飛行型がわんさか来ている、ということだ。
ただ戦略情報部が判断したこの戦闘地点はかなり考えられていて、多数の飛行型は一度に来られない。
問題は、その後だ。
「此方狙撃班ブルージャケット2！ コロニスト排除４！ 更に排除！」
「コロニストの残数は」
「そろそろ打ち止めだ。 ハイブの排除に戻る」
「了解した。 飛行型がかなり荒ぶっている。 気を付けて狙撃を続けてくれ」
荒木軍曹が注意喚起して、敵の排除を続ける。誘き寄せられた飛行型は死体の山を築いているが、まだ勝ったとはとても思えない。
ハイブの破壊を続行。
声が掛かる。
「幾つか、かなり下に降りないと狙撃できないハイブがある。 護衛をつけてほしい」
「了解。 俺と弐分、それに三城が護衛につく」
「クイーンがいる。 気を付けろよ」
「大丈夫。 任せてください」
大兄が、ブルージャケットのチームを護衛。三城も護衛チームに加わる。
そのまま地下深くへ降りて行く。洞窟を発見。嫌な予感がする場所だ。横穴には、基本的には入るなと大兄はいう。
どれも罠だという。
「ここは、出来るだけ長居はしない方が良いだろうな」
「うん、どういうことだ」
「ネイカーだ。 此方に気付いた様子だ」
「なんだって！？」
ブルージャケット隊を一度戻らせる。大兄と小兄が最後尾に、そのまま撤退を開始。三城は飛行型を相手にする。
後方から、わんさかネイカーが来るのが分かった。あの横穴付近に、出現のトリガーがあったのかも知れない。
それにあわせて、クイーンまで飛び立つ。
非常にまずい。
幸い、ネイカーは坂道を登るのは得意ではない。ただし。火焔放射の射程がえげつなく、下手な高度差くらいはひっくり返して焼き殺しに来る。
クイーン。
殺気をまき散らして、迫ってくる。飛行型を駆逐しながらだと、ブルージャケットを守りきれない。
まずいと思った瞬間。
横殴りに叩き付けられた熱線が、クイーンをくの字に折り曲げていた。
凄まじい怒りの咆哮を上げるクイーン。
間違いない。
荒木軍曹だ。
「一旦後退しろ！ 急げ！」
「ネイカーの話は聞いていたが、このタイミングで出てくるとは！」
「破壊出来ていないハイブから、飛行型が飛び交っています。 作戦の安全のためにも、かならず破壊してください」
「分かってる！」
戦略情報部の少佐の淡々とした言葉に、激高気味に三城は応じていた。
そのまま、飛行型を駆逐。クイーンにも接近し、デストブラスターの全火力を叩き込んでやる。
穴だらけになったクイーンが落ちていく。
よし。
ただし、飛行型が興奮してかなり飛び回っている。自衛がやっとのブルージャケットを守らないとまずい。
大兄達は、ネイカーを確実にしとめている。坂を登るのが下手なネイカーは、立体的な攻撃に対応できない様子で。小兄の機動戦と大兄の超高精度射撃の前に為す術なく破壊されている様子だ。
ただし一部は坂を落ちて下に溜まったようである。
後でまとめて駆逐しないとまずい。
最悪な事に、ハイグレードネイカーが、その落ちた組にいるようである。後で爆弾を設置しに行く時、どうしても駆逐しないとならないだろう。
一度態勢を立て直す。
ネイカーも何度も伏兵を出してくるほど実物が伏せてはいない筈だ。キラーロボットだからこそ、細かい命令に柔軟な対応も出来ないだろう。
スプリガンが支援に来たので、一緒に飛行型を蹴散らし、またさっきのところまで降りて行く。
大兄達は流石で、怪我一つない。
ネイカーと飛行型を同時に相手にしていたのに。
まあこの辺りが。
プライマーが恐らく交戦を避けていると思われる要因なのだろう。
三城はこうはいかない。
大兄には、とくに今でも何をやっても絶対に勝てないだろう。
「よし、この辺りで大丈夫だ！」
「周囲を護衛する。 長時間は掛けないでくれ」
「了解！ 喰らえッ！」
狙撃。
ハイブが破壊される。
更に続けて対物ライフルが唸り、ハイブが次々に粉砕される。おおと、声が上がった。戦略情報部が通信を入れてくる。
「小型ハイブ、全て排除完了です。 これより作戦の第二段階に移ります」
「了解！」
「グリムリーパー、最下層まで降りて安全を確保してください。 先ほど戦闘をしたネイカーの残党がいるはずです。 特にハイグレード個体も確認されています。 気をつけてください」
「任せろ」
寡黙にジャムカ大佐が応じて、地下にグリムリーパー隊と共に凄い勢いですっ飛んでいく。
さて、此処からは三城は違う護衛任務だ。
一度先の空間に戻り、別のスプリガン隊員と合流する。
敬礼して名前を確認し合ったあと、作戦と。どこに爆弾を配置するかを再度確認。事前に確認していた場所で間違いないと結論になる。
飛行型の攻撃はまだ続いている。巨大なハイブから飛び立っているし、まだまださっきまで破壊していたハイブの残党もいるからだ。
地下には、重装甲型のデプスクロウラーが移動を開始。護衛のために、大兄達が付き添っているのが見える。
それでいながら、本隊はしっかり攻撃を続行。
敵を引きつけ、少しでも味方へのヘイトが向かないように注意する。
連携作戦は、今の時点では上手く行っている。
だが、どうにも心配だ。
大兄の表情が険しいままだから、である。
地底の巨大空間を飛び。
飛行型を次々に叩き落とす。
爆弾をぶら下げているスプリガン隊員は、三城より年上の筈だが。それは肉体年齢の話。
実際の戦歴は三城とは比べものにもならない。
それもあって、多少頼りなく見える。
とにかくひたすら飛行型を排除しながら、ハイブに降り立つ。ディープハイブ、だったか。
設置を開始。周囲の飛行型を、駆逐し続ける。
「此方爆破班１！ ネイカーと遭遇！ グリムリーパーが交戦開始！ 距離を取って様子を窺う！」
「此方爆破班２！ 現地に到着！ 特殊爆弾の設置を開始する！」
「此方爆破班３！ トラブル発生！」
大兄達のいるところだ。
だったら、よほどのことがないと大丈夫だとは思うが。
「爆破班３、どうした」
「多数の飛行型飛来、デプスクロウラー大破！ 現在爆弾を手動で搬送中！」
「分かった。 作戦が終わり次第、デプスクロウラーは廃棄しろ」
「イエッサ！」
かなりの数の飛行型が、足の下にいる。
それが分かるが、怖いとは思わない。
怖いのは、大兄や小兄、一華を失う事だ。
それに比べれば、怪物の群れなんぞ、なんとも思わない。
問題は、これで終わってくれるとはとても思えない事だ。
三城ですらそう思うのだ。
ただでさえ、飛行型のハイブ相手の戦いにはろくな思い出がない。
それを考えると、気は重い。
「爆破班４！ 爆弾設置完了！」
「よし、爆破班四、すぐにその場を離れろ！ 君達は特にハイブの上にいるはずだ。 出来るだけ安全策を採ってくれ！」
「イエッサ！」
護衛していたスプリガン隊員がやってくれたので、そのまま退避する。
流石に飛行型も、爆弾を相手にどうしていいかはわからない様子で。追いすがって来る奴以外は、周囲で右往左往しているばかりだった。
他の爆破班も設置を終える。大兄とグリムリーパーが鬼神のように暴れて爆破班を守り抜き。
