決戦オーバーミリオン

 

序、結成

 

ジャムカ大佐に言われる。

初めて会った気がしないと。壱野も、頷く。それだけしか出来なかった。

荒木軍曹(正確な階級は准将)をチームリーダーに。荒木班。村上班。スプリガン。更にグリムリーパー。この全てを統合して、一つの部隊に再編制。

チーム名はストーム。

全てを薙ぎ払う嵐の部隊だ。

千葉中将が、この件は既に総司令部のリー元帥に申請。リー元帥も、悪化する一方の戦況を見て、それをよしとしてくれていた。かくして、再びストームチームが結成される。ただし、ベース228の奪回が目的では無い。

此処はインド。

インドにおいて、北部からヒマラヤの極限高度を平然と超え、迫り来るアンドロイド部隊を叩きのめすためだ。

たった一個小隊程度の兵力で何ができる。

そういう奴もいるだろう。

だが最新鋭機のエイレン二機。それに一騎当千の強者ばかり。

スプリガンことストーム4、それにグリムリーパーことストーム3には、新人が何人か混じっているが。

古参の隊員は、いずれも強者だらけだ。

グリムリーパーの副官マゼラン少佐もまだ健在。スプリガンのシテイ大尉とゼノビア中尉も、二人とも生きている。

相手はアンドロイド百万以上。

普通だったら勝てる訳がないが。幸い、相手は怪物と違って自己増殖しない。そういう意味では、倒せば倒すほど、戦況を有利に出来る。

ストームチームの結成式を行い、撮影を受ける。多分兵士達の士気を上げるために、最強部隊の結成を発表するのだろう。

村上班の活躍はおかしすぎると疑念の声を上げる兵士達もいるそうだが。

そういう兵士達も、同じ戦場にいれば後は黙る。

それで充分。

壱野はサイボーグだとか遺伝子操作された強化人間だとか噂をされているらしいが。

それも無視。

兵士達が、一緒に戦えば勝てると考えてくれれば良い。それだけだ。

結成式を手早く済ませてから、インド方面部隊の司令部に入る。ここの指揮を任されているポロス中将だけではない。リー元帥も、リモートで参加していた。

まずは指定された席に着く。

各地の戦線の様子がスクリーンに表示されるが、いずれもさんさんたる有様だ。更に、既に陥落しているパキスタンには複数のテイルアンカーが刺さり、怪物の軍団も出現し始めているという。

恐らくはアフリカで増やされたものだろうと説明するポロス中将だが。

それについては、なんとも言いようが無い。

ともかく、幾つかの戦線について説明を受けた後。

インド北部にあるアーグラ地方を、ポロス中将は指した。

「現在もっとも戦況が悪いのがこの地点だ。 此処では敵の大型アンドロイドが中心となった部隊が進軍を続けている。 幸い此処の敵部隊と連携していた敵特務は先日の戦闘で葬ることが出来た。 しかも此方の参戦部隊は無傷でだ。 あの戦いを見て、ストームチームの強さに、私も感動させられた」

そう言ってくれると有り難いが。それだけでは、戦闘は勝てない。

具体的な作戦がいる。

「現在インドに展開しているアンドロイドは、偵察用ドローンの映像などから確認できるだけでおよそ百八十万。 この地点には二十万以上がいて、此処を撃ち抜けば一気に敵の戦線を崩す事ができる。 特にこの地点を制圧し砲兵隊を護衛する事が出来れば、一気に各地の敵に砲撃を浴びせ、アウトレンジからの一方的な攻撃を行える」

「突破には相応の戦力がいります。 アンドロイドはとにかく手堅い敵で、しかも怪物と違って死ぬまで全く動きが鈍りません」

「分かっている。 現在各地の戦線は防戦一方で、展開している兵力は動かせないが、代わりに送られてきたばかりの部隊を君達に同道させる」

米国から来たばかりの部隊だという。

陣容を見る。

バリアス二両。ブラッカー十二両。ニクス六機、更にケブラー十八両。そして指揮官機としてタイタンが一両。歩兵は七百名ほど。補給車、重機などの支援部隊もいる。これに日本から同道しているDE203が加わる。

兵力としては一個連隊規模だ。歩兵の練度は高くないが、バリアスを中心にしていけばいけるか。

弾丸などのデータも壱野は見せてもらう。

少し、足りない。

「弾丸などをもう少し供出願えますか」

「数日は戦える分量がある筈だが」

「いや、我々用に少し特殊なものが必要だ」

荒木軍曹が、アシストをしてくれる。ありがたい。

ストームチームには、以前から実験兵器が回されている。そう聞かされてはいたのだろう。

ポロス中将は頷くと、補給部隊に指示を出してくれた。更に基地でのバッテリーの補給の優先許可も貰う。これは大きい。荒木軍曹にはブレイザーが支給されている。これは前周よりも更に出力と安定度が上がり、火力が安定した強化版だ。惜しむらくは、量産する余裕が無いことだろう。

インドの戦線では逃げ遅れた人々が無差別殺戮にあい続けており、時間はあまりない。指定されたアーグラ地方でも、百万以上の民間人が逃げ遅れ、連日殺戮されているという話だ。

ブリーフィングについては早々に切りあげ。

荒木軍曹と壱野、それにジャムカ大佐とジャンヌ大佐。それに既に参謀役として一目置かれている一華を交えて、作戦を軽く練る。

「敵の数は二十万と聞く。 しかも突破作戦ではなく殲滅作戦だ。 砲兵隊を守りつつ、現地を制圧する必要がある。 何か策はあるか」

荒木軍曹が皆を見る。

だが、荒木軍曹に、誰も応えない。策なんてあるわけがない。

ストームチームの戦力は桁外れだ。だが、相手は二十万。軍隊で言う所の軍団規模の相手である。

しかもアンドロイドは基本的に恐れなど知らない。死ぬまで進軍してくる。その上頑強な集団だ。

師団規模の戦力に匹敵すると言われた村上班、現ストーム1だが。

それでも、軍団規模の敵を正面から相手にするのは悪手である。

「しかも逃げ遅れた市民も多い。 市民を守る必要も生じてくるな」

「現地で戦うしかないのでは無いのか? 緻密な作戦など、立てても無駄に思える」

ジャンヌ大佐に続けて、ジャムカ大佐が言う。

壱野はしばし考え込んでから。

基本に忠実にやるしかない、と結論した。

「アンドロイド部隊でもっとも危険なのは大型です。 俺が狙撃で全て潰します」

「正面からやるつもりか」

「これだけ混沌とした戦場では、緻密な作戦は立てられません。 どうにか敵を正面に集め、それを各個撃破していくしかない。 悪く言えば行き当たりばったりでやるしかないということです」

