変わった未来

 

序、繁殖地破壊作戦

 

アフリカ。

ストーム1所属の面子にとっては。特に最初の四人にとっては、とにかく苦い思い出の土地だ。

一華は此処に降り立つと、いつも嫌な気持ちになる。

うっすらとしか記憶にない。

此処で、荒木軍曹達皆を、無謀な作戦で失った。そういえば、あれもカスターのアホが原因だったか。

今回は、状況が違う。

降り立った荒木班は、全員がブレイザーを装備している。ただ、相馬大尉は恐らく使う事はないだろう。

エイレンWに乗っているからだ。

出迎えに来たタール中将に敬礼。一華も、既にすっかり敬礼が決まるようになってきていた。

「ストームチーム、よく来てくれたな。 マザーシップを落とし、あのグラウコスも倒してくれた。 今回も、頼むぞ」

「イエッサ。 まずはブリーフィングを」

「うむ」

まずは基地の内部に。

アフリカ西海岸にある基地の一つ。既に人類は三割近い人員を失っているが、継戦力はなくしていない。

EDFはグラウコスを倒した後猛攻に転じていて、各地の繁殖地を粉砕。新たに現れたクルール相手にも、エイレンを中心とした戦術で対抗。

充分以上に戦う事が出来ていた。

そしてアフリカでも、EDFはまだまだやれている。

今、明確にEDFが不利なのは中東くらいで、東南アジアでも互角。グラウコスを追い詰めるために大きな被害を出した中華ではやや不利。これはグラウコス戦の時に多数のプライマーの戦力を削った分で、帳消しという所か。

アフリカもややEDFが不利で。

今回、それを覆すために来た。

これも陽動作戦の一つである。コマンドシップから、敵の注意と守りを引きはがす。そのためには、こうやって各地での戦闘を進め。敵のダメージを蓄積して行く必要がある。

まず、説明を受けた。

「大型のハイブが確認されている。 飛行型がかなりの数。 これに加えて、クイーンも複数いるようだ」

「簡単に落とせる繁殖地では無いッスね」

「グラウコスが出現してから、組織的行動は著しく制限されたからな。 だから、こういう拠点を幾つか作られてしまった。 皮肉な事に、それらの幾つかは当のグラウコスに焼かれてしまったが」

グラウコスは、破壊神そのものだった。

一華も少佐になった今、色々な情報を公認で検索できるようになっているが。EDFのデータベースを確認するだけでも、グラウコスの行動は無茶苦茶だ。

はっきりいって、プライマーはグラウコスを制御出来ていなかった。

それは客観的な事実だ。

ある程度の指向性くらいは持たせることが出来たのだろう。

だが、それ止まりである。

だからこそ、こういった敵の拠点も。それほど多くは作られなかったし。人類も大きな被害を出したが。何とかプライマーとやり合えている。

恐らくだが、もうプライマーはサイレンを投入する事はあっても、あれほど強力な個体は出してこない筈だ。

グラウコスにまた転化させる失敗を人類はおかさない。

プライマーは、歴史遡航者がいる事を既に気づいている。

だから、二度同じ手を使わない。

何より、グラウコスはプライマーにも大きな被害を与えるほど、制御が効かない存在だった。

ただ傑作生物兵器であるスキュラのコントロール用として、サイレンを投入してくる可能性はある。

そうなった場合は、対空レールガン部隊で対策するしかない。

恐らく殺す事は可能だ。

無理にバスターでも叩き込まない限りは。

敵拠点の方に注意を戻す。敵拠点からは、定期的に飛行型とクイーンが飛び立っているようだが。

それらは空軍とケブラーで連携して駆除に成功している。

問題はそれではない。

「既に指摘されたとおり地下空間を遠隔の電波探査で確認したが、案の定電波が通らないようだ。 何か隠されているとみて良い」

「そうなると、恐らくハイブを破壊するだけでは済まないッスよこれは」

「分かっている。 出来れば開発中というプロテウスという兵器を回してほしいところだが、まだ固定砲台以上でも以下でもないようだな」

「……」

ブレイザーの量産は上手く行っている。

だが、プロテウスはまだ無理だ。足回りの問題がどうしても解決できない。一部の研究者が揉めているらしい。

足回りをいっそ多足にするか、無限軌道にしろと。

それに対して、エイレンWのデータを蓄積すれば二足歩行に出来、運用を柔軟に出来ると反論している勢力もあるそうだ。

ぶっちゃけた話、こんな重い兵器を無限軌道にしても、二次大戦の時にあった超巨大戦車と同じ結末を辿るだけだろう。

だったら、設計図で見た、電磁装甲で超補強し。

更には地面への負担を極限まで減らす一種の磁力反発システムで軽快な歩行を可能にする新技術を用いた二足歩行の方がまだいい。

ともかくだ。今回は、プロテウスはまだ投入できない。

「定点目標なので、まずは砲兵隊による攻撃を行いたい所です。 恐らく即応してくる飛行型は、砲兵隊の付近で待ち伏せたケブラーとニクス、エイレン隊で対応します。 更に、我々もその場で対応に参加します」

「うむ」

対空装備が充実し、兵力もいる今。定点目標への砲兵による火力投射は悪くない。

問題は、ハイブ地下の隠し玉だ。

プライマーは傾向として、ハイブを怪物の繁殖地の要にする。ハイブを大型化し、更には地下に巨大な怪物の巣を作らせたりもする。

このため飛行型の大型ハイブの攻略作戦は、大苦戦させられるのが常だ。

それについても説明をしておく。

頷くタール将軍。或いは、経験があるのかも知れない。

それにだ。

そもそもとして、飛行型はケブラーが普及した今でも手強い怪物で、油断するとあっというまに部隊が壊滅する。

数にもよるが、エイレンやニクスでも侮れる相手では無い。ケブラーも、攻撃を受けると長くは保たない。

つまり、その後の手が重要になってくる。

「衛星兵器を用いるのはありッスかね」

「衛星兵器か。 バスターの件もあって、衛星兵器班は冷や飯を食わされていると聞くが」

「サイレンはあれは、決戦兵器として作られた代物の筈ッスよ。 反撃だって出来ないだろうし、バスターを錆びさせておくのももったいない。 申請してみては」

「……分かった。 此方から申請しよう」

続いて、対大型の話に入る。

敵の拠点攻略の話が上がって来ているように、アフリカではまだまだ戦闘が成立している。

だが、それでも多数の怪物が各地に散っていて、その中にはEDFが捕捉できていないものがいてもおかしくない。

前に日本の大型ハイブを攻撃したとき、大量のクイーンを始末してから挑んだが。それでもまだまだと言わんばかりにクイーンが戻って来て。攻撃部隊が大損害を受ける惨事になった。

今回も、それを繰り返す訳にはいかない。

「砲兵隊周辺に、クイーンに対応できる戦力も準備しておこう」

「了解ッス」

「よし。 細かい部分を詰める。 他にも意見は」

何人かの将校が意見を出す。

それらを、タール将軍は丁寧に聞く。

顔の凄い向かい傷もあって兎に角怖そうな人だが、見た目と中身は一致していない。勿論激情家ではあるのだが。その怒りは、きっちりコントロールも出来るということなのだろう。

見かけ、か。

見かけで相手を決めつける習性で、これまで人類はどれだけ損をしてきたのだろう。

今後も損をし続けるのだろう。

馬鹿馬鹿しい話だが。

これだけの大惨事が起きた後でも、それは変わらないのは間違いない。

とにかく、ミーティングを終えて、その後解散。

作戦は翌日の0900に開始と言うことになり。

各自解散。

一華も、現地の前哨基地で休む事とした。

貰った部屋に戻る途中で見る。

固定砲台として、プロテウスに搭載する硬X線ビーム砲と、ミサイルランチャーが持ち込まれている。

これらは蒼い電磁装甲で守られているが。

こういった部品が実戦試験の場に持ち込まれているのを見ると、開発は進んでいるのが分かる。

足回りだけが問題なのだ。

事実怪物の大軍を相手にするとなると、相応に俊敏に動けないと話にならないのだから。

「一華少佐」

「何ッスか」

聞いた事がない声。振り返ると、マスコミらしい。グラウコスが倒れて、戦況が一段落して。軍広報が出てくるようになった。

男女の二人組だ。

そういえば、見た事がある。

時々プロパガンダ映像とかで、軍の兵器の格好良い所だけを紹介していたりする二人組だ。

名乗られたので、ぺこりと応じるが。

此奴らには、あまり印象がない。

常勝のストームチームだの何だのと言われたので、咳払い。勝てるという保証は出来ないと、先に断っておく。

「世界最強のコンバットフレーム乗りが、随分と慎重ですね……」

「世界最強かはともかくとして、うちのリーダーがいても負ける戦いは負ける。 そういうものだと、把握しておいてくださいッス。 これはムービーじゃないッスよ」

「分かりました。 ありがとうございます」

さっと相手は引く。

景気よい話が聞ければ良いと思ったのか、或いは後で言葉を改ざんして適当なニュースに再編制するのか。

まあそれはどうでもいい。

ともかく、休む。

一晩眠って、多少疲れは残っている中、六時には起きる。

軽く身繕いをして、エイレンWの所に。

足回りのデータを集めるためにも、今日も酷使することになるだろう。長野一等兵はこの間一週間ほどの休みを取ったが。その後は相変わらず無茶な仕事量をこなし続けていた。今朝ももう働いている。

「大丈夫ッスか、長野さん」

「問題ない。 足回りの問題はまだ解決していないようだな。 とにかく応急処置を重ねているだけだ」

「こればっかりはどうにも。 何か案はないッスかね」

「ここまでオーバーテクノロジーだと何とも言えない。 作った奴は設計図だけ未来から持ってきたんじゃないのか」

そうか、その通りなのだが。

まあいい。ともかく、エイレンWに乗り込む。

充分に戦力を残しているEDFだ。

前の悲劇は繰り返さないと思いたい。砲兵隊を守り、周囲に展開。ストームチームはそれぞれ持ち場を決め、激戦区になると思われる場所に。勿論ストーム1は最前衛に陣取る事となった。

まずは、バスターの申請が通った。

巨大なハイブに、バスターが直撃。貼り付いていた三体のクイーンもろとも、千数百の飛行型を文字通り蒸発させる。

あの頑強なハイブが、融解し、一瞬で大炎上するのが遠くからも観測できた。

とんでもない兵器だ。

というか、多少強化されているとは言え。一番古い記憶にある敵の首魁……トゥラプターの言葉によると「族長」に位置する存在らしいが。彼奴はあの兵器にある程度耐えた、ということか。

これは、今後更に強力な兵器を出してくるか、或いは物量を投入してくるか。

プライマーも、作戦を変えてくるかも知れない。

「バスター直撃! ハイブ、消滅しました!」

「砲兵隊、続けて攻撃! ハイブの周辺にいる敵戦力を殲滅せよ!」

「イエッサ!」

多数の榴弾砲、カノン砲が咆哮し、現地に大量の砲弾を叩き込む。

恐らく万単位の飛行型が、三十分の砲撃で消し飛んだはずだが。それでも、生き残りが一斉に来る。

赤い奴が多い。

「ケブラー、前に! 飛行型を叩き落とせ!」

タール将軍の指示で、ケブラーが対応を開始。凄まじい対空砲火で、飛行型を文字通り蜂の巣にする。

地上からも、敵が来る。α型の大軍だ。緑色や、金も混じっている。遅れて、β型も来ている様子だ。

「やはり隠し玉があったッスね」

「だが、今回は此方も充分に準備をしている」

リーダーは冷静だ。

即応して、戦闘開始。今回は燃費がよいレーザーにエイレンWの武装を切り替えている。硬X線ビーム砲は火力が大きいが、バッテリーの消耗が凄まじいのだ。緑をレーザーで焼き切りつつ、時々迫ってくる金αを攻撃。敵の浸透は早いが、此方の火力もそれ以上に凄まじい。

