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猛反撃開始
序、リングの下で
最初、プロフェッサーは難色を示した。一華の提案する、敢えて時間をずらしてリングの制御装置を攻撃するやり方で、本当にもっと過去に戻れるか分からない。それどころか、過去に戻る事すら出来ないかも知れないと。
だが、壱野が説得したのだ。
「五ヶ月後」ではもう勝ち目は無い。
事実、改変後の世界も「五ヶ月後」に壱野達が戻る事を前提に、歴史が改編されていると。
結果、ネイカーにもスキュラにも満足な対応が出来ず。
投入された怪生物に機甲師団は蹂躙され。
そこにグラウコスがとどめを刺した。
開戦五ヶ月後、既に人類の半分が失われていた世界では。どれだけプロフェッサーが頑張ってもどうにもならなかったのだ。
ストームチームが結成されて、最後の対グラウコス戦に挑んだが。奴に手傷を負わせるのが精一杯。
集まったスキュラとの戦闘で、ストームチームは壊滅。
以降は、文字通り破滅したEDFの基地を探しながら。物資を漁って、各地を逃げ回るしかなかった。
だから、賭ける。
開戦当日に戻る事に。
これだけで、大きく歴史を変えられるはずだ。そして鬼相が浮かんだプロフェッサーは。その大きく歴史を変えられるという言葉に、同意していた。
歴史を変えることに、どうしても抵抗があったと。
だが、プライマーがやりたい放題に歴史を変えているのに、どうして此方が同じ事をしてはいけないのかと。
確かにそれは道理だ。
やっと、プロフェッサーと、意見が合ったことになる。
今、見上げているリング。
破壊時間は、既に決めてある。一華が決めた。開戦当日に、そうでなくとも出来るだけ近い時間に戻る事が出来るようにと。
勿論、ネイカーが伏せている位だ。
敵も備えをしているだろう。
まずは、徘徊しているスキュラを片付ける。全てはそれからである。
「まずはスキュラを叩く！ 皆、ストームチームを支援しろ！ 共にいるのは最強の特務だ、絶対に生き残れる！」
「い、イエッサ……」
海野大尉が激を飛ばすが、兵士の大半はリングの圧倒的巨体を見て尻込みしてしまっている。
街ほどもあると言われるマザーシップよりも、更に大きいのだ。こんなものに、勝てる訳がないと思うのは仕方がない。
まずは、スキュラからだ。
三城に狙撃させる。幸い、スキュラ相互の距離はかなり離れている。一体ずつ、つり出せる。
問題は伏せているネイカーだが。案の定、ライジンαの火力をモロに喰らったスキュラが突貫してくると。
地面からもりもりネイカーが湧いてくる。
ネイカーは地面で出現した場合、わっと散って、全方位から飽和攻撃を仕掛けてくる傾向がある。
むしろ閉所の方が戦いやすいくらいなのだ。
海野大尉も、それを知っているようだった。
「ネイカーは近付くまで放置しろ！ 近付いたら撃ち抜け！ 中身は生き物の貝と同じで柔らかい！」
「イエッサ！」
「……ハイグレード型のネイカーがいたらそうもいかないんだが、幸いここにはいないようだな」
弐分のガリア砲が、スキュラにとどめを刺す。
その頃には、ネイカーが殺到し始める。
弐分がデクスターとスパインドライバーに切り替え。殺到してきたネイカーが、一斉に殺戮の炎を噴こうと口を開く。
エイレンⅢとデプスクロウラー、皆で迎え撃つ。周囲を飛び回りながら、不定期に攻撃してこようとするネイカー。
その1軍を、横殴りの射撃が足止めし。
口を開いたところをとどめを刺していた。
馬場班だ。
来てくれたか。
「バカが多すぎる！ 命を捨てる気か！」
「来てくれると信じていたぞ馬場中尉！」
「恩があるからな。 ただし敵の気を引くことくらいしか出来ないぞ！」
「それで充分だ」
海野大尉も嬉しそうだ。
そのまま、ネイカーを処理し終える。続けて、次、その次とスキュラを片付ける。その度に相応の数のネイカーが来るが、いずれも総力で片付ける。この貝は、より大きな怪物よりも余程危険だ。
だから、全力でつぶしにいかないと危ない。
全てのネイカーを何とか倒しきる。まだ、時間はある。
「よし、進むぞ」
「くそっ……逃げ帰る展開かと思ったんだがな」
「……」
壱野は、馬場中尉の愚痴に文句を言うつもりは無い。馬場中尉の立場ならそう考えるのが当然だし。
何より、壱野だって利用させて貰っているのだ。
そう考えると、文句を言う資格はない。
そのまま、リングへ移動して行くが。
途中で、不意に異変が生じていた。
リングの鏡面から、突然何か得体が知れないものが出現したのである。それは、光を放つ幾何学的な物体で。連続してつながっており。複数の節を持つ蛇のようにしてうごめき回っていた。
更に、その全てから、プラズマ砲、レーザー、パルスレーザー、あらゆる攻撃をしてくる。
「なんだあれは！ リングの防御装置だというのか！」
一番慌てたのはプロフェッサーである。まあそれもそうだろう。リングの攻略戦は、本人の話を聞く限り壱野より一回多く経験している。それで見た事がないのだ。ただでさえ戦闘適正が低いプロフェッサーには脅威にしか感じないだろう。
だが、敵は備えて来ている。
装備がリングに追加されていても、おかしくはないだろう。
「くそっ！ これじゃあ近づけないぞ！」
「まずはあの防衛装置を叩き潰します。 あれが出て来たと言う事は、敵には近場にもう部隊がいないということです」
「くっ、冷静だな」
「伊達にこの世界を三年、各地を転戦して生き抜いていませんから」
壱野はそう返すが。
実際には、戦況が極度に悪化した世界を生きるのはこれが二度目。改変世界の記憶を合計すると六年ほどである。
だがそう言っても相手を混乱させるだけ。
それに、六年分の記憶が完璧にある訳でもない。壱野は他の皆よりも記憶が残っているようだが。
それでも曖昧になってしまっている部分は多いのだ。
「総員、根元を狙ってくれ。 俺は主砲らしいレーザーを叩く」
「わかった」
「了解！」
それぞれに皆が応じて、反撃を開始する。それぞれ十数節で出来ている触手のような防御兵器は、砲台が連なっているのか。それとも小型の空中船なのか。とにかく、叩いて結果を見るしかない。
ライサンダーＺの弾を叩き込む。先端部分にある、あからさまに凶悪なレーザーを発している部分。一撃、耐え抜かれた。
だが、三城のライジンは直撃で一撃粉砕している。無敵では無い。
そのまま、弱点部分に急ぐ。
リングがこれを起動したと言う事は、恐らく直下の守りは全滅したが。代わりに周辺から増援が来る可能性がある。
流石に制御不能のグラウコスを呼ぶ事はないだろうが。
それでもネイカーやクルール、大量に今や地球にいるコロニストや怪物が来ても不思議ではない。
弱点部分に急ぎながら、敵兵器を粉砕する。二発目の射撃で、極悪なレーザーを放っていた先頭部品が砕ける。しかし、パーツが砕けても、すぐに破損部分を切り離して再度接合してくる。
どうやらそれぞれが、大型の無人兵器で。
ダメコンの為に、それぞれの部品を分けている様子だ。
そして多数の節がそれぞれ別の攻撃をしてくる事により、対応も難しくすると。
レーザーはともかく、パルスレーザーはどうにもならない。
見る間に傷が増えていくのが分かる。
しかし、致命的な極太のレーザーを放つ部品は放置出来ない。細かく指示を出しながら、壱野は射撃して優先的に潰す。
少しずつ、予定地点に近付いていく。
「エイレンⅢ、ダメージ蓄積！ でもまだいけるッスよ！」
「デプスクロウラー、小破！ 負傷者はデプスに詰め込め！ くそっ、洒落にならん！」
「このままだと全滅するぞ！」
「スナイパーライフルなら全員分ある！ とにかく撃てっ！」
馬場中尉に、海野大尉が返す。
まあそれもそうだ。馬場中尉が必死になってライフルで射撃を続けて、反撃。海野大尉の麾下の兵士は練度が低くて、必死に身を守るので精一杯のようだが。馬場中尉の部下は、物部伍長を除いて皆練度が高い。馬場中尉が指示した部品を集中的に大型スナイパーライフルで狙撃して、破壊に成功している。
まだかなり距離がある。
防衛兵器の節が増えた。鏡面から出て来たのだ。やはりそういう機能付きか。もたついていると、いつまでたっても目的地点にたどり着けない。
「一華、時間は」
「後七分弱！」
「まだ大丈夫だな。 危険性が高い砲台から集中して狙ってくれ！ エイレンⅢはすまないが火力を温存して、盾に務めてほしい！」
「了解ッス」
三城のライジンが、また一つ節を粉砕。更に弐分のガリア砲が、殆ど同時に五月蠅いパルスレーザーを破壊していた。
柿崎も時々タイミングを合わせてグロースピアを投擲して、きちんと当てている。また、山県大尉は巧みにドローンを操って、節に機銃掃射を入れて。相応のダメージを与えているようだ。
木曽少尉は苦戦しているが、それでも小型ミサイルで牽制はしっかりしている。皆で出来るだけ固まって、リングの直下に急ぐ。
鏡面から、タイプスリードローンが出てくる。
馬場中尉が舌打ちした。
「まずいぞ！ 重武装型のドローンだ！」
「ネイカーよりマシだ！ 壱野、あの奇っ怪な触手は任せても良いか！」
「任されました！」
「よし、馬場中尉！ 俺たちはあっちの相手に注力する！ 弱点をぶら下げて飛んでる間抜け野郎だ！ ぶっつぶす！」
馬場中尉も顔をしかめたが、しかしそれが正しいと思ったのだろう。タイプスリードローンの弱点を、かなり正確に撃ち抜き始める。
節がまた追加されるが、しかし破壊していく方が早い。ライサンダーＺで狙撃しつつ、リング直下に急ぐ。
大型のプラズマ砲が、三城のライジンで粉々に消し飛んだ。
燃費さえ改善すれば、もっと使いやすくなるだろう。決戦兵器と呼ぶに相応しい火力があるが。
だがまだスキュラを確殺するには足りない。そして放った後にはしばらくフライトユニットが悲鳴を上げ続けるほど負担が大きいので、まだまだ改良が必要だ。
「後三分半ッス！」
「くっ、ストーム１、急いでくれ！」
「プロフェッサーは、もうエイレンⅢのコンテナに！」
「すまない、君達に世話になってばかりだ！」
プロフェッサーも、腕をパルスレーザーで撃ち抜かれているが、それを乱暴に包帯で縛って、どうにか耐えてくれている。
そのまま急ぐ。
全力で走りつつ、砲台を同時に粉砕。そして、感じ取る。
とんでもない気配だ。
凄い大軍が接近している。数は師団規模どころか、数個師団規模だろう。怪物、コロニスト、それにネイカーも気配がある。
これは、もうここまでだ。
これ以上は、つきあわせられない。
「海野大尉、馬場中尉、此処までで大丈夫です」
「死ぬ気か！？」
「いえ、生きます。 全員で生きるために、此処を離れてください。 来るために使ったルートであれば敵の進軍はありません。 そのまま全力で、退避してください」
「くそっ！ バカが多すぎる！」
馬場中尉はまた吐き捨てたが。
それでも絶対に死ぬなと激励して、部下達と一緒に下がりはじめる。
全員、満身創痍だ。あのパルスレーザーと、多数飛んでくるプラズマ砲弾が至近で散々着弾したのだから当然だろう。
後一分。
一華が叫ぶ。
総員で、弱点への攻撃に切り替える。どうやら、此処の耐久力は前と変わっていないらしい。
三城のライジンを控えさせる。
敵が見え始めた。先鋒を努めるのはネイカーか。なんというか、使い捨てを先鋒にするのは、どこの軍でも同じか。
戦国時代でも、直近に降伏した敵軍が、もっとも消耗が激しい先鋒にされるのは基本的に慣例だった。