「お前にしては随分投げ槍だが……」

荒木軍曹が呆れる。

だが、壱野の勘について思い当たったのだろう。

黙り込んで。

そして、ブレイザーを見つめた。

「分かった。 恐らくだが、行き当たりばったりでもお前の勘をベースに戦闘をすれば、損害を減らしながら敵に最大限のダメージを与える事が出来るだろう」

「……噂には聞いている。 敵の動きが見えているような動きをすると」

「ふっ、それならば行き当たりばったりでもどうにかなるかも知れないな。 期待しているぞ」

ジャンヌ大佐も、ジャムカ大佐も仕方が無いと納得してくれる。

ブリーフィングを済ませると、外に。

部隊の隊長達が整列していたので、すぐに現地に向かう事を告げる。救急車については、ポロス中将に要請して、更に数を出して貰った。

前進を開始する。

既に、彼方此方で悲惨な様子の難民が、運ばれて行くのが見えた。

医療はもうトリアージが行われている。血の臭いが凄まじい。

アンドロイドは見境なく殺戮をする。

此処での決戦にEDFは賭けている。だから、各国から裂けるだけの兵力を裂いてくれているが。

それでも、厳しい状態に代わりは無い。

なけなしの空軍機も出ているが、ドローン部隊が足止めしており、かなり厳しい戦況の様子だ。

時々、見かけるドローンを壱野が叩き落としつつ、前進を続ける。

一華が、彼方此方のデータを集めてくれて。報告してくれる。

「マズいッスねリーダー。 この先、不利どころじゃ無いッスよ」

「そう、なのだろうな」

「戦線はとっくに崩壊。 残存戦力を、アンドロイドが虐殺しているッスね。 多分市民は殆ど……」

「速度を上げるぞ」

AFVにも声を掛け、行軍速度を上げる。

大型移動車は、陣列に混ぜてしまう。これはもう、安全な後方など、ないからである。

なるほど、一華の言うとおりらしい。

主戦場になるアーグラ地方のもう手前から。既にアンドロイドの部隊が見え始めていた。大型移動車から降りる。

戦闘準備。

荒木軍曹が叫ぶと、兵士達がわらわらと展開。ストームチームも、それぞれ展開を開始してくれた。

荒木軍曹が。

前の周回でもずっと使っていたブレイザーを手に、勇敢に声を張り上げていた。

「ブレイザーの火力を試させて貰う!」

「その武器、俺の分も頼めるか?」

「この戦場では無理だ。 だが、製造コストは現実的なラインらしい。 この戦いを生き延びて、数ヶ月もすれば、第二弾の生産分をお前に廻せるかも知れない」

「そうか、それはありがたいぜ」

小田少佐が愛用のロケットランチャーを担いで展開。

そして、壱野が狙撃し。大型がのけぞると同時に。アンドロイドの群れに、全兵器群が火力投射を開始。

同時に、もの凄い数のアンドロイドが集まり始める。

壱野は冷静に、大型を順番に狙撃。弐分と柿崎は、ストーム3とともにアンドロイド部隊へと突貫開始。

まだ自動砲座は使わない。

戦車隊はタイタンを中心に魚鱗陣を組んで、補給車とキャリバン救急車を守りつつ、射撃を開始。

前衛に出たニクス隊とともに、エイレンがレーザーの滝でアンドロイドを撃ち据える。

此処に出て来ている敵部隊だけで、既に数千を超えている。だが、主力の大型は流石に猪突もあってか、それなりに傷も見える。

壱野はその傷を確実に撃ち抜いていく。

「戦車隊、攻撃指示を送るッス。 バリアスの射撃管制システムにリンクして、攻撃をしてほしいッスよ」

「了解!」

「ケブラーは水平射撃で、弾幕をそのまま展開して敵の接近を阻止してほしいッス」

一華にこの辺りの指示は任せる。

壱野は狙撃に注力。

前衛で大暴れしているストーム3と弐分と柿崎を邪魔しないように、ひたすら大物を潰す。

上空から、誘導兵器の光が降り注ぐ。

これもバージョンが上がってきていて。その内ついに独立動力を用いて二種類の誘導兵器を同時稼働出来るようになるそうだ。

もしそうなれば、文字通り単騎で火力の滝を作り出す事が出来る。

そうでなくても、三城は様々なウィングダイバー武器を手に立ち回れるのだ。

戦術も戦略も幅が出ると言える。

「よし、敵の足を止めている間に削り切れ!」

「はっ! 手応えがない連中だ!」

「ストーム3に遅れを取るな!」

ストーム4も空中からマグブラスターの斉射を行い、接近戦で次々アンドロイドを屠っているストーム3に負けない活躍をしている。

程なく大型は殲滅。

アサルトに切り替えて、小型の駆除に掛かる。

DE203はまだまだ温存。

敵の抵抗が弱くなってきた所で突貫。

全軍を踏み砕いて、そのまま前進した。

アーグラ地方に入る。

既に其処は地獄だ。

無線で呼びかけるが、生存者は殆どいないようだ。彼方此方が燃え上がっており、アンドロイドが闊歩して残党の撃破を続けている。

壱野は前に出ると、そのまま偉そうに周囲を燃えるビルの上から睥睨している大型を狙撃。

叩き落としていた。

地面に落ちた大型が立ち上がろうとしたところをもう一撃加え、とどめを刺す。

アンドロイド部隊が、わっと集まってくる。

地方の境でこれか。

「敵、集まって来ます!」

「後方の安全は確保してある。 少しずつさがりながら、囲まれないように戦闘を続行する!」

「イエッサ!」

ブレイザーの火線が迸り。一瞬でアンドロイドの装甲が融解、爆散する。おおと、喚声が上がる。

最初、荒木軍曹も控えめに使っていたのだが。攻撃で火力が出ると判断してからは、一気に大胆に使い出した。

見ると、ストーム3のブラストホールスピアも、記憶にあるものよりも火力が大きくなっている。

戦略情報部に見放されたプロフェッサーだが。

その兵器の実績は、戦略情報部も認めてくれていた、と言う事だろう。

兵器の支給は、こうして行われているのだから。

凄まじい数が集まってくるが、其処に上空から声が掛かる。

「こちらDE203。 急降下攻撃を開始する!」

「特に大型の射程と弾幕は凄まじいので、あまり接近しないように注意してくださいッスよ」

「分かっている。 その大型を狙って片付ける! 105ミリ砲、ファイア!」

強烈な砲撃が上空から大型アンドロイドを撃ち抜き、一瞬で粉々に打ち砕く。だが、敵の数はこの地方だけで二十万。一体や二体で、どうにかなる状況では無い。

少しずつ、敵との距離が縮まっていく。

前衛の戦車やニクス、エイレンが被弾し始める。

それでも、敵に対して少しずつ後退しつつ、攻撃を続行。

夥しい被害を出させる。

壱野は目だった動きをしている大型を確実に撃ち抜きながら、味方部隊に指示を続ける。

勘をフル活用して、どこから敵の圧力が来るかを、しっかり見定めるのだ。

時には三城に指示。

プラズマグレートキャノンを叩き込んで貰う。

敵の密度が増せば、破壊力は加速度的に上がるが。

雨霰と飛んでくるバリスティックナイフに、流石に壱野も閉口し気味だ。

「三名負傷した、さがる!」

「此方も二名負傷!」

「キャリバン、対応を!」

「イエッサ!」

前衛のストーム3は、流石に負傷者が出始めている。上空から攻撃を続けるストーム4もである。

兵士達は展開して火力を投射し続けているが、やはりアンドロイドには足がすくむのだろう。

どうしても、反応が遅れるし。

それで被弾してしまう兵士も多い様子だった。

「敵の数、更に増大!」

「踏みとどまれと言いたいところだが、そろそろだな。 三城、プラズマグレートキャノンを叩き込め。 少し時間を稼いで欲しい」

「俺たちに任せておけ」

荒木軍曹が出ると、ブレイザーでアンドロイドを焼き始める。

恐らくだが、生物に対するよりも効果があるかも知れない。だが、バッテリーの交換が大変な事は、前周と変わっていない様子だ。その一方で、荒木軍曹はすぐに使いこなしている。

恐らくだが、相当にUI周りに手が加わっているのだろう。

後退する。ストーム3も、盾を上手に使って敵を捌きながらさがってくる。後退が遅れている兵を、アサルトで支援して。ジャムカ大佐が突入して、救援してくる。半包囲されつつあるが、それでも猛烈な砲火で押し返す。

「タンク2、限界だ!」

「ニクス3、装甲がもたない!」

「もう少し耐えてくれ。 もう少し……」

最大限の支援を続ける。

敵の群れの端を横切るようにしながら、凄まじい勢いで敵を斬り伏せて行く柿崎。アンドロイドも追おうとしているが、弐分が電刃刀で斬り伏せて回るので、対応がどうしても遅れる。

「新たな敵部隊! 推定五千!」

「畜生っ! こんな数でどうにか出来る相手かよ!」

「……よし、今だ。 全員、耳を塞げ!」

起爆。

持ち込んできていた、C80爆弾が。兵力で平押ししようとしている敵の真ん中で、炸裂していた。

きのこ雲が上がり、粉々になったアンドロイドの熱を帯びた破片が辺りに降り注ぐ。

一気に千体以上を屠り。

兵士達が呆然としている中、ジャムカ大佐が不敵に笑った。

「ふっ。 クロスカウンターと言う所だな」

「総員、反撃をお願いします」

「よし、一気に押し返せ! 負傷兵、ダメージが大きいビークルは一度後退、修理を急げ!」

荒木軍曹が指示を出し、タンクやニクス、ケブラーが後退を開始。

その代わり、壱野が前に出ると。

炎の中から現れるアンドロイドに、容赦なく射撃を浴びせた。

三城がだめ押しのプラズマグレートキャノンを叩き込み。更に敵を散らす。正面に展開していた敵が、途切れる。

補給を。

叫ぶ。兵士達が、補給車に群がる。今のうちに、排泄を行い飲み物も口にしておくよう、荒木軍曹が指示。

辺りは燃えさかる街。一応まだ形が残っている建物もある。

だがどれも大きくバリスティックナイフやブラスターで傷つけられ。赤い染みにされてしまった人間の残骸が、グロテスクに色づけをしていた。

「これは、数日は総力戦が続きそうだな」

「今のうちに少しでも休憩を」

「そうさせて貰う」

ジャムカ大佐が腰を下ろすと、ウィスキーの蓋を開ける。

ジャンヌ大佐はストーム4の隊員達に、細かく休憩のシフトを指示していた。

生き残りを助けるどころじゃあないな。

そう壱野は実感して。

そして、此処がこの戦いの分水嶺だとも、思い知らされていた。

 

1、怒濤と鉄壁

 

アンドロイドが二方向から迫る。後退しつつ、壱野は大型を次々に撃ち抜く。もう片方は無視。

理由は簡単。

擲弾兵の部隊だからだ。

擲弾兵がこれだけ残っていると言う事は、この辺りにもう生存者はいないということだ。文字通りの生きたミサイルである此奴らは、人間を見つけ出し、自分ごと爆破していく。既に皆に、近付かないように指示は出してあるが。今回は、例外的に特殊作戦行動を取って貰う。

弐分と柿崎が、全速力で突貫。

それぞれが、擲弾兵の群れに、別方向から突貫。敵をガン無視して。機動力をフル活用して、敵陣を抜ける。

そして、擲弾兵がそれを追って集まった所に。

バリアスの射撃管制を利用して、一斉に射撃を浴びせる。

結果、擲弾兵が手にしている強力な爆弾が、一斉に起爆。

凄まじい爆破が行われ。その余波が、アンドロイド部隊までなぎ倒していた。

すげえ。

兵士達が息を呑む。

擲弾兵は確かに恐ろしいが、連携しての戦闘はあまり得意ではない様子だ。これを見ている限り、本当に人間を殺し、文明を破壊するためだけに作り出されたものだと分かる。危険すぎて確認は出来ていないが、あの爆弾も破壊しているときに一瞬見えるが、中身は液体のようだ。

ニトログリセリンそのものではないだろうが。

似たような、非常に不安定で危険な液体爆弾なのだろう。

「敵擲弾兵部隊、消滅80%!」

「よし、残りはストーム1に任せろ! 全部隊で弾幕を展開、今ダメージを受けた部隊に集中攻撃!」

「イエッサ!」

兵士達も、少しずつ慣れてきているが。それ以上に一戦ごとにどうしても負傷者が出る。

バリスティックナイフは射撃ではじき返せる。

そう説明しても、実行できる兵士はいない。

兵士に支給されているアーマーでも、喰らって即死はしないにしても、やはり大きな傷は受けるのだ。

キャリバンがまた後退していく。

戻って来たキャリバンから看護師が出て来て、傷ついて呻いている兵士を回収していく。既に七百名いた兵士の内、60名以上が負傷して後退していた。戦車隊のダメージも大きい。

「くっ、ニクス4限界だ! 後退する!」

「支援する! 支援部隊、ニクス1の修復はどうだ」

「まだ掛かる」

長野一等兵の厳しい言葉だ。

壱野はその間も、アサルトで片っ端から群がってくる擲弾兵を片付ける。

向こうは荒木軍曹が大型を中心に狙いながら、敵の群れを効率的に片付けてくれている。擲弾兵が時々背後や側面に回ってくる様子だが。それは上空に上がっている三城が見つけて、警告を飛ばす。

時々、後方や側面で爆発が起きるが。

兵士よりも、まずは看護師や支援要員の心配をしなければいけなかった。

「擲弾兵、片付いた。 其方の支援に戻る!」

「流石だな。 大型を中心に狙撃してくれ」

「イエッサ!」

荒木軍曹のブレイザーは以前より明らかに火力が上がっている。これも、プロフェッサーが必死に仕上げてくれたのだろう。

プロフェッサー用のセーフハウスについては、複数一華が用意してくれている。勿論一華もEDFにばれないように、最大級の偽装を施してくれている。悪い事だが、緊急避難だ。仕方が無い。

だが、それでもいつかは見つかってしまうだろう。

とにかく、もうこの周回では、兵器の開発は頭打ちと見て良い。

手元の兵器で、やっていくしかない。

「此方エイレン相馬機。 バッテリーの交換を頼む」

「エイレンのバッテリー、もう殆どありません!」

「……後方基地に、充電に出したバッテリーは」

「まだ戻って来ていません!」

厳しい状況だ。

更に新しい敵部隊が現れる。どうもアーグラ地区に展開しているアンドロイドだけではない。

他の地区にいるものや。

後詰めとして展開しているものまで、此処に迫っている様子だ。

本気で此方を潰すつもりらしい。

だが、好都合だ。

それだけ、他の兵士の負担が減ると言う事だからである。

「ぐうっ!」

「ジャムカ大佐!」

「問題ない!」

流石にストーム3もストーム4も、負傷者が増えてきている。その分、エースの負担が増える。

大軍のアンドロイドを相手に奮闘しているジャムカ大佐も、被弾が増えてきている様子である。

ウィングダイバー隊はそれ以上に状況が良くない。

バリスティックナイフを空中で回避できる兵なんて、ほんの僅かだ。狙われないように立ち回るしかない。

だから負傷者が増える。

死者も。

応急手当を済ませてマゼラン少佐が出る。壱野も、大型を片っ端から始末しながら、アサルトと切り替えて敵の群れを撃つ。

敵の群れに、弐分と柿崎が突貫。

アンドロイドを、当たるを幸いになぎ倒す弐分。

敵の群れの端を、削り取るようにして倒して行く柿崎。二人とも、ほぼ完璧な立ち回りをしており。

敵が集まった所に、連携して三城が大火力のプラズマグレートキャノンを叩き込み、消し飛ばす。

壱野も前に出ると、アンドロイドの大軍を捌きながら、少しでも時間を稼ぐ。

「此方、レンジャー7−4……」

「!」

「百名ほどの市民とともに立てこもっている。 戦闘中の部隊がいるのを知って無線を入れている。 救援を……」

「見捨てることは出来ないな」

荒木軍曹が呻く。

そして、後退しつつ、敵に猛射を浴びせる。敵は激しい攻撃を受けながらも、ゾンビさながらの生命力で迫ってくるが。次々に爆ぜ割れる。だが爆ぜ割れて脳みそのような中身が出ても。

