死闘ベース228
序、波状攻撃
もう第何波か分からないが、怪物が来る。今度はα型だ。弐分は激しい応戦を続けながら、時々戻って弾薬を補給する。
フェンサーの装備は基本的に実体弾を使うものが多い。
今手にしているデクスターとスパインドライバーについても、デクスターはそうだ。スパインドライバーは射出の時に何かエネルギーを使っているらしいが、かなり燃費が良いので気にはならない。
三城は殆どがフライトユニットが自動生成するエネルギーを用いる兵器ばかりを使用しているので、問題は無い。
いずれにしても、前衛をひととき任せ、さがる。
補給を急いで済ませると、すぐに飛んで前衛に。
兵士達も、少しずつ倒れている。
怪物の物量が異常すぎるのだ。
「くそっ! 数が多すぎる!」
「空軍は何をやっている! 支援空爆は!」
「何処の基地も似たような有様らしい! 援軍は来ないってよ!」
「て……本当かよ! 畜生、一体どこの国家の仕業なんだよ!」
兵士達が悪態をついている。
そうでもしなければ、戦い続けられないからだ。
気持ちは良く分かる。
弐分が前衛に踊り込むと、兵士を襲おうとしていたα型を蹴散らして、前に。更に敵を倒しながら飛び回る。
無線が入る。
大兄からだ。
「地下の制圧完了。 現在バルガの調整中。 地下の生存者を集め次第、地上に上がる」
「了解」
「わかった」
「もう少し持ち堪えてくれ。 恐らくだが、そろそろアンカーを落としてくるはずだ」
そうだろうな。
敵の群れを撃退すること、もう何度か。
そろそろ敵も、限界を感じるはずだ。
キングを三城がライジンで消し飛ばす。兵士達が歓声を上げる中、見えるのは大量の円盤だ。
それが。基地を横切るように飛んでいく。
「空飛ぶ円盤!?」
「世界中に飛んでいるらしい!」
「巫山戯るな! 映画の撮影かよ!」
「こんな物騒な映画の撮影があるか!」
兵士達の罵声が響く中。
程なくして、空から降ってくるアンカー。
もしも、下に人や兵器がいたら、容赦なく潰されてしまっただろう。だが、そうはさせるか。
アンカーが基地に突き刺さる。
だが、その次の瞬間には、三城がへし折る。
おおと、喚声が上がる。
だが、もう一本は予想外の地点に落ち、怪物を出現させ始める。α型か。予想通りという事にはなるが。
落ちた地点が予想と違うのは、恐らくバタフライエフェクトだろう。
α型を数匹出した時点で、ガリア砲で砕く。
「今度はミサイルか!」
「あの上部の輝く部分を砕く事で破壊出来るらしい! 怪物を呼ぶ様子だが……」
「落ちて来次第、粉砕してやれ!」
「イエッサ!」
破壊方法を即座に見せてやれば、この通りだ。
まだ大兄が来るまで、少し時間が掛かる。その間は。どうにか弐分と三城で、可能な限り皆を守らなければならない。
つづけて二本降ってくる。
三城が即応して一本砕くが。一本砕いている間に更に二本。ニクス隊が射撃を開始。ニクスでも破壊出来るという実績が必要だ。もう一本は弐分が砕く。そして、三城はα型の駆逐に回る。
「空を見ろ!」
「何て数だ!」
多数のアンカーが飛んでいる。
あれがどれもこれも、彼方此方に突き刺さって怪物を呼ぶのだ。
弐分は、今なら出来るかと判断。
ガリア砲を叩き込む。
空中で、一本撃墜。三城も似たようにして、一本撃墜するのに成功していた。
おおと、兵士達が声を上げる。
ニクス隊がアンカーを粉砕。
敵を集中攻撃して仕留める。
更に三本、アンカーが降ってくる。だが、既に兵士達が、対応方法を知っている。
「戦略情報部! ミサイルのような兵器についてデータを送る!」
「了解。 ……これは、一体どこの特務の手際ですか。 出現と同時に破壊しているように見えますが」
「話は後だ! 破壊方法を世界中に拡散してくれ!」
「それは分かっています。 後で詳しい話を聞かせていただきます」
多少面倒な事になりそうだが、大丈夫だろうか。
とにかく、今は戦うしかない。
三城と弐分で、α型を駆逐。アンカーの粉砕はニクス隊に任せる。ニクス隊は、どうしてか基地の外に出るように指示が出る事を不審がるが、とにかく攻撃を続けて、アンカーを粉砕する。
基地司令官が、無線を入れてくる。
「現在、地上に兵士を輸送中だ。 交戦中の兵士達は、地下の兵士と合流し次第、指示を待つように」
「イエッサ……ま、待ってください!」
「!」
「敵兵器! 多数!」
来たな。
勝負は此処からだ。
空から、雨霰とアンカーが降り注ぐ。そう、以前はうっすらとだけ覚えているが。これを前に、逃げるしかなくなったのだ。
しかし、今回は違う。
「こ、これはだめだ! 基地を放棄する! ニクス隊、後退しつつ攻撃! 皆が逃げる時間を稼げ!」
「畜生、クソッタレっ!」
「少しでも攻撃してあの塔みたいなのを折れ! それで逃げられる兵士が増える!」
アンカーが砕ける。
ガリア砲に切り替えた弐分が、狙撃したのだ。
三城は敵陣に飛び込むと、端からファランクスでへし折り始める。次々にアンカーが砕ける中、兵士達が逃げ出す。
アンカーから怪物が湧き出す。ニクス隊も下がりはじめた。戦車隊も。
必死にニクス隊が射撃を続けるが、数が足りなさすぎる。
あからさまに士気が折れる。
こうなると、本来であれば負けは確定だ。
だが、今回は負けさせない。
弐分が次々アンカーを砕く。そして、ガリア砲の弾が切れると、怪物の数限りない群れに突貫。
三城。声を掛ける。
それだけで、意思疎通は可能だ。
三城はひたすらにファランクスでアンカーを砕く。
アンカーの数は数百本はあるだろう。だが、その全てを此処で打ち砕く。そうすればプライマーは再利用さえ出来なくなる。
ここの基地を必死に封印したがるプライマー。
記憶にない過去の周回で、何かあったのかも知れない。
だが、それも失敗だ。
この基地は、落ちない。
「何をしている! そんな数が相手では無理だ! 逃げろ!」
「何が起きている!」
「特務らしい二人が戦闘中! 敵兵器を破壊し、怪物を食い止めています!」
「くっ、見捨ててはおけん! 可能な限り支援しろ!」
ニクス隊が踏みとどまり、射撃を開始する。怪物を多少でも食い止めてくれればそれでいい。
三城は酸が雨霰と飛んで来る中、ファランクスで次々とアンカーを砕く。それを助けるため、弐分は高機動で怪物の群れを翻弄。大半を引きつける。
このアンカー一本ですら、当初のEDFはどうにもできなかった。しかもプライマーも、物量は無限では無い。
可能な限り此処で潰してしまえば、それだけ敵に大きなダメージを与える事が出来るのだ。
しかも、である。
弐分に改ざんされた歴史の記憶はある。
その歴史では、この基地を取り戻す事は出来なかった。
つまり、最初から敵の計画を頓挫させてやる。
「更に敵兵器破壊! 更に!」
「凄いぞあの二人!」
「怪物はあの二人をどうにかしようと躍起だ! 特務だからといって、やりたい放題を許すな!」
「おおっ!」
兵士達が噴き上がる。
怪物に熱狂的な反撃を開始。
戦車隊は逃げ腰だったのを戦列を組み直し、射撃を続ける。この時点の戦車砲は赤いα型を貫通できないような、つまり対人用の仕様だったが。今戦闘している銀や茶のα型だったら、どうにか出来る。
兵士達もアサルトは効きが悪いと判断して、自主的にスナイパーライフルやショットガンに切り替えて戦闘を開始。
士気が上がれば、これくらいの自己判断は出来るようになるものだ。
怪物の群れを可能な限り翻弄するが、そもそも三年の流浪でいたんだフェンサースーツだ。どうしてもダメージが蓄積している。
そろそろまずいぞ大兄。
そう呟きながら、弐分は飛ぶ。
三城だってそれは同じだ。
あれだけ攻撃を浴び続ければ、いつかはフライトユニットが破損する。
その時。
ついに、援軍が来る。
「エレベーターが動きます。 近くにいる人は退避してください」
「!?」
「軍用の貨物エレベーターだ! 何か出てくる!」
「地下の部隊はあらかた出撃したはずだ! ……なんだあのでかい巨人。 確か倉庫の最奧で埃を被っている奴か!?」
兵士達が動揺する。
さあ、一華。
やってやれ。
そう呟きながら、弐分は最後の仕上げに掛かる。此処からは、荒木班と大兄も戦闘に加わる。
この程度の数。
遅れを取るものか。
「あれはバルガだ! 確か移動式のクレーンだが、使いものにならなくて、EDFが引き取った筈だが……」
「起動には複雑なシークエンスが……て、コンバットフレームも起動シークエンスを解除されていたな。 何が起きている!」
「見ろ、動くぞ!」
エレベーターが地上に出る。
もう一華は当然乗り込んでいるようで。その周囲を、大兄と荒木班、それにニクス数機が固めている。
怪物を一斉射撃する大兄達。
混乱する怪物の上で。
バルガが、拳を振るった。
胸に安全第一の文字を描いた巨人が、文字通りアンカーを一撃で打ち砕いていた。
アンカーにバルガの拳が通用する事は分かっていた。普通の質量攻撃では無理だが、バルガ級になると話は違ってくる。
「足下注意ッスよ! バルガはE1合金製、多少の攻撃にはびくともしないから、集ってきた怪物もろとも撃ってしまって問題ないッス!」
「よ、よし! バルガに集る怪物を撃て! 多少のフレンドリファイヤはかまわん!」
「イエッサ!」
荒木軍曹が音頭を取って、地下からの生還部隊が一斉に射撃を開始。
弐分も、怪物の群れを可能な限り引きつける。
バルガは鈍重だが、何しろ巨大だ。
一歩が大きく、振り下ろされる足は怪物をまとめて踏みつぶし、振り下ろされる拳はアンカーを数本まとめて砕く。
怪物の群れは右往左往。
これはどうしていいか分からない、という様子だ。
更に、アンカーが追加で降ってくるが、何を今更。相当プライマーは慌てている様子だが。
もうどうしようもない。
むしろ、兵士達が、士気を燃え上がらせていた。
「特務が凄いのは事実だが、俺たちだって正規の訓練を受けた兵士だ!」
「負けてられねえ!」
「特務だけにいい顔をさせるな! 叩き潰せ!」
「基地を攻撃したことを後悔させてやれ!」
EDF。絶叫が轟く。
同時に、攻撃が苛烈さをました。
更に、である。
バルガと一緒に、尼子先輩が大量の物資を地上に運んできていたようで。荒木軍曹が兵士達に指示。
弾薬が尽きていた兵士達が走り寄り、武装を補給。
射撃を開始する。
バルガは凄まじい勢いでアンカーをへし砕いていく。数百あったアンカーが、次々に爆砕されていく様子を見て、兵士達が歓声を上げた。
「し、信じられん! あの状況から逆転するだと!」
