終戦は廃墟とともに

 

序、決戦開始

 

「火の民」の戦士トゥラプターは、凄まじい「いにしえの民」の戦士「ストームチーム」の戦いぶりに感心していた。

是非戦いたい。

ただトゥラプターも。前の司令官のような低脳なら兎も角、恩もあり尊敬している現在の司令官。「水の民」の長老に逆らうような真似は出来ない。プライドが高いトゥラプターにとって、忘恩は許しがたい悪逆であった。

呼ばれたので、出向く。

「水の民」長老は、月の裏の拠点で作戦指示をしていたが。

本国からは、あまり良い報告が来ていない様子だ。

「戦士トゥラプターよ。 来たか」

「はっ。 出撃であればいつでも出向きますが」

「頼みたいのは山々だがな。 本国の状況がよろしくないらしい」

「これだけ戦況が良いのに改善していないので?」

そうだと、長老は言う。

そうか。そうなると、何かまだ要因があるのかも知れない。

水の民長老は、多数ある手足を複雑に動かして、考え込む。

水の民は多数の手足を持つ。戦闘力そのものは決して高くないのだが、この手足にサイボーグとしての改造をしている者が多く。それによって凄まじい反射速度で動かすことが出来る。

サイボーグもありと考えるなら。

トゥラプターに比肩する戦士も、何名か存在しているほどだ。

「やはりそもそも支給されている技術と言うこともある。 どうしても我々では、戦況を完勝に持っていく以外には、どうにもできないだろうな」

「おろかな先祖共が、身の程知らずの行動を行わなければ、このような事にはならなかったでしょうに」

「それについては同感だ。 だが今は、出来る事を現実的に行わなければならない。 本国を救うためにもな。 そもそも「いにしえの民」が交渉に応じてくれるような種族だったら、こんな事にはならなかったのだが……」

一周目の話だ。

トゥラプターも見た。

最初、船団を率いて地球を訪れた「火の民」を中心とする部隊は、「いにしえの民」に交渉を申し出た。

返事は核兵器だった。

無茶な要求などしていない。ただ一つだけ、して貰えれば良かったのだ。現在の文明に迷惑を掛けない。そう明言もしたのに。

以降は泥沼の戦闘が開始された。

今では、トゥラプターもそのおろかさ加減には呆れている。まあ楽しく戦える相手も出現したから良いのだが。

「「いにしえの民」の戦士達……「ストームチーム」は俺でも侮りがたい手練れで、殺すには惜しい。 どうにか味方に引き込めませんか」

「残念ながらそれは無理だ。 最初に交渉が失敗して以降、もはや解決手段は地球をテラフォーミングするしかなくなった。 新しい文明を早期に出現させ、本来「いにしえの民」が行う筈だった事を代行させるしかない」

「全く、面倒極まりませんな……」

「幸い「外」は「内戦」には干渉はしてこない。 まあ文明が連続しているのは事実ではあるからな。 それに悔しいが、連中が言う事は正論でもある。 今の惨状は相手を見極めずに力に訴えた先祖の責任だ」

嘆息する長老。

いずれにしても、出撃は無しか。愚痴くらいならまあ、聞くのも悪くは無い。

トゥラプターは、せめて「ストームチーム」の最後を見届ける事にする。

もしも此処で生き残るなら。

それもそれで、面白いだろうし。

 

壱野は無言で、ぼろぼろになったライサンダーZを手入れする。もう、そろそろこの銃も性能的に限界だろう。

だがプロフェッサーが既に拘禁され。ラボも爆破されてしまっている今、装備のバージョンアップは望めない。

荒木軍曹が来たので、立ち上がる。

作戦開始の時間が来た。

横浜の臨海。巨大なビルを建てる予定だった建設地に、プライマーが集まっている。凄まじい兵力だ。

テレポーションシップの周囲に、大型アンドロイドとコスモノーツ、更にそれを守るようにコロニストが展開している。

怪物もあらゆる種類がいる。

その上、上空には全てのタイプの敵ドローンがいる。数がそれほど多く無いことだけが救いだろうか。

コレに加えて、アンカーの追加の可能性を考慮しなければならない。

大型船が来る可能性もあるが。

何よりマザーシップが接近しているのだ。

それを思うと、どのような増援が来るか分からない。味方の支援部隊も、かなり到来は厳しいだろう。

軽くブリーフィングをする。

小田少佐が、その前にぼやいた。

「日本に帰ってきて、俺のダチに連絡してみたんだ。 みんなやられちまってた。 クソアンドロイドどもに……」

「どこの国でも戦況は同じようだな……」

「だが、まだ我々は生きている。 此処にいる敵は、東京を潰すための中核部隊で間違いないだろう。 此処の敵を壊滅させれば、プライマーに一泡吹かせることが出来る」

荒木軍曹は、そう言う。

もうブレイザーのバッテリーは、残り少ない。多分今日の戦闘で使い切ってしまうことだろう。

充電は前ほど大変ではないが、それでもそもそも各地の軍基地での電力補給が厳しすぎるのだ。

既に人類は。市民は。

軍基地から電力供給を受けないと、生きられなくなっている。

各地の電力設備はプライマーに真っ先に潰された。アンドロイドは放射能汚染などまるで怖くないようで、原発を容赦なく破壊し、平然と動き回っている。

ジャンヌ大佐は、髪を掻き上げる。

「今日、ここに人類最強の戦士達が集まった」

「そうだな。 これが運命だ」

「……作戦はない。 ストーム1を中心に、敵を少しずつ削り倒していく。 それだけだ」

荒木軍曹はそう言うと。

攻撃開始の号令を出すのだった。

壱野は前に出る。

幸い、タイプスリードローンは各地の最前線に投入されていたためか、あまり数が多くない。

いや、或いはだが。

この拠点もEDFにダメージを与えるために作られたものであって。

本命の戦力が、更に来るかも知れない。

既に攻勢限界が近い。

それは分かっているが。それでもどうにかしなければならないのだ。

もう一度だけ、東京基地に様子を確認する。

今、各地で戦闘中の部隊を含め、此方に戦力を向かわせられないか調べているそうだが。現時点では、すぐに到着できる部隊はいない。

マザーシップが上陸してきたら、どれだけの追加戦力が来るか知れたものではない。

ならば、今仕掛けるしかない。

各国からの援軍はもうない。

インドでの決戦で半壊したEDFは、もはや身を守るのだけで精一杯の状況なのである。

そして此処で集結している敵を潰さなければ、人類の最後の拠点の一つである東京を潰される。

それは、絶対に阻止しなければならなかった。

「ど、どこかにある筈です! 宇宙の、宇宙の卵が! 神話に出てくる神が乗る船! それさえ、撃墜出来れば!」

「無線を切れ」

戦略情報部の成田軍曹が喚いている。

士気が下がると思ったのだろう。荒木軍曹が、吐き捨てるようにいった。

多分、もう皆生還の覚悟は捨てている。

だが、それでも。

一人でも多く、生還させなければならない。

一華がぼやく。

「宇宙の卵ね。 敵旗艦があったとしても、今回敵には冒険する理由がない。 いるとしても、人類の手が届かない所ッスわ」

「一華中佐。 もしあるとしたらどこだと思う?」

「プライマーの実力は、星間文明としては恐らく大した事が無いッス。 そうなってくると、地球の近くで、人類には見つけづらい場所だと思うッスね。 現在、ほぼ人工衛星が稼働していない上に、新しく人工衛星を飛ばせないことを考えると……月の裏側とか?」

「なるほど、確かにそれはあり得そうだ。 そしてそれならば、手の出しようがないだろうな」

荒木軍曹はそう苦笑するが。

壱野は、それはあり得るかも知れないと思った。

そして、今回が駄目でも。

次。或いはその次に。

その情報を生かせるかも知れない。

「一華。 今の情報、例の記録媒体に入れておいてくれるか」

「別に大した情報じゃないし、裏付けも無いッスけど」

「いや、プロフェッサーと合流した後にでも相談しよう。 ひょっとしたら、プロフェッサーが探査の手段を持っているかもしれない」

「……そうっスね」

ボロボロのエイレン二機とともに、敵に近付く。

ドローンが反応した。ざっと見る限り、かなり大型アンドロイドが散って配置されている。

此奴ら。

それに、鎧を着たコロニスト。

これらから処理していかなければならないだろう。

敵は巡回を続けていて、配置をかなり柔軟に変えている。

一箇所をつつくと、かなりの広範囲が反撃に転じてくるだろう。非常に危険な状況だが。

それでもやるしかない。

バイクを取りだす。これもボロボロだ。

連戦に次ぐ連戦で、頑丈なフリージャー型軍用バイクも、既にこの有様。

エイレンの整備を優先した結果、此奴に手を入れる余裕は長野一等兵にもなく。動くだけもうけものという状況。

かなり近くに、敵の一分隊がいる。

コスモノーツが指揮をする、コロニストの部隊だ。一体が鎧を着込んでいて、強力なパルスレーザーを手にしていた。

普段なら相手にならないが。

敵の後方には大型アンドロイドがいて、近くにテレポーションシップもいる。

つまり、叩けば全部まとめて反応して襲いかかってくる可能性が高い。

慎重に見極める。

攻撃の順番は任せると、荒木軍曹に言われている。

頷くと、壱野は。

狙撃していた。

鎧を着たコロニストの頭が消し飛ぶ。

案の定、コスモノーツが反応。

数体のコロニストもろとも向かってくる。大型アンドロイドも、此方を視認。ブラスターを発射し始める。

凄まじい火力の攻撃が飛んでくる。テレポーションシップから投下されていたα型の怪物も、此方に一斉に向かってきた。

弐分と三城が、エイリアンの部隊に。

上空から来るドローンに、エイレンが応戦。

柿崎はα型の群れに突っ込む。

その間に壱野は、バイクで突貫。バイクに装備されている機銃で敵を散らしながら、テレポーションシップの真下に潜り込む。

狙撃。

爆破に成功。

まずは一隻目だが。こんなものは、敵には痛手にもならないだろう。

テレポーションシップが落ちてくる。その下に、ブラスターをぶっ放しながら接近して来る大型を誘導。

自分の命に執着がないアンドロイドは、誘導に引っ掛かり。更に一発ライサンダーZの弾を撃ち込んでやった事もあって。

そのままテレポーションシップの撃墜に巻き込まれ、もろともに爆発していた。

この爆発音に勘付いたのか、エイリアンが集まってくる。

コスモノーツはショットガンや大型レーザー砲を装備した個体もいる。日本で二百体近くを屠っても、まだまだこれだけ来ていると言う事だ。

味方は疲弊が大きく、四方八方から来る敵に対して、いつまでも持ち堪えられそうにない。

レーザー砲持ちのコスモノーツを一華機と相馬機の火力を集中して葬るが。その間にショットガン持ちが接近。モロにショットガンを喰らった相馬機が火花を散らす。支援する荒木軍曹が、ブレイザーを叩き込み。コスモノーツの鎧を溶かして内部ごと焼き切るが、それでも相馬機のダメージは甚大だ。

