グランドキャニオン会戦

 

序、激突開始

 

本来なら分厚く魚鱗に陣を組みたい所だろうが、兵力が足りない。EDFの決戦部隊は、グランドキャニオン近くの平原に布陣。平原というか荒野だ。此処なら、思う存分火力を投射できる。

タイタンを中心に陣列を組む。戦車隊が前衛を務め、その少し後ろにケブラーが。そしてニクス隊。エイレンは村上班、荒木班の二機が中心となって、陣中央付近に。そして指揮車両を兼ねるジェロニモ少将が乗るタイタンの側に、護衛用に固定砲台を兼ねるグラビス三機が展開する。

兵士達は戦場に雑多に散る。

敵が、見え始めると。

師団規模の部隊であっても、それでもおののきの声が上がった。コロニストだ。それも、凄い数である。

少し前に、壱野は聞かされた。ロシアで、コスモノーツまで姿を現した様子である。ついに来たか。そういう言葉しか無い。

この戦場にコスモノーツが来るかは分からないが。いずれにしても、此処で敵を撃滅しないとEDFは終わりだ。

隊列を組んで接近して来るコロニスト。鎧を着ている奴は、みた感じではいない様子だ。まあ特務を最前列に配置はしてこないだろう。

まずは、挨拶代わりだ。

砲兵隊が、仕掛ける。

「巨大榴弾砲、発射ァ!」

「カノン砲、斉射!」

足回りが悪い砲兵隊が、一斉射撃。乱戦になると役に立たないので、出番は最初だけだ。多数のコロニストが空を見上げたときにはもう遅い。一瞬で、百体以上のコロニストがバラバラになって消し飛んでいた。即死を免れたコロニストもいる。

即座に次の部隊が来るが、それを見越して更に上空から来るのはフォボスだ。指示を出しているのは戦略情報部の少佐か。

今回は戦略情報部が直接指揮を執るほどの戦場、という事である。

「空爆開始」

「此方フォボス! 空爆を開始する!」

一斉に降り注いだフォボスの爆弾が、更にコロニストを屍に変える。アサルト、ショットガン、迫撃砲。もっている武器は関係無い。百体以上のコロニストが瞬時に爆砕され、だが生き残りが爆炎を斬り破って突貫してくる。

「引きつけろ」

ジェロニモ少将の冷静な指揮が飛ぶ。

最前衛で、壱野はライサンダーZを構えていたが。やがて、指示が飛んだ。

「よし、今だ、撃て!」

「火力投射!」

「近づけるな! 撃て撃て!」

一斉に攻撃が開始される。

流石に北米のEDF。物量戦は得意中の得意というわけだ。昔日とは比べものにならないほど兵力が減っているが。

それでも凄まじい火力が、瞬時に投射される。

コロニストが次々消し飛ぶが。それでも頭か胴を撃ち抜かれなければ、コロニストは死なない。

突撃してくる。

戦車砲、ニクスの機銃、水平射撃されるケブラーの弾幕。

それら全てが、コロニストを撃ち抜いていくが。それでも屍を踏み越えてコロニストが迫ってくる。

更に第二射。砲兵隊の猛攻で、突貫してきていたコロニストがまとめて消し飛ぶが。それでも続々と後続が来る。

「砲兵隊、一度後退する」

「よし、気を付けて後退しろ。 前衛は」

「敵、怪物が出現! 数えきれません!」

「戦車隊とニクス隊で壁を造り、コロニストを近づけるな。 レクイエム砲、放て!」

レクイエム砲が火を噴き、重火砲の威力を見せつける。コロニストが文字通り消し飛ぶ。戦車砲にも耐え抜くコロニストだが、流石に相手が悪い。

だが、怪物が凄まじい数押し寄せてくる。

歩兵隊が一斉射撃を開始するが、倒し切れない。格闘戦が始まる前に、可能な限り削らなければならない。

バイクで、壱野は出る。そして怪物を突っ切りながら、アサルトで射撃を叩き込む。コロニストが反応するが、ライサンダーZで即応。頭を叩き落とす。更に、三城が上空から誘導兵器を放つ。

改良型だけあって、火力も上がっている。

更に多くの怪物が一瞬で拘束され。それらはまたたくまに集中砲火で屠り去られた。

「スゲエ火力だ!」

「だが、敵がどんどん接近して来る!」

「撃て撃て! とにかく近づけるな!」

壱野はバイクで縦横無尽に走り回る。弐分も同じようにして、敵の密集地点に散弾迫撃砲を叩き込み、翻弄。

一華のエイレンが前に出ると、レーザーで敵を一閃。此方に迫ろうとしていたα型の群れを、まとめて薙ぎ払った。

コロニストの反撃も凄まじい。戦車がダメージを受けて、擱座する。ケブラーが攻撃の余波で、中破する。壱野は少しでも走り回って、敵の気を引く。敵はかなりが引きつけられてくるが。

それは問題にもならない。

コロニストはライサンダーZで打ち抜き。バイクの機銃とアサルトで怪物は蹴散らして回る。

縦横無尽に敵陣を攪乱しつつ、皆に指示。

皆で、敵の密集地を攻撃し、ダメージを与える。それでも、敵の数が多すぎる。

「怪物、数えきれません! 更に来ます!」

「β型です!」

「α型亜種確認!」

そういえば。

緑のα型が、既に出て来ていると聞いたか。どうやらプライマーは、今回は戦力を出し惜しみするつもりはないらしい。

凄まじい勢いで、緑のα型が来る。壱野は指示する。相手は三城だ。

「誘導兵器で、緑のα型を集中狙い。 あれを味方に近づけるな」

「わかった」

「俺はまだまだ周囲を攪乱して回る」

走り周りながら、兎に角敵を蹴散らす。地形は決して良くないが、悪路踏破性は抜群のこのフリージャー。

安定して走り周りながら、怪物を蹂躙できる。

緑のα型が多少来るが、此奴らは非常に柔らかい。アサルトで蹂躙して、そのまま離れる。残りは三城が処理してしまうだろう。

集まって来た敵に、スタンピートを叩き込む。

文字通り爆裂する敵。

味方の航空支援がもう一度来るらしい。即座にさがる。バイザーに来る空爆地点を確認しながら、ギリギリを攻め。

追ってきた怪物とコロニストを、まとめて空爆の業火に叩き込んでいた。

「すごい奴がいるぞ!」

「噂の特務だ。 村上班とかいう……」

「負けてはいられない! 敵を押し返せ!」

「怪物接近! 飛行型多数です!」

飛行型は文字通りAFVの天敵の一つ。γ型以上に相性が悪い相手だと言える。

しかし、それも昔の話。

現在は多数ケブラーが配備されていて、射程も火力も此方が上だ。弾幕が飛来する飛行型を出迎える。

ニクスの機銃が大量に配備されているようなもので、その火力の網は文字通り何も逃がさない。

飛来した飛行型が、ばたばたと射すくめられて落ちていく。

あれほどの脅威だったのに。

対空砲火をケブラーが展開している間に、水平射撃を戦車隊とニクス、エイレン、それにグラビスが行う。

敵の数も凄まじいが、味方も火力負けしていない。

兵士達の射撃もあまり精度は良くないが、師団規模の火力だ。

今の時点では、押している。

今の時点では、だが。

歴史にあったこの戦いは、最初はこのように展開した。多少壱野が歴史よりも怪物を削っているが、その程度では大した変化にはならない。

それよりも、そろそろだ。

自陣に戻る。

不格好な大型砲台が出て来たのを見て、兵士達は何だろうと小首を傾げる。

壱野は乗り込んだ。

フーリガン砲である。

結局、これに関しては改良出来なかった。

敵大型船が、ある程度の火力を集中することで撃沈できる事は分かっている。ただし一撃で大ダメージを与えられるフーリガン砲は、やはり名人芸で操作しないと、そもそも当てる事が厳しい。

航空機に乗せるバージョンは量産に至らず。

結局こうして、無限軌道の車体に乗せて動かす事になっている。

「皆、最大火力を準備してくれ」

「了解」

「わかった」

「まあ、私達ならともかく、リーダーが外すとは思えないッスから、心配はしていないッスよ」

さて、そろそろか。

怪物の群れと同時に、多数の大型船が上空に出現する。

いまだ。

「よし、撃て!」

壱野自身も、フーリガン砲を発射。大型船の一隻が、火を噴く。おおと、兵士達が声を上げ。

更にそのダメージが入った大型船に、ライジンの火線が突き刺さる。

爆散する大型船。更に、フーリガン砲二発目。二発目が直撃し。そこにガリア砲が炸裂する。

三隻目を撃つ。

上空で、粉々に砕け散るクルールの揚陸艇が見えた。投げ出されたクルールを、ケブラーが猛射撃でバラバラにしている。ダメージを受けた大型船に、一華のエイレンが収束レーザーを叩き込む。

またたくまに三隻目の大型船が粉砕され、地面に落ちていく。だが、十数隻が無事である。

それらから、クルールが投下される。ただし、もう一隻。

DE203が猛射撃を叩き込み。

フーリガン砲から降りた壱野がライサンダーZを叩き込んで、撃沈に成功。これで、この戦場だけで四隻の大型船を粉砕する事に成功した。問題は、大半の大型船が無事で。しかもクルールを投下してきたと言う事だ。

「ひいっ! 邪神だ!」

「凄い数の邪神が来た!」

「全火力を投射! 中央の部隊は後退し、敵を誘引しろ! 十字砲火に敵を引きずり込め!」

「し、しかし左右両翼が薄くなります!」

ジェロニモ少将が、耐えろと指示。

荒木軍曹が、無線を入れてくる。

「俺は右翼に回る。 スプリガン……いやストーム4とともに。 お前達はストーム3とともに左翼に回ってくれ」

「分かりました」

「行くぞ。 ブレイザーの火力を見せてやる!」

「俺用の奴も急いでくれよな!」

それぞれ散って、陣容が薄くなる地点に移動。案の定、相当な数のクルールに、苦戦を強いられている。

クルールは装甲が薄いケブラーや、戦意が低い兵士を集中的に狙っている。ニクスからの猛射を盾で確実に防ぎつつ、強烈な火器を叩き込んでくる。

怪物は押さえ込めていたEDFの主力部隊。

北米に展開しているEDFの決戦兵力が、見る間に傷ついていくのが見えた。

即座にライサンダーZで一体の頭を、側面から撃ち抜く。他のクルールが反応するが、盾を構える前に、一華のエイレンUが収束レーザーでもう一体を撃破。

元々左翼で戦闘していたグリムリーパーのジャムカ大佐が、無線を入れて来た。

「遅いぞ。 それにしても酷い戦場だな。 紛争を思い出す」

「くれぐれも無理はなさらずに」

「ふっ。 こんな相手に遅れを取るつもりはないさ。 散開し、各自突貫! AFVと味方を守れ!」

グリムリーパー隊が突貫を開始。突貫を支援。

三城のライジンが突貫したグリムリーパー隊員を撃ち抜こうとした雷撃銃持ちのクルールの側頭部を撃ち抜く。

更に戦場に乱入した柿崎が、炸裂弾持ちのクルールの足を、まとめて薙ぎ払い。倒れた所にグリムリーパーがブラストホールスピアを叩き込んで、見る間に蜂の巣にしてしまった。

クルール隊が下がりはじめる。中央に展開している部隊が集中砲火を浴びて苦しいのだろう。

だが、さがらせない。

アサルトで至近から射撃して、盾をオーバーヒートさせる。

バイザーで情報を共有しているから、盾がオーバーヒートしたクルールはカモだ。突貫した弐分が、電刃刀で首を刎ねる。

山県は後方から座標指定を出し。

纏まった所に、丁度完璧なタイミングで。

衛星砲を叩き込んでいた。

流石にこれは、クルールの盾でもどうしようもない。クルールがまとめて空からの業火で焼き払われる。

悲鳴を上げる「邪神」をみて、兵士達が耳を塞いでいるのが見えた。

「恐ろしい死に様だ!」

「敵の数は減ってきている! 集中攻撃を仕掛けて、一気に仕留めろ!」

「い、イエッサ!」

ダメージを受けた車両を後方に下げ、無事な予備部隊が前に出る。そして射撃を乱打して、集中砲火でクルールを確実に仕留めていく。兵士達の攻撃も、少しは効いているが。それほど効果は出ていない。