プライマーも、同じような事をしているという事だ。
木曽少尉が、おののく。
「と、とんでも無い数です！」
「過去に行く。 彼奴らは此処で、呆然と立ち尽くすだけだ」
「しかし、本当に過去に！？」
「記憶にあるだけでも、私はもう三回過去に飛んでるッスよ。 だから、木曽少尉も安心してほしいッス」
一華の声。
山県大尉が、やれやれと頭を掻く。
柿崎が涼しい顔をしている様子を見て、どうも嘘では無いらしいと思ったらしい。
カウントダウンが始まる。
頷くと、一華と一緒に、弐分にも構えさせる。
迫ってきているネイカー。
一華のエイレンⅢが、残ったエネルギーを収束レーザーに全て注ぎ込み始める。
程なくして。
カウントダウンが終わった。
一斉攻撃。
リング下部にある赤く発光する部分が、その瞬間粉砕されていた。
未練たらしく節を出して反撃しようとしていたリングだが、動きを止める。
世界に白い光が拡がっていき。
恐れを知らないどころか、殺す事しかプログラミングされていないネイカーが、恐怖に動きを止めたようにも見えた。
周囲に流星群のように光が降り注ぐ。
世界に致命的な何かが起きたのだ。
それが太陽系だけに留まる変化なのか。それとも宇宙全体に関わるほどの変化なのかは分からない。
リングがタイムパラドックスを制御する装置だとすれば、宇宙全体に影響しているかも知れないが。
それについては、もう分からないとしか言えない。
一華とプロフェッサーの話はいつも聞いているが、難しい理論が飛び交うような話になると。壱野も勉強した上で、後で嗚呼こういうことだったのかと漸く分かる程なのである。
世界が、溶けるように消えていく。
恐らくだが、五回目。プロフェッサーは六回目だろうか。
記憶が曖昧だから、多分それであっているはずだが、少し自信がない。
はっきりしているのは、しっかり記憶しているのは四回。
その全てが、上手く行ったと言うことだ。
今回は賭だ。
前回のタイムトラベルで、「開戦五ヶ月後」。恐らくは、転機になっているタイミングの……更に三日前に戻った。
それを計算して、一華が「開戦直後」に戻るように破壊のタイミングをずらした。
だが、本当にそれが原因で、「開戦五ヶ月後の三日前」に戻ったのだろうか。
もっと何か、致命的な悪意とか、そういうものが働いているのではないのだろうか。いや、悪意とは限らないだろうか。
意識が薄れる。
一華は計算もした。
もしも、悪い方向にぶれたとしても。それでも、何とか出来る最悪のタイミングにすると。
一華の計算を、ある程度信じるしかない。
そして、皆に話してはある。
「五ヶ月後」では駄目なのだと。
プライマーがその間やりたい放題をしたその後に記憶だの何だのを持ち込んだ所で、逆転は不可能だ。
事実前回は、既に地球人の四割が失われたタイミングからで。
そこからの逆転は不可能だった。
今回は。
光が収まっていく。
何かが狂い始めているとして。或いは。
皆が強くなり続けている事や。
記憶の持ち越しが、どんどん強力になっている事と。関係しているのかも知れない。
１、大反撃の咆哮
ベース228至近の街。開戦直後、ベース228にとんでもない数のアンカーが降り注ぎ。ベースを捨てて退却。基地の敗残兵と一緒に逃げ、救援に来た部隊と合流。
そのくらいの時間だという事が、周囲を確認して一華は分かった。既に光は収まっている。身に付けているのは、ベース228の地下で調達したパワードスケルトンだ。そして乗っているのは、逃走中に使っていたニクスである。
そう、戦闘が始まった時間に極めて近い。確か当日か、いやその翌日くらいか。いずれにしても、ほぼ想定通りの時間である。
出来ればベース228が陥落する前が一番良かったのだが、贅沢は言っていられない。この段階でも充分だ。勿論各地の戦略基地に大きなダメージは入っているだろうが、まだまだEDFは充分過ぎる程に継戦能力を残している。
一華が乗っているニクスは旧式のものだが、逆にこれは徹底的に使い込んでいる。足下には愛用のPC。ニクスへの接続も終わっていた。
すぐにバイザーを通じて、皆に話をする。バイザーを弄るくらい、もうお手の物だ。
「成功ッス。 此処から、大反撃行くッスよ」
「おうっ！」
弐分が気合いの入った声で返してくる。
周囲に柿崎、山県、木曽の三人はいない。
山県は今は別の部隊にいて、記憶と一部の装備だけ持ち越したとみて良いだろう。柿崎と木曽はまだEDFに入ってもいないか。
素早く情報を確認する。
どうやら開戦当日にプライマーはあまり手を加えていないらしい。
核兵器類を無力化する事だけは熱心だが、それ以外の拠点への攻撃はそれほどやっていない様子だ。
周囲の味方はベース228から何とか脱出したボロボロの戦車隊と、歩兵達。それに加わった救援の部隊少数。敵は大軍。
本来だったら絶望的な状況だが。
逆だ。
此処から、プライマーに地獄を見せてやる。
すぐにプロフェッサーから連絡が来た。
「まさかとは思ったが、一華くんの言葉通りになったな。 感謝する。 この時点からなら、充分に勝ち目がある筈だ。 ……今まで私は何を怖れていたのだろう。 敵が好き勝手に行動しているのに、どうして自重しなければならなかったのか。 私は此処から好きに動く。 君達も、好きにやってほしい」
「了解。 徹底的に叩き潰してやります」
「頼む。 此方は可能な限り急いでエイレンⅢをロールアウトして君達に引き渡す。 ケブラーなどの兵器の生産も急ぐ。 柿崎君、山県さん、それに木曽君については、此方から手配しておく。 君達は戦闘に集中してくれ」
「頼むッスよ」
周囲には荒木班と、ベース228の敗残兵達が。アンカーが生え、怪物が闊歩する街を見て呆然としている。
増援部隊も、途方に暮れているようだが。
それでも、必死に荒木軍曹が声を張り上げる。
「恐らくはベース228を襲ったのと同じ敵だ。 市民が危ない！ 片付けるぞ！」
「無茶だ！ ……と言いたいが、やるしかなさそうだな。 民間人達、お前達のおかげで此処まで抜けられた。 頼りにしているからな」
「タンクは怪物の接近を許すと厳しい。 とにかく弾幕を張って、怪物を倒す。 タンクは固定砲台と考えるんだ」
この時点では確か兵長くらいだったか。小田隊員と浅利隊員が、そう周囲に声を掛けている。
やはり影響が出ているな。
この時点だと、小田隊員は、無理だとか逃げようとかそういう事を言うはずだ。
皆、戦闘力が上がっているのは。恐らく、この繰り返しているタイムトラベルが原因とみて良い。
ニクスには、改良に改良を重ねたアップデートパッチを当て済。足下にある自分のPCが、しっかり監督してくれている。
それと、不可思議な事だが。
ちょこんとPCには梟のドローンが乗っていて。そして、一華の頭の上に乗った。
あれ。
このタイミングに此奴いたか。
そもそもエイレンⅢのコンテナに乗せていたか。
ちょっと記憶が曖昧だ。
敵はα型ばかり。大した相手では無い。ただし、既に市民を襲っている。逃げ惑う市民を救援すべく既に狙撃を開始したリーダーが、声を掛けて来る。
「α型は任せる。 アンカーを俺が優先して潰して、発生源を叩く」
「了解！」
「わかった」
相変わらずの弐分と三城。
弐分がすっ飛んでいき、デクスターでα型を鏖殺し始める。この時点での通常種α型など、もはや敵ではない。この数程度だったら、だ。三城も上空に出ると、誘導兵器でα型の動きを拘束。
無茶苦茶手慣れている様子の二人に面食らった兵士達だが。それでもこの頃は、きちんと訓練を受けた正規兵しかいない。義勇兵が無理矢理引っ張り出され始めたのは、もっと後になってからだ。
皆、態勢を立て直し、射撃を開始する。
手酷く負傷している兵士もいて。そういう兵士は、少し遅れて到着したキャリバンに乗せられ、運ばれて行った。まだ軍病院は機能しているのである。
市民が逃げてくる。
その背中を追い討とうとするα型だが、させるか。
既にニクスの残弾数などは把握済。更に、コンテナには残弾もまだ入っている。
ニクスが前に出て、射撃。凄まじい射撃効率に、次々α型が消し飛んでいく。荒木軍曹が、思わず瞠目していた。
「そのニクスは最新鋭ではないはずだ。 今までも良い腕だったが、あからさまに更に強くなった。 何かしたのか」
「ちょっと制御ＯＳやアプリが古いようだったので、此方で支援プログラムを入れたッスよ」
「無茶苦茶だなオイ……」
「いや、今は非常時だ。 後で責任は俺が負う。 今はあらゆる手段を講じてくれ。 それだけの緊急時だ」
α型が駆逐されていくのを見て、荒木軍曹もそれでいいと思ったのだろう。
激しい戦いの末、避難中の民間人を逃がす。その間にリーダーは、既に三本、テレポーションアンカーを狙撃で粉砕していた。
テレポーションアンカーの撃破は、既にベース228でやっている筈だ。それでも、リーダーの手際の凄まじさは、誰の目にも驚異的に映っているのだろう。まあ、一華もいつも驚かされるし、無理もない。
「凄い奴がいるぞ！」
「あの格好は、民間人か！？ だが何処かの民間軍事会社の人間か何かなのか！？」
「あのデカイ狙撃銃は何だ！ 使い古されているようだが……」
「雑談は後にしろ！ 来るぞ！」
荒木軍曹が周囲を引き締め、アンカーを粉砕された事によりこっちに来るアンカーの護衛部隊と交戦を開始。いずれもα型ばかりだが、兵士にはそれでも命取りだ。この時期は、まだ兵士のアーマーも戦車の装甲も敵の攻撃に対して対策が不十分で、酸を喰らうとひとたまりもない。
タンク部隊も、接近さえされなければα型にある程度ダメージは与えられる。逆にその程度の火力しかないが、それでも戦車だ。あのＭ１エイブラムスの後継機ブラッカーである。頼りになる。
問題は、プライマーも指揮官が代わっていると言う事だ。
ここにとんでもない大軍でも送り込んで来かねない。
それでも、どうにでもなる筈だ。
弐分が戻って来て、ニクスの弾を再装填してくれる。手慣れている様子を見て、兵士達が目を見張る。
長野一等兵がいればもっと楽なのだが。
それは、まだ後だ。独立部隊を結成してから、加わって貰う事になるだろう。
大型移動車に乗せられていた補給車は、ベース228での戦闘でほとんどすっからかん。代わりに、増援部隊が連れてきた補給車が来て。それで皆の弾丸が補給された。そのまま、優勢のまま戦闘を進めていく。
前とは全てが違う。とにかく村上三兄弟の大暴れぶりが凄まじく、敵軍が溶けて行くようである。
だが、そもそもだ。
此処でやるべきは、敵を効率的に駆逐するだけでは無い。味方を効率よく守り、市民も可能な限り救出する事だ。
一華は前に出る。
リーダーもこくりと頷くと、まだ街に残っているアンカーを粉砕していく。
無線が聞こえてくる。
怪物が出た。象のように大きい。
世界中で怪物が出ている。十メートル以上もあり、危険極まりないので近付かないでください。
そういった声が、飛び交いまくっている。
この頃は、まだプライマーという敵の呼称もついていなかった。まだ敵がエイリアンと認識出来ていない兵士も多い。混乱も当然だが、それについてはしばらくはどうにも出来ない。
どうやら、この辺りの状況は、知っている開戦当時と変わっていない様子だ。
あの大型船の内、恐らく開戦当初まで戻ったのはごく一部だけなのだろう。後は戦闘の転機まで戻って、それで行動を開始するというわけだ。
プロフェッサーが統計を取っていて、それで一華も知っている。