「あの者達、実に興味深い。 一人については戦略情報部で身元はわかりましたが、他が分かりません。 戦後、話を聞きたいと思います」
「分かった。 だが、基地の恩人で、数え切れない兵士達を救ってくれた。 絶対に無体なことはするなよ」
「分かっています。 あの者達、ひょっとしたら、この戦争に勝つための切り札になるかも知れません」
戦略情報部が最初から乗り気だ。
それでいい。
最初から、最前線に身を置かせて貰えれば、クラーケンに好き勝手をさせない。ヘイズを繁殖だってさせない。
ストーム2もストーム3もストーム4も、手の施しようがない状況の中で死んでいったのだ。
もう、繰り返させない。
何度も繰り返してきた。
だから、それを最後にする。
怪物の数が、いつの間にか減っていた。アンカーももう追加で降ってこない。これ以上アンカーを降らせても無意味と判断したのだろう。
前の指揮官ほどではないにしても、相応に判断は出来る敵のようだ。
だが、相容れることは無い。
最後のアンカーを、バルガがへし折る。
というよりも、最後は一華も分かっているのか。ポーズを取ってから、上半身を回転させてのハリケーンパンチで数本まとめて打ち砕いていた。いわゆる魅せ技という奴である。
その圧倒的な光景を見て、兵士達が歓声を上げるが。
冷静なのは、荒木軍曹だった。
弐分が側に降り立ち。三城もそれに続くと。
咳払いした。
「今はいい。 だが後で話を聞かせて貰うぞ」
「分かりました。 此処では問題がありますので、基地の奧で」
「ああ。 何だかお前達とは初めて出会った気がしない。 不思議な話だが……」
「そうですね」
大兄が苦笑する。
だが、それはとても苦い笑い。
悲しい笑いでもあった。
荒木軍曹とは、何度も何度も死に別れた。
周回の度に殺された。
勝ち抜いた周回だって、最後には台無しにされた。それを、もう繰り返させる事はない。そして、今回は。途中で必ず歴史改変船団を潰す。
それで恐らくは、プライマーの歴史改変計画は終わりだ。
バルガを地上に残し、地下に戻る。
基地司令官も交えて、軽く話をする。
大兄は、もう隠すつもりはないようだった。
「荒木軍曹。 俺たちは、未来から来ました。 その証拠に、これから幾つかの話をします。 すぐには信用できないと思いますから」
「未来からだと……?」
「あの怪物や敵性勢力も同じです。 俺たちは何度も歴史を遡って、彼奴らと戦い続けてきました」
「おいおい、円盤や怪物の次はタイムトラベルかよ」
呆れる小田兵長。
だが、それでいい。
咳払いすると、大兄が一つずつ話をしていく。その中には、荒木軍曹が絶対に信頼した相手にしか話さないものもあって。荒木軍曹の顔色が、見る間に変わっていくのが分かった。
どうやら、嘘八百を並べているわけでは無いと理解したらしい。
それに、この基地を救う際の奮戦。
ただの道場の跡取りや。
訓練を終えたばかりの懲罰対象に出来るような事では無い。
「分かった。 俺は信じよう。 問題は戦略情報部が何を言うか、だが」
「荒木軍曹、どうするつもりだ」
「今の話は、俺に預けてくれるか。 俺はお前が言う通り肝いりで、ある程度総司令部にも顔が利く。 できるだけ良いようにしてみる」
「お願いします」
荒木軍曹に、大兄が頭を下げる。
弐分も、それに習う。
さて、此処からだ。
今回は、ベース228を守りきった。次にやる事は。
円盤の撃沈である。
1、敵の長所を潰し尽くせ
ベース228の兵員を温存しただけでは無く、基地を守り抜いた。そのまま、近くの街を襲撃しているプライマーを攻撃に向かう。
その場で少尉待遇に壱野は任命され。
弐分、三城、一華は曹長待遇にてEDFに雇われることが決まった。
それでかまわない。
前周。アンノウンとの戦闘で、真っ先に繰り出すこと。
敵との最激戦地に必ず出す事。
この二つを、条件として飲んで貰った。
今回もそれらは飲んで貰った。
ならば後は、戦っていくだけだ。
荒木軍曹も、そう呼んでくれと言っているだけで。今回の周回でも、既に少尉になっている。
そして基地を守り抜いた功績もあって、中尉に昇進した様子だ。
地上部隊で奮戦したダン少尉に基地を守って貰い。そのまま、街にニクスと戦車を連れて出撃する。
案の定、怪物が多数。
市民に襲いかかっていた。
以前と違うのは、近隣の基地からかき集めた寄せ集めでは無く、怪物と戦える戦力が揃っている事。
戦車隊はプロフェッサーによる改良待ちだ。
ニクスを主体に行く。
一華もニクスを貰って、それに乗っていた。それでいい。
一華が一番活躍出来るのは、ニクスや他のAFVに乗っているときだ。
「奴ら市民を襲っているぞ!」
「基地でも市民団体を攻撃していたと聞いている! 人間は見境なく攻撃するというわけだろう。 一匹も許すな!」
「おおっ!」
兵士達も交戦経験があるから、かなり強気だ。
そのまま対物ライフルで狙撃を開始。市民を襲っていた怪物達は、気づいて向かってくるが。
ニクス隊が前に出て、火力の滝を叩き込む。
しかもこのニクス隊、既に一華がプログラムをアップデートしている。
「動きが重かったニクスが軽いぞ!」
「射撃も半オートでやってくれる! これはフレンドリファイアの心配も無さそうだ!」
「怪物を駆逐出来る! 随伴歩兵、敵の接近だけは防いでくれ!」
「イエッサ!」
兵士達の士気は高い。α型は背後側面を取ってくるが、その時こそ随伴歩兵の役割である。
問題はこの時点では酸に有効なアーマーを皆が装備出来ていないことで。
それだけは注意しなければならない。
弐分と三城が前衛にでて、敵を蹴散らして回る。
柿崎、山県、木曽の三人には後で合流して貰えればいい。
当面は、この四人。
最初の四人と、それに荒木班で。
敵を蹴散らして行けば良いだけのことだ。
「東地区、掃討!」
「西地区、アンカー発見!」
「粉砕します」
壱野が狙撃。
即座にアンカーを撃ち抜き、粉砕する。
それを見て、兵士達が歓声を上げる。あの特務凄いぞ。そう言ってくれる。有り難い話だ。
もっと針のむしろに座らされるのを覚悟もしていた。
最悪、病院送りも覚悟していた。
だが、荒木軍曹とは、歴史が改編される度に、なんどもなんども共闘してきた。
それが明らかに影響している。
荒木軍曹は、壱野に対して不信感を今抱いているように見えない。勿論まだ全面的に信頼はしてくれていないのだろうが。
それでも、背中を預けてくれている。
「良い腕だ。 どうやら話は嘘では無さそうだな。 それにその狙撃銃、生半可なスナイパーに使えるものではない」
「恐縮です」
「とにかく、街を開放する。 戦略情報部! 今苦戦している地域を指定してくれ!」
「ベース228周辺の街は、味方が概ね優勢ですが……ただ、敵の円盤には攻撃が一切通用していません。 円盤が飛来した街は、際限なく落とされる怪物に蹂躙されています」
まあ、そうだろうな。
現時点であの装甲を貫けるのは核だけ。そして、まだEDFは核を使う判断をしないだろう。
街にいた怪物とアンカーを駆逐。
敵は恐らくだが、この時点で壱野達が過去に戻って来ていることを悟ったのだろう。兵力を損失することを警戒してか、ディロイも落としてこなかった。ディロイやトゥラプターが来たらかなりの危険があったと壱野は思うのだが。
今度の敵司令官は、かなり慎重な人物らしい。
アンカーを全て砕き、後は掃討戦に移行する。
ヘリが来た。
「よし、敵の円盤のいる街に移動する。 現地では部隊が苦戦中だ。 一秒を争う」
「分かりました」
敵も、大筋の作戦は変えていないらしい。
ベース228の陥落に失敗した事で、かなり計画が狂ったようだが。それを修正するほどの余力がないのだろう。
好機だ。
敵の計画を、更に狂わせてやる。
ヘリで移動。ニクスも載せる事が出来る。
尼子先輩と長野一等兵がいてくれれば、更に心強いのだが。そうもいかないか。
ともかく、現地に急行。
ニクス二機と、更に村上班と荒木班。
この面子だ。多少の敵など、怖れるに足りない。
基地周辺の街などは、掃討作戦が行われている。今、基地に赤いα型が襲来したそうだが。ダン少尉の率いるニクス隊が、火力の滝を浴びせて撃退したようである。
無線を聞きながら、一華が告げてくる。
「初動を多少改善できたのは良い事ッスよ。 このままだと、あの円盤にやりたい放題にされていたッスからね」
「そうだな。 あの塔のようなものはまだ破壊の手段があったが、円盤はかなりの速度で飛ぶ上に怪物を好きかって落としてくる。 落とす手段がなければ、人類は蹂躙される一方だろう」
「これから落とします」
「期待しているぞ」
戦略情報部が通信。
アンカーをテレポーションアンカー。円盤をテレポーションシップと命名。怪物をα型、β型と命名していた。
そう命名するだろう事は告げてある。
荒木軍曹は、無言で頷いていた。
嘘では無いようだ。
それを理解してくれているのだろう。助かる。
現地に到着。
β型を大量にまき散らしているテレポーションシップ、10隻ほど。β型は元々浸透力が高い手強い怪物だ。すぐに前進して、苦戦している味方に加勢する。
「救援に来た!」
「助かる! 名高い荒木班か! 怪物が多くて……」
「弐分、三城、一華。 怪物は任せる」
壱野はバイクをニクスのバックパックから取りだすと、乗り込む。そして、猛然と突貫。
このバイクもまだ改良前だが、存分に乗りこなせる。バイクの機銃も、β型になら充分に通じる。
突撃してβ型を蹴散らし、通り過ぎる一瞬にテレポーションシップを真下から撃ち抜く。
文字通りの一撃必殺である。
おおと、兵士達が歓声を上げる。
空軍が空爆してもびくともしなかったという話は聞いているのだろう。まさか、こうも簡単にやれるとは思っていなかったのだ。
人間の歴史は、「なる程」の歴史だと壱野は聞いた事がある。
一度誰かがやり方を見つけると、後は爆発的にそれが拡がっていく。
なんだってそうだ。
やり方さえ分かってしまえば。どんな難題でも、後はその通りにこなして行くだけ。そういうものだ。
続けて二隻目を狙う。
β型に苦戦している味方を、弐分と三城が飛び回って助け。敵の主力は一華と荒木班が抑えてくれている。
突貫する。
β型が、彼方此方から糸を飛ばしてくるが。
壱野は既に、いわゆるゾーンに入っている。
そのまま右に左に糸をかわし、そのまま滑り込むようにして円盤の下に。ハッチを下から撃ち抜き、その場を抜ける。
二隻目、撃沈。