仕方が無い。

数だけはかき集めて来たが、練度がどうしようもないのだ。グリムリーパーやスプリガンにすら、素人隊員が混じっているのである。

怪物が来る。クルールは相当数を削られているが、引く様子はない。むしろ、怪物との波状攻撃にあわせて、再度攻勢に出てくる。

柔軟に陣形を変えながら、ジェロニモ少将が迎撃を指示。

「此処は俺たちが抑える。 中央に相当数の怪物が来ている様子だ。 村上班……いやストーム1、行ってくれ」

「了解です。 ご武運を」

「ああ、任せておけ」

バイクに跨がると、数qに渡って展開している戦線を走る。既に破壊されている戦車やケブラーが、煙を上げて無惨な姿をさらしている。各地で破壊されたビークルや、壊滅した部隊の名前と、悲鳴が上がっている。クルールの投入で、戦場は一気に変わった。これでも、まだ記憶にある歴史よりましだ。実際クルールを、大きな損害を出しながらも押し返しているのだから。

大量の飛行型を抑えきれなくなっている。

三城が誘導兵器を展開して、ケブラーを支援。タイタンが壁になっているが。敵の特務が見え始めた。

鎧を着たコロニストだ。奴らの武装は、通常のコロニストとはレベル違いである。

更にシールドを二枚装備したクルールも見え始める。

一気に戦線を突破するつもりと見て良い。

「くっ、戦線が維持できなくなりつつある!」

「踏みとどまれ! 敵も大量のクルールを展開してきている! クルールの個体数は少なく、倒せば倒すほど世界中の皆が有利になる!」

「ニクス13、大破! 脱出不能! ぎゃああああっ!」

「タイタン3、中破! くそっ! 要塞にこれほどのダメージを……!」

壱野が狙撃を続けて、一射確殺でクルールや鎧コロニストを仕留めていくが、それでも手が足りない。

無理を承知で、前に出るか。

グラビス三機が、前に出る。

装甲の塊みたいなコンバットフレームだ。少しでも時間を稼ぐ、というのだろう。

グラビスの装備している機銃も、ニクス型に比べると強力だ。凄まじい火力投射に、見る間に鎧コロニストが穴だらけになって倒れる。グラビスに攻撃が集中する中、必死に村上班も応戦を続ける。

柿崎が接近に成功。またたくまに数体の鎧コロニストの首を刎ね飛ばす。

更に、柿崎を狙ったクルールの足下に、三城の放ったプラズマグレートキャノンが炸裂し。数体を一瞬で爆殺した。

弐分も突貫して、スピアを叩き込み。クルールのシールドを瞬時にオーバーヒートさせる。

ニクス数機が集中攻撃して、二枚のシールドをもっているクルールを倒すのが見えたが。味方のダメージが大きい。

一度戦場を去った敵大型船だが。更に十隻ほどが増援として来る。此奴らを叩き落とせば落とすほど、味方は有利になる。

すぐにフーリガン砲に飛び乗る。集中攻撃を受けて、グラビスが大破するのが見えた。どの道、撤退は出来なかっただろう。死を覚悟で戦線に来ていたのだ。パイロットは、脱出出来ただろうか。

「大型船だ!」

「くっ、またクルールを落としてくるつもりか!」

「各地で損害拡大! 戦線を維持できなくなりつつあります!」

「多数のβ型出現! 押さえ込めません!」

被害の大きさが凄まじいが、これでも歴史よりましだ。知っている歴史では、既にこの時点で部隊は壊滅状態。

敗走に移り始めていた。

壱野はフーリガン砲を叩き込み、再び大型船に致命打を与える。三城がプラズマグレートキャノンを叩き込み、とどめ。

クルールが、破壊される大型船を見て、悲鳴を上げるのが見える。

ひょっとしてあの邪神ども、意外と繊細な精神を持っているのか。

二隻目。

射撃が集中してくるが、フーリガン砲はまだもつ。二隻目が火を噴いて傾く所に、一華のエイレンUが収束レーザーでとどめを刺す。

三隻目。フーリガン砲が限界だ。飛び降りると、一華にさがらせるように無線を入れて。自身の狙撃で、三隻目を落とした。

これで、この戦場だけで七隻。敵も、そろそろ損害を無視出来なくなってくる筈である。EDF側の損害も大きいが。此処で可能な限り敵を削らないと、将来は無い。

追加で来たクルールは、先ほどの数では無い。ただ迫撃砲持ちが目立つ。此奴らはシールドをもっていない。恐らくだが、もう追撃戦に移る予定だったのだろう。

そうはさせるか。

「迫撃砲持ちを優先して攻撃。 後方の支援部隊に対する攻撃を許すな」

「了解!」

「わかった」

凄まじい勢いで飛んでいく弐分。柿崎は前に出すぎず、クルールとの死闘を繰り広げている。

味方のダメージはそろそろ継戦の限界に来ているが、敵の被害もうなぎ登りだ。

再びα型の大軍が来る。コロニストもだ。

ジェロニモ少将が声を張り上げる。

「そろそろレールガンが来る! 踏みとどまれ!」

「敵の移動基地が速度を上げました。 明らかにこの戦場に迫っています」

「……レールガンの到着時刻は」

「恐らく敵移動基地とほぼ同時です」

戦略情報部の少佐が、ジェロニモ少将と無線で連絡を取っている。

なる程、レールガンか。だが、レールガンでも移動基地の装甲を破るのはむりだろう。装甲を破るのは、だ。

この後、歴史通りなら敗走していたEDFの主力は移動基地に蹂躙されてほぼ全滅する。

その歴史だけは、再現させる訳にはいかない。

「移動基地をやるぞ。 まずは随伴を片付ける」

壱野が言うと、皆が無言で応じた。此処で、新型の移動基地の撃破実績を作らないと。恐らく、壊滅の歴史は、避けようが無い。

 

1、屍山血河の果てに

 

リーダーの暴れぶりは文字通り阿修羅そのものだ。一華はエイレンUで最前線を張りながら、そう思う。

流石にあれと張り合える人類がいるとは思えない。

ムービーヒーローですら、あれには挑もうとおもわないだろう。

次々とクルールが倒されていく。エイレンUのバッテリーを時々交換しながら、一華は最前線で暴れる。

最後のグラビスが大破した。

無理して前線に出してきたのに。

色々と頭に来る。

クルールはほぼ壊滅しているが、まだ少数が残っている。横殴りに飛来したブレイザーが、エイレンUに射撃しようとしていた一体を焼き尽くす。

戦線が縮小してきている。敵も、それにあわせて主力を固めてきているようだった。

既に多数のドローンが飛来。ケブラーはそれに対する戦闘で手一杯だ。そしてこの大量のドローン。

移動基地が来ている証拠である。

データをみたが、北米のEDFの基地のうち、十六が既に此奴に蹂躙されている。これ以上の蹂躙を許すと、もはやEDFは継戦能力を失う。

リーダーが言うように、移動基地を葬らなければならない。

スプリガンとグリムリーパーも、戦場の縮小に伴って集まって来た様子だ。クルールは後退しつつ、逆にコロニストが前に出てくる。リーダーが狙撃して逃げるクルールを撃ち抜いていくが。全てを倒すのは残念ながら無理のようだ。まあ、それは仕方が無い。代わりに弾よけのコロニストを、エイレンUのレーザーで可能な限り焼いてやる。

「敵、大型の怪物接近! マザーモンスターです!」

「レクイエム砲を集中投射!」

「イエッサ!」

マザーモンスターが来る。

かなり禍々しいあれは、恐らくは亜種だろう。数体いるが、まだ味方のAFVはある程度残っている。損害は著しいが、それでも記憶にある歴史よりだいぶ戦況はいい。

火力が集中される中、グリムリーパーが勇敢にマザーに挑む。更にスプリガンが集中攻撃を浴びせ。敵を怯ませる。

動きが止まった所に、タイタンのレクイエム砲が炸裂。

文字通り、消し飛ぶマザーモンスター。

ただ敵は一体では無い。仲間が倒されても、気にせず来る。α型の随伴歩兵も、戦線で苛烈に一進一退の戦いを繰り広げている。

これは、損害は三割を超えるな。

そう思いながら、一華はエイレンUの射撃で、金α型を優先して蹴散らす。あれは生かしてはおけない。

荒木班が見えてきた。向こうのエイレンも、満身創痍だがまだ動いている。武装が凄まじい分、敵のヘイトを相当に買っている様子だ。

タイタンが満身創痍で、グラビスも破壊されている現状。

流石にエイレンでも、厳しいのが実情だろう。

マザーモンスターがまた消し飛ぶ。だが、マザーモンスターも反撃し、凄まじい酸をばらまく。

モロに喰らった戦車が一瞬で溶けてしまう。

あれは、乗っていた兵士はどうにもならなかっただろう。

ただ仇は討つ。エイレンUの収束レーザーで、良い気分で酸をばらまいているマザーを撃ち抜く。悲鳴を上げてのけぞる巨体を、飛び出した三城がファランクスで焼き払っていた。

「マザーモンスター、全て撃破!」

「も、もう損害が限界です!」

「ドローンを倒しながら戦闘を続行! 記録的な被害を敵は出している! このまま踏みとどまれ!」

「しかし……!」

見えてきた。

敵移動基地だ。一華はデータを照合するが、見覚えがない砲台がある。やはり強化型である。

リーダーから無線が入る。

「遠距離から、大型の砲台を狙ってくれ。 俺は今のうちに、下部の砲台を破壊出来るだけ破壊する」

「しかし、大丈夫ッスかね」

「歴史であいつにこの戦いで敗退したのは、レールガンが装甲ばかり狙ったからだ。 砲台には攻撃が通る。 それを先に見せておけば、レールガン部隊は活躍出来る」

「了解。 俺がガリア砲で大型砲台を狙う。 三城も此処からは機動戦よりライジンで固定砲台の役割を頼むぞ」

弐分が前に出る。ガリア砲で、射撃を開始。接近中の移動基地に着弾し始める。巨大な砲台にダメージが入っていくのが見えるが。

凄まじい数のドローンが見える。剽悍な動きをしているあれは、レッドカラーか。インペリアルドローンもいるようだ。

味方はドローンと怪物の相手で手一杯。

一華は戦場の様子を確認しつつ、荒木軍曹に連絡を入れる。

「砲台を狙う、か」

「ブレイザーの火力なら、短時間で粉砕できる筈ッスよ。 特にあのおおきな主砲を撃たれると、味方は多分背後から撃たれて壊滅するッス」

「分かった、どうにかしてみよう。 ただバッテリーが残り少ない」

「エイレンUも同じッス」

苦笑いが浮かぶ。

そして、一華は更に前線に出て、怪物を引き受ける。リーダーが狙撃を外す訳がないので、一華が前衛になるしかない。

山県がありったけの自動砲座を展開して、敵に対して壁を作る。移動基地の動きが遅くなる。

既に砲台が幾つか破壊され始めている。それを悟り、慌てて向きを変えているのだろう。その分、進軍が遅れる。

可能な限り、砲台をかっぱいでやる。

「敵移動基地、砲台にダメージ! しかしそのまま近づいて来ます!」

「砲台にはダメージが通るという報告はあったが……」

「移動基地はストームチームにお任せを。 他の敵を攻撃して、可能な限り自衛してください」

「……分かった。 レールガンも間もなく来る。 頼むぞ」

更に大量のα型がくる。

マザーモンスターが殺されて、猛り狂っている様子だ。とにかく、金がいるので、それだけは近づけさせるわけにはいかない。

エイレンのバッテリーの残量がかなり怪しいが、それでも何とか踏みとどまり。残りエネルギーを捻出しながら応戦を続ける。

だが、それでも流石に交換が必要だ。

急いでさがって、補給車に。バッテリーを交換している間も、冷や冷やさせられた。

交換終了。

ただし、バッテリーはこいつが最後だ。早朝に始まった戦闘だが、既に夕方。それだけの激戦という事である。

プライマーも、七隻も大型船を落とされて、引くに引けないのだろう。

恐らくだが、各地から怪物をありったけかき集めてぶつけてきている。幾らリーダーでも、この数は。

冷や汗が流れる。

だが、それでも前に出る。エイレンUの装甲もかなり厳しいが、それでも移動基地に対して、決定打を与えるために前衛が必要だ。ニクス隊も戦車隊も、タイタンも限界が近い状況である。