三城の誘導兵器が敵を拘束している間に、戦車隊が猛攻を加え、敵を吹き飛ばし続ける。

火力の集中に、次々敵が吹き飛ぶが、それでもまだまだ後続が来る。

「大型の怪物を確認!」

「種類は」

「クイーンです! 部隊後方より出現!」

「予想通りだな。 例のものも試せ。 後方のケブラー隊、応戦せよ!」

例のもの。

プロテウス用の、大型硬X線ビーム砲だ。

さて、現在の完成度を見せてもらうとするか。最初に乗せて貰った時、プロテウスはただの欠陥兵器だった。

武装もそうだし、そもそも動ける代物じゃなかった。

だが、今は。

ぶっ放された硬X線ビーム砲が、飛行型のクイーンに直撃。身をよじってしばらくもがいていたクイーンが、力無く地面に落ちていった。

おおと、喚声が上がる。

量産出来れば、戦況が代わる。

それどころか、勝ちが確定だ。

そう、無邪気に喜ぶ声が聞こえる。

馬鹿馬鹿しい。

あれ一つで、多分EMCくらいのコストが掛かる。確かに決戦兵器となりうる代物で、しかもプロテウスはあれを二門装備するのだが。

それでも無敵ではあり得ない。

怪生物を相手にタイマンを張れるかというとかなり怪しいし。

何よりも、敵があれでも倒せない兵器を繰り出してくる可能性は決して低くはないと言える。

とにかく、ストーム1は正面の敵との交戦を続ける。

柿崎が、キルカウントを更新しかねない勢いで敵を斬りまくっている。元気なことだなと思いながら、エイレンで応戦を続ける。

緑のα型が全滅した頃に、銀のβ型が見え始める。

戦車隊に集中攻撃の指示が出る。味方にも、損耗が出始めているが。無理はせず、ダメージを受けたらさがるように。そう指示も出ている。

「ニクス4、中破! 後退する!」

「ニクス6、前進して穴を埋めろ」

「了解!」

「敵の部隊はやはり予想を上回る規模だ。 だが……」

タール将軍は、心配している様子がない。

そもそも、あのバスターによる過剰攻撃で、たとえハイブの地下に敵の巣穴があったとしても全滅状態。

それは楽観では無くて客観だ。

あの熱量、グラウコスに浴びせてしまってはいけなかった。それが、見ていて良く分かった。

今来ているのは、周囲にいる怪物の大半とみて良いだろう。

つまり、むしろ怪物をアフリカから掃討する好機。

勿論この戦いだけで全て駆除するのは無理だろうが。

それでも、相当数を駆除すれば、それだけ安全な地域が増えるのである。

銀のβ型に対して、レールガンを叩き込んで吹き飛ばす。レーザーで雑魚を掃討しつつ、時々混じっている銀のβ型に対応。此奴だけは、通常攻撃で仕留めるのは困難だ。こうやって処理していくしかない。

「此方スカウト。 敵のハイブがあった地点の観測に成功」

「どうなっている」

「恐らく、五万……もっとの怪物が死んで散らばっています。 バスターの余波を受けて、高熱で死んだのでしょう。 ハイブは残っていません。 崩れたと言うよりも、溶岩になって沈下してしまったようです。 その熱で、周囲の怪物は死んだのでしょう……」

「地下に敵の巣などはありそうか」

ないと、報告が上がる、

というのも、ハイブの辺りがクレーターになっていて、溶岩でまだ煮えたぎっているというのだ。

そうなると、地下に大穴があったら流れ込んでいないとおかしいし。

もしそうなっていなくても、地下は蒸し焼き状態だ。

「よし、一度引き上げろ。 充分に周囲には注意しろ」

「イエッサ」

「あと一息だ。 纏わり付いてきている羽虫どもを蹴散らせ!」

「EDF!」

兵士達の士気は高い。

グラウコスは倒した。それにはとてつもない被害も伴ったが、全世界でプライマーは大ダメージを受けて、今こうして駆逐されている。

勿論、まだまだプライマーの船団は活動を続けている。マザーシップも、密かに確認済みのコマンドシップを含め十隻が健在である。

だからこそ、コマンドシップを潰すために、作戦をしている。

1800。敵の攻撃が止まった。

クイーン四体を含む大軍だったが、此方の地力が上回った。基地に凱旋。勿論、ストームチームは全員が無事だ。

ストーム2は、配備されたブレイザーを存分に試したらしい。

荒木軍曹が、これはゲームチェンジャーになると言っていた。小田大尉も、満足そうだった。

さあ、此処からだ。

敵のコマンドシップを落とすための作戦が始まる。此処での苦い思い出も、もうない。歴史の修正力に打ち克ったと言える。

「次の作戦地点は聞いていますか、荒木軍曹」

「ああ。 次は中東に停泊中のマザーシップナンバーセブンを狙う」

「!」

「戦況が不利な中東で、マザーシップを落とせば敵の注意を更に引くことが出来る。 香港に仕掛けるのは、存分に陽動がなった後だ」

なるほど、今回は戦略情報部も、頭がそれなりに回っているらしい。

地球規模の広域作戦だ。これは、或いは。

今回は、本当に。勝てるかも知れなかった。

 

1、大損害を受けながら

 

トゥラプターは、苛立ちながら「水の民」長老の元に出向く。

辞令を受けたのだ。

とてもではないが、受け入れがたいものだった。

長老の事は尊敬している。

だからこそに、この命令は受けがたかった。

抗議するつもりだったが。

長老の元に出向くと、げっそりと長老は痩せこけていた。

どうやら、本国から連絡が来たらしい。戦況を完全にひっくり返された挙げ句に、主力船の一つを落とされるとは何事か、と。

それに何より。

文字通りの戦闘の切り札だった「いにしえの民」言う所のグラウコスを倒された。

あれは完全に予想外だった。

既に、追い込まれている状態だ。

「外」に必死に本国は申請しているらしいが、駄目、と言われている。戦況を変えられるのは、後一回だけ。

それ以上は、リングでも大規模なタイムパラドックスを抑えられない。

そういう事だった。

恐らく、それは嘘だろうとトゥラプターは睨んでいるが、或いは「外」の事だ。太陽系の資源を、これ以上無駄に使わせたくないのかも知れない。

連中は「いにしえの民」が言う所の、神に最も近い存在だ。

それも、ありうる話だ。

長期的な視野で見て、宇宙の事を云々。

だから他文明への侵略は許さないし。

他の文明と上手くやっていける文明だけが、星間文明として認められる。

「火の民」をはじめとする本国の者達はそうではなかった。

それどころか、あろうことか馬鹿な先祖どもは思い上がった挙げ句に、「外」に喧嘩を売ってしまった。その結果が今なのである。

今の時点で、既にかなり厳しい状態だ。多分だが、次は「風の民」の長老が現場に来ることだろう。

そう、「水の民」長老は言う。

それは、げっそりもするだろう。

長老の中の長老。

文字通りの指導者。

「風の民」長老と言えば、本国での最高権力者だ。その配下の戦士達も、恐らく今は武器を渡されて、戦闘に備えているはず。

此処で負けると後がないのは。

「いにしえの民」だけではない。

「外」は、仮に何があっても存在は保証してくれると言ったが。

それにしても、文字通り閉じ込められ監視されながら後を生きていく事になるだろう。

生物としての寿命を迎えるまで、だ。

そんな飼い殺し、まっぴらである。

だが、トゥラプターも、「水の民」長老の有様を見ていると。あまり強い言葉で、批難は出来なかった。

恩人であるし。

何より嫌と言うほど苦悩は伝わってくるからである。

「すまないな、トゥラプター。 私は此処を離れる訳にはいかない。 だが、お前もここに残られると困る」

「死ぬ気でいられますか」

「……いにしえの民が、既に此処を……月の裏側を捕捉している可能性は把握している」

「水の民」長老は、心苦しそうに言う。

だが、此処は離れられないのだと。

「今するべきは、過去に戻る戦力を可能な限り担保することだ。 そのためには、此処は囮にするしかない」

「しかし!」

「「風の民」長老は、お前の活躍を聞いている。 恐らくだが、悪いようにはしないだろう。 お前は生き延びて、最後の戦いの最前線を張ってくれ」

「……」

頭を下げると、トゥラプターは、旗艦を離れる。

例のものが来るまで、戦闘も禁止された。

歯がゆい。実に。

過去に戻れば、すぐにでも「いにしえの民」がベース228と呼んでいる例の拠点にトゥラプター自身が殴り込みを掛けたいくらいだが。

今は、それも考える事が出来なかった。

「水の民」長老は死ぬ気だ。

作戦行動の肝をへし折られたのだ。

それくらいしないと、責任を取ることが出来ないと判断したのかも知れない。

だが、死ぬ事はないだろうに。

ただでさえ、本国は無茶苦茶な状態。勝とうが負けようが、「外」にこれ以上好きかってさせないために、人材は幾らでもいるのだ。

分かるのである。

もう死ぬつもりであることが。

シャトルで移動。

その間、ずっとトゥラプターは屈辱に包まれていた。

 

ドバイ上空に浮かんでいるマザーシップナンバーセブン。夜間の行軍で、奴の麓にまで到達。

奴の足下には、多数の戦力が駐留している。

中東はかなり押されているが、それも納得だ。シールドベアラー多数に守られた、クルールとコスモノーツ。コロニストの特務。

それらが、怪物の繁殖行動を補助している。

此処から、怪物共が中東中を荒らしに行く訳だ。

それは、中東での損害が増えるわけである。

青ざめている兵士達。

ストームチームとともに来ているとはいえ、この戦力だ。流石に、恐怖を感じるのかも知れない。

だが、今回は味方の戦力はストームチームだけではない。

既に制海権は人類が取り戻している。

潜水艦隊が、既に近くにまで来てくれていた。潜水母艦セイレーンが今回はそれらの指揮を執っていて。

揚陸艦としての機能も持つそれが、大規模な部隊を輸送してくれている。

戦闘開始と同時に、潜水母艦と潜水艦隊が浮上。

ミサイルでのアウトレンジ攻撃を開始しつつ。

ストームチームは、エイリアンを中心に始末する。

問題はシールドベアラーだが、これについては秘策がある。

いずれにしても、夜の間に動く必要があった。

柿崎は作戦を任されて、満足である。林立しているシールドベアラーの元に、渡されているC90A爆弾を仕掛けに行く。

まだ夜と言う事で、エイリアンは半分ほどしか稼働していない。どうもこの辺りは完全に勢力圏だと思っている様子で。ストームチームと、タール中将が貸してくれた部隊が来ていると思っていないようだ。