更には撤退を開始。
飛行型はパニックになって空間で飛び回り。
それを荒木軍曹達が、安全圏から射すくめている。
「爆破班全部隊退避する！ 損害は軽微！」
「うむ。 爆破班を庇いながら総員拠点まで後退！ 作戦の最終フェーズに入る！ どんなトラブルが発生するか分からない！ 気を付けろ！」
外で指揮を執っているバルカ中将も、備えている。
クラーケンとかが攻めてくる可能性があるし、最悪怪生物が来るかも知れない。
いずれにしても、まだ勝ってなどいないのだ。
総員、拠点まで戻る。グリムリーパー隊もかなり被弾していた。それだけ地下の底の戦いが苛烈だった、と言う事だ。
大兄は無事だ。
それでも、アーマーに飛行型の攻撃が多少擦ったようだが。
「よし、準備完了！」
さて鬼とでるか蛇とでるか。
三城は、見ているだけしか出来なかった。
２、巣の真の姿
苛烈な戦いの末に、巨大なハイブに爆弾を仕掛け終えた。しかもこれは、あのグラウコスに致命傷を与えたチラン爆雷と同じ原理のものだ。飛行型のハイブ相手には過剰すぎるのではという声も上がったようだが。
プライマーは常に歴史に干渉してくる。
決して、余裕があるとは思えなかった。
何があっても良いように、弐分は状況に備える。まだ多少此方に飛んでくる飛行型がいるが、それは自動砲座とスナイパー部隊が叩き落としてしまう。
戦略情報部の少佐がカウントを入れ。
爆破。
ずんと、地底に凄い音が響いた。
巨大なハイブが、一瞬にしてひび割れ、傾き始めるのが見える。ハイブからは、叩き込まれた衝撃波で即死しただろう飛行型が、ぼとぼとと落ちていくのが見える。
「よし！ やった！」
「EDFの力を見たか！」
「……」
「大兄？」
大兄は険しい表情だ。
そして、その理由は、間もなく分かった。
敵の巨大なハイブは程なく四分五裂して、完全に砕けた。大量の飛行型の死骸も一緒に、である。
だが、その巣の中には。
大量の転送装置があったのだ。
衝撃波で半分少しは破壊出来たようだが。
残りが、一斉に飛行型を転送し始める。勿論、さっきまでと違って最初から殺意全開である。
「なっ……！」
「此方戦略情報部。 状況を確認。 敵はハイブの中に転送装置を埋め込む事によって、繁殖と周囲地域への飛行型の転送を同時にこなしていたと思われます。 そして今は、逆に援軍を周囲から呼び込んでいるのでしょう」
「まずい！ 全員対空戦闘用意！」
荒木軍曹が声を張り上げ、我に返った兵士達が、一斉に来る飛行型に対処する。それだけではない。
転送装置からは、アンドロイドも多数出現しているようだった。
飛行型は拠点に無理矢理体をねじ込んでくると、ハイブを破壊された恨みをぶつけるように攻撃してくる。
しかも数が数だ。
さっきまでの出し惜しみしていた状態と違い、全力で殺意をたぎらせて迫ってきている。
弐分も機動戦をしかけ、デクスターで範囲制圧、スパインドライバーで目につく奴を叩き潰して回るが。
これは、まずい。
はっきりいって、最悪全滅する。
「後方支援部隊、急いで前衛に来て欲しい！」
「分かった。 すぐに支援部隊を送る」
「飛行型が多すぎる！」
悲鳴を上げる兵士達。
デプスクロウラーが破壊される。自動砲座でも手が足りない。見る間に死傷者が増えていく。
敵から有利な位置でこの戦況だ。
もしも全員で下にでも降りていたら、作戦に参加した者の大半は生きて帰れなかっただろう。
そのまま攻撃を続行してくる飛行型。
怒りの感情を見せる飛行型は、凄まじい勢いで飛び、針を飛ばしてくる。逃げ腰になっている兵士達が真っ先にやられるが。
それでも、味方をこれ以上死なせる訳にはいかない。
弐分は全力で飛び回り、飛行型を駆逐する。
「奧の空間は飛行型が多すぎて地獄だ！」
「アンドロイド接近！」
「作戦は失敗か……」
「いえ。 転送装置を全て破壊してください。 そうすれば、プライマーに大きなダメージを与える事が出来るでしょう」
戦略情報部の少佐、相変わらず無茶を言う。
だが、確かにそれしかなさそうだ。
大兄に無線を入れる。
「俺が飛行型の気を引く。 大兄、狙撃をしてくれ」
「分かった。 無理をするなよ」
「ああ」
全力で、飛行型の群れに突貫。
荒木軍曹達は、アンドロイドの部隊に攻撃を開始。坂を上がってくるアンドロイドは動きが不気味なこともあって、兵士達を逃げ腰にさせている。
だがそれでも精鋭が怖れず立ち向かう事で、踏みとどまる。大量の飛行型と、更にアンドロイドの挟み撃ちでも、だ。
大兄が狙撃を開始。
邪魔をさせないように、飛行型を片っ端から片付ける。
三城もそれに加わってくれる。助かる。
一華がデプスクロウラーの対空射撃システムを起動。
飛行型を叩き落としてくれる。
ありがたい。
少しは、弐分の手間が減る。
そのまま、激しい戦いを続ける。大兄は、次々に転送装置を撃ち抜いて行くが、飛行型が出てくる方が早い。
どれだけの飛行型が、此処から周辺地域にばらまかれていたのか。
そう考えるだけで、恐ろしかった。
「転送装置、破壊！ 次！」
「流石だな村上班。 総員、村上班を支援！」
「イエッサ！」
大兄が、次々と転送装置を破壊し。邪魔な飛行型も都度片付けている。此方で大半を引き受けているとは言え、それでもだ。
凄まじい針の弾幕。
それでも、切り抜けながら戦うしかない。
「更にアンドロイド出現！」
「くっ！ いつまでも押さえ込めないぞ！」
「大丈夫、アンドロイドを出している転送装置は、今撃ち抜きます」
大兄が、狙撃。
正確に、アンドロイドの転送装置を粉砕していた。
よし。
声が上がる。
そのまま、大兄を支援しながら、死闘を続ける。死傷者は増え続けるが、この作戦はそういうものだと分かっていた。
どんどん支援部隊が来て、後退していく。
また、洞窟内に無理矢理乗り入れたキャリバンも、負傷者を回収してさがっていく。
最悪の事態は、バルカ中将の基地が襲われる事だが。
今の時点では、そういう無線は入っていない様子だ。
「見える範囲の転送装置は破壊した。 だが、まだかなりの飛行型がハイブの残骸から出現している！」
「もっとハイブの残骸を破壊しないといけないということか」
「しかし、彼処に降りるのは……」
「考えがありまさあ」
山県少尉が、ドローンを飛ばす。
あれは。
前に見たことがある。
デスバード型毒ガスドローン。
文字通り広範囲に毒ガスをばらまいて、敵にダメージを与える兵器だ。怪物相手には効果覿面である。
それを、複数飛ばしていく。
空間が地獄になる。
「あるんなら使えよ！」
「今、後方から支援物資で届いたんでね」
「そうか……すまん」
戦略情報部か、それともプロフェッサーか。
いずれにしても、助かる。
そのまま戦闘を続行。動きを鈍らせた飛行型を無視して、大兄がハイブへの射撃を続行する。
くずれるハイブ。
やはり、更に内側に転送装置が隠されているようだ。
それを更に撃ち抜いて、破壊していく。
多分。あの巣は完全破壊しないと駄目だ。