怪物は数が多く、津波のように押し寄せてくる。

柿崎は当たるを幸いに斬り伏せているが、面制圧はとことん苦手な戦闘スタイルだ。今、エイレンに怪物を接近させるわけにはいかない。

ドローンもタイプワンが主体とはいえ、数が多すぎる。

これではDE203は突入できない。

「無理にでも突入するか!?」

「隙は造るッス! 今突入されたら、無駄死にッスよ!」

「くそっ!」

DE203のパイロットが舌打ちする。

壱野は近付く敵の中から、危険度の高い敵から優先して撃ち抜く。それで被害を減らしていくが、それにも限界がある。

二機の大型が同時に来る。

一体は即座に撃ち抜いて、大きな損害を与えるが。もう一体は、最悪のタイミングでブラスターをぶっ放してくる。

誰も手が開いていない中。

ブラスターから発射された無数の光弾が、怪物ごとストーム3の戦闘地域を文字通り蜂の巣にしていた。

ブラスターを乱射している大型を壱野が撃ち抜いた時にはもう遅い。

ジャムカ大佐だけが生き残っていた。マゼラン少佐は、文字通り襤褸ぞうきんのようになって怪物の死体とともに転がっている。もう一人のストーム3隊員は、死体が原型を留めていなかった。

「ジャムカ大佐! さがってください!」

「かまわん! それよりもこれ以上怪物を来させるな! テレポーションシップを落としてくれ!」

「その通りだ! 此方にはかまうな!」

また、もう一機大型が。いや、三機はくる。

三城がプラズマグレートキャノンで吹き飛ばすが、その影から更に一体、いや二体。狙撃して一体はのけぞらせるが、駄目だ。

大型を抑えきれない。

エイレンは群がってくるドローンと怪物の処理で手一杯。

更に言えば、相馬機はダメージ甚大。火力が大きい分、足回りが駄目な事が、こういう所で効いてくる。

猛然と突貫した壱野が、テレポーションシップを叩き落とす。エイリアンが反応して迫ってくるが。落ちてくるテレポーションシップを盾に攻撃をやり過ごしつつ、ブラスターをぶっ放している大型アンドロイドを横から撃ち抜く。

見た。

どうやらモノアイに直撃させると、一撃でライサンダーZの弾が貫通できるらしい。

ただし、かなり角度が絶妙でないと駄目だ。

だが、覚えた。

覚えたが。

その代わり、ストーム4が、強烈な弾幕にモロに晒された。

「ジャンヌ大佐!」

「此方は良い! 良いから敵の供給を絶て!」

「くっ……」

駄目だ。このままだと全滅する。

柿崎は完全に怪物殲滅に没頭している。ゾーンに入るとかそういう言葉があるが。完全に殺戮のために頭の全機能を使い、体がそれに応えているという感触だ。下手に近付くと、味方でも斬りかねない。

弐分も三城も、最高効率で敵を倒しているが。

まだ、戦力が足りないというのか。

一華が前に出ると、怪物の群れに対して盾になる。

ジャムカ大佐もジャンヌ大佐も、絶倫の技量で怪物と戦っているが。

嗚呼。

分かる。

あれは、もう命の最後の炎を燃やし尽くしている。

エイリアンの頭を撃ち抜く。コスモノーツがさがりながら、手を上げて。ハンドサインに応じたコロニストが突貫してくる。

武器を切り替える。

そして突撃。コロニストは面食らったようだが、迎撃しようとし。壱野がぶっ放したスタンピートの弾幕を見て唖然とし。対応しようとして失敗。

大量のグレネードをモロに喰らって、粉々に消し飛んでいた。

爆炎を斬り破って、さがろうとしていたコスモノーツの胴鎧を撃ち抜き、怯んだ所にバイクの機銃を叩き込む。下手なダンスを踊るコスモノーツ。竿立ちになっていた其奴が倒れる横を走り抜け。此方にブラスターを放とうとしていた大型アンドロイドに一撃を叩き込む。

更に機銃を浴びせて吹き飛ばす。

機銃、残弾ゼロ。

このバイクも、もう駄目だ。

バイクから飛び降りつつ、ライサンダーZで狙撃。更に一隻のテレポーションシップを落とす。

怪物はあらゆる種類が迫ってくるが。今バイクとともに爆散したスタンピートの代わりに、アサルトを取りだす。

アサルトライフルTZストークは、結局今周回は此処までしか進化しなかった。

だが、それでも。

壱野が振るえば、怪物の群れをなぎ倒すのは難しく無い。

怪物の群れをなぎ倒しながら、見る。

敵大型船が動く。

上を向き始めた。

テイルアンカーを投下するつもりだ。

「アンドロイドが来る!」

「あの大型船……奴が来てから、戦況が絶望的な方向へ変わった……死を運ぶ船だ……」

千葉中将も、正気を保つのがやっとという雰囲気だ。

無理もない。あの大型船の放つテイルアンカーの撃破例は、世界中でストームチーム以外にはほぼ存在していない。

アンドロイドも欧州での初期消火に成功はしたが、それ以降はあの大型船が投下する群れが事実上EDFの決戦部隊を半壊させ。北米もほぼ蹂躙し尽くし、総司令部を全滅させたのだ。

「三城! ライジンで一つを撃ち抜け! 弐分、俺にあわせろ!」

「分かった」

「了解!」

投下されるテイルアンカー。四本。

うち二本を、投下される最中に撃破する。

だが、二本は容赦なく地面に突き刺さり。シールドを展開。周囲にアンドロイドが溢れ始めた。

さがりながら、大型を撃ち抜く。アンドロイドが、文字通り死の海となって、押し寄せてくる。

「時間を稼ぐ。 態勢を整えろ」

「ジャムカ大佐!」

「俺はもう助からん」

声で分かる。多分内臓辺りに致命傷を受けている。

突貫するジャムカ大佐。可能な限り支援する。だが、アンドロイドの数が多すぎる。

エイレン二機の支援があっても、防ぎきれる数じゃない。

補給車を一華が遠隔で呼び、弾丸の補給を行う。皆、ボロボロだ。最前線で暴れている柿崎も、このままだと危ない。前線に戻る。だがその時には、既にジャムカ大佐は、飽和攻撃の前にどうにもならない状態になっていた。

「俺は不死身じゃない。 だが、それでも貴様らは命ある限り連れて行く!」

ジャムカ大佐は全身にバリスティックナイフを浴びながらも、アンドロイド数十体をブラストホールスピアで撃ち抜き、その場で息絶えた。

雄叫びを上げた壱野は、そのままアンドロイドに突貫。

弐分と三城も、それに続いた。

 

1、三虎逝く

 

ジャムカ大佐が倒れた。

弐分の目の前で。

ストーム3は全滅。また、助けられなかった。

弐分は歯がみする。そして、電刃刀を振るって、目に入る敵を全て撃ち倒す。エイリアンも怪物もアンドロイドも関係無い。兎に角一体も生かしては返さない。

アンドロイドの大軍勢が出現したことで、敵が攻勢に出る。残っていたテレポーションシップからも、怪物が出現。凄まじい物量で押し込みに掛かる。

荒木軍曹が、前進と声をからす。

そして、恐らく最後のバッテリーをブレイザーに装填し、自らも前に出る。

迸る熱線が、アンドロイドを焼き払う。

小田少佐も浅利少佐も、それぞれの武器でアンドロイドを蹴散らしていくが。一番最初に限界が来たのが相馬少佐のエイレンだった。

アンドロイドは危険度が高い敵から狙って来る。

大兄を最初に潰そうとしてきたアンドロイドだが。凄まじい反撃にあって陣列を崩す。代わりに奴らが狙ったのが、エイレン。それも、ダメージを受けている相馬機だ。

見る間に凄まじい数のバリスティックナイフが突き刺さる相馬機。両腕のレーザー砲が火花を散らし、やがて全身の色が変わる。

「脱出しろ!」

「……っ」

相馬少佐が、エイレンから脱出。

直後に、エイレンが爆発し、崩壊していた。

一華機は、バリスティックナイフを悉く撃ちおとしながら、必死に壁になってくれている。

一瞬の膠着。

上空に出たジャンヌ大佐が、補給車から持ち出したプラズマグレートキャノンを、敵のど真ん中に叩き込む。

あれ。

シテイ大尉とゼノビア中尉は。

テイルアンカーが、爆発した。大兄も、彼処には行けていない。恐らく、二人のどちらかがやったのだ。

だが、大量のアンドロイドが群がっているのが分かる。あれでは、助けるどころではない。

それだけではない。

相馬機を潰したアンドロイドどもが、一斉に上空にバリスティックナイフを放つ。

文字通り全身串刺しにされたジャンヌ大佐が、吐血するのが見えた。

「翼が折れた。 どうやら飛行記録も……ここまでのようだな」

「この欠陥ポンコツアンドロイドがああっ!」

一華の怒号が聞こえる。

うっすらと記憶にある。

前周。

無謀な戦いで、アフリカの怪物の繁殖地を潰したとき。二人が倒れたとき、一華が同じように激怒していたっけ。

エイレンに怒りが宿ったように、周囲のアンドロイドが片っ端から薙ぎ払われ始める。弐分も、いつも以上に体が動くのを感じる。

アンドロイドが、気圧されたのか、押されていく。

大兄も凄まじい暴れぶりで、敵を蹴散らして行く。

まもなく、残ったテレポーションシップが、次々に爆散。だが、最後に残っていたテイルアンカーが、どっと凄まじい数のアンドロイドを放出し始める。大型も混じっているようである。

「くっ、もう無理だ!」

「諦めるな!」

浅利少佐を、荒木軍曹が励ます。

ブレイザーを補給車に放り込むと、オーキッドを取りだす荒木軍曹。ついにブレイザーのバッテリーが尽きたか。

悔しいが、どうにもならない。

電力を何処の基地だって、全力で使って負傷者の治療や、最低限必要な食糧の生産をしているのだ。

敵がインフラを容赦なく潰して行った事が、こういう所で響いている。

上空にはもうドローンはいない。全て叩き落とした。

だからDE203が急降下爆撃で次々大型を潰しているが、それでも追いつかない。一華機も、バリスティックナイフが次々に着弾している。どれだけ暴れても、敵の駆逐が追いつかない。

