蒼き怪鳥

 

序、洞窟攻略戦

 

六日間、欧州の各地で転戦。キュクロプスの本格投入が開始されたこともあり、各地の戦況は更に悪化していたが。実際にはキュクロプスよりも、同時に投入された大量の大型アンドロイドの方が、味方にとっては大きな脅威になっていた。

壱野は各地で転戦しながら、アンドロイドをうんざりするほど破壊した。拠点に突如攻めこんでくるアンドロイドに、欧州の各地は防戦一方。南部に展開している戦線の幾つかも押し込まれており。

荒木班と連携して、弐分がいない中、苦労しながら敵を支えなければならなかった。

四苦八苦しながら、どうにか戦線を押し返す。

敵を散々殺したが。

その分此方も疲弊する。

アフリカから来る敵は、物量が容赦なさすぎる。展開している部隊も、皆怪物に怯えきっているのが分かる。

怪生物が殆ど出てこないのが不気味だ。

何故に出してこないのかがよく分からないが。とにかく、一刻も早く敵を蹴散らしていくしかない。

弐分のリハビリは順調だそうだ。

ただ医師は、一月は入院させるべきだとも言っている。しかしながら、弐分が治り次第出ると言っているとかで。

病院では揉めているらしい。

とにかく、弐分にも無理はさせられない。

それに、無理をしているのは弐分だけでは無い。

壱野だって、全身にかなり無理が来ている事は、分かっているのだから。

ライサンダーZを降ろす。

視線の先で、キュクロプスが爆散する。正直足下に群れていた大型の方が手強かったが。それは口にしない。

少し後ろには味方基地。

キュクロプスは拠点破壊に特化したアンドロイドだ。

近付かせれば、危なかった。

「流石だ村上班。 助かった」

「いえ。 次の戦場に向かいます」

「補給は此方から手配しておく。 物資は受け取ってくれるか」

「ありがとうございます」

淡々と、次に。

違う。

余裕が無くなってきているのだ。

だが、それでもまだ足りない。トゥラプターが出て来ている。奴がいつ仕掛けて来るか分からない。

それも本人が出てくるか、遠隔で何か超強い兵器を仕掛けて来るか。

それも分からない状況だ。

気なんか休まりようがない。前々周より強くなっている筈の今の状況でも、奴は油断出来る相手ではないのだ。

大型移動車で、戦地を移動する。バルカ中将はそろそろ、軍病院に移るそうである。医者が限界だと言っているらしく。後はジョン中将が引き継ぐそうだ。

兵士達の評判は最悪だが、指揮能力はしっかりある人物である。

まあ、大丈夫ではあるだろう。

問題はそんな事ではない。

各地の戦況の悪化が止まらないことだ。

北米もかなり限界が近いらしい。

とくに移動基地に対して為す術がないらしく。近々、招集される可能性が高そうだと聞いている。

その時にグリムリーパーと顔合わせをする事になるだろうか。

今回も、助ける事は出来ないのだろうか。

どっちにしても、厳しい話だった。

現地に到着。必死に後退している味方を、敵が追ってきている。後方には飛行型も見える。

バック。そう叫んでいるのが聞こえた。

だから、無線を入れる。

「村上班、現着」

「おおっ!」

「今行く。 生き残ってくれ」

「頼む! もう限界だ!」

戦車数両と随伴歩兵を、大量のα型が追いながら攻め立てている。だがこの攻撃、随分と手ぬるいな。

そう見て判断。

つまり、釣り用のエサとしているだけだろう。

援軍が来た所を、一網打尽というわけだ。気にくわないやり方である。

ライサンダーZで狙撃。三城と柿崎には先行させる。

一華のエイレンが、レールガンを放ち。多数のα型をごぼう抜きに貫いた。敵が一斉に援軍に気づき。

同時に飛行型が飛来する。

分かりやすい奴らである。勿論、そのままやられてやるつもりなどない。

アサルトに切り替える。

地底ならオーキッドだが、ここでならストークだ。TZストークの改良版が既に来ている。

接近する飛行型を、片っ端から叩き落とす。その間、前衛で暴れている三城と柿崎の支援を続ける。

二人が暴れている事で、戦車部隊は何とか後退してきた。そのまま基地に逃げるように言うが。

彼らはボロボロながら、参戦すると言う。

「このまま黙ってやられていられるか! まだ弾は残っている! 支援する!」

「逃げる途中に殺された仲間の仇を討たせてくれ!」

「分かった。 だが、此処で布陣して前衛には出ないでくれ。 俺たちの支援を頼む」

「了解!」

戦車隊が陣列を整え直すと、一斉射開始。

壱野も飛行型を蹴散らし終えると、前衛に出る。ショットガンは、必要ないか。無言で敵を蹴散らして行く。

三城が無線を入れてくる。

「大兄、無口なってる」

「少し疲れが溜まっている」

「作戦任務、詰め込みすぎ。 少し休んでもいいと思う」

「いや、弐分が戻るまでは、その分は俺がやらなければならない」

三城の心配ももっともだが。

しかしながら、此処で壱野が引くわけには行かない。押し寄せてくるα型を、片っ端から撃ち抜く。

続いてγ型が来る。戦車隊が必死に砲撃しているが、効果が薄い。

柿崎が前に出ると、殺到してきたγ型を出会い頭に斬り伏せ、薙ぎ払い。まっぷたつにする。

凄まじい戦闘ぶりに、兵士達が奮い立つ。

「噂のサムライガールとはあれか!」

「怪物を本当に斬り伏せやがった!」

「あいつに負けるな! γ型は見かけと裏腹に怯みやすい! 弾幕を展開して押し返せ!」

指揮官が叫んで、兵士達がEDFと応える。

γ型の群れを押し返すが、しかし確かにはじき返せる反面、散らばり易くもある。攻撃を受けると吹っ飛んでいって、あらぬ所でしばらくじっとしていて。そして不意にまた来るのだ。

これがγ型が危険な理由の一つでもある。

生きているか死んでいるか、よく分からないのである。全身凄まじい有様でも生きている事があり。

迂闊に近付いた兵士が轢かれるケースが後を絶たない。

壱野は相手の気配を察しながら、的確に倒して行く。ロボットボムを展開した山県が、死んだふりをしている一体を吹き飛ばした。

一華がエイレンで周囲を薙ぎ払いながら、無線を入れてくる。

「どうやら弐分中佐、戻ってくるみたいッスよ。 これから」

「無理はするなって言ってるだろうにな」

「そうも言っていられないッスよ。 戻り次第、例の洞窟に行くって話ッスよね」

「……そうだな」

そうだ。

例の洞窟と一華が言っているのは、サイレンが潜んでいる洞窟だ。

この歴史で初出現する記憶がある怪生物。エルギヌスの倍に達する体格と、空を飛ぶ上に、凶暴な性格を持つ。

ただ実の所、サイレンは無差別に攻撃はして来るものの、基地を破壊し尽くすとか機甲師団を蹂躙し尽くすというような行為はできなかった。サイレンが出て来た時点で、もうそうするだけの基地とか部隊がいなかったからだ。

そういう点で、今になって思うとアーケルスよりもだいぶ被害は小さかったような気もする。

だがプライマーが大事に培養していた怪生物だ。

どんな隠し玉をもっているか、知れたものではなかった。

「此方ケブラー隊、現着」

「おお、来たか!」

「戦車部隊、被害甚大と聞く。 さがってくれ」

「分かった。 以降は任せる」

戦車隊が、ケブラー数両と一緒に来たキャリバンに負傷者を乗せ、引き揚げて行く。ケブラー隊は早速対空砲で水平射撃を開始。ニクスの機銃と火力は変わらないのだ。次々にγ型を葬って行く。

対空砲は水平射撃でも成果を上げてきた不思議な兵器だ。

対空と言われているのに、だ。

まあ、空遠くを飛んでいる敵を撃墜するための砲だ。至近距離にいる地上の敵でも、効果が大きいのは言われなくても分かる。

ケブラーと一緒に来た随伴歩兵は素人ばかりのようだが。それでも戦闘はしっかり出来ている。

もう後がない。

それはよく分かっているのだろう。

γ型を蹴散らすと、α型が来る。金が混じっている。壱野が優先して金を撃ち抜きながら、皆に注意喚起。三城が上空から誘導兵器をぶっ放し、敵の足を止める。その間にエイレンとケブラーが、猛威を振るいに振るった。

敵はまもなく攻勢を断念。無人機が周囲を偵察する中、壱野もバイクを取りだし、周囲を見て回る。

伏兵はなし。

そう判断して良さそうだった。

「よし、片付いた。 クリア」

「村上班、助かった。 すぐに次の戦場に向かってほしい」

「イエッサ」

連絡を入れてきたのは、指揮を引き継いだジョン中将だ。兵士達の評判は極めて悪い人物だが。評判と裏腹に指揮能力は高い。見た目は色々と美男子とは真逆ではあるし、何というかいかにも悪い事をしてそうな顔をしているが。実際には指揮能力が高いまともな司令官で、人格的にも誤解されやすいだけである。

壱野が部隊をまとめていると、ケブラー隊もついてくるという。

そういう作戦なら、別にかまわない。補給を済ませ次第、補給車を近くの基地に手配。次の戦場に向かう。

次の戦場は例の洞窟の至近だ。

しっかりバルカ中将から引き継ぎを受けていたらしく。ジョン中将が、周囲の掃討作戦を進めてくれている。

怪物だけでは無くアンドロイドもいる状態で、既に展開している部隊は苦戦している様子だ。

割って入る。

バイクで先陣を切ると、アサルトでアンドロイドの群れを薙ぎ払う。更に、ブラスターを発射しようとしていた大型を三城がプラズマグレートキャノンで吹っ飛ばした。

二体同時に、更に出てくる。

一体にはエイレンが収束レーザーを叩き込み。もう一体は躍りかかった柿崎がブラスターを発射する隙も与えず斬り。

二体同時に、あえなく爆発四散。

兵士達が態勢を立て直すのを助けつつ。乱入したケブラー部隊とともに、怪物の群れを蹴散らす。

「村上班、現着。 戦闘に参加する」

「ありがたい! 倒しても倒しても現れて困っていた!」

「荒木班、現着!」

「メイル4、現着!」

メイルチーム。総司令部直下の特殊作戦コマンドか。以前K6作戦では無様を晒すのをみたが。

生き残りは各地で転戦を続けている様子だ。

荒木班が来てくれたのは心強い。連携しながら、怪物の群れを叩く。ブレイザーの熱線が迸っているのが見える。荒木軍曹が、早速前線で大暴れしているのだろう。

そして、側に降り立ったのは。

弐分だった。

「大兄、遅れた。 戻ったぞ」

「もう少し休んでいても良かったんだが」

「いつまでも休んではいられない。 大兄だって無理をしているだろう」

「それもそうだな……」

まあ、弐分や三城は分かっているか。

そのまま、バイクで走りつつ。バイクの機銃で怪物をなぎ倒していく。要所では降りて、ロケットランチャーやアサルト、ライサンダーZで敵の中核に大きなダメージを与えていく。

柿崎は時々声を掛ける必要もなくなっている。深入りする癖はなくなった。戦闘経験の蓄積が早い。一戦ごとに確実に強くなっている。武術家としても、一つの戦場を見渡す士官としてもだ。