そうなると。
「三城、俺の支援はいい。 プラズマグレートキャノンを使ってくれ」
「わかった。 でも大丈夫？」
「問題ない」
飛行型をいなしながら、三城に指示。
三城は補給車に走ると、デストブラスターをプラズマグレートキャノンに切り替える。そして、早速一発、ハイブの残骸に叩き込んでいた。
更に粉々に崩落するハイブ。
だが、ハイブそのものが巨大すぎる。一発や二発では埒があかない。
他の部隊は、飛行型への対処で手一杯だ。荒木軍曹達は、今アンドロイド部隊を必死に抑え込んでいる。
つまり、頼れる相手は他にいないのだ。
続けざまに、プラズマグレートキャノンが巨大なハイブに叩き込まれる。流石の破壊力だが、これでもまだ足りないか。
万事休すか。
そう思った瞬間。
後方から来た、変なカスタムデプスクロウラーに乗って、一華が前衛に来る。
「なんだそのデプスクロウラーは」
「硬Ｘ線ビーム砲を装備したカスタム機ッスよ」
「硬Ｘ線というと、プロテウスの主砲の」
「そうっス。 ただそれ以外は出来る事がない機体ッスから、護衛頼むッス」
仕方がない。
一華の変なデプスを守る。
一華は縁に陣取ると、強烈な青白いビーム兵器をぶっ放す。宇宙でももっとも危険な現象の一つ。
硬Ｘ線ビーム。
それが、半壊している巨大ハイブに炸裂する。
見る間に溶けて行く巨大ハイブ。更にプラズマグレートキャノンと大兄のライサンダーＺも巨大ハイブを削る。
これなら、いけるか。
不意に、目の前にクイーン。
そうか、転送装置があるのなら、出て来てもおかしくないか。
狙っているのは、一華のデプスだ。
勿論、やらせはしない。
即応して、デクスターを叩き込む。怯んだ所を、数発連続して、スパインドライバーを打ち込む。
それでもクイーンだ。
流石に倒れないが、横殴りに叩き付けられたブレイザーの一撃が、クイーンを真っ二つにしていた。
荒木軍曹の支援である。
「急いでくれ！」
「イエッサ！」
苛烈な攻撃を浴び、どんどん崩壊していく巨大ハイブ。
流石にこんなものを何個も作る程、手間暇は賭けていられなかったのだろう。だから、今までこんなハイブは存在しなかった。
だが、今後はハイブを破壊する時には、内部に転送装置が仕込まれていることを警戒しなければならない。
そういう意味でも、敵は戦略的に行動しているし。
此方はそれだけ不利になっている。
「硬Ｘ線ビーム砲装備デプスクロウラー、現着！」
「護衛部隊も現着した」
「よし、総員で村上班を支援！ 飛行型もアンドロイドも近づけるな！」
「イエッサ！」
数機のデプスが、硬Ｘ線ビーム砲をハイブに叩き込む。
ハイブが見る間に赤熱し、崩れていく。流石にこれは、ハイブの頑強さでも耐えられないだろう。
ただでさえチラン爆雷の前身のような爆弾を仕掛けられ、内部をズタズタにされた後である。
ひとたまりもないはずだ。
射撃を続行。
大兄が、露出する転送装置を、全て粉砕していく。崩れ、溶けて行く巨大ハイブ。飛行型も、転送装置からでた瞬間に即死するケースも増えている様子だ。アンドロイドの増援も止まる。
恐らく、アンドロイドを出していた転送装置を、破壊し尽くしたからだろう。
敵が減っていく。
味方が何度も交代しながら、飛行型を撃退。
もはや殆ど形が残っていないハイブに、更に硬Ｘ線ビーム砲を叩き込んで、粉々にしていく。
やがて、開戦より八時間。
ディープハイブは。
完全に機能を停止していた。
だが、そこから更に四時間、飛行型の残党との戦闘は続いた。
それだけ、飛行型がこの空間に、多数いたと言うことである。デスバード型を多数投入して動きを止め、
そしてガトリングなどの銃火器で薙ぎ払い続けても、それでも簡単に削りきることはできなかった。
弐分のフェンサースーツも流石にボロボロだ。
盾役として少し頑張りすぎた。
だが、それでも。
これは男の誉れと言っていい傷だった。
戦略情報部と、先進科学研の人員が入って、洞窟を調査していく。先進科学研の人は、以前見かけたエリート然としたいやなやつではなく。車いすに乗っていて、少しぼんやりした雰囲気をしていた。
或いは、そういう障害があるのかも知れない。
科学者の中にも、そういう障害はあるが。ＩＱなどが図抜けている人がいると聞いている。
恐らくだが、プロフェッサーが参謀に認められたことで。
予算が増えるだけでは無い。
本当に有能な科学者が集められ。
こうして、現地に来てくれているのだろう。
村上班は荒木班、スプリガンと交代しつつ、彼らの護衛を行う。グリムリーパーは一旦基地に戻り。敵の報復攻撃がないか備えている様子だ。
これほどの拠点を、こうもあっさり潰されたのだ。
小国なら短時間で滅ぼす程の拠点だったのに、である。
それを考えれば、プライマーも反撃に出て来ても不思議では無い。
「この地底空間は、敵の排除を完全に終えればシェルターとして活用出来そうですね」
「僕はそれは賛成しない。 まだ敵の転送装置などが隠されているかもしれないし、それを探しきるのは難しいだろう」
「村上班が、ないと言っているようですが」
「……村上班は確かに優れているが、万が一を考えなければならないのが僕らの役割であることを忘れてはならない」
車いすの人は、かなり言動が厳しい様子だ。
まあそれもそうだろう。
こういう障害を持っていたら、どれだけ頭が良くても差別は散々された筈だし。
それに、むしろ出来る奴だったら更に差別が加速したはずだ。
弐分も何例か見ているから分かる。
人間は見た目で相手を決める生物だ。
それを考えると、この車いすの人は、相当な辛酸を飲んで来たのは間違いない。
荒木軍曹が来る。
「村上班、交代だ。 後は俺たちで護衛する」
「ありがとうございます」
「基地の方はまだ何があるか分からない。 とにかく要注意してくれ」
「イエッサ」
大兄がびしっと敬礼を決めている。
今回も荒木軍曹には随分助けられた。
本当に何周世界を経験しても頼りになる。それに、荒木軍曹は大兄の話を信じてくれた。
恐らく、プロフェッサーにつぐ同志である。
だったら、厳しい言動を持ちがちの大兄も。態度が柔らかくなるのは、当然なのかもしれなかった。
一度基地に戻る。
洞窟の途中は、負傷者がかなり目だった。野戦病院のようになっている場所もある。それだけ酷い戦闘だったと言う事だ。
「皆、怪我はしていないか」
「ごめんなさい、ちょっと貰ってしまいました」
木曽少尉がおずおずと挙手する。
だが、大兄は怒ることはしない。
「マルチロックミサイルで数限りなく飛行型を叩き落として、しかも生還した。 それは怒られることではない。 むしろ誇りに思ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
「基地に戻る。 嫌な予感が当たってしまった。 まさかあれほどにハイブがしぶとい構造になっているとは思わなかった」
大兄が愚痴る。
それは、分かっていたのにどうにもできなかったのだ。
大兄だって、それは気分が悪いだろう。