そこに、更に敵の決定的な大戦力が来る。兵士がひきつった声を上げた。

「コロニストだ……!」

「敵後衛に控えていたコロニストと思われます。 数は千体以上」

「千体以上だと!」

兵士達が呻く。

遠くにひしめいている通常のコロニスト、特務は出尽くしているようだが、それでも凄まじい圧迫感だ。

まあ、この程度の数は出てくるだろう。

前々周の北京決戦では、五千のコロニストが戦闘に参加した。今世界中に散っているコロニストの一部を集めるだけでも、これくらいは動員できる筈だ。

「対空戦闘能力を持つ移動基地がいるため、爆撃機は接近できません」

「くっ、これまでか」

「レールガン隊、現着!」

「おおっ! 来たか!」

やっと来たか。

敵移動基地は、接近前に砲台を破壊されまくって右往左往しているが。その代わり、コロニストの大部隊が来ている。

ただ此処は平原だ。

移動基地にバカみたいに効きもしない攻撃をして、レールガンが無駄撃ちされなければ。或いは勝機はある。

「隊列をそのままに突撃。  移動基地はそのままストーム隊に任せろ。 水平射撃で、敵を葬れ!」

「了解。 イプシロン自走レールガン、一斉射撃開始!」

イプシロンレールガンが火を噴く。

十数両用意されたイプシロンは、全てが最新鋭というわけではないようだが。火力は健在。

文字通り怪物をごぼう抜きに貫通し。遠くにいるコロニストにも直撃し始める。慌てた様子のコロニストだが。レールガンは最高効率での射撃を続ける。

「おおっ! 効いているぞ!」

「これは戦前から開発されていたと聞く。 これを人間相手に使うつもりだったのか……」

「今はどんな非人道的兵器でも使っていくしか無い! レールガンは怪物に接近されると脆い! 支援しろ!」

残っている部隊が前進を開始。かなり削られているが、それでも必死の闘志を振り絞っているのが分かる。

もっと物資があれば。

移動基地が、大量のβ型を放出し始めるが。悉くレールガンの水平射撃で撃ち抜かれるだけである。

リーダーがバイクに飛び乗るのが見えた。

下部の砲台を、あらかた破壊出来たと判断したのだろう。よし、勝機だ。一気に決める。

「リーダー!」

「ああ、ストーム1、総員突撃。 荒木軍曹、これより俺たちは突撃して移動基地下部のハッチを狙います」

「分かった。 総員、支援してくれ」

スプリガンも、グリムリーパーも、どちらも限りないほど敵の返り血を浴びている。そのまま集結しつつ、突貫。

相馬機のエイレンが少し遅れているが、殿軍を務めて貰う。それを見て、ジェロニモ少将も、声を張り上げた。

「あのデカブツを葬る! 総員、レールガンとストーム隊を支援しろ!」

「こうなりゃ自棄だ! やってやる!」

「レールガンを守り抜け! コロニスト共を、可能な限り撃ち抜いてやれ!」

怪物が、文字通り蹴散らされる。恐怖を知らない筈の怪物が、だ。

凄まじい熱気が脳を支配しているが。

同時に、一華は冷静に状況を判断もしていた。

本気でコロニストのあの部隊とやりあったら、冗談抜きで全滅する。

移動基地を粉砕して、それで即座に逃げる。

道はそれしかない。

そもそもイプシロンレールガンは弾の交換が大変で、工場でしかできない。今景気よくコロニストを撃ち抜きまくっているが、それもいずれ限界がくる。弾が切れたら、ただの車だ。

だから、先に無線を入れておく。

「此方凪一華中佐」

「む、ストーム隊の参謀か」

「光栄ッス。 ……移動基地を叩き潰したら、即座に撤退開始を。 これ以上の戦闘は、はっきり言って無理ッス」

「そうだな。 その辺りが潮時だろう」

ジェロニモ少将は、分かりやすく頭を切り換えてくれた。

陣頭の猛将だからこそ、分かっているのだろう。物資が尽きたら、戦闘は負けだという事に。

既に七隻の敵大型船、クルールの大軍、十万を超える怪物、千数百のコロニストを倒している。

敵はあのコロニスト残り数百に加えて、更に怪物の群れを世界各地から呼んでくる可能性が高い。

特にタイタンやニクスは、可能な限り戦場を離脱させなければ、今後の戦闘継続は不可能になる。

勿論兵士達もだ。

そうなると、移動基地を潰した後。派手な陽動作戦が必要になるだろう。

エイレンUは厳しいか。

もうニクスの予備機は存在しない。だが、擱座している奴がいる。

「山県中尉」

「なんだ、エースパイロット」

「指定座標のニクス、応急処置出来るッスか」

「ほう。 まあいい。 後方にあるクレーンを回してくれ。 様子を見てみる」

すぐに手配する。

もう、移動基地は目の前だ。大量の怪物を放出して、接近を拒もうとしている。ドローンの攻撃も凄まじい。

だが、レッドカラーが今爆砕された。三城のライジンをモロに喰らったのだ。インペリアルドローンも。此方は相馬機の総力攻撃を浴びた。

リーダーが移動基地の下部に潜り込む。

それを、支援してスプリガンとグリムリーパーが突貫。

突撃してくるコロニストの部隊を、展開したレールガン隊が集中攻撃。凄まじい数が次々撃ち抜かれて倒れていく。

レールガンの弾が尽きる前に、勝負を決める必要がある。

纏わり付いてくるドローンを次々に撃ち抜きながら、キーボードを叩く。

ドローンが必死に此方に群がり。更に、上空へ敵が警戒を解いている今なら、いけるはずだ。

上空から飛来するのは、DE203。

本来だったら移動基地の対空砲火で一瞬で叩き落とされているだろうが。敵は、完全に下部に潜り込んだストーム隊の排除に必死。

此処で、一気に決める。

「こちらDE203。 敵にありったけの弾を叩き込む!」

「ナパームも頼むッスよ!」

「わかった、効くかは兎も角打ち込んでやる!」

凄まじい射撃が叩き込まれ、まだ残っていた敵の対空砲が消し飛ぶ。流石にドローンがDE203に向かう。必死にDE203が離脱する。離脱出来ると、信じるしか無い。

移動基地は今ので、ナパームを含む大量の弾を叩き込まれ、一気に砲台を失った。そこに、接近したタイタンが主砲を叩き込む。

黄金の装甲は破れない。

そういう固定観念があるが、違う。

フーリガン砲で貫通できるように、恐らく仕組みは大型船と同じ。ダメコンをしていて、一定のダメージまでは吸収できるだけ。事実核を叩き込むことで、落とせるのだ。

更に、フーリガン砲を前進させる。弾は入っていないが、それだけで相手を威圧できる。

慌てて、移動基地がハッチを開く。何を出してくるつもりか知らないが、貰った。

リーダーがライサンダーZを、弐分がガリア砲を。三城がライジンを。更には接近に成功していた荒木軍曹がブレイザーを。相馬機が、恐らく最後に残った全弾を。そして一華は、エイレンUに搭載しているレールガンを、全弾叩き込む。

恐らくは新型だっただろう移動基地だが。これにはひとたまりもない。

何が致命傷になったのかは分からない。

分かっているのは、下からみても分かる程、凄まじい破壊が内部に引き起こされて。そして、一瞬で内側から装甲が消し飛んだと言う事だ。この周回での移動基地撃破、二機目だ。勿論記憶している歴史にもない出来事だ。

「よし、此処までッスよ」

「そうだな……」

リーダーも、流石に内側から誘爆しつつ膝を突く移動基地をみて、同感の様子だ。

猛り狂ったコロニストが、此方に迫ってきている。ジェロニモ少将が、叫んでいた。

「よし、総員撤退! 予定通りの退路を通って撤退しろ!」

「し、しかし追撃部隊が多数迫っています! コロニストだけで数百はいます!」

「我々が引き受けます」

「ストーム隊!」

リーダーがそんな事を言う。

まあ、そう言うだろうと思っていた。

ここでニクスやタイタンを、これ以上失う訳にはいかないのである。

「タイタンも撤退させてください。 他の戦場で絶対に必要になります」

「くっ……分かった。 レールガン、可能な限り支援砲撃し、敵の数を減らせ!」

「此方山県。 応急処置完了。 何とか動かせるぜ」

「了解ッス」

山県中尉が、指定したニクスを直してくれていた。既に戦場に来ている支援部隊の大型移動車が、擱座している戦車やニクスを可能な限り詰め込み。負傷兵も乗せて後退を開始している。レールガンはありったけの弾を撃ち尽くすと、そのまま下がりはじめた。

最後まで戦場に勇敢に残ったのはキャリバンで、戦場を走り回って兵士達を救出していく。

勿論敵の最後尾は追いついてきている。

射撃を浴びながらもキャリバンが行う勇敢な救出活動は、一華からみても凄いと感じさせられた。

リーダーがバイクを駆って、敵の先鋒に果敢に挑んで時間を稼いでくれる。

弐分と三城、柿崎も続き。荒木班も、敵前衛に手痛い打撃を与えつつ、少しでも時間を稼いでくれる。

それを無駄には出来ない。

一華はエイレンUからPCを運び出すと、ニクスに載せ替える。

かなり旧式だが、まあ何とかなるだろう。相馬機は残念ながら代替機がない。

飛び込んできた大型移動車。尼子先輩である。此処に無理矢理乱入してきたのか。

「早く乗って! 撤退だって聞いたよ!」

「このまま追撃を受ければ味方は壊滅ッス。 ……エイレンを二機とも積んで、先に行ってくれッスよ」

「そんな無茶な……」

「分かった。 修理はしておいてやる。 その代わり絶対に生還しろ」

長野一等兵に言われて、頷く。

そして、長野一等兵は、ニクスのコンテナを交換し。リーダーの様子を見ながら、可能な限り追加で修理をしてくれた。補給車もおいていってくれる。これは助かる。流石にエイレンやブレイザーのバッテリーはないが、かなりの弾薬や食糧、補給用物資が搭載されている。

もうコロニストの弾が飛んできている。

山県中尉がリムペットスナイプガンとロボットボムで応戦しているが、限界が近いと見て良い。

大型移動車にも着弾しているはずだ。かなり厳しい。

「よし、ここまでだ。 後は任せるぞ」

「ありがとう。 必ず生還します」

「ああ」

尼子先輩の大型移動車が行く。最後尾のキャリバンに追いついて、やがて見えなくなった。

敵前衛は壊滅しているが、まだ数百のコロニストが健在。そのまま追撃してくる構えをとっている。更に後方には、怪物がいる可能性も高い。それも相当数の。

リーダーが、流石にライサンダーZで狙撃しながらさがってくる。

グリムリーパーの大半は負傷。今のキャリバンとともにさがった様子だ。ジャムカ大佐だけがいる。マゼラン少佐は負傷して後退。スプリガンはリーダーが撤退部隊の護衛を頼んだようである。

