何度目か分からぬ再会
序、またベース251へ
壱野はベース251に到着した。残念ながら予定時刻より少し遅れた。理由は簡単である。途中、怪物に遭遇し、戦闘して蹴散らしたからだ。それほどの規模の群れではなかったが、フーリガン砲を輸送中と言う事もある。
護衛の部隊もいない状態だ。細心の注意を払わなければならなかった。
フーリガン砲が通じなければ、恐らく敵大型船は撃墜出来ない。
一応、更に火力を上げたチラン爆雷というものも開発しているという事だが。これは完成までまだまだ時間が掛かるそうだ。
ベース251は、あまり状況が良くない。そもそも一度陥落し、奪回し直した基地だという事もある。
「前回」よりもかなりダメージが増えていて。
敵に侵入され、攻撃されても不思議では無いと思えた。
ともかく、大型移動車で、内部にエイレンとフーリガン砲を運び込む。それも時間が掛かってしまう。
基地司令官をしている海野大尉は、いつも通りだ。
無線の向こうで、ぶちぶち東京基地の役立たず共がと言っていたが。
壱野が来ていると知ったら、きっと態度を変えてくれるはずだ。
あの人は、三城のことで世話になったし。
祖父と交友もあった。
村上家にとっては、数少ない恩人である。
今も、三城のことを忘れているとは思えなかった。
兵器の搬入を終えて、海野大尉とも顔あわせ。その後、プロフェッサーの所に出向く。柿崎を連れてこられたのは、成果と言える。
まだ伸びしろがある上、インファイト限定だったら多分ジャムカ大佐と同レベルの使い手である。
ウィングダイバーとしてはかなり変わった戦い方をするが。
それでも強ければ良いのである。
次はもっと人員を増やしたい。
だが、ストーム1の任務についてこられる人員なんて。
荒木班、スプリガン、グリムリーパー以外だと、いない。
正確には、開戦当初だったらいたのだろうが。
責任感がある人や、立派な人から命を落としていくのだ。
だから、そういう精鋭は、みんな戦闘開始後直後に、やられてしまっていた。
プロフェッサーは、少し待っていたようだった。壱野が顔を見せると、少し窶れた様子で、苦笑いする。
今回は、一華もいる。
既にベース262の駆除チームの武装は、メンテナンスが終わっているからである。
この辺りは、周回をこなしたのだ。
ある程度は、手際よくやれるようになっていた。
「戦闘があったと聞いている。 無事で良かった」
「プロフェッサーも、よくご無事で」
「散々だったよ。 パワードスケルトンをつけて、怪物と戦わされて、生きた心地がしなかった」
「……」
この基地で、壊れたビークルを直して。それでやっと海野大尉にある程度認めてもらったらしい。
事実壊れたビークルはどこの基地にもある。
それらを修復すれば戦力になるわけで。メカニックすら人員が不足している今。プロフェッサーの存在はありがたいわけだ。
勿論戦闘車両だけではなく、武器などの修理もプロフェッサーは出来る。
倉庫で埃を被っていた壊れた兵器や器具類などもかなり直したことで、海野大尉は最近機嫌が良いそうだ。特に電気周りとクレーンの修理をしたことが大きかったらしい。
不機嫌そうに罵られるのは、プロフェッサーもあまり気分が良くなかったのかも知れない。だから、必死だったのだろう。ただでさえ、精神が不安定になっていたのだから。
ミーティングルームに移動する。
途中で、軽く話をした。
「生きて会えて良かった。 連日最前線で戦っていると聞いて、本当に生きた心地がしなかった」
「俺たちは、あの程度の怪物になら遅れは取りませんよ」
「そうだな。 だが、何事にも例外はある。 事故だって起きるかも知れない。 本当にほっとした」
プロフェッサーは歩くのがあまり早くない。
体格も良いわけではない。だから、あわせてあるく。
「済まなかった。 あれだけしてもらったのに、逃げ切れなかった。 それどころか、私がどんくさいせいで家族を失ってしまった。 まただ。 私は何度自分の頭を撃ち抜こうと思ったか、分からない。 私が死ぬわけにはいかない。 そう思って、何度も耐えた」
そうか。つらかっただろう。
プロフェッサーは愛妻家だ。それだけではなく、年老いた両親も殺された。
それでは、悲しいに決まっている。
「心の整理は出来ていない。 君達が本当に優秀な戦士であり、心も強いことを思い知らされる」
「……」
「分かっている。 私は私に出来る事をしなければならない。 今回も、我々は負けてしまった。 だが、次こそは……」
「まずはやる事をしておくッス。 一応、データを共有しておくッスよ」
ミーティングルームに到着。
小型の記憶媒体を用い、小さなPCでデータを共有。プロフェッサーと一華が、それぞれ持った。
プロフェッサーは完全記憶能力の持ち主だ。
更に言えば。
世界が改変されても。
過去に戻っても。
手元にある道具くらいは、持ち込む事が出来ている。それは、プロフェッサーも証明していたし。壱野も出来る事を知っていた。
柿崎のことは紹介しておく。
プロフェッサーも話は聞いていた様子だが。少し、警戒しているようだった。
まあ柿崎はリアル人斬りだ。物語に出てくる剣豪のような仙人じみた理想的な武人では無く、殺戮に特化した才能の持ち主だ。
現在にはほとんどいないタイプの人間である。
四百年くらい、産まれる時代を間違えてしまった柿崎の事は。まあプロフェッサーからみれば、異物だし。怖いと考えても、不思議では無いだろう。
海野大尉が来る。
ミーティングルームに集まっている、いかにも士気が低そうな兵士達が、ひっと声を上げた。それを睥睨しつつ、威圧的に海野大尉は言う。
「集合だ! クズ共、並べ!」
これも、仕方がない。
此処にいるのは敗残兵達だ。
中には最近無理矢理此処に招集されたものだっているだろう。
若者が殆ど死んでしまった今。
子供だったり。
戦傷がある兵士だったり。或いは老人だったりするケースすらある。
パワードスケルトンの技術で、そんな兵士達でも走り銃を持つ事が出来るようにはなっているが。
やはり、怪物に対する圧倒的恐怖。
更には、人間の生理的恐怖を刺激するアンドロイドに対しては、怖れるのが当然だと言えた。
各地での戦況は、やはり専守防衛が精一杯。
日本はかろうじてやや優勢だが、他の国は基地とその周辺以外、人間がいきられる場所はないと聞いている。
主力を撃滅してもなお、アンドロイドはそれだけの数がいるし。
怪物に至っては、アフリカだかロシアだか分からないが、何処かで常に増えている。
そして何処にいつ現れてもおかしくない。
それが、現実なのだ。
関東だって安全では無い。つい数日前にも、千葉にかなりの規模のアンドロイドが出て。それを壱野達で駆逐したのだから。
そんな状況だ。必要以上に厳しく海野大尉が周囲に接するのは、仕方がなくも思えた。
なお、今回はフーリガン砲を持ち込む際に既に顔合わせはしてある。
前もそうだったが、海野大尉は三城をみてわんわん泣いてくれた。
これだけは、嬉しかった。
祖父とともに三城をあのクズから救出するために海野大尉の助けは必要だった。あのクズ親には人権屋の息が掛かっていたから、警察も尻込みしていた中。マル暴にいた海野大尉が動いてくれなければ、三城はそのまま「病死」するか。
或いは何処かの国のクズ金持ちにでも売り飛ばされていたかも知れない。勿論その後の運命は知れている。
厳しく青ざめている兵士達を睥睨した後、海野大尉は何か言おうとしたが。
次の瞬間。
基地内に、アラームが鳴り響いていた。
即座に戦闘態勢に入る。
うろたえている兵士達に、海野大尉は一喝した。
「まずは状況を確認する! 何が起きた!」
バイザー越しに状況を確認する海野大尉。流石に手慣れている。確認をしつつも、既にアサルトライフルを手にしていた。
このアサルトライフルも、各基地に支給されているものは既に型式が前周とはかなり変わっている。
威力も精度も桁外れ。
更にパワードスケルトンも調整が加わり、アーマーも強くなっている。
勇気さえ出せば。
新人兵士でも、理論上は怪物やアンドロイドと渡り合えるのだ。
「基地内に不法侵入者です! 隔壁を破って侵入してきました!」
「怪物どもか? エイリアンか? それともデク人形か?」
「人形です! 擲弾兵もいます! というよりも、地下から隔壁が薄くなっている箇所を爆破して侵入してきた模様です! 既に要所の隔壁を閉鎖! 市民は最深部に移動させています!」
「よし、分かった。 駆除に行く!」
覚悟を決めろ、と海野大尉は一喝。
腰が引けている兵士達に、銃を持つよう促した。
なんだかんだで、慣れているのか。もうプロフェッサーは銃を手にしている。とにかく弾数をたたき出せるレイヴンと呼ばれるアサルトライフルだ。大型のものになると、なんと四桁の弾を装填出来る、機関銃もびっくりの代物であるが。その代わり一撃の火力は小さめで、継戦力と、何よりも狙って当てられるわけでは無い初心者を意識して作られたアサルトだ。もっとも、熟練者でもいわゆるトリガーハッピーでこれを愛用している兵士もいるとか。
「今日は精鋭が来てくれている。 怖れるな。 俺もいる。 お前達は、生きて帰れる!」
「い、イエッサー!」
「よし、行くぞ! GOGOGOGO!」
基地の中を走る。
一秒でも惜しい。この基地の中は、既に構造を把握している。
プロフェッサーも、パワードスケルトンの助けもあってちゃんとついてくる。自転車にも乗れないと言っている程運動神経が駄目なのだが。それでも走れるようにしてくれるのがパワードスケルトンだ。
兵士の能力を底上げするパワードスーツのテクノロジーは、戦前から開発されていたが。
今はすっかり普及し、パワードスケルトンという形で完成してからは必要なものとなっていた。
広い空間に出る。
幾つかのビークルが並んでいる。此処が最終防衛線だ。バラックも点々としているが、生活臭がある。市民が逃げ込んできて、ここで暮らしているのである。
戦車をはじめとするビークル類が並んでいるが、これはプロフェッサーが直して点検したのだろう。
一華が即座にエイレンに飛び乗る。
エイレンだ。
兵士の誰かがいい、それでおおと声が上がる。
最強のコンバットフレームとして、エイレンの事は誰もが知っているのだろう。その破壊力も。
何より、ストームチームの映像は、皆に希望を与えたと聞いている。
その映像で、エイレンを知っているのかも知れない。
「敵は何処まで来ている」
「隔壁の向こうに既にいます!」
「ゴロツキどもが! 品性の欠片もない! たたき出してやる!」
海野大尉が怒りに満ちて叫ぶが。
壱野も同感だ。
彼奴らには荒木軍曹達ストーム2、ジャムカ大佐達ストーム3、ジャンヌ大佐達ストーム4の借りがある。
その何百何千倍も殺してきたが。
相手は自動機械だ。
全て駆逐するまで、止めるものか。
隔壁を開ける。
同時に、わっとアンドロイドが姿を見せるが、エイレンが早速レーザーでお出迎え。更に突貫した柿崎が、数体を瞬く間に斬り伏せる。
一瞬押し戻された敵に、弐分が散弾迫撃砲を叩き込み、三城が雷撃銃でまとめて残りを駆逐。
壱野は目立つ動きをしている奴をストークで駆逐しながら、奧を確認。
即座にライサンダーZに切り替えると、此方を狙っている大型を撃ち抜く。