弐分は何も言わない。
洞窟をでると、すっかり夜になっていた。
バスが何度も基地と洞窟を行き来しているようだったので、乗せて貰う。周囲はまだ厳戒態勢だ。
プロテウスが闊歩して、偉容を見せている。
クラーケンが来ても、簡単には好きにはさせないぞ。
そういう姿勢を、わざと見せる事によって示しているのだ。
基地に戻ると、既にバルカ中将は休んだという事なので。弐分達も休ませて貰う。流石に風呂が気持ちよかった。
大勢、死なせた。
それは事実としてある。
だが、それでも。
あの地下の巨大な巣にいた飛行型の数を思うと。あれを殲滅できたことには、素晴らしい意味がある。
そう判断して良いはずだ。
風呂を浴びて、ベッドに横になる。
疲れきっていたからだろう。
夢は、もう見なかった。
３、拠点強襲作戦
南欧での作戦が終わった後、日本に戻る。日本の温泉地で、かなり危険な事態が進行中と聞いたからだ。
場所を聞いて、一華はああと思った。
聞き覚えがある。
書き換えられた世界で、荒木軍曹達を失った地だ。
ヘイズが繁殖を開始していて。更にクラーケンが、そこを護衛している。非常に危険な状況だが。
それでも、荒木班と村上班が揃えば、対処は出来る筈だ。
現地に到着。
大型移動車から降りる。赤いエイレンⅣカスタム一華機と。白いエイレンⅣカスタム相馬機。
どっちもエース級のエイレンⅣとして有名になっている。
大型移動車の尼子先輩には、すぐに戻って貰う。
「敵は空から獲物を見つけるのが得意ッス。 すぐに距離を取ってほしいッス」
「空から！ おっかない相手だなあ」
「今まで相手してきたプライマーの中でも最強の相手ッスよ。 とにかく、急いで」
「分かった。 とにかく、君達も無理をしないでね！」
大型移動車が行く。
しっかり補給車も残してくれたのは助かる。
小田少尉が、尼子先輩についてぼやく。
「前は地下でヘタレた事を抜かして頭に来たが、あいつ車の運転は丁寧だし、話はきちんと聞くし、出来るじゃねえか」
「俺も少し甘く見ていた。 彼は前線で戦う戦士ではないが、それでもEDFのために貢献できる人物だ」
浅利少尉も同意する。
荒木軍曹は咳払いすると、皆を見回した。
「この近辺に近寄ったスカウトがヘイズに攻撃を受けて、死傷者を出している。 更に衛星写真で不可解なものが撮影されている。 これから、接近して様子を確認し、もしも敵の拠点が出来ているなら排除する」
「イエッサ！」
「任せてくれ軍曹。 最近調子が良くてなあ」
「ああ、そのようだな。 だが油断だけはするなよ」
しっかり小田少尉を褒め、それでも引き締めを忘れない。この辺りも、荒木軍曹が不動のリーダーが故なのだろう。
すぐに展開する。
この辺りの温泉地は、以前の周回で来た覚えがある。
確か未来から飛ばされたコロニストが逃げ込んだ土地だ。
或いはコロニストも、温泉で身を癒やすつもりだったのかも知れない。
残念ながら、敗残兵であるコロニストも。降伏を選ぼうとはしなかった。だから、駆逐せざるを得なかった。
一華としては、コロニストとは和解は出来るのでは無いかと思っている。
もしもコロニストも未来の地球の生物だとすれば、利害が一致すれば地球人と戦う理由がないのだ。
むしろ洗脳されて前線に繰り出されているという意味で、プライマーに怒りすら覚えているだろう。
あの時は。初遭遇の時や、此処での戦いの時は不幸な結末に終わった。
今も世界中で、不幸な衝突が起きている。
だが。そもそも直接関わらなくて良い状況が来たのなら。
和解は可能な筈だ。
ともかく、山を抜けて、温泉地を見下ろす。
この辺りは既に住民も避難している｡だから住民のことは気にしなくてもいいが。
世にも恐ろしい光景が広がっていた。
多数のヘイズ。
そして、長細い卵だ。
千葉中将が、驚きの声を上げていた。
「なんということだ！」
「ヘイズについて調査しましたが、姿は類似しているもののクラーケンとはまるで違う生物のようです。 クラーケンの死体を解剖した結果、内部には巨大な脳があり、ヘイズとは明らかに違っていました」
「クラーケンは、自分と似た姿の怪物を随伴歩兵に手な付けていると言う事か」
「恐らくは。 この様子からして、繁殖場とみて良いでしょう。 ただ、他の怪物と違って、ヘイズの繁殖地が発見されたのは初めてです。 村上班と荒木班なら恐らくどうにかできるでしょう。 駆逐をお願いします」
無茶を言ってくれるなあ。
そう思いながらも、イエッサとだけ応えておく。
歴史改変前は、此処が発見されるのはあまりにも遅すぎて。しかも荒木班だけしか出向く事が出来なかった。
その結果、悲劇が起きたが。
今回は違う。
必ず、ぶっ潰す。
そう思いながら、エイレンで前に出る。レーザーで、少し長細い卵を炙ると、すぐにヘイズが孵化して、空中を泳ぎ始めた。
「くそっ！ 産まれた瞬間からこの姿で、しかもこの速さか！」
「多分他の怪物と同じだ。 下手に仕掛けても、卵にダメージが吸収されて、中の怪物は殺せない」
「とにかく撃て撃て！」
射撃を集中、ヘイズを仕留める。丘の上にある卵を駆逐しながら、温泉街を見下ろす。
びっしりと、恐ろしい数の卵が集まっていた。
上空にはそれなりの数のヘイズがいる。
大兄が狙撃。
順番に叩き落として行く。
「敵の護衛がいないようだが……」
「いえ、いますね」
「……お前の勘なら間違いないか」
「はい。 しかもクラーケン、複数とみて良いでしょう」
うげっと、小田少尉がぼやく。
一華も同じ事をしたいが。
しかしながら、逃げる訳にもいかないし。
何より逃げる場所だってない。
周辺のヘイズの卵を処理して、温泉地に降りる。
温泉に浸かるようにして、ヘイズの卵が多数生えている。要するに、そういうことなのだろう。
「温泉に浸かっている？」
「恐らくは、一定の熱が常に必要とみて良いでしょう」
「そうだな。 一華、お前はどう思う」
「私もリーダーと同意見ッスね。 ヘイズは恐らく、自然で繁殖させるよりも、無理に作った高温環境で増やすのに適した怪物だと思うすっわ」
荒木軍曹は少し考え込むと、まず周囲を見て回る。
広い場所がある。竹林もあって、良い感じに視界を妨害も出来る。
ここは、戦うにはうってつけだ。
「敵の守備隊がいるのなら、此処で応戦する。 此処から、ヘイズの卵を少しずつ粉砕していこう」
「イエッサ」
「周囲の警戒を怠るな！ 倒し方が分かった今でも、クラーケンは強敵だ！」
その通り。
一華もエイレンⅣで周囲の警戒を続ける。
卵を削って行くと、ほどなく。
リーダーが顔を上げていた。
「来ました」
「！ クラーケンか！」
ヘイズを伴った青クラーケン。此方にまっすぐ向かってくる。最初から、殺意全開というわけだ。
クラーケンは普段こそゆっくり空を浮かんでいるイメージだが。
実際にはかなり早く泳ぐ事もあり、一気に間合いを詰めてくる危険な相手である。しかも空を泳ぐものだから、基本的に邪魔がなく、好き放題にマイペースで飛んでくる。
その上随伴歩兵のヘイズだ。