だが、その時。

通信が入る。

「此方ゴーン1! これより戦場に突入する!」

「ゴーン1! 来てくれたか!」

「ゴーン1およびゴーン2で、ニクス二機と随伴歩兵のみの部隊だが、何とか此処に間に合った! これより救援する!」

遠目でも分かる。

ニクスと言っても、かなり古い型式だ。それに無理矢理武装を追加した、アンバランスな型である。

拠点防衛には向いているだろうが、遠征には向かない。

無理矢理此処まで進軍してきたのだろう。或いは、近くの基地が。自分の防衛を捨てて出してくれたのかも知れない。

「まだ戦闘は続いている! 俺たちで均衡を崩すぞ!」

「イエッサ!」

「アンドロイドどもを叩き潰してやれ!」

ニクスが射撃を開始。更に上空からDE203が大型を集中狙いして粉砕していく。ついに、拮抗が崩れた。

大兄が突貫するのを支援。最後に残ったテイルアンカーは、機能停止しそうな勢いでアンドロイドを吐き出しているが。

怒り狂ったストーム1および2と。ゴーン隊の二機のニクスが猛攻を加え、ついに敵の合間に入り込んだ大兄が、テイルアンカーに一撃を叩き込む。

爆散。

後は、残党処理だ。

振り返って見ると。ストーム2は、既に全員が満身創痍。エイレンの一華機も、酷い状態だ。

柿崎は、手傷は受けているが、まだまだ全然やれそうである。今後が楽しみだが。大軍を相手に殲滅戦は厳しいだろう。

「この数の怪物とアンドロイドとエイリアンを、こんな戦力で倒したのか……」

「いや、お前達が来てくれなければ恐らく全滅していた。 感謝するゴーンチーム」

「俺たちこそ感謝する。 地球人の意地を見せてくれて。 すまない。 もう少し早く来ていれば……」

「いいんだ。 その拠点防衛用のニクスで、無理をして来てくれた。 それだけで……充分だ」

荒木軍曹とともに、敬礼する。

戦略情報部が、通信を入れてきた。

「ストーム1、ストーム2。 それにゴーンチーム」

「何か問題か」

「其方に関東全域から怪物、アンドロイドが迫っています。 今の戦場から離脱したコスモノーツが集めたようです。 更にマザーシップも侵攻を続けています。 まもなく、マザーシップは上空にさしかかるでしょう」

「ちっ。 最後のようだな」

荒木軍曹が、補給を指示。

応急手当を始める。

大兄は、補給車を漁って、使えそうな武器を見繕っている。

エイレンは大型移動車に。

敵が来るまでの僅かな時間に、修理できるだけ修理する。長野一等兵が、作業を始める。大兄が、尼子先輩に指示。

「間もなくここに記録的な数の敵が来ます。 先と同規模か、或いはそれ以上と見て良いでしょう」

「そうか。 でも、僕も残るよ」

「貴方にいられても……」

「長野一等兵はどうせ残るだろ。 それにこの大型移動車で体当たりすれば、怪物くらいなら倒せる。 いざという時には盾にだってなれる」

言葉がつまる。

駄目だ。この歴史でも、尼子先輩は死ぬ。そしてこの人は、弱気そうに見えて、やるときはきちんとやる人だ。

もう、どうにも出来ないだろう。

口惜しい。まだ足りないというのか。

柿崎が加わって、戦力は確実に増した。それでも、全く足りなかった。

大兄だって、前の周回より強くなっているはずだ。弐分も三城も一華もだ。

それでもなお足りないというのなら。

それこそ、人間を超越した武神の域に入らないと、駄目だと言うのだろうか。

ならば、そうするしかないだろう。

無言で腰を下ろし、少しでも休む。

ストーム3とストーム4の面々の亡骸は、回収してきて。大型移動車に乗せた。もう見られたものではない亡骸も多かったけれども。

最後まで、ともに戦う。

それだけは、変わらない決意だ。

 

程なくして。

地平の彼方から、とんでも無い数のβ型が現れる。恐らくだが、何処かしらにあって把握できていないテレポーションアンカーから出て来た部隊だろう。それに、上空には飛行型も。

とんでも無い数だ。

ドローンもいる。タイプスリーばかり。

さては、この拠点を潰して消耗するのを見計らって、投入してきたな。

その辺りのこざかしさが、弐分にも頭に来る。

ゴーン隊は、皆戦意旺盛だ。

いずれもが、先の戦いで心に炎を灯したのだろう。

「ゴーン1、バトルシステム再起動。 拠点防衛用ニクスの戦闘力を見せてやる。 ミサイルをありったけ叩き込んでやるぞ怪物共!」

「ゴーン2、バトルシステム再起動。 此方は少し高い所から援護する。 たった二機だが、鉄の壁にならせてもらう。 この壁、簡単に突破出来ると思ってくれるなよ怪物どもが!」

「最後だな。 俺より先に死ぬなよ」

「分かりました。 必ず、生き延びます」

大兄が、そう荒木軍曹に応える。

最後だからか。

小田少佐が、ぐっと酒を呷っていた。

「ちっ。 本当に痛み止めにもなりやがらねえな。 ジャムカ大佐は、こんなんでよく戦えていたもんだぜ」

「ほどほどにしろよ。 手元が狂ったら笑い話にもならん」

「そうだな。 だが最後くらい、別に良いだろう」

「それもそうか」

浅利少佐や相馬少佐が、軽口をたたき合っているが。

もう、皆生きて帰る事は考えていないのだろう。

だが、それでも。

やれるだけ、やってやる。

「一華、上空のタイプスリーは任せる。 三城は誘導兵器で飛行型を。 俺はこの地点から狙撃主体に戦う。 弐分、柿崎とともに前衛を頼むぞ」

「了解……」

一華はまだ相当に頭に来ているらしい。

ともかく、敵の航空戦力を潰さない限り、DE203は動けない。今、DE203は弾薬を補給に戻っている状態だが。

どの道しばらくは、戦闘に参加できないだろう。

来る。

まず最初にタイプスリーだ。地上戦力キラーで知られるドローンだが。一華は対策プログラムを組んできたようである。

次々に弱点部分を貫かれ、爆散して落ちていくタイプスリー。

ゴーン隊にも、対処はエイレンだけでやると告げてある。

ニクスが機銃掃射を開始。接近するβ型を片っ端から薙ぎ払い始める。β型は二種類が混じっているようだが。どちらもそもそも近づけない。

エイリアンが遠くで指揮をしているが、それは大兄が狙撃して撃ち抜く。あり得ない距離から飛んでくる狙撃に、コスモノーツが慌ててさがろうとするが。

大兄は逃がさない。

弐分は、もはや無心に電刃刀でβ型を斬り伏せて回る。

敵中に突貫して滅茶苦茶に掻き回す弐分と違って、柿崎は敵陣の外側から削りに行く遅滞戦術型だ。

両方が違う戦闘タイプで、敵の足止めをして。

味方の火力で敵を殲滅する。

ロケットランチャーが直撃して、数体のβ型が消し飛ぶ。

小田少佐、腕は鈍っていないな。

そう思いながら、暴れ狂う。

上を取ろうとする飛行型は、三城の誘導兵器で片っ端から叩き落とされていく。間もなく見えてくる。

超大型のβ型。キングだ。

無言で突貫。キングは凄まじい量と太さの糸を放ってくるが。此奴なら、数え切れない程倒して来ている。

ジグザグに移動して、全てを回避。

接近と同時に、電刃刀を振るう。

片側の足四本を切りおとし。悲鳴を上げるキングに、背中からスピアを叩き込んでやる。

無言だ。

叫びだしたら、多分それだけで体力を使い切ってしまうから。

上空に、クイーンが出現する。

本当になりふり構わずだな。

ただ、ストーム1を潰すために戦力を投入してきている。今度の戦闘ではディロイを投入してきていないが。それは或いは。

一華が言うように。実の所、プライマーは巨大恒星間国家などでは無い、大した戦力を持たない証左なのかも知れない。

「前方の怪物、87%沈黙!」

「よし、勝てるぞ!」

「前方から敵接近! アンドロイドです!」

戦略情報部の成田軍曹が喚く。

もう、完全に正気を失っているようだ。戦略情報部そのものに、もはやほとんど人がいないようである。

「なんとかしないと、なんとかしないと!」

「もう通信をしてこないでくれ」

「し、しかし!」

「くどい」

荒木軍曹が通信をまた切る。

ゴーン隊も、呆れている様子だった。

成田軍曹は兎に角心が脆すぎる。このままでは、足手まといにしかならないだろう。

見えてきた。擲弾兵の群れだ。

装備を切り替える。

高機動型装備にすると、散弾迫撃砲にて爆散する態勢に入る。

「大型は俺が爆破する。 小型は任せるぞ、弐分、三城」

「イエッサ!」

「後方よりもアンドロイド!」

「完全に包囲する気か……」

後方は、数が少ない。その代わりに、大型が混じっている様子だ。

ゴーン隊が必死に応戦を開始。ストーム2が、それに加わって必死に食い止めてくれている。

そうこうするうちに、遠くから多数の怪物が見える。

γ型だ。

元々、他の怪物と連携すると極めて厄介な怪物だ。アンドロイドと連携して攻めてくるつもりか。

「一華、自動砲座は」

「品切れッス」

「そうだな……」

「此方DE203! 戦場に突入する!」

補給を済ませて戻って来てくれたか。ベストタイミングだ。

即座に一華が指示を出し、大型アンドロイドを中心にたたいて貰う。だが、アンドロイドの数が多すぎる。

弐分が擲弾兵を蹴散らして爆破している間に、後方が蹂躙されていくのが分かる。一華も必死に対応しているが、完全に囲まれている状況。増援もきようがない。

「ゴーン1、大破。 脱出不能。 後は任せる」

「ゴーン1!」

「ゴーン2。 此方ももう駄目そうだな。 だが、アンドロイドどもを一体でも……っ!」

「おい、軍曹! 軍曹ッ! あんたがいないと駄目なんだ! 死ぬなあっ!」

擲弾兵の処理があらかた終わり、後方に飛んで戻る。γ型は柿崎と大兄に任せる。三城がレイピアでアンドロイドを蹴散らしているが、それでも手が足りていない。

一華が必死に盾になって生き残った皆を庇っているが、それでもどうにもならない。

飲み込まれていく。

何もかも。

浅利少佐が倒れている。相馬少佐も。

小田少佐は。

見えない。爆発の跡がある。ロケットランチャーを撃つ瞬間にバリスティックナイフを喰らったか。それとも、ブラスターに巻き込まれたか。

頭が真っ赤に燃えそうだ。

アンドロイドを押し返す。全て叩き潰す。電刃刀が折れそうな勢いで、全て消し飛ばしていく。

上空。

タッドポウルが来る。

あれは、編隊飛行しているうちに叩かないと駄目だ。

飛び出してきた長野一等兵が、エイレンのバッテリーを交換。アンドロイドが殺到してくる。

大型移動車が、アンドロイドを踏みつぶしながら、割って入る。大量のバリスティックナイフが、操縦席に飛び込むのが見えた。

長野一等兵が、此方を一瞬だけ見た。

だが。次の瞬間には、赤い霧になっていた。

エイレンが振り返ると、上空から飛来するタッドポウルの群れを、薙ぎ払い始める。

無線が入る。

戦略情報部では無い。

「此方、ニューヨーク、ブルックリン。 ジョエル軍曹だ。 ニューヨークのEDF守備隊は全滅した。 今、生き残った市民から義勇兵を募っている。 ニューヨークの生き残った市民はストームチームが救ってくれたが、米国はもう全域が滅茶苦茶だ。 だが、俺たちは黙ってやられているつもりはない。 今、生き残った市民に武器を渡して訓練をしている。 アンドロイドどもに、絶対に一矢報いてやる。 俺たちは此処で戦う。 皆、みていてくれ」