また迫ってくるα型の集団を、ニクスの火力と弐分と三城の戦闘力にものを言わせて、撃破する。
そして、敢えて路を塞いだ。
戦車隊が停止。
「どうしたコンバットフレーム！ 不調か！」
「ちょっと足回りがおかしいようッスね。 戦いづくめっスから」
「仕方がない、牽引してやる。 多分あんまりにも暴れすぎたから、足回りに無理が出たんだ。 その場で動くなよ」
今までの戦闘で随分助かったからか、兵士達も友好的な対応だ。それを利用させてもらう。
さて、此処からだ。
既に戦略情報部の少佐が無線を入れて来ていて、千葉中将とやりとりしている。
マザーシップが接近していると。
そうなると、やはり予定通り、効率的にアンカーを投下してくるとみて良いだろう。それは何も、タンクを狙うとは限らない。
タンクが一旦後退して、装備を切り替えようと散開。凄まじい火力で。α型を薙ぎ払っていたニクスの実力は見ていたのだ。当然、頼りにしてくれている。
そして、リーダーが声を掛けて来る。
投下のタイミングだけは、リーダーの勘に頼るしかない。
「一華！」
「よっと！」
そのまま、ニクスでバックジャンプ。
落ちてきたテレポーションアンカーを、回避していた。
ざっとこんなものだ。
「うわああっ！」
「アンカーだ！ ニクスを粉砕した奴だ！」
「もしもあのまま進んでいたら、戦車隊は……」
「と、とにかく応戦だ！」
戦車隊が混乱する中、荒木軍曹が叫ぶ。
即座の対応、流石だ。兵士の中の兵士。この状況でも、やはり荒木軍曹はとても頼りになる。
「あのアンカーの上部を集中攻撃！ 怪物を出させるな！」
「おうよっ！」
「コンバットフレーム、ひょっとして故障していなかったのか！？」
「と、とにかくあのまま進んでいたら、アンカーに潰されていたかも知れない！ 助かった！ 今度は此方が助ける番だ！ 撃て撃てっ！」
アンカーを戦車隊が即座に粉砕。α型が出てくる暇もなかった。
だが、同時に。
空から降り来る火の玉。
なるほど、どうやらプライマーは。村上班が……今は村上班ですらないが。此処にいると悟ったらしい。
対応の早さは流石だ。
火の玉が地面に着弾。そして立ち上がる。
ディロイである。
三城が、即応。ライジンをチャージ。そして、ディロイがレーザーを放つ前に、本体を狙撃。
粉砕していた。
「あの三本足の巨大なロボットは何だ！ あんなもの、開発している国は存在しないはずだぞ！」
「アンカーといい怪物といい、兵器として常軌を逸している。 軍を撃破するためのものではなく、あからさまに無差別殺戮兵器として設計されているのが確実だ！ それにEDFほどの組織がこれほどにやりたい放題を許すとは。 千葉中将、敵は何者だ」
「敵性勢力だとしか分からない。 現在各国や色々な組織を調べているが、テロリストの拠点があの不可思議な兵器で蹂躙されたという報告もある。 何が何だか分からないのが実情だ。 すまない、今はとにかく現場での戦闘指揮を続行してくれ！ 此方も全域の指揮で手一杯だ！」
「くそっ！ 戦略情報部は何をしていた！ これは計画的な世界規模の攻撃だぞ！」
荒木軍曹のお怒りもごもっとも。
そして、降り注いでくるディロイ。アンカー。それぞれ多数。やはりプライマーは本気というわけだ。
「アンカーは俺が対処する。 三城、弐分、それぞれディロイに対処してくれ。 一華は怪物に」
「了解ッスよ」
案の定、周囲の街に展開していたらしい怪物が押し寄せてくる。この街の市民を守りつつ戦うのは骨だが、何とかやっていくしかない。
どうもプライマーも本気のようだ。β型も来ている。だが、来るだけ他の街が安全になる。射撃して、片付けてしまう。むしろ柔らかい分、α型よりもニクスで対応しやすいくらいだ。
超大型船、つまりマザーシップはもうすぐ近くだと、戦略情報部の少佐が言っている。
丁度良い。
主砲を展開しようものなら、破壊の好機だ。
そうでなくても、EDFが主砲を破壊出来ると敵が知ったら、それだけでマザーシップの戦術活動を控えさせる筈。
大きな意味がある。
押し寄せてくる怪物を、ニクスの機銃で撃滅していく。エイレンⅢのレーザーと比べると力不足だが、それでもα型が相手なら充分過ぎる。そして怪物の行動で恐らく他の部隊の余裕が出来ている。支援部隊と補給車が来る。この地点に敵が躍起になっていると、本部も理解したのだろう。手が開いた部隊を回してくれているというわけだ。
二つ、同時に落ちてきたディロイ。戦略情報部が、この機械をディロイと命名するとか抜かしているが、放置。
三城と弐分が、それぞれ落ちてくるだけ粉砕していく。
二人とも、ディロイとの戦闘はとんでもない数をこなしているのだ。十機や二十機、敵ではない。
その間も、多数落下してくるアンカーだが。
中には空中で粉砕されてしまうアンカーも多い。
リーダーの腕前は更に神がかっていて、兵士達を瞠目させるばかりだ。
「なんなんだ彼奴！ とんでもないぞ！」
「民間人だが、今は頼るしかない！ 手が開いているものは、民間人の救助を急げ！ タンクは隊列を作って怪物に砲撃！ 皆、タンクとニクスの随伴歩兵となって、周囲の怪物を駆逐しろ！」
「イエッサ！」
荒木軍曹は対応が早い。
色々聞かれるかと思ったが、それよりも戦闘を優先してくれる。この辺りは、流石に歴戦の勇士。
ずっと頼りにさせて貰った戦士の中の戦士だけはある。
リーダーが鬼神かなにかだとすれば。
荒木軍曹は、人間の軍人の理想型。
それでいい。
どっちも、勝つためには必要だ。
また落ちてきたディロイだが、三城のライジンのチャージが終わっていたらしい。空中で撃墜、爆破される。
これで十四機目。
プロフェッサーが、無線を入れてくる。
「君達の戦闘は相変わらず凄まじい。 たった四人で一個師団……いや、今や一個軍団規模の戦闘力だな。 君達のおかげで、これが悪夢では無いと認識出来る。 自分がまだ正気なのだと理解出来る。 気が狂ってしまった方がどれだけ楽だっただろう。 すまないな、君達が最前線で最高の活躍をしているのに、安全なラボにいる私が愚痴など言ってしまって」
「愚痴は仕方が無いッスよ。 それよりも急いでエイレンの「開発」と配備をお願いするッス」
「ああ、分かっている。 それと、プロテウスも……ひょっとしたら、開発までこぎ着けられるかも知れない」
そうか、それはありがたい。
かなりの規模のα型の群れだ。戦車隊が更に数両来る。他の街の敵が減った分、ここにEDFも戦力を集中できるのだろう。キャリバンが来て、兵士達が救出した民間人を運んでいく。
要塞とも言われるキャリバンとはいえ、相変わらず勇敢だ。敬礼を返したいが、その前に敵を撃たなければならない。
射撃して、α型の足を止める。まだ降り注ぐディロイだが、どれもショートタイプばかりである。
多分、このタイミングでの後のストーム１は、それほど装備をもっていないと敵も認識していたのだろう。
だがそれが命取りだと教えてやる。
苛烈な攻撃が続くが、それが全て押し返される。兵士達だって、一人だって死なせるものか。
補給車が来た。
隙を見て、弐分がニクスの弾倉を交換。
一華が前衛に出て、α型を蹴散らす。戦車隊が、喚声を上げた。
「すげえニクス乗りがいるぞ！」
「あの怪物に戦車が溶かされるのを見た！ だが、あのニクスが配備されたら、戦局は変わるんじゃないのか！？」
「EDF！ EDF！」
兵士達の喚声が高まるが。
プライマーも、無駄な消耗は避けるだろう。恐らくは、戦力を把握したと判断したのか。ぴたりと、攻撃がやんだ。
荒木軍曹がマガジンを交換しながら叫ぶ。
「急いで補給と手当てを済ませろ！ 手が開いている部隊は、まだ市民が逃げ遅れている場所を調査、すぐに救出！」
「イエッサ！」
「敵の攻撃がやんだのには理由があるはずだ。 空にはあのアンカーを落としているという巨大な円盤がいる。 何をしてくるか分からない。 皆、油断だけはするな」
「市民が多数逃げ込んでいる公民館を発見。 座標を送るッスよ」
既に街の監視カメラはハッキング済だ。
一華がそう言って、救出に動いている兵士達のバイザーに座標を送る。
すぐに兵士が向かって、救援活動に移る。
街の彼方此方から火が上がっている。消防車を出したいところだが、今はもうそれどころじゃない。
消防車を出していたら、戦闘で破壊されてしまうだろう。
「此方荒木班。 戦略情報部、敵の攻撃は一旦停止した。 だが、敵の巨大船は上空にいるということで間違いないか」
「はい、気をつけてください。それよりも、気になる事があります。 凄まじい働きぶりですが、その民間人達は一体……」
「基地に来ていた民間人だ。 戦闘に巻き込まれ、特例措置で武器を渡したが。 まさかこれほどの戦闘力を発揮するとは」
「記録に合致するもの一名。 凪一華。 EDFにハッキングを唯一成功させた要注意人物です」
荒木軍曹が、そうだなと呟く。
その話は、既にしてある。
今は緊急事態だ。だから、そんな事を言っている場合ではない。そう軍曹が少佐を諭すが。
少佐は今度は、一華に話しかけて来た。
「凪一華。 コンバットフレームに対しての知識などは、軍での再教育で仕込みましたが、いつからそんなに動かせるようになったのですか。 確かにテストでは、驚異的な成績を上げていましたが、それ以上の働きに思えます」
「実戦で覚醒したッスよ」
「真面目にこたえなさい」
「少佐、この民間人、一華は頼りになる。 今は緊急事態だ。 これだけの活躍をした民間人をそのまま帰すのは惜しい。 本人が納得するEDFでの待遇を今のうちに検討してくれ。 軍曹待遇……いや尉官として他の民間人達と一緒に、特務として独立部隊を任せても良いくらいだろう。 それほどの驚異的な戦闘力だ。 特にコンバットフレームは最新型を回してくれ。 通常のコンバットフレームの十倍以上の活躍をしてくれる」
少佐が少し考えた後。検討すると言う。
このカチンコチン頭が其処まで言うと言う事は。どうやら戦略情報部でも、のちの村上班の戦力を驚異的に思ったらしい。
まあとにかくそれはそれだ。
マザーシップが来るなら、備えておく必要がある。
このニクスは旧式だが、迫撃砲を装備している。この迫撃砲は一応それなりに距離が出る様子だ。
ライサンダーＺとライジン、更にガリア砲がある。これだけで充分だと思うが、念の為である。
備えておく必要があるだろう。即座にデータを確認。既存のものがある。よし、これなら弾道計算が可能だ。キーボードを叩いて、備えておく。主砲を叩き落とすのに、ニクスの火力も利用できるなら利用する。
ほどなくして。
プライマーは。判断したようだった。
「み、見ろ！」
兵士が悲鳴混じりの声を上げる。
空が、黄金色の円盤に覆い尽くされているのだ。それは当然だろう。
マザーシップが来た。
記憶には曖昧にしか残っていないが、撃墜したことはあるにはある。だが、それも死闘の末に一機を。偶然で一機を。
ただ、その偶然のデータは見ている。
奴が主砲を放つ瞬間を狙えば、破壊を狙える可能性がある。そうでなくとも、主砲を破壊すれば。
敵はマザーシップをもう使わなくなる。
勿論、敵は直衛を出してくるだろう。
まずは、その直衛を片付ける事から、だが。
最初に一華がこの街でマザーシップと遭遇したときは、無様に蹴散らされるだけしかできなかった。
だが、今度は違う。
あらゆる準備を整えてある。それだけではなく、あまりにも強い同志もいる。
だったら。もう通常のマザーシップになど遅れを取るものか。
