枯れ果てた地での再々会

 

序、またベース251へ

 

三年はあっと言う間だった。

ヘリをどうにか調達し。エイレンUを修復してから、壱野は各地で最前線に立った。クルールが大軍で姿を現すことはまずなくなった。敵も、基幹基地には仕掛けてこなくなった。

その代わり、各地には怪物の繁殖地が出来。それを潰して行かなければならなかった。繁殖地にはマザーモンスターやキングがいて。戦闘力は毎度侮れなかった。

もはや兵士とも呼べない者達を連れて。劣悪な装備で戦いを続け。

日本だけで四箇所。北米で五箇所。遠征したロシアで九箇所。敵の繁殖地を潰した。悔しいが、アフリカには遠征できなかった。

あのサイレンという怪生物との戦闘データがもっとほしかった。あれは多分敵の切り札とみて良い。

だから、何とかしたかったのだが。

欧州に出向いたときには、各地の戦線の維持をジョン中将に頼まれて。頭を下げられたから、他に何もできなかった。

三年で殺した怪物の数は軽く十万を超えた。

そして、意外な事に。

生き残れそうにもないと思っていた木曽少尉は生き延びた。

ミサイルでの遠距離戦特化型フェンサーという変則型だったと言う事もあるが。それでも、フェンサーの装備がむしろ向いているのかも知れない。

すぐに戦死しそうだ。

そう弐分が言っていたのと裏腹に、今も生き延びている。

要領よく山県大尉も生き残った。

戦闘では、基本的に支援特化で動いていたこともある。そして、最近ではごくたまに手に入ると、ウィスキーを口にしているようだった。

普段はチューハイばかり飲んでいたのに。

好きで飲んでいるようではないようだから。或いは、ジャムカ准将へのたむけなのかも知れない。

そして、期日が来た。

七人になったストーム1皆と、ベース251に向かう。

プロフェッサーは、避難先でやはり怪物に襲われて、家族皆を失った。茫然自失としている所を保護され。そして一華の提案でまたラボに移された。それから、懲罰も兼ねて研究を続けさせられて。

やっと、自由にしていいという許可が下りたのだ。

今、ベース251に向かっている。

一華は、ずっと無言でエイレンUの整備をしている。データは充分に取れたらしい。過去に遡航すれば、三ヶ月ほどで相馬機のデータとあわせて。エイレンVにバージョンアップ出来るそうだ。

エイレンVはレールガンを標準装備し、機動力と火力を両立した強力な機体に仕上がるそうである。

レールガンの火力はマザーモンスターなどを狩る事が前提となっており。モノアイに直撃させれば、キュクロプスを一撃撃破可能だという。イプシロンレールガンのデータも収拾した結果だ。

三年間、不眠不休で更に研究を進めたプロフェッサーは。

それが可能な技術であると言っていた。

後は、「五ヶ月後」ではなく、「当日」に戻れれば完璧である。

「当日」に戻れれば、初日でテレポーションシップを叩き落としてやる。それで戦況は、激変するはずだ。

今、一華に計算を進めて貰っている。

問題は、プライマーもとっくに壱野達が過去へ戻り続けている事に気付いていること。トゥラプターの発言からも、それは明らかすぎる程だ。

手は打ってくるだろう。

ただし、手を打っているのは此方も同じだ。

途中で、怪物を駆逐しながら、ベース251へ。日本での戦闘も何度も何度もやっているが、どうしても地力での物量が違い過ぎる。隙を見て、敵はテレポーションシップから怪物を落としてくるし。必要とあればエイリアンをドロップシップで運んでくる。

大型船は見かけないが。

アレは恐らく、今頃増やした怪物を収穫して回っているのだろう。できる限り、リングの手前で撃墜してやる。

それで、敵にも致命打を与えられる筈だ。

いや、致命打は言い過ぎか。

結局、今回の周回では。ストームチーム以外の空軍機などが落とした分も含めて、二十隻程度しかあの歴史を改編している大型船は落とせなかった。これから更に五隻落とすとしても、敵が追加してくる戦力の方が上回る。

この追加戦力以上の撃墜数をたたき出せるようになったら、恐らく敵は歴史を変えられなくなる。

一華とプロフェッサーが研究して、大型船が出現する時間と座標を調べてくれている。敵は単独行動を避けて艦隊で移動する事が分かっているから。もしも尻尾を掴む事が出来。更には、敵大型船を簡単に撃墜出来るようになったら、その時こそ勝負を決められる可能性が高い。

一華の見立てでは。

開戦当日に戻る事。

通算で周回中に八十隻の大型船を撃墜する事。

この二つを両立できれば、恐らくは戦況を逆転できるという事だった。

恐らくだが、一華の見立ては正しい。敵が周回ごとに五十隻程度の大型船しか追加できないとすれば。

それは。敵の文明規模がその程度であり。

ついでに、総力を挙げている状態でそうだとすれば。

長期戦はできない事を意味する。

そして敵のテクノロジーの粋を詰め込んでいるだろう大型船。過去改変船団に大きなダメージを与えれば。

プライマーは戦争どころでは無くなるはずだ。

問題は、どうしてプライマーが「必要」などと言っているか、なのだが。

詳しい事は、トゥラプターとの決戦で聞き出すしかないだろう。

だが奴は、三年間姿を見せなかった。恐らくだが、次の周回まで勝負は持ち越しだとみて良いだろう。

彼奴は敵ながら、素直な奴だ。実の所、壱野はトゥラプターを嫌っていない。プライマーは考えるだけで殺意で頭が塗りつぶされるほどだが。例外的に、話が通じるまともな奴だと思っている。

ただし、相容れることはない。

いずれ殺し合い、雌雄を決するときが来る。

その時にでも、全ての真相を話して貰えれば良い。死ぬ前に、だ。

基地に到着。少ない物資を何とか捻出。奪回した鉱山などもある。少しずつだが、戦闘に出られる兵士も増えている。

各地の戦闘の状況を改善したことで、それだけ人類は立て直しを図れているが。それでも人口は開戦前の4%。

三年前の決戦の日から。

更に減っていた。

まずは、海野大尉と顔合わせをする。海野大尉は、三城を見てやはりわんわん泣いてくれた。

これについては、いつも通りだ。

持ち込んだエイレンUは、整備を必死に行ってどうにかだましだましここまで来た。各地での戦闘でも被害が大きく、更に味方が殆どAFVを出せないこともあって、負担も大きかったが。

それでも一華の執念が乗り移ったように。

今まで生き残ったのだ。

海野大尉も、エイレンUについては話半分に聞いているようだった。ある意味、最後に残ったエース級のコンバットフレームだ。

知名度は、相応にあるのだろう。

軽く話をする。

指揮下に入ることは先に告げる。階級は関係無い。それで、此処での戦闘を円滑にする。

海野大尉は、それを聞いて喜んでくれた。

いきなり部外者が階級を盾に基地の指揮権を乗っ取ったりしたら、それこそ混乱が生じるからだ。

同時に、先に運び込んでおいた物資も確認しておく。

エイレンのバッテリー。ほぼ無傷のものがある。

更に、ベース251には複数のほぼ無事なAFVもある。これは修理をしておいたからである。

先に「懲罰」という形で、プロフェッサーをベース251に派遣したのは一華だ。

大佐の権限を使って、それを先に実施しておいた。

このおかげで、密かにベース251では無事に動く戦車が四両、ケブラーも同数が存在している。

問題は燃料や弾薬が足りなくて、安易には動かせない事だが。

それでも、此処にいる経験も何もまるで足りない兵士達には、命をつなぐための兵器になるし。

それにリングが降りて来たとき。先に運び込んでいる自走式のフーリガン砲を守るために、必要になる。

これらについて、海野大尉は疑問を呈してくる。

既に呼び捨てしてかまわないと告げてあるので、海野大尉は昔のように接してくれる。

「壱野、殆どまともに兵器も無い東京基地よりも、此処の方が兵備が充実しているくらいなのは何故だ。 此処は何回か戦場になったとはいえ、所詮は辺境の基地だぞ」

「……此処にクルールが攻めこんでくる可能性があります。 確率は九割を超えるでしょうね」

「確かか? クルールは確かに強いし何より偉そうで嫌いだが、ああ見えて計画的に攻撃をしてくる頭の切れる奴らだ」

その通りだ。

クルールは単純に生物として優れているだけでは無く、作戦行動も非常に優れている。コロニストのように洗脳されている使い捨ての兵士ではないのだろう。地球人の戦闘方法を徹底的に研究して、それに対応する訓練を受けた精鋭兵士だ。

「戦略情報部のアホ共の情報なのか?」

「いえ。 此方で、敵の動きを掴んだ、とだけ言っておきます」

「……分かった。 此方には殆ど兵士と呼べるような奴はいない。 近くにある地下街に潜んでいる連中と合流できれば、少しは戦えるかも知れないが」

「馬場中尉の1派ですね。 彼らは、彼らの戦いをしています。 無理に我々にはつきあわせない方向でいきましょう」

どうせ、巻き込むことになるのだ。

だから、それでいい。

頷くと、海野大尉はまだ新人だとみた木曽少尉を連れて、兵士達に訓戒にいく。その間に、プロフェッサーと話をしておく。

プロフェッサーは、頬がこけて、鬼相が顔に出ていた。

それはそうだろう。

話には聞いた。避難先で、怪物に襲撃を受けた。東京の僻地だったのに。

EDFに捕まるより先だった。あり得ないほどの奥地に不意に出現した怪物に、プロフェッサーの家族は皆殺しにされた。

現地に駆けつけたEDFの……ダン大佐の指揮する生き残りの精鋭が怪物を駆逐したときには、既に何もかもが遅かった。

プロフェッサーは逮捕されて。

そして懲罰として、また研究をさせられることになった。

セーフハウスにさえたどり着けなかった。

或いは、プライマーも。既にプロフェッサーには目をつけているのか。それとも。別の偶然なのか。

だとしたら、プロフェサーは不運すぎるとしか言いようが無い。

「待ったぞ。 心配させないでくれ」

「先進科学研のお偉いさんとコネがあると聞いてはいたが、こんな辺境の基地で会うとはねえ」

ぼやくのは山県大尉だ。

山県大尉は、相変わらずの態度だった。ただ女癖最悪と聞いていた割りには、木曽大尉に手を出す様子もなく。一華や三城には興味を微塵も見せなかった。柿崎に手を出すそぶりがなかったのは、まあ分からないでもない。

いずれにしても、ここ二ヶ月は強制的に断酒状態だ。

酒が手に入らないのだ。当然と言えば当然である。

それで不機嫌になるかというと、そうでもないので。よく分からない。

「君が山県大尉だな。 私は林。 先進科学研で主任をしていた。 ストームチームとは、同志だ」

「同志ね。 なんの」

「プライマーはある戦術を使っていて現時点では絶対に勝てない。 俺たちとプロフェッサーはそれに対抗する戦術を知っている。 おいおいそれについては説明する」

基地の中を歩いて、軽く話をする。

プロフェッサーは、三年間、殆ど心が死んでいたという。

それはそうだ。家族を最悪の形でまた失ったのだ。

立ち直ることが出来ただけでも立派だ。

一生ものの心の傷だろう。

それと、一華が歩きながら言う。

「プロフェッサー。 今のうちに言っておくッスけど、参謀に正論は無駄ッスよ。 アプローチを変えた方が良いッス」

「ああ、言いたいことは分かる。 だが、どうしたらいい。 私は悪事を思いつけない性格でね。 だから、実績を蓄えて信頼を得ることくらいしか思いつかないんだ」

「戦略情報部の少佐に作戦の提案をしてみるのがいいッスね。 知識を生かして、敵の先手を打つような作戦の提案を、ッス。 ただ、言い方を少し考える必要があるッスけれども。 あの少佐の信頼を得れば、恐らくそれを手がかりに、参謀を動かす事が出来るッスよ。 実際には戦略情報部を動かしているのはあの少佐ッスから。 参謀は権力がほしくてあそこにいるだけのオッサンッスよ」