そうか、ジョエル軍曹は。

まだ戦う気でいるのか。

ならば、負けてはいられない。

大兄が狙撃で、ブラスターを放とうとしていた大型を撃ち抜く。どうやらコツを掴んだようで、一撃で粉砕していた。

辺りは気がつくと、アンドロイドも一体も残っていない。クイーンも、接近前に大兄が叩き落とした様子だ。

兵士も、一人も生き延びていない。

柿崎が、呼吸を整えながら。プラズマ剣を振るっている。

周囲には、アンドロイドの中身の臓物がぶちまけられ。もはやストーム1の五名しか、生き延びていなかった。

「大変です……! じょ、上空のマザーシップナンバー6が、テレポーションアンカーを投下しました! 地上に激突します!」

「執拗な攻撃だ。 だが、それは俺たちが奴らにとっての脅威である事を示している」

大兄は冷静だ。

それっきり、戦略情報部からの無線は切れた。なんど切っても無理矢理つないできたのに、である。

多分成田軍曹が、限界が来て倒れてしまったのだろう。

それについては、容易に想像がついた。

超大型アンカーに加え、六本の大型アンカーが着弾する。だが、その内二本を、三城のライジンと大兄と弐分の狙撃が、即座に出落ち。一華が前に出る。

「時間を稼ぐッス。 残りもへし折ってくれるッスか?」

「任せろ」

「すぐに潰す」

「エイレン、長くは保たないッスよ」

柿崎が無言で前に出る。

大量のテレポーションアンカーから、怪物がわんさか湧いて出てくる。大兄が言う通り、奴らにとっての脅威認定されていると言う事だろう。

それならば、それでいい。

むしろ敵の動きを掣肘しやすくなる。

接敵までに、更に二本のアンカーを打ち砕く。それ以降は、押し寄せてきた怪物との乱戦になった。

柿崎に出過ぎないように指示。

柿崎は、短く返してきた。

「承りました。 ただ、私も相当に頭に来ていますので、敵は出来るだけ徹底的に切り刻んでもよろしいですか?」

「ああ、徹底的にやれ。 ただし生き残れ」

狙撃は三城と大兄に任せて、弐分も前衛に出る。擱座している補給車から取りだしたミサイルを全弾ぶっ放し、更に崩れた敵陣に電刃刀を片手に突貫する。

怪物が、あからさまに避け始める。

恐れを知らない生物兵器の筈なのに。

そういえば。

記憶がぼやけているが、アーケルスのあの最強個体を前にしたときだけ。怪物達も怖れて引いていたっけ。

それに近い気迫を、今ストーム1の全員が発していると言う事か。

それはそれでいい。

このまま、悉く敵を滅してくれる。

もはや自分でも訳が分からない動きで敵を斬り伏せ続ける。

戦闘は、長く長く続いた。

 

2、破滅を回避した先に

 

午後七時。横浜臨海地区での戦闘は終わった。

三城含め、ストーム1は生き残った。

だが、ストーム1しか生き残らなかった。

一華のエイレンは完全に停止、バッテリーがなくなったからである。ただ、内部のPC用の電力は生きているようで。一華は内部から、時々通信を入れてくる。ただ。停止しただけではない。もはや満身創痍で、動きそうにはなかった。

夜になってから、小規模の部隊が来た。軽武装で、とても戦えそうにない部隊。

一応牽引車両はある。

尼子先輩は、今回も最後まで命を振り絞ってくれた。憶病なように見えて、いつもちゃんと立派に戦える人だ。

長野一等兵は、本当に最後の最後まで、メカニックだった。

こういう人の事は分からないが。

分からないものを否定するのでは、三城を虐待したあのクソ親と同じになる。だから、敬意を払うようにしていた。

東京基地に戻る。

千葉中将が、出迎えてくれた。

敬礼をかわす。それだけだ。後は、葬儀を行う。ストーム2、ストーム3、ストーム4、ゴーンチーム。

東京基地への未曾有の大攻勢は、これにて回避された。マザーシップ6も、逃げていった。

だが、それ以外が全て失われた。

東京基地で、三城はぼんやりとする。食事も喉を通らなかったが、無理矢理口に入れた。プライマーはアンドロイド部隊の殆どを失った筈だ。少なくとも、何十万という数を即座に投入する事は出来ないだろう。

マザーシップが逃げていった。

それが、全ての説明となっていた。

指示は来ない。

だから、部屋でぼんやりと過ごす。

やがて、大兄から連絡が来る。

「少し、休むようにと言う事だ。 現時点で、俺たちの出番はない」

「……大兄。 みんな……助けられなかった」

「ああ。 だが、大友少将や大内少将、筒井大佐は生き延びている。 ジョン中将もだ」

「分かってる」

前周回とは状況がだいぶ違っている。

それは三城だって分かっている。

だけれども、この結果はあんまりだと思う。

それに、此処からプライマーがまた攻勢に出てこないとも限らないのである。

一華も、通信に混じってきた。

「いいッスか、幾つか」

「ああ、かまわない」

「恐らく、プロフェッサーが手配してくれたのだと思うッスけどね。 倉庫にに、バイクや例の弾丸が既に運び込まれているみたいッスよ。 リングが来た時には、多少は動きやすそうッスわ。 ただベース251は今敵の手に落ちているので、取り戻さないといけないッスけど」

「そうだな……」

一華だって、あれだけブチ切れていたのだ。

内心は穏やかではないだろう。

いずれにしても、懲罰部隊に回されたプロフェッサーが、無事に生き抜いてくれることを祈るしかない。

パワードスケルトンの技術もあって、ド素人でも武器を持って走り回れる時代が来ている。

だからプロフェッサーでも、銃を持って怪物と戦える。

だけれども、それはあくまで理論上の話だ。

敵が棒立ちでいてくれるわけではない。

「当てれば倒せる」と、「倒せる」は、まるで違う事なのだ。

「問題は私ッスわ。 ちょっと調べてみたッスけど、東京基地にはもうまともに動くニクスが無いッス。 エイレンなんて、とっくの昔に製造ラインからして停止しているッスね」

「戦車かケブラーでしばらくは茶を濁して貰うしか無さそうだな」

「その戦車もケブラーも……」

「分かった、俺からどうにか交渉して見る」

幾つかの話を進めて行く。

しばらく黙りだった小兄が言う。

「俺たちはあんまりにも無力だな」

「そうだな。 あまりにも弱い。 それは、今回の戦いで俺も思い知らされた」

「もっと上を目指すにはどうしたらいい」

「体を更に鍛えておくしかないだろう」

大兄はそういうが。

多分鍛錬だけだと限界がある。一華が、咳払いしていた。

「此方で手を回しておいたものがあるッス」

「何かしてくれたのか」

「世界中の武術と戦闘術のデータッス。 これで、少しは皆の助けになるのではないかと思ったッスけどね」

「……そうだな。 ありがとう。 後で目を通させて貰う」

村上流は、元々ごくありふれた武術だ。

三城だってそれは分かっている。強いのは祖父だったり、大兄小兄だったりだからであって。

別に村上流が強いわけじゃない。

一方で、恐らくだが中華拳法などについても、それは同じだろう。強い奴はいただろうが。

それは拳法が強いのではなく、使い手が強いのだ。

だとすれば、そういった強い奴の動きなどを研究しておきたい。

三城は半身を起こす。

そろそろ、言うべきだろう。

「柿崎と、話をしておくべきだと思う」

「……そうだな。 そろそろ、良いだろう。 俺から話をしておく」

「お願い」

あれだけ苛烈な戦いの中でも、柿崎は生き延びた。

勿論負傷はしたが、それでも今戦えと言われても、出来るくらいにはぴんぴんしている。

ジャムカ大佐やジャンヌ大佐が命を落とし。何より荒木軍曹も倒れたほどの物量を相手にして、なおだ。

ただ、既に戦いが始まった時点で。

インドでの戦いで受けた負傷が響いて、皆もう次の戦いを超えられない覚悟を決めていたように三城には思える。

ため息をつく。

結局誰も守れなかった。

プロフェッサーは、君達だけでも無事で良かったと言うかも知れないが。

それでは、意味がない。

意味がないのだ。

プライマーを相手にするなら、ストームチーム揃ってでないと無理だろう。これから三年弱の戦闘で、リングが来るまで何とか持ち堪えなければならない。

此処から、更にプライマーが戦力を追加してくるとは思えない。

それが出来るなら、前の周回でも。そもそも今回の周回でも、やっている筈である。

「大兄、私、あいつら……倒す」

「ああ、そうだ。 俺もそう考えている」

「ただ、彼奴らの事も知りたい。 どうしてこうも無意味な戦いを仕掛けて来るのか、理解出来れば何か策はあるかも知れない」

「もし時間的に余裕があるなら、私がある程度調べておくッスけど?」

一華は大学を滅茶苦茶飛び級していたくらいの頭だ。数カ国語くらい読みこなし、論文もサクサク読めると聞いている。

プライマーが攻めてきてから、色々な学者が研究の論文を書いているらしい。まあ、それも初期の内だけだが。

それらに、何かヒントがあるかも知れない。

「前もそうだったが……どうせ世界中を転戦することになる。 無理がない範囲で、やっておいてくれるか」

「分かったッス。 いずれにしても、ストームチームのみんなの仇は、取るッスよ」

「ああ……」

無線を切る。

大兄にすら覇気がない。

今回は生き延びた。

だが、負けだ。

それについては、認めなければならなかった。

 