死ぬまでアンドロイドは止まらない。

その動きを見て、兵士がまた吐いた。

どうしようもない。

これほど非人間的な、死ぬまで動いて迫ってくる兵士だ。文字通り、手に負える相手ではない。

それでもどうにかしなければならないのだ。

少しでも、市民を守るために。

壱野だって、この場にいるものすら守れないことは理解しているが。

だがそれでも。

それでもできる限りはやる。

目の前にある難事は片付ける。少しでも、だ。

スタンピートはこの戦場で使うつもりは無い。

大量のバリスティックナイフを展開して来るアンドロイド相手には、相性が良くないからだ。

その代わり、時々C80爆弾を敷設して、それで敵をまとめて消し飛ばす。

敵の圧力が弱まる。

同時に、弐分が前に出て。味方の後退を支援。壱野も前に出て、敵を殲滅する。

ジャムカ大佐が、よろめきながら戻ってくる。

凄まじい数のアンドロイドを相手にし続けたのだ。当然だろう。

「流石にハードな任務だな。 紛争の時を思い出す」

「ジャムカ大佐!」

「手当ては不要だ。 ちっ、痛み止めが効きやがらん」

ジャムカ大佐のフェンサースーツは傷だらけだ。まずい。ストーム2でも、浅利少佐が今手当てを受けている。

小田少佐も、目だって口数が減っていた。

アンドロイドがロケットランチャーを撃つ瞬間を狙って、バリスティックナイフを飛ばしてくるからだ。

荒木軍曹だって無傷では無い。一度、モロにバリスティックナイフを喰らうのを見た。

それでも、荒木軍曹は、周囲に的確な指示を飛ばしている。

「補給と手当てを可能な限り済ませろ! 敵の数はまだまだ増える! 此処で食い止めなければ、全戦線が崩壊する!」

「い、イエッサ……」

「増援部隊はないんですか!」

「此処以外は更に酷い戦況だ。 増援を周囲が求めているくらいの状況だ」

そう冷静に言う荒木軍曹。

兵士達はかなり戦いになれては来ているが、同時に青ざめてどうしようもなくなりつつあるものもいる。

それはそうだ。

人間を撃ってPTSDになるものだっている。

こんなグロテスクな機械の化け物を撃てば、それは精神が保たないものだっているだろう。

手当てと補給を済ませ。補給車が行き来するのを見る。

バッテリーがやっと来た。

一華が、状況を壱野に説明してくれた。

「ニクス二機は、ちょっともう戦闘無理ッスね。 戦車も三両、ケブラーも五両が厳しい状況ッス」

「分かった、後方にさがらせろ。 修理すれば、次の戦闘では役立てる」

「了解。 それで、さっきの救援通信ッスけど、場所が特定出来たッス」

バイザーに地図が出る。

どうやらシェルターらしい。ただ。そのシェルターの上には、千数百のアンドロイドが陣取っている。

そして、シェルターをこじ開けようと、攻撃を続けている様子だ。

つまり、急がないと危ない。

「此処は頼みます」

「壱野、お前だけで行くつもりか」

「いえ、俺たちで片付けてきます。 此処の守備は任せます」

「……死ぬなよ」

頷く。

そのまま、ストーム1となった五人で出向く。

燃えさかる街。散らばった人間だったもの。ねじ曲がった銃の残骸。戦車らしいものが、粉々に砕かれて擱座している。中に乗った兵士は、脱出する暇も無かった様子だ。

見えてきた。アンドロイドどもだ。擲弾兵でなくて良かったが。擲弾兵が迫ってきている可能性もある。

出来るだけ、急ぐ。

プラズマグレートキャノンは使えない。地下にダメージを与える可能性があるからだ。

三城が上空に。

誘導兵器で、一気に敵に奇襲を掛ける。自動砲座は出し惜しみ無し。壱野が、優先的に展開。

そして、三城の攻撃と同時に弐分が突貫。少しだけ遅れて、柿崎も突貫していた。

千数百なら、どうにかしてみせる。

そのまま攻撃を続行。一華に、救援が来た事を通信で入れさせる。相手が、悲鳴に近い声を上げた。

「もう喰い破られそうだ! 急いでくれ!」

「今戦闘開始したッス。 持ち堪えて」

「わ、分かった……だが此方も、戦闘出来そうな兵士は数名しかいない!」

「やれやれッスね」

激しい乱戦になる。

バリスティックナイフについて、今更ながら分かってきた。アンドロイドはモノアイであるのが要因だろうか、撃ち出す寸前に隙が出来る。一瞬だが、多分量産品だからなのだろう。

全ての機体で、同じく。

少し左に体を傾げるのだ。ほんの数ミリだから、気付けないのも道理だ。ただし、気付いてしまえば。

壱野なら、対応できる。

走りながら射撃射撃射撃。接近してきた一体は、振り向きもせずライサンダーZで撃ち抜く。

走りながら、話をしておく。

一華が呆れる。

「そんなん、よく分かったッスね」

「分かれば此方のものだ。 其方で対策プログラムを組めるか」

「そうっスね、分析してやってみるッス」

「頼むぞ」

もしも対策プログラムが組めれば、自動砲座だけで相当数のアンドロイドを駆逐出来る可能性もあるし。

ニクスにプログラムをインストールすれば、アンドロイド部隊の先手を打ちつつ射撃出来るかも知れない。

電刃刀で敵を斬り裂き、暴れに暴れる弐分。

プラズマ剣で敵を切り伏せながら、敵陣の削り取りに終始する柿崎。

アンドロイドはムキになって二人を捕らえようとするが、それもままならない。

完全に癖を見抜いた壱野が、次から次に撃ち抜いていくからだ。

スクラップになるアンドロイド共を蹴散らしつつ、ついにシェルターの入口が見えてくる。

エイレンが進み、レーザーで敵の最後の残党を蹴散らす。レーザーを調節して、アンドロイドだけ殺すように丁寧に敵を排除していく。

ほどなくして、敵を全滅させる事に成功。

キャリバンを、全てまとめて呼んだ。

もうぐちゃぐちゃになっていたシェルターの入口を破って、内部にいた人々を救援する。

兵士達も、全員負傷。手足を失っているものも多かった。

「た、助かった……」

「EDFは仲間を見捨てない」

「そういうが、実際に見捨てる事はしょっちゅうだ。 俺たちは、皆を逃がすために残ったのに、救援に来てくれたのはあんた達だけだった」

「……」

そうだな。

それは、もうどうしようもないことだ。これだけ戦況が悪ければ。ましてや今まで兵士ではなかったものが大半ならば。

此処に、敵の増援が来る可能性は高い。

救援を急いで貰う。

既に命を落としている市民も多かった。それも、回収して貰う。表情を無にして、看護師達は動いていた。

「救助、完了しました」

「待って! 私の息子が左手しかないの! 体はどこに行ったの!」

「行きます」

「待って! きっと体はあるわ! だから、だから!」

本人も片腕を失っている市民が、凄まじい形相で泣き叫んでいる。

見送ることしか出来ない。

一度、合流。補給は済ませたが。AFVは傷だらけ。兵士達も、更に数を減らしている様子だ。

荒木軍曹が、壱野にほろ苦い声を掛けてくれた。

「バイザーを通して聞いていた。 僅かでも、救助してくれて礼を言う」

「いえ。 まだ生き残りがいる可能性はあります。 少しでも助けましょう」

「そうだな……」

スカウトに出ていたストーム4のウィングダイバーが戻ってくる。傷だらけになっていた。

それだけで、どういうことか分かる。

「敵です! 相当数です!」

「バイザーの情報を分析する。 数は三万以上。 どうやら、この地域に展開している敵本隊のようだな」

ジャンヌ大佐が、逃げるか、と聞いてくる。

全員、首を横に振る。

兵士達は既に死んだ目をしていた。

不意に、タイタンに乗っていた士官が発言する。

「俺が前に出る。 タイタンは鉄壁だ。 少しは皆を守れるはずだ」

「エイレンの防御力はタイタンとほぼ変わらない。 タイタンが前に出ても……」

「いや、出て貰おう。 頼むぞ。 期待している」

「任せてください」

タイタンに乗っているのはかなり年老いた少佐だ。恐らく、EDF設立前から軍人をしていた人物なのだろう。

敵が、迫ってくる。

擲弾兵の大部隊が前衛になり、此方を押し潰す構えだ。C80爆弾を先にありったけ撒いておく。

三城には上空に出て貰い、敵の動きを全てマークして貰い。

そして壱野は狙撃を開始。

大型擲弾兵の爆弾を撃ち抜き、先に片付ける。あれに接近されると、盾で防ぐどころではないのだから。

爆発が遠くで連鎖するが。その規模が尋常では無い。

それだけで、敵の群れの大きさが分かる。

他の地域でも、前線が瓦解寸前の中やっている。此処をどうにかしないと、もう後がないのだ。

何とかする。

そう自分に言い聞かせながら、最高効率で敵を葬り続ける。

自動砲座のある地点に敵が到達。火力の滝を浴びて、敵が爆発を続ける。だが、擲弾兵は左右後方に回り込もうと積極的に動く。これは恐らくだが、そういうAIが搭載されているのだろう。

弐分が前に出て、少しでも削ろうかと言うが、駄目だとそのまま待機させる。

此処は、足並みを揃えて反撃に出る。

見えてきた。

街を覆い尽くす勢いの擲弾兵。黄色い爆弾を持った、全てを破壊する悪魔の群れ。

存分に引きつけると。

一斉に射撃を開始する。

レクイエム砲が唸り、エイレンのレーザーとともに、敵をまとめて薙ぎ払い、爆発させる。

戦車隊も、弾薬を使い果たす勢いで攻撃を開始。

ケブラーも、それに習う。

兵士達も、アサルトやスナイパーライフルで射撃を開始。ようやくといわんばかりに飛び出す弐分。柿崎はまだ出番ではない。弐分は敵の前衛に散弾迫撃砲を浴びせると、上空に機動しつつ、敵を引きつける。

三城がプラズマグレートキャノンを叩き込み、相当数を削るが。

文字通り黄色い津波だ。

兵士達が必死にアサルトを叩き込む。自動砲座の火力の滝も。それでも、削りきれない。

ストーム3が前に出て、盾を構える。

だが、それを押しのけるようにして。

タイタンが前に出ていた。

「タイタンは動く要塞だ! 貴様らなど、踏みつぶしてやる!」

「待てっ! 前衛には出てくれ、だが突出はするな!」

「後はお願いします荒木将軍、いや荒木軍曹!」

「無茶だ、脱出を……」

凄まじい爆発に、声がかき消える。

擲弾兵が蹂躙され、爆発し。タイタンもその度に、爆発に晒されていく。脅威と認識したらしい擲弾兵が、攻撃を受けながらもタイタンに集っていく。助けろ。声が上がるが、どうにもならない。

大型も来る。爆発が連鎖する中、恐らくはレクイエム砲の火力を作り出している動力炉を自爆させたのだろう。

光が、全てを漂白していた。

擲弾兵が、根こそぎいなくなり、大穴が出来ている。

タイタンは、既にそこにいなかった。

盾を構えていたジャムカ大佐が呻く。

「……戦闘に備えろ。 後続のアンドロイド部隊が来る」

「畜生!」

「アンドロイドども、八つ裂きにしてやる!」

「一匹も残さずスクラップにしてやるぞ!」

兵士達が、全員噴き上がる。壱野は、歯を食いしばると。そのまま立射で狙撃を開始。凄まじい数の大型がいるが、それを順番に撃ち抜いていく。敵のアウトレンジからだ。

敵が接近して来る。ストーム3とストーム4が、我先に突貫。弐分と柿崎も。三城も、手をかざして見ていたが。

やがてレイピアを取りだした。

「大兄、私も行ってくる」

「冷静にな」

「わかった」

三城も割りと本気でキレている様子だ。壱野だって、これは正直な話、あまり冷静でいられる自信が無い。

だが、狙撃に徹する。

大型に接近を許せば全滅する。それだけは絶対に避けなければならない。

敵の数が数だ。

凄まじい物量で、迫ってくる大型。ほどなく、ブラスターの独特の発射音が聞こえはじめる。

だが、それも一つずつ黙らせる。

一体も残さない。

DE203も急降下攻撃を開始。大型を中心に、確実に敵をたたき伏せる。

前衛は凄まじい勢いで暴れ狂っている。アンドロイドが困惑するように、クルクルと周囲を見ていた。ストーム3とストーム4の強烈な攻撃と。弐分と三城、柿崎によるインファイトに対応できていない。