荒木軍曹が走ってくると、コンテナからマガジンを取りだして、アサルトの銃弾を再装填。

既にブレイザーは、バッテリーを使い果たして無用の長物となっていた。

「よし、撤退するぞ。 敵をグランドキャニオンに引きずり込む」

「了解です。 あそこなら、敵をゲリラ戦で翻弄できるでしょう」

「グランドキャニオンですか!?」

大慌てで成田軍曹が無線を入れてくる。

何かまずい事でもあるのか。

「グランドキャニオンに敵の1軍が展開しているのが既に確認されています。 前後から挟み撃ちにされます!」

「彼処は入り組んでいて戦いはむしろやりやすい。 その1軍を屠り、追撃部隊も叩き潰す」

「そんな無茶苦茶な……」

「やらなければ人類の負けは確定だ。 此処での暴れぶりを見て、俺たちを敵は確実に仕留めに来る。 そこを逆に叩き伏せる」

リーダーが成田軍曹に応じる。

そして、三城に指示。

「三城。 先行して、敵を可能な限り削ってくれ。 俺たちが、敵を削りつつ後を追う」

「分かった」

「無茶苦茶です! すぐに本隊と一緒に……」

「我々が気を引かなければ、本隊にそのグランドキャニオンの敵部隊も、コロニストの追撃部隊も、場合によっては増援の怪物も来るぞ。 そうなれば、現時点で損耗三割近い本隊は終わりだ。 文字通りに全滅する」

ジャムカ大佐が言うと、それで成田軍曹も黙る。もう、確かに他に方法が無いというのだろう。

三城が飛んでいく。

それを見送りながら、一華はニクスに備えられていた大型砲で、コロニストを狙撃。一撃で頭を吹き飛ばしていた。

「おお、流石にやるな。 ニクスもシャカシャカ動くだけじゃねえなあ」

「この砲には、色々とあるッスからね」

エイレンの前には、一華はニクスを愛用していた。その頃に乗っていたニクスに搭載していた肩砲台のデータを取って、プロフェッサーが改良したのがこの砲だ。

リーダーみたいな人外狙撃は無理だが。

機械の手助けがあれば、一華だって似たように暴れる事が可能である。

さがりながら、敵の主力を少しずつ削って行く。

リーダーが狙撃する度に、コロニストの頭が吹き飛ぶ。キルカウントが無茶苦茶すぎて、また嘘だとか何だとか言われるだろうなと、一華は思うが。まあ言いたい奴には言わせておけば良い。実績がリーダーの実力を示している。神々が瞠目するような強さを。

敵の一部隊が、先行して突撃してくる。

態勢を低くして、かなりの速度で走ってくるが。柿崎が逆に突貫。ジャムカ大佐も、それに併走。

敵が気づいたときには、二人が懐に飛び込んでいて。

後は、バラバラ穴だらけのコロニスト解体ショーの開始だった。

凄惨だが、やらなければやられるだけだ。

「敵一部隊殲滅」

「まだまだ来る。 確実に各個撃破していくぞ!」

「どれだけ働かせる気だよ! もう夜になる!」

「余計好都合だ。 コロニストも夜には動きが鈍る」

いつものように愚痴る小田中尉。浅利中尉がそうたしなめる。

相馬中尉はスナイパーライフルに持ち換えると、淡々と射撃を続行。エイレンは返してしまったし。

残念ながらもう一機ニクスは確保できなかった。

さて、さがりながら何処まで削れるか。

コロニストの部隊は、完全に頭に来ている。此方に全軍が向かっているが、平原を上手に使って翻弄。少しずつ切り崩して倒し続ける。

やがて連中も諦めるはずだ。そうしたら、敢えて此方の痕跡を残しつつ三城を追う。

三城だって、如何に夜間とは言え。単騎で敵の1軍を相手にするのは厳しいだろう。追いついて、支援が必要になってくる。

「此方戦略情報部、少佐です」

「今忙しい。 何用か」

「何とか生き残った基地にあったウェスタ型爆撃機を発進させました。 一華中佐、爆撃地点の指定を」

ウェスタ。強力なナパームを詰め込んだタイプの爆撃機だ。

これは好機。

総司令部も、移動基地を粉砕したストームチームに対して、最大限の助力をしてくれたという事である。

「で、どうするッスか」

「敵の真ん中を両断するように頼む」

「なるほど、徹底して各個撃破ッスか」

確かに、コロニストの軍団との間に壁を作れば、奴らは本隊の追撃に向かうだろう。それは好ましくない。

だったら、確かに敵の頭数を削って、少しでも撃破効率を上げた方が良いだろう。

即座に位置を指定。程なく飛来したウェスタが、大量のナパーム弾を戦場に叩き込んでいく。

地獄の戦場が、明々と燃え上がっていた。

後続部隊と分断され、露骨に動揺しているコロニストを、人外の超精密狙撃が襲う。混乱している間に、少しでも敵を削らなければならないのだ。

 

2、死闘グランドキャニオン

 

三城は、専属オペレーターの成田軍曹にはあまりいい印象がない。だが、敗軍をまとめて必死に撤退を進めているだろう戦略情報部の中で。陽動と敵の各個撃破を買って出ているストーム隊に対して、可能な限りの助力をしているのもまた事実。だから、話はきちんと聞く。

今、グランドキャニオンに出たところだ。

一日ほぼ戦い通しだ。これが終わったら、丸一日眠りたい所だけれども。

しかしながら、まだしばらくは眠れそうにない。

飛行型の小型ハイブ多数。

どうも飛行型は、大型のハイブはリスクが高いと判断したのか。小型のハイブを多数配備する生態に切り替えたらしい。あるいはそういう風に遺伝子改良でもされたのかも知れない。まあその辺りはプライマーに聞くしかない。

更に、数体のクルール。

それに、見える。

あれは、ハイグレードタイプスリーだ。

主戦場にはレッドカラー数機と、同じくインペリアル数機が出て来ていたが。ハイグレードタイプスリーの姿はなかった。

此方に来ていたのか。

それだけではない。シールドベアラーもいる。

此奴らが、大兄の背後を突いたら面倒な事になる。

ストームチームは勝つ。

それは絶対の信頼としてある。

だが、それには皆の支援が必要だ。三城も、一人で任されたのだ。恐らくだが、大兄は三城がそろそろ自己判断で色々とやっていかなければならない事を理解してくれている。だから、この任務を任せてくれた。

やる。

まずは、クルールだ。夜闇に潜んで、動き始める。

成田軍曹が、バイザーに通信を入れてくる。

「敵の戦力は激甚です! すぐに逃げてください! 飛行型多数、クルール、シールドベアラー、ハイグレードタイプスリーまでいます! とても単騎でどうにか出来る戦力では……」

「大兄……ストームチームはもっと大軍とやりあってる。 此処の敵群だって、交戦状態に入らなければ、撤退中の味方の背中を撃つかも知れない」

「し、しかし……」

「今は幸い夜で、敵の動きも鈍い。 たおす」

もってきた装備は三つ。

ライジン。これはハイグレードに対して使う。

ファランクス。これは接近して、クルールを仕留める。ハイブを焼くのにも用いる事が出来るだろう。

問題は飛行型だ。

飛行型用には、雷撃銃ボルトシューターをもってきている。こいつは長距離戦に向いていて、既にある程度は使えるようになった。慣れてきたと言うべきか。

飛行型には、赤い奴もいる。

通常種よりも凶暴性が高く、攻撃性能も高い危険な種だ。

此奴が大兄達の所に向かったら。

そう思うと、あまり悠長にはしていられない。

更に、プラズマ剣を抜く。

或いは、クルールにゼロ距離とやり合うには、こっちの方が良いかも知れない。柿崎は斬馬刀のようなプラズマ剣を使っているが。

三城はむしろ、鋭さと貫通性を考慮したものを使用している。

さて、戦闘開始だ。

まずは、巡回中のクルールに忍び寄る。音もなく、梟のように飛ぶ。

この夜間無音飛行は、スプリガン……もうストーム4か。彼女らのやり方をみて、覚えさせて貰った。

背後に出ると、クルールの頭を音もなく落とす。

案外ナイーブかも知れないと一華が言っていたクルールの頭は、文字通り本人が気づく暇も無く、地面に落ちていた。

まずは一人。

幸先が良いことに、みると武器は炸裂弾だ。此奴を好きかってさせていたら、面倒な事になっただろう。

動かずにいるシールドベアラー。

面倒な相手だ。先に始末する。シールドベアラーの至近にクルール。装備しているのは雷撃銃。

火力が大きく、まともにくらったら即死は免れない危険な武器だ。

だが、それでもやるしかない。

また、無音で接近する。

だが、機械だからか。シールドベアラーは、接近に気がついた様子だった。クルールが、周囲を見回す。

予定変更。

あっちから片付ける。

クルールを守ろうと、シールドベアラーが防御スクリーンを拡大。だがそれは、却ってクルールの守りを削ぐことになった。

この辺りは、所詮機械だ。

懐に飛び込んだ三城は、ファランクスで瞬時にクルールのシールドをオーバーヒートさせ。ついでに頭も焼き切る。

これで二人目。

だが、凄まじい悲鳴をクルールが上げ。それで、周囲が一気にざわついた。

無言で、シールドベアラーを粉砕。シールドベアラーは逃げようとしたが、流石にフライトユニットの方が足が速い。追いついて、すぐにファランクスで粉砕する。

クルールが、数体様子を見に来るのが見える。それを、シールドベアラーが護衛している様子だ。

更に、飛行型も飛び立つ。

怪物は、人間に対して鋭敏な探知能力を持っている。これは、来る。

すぐにその場を離れる。

グランドキャニオンといっても、大きな谷があるだけの地形ではなく。入り組んでいる場所もある。

それらを利用して、すぐに身を潜め。クルールから一旦離れた。クルールは味方の死体をみて、すぐに警戒態勢に入った様子だ。

飛行型を引きつけながら、クルールから距離を取る。

もう少し。飛行型が、三城をもう見つけているようだが。このままここで交戦するのはまずい。

飛行型が来た。

至近で、ボルトシューターを喰らわす。数匹を、続けざまに叩き落とす。

勿論、即座に移動だ。その雷撃をみて、クルールが此方に来るのが見えた。しかし、シールドベアラーがついてこない。

地形が隆起していて、シールドベアラーの足では上れないのだ。

クルールは容易にするすると上がってくる。

クルールが優れているのは、知能よりもむしろあの足だ。そう、みていて三城は看破した。あの足は、本当に地面をぬるぬると滑るように進んでくる。もしもロボットに導入できたら、どんな悪路もものともしないのではないのか。

それに、他のエイリアンと違って、生命維持装置のようなものをつけている様子もない。それだけ優れた生物ということだ。

数体のクルールと、闇の中かくれんぼをする。

更に数体の飛行型が来る。装備を切り替え。ファランクスを置いて、隠しておいたライジンに持ち帰る。

まずはライジンをチャージ。

クルールが、飛行型をみている。此方を探しているのだ。三城は当然、その間も移動する。

ライジンは超火力を誇る決戦兵器だが、その分フライトユニットのエネルギーをどか食いする。

何度か緊急チャージを挟みつつ、急いで射撃の準備。

今来ている数体の内、指揮官らしい二つシールドをもっている個体が狙いだ。

岩の間。

飛行型が、移動する経路を見切り。敢えて飛行型に近付きながら、其処を通り過ぎ。

そして、ライジンで狙撃。

指揮官らしいクルールの頭が、瞬時に消し飛んでいた。

凄まじい絶叫を残りのクルールが上げる。まだクルールは他にもいるはずだ。飛行型が、わっと来る。

残っているクルールが、戦闘態勢に入るよう指示したのだろう。

三城はライジンを置くと、ファランクスに切り替え。ボルトシューターで飛行型を迎撃しながら、冷静に移動。クルールの位置はだいたい分かっている。ボルトシューターで飛行型を迎撃している三城を、視線で追っているはずだ。そして、数体いると言う事は、待ち伏せを狙うだろう。

飛行型と戦闘しながら、不意に攻撃をやめて飛ぶ。

クルールを混乱させるためだ。

クルールは慌てて飛行型をみて、針状の酸を飛ばしているのを確認。それで三城の位置を探ろうとするだろう。

其処に、隙が生じる。

至近。

クルールが、三城を見た時には。その頭にプラズマ剣が食い込んでいた。更に頭から鮮血をブチ撒け、倒れるクルールの頭を蹴り加速。此方に気づいたクルールに、全力で飛ぶ。ファランクスのチャージ完了。クルールの目には人間らしい感情は、少なくとも人間が分かるようには見えないが。