それはそれで有り難い。

どうせ乱戦になったら、今回もたっぷり切り刻む事が出来るのだから。

こういった隠密任務は、ウィングダイバーの専売特許。

ジャンヌ大佐と三城少佐と共に、作戦に取りかかる。

移動しつつ、シールドベアラーの足下に。

C90A爆弾を撒くと、次に。

エイリアンに見つからないように移動して行くのは、さながら忍者のようだ。皮肉な話で、スプリガンも夜戦を得意としていたか。

現に、ジャンヌ大佐も作戦には大乗気で、爆弾を撒くのを任せろと言った。事実今の所、順調にやれている様子だ。

巨大カジノがあった場所に出向くと、居座っているシールドベアラーの所にC90A爆弾を設置。

これで、予定の配布はこなした。

後は、二人だが。

流石だ。柿崎より早く作戦を終えて戻り始めている。近接戦に関しては相応の自信があるのだが。

忍者としては二人の方が上らしい。

この辺りは素直に認めるべきだろう。

自分が劣っている事を認めて。初めて人間は次の段階へ行こうと、努力を開始する事が出来る。

それは柿崎が自然に身に付けている哲学であって。

別に不思議な事でもなんでもない。

エイリアンを丁寧に避けながら、本隊の所に戻る。ほどなく、本隊が見えてきた。敵も、C90A爆弾には気づいていない様子である。

この作戦の肝は、いきなりC90A爆弾を起爆しない事にある。

敢えて攻撃を行う。

それが最初の段階だ。

シールドベアラーは、防御スクリーンと呼ばれるシールドを展開するのだが。同時に、敵を守ろうと自動で動く習性を持っている。習性と言うべきか。AIだろうから、そうプログラムされていると言うべきだろう。

まずは、壱野大佐が無線で連絡を入れる。

同時に、潜水艦隊がペルシア湾に浮上。それを見て、流石にエイリアン達も反応。マザーシップも、ドローンを展開し始める。

それが全て思うつぼだ。

敵兵器が動き始める。それには当然、シールドベアラーもだ。

そして、敵が応戦態勢を取ろうとした所に、潜水艦隊からの攻撃が着弾。多数の巡航ミサイルが、敵エイリアン、更にはマザーシップにも命中。ドローンも多数を叩き落としていた。

混乱しながらも、敵は戦闘の態勢をとるが。

その前に、壱野大佐が指示を出す。

「よし、今だ」

「まかせろ」

「起爆」

一斉に、C90A爆弾が起爆したのは、その時だった。

エイリアンを守ろうと動いていたシールドベアラーが、悉くエイリアンや怪物を巻き込みながら爆裂。

更にC90A爆弾は、そもそもとしてエイリアンが戦闘時に身を隠すような位置にも仕掛けてある。

それらも、有効に働き。

多数の敵を、まとめて消し飛ばしていた。

守りを失った敵に、更に潜水艦隊からの本命の攻撃が降り注ぐ。更に、潜水母艦セイレーンから通信が入る。

「作戦の第一段階成功を確認。 これより揚陸し、攻撃部隊本隊を展開する。 ストームチームを中心とする部隊も、敵への攻撃を開始されたし」

「了解」

「よし、行くぞ! 総員、二隻目のマザーシップを叩き落とす!」

「EDF!」

兵士達が声を張り上げる。

そして、戦闘が開始された。

壱野大佐が、意味が分からない距離から、敵の生き残っている特務を狙撃し始める。それが悉く当たるのだからタチが悪い。

レーザー砲持ちや、多連装迫撃砲持ちのエイリアンは、次々に撃ち抜かれて倒されていく。

他のエイリアンも、常識外の長距離からの攻撃に慌てていたが。

怪物はむしろ冷静で、一直線に此方に突っ込んでくる。ドローンも、多数が展開し、潜水母艦に群がり始める。

この辺りは、感情がないだけ機械の方が冷静か。

そのまま戦闘を続行。

怪物が近づいて来たので、プラズマ剣を抜く。そして、敵陣に潜り込みすぎないように、突撃。

斬り伏せ始める。

乱戦にはならない。冷静にストームチームは動いて、本隊の到来を待っているからだ。コンバットフレームを中心とした戦力だから、すぐに怪物の浸透を許すほど柔ではないが。それでもマザーシップ直下に仕掛けるには少し戦力が心許ない。

側で戦っているグリムリーパー、ストーム3も良い腕をしている。

時代が違ったらなあ。

死合えたかもしれないのになあ。

そう思いつつ、敵を斬る。

怪物を次々と斬り伏せながら、エイリアンの到来を待つ。メインディッシュはあっちだと言いたいところだが。

実際には違う。

実の所、この時点で既に作戦は八割終わってしまっている。柿崎にとっては、だ。

だから、今のうちに思う存分切っておく。

エイリアンが到着、戦闘が始まる。だが、戦闘が始まるやいなや、潜水母艦から降り立った揚陸部隊が側面から攻撃を開始。十字砲火に引きずり込まれた敵部隊は、怪物もドローンもまとめて、薙ぎ払われていく。

しかも側面に展開したのは、レールガンを中心とした部隊だ。水平射撃による撃破効率は凄まじく、次々エイリアンが亡き者へと変えられていく。

後退しようとするエイリアンだが、壱野大佐がそうはさせない。正確極まりない射撃で、指揮官級から倒して行く。

そしてストーム2のブレイザーが火を噴き。

敵を次々と焼き払っていった。

掃討戦に移行。

逃げ回る敵を斬るのはあまり面白くないので、この辺りでだれてくるが。まあ、ストームチームとしての仕事はまだやらなければならない。

揚陸部隊から展開してきたフーリガン砲搭載車両。

奴らが歴史を遡っているなら、あれの存在は知っている筈だ。マザーシップにも、恐らく効果があることも。

突撃し、道を切り開く。

ドバイから誘引された敵兵力は、モロに巡航ミサイルの射程圏内で撃破され続け。更にストームチームに突撃を弾き返され。

多大な戦力を失いながら、ドバイへと後退を開始する。

そこを追い討ちながら、マザーシップへ接近。

同時に、上空に移動する航空部隊。

ドローンに対しては、潜水艦隊からVLSで対応。更には、ケブラー部隊も次々にドローンを叩き落として道を作る。

「マザーシップ、アンドロイドを射出! 多数です!」

「人形どもだ!」

「相当焦っている様子だな。 良い傾向だ」

壱野大佐が呟く。

そのまま、攻撃続行。敵がさがった分進む。敵がアンドロイドを展開して来るが。その時には、レールガン部隊が既に砲列を並べていた。

レールガンが一斉射され、敵全軍を一瞬で貫く。

アンドロイドの大軍が瞬く間にスクラップになるが、レールガンは前衛を張る兵種ではない。

即座に前衛を交代して、戦闘を続行。

次々にアンドロイドを打ち倒して行く。

「此方ファイターα! 空対空ミサイル発射!」

「ドローンに接近するな! レーザー兵器は密集すると脅威だ!」

「分かっている!」

上空の部隊は陽動だ。ドローンはその数が脅威になる。バードストライクによっても戦闘機は簡単に墜ちる。ましてやドローンは全長十メートル近いのだ。衝突したら、まず助からない。

その上レーザー兵器は必中だ。現在のファイターには対レーザー兵器の装甲がされているが。

それでも完全に防ぎきれるものではない。

「此方潜水艦隊! ドローン飛来!」

「支援任務は此処までで問題なし。 自衛に徹しられたし」

「了解」

潜水艦隊も、対ドローン戦を開始する。敵は更にアンドロイドを出してくるが、結構結構。

もうあらかた勝負は決まったと思っていたが、まだ斬る相手を出してくれるか。

マザーシップナンバーセブンは、必死に身を守ろうとしているが、そもそも空軍が波状攻撃を仕掛けているために、上空に出られない。頼みのドローンは、片っ端からケブラーに叩き落とされている。

「マザーシップ、ナンバーツー、移動開始を確認! 衛星軌道上にて、支援行動を取る模様!」

「到着までの時間は」

「三時間という所です!」

「上等だ。 充分過ぎる」

エイレンW二機が、レーザーでアンドロイドを蹴散らして、更に前進。ドバイ市街に入る。

フーリガン砲を確認したのだろう。マザーシップが危険を感じた様子で、アンドロイドの射出を停止。主砲を展開し始める。

「来たぞ! それぞれ予定通りに動け!」

「イエッサ!」

「相馬、お前も主砲攻撃に参加しろ! ストーム1以外にも、撃墜実績を作っておきたい!」

「了解!」

歩兵として展開しているストーム2の三名が、ブレイザーで主砲を支える構造体を攻撃。同じように攻撃していたストーム4とともに、瞬く間に構造体を破壊していた。

主砲が発射準備に入る。

マザーシップは研究の結果、あの主砲を放つときは、他の行動は出来ないらしい。

とにかく支援行動に入ったマザーシップナンバーツーがテレポーションアンカーなりディロイなりを落として援軍を寄越すのを待ち、離脱するつもりだったのだろうが。フーリガン砲を見て、そうも言っていられなくなったのだろう。

そのまま主砲を強引に放ちに掛かる。

アンドロイドを斬り伏せながら、柿崎は悟る。

あの母船。

大半は、人は乗っていないのだな、と。

そうなると、人がいるのはどこだ。

コマンドシップか。

いや。それも少し考えにくい。いずれにしても、柿崎が今出来るのは、皆をアンドロイドから守る事。

ニクス隊もストーム3も奮戦している。

柿崎も負けてはいられない。

手当たり次第にアンドロイドを斬る。たまに生き残りのエイリアンを見かけるので、おいしく斬っておく。

マザーシップの主砲が輝き始める。

終わったな。

そう、ちょっと寂しく思った。

ストーム1の遠距離攻撃組と、エイレンW相馬機の攻撃が。完璧に同じタイミングで打ち込まれる。

次の瞬間。

マザーシップナンバーセブンの主砲は派手に崩壊し。

崩壊はマザーシップ本体に波及し。爆発していた。

凄まじい轟音とともに、街より大きいと言われる程のマザーシップの巨体が崩壊していく。

全身から炎を噴き上げ、破損していく。

「後退! 瓦礫に潰されて死ぬような真似だけはするな!」

「さがれ! 負傷者がいたら見捨てるな! 急げ!」

次々に落下してくるマザーシップの残骸。

喚声が上がる中、中央部分がドバイの庁舎があった場所に墜落。次の瞬間、大爆発を起こし、周囲を巻き込んで、何も残さず消し飛んでいた。

エイリアンの残党が逃げ出す。だが、当然背中を撃って、一人残らず仕留める。

「マザーシップナンバーツー、停止! いえ、後退を開始し始めました!」

「よし、完全勝利だ!」

「EDF! EDFっ!」

「全世界に勝利を報告! マザーシップ二隻目の撃沈に成功せり!」

戦略情報部の少佐が、珍しく興奮した様子で声を掛けると。喚声は最高潮に達した。

だが、柿崎はもう飽きた。

はあ。

もう少し、斬りたかったのに。

 