兵士達は、一斉にありったけの火力を叩き込んでいる。

戦車隊もケブラーも、自発的に単縦陣を組み。最大火力を出せる状況を作り。

エイレン二機も総力を挙げて攻撃を続ける。

アンドロイドの大軍が。

溶けて行く。

数時間にわたる激闘が終わった時。

その日は終わった。

ストーム3、戦死者三名。ストーム4、戦死者五名。このうち、ストーム4のシテイ大尉は重傷。他の隊員も、負傷していないものはいなかった。

砲兵隊が来る。

ボロボロの部隊を見て絶句したが。それでもやるべき事は理解しているのだろう。

敵の大軍に穿ったくさび。

いつまでも維持できているわけではない。

「迫撃砲、榴弾砲、カノン砲、全て発射! 巡航ミサイル、全て撃ち込め! アンドロイドどもを、一匹も逃すな!」

「ドローン接近!」

「砲兵隊は接近戦に対応できない! ドローンの相手は頼む!」

「任せろ」

壱野はそのまま立ち上がると、立射でタイプスリーを叩き落とす。近付いてくるまでに、三割は削ってやる。接近してからは、弐分は三城、一華。それにストーム2と連携して蹴散らす。

敵はそれからも、散発的に来るが。先ほどまでの規模の部隊はいない。全て叩き潰していく。

砲兵隊はため込んでいた砲弾やミサイルをありったけつぎ込み。敵に今までの仕返しとばかりに、砲火を叩き込む。

兵士全員が、修羅になったかのようだ。

アンドロイドの群れが来るのはどこの前線でも散発的になった事が無線から分かる。ただし、この様子では戦線の敵側に取り残されていた兵士や民間人は絶望的だろう。壱野は少なくとも近場はと思い、周辺を見て回る。

全てを救う事なんて出来ない。

せめて、手の届く範囲だけでも、救わなければならない。

見つける。瓦礫の奧、生存者。ジャムカ大佐が協力してくれる。酷い怪我をしているのに。瓦礫を押しのけて、潰れかけていた生存者を救出。奧に更にいる。素早く潜り込んで、引っ張り出す。後は看護師に任せる。助かるかは、分からない。そうやって、百人ほどは救出できた。たった百人だけ。もう中華が壊滅している今、此処に逃げ込んでいる人々は世界中の人種の坩堝となっていて。はるばる欧州から逃れてきていたものまでいた。勿論アンドロイドは、何も関係無く全てを蹂躙してきた。

夜になっても安全を確保した砲兵隊は攻撃を続行。

そして、翌日の朝が来た時には。

大勢は決していた。

連絡が来る。ポロス中将だった。

「ストームチーム、よくやってくれた。 敵アンドロイド部隊の壊滅を確認した。 君達が確保した地点から、砲兵隊で全てのインドにおける前線の敵部隊を集中的に攻撃し、瓦解させる事に成功した。 君達でなければ、なしえなかっただろう」

「味方の損害は」

「作戦に参加した戦力は……損耗五割を超えた。 全滅といっていい。 だが、敵の主力もまた、全滅させる事が出来た。 敵のアンドロイド部隊は、全世界に展開している部隊の数割を失った筈だ」

そうだな、そうかも知れない。

皆に休むよう、荒木軍曹が指示を出す。ストームチームの初陣は、苦い勝利となった。そしてこれは、勝利と言えるか微妙だった。

傷ついた兵士達と、基地に戻る。

基地はしんとしていた。生きて帰った兵士が殆どいないのだと、一目で分かる。

そして地下は騒然としていた。

負傷した民間人と、不眠で働いている医師で満員なのは、一目で分かった。

少なくとも、この民間人達だけは救えた。

インドの戦線は押し返せた。

それだけ。

だが、それだけでも。

この戦線から、更に東南アジアに北上したアンドロイドが。暴虐の限りを尽くすことだけは、防げた。本来の歴史を変えることが出来た。それもまた、事実だった。

 

2、続けざまの侵攻

 

ポロス中将から連絡が来た。一華は起きたばかりであまり頭がはっきりしていないのを感じる。

とりあえず、ブドウ糖の錠剤を口に入れ。

まずいなと思いながら、ブリーフィングに参加。話を聞くのだった。

なお、テレビ会議で話をするが。

前回の三割も、将官は参加していなかった。それだけ、前線での死闘が凄まじかったという事である。

作戦には十人近い少将が参加していたらしいが。先の戦闘を生き延びたのは、二人だけだった。

「皆の奮戦で、どうにかインドに展開していたアンドロイドの大軍に壊滅的なダメージを与えることが出来た。 プライマーは全世界で一度アンドロイドの進軍を停止した様子だ」

「それは、時間を稼げたと判断して良いのだろうか」

「いや、そうとも言い切れません」

戦略情報部の少佐が、ボイスオンリーだが参加している。

そして、皆に地図を提示してくる。

「アンドロイドの部隊は、各地で動きを止めたのは事実ですが、今まで展開していたアンドロイドの数を考えると、まだ敵には組織的に動かせるアンドロイドの部隊が多数存在しています。 今回の戦闘で、プライマーはテレポーションアンカーなどを用いてアンドロイドを各地の戦線から引き抜き投入したようですが、それでもまだ相当数がいると見て良いでしょう」

「何がいいたい」

「敵は態勢を整えようとしていると思われます。 恐らく、すぐに次の手を打ってくるでしょう」

「報告です!」

通信に、スカウトの部隊をまとめている大尉が入り込んでくる。

ポロス中将が、何が起きたか聞くと。

スカウト部隊の隊長は、青ざめながら言う。

「パキスタン方面から、怪物が侵入を開始! 飛行型を中心とした部隊で、α型もいます!」

「例のパキスタンに展開しているテイルアンカーからの出現か!」

「恐らくは」

「アフリカの戦線から、怪物を回してきているのかもしれません。 もしもそうならば、欧州の戦線が多少有利になるでしょう」

戦略情報部の少佐の、冷静な指摘。

一華も、その可能性は高そうだと思った。

さて、問題はどうするか、だ。

荒木軍曹が挙手。

昨日の戦闘の英雄の反応に、視線が集まる。うちのリーダーよりも、ストームチームの事実上のリーダーの行動だ。

二十万のアンドロイドを壊滅させ、砲兵隊をその後の攻撃から守りきった勝利の立役者。誰も無碍には出来ない。

「我々で、その敵拠点を粉砕する。 問題は、各地で大きな被害を受けた部隊で、怪物を食い止められるか、だが」

「とても不可能だ。 此方の部隊は全滅判定を受け、もはや部隊として機能していない」

青ざめたのは、侵攻路に展開していた部隊の指揮官である。

生き延びた少将の一人だ。

そうか、ではまずは其処からだ。

「分かった、それならばストームチームでまずはその怪物を駆逐する。 弾薬などの物資の補給は頼む」

「了解だ。 あってももう使うものがいないからな」

勿論、昨日の戦闘でストームチームと肩を並べて戦った部隊は解散。インド各地に再配置か、或いは米国に戻ることになるだろう。

エイレン二機と、ストームチームの残存戦力でやるしかない。

ストーム3とストーム4は、戦死者も少なからず出して負傷者だらけ。ジャムカ大佐とジャンヌ大佐、その他数名しか動けない。

事実上、戦力半減でやるしかない。

ブリーフィングの時間すら惜しい。

すぐに現地へと出立する。

インドは元々、ユーラシアといわゆる大陸移動で融合する前は、亜大陸と呼ばれる巨大な島だった。丁度オーストラリアのような雰囲気であろうか。

非常に広い土地だ。ヘリに乗り込んでも、現地までは時間が掛かる。

ウィスキーを傾けているジャムカ大佐。

ジャンヌ大佐は呆れながらも。

妙だなとぼやく。

「どうしてかは分からないが、昨日の戦いから馴染んでいるように思えてならん」

「そういえば俺もだ。 俺たちは犬猿の仲だと思っていたのだがな」

「それどころでは無いから……と言いたいところだが。 いずれにしても、昨日の戦いで懸念はしていたのだが。 その心配は、もうしなくても良さそうだな……なぜだか知らないが、ストーム1を生かさなければならないと感じる」

ジャンヌ大佐がぼやくと。

俺もだと、ジャムカ大佐がウィスキーを飲み干した。

この様子からして、相当に痛みが酷いのだろう。

昨日の戦闘で、二人とも無傷とはいかなかった。荒木軍曹ですら負傷をおして出て来ているのだ。一華は無言で、補給車の中身などをチェック。

疲れが抜けきれていない様子の柿崎は。タオルを顔に掛けて横になっていた。

三城も、隅っこの方でクラゲのドローンを抱いて縮こまっている。

それについても、ああだこうだ二人はいわない。

「怪物の大軍が相手か。 悪くは無い獲物だ」

「皆で山分けだぞ」

「ああ、そうだな」

「そろそろ現地に到着する」

ヘリが高度を下げ始める。

海岸線は見えていない。つまり、それだけ怪物に進まれているという事だ。

DE203からの通信が入る。

「此方DE203。 飛行型の群れに絡まれると撃墜は免れない。 空中戦力の撃破を優先してほしい」

「了解ッス。 しばらくは待機していてくれるッスか?」

「分かった、任せろ」

エイレンで降りる。

エイレンの装甲は、昨日の激戦でかなりダメージを受け、復旧しきっていない。長野一等兵は、降りる直前まで。一華機と相馬機両方のチェックをしてくれていた。そのままだと倒れてしまう。