「街よりも大きいぞ！」
「何処かの国の新兵器なのか！？」
「あんなもの、地球の技術で作れるかよ！ エイリアンが攻めて来やがったんだ！」
「冗談を……いや、冗談とは思えないな」
小田隊員の声に。浅利隊員が反対しない。
やはり影響がこういう所にも出ているか。
舌なめずりする。
さあ、こい。レッドカラーだろうがインペリアルだろうが、叩き落としてやる。ドローンとの戦闘は、散々経験済みなのだ。
流石に此処にDE203は呼べないか。
だがニクスがいるし、それで充分過ぎる程である。
マザーシップが、大量のタイプツードローンを落とし始める。兵士が絶叫した。
「これはテロじゃない！ 侵略だ！」
「敵性勢力とやらが何者かは分からないが、最低でも世界政府と同等以上……いやそれ以上の力を持ち、人間を無差別殺戮した挙げ句に、何もかもを破壊し尽くそうとしているのは間違いないようだな」
荒木軍曹が、ほろ苦い様子で呟いた。
近代戦に限らず、戦争とは残酷なものだ。
一華も知っている。
EDF設立前の「紛争」が、如何に凄まじい代物だったかを。あのグランドキャニオン平原で、ジャムカ大佐が呟いた言葉は忘れられない。
大量の怪物とエイリアンとのもみ合いの戦闘を見て、紛争を思い出すとジャムカ大佐は言っていた。
それほどの地獄だったのである。
だが、これから始まるのは、それすら天国に思える程の地獄。それを、実施させる訳にはいかない。
どちらかというと色々思想があれな一華ですら、許せないと思う程の所業。
それを、プライマーはやろうとしているのだ。
タイプツーは凄まじい数だ。
ニクスでの応戦を開始する。
勿論、敵は小手調べのつもりだろう。だが、その小手調べで、手痛い火傷をさせてやる。
そう、一華は決めていた。
２、再戦マザーシップ
タイプツードローンが有無を言わさず攻撃を開始。兵士達が混乱する中、弐分はブースターとスラスターで飛び回りつつ、主にスパインドライバーでタイプツードローンを叩き落として行く。
タイプツードローンはタイプワンに比べると頑強だが、その代わり動きが遅い。だから、スパインドライバーのカモである。
ただし敵の火力も大きい。間違っても、今の状態で。貧弱な防御しか備えていないフェンサー用パワードスケルトン装着状態で。攻撃の直撃を貰う訳にはいかなかった。
ストーム３もストーム４も、みんな歴戦の強者達だったのだ。
それが、あの地獄の戦闘の中で、みんな死んでいった。
誰だって油断なんてしていなかった。
それでも、死ぬときは死ぬのだ。
大兄も狙撃を続けて、あり得ないペースでタイプツーを落としていく。更に、隙を見てタイプツーの射出口に直撃を入れる。マザーシップのタイプツー射出口が爆発し、数機が巻き込まれた様子だが。
やはり頑強だ。
マザーシップそのものに、ダメージが入っているようには思えない。
「此方ハンマーズ！ 対物狙撃班です！ 戦闘に参加します！」
「此方ウィングダイバーチーム。 全員Ｄ（ドラグーンランス）兵装です。 戦闘に参加します！」
増援が来る。また、ニクス隊も此方に向かっている様子だ。以前来たよりも数が多いようである。
荒木軍曹が、それぞれ指示。
対物ライフル班は建物の下に隠れ、狙撃を開始。ウィングダイバーチームは、マグブラスターに切り替えるように指示。そのまま、距離を取って応戦するように指示。
戦車隊は隊列を組み直すと、後退しつつ射撃を続ける。タイプツーは足が遅いと言っても、戦車隊に追いつくのは難しく無い。
だが一華のニクスの機銃が、容赦なくタイプツーを叩き落として行く。
その破壊力は流石で、何より無駄弾を出さない。三城も装備を電撃銃に切り替えると、空中戦を開始。
空中で、爆発が連鎖して、次々にタイプツーが落ちていく。
「対物ライフルの効果が薄い！ もっと強力な対物ライフルが必要かも知れない！」
「分かりました。 データとして先進科学研に送っておきます」
「現時点では、ありものでやるしかない！ 落ちるまで叩き込め！」
「イエッサ！」
荒木軍曹は、最前列でずっと戦っている。戦車隊は射角を確保したので、タイプツーへの射撃を開始。
とりあえず、前よりもぐっと被害を抑えられている。
このままいく。
敵の数が前よりかなり多いし、何よりタイプワンでは無くタイプツーだが。それでも、どうにでもなる。
スパインドライバーで叩き落とし、接近した相手はデクスターで粉砕。上空をずっと飛んでいる様子を見て、ウィングダイバー隊が唖然とする。
「あれはフェンサーか！？ スラスターとブースターを同時に使っている！？」
「グリムリーパー並みの精鋭か。 負けていられないぞ！」
「接近戦は危険だ！ 敵の火力は大きい！ とにかく、確実に一機ずつ落としてくれ！」
荒木軍曹が釘を刺す。
そういえば、変な敵対意識があるんだったなと苦笑する。既にキルカウントは弐分だけで五十を超えているが、まだまだ敵は出てくる。
マザーシップは、此方に消耗を強いるつもりか。
まあいい。我慢比べならなんぼでもやってやる。それに、タイプツーだって機械だ。生産している以上、壊されたら他の地域に投下できないだろう。可能な限り、ここで粉々にしてやる。
「壱野。 基地にいた時から凄まじい射撃の腕だったが、本当にそれは古流で覚えたのか」
「はい。 祖父に仕込まれました。 当ててから放っています」
「そういう用語がある事は聞いていたが、本当にそれを実践するものと出会うのは初めてだ」
「有難うございます」
大兄が認められるのは嬉しい。三城は対空戦があまり得意ではないので、かなり今はおとなしめだ。
だがそもそも、今回の目的はあのデカブツに致命打を与える事。三城は後方にいるくらいでいい。
敵は非常に頭がいいが、その分極めて慎重だ。
主砲を潰すと、マザーシップの運用には極めて慎重になる。それを、利用させて貰う。それだけで、戦況はぐっとましになるのだから。
タイプツーだけでは埒があかないと判断したのだろう。更に怪物が、周辺から来る。恐らくだが、ベース228を制圧したα型もプライマーの指示で来たのだと思う。背後から敵が来て、戦車隊が慌てて応戦。
荒木軍曹が、声を張り上げる。
「何部隊か来てくれ！ 戦車隊に怪物を近づけるのは致命的だ！」
「了解！ 指揮を任せる！」
「制空権は……問題無さそうだな」
「今の時点ではな。 ハンマーズはそのまま敵の航空兵器を破壊してくれ！」
荒木軍曹が、兵士達を連れて戦車隊の護衛に。怪物を食い止め始める。大兄が狙撃して、一射確殺でタイプツーを仕留めていくが、怪物が更に来る。
それだけではない。
マザーシップから無尽蔵に落とされてくるタイプツーを見て、兵士達が恐怖の声を上げる。
「ど、どれだけの積載量をもっているんだ！」
「数が多すぎる！」
「此方戦略情報部。 既に他の戦闘ドローンも確認されています。 現在円盤型のものをタイプワン、横に長いものをタイプツーと呼称しています。 円盤型のものは数が多く、主に対空防御を担当。 タイプツーはタイプワンほどの数はないものの火力と装甲が大きく、いずれも人間を無差別に殺すようです」
「こんな兵器をばらまいていると言う事は、余程危険な組織か、それとも……」
千葉中将が呻く。
それは、この時点で現実をあっさり理解出来たら苦労はない。
恐らくだが、エイリアンでは無いかと言う考えは誰もが抱き始めているはずだが。それを口にしてしまったら、指揮官としての責任放棄にあたる。
既に各国への聴取や危険組織などの調査が始まっているようだが、まあどこでも濡れ衣である。
「紛争」を起こした連中ですら、此処まではしないだろう。
弐分は飛び回りつつ、大兄の取りこぼしをデクスターで叩き落とす。味方の狙撃すらも回避しながら、ブースターとスラスターを極限まで酷使する。だが、この時点での性能も理解は出来ている。
これでも、伊達に経験を何十年分も蓄積していないのだ。
「戦後の三年」では、フェンサースーツが何度も故障した。その度に、性能が落ちる予備機を何度も使った。
そういった予備機の扱いで、慣れている。
味方を狙っているタイプツーをスパインドライバーで叩き落とす。大兄から無線が入る｡
「弐分、北にβ型が侵攻してきている。 撃破頼む」
「了解。 すぐに対応する。 空中戦は大丈夫だろうか」
「私と一華で片付ける」
「そうか、頼むぞ」
三城の言葉が頼もしい。事実雷撃銃で確実にタイプツーを屠っている三城の動きは、知っているものと変わらない。
即座に現地に急行。
跳ね飛んで迫ってくるβ型を、出会い頭にデクスターで消し飛ばす。更にスパインドライバーで血の雨を降らせる。
さあ片付けてやる。
今ここに来ている怪物は、一体も生かして返さない。
敵も相当に頭に血が上っているようで、次々に増援を寄越してくるが、中途半端な逐次投入は無駄だと思い知らせてやる。
激しい戦いをこなしている内に、どんどんかすり傷を受けるが。致命的なのは貰わない。大兄ほどではないが、背中に目くらいはついている状況だ。
射撃を続行し、次々に手を叩き潰す。β型の中には銀の個体もいるが、どうでもいい。スパインドライバーで貫き、更にデクスターを浴びせて粉々にするだけである。
敵がタイプワンまで落とし始める。
「くそっ！ なんという物量だ！」
「各地に飛来した円盤も撃墜例がない！ このままだと、EDFといえど物量に押し潰されるぞ！」
「怪物それぞれも強い！ とにかくデータを取得するんだ！ 戦えているあの四人を援護しろ！」
「い、イエッサ！」
訓練を受けた兵士だ。動きは鋭い。
こういった人員を殆ど失った状態で、前周や前々周は戦わなければならなかった。本当に厳しかった。
そしてこういう兵士達は、責任感も強く。真っ先に死んで行ったのだ。
今度は、一人もやらせはしない。
負傷者がどんどん出る。皆、キャリバンで運ばれて行く。だが、それだけの余裕があるという事だ。
大兄の狙撃が凄まじく、既に三桁のドローンを叩き落としている。敵側も泡を食っているとみていい。
怪物の増援は一旦停止する。
そして、ついに来るべき時が来た。
業を煮やしたマザーシップが、主砲を展開し始めたのだ。
「なんだ！ ばかでかいのが出て来たぞ！」
「あれは大砲じゃないのか……」
「みろ！ 光が！」
「逃げた方が良い！」
小田隊員が呻く。だが、戦略情報部の命令は決まっている。
少佐は、声のトーン一つ変えずにいう。
「情報優先を最優先してください。 撤退せず、その場で可能な限りデータを集めてください」
「聞いたか。 被害が出てもかまわないってよ」
「弐分、三城、行くぞ！ 一華も出来るだけ支援してくれ！」
大兄の言葉と同時に、雑魚は完全に無視。ガリア砲に切り替える。
大兄とともに狙撃。
あの主砲は、三つの構造体で守られている。恐らくはダメコンのための部品だ。それぞれがかなりの強度をもっているが、それさえ破壊すれば主砲にダメージが通る。
飛行中の慣性すら手なづけ、飛びつつガリア砲を連続して叩き込む。構造体一つ目、破壊。
粉々に粉砕され、散らばって落ちていく。
二つ目、破壊。ニクスの迫撃砲が直撃し、更に同時に大兄のライサンダーＺの弾が突き刺さった。
そして三つ目が破壊された頃には、敵の主砲にはエネルギーが充填され。発射されようとしていた。
「三城！」
大兄が叫ぶ。
同時に、三城がライジンを敵船主砲に叩き込む。
円錐の形をした主砲に、モロに突き刺さったライジンの超高熱量。ひびが入るのが見えた。
其処に、大兄と一緒に狙撃。
次の瞬間。