そのまま、周囲の怪物を掃討。

ケブラー隊も、充分に活躍してくれた。

戦闘していた部隊が、再展開する中。ジョン中将が無線を入れてくる。

「荒木班。 この洞窟の事は聞いているな」

「問題ない」

「よし。 村上班、荒木班、メイル4とともに洞窟の威力偵察を頼む。 他の部隊は、指示通り周囲の戦場に展開。 どこも楽な戦線は無い。 一刻も早く救援をしてくれ」

「イエッサ……」

兵士達の顔には不満が貼り付いている。

荒木軍曹が来たので、手を上げて挨拶。荒木軍曹は、苦笑いをしていた。

「壱野、流石だな。 それと弐分、もう戻ったのか」

「はい。 医者に無理を言って」

「また入院するなよ」

「分かっています」

無理をするなと言っているのだ。それを弐分も分かっている。

補給を済ませていく。

すっかり、この作業も慣れてしまった。既に村上班の備品となっているデプスクロウラーも、大型移動車から此方に一華が遠隔でもってきていた。

洞窟は崖の中腹にあって、入るのは少し手間になりそうだ。エイレンを運び込む事は難しいだろう。

また、洞窟の中には大きな気配と。

びりびりくる強烈な威圧感があった。

間違いない。いる。

サイレンだ。

サイレンについては、まだ本気を見る事が出来ていないと壱野は考えている。どれだけ備えても、油断は出来ないだろう。

メイル4が来る。最新鋭のマグマ砲を装備している、対洞窟特化のチームのようだ。人員は四名だけ。

ただ、いずれも手練れに見えた。

「総司令部直下部隊、メイル4だ。 名高い荒木班と村上班だな」

挨拶を軽く交わす。

本部肝いりの荒木軍曹については、メイル4は知っているようだったが。壱野に対しては、露骨な疑念の目を向けてくる。

一目で分かる、特務の精鋭だ。それなりに強いのは間違いない。

まあ、この疑念も仕方が無いのだろう。

村上班はプロパガンダの産物だ。

そういう噂は、未だに軍内にあると聞いている。一日で数十隻のテレポーションシップを撃墜。

その話を聞いて、本当だと信じられる人間は、あまり多く無いのも無理はないのだ。

「荒木准将。 本当に村上班の壱野大佐は勇士なのか」

「ああ、それは俺が保証する。 多分人類最強の戦士だ」

「……」

「光栄です」

嫌みは無い。

荒木軍曹に認めて貰えるのは、本当に嬉しい話だ。

まずは、ブリーフィングから。洞窟を三城に見張って貰い。その間に、軽くブリーフィングをする。

「洞窟内に一度入った部隊は、怪物に追い立てられて逃げ出してきたが。 電波中継器は撒いてきた。 途中まで洞窟のマップは出来ている」

荒木軍曹がタブレットで図面を見せてくれる。

入口から、下に下に伸びていると思いきや。実は、崖からほぼ水平に進んでいる洞窟である。

サイレンが潜んでいるとすると。それこそ、飛び立つのに丁度良い条件なのだろう。

「γ型やアンドロイドの群れに遭遇したという報告があるが……」

「擲弾兵がいるかも知れないな」

「厄介な相手だ。 デプスクロウラーの火力に期待している」

「お任せを、ッス」

一華が自前のPCをデプスクロウラーに移し替えている。もうプログラムなどのアップデートは済ませてあるという話だが。

それでも軍用PCも吃驚の性能を持つPCだ。直接接続するだけで、性能を倍増しに出来るのだろう。

一華の動きをみて、更に不審そうにするメイル4の指揮官。少佐の階級章をつけているから、ずっと階級としては下なのだが。総司令部直下だから、実階級よりも権限は大きいのだろう。

「コンテナの接続、頼むッスよ」

「今やってる所だ」

山県もてきぱきと動いている。数少ないエアレイダーだ。支援任務は、昔から散々やっていたのだろう。

最近は安酒を浴びるように呑む事も減ってきていた。

恐らくだが、連戦が厳しく。酒を飲んでいると体が保たないと判断したのかもしれない。

「では、入口を確保し次第、内部に入る。 くれぐれも足を引っ張るなよ」

メイル4の指揮官に言われて、壱野ははいと応えておいた。

まあ、それでいい。

実績は、戦場で見せればいいのだから。

 

1、魔の洞窟

 

病み上がりだが、弐分は何とか動けている。一応体は万全とまではいかないにしても、皆の足を引っ張らない程度には動ける。

狭い洞窟の空間だと、高機動は死を意味する事も多い。

このため、今回は大型散弾銃と、ガトリングを主体に装備を組んでいた。

いずれも洞窟内では絶大な火力を発揮する。

ガトリングも、銃弾を発射するタイプではなく、いわゆるヘルフレイムリボルバーだ。

プロフェッサーが改良してくれて、更に火力は上がっている。

問題は空気についてだが。

この洞窟は、彼方此方に穴が開いて地上につながっているらしく。洞窟内を風が循環している。

火を多少焚いたところで、酸欠になる恐れは無いだろう。

入口付近に群れていた怪物を掃討。内部は聞いていたが、迷路状になっている。デプスクロウラーを中心に、コンテナを守りながら進む。弐分は後衛を任された。同じく、荒木班の相馬中尉が後衛に入っている。

相変わらず寡黙な人だ。

小田中尉と漫才をしている事が多い浅利中尉とも、また色々と違う事情があることは知っている。

荒木班は問題児の集まりだが。

その問題児達をしっかり統率しているのが荒木軍曹だ。

荒木軍曹が、声かけをしながら、周囲に対して警戒をする。

大兄が時々、敵の存在を察知。

それが悉く当たるので、メイル4が不審の声を上げていた。

「それはなんだ。 どうして敵の場所が分かる」

「大将はいつもこうなんだよ。 おっそろしい程勘が冴え渡っていてな。 敵の奇襲を許したことがねえ」

「にわかには信じがたいな……」

「いや、事実だ。 俺も何度も助けられている」

荒木軍曹が補足すると、流石にメイル4も黙らざるをえないようだ。総司令部直下の特務でも。

最強特務と名高い荒木軍曹には、一目置かざるを得ないのだろう。

入口付近はγ型だらけで、蹴散らして行くだけで良い。

たまに前に出て、ヘルフレイムリボルバーで焼き払う。慣れていないフェンサーだと、振り回されるだけらしいが。

弐分は此奴を使い慣れている。

接近するγ型は、文字通りの地獄の炎で瞬く間に焼き尽くされていく。

狭い通路では、此奴の火力は独壇場そのものだ。

「クリア」

「腕は悪くは無いようだな」

そう言ってくれると光栄だが。

ちょっと鼻につく言い方だ。

総司令部直下というと、北米の総司令部から来ているのだろう。リー元帥は部下を見る目が若干怪しい所があり、カスターのようなのを秘書官にしているから。ちょっと不安はあるが。

だが、ここでは協力しないと生き残れない。

「後ろだ。 かなりの数」

「すぐに備えてくれ!」

「くそっ! なんだってんだ!」

メイル4の兵士達が呻く。

そして大兄の予言通り。間もなく大量のγ型が来る。しかも、一部は前の通路に回り込んできている。

「こっちは俺が片付ける」

「よし、弐分、頼むぞ。 皆、弾丸は可能な限り節約しろ。 奧には何が潜んでいるか分からないからな」

「……」

むすっとした様子で、メイル4は戦闘を行う。ヘルフレイムリボルバーで敵を焼きながら、押し返す。時々三城が支援してくれるが、ぶっちゃけ一つの穴を守りきるならば、弐分一人で余裕だ。

大量のγ型も、超高熱の炎には為す術がない。次々に焼け死ぬが。それでも次から次にと突っ込んでくる。

それが全て死んで行くのは、誰かが敵を殺せれば良いと思っているのか。

それとも前々周に戦略情報部の少佐が言っていたように、環境改善用のバクテリアを撒く事だけが目的なのか。

それもちょっと、弐分には分からなかった。

敵を倒しきる。γ型の焼死体が焦げながら散らばっている。生暖かい風が、凄まじい臭気をすぐに運び去っていく。

顔をしかめているメイル4。

「実験部隊とは聞いているが、随分いい装備を回されているな」

「いや、俺もみているが、実際には手当たり次第に回されている様子だ。 戦場での実地試験をさせられている感じだな。 それで生き残れているのは、村上班の皆が強いからだ」

「荒木准将は随分と彼らを買っているのだな」

「実力を間近で何度も見ているからな」

荒木軍曹がクリアリングを済ませて、ハンドサイン。敵影無しの合図だ。

そのまま展開する。奧には複数の通路が延びていて。手際よく山県が電波中継器を撒く。地図がどんどん出来ていく。

「少し先に、かなりの数の怪物がいますね」

「壱野、誘い出せないか」

「やってみます」

大兄が狙撃。

程なくして。凄まじい地響きがし始めた。

来る。大量のγ型だ。バック。荒木軍曹が叫ぶ。弐分は最後衛に立つと、ヘルフレイムリボルバーで一気にγ型を押し返す。

だが、γ型は後方の通路からも来る。

複雑な洞窟の構造を熟知し、それを利用し尽くしていると言う事だ。

厄介極まりないが。

それでも、どうにか処理するしかない。

「弐分、其方は任せるぞ! この通路では爆発物はまずい! アサルト主体で迎え撃て!」

「くそっ、面倒だなおい!」

「油断しすぎて接近させるなよ」

「ああ、分かってる!」

浅利中尉に釘を刺されて、てきぱきと小田中尉が動く。少しずつさがりながら、わんさか絶え間なく押し寄せてくるγ型を焼く。

大兄が、かなり重い音のアサルトで射撃している。実験用に回されているアサルトらしい。だが、その音はすぐに聞こえなくなった。使えないと判断したのだろう。

激しい戦いを三十分ほど続ける。緩急をつけながらも、γ型は諦めずにひたすら押し寄せてくる。

メイルチームの指揮官が呻いていた。

「少しばかり数が多すぎる。 この洞窟は元々自然洞で、大した規模は無かったはずだ」

「怪物はよく自然洞を巨大に造り替える。 此処もそういう場所なんだろう」

「荒木軍曹。 また来る」

「三城、少し時間を稼いでくれるか」

三城が今度は前衛に出たようだ。そのまま、雷撃銃で敵を追い払っているらしい。

ヘルフレイムリボルバーでずっと押し寄せるγ型を焼いているから見えないが、電撃銃の音が聞こえる。

つまりはそういうことだ。

しばし、戦いを続けて。ようやく敵の攻撃が止んだ。

かなり息苦しいと思ったが。風がやはりかなり激しく洞窟内を通っていて。すぐに息苦しさもなくなる。

それにしても、この風。

まさか。サイレンの呼吸ではあるまいな。

「コンテナの物資は」

「まだまだ大丈夫ッスよ」

「入口があんな場所だ。 追加の物資を運び込むのは難しい。 大事に使え」

荒木軍曹が警告。

頷くと、そのまま皆で奧へと進む。

なんだかんだで、メイルチームも嫌みを言ってくる様子はない。大兄の動きをみて、慎重に判断はしているようだが。

複雑な通路に出た。

またか、と言いたくなるが。とにかく、分散しないように、電波中継器を撒いていく。周囲には、一秒でも気を抜けない。というか、弐分でも分かる程、ビリビリと殺意が満ちている。

勿論殺気など存在しない。

弐分の体が、危険を察知していると言う事だ。

進もうとしたメイル4を、荒木軍曹が呼び止める。

「離れない方が良い。 少しずつ進もう」

「しかしこれでは何日かかるか分からないぞ」

「そういうものだ。 洞窟探検は嫌になる程やった。 怪物の群れ、奧にはだいたいマザーかキング。 ブレイザーが支給されて、かなり楽にはなったが。 それでも手強いことに代わりは無い」