リーダーが休んでくれと言ったが、首を横に振られる。

まだ、仕事があるという事なのだろう。

平原に展開。

インドでは、部隊の再編制を行っている様子だ。殆どの部隊は、世界中に散る様子である。

EDFは今回の戦闘で、主力部隊を失ったに等しい。

それも世界中からかき集めた部隊をだ。

アンドロイドが壊滅した今、もう此処に主力をおいておけないのだろう。

兵士達は飛行機で各地に戻りつつも。

戻ったら戻ったで。其処でまたあり得ない物量と戦闘することになる訳だ。酷い話である。

昨日、擲弾兵の大軍を引き受けて業火に消えたタイタンの事を思い出す。

あのタイタンに乗っていた士官は、立派な人だった。擲弾兵を防ぎきれないと判断して、皆を生かすために散ったのだ。

そして、立派な人。責任感のある人から殺されていく。

目の前で見ていると、それが分かって、非常につらい。

「敵接近。 備えてくれ」

リーダーが言う。皆が、即座に展開。ストーム3、ストーム4、どちらも三名程度しかいない。

まず飛来するのは飛行型だ。

ただ飛行型は、全力で飛んでおらず、地上を進んでいるα型と歩調を合わせているようである。

リーダーが、荒木軍曹に頷く。

荒木軍曹も、許可を出す。

リーダーが立射。飛行型を狙撃して撃ち抜いていた。飛行型が、一斉に戦闘態勢に入る。

その下にいるα型もだが、これで敵が此方に来るまでに時間差が出来る。その時間差を利用して、各個撃破するしかない。

「まずは飛行型からだ! 叩き落とせ!」

「エイレン相馬機、攻撃開始!」

「エイレン一華機、行くッスよ!」

「各自マグブラスター用意! 接近され次第、ドラグーンスピアに切り替えろ!」

隣で、弐分が大量の誘導ミサイルをぶっ放す。三城も、誘導兵器で飛行型を集中的に狙う。

数は、昨日のいかれたアンドロイドの群れに比べると、全然だ。これは恐らく、時間稼ぎに出された部隊だと見て良い。

接近してきた飛行型に対して、すぐにストーム3が前に出る。囮を買って出てくれる訳だ。

勿論負傷者に、囮をずっとさせる訳にはいかない。

エイレンで前に出て、ある程度攻撃を引き受けながら、飛行型を叩き落とす。

その間。柿崎には自動砲座を展開して貰う。

柿崎はかなり要領よく動いて、自動砲座を展開。

程なくして展開が終わった自動砲座が、対空攻撃を開始。ばたばたと飛行型が叩き落とされていく。

間もなく、α型とも接敵。

遠くに見えたのは、あれはコスモノーツか。だが、近付いてこずに、さがっていった。恐らくパキスタンにあるテイルアンカーの拠点を守るための行動だろう。そうなると、コスモノーツが守りについていると見て良い。

コロニストも相応の数がいるかも知れない。厄介な話だ。

ほどなく、飛行型の駆除完了。

赤いα型を先頭に、α型が突撃してくる。水平射撃に移行。柿崎が、待ってましたとばかりに突貫。

α型の首を、次々に刎ねる。どんどん動きが速く、正確になっているようだ。

「俺たちも負けるな!」

「おうっ!」

「我々もだ! 変わったウィングダイバーの戦術だが、それに引きずられず基本に忠実に動け!」

ジャムカ大佐もジャンヌ大佐も、冷静に対応。

磨き抜いてきた自身の技に、自信があるのだろう。

赤いα型の盾が崩れた頃には、DE203にも攻撃を要請。

そのまま、敵陣を激しく抉って貰う。

今回は制圧破砕砲という、一種の大型散弾を持ってきて貰っている。それによって、片っ端から敵をたたいて貰う。しかもこれは連射が効く凶悪な代物だ。下手な爆撃よりも火力が出せる。

α型を蹴散らし、戦闘終了。

先行しているスカウトに状況を聞く荒木軍曹。

「此方ストームチーム。 パキスタンの敵拠点の状況は」

「此方スカウト。 現在テイルアンカーと呼ばれる新型アンカーが三機。 更に上空に敵新型船がいます! 護衛にコスモノーツとコロニスト、合計二十ほどがいて、コロニストには鎧を着た者もいるようです!」

「厄介な連中が守りについているようだな」

「何、我々の敵ではないさ」

スカウトの言葉に対しての楽観的な返答。

勿論、あくまで士気を挙げるための言葉。敵を侮っているわけではないだろう。

一華としては、試してみたい事がある。

「リーダー、ちょっといいッスか」

「聞かせてくれ」

「以前、大型船からテイルアンカーが切り離されて、地面に落ちるまでシールドが展開しなかったッスよね」

「そうだったな」

ならば、試してみる価値はある。

作戦を提案。

驚いたようにストーム3もストーム4も応じていたが。

やってみようという気になったらしい。

「まずは、飛行型のテイルアンカーを何が何でも潰してほしいッス。 ただ、恐らく敵はアンドロイドも戦場に投入してくるッスよ」

「擲弾兵が来ると厄介だな……」

「俺たちが引きつける」

ジャムカ大佐が、買って出てくれる。

そうか、有り難い話だが。恐らくは、大型の擲弾兵も出てくるだろう。

いずれにしても、厳しい戦いになる筈だ。

ヘリが来る。

移動開始だ。

海岸線がやっと見えてくる。そして、パキスタンに入った。

既にプライマーに更地にされている。この辺りは国際政府が発足した後もきな臭い話が色々あった場所だが。

ゲリラもテロリストも根こそぎ殺されてしまい。今はすっかり平らである。

それが良いことなのか悪い事なのかは、一華には分からない。

スカウトが手を振っている。

ヘリが着地。敵は、さっきコスモノーツが見に来ていた。此方の襲撃に備えていると見て良いだろう。

「よく来てくれました。 ほぼ無傷であの数の怪物を倒すとは、噂通りの実力のようですね」

「ありがとう。 それで状況は」

「先に報告したのと変わっていませんが、敵は油断なく周囲を固めています。 飛行型が周囲を飛び回っていて、迂闊に近付くとすぐに発見されるかと思います」

「好都合ッスね」

えっとスカウトの士官が顔に書いたが。

リーダーもそれに対して、頷いていた。

すぐに海岸を見下ろせる丘に出る。壮観だ。エイリアンが巡回している。やはり特務といっても、コロニストはコスモノーツの指揮下にある様子だ。鎧コロニストも、コスモノーツの麾下に入って動いている。

日本で投入しようとした二百体近いコスモノーツがいきなり葬られた事もある。

敵も、コスモノーツの投入には慎重になっているのだろう。

不意に、無線が入ってきた。

兵士達の噂話が、無線に紛れたのだろう。

「聞いたか。 先進科学研の主任が、脱走したらしいぞ。 なんだか頭がおかしくなったとか」

「学者先生でもおかしくなるのが今の戦況だ。 むしろ、その方が楽かも知れないな」

「エイレンやバリアスを開発して、兵器もそれぞれ強化してくれていた主任だろ。 いなくなって大丈夫かよ」

「もう末期戦だ。 噂によると、ブラッカー以前の戦車まで引っ張り出して使おうって話が出て来ているらしい。 もう、ラボがなくなろうが、関係無いさ」

そういう認識か。

それでも、不思議では無い。

確かにその言葉通りではある。

もうラボが新兵器を開発しようが、戦況は変わらないと判断して良いだろう。一華はもう、この戦いで勝つことは諦めている。

負けないことだけを、考えていた。

一旦丘から降りて後退すると。リーダーが飛行型を狙撃して、叩き落とす。

一斉に飛行型が来るが。既に自動砲座の陣列がずらりと準備されている状況だ。圧倒的な火力が、飛行型を叩き伏せる。

更に、続いて攻めこんできたエイリアンの部隊は、リーダーが狙撃し。荒木軍曹のブレイザーが焼き。三城のプラズマグレートキャノンが吹き飛ばし。生き残りを柿崎と弐分が切り伏せていく。

突貫。

荒木軍曹が声を掛け、エイレンを先頭に前に出る。

敵の大型船は情報通りにいる。

先に、DE203に指示をしておいて。前線に一気に突入。リーダーもバイクで、かなり敵陣深く斬り込んでいた。

エイリアンの残存部隊が出てくるが、同じく突貫したストーム3が、四方八方からなぶり殺しにしてしまう。ストーム4も、マグブラスターで動きを止め、ナイスアシスト。

遅れて突入してきた荒木班が、テイルアンカーの至近に潜り込むと、一つを撃破。飛行型を転送していた奴だ。

更にもう一つをリーダーが。更に一つを一華のエイレンが撃破する。

α型を出してくるテイルアンカーは無視。後回しだ。

そして、大型船が動き出す。

あの、空に傘を向ける動き。

テイルアンカーを射出する動きだ。

すぐにDE203に指示。あの人なら、指定通りに完璧にやってくれるだろう。

「テイルアンカーが来る!」

「恐らくアンドロイドも来る筈だ! 近場のアンカーを全て破壊しろ! 一緒にアンドロイドを吐き出し始める可能性がある!」

「了解っ!」

即座に弐分が動き、一つを電刃刀で粉砕。傘の内側に入ってしまえば、テイルアンカーだろうが関係無い。

柿崎も至近でパワースピアをぶっ放し、テイルアンカーの粉砕に成功。

ひゅうと口笛を吹きつつ、残敵を相当するストーム3。ストーム4は一旦着地すると、エネルギーチャージを開始している。

敵大型船が、テイルアンカーを射出。

その瞬間。

DE203が上空から敵大型船に襲いかかり。完璧にテイルアンカーの結晶部分。傘にまだ覆われていない、怪物を出現させる部分を攻撃していた。

だが、撃破は出来ない。

同時にリーダーが横から狙撃した分。更に三城が放ったライジンの熱線は、それぞれ通っていた。

なるほどな。少し分かった気がする。

地面に突き刺さるテイルアンカー。二本を撃破したが。一本は破壊出来なかったのだ。

案の定、大量の擲弾兵がテイルアンカーから湧き出してくる。大型もいる。即座にストーム3が前に出る。

荒木軍曹がブレイザーで遠距離から次々奴らを爆破。エイレンも前に出て、それを支援する。

擲弾兵は悪路走破性も高く、丘だろうが平然と上がって越えて来る。一方で、建物を登るのは苦手なようだ。

通常種のアンドロイドは手がついていて、これが塞がっていない。まあバリスティックナイフになっているが。

それでも器用に使って、建物を登ってくる。

擲弾兵は建物に登っても、建物ごと爆破に来るから、あまり意味がないのではあるが。

或いは、何かしらの戦術に利用できるかも知れない。

ただ、それは敵も同じ事を考えてもおかしくない。

とにかく、今は擲弾兵の排除が先だ。

「大型だ!」

「俺が対処する」

リーダーが、即座に射撃。大型の持つ超大型爆弾を撃ち抜く。一撃では粉砕できないが、二発目が確実に相手を貫き、強烈な爆発が起きる。

少数残った擲弾兵を、ストーム3が貫き、盾で爆破し、防ぎ切ってくれる。第二波が来る前に、テイルアンカーを潰さなければならない。

もう一匹いる大型擲弾兵をリーダーが潰すと、三城がすっ飛んでいく。

まだ怪物が周囲にそれなりにいるので、それらを撃退しつつ、最優先で擲弾兵を潰して行く。

奴らの火力は侮れない。

確かに比較的簡単に始末できるが、爆発の火力が洒落にならないのだ。近付かせなければ処理は難しく無い。

逆に言うと、近付かれたら怪物より始末が悪いのである。

エイレンのレーザーがそろそろ限界だが、何とかなるか。

機動力を駆使して、後方に回り込んでいたα型を、レーザーで焼き払う。既に周囲は掃討戦に入る中。

最後のテイルアンカーが、三城に破壊されて。消し飛んでいた。

敵大型船が戦場を離れていく。

インドには充分なダメージを与え。EDFの主力部隊を半身不随に追いやった。それで充分と判断したのだろう。

敵は戦術家気取りだった前の阿呆と違って、引き際をわきまえている。

手強い指揮官だ。

「一華中佐。 聞かせてくれ」

「はい、何ッスか」

荒木軍曹が無線を入れてくる。

先に、話をしておいた方が良いだろう。ストームチームの無線に、情報を共有する。

「DE203による攻撃は何だったんだ?」

「ああ、アレは敵の大型船撃破のための調査ッス。 テイルアンカーは、敵大型船が切り離して、地上に落ちるまでは無防備だって事は知っていたかと思うッスけど。 もしも、敵大型船が切り離した瞬間に無防備になるなら、或いは敵大型船をテイルアンカーごと始末できるかと思ったッスよ」

「なるほどな。 それで、駄目そうか」

「恐らくは、敵大型船そのものが何かしらの手段で攻撃を防いでいるッスね。 今回は105ミリ砲を叩き込んで貰ったッスけど、映像を見る限り一発も有効打になってないッス」