かなり無理矢理進んできた機体らしいし。何よりも既に弱点を知っている。
正確に弱点を撃ち抜かれた大型が、爆散していた。
海野大尉も、精密な射撃で次々アンドロイドを倒して行く。流石だ。武器も既に、アンドロイドを倒せるものが出回っている。
だから、以前の周回で、絶望まみれの状況だったのとはかなり違っている。
アンドロイドを新兵は怖れるが。
熟練兵は、こうやってきちんと戦えるのだ。相手の数が異常すぎなければ。
「押し返せ!」
「エイレン、出るッスよ。 エイレンの前に出ないように気を付けてほしいッス」
「おう、任せるぞエアレイダー。 皆、続け! エイレンが敵の攻撃を引きつける!」
「イ、イエッサ!」
新兵達も続く。
隔壁を越えて、アンドロイドを蹴散らしつつ進む。かなりの数だが、外で戦う群れに比べるとそれほど多いわけではない。
それにアンドロイドは、怪物と連携する事が実はあまり多くはなく、多分プライマーとしては兵器としての運用方法が違うのだろう。
地下に潜るのだって、苦労している筈だ。
擲弾兵が見える。
兵士達が、ひっと声を上げるが。
エイレンのレーザーが、出会い頭に爆弾を貫く。爆発して、周囲のアンドロイドも巻き込む擲弾兵。
爆風が来るが、慣れたものだ。
此方に千切れ飛んでくる爆弾が見えたので、空中で壱野が撃ち抜き爆破する。海野大尉が感心してくれた。
「おお、やるじゃないか!」
「光栄です」
「ブリキ人形どもは人間を殺すことしか考えていないが、群れで動くと戦術らしきものを使ってくる事がある! 安全を確保しながら進む!」
隔壁に到達。
一旦、壱野達が周囲を探索して、伏せていたアンドロイドどもを蹴散らす。オペレーターと連携しながら。基地の中を綺麗にしていく。大型も伏せているので、これは新兵には任せられない。
「クリア」
「早いな。 隔壁を開けて、次に行く」
「待ってください海野大尉。 監視カメラが捕らえましたが……相当数のアンドロイドが入り込んでいるようです! 基地を捨てて撤退すべきです!」
「臆病者が! アンドロイドは増やされている形跡がない! ここでまとめて一網打尽にすれば、それだけ襲われる市民が減る! むしろチャンスだと思え!」
その通りだ。
過激な言動をしているように見えるが、海野大尉が言う事は一応理にはかなっている。だが過激すぎて、兵士達には恐ろしく見えるのだろう。それは、昔から。海野大尉がマル暴の刑事だった頃からそうだ。
それに、奧にはビークル類や、何より虎の子のフーリガン砲もある。
でかい玩具だと海野大尉は呻いていたが。
既に用途は説明してある。
あの大型船に一泡吹かせることが出来るかも知れないと説明すると、海野大尉はそれは痛快だと大喜びしてくれたし。
今も、全力で守るつもりでいてくれる。
「奧への隔壁は閉めておけ。 それと、アンドロイド共が市民を直接狙ってくる可能性は常に考慮して、避難誘導は確実にしろ」
「は、はい……」
「行くぞ! 敵を蹴散らす!」
海野大尉は相変わらず勇敢だ。
生き延びただけの事はある。胆力と戦闘力、何よりも運に恵まれている。
アンドロイドを蹴散らしながら、基地の中の安全を確保していく。一区画ずつ、確実にアンドロイドを駆除して行く。
それなりの数がいる。海野大尉達だけだったら、これで全滅は待ったなしだっただろう。
だが、今は壱野達がいる。
しかも狭い通路の基地の中だ。
新兵一人、死なせるものか。
こういう狭い所では、電撃銃が猛威を振るう。三城の電撃銃が、次々と擲弾兵を爆破し。爆破は連鎖していく。
その中をのし歩いてくる大型擲弾兵も、次の瞬間にはライサンダーで貫かれ、爆発四散。
未練タラタラに爆弾だけが飛んでくるが、それも空中で撃ち抜いてしまい、近づけさせない。
バリスティックナイフは、CIWSのシステムを利用しているという一華のエイレンが、全て接近前に叩き落とす。
大型アンドロイドは、ブラスターをそもそも撃たせない。
集中攻撃で片付けて行く。
基地の中では、アンドロイドは相手しやすいなと壱野は思う。
此奴らが本領発揮するのは、物量で押し込める外だ。外だと、此奴らには全てが武器になる。
建物があると最悪だ。人間の弱点である上を容易に取ってくる。
また一区画を解放。
だが、壱野は敵の大きな気配を感知していた。
「入口付近に少数。 残りはこれだけかと思いますが……」
「罠ですね。 恐らく次が本命です」
「……総員、総力戦に備えろ! 今のうちに水は飲んでおけ!」
案の定だ。
恐らく、アンドロイドが侵入しただろう穴から、わんさか現れるアンドロイド。少数の囮で引きつけて、一網打尽にするつもりだったのだろう。
だが。こっちがそれを先に察知していた。
アンドロイドを出迎えたのは火力の滝だ。新兵も、流石に死にたくないのだろう。腰は引けているが、必死に射撃して、アンドロイドを迎え撃つ。
程なくして、敵は全滅。
海野大尉は、兵士達を元気づけるためか、敢えて無茶を言った。
「大した規模の襲撃では無かったな。 何人か、重機を取ってこい。 穴を塞いで、修復するぞ」
「イエッサ」
「壱野、奧を調べてくれ。 怪物がいると、酸でまた壁に穴を開けられる可能性がある」
「分かりました」
此処でも、基地司令官の顔を壱野は立てる事にする。
接近戦に強い柿崎と弐分を連れて、奧へ。穴の形状からみるに、これは怪物がほったものではない。
だが、放置すれば今度は怪物が来てもおかしくは無いだろう。
持ち込んでいる爆弾をセットしてまわり、まとめて爆破して完全に崩してしまう。後で地上部分に強化コンクリートを撒いて終わりだ。一応この基地には、それが出来る物資はある。
基地に開けられた穴は、既にプロフェッサーが塞ぎ始めていた。海野大尉が周囲を見張りながらぼやく。
「学者先生も、土木工事には役に立つな」
「科学者を虐待して楽しいか。 それに私はこの基地の武器もビークルも直した筈だぞ」
「確かにそういう点では役に立つ。 だがそれ以外ではまるで駄目だな」
厳しい駄目出しである。
だが、それは生き残るための力をつけさせるための言動だと、壱野は知っていた。
知っている歴史とかなり違っている。
だが、それでいい。
歴史は変えられる。それは、理解出来ていた。
1、廃墟の世界で
海野大尉とともに、一華は基地の外にパトロールに出る。
怪物の数はこの辺りではあまり多く無い。群れが出ることもあるにはあるのだが、その度にストーム1が駆逐していたからだ。ただし、それでも出る。どうしようもない事ではある。
今回はエイレンを中心に、ブラッカー数両で出ることとなった。
此処より北にあるベース262には、駆除部隊が駐屯。テクニカルのニクスが多数展開しており。
早速それを使って、周辺の安全を確保している様子だ。
ニクスをテクニカルにする事には不満もあったようだが。やはり武器として動かせるのが何より大きい。
作業を主導した一華は、随分と感謝もされた。
移動しながら、アンドロイドの群れを駆逐する。
記憶にあった歴史では、兵士達はおしまいだとまで呟いていたが。
今では士気は低いものの。
それでも。出るだけで絶望するような事はない様子だ。
「かろうじて戦線は維持できているって話だが……こんな誰もいない世界で、一体なんの戦線を維持するんだよ」
「そういうな。 後何年かすれば、必死に守った子供達が大人になる。 東京には多数の難民がいるし、彼らが地表で暮らせるようになれば、一気に復興だって加速できる。 俺たちの子供の時代には、関東や関西の中央部は、人間が安心して歩けるようになる」
「だといいがな……」
「お前達、周囲を警戒しろ。 怪物ほど巧妙ではないが、アンドロイドも隠れ不意を打ってくる事がある。 気を付けないと、バリスティックナイフで串刺しにされるぞ」
兵士達が首をすくめ、周囲の警戒に入る。
小規模のアンドロイドの群れを発見。大型もいるが、リーダーがこっちにはいる。狙撃しておしまいだ。
リーダーは大型の弱点を完璧に把握したらしい。一撃で確殺している。まあこんな事が出来るのは、リーダーくらいだが。
ただ、ライサンダーZは既にボロボロである。
もうそろそろ、限界だろう。
一華も時々メンテナンスを頼まれてしているのだが。それでもいくら何でも、そろそろ無理だ。
何よりも、英雄村上壱野の能力に、ライサンダーZがそろそろ追いつかなくなってきているのが分かる。
次の世代の狙撃武器が必要だろう。
アンドロイドを駆逐して回る。
基地の周囲は、一応綺麗になった。怪物の姿は見当たらない。エイリアンもだ。
コロニストは最近、殆ど見かけなくなったと聞いている。どうも大陸で、ゲリラ戦をしている項少将の部隊と小競り合いはしているようだが。それ以外では殆ど姿を見せないそうだ。
理由はよく分からないが。
それでも、出て来たらアンドロイドより手強いとして、優先的に処理しなければならないだろう。
それに、基地にいる戦力もあまり多くはない。
こうやって駆除しなければまた基地に来る。
何個かの群れを駆除する。やはり。この基地を集中的に狙ってきているらしい。関東近辺としては、異例なほど多い。
何度か遠征して、それなりの規模の群れを駆除したが。昨日基地に攻めこんできたアンドロイドの群れとあわせると、最近では最大の規模かも知れない。更に周囲から集まって来ているとすると。
ひょっとして、ベース251が狙いか。
だが、ベース251周辺の調査は済ませてある。プライマーが狙うような理由はないはずなのだが。
不可解だ。
兵士達が、ぼやいている。コックだったらしい兵士は、今回も無事なようだ。
「アンドロイドが地球に来て、もう四年くらいが経つんだな」
「ストームチームが壊滅させてはくれたが、そうでなかったら今頃人間なんて一人も生きてはいないだろうな」
「ああ。 それでも、人口は開戦前の7%だとか。 クローン人間の技術開発も進んでいるらしいぜ」
「クローンで人間増やしても、殺されるだけさ……」
そうかも知れない。
だが、諦めるわけには行かない。
それにだ。
米国から入ってきた情報だが、何でも新型のアンドロイドが投入された節があるらしい。
すっかり歴戦の兵士に成長したジョエル「少尉」からの情報で、一華も知っている。
拠点制圧用と思われる超大型で、試運転の最中なのだろう。少数しか確認はされていないらしいが。
日本に来てもおかしくは無い。
この基地をプライマーが警戒しているとしたら。
出て来ても、不思議では無いだろう。
ひょこっとブラッカーからプロフェッサーが顔を出す。
歩兵にしても無意味だろうと判断した海野大尉が、丁度プロフェッサーが修理したブラッカーに乗せたのだ。
こうやって、警戒任務ではブラッカーに乗って出ていたらしい。
懲罰で送り込まれた他の場所でも、兵器を直しては感謝されたそうだ。
兵器を直すまでは、何処の基地でも白眼視されたそうだが。
臆病者。
そう言われることも、多かったそうだが。
家族のために脱走したと聞くと。兵士達は、それ以上何も言わなくなったようである。
この時代。
家族を失っていない人間の方が、珍しい。
誰もが気持ちは分かるのだ。
「アンドロイドの数が多いな。 この辺りに戦略的な価値はないと思うのだが」
「さあ、それはどうッスかね」