「そんな事を言われても……。 戦略情報部はEDFの中でもアンタッチャブルに近い独立部所だ。 それに相手はあのAI少佐だぞ。 仮に実績を積んで発言権を増したとしても、話なんて参謀以上に聞かないだろう」

途方に暮れた様子でプロフェッサーが言うので、そうでもないだろうなと壱野は思う。

というのも、あの少佐は過剰なリアリストなだけであって。別にエゴイストというわけではないだろうからだ。

参謀については、調べれば調べるほど。この世界でも権力を握る事に拘泥するエゴイストという結論しか出ない。

その辺りは、壱野の結論は一華と同じだ。

EDFの設立に参謀が積極的に関わったのも。

そういった組織が出来たとき、自分が主導することで権力を確保し、自分の城と言える部署を設立。後は勝手に振る舞うため。

そういう権力欲が透けて見えるのだ。

山県大尉は、胡散臭そうにプロフェッサーを見ているが、それ以上に壱野達への信頼が勝るらしい。

何も口出しはしない。

それに、柿崎も無言で話を聞いている。

柿崎の方は、興味が無いのかも知れないが。

まあ柿崎は、敵さえ斬る事が出来れば、それで満足なのだろうし。ある意味、とても幸せな奴である。こういう世界への適正があまりにも高すぎると言える。

「ストーム4の隊員を、一人だけ救出できたそうだな」

「今、新人達の訓戒に一緒に海野大尉が連れて行きました。 木曽少尉も、はっきりいって他の兵士達と大差ない程度の戦歴しか「三年前には」ありませんでしたが、現在では少なくともこの基地に回された新兵達よりは色々と出来る筈です」

「そうか……」

「是非あの場所には連れて行きます」

幾つかの打ち合わせをしたあと、一華がAFVをチェック。すぐに動くようになっている。

そして、プロフェッサーと一華は記憶媒体を交換していた。

三年分の研究データだ。まだ、エイレンの次期主力兵器となりうる改良型プロテウスの開発には足りないようだが。

次の周回では、或いは。

いずれにしても、必要な情報の交換は終わった。

軽く訓練を終えた新兵達と合流する。

警報が鳴る。

またアンドロイドか。そう思いながら、ライサンダーZを手にとる。少し驚いた様子だった山県大尉も、すぐにサプレスガンを手にしていた。地下用なら、この近距離ショットガンの方が戦いやすいだろう。

前の周回は、アンドロイドに基地が襲われたが。

今回もそうだとは限らない。

一華は即座にエイレンUに飛び乗る。

前周の、プライマーの歴史改変される前の記憶の方が消し飛んでいるらしいプロフェッサーは、慌ててアサルトを手にしていたが。見かねて山県大尉が、ケブラーに乗せた。ケブラーを山県大尉が操縦するという。

「あんたは科学者だ。 まともに戦えないだろう。 こっちにのりな。 俺が守ってやる」

「君はあまりビークル類の操縦が得意ではないと聞いているが」

「良く知ってるな。 単に手元が酒でふるえて狂うから使いたくないだけだよ。 動かす事は別にできらあな」

「そうだったのか……」

此処はEDFの基地。

内部は戦車やコンバットフレームが活動できるほど広い作りになっている。

海野大尉が、すぐにバイザーを通して確認を取り始めていた。

「どうした。 何があった」

「不法侵入者です! 基地のすぐ外に来ています!」

「何だと!」

「恐らく発見されたと思われます! 此処を捨てて脱出するべきです!」

阿呆、と海野大尉が叫ぶ。

それはそうだろう。

この基地の地下にも、周囲から逃げ込んできた民間人が相応の数いる。その民間人を逃がしきれる保証は無い。

彼らが逃げ切るまでの時間さえ、ここの新兵では作れないだろう。

ならば、迎撃に出て各個撃破するのに賭ける方が現実的だ。

「熟練兵は戦車とケブラーに分乗しろ! 新兵は随伴歩兵! 敵は面の皮が厚い不法侵入者だ! この街からたたき出してやる!」

「まさか、邪神か……」

新兵の一人が呟く。

恐怖が伝染するのを、海野大尉がまた一喝して防ぐ。

「急いで準備しろ! 体を動かせ!」

多少手間取りながらも、戦闘準備完了。今回は、基地の内部には入り込まれていない。というか、ベース251に先に手を回して、隔壁などを強化して貰ってある。

地上への直通路に、AFVとともに展開。エイレンUを見て、兵士達は安心した様子だ。今回の周回では容赦なくやられた。北陸の「駆除チーム」も、殆どコンバットフレームをもっていない。

そんな状況で、コンバットフレームの。それも歴戦を経た、ついでにアイコンにもなっているエイレンUだ。

圧倒的な安心感を与えるのは、当然だろう。

坂道を駆け上がる。凄まじい坂だ。壱野は苦にしていないが。パワードスケルトンを装備してなお、兵士達は駆け上がるのに苦労しているようだった。

感じる。

入口の向こう、すぐ外にいる。クルールだ。

AFVが展開したときには、弐分と三城に目配せする。二人も、頷いていた。

「隔壁を開けろ」

「し、しかし」

「開けろ」

「分かりました……」

基地の副司令官が、隔壁を開ける。

其処には。

基地を覗き込んでいる、クルールの姿があった。それも二体。跡をつけられた形跡はなかった。ということは。

恐らくだが、リングの周辺警備のため。この辺りのEDFの戦力を全滅させるべく、威力偵察が来ている。そう見て良さそうだった。

 

1、枯れ果てた世界での抵抗

 

兵士が悲鳴を上げる。腰を抜かすものもいた。

それはそうだ。至近距離から、クルールとこんにちわしたのである。

一華はクルールを怖いと感じたことは無いが。

兵士達が、クルールを怖れる気持ちはわかる気がした。

「邪神だ!」

「ひいっ! 俺たちを喰う気だ!」

だが、出会い頭に、リーダーがライサンダーZを叩き込み。不用意に基地を覗き込んでいた一体の頭を吹き飛ばし。

弐分と三城が即応して、デクスターをもう一体に弐分が浴びせ。三城がファランクスでとどめを刺していた。

三人が真っ先に外に飛び出し、エイレンUで後を追う。

柿崎は、三人より反応が遅れた。

どうも柿崎は、見えている相手には相応の対応が出来るようだが。三人ほどの化け物じみた勘はないらしい。

しばらく一緒に戦って。

それが、一華の出した結論だった。

外に飛び出す。基地の周囲に、戦車隊とケブラーが展開する時間を稼ぐ。エイレンUについては問題ない。

此処には予備部品も運び込んでいる。多少、危険な戦闘をしても大丈夫だ。

外に出ると、リーダーが警告してくる。

「アンドロイドだ。 かなりの数が迫っている」

「AFV、エイレンを中心に陣列を組め! 総力戦準備!」

海野大尉が新米達を叱咤。

そんな中、真っ先に動いたのは。フェンサーに転向した木曽少尉だった。

上空に躍り上がりながら、多数のミサイルを一斉にぶっ放す。

携行用誘導ミサイルである。

以前弐分が使っているのを見た事があるが、より小型化し、よりミサイルによる戦闘に特化した改良が施されている。

木曽少尉は、そのミサイルを専門で扱うフェンサーとして。

この地獄の三年、戦い抜いたのだ。

ミサイルが上空から、迫り来るアンドロイドの群れに着弾する。爆発が連鎖して、吹っ飛ばされるアンドロイドを見て、兵士達が息を呑む。

海野大尉が、叫んだ。

「よし! 撃て!」

戦車隊が射撃を開始。ケブラーも、少し遅れて射撃を開始する。

足止めを喰らったアンドロイド部隊は、バリスティックナイフで反撃するよりも早く戦車砲の連射とケブラーによる猛射を浴び、完全に出鼻を挫かれる。そこにリーダーの射撃が次々着弾。群れに交じっている大型を、確実に間引いていく。弐分と三城、更に柿崎は突貫。

敵を縦横無尽に蹴散らし始める。

少し前に出る山県大尉のケブラー。

なんだ、やっぱり操縦できるのか。射撃精度も高く、次々に接近するアンドロイドを仕留めていく。

海野大尉も相変わらずいい腕だ。

アサルトの集弾率が高く、確実にアンドロイドを倒して行く。だが、敵の数が多い。

「更にアンドロイド、後続部隊がいるようです!」

「上等だ。 それに見ろお前達! 何が邪神だ! クルールは死ぬ! 不死身でもないし、神でもない! 此奴らはただ偉そうなだけの生物で、あのアンドロイドどもは此奴らがもってきた出来損ないの玩具だ! こんなものに負けて悔しくないか! 声を絞り出して叫べ! EDF! 俺たちは、EDFだ! まだEDFは負けていない! 此処にいると示してやれ!」

相変わらず、苛烈な性格だ。

そう思いながら、レンジに入った敵に攻撃を一華も開始する。

レールガンの弾は一応装填済だが、使うつもりは無い。使うのは、勿論例の時。どうせ近々来るリングに対して。

正確には、リングを通ろうとする大型船に対してだ。

レールガンの弾は二つ装填済。此奴の火力はフーリガン砲ほどでは無いが、上手に攻撃すれば。此奴でダメージを与えて、一華か弐分が落としてくれるはずだ。更にフーリガン砲も用意してある。

このフーリガン砲も火力を向上させているので、恐らくだが一撃で大型船に大破以上のダメージを与えられる筈。

落とせなくても、まあそのまま他の誰かの支援攻撃で潰せる筈だ。

ただ、三発しか撃てず。再装填に五分かかるのは同じ。

最低でも、リングを通ろうとする大型船を五隻は撃墜したい。

それが、ここに来るまでに相談した内容である。

エイレンUのレーザーは、だましだまし使っているとは言え、流石に火力が段違いである。

次々に切り裂かれていくアンドロイドを見て、兵士達が生気を取り戻していく。

更に、前衛で大暴れしている弐分と三城、柿崎の三人を見て。兵士達は、少しずつ戦意を回復させているようだった。

「敵、高機動型来ます!」

「四角い玩具め! だが、この周辺には貴様らのせいで既に大きなビルなどない!」

海野大尉が、敵の切れ目を見て補給をしろと兵士達に叫ぶ。

遅れて上がって来た補給車に、不慣れな兵士達が群がる。その隙を作るべく、アンドロイドを片っ端から焼き払う。

リーダーが、柿崎を呼び戻す。飛んで戻って来た柿崎は、指示を受けて後方に。少数が回り込んでいる様子だ。始末に行ったのだろう。

木曽少尉が、ミサイルの補充を完了。

フェンサー用のミサイルは強力だが、とにかく再装填に時間が掛かる。そのまま、またアンドロイドの群れに射撃。

一度上空に出るのは、ホーミングの機能をより上手に使うためらしい。

それに木曽少尉は、もとウィングダイバーだ。

空中戦の方が、得意なのだろう。

高機動型アンドロイドが来るが、このベース251の周辺はボロボロのビルか、もしくは更地だ。

お得意のアクロバティック攻撃もやりようがない。

そのまま他のアンドロイドに混ざって近付いてくるが。つるべ打ちにしてやる。

それでも、無理矢理空中に躍り出る奴もいるが。三城が即座に襲いかかって、プラズマ剣で真っ二つにしてしまう。

柿崎は地上でメインウェポンとしてプラズマ剣を振るうが。

三城はあくまで護身武器と割切っているようだ。

ただ、三城の腕が柿崎に劣るとは、見ていて思えないが。

「戦車隊、弾薬尽きます!」

「基地内に戻って補給! ケブラーは!」

「まだいけるぜ大尉殿」

「お前さんも大尉だろうよ酔っ払い。 基地指令どのとでも呼べ」

山県大尉と海野大尉は、変な風に気があうようだ。

もう軽口をたたき合っている。

そのまま、苛烈な射撃を続けて、アンドロイドを寄せ付けない。大型がまた来るが、リーダーが姿を見せた瞬間にモノアイを撃ち抜いて倒す。あのモノアイを、完璧な角度で撃ち抜くと即殺出来るという発見。