頷く荒木軍曹。

現時点では、空軍も敵大型船の撃墜には成功していない。

テレポーションシップと違い、隙がまるでないのだ。

しかしながら、今回は成果があった。

「映像は取れたので、これを後で分析してみるッス。 ひょっとすると、敵大型船に対する対抗策が見つかるかも知れないッスから」

「戦略情報部にも回してくれ。 先進科学研は……残念だが、もう機能していないだろうな」

「了解ッス」

流石に、荒木軍曹にもまだ先進科学研の主任の逃走を幇助したのは自分だとは言えない。

一華も、一応戦略情報部に、攻撃のデータは送っておいた。

基地に帰投する。

ストーム3、ストーム4のうち、それぞれ負傷者の二名が戦線に復帰。

だが、それは文字通り焼け石に水と言える戦力の補充である。何しろ、それぞれ一名ずつが、医師に限界だと言われて、負傷療養に入ったのだから。

インドは、ともかく大規模な敵の軍勢からは解放された。

だが、その夜。報道が入る。

「EDFの技術力を担う部署、先進科学研の中央ラボが爆破されたという情報がEDFより入っています。 プライマーが投入してきたアンドロイド部隊の擲弾兵によるものだということが分かっています」

そうか、プロフェッサーの想像通りになったか。

全て記憶しているプロフェッサーは逃げ延びた。技術者も、出来るだけ逃げるようにプロフェッサーが声を掛けていたはずだ。

逃げ延びたと信じたい。

「現在、全世界中でプライマーのアンドロイド部隊が闊歩し、戦況は一気に敵有利に傾いています。 アンドロイドは対人探知能力が高いため、隠れても効果は殆どないということです。 警報が入った場合は、出来るだけ急いでEDFの指定する避難所に逃げ込むようにしてください」

そんなもん。

逃げ込んだところで無駄だろうよ。

一華は毒づく。

そして、休むように言われたので。休む事にする。

移動中に時間はある。その間に、情報を分析していくしかないだろう。

戦略情報部は、もう既に成田軍曹の様子からしても、機能していない可能性が高い。情報を送ったところで、役立てるとは思えなかった。

 

3、業火の下に

 

次は欧州かと思ったのだが。北米にストームチームは向かう事になった。

チームを分割して別々にと思ったのだが。どうやらそうもいかなくなったらしい。南米から北上してきたアンドロイド部隊が、インドでの主力決戦で消耗した北米EDF守備隊に襲いかかった様子だ。

インドの部隊ほどの規模は無いが、それでも凄まじい数である。

各地でEDFの部隊は蹂躙され。戦線が押し込まれる一方だという報告が入っていた。

欧州も戦況は著しく良くないようだが。限界が来て倒れてしまったバルカ中将に代わって、ジョン中将が欧州本土に赴任。

ルイ大佐率いる前線部隊と協力して、必死の防戦を続けているらしい。

中華は項少将がまだまだ粘っているようだし。

日本では、東京基地を中心にして。散発的な敵の攻勢をどうにか凌いでいる様子だった。

まだ、EDFは死闘を繰り広げている。

記憶している歴史は曖昧だが。

それでも、三城が知っている歴史よりも、ずっと状況はいい。これだけ末期的でも、である。

ただ、各地の対空戦闘能力が失われつつあるのも確か。

このまま行くと、恐らく敵はマザーシップによる絨毯爆撃により、歴史通りにとどめを刺しに来る。

それだけはさせない。

させないためには。敵の主力に、相応のダメージを与えなければならない。

大兄もそう言っていたし。

一華も意見は同じ様子だった。

輸送機から降りる。

エイレンの傷は増える一方。基幹基地にすら、換えのパーツがなくなりつつある。

バッテリーは何とかなっているが。

それもいつまで続くか、分からない状況だった。

総司令部が現在活動している地点の地上部分。つまり既に総司令部は地下に移動しているのだが。

其処で、敵を迎え撃ってほしいと言われる。

敵の主力部隊が向かっているという。

凄まじい数の擲弾兵が展開しており。一筋縄ではいかないということだ。

何とか周囲には部隊の残骸が展開している。

ボロボロのタンク4両と、動いているのが不思議なニクス一機。それに、補給車と歩兵戦闘車。ケブラー三両が、頼もしく見える程だ。歩兵は三十名ほど。皆、ボロボロで、立っているのがやっとという状況だ。

そして周囲は見渡す限りの平野。

ここで守りきるのは、不可能に近いだろう。

荒木軍曹が、無線を入れる。

「此方ストーム2、荒木。 この地点での戦闘はあまりにも無謀だ。 作戦の変更を要求する」

「てかなんだこの戦力。 敗残兵じゃねえか」

「恐らく、もう北米全土がこんなありさまなんだ」

「そうだろうな」

小田少佐が悪態をつくが。それに浅利少佐がフォローを入れる。相馬少佐も色々思うところはあるようだが。

意見はあまり違わないようだった。

それに対して、不意にとんでもない人物から無線が入る。

「此方、リー元帥」

「リー元帥! ……このような作戦は無謀です。 戦略情報部の差し金ですか」

「ストームチーム、君達のインドでの戦いを聞き、この作戦を立てた。 作戦を立てたのは私だ」

「どういう……」

リー元帥は、静かに言う。

既に総司令部には、リー元帥だけが残っているという。

それで、三城は何となく悟った。

何を、リー元帥が狙っているのかを。

「おやめください!」

「敵は既にこの場所を知っている。 だから、大軍を此処に向かわせている。 君達は、適当に敵をあしらいつつ、機を見て後退してほしい。 他の部隊には任せることが出来ない作戦だ」

そうか。

このボロボロの部隊。恐らくだが、総司令部直下の部隊の生き残りだ。K6作戦だかなんだかで、メイルチームとか言う鼻につくエリート思想の部隊と一緒に戦ったが。そういう連中の残党なのだろう。

「どの道、もう逃げる事は不可能だ。 敵は地下にも怪物を送り込んできていて、急いで逃げ延びた部隊以外は皆殺しにされた。 この地点も、それほど長くはもたないだろう」

「……っ」

「頼むぞ。 バヤズィト上級大将が、以降の総司令部の任務を引き継ぐ。 現在の方舟である潜水母艦は一隻だけでも残った。 それに存分の価値がある。 そして君達も生き延びてくれ。 人類のために」

無線が切れる。

荒木軍曹はぶるぶるとふるえていたが。

やがてバイザーを外して、大きな嘆息をしていた。

それはそうだろう。

これほど責任感の強い人だ。こんな作戦を聞いて、冷静でいられる筈が無い。

そういえば、記憶は曖昧だけれども思い出す。

前の周回でも。

もはや手に負えなくなった敵移動基地を巻き込んで、総司令官は。

あまりにも常識外の敵相手にも、最善手を尽くせる総司令官。無能な人では、ないということなのだろう。

敵が見え始めた。

恐ろしい数だ。大兄が、指示を出す。

「三城、上空から攻撃してくれ。 誘導兵器で頼む」

「わかった」

ボロボロの部隊は、既に全て知っているようだ。荒木軍曹はバイザーをつけ直すと。戦闘開始を指示。

火線の滝を、擲弾兵の群れに叩き付ける。

爆発が連鎖するが、爆破しても爆破しても敵は減らない。全方位から来る。ストームチームの戦力を結集して、退け続けるが。どうしてもこんな数は無理だ。

後退。

悔しそうに。

血がにじむような声で、荒木軍曹が言う。

下がりはじめる味方部隊。

柿崎が、そんな中。大兄の指示で突貫。擲弾兵が飛びつこうとするが。アメフトのトッププロ選手も驚きの動きで全て回避しつつ、敵の群れを突き抜けていく。

爆発が連鎖していく。

柿崎を捕らえ損ねた擲弾兵が爆発し、それに他の擲弾兵が巻き込まれていっているのだ。

更に射撃を続けて。敵を爆破する。だが、地下からも怪物が迫っていると聞く。あまりもたついてはいられない。

本格的に下がりはじめる。

柿崎も途中で合流してくる。

タンクが、残ると言い出したが。止めろと荒木軍曹が一喝。

ブレイザーで、一気に十数体の擲弾兵を薙ぎ払う。小田大尉は、ロケットランチャーで、敵を無心に爆破し続けている。

普段だったら悪態をつくだろうに。

今はその余裕さえないということだ。

爆発が連鎖する中、ついに総司令部の上部が敵に占領される。途中から敵はストームチームよりも、総司令部の上部に集まり始める。擲弾兵が、まとめて爆発する。凄まじい破壊力だ。

総司令部を生き埋めにするつもりなのだろう。

更に更に擲弾兵が来る。どれだけ爆破しても、歩みを止めることは無い。ゾンビ映画のゾンビの方が、まだ人間味があるように見える。それくらい、全く死を気にせず、自爆するためだけに歩いて来る生体ミサイルはおぞましい。

タンクが弾を撃ちきった。補給するように荒木軍曹が指示するが、兵士達の動きは鈍い。誰かが、死なせてくれと言う。

泣き声が混じっていた。

だが、荒木軍曹は許可しない。

大兄とともに、ひたすら擲弾兵を削る事に終始する。三城も、誘導兵器で擲弾兵を撃破し続ける。

荒木軍曹が。指示を出す。

「もう少しさがれ」

「わ、我々は総司令部直下の……!」

「だからだ! お前達が生き残り、この戦いを……リー元帥がやった事を見届けて言い伝えろ!」

ジャムカ大佐が吠える。

今回はグリムリーパーには珍しくガリア砲で出て来ているが。ガリア砲でも充分に戦えている。

やはり、歴戦の猛者。

専門でなくても、やれるということだ。

爆発が、更に激しくなる。地盤が崩落する。

そう思った瞬間。

総司令部があった地下が。

凄まじい爆発に包まれていた。

激しく地面が揺動する。

間違いない。

総司令部が、自爆したのだ。温存していた核兵器か何かを用いて。荒木軍曹がさがれといっていなければ、皆巻き込まれていただろう。

現に、更に爆破して地下へ進もうとしていた擲弾兵は、全て今ので消し飛んでいた。

ほどなく、何も無い巨大な穴が残った。敵部隊は、周囲には既に確認できない。帰投する。そう、荒木軍曹が言う。

皆で、先に敬礼する。

こうして、今回の戦いでも。

三城が記憶しているよりもだいぶ遅かったけれども。

EDF総司令部は。全滅した。

 

それから、一月は、北米で転戦した。

どうやら現時点でのアンドロイドの主力部隊は南米から北米へと北上しているらしく。兵力の供給源は南米にあるテイルアンカーの複数生えた拠点であるらしい。

だが、似たような拠点は無人機が複数確認しており。

どうやらプライマーは、これらの拠点を利用して、アンドロイドの移動をし。効率よく人間を殺し尽くしているようだった。

既に人間が殺され尽くした地点には、怪物が巣くい、地上に卵を産み始めているという。

これらの場所は敵ドローンが制空権を奪い、航空機での攻撃は出来ない状態になっているということだ。

更には鉱山などの資源がある地点をプライマーは集中的に狙ってきており。

明らかに、如何に人類を破滅させるか。研究し尽くした上で動いている。

その巧みな戦術は。

敵ながら見事で。何度も重要拠点を奪還する戦いをして行くうちに、ストームチームも消耗し尽くしていった。

ニューヨークから、近くの基幹基地に移動。

ブルックリンには、ジョエル軍曹がいた。軽く情報を聞き、跋扈していた怪物を駆逐した。

この人物には前にもあった気がする。

恐らく、戦闘適正が高い人物なのだろう。

だが、ニューヨークは既に灰燼に帰している。

現在もゲリラとは名ばかりの、怪物には通用しそうもない武器を手にした市民が。身を寄せ合って、なんとか生きているだけ。

北米への攻撃は、記憶よりも激しい気がする。

いや、違う。

記憶では、もっと世界を満遍なく蹂躙されていた。各地で主力部隊に大ダメージを受けたプライマーは。戦力と資源の供給源である北米を最初に徹底的に叩く事にしたのだろう。戦略としては間違っていない。