「一華くん。 君の見解を聞かせてくれるか」
「プライマーは何かしらの目的で軍を動かす。 しかも今の指揮官は切れ者ッスよ。 多分無駄な動きはしないと見て良いッス」
リーダーが同感だ、という。
またアンドロイドの群れが見えてきた。擲弾兵か。若干厄介だ。
リーダーが提案して、布陣し直す。
少し離れた所で、単縦陣を組むと。リーダーが狙撃。擲弾兵の群れの一角が爆裂した。
後は、つるべ打ちを叩き込む。
次々に爆発する擲弾兵だが、此奴らは怪物同様、主力が賑やかしで前面に展開しつつ。左右両翼から回り込んでくる。
エイレンは前面に集中。それらの相手は、弐分や三城にまかせる。
この辺りは地下街もない。
三城は遠慮なくプラズマグレートキャノンで擲弾兵を消し飛ばしている。小気味が良いくらいに、消し飛ぶ擲弾兵ども。
此奴らには散々煮え湯を飲まされた。
倒すだけなら難しく無い。
だが、此奴らの群れに接近された場合。仲間を守るのは、至難の業なのだ。
「流石だ、やるな。 あの達人の孫達なだけはある」
「光栄です」
「よし、次を片付けるぞ」
海野大尉は、村上三兄弟にすっかり甘い。なんだか優しい親戚のおじさんという雰囲気である。
実際そういうものなのだろう。
一方、柿崎にはかなり厳しい目を向けている様子だ。
一目で見抜いたのだろう。
柿崎はリアル人斬りも同然の存在だと。
一華に対しては、冷静にみてくれている。貴重なエイレン乗りと言う事は、それだけのエースだと理解出来たのかも知れない。
その上、このエイレンは部品を継ぎ足しながら戦い抜いた歴戦の中の歴戦。
ストームチームとともに戦い抜いた戦友だ。
戦力として、カウントはしてくれていると見て良い。
「私の妻は、老いた両親の世話を見る事を何も嫌がらなかった。 何度も聞かせた話だったな。 すまない」
プロフェッサーが愚痴を言う。
だが、それに対して反論するつもりはない。
分かっている。プロフェッサーが愚痴を吐かないと、まずいくらいに精神的に追い詰められている事は。
それに、リングがまた来たならば。
また地獄の戦いの日々が始まるのである。
この間情報を交換したとき、プロフェッサーにはここ三年で、ほそぼそと進められていた兵器研究の成果や。エイレンに詰め込むCIWSのプログラムをはじめとして。一華が組んだプログラムのデータは全て回した。
完全記憶能力の持ち主であるプロフェッサーは、それを全て記憶した筈で。
リングがもしも来た場合。
また、事故を起こして過去に出向いた場合。
戦況が更に悪化していたとしても。それをひっくり返せるくらい、一気に兵器を改良出来るかも知れない。
事実今、兵士達が手にしている武器は、アンドロイドを充分に相手に出来るものだ。
これは本来人類が積み重ねる時間では開発不可能なほどの技術が投入されているからで。
完全記憶能力持ちのプロフェッサーがいるから、出来たものなのである。
またアンドロイドの群れを発見。
ちょっとばかり多いなと、一華は思う。
更に、ろくでもない情報が入ってくる。
「此方スカウト! すぐに逃げてください!」
「どうした。 飛行型の群れか」
「ち、違います! 米国で出現したと噂にある超巨大アンドロイドです! それも複数いるようです!」
「何だと……」
海野大尉が、周囲を確認。
リーダー。弐分と三城。それに柿崎。エイレンに乗った一華。三両のブラッカー。
忙しく計算をしているのだろう。
「スカウトはすぐに戻れ。 俺たちで、どうにか超大型を撃破する」
「相手は拠点制圧用と思われる超大型です! 勝てる訳がありません!」
「米国からのデータはみている。 どうやらモノアイの部分を叩けば大きなダメージを与えられるらしい。 此方にはそれが出来る精鋭がいる! 怖れる事はない!」
海野大尉は、周囲に聞こえるように言っている。
そして、アサルトのマガジンを取り替えながら言う。
「まずはあの群れを片付ける。 次は態度がでかい大型だ。 やれそうか」
「アンノウンとの戦闘は望むところです」
「その意気やよし! 皆、精鋭とともにいる。 俺たちだけだったらどうにもならなかったかも知れないが、エイレンとともにあの地獄を生き抜いた精鋭がいるんだ! 腹をくくれっ!」
「い、イエッサ!」
海野大尉は、或いはストームチームの活躍映像はみなかったのかも知れない。
リーダー達をみて、いつものように三城が新兵だと勘違いしていたし。
ひょっとすると、元警官だというのが理由だろうか。
マル暴の刑事だったというなら、それこそテレビをはじめとした報道が如何に役に立たないかは分かっていただろう。
それならば。EDFのプロパガンダ報道なんて、興味もなかったのかも知れない。
ともかく、前にいるアンドロイドの群れを蹴散らす。大した規模では無いが、アンノウンと同時に相手にするのは、避けたかった。
先に偵察に出る三城。
程なくして、バイザーに映像が共有される。
なるほど、これは大きい。
今まで見てきたアンドロイドは、基本的に楕円形をした小型。T字型をした大型と、球体ではなかったのだが。
この巨大なアンドロイドは、手足こそあるものの体は球体だ。
球体の周囲には、高出力パルスレーザーと思われる四門の砲台がついていて、更に手はかなり頑強になっている。
近距離では、恐らくあの手を叩き付けて来るだろう。バリスティックナイフではないが、質量攻撃には充分な造りだ。
すぐに皆のバイザーに、映像を共有する。
「なるほど、うすらデカイと話には聞いていたが、相当なツラのでかさだ。 面の皮が厚いゴロツキどもの兵器に相応しい姿だな」
「こ、こんな化け物かてっこありません! 山のようじゃないですか!」
「俺たちが此奴を倒せなければ、基地の地下にいる市民は皆殺し。 近くの地下街に逃げ込んでいる市民も皆殺しにされる。 此処にいる戦力なら、対抗できる。 ならばやる事は一つだ」
その通り。無謀なようだが、海野大尉の言葉は正しいと一華も思う。
とりあえず、米国から来ているデータを見る限り。この超巨大アンドロイドは、基地を狙って来て。
ジョエル少尉らのいる部隊を襲撃。ニクスなどと一緒に激しくやり合った後、どうにか破壊出来たらしい。
ジョエル少尉もなかなかやるなと一華は感心し。戦闘データをみる。やはり超巨大はモノアイに攻撃を受けると、露骨に怯んでいる。
狙うなら、そこしかないだろう。なおキュクロプスと呼ばれているらしいが、今はどうでもいい。
「リーダー、モノアイを狙い撃てるッスか?」
「大型と同様、其処が弱点か」
「そうなるッスね。 三城も、モノアイにプラズマグレートキャノンをぶち込めるッスか?」
「やってみる」
進軍開始。敵陣が見えてきた。兵士達は腰が引けているが、海野大尉が叱咤。
周囲に多数のアンドロイドがいる。随伴歩兵という事だ。ただ。大型の姿は見えない。或いは、大型とは戦術ドクトリンが違うのかも知れない。
「壊れた機械は可愛いのに、動いてる機械はかわいげがないなあ」
「機械といってもそれぞれだ。 ニクスやエイレンみたいに頼りになる味方もいる。 アンドロイドどもは、冗談でも可愛いと言ってはいけない相手だ。 地球をこうした主力だぞ」
「分かってるよ。 膝が笑って仕方ないんだ。 あんなのが相手なんだぞ」
「相手が何だろうと気にするな! スクラップに変えろ! 地球人気取りの機械人形どもめ、バラバラにしてくれる!」
敵が気づく。
戦車隊が即座に陣列を整え、攻撃開始。随伴歩兵アンドロイドが次々倒されている間に、超大型が来る。
案の定、四つのパルスレーザーが光り始める。あれが発射されたら、エイレンも長時間は保たないだろう。
だが、その顔面にまずライサンダーZが直撃。
モノアイを抉って。もろに超大型が怯んでいた。
更にプラズマグレートキャノンが叩き込まれ、たじろぐ超大型。
いけるぞ。
海野大尉が叫び、迫るアンドロイドの群れに火線の滝を叩き込む。兵士達も、必死に射撃を続ける。
二発、三発とモノアイを抉られながらも、超大型はゆっくり歩いて来る。後退。海野大尉が指示。弱点にモロに攻撃を貰っているだろうに、凄まじいタフネスだ。随伴歩兵の放ってくるバリスティックナイフも火力は侮れない。
エイレンに着弾。
アラームが鳴る。凄まじい火力だ。
遠くから、もう一機、超大型が来る。舌なめずりすると、エイレンを前に出す。ブラッカーでは、あれは耐えられない。
エイレンの火力を集中して、遠距離からモノアイを狙う。至近まで来ている超大型が、両腕を振り上げて、エイレンを潰そうと狙って来るが、既にそのモノアイにはスパークが走っていて、半壊寸前だ。
リーダーの狙撃が直撃。動きが止まる超大型。其処に。上空から三城がプラズマグレートキャノンを叩き込む。
巨大な球体が内側から爆ぜ割れ、消し飛ぶ。
火を噴きながら、バラバラになった超大型の残骸が周囲に降り注ぐ。やはり中身は生体部品のようだ。
凄まじい異臭がしているだろうなと思いつつ、エイレンで遠くから来る超大型にレーザーを浴びせ続ける。
相手が怯むのが見えた。
モノアイにはやはり相当な精密機械が詰め込まれている。そうなると。対策さえ取れればむしろ彼奴はカモかも知れない。
「更に一体、此方に接近しています!」
「全部バラバラにしてやるだけだ! 隊列を組み直し、随伴歩兵をしている小型に火力投射! ファイア!」
海野大尉が細かく指示を出し、兵士達がすぐに陣列を変える。戦車隊も多少動きは鈍いが、それでもちゃんと陣列を組み直す。
迫ってくるアンドロイドに、戦車砲が炸裂。次々に撃ち抜く。バリスティックナイフなら、戦車もある程度は耐えられる。
エイレンは少し下がると、ダメージを確認。
柿崎と弐分が前衛に出て、アンドロイドを蹴散らし始める。その間にリーダーは、しこたま接近して来る超大型にライサンダーZの弾を叩き込む。
三城は誘導兵器での面制圧に移行。
やはりな。
超大型は、モノアイの弱点が致命的だ。弱点を真ん前に出して迫ってくる兵器か。何を考えてこんなものをプライマーは作ったのか。破壊力は申し分ないのに、どうにも不可解である。
ともかく、エイレンのダメコンが終わった。エイレンの電磁装甲は、ある程度ダメージを自分の判断で分散させることが出来る。レーザーで、柿崎と弐分が取り逃したアンドロイドを蹴散らしつつ、超大型を時々牽制。
「大兄、俺が試してみる」
「任せる」
弐分が突貫。
エイレンの至近から、モノアイにスピアを叩き込んでいた。
のけぞった後、内側から爆ぜ割れる超大型。
おおと、兵士が喚声を上げた。
「す、すげえ!」
「グリムリーパーは全滅したって聞いたが、生き残りか!?」
「まだ一体が来る! すぐに備えろ!」
小型の残党の蹂躙は、柿崎に任せる。あの数ならもう群れを崩す必要もない。柿崎は、縦横無尽に色々な技を繰り出しながらアンドロイドを斬り伏せていた。先祖伝来の技の数々のうち、使えるものとそうでないものを試しているのかも知れない。
もう一体の超大型は、擲弾兵を多数引き連れていた。
流石にあれに接近戦は挑めない。戦車隊が射撃しつつ後退。兵士もそれに習って後退し始める。
三城はむしろ前進し、上空からプラズマグレートキャノンを叩き込む。多数の擲弾兵が吹き飛び。
上空にいる三城を超大型が狙おうとするが。
完璧なコンビネーションで。リーダーが超大型のモノアイを撃ち抜く。