恐らく、恐怖を浮かべていると見て良い。

シールドを焼く。

クルールが、何かの光線を放とうとする瞬間。

三城が、頭を焼き払う。

クルールが倒れる。残り、二人。地面を蹴ると、ボルトシューターを連射。飛行型を叩き落とす。

叩き落とした飛行型は、フェロモンでも撒いているのか。更に攻撃的になる。だが、倒す順番は後だ。此奴らの攻撃を回避し続け、更にまずはクルールから仕留める。急がないと、ハイグレードタイプスリーが来る。彼奴の戦闘力は、前に身を以て知った。クルールと同時に相手にするのは避けたい。

移動しながら、飛行型を叩き落とす。後ろに回ってくる奴もいるから、油断は一切出来ない。

時々地面を走ってフライトユニットのコアを冷やしながら。確実に飛行型を片付けて行く。赤い奴がいたら速攻。他のも、危険度は高い。成田軍曹が、無線を入れてくる。

「其方に接近する影有り!」

「なに」

「これは……大型の飛行型です! クイーンだと思われます!」

「巣を襲われてもどってきた」

合流されると面倒だ。とにかく、急いで周囲を片付けるしかない。

クルールが見えた。速攻でボルトシューターを撃ち込み、もっていた雷撃銃を叩き落とす。クルールが慌ててシールドを構えつつさがる。もう一体は、シールドを前面に、光線を放とうとするが。

すぐに三城が岩陰に消えたので、泡を食った筈だ。

飛行型が殺到してくる。地面を走りながら、雷撃銃で叩き落とす。この辺りの地形は把握した。

伊達に地元の山を大兄と小兄と一緒に、鍛錬を兼ねて走り回っていない。

二人に色々教わった。地形の把握の仕方。

それに、三城はフライトユニットで飛ぶときに、ある程度周囲の地形を記憶しながら飛んでいるらしい。

それは才能の一つらしく。

今も、それを最大限活用している、ということだ。

ファランクスに切り替える。

回り込んできていたクルールと、至近で顔を合わせる。一体の頭をファランクスで焼き払う。もう一体が、光線を放ってくる。フライトユニットを掠める。速度が若干落ちたか。だが、それでも貰った。

至近で、プラズマ剣を振るう。

首を叩き落として、着地。更に、追撃してきている飛行型を、叩き落として行く。少し、間引かないとまずい。

大きな影が空に見えた。

クイーンだ。あいつの破壊力は非常に危険だ。ボルトシューターでやれるか。やれるとは思うが。

出来ればライジンで致命傷を与えて、それから優位に立ち回りたい。

痛みが少し気になる。今、フライトユニットの一部を消し飛ばされたときに、肩と脇に少し擦った。

無言でライジンを隠しておいた場所に走りながら、ボルトシューターで追いすがって来る飛行型を蹴散らす。

見えてきたのは、必死に登ってきたシールドベアラー。防御スクリーンを展開して、飛行型を守ろうとする。

素晴らしい献身だ。心があるのなら。実際は、ただプログラムに従って動いているだけに過ぎない。

接近して、焼き払う。

そうこうしているうちに、クイーンが近づいて来ている。

放置していたら、非常にまずい。あれと同時にハイグレードタイプスリーでも相手にする事になったら、流石にどうしようもない。

隠しておいたライジンを手に取る。飛行型の針状の酸が掠めるが。何とかかわす。だが、流石に息が上がってきた。一日中戦い続けて、ろくに食事もしていないのである。無理矢理レーションを一度だけかっ込んだが、流石に体が限界を訴え始めている。

それでも、やるしかない。

飛行型を全て叩き落とすと、ライジンにチャージを開始。冷や汗が流れる。

次の飛行型の群れが来る。ハイブを潰さないと、はっきりいってきりが無いと見て良いだろう。

クルールがまだ一体か二体残っているとしたら。

ハイブを刺激して、飛行型をけしかけてきている。どこかのタイミングで狙撃して、倒さないと。

チャージ完了。

飛行型は至近だが、クイーンを優先して狙う。

針状の酸がぶっ放されるのを、何とかかわす。弾幕のような凄まじい数が飛んでくる。赤い奴も混じっているからだ。

それでも、優先するのはクイーン。

彼奴を自由に飛ばすわけにはいかない。

狙撃。

クイーンの頭に、ライジンの超高熱線が直撃していた。

クイーンが、空中で身をよじる。そして、滅茶苦茶に針を飛ばし始めた。ライジンを放り捨てながら、ボルトシューターで何度か狙撃する。更に苦しそうに身をよじるクイーンだが、まだ死なない。

それどころか、最悪の事態だ。

今の衝撃で起きたのだろう。ハイグレードタイプスリーが、空中に浮き上がるのが見えた。

まずい。彼奴は飛行型以上に鋭敏に此方を追ってくる。それに、顔を半分吹き飛ばされたクイーンが、此方を見つけたのだろう。獰猛な殺気を放ちながら、向かってくるのが見えた。

冷や汗が流石に流れる。そして隙が出来た分、被弾する。

フライトユニットの一部が、また持って行かれる。足に針状の酸が擦る。更に腕にも。

焼け付くような痛みが走るが、まだまだ。顔を上げると、ボルトシューターを放ちながら走る。

元々大ダメージを受けていたクイーンが、何処かで致命傷になったのだろう。

頭がもげて、そのまま落ちていくのが見えた。

成田軍曹が叫ぶ。

「クイーン撃破! し、しかしハイグレードが接近しています!」

「わかってる」

本当に、慌ててばかりだな。

ライジンの位置を確認。まずはボルトシューターで飛行型を叩き落とす。邪魔は、出来るだけ入らない方が良い。飛行型を半数ほど削ったところで、殺戮機械とは思えない剽悍さで、ハイグレードの赤い姿が見えた。死を呼ぶ赤い星だ。そして、姿を見せると同時に、とんでもない高出力レーザーを五本、収束して放ってくる。

グランドキャニオンに、更に深く溝が刻まれる。

飛行型が、熱を怖れたのか避ける。彼奴を倒せば、一段落するはずだ。走りながら、ライジンに持ち換える。岩陰に飛び込みつつ、チャージ開始。こいつ一発では落とせない筈だ。

だが、こいつを当てないと、そもそも勝負の土俵に立てないだろう。

飛行型が来る。走りながら、必死にライジンのチャージを続行。次々に飛行型の攻撃が三城を掠める。腕、足、首筋に熱を感じた。これでもかわしているはずなのだけれども。まだ、鍛え方が足りない。そう思いながら、二度目の緊急チャージを挟む。

至近。

殺った。そういわんばかりに、ハイグレードが躍り出てくる。だが、一瞬早くライジンがチャージを終えていた。

ハイグレードもそうだが、タイプスリードローンの弱点は、攻撃時に弱点部分を向けてくる事だ。

星形の真下にある球体部分。

それを、思い切り撃ち抜く。

至近からの、ライジンの一撃だ。流石にタイプスリーも痛打になったのだろう。思い切り空を向いて、レーザーを其方に照射していた。

夜空の雲が吹っ飛ぶのが見える。

恐ろしい火力である。

そのまま、プラズマ剣を引き抜き、連続で弱点に斬り付ける。必死に距離を取ろうとするハイグレードだが、させるか。

飛行型も追いすがってきているが、それでもこっち優先。腕に更に大きな痛み。これは、擦ったと言うより抉ったか。だが、まだ闘志は潰えていない。

叫びとともに、ライジンが抉った傷にプラズマ剣を突き刺す。

それが致命傷になり、ハイグレードが鋭い機械音を上げた。更にねじ込み、そして飛び離れる。

プラズマ剣ごと、ハイグレードが爆発。爆発に吹っ飛ばされて、地面を転がりつつ。武器をボルトシューターに切り替え。

即座に、追いすがってきている飛行型を、全て叩き落としていた。

至近距離に数本、針状の酸が突き刺さっていた。一つでも直撃していたら、即死だっただろう。

立ち上がりながら、顔の煤を拭う。

酷い有様だろうと思う。昔のコントだったら、髪の毛がアフロになっている所だ。呼吸を整えながら、体の傷を確認。腕のが特に酷い。文字通り抉られていて、これは跡が残りそうだ。

昔だったら、嫁入り前の体がどうのこうのと言っただろうか。

まあ、気にする事もない。今は四割が生涯未婚の時代だ。はっきりいって、男なんかほしいとも思わない。

ライジンを拾い直す。プラズマ剣は失ったが、まだライジンとファランクス、ボルトシューターがある。

それに、飛行型が飛んできていた方向から、ハイブの位置もだいたい見当がついている。

ファランクスで焼こうと思ったが、距離がある上に敵が混乱している今。更に手傷を受けている状況。

近付くよりも、此処から撃った方が早い。

ライジンをチャージ。今のハイグレードの爆発は、残っていたクルールもみている筈だ。慌てているのか、飛行型が飛んでこなくなった。

まず一つ、ハイブを粉砕。

超高熱の直撃をまともに浴びれば、岩壁にこびりついている程度の小さな塊状のハイブなんて、文字通り瞬時に蒸し焼きだ。

次と思ったが、おかしい。

ぬっと、クルールが姿を見せたのは、その次の瞬間だった。即座にライジンを放り捨てて、ボルトシューターに切り替え。飛びさがりながら、連射。クルールはどちらも雷撃銃持ちだ。

ハイグレードとの戦闘中に、接近してきていたのか。

向こうも、やるものだ。シールドは潰すが、向こうも雷撃を連射してくる。間一髪で回避するが。至近を猛烈な雷撃が通過したせいか、耳がきんとなった。聴力が、破壊まではいかないが。

頭が揺らされた。

踏みとどまると、それでも顔を上げる。次の射撃をしようとしているクルールの顔面にボルトシューターの雷撃を叩き込む。おぞましい悲鳴を上げるクルールを庇うように一体が前に出てくるが。その時、三城は直上へと飛んでいた。

何の真似だと、クルールが此方を見上げる。

上空だと撃たれ放題になる筈だ。

その通り。その考えは正しい。だが、クルールは訓練を受けている兵士だ。それは、戦っていて分かった。

同時に、実戦訓練はそれほど受けていないのも分かった。

武器と装備の性能だよりで戦っている事も。

だから、マニュアルにない行動をいきなり取られると、判断が一瞬鈍る。先に拾い直しておいたファランクスで、一体を上空から強襲。慌ててシールドを構えるが、遅い。焼き切る。

最後の一体。顔に雷撃を浴びせてやった奴が、此方に雷撃を放ってくるが。

不運なのかどうなのか。

倒れつつあるクルールのシールドに直撃。三城への痛打を避けていた。ただし全部を避けられたわけでは無い。

激痛が全身を包むが。

それでも、三城は動く。クルールの目が、不可思議な動きを見せた。なるほど、これがクルールの恐怖か。そう思いながら、顔面にファランクスの超高熱をねじ込んでいた。

クルールが倒れる。

呼吸を整える。全身が酷くいたい。だが、それでも、このエリアのエイリアンは殆ど全滅した筈だ。

だが。ライジンを無言で手にとる。見えてしまったからだ。

まだ一機、ハイグレードタイプスリーがいる。呼吸を整えながら、エネルギーチャージを進める。

あいつと離れているハイブが、数カ所にある。

一つずつ壊滅させていくべきだ。

頭は嫌になる程冷静に回る。そのまま、狙撃。続けざまに、ハイブを三つ焼き尽くしていた。ハイブに集っていた飛行型は、全てその度に、消し飛んでいた。

血をちょっと失いすぎたか。

岸壁に背中を預けると、少し呼吸を整える。ライジンのチャージを続ける。敵の増援はまだ来る可能性が高い。少しでも、大兄達のために。

いや違う。

自分が、ここで出来る事をするために。意地は通させて貰う。

チャージ完了。

ハイグレードの弱点を、超長距離から狙撃。一撃では倒せないことは分かっている。空中に浮き上がったハイグレードが、此方を察知。剽悍に動きながら、迫ってくるのが見えた。

