愚物は笑う

 

序、迫る多数の死

 

開戦から五ヶ月が経過した。

壱野は世界各地で転戦。今は欧州に来ている。人類の被害は開戦前の13%。押さえ込めている方だとは思う。

だが、プライマーはEDFの手が回らないようにするためか、次々と兵器を投入してきていて。

それらの混成部隊も、各地に見え始めていた。

今、欧州で荒木班と合流。

スプリガンも間もなくくる。

スイスの一角で、敵の猛攻を受けている。そう複数の部隊から通信があり、急いでいるところだった。

またアンノウンだという。

ただ。この周回のEDFにとってはアンノウンであっても、壱野にとっては違う可能性が高い。

そして近付くにつれ、それがタッドポウルである事が分かり始めていた。

まだコロニスト以外のエイリアンは出現していない。

敵としても、この戦況ではまだコスモノーツやクルールを戦場に投入するのは危険だと判断しているのかも知れなかった。

いずれにしても、知っているいずれの歴史よりも戦況は良い。

とにかく村上班がアンノウンに対処し。

敵を徹底的に撃退して、データを蓄積。

それを総司令部が生かして、対抗戦術を兵士達に仕込む。それだけだ。

それで、戦況を変えられる。

そう信じて、戦うしかなかった。

「そういえば軍曹、ブレイザーとかいう銃が支給されるらしいな」

「ああ。 もう開発まで二ヶ月ほどかかるらしい。 小型のEMCとでもいうべき兵器で、出力はEMCの15%になるそうだ」

「EMCの七分の一じゃねえか」

「確かにそうだが、EMCと違って一点集中射撃が出来る。 つまり、面制圧より点を貫くための兵器というわけだ。 恐らく点に対する火力は、EMCを凌ぐとみて良いだろうな」

荒木軍曹と、少尉に昇進した小田少尉が話している。ブレイザーの話がもう出始めているのか。

プロフェッサーが過労死しないか心配だ。

ただ、プロフェッサーはブレイザーの量産と、アサルトライフルに変わる主力兵器としての支給を計画しているらしい。

それにはバッテリーの更なる改良、更には大電力を発生させる炉……つまり核融合炉の開発が必須だ。

核融合の最大の欠点は凶悪な放射線にあるのだが、それをどうにか防ぐしかない。核分裂に比べて事故の可能性は低いが、まだ実用に至っていないのには相応の理由があるということだ。

実験的に、核融合炉は作られているらしいが、まだ大きい上に安定度が足りないとも聞く。

これも、プロフェッサーが必死に覚えた実験データで、何十年分も開発を進めているのだろう。

だが、心配だ。

あの人は、決してからだが丈夫では無いのだ。自転車にも乗れないと、本人が零していたではないか。

大型移動車が停止。

ばらばらと、皆で展開する。

荒木班にも、既に重武装型にカスタムしているエイレンVがロールアウトしている。この他にも、ダン中尉(現在)の部隊のフラッグシップ機としてもエイレンVが配備されているらしい。

エイレンUを中心にEDFはコンバットフレームを量産し。カスタムが容易な上に素の能力が高いエイレンUは、各地で戦線を支えてくれている。

人類の被害も小さくは無く、特にサイレンとスキュラには大苦戦を強いられているが。

既に村上班でもない別のチームが怪物の繁殖地の撃滅に成功するケースも出て来始めており。

EDFの戦力は、数周前の状況とは比べものにならないほど強力になっていた。

「荒木班、現着。 戦況を知らせたし」

「よく来てくれた! すぐに上空の敵を排除してくれ!」

「なんだあありゃあ……」

「コロニストの子供ッスかねえ。 姿似てるし」

小田少尉に、一華が空々しくぼやく。

浅利少尉も、確かに似ていると呟いた。

ともかく、前線に突入。上空に多数群れているタッドポウルに攻撃を開始する。味方部隊は大苦戦を強いられているので、まずは弾幕を張り、救出から開始。無事な戦車は後退させ、ケブラーを守りつつ、生き延びている兵士を確実に救援して避難させる。空から無数に降り注いでくるタッドポウルだが、編隊飛行をしていない。これは今まで、編隊飛行する所を狙われて一網打尽にされたからか。

こういう生物は、習性としてある程度群れを作り組織的に動く。

そうなってくると、この編隊飛行を止めさせるのには、相応の苦労があった筈だ。

プライマーも改良を重ねている。

これはうかうかしていられないな。

そう思いながら、壱野はアサルトで確実にタッドポウルを撃ち抜きながら走る。エイレン二機の対空戦闘力を武器に、周囲を制圧。押されている味方を支援しつつ、ケブラーにはそのまま対空戦闘を続けて貰う。

地面に落ちてきたタッドポウルを、柿崎が飛びついて瞬く間に斬り伏せた。次々と斬っていく様子は実に生き生きとしている。

木曽が打ち込んだ小型ミサイルが、多数のタッドポウルを弾き飛ばし、地面に叩き付けた。

地面に落ちたタッドポウルを、負傷を免れた兵士達が射撃して狩る。

弐分は中空にデクスターを叩き込んで、タッドポウルを面制圧。

三城は誘導兵器で、まとめて多数の群れを叩き落としていた。

激しい戦いが続く中、エイレンに攻撃が集中する。だが、この程度の数だったらどうにでもなる。

エイレン同士で支援しつつ、タッドポウルを叩き落とす。空を覆うほどの数だったが、なんとでもなる。

「此方B3……支援を頼む」

「今行く。 装備は放棄してかまわない。 身を隠すことを優先してくれ」

「すまない。 これでも正規兵なのに……」

「生き残って戦ってくれ。 それが一番重要だ」

走りながら、タッドポウルを叩き落とす。キルカウントが凄まじすぎて、成田軍曹が呻いている。

どうレポートを書けば良いんだと。そんなの、そっちで考えてくれ。

壱野はぼやきながら走る。

タッドポウルは他の怪物よりも優先的に人間を食う傾向がある。他の怪物は殺すために食うという手段をとるが、別に栄養を必要としている形跡がない。

タッドポウルの場合は、食った人間が瞬く間に消化されているのを見る限り、明らかに餌として人間を見ている。

コロニストの成体が同じ事をしないことは何故だかは分からない。

或いはタッドポウルが数が揃わないと何もできない器用貧乏な怪生物だから、恐怖を煽るためだろうか。

誰かが悲鳴を上げる。食いつかれたその兵士を、タッドポウルを即応して射殺し救助する。食われても即座に溶けてしまうわけではないが、それでも数分噛まれただけで強烈な消化液を浴び、みるにたえない状態になる。

上空に射撃。弐分に無線で通信。

誰かを咥え飛び去ったタッドポウルを撃ち抜き。落ちてきた兵士を、弐分がガッチリキャッチしていた。

生きている兵士の気配を察知しつつ、敵の気配も察知。

これは特殊能力でもなんでもなく、研ぎ澄ました五感が場所を教えてくれているだけである。

ただし、一華や弐分にも指摘されているが。

壱野の能力は、既に人間の領域を逸脱しつつあるようだ。

それはそれで全然かまわない。

人間であること。

それはそれほど重要なのだろうか。

今、戦っていてそう思う。

愛だの何だのを題材にした作品は山ほどあるが、人間が積み重ねてきたのは殺し合いの歴史だ。

人間ほど殺し合いに向いている生物は他にいないのではないかと、壱野は思う事もある。

今、その能力を極限まで必要とされている。

だったら戦うだけ。

それは能力を逸脱していようが。

人間である事に、代わりはないのではあるまいか。

「そのビルの三階に隠れている兵士がいる。 救助に向かってくれ」

「りょ、了解!」

「次のブロックに行く。 ケブラーは対空砲火を続行。 タッドポウルはどうしても防御に劣る。 叩き落とせ」

「イエッサ!」

ケブラーの増援が来る。荒木軍曹が、通信を入れて。どんどん増援を呼び込んでいるようだ。

次のブロックは、殆ど生存者はいない様子だ。だが、それでもまだ生きている兵士はいる。

タッドポウルが上空から群がり、炎をはきかけているのが見える。それを片っ端からアサルトで撃ち抜く。

「さがれ。 後は俺が対処する」

「まだ奧に何人か隠れてる!」

「分かっている。 その兵士達と一緒に後方へ。 後方のブロックは既に安全を確保している」

「わ、分かった! 恩に着る!」

エイレンVが追いついてきた。一気にレーザーで群れているタッドポウルを叩き落とす。

今の時点で、大型のタッドポウルは見かけない。あいつの戦闘力は、成体のコロニストを凌ぐ事も多い。

見かけないのは助かる。

タッドポウルが更に来るが、その時にはケブラー隊がすでに陣列を整え、対空砲火を凄まじい勢いで浴びせる状況が整っていた。

曳光弾が空に時々光を奔らせる。

こうなると、多少の数の差は関係無い。バタバタとタッドポウルは叩き落とされていく。

やがてプライマーも、攻勢は失敗と判断したのか。

それとも、或いは村上班を引きつけられたのだから良いと判断したのか。

増援は打ち止めになった。

辺りは凄まじい数のタッドポウルの死体だ。小田少尉が来て、ぼやく。

「とんでもねえ化け物どもだな。 此奴らも「知っていた」のか大将」

「ある理由から。 ただ、他言は無用に願います」

「ああ、分かってるよ。 俺は生存者を探しに行ってくる。 残党に気を付けてくれな」

「ありがとうございます。 頼みます」

生存者、か。

こうしてまた正規兵が多数鬼籍に入った。

プライマーはどんどんこの時間線でまだ登場していない怪物や生物兵器を投入して、人類を確実に追い詰めてきている。

今回も、多くの兵士が犠牲になった。

そして、今後も、コスモノーツやクルールが出てくれば。その時点でまた大きな被害が出るだろう。

特にクルールは課題だ。

見るだけで兵士を恐慌状態に陥れるケースがある。

出来るだけ早い内に撃破実績を作っておきたい。

幸い、エイレンUの各地への配備が進んでいる。レーザー兵器と相性が悪いクルールに対し、かなり良い勝負が出来るだろう。

一方でニクス型もニクス型で、強化を進めているらしい。

強力なバッテリーで動くエイレン型と従来型の炉を積んだニクス型で、今後は棲み分けをするのかというよりも。

恐らくニクス型を廃棄するのでは無く、活用したい方針なのだろう。

周囲を見回り、まだ生きているタッドポウルを見つけ次第とどめを刺しつつ。生存者を探す。

この街の市民は全滅状態だ。

救援どころではないなと、壱野は嘆息する。

救援が間に合わなかった。

とはいえ、また避難を浴びせてくる声も出てくるだろう。

まだ世界政府は機能している。

このため、村上班の戦果に対して疑問を呈して。批判行動を取っている議員などもいるようだった。

「壱野、戻るぞ。 後は戦略情報部と先進技術研が引き継ぐそうだ」

「分かりました」

荒木軍曹から声が掛かったので、大型移動車に。

先に引き上げていた皆と合流。柿崎は満足そうに、プラズマ剣を磨いている。相変わらずである。

山県少尉はチューハイを傾けていたが。

戦場での活躍を考える限り、素面でいろとも言えない。

たまに、見ている所で派手な活躍をする奴しか評価できないような低脳がいるようだが、そんな輩と壱野は一緒になるつもりはない。

ましてや、これだけ被害が出た状況だ。

心に傷だって、誰でも出来るだろう。

無線が流れてくる。

「戦闘のデータを分析し、サンプルを採取した結果、この敵にはケブラーでの戦闘が極めて効果的な様子です。 エイレンのレーザーも、非常に効果的です。 この敵が出現した場合は、ケブラーの部隊を急行させてください」