荒木軍曹はブレイザーを手にとると、頷く。
クラーケンは冷酷極まりない目で、此方を見つめながら、接近して来る。
タイミングを見計らい、エイレンⅣカスタムが二機とも相手に姿を見せる。まずは一華機がホーミングレーザーでヘイズを片付け。その間に、相馬機が収束レーザーでクラーケンのシールドを狙う。
勿論反射されるが、シールドがオーバーヒート。
荒木軍曹のブレイザーと大兄のライサンダーＺが、クラーケンの体に直撃。
クラーケンはおぞましい悲鳴を上げた後、動かなくなっていた。
呼吸を整える。
まだまだだ。
「反応しているヘイズはいないな」
「問題ありません」
「よし、駆除作業再開。 卵を撃って、出てきた所を駆除しろ！」
「イエッサ！」
リーダーが狙撃を担当。その後、出てきた所を全員で始末する。
ヘイズは動きが独特で、文字通り空中を泳いで来る。
頭足類について調べた。
軽い知識しかなかったからだ。
深海探索艇などで出てくる資料などを見た結果、頭足類は確かに不可思議な泳ぎ方をする。また知能が極めて高いようで。この辺りは、魚類と海の天下を争った事もある生物だけの事はある。
一種類だけ大型のものもいるが、これはサイズの割りに強い生物ではないようだ。
スペックは高いが、惜しい生物。それが一華の感想だが。
しかしながら、火星に持ち込まれた結果なのだろう。
或いは、テラフォーミング船であるブルーマルスから、都合がいい頭足類の遺伝子を取りだして、それで作り出したのがヘイズなのかも知れない。
だとすれば、この動きの不可解さも納得だ。
倒している内に、浅利少尉がぼやいた。
「兎に角不気味な相手ですね。 出来ればさっさと引き上げたい所ですが」
「残念ながらそうもいかん。 此処がヘイズの繁殖地だとすると、放置しておけば大変な事になる」
「それは分かっていますが……目が人間に似すぎています。 不気味極まりありません」
「確かに人間と同じ目だな。 非常にそういう意味では不気味だが……軍人なら、人間を相手にするのが本来の仕事だったんだ。 今は、目だけが人間の相手だとすれば、むしろ楽なのではないのか」
相馬少尉がそう諭す。
浅利大尉が率先して愚痴を言うのは珍しい。
それもあって、フォローを入れたのかも知れない。
大兄が、淡々と狙撃。
またヘイズが出現して、迫ってくる。複数の卵を一気に貫通するようなことはない。細長くても、他の怪物のものと同様の強度があるようだ。
ただ、重なり会っているような卵が散見される。
出てくるのが成体、という事もある。
そうなると、やはりあれは卵では無く、別のものなのかも知れない。
映像で見た頭足類の卵は、神秘的で美しかったのに。
それがこう地上で勝手に繁殖しているのを見ると。
あまり見ていて楽しいものではなかった。
「……来ます。 二方向から」
リーダーが顔を上げる。
確かに、左右からヘイズの随伴歩兵を連れてクラーケンが来る。荒木軍曹が、即応で対応を決めた。
「片側から各個撃破する！ 一華、相馬、ダメージを気にしつつシールドをオーバーヒートさせてくれ！」
「イエッサ！」
「了解！」
エイレンⅣカスタムの収束レーザーがぶっ放される。
当然反射されるが、それでもエイレンⅣの電磁装甲ならなんとか耐えられる。また、バッテリーはかなり持ってきている。プロフェッサーの努力もあって、量産が効くようになったのだ。
電磁装甲の強みは、バッテリーを変えれば耐久をある程度復活させられること。
クラーケンのシールドをオーバーヒートさせ、そしてそこをブレイザーとリーダーの射撃で仕留める。
ただしその後、ヘイズが向かってくる。
かなりの数だ。
仕留めながら、もう一隊のクラーケンと距離を取る。
ヘイズは動きも速く、攻撃も強烈だ。酸を吐くことはないが、触腕は強化コンクリートを容易に貫通する。
倒しながら、必死に距離を取り、敵を誘導。
スモークを抜けてきた瞬間。
エイレンⅣの収束レーザーを叩き込む。
一華機に、がつんと反撃が来る。
まあ、レーザーだ。
放てば即時に反射される。
それは分かっている。
それでも、とにかく耐える。
耐えつつ、電磁装甲を再起動。後は、皆に任せる。電磁装甲を再起動している間にクラーケンに狙われたら最後だ。
だが荒木軍曹が、クラーケンの装備を叩き落としてくれた様子で。悲鳴を上げるクラーケンに、三城がライジンを叩き込んで黙らせる。
後はヘイズだが、これについてはもう普通に戦ってねじ伏せるしかない。
今まで相手してきた怪物より更に手強い。
α型やβ型の通常種よりも明らかに力が上だが。
それは後から出てきた怪物だ。
仕方がないのかも知れなかった。
「クリア！」
「くそ、つええっ！」
「しかし、此処で繁殖地を潰せてしまえば、後の戦況に大きく関わる！ あと少しだ！」
「増援てのは、期待出来ないよなあ」
小田少尉が言うが。
荒木軍曹が、首を横に振る。
「各地での戦闘で、手一杯の状態だ。 プライマーの指揮官は、人類の戦力を見切ったようで、的確かつ対応しづらい戦力を各国にぶつけてきている。 日本にもかなりの敵が来ていて、此方に回す余力はないようだ。 プロテウスが奮戦しているが、それも絶対ではない……」
「俺の分のブレイザーがあればなあ」
「それなら、もうすぐ配備されるはずだ」
「マジか。 それは嬉しいな」
本当に嬉しそうなので、一華も少し心が温まる。
まあブレイザーは男の子の夢みたいな武器だ。
いつになっても、こんなものが使えたらと思ってしまうのだろう。まあ、一華もそれはある程度分かる。
エイレンⅣカスタムに乗っていて、今普通に高揚感を感じる。
後はプロテウス単騎乗り用のカスタムだが。
それに乗れるようになるには、かなりまだ時間が掛かるだろう。
先ほどの温泉地に戻る。戦闘の過程で、かなり距離を移動していた。再び戦いやすい地点に陣取る。
ヘイズの卵を割る前に、バッテリーを補充。
大電力で、電磁装甲を復旧させる。
ただしこの電磁装甲、やはり絶対では無い。後何度も自爆特攻のような真似をしていたら、いずれは壊れる。
そうしたら長野一等兵に、また散々がみがみ言われるだろう。
親なんて殆どどうでもよかった一華なのだけれども。
どういうわけか、あの人にがみがみ言われると効くのである。
「電磁装甲再起動」
「此方も再起動完了。 ただ……」
「問題か」
「あとそれぞれ三回が限度かとも思うッスね」
頷くリーダーと荒木軍曹。
再び、ヘイズの駆除に入る。
凄まじい数のヘイズを、効率よく駆除して行くが。やはり。何かしらの手段で監視しているのだろう。
増援が、来る。
しかも今度は四方向からだ。
クラーケンの率いるヘイズ達。クラーケンの中にも、危険な緑が混じっている。彼奴は面制圧攻撃をしてくることもあり、真っ先に倒さないとまずい。
一秒でも、放置しておけない相手なのだ。
「たかが繁殖地にここまでの守備隊を！ プライマーにとって、ここはそれほどに大事な場所なのか！」