潜水艦隊が潜行していくのを見送ると、中東の基地に向かう。かなり苦戦が酷いと聞いていたが。

途中輸送機で移動していくときに下の砂漠を見ると、怪物の死体と擱座して放置されたAFVの残骸が点々としていた。

確かに大苦戦しているのだな。

それは柿崎にも分かった。

基地に到着。

兵士は多国籍だが、明らかに負け戦が立て込んでいたところに勝利を得て湧いている。

ストームチーム。

そう喚声が上がる。

どうやら、エイリアン殺しの生きた伝説として、PV等が行われているらしい。迷惑な話だった。

柿崎としては単に敵を斬ることができればいい。

英雄の座なんて、誰かにくれてやる。

それで充分だった。

軽く打ち合わせをしてから、今日はここで休む事にする。やはりというか、これでも中東はまだ苦戦しているらしく、支援がほしいそうだ。

幸いにもと言うべきか。

プライマーが来るまで各地で暴れていた過激派やら宗教原理主義者やらのテロリストは、プライマーに全部駆除されてしまったらしい。

それについては有り難いのだが。

柿崎としては、斬る相手が減って少し寂しいとも言える。

まあ、敵は怪物だけはカウントすれば良い。

荒木軍曹は、総司令部と話をして。乗る事にしたようだった。

「良いのですか?」

「仲間を見捨てないのがEDFだ。 それに、プライマーはマザーシップの二隻目が落とされた時点で充分混乱している。 今のうちに更に戦局を改善しておきたい」

「了解しました」

壱野大佐も、荒木軍曹には従順だ。

まあ、柿崎としてはどうでもいい。

すぐにミーティングを行う。

各地の地図が示され、苦戦している地域が赤く塗られていた。特に苦戦している地域を、司令官である少佐が示す。

この辺りの指揮を執っていた将校は殆どが戦死してしまっていて。今では各地の基地司令官がゲリラ戦をしている状況であり。

それゆえに、救援は必須と言う事だった。

何より、行き場のない難民も多数いる。難民は別地域に行けばトラブルの元にもなりやすい。

苦戦している地域では、市民も守れない。

頼むと、頭を下げられた。

分かったと、荒木軍曹が応える。そして明日の内に、四つの地点での戦闘を行い。苦戦を解消する約束をした。

四箇所か。

まあ、それほど多くもない。前周に比べれば全然楽な方だ。

シャワーを浴びて、寝る事にする。

今日は途中でお代わりがあったので、それなりに楽しく斬る事が出来た。マザーシップを落とした事なんて、わりとどうでもいい。

斬る事は奥深い。

手応えは様々。斬りごたえも様々。

その楽しさだけが。

柿崎という、産まれた時代を間違えてしまった者に。喜びをくれるのだから。

 

2、香港での決戦

 

ついに始まる。

壱野は、艦隊で移動中に、ミーティングに参加していた。ついに香港での戦闘である。

香港だけではない。

全世界で、同時攻撃が開始される。

オペレーションオメガ。

そう、この作戦は名付けられていた。

既にプロフェッサーから連絡は来ている。

例のものは完成した。だが、普通に使っても避けられてしまうだけだろう。

だから、全世界で同時攻撃をする。

敵の司令官は切れ者だ。今、EDFが反撃に転じている事を知っている。だから、逆に此処でカウンターを入れにくる。

全戦力を投入して、一気にまた戦況をひっくり返そうとして来るだろう。

それを、逆利用する。

全ての大陸で、同時に敵の拠点への攻撃を開始。戦況が良いとは言えない中東や中央アジアでもそれは同じ。

そして、敵の注意が完全に反撃に向いた瞬間。

N6大陸間弾道ミサイルで、一気に敵のコマンドシップを撃沈する。

だが、そのためには。

陽動作戦を、本気でやらなければならない。

かなりの被害が想定される。

だからこそにやる意味がある。

生き延びてほしい。

そう、壱野は言われていた。

これから向かう香港は、先のグラウコス討伐作戦で大きな被害を受けた中華と日本に駐屯するEDFに対して凄まじい威圧をしている拠点だ。

勿論陽動だからと言って、手を抜くつもりはない。

全力で叩き潰す。

此方にはストームチームがいる。兵士達はそう意気上がっているが、残念ながら各地に参加する戦力もある。生還させるためには、各地に展開する兵力は多い方が良い。

このため、香港攻略戦に参加する兵力は、歩兵部隊を中心に、僅かなAFVだけだった。

それでもストームチームがでる。

それだけで、プライマーに強烈な圧迫感を生じさせる事が出来る。

DE203から通信が来る。

「此方DE203。 いつでも航空支援は出来る。 必要な時はすぐにでも声を掛けてくれ」

「ありがとう。 本当に世話になる」

「良いって事よ。 娘にも、英雄の支援をいつもしているって自慢なんだ」

「……」

そうか。前周では、そんな人をエルギヌスに特攻させ死なせてしまったのか。

口惜しいし、二度とやらせるかと思う。

程なく、艦隊が香港近郊に到着。陸に降りて、展開を開始。支援してくれる味方はニクス二機と、戦車六両。

これに補給車三両。大型移動車で、現地に向かう。ストームチームに加えて歩兵が五十名ほどだが、敵の拠点規模を考えると、少なすぎるほどだ。

「これから向かう敵の拠点は、著しく巨大で、敵の戦力も強大だ。 此処に配備されている皆は開戦当初から生き延びている古強者だと信じている。 だからこそ、生き残ってくれ。 勝利の礎になるなどと思うな。 生きて帰る事を最優先で考えろ」

「イエッサ!」

「よし、行くぞ! 海側から攻めこむ!」

荒木軍曹が訓戒。

この作戦を最後に、大尉と呼ぶようにと言われている。

どうやら、本人もついに覚悟を決めたらしい。

とはいっても、本来もう閣下なのだ。

それなのに、軍曹と呼んでくれと言うのは、色々無理があった。

総司令部としても、将来の幹部候補であり。

英雄を抑えられる唯一の人物であり。

肝いりの中の肝いりである人物が。

一兵卒を最後まで貫こうとする姿勢については、色々と複雑な気分があったのだろう。それでも、妥協点を探してくれた。

だから、その妥協点に沿って働くだけ。それだけだ。

現地が見えてきた。

林立するテイルアンカーとビッグアンカー。それに複雑に絡み合っている防御スクリーン。

多数のシールドベアラーがいる証拠だ。

それだけではない。敵は既に此方を捕捉。α型、β型に加え、ネイカーが多数飛来してきている。

エイレンWが前に出る。相馬機だ。

そのままレーザーで、まずはネイカーを優先して蹴散らす。ネイカーはやはり、そのまま攻撃せず回り込んでくる奴が複数いる。

「尼子先輩、さがってください。 この作戦は重要ですが、死ぬような作戦ではありません」

「ありがとう、分かっているよ。 でも、いざという時は無理をしてでも助けに行くからね」

「大丈夫、そうはさせませんよ」

「ああ、勝ってきてくれ。 頼む!」

尼子先輩には、いつもいつもいざという時で、貧乏くじを引かせてしまう。

それも。これで最後だ。

敵を蹴散らしながら進む。凄まじい物量だが、エイレンW二機を主軸に、敵を蹴散らしながら進む。迸るブレイザー三本の光が、敵を次々に貫く。補給車を中心に陣地を固めつつ、移動。

敵陣が見えてきた。

敵をどのアンカーが出しているかを確認。

更に存在が報告されている、金銀の大型についても、場所を確認しておく。

兵士達の士気は高く、練度もしかり。

死なせる訳にはいかない。

突入して、片っ端から蹴散らすが。それでも敵の数は無尽蔵だ。こんな程度の数に負けるか。

そうプライマーも言っているようだ。

「全世界で総攻撃が開始されました。 旗色は決してよくありません」

「これほどの規模の陽動作戦とは。 史上最大規模かも知れないな」

「その通りです。 二次大戦のノルマンディー攻略作戦でも、これほどの規模ではなかったでしょう」

「……必ず勝つぞ。 支援を頼む」

千葉中将と戦略情報部の少佐の会話が聞こえる。

そういえば、少し前から戦略情報部の参謀は、殆ど表に出てこなくなったようである。元々体をおかしくしていたらしいのだが、完全に医者に駄目出しをされたらしい。今は事実上、少佐が戦略情報部を回しているようである。

「弐分、あのアンカーを。 三城、あちらのアンカーを。 俺は突入して、あのテイルアンカーを潰す」

「イエッサ!」

「俺たちはまだ雑魚狩りか?」

「すぐに本番が来ます。 消耗を抑えてください」

壱野が動く。

ジャムカ大佐が皮肉を口にするが。しかし壱野の勘は信用してくれている様子で助かる。まあ、散々一緒に戦ったのだ。

勘は信じてくれる。

そして、荒木軍曹も、壱野については行動のグリーンライトをくれている。

バイクに跨がると、壱野は突貫。

柿崎が、周囲の怪物を手当たり次第に切り刻みまくっている。凄まじい速度での剣である。

これは時代劇に出てくる剣豪のようだな。

そう思うが、まあどうでもいい。

突入。途中、邪魔してくる敵は、全てバイクの機銃で蹴散らす。最悪バイクは破壊されてしまってもいい。

テイルアンカーの真下に滑り込みながら、ライサンダーZで狙撃。

一瞬の交錯。

通り抜けた瞬間、テイルアンカーは爆散していた。

同時に、ビッグアンカーが二つ同時に砕ける。

弐分と三城がやったのだ。

更に、ついでにその周囲を守っていたシールドベアラーも粉砕する。防御スクリーンが消えて。周囲がかなり見えやすくなる。

同時に、大量の擲弾兵とドローン、更にはスーパーアンドロイド、大型アンドロイドも出現する。

ネイカーも追加でわっと湧いてくる。

勿論、怪物もだ。

ただ、金銀の怪物はいない。金銀の大型はまだ仕掛けてこない。

あのビッグアンカーを優先して潰したのは、嫌な予感がしたからだが。どうやら、予想は的中したらしい。

乱入してきた部隊が、敵群とぶつかり合う。山県大尉が自動砲座を展開して、周囲の支援を開始。

木曽大尉も、ミサイルをばらまきはじめた。

「弐分、三城、前線を攪乱。 敵を削りながら、好機を待つ」

「了解」

「わかった」

上空から三城が、誘導兵器で擲弾兵を一斉攻撃。足を止めた擲弾兵が次々に爆発し、怪物もネイカーも巻き込む。

爆炎から飛び出してきたネイカーが、待ち伏せていた一華のエイレンWのレーザーを喰らって次々爆発四散。

だが、そうではないのもいる。

赤いハイグレードネイカー。

しかし即応した一華が、収束レーザーを叩き込む。恐るべき相手だが、収束レーザーを喰らって足を止めた所に、ライサンダーZの一撃を食らえばひとたまりもない。そのまま粉々に消し飛ぶ。

大型アンドロイドを優先して砕く。ストーム3もストーム4も、総力で応戦。ストーム2は、全員で対空に専念。盾になっている戦車隊とニクス隊が、見る間に消耗していくのが見える。

だが、耐えてくれ。

そう呟きながら、敵の主力を潰して行く。

敵が、途切れる。

此処で一気に仕掛けたいが、焦るな。バイクに跨がると、突貫。そのまま、テイルアンカーを叩き潰す。ネイカーを出現させていたアンカーだ。存在を許してはならない。

だがそれで、金のマザーモンスターが反応。殺気をまき散らしながら、此方に突貫してくる。

「金のマザーモンスターが反応した。 山県大尉!」

「応ッ!」

今日は山県大尉も気合いが入っている。

後退しつつ、金のマザーモンスターを引きつける。既に大量の擲弾兵が爆発してさんさんたる有様だが、それすら踏みにじるようにして来る金のマザーモンスター。彼奴の酸の火力は、あまりにも桁外れ。