「……」

ブレイザーか。

特務の幾つかに支給されていると聞いているが。メイル4は渡されていないのだろうか。

追加生産分に期待というところだろう。

無線が入る。

成田軍曹だった。

「皆、すぐに後退してください。 ルートは此方で指示します」

「どういうことだ」

「ソナーによる解析の結果、その地点が非常に多数の敵に包囲されやすい地形だと言う事がわかりました。 急がないと、完全に囲まれます」

「なるほど、感じていた嫌な気配はこれか」

荒木軍曹が、バックと叫ぶ。

弐分は最後尾に相馬中尉とともに残る。そのまま、デプスクロウラーを中心に、指示を受けた方向へと急ぐ。

ごごごごと、音がする。

何かが多数うごめいていて。その音が混じっていて正体が曖昧になっているのだ。やがてそれが少しずつ、機械音と。それと足音だと言う事がわかってきた。

いる。それも少ない数じゃない。

「速度を上げろ!」

「くそっ! 敵は随分と用意周到だな!」

ライサンダーZの音。この様子だと、至近で大物を大兄が撃ち抜いたな。そう思いながら、みる。

擲弾兵だ。それだけではない。通常アンドロイドもわんさかいる。どっと、押し寄せてくる。

成田軍曹にはいい印象が殆ど無いのだが。今回は警告が早くて助かった。急いで距離を取りつつ、フェンサー用の大型ショットガンで牽制しつつさがる。ヘルフレイムリボルバーは足を止めないと使えない弱点があり、一通路を塞ぐには使えるが、移動しながら撃てないのだ。

相馬中尉もアサルトを射撃しながら、後退を続ける。まだ入り組んだ通路が続いていて、至近で金α型とばったり。だが、酸を放つ前に、こっちがショットガンで撃ち抜く。ひやりとさせられる。

コンバットフレームでも、一瞬で粉砕される火力持ちだ。

糸が飛んでくる。銀のβ型もいるのか。小田中尉がぼやくのが聞こえる。

「おいおい。この間金銀どもは散々駆除したじゃねえかよ!」

「むしろ幸運だと考えろ! 此奴らがこれだけいるというのは、この洞窟がそれだけ重要だと言う事だ! 此処で叩き潰し、周囲への被害を可能な限り抑える!」

「正論だが、生き残れるのかこれは!」

「生き残れる!」

弱音を吐くメイル4を、荒木軍曹が叱咤。追いすがって来る敵を、必死に蹴散らしながら急ぐ。

見えてきた。一本になっている通路。成田軍曹が、無線を入れてくる。

「その地点を基点に、敵を迎撃してください!」

「弐分、相馬! 急げ!」

「了解!」

相馬中尉が、アサルトを乱射しながら通路に飛び込む。

弐分もそれを見届けると、ジャンプブースターで飛びさがる。

後は殺到してくるあらゆる怪物に対して、全員で弾幕をひたすら展開する。通路が狭いので、大物は出てこないが。金のα型に銀のβ型。アンドロイドの大軍。なによりも擲弾兵。

擲弾兵相手に、ヘルフレイムリボルバーは悪手だ。皆が食い止めている間にコンテナに走り。

大型の通常弾を発射するガトリングに切り替える。

これも本来はAFVに搭載するレベルの代物だが。フェンサースーツだからこそ使える装備だ。

壁に横に貼り付いて、更に火力を確保したままデプスクロウラーが射撃を続けている。器用な事をするなあと思いながら、ガトリングで敵を撃ち抜く。大兄が優先的に擲弾兵と金α型を蹴散らしてくれているが。それでも通路を埋め尽くす勢いで敵が来る。アンドロイドのバリスティックナイフは、雨霰と降り注いでくるし、とても油断出来る状態ではない。

接近してきた金α型を柿崎が斬る。

グッドキルと荒木軍曹が声を掛け、自身も射撃を集中して銀β型を屠る。みると、色合いがくすんだ銀β型が多い。亜種だ。本来の銀β型よりも、若干タフなようだが。それ以外にあまり代わりは感じられない。

来る。

かなりの数の擲弾兵だ。大型もいる。大兄が、まだ遠いうちに爆破。洞窟が激しく揺動する。

メイル4は泣き言は言わない。

撤退しようとか、そういう事は。

それだけは立派だ。あのK6作戦で、自分だけ逃げたEMCの運転手とは違う。或いはあれを戦訓にしているのかもしれなかった。

大型を撃破してから、ガトリングで迫る擲弾兵を一気に薙ぎ払う。

次々と爆発が連鎖するが、怪物が何かで固めてでもいるのか、落盤の恐れは無さそうである。

だからといって、ロケットランチャーなどを使う気にはなれないが。

「まだ来る」

「念入りな守りだ。 補給を交代で行いながら、敵を排除する。 これだけの強固な守りだ。 奧には何かあるとみていい」

「事実、奧には今まで感じたこともない強烈な気配があります」

「壱野がそれほどまでにいうほどか……」

きっとお宝だ。

小田中尉が、そんな事を言い出した。

恐らくだが、ムードメイカーとしての役割を買って出てくれているのだろう。皆が呆れるが。

それも計算尽くなのだろう。

「エイリアンどもが、きっと奴らにとって貴重な物資を隠して怪物共に守らせているに違いないぜ。 俺たちで見つけて、総司令部から報奨金もらおうぜ」

「報奨金はともかく、この怪物の量は異常だ。 何かがあるというのには同意する」

メイル4も苦虫を噛み潰しながら同意する。

そのまま、弐分はしばらく射撃を続けた。

 

ようやく敵を排除したのが二時間後。

先に、荒木軍曹が大兄とともに先行。その間、交代で見張りをしながら、休む事にする。

メイル4の指揮官は、ヘルメットを脱ぐ。

かなり若い。

弐分と同年代の青年に見えた。

実の所米国の人間も、金髪碧眼は殆どいないと言う話は聞いたことがあるのだが。この人物も違った。

ただ、今までの戦闘を見る限り。実力で特務になっているのは、確かだった。

ただこの若さである。

恐らくは、荒木軍曹達と同じ肝いりなのだろう。

「村上弐分中佐だったな。 俺はメイル4のホース少佐だ」

「はい。 先ほどは見事な武勇でしたね」

「そう言って貰えるとありがたい。 俺たちのチームは、エルギヌスが出現した戦いで、大恥を晒したからな」

知っている。

総司令部直下の部隊は消耗も激しいと聞く。英国の貴族が、一次大戦の時には積極的に前線に出たと言うが。

米軍などでも士官はクーラーの効いた部屋でゲームみたいに戦争ごっこをしているなどと批判された事もあり。

ましてや怪物は狙撃をしてこないこともある。

今ではEDFでは、士官も前線に出るのが当たり前だ。

「だから俺たちは必死に名誉を取り戻すために戦って来た。 大勢の仲間が死んだ。 だが、まだ俺たちを笑う奴らは多い」

「……」

「今回の戦いで、俺たちよりも強いチームがいるのがよくわかった。 お前達は間違いなく勇士だ。 ここから先、頼みにさせて貰うぞ」

「ありがとうございます。 此方こそ、いざという時は頼みます」

大兄が戻ってくる。荒木軍曹と一緒に、バイクで。

荒木軍曹もバイクで悪路を難なくいけている所をみると、流石だ。コンバットフレームのライセンスをもっていると聞いているが。肝いりとして訓練を受けたとき、あらかたの乗り物は使えるようになっているのだろう。

相馬中尉は、随分とコンバットフレームのライセンス取得は苦労したと聞いている。

確かに、トップエースというに相応しい圧倒的な活躍を見せている一華とは、明らかに力量が違う。

だがそれでも、相馬中尉は腕利きだ。

エイレンの武装を強力にして、少しでも差を補おうとしているのは、その辺りが理由かも知れないが。

一華はスペシャルなのであって。相馬中尉の腕が落ちるわけではないと思う。

「よう大将、軍曹。 偵察はどうだったよ」

「どうやら、怪物の駆逐は終わったようだ。 この先にいる全敵部隊が、さっき仕掛けて来て、壊滅したようだな」

「其奴は良かったぜ。 後は洞窟探検か?」

「だったらいいんだがな。 壱野がいうには、奧にはまだ悪意が散々あるそうだ。 要するにトラップがあると見て良いだろう」

休憩を済ませておく。

また。支援部隊が苦労してコンテナを運んできてくれた。出来るだけ急いで戻るように、荒木軍曹が指示。

支援部隊も、すぐにカラになったコンテナを引いて、戻っていった。

それはそうだ。あんな不慣れそうな部隊。この先に連れて行く訳にはいかない。

休憩後、移動開始。

幸い既に夜になっている。

あまり生活リズムを崩すのは良くないが。此処では流石に、夜に動いた方が良いだろう。怪物の動きも鈍くなる。

金銀を多数配置して、守りに掛かる程の場所だ。

サイレンが奧にいる可能性は極めて高く。だとすると、プライマーも必死に此方を消耗させようとするだろう。

ある意味宝というのは正しい。

小田中尉も、何処かで勘が働いているのかも知れない。

奥へ奥へと進む。複雑極まりない経路になっているが、成田軍曹がしっかりナビをしてくれる。

大兄に、移動中にホース少佐の事を話しておく。

大兄は既に事情を知っていたようだ。或いは、先に部隊長として、話を聞いていたのかもしれない。

まあ、あのような失態をおかした部隊の一員だ。

それは、躍起になるのも仕方が無いのかもしれなかった。

湖に出た。

こういうところは経験上ろくでもないのだが。怪物の気配はない。湖の規模もそれほど大きくない、

湖の縁を通って、更に奧へ。

三城が天井を指さす。

穴が開いていて、星空が見えた。

「これは、驚いたな。 空気が洞窟の中なのに澄んでいる訳だ」

「この辺りの山地は地形が複雑で、戦争が始まる前は世界中の登山家が来るような山場だった。 この洞窟もこんな風になる前は、観光名所だったのだがな」

「詳しいな」

「俺のチームに、以前この辺りに住んでいた奴がいた。 もうやられてしまったが」

ホース少佐はそんな風に言う。

洞窟は、あくまで浅いまま、横につながっている様子だ。

そして、荒木軍曹が、足を止めた。

「……止まれ」

「どうした、軍曹」

「さっきから、怪物の姿が一切無い。 それも、似たような地形ばかりが続いている」

「確かにその通りだ」

洞窟の中だ。同じ所をくるくる回っていることはないだろう。

ただ、荒木軍曹は、説明をしてくれる。

「こういう場所が一番危ない。 似たような地形の安全な場所を何度も繰り返して、刷り込みをし、不意打ちをする。 常套手段だ」

「だけどよ、大将は危険を察知してないんだろ」

「いや、転送装置などを敵が隠していた場合はどうなるかはちょっと分かりません」

「転送装置。 噂には聞いているが……」

プライマーが利用する、地底に怪物を送り込む小型アンカー。自動で地面を掘り進む能力があり、非常に厄介な存在だ。

確かに、稼働していない転送装置が、不意に動き出したら、大兄も反応が遅れるかも知れない。

大兄だって、万能では無いのだ。

「かといって、どうする。 もたついていたら、いつまでたっても奧へ進めないぞ」

「……俺と壱野が最前衛に。 デプスクロウラーを重点的に皆で固めてくれ。 弐分、三城とともに最後衛についてくれるか。 三部隊が相互補完して、奇襲を受けた場合に対応する。 勿論それぞれが少しずつ距離を取る」