怯む超大型に、三城が突貫。
ゼロ距離から、ファンランクスを叩き込んでいた。
超高熱がモノアイの傷口から、内部に直接叩き込まれたと言う事もある。流石に、超大型が軋んだ悲鳴めいた音を発する。だが、容赦はできない。
爆散する超大型。
酷い臭いの肉片が、周囲に飛び散っていた。
「よし、残党を片付けろ! この戦果は大きいぞ!」
「……階級が上がったって、なにもいいことなんかないけどな」
「市民を守れたんだ。 それで良いとしろ」
「俺たちだって、市民みたいなもんだ。 俺たちは誰が守ってくれるんだよ」
愚痴が聞こえる。
ともかく、残った擲弾兵を全て片付ける必要がある。
火力を集中して、残党を駆逐。
更に周辺を周り、超大型到来の情報を聞いて来てくれた駆除チームと合流。周囲を回って、複数のアンドロイドの群れを片付けた。
駆除チームは、一華の事を知っているし、対応が柔らかい。
また来てビークルを直してほしいと言われたので、暇が出来次第とだけ応えておく。
希望はあげたい。
例え、間もなくリングが降りて来るから、其方に行く余裕がないという現実があるとしてもだ。
夕方に、一度解散。
駆除チームも戻っていく。
どうやら、此処から北に怪物が産卵を始めている繁殖地があるらしい。既にマザーモンスターは駆除チームで倒したそうなのだが。繁殖地にはコロニストが入り込み。更に未確認情報だが、タッドポウルまで来ているそうだ。
明日はそこを合同で駆逐する。
そういう作戦を立ててから、基地に戻る。
基地に戻っても、おいしいメシがある訳でもない。
途中見かける町並みは、既に朽ち果てていた。
「此処は治安が良い住みやすい街だった。 だが、ゴロツキが入り込んで、そいつらが何もかも無茶苦茶にした」
海野大尉がぼやく。
恐らくだが、これは海野大尉が捜査に協力し、逮捕していった人権屋の手先どもの話だろう。
三城を助けるときに逮捕したという連中だ。
だが、兵士達にはアンドロイドやプライマーそのものだと聞こえたかも知れない。
仕方がない。
人には多くの事情がある。
頑固でおっかないおっさんと思われている海野大尉だってそうだ。一華が見た所、どうやって半人前の兵士達を生還させるか頭を悩ませている熟練兵。客観的にみればそうなのだが。
兵士達の主観では、そうは見えないだろう。
基地で、軽く食事にしながら、ミーティングにする。
プロフェッサーは疲れきっていた様子だが、それでも、フーリガン砲については、有り難いと言った。
「確かに敵大型船にこれは試せていない。 それに村上壱野准将。 君がこれを使えば、当てられる可能性が高い」
「これで駄目なら、更に別の武器を試しましょう」
「そうだな。 前向きに色々な作戦を提案してくれて、本当に嬉しい。 君達は戦闘のプロだな。 私は武器を作る事は出来るが、それ以外はさっぱりだ。 その武器を作ることだって……」
「完全記憶能力があるじゃないッスか。 それを利用して、私達の武器を強くしてほしいッス」
一華から、先に提案しておく。
ライサンダーZのバージョンアップについて。そろそろ限界が来ている。リーダーも、それを言われると頷いていた。
プロフェッサーはしばらく考え込んだ後、頷く。
「分かった。 先進科学研でも、君の戦闘データは解析していた。 ライサンダーZの改善案も出ていた。 その中で、一番現実的なものを試してみる」
「ありがとうございます。 ただ……」
「分かっている。 次の周回でだ。 リングが来たとする。 過去に戻る作戦を実施したとする。 その後に、最優先で改良を行おう」
一度解散する。
さて、此処からだ。
一華の方でも、出来る事は今のうちにやっておかなければならない。
確認をしておく。
プロフェッサーが持ってきたデータを確認して、差異をみる。
案の定だ。
プロフェッサーの認識している前周の記憶が、だいぶ一華とずれている。これは恐らくだが、歴史に主体的に関わっているかどうか、が要因だろう。
過去をプライマーが改変しているとして。
それにあのリングが関わっているのはほぼ確定だが。
これではっきりした。
恐らくだが、あのリングはただのタイムマシンじゃない。単なるタイムマシンだったら、攻撃したら記憶と一部装備を持ったまま過去に行く、なんて事故は起きえない。あれはもっと、高度テクノロジーの産物だ。
だとしたら、不可解でもある。
恐らくプライマーは、恒星間航行も出来ない程度のエイリアンだ。まだ本拠地は特定出来ないが、少なくとも時代が違う太陽系の住人だと見て良いだろう。
地球人よりはテクノロジーがかなり優れているだろうが、所詮其処止まり。
あのタイムマシンは恐らく。
過去を改変することによるタイムパラドックスのダメージを緩和して、収束させる機能を持っている。
そうでなければ、プライマーはこうも簡単に歴史を改編できない筈だ。
そしてプライマーがEDF設立前に干渉してこない理由もそれだと説明できてくる。
タイムパラドックスなんか怖れていない。
だとすれば、リングの性能に限界があるのだ。恐らくは、プライマーが使っている大型船の技術にも、である。
腕組みする。
もう少しデータがほしい。
だがプロフェッサーは、残念ながら学者としてはあまり優れていない。多数の論文を読んできて、一華はそれを理解した。だが、絶対記憶能力の持ち主という点では一華よりもずっと優れている。
流石の一華も、自分で組んだプログラムのコードを何十万行と丸暗記するなんて離れ業は不可能なのだ。
これは、何かもっと複雑な事情がある。
あのプライドが高そうなトゥラプターが、「必要」だと言っていたこともやはり強く気になる。
少し思考を整理した後、一華はリーダーに話をしておく。
話を終えた後、休む。
もう少しで、リングが来る可能性が高い。
その時の作戦は、今のうちに練っておかなければならなかった。
2、駆逐
駆除チームと朝一で合流する。
駆除チームは一華が先にコネを作っている事もあって、ごねることもなかった。ただ、荒くれの集まりである事にも違いは無い。統率は難しそうだなと、大兄をみながら三城は思う。
ともかく、これより敵の繁殖地の撃滅作戦だ。
少し前に、駆除チームが赤いα型を主体とした群れを撃破。その時出て来たマザーモンスターも撃破する事に成功した。
ニクスも技術が進歩している。
これも、苦戦の中必死にプロフェッサーが働いたおかげだ。
とはいっても、プロフェッサーは完全記憶能力以外は学者としては三流だと自分を評しているし。
一華も、事実そうらしいと時々零す。
三城としては、厳しい言葉だなと思うが。
だが、今まで二度も大事な人達の全滅を見ている身としては。
あらゆる手段を客観的にこなさなければならないとも思い始めていた。いつまでも、大兄と小兄に助けられてばかりでは駄目だ。自分で、どうにか出来る事をする。それが大事だ。
四機のテクニカルニクスと随伴歩兵とともに、繁殖地に出向く。
酷い有様だ。
柿崎も、確か卵割りの作業には参加した事があったはず。兵士達は、朽ちたシャッター商店街が赤い怪物の卵だらけの様相をみて青ざめていたが。
一華は確か前は白い、つまり銀のα型の卵だったなと思う。
それに、遠目で見える。
見張りについているコロニストは、敗残兵では無く。立派な装備をした通常のコロニストだ。
前周で北京決戦で敗れた後、コロニストは文字通り使い捨ての肉盾にされ。装備すらもろくに供給されなかった。その結果、日本にいた敗残兵達は、文字通りボロボロで、再生能力すら機能していない個体もいたほどだ。今、見張りについているコロニストは違う。
「卵を一つ残らず駆除する。 まずは、あの忌々しいゴロツキどもから片付けるぞ」
「イエッサ!」
「卵には迂闊に近付くなよ。 腹が減ってるかも知れないが、怪物は卵から成体でかならず出てくる。 そして出て来た瞬間から人間を襲う。 この色は赤いα型で、奴らはあのM1エイブラムスの主砲を距離次第では弾くような超生物だ。 ブラッカーの改良型が出回るようになってからは貫けるようになったが、アサルトでは中々死なない。 前に、卵を食おうと近付いて、逆に食われた奴がいる。 そうならないようにしろ」
「い、イエッサ!」
兵士達に、念を押す海野大尉。
そのまま、大兄に目配せ。三城も、ライジンを構える。
このライジンも、安定度が前周のものから抜群に上がっている。プロフェッサーは、ベース251から持ち出したブラッカーに乗って、少し後方に控えていた。
テクニカルになっているとはいえニクス四機、ブラッカー一両、エイレン一機が来ている。
だがその代わり、怪物の繁殖地は装備もちゃんとしている元気なコロニストが守っており、増援の可能性も高い。
何しろ、タッドポウルを駆除し切れていないのだ。
中華を文字通り食い尽くした前周ほどの数は地球に落とされていないようだが、それでもコロニストが危機になるとタッドポウルを呼ぶ可能性がある。
彼奴らは危険極まりない。
大兄も、先に海野大尉にその危険について話し。
分かっていると、海野大尉も頷いていた。
大兄の狙撃と、ライジンの一撃で、それぞれコロニストを仕留める。
巡回中だったコロニスト二体が一瞬で頭を潰され、横倒しになる。慌てて周囲を見回すコロニストの背後に、既に小兄が接近。電刃刀で文字通り体を真っ二つにしていた。更に、其方に反応して銃撃しようとした一体を、柿崎がプラズマ剣で一閃。首を刎ね飛ばす。
たちまちにして四体のコロニストが倒れたのをみて。
おおと海野大尉が嬉しそうに言う。
「彼奴らを倒すのに、数人の犠牲を覚悟しなければならなかったんだが。 流石に精鋭部隊だ。 それにシロ坊も、これならどんなクソ野郎が来ても、自衛は簡単そうだな」
「シロ坊はやめて」
「いいじゃないか。 本当に俺は嬉しいぞ。 孫が立派に育ってくれたみたいだ」
海野大尉はガハハハハと笑っていて、本当に嬉しそうだ。
それにしても、この周回でもシロ坊と言われるのか。
まあ、いい。
男の子みたいな呼び方をされるのも、まあ別に良いだろう。
エイレンのバッテリーを温存しながら、怪物の駆除に入る。まず海野大尉が見本を見せて、射撃。赤いα型が出てくるまで待つ。
赤いα型の卵も他と同じ。
基本的に、凄まじい強度を誇り。滅多な攻撃では破壊する事が出来ない。その代わり、衝撃を与えたり、近くにエサがいると中身が自分から出てくる。
出て来たα型を、ニクスの火力で殲滅。
それで、卵を駆除だ。
新兵達が青ざめている中、海野大尉が説明する。
「怪物どもは、危機を感じると一斉に孵化する。 つまり考え無しに卵を破壊していると、敵のど真ん中で怪物に囲まれる可能性がある。 少し時間は掛かるが、繁殖地を端から潰して行くぞ」
「イエッサ!」
「よし、俺に続け」
海野大尉は言う事は厳しいが、まずは自分で手本を見せるし、常に最前線に立つ。
近代戦だとこういうやり方は狙撃手の格好の餌らしいが、怪物相手の戦いだと、その辺りは気にしなくても良いのだろう。
卵を順番に破壊していく。
やはり相当にひもじいのか、兵士がぼやく。
「これ、くえねえのかなあ」
「頭が良い奴がとっくに調べたらしい。 怪物の体内は訳が分からないバクテリアとか毒素だらけで、食ったら腹をこわすどころか最悪死ぬそうだ」