「出来るならばそうする。 開戦以降、新しい敵が増えるばかりで、味方の負担が大きくなる一方だ。 その上、海運が潰された今、人類は各地で孤立する恐れすら出て来ている」

戦略情報部の少佐に応じているのはバルカ中将だ。

いつもの世界線と違って、今回は早い段階で病院に行くように指示を受けて。時々手術をしている様子だ。

それだけの余裕がある一方。

いつもは更に過酷な状況だったのだなと、同情してしまう。

そのままフランスのパリ基地に移動。

補給を受け、エイレンの整備をする。その間に、荒木軍曹と話をしておく。

「俺たちとお前達、それにスプリガンとグリムリーパーによる合同部隊を結成する話があるそうだ」

「それは頼りになりそうですね」

「いずれにしてもブレイザーの一号機がロールアウトしてからになるだろうな。 各地で被害が大きくなる一方だ。 EDFのシンボルになる精鋭が必要なのだろうよ」

「反対している議員もいるそうですが」

荒木軍曹が、あれはなと真相を教えてくれる。

どうもEDFの内部にも幾つかの派閥があるらしく、世界政府も完全に手綱を取れているわけではないらしい。

特にユーラシア系の派閥と北米系の派閥が強い力を持っていて、それぞれが世界政府の議員にコネがあるそうだ。

「壱野の村上班は、どっちの派閥にも属していない。 それが常識外の活躍をしている事が気にくわない連中がいて、手下の議員を使ってごねている。 そういうことだ」

「くっだらねえ……」

「ああ、くだらない話だ。 だから気にしなくてもいい。 既にEDFは、アンノウンに対する圧倒的な力を持つお前達に対して一種の依存すら始めている。 その内、面倒なようなら戦略情報部が動くかもな」

戦略情報部。

そうなると、EDFの中で独自勢力を持っているあの参謀か。

あの老人は不愉快な存在だが、この手の輩を抑える技量はあるのだろう。

或いは、今までの世界線でも。

ストームチームを結成するときには、あの老人が許可を出して。それで結成が行われていたのかも知れない。

だとすると、余計に手強い話だ。

プロフェッサーも、そんなのを納得させるのは大変だろう。

パリ基地で一旦荒木軍曹と別れる。

そのまま、欧州から離れて、ロシアに。ロシアではかなり苦戦している地域が多く、村上班は歓迎された。

多数の怪物を蹴散らし、二箇所の繁殖地を潰して、今度は中華に。

一週間で二十四回の戦闘を行って、そのまま日本へと帰還した。

日本に戻っても、各地での戦闘を行うことに変わりはない。

日本に戻って、最初に相手にさせられたのは大量のβ型だったが、どうも地下の巣穴に転送装置があるらしい。

破壊しなければならない。

面倒だなと思いつつ。駆除を進める。

そして、荒木軍曹の言葉を思い出していた。

EDF内部でも、派閥抗争がある。

それはひょっとするとだが、ウィングダイバーとフェンサーの不仲の原因にもなっているのだろうか。

ありうる話だ。

ユーラシア系の派閥と北米系の派閥が対立しているとなると、それは更に真実味を帯びてくる。

そしていつもの周回で、荒木軍曹がいつも欧州に呼び出されていたのも何となく理由がわかってきた。

荒木軍曹は、ひょっとするとユーラシア派閥の精鋭とみなされていたのかも知れない。

欧州のバルカ中将やジョン中将は、尊敬できる将軍だ。

北米にもジェロニモ少将のように敬意を払える将軍はいる。

そういう人もいるのに、腐った輩はどこにでもいるものだな。

今は人類が派閥でにらみ合っている場合では無いのに。

そして、ふと腑に落ちる。

戦況が極端に悪化したから、派閥抗争どころではなくなったのか。

前の周回とかだと特に顕著だったが、「五ヶ月後」の時点で既に四割の人類が殺されていた世界では。

そもそも、それどころではなかったのだろう。

今回の周回では、EDFを中心に必死に人類が抵抗できている。人類の社会がまだ機能している。

故に、人類のだめな所がまだまだ表に出てきている。そういう事なのだろう。

「大兄?」

「ああ、心配は無い」

三城に聞かれたので、応じておく。周囲はβ型の死体だらけだ。キングの死体も横たわっている。

兵士達がすげえと呟いている。

視線には、恐怖も混じり始めていた。

「リーダー。 次の仕事ッスよ」

「ああ、分かっている」

「荒木軍曹の話していた派閥抗争についてッスか?」

「お見通しか。 こんな状況で、何ともくだらない事をしているなと思ってな」

一華はくつくつと、悪そうに笑う。

何か、対処法でもあるのか。

「三年間で、世界中を回ってサーバセンターを漁ったじゃ無いッスか。 その時に、連中の弱みをわんさか握ったッスよ」

「そうか……」

「リーダーが佐官になったら、プロフェッサーと連携してそれらの弱みを活用する予定ッス。 まあ、もう少し先になるッスけどね」

「あまりやり過ぎるなよ」

佐官にまで昇進すれば、流石に軍としては高級幹部だ。あまり軽く見る事も出来なくなるだろう。

ましてやEDFの切り札として、特務として活躍している壱野だ。

暗殺の類は出来ないはずである。

もしも、やるとしたら。あの頑迷な権力の怪物である「参謀」に、壱野達につくほうが利がある。そう思わせるしかないのかも知れない。

いずれにしても、今は。更に実績を増やす。それしかなかった。

 

1、寝込みへの襲撃

 

一華は、早朝に叩き起こされ。眠い目を擦りながら、大型移動車で戦地に向かっていた。

サイレンが神奈川に飛来したのだ。東京を狙うコースを飛んでいる。故に、村上班は中途で迎撃することになり。

海岸線での迎撃は一旦諦め、内陸での迎撃を選択。既に人が避難し終えている平塚が戦場に選ばれた。海が近いが、これ以上内陸になると被害が拡大する。東京に飛び火する可能性もある。