「了解……」

ホース少佐も、ぐうの音が出無い様子だ。

荒木軍曹は、的確な作戦指示を出すな。

そう思いながら、フォーメーションを変える。

どっちみち、配置していた怪物やアンドロイドが全滅したのなら。プライマーが対策しない筈も無い。

サイレンが現れたという報告はまだ来ていない。

ということは、どうせろくでもない事が発生するのは目に見えていた。

それならば。

三城に先に、小声で耳打ちしていく。

「グレートキャノンでは無くて、小型のプラズマキャノンの装備をしておいてくれ」

「分かった。 でもどうして」

「転送装置は脆い。 小回りがきく小型プラズマキャノンで、出現し次第即座に粉砕してほしい」

「やってみる」

三城がこくりと頷く。

さて、ここからが正念場だ。

金銀が散々出て来たような洞窟である。サイレンが何らかの理由でまだ調整中だとすれば、倒す千載一遇の好機。

倒せないにしても。この洞窟の守備隊を壊滅させたなら。それだけで、存分に戦果を上げられたと言って良かった。

 

2、罠罠罠

 

荒木軍曹の言葉は当たった。実際には准将だが。柿崎も、既に荒木軍曹と呼んでほしいと言われ。

そうするようにしていた。

そして、常に前線で兵士としてあるというだけあって、荒木軍曹の指示は的確だ。兵法に皆かなっている。

兵士としての適正が高い人間が、常に指揮官として優れている訳ではない。

それは柿崎も分かっている。

だが、荒木軍曹の場合はどちらの適正も高い。

恐らくだが、村上家の三兄弟のように、戦の申し子。

普通エリート部隊なんてものは、柿崎でも知っている事だが。張り子の虎である事が多い。

しかし、どうやら荒木軍曹は違う様子だ。

それについては、戦う度に思い知らされる。

中々に、面白い。

人斬りとしての自分を柿崎は自覚してきている。たまに斬ってみたいと思うけれども、それは我慢する。

幸い周囲にたくさん斬る事が出来る相手がいる。

だから、それで我慢すれば良いのである。

何だか。地底湖が続いていて。似たような光景が延々とあって。そして四回目。先行していた荒木軍曹達の周囲に、いきなり転送装置がわんさか湧くのが見えた。

「転送装置だ!」

「やはりトラップか!」

「支援しろ! 急げ!」

村上壱野大佐と荒木軍曹は、ブレイザーとストークでそれぞれ応戦している。だが、転送装置から出現した怪物の数が多い。

デプスクロウラーとともに突貫。転送装置を一つバッサリ斬る。機械の割りには、手応えがない。爆散。命ないただの道具なんてどうでもいい。生きている相手を斬るのが楽しいのだ。

現れた怪物を少しでも斬るが、少し地形が複雑になっている上。怪物は天井も地底湖の中も平気で歩き回る。

それに対して、此方はそうも行かない。

立体的に動き回る怪物共に対して、自分から死地に飛び込むしかない。

至近。

α型。

一瞬早くプラズマ剣で首を刎ね飛ばす。更にすり足で移動して、天井から放たれた酸の糸をかわす。

パワースピアを投擲して焼き払い、次。

斬って斬って斬り伏せる。

転送装置は、次から次へと湧いてくる。皆がどっとこの広間に集まり、デプスクロウラーを中心に防戦を開始するが。それを嘲笑うような物量だ。今まで良くもやってくれたな。そう怪物達が笑っているような気がする。攻撃は熾烈を極め、見る間に負傷者が増えていく。

至近距離に来た金のα型を斬り伏せ。更にβ型も唐竹にたたき割る。次、そう呟きながら更に斬るが。敵の数が多すぎる。

むしろ嬉しい悲鳴が体からわき上がるようだが。

死んだら元も子もない。

突貫しすぎないようにしながら、周囲をみる。

兵法の基本。

ただ、どんな名将も。最初に戦場に出たときは、右も左も分からなかったという話を聞いてもいる。

それを考えると、即戦力ばかり求める状況とか言う今の時代を馬鹿馬鹿しくも感じるし。

何よりも、今こうして戦いながら。

戦えている自分が、楽しくてならない。

「転送装置破壊!」

「まだ来る可能性が高い! コンテナを守りながら怪物を駆逐しろ!」

「三城、備えてくれ」

「わかった」

三城が上空に出る。

柿崎を破った、武術の達人。プラズマ剣も渡されている。一度渡り合ってみたいが、それを状況が許さない。

ああ、もう。

もっと斬り合いがある相手と戦いたいなあ。

そういえば、この間交戦した黒いキュクロプス。あれからは、とんでもない殺気を感じた。

殺気なんかない事は、柿崎だって知っている。

それだけびりびり来るほど、凄まじい強さを体のあらゆる器官が感じ取り。そして警告してきていたのだ。

あれを操縦していた奴。

本当に強かったはずだ。ああいうのを斬りたい。

まあいい。ともかく、今はまだまだ手近にいる敵を斬り伏せる。それで我慢するしかないだろう。

後ろから襲ってきた相手を、振り向きもせずに斬る。

背後にいる敵を斬る技の一つ。

斬馬刀のように長いプラズマ剣なら、別に造作もない技だ。

そのまま、斬って斬って斬り伏せて、周囲に死体の山を作りあげる。メイル4の一人が酸を浴びそうになっていたので、敵を斬り伏せて助ける。礼を聞く必要はない。

自分が楽しむために、戦っているのだから。

自動砲座を山県中尉が展開。

周囲の怪物を、片っ端から薙ぎ払い始める。自動砲座の展開が遅れたのは、コンテナ周囲の敵の密度が高すぎて、それどころではなかったからだ。

これでやっと一段落したが。

それでも、まだまだわらわらとやってくる怪物。

奥にある転送装置を三城が発見。ノータイムで、プラズマキャノンを叩き込んで粉砕する。

飛行型が其処からは出て来ていたのだが。

地底では力を発揮しきれない飛行型まで出してくる辺り、プライマーも此処の守りは本気と言う事だ。

「負傷者を応急処置!」

「分かった!」

「急げ、態勢を整えろ!」

デプスクロウラーはコンテナを切り離し。正確極まりないガトリングで周囲を薙ぎ払っている。

時々酸も喰らっているが、それは誰かを庇っての事。

デプスクロウラーならまあ多少は耐えられるから、なのだろう。

空間の天井から狙って来ていたβ型を、パワースピアを投擲して叩き落とし。落ちてきた所を真っ二つにする。

プラズマ剣は非常に優れた武器だが。

実体剣と違って、斬ったときの手応えが薄いのが残念だ。

プロフェッサーに一度、斬ったときに手応えが残るようにしてほしいと注文をつけたら、意味がわからないと困惑されたっけ。

やはり、こういうのは実際に楽しさを理解しないと駄目なのだろう。

今のが最後の一体だった。

すぐに皆が補給を開始する。荒木軍曹は、急いでブレイザーのバッテリーを交換していた。

壱野大佐は、奧をじっとみている。

この空間での怪物は、打ち止めのようだった。

戦略情報部から無線が入る。

「此方成田軍曹」

「聞こえている」

「電波中継器のソナーから、周囲の空間について割り出しました。 まだ先に、広い空間があります。 その空間の先に、長い通路が続いている様子です」

「分かった。 対応する」

荒木軍曹が無愛想に応じて、周囲を見回す。

負傷者は出ているが、皆戦えないほどでは無い。

「次の空間が、恐らく本命だ。 此処より広いとなると、マザーモンスターやキングが出現する可能性もある。 もし現れた場合は、他の全てよりも優先して撃ち倒してほしい」

「了解」

「イエッサ」

メイル4のホース少佐と、壱野大佐がそれぞれ応える。

応急処置と手当てが終わったので、次へ。再びデプスクロウラーとコンテナを接続して、奧へと進む。

ひんやりとした空間だ。

かなり凹凸があり、戦いにくい状況になっている。

すぐに皆が無言で展開する辺りは、歴戦の部隊だ。柿崎もすぐに動いて、前衛に回る。

殆ど間をおかず。壁に、ずらっと転送装置が出現した。

「来やがった!」

「すぐに破壊しろ!」

立て続けに三城がプラズマキャノンで即応。複数個の転送装置を破壊するが、それでも大量に怪物が出現する。

出現した怪物は、わっと押し寄せてくるが。この複雑な地形である。乱戦は避けられない。

そして、密集したところを、小田中尉のロケットランチャーが、まとめて吹き飛ばす。完璧なタイミングだ。

浅利中尉のアサルトが、弱った敵にとどめをしっかり刺していく。

乱戦の中、一番暴れているのは壱野大佐だが。あれは規格外。

柿崎は、出来る範囲で楽しく敵を斬ることができればいい。

背後に回ろうとしていた金のα型にパワースピアを投げつけ、叩き落とし。更に即座に、飛びかかってきたβ型を唐竹にたたき割る。

苛烈な戦闘を続けるうちに、軍曹のブレイザーが転送装置を焼き切る。だが、ここはさっきの場所よりも抵抗が激しいだろう。

まだ怪物を掃討仕切れていないうちに、次が出現。

転送装置が壁際に出てくると、其処から凄まじい物量のβ型が出現する。即応した一華中佐が、デプスクロウラーからミサイルの速射を叩き込むが。それでも殺しきれない。壱野大佐がロケットランチャーを連続で撃ち込み。小田中尉もそれに習う。皆で集中攻撃を浴びせているが。