「そうか……」
「缶詰やレーションは消費期限までまだ時間がある。 それで我慢しろ」
繁殖地は、三城がうっすら記憶している前周のものとほぼ同じ位置だが、より大きい気がする。これが連日孵ったら、それこそ取り返しがつかない。
マザーモンスターは流石にそうそう出ては来ないだろうが。それでも各地の基地が襲われる。
地下に潜んでいる生存者もだ。
時間を掛けながら、丁寧に卵を砕いていく。三城はファランクスを手に、赤いα型が出てきた時に瞬殺するのを担当する。
兵士達は銃撃をして、卵を刺激。
出て来た卵を、大兄、小兄、三城、柿崎が仕留める。
エイレンは後方待機。
タッドポウルやコロニストの増援を警戒しての事だ。バッテリーがもう残り少ないし、ダメージもそれほど耐えられないからである。
タンクも同様。
最悪の場合は、盾になって皆の命を守る。
プロフェッサーは、完全記憶能力の持ち主だから、タンクは動かせる。だけれども、記憶していても体が動かせるかは話が別。
そういうわけで、タンクはお世辞にも、あまり強くはなかった。
そのまま三割ほどの卵を駆除した段階で、遠くからコロニストが来るのが見える。とっくに此方を認識しているようだった。
「ゴロツキどもだ! 一旦繁殖地から離れろ!」
「くそっ! エイリアンどもだ!」
「卑しい奴らだ! 怪物を従えてやがる! ペットを守りに来やがった!」
「違う。 宇宙服野郎どもはともかく、コロニストは怪物に従っている。 怪物の一部を食う代わりに、怪物の世話をする一種の共生関係だ。 奴らの故郷の星は、想像以上に過酷な世界なのかもな」
撃って来る。
兵士達が、悲鳴を上げるが。
前に出たニクスが応戦。ニクス四機の射撃は、例え足回りが軍用トラックでも凄まじい火力だ。
相手がコスモノーツだったり、或いは鎧を着た精鋭コロニストだったら分からないが。このレベルの相手だったら、苦戦する要素がない。ただ、トラックの運転席はかなり危険度が高い。
小兄と柿崎が前衛に出て、コロニストの気を引く。
多少もたついたが、プロフェッサーの操縦するタンクも前に出て、盾になる。
三城も飛行技術の粋を尽くして、敵へ接近。
既に大半が蜂の巣にされたり首を落とされていたが。建物の影から牽制射撃をしてきていた奴の背後に回り込むと、ファランクスで焼き切る。
大兄が、ガアガアと鳴いていた奴の頭を狙撃で叩き潰すと。
周囲は静かになった。
駆除チームの荒くれ達がぼやく。
「クソッ、弾がたりねえ!」
「ガソリンもだ」
「どうする大尉の旦那。 一旦基地に戻って補給するか?」
「そうだな、無理に駆除して被害を出すような戦場じゃあない。 マザーモンスターがいない以上、怪物も即座に卵から孵るような事もないだろう。 一度補給に戻るぞ」
意外とこういう所は、海野大尉は冷静だ。
一度ベース251に戻り、補給を行う。
酒を入れようとする荒くれ達に、ちょっと呆れたが。小兄と協力して、てきぱきと補給を済ませる。
さっきまで控えていた一華も、クレーンを使って、すぐに手際よく補給を済ませていった。
再度出撃する。
荒くれ達が、一華に声を掛けていた。
「いやー、手際が良くて助かるぜ。 俺たちの基地には、なんつーかぶきっちょな奴しかいないからなあ」
「マニュアルも残していったッスけど」
「あんなもん、誰もよまねえよ」
「まずは動かして見て、それからだよな」
ゲラゲラ笑う荒くれ達。
呆れるが。まあ腕は悪くないのだ。ともかく、戦地に急ぐ。
さっき、コロニストがガアガア鳴いていた。増援が来る可能性がある。それも、タッドポウル込みの。
そうなると、一斉に怪物が孵化するかも知れない。
補給に戻ったのは正解だっただろう。
現地に到着すると、後は無心に駆除を続ける。
怪物の卵が割れる度に赤いα型が出てくるが。出て来たら即座に駆逐する。
これは正確には卵では無いのではないのか、という話もあるが。
どうにもそれはよく分からないらしい。
一華に聞いても、仮説はあるがと前置きされて。色々難しい話をされるだけである。だから、もうこういうものだと諦めていた。
「そろそろ気を付けろ。 怪物が一斉孵化する可能性がある」
「あの硬い赤いのが、一気に出てくるのか……」
「おっかねえ……」
「赤い奴よりも、もっと恐ろしいのがいる。 金のα型だ。 出会った人間は死ぬ。 戦場で何度か見かけたが、一瞬でニクスがスクラップにされる火力を持っている」
海野大尉が脅かすが。
これは事実だ。
金のα型と銀のβ型は、他とは次元違いの戦闘力を持つ。エイリアンよりも強いと判断して良い。
此処からは慎重に行くと、海野大尉が声を上げた直後だった。
至近に着弾。
慣れている駆除チームは、即座に展開。かなりの数のコロニストが、いつの間にか忍び寄ってきていた。
それだけじゃない。
空に、多数の黒い点。
やはりタッドポウルか。呼んでくると思っていた。
大兄がぼやく。
「やはり来たな……」
「タッドポウルは此方で対応するッス」
「頼むぞ一華」
「よし、ニクス隊はコロニストに火力を集中! 少し後退して、卵から距離を取れ! 卵も一斉孵化する可能性が高い!」
海野大尉が指揮を執り、皆がさがりつつ射撃を開始。コロニストはガアガア鳴きながら、射撃しつつ進んでくる。
その頭が次々吹き飛ぶ。
大兄の狙撃。
それに三城によるライジンでの狙撃によるものだ。
だが、怖れている様子はなく。以前みたボロボロのコロニストよりも、かなり戦意が高いように見えた。
ニクス隊もかなり被弾している。だが、エイレンが対空防御を完璧にして、迫るタッドポウルを次々に粉砕していること。
何よりも、四機のニクスが相互にきちんと連携して、敵への火力投射を行って足止めをしていること。
これらもあって、きちんと敵の足止めが出来ている。
そこにストーム1の五人が加わって、コロニストを仕留めていく。
この数が相手で、この戦力なら。
負けはない。
それでも、落ちてきたタッドポウルの中には、たまに立ち上がるのがいる。とんでもない生命力だ。
三城は余裕をみながら、ライジンでそういうのを叩き潰す。
ちょっと過剰火力だが、彼奴らは地上でも相当な機動力を発揮して、人間を喰らいに来る。
そして喰われると、あっと言う間に消化されてしまう。
兵士達が食いつかれると、まず助からない。
散々彼奴らに喰われた市民の無惨な亡骸をみた身としては、三城も奴らを許すわけにはいかない。
あれがただの猛獣で。
本能に従って、捕食しているだけだとしてもだ。
「コロニスト、残数4!」
「卵は!」
「まだ孵っていません」
「……いや、来るぞ! 壱野、急いでコロニストを片付けてくれ!」
大兄も、それに三城も。
このビリビリ来る殺気には気づいている。
すぐにライジンで、残っているコロニストを無理矢駆逐する。蜂の巣になったコロニストの死体が彼方此方に散らばっていて、ニクス隊もかなりのダメージを受けていた。前衛になったタンクは、追加装甲のおかげもあるのか何とか無事だが。プロフェッサーが、煙を噴いているタンクからもたもた出てくる。
多分もたないと判断したのだろう。
最後の一体のコロニストを、柿崎が接近して首を刎ね飛ばす。
同時に、一斉に赤いα型の卵が孵化していた。
「凄い数だ!」
「噛まれたら死ぬぞ! 死ぬ気で射撃して、敵を近づけるな!」
海野大尉は、兵士達を鼓舞。さっき至近でコロニストの銃の弾が擦って、怪我をしたのが見えたが。
まるで怖れている様子がない。
脳内麻薬がドバドバ出ているのか。
いや、それにしては冷静だ。
エイレンが空中のタッドポウルを駆逐完了。殆ど火焔を吐かせなかった。流石である。そのままエイレンが最前衛に出て、赤いα型にエイレンの強烈なレーザーを叩き込む。
一華は言っていたっけ。
リングが来るなら近々だ。
もしリングが来て、歴史を書き換えられた場合。このエイレンが無事でいる保証はない。せいぜい、手元にある一華お手製のPCを死守するのがやっとだろうと。
後二回か三回、戦闘出来れば充分。
だから、予備のバッテリーが少しあれば良いと。
大量のα型が押し寄せてくる。今回も海野大尉の指揮のおかげで、敵中にて囲まれる事は避けられた。
単縦陣に切り替えたニクスが、火力の滝を叩き込み。
エイレンが敵の頭をつぶしながら。軽快な機動力で不利な地点に集中的に火力投射を続けて行く。
赤いα型は全てを怖れず突貫してくるが。
それも、大兄がアサルトで射撃して。最後にして絶対の壁となって食い止める。大兄の使っているTZストークの破壊力は他の兵士のアサルトとは段違いというのもあるが。大兄は無駄弾を一切出さない。アサルトでもだ。
それが、海の中にある不動の大岩のような圧倒的安定感を作り出すのだろう。
文字通り、銃のスペックを引き出しきっているのだから。
程なく、赤いα型の圧力が弱まる。
最前衛で暴れ回っていた小兄と柿崎も、どれだけの赤いα型を倒したか分からない。赤いα型に近接攻撃を仕掛けて、首を刎ね飛ばして回る柿崎の様子を見て、海野大尉も感心していた。
「凄まじいな。 ウィングダイバーの生き残りは流石に精鋭揃いだ」
「ありがとうございます。 海野大尉のお手前も流石だと承りました」
「よせやい。 俺は凡人だ。 ただ悪運が重なって生き延びているだけのな」
凡人、か。
それでも、ここまでしっかりやれる凡人はそうはいないと一華は思う。
仕上げだ。
ファランクスを手に、赤いα型の残存勢力を蹴散らしに行く。
ついでに一旦上空に出て、残存している敵がいないか、しっかり確認もしておく。
上空に出た瞬間。
大兄から。バイザーに無線が入る。
「大きめの気配がある。 気を付けてくれ」
「! 六時方向。 多分マザーモンスター」
「恐らくずっとこの辺りにいた個体ではないな。 すぐに片付けるぞ」
もう少し駆逐が遅れていたら、マザーモンスターまで乱入して地獄絵図になるところだった。
だが今だったら、それほど苦戦する事なく仕留める事も出来る。
見えてきた。銀のマザーモンスター。これなら、苦戦する要素もない。
その巨大な体に、兵士達は恐れの声を上げるが。ニクス隊は流石に慣れているのか、すぐに陣列を再編制する。
もう夕方になっているが、怪物はまだやるつもりの様子だ。
それにしても一体だけか。随伴歩兵の怪物を従えていてもおかしくないのだが。これはプライマーが、何かしらの意図をもって送ってきたのか。
「退屈していたところだ! ニクス四機の十字砲火を喰らわしてやるぜ!」
「マザーだろうがキングだろうが、ニクスが揃えば敵じゃない事を証明してやる!」
「……」
悪いが、早々に決める。
大兄が狙撃して、マザーモンスターに直撃。
悲鳴を上げて隙を見せるマザーモンスターの背中に、三城はふわりと降り立ち。ファランクスの全火力を叩き込んでいた。
怪生物にすら有効打になるこのファランクスだ。
残念ながら、マザーモンスター程度なら相手にもならない。
悲鳴を上げて、身をよじるマザーだが。程なく、熱量に体が耐えられなくなったらしく、真っ二つになって果てる。
ニクス隊が、不満そうな声を上げた。
「おいおい、凄腕なのは分かるが、楽しみを残してくれよ……」
「コロニスト、たくさん殺した筈」
「まあ、それもそうか。 とにかく勝ち戦だ! 気持ちよく勝てたし、よしとすっか!」