翌日、大兄は准将に昇進した。インドでの戦い。更に横浜埠頭での戦いで、プライマーの大攻勢を打ち砕いた立役者だからだ。

三城達も大佐に。柿崎も中佐に昇進。

また、荒木軍曹達もみんな二階級特進という奴をしたようだ。ただ、荒木軍曹には家族はいないので。あくまで名誉の称号だけになったようだが。

大兄は将官になったこともあって、無理にでもと東京基地に交渉。

エイレンの部品だけでも生産するようにどうにか掛け合い。一月後には、部品が揃う準備が整った。

勿論、その分各地で苦戦しているEDFを救援してくれ、という話になったし。

一華には壊れかけのケブラーだけが回されて。それでどうにかするようにとも言われた。

東京基地はがらんとしている。

兵器類は、殆ど全てやられてしまったのだ。

バンカーにあるのも、壊れかけか壊れた兵器ばかり。

銃弾だけはたんまりあるが。

それも、旧式の銃で使うものばかり。

とてもではないが、ストームチームで使う実験武器の弾薬庫には、なり得ないと一目で分かってしまう。

軽く朝体を動かしている間に、一華がケブラーで此方に来る。

既に自前のPCは積み込みなおしたようだ。

前の戦いとは、これも違っているとぼんやりとした記憶で思い出す。

確か前は、一華のPCは破壊されてしまったのだから。HDDだけ引っこ抜いて、それでどうにかしていた筈。

記憶が曖昧だから、なんとなくそうだった、くらいしか分からない。

「相変わらず元気ッスねえ」

「どう、そのケブラー」

「かろうじて戦える装備にはなっているッスよ。 そもそもハイロウミックスで作られたケブラーは、火力だけはニクス並みッスから」

「エイレンは直るかな」

直らないと困ると一華は言う。

それもそうだ。

ただ、エイレンが直ったら直ったで、今度はバッテリーの問題も生じる。

東京基地も、再建に向けて動いている様だが。怪物によるハラスメント攻撃が始まるのは目に見えている。

DE203は、戦力として必要だと判断され。引き抜かれて九州の方に行ってしまった。

当面。大火力での航空支援は期待出来ないだろう。

米国は更に酷い状況のようだ。

主要な基幹基地はあらかた潰されてしまい、カスター中将は何もできないと各国に兵を寄越すように恫喝ぎみの通信をしていて。

完全に無視されているらしい。

秘書官の頃はまともな人だったらしいのに。権力を握った途端に豹変する。こういう人は、確かにいる。

そう思い知らされて、げんなりする。

米国の武器であった圧倒的な物量が潰された今。世界政府の中でも、米国の人脈はもう大きな顔は出来ない。

とはいっても、大国と呼ばれていた国はあらかた潰され尽くしている。

もはや、立ち直ることは不可能に近い。

現時点で、開戦前の7%程度まで人口は減らされているらしい。

以降は、プライマーの怪物との生存合戦だ。

ともかく、まずは関東近辺から安全を確保したい。

千葉中将にそう言われたと、大兄は朝の訓練が終わった後言われた。

現在、関東周辺の部隊を、ダン大佐が必死にまとめて、再編制を進めてくれているらしい。

横浜埠頭での戦いの前に、関東は全域で大規模な攻撃を受けていて。

それで、もうまともに動ける部隊はいないということだ。

それならば、ストーム1でどうにかするしかない。

まあ、当然の理屈ではあった。

スカウトすらいない。

無人機がやっと拾ってくる怪物の情報。

それを頼りに、討伐に出向く。

一日の休暇は。

そもそも、司令部が機能していないから生じた。それを思い知らされて、三城は憮然とする。

誰も操縦席にいない大型移動車を一華が遠隔で操作しながら、現地に向かう。

栃木の山中の廃村を占拠するように、数十匹の怪物がいる。

α型ばかりだ。近くにもっと大きな群れがあるかも知れない。大兄が、手をかざして周りをみるが。

幸いにも、それは無さそうだと言うことだった。

「殲滅し、次に行く」

「承りました。 私だけでやってみてもよろしいでしょうか」

「……分かった。 やってみてくれ」

頷くと、柿崎が単独で仕掛ける。

α型が反応するが、その時には既に数体の首が落ちていた。

α型の体節を切り離し。敵の群れに迂闊に入り込まないように、端から切り刻んで行く。

一群をまとめて相手に出来るが、殲滅には少し時間が掛かる。

それが柿崎の弱点ではある。

大兄や小兄ほど、殲滅速度が早くないのだ。

三城のように、立体的に戦える訳でもない。

一華と違って、頭だって回らない。

戦っていて楽しいのはあるのだろう。それは一目で分かる。だが、大兄から昨日話を聞いたはずだ。

それで、考えを変えて。

少しでも強くなろうと、し始めたのかも知れない。

少し時間が掛かるな、と思う。

インファイト特化の装備については、三城もちょっと興味がある。あのプラズマ剣、燃費はレイピア以上に良いかも知れないからだ。

だが火力はファランクスに到底及ばないし。何よりもレイピアのように範囲を灼く事ができない。

剣とは不便な武器だな。

そう、みていて思い知らされる。

小兄の使っている電刃刀だって、超高速の斬撃によって、衝撃波を生じさせ。それで敵を切り裂く事ができるのだ。

確かに何でも切る事が出来るかも知れないが。

それでも、思った以上に。剣という武器は、限界があるのかも知れなかった。

殲滅を終えて、柿崎が戻ってくる。大兄が介入しようという必要もなかった。ただ、やはりこの規模の群れを殲滅するにはちょっと遅いと思う。

「終わりました」

「危なげない戦いだ。 だが、やはりみていて確信した。 腕の問題ではなく、単純にその戦いかただと、大軍を殲滅するのには時間が掛かる。 時間が掛かれば、事故が起きる可能性も多くなる」

「確かにそれは承知しております」

「……よし、以降は連携戦をもっと意識して動こう。 群れを相手にして、殲滅する事ばかりを意識していたかも知れない。 他に良い戦い方がないか、皆で考えて行こう」

大兄が、移動と指示。

まだ無人機が発見してきている怪物の群れはある。

次の群れは、γ型の群れだ。それなりの数がいて、地中にも潜んでいるようだった。

これは、全員で対応する。

特に一華のケブラーに接近させるのは非常にまずい。

エイレンだったらどうにでもなっただろう。

だがケブラーは、歩兵戦闘車相応の防御能力しかない。

接近されたら、文字通り終わりである。ただでさえ、γ型は装甲車両の天敵と言われているのだ。

三城は誘導兵器を使うように指示されたので、頷く。

そのまま、ミラージュとよばれる誘導兵器で、敵群を一度に拘束。動きを止めた敵を、皆で火力によって粉砕する。

敵の増援が出てくるが、地中から出て来たときには、既に敵の主力は消滅していた。そのまま、増援も蹴散らしてしまう。

次。

移動している間に、無人機が情報を収集してくる。

大型移動車だけでは無理があるが。動かせる輸送機もヘリも殆どいない。どれもこれも、激しく損傷していて、修理の計画すら立っていないのだ。

関西や九州、東北で敵の攻勢があった時には、大型移動車で行かなければならない状況である。

敵の大攻勢は食い止めたとは言え。

状況は、予想以上に悪かった。

幸いと言うべきか、地下で敵が大繁殖している形跡は無い。アフリカでも、地上で怪物は繁殖している様子だ。

恐らくだが、怪物は地下で繁殖する場合、ある程度の条件を整えなければならないのだろう。

今周回では。

地下で怪物をわざわざ高コストで繁殖させる意味がなかった、ということだ。

一華が、移動中にぼそりという。

「今回の周回で、プライマーは明らかに指揮官を変えたッスよ。 そしてこの指揮官は、今回の周回で此方の戦力や出来る事を見切ったと判断していいッスね」

「一華、それはどういう意味になる」

「……仮にッスよ。 前回と同じく、戦闘開始から五ヶ月後に飛んだ場合。 その時点で、もう手に負えない状態になっている可能性が高いッス」

「そうだな……」

ストームチームだって限界はある。

インドでの戦いだって、EDFがかき集めた決戦兵力と砲兵隊がいなければ、勝つ事は出来なかっただろう。

激しく皆負傷して。

横浜埠頭の戦いで、みんな命を落とした。

限界があったのだ。

だが、希望もあると思う。

荒木軍曹達は、どうも記憶にある前周よりも強くなっていたように思うのである。

これはひょっとすると。

まだ何か、分かっていない事があるのかも知れない。そう、三城は思う。

「それに、プライマーの指揮官は、容赦も遠慮もしてこないッス。 下手をすると、更に凶悪な新兵器を投入……いや下手しなくてもして来るッスねこれは」

「最悪だな……」

大兄ですら、そうぼやく。

また、怪物の群れに遭遇。全て蹴散らす。

テレポーションアンカーを発見したので、へし折っておく。ただ、地下を移動する転送装置もプライマーは持っている。

今回の戦いでは遭遇する事はなかったが。あれを活用しているとしたら。関東へのハラスメント攻撃は、際限なく続く事だろう。

夕方になって、東京基地に帰投する。

疲れきった様子の兵士達が、少しずつ戦闘車両の整備をしているようだった。工場の人間と、怒鳴り合っている声が聞こえる。

食糧が足りないんだ。

身を守るための武器だって足りていない。

電力だって足りない。

地下で暮らしているみなが、どれだけ悲惨な生活をしているか分かっているのか。

そう、軍関係者と工場の人間が怒鳴り合っている。

どちらの言い分も一利ある。実際、EDFが活動していなければ、地下に怪物がなだれ込んでくるのだ。

大兄が行くと、ぴたりと怒鳴りあいはやんだ。

横浜埠頭に集結した敵の大軍を全滅させた英雄。それについては、流石に知っているようだった。

大兄が極限まで力を振り絞って暴れなければ。

とっくに東京も全滅していたことも。

「ストーム1……」

「不便をさせてすまない。 今日も俺たちが出来る範囲で怪物を駆逐してきた。 だがやはり、俺たちだけでは限界がある。 皆の為にも、軍需物資の生産と。 新鋭兵器のバッテリーの充電に協力してくれ」

「……貴方に頭を下げられては、俺たちも折れるしかない。 だけれども、地下の皆が本当に悲惨な生活をしていることだけは理解してくれ。 医療物資や、最低限の栄養すらも足りていないんだ」

「分かっている。 だが、前線で戦う兵士も、素手で戦う訳にはいかないんだ」

頭を下げたままの大兄。

どうして大兄が頭を下げなければならないのか。

三城は、悔しくて。弱い自分が、本当に悲しくなった。

ともかく、怒鳴りあいは収まった。

指示通りの物資を、納入してくれるという。

幸い、物資だけはある程度はある。戦前から蓄えられていたからだ。

地下に密かに作られた原子炉も動いてくれている。

これは核融合炉だから、危険は核分裂炉に比べると小さい。問題は放射能がきついことだが。それもきちんと問題は解決している。

食堂に集まって、軽くミーティングをする。

一華が少し遅れてきて。タブレットを開いて、皆に見せてくれた。

「工場の人達の言葉は事実ッスよ。 今、東京の地下には千二百万ほどの避難民がいるッスけど、乳幼児用のミルクから基本的な医薬品まで何もかも足りていないッス。 生産プラントもフル活動しているッスけど、工場のラインはどれもオーバーヒート寸前まで動いている状態で、電力も奪いあいになりかねないほど逼迫しているッスね」

「最悪の状態だな。 少しでも地上にだしてはやれないのか」

「ドローンが数日に一度は様子を見に来るッスけど、それでも良いのなら」

「そうもいかないというわけだな」

タイプスリーの戦闘力は、基地に据え付けられている対空火器ならどうにか落とせるが。落とすまでに市民の死者はどうしてもでるだろう。

唯一、市民が楽しみにしているのはストーム1の勝つ映像らしい。

これが生放送で流されているらしく。

各地で怪物を倒すストーム1をみて、何もかも娯楽を奪われた市民は少しでも腹の虫を納めているらしい。

それに、エイレンがやられたことは彼らも知っているそうで。

エイレンを復旧するためにラインを少し開けてほしいと言う交渉については。それで何とか納得して貰った経緯もあるそうだ。

「状況を改善する方法はないか」

「幾つか、敵の手に落ちている基地を奪還すれば、地下工場などの生産ラインやプラントを奪い返せるッスね。 それで多少はマシになるッスけど……そもそもその基地を維持できるかどうか」

「兵員はどうなっている」

「戦えそうな人間は、あらかた銃を持たされて前線に出て、以降はお察しッスよ」

既に貨幣経済も崩壊。

幸い、戦えそうな人間は全て前線に出たという事もある。

避難民の中で、犯罪組織が幅を利かせるとか。そういう事はない様子だ。そんな余力すらないのだ。

金持ちが金を撒いて兵役を免れるとか、そういう事も出来ていない。

そもそも金持ちはプライマーが真っ先に狙って殺してしまったし。貨幣経済が死んだ今、現金なんて何の役にも立たないのだから。

詰みだな。

三城ですら分かる。

だが、大兄は、まだ諦めていない。

「このままだと、東京基地も怪物のハラスメント攻撃に屈する事になる」

「それは、そうっスね……」

「ダン大佐と千葉中将と連携し、時間は少し掛かっても良いが、各地の基地を少しずつ奪回する。 奪回作戦は俺たちだけで行い、被害を出さなければ敵に対して少しずつ優位に立てる筈だ」