マザーシップの主砲は爆発四散。
更に、マザーシップにも、罅が入っていた。
「ちっ。 またタイミングが少しずれたか……」
「多分私が少し早すぎた。 ごめん」
「いや、充分ッスよ。 次はこの面子なら落とせるッス。 データは、取得させて貰ったッスので」
一華が、大混乱している様子のマザーシップを見て、そううそぶく。
一華の発言は、まあ信頼して良いだろう。
敵ドローン部隊は右往左往。そこに、だめ押しにニクス隊が到着。猛烈な対空射撃を開始。
怪物の残党も、ドローン部隊も、まとめて消し飛ばしていく。
他の地域に展開していた怪物を片付けたから、これだけの部隊が集結できたと言う事だ。
更に、一華が言う。
「あのタイプワンども、規模から言ってほぼ確実に以前工場地帯に展開していた連中ッスね。 足を運ぶ手間が省けたッスよ」
「好都合だ」
大兄は、冷静に呟く。マザーシップは煙を吐きながら、上空に逃走を開始。まさか、開戦早々、切り札でもあるマザーシップにクリティカルなダメージが入るとは思ってもいなかったのだろう。
恐らく、各地でマザーシップは侵攻を停止し、一旦上空に逃れているはずだ。これだけでも、この日に人類が受けるダメージは何割も減るとみて良い。
「や、やりやがった……！」
「あんな奴は見た事がないぞ！ ムービーヒーローかよ！」
「とにかくあのデカイ奴は追い払えた！ 戦略情報部、今のデータをすぐに全世界に転送しろ！ お前達の言う通り踏みとどまった結果だ！」
「わ、分かりました。 興味深い……！」
珍しく、戦略情報部の少佐が興奮している様子がわかる。
あいつも、興奮するんだなと思って、弐分もちょっと面白かった。
いずれにしても、それからは掃討戦だ。
ただ、供給源が断たれた敵は、既に半壊状態。大兄は容赦なく駆逐を続け、勢いづいた味方もニクス隊の支援もあって、攻撃を続行。
程なくして、敵の駆逐は完了していた。
支援部隊が来て、負傷した兵士を連れて行く。ベース228から逃げてきた部隊の大半は、此処で引き揚げて行った。戦車隊も後退する。殆どがかなりのダメージを受けていたし。怪物の酸に装甲が無力だと分かりきったからだろう。
荒木軍曹が来る。
小田隊員はかなり好意的な表情だったが。
荒木軍曹はかなり険しい顔をしていた。
「お前達は何者だ。 凪一華については分かっているが、本当に古流の道場の跡取りだというだけなのか。 どこかで民間軍事会社にでも入っていたのか」
「ちょっと待てよ軍曹。 大将達のおかげで数限りないほど戦友が助かったんだぜ」
「それに見てください。 皆、負傷は多少でもしています。 此処までして、何かしらの欺瞞工作をするでしょうか」
小田隊員と浅利隊員はそうフォローしてくれるが、相馬隊員は少し厳しい表情だった。多分荒木軍曹と同じ意見なのだろう。
荒木軍曹の視線は厳しい。
歴戦の兵士である。これほどの戦闘力が、如何に常識外れかはよく分かっている、と言う事だろう。
戦略情報部に推薦はしてくれた。
だがそれでも、確認は必要と考えていると言う訳だ。
さて、大兄はどうする。一華が何か誤魔化そうとしたようだが。大兄は言う。
「……荒木軍曹ならば、信じてくれると考えています」
「内容次第だ」
「一華」
「はいはい、通信とかをスタンドアロンに切り替えるッスよ」
連携が取れている様子を見て、荒木軍曹は更に不審そうにする。
まあそれもそうだ。この時間だと、まだ村上班は集まったばかりの村上家と凪一華のあんまり連携が取れるとは言えない間柄だ。こんなにツーカーで動ける筈がない。
荒木軍曹は非常に鋭い人物だ。
こういうのを見ても、おかしいと思うのだろう。
「敵について、知っています。 今は、それだけ話をしておきます。 そうでないと、下手をすると病院行きにされてしまいますので」
「敵のスパイか、或いは脱走兵と言う事か」
「いえ、その敵と戦い続けてきたとだけ。 その敵が如何に残虐で、許しがたい相手であるかはよく分かっています」
「……今までの戦いぶりを見る限り、確かに敵への凄まじい怒りは感じた。 分かった、今はそれでいい。 ただし、EDFに入って貰うぞ」
兵士が来る。
敬礼して、荒木軍曹に話を始める。
「荒木少尉。 隣街から連絡が来ています。 例の円盤が向かってきていると。 民間人の避難はどうにかなりましたが、大量の怪物が集結している様子です」
「分かった、俺たちでどうにかする。 味方部隊を集めてくれ」
「イエッサ」
兵士が行く。
この時点での荒木軍曹の実階級は少尉か。あれ、少尉だったっけ。ちょっと自信がないが、そうだと言う事にしておく。
味方部隊は、各地のまだ陥落していない基幹基地周辺で、必死に戦っているようである。一華が言うには、開戦当初はまずプライマーは核兵器を隠している基地を狙ったそうだ。それには勿論ベース228も含まれている。
後から分かったのだが、N6と呼ばれる核搭載可能な新世代型の弾道ミサイルがベース228には隠されていたらしく。
正直バルガなんかプライマーにはどうでもよかったのだろう。
今はどうでも良くないかも知れないが。
ベース228に無茶苦茶な物量が投下されたのは、核兵器を無効化するため、というのが真相だったようだ。
「戦後の三年」で、各地を回った。
データセンターの中には、既に稼働していないものも多かったが。サーバーなどからデータはサルベージ出来た。一華が必要だというので、それを行った。そして一華がプロフェッサーとともに分析して、分かった事は多いのである。
兵士が集められた。
ハンマーズやウィングダイバーの部隊は、一度東京基地に帰還。その代わり。三個分隊ほどの歩兵が集まった。
ニクスも戻っていった。戦況が良くない地域がある。此処に敵が固執しなくなった以上、他で必要とされていると言う事だ。
ニクスの戦闘力は、怪物相手にも圧倒的だ。
改良を急げば、コロニストが来る頃にはエイレン型にバージョンアップ出来ているかも知れない。
そうなれば、コロニストくらいなら蹴散らせるだろう。
問題は、今は別にやる事がある、という事である。
円盤の撃沈。
そう、テレポーションシップ対策だ。
テレポーションシップを五ヶ月間放置していたことが、EDFの敗因につながった。
そして、テレポーションシップを撃墜したタイミングにしか、今までは戻れなかった。
だが今回は違う。
こんな開戦近いタイミングでテレポーションシップ破壊の実績を作り。破壊の方法を周囲に展開出来れば、戦況は変わる。
まだ味方には充分な戦力も物資もある。勿論初日の攻撃は、最初に弐分がプライマーと交戦したあの日のものより激しいはずだが。しかしながらそれは核兵器が隠されている戦略基地に対してであって。全域では、恐らくあまり変わっていない筈だ。
此処で敵のキャリアであるテレポーションシップを潰す事に成功したら、恐らく戦況を一変させられる。
勿論、大慌てで大型船を出してくるかも知れないが。
その時には、相応の対策をさせて貰うだけである。
大型移動車が来た。ニクスを乗せて、一華が修理を始める。長野一等兵がいたら、全部任せられるのだけれども。
今は、一華がやるしかない。
それに長野一等兵はこのタイミングでは生きている筈だ。独立部隊の結成を任されてから、此方に支援要因としてまわして貰えればそれでいい。
近くの街。
弐分の生まれ故郷に急ぐ。
まあ、道場が潰されてしまっているのは、今回も同じだろうが。
今回は、違う展開にしてやる。
テレポーションシップが来ているのは明白。
大兄が、バイクを取りだす。
「敵は伏兵を展開している筈だ。 俺が突貫して、あの腐れ船を叩き落とす。 皆、支援を頼む」
「了解」
「わかった」
「それはそうと、問題は荒木軍曹ッスね。 出来れば、今回も友好的な関係を構築したいッスけど」
一華が少し不安そうにするが。
大兄は、苦笑する。
「問題ない。 荒木軍曹なら、絶対に分かってくれる。 ずっと一緒に戦った最高の兵士だ。 信じてくれるはずだ」
「まあリーダーがそういうなら……」
「今は、歴史を大きく変える事を考えてくれ。 これ以上敵に好きかってさせないためにも、まずはテレポーションシップを叩き落とす。 それだけで、味方の損害をどれだけ減らせるか分からない」
その通りだ。
五ヶ月で、前周は四割の人間が殺された。
今度はそれをゼロとは言わないが、少なくとも手出しが出来ない状態は終わらせる。
そうすればプライマーは今までの戦術を行使できなくなる。
歴史の誤差が大きくなるからだ。
それでかなり動きやすくなる筈である。
問題は、サイレンだ。
あいつはまだ、どうやって倒せば良いのかよく分からない。残念だが、何度も戦って、犠牲覚悟で弱点を割り出していくしかないだろう。
グラウコスになってしまうかも知れない。
もしそうなられた場合は、可能な限り最優先で倒す事を試みなければならないだろう。彼奴は機甲師団を数分で全滅させる戦力を持っている。アーケルスにも似たような事が出来るが、更に桁外れの戦力だ。
程なく、小さな街に着く。
相当数のβ型がいる。
さて、此処からだ。
マザーシップに痛打をくれてやった今、既に歴史は大きく狂い始めている。此処でテレポーションシップを落とせば。
一気に敵に、泡を吹かせることが可能だ。
３、五ヶ月の苦戦を灰燼に
大兄がバイクに跨がるのを横目に、三城は誘導兵器に武器を切り替える。β型にはこれに限る。
ただ、見た所敵には銀β型が相当数いる。これは、小兄と一華に任せるしかないだろう。
一華のニクスはかなり傷を受けているが、此処に到着するまでに応急処置は済ませてある状況だ。
この程度の敵なら充分にどうにか出来る。
手をかざしている大兄。
「いるな。 数はおよそ五百。 地下に伏せている」
「そんな事まで分かるのか」
「間違いありません。 そして、見てください」
テレポーションシップがいる。
落とし方さえ分かれば、文字通りゴミのように蹴散らせる。
既に戦略情報部は戦闘をモニタしているようだ。さっき、マザーシップに大ダメージを与えて、撤退に追い込んだからだろう。
ビギナーズラックの可能性もあると考えるかも知れないが。
いずれにしても、此処をモニタしていてくれれば助かる。
周囲には枯れた田んぼもあり、バイクを走らせるのはちょっと大変だけれども。大兄なら問題ない。
「俺があの円盤に対処します。 β型の対応は任せます」
「分かった。 くれぐれも注意しろよ」
「イエッサ」
大兄が行く。
同時に、ニクスが前に出て。我が物顔に飛び回っているβ型に仕掛けた。当然、即座に此方に殺到してくるβ型。
「くそっ！ 飛び跳ねやがる！」
「さっきの戦闘でも交戦した相手だ！ α型と違って柔らかく、代わりに酸を含んだ糸を放ってくる！ 気を付けろ！」
「要するに近づけさせなければ良いって事だ！ 弾幕を展開してくれ！ 俺はこいつを使うぜ！」
小田隊員が、ロケットランチャーを補給車から取りだすと、ぶっ放す。
この頃から、実力は確かだ。β型をまとめて吹き飛ばす。ただ、銀β型は、その程度では死なない。
流石というかなんというか。呆れるタフネスだ。
三城は上空から、誘導兵器でβ型を拘束。柔らかいβ型は、誘導兵器で充分に大軍を拘束可能だ。
アサルトで猛射を浴びせて、確実に敵を屠って行く荒木班。小田隊員は、次々にロケランで敵を吹き飛ばして行く。かなりの手際だ。
一華のニクスも凄まじい火力に混ぜて、迫撃砲を叩き込む。
流石にニクスの迫撃砲は、携行用のものとは火力が段違いだ。数匹を一撃で消し飛ばし、銀β型の体もボロボロにする。