ゲラゲラ笑う荒くれ達。
この人達も、なんだかんだで生き残っているのだ。相当に手練れているし、戦力にはなる。
そのまま、ベース251に撤退。
プロフェッサーのタンクも、盾にはなった。プロフェッサーは、不満そうだったが。帰路の途中、プロフェッサーはぼやく。
「やはり私は戦場に出るのには向いていない。 少なくとも後方で支援をさせてほしい」
「学者先生よ。 あんたがたくさんAFVや武器やビークル、何より道具やインフラを直してくれた事は感謝はしているんだがな。 それでも、今は猫の手でも借りたい状況だ。 パワードスケルトンをつければ戦える奴を、遊ばせている余裕はないんだよ。 子供でも戦っているんだぞ。 あんたも戦ってくれ」
海野大尉の言葉は厳しいが、ぐうの音も出ない正論だ。
そのまま略奪を済ませて戻って来たバイキングのようなガラの悪さの駆除チームと友に、ベース251に。
残り少ないアルコールを開けることを、海野大尉は許した。
恐らく、海野大尉も感じ取っているのかも知れない。
近場にマザーモンスターが二体も出現。
コロニストもアンドロイドも、前線とは言え出現量が多すぎる。北米に出たばかりの超大型アンドロイドが、いきなり複数出現。
何かの前兆だと。
わいわい騒いでいる兵士達を余所に、ストーム1は海野大尉に呼ばれる。
海野大尉は、アルコールを入れていなかった。
「壱野、頼みがある」
「はい」
「ベース251の地下には現在市民が数百人隠れ潜んでいる。 此処の近くには、隠れ潜む事を選んだ地下商店街があって、そこでは元特務の馬場って中尉がいる。 馬場中尉はもう総司令部の指揮を受けるつもりはないらしいが、うちの基地とは密かに交流があって、物資のやりとりもしている。 馬場中尉が保護している市民の数は、千人を超える。 それも、戦えないものばかりだ」
言いたいことは、もう分かる。
最悪の事態に備えて、動いてほしいと言う事だ。
「ここ数日の敵の攻勢の規模は異常だ。 東京の総司令部に確認は取ったが、別に東京や大阪で怪物やアンドロイドどもが大攻勢に出ているという話はない。 いざという時は……彼らを守って東京に避難してくれ。 お前達にしか頼めない。 その時は、俺たちが殿軍になる」
「分かりました。 その時は、必ず」
「頼むぞ」
海野大尉には言えない。
おそらく、その願いは叶えられないと。
リングが来た時点で、歴史が改編されてしまう。そして恐らく、それはもう間もなくと見て良いだろう。
海野大尉が行ってから、一華は咳払いする。
「荒々しいけれど、立派な軍人ッスね大尉どのは」
「ああ。 三城の恩人で、祖父の友人でもある」
「……明日が恐らくリングの出てくる日ッス。 フーリガン砲は一応自走できるようにしてあるッスけど。 怪物やアンドロイドに狙われたらひとたまりも無いッスから、絶対に守り抜いてほしいッス」
「承知している」
柿崎が挙手する。
彼女は、薄笑いを浮かべていた。
「もう疑ってはいませんが。 明日、リングというタイムマシンが来られると言う事で間違いありませんね」
「そうなる」
「もしも、開戦半年後に戻るのだとすれば、私はみなさんと一人だけ別の場所で孤立する事になります。 いざという時に備えて、軍基地での受け入れ態勢を整えてくださると助かります」
「それについては、俺の方でどうにかしておく。 開戦半年後の時点で、俺は尉官に昇進している。 それも最強特務の一角荒木班直属のな。 それくらいの便宜は図れる」
頷く柿崎。
五人では、足りなかった。
もっと一緒に戦える人材を増やしたい。
最終的には、ストーム2やストーム3、ストーム4含めたストームチーム全員でこのループを乗り切りたいが。それは、少しばかり厳しいだろうか。
嘆息する。
この地下にいる市民は、歴史ごと消し飛ばされてしまう。
だが、その哀しみも怒りも、絶対に無駄にしない。
この周回では負けたかも知れない。
だが、最後には。
プライマーの全てを暴き。そして、戦いには勝たせて貰う。それが、三城の誓いだ。
3、絶望の輪再び
弐分がみている目の前で、昨日整備を済ませたニクス隊がベース251の入口から出てくる。相変わらずトラックの荷台にニクスを載せた、ぶきっちょな姿のテクニカルだ。きのう、遅くまで酒盛りをしていた駆除チームである。
それに続くのは、巨大な砲台を無理矢理乗せた車体。
不格好だなと駆除チームはゲラゲラ笑ったが。
海野大尉は笑わなかった。
この強力な大砲を使わなければならない場面が来る。それを、理解したのだろう。
タンクも出せるだけ出す。
近隣に、コスモノーツを含むエイリアンが出たという話を聞いたからだろう。基地の最低限の守りだけを残して。全軍で出撃していた。
一華の予想なら今日。
プロフェッサーも、そうだと断言していた。
今日やることは多い。
大兄は、今日はライサンダーZではなく、アサルト主体で戦うと先に明言している。
ライサンダーZは、暗号入りの弾を叩き込む為に使うのだ。
暗号入りの弾については、一華とプロフェッサーが相談して。開戦直後に敵大型船が出たとしても、すぐに分かる暗号電波を発するように仕込んでいる。
とにかく、タイムトラベルのシステムを調べる必要がある。
前にも話をしたのだが。
周回ごとに、プライマーは攻撃を苛烈にして来ている。戦力も増やしている。
特に重点的に核関連の戦略基地は狙われていて。徹底的に潰されているのが確認されている。
これは恐らくだが、プロフェッサーも記憶していない過去の周回で、プライマーが核戦争で焼き払われたのが原因だろうと。プロフェッサーは考察し。
プロフェッサーとは時々喧々がくがくの議論をする一華も、同意していることだった。
である以上、あの大型船は間違いなく開戦開始の時点まで時を遡っている筈だが。
それにしては、不可解な動きが目立つ。
プロフェッサーの仮説で、一華も同意しているものがある。
あの大型船は、一度に数ヶ月、出来て一年程度しか過去に飛べない。
もしも開戦当初に飛べるのなら、もっと効率の良い戦い方をしてくるはずだ。
超高速移動しているように見えるのは、単に時間移動をしているだけ。
その証拠に、大気圏内で超高速移動している割りには、ソニックブームの一つも起きないのである。
弐分も高機動戦をやるから知っているが、空気の抵抗というのははっきりいって侮れない。
フェンサースーツを着ていても、空気の抵抗が激しいと感じる事はしょっちゅうあるのである。
人間大のフェンサースーツですらそれだ。
あんな大型船が、マッハ何十という速度で飛んだら。機体がまずもたない……どんな頑強な物質で作られていても。
それに、周囲がソニックブームで無茶苦茶になる。
「未知のテクノロジー」で全てを片付けるのはおろかな行為だと、一華は言う。
意見を違えて議論になる事も多いプロフェッサーだが、この話については全面的に同意しているようだった。
いずれにしても、一華はどんどん戦える学者になっている。
様々な論文を積極的に読んでいるのが要因らしいが。
もともと数カ国語を平然と使いこなせるのだ。
弐分は強くならなければならないと誓った。
一華は強くなろうと努力している。
これでいい。
もっと、ストーム1は強くならなければならない。柿崎だって、戦えば戦うほど強くなっている。
人員を増やし。
更に実力を上げれば。
きっと、手が届く。
だから、手が届くことを信じて。今はとにかくやっていくしかないのだ。
更に二機、いや二両と言うべきか。テクニカルニクスが来る。これで六両。
昨日のうちに、恐らく海野大尉が要請してくれていたのだろう。
「駆除チーム、着任。 戦闘に合流します」
「よく来てくれた。 これより不法侵入者どもを排除する」
「イエッサ!」
駆除チームの人員が、みんなそろって荒くれという訳でもないらしい。
ともかく、ニクス六機にエイレン。更にタンク数両の戦力で、この辺りに来たエイリアンを粉砕する。
かなりの兵力だが。随伴歩兵は少ないし。タンクもニクスもボロボロだ。
正直、額面通りの戦力を出すのは厳しいだろう。
「相変わらず酷い道だぜ。 五年前は、この国の道路は世界一整備が進んでいたのにな」
「そういうな。 もう道路どころか、国すらない場所だって多いんだ」
「ニクスが横転しちまうぜ」
「怪物共を駆逐してエイリアンをたたき出したら、まずは道路をどうにかしねえといけねえだろうな」
荒くれ達が進みながら、愚痴を言い合っている。
そういえば、ローマ帝国が強かったのは、道を整備していたからと言う話があるとか。
軍用路が各地に向けて張り巡らされていたこともある。
それもあって、各地に迅速に兵を派遣する事が出来た。それが強みだったという。
あくまで説の一つだ。
日本の国産戦車はとにかく軽量で、峻険な地形での戦闘を主眼に置いて作られていたとも聞く。
また、道路も。
それらの戦車が通れることを、主眼においていたのだろう。
だがそれも、今では荒れ放題だ。
世界最高の信頼性を誇ったこの国の車ですら、ガタガタで大変だと言う程に。
田舎でも、これだけの戦禍が残っている。
そして敵は、まだまだ幾らでも来るのだ。本来なら。
ただ、今日で一旦は終わりになるのだろう。
リングが来るからだ。
それを思うと、複雑な気分だった。
ストームチーム専用の回線に通信が来る。大兄が、前を歩きながら通信を入れてきていた。
なお、この通信にはプロフェッサーも混ぜている。
「皆、総司令部からの連絡が来た」
「聞かせてくれ」
「数日前から、世界中でテレポーションシップと大型船が活動しているそうだ。 恐らくだが……繁殖させた怪物や、戦力になりそうなアンドロイドなんかを回収して回っているのだろうな」
「連絡が遅すぎる」
三城がぼやく。
だが、もう総司令部にまともな偵察をする人員なんて残っていない。戦略情報部も殆ど機能していないのだ。
責めるのは、少しばかり酷にも思えた。
「間違いない。 やはりリングが来る」
「もう勝ってるも同然なのに。 プライマーは何を考えているのやら」
「さあな……」
「リーダー。 あのトゥラプターが出て来たら、勝負を引き受けて、その上で勝ってほしいッス。 彼奴、すごく律儀ッスから、少しずつ情報を引き出せる筈ッスよ」
大兄は、少し考えた後。
もしやれるようならやってみると応えた。
大兄でも、ちょっと自信はない感じか。
まあそうだろう。
トゥラプターの戦闘力は、他のエイリアンとは完全に隔絶していた。彼奴だけ、何かのロボットアニメから来たような実力だった。
弐分だって、次に勝てる自信はあまりない。
柿崎は嬉々として挑みそうだが。
程なくして、陣列が止まる。
見えてきた。
コスモノーツが、コロニスト数体を従えている。コロニストは鎧の奴だ。つまり、敵の特務が来ている。
鎧のコロニストが来ていると言う事は、やはりプライマーもリング周辺を整地したいのだろう。
それはそうだ。
あのリングの事故が、奴らの計画に泥をつけている理由の一つなのは、間違いないのだから。
「奴らの目は良くない。 接近してから、火力の集中投射で一気に仕留める」
「了解。 ……気を付けろ。 宇宙服野郎は手ごわい」
「分かってる。 仲間が大勢やられた」
「だが、今回はエイレンもいる。 仇は取ってやる」