どうも特注の転送装置らしく。

ちょっとやそっとでは壊れそうにもなかった。

このままだと、際限なくβ型が送られてくる。

装備を切り替えた弐分中佐が飛ぶ。

そして、転送装置の側に降り立つと、超高出力を誇るディスラプターで一気に焼き払いに掛かる。

三城中佐も側に行くと、ファランクスで支援。

それでも壊れない。

とんでもない特注品だ。

よくも此処まで頑丈に作ったものである。ちょっと呆れながら。取りこぼした敵を斬り伏せて回る。

あふれ出てくるβ型を駆逐しながらの、転送装置への攻撃だ。

更に、先までに溢れていた怪物もまだまだ残っている。皆、必死の応戦。体力が削られていくのが一目で分かる。

だが、これだ。

このギリギリの戦いこそが、望むものだ。

激しい戦いを続けて、敵を斬り伏せ続け。ほどなくして、β型以外の敵はいなくなる。転送装置へも致命傷が入ったらしく、不意にβ型が湧かなくなる。

一気に転送装置に集中攻撃を皆で行い。

それで、やっと転送装置が破壊された。

とんでもない強度だった。柿崎は、周囲を見回して、取りこぼしを探す。壱野大佐ほど、完璧に気配は察知できない。

「すぐに補給しろ! 負傷者の応急処置も!」

「……いえ、時間はあまりありませんね」

「くそっ、しつこすぎるぞ!」

再び、壁にずらっと転送装置が湧き出す。

柿崎は猛然と突貫。三城中佐が放ったプラズマキャノンが、複数の転送装置を粉砕するが、それでも怪物は出てくる。それを斬る。

次々に斬っている間に、柿崎を追い越した弐分中佐が。散弾迫撃砲を叩き込む。閉所で使うのはリスキーな武器だが、そうも言っていられない。

怪物の群れごと、更に複数の転送装置を粉砕。

荒木軍曹が、ブレイザーのバッテリーを交換するために一度後退。隙が出来るが。それを荒木班はしっかりカバー。

壱野大佐が、廉価版のブレイザーを取りだすと、怪物を瞬時に焼き切る。

荒木軍曹のものほどではないが、かなりの破壊力だ。

「もう少しデータを集めたら、ショットガン型のブレイザーも作るそうっスよ」

「ショットガン型!?」

「それ、俺にまわして貰えないか」

「はあ、まあ了解ッス。 プロフェッサーに提案して見るッスわ」

小田中尉は、また変なゲテモノ兵器を欲しがるのだなあと思う。ショットガン型のブレイザーなんて、想像もできない。

ともかく、怪物の群れとの戦闘は一進一退。複雑な地形を利用して、激しく立ち回る。柿崎にとっては、望む戦場だ。

こういう場所は、戦術家の技量が試されるのだが。

一武人としても、立ち回りの妙が求められる。

そのまま敵を斬って斬って斬り伏せる。プラズマ剣は刃こぼれもしないし、好きなだけ殺せる。

出力も、独自のコアから供給されていて。

ちょっとやそっとで壊れる事もない。

半笑いを浮かべていると良く言われるが。

それはそうだろう。

こんなに楽しい事は、他に無いのだから。好きな男が将来出来たとしても。これより楽しくは無い。今から、そう断言できる程だ。

最後の転送装置を、隙を見て三城中佐が粉砕。

流石の手際だ。

怪物は天井に壁に展開しているが、それを皆で連携しながら屠って行く。だが、此方のダメージも増えていく。

デプスクロウラーの足が一本、酸をモロに浴びた。

まだ動き回っているが、これは廃車確定だろう。残念だが。

それでも、闘志は衰えていない。

一華中佐は飄々としているようで、実の所結構戦意が高い。体は強くないかも知れないが、戦士としての適正は高い。そう柿崎は、内心で評価している。

山県中尉は敵のヘイトを買わないように上手に動き回って、ロボットボムで置き石で敵を倒したり。

今はデプスクロウラーの弾丸補給をしている。

成田軍曹が、無線を入れてくる。

「一度引いてください! あまりにも敵の攻撃が苛烈すぎます!」

「増援を回す余裕は無いんだろう!」

「それは……」

「だったら、一気に此処で押し切る! 此処は根比べだ。 この守り、敵は奧に何か隠している。 それを暴ければ、恐らく大きな戦果になる筈だ!」

荒木軍曹が、ブレイザーのバッテリーを交換。同時に、戦況が一気に傾く。敵を押し込んでいき。

やがて、最後の一体を、ホース少佐が撃ち倒した。

皆が呼吸を整えているが、壱野大佐の表情からして。これはまだまだ来そうだ。柿崎は、自分の体の状態をチェック。

酸が擦ったりして、パワードスケルトンに何カ所か損傷が生じている。ウィングにもダメージが入っている。

だが、体そのものは平気だ。

一応診断プログラムを走らせると。後三十分、同じように戦闘したら壊れるとか言われた。

それは面白くないな。

流石にフライトユニットの換えは此処には無い。

外に出れば補給車に入っているが、それを取りに戻っている余裕は無い。

まあ、フライトユニットとパワードスケルトンが壊れたら、後は生身で戦うだけだ。

「来る!」

壱野大佐が声を張り上げる。

同時に、地面を粉砕しつつ、キングが出現。更に、奧にはずらっと転送装置が出現していた。

「くそっ! しつこすぎるぞ!」

「小田中尉が言う所のお宝が、余程凄いものなのかもな!」

「へへっ、そう言われると、まだやる気が湧いてくる!」

生真面目そうなホース少佐が、そんな事を言うので。小田中尉も驚いたようだったが、それでも。

士気を挙げるのに、役だったのは事実だ。

猛然と突貫した弐分中佐が、散弾迫撃砲をキングに直撃させる。迫撃砲の弾一つずつがグレネード並みの火力で、それが数十個まとめて炸裂したのである。大型怪物の中では、それほど耐久性がないキングだ。モロに悲鳴を上げる。

其処に、荒木軍曹のブレイザーが炸裂。更に、接近した柿崎が、怪物を切り伏せながら、キングに迫り。

必死に態勢を整えようとしているキングの頭を、たたき割っていた。

凄まじい断末魔の声。

だが、火力を集中しての一点攻撃だ。一気にその間に、怪物に押し込まれる。

転送装置は、次々に火を噴いて爆散しているが。それでも最初に出現した怪物が多すぎるのである。

ただ、楽しい。

柿崎は、もはや何処をみても怪物だらけの中。全力で敵を斬り伏せ、暴れ回る。飛行型が針状に圧縮した酸を飛ばしてきて、それを避け損ねた。フライトユニットがごっそりやられる。

「柿崎中尉、さがれ」

「承りました」

冷静にみていた壱野大佐に言われて、そのままさがる。コンテナに辿りつくと、丁度力つきたフライトユニットが壊れる。

コアは無事だから、此処からは固定砲台か。

雷撃銃を取りだすと、それでひたすらに撃つ。

村上家の三兄弟は、三人とも弓術の技術がオリンピック……それも金メダルを争えるレベルだが。

柿崎も、そこまでではないにしても、一応弓術は嗜んでいる。

ましてやこの空間。

雷撃銃は、適当にぶっ放しているだけでも、怪物をしこたま傷つける。後はひたすら雷撃銃で味方を支援。

走り周りながら、自動砲座を展開していく山県中尉。

こうしてみると、いい加減な不良中年も、しっかり走り回っている。そう思うと、自身も俄然やる気が出る。

最後の転送装置が破壊される。

もうこの空洞は、怪物の死体で埋まりそうなほどだ。それでも、まだ戦闘が続いている。金のα型が来たが。三城中佐が、ファランクスで一閃。瞬時に焼き切った。

ああ、斬りたかったなあ。

そうぼやきながら、支援を続ける。

そして、最後の一匹が天井から落ちると。

やっと、周囲は静かになった。

「やっと片付いたか」

「もうへとへとだ。 生きているだけでめっけものだぜ」

「そうだな。 俺も珍しく同感だ」

浅利中尉と小田中尉が、そうぼやきあっている。宝より命。そういう事なのだろう。まあ、気持ちは柿崎にも分かる。

負傷者が何人か出ている。メイル4のメンバーの内、三人は治療が必要だろう。そのまま、コンテナに入って貰う。

デプスクロウラーも動きが悪くなっている。足の一本が半ばやられたのだから当然と言えば当然。

柿崎も、負傷こそしていないが装備がやられた。

それを見ると、壱野大佐は。後は支援に徹してくれと言う。勿論、そのつもりだ。敵を斬りたいのはやまやまだが。

残念ながら、フライトユニットがやられたときに。プラズマ剣が動かなくなった。電撃銃にエネルギーを供給しているコアと、プラズマ剣のコアは別だと聞いているが。プラズマ剣のコアがやられたか、それとも回線がやられたのだろう。

コンテナに乗ると、正座。

後は、移動するのを見やる。

ジョン中将から、無線が入る。

「此方ジョン中将。 苛烈な作戦をこなしてくれて助かる。 作戦の様子を見たが、これでは普通の部隊だったらどれだけ被害が出たかも想像できん」

「お褒めいただき光栄です。 それで何かありましたか」

「うむ。 まず先に、外に既に支援部隊を待機させている。 戻り次第、負傷者の手当てと、物資の補給はするつもりだ。 柿崎中尉の特注のフライトユニットがかなり痛んでいるようだな。 代わりも手配しておいた」

「有難うございます」

荒木軍曹は礼を言っているが。

この人も、ジョン中将のことはあまり好きでは無いのだろうか。部下には嫌われているらしいが。

その辺り、よく分からない。

普通に有能な将帥だと思うのだが。

ともかく、話を聞く。

「本題だが、電波中継器によると、この奧に地底湖がある。 今まで洞窟内にあったものとは別物の規模だ。 そこに何か大きな熱源反応がある。 十分に注意してくれ」

「了解です」

「武運を祈る」

そうか、熱源反応か。

壱野大佐の表情は険しいままだ。そうなると、恐らくだが。この奥にある「お宝」は。プライマーにとっての宝。恐らくだが切り札になる生物兵器。つまりサイレンとみて確実だろう。

記憶にある歴史と位置が微妙に違う。更には発見時期も違っている。

だが、それはそれ。

バタフライ効果で歴史がかわり。プライマーも作戦をその都度変更しているという事なのだろう。

小田中尉には悪いが、この先に金銭的な宝は無い。

ただ。小田中尉も、それは分かった上で。

あくまでムードメーカーとしての行動をしていると見て良い。

だから、何も言わない。

奧にでた。

地底湖だ。

何だろう。地底湖にも何かいるような気がするが。それよりも、一瞬で其奴に皆が気づく。

浅利中尉が叫ぶ。

「なにかいる! でかい!」

「映像をお願いします!」

成田軍曹が叫ぶ。

そこにいたのは、腕が翼になった、ワイバーンと呼ばれる怪物に似た巨大生物。全長140メートル。翼長もほぼ同じという、規格外の生き物。

体は青く。

そして顔は禍々しく。鋭い乱ぐい歯と、凶悪そうな目で周囲を睥睨している。

サイレンだ。

「怪生物クラスだ!」

「こんな化け物を、プライマーは密かに育てていたのか!」

「すぐに後退しろ! そこで交戦したら、何が起きるかわからん! 急げ!」

「し、しかし少しでも情報が!」

成田軍曹に、阿呆とジョン中将が一喝。

ジョン中将の指示が、こればっかりは正しい。すぐに後退開始。サイレンも此方に気付いたようで、舞い上がる。

周囲に火球をばらまくサイレン。

これでは完全に怪獣だなと、呆れてしまう。しかもこの火球、一撃でケブラーを粉砕するほどの火力があるのだ。それを多数此奴はばらまくのである。

その上、ちょっとやそっとの攻撃で落ちるような事もない。

必死に逃げつつも、荒木軍曹がブレイザーを叩き込む。翼に直撃したが、穴が開く様子はない。

「ブレイザーの直撃で、翼にすら傷がつかないだと……!」

「軍曹っ!」

「分かっている!」

小田中尉に促されて、地底湖のある空間を逃げ出す。

凄まじい崩落音が聞こえた。この様子だと、天井をブチ抜いてサイレンは外に出た様子である。

記憶にある歴史でも、サイレンはもう少し後になるが、潜んでいた洞窟をぶちぬいて突如姿を現し。

クルールに蹂躙されて全滅状態にあったEDFの残り少ない基地を襲撃。

破壊の限りを尽くした。ただ、すぐに破壊されるものがなくなったが。

ただ、今回は違う。

サイレンは無理矢理外に引っ張り出された上に、EDFはクルールの攻撃にまだ耐えている。

今なら。暴れられて損害が増える可能性もある。逆に、撃墜の可能性があるかも知れない。

ただテンペストに耐える怪物だ。

どうやったら倒せるのか、ちょっと柿崎には分からないが。

洞窟から出る。戦略情報部の少佐が、無線を入れてくる。

「此方戦略情報部。 以降、新規に発見された怪生物をサイレンと呼称します。 現在サイレンは地中海に向かっており、既にプライマーの手に落ちている島にて羽根を休めるつもりのようです」