20世紀の末だったか。

三城が聞いたところによると。EDFが設立される直前くらいには、「世界の全軍隊と米軍が戦ったら米軍が圧勝する」と言われるくらいの、とんでもない国家だったとかいう話である。

ローマやマケドニア、ペルシア、唐帝国やトルコにモンゴルなど、過去に存在したどんな巨大国家をも凌ぐ史上最強の国家。

それが米国だったというわけだ。

それならば、プライマーも優先して蹂躙に掛かるのも、理にかなっている。

戦略を敵は理解している。

前の指揮官とは違うと言う事である。

基地で、無言で解散する。

バヤズィト上級大将は、少し前のミーティングで、既に対処療法しか出来なくなっていると発言していた。それもそうだろう。

各地では前線を維持するので精一杯。

敵はかなりの打撃を受けているものの、怪物を人間に本格的にけしかけるだけで、最終的には勝ちがほぼ確定している。

既に人類は開戦前の八割以上を失い。

生き延びた市民も、殆どが身を寄せ合って配給を受けながら生きている状態だ。

それでも、各地でストームチームが活躍して、敵の大規模攻勢や拠点を粉砕し。

それで何とか戦いが続いている。

しかし、すり切れ始めているものが出て来ているのも事実。

こんな戦況だ。

三城も、当然だと思う。

風呂に入って。ぼんやりと横になっていると。大兄から無線が入った。作戦かなと思ったが、違った。

「プロフェッサーが捕まった」

「!」

「セーフハウスを渡り歩いていたようだが、その途中で怪物に襲われた。 プロフェッサーの家族は全員死亡。 プロフェッサーだけが生きて捕まったそうだ。 今、東京基地に護送され、やがて懲罰でどこかの前線に送られると言う話だ」

「……」

そうか。

なら、大兄の権限で。いずれベース251に回してもらうしかないだろう。

それまで生き残らなければ、だが。

それすらも、厳しい気がする。

一華が、無線の向こうでため息をついていた。

「できる限り安全な場所を選んだッスけどねえ。 それでも駄目だったッスか……」

「仕方が無い。 俺の記憶している歴史とも、今の状態はかなりかけ離れている。 良い方向に変わっている部分も多いが、悪い方向に変わっている部分もある。 プロフェッサーは……運が悪かったと言う事だ」

「荒木軍曹には、打ち明けないんスか」

「まだ時期じゃない」

そうだろうか。

三城は、初めて大兄の言葉に疑念を持った。

半身を起こして、それで気づく。

あれ。こんな風に反発したのって、初めてではないのだろうか。

確かに村上家は三城の全てだったけれども。なんだか、今は色々な人間を見て来たからか。

ジャムカ大佐もジャンヌ大佐も。荒木軍曹とストーム2の三人も。みんな大事に思えてきている。

だからだろうか。大兄の、閉鎖的な態度には、少しだけ不満が湧いた。

「大兄、荒木軍曹は信用できる」

「それは分かっている。 だが、今全てを明かしても意味がない」

「皆で考えた方が良いかも知れない」

「三城、お前がそんなに食い下がるのは珍しいな」

今まで黙っていた小兄にそう言われて、分かっていると心中で呟く。

それでも、なんというか。

プロフェッサーとストーム1だけでは、どうにもならないと思うのだ。

「例の弾はもう生産されたッスよ。 次に東京基地に戻るときに、受け取りは出来るようになっているッス」

「ああ、有難う。 とにかく、敵がどれくらい自由に時間に干渉できるのか、それを確認するだけでだいぶ違うからな」

「そうッスね……」

「三城、少し休んでおけ。 俺も、荒木軍曹を信用していないわけではない。 もう少し、考えてから動く」

そう言われると、三城もあまり食い下がれない。

それに、大兄に対する信頼は大きい。

だから、これ以上は何も言えなかった。

翌日はメキシコの国境付近まで出向く。この辺りはもう白骨化した死体か、もう踏んづけてみないと死体か分からないような悲惨な残骸。それに破壊されたAFVばかりで、生存者の影もない。

無人機が見つけた。アンドロイドと怪物の混成部隊を撃破してほしいと言う事で出向いたのだ。

かなりの数が迫ってきているのが分かるが。

それでも、はっきりいってこのチームの敵ではない。ただし万全であったらだが。

エイレンのバッテリーの残量がかなり怪しくなってきている。軍基地での優先的な補給が、中々厳しくなってきているのだ。

軍基地の動力炉は、医療設備などともつながっている。それを優先的に使うと言うのは、あまり好ましい事では無い。

他の装備品もそうだ。

ストームチームに支給されている装備は特注品が多い。

プロフェッサーが失脚し。

先進科学研が潰され。

EDFの装備が進歩しなくなった今。装備のグレードを落とす事さえ、考えなければならなくなっている。

更にもう北米のEDFが再建不能寸前まで行っている現状。

支援すら望めない。

それでも、戦う。

エイレンが二機とも前に出る。壁になって貰う。自動砲座を展開し、手数を増やす。敵は、ただ此方を消耗させるためだけに仕掛けて来ている。それは分かっているが、どうにも出来ない。

「行くぞ。 奴らを地獄に送る!」

「おおっ!」

ストーム3が前線に仕掛ける。怪我人が復帰したりまた軍病院に行ったり。何より戦死者が出ると補充が効かない。

ストーム4も同じく。上空からマグブラスターで弾幕を張るが、それでも相手は怪物やアンドロイドだ。毎回人員が損耗する。

三城は上空から誘導兵器で弾幕を張り、更に時々プラズマグレートキャノンで敵の密集地を爆破。

大兄の指示で戻って、ライジンに切り替え。狙撃戦闘に移ることもある。

怪物の群れを駆逐していくが、みんな動きが鈍ってきている。特にストーム3とストーム4は、ストーム隊結成時に素人隊員が混じっていたこともある。彼らは次々と脱落していき、もう傷ついたベテランしかいない。

怪物とアンドロイドの混成部隊は、容赦なく押し込んでくる。このうち怪物は放置しておけば際限なく増える。

しかし、もはや駆除任務すら、まともに行えない。

地下でも地上でも怪物は繁殖している様子で。それらを考えると、人類の勝ちはもはや見えない状態だった。

飛行型の巨大な巣が発見されていないことだけが、救いだろうか。

何とか、敵を退ける。大兄が、点呼。ストーム4から、また一人戦死者が出ていた。ベテランの隊員だった。だが、物量を相手にしている際に、地上に降りた瞬間を狩られたのである。

ウィングダイバーは、ヘリと歩兵の中間として作られた兵種だ。どうしても地上に降りなければならない。

その瞬間を、どうしても狙われる。

ましてやフライトユニットのエネルギー管理は、乱戦になればどうしても感覚だけでは出来なくなる。

ジャンヌ大佐くらいの使い手になってくれば話は別だが。

それでも、どうしてもサポートが必要な瞬間も出てくる。

ストーム3も被害を出していた。

ジャムカ大佐が。かなり被弾していた。最前衛で、味方を支援しながら暴れたからである。

流石に荒木軍曹がキャリバンを呼ぶ。

キャリバンが来るまで、随分時間が掛かったが。それでも、これは一時入院して貰うしかない。

だが、ジャムカ大佐は、応急処置だけで良いと言い切った。

入院している暇など、ないと。

北米のEDFがほぼ戦闘不能にまで追い込まれている今。

ストームチームが各地で敵のまとまった部隊を撃滅して、ようやく市民が生きる場所が出来ているのだ。

他の地域も戦況は著しく悪い。

援軍など、出す余裕などありはしない。

ジャンヌ大佐も、致命傷こそ受けていないが、連日生傷が増えている。

もう、限界が近いかも知れない。

こんな時でもしぶとく生き延びているカスター中将から、連絡が入る。

相変わらずだ此奴は。

「ストームチーム。 次の作戦を実施してほしい」

「消耗が激しい。 支援のために戦力を出して欲しい」

「今、各基地は戦力の補給のために全力で工場を動かしている状態だ。 支援できる部隊はいない」

「補給もろくにせず、援軍もなしで戦えってか。 中将ってのはご気楽なご身分だな」

吐き捨てる小田少佐。

聞こえたかも知れないが。それでも、相手は少なくとも無視した。

荒木軍曹は、せめて補給がなければ無理だと言い切り。

しばらく、カスター中将と押し問答が続いたが。

たまりかねたのだろう。

それに、今回の戦闘で、恐らくもう死を覚悟していたのを救われたのだろうか。

近くの基地の部隊の司令官が、無線に割り込んできた。

「此方の基地から物資、医療品などを供与する態勢を整える。 全てを渡すことは出来ないが……」

「ベース537。 勝手な真似をして貰っては困る」

「此方バヤズィト上級大将。 ストームチームは人類にとっての宝だ。 補給の件、許可するように」

見かねたか、それとも聞きかねたというべきか。

バヤズィト上級大将が、カスター中将に指示。

あの下衆が、多分顔を真っ赤にしているだろうが。いずれにしても、補給の許可を降りた。

秘書官としては別に悪辣でも無能でもなかったのに。

北米の優秀な将軍は次々に狙い撃ちにされて殺され。結果としてカスター中将が残って、北米のEDFの瓦解は進む。

或いはプライマーも、EDFの指揮官については調べ上げていて。

戦局に影響が出そうな有能な指揮官は、狙い撃ちにしているのかも知れない。

今回の敵指揮官なら、やってきそうだ。

基地によって、補給と手当て。それに葬儀を済ませる。

負傷者の手当ては、皮肉にも応急処置しか出来なかった。

これは、近いうちにもっと酷い事になる。

三城は、それを感じ取っていた。大兄はもっとぴりぴりしている。プライマーは恐らくだが、ストーム1の前に総指揮官を出してくるような愚策をもう採らないだろう。

その代わり、ストームチームを消耗し尽くさせ。

満を持して大軍勢を繰り出し、壊滅を狙って来ると見て良かった。

可能な限り、弾薬と医薬品を基地から出してくれる。工場が焼け付きそうな勢いでラインを動かしているようだが。それでも出してくれた。基地司令官は初老の大尉で。過去世界の海野大尉のような頑固者ではなくて。むしろプライドが高そうに見えた。プライドがあるから、恩知らずな真似は出来なかったのだろう。葬儀でも、部下達とともに敬礼してくれた。

そのまま、カスター中将の指定した敵部隊を叩きに行く。飛行型を中心とした部隊である。

エイレンのダメージも増える一方だ。流石の長野一等兵も、相当無理が出て来ている様子で。荒木軍曹が命令してねむるように指示したほどだ。どうにか撃退はするが、負傷者がまた出る。応急処置しか出来ない。

悪循環が続く中。

終焉の使者である、あの者どもが、三城の前に姿を見せるのだった。

 

4、崩壊の使者

 