「これは偶然ではありませんね。 あの者にもう少し話を聞きたいところです」
「此方千葉中将。 状況は見せてもらった。 円盤の弱点は下だ。 すぐにこの情報を、全世界に伝達してくれ」
「分かっています」
「円盤に核を使う必要もなくなったな。 問題はドローンだが……」
既にタイプワンからタイプスリーまで、三種のドローンが各地に飛来しているようである。
特にタイプスリーは頑強な防御で、兵士達を苦しめているらしい。
だが、あいつは弱点をぶら下げて飛んでいるようなものだ。
そのまま誰かがいずれ撃ちおとす方法を見つけるだろう。優先度はどちらにしてもテレポーションシップより低い。勿論余裕があれば壱野が落とす。
三隻目を狙う。β型が集まってくるが、残念だがこのフリージャー軍用バイクの足は、β型を凌ぐ。
集まる前に隙間を抜け、三隻目を撃墜。
更に四隻目を、立て続けに叩き落とした。
流石に円盤が移動を開始する。
かなり慎重な相手のようだ。だが、こうやって一定数だけ落として逃げるようになれば、その場所での防衛は容易になるし。
足を止めているのなら、狙撃で落とす事だって出来る様になる。
この時点で。
失われた五ヶ月は、なくなった。
後は、集まって来たβ型を、主力の方に連れて行く。手ぐすね引いて待っていたニクスの火力がβ型を文字通り蹴散らし始める。
銀のβ型も少数いたが、それはライサンダーZで撃ち抜いてしまう。
後は、そう時間を掛けずに、掃討が完了していた。
「凄まじい。 圧倒的だな……」
「次はドローンを片付けます。 急ぎましょう」
「そうだな」
「おいおい、とんでもねえな。 疲れるとかないのかよ」
小田兵長は相変わらずだ。
苦笑いすると、浅利兵長がフォローしてくれる。
「敵のドローンの中には、堅牢極まりないものもいて、味方が苦戦しているようだ。 落とす方法が今のうちに分かれば、被害を減らせる。 そうすれば、総合的には仕事の量も減る」
「そうだな。 分かってる。 それに俺のダチも今頃前線だ。 誰も死なせたくはないからな」
「ああ、それでいいと思う」
相馬兵長も、静かに肯定。
そのまま、ヘリで次の戦場に移動。
プライマーは初日での攻撃行動を、記憶よりもだいぶ控えた様子だ。何人過去に戻っているのか。
どれくらいの技術を持ち込めているのか。
まだ分かっていないからだろう。
無線で、戦略情報部から通信が入ってくる。
「ニューヨーク守備隊がテレポーションシップを撃墜。 ロンドン守備隊も、テレポーションシップを撃墜に成功。 鳥取、福岡でもそれぞれ撃墜に成功している様子です」
「うむ、奇襲攻撃を受けたが、全面敗北とは行かない様子だな」
「はい。 ただし、敵は様子見に戦力を控えているように見えます。 その一方で、ベース228への攻撃は明らかに過剰でした。 まさかとは思いますが……」
「ありうる話だ。 村上班と名付けて特務扱いで戦って貰っているが、彼らの戦闘力は尋常ではない。 プライマーが警戒するのも、何か理由があるのかも知れないな」
千葉中将が、そう褒めてくれるが。
此方からは無線は送れない。
ともかく、現地に到着。
三種類のドローンが、工場の上空を占拠している。
早速戦闘開始だ。
ドローンは待機モードだが。叩き起こして戦闘を引き起こす。隠れている兵士は、先に合流して貰った。
「ドローンとの戦闘を解析。 どうやら待機モードと戦闘モードを使い分けている様子です」
「村上班と荒木班との戦闘を解析してくれ。 恐らく解析がかなり早くなる」
「分かりました」
「三城」
頷くと、三城は飛んで行く。
待機モードから戦闘モードへ切り替わる条件は幾つかあるが、接近するというものもある。
それを先に示しておく必要がある。
対人殺戮ドローンだ。
今のうちに、可能な限り対抗戦術を見せておかなければならない。今は皆で迎撃をする。タイプスリーも、ぶら下げている球体を叩き落として撃墜してみせると。戦略情報部は感心していた。
「流石ですね。 この工場のドローン部隊を撃破したら、次の戦場に行って貰えますか」
「どれだけでも戦いましょう」
「ありがとうございます。 現在日本では東海地方に攻撃が集中していましたが、敵が引き始めています。 関東への支援をお願いします。 関東では東京基地の空軍が大きな被害を受けただけではなく、テレポーションシップが多数飛来し、後手に回った守備隊は防戦一方になっています。 出来れば支援を願いたく」
「分かりました」
今の時点では相手が階級が上だ。
だから、下手に出ておく。
だが、それにしても。いきなり無茶な指示を出してくるなと、壱野はちょっとだけ不愉快になる。
東京基地は空軍にダメージを受けたとは言え、まだまだ戦力を温存している筈だ。
むしろ、戦力が不足している近畿などに支援したい所だが。大阪基地は、いつも苦戦していて。
筒井中佐(たしかこの時点ではその筈だ)はいつも苦労が絶えなかったはず。
ともかく、ドローンを落とす。
タイプツーは、かなり硬い。
タイプスリーは更に硬いが、下にある球体が弱点。
タイプワンは脆いが動きが速い。
そして、少数いる赤いタイプ。
これらについては、極めて強力なハイグレード機だ。今の戦場にもレッドカラーがいたので、わざと叩き起こして正面戦闘をする。
危険だが、此奴に初遭遇の部隊が全滅するような事態は避けたい。
レッドカラーの俊敏な動き。
何よりも、凄まじいレーザーに、荒木軍曹も瞠目していた。
「凄まじい!」
「少数だけいるハイグレードタイプです。 戦力は通常ドローン百機分と考えてください」
「ああ、どうやらそのようだ。 攻撃の瞬間、動きを止める。 他のドローンは無視しても、彼奴からは絶対に目を離すな!」
「イエッサ!」
三城に視線をやる。
頷くと、三城はライジンをチャージ。
そして、レッドカラーが狙って来た瞬間。
逆狙撃を決めていた。
粉々に消し飛ぶレッドカラー。流石に、現在まで研磨されたライジンの火力にはレッドカラーも抗えない。
そのまま、残党を駆逐。
工場の開放に成功した。
既に日が落ち始めているが、来た軍用ヘリにのって小田原に。
そういえば、この辺りでも何度も大きな戦いをしたな。そう思いながら、ヘリを降りる。やはり東京基地の部隊が、かなり苦戦しているようだ。即座に加勢する。
日が完全に落ちた頃。
小田原周辺の怪物を駆逐。
同時に、怪物は動きを止め。また、プライマーも新しい兵器を投入して来る事はなくなった。
「敵の動きが止まった?」
「はい。 どうも夜になった地域では動きを止めるようです。 世界各地で同時攻撃が行われはしましたが、いわゆる空挺部隊が降りて来たのはどこも昼の地域だけのようです」
「そうか。 敵はどうやら時間に厳しい存在らしい」
「現在、敵の正体などを調査中です。 ただこれだけの軍事力、全盛期の米軍ですらありえないでしょう。 あまり現実的な話ではないかも知れませんが、エイリアンというのが一番正確そうです」
そうか、と千葉中将が苦しげに言った。
まあ、それもそうだ。
散々な一日だっただろうし、挙げ句の果てにエイリアンだ。
丸一日戦闘し、戦闘した地区で全て勝利し。アンノウンだけでも数多くを仕留めた。
今日だけで勲章を一ダース貰える戦績を上げたが、それも一旦休憩だ。
ベース228に戻る。
皆を先に休ませる。荒木班も、流石に疲れて休みに戻っていった。
そして、荒木軍曹と二人きりになった。
咳払いすると、荒木軍曹は言う。
「聞かせて貰った話、どこまで本当だ」
やはり、全ては信用していなかったか。
それはそうだ。
この人は、日本に荒木班ありとまで言われた本物の兵士。最精鋭に渡されるブレイザーを支給された、精鋭中の精鋭。
EDFの前身時代に、ろくでもない計画があって。それで拾われた孤児だと言う事は知っている。
だが、この人の能力はそんなものとは関係がない。
血筋なんてクソ喰らえ。
この人は、まさにその体現者だ。
しかしそれでも嫌な思いは散々してきたのだろう。だからこそに、警戒心も強いという訳だ。
「今日の状況証拠だけでは信用して貰えませんか?」
「いや、概ね信用している。 だが、流石に突拍子もなさすぎる話でな」
「全て、真実です。 もう一度だけ、言っておきます」
「そうか。 確かにあの戦闘力を見せられた後だと、信じざるをえないな。 明日も忙しくなる。 0600には準備を済ませておいてくれ」
敬礼すると、その場を離れる。
壱野も、嘆息すると。
今日は寝ることにした。
翌日は、関東での大規模会戦に参加した。
昨日、テレポーションシップとアンカーの弱点を早くも看破されたプライマーは、各国への戦力浸透に失敗。
それも、予想より数時間早く撃墜例が出たことで。
その数時間で、それだけ多くの兵士が救われ。基地が陥落を免れた。それはそれだけ、EDFの戦力が温存されたことを意味する。
関東にもかなりの怪物が投下されたが、早朝からEDFは作戦行動を開始。
敵の排除を始めていた。
多数のα型、β型が集結する。
東京基地から出撃したニクス隊を中心に、前衛を構築。その後方には、まだ殆ど生産されていないネグリング自走ロケット砲を配備。
これももっと量産すれば戦況が良くなる。
最初の内は、ありもので耐えるしかない。
α型は予想より不利であることを理解しているのだろう。マザーモンスターが最初から複数出て来ている。
やりたい放題を許していたら、彼奴らが地下に巣を作って。
そして、人類は蹂躙されていた。
勿論、そんな事を許すつもりは無い。
前衛は、ニクス隊に任せる。壱野達は戦場に散って、それぞれの役割を果たす。
壱野はひたすらに狙撃を続行。
紛れている金銀を仕留めていく。
マザーモンスターは、三城と一華に任せる。ただ、一華も徹夜でニクスのチューンをしたようだけれども、それでもまだ火力が不十分だ。やはり三城が主力でマザーを倒すしかない。
マザーモンスターに接近を許すと、ニクス隊でもあっと言う間に壊滅しかねない。
それだけは、許してはならない。
「もの凄い数だが、昨日ほどの衝撃はない! アンノウンはいない! 敵の手札は知れている! ひたすらに叩け!」
「EDF!」
指揮車両のタイタンに乗って千葉中将が出て来ている。
早い内にこれだけの規模の会戦で勝利できれば、EDFはかなり早い段階から余裕を持つことが出来る。
そうなれば、最悪の事態が起きたときに。
計画を実行することが出来るだろう。
ライサンダーZで、壱野はひたすらに射撃を行う。