「そうか……」

「一旦帰島してください。 追跡は空軍機で行います」

「それがよさそうだ」

洞窟の外で、大型移動車と合流。

すぐに柿崎のフライトユニットを、長野一等兵がみてくれた。これは取り替えだなと言われたので。まあそうだろうなとも思う。

移動を開始する。

現在、欧州南部ではアフリカから攻め寄せてくる怪物とアンドロイドに対して、防衛線を構築。激しい戦闘を繰り広げているが。

サイレンが動いたと言う事は。このどれかを襲ってくる可能性が高い。

一旦後退して、そのいずれの戦線にも即応出来る場所に移動。一度休憩をする。

それが荒木軍曹の判断で。ジョン中将も、それを聞いて納得してくれた。

基地に行くと、メイルチームとは解散する。

ホース少佐は、壱野大佐に敬礼していた。

「村上班の噂は嘘では無かった。 メイルチームの本隊と合流したら、無責任な噂は嘘だったと俺から言っておこう」

「ありがとうございます」

「うむ。 次の戦いでも、力を貸してほしい」

すぐに総司令部直下の精鋭は戻っていく。負傷者も、優先的に軍病院に入れるのだろう。

まあ、腕は悪くなかったな。

そう柿崎は思った。

明日には、サイレンが飛来する可能性が高い。

恐らくだが、サイレンとの戦闘は。昨日以上の死闘になる筈だ。柿崎は露払いしか出来ないが。

それはそれで。また、面白いとは思った。

 

3、怪鳥との死闘

 

早朝。

三城は、一番早く起きだした。前はどうにも大兄や小兄の後に起きる事が多かったのだが。

それではいけないと思い。

皆より早く起きて、朝の調練をすることにしたのだ。

全て自分で決めたことだ。

自分で決めたのだから、しっかり守る。それが出来なくて、何が一人前か。

三城は淡々と体を動かす。まだ朝早いから、兵士も殆ど見かけない。此処は最前線ではないこともある。

若干、空気は緩んでいる様子だ。

大兄が最初に起きてくる。

三城が先に起きていることも多い最近では。それに驚くこともない。一緒に調練をしていく。

やはり大兄の気の練り方とか動き方とか、相当に洗練されている。もっと鍛えないとなと、三城は思う。

小兄も、すぐに起きてくる。

三人でしばらく体を鍛えていたら。柿崎も来た。柿崎は多少退屈そうだった。昨日、道具を大事にしろとくどくど長野一等兵に言われたのだろう。

まあ、それもそうか。

柿崎の戦いは、殺したいという欲求がダダ漏れになっている。

はっきりいって危険人物だが。こういう戦時には、こういう危険人物が力を発揮できるのも事実だ。

だから、別にそれについて。三城がどうこういうつもりもなかった。

「柿崎中尉、調練に混ざっていくか」

「はい。 お願いいたします」

それぞれ別の流派だから、調練のやり方も違う。

前にも見たことがあったが。柿崎の流派は腕をどう動かすかを中心に考えているようである。

村上流は……これは祖父が色々とまとめ直したらしいのだが。

基本的に足腰を中心に鍛えるようにしている。

それもあって、調練の内容がかなり違っている。まあ、流派ごとに調練のやり方が違うのも、当然だ。

別におかしな事では無い。

調練を終えて、朝食を取っていると。バイザーに無線が入る。

成田軍曹だ。

「村上班、出撃の準備をお願いします」

「サイレンか」

「はい。 どうやら、イタリアの戦線に向かっているようです。 現在、ジョン中将がありったけのケブラーを集めています。 荒木班も向かっています。 可能なら撃墜してください。 駄目でもデータを取ってください」

「分かった」

大兄が、食事をさっと切り上げる。この食糧事情だ。残す事は許されない。皆も、さっさと食事を終える。

山県中尉も、少し遅れたが起きだしてきた。一華は最近早起きが板についているらしく、もう起きてすぐにエイレンUに乗っていた。

ヘリが来たので、大型移動車ごと移動を開始する。

荒木班とは現地合流だ。他に何部隊か、歩兵が一緒に来てくれるらしい。

あまり嬉しくは無い。

むしろ守る必要が生じるだろうから。

現地に到着。ケブラーが、続々と来ていた。ジョン中将も本気だ。だが、ケブラーではサイレンには勝てない。

三城はライジンを装備。

記憶にある歴史では、サイレンは撃墜どころではなく。そもそもまともに交戦する機会もなかった。

昨日。ブレイザーが通じなかったのをみたが。全く通じないのか、それとも他の怪生物と同じく超再生力があるのか。それを見極めなければならない。

アーケルス並みのタフネスがあった場合は、文字通り手に負えない事態になる。

サイレンはもう焼け野原になっている地球を飛び回り、困惑している様子だったから。実の所、アンドロイドや怪物の方が脅威だった。記憶にある歴史では、サイレンが出たころには、EDFにはまともな継戦能力がなくなっていたのだ。

今回は違う。

ケブラーでも歯が立たない事は分かっているが。

数を集めれば、或いは違ってくるかも知れない。

荒木軍曹が来る。相馬中尉のエイレンは、対空戦仕様の様子だ。凄まじい凶悪そうな武器がわんさかつけられている。

「荒木班、現着!」

「村上班、既に展開済みです」

「よし、以降は俺が指揮を執る。 敵の能力は未知数だ。 ケブラー隊、散開。 くれぐれも無理をするな。 戦車隊は攻撃を下手に狙わず、南部から来る怪物の増援を警戒してくれ」

「イエッサ! 各車展開!」

荒木軍曹は、実階級は准将だ。この地点での前線指揮を取るには充分過ぎる階級である。ジョン中将も、前線での指揮は任せると、昨日話をしていた。

ケブラーが一定距離を取って散開。

もう誰も住んでいない小さな街に、飛来する影。

サイレンだ。

テンペストを打ち込むには、少し距離がある。ただ、嬉しい事に敵の航空戦力がいない。DE203は、突入する事が出来る。

「DE203のコントロールは任されてもいいか」

「お願いするッスよ。 私があいつの気を引くので、その間に皆であらゆる攻撃を試してほしいッス」

「分かった」

「任せろ。 一華中佐、くれぐれも気を付けてくれよ」

荒木軍曹が、一華に注意を促す。

高機動型のエイレンUと言っても、あのサイレン相手にどこまで気を引いて。気を引いた上で逃げ切れるか。ちょっと分からない。

サイレンが見えてきた。

兵士達が、ひそひそと話しているのが聞こえる。

「あれが新しい怪生物か……」

「飛ぶ速度はそれほどでもなく、他の怪物と同じ程度らしい。 だがあの大きさだ。 みろ、風圧で木が拉げていやがる」

「台風並みの風を起こす翼か。 とんでもない化け物だな」

「サイレンでなくて、テューポーンで良かったんじゃないのか」

台風の語源になった怪物の名前を出す兵士。博識な人もいるなと、三城は思った。

それはそれとして、サイレンが来る。そして、凄まじい金切り声を飛びながら上げていた。

同時に、攻撃を開始する。

まずは、一華が収束レーザーを叩き込む。このレーザーの出力は、EMCの三十%にも達する。

その上それが一瞬で、一箇所に叩き込まれるのだ。

瞬間火力は、EMCすらも上回る。

サイレンが、ぎゃっと悲鳴を上げて空中で態勢を崩す。

同時に、展開しているケブラーが一斉に機銃を発射。多数の弾丸が、サイレンに突き刺さる。

更に荒木軍曹のブレイザー。大兄のライサンダーZ。小兄のガリア砲。それに三城のライジンの熱線が同時にサイレンに突き刺さる。

兵士達が、余裕の声を上げた。

「所詮はでかくてもただの鳥か!? 叩き落としてやるぜ!」

「相手は怪生物だ! 油断するな!」

凄まじい猛攻が続く。ライジンの二射目を叩き込むと、サイレンはなんと地面に落ちた。驚きである。

サイレンにも、ダメージが入るのか。テンペストを喰らっても、無事だったと聞いたが。

落ちたサイレンに、すぐにDE203が急降下攻撃。ありったけの弾丸を叩き込み、離脱する。

一華が無線を入れている。

「バレンランド、テンペストは撃てるッスか?」

「現在近くにマザーシップがいる。 安全のためにも撃つ事は出来ない」

「ならば……」

跳び上がるサイレン。

また、空中に出ると、余裕の様子で飛び回り始める。

口にライサンダーZの弾を叩き込む大兄。

サイレンが、吐こうとした炎の先手を打たれ、大兄をみる。だが、その目に、今度は回り込んでいたエイレンUの収束レーザーが突き刺さる。

相馬機のエイレンも、対空砲をありったけサイレンに叩き込んでいるが。

三城が見た所、どうやら再生能力が強烈な様子だ。傷をつけてもつけても再生している。

エルギヌスは、タイタンも含めた機甲師団の総攻撃に加えて、村上班の総力を叩き込んで、やっと倒せた。

アーケルスはそれでも足りず。バルガを使わないと倒せなかった。

サイレンは空を飛んでいると言う事もある。バルガですら、手が届かない。これは、厄介な相手だ。

「くそっ! ケブラーの機銃はニクスと同じものだぞ! 半端なビルなんか、一瞬で粉々にする威力だ! それなのに!」

「奴は不死身だとでもいうのか!」

「うろたえるな。 サイレンの能力さえ探れればいい。 状況を見ながら、EMCを揃えての攻撃に移行する。 各車、サイレンの攻撃を受けないように、常に動き回れ」

「りょ、了解!」

荒木軍曹の指示で、距離を取るケブラー。

サイレンは頭に来たらしく、一華機に炎を乱射。次々に着弾するが。上手く跳躍して、一華機はそれをかわす。代わりに、辺りに幾つもクレーターが出来る。火力もアーケルスに負けていないか。

その上空を飛び回るとなると、お手上げだ。EMCでもどうにかできるかどうか。

バッテリーを変えながら、荒木軍曹がぼやく。

「一華! 敵の分析は進んでいるか!」

「もう一度叩き落としてくれるッスか? 山県中尉、コントロールは回すッスよ」

「おう、任せとけ」

仕方が無い。とにかく火力を集中する。

サイレンが不意に、急降下攻撃に移る。文字通り、地面を抉るようにして、飛んでくる。

逃げそこなったケブラーから、兵士が飛び出し。ケブラーが、文字通り玩具のように蹴飛ばされた。

ケブラーも歩兵戦闘車の車体だ。それこそ数トンもあるのに、文字通り吹っ飛び。近くで爆散。

兵士達が唖然とする。

集中攻撃を続ける間に、またサイレンが飛ぼうとするが。

空に閃光。

そして、凄まじい光が、サイレンに降り注いでいた。

悲鳴を上げるサイレン。

スプライトフォール衛星砲だ。どうも軍事衛星の幾つかを、プロフェッサーが再起動して改良しているらしく。それを例の狂った科学者が、更に独自に改良しているらしい。

地面が文字通り溶けるような熱の中、サイレンは浮き上がる。

周囲を睥睨しながら。また凄まじい叫び声を上げる。風圧だけで、吹き飛ばされそうである。

頭には来ているようだが。

攻撃が効いているようには見えない。

むしろ、今のは。

「あら? 私の神の雷、効いていないのかしら」

「どうやらそのようッスね。 サイレン相手には、以降は控えて貰うッス」

「そう、残念」

「ふっ。 あの熱量に耐え抜くって事は、サイレンに熱は効かないって事じゃねえのかな」

山県中尉がぼやく。

そして、リムペットガンという自衛武器を取りだしていた。狙撃銃バージョンもあるが、使いづらい武器だ。

柿崎は、時々パワースピアを投げているが。それでもまず、降りてくるタイミングを狙っている様子だ。

プラズマ剣を試したいのだろう。

大兄が、またサイレンの目に射撃。だがサイレンは、凄まじい火焔を周囲にぶちまける。一華のエイレンがもろに巻き込まれるが。一華が返事をしてくる。

「まだもつッスよ! 攻撃の続行を!」

「くそっ! あの青い鳥、どうなってやがる! 青いんだったら幸せを運びやがれ!」

「むっ……」

相馬中尉が笑ったようだ。

まあ、今の小田中尉の発言は、確かにちょっと面白かったかも知れない。

ともかく、ライジンを叩き込む。ケブラーも散開しながら、集中攻撃を続ける。確かにライジンが効いているように見えない。そうなると、雷撃銃か。

補給車に走って、雷撃型の狙撃銃を取りだす。

どういう原理かはよく分からないが、中距離用の雷撃銃と違って、最終的に目標に収束する雷撃を放つ銃だ。かなりの遠距離まで届く反面、途中にあるもの全てに被弾する可能性があるので、ちょっと扱いが難しい。