放置することは許されない。

DE203が突入して来る。ストーム2が、ブレイザーで徹底的にドローンを叩き潰して援護。

中空でインペリアルが爆散する。

ブレイザー三本の集中攻撃を食らったら、流石のインペリアルもひとたまりもない。そのまま、DE203が105ミリをしこたま叩き込む。それだけではない。搭載している機関砲を、ありったけ金のマザーモンスターに叩き込む。

仕上げにバルカンを打ち込んで、仕上げ。

それでも金のマザーモンスターは生きている。だが、怯んだ瞬間に、味方総員が、攻撃態勢を整えていた。

ニクス全機が一斉に射撃を浴びせ、戦車も徹甲弾を叩き込む。

兵士達もロケットランチャーを撃ち込み、更にエイレンW二機から、レールガンが打ち込まれると。

流石の金マザーモンスターも耐えきれず、ついに吹っ飛んでいた。

喚声が上がる。

だが、まだまだ敵は戦力の過半を残している。それに対して、味方はどんどん負傷者が増えている。

特に、際限なく来る擲弾兵が厳しい。何とか弐分と三城が間引き。ストーム3が最前衛で敵を翻弄してくれているが、それでも全ては倒し切れない。

隙を見つつ、アンカーを砕いていくしかない。

新しいバイクを取りだす。さっきのバイクはもう限界だった。使えば敵中で壊れて。孤立するのが目に見えていた。

突入。ネイカーはもういないが、代わりに擲弾兵がさっきの倍する勢いで迫ってくる。

テイルアンカーを狙う。こいつは大型を出現させている。存在を許すわけにはいかない。大型アンドロイドのブラスターの火力は、ニクスでも短時間で破壊してしまう。エイレンWでも、長時間は耐えられないだろう。

「自動砲座、弾丸再装填!」

「山県大尉、急いでくれ! 皆、支援を頼む!」

「ストーム4、ゼノビア大尉負傷! 後退する!」

「此方レンジャー3、負傷者多数! 悔しいが後退!」

味方の被害も甚大だ。

成田軍曹が、これ以上は無理だと悲鳴を上げる。だが、まだまだ。

テイルアンカーを粉砕。

銀のキングが反応した。そのまま、全力で逃げる。追ってくる銀のキング。大量の擲弾兵がいる。

その中には、大型爆弾を持っている奴も。

ライサンダーZで撃ち抜く。

爆発に、銀キングが巻き込まれて、露骨に怯む。

上空のドローンを、ストーム2が削り、DE203が突入してくる。かなり無理な突入だ。それでも、やってくれる。

それに、死なせない。

しこたま機銃弾を叩き込むDE203。銀のキングのタフネスは。あの金のマザーモンスター以上だ。

全弾喰らっても、ひるみはするが、まだ倒れない。DE203にドローンが絡む。かなり機体に損傷がでる。

「くっ、かなり貰った!」

「DE203!」

「大丈夫、俺自身は怪我もなく無事だ! 近くの空軍基地に軟着陸を試す! 支援はここまでだ! 後は頼むぞ!」

煙を噴きながら、高度を落としていくDE203。

前回の周回を思い出して、怒りで目の前が真っ赤になる。凄まじい勢いで体が動く。次々に敵を撃ち抜く。銀のキングに突貫。全員で支援してくれる。銀のキングが、壱野を見て露骨に怯むのが見えた。

ほう。お前ですら怯んでくれるのか。

だが許さない。

そのまま、ショットガンを取りだすと、至近を通り抜けながら全弾叩き込んでやる。更に、三城がライジンをぶち込んだ。

全軍の集中攻撃を受けていた銀のキングに、それがとどめと成り。

銀のキングもまた、吹き飛んでいた。

そのまま突貫。更にアンカーを一つ粉砕する。

だが、アンカーが発狂状態に。大量のドローンと擲弾兵、それにキュクロプスまで出現。スーパーアンドロイドも。

まだ数本のアンカーが残っている。

それに対して、味方は目減りする一方だ。

「これは、そろそろ限界が近いッスよ!」

「……俺が全てのシールドベアラーを粉砕してまわる。 三城、ライジンで打ち抜けるアンカーを砕いてくれ」

「大丈夫、大兄」

「任せろ」

突撃。

そのまま、擲弾兵を置き去りに突貫。スーパーアンドロイドも来るが、ライサンダーZで出会い頭に打ち抜き。更にバイクの機銃をしこたま叩き込んでやる。

キュクロプスの至近を通り抜ける。両腕を叩き付けて来るキュクロプスだが、その隙間を抜けて突撃。

シールドベアラーを、即殺。そのまま更に驀進。

バイクが限界近いが、兎に角やるしかない。これは、弐分にも三城にも任せられない。

後方で、防御スクリーンの守りを失ったアンカーが、一瞬でライジンに粉砕されるのが分かった。

あと少し。敵の増援さえ打ち砕けば、それで全てが終わる。突入。後方から攻撃が飛んでくる。

味方のニクスが大破して、パイロットが脱出するのが見えた。

ネイカーはもういないが、その代わり擲弾兵が多すぎる。

「ストームチーム、負傷者多数! これ以上は無理です!」

「この程度、何の問題もない! あと少しだ、気合いを入れろ! ストーム1を全力で支援しろ!」

「応っ!」

次々に後方の圧が消える。

ストーム4がモンスター型レーザー砲で次々始末してくれているのだろう。そのまま突貫して、最後のシールドベアラーを粉砕。そのまま、味方に向けて走る。

バイク破損。

そのまま転がりつつ、壊れたバイクから離れる。ショットガンは残念だが起き捨て、走りながらアサルトで追いすがって来る敵を撃ち抜く。ライサンダーZも交えて撃つ。

かなりの数の擲弾兵が来ているが、これだけの数を壱野が引きつければ。

最後のビッグアンカーが粉砕される。

後はテイルアンカーが一つ。

だが、味方はエイレンWも含め、ボロボロの状態だ。戦車隊は全車両が大破。ニクス隊も、今最後の一機が大破した。

ストームチームは奮戦を続けてくれている。

それでも。戦況はあまりにも厳しすぎる。

「此方北米第二戦線! マザーシップナンバーフォーへの攻撃失敗! 撤退を開始する!」

「此方アフリカ戦線! 敵の繁殖地撃滅完了! しかしながら、味方も被害甚大!」

「欧州戦線だ。 スイスにて、敵の拠点にしこたまミサイルを叩き込んでやったが、反撃を受けて後退中。 大丈夫、兵士を守りつつ生き延びてみせる!」

「くっ……各地での被害が大きい!」

千葉中将が呻く。

何処の戦線も、勝ったり負けたり。いずれにしても、地力で勝っているプライマーの方が有利に決まっている。

しかしながら、敵はグラウコスとスキュラを失い、繁殖地も幾つも潰されている状態だ。だから守りにマザーシップまで繰り出して来ている。直近で二隻も撃墜されたのに、である。

敵も総力戦を仕掛けて来ている。

それに、意味があるのだ。

「此方項少将。 虎部隊、敵マザーシップナンバースリーの主砲破壊に成功! マザーシップナンバースリーは撤退を開始!」

「此方大内少将! 香港に支援に向かっていたマザーシップナンバーファイブの足止めに成功! 主砲を叩き潰し、直衛を全滅させてやったわい! 残念ながらストームチームのように撃墜はできんかったが、上出来じゃあ!」

味方も勝報を幾つか上げている。

此処で、引くわけには行かない。

皆と合流。あと少し。此処に残った敵を全て粉砕すれば、勝負は決まる。

呼吸を整えながら、追いすがって来る擲弾兵とスーパーアンドロイドを全て片付ける。キュクロプスは味方に任せ、次は大型だ。大型が一番火力的に危険である。エイレンW相馬機が中破。

かなり限界が近いが。

殴り合いを制するのは、どうやら此方のようだった。

最後の大型アンドロイドが粉砕される。

すっ飛んでいった弐分が、敵の合間を縫って、テイルアンカーの粉砕に成功。

更に、木曽大尉が打ち込んだ大型ミサイルリバイアサンが、キュクロプスごと大量のアンドロイドと擲弾兵を、まとめて消し飛ばしていた。

続けて三城が、最後に残ったテイルアンカーを砕く。

敵の増援が止まる。

荒木軍曹が、声をからす。

「これで敵はもう増援もない! 蹴散らせっ!」

「軍曹、でも味方も……」

「ふっ、俺たちならば余裕だ」

「我々の力を頼れ!」

弱音を吐きかける小田少尉に、ジャムカ大佐とジャンヌ大佐が言う。

二人が凄まじい働きを見せて、最後に集ってくる敵を片付けて行く。ストームチームも負傷者だらけだが。

それでも、これが最後の決め手になった。

程なく、香港の地から敵影がなくなる。

ブレイザーを荒木軍曹が降ろすのが見えた。

クリア。

壱野が呟くと。

生き残った兵士達が、喚声を挙げていた。

同時に、報告が入る。

「此方オペレーションオメガ。 作戦、成功せり!」

 

全戦力を上げての陽動作戦で、プライマーを引きつけ。

その間に、総司令部直下のベース194から、新規に製造したN6大陸間弾道弾20発を発射。

そのうち12発が中途で撃墜されたが、残り八発は予定通り大気圏外に。

そしてスゥイングバイ航法で加速して、月の裏側に到達。

同時に結果を確認するべく移動していた軍事衛星が、全てを捕らえていた。

隠れていたコマンドシップに、N6が炸裂。

直撃弾はなかったが、八発のN6に搭載されていたのは核融合爆弾だ。それらの衝撃波は文字通り遮るものがない月を蹂躙し尽くし、シールドを展開したコマンドシップを直撃。

シールドを貫通して、コマンドシップを大破させた。

どう見ても、コマンドシップは航行不能。

直撃ではなかったものの、生存者がいるとは思えなかった。

帰路で、壱野は映像を見る。

これが、プロフェッサーの計画した作戦。

そして、コマンドシップは、これで落ちた。

EDFも大損害を出したが、プライマーは一度各地の温存している拠点に後退を開始。無事だったマザーシップとともに、一度守りに入る。

その間に、EDFは態勢を立て直しに掛かった。

それからも、戦闘が続く。

EDFが戦力を整えきる前に、プライマーがまた攻勢に出たからである。だが、マザーシップを二隻……いや三隻失った上。各地でのダメージが大きいプライマーには、人類を押し切る力はもうなく。

幾つかの都市では、地底生活を余儀なくされていた市民が、再び日の下に出ることが可能になりはじめていた。

東京も例外ではない。

かくして、開戦から二年が経過。

「失われた五ヶ月」がなくなった今。

そして、何度も何度も悲惨な世界を経験してきたストームチームが無事で戦っている今。

人類に悲壮感はなく。

プライマーと、互角以上の戦いが出来るようになりはじめたのだ。

これは、今までに経験したことがない周回。

勝利に近付きつつある周回とみて、間違いなかった。

 

3、全てが変わった世界で

 