懸念事項はサイレンが引き連れているスキュラなのだが、今回は現れる様子がない。

東京の守備隊と連携して、陣列を組んで待ち構える。

中尉に昇進したダン中尉が乗っているエイレンVは、レールガンを二門装備した、一回り大きい特注品だ。

まだ自走式レールガンが実戦配備が始まったばかりで、数を揃えられないという事もある。

今回は、一華のエイレンVとダン中尉のエイレンV。更にケブラーと、バリアスの主砲によってダメージを与える。

それが作戦の目標だった。

サイレンは定期的に各地の主要都市を攻撃に出向く。その度に大きな被害が出ている。

だが、それによってデータも蓄積してきた。

やはり、サイレンは苛烈な戦闘の後、プライマーが誘導して何処かしらで休息をとるようである。

それで完全回復する。

回復速度が恐ろしく早いエルギヌスやアーケルスと違い、眠るだけで完全回復するのは怪生物としての改良に成功している、ということなのだろう。

一方で凶暴極まりなく、プライマーでも制御出来ている様子がない事も事実で。

こいつもエイレンVと同じ意味で、プライマー側の過渡期の兵器なのかも知れなかった。

東京基地はまだまだ元気で、周囲には六両のバリアスと二十両を超えるケブラーが展開している。

エイレンVは一華のとダン中尉ので二機。これに加えて、レールガンを装備したニクスのカスタムタイプが四機来ている。

これらは、今までの戦闘で、実体弾兵器が有効だと言う事がはっきりしたこと。

更には、レールガンはまだ大量に準備できていないことが要因としてある。

やはり車両に乗せる方が兵器は安定する。

自走式レールガンが完成したら、ニクスやエイレンに積んでいるレールガンよりも、大口径で安定した火力のものをサイレンにたたき込めるだろう。

バルガは残念ながら飛んでいるあのトリには無力だ。

これでどうにかやるしかない。

「此方スカウト! サイレンの接近を確認!」

「スキュラは来ていないな」

「はい、姿は見受けられません」

「よし、好機だ。 叩き落としてやる」

ダン中尉は戦意が高い。だが、残念だがそれは厳しそうである。

本命は、この作戦の次だ。

既に、EDFでも準備を開始しているということだった。

サイレンを倒すには、恐らく熱兵器では駄目だ。だから、爆弾か何かで一気に致命傷を与える。

それがEDFの結論である。

それに対しては正しい。

だが、一華も知っている派閥抗争で、一部の連中がろくでもない事を提案しているそうである。

以前、一華が覚えている最初の周回で。プライマーを指揮していた無能でくの坊。あいつにとどめを刺すために使った収束衛星兵器バスター。

それのデータを、プロフェッサーが保存していたのだが。

そのデータが、一部の派閥に渡ったらしい。

そいつらはお抱えの科学者に、サイレンには熱兵器が効かないのではなく、熱量が足りないのだという説をぶち上げさせ。

バスターを使って倒す事により、派閥内での力を高めようとしているようだった。

巫山戯た話である。

改ざん前の世界では、サイレンがグラウコスになった切っ掛けは、同じようにバスターだったが。

もはや他に手はなく。

更には、バスターを使う事が致命的であることを、一華もプロフェッサーも知らなかった。

今度は知っているから、そもそもチラン爆雷による撃破を計画しているというのに。

歴史の修正力だかしらないが、こんな形でサイレンのグラウコス化が現実味を帯びてくるとは。

幸い、今回の作戦の二段階目は、テンペストと気化爆弾を試すことになっている。

だが、派閥抗争のパワーゲームの綱引きにより、これが失敗した場合には恐らくバスターが使用されることになる。

そうなったら、グラウコスが誕生しかねない。

ともかく、今はサイレンを相手にダメージを与え、追い払うしかない。

サイレンの段階で、アーケルスを遙かに凌ぐ凶悪な戦闘力を有しているのだ。油断など、とても出来ない。

「もう少し引きつけろ」

「サイレンが突貫してきます!」

「ひいっ!」

「間合いの外だ! 大きすぎて近くに見えるだけだ! 耐えろ!」

ダン中尉が、必死に兵士達を叱咤している。中空から急降下攻撃に切り替えてきたサイレン。

その巨大さは、遠近感がおかしくなるほどだ。

一華も舌なめずりすると、レールガンの射程に入ったことを確認。

「間合いに入ったッスよ!」

「よし、斉射!」

多数のレールガンが、一斉にサイレンに叩き込まれる。更に、バリアスの主砲も。

凄まじい悲鳴を上げたサイレンが、明確に怯んだ。リーダー達も攻撃を開始。上空から、DE203が急降下攻撃を加える。

サイレンは凄まじい翼の力で無理矢理浮き上がると、周囲に火焔をばらまく。

戦車やコンバットフレームの随伴歩兵が、わっと散る。

サイレンの火焔攻撃の火力はとんでもなく、バリアスでも何度も喰らうとひとたまりもない。

とにかく移動しつつ、射撃を加える。それが基本的な対サイレンの戦術になる。

二連レールガンを備えているダン中尉のカスタムエイレンVだが、やはりというかなんというか。

無駄だ。

多砲塔戦車と同じ。主砲になりうるレールガンは一門だけでいい。バッテリーを独立させるにしても、コストが高くなりすぎる。

だが、失敗は成功の母だ。

これは失敗だったと言う事が分かれば、カスタムし直せばいいのである。

レールガンの火力は、現時点でリーダーが使っているライサンダーZや、弐分が使っているガリア砲を数段上回る。

更に、レールガンが穿った傷に、リーダーが正確にライサンダーZの弾をねじ込んでいく。

サイレンが何度か露骨に怯む。

それでも、上空から炎を吐き散らし、兵士達が焼かれる。負傷者は下げる。助からない兵士もでる。

それでも、必死に冷静さを保ちつつ、レールガンを叩き込む。

「レールガン、効果有り。 今までにないダメージを与えることに成功しています!」

「やはりレールガンを揃えるのが急務か。 各地の工場に生産を急ぐように伝えてくれ」

「分かりました。 どうにか手配します!」

成田軍曹と千葉中将が無線で話をしている。

その通りだが、そのレールガンも強力な発電装置を改良しているから強くなっているのである。

量産が出来るのも同じ。

プロフェッサーに感謝してほしいものだ。

プロフェッサーは確かに学者としては三流かも知れないが、その代わり完全記憶能力という強みがある。

これを使って、どんどん過去に情報を持ち込めている。

その結果のレールガンの量産だ。それも、過去の周回とは比べものにならない性能の。

ニクスやエイレンにレールガンを搭載できているのも、必死に全てを記憶して持ち込んでいるプロフェッサーがいてこそ。

とにかく、今はやるしかない。

「レールガン、弾丸、バッテリー、補給急げ!」

「サイレン、また突貫してきます!」

「足を止めます」

リーダーが、一番大きい傷口にライサンダーZをたたき込み。同時に木曽少尉の放ったリバイアサンミサイルがサイレンに直撃。山県少尉による誘導が完璧だった結果である。

更に、其処に三城が、プラズマグレートキャノンを叩き込む。

大きく怯んだサイレンが、態勢を完全に崩す。

「効いている! そのまま押し切れ!」

「いえ、駄目です」

おや、成田軍曹が冷静だ。

サイレンは忌々しそうに、明らかにリーダーの方を見た。自分と同格か、それに近い存在が気にくわないのか。

いずれにしても、サイレンは最強であることに胡座を掻いていて。

プライドを肥大化させている様子だった。

そして、だからこそ負ける事を許さないのだろうか。

逃げ始める。

戦略的撤退という奴か。

最強だから死は許されない。

そういう理屈かも知れない。

いずれにしても、勝手な理論だ。逃げたと言うことは、敗走したという事なのだろうから。

そして、サイレンは追い払う事に成功すると、いっそすがすがしいほどに潔く逃げ出す。これも、今まで分かっていたことだった。

ダン中尉が、周囲に叫ぶ。

「被害を確認!」

「負傷者の後送実施中! 被害を受けたAFVは順次東京基地に後送します!」

「よし。 村上班、作戦の第二段階だ。 頼むぞ」

「了解しました」

すぐにリーダーの指示で、此方も移動を開始。すぐに飛んできた輸送機にのり、その機内で補給を受ける。

木曽少尉が手当てを受けていた。

火焔の余波で火傷したらしい。まあ、サイレンが相手だ。完全に無傷ともいかないだろう。

リーダーは無傷だ。

攻撃を全部見切っていた。

これはサイレン以上の化け物だな。そう、一華は呆れる。一華自身は、今の戦闘データをまとめて、プロフェサーに送っておく。

「ライサンダーZやレールガンの弾には猛毒も仕込んだッスけど、効いていないッスねこれは」

「なるほど、了解した。 此方はチラン爆雷の開発が9割という所だ。 幾つか問題があって、完成までが難航している」

「邪魔とかされてるッスか?」

「いや、それについては大丈夫だ。 むしろ使用の段階で邪魔が入るかも知れない。 歴史的に見ても、恐らくもっとも高価な弾だ。 迂闊に使う事は出来ないだろう」

今、三十発を用意しているという。

一発でも確実すぎるほどだが、三十発か。

もしもこれに耐え抜く生物がいたら、それはもう生物ではないと判断するべきだろう。

またチラン爆雷は一発ずつが非常に大きく、あのフーリガン砲の弾丸すらも凌ぐという話だ。

そうなってくると、生半可なキャリアでは輸送できないだろう。

近距離用の大型ミサイルにでも搭載するか、或いは。

潜水母艦を想定したが、そうなると海軍が動きづらい今、更に利用が厳しくなりそうである。

ほどなく、戦略情報部から無線が入った。

それも少佐からである。そうなると、戦略情報部も相当に本気と言う事だ。

「サイレンを追跡していた無人機が敵の休眠を確認。 場所は小笠原諸島の一つです」

「よし、すぐに現地に作戦部隊を送れ。 サイレンは休眠時、スキュラを呼び寄せることが分かっている。 最低でも、スキュラに対処できる戦力を送る必要がある」

「分かっています。 村上班の他に、現在スプリガンが現地に向かっています。 また、スキュラに対抗しうる兵器として、エイレンUのカスタムタイプを現地に揚陸艇で向かわせています。 揚陸艇には潜水艦隊が護衛につきます。 スキュラの奇襲を受けても耐えられるでしょう」

「うむ……」

千葉中将も、結構本気で戦力を出してくれているな。

そう思いながら、現地まで少し休む。

リーダーも、一華が休んでいる気配でも察したのだろう。何も言ってくる事はなかった。

 

作戦の第二段階を、小笠原諸島の一角で開始する。比較的開発が進んだ島の一つなのだが、怪物に襲われて既に住民は退避ずみだ。

そして、サイレンはなんというか、立ったまま眠っている。

エルギヌスなどは横になって眠るのだが。サイレンは体の構造上、ああやって眠るのが一番楽なのかも知れない。

既にスキュラが来ていて、周囲は霧に包まれている。それだけではなく、リーダーが舌打ちする。

「かなりの数の怪物とアンドロイドがいますね」

「何だと!」

「千葉中将、戦力を急いで集めてください。 スキュラを駆逐している間に、サイレンが起きだす可能性があります。 スキュラだけでも厄介なのに、この数の怪物は……」

「分かった、揚陸艇が到着するまで待機してくれ。 それにスプリガンも、間もなく到着する」

千葉中将も、冷静に指示。

そのまま、増援の到着を待つ。

ほどなくEDFの揚陸艇が接岸。ケブラー十両、レールガン搭載のカスタムタイプエイレンU二機が降りてくる。

先のサイレン戦に続いて、これだけの兵を出せる。

それだけ、まだまだEDFが力を残している証拠である。

更に、飛来する影。霧の中を怖れている様子もない。

着地した彼女らは、一個小隊ほどはいた。

「スプリガン、現着。 手負いにとどめを刺す作戦と聞いていたが、それにしてはものものしいな」

「村上班の村上壱野です。 合同作戦の参加、感謝します」

「荒木軍曹から噂には聞いている。 噂通りの実力を見せてくれ」

「はい」

ジャンヌ(現時点で)中佐は相変わらずだ。ただ、何度も周回の度に影響が出ているのを一華も知っている。

明らかに、前よりは態度が柔らかい。

三城が周囲を見回しているが。どうも河野はいないようだ。

戦死したとは聞いていない。そうなると、或いはもうスプリガンからお払い箱を喰らったのかも知れない。

今回は戦況が今までの周回でもっともいい。

そうなると、くだらないスクールカースト感覚で内部で問題行動ばかり起こす奴は、ジャンヌ中佐としてもいらないのだろう。

戦略情報部の少佐が、説明を開始。

「作戦を説明します。 まずはスキュラを排除。 他にも守備隊がいるようなら駆逐してください。 全ての守備隊を駆除し終えたら、気化爆弾を爆破班が設置。 気化爆弾と同時に、バレンランドからテンペストミサイルを発射して撃ち込み、とどめを刺します」

「了解。 作戦行動に入る」

「この霧で、スキュラがどれだけいるか分からないぞ。 どうするつもりだ」

「スキュラは今七体。 サイレンの周囲を囲むようにして、ゆっくり巡回を続けています」

リーダーの霧の向こうが見えている発言に、流石に呆れた様子だが。だが噂は聞いていたのだろう。

咳払いすると、ジャンヌ中佐は周囲に指示。

まずは、リーダーがライサンダーZの狙撃でスキュラを撃つ。この艦砲クラスの狙撃銃で、大したダメージを与えられないのだ。スキュラの耐久力が如何に狂っているかがよく分かる。

凄まじい咆哮。

ほどなく、霧を斬り破って、スキュラが突貫してくるが。

同時に三城がライジンを叩き込み、一匹目の頭に直撃。今の霧から飛び出してきた瞬間に、リーダーが撃ち抜いた弾痕にピンホールショットを決めていた。三城もなかなかに人間離れしている。

それでも死ななかったスキュラだが、柿崎が唐竹にたたき割ってとどめ。

これで一体。

殆ど間髪入れず、毒液が飛んでくる。だが、既にリーダーが一華に指示を出していて。エイレンVで受け止める。このスキュラの遠距離毒液は、正直そこまでの火力ではない。奴の最も危険な攻撃は、体から噴出する毒ガスだ。

リーダーが。霧の中に何の躊躇もなく発砲して、それで当てている。数発喰らって、流石に頭に来たのだろう。スキュラがまた、突撃してくる。

だが今度は、一糸乱れぬ動きでスプリガンが射撃。数の暴力で足を止められたスキュラに、更に一斉にケブラーが弾丸を叩き込む。

更にもう一匹が来る。今度はエイレンUが対応して、収束レーザーを撃ち込み。動きが止まった所に、弐分がデクスターを至近から連続して打ち込む。

既に二匹目は倒れている。三匹目は暴れ、山県少尉が潰されそうになったが。

山県少尉は酔いどれとは思えない動きで飛び退くと、サプレスガンを叩き込み。近距離での使用に特化したショットガンで、化け物そのもののスキュラにとどめを刺していた。

霧が薄れてくる。

だが。霧が薄れてくると、却って絶望が拡がる。

一斉に此方を見るのは、高機動型アンドロイドだ。さらに、スキュラ数匹も、此方に反応していた。

上空からも来る。

タッドポウルである。それも、厄介な大型もいるようだった。

「スキュラの守備隊と思われます。 迎撃してください」

「くっ、数が多いぞ!」

「一華、大型のタッドポウルを最優先で。 他は三城、片付けてくれ」

「了解ッスよ」

大型はタフネスが異常で、生半可な攻撃では落とせない。スプリガンに被害を今はあまり出したくない。

さがりながら、ケブラーが高機動型とタッドポウルに猛射を浴びせ始める。凄い音だ。これは幾らサイレンでも起きるのではないのか。

乱戦が始まる。

高機動型アンドロイドはまだ街が残っている状態では厄介だ。スプリガンがかなり善戦してくれているが、AFVの守備隊になっている兵士達は大苦戦している。エイレンは残ったスキュラの相手で手一杯。