これを使うしか無いか。

装備を切り替えた事を大兄に告げる。近づいて来たときはファランクスも試すが、この様子では効くか怪しいだろう。

大兄はそのままやってくれ、と言う。

恐らく、あらゆる攻撃を試しておきたいのだろう。此奴との交戦の記憶はない。少しでも、経験を積まないといけないからだ。

雷撃銃を叩き込む。一応効いているが、やはりダメージよりも回復力が上回っている様子だ。

だが、大兄が呟く。

「回復力はエルギヌスと同等程度のようだな」

「それは本当?」

「本当だ。 ダメージの回復が見える程度だ。 エイリアンよりは早いが」

「分かった。 一点集中で狙うべきだ。 総員、頭に集中攻撃!」

荒木軍曹が話を聞いていたのか、指示を出してくれる。

ケブラーに、頭に集中攻撃するように指示。自身もブレイザーから、狙撃銃に切り替えた。

ライサンダーほどでは無いが、かなりの火力が出るKFFシリーズだ。火力がライサンダーには劣るものの、代わりに扱いやすい。

そのまま実弾での攻撃を加える。雷撃も効くし、実弾も相応には効いているようだ。頭の鱗がはじけ飛ぶのが見えた。後で回収するべきかも知れない。

流石に頭への集中攻撃を受けて鬱陶しいと思ったのか、滅茶苦茶に辺りに炎を吐き始めるサイレン。

ケブラーは慌ててさがり、擱座する車体も出ていた。劣悪な技量の操縦手が動かしているのだと一目で分かる。

更に、サイレンが咆哮。

山の方。

大量のβ型が姿を見せる。同時に、サイレンはその場を離れていく。

ジョン中将が呻いた。

「なんだあれは。 エルギヌスとはレベルが違うぞ。 機動力が高すぎる上に、何度も叩き落としても平然としている。 回復力も著しく高いと言うのか」

「先ほどの戦闘で、ダメージを受けて怯んでいる様子は確認できました。 まずは情報を分析し、どうやったら戦えるのかを調べます」

「急いでくれ。 怪獣映画のごとく、街を襲われたらとても守りきれん。 基幹基地ですら蹂躙されるだけだろう」

戦略情報部は善処すると言っていたが、さてどこまでやれるだろう。

ともかく、β型に対して、隊形を組み直す。

すぐにケブラーを集めて、今度は密集隊形に。戦車隊も同じように陣列を組み直す。

β型だったら、荒木班と村上班だけでどうにか出来る。そのまま、山を降ってきたβ型の数はかなりのものだが、それでも苦戦する程では無い。一斉にケブラーで射すくめて弾幕を張り。

そのまま、片っ端から打ち倒して行く。

荒木軍曹は、バッテリーの充電の手間を考えたか、アサルトライフルでβ型に対応をする。

まあ、このレベルの相手だったら、多少は節約しても良いだろう。

大兄もストークでβ型を蹴散らして行くが。

戦車隊もケブラーも、サイレンとの戦闘直後だ。

動きが鈍く、β型の浸透力の前に接近を許す機体が少なからずいた。そういった部隊を、救援して回る。

此処に集められたのは、残り兵力が少ない中各地から裂いてきた部隊だ。

兵力も決して少なくない。

これが壊滅したら、欧州南部の守りすら怪しくなる。此処で失う訳にはいかないのである。

激しい戦いが続く。その間に、無線が入ってくる。戦略情報部からだ。

「ファイターがサイレンを追跡、空対空ミサイルを打ち込みましたが効いている様子がありません」

「衛星砲に耐え抜く相手だぞ。 戦闘機の空対空など効くものか」

「しかし、あらゆる兵器を試す必要があります」

「それはそうだが……」

そのままサイレンは、地中海のもう無人になっている島に着陸。悠々と休み始めたと言う事だった。

寝ていると言うことで、不快感が募るが。

今から追撃も出来ないし。追いついた所で、どうにも出来ないだろう。

いずれにしても、地下で基本的に生活する生物という事ではないらしい。地上も空も、好き放題という訳だ。

これはアーケルス以上に危険な怪生物が出て来たものである。ひょっとするとだが、プライマーも今回は力の入れようが違うのか。

三城からみても、それは感じる。

ずっとなりを潜めていたあのトゥラプターも再来したほどである。何が出て来ても、おかしくはないだろう。

「β型、更に来ます!」

「奴らは強敵だが、倒せば他の戦線がその分楽になる。 負傷兵を下げ、破損した機体は後退させろ。 俺たちで相手をする」

「分かりました。 ご武運を!」

被害が大きいケブラーや戦車が後退していく。

サイレンが咆哮していたのは、或いは怪物を呼んでいたのかも知れない。埋まってしまったが、あの地底湖にもひょっとすると何かいたのだろうか。

かなりの数のβ型が来る。兵士達は慌てて補給を済ませ。ケブラーが弾幕を張る。射程距離の問題でかなり効率よく殲滅できているが。それでもβ型の浸透力は侮れないし。至近に来られたら経験が浅い兵士では対応できないだろう。

三城も誘導兵器に切り替えて、片っ端からβ型を撃ち据える。

しばらくして、更に一波が来る。かなりの戦力だ。サイレンの声に引き寄せられたのだとしたら。

怪物を従える怪生物。

まさに怪物の王だ。

キングという大型β型がいるが、それとは違う意味での支配者。そういう点でも、危険な相手かも知れない。

「少し後退して陣列を組み直せ。 補給を急げ!」

「わ、分かりました!」

「戦線が接触すると一気に喰い破られる! 絶対に敵を近付かせない覚悟で射撃を続けろ!」

荒木軍曹の指示で、兵士達も必死になる。そのまま、β型の大軍と交戦。しばらく戦いを続けた後、やがて敵の壊滅を確認した。

ただし多数の負傷者も出た。ケブラーにも、被害が決して小さくない。

厄介な相手が出たぞ。兵士達が呻く。

確かに、非常に厄介だ。三城も、その点は同意できる。

それに、アフリカに怪物の繁殖地があるのだとすれば。またこの規模の敵が、何度でもやってくるだろう。

しかもサイレンは飛行型などと同レベルの速度で飛ぶ。米国や印度など、今必死に戦線を展開している地域に飛来してもおかしくない。

戦略を、根本的に見直さなければならないと言う事だ。

勿論、サイレンがどれくらい活発に動くか、というのが問題になってくる。

少なくとも記憶にある歴史では、サイレンはそれほど苛烈に仕掛けてこなかったように思う。

記憶がどうしても曖昧だから、細部についてはどうにもできないのだが。

大兄も、それについては同意している。

もっと記憶がしっかりしている大兄がそうなのだ。

三城の記憶も、其処まで間違ってはいないだろう。

ともかく、基地に引き上げる。

部屋を貰ったので、休む。長野一等兵達はここからが本番だ。その分、三城は休まなければならない。

休む事が、仕事。

体力を回復することが、仕事なのだ。

目を閉じて、しばし無心に休む。数時間後。バイザーに連絡があった。

ジョン中将からだった。

「村上班、聞いてほしい。 北米に移動して貰いたい」

「北米ですか」

「そうだ。 移動基地が暴れ回っているのは聞いていると思う。 北米は南米から北上してくる怪物と、移動基地によって大きなダメージを受けているが。 プライマーは決定打を与えるつもりになったらしい。 コロニストの大部隊を前衛に、怪物、ドローン、移動基地まで動員し、まだ交戦を続けている北米のEDF主力に向けて進軍を開始した模様だ」

そうか、きたか。

記憶にある歴史の転機の一つ。

これで完膚無きまでに敗北した北米のEDFもあって、EDFは継戦能力を更に喪失することになり。

更に後のレッドウォール作戦で全滅的な打撃を受け。以降はプライマーによって好き勝手に蹂躙されることとなる。

開戦二年後には、既に地上で抵抗している部隊はいなくなり。

プライマーはあの奇怪な建造物をにょきにょき建てて。

好き勝手に地上を徘徊し。

EDFどころか、地球人を根絶やしにする勢いで、殺戮を行い。人類は残り人口も分からない程まで殺され尽くされた。

つまり、次の作戦で被害を抑える事が。

歴史を変えることには絶対に必要だ。

これは大兄に言われるまでも無く。あのリングで過去に転移した全員が知っている事である。

「村上班、荒木班、スプリガンはそれぞれ北米に向かってほしい。 現地ではグリムリーパーも投入される様子だ」

「総力戦ですね」

「ああ。 残り少ないタイタンを全て出して戦うつもりのようだ。 エイレンをはじめとするコンバットフレーム、ケブラー、タンク、多数が出撃するらしい。 欧州では被害が大きく、援軍はこれ以上出せない。 君達の健闘を祈る」

ジョン中将は兵士達に嫌われているようだが。

しっかり話を聞くと、きちんと戦局を考え。自分自身も戦いの為に苦悩しているいっぱしの将官だ。

やはり見た目で相手を判断するという人間のやり方は、色々と間違っているのではないのだろうかと三城は思う。

実際問題、三城も大兄達に救出されるまでは、両親からこの世の全ての罵詈雑言を浴びせられ。暴力も加えられたのだ。

あれも、「見た目がなにか気にくわない」とかいう理由で。しかも両親はその言い分が正しいと信じて疑わなかったし。人権屋とか言う連中も、それで両親を擁護までしていた。

嫌な思い出がどうしてもこう言うときには出る。

更には、近年はその見た目を逆手に取って、ポリコレとかいう連中が新たな人権屋として台頭し。好き勝手の限りを尽くしているとか聞く。

人間に人権を語る資格は無いのではと、三城は時々思うのだが。

まあそれはどうでもいい。

ともかく、今は戦うべく、頭を切り換えなければならない。

輸送機が来た。今回は別々に移動しても仕方が無いし。何よりも輸送機が枯渇している。荒木班とスプリガンと一緒に、輸送機に乗り込む。

今回、敵は陽動では無く本気だ。

恐らくはクルールも出てくると見て良いだろう。それも、相当数が、である。

移動中に、敵の移動経路が図で示される。

苦戦中の北米のEDFも、多数のスカウトを派遣して、必死に情報を収集しているようである。

荒木軍曹が、皆に地図の前で説明。

「敵は主力と思われるコロニストの部隊を先頭に、多数の怪物が8群に別れて進軍し、戦略兵器の攻撃を警戒しながら、前進を続けている。 これに対して、ジェロニモ少将率いる決戦部隊が集結。 戦闘に備えて、兵力を招集している状況だ。 更に、敵は本隊とは別に、相当数のコロニストが動いているらしい。 この数は千を超えているそうだ」