向こうもダメージを受けている。ライジン二発目には耐えられない。

次が、勝負になる。

意識が飛びそうだが、それでも何とか踏みとどまる。態勢を立て直すと、目を閉じて、意識を集中。

そして、目を開けた。

見えた。至近を通り過ぎながら、ハイグレードがレーザーを放とうとしている。悪いが、もらった。

傷口に、ライジンの火力をフルでねじ込む。

馬鹿な。

そう言っているかのように、ハイグレードが凄まじい軋みを挙げ。そして爆発四散する。

限界か。

ふらふらと、一旦少し下がる。救急キットがある筈だ。多少手当てして、そしてレーションを口にねじ込んで。

それで、後は。

倒れかけた所を、支えられる。支えたのは、大兄だった。

「三城、見事だったな」

陽光が見える。どうやら、一晩中の戦いだったらしい。ストーム2と、ジャムカ大佐の姿も見える。

何も言う余力は無い。

「一華、三城を任せる」

「ちっ。 敵の増援がかなり来ているようだぜ大将」

「怪物ばかりです。 全て蹴散らすだけです」

「これだけ獲物を狩られたんだ。 後は俺にも分けろ」

ジャムカ大佐が好戦的に言っているのが聞こえた。

どうやら。役割は果たせたらしい。そう三城は思いつつ。意識を失っていた。

 

3、少しでも敵の進軍を遅滞させよ

 

プライマーに記録的な被害を出した通称「グランドキャニオン近辺の戦い」は、結局の所勝利したとはいえEDF側にも多大な被害を出していた。

三城が軍病院に運び込まれるのを横目に、弐分は報告を皆と一緒に聞く。

参戦した一万以上の歩兵の内、戦死2770。AFVの損耗率は4割以上。ニクスはそれなりの数が生き残ったが、全ての機体に整備が必要な状態だった。軽装甲のケブラーが特に被害が大きく、大破した機体の数は五割近かった。タイタンは全両破壊を免れた。だが同時に全両小破以上の損害を受けており、補修が必要だ。

記憶にある歴史よりだいぶマシだな。

そう思って、弐分は自己嫌悪に陥りそうになる。

敵の損害は大きい。移動基地。コロニスト千数百。怪物およそ十二万。ハイグレードなどのハイスペックドローン合計六機。ドローン二千以上。クルール八十数体。更に、あの大型船七隻。

ただし、敵はアンドロイドを戦場に出してこなかった。

繁殖で増やせる怪物と違って、アンドロイドは何処かで生産しなければならないのだろうが。

それでも、敵は丸々アンドロイド部隊を温存できたことになる。

この部隊が、レッドウォール作戦に投入されてくる。

此処を凌がないと、EDFは結局負けだ。勝ってなどいないのである。

食堂で、大きく嘆息する。

三城が思い詰めているのは分かっていた。戦士として大きく成長しているのも分かっていた。

幸い命に別状はないらしいが。それでも流石に二週間は入院だという。

あの後、グランドキャニオンに押し寄せた敵増援は、全て猛り狂った大兄とともに叩き潰し。成田軍曹が青ざめて引いていたが。

ともかく、ストームチームも無傷では無い。

ストーム3は戦死4名。ストーム4も戦死五名。

いずれも素人に毛が生えたような隊員とは言え、大きな損失だ。残った隊員も、ほぼ全員が負傷している。

無言でレーションを口にしながら思う。無力だな、と。

更に強くならなければならないのか。しかし、幾ら強くなっても、これ以上の被害軽減は無理では無いかと思うのだ。

一華が来て、向かいの席に座る。

今回の戦いでエイレンUによって無双の働きをし。その後は擱座していたニクスを無理に修理して、それで最大限の戦果を上げた一華は。周囲を見回した後、バイザーの専用回線で話しかけてくる。

「よろしく無いッスねこれ。 飛騨に落ちた移動基地、凄い数の敵が周囲に集まっているみたいッスよ。 スカウトが持ち帰ってきた情報がこれ」

「……これはまた、あの大軍との戦いを思わせるな」

「しつこく抵抗する東京を潰すために、今回プライマーは本気とみて良いッスわ。 それにトゥラプターの様子からして、もうこっちがタイムリープしていることに気づいているとみて良さそうッスね」

「……そうだな」

トゥラプターは小田中尉の名前を知っていた。それどころか、試すと言っていた。

恐らくだが。

未来から戻って来て、知識を蓄積させているか、確認するつもりだったのだろう。そして奴は悟ったはずだ。

知識が、少なくとも村上班には蓄積されていると。

「各地からプライマーの戦力が数を減らし、逆に飛騨に集まっているようッスから……レッドウォール作戦は、恐らく静岡辺りで行われる事になるっすね」

「EDFの戦力は記憶にある歴史よりは残っているが……一華、どうみる」

「勝ち目なんか無いッスよ。 普通ならね」

ずばりというものだ。

一華の言葉は正しい。前の周回でも、百万を軽く超えるアンドロイドがインドに押し寄せて。

そこで決戦になった。

あの時EDFの決戦兵力は殆ど失われてしまった。

今回敵は、更に戦力を増した状態で。更に戦力が減っているEDFに、日本で決戦を挑んでくる。

東京が焼き滅ぼされたら、リングすら来ないかも知れない。

敵の勝ちが確定だ、ということだ。しかしながら、そうはさせない。

「記憶にあるレッドウォール作戦より味方の規模は増えるとして……敵はどう出てくると判断する?」

「そうっスね。 私だったら飛騨の移動基地もろとも進軍するッスね。 大軍を動かすなら、多方向から。 横浜とかにも同時に強襲を仕掛けて、EDFの迎撃部隊主力を包囲して圧殺するっスけど」

「敵の司令官は切れ者だ。 今回の損害に泡を食っているだろうが、それでも冷静に対応して来るはずだ。 一華の判断が正しそうだな。 それにアンドロイドが来なかったのも気になる。 アンドロイドを主力に、次の決戦を挑んでくる可能性が高い」

「……何とか、対策を練っておくッスよ」

一華が席を離れる。

弐分は、少し一人になりたいと思った。

 

一旦ストームチームは解散して、各地に散る。ストーム1となった村上班は、二週間北米で戦闘。

数カ所の基地を奪回したが。奪回した基地は、どれも完全に破壊し尽くされていて、使い物にならなくなっていた。

荒木班は欧州に転戦。

スプリガンとグリムリーパーは、一旦休養を入れた。負傷者が多すぎて、部隊の再編が必要だと判断したからだろう。

各地の基地から裂いた部隊は半壊状態に陥ったが。それでも、全滅は避けたし。AFVもかなり救えた。

それで、戦況は記憶にある歴史より俄然マシになったが。

それでもインドに押し寄せている軍勢の数は容赦なく。既にインドの防衛線は半壊状態。難民は必死に東南アジアに移り始め。当然のように、プライマーは東南アジアに戦線を拡げつつあった。

二週間後、三城が退院してくる。

同時に、ストームチームの全員に昇進人事が入った。

負けが嵩んでいる軍では、昇進はどんどん進む。荒木軍曹は少将に。大兄は准将に昇進。

弐分と三城、一華は大佐に。柿崎と山県は大尉に昇進していた。

ジャムカ大佐とジャンヌ大佐も准将に昇進。

まあ、移動基地を落としたのだ。

これくらいでしか、EDFは報いる事が出来ないと言う事なのだろう。色々と情けない話ではあるが。

三城は何カ所か、一生ものの傷を受けていた。

大兄に対して、気にしなくていいと三城は言う。

本当に気にしていない様子なのをみて、柿崎が喜んでいるようなので。弐分はちょっと呆れた。

此奴、死合いでも申し込みかねないと思ったが。

まあそれはどうでもいい。

いずれにしても、グランドキャニオンでも記録的な戦果を上げた三城は、なんだかいう勲章を受けたが。

それもまた、どうでも良かった。

一度インドに移動する。スプリガン、いやストーム4の残存戦力とともに、しばらくは行動するという事となった。ストーム3は北米に残る。やはり北米も放置出来ないのだ。

准将になったジャンヌ元大佐は、部下二人だけ。ゼノビア少佐とシテイ少佐を連れていたが。他の隊員は連れていない。

現時点でウィングダイバーはほとんど生き残りがおらず。

あの会戦で更に減ったので、どうしようもなかったのだ。負傷者は病院で、復帰の時を待つことになる。

インドで行うのは基本的に遅滞戦術となる。

押し寄せてくるアンドロイドを、以前のように砲兵隊で全て叩き潰すような事は出来そうにない。

今は、多数のアンドロイドを、少しずつ削りながら、他の部隊の被害を抑えるしかなかった。

ストーム4も、通常アンドロイドとの戦闘は手慣れたものだ。

というよりも、明らかに間合いなどの把握が上手く行っている。

問題は高機動型。

急速に発展したインドの町並みは、今や奴らの独壇場と化し。ストームチームは、連日走り回って対処に当たらなければならなかった。

毎日数カ所の戦場を転戦し、アンドロイドを倒す。既に空軍は動ける状況にはなく。歩兵でどうにかしなければならない。

各地では基地を拠点に必死の防衛を続けるが。

それも、圧倒的な物量を前には、遅滞戦術以上の事は出来なかった。

砲兵隊も連日消耗するばかりだ。

怪物は凄まじい数がこの間の会戦で死んだとは言え、まだまだ各地に残っている。それをプライマーは、明らかに集中投入してきている。

幸いと言うべきか。

クルールはこの間の会戦で大打撃を被ったのか、被害を露骨に避けるように動いている。得意とする集団戦術を生かすためか、まとまった部隊で動いている様子で。各地では少数の部隊で行動する様子は見られなくなっていた。

弐分の記憶にある歴史では、各地を徘徊するクルールに兵士達の心が折られ。

それで更にEDFの敗色が濃厚になっていった。

その事を考えると、少しでも状況はマシになっているのかもしれない。だが、それは楽観だ。

敵の指揮官は、戦力の集中投入をしている。

これは恐らくだが、兵が足りないのではない。

精鋭をまず潰して、後は徹底的な蹂躙戦に移るためだ。この辺りも、理にかなった行動である。

そんな危険な相手だ。

楽観していい訳がない。

基地に戻る。周囲の兵士達は疲れきっていて、心が折れているものも多かった。キャリバンで更に後方の基地に運ばれて行く兵士も多い。錯乱しているのか、ぶつぶつ繰り言を呟いて歩き回っている兵士も多く見かけられた。

補給はどうにか届く。

荒木軍曹から連絡が入った。欧州も、大苦戦の様子である。大兄の声を聞いて、荒木軍曹はほっとしたようだった。

「インドは悲惨な戦況だと聞いている。 皆無事にやれているか」

「どうにか。 其方はどうでしょうか」

「厳しい。 ルイ大佐と連携して戦線を支えているが、東からも怪物の群れが押し寄せ始めている」

ロシア方面は既に完全に敵地。

やはり怪物を育てているか、それとも転送しているのか。いずれにしても、既にドイツの東半分辺りまで陥落。遅滞戦術がやっとだという。

ジョン中将は良くやっているが。

特にプライマーは資源地帯を狙って来ている様子で。新規戦力の追加を許さない構えで動いているらしい。

場合によっては兵糧攻めに出てくるという訳だ。

この辺りも、先々周で叩き潰したあのうすらデカイだけの能無しとは指揮能力が違う。

「現在、日本に集まっているプライマーの主力を叩くべく、何とか兵を集めようと総司令部は動いている様子だ。 恐らく、また合流して戦う事になるだろう」

「はい。 その時は頼りにさせていただきます」

「ああ。 死ぬなよ」

「荒木軍曹も」

通信が切れる。休むようにと大兄が指示して、皆横になる。弐分も、流石に疲れが溜まってきていた。

敵の大攻勢は。あれだけの大敗を喫し。更に移動基地まで失ったというのに、止まる気配がない。

翌日も、早朝からの戦闘になる。味方は後退するだけ。敵は前進するだけ。どれだけ倒しても倒しても、それは同じだ。

戦場を高機動で飛び回りながら。敵の密集地点に散弾迫撃砲を叩き込む。大量のアンドロイドが消し飛ぶが。プライマーはこの命なき兵が余程お気に入りなのか、とにかく徹底的に大軍を投入してくる。