スキュラが突貫してくる。

その時丁度、一華は上空の大型タッドポウルを収束レーザで叩き落とした瞬間だった。

対応が間に合わない。

だが、柿崎が横腹を一閃で斬り裂き。

更に頭上から襲いかかった三代が、ファランクスで決死の接近攻撃を実施。スキュラを焼き切っていた。

だが、高機動型のバリスティックナイフが多数飛んでくる。全ては避けきれない。

弐分が前線で暴れてくれているが、それでも防ぎきれない。多数が直撃。一部は三城や柿崎もかする。

エイレンVも、集中攻撃を受けていて、ダメージがどんどん蓄積して行く。かなり状態が良くない。

視界の隅で、ケブラーが一両、スキュラの突貫で吹っ飛ばされた。

戦車をひっくり返す奴だ。歩兵戦闘車の車体を使っているケブラーでは、それは吹っ飛ぶだろう。

「AFVを吹き飛ばしやがった!」

「化け物だ! 手におえねえ!」

「距離を取りつつ射撃を集中しろ! 逃げた奴から狙って来る!」

「そんなこといったって! ぎゃあああっ!」

踏みつぶされる兵士、間に合わない。

一瞬遅れて、レールガンを叩き込んでやる。スキュラの頭に大穴が開き。ぐらついた所に至近距離から数両のケブラーが集中砲火を浴びせる。

激しい戦いが三十分ほど続き。

味方の被害も増え。

しかしスキュラの駆逐はどうにか完了。だが、そこまでだった。

凄まじい雄叫びを上げて、サイレンが跳び上がる。傷が塞がっているようには見えないが、それでも危険と判断したら目を覚ますのだろう。

まあ、眠り始めたらてこでも起きないというのなら。流石に生きていけない。

ましてやサイレンは眠りが回復に直結している様子だ。眠りが弱点なのは、本能に刻まれているのだろう。

「くっ……時間切れか!」

「恐らくですが、周囲の戦闘音よりも、これ以上のダメージを避ける為に本能的に起きたのだと思われます。 この様子では、もっと大きなダメージを与えないと、同じ作戦は実施できないかも知れません」

「くやしいが、どうにもできそうにないな。 スプリガン! 村上班! 周囲の敵を掃討しろ! サイレンに対してはいかせろ。 これ以上ダメージを与える術が存在していない」

「……」

ジャンヌ中佐も悔しそうだが、仕方がない。

サイレンが飛び去っていく。今度は太平洋に向かうようだ。

手酷く傷を受けたとは言え、まだ余裕はある。それに、飛んでいるうちに傷も回復していくだろう。

サイレンを舐めていた。

その結果、というわけだ。もっとダメージを与えないと、恐らくは完全に動きを止めることは出来ないだろう。

一華も周囲の敵を蹴散らす。上空のタッドポウルはあらかた片付いたが、問題は高機動型だ。

それに、恐らくだが。サイレンを攻撃されたことに対する報復のつもりなのだろう。更に敵が集まって来ている。

「海から追加で怪物出現! 近場にいた怪物が集まって来ている様子です!」

「村上班、スプリガン、戦闘続行は可能か!」

「何とかやって見せます」

「頼むぞ! くそっ、サイレンめ……必ず撃墜してやる!」

千葉中将も、珍しく苛立っている。

まあそれもそうか。

好き勝手に空を飛び、やりたい放題に蹂躙していく。そんな相手に、気分が良い訳もなかった。

 

スプリガンと一旦東京基地で別れる。

どうにか小笠原での戦闘は勝った。だが、被害も少なくなかった。スプリガンの隊員も数名がかなりの手傷を受けていた。

そんな中でも生き延びたゼノビア少尉とシテイ少尉は流石だ。二人とも、かすり傷も受けていない。

ただ、露出の多い服だから分かる。

やはり二人とも、今までの戦闘で相当な古傷を受けているようだった。

リーダーが、三城をはじめとした手傷を受けたメンバーに、軍医に行くように指示。ジャンヌ中佐も、間近でリーダーの実力を見て、疑いはなくなったようだ。これでこの周回でも、上手くやっていけるだろう。

リーダーは少佐に昇進だそうだ。

ここしばらくの戦闘での結果である。荒木軍曹も中佐に昇進したようだから、それ待ちだったのかも知れない。

いずれにしても、ストームチーム結成の話が出てくるのだ。

そろそろ、敵も本腰を入れてくるだろう。

その前にサイレンをどうにかしたいが。

厳しいかも知れない。

リーダーが来る。

「一華、話がある」

「何ッスか」

「……どうやら、例の派閥抗争の件。 今回の対サイレンの結果を見て、バスターの使用が決定したそうだ」

「バカッスか? そいつら」

熱兵器は効果がない。吸収されている節すらある。

その説明はしたし、証拠映像だってあるはずだ。

それなのに、究極の熱線兵器とも言えるバスターを使う。それも自分の派閥の力を伸ばすために。

戦況が良いから、こういうアホが生き延びている。

なんという皮肉だろう。バスターを考案した一華としても頭が痛い。ましてやバスターは、一度敵の首魁に致命打を入れている。そういう意味でも、二度通じるとは思えない。プライマーはそう甘い相手では無い。少なくとも今の司令官は。

しかしながら、歴史を一華も調べている。

こういった例は、過去にもいくらでもある。権力を得るために、世界を滅茶苦茶にしてもいいと考える人間は一定数いる。大量虐殺でも平気でやる。しかもそれが知識があるはずのインテリだったり、自称現実主義者だったりするのだからタチが悪い。

「悪いが、もうこれはどうにもできない。 グラウコスはもう生物の領域を逸脱した存在だ。 あれを倒せる手段を、今のうちに考えておいてほしい」

「了解ッス。 下手をすると、準備しているチラン爆雷全弾をぶち込んでも死なないかも知れないッスよ」

「その場合は……まだ生きているなら俺が殺す」

「……」

呆れたが、ともかくもう他に方法がない。

被害が増える。

それを、覚悟しなければならない。

それも、愚かしい人間の派閥争いの結果で、である。

いや、元々そうだったか。プロフェッサーがこれだけ苦労しているのも、ある意味参謀が意固地になって権力をガチガチに固めているからだ。

そう思うと、一華は例えこの戦争に勝てたとしても。明るい未来があるとは、とても思えなかった。

 

2、拡大する二次被害

 

サイレンによる被害が増え始めていた。

サイレンは明らかに気まぐれに行動して、全く予想できない行動でEDFを翻弄した。何とか無人機が監視できている時間もあるが、ドローンが守るようになってからはそれも厳しくなり。

監視衛星にもジャミングが掛かるようになってからは、もはやサイレンの行動は予測不可能になった。

弐分は何もできない。

とにかく、EDFが早期警戒をして、発見できればいいが。

そうでなければ、間に合わない事がしょっちゅうだった。

ともかく。サイレンに蹂躙された北米の一角に出向く。軍すら間に合わず、市民は何とか避難したものの、街は殆ど瓦礫と化していた。

エルギヌスやアーケルスは、バルガが実戦投入されたことで、かなり効果的に撃退出来るようになりはじめた。アーケルスさえ、撃破例が出始めている。

それに対し、サイレンは移動速度が早い上に、敵がドローンなどを使って守っている。電子戦機であるインペリアルも敵はサイレンの護衛に狩りだしてきており、とてもではないが捕捉しきれない。

それで被害が増える。

丁度北米に来ていた弐分は、村上班の皆と共に現地に向かい。そして間に合わなかった事を悟った。

それだけではない。此処を拠点にしようと、近くに出現した敵大型船から、わんさかアンドロイドとドローンが投下されたというのだ。

それを撃退しないとならない。

一度敵に拠点を作られると、非常に厄介だ。

それは今までの周回で、身に染みて知っている。村上班などが出向かないと、奪回は困難だろう。

何とか間に合ったウィングダイバーとレンジャー、フェンサーの部隊と合流する。

兵士の練度はまだ保たれているが。

EDFも義勇兵を募集し始めたと聞く。

やはり、熟練兵がどんどん倒れていることもある。

戦況が良いと言っても、あくまで今までの周回に比べてマシと言うだけであって。やはり被害は少なくないのだ。

「此方スカウト。 敵は混成部隊。 アンドロイドは確認されている全種、ネイカー、ドローンもタイプワンからタイプスリーまでが混合。 全てがひとまとまりになり、進軍してきています」

「よし、すぐにその場を離れてくれ」

「分かりました」

大兄は少佐に昇進。この場の指揮を任されている。

この間の戦闘でサイレンを逃がした事が失点になったわけではないが。それでも、何だか戦略情報部の内部で大兄を軽く見る派閥が出来はじめているらしく。来る情報が遅くなったりしているようだ。

今まで散々アンノウンを倒して来たのに勝手なものである。

とはいっても、死ねとは言えないのがつらい。

人員が本当にいない末期戦を何度も経験してきているのだ。

「ネイカー対策に、自動砲座とデコイを仕込みますぜ」

「頼むぞ」

「我々は……」

「まずはネイカーを仕留める。 以降は大型のブラスターに注意しながら、空中戦を挑んでほしい」

不安そうにするダイバー部隊に、大兄が指示をしている。

木曽少尉はかなりなれてきている様子で、せっせとミサイルを準備していた。柿崎は、サイレン戦では出番があまりない事もある。今日は鼻歌交じりに、手持ちの妖刀を整備していた。

弐分の所にも新作の妖刀が来た。

電刃刀の改良型だ。

更に射程距離が伸び、殺意全開の形態変化をする現在の人斬り包丁である。

とりあえず、今回の戦闘で使い心地を試す。

今回の戦闘では、ガリア砲は恐らく必要ないだろう。デクスターとスパインドライバー。電刃刀と後は任意で装備を切り替える形でいい。

そう判断して、弐分は装備を編成。結局電刃刀と、改良型のブラストホールスピアにした。

これはグリムリーパーと連携戦をする時のためである。

三城もプラズマグレートキャノンと誘導兵器に装備を切り替え。

後方から到着したのは、戦車隊とケブラーだ。数は、残念ながらそれほど多く無かった。

「ベア8、現着! 他の増援部隊は、まだ後方にいる」

「戦力の逐次投入になりそうで不安だが、仕方がない。 周囲に展開してくれ」

「了解。 しかし酷い有様だ」

「ああ。 サイレンの凄まじい破壊力がよく分かる。 まだ殆ど生態がわかっていない怪生物だ。 悔しいが、どうにもできん」

これでスキュラまで呼ばれていたら最悪だったが、幸いそれだけはなかった。

戦車部隊が展開している内に、ネイカーがドローンと共に来る。敵の前衛を務めるアンドロイド部隊も、見え始めていた。

「木曽少尉」

「はい!」

木曽少尉が、大量の高高度ミサイルを叩き込む。

同時に、突っ込んできたドローン部隊を、ケブラーが迎撃。叩き落としに掛かる。だが数が多い。

他の兵士にも、当面は対空戦闘を指示。

大兄は、ライサンダーZで厄介な大型アンドロイドの狙撃を開始。柿崎は前に出る。ネイカーが、デコイに反応。口を開いては、自動砲座に撃破されていく。だがそれでも一定数が来る。その一定数を、柿崎はプラズマ剣で切り伏せていく。

敵の数は多い。

弐分も突貫。三城がプラズマグレートキャノンを叩き込んで、多数の敵をまとめて爆破するが。

それでも倒し切れるものではない。

まずは電刃刀を試す。切れ味は上々か。数度斬るだけで、厄介な大型アンドロイドが粉々になる。

装備を切り替えて、移動しながらアンドロイドをいなし撃退して行く。

戦車部隊が攻撃を開始。

敵が次々に吹き飛ぶが、戦車隊が足りていない。じりじりと押され始める。そして、破壊された町が、更に蹂躙されていく。

此処にも生活があっただろうに。

敵にミサイルが次々降り注ぐが、怖れている様子がない。

ダイバー部隊がマグブラスターでドローンを叩き落として行くが。ケブラーの撃破分とあわせても足りない。

フェンサー隊は盾になっているが、アンドロイドの攻撃が苛烈で、防ぎきれない。

大兄が大型を次々に確殺していても、それでもなお敵が多すぎるのだ。

大兄が倒し切れない分は、弐分がやるしかない。

接近して、ブラスターを放っている大型の側面から背後に回りつつ、デクスターを浴びせて粉砕する。

勿論大量にアンドロイドが寄ってくるが、上空に出て。真下に電刃刀を振るう。衝撃波がでる仕組みになっていて、撃ち出されたバリスティックナイフは全て弾き飛ばすことが可能だ。