「移動基地はどうしている」

「この後続のコロニスト部隊と連動しているらしい。 移動基地は対空戦闘能力が完璧に等しく、スカウトが必死に集めて来た情報だ。 無人偵察機すら近寄れない」

「厄介だな……」

ジャンヌ大佐が呻く。

敵は波状攻撃を仕掛けてくるつもりだ。損害など気にしていない。というよりも、EDF側に出血を強いればそれでいいと思っているのだろう。

既に相当なダメージを受けているEDFは、戦力も枯渇しつつある。主要な基地も、七割ほどが陥落してしまっている様子だ。

各地で敵の大規模部隊を叩き続けて、なおこれだ。

最初の五ヶ月に何もできず、四割もの人間が殺されたツケが響いてきている。もっと過去に戻れていれば。

そう何度も、悔しく思う。

一華が提案した方法で、実験を試してみて良かった。

もしも次に「五ヶ月後」に戻った場合。損害は人類の五割か、あるいは六割に達している可能性すらある。

そうなったら、例え大兄が阿修羅となって不眠不休で大暴れし続けたとしても、戦況はひっくり返せない。

ましてや敵将は、自ら姿を見せることすらせず。どれだけダメージを部隊が受けても、すぐに立て直してくる。

前々周の指揮官とは別物だ。

彼奴が相手だったら、まだ何とかなった可能性はあったのに。

荒木軍曹は、良い報告もあると告げる。

「先進科学研から、それぞれに武器が支給されている。 スプリガンには、マグブラスターの強化版。 更にデストブラスター、それにクローズドレーザーも支給されている」

「安定版だと良いのだがな」

「実験兵器は村上班が試している。 データを蓄積した後の安定版だそうだ」

「そうか、ならば安心して使えそうだ」

荒木班には、エイレンの更なる重武装化。一華には、改良型のレールガンが届くという事だ。エイレンUに装備するタイプだが。火力は文字通りお墨付き。問題はバッテリーの消耗が激しいことで、そう何度も一度の戦場では使えないと言う事だ。

三城にも誘導兵器が渡されている。更にバージョンが上がった誘導兵器で、凄まじい数の敵を同時拘束できるようである。

小兄には、スパインドライバーと呼ばれる射出型の杭。スピア系統と同じ装備だが、射程距離が抜群に長く、怪物の間合いの外から攻撃出来る。その代わりかなり狙いがシビアになる欠点がある。

小兄は、頷いていた。また、ガトリングの新型も回された様子だ。

「広い平原での戦いだ。 敵を引きずり込んで、最終的にはイプシロンレールガンでとどめを刺すということだ。 イプシロンレールガンの戦闘力は皆知っていると思う」

「確かに、マザーモンスターを一撃で粉砕すると聞くな」

「そうだ。 ただイプシロンレールガンは数が少なく、足回りも良好とは言い難い。 戦闘開始地点の状況次第では、到着が遅れるだろう。 それまで敵をどう食い止めるかが、我々の腕の見せ所だな」

荒木軍曹が締めて、ブリーフィングは終わり。

後は各自休むようにと告げられ。それぞれ解散した。

輸送機の中は広くてがらんとしていて。風呂に入った後は、寝ているくらいしかやる事はない。

隅っこにて、クラゲのドローンを抱えて座り込む。

ぼんやりとしていると、大兄が来た。

「あまり美味くは無いが、ココアを淹れた。 飲んでおけ」

「ん」

もらって、ココアを飲む。

確かに、相当にまずくなってきている。

軍用の食糧までがこのまずさだ。既に市場経済は崩壊し、配給制で人々はくらしているだろうが。

皆、とんでもない代物を毎日食わされていることだろう。何というか、いつも本当に心苦しい。

次は、決戦だ。

今のうちに、鋭気を養わないといけない。

それが、仕事なのだ。

 

4、落ち来る悪夢

 

一華は北米に到着すると、軍基地でエイレンUの最終整備を終えた。今回、長野一等兵達は基地に残って貰う。

本来だったら大型移動車で戦場近くに待機して貰うのだが。

今回ばかりはそうもいかない。

というのも、敵の数が多すぎるのだ。

背後に回ってくる可能性もある。大型移動車に自衛能力は存在していない。

良くない情報が入っていた。

大阪基地からの情報だ。

飛騨にプライマーの移動基地が落ちた。それも、香港近くの海岸線で潰したのとは違う、新型のようである。

スカウトが情報を収集してきたが、どうも武装などが一新されている様子だ。

香港近くの海岸で潰した旧型は、装備などが既に何度も交戦したものと同じだったから、どうにでも出来たが。

此奴をどうにかしないと非常にまずい。

日本にいるプライマーの部隊が、次々に移動基地に集まっているという。そうなると、狙って来るのはほぼ間違いなく東京。

毎度毎度、しぶとく抵抗を続ける東京を潰すために、敵は総力を挙げてきていると見て良い。

トゥラプターも来る可能性がある。

最悪だ。

しかも、EDFはこれから北米で決戦を行う。

この決戦に敗れたら、もうこの移動基地を止める手段はなくなる。

北米の方でも、移動基地を相手にしなければならないのである。村上班が、出来るだけ暴れるしかないだろう。

荒木班もスプリガンも頼りになるが。

それでも、やはり人間の領域は超えていない。

これから合流するグリムリーパーも同じだ。

敵の先発隊にはドローンがいない。それを利用して空爆を仕掛けて、可能な限り敵を削るつもりのようだが。

はてさて、どこまで上手く行くか。

まずは、基地で機甲部隊と合流する。

タイタンが六両。戦車隊が四十両。ケブラーが八十七両。これに加えて、十二両のイプシロンレールガンが来る。

北米にいる機甲部隊のほぼ全軍だ。

ニクス部隊も揃っている。ニクス十八機に加えて、エイレン四機。また、拠点防衛用のグラビス型も三機が既に現地に展開しているという。

戦場はいわゆるグランドキャニオンの近くになる様子だ。

最悪の場合は、グランドキャニオンを通って撤退する事になる。

どこまでも拡がる平原での殴り合いか。

あまりよろしい戦いだとは思えないが。相手は人間では無くプライマーだ。狙撃の恐れもないし、それでいいのだろう。

此方の狙撃だって、有効では無い。

リーダーのもっているライサンダーZのような規格外兵器ならともかく。あれは誰もが使える武器ではないのだ。

グリムリーパーが来た。ジャムカ大佐は、相変わらずのようだ。マゼラン少佐も、健在のようである。

ただし、フェンサースーツは傷だらけだ。

それで凄みが増しているが。

逆に言えば。それを修復している暇もないと言う事である。各地での連戦の凄まじさが一目で分かる。

「グリムリーパー、現着。 ほう、荒木班に村上班、スプリガンもいるのか。 これは壮観だな」

「……」

「どうした、スプリガン」

「いや、嫌みの一つでも言おうと思ったのだが、そんな気になれなくてな。 フェンサー部隊とは対立関係にあったように思うのだが。 妙に戦友としての意識を強く感じる」

ジャンヌ大佐が不可思議そうに小首を傾げる。

やはりな。

そう一華は思った。

二度、一華は歴史を遡った。リーダーは恐らく三回。プロフェッサーは四回か。

そして、更に二度分。

プライマーが歴史を書き換えた記憶がある。四回分、戦争を戦い抜いた記憶が頭の中にある。

それは曖昧な部分もあるが、戦闘経験になっている。

そしてどうも、リングの事故で過去に戻った人間だけが、その現象を起こしている訳ではないようなのだ。

一華が見る限り、どうも歴史は同じような事件を起こしている。そして、歴史に主体的に関わっている人間は、どうしてかその影響を受けている。荒木班はどんどん腕を上げているし。スプリガンもグリムリーパーもそうだ。

今のジャンヌ大佐の対応だって、二周前の世界だったら考えられなかったと思う。

一華もエイレンUから降りて整列する。

前は色々ひょろそうだのなんだのと陰口をたたかれた記憶があるのだが。そういう事も言われなかった。

このエイレンUの戦果は、誰もが知っていると言う事もあるのだろうが。

やはり、皆の態度が変わってきていると見て良い。

ジェロニモ少将が来る。

荒木軍曹より、実階級では一つだけ上。だが、将軍クラスが前線に出ることは、近代戦ではまずない。

それだけ、今回の作戦が、重要だと言う事だ。

ジェロニモ少将はネイティブアメリカンの出身らしく、非常に筋肉質で背が高く。そして鋭い目つきをしていた。鷲鼻も含めて、「美形」とは程遠いが。強そうと言われたら、そうとしか言えない。

事実北米のEDFでも指折りの闘将だそうだ。

前二回の周回では、殆ど顔も名前もみていないが。早期に戦死したらしい。どうして今周回では生き延びているのかはよく分からないが。

逆にしぶとく生きていた河野というあの感じが悪いウィングダイバーが早々に死んだりしているので。

歴史はやはり安定していないのだろう。

「並み居る英雄部隊と共闘できて有り難いと思う。 総司令部からの辞令だ。 荒木准将、君をリーダーに、特務部隊を編成したい。 特務部隊の名はストームとする」

「はっ」

「村上班、ストーム1。 荒木班、ストーム2。 グリムリーパー、ストーム3。 そしてスプリガンはストーム4だ。 これから、北米の命運を賭けた決戦をグランドキャニオン近くで行う事になる。 ストーム隊は、この戦いの主軸として、皆の命を守って欲しい」

「イエッサ!」

全員で敬礼する。

一華も、ぎこちなく敬礼していた。

もう一度、状況を見る。

更に戦力が追加され、歩兵部隊、ウィングダイバー隊、フェンサー隊も参戦。合計で12000人が戦闘に参加する様子だ。

過去からは考えられないほどの小勢だが、それでも師団規模の戦力である。

そして今、北米のEDFが野戦軍として割ける兵力の全てがこれだ。

逆に言うと、これが負けると、もう後はない。

ちらっと見かけた人影。

あれは、ニューヨークのジョエル軍曹か。すぐに兵士達に紛れて見えなくなったが、間違いない。

きっと大丈夫だろう。

そう自分に言い聞かせる。

ジョエル軍曹は、あれだけ過酷な戦闘でも何度も生き残った人物だ。今回も、きっと大丈夫だ。

一華は、先にプロフェッサーに連絡を入れておく。

「例のもの、用意してあるッスか」

「ああ。 無理を言って通させて貰った。 村上班の補給車とともに、現地に到着している筈だ」

「……」

例のもの。

フーリガン砲だ。この歴史周回では、飛行機に搭載するタイプのものは作る余裕がなかった。

倉庫で埃を被っていたのを修理改修し、足回りをつけて此処に運んできたのだ。

ぶきっちょな見かけの兵器だが。此奴の火力は折り紙付きである。

これを出してきた理由は簡単。

確定で、あの敵大型船が出てくるからである。

クルールごと数隻は爆砕してやる。フーリガン砲は改良が進んでいて、弾を三発まで撃つことが出来。

更に砲身の冷却機能も強化され、撃ったら終わりではなくなっている。ただし、弾を再度撃つまで五分ほどかかってしまうが。それでも充分過ぎる程だ。

此処で、大型船を数隻落としてやれば、プライマーには相当な損害になる筈だ。

だまってやられてやるものか。

一華はリーダーに、フーリガン砲が来たら射撃を任せる旨の話をして。了承も得た。

後は、戦うだけだ。

空爆指示や支援戦闘は、山県中尉がやってくれる。

一華は、エイレンUの操縦と戦況の確認にだけ、注力すれば良かった。

 

(続)