「色が違う奴がいる！」
「くそっ！ ロケランくらってもぴんぴんしてやがる！ あの赤いα型だとかよりもタフだぞ！」
「戦闘を続行して、データを可能な限り収拾してください」
「そのつもりだ！ どの道此奴らとの戦闘で、勝たないと生き残れない！」
戦略情報部の少佐の言葉に苛立つ皆の気持ちが、少しわかる。
プラズマグレートキャノンまでは持ち込めなかった。
誘導兵器とライジンをもってくるのが精一杯だったのだ。プラズマグレートキャノンは、プロフェッサーに注文してある。出来るだけ急いで送ってくれるはずだ。それだけで満足するしかない。
小兄が、スパインドライバーで、β型を粉砕する。
あの豪快な武器は、とにかく凶悪だ。フェンサー隊にもっと配備するべきだと思うのだが。
いや、無理か。
見た感じ、型落ちのフェンサースーツでは、衝撃を殺すのがやっとだ。小兄のセンスがあって、やっと使いこなせている状況。
並みの兵士では、多分フェンサースーツを着ていても、あれの反動に振り回されておしまいだろう。
おおと、兵士達が声を上げる。
更にデクスターで、小兄がβ型を駆逐していく。β型は拘束された上、苦手な大火力攻撃を受けて、ひとたまりもなく消し飛ばされていった。
程なく、見えている敵は駆逐完了。
後方を見る。
大丈夫、負傷者は出ていても戦死者は出ていない。
そういえば、この辺りで苦戦する味方の通信を聞いたっけ。今日は、それは聞こえてきていない。
既にやられてしまったのか、それとも。
戦略情報部が、通信を入れている。
「β型の怪物について特性が分かってきました。 高い殺傷力と機動力を持つ反面、体が柔らかく、特に大火力の武器で拘束する事が可能な様子です。 攻撃の射程距離がかなり長いようなので、スナイパーライフルとロケットランチャーを主体に応戦させてください」
「荒木班と、例の部隊の情報か。 分かった、すぐに各部隊に拡散、徹底してくれ」
「β型には銀色の変異種がいるようです。 この変異種は非常にタフで危険です。 ただ、同じように攻撃には怯みやすいようですので、発見時はとにかく攻撃を集中して倒しきってください」
「出来るならそうする。 ただ敵の数を考えると、ニクスと随伴歩兵で対応するしかなさそうだな」
千葉中将も、頭の回転が速い。
そして、荒木軍曹もだ。
「小田兵長。 あの辺りに……ロケットランチャーを叩き込んでくれるか」
「おう。 あの言葉、信じるって事だな」
「そうだ。 β型は今の戦闘ではっきりしたが、タフネスは大した事がない。 ただしあの浸透力と火力は危険だ。 だから、今のうちに引きずり出して、此方に引きつける」
「数は五百と聞きます。 大丈夫でしょうか」
浅利隊員に、荒木軍曹は大丈夫だと返した。
そして、そのまま射撃させる。
わっと、湧いて出てくるβ型。ただ、銀色はいない。いずれにしても、相当な数だ。即座に駆逐しないと危ない。
「総員、ロケットランチャーを叩き込め！ 近距離戦には絶対に持ち込ませるなよ！」
「イエッサ！」
荒木軍曹の指示で、全員がロケットランチャーの弾幕を叩き込む。
凄まじい大火力を前に、β型は伏兵を看破され。更に其処を徹底的に火力の雨に晒され、粉々になって消し飛んだ。
これくらい気持ちよく勝てればと、三城も思ってしまう。
だが、敵は物量を生かして反撃に出る。勿論、そうはさせない。
即座に上空に出て、誘導兵器をぶっ放す。敵を拘束開始。
大兄が。敵テレポーションシップの真下に到達。忌々しいテレポーションシップはやりたい放題にβ型を落としているが。大兄があの程度に遅れを取るわけがない。
マズルフラッシュが此処からも見える。
β型が、ばたばたとなぎ倒されている様子だ。
そして、次の瞬間。
恐らく、大兄がライサンダーＺの弾を叩き込んだのだろう。
テレポーションシップが、内側から盛大に爆発していた。
そのまま、炎を噴きながら、墜落していくテレポーションシップ。
荒木軍曹が、声を上げていた。
「何っ……！ 重爆撃機の爆撃にも耐えたと聞くが……！」
「今の戦闘データを廻してください」
「壱野、どうやったんだ」
「ハッチを下部から狙撃しました。 どんなタフな相手も、内側から攻撃すれば破壊出来ると判断しましたので」
大兄が、そう呟く。
これを最初に考えたのは荒木軍曹だったな。そう思いながら。三城はそのまま、β型の拘束を続行。
味方兵士達の手が鈍っている。
驚愕して、地面に突き刺さって煙を上げているテレポーションシップの残骸を見やっているからである。
小兄と一華のニクスが火力にものを言わせて、敵を片っ端から撃ち抜く。その支援を、三城がする。
大兄が戻ってくる。
アサルトで文字通りβ型を薙ぎ払って行く大兄。集弾率が凄まじく、バイクの上から撃っているとは思えない。
「テレポーションシップの撃墜に成功したのは初めてです。 まさか民間人が撃墜するとは……」
「もう少し撃墜のデータがほしい。 現在、近隣の街が十隻を超えるテレポーションシップに襲われている。 荒木班、即座に其処へ向かってほしい。 応戦中の部隊が苦戦している」
「分かった。 すぐに対応する」
千葉中将も、即座に指示を出してくる。
10隻か。この時点で落とせれば、五ヶ月後に一日40隻落とすよりもずっと価値のある戦果になる筈だ。
そしてこの時点で、独立部隊として認められたら。
各地の最前線で、大暴れして戦局を変える事が出来る。
覚悟しろプライマー。
今までお前達が好きかってしてきた分を、全て返すときが来たのだ。
柿崎や山県、それに木曽が合流する頃には、戦況そのものを根っこからひっくり返してやる。
勿論プライマーも前倒しで凶悪な兵器を投入してくる可能性があるが。
それらも、全部まとめて大兄とみんなで叩き潰せば良いだけのことだ。
特にネイカーの撃破は急がなければならない。あいつの撃退方法は、出来るだけ急いで取得しないと、被害者が天文学的な数出る事になる。
「テレポーションシップの残骸を回収します。 回収部隊が到着し次第、荒木班は指定の地点に救援に向かってください」
「すぐに向かうべきだ」
「いえ、まずはこの残骸の回収を優先します。 既にヘリと護衛部隊を出しました。 数分、その場の堅守をお願いします」
「分かった。 すぐに対応してくれ」
小田隊員がぼやく。
相変わらずだなあと。
荒木軍曹も嘆息する。ただ、ものには順序がある。この時点で、本来EDFは黄金の装甲相手に何もできなかった。
だが、この段階で黄金の装甲についての解析が始まったら。
或いはフーリガン砲の改良が、もっと進むかも知れない。歴史を変えている敵大型船の一周回における撃破目的数80隻。
達成が見えてくる。
とにかく、今は数分の時間も惜しい。だが、それでも待つしかない。
ヘリが来た。予想より早い。かなりの大型ヘリだ。本部としても、これは絶対にほしい情報なのだろう。
展開する部隊は、先進科学研の学者らしいのも伴っていた。なんだか偉そうなエリート様だ。
口を利くのも嫌なので、そのまま荒木軍曹に任せる。
「それでは此処は任せる。 俺たちは味方の救援に行く」
「了解した。 それにしても、爆撃機の攻撃にもびくともしなかったというこの敵船を、よく落とせたな」
「ああ、頼りになるのがいるんでな」
「……」
胡散臭そうに此方を見る兵士。
ともかく、大型移動車で移動を開始。指定の街にはこれで飛ばして三十分は掛かる。途中で怪物に襲われるかも知れない。
とにかく、一人でも多く熟練兵を助けなければならない。
さんさんたる状況になる前に。
少しでも、戦線を安定させなければならないのだ。
現地に到着。フェンサー部隊とウィングダイバー隊が、敵に応戦している。敵はβ型多数。既にかなり苦戦しているようだ。
上空には多数のテレポーションシップ。
優勢に進んでいる戦況を、悠々と見ているような感じか、
まあいい。
すぐに叩き落とす。
三城も、あいつらには思うところがたくさんある。此処で、ああやって浮かんではいられないと思い知らせてやる。
「荒木班、現着！」
「ありがたい！ 救援を頼む！」
「怪物の数が多すぎるぞ！」
「来る途中に聞いたが、どこもこんな感じだそうだ。 EDFは今まで蓄えてきた物量で必死に押し戻しているが……」
大型移動車から飛び出し、展開。ニクスを中心に、逃げ惑う市民を襲うβ型を撃破していく。
三城は先に飛んで行くと、味方に絡んでいるβ型を上空から誘導兵器で拘束。余裕が出来た味方が、周囲のβ型の駆逐を開始。
一華のニクスがβ型を蹴散らしながら進む。
「市民は自主避難を！ 此処はもっと苛烈な戦場になる！」
「此方キャリバン！ 多数の怪物を前方に確認！ 接近できない！」
「まずはテレポーションシップをどうにかしないと駄目か！」
三城が着地した時には、既に小兄が追いついてきていて、周囲のβ型を片付けていた。フェンサー達は皆ボロボロだ。
荒木軍曹が、残りを撃破しながら、血路を開いて市民を逃がしている。負傷兵に市民の誘導を任せ、荒木軍曹は踏みとどまる。
β型が押し寄せてくるが、大兄も一華もいる。押し寄せてくるだけ、死体になるだけだ。片っ端から叩き潰していく様子を見て、兵士達が目を見張る。
「あいつらは何者だ！？ 正式な軍人には見えないが……」
「知ってるか、今ある唯一の安全な場所。 あいつらの後ろだ！」
小田隊員が、調子が良い事を言う。
まあ、そう言ってくれるのは三城としても嬉しい。というか、今度こそ絶対に死なせない。
β型は街中から来る。彼方此方で大量に市民を食い殺して、押し寄せてきているという事だ。
だが、此処に集まるなら好都合。
隠れている市民だけでも助けられるし。
集まった分だけ駆除できる。
幸い、さっきのヘリが補給車を運んできたので、ニクスの弾薬は余裕が存分にある。ニクスの機銃が咆哮し、たまに混じっている銀β型も容赦なく粉砕する。その間に荒木軍曹は、負傷兵をさがらせる。ただ下がらせるのではなく、市民の護衛をさせながら。
「！ 来ます」
「テレポーションシップだ！」
「くそっ！ 今度は落とせるのか！」
「三城」
頷く。大兄の指名とあれば。
走りながら、ライジンのチャージを実施。多少フライトユニットに負荷を掛けるが、今はその負荷を掛ける意味があるタイミングだ。
低空飛行に移ったテレポーションシップが、公園に向かって飛んでくる。公園に張ってある不愉快な張り紙。此処で遊ぶのは禁止だのなんだのいう本末転倒な寝言の羅列は、既に血まみれになり、ちぎられていた。
あんなもの、二度と貼ってはいけない。
そう思いながら、三城はハッチを開いたテレポーションシップの真下に踊り込むと、上に向かえて放つ。
ライジンの超高熱量が、文字通りテレポーションシップを真下から貫通。
そのまま、飛び離れる。
少数だけ呼び出していたβ型を押し潰しながら。撃墜されたテレポーションシップが爆発。炎上を開始していた。
「やはり偶然では無いな。 戦略情報部！ 今のデータも記録したか！」
「記録しました。 やはりテレポーションシップはハッチ内部に対する下からの攻撃に耐性がないようです」
「よし、それが分かったのならどうにかなる！ 即座に全世界に情報を回してくれ！」
「了解しました」
千葉中将が嬉しそうだ。それならば、三城も嬉しい。
いつも身を粉にして支援してくれる千葉中将は、数少ない尊敬できる大人の一人だ。大人の大半には不信感しかなかった三城も、ああいう人を見て少しは考えも変わった。