戦車の一両が擱座するのが見える。

フェンサー隊の一人が、防ぎきれずにブラスターの攻撃で吹っ飛ぶのが見えた。

味方増援。兵士達が展開して、射撃開始。

あの車両は、確かMLRSの強化版であるネグリングか。どの周回でも、あまり見かけないが。

今回は、珍しいところで見る事になった。

「ベア2現着! ネグリングがいる! 攻撃を開始する!」

「ネグリング、ドローンの相手はケブラーで充分だ。 アンドロイドを狙ってくれ!」

「イエッサ!」

ネグリングが大量のミサイルを中空に放つ。

それは中空でいきなり軌道を変えると、地面に降り注いで無慈悲にアンドロイドを叩き潰していった。

ネグリングの周囲には、大型のシールドをもったフェンサーが展開している。

ネグリングのもろさは、仕方が無い事として周知されているのだろう。

だから、フェンサーでガードするというわけだ。

戦車隊も攻撃を開始。擱座している車両を庇いながら、戦線を補填。敵は次々来るが、それでもどうにか戦況が拮抗し始める。

キャリバンが来て、負傷者を乗せていく。キャリバンに容赦なくブラスターが着弾するが、流石要塞救急車。耐え抜いて、戦場を離脱していく。

後方に、工兵部隊が前哨基地を作っている様子だ。どんどん補給車が来る。

「敵、更に来ます!」

「擲弾兵はつるべ打ちにして接近を許すな。 他のアンドロイドは俺たちで対応する」

そう、擲弾兵だ。

かなりの数が来ているが、擲弾兵にどう対応すれば良いかは既に分かっている。射撃を開始する戦車隊。

既に戦車隊の射撃プログラムは相当に改良されていて、かなりの距離から擲弾兵のもつ凶悪な爆弾をピンポイントで撃ち抜く事が出来る。

敵が派手に爆発していく中。

三城が更にプラズマグレートキャノンを何度もたたき込み、アンドロイド部隊を叩き潰す。

ケブラー隊がさがって、弾薬を補給。兵士達がその分、上空のドローンを相手にする。

「三城、支援してやれ」

「わかった」

三城が誘導兵器を補給車から引っ張り出し、上空に支援射撃開始。ドローンが態勢を崩し、次々に叩き落とされる。

一華のエイレンVが無言で前に出ると、レーザーでアンドロイドを斬り裂き始める。それにしても、きりがない。

既に大型船は去ったという報告だが、テイルアンカーを投下されていないだろうな。そう弐分は疑ってしまう。

だが、スカウトが命がけで持ち帰ってきた情報だ。

頭ごなしに、否定する訳にもいかなかった。

「更に来ます! タイプスリードローンです!」

「ケブラー、補給を急げ!」

「此方ベア4、現着!」

戦車隊が来る。戦車隊が更に展開して、火力を集中。敵も更に増えるが、戦車隊はある程度の数が揃うと、相互リンクシステムを生かして互いの死角をカバーできるようになる。また、ベア4部隊にはケブラーもいて、タイプスリーに対応を出来るようになりはじめる。

物量が充分にあるうちに、テレポーションシップを叩き落としたことが効いている。

各地の基地や工場がどれだけ救われたか分からない。

前周だったら、こんな味方戦力とともに戦う事はほぼなかっただろう。重要局面でもないのに、だ。

補給をしていたケブラー隊が戻った事で、対空優勢は決定的になった。

重装甲のタイプスリーとはいえ、ケブラーは天敵だ。更に鬱陶しいのは大兄が落としてしまう。

前衛で柿崎と共に弐分が暴れ回ればそれでいい。

更に、である。

敵の一部が消し飛んだ。

戦闘開始前に仕込んでおいたC90A爆弾が炸裂したのである。

敵が通るときは敢えて放置しておき。そして今、キュクロプスを含む敵の主力が通過しようとしたとき。

大兄が、起爆したのだ。

それで戦闘の決着はほぼついた。

「よし、残りの部隊は基地に戻ってくれ。 現状の戦力で敵の残党を駆逐する」

「了解」

「流石は村上班。 被害は最小限、敵のダメージは最大限だな」

「こんな部隊が仕留められないサイレンってのが途方もなさすぎるってはなしだな……」

兵士達がぼやいている。

ともかく、今は残敵を相当する。

最初に突貫してきたネイカーを効率よく駆除できたことで、かなり戦闘を有利に展開することが出来た。

今も少数のスーパーアンドロイドが来ているが、それも接近前に集中攻撃で仕留めてしまう。

やがて敵は全滅。

大兄が、銃を下ろしたのを見て、弐分も戦闘態勢を解いていた。

「負傷者から後退してくれ。 最後まで、俺たちがこの辺りで警戒に当たる」

「感謝します。 英雄とともに戦えて光栄です」

「ありがとう。 戻ってくれ」

兵士達を戻らせ、警戒を続ける。また敵の増援が来る可能性もあるからだ。

山県少尉が、エイレンVの応急処置をしている。乱戦の中で、結構バリスティックナイフを喰らったのである。

エイレンVが受けていなければ、戦車が何両か大破していただろう。

それを思うと、仕方がないダメージだ。

電磁装甲を一旦切って、だいたいの修理をしてしまう。

山県少尉は、本当に裏方向けなんだなと、見ていて思った。

弐分はその間に、木曽少尉を連れて周囲を確認して回る。ミサイル主体で戦闘する木曽少尉は動きが若干鈍いが、ブースターもスラスターもしっかり使える。装備にまだ若干振り回されているが。

それでもフェンサーの適正は高い。

ジャンヌ現中佐の判断は正しかった、という事である。

無線が入る。

どうやら、プロフェッサーが戦略情報部の少佐と話しているようだった。

「今回の敵の行動は陽動だ。 恐らく今頃、敵軍本隊がまだ避難が完了していない都市を狙って動いている」

「戦略情報部はどの部署にも干渉されない独立部署です。 貴方に指示を受けるいわれはありません。 だいたい何を根拠にそのような事を」

「今までの敵の動きをデータ化してある。 敵の司令官は有能な人物で、確実に一石で二つ三つの効果を狙ってくる。 村上班を引きつけたのは、本命の攻撃を成功させるためだとみていい。 急いで部隊を派遣してほしい」

「根拠のない妄想です。 まだ開戦から半年程度しか経過していないのに、統計などと……」

呆れた様子の少佐だが。

あんたよりも、プライマーについてはこっちの方が良く知っている。

大兄が、成田軍曹に助言している。

「成田軍曹。 俺もプロフェッサー林の言葉は正しいと感じる。 俺の部隊だけでも、現地に行く許可がほしい」

「し、しかし……」

「現地にはまだ十万以上の市民がいる。 強襲を受けたら恐らくその大半が殺される」

成田軍曹はうっと呻いて。

そして、プロフェッサーの提出したデータを見たようだ。

ほどなくして、会議が始まったようである。

プロフェッサーの言葉だけでは駄目だ。

実績を上げている村上班が口添えしないと厳しい。

そう判断したのだろう。大兄は。

一度、大型移動車に引き上げる。黙々と長野一等兵が、整備を始める。

まだ、悔しいが動けない。

かなりの独立行動権を貰っているとは言え、今かなり面倒な状況なのである。サイレンを逃がしたという事で、五月蠅い連中が騒いでいる。バスターを使用してサイレンを仕留め、自分の発言権を増そうとしている。

収束衛星砲であるバスターを喰らうと、恐らくサイレンはグラウコスに転化してしまうだろう。

それは止められないとしても。

何とか、市民の命は守り抜かなければならない。

十分後。

戦略情報部の少佐が、連絡を入れてきた。

「村上班。 念の為、指定の位置に移動してください。 スカウトが先行しています」

「了解」

「もしも敵の襲撃が本当のようならば、周辺にいるメイルチームを向かわせます。 予想通りであれば、この襲撃はかなり大規模になる筈です。 持ち堪えてください」

「分かっている」

大兄が、無線を切って舌打ち。

尼子先輩が、車を出した。

「例の頑固な少佐かい?」

「ええ、そうですよ。 何者か分かりませんが、本当にいつもいつも頑迷で困らされています」

「それでも、一応話は聞いてくれたんだろう?」

「プロフェッサーの言葉だけでは絶対に聞かなかったでしょう。 俺が口添えしてやっと動くとは……」

大兄が呆れている。

まあ、それもそうだろうなと弐分は思った。

装備を切り替えておく。

今度は電刃刀から、ガリア砲に。恐らくだが。大型船かテレポーションシップが奇襲には用いられるはずだ。

テレポーションシップは撃破のノウハウが既に確立しているが、それでも歩兵だけで落とすのは村上班や後のストームチーム以外には難しい。

まだある程度の精鋭がいるのだが、それでも厳しいだろう。

大型輸送ヘリが先回りして来ていたので、大型移動車ごと乗り込む。

そのまま、現地に全速で急ぐ。

途中、ドローンを見かけたので。大兄が対物ライフルで全部落としてしまう。風がバタバタ吹き込んでいる中、余裕で落としていく様子を見て、ヘリのパイロットが呆れたようだった。

「ファイターの護衛がいらないなこれは……」

「現地に急いでください」

「分かっている」

待ち伏せのポイントは山奥だ。

恐らく、サイレンへの攻撃作戦……つまり最強最悪の怪生物出現まで、それほど時間がない。

プライマーは相当に前倒しで、作戦を実行し続けている。

開始半年でのダメージを此処まで抑え込まれたのは、或いは初めてなのだろう。

だから躍起になっているのか。

いや、そうとは思えない。

どういうことだろう。

一華にどういうことなのか軽く聞いてみる。少し考えてから、一華は仮説だがと割切って、応えてくれる。

「敵が未来から来ているのはほぼ100%確定として。 それを前提に仮説を立てると、恐らく未来が偉いことになっていると思っていいッスね」

「未来が?」

「そうでなければ、恐らく何千万年も前だろう文明に、全力で干渉しにきたりはしないッスよ」

それもそうか。

一華とプロフェッサーの話は聞いたことがある。

プライマーがもしも自然発生するなら、どう考えても数千万年は後の太陽系だと。

そんな時代に人類がまだ地球にいるとは考えにくい。

滅んでいるか、とっくに外宇宙に去っているだろう。

確かに、一華の言葉には説得力がある。

そうなると、敵が格下の文明を躍起になって絶滅させようとしているのにも説明がつくというものだ。

だが、何がどうしてそんな後の文明に致命的な影響を与えるのか。

これがわからない。

程なく、ヘリが着陸。

そのまま、移動を開始する。山奥だ。敵が通るにしても、待ち伏せが出来るだろう。

既に来ていたスカウトが、不審そうに出迎えてくれた。

「噂に名高い村上班が、こんな山奥に何をしに来たのですか?」

「……なるほどな」

「?」

「恐らく主戦場はあの辺りになる。 怪物が周囲から大量に押し寄せる。 すぐに総力戦の準備を」

村上壱野少佐が、怪物じみた勘の持ち主だと言う事は聞いているのだろう。

誰も馬鹿にせず、すぐにエイレンのバックパックにスカウトは集まって、重装備のショットガンに切り替えた。

さて、此処からだ。

プロフェッサーはあまり軍事に明るくない。

そうなると、今までのプライマーの作戦行動を全部覚えていて。その中から、今回の作戦ににたものを見つけ出したのだろう。

敵としても、戦略的に確定で決まる作戦だったら、なんどでも使い回したい筈だ。

損害が村上班によって著しく出ているのだから。

指示通り、周囲に伏せる。

柿崎は無言で、周囲に生えている雑草を伐採。ある程度、視界を確保していた。

手をかざして周囲を確認していた大兄が、顔を上げる。

そして、促していた。

「来るぞ。 かなりの大艦隊だ」

「!」

「本当だ……!」

兵士達が呻く。

テレポーションシップ、およそ二十隻が見え始めていた。低空飛行で、レーダーを避けるようにして飛んできている。

大兄が、無線を入れていた。

「此方村上班。 敵を発見。 大艦隊だ」

「此方でもバイザーの映像で確認しました。 すぐに援軍を送ります。 持ち堪えてください」

「了解」

成田軍曹が応じたので、短く大兄は通信を終える。

そして、三城に指示する。

「ライジンを用意。 すぐに叩き込んでくれ」

黄金の装甲は普通にフーリガン砲で喰い破ることが可能だ。爆撃などは全く通じなかったが、一点集中で大火力を入れ続ければ破壊する事は不可能では無い。あくまでダメコンをほぼ完璧に行える装甲と言うだけであって、核なら通じるし、ライジンを含めた大火力兵器の集中投射には無敵でも何でもない。