理論上はそうだが。

いくら大兄でも無理だ。

実際、無理だった。

横浜埠頭の戦いで、誰も守れなかった。プライマーはアンドロイド部隊の大半を失ったけれども。

それでも残党はいるし、怪物もいる。

何よりコロニストもコスモノーツも、まだまだわんさか残っている。前周の北京郊外の戦闘で、コロニストが壊滅する事もなく。その後使い捨てにされることもなかったのだから。

「……最低でも、エイレンと自動砲座がないと無理ッス」

「分かっている。 一月で部品は揃う。 その後修復に一週間として……五週間後になるだろうな」

「はあ。 無理を通す事になるっすね……」

「負傷している兵士が復帰し始めれば、少しはマシになってくる。 それまで、俺たちで出来るだけの事はしよう」

頷きあうが。三城は、心に傷がついているのを感じた。

だが、それでも傷を埋めて戦わなければならない。

そうしなければ。

何のために、荒木軍曹達が死んだのか分からない。

今回も生き残る。前回のように。

一華が言っていたとおり、プライマーは次の周回では更に攻撃を苛烈にして来ると見て良いだろう。

だが、それでもいつかどこかで、反撃の糸口を見つけなければならない。

大兄は、諦めていない。

三城も、それならば。諦めてはいけない。

大兄の言いなりであってもいけないとも思うけれども。

これは、自分の意思で思っている事でもあった。

 

3、ささやかな抵抗

 

エイレンがやっと復旧した。ただし、どうしても電磁装甲の性能が以前ほど出す事が出来ず。

一華がみたところ、90%程度の性能しか出せていない。

それでも、ないよりはマシだ。

前線に赴き、怪物を蹴散らす。ドローンも見かけ次第叩き落とす。そして、夕方になってから。

以前から、奪回目標として定めていた、新潟にあるベース262に強襲を掛けていた。

夕方以降、プライマーは動きを鈍らせる。

怪物だけがそうだが。それでも怪物が動きを鈍らせるだけでもマシだ。

基地はそれほど大きなものではないが、そもそも基幹基地を奪還したところで、守れる人員がいない。

そしてこの基幹基地から、相応の数の怪物が出てきている事が分かっている。

今まで関東へハラスメント攻撃を仕掛けてきていたのがこの基地から現れていた怪物だ。

放置はしておけない。

基地の近くの丘をまず占拠。基地には、コロニストを引き連れたコスモノーツが巡回している。

ショットガン持ちと言う事は、それなりに地位の高いコスモノーツだろう。

ただ鎧を着たコロニストはいない。

思った以上に、特務のコロニストは各地の最前線での戦闘で、消耗していたのかもしれなかった。

「コスモノーツは一体か。 三城」

「わかった」

最近、目だって表情が険しくなっている三城が、ライジンを構える。

そして、それぞれが狙撃の体勢に入った後。リーダーが指示を出す。

「撃て」

コスモノーツの鎧が一瞬で融解し、内部が燃え上がった。そのままどうと倒れるコスモノーツ。

コロニストが慌てて周囲を見回すが、狙撃して頭を叩き落とす。エイレンが前進し、レーザーの試運転。

レーザーは、大丈夫だ。

足回りや装甲がかなり不安だが。これならいけるだろう。

残ったコロニストが反撃しようとしてくるが、その時には闇にまぎれて接近していた柿崎が、後ろをとり。

容赦なく首を刎ねていた。

「エイリアン掃討」

「……周囲に怪物の気配はないな。 ただ基地の地下が騒がしい様子だ」

「柿崎、戻ってくれ。 合流してから、基地の攻略作戦を開始する」

一度集まる。そして、基地の上に移動。

地下への入口を確認している間に。一華は基地のシステムにアクセス。遠くからだと掌握は無理だったのだが。

この近距離なら。

一応、電力はまだ稼働している。

ただメインのシステムが死んでいる様子だ。

ならば。一華がエイレンに積んでいる自前のもので、ある程度は補う。システム関係を調べる。

どうやらメインのサーバを物理的に破壊されているらしい。ただし、そのシステムの設計は分かっている。

東京基地のサーバと、遠隔で接続する。

これで、向こうから操作できるはずだ。

「此方東京基地。 ベース262のシステム掌握を確認した。 これから少しずつ、システムを復旧し、生きているデバイスのデータを其方に回す」

「頼むッスよ。 リーダー、どうッスか」

「マザーがいるな。 怪物もかなり多い」

「しゃあない。 各個撃破ッスね」

入口の隔壁を開ける。どっと、怪物が溢れてきた。α型とβ型、γ型もいる。飛行型は流石にいない。

基地の周囲から怪物が来る様子はない。

一瞬でエイリアンを葬ったから、増援を呼ぶ余裕もなかったのだろう。

そのまま怪物を蹴散らす。ストーム1が揃っているのだ。この程度の怪物なら、どうにでもなる。

ましてや敵は出てくる場所が隔壁限定。

面制圧は容易い。

しばらくして、敵は消滅。問題は此処からだ。

データが送られてくる。隔壁は生きているものと、死んでいるものがある。死んでいる隔壁は、電気系統を怪物が喰い破った様子だ。

監視カメラは幾つか生きているので、確認。

マザーらしい大きな影。リーダーの話によると、マザーモンスターの気配は二つ。いずれにしても、接近戦は出来れば避けた方が良いだろう。

大きいのは、地下にあるプラントだ。

殆ど壊されている様子がない。

恐らくだが、怪物は人間を殺すことに興味があっても、プラントはどうでもよかったのだろう。

ただ、問題は他にもある。

「……次の隔壁の向こう、擲弾兵がわんさかいるッスね」

「一華、エイレンのバッテリーは」

「奴らを始末するには充分ッス」

「よし。 隔壁を開けてくれるか」

まだ、皆基地の外にいる。流石に基地の現在がどうなっているか分からないのに、踏み込むほど無謀ではない。

それに、基地の中で擲弾兵に爆発されると面倒だ。

一旦引いて、外で敵を爆破する。そうリーダーが指示したので。皆、それに沿って動いていた。

隔壁を開ける。

そして、擲弾兵を、文字通り針を通す狙撃で。リーダーが撃ち抜く。

わっと反応した擲弾兵が、一斉に此方に来る。

この基地も、入口はAFV用の崖みたいな斜度の坂になっているのだが。それも全く気にせず上がってくる。

程なくして、外にのこのこ出て来た擲弾兵の群れを。囲んで袋だたきにする。

基地の入口で渋滞しているところに、火力を集中させればどうなるか。

一瞬おいて、基地の入口が消し飛ぶような大爆発が起きる。

勿論、擲弾兵はほとんど全滅である。

他のアンドロイドと違って、擲弾兵は人間を探して自分ごと爆破することしか考えていない節がある。

その分、AIなども劣悪な造りなのだろう。

「擲弾兵、駆除完了」

「次、隔壁開けるッスよ。 ちょっと広い空間があるッスね。 そこで戦うべきか、否か……」

「敵の気配が強い。 多分マザーがいるのがそこだ」

「この位置からだと、狙撃は厳しいッスね」

リーダーが、例のものをと頷く。

一華は頷くと、大型移動車から。「例のもの」を取りだした。

誘導式爆弾だ。

ドローンは条約で禁止されている。いわゆるキラーロボットも、である。

この誘導式爆弾は、いわゆるロボット掃除機のような形をしているタイプで。自走式で敵に迫り、怪物やアンドロイドに対して爆破攻撃を仕掛ける。

今回持ってきたものは、小型のカメラを搭載しているが。その改造は一華自身が行った。

条約違反では無いかと言う声もあったが、千葉中将が作戦に必要ならと許可を出した事もある。

作る事に対して、文句は言われなかった。

これを投入する。

そのまま、エイレンのPCを経由して操作。広い空間にはマザーモンスター。最悪な事に金色だ。マザーモンスターと、金α型の卵がわんさかある。マザーモンスターは二体と言う事だが。そうなると、此奴の他にもう一体いるということだ。さっき監視カメラに写っていた奴だろう。

まあいい。

遠慮は必要ない。そのまま、持ってきた誘導式爆弾を全て突っ込んでいく。爆弾はC80爆弾であり。

全弾爆破で、金α型だろうが、金マザーだろうが、ひとたまりもない。

だが、一度に爆発させると、多分基地が消し飛ぶ可能性がある。

よって、何度かに分けて、順番に爆破していく。

第一陣、爆破。卵が一斉に孵化。金マザーモンスターが、凄まじい悲鳴を上げる。だが、容赦はしない。

第二陣、爆破。接近されたら死しかない金α型が、まとめて消し飛ぶ。金マザーモンスターも、全身がぼろぼろに砕ける。

第三陣、爆破。

粉々に砕けた金マザーモンスター。既に、部屋に卵はなくなっていた。

「よし、殲滅完了ッス」

「少し時間が掛かっているな。 ペースを上げよう」

「まだ状況が分からない部屋が多いッスよ。 慎重に行くべきッス」

「もしも夜明けまでに片付けられないと、敵の増援が大挙して押し寄せる可能性がある」

リーダーの言葉ももっともだが。

今、此処で無理は出来ない。

何とか監視カメラの復旧を急いでいるが、そう簡単ではない。

隔壁を開ける。順番に、部屋を確認し。怪物やアンドロイドがいるかをチェック。

かなり基地の奥まで確認できた。流石にこれ以降は、自走式爆弾を用いても厳しい。後は乗り込んで、基地を奪回するしかない。

突入開始。

途中、雑多な怪物が出てくるが、全て蹴散らす。途中の通路には、びっしりと怪物の卵があったので。全て粉砕していく。

これが、連日関東にハラスメント攻撃をしていたわけだ。

ただし、関東を見据えた敵拠点はこの基地だけではないだろう。

地下に敵の拠点がある可能性も高い。

それにこの基地を潰されても、敵はアフリカに巨大な繁殖地を抱えているし。其処に仕掛ける力は、もうEDFには残っていない。

今はマザーシップも動いていないが。潜水母艦などを下手に動かせば、マザーシップも出てくるだろう。

「かなりの数の卵だ。 全て破壊しておくぞ」

「奧にいるマザーに、そろそろ誘導爆弾をお届け出来るッスよ」

「監視カメラの状況は?」

「どうもそれがよく見えないッスよねえ」

監視カメラそのものがどうにも上手く動いていない。ただ、リーダーが危険だとぼやいているからには。

余程まずいと見て良いだろう。

ともかく、周囲の敵を駆逐しながら。奧に誘導爆弾を一個だけ送る。

それで、映像を確認しておきたい。

一応、金のマザーモンスターではないことは、監視カメラの画像から分かる。それだけは救いだが。

最深部。

大量の、それこそびっしりと全てを覆い尽くすように卵がある。

其処に鎮座したマザーモンスターは。

死んでいた。

どういうことだ、これは。

怪物に食われたりした様子はない。小型の生物などには、子供が生まれると我が身を糧にして与える種族がいる。

そういう性質が、怪物にはあるのか。

いや。初めて確認された状況だ。これは、出来れば調査したい。

東京基地に状況を説明。しばしして、千葉中将が通信を入れてくる。

「此方千葉中将。 わずかに残っている、戦略情報部の人員を送る。 マザーモンスターの死体はそのまま、怪物の卵だけ駆除してほしい」

「難しいッスね。 頑張っては見るッス」

「頼むぞ」

頷くと、奧へ。

少しずつ、卵を破壊する。卵で埋め尽くされている部屋の中で、文字通り彫像のようになって止まっているマザーモンスター。

まて。そうなると。

もう一匹、何処かにいるのか。リーダーの勘が、外れる訳がない。

「後方だ!」

リーダーが叫ぶ。

後方の壁をブチ抜いて、マザーモンスターが姿を見せる。即応した三城が、ファランクスを至近から叩き込む。こんな狭い場所でマザーモンスターに動かれたら、つまり酸をぶちまけられたら文字通り全滅だ。卵も一斉に孵化。怪物が、四方八方から襲いかかってくる。