ただしそれと同時に、まだ救いようがない大人がたくさんいるという事も認識はしている。
公園にあのアホな張り紙を貼ったようなのがそうだ。
あの手の輩は、プライマーと同じかそれ以下だ。
上を見る。大兄ほどでは無いが、三城も気配は察することが出来る。来る。
「テレポーションシップ、二隻同時来ます！」
「弐分、一華」
「了解」
「任せるッスよ！」
今度は小兄と一華のコンバットフレームが行く。誰でも落とせる。それを証明する為である。
β型の残党がまだまだ来る。それを、三城は上空から誘導兵器で拘束。荒木軍曹達が、手分けして倒す。
誰か、ウィングダイバーが撃墜されるのが見えた。致命傷では無い事を祈るしかない。乱戦だ。どうしても助けられない人間は出る。だが少しでも、それが減るように立ち回るしかないのだ。
低空飛行に移ったテレポーションシップ。公園に展開し直した部隊を、それぞれ襲うようにして機動してくる。
だが、小兄と一華のコンバットフレームは。
文字通り敵の動きを完璧に読み切り。
相手がハッチを開いた瞬間、下に潜り込んでいた。
小兄のスパインドライバーがテレポーションシップを内部から叩き潰す。ついでに叩き込まれたデクスターがとどめとなって、テレポーションシップが叩き落とされる。
更に一華のコンバットフレームが、凄まじい火力を瞬時に叩き込む。機銃と迫撃砲を同時に撃ち込んだ様子だ。
二隻のテレポーションシップは、β型を落とす事すら出来ず。そのまま火を噴きながら地面に落ち行き。
地面を激しく抉りながら爆発、炎上していた。
「こ、これで三隻撃破！」
「戦略情報部！」
「分かっています！ 今、救援部隊と回収部隊を編成！ 更に各地に、今の戦闘データを送信中です！」
「あの輸送船をたたき落とせる事が分かれば、戦況は一変する！ ラボにできる限りの残骸を届けて、対抗兵器の作成を急がせろ！ それに現有兵器でもこの弱点を突けば破壊は可能だ！ 敵の浸透を防ぐ事が出来る！ こんなに早くアンノウンに対抗できるとは！」
千葉中将が興奮気味だ。それはそうだろう。爆撃機から大火力の爆弾を叩き込んでも倒せなかった相手を、こう容易に潰せているのだ。
更に三隻、攻撃態勢に入る。大兄が、声を掛ける。
「荒木軍曹、一隻は頼めますか！？ 同じ要領で、下から攻撃を叩き込んでください！」
「よし。 小田兵長、ロケットランチャーを！ 一番威力が大きいものを、一斉に叩き込むぞ！」
「おう、任せろっ！」
大兄がバイクで行く。三方向から迫るテレポーションシップ。此処で、荒木軍曹も落とせるという事を示すのに意味がある。三城も走りながら、ライジンのチャージ。至近をβ型の糸が掠める。
だが、一華のインターセプトが入る。ニクスにβ型の糸が多少突き刺さるが、その程度なら貫通される恐れもない。そのまま射撃を浴びせて、粉みじんにβ型を消し飛ばす一華。
感謝しながら、三城は走る。
そして、テレポーションシップの下に滑り込んでいた。
それぞれが、同時に爆破したのが、音で分かった。
「やったぜ！ ざまあみやがれっ！」
「これで敵は好き放題怪物を落とせなくなる！」
「戦略的に大きな意味が出てくる。 これは大きいぞ」
小田隊員と浅利隊員と相馬隊員の声が聞こえる。荒木班もやってくれた、ということだ。
勿論、撃墜したテレポーションシップに巻き込まれては意味がない。即座に飛び離れる。
β型を最後のあがきに少数落としたテレポーションシップだが、無駄だ。落とした怪物は全部テレポーションシップの下敷きになって、ともに爆発四散した。
テレポーションシップの一隻は激しく地面に叩き付けられた後、数度バウンドし。ビルに突っ込み爆発四散する。
もうビルの中の人は皆避難していることを祈る他ない。それに、だ。
この様子を見て、四隻のテレポーションシップが動き出す。上空から、β型をまき散らしながら迫ってくる。
「くっ、なりふり構わずに来たな！」
「俺たちで落とします。 後は戦力を集中して迎え撃ちましょう」
「分かった、任せる！ 補給を今のうちに！ 負傷者は陰に隠せ！」
「皆、行くぞ！」
大兄の言葉と同時に四方向に散る。
更にテレポーションシップが見えたが、どうやらこの街から離れていく様子だ。
戦況、不利と判断したのだろう。
敵ながら、流石にこの状況だ。被害を少しでも減らそうと動くのは、まあ当然ではあるし。
何よりも、敵の新しい司令官だったらそうするだろう。むしろ判断が遅いくらいである。或いは指揮系統の引き継ぎとかが上手く行っていなかったのか。それとも成功体験が指揮を遅らせたのか。
いずれにしても、つけいる隙はあると言うことが良く分かった。
どの時代の名将だって負ける。かの上杉謙信や武田信玄ですら負けた事がある。
だったら、敵だって同じ筈。
完全な能力を持つ指揮官なんて存在しないし。もし存在していたら、とっくに三城達は負けていたはずだ。
ライジンをチャージしながら走る。フライトユニットが悲鳴を上げているが、とにかく耐えてもらうしかない。
下を取る。β型、かなりいるが。一撃離脱。失敗するわけにはいかない。
多数の糸が飛んで来る中、前転して回避しつつ、上空にライジンを叩き込む。
狙いは完璧。落としてきていた銀β型を瞬時に融解させつつ。テレポーションシップのハッチ内部をライジンの超高熱が貫通するのが見えた。
飛び退きつつ、誘導兵器で敵の足を止める。
爆発は三つ同時に起き。そして一秒ほど遅れてもう一つ起きた。
テレポーションシップは全滅だ。
だが、β型がかなりの数迫ってきている。
「おおっ！ テレポーションシップが！」
「十隻撃墜！ 先とあわせれば十一隻！ 驚異的戦果です！」
「どうやら好待遇で迎えるしか無さそうだな。 最高の兵士としての適正をもつものが、この地獄の土壇場で見つかるとは……」
「すぐにポストを準備してください。 ネゴは此方で行います」
千葉中将と戦略情報部の少佐が、気の早い事を言っている。
まだβ型がかなり残っている。この街にも、逃げ遅れた市民がいる。
落ちたテレポーションシップにかなりの数のβ型が巻き込まれたが、それでもまだまだいる。
ただ、此方はみんな揃っている状態だ。公園で、敵を迎え撃つ。ムキになって迫ってくるβ型だが、大兄の鬼神のような暴れぶりに、あからさまに怖れる様子の個体が見える。それはそうだろう。
生き物なら、分かる筈だ。何を相手にしているか。
もう大兄の強さは摂理を超え始めている。
三城は、小兄と同じく、多分人間を超越することは無いだろう。これはなんというか、予感としてある。
だが大兄は違う。
文字通りの武神。驚天動地という言葉がそのまま当てはまる存在になりつつあるのだ。
以前、恐らくは特殊個体だろうアーケルスを怪物が怖れるのを見た。
今の大兄は、あいつと同等か、それ以上の存在になりつつある。
今だったら、アーケルスを、バルガ無しで倒せるかも知れない。ただ。油断は禁物だ。プライマーはこれから、スキュラとネイカーを、サイレンともども投入してくる。恐らくだが、ハイグレードアンドロイドもだ。
その投入のタイミングがいつになるかは分からない。
兎に角今は、一人でも多く熟練兵を生かし。
自分も生きて、この場を乗り切らなければならない。
「負傷者、ニクスの影に！ まだ余裕あるから平気ッスよ！」
「自動砲座を展開する！」
「お願いするッス！」
「よし、何とか立て直せそうだ！ 総員、死力を振り絞れ！ 生き残るぞ！」
荒木軍曹が声を掛け、迫り来るβ型に総員で立ち向かう。負傷者が次々に出るが、それでも何とか生還させる。一人でも多く。
至近に飛びかかってきた銀β型を、大兄が完璧なタイミングで撃ち抜いて、空中で木っ端みじんに消し飛ばす。
β型が明らかに怯む。
其処を、荒木班が追い討ち。次々に打ち倒して行った。
程なくして、救援部隊が来る。ニクス数機を伴った強力な部隊だ。街は彼方此方炎上していて、消防車も来ていた。まだ、消防が動いているんだな。そう思う。「五ヶ月後」の時点で、三城が知る人類のインフラは壊滅していて、もう消防車が動くような事態はなく。市民は地力で身を守らなければならず。地下に逃げ込んで生活しているのが普通だった。もう、街は機能していなかったのだ。
今はまだ、機能している。
そう思うと、複雑な気分である。
「無敵を誇った敵の円盤をこの人数で……」
「信じられん。 とにかく、彼方此方に残骸がある。 回収を急げ」
「市民の生存者もかなりいる筈だ。 フェンサー隊は瓦礫除去などで市民の救援作業を頼む。 ニクス隊は周囲の敵残党駆逐を頼めるか」
「分かった、流石は日本の特務最強を謳われる荒木班だな」
荒木軍曹がいると流石に話が早い。
そのまま、一旦その場を離れる。負傷者は多分助かる筈だ。だが、助からない兵士もいるだろう。
この場にいない、別の戦場で戦っている兵士は、相当消耗がひどいはずだ。
敵も、コンバットフレームを集中的に狙うようになって来ている。この時間帯に来られたからと言って、まだアーマーも装備もプロフェッサーが改良していない。味方は決して、有利では無い。
油断すると、すぐに崩されるだろう。
大型移動車が来て、本部に移動する。途中で、荒木軍曹に言われた。
「どうやら、すぐには口に出来ない事情があるようだな」
「はい。 ただし、この敵は俺たちにとっても許しがたい仇敵です」
「そうか。 ともかく今は、EDFに入隊しろ。 誰にもできない事をやってのけたお前達にとって、一番安全なのは最前線だ。 EDFはお前達も知っての通り比較的クリーンな組織だが、それでも闇はある。 特に戦略情報部は俺たち肝いりでも知らない話がいくらでもある。 EDFの暗部と言っても良い相手で、下手にごねると危険だぞ」
「分かっています」
大兄の返答は、ずっと考えていたものらしい。荒木軍曹は話が分かる人だが、戦略情報部はそうではない。それを知っているからだろう。
程なくして、東京基地に着く。
此処も、散々拠点にして戦ったな。既に各地で、テレポーションシップの撃墜報告が上がり始めている様子だ。まだEDFは戦力を残している。この状態で、多数のテレポーションシップをたたき落とせるのは大きい。
そして敵もテレポーションシップを作るのにはコストが掛かるはずだ。黄金の装甲も、簡単に作れるとは思えない。大型船を作るのだって、一回の周回で五十隻がせいぜい。それだったら、バカスカとテレポーションシップを落とされたら悲鳴を上げるはずだ。
四人で、案内される。
千葉中将が来たので、敬礼。敬礼が決まっているのを見て、千葉中将は驚いたようだった。だがすぐに、居住まいを正した。
「私はEDF日本支部の司令官、千葉だ。 凄まじい活躍だった。 君達をEDFの兵士として勧誘したいのだが、良いだろうか」
「はい。 ただし幾つか条件を呑んでいただけますか？」
「内容次第だが、ネゴは戦略情報部に任せたい」
「了解しました」
相変わらず少佐は姿を見せない。本当にどういう人物なのだろう。今は、何処にいるのか。
戦闘末期には、潜水母艦に移動していることは知っている。だが、未だに戦略情報部の少佐は、顔も分からない。
一華も知らないらしい。本当に色々な意味でトップシークレットなのだろう。
少佐が無線を入れてくる。ちょっと、この人にはどうしても苦手意識があるが。大兄に全てを任せる。
「EDFに入る事を了承していただけると言う事でよろしいですね」
「現在交戦中の「敵性勢力」との戦闘を行うにはEDFの隊員が最適だ。 此方としては異論はない」