ライジンが直撃すると、低空飛行をしていた敵艦隊が止まる。

そして、大量の怪物を投下し始めた。

戦闘開始だ。

テレポーションシップのこの数、かなりの規模の敵艦隊である。もしも素通ししていたら、狙われた街は全滅だっただろう。

此処で食い止めて、逆に全滅させる。

そのためには、ある程度の被害は、覚悟の上だった。

 

3、思い通じず

 

プロフェッサー。先進科学研主任技術者林は、呼び出しを受けていた。呼び出された先は、東京基地の千葉中将の部屋。

実は、プロフェッサーはあまり千葉中将と面識がない。

既に、作戦は開始されていた。

怪物の大軍勢を相手に、村上班が大立ち回りをしている。既に数隻、テレポーションシップを落とした様子だ。

更にメイルチームが参戦。

多数の歩兵が戦場に突入し、敵との大乱戦を行っている。

当然この規模の戦闘だと兵士の被害は覚悟しなければならないが。

何しろ村上班の活躍が凄まじすぎる。

また、テレポーションシップが落とされたようだった。

「お目通りを許していただき、光栄です」

「そうかしこまらなくてもかまわない。 君が開発してくれた兵器のおかげで、どれだけの兵士が助かったかわからないのだ」

「ありがとうございます」

「それで、戦略情報部から連絡が来た。 君が介入をしてきたとね」

介入か。

確かに、そうなるかも知れない。

だが、此処で決定的なくさびを打ち込まないとまずいのだ。

今、人類はサイレンに対して取り返しがつかない事をしようとしている。サイレンがグラウコスになってしまうのは、歴史の修正力の結果であり、どうしようもないのかも知れないが。

しかしもしもそれが食い止められないのなら。

バスターを使ってサイレンを倒し、権力を更に強化しようと考えたアホ共を一掃して。

村上班が動きやすいように、色々とお膳立てをしなければならない。

グラウコスを倒そうという時に、まだ権力闘争が続いていたら、はっきりいって人類は負ける。

リングが到来するまでもたないかもしれない。

実際問題、プライマーの司令官は明らかに攻撃を苛烈に前倒しにしてきている。

グラウコスが誕生する事になったら、それこそその事実を最大限に生かしてくるだろう。各地の機甲戦力は壊滅させられる。

そうなったら、結局人類は負ける。

だから此処で。

千葉中将にも、コネを作っておかなければならないのだ。

「村上班と君達には何かコネがあるのかね。 戦略情報部の調査によると、時々連携して動いている様だが」

「……」

そうか、そんな事まで調べられていたか。

あの参謀は頑迷な人物だが。流石戦略情報部という他は無い。

流石に暗号化した個別通信まで聞かれてはいないだろうが。まあ村上班向けに作った武器は一つや二つでは無い。

関係を察知されるのは、当然だろう。

「私は勝つために動きたい。 聞かせてくれるか」

「閣下の想像の通りです。 私は村上班とは関係があります。 彼らの戦闘力は知っての通りですが、私はある事からそれを知りました。 以降はこの戦争に勝つために、兵器開発をしています」

「なるほど、そういうことか。 その理由は話せないようだな」

「申し訳ございません」

話しても、信じて貰えるとは思えない。

まだ、実績が足りないのだ。

だが、一つ予言はしておかなければならない。

「閣下。 一つ重要な話がございます」

「なんだね」

「サイレンにバスターを使ってはなりません」

「……熱を吸収する能力を持っているという話は聞いている。 だがバスターは、物質を即座にプラズマ化するほどの熱量を長時間投射する。 どのような生物だろうが、熱を吸収しきれるとは思えないが」

そう固定観念を持つことが危険なのだ。

説明してから、咳払い。此処で、千葉中将を説得しても無駄だ。バスターの利用は、かなり大きな軍内の派閥が決定している。千葉中将だけが今更反対しても、それを止めさせるわけにもいかないだろう。

「サイレンは熱攻撃を吸収する性質を持つため、バスターを利用した場合とんでもないことになるでしょう。 私のこの発言は、戦略情報部にも伝達済です。 閣下も覚えておいていただきたく願います」

「……分かった。 だが、他にサイレンを倒す方法があるのかね」

「現在開発中のチラン爆雷があります。 閣下もご存じかも知れませんが、コスト面には問題があるものの、これで殺せない生物は存在しません。 ただし、サイレンがバスターの熱を吸収した場合は……分かりません。 恐らくバスターの熱を吸収したサイレンは、人類は初めて目にする文字通りの超生物……怪生物をも超える、神話の怪物と化すでしょう」

チラン爆雷は、現在三十発が既に生産ラインに乗っている。

試作品は実験で使われ。エルギヌスを仕留める事に成功した。

ただし、この試作品一発でとんでもないコストが掛かっている。そのため、軍では大量使用に及び腰になっている。

更にこのチラン爆雷は非常に重いこともあって、射程距離も短い。もしもサイレンがグラウコスに転化した場合。

打ち込むのは、本当に至難の業になるだろう。

「分かった、覚えておこう。 他に何か言いたいことはあるかね」

「できるだけ急いで兵士の増強をしてください。 恐らく、戦況は今後更に苛烈になると思います」

「それについては、此方でも検討はしていた。 分かった。 少なくとも日本では対応を開始しよう。 総司令部にも声を掛けて対応の指示を仰ぐ」

「ありがとうございます」

一礼すると、千葉中将の部屋を出る。

先進技術研に戻ると、幾つかの兵器の試作をしていた。エイレンWについては、既にガワは出来ている。

ただし、まだ動かすためのデータが決定的に足りない。

凪一華くんだったら動かせる可能性は高いが。

量産出来なければ意味がないのだ。

更に、バンカーにある巨大な姿。

プロテウスである。

文字通り、EDFの切り札。現在エイレンVの歩行データを必死に集めて、このエイレンの二倍も背丈がある巨大な鉄の戦闘機械の歩行システムの改良を急いでいる。

武器については、超強力な硬X線ビーム砲を備え。更にはミサイルを大量に搭載している。

単騎で数百から千の怪物を相手に出来る。

それをコンセプトに開発された、最強の兵器だ。エイリアンの大軍くらいなら、蹴散らすのは造作もない。

ただ、それでも雑魚に集られて、集中攻撃を受けると厳しいだろう。

そのために、随伴歩兵は必要だし。

軽快な歩行システムも、また必要なのだ。

急いでくれ村上班。

そうぼやく。

恐らく、もうサイレンが超生物に変化してしまうまで時間がない。

それを許した場合、EDFは大きなダメージを受ける事になる。今までは戦況を優位に保てていたが、それも過去の話になる。

可能な限り、グラウコスが出現してしまったら、迅速に撃破しなければならない。

そうしなければ、EDFは立ち直れなくなるだろう。

そうなったら全てが元の木阿弥。

リングが来るまで、雌伏しなければならなくなる可能性も高い。

すぐに、研究員から上がって来たデータに目を通す。

戦場での活躍は。

村上班に任せるしかなかった。

 

三城がライジンを叩き込み、テレポーションシップを爆沈させる。これで、八隻目。既に狂乱状態になった敵の艦隊は、大量の怪物を送り込みまくってきている。大兄も、全力でそれに応戦。

一華のエイレンVもだ。

山県少尉は辺りに自動砲座をありったけ撒き、更には上空から味方の支援を要請。既にDE203が飛来。何度も敵の群れに、急降下攻撃を行っていた。

メイルチームは既に到着している。

この数の怪物が、都市を奇襲する寸前だった。

それを聞いて、洒落にならないと判断したのだろう。

すぐに戦闘に参加。

流石に練度は低くない。怪物相手に、一歩も引いていなかった。

走りながら、ライジンをチャージ。

凄まじい速度で怪物を斬りまくる柿崎が視線の隅に映る。本当に楽しそうだな。そう思うと羨ましい。

楽しく空を飛びたいな。

そう、時々寂しく感じるのだ。

だが、今はそれどころじゃあない。

またライジンをぶっ放す。九隻目。大兄も小兄も、怪物の大軍勢を相手にするので手一杯だ。

そんな中、三城がやる。

テレポーションシップを落とし、敵の供給源を断つ。

敵の攻撃が掠める。どれだけ熟練しても、どうしてもこれだけは仕方がない。幸い三城はタッパがない。

その分被弾しにくいが。

その代わり、被弾したときのダメージも、決して小さくは済まなかった。

「後半分少しだ!」

「くそっ! 際限なく化け物を落として来やがる!」

「火力を集中しろ! 飛行型を最優先! β型、α型の順番に仕留めろ!」

「これが、放って置いたら街に乱入していたのか……!」

メイルチームにはあまり良い印象がなかったが、少なくとも此処にいる人達は頑張っている。

そういえばサイレンの発見も、メイルチームと組んで行ったんだっけ。

あれはあれで、ひょっとしたら政治的な云々が関わっていたのかも知れない。

そう考えると複雑だが。

ともかく今は、敵を一体でも倒し。

一人でも味方を助ける。

それだけだ。

ミサイルが周囲に着弾、三城を狙っていた怪物をまとめて消し飛ばした。木曽少尉だな。そう思いながら、走る。

ライジンをぶっ放し、十隻目を落とした。テレポーションシップが陣形を変えはじめる。これは本気になったなと思う。

恐らくテレポーションシップは無人船だ。

だから。攻撃を受けているとしても、そこまで複雑な作戦行動を取ることは出来ないのだろう。

かといって、侮れる相手では無い。

人間を包囲し、怪物を投下して地上を汚染。効率よく人間を殺す。

この点においては、自動機械で十分という事情もあるのだから。

周囲を包囲した輸送船が、回転を開始する。

「どうやら街よりも俺たちを殺す事に本気になったようだな!」

「面白い。 殺せるものなら殺してみろ怪物ども!」

「来るぞ!」

先の倍する勢いで、怪物が投下され始める。いわゆる発狂と呼ばれる現象だ。今まで何度も見てきた。

だが、この勢いで怪物を投下すると、テレポーションシップもテレポーションアンカーもオーバーヒートをおこすようで、長時間は続かない。

だから、一旦守勢に回る。

誘導兵器に切り替えると、大量のβ型を拘束。飛行型を落とすテレポーションシップは、既に全て叩き落とした後だ。

大兄を。

皆を信じる。

エイレンVが、かなり被弾している。皆の盾になっているのだから当然だ。それでも、一華の戦闘は鈍る様子もない。

柿崎は相変わらず楽しそうに敵を斬りまくっている。

敵の増援が止まる。

一瞬の隙を突いて、戦闘スタイルを切り替え。ライジンに切り替えると、走りながらエネルギーをチャージ。

十一隻目を叩き落とす。

十二隻目。

十三隻目。

手傷が増えていく。

それでも、止まるわけには行かない。更に二隻を落とした時、不意に変な歌が聞こえてきた。

陽気な歌だ。

この場所には似つかわしくない。

兵士達も、皆困惑している様子だったが。どうもEDFのバイザー全部だけではなく。多分全世界に流されているのだろう。

内容は、EDFへの加入を促すもの。

誰でも良いから来て欲しい。そういうものだった。

プロフェッサーから無線が来る。

「村上班、聞こえているか」

「はい。 今、残り七隻です」

「そうか。 私の方で今千葉中将に会ってきた。 出来るだけの事はしたつもりだ。 今の歌は、グラウコスから受けるダメージを少しでも緩和する為……出来るだけ早めに、兵員の補充をしてもらうために行動を開始して貰った。 そのための宣伝の歌だ。 まあこれから、金で釣るのだがな」