大型移動車で、ベース251に急ぐ。

連日戦闘ばかりだったが。それでも、そこまで厳しいとは思わなかった。弐分は、無言で周囲を見る。

ストーム1は全員無事だ。

木曽少佐は、随分と図太くなった。ミサイルの扱いも慣れてきて、もう状況に応じて様々なミサイルを的確に使いこなせるようになっている。

山県少佐は、相変わらずのアル中だ。

だが酒を他人に強要しないし。

少しずつ、酒量は減っているようにも見えた。

柿崎はご機嫌でつやつや。

昨日もたくさん斬ったからだろう。

ストームチームがそもそもそうだが。

ストーム1も、連日戦闘を続行している。世界各地で戦闘を続け。ついに開戦から五年が経過した。

各地にはまだプライマーの拠点が残っているが、それでも敵の兵力は確実に減ってきている。

そしてマザーシップも、あの香港での決戦以降、追加で三隻を撃沈した。

残りのマザーシップも、主砲を破壊されて。今ではキャリアとしての役割しか果たせていない。

それでも充分な脅威だが。

あの主砲で好きかってされる事はなくなった。

懸念事項もある。

大型船が隙を見せないのだ。

撃沈例は出ている。更に五隻を追加で撃沈した。これらは空軍機による戦果だが、それでも少なすぎる。

今回の周回では、敵は大型船を意図して温存する事を考えているようだ。はっきりいって、極めて厄介である。

だが、此方も準備を進めている。

そろそろ、約束の時間だ。プロフェッサーの所にいかなければならない。

一華が黙々とプログラムを組んでいる。

もう、誰も声を掛けない。

集中している一華は、ある種のゾーンに入っている。

ただし、最近では時間が来ると、自主的に戻ってくるようにもなって来ている。

一華は確実に成長している。

以前は大兄が小うるさく夜は寝るようにと釘を刺していたが。

今では、その心配もなくなっていた。

大型移動車が、ベース251に入る。

エイレンWカスタムを降ろすと、内部に。エイレンWはあらゆる戦場で戦果を上げ、ついに足回りの問題を克服した。

今では、量産型のエイレンWが各地の部隊のエース機として配備され。エイレンVは標準配備されている。

ニクスやグラビスも用途に応じて派生型がどんどん作られていて。旧型も改修が行われ、前線での運用が耐えられるようになっている。

そして一華のエイレンWカスタムも、改修が落ち着いて来たからか。

ついに全身を赤く塗装。

専用機として、各地で知られるようになっていた。赤いエイレンと。ストームチームの、最強のエイレンだと。

一方相馬少佐も、エイレンWを白く塗装しているようだ。

この辺りは、ちょっと子供っぽい張り合いで面白い。

向こうも歴戦中の歴戦パイロットだ。

エース機としては、充分過ぎる程にありだろう。

ベース251の中を移動。ほどなく、プロフェッサーと会う。今回は、概ね時間通りである。

というのも、今までの周回と違い。

ストーム1の仕事量が減っているからだ。

各地に配備された戦力が増強され、プライマーに対して常時攻勢が維持できるようになった結果である。

更に、最近では大型ハイブなどの撃破例も、ストームチーム無しで出るようになってきていて。

人類は明確に、押し始めていた。

ただ不安要素もある。

北米に、未知のエイリアンの目撃例があった、というのである。

詳しい話は分かっていないが、クルールに似ていたが。空を飛んでいたともいう。

ひょっとして、プライマーは既に次周に備えているのかもしれない。

いずれにしても、油断だけは出来なかった。

プロフェッサー、林先進科学研主席研究員は、以前は死相が出ていたほどだったが。今は多少余裕がある様子だ。

おくさんはなくなっていない。家族も無事。

それならば、余裕があるのも当然かも知れなかった。

「待ったぞ。 心配はしていなかったが。 皆、無事だな」

「長野一等兵や、尼子先輩も含めて。 DE203……今はDE204のパイロットも、今でも元気に支援してくれています」

「そうか、何よりだ。 まずは、情報交換と行こう」

「はい。 ちょっと用事を済ませておきます」

プロフェッサーと話す。その前に、面倒ごとになる前に、軽く此処の基地の「曹長」と話はしておく。

海野曹長だ。

以前は戦況の極端な悪化もあって大尉にまでなっていたが。

今はEDFの生存率が非常に高いという事もある。曹長で階級は止まっていて、それで本人も満足しているようだった。

腕は相変わらずで、曹長になっているのも若造共を鍛えるためだと本人が豪語している。

祖父の友人だった人だ。

確かに訓練教官としては、弐分から見ても充分過ぎる腕前である。兵士達からは、おっかない鬼曹長として怖れられており。戦略情報部からも、「腕は良いが血の気が多すぎる」と評されているようだった。

三城に海野曹長を軽く会わせて、そしていつもの反応。

相変わらず海野曹長はわんわん泣いてくれた。立派になって。英雄になって。じいさまも満足しているはずだ。

そう言って、いつもの鬼曹長ぶりからは信じられないほど感情を露わにしていた。

喜んでくれて何より。

後は、プロフェッサーと話をする。

最近は、弐分も話を聞いているのだが。一華がプロフェッサーの奥さんとメル友になっているようだ。

プロフェッサーは偏食が酷いらしく、隙あればチーズバーガーばかり食べているそうである。

ただこれは、今までの周回で好物を食べる余裕などなかったから、というのも大きいのだろう。

それくらいは許してやってほしい。そう弐分も思う。

「まず朗報だ。 プロテウスがついに完成した」

「!」

BMX10プロテウス。

それまでの周回ではポンコツ試作兵器に過ぎなかった代物が、ついに実戦投入する時が来たのか。

世界中で足回りに問題があるエイレンWを酷使して来た結果、ついに足回りの問題が解決した、と言う事だ。

プロテウスは硬X線ビーム砲を二門主砲として備え、更に多数のミサイルを備えた、単騎で千の怪物を仕留める事ができる最強の兵器だ。残念ながらまだ大量生産には至っていないという事だが。

既に十数機を、近辺に配置しているという。

無論、リングと、敵大型船対策だ。

撃墜した大型船の装甲は、今まででデータを取得している。このプロテウスで、破壊は可能。

そう結論は出ていた。

「現時点で150隻弱程度の敵大型船だが、そのうち半数も生かしてリングを通しはしない。 プライマーめ、今度こそ目にものを見せてやる」

「それはそうと、例の件は……」

「ああ、そうだったな」

咳払いするプロフェッサー。

報告する重大な件があるのだ。

やはり、一華の言っていたことは当たっていた。世界中の科学者が、戦況の好転にともなって生き残った。

その結果、プライマーの研究が大幅に進んだのである。

「怪物の全て、それにコロニストから、地球上の生物と同じDNAデータが見つかった」

「やはり……」

「そうなると、似ていたのは収斂進化では無く」

「そうだ。 プライマーは確定で未来から来ている。 つまり、奴らが使っている生物兵器は、未来の地球の生物だと言う事だ」

α型は蟻。飛行型は蜂。

いずれもギアナ高地などで少数だけ存在している、珍しい昆虫。

β型は蜘蛛、

アラネアは別種の蜘蛛。

これらも、ギアナ高地などの一部にしか棲息が確認されていない、稀少生物だ。

それだけではない。

コロニストにも、両生類と同一のDNAが確認されているという。

一方、コスモノーツやクルールには、そういったDNAは確認できなかったそうである。

「ああ、納得が行ったっスわ」

「一華、どういうことだ」

「兵士達の反応ッスよ。 コロニストを見て地球人にそっくり。 コスモノーツを見て人間型じゃない。 あの反応、おかしいと思ってたッスわ」

「くわしく」

一華の話では、そもそも形状的にはコロニストの方が地球人より形状が離れているという。むしろコスモノーツの方が、形は地球人に似ているそうだ。

弐分はどうも微妙で、全面的に同意できないが。

それは恐らく、他の地球人と感性が似ているから、なのだろう。

「つまりコロニストは地球由来の存在、コスモノーツやクルールは別の星由来の生物って事ッスね。 だから兵士達は、生理的な恐怖を感じていたと」

「そういうものなのか……」

「君達が強すぎるだけだ。 普通の兵士には、全く未知の存在は恐ろしく感じるのは仕方がない事なんだ」

プロフェッサーがそう補足する。

そして、更に重要な話もする。

「更に、一つ分からない事もある」

「分からない事?」

「実は、クルールについて一つだけ妙な事が判明した」

「妙とは」

クルールはそもそもあらゆる事が妙な事だらけだ。

そもそもだ。あの姿で、どうして地球人が思いつきそうな装備を使っている。それが分からない。

たくさん倒して来た。

だが、弐分は今でもおかしな存在だと思っている。

プロフェッサーは咳払いすると、説明する。

「ブラックスモーカーやホワイトスモーカーという言葉は知っているか?」

「いや、初耳だ」

「ええと、深海に存在する熱水噴出口ッスね」

「何ですかそれ……」

木曽少佐がきょとんとする。

一華が、淡々と説明を入れた。

「要は海底火山ッスよ。 深海のもの凄い水圧で、爆発的な放出が抑えられているので噴出口で済んでいるって事ッスね。 噴出口の周辺は数百度にも達する熱水や、豊富な硫黄などもあって、独自の生態系が構成されていて。 更には熱水噴出口の中には、古い古い古代の細菌がまだ生き延びているッス。 数百度にも耐える極限環境に強い代物ッスね」

「流石だな。 相変わらず博識で、説明の手間が省ける」

「いや、専門家ほどではないッス。 それでそのブラックスモーカーがどうかしたッスか」

「クルールの体についていたバクテリアの遺伝子データに、それら熱水噴出口の細菌などの流れを汲むDNAが確認された」

「……は」

まて。

科学素人の弐分でも、それがおかしい事は分かる。

一華も呆然としている。

咳払いしたプロフェッサー。多分、プロフェッサーも、理由についてはよく分からないのだろう。

「おかしいだろう。 クルールが海底で活動していたという話はない。 しかも、かなりの数のクルールが、この細菌を身に纏っていたことが分かっている」

「……」

「とにかく、研究中だ。 それと……プライマー侵略の仮説について話をしておく」

「お願いするッス」

あくまで仮説だがと、プロフェッサーは断る。

まあ、それもそうだ。

何しろ、あのトゥラプターと会話する機会は殆どないのである。彼奴だけだ。会話が出来るプライマーは。

だから、状況証拠から仮説をひねり出すしかない。

「プライマーが侵略をしている理由は、恐らくインドで発見された船に違いない。 どうしてか、プライマーは過去に落ちた船を回収出来なかったんだ」

「ああ、それは不思議に思っていたッスね」

「何故それが出来なかったのかは分からない。 事故なのか、それとも必然だったのか」

それについては、確かにおかしい。

もしもプライマーが過去にポンと飛べるのなら、もっと好き勝手にEDFを滅茶苦茶に蹂躙するはずだ。

それができていないと言うことは。

過去改変に限界があるとしか思えない。

大型船だってそうだ。あれも連続して時間転移しているとは思えない。技術力が未成熟なのか、それとも。

「リングを使用している所から見ても、プライマーは恐らく……遙か未来から、リングを道しるべにやってきているとみて良い。 問題は、どうしてそんな事をするか。 そもそも、過去に落ちた船を即座に回収しなかったか、だが」