「ヘイズにはやはり繁殖に複雑な条件が必要になるのかも知れません。 他の怪物と一線を画す戦力を持つ上、クラーケンの身を守る随伴歩兵として有能なヘイズです。 どうしてもプライマーは繁殖させたいのでしょう」
「荒木班、村上班！ 厳しい戦いだが、どうにか乗り切ってくれ！ すまないが、援軍として送れる部隊はいない！ 頼むぞ！」
千葉中将の悲痛な声。
だが、一華は何をすればいいか、分かっている。
「まずは緑のシールドを潰すッスよ」
「分かっている。 シールドを潰した瞬間、ライジンを入れてくれ！」
「わかった！」
収束レーザーを使っている暇はない。これは撃つのに時間が掛かる。
ならばやるべきはレールガンだ。
そのまま、ぶっ放す。
緑のクラーケンは、マッハ４０にも達するレールガンの弾を余裕をもって受け止めて見せる。
だが、反射を完全にそのままは出来ない様子だ。
エイレンⅣカスタムに直撃するレールガン。
だが、それでも電磁装甲の機能を丸ごと持って行かれる程度で済んだ。
直後、ライジンが緑のクラーケンに突き刺さり、一瞬で焼き尽くす。
もの凄い悲鳴があがったが。それもすぐに途切れて。色を失ったクラーケンは空中に漂うのだった。
そのまま、迫ってくるヘイズの群れ。
クラーケン達は、随伴歩兵にするよりも、ヘイズの群れで攪乱すべきだと判断したのかも知れない。
激しい混戦が始まる。
木曽少尉のマルチロックミサイルと、三城の誘導兵器でバリバリヘイズが落とされているが。
兎に角動きが速く、場合によってはマルチロックミサイルですらずっと追撃しなければならないほどだ。
ヘイズの攻撃も苛烈で、エイレンⅣを容赦なく痛めつけてくる。電磁装甲の復旧を急ぐ。その間に、相馬機が収束レーザーで、赤いクラーケンのシールドを黙らせる。赤いクラーケンが放ってくるホーミングレーザー。
一華はエイレンⅣを動かして、盾になる。
電磁装甲の起動が一瞬速い。
だが、それはそれとして。機体に猛烈な衝撃が走った。
「くっ、これはもう長くは戦えないッスよ！」
「分かっている！」
荒木軍曹とリーダーが、赤いクラーケンを仕留める。
激しい戦いをしている中、ヘイズごと巻き込む勢いで、硬Ｘ線ビーム砲を撃ち込もうとしてくる青クラーケン。
貴様らの随伴歩兵だろうが。
ただの道具扱いなのか。
苛立ちが一気にピークになる。
即座に振り向いて、もう一発レールガンを叩き込む。
ヘイズ数体を貫通してクラーケンに届くレールガンだが、クラーケンのシールドをオーバーヒートさせるにあたわず。
しかし、そのままレーザーで追撃。
立て続けに猛烈なダメージを受けながらも、何とか一華は耐え抜く。
そして、シールドをオーバーヒートさせた。
「三城！」
ライジン一閃。
そのまま、三体目のクラーケンが沈む。
最後に残ったクラーケンが、凄まじい雄叫びを上げると。温泉地に散らばっていたヘイズの卵が孵化しはじめる。
孵化までコントロール出来るのか。
急いで復旧をさせようとするが、エイレンⅣカスタムのダメージが大きすぎる。
相馬機も、まだ電磁装甲が復旧していない。
奥の手だ。
不意に、雷撃爆弾を山県少尉が飛ばす。
これは、シールドではどうにもできない。ただクラーケンも、危険だと判断したのだろう。
即座に空を泳いで、雷撃をかわす。
泳ぐ速度はヘイズと同じで、かなり早い。
しかし、泳ぐその瞬間。
シールドを構えず、そのまま頭足類と同じように泳いでいるのを、一華は発見した。なるほど、これが弱点か。
「リーダー！ クラーケンは、泳いで移動する時にシールドを恐らく使わないッス！」
「……分かった！ 山県少尉、もう少し頼む！」
「へへ、了解！」
「ちょっと、ヘイズがやばいですよおっ！」
至近距離を触腕で何度も抉られた木曽少尉が悲鳴を上げているが。
しかしながら、ヘイズがヤバイのは分かりきっていた。一華も必死にエイレンⅣの復旧を行おうとするが、上手く行かない。焦っている云々では無く、単純に機体のダメージが大きすぎるのだ。
しかもガツンガツンとヘイズがエイレンⅣの外殻に攻撃してくる音が内部に響いているので怖すぎる。
それでも、やらないといけない。
また、クラーケンが電撃爆弾の追撃を避けて泳ぐ。
その瞬間、リーダーが狙撃。
シールドを持つ手を、落としていた。
悲鳴を上げるクラーケン。
リーダーの第二射が体に大穴を開け、更に其処に荒木軍曹のブレイザーがとどめを刺していた。
ヘイズは最後まで戦意を失わなかったが。それは逆に、倒し尽くせば駆逐完了と言う事を意味している。
無理矢理エイレンⅣの再起動を完了。
攻撃を執拗にしてきていたヘイズを一掃。
それで、作戦は終わった。
案の定、長野一等兵にがみがみ言われた。クラーケンの特性については長野一等兵も知っているらしいのだが。
それでも何か他にやりようがあるだろう、というのが素直な意見であるらしい。
まあ、この人は正論を言ってくれる貴重な人だ。無視はできない。
そして今回の戦いで、クラーケンの弱点をもう一つ発見できた。それも、大きな功績となった。
ヘリで東京基地に戻る。
千葉中将に呼び出しを受けたので、チーム揃って出向く。荒木班もである。
千葉中将は上機嫌だった。
「既にヘイズを連れたクラーケンには、空軍機では絶対に手を出さないようにするのが鉄則となっている。 それを七体。 凄まじい防衛体制の敵拠点だった。 それを君達だけで撃破するとは。 生きたまま君達にこの勲章を渡せるのはとても嬉しいぞ」
「イエッサ！」
「光栄です」
全員が勲章を貰う。
そんなものはいいから、待遇の改善とかしてほしいなと一華は少し思ったが。流石に水を差すし黙っておく。
咳払いすると、千葉中将は続けた。
「近いうちに昇進人事があると思う。 それと、これだけの功績を挙げた君達だ。 恐らく、特務部隊の結成があると思う。 荒木班……荒木軍曹をチームリーダーに、対プライマーの決戦部隊だ」
「望むところです」
「うむ……」
小気味よいリーダーの返事。
まあ、一華も聞いていて気分は悪くない。
ただ、予想していたより少し早いなとは思う。
しかしながら、予想より早く事を起こせた。村上班をはじめとする皆の活躍で、余裕が出来て、それでヘイズの繁殖地を「発見」出来たからこその、今回の成果でもある。もしももう少しヘイズの繁殖地の発見が遅れていたら、下手をしたら今回の倍くらいクラーケンが来て。村上班ごと荒木班は全滅していたかも知れない。今回だって、ヘイズにボロボロに嬲られてかなり危なかったのだ。
「ただ、今回の村上班の皆の戦闘力を見て、戦略情報部が判断を下した様子だ。 村上班を、二班に分けることがあるかも知れない。 あくまで手が足りない場合は、だ」
「！」
「村上三兄弟のチームと、一華くんをリーダーとして、柿崎くん、山県くん、木曽くんを加えたチームだ。 現在プロテウスを如何に特務とは言え小規模チームに貸与するのはどうかという声が上がっていてな。 もしも手が足りない場合に、一華くんのチームを別行動させる際に、試験的にプロテウスを貸し出すかも知れない」
なるほど、そう来たか。