そうか。結局この世界線でも、義勇兵と称しながら強制的に人員を徴集するのか。これはその予兆。前倒しで行動していると言う事だ。

それも、今回は人間のせい。

プライマーは人間の馬鹿さ加減に小躍りしているだろう。

だから少しでも。

小躍りしている足を、食い千切ってやる。

更に一隻叩き落とす。その頃には、流石にメイルチームから、おののきの声が上がり始めていた。

「いきなり十一隻落としたとか言う話は嘘じゃないのか……」

「お、俺もプロパガンダと思っていた」

「まだ戦いは終わっていない! 気を抜くな!」

メイルチーム指揮官の大佐が怒号を張り上げる。ジープに乗って途中から駆けつけ、怪物の攻撃が飛び交う中余裕の様子で指揮を執っている。

少なくとも臆病者では無い。

それだけは事実だ。

更に一隻。

そして、いつの間にか残りは二隻になっていた。怪物も殆ど残っていない。だが、此奴らが街に出たら、どれだけの被害が出ていたか。それを考えると、周囲に散らばる怪物の残骸も。

破壊されて炎上しているテレポーションシップにも。

同情するつもりにはなれない。

呼吸を整える。全身が酷く痛むが、まだやれる。

そう思った瞬間。大兄が、三城の肩を叩く。

「よくやってくれた。 後は俺で始末する」

「最後までやりたい」

「その手傷だと後に響く。 これからが本番だ」

「……わかった」

力が抜けて、そのままへたり込んでしまう。

大兄が、怪物をそれこそゴミクズのように引きちぎりながら進んでいくのを、どこか遠くの光景のように見る。

大兄は余裕で二隻を叩き落とし。そして怪物は全滅した。

呼吸を整えて。

立ち上がり、深呼吸する。

やっと、これで一段落だ。だが、まだまだ絶望の時は終わって等いない。

 

基地に戻る。一旦軍医に掛かるように言われたので、そうする。ここのところ、手傷が増えている。

集中力が落ちているのかも知れない。

そう三城は思ったが、医者には意外な事を言われた。

「疲労がピークに達しています。 このまま行くと倒れるでしょうね」

「……」

「数日休みなさい。 貴方の班はただでさえ働き過ぎだ。 軍医の私から、連絡を入れておきましょう」

そう言われ、ベッドに直行。

何回か、今まで入院は経験があるが、これは悔しい。自分の体の事が、自分で想像以上に分かっていなかった事になる。

とりあえず栄養剤を点滴されて。三日間はそのままでいろと言われる。大兄とバイザーで無線による通信をする。

早速大兄達は、別の戦場で戦っているそうだ。

サイレンが現れた。

それも、村上班の出現を確認したかのように。

恐らくプライマーの狙いは、既に決まっているとみて良いだろう。バスターによるサイレンの強化だ。

だから、敢えてサイレンを疲れさせる。

サイレンはプライマーの制御も受けつけないように思えていたが。

ある程度、行く先などを指示するくらいの事は出来るのかも知れない。

大兄達は、北米の対空戦闘部隊と共に、サイレンと戦闘中だという。幸いと言うべきか。サイレンと三城の相性は最悪だ。

あいつは熱兵器が通用しない。

だから、三城の装備している兵器は殆どが使い物にならない。しいていうならプラズマグレートキャノンだが、あれは範囲攻撃に有利なのであって、デカブツを狙うのには適していない。

三城がいてもいなくても、サイレンとの戦闘はあまり関係無いだろう。スキュラも話を聞く限り、姿を見せていない様子だ。

「サイレンの撃退に成功。 味方部隊の損害も可能な限り抑えた」

「でもこれから……」

「ああ。 サイレンをしばらく追跡して、休眠まで追い込む。 三城、「その時」には、此方に来てくれるか」

「わかってる」

此処で三日も寝て過ごす事自体がはがゆい。

よりにもよって、どうしてこの時に。

それが、とても口惜しかった。

しばらく、悶々として過ごす。三日が兎に角長く感じる。大兄達は、サイレンを追跡して、何度も攻撃を加えた様子だ。

サイレンは寝なくても大丈夫のようだが。流石に手傷が増えてきたようである。軍医が時々怒る。

もう少し、きちんと休まないとずっと後まで響くと。

若いうちから体を壊すと、後が大変なのだと。

そう言われると、どうしようもない。

とにかく、今は休むしかない。

やっと軍病院を出ることが許されて、それですぐに皆の所に急ぐ。まだ交通網は生きているが。今回は作戦の為にそれなりの部隊が集められる。それに沿って、輸送車がでたので使わせて貰った。

移動中に、プロフェッサーから無線が届いた。

「村上班の皆、聞いているだろうか」

「此方壱野。 どうなりました」

「やはり駄目だ。 主に北米派閥の人間達が、バスターの使用を強硬に主張している様子で、私の再三の申し出は全て却下された。 戦略情報部には、私の事をそれなりに評価する人間が出始めている様子だが。 それでも、話は通らなかったようだ」

「バカにつける薬は無い。 人類が負けたら、権力も金も意味がないのに」

三城がそう呟くと。

大兄も、そうだなとだけ返してきた。

どれだけ良い大学を出ていても。家柄が良くても。バカはバカだ。名君の子供が暗君だった例なんか歴史上いくらでもある。むしろ名君が三代続くケースは殆どない。

文明圏を創設したような傑物の血統がそうなのだ。

どこにだってバカは産まれる。

血統主義なんてバカの思想だ。歴史がそれを証明している。案の定、北米派閥の連中は殆どが軍産複合体の重役の一族だったり、政治家を代々務めているような輩だったりするらしい。

金持ちが優秀だとか、誰が言い出したのか。

今、人類は。

そんな連中のために、最強最悪の怪物を産み出そうとしている。

「私はこれから、もう一度だけ作戦中止の申請をする。 君達は現地で、可能な限り味方の損害を抑えてほしい。 グラウコスが史実通りに暴れると、EDFは文字通り全滅する」

「分かりました。 サイレンに対しての戦術はある程度把握しました。 次は更に効率よくダメージを与え、味方への被害を抑えて見せます」

「頼む。 サイレンより桁外れに強くなるとしても、グラウコスにも同じ戦術は通じる筈だ。 今、これ以上戦力を失う訳にはいかない」

「了解です」

まだ敵はコスモノーツもクルールも投入してきていない。余力があるのだ。

それを考えると、グラウコスに虎の子の機甲部隊を潰されるのは文字通り致命的な事態を招く。

三城は用兵の専門家なんかじゃないが。

EDFと一緒にずっと戦い続けてきた。

その程度の事は分かる。

前も、無能な味方に。主にカスターに足を引っ張られたことはあった。だが、まさか勝ちうるこの世界で、こんな形で足を引っ張られる事になるなんて。

無能な味方の害がこれほどとは。

三城は、溜息をつかざるをえない。

ともかく、戦地に赴く。

苛烈に戦い。

敵の新兵器による被害を減らしてきたこともある。

怪物の多くは、既に対策マニュアルが作られ。ネイカーも市街戦では苦戦を強いられるにしても。基地などはネイカー対策を既にしており。コンバットフレームや自動砲座、デコイを用いた戦術で対策が浸透し始めた。

今苦戦を強いられているのはスキュラだが、それも多数での集中攻撃と、接近戦をとことん挑まない方針である程度は対抗できている。

後は、サイレンとグラウコスさえ何とかすれば。

勝ちの目が見えてくるのだ。

戦地に到着。

かなりの数の怪物がいて、アンカーを守っている。味方の戦力はなし。今回は、村上班だけの任務になる。

山県少尉がぼやく。

「とうとう我々だけでの任務が来始めやしたねえ」

「本来支援部隊が来る予定だったそうだが、バスターの使用に反対していると聞いた例の派閥が、嫌がらせをしてきている様子だ」

「し、信じられない……」

木曽少尉が呻く。

だが、柿崎は楽しそうだった。

「良いではないですか。 斬り放題。 更にこの戦力を村上班だけで対処すれば、嫌がらせをしている者達も、評価せざるを得ないでしょう」

「それもそうだ。 皆、気を引き締めろ。 間違っても……こんな戦いで命を落とすなよ」

「イエッサ!」

戦闘開始。

金のα型、銀のβ型の姿が見える。まずは定石通りアンカーから破壊していく事になる。

テイルアンカーがないのが幸いだ。それに、この部隊がサイレンを倒すための作戦に乱入してきたら、被害が増えるのも事実である。味方の支援部隊も、これだけの規模の敵が相手になると、被害は免れないだろう。

プラズマグレートキャノンで、接近してきた敵群を消し飛ばす。それでも倒し切れない相手は、置き石で設置されている自動砲座と、柿崎と小兄が対応する。

ミサイルを兎に角移動しながら木曽が撃ち、敵の陣形を乱しつつ。

山県少尉は戦況を見て、完璧なタイミングでウェスタ型爆撃機を呼ぶ。

ナパームが戦場に炎の柱を噴き上がらせ。

それに突入した怪物の群れが、焼け死んでいくのが見える。

エイレンVが前に出て、見た事がない装備を使う。

硬X線ビーム砲。

宇宙で起きる自然現象でも凶悪な破壊力を誇る代物を人為的に引き起こす兵器らしい。なんでも、エイレンの後継機として開発が進んでいるプロテウスという大型人型兵器の主力兵装として、現在調整されているものらしい。

プロテウスはエイレンの倍も体格がある巨大なコンバットフレームで。もうコンバットフレームを通り越してロボットである。

この硬X線ビーム砲は、プロテウスのものよりもかなり出力が落ちるようだが。

それでも怪物がバタバタ倒れていくのが見える。硬X線を収束させるのはかなり難しいらしく、試作兵器と言う事もあって、絶対に前には出ないようにとも指示が出ていた。

「此方成田軍曹。 アンドロイドの部隊が戦場に向かっています」

「了解。 全て片付ける」

「し、しかし」

「今回はウェスタの支援もある。 特に難しい事では無い。 それに……嫌がらせのつもりでこの作戦に村上班だけで対応させられているのだろうが、人類のために怪物やアンドロイドを倒しているだけだ。 気にする必要はない」