まさか、監視カメラを利用し。

何かしらの理由で死んだマザーモンスターをトラップにでも使ったのか。

エイレンに集ってくる怪物相手で精一杯で、マザーを叩く余裕がない。三城のファランクスがマザーモンスターを焼き切れなければ、一瞬で全滅確定だ。冷や汗が流れるが。次の瞬間。

マザーモンスターが絶叫し、倒れ臥していた。

怪物を駆除して回る。凄まじい数だが、この面子だったら負ける気はしない。

最後の一体を弐分が電刃刀で切り裂いた時には。

周囲から、リーダーがいうところの殺気は失せ果てていた。

呼吸を整える。

此処は、罠だったのだ。

一華も流石にひやりとした。EDFの基地だったから、地下にエイレンを乗り入れることが出来たが。

多分デプスクロウラーだったら、対応できずに死んでいただろう。

遅れて、部隊が来る。やっと編成が始まった素人ばかりの部隊だ。既に朝日が昇り始めている。

部隊が展開して、怪物の残骸などをもたもた処理し始める。エイリアンの鎧などは、回収して素材に出来るのだが。それも、今はやっていないようだ。

徹夜になってしまったが。そのまま、周囲を見回る。

敵の増援が来る様子はない。これ以上の存在を避ける為だろう。

工兵部隊が来た。不慣れそうな人物ばかりだ。そもそも若者が、この世界から殆どいなくなっている。

それだけ、人類はプライマーに殺されたのだ。

「交代して休め。 先に柿崎、一華」

「有り難いッス。 何か起きたら、アラームならしてほしいッスわ」

エイレンを基地の真ん中に配置。此処なら何かあっても対応できる。

そのまま、エイレンの中で寝る。疲れきっているからか、エイレンの内部で寝ることは苦にならなかった。

 

生活リズムが崩れたこともあって。翌日は色々と大変だった。

基地の周辺を見て回るが、眠くて仕方がない。東京基地から来た部隊が、守りを堅め始めている。

また、基地の地下の整備も進めているようだ。一部の機械類は、東京基地へと運んでいるようである。

プラントを此処に作るだけではなく。

東京基地のプラントを強化するつもりなのだろう。

まあ、工場が拡大できるならそれでいい。一華の知る所ではない。物資さえ届けば、それで問題は無いのだから。

大きな車両が来た。

ただ、ガタが来ている。

幾つかの、地下に放棄されていた車両を運び出している様子だ。戦車も何両かあったが。この基地が占拠されたときか、或いは別のタイミングか。エイリアンに破壊されたらしく。文字通りのスクラップになっていた。

酷い世界だな、これは。

そう一華は思う。

ただ、EDFと世界政府が結成されなければ、21世紀になっていつ第三次世界大戦が起きてもおかしくなかったという話も聞く。

プライマーが攻めてこようが攻めて来まいが、結局は同じだったのかも知れない。

嘆息すると、今日も怪物の駆除作戦をする。

恐らくアフリカで増えている怪物の方が、ストーム1で駆除している怪物よりも多いだろう。

ロシアや南米にも怪物の繁殖地はあるはず。

それを考えると、日本での繁殖はハラスメントのためと判断して良い。

だからこそ、隙も出来る。

手を抜いた攻撃だったら、それこそ猛反撃が来ることは想定していないだろう。少しずつ、復興を進める一助にすらなるし。

アフリカなり他の繁殖地から大兵力を割いて来た場合は。

ストーム1で、どうにかして返り討ちにすれば、それだけ復興も進む。

敵司令官は有能な人物だ。

人物と言えるのだろう。前の周回で出て来た無能を思う限り。

ならば、此処まで勝っている状態でリスクは侵さないはずだ。

もう、じっくりやっていけばいずれ人類には勝てると判断しているだろうから。

ただ、この場合リングが来るのかは少し分からない。

戦争で言うなら、もう間違いなくプライマーの勝ちである。

地球から人類を一掃するのも、百年もあれば出来る筈だ。

だが、プライマーには分からない事が多い。

ともかく。リングが来る事に備えて、今のうちに準備はしておかなければならなかった。

眠気をかみ殺しながら、怪物の駆除を続ける。関東全域での怪物駆除は、一日がかりになってしまう。

今後は静岡や東北、北陸への遠征も依頼されるだろうが。

流石に大型移動車では厳しい。

兵力の再編制、兵器の再生産が進んだ上で。

ようやく指示が出てくると見て良い。

いずれにしても、一月や二月で兵力の再整備なんかできる訳がないので、残り三年弱は散発的な敵との抗戦と味方を如何に守るかに終始することになるだろう。

それに、大型船が現れたら好機だ。

少しでも情報を集めておきたい。

色々考えながら、基地に戻る。解散の指示を受けたので、自室に戻って、軽く残業をする。

DE203の映像から、大型船に直上から攻撃したときの映像を分析する。攻撃の際に、火花が散っていると言う事は、防がれていると言う事だ。だが、横から放たれた攻撃はきちんと直撃している。

少し考えてから、シールドベアラーなどのいわゆる防御スクリーンへの攻撃の映像と比べてみる。

違う。

シールドベアラーなどへの攻撃とは、決定的に攻撃時の状況が変わっている。

そうなると、違うシールドの技術か。

いや、どうにもそうは思えない。

ひょっとしてだが。

火花は散って、弾かれているように見えるが。効いていないと言う事はなく、実際にはダメージが通っているのではあるまいか。

だとすると、もっと大火力の攻撃だったら、通る可能性がある。

一番いいのはフーリガン砲だが、あれはもう搭載している航空機が全滅してしまっている。

フーリガン砲は非常に大きな代物で、簡単に持ち出すことはできないが。リーダーの権限ならどうだ。

リングが来る場合、あの大型船も姿を見せるはず。

何とかして、フーリガン砲を叩き込む手段はないか。もしもフーリガン砲が効くなら、或いは。

大型船を、撃墜出来るかも知れない。

彼奴らがタイムトラベルしてアンドロイドを運んできているのだとしたら。

幾つか案を考える。地上用のフーリガン砲は作れないか。フーリガン砲搭載機は、今どうなっているか。構造は。

レポートにまとめておく。

あの大型船を潰さない限り、多分人類は勝てない。テレポーションシップ以上の脅威と見て良い。

いや、テレポーションシップと同じ脅威ではあるか。人類が開戦後の五ヶ月で大ダメージを受けたのは、テレポーションシップを落とせなかったからだ。

テレポーションシップを核で落とせることは分かっている。

そしてフーリガン砲は、貫通力だったらバンカーバスターに匹敵する。恐らく打ち込むことさえ出来れば、マザーシップにも痛打を浴びせられるはずだ。

大型船さえ落とせれば。

戦況は変えられる。

幾つかのデータを調べておく。既に戦略情報部はガタガタで、セキュリティもなにもあったものではない。

ただ、もしも一華が逮捕されたりしたら面倒な事になる。

必要なデータのセキュリティを確認しておいて。

リーダー経由で、千葉中将を介して閲覧の許可を貰う方が良いだろう。

アラームが鳴る。

リーダーが、集中するときりがないレベルで残業をする一華の性格を知っているから。強引に設定したものだ。

これが鳴った後起きていると、リーダーが確実に通信を入れてくる。

だから、もう休む事にする。

時間が足りない。

データが足りない。

もう少し大型船との戦闘データがあれば撃墜は不可能ではないはずなのだ。

どんなに堅牢な物質だって、破壊する手段はある。

物質依存の堅牢さでないにしても、破る手段はある筈だ。

ぼんやりと考えているうちに。

いつの間にか、夢に落ちていた。

 

翌日、千葉中将に呼び出される。

かなり老け込んでいた。激務もあるのだろうし、ストームチームが激戦で壊滅して、ストーム1しか残らなかった事もあるからだろう。

ダン大佐も来るが。

他の将官は、もう数名しかリモートで出てこない。

大友少将と大内少将が存命なのは有り難い。

筒井大佐も、移動基地との戦闘がなかったからだろうか。この周回では五体満足である。だが、怪物やアンドロイドが相手では、あっと言う間に死ぬ。

それは、分かっているから。

五体満足であることなど、何も喜べなかった。

各地の情報について、データを交換する。

やはり世界中で、怪物によるハラスメント攻撃が続いているらしい。基地周辺以外は、危なすぎて人を出せないとどの基地でも口を揃えているそうだ。その基地すらも、互いに援軍を出すどころではないのである。

そして避難民を兵士に仕立てるにしても。

とてもではないが、パワードスケルトンを着せても戦えないような人間ばかりしか残っていない。

それについては、どこも同じだった。

恐らく日本だけではなく、世界中でそうだ。

うっすらと記憶にある前周。EDFはオペレーションオメガという非人道的作戦を発案して実行し。

これが世界の経済社会を壊滅させる切っ掛けになったが。

今回はそれどころではなく。

もう人類に戦う力なんて、残っていないのである。

「関東では、近隣基地の奪回に成功したと聞く。 此方に援軍は出せないだろうか」

「残念ながら、ストーム1五名だけで奪還を行ったのだ。 援軍などはとても……」

「そうか。 そうだろうな……」

大友少将が悔しそうに俯く。

猛将大内少将も、弱気になっているようだ。

「わしのところも、みんな弱り切っちょる。 怪物が出たと聞くと、兵士達は青ざめてうろたえるばかりじゃけん。 せめてもう少し戦車やコンバットフレームがあればええんじゃが。 工場のラインは兵器の生産どころか、いきるための物資を生産するので精一杯じゃ」

「うちもだ……」

「わしのところも同じだ」

皆が口々にいって、それで黙り込む。

やがて、不毛なだけだと判断したのか。リーダーが咳払いした。

「とにかく、少しずつ反撃の機会を窺うしかないと思います。 俺たちは怪物の駆除を続けながら、少しずつ安全圏を拡げます。 怪物の大きめの群れが発見されたら、すぐに連絡を。 俺たちでどうにかします」

「心強いのう。 その時は頼むけん」

「此方も……頼むしか無さそうだな」

無意味な時間だったな。

会議が終わって、そう思った。

疲れきっている千葉中将を捕まえて、リーダーをまじえ話をしておく。千葉中将は話を聞き終えると、寂しそうに笑った。

「本気で、まだ勝つ気でいてくれて嬉しいよ。 分かった。 此方からは、出来るだけの便宜を謀ろう。 戦略情報部は独自の権限を持つ部署だが、もう「参謀」は完全に自棄になって、仕事を放棄しているようだ。 現在戦略情報部を回しているのは例の少佐で、ある程度は便宜が図れるだろう」