日本。愛知県の一角で、いきなり街が消滅した。もう既に人は住んでいない街で、駐留しているEDFもいないが。それでも、街が文字通り消えたのである。

それを聞いて、来たなと弐分は思った。

緑のα型。

都市をまるごと食い尽くす、プライマーの生物兵器。脆い代わりに動きが凄まじく速く、常に食っていないと餓死するほど燃費が悪い。

世界中で出現する事はなく、不意に愛知県で出現した。これはうっすら記憶にある今回の周回の歴史と違う状況である。

いずれにしても、緊急事態だ。

大兄が荒木軍曹に話をして、荒木軍曹もプライマーの戦略兵器の可能性を示唆。北米から、日本に移動する。

何故、わざわざ日本に緑のα型を出現させたのか。

分かっている。

恐らくだが、面倒な東京基地もろとも、プライマーはストームチームを葬るつもりと見て良い。

ほどなく、ストームチームを疲弊させるために、波状攻撃させてきた部隊ではない。

敵特務と怪物、アンドロイドを集めた精鋭を繰り出してくるはずだ。

負ければもう人類はどうにもできない。

既に対空戦闘能力はなくなりつつある。

DE203も、整備が出来ずに出撃の機会が限られてきているのだ。ストームチームが負ければ、プライマーは全世界にマザーシップを降下させ。絨毯爆撃を開始すると見て良いだろう。

そうなれば歴史は変わらない。

何もかもが消し飛ばされて、おしまいだ。

一華が黙々と、自動砲座を改良している。

自動砲座の仕組みは完全に分かっている様子で、対緑のα型に作っていると見て良いだろう。

弐分には分からないが。まあ、好き勝手にやらせておいていい。

エイレンの整備は、かろうじてという所だ。

長野一等兵は凄まじい勢いで老け込んでいる。

それはそうだ。本人の生真面目さもある。連日ずっと整備を続けているのである。年齢よりも二十歳も老けているように見えて、痛々しい。それでも荒木軍曹が指示しないと、休もうとはしなかったし。時には荒木軍曹に、寝ている場合では無いと反論すらした。勿論荒木軍曹もそれを怒らない。

長野一等兵が得がたい人材であることを知っているからである。

そういう立派な人だ。

この世界でも。荒木軍曹は変わらず尊敬できる人である。

静岡の、破壊されていない街に到着。

此処を抜かれたら、緑のα型は関東に侵入する。

日本に久しぶりに戻って来たが、とんでもないほど荒廃していた。

東京基地は守りで精一杯。

ダン「大佐」が、必死に守りを固めているが。もう関東以外の各地の基地は、身を潜めているも同然。

大阪基地、福岡基地、鳥取基地の三つはどうにか現存している様子だが。

援軍など、出す余裕は無さそうだ。

東京基地では、まだ兵器を作るべく苦労している様子だが。地下の工場は、殆ど生産能力の限界が近く、しかもラインの殆どを食糧と医療品に回さなければいけない有様らしい。

EDFは、市民の守護者。

その誇りを大まじめに守るからこそ。

プライマーが、先手を取ることが出来る。

悔しいが、こればかりはどうしようもないし。

何よりも、これを破ったら、軍としての最低限の責務すら捨てる事になる。

更に言えば、今更前周のようなオペレーションオメガも何も無い。

敵はただ、世界中で人類を締め付けていけば良い。

それだけなのだから。

ひょっとすると、リングすら来ないかも知れない。

もう少しで、開戦から二年だが。

あと三年、人類が出来る事と言えば、敗北を先延ばしにすることだけだろう。それが、現実だ。

「都市を丸ごと消滅させる怪物だと? とんでもなくばかでかい奴に違いないぜ」

「いや、怪生物やそれに近い大きさの怪物は確認されていない。 何が現れるか分からない。 各自警戒しろ」

街に降り立ち。小田少佐が愚痴を言う。

荒木軍曹がたしなめている間に、もう合計して十五人しかいないストームチームが展開する。

幸いと言うべきか。東京基地から、スカウトが二分隊だけ来ていて、合流した。

いたいたしいまでの傷だらけの姿にうっと息を呑んだようだが。

それを咎めるつもりは無い。

兵士達に頼んで、一華が自動砲座を撒きはじめる。見た感じ、超速射型のもののようである。

なるほど、緑のα型が相手なら、適切な装備だ。

後はナパームでも焚ければ完璧なのだが。

毒ガス兵器辺りも良いかも知れない。

だが、残念だが条約で禁止されている。残念、ではないか。

大兄が、顔を上げる。

同時に、皆が反応した。

「来ます」

「戦闘準備!」

荒木軍曹が声を張り上げると同時に。

突如ビルが崩壊した。そして、凄まじい数の緑のα型が襲いかかってくる。やはりこう来たか。

しかも魂胆が見え透いている。

此奴を放置していたら、絶対に日本は壊滅する。だから、ストームチームは日本に戻る。

多分プライマーの指揮官は、一つずつ見せしめに廃墟になった街を潰して。激しい抵抗を続けるストームチームを引き寄せるつもりだったのだろう。

まあ、その手間は掛けさせない。

此処で、潰す。

自動砲座が展開し、凄まじい速射を開始。困惑しながらも、相馬機もエイレンでレーザーでの射撃を開始する。

緑のα型は、凄まじい速度を誇るが、ずっと食っていないとすぐに餓死するくらいに燃費が悪い。

千葉中将が、何というスピードだと驚愕するが。

この言葉は、前の周回でも聞いたなと思う。

いずれにしても、弐分は今回、最初からヘルフレイムリボルバー。フェンサー用の火炎放射器を持って出て来ている。これで、近付く緑のα型を粉砕する。

ストーム3は、それを横目に、機動戦を緑のα型に仕掛ける。凄まじい速度の緑のα型だが、猪ほど自由自在に曲がったりは出来ない様子だ。スラスターを自在に使いこなすストーム3の猛烈な機動戦にはかなわず、次々倒されていく。

三城は誘導兵器で、エイレンの上から敵を焼き続け。

柿崎は最高の相性といってもいい相手を、文字通り縦横無尽になで切りにしていく。

歩兵はエイレンの随伴をしてもらい、近付く緑のα型を次々撃ち抜いて貰った。

ロケットランチャーで、近付いてくる敵の群れを吹き飛ばしながら、小田少佐がぼやく。

「やべえ相手だ。 だが、なんか見た事があるようなないような」

「口より手を動かせ」

「分かってる」

相馬少佐に言われて、アサルトライフルでの接近戦に移行する小田少佐。浅利少佐も、スナイパーライフルは分が悪いと判断したのだろう。アサルトに切り替えて、接近する敵を食い止め始める。

最初は困惑していた相馬少佐も、エイレンで緑のα型を確実に駆逐していく。

「一華」

「! DE203、攻撃指示ッス」

「分かった。 ただのビルのようだが、信じるぞ」

急降下攻撃を開始するDE203。ビルが崩壊し、緑のα型があふれ出る。それを、DE203があらゆる制圧火器で蹂躙。元々柔らかい緑のα型は、文字通りの出オチを喰らって、一瞬で大半が粉砕され。凄まじい量の体液がブチ撒かれた。

プラスティックやコンクリートをエサにするこの怪物は、凄まじい速度と引き替えに柔らかく。

恐らくだが、対怪物用の火器以外でも殺す事は出来る。ただ数が多いので、対応はそれでは無理だろうが。

更に、一華が展開した速射型の自動砲座もある。

文字通り、近付くことすら出来ず。

大兄の勘もあって、どこから現れる事も分かっているし。

既に、緑のα型は敵にはなり得なかった。

それでも数が多すぎる。

次々に出現する様子は。

少しでもストームチームを消耗させようという、敵指揮官の性格の悪さを感じさせるものとなっていた。

夕方近くに、駆除が終わる。

ストーム3、ストーム4、どちらも満身創痍だ。

ストーム3は、ジャムカ大佐、マゼラン少佐、後はベテランの隊員が一人だけ。

ストーム4は、最後に生き残ったのはジャンヌ大佐と、シテイ大尉と、ゼノビア中尉だけ。

更に、ろくでもない報告が入る。

戦略情報部の少佐からだった。

「横浜に敵出現。 ドロップシップより、鎧を纏ったコロニスト、更にコスモノーツの部隊が降下。 それに加えて、各地に展開していたアンドロイド、テレポーションシップ六隻、ドローン多数が集まって来ています。 それに加え、マザーシップナンバー6も横浜に向かっているようです」

「……すまない、ストームチーム。 もはや対応できる戦力はいない。 頼めるか」

「分かっている」

「此方からも、可能な限りの支援をする。 既に東京基地の部隊も壊滅寸前だが、それでもニクスを何機か出せるように手配する。 近くに前哨基地28がある。 其処で、朝まで休憩を取ってくれ。 本当に、日本に戻ってきたばかりなのに……すまない」

「ありがとう千葉中将。 任せてほしい。 プライマーに、好き勝手はこれ以上させない」

荒木軍曹の声を聞いて、分かった。

死ぬ気だ。

もう、味方の戦力は完全に枯渇した。

敵の戦略に沿って、ストームチームは動かされている。

これは、もうどうにもならない。

そう、荒木軍曹も悟ったのだろう。

前哨基地に出向く。エイレンのバッテリーはどうにかなったが、装甲はもうどうにもできない。

長野一等兵が起きだしてきて、せっせと手入れを始めるが。

一華と相馬少佐に、言い聞かせていた。

「もう二機とも限界が近い。 バッテリーも、使い過ぎてそろそろ液漏れを起こしてもおかしくない」

「やはりもう、厳しいッスか」

「あまりにも転戦させすぎたんだ。 この二機が、それぞれ守護神となって活躍してくれていたのは知っている。 だが、あくまで機械は機械だ。 どうしても部品は劣化するし、交換だってしなければならないんだ」

それでもと、長野一等兵はエイレンを見上げる。

まるでエイレンに執念が宿ったように、動いていると。

最後まで、主君とともに戦うつもりのようだと。

「明日は決戦のようだな。 寝ていろなどと言ってくれるなよ」

「……」

尼子先輩は、逃げる場所もないし、近くにいると言う。

また、盾になって死ぬつもりだろうか。

この人は、弱そうに見えて、決してそうでは無い。

それが分かっているから、口惜しい。

前は荒木軍曹も色々不満そうに見ていたが。最近は一切それもなくなった。本音では憶病にしている様子がないからだろう。

勿論銃を持って戦わせるつもりはないようだが。

大型移動車の運転も丁寧だし、文句を言うところは見た事がなかった。

柿崎は、むしろ嬉しそうだ。

どこまで自分の腕が通じるのか、楽しそうにしている。

根っからの人斬りだな。

そう感じる。

戦国時代には、実の所男に混じって戦う女武者がそれなりにいた。弓の名手には、女性がかなりいたらしい。

柿崎は、産まれる時代を間違えたのだと思う。

今も、疲れるどころか。むしろどう手持ちの技を試すか。更に効率よく敵を斬るか、楽しそうに考えている様子だ。

これで言う事を聞かなかったら危なかったが、きちんと言う事も聞く。

だから、何も言うつもりも無い。

人を斬りたいというそぶりも見せないし、それなら別に何もこれ以上は言う事もなかった。

後は、弐分に出来るのは。

少しでも多く、皆を生き残らせる事。

自身も生き残る事。

もう、此処から人類が逆転勝利するのは無理だろう。

だから、ベース251に。三年後に可能な限り皆を連れて行く。

リングが降りてくるかは何とも言えない。だが、プライマー側の消耗も決して少なくないはずだ。

もしもタイムマシンを用いた戦術で更に戦況を傾けようとするのなら、必ずリングは来る。

そう信じて。

戦うしかなかった。

 

(続)