リーダーだけがしたもので。

ついでに再現も、誰にも出来なかった。

ブラスターを装備している大型は極めて危険な相手だ。接近前に倒せたのは良い事だと言える。

そのまま射撃を続けて、アンドロイドを撃破し続ける。

戦車隊が戻って来て、代わりにケブラーが地下に。ケブラーを兵士に任せて、山県大尉が降りて来た。

プロフェッサーはアサルトで戦おうとしたが、手つきからして危なっかしい。呆れた様子で、山県大尉は戦車に乗っているように指示して。前衛に出てロボットボムを撒き。更には接近してきたアンドロイドにサプレスガンの猛射を浴びせる。

バッテリーが切れる前には、どうにかなるな。

そう内心で呟きながら、戦闘を続行。たまにバリスティックナイフが兵士を狙って飛んでくるので、先に前に出て防ぐ。

多少の攻撃なら平気だ。

移動基地戦で、串刺しにされた相馬機の事は覚えているが。

あれはこの比では無いアンドロイドに群がられ。飽和攻撃で電磁装甲を潰されたからである。

次は、相馬大尉も死なせない。

ただ、それには。

やはり「五ヶ月後」では無理だ。

「キュクロプスだ!」

「もう無理です! 逃げましょう大尉!」

「黙れ! キュクロプスまで繰り出して来たという事は、この辺りの機械人形どもはあらかた掃除できる好機と言うことだ! それどころか、奴らは機械人形を生産するのに物資だって使う! 増える怪物と違ってな! 倒せばそれだけ味方が有利になる! 踏みとどまれ!」

仰る通り。

この基地にも、相応の炉はある。少し時間は掛かるが、エイレンのバッテリーの充填は出来るだろう。

少し、皆を元気づけさせてやるか。

そう思うと、前に出て。

キーボードを叩く。

ウェポンアンロック。

兵士達に、直接光を見ないように注意。そして、エイレンのバッテリーの大半を使用して。

移動基地戦でも切り札で使った、収束レーザーをぶっ放していた。

火力は文字通り激甚。ついでに弱点を晒しながら進んでくるキュクロプスのアウトレンジからの砲撃だ。

レーザーが突き刺さり、内部から炎を噴き出したキュクロプスは、それでも二歩、三歩と進んだが。

やがて、内側から爆散し、大量の汚らしい肉をまき散らして吹き飛ぶ。

わっと、兵士達が歓声を上げた。

そのまま、射撃を続行。

とどめを刺しに行く。アンドロイドの群れは、それでも戦い続けるが。リーダーが容赦なく射撃を撃ち込み続け、最後の一体まで、完全に片付けていた。

満足してつやつやな様子の柿崎が戻ってくる。

後方に回り込んでいたアンドロイドの部隊を全部斬り伏せて来たらしい。それにしても、相変わらずというか何というか。

「て、敵……沈黙しました」

「よし。 負傷者の確認、消耗した物資の確認、急げ」

「イエッサ!」

「……大規模な攻撃ではなかったが、クルールが出て来たと言う事はまだ来る可能性が高いだろうな。 近々哨戒任務に出る。 皆、準備と、覚悟はしておけ」

兵士達に、海野大尉が言う。

そして、一華は気づく。

海野大尉も、冷や汗を掻いているようだと。この人ほどの豪傑でも、やはり此処まで追い込まれた状況では。冷や汗くらい掻くのかもしれなかった。

 

一度、地下に戻る。

山県大尉は、酒を探すと行って倉庫に行ったが。多分実際には使えそうな武器類を探しに行ったのだろう。

放っておいて、プロフェッサーと話を軽くする。

「今回の周回でも、大型移動船の出現にはパターンがあった。 やはり奴らは艦隊で移動している。 大規模な艦隊の場合は、三十隻……一度の周回で追加される艦隊の大半が、同時に同じ場所に現れる様子だ」

「もしもあらかたたたき落とせたら、敵に致命傷を与えられる可能性が大きそうッスね」

「そうだな。 ……君達の話を聞く限り、奴らが歴史改変をした時に皆に出る影響は個人差があるようだ。 大型移動船の出現パターンについては、データをまとめておいたから、皆でもっていてくれ」

プロフェッサーからデータは受け取り済。後で共有はしておく。問題はどれだけ覚えていられるか、だが。記憶媒体ももっていくから、多分大丈夫だろう。歴史を改編されても、一華の分身である自組みのPCは持って行ける事は確認済みだ。

その後は、軽く技術的な話をする。

プロテウスは、現在完成までかなり近付いているようだが。まだまだの部分も多いと言う。

何よりも、プロテウスの巨体を支える足回りのデータがまだ足りないそうである。

一華がかなり集めたと思うのだが。これでもまだ足りないとなると、何かしらの手を打つ必要があるかも知れない。

「プロテウスに装備する粒子ビーム砲については、既に完成している。 また、電磁装甲も強化が図れるはずだ。 完成すれば、怪物の群れを単騎で相手に出来る決戦兵器になるだろう」

「現時点では、まずは固定砲台として基地に配備しては」

「そうだな……。 もしも、開戦直後に過去への転移を果たせれば」

「それについては、私が何とかしてみるッス」

心配そうにプロフェッサーが一華を見るが。

もうだいたいの計算は済んでいる。

そしてリーダーに情報は伝達済だ。

一華の記憶が歴史改変で消し飛ばされたとしても。より歴史改変に強い耐性を持つリーダーなら、多分大丈夫だろう。

「エアレイダー。 それに学者先生」

海野大尉が来た。

先の戦闘でのAFVでのダメージを見て欲しい、という。

頷くと、プロフェッサーとともにバンカーにいく。戦車もケブラーも、それなりに被弾していたが。

小破程度のダメージである。戦闘続行は存分に可能だ。更には、予備の補強パーツもある。

先に運び込んでおいたのである。

何回か、基地を奪還した。その時に、破壊されてしまっているAFVをかなりの数回収した。

プライマーもAFVがかなり強力であることは理解しているらしく。占拠された基地の、特にコンバットフレームは徹底的に破壊されていた。

うっすらと記憶にある一華が最初に戦った周回世界では、基地にあったニクスが無事だったような気がするので。プライマーも、人間の兵器を舐めて掛かるのを止めたのかもしれない。

いや、だとすると。

恐らくだが、指揮官が代わった影響が大きいのだろう。

いずれにしても、それら破壊された兵器の残骸は回収して、修理用のパーツとして再利用した。

その一部は、こうして先に士官の権限でベース251に回しておいたのだ。

どんなパーツを回したのかも覚えている。

だから、手際よく修理をする事が出来た。

修理をしている様子を見て、此方は問題無さそうだと判断したのだろう。海野大尉は、副司令官と話をし始める。

「隔壁の確認をした後、スカウトを出せ。 クルールを発見したら、即座に戻るように指示しろ」

「分かりました。 しかし、クルールがもしも大軍で来た場合、この基地だけでは……」

「念のため、北陸の駆除チームにも声を掛けておけ。 あっちはあっちで、大変だろうがな」

「分かりました。 手配はしておきます」

海野大尉を一瞥し、プロフェッサーは嘆息する。

「あの男は、いつも三城くんを新兵だと勘違いしているな。 あれだけの活躍を見てなお、だ」

「三城もその辺りはあまり話したがらないッスけど、前にちょっと聞いた感じではまあある程度は仕方が無いと思うッスよ」

「そうか。 君も寛容だな」

「そうっスね……」

寛容か。

そうでもないと、一華は自分を評価している。

というのも、どうも権限が大佐になって。昔のEDFの機密情報を閲覧できるようになったのだが。

それにあまり面白くもないものを見つけてしまったのである。

もう総司令部のセキュリティがガバガバだということもある。総司令部はまだかろうじて生きているが。放棄された地下データセンターなども多く。そういった所には、簡単にアクセスできた。

その結果、幾つか口をつぐみたくなるようなEDFの暗部を見てしまった。

一華の過去も、何となく分かってきた。

だが、今はまだ、それについて言うつもりは無い。

兎も角、今は。

「五ヶ月後」ではなく。「開戦直後」に戻り。なおかつ、可能な限りの敵大型船を叩き落とす準備を進めなければならない。告発だのなんだのは勝ってからだ。

「ケブラー、修理完了ッスよ」

「流石の手際だな。 此方はもう少し掛かる」

「そうっスか。 じゃあ、エイレンUの修理を進めて……」

「悪いが、出る事になりそうだ」

リーダーが来た。皆連れていると言う事は、この基地の戦力では対処できない相手が来た、と言う事だ。

エイレンUは多少傷がついたくらい。既にバッテリーは交換済みだから、いつでも出ることが出来る。

「何が来たッスか」

「金マザーモンスターだ。 この基地にまっすぐ向かっているようだな。 スカウトが発見した」

「!」

「すぐに出るぞ。 それに、金マザーモンスターだけで済めば良いんだが」

リーダーが言うには、もっと強力な気配があるという。

そういえば。

三年前。移動基地を潰す過程で、二体のエルギヌスを倒した。

だが、移動基地の護衛に、プライマーはエルギヌスを三体集めていたことが分かっている。

もしも其奴が日本にいるのなら。

この時に、敵が投入してきてもおかしくないだろう。

いずれにしても、これは総力戦の準備をしておいた方が良いだろう。

リーダーが、海野大尉に先に話をする。ただ、海野大尉は隔壁の方へ行っていたので、バイザー越しだが。

「敵の強力な部隊が発見されました。 俺たちで撃破してきます」

「そうか、ならば俺たちで基地を守っておく。 お前達なら、大概の相手に負けないとは思うが、くれぐれも気を付けてくれ」

「お任せを」

リーダーが無線を切ると、顎をしゃくる。

少し考えてから、プロフェッサーは顔を上げていた。

私も行く。

そういう事だった。

 

2、極大勢力

 