マザーモンスターは、一匹目が早速ライジンの火線で消し飛んでいた。おおと、兵士達が声を上げる。
だが、それはそれだ。
「ニクス隊、火力を集中! 弾薬がきれたニクスは後退し、補給を急げ! 随伴歩兵、死角から迫る敵に対応しろ!」
「イエッサ!」
「敵の数、想定以上です!」
「そうだな。 だが、データを見る限り勝てる数だ! 押し潰せ!」
今の時点で、この戦闘が出来るのは大きい。
そのまま、関東平野で丸一日、苛烈なぶつかり合いを演じる。ニクス隊にも被害が出たが、最終的には勝利することが出来た。
プライマーは青ざめているだろう。
これだけの被害を、たった二日で出す事になったのだ。
各地でテレポーションシップも撃破例が出ている。今のうちに、徹底的に撃破していくしかない。
敵の物量は有限だ。
そしてプロフェッサーと話す限り、プライマーは太陽系内文明。それもタイムパラドックスで、恐らく本国は相当に悲惨な事になっている。
出血戦を強いれば、音を上げるのはプライマーの方だ。
特にあの大型船。
時間改変船団を叩き潰せば、それだけダメージが大きくなるはず。
初動は上出来だろう。
ただ。夕方になってから、少しだけ残業をさせられた。
夜の敵がどうなるのか確認したい、というのである。
というわけで、村上班だけで小規模の敵を襲撃、データをとって戦略情報部に回した。それで、夜の方が敵の動きが鈍いという結論が出たはずだ。
それでいい。
現時点では、まだまだやれることは少ない。
流石に数日で出世する事はないだろう。どれだけの戦績を上げても、だ。
ともかく、今日は存分に戦えた。
そう満足して休む事にする。
次のターニングポイントは、恐らくはバルガを生かすタイミングだろう。怪生物をプライマーがどのタイミングで出してくるか分からないが。
もしも出してきた場合。
其処で、一気に優位に立つことが出来る。
そう、壱野はプロフェッサーから聞かされていた。
その通りだろうとも思う。今はとにかく、敵を削る。それしか出来ない身が、多少歯がゆかった。
2、星なき空
完全なる闇だ。
田舎だと、星の光でむしろ明るいくらいな場所もあると聞いた事があったが。此処はそうではない。
単に曇っている、ということもある。
そして街からは、完全に電力が失われ。灯りは何一つ点っていなかった。
既に来ているのは、スプリガンである。
開戦から一月。ついに共闘する日が来たか。
この周回では初対面という事もある。
柿崎達がまだ合流していないという事もある。
少し、三城は緊張していた。
「お前達が噂の特務だな。 立て続けにアンノウンを撃破して、大きな功績を挙げていると聞いている」
「恐縮です」
「では、早速始めよう。 夜戦は我等の専門分野だ。 任せて貰って問題ない」
そうだな。
何度かスプリガンの手際は見ている。
今回、ここに来ているスプリガンは一分隊。ジャンヌ中佐が率いている精鋭数名だけである。
一ヶ月日本国内で戦闘をして、そして今日は初の海外戦闘。
欧州の小さな街で、アンカーが多数落とされた。
その少し前に、アンドロイドが出現したこともある。
前の周回よりかなり早い出現と言う事もあり。
アンノウン対策として、村上班が出張り。
そして現地ではネイカーにも遭遇。
戦闘して、撃破した。
今回は、初期消火には成功はしたものの。アンドロイド、それも擲弾兵を中心とした部隊とネイカーに街が占拠された。
それをプライマーが活動しなくなる夜間に奪還するという任務を受け。一緒にスプリガンと戦う事になった。
各地での戦闘で、実績を上げて。
発言権を増しておかないといけない。
出来れば、恐らくクラーケンが現れるだろう開戦五ヶ月後には、大兄が佐官になっている状態が好ましい。
そういう話をプロフェッサーとしてあり。
今は、それを目的に動いていた。
そのためには、柿崎達三人を追加で部隊に迎える前に。
こう言うハードワークをこなして、実績と実力を、いやでも戦略情報部に認めさせなければならない。
幸い今回は、まだまだ人員損耗が殆どないスプリガンとの共同任務。
緊張しているのは、ジャンヌ中佐が此方をどう見ているかがちょっとまだ分からないからで。
戦闘そのものは、問題ない。
「スターライトスコープをつけてなお暗いな」
「敵の位置は概ね分かります」
「ほう」
「一華、俺が指定する地点をバイザーに送ってくれ。 それぞれにアンカーが刺さっている様子だ。 住民の避難は終わっているし、多少街を破壊するのは仕方がない」
大兄が、すぐに話をする。
不審そうにジャンヌ中佐は見ていたが。程なく自身で飛翔して、概ね大兄の予想が正しい事が分かったのだろう。
聞いてくる。
「どうやってこの闇の中、アンカーの場所を特定した」
「五感を磨き抜いているだけです」
「面白い。 戦闘でも凄まじい活躍をしていると聞く。 見せてもらうぞ」
「はい」
闇の中だ。
ライトをつけたら意味がない。
そのまま、消灯して移動を開始。まず狙うは、正面にあるアンカーだ。
武器にはサイレンサーをつけるが、アンカーは破壊されると爆発する。そうなると戦闘は避けられないだろう。
大兄が、無言で狙撃。
ライサンダーZは凄い狙撃音がするものなのだが、どういうテクノロジーかサイレンサーのおかげで殆ど響かない。
ただ、ずんとおなかに音が来る。
無言で、破壊されたなと察知。
α型が此方に来る。最悪な事に、金α型だ。
すっと浮かび上がると、スプリガンが戦闘開始。大兄はスターライトスコープすらつけていない状態で、百発百中させる。
三城はそこまで人間止めていないので、流石にスターライトスコープを使う。この曇天の闇夜の中でも、敵がある程度見える優れものだ。ちなみに軍の備品としては、かなりお高い。
今回は光が出ない武器という事で、マグブラスターを使う。
普段はあまり使わない武器だが。このマグブラスターは夜戦仕様だ。攻撃時も、音が殆ど出ず。光も抑えめ。
近付いてくる金α型を、大兄が殆ど撃ち抜いてしまうが。
残りはスプリガンと三城が空中から。
小兄と一華が地上で。
それぞれ仕留めてしまう。
「クリア」
「よし、次だ」
「彼方は赤いα型、彼方はネイカーですね。 どちらから仕留めますか」
「そんな事まで分かるのか。 噂以上だな……」
ジャンヌ中佐が少し驚く。
兵士達は、顔を見合わせていた。
彼女らはスプリガンの中核を為す精鋭の筈。殆ど顔に見覚えがないのは、激しい戦いの中で倒れていくからだろう。
シテイさんとゼノビアさんくらいだ。
何度も戦場で顔を合わせるのは。
河野は今回の周回では、そもそもスプリガンに加入どころか、EDFに応募すらしていない様子だ。
何か、歴史を改ざんされるごとに人に変化が生じているが。
その一環かも知れない。
「まずはネイカーを叩く。 アンカーの破壊を頼めるか」
「分かりました」
「分かっているだろうが、ネイカーは手強い。 臆すれば死ぬぞ。 気合いを入れろ」
「一応、こっちで可能な限り即殺するッス」
一華がCIWSを既に組み込んでいるエイレン(性能はまだV相当)の中から、頼もしいことを言ってくれる。
頷くと、ジャンヌ中佐が攻撃開始の指示。
大兄が、アンカーを撃ち抜く。
敵はどうやって探査しているのか、すぐに来る。殺戮の貝は、この周回でも初登場時から多くの人々を焼き殺した。
最初に何処に現れるか分からない。
だから、村上班が急行し。敵を全滅させたときには、街一つが焼き払われた。こればかりは、どうしようもない。
同時にアンドロイドがでたこともあり、初動に失敗したら更に何倍も酷い大惨事になっただろう。
だが、そうはさせない。
迫ってくるネイカー。闇夜の中でも人間を補足できているらしく、すぐに口を開いて火焔放射の態勢に入る。
一瞬でエイレンのレーザーが応戦。
即座に大半のネイカーを粉砕した。
残りを、スプリガンと三城がマグブラスターで仕留める。
撃ち方止め。
そうジャンヌ中佐が指示。
敵は全滅していない。
一部のネイカーが、左右後方に回り込む。相変わらず、厄介な習性である。こうなるといつ仕掛けて来るか分からない。
円陣をすぐに組む。
これらの戦術は、村上班でネイカーと戦い。そして示した。今はすぐに戦略情報部が解析して、各地に回している。
ハイグレードのネイカーも、その内出てくるだろう。
その時に備えて、各地の基地に備えが必要だろう。地下に隠れている人達の守りにも、だ。
「来ます。 三時方向、二体」
「応戦!」
スプリガンが飛ぶ。
建物に紛れて地上を泳いできたネイカーが、口を開ける。
この時、独特の音がする。
前にネイカーに好きかってされた世界線では、この音に怯えて焼かれてしまう兵士が多かったと聞く。
スプリガンが即応。
流石に訓練と実戦を散々やっているだけのことはある。
即座に、見事な射撃でネイカーを仕留める。
更に後方から一体。
これは小兄が、即応して、スパインドライバーで真正面から叩き潰した。
エイレンが左を向くと、レーザーを放ち。
回り込んできていたネイカーを粉砕する。かなり危ない距離まで来られていたが。大兄はきちんと警告していた。
「良い腕だ。 エイレンのシステムに色々手を入れていると聞くが、それだけでこの動きは出来まい」
「有難うございます、ッス」
「不思議なしゃべり方だな。 体育会系と言う奴か?」
「いや、私のはなんというか、癖ッスね……」
一華の言葉を大兄が遮る。
どうやら、敵が気づいたらしい。赤いα型と、β型が同時に来ると聞いて、即座に戦闘態勢を整えるスプリガン。
「β型のアンカーは、この位置からだと狙撃できませんね。 複数の建物に邪魔されて射線が通りません」
「赤いα型は厄介だ。 この位置では迎撃が難しい。 移動するぞ」
「ナビは私がするッス」
「よし」
一華のナビに従って移動。
さがりながら、闇夜を来るβ型を迎撃。流石に浸透が早い。夜でも、その動きはかなり俊敏だ。
それでもスプリガンの対応が早い。接近して来るβ型を、即座に仕留めていく。
十字路に出ると、其処で応戦開始。
β型をまずは仕留めると、遅れて来る赤いα型に集中攻撃を仕掛ける。大兄の狙撃で、既に赤いα型のアンカーは粉砕。だが、それなりの数が来ている。
大兄と小兄が連携して、ライサンダーZとスパインドライバーで、次々と戦車砲にも耐える赤いα型を潰す。
おおと、驚きの声が上がるが。
ジャンヌ中佐は、むしろ戦意を刺激されたようだ。
「負けていられないな! スプリガンの勇気を見せろ!」
「イエッサ!」