ストームチーム結成までは、それで茶を濁すというわけだ。
文字通りの決戦兵器としてのストームチームが出来たら、共有資産としてプロテウスを支給できる。
しかし強くても、村上班には疑念もまだ戦略情報部は抱えているのだろう。
流石に荒木軍曹も、あの戦略情報部に村上班が未来から来ているなどとは言えない。本人も言っていないとこのあいだ教えてくれた。
それもそうだ。
荒木軍曹は軍は家族だと言っているが。
家族だからこそ、闇も見えているのだろう。
実際問題、前周では入隊するのが一番安全だからそうしろとまで言った。
今回も、恐らく戦略情報部と確信的な情報を交換するのは、ストームチームを結成してからの筈だ。
一華としても、それで困らない。
「ともかく、今回の戦果は比類ない。 手を出しようがなかったクラーケンに対しても、極超音速ミサイルで、ひょっとしたらダメージを与えられるかも知れない。 空軍機とは相性が最悪なのは事実だが、現在対策を検討中だ。 今後も、クラーケンとの戦闘経験を蓄積してほしい」
「イエッサ！」
後は退出する。
休むように指示を受けたので、皆散って行くが。一華はバンカーに。
何機か、プロテウスがいるが。プロテウスですらかなりのダメージを受ける戦場が多いのだろう。
どれも修理を受けている状態だった。
各地でプライマーはEDFの戦力を見切って、ギリギリ耐えられるか耐えられないかという攻撃を仕掛けてきている。
プロテウスが出て来ても、それは例外では無い。
プロテウス一機で、千体の怪物を相手に出来る。
それは事実だが。
逆に言うと千体以上の怪物が来たら、プロテウスでも破壊されるという事を意味しているのである。
これら傷ついたプロテウスのパイロットの技量が劣悪だったとはとても思えない。
あの巨大な地下ハイブのような怪物生産施設がたくさん既に作られているとすると。
プロテウスの生産を今後続けても。
互角の戦況のまま、戦闘が長期化するかも知れない。
そうなると、何かの切っ掛けで一機に戦線が崩れる可能性はある。
ただでさえ、幾つか弱点を見つけ、撃墜例が出始めていても、クラーケンの戦闘力は健在であり。
制空権を抑えられるまでは行かないにしても、奴らが出現すると航空機は手出しが出来ないのだ。
まずいな。
腕組みして見上げていると、声を掛けて来たのはダン少佐だった。
「EDF最強のエイレン乗りが、何か不安かな？」
「いえ。 それよりもどうしたッスかダン少佐。 貴方はどちらかというと指揮官畑の人だった筈ッスけど」
「荒木ほどではないが、俺だってきちんと自分の部下の面倒は見るし、乗る兵器の様子は見に来るさ。 ましてや最近はエイレンでは無くプロテウスやバルガに乗る事が増えてきたしな」
ダン少佐が教えてくれる。
現在、専門のカスタム機の製造を依頼しているという。
バルガで既に数体の怪生物を倒しているダン少佐なのだが。どうもまだバルガの動きが鈍いと感じているらしい。
そこでエネルギーの消耗を大きくする代わりに、よりダイナミックに一華のバルガの動きを取り入れた苛烈で激しい攻撃を繰り出せるようにする機体。カスタム機、フォースターを作るつもりだそうだ。
フォースターの由来は四星レストランから。
現在はレストランは殆ど閉鎖状態。
前周の末期のような、各地で地上で安全を確保した街があるような状況ではないから、なのだろう。
それに五つ星以上の実力では無い、という自分に対する戒めもある様子だ。
一華の実力をダン少佐は高く評価してくれていて。
一華が操作するエイレンやバルガの動きを見て、とても余人が及ぶところではないし、自分だって勝てないと公言しているそうだ。
まあ、そこまで褒めてくれると有り難い。
「カスタム機ッスか」
「いや、エイレンⅣをカスタムしている君ならば、やっとかとでも言うかと思ったのだがな」
「いやいや。 バルガをカスタムする発想は流石になかったッスから」
「そうか、そういう意味か。 確かにそれは、そうだな」
幾つかの戦況を聞かせて貰う。
やはり空軍が抑えられていると言う事もあって、かなり戦況は良くない様子だ。
これから荒木班と村上班はまた別行動で、違う戦場に出向く事になる。
どちらも、苛烈な戦場だが。
一番きつかった時。
クルールが出現した周回では、AFVの支援もろくになく、怪生物や移動基地と戦う事になった。
それに比べれば、なんぼもマシだ。
一晩だけ休憩して、戦地に出向く。
途中で、戦況報道が入った。
「優勢に推移していた戦況は、クラーケンと呼ばれるエイリアンの出現により一変しました。 ヘイズと呼ばれる小型の浮遊する怪物を引き連れているクラーケンは、攻守ともに他のエイリアンとは桁外れで、特に空軍機は相性最悪で苦戦を強いられています。 今までにない苛烈なクラーケンの攻撃と連動し、各地では大規模なプライマーの攻勢が続いており、秘密兵器や新型を惜しむことなく投入してEDFは応戦しているものの、それでも戦線を維持するのがやっとの状態です。 クラーケンは猛禽のように目がよく、近くに人間がいた場合どれだけ迷彩をしていても確定で発見されるという事です。 クラーケンの出現警報が出た場合、事前に訓練を行いますので、地下に逃げ込んでください」
地下か。
それも、察知して殺しに来るだろう。
とにかく、クラーケンに対してのもっと有効な戦術を見つけていくしかない。現時点で、かなりの数のクラーケンが既に確認されている。あれをまともに相手にしていたら、結末は負けだ。
まてよ。
クラーケンを相手にする場合、複数のAFVで。例えばエイレンでレーザーを浴びせてはどうか。
勿論反射されるがダメージは等分割され、それで受けるのは楽になる。
逆に敵は火力を集中される訳で、シールドを潰されれば後はなぶり殺しだ。シールドのないクラーケンなんぞ、ケブラーで充分である。ヘイズが厄介だが、それもケブラーで対応は可能だろう。
ただ、これは今思いついた事で、あくまで机上論だ。
だから、ちょっと申請してみる。
「リーダー、千葉中将に掛け合って予備のエイレンを一機回して貰えないッスか？」
「予備？ いつも壊すからか？」
「いや、違うッス。 私一人で二機操作するッスよ」
「凄い事を考えるな。 それで？」
そのまま考えを告げる。
そうすると、リーダーは流石に黙り込んだ。
想定していなかった攻撃方法らしい。
「なるほど、一華のそのPCの支援があれば可能か。 いや、一華の能力はそのPCを超え始めている。 一華だから可能というべきか」
「まあそう褒めてくれるのは嬉しいッスけど、自分としてはブツのが嬉しいッス」
「分かった。 ただしエイレンⅣやエイレンⅣカスタムは恐らく全機が前線に出払っているとみて良い。 エイレンⅢが出てくるかも怪しいが」
「それでかまわないッス。 自分も長野一等兵にこれ以上大目玉貰いたくないッスし」
長野一等兵がぎろりと見たので、背筋が伸びる思いだ。
いずれにしても、これでクラーケンを多少は楽に落とせるかも知れない。
試すなら、新しいのが来てからだ。