どうやら、プライマーは割と本気でベース251周辺を制圧するつもりらしい。その光景を見て、弐分はそう判断せざるを得なかった。

とんでもない光景だ。

既に放棄されているベース252の周辺に、途方もない怪物の群れが集まっている。マザーモンスターだけで三体。うち一体は金である。

クイーンが二体。キングが二体。

そして奧にいるのは、エルギヌスだ。

上空を飛んでいるのはタッドポウルか。敵の小型の怪物は幸いそれほど多くはないが、正直これは洒落にならないというのが実情だ。

弐分は、大兄を見る。

大兄は、涼しい顔をして、ライサンダーZの手入れをしていた。これは、やる気だ。山県大尉は、ケブラーから顔を出して、流石に苦笑いする。

「やるんで?」

「ああ。 これを放置していたら、この周辺の生き残りが皆殺しにされる」

「へへ、流石に無理だ。 エルギヌス相手に、どれだけの被害を出したか、忘れていないだろうよあんたも」

「……見ろ。 あのエルギヌス、かなりの手傷を受けている」

大兄が言うので、手をかざして見る。

確かにその通りだ。体を抉られるような傷。これは、どういうことか。

そういえば。

一華が前に言っていたっけ。プライマーは兵力の再利用をすると。怪物を培養して回収し。

人間を滅ぼせなかった世界線を変えるために過去改変を行って。

培養して地球に馴染んだ怪物を投入する事で、戦力を更に増やしているとか。

だとすると、この光景は妙だ。

今更。この辺りを制圧するのに、こんなバカみたいな戦力は必要ない。なんなら、全部過去に持って行った方が得策だろう。

どうしてこんなに戦力を持ちだしている。しかも、エルギヌスは一体だけで師団規模の機甲部隊を蹂躙するほどの戦闘力を持っている。アーケルスほどではないにしても、プライマーも使い捨て出来る存在では無いはずだ。

それほど、リングへの攻撃を怖れているのか。

それとも、何かしらの理由があって廃棄した個体なのか。

「いずれにしても、此処で此奴らは撃破する。 仮にプライマーがこの辺りを制圧するために放った怪物なら放置出来ないし、そうでないとしても放置出来ない」

「分かったよ畜生……。 各個撃破なら、なんとかなるかねえ……」

「まずは敵を一体ずつ潰す。 金マザーモンスターを仕留めてから、エルギヌスとの総力戦だ」

「了解」

木曽少尉も乗り気のようだ。

三年前、あまりにも弱かった。それが、本人にとって本当に頭に来ている事らしい。

だから、木曽少尉は随分と好戦的になっている。

最後の一人になってでも戦う。

それが、時々口にする言葉になっている。

弐分には、止める気はない。

弐分だって、それは同じ気持ちだ。

青ざめているスカウト達は先に戻らせる。まあ、それが無難だろう。すぐに戦闘を開始するかと思ったが。大兄は、まずは移動を指示した。

「此処から攻撃する」

「此処から……」

かなり距離を取った。ただしこの地点は、怪物全ての動きを視認できる。これは、確かに此処の方が良いだろう。

拠点を黙々と一華が構築。それに、プロフェッサーも、持ち出して来たクレーンを使って手伝う。

程なくして、戦闘のための拠点が完成。補給車も少し離して配備。

準備完了。

同時に、大兄が撃ちかけた。

狙ったのは随伴歩兵の怪物だ。とはいっても、大兄は、こういうのは殆ど完璧にこなす。余程の物量がない限り。

恐らく、ロボットでも大兄には勝てない。

わっと来る怪物の群れ。まずは、マザーモンスターからか。引きつけるように大兄は指示。その間。何もせずに放置。皆が冷や汗を掻いて見守る中。

やがて大兄が。指示を出した。

「よし。 三城、弐分。 マザーモンスターに集中攻撃。 皆は随伴歩兵をやれ」

「了解」

「イエッサ!」

ライジンが火を噴く。三城が使い込んでいるこの武器は、この三年でも数限りない大物を粉砕してきた。

マザーモンスター程度なら、弐分のガリア砲とあわせれば一撃KOである。今回も、それは同じ。

一撃で体を貫通され。ガリア砲でとどめを刺されたマザーモンスターを見て、猛り狂った怪物が押し寄せてくるが。

この程度の数。

三年で、幾らでも屠ってきた。

そのまま、接近戦に移行。柿崎は既に突貫しているので、その後を追う。

木曽はアームハウンドという小型ミサイルで支援。小型だが、それなりに高級な武器だ。火力も抑えめ。ただし、一度に装填出来るミサイルが非常に多く、回転が速いために足止めが出来る。

怪物の足止めにぶっ放されたミサイルが三城を追い抜いていくのを見ながら、弐分も加速。

まずは先頭のα型をスパインドライバーで叩き潰し。更にデクスター散弾銃で粉々に蹴散らして回る。

この程度の数なら、問題にもならない。

柿崎が三十体斬り倒す間に、弐分も同じ程度の数を屠り。マザーモンスターの随伴歩兵は全滅していた。

一度戻って、戦力を集中。続けて、キングを狙う。

また、大兄は来るまで引きつけろと指示。充分に他の怪物の群れと離れてから、一斉に仕掛ける。

キングがライジンの火線を浴びて消し飛ぶ。今の個体、若干弱かったかも知れない。或いは、何かしらの理由で、此処に放置された弱体化個体なのか。いずれにしても、さっさと駆逐する。

弱体化していようが、接近されると危険極まりない事に代わりは無いのだ。

キングの随伴歩兵が来るが、大兄が此方に来るまでに散々狙撃して削り取ってしまう。山県が何か使うかと視線を大兄に向けたが、今の時点では必要ないと言う。

この三年で、一華がドローンを幾つも作った。

千葉中将の依頼でやったのだ。

もうキラーロボット条約どころではない。

それに、工場で新兵器を作っている余裕も無い。

だから、ジャンクから兵器を作れるなら、そうしてほしいと。

そういった兵器は、山県に渡されている。一華は最後に残ったエイレンUを使って、此処を乗り切るつもりだ。

更に言えば、馬場中尉の所には。歴史改変されようと、とっくにデプスクロウラーが運び込まれている。

また歴史改変されるだろう。その時、馬場中尉の所からリング攻略戦を開始するとしても。

一華の努力は無駄にならない。

今の時点では、ドローンの無駄使いすら惜しまれる。

弐分は黙々と、敵を電刃刀で斬る。

弾を惜しんで被害を出しては本末転倒だが。

弾を使うまでも無い相手に、弾を使う必要などない。

ほどなくして、被害なく二部隊を駆逐。

まあこのくらいは朝飯前だ。敵のハラスメント攻撃は、散々捌いてきた。今やEDFの主力はケブラーである。それも新規のケブラーは殆ど無く。たまにテクニカルニクスが出てくるくらい。

今回の攻撃は、容赦が無かった。

そうプロフェッサーがぼやくほど、EDFのダメージは大きかった。

敵が動きを止めたのは、これ以上の大きな損害を避ける為だろう。

事実、ごく一部を除いて。

もうアンドロイドは戦線に姿を見せなくなった。

次の周回に温存している。

弐分でも、そう判断せざるを得ない。

だからこそ、この敵軍団は不可解だ。切れ者だと一華が断言するほどの敵指揮官が、どうしてそんな無駄をする。

「……次は恐らく二部隊が来るな」

大兄が手をかざしながら言う。

大兄が上手に敵をコントロールしても、そうなると言う事だろう。

大兄の勘はもう人外じみている。

当たると言う事を、疑う余地すらない。

「木曽少尉」

「はい」

「恐らくタッドポウルが仕掛けて来る。 紫色の個体を優先して狙って近づけないようにしてくれ。 三城。 誘導兵器で、タッドポウルに応戦。 山県大尉も対空攻撃支援を頼む。 ドローンを使ってくれ」

「ようやく出番だな。 やってやらあな」

大兄が狙撃。

狙撃した相手は、紫タッドポウル。兎に角タフで、吐き出す火力も凶悪な大型種だ。下手なコロニストよりも強いが、これはどういう個体なのか、結局EDFでも解析できていないという。

両生類という生物については、ここ三年で少し調べた。各地の洞窟などに少数が生き残っているだけの、陸上脊椎動物の始祖たる生物。幼生体と成体で姿が違い、あのタッドポウルよりも更に極端に性質も違う場合もある。

中には幼生体の方が成体よりも大きい種もいるそうだ。

あの紫タッドポウルは、何かしらの改造を受けているのか。

或いは、そういう種のコロニストの幼生なのかも知れない。

ライサンダーZの一撃に耐え抜く紫タッドポウル。編隊を組んで、わっと此方に向けて飛んでくるタッドポウルの群れ。同時に動き出すクイーン。以降は、大兄はクイーンの対策に当たる。

凄まじい誘導兵器のレーザーがタッドポウルを迎え撃ち。

其処に木曽少尉のミサイルが加わる。次々に爆砕されるタッドポウル。更に近づいてくる相手に、エイレンUのレーザーが直撃。

だが、クイーンの随伴をしていた飛行型が、より早く接近してきていた。

弐分が前に飛び出す。デクスターを浴びせながら、敵の機動力を削いで回る。

高度を落とした飛行型を、容赦なく刈り取っていく柿崎。凄まじい勢いで。更にはついでにタッドポウルの注意まで惹いてくれている。

空中で、何か爆発した。

爆弾をぶら下げたドローンが、紫タッドポウルに直撃したのだ。一華のお手製だろう。流石に態勢を崩して地面に落ちたところを、柿崎が文字通り真っ二つにする。嬉しそうな様子からして、かなり斬りごたえがあるのだろう。

あれは、武術家の負の完成形だな。

そう思いながら、弐分はブースターとスラスターを噴かして動き回りつつ、敵を蹴散らして行く。

クイーンが遠くで粉みじんにはじけた。

大兄の狙撃で、近付く事すら許されなかったのである。

そのまま、乱戦を続ける。

此処にいる面子は、それぞれが最低百戦を経験している猛者である。

今更、この程度の相手に遅れを取らないと言いたいところだが。

どんな猛者でも死ぬときは死ぬ。

互いの視界をカバーしながら、致命的な一撃を避けるように動く。また、弐分も実弾を使うのを可能な限り避け。

デクスターやガリア砲が必要ないときは、スパインドライバーや電刃刀で敵を倒す癖が出来はじめていた。

敵の駆逐が、程なく終わる。

木曽少尉が、無言で補給車に。ミサイルフェンサーは、とにかくこの燃費の悪さがネックである。

幸い小型ミサイルは、大量に生産されたものが備蓄として残っている。

通常α型すらも殺しきれないほど火力が低いので、どうしても使われる事が少なかったのだが。

こうやってフェンサーが一度に大量にばらまけば、敵の足止めにはなるし。敵が足を止めれば、皆がとどめを刺してくれる。

支援武器としては、十二分に役立っていた。

「皆、休憩を少し挟んでくれ。 俺が見張る」

「大兄、俺も見張りに立つ」

「……分かった。 では、交代で、だな。 三十分休憩だ。 十五分ずつ、見張りを交代しよう」

頷くと、休憩に入る皆を支援する。

そのまま、弐分は横になると目を閉じて、急速に体を回復させる。フェンサースーツで横になるのは色々と難しいのだが。

それでも、ねむる事はそれほど苦にはならない。

しばし休憩して、大兄と見張りを代わる。

三城が視線を送ってくる。

次は自分が見張りを。

そういう意思表示だ。

良いことだと思う。どんどん自分の意思が強くなってきている。それが大兄や弐分への警戒や敵意のようなものではなく、もはや死語になりつつある自立自尊が故であるのは。兄として誇らしい事だ。

見張りを交代する。

敵の軍団は、殆ど互いの部隊には興味が無い様子だ。

編隊飛行しているもう一部隊のタッドポウルには、かなりの数小型タッドポウルが紛れている。

大型と違って非常に柔らかいが、その分火力も機動力も通常種より高い。ある意味極めて厄介な相手だ。

ただ誘導兵器には完全に好餌。

あの数だったら、駆逐はそれほど苦労する事はないだろう。

休憩終わり。今のうちに、食事や排泄もすませておくようにと告げてある。戦闘準備は、皆万端だ。

万端になれるほどの人員が、此処にいると言う事である。

プロフェッサーは無言でいるが。

時々、皆に質問をしてくる。

或いは、気を紛らわせようと、自分なりに行動しているのかも知れない。

ストームチームが暴れるだけでは敵には勝てない。

プロフェッサーの後方支援も。

戦闘では重要なのだ。

「次の周回で、優先的に開発を進めてほしい武器などはあるか」

「……ストーム3の消耗がいつも大きいので、彼ら用のブラストホールスピアとシールドの強化をお願い出来ますか」

「分かった。 グリムリーパーの消耗率の高さは、私も気になっていた。 皆の盾になるために戦うという彼らの思想の故とは言え、確かに消耗が大きすぎる。 ブラストホールスピアがより強力になり、シールドで防げる攻撃が増えれば、彼らも生存が容易くなる筈だ」