味方が陣列を整え。
大兄が射撃。今回はライサンダーZは使わない。ただし、アサルトでも、不意を打てば一気に敵を倒せる。
鎧コロニストの顔が瞬時に穴だらけに成り。多分致命傷が入ったのだろう。その場でどうと倒れる。
コスモノーツが配下のコロニストをけしかけ、自分はさがろうとするが。回り込んでいたエイレンが横殴りにレーザーを叩き込み。戦車隊が射撃で拘束。更にニクスが機銃を叩き込み、間もなく全滅させた。
「味方、被害無し」
「流石はエイレンだ。 俺たちのニクスにも、あのレーザーほしいぜ」
「だがバッテリーがすげえ大変らしいぞ」
「そっか、じゃあガソリンの確保にも事欠いてる俺らには無縁の代物だな……」
ぼやく駆除チーム。
皆を促して、更に進む。
リングの出現地点に近付いていくと、コロニストの部隊だ。隊長らしい鎧コロニストが持っているのは、迫撃砲。
あの危険な武器をぶっ放されたら、テクニカルニクスではひとたまりもないだろう。
「三城」
「わかった」
三城がライジンを取りだす。皆が散って、攻撃態勢に。
そして、三城のライジンが、砲撃鎧コロニストの頭を瞬時に焼き切るのと同時に、攻撃開始。
囲んで集中的に射撃を浴びせる。
地面から、不意に湧いて出てくるアンドロイド。待ち伏せか。
不意を打たれて混乱する兵士達だが、柿崎が凄まじい勢いでアンドロイドを斬り伏せて行く。
弐分もそれにならう。
この程度の数のアンドロイド。それも通常型なら、どうにでもなる。大型がいれば厄介だったが、小型ばかりだ。
ニクスも対応は慣れたものだ。即座に応射して、アンドロイドを叩き伏せていく。
程なく、周囲の敵はいなくなる。
だが、弐分も感じる。びりびりと来る。
周囲に凄まじい数の敵兵。それだけではない。奴が、くる。
兵士が気づき、叫ぶ。
「おい、空をみろ!」
「ばかなばかなばかな!」
空。
そう、降り来るもの。
絶望の権化。終焉の使者。リング。直径数キロにも達する怪物兵器。マザーシップをもしのぐ巨大なる機械の化け物。それが、また姿を見せていた。
リングそのものは、攻撃をしてくる様子がない。兵士達が呻く。
「プライマーが、また援軍を送ってきたっていうのか!?」
「北米やこの辺りに出た超大型アンドロイドは尖兵か何かだったのかよ!」
「冗談じゃねえ! もう戦う力なんか残ってないぞ! 各地の軍は身を守るだけで精一杯なんだ! 子供用のミルクすら足りていないんだぞ! 戻ってくるな!」
「……あの形状、何か用途があるのか? 戦艦には見えない。 空母か……?」
パニックに陥る兵士達。
だが、その中で、海野大尉は流石だ。真っ先に冷静さを取り戻す。マル暴の頃から、修羅場をくぐり続けて来た人物だ。肝の据わり方が違う。
「周囲を警戒しろ! あれはプライマーの新兵器の可能性が高い! 総司令部に情報も送らなければならん!」
「そ、総司令部に情報を送ったって……もう人類に抵抗能力は……」
「奇襲を受けるよりはマシだ!」
「しゅ、周囲にアンドロイド! 信じられない数です!」
来たか。
見える。凄い数の擲弾兵だ。
とはいっても、三年前のあの戦いの時ほどじゃない。あれだったら、自分達だけでどうにか出来る。
エイレンが前に出ると、ニクス隊も対策のために単縦陣を取る。タンクも必死に陣列を整えた。
射程内に入ると同時に、エイレンがレーザーで応射。大兄は、フーリガン砲の側にいる。最後の壁、というわけだ。
弐分は突貫すると、火力の滝を浴びて次々爆散する擲弾兵の上を取り、散弾迫撃砲を叩き込む。
三城も上空から、プラズマグレートキャノンを打ち込む。
爆発する擲弾兵が、次々飛び散る。更にニクス隊の容赦ない攻撃と、何よりエイレンの精密射撃が、敵を花火に変えていく。
「プロフェッサー、後退を。 フーリガン砲にもしもの事があった場合に備えてほしい」
「分かった。 射撃は壱野准将に任せる。 私が側で状況を見よう」
「更に敵兵!」
来る。
超大型。大型。アンドロイドが、多数迫ってくる。超大型は三機か。どこから用意してきたのか。
弐分が、すぐに声を掛ける。
「擲弾兵の残党は俺が片付けます。 海野大尉、新手に注力してください」
「無理はするなよ! ニクス隊、戦車隊、陣列を組み直し、アンドロイドどもをスクラップに変えろ! 残弾は惜しむなよ! 随伴歩兵はそのまま戦闘継続!」
「ひっ……数が多すぎる!」
「うろたえるな! 此処には近辺の火力が全て集まっている! 押し返せる!」
海野大尉も、アサルトで勇敢に戦っている。フーリガン砲を守るように動いている大兄をみて、何かあると判断したのだろう。細かく指示を出して、フーリガン砲をきちんと守ってくれている。
残りの擲弾兵を、電刃刀で斬り伏せながら、爆発を背後に飛び回る。
擲弾兵の残党を切り伏せ終えたと弐分は判断。既に柿崎と三城が暴れ回っている前線に参戦。エイレンがかなり攻撃を集中して食らっているが、その代わり他のテクニカルニクスは比較的無事で、敵に火力投射できている。
だが、状況は更に厳しくなる。
「敵ドロップシップ複数!」
「エイリアンまで来たか!」
「逃げましょう! 勝てっこありません!」
「そうか。 だがな、前線で戦っている精鋭達をみろ! まさに勇士だ! 俺たちも、負けてはいられない! 腹の底から叫べ! EDF! 勇気が出るぞ!」
ドロップシップから、コロニストが降りてくる。通常装備のものばかり。コスモノーツも来るが、殆どがアサルト装備で、指揮官級のショットガン持ちは一体だけだ。
有り難い。敵も、恐らくは万全の準備を出来なかったのだ。
三城が、出落ちにプラズマグレートキャノンを叩き込み、降下したコロニストの一団を文字通り消し飛ばす。
柿崎はすっとショットガン持ちのコスモノーツの背後に回り込むと、足の腱を斬り。更に倒れた所を、首を両断していた。
そのまま、何が起きたか分からず困惑して足下を撃とうとするコスモノーツ達を、弐分が斬り伏せる。電刃刀とプラズマ剣のコンビネーションで、瞬く間にコスモノーツ部隊を黙らせる。柿崎と弐分はかなり戦闘スタイルがちがうのだが、噛み合えば殲滅力は凄まじい。
大兄もアサルトだけで戦闘を続けているが、そのキルカウントは尋常では無い。群れて襲いかかってくるアンドロイドが、次々に打ち砕かれる。
だが、ニクスもエイレンも、遠くから飛んでくる超大型のパルスレーザーにダメージが蓄積して行く。
タンク部隊が、悲鳴を上げた。
「げ、限界です!」
「脱出しろ。 充分な対費用効果は上げられた。 兵器はそれで充分だ。 役目を果たしたスクラップより命を優先しろ」
「りょ、了解っ!」
戦車兵が逃げ出してくる。直後、アンドロイドの猛攻で次々にタンクが爆散。ニクス部隊のダメージも蓄積して行く。生き延びたコロニストと、大型アンドロイドを処理しきれないのが要因だ。
超大型が、一機爆発四散。内臓のような生体部品をまき散らしながら、粉々になった。
飛行技術の粋を尽くして敵を蹂躙し、敵陣を突破した三城が。ファランクスを超大型アンドロイドのモノアイにねじ込んだのだ。
慌てて対空攻撃に出ようとする超大型だが、もうあれはいい。戦闘兵器としては拠点攻略用かも知れないが。正直ブラスターを装備して小回りがきく大型の方が危険だ。超大型は三城に任せて、弐分は大型の駆逐を最優先。
ガリア砲に切り替えると、遠距離から貫く。
大兄の話によると、モノアイを特定の角度で貫くと、一撃粉砕できるらしいのだけれども。
流石に其処までは狙えない。ただガリア砲を当てるのは難しく無いし、それで充分に動きは止められる。
ニクスが擱座した。足回りがトラックなのだから仕方がない。別のニクスが中破する。乱戦がそれだけ厳しいのだ。
兵士達も次々傷つく。
悲鳴がひっきりなしに聞こえるが、とにかく耐えるしかない。キャリバンも、まともな救護施設もない。
それに。
リングが来て全てを台無しにしてしまうとはいえ。
此処を抜かれたら、残っている市民が大量虐殺されるのだ。歴史が書き換えられるとは、まだ決まっていない。
だったら、踏みとどまる価値はある。
最後の超大型アンドロイドが粉砕される。
大兄がニクスに集っていたアンドロイドを、かたっぱしから蹴散らす。コロニストは、弐分が全て倒しきった。大型アンドロイドがまだ何機か残っていたが。手が開いたニクスが火力を集中、撃ち倒す。
「フーリガン砲は無事だ!」
「発射準備に入ります」
「頼む!」
プロフェッサーが、負傷しながらもフーリガン砲に貼り付いている。一華のエイレンが、傷だらけながらもまだ動いている。何度か大型のブラスターから味方を守っていた。多分装甲は限界の筈だ。
見えてきた。
五十隻、もっといる。大型船だ。
作戦通りに、行動を開始する。
「あれは、確か世界中に現れたとかいう大型船だ!」
「あのでかい輪っかほどじゃないが、大きい……」
「どんな攻撃も受けつけなかったとか聞くぞ!」
「テイルアンカーとかアンドロイドを運んでくるとかも聞く! もうおしまいだ!」
兵士達が絶望しているが。此方はそうはいかない。
三城がライジンを準備。弐分もガリア砲を用意した。少し考えたのだが、もう残弾もなく、何より届くかも微妙なディスラプターよりもこっちの方が良い。
兵士達の応急処置を率先してしながら、海野大尉が戦闘態勢を取れと声を張り上げる。
この人は、最後まで屈するつもりは無さそうだ。
どんな悪い戦況でも、最後まで生き残りそうである。
それほどのタフネスがある。
ムービーヒーローのような超越的な強さは無い。大兄のような、何とやり合っても勝てそうな安心感はない。
だが、どれほど悪い戦況でも生き残れる。
そんな不可思議な安心感があるのだった。
「フーリガン砲、発射準備!」
「システムオールグリーン! いけるぞ!」
「よし……」
大兄が、フーリガン砲を無理矢理搭載した車両に乗り込む。
一華に射撃は任せても良いかと最初は思ったが、一華が内部をみて眉をひそめた程の、人力依存の射撃システムだという。とてもではないが、当てる事は出来ない。名人芸が必要になるのだとか。
だったら、大兄がやるしかない。
射程距離に入った大型船に、三城が攻撃開始。
弐分もそれに続き、一華も。
柿崎も、パワースピアを投擲して熱エネルギーをぶつけるが、やはり効いている様子がない。
観察をしておく。
ゆうゆうと飛んでいるクラゲに似た敵大型船は、まるで余裕の様子だ。何か、ダメージを与えるのには条件があるのか。
いや、違う。プライマーの船は、マザーシップに顕著だが。危険があると動きを変える傾向がある。
あれは、多分一切の危険がない事を意味していると見て良い。
一隻の一点に火力を集中しているが、効いている様子はない。余裕の様子で飛んできている敵大型船だが。
その下部に、不意に射撃が炸裂していた。
フーリガン砲だ。
文字通り、下から上に貫通していた。
いままで不落の要塞だった敵大型船が、ぐらりと揺らぐ。火花を散らしながら、傾く。
そして、冗談のように。
今まで通らなかった攻撃が、敵船を貫いていた。
とどめになったのは、三城のライジンだ。
文字通り、爆発四散する敵大型船。おおと、声が上がっていた。
「やったぞ! すげえなその大砲!」
「なるほどね……どうやら予想は大当たりだったようッスねこれは」