「お願いっすよ。 少しでも、データを集めないといけないッスから」

「そうだな……」

千葉中将の顔にさえ、怯えが見える。

アンドロイドを更に大型船が連れてきたら、もはや戦うどころではない。それを理解しているからだろう。

すぐに作戦指示があったので、怪物の駆除に向かう。

一個分隊が同行したが、皆少年兵と老人兵ばかりだった。

若い兵士はみんな死んでしまったのだと分かる。

老人兵はまだいい。

少年兵にいたっては、小学生か。もっと下の子供にしか思えない子もいる。

これでは発展途上国のゲリラ以下だ。

そう思うと、悲しくて泣けてきた。

リーダーが色々説明をしている。

前には絶対に出なくて良い。指示した地点に留まって、教わった通りに撃つだけでかまわないと。

皆青ざめて、もう今日が最後なんだという顔色だったが。

一緒に行くのがストーム1だと聞いて。僅かに冷静さを取り戻した様子だ。

こんな幼い子供を戦場に連れ出さなければならないのか。

なんとも、言葉が出ない。

怪物を発見。リーダーは、戦闘を見ているようにと言うと、前衛に躍り出る。皆で、数十匹ほどのα型を見る間に駆逐する。

それを見て、ストーム1の活躍は合成映像だのウソだのではないと理解したのだろう。やっと、兵士とも言えない者達は本当に安心したようだった。

次からは、銃を撃って貰う。

勿論、出来るだけ怪物による被害が出ないように、此方で配慮する。

出来れば、この兵士達は、戦場に出して怪物との戦いの矢面に立たせたくない。

そう、一華ですら思う程だった。

 

4、時は容赦なく過ぎる

 

ベース262で、怪物の駆除チームが結成された。そう聞いて、壱野はそうかと思った。一華がすぐに向かって、兵器の整備を行ったらしい。東京基地からスクラップ寸前の兵器がある程度は持ち込まれたと言う事で。何とか小規模の怪物なら駆除できる状況が整った様子だ。

もうすぐ。ベース251に行く日が迫っている。

リングが来る日が近いとも言える。

柿崎には、事情を話した。

柿崎は、すんなりと話を受け入れてくれた。おかしいとは思っていたと、柿崎は言った。恐らくは、あまりにも異様な強さをみて、妙だと感じてはいたのだろう。年齢と経験があからさまに釣り合っていないのだから。

一華が戻ってくる。

最近は、軍病院からでて戦線に復帰した兵士も増えてきていて。関東近郊は、多少は落ち着いて来ていた。

日本の各地に遠征することも増え。

その過程で、四つの基地を奪回した。

日本限定なら、戦況は維持できていると言える。

記憶にあった地獄のような世界とは、雲泥の差である。

皆で、席を囲んで食事にする。

レーションのまずさは相変わらずだが。これに関しては、地下にいる市民達だって同じものを食べているのだ。

どうこうはいえない。

「とりあえず、テクニカルに改造したニクスは何両か準備しておいたっスよ。 荒くれたち、感謝してくれたッスわ」

「そうか。 戦力は戦力だ。 ニクスがあるからといって、調子に乗らないように訓戒はしておかないといけないが」

「そうっスね……」

「皆に先に話をしておく。 ベース251への短期滞在について、交渉して許可を得た」

皆、頷く。

今回も、失敗は許されない。

なお、プロフェッサーも既にベース251にいる。

プロフェッサーは懲罰と称して、兵士としてかり出されたり。彼方此方で無茶な研究をさせられたそうだが。

脱走だけで、先進科学研の主任をそこまで縛るのも今は得策ではないと千葉中将も考えたのだろう。

対応を、壱野に一任してくれた。

ベース251の辺りは、やはり今度の周回でも怪物が多い。それどころか、コロニストも、コスモノーツまで姿を見せているそうだ。

アンドロイドの残党部隊も集まりつつあるという。

あまり、楽は出来そうにない。

幾つかの基地を奪回したとは言え。

EDFは有利どころか、何とか戦線を維持しているだけなのである。

「それで一華、ベース262について妙な事が分かったとか言う話だが」

「……盗聴器、無いッスね?」

「……ない」

「なら、軽く話しておくッスわ」

周囲を見回した後。

一華は、話をする。

どうもベース228をはじめとして、幾つかの基地に破壊済の不審物があるらしい。トップシークレットと言う事だ。

バルガのことかと思ったが、ベース262にそんなものはなかった。

一華は周囲を見回した後、言った。

「残骸の正体は米軍が開発し、EDFに引き継がれた超長距離ICBMっスよ。 宇宙にいる敵を想定したとしか思えない代物で、此奴を使えば多分月も攻撃出来るッス。 核弾頭も……しかも水爆も搭載可能っスわ。 てか、水爆を搭載していたようッスね」

「何だと!?」

「EDF設立の経緯がプライマーの宇宙船発見だとすると、あり得ない話じゃ無いッス」

「そうだな」

確かに、その通りだ。

宇宙から攻めてくる敵を相手に、宇宙への攻撃能力がないのでは話にならない。

当然、準備をしていたとしても不思議では無いだろう。

「あの基地にあったマザーモンスターのしがいは、どうやらモロに超高濃度の放射能を浴びて死んだみたいッスね。 道理で、調査結果がトップシークレットの訳っスわ」

「それで納得が行った。 ベース228への異常な攻撃は、バルガなんかではなくて、その核搭載ミサイルを狙ってのものだったんだろうな」

「プロフェッサーが言う所の、最初の周回か、それとも二回目か。 いずれにしても我々が知らない周回で使われたと思って間違いないっスわ。 たぶんそれでプライマーは大ダメージを受けて学習して、先制攻撃をしたと」

「歴史を勝手に操作できるプライマーならではの対策ではあるな……」

千葉中将が攻撃を決断したのだろうか。

それともリー元帥だろうか。

使ったとしたのなら、相当に追い詰められていたのだろう。

どうやら、人間も。プライマーを残虐非道な存在だなどという資格は無さそうだなと。壱野は思った。

「とにかく、それについては伏せておいてくれ。 もし今後戦況が改善した場合、身に危険が及ぶ可能性がある」

「了解ッス」

「プロフェッサーはしっていたのかな」

三城が言う。

悲しそうだった。

一華の表情が物語る。

知っていただろうと。

まあ、そうだろう。先進科学研の主任だ。当然、そういう超兵器については、知識もあっただろう。

ただ流石に、具体的な場所までは知らなかった可能性が高いが。

弐分が、一華に話を聞く。

「それで、フーリガン砲はどうなった」

「それについてはばっちりッス。 長い時間かけて、交渉した甲斐はあったっスよ」

「!」

一華が設計図を出してくる。現物も確保できたそうだ。

フーリガン砲は、よくこれを航空機に搭載できたなと言いたくなるような砲台で。とにかく巨大だった。

更に、弾も砲身もほぼ使い捨て。量産が厳しかったのも頷ける。

だが、地上車両なら、現地に運ぶ事がまだ出来ると言う。

「戦況が悪い事もあって、うっすら記憶にある品から殆ど進歩していないッスね。 でも、火力はテレポーションシップを貫くには充分っすよ。 現時点でバンカーバスターと並ぶ人類が用意できる最強の徹甲兵器ッス。 ただし、用意できたのは一門だけ。 撃てる弾も、二発だけッスけど」

「分かった、射撃は俺がやる。 試射は出来るか」

「一応シミュレーターはあるッス。 あと、試射の映像も」

それで充分だ。

実際に撃つのが一番だが、それでも今の壱野なら当てて見せる。

大型船は、超高速で移動しているという勘違いを戦略情報部がしていたが、違う。その場に瞬時に現れる時以外は、ゆっくりとしか飛んでいなかった。あれは、短時間の時間跳躍をして現れたと見て良い。

やる事を、確認しておく。

大型船を攻撃するフリをして、既に用意されている暗号を含んだ電波信号を発する弾を、リングが生じさせる穴に撃ち込む。これはできる限りの数を撃ち込むべきだろう。

もう一つは、用意したフーリガン砲で、大型船を撃破する。

大型船には分かっていない事が多いが。どうも一華が言う所によると、ダメージは通っている可能性が高いと言うことだ。

全体にダメージを分散して、いわゆるダメージコントロールを行い、撃墜を免れているのかも知れない、と。

だとすれば、ダメージが一定量を超えれば、船の全体が瓦解する可能性が大きい。

残念ながら、手元にあるライサンダーZでは、それが出来なかった。

だが、フーリガン砲でもしも敵大型船を撃墜出来れば。

その仮説をベースにして、敵船を撃墜する方法を、見つけ出すことが出来るかもしれない。

勿論、リングを守るために、怪物もアンドロイドもわんさか押し寄せてくるだろう。

それらは、どうにかしなければならないが。

ベース251も、ここしばらくで奪還した基地の一つ。

既に海野大尉が入って、新兵の教育に当たっている。

海野大尉はどうも関東でダン大佐の麾下に入って転戦していたらしく、顔を合わせる機会はなかった。

そういう運命なのかも知れない。

いずれにしても、歴戦の戦士で。頼りになる事は間違いない。

今回も生きている事は確認できている。

可能な限り、頼らせて貰う。

それだけだ。

咳払いする柿崎。

「私も、今回は過去に跳んで、皆と一緒に戦うと言う事でよろしいでしょうか」

「頼む。 このまま、人材を増やして少しでも戦況を改善したい」

「ふふ、そうですね。 私も為す術なく倒されるよりも、多くの不可思議な方々と武を競いたくありますので」

「……」

弐分も三城も呆れた顔をしている。

柿崎は何というか、本当に戦いが好きな事が分かる。だからこそに、色々と思うところもある。

だが、必要な人材だ。

一華にリストアップして貰った何人かに、次の周回で生きたまま会えるかも知れない。そうしたらストーム1……当面は村上班だろうが。勧誘して、そして一緒に戦い抜く。それで、戦況を少しでも改善する。

それに、壱野もまだまだだ。

誰も守れなかった。

今回の苦い教訓は、絶対に生かす。

どんな敵が現れても、戦い抜けるように、更に技を磨く。

それには、あらゆる武器を使いこなせるようになる必要がある。

決して武の高みになどは到達していない。

それを何度も自分に言い聞かせ。更に更に、強さの先を目指す必要がある。それが壱野の課題だ。

嘆息すると、一度解散する。

そして、とにかくまずいココアを口にした。

しばらく体を温めると。

多分三度目になるだろう、ベース251に出向く準備を始める。

一華が用意してくれた自走式のフーリガン砲は、今回の作戦の肝だ。敵大型船を、いつまでも落とせない状況は極めてまずい。

プライマーとの戦いは、やっと同じ土俵に立つ事が出来たが。

まだ力の差は、ミジンコと象ほどもある。

この差を少しでも埋めるためにも。

一番頑張らなければならないのは。

壱野だった。

 

(続)