「……」

「私は結論した。 恐らくあのリングは、プライマーにとっても極めて重要なもので、ロストテクノロジー、それかもしくは外部からもたらされたものだ」

「確かに、それなら筋が通るッスね」

リングを使い、プライマーは或いは時間旅行をしたのかも知れない。

だが、それがプライマーでも制御が簡単にできないものだったのだとすれば、説明はつく。

何故に、ここ五年にこだわるのか。もっと前に、戦力を送り込んでこないのか。

他にもおかしな事はいくらでもある。

「それと、怪物やコロニストが未来の生物だって話ッスけど」

「新種が誕生するには最低でも十万年は掛かる。 つまりプライマーは、十万年以上の未来から来た旅人という事になる」

「いや、たった十万年じゃ話にならないッスよ。 新種になるのには十万年として、例えばコロニストが両生類から進化したとすると、あのサイズの種が出るまでは百万年から一千万年は掛かると見て良いッスわ。 それも最低でも」

「一千万年!」

「なるほど、生物学は君の方が詳しそうだな。 もう少し知見を聞かせてくれ」

「仮に怪物達が昆虫類から進化……この言葉はあんまり好きじゃ無いッスけど。 生物は環境に適応して最適な姿を取っていくのであって、人間が考えるような強い生物が弱い生物を淘汰していくわけではないッスからね。 まあともかく、あのサイズの昆虫類が出現するとなると、余程の事があったと見るべきッスよ」

一華が軽く説明してくれる。

昆虫類がもっとも巨大化していたのは三億年前の石炭紀辺りだそうである。この頃には、翼長七十pもある飛ぶ昆虫がいたとかで。しかも環境もまるで違っていたとか。

石炭紀の頃はそもそも「樹木」を分解する仕組みが世界に存在しておらず、木々は倒れるとそのまま時間を掛けて埋もれ、石炭になっていった。石炭紀の言葉の由来である。そしてこの頃の地球環境は現在と根本的に違い、酸素濃度は倍もあったというのだ。

「昆虫類はこの時代に非常に巨大化したッスけど、体の構造上、酸素濃度が高くないと大きくなれなかったッス。 もしも運が良ければ、今頃世界は昆虫の世界になっていたかも知れないッスけどね」

「ふむ……」

「千万年後か多分もっと先の未来に地球がどうなっているかは分からないッスけど、余程破滅的な変化があったと判断して良いッスわ。 恐らく核戦争とか汚染物質の拡散とかで、もう根本的に土壌の成分とかが変わって、巨大な昆虫が生きていられる状態になったとか」

「そういえば……怪物には土壌の汚染を浄化する能力が備わっていたな」

皆、顔を上げる。

これについては、聞いたことがある。

確かγ型の怪物が出現した辺りで、戦略情報部が話をしていたっけ。怪物には土壌を浄化する能力があるとかないとか。

だとすると、つじつまが合う。

「それにコロニストは人間に対して何の興味も示さなかったッス。 荒廃した世界で見かけた、洗脳が外れた連中ですら。 これは恐らく、もうその時代には人間はいないとみて良いッスね」

「確かに、それだけの未来となると……」

「そういえば、荒廃した世界を転戦して見たッスけど。 コロニストがロケット作ってたッスよ。 何か思い当たる節は?」

「いや、分からない。 どういうことだろう」

いずれにしても、分かった事をプロフェッサーと一華がまとめ。データ化し、携帯用の媒体に納めて互いに交換する。

これで、どちらかの記憶が曖昧になっても、情報を持ち越せる。

少し、話し込んだか。

大兄が、咳払いをした。

「軍曹……いや荒木大尉達が待っている。 いこう」

「うむ。 プライマーの軍が接近している。 近年無い程の規模だと聞く。 私も、出来るだけ前線に近い場所で君達を支援したい」

「確か指揮官用のプロテウスがいた筈。 それに乗せて貰うといいッスよ」

「そうだな。 私がアサルトライフルを持ったところで役には立てない。 そうさせてもらう」

すぐに、兵士達の詰め所に行く。

兵士達は、士気も露骨に上がっている。今までの周回、弐分が見て来たここの兵士達は、みんな土気色の顔をしていた。

だが今回は、やれるという気迫がある。

それはそうだろう。勝っているのだから。マザーシップを半数叩き落とし、各地にあった巨大な敵の繁殖場もつぶし続けている。ストームチームでしか手に負えなかったような相手も、兵士達が倒せるようになって来ている。これで、士気が上がらない筈もない。

海野曹長が来て、訓戒を始める。

此処にいるのは大半が新兵だ。勿論、弐分達も並ぶ。みな歩兵というわけでもないようで、ウィングダイバーもフェンサーもいる。新兵として、しっかり訓練を受けて来ている様子だ。

それだけ余裕があるのだ。

弐分が記憶しているこの時代では、もう兵士に訓練をする余裕なんてないのが普通だった。

今回は、人類が大きな被害を出しつつも押している。

故に、訓練をする余裕がある。都市によっては日中に外を歩ける。特に制海権を取り返したのは大きく、既に海運はほぼ復旧しているという話だ。

海野曹長が訓戒を終えると、荒木大尉が来る。

実際には准将だが。海野曹長も、敬礼して大尉殿と呼んでいた。一種のアイコンとしての役割を担っていると言う事だ。

当然、荒木大尉は健在だ。

他のストーム隊も、である。

「英雄ストーム2だ……!」

「海野曹長、それでは敵を出迎えに行く。 壱野大佐、良いだろうか」

「準備は万端です」

「! 噂のストーム1!」

兵士達が顔を見合わせる。

大兄の名前は、もう誰でも知っているほどのものとなっている。それはそうだろう。大兄だけで、何隻もマザーシップを落としているのだ。まあストーム1による連携の結果だが、それはそれ。

兵士達はそう認識している。

それでいい。

大兄は、「英雄」は引き受けると言ってくれている。今後の事も考えて。大兄は責任を果たしてくれている。そして、ストーム1の皆の命も守ろうとしてくれている。

少しは弐分も肩代わりはしたいが、それは戦場での槍働きでする事にしている。

弐分は不器用だし、それくらいしかできないからだ。

兵士達が敬礼してくるので、ちょっと恥ずかしい。

そして、そのまま、外への通路を行く。皆、ついてくる。途中の部屋で、ストーム3とストーム4も待っていた。

「待っていたぞ。 この間、中東で大きな敵の怪物の巣を潰して以来か?」

「はい、ジャムカ大佐」

「敵は懲りないな。 ここに来て、勝てる訳がなかろうに」

「そうですね、ジャンヌ大佐」

ジャムカ大佐とジャンヌ大佐も、勿論健在。

更に精鋭ぶりに磨きが掛かったストーム3とストーム4の隊員達も、士気が高い。いつも彼ら彼女らが壊滅していったのを思うと、本当に感慨深い。

長い坂に出る。エイレンWカスタムにのった一華とともに、此処を上がる。外に出るまで、かなり長く感じる。

プロフェッサーは。

大丈夫だ。パワードスケルトンの扱いには慣れている。坂で転ぶこともないし、息が上がることも無さそうだ。

パワードスケルトンは、兵士達を誰でも即座に熟練兵並みの身体能力にしてくれる。問題は技術までは補いきれないこと。それは各自の兵士が磨くしかない。精神については全く管轄外。だから、訓練をする必要がある。

坂が終わる。後ろには、バリアスが何両かついてきている。兵士達も、問題なく。

扉が開く。

そこには。

荒れ果てた荒野では無く、美しく整備された街が拡がっていた。

核融合の技術が完全に普及した結果、人類の文明は三世代進歩したとも言われている。20世紀後半に伸び悩んでいた技術は一気に進み、流石になんでもできたり人間のように考える事が出来るロボットは出現していないものの、技術は現実的な範囲内で一気に革新を遂げた。

きらびやかな街には、人気はない。

既にプライマーの大軍襲来を聞いて、避難を終えているからだ。彼方此方の電光掲示板には、避難路と前面通行禁止の文字が躍っている。

代わりに、開戦時から生き延びている兵士達が、敬礼してまっていた。全員がブレイザーを装備している。

もはやブレイザーは標準装備だ。

荒木大尉の部隊には、精鋭用の強力なチューンアップ品が渡されている。それはそれとして、兵士達にもブレイザーが支給され。既に数が集まれば、マザーモンスターやキュクロプスなども、兵士達で対応できるようになっている。

バッテリーの技術向上、更に核融合技術の進歩により。ついにブレイザーの充電も、バッテリーのもちも、まるで問題がなくなったのだ。

「ストーム隊だ!」

「勝ったな! 風呂の準備をしておくぞ!」

「今日は美味い酒が飲めそうだ!」

兵士達も調子が良い事を言っている。

そして、専用の昇降口から出てくる巨体。

蒼く輝く装甲に守られた最強の切り札。

プロテウスである。

四人乗りの、最強兵器の一角。一華が一人で乗りこなす事もあるが、今はその必要はないだろう。

今回出て来たのは、主要基地に配備されている指揮官用のチューンアップ品。八人乗りで、内部空間は広い。予定通りプロフェッサーも乗りこんだ。

プロフェッサーが、感慨深そうに言った。

「人類の六割が生き延びている。 妻も家族も。 大きな被害は出したが、それでもプライマーは追い込まれている。 皆のおかげだ。 これからプライマーに引導を渡しに行くぞ」

「ええ。 行きましょう」

向こうから来るのは、エイレンの部隊だ。エイレンVが主体で、数機のエイレンWも混じっている。

エイリアンは後悔する事になるだろう。

既に特務エイリアンに対して。

EDFは、真正面からやりあう戦力を、整えきっていた。

 

4、EDFは優勢なり

 

三城は無言で、陣列を組むエイレンをみやる。ここしばらくで、戦車は基本的にバリアスに差し替えられ。更にはケブラーもレーザー砲装備のものが目立つようになってきた。試作機として、実体弾のものだけではなく、バッテリーが進歩した結果のチューン品が出回っているのだ。

他にも前は貴重だったネグリングや、イプシロン自走レールガンも多数に増えてきている。

DE203はDE204への刷新が進んでいる。

火力が上がっただけでは無い。

機銃弾の弾速がマッハ40にまで向上。今まで空中からの攻撃機の射撃をクルールが耐える事があったのだが。これでその心配もなくなった。

今は、DE203のパイロットのおじさんはバイパーというコードネームを貰っている。まだ現役だ。

エイリアンの特務が、無人になった街に堂々と乗り込み、陣を組み始めている。

これに対して、味方も展開を終えていた。包囲する態勢だ。各個撃破ではない。既に、力負けしていない。

数も勝っているからである。

千葉中将から通信が入る。

「敵先発隊は少数だ。 数と質で押し潰す。 後続に怪物多数を含めた本隊が続いている様子だ。 一気にひねり潰すぞ」

「イエッサ!」

「戦区を四つに分ける。 ABCDだ。 このうちDで決戦を行う事になるだろう」

移動中に、進歩したバイザーに通信を受けた。

D地区は公園地区で、かなり広い空間になっている。大軍を迎え撃つには丁度良い場所である。

プロテウス隊は試運転も兼ねて、其方に向かっている。

足回りの問題は解決したとは言え、それでも時速は40q程度しかでない。

まずは、エイレンと戦車隊で敵を叩き潰す。歩兵も、皆ブレイザーを装備している。

相手はクルールとコロニストの特務、コスモノーツの特務と手強い相手揃いだが、もはや一般兵でも此奴らを相手出来る時代だ。

攻撃開始。

その声が掛かると同時に、上空からバイパーが攻撃を叩き込む。受けようとしたクルールが、文字通り消し飛ぶ。マッハ40の機銃弾だ。とてもではないが、防げる代物ではない。