三城は大兄の言葉を尊敬できる。

だが、大兄にはなれない。

地面を吹き飛ばして姿を見せたのはマザーモンスターだ。ライジンに切り替えると、接近前に撃ち抜く。

それでも殺しきれないが、エイレンVの硬X線ビーム砲がとどめを刺す。マザーモンスターでもひとたまりもないか。

ただ、一華が後方にさがる。

「ちょっと燃費が悪すぎるッスねこれ。 プロフェッサーに改良を要求しないと駄目ッスわ」

「それが分かっただけで充分だ。 すぐにいつものレーザーに切り替えてくれるか」

「了解ッス」

「アンドロイドだぜ旦那。 とりあえず、ウェスタのナパームを置き石で降らせておくからな」

山県少尉が、すぐに動く。大兄も、そうしてくれと指示を任せる。

山県少尉は、酒をいつも口にしているが、村上班での待遇に関して不満を口にしている様子は一切ない。不平屋だと聞いていたが。恐らく村上班では、尊重して貰えるし、指示も的確だしで居心地が良いのだろう。

続けてウェスタによる爆撃で、アンドロイド部隊の侵攻路が盛大に大炎上する。

アンドロイドは流石に炎の壁を避けて接近して来るが、それは大きく迂回する事を意味していて。

迂回している間に大兄がバイクで仕込みをし。

そして迂回してきたアンドロイド部隊は、C90A爆弾の地雷原にモロに突っ込み。更に、自動砲座の十字砲火に引きずり込まれていた。

戦闘が終わるまで三時間ほど。

敵は全滅。味方に被害はなし。

プラズマ剣を振るって、嬉しそうにしている柿崎を横目に。大兄が戦略情報部に無線を入れている。

「此方村上班。 作戦完了した」

「この数をこの時間にですか!?」

「嘘だと思うならスカウトでも派遣すると良い。 それよりも、すぐに次の戦場を指定してくれ。 此方としても、少しでも敵を多く削っておきたい」

「わ、分かりました!」

成田軍曹が、慌てて作戦の調整を開始した様子だ。

もうサイレンの事は止められそうにない。ならば、少しでも。

敵の戦力を、削がなければならなかった。

 

4、暗闘

 

まだ人類の社交界は存在している。

後のEDF総司令官として見なされているカスター准将が出席しているのも、そういう社交界だった。

ただ、流石に今は主に地下の会場などで名士が集まって、好き勝手な話をする状況になっている様子だ。

流石に人類がエイリアンと総力戦の最中であり。

地上に安全な場所など一つもないことは、どれだけ頭が花畑であっても、理解出来るのである。

それが理解出来ない連中は、既に死に絶えた。

千葉中将は、その社交界にでていた。一応中将。それも国家司令官レベルだ。滅多に顔を出さないのだが。

流石に今回は、そうもいかなかった。

ダン中尉が、周囲を見回して、助言をしてくる。今回はわざわざニューヨークにまで足を運んだのだ。

もうサイレンへの「最終攻撃作戦」は間近に迫っている。

プロフェッサーの言葉を全て真に受けたわけではないが。

もしも、まだEDFに腐敗が残っているのなら。自分の目でしっかり確認しておかなければならない。

そう判断したからである。

「北米閥の軍人とそのバックにいる軍産複合体の要人だらけですね。 大陸閥の人間は殆ど見かけません」

「カスター准将は秘書官として地味な仕事ばかりしているはずだが、こういう所では別人のように社交的だな」

「あいつは食わせ物ですよ」

肝いりの一人であり、東京の守備作戦で何度も戦功を上げているダン中尉は呻く。

彼は肝いりとして、EDFの幹部候補としての教育を受けている。荒木軍曹などと同じである。

他にも肝いりの兵士は多くいるのだが。その肝いりにも、良くない噂が幾つもある。

こういった既得権益関係の連中からは、目の仇にされているともいう。

現在各地で活躍しているエースチームは幾つもあるが。

それが過酷な任務にやたらとかり出されるのは、この手の連中が敢えてやっているという噂があるはずだ。

つまりさっさと死んで貰って。

既得権益層の息が掛かった部隊に手柄を立てさせ。

そして自分達の権力を盤石にすると。

呆れて言葉も出ない。

今、人類は衝撃から立ち直り、反撃を開始している。テレポーションシップからまき散らされた怪物を主体とする戦力に、初日で多くの戦略基地が潰された。その状態から、村上班の活躍を主軸に、次々に投入されるアンノウンを撃破し続け。やっと此処まで押し返しているのに。

猟犬は用済みになれば煮られて喰われる、か。

こういう連中がうごめいているのを見ると、それが事実だと分かってしまって千葉中将も情けなくなる。

千葉中将も、一応この階級までやってきた人間だ。

相応に政治的駆け引きはして来たが。

それでも、今はそれよりも人類のための団結が最優先だと言う事は分かる。未だにこんな派閥争いをしているのは。

なんというか、前線で戦っている村上班に、なんとわびれば良いか分からなかった。

適当に来る人間に挨拶をしながら、周囲を回るが。どうも好意的な視線を受けてはいない様子だ。

中将クラスの軍人が参加を申し出て来れば受けない訳にはいかないのだろうが。

それでも、何をしに来た、という雰囲気である。

見ていると、露骨に陰口をたたいている連中もいる。

あれは実際には不快感が強いからではない。

仲間意識を確認するための行動だ。

猿のようだ。

呆れてそう思いながら、カスター准将の所に行く。名士に囲まれていたカスターは、気づいて敬礼してくる。

千葉中将はカスターより階級が二つも上の相手だ。内心がどうであれ、きちんと対応はしないとまずいと思っているのだろう。

カスターはハンサムな男で、この戦争がなければ総司令官の秘書官の立場から、政界に転身して。ゆくゆくは北米の大統領を狙っていたという噂もある。

見てくれがよければ票が集まる。

馬鹿馬鹿しい話だが、それが民主主義の現実だ。

世界政府が地球を無理に統合してからも、こういう矛盾は解消しきれていない。流石に世界政府による統一事業に反発して起きた「紛争」の残党は、もうプライマーに全部駆逐されてしまったようだが。

「これは千葉中将。 日本でのEDFの優勢は聞いております。 今日は忙しい中、来ていただきありがとうございます」

「今は戦時だ。 あまり長居は出来ない。 それに、こんなに贅沢をしていいのかね」

「たまには贅沢をしなければ心も貧しくなります。 それに、気晴らしがなければ何も上手く行かなくなりますものですよ」

「気晴らしというよりも、未来の権力の配分でも話し合っているように見えるがな」

そうずばり指摘すると、はははと笑いながらも、カスターは不快感を抱いたようだった。別にどうでも良い。

幾つか話をした後。村上班の話に入る。

「それにしても村上班の活躍は凄まじいですな。 荒木班が霞むほどです」

「どちらも素晴らしい部隊だ。 荒木班は現在欧州を中心に活動しているが、どの戦場でも粘り強く戦って、勝利を引き寄せている。 村上班は、どんなアンノウンが来ても生き残り、勝つための情報を集めてくる」

「しかしそんな村上班も、サイレンにはどうにも手が出ないようですな。 この間も取り逃がしたとか」

「あれは村上班でなくても、何処の部隊でも同じだっただろう」

ばちりと火花が散る。

カスターに誰かが耳打ち。頷くと、カスターは失礼と言って、その場を離れた。

そして、何かひそひそと集まって話をしている。

「戻るぞ」

「分かりました」

千葉中将は、この場を離れる事にする。

こんな時分にバカみたいなパーティをして、酒を浴びるように飲んで。未来の権力配布の皮算用をする。

バカの所業だ。

ここに来たのは、暗躍の中心になっているカスターと、その取り巻きについて調べるためである。

それがだいたい確認できた今、もう充分だ。

この間、プロフェッサーと話して幾つか分かってきた事がある。千葉中将は、あまりにもこういうEDFの負の側面に無関心すぎた。

存在は理解していたが、存在するのは仕方がないと思って諦めてきた。

だが、サイレンに致命的な兵器を使おうとしている今。

このバカ共を一掃するためにも、面子については覚えておかなければならない。

幸い。総司令官のリー元帥は有能な人物だ。

今回、此奴らが推進しようとしている作戦が失敗して、被害が拡大していけば。それで流石に膿出しに動くだろう。

もしも、戦況が悪かったら。此奴らはゴキブリが殺虫剤で駆逐されるように駆除されてしまっていたのだろうが。

それは軍人としては考えてはいけないことだ。

さっさと軍用機で東京に戻る。

「パーティーに出ていた人員は記憶したな」

「はい。 それに加えて、映像も撮っておきました。 後で分析が出来ます」

「よし……」

何人かの信頼出来る司令官に、先に話をしておく。

北米だとジェロニモ少将が良いだろう。

ジェロニモ少将も、こういう輩にはうんざりしているという話は聞いている。恐らくは、いざという時には一緒に動いてくれるはずだ。

ただ、気になる事もある。

「時にダン中尉。 先進技術研の林主任について何か知らないか」

「いえ。 恐ろしい勢いで新兵器を開発していて、それがいずれも優秀だということくらいしか分かりません」

「そうか。 村上班とどうやって彼が知り合った。 あまりにも接点がない存在だと思ってな」

「それは、分かりません。 ただ、村上班には基本的に実験兵器が優先的に廻されています。 あの戦闘力です。 失敗兵器であっても、使って生き残り、レポートを確実に出してきますからね。 その過程でコネが出来たのでは」

どうにもそうではないような気がする。

いずれにしても、急いで日本に戻る必要がある。

現在サイレンは北米を追いかけ回され。

バスターの射程に捕らえられようとしている。

今度眠ったときに、EMC数両を中心とした部隊で包囲し。致命的なダメージを与えて拘束し。

そこにバスターを打ち込むという作戦のようだが。

そもそも熱兵器が効かないらしいのに、EMCなんて熱兵器の極限を打ち込んで大丈夫なのか。

不安はつきない。

ただ、戦略情報部がその作戦の場に村上班、荒木班、スプリガンの支援をねじ込んだという話である。

それで、少しでも被害が抑えられればいいのだが。

サイレンが致命的な変化をして、更に強力になる可能性がある。

その話を聞くと、他人事では無い。

今のうちに、幾つか手を打っておかなければならない。あくまで、今の時点では転ばぬ先の杖だが。

「調べて貰っていた、例の情報はどうなっている」

「ああ、既に大半の居場所がわかっています。 その中の一人は、やはり凪一華でした」

「そうか。 EDFの暗部だが……凪一華中尉の実力を見るに、頭を下げて協力を仰ぐしかあるまいな」

「既に手は打ちました。 近いうちに、先進技術研に人員を供給できると思います」

昔、EDFで肝いりの部隊を創設する時に。幾つか非人道的な計画が持ち上がった。

その中の一つの概要と結果が、だいたい判明したのである。

追跡調査には苦労した。

千葉中将の権限をもってしても、情報を引き出すのにはかなり手間が掛かったほどである。

いずれにしても、最悪の展開……被検体は皆殺しという事態になっていなくて良かった。

同時に、被検体には殴られる覚悟もしなければならないだろう。

「日本に戻ったら忙しくなる。 それにしても、現時点でも手に負えないサイレンが更に凶悪化したら、どう対処したらいいのだろう」

「チラン爆雷の使用が検討されていると聞きますが……それだけでは倒せないでしょうな」「……」

腕組みをする。

とにかく今は、出来る事を出来る範囲でやらなければならない。

カスターのような無能な味方には。

なってはいけなかった。

 

(続)