「お願いします」

大兄が、顎をしゃくる。

次、と言う意味だ。

狙撃をすると、またタッドポウルが来る。同時に陸上戦力も来るが、大型は来ない。これは、少し面倒だ。

敵の部隊が下手に削れると、一緒に大型を釣るのが少し面倒な事になる。

敵には金マザーモンスターがいる。

彼奴の戦力はエルギヌスと同等か、それ以上とみて良いほどである。火力だけなら、エルギヌスを凌いでいるだろう。

更に、良くない事に。

金マザーモンスターが、動き始めた。それも、此方を無視して移動を開始した様子である。

ただ。随伴歩兵にしている金α型は放置して行ったようだ。捨て石と言う事か。

大兄が狙撃をして敵を減らしながら、海野大尉に警戒を促す。

「金マザーモンスター、移動開始しました。 其方に向かう可能性があります」

「何だと!」

「最悪の場合、交戦は避けてください。 すぐに避難の準備を。 特に市民の避難を急いだ方が良いでしょう。 倉庫などは放置でかまいません。 エイリアンならともかく、α型に倉庫の物資の見分けなどつきませんから、まず破壊される事はないとみて良いでしょう」

「分かった。 すぐにスカウトをだし、最悪の事態に備える」

通信しつつも、大兄はライサンダーZでタッドポウルを叩き落としている。

流石と言う他無い。

先に比べて、タッドポウルの群れの規模が大きい。小型が主体だから、だろうか。

紫タッドポウルは。

一体を、今柿崎が仕留めるのが見えた。

もう一体が、上空からエイレンUを狙いに行ったので、ガリア砲に切り替えて撃ち抜く。これに耐える。

流石だが。二発目は流石に無理だ。

拉げるようにして、巨弾の直撃を受けた紫タッドポウルが死んだ。他にいないか。周囲を見回りつつ、スパインドライバーで目につく奴を叩き落とす。

ドローンが飛び回り、機銃で敵を狙い撃っている。更には、周囲の敵をオート射撃しているドローンもある。

自動砲座が既に枯渇している今。

これはかなり貴重な支援戦力だ。

程なくして、敵は駆逐。

しかし、金マザーモンスターは既に戦場を離れていた。

あれが繁殖を開始したら最悪だ。だが、報告にあった金α型は、ストームチームが出向いて常につぶし続けて来た。

どこから連れてきたのか。

野良の個体とは思えない。戦略上重要な場所に、プライマーだってあれは投入しようと考える筈だ。

ともかく、残りの敵を片付けるしかない。

大兄が、次の狙いを告げる。

敵の航空戦力は、ほぼ片付いた。ということは、クイーンか。クイーンを仕留めれば、航空戦力は消えて無くなる。

金マザーモンスターを追撃したいところだが。

大型の群れが、此方の背後を突くように動き始めたら最悪だ。特にエルギヌスが来た場合は最悪極まりない。

その時に備えて、敵を駆逐しないとまずい。

色々とままならないものである。

大兄の狙撃と同時に、クイーンの周囲の飛行型が動き出す。同時に、通常種のマザーモンスターも動き始めていた。

α型の随伴歩兵がいるが、通常種ばかりだ。あれは弐分が出るまでも無い。

クイーンの随伴歩兵の飛行型からまず処理する。クイーンは大兄が狙撃で仕留めてくれる筈である。

弐分のデクスターと三城の誘導兵器で飛行型を拘束。地面近くまで落ちてきた所を、柿崎が斬る。

処理が終わった頃に、α型と接敵。

α型も、数が多ければ恐ろしいが、この程度だったら大した相手では無い。そのまま駆逐に掛かる。

三城がライジンをぶっ放し。それがマザーモンスターを直撃。一撃必殺とまではいかなかったが、マザーモンスターが動きを鈍らせる。

そこにエイレンUのレーザーが直撃して。ついに焼き切った。

全身が炎上するマザーモンスター。

羽根をばたつかせて、しばらく無意味な抵抗を続けたが。

やがて、どうと横倒しになって倒れる。

残党のα型が襲いかかってくるが。

飛行型のように、明確に怒りが見える訳でもない。数もそれほど多く無い。黙々と駆逐を進める。

駆除完了。後はキングと、エルギヌスだ。

キングはかなりエルギヌスと離れているが。念のため。大兄が、皆に作戦を告げる。

「エルギヌスとの戦闘方法は分かっていると思う。 再生能力を上回る攻撃を叩きこみ続ける。 以上だ」

「しかし、今此処にある大火力武器はライジンとエイレンUの収束レーザーだけだ。 壱野准将、他の武器で仕留めきれるのか」

「それは問題ありませんよプロフェッサー。 狙うのは頭。 それも、一点収束で一気に仕留めます」

ぞっとした様子のプロフェッサー。

まあ、大兄の攻撃プランはいつも苛烈だ。

線が細いプロフェッサーには、やはり恐ろしく感じてしまうのだろう。この辺りは、どうしてもプロフェッサーという人の限界が見える。ただ、プロフェサーにしか出来ない戦いをしてほしいものである。

大兄がキングの随伴歩兵を狙撃。

β型が来るが、この数と距離では脅威にならない。

三城のライジンがキングを襲う。エルギヌスは寝たままで、キングの部隊が全滅するまで、起きだしさえしなかった。

むしろ、入った無線の方が危険を伝えていた。

「此方海野。 まずいぞ。 予想通り金マザーモンスターが来た!」

「すぐにベース251から退避してください」

「既に市民は退避させた。 俺たちも奴と戦って勝てると思うほどおろかでは無い。 しかし、何故ベースを……」

「プライマーに命じられて動いているのではないとすると、恐らくは強い卵を産むためだろう」

プロフェッサーが言う。

プロフェッサーによると、金マザーモンスターを研究したところ。どうも、金α型を常に産むわけではないらしいという。

金だろうが通常種だろうが、マザーモンスターは色々なα型をうむ。ギアナ高地に僅かな数がいる「蟻」もそうだが、同じ生物内で役割が違う個体がいて。赤、通常種、金はそれぞれ、役割が違う個体に相当するのでは無いか、と言う事だった。

そして、金α型の卵は。環境が厳しいほど、産まれる可能性が上がる傾向にあるらしいのだ。

遺伝子の解析が難しく仮説に過ぎないそうだが。

確かに、それは納得出来る話ではある。

ただ、緑のα型はあまりにも性質が違いすぎる事もある。あれは高確率で生物兵器として作られた別種だろうと言う事だ。

「マザーモンスターの産卵数は、実の所それほど多くはない。 だが駆逐まで日を掛けると、それだけ金α型を産み出す筈だ。 急いでエルギヌスを倒して、金マザーモンスターもどうにかしないと……」

「分かりました。 では、急いであの大物を片付けます」

「無理をしないでくれ、壱野准将。 君に死なれたら、もう希望は失われてしまう」

プロフェッサーの言葉は切実だ。

実際、大兄が死んだりしたら、もう終わりだ。

弐分と三城を中心に戦っても、戦局をひっくり返すのは無理だろう。

大兄はまだ実力が足りないと思っているようだが。

はっきり言って、弐分は違うと最近結論した。

大兄は究極の境地にもう到達していると思う。

その上で、あの怪物じみた勘が更に強さを押し上げている。

あの勘が失われることの方が痛い。

希望となっているのは、大兄の鬼神のような強さよりも。敵の動きを察知できる驚異的な勘だ。

似たような勘は弐分にも三城にもあるが。

それの能力は、大兄に比べて貧弱すぎる。とてもではないが、人類の希望にはなり得ない。

「分かっています。 皆、距離をそれぞれ保ってくれ。 とにかく、あの雷撃と突進に最大限の注意を」

「イエッサ!」

皆が散る。そして、大兄が三城に頷き。

三城が、ライジンをエルギヌスに叩き込んでいた。

出来るだけ、急いで仕留めなければならないが。超再生能力を持つエルギヌスは、簡単に倒せるような相手ではない。

エルギヌスが起きだす。その間に、頭に集中攻撃を続ける。やはり倒し切れないが、出来ればエイレンUの収束レーザーはバッテリーのこともある。ギリギリまで温存したい。

ガリア砲での支援射撃を続ける。

山県大尉は大量のドローンを飛ばして、機銃掃射を雨霰とエルギヌスの全身に浴びせかけている。

あれはあれでいい。

エルギヌスは、再生力に限界がある。全身にダメージを与え続けるのは、本命の致命打に対する陽動にもなる。

エルギヌスが起きだすと、吠え猛る。

その顔面は、既に半分潰れていた。

此方に向き直ると、突貫してくる怪生物。

ここからが。

本番だ。

 

トゥラプターは、少し離れた所から戦闘を見ていた。これ以上接近すると、確実に村上壱野に察知される。

腕組みして様子を見ているが。奴らが言うエルギヌスは、勝てない。

そう判断した。

「此方トゥラプター」

「状況はどうだ」

「は。 用意した生物兵器部隊は敗れるでしょう。 更に、恐らくですが、予想は当たったとみて良いでしょうな」

「……」

話している相手は「水の民」長老だ。

三年間、トゥラプター達は次に備えて生物兵器の培養だけをしていたわけではない。「ストームチーム」の行動を分析していたのだ。

今までの周回のデータも含めて、である。

その結果、「例の装置」が降臨する直前に奴らはこの辺りに活動拠点を移していることがほぼ確定となった。

そのタイミングの少し前に、トゥラプター達は万が一に備えて先に過去へと戻るようにしている。

このため、状況を確認できなかったのだ。

今回は敢えてギリギリまで粘って、「ストームチーム」の動きを観察するべきだと判断し。

提案を「水の民」長老は受けてくれた。

そして、敢えて過去に持ち込もうと考えていた大型生物兵器の内。一部を裂いて、こうして敵の拠点近辺に配置。

様子を見たのだが、やはりだった。

敵の対応が的確すぎる。そしてエルギヌスから逃げ惑うのでは無く、倒しに来ている。今の状況で、戦うのはリスクの方が勝るはずだ。

これではっきりした。

「ストームチーム」は、例の装置が降りてくるタイミング、場所を理解している。

どうやって最初理解したのかまでは分からないが。既に記憶を周回しながら持ち越し、装置に何かしらの行動を行って過去に転移しているとみて良い。いずれにしても、あの装置は「外」の管轄。トゥラプター達に管理は許されていない。

いずれにしても、それで色々はっきりした。

例の装置に何かが起きているのは、人為的な行動の結果。それも「ストームチーム」によるものだ。

一応、本国に連絡をして、例の装置に防衛装備を配置することを。「外」に要求し、許可を貰っている。

とはいっても、限定的な装備しか配置できないが。

「そろそろ時間だ。 戻って来て欲しい」

「一応敵の拠点と思われる地点にも大型生物兵器を送り込みましたが、それは見届けないので」

「どうせ勝てはしないだろう。 少しでもダメージを与える事が出来ればよしとするべきだ」

「……了解。 それでは戻ります」

通信を切る。

やりやすいのは有り難い。それに、今でもトゥラプターは「水の民」長老を尊敬している。

事実殆ど無制限の行動を許してくれている。前のでくの坊とは偉い違いだ。頭の血の巡りも早い。

ただ、戻るのは少し不満だ。此処でもう一戦闘やっていきたいところだが。

しかしながら、戦闘に勝つのはそれに優先される。

此処で勝たないと、未来がないのだ。

「外」曰く未来は残してくれるらしいが。トゥラプターは種族ごと罰を受けるような境遇に身を置くのはまっぴらだ。

戦士として産まれたからには、強敵との戦いで死にたい。

そんな事すら許されないような状況を作り出した先祖をぶん殴れないのが悔しくて仕方が無い。

まあ、今はやむを得ない。

本拠に戻り、過去への時間跳躍に備える。

俺以外の相手に殺されるなよ。そう、村上壱野に向けて呟きながら。

 

3、地獄と化したベース251

 

エルギヌスが、血反吐を吐きながら倒れる。

流石にエルギヌス。ライジンを三発も喰らっても倒れず。結局エイレンUの収束レーザーを使わざるを得なかった。

直撃が頭に入り、それでも倒れず。

壱野准将の狙撃が入って、やっと死んだ。

柿崎は接近戦を挑んでエルギヌスを切り刻んでいたが、どうもプラズマの熱量が足りないらしい。

途中から斬るのでは無く「削ぐ」攻撃に移行し。

それで、多少の気を引くことは出来たが。

まるで凌遅刑でも実行しているようで。ちょっと面白かった。

ここで面白いと感じてしまう辺り、柿崎は色々と狂っているのだろう。

父に言われた事がある。

お前は絶対に真剣を持たないように、と。

小学生の頃には、既に剣の腕で父を超えていたが。柿崎はどういうわけかこの辺りとても素直なことを自覚していて。

父の言葉には素直に従った。

父より自分が上だとも思っていなかった。

剣の腕では上かも知れないが、父がいなければ生活出来ないのは事実だったからである。

父が早く死んで道場を継いだ後も、後見人として叔父がついたが。叔父はほぼ放任状態だったので。中学の頃には独立していたも同然だったが。その頃にも、柿崎は父の言いつけを守っていた。

EDFに入ってからは、話が別になったが。

今では、父の言葉の意味がよく分かる。

父は、柿崎がこうなることを知っていたのだ。そういう意味では、父は決しておろかではなかった。

剣術の腕では劣ったかも知れないが。

恐らくは、世間的にはかなりマシな方の親だった、といえただろう。早死にしなければ。

すぐに大型移動車に集まる。一華大佐と山県大尉が、エイレンや他の装備の手入れをしている間。プロフェッサーが運転して、ベース251へと戻る。大型のα型は見かけよりずっと足が速い。

エルギヌスを倒すまでに、ベース251に辿りついたのは、不思議な話ではない。

散々マザーモンスターと戦って来たのだ。

それくらいは、知っている。

運転しているプロフェッサーに、バイザー越しに話しかける。

「プロフェッサー。 プラズマ剣の火力を上げてほしいのですが」

「怪物相手には、君は殆ど無敵に見えるが」

「大物相手だとまだ少し物足りないのが実情です」

「そうか、分かった。 プラズマの熱量を上げるべく、調整をしてみる」

プロフェッサーもまた。色々と柿崎と似ていると事がある。

他の皆は多分気付いていないのだが。

同類だから分かるのだろう。

プロフェッサーは何というか。完全記憶能力という、唯一無二の才能を持って生まれたからだろう。

他の多くが、著しく欠損している。

此処は柿崎と同じだ。

剣術の才能において突出しているから、他が壊れている。

村上三兄弟も似たようなものだ。三人とも、どこかしらおかしい。だけれども、不可思議な話で。

三兄弟は、おかしい事に自覚がないか。

或いは、それを上手に押さえ込めているようだった。

一華大佐もそれは同じかも知れない。

ただ一華大佐の場合は、ちょっと臭いが違う。養殖物というか、天然物の柿崎とは雰囲気が違うのだ。

たまに難しい顔をしている事があるので、今度聞いてみたいところだが。

まあ、そんなことよりも。

今は大物との戦闘の方が楽しみである。

ベース251近くの商店街で、襤褸を纏った市民数百人と、戦車とケブラーと合流する。海野大尉が、点呼を取っていた。

赤ん坊が泣いている。

基地をたたき出されたも当然なのだから、当然だろう。

市民は老人と子供しかいない。

戦える人間は、今の時代。

全員パワードスケルトンを身に纏って、怪物との戦闘に出ている。金持ちだろうが何だろうが関係無い。

そして金持ちが強いかというとそんな事はない。みんな、怪物の前に平等に殺されていくだけだ。

「金マザーモンスターは、我が物顔にベースに入っていった。 撃滅するぞ」

「閉所でマザーモンスターは圧倒的な戦闘力を発揮する。 突入しても死ぬだけだ」

「ああそうだな学者先生。 だが、奴は既に卵を産み始めているようでな」

「まずいな……」

卵、か。

プラズマ剣の一撃にも耐え抜く殻。中身は普通に一刀両断できるから、へんな代物である。

ともかく、柿崎は様子を見るだけ。

戦いについてのアレコレは、壱野准将が決める事だ。この場合は、海野大尉がだろうか。

海野大尉が、壱野准将に意見を求める。

「どう思う、壱野」

「そうですね。 まずは内部を見ないと何とも。 卵を敵が産んでいるなら、確実に排除しつつ、敵マザーモンスターの居場所を探りましょう。 マザーモンスターが閉所に立てこもっていた場合は、これを使います」

山県大尉が、頷いて出してくる。

デスバード型毒ガス。

簡単に生成できる上、人間に対しては殆ど毒性がない。このため、各地で自衛用に生産された、「戦後の武器」の一つ。

事実幾つかの前線では、これが積極的に用いられ。特に飛行型に対する特攻兵器となっている。

これに加えて、補給車からプロフェッサーが出してくる。

「ナノテルミット弾だ。 閉所で逃げられないのは敵も同じ。 基地の中の大きめの空間で戦うのでなければ、これを活用したい」

「よし、それは俺が使う。 ……皆、此処に残れ。 戦車隊、ケブラーもだ。 何があっても市民を守れ。 俺たちで、基地を奪回してくる」

「無謀です! 東京に逃げましょう!」

「老人と子供を連れてか。 途中で何割も死ぬぞ。 今は敵を可能な限り迅速に仕留め、基地を不法占拠している不愉快なデカブツを駆逐する!」

「分かりました……」

悲しそうにする基地の副司令官。

中尉の階級を持っているそうだ。柿崎がここに来る途中興味本位で調べたのだが、元々輜重班の人間だったらしく。

前線で戦っていた戦士ではないらしい。

弱気な発言が目立つと思ったら。まあそういう人間しか、生き残る事が出来なかったのだろう。

人類はプライマーとの戦争が始まってから、25分の1にまで減った。

こういう人間しか生き延びていないのも、それはそれで仕方が無いのかも知れないとは思う。

基地に入り込む。

まずは電気系統をどうにかしたいところだが。それは一華大佐かプロフェッサーがどうにかするだろう。

過去に何度も戻っていると言うことだけはある。

ベース251の中を、実家のような速度でクリアリングして進んでいく壱野准将達。流石である。

「卵発見」

壱野准将が、ライトで照らす。

マザーモンスターは、此処を気に入ったようだ。卵を一日それほどたくさんは産まないらしいが。

「侵入者」には容赦ないだろう。

ましてや子供を殺されたら猛り狂って襲いかかってくるはずだ。

自分の方が「侵入者」であることなんてどうでもいい。

それが、畜生の理屈だ。

図体が大きかろうと関係無い。動物というのは、そういうもので。だから畜生と言うのである。

まずは、周囲の卵を駆逐。

フェロモンだの何だのは、怪物にもあるらしいと柿崎も聞いている。恐らく金マザーモンスターは既に此方の侵入に気づいているだろう。まあ、今回はあまり気乗りがしない。プラズマ剣で殻を傷つけて。出て来た怪物を二の太刀で葬るだけだ。

「クリア」

「いや、もう一つある」

リーダーが、天井近くにある一つを撃ち抜き。そして出て来たα型を片付ける。

おおと、海野大尉が声を上げた。

「やるな。 じいさま譲りの勘だ」

「祖父も勘が優れていました。 色々教わりましたので」

「そうだな。 捜査の時も、随分手伝ってくれた」

マル暴だった海野大尉は、壱野准将のお爺さまに時々手伝って貰ったらしい。客員扱いで修羅場に参戦していた壱野准将のお爺さまは、相当な武勇を発揮して。特に反社の者達には怖れられていたそうだ。

まあどうでもいいが。

反社なんか全部切り捨てれば良いだけなのに。更正の見込みもない輩を刑務所なんかに入れても、税金の無駄だと柿崎は思う。

まあ、それは柿崎の理屈。

他の人間に、それが通じるとは思えないし。

同意を求めるつもりもなかった。

そのまま、基地の奧へ進む。点々と卵がある。全て駆除して行く。この様子だと、相当にマザーモンスターはこの基地が気に入ったのだろう。マーキングでもしていくかのような有様だ。

「倉庫確認。 倉庫には入れなかったようで、内部には卵無し」

「電気管理室確認。 炉を動かすッスよ」

「よし、やってくれエイレン乗り」

「了解ッス」

電気が基地に入る。

真っ暗だった基地が、一気に明るくなった。

同時に、監視カメラが復活する。全ての部屋をみていく一華大佐が、見つけたと言う。

すぐに、皆が集まる。

いた。金マザーモンスターだ。どうやって入ったのか、かなり奥深くにある部屋の一つにいる。

あの中に入って戦うのは自殺行為だ。

仕方が無い。外から攻撃していくしかないだろう。

部屋の中には、金のα型の卵もある様子だ。

もしも下手に仕掛けたら、地獄絵図になる。それは、間違いない。

「今の灯りで敵は気づいたな。 下手をすると、迎撃に出てくるとみていい」

「ならば余計に急ぎましょう」

「うむ……」

海野大尉と、奧へ急ぐ。後背をおそわれたらたまらないので、途中にある卵は全て駆除して行く。

通常種だけではなく、赤いα型の卵もあった。

産まれたばかりだから体が柔らかいというようなこともない。赤いα型は好きだ。通常種よりも、斬っていて楽しいからだ。

やがて、最深部に到着。

いる。気配がびりびり伝わってくる。

そして奴は怒り狂っている。

勝手な畜生の理屈とは言え、子供を殺されたのは事実だ。柿崎はペットを飼うことに興味が無い。

畜生を愛玩道具にする事に、どうにも魅力を見いだせないからである。

幼い頃から、畜生は所詮畜生と割切っている。だからぬいぐるみとかにもまるで興味を持てない。

そういう様子を見せる柿崎を見て。

周囲の、デフォルメされた動物を可愛い可愛いと言っている連中は。幼い頃から、恐怖を見せていた。

何というか、柿崎は。

幼い頃からリアリストだったのだろう。

周囲の存在は、斬るべき相手かそうでないか。

有益かそうではないのか。

そういう風にしか思えなかった柿崎は。恐らく人間としては失格の部類なのだろうが。剣の道に生きる以上、人間として合格かどうか何てそれこそどうでもいい。剣こそが、柿崎の全てだ。

「既に向こうは気付いています」

「よし、全力で部屋に毒ガスとテルミットを叩き込む。 その後は即座に逃げる」

「了解でさ」

「行くぞ!」

海野大尉と、山県大尉が飛び出す。

ナノテルミット弾は強烈な酸化反応を引き起こすもので、部屋などを一瞬にして制圧する事が可能だ。

人間相手なら必殺兵器だが。

怪物相手に、何処まで通じるか。

ともかく、態勢を低くしたまま待つ。

二人がマザーモンスターが勝手に占拠した部屋に、毒ガスとテルミットを同時に叩き込んで、逃げ戻ってくる。

酸がシャワーのように二人の背後を追ってきたが。どうにか逃げ切る事に成功はした様子だ。

そのまま、しばし様子を見る。

「……かなり敵の数が減ってきていますね。 卵が即座に割れ、金α型も耐えきれずに倒れているようです」

「だが、あの忌々しい金女王は倒れていないだろう。 さてどうする。 毒ガスの代わりはあるか」

「あるにはありやすがね。 敵が何度も投入を許してくれるかどうか」

「……壱野准将。 確か、この毒ガス、テルミットよりも効果が切れるのは遅かったですね」

柿崎が言うと。

壱野准将は少し考え込む。

そして、許可してくれた。後は、テルミットの高熱が冷めるのを待つだけだ。一応ガスマスクをつける。実の所人体にはそれほど危険ではないのだが、一応念のためである。

壱野准将もショットガンを取りだし、手にする。弐分大佐も、デクスター散弾銃に装備を切り替えていた。

テルミットの効果が切れる。

同時に、全員で突入。先陣を切った柿崎は、多分ガスマスクの中で薄ら笑いを浮かべていただろう。

金マザーモンスターの反応が鈍い。

やはり、この地球の通常環境には適応しても、まだまだ毒素には耐性が無いと見える。コロニストと同じだ。

それでも、酸を撒こうとしてくるが、させるか。

踏み込むと、袈裟に斬り下げ斬り上げる奥義を叩き込む。初撃を回避させ、二撃目で仕留める技なのだが。

怪物相手には二段当ててとどめを刺す技に変わっている。

そのまま流れるように連続して奥義を叩き込んでいく。

奥義に技名なんてない。

そのまま、歴代の当主が残した図と説明を見て把握したものばかり。いずれもが、人生を掛けて編み出したものばかりだったが、半分もなかっただろうか。使える技は。

平和な時代は、こうも武芸を衰えさせる。

そう思いながら、立て続けにプラズマ剣での一撃を叩き込む。壱野准将もショットガンを連射、弐分大佐もデクスターを連射している。

毒ガスが、きれ始める。

既に金マザーモンスターは満身創痍だが、今酸を吐かれたらかなり危ないかも知れない。だが、それより先に仕留めきる。

飛び込んできた山県大尉が、サプレスガンという超接近戦用のショットガンを叩き込む。更に全員で猛射を浴びせる。金マザーモンスターは悲鳴を上げて身をよじったが。その頭を、気合いとともに叩き落とすと。

ついに、巨体は横倒しになり。

静かになった。

周囲には割れた卵と怪物の死体だらけだ。金のα型もかなりいる。これは成長されていたら、大変な事になっていただろう。

「此処には二ヶ月分の食糧があったんだがな。 テルミットを投げ込んだ以上、流石に食べるのは止めた方が良いだろう」

海野大尉が、アサルトを下げてぼやく。

そして、もう一つぼやいていた。

「不法侵入に不法占拠か。 嫌な時代だな」

 

外に待機していた部隊と市民に戻って貰う。外でも怪物の脅威があるから、皆冷や冷やしていたようだが。

ともかく勝ち残ったと言う事で、まずは老人から順番に基地に収容していく。次は子供である。

戦車とケブラーは最後まで残って、外を巡回する。エサがたくさん出て来たのだ。怪物が襲ってきてもおかしくは無いのである。

幸い、近くにいたあの巨大勢力を潰したということもある。

怪物も、これ以上しかけてくる余裕は無かったのだろう。

その代わりと言うべきか。

スカウトが戻って来ていた。

ベテランの兵士だ。ただし、前線にいた兵士には思えない。

熟練のスカウトなんて、三年前までの戦いで殆どが命を落としたのだ。いま生きている熟練兵は、壱野准将や海野大尉みたいな特級の例外か、老廃兵が無理矢理前線に出されたものである。

明らかに、スカウトは後者だった。

「クルールです。 相応の数が迫っている様子です」

「怪物は」

「怪物やアンドロイドはいません。 コロニストは少数従えている様子ですが」

「分かった。 だが、流石に今日はこれ以上の戦闘は厳しい。 明日、敵が布陣したのを見てから仕掛ける」

既に夕方だ。

これ以上敵も行動をするとは思えない。クルールは殆ど夜に行軍しない。これは恐らくだが、夜間での同士討ちなどを避ける為なのだろう。そういえばコスモノーツもそうだ。怪物も似たような生態だと聞く。

此方は少数での奇襲なら、むしろ夜が向いているのだが。

流石に怪物の大軍勢を相手にし、エルギヌスまで倒し。そして今金マザーモンスターとも戦闘した。

これ以上は無理という判断は正しい。

全員を収容後、ベースの隔壁を閉じる。

明日以降だ、次の戦闘は。

何も言わず、海野大尉は東京への連絡と、物資の要求などの対応をしてくれた。この辺り、厳しくて血の気が多いおじさまに見えるが。士官としてやるべき事は心得ている。元々ベテランの警官だったという。

それがどうしてかEDFに入ったのだ。

本来、このくらいの地位にいて当然の人なのだろう。

休むように壱野准将に言われたので、そうさせてもらう。プラズマ剣の強化改造は、この周回ではもう無理だ。

それにどうせ歴史改変が来る。

その時、手にしているのはこのプラズマ剣か分からないし。

このプラズマ剣だったとしても、相当に痛んでいてもおかしくない状態だ。

フライトユニットとコアも同じ。

手入れは、出来るだけしておかないといけないだろう。

貰った自室で、軽く整備をしておく。

整備については長野一等兵に聞いて教わった。あの人の方が、よほど海野大尉より気むずかしくて接しにくい人だったように思える。

それに何というか、柿崎は器用なつもりだったのだが。

実際にフライトユニットを整備してみると、不器用さが目立ってしまう。

四苦八苦していると、木曽少尉が来る。

珍しいなと思って部屋に入れる。

彼女は背が高くて、とにかくちんまい柿崎とは真逆のタイプだ。少し向こうの方が年上だが、そもそも戦争が始まってから徴兵されたようなので、戦歴は此方が上。一番面倒な手合いである。

「フライトユニットの調整中でしたか?」

「はい。 如何なさいましたか?」

「実は動きを見ていて元フェンサーなのではないかと感じまして」

「いいえ。 「剣士」という意味でのフェンサーだというのならそうなのですが」

くつくつと笑った後。柿崎が大きな道場で剣術の師範をやっていたという話をすると、驚かれる。

まあ、木曽少尉は元々は多少フライトユニットを囓った程度で、戦争に参加するなんて思ってもいなかったらしいのだ。

それは、まあそうだろう。

逆に、フライトユニットの調整を見てもらう。木曽少尉は、難しい顔をしていたが。

戦闘時の凄まじい暴れぶりと裏腹に、不器用ですねと言い切った。

そして、まずいと思ったのか視線を逸らしたが。

まあ、柿崎もその通りだと思うので、にっこり返すだけである。実際、手伝って貰うと、手際が良くて驚いた。

フェンサースーツの手入れなら、一華大佐に頼むといいと言うと。彼女は気まずそうにする。

どうも苦手らしい。

確かに癖が強い人だし、こういう人にとってはあの手の露骨過ぎるいわゆるギークは恐怖の対象かも知れない。

だが一華大佐は知識を生かして技術をフル活用し。あの地獄の戦線を生き抜いてきている猛者でもある。

そんな苦手意識だけで接するのは非礼だろう。

この人も、見かけだけで相手を判断する手合いか。

そう思うと、ちょっと不愉快だ。

柿崎を見かけで侮ってきた剣術家を、数限りなく竹刀での試合とはいえぶちのめしてきたが。

その後、何が起こったのか分からないと顔に書いている剣術家どものことを思うと。

色々と不快感がせり上がってくる。

「私が言う事ではありませんが、苦手云々を口にしていたら、生き残るものも生き残れないのではないのでしょうか」

「……そうですね。 すみません」

「いえ、分かっていただけるのなら何よりです」

「失礼します」

一礼すると、木曽少尉は部屋を出て行く。

まあ、あれだとストーム4で目立たなかったのもよく分かる。三年一緒に戦ったが、どうもなじめなかったように思えたのは。

恐らくだが、感性が凡人で。

変人揃いのストーム1の誰もが苦手だったから、なのだろう。

だがそんな事では困る。

柿崎が面白く感じて思わず斬りたくなるくらいになってくれないと、確実に足を引っ張るだろう。

勿論ミサイル主体の戦術を使うフェンサーは貴重だし、絶対にいて欲しい相手ではあるのだが。

それでも、これは壱野准将に話をしておくべきかも知れない。

面倒だなと思いながらも、バイザーを起動。壱野准将に、軽く経緯を話しておく。壱野准将はしばし黙り込んでいたが。やがて、分かったと言った。

河野という問題行動ばかり起こすウィングダイバーが以前ストーム4の前身部隊スプリガンにいたという。柿崎とは面識がないが、女性の集団内での権力闘争にしか興味が無いような手合いで。一方的にライバル視した三城大佐に対してハラスメントを繰り返していたとか。

柿崎は学校では怖れられていたから、そもそもスクールカーストに関与することすらなかったが。

恐らく、学校でスクールカーストの上位を独占し。それで負の成功体験を積み重ねてしまったような手合いだったのだろう。

そして木曽も。

スクールカーストにがっつり染まって学校にて生活し。

それであんな風になったのだとしたら。

どれだけスクールカーストというものが公認されるようになった風潮が愚かしいか、よく分かるというものだ。

呆れ果てて、柿崎はあくびを一つする。

一眠りしようかと思ったが、雑念を払っておいた方が良いだろう。

訓練用の部屋に出る。たまに貴重な実弾を使って新兵を訓練するのに使っているが、幸い今は誰もいない。

まずは目を閉じて集中。

心を一本の剣と化し。

しばししてから、プラズマ剣を振るう。

真剣ではないにしても、同じようなものだ。一つずつ、順番に型をこなしていく。足運びも。

一通り動き終えると、残心して一度終わり。

後は、単純に身体能力を上げるべく。一族に伝わっている鍛錬を順番にやっていく。

これはフライトユニットとパワードスケルトンに頼るだけでは駄目だからだ。この世界は特にそうだし。

改変後の世界では、そもそもフライトユニットとパワードスケルトンがまともに動く保証すらないのである。

鍛錬を終えても、まだもやもやする。

ならば、もう一度実戦訓練をするか。

体力だったら、幸い自信がある。元々鍛えていたし、ストームチームに加入してからは更に鍛え抜かれた。

連続して、技を繰り出す動きを幾つか試してみる。

まだまだ、試していない技の組み合わせは幾らでもある。

今まで実用的では無いと思っていた奥義も、或いは他の技と組み合わせることで、実用的に化けるかもしれない。

様々な状態を想定しながら、体を動かす。

的なんて必要ない。

巻藁なんて散々真剣で斬ったし。

それ以上に手応えがある怪物を、今まで散々斬ってきた。

もう、巻藁が必要な境地では無い。

達人かどうかは別として。今の時点では、斬るために必要な的を、柿崎は欲していなかった。

無言で鍛錬を続けていると。

やがて視線を感じる。

視線を向けた先にいたのは、三城大佐だった。

残心して、それから一礼する。

「如何なさいました」

「随分と殺伐としてる剣」

「ふふ、殺すためだけにある剣ですから。 かの剣豪は活人剣などと言っていたそうですが、私は同意できかねます」

「それについては私も思う。 武技は結局相手を殺すためにあるもの。 それは暴力と同義」

多分武術を神聖視している人が聞いたらキレそうな台詞だが。

柿崎には真理だ。

恐らくだが、三城大佐にも。

軽く、並んで技を競う。三城大佐の動きを見るが、非常に鋭い。これならば、空中戦主体でなくてもいけるはずだ。

そう指摘すると、三城大佐は言うのだ。

空が好きだから、ウィングダイバーをやっていると。それは理解出来ない概念だが。それでも、理解しないといけないと、柿崎は思った。

理解出来ないから排除するのでは、スクールカースト思想を肯定して、自分より劣った相手を血眼になって探すような連中と同じ。

柿崎がもっとも軽蔑する相手と同じだ。

だから、そうあってはならない。

柿崎は一本の剣として、敵を屠り続けるだけでいい。他にくだらない人間のもっとも愚かしい部分など。

身に宿そうとは思わなかった。

「一度、飛ぶのに特化したフライトユニットを使ってみると良いかも知れない」

「ストーム2麾下での訓練期間中に使いましたが、あいませんでした」

「そう……」

「三城大佐も、こちら側に来ませんか?」

そういうと。かなり悩んだようだったが。三城大佐は、首を横に振る。

残念だ。

人斬りは、普通の世界では生きられない。三城大佐も、柿崎と同じように闇の道を歩く気はないとすると。

柿崎は今後も孤独極まりない生活を送る事になるだろう。

だが、それはそれでかまわない。

人斬り包丁には、鞘すら不要なのだから。

 

4、襲来の予兆

 

北陸から来た駆除チームと合流する。駆除チームと言っても、四両のテクニカルニクスと随伴歩兵である。

北陸を転戦しているときに、一華が修理をして、今回も手なづけた。駆除チームの規模は前周よりも更に小さくなっているが。それでも全滅はしていないし。荒くれだが、相応の活躍はしてくれている。

だから、三城はああだこうだいうつもりはない。

基地周辺に点々といるクルールの位置を確認後、撃破に動く。

大兄が狙撃して、群れの中にもしも炸裂弾持ちが混じっていたら真っ先に駆除。その後は、エイレンUとニクス隊が連携して火力投射し。隙を見せたところを接近して倒して行く。その繰り返しだ。

幸い、クルールの群れは大した規模では無い。

むしろ、コロニストの特務が少数混じっている。此方の方が、嫌な予感を加速させる。

エルギヌスが来ていた。

これは尋常では無いことだ。

三年間彼方此方を転戦したが、プライマーはもうハラスメント攻撃でEDFの戦力を削る事だけに終始している。

大物は殆ど出てこない。

欧州ではジョン中将が。北米ではジェロニモ中将が。それぞれ戦線を支えられているのも、それが理由。

インドは南部まで押し込まれているが、それでもポロス中将は粘り強く戦っている。ただこれには、プライマーがアンドロイドを戦線に出してこないこと。本気で攻め潰そうとして来ていないことも大きいだろう。

エイリアンも、コスモノーツやクルールは殆ど出てこない。

これだけのクルールが出てきている事そのものが異常だし。

コロニストの特務なんて、敵の繁殖地を潰す時くらいにしか遭遇していない。

上空から、交戦中の敵部隊を強襲する。

ファランクスでクルールの頭を焼き切って倒した後、此方に銃を向けたコロニストの懐に飛び込んで、プラズマ剣で抜き打ち。腕を斬り飛ばした。

再生してくるとは言え、腕を失うとコロニストは痛がる。

即座に小兄が、スパインドライバーで隙を見せたコロニストの頭を叩き潰していた。豪快な武器である。

敵小隊殲滅。

海野大尉が、攻撃止め、と指示。

兵士達は、ひそひそと会話している。丸聞こえだが。

「ばかでかい怪物どもを倒して来たって話は本当らしいな。 邪神どもを子供扱いだ……」

「本部で作られた実験部隊らしい。 全員サイボーグらしいぞ」

「お前達! 軽口を叩いている暇があったら警戒しろ!」

「サー、イエッサ!」

海野大尉が一喝して、兵士達が背筋を伸ばす。

本当に怖れられているんだなと、少し呆れた。こうしないと、兵士達を統率できないし。統率できないと、生還させられないからなのだろう。

とはいっても、やり過ぎても良くないという話を聞いたことがある。

何処かしらで、兵士達に優しくしてあげる事も必要なのではあるまいか。

「アンドロイドどもはあれ以来見かけないな。 クルールがコロニストどもを率いて来るのにはどんな意味がある……」

「この辺りに戦略的な重要性があるのでしょうね」

「そうだな。 奴らは不愉快な事に頭が切れる。 この辺りに拠点を建築するつもりなのかも知れん」

大兄の言葉に、素直に頷く海野大尉。

大兄を滅茶苦茶信頼しているのが分かる。三城に対しても、出来るだけ優しく振る舞おうとしてくれているようだ。

全然そうは見えないが、それだけで充分である。

周囲の警戒を続行。

びりりと、嫌な気配を感じる。大兄が、既に三城が感じた方を見ていた。周囲には、クルールはもういないが。

もっと強烈な気配だ。エルギヌスよりも危険度が高い。

すぐにライジンを用意する。

「何か来ます。 それも大きいのが」

「! 総員、総力戦用意!」

海野大尉が、声を張り上げるが。

もう、それは姿を見せていた。

アフリカに去った怪鳥。ケブラーの部隊をものともせず。どれだけ攻撃してもびくともしなかった巨怪。

最強の怪生物。サイレンだ。

アフリカに去ってから姿を見せなくなったが。たまに、世界の各所で目撃例があると聞いていた。

まさか、日本に来ていたのか。

「サイレンだ!」

「ミサイルも通じないと聞くぞ!」

「ただのでかい鳥だ! 実際欧州で奴が見つかったとき、奴は機甲部隊に袋だたきにされて、泣きながら尻尾を巻いて逃げていった! その程度の相手だ!」

海野大尉が、そう声を張り上げ、攻撃開始を指示。サイレンの飛行速度は、飛行型の怪物とほぼ同等。攻撃ヘリなどと互角くらいである。百数十メートルの巨体がその速度で飛び回るのだ。

しかもサイレンの羽ばたきで生じる風圧は、壊れかけの建物など容易くバラバラにしてしまう。

それでも怖いもの知らずのニクス隊が攻撃を開始。エイレンUも、レーザーでの攻撃を開始する。

此方を視認したサイレンが、凄まじい雄叫びを上げるが。のど元にライジンを叩き込んでやる。

だが、やはり熱兵器は効かないか。

「三城、駄目だ。 熱兵器は効かない」

「前と状態が違うかとも思ったけど、そうらしい。 武器変える」

すぐに補給車に走ると、プロフェッサーが取りだして渡してくれる。調整をしてくれていたらしい。

モンスター型レーザー砲だ。

更に火力が改良してあるという。

レーザーなら、或いは。

それにモンスター型は、ストーム4が愛用していた武器だ。

サイレンが炎をまき散らして暴れ回る。兵士達に散るように海野大尉が指示。ニクス隊も自発的に散開する。

走りながらエネルギーをチャージ。

大兄と小兄がそれぞれ狙撃を続けているが、サイレンには効いている様子がない。やはりあれを倒すには、何か特別な武器が必要なのか。

モンスター型で射撃。

明らかに怯む。

よく見ると、傷そのものは回復がエルギヌスと大差ないのは変わっていないのか。そうなると、サイレン自身がとんでも無くタフと言う事か。

だがあのテンペストミサイルが通じないと言う話もある。

この程度の火力投射で、倒せる相手では無いだろう。

木曽少尉が、大型ミサイルをぶっ放す。山県大尉が何か誘導用のレーザーを当てているが。連携して初めて使える武器だ。確かリバイアサンとかいったか。何度か小兄が使っているのを見た事がある。

かなりの大型ミサイルだが、フェンサースーツだけでは誘導機能をまかなえないらしい。いずれにしても飛んでいくミサイルを避けようとして、サイレンは失敗。立て続けに二発の大型ミサイルが直撃。

悲鳴を上げて、サイレンは態勢を崩す。大兄が立て続けにミサイルの着弾地点を狙って狙撃を続けるが。それでも致命打には届いていない。

サイレンの反撃が来る。炎のブレスが、周囲を薙ぎ払う。

一華のエイレンUが、逃げ遅れた兵士を庇う。

まだあどけない顔の、柿崎より年下に見える少年兵だ。こんな兵士を殺させるわけにはいかない。

口の中を狙って、モンスター型のレーザーを叩き込む。

高火力レーザーをモロに喰らって、更にサイレンが怯む。ニクス隊は炎を浴び続けて、足回りのトラックが限界だ。一機は既に擱座している。

「くそっ! こんな数で倒せる相手じゃ無いぞ!」

「テンペストでも打ち込んでくれよ!」

「テンペストは効かなかったと聞いている! 踏みとどまれ!」

「畜生! 畜生ーっ!」

まだ飛び回るサイレンだが。大兄が目を撃ち抜いたことで、流石に苛立ったらしい。それに、自慢の炎ブレスで簡単に殺せないことも認識したのだろう。

翼を大きく振るって、風を叩き込んでくる。擱座しているニクスが、その場で横転していた。

山県大尉が放った何かのワイヤーが、上空のサイレンにつきささる。

同時に、高圧電流が叩き込まれた様子だ。

一華が作った新兵器だろう。

まったく、よく分からないものばかり作る。

サイレンは今まで喰らった事がない攻撃に面食らったようで、必死に飛び離れてワイヤーを外す。

電気は、あんな巨体でも喰らうのは嫌らしい。或いは、雷か何かを飛んでいる途中に喰らった事があって。

それが嫌な記憶にでもなっているのかも知れなかった。

やがて此方を一瞥する。大兄とサイレンの目があう。恐らく、サイレンは覚えていたのだろう。

凄まじい叫び声を上げると。

そのまま飛び去る。

簡単には勝てない。そう判断してくれているのなら、良かった。このまま総力戦を続けても、倒せる見込みがなかったからだ。

モンスター型の銃口を降ろす。戦闘終了だ。

「見たか! 人類は負けていないぞ! さっさと地球を出ていけプライマーの鶏め!」

海野大尉が、なんだか不思議なセンスの罵倒をしたが。

兵士達が既に限界だ。すぐに手当てが必要だろう。手分けして、補給車から医療物資を取りだし、応急処置に当たる。エイレンUは、横転していたニクスをワイヤーで引っ張り上げ、立て直していた。

すぐにニクス隊は修理が必要だ。

駆除チームには、これから一緒に到来するリングとの戦闘で活躍してもらう必要がある。

リングが来るのは、恐らく明日。

その時には、大型船も来る。大型船対策は今回もしているが、はて追加で何隻落とせるか。

敵も、フーリガン砲は知っている筈だ。攻撃を集中してくると見て良く、ニクスの護衛は必須だ。

「海野大尉、ニクスの修理を一華大尉と一緒にする。 今日はもう充分だ。 引き上げよう」

「……やむを得ないな。 総員、一度引き上げる。 クルールどもめ、どれだけ来ても必ず全滅させてやるからな」

プロフェッサーの言葉に、海野大尉も引き上げを判断。兵士達が、ほっとしているのが見えた。

明日には、またリングが来て、歴史が改編される。

あらゆる準備を、今のうちにしておかなければならなかった。

 

(続)