更に、バリアス隊が射撃を開始。

狙撃手を気取ってビルの上に上がっていた特務コロニストが、一瞬で肉塊と化す。エイレンのレーザー砲は、特務コスモノーツの分厚い鎧を簡単に貫き、そこにブレイザーの攻撃が集中する。

次々と倒れていくエイリアン。

勿論、進歩した三城の専用武器も、大兄の強化されたライサンダーZも。小兄のスパインドライバーもデクスターも。一華のエイレンWカスタムも。それ以上の活躍をしていく。

上空のバイパーの攻撃を、山県少佐が誘導。木曽少佐のミサイルが、一撃で重装コスモノーツの鎧を粉々に消し飛ばす。

更に柿崎が振るったプラズマ剣が、文字通り一撃でクルールを上下両断。唖然としているクルールの頭も、次の一撃で真っ二つに斬り割られていた。

「A地区処理完了!」

「よし、B地区へ支援に向かってくれ!」

「了解!」

「俺はここから狙撃に徹します」

B地区までは五qほどある。だが、大兄にはそんな距離は問題にもならない。高所に上がると、更に火力が上がっているライサンダーZで狙撃を開始。荒木大尉は、任せるとだけ言った。

「大将は相変わらずとんでもねえな」

「俺たちは俺たちでやる事をする。 小田、デストラクション型ブレイザーの調子はどうだ」

「良い感じだぜ。 だがロケランも使いたい」

「分かっている。 新型は優先的に回す」

三城はB地区に向かいつつ、ライジンをチャージ。

大兄ほどの人外狙撃は出来ないが、それでも二qまで達した地点で、狙撃を開始。既に大兄の狙撃が次々にクルールの頭を吹き飛ばしており、敵は恐慌状態に陥っている様子だった。其処に味方のエイレン隊が猛攻を加え、次々に特務だろう敵の精鋭を蹴散らしている。

昔だったら、考えられない光景だ。

ただ、此処にはそもそもプロフェッサーが権限を利用して戦力を集めているのも事実である。

プロフェッサーは、プライマーが時間戦術を利用して、自分の好きな時間帯に戦力を送り込み。情報までも送り込む事によって戦況を変えていることを、それっぽい証拠を色々提出して戦略情報部に納得させた。

そして一華と一緒になって組んだそれっぽい計算式を提出することにより、プライマーが進行基点としているものがそろそろこの辺りに到来すること。

更には敵がそれを守るために、戦力を集めてくることも「予期」。

案の定、敵の前衛部隊が来た。

備えていたEDFは、反撃に転じていると言う事だ。

ダン中佐が現在、更に東京から増援部隊を連れて来ている最中だ。

だがプライマーだって、やられっぱなしでいるとは思えない。恐らくだが、ありったけの戦力をかき集めてくるだろう。

リングが攻撃を受けていることは、既にある程度見当がついているはずだ。

ならば、必死に防衛拠点を構築しようとするはず。

今、全世界でオペレーションオメガ以来の猛攻が始まっているが、それは此処への敵集結を防ぐため。

各地でバルガも動員した総攻撃が開始され、戦果を上げているようだ。

それでもプライマーの抵抗力も凄まじい。

各地で激戦が行われている。

海野大尉もとい曹長を一瞥。

ブレイザーをみんな使っているのに、TZストークを一人だけ使っている。なんでもバランスが良くて、全局面で活躍出来るから、だそうだ。

そして実際、バッテリー交換の手間があるブレイザーよりも、かなり的確に立ち回っている。

流石だな。頼りになる。

そう思って、ライジンをまたぶっ放し、敵を狩る。

首を消し飛ばされたコロニストの特務が、前のめりに倒れる。クルールが逃げだそうとするが。エイレン隊の猛攻を浴びて盾で防ぎきれずバラバラにレーザーで切り裂かれていた。

重装コスモノーツがロケットランチャーで攻撃してくるが、エイレンのCIWSが全弾叩き落とす。

そして反撃に、兵士達のブレイザーがコスモノーツを滅多打ちにする。

大兄の狙撃が、露出した頭を一撃で打ち抜き。

おおと、喚声が上がった。

「五q先から、この一瞬の隙を逃さず撃ち抜いた……」

「噂通りだ! すげえ!」

「残りの敵を殲滅する。 皆、気を抜くな!」

荒木軍曹、いや大尉が皆を鼓舞。

ストーム4に追い込まれてきたエイリアンが、ビル影から飛び出してくる。待っているのはバリアスの部隊とエイレン部隊。

特に一華のエイレンWカスタムは即応。

一瞬で、リーダーらしいレーザー砲持ちコスモノーツを収束レーザーで撃ち抜いていた。鎧ごと、大穴を開けられたコスモノーツは呆然と立ち尽くした後、どうと倒れる。

他のエイリアンはそれで動揺して。次々に狩られた。

「此方ストーム4。 狐狩りは終わったか」

「問題ない」

「よし、総員補給を済ませながら移動! C地区に向かう! 彼方にはストーム3が展開している。 万が一はないと思うが、それでも気を付けろ!」

「イエッサ!」

大兄は、また同じ場所から狙撃するという。

相変わらずだ。

敵としては、文字通り見えない位置から狙撃が。それも百発百中、確殺の狙撃が飛んでくるわけで、意味不明の恐怖だろう。

移動開始。ライジンをチャージ。

更に戦力を増して、包囲網を圧搾する。

プロフェッサーが、無線を入れてくる。

「大軍が予想より早く接近している様子だ。 被害を可能な限り抑えてくれ。 現在、主力が防衛線を構築し始めている」

「わかった」

「相変わらずだな三城くんは」

「そうかな」

そうなのだろう。

ともかく、C地区に近付く。滅多打ちにブラストホールスピアで嬲られるエイリアンが見えてくる。

ジャムカ大佐は容赦なくエイリアンを痛めつけている。更に、敵の死体は既に累々としていた。

大兄が狙撃で削っている上に、エイレン隊もバリアス隊も、容赦なく攻撃しているのだ。

必死に踏みとどまろうとしている敵の特務も、これではどうにもならないだろう。

「ストーム3と合流! C地点の敵を掃討する!」

「イエッサ!」

「バイパー、攻撃!」

上空から、DE204が飛来。容赦なく、両手にシールドと武器を持ったクルールの精鋭を狩っていく。

敵も反撃しようとするが、攻撃機も飛行速度が上がっていて、それどころではない。

むしろ視線を逸らした瞬間、大兄の狙撃で狩られる。

見る間に敵が削られていくのが分かる。

気の毒かも知れないが。

彼奴らがやってきた事を考えれば、とても許される事では無い。此処で、容赦なく倒し尽くす。

エイリアンが、露骨に此方を見て怯える。

だが、荒木大尉が容赦なく攻撃を加えて、頭を吹き飛ばした。

「おいおい、後から来て獲物を横取りか?」

「充分狩っただろう。 こちらは走り回って彼方此方を救援してきたんだ」

「ふっ、それもそうだ。 残りを狩りつくすぞ!」

「おおっ!」

ストーム3が、凄まじい機動でエイリアンを倒して行く。

更に其処に、エイレンの部隊とバリアスの部隊が合流。容赦なく、敵の残党を狩りつくした。

戦闘終了。

千葉中将が、無線を入れてくる。

「よし、すぐにD地点に向かってくれ。 現在、レールガン部隊も含めて、展開を開始しているが、かなりの大軍だ。 君達の力が必要になる」

「分かりました。 すぐに向かいます」

「……情報が本当だとすれば、プライマーは過去改変能力を持っている。 今は優勢だが、決して油断するな。 とにかく、全軍徹底的にプライマーを叩け。 少し過去を弄くった程度では、この状況を覆せない程にだ」

千葉中将の言葉も、心なしか荒々しい。

それもそうだろう。

グラウコス戦以降、有利に戦闘は続いているとは言え。

それでも、時間改変戦術なんてものをプライマーが使っているという事を戦略情報部に言われ。

それが本当らしいと分かったのなら。

気が気ではいられない。

いつ、どのように逆転されるか、わかったものではないのだから。

 

トゥラプターは、戦況を見ていた。

親衛隊も、精鋭部隊も、まるで歯が立たない。というか、「いにしえの民」の武装が想定を超え始めている。

舌打ちする。

これはまずい。

恐らく「外」はこれを見越していたのだ。

あまりにも大きな歴史への変更を奴らは嫌う。「いにしえの民」が宇宙進出能力を持とうが、連中にはそれこそどうでもいいのだろう。現状の「いにしえの民」の戦力なんて、「外」の連中から見たら赤色超巨星から見た水素原子の一つくらいに過ぎないのだから。

前に馬鹿な先祖共がされたように。その気になれば警備艇一隻で完全鎮圧できるだろう。それも五分もあれば充分だ。

冥王星戦域での屈辱は、トゥラプターだって知っている。

あれは先祖のアホ共が悪いのは事実だが。

それでも、現実的に考えなければならないのがトゥラプターの立場だ。

ただでさえ、「水の民」長老は戦死してしまった。

旗艦にいたところを、水爆の直撃を喰らって。

あれを恐らく、見越していたとみて良いだろう。

勿論、「いにしえの民」は悪くない。

こんな卑劣な戦術を採っている此方が悪い。それくらいしないと、勝てないのだから。

最初の一回で、「いにしえの民」ともう少し交渉を上手に出来れば、こんな事にはならなかったのかも知れない。

戦士としてあるまじき事をトゥラプターは考えたが、まあ仕方がないだろう。

「本国の様子は」

「全力を挙げて、戦況を変えるための戦力を生産しているようです。 ただし「水辺の民」は戦況の悪化を見抜いている様子で、サボタージュを決め込んでいます」

「そうだろうな。 まあ俺たちは「水辺の民」の洗脳クローンを使うだけだ。 もう長老達も、地球のために鎮圧部隊を出す余裕はないだろう」

「「外」の監査も厳しくなっているようです。 持ち込もうとした装備の幾つかが不許可をくらったようでして」

溜息が漏れる。

ともかく、やるしかない。

各地に展開していた部隊に徹底抗戦を指示。

温存していた全ての部隊を、一気に叩き付ける。

恐らくだが、敵はリングを既に知っている。過去に転移している奴がいるならなおさらだ。

そしてリングをくぐる際に、かなりの数の被害を毎回出している。

今回の敵の武装を見る限り、それを邪魔しない限り、戦況をひっくり返すのは恐らく無理になるだろう。

可能な限り、敵を乱戦に持ち込む必要がある。

「水の民」長老の仇討ちなんて事は、トゥラプターは考えていない。

当然の事を敵はした。

戦いの結果は兵家の常だ。負ける事もある。勝つ事もある。戦死するのはだれだってする。

ましてや此方は「いにしえの民」に散々絶滅戦争行為を働いてきた。敵の反撃がどれだけ苛烈になっても文句を言う資格はないだろう。

ため息をつく。

とにかく、やれるだけの事をやるしかない。

次の「戦闘輸送転移船」には、「風の民」長老と「風の民」の戦士達が乗ってくる。

もう、本国は。

崖っぷちまで追い詰められている、ということだ。

 

(続)