「条件があるという話ですが」
「まず我々は四人でチームとしてほしい。 そして基本的に一番戦況が悪い地点や、アンノウン出現地点での作戦行動を優先してくれるか」
大兄も、少佐には思うところがあるのだろう。
少佐はしばらく考え込んだが、話を飲んだ。恐らくだが、四人別々にするよりは、まとめた方が監視しやすいと思ったのだろう。
「常に最悪の最前線での戦闘を望むと言う事ですか」
「そうだ。 俺たちはクーラーが効いた部屋で指揮を執るよりも、それが向いている」
少佐は一華にもそれで良いのかと聞く。
一華は元々例のハッキング事件の禊ぎとしてベース228基地でのアルバイトに来ていた。一華がある程度の懲罰アルバイトを終えたら、EDFの幹部待遇で戦略情報部に入れる予定だったらしいと聞いている。
一華も最初は、それでいいと思っていたのだろう。
だが。今の一華は最前線でいいと即答する。まあそれはそうだ。戦略情報部に入るよりも、前線でニクスやエイレンを駆った方が戦局を変えられるのだから。
「……分かりました。 階級は貴方を少尉、他の者達を曹長として扱います」
「了解した。 それと戦果を上げた後でかまわない。 追加の人員の要求を頼めるだろうか」
それも、許可が下りた。
後は、優先的に実験兵器を回してほしいとも告げる。ポストも給金も要求してこない様子に、少佐は不審がるが。どうせそんなもの、これから役には余りたたない。必要なのは、ある程度自由に動ける程度の階級と、プロフェッサーが「開発」してくる装備。
後はストームチームとの連携だ。
階級は大兄が大暴れしていれば嫌でも上がる。というか、今日の働きだったら、いきなり佐官でも良いくらいだろう。
ただ、やはり荒木軍曹と連携したいと大兄も思っているのだろう。ちょっと小耳に挟んだが、今の時点で荒木軍曹の実階級は少尉のようだ。だったら、これで連携もしやすくなるというものである。
咳払いすると、早速千葉中将から指示が出る。
「では村上班。 まずは大阪でかなりの規模の敵の攻勢がある。 荒木班とともに現地に向かってくれるか」
「はい。 すぐにでも」
「頼もしい。 荒木班と並ぶ……いやそれ以上のエースチームが現れたのはとても有り難い。 頼りにさせて貰うぞ」
敬礼して、その場を離れる。数週間もすれば、プロフェッサーが兵器を送ってくるはずだ。
それまでは。手元にある武装でどうにかしていくしかない。
勿論今の実力だったら。
その程度の事に、不安は覚えなかった。
４、衝撃への戦慄
「水の民」長老は、全域での指揮を執っていたが。いきなり上がって来た報告に、愕然としていた。
日本での攻撃作戦中に、いきなり大反撃を受け、多大な被害を受けたというのだ。マニュアル通りに反撃はしたものの、悉く先手を取られたという。
慌てて被害に目を通す。
そして、トゥラプターを呼んでいた。
そもそもだ。
「例の装置」を「戦闘輸送転移艦」が通るときにも、十隻の損害を出した。更にこの十隻の中には、今回の作戦で用いる重要な大型生物兵器、「いにしえの民」曰くの「スキュラ」の女王個体も含まれていた。
この女王個体は培養が難しく、代わりが効かない。
撃墜時に当然、内包していた亜空間ごと消し飛んでしまっている訳で。結果として手持ちの「スキュラ」でどうにかするしかない。
これだけでも大損害だ。
「スキュラ」は元々かなり無理をして生態改造をしている生物兵器で、これまた「いにしえの民」曰くの「サイレン」に従うように、生物として無茶な改造をしている。このため「スキュラ」の女王個体無しでの繁殖は不可能で、精々現時点での環境に適応させるくらいしか手がない。
1割弱の「戦闘輸送転移艦」が撃沈された時点で、この損害は想定しなければならなかったのだ。
敵は数名が過去転移を確定でしている。それは分かっていた。
だが敵が「戦闘輸送転移艦」に対応できるようになって来ている時点で、既に非常に厳しい事態が到来しようとしてきていた。
「外」から通知されたように、もう大規模歴史改変は無理が来始めている。
過去に転移している「いにしえの民」は天晴れという他ないが。その戦士達をどうにかしない限り、かなり厳しい事態が来るだろう。
トゥラプターが来る。
まだ退屈な時間だろうと思っていたらしいトゥラプターは、状況を聞いて驚いたようだった。
「こんなに早くに彼奴らが！？」
「お前でもそれほど驚くか」
「それはもう。 ただ残念ですな。 過去転移する事が出来たとしても、持ち込めるのは精々手持ちの火器程度。 現時点では、戦っても実りなどありますまい」
「……」
此奴のモチベーションは上がらないだろう。それにだ。今は「いにしえの民」の戦力がまだ充分にある。
一応今までのデータで所在が判明している「いにしえの民」の核兵器は全て無力化したが、それでも万が一がある。
この戦士トゥラプターでも、核兵器の直撃を受けた場合は、本当にどうしようもないのである。
「水の民」長老の座乗艦ですらただではすまないのだ。
現に失敗した過去の周回で、「いにしえの民」が半狂乱になって核兵器を使い、甚大な被害を出した例がある。
以降、「いにしえの民」の核兵器は徹底的に無力化するのが基本になっているのだが。
それも今の状態では、出来ているか自信はない。
敵が「潜水母艦」と呼んでいる忌々しい代物にも、核兵器が低確率ながら搭載されているとみて良い。それを考えると、現時点で最高戦力を迂闊に動かす事は出来ない。
「長老」
「水の民」のオペレーターが、動揺しながら来る。
被害報告をまとめてきたのだ。
どうやら日本だけでは済まない様子である。各地で、大きな被害が出始めている。
この段階で躓くとは。
かなり厳しい状況が来始めているとみて良い。勿論前倒しで大戦力を投入する手もあるのだが。
それは敵に対して、充分な迎撃戦力が残っている状況で、対応能力を持つことを早めさせる事にもつながる。
何よりも、「例の装置」を通るときの損害が洒落にならなかったのだ。
この次の周回が恐らくは限界。
その時には、どれほどの被害を出す事になるのか。想像するだけで頭痛がする。
「やむを得んな。 各地での戦闘は現状維持を基本に、敵の戦力を確実に削る方向に切り替えろ。 敵の戦士達の内、最強の戦力が仕掛けて来ると現時点ではかなり分が悪い状態になりかねない。 一旦は敵を的確に削る方向に切り替えだ」
「今のうちに全戦力を叩き付けては」
「そうもいかん。 「戦闘輸送転移艦」が受けた被害の中には、今回の戦闘での切り札とするべきだったものも多数あった。 現在本国に申請して、生物兵器の培養は急いで貰っているが……次の周回までは間に合わないだろう。 今回は亜空間内で急いで生物兵器を培養して、それを戦地以外で投入するしかない」
「いにしえの民」曰くの「スキュラ」は、四半減している状態で考えるしかないだろう。つまり、海にでも投下して。慣れたところで攻撃を沿岸部限定でさせるしかない。
「サイレン」と連携して戦わせ、そして「サイレン」が「いにしえの民」のミスで変化したら。
その時にこそ畳みかけるべきだが。
まずはそうなるまでに、此方の被害こそを抑えなければならない。
過去転移している敵は手練れの集まりだ。
側にいるトゥラプターが大喜びする程の。此奴はまともに戦える相手がほしくて、「いにしえの民」との戦いの最前線に来たような奴である。
それを考えると、もはや油断は許されなかった。
「作戦の変更を各部隊に通達。 兎に角しばらくは敵の戦力を削る方向で動け。 大規模な攻勢を控えるように通達しろ。 確実に拠点を攻撃し、堅実に敵を倒していくように作戦の変更を急げ」
「わ、分かりました」
「水の民」の通信員が、各地に展開している部隊に連絡を開始する。
溜息が漏れる。
勿論「いにしえの民」が必死なのも分かる。
だが、今後懲罰同然で何処かの星に閉じ込められて、監視されるのは流石に心が苦しすぎる。
確かに先祖は罪を犯した。それもとんでも無いレベルの罪をだ。
「外」が激怒するのも分かる。
身の程知らずの愚行の結果、勝てもしない相手に全力で喧嘩を売り。しかも侵略を正当化するような寝言をほざいたのだから。
「外」は、「いにしえの民」が滅びないように措置もしているらしい。
それについても、どうこういうつもりもない。
そもそも「いにしえの民」が憎くて侵略しているわけでもないのだから。
長老の中には逆恨みしている奴もいるが、そもそも自業自得だと「水の民」長老ですら考えている。
殆どの「水の民」「火の民」の、今回の戦いに参加している者達だってそうだろう。
「水辺の民」に至っては、待遇改善のためにと泣く泣く無茶な作戦に色々と犠牲を出している程だ。
彼らを巻き込んだことも、「外」はあまり良く想っていないようだった。
いずれにしても歴史が安定していない以上、「本国」は今後も継続的に凄まじいダメージを受け続けるだろう。
何とかしなくてはいけないのは、前線指揮官の「水の民」長老の仕事だ。
前任者のあのド無能がもう少しきちんと効率的なデータ取得と戦い方をしていれば、もっと楽だったのだが。もうそうも言っていられない。
それに彼奴は、既に本国に送還して。この作戦に大きく関わった事を利用して、改造を開始しているらしい。
「非人道的」かも知れないが。
彼奴が面白がって作戦指揮をしていたことを既に複数、証言を得ている。だったらそれも自業自得というものだ。
用意させた武器を見る。
最悪の場合は、自分も前線に立たなければならないだろうな。
そう「水の民」長老は思った。
全ての状況を見ていた。
「太陽系」の過去の民と未来の民が戦いを続けている。文明連続体である以上、内戦と定義される戦いだ。
内戦である以上、どちらかに肩入れするわけにはいかない。
介入は御法度だ。
介入するのは、基本的に幾つかのルールに抵触したときだけ。
星間文明に発達した知的生命体が、外部の別ルーツの他文明に対して、侵略を開始した場合。
もしくはあからさまに危険すぎる技術を偶然開発して、それによって宇宙に致命的な事態を引き起こした時だけ。
凪一華というものの所に送り込んだ端末の一つが、戦況を見ている。
この個体は生まれが要因ではあるがとにかくスペックが高く。この個体を通して戦況を見ることで、存分に状況を確認できる。
そろそろ、この内戦も終わりが近い。
渡してある「例の装置」と「太陽系」の「未来の民」が呼んでいるものから、多数の情報が来ているからだ。
過去と未来の戦争が、そろそろ終わると。
なお、その装置は役割を果たせば自壊する。
自分達がやる事は一つだけ。
「文明」を保全する事。尊厳を守る事。
どの文明も発生する事は尊い事だ。だからこそ、どこかの文明が他の文明を蹂躙する事があってはならない。宇宙を無茶苦茶にせず、それぞれの尊厳を尊重しながら、共存出来なければならない。
それは前の宇宙が終わる時には、学習できていた。
だから、前の宇宙が終わって、今の宇宙が出来たときに。法で制定し。過剰な力を既に得ていた自分達は、宇宙の法となる事を決めたのだ。
もはや自律型の監視機械だけが自分達の実体だが。
それでも、この宇宙から。少しでも、血塗られた歴史を減らし。
どの文明も、尊厳を保たれ生きていけるように。他の文明からの無法な侵略で滅びないように。
監視し。
場合によっては保護しなければならなかった。
（続）
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