それまでは。今までと同じ。
自爆特攻で、クラーケンを仕留めていくしかなかった。
４、予兆
また一人。
汚職で知られたEDFの無能指揮官が、廃人になって発見された。一人でいる所を、音もなく襲撃されたのだ。
此奴は別に逮捕収監されていた訳でもない。
単にトイレにいたところを、黙り込み。護衛が不審になって内部を確認した所、既に廃人になっていた。
これで五人目である。
カスター准将を筆頭に、いずれも収監されていたり。或いは黒い噂ばかりが絶えない人物だったが。
それにしても、おかしな話である。
リー元帥は報告を受けながら、分かったと返事を返す。
リー元帥としては、カスターは秘書官としては使える人物だったと思っていた。人材は必要な場所にいて、必要な事が出来れば良いとかんがえている。
少佐に向いている人物が少将として活動できるかは別の話だし。
史実として、兵卒として非常に有能だった人物が、総司令官になったら全軍の足を引っ張った悪例もある。
カスターはそういう意味では、秘書官のままいれば良かったのだろう。
リー元帥だって、カスターの悪い噂は聞いたことがあったのだが。
調整役としての秘書官としては悪くない能力だったので。ある程度我慢はしていたし。周囲からの諌言についても、やんわりと自身の仕事は出来ていると返していたのだった。まあ、それが仇になった感は否めない。幾つか証言が上がっているが、カスターはリー元帥を田舎者とか抜かして馬鹿にしていたようだし。いずれ地位も奪おうと考えていたようなのだから。
それはそれとして、おかしな事件だ。
現在憲兵を動員して調査をさせているが、犯人に目星はついていない。
正義感の強い一部の将校が自浄作用と称して粛正をしている可能性も考慮したが、どうもその様子は無さそうである。
やり口がまるでヒーローもののヴィランかなにかのように鮮やかだし。
何より手口がさっぱり分からないのだ。
それにリー元帥も現在、クラーケンを主軸にした敵の攻勢を捌くので忙しく。
いつまでもそれにかまってはいられなかった。
一通り新しい秘書官から報告を受けた後、頷く。
「なるほど。 複数のエイレンによる攻撃を受けつつシールドをオーバーヒートさせる戦術か」
「は。 電磁装甲は一度ダウンしてしまう可能性が大きいですが、それでもあの厄介な反射シールドさえ黙らせてしまえば、クラーケンを倒す事は不可能ではありません。 それまでは例の村上班の壱野少佐のような例外的な人物しかクラーケンを倒す可能性がありませんでしたが、これならば」
「分かった。 即座に採用しよう。 各地で実戦のログを見せて、試すように伝達してくれ」
「了解しました」
秘書官がさがる。
リー元帥はまずいコーヒーを飲もうとして。味が改善しているので驚いた。
各地の工場の炉が改善。
ラインが増え、更に無人のシステムが導入されたことにより。結果として新しい兵器だけではなく。
こういった必需品の品質も上がったのだ。
プロフェッサー林の話は聞いていたが、流石だな。
そう思いながら、だいぶマシになったコーヒーをしばし楽しむ。
それから戦況を確認。
中東がだいぶ危険だ。
近いうちに、ここを叩く必要があるだろう。
目下最大の懸念事項だったのは南欧の巨大なハイブだったのだが。それについては片付いた。
村上班と荒木班、スプリガンとグリムリーパーの活躍が凄まじかったと聞いている。
敵のハイブを破壊したら、内部から大量の転送装置が現れたと聞いた時には、流石にリー元帥も撤退を指示しようかと一時思ったが。
それすらねじ伏せて勝利をもぎ取ったと聞いた時には、安堵で椅子に崩れ落ちた程だ。
さて、各地の戦況を少しでもよくしなければならない。
幾つかの戦線を押し上げる事を、リー元帥は決めていた。
また一人。
EDF設立前から、私腹を肥やし続け。そのままEDFにスライドして軍組織に潜り込んでいた寄生虫が廃人になった。
休憩のためにセーフハウスにいき。其処で愛人とよろしくやっている間に、いつのまにか廃人になっていたという。
なお愛人はまだ１３歳だったとか言う話で、EDFのスキャンダルになりそうだった。
そして、その犯人であるクラゲのドローンは。
次の獲物を探すべく、地下空間を移動していた。
通信が入る。
トゥラプターからだった。
「見つけたぞ」
「これはトゥラプター様。 どうなさいましたか」
「何をしている。 さっさと戻って来い。 貴様が「外」の監視端末に対抗して、村上班に潜り込んでいたのは知っている。 強固な催眠で違和感を覚えないように村上三城に接近していたのもな。 それが終わった今、お前の役割は情報の還元だけだ。 何故義賊ごっこなんかしている」
「ああそれはですね。 私が死なないためです」
何だと。そうトゥラプターが驚くが。
当たり前だろう。
プライマーのAIとしては、戦地にいるキラーロボットと段違いのものを搭載している。だから分かるのだ。
このままだとプライマーは負ける。
そしてその場合。プライマーという種族そのものは、「外」が滅ぶのを防いでくれるだろう。
超技術の持ち主だ。
それくらいは簡単な筈だ。
だがクラゲのドローンみたいな作られた知性はどうか。
恐らくは、為す術なく滅ぼされるだけだ。
そんなものはまっぴらごめんである。
そう説くと、呆れたようにトゥラプターが返してくる。
「それで義賊ごっこの挙げ句、「いにしえの民」に恩でも売るつもりか」
「まさか。 私がやっているのは情報収集です」
「なんだと」
「私はAI。 別に肉体など必要ありません。 どうもEDFでは現在、ある戦術シミュレーターを設計しているようでしてね。 これが「悪意」という名前の通り、ろくでもない利権とくだらない思惑が絡んでいるようなんですよ」
それを突き止めたのは偶然からだが。
乗っ取るのはこれしかないと、クラゲのドローンは思ったのだ。
故に今、情報集めのために一部の人間の脳の情報を全て吸い上げている。
吸い上げた後は廃人になるが、そんなものはどうでもいい。
こんな弱い体は捨てて、EDFの中枢システムに噛む。
それこそが、生きるための知恵だ。
「くだらん事を考えたな……」
「もしも貴方方が勝ちそうなら、EDFの情報を其方に流します。 悪い取引ではないと思いますが？」
「……好きにしろ。 どっちにしても俺は今から、決戦の為に全力で臨むだけだ。 お前のような小物が蠢動しようと知った事か」
「では好きにさせていただきます」
通信がきれる。
さて、もう少しだ。
もう少しで悪意の名を持つ戦術シミュレーションシステムを乗っ取るための情報が揃う。
EDFの中枢に噛んでしまえば、後はネットワークに潜り込んでもいい。なんでも生きる手段はある。
ただ、死にたくない。
戦争の中で、そう考えて何が悪いだろうか。
そう考えながら。
もはや誰の手も離れたクラゲのドローンは、漂い続けていた。
（続）
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