「凪一華大佐。 話を聞かせてくれ」
「あれは、ダメコンで攻撃を散らしているッス。 恐らくだけれども、どんな攻撃も最初から全て通っていた。 だけれども、船がこのエイレンみたいに強力なダメコンを自動で行っていて、それこそフーリガン砲やテンペストでもない限り、落とす事は不可能って話ッスわ」
それがわかっただけで、とんでもない価値がある。
二発目のフーリガン砲が炸裂すると同時に、砲身が融解する。
二発目も、大兄はきちんと当てた。ぐらりと揺らぐ敵大型船。慌てたように、敵船団は軽く隊列を乱すが。それでも五十隻以上の艦隊だ。
集中攻撃を受けて、二隻目の大型船が爆発四散する。今度のとどめになったのは、弐分のガリア砲だった。
墜落してくる敵大型船。
地面で大爆発した。
「やったぞ!」
「プライマーめ、思い知ったか!」
兵士達が歓喜の声を上げているが。
すぐにそれが絶望へと変わる。
リングの、円環の内部空間が。鏡面のようになる。そして、其処に穴が開き。攻撃を免れた敵大型船が、次々と吸い込まれていくのだ。
「敵が消えているぞ!」
「奇っ怪な! プライマーめ、血迷ったか!? いや、違う! 何か邪悪な行為をしているに違いない!」
「勘が鋭いな海野大尉は。 奴らはこうして過去やおそらく自分たちの司令部にデータと物資を送っている。 データの中には、今回の戦闘で発見したEDF基地の位置なども混じっているだろう。 各地で地下に潜んでいた者達は、今回も殺された。 だが敵はそれを手探りでやっていた。 次は最初から、何処にシェルターがあるか敵は分かっていることになる。 もう試行錯誤は必要ないわけだ。 それだけ労力を省略できる。 酷いペテンだ。 そして未来から、奴らは更にあの大型船を援軍として送ってくるはずだ。 今回はあの程度の数だったが、次は百隻を超えるかも知れないな。 それらには、戦訓から更に改良された兵器が搭載されているはずだ。 恐ろしい話だ」
大兄が、次々に温存していたライサンダーZで狙撃。
敵大型船を狙っているように見せかけて。上手に敵船が消えていく穴に作っておいた暗号弾を打ち込んでいる。
この暗号弾が何処に出るかで、敵の性能が分かる。
今までの「仮説」が、実データによって補強される。
「仮説」の段階では意味がないものも多い。
しかしながら、これが実データになれば話は別だ。しばし学説がひっくり返るのも、実データ。歴史なら一次資料。天文学なら観測結果。こういったものが得られるからなのである。
二隻の撃墜には成功した。
だが、残りは全て、ゆうゆうとリングの中へ。
つまり過去へと消えていった。
「敵船、全隻消失!」
「どうなった、どこへいった!」
「全周囲を警戒しろ! 何が起きても不思議では無い!」
空の色が変わり始める。
歴史が、書き換えられているのだ。
ぐっと、歯を食いしばる。
やらなければならない。また、途中から。
開戦の日に出られたら、どれだけ楽か。初日にテレポーションシップを叩き落とすノウハウを見せる事が出来れば。恐らく戦況を一気にひっくり返すことが出来る。その分敵も対応を変えてくるだろうが。多少の対応など、今の村上家と、一華と柿崎がいれば。そのままひねり潰してやれるものを。
「……敵の勝ちだ。 だが、我々には知識がある。 あの場所で……また事故を起こそう」
プロフェッサーが言う。
大兄が頷く。
弐分も頷いていた。
このまま、好き勝手に勝ちを誇らせるものか。
今回は二隻だけしか落とせなかった。だが次は、同じように行くと思うな。
無敵の兵器なんて存在しない。事実、あのマザーシップですら落とす事が出来たのである。
いずれリングも、必ず叩き落としてやる。
勿論、敵がどんな目的で人類の抹殺を狙っているのかは分からないが。
それでも、まずは敵の攻撃を挫き。
地球から、たたき出さなければならない。
それが、全てであった。
空だけではなく、周囲全てが歪んでいく。
何もかもが、終わりつつある歴史になる。それを、弐分は肌で理解していた。
4、混乱
「水の民」長老は、予想外の事態に混乱していた。
すぐに部下から報告を聞く。
「「戦闘輸送転移船」の損害を報告せよ」
「はっ。 撃墜二隻。 搭載していた大量の戦力を失っています」
「敵の武器は」
「恐らくですが、前周などで用いられた超大型徹甲弾、敵称「フーリガン砲」によるものかと思われます」
なんということか。
まさか、このタイミングで撃墜例が出るとは。
そもそも「戦闘輸送転移船」は、攻撃能力を最小限にすることで、戦闘投入の「許可」を「外」から得た艦船だ。
それに関しては、他の艦船級の兵器も同じである。
「外」は内戦には介入しない。
しかしながら、あまりにも強力すぎて、バタフライエフェクトが抑えきれなくなるような兵器の使用は「外」に禁じられている。
今も、本国は「外」に抑えられていて、厳しい監査の目が入っているも同然なのだ。
トゥラプターはそんな状態の本国を毛嫌いしていて、戻りたくないと公言している程だった。
まあ負けた上に、占領されているも同然なのだ。
それも当然だろうか。
「戦闘輸送転移船を落としたのは、例のストームチームの残党だな。 戦士トゥラプターが絶賛するだけの事はある。 奴らだけのために、対策兵器を作らなければならないレベルだ」
「本国に打診しますか?」
「ああ、そうしろ。 どうやら、予想以上に危険な相手だ。 大量破壊兵器の使用が「許可されていない」以上、何とか奴らの裏を取るしかない」
今回の戦闘は、無能だった前任者の失敗を全て洗い直し、次の完勝につなげるためのものだった。
それについては、最初から計画書として本国に提出している。
恐らくだが、「外」にもそれは伝わっているだろうし。文句を言ってこないと言う事は、別に気にもしていないのだろう。
あくまで「外」にとっては内戦だ。
反物質兵器やブラックホール兵器のような大量破壊兵器を使いでもしない限り、「外」が介入してくる事はない。
旗艦の主砲なんか、本来の出力の1%も出せていない。
「外」に制限されたからだ。
まあ、「外」からすれば。例えフルパワーでも屁でもない程度の兵器にすぎないのだが。おろかな先祖がそれを証明している。
トゥラプターが来る。
「長老。 戦闘輸送転移船が撃墜されたとか」
「ああ、やられたよ。 落とされたのは二隻だけだが、かなりの数の投入予定兵力が潰された。 増援は多めに派遣して貰っているとは言え、計画の一部変更が必要だな」
「ストームチームですな」
「ああ、そうなる。 侮っていたつもりはない。 事実、奴らだけで数十万以上のキルカウントを稼いでいる。 火の民の戦闘要員も、奴らのいる戦場には出たくないと話をしているようだが、それもそうだ」
びくりと、環境にいた火の民の者達が視線を背ける。
確かにあんな無茶苦茶な戦闘力や、更にはついに「戦闘輸送転移船」を撃墜した手際をみれば。怖れるのも当然か。
「俺が出ましょうか」
「お前は律儀な戦士だ。 相手が勝った場合、その分相手に譲歩するだろう」
「それは、戦士として当然のことですので」
「そうだな。 だからまだ出撃は許可できない。 代わりに、訓練が終了した「水の民」の戦士を戦線に投入する」
トゥラプターは視線を少しだけ上に向けた。
不満なのは分かる。
だが、「水の民」の戦士は全身をサイボーグ化しているケースが多い代わりに、絶対数が少ない。
本国において、もっとも優秀な「風の民」はともかく。
もっとも多い「火の民」より少ないのは、総合的なスペックが高いためだ。
かつかつなのである。本国も。
ましてや大混乱が続いていて、それが収束する見込みもない。
今回で本当なら勝負を付けたかったのだが。
それも出来なかった。
この一斉時間改変の前に、人類を最低でも絶滅させること。
それが、恐らくは本国の勝ちの条件だ。
今回も、達成出来なかった。
主にストームチームとやらのせいだ。
だが、妙な感じもする。
敵はひょっとしてだが。
此方の先手を取ってきていまいか。
気のせいだとは思うが。備えておく必要は、どうしてもあるだろうと「水の民」長老は思うのだった。
オペレーター達に声を掛ける。
「ストームチームがどこから現れたか、それについては判明しているか」
「はっ。 地上戦力による此方の艦船の撃墜が始まった地点にはいた事が分かっています」
「……よし。 その地点に投入する戦力を十倍にしろ」
「十倍ですか!?」
そうだ。十倍だ。それでも足りないかも知れない。
援軍が来る。
過去に戻りながら、援軍と、その装備の内容を確認。
「いにしえの民」の装備を参考に作った、原始的な武器。「水の民」の戦士達も呆れていたが、それでも仕方がない。
二重の意味で、本国は首根っこを押さえ込まれているのだ。
「いにしえの民」の抵抗と。
「外」による掌握で。
確かに、先祖のおかした愚行を考えれば。「外」が容赦のない手に出てくるのも仕方がないのは事実だ。
それに、そもそも凶暴なことが分かりきっていた「いにしえの民」との戦争だって、調子に乗った先祖のせいだ。
どうしてここまで、愚か者の尻を拭くために、血を流し続けなければならないのか。
最悪の事態になっても、「外」は本国の非戦闘員の生存保証だけはしてくれている。
それについては、「いにしえの民」についても同じらしい。
知的生命体は、それだけ出現するのが希だというのが理由らしく。どんな文明でも、存在する権利は有していると言うのが「外」の理屈らしいが。
いずれにしても、とにかく窮屈だ。
正論ではあるのだが。
「全軍、それでは第七次対「いにしえの民」作戦を開始します」
「うむ……」
「俺も、いつでも出られるようにしておきます」
「分かっている。 もしもの場合は、頼むかも知れない。 お前の力は、私がもっとも信頼している」
こくりと頷くと、トゥラプターは戻っていく。
さて、此処からだ。
まずは何度かタイムワープを繰り返して、「外」に指定されているほぼ五年前に戻る。
とはいっても、前任の司令官を更迭した後の時間帯だが。
五年前に戻った後に、「水の民」長老は作戦開始の指示を出す。
敵の核兵器は全ての位置をほぼ把握したとみていい。今回は、前回以上に容赦なく、まずは核兵器から叩き潰す。
本来だったら、たかが核兵器くらいなんでもないのだが。
「外」が、核兵器に耐えられる装甲の投入を許さなかった。
それだけ、立場が弱いのである。
だから何とか手持ちの駒でするしかない。
「いにしえの民」は、此方の事を無茶苦茶有利だと思っているかも知れない。
だが実際は。首輪をつけられ手かせを嵌められ。更には監視までつけられて戦争をしているのだ。
先祖がバカをやらかしたが故に。
ともかく、そんな状態でも勝てるように準備は整えた。
もしもこれでも駄目なようだったら、現在開発中の生物兵器や自動戦闘兵器、更には「風の民」の数少ない戦士達を呼ぶ事になるだろう。
最高指導者である「風の民」長老は、本国から動けない。「外」のそういう方針だからである。
だから、上手く行くまで。
「水の民」長老が、全ての作戦指揮を続けなければならなかった。
守るべきものを、守るためにも。
(続)
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