大兄はブレイザーを使うのを止めた。

というのも、どの基地も炉が工場の稼働で一杯一杯。バッテリーを補充するのが不可能に近い状況だからだ。

どの工場でも、民間人が必死になって身を寄せ合い。軍の仕事の支援をしている。

老若男女関係無い。

負ければ皆殺しにされる。逃げる場所もない。

基地が陥落する事は、それだけで数万の民間人が殺される事につながる。だから、皆必死だ。

兵士達もそれは同じ。大兄の凄まじい働きぶりをみて、ビシュヌのようだとかいう兵士もいる。

そういう兵士に、ああだこうだは言わない。

ヒンズー教には思うところが多々あるが。今はそれをいっていても仕方が無いからである。

勇気づけられるならそれでいい。

そう、弐分も割切っていた。

四箇所の戦線で戦う。全てに勝つ。激しい戦いの中、二人、戦線にストーム4の隊員が戻ってきた。

だが、元々素人同然の力量だ。一人はその日のうちに負傷して後退。もう一人は、大型アンドロイドのブラスターを避け損ねて、空中で粉々に吹き飛んでしまった。

どうにもならない。敵の数が多すぎるのだ。それでも、なんとか戦いを続けるしかない。特に大型アンドロイドは危険だ。他の兵士に任せる場合、何人がかりでも簡単には倒せない。

激しい戦いが続く中。

その戦場に、弐分は来た。

インド中南部の街。名前はよく覚えていないが、既に人は皆避難している。此処に、アンカーが少し前に投じられた。衛星軌道上にいるマザーシップによるものだ。

アンカーからはシールドベアラー、それに高機動型アンドロイドが出現している。それも、尋常では無い速さで。

既に軍は対応できる状態ではない。即座に、疲れた体を引きずって。ストーム1と4で、此処の攻略を開始する事となった。

アンカーは六本。いずれにもシールドベアラーが陣取っている。そして、既に数十体の高機動型アンドロイドが、それぞれのアンカー付近に陣取っていた。しかも、今の瞬間も出現を続けている。

防衛分だけ残して、余剰戦力は人間を殺しに行くわけだ。一刻の猶予もないとはこのことである。

前の周回で。インドでの決戦で指揮を執ったポロス中将から無線が入る。声は、疲れきっていた。

インドでの敵決戦での指揮を執った闘将だ。それが、此処まで疲弊しきっているとは。

プライマーは確実に、有能な将帥を潰すように動いている。徹底的に抵抗して、させはしないが。

「此方ポロス中将。 敵の状況は」

「アンカーが六本、シールドベアラーが同数。 更に多数の高機動型アンドロイドが既に転送されています。 これは、簡単には攻められませんね」

「なんということだ……」

「これ以上転送が続けば、敵が他の地域に行く。 高機動型と戦える兵士は、多くはないだろう?」

ジャンヌ准将が言う。黙り込むポロス中将。

大型もそうだが、アンドロイドは難敵だ。特に高機動型は戦闘データがあまりとれていない。

あのグラビス型が、集中攻撃であっと言う間に粉砕されるのを弐分もみている。機動力が高いだけではなく、あのアンドロイドは地球人が使う武器のカウンターウェポンとして設計されている可能性が高い。

高機動型は更に言うと数を揃えて攻めても来る。

既に各地のインドの戦線が崩壊しつつある今。

ここに、余剰戦力を回す余裕など、ありはしないのだ。

「高機動型と戦えるのは我々だけだ。 援軍は不要。 各地の指揮に専念されたし」

「分かった。 無理をしないようにしてくれ」

「そちらこそ。 兎に角物資の生産を急いで、前線を立て直してほしい」

前は北米から援軍が来たが。今回は、北米もやられている。この間の会戦で、戦闘に使えるAFVはあらかたやられてしまい。今では必死に各地で修理をしている状況だ。タイタンを必死に活用して、ジェロニモ少将が戦線を維持しているようだが。それが精一杯なのである。

ただ、弐分としては悪くない条件もある。

高機動型を拘束するために用意して貰ったデクスター散弾銃の改良型。今回はそれをもってきている。

これは巨大な散弾銃で、本来はAFVに搭載する大型面制圧兵器だ。フェンサーの場合は空中にいる敵を拘束して動きを止め、其処にスピアを叩き込む。

今回はスピアもいつもと違うものをもってきている。

スパインドライバー。長距離射程のスピアだ。多少癖はあるが、使って見た感触ではかなり悪くない感じである。

三城を一瞥。病み上がりだ。弐分もそうだが。弐分はまあ兄貴だ。多少の無理くらいは、どうにでもなる。ただ三城にはそういう事は言わない。丁度デリケートな時期だ。

「空中戦は任せろ。 我々はスプリガン……いやストーム4の最精鋭だ。 多少の兵力差ならどうにでもしてみせる」

「頼りにさせて貰います」

「基本的に高機動型はエイレンUのレーザーで動きを止めるッス。 後は三城の誘導兵器ッスかね。 そこを射撃という感じ?」

「そうだな。 ただ俺には、そういう配慮は不要だ」

まあ、大兄は動き回っている高機動型を百発百中で落とせるので、その辺りはまったく心配していない。まず釣り出して、全員で攻撃。隙を見て、アンカーを破壊する。そういう流れに決まる。

特攻するのは弐分。シールドベアラーキラーは柿崎で行く。

柿崎は、目を細めて。頷いていた。

「ではいくぞ。 GO!」

「攻撃開始!」

まずは先頭のアンカーを狙う。突貫して、高機動型に攻撃開始。高機動で飛び回りながら、デクスター散弾銃の火力を押しつける。空中で態勢を崩した高機動型。なるほど、これはいい。

他の戦場でも一応試してみたのだが、本格的にやるならこれがベストだ。動きを止めた高機動型を、ジャンヌ准将達がマグブラスターで消し炭にし。更にはエイレンUが薙ぎ払う。

そうこうするうちに、柿崎がすり足を維持したままジグザグに突貫。高機動型が必死に止めようとするが、弐分が片っ端からデクスターで足を止める。空中で動きを止めてしまうと、後はただの的だ。

柿崎が、シールドベアラーを真っ二つに斬る。直後、大兄がアンカーを破壊していた。

良いペースだ。いける。それに、この装備は使える。

散弾銃でも高機動型を距離が近ければそのまま粉砕まで持っていく事が出来る。この武器は、プロフェッサーが作った武器の中でも特に使えるかも知れない。

スパインドライバーも試す。既に敵の第一群は残党処理が開始されているが。ついでだから色々試す。今のうちだ。こういうことが出来るのは。

これはスピアと同系統の武器だが、ハンマーを撃ち出すより豪快な射出武器だ。このため射程はかなり長く。しかもワイヤーで即時回収もする。鈍器を叩き込む豪快極まりない装備だが。

本来こういう武器は、いわゆるパイルバンカー同様、ある一定の時期までは実用的ではなかった。

フェンサーのスピア系統の装備が実用性を帯びて来たのは、強力な射出機構が開発された事で。

これには火薬だけでは無く、電磁誘導の技術も一部で使われている。

普通に杭を打ち出すだけでは使い物にならなかったのだが。それを電磁誘導での加速も含めることで使い物になった。

特に歩兵用の装備で実用化出来たのは、パワードスケルトンの実用化が理由として大きい。

EDFを創設以降、世界中の軍事費は全部対エイリアンのために使われたが。

その結果、こういう今までの対人兵器では構想さえされなかったり。或いは構想されても夢物語だった兵器が実用に移され。

幾つかは結局珍兵器に終わってはしまったが。

こうして実用化され、敵を打ち倒せる良兵器になり。多数の人を守る事が出来ているものもある。

スパインドライバーは、豪快に高機動型を粉砕。これも使える。しかも高機動型のアウトレンジからいける。そこがまたいい。

この組み合わせは、近距離から中距離戦まで対応できるかなり価値のあるものだ。ガリア砲と組む事で、遠距離にまで対応できる。ただ多数相手の殲滅は、苦手かも知れない。

「敵第一群殲滅!」

「無理をさせる。 すまない。 そのまま戦闘を続行してくれ」

疲弊しきったポロス中将の声。心が折れかけているのが分かる。どうにかしなければ。此処を潰した後、逆侵攻を掛ければ。

いや、それは画餅だ。

出来る範囲で、やれることをやらなければならない。そう弐分は、自分に言い聞かせる。

明らかに大兄は無理している。三城も背伸びをしすぎて怪我が増えている。弐分まで倒れたら、今後はどうにもならなくなる。

客観性を捨てたら、戦闘は負ける。

楽観的に状況を見るようになったら、戦闘は負けに向かう。

どちらも、今やって良い事では無い。

第二群に掛かりたい所だが。大兄が手をかざして、舌打ちしていた。どうやら、簡単にはいかないらしい。

「壱野准将。 どうした」

「あの様子だと、どうやってもアンカーに攻撃すると隣の第三群が反応します。 まとめると百数十体になりますね。 少しでもリスクは減らしたい所ではあります」

「その程度なら、今更気にする必要もないだろう」

「……今確認したッスけど、動ける砲兵は存在しないッスね。 DE203は、現在整備中」

一華が付け加えてくる。

勿論フォボスなんて動かせる状況じゃあない。

爆撃機は連日必死の爆撃を行っているが、それでも敵の侵攻を食い止められないし。一回飛ばすだけでとんでもない金が掛かるのだ。

ジャンヌ准将は蛮勇を口にしているのでは無く、周囲を勇気づけるために無理を言っている。

それはもう弐分にも分かっている。

柿崎が提案。

「いっそ、両方の群れを引きつけて、近付く前に可能な限り減らし、相手のアンカーを同時に破壊すべきでは」

「手が足りない」

大兄が一蹴。だが。それしかないと思う。

弐分が、改善案を出す。

「ならば、二度に分けて攻撃をすればいい。 一度引きつけて敵を全滅させている間にアンカーとシールドベアラーを最低一機ずつ破壊する。 その間にもう一つのアンカーが高機動型を呼ぶだろうが、圧力は半分になる筈だ」

「そうだな……それならば、ある程度現実的か」

皆に攻撃準備をと、大兄がいう。

そして、狙撃。連続して、敵群を引きずり出す。

最悪なのは、アンカー攻撃中に他群の高機動型が反応することである。百数十なら、このチームだったらなんとか対応できるだろう。だが、それ以上となると。一度に相手するのは厳しく、各個撃破が必要になってくる。

大兄が立て続けに高機動型を撃ち抜いていくが、それでもわっと寄ってくる。数は百数十。ビル街を飛び回りながら、見る間に接近して来る。

サーカス野郎と兵士達はあれを呼んで怖れている。人間が作ったビル街を利用して果敢に攻めてくる上、命を捨てることを何とも思っていない。

実際のサーカスなどより、余程危険な連中だ。

ただ、弐分は交戦しながら思うのだ。

これは即座に思いついたものではなく。何度も歴史を繰り返しながら作り出したというよりも。

敵もこういった建築物のある都市に住んでいるから、思いつく事なのではないのだろうか、と。

そもそもクルールの装備する武器は、あまりにも人間が持つものに似過ぎているという事もある。

トゥラプターとのこの間の交戦では、殆ど情報を得られなかった。

次に戦う事があれば。勝てば口が軽くなる彼奴から、少しでも情報を得たい所ではある。

飛び回りながら、多数の高機動型をデクスターで拘束。皆と協力して必死に食い止める。バリスティックナイフが何度も掠り、フェンサースーツと火花を散らすが。それでも怖れる事はない。