昔は、女性上官に対してはイエスマムだったか。今はイエッサでみんな統一していることを三城も知っている。
三城もそのまま、マグブラスターで戦闘を続行。
近付いてくる奴は一華がレーザーで押し返すので、そのまま焼き切ってしまう。生き残ったβ型もやはり彼方此方に散って、奇襲を仕掛けようとしてくるが。大兄がその度に即応。
サイレンサつきのアサルトで、それぞれを即座に撃ち倒してしまう。
「少し下がります。 β型のアンカーに射線が通りますので」
「梟のようだな。 頼むぞ」
「了解」
大兄がさがりつつ、アサルトで制圧射撃。数体のβ型を血祭りに上げる。
アンカーが起動して、β型が次々送り込まれているようだ。
ネイカーや擲弾兵がいる事もある。それに、時間が掛かれば他のアンドロイドも転送されてくるだろう。
大型が来ると厄介だ。
エイレンがやっと出回り始めた今の状況では、ブラスター装備の大型アンドロイドを相手にするには、ニクスでは力不足。最低でもエイレンがいる。今の時点では出落ちに成功しているが、どうせすぐに世界中に出現するようになる。
高機動型やスーパーアンドロイドがまだ姿を見せていないことだけが救いか。
出来るだけ、急いで初期消火をしないといけない。
大兄が、狙撃。
β型のアンカーを砕いた様子だ。
流石だなと、ジャンヌ中佐が呟く。
短時間で、信頼を得ることに成功したようである。大兄は流石だ。だが、負けてはいられない。
三城も、一人で判断して。出来るようにならなければならない。
そうならなければ、大兄をむしろ守る事なんて、出来ないだろう。
赤いα型を集中攻撃で仕留めつつ、β型の奇襲に気を配る。
スプリガンの一人が着地した瞬間、エイレンが前に出て。突貫してきた赤いα型を受け止める。
戦車の装甲にも食い込む牙が電磁装甲にギリギリと圧力を加えるが。皆で集中攻撃して、赤いα型を仕留める。
「すまない、助かった」
「コンバットフレームの仕事は盾役ッスよ。 次はむしろ助けてほしいッス」
「分かった。 そうさせて貰う」
流石にウィングダイバーでは、赤いα型に噛まれたら一撃で真っ二つだ。
呼吸を整え、状況を確認。
まだ少数のβ型がいる。闇夜の中、先手を打ったのはジャンヌ中佐だ。家の影から狙撃しようとしていた一体を仕留める。
流石。この辺りは、歴戦の猛者である。
「まだいるな。 中空から確認する」
「いえ、見つけました」
大兄が射撃。家の軒先に隠れていた一体を仕留める。周囲の殺気が消えていた。
闇夜だと、こんなにも怪物の気配がわかりにくくなるのか。
それにあの巨体でも、この近くでこれほど発見しにくくなるのか。
色々厄介だ。
だが、それでもやらなければならない。
「クリア」
「よし、後はアンドロイドどもだな。 擲弾兵のアンカーが二つ、通常アンドロイドのアンカーが一つ、だったか」
「そうなります」
「よし。 順番に始末する。 だがどうせひっきりなしに全てが来るだろうな。 移動して、囲まれないように対応するぞ」
ジャンヌ中佐が、即座に場所を指定。
確かにその位置なら、敵を迎え撃ちやすい。若干丘の上のように高くなっていて、擲弾兵を良いように射すくめられる。
擲弾兵は接近を避けないと危ない。あれらに集られると、コンバットフレームでもひとたまりもないのだ。
移動を終えて、闇夜の中布陣。
そのまま、大兄が狙撃。
アンカーは、すべて砕いてしまってくれ。そうジャンヌ中佐に言われていたので。大兄が、三射でそれぞれアンカーを完封する。流石だ。十q先の獲物を逃がさないスナイパーと呼ばれて、既に大兄は噂になっているらしい。
まあ事実なので、自慢に思う。
それだけである。
「来るぞ! 擲弾兵が先に来る。 近づけるな!」
「拡散パルスレーザー、行くッスよ!」
「よし、やってくれ!」
一華のエイレンが、バッテリーのパワーを一気に使って、敵先鋒にレーザーを一斉に浴びせかける。
対擲弾兵の戦闘プログラムは既に一華が組んでいる。
敵の持っている爆弾を的確にレーザーで、まとめて撃ち抜くものだ。一度に百体ほどを同時に相手出来る。
動きを止めた擲弾兵達が、一斉に爆発。
多数のアンドロイドも、巻き込まれたようだった。
慣れたもので、スプリガンはしっかり爆発の瞬間に耳を塞いでいる。
生き残った敵アンドロイド部隊が、突貫してくる。此奴らは命がある限り、人間を殺しに来る。
一体でも、生かして返すわけにはいかない。
生体部品を使っていても、ロボットはロボットだ。
闇夜の中、激しい戦いが続く。
アンドロイド特有のモノアイが激しく動いているのが見えるが、スプリガンの動きについていけていない。
エイレンは敵のバリスティックナイフ対策でCIWSを発動。無言で守りに徹する。その間、皆で攻撃を担当。
ただでさえ擲弾兵の爆発に巻き込まれ、傷ついているアンドロイド部隊を、悉く片付けて行った。
戦闘終了まで、二時間ほど。
予定よりだいぶ早く、戦闘は終わった。
「戦闘終了だ。 流石だな。 我々と同格、いやそれ以上の部隊だ」
「恐縮です」
「次もまたともに戦おう。 頼りにしているぞ」
ジャンヌ中佐が、そんな事を言ってくれるなんて。
最初に会った時は、もっと気位が高くて、好戦的な人だった気がする。
やはり周回を重ねるごとに、みんな変わっているのだ。
それが分かって、少し嬉しい。
ともかく、後片付けは引き継ぐ。スプリガンには、先に引き上げて貰った。
まず街の電気を復旧させる。
その後、戦略情報部の部隊が来て、アンドロイドの残骸を回収していった。アンカーの破片も、である。
「こんな無茶な作戦、上手くいきっこないって思っていたのにな。 あっさりやりやがった」
「どうやら何かのインチキや総司令部のプロパガンダ部隊ではないようだな。 悔しいが、実力を認めざるをえん」
そんな事を、エリートだろう連中が呟いているのが聞こえてしまう。
見張りの手を抜いてやろうかと三城は思ったが、大兄が先に無線を入れてくる。
「三城」
「うん、大丈夫」
「そうか」
それだけ。
大兄は、三城が自立しようとしていることを理解してくれている。だから、こうやって少しだけ背を押してくれている。
それで充分だ。
戦略情報部の部隊に、戦闘のデータを引き渡す。
程なくして、戦略情報部の調査部隊は引き上げ。少佐から、直接連絡が来た。
なお、対等に口を利いてくれと頼まれたらしく。大兄はそうしている。
「素晴らしい戦果です。 まさか、夜闇の中でこれほど容易く敵の拠点を陥落させられるとは。 各地で戦闘中の部隊にとって、これは希望になるでしょう」
「いや、この状況だとスプリガンや我々などの最精鋭でないと、むしろ被害を増やすだけだと思う。 流石に此処まで暗くするのはやり過ぎだ」
「分かりました。 前線で戦った人間の言葉として受け取っておきます。 今日は戻って、明日に備えてください」
「ラージャ」
大兄が、引き上げを告げる。
そのまま、大型移動車で、近くの基地に移動。この基地は、丁度欧州に来たときに、アンドロイド部隊の襲撃を受けていて。陥落寸前の所を、村上班で救助した。それもあって、基地司令官を始め、兵士達は好意的だ。
すぐにエイレンの整備を兵士達がしてくれる。
大兄が中尉になったら、兵員の増加を認めてくれると言う事で。そうなったら柿崎達と、長野一等兵。それにもう軍に入隊したらしい尼子先輩を指名するつもりだ。
いつものメンバー。
今度こそ、このメンバーで勝つ。
見ると、かなり遅い時間だ。
大兄に言われる。
「先に休んでいろ。 レポートは俺が出しておく」
「分かった。 大兄も、無理をしないで」
「ああ、大丈夫だ。 幸いレポートは必要事項と映像だけを付与すれば、それでいいようになっているからな。 テンプレートが整備されているというのは、とても有り難い話だ」
頷くと、風呂に入って先に休む。
かなり夜遅くなったが。
それも仕方がない。
よく眠れた。
最近は、変な夢を見ることも減った。
それに、だ。
この周回、あのクラゲのドローンは来なかった。
やはり、あれはなにか曰く付きのものだったのだろう。
一華の話によると、どうも梟のドローンは何か様子がおかしかったらしい。クラゲのドローンも或いは。
いずれにしても、もう後は寝るだけだ。
疲れを取るためにも。
仕事として、きっちり睡眠は取らなければならなかった。
3、K6作戦再び
怪物の巣穴を掃討。
案の定、怪物の一部は巣穴を作り始めていた。だが、今回は戦況にかなり余裕がある。最初にダメージを受けたEDFだが、それでも立ち直りが早かったし。先進科学研がどんどんプライマーの怪物に対抗できる兵器と装備を作り出し、量産体制を開始したのも大きい。
既にエイレンWが完成間近。
エイレンWが出来上がったら、プロテウスの開発に掛かると言う。
一華はその話を聞かされて、それでもクラーケンに対する初期消火が失敗したら負けるという事実を思い。まだ安心は出来ないなとは感じてはいた。
奧にいたマザーモンスターを仕留めて、巣穴を出る。
一緒に攻略した部隊は、生きた心地がしないという顔をしていたが。
今回、プライマーは初期の戦闘でマザーモンスターを相当数失っている。
特にベース228には、キングも含めてかなりの大型が投入され、その全てが失われた。敵にとっても、損害は小さくないはずだ。
こうして巣穴を初期消火で潰せれば、更に敵の被害は増える。
その分味方が救われる。
一華は、あまり人助けに興味はないけれども。
この戦いの真相。
そして行く末は、知りたいとは思っていた。
あの梟のドローンの言ったことは、色々と思うところがある。上位者が言う通りなのかも知れない。
確かに上位者からして見れば、プライマーと人類の戦争なんて。もしもこの二者が文明敵に連続しているのだとすれば、手を出す意味もない。
本人達で好きにやれ、と言うだけの事。
人間の味方だけ都合良くしてくれる上位者なんて、それこそ古代の宗教の神々も同じである。
そんなものはいないし。
既得権益層にとってだけ、都合が良いだけの代物だ。
事実、どれだけ宗教哲学を練り上げても。
それは既得権益層に利用され。
僧侶達は金を稼ぐために屁理屈にねじ曲げて。
その結果、どれだけの世界を良くしようという試みが、台無しにされていっただろう。
一華は頭を振る。
まずは、状況を整理だ。
リーダーが、無線を受けていた。
何かあったとみて良い。
「皆、日本に戻る」
「何があったッスか」
「エルギヌスだ」
「!」
そうか、もう出て来たか。
だが、今回はバルガがある。すぐに、戦略情報部にリーダーが連絡を入れたようである。
勿論、エルギヌス対策としては、K6作戦を行う必要がある。
それに、村上班ばかり活躍しては、人事のバランスが取れないという事情もあるのだろう。
案の定メイルチームが先に出てくるようだ。
だが、改良したところで、EMC二両程度でエルギヌスを倒す事は不可能だろう。多分プロフェッサーが、この周回では動くように仕上げてくれている筈だが。それでも無理とみて良い。
ならば、共闘するだけだ。
すぐに輸送機に乗って、現地に。
ただ、戦略情報部は、それに千葉中将も。難色を示していた。
「バルガを用いる!?」
「はい。 バルガを用いて、エルギヌスを倒します」
「確かにベース228での戦闘では、バルガがテレポーションアンカーをなぎ倒して大活躍したと聞いています。 しかしあれはただのクレーンです。 体格的に同等とはいえ、怪物の領域を超える相手に通用するのでしょうか」
「実際にやって見せます」
リーダーはそう言う。
いずれにしても、千葉中将の鶴の一声が決め手になった。
「事実、今まで多数のアンノウンを仕留めてきた村上班の言葉だ。 試してみる価値はあるだろう」
「ですが……」
「それにバルガは今の時点では使い路もない鉄屑だ。 確かにアンカー対策としては使えるが、それでは使うのにコストが無駄になりすぎる。 実際に村上班が使って見て、それでどうなるか見てみれば良いだろう」
「そう仰るのであれば」
戦略情報部の少佐もあまり乗り気ではない様子だったが。
日本支部の司令官である千葉中将がそう押してくれるのだ。ならば、退くしかないだろう。
ただ。途中で連絡が入る。
やはりメイルチームが先にEMCで仕掛ける様子だ。ならば、此方でもやるべき事はある。
「弐分、三城」
「分かっている」
「敵を食い止めて、味方の被害を減らす」
「そうだ。 頼む」
勿論リーダーも、エルギヌスの足止めに協力はしてくれる。ただ、それでもEMCや戦車隊が蹂躙されるのは、人的資源の損耗という点からも避けたい。
輸送機で、日本に。
エルギヌスは出現して、早速大暴れしている様子だ。どの周回でも日本に現れるのは、村上班が中心になって活躍しているから、だろう。
少しでも戦力を削ぐため、というわけだ。
だが、今回はバルガがある。
そして、バルガに乗るのは一華だ。エルギヌス程度だったら、負ける要素がない。
東京基地に。既にバルガは来ていたので、一華は先に乗り込む。バルガごと、現地に輸送して貰う。
内部でPCをセット。
アップデートをしておく。
ここに来るまでに、細かいプログラムなどを修正しておいたのだ。
全天式のコックピットは変わっていない。周囲の全てがクリアに見えるようになっている。
本来人型の巨大兵器のコックピットに人間を乗せるのは自殺行為だが。
バルガの場合は、コックピットをダイラタンシー流体で守る事によって、衝撃の緩和に成功している。
無言でシステムをチェック。
前の戦闘では、実は放置されていたこともあって予期せぬ幾つかのエラーがあって。それを無理矢理マシンパワーでねじ伏せた。
今回は調整が入っているので、ほぼ万全だ。
早い段階でバルガの有効性を示しておけば、砲撃装備を持ったバルガの開発に更に弾みが掛かるだろう。
それだけではない。どうせ今回、プライマーは相当数の怪生物を世界中に投入してくるとみて良い。
バルガのカスタムタイプなども、開発が行われるかも知れない。
そうなれば、軍にとってのアイコンになる。
士気が上がるという点で、大きな意味があるだろう。
「システムオールグリーン。 戦闘何時でも可能ッス」
「了解。 作戦地点に運ぶ」
「ヘリ四機がかりで運ぶんだ。 せめて役に立ってくれよ」
「ふっふっふ。 戦地で結果を出すッスよ」
さて、後はK6作戦の場所に移動するだけだ。
それまで、精神集中して、色々考える事にする。既にリーダー達は現地に向かっている筈だ。
被害を出来るだけ抑えられれば、それでいいだろう。
現地に到着。
エルギヌスには案の定、EMC2両ではどうにも出来ず。戦車隊の砲撃も通じず。右往左往するメイルチームを逃がすために、リーダー達が悪戦苦闘している所だった。戦車隊は既に対怪物の用の徹甲弾と、対酸装甲が普及し始めているが、それでもどうにもならなかった。
ライジンを喰らえば流石にエルギヌスも怯むが、あれは連発出来る兵器では無い。
そもそもエルギヌスは、凄まじい再生能力を持ち、生半可な攻撃が通じる相手ではないのだ。
最低でもEMC10両。
爆弾だったら、核兵器。
それくらい持ち出して、やっと倒せる相手である。
それに、だ。
手をかざして、おおと呟く。
どうやら通常種より強力なエルギヌスのようだ。敵としても、村上班が倒してしまうのでは面白くないと思ったのだろう。或いは、いつも通りエルギヌスを出してくると見せかけて、不意を突いたのかも知れない。
通常個体よりも二回り大きいエルギヌスが出て来ている。それも全身が赤い。
何かしらの生体強化を施したのか。
或いは以前交戦した規格外アーケルスのような、生存競争で揉まれた特殊な個体かも知れなかった。
どちらにしても、どうでもいい。
負ける気はしない。
「バルガ現着!」
「あれがエルギヌスか! 全長八十、いや八十五メートルはあるぞ!」
「降ろしてくださいッス。 後は此方でやるので」
「分かった。 だが危なくなったら逃げろ! あの化け物は、どう見ても普通じゃない!」
ヘリのパイロットの人達、真面目だな。
そう思いながら、そのままヘリがワイヤーを切り離す。
着地。
本来だったらずーんと来るのだろうが。ダイラタンシー流体の保護のおかげもあって、スムーズな着地だ。
ただ周囲は、地震のように揺れたのが全周カメラに写った。
まあ、迫力はある。
バルガは人型ロボットとしては、アニメに出てくるもののように格好良くはない。むしろ不格好ですらある。
だが、クレーンとして設計されたこれが、人類の切り札となる。
これほど面白い事は、そうそうないだろう。
エルギヌスは村上班に足止めされて苛立っているようだったが、大きいのが来たのを見て、首を曲げて此方を見る。
同時に、村上班が離れる。
此処からは、バルガの性能を見せる時だ。
「今までエルギヌスと名付けたこの生物には、爆撃、巡航ミサイルをはじめとしたあらゆる攻撃が通用していません。 EMCも倒すには出力不足……台数が足りなかったようです。 気を付けて対応してください」
「了解ッス。 バルガ、バトルオペレーションッス!」
両手を上げて、ファイティングポーズを取る。
メイルチームの兵士達は、距離を取って固唾を飲んで見守っている。エルギヌスは吠え猛ると、態勢を低くして突貫してくる。
想定よりかなり動きが速いな。
そう思いながら踏み込みつつ、完璧なタイミングで拳を振るい上げる。
頭に直撃。
エルギヌスが、凄まじい咆哮を上げて、蹈鞴を踏んでのけぞる。おっと、倒れないか。流石にこのサイズだ。
バックステップしてさがるエルギヌス。通常個体とはレベル違いとみて良い。舌なめずり。
これくらいの相手でないと、せっかくバルガに乗ったのに面白くない。
飛びかかってくるエルギヌスに、上半身を回転させてのハリケーンパンチを入れる。三度、拳が直撃して、今度こそひっくり返るエルギヌス。
立ち上がろうとする所に、踏み込みつつの上半身からの拳。だが、敏速にエルギヌスはかわす。
それどころか、カウンターに尻尾を振るって叩き付けて来る。
流石にやるな。
だが、尻尾の一撃を、腕で挟むようにして受け止めつつ、踏みとどまる。
バルガの重心は、支援プログラムで調整してある。ちょっとやそっとで押し倒されるものか。
殴りかかってくるエルギヌスだが、そのまま尻尾を掴みつつ、前進。
結果として、頭突きを叩き込む事になる。
尻尾が外れ。エルギヌスと盛大にかち合う。
エルギヌスが悲鳴を上げて、横転。倒れた所に、更に踏みつけを入れて、尻尾を踏みつぶした。
鮮血が噴き出す中、エルギヌスが雷撃を叩き込んでくる。
この一瞬でチャージしていたか。
だが、一瞬でチャージした雷撃だ。威力も知れている。バルガのE1装甲を貫くには至らない。
ただ、今ので幾つかのパーツにアラートがでた。
飛び退くエルギヌス。
どうやら、此方を本気で戦うべき相手と認めた様子だ。距離を取って、雷撃戦主体にでようとするが。
残念だが、リーダーがそうはさせない。
エルギヌスの背中を、ライサンダーZ、ライジン、ガリア砲が射撃。悲鳴を上げたエルギヌスが前に出て。
其処を、一華が。
完璧なタイミングで、両拳を固めての降り降ろしを入れていた。
頭蓋が拉げる手応え。
地面に叩き付けられたエルギヌスが立ち上がろうとする所に、頭を全力で踏みつける。それでも抜け出したエルギヌスは、態勢を低くしてタックルしてくる。
かなりの重量感。
だが、それでもバルガは踏みとどまると。ずり下がりつつも、両腕で一気にエルギヌスをひっくり返していた。
エルギヌスが倒れる。そして、立ち上がろうとした所に。
両腕を振るい上げてポーズを取り。
全重量を乗せた、右腕の振り降ろしを叩き込む。
再び、エルギヌスの頭蓋にダメージが入る。
もう1丁。
踏み込むと同時に、今度は左腕で腹を抉るように殴る。
肋骨が砕ける。
どうやらエルギヌスは、肋骨を持っている生物らしい。まあ死ぬときに溶けてしまうから、それについては見た事があるのだが。
だとすると、此奴は何の生物が此処まで大型化したのか。
ただの蜥蜴では無いだろう。
手足が下向きにでている。今、主竜類でその特徴を持っている爬虫類はいない。そうなると、鳥か。
実際は、哺乳類は二億年も前から地球にいる種族で、種族として後に出て来たのは鳥類だ。
それを考えると、確かに伸びしろがある分。
鳥類が、こうなる可能性は考慮しなければならないのかも知れなかった。
巨大エルギヌスの体が紫に染まり始めている。
そろそろ終わりだ。
エルギヌスは、最後の意地とばかりに、雷撃を叩き込もうとしてくる。その間に、接近。
雷撃。至近距離。
幾つかのパーツがショートした。全力の雷撃だと、流石にバルガもダメージを受けるか。
だが、それが最後の抵抗。
全力でのコンビネーションブローをエルギヌスに叩き込む。
至近距離だ。
外すこともない。
そして、留めにハンマーパンチを振り下ろして、頭を砕く。完全に頭蓋を粉砕されたエルギヌスは、大量の血を吐きながら、地面に倒れ。
全身が見る間に腐食していった。
「おお……!」
「多少の支援は必要としましたが、バルガが怪生物にこれほどに有用とは……!」
「今、各地の基地に未回収だったり放置されているバルガが相応の数ある筈だ。 すぐに対怪生物兵器として整備してくれ」
「了解しました。 早い段階から、バルガの改修を準備します」
呼吸を整える。
バルガのダメージは半分を超えていた。
これは、以前戦った規格外アーケルスよりも強かったかも知れない。死に、溶けて行くエルギヌスを見て、一華は呟く。
強かったよ、あんた。
だが、相手は応えない。当然だ。もう死んでいるのだから。そして生命力の代償のように、このように無惨な最後を遂げてしまう。
ただの感傷かも知れないけれども。
こういう敬意を払える相手には。最低限の敬意は払いたいと、一華は思った。
バルガを引き渡し、基地に戻る。
バルガはかなりダメージを受けていたが、あのエルギヌスの戦力は通常種の数倍と見て良かった。
これで勝てたのは御の字だ。
E1合金も、完璧とは言えない。
一華がPCを抱えてバルガを降りると、リーダーが出迎えてくれた。
「随分と苦戦したな」
「明らかに他の個体より強かったッスよあいつ」
「ああ、それは分かっている」
「勝てて良かった。 彼奴に勝てるなら、大概の怪生物は楽勝ッスよ。 ああ、それと支援有難うッス。 肝心な所で怯んでくれたおかげで、コンボをフルでたたき込めたッスから」
頷くと、リーダーは休むように指示をしてくれる。一華も戻りつつ、幾つかプログラムの強化について考えていた。
まず、プロフェッサーに連絡を入れておく。
バルガの強化計画について。
バルガの装甲に、雷撃耐性や熱耐性を入れた方が良いだろう。これは勿論、エルギヌス、アーケルス、それにサイレン対策だ。
サイレンは恐らく、今回も敵は繰り出してくる。
前に出てきたサイレンほどの戦闘力は恐らくないだろうが、それでもバカをすればグラウコスに転化する可能性がある。
気を付けなければいけない相手だ。
それに加えて、バルガの動きについてのプログラムを送っておく。
今回の一華の戦いでは、まだまだ課題が多かった。
肉弾戦について、リーダーや弐分、柿崎がやっている動きをそのままバルガに取り込んでいるのだが。
そのまま取り込むわけにはいかない。
どちらかというと、速さを武器にしているリーダー達のと違って、バルガは重さを武器にしている。
相手もそれは同じだから、如何に重さを相手に押しつけるかの勝負になる。
だから、簡単にバトルプログラムは組めない。
また、今回のような動きをすれば、バルガにダメージも蓄積する。敵の雷撃や火焔弾を浴びながら戦闘するとなると、バルガの戦闘用の機体。いわゆるウォーバルガでも、そう長くはもつまい。
そのため、幾つか考えておいた負担軽減、ダメージ緩和のためのプログラムをすぐに組み立てる。
一華も散々プログラムはくみ上げてきた身だ。
このくらいは朝飯前である。
すぐにプログラムを組んで、仮想空間を構築。それで実験をする。
今回得られたエルギヌスと、以前戦った規格外アーケルスを相手に、何度か自動で戦わせてみるが。
自動では勝てない。
エルギヌスやアーケルスの動きは、個体ごとに癖が強く。尻尾を活用してくるエルギヌスと電撃を活用するエルギヌス。火焔弾をまき散らして広域殺戮に特化するアーケルスと、動き回って攪乱戦を行うアーケルスがそれぞれいて。更に、そこから「性格」で色々と変わってくる。
これらの事もあって、簡単にはいかないのだ。
リーダーからメールが来る。
残業はほどほどにしろ。
そういう内容だった。
残業をするほど偉いという謎の風潮が存在していて。それによって多くの会社員が体を壊す事態が起きていた場所もあるそうだが。
一華もそれについては分かっている。元々そんなに体が頑丈ではないのだ。
出来るだけ、休むには休まなければならない。
無言でプログラムを打ち、仮想空間でやらせてみる。
規格外アーケルスには自動でやらせても勝率三割くらいまで持って行けるようになってきた。
ただあの規格外エルギヌスは無理だ。
どうもあの個体は、恐らくアーケルスも凌ぐ強力な個体だったのだろう。或いはエルギヌスは、育ちきるとアーケルスを凌ぐ強さになるのかも知れない。
あり得ない話では無い。
産まれたばかりだと、ワニは同じ川に住んでいる大型の蟹に補食されてしまうほど弱いと言う。
だが育てば立場は逆転。蟹などおやつにしかならない。
まあ、生物兵器として無理矢理巨大化させられた可能性もあるが。
あんな風に溶けてしまった後だ。
それについては、可能性でしか分からなかった。
プログラムをある程度改良すると、休む。
いずれにしても、これからが本番だ。
時間改変船団を叩き潰せば、その時点で恐らくタイムパラドックスが起きる。人類の完勝とまではいかないだろうが。
それでも、プライマーによる攻勢を相当に押さえ込めるはずだ。
伸びをして、此処までにする。
プログラムの改良は、バルガが出回る。つまり、怪生物が各地に出現し出すまでは良いだろう。
それに、あの規格外エルギヌスは、おそらく意表を突くために出してきた個体だとみて良い。
あれほどの凶悪な怪生物は、そうは出てこない筈だ。
それに、サイレンが出て来た場合は、バルガは役に立てない。
その場合は、対空レールガンの配備が必須になる。それも、プロフェッサーに任せるしかなかった。
一休みする。
目が覚めると、早朝だ。
起きだすと、エイレンを見に行く。
パーツが来ていたので、自分で取り付ける。プロフェッサーも、とにかく段階を踏んで開発を進めてくれている。今までに行った実験は全て無駄にならない。文字通り、試行錯誤の過程が必要ない。それだけで、どれだけ時間を短縮できるか分からない。
ただ、それでも現場で組み立てるのは手間が掛かる。
はやく長野一等兵が来てくれないかな。そう思ってしまう。
だけれども、あの人には、もっと無茶をしないように誰かがいわなければならないのだろう。
文字通り死ぬまで働いてしまうはずだ。
エイレンの整備をしていると、朝の訓練に出て来た兵士達が、敬礼をしていく。
リーダーは今回の怪生物撃破の功績で、中尉に昇進が決定だそうである。そうなると、間もなく一華も少尉だ。
そして、柿崎達が来る。
そうなれば、ストーム1は戦力として更に整備されることになる。
ここからが、本番と言える。
エイレンを整備し、幾つかの機能を使えるようにしておく。まだレールガンは使えないが、それは仕方がない。
イプシロンの配備は、今プロフェッサーがそれこそ寝る間も惜しんでやってくれているはずである。
それがなってから。更にその後だ。
無線が入る。
プロフェッサーからだった。
「昨日の戦闘のデータを分析した。 特別なエルギヌス個体だと、やはり君のような規格外でないと対応は難しそうだな」
「そう褒めてくれるのは有り難いッすけど、対策は」
「今の時点で、バルガの改修と整備を進めている。 今後、バルガを使って怪生物対策が出来る。 通常のエルギヌスなら一対一、アーケルスにも二対一、更に機甲師団の支援つきなら、互角以上に戦えるだろう。 EMC部隊を損耗を気にしながら出動させなくても良くなるはずだ」
そういう見立てか。
だが、一応釘は刺しておく。
「敵もそう判断すると思って動いてくるかも知れないッスよ」
「そうだな、そうだった。 私は戦争の専門家では無い。 現場にいる君達の話は、聞くようにしないとな」
「それと、バルガに搭載する兵器については……」
「それは恐らく、三年くらいはかかる。 今、色々な兵器を段階を追いながら生産し、EDFに提供している所だ。 今の時点で既に追加の人員を用意して貰っているが、それでも手が回るのは先になる。 完成させるのは、もっと先だろうな」
なるほど、そうか。
まあ、夢物語を口にしないだけ良いだろう。
兎に角、まずはプロテウスの配備からだ。
それまでは、各地を転戦しながら味方の被害を減らすしかない。
アフリカは押され気味、中東は苦戦。中央アジアはかなり押されている様子だが。それも、早い内に手を打つべきだろう。
風神共が近いうちに来る。
改ざんされた歴史の世界で、奴らに無警戒に仕掛けた空軍が、緒戦から凄まじい被害を出した事を一華は覚えている。
同じ失敗はしない。
まずは陸軍での攻撃を申請できるくらいに。そうだな、リーダーが佐官に昇進するくらいには。
各地で、転戦を重ねなければならなかった。
4、それぞれの思惑
「風の民」長老は、トゥラプターから見て兎に角慎重な人物だった。
初日にあの村上班という者達がいる基地に仕掛けた際の手際を見ている限りそうだ。可能な限りの物量を投入したが、駄目だと判断したら即座に諦めた。その代わり、他に戦力を回して「いにしえの民」の出血を強いた。
各地で新兵器を矢継ぎ早に投入しつつも。
本隊としての戦力は出さず。「戦闘輸送転移船」も敵に撃墜されないように、慎重に運用している。
恩がある「水の民」長老から話を聞いていた。
今の世代の「風の民」長老は、少なくとも「外」に喧嘩を売った世代のおろかな長老とは一線を画すと。
確かに用兵家としては慎重で石橋を叩くタイプだ。
「水の民」長老のような頭が回る知将タイプではないが。
それでも、トゥラプターが不愉快にならない程度に、確実に「いにしえの民」に被害を与えつつ。
同時に味方の被害を抑えている。
そして各地に確実に拠点を構築している。
村上班の攻撃に対しては、躍起になって反撃しない。
その被害は大きいが、既に想定して動いている様子だ。
唯一問題があるとすれば。
勇躍して出撃したいと言ったトゥラプターに、不許可と告げてきたことだろうか。
まだ、でる場面では無い。
そういう意見であるらしかった。
旗艦に出向く。
今日も、出撃を具申しに来たのだ。
結果は同じだった。やはり、トゥラプターが出ることを、「風の民」長老は許してはくれない。
「まだその機では無い」
「何かを狙っておられますか」
「……「いにしえの民」は過去に転移している。 方法は分からぬがな。 「外」が協力しているとは思えない。 「外」が提供してきた例の装置が、タイムパラドックスの影響を緩和している副作用なのか、それとも本当に物理的に記憶を飛ばしているのかは分からないが……少なくとも、報告にあるよりも更に「村上班」の者達が「村上班」としての戦闘力と記憶を引き継ぐタイミングは開戦時に近付いている。 これが何を意味しているか分かるか」
「いえ」
実際には幾つか仮説は思いつくが、トゥラプターは不確実な話は口にしたくはなかった。
頷くと、「風の民」長老は言う。
「素直で結構。 わしの見る限り、奴らは「戦闘輸送転移船」の転移時間と座標について調べているとみて良い。 つまり、転送してきた船団を待ち伏せ、撃破する事を目的としている筈だ」
「それはまた、随分な予測ですな」
「いや、そうでもない。 我等は散々手の内を晒してきた。 更に敵の兵器は開発速度が段違いに上がっている。 既に電磁装甲で守られた人型兵器が前線に出て来ていて、地球産の生物兵器では相手が難しくなっている。 大型生物兵器も、巨大人型兵器での撃退を確認した。 あれほど本国が苦心して育てた個体だったのにな。 これは敵の腕が上がっているだけが理由ではあるまい。 歴史を散々我等は変えすぎた。 その揺り戻しが来ているとみて良いだろう」
なるほど、そういうものか。
タイムマシンの理論は、トゥラプターも勉強済だ。
「外」の技術は文字通り規格外。
タイムマシンもどきをつくるのが精一杯だった本国とは、文字通り段違いという訳で。そういう不可解な現象が起きてもおかしくないだろう。
「それに、もう一つ気になる事がある」
「何でしょう」
「「外」が唯一監視につけていた端末が、村上班から消えている」
「!?」
聞いていない話だ。
順番に「風の民」長老は話をしてくれる。
「「外」は恐らくだが、この「内戦」に干渉するつもりはなくとも、「例のもの」を我等に渡した代わりとして、監視はするつもりだったのだろう。 だから、村上班の側に監視端末を置いていたそうだ。 地球における梟という生物に模したものをな」
「そんな事が」
「我等もそれに対抗して、クラゲに模したものを奴らの側に配置していた。 嫌われないように工夫を凝らしてな。 だが、「外」が手を引いた。 そうなると、此方も監視を外さないわけにはいかない。 それに、村上班も警戒し始めていた。 そうなると、むしろ監視を引き上げる方がリスクがさがる」
「……」
トゥラプターが知らない所で、そんな事になっていたのか。
無言になるトゥラプターに、「風の民」長老が言う。
「お前には、「戦闘輸送転移船」の船団が転移した瞬間攻撃を受けた時に、戦地に出向いて貰うつもりだ」
「分かりました。 其処で決着を」
「いや、決着は「例のもの」が来てからになる。 お前がやるべきは、今の村上班の戦力の見極め。 決して、その場で死ぬでないぞ」
「……はっ」
戦士としては、あまり嬉しい言葉では無いが。
ただ、長期的に「風の民」長老がものを見ているのは分かった。
名将という程では無いが、少なくとも前の前の司令官であったでくの坊とは違うらしい。
少なくとも命を預けられる指揮をしているのは分かった。
一旦引き上げる。
不満は散々あるが、それでもやむを得ない。
今は被害を抑えながら、「いにしえの民」との戦闘に対して、指揮をしていくだけだった。
コロニストの群れが出現。世界各地で同時に、だ。
このコロニストも、未来の地球の生物であることが分かっている。遺伝子のパターンから見るに、両生類が変化したものだろうという話だ。
両生類については、三城も知っている。
数は少ないが、気色悪いと思った事はない。
そもそも気色悪いから排除しようと考える、他の平均的な人間の悪癖を持つつもりもない。
一華の話だが。
地球に大きな環境の変動があると、それまで栄えていた生物は地盤を崩されて、絶滅してしまう傾向が強いという。
恐竜などは、実際には生態系の頂点だっただけではなく。生態系のあらゆる分野に食い込んでいたほどの強力な生物だったらしい。
それが絶滅するほどの変動が世界を襲ったのだ。
何よりも、そもそも骨を持つ動物。
いわゆる脊椎動物は、地球ではむしろ少数派に当たると聞いている。
もしも、プライマーのいた世界で地球が人間のおかげで破滅したとしたら。
脊椎動物はあらかた滅んでしまって。
洞窟の奧などに潜んでいた両生類が復権し。
何千万年も掛けて、知的生命体になるまで巨大化したのかも知れない。
それは進化では無く環境適応だとか。
いずれにしても、今戦っているコロニストはクローン戦士だ。
このまま歴史が変わると。
プライマーに拉致され。クローンで増やされたもとのコロニスト達がどうなるのかは気になる。
ただ、手を抜いているわけにもいかない。
敵には特務も混じっている。
マザーシップが運んでくるようなこともない。
今回の敵はとにかく慎重で、マザーシップをそもそも大気圏内に降ろしてこない。アンカーなどのキャリアとして徹底的に活用していて、EDFの戦力を削りつつ。村上班と貴重な主力がぶつからないように、気を付けてもいるようだった。
やりづらい相手だ。
前の周回までの司令官とは、別の意味で手強い。
だが、それはそれとして。
今は、コロニストとの戦闘に集中だ。
特務は装備も強力だが、大兄が即座に狙撃して撃ち倒してしまう。これは仕方がない。データを取るのも命がけだ。それに他の戦地では、特務の兵器がぶっ放されて、味方に大きな被害も出ているだろう。
だったら、少なくとも遭遇した戦場では即殺するしかない。
三城はファランクスとライジンを使って、敵を遠近から刈り取る。
味方の戦車隊とエイレン隊も、ニクス隊と連携しながらコロニストを追い詰めていく。程なくして、戦場は静かになった。
大兄が、ライサンダーZを一度降ろすが。
表情は険しいままだ。
「増援が来る。 備えてくれ」
「了解」
「わかった」
すぐにフライトユニットを温める。
兵士達は困惑しつつも、補給を開始。キャリバンが来て、負傷者を乗せて後退していく。
気配だ。
かなりの数のコロニストが来る。通常種ばかりだが、百体以上はいる。装備も、遠距離戦専用の様子だ。
乗っているドロップシップも撃墜が難しい。
それが、かなり散りながら空を飛んでいる。
舌打ちする大兄。
敵は空中機動作戦を仕掛けて来た。
「包囲される!」
「エイレン隊、ニクス隊、前衛になって歩兵を守れ。 敵を一部隊ずつ排除する」
「サー、イエッサ!」
中尉になった大兄の所には、程なく尼子先輩と長野一等兵が配置される。
柿崎、山県、木曽の三人も来る事が決まっている。
それに、間もなく成田軍曹も専属オペレーターになる。
あの子はあんまり役に立たないが。
それでも、戦況が有利なときはある程度的確なオペレートが出来る。何となく、ずっと階級が軍曹のまま出世出来ない理由がわかるが。
それはそれ。
これはこれである。
周囲に降りて来た砲撃装備のコロニスト部隊。
かなりの規模だ。
さあどう対応する。
そう聞いているようである。
展開したコロニスト部隊を見ると、大兄が即座に指示。大兄が一部隊を、小兄と三城はそれぞれ別の部隊を任される。
他にもバイザーに細かく指示が出されている様子だ。
砲撃が飛んでくる。
ニクスとエイレンが防ぐが、どうしても吹っ飛ばされる兵士がでる。アーマーが如何に強化されているといっても、負傷は免れない。
「撃墜不能な揚陸艇で、好き勝手に空中機動作戦を仕掛けて来やがって!」
「あのエイリアンども、親玉の首根っこ捕まえて、締めてやる!」
「そんな事が出来る程度の相手ならいいけどな!」
「兵士達を顎で使う奴なんて、どうせ豚みたいに太ってクーラーが効いた部屋で偉そうにふんぞり返ってるに決まってるんだ! 勲章じゃらじゃらつけてよ! そんな奴、俺たちで叩きのめしてやる!」
無言で、三城は敵に接近。
砲撃をかいくぐって敵チームに近付くと。
支給されているプラズマ剣を引き抜く。
これも性能が上がっている。
一刀両断に一体の首を刎ね、次、更に次と斬り伏せて行く。砲撃兵は接近に脆そうだが、実は自爆覚悟で至近に砲撃してくることがあり、接近に成功した部隊が大きな被害を出す事がある。
だから、最後の一体をファランクスで焼き殺すまで油断しない。
そして、最後の一体を倒すと、即座に飛び離れる。
複数方向から飛んできた砲撃が、さっきまで生きていたコロニストを粉々に消し飛ばしていた。
コロニストの思考パターンが変わったか。
前は同士討ちは避けるようにしていたのだが。もう瀕死だと判断すると、味方も容赦なく巻き込むようになったのか。
まあどうでもいい。
とにかく、次の班を狩りに行く。
味方部隊も遠距離砲で善戦している。ただ、この戦い方だと、どうしても被害が出るのは避けられない。
ニクスも戦車も次々に中破、擱座していく。
それでも応戦しているのは立派だが。兵士の負傷、戦死は出来るだけ避けたい。
高所に陣取った部隊を狩りに行く。
だが、大兄が指示。
そっちは大兄がやるから、別を狩ってくれと。
頷くと、其方に切り替える。
判断をミスったか。
確かに高所にいる相手は。大兄には鴨撃ち同様だ。
三城の場合は、フライトユニットに負荷を掛けるから、あまり好ましくない。仕方がない。低空を飛んで、可能な限りフライトユニットの負荷を減らしながら、敵の砲兵に接近する。
数時間の戦闘で、敵部隊の排除を完了。
各地に降下したコロニストに、かなりの被害が出ている様子だ。
それだけではない。
同時期に、コスモノーツも出現しているようである。
これは、すぐに狩りに行く必要があるだろう。
ただ、エイレンが既に前線に出向いている。エイレンは現時点でV相当の性能を持っており。
またバリアスやケブラーも、前線に配備され始めている様子だ。
そうなると、コスモノーツにもある程度戦える筈。
そこまで慌てて、転戦は考えなくてもいいか。
敵部隊を処理したことを大兄が無線で総司令部に告げると、即座に次の指示が来た。
予想はしていたが。
コスモノーツ狩りだ。
山梨に降下したコスモノーツの恐らく特務が、ベース228に攻撃する構えを見せているそうだ。
これを先に排除してほしいと言う事である。
すぐに現地に向かう事にする。
大兄に、注意するように言われた。
「今のコロニストの様子からして、コスモノーツもレーザー砲主体の装備をしている可能性がある。 気を付けろ」
「わかった」
「それにしても、敵の司令官は本当に石橋を叩いて渡るようだな」
「二度も司令官をやられているッスからね。 妥当な行動だと思うッスよ」
一華の言葉に頷く。
最初に倒したでくの坊とは、今回も違うと言う事か。
いずれにしても、手を抜ける相手などでは断じてなかった。
(続)
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