勿論恐怖はある。

とっくにそんなもの、飼い慣らした。

「よし、三城、行け!」

「わかった」

「三城大佐を支援! 斉射!」

ジャンヌ准将が、マグブラスターを部下二人とともに斉射して。敵を次々に叩き落としていく。

空中でバランスを崩した高機動型は、放置しておくと地面にバリスティックナイフを突き刺して。地面に強引に着地して態勢を整え直し。またビルにバリスティックナイフを飛ばして、空中機動に移る。

だから、バランスを崩している間に叩き落とすのが一番良い。地面をのこのこ歩いて来る通常アンドロイドとは機動力が違う。軽さを確保するためか通常型よりも装甲が脆い一方で、それ以外の全てが勝っているのだ。

もっと情報がないと、勝てない。

これは、確かだが。

プライマーにはまだコスモノーツやディロイなどの余剰戦力がある筈だ。記憶にある歴史には、これらを投入された記憶は無いが。今後苦戦を鑑みて、投入してきてもおかしくはない。

ただ。一華が言うところ、敵は大型船を一度の周回で数十隻作るのが限界とみて良いという。

ディロイのような高コスト兵器は破壊すれば破壊するほど敵に深刻なダメージを与えられる筈だし。

人材は失われれば戻って来ないはず。

クルールは出て来ている数から考えても、恐らく敵にとってはかなり人数が少ない、特務に近い存在である可能性が高い。

戦え。そうすれば、少しでも戦況を有利に出来る。

飛び回り、デクスターで高機動型を拘束。スパインドライバーで貫きながら。弐分はそう自分に言い聞かせる。

第二群の圧がかなり苛烈だが。それでも、向こうでアンカーが粉砕されるのが分かった。更に、三城は逃げようとしたシールドベアラーも焼き尽くし、戻ってくる。三城を追って、お代わりが来る。

やはりというべきか。アンカー二つ同時破壊は、無理があったとみて良い。

「此方戦略情報部、少佐です」

「現在戦闘中」

「分かっています。 現在、マザーシップが日本と欧州に向かっています。 新兵器を投入しようとしている可能性があります」

「くっ……」

両方、同時か。

欧州は荒木班がいるが、かなり厳しい状況だ。嫌な予感しかしない。コスモノーツとディロイをそれぞれ別々に投下してきたら、手に負えないとみて良いだろう。だが、コスモノーツだったら。

いや、もはやいっそ、ストーム1を二手に分けて対応するか。

一華が冷静に確認する。

「少佐。 マザーシップの高度は分かるッスか」

「高度ですか? 日本側は大気圏外。 欧州側はかなりの低高度を飛んでいるようですね」

「了解。 リーダー。 この戦闘が終わったら、私が欧州に支援に行くッス」

「……分かった、頼む」

一華が付け加えてくる。

恐らく、欧州に直接コスモノーツをプライマーが送り込んでくる可能性が高い。一華がエイレンUと、現地の部隊にレールガンを要請して迎え撃つと。

その代わり、日本ではディロイが投下される可能性が高いから。そっちを迎え撃ってほしいと。

なるほど、それで良いだろう。

今や一華も大佐。立派な高級士官だ。

更に荒木軍曹なら、一華の作戦提案を聞いてくれる筈。ヒョロガリとかいってまだ下士官だった頃は一華を馬鹿にする奴も多かったが。

今は。そんな事が許される相手ではなくなっている。

激しい戦闘を続行。スプリガンのシテイ中佐が負傷して後退。相当な手練れなのに。

だが、何とか敵群を殲滅。今度は柿崎が敵に突貫。シールドベアラーを唐竹に斬って粉砕し。更にはパワースピアを投擲して、アンカーを爆砕していた。

次だ。

エイレンUが前に出る。負傷者が出た分、戦力を補わなければならない。

危険を感じたのか、アンカーがどれも高機動型を出す速度を速めたようである。好都合だと大兄が呟く。勿論味方を勇気づけるため。一応、此処で各個撃破が成功すれば、それだけプライマーにダメージを与えられるという意味もある。

次の敵群は百体以上に膨れあがっていたが。

それでも、苛烈な戦闘の末に。

どうにか粉砕。

その間に、第五群、第六群は更に数を増していた。どんどん皆の負傷も増えていくが。もう、これ以上。高機動型を、跋扈させるわけにはいかなかった。

 

戦闘が終わる。

疲れきって座り込んでいる山県。チューハイを口にしているが、大兄は流石に文句を言わなかった。

ポロス中将が連絡を入れてくる。

「助かった。 やはり師団規模の戦闘力があるのだな。 各地から敵が高機動型を引き抜いて其方へ回していたらしく、多少前線が安定した」

「今のうちに態勢を整えてください。 此方は間もなく日本に向かいます」

「敵の大攻勢が迫っていると聞く。 ……出来れば、此処でもう少し支援戦闘を頼みたかったが」

「申し訳ありません」

大丈夫だと、ポロス中将は無線の向こうで。わかり安すぎるほど、疲弊しきった声で言うのだった。

すぐに一華が欧州に。コスモノーツが展開するとしても、それほどの規模は出てこないだろうと、一華は予想している。というのも、前々周からあまりにも多数のコスモノーツが倒されている。

此奴らにしても、コロニストとは違って使い捨てでは無い可能性が高い。動きなどからみても、洗脳されていない可能性が高く。少なくともコロニストと違って死は怖れるし、場合によっては逃走も図る。トゥラプターのように、好戦的に戦いを楽しんでいる奴だっている。

つまり、生きた兵士と言う事だ。

こういった兵士を全力で投入していれば、いずれ数が足りなくなる。今回の歴史では本来出現しなかったコスモノーツを投入してくるとすれば。それは苦戦を敵がしている証拠だと。一華は言うのだった。

ともかく、欧州は一旦任せる。

その後、敵の大攻勢に対応するべく、日本で全力を尽くすしかない。

弐分は基地に戻ると、風呂だけ入って。そして寝る。ベッドに横になると。もうそのまま、落ちるように意識が飛んでいた。

あまり清潔なベッドではなかったが、そんな事は気にしている余裕すらない。

まだだ。

まだ歴史を変える決定的な戦果には達していない。

もしも日本での移動基地の蹂躙を許したら。

歴史通り、結局人類は負ける。それだけは、阻止しなければならない。

 

4、苦戦の裏で

 

「水の民」長老が、戦士トゥラプターの前で唸っている。

被害が大きすぎる。

それが要因だ。

満を持して投入した戦力が、想定外の被害を出し続けている。温存するつもりだった予備戦力まで投入せざるをえなくなっている。

それだけではない。

「いにしえの民」の主力に決定的ダメージを与えるべく、相当な戦力を投入したこの間の戦闘では。「戦闘輸送転移艦」が七隻も沈められた。これ一隻だけで、本国は相当な資源を使っている。

そもそももっと強力な装甲など幾らでもあるのだが。

「外」に使用を許可されていない。

理由は簡単である。

「歴史へのダメージは最小限に抑えなければならない」。

「過去にあまりにも強力なテクノロジーが生じる、もしくは生じる切っ掛けを作ってはならない」。

以上だ。

別に「火の民」「水の民」「風の民」を苦しめようとしている訳でもない。

「外」は極めてクレバーで。基本的に害が無ければ何もしてこない。「外」が干渉を開始したのは。

そもそもトゥラプター達の先祖の愚行が原因だ。

今、こんな泥沼の戦いに足を突っ込み。どうにもならなくなっているのも、である。

「本国から情報が届いた。 やはりかなり深刻な資源不足に陥っているそうだ。 次世代の民を作り出す物資すら滞り始めているという」

「「外」は「内戦」に関与しようとはしません。 支援など当然期待出来ないでしょう」

「……そうだな」

トゥラプターの同胞は、どの「民」も共通で、基本的に生殖で子孫を作らない。そもそも本国は古くから過酷な資源不足に泣かされた歴史が有り。文明が形になった頃には、受け継がれた技術によって一種のクローン生成で子孫を作るようになっていた。生殖機能が皆に存在していないのは、それが理由である。

つまり資源不足は、民衆の数の減少に直接つながる。

それだけ危険な事態だと言う事だ。

ましてや歴史が安定していない現状。

どれだけの負の影響があるか、知れたものではない。

「幸い、何があっても我等が全滅しないように既に派遣された船がデータを採集して、持ち帰ったそうだ。 戦争に負けても、我等が全て消えるわけではないようだな」

「それはそれは、とてもお優しいことで」

「そうだな。 少なくとも「いにしえの民」よりは優しいだろう」

「我々よりも、でしょうな」

乾いた笑いを、トゥラプターは「水の民」長老とかわす。

今、「水の民」の戦士達は、凄まじい被害に戦慄している。「いにしえの民」がいうPTSDに掛かっているものもいる。

そもそも本来「水の民」は戦士階級ではない。

戦士階級に精神的に向いていないのである。

勿論今回は、それぞれが体をサイボーグ化し。クローン生成した戦闘向けの個体を、指揮官の戦士が率いて戦闘に出ているが。その指揮官達も次々倒されている。いずれも名のある戦士ばかりだ。

トゥラプターも、心苦しくは思う。

いずれ戦ったみたい相手ばかりだったからだ。

「戦闘輸送転移艦」で連れてきている以上、戦死したらそれまでだ。そういう厳しい状況で戦闘を続けているのである。

「次の決戦で、「いにしえの民」の拠点東京を落とせなかったら、今回の戦闘では以降兵力温存に徹する」

「本国が許してくれるでしょうか」

「もう許可は取った。 本国も損害の大きさに辟易しているようだが、それでもない袖は振れない」

「……そうですな」

連絡が来る。

どうやら、事実上の本国の指導者である「風の民」長老からのようだ。

時間を超えての通信である。

ノイズが相当に混ざっている。

「相当に苦戦しているようだな。 しかも、例の大型生物兵器が、予期せぬ解放を受けたとか」

「はっ……。 ただ、回収は後でしておきます。 現時点では、制御は不可能ではありませんので」

「例の生物兵器は次の段階に強化して使うのが基本だと聞いている。 それについては、出来そうか」

「問題ありません。 「いにしえの民」の成功体験を刺激して、それを利用します」

うむと、「風の民」長老は言う。

そして、付け加えた。

「既に聞いていると思うが、本国は酷い状態だ。 安定しない歴史で、皆が酷く苦しんでいる」

「分かっております……」

「今回で出来れば決めてしまいたいが、そうもいくまい。 駄目な場合は、例の大型生物兵器を主軸に敵を一気に薙ぎ払え。 それすらも駄目な場合に備え、現在此方本国では、「風の民」への戦闘訓練を始めている」

「!」

トゥラプターも顔を上げていた。

種として、最高の完成度を誇る「風の民」。

その一方で、一体が育つまでのコストがあまりにも大きすぎる、文字通り「民」の中でも別格の存在。

戦闘力も「火の民」や「水の民」とは別次元だ。体が強靭だから、扱える武器についても、である。

能力が単純に優れているから、本国での支配者階級についている者達。「長老」の中でも、最も発言力も大きい。

ついに前線に出てくるのか。

それだけ、本国の状態が良くないと言う事だ。

「我々が出ると言う事は、もはや退路がないと言う事だ。 それだけは、理解してくれ」

「分かっております」

「では、勝ってくれ。 出来れば、だがな」

「……最善を尽くします」

通信を切る。

大きく嘆息する「水の民」長老。

そして、トゥラプターに言う。

「近々、また出撃して貰うぞ」

「待っておりました……!」

「次の戦いは負けられぬ。 本国の苦しんでいる皆を救うためにもな。 先祖の愚行が原因だとしても、子孫までも苦しみ続ける謂われは無い。 「外」に負けた以上、その理屈には従わなければならないが。 それでも、その理屈の範囲内で我等は最善を尽くさなければならないのだ」

守るべきものは、誰にだってある。

トゥラプターにはあまり興味が無いが。「水の民」長老は、文字通り「水の民」全てを背負っている。

その重荷については分かるつもりだ。

だが、それはそれとして。ストームチームと戦えるのは楽しみだ。

嬉々として、トゥラプターは準備を始